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呪唄

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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●past
 だれか。

 下を見る。
 58秒前まで首が繋がっていた男の人の、頭がそこに転がっている。

 だれか。

 隣を見る。
 32秒前まで一緒に走っていた女の人の、喉がナイフで貫かれている。

 だれか、だれか。

 前を見る。
 泥のような血飛沫に彩られた廊下で、薄く笑う吸血鬼が此方を眺めている。
 後ろは扉。背中に当たる、錠の落ちた堅牢な扉。
 見なくてもわかる。23秒前まで必死に叩いていたから。
 足は震えてへたり込んでもう言う事を聞かないし、手は隣から流れる血で床を滑る。
 見開いた目から流れた涙は諦念と、どうしても最後の一瞬まで捨てられない生への執着に塗れていた。
 わたしで最後だ。
 この声は誰にも届かないんだ。
 コツリと鳴ったその靴音にさえ、この瞼は閉じられない。
 見つめる。わたしの命の終わりを。

 ──だれか、

●pray
「だれか、たすけて」

 それが自分の祈りだったか、死んだ子供の声だったか。
 区別もつかない侭吐き出した消えそうな声を、聴いた者がいたかどうか。
 海色の双眸をゆっくりと開いたユハナ・ハルヴァリは、嘆息めいた息をひとつ。それから顔を上げた。瞼は濡れず、渇いた侭、ただ沈んでいた。
「人が、たくさん死にました。その人たちはもう、助かりません」
 ダークセイヴァーのヴァンパイアが人を殺していく。その光景を見たのだと彼は話した。
 場所は深い森の中の領主館。その主人のヴァンパイアは、捕食の為のみならず戯れの為に人間を殺す。
 人間たちは無作為に集められ、館の一室に閉じ込められる。身を寄せ合い怯えながら夜を越え、何も起こらない侭数日経ち、張り詰めた気持ちが疲労に折れそうになった頃にそれはやって来る。
 一人一人を丁寧に縊る事もある。閉じ込めた人たちを一度に鏖殺する事もある。鎖された館の中で、逃げ惑う彼らをゆっくりと追い詰め、その悲鳴を断末魔を嘆きを命乞いを、愉しむ事もある。
「──その『お愉しみ』は。もう終わりました。時間にして、昨日の事です」
 抑揚の少ない声に感情を含ませずに告げた。
 けれどこれから集められる人々は、まだ間に合う。
 彼らを助けるのを、手伝って欲しい。それがひとつめの頼み事だった。
「歌が、聞こえるんです」
 誘う歌声が、森の奥から。
 そうしてそれを聴いた者たちは、魅入られた様に森へと足を踏み入れてしまう。行先は勿論、ヴァンパイアの棲む館だ。
「歌を聴いてしまった人が、何人か見えました。できれば。できればでいいです。その人たちを手分けして探して、村へ帰してもらえませんか。急げば、森に入ってすぐくらいのところで、見つけられると思います」
 まずは歌の主を探し出すのが第一目標。だけれど余力があればとユハナは云う。
「暗示……サイミンジュツのようなもの、でしょうか。歌から意識を、少しでも逸らせば、目が覚めます」
 送り届けるまでは必要ない。ヴァンパイアに恐怖心が根付くあの世界の人間たちなら、その存在を伝えるだけでも逃げ帰るだろう。
「森は深いので、気をつけて。歌が聴こえる方向がわかれば、辿り着けると、思いますが」
 その先にいる歌声の主。うぞうぞと這い出る黒い感情の塊。怨嗟の声。嘆きの歌。
《しにたくない。しにたくない。どうして》
《どうしてわたしが》
《どうしておまえが》
 夢に聴いたそれを思い出して、ユハナは自分の腕をぎゅっと掴んだ。
「……歌っているのは、怨念です。死んだ人たちの。まだ命ある人間を、羨んで、誘うんです」
 ──数え切れないほど、見えました。
 その言葉が示すのは既に失われた命の数。
 彼らはもう、その森を出ることはできない。縛られ続け、生者を呪い続けることしか残されていない。
「たすけてあげて、くれませんか」
 少しだけ声を呑み悩んだ後に、そんな風に言葉を噛み砕く。
 ヴァンパイアの館は彼らの後ろ。木々の隙間から屋根が見えるくらいに、近い。
「館の主は、きっと室内です。あまり外には出ないみたいなので」
 微かに瞼を伏せる。あの凄惨な光景を見せる事になるとわかっている。
 小さく息を吐いてから、顔を上げた。
「……気をつけてください」
 口に出来たのはそれくらいで。ありきたりな言葉だった。
 ゆらり揺れる六花を掌に浮かべ、それが真中で割れ翅となるのを見つめる。その先にある夜の世界を視る。
 門が現れ世界が繋がる。生温い風が吹き込んだ。

「──たすけて」

 それは風に紛れた、亡者の唄だったろうか。


七宝
七宝です。
ダークセイヴァーまで皆様をご案内いたします。

シナリオの流れは以下の様になります。
1.森に入って歌の主を探す。できれば一般人を探して村へ帰るよう促す。
(一般人の生死及び帰還状況は成否に関わりません)
2.vs歌の主
3.vsヴァンパイア

傾けて頂いた御心があれば、大切にお預かりします。
どうぞよろしくお願いいたします。
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第1章 冒険 『誘う歌声』

POW   :    歌声の主を探し、森をくまなく探索する。広範囲だが何か痕跡が見つかるかも知れない。

SPD   :    聞こえてきた歌声をたどり、森を最短距離で突っ切り探索する。急げ!

WIZ   :    村人への聞き込みや地図、風向きから歌声の正体や位置を割り出す。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

エンジ・カラカ
歌かァ、歌ネェ。
賢い君賢い君、惑うヤツラが紛れ込んだらしい
命知らずだよなァ……。

ラ、ラ、ラ、口遊む。
そーんな歌よりこーんな歌はどうだろう。ラララ。
アァ……おかし…。
自慢の鼻で、瞳で、耳で手懸かりを探す。見つけたら追跡で追うとしようカ。
木に登れるなら登るのも良いなァ……。

追跡中に一般人をみつけたら帰れ帰れと促そうカ。
ココはお前達ヒトの来る場所じゃ無い。なァ……賢い君?
賢い君、相棒の拷問器具である辰砂に話しかけ捜索を続ける。

一般人や歌声の手懸かりは味方と共有しておく。




 ──ラ、ラ、ラ。
 賢い君、賢い君。なァ。
 命知らずだよなァ?

 昼も夜もなく暗がりに沈む世界。
 普遍的に絶望し、命すら搾取され、棄てられる世界。
 その片隅で響くのが、魔獣の遠吠えではなく歌だという。
「歌かァ、歌ネェ。賢い君、惑うヤツラが紛れ込んだらしい」
 辰砂、水銀の名を持つ相棒。その拷問具に話し掛けながら、エンジ・カラカ(六月・f06959)は歌い森を歩く。
 暗い、暗い、暗い世界を歩く襤褸雑巾。
 ──そーんな歌よりこーんな歌はどうだろう。ラララ。
 口遊む。
 ──アァ……おかし…。
 囁く。
 混ざり混ざってそれさえも旋律のひとつを装う。
 身軽に手頃な木のその枝葉に足を掛け、飛び移る変則。
 自慢の鼻で、瞳で、耳で、手懸かりを探す狼は、暗がりの世界で陰を睨む。
 森の奥の奥からは、風の音に似た音がする。
 それが例の『歌』だろう。
 何処からか人の匂い、けれども鉄錆の匂いはない。亡者の気配も薄い。
 緩慢な口調や胡乱な金眼と裏腹に、枝から枝へ飛び移る動作は野生の獣。鼻に引っ掛かる緩い匂い──人間の希薄な生の香りは、薮を突き抜けたその向こうにあった。
「あァ、いたいた。命知らずのヒトの子ひとり。おや、ひとり? 寂しいなァ」
 彷徨い歩くその女は、成る程瞳に光なく、操られるように森の奥へとふらふら進んでゆくところ。
 ──帰れ。
 ぴり、と走るそれは殺気に酷似する声色。
「帰れ帰れ。ココはお前達ヒトの来る場所じゃ無い。なァ……賢い君?」
 ずるりと引き摺る拷問具。
 枝から降りてぬっと女の前に顔を出し、狼は牙を覗かせる。
 露わな獣の気配。
 ぱちり、瞬く女の瞳が、彼を見た。


 ……絹を裂くような悲鳴、と言うのだったか。
 自慢の耳を貫いた女の絶叫は、かくも容易く森の表へと駆け出していった。
 全く失礼なことではあるけど、狙ってやった事でもある。あんなに元気に走れるのなら自力で塒に辿り着くだろう。
 ばりばりと黒髪を掻いて、エンジは歌に向き直る。
 味方の匂いは幾つか森に散らばっている。後程情報共有するとしよう。
「賢い君。紛れ込んだ惑うヤツラは、まだ居るようだ」
 生温い風が、吹いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ノワール・コルネイユ
生きたいと願う慟哭が亡者を増やし、
救いを求める想いが災禍を生み出す…
亡者とは何処までも虚しい存在だな

【POW】
何にせよ、この辺り一帯を亡者の巣窟にはさせられんな
森の中の探索に出るとしよう
人間か、それ以外の二本脚が残した様な痕跡を探し【追跡】で追ってみよう
【吸血】でヒトや亡者の血の匂いを探り当てることが出来ればそれも手掛かりになるだろうか

もしも村人が道中で見つかるなら声を掛けて帰る様に促す
帰らずに吸血鬼に喰われるか、亡者に喰われるか
どちらかがマシと言う訳でもないだろう

歌なんて酔っ払った馬鹿みたいに、気楽に歌っていれば良い
なのに、この森に響くこいつは、歌と呼ぶには哀し過ぎる
…さっさと終わらせねばな




 ──虚しい存在だ。
 そこに命はもう亡いのに。生きたいと願う慟哭が亡者を増やし、救いを求める想いが災禍を生み出す。
 救いの希がけして濃くはない此処で、そんな負の連鎖は珍しい事ではない。
 全く、全く、まったく。
 足音は常より少しばかり忙しなく。高くで結った黒髪が腰の辺りでふわりと跳ねた。
 暗がりの森を往くノワール・コルネイユ(Le Chasseur・f11323)は、赤の双眸を鋭く周囲に向ける。
 探すのは痕跡。特に二本脚の残したもの。広角化された鋭敏な感覚で、どこまでそれを追えるか──。
 歌は。風に紛れるには随分と、ざらざらと心にささくれを立てる。女の声にも、男の声にも聞こえる、振れた音。
 亡者の気配は遠く。
 生者の足跡は、
「……あれか」
 踏まれ倒れた草の痕。一人分。真新しいものだ。
 亡者の気配に気を遣りながら追って、ようやっと見つけた頃には、その人間の気配は大分薄らいでしまっていた。
 若い男だった。血の匂いはしない。ただただ薄い、生気。
 ゆらりと幽鬼のように揺れた背中を木立の隙間に見て、ノワールは走る。その先は死の入り口だ。
「待て。行くな」
 肩を掴み、自分の方へと向ける。焦点の合わない男の目がふらりと揺れて、少し間を置いてからやっと像を結ぶ。
「……あれ、俺は……どうして森なんかに」
「ヴァンパイアの罠だ。先へ進めば、どうなるかはわかるな?」
 ヴァンパイアと聞けば、男を侵食し広がる恐怖の色。
 早く帰れと元来た方向を指してやると、ノワールに礼の言葉を残して男は走り去る。素直で良いことだ。
 帰らずに吸血鬼に喰われるか、亡者に喰われるか、どちらかがマシと言う訳でもないだろう。何方にしろ、待つのは死のみ。であれば、抗うだけ。殊彼女に於いては。
 その先には歌。ああ、否、この森に響くそれは、歌と言うには哀し過ぎる。
 生を呼び招く死の嘆き。
「……歌なんて、酔っ払った馬鹿みたいに、気楽に歌っていれば良いんだ」
 だから、終わらせなくてはならない。
 あの歌を海に還す。
 ノワールは黒髪を揺らし、暗がりの木立へと紛れていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

蛇神・咲優
【WIZ】



(早く森へ行った人たちを見つけなきゃ…)

助けれなかった人たちへの償いも兼ね
少しでも嘆き歌う怨念が救われるように、と
【第六感】を頼り正体や位置を探るべく村人の会話など
【聞き耳】したり直接話しかけ【情報収集】する

『歌声のウワサ、何か知ってる?ドコに行ったら人がきえちゃうとか…。少しでも何か知ってたら、おしえてほしいの……助けれなかった人たちの分も助けたいんだ。―――もう、かなしい歌声が聞こえないように』

これ以上、怨念のように
ヴァンパイアによっての犠牲を出すわけにはいかない
【祈る】ように村人の手を取り【手をつなぎ】おねがいをする

※アドリブ・台詞改変・連携歓迎




 ──歌声のウワサ、何か知ってる?
 ドコに行ったら人がきえちゃうとか……。
 少しでも何か知ってたら、おしえてほしいの。

 転送座標から一番近い村に向かった蛇神・咲優(迷子奇譚・f05029)が、村人達に祈るような声で呼びかけて集めた情報は、次のようなものだった。曰く。

『最近、近隣の村で時折、人が消えていくのは聞いていた』
『今までにたったひとり戻ってきた人が言うには、森の奥から歌が聴こえたと。嘘か本当かは知らない』
『今日、3人いなくなっていた』
『この村で人が消えたのは、今回が初めて』
『だけれど、きっと今までと同じなんだろう。どうせ帰ってきやしない』
『あの森に面した村は幾つかある。きっとこことそう変わらない状況だろう』

 誰もが諦めきった顔をしていた。
 本当は、と。いなくなった人々の顛末を、咲優は終ぞ口にする事はなかった。
 伝えることが正しいのかどうか、彼女にはわからなかった。
 だけれど逸る気持ちは、咲優に立ち止まる事を許さない。
(「早く森へ行った人たちを見つけなきゃ……!」)
 森を駆ける。陽の差さない世界で泣き濡れるように濡れた下草に何度となく足を取られて、それでも駆け抜ける。
 歌が聴こえた。奥の奥から誘う声。
 息を切らしてそれでも足を動かし続ける咲優の前に、幽鬼のようにぼんやりとした人影がひとつ。ゆらゆらと覚束ない足取りがゆっくり森の奥へと向かっている。
 ──助けられなかった人たちの分も助けたいんだ。
 もう、かなしい歌声が聞こえないように。
 その願いのために。
 暗がりから光へ手を伸べる様に。そのひとの背中へと真っ直ぐに、咲優は腕を伸ばした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

イア・エエングラ
夜のうちに欹てて、お歌ひとつを探しましょうな
あんまり楽し気では、ないけども
供にするのは青い火をそっと招いて人探し
お声を探すのと一緒に、ぱちりと木の枝踏みしめるのを
風でなく葉が擦れるのを、人が通る音も探しましょう

だってきっと、帰ってこなければかなしいでしょう
着かずとも、夜に迷えばさみしいものな
ひらひらと袖を振っても覚めないようなら
ひとつふたつ、みっつと火を呼んで
指を鳴らせば、花弁散らして、弾けるかしら
……やあお目覚めの、ご機嫌如何

来た路は示してさしあげるから
お歌のしたほう、こちらで良いかな
どうぞまっすぐ、お帰りなさい
きっと次は良い夢が、見られるように
昏い路へ誘う歌など、聴こえぬように





 暗がりの森にほのおがひとつ。
 青のそれはゆうらり浮かんで、彼に続く。
 夜のうちに欹てて、お歌ひとつを探しましょうな。
(「……あんまり楽しげでは、ないけれども」)
 青火の主、イア・エエングラ(フラクチュア・f01543)。夜に尾を引く裾曳いて、探す探す、人の影。
 ぱちりと木の枝踏みしめるのを、風でなく葉が擦れるのを。
 お声を探すのと一緒に、人が通る音も探しましょう。
「だってきっと、帰ってこなければかなしいでしょう。着かずとも、夜に迷えばさみしいものな」
 ゆら、ゆら、ゆらり。
 急ぐでもない足音ひとつ、けれど真っ直ぐ奥へ奥へ。
 そうして見つけた人の子ひとり。
 ゆら、と前へと回り込む。
「おや、おや、あなた。仕様のない子」
 長い袖を眼前で振ろうと、その子供の虚ろな眼は揺らがない。
 それならば、と彼は青火を更に呼ぶ。ひとつ、ふたつ、みっつ。
 そうしてほのおは子供を取り囲み、ぱちんと鳴るのはイアの指先。
 ぱぁん。
 弾けたほのおは青の花弁。ひらりひらりと散り消えて、後に残るは子供の瞬き、ひとつ。
「……やあお目覚めの、ご機嫌如何」
「え、……ここは。お兄ちゃん、だれ?」
「僕はね、そうね。子供のあない人。……ほら、お帰りは、彼方」
 ──来た路は示して差し上げる。
 青火をひとつ森の表へ向けて、子供にはそれを指差して。
 お行きなさいなと促せば子供は疑問の抜け切らぬ顔で、それでも出口へと足を向けた。
 あの子が帰れば、村の者らはきっと叱るだろう。そうして何が起きたか、理解するのだろうから。
 そうしてイアが向き直るのは歌の響く方。森の奥の奥。
「……お歌のしたほう、こちらで良いかな。どうぞまっすぐ、お帰りなさい」
 語り聞かせる親のように。
 囁きながらほのお揺らして、暗がりの森を歩く。
 きっと次は良い夢が、見られるように。
 昏い路へ誘う歌など、聴こえぬように。
 ああ、だから歌うあなたにも、路を示そう。海への路を。

大成功 🔵​🔵​🔵​

向坂・要
こりゃ迷い込んだ人が増えないように早めに対処しねぇと、ですねぇ

しかし歌で人を誘い込む、てなどっかの逸話に出てきそうな話で

なんて苦笑しつつ声の聞こえる方へ

途中、第六感なども生かしつつ森に展開させた分体達と紛れ込んだり一般人捜索も行いますぜ
見つかりゃ殺気や催眠術でお帰り願いますぜ

森に何の用か知りませんがこの先はおっかないもんが根城にしてますぜ
ってね

野生の動物とかいりゃぁそこらへんにも話しして捜索なり退避ならしてもらえりゃ幸いですが…
あんまりいなさそうですかねぇ。




「しかし歌で人を誘い込む、てなぁ、どっかの逸話に出てきそうな話で」
 苦笑しながらの声に応えるものはない。
 代わりにがさがさと草を掻き分け進む影。
 その数凡そ二十。
 ヤドリガミである向坂・要(黄昏刻・f08973)の本体、鉱石像の分体達だった。
 それらを森の中へ散らばせて迷い込んだ人々の捜索を行う、それが要に出来る最善だった。
「迷い込んだ人が増えないように早めに対処しねぇと、ですからねぇ」
 歌を止めない限り、自分達が森へ踏み込んだその後から迷い込む人も出てくる。
 故に要の分体達を四方八方ばらばらに散らし、猟兵以外の存在を見つけられる様にと。
「……ああ、なんだ早速」
 すこん、と人の足に当たって蹴られる分体がひとつ。念力で起こして後を追い、裾やら何やら引っ張って行動妨害。ついでに転んでくれでもしたら衝撃で目も覚めるやも。
 そんな風に何人かを見つけ、意識を揺らし起こして、元の村へと帰らせる。
 攻防は結果として数の利に傾いた。
 何せひとりでに動く像などは、森の深きにおいてはとかく不穏で不審で不気味なものだったから。それが綺麗な鉱石であったなら尚の事。
「……。まあ。いいんです。見慣れねぇもんなんざ、そういうもんです」
 尾も尻尾も切なさに下がりがちになりながら。
 本体の要は、念動力で分体達を操作する傍らで自らの足も動かし先へと進んでいた。歌は少しずつ鮮明に。強く、呼声。
「──森に何の用か知りませんがね。この先はおっかないもんが根城にしてますぜ」
 放つ殺気。前をゆらゆらと歩く少年の肩を掴み振り向かせる。一度揺れた瞳はけれども光を取り戻し、態と低音で響かせた要の警告を聞いて恐怖に竦んだ。
「ああ、俺のことじゃありませんよ。もっともっとおっかないもんでさ。取って喰われても知りませんぜ」
 夜のかそけき光を吸ってぎらり舐め光った紫眼は、瞬きの間に人懐こい笑みに変わる。ぱっと肩の手を離してやれば、少年は転がる様に走り去っていく。催眠術までは必要ないけれど、転ばないかだけが少し心配だ。
 分体のひとつを彼の後ろに付けておいて、要の足は一歩踏み出す。森の昏きへ。
 歌に誘われるほど初じゃあない。けれどもまるでそうされたように、ゆらゆらり。一先ず周りに気配は皆無。歌声を不審がってかこの森には動物も然程いないらしい。
 なれば後は奥へ奥へ。
「ああ、ああ、お前さんがた。そんな声でお哭きでないよ。今行きますぜ」
 溜息交じりの声がそっと、木立に反響した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

斬断・彩萌
うわ、胸糞わっる。てゆか趣味最悪なんですケド。
まぁ過ぎた事は言ってもしょうがないし、生きてるヒトに害為すなら誰だろうと容赦しないわ。
可哀想って思う前に行動しろってネ!

はぐれるとか、私そんなに子供じゃないかんね!?(言いつつぴったりくっついて行動)
ん~頭使うのは苦手なんだよねぇ。この辺は師しょッピに任せるとして、対人で頑張ろ。
【コミュ力】を活かして、人がいたら積極的に話しかけて情報収集。引き寄せられた人がいたら帰る様に優しく言って、もしそれでも聞かなかったら……ちょっとね、うん、いや~Executioner暴発しちゃった~テヘッとでもやっておくわ。

※アドリブ歓迎


鳴宮・匡
【アドリブ・連携】●
◆弟子のアヤメ(f03307)と

ああ、そりゃな
誰だって、死にたくなんてないに決まってるさ

……でも、死んだならそこで終わりだ
その死がどんなに理不尽であっても
死んだ以上、もうそれは「過去」なんだ

……眠ってもらわないとな

【聞き耳】で声を頼りに
歌声の聞こえる側へと足を進める
その他、臭いや視覚情報など
五感で感じ取れる情報はできるだけ逃さないよう

アヤメ、はぐれんなよ
流石に助けに戻ってはやらないからな

【追跡】で周囲の気配を探り
人を見つけたらこの先が危険であることを伝えて
できるだけ穏便にお引き取り願う
この辺はアヤメのが得意かもな

おいアヤメ、穏便につったろ
……まあ、結果が出れば何でもいいか




 胸糞わっる。と、彼女は思ったし。
 死んだ以上全ては過去だ。と、彼は思った。
「ねぇ師しょッピ。てゆか趣味最悪じゃない? そう思わない?」
「何度聞くんだそれ」
 憤慨遣る方無いらしい斬断・彩萌(殺界パラディーゾ・f03307)に、答える声は呆れた色。
 鳴宮・匡(凪の海・f01612)は癖のように辺りを見回しながら、その歌を聴いていた。森の奥から聴こえる嘆き。風の唸る音に似たそれを。
 誰だって、死にたくなんてないに決まってる。でも死んだならそこで終わり、その死が如何に理不尽であっても。
 そこで、終わらなければならないのだ。
「……眠ってもらわないとな」
「そーね。私だって、生きてるヒトに害為すなら誰だろうと容赦しないわ」
 可哀想だとは思う。けれどそう思う前に行動するのが彩萌であるから。
 それが匡の後ろにぴったりくっつきながらであっても、行動には違いない。ないったらない。
 ──アヤメ、はぐれんなよ。流石に助けに戻ってはやらないからな。
 匡がそう言ったのが森に入って少しもしない頃。
 ──私そんなに子供じゃないかんね!?
 元気に反響する声で彩萌が返したのがその少し後。
 何分も経たない内にだんだん背中に寄っていき、ぴったりくっついてからというものずっとこうである。
 少し動きにくくはあるが迷子になられるより大層マシなのでそのまま放ったらかしている匡の耳に、やがて自分達以外の足音が届いた。
 不安定な歩幅と速度。一番近いのは酔った人のそれ。
 であれば、誘い込まれた者だ。
 後ろに一人くっつけた分落とした俊敏さで草を踏み分けて木の幹をすり抜ける。見つけた若い男の人影、その背中に近付き、声を掛け──ようとして後ろの彩萌に目配せ。お前の方が得意だろうと、そういう視線だ。
「ん〜、よし。……ちょいちょいお兄さん。もしもーし!」
 肩を叩いて呼びかける彩萌。
 けれども男は振り向かない。芒とした虚ろな眼が歌から剥がれやしない。
「ねえ、ちょっと! こっち! むいて!」
 ぺちぺちべちべち。
 けれども男の足は止まらない。
「ん、んー、もう!」
 ざっ、じゃきっ。
 ──ばぁん!
 危機感を段違いに削ぎ落とした爆音が響く。
 辺りを警戒してそれに背を向けていた匡がホルスターから反射で銃を抜き、銃口を向けかけたのだけが唯一の被害だったのは幸いだった。
「…………おい」
「うん、いや~Executioner暴発しちゃった~ゴメンネ師しょッピ!」
 てへっ。そんな可愛い丸文字が背景に見える彼女の仕草に盛大に肩を落とす匡と。
 二人をぱちぱちと瞬きしながら見つめる、状況を理解できない男性と。
 もしかしたらその周囲で突然の暴発音に警戒を露わにしたかもしれない猟兵達と。
 そんな、森での一幕。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リュシカ・シュテーイン
歌は楽しみもぉ、悲しみもぉ、表現することは自由だと思いますぅ
ただぁ、共感ではなくぅ、他人を死へと誘う怨嗟と成るのであればぁ、その歌声を断ち切らねばぁ、ならないのですよぉ
私のお客様候補の方々をぉ、これ以上犠牲に出すわけにはぁ、行きませんのでぇ

先日起こったと言われる事象から察するにぃ、かなり強力な暗示であることは間違いありませんねぇ
でぇ、あればぁ……あまりぃ、悠長にはしていられませんねぇ
手が足りないのであればぁ、数を用意しましょぅ

森の中で目立ちやすようぅ、琥珀にルーンを書き込みぃ、ジュエルゴーレムちゃんたちに村人さんのぉ、捜索を手伝ってもらいましょぅ
出費は後で気にすることはできますぅ、急いでぇ!




 暗がりの森で煌く琥珀が陰に散らばる。
 それはリュシカ・シュテーイン(StoneWitch・f00717)が呼び出したルーンの石兵、小型のジュエルゴーレム。
 本来は戦闘用ではあるが、故に多少荒っぽい使い方も出来る。
「出費は後で気にすることはできますぅ、急いでぇ!」
 檄を飛ばせば、ぴしりと姿勢を揃えた琥珀達は一転、早足で森を駆けていく。
 頭の中では今回の依頼で使うだろう出費について計算機が鳴り止まないが、それはそれ。人命──いや、リュシカにとっては『お客様候補』の命には替えられない。
(「察するにぃ、かなり強力な暗示であることは間違いありませんねぇ。でぇ、あればぁ……あまりぃ、悠長にはしていられませんねぇ」)
 転送座標に着くなりリュシカとは反対方向に駆け出していった、分体を使役するヤドリガミの猟兵も、恐らく同じように人海戦術を行なっているはずだ。かなりの範囲をカバーできる。
 あとは先を急いだ猟兵達が無事に歌の発生源まで辿り着いていれば。
 それで、止められる筈だ。この怨嗟の声を。
 歌で悲しみや喜びを表現することは自由だ。聴かせるのも、聴きに行くのも。けれど。
「共感ではなくぅ、他人を死へと誘う怨嗟と成るのであればぁ、その歌声を断ち切らねばぁ、ならないのですよぉ」
 琥珀のゴーレム達とは逆方向の、歌声の方へとリュシカの足は進んでいく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シャルル・エルンスト
怨念の歌、か...。
生者を妬み、呪うことしか残されなかったというのは、どれ程の苦しみなんだろうね。
...いや、もはや苦しみ自体、人としての欠片も無くなっているのだろうけれど。

あれはそういった魔の者になっているのだから。


怨念の歌が聴こえて来る方向へ進む。道中に【世界知識】で不自然な跡に気づけるよう注意を払う。もし、人が通った跡があれば、【追跡】してこれ以上歌の方向へ進まないように進行を止めよう。

貴方の行くべき場所はそっちじゃない。殺されて、あの歌の仲間になりたくないのなら、村へ帰るんだ。

今ならまだ間に合うから。


僕は、彼らには人の欠片は無いと言ったけれど、だからこそ。
この悲しみを終わらせなければ。




 土を踏み、落ちた枝を踏み鳴らす。
 見下ろす目には人の足跡。ゆらゆらと一定軌道に定まらぬそれは、正気を保つ仲間のものではない。
 見えてしまえば無視は出来ない。向かう方向も同じ、怨念の歌の下。
 左半面の仮面で貌を隠すシャルル・エルンスト(人探しの人形師・f10223)の足元に、銀の毛並の狼人形が同じ歩幅で続く。
「生者を妬み、呪うことしか残されなかったというのは、どれ程の苦しみなんだろうね」
 狼に聞かせるような。或いは独りごちるような。
 声音は無色で、透いていて、容易く緑の風に掻き消える。
「...…いや、もはや苦しみ自体。人としての欠片も無くなっているのだろうけれど」
 ──あれはそういった魔の者になっているのだから。
 跡を追う、追う、暗がりの道。
 曇った空には星の光すらない、灯りはない。
 こんな路、歩かせるものじゃない。戦える者でないのなら。
「貴方の行くべき場所はそっちじゃない」
 木陰に幽かに浮かび上がる人影、その背中に言い募る。
 手を伸ばして肩を掴んだ。細い。女性のものだろう。
 掴む手に少し力を込めて振り向かせる、少し痛いかもしれないが、それ故に気も逸れるだろうか。
「殺されて、あの歌の仲間になりたくないのなら、村へ帰るんだ。──今ならまだ、間に合うから」
 幽鬼のようだった女の顔に、表情が戻る。
 無から驚きへ、それから戸惑いへ。
 殺されるだなんて物騒な言葉を出した後のシャルルの顔が、声音が、あまりに真摯だったから。
 先へ進まぬようにと女の足元に纏わっていた銀狼が、止まる足をぐいぐいと鼻で押した。村の方へと、早く帰れと、そんな風に。
 少しだけ躊躇った様な女はけれど、シャルルと銀狼に一礼をしたあと逃げる様に走り去っていく。
 その背をちらと見送ったシャルルが、変わらぬ歩みで先へと進む。
「僕は、彼らには人の欠片は無いと言ったけれど、だからこそ。この悲しみを、終わらせなければ」
 叶うならばこの手で。
 見上げる先、梢の向こうには尖った屋根。あれがヴァンパイアの棲家だろう。
 とすれば、この付近が歌の発生源。
 周りに素早く目線を巡らすシャルルの耳に、男と女の声をぐちゃぐちゃに混ぜた奇妙な歌が響く。

《どうして、どうして、どうして》
《おれを、あたしを》
《おまえを、あいつらを》

《どうしてにがしたの》

 最後の一節が、邪魔をした自分達に向いている事にシャルルは口角を上げる。
 ならば意識は此方に向いたろう。
 村人に誘い歌が聞こえる可能性は限りなく下がった。
「終わらせよう。今此処で」

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『篝火を持つ亡者』

POW   :    篝火からの炎
【篝火から放たれる炎】が命中した対象を燃やす。放たれた【赤々と燃える】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD   :    篝火の影
【篝火が造る影に触れた】対象の攻撃を予想し、回避する。
WIZ   :    新たなる亡者
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【自分と同じ姿の篝火を持つ亡者】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 ぞろり、と。立ち並ぶ影は限りなく。
 男が、女が、老人が。
 年端もいかぬ少女が、少女が。
 女の抱いた赤子が。
 折り重なり交じり合って、訣れることも出来なくなって、ただの陰と成り果てた。
 森の端でうぞうぞの這いずる闇が一筋の光を求めるように篝火を持った。
 人の形のようなものを取り戻した。
 そうして、歌った。
 訣れられぬなら共に在ろう、と。
 共に在る者が増えれば少しは暖かくもなろう。
 暖かい生を奪えば少しはそれを思い出せよう。
 やがて増えに増えた闇はいつしか、最初の思いさえ飲み込み尽くして、無我夢中で生者を求めた。

《どうして、どうして、どうして》
《どうしておれは、あたしは、しんだのに》
《どうしておまえたちはまだあたたかい、まだいきている》
《どうして》
《おなじになれ。おなじになれ。おなじになれ》
《こっちへおいで。いっしょにいよう。つめたくなろう》

 ──今。
 森の終わりに着いた頃。
 夜より出ずる亡者達は、その怨嗟の歌を紛れも無く猟兵達へと向けていた。
向坂・要
こいつぁみなさんお揃いで。

そんなに寒いってんならあっためてやりましょうかぃ

露わになる右の瞳
それは陽の力を宿した黄水晶に似て
視線の先、空中に生み出す複数の小さな焔
闇を焦がし、灼く焔を視線の誘導で手足の様に自在に操り
それは葬送の焔となり

倒した相手はリサイクルされねぇように燃やし尽くしちまいましょうか

ほら、そんな声じゃなくもっといい声で歌っちゃくれませんかね

そう言って見送り

アドリブ
絡み歓迎しますぜ


エンジ・カラカ
アァ……嫌な声。
いっつもそうだよなァ……。

賢い君、賢い君、まーた来た。さっさと黙らせよう。
在りし日の姿なんか捨ててしまえ。
まだコッチでしぶとく生きるって決めているからなァ……。
土の下で眠るのはまた今度。

薬指の傷を噛み切り、賢い君に分け与える。
美味いか?サァ、黙らせよう。もう一度土の下に還そう。
それとも空がイイだろうカ。

見切りと自慢の足で攻撃を回避。
鬼ーさんコチラ。
遊ぼう遊ぼう。コッチコッチ。
二回攻撃で確実に、けどトドメは味方任せ。
孤立しないように味方の近くで戦おうなァ……。
巻き込まれないように気をつけてくれヨ。


リュシカ・シュテーイン
死が受け入れがたいぃ、という事は理解していますぅ
しかしぃ、だからといってぇ、生ある者を引き寄せるぅ、冷たき死を招く唄などぉ……在ってはならないのですよぉ

私は皆さんの援護として後方からぁ、空中で発火するぅ、炎上のルーンを刻んだ法石でぇ、攻撃いたしますよぉ
【スナイパー】【援護攻撃】を用いてぇ、森の隙間を縫ってぇ、味方に命中しないようぅ、亡者に対してスリングで射出をいたしますぅ
一か所からの射撃ですとぉ、篝火の影による回避が予想されますのでぇ、一射ごとに移動しながら攻撃しますよぉ

怨嗟の歌はぁ、確かに聞こえていますぅ……
でもぉ、その歌はぁ、他の生者へと届けるわけにはぁ、いかないんですぅ!




「こいつぁみなさんお揃いで。いや随分と、大所帯なこって」
「アァ……嫌な声。いっつもそうだよなァ……賢い君、賢い君、まーた来た」
 エンジ・カラカ(六月・f06959)がぽつりと呻く。
 目の前には森の淵。這いずる陰の亡者。
 篝火が揺れて、揺れて、歌に酔う。
「いつも?」
「いいやァ、こっちのハナシ」
 小首を傾げた向坂・要(黄昏刻・f08973)にエンジは首を振って見せてから、自らの指に噛み付いた。左手の薬指、そこにあった傷痕から、ぽたりと赤い滴が零れる。
「……さっさと黙らせよう、賢い君」
 指先へ伝う赤を、いとし人の顎を撫でるように傍らの拷問具に這わせる。与えた血を飲み込む音などしやしないのに、『呑んだ』のだとわかる。
「美味いか? サァ、もう一度土の下へ還そう。それとも空がイイかなァ、賢い君」
 ずるり引き摺る賢い子。
(「在りし日の姿なんか捨ててしまえ。まだコッチでしぶとく生きるって決めているからなァ……」)
 土の下で眠るのは、また今度。
 陰へと足を向けるエンジの背中越しに歌を聴く要が、その右眼を覆う黒い眼帯へと嘆息と共に手を添える。
「そんなに寒いってんならあっためてやりましょうかぃ」
 はらり解けた帯の下、露わになる黄水晶。
 陽を秘めたようなその視線を巡らせれば、同じ色の炎が小さく、無数に、闇へ灯る。
 葬送の焔はそうして、燃ゆる。
 
 リュシカ・シュテーイン(StoneWitch・f00717)は木立の影に立ち、息を潜める。
 亡者の数があまりに多い。それを見て取ったリュシカは即座に味方の支援へ回るべく後ろへ下がっていた。
「死が受け入れがたいぃ、という事は理解していますぅ。しかしぃ、だからといってぇ、生ある者を引き寄せるぅ、冷たき死を招く唄などぉ……在ってはならないのですよぉ」
 木の葉纏わるスリングを両手で握り締め、要とエンジの後ろ姿を見守りながら、息をひとつ。呼吸を整え、炎上のルーンを刻み付けた『法石』を片手にスリングへ。ぎりぎりと引き絞り、狙いを定める。
 黄水晶の炎が一際煌いた、その時に。
 鋭く軌跡を描く一擲が只中へと飛び込んでいった。

 ──揺れる、揺れる、歌と焔。
 黄水晶と紫水晶の片異目が誘うように森を巡り、焔を自在に操り、闇を灼く。
 焔を映すのは鱗の破片、毒含んだ法石、赤い糸。それらは影に吸い込まれるように消え、代わりに亡者の動きを縛る。
 篝火は一層燃え上がり、陰を濃くする。
 亡者の声は止む事がない。

《どうして、どうして、どうして》
《いたかったのに、くるしかったのに、てをのばしたのに》
《どうして》

「そりゃあね。ここじゃァ、届かぬ声が多いだろう」
 揺れる陰はエンジの身に降らない。賢い子を担いで木々の隙間を枝葉伝って飛び移る彼には、その黒は手を伸ばせない。
「残念ながら、今は俺らに届いちまいますがね」
 甘んじて聴こう。だけれど直ぐに、その音を塞ごう。
 煌きの石が木立から飛び込み、要の焔にぶつかって割れた。
 燃える。燃える。篝火さえ呑んで燃え上がる。空を灼いて、止め処なく。
「怨嗟の歌はぁ、確かに聞こえていますぅ……。でもぉ、その歌はぁ、他の生者へと届けるわけにはぁ、いかないんですぅ!」
 リュシカは木の陰を移りながら、法石を射出していく。その狙いは仲間を擦り抜けて亡者へ、篝火へ、黄水晶の焔へ。違わず射抜くそれは陰さえも灼き尽くして、ぱちりと火の粉へ呑んでいく。
 黒髪の襤褸雑巾は枝葉を揺らす。血を舐める賢い子を振るい、灼けた匂いすらしない亡者に叩き込む。
「鬼ーさんコチラ。遊ぼう遊ぼう。コッチコッチ」
 ゆら。声が焔に揺れ熔ける。
 槍のように穿たれた篝火の焔を上体を捻ることで避け、ついでにリュシカの法石がそこへ飛び込んでいった。
 接触、炎上。真横のそれをけれども涼しい顔で黒髪掻き上げ素知らぬふりのエンジの後ろで、あわや味方に当たったかとリュシカが一瞬狼狽える。
「エンジさんぅ、何をしてぇいるんですかぁ!」
「避けたよ、避けた。やだなァ」
 トドメを刺す事も避けたなど、彼女が知ることもないのだろうが。
 見送る焔はもう一色。煌きの黄。篝火を呑む煇。
 もう二度と蘇らぬよう、利用されることのないよう、焼き尽くすだけの。
「ほら、そんな声じゃなくもっといい声で歌っちゃくれませんかね」
 ──きっと綺麗なもんでしょう。



 海へ還るその刹那に、焔火の奥からひとつ。
 暗がりの森に似つかぬ美しい音が溢れたことを、彼らだけは、知っている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

伊美砂・アクアノート
【SPD】やっほー! 貴方は私と同類? 違うかな? ボクもオレもアタシもキミも、みんなみんな同じだものね! みんな同じように違って、違うように等しく死んでいくからね! 多重人格者として、胡乱に口調を変えつつ、楽しそうに笑って相対する。 ―――救いとかは、もっと優しいヤツに言えよ。神様とかオススメだぜ? 【だまし討ち5 2回攻撃4】による、【羅漢銭・須臾打】の速射連打。 だってさー、『みんないっしょなのに寂しい』なんて当たり前じゃん。産まれてから死ぬまで、ずっとずっとみんな一緒に孤独だよ! にゃはは、素晴らしき哉この世界! 貴方たちと私たちは、同じように救われないんだよ!(祈りの聖句を口にして)


イア・エエングラ
昏いばかりは、さみしいものなぁ
冷たいのでは、かなしかろ
たくさんいたとて、変わらないかな
そんなに寂しく唄うのだもの

しんでしまったの、ご存じなのね
そしたら帰る路もおわかりでしょう
それとも標が、いるかしら
手伸べるように差し出して
招く青い火を夜に融かして
滄喪ですべて還しましょう
真直ぐ、返せど、捕まるわけにはいかないものな
裾引き火を曳きのきながら
ひとつふたつ、みっつ、いくつだろ
ひとつずつさよならいたしましょう
惑うならその篝火さえ消してしまおう
前ゆく子がいるのなら、届くように手伝いましょな
お気をつけてね、痛いのはいやだもの

やあ、僕も、いつかそちらへゆくよ
だから良い子で、待っててね
おやすみなさい


ノワール・コルネイユ
最早、自分が何者であったかすら忘れてしまった連中だ
同情も憐憫も必要はない。どうせ届きはしないからな
ここで終わらせてやるのが、せめてもの手向けだろう

何匹いるのか見当もつかないが
目に付く奴を全て倒せばいずれは終わるだろうさ

【第六感】を働かせて周囲を警戒しながら
近くに居る者から仕掛けていく
UCは攻撃回数重視で発動
手数で圧して相手の反撃を抑え込み被弾を減らす狙い

一体倒したら、また近くの個体に仕掛けて戦闘続行
少しでも多く始末しよう

お前達は未来から切り離された存在だ
なのに、終わることが許されなかった。続いてしまった

そうして紡げるのは、生者を求める苦悶の歌だけ
…なあ。もう終わりにしてやるから、啼かないでくれ




「貴方は私と同類? 違うかな? ボクもオレもアタシもキミも、みんなみんな同じだものね! ──みんな同じように違って、違うように等しく死んでいくからね」
 伊美砂・アクアノート(さいはての水香・f00329)の唇は忙しい。彼女の中に棲む『彼ら』が我先にと喋り出すからだ。
 ぐるぐると表情が、目線が、切り替わる。
 彼我の距離を測るのだってそれぞれ異なり、だからこそ、彼らが指先で狙い弾くコインは彼方此方の陰を続け様に貫いた。
「救いとかは、もっと優しいヤツに言えよ。神様とかオススメだぜ?」
「……神」
 落とすように零される声。ノワール・コルネイユ(Le Chasseur・f11323)はけれどそれを拾わない。落とした侭、前を見る。
 同情も憐憫も、どうせ届かぬのだから必要ない。自分が何者であったかさえ忘れてしまった、無数の骸の末路なのだから。
「ここで終わらせてやるのが、せめてもの手向けだろう」
 携えた銀の刃は四つ。その中から長をひとつ、短をひとつ、引き抜いて柄を握り込む。地を抉らぬ程の軽い地蹴で、彼女は亡者の群に飛び込んだ。
 睥睨する視界に陰がうぞり。篝火が揺れる。
 数の限りはわからねど、なれば凡て斬り伏せれば終わる。それだけのことだ。
 歌は止まることなく。口々に、口々に、紡がれる。

《どうして、どうして、どうして》
《さむい。さびしい。おまえたちを》
《おまえたちを》
《どうして、わたしたちを》

 ──たくさんいたとて、変わらないかな。そんなに寂しく唄うのだもの。
 さらりと柔く土を這う裾は長く尾を引く。
「昏いばかりは、さみしいものなぁ。冷たいのでは、かなしかろ」
 イア・エエングラ(フラクチュア・f01543)が歌に交ぜるように囁き、手を伸べるように差し出す。その掌に幽けき青火。導になるはずの灯り。
 亡者の陰は知っている、自分がもう死んだものだと。それなら帰る路もわかるだろうとは思えども、きっとそれでは、さびしかなしい、旅路なのだろう。
 終りを辿るのはいつだって、抗いたいほどに独りなのだから。
「さあさ、おいで。灯を差し上げる。みんなみんな、還しましょうな」
 ぽつ、ぽつ、灯る。夜に燈る。
 星よりも淡く、暗きには尚明るく。
 触れれば何者も凍りつく炎を纏うイアは、子供に語るような声音で言葉を紡ぎ、篝火を落とし陰を照らす。
「『みんないっしょなのに寂しい』? 当たり前じゃん。産まれてから死ぬまで、ずっとずっとみんな一緒に孤独だよ!」
 相反するアクアノートは数人分の賑やかさを連れ、コインを構える。
 一際燃え盛る篝火を見てはその腕を落とし、うぞうぞと這う影を見ては其処にコインを穿った。
「にゃはは、素晴らしき哉この世界! 貴方たちと私たちは、同じように救われないんだよ!」
 救われない、救われない、救われない。
 彼らはそう唱えるのに、彼らの内の誰かが聖句を奏でる。その祈りが誰のものか、知るものは少ない。
「救いは、……ああ、そうだな。きっとこの刃だけが、今の救いだ」
 アクアノートが腕を落とした亡者を斬り裂き、イアの青火を潜ってその向こうの陰を貫くノワールの赤眼には、押し寄せる亡者しか今は見えない。
 銀の刃を突き立てる。重い。
 もう一方の銀の刃を水平に構え、横に薙ぐ。陰は、人の躰を抉っていくように、重い。
 食い込んだその刃で斬っていくのは、ノワールにとっては易いこと。それが常であり、そうやって生を紡いだ。けれど、けれども。
「……なあ。もう終わりにしてやるから、啼かないでくれ」
 微かだけ眉を下げる。
 未来から切り離された過ぎ去りしものが、今まで続いてしまっただけのこと。終わる事なく、それが赦されなかっただけのこと。そうして生者を求める苦悶の歌だけが遺された。
 ならば断ち切ることは、せめて幾許かの安らぎにはなるのだろう。
 篝火を断つ。ひとつふたつ、みっつ。
 陰を青い火が照らす。よっつ、いつつ。
 惑うならばひとつずつ、さよならをしよう。

《どうして、どうして、》
《わたしたちを、おわらせるの》
《いきたいのに。いきたいのに》
《おまえたちを、つれていきたいのに》

「そうねぇ、大丈夫、なんて生きてるおひとの言葉だものな」
 裾引き火を曳きのきながら。
 イアの影が自らの火でゆらゆらと揺れて、ぶれる。
 亡者の陰はあとふたつ。篝火は、ひとつ。
 絶たれた灯火は道標、そうであるなら、前征く子まで届くよう。
「やあ、僕も、いつかそちらへゆくよ。だから良い子で、待っててね」
 イアの火が彼らを照らし、アクアノートのコインが額を続けて穿ち、ノワールの銀刃が続けて薙いで。
 ──またね。おやすみなさい。
 森の淵。凪いだ景色は静かな夜。
 亡者の陰はもう二度と、揺れる事はない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『ヴァンパイア』

POW   :    クルーエルオーダー
【血で書いた誓約書】が命中した対象にルールを宣告し、破ったらダメージを与える。簡単に守れるルールほど威力が高い。
SPD   :    マサクゥルブレイド
自身が装備する【豪奢な刀剣】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ   :    サモンシャドウバット
【影の蝙蝠】を召喚する。それは極めて発見され難く、自身と五感を共有し、指定した対象を追跡する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 館の扉は開かれなかった。
 頑なに閉ざされたそれを、猟兵のひとりが切り裂き、もうひとりが裂け目から弾き飛ばす。

 噎せ返る鉄錆の匂い。
 古く饐えた匂い。
 腐敗する臓腑の匂い。
 鉄扉の向こうに見えたのは、黒赤と白のコンフリクト。
 酸化した血が白壁を半ばまで染め上げ、床一面を汚し、廊下の奥までそれが続く。
 不思議なことに、血痕が派手に残っている割には『ひとだったもの』が少ないと、誰かが気付く。
 長く真っ直ぐに伸びる広い廊下の端々に欠片が残っているのを見た別の猟兵が、呟く。
 『餌か』と。
 つまりそれは食べ残し。喰い散らしたのは獣の類だろう。
 昨日あったという惨劇の痕はすっかり乾いて、歩いたって水音もしない。

「──やぁ、よく来たね。お客人」

 よく通る声だった。
 この場にそぐわない程に。
 まるで何も意に介さないその男こそは、この館の主。
 ──ヴァンパイア。
 広い廊下の端からこつこつと靴音を立てたその男が、猟兵たちから充分に間を取った位置で足を止める。
 そうしてすらりと、剣を抜き放った。
エンジ・カラカ


ハロゥ。
食事の時間が終わったならコレとあーそーぼ。

支援、特に足止め重視で賢い君と立ち回る。
いいネェ、その剣欲しいなァ……。本当は別にいらないケドなァ。
蝙蝠がドコカにいるのカ?
敵サンの足止めはしたいが、コイツは厄介な蝙蝠だなァ……。
聞き耳、追跡で目処をつける。賢い君で蝙蝠を封じたら敵サンを封じよう。

足?口?剣?
アァ……偉そうなヤツは嫌いなンだ。
賢い君、賢い君、ドコがイイ?
君の好きなように。君がヤりたいようにヤればいい。

敵サンの攻撃は見切りで対策を。見切りきれなくても動きを良く見て隙が無いか観察をしておくなァ……。


伊美砂・アクアノート
【SPD】はいはーい! ダイナミックお邪魔しまーすっ!(扉が開いて、ヴァンパイアさんの姿を視認して、相手が剣を抜いたのを確認して。マシンピストルを全弾ぶち込み) ん? 個人的な恨みはないよ? ボクは今を生きていて、彼らは既に死んだ。オレは此処で敵で、だから貴方はは精々頑張って? ーーー死ぬまで殺すよ?【結界糸・無風陣】【だまし討ち5、暗殺5、暗視5、フェイント5、2回攻撃5】……却説々々(さてさて)、張り巡らせたるは硝子糸の檻。血染めの纐纈、慚愧の奇術なり。……感情とか感傷とか、心情とか心痛とか、そんなの全部は頭蓋骨の中で完結してるからねぃ。だから、無駄に無惨に無意味なのさ。よろしく死んでね!


イア・エエングラ
つ、と裾摘んで
待たせたかしら
……なんて。お前をではないよう
今まで失せた子らのかわいそに
随分たくさん呼んだだろうに
僕は祈りをもたないから
せめて後を断ちましょう
逃げ惑うのが、お好きなら
僕は逸らさずお相手しましょ

さあ僕の子らとも遊んでな
おいで、と呼ばうのはリザレクト・オブリビオン
ひとつは前へ僕は下がってひとつは傍へ
仲間を助けて、あげてね
そっと撫でて送ろうな
……なあ、きみは蝙蝠、食べられる?
喰われる心地を、繋ぐのは如何なものだろ
目が四つなら、飛んでゆくのも分かるかしら

遊びの時間も仕舞にしましょ
唄う声は、眠れるかしら
もうなんにも届かぬように
もうきっとさみしく、ないように
――間に合わなくて、ごめんね




  つ、と細い指が裾を摘む。
「待たせたかしら」
「なに……?」
 恭しくこうべを垂れるイア・エエングラ(フラクチュア・f01543)に、館の主は怪訝そうに片眉を跳ね上げる。その様子にくつりと笑うイアが、ゆるゆると顔を上げ周りを見る。
「……なんて、ああ、お前ではないよう。随分たくさん呼んだろに、……今まで失せた子らの、かわいそに」
 その赤と肉片に、眉目をぴくりとも歪めずに。ただただ、待たせてすまなかったと、彼はそう言ったのだ。
「ハロゥ、嫌いな君。食事の時間が終わったならコレとあーそーぼ」
 ごとり。重たげな音で相方の拷問具を鳴らすエンジ・カラカ(六月・f06959)が、抜き放たれた吸血鬼の剣を金の双眸でねめつける。微かに届く蝙蝠の羽音は、既に放たれた、影のもの。
(「影の蝙蝠がもうドコカにいるのカ? 敵サンの足止めはしたいが、コイツは厄介だなァ……」)
 左の薬指の噛み跡にもう一度歯を立てて。
「いいネェ、その剣欲しいなァ……。本当は別にいらないケドなァ」
「お褒めに与り光栄だよ」
 乾いた赤を靴が蹴る。二人分。早かったのは吸血鬼の方だ。
「はいはーい! ダイナミックお邪魔しまーすっ!」
 レーザー・サイトも使わずにマシンピストルを連射した伊美砂・アクアノート(さいはての水香・f00329)が少し甲高く笑う間に弾を空にする。そんな気がして微か後ろに飛び退いていたエンジには掠りもしなかった。
 剣と翼を盾に致命傷を避けた吸血鬼の紅眼がすい、とアクアノートに流れる。
「少しは恨みも晴れたかな」
「ん? 個人的な恨みはないよ? ボクは今を生きていて、彼らは既に死んだ。オレは此処で敵で、だから貴方は精々頑張って? ──死ぬまで殺すよ?」
 錯綜したような彼女の物言いに、眉間の皺を寄せた侭。けれどもああ、『そういうもの』だと理解したのだろう、問うこともなく。
「──おいで」
 凪いだ水面のように穏やかな声が呼ばう、それとは相反する死霊の鎧騎士。ひと撫でしたイアの指先を離れたそれが、動きを止めた吸血鬼に肉迫し剣を交えた。
 ──僕は祈りをもたないから、せめて後を断ちましょう。
「逃げ惑うのが、お好きなら。僕は逸らさずお相手しましょ。……なあ、きみは蝙蝠、食べられる?」
 彼の横に控えたもうひとつ、蜷局を巻いた死霊の蛇竜がちろりと長い舌を出す。そのふたつ目とイアのふたつ目、四つの眼が音を探る。蝙蝠の羽音。
 耳元を通り過ぎるは蛇の吐息、威嚇の声。
「ほら、あちら」
「ハァイ。おいで、賢い君」
 エンジの血を吸いまるでご機嫌の賢い子、辰砂を振るえば、鱗の片が風にも乗らず飛び去る八方。
 藍の眼が追い、金の眼が見留めた血飛沫と白二色の壁に、さくりさくりと鱗が刺さり、黒影の蝙蝠たちが縫い止められていく。動きが鈍ったそのうちの幾つかを、ぺろりと死霊の蛇竜が丸呑みにする。
「喰われる心地を、繋ぐのは如何なものだろか。なんて。……あまりおいしく、ないかしら」
「へェ、影ってそういうモノ。まァ味気なさそうかァ」
 重い剣戟が響く廊下で笑うエンジの手繰った手元。賢い子がずるりと吐いた、長い長い、赤い糸。毒持つ石。揺らし振った辰砂の狙いは、吸血鬼だ。
「足? 口? 剣? 賢い君、賢い君、ドコがイイ?」
 乱れ飛ぶ赤と紅と緋と。けれど一様に目指すところは同じ。
 張り巡らせたるは硝子糸の檻。血染めの纐纈、慚愧の奇術。透いた糸を纏うアクアノートが指先を薙ぐだけで、透明の細い斬撃となる。吸血鬼の持つ豪奢な拵えの剣は幾つも幾つも複製され辺りを舞って、その糸をひとつひとつ丁寧過ぎるほど弾いていく。
 鎧騎士が頭上から振り下ろした大剣を、二本の空中舞う剣が交差して防ぐ。糸の斬撃は数知れず、遂には手に持つ本物の剣でアクアノートと向き合う事になった吸血鬼の横顔を、エンジが細めた双眸で見遣る。
「君の好きなように。君がヤりたいようにヤればいい」
 頷くように。舞う糸が剣を縛り、石の毒が二本の脚を侵す。
 ざら、と砂が流れるように複製の剣が半ばも融けて、防御が崩れる。
「……よろしく死んでね?」
 アクアノートが笑い、糸が疾る。
「ぐゥ……ッ!」
 斬撃が咲いた腹から吹き出た赤い血が、壁の黒赤を鮮やかに上書きする。
 ──偉そうなヤツは嫌いなンだ。エンジが毒でも吐くような声で呟いた。
「遊びの時間も、終いにしましょ」
 イアの声が不思議と通る。
 はさり、はさり。木の葉の落ちるような音を立てて影の蝙蝠が減っていく。蛇が喰らっていく。
 その音を耳に聴きながら、死霊の鎧騎士が薙ぐ大剣の軌跡を藍の視線で置いながら、イアは何処か茫としていた。
 唄う声は、眠れるかしら。もうなんにも届かぬように。もうきっとさみしく、ないように。
「──間に合わなくて、ごめんね」
 一度だけ。その真っ直ぐな双眸を、夜の帳の下りるようにゆっくりと、鎖した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

向坂・要
お邪魔いたしますぜ

ご立派なのは見た目だけ、ですかねぇ
後片付けの一つもロクに出来ねぇとは…

なんて感想を抱きつつ

招くは大気を纏ったフクロウ
大気を震わせる事で影の蝙蝠を攻撃
ついでに本体の感覚も乱してやるつもりです

オレ自身も武器使って攻撃

なるべく全体の様子に気を配り
何かありゃすぐ声かけさせてもらいます
絡み
アドリブ歓迎しますぜ


リュシカ・シュテーイン
生きるためではなくぅ、道楽で人々の命を弄ぶ怪物にぃ、遠慮は一切しませんぅ
……お覚悟をぉ

私は前回と同様ぅ、後ろからの援護でぇ、皆さんを支援しますよぉ
攻撃はぁ、手投げ爆弾ほどの威力の石に刻んだ爆破の法石でぇ、部屋の中を出来る限り敵から距離を取れるよう移動しながらぁ、【スナイパー】【援護攻撃】でぇ、皆さんが巻き込まれないようスリングで勢いを付け狙撃いたしますぅ

途中相手から訪れる蝙蝠や刀剣ぅ、誓約書などについてはぁ、【見切り】【視力】を用いて注視して回避しましょうぅ
伊達にエルフはやってはいませんのでぇ、舐めないでいただきたいですねぇ

……呪唄など聞こえないぃ、静寂に戻りなさいぃ!


ノワール・コルネイユ
この館に染みついた血の匂い
十や二十では足りない…あまりに多すぎる
貴様…この戯れの為にどれだけの人を殺し、血を啜った?

銀を長短一振りずつ
吸血鬼であろうと、異界の神であろうと、悉く斬り捨てる
どうせこれしか能がない女だ

真正面、真っ向から相対し切り結ぶ
第六感を頼りに致命傷を避けつつ戦う
今日は獲物の死に顔を見届けてやりたい気分だ
最期まで楽しくやろうじゃないか

UCは攻撃回数重視、加えて二回攻撃
乾きも疼きも振り払って
ただひたすらに剣を打ち据え血の華を散らす

貴様に未来を閉ざされた者達が紡いだ怨嗟の声、嘆きの歌
生を求める死者達の、黒く澱んだ想いが私達をここへ導いた

貴様は、貴様が生み出した呪いに殺されるんだ




「お邪魔致しますぜ、領主殿」
 こつりと踵鳴らして向坂・要(黄昏刻・f08973)が近付いていく先には、紅い瞳の吸血鬼。
 ご立派なのは見た目だけ、ですかねぇ。なんて、思わず過ってしまった。この豪奢な広い館が、けれども後片付けのひとつもできずにこんな有様。酸化した黒赤を横目に、狐耳を少し寝かせて溜息を吐く。
 その隣をすり抜けていく黒。ノワール・コルネイユ(Le Chasseur・f11323)。
 歩む毎に、一歩踏み出す毎に、噎せ返る様な染み付いた鉄の匂いに纏わり付かれる。
「貴様……この戯れの為にどれだけの人を殺し、血を啜った?」
 十や二十では事足りない、もっと多くの。気の遠くなるほど、数え飽きるほど。
「さぁ。壊した玩具の数、君は覚えているかい」
「……そうか」
 返答は予測通り。ならば今更遠慮もない。する気もない。こんな所業を平然とこなした輩に、元より心ある言葉など吐ける筈もない。
 提げた長短の銀剣が四、その内の二つをすらりと抜いた。亡者相手に使ったものではない刃。だって還って尚顔を合わせては、癒える筈の悲しみさえ蘇ってしまう。
 吸血鬼であろうと異界の神であろうと悉く斬り捨てる、どうせこれしか能がない女と、彼女は自分をそう定義するけれど。今この時においてそれは、何にも代え難い鎮魂歌に成り得る。この陽も差さぬ世界にあっては、殊更に。
「……お覚悟をぉ」
 リュシカ・シュテーイン(StoneWitch・f00717)はスリングを握り締める。生きる為ならいざ知らず、道楽で人の命を弄ぶものを、怪物と呼ばずして何と呼ぶのか。遠慮など一切しないと握り締めるルーンの法石は『爆破』。眼鏡の奥で細めた碧石の眼が、ぎりりと引き絞るスリングの行く先を見定める。
 投擲は一矢。煌きが疾るその速度から僅かに遅らせ、ノワールが駆けた。
 法石と挟み撃ちをするように、彼女は吸血鬼の真正面へと回り込んでいく。直後、背面の爆発で逆光になった彼に一閃を見舞う。
「最期まで楽しくやろうじゃないか」
 ──貴様の、最期までな。

 微かな羽音が聞こえてくる。奴の眷属、影の黒蝙蝠。
 視認性は低く、隠密に長けるもの。
 けれど要はそれを待っていた。
「一個一個、潰していきましょうや」
 招く、招く、風。大気の化身。それは白梟の形を取って、真横に伸ばし迎えた要の腕に留まった。
 羽搏きは春風めいて優しく彼の耳元を擽る。そうして波のように、澱んだ空気を揺らして流し、震わせる。
 羽音がぶれる。影に潜み壁を這う蝙蝠の姿が露わになる。ちりちりと羽先から黒が散り、ばらばらに砂の様に流れていく。
 音叉を伝う音の波に似て、ぶわりと肌を逆撫でる感触に、吸血鬼の足までも微かに鈍った。
 その一瞬は好機。ノワールは複製された幾つもの剣を飾りの如くに擦り抜けて、銀閃が二度瞼に残る。
 血華咲かせた吸血鬼の背後に狙い違わず襲い来るのは爆炎。リュシカの法石が描く軌跡には外れがない。ノワールが前に留まり剣を交えるなら、彼女は背面を狙いそれを助ける。
 一瞬だけ脳裏を灼く焔が思い出させる篝火、森の唄。嘆きの歌。それは始まりさえ忘れ去られた、呪唄。
「そんなものはもう聞こえないぃ、静寂に戻りなさいぃ!」
 どうか二度と、唄が響かないように。
 それは誰もの願いだった。
 背を焼かれ腕を貫かれたヴァンパイアが呻く。血走った目がその場に立つもの全てを睨め付ける。
「何故、何故、お前たちが……何故こんなところに……ッ」
「何故、ですってぇ」
「そりゃぁあんた。自業自得ってもんですぜ」
 空気をしならせ床を叩く鞭が、狐の九尾の様な残影を連れて迫り来る。打ち据え絡むはその足元。
「貴様に未来を閉ざされた者達が紡いだ、怨嗟の声。生を求める死者達の、黒く澱んだ想いが私達をここへ導いた」
 その声が届いたからこそ。
「──貴様は、貴様が生み出した呪いに殺されるんだ」
 鏡の様に割れ散る剣の複製は、爆炎に焦がされ融けるように消えた。
 吸血鬼が握る本体の剣は血に濡れて、それを振り撒きながら薙がれようとしていて。そこへ飛び込んだ要が抜いた変幻のルーンソードが長剣を成し、手首を突き貫いて中空に縫い止める。
 鼓動は銀に穿たれた。ただ一度のそれが、残り三拍だけを留めて仮初めの命を海へと連れ去っていく。
「……ならば、女。私の、我等の呪いがお前を喰い殺す刻は、そのうちに」
 交わる視線は赧く。他の何色も混ざらぬ侭で片方だけが鎖され、骸となり、海へと沈む。
 灰のように、其れは消えた。剣も、翼も、赤の眼も。
 後に佇む惨劇の残穢に、
「……やっぱり後片付けもできねぇんじゃ、仕様のない奴でしょうや」
 そんな要の声がひらり、落ちて埋まった。

 エルフの長耳を魔女のフードに仕舞い込んだリュシカが長い廊下を振り返る。
 唄はもう聴こえない。
 聴こえない侭であってほしい。
 深い森は闇を孕んで、さざめきを返すのみだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年02月26日


挿絵イラスト