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ひと塗り三百貫、ふた塗り六百里(作者 小風
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 街明かりを弾き、闇に浮かぶは紫みを含む黒赤色の薔薇。
 咲いたばかりのそれをそっと包み込むのは薄紅色の玉手。
 願えば花はその姿を芳香を閉じ込めた蝋へと変え、白い容器の中へと収まってゆく。

「ありがとうございます! お姉さま!」
 掌に収まるほど小さなそれを夢中で受け取り、学生と思しき者は早口に礼を述べる。
 切らしてしまってどうしようかと思っていた、やっとあの人の前に出られる。
 念仏のように独り言を唱えながら、中の蝋を指で掬い、耳の後ろへひと塗り。
 すると、その声は見る間に高く可愛らしく、鈴を転がすような音色へ。
 耳を塞ぎ自分の声を確認した学生は、やっと落ち着いた様子だった。

『……ねぇ、アナタはいま……シアワセ?』
 薔薇色ドレスの女性から問いかけられる言葉は、甘くしっとりと歌声のような響き。
 しかし聞こえているのかいないのか、学生は一礼すると足早にその場を後にした。

『…………ねぇ、アノコは…………ワタシは……ワタシの成したことは…………』

 どろりとその身の内側から、形容できない何かがあふれ出るような感覚に襲われる。
 何かが塗り潰されるような気分に眩暈がして、壁一面を覆う蔓に手をつき息を整える。

 辺りを覆うおびただしいほどの黒薔薇の中。
 落とす影は真黒く巨大な――異形の鬼。


「サクラミラージュにて、民間人に匿われている影朧を確認した。至急現場に向かい捕獲してくれ。討伐するか、転生を促して倒すかは任せる」
 グリモアに自らの捕捉した光景を映し出しながら、水心子・真峰(ヤドリガミの剣豪・f05970)が呼びかける。繰り返し再生される映像に合わせ、ベース内の景色も薄紅の花弁が舞い散る大正浪漫の景色へと移り変わる。

「この影朧は直接の悪さこそしないが、その力で作り人々に手渡している"練り香水"と呼ばれるものが厄介だ。ユーベルコヲドとまではいかないが、使用した者の能力を爆発的に引き上げる」
 ある者は頭に思い浮かべた絵画を瞬きの間に描き上げ、ある者は予鈴ギリギリまで家で寝ていても秒で教室まで走り抜け、またある者は玄人のような審美眼で以って一代で財を築いた。

「あくまで当人の持ち得る能力をひとつだけ超強化するという範囲に止まるが、練り香水の香りが消えればそれまで。元の只人だ」
 だからその恩恵を受ける使用者は、それはそれは丁寧に影朧を秘匿する。
 その力を、永遠に得続けんが為に。

「だが、過ぎた力には代償が付き物。此度は影朧と使用者の正気だ。……まぁ、どちらも時間の問題だったろうがな」
 正気を取り戻させ力に更なる制限を加えれば、かの者達も夢から覚めないまま日常を送れるだろうか。否と、猟兵はその邂逅に首を振る。

「影朧とは、かの世界に呼び寄せられた不安定なオブリビオンのことだ。直ちに人を傷つける意思が無くとも、その行動が世界の崩壊につながってゆく。あるべき場所へ、導いてやってくれ」


「まず向かうのは練り香水の使用者の出入りが多く見られる、中華風の倶楽部店だ。昼過ぎまでは飲茶を提供している店らしい。茶と軽食がてら出現に備え、影朧を知る者から居場所などの情報を引き出してくれ」
 食事代に関しては帝都からのサアビスチケットを活用するが良い、と真峰は豊富に提供された札を扇のように広げて見せる。

「また、めぼしい使用者を見つけたら会話がてら、その者自身の話を聞いてやるのも良いかもしれん。……影朧が現れた際、真っ先に邪魔してくるのは彼等だろうからな」
 練り香水がなければ生きてゆけないと、中毒者のようになっている者もいるだろう。影朧を守ろうと妨害を仕掛けて来た際、超弩級戦力としての力を見せつけ屈させても良いし、その心を縛る恐怖や焦燥との付き合い方を教えてやっても良い。

「妨害を越え影朧を追い詰めれば、応戦してくるだろう。薔薇鬼の力と自らを顧みない捨て身の攻撃が得手のようだ。どう対処するにしろ、油断はせぬようにな」
 どうやら器物に鬼が宿ったものらしく、その考えは人間よりも盲目的だ。献身的に人を助けているようで、その実自分の為の行動なのだろうと。
「何を求めての行動だったのかは、察するに余り有る。その心までもが鬼と化す前に、止めてやってくれ」

「では、よろしく頼むぞ」
 程よく湿って暖かい季節、幻朧桜の風を受け、猟兵は帝都へ降り立った。





第3章 ボス戦 『白鞘・ユヲ』

POW ●アナタがくれた全て、お返しするわ
全身を【四肢のように動き、鋭く赤黒い衣】で覆い、自身が敵から受けた【五感の刺激】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
SPD ●ワタシに宿るもの、ワタシになったもの
肉体の一部もしくは全部を【呪われたクロイバラ(黒薔薇・黒茨)】に変異させ、呪われたクロイバラ(黒薔薇・黒茨)の持つ特性と、狭い隙間に入り込む能力を得る。
WIZ ●いたくないわ、鞘は割れるものだもの
自身の【五体いずれか】を代償に、【自身に宿るクロイバラの鬼】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【花弁となり回避、武器を模った赤黒い血】で戦う。
👑11

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠水心子・真峰です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ――本当は刀に憑きたかった――。
『ダメだよ……代わりにゼンブあげるから……とてもカラっぽだけれど』
 ――あと一歩だったんだ。運が無かっただけなんだ。
『イイよ……ほんの少しだけなら助けられる……とてもナガレルけれど』
 ――もっと欲しいもっと欲しいもっと欲しい。ねぇ、貴方だけは見捨てないよね?
『……イイよ……とてもドロドロしているけれど……』

 ……ねぇ……望むカタチ……シアワセを知っているヒトを叶えたら……
 ワタシもシアワセになるよね……?


 日のすっかり落ちた、切り取られた空が広がる。
 夜を彩る薄紅の花弁。現実のサクラミラージュに帰ってきたのだ。

 しかしこの一角は桜よりも、一面に乱れ咲く薔薇の存在感が強い。
 夜を重ねた黒色の花弁。影朧のテリトリーに誘われたのだ。

 ざわめく薔薇の空間の中心に立ち、嘆くは彼らの主人『白鞘・ユヲ』
『……シアワセ……シアワセ……どんなに削っても……フリそそがない……』
 まだ足りなかった? もっと続けなければ? そう、その寿命尽きるまで。

 四方を覆い尽くす薔薇の影が一斉に滴るように伸びる。
 波打ち立ち上がり、影朧の後ろに現れたのは巨大な人型――鬼と形容できるだろうか。

 己の望みも、願いも、感情も知らず、混沌を彷徨う空虚なおぼろ。
 破滅の旅路に終止符を。
 猟兵は影朧と対峙する。