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開幕、メダルバトルシティ!

#カクリヨファンタズム

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#カクリヨファンタズム


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●今、この街はメダルバトルシティと化した!
『この街に集いし、歴戦のあやかしメダリストの諸君! この世界において、一体誰が最強か。誰が一番うまくあやかしメダルを操れるのか! 雌雄を決する時が来た!!』

 とあるレトロな街中。だがその街には不穏な空気が立ち込めていた。
 町中には世界各地から集まった妖怪がそこかしこにいる。彼・彼女らは皆、それぞれのあやかしメダルを持ち、シューターやベルトを装備し何かを心待ちにするように、町中に響き渡るその声を聞いていた。

『自らのあやかしメダルを放ち、その力、効果、そしてフィールドとの相性により勝敗を決する! 最後の1人になるまで戦い抜くのだ!!』

 街1つを舞台にした、バトルロワイヤル。あやかしメダルを使ったゲームの1つ、その名も『メダルバトル』! それに腕を覚えた妖怪たちが、この街には『なぜか』集結していて、『なぜか』この大会に参加しなければならない、と皆が感じていた。

『だが敗北しても諦める事は無い! 街にはスタッフとして、レアメダル売りが存在している。彼らを探し、レアメダルを購入すれば、必ず勝利する事ができる!!』

 そして、誰も気づかない。優勝を決めるはずの大会なのに『負けても再び挑める』というこの言葉の矛盾に。

『さあ、バトルを始めよ、メダリストの諸君!! 勝利の為に、自分の為に、そして欲望を曝け出すのだ! フフハハハハハハハハハハハハハハ!!!!』

●無限ループ!!
「メダリスト、ってなんかややこしいですが……要はメダルで戦う人達、って事ですね」

 ぴっちりスーツに身を包んだ少女……だが本体は顔のマスクである、シズホ・トヒソズマ(因果応報マスクドM・f04564)は集まった猟兵らに語り始めた。

「カクリヨファンタズムのとある街で、あやかしメダルで勝負する大会『メダルバトルシティ』が開催されています。……正直シティというより、タウンって言った方が良い規模と町並みなんですけどね」

 あやかしメダルとは妖怪の力が封じられたメダルであり、コレクションや売買にも使われており、これを使ったゲームもカクリヨファンタズムには多く存在し、メダルバトルもその1つである。
 ルールは簡単。それぞれ1つのあやかしメダルを出す、もしくは撃ち出す。メダルの力・特殊効果・フィールド、相手のあやかしメダルとの相性により勝敗が決する。

「で、この街には各地の腕に覚えのあるメダリスト妖怪が集まってこの大会に参加しています。そう……負けても脱落せず、勝っても勝ち進む訳でもない、永遠のバトルロイヤル大会に」

 負けても勝っても別の誰かと戦い続ける。同じ相手だとしても戦い続ける。次のステージに進出する訳でもないので、永遠に数は減りはしない。普通ならば在り得ず、参加者から苦情が出る筈。しかし……。

「苦情は出ません。そもそも、この街に引き寄せられた時点で、メダリスト達はこの事件の元凶であるオブリビオンの術中に嵌っているからです」

 街自体がメダリストを引き寄せる効果があり、入ってしまえばもうこの大会ルールの矛盾に気付くことはできず、ただただ戦っていくしかない。だがそんな事に意味はあるのだろうか、という猟兵の疑問にシズホは頷いた。

「意味はあるんです。ずっとメダルバトルをしていき、それが終わらないなら、段々とそれは妖怪の精神を蝕み、欲望を露出させていくんです。勝ち続ければ『もっと勝ちたい』『もっと圧倒したい』。負け続けたら『勝ちたい』『もう負けたくない』。どっちでなくても『もうやめたい』『もっとメダルが欲しい』でもなんでも。街中で欲望を曝け出してしまった者は仕込まれている骸魂に取りつかれオブリビオンになってしまいます。そうやって自らの配下を大量に作る事、それが主催者の目的だと思います」

 ひょっとしたら、別の目的もあるかもしれませんが、とシズホは呟いた。

「皆さんにはこのメダルバトルシティの開催されている街中に行って貰います。メダリストとして参戦してもいいですし、そうでなくてもOKです。主催者を見つけたいですが、奴は街中の何処かに隠れてるらしいです。それでいてなんらかの術で町中に声は届くみたいですが。
 ではどうやって見つけたらいいのか。ここで手掛かりになるのが、『レアメダル売り』です。実はその売られるレアメダルこそが骸魂の憑いてるあやかしメダルなので、これを持ったまま欲望のタガが外れると、オブリビオンになってしまうってカラクリです。つまりレアメダル売りを辿っていけば、主催者に辿りつける筈です。
 レアメダル売りの情報は既に開催から数時間経っていますから、メダリスト達が知っている筈です。ですが彼らは永遠のメダルバトルに囚われていて情報提供どころではありませんから、彼らをなんらかの方法で助けてあげた方が情報は手に入れやすいんじゃないかと思います。
 また、既にレアメダルを持っているメダリストもいるのでそのレアメダルをなんとかしてもいいと思います。方法によってはメダリストもレアメダルが危険だったとわかり、喜んで情報を提供してくれるでしょうから。

 レアメダル売りの所在がわかったなら、そこに突入できますが、一筋縄ではいかないでしょう。レアメダル売り達自体も、主催者によって取り込まれた妖怪、『ミイラ青鬼』なので、戦闘になります。ミイラ青鬼達は本物のあやかしメダルも大量に抱えているのでそれを戦闘に利用してきます。ですがそこはメダルバトルシティ。あやかしメダルには、あやかしメダルで対抗すれば、力や相性によってはその効果を打ち消す事が出来ます。自前のメダルがなくても、街中とかその突入場所にそこかしこにメダルが落ちているでしょうから、拝借して使ってしまえばいいでしょう。あるいは、メダルでなくても妖怪の力を使う事が出来ればそれでも代用は可能です。
 ちなみに使ってくるあやかしメダルは『鬼種』や『ミイラ等のアンデッド』のようです。

 レアメダル売り達を倒せば、スタッフを失い慌てた主催者が姿を現す筈。主催者の正体は上手く予知できませんでしたが……なんとなく、ソイツもあやかしメダル使いという感じがしますから、先の対処はそのまま使えると思います。使用メダルは分かりませんが、もしかしたらメダリスト達の情報やミイラ青鬼戦闘場所にヒントがあるかもしれません」

 いつの間に手に入れたのか、あやかしメダルを1つピン、と指で弾き、それを手でキャッチするシズホ。

「メダリスト達の遊び心を利用するなんて、許してはおけません。どうぞ皆さん、主催者の企みを粉砕玉砕し、大喝采のエンドを迎えましょう!」


タイツマッソ
 新人マスターのタイツマッソと申します。
 メダルバトルはそこまで厳密な勝敗ルールがある訳ではなく、ノリや雰囲気重視ですので、相性の良さや勝つ要因をあげればなんとなく勝てたりするでしょう。

 1章では永遠のメダルバトルからメダリストを救い、レアメダル売りの情報を得ましょう。救う事ができればボーナスが付き、3章ボスの情報を得る事も出来ます。
 2章では集団敵であるミイラ青鬼達があやかしメダルを活用しながら戦いを挑んできます。ここでもノリで相性の良さや力の差を押し出せばなんとなくメダルバトルに勝つことができます。妖怪の種類はなんでも指定して構いません。あやかしメダルへの対抗策が良ければ、ここでも3章ボスの情報を得る事が出来ます。
 3章ではボスである主催者との戦いになり、ボスもメダルを使用してきます。メダルやボスの情報は1章、2章でのボーナス次第で断章にて事前開示されます。

 あやかしメダルを上手く活用したシナリオを作れればと思います。プレイング、お待ちしています。
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第1章 冒険 『偽あやかしメダル売りを追え!』

POW   :    怪しい奴を締め上げるぜ!

SPD   :    関係者に聞き込みだ!

WIZ   :    情報を整理してみよう!

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●突入、メダルバトルシティ!

 メダルバトルシティ開催中の町に転移した猟兵達。耳を澄ますまでもなく、町中のメダリスト達の声が聞こえてくるだろう。

「私のあやかしメダル、召喚! 『雪女』! 雪女の効果で周囲に吹雪を発生! その効果であなたのあやかしメダルを氷漬けにするわ!」
「それはどうかな! 俺のあやかしメダルはコイツだ! 『火車』! コイツは炎を纏うアツアツのあやかし! 吹雪なんて効かねえ! 返り討ちだ!!」
「きゃああああああああっ!!」

「流石炎系あやかし使いで有名な『サラマンダー火口』だ。これで3連勝だぜ」
「でも雪氷系あやかし使いの『ブリザード雪野』も黙ってないだろうぜ。レアメダル売りを探しに行ったらしい」
「そういえば幽霊系あやかし使いの『ゴースト霊谷』がレアメダルを入手して勝ち続けてるって聞いたぞ」
「マジか。俺も探そうかなあ……そういや、こんな大会なのに最初から姿が見えない有名メダリストもいるらしい」
「へえ……誰がいないんだか、知ってる奴いるかな?」

※上記みたいなノリのバトルなので、後だしスタイルでもOKですし、自分ルールを作ってみてもOKです。
※プレイングにて希望されれば、希望したあやかしメダルを使うメダリストが登場しますので気軽に記載ください。断章にて名前が出ていなくてもOKです。
※締め切りは12日朝8時半までとし、人数によっては延長致します。
神代・凶津
メダルバトルとは面白そうじゃねえかッ!
「・・・遊びじゃないんだからね?」
分かってるって、相棒。
まあ、俺達のメダル捌きでパパッと解決だぜ。
「・・・大丈夫かな、そもそも私達はメダルを持ってないでしょう?」
其処は抜かり無いぜ、相棒。
さっき道端で何枚か拾ったからな。
拾ったのは『鷹天狗』『水虎』『怪人バッタ男』・・・最後のは妖怪か?
まあ、いいかッ!

よし、あそこにいる『サラマンダー火口』って奴に勝負を挑むか。
火には水だぜ。
いきな、あやかしメダル『水虎』
虎って字面の癖に明らかに河童なコイツのジェット水流で一撃必殺だぜッ!

バトル後に勝てたらレアメダル売りの情報を貰おうかッ!


【技能・情報収集】
【アドリブ歓迎】



●メダルバトルシティ第一試合:サラマンダー火口VSオーガマスク神代
「メダルバトルとは面白そうじゃねえかッ!」

 メダリスト達の熱気に湧くメダルバトルシティ。その中に突入した猟兵の一人、鬼の仮面を顔に装着している巫女、神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)は活き活きとした声を上げた。実はゲームが好きな凶津にはどうやら新世界のゲームであるメダルバトルはお気に召したらしい。

「……遊びじゃないんだからね? 妖怪達の永遠のメダルバトルを止めて主催者を突き止めないと。嵌りすぎて私達が永遠に遊んだら元も子も……」

 鬼の仮面の中から、違う口調の声が諫めるように響いた。凶津はヒーローマスクであり、今のは着用者である巫女、桜のもの。喜びすぎてミイラ取りがミイラになりかねないか、心配しているのだ。

「分かってるって、相棒。まあ、俺達のメダル捌きでパパッと解決だぜ」
「……大丈夫かな、そもそも私達はメダルを持ってないでしょう?」

 それでも威勢の止まらない凶津に、桜は心配そうに呟いた。あやかしメダルはこの世界で初めて発見されたもの。猟兵も多くいれど、元々所持している人物は全体的に見れば少ない。当然凶津もその1人の筈だが……そこはメダルバトルシティ。

「其処は抜かり無いぜ、相棒」

 フフン、と不敵な笑いと共にさっと手を翳す凶津。そこには、『鷹天狗』『水虎』『怪人バッタ男』、それぞれの絵柄がかかれたメダルが計3つ、指の間に挟まれていた。

「あれ、いつの間に?」
「ついてすぐ道端に落ちてたんで拾っといたぜ。『メダルは拾った』ってな」

 メダルバトルシティにはこうしてあやかしメダルがそこかしこに落ちている。元々配置してあったり、負けた心無いメダリストが『雑魚メダルめ!』と捨てたりしたもの等々。終わった後は持ち主を探してみてもいいが、主催者打倒までは使わせて貰ってもよいだろう。

「しかし、鷹天狗と水虎はともかく、怪人バッタ男って……妖怪か?」
「『新しい妖怪』、じゃない? ほら都市伝説とか」
「ああ、かもな……まあ、いいかッ! あるんだからな!」

 前向きに考え直し、凶津が相手を探し出したところ、近くで人込みと歓声が沸き立つのが聞こえた。『すげえ!これで5連勝だ!!』、と。それを聞いて、凶津が心なしかその鬼の仮面に笑みを讃えたように見えた。

「へえ、活きのいいのがいるじゃあねえか!」



「おらおらどうした! 次かかってくるアツアツの奴はいねえのか!」

 がやがやと円を成す人込みを作るメダリスト達の中心、ぽっかり空いたそこにいたのは炎を纏った精霊妖怪、イフリートの『サラマンダー火口』の姿だった。炎系あやかしを操るのを得意とする彼は先刻『ブリザード雪野』を下しすっかり調子に乗っていた。更に勝ちを重ねて今や5連勝。その連勝の様子に、ギャラリーであるメダリスト達も流石に我こそは、と名乗りを上げれずにいる。

「なんだなんだヒエヒエの冷え込みチキン達がよ! もっとだ、もっと勝ちたいんだよ……もっと、もっと……!!」

 そうつぶやく彼の顔は常軌を逸し始めていた。レアメダルではなく今は自前のメダルで勝ち進んでいるようだが、レアメダルが街に広がり始めている現在、持ち主でなくても欲望が曝け出されれば近くにいるだけでもオブリビオンになりかねない。一刻も早く止めなければならない。

「おう、誰がチキンだってんだ、このキャンプファイヤー野郎!!」
「誰だ!!」

 人ごみの中からばっと何者かが飛び立ち、火口の前に颯爽と着地した。白き巫女服を優雅に翻し、それでいながら鬼の仮面と共に荒々しく指に挟んだメダルを構えし者、挑発を聞いて参戦した凶津である。

「お望み通り、手前の連勝を止めてやるぜ」
「ハッ、おもしれえ、やれるもんならやってみろよ!! 来い、『火車』!!」

 火口があやかしメダルを投げると、そのメダルの上に炎を纏った猫妖怪、火車の姿が浮かび上がる。これぞメダルバトルシティにおける現象、『リアル飛び出る妖怪』!こうしてメダルに宿る妖怪の力を分かりやすく表現できるのだ。
 火車が現れた事で周囲の温度が一気に上がる。ギャラリー達が『またかよ』という顔で団扇で仰いだり水を飲みだす中、凶津は涼しい顔(仮面なのでそもそも汗は表立ってはかかないのだが)で手持ちのメダルから1枚を選ぶと、いつの間に取り出したのか鈴をメダルを持ってない方の手で取り出し、しゃんしゃん、と鳴らしながら芝居ぶった動作でメダルを掲げる。

「逆巻く水に鈴成り響く。招来、招来、竜宮の眷属! 来やがれ、『水虎』!!」

 勢いよくメダルを投げると、その上に妖怪の姿が現れる。その見かけは妖怪たちにもなじみがある有名妖怪とよく似ていた。

「河童か!?」
「違うぜ。こいつは水虎。河童を率いる獰猛な親分で、かの龍宮の眷属だ。一緒にしたら怒られるぜ?(俺も実はどう見ても河童だと思ってるけどな)」

 言われてみれば河童に似てはいるが、大柄でその顔は敵意むき出しである。ちなみに水虎は日本と中国で伝承が異なり、メダルの水虎は日本由来のようだ。
 その威嚇めいた顔にギャラリー達が委縮する。だが、歴戦のメダリストである火口は違った。

「成程。炎を使う俺に、ビショビショの水を使うあやかしって訳だな?」
「ああ、単純だろ?」
「ああ、単純だ……単純すぎてケラケラ笑っちまうくらいにな!! この俺がそんな程度の対策、相手にしたことないって思ったのかよ!」

 笑みと共に自身の焔を燃え上がらせる火口。炎系あやかしを操るならば当然張られる対策。それを突破できるからこその歴戦メダリスト。

「成程。フィールドとの相性って話だったが……メダリスト自身も妖怪なら、自分の力であやかしメダルに有利な状態にも出来るよな」
「そういうこった! 蒸発くらい知ってるよな! 俺のこの炎と熱でアシストすりゃ、それくらいの火力を火車に与えられるんだぜ!!」

 火口の炎と熱でこの場の温度を引き上げ、火車をパワーアップさせる。それがサラマンダー火口の得意戦術だったのだ。妖怪だからこそできる力技。だが……。

「そうかい。いや、実は安心したんだよ」
「あぁ? 何ナゾナゾな事いってやがる!!」
「いや、何せ『先に』もうやってたんでな……そういうサポートがありなら、こっちもありだよなってよ」
「先に……? なんだと!?」

 訝しんだ火口の目に信じられない光景が飛び込んできた。普段ならパワーアップするはずの自身の火車が、すっかり弱り切っているのだ。水虎が何か攻撃したわけではないのに。

「ど、どうなってやがる!? まさか、手前、さっきの鈴!」
「流石歴戦メダリスト、気づくの早いな。そう、これは召喚演出で鳴らしてたんじゃねえ」

 そう言ってさっき鳴らした鈴を見せる凶津。これは『退魔の鈴』であり、その音は低級の怪異や悪霊を退散させる力を持つ。これによりあやかし火車は、退散とまではいかないまでも、その力を弱められていたのだ。一方、水虎が召喚されたのは鈴が鳴った後。よって水虎には影響が及んでいない。
 連勝する程の相手だからこそ何らかの秘策を持っている。ゲーム好きの凶津は念には念を入れ、召喚演出に見せかけさりげなく鈴を鳴らしサポートしておいたのだ。予想通り火口は相性を覆すサポートをしてきたが、それが結果的に、凶津のサポートも正当化する事になった。

「感謝するぜ、てめえが相性すら覆そうとする『強者』だった事によ!」
「くっそおおおおっ!!!」

 弱った火車ではいくら強化されても水には対抗できない。水虎が放ったジェット水流が、火車を押し流しそのまま火口をも吹き飛ばして見せた。

「すげえ、あのサラマンダー火口を倒しやがった!」
「オーガマスク!オーガマスク!」

「おい、なんだオーガマスクって!」
「ああ、メダリストの習性でな。ギャラリー達がノリで、勝手にメダリストネームを付けちまうんだよ。俺の『サラマンダー火口』もそれで、俺の本名アブドゥルだし」
「マジかよ、日本人じゃねえのか……(これ、他の猟兵もなってそうだな……)」
「嫌なら無視すりゃいいし、自分で別のを名乗ればいいけどな……あー、しかし、文字通りなんか、頭冷やされちまった。なんでさっきまで勝ちたがってたんだろ」

 姿の消えた火車のメダルを回収し、立ち上がった火口の様子は落ち着いていた。鈴により骸魂の影響も沈静したのか、猟兵による力かは定かではないが。

「……メダリストネームで思い出したけどよ。俺も結構そういう奴ら知ってるし、この大会でも見かけてるんだけど、全く見かけてない奴らがいるんだよな。どいつもこういうのは見逃さない筈なんだけど……」
「ん? なんて奴らだ?」

 火口の呟いた言葉に、凶津の勘が囁いた。ここは情報を収集しておくべきだ、と。

「えっと、4人だな。
 海洋系あやかし使いで人魚の『オーシャン大海』。
 岩石系あやかし使いでガーゴイルの『ロック岩永』。
 植物系あやかし使いでアルラウネの『フォレスト木下』。
 鳥獣系あやかし使いでハーピィの『バード羽鳥』。後知ってる奴らは戦ったり見かけたりしたぜ」

(成程な)
(これ、重要な情報かな?)
(ああ。骸魂は、妖怪を取り込んでオブリビオンになるんだろ? なら、少なくとも主催者にだって元の妖怪がいる。その妖怪は最初からいなかったに違いないから、この中の誰か、かもしれねえ)

 凶津が得た情報について心中にて桜と検討する。
 こんな大会を開いたなら、元にした妖怪もメダルバトルに精通していた可能性は十分あると踏んだのだ。

「どうした?急に黙り込んで」
「ああ、なんでもねえぜ。ところで、レアメダル売りがどこにいるか知ってるか? お前は持ってないようだから望み薄だろうけど」
「いや、バリバリ知ってるぜ。連勝で相手探して町中動き回ってたからな。丁度ゴースト幽谷がレアメダル買ってるとこ見たんだ。丁度そこで別の奴に勝負挑まれたから、見失っちまったけどよ」
「本当か! その場所、教えてくれ!」
「いや、お前だってレアメダルなんて要らないだろ……でも、まあいいぜ!細かいことは気にしねえ!俺をまんまと出し抜く、いい勝負してくれたしな!!」

 そう言って、火口はその場所を教えてくれた。
 終わればノーサイド。それはメダリスト達にも共通しているのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

大神・狼煙
妖怪バトル?


では『火車』召喚


え?それはステルス爆撃機?

ヒロシマナガサキとかいう都市を焼き払った炎の大妖怪ですよ?


というわけでナパーム弾投下!

戦場諸共焼き払えば、能力とか戦場効果とか関係ないね!

ナパーム弾の特徴は火が消せないこと

有利な水属性でも、蒸発するしかない

厄介なのは火属性ですが、機体によるダイレクトアタック!

ところで炎妖怪君、君の後ろにはメダリストがいるな?

と、避けたらメダリストがお星様(意味深)になる事を暗示して亜音速の金属機を直撃させる

卑怯?えぇ、私は雑魚ですから……

貴方様のような実力派に、メダルの使い方と選び方をご指導頂きたい

まずはレアメダル売りとやらについて、聞かせて頂けませんか?



●メダルバトルシティ第二試合:ゴースト幽谷VSグラスマスター大神

「クヒヒヒ!!無敵だ、コイツの力さえあれば俺は無敵だぁぁ!」

 倒れ伏したメダリストの前で、高らかに笑う男がいた。彼は幽霊系あやかしメダル使いで有名な、『ゴースト幽谷』。彼は開始当初は調子が悪く、負け続けていた。だが彼はレアメダル売りからレアメダルを購入。レアメダルの力は一般あやかしメダルとは桁違いであり、彼はその力で次々に連勝を収めていた。

「もっとだ、もっと勝利を寄越せぇ!! クヒ、ヒヒ、ヒヒヒヒヒヒヒ!!」

 そう笑う彼の手元のレアメダルからは黒い煙がうっすらと見え始めていた。それは骸魂の姿。欲望を露わにしそうである幽谷に骸魂が憑りつかんと……。

「注文は妖怪バトル? で、よろしいですね?」
「ヒ、ヒ……ンァ?」

 突然目の前でした声に、幽谷のみならず周りにいたギャラリーまでもが目を見張った。日に焼けたような肌に知的な眼鏡、そしてその服装はまさに喫茶店の主人を思わせる男、大神・狼煙(コーヒー味・f06108)がいつの間にか幽谷の目の前で、まるで喫茶店にて客を相手にする店員のように余裕を称えながら佇んでいたからだ。

「なんだアイツ、どこから現れた!?」
「あの雰囲気、ついコーヒーを一杯頼みたくなっちまう!」
「でも何故だ。それがとても危険なような、スリルがありそうな予感がしちまうのは!」

 ギャラリーがざわつく中、幽谷だけはいち早く気を取り直し、狼煙にレアメダルを構えて向き直った。

「ああ、妖怪バトルを注文するぜ。そしてもう一品だ。『テメエの敗北』も一つ添えてくれ!! 出て来い、『黒デュラハン』!!」

 相手なりの勝負の申し出と受け取った幽谷が黒色のレアメダルを投げ放つと、禍々しい煙と共に、黒く染まった鎧をまとった首なし騎士、『黒デュラハン』が現れた。

(成程。アレが骸魂の元ですか……確かにとてもよろしくない気配を感じますね。しかし、妙ですね)

「失礼。確かあなたは幽霊系あやかしの使い手と噂で聞きました。ですが、元の伝承におけるデュラハンは厳密には死霊の類ではなく、死を告げる妖精。あなたの愛用する類のものではないのでは?」

 RPGではアンデッドとしても扱われるデュラハンだが、元はアイルランドの妖精。死霊術を嗜んでいる狼煙はすぐにそれに気付き、その疑問を問いかけてみた。それに対し、幽谷は乾いた笑いで答えた。

「ヒ、ヒヒヒ。勝利の為なら、愛用の拘りなんて捨ててやる……! 力こそ全てだ!! 勝負は勝たなきゃ意味なんて無いんだよぉ!!」

 その答えで察する。彼は負け続け、勝利に餓えた末、自らの拘りを捨てたのだ。幽霊系あやかし使い、という在り方を忘れ、勝利のみを追い求めた。

「成程……かしこまりました。では、お待たせいたしました」

 眼鏡を整えた狼煙は幽谷を見据えて判断した。どうやら、きつい仕置が必要のようだ、と。
 どんなあやかしメダルを繰り出して来るのかとギャラリーは期待し、幽谷はどんなものであろうと返り討ちにしてやると嘲りながらその手を待った。

「こちら、ご注文の妖怪バトルでございます。
 その味は美味なる勝利か、それとも酸いか苦いか敗北の味か! 爆炎蹂躙、『火車』、召喚!!」

 『火車』、と聞きギャラリーの何人かが連勝していたメダリスト、サラマンダー火口の愛用あやかしである猫妖怪を思い浮かべた。それに対し、幽谷の判断は極めて迅速だった。

「ヒヒヒヒ!今、確かに『火車』って言ったなぁ!! 黒デュラハンのレア特殊効果発揮!! 『属性可変剣:水』!!」

 幽谷が効果発動を宣言すると、デュラハンの構えた剣に大量の水が纏わりついた。火には水。それは期しくも、この頃に行われていた火口の戦いでの対策と同じであった。
 だが妙な話である。デュラハンは確かにタライに溜めた血を相手にぶちまける伝承があるが、水を剣に纏うなどという伝承は存在しない筈である。

「これこそレアメダルの特別な力だ! 俺が宣伝した属性にならいくらでもその属性を纏うことができる!! クヒヒヒヒ!! 相性が物を言うメダルバトルで、コイツに勝てる奴はいないんだよぉ!! ハハハハハハハハハ!!!」

 火には水、木には火、と相性の有利不利が万象存在する。火口のようにそれを覆す作戦もあるが、幽谷は属性を可変する事で、あらゆる敵に有利を取れるようになったのだ。これこそがレアメダルが一般のあやかしメダルに強い理由。主催者が骸魂の力で作り上げた、インチキメダルならではの効果である。これには狼煙の『火車』もひとたまりもない、とギャラリー達は思った。
 だが、すぐに妙な事に気付く。

「あれ? さっきアイツ、召喚って言ったよな?」
「ああ……どこにもいないぞ、火車なんて」
「それどころか、あやかしメダルすら見当たらないんだが」

 そう、水流を纏った剣を構えた黒デュラハンの前に、何もいないのだ。
 これには流石の幽谷も動揺した。

「お、おい!どういうつもりだ!俺をからかってるのか!それとも負けたくなくて出し渋ってるのか!? 早くお前の火車を出せよぉ!!」
「はて? これは妙な事をおっしゃる。ご注文通り、私の火車はしっかりお出しした筈ですが?」
「何ふざけたこと、を……?」

 まるで意に介さない狼煙の様子に更に捲し立てようとした幽谷、そしてギャラリー達は気付いた。なんだか上の方から強い風が吹いてきて、そしてすごい爆音がする、と。
 そして皆が上を見上げてみた。そこにいたのは……彼らの知る、『火車』ではなかった。

『な、な、なんじゃこりゃあああああああああああ!!!!』

 それは圧倒的な、鉄の威容。両翼を広げ、滞空するくろがねの鳥。噴射音を轟かせ、君臨するその姿。それはどう見てもどう贔屓目に見てもド近眼が眼鏡無しで見ても、猫妖怪『火車』には見えず。

「これ、爆撃機だろ!!」
「違います、『ステルス爆撃機』です」
「そういう所突っ込んでるんじゃあねえよ!? お前、さっき『火車』って言っただろ!! どこが妖怪だ!!」

 どう見ても爆撃飛行機である。正確に言えば、これは狼煙が【逃封殺葬】で召喚した、搭乗物の一種である。
 あやかしメダル? 逆に聞こう。いつから、あやかしメダルを使ってバトルしなければいけないと錯覚していた?

「やれやれ……いいですか、まず、これ誰も乗ってませんが動きます」
 無人のコクピットを見せながらぶんぶんと旋回する爆撃機。
「妖怪でしょう?」
「……確かに、普通の機械じゃないかも」「うん、妖怪かも」
「おい!?」

「更に言えば、こちらはかの伝説の都市『ヒロシマナガサキ』全域を一夜にして炎に包みこみました。そんな事が出来る存在は……皆さん、なんですか?」
「……炎の大妖怪……!!」「これは納得するしかねえ……!」
「いやおい待てお前ら!!!」

 狼煙の熱弁(?)ですっかり爆撃機を妖怪認定してしまったノリ第一のメダリストギャラリー達。しかしそれだけが理由でもなく。

「だって、普通のじゃないって意味じゃ、黒デュラハンだって同じだし……」
「うっ……!」

 そう、インチキ妖怪という意味では、一般的に存在しないレア効果を持つ黒デュラハンも同じ。そしてそれを先に出したのは幽谷なのだ。いくら狼煙の『火車』が妖怪的常識埒外の存在だとしても、調子に乗り同じく埒外の力で圧倒しようとした幽谷には文句は全く言えないのである。

「では、バトルと参りましょう。火車、ステルス!」

 空舞う火車が一瞬にしてその姿を消す。ステルス兵装。本来はレーダーを掻い潜る為のものだが。

「大妖怪ともなれば、この程度の迷彩ができて当然です」
「「「成程!!」」」

 狼煙の言葉にもうすっかり納得してしまうギャラリー。幽谷が歯噛みし、周囲を見るが、その姿は発見できない。

「では攻撃と行きましょう。火車、ナパーム弾投下!!」
「「「え?」」」


 その日、メダルバトルシティの一角はナパームの炎に包まれた。


「ぎゃああああああ!!!」
「お母ちゃあああああああああああん!!!!」
「助けてくれええええええ幽星ええええええ!」
「俺の名前間違えたの誰だ!?」

 姿を消したまま、空からナパーム弾を次々落とし絨毯爆撃していく『火車』。当然ながら、近距離で見ていたメダリストギャラリーも巻き込まれ、爆撃音と共に吹き飛ばれていく。あ、ご安心を。妖怪は丈夫だから死なない死なない。ほら、ガッツのあるメダリストは地面にしがみついて観戦してるし。

 幽谷はなんとか黒デュラハンの陰に隠れて凌いでいる。一方、狼煙は爆撃が上手く避けている所で悠然と佇んでいる。

「くそ、デュラハン!! 水流で周囲の炎を消火しろ!!」

 とはいえ、水が火に強い原則は変わらない。まずは鎮火し熱と煙を対処し、その後探してやる、と幽谷はデュラハンに指示を出した。デュラハンが剣で薙ぎ払うと、大量の水が周囲の炎へとかかる。普通ならばこれで消火される筈。しかし……!

「な、何故だ!? 何故消えない!!」

 水がかかっても炎はすぐ燃え上がってしまい、一向に消す事が出来ないのだ。

「当然です。これはナパーム弾による炎。ナパーム弾の充填物は、人体や木材などに付着すると、その親油性の為に簡単には落ちず、水をかけても消火できません。消すには界面活性剤を含む水か、油火災用の消火器が必要ですが……付け焼刃の水属性では、そんな巧みな調整は不可能、ですよね?」
「クッ……!!」

 幽谷が歯噛みする中、無駄に撒いたのに加え、周囲の熱上昇により剣の水がどんどん蒸発していっている。このままではいずれ、水流も消え失せてしまうだろう。



「クッ、クッ……クヒヒヒヒヒ!! まさかこれで、勝ったつもりか!!」

 だが絶望的と思われた中、幽谷が発したのは笑いだった。だがこれまでの慢心した笑いとはどこか違う、と狼煙は察した。あれは、勝利を必死に模索した後の笑いだ、と。

「ほう、逆転の手があると?」
「当然だ! 言っただろう、コイツの属性は『可変』だと。そして、俺がいつ……この効果は1回しか使えないって言った!! 黒デュラハンのレア特殊効果発揮!! 『属性可変剣:炎』!!」

 黒デュラハンが再び剣を掲げる。その周りを今度は炎が渦巻くように纏わりついた。そして、周囲の炎すらも剣へと吸い込まれていく。

「成程、炎属性の剣で、周囲の炎を消すのではなく吸収してしまおうという事ですね」
「その通りだ! 消せないのなら、存在を吸収する事で消し去り、更にデュラハンをパワーアップさせる! さあ幾らでもナパームとやらを撃ってみろよ! 俺のデュラハンが強化されていくだけだ!! ハハハハハハハ!!!」

 次々と炎がデュラハンの剣に吸収されていき、離れていたギャラリーも段々ともどってきた。酸欠? ああ、妖怪だからきっと大丈夫。

「そうですか。その手で私の火車から逃れられた、とおっしゃる訳だ」

 眼鏡に手をやり、目を閉じる狼煙。ついに負けを認めたか、と幽谷は勝利を確信した。



「逃すわけねぇだろうがよ」



「!?」

 静かに開いた狼煙の冷たい視線、小声で幽谷にしか聞こえなかったその凄みの聞いた言葉に幽谷の背筋(?)が凍りついた、次の瞬間だった。
 遠くから、猛スピードでデュラハン目がけて突っ込んでくる、『火車』の姿がまるで霧が晴れるかのよう、ステルスを解除しながら見えてきていた。

「な、にぃ!?」
「ええ。炎が通じないようなので、カミカゼ……いえ、正真正銘のダイレクトアタックをさせていただきます」

 一瞬で元の喫茶店員のような笑顔に戻った狼煙がその狙いを語る。ナパーム弾を吸収してしまうならば、火車自身で突撃してしまえばいい。デュラハンが炎を吸収している間に、必要速力は既に稼いでいた。デュラハンがいくら熱量を帯びていたとしても、圧倒的速度の前では粉砕されるしかない。

「ッ!ま、まだだ、デュラハン、避け……」
「ええ、もうそれしか無いでしょう。だから、時間がかかったんです。あの位置に火車を向かわせるまで、ね」

 デュラハンに回避させようとした幽谷に、狼煙は無情にそう告げた。
 そして幽谷は気付いた。突っ込んでくる火車、デュラハン、そして……他ならぬ、幽谷自身のいる位置。全てが一直線上に存在する、と。
 それが意味する物。それは、『デュラハンが回避したならば、火車の突撃は幽谷に直撃する』。幽谷もまた妖怪故にそうそう死にはしない筈だが、受けたい一撃ではない筈だ。

「言ったでしょう? 『正真正銘』の、ダイレクトアタック、だと」

 あまりに無情。あまりに冷酷。
 幽谷自身か、デュラハンか。どちらかには確実に火車を当てる。メダルバトルではメダリストが続行不可能になれば、その時点でも敗北となる。つまり、どちらにしても狼煙の勝利は確定した事になる。

「ひ、卑怯者……!」

 ギャラリーの中からついそんな声が上がる。だがそれにも狼煙は泰然とし。

「ええ、卑怯ですとも。何せ、相手は歴戦の有名メダリスト。それに対し、私は初心者、雑魚ですから。しかも相手もまた勝利の為なら何を捨ててもいいと仰る。ならば、こちらも形振り構ってなどいられない……そうでしょう? 幽谷様」

 はっ、と幽谷は狼煙を見た。そう、勝利の為なら非情な決断をする。それは幽霊系あやかしメダル使いとしてのプライドを捨て、レアメダルに走った自分の事だった。狼煙の方が上手だった、というだけだ。

 自分もまた、相手にこんな選択を強いていた。属性可変効果の前に、敗北しか在り得ない選択を。それは、なんて……なんて、酷い事だろうか。自分の楽しんできたメダルバトルは、こんなものだったのだろうか、と。

「……違う……!!」
「……ほう」

 幽谷は狼煙の目を見据えた。違う。違う!
 敗北が色濃い状況になっても、勝利を見据える。逆転の手を模索する。そう、さっき炎を吸収する事を思いついた時のように。それこそが、自分の楽しんできたメダルバトルだった。ならば、今自分がするべき事は!!

「デュラハン!! 回避せず、俺のタイミングで火車を迎撃しろ!! タイミングが合えば、紙一重で撃墜できる!!」

 同じように狼煙を狙わせても間に合わない。ならば、突撃して来る火車を炎剣でカウンター迎撃。ジャストカウンターできれば、ダメージは負うだろうが圧倒的熱量の剣で火車を撃墜できる可能性がある。幽谷は自分の身を護る為ではなく、勝利の可能性を見出し賭けに出る事にしたのだ。
 命令に従い、黒デュラハンが剣を構えて高速で突っ込んでくる火車の迎撃態勢に入った。一瞬の見極めで、火車を落とす為に。

 その様子を見、狼煙は微笑んだ。

「受けて立ちましょう」



 そして刹那、火車の先端とデュラハンの身体が接触する、瞬きの如き時間。


「今だ!!!」


 蓄えられた熱量、そして、火車とデュラハン、両方を構成しているそれぞれの鋼。それが、大爆発と共に周囲に爆散した。




「……ご注文通り、デザートの『私の敗北』です。お召し上がり頂けたでしょうか?」
「……馬鹿言うな。少し、タイミングが遅かった。どう見ても『俺の敗北』だ。作り直してくれ」
「ハハハ。申し訳ありません」

 大爆発により、ギャラリー達も周囲に倒れている中、平然と佇む狼煙の足元に、頭蓋骨が転がっていた。そしてそれがカタカタ音を立てながら話している。

「スケルトン、でしたね。その状態でも話せるんですね?」
「フン。そっちの方がよほど不思議だよ。一体何者なんだ、アンタは……」

 すっかり憑き物が落ちた雰囲気の頭蓋骨……いや、爆発の衝撃でバラバラになってしまった、ゴースト幽谷(種族:スケルトン)だった。
 彼を惑わせていた要因である黒いレアメダルは、火車との激突により砕け散り消滅していた。それにより彼への骸魂による影響も消えたようだ。

「雑魚のただの喫茶店店長です。ですから、実力派メダリストである貴方に是非、メダルの使い方や選び方を教えて貰いたい」
「…………よく言う。だが、アンタには目を覚まさせて貰った。負けたってのに、少し前とは違ってとっても気持ちいいからな……レアメダル売りにでも聞いてみろよ。アイツらなら、あのメダルの事も知ってるだろう」
「おっと」

 狼煙が意外そうな顔をしたのに対し、幽谷が気持ち良さそうに笑った、ように見えた。

「アンタ、あのレアメダル売りが狙いなんだろ? 俺もあれを買ってからおかしくなった気がするからな。それくらい察するさ。俺が買った場所、教えてやるよ。注文したバトルの代金だ」
「……恐れ入ります」
「いいさ。でも、アンタの仕事が終わったら、本当に教えてほしいってんなら、来てくれ。しっかり教えてやる。そして、真っ当なメダルを使えるようになったアンタを今度こそ倒してやる」
「……」

 明確には答えず、狼煙は幽谷の教えた場所をメモした。これからの戦いを考えれば、必ず戻る、とは安易に答える訳にいかない。

「もう1つ、教えてやる。アンタの目当てと関係あるかは分からないんだけどな」
「いえ、些細な事でも是非お願いします」
「……主催者から開始が宣言される少し前なんだけどな。俺、町中で妙な奴らを2人見かけたんだよ」
「妙な?」
「ああ。二人とも顔は見えなかったんだが、1人は長い髪。もう1人は黒いフードとマントで身体を覆ってた。二人で裏路地の方に入っていってな。気になって、ずーっと見てたんだが……少ししてから出てきたのは、フードの奴だけだったんだ」
「1人だった、ということですね?」
「ああ。その後見てても誰も出てこないから見に行ったが、長髪の奴は袋小路までいっても見つからなかったんだ。……俺達妖怪ならよくある話だが、なんか気になってな」
「いえ、ありがとうございます。それでは、申し訳ないですが私はこの辺りで」
「ああ。俺も少しすりゃあ元に戻れるから、そっちの仕事に専念してくれ」

 転がったままの幽谷を背にし、狼煙は教えられた場所へと歩みを進める。彼はもう大丈夫だろう。欲望を刺激する主催者の魔の手は、また1つここで阻止されたのであった。


「ありがとうな────グラスマスター」
「いやなんですかその呼び名は!!!」


 幽谷もまたメダリスト。ノリで変なメダリストネームを付ける輩の1人なのには違いないのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ミルケン・ピーチ
SPD
アドリブ、連携歓迎
幼女ボディのぺしぇで出撃

恐竜さんに乗って対戦相手を探すよ
カクリヨファンタズムだと恐竜さん出しっぱなしでも皆あんまり驚かないね!

対戦相手はパワー自慢のおじちゃん?
出してくるのは大坊主、おっきくて力持ちな妖怪だね!
それじゃー、こっちはこれだ!
恐竜のUMA『モケーレ・ムベンベ』!
パワーにはもっと強いパワーで対抗!
大坊主より大きくて強いぞ! 踏んづけちゃえー!

勝ったら得意の戦法で負けちゃったんだから、今回は諦めて帰って作戦立て直そうって説得
抵抗したら恐竜さんに乗っけて強制送還!
その時元々恐竜のUMAメダルって種類少ないから、強くてレアなの欲しいなーって聞いてみるね



●メダルバトルシティ第三試合:マッスル筋道VSダイナソーピンク

 カクリヨファンタズムにおけるゲームの1つ、メダルバトルにもいくつか種類がある。そのうちの1つに、ライディングメダルバトル、というものがある。これは騎乗物に乗りながらメダルバトルをするという、疾走感溢れるメダルバトルである。大抵この世界の乗物といえば馬、妖怪である朧車等になる訳だが……。

「なんだありゃ!! 新手のライディングメダリストか!?」
「でもあんなの見た事無いわ!」
「むぅ、アレは伝説のホラードラゴン」
「知ってるのか竜神の人!!」
「我々の祖先の1人から派生した者達で、かつては我々のいた地球を支配していたと言われている。まさかこの目で見ることができるとは」


「ホラードラゴン……恐竜って事かな?あの人たちが言ってるのは多分UDCアースの事なんだろうけど、この子はヒーローズアースの出身なのになー。でも、UDCアースよりはあんまり驚かれないね!」

 ピンク色の恐竜に飛び乗った、大分きわどい露出のピンク色の衣装に身を包んだ幼女。しかしてその実態は、これまたゴーグル型ヒーローマスクのミルケン・ピーチ(魔法少女ミルケンピーチ・f15261)である。
 彼女は早速あやかしメダルを入手した後、【ライディングピーチ】で自身の身長2倍の恐竜を召喚し騎乗。それで手っ取り早く対戦相手を探し始めた訳だ。
 だが皆物珍しそうに恐竜とミルケンを見つめるばかりで、中々勝負を挑みに来ない。どうしようー、と可愛らしい声でつぶやいたその時であった。

「グワッハッハッハ! お嬢ちゃんよ、いい竜に乗っているではないか!!」
「え、だーれー?」

 後ろからする声に振り向くと、そこには青白い肌の筋肉質巨漢な坊主頭の壮年男、僧服に身を包んだその男が、猛スピードで自力で走りながら良い笑顔で走ってくる光景だった。こわい。

「おじちゃん、むらさきおじちゃんの妖怪?」
「グワッハッハッハ! ワシはそういう新しい妖怪じゃあないぞい! ワシは海坊主のマッスル筋道じゃ! よいライディングメダリストがおると聞いての、ちと走って参ったわ!」
「わー、パワフルだー!」

 着用している者に合わせた幼い口調のミルケン。そしてその横に追いついてきた、全力疾走おやじマッスル筋道。心なしか、恐竜がこのカオス空間についていけなさそうな顔をしているのは恐らく気のせいではない。

「おじちゃんも、ずっと戦ってるの?」
「応とも! 勝ったり負けたりじゃがなぁ! じゃがまだじゃ。まだ、まだ、まだ!戦って戦って戦いたくてたまらんのじゃあ! ワシの筋肉が、闘いたがって仕方ないのじゃああああああ!!!」

 走りながら絶叫する筋肉坊主。だがその様子はやはり異常を来しており(もうこの光景で十分来していると言わないで)、彼もまた欲望の発露寸前の状態なのは間違いないだろう。このままでは駄目だ、とミルケンはあやかしメダルを構えた。

「じゃあ、めだるばとるしよー!」
「応!!望むところじゃ!幼子と言えど、容赦はせんぞ!! 行けい、『大坊主』!!」

 筋道が力の限りにあやかしメダルをぶん投げると、それがめり込んだ地面から見上げるような巨体の妖怪、大坊主の姿が現れる。そして走る二人に合わせ、空に浮かんだ大坊主もまた付いてきた。そのド迫力の光景に大通りを走る2人を道端から見るギャラリーも集まってきている。

「じゃあこっちもいっくよー! しょうたいふめい! いっさいふめい! ゆーえむえーで、UMAのお通りだー! おいで! 『モケーレ・ムベンベ』!!」

 投げたメダルを乗っていた恐竜が尻尾で思い切り弾き飛ばし、それが地面に当たると空に巨体が浮かび上がった。大坊主よりも更に大きい巨体、四足歩行に三本の爪痕の足。太い丸太の様な尻尾を振り、伝承にて首長竜と言われている、熱帯地方に住んでいるとされるUMAの一種。その名はモケーレ・ムベンベという巨体恐竜。カクリヨに来たから未確認生物とされていたのか、それは定かではない。
 ちなみにムベンベもまた空をまるで地面があるかのように歩いて移動している。地面踏んだらメダルバトルシティ壊滅するからね!

「ほほう、こりゃまた大物じゃのう!」
「大坊主さんって、力持ちさんの妖怪だよね!だから大坊主さんよりおっきくて、パワーが強い子を選んだの! 一気に踏み潰しちゃえー!!」

 人々から見れば巨体の大坊主だが、モケーレ・ムベンベはそれ以上の巨体。その圧倒的なパワーならば、大坊主を踏み潰す事は簡単にできるだろう。

「グワッハッハッハ! 確かにそうじゃのう。力や大きさでは勝てそうにないわい。じゃが……大きさと力だけで勝てる程、メダルバトルは甘くないぞい!! 大坊主! 思い切り街を殴り飛ばせい!!」

 『え、今なんて言いやがったあの筋肉坊主』、とギャラリー達が考える暇もなく、大坊主が足元の地面を思いきり拳を叩きつける。吹き飛ぶ地面、吹っ飛ぶ家々、吹っ飛ぶ妖怪メダリストギャラリー達。そして、大坊主もまた反動で大きく吹っ飛ぶ。思い切り叩いたが故にそのスピードは速く、あっという間にムベンベの振り下ろした足の範囲から逃れてしまった。

「えーー!そんなーーー! うわー!」

 空振りした足が再び町に襲い掛かり、震動で恐竜が足を取られ大きくバランスを崩す。広がる衝撃波、吹き飛ぶ瓦礫。もしかしたらこのままやってたら、レアメダル売りも主催者も倒せるかもしれない。ミルケンそこまで考えて……とは、流石に上手くは行かない。

「パワーにはパワー。考えは悪くなかったがのう。ただ振り下ろすだけではただの力じゃ。どう振り下ろすか。当てられるように何かしてから振り下ろす、その辺りを考えておくべきじゃったなあお嬢ちゃん!」

 ムベンベは自身より小さな大坊主を見失ってしまい、空中できょろきょろとしている。大坊主はムベンベの体自身を遮蔽物にする事で、下を潜り抜けていたのだ。大きい体だからといって必ず勝てるとは限らない。

「あ、大変!! きゃっ!」
「おっと、援護はさせんぞい!」

 大坊主がまずい位置に行ったのを察したミルケンが援護に向かおうとするが、すかさず筋道が立ちはだかり妨害をしてくる。ここまでずっと併走してきたのはライディングバトルの為だけではない。窮地への援護を必ず妨害する為。サッカーでいうところのマークをずっとする為だったのだ。ただの筋肉坊主じゃなかった。

「大坊主!! 腹にぶちかませぇ!!」

 大坊主が回り込んだのはムベンベの腹の下。空中にいる都合上、そこはムベンベが攻撃できない場所。そこに大坊主の全力のアッパーカットが叩きこまれ、悶絶するムベンベ。

「モケーレ・ムベンベ!! やめてーー!!」

 筋道の妨害を無理やり突破し、助けようとするミルケン。だが、乗っていた恐竜の尻尾を筋道が掴む。そして同時に、ムベンベの尻尾もまた大坊主に捕まれてしまう。

「では共に行こうかのう!! 思いっきりぶん投げるぞおおおおおおお!!」
「うーわああああああああああ!! 目がまわるううううううううう!!」

 攻撃で怯み、尻尾を振り回すこともできないムベンベの尻尾を掴み大坊主が全身の筋肉の力で大地を踏みしめ、思い切りぶん投げる。ムベンベが街の外までフッ飛ばされてしまうのと同じくして、筋道により恐竜ごとぐるぐる回転させられたミルケンもまた、大きく吹き飛ばされてしまった。


「グワッハッハッハ!! まだまだ、まだまだ戦いたいぞおおおおおお!!」

 勝利に酔いしれ、更に欲望を昂らせる筋道。このままではどこかでレアメダルと近づいただけでもオブリビオン化してしまう、とミルケンは倒れている恐竜とアイコンタクトを取ると、最後の手段に出た。

「ねえおじちゃん……最後にいい?」
「ん?なんじゃ?勝者として1つくらいは聞いてやろう」
「おじちゃんのおうち、どっち?」
「む?遊びに来たいのか?アッチじゃが」

 そう筋道が正直に街の外を指差した瞬間。

「今だよ、お願い!!」

 ミルケンが今まで乗っていた方の恐竜が筋道の足の間に滑り込み、そして一気に体を持ち上げた。

「どわああああああああああ!!」

 不意を突かれた筋道は体勢を崩して倒れ、恐竜の背中にあお向けで乗っかった形になる。

「まっすぐそのまま、強制送還ーーーー!!」
「のわああああああああああああああああ!!!」

 筋道を乗せたまま、恐竜がさっき指差した方向へと走り出す。あっという間に姿は見えなくなる。特にこの町には壁とか封鎖とかは無く、メダリストの精神に作用して出る気にさせていないだけなので、程なく筋道を乗せた恐竜は町を脱出し、いつか筋道の家までたどり着くだろう。
 これがミルケンの最終手段。抵抗されたりしたら、主催者の支配域であるこの町から脱出させる事で永遠のメダルバトルから解放する。確かにこれもまた解決手段であるし実際成功はしている。のだが。

「ふう…………でも、レアメダル売りさんのおはなし、きけなかった……」

 あくまで今回の目的はレアメダル売りや他の情報を聞き出す事。強制的に恐竜に乗せて送還される相手がそんな事を聞く余裕は果たしてあるだろうか。質問が間に合っていたとしても、ほとんど答えられもしなかっただろう。


『力や大きさが勝っているだけではだめじゃ。その力と大きさをどう使うか。それこそが肝要なのじゃ……』


 壊滅した町の一角にて、空を見上げたミルケンの目に写った、マッスル筋道の幻影がそう言っていた……ような気がした。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

サエ・キルフィバオム
☆アドリブ絡み歓迎

「まぁ、こういうので遊ぶのも偶にはいいかな?」
コイントスをしつつ、参加者として町に向かいます

「あのぅ、初心者なんですけど、対戦いいですかぁ……?」
胸元に挟んだコインを見せ、【誘惑】【情報収集】【演技】【コミュ力】【言いくるめ】で、いかにも勢いのあるメダリストに接触し【因果速報】で、勝てる相手と思わせて勝負します

「きゃぁ、負けちゃうよぅ!もっと強いメダルがあればなぁ……」
弱弱しい『幼狐』のメダルであえて負けて、レアメダル売りの情報を聞き出そうとします
また、明らかに暴走しそうな人がいる場合は【因果速報】で生命力吸収をして、適度にクールダウンさせます


マスクド・サンドリヨン
☆私が手に入れたメダルは……『河童娘』? 可愛いわね。
「勝ち続ければ、噂を聞きつけてレアメダル使いがやってくる筈です。相性の良い川沿いのフィールドに行ってみましょう」

ピジョンのサポートも受けながら、メダリスト達に連勝を続けていくわ。
地形効果を利用して接近し、相撲で一気に倒す!

評判を聞きつけた女性のレアメダリストに勝負を挑まれるけど、相手のメダルは……『黒河童娘』!?
上位互換のレアメダルを前に圧倒されて完敗、しかも暴走した黒河童娘に私までダイレクトアタックを受けちゃうの。
相撲でボコボコにされ、尻子玉まで抜かれて……!?

ボロボロの私の姿で、皆にメダルの危険性は理解して貰えそうだけど……(UC効果)



●メダルバトルシティ第四試合:リバーサイド河上VSマスクバレリーナサンドリヨン&フォックステイルキルフィ

 メダルバトルにおいては、相手のあやかしメダルとの相性の良さが重要な要素ではある。だがしかし、ここは屋外であるメダルバトルシティ。故に、場所によってはフィールドによっては勝敗が全く変わってくる事がある。温度が高い場所ならば炎が、草木の多い場所なら植物が、それぞれ活性化する。故に、数時間が過ぎた今では自身の得意なフィールドに陣取っているメダリストも少なくない。

「水面の中を舞い踊り、皿に輝きを纏わせて! オンステージ、『河童娘』!!」

 この河川に囲まれた河川敷エリア。ここにも又、得意なフィールドである事を利用して連勝し続けている者がいた。ただし、それは歴戦のメダリストではなく、ほんの少し前にここに颯爽と現れた、純白なる期待の新星であった。


「うん……うん、わかった……焦らなくていいわ、そのまま翻弄して!」

 時々誰かと会話するように独り言を呟きながら、戦況を見据えるバレリーナを思わせる衣装に身を包み、白い仮面で顔を隠した少女がいた。
 場所は河川に囲まれた砂利の広がる河川敷。少女のいくらか前方には敵メダリストとその召喚した妖怪。双方とも回りの河を見回してはきょろきょろと警戒している。

「そこだ、狙え!!」

 河の中に一瞬、緑色の肌と甲羅がのぞいた。それを見てメダリストは焦り、妖怪へと指示を下す。妖怪が遠距離攻撃で河を狙うが、それは水飛沫を上げるだけで手ごたえがない。そしてそれこそが少女が待っていたチャンスだった。

「今よ!!」

 少女の合図と共に、妖怪の側面に当たる水面から勢いよく飛び出してきた緑肌の妖怪少女『河童娘』が妖怪のすぐ傍に着地、腰溜めの姿勢で腕を引き下げた。

「し、しま──」
「つっぱり!!」

 メダリストが指示を出す前に、河童娘のツッパリが妖怪に炸裂。吹き飛ばされた妖怪が河川に沈むと、やがてあやかしメダルだけが浮いてきた。戦闘不能、という事である。

「うおおおお!すげえ、なんて速さだ!!」
「これで4連勝だ!! あんな子知ってたか?」
「そういや噂で、仮面や眼鏡やゴーグルを付けた謎の無名メダリストが現れてるって聞いたぜ」
「マジかよ。俺もなんか着けようかな……」

(無名メダリスト……他の猟兵の人達、よね?)

 メダルに戻った河童娘を手元に戻した仮面の少女、マスクド・サンドリヨン(仮面武闘会のシンデレラ・f19368)はギャラリー達の声を聴き、他のエリアでも猟兵らが活動しているのだろうと推測した。

 到着早々、『河童娘』のあやかしメダルを入手した彼女は転移前にフィールドの相性について聞かされたのを思い出し、河童ならば川が得意なのではという予想を立て、この河川敷エリアまでやって来た。
 案の定、河童娘と河の相性は抜群。河に飛び込みその中を高速で泳がせて敵を翻弄。敵が焦り隙を見せたところで一気に接近、河童の特技である相撲技でフィニッシュに持っていくというスタイルを確立させつつあった。
 無論、フィールドのみの力では経験が上のメダリスト達に連勝はできない。そう、白い仮面、でもうお察しかもしれないが、サンドリヨンも又、ヒーローマスク。正確にはヒーローマスクである『ピジョン』と着用者である『灰崎・姫華』が合体した存在。故に、戦術や着眼点は2人分。1人が判断し1人が分析、時にはそれを入れ替えて、というスタイルで的確に判断できている所もポイントであった。


「そう、心当たりはない、か。ありがとう。良い試合だったわ」

 先までの対戦相手と握手をした後、レアメダル売りについて聞いてみたが、ここまでと同じく残念ながら空振りに終わった。とはいえ、ここまではまだサンドリヨン想定の範囲内ではあった。何故なら、サンドリヨンは最初から狙いを既にレアメダルを購入した人物、レアメダル所持者に付けていたからだ。
 では強大な力を手にした者をどう探すか。いや、むしろ探さずにあっちから来るようにすればいい。ではそういった手合いがうち倒そうとする相手はどんな存在か。

 突然サンドリヨンを囲んでいたギャラリーがどよめいた。程なく、その人混みが分けられ、その間を歩いてくる妖怪少女がいた。

「お前やな? この辺で連勝しまくっとる、今ノリにノっとる奴は」

 標的が現れた。少女のギラついた澱んだ眼差しに、サンドリヨンはそれを確信した。



 そこまでは良かった。だが、想定外だったのは2点。1つは、レアメダルが強力であろうという予測はあったのだが、それがあまりに想定外に上だった事。
 そしてもう1つ。それは、ここまでで築いた河川をフィールドにした戦術。そこにおいて、相手の方が一枚上手だったという事だ。


「そんな…!」

 サンドリヨンの河童娘が河川から打ち上げられ、河川敷に思い切り叩きつけられた。それを行ったのは目の前の妖怪。それはまるで、その河童娘を黒く染め上げたかのような体をした妖怪、『黒河童娘』という存在だった。

「アッハッハッハ! 何が今連勝中のマスクバレリーナや! ちょっとフィールドに助けられていただけのただの小娘やないか!」

 そう嘲り笑う対戦相手……彼女は『リバーサイド河上』。河川に棲むあやかしのメダルを操る歴戦メダリスト。どうやら彼女も負けが込み、レアメダルに手を出したらしい。ただし幽谷とは違い、彼女は自身にぴったりのレアメダルを手にしていたようだ。

「まさか、メダリスト自身も『河童娘』だなんて……!」
「そういう事や。河童娘を使ってる時点で、お前はウチに手を読まれてるっちゅーことや」

 そう言って河上は取り出したキュウリをばくりと齧りとった。そう、他ならぬ河上自身がサンドリヨンの操る河童娘と同種族だったのだ。だからこそ、泳ぐスピードも狙うであろう場所、そして隙を見せなければしてしまう一瞬の呼吸の為の水面浮上。全てのタイミングが読まれてしまっていた。
 それに加え、黒河童娘自身が河童娘の能力をそのままグレードアップしたかのような上位兌換性能だったのも痛手だった。スピード、パワー、全てを上回られた結果、二人分の判断力も効果を為さず、成す術もなくやられてしまったのだった。

 ダメージが限界だった河童娘があやかしメダルに戻り、河川敷に転がった。サンドリヨンの敗北……連勝していた彼女がレアメダル使いに圧倒された事にギャラリーもざわつき始めていた。

「そんな、マスクバレリーナが何もできなかったなんて」
「すげえ。河上も凄いが、あのレアメダルがスゲエ!圧倒的じゃないか!」
「あんなに強いなら、俺も買わないと! どこにいるんだよレアメダル売り!」

(まずい! このままじゃ、レアメダルが更に広がって、誰がオブリビオン化してもおかしくなくなるわ!)

 圧倒的強さを見せつけるバトル。それだけでも喧伝効果は十分なのだ。何せあっという間にギャラリーが出来て野次メダリストが集まる町である。レアメダルで圧倒するだけで、新しい顧客が生まれてしまう。まさに主催者の思うツボなのだ。
 なんとかしなければ、と思ったサンドリヨンの前に、先の黒河童娘が歩いてきた。バトルは終わったのに、一体何を、と思った次の瞬間。

「まだや」
「ガハッ!!」

 黒河童娘がサンドリヨンの腰を掴むと、思いっきり地面に叩きつけたのだ。これにはギャラリーメダリスト達も驚愕した。メダルバトルでは基本メダリストを狙う事はない。ましてや、あやかしメダルが倒され試合が決着した後である。メダリストを狙う意味は無い筈だが。

「お前、負けたのにへこんどらんな? むしろ別の事に意識割いとるやろ。お見通しや。舐めとるんか?」
「な、舐めている訳じゃ……あぐっ!!」

 有無を言わさずに黒河童娘の張り手がサンドリヨンに命中。彼女の身体が砂利に打ち付けられた。

「勝ったのはウチやぞ? ウチを見ろや。ウチを悔し気に見ろや。ウチを恨めし気に見ろや。だのになんや、ムカつく……ムカつくムカつくムカつく!! 痛い目見せな満足できひんわ……!!」

 イライラしている様子を隠さずに、キュウリをバリンボリンと齧り毟る河上。その様子に、彼女がレアメダルの影響で欲望が発露しかけているとサンドリヨンは理解した。どうする。オブリビオンになりかねない河上、レアメダルを買いに走りかねない周りのメダリスト。両方とも阻止しなければならない。正義のプリンセスとして。

(これしかない、わね)

 サンドリヨンは覚悟を決めた。両方を阻止できるかもしれない方法。だが、それには相応の代償が必要になる。彼女は意を決し、河上に向き直った。反撃でもしてくるのか、と身構えた河上に、サンドリヨンは腕を下げたノーガードの姿勢を取り。

「どうぞ、好きにして。あなたの気が済むまで、いくらでも」

 無抵抗。彼女はその決断をした。その態度に対し、河上は──激昂した。

「やっぱナメとるなおんどれぇ!!!」

 黒河童娘が容赦なくサンドリヨンを掴み、投げる。起こして、張り倒す。起こして、横にぶん投げる。叩きつけられ、その度に傷が彼女の肌に増え、純白な衣装は破れ、汚れていく。それは宛ら、美しい白鳥が汚泥に落ち汚されていくような、そんな感覚を見ているメダリストは覚え始めていた。

「あ、あの、河上さん? もう、その辺で……」
「うるっさいわ!! だまっとれ野次馬が!! ……ええわ、なら好きにしたるわ。河童にそんな事言うたこと、後悔せいや!!」

 あまりのサンドリヨンへの暴行に止めようとする者を無視し、黒河童娘にサンドリヨンをうつぶせに寝かさせた河上。流石にサンドリヨンもここから何をするのかと思ったが、黒河童娘にサンドリヨンの身体を押さえつけさせ、下半身の当たりにかがんだ河上に嫌な予感がした。
 そして河上は、腕を軽く握ると──

「あっ、あがあああああああああああああっ!!!!」

 それを思いきり、サンドリヨンの尻あたりに突っ込んだ。途端、サンドリヨンの体内に物凄い異物感、そして体内をかき回されるような衝撃が襲い掛かって来た。

「ハハハ! すっごいやろ、これぞ河童の伝統秘技、『尻子玉抜き』や。安心せい。突っ込むのは尻やけど、衣装に恥ずかしい穴開けたり直接突っ込んでぶち込んだりはしてへん。妖怪の力で体内にワープ空間作って直接ウチの手を入れてると思っとき。尤も……ごっつう、やばいやろうけどな!!」
「あ、うぐ、うげええっ!!ア、ガアアアアアアアア!!!」

 臓器の全てに手を突っ込まれたような、かき乱されているような、そんなおぞましい感覚。それがサンドリヨンを襲っており、彼女の身体がじたばたと動こうとするがそれを黒河童娘に押さえつけられていた。
 顔も物凄い苦しみに彩られ、可愛らしい顔が台無しになるほどの状態になっていた。

「さあて、この辺か……あったあった」
「ひぐっ!?」

 やがて体内の何かを掴み取られたような感覚。それでサンドリヨンの身体がびくんと静止する。

「んじゃいよいよ尻子玉抜きや……ああそうそう。これを抜く時ってな。今までのが嘘みたいにごっつ……キモチええらしいで?」
「!?」

 言葉とは裏腹に嫌らしい笑みでそう告げる河上。その言葉だけでもわかる。そのキモチよさ、とは恐らく暴力的なまでに心を折らんとする一方的な『快楽』の事である、と。

「河童によっては抜いた奴を殺したり河童に変えたりできるそうやけど、ウチはできひんから安心しときや。死ぬ以上にボロボロにはしたるけどなぁ!!!」

 そう言って、河上が思い切りその腕をサンドリヨンの体内から思いっきり引き抜いた。途端、河上の全身をとてつもない快楽の暴力が襲ってきた。

「ア、イ、アアアアアアアアアアアアアアア!!!」



「見ろやこれ!! いきまいてた小娘がこの有様や!! 凄いやろ!! レアメダルも、ウチも、この強さも!! アハハハハハハハ!!!」

 河川敷に倒れ伏し、涙をつ、と流して光を失ったような目で虚空を見つめる、サンドリヨンの姿。尊厳を徹底的に踏みにじられた姿。河上はそれに満足しきっていた。……だが、周りはそうではなかったようだ。

「ひ、ひでえよ……あんまりだよ……」
「あんな事までできるようになっちまうなんて、レアメダル、恐ろしすぎる……!」
「もう買う気が全然失せちまった……」

「な、なんやこれ。さっきまであんなに買おうとしてたやないか!! どうなっとるんや!?」

 普通にこれだけやれば一般的に見ればドン引きして買う気も失せるだろうが、彼らにはすでにレアメダルの影響が及び始めていた。これを見たとしても欲望の発露の前触れで、購入意欲を阻害はされなかっただろう。
 阻害したのは他ならぬ、倒れているサンドリヨンである。彼女は痛めつけられる直前にユーベルコード【正義の試練(ピンチ・アンド・ハプニング)】を発動していたのだ。その効果は自身の尊厳を失う代わり、あらゆる行動を成功する、というもの。彼女がその時望んでいた行動は『自身の痛めつけられる姿を見せる事で、レアメダル購入意欲を無くさせる』であった。痛めつけられる事で自身の尊厳を失わせ、それに伴いギャラリー達の購買意欲を完全に無くさせようとしたのだ。耐える事はできたが、あえて無様で悲痛なように装う事で更にその効果を強めていたのだ。自身の犠牲を顧みず、人々を救う。まさに正義のプリンセスに恥じない覚悟と行動であった。

 誤算だったのは、河上の欲望の鎮静化もまた狙っていたのだが、痛めつける行動が彼女の嗜虐的欲望を増加。更に至近距離だった為レアメダルによる補正も伴ってしまい、河上に対しては尊厳を使いきっても成功に足りなかった、という点だけだった。

「もうええ……まだや、まだ、まだ、まだ思い知らせたる!! もっと、もっと、もっと、もっとおおおお!!!」

 黒河童娘から漂う黒い霧の気配が濃厚になっていく。もう限界か、とサンドリヨンは悟る。このままでは河上がオブリビオン化してしまう。見た目はもはや動けそうにないが、忘れてはならない、彼女は猟兵。この状態でもまだ、河上を無理やり気絶させるくらいになら持っていける筈。

(大分無茶するから、怪我させたり私が動けなくなるかもしれないけど、それでも!!)

 サンドリヨンが動き出そうとした、瞬間。



「あのぅ、初心者なんですけど、対戦いいですかぁ……?」



 全ての空気が、一瞬でぶち壊された。



 誰が思うだろう。このやばい場面で、まさか、ドン引き野次馬陣の中からピンクの髪に狐の耳をした少女、サエ・キルフィバオム(突撃!社会の裏事情特派員・f01091)が空気をまるで読まずに飛び出してくるだなどと。しかも、わざとか天然か、胸にわざわざコインを挟み、見せつけるかのようにずんずんと河上に近づいてきながら。
 あまりの衝撃に欲望発露直前だった河上も、立ち上がろうとしていたサンドリヨンも、ドン引きしていたギャラリー達までもがぽかん、と動きを止めていた。

「あれぇ? もしかしてぇ…………取り込み中でしたぁ?」
「当たり前やろこのドアホォ!!!」

 気を取り直した河上が怒鳴りつけると、びくん、と身体を振るわせてふぇぇ、という感じでおろおろし出すサエ。

「ご、ごめんなさぁい……でもでも、強いって聞いた河上さんのお話を聞いて、あたし、是非お相手して欲しくってぇ……」

 そう弱弱しく言ってくるサエの言葉に、河上がぴくん、と反応した。
 突然乱入してきた、このどう見ても弱弱しい、空気も読めない、完全なる初心者。それを見ていて河上に去来したもの。それは、今倒れているサンドリヨンへ行った仕打ちの数々。


 支配、蹂躙、征服。相手の全てを滅茶苦茶にし、尊厳を踏みにじる事による優越感と嗜虐心。


 それを味わい発露寸前だった河上は、思ってしまった。『目の前にいる、危険も察知できなかった弱弱しい獲物が如き相手を、同じように圧倒的な力で蹂躙してみたい』。一度サンドリヨンを痛めつけたからこその、抗えない誘惑であった。

「…………ま、ええやろ。続きは後にしといたる。そこの子狐の勝負を受けて立ってからや」

 そう言い、サンドリヨンを押さえつけていた黒河童娘に拘束を解かせる。恐らく、サエもまたレアメダルである黒河童娘で圧倒しようと言うのだろう。内心ではサエを侮り、嘲っているからこその選択であった。
 ギャラリー達が心配し、やめるようにサエに言っているが、意味が分かっていないのか、サエは意に介していないようだ。

「そういう訳やから、とっとと準備せ」
「うわー、すごーい! くろぉい。触れるぅ」
「何しとるんやお前ええええええ!!!」

 乱入狐さん、まさかの河上ガン無視で、実体化していた黒河童娘をベタベタ触っていた。

「あ、ごめんなさぁい。初心者だから、こうやってメダルから現れてるのが珍しくってぇ」
(チッ!んなもん、負けた後に嫌ってくらい痛めつけで触らせたるわ)

 内心では辟易しながらも、後に訪れる時を待ちわび我慢する河上。と、そこにサエがとてとてー、と駆け寄ってくる。

「今度はなんやぁ!?」
「えーと、試合前にはやっぱり握手しといた方がいいと思うんですよぉ。ほら、いい試合をしよう、みたいな?」
「…………」

 のほほん、と呑気に握手の手を差し出してくるサエ。河上としては無視してもいい。むしろ無視していい筈だった。

 だが、サエの挙動、視線、仕草、その全てが……『握手をして』と訴えかけてくるような感覚を覚えた。いや、むしろ誘惑されているといってもいい。そして、欲望のタガが外れかけていた河上に、それを律する、という選択は不可能であり。大体そもそも、握手したくらいで何かある訳でもない、と。

「ええやろ。精々ええ試合にしようやないか」
「わぁい、がんばりましょぉ」

 そして、2人は軽く握手を交わした。




(その慢心、付け入らせてもらうよ)




 この瞬間、全てが決した事を知るのは……心中でそう呟いた、たった一人だけだった。




「それじゃいっきまぁす。
 国を傾け男を魅了、揺れる尻尾はひとつかここのつか、気付いた時には化かされ終わり。こんこんこん、と悪戯に鳴け、『妖狐』!!」

 一瞬口調が変わったかのような召喚口上で、コイントスしたコインから現れたのはサエと同じく狐の耳や尻尾を携えた少女、『妖狐』だった。ただし……こっちもまたおろおろ、うろうろしており、はっきり言って弱そう。

 対して黒河童娘は川に入りもせず、さっきサエに触られた場所から動かず佇んでいる。入る必要もない、という余裕の表れだろうか、とギャラリー達が呟いていた。
 故に彼らは気付かなかった。サエがいつの間にか、ぺろぺろキャンディーを舐めながら倒れたままのサンドリヨンの近くまで移動している事に。

「あ、あなたは……」
「全く、無茶しちゃって。女の子なんだから体を大切にしなきゃ」

 サンドリヨンに背を向けながら、ぺろぺろキャンディー型の一極集中拡声器で背後のサンドリヨンにだけ小声を増幅し聞かせるサエ。その口調は先程までと一変しており、さっきまでの姿が演技だったというのをサンドリヨンは理解した。

「でもあなたのお蔭でレアメダルを買おうとここから移動する人は防げたみたい。だから、あの河童は私に任せて♪」

 自信満々のその様子に、まさかあのレアメダル妖怪を倒す作戦があの弱弱しい妖狐にあるのだろうか、とサンドリヨンがなんとか顔を持ち上げて戦場を見やると。



 そこには、黒河童娘の張り手であっけなく吹っ飛ぶ、よわよわ妖狐の姿しか無かった。


「え?」
「きゃぁ、負けちゃうよぅ!」


 また演技に戻り、ぶりっ子するサエに唖然とするサンドリヨン。

「あの、あれもブラフなのよね? あそこから逆転する作戦をこれから……」

 不安になったサンドリヨンが小声でサエに問いかける。だが、増幅器を通してサエから告げられた言葉は。

「これからの作戦? 無いわよそんなの」

 あっけらかんと言われたその言葉に、サンドリヨンは絶句した。



「だって、もう試合前に全て終わってるもの」



 刹那、それは起こった。
 指示も出さず、ずっと立ち尽くしていた河上が突然糸を失った人形のように倒れ伏し、それど当時に黒河童娘もまた、黒い霧が空に溶け込むと共に消え失せ、黒きレアメダルもまた、崩れる砂城のように粉々に砕け散っていった。


「あれぇ? これ、不戦勝、でいいのかなぁ?」


 演技をしたサエの呑気な声だけが、何が起こったのかわからない者達の耳に聞こえてきていた。



 サンドリヨンが密かにユーベルコードを使用していたように、サエもまたあの試合前の間にユーベルコードを使用していた。
 【因果速報(ネコヲカブルキツネ)】。無害、弱敵、か弱い獲物のような雰囲気を自身に漂わせ相手の印象を操作。その上で相手から自分に欲求や嘲笑、軽蔑のような油断した感情を受けると、その分自身の戦闘力増強と生命力を吸収する力を得る事が出来る。
 乱入した時、もう既にその効果を発揮していて、レアメダルやサンドリヨンへの痛めつけにより欲求のタガが外れかかっていた河上には絶大な効果を齎しており、サエに向けられた多大な感情。その結果、サエにはあの時、接触しただけで一気に生命力を吸収できる力が備わっていたのだ。
 ではあの時、サエがその状態で何をしていたか。まず、物珍しそうに装って、黒河童娘を触った。この時、多大な生命力を吸収された黒河童娘はもう既に体力をほぼほぼ限界にまでされていた。だが骸魂の元となり傀儡状態の彼女にはそれによるリアクションは取れず、戦闘に向けての待機状態だったのが災いし、ただ佇んでいるだけに見えてしまったのだ。
 そしてその後サエは、河上に握手を求めた。サエの演技力、そして仕草や視線に仕込んだ誘惑の罠。抗えず手を握って来た河上に、サエは生命力吸収を発動。欲望のままに昂ったその感情ごと生命力を奪われた河上は、されどギリギリに調整されたが為に、倒れずしかし意識は朦朧として指示はできず、という状態で試合に突入してしまったのだ。
 黒河童娘は反射的に妖狐に一撃を入れたものの、その弱い一撃が限界であり、同じく限界を迎えた河上が倒れるのと同時に、黒河童娘もまた生命力が完全に枯渇。結果、骸魂諸共消滅を迎えたのだった。
 ちなみに吹き飛ばされた妖狐はよろよろと立ち上がったため、勝敗はサエの勝利、となった。





「堪忍なーーー!! ウチ、ウチ、とんでもない事してしもうて、ほんまにごめんなあああああああ!」

 生命力を奪われた事で精神が落ち着いた事、そして元凶であるレアメダルが消滅した事で、目を覚ました河上は元通りになり、ひたすらサンドリヨンに謝りたおしていた。涙もどばどば流しており、どうやらこっちが彼女の素らしい。
 ギャラリーらも河上が元に戻った事に安心し、レアメダルが危険なものだと皆に知らせてくる、と皆が街に散って行った。紛れもなくサンドリヨンによりその危険性が伝わった成果によるものだった。

「きっとレアメダルのせいで色々おかしくなってたんですよぉ。これからは気を付けましょぉ」
「うん、うん! ごめん、本当ごめええええん!!」
「他の人に近づかない様に言っておきますからぁ、レアメダル売りさんの居場所、教えて貰えますぅ?」
「勿論や!! えっとな、実は意外なんやけどな……」

 演技を続けて、さりげなく自然とレアメダル売りの情報を聞き出すサエの手管に体力の回復に努めているサンドリヨンは感嘆していた。ちなみに尻子玉を河上が体内に戻すと、怪我はおろか不思議な事に衣装までが修復されていった。妖怪パワーって不思議。

「ありがとうございますぅ」
「いや、こんな話だけじゃまだお詫びした気になれへん! もっと何か………せや!!ウチのダチの『フォレスト木下』なんやけど、アイツ、姿が見えんからって別に失踪したわけやのうて、『ちょっとメダルを探して地下掘ってみる』言って潜ってっただけやから、心配すること無いんよ! きっと大会の事も知らへんのとちゃうかな?」
「そうなんですかぁ(大した情報じゃないな。そもそも、誰それ)」

「あっ! マスクバレリーナはん、大した話やないって思っとるな!?」
「え? いや、私はそんな事」
(思ってるのは私だしね)
「絶対思っとる! せやったら……そうや!! ウチ、大会が始まる前に、怪しい奴見たんよ!!」
「怪しい奴、ですかぁ?」
「せやねん!! 顔は見えへんかったけど、黒いマントとフードで身体をほとんど隠しとってな。あっという間に行ってもうたんやけど……でもな、顔と身体が一瞬見えたんよ! あの胸の膨らみ、あれは女や、間違いあらへん!!」
「マントとフードの女、ですかぁ。変な人ですねぇ」
「それだけやない! しかも一瞬見えた顔。なんと、マスクバレリーナはんのと似たマスクを付けとったんや! それをそのまま真っ黒にしたような、目が見えるマスクをな!!」
「黒い、マスク……?」
「せやから、間違われんように気を付けるんやで!! 色が真逆やから、大丈夫やと思うけども!」

 思わずピジョンであるマスクを触るサンドリヨン。そして、サエと視線を合わせた。彼女もまた真剣な顔で頷いた。

 確証は無い。だが、そのフードとマスクの女……その正体は、もしかしたら……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リオン・ゲーベンアイン
じゃあ、弓矢に関するあやかし…といってもケイローンのあやかしメダルを使うよ。
よーい、スタンバイ!!

…まぁ、これがあやかしメダルの初戦闘だからなぁ…苦戦している。
でも、策はまだあるよ。そのケイローンは異聞帯のケイローンなんだよ。

…ヒュドラの毒に気合と根性で耐えきり、毒に蝕まれた血肉を捨てて代わりにサイボーグに改造した可能性のケイローンだけどね。

あ、気を付けて、そのケイローンヒュドラの毒を乗り越えたからか一撃一撃が超高火力なの。…自らの機体も反動で吹っ飛ぶけど気合と根性でなんとかするんだよね。このメダルのケイローン。


鵜飼・章
いったい何の騒ぎかな
僕は闇より出でし闇の申し子
人呼んでジェノサイダー鵜飼…
殺人鬼系のあやかしを操り対戦相手にトラウマ級の恐怖を与える
そう恐れられる謎多き大物メダリストだ(という設定)
そんな実績は全くないけど【落ち着き】と【コミュ力】で大物感かもし出してくよ

バトルに熱狂するメダリスト達の輪に入り
UC【模範解答】を発動
立っているだけで尋常じゃない恐怖を与え
ジェノサイダー鵜飼としてしれっと紛れ込む
このレアメダル何かおかしくないかな?
ちょっと見せて…ああこれ憑いてるね
ご覧、あやかしが泣いてる…僕が回収しておこう

ジェノサイダー鵜飼はメダルバトルを汚す者を許さない…
どこで手に入れたのか皆に訊ね犯人を追うよ


白鳥・深菜


「あやかしメダルは拾った(ものを魔改造した)――勝負よ」

私はその辺の強そうなメダリスト相手に、自前のメダルで勝負を仕掛ける。
――まあ、メダリストとしては素人なので、勝つために早速エレファン芸使うんですけどね。

「希うは<混沌>の<風>、望むは一刻一秒属性メタをメタれ!」

エレファン芸でメダルから虹色に輝くピャアを召喚!
これは属性が刻一刻と変わるあやかし!相性良いタイミングで仕掛けて勝つ!

「……ねえ。レアメダル売りの居場所は何処?
私はね、そいつらと勝負しに来たのよ」



●メダルバトルシティ第五試合:ブリザード雪野VSイノセントアーチャーゲーベン&レインボウハンター白鳥(解説:ジェノサイダー鵜飼)

 メダルバトルシティにおいて猟兵による介入が始まり、暫くの時が経とうとしていた。町並みの一部にも破壊による大きな影響が発生。メダリストにも徐々に怪我が増え続けてきており、そして同時にレアメダルの危険性もまた妖怪から妖怪へ、口コミで広がりつつあった。レアメダルへの購買意欲は全体的に下がっていき、永遠のメダルバトルに関しても疑問を持つ者が増え始めているようだ。
 だが、主催側もどうやら黙って見ているだけではなかったようだ。とっておきのレアメダルを解禁してきたらしい。その圧倒的なパワーとレアメダルの力で強引にメダリスト達を支配下に置こうとしているのだろう。
 ついに、レアメダルを巡る最後の戦いが始まろうとしていた。


「どうよ貴方達!! 私はついに最強の力を手に入れたわ! もう敗北の屈辱は味わいはしない! 全員私の前にひれ伏すのよ!!」

 町の大通り、そこを氷のように冷たく青い肌の女性が悠々と歩いていた。彼女は雪女の『ブリザード雪野』。少し前にサラマンダー火口に敗れ、レアメダルを買いに向かったメダリストである。そしてどうやらそれは果たされてしまったらしい。しかも、タイミングが猟兵によりレアメダルが破壊されたり購買自粛が広まって来た頃。つまり、主催側が事態の解決を図る為に、とっておきのレアメダルを販売したタイミングだったのだ。

 轟き咆哮を響かせる、雪野の後ろに追従する妖怪。8本の首を持ち、ちろちろと長い舌を覗かせ、待ちゆく人々をその首や尾で次々に薙ぎ払い打ち払い、対抗に出されたあやかしメダルを一撃で一蹴する黒き多頭竜。これこそが主催側の切り札『黒ヤマタノオロチ』であった。
 これを召喚した雪野は次々にメダリストを襲撃。バトルに移行していないものまでも攻撃し、ここまで歩んできたのだった。彼女も本来は雪氷系あやかしメダル使いの筈だが、彼女も勝利の為にプライドを捨ててしまったらしい。

「アハハハハハハ!! ……大丈夫、これだけの力があれば、私は絶対にあんな事には……!」

 蹂躙する悪逆の暴走を究め、欲望の発露を目前にしつつも、雪野は一瞬そう呟いた。それはまるで、何かに怯えているような……。


「待ちなさい!!」


 そんな彼女の進撃を止めようとする者がいた。雪野がハッとして前を見やれば、そこには開いた視界に堂々と立ちはだかる2人の人影。雪野、そして傷だらけになり、又は救援に当たりながらも群衆として見守っていたギャラリーメダリスト達も思い出していた。少し前から現れた、無名の凄腕メダリスト達。彼、彼女らは一様に仮面や眼鏡、ゴーグルを身に着けていた、と。となれば、まさか、彼女達も……!


 そこにいたのは、純白の翼を広げ角を頭に称えた女性、白鳥・深菜(知る人ぞ知るエレファン芸人・f04881)。もう1人は、弓を携えマントを翻す狩人の如き女性、リオン・ゲーベンアイン(純白と透明の二つの無垢を司る弓使い・f23867)だった。
 …………顔には特に何もつけていません。

「着けてねえのかよ!!」
「期待させんな!!」
「眼鏡だけでもかけてください!!」

「なんで勝手に期待されて勝手に幻滅されてるのよ……!!」
「うーん、丁度活躍してた猟兵のみんなの外見が偏ってたみたいだね?」

 ギャラリーからの野次に苦い顔をする深菜。それに対しリオンは転移した面子を思い返し、広がっているイメージの偏りを指摘した。

「なら、ここで私達がその偏りを修正してあげるまで、よね。ヤマタノオロチ、狩り甲斐がありそう!」
「うん、そうだよ。わたしもがんばっちゃうもん」

 それぞれの持ったあやかしメダルを構える2人。対して、雪野はにやりと笑った。相手は2人なのに対しても、全く動じていない。

「新たな挑戦者という訳ね。いいわ。順番待ちとかは要らないわ。2人纏めて、相手をしてあげるわ!!」

 そう言って、彼女が懐から取り出した物を見て群衆がざわついた。それは、黒色に染まったレアメダル――そう、彼女が持っているレアメダルは1枚だけでは無かったのだ。
 2人もそれを雪野の異常な様子から察し、敢えて2人で出てきたのだが案の定だった。主催側も形振り構ってこなくなってきたようだ。

「さあ、蹂躙しなさい2体目の『黒ヤマタノオロチ』!!」

 彼女が召喚したのはこちらも黒ヤマタノオロチだった。骸魂レアメダルの中でも恐らくは最強の妖怪。こいつらが暴れまわるだけでも、メダリスト達に悪影響は出てしまう。なにより、2体も使役している雪野が一番危険だ。一刻も早く倒さなければ、オブリビオン化しかねない。2人は目を合わせ、あやかしメダルを構える。


「あやかしメダルは拾った(ものを魔改造した)――勝負よ。
 希うは<混沌>の<風>、望むは一刻一秒属性メタをメタれ! 輝け、『ピャア』!!」

 深鳥はメダルを宙に弾く。メダルの周囲を突然起こった炎・雷・水が舞い散る。
 それがメダルから放たれた七色の光に掻き消され、その後には虹色の光を放つ妖怪『ピャア』の姿がそこに在った。


「じゃあ、いっくよー!」

 リオンはメダルを矢の先端に装着。弓に番えて構える。

「サジタリウスのお星さまから、おねがい来てねケンタウロス! よーい、スタンバイ! 『ケイローン』!」

 放たれたメダル矢が地面に命中すると、そこにはリオンのように弓を携えた下半身が馬のケンタウロスの姿があった。いや、ただのケンタウロスではない。ギリシャ神話において、数多の英雄を教え導き、射手座の伝承の元になった伝説の賢者ケイローン。弓を持つリオンにとても似合ったあやかしメダルであった。

「いいわ、勝負よ!! ダブルバトルと行きましょう!!」

 相手を見定めた雪野が獰猛に笑う。相手が2人だとしても、彼女は自身の勝利を全く疑っていなかった。



 雪野と深菜とリオン。あやかしメダル2枚ずつの変則ダブルバトル。レアメダルの脅威に晒されつつも、外巻きに見つめる群衆達。その中に1人の男が現れた。

「いったい何の騒ぎかな」

 落ち着き払った、黒い外套を纏った青年。その男の登場にバトルに見入っていたギャラリー達がざわついた。

「あ、アンタは……!!」
「殺人鬼系のあやかしを操り、対戦相手にトラウマ級の恐怖を与えるって噂の!!」
「それでいて出自一切不明! 謎多き大物メダリスト!!」


『ジェノサイダー鵜飼!!!』


「そう、僕は闇より出でし闇の申し子。人呼んでジェノサイダー鵜飼……」

 そう言って、ギャラリー達に至高の決めポーズで応えた男。彼こそが謎の着用物集団と同時に今メダリストの間で話題沸騰の謎の大物メダリスト、ジェノサイダー鵜飼その人であった。

 ネタバラシをすれば、彼もまた転移してきた猟兵の1人、鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)である。彼はメダルバトルではなく、その落ち着き払った大物感溢れる仕草、そしてメダリスト妖怪達からさりげなく話を聞きだすコミュニケーション能力により、レアメダル売りやレアメダル所持者の情報を集めていたのだ。その過程において、そのあまりの大物振りから、『あれ、そういえばこんな人昔からいたかもしれない』みたいなノリ重視メダリストの間ですっかり浸透し、こうして今や何回か主役回があったレギュラーみたいなくらいのノリでこうしてメダリストに混じれるほどになってしまったのだ。ちなみに上記の設定が章が自分で考え広めたのか、メダリスト達が勝手に作っていったのかは、章のみぞ知る。

「フゥン。成程。レアメダルを2枚手に入れたブリザード雪野。そして、それに相対する2人の狩人。あやかしメダルの数では2対2、ダブルメダルバトル形式だね」
「流石ジェノサイダー鵜飼!! 凄い理解力だ!!」

 メダルバトルの形式や歴戦メダリストの見た目も情報収集で理解している章は戦況を見詰めた。


 七色の光を放つ、深菜のピャア。そちらは攻撃は仕掛けず、回避に努めているようだ。そしてそれに襲い掛かる黒ヤマタノオロチ1号。その攻撃はやはりレアメダル。通常のあやかしメダルでは考えられないものだった。

「8本の首、それが代わる代わるに攻撃を後退し、ブレスを発射しているね。しかも、その全てが全く別の属性だ。アレでは通常のあやかしならば必ず対策の属性を取られ、100%敗北してしまうだろうね」

 そう、黒ヤマタノオロチの首がそれぞれが炎水土氷雷光闇毒を司っており、どれかが確実に相手妖怪の弱点を付く事が出来る。しかも、全てがそれぞれタイミングをずらしてブレスを放つので、攻撃後の隙もカバーされてしまう。

(同時に発射してはこないようだが、まるであの世界のオブリビオンフォーミュラのようだ)

 光を放つピャアに対しては闇の首がメインとなり、残りがサポートしている形のようだ。それに対し深菜は戦況を見据え集中してはいるようだが何も行動は起こしていない。


 章はもう1つの戦況に目をやった。
 そちらはどうやら更にまずい状況らしい。

「射手座の元となりし賢者ケイローン……だが、彼はかのヘラクレスと同じく、ヒュドラの毒に倒れてしまった。そしてヤマタノオロチはヒュドラと類型がよく似たもの。そして毒属性の首もまた備えているなら……こうなってしまうのは自明の理、ではあるね」

 そこには、毒の牙から毒を滴らせた毒の竜首。そして、傷口から血を滴らせ、苦しそうに呻くケイローンの姿があった。
 他の竜首の牽制で隙を付かれ、毒の牙がケイローンに突き刺さってしまったのだ。
 妖怪には総じて、伝承に伝わる弱点がある。河童は頭の皿、吸血鬼には十字架、等。ケイローンが妖怪かはともかく、彼にも伝承の弱点は存在する。故に、あの毒は致命的とも言える。

「もう駄目だ、おしまいだ……!」
「あんな怪物、勝てる訳ねえんだ!」
「俺達もレアメダルを手に入れるしかもう手は……!」

「落ち着くんだ皆。彼女達はまだ、負けた訳じゃない」

 動揺が広がるメダリスト達を、ジェノサイダー鵜飼はその落ち着き払った声色で諫めた。メダリスト達は理解する。彼は彼女達が勝てると思っている。

「で、でもあの状況からどうやって!?」
「そうだね……ならば、ヒントを教えようか」

 彼は1つの戦況、ピャアと黒ヤマタノオロチの戦いを見詰めながら言った。



「君達は、『エレファン』を知っているかい?」
『え、何それ』





「アッチはもうほぼ決まって虫の息。なら、まずはアンタからよ!!」

 ケイローンを無視しつつ黒オロチ2号に牽制させ、雪野は黒オロチ1号にピャアにトドメを刺させようと闇の竜首から闇のブレスを発射させた。これで完全に終わりにしようとしてきたのだ。

「そうね。『獲物』の能力は十分に把握したわ。だから、ここからは『狩り』の時間よ」

 ここまで沈黙を守って来た深菜がここで黒オロチ1号をその目で射止めた。ここからはもう、お前は狩られる立場だ、と。

 闇のブレスが当たる直前、ピャアから今まで以上の光が放射される。強き光は、弱き闇を消し去る。闇のブレスが光により掻き消されてしまった。

「ハッ! ここまで温存したのは褒めてあげる。でもね、こっちには光属性の首があるのよ! その光を食べてしまいなさい!」

 闇の首に交代するように、光の首がピャアに喰らいつかんと伸びる。雪野は慢心しきったわけではなく、万一の手を準備していたのだ。
 故に、全くの想定外、には何もできはしなかったのだが。

「属性可変:闇!!」

 次の瞬間、ピャアの体が暗き闇に覆われ、その圧倒的な闇が喰らいつこうとした光を逆に蝕み付くし、光の竜首はあっという間に闇に削られたかのように消え失せてしまった。

「なっ、なんですって、属性可変!? 嘘でしょ、そんなのはレアメダルだけの……!」
「ならその目で見なさい。属性可変!!」

 そこからは圧倒的であった。ピャアは次々に自身の属性を変化、竜首のそれぞれを有利属性で攻撃し、1本ずつ狩り落としていったのだ。雪野も必死に有利な属性で対抗しようとしたが、次の瞬間にはピャアの属性が変化しているのでまるで歯が立ちはしなかった。

 実際、通常のあやかしメダルにこんな能力は無い。からくりは召喚の際、口上に紛れて深菜が発動したユーベルコード【災厄と希望の開放器(パンドーラー・エルピス)】。制御こそ困難を極めるが、あらゆる「属性」を操作できるこの技を行使し、深菜が外付けでピャアの属性を次々に変化させ続けていたのだ。属性相性が物を言うメダルバトルにおいて、まさに無敵の能力の1つと言える。

「く、くそ……! 2号! 早くケイローンを片付けて、1号の援護を!!」

 追い詰められた雪野はもう一方に意識を移した。こうなったら全部の首を落とされる前に、2体がかりで挟撃するしかない、と。

 だがその光景にまたも雪野は目を疑う事になった。
 なんと、死に体だった筈のケイローンが元気に駆け回り、オロチ2号に次々矢を射かけていたのだ。

「ど、どういう事よ!?」
「……まぁ、これがあやかしメダルの初戦闘だからなぁ……勝手がわからなくて苦戦しちゃったけど、でももう慣れた、かな?」

 如何せん、リオンもまたこういったあやかしメダルでのメダルバトルは初経験。ケイローンへの指示やスピードの把握、敵の能力把握にやや時間を要した。だが、理解が終われば後はもう問題は無い。何故ならば。

「ケイローンに竜の毒は特攻の筈!! まさか、ケイローンじゃないっていうの!?」
「ううん、間違いなくケイローンだよ。ただし、彼は在り得たかもしれない、異聞の世界の存在。ヒュドラの毒に気合と根性で耐えきり、毒に蝕まれた血肉を捨てて代わりにサイボーグに改造した可能性のケイローンだけどね」

 誰もが耳を疑うリオンの言葉を証明するかのように、ケイローンの姿がそこで変貌した。今まで見えていた生身、筋肉の部分が外装として削げ落ち、鋼でできた体、スプリングスで形成した馬の足部分、そして顔もまた半分がメタリックなパーツとカメラアイで形成された、ケイローンの在り得たかもしれない可能性。仮に名づけるならば、『サイボーグケイローン』!

「な、な、なんじゃそりゃああああああああ!!!!」

 全くであるが、あらゆる可能性をも内包するのがあやかしメダル。こういったある種本当のレアメダルがあったとしてもおかしくはない。ていうかこれ、レジェンドあやかしメダルかもしれない。どこで拾ったし。

「あ、気を付けて、そのケイローンヒュドラの毒を乗り越えたからか一撃一撃が超高火力なの」

 そんな準備が間に合うはずもなく、ケイローンが番えた矢が発射される。鋼でできた特殊筋肉により、在り得ない力で引き絞られた弓。そしてサイボーグだからこそ番えられる、超特殊炸裂ホーミング矢。それが力に伴う凄まじい反動と衝撃波を伴って、オロチ2号の首に炸裂。なんと同時に、4本の首を同時に射抜き、圧倒的なパワーで属性相性など一蹴し、頭を粉々に爆散せしめた。

「……自らの機体も反動で吹っ飛ぶけど気合と根性でなんとかするんだよね。このメダルのケイローン」

 弓の発射力が高い程、反動は射手を襲う。当然その破格の威力の反動でケイローン自身にも鋼のボディを裂き、パーツの一部を吹っ飛ばすほどのダメージが加わる。だが、異聞の存在とはいえかの者は誰だ。十二の試練を遂げたヘラクレスを教え、心臓を射抜かれても暴れたアキレウスを育てた賢者であるぞ。ならばヒュドラの毒を克服したこのケイローン、たかが体の一部が破損した程度で、倒れては弟子に合わせる顔が無いであろう!

 サイボーグケイローンは再び炸裂矢を番えた。恐らくこれがトドメになる。

「う、そ、私が、私がまた負け……!」


「さあ、そろそろ仕留める時間よ。ブリザード雪野。自分のスタイルを捨てたあなたに引導を渡すのはこれしかないね。属性可変:氷!!」
 その身に吹雪を纏ったピャアが、最後に敢えて残した水の竜首へと突っ込む。属性効果で液状化攻撃無効しようとした首をあっという間に凍結させる。


「あと一撃。おねがい、ケイローン」
 サイボーグケイローンが無言で頷くと、破損した体に鞭打ち、姿勢を整え、渾身の矢を引き絞る。そして、放たれる必殺の一撃。多大なる反動で今度こそ全身が吹き飛ばされる。されどケイローン、その場に立つ。倒れはせずその矢を見送った。


 突っ込んだピャアが黒オロチ1号を粉砕するのと、ケイローンの矢が残った首と全身を爆散させるのはほぼ同時。
 そして骸魂の憑いていたレアメダル2枚もまた、完全に粉砕されたのだった。



「そんな、そんな……」

 最強のレアメダル妖怪2体を撃破され、消沈する雪野。あやかしメダルを回収した2人は近づき、レアメダル売りの情報を聞き出そうとした。恐らく雪野は一番新しい顧客。レアメダル売りに最も最近に接触したのはおそらく彼女に違いない。

「嫌、嫌よ……私は、私は、私は!!」

 その時、雪野の様子が変だと感じた。今までの欲望の発露、ではない。何かをしたい、というのではない。これは……純然たる、『恐怖』。

「私は、アイツみたいに、『あやかしメダルにされたくない』!!!!」

 恐怖に染まり切りそう叫んだ雪野が懐から何かを取り出した。それに二人は驚愕した。それは、まさかの3枚目のレアメダル。主催側がまさかそこまでしていたのかと、レアメダルを振り下ろし召喚しようとする雪野を止めようと。



「やめなよ」



 するまでもなく、雪野はそのたった一言で硬直した。振り下ろそうとした手はまるで凍り付いたかのように動かず、されどブルブルと震えている。

「既に破壊された物も含めて、そのレアメダル何かおかしくないかな? ちょっと見せて」

 先程の声と同じく、そう言ってギャラリーの中から静かに歩んできた男。他ならぬ、先程まで観戦していたジェノサイダー鵜飼であった。とは言っても雪野に向かって優しく声をかけ、優しい物言いで落ち着き払いながらゆっくり近づいているだけだ。ギャラリー達は何故雪野が固まっているのかまるでわからなかった。
 だが仲間である猟兵2名はなんとなく察した。彼が何かしたのだ、と。

 彼が使用したのは【模範解答(マインドコントロール)】。彼が持つ能力の一部を格段に跳ね上げる、ただそれだけ。彼が今回引き上げたのは、恐怖を与える技。威圧感、言葉に込めた秘めた感情、そして相手が彼に抱く印象、それらの全てを以て、相手に恐怖を刻み込む技能。
 その圧倒的な恐怖に、雪野は動く事が出来なくなってしまった。先程まで抱えていた恐怖とは別種の、今まさに目の前までやってきた、静かなる恐怖に対して。

「あ、あ、あ……わ、私、本当に、駄目」
「 ちょ っ と 見 せ て 」

 先程の言葉を、今度は一字ずつ丁寧に言われた。無論、全てにありったけの恐怖を込めて。そこがもう、彼女の限界だった。レアメダルを取り落とし、がくりと地面に膝をつき、黒いレアメダルをすかさず章がキャッチした。

「ああこれ憑いてるね。ご覧、あやかしが泣いてる……僕が回収しておこう」

 レアメダルを掲げ、雪野やギャラリーに見せつけてから丁寧に懐に仕舞った。ここまで破壊するしか無かった骸魂の憑いたレアメダル。それを彼は自身の技によって、無傷で回収して見せたのだった。



「すげえ!通常のメダルであんな事できるなんて!!」
「レインボウハンター!! レインボウハンター!!」
「まさかあんな可能性のあるケイローンがいたなんて。あやかしメダル、奥が深いぜ」
「イノセントアーチャー!イノセントアーチャー!」
「でも何よりも……噂にたがわない、圧倒的な大物感! そして、雪野を動けなくしたよくわからない力! 流石だ、ジェノサイダー鵜飼!!」
「ジェノサイダーーーー!! ジェノサイダーーーー!!」

 ギャラリー達の讃える声に耳を向けつつも、3人は意識を取り戻した雪野に語り掛けていた。

「大丈夫かい? さっきはすまなかったね」
「いえ……私も、なんかおかしくなっていたし……」
「じゃあ話を聞けるようになった所で。ねえ。レアメダル売りの居場所は何処?私はね、そいつらと勝負しに来たのよ」
「え、あいつらと……!? や、止めた方が良いわ! レアメダル売りかはしらないけど、この町にはやばい奴がいるし!!」

 深菜の勝負宣言に、雪野が顔色を変えた。やばい奴? その言葉に、リオンが思い出したように問いかける。

「そういえばさっき、『あやかしメダルにされたくない』って言ってたけど、どういうことかな?」
「…………大会が始まる少し前。私は、裏路地の袋小路のすぐ上にある屋上にいたの。そこで、声がしたから下を覗いてみたのよ。そ、そしたら……!!」

 雪野がブルブルと震え、そしてやっと声を絞り出すように言った。

「黒いフードとマントの奴が、もう1人人影にメダルを触れさせたと思ったら……!! そ、そいつが、灰色のメダルの中に吸い込まれて、消えちゃったのよ!!」

 顔面を蒼白にして語る雪野に、3人が顔を合わせた。あやかしメダルには妖怪が力を入れる事が出来る。だが、妖怪が入れられてしまう……そんな話は、無い話ではないのかもしれないが、少なくともメダリスト達の間ではまず在り得ない話のようだ。

「その後はどうしたんだい?」
「黒マントが裏路地から出て行って、その後、ゴースト幽谷の奴が袋小路まで来たわ。私はもう何がなんだかわからなくて、屋上で隠れてたけど。それで私、もしも負け続けたらああなるんじゃないかって想像が止まらなくて、それで……!」
「レアメダルをあんなに買った、って事ね」


 雪野を落ち着かせると、3人は礼を言って案内された場所に向かった。他の猟兵たちも同じ辺りを目指しているようで、他猟兵らと連絡を取りつつ、情報を統合した方が良いだろう、と合流を目指した。


 彼らは予感していた。妖怪をメダルに変える黒マントの人物。恐らく、その人物こそがこの大会に隠れ潜む、『主催者』なのではないか、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『ミイラ青鬼』

POW   :    必殺・埋葬落とし!
【手元に引き寄せる包帯】が命中した対象に対し、高威力高命中の【パイルドライバー】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    あたしとタイマンで勝負しな!
【互いの腕を繋ぐ1mの包帯】が命中した対象にルールを宣告し、破ったらダメージを与える。簡単に守れるルールほど威力が高い。
WIZ   :    てめぇもミイラにしてやるぜ!
【頭部を封じる包帯】【腕と上半身を封じる包帯】【腰から下を封じる包帯】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●カチコミ、メダルバトルシティ!

 集めたレアメダル売りの情報を元に、猟兵たちはある店の前に集まっていた。それは一見、ただの駄菓子屋に見えた。だが、多くの売買情報の場所を照らし合わせた結果、ここが拠点だろうという予測に至った。

 果たして、奥の茶の間の畳の1つを裏返せば、そこには地下への階段があった。如何にもなそれに、猟兵達はここで時間を与えてはならない、と一気に突入した。


「何だお前らぁ!!」

 たどり着いたドアを蹴り破った猟兵を出迎えたのは、そんな猛々しい罵声であった。そこは明かりも確保された、広々とした部屋。そしてそこには数多くの、身体に包帯だけを纏った、極めて露出の多い青鬼、『ミイラ青鬼』達の姿があった。何人かはこちらに敵意むき出しで向き直り、何人かはアタッシュケースに鍵の付いた宝箱や風呂敷を抱えていた。風呂敷の形を見るに、どうやら中には大量のあやかしメダルが入っているようだ。恐らく、レアメダルを全て破壊か回収され、慌てて逃げ出そうとしていたのだろう。だがその前に猟兵達の突入が間に合ったらしい。

「ど、どうします!? ボスに連絡して助けに来てもらわないと!」
「馬鹿野郎! こんな失態知られてみろ! あたしら全員消されるぞ! 何、ここで全員処理しちまえばいいんだよ!!」

 リーダー格と思しき、1人だけなぜか腕の一部に鱗が見えるミイラ青鬼が仲間の動揺を諫めた。

「やってくれたな、この顔装飾集団が!!」

 その仇名を聞いて一部の猟兵がずっこけた。ついに十把一絡げ、ひとまとめにされてしまったらしい。

「ボスに知られる前になんとかしよう、ってとっておきの黒ヤマタノオロチまで販売したってのに、あの雪女役に立たねえな!! だがもうお前らもここまでだ! 何せあたしらにゃ、コイツがあるからな!!」

 そう言って青鬼たちが取り出したのは、鬼やミイラが描かれたあやかしメダル。それをある者はメダリストのように召喚し、ある者は呑み込んで自身の筋肉をバンプアップしたりした。

「全員叩き潰しちまえ!! くれぐれも、『アレ』を巻き込んで壊すんじゃねえぞ!!」
「「「「応!!!!」」」」

 そう檄を飛ばすと、ミイラ青鬼達がメダルを手に猟兵たちに襲い掛かって来た。どうやら面子の為に、主催者へ連絡は全くしていないようだ。ならば、増援などは考えずに倒すチャンスらしい。

 そして敵もあやかしメダルを使ってくるが、ここにも大量のあやかしメダルが存在する。それや、地上で集めたり共に戦ったメダルを活用すればその効果を無効にしたり優位に立つこともできるだろう。

 オーダーは多いが、今こそレアメダル売りを根絶する時。バトル開始だ、猟兵!


※<1章で入手した情報>

・行方不明の有名メダリストは以下の4名。それぞれの性別や髪の長さは現在不明。
 海洋系あやかし使いで人魚の『オーシャン大海』。
 岩石系あやかし使いでガーゴイルの『ロック岩永』。
 植物系あやかし使いでアルラウネの『フォレスト木下』。
 鳥獣系あやかし使いでハーピィの『バード羽鳥』。

・なおこのうち、フォレスト木下は地下に籠ってて主催者の術に嵌らなかっただけなので、無関係。

・長髪の人物が黒フードと共に袋小路に入り、黒フードだけが出てきた。

・袋小路で黒フードが誰かを灰色のあやかしメダルに吸収した。

・黒フードは女で、顔に黒いドミノマスクをつけていた。


※ミイラ青鬼はあやかしメダルを使用してきます。召喚や自身の強化等はそれぞれですが、種類は『角のある鬼種(吸血鬼は除外)』や『ミイラ等のアンデッド』のみ。あやかしメダルの強化に対して対策を取り成功すれば、プレイングボーナスが発生します。又、プレイングボーナスに加え、調査余裕ができたとし、本拠地の物から3章ボスの能力や使用メダルのヒントを得る事も可能になります。

※SPD技の包帯命中後のルール宣言は本来タイマンの強制のみですが、特別効果により『あやかしメダルバトルの強制』も含むものとします。この場合、あやかしメダルを使わないバトルの場合ダメージが入る為ご注意下さい。

※本拠地部屋は十分な明るさがあり、広さは戦うに十分とします。少なくとも断章で描写された物品に関しては部屋にある、とします。

※プレイング締め切りは15日朝8時半まで、としますが人数によっては延長致します。
※途中参加も可能です。
ミルケン・ピーチ
WIZ
幼女ボディのぺしぇで出撃
アドリブ、絡み歓迎

特性を活かせっておじちゃんが言ってた!
召喚するのは翼竜のUMA『ローペン』!
この子の好物は屍肉や腐肉だから、相手のアンデッドメダルは【早業】でさっさと食べちゃうぞ!
さらにローペンに【騎乗】して【空中戦】で【残像】を残して飛び回ってヒットアンドアウェイの攻撃、鬼のメダルは高さで翻弄だ!

本体同士の戦いでは相手のユーベルコードはもちろん避けてくけど、二回まで喰らっちゃったら敵の頭上に飛んでローペンから飛び降りて、【重量攻撃】込みの【スペシャルピーチドロップ】で抑え込み、そのまま【グラップル】でとどめだよ!
やっつけたらすぐにまた空中へ退避!翻弄に戻るよ!


白鳥・深菜


「(ずっこけから復帰しながら)
うっさいわねこちとら顔すっぴんじゃわい!
勝手にマジョリティに巻き込むなゴルァ!
そして、前座は前座らしくサクッと散りなさい!正直邪魔よ!!」

というわけで。
今回もエレファンピャアをメダルから召喚!

「希うは<木>の<寒冷化>――望むは鬼殺しの突剣、ヒイラギ!」

ピャアwith柊(ヒイラギ)ブレードで鬼の弱点をメタる!
襲い来る包帯はトゲで引き裂いてバラバラにし、
相手の目を狙って攻めていく!

「流石にキツイ臭いの方は勘弁してあげるわ……ここ、室内だし」



●オウガハンターフロンティア

「うっさいわねこちとら顔すっぴんじゃわい!勝手にマジョリティに巻き込むなゴルァ!」

 リーダー格の『顔装飾集団』発言にずっこけ、それに対しての物申しの為に迫りくるミイラ青鬼達への、白鳥・深菜(知る人ぞ知るエレファン芸人・f04881)の文句。猟兵側からの迎撃開始の合図はまさかのこの声となった。

「うっせえてめえも自分がマイノリティって認めてんじゃねえか! 多数に従って大人しくまとめられてろやごらぁ!!」
「たまたま参加メンバーにヒーローマスクとか眼鏡かけてる人が集まっただけでしょうがゴルァァ!! そして、前座は前座らしくサクッと散りなさい!正直邪魔よ!!」
「ぁんだとてめぇ、もう無事に帰れると思うなよぁぁん!?」

 敵の本拠地にカチコミをかけたシチュエーションも相まって、すっかりヤクザ抗争の一幕のようになってしまった。ただし、ヤクザ抗争とは違いここには幼女も混じっていたが。

「こんどは負けないからね! 利用されたおじちゃん達の分まで、たっぷりおしおきしちゃうから!」

 恐竜からは今は降り、身に纏ったピンクのヒーロースーツと共にヒーローとしてびしっと決めポーズを決めた、ミルケン・ピーチ(魔法少女ミルケンピーチ・f15261)。だがその身体は花園・ぺしぇ(6さい)。あまりに場違いなその存在に、ミイラ青鬼達は一瞬唖然としたが、一人が噴き出すと一気にゲラゲラと笑い出した。

「ギャハハハハ!! おいおい、誰かと思えばあのマッスル坊主にいいようにやられたガキんちょじゃねえか!!」
「ヒーローごっこなら幼稚園でやってな!!」
「喰っちまうぞー! ギャッハハハハハ!! ママのミルクでも飲みに帰りな!」

「むー。バカにされてるー!」
「なるほど。どうやらわたし達の様子はそれなりにチェックされてたみたいね」

 頬を膨らますミルケンの横で、冷静に戻った深菜はミルケンのバトルの結果を把握していたと思われる発言を聞き逃さなかった。思えばリーダー格も黒ヤマタノオロチが倒されたのを把握していたし、町中にカメラでもあるのかそれともギャラリーの中にミイラ青鬼が潜んでいたのか、どちらかは分からないが。いずれにせよこちらの地上での戦いは把握されていると思った方が良いだろう。

「そんなのカンケーないもんね! 今回は別の子でいくから!」
「それもそうね。私は同じ……でも、簡単に対策なんて立てさせはしないわよ」

 2人がそれぞれあやかしメダルを構え、召喚の態勢に入った。


「そらとぶあくまがやってくる! 鋭い歯に大きな翼! おいしいごはんがいっぱいあるぞー! おいで! 『ローペン』!!」

 投げたメダルと共に、妖怪が実体化される。それはとても巨大な翼竜であった。コウモリのような翼に鋭い歯を揃えた嘴。そして獲物を探す獰猛な目。ニューギニア島やパプアニューギニアで目撃されたUMA、ローペンであった。


「希うは<木>の<寒冷化>――望むは鬼殺しの突剣、ヒイラギ! 輝け、『ピャア』!!」

 前回とは違い、今度はメダルの周囲を室内にも関わらず木が次々と生え囲む。だがその木が全て、常温にも関わらず一気に全て凍り付く。その樹氷の一部を突き破り、再び七色の光を放つ妖怪『ピャア』が召喚された。


「だったらこっちも召喚だ!! いけ、『グール』、『ゴブリン』共!!」

 ミイラ青鬼達が次々にあやかしメダルを投げると、二人とその妖怪の周りに大量のグールやゴブリンが現れ、捕らえようと押し寄せてくる。ただでさえ複数のミイラ青鬼が更に人海戦術で召喚した相手。その数はかなり多い。

 だが、これは2人にとっては想定内でしかない。

「おじちゃんが言ってた! 特性を活かせって! ローペン、たべちゃえ!!」

 ミルケンがそう指示した途端、何かが大きく薙ぎ払ったかと思えばグールの半数があっという間に消え去った。

「ハ……!?」

 青鬼がそう呟くほどの早業だった。見れば、ミルケンが召喚したローペンの嘴、その嘴の中からグールと思しき手や足がはみ出て、そしてそれがあっという間に咀嚼音共に消えて行ったのだ。

「ローペンはお墓を荒らしちゃうほど、屍肉とか腐ったお肉が大好きなんだよ! だからあっという間にドンドン食べちゃうんだから!」

 ミルケンがそう説明している間にも、ローペンは次々とグールに襲い掛かっては呑み込み喰らい食べ尽くしていく。数頼りの緩慢な動きをするグールでは避ける事などできはしない。巨体なだけを武器にするのではなく、その特性や習性を理解し的確にメダルを選ぶ。先の戦いを吸収し、ミルケンはメダル使いとして確実に成長していた。

「くっそ!! だがゴブリンは屍じゃねえ! ソイツもどうやら選り好みしてゴブリンは避けてるみてえだな!! とっつかまえろ!!」

 確かにローペンはグールは確実に捕食しているが、ゴブリンはほとんど無視している。だが当然ミルケンもそこは既に予想している。軽やかにヒーローらしいジャンプをすると、綺麗にローペンの背中に着地。

「ていくおーふ!!」

 ミルケンの元気な命令に従い、ローペンが空へと羽搏いた。地下ではあるが天井もかなり高い空間な為、ローペンの飛行にも支障はない。そして翼竜に空を許すという事はどういう事か。

「は、はええっ!!」

 残像すら見える程の高速飛行。ゴブリンでは上空のローペン向けて攻撃するどころか目で追う事すらできていない。完全に見失いきょろきょろと見回したゴブリンが一匹、死角から飛来したローペンの突進で吹き飛ばされ、壁に激突。首を埋もれさせ、だらんと手足をぶら下げたまま消滅を迎える。ローペンはすぐにまた空に戻り、再び高速で飛行。ミルケンがどれを狙うかを指示し接近し攻撃、また空に、というヒットアンドアウェイの戦術を行っていた。

「はは、こりゃビックリの狩猟者だ。あの子も中々やるね」

 グールも当然忘れずに襲い捕食し、そして的確に指示するミルケンに、深菜もピャアの傍に移動しながら感心する。

「チッ! 調子に乗るんじゃあねえぞ!!」

 そう、今までのメダルバトルならばここまで、もしくはサポートしてくるメダリストもあくまで妖怪レベル。だが、ここにいるのは違う。その妖怪を取り込んだオブリビオン。当然妨害のレベルはここまでの比ではない。

「てめぇらまとめてミイラにしてやるぜ!!」

 ミイラ青鬼達が一斉に大量の包帯を身体から放つ。全てがそれぞれの体の部位を的確に狙っており、全て喰らってしまえば完全にミイラにされてしまうだろう。ちなみに頭から足先まで完全に包帯で巻き付けて緊縛する事を専門用語で『マミフィケーション』といい、そういうのが好きな趣味も人間も存在するが、当然2人はそんな事にされる訳にも行かない。

「ローペン、よけて!!」

 ミルケンの指示でローペンが高速飛行しながら包帯をかわす。だが包帯はそのままそこで蜘蛛の巣のように残るので、ローペンの飛行範囲は段々と狭められていく。

「ハッ!あのガキは時間の問題だ!」
「さあテメエもだ羽根女!! 七変化の妖怪はともかく、これだけの数だ。丸腰のテメエを護り切れたりはしねえだろ!!」

 そう言っていつのまに回り込んだのか、深菜の八方をミイラ青鬼達が囲み、一斉に包帯を発射した。その数はピャアが炎に切り替え燃やしても、何枚か深菜まで届いてしまう程の……。

「丸腰? ふふ、またまんまと引っかかってくれたわね?」

 その届きそうだった包帯が、深菜が何かを振るった途端、全てがズタズタに切り裂かれ、ひらひらと無数の布きれとなり落ちた。

「なっ!? な、なんだそりゃ……剣!?」

 そう、丸腰だった筈の深菜の手に握られていたのは、細い枝が氷を帯で凍り付き、そして鋭いトゲの生えた葉が張り付き、トゲだらけの突剣のように化した、冷凍木剣だった。

「馬鹿な、そんなのいつの間に!!」
「さっきピャアを召喚した時よ。まさかアレがただの召喚演出だとでも思ったの? 見てたなら、ブリザード雪野との対戦時と演出が違ったって気づきなさいよ」

 そう、またである。まさしく『またまた(エレファン)やらせていただきました~!』とでも表現するアレである。今回も召喚口上に紛れての【災厄と希望の開放器(パンドーラー・エルピス)】。今回彼女が箱から取り出した災厄は<木>の<寒冷化>。それを召喚時に行い、そして目当ての物を入手していたのだ。それこそが。

「凍り付く事でただでさえ強靭なその強度を増した、古くから鬼を祓うと言われて来た広葉樹の1つ……ヒイラギ。アンタたちにはまさに特攻効果のある、絶好の得物よ!」

 深菜は出す木をヒイラギに限定し、幹は堅く、なおかつしなやかであることから、衝撃などに対し強靱な耐久性を持っているそれを寒冷凍結で更に強化し武器として形成。さっきピャアに近づいた時に、残っていた周りのヒイラギから1番形が丁度いいものを選んでいたのだ。無論、ヒイラギに限定する事、寒冷温度を調整し、武器に適する形を作る事、全て絶妙な制御が必要になるが、深菜の腕を持ってすれば不可能では無かったのだ。

「そうそう。ちなみに、節分の夜、ヒイラギの枝と大豆の枝に鰯の頭を門戸に飾ると悪鬼を払うっていうらしいわ。『柊鰯』っていうのよ。今は大分季節外れだけど……折角だし、派手に『鬼は外』と行くわ! ピャア!」

 もう1本、葉や幹で攻撃に丁度いいヒイラギを選び、それをピャアに投げて装備。1人と1妖怪はぴったり並んでミイラ青鬼達に突っ込んでいく。

「くっそぉ!! 捕まえろぉぉ!!」

 1本でも捉えられれば、とミイラ青鬼達が包帯を発射する。そして同時に残っていたグールやゴブリンも襲い掛かる。包帯自体は鬼ではなくミイラの要素である。だが忘れてはならない。骸魂が妖怪を取り込みやっとオブリビオンとして形成された彼女らに鬼の要素はもうどうあっても切っても切り離せないのだ。故に、彼女らの放った包帯もまた、『鬼』としての属性を確実に内包している。それはこの世界のオブリビオンだからこその、不可逆の要素!

「悪あがきね!!」

 鬼を祓うヒイラギの剣が、深菜とピャアによって二閃。それだけで、勝てる要素の無い鬼としての包帯は全てが切り裂かれてしまった。そして、『食人鬼』であるグールも、『小鬼』でもあるゴブリンも、東洋西洋関係なく、鬼特攻の効果を受けて葉のトゲが掠っただけで、あっという間に霧散してしまった。

「クソがああああああ!!!」

 ついに目の前まで来た深菜に、ミイラ青鬼は思わず殴り掛かる。だが元より細剣を得物にしている深菜にとって使い勝手も動き方もほとんど変わらない。拳をあっさりと見切り、そして円を描き横回転、なぎ払うようにヒイラギを一閃する。

「「「「ギャアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」」」」

 それだけで囲んでいた複数のミイラ青鬼が、絶叫を上げた。全員が目を抑え、激痛でのたうち回り悲鳴を重ねる。深菜は的確にミイラ青鬼の目を、複数狙い切り裂き封じたのだ。

「あ、さっきの柊鰯。なんで鬼除けとして飾るのかっていうと、柊の葉の棘が鬼の目を刺すから門口から鬼が入れなくなるっていうのともう1つ……」
「テメエよくもグゴアッ!!!」

 運よく仲間の身体で今の斬撃を避けた青鬼が、深菜が話し出した間に背後から深菜にパンチを決めようとした。だが、そこをピャアがすかさずヒイラギで貫き、深菜の背中を護った。
 それに静かに笑みで答えると、深菜は苦しむ青鬼たちに容赦なくヒイラギを振り上げた。

「流石にキツイ臭いの方は勘弁してあげるわ……ここ、室内だし」


 先のもう1つの由来。それは塩鰯を焼く臭気と煙で鬼が近寄らなくなる、というもの。尤も、ここにはヒイラギはあれど鰯は無い。目を封じられたミイラ青鬼が感じられたのは、自身の身体を貫かれた感覚と、その血の匂いだけだった。



「捕まえたぞガキィ!!」
「キャン!!」

 一方、少し離れた場所のミルケン&ローペン。ついに包帯で移動範囲を封じられ、ローペンは翼の大部分を。ミルケンも上半身と腰から下を封じられてしまい、身体のほとんどがぐるぐる巻きミイラになってしまっている。ボディラインもぴっちりと出るほどぴっちりと包帯巻き! え、描写がなんか偏ってる? 気のせいです。

「後は頭を捉えればミイラの完成だぜ! 捕まえたら人質にして仲間の連中から盾にしてやる!!」

 ミルケンの頭に照準を定めるミイラ青鬼。それに対し、ミルケンはその残った頭部を動かし、ローペンと目を合わせた。僅かな付き合い、だがそれでもあやかしメダルにより繋がった縁。そしてもとより恐竜たちと心を通わせていたミルケンのその願いを、ローペンは的確に感じ取った。
 ローペンは動ける範囲で身体を傾かせる。そして、その背中からミルケンの小さな体があっさりと、落ちた。背中から落ち、どんどん上空から落下していく。

「ギャハハハハハハ!! あのガキ、召喚した妖怪に捨てられやがった!! とんだけっさ……く……!?」

 ローペンがミルケンを見捨てて背中から落とした、と思った青鬼だったが、気付く。その落ちていく先……ローペンの真下。そこにいるのが、まさに捕まえた包帯の数本を担当する自分の所だと。

「なっ、て、てめ……!!」
「必殺、【スペシャルピーチドロップ】! どっかーん!」

 すでに発動した技、自身の自慢の大質量尻での重量攻撃で真下にいた青鬼を『座り潰した』。下半身は確かに動かせない状態だった。だが、蹴りはできなくても尻を向けて落ちるだけなら、下半身が動かせなくてもローペンの傾きと少し姿勢を動かせば十分にできる。多大なる衝撃と共に押し潰された事で、真下の青鬼が担当していた下半身が緩んだのを確認するや否や、ミルケンは大地に立った。その尻に潰された青鬼の身体を挟んだまま、近くにいてその光景に驚いた青鬼に一気に近づき。

「どーーーりゃーーーー!!」
「ゲフウッ!!!」

 そしてくるっと回転し、尻に挟んだままの青鬼をそのまま凶器としてぶつけた。い勢いよく叩きつけられたことで、2体とも吹っ飛び床にそのまま突っ伏した。それにより、ローペンの翼も拘束が緩んだ。

「今だ! とーーう!!」
「ひいいいっ!!」

 溢れるパワーで残った拘束をしていたミイラ青鬼ごと飛びあがり、ローペンの背に着地。ローペンもまた残った拘束を外そうとしたミイラ青鬼を引っ張り、空高く引き上げる。

「せーーーの!! どーーん!!」
「「グハアアッ!!」」

 息の合った連携で引き上げた2匹を空中で激突させ、そのまま下の床へと叩き落とす。ハイタッチの代わりに、ミルケンがローペンの翼についた3本の指にパァンとタッチをした。
 見下ろせば、残るのは完全にビビっているミイラ青鬼と残ったグールやゴブリン。それ目がけ、ローペンは容赦なく再び飛来する。捕食者の狩りはまだ終わりはしない。

「えへへー! まだまだいっくよー!」




「さて、と……ん?」

 周囲の青鬼をあらかた狩り、元の妖怪に戻して戦闘の余波が届きそうにない所へ運んだ深菜の足元に、その妖怪のポケットから何か落ちた。それは何枚かの写真。そして、その裏には地上で聞いた凄腕メダリストの名前が描いてあった。

「もしかしてこいつ、メダリストファンの妖怪? ということは……」

 ふとある可能性が思い当たり、写真を確認する。すると案の定あった。『オーシャン大海』『ロック岩永』『バード羽鳥』と書いてある3枚の写真が。

「ビンゴ。これで顔と性別がやっと確認でき……」

 そして期待と共にめくった深菜に飛び込んできたもの、それは。


 後ろ姿だけの写真だった。ちなみに他のも全部そうなので、ミスではなく確信犯である。


「後ろ姿フェチかい!!!!」

 戦闘が遠くでは行われてるのを忘れて激しくツッコミ、ついさっきの妖怪を軽く小突いてしまった。

「で、でも髪の長さは分かるわね……それだけでも良しとするか」

 見ると、『ロック岩永』『バード羽鳥』が長髪。『オーシャン大海』だけが短髪のようだ。残念ながら見える範囲では性別は判断が付かなかった。

「ヅラだったとかなんて恐ろしいひっかけがなければ、これで……」

 戦闘が終わったらこの情報を共有ししよう、と写真3枚を回収する深菜だった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

マスクド・サンドリヨン
☆「アレ……? 気になりますね」
でも、今はとにかく目の前の相手に集中。私もメダルで強化して戦闘よ!

パワーは相手が上。こちらはヒット&アウェイで、打撃中心に戦うわ。とはいえこちらも投げられたり絞められたり。ダメージ差で劣勢は免れない。
でも、不利になった事でUCを発動! 大技を誘って懐に潜り込み、渾身の一撃――と思いきや、相手のメダルは『多腕鬼』!?
突然生えた腕には対応出来ず、逆転に失敗。大技のフルコースから、パイルドライバーで串刺しKOされてしまう――。

でも私のメダルは『リビングデッド』、特殊能力『墓穴からの復活』で蘇る!
勝利を確信して油断した相手を、渾身のバックドロップで逆に沈めてやるわ!



●メダルバトルスペシャルマッチ!破れ!阿修羅埋葬落とし!

「アレ……? 気になりますね。」

 リーダー格の発言が気になったマスクド・サンドリヨン(仮面武闘会のシンデレラ・f19368)は部屋を見回そうとしたが、そこに突っ込んできたミイラ青鬼をスウェーでかわし、即座にソバットを放ち派手に吹き飛ばした。

「ぐえっ!!」
(でも、今はとにかく目の前の相手に集中。主催者が気付く前に片づけられれば、部屋を捜索する時間も出来る筈よ)

 敵の迅速な鎮圧こそが調査の足掛かりになる筈。それに自分達が戦っている間にそちらの調査に向かう猟兵もまたいるかもしれない、とサンドリヨンはまずは目の前の敵に専念しようとファイティングポーズを構えた。

「ほう。不思議だねえ。アンタを見てると、なんだか妙な宿命って奴を感じるよ」

 そう声をかけてきてゆっくりと歩いてくる1人のミイラ大鬼。だが他の鬼と比べると、その筋肉は明らかに大きくバンプアップしていた。その様子を見てサンドリヨンは思い出した。リーダー格が指示を出した際、メダルを飲み込んで自身を強化した鬼がいた事を。それがどうやらコイツのようだ。他の大鬼よりさらにパワーを上げている。恐らく自分よりも上だろう。

「そのマスク。さてはアンタ、バレリーナと見せかけてプロレスラーだね? そうだろう?」
「え……確かに、グラップルの心得はあるけど」

 正義のプリンセスとして多少の格闘の心得はあるが、プロレスラーかと言われると答えあぐねる、とサンドリヨンが戸惑っている間に相手はどんどん話を進めていく。

「フッ、謙遜すんなよ。そこでだ。あたしもレスラーメダリストを目指していた者の体を持つ者として、あんたとサシで勝負したい。勿論メダルの力ありでだ。という訳で、さあ、リングを作るぞ!!」
「いや、だから私はプロレスラーじゃ……え!?」

 否定しようとしたサンドリヨン、そして鬼の周囲に突然他のミイラ青鬼により4つの柱が立てられ、更に回りの青鬼達により柱の間に包帯が張られていき、それは宛ら。

「プロレスリング!?」
「そう、包帯リングさ! さあ、いいプロレスメダルバトルをしようじゃないか!!」
「……メダルバトルって、幾つバリエーションがあるの……?」



 包帯で囲まれたリング内でレスラー青鬼と戦う事になってしまったサンドリヨン。包帯を飛び越して逃げようにも、リングの外には別の青鬼達が配置されていて、飛んだところを包帯で狙われてしまうので戦いに応じるしか無かった。
 しかし敵は自分よりパワーが格段に上。その上囲む包帯は触れればサンドリヨンを捕獲してしまうであろう為触れる事も出来ない。
 結果、サンドリヨンはヒットアンドアウェイでレスラー青鬼の攻撃を喰らわない様に一撃ずつ入れていくしか無かった。だが、如何せん狭いフィールド、少しずつ敵の投げや絞めを受け続けて行き、力の差の分、消耗してきたのはサンドリヨンが先であった。


「ハァ……ハァ……」
「ククク、そろそろ、あたしのフィニッシュホールドで終わらせてやるよ!!」

 レスラー青鬼がおもむろに両腕をサンドリヨンに向けた。

「喰らいな!!」

 腕に巻かれた包帯がサンドリヨン向けて高速で伸びる。包帯が敵を捕らえ、それを手元に即座に引き寄せフィニッシュホールドへ持っていく。それがミイラ青鬼共通の必殺技。そして、それはサンドリヨンも知っていた。何故ならミイラ青鬼の存在は、事前予知で判明していたのだから。

「この瞬間を待っていたのよ!」

 そう、劣勢のサンドリヨンが待っていたのはまさにこの大技の事前段階、『手元に引き寄せる包帯』の発射。手元に引き寄せるならば、発射地点は腕、ないし腕に近い部分の可能性が高い。ならばその辺りに意識を集中していれば、見切って回避する事は十分できると踏んだ。
 果たして、集中したサンドリヨンは迫る包帯をハイジャンプで回避。レスラー鬼の頭上を飛び越え、華麗にその背後へ着地した。

「この隙、逃がさない!!」

 包帯を伸ばし切り硬直している今がチャンス、とサンドリヨンが背中向けて駆けだした。だが。

「ククククク。どうやってかは知らねぇがどうやらアンタはあたしの技を知っているらしいな。だが、忘れてねえだろうな……これは、プロレスメダルバトルっていうことを!!!」
「えっ!?」

 次の瞬間、その背中から多数の包帯付きの腕が生えてきて、腕全てから発射された包帯が咄嗟の事で回避が間に合わなかったサンドリヨンの身体を縛り付けた。

「きゃっ!! ど、どうして、メダルの効果は筋肉のバンプアップだけじゃ……!」
「あえてそこで強化を止めておいたんだよ! そう思い込むだろうってな!」
「多数の腕の鬼種……まさか、貴方のあやかしメダルは『多腕鬼』!?」
「応とも。阿修羅、宿儺、その辺りの類型よ。腕から包帯を放つあたしらとはまさに相性抜群って訳だ」

 そして複数の腕を使い、サンドリヨンの全身を掴むとその体勢を逆さまにし、脚を広げるとフィニッシュの準備に入る。

「うっ、くっ……! ダメ、腕が多すぎて、ロックが外せない!!」

 その後を知っているが故に拘束から逃れようとするが、普通ならば2本での拘束で外す余地があろうと、今のレスラー鬼は多腕、拘束する腕も多く包帯で縛られた状態での力では脱出はできない。

「クククク!結局メダルの召喚もできず終いだったな。だが使いこなせなかったお前が悪いんだぜ? さあ、喰らえ、メダルで強化した、あたしのオリジナル必殺技を!!」

 足を一瞬地から離し、そしてサンドリヨンの首を脚で挟みホールド、力を逃さない状態を作る。そして、そのまま尻もちを付くように体を落とす。つまり、その時サンドリヨンの頭は――!!

「阿修羅の手にて、奈落に沈め!! 超必殺・阿修羅埋葬落とし!!」

 激しい音と共に、サンドリヨンの頭が固い床へとレスラー鬼の全体重をかけて落とされた。
 レスラー鬼が立ち上がると、そこには頭どころか肩までも地面に沈み、力の抜けた足をだらんと下げた、憐れな犠牲者自身でできた墓標しか無かった。


「ギャハハハハハハ!! マスクバレリーナもここまでだったな! さあ、次の相手を探しに行くぞ!」
「はい! ギャハハ、見て下さいよ。あの女、無様にずぶずぶと沈んでいきますよ。あんな事までできるなんて流石です!」
「ギャハハ、そうか、ズブズブと沈んで…………なんだと?」

 サンドリヨンに背を向け、リングから出ようとし他の鬼に声を掛けられたレスラー鬼だったが、その言葉に疑問を覚えた。あたしの技にそんな効果があったか……? いや、そもそもここの地盤はそこまで柔らかくない筈! 気になったレスラー鬼は振り向こうと、した。

 その僅かにレスラー鬼の態勢が揺らいだその瞬間、誰もいなかったはずの背後から、何者かがするりと手を伸ばし、背中の腕の一部と身体を巻き込みがっしりと掴みとった。

「なっ!?」
「捕まえ……た!!」

 それは、紛れもなくサンドリヨンだった。そしてその身体は何と、レスラー大鬼の後ろの床、そこから上半身が生えてきているのだ。そして、そのまま勢いよく地面から発射されるように勢いよく天向け、レスラー鬼をホールドしたまま飛んでいく。激しいGに半端にホールドされたままのレスラー鬼は腕で抵抗も出来ずにされるがままになっている。

「な、ば、か、な、な、な、ぜ、テメ、エ……!!」
「じゃあ『届くまで』の間に種明かしするわ。あなた、私がメダルを使わず終いと言ったわね。いいえ、使ってたのよ。しかもあなたと似た使い方でね」

 そう言って、レスラー鬼に見えるように自身の顔を見せたサンドリヨンのマスク……その下、肌と布の間からぽろりとあやかしメダルが落ちた。その絵柄は、生きる屍、『リビングデッド』。

(!? マスクの下に、貼っていた……!?)
「そしてリビングデッドのもたらす効果は『墓穴からの復活』。これにより私は、地面に沈められた限り、どんな衝撃が起こっていたとしても、必ず蘇る事が出来る。後は墓穴から飛び出たという解釈を最大限に利用して、飛んできているという事よ」

 説明すればそういう事。ミイラ青鬼の大技、パイルドライバー。もしそれ自体が変わっていないのであれば、必ず自身は地面に突き刺される。ならば、それを利用して『地面に潜らされるように倒されたならば絶対復活できる効果』でフェイントをかける。それがサンドリヨンの考えた作戦だった。だが、言うは易し。

(馬鹿な……! 召喚ならまだしも、そのようにして強化するだなんて、特別な技を持っていなければ出来ねえ筈! そもそも、そんな都合よく状況が運ぶなんて!!)
「確かに。私はメダルを貼りつけてて効果をもたらすユーベルコードは持っていないわ。でも……私の絶体絶命、そして私がコインを使う事が出来、貴方を掴むタイミングも掴み方も完璧にこなす事が出来る……そこまで全てが、私がもう既に『想像し、創造した流れ』だとしたら?」
(!?)

 【逆転の法則(ヒロインズルール)】。無敵のヒロイン、つまりサンドリヨンが絶体絶命から逆転するシーンを想像、この発動がレスラー青鬼が大技を発動する前の瞬間に行われていた。そして想像した全ての流れを創造し、この逆転シーンまでの全てを導く極めて強力なユーベルコード。
 一見すれば運命さえも操る無敵のユーベルコードにも見えるが、この手の創造技には能力に少しでも疑念を感じては弱体化するというデメリットがある。ではこれをこのユーベルコードに当てはめるとするとどうなるか。

 疑念を持つ対象、それはこれから起こる全ての未来、そしてそれを果たす自分自身の力。
 『もし違うようになったら』
 『もし自分がメダルの力を引き出せず衝撃をそのまま受けてしまったら』
 『もし自分が敵が油断しているタイミングで敵を捕まえられなかったら』
 自らが描いた全てのシーン、その1つの場面でも『疑念』を抱けば、全てが崩壊する、自身と自身の描いた未来。その全てを信じ抜かなければいけない、かなりハイリスクな技なのだ。

 そして今、彼女はやり抜いた。正義のプリンセスは、自身の未来を信じ抜き、そして今『逆転』を実現させたのだ。

 ついに天井へたどり着く。そして、同時に天井を蹴り、再び下へ降下。激しい上下変化で、レスラー鬼の腕はもう何を掴む事も許されず。


「これでフィニッシュ!! サンドリヨン流、必殺・埋葬落とし!!」


 天井から床へ。その多大なる高低差からの、常識外の『バック・ドロップ』。サンドリヨンは意趣返しとばかりにレスラー鬼の脳天を床へと思いきり叩きつけた。
 その圧倒的な衝撃に、包帯リングも周囲もミイラ青鬼も、全てが纏めて吹き飛ばされていった。




「……妖怪は丈夫と聞いたけど、大丈夫よね……?」

 勢いでやってしまった技に不安を覚えたが、骸魂が消えてそのまま倒れて無事な妖怪を確認し、ほぼ無傷である事に安堵した。

「あれ?」

 その妖怪のポケットから、メダルバトル新聞、と書かれた新聞が落ちて来た。ふと紙面を見れば、そこには『有名メダリスト達に、自身の野望や願い事を聞いてみた』というコーナーがあった。

「……流石にここまでの『逆転』は描いてなかった筈だけど」

 突入前に共有した情報を思い出し、サンドリヨンは新聞記事を広げてみた。記事は多かったが、とある3人の名前で絞れば、そうそう時間はかからなかった。


「『オーシャン大海』は、≪みんなとずっとメダルバトルが出来ますように≫。
 『ロック岩永』は、≪メダルバトル王になって全てのメダリストを部下にする≫。
 『バード羽鳥』は、≪この世界の妖怪全員からあやかしメダルを貰いたい≫。」


 サンドリヨンは考え込んだ。取り込まれた妖怪の欲望や願い。普通ならばこれは取り込んだ側のオブリビオンからすれば何の関係も無い筈。
 だが、それにしてはこの3つ、どれをとっても今回の事件とどこか符合する点があるような気がする。
 更に言えばこの中に1つ、他の2つとある点において違う願いがあるような……。

 果たしてこれは、ただの偶然なのだろうか……?
 サンドリヨンには、この先の未来は流石にまだ想像できてはいなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

リオン・ゲーベンアイン
ok、ならば見せてあげる。
--原初の地母神が司る、創造と慈愛の権能を。

全てを内包して胎動せよ、ティアマト!!

と、ペルソナを切り替えてティアマトのあやかしメダルをユーベルコードで手に入れて行使。

「ワタシは思う。エジプトを起源とするミイラはオリエントの影響を受けていると、そして鬼と呼ばれる幻獣は元は多神教の神性が零落した存在であると」
その両者ともに強い影響力を持つ神性--もといあやかしこそティアマト。

「胎動せよ、11の恐るべき子供達--これで終わり、かな?」
と、11の幻獣が敵のあやかしを倒した後、またもやペルソナを切り替える。



●原初の母、見上げる純白/透明

 一口にミイラ青鬼と言っても、それぞれに得意な事はあり、大概はそれが得意な集団で固まっている。包帯で包囲し捕縛、最終的にミイラにしようとする集団、自らの力で挑み力技を必殺とする集団。
 そして、包帯で縛りタイマンを強制する集団。一見、1対1の正々堂々とした連中にも思える。だが、その実態は、集まりの中では1番悪辣な集団とも言えた。


「ハァ、ハァ……」

 リオン・ゲーベンアイン(純白と透明の二つの無垢を司る弓使い・f23867)は目の前でサイボーグケイローンにより倒されたミイラ青鬼とそのあやかしメダルを見ていた。だが、その表情は疲れが見え、息も切らし始めていた。
 サイボーグケイローンがあやかしメダルに戻る。リオンはすかさずそれを手元に戻そうと取ろうとするのだが……。

「おらぁ!!」

 その寸前、横合いから伸びた包帯がそのメダルを絡め取り、そして取ろうとしたリオンの手に触れた。リオンがそちらを見詰めれば、そこにはサイボーグケイローンのあやかしメダルを手元に引き寄せ、嫌らしい笑いでこちらを見てくる別のミイラ青鬼がいた。

「触れたな?今、確かに触れたな? なら、『あたしとタイマンでメダルバトルしな』!」

 その宣言と共に、さっき触れた包帯が再びリオンの手へと伸びその腕を縛り付ける。1mの包帯はリオンとミイラ青鬼を結び、そしてそれぞれに制約をかける。『1対1、そしてメダルバトルで戦う事』。破った者にはダメージとして罰が与えられる。

「出て来い、レジェンド級! 『酒呑童子』!!」

 ミイラ青鬼が意気揚々と繰り出してきたのは、なんと日本三大化生が1体。あやかしメダルの力故、本人では無いであろうが、それでもその威圧感は凄まじい物がある。

「…………」
「あっれぇ? どうしたんだぁ? メダルだせよーはやくー」

 無言で動かないリオンにミイラ青鬼は嫌らしく催促した。それでも出さないリオンにミイラ青鬼は嗤いながら

「あ、そっかぁ。出せないのかぁ。そうだよなあ。なにせ、さっきからあたしら全員で1人ずつタイマンしかけて、終ったら手元に戻す前に全部ぶんどってるんだからな!!」

 リオンを遠巻きに囲むミイラ青鬼達、現在リオンと結ばれている者含めて全部で12体。最初にリオンを取り囲んだのはもっと多かった。リオンは範囲攻撃で倒そうとしたのだが、そこで素早く先のユーベルコードを仕掛けられてしまった。範囲攻撃しようにもタイマン、そしてあやかしメダルを使用しない攻撃はペナルティが発生してしまう。リオンは1人倒せば後は、と思いメダルバトルに応じたが、そこからが悪辣の極みだった。

「言っとくがズルじゃあねえぞ? 『メダルバトルが決着するまではタイマン』、だ。ならそれまであたしらが包帯を近くに潜ませてても邪魔じゃあねえし、バトル終わった直後なら2対1にだってならねえもんなぁぁ?」

 手元に戻す前にメダルを包帯で強奪しついでに触る。そうして相手のメダルを0にし、最後には必ずバトルができずペナルティを負わせるように仕向ける。メダルバトルシティ状況下である事で発生した、メダルバトル強制条件を利用した、悪辣な集団戦術であった。


「……うん、そうだねー。わたしのてもとには、もう無いな、あやかしメダル」

 ついに口を開いたリオンの言葉。それには、確かに『諦め』の感情が入っていた。それにミイラ青鬼達は自らの勝利を確信し、ゲラゲラと笑い出した。

「ギャハハハハハ!! じゃあメダルバトルも不可能だな!! とっとと喰らいやがれペナルディダメージを!!」


「え? メダルバトルならできるけど?」


 あっけらかん、とリオンは答えた。『何変な事言ってるの?』みたいな顔で。

「な、何言ってやがる!! あやかしメダルが無きゃメダルバトルは……!」
「うん。だから、『今から造るんだよ』。でも、できれば手を煩わせたくなかったから、できるなら手持ちで片付けたかったんだけどね」
「…………はぁああああ!?」

 今コイツはなんといった。今から造る? 確かにリオンはそう言った。

「何言ってやがる、ボスでもない癖にそんな事出来る訳ねえ!!」
(あ、さりげなく情報ゲット。やっぱり黒フード=主催者、かな?)

「ok、ならば見せてあげる。--原初の地母神が司る、創造と慈愛の権能を」

 そしてリオンは地下における天井を見上げる。何かを見詰め、何かに力を願う為に。

「大洋から十一の人界を孕みし大霊母よ、我は人の生きる真のために汝の御業、地母の慈愛と創造の万物をこの手に掴もう」

 其は奉る神言。其は誓う約定。其は恩恵請う願い。

 造り出す、即ち『創造』。そしてあやかしメダルとは妖怪の力を込めた創造物。

 とある女神がいた。忘れ去られた訳ではない。されど、その体を大地とされ、礎にされた創造の母がいた。かの母が全ての創造の源ならば、忘れられ流れ着いた妖怪らに、何か思う所はあったかもしれない。


 故に、その『創造』は当然でもあった。創造の源泉の力があるならば、あやかしメダルを生み出す事が不随されたとしても。


 かちり、くるりと『仮面』が代わる。リオンの中の『純白』が『透明』に。そして天に翳した手の先、そこに光が集約していき。


「全てを内包して胎動せよ、ティアマト!!」


 それが、あやかしメダルとして形成された。


 【大洋に座す母なる龍よ、人界に創の王国を齎せ(マルクト・オブ・ザ・メムアレフ)】。創造の母、ティアマトの地母神と創造神としての権能を顕現し使用するユーベルコード。今回は創造神としての面を強く出し、更には超常存在の力を封印できるあやかしメダルと相性が良かったのもあり、こうして新たなあやかしメダルを創造する事に成功した。

「う、嘘だろ……!? 本当にメダルを作りやがった!!」
「お、落ち着け!! タイマンルールがある以上、やられるのはあたし1人だけだ!! あたしはやられるが、次に手元に戻す前に、お前らの誰かが分捕れば……!」

「あなた達に次は無い」

 静かに、リオンがそう告げる。それは今までの口調や雰囲気とは一変していた。ミイラ青鬼は入れ替わったのかと疑うが、腕を縛っていた以上、同一人物なのは間違いない筈。


 リオンがコインを天に向けて掲げれば、その前にその存在は顕現した。大きな角を掲げ、全身から圧倒的な神気を漂わせた、まさに原初の母。あやかしメダルの容量分の力の為、本来よりは格段にダウンサイズした力だろうが、それでもその差は圧倒的だった。

 何故なら、その姿が現れただけで、酒呑童子はその身の半分が消え去りかけ、そしてミイラ青鬼達も、身体がすくんでまるで動けなくなってしまったからだ。

「な、な、なんでだ、なんで、酒呑童子程の大物がこんな!!それになんであたしらまで!!」
「ワタシは思う。エジプトを起源とするミイラはオリエントの影響を受けていると、そして鬼と呼ばれる幻獣は元は多神教の神性が零落した存在であると」

 古代オリエント、それはエジプト、そしてメソポタミアを含む地域。そして鬼には神から生まれた、あるいは落ちた者もいる。酒呑童子に至っては伊吹童子の幼名から、伊吹大明神の子という説もある。
 つまり、メソポタミアにおける大地の元ならば、それはエジプトにも繋がり、そして神の大元なる母であるならば、異国とはいえ神の子に対しても絶対的優位性を持っていてもおかしくない。

 仮に、オリジナルがそうでなかったりそういったつながりや優位性が無かったとしても、忘れそうだったかもしれないがこれは勝敗ルールの無いノリが命のメダルバトル。それっぽい理屈をこの場で通し切れれば勝ちなのである。

「だ、だいじょうぶ、タイマンがある限り、あいつはこっちに手を出せない。だから――」
「胎動せよ、11の恐るべき子供達」

 リオンがそう告げると、ティアマト神のいる周辺が一瞬泥の海に染まると、そこから11体の存在が現れた。それは伝承にてティアマトが生み出した怪物の軍勢。ムシュマッヘ、ウシュムガル、ムシュフシュ、ウガルルム、ウリディンム、ウームー・ダブルートゥ、ラフム、ギルダブリル、クサリク、バシュム、クルール。どこかで聞いた名前があったかもしれないが他怪物の空似、いいね?
 それらは散開すると、囲んでいたミイラ青鬼達に襲い掛かった。

「な、何してやがる!! タイマンルールに…!!」
「ワタシは思う。創造の母の創造は、行為ではない。当たり前の権能。当たり前の行動。呼吸と同義。つまり、かの子らの誕生は無意識。それが自らの思うままに行動しただけ。母の相手は、あくまであなた」
「ヒッ……!!」

 ミイラ青鬼は凍り付いた。自分はとんでもない相手を選んでしまった。もうダメージなんて受けても構わない、と自ら包帯を解除しようとした、だが。


「あ」



 その後は語るまでも無いだろう。原初の母、そしてその直属の子ら。レジェンド級あやかしメダルだったとしても、鬼とミイラの範疇ならば抗できる筈もなく。

 1分もしない内に、その場には骸魂から解放された元の妖怪達が、まるで母の胸に抱かれた子供のように、安らかな寝顔で眠っていた。


 かちり、くるり。


「これで終わり、かな?」

 純白の言葉通り、確かにすべては終わっていた。

 忘れ去られてこの世界へ流れた妖怪達。母は、もしかしたらこう夢の中で告げる為に、一時でもこの世界へ顕れたのかもしれない。



 わたしは忘れていない。いつの日か、帰っておいで、と。






「あれ、これなんだろう?」

 奪われていたあやかしメダルを回収し、手持無沙汰になり、周囲を探していたリオンはデスクのような所に書類を見つけた。どうやら大会運営用の参加者データらしい。戦闘の余波があったのか、一部が焼けたり破れてしまっているが、一部読める部分が存在する。

「えーっと……あ、あったあった。あの3人の名前! あらら、ほとんど読めないなあ……」

 重要人物と目される3名。そのプロフィールの一部をなんとか見る事が出来た。
 以下の通り。

 『オーシャン大海 種族:人魚 性別:女 特徴:脚の一部に鱗が多い』
 『ロック岩永 種族:ガーゴイル 性別:男 特徴:ウナジに鱗が多い』
 『バード羽鳥 種族:ハーピィ 性別:女 特徴:腕の一部に鱗が多い』

「ふむふむー。あれ? 鱗って……んー?」

 首を傾げるリオン。何かがひっかかっている、という顔。とりあえず他の皆に見せた方がいいか、と残りの敵を倒しに向かおうとした時だった。



 激しい轟音と共に、衝撃と振動、そして目映い光が猟兵ら全員に襲い掛かった。

成功 🔵​🔵​🔴​

大神・狼煙
なるほど、壊されては困るモノがここにある、と

戦場外なら、近づけるな、と叫ぶはず

じゃあ戦場もろともぶち壊して仕舞えばいいよね(にっこり)


巨人の拳で天井っていうか駄菓子屋を破壊して青天井に

続けてメダル【手洗鬼】

地下諸共両手で掬い上げてしまう大型の鬼である

空中へと退路を絶ったら自分だけメダル【ガシャドクロ】へ飛び移り、敵は物品諸共地上へ落とし、とっちらかす

守ろうとした物あらば、そこめがけてメダルをシューッ!

はい、【ダイダラボッチ】です

またしても巨人だよ、幽谷さんが系統揃えろって言ってたからね、仕方ないね

戦場ごと敵をプチッ

敵からのUC?

ガシャドクロと一緒ですが、このデカブツごと投げられるなら、どうぞ?


サエ・キルフィバオム
☆アドリブ絡み歓迎

「顔装飾集団……。私は注目されてないみたいだね、好都合♪」
【ミラード・クローゼット】でミイラの恰好を用意し、【演技】【変装】【コミュ力】【忍び足】【早着替え】【目立たない】【闇に紛れる】【恥ずかしさ耐性】【言いくるめ】でミイラ青鬼側に紛れ込みます

「『アレ』は今どこにあるんだ!?」
『アレ』に興味を持ち、カマをかけ得られた情報から【情報収集】【盗み】【鍵開け】【運搬】【失せ物探し】で奪おうとします

「わわっ、雁字搦めだよぅ」
捕まった場合は『妖狐』を出して対抗しますが、狙いは狐火で包帯を焼き切って脱出することです
【挑発】【おびき寄せ】で仲間が動きやすいように時間をかけて逃げまわります



●探し物は何ですか?

 時間は少し遡る。
 リーダー格が呟いた「アレを壊すな」という発言に対し、2人の猟兵が動き始めていた。




「なるほど、壊されては困るモノがここにある、と。戦場外なら、近づけるな、と叫ぶはず」

 大神・狼煙(コーヒー味・f06108)は猟兵達とミイラ青鬼達の激しい戦闘を部屋の隅から見やりつつ、リーダー格の発言に思考を巡らせていた。
 リーダー格は猟兵達が近づく事ではなく、戦闘の余波で壊れる事を恐れていた。つまり、この部屋の奥の方に隠し部屋があり、そこに在るとかそういう推測よりは、戦闘範囲内のどこかにある可能性がある。

「ですが、こう大量に色々ありますと、ねえ……」

 見える範囲でも、書類に風呂敷に宝箱、アタッシュケース。そして散らばっているあやかしメダル、と。遠くの方には何故かリングのような物も見える。
 この中からそれを探し出すのはこの戦闘での混乱の中では難しいだろう。

「とはいえ、手はあります。敵は『アレ』が壊れると困る。とても困る。それはあの発言から明らかです。よって、答えは1つ」

 眼鏡のブリッジをくい、と上げる狼煙。なんて知的な姿。これは謎を解く名探偵の如く、ロジカルで論理的な解決法が出されるに違いない。



「じゃあ戦場もろともぶち壊して仕舞えばいいよね」




 眼鏡店長、グッドスマイルと共にそう結論した。
 うーむ、テリブル。

「という訳で、まずは下準備といきましょう。
 転移門解放……転送。文字通り、鉄拳制裁をくれてやる……」

 メダル複数枚を準備した後、彼はユーベルコード【古代機械兵器・機巧巨人(エンシェントギア・ゴーレム)】を発動。
 彼の背後の床から、鋼の巨人の腕、守備に徹したあやかしメダルを粉砕しメダリストに貫通ダメージを与えそうなそんな巨大な腕のみが召喚された。
 そして握りしめられた拳は一直線に先刻、別の猟兵が足場として使った後の天井へと飛んでいき。

「究極強打!!」

 全ての地形を粉砕する拳は、攻撃した天井部分だけでなく、狼煙が狙った本拠地部屋の天井を過たず全てに罅を齎し、そしてすぐに全てを粉☆砕した。
 こうなると、本拠地部屋全てに瓦礫が降り注ぎ、『アレ』もミイラ青鬼も猟兵も瓦礫に埋もれてしまうだろう。だが狼煙の狙いはそこではない。

「これはあくまで下準備。巨人の拳は周辺地形を砕く。そうなっているだけの技ならば、『どう砕くか』、くらいは調整や指向性を持たせる事も可能!」

 破壊された天井の瓦礫は全く降り注がず、真上向けてそのまま突き進んでいく。そう、巨人の拳による地形破壊は『まだ終わっていない』。
 故に、その力に瓦礫を巻きこめば、戦闘中の者達へ瓦礫は降り注がずに済む。轟音と衝撃は流石に避けようが無かったが、全体的に概ね猟兵が優勢であり、大きな影響は無さそうだ。
 では、そうなるとこの巨人の力の最終破壊対象とは何なのか。この真上にあるもの……そう、それは1つしかない。

「私が破壊するのは、『駄菓子屋』です! 駄菓子屋クラッシュフィスト!!」



 なんという事でしょう。
 少し前まで、畳が地下に繋がっているだけでのどかでレトロな、どこか懐かしさを覚える情緒あふれる駄菓子屋が、匠の手によって地下から飛び出た瓦礫や途中の地面の欠片で見事に粉砕されてしまいました。畳に瓦、水飴にスナック菓子、ガム等等、全てが空へと吹き飛ばされ、そして不思議な事に真下の空いた穴には戻らず、そのままメダルバトルシティ全域に、まるで流星群のように降り注いでいくではありません。これには町にいるメダリストの方々も

「い、隕石群だああああああ! 妖怪もついに恐竜みたいに滅びるザウルスーー!!」
「これが噂に聞くカタストロフって奴なのかーーーー!!」
「助けてくれえええええええ幽星ええええええええ!!」
「また誰か俺の名前間違えたな!?」

 と皆が叫びをあげています。これには匠もにっこり。



 突然天井が消え去った事に青鬼も猟兵も驚いている中、狼煙はあやかしメダルを構えた。

「これで下準備は完了ですね。では、次の段階に行きましょうか。
 海で手洗う大いなる人。その手で全てを掬い、そして全てを救え! 佇め、『手洗鬼』!!」

 彼があやかしメダルを指で弾くと、次の瞬間には見上げる程の巨人が、駄菓子屋が跡地のある地上すら遥かに超え、直立していた。

「なんじゃこりゃあああああ!!!」
「手洗鬼。海で手を洗い、三里を跨ぐと言われ、最低でも身長3kmと推測される日本の巨人の1種です。流石にあやかしメダルの力では少々小さめになっていますが」
「十分でかいわ!! って、のわっ!!」

 と、手洗い鬼の手が本拠地部屋全てを覆うように両手を合わせ、水を掬うような形で上へと上がった。猟兵も持ち上げられた、と思い構えたが、その身はそのままその場に残っていた。

「手洗い鬼は海で手を洗う鬼と言われます。ですが、普通に洗ってしまえばそれは大いなる自然干渉。津波で港があっという間に全滅するでしょう。
 ですので、伝承から私はこう推測し定義します。『手洗い鬼には、物理干渉を選定する特殊能力がある』と。
 その能力で私は猟兵、それから現在猟兵が手にしている物品を除外しました。
 では、後に残るのは……?」

「ぎゃあああああああ!!!」
「チッ! 全員降りろ!!」
「や、やばい、逃げろ逃げろおおお!!」

 そう、残るのは、本拠地部屋にあった、まだ猟兵が入手していない物品、そしてオブリビオンであるミイラ青鬼達。リーダー格含めいち早く気付いた者たちが慌てて手から降り、本拠地部屋へと戻る。だが、逃げ遅れた者等はそのまま手の上に残り、どんどん上へと上げられていく。腕が天井穴へ到達し、地上へと上昇を開始した事で、横から逃げる事も不可能になった。

「では皆さん、残りのこちらの敵はお任せします!
 ガチガチガチガチと揺れるしゃれこうべ。見上げる程の送られない骸、積み重なりて巨大となる。見下ろせ、『がしゃどくろ』!!」

 続いて狼煙は2枚目のあやかしメダルを使用。再び巨人の妖怪、狼煙が戦った幽谷を思い出す骸骨が直立した。
 これもまた地上部分を越えて直立し、地上への穴に手洗鬼と共に並び立つ姿は中々に壮観でもあった。
 ちなみにがしゃどくろは昭和以降に生まれた妖怪とされており、区分は実は新しい妖怪寄り、かもしれない。
 狼煙は素早くがしゃどくろに飛び移ると、その登りやすい突起や段だらけの骨を器用に伝い、地上へと登っていく。

「ふざけた真似を……!? まさか、狙いは……! 行かせ、クッ!!」

 狼煙の狙いに気付き、包帯で阻止しようとしたリーダー格を他の猟兵がすかさず阻害。その間に狼煙は地下スペースを抜けてどんどん登っていく。



 登っていく途中、天高く上げられていくミイラ青鬼達の声が聞こえてきた。

「まずいぞ! このままじゃ『アレ』まで壊されちまうかもしれねえ! おい、『アレ』は今どこにあるんだ!?」
「そ、そうだな! えっと、『ボスから預かったアレ』は……あ、あった!!」

(ボスから預かった? ならば主催者の大切な物、もしくはパワーアップアイテムでしょうか?)

 想定通りに相手が動いている事を確認しつつ、狼煙は地上へとたどり着く直前に指示を出す。

「手洗鬼、掬った物、全て地上に落してください!」
「それか! よし、あたしがそれを預か……きゃあああああああああああ!!」
「あぎゃあああああああ!!!」
「や、やばい!!」

(? ミイラ青鬼にしてはやけに可愛らしい悲鳴が聞こえたような)

 手を傾けられ、駄菓子屋があった場所の前の通りに当たる場所に物品ごと雑に放り出された、逃げ遅れミイラ青鬼達。
 そしてこれこそが狼煙がここまで準備をし、待ち望んだ瞬間。

(さあ、貴方達はアレが少しでも傷つくのを恐れている筈。そうなれば、貴女達が取ろうとする行動は)

 果たして、複数のミイラ鬼――1体を除いて――が包帯を伸ばし、物品の中に混ざっていた、『鍵のついた宝箱』を包帯で護るように丸め、保護した。
 そのまま物品や戦闘で出た瓦礫、そしてミイラ青鬼達は放り出され、地上に風呂敷からこぼれたあやかしメダルが大量に散らばり、ミイラ青鬼達も体を打ち付けられる。

「くっそ……!! テメエ、何しやが……!!」
「ありがとうございます。何せ、『アレ』がどれかわかりませんでしたから。ですので、戦場の物品を全て壊そうとすれば、絶対にあなた方の誰かが守ってくれる。そう信じていましたよ? まさか、あやかしメダルの夜逃げ輸送用の物の中に混じっていたとは。いやはや、偶然でしょうが『木を隠すには森の中』ですね」
「あ……!!」

 がしゃどくろの上から見下ろした狼煙の柔らかな微笑みに、青鬼達はやってしまった、と顔を青ざめた。
 狼煙の戦場デストロイ作戦の真意。それは、そうすればミイラ青鬼が必ずあからさまに護ろうとアクションを起こす。そうすればわざわざ1つ1つ探す手間など無い、という。
 アレの在処が分からない。なら、在処を知ってて、かつ守ろうとしている連中がこれだけいるのだから、誘導してそいつらに教えて貰えばいい、という方法であった。

「ク、クソが……!! どうすりゃ……!」
「……おい、あたしに1つ考えがある」

 宝箱を護りつつ、それ以上に動かせそうにないミイラ青鬼達がどうすればいいか逡巡したその時、1人冷静に切り出したミイラ青鬼がいた。
 それは、1人だけ包帯を伸ばしていない、ここまでやけに目立たないで皆の意識からも外れていた青鬼だった。

「お前、なんで守ってないんだよ!!」
「わりぃ、丁度アタッシュケースが目の前で邪魔だったんでな……でもそのお蔭で、あたしだけ手が空いてる。つまり、あたしならあの猟兵を足止めできる」

 そう言って、あやかしメダルを構えたミイラ青鬼。それに対し、一瞬眉を潜めた狼煙だったが、何か合点がいったような顔になると。

「ほう? アナタだけでなんとかできるとでも?」
「やんなきゃしょうがねえからな。お前らはそれを持ってボスのとこ向かえ。地下から脱出できたのが行幸だ」
「そ、そうだな! じゃあ、任せるわ!!」

 包帯で宝箱を確保している為、戦闘やあやかしメダルの召喚も難しい他のミイラ青鬼に代わり、1人立ちはだかろうとする青鬼。
 ミイラ青鬼らも特にそこで心配はせず、自分たちの逃走とボスへの救援要請も兼ねたその申し出に即答で従った辺り仲間意識はまるで無い。
 それに対し、狼煙もあやかしメダルを構えて相対。互いににらみ合う狼煙と青鬼。

「さぞかし強い妖怪なんでしょうね?」
「ああ、ド肝を抜かしてやるよ」

 ニヤりと笑い、そしてあやかしメダルを放つのは青鬼が先だった。同時に宝箱を包帯でくるんだまま、抱え、ミイラ青鬼達が走りだそうとした。




「ただし、そっちのだけどね」





 発射されたあやかしメダル……それは、狼煙とは逆。逃げようとしたミイラ青鬼達の方へと発射された。

「はぁっ!?」

 青鬼たちが思わず足を止めた時、あやかしメダルから妖怪が現れた。それは『鬼』でも『アンデッド』でもなく、狐の耳と尻尾を生やした可愛らしい少女、『妖狐』であった。

「な、なんでそんなメダル!?」
「妖狐、周りごとくるんでる包帯を燃やして!」

 口調が一変した青鬼が命令すると、妖狐は真上から狐火を逃走しようとした青鬼達向けて発射!

「ぎゃああああああっちいいいい!!」

 ただでさえ際どい包帯が燃えていき、そして宝箱をくるんでいた包帯も全て燃え、護られていた宝箱が露出。
 炎で確保どころじゃない青鬼達はキャッチできず、宝箱が通りに落下した。

「やっべ、早く箱を」

 誰か拾え、という間もなく、その宝箱を青鬼達の間を掻い潜り、あっという間に宝箱を拾い上げ、またその間をぬい駆け抜けた人物の手に渡った。
 それは今までしていた、ここまでは恥ずかしさへの耐性で凌いでいた包帯を脱ぎ捨て、元々の自分の服にあっという間に早着替え。宝箱を悠々と掲げ、そして最後に顔のメイクや角の装飾を剥ぎ取り、緑縁の眼鏡を掛け直し青鬼達に振り向いた。
 その顔を見て、青鬼の1人が思い出して叫んだ。

「ああああああああ!!! お、お前、黒河童女をまぐれで倒した、雑魚狐女!!!」



「壊されると困る『アレ』。有難く頂戴したわ。というか、そういう認識だったのね。道理でノーマークだったわけね」

 正体を現し、風に揺れるフォックステイル。ここまで完璧にミイラ青鬼に紛れ込んでいた、サエ・キルフィバオム(突撃!社会の裏事情特派員・f01091)その人、であった。

 彼女もまた『アレ』に目を付けており、特定と確保の為に【ミラード・クローゼット】でミイラ青鬼と同じ衣装を用意。
 後は戦闘の混乱に乗じて変装と演技の腕でミイラ青鬼達に紛れ込み、アレを護る振りでアレの正体を特定しようとしていたのだ。

 誤算だったのは、多数の中にいて、且あまりに変装、演技、気配を目立たせない腕が良かった為、手洗鬼の選定すら騙せてしまい、一緒に地上まで掬い上げられてしまった事。
 それもこうしてアレの確保に繋がった訳だから、怪我の功名ではあったが。

「さっきはありがとう。咄嗟に合わせてくれて、敵に対しての対応をしないでくれて助かったわ」
「いえいえ。リーダー格ですら、私達を『顔装飾集団』と呼び、その後も誰も『猟兵』とは呼んでいない。つまり、彼女らは猟兵を知らないもしくは私達がそうだとわかっていない。
 その状況で、リーダー格でもないのに1人だけ『猟兵』と呼び、その上包帯も発射していないとなれば、察しはつきますよ」

 土壇場のアドリブで合わせ、サエのあやかしメダル発射を邪魔したりしないでくれた狼煙に礼を言った。
 それに対し、ミイラ青鬼達は怒りをあらわにメダルを構え臨戦態勢に入った。

「テメエら!! よくも舐めた真似を!! だが、まだだ。まだ終わっちゃいねえ! テメエらを倒せば」
「無理ね」
「無理ですね」

 きっぱりと2人に合わせて言われ、戦いに入ろうとした青鬼達が、突然影に覆われた。それに突然存在した、とても大きな存在に。
 そして気付く。それは、がしゃどくろの上の狼煙。その手に、さっきまで構えていたはずの3枚目のあやかしメダルが、存在していない事に。

「私が宝箱を奪って、正体を晒して貴方達の目をこっちに引き付けてる間に、もうトドメの妖怪は召喚されたのよ?」
「見事な意識の『おびき寄せ』、ありがとうございました。それでは終わりにしましょう。
 山や田沼を生み出す、国作りの原初の巨人! 世を乱さんとする者達に、鉄槌の足跡を振り下ろし給え! 『ダイダラボッチ』!」

 頭上に存在する、今までの妖怪を優に越える圧倒的な巨人。足跡で田沼を作り、時には人も救う日本国最大の巨人、『ダイダラボッチ』。
 確実にレジェンド級は間違いない、その圧倒的威容が今、空からその脚を青鬼達向けて振り下ろす。

「「「「あああああああああああああ!!!!!」」」」

 あまりに大きな足に、逃げようにも間に合わない者。破れかぶれに包帯を放ち、投げようと試みる者。其々であったが。



 プチッ、とそれぞれが平等に大通りの一部ごと見事に踏み潰されることになった。ちなみにこんな大質量が踏めば、地下にも衝撃が響きそうだがそこは大地への干渉ができるダイダラボッチ。恐らく影響は出ていないだろう。


「流石に投げるにはサイズが無理有るわね」
「でしょうね」
「しかし……巨大な妖怪ばかり、よく揃えたものね」
「幽谷さん曰く、系統を統一すればより深く専門的にその系統を理解する事が出来る、との事でしたので」



「私としては、本当に壊してもいいと思うのですがね?」
「中身を確認してからでも構わないでしょ? 相手にとって壊すと困るものが、こちらにとって壊すと嬉しい物、とは限らないし……っと、開いたわ」

 持ち前の鍵開け技術でかけられていた鍵を解除し、サエは宝箱の蓋を開けた。破壊はとりあえず中身を改めてから、という話に乗った狼煙も覗き込む。
 そこに在ったのは、いくつかのメダル……あやかしメダルだった。

「おや? てっきりあやかしメダル輸送物の中に紛れていたと思いきや、本当にあやかしメダルが入っていたんですね」
「そうみたい。種類は……『クラーケン』『スキュラ』『カリュプディス』……え、この種類って……」
「ふむ。確か、『ボスから預かっていた』と言っていましたね。愛用の物ならば預ける意味が分かりませんし、これはメダルに変えられた方の物なのでは?」
「……逆、も有り得るかも」
「逆?」

 顎に手をやり、考え込んだサエが思考を纏めつつもそう口にした。

「愛用だからこそ、どうしても身体が使う事を拒否した、っていう可能性。勿論、まだどちらかは、他の情報、そして当人に相対してみないとなんとも言えないけど、ね」

 いずれにせよ、『アレ』はこうして確保された。これを果たして破壊するか、それとも確保しなんらかの形で利用するか。その決定はまだ、下すべきではないようだ。
 派手に駄菓子屋も吹き飛んだ以上、主催者がここに来るのは時間の問題。後は下の鬼達をその前に倒しておくべき、という事。そうして二人は地下の状況を確認すべく、大穴の方へと歩みを進めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

神代・凶津
よし、早速メダルバトルといこうじゃねえかッ!
「・・・え?相手がそんな応じてくれますか?」
おう、相棒。
敵もメダリストだ。
この言葉を言えばバトルに応じえないぜ。

おい、メダルバトルしろよ。

俺はこの『鷹天狗』のメダルを使う。
そして、相棒の破魔の霊力をメダルに流し込み『鷹天狗』に破魔属性を付加するぜッ!

破魔の霊力を流し込んだらメダルが耐えられる筈がないって?
あやかしメダルってのは封じられた妖怪の力を使う、いわば式神の一種と言ってもいい。
ウチの相棒は式神使いとしても一流でな。
式神の応用でそれが可能なんだよ!

魑魅魍魎に破魔の暴風は猛毒も同然だろ?
纏めて消し飛びなッ!


【技能・破魔、式神使い】
【アドリブ歓迎】


御門・結愛
ユニコーンと契約し、ユニコーンメダルとアリスナイトの力で変身して戦う正義の味方を自称する少女。
演技がかった口調や態度はカッコいいお嬢様のイメージらしい。

「メダルの力を悪用し、罪もないあやかし達を傷つける非道……見逃すわけにはいきませんわ!」
あやかしベルトから一角獣のメダルを取り出し、手に握り
「『ユニコーン!』」
【アリスナイト・イマジネイション】を使用。ユニコーンのイメージから作られた純白のドレスを身に纏い、聖剣を鞘から抜刀する。
「行きますわよ」

ミイラが伸ばした包帯は【破魔】の剣で命中する前に切り裂きます。
「無駄ですわ。闇属性のあやかしメダルの能力は、光属性のユニコーンには効果が薄いのよ!」


鵜飼・章


僕顔装飾してないんだけどな
よくその顔整形?とは言われるけど

成程…それはレアあやかしの餓鬼大将だね
アンデッドでありながら鬼の特性を併せ持ち
万物を貪りつくす餓鬼の王…
だがそこはジェノサイダー鵜飼
片手とノーマルあやかしで十分だ

まず【恐怖を与え】るほどかっこよく【投擲】でメダルを投げる
この時点で敵メダリストに精神的敗北感を与える
選択殺人鬼は『毒入りシチューおじさん』
おじさんはお腹をすかせた子にとてつもなく美味しいシチューを振る舞う
でも中には毒が入っている…

アンデッドだから毒で回復すると思った?
残念だったね
僕は既に『おじさんが場に出た時毒をポーションに置換する特殊効果』を発動済…
きみが勝つ要素はゼロだ



●闇を切り裂き、光を齎す救世主/剣持つ者(セイバー)


 時刻は、巨人の拳により天井が破壊されるよりも前にまでまた遡る。


 猟兵とミイラ青鬼との激戦が繰り広げられる地下本拠地。猟兵により倒されていく青鬼も増えてきている、その最中。ミイラ青鬼達の目を避け、戦場を駆け抜ける男がいた。

「これが確かなら、やはりあの鬼は……」

 黒き外套を翻し、颯爽と駆ける男、それはジェノサイダー鵜飼……もとい、鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)の姿だった。

 彼は此処でもまた、暫くは戦闘を避け、情報収集に徹していた。というのも、最初に猟兵らが見たリーダー格の鬼、仮称リーダー鬼がどうも気になったからだ。勘の部分もあったが、他の青鬼とはまた違う気がした。それ故、ボスの情報も探しつつ、リーダー鬼についても情報を洗っていたのだ。

 そんな折、倒した妖怪から情報を手に入れたとある猟兵と出会い、そしてその情報元の写しを貰った時、その答えは見つかった。それは、不完全ながら十分な情報のあった参加者データ……というよりは、有名メダリスト達のプロフィールデータだった。ほとんどが参加者なのだから間違いではないのだが。
 このデータと自分が見たある光景から、1つの推理を立てた章。そしてそれが正しいならば、恐らくメダルバトルにおいてはリーダー鬼は青鬼達の中で間違いなく最強だろう。召喚にしても強化にしても、あやかしメダルを知り尽くしたその実力は油断できるものではない。だがそもそも、この推理も決定的証拠がある訳ではない。

「推理を裏付ける。ミイラ青鬼を全員倒す。……両方同時にやらなければいけないのが、ジェノサイダー鵜飼の辛い所だ」

 とはいえ、章には1つ、確認する策が思い浮かんでいた。だがそれを実行する条件が、章には備わっていなかった。その実行条件を満たす者を見つけなければ――

「おっと」

 その時、目の前を派手に吹き飛ばされたミイラ青鬼が横からそのまま吹っ飛んでいった。それをあっさりと急停止でやり過ごす。

「あ、わりぃ!今の俺がぶっ飛ばしたんだ、怪我ないか?」
「ああ、大丈夫さ」

 巫女服に赤い仮面を被った少女、だがその口調は男性的な猟兵が駆け寄って来た。章はそれに軽く手を振り答えた。と、その視線が猟兵の手元に釘付けになる。

「? コイツがどうかしたか?」

 章の顔に笑みが浮かんだ。見つけた、と。

「キミ。すまないが、ちょっと僕に付いてきてくれないか?」
「ん? もう相手してる奴はいないから構わねぇが、何しにいくんだよ?」

「なあに。恐らくここでは最強の鬼の、『鬼退治』さ」


 章が見つけたその猟兵、それは神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)。青鬼だらけの戦場ではある意味とても目立つ、『赤鬼』の仮面を付けた巫女であった。



 そして時間は、天井が破壊された時点へと進む。

「きゃっ!! す、凄い……あんなに大きかった天井が、すっかり無くなってる…!」

 天井の破壊による轟音と衝撃、それにウェーブヘアの少女、御門・結愛(聖獣の姫騎士・f28538)は驚き、そしてその破壊の凄まじさに唖然とするしかなかった。
 それも仕方ない。彼女はUDCアースにて普通の生活を送っていたが、あるメダルとの出会いで猟兵としての生活に身を投じたのだ。この依頼が猟兵として初陣であり、まだまだ場慣れしていない以上、こうなるのも仕方ないだろう。

「ふざけた真似を……」

 なんとか落ち着きを取り戻そうとした時、すぐ近くからの声に振り向くと、そこには思ってもいない相手がいた。

(あ、あの青鬼、間違いない! どう見てもリーダー格だった、強そうな青鬼!)

 それは最初に啖呵を切った、腕に鱗を持つリーダー鬼だった。まさかこんな近くまできていたとは気づいていなかった。
 彼女は憎々し気な顔で、あの破壊を齎したであろう男性を見ていた。
 その男が新たに召喚した巨大な骸骨に乗って上に向かおうとしているのを見たリーダー鬼は顔色を変える。

「!? まさか、狙いは……!」

 リーダー鬼が苦い顔をしながら、男に向けて腕を向けるのが見えた。結愛は察した。さっきからミイラ青鬼らが腕を向けて包帯を発射しているのは見ていたから、リーダー鬼が男を包帯で捕縛しようとしているのだ、と。男は背を向けて上へ登ろうとしており、リーダー鬼には気づいていない(ように少なくとも結愛には見えていた)。

(ダメ……ダメ!!)

 周りには、自分しかいない。
 男は、気付いていない。
 そして男はさっき言っていた。『皆さん、残りのこちらの敵はお任せします』。

 きっと、特別自分に対して向けて言った訳ではない。でも、これがきっと『猟兵』なのだと、彼女は思った。自分のぞれぞれの役目を、この混乱の戦場で成す。それはまさに、彼女が憧れる正義の味方達のような姿だった。

 ならば、ならば……ここでやるべきことは、決まっている。自分しか、いないのなら!!

「行かせ」
「やあああああああ!!!」

 包帯で地上に上がろうとする彼を捕縛しようとしたリーダー鬼。だがそこに、アリスランスを構えた結愛が文字通り、『横槍』を入れた。助走からの思い切りのランスチャージ。その不意打ちと気迫はリーダー鬼に咄嗟の回避を判断させるには十分で。

「クッ!!」

 回避には成功したが、咄嗟の対応とそして場所を移動してしまった事による姿勢の狂い。体勢を整えるまでは10秒も無かった。だが、その時間は、狙われていた男が骸骨を登り、見えない場所まで移動してしまうには十分の時間だった。

「はぁ、はぁ……!」

 一方、自身もあまり時間の無い中、阻止するにはとにかく突っ込むしかないと判断し突撃した結愛もまた、制動してリーダー鬼に向き直る。だが、その息は早くも切れている。何せこれは事前から覚悟を決めたり計画を立てた訳ではない、完全なアドリブ対応。緊張が出てきても仕方は無い。

「てめぇ……!! よくも、邪魔してくれたなぁ!!」

 それに対し、怒髪天となり拳を構える青鬼。恐らくは『アレ』を狙い、物品を全て掬い上げてそれを狙って昇って行った男。彼女としては壊されでもしたらボスの怒りは免れない以上、あの男の排除こそが目下の最優先であった。だが、それをコイツは邪魔した。そして更に忌々しい事に。

「そこをどけ!! こうなったらその骸骨の足を砕いて足場を崩す!! ミンチにされたくなけりゃ、どけガキ!!」

 視界外に逃れられた以上は包帯で捕縛はできない。だが、目の前にある骸骨。巨体なので全体の破壊はできないが、直立する脚。その健のあたりだけでも破壊、最悪、足場を崩せれば到達を阻止できる可能性がまだ僅かにあった。だが、その途中にまで立ちはだかったのが結愛であった。恐らくは偶然ではなく、考える限りに考えての、意図的な位置取り。
 故にリーダー鬼も渾身の恫喝で脅し倒した。普通ならこんなのは時間の無駄だが、リーダー鬼は一目で見抜いていた。こいつは新米だ、と。戦場に出て数回、もしかしたらこれが初陣すら在り得る、と。それは取り込んだ妖怪が、新人も玄人も見てきたからこその見抜きだったのかもしれない。
 だからこその恫喝。新兵ならさっきは咄嗟に出たとしても、恐怖に押し負ければどいてしまうだろう。リーダー鬼はその可能性を考え、脅しつけたのだ。だが、それは流石に希望的観測が過ぎた。

「ダメ、ですわね……!」

 少女は立つ。憧れた正義の味方は、こういう場面でどうする。毅然と、悪の前に立つ。悪に道など譲りはしない。どの道もう後戻りはできない。ならば突き進もう。自分も、生半可な覚悟でここに来たわけではないのだから。

「あやかしメダル……わたくしにとっても、それはとても大事な物。わたくしの全てを変えて、道を開いてくれた切欠の存在なんですの。友であり、共に戦う仲間ですわ」
「なんだと……!? てめえ、メダリスト!?」
「いいえ、メダルバトルは未経験ですわ。けれど、彼らの気持ちは分かります。あやかしメダルを使い、そしてあやかしメダルと共に戦い、勝つ。妖怪であってもその気持ちと嬉しさは同じ筈……だからこそ!!」

 結愛は槍をリーダー鬼に向けた。もう震えは止まった。正義の味方、ノブレスオブリージュを掲げる者として、覚悟はここに定まった。そう、間違いの筈がない。

「メダルの力を悪用し、罪もないあやかし達を傷つける非道……見逃すわけにはいきませんわ!」

 彼女にとって愛着あるあやかしメダルという存在を利用し、同じくメダルを愛するメダリスト妖怪、そして彼らと共に在るあやかしメダル全てをも利用した主催者とその仲間達。悪党らに感じた、憤りと止めようとするこの心。決して、間違いの筈が無いのだから!



「共に、有る……メダル……仲間……グッ!!」

 来るなら来い、と構えた結愛の目の前で、予想外の事が起きた。結愛の精一杯の啖呵を聞いたリーダー鬼が、苦しそうに頭を抑えたのだ。今彼女が言った言葉、その中に何か地雷があったかのように。

「わ、た……違う!! あたしは、ミイラ青鬼だ!! この世界に、やっとたどり着いた……メダルなんて、知るか!! てめえの正義も知るか……!! ボスについていくしか、あたしには無いんだよ!!」

 必死な形相でそう叫んだリーダー鬼が、再び腕を構えて結愛に大量の包帯を発射した。避けてしまえば、巨大骸骨の足が捕縛されてしまう。此処は、メダルを取り出して対応しようとする。だが、包帯の速度は速く、使用前に腕を――。


「させっかよ!!」


 それは再びの横入りから、ジャンプから結愛の前に飛び込んできた、赤鬼面の巫女。それが薙刀を振るい、包帯を全て切断し、斬った切れ端すら消滅させてみせたのだ。

「な!? 何しやがった!!」
「なあに。こちとら霊験新かな、『霊鋼の薙刀』だ。魔を断ち穢れを祓う刃だぜ。なら、ミイラに青鬼なお前の包帯、纏めて捌けない方が嘘だろうがよ」

 薙刀をくるりと回転し、リーダー鬼に構える。それは紛うことなく、神代・凶津であった。リーダー鬼を見つけた彼は、すかさず結愛との間に割って入ったのだった。そして凶津がいるという事は、当然彼もいる。

「大丈夫かい? よく彼女の妨害を止めてくれた」
「あ……」

 結愛も声を掛けられやっと、傍に黒い服の男性、章がいる事に気付いた。彼の言葉から溢れる、その大いなる『優しさ』に、緊張が一気に解けていくのを感じた。

「くっそ!! 顔装飾集団が、揃いも揃って!!」
「俺は御覧の通りだから、否定しねえけどな?」
「僕顔装飾してないんだけどな。よくその顔整形?とは言われるけど」

 ぞろぞろと集まって来た敵に対し、毒づくリーダー鬼に対し仮面をつけている凶津は不敵に、章は冷静に返す。その余裕の態度に、結愛は彼らの経験の高さをも感じ取っていた。

「もうあの骸骨を壊しても無駄だろうな……こうなったらてめえら纏めて捕まえて……!!」
「おっと、待ちな。その前に、俺の今から言う言葉を一言だけ聞きな!」
「ハッ、誰がそんなもん」

 凶津の言葉など無視し、リーダー鬼が包帯を一斉に放とうとする。結愛はごくりと唾を呑む。まさか、何か敵を一瞬で倒す言霊のようなものまで持ち合わせているのでは、と思って。

 そう、それはここに来る前に、章とも打ち合わせておいた言葉。彼らが望む状況に持っていく為に、『いけるよな!』『ああ、いけるさ』とお互いに確信しあった、決定的な言葉。




「おい、メダルバトルしろよ」



 あまりに、あまりに自信満々に放たれた言葉に、場の空気が一瞬で凍り付いた。結愛に至っては、まさかここで出た言葉がただのメダルバトルへの誘いだった事でフリーズしてしまっていた。
 これには凶津の使っている肉体である桜も、心中で嘆息するしかなく。

(ほら、だから私はどう考えてもそんなの応じずに攻撃されるだけだって……)
「チッ、仕方ねえ。いいぞ」
「えええええええええええええええ!?」(ええええええええええええええ!?)

 すんなりと攻撃態勢を解除し、懐からあやかしメダルを取り出そうとするリーダー鬼の行動に、結愛と桜は揃って驚愕の叫びをあげた。(桜の声は外には出ていないので実質は結愛のだけだが)

「当然だろ、メダリストならな」
「当然だね、メダリストだからね」

 そして渾身のドヤ顔にしか見えない、凶津と章の男子(?)組であった。目に見えての性格や口調はほぼ正反対なのだが、メダリストのノリへの理解の深さで大分シンパシーがある二人だった。

(尤も、これもまた1つの試しではあるんだけれどね。メダルバトルの誘いに応じた。つまり、それは彼女の本能がそれを望んだという事だ)

 そんな章の内心を余所に、リーダー鬼は失笑する。

「言っとくが、あたしのあやかしメダルも、それを扱うスキルもてめぇらに負けない自信がある。だから受けてやっただけだ。それに、そっちが望む方法で叩きのめしてやった方が、鬱憤も晴れるって物だからなぁ!!」
「上等だ。よし、早速メダルバトルといこうじゃねえかッ! おい、手筈通り、サポート頼むぜ」
「ああ。構わない。キミ、こちらは複数バトル形式を申し込む。メダル数は同じ。だが、そちらは1人になるから拒否する事はできるが」
「ハッ! 構わねえよ! こっちもイチイチ順番にやってくのも面倒くせえ! 纏めて相手をしてやる!!」

 そう言って、あやかしメダルを構えて凶津の横に立つ章。と、背後の結愛を振り返ると優しく声をかける。

「君はどうする? 僕らに任せておいても構わないが……君も、譲れない物があるんじゃないかな?」
「あっ……」

 見透かされているようなその言葉に、結愛は懐のメダルを握りしめて思い出す。ここで任せてしまっては、まだ自分は心の底からやりきりはしたと思えないのでは、と。そう思い、気付いた時には前を見据え、章の横に並び立っていた。

「当然ですわ! 以前からメダルを持っていた者として……メダルバトルも、受けて立つつもりでしたもの! 尋常に、勝負ですわ!!」
「へえ。ここに来る前から、って事かよ。そりゃあ……」

 新人な印象を感じるからも、戦いに賭ける心意気を確かに感じた凶津は、ちらと章とアイコンタクトする。どうやら章も『そのつもり』だったようで、涼やかな微笑みと共に頷いていた。

「と言う訳だ。3対3の形式を申し込む。更に君が不利になってしまったけれど?」
「何度も言わせるんじゃねえ!! 全員纏めて、ぶちのめす!! 来やがれ!僕ども!」

 章の改めての申し出に、リーダー鬼が3枚のメダルを放り投げる。
 こうして、3人の猟兵たちの共同メダルバトルが始まった。



「召喚!! 『餓鬼大将』! 『茨木童子』!」

 リーダー鬼が召喚した2体の妖怪。腹の膨らんだ鬼、隻腕の鬼。そのどちらからも、高い妖気を孕んでいるのが三人とも感じ取る事が出来た。

「流石ここの筆頭だ。ビッグネーム集めてくるじゃねえか!!」
「あの、茨木童子は書物で拝見してそれとなく理解しているのですが、ガキ大将、というのは威張っている子供の……?」
「いや、その単語の由来だね。アンデッドでありながら鬼の特性を併せ持ち、万物を貪りつくす餓鬼の王……どちらもレジェンドに当たってもおかしくないくらいのレアあやかしだ。そう簡単に勝てる相手、ではないな……だが妙だね。1体出し忘れているようだが……?」

 確かにこの場には2体しか出ていない。その章の問いに、ミイラ青鬼は不敵に笑う。

「ハッ。確かにメダルバトルとは言ったぜ? 確かに普通はトリプルバトル形式だが……こういう形式は知らなかったか優男?」

 そう言って、ミイラ青鬼はもう1枚メダルを取り出すと、それをなんと大きな胸の間に挟みこんだ。

「!?」

 そういうのも慣れていない結愛が赤面するのを無視し、リーダー鬼が僧侶のような服を纏い、自身の周りに大量のスケルトンを召喚した。

「2体のメダル、そしてもう1枚でメダリスト自身を強化し自分自身も戦う……これが、ラッシュメダルバトル形式だ!!」

 ラッシュメダルバトル形式。1枚のメダルで自身を強化した妖怪が、残りのメダルと共に前線に並び、自身も前に出て戦いつつも指示を行う珍しいバトル形式である。ユーベルコードでもメダルを貼り効果を付与するものがあるが、妖怪の中にはそのようにメダルで強化できる術を使える者が存在しているらしい。

「成程……そういった前線思考の形式、確かに地上でも聞き覚えがあった」
「というかおい!! どこが2体だ! スケルトンのメダルどう見ても10枚以上は出してるだろ!」
「いや、ルール通りだよ。そうだろう? 僧侶の服を纏い、多数のアンデッドを統べる者……君の3枚目はずばり、『リッチ』。そうだね?」
「正解だ! つまり、これは妖怪能力の範疇。ズルでもなんでもないって訳だ!!」

 あくまでメダルとしては3枚使用している。スケルトンの大群はリッチの能力によるもの、という事のようだ。

「さて……となると、こちらからも1人、強化の状態で出さないといけない訳だが」

 そこで章は結愛に目をやった。結愛はむしろ、望むところだ、という顔をして見せた。

「ご安心を。むしろわたくし、その方が性に合っております!」

 そうして彼女はメダルを掲げる。描かれたるは、2人も知る有名な獣。

「聖なる一本角の獣、我が想像の力に依りて、闇を祓いて共に正義を為さん!! 『ユニコーン』!!」

 そうして彼女に、ユニコーンメダルの力、そして彼女のユーベルコード【アリスナイト・イマジネイション】による鎧創造が合わさり、聖なる剣、そして純白のドレスを顕現し彼女に装備される。これこそが、聖獣の姫騎士としての、彼女の本当の戦闘形態であった。


「はは、美しく、そして勇猛なる姿、だね。そんな君の晴れ姿を見せられては、ジェノサイダー鵜飼としては負けてはいられないな。それはもうレアあやかし達をまるで金にあかせたコレクターの如く並べ立ててくれたが、ならば僕はそれをこの片腕とノーマルあやかしで攻略して見せよう」
「なんだとぉ!?」

 さりげなくまた決めポーズを取り、リーダー鬼を激昂させる煽りのような発言をしつつ、章はメダルを構えた。
 そのポーズを見ただけで、他3名にはゾクリと背筋が凍るような感覚が奔った。それまでは物腰柔らかな優し気な男の印象だったのが、今この時だけ、恐怖を刻みつけられるかのような。

「『腹ぺこさんにはシチューをごちそう 美味しい美味しいそうだろう
  天国に行きそう ほっぺが落ちそう どちらも正解 なぜならば
  シチューに入れた隠し味 ころりと死んじゃう毒ひとさじ
  おじさん おじさん 今日も行く ごちそうしようと今日も行く』
  さあ、ジェノサイドタイムだ。 『毒入りシチューおじさん』!」

 童謡を思わせる口上と共に、華麗なる投擲フォームでメダルを投げる章。そしてメダルから現れるのは、シチュー鍋をかき混ぜる一見優しそうなおじさんだった。投擲の姿から召喚されたおじさんまで、周囲に刻まれ続ける恐怖の印象に、結愛もリーダー鬼も顔色を悪くし、おじさんから目を離せなかった。

「チッ、あたしがビビってるってのか……!? そんな訳、ねえ!」
「大丈夫、大丈夫、あちらは味方、あちらは味方」
(事前に聞いてたからこっちは狂気への心構えの応用で平気だけど、本当恐ろしい効果だな……)

 事前の打ち合わせで章のユーベルコードによる恐怖を与える力の増幅を聞いていた凶津だけが恐怖に囚われず、そして、今行われている章の『仕込み』をスルーする事ができた。


(さて、じゃあ恐怖でアイツの精神を揺さぶった所で……)

 シチューおじさんが懐から取り出したとても色が毒々しい何かを入れていい笑顔でかき混ぜ始めたところで、凶津は使用するメダルをぐっと握り込んだ。そしてそのまま掲げ、さりげなく自分もまたここで『仕込み』を済ませておく。
 そしてそこで、ついにここに自分が連れてこられた、一番の役目を果たすことにした。

「葉団扇片手に山越え森越え谷を越え!巻き起こす風は千里も渡る! 空を舞い飛べ!! 『鷹天狗』!!」

 現れたのは背中の翼に山伏の服装、そして鷹の頭、手には葉団扇。大いなる風を起こし山に住まう、鷹天狗の姿だった。

「なっ……!? 鷹、天狗……うっ!!! お、お前は……わた……いや、あたしが、乗っ取った時、捨てたはず……グッ!」

 その時、リーダー鬼が少し前のように、また頭を抑えた。その視線は凶津の召喚した鷹天狗に注がれている。

「……おい、こりゃ、そういうことなのか?」
「そうだね。推理はもうほぼ当たったと思っていい。それに、これは僕も想定外だったが、もしやそのメダルがそもそもそうかもしれない」
「そういや、アレ、この町で拾ったんだったな……こんな事あんのか……?」

 リーダー鬼の反応を見て、凶津と章がひそひそと話しているが、事情がわからない結愛は首を傾げて見ているしかなかった。



「はぁ、はぁ……チッ! よくもまあ今のだけで何度も揺さぶってくれやがったな!!」

 不調が治ったリーダー鬼が3人に向き直る。3人はひそひそ話をしていたようで、リーダー鬼の復調を見るや、離れて陣形を組んだ。それは結愛をやや後方、シチューおじさんと鷹天狗をその前に布陣する陣形。
 対して、リーダー鬼も自身を後方、前方には大量のスケルトン、その中に餓鬼大将と茨木童子が混ざった大軍陣形。有利不利は数からいっても明らかである。

「それじゃあ、バトル開始だぜメスガキ!!」
「尋常に勝負、でしてよ!!」

 お互いの宣戦宣言と共に、先手を打ったのはリーダー鬼側。リッチの力としてスケルトンの大群が一気に突進。その中を更に涎をしたらせた餓鬼大将、隻腕を灼熱に燃やす茨木童子が突っ込んでいく。一気に大軍で押し潰して終わらせようと言うのだろう。

「当然、そうは行きはしない。さあ、毒入りシチューおじさん! シチューを振舞うお時間だ!! 絶対シチュー給仕!!」

 それに対し動いたのは章だった。シチューおじさんが煮込んでいた鍋を思いっきり、敵の大群の上目がけて『そぉい!!』と言わんばかりに中身をぶん投げたのだ。シチューの塊が空に飛び散る。

「ハッ!バカか!そんなもん落ちる前にてめえらを殺して終わりだ!!」
「あんたこそ、ラッシュバトルだって事忘れんな! 鷹天狗! 風でシチューをばら撒いて、口に捻じ込んじまえ!!」

 次に動いたのは凶津。鷹天狗が団扇を振るえば、風が巻き起こり、それがシチューを拡散。広い範囲のスケルトンへと次々に降り注ぎ、そして餓鬼大将、リーダー鬼への口へと過たず口に入った。それをリーダー鬼は止めはしない……むしろ笑った。

「ギャハハハハハ!! 何がジェノサイダー鵜飼だ、基本的な戦法ミスだ! あたしだってソイツは当然知っている! だがな、茨木童子以外、あたしの妖怪は全部アンデッドだ! 毒なんざ効く訳ねえだろうが!」

 既に死んでいる者に、生物に対する毒は効かない。それは基本法則であり、常識とも言えた。だが

「それはどうかな?」
「何…………ウグッ!?」

 章が静かな笑みでそう呟くと同時、リーダー鬼が苦しそうにし、餓鬼大将もまた膝を付き、スケルトンに至っては今ので半数ほどが消え去ってしまった。

「ば、ばかな……毒が、効くはず」
「違うさ。逆、なんだよ。『毒じゃないから効いている』なのさ。実はボクは召喚時点で、トラップ、『ジェノサイダー鵜飼の優しきすり替え』を、発動していたのさ!!」
「「優しきすり替え!?」」

 気づいていなかったリーダー鬼と結愛に章は解説した。

「皆が恐怖により視線を、現れたシチューおじさんに釘付けにされたその時。ボクはシチューおじさんがポッケに仕込んでいる毒薬を、目にもとまらぬ早業で、すりかえたのさ……僕の溢れる優しさの表れ、『ポーション』にね!!」
「ポーション……だと!?」

 そうして章の印象が、また一変する。周りにとても伝わる、溢れんばかりの優しさの印象が。ああ、もうこんな優しさなら、毒くらいポーションに変えちゃうよね、優しいもんね!

「くそ、その優しさが、アンデッド達を逆に蝕んだって事か……!!」
「す、凄いですわ! 優しさがあふれ出すぎて、背中にもはや後光が見えますわ!」
「フッ、ジェノサイダー鵜飼は時には光に包まれるのさ。ちなみにそのすり替えも、投げた腕と同じだから宣言通り片腕だけ使ったよ」
(ユーベルコードすっげえ)(本当です)

 これまた事前に聞かされていたので、冷静に見れている凶津と桜であった。

「クソ!だが、茨木童子はアンデッドじゃねえ!そのまま残ったスケルトンと突撃しろ!!」

 そう、茨木童子はアンデッドではない。残存していたスケルトンと共に、隻腕を滾らせ突撃していく。

「当然そこも考慮してるぜ。だからソイツだけ、ポーションシチューを外してやったんだからな!」

 凶津の指示で、その突撃先に鷹天狗が降り立ち、団扇を構えた。それに対し、リーダー鬼は動じていなかった。

「そのまま突っ込め!所詮ただの風だ!茨木童子なら、その程度なら強引に突っ切れる!!」
(……やっぱり威力もばっちり把握してやがるな)

 そう、この読みは正しい。本来の鷹天狗のスペックならば、レジェンドクラスの茨木童子を吹き飛ばす事も拘束する事も風では不可能。このまま押し切られるのは自明の理であった。

「……本来なら、の話だけどな!!」

 そう言ってニヤァと悪い笑顔をした、ような雰囲気をした赤鬼仮面の言葉と共に、鷹天狗が大きく団扇を振るった。突風が巻き起こり、それが茨木童子とスケルトンたちを直撃し――

 その姿を、一撃で完全に霧散させた。

「な……なん、だとおおおおおお!?」

 これにはリーダー鬼も流石に愕然とした。鷹天狗のスペックで、茨木童子が一撃など、在り得ない。これは間違いない筈だった。

「んじゃあこっちも種明かししてやるよ……召喚する前、メダルを握り込んだ時に、俺の相棒が巫女として力を籠めておいたんだよ……『破魔』の力をな!!」
「破魔、だと!?」

 仕込んだのはあの瞬間。あれにより、鷹天狗には破魔の力が備わっており、その力は風にも付与されていた。それで魔の存在である茨木童子、そしてアンデッドであるスケルトンに特攻効果を齎したのだ。

「いや、そんな筈ねえ! 鷹天狗もまた魔性の存在だ! そんなのに破魔の力なんざ、水と油を混ぜるようなもんだ! 先に鷹天狗自身が自滅しちまうはず!」
「確かに、普通ならそうだな……だがな、魔性の存在だろうと、巫女が自分の『式神』として扱うなら、破魔の代行者として力を行使、そして『式神』としての在り方により、魔性の属性を消す事もできるんだよ!」

 実は凶津の相棒、桜は式神使いとして一流のスキルを持っていた。そしてあやかしメダル、妖怪の力を封じ使用するアイテム。この町においては、召喚にも使用できる。その在り方はまさに、式神使いとしての在り方そのもの。それにより鷹天狗を式神として扱い、破魔を使う者としての代行権を与えていたのだ。
 あやかしメダルは確かに、この町で手に入れた。だが、メダリストとしての在り方としては、実は以前から適性を凶津/桜は持っていたのだ。

「ちなみにシチューを振り撒いた時は、敢えて力を使わないでおいた。こういうのは、1人ずつ種明かししていかねえとなぁ!! なあジェノサイダー!」
「ああ、助かったよ」
(効率を考えるなら、あの時ポーションと破魔、両方やっておいた方が良かった気もするけど……)

「だ、だがそれでもおかしい! 破魔の力だろうと、レジェンドクラスの茨木童子が一撃だなんて……」
「その答えは、すぐにわかるさ。さあ、道は開けた」
「後は任せるぜ! メダル持ちの先輩よぉ!」

 まだ納得がいっていないリーダー鬼を尻目に、章と凶津は結愛に向き直った。残るはもはや、少数のスケルトンに弱った餓鬼大将、そして本丸であるリッチリーダー鬼のみ。1人が突っ込むことができる道は、十分に開けている。

「ええ! 行きますわよ」

 結愛は鞘から聖剣を抜き、リーダー鬼向けて一気に駆けた。咄嗟の突撃とは違う、明確に自分の意志で、そして猟兵の仲間が作ってくれた、正義を為す為の道を進む!

「舐めるなぁ! いくら弱っていてもレジェンドクラス! 新米1人なら、十分叩きつぶせらぁ!! やれ餓鬼大将!!」

 その途中に立ちはだかる、餓鬼大将とスケルトン達。そこに結愛は、もう迷いも怯えも無く、突き進み。

「ハアッ!!」

 加護により瞬間強化した、少女とは思えない腕力と共に、巨大な餓鬼大将の身体を真一文字に切り裂いた。聖剣の輝きがその身体を消し去り、そして周りのスケルトンまでが消滅していく。

「なっ!! ばかな、ばかなあああああああああ!!!」

 在り得ない、餓鬼大将までも一撃などと! そう思い、接近する結愛に向けて捕縛しようと包帯を振るった。だがそれすらも、聖剣により一閃され焼けていく。

「無駄ですわ。闇属性のあやかしメダルの能力は、光属性のユニコーンには効果が薄いのよ!」
「ひ、光属性……ッ!?」
「そして更に加えれば、この聖剣に至っては闇属性に加え、病気、呪い、毒属性にも特攻効果がありますわ。鬼やアンデッドである限り、この聖剣の敵ではない!」

 それこそが光の獣、ユニコーンの力。闇を祓い、呪いや病、毒も消し去る。まさに、鬼やアンデッドには天敵。されど数が多ければそれも圧倒されてしまう可能性はあった。だがそれは、章と凶津のサポートにより防ぐ事が出来た。



「ま、俺の鷹天狗もちゃっかりユニコーンの加護を分けて貰って、式神使い効果で付与、茨木童子を一撃したんだからこっちも助かったけどな」
「お陰で距離が近すぎたシチューおじさんが、毒特攻をもろに受けて倒れてしまったけどね。仕事は立派に果たした。安らかに眠りたまえ」


 そしてついに姫騎士は辿り着く。総大将、リーダー鬼の目前へと。

「クッソがああああ!! あたしは、わたしは、あたしはーーーーー!!!」

 もはや破れかぶれで、リーダー鬼が拳を振るう。だが、ミイラの属性を持つミイラ青鬼にとって、ユニコーンの加護たるドレスもまた特攻武装。近づけただけでも拳が崩れ去りかけてしまう。それでも、もう彼女に他の攻撃手段は存在しなかったのだ。

「終わりにしましょう。この世界に辿りつけなかった魂。眠りにつく時です。そして、貴方が取り込み捕らえている方を、返して頂きます!!」

 もう迷いはなく、その瞳は倒すべき敵と、救うべき相手を同時に見定めた。闇を祓う光の獣よ。今こそ、闇の魂に囚われし者を解放せよ。

 結愛が一気に踏み込む、そして空に描かれる輝きの軌跡。



 それは輝きたる聖なる一閃。それが、リーダー鬼の身体を真っ二つにした。

「あた、し、は…………ああああああああああああああ!!」

 僧侶の服が消え、包帯が消え、そして青肌の鬼の姿が光に包まれ消え失せた。










「…………ありがとう、ユニコーン。そして……お2人も」

 聖剣を鞘に納めた結愛が、ぺこりと礼をした。
 凶津は『いいってことよ』と手を振り、章も当然の事、と涼やかに答えた。

 こうして姫騎士の初陣は、ミイラ青鬼最後の1人、その筆頭を見事撃破、という結果で飾られたのであった。

 見上げれば、そこには大穴から覗く太陽の光が、彼女を祝福するように差し込み照らしていた。




 彼らの足元には、羽毛を周囲に舞い散らせ、傍らに『青鬼』のあやかしメダルを共に落とし、だが安らかに寝息を立てている、妖怪少女がいた。

「成程。本来はミイラが鬼に憑りつく所を、青鬼のメダルを混入させる事で、むりやりミイラ青鬼として存在させていた訳だね。道理で種族が矛盾する訳だ」

 その少女の容姿を観察し、そして確信した章は地下の青鬼が全滅したのを確認し合流と情報の共有を皆に促した後、先にプロフィールを渡してくれた猟兵に声をかけた。お礼として、いち早くその情報を届ける為に。


「ああ、やはり推理通りだった。リーダー格だった、腕に鱗を持っていた鬼に取り込まれていた妖怪……その種族は、長い髪の女性ハーピィだったよ」




 こうして、此処における敵の全滅の報が広まり、そして此処にあった情報が集まっていく。猟兵らが見つけ出した情報の全て。それは、明確にたった1つの真実を指し示していた。

 『主催者の正体』、そして『灰色のあやかしメダルに吸収された者』。この2つの謎の、真実に。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『ダークプルティア『ダークデザイア』』

POW   :    欲望を解放した強化形態だ!ダークリベレーション!
「【合体した妖怪の抱いた欲望を必ず叶える】」という誓いを立てる事で、真の姿に変身する。誓いが正義であるほど、真の姿は更に強化される。
SPD   :    私に君の力を貸してくれ!ダークデバフ!
妖怪【自身が合体している妖怪】の描かれたメダルを対象に貼り付けている間、対象に【妖怪に応じた状態異常・能力弱体・状態変化】効果を与え続ける。
WIZ   :    彼女の力がこの場を包む!ダークホームグラウンド!
【対象に有効な武器に変化した髪から髪の毛】を降らせる事で、戦場全体が【自身が合体した妖怪が得意とする場所】と同じ環境に変化する。[自身が合体した妖怪が得意とする場所]に適応した者の行動成功率が上昇する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はシズホ・トヒソズマです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●決戦、メダルバトルシティ!

 地上も瓦礫流星群により更に破壊被害が広がり、そして今駄菓子屋も消滅。跡地に空いた大穴の下、本拠地地下にて、地上から宝箱を抱えて降りてきた猟兵らと共に、得た情報の共有、元に戻った妖怪らの隅の方への避難を行っていた。


 そしてその折、ついにそれは現れた。ある程度は予想してはいたのだが。

「おや? 駄菓子屋が派手に吹っ飛んだから流石にこれはメダルバトルの余波ではないな、と観に来れば……成程成程」

 天井に空いた大穴。そこから1人の人物が、本拠地地下に飛び降りてきた。それは黒いフードとマントで身を隠した人物。集めた情報にて出てきていた人物だった。ここまでは推定:主催者とされていた人物だったが。

「君達は猟兵だね。私の大会を知って、潜入して部下たちを撃破した、と。OK、理解した。ならばこちらも名乗らねば無作法という物!」

 あっという間に状況を理解、しかし冷静に猟兵を見回すと、身体を隠していたマントを自ら剥ぎ取り脱ぎ捨てた。

 その姿は、顔には情報通り黒のドミノマスク。首から下をボディラインの出る程の黒のボディスーツで覆い、暗金色の宝石や暗金色のスカート、そして金色のボリュームのある長い髪。左腕にはメダルシューターと思しき武器を付け、腰の黒いベルトには灰色のあやかしメダル、そして『欲望』を描かれたエンブレムが鈍く輝いていた。

「『欲望叶える金色の闇雫』! ダークデザイアだ。闇にいながら人々の願い・欲望を叶える、闇のプルティアさ」

 プルティア、とはUDCアースで放映されている近接系魔法少女番組である。他世界に在った事例もあるが、恐らく彼女が語っているのはUDCアースの物だろう。
 彼女はそんなプルティアの闇たる存在、のような姿をしていた。決してプルティア自体はぴっちりスーツ番組ではない、いいね?


「やれやれ。人の願いを聞いてオブリビオンを倒す君達。妖怪の欲望を聞いてそれを叶えようとする私。そこに何の違いもありはしないじゃないか?」

 自分や猟兵らを親指で指し示したダークデザイア。それに対し、猟兵らから『違うのだ!』と言いたげな視線を向けられ、ダークデザイアは肩をすくめた。

「同じだよ。願いも欲望も呼び方が違うだけさ。この世界に無事に辿りつけなかった私、だが、闇の力とも呼ぶべき大いなる力と出会い、闇のマスクとしてこの世界に繰る事が出来たのさ」

 彼女はそう言い、自分のドミノマスクをとんとんと叩く。あの部分が本体なのか、と全てを信じる訳にもいかないので当たりだけを付けておく。

「そしてボクはとあるメダリストの欲望を聞き、存在確立の為に融合。そしてそれを全力で叶える事にした。欲望は解放され、そして肯定され、叶えられるべきだからね!」

 自分なりの『正義』を語るダークデザイアに、嘘をついているような様子を猟兵は感じなかった。このオブリビオンは本気で信じているのだろう。
 自分が妖怪の為に『正義』の行いをしている、と。

 ならばその腰のベルトにある『灰色』のメダルはなんだ、と猟兵が指摘する。彼女はメダルを掲げるが、絵柄は彼女の指で見る事が出来なかった。

「ああ、こちらのメダリストもいい具合の欲望だと思って協力してくれないかと声を掛けたんだが、その際、私が融合している方を馬鹿にしてくれてね?
 こちらの方でもいいか、とついあやかしメダルに変えてしまったよ。その手持ちまで纏めて変えてしまったのは申し訳ないと思っているが、欲望を促す者として、思い立った欲望は即行わないと! 欲・即・行! アッハッハッハ!」

 さわやかにあっけらかんと、メダリスト妖怪とそのメダルを纏めて1つのあやかしメダルに変えてしまった事を語るダークデザイア。
 猟兵は理解する。コイツは、自分を全く悪だと思っていない、ドス黒い『悪』だと。

「もう1人も同じだったが、流石にそっちはどうかと思って、青鬼メダルを利用してミイラ青鬼スタッフに加えたら、なんとあっという間にリーダーになってしまったんだよ!
 いや、やはり凄腕メダリストを元にするとメダルを使うスタイルならば強くなるものだねえ! 彼女の手持ちメダルまで一緒に取り込まれたから、回収できなかったけど!」

 そこまで語ると、ダークデザイアは肩を落とす。

「全く。皆が欲望を発露、欲望を叶えるオブリビオンの姿となり、私の依代の願いも果される。何も悪い事は無かった筈なのに……」

 猟兵らに悲し気な視線を向けるダークデザイア。流石に自分の計画を邪魔されれば、流石にコイツも……。

「うむ! だがまあ君達も欲望に従って動いたんだろう! ならば仕方は無い! 欲望は須らく叶えられるべきだからね!!」

 ……欲望全肯定のこのスタンスも、ここまでくると逆に立派なのかと思えてくる猟兵もいた。


「だがしかし、欲望同志がかち合ってしまうケースもある。私としては全てを実現させたいが、私の実力不足ではそうはいかない。未熟な私を許してくれ!
 だからやはりそういう時は、お互いの欲望をぶつけ合うしかない! そして強い欲望が残り、実現されるべきだ!!」

 そう言って、ダークデザイアの持っていた灰色メダル、それがあっという間に複数になり、彼女の指に挟まれる。どうやらいくらでも複製可能らしい。1枚だからと、壊したり使い切らせる事はできなさそうだ。
 更に彼女の髪の毛が蠢き、大砲や剣、槍、拳、色んな武器に自在に変形していく。1人ではあるがその手数はメダルを含めて大分多いようだ。


「安心したまえ! 私が勝った暁には、メダルになる事でも、我が配下になる事でもする! 君達を見捨てはしない! 
 君達の欲望が私と共存できるよう、その『心』を全力で『説得』してみせよう! そうすれば、君達も心から私たちの欲望を叶えようという欲望で心が満たされる!
 ほら、これならば欲望は喧嘩しないぞう! アッハッハ!!」

 
 明るいその笑いに、またも背筋に寒い物を感じる者もいた。
 解釈するならコイツは、『勝ったならばその心や頭を洗脳して、心から自分たちの欲望を肯定するようにする』と言ったのだ。
 そしてそれを、『正義』であり『猟兵たちの為にもなる』と、信じて疑っていない。

 決意を固める猟兵。コイツだけは逃がしてはならない。そして、コイツに融合されている妖怪、メダルにされている妖怪、全ても助け出さなければいけない、と。
 歪み切ったこの『正義の味方』は倒さなければいけない相手だと。 


「さあ、我が身たる『彼女』の欲望を叶える為に、勝負といこうじゃあないか猟兵達よ!」


 ついに混沌としたメダルバトルシティの戦い、その最終決戦が始まろうとしていた。



※今回情報纏めや能力解説の都合でかなり注釈が長くなっております。文を見逃さない様ご注意ください。
 特にSPD技の解説は本来の効果から、特殊状況によりかなり変化している為、ご注意ください。

※場所は前回と同じ、本拠地地下です。天井は全て破壊され、空が見えている状態です。ミイラ青鬼達にされていた妖怪達は介抱され、部屋の隅の方に寝かされています。
 特別何かしなければ、巻きこんだりダークデザイアが手を出す事はないと思っていただいて大丈夫です。

※ダークデザイアの技は取り込んだ妖怪や欲望、使用するあやかしメダルで変化します。大きく分け、『デザイアと融合している妖怪』『あやかしメダルにされた妖怪』の2種類で変化します。変化した能力に対応、対処したプレイングやあやかしメダルを活用したプレイングでプレイングボーナスが発生します。
 それぞれ候補は『オーシャン大海(人魚)』『ロック岩永(ガーゴイル)』『バード羽鳥(ハーピィ)』の3名です。
 プレイングとそれぞれの正体による効果がかみ合っていない場合は判定が厳しくなります。




※POW技は『デザイアと融合している妖怪』の欲望により、強化形態に備わる特殊能力が変化します。既に得た情報からこう判断可能です。

 『オーシャン大海の場合』:≪永遠に皆とメダルバトルをしたい≫により、あやかしメダル以外での攻撃に絶対無敵特性を得ます。
 『ロック岩永の場合』:≪メダリスト王になり、配下を従えたい≫により、接触したあやかしメダル、もしくはそれにより召喚された存在を支配する能力を得ます。
 『バード羽鳥の場合』:≪あやかしメダルを集めたい≫により、接触した対象から妖怪でなくてもあやかしメダルを作り奪い、対象を弱体化させる能力を得ます。



※SPD技は本来融合している妖怪を使いますが、シナリオにおける特殊状況により、『あやかしメダルにされた妖怪』で、メダルを貼りつけられた時の弱体効果の内容、ダークデザイアが召喚する妖怪の種類が変化します。

 『オーシャン大海の場合』:体の一部が魚や海洋生物になり、水場や海以外での移動速度や戦闘能力を大幅に下げます。
              ダークデザイアが召喚する妖怪は『海洋系あやかし』になります。
 『ロック岩永の場合』:体の一部が石化・宝石化し、移動速度やジャンプ力が大幅に減少。硬い武器や防具も脆い石に変換されてしまいます。
            ダークデザイアが召喚する妖怪は『岩石系あやかし』になります。
 『バード羽鳥の場合』:体の一部に翼が生えたり、鶏脚化し、飛行可能になりますが歩行は困難になります。また、数秒毎に記憶の一部が欠落してしまうデバフがかかります。
            ダークデザイアが召喚する妖怪は『鳥獣系あやかし』になります。



※WIZ技は『デザイアと融合している妖怪』により、フィールドがダークデザイアの肉体に有利な環境へ変化します。

 『オーシャン大海の場合』:島の無い海洋フィールドと化し、海への適応や飛行可能でないと泳ぐ状態を強制されるフィールドになります。
              海洋・水に関するあやかしに有利な補正がかかります。
 『ロック岩永の場合』:岩石だらけのフィールドで、そこら中にダークデザイアの石像が立っており、石化擬態で紛れ込まれると発見が困難になります。
            岩石・宝石・土に関するあやかしに有利な補正がかかります。
 『バード羽鳥の場合』:突風が吹き荒れる渓谷フィールドになり、飛行できないとまともな足場がほとんどありませんが、飛行できても突風にまとも煽られれば危険となります。
            飛行可能・鳥に関するあやかしに有利な補正がかかります。


※技はプレイングにおける連携が無い限り基本独立する為、SPD技で変化された体でWIZ技のフィールド変化に対応、等する場合は事前のチームを組んだり相手の名前を指定した連携が必要になります。MS側ではまず違う判定ステータス同士で組ませる事はしないと思ってください。

※メダルバトルを挑む場合、ダークデザイアの使用メダルはSPDで使用するメダルになります。
 またメダルバトルなのでUCを使わない場合でも、適用するステータス記載をお願いします。

※メダルの入っている宝箱は地下に移動されています。活用は可能ですが、使い方によっては欲望を糧にするダークデザイアを強化する可能性もあるのでご注意ください。



※<1章・2章において猟兵が獲得した情報一覧 ※不要な情報を除外、ダークデザイアの登場により情報を修正済>

・行方不明の有名メダリストは以下の3名。

 海洋系あやかし使いで人魚の『オーシャン大海』。女、短髪。抱いていた願いは≪みんなとずっとメダルバトルが出来ますように≫。脚に鱗がある。
 岩石系あやかし使いでガーゴイルの『ロック岩永』。男、長髪。抱いていた願いは≪メダルバトル王になって全てのメダリストを部下にする≫。うなじに鱗がある。
 鳥獣系あやかし使いでハーピィの『バード羽鳥』。女。長髪。抱いていた願いは≪この世界の妖怪全員からあやかしメダルを貰いたい≫。腕に鱗がある。

・長髪の人物がダークデザイアと共に袋小路に入り、袋小路でダークデザイアが誰かを灰色のあやかしメダルに吸収した。

・ボスがミイラ青鬼達に預け、鍵をかけさせていた宝箱の中にあったメダルは『クラーケン』『スキュラ』『カリュプディス』。

・ミイラ青鬼達のリーダー格として取り込まれていたのは、長い髪にハーピィの妖怪だった。



※揃った情報、そして3章断章での情報で2つの謎の答えは十分に導き出せます。少々あからさまかもしれませんが、カツラだとか性別が違うとかひっかけはありません。


※プレイング募集開始は19日朝8時31分以降とし、20日朝8時30分を期限に構想と判定、リプレイ執筆を開始しますが、タイミング次第ではそれ以降のプレイングも最終決戦なので採用考慮します。

※ここからの途中参加も可能です。
神代・凶津
てめえの欲望は俺達が打ち砕くぜッ!
そんな雑魚メダルで何ができるだと?
俺は今までバトルを支えて来てくれたこのメダル達を信じるぜ!
「いえ、このメダル達は手に入れてまだ1日も経ってないでしょ?」

奴の体は恐らくオーシャン大海。
水神霊装で対策するぜ。

使うメダルは『怪人バッタ男』
悪の組織に改造されながらも正義の為に戦う怪人妖怪だぜ。
(サラマンダー火口から聞いた)

コイツの特殊効果は、他の妖怪から託された力を身につける。
俺は三枚のメダルをシンクロさせて召喚するぜ。
顕現せよ『鷹虎バッタ男』ッ!

行け『鷹虎バッタ男』、サイクロンオーシャンキックッ!!


(メダルは後で元の持ち主に返した)
【技能・水中戦】
【アドリブ歓迎】


白鳥・深菜
「――ならば精々【正義】に溺れよ!」

自身の羽を――ここまでの歩み全てを媒介に、私が望む道を切り拓く!


「其れは虹色にも輝く羽根を持ち。
其れは総ての樹の種を降らす翼を持つ。
然らば羽ばたく時は来た!その妖の――魂の名は!」

メダルより召喚するは――シームルグ。
ピャアと呼ばれた、それの本当の名前。

「今、私が望んだとおり。鳥達は真の名に戻った。
サエーナの樹に、生命の木に」

地面から偉大なる樹を生み出し。
その枝にとまり、羽ばたき。
八百万の種を放ち大地を根で縛りつける!

「木は土を根で縛り、木は水によって生かされる。貴方達の弱みはそこだと、鳥達は言う――
悪いけど、勝負すらお断りよ」



●水は地に呑まれ、地には木が根差し、森を鳥と虫が飛ぶ

「ハッ、欲望の発露が鍵っていうならどんな奴が元凶だって思ってたが、想像以上の欲望野郎じゃねえか!」
「ハッハッハッハ! 褒め言葉はやめてくれ照れるぞ! あと私は女だ!」
(今のが褒め言葉に聞こえるだなんて、凄いポジティブ……)

 ついに始まるダークデザイアとの決戦。その先陣に出てきたのは神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)。オウガマスクとも呼ばれた彼(?)だが、町で拾った3枚のメダルを取り出し構える。

「ハッ、その欲望全肯定主義。どっかで会長でもやって誕生日祝ってりゃ良かったのに、てめえは色々やり過ぎた!てめえの欲望は俺達が打ち砕くぜッ!」

 凶津の啖呵にダークデザイアは平然とし、その手のメダルを見て涼やかに微笑んだ。

「そうは言われても、『水虎』に『鷹天狗』、それから『バッタ男』? んー、正直コモンあやかしもいいところじゃないか。水虎は多少多めに見たとしてもねえ? 雑魚メダルの範疇は出ないんじゃないかな?」
「雑魚メダルで何ができるだと? いいや! 俺は今までバトルを支えて来てくれたこのメダル達を信じるぜ! そう、今までの辛く長いあのバトルを!」

 思い出す。辛く長かったメダルバトルの日々。苦しい時、負けそうな時、いつだってコイツラと一緒に乗り越え、勝利の喜びを分かち合ったあの2クールくらいの戦いを……。

(いえ、このメダル達は手に入れてまだ1日も経ってないでしょ? 1,2話がいいところでしょ?)

 桜が内心でツッコミを入れるも、回想シーンに耽っている凶津には届いていなかった。

「やれやれ。どうやら余程自分の正義に自信があるみたいね、貴女」

 凶津が回想している間に、その横に立ちダークデザイアに相対したのは白鳥・深菜(知る人ぞ知るエレファン芸人・f04881)だ。それに対しダークデザイアはふふん、と胸を張る。

「そりゃあそうとも! 欲望とは本能! やりたいことを押し殺すのは苦痛! ならばそれを解き放ち、救う事は正義に他ならない! なればこそ! 私達の正義で君達を討ち果たし、そして君達も私達の正義に寄り添い共に欲望を解き放とうじゃあないか!!」

 嘘偽りなき、まっすぐな目でそう語るダークデザイア。どこまでもこのオブリビオンはまっすぐではあるのだろう。ただし、その根元がどうしようもなくねじ曲がっているが故に、まっすぐに歪んでいる。

「やれやれ……どこで聞いた言葉だったかしら。『正義の為なら、人間はどこまでも残酷になれる』。人間じゃなくてオブリビオンだけど、そんな言葉を思い出したわ」

 ならばその正義をここで猟兵が打ち砕かなければならない。これ以上の残酷を行う前に、この場で完膚なきまでに。

「――ならば精々【正義】に溺れよ!」

 深菜が自身の翼を大きく広げながら本気の眼差しでダークデザイアを捉えた。本能に基づく狩人は、この町で仕留めるべき一番の獲物を、今ここでその照準に捉えたのだ。



「アッハッハッハ!! いいや、君達が私の正義の地に沈むのさ! さあ出でよ!! 大地を象徴する我があやかし達!」

 そう言って、灰色のあやかしメダルを大量に取り出したダークデザイア。

「大地……!」
「ってことは!」

「出でよ、『子泣き爺』、『ぬりかべ』、『ゴーレム』、そして『エンシェントガーゴイル』!!」

 ばら撒いたあやかしメダルから次々に妖怪が召喚される。おぶされば岩になる爺、巨大なる壁の妖怪、額に英字を刻んだ岩でできた使い魔。中でも、他より群を抜いてデカい、そして妖気もケタ外れの石造りの竜。そしてその後頭部からは長髪がまるでタテガミのように延びていた。その髪を見て、深菜がハッとした。それはさっき自分が発見した後ろ姿フェチ妖怪の写真の髪と似ていた。

「あの髪……まさか、アレ、ロック岩永!?」
「ロック岩永ってガーゴイルの凄腕メダリストだよな。やっぱりあやかしメダルにされたのはソイツかよ!」
「ええ。そうみたい。でも、私が写真で見たのは後ろ姿だけでもこんなゴツくなかったわ……メダルにされた時に、弄られたみたいね……」

 あやかしメダルにされた人物=長髪。それは幽谷の証言と雪野の証言の場所の一致や幽谷の存在で断定できる。その時点で大海は短髪なので除外。残るは2人だが、もう1人のバード羽鳥については所在が先の戦いの顛末にて判明した。よって、残るのは1人。岩石系あやかし使いのロック岩永。彼こそが、大会前にあやかしメダルにされたメダリストだったのだ。

「弄ったとは失礼な。私は彼の≪メダリスト王になりメダリストを配下にしたい≫という願いを少しでも叶えてあげようと闇の力を与えて強化しただけだよ? ほらこれだけ強ければ、メダルとしてメダリストを倒して、あやかしメダルに吸収して配下にできるだろう? ほら、『あやかしメダルの王』じゃあないか! 少々違いはするが、王様になって配下にする欲望は果たせるだろう? なら問題ない! よかったなあ!!」

 笑顔で語るダークデザイアに対し、エンシェントガーゴイルはその叫びでだけ答えた。元気があってよろしい、とダークデザイアは頷いていたが、2人はそうは聞こえなかった。アレは、『慟哭』だ。違う、自分の望んだのはこんな姿じゃない、と。

「チッ、こりゃさっさと倒して解放やんねえとな! んじゃ、頼むぜ」

 それを見て1枚のメダルをつまむ凶津。それに対しダークデザイアはまた嘲り笑う。

「選んだのは『バッタ男』かい。知ってるのかなその由来を。岩石系相手にはどう考えてもパワー不足だろうに」
「へっ、言われなくても知ってるぜ! 悪の組織に改造されながらも正義の為に戦う怪人妖怪だ。当然だろうが!!」
(拾った時これ妖怪なのかって言ってたよね? 火口さんに教えて貰っただけだよね?)

 さらっとずっと前から知ってたかのように言う凶津にそっと突っ込む桜であった。

「だがパワー不足ってことは、これは知らないな? バッタ男は段々と仲間を増やし、そしてその仲間の力を託される事で様々なフォームにパワーアップできるんだよ!!」
「何っ!?」
(これも火口さんから聞いたよね?)

 そう解説すると、残り2枚のメダルと共に、バッタ男のメダルを投げた。

「欲望穿つ水風纏う脚! 鷹天狗! 水虎! バッタ男! 待たせたな。妖怪の力、お借りしな!! 顕現せよ『鷹虎バッタ男』ッ!」

 メダルから現れる、バッタが人型したかのような都市伝説型妖怪。そこに2つのメダルが吸収されると、頭部が鷹や翼の意匠を盛り込んだ形に、腕と胸部が水虎の爪や水かき、強靭な肺を供えた形に変化する。


「あら、アッチも切り札切って来た感じね。なら、私もそうさせて貰おうかしら、ピャア」

 凶津の召喚を見て、深菜もまたメダルを取り出す。それはここまでずっと使ってきた輝きを放つ妖怪ピャアである。其れを見てダークデザイアが訝しむ。

「ピャア、だって? なんだいそれは。私も知らないマイナー妖怪かな?」
「知らなくて当然。何故なら、これは力を失った仮の姿に過ぎないもの」
「何……?」

「私も町で見つけてから、なんとなく切り札になる予感がしたからこうして上手く誤魔化してたから理由はわからなかったけど、あなたのさっきの話やその前の情報でなんとなく予想は着いたわ。おそらくこれは、ミイラ青鬼にしたっていうメダリスト……あっちで寝てる、バード羽鳥のメダルよ」

 そう言って見やった先にいるのは、リーダー青鬼だったハーピィ、髪の長さに腕の鱗、鳥獣あやかしに反応した様子、そしてダークデザイアが凄腕メダリストだと語った話から、恐らくバード羽鳥で間違いないと踏んでいた。

「馬鹿な!手持ちメダルは全て取り込まれてた筈だ!」
「恐らく、それが彼女の最後の抵抗だったのよ。貴女にはそう見せかけて、その後ミイラ青鬼に無意識に数枚落とさせたのよ。恐らくそれが、彼の拾った鷹天狗と、私の拾ったこの子だったのよ」
「あ、やっぱりそうなのか。やけに反応がおかしかったしな」

 深菜の推測に納得した様子の凶津。鷹天狗を召喚した時のリーダー鬼の動揺はやはりそういう事だったのか、と。

「もっとも取り込んだのは確かだったみたいで、この子もほとんど力を失っていた。だけど、数回のバトルを経た経験、そして私がここまでこの町で歩んできた全てを使い、今、その力を取り戻す!!」

 そう言うと深菜がピャアのメダルを掲げる。

「知恵に王道なし。されど解法に王道あり。然らば羽ばたけ、艱難辛苦のその先へ! 今こそ本来の翼を取り戻し、私が望む道を切り拓く!」

 そう叫ぶと、彼女の翼から大量の羽根が飛び、宙に投げたメダルに次々と吸収されていく。

「一体何をする気だ!!」
「ここまでの歩み……ピャアと共に戦い、力を通わせたその記憶、魔力、全て込めた私の羽根……それを代償に、その本来の姿、名、そしてその大いなる翼を取り戻す回帰の術式を行い、成功させるのよ!」

 【鳥王の大いなる解法(ダスターン・エ・ザンド)】。それが現在深菜が使用しているユーベルコード。自身の力を籠めた羽根を代償に、行動を必ず成功させる技だ。彼女が成功させる対象行動は、ピャアに本来の力を取り戻す事。弱った妖怪に力を取り戻す。困難さはかなりの高さになるだろう。現に、彼女の翼の羽根はかなりの量が既に失われ、魔力も込めている都合上、深菜の顔色は目に見えて悪くなっている。。だがこれくらいはしなければ成功し得ない。それほどまでに本来の力の格が高い事を深菜も理解していた。

「辛いわよね。本来の翼で羽搏けない、空を飛べないっていうのは……それでもここまで付き合ってくれて、さっきは私の背中も、守って……ッ!!」

 羽根が大分減り、深菜がよろける。やはり既にかなりの負担がかかっているようだ。

「だから、今ここで取り戻しましょう。貴方の本来の、大いなる翼を!!」

 その呼びかけに答えたように、メダルが光を放った。みるみるうちに絵柄が変わっていき、深菜はそれに笑みで頷く。

「其れは虹色にも輝く羽根を持ち。其れは総ての樹の種を降らす翼を持つ。然らば羽ばたく時は来た!その妖の――魂の名は!」

 メダルの輝きが頂点に達し、あやかしがここに顕現する。ピャアと呼ばれていた時とは比べものにもならないその輝き、そして大いなるその翼を持つ者は

「神鳥よ羽搏け、『シームルグ』!!」

 シームルグ。イラン神話に伝承される神秘なる鳥。長き寿命を持ち、鳥の王であるとも言われる存在。文句なしのレジェンドクラスの力だろう。

「シームルグだと!? そんな存在を隠していたとは!」
「予想通り、しっかり切り札になってくれたわね……その分、高くはついたけど」

 自身の羽をほとんど失い、魔力も消費した深菜は膝を付く。自身は戦力としては難しくなったが、だがシームルグの神意はそれを補える筈。

「というわけで、後はシームルグに託すから、打ち合わせ通りお願いね」
「おう! よくやってくれたな! 後は俺達に任せて、休んでいな!」

 深菜に後を託された凶津が薙刀を構え、その前に鷹虎バッタ男が構え、シームルグが頭上にて全てを見据える。それでも、闇の力で強化した岩石あやかし軍団を従えた
ダークデザイアは余裕を崩さない。

「少々驚きはしたが、鳥獣系あやかしなど、メインの攻撃は風と決まっている! 風など我が岩石軍団が壁と成れば、こちらに届きはしない!!」

 風は堅き岩で防ぐ事が出来る。相性としては確かに納得が出来るものである。

「行け! 岩石軍団よ! その質量で敵を押しつぶしてしまえ!」

 エンシェントガーゴイルを筆頭にした岩石あやかし達が重い足音と共に進んでくる。歩みこそ遅いが、だからこそその質量は圧倒的で生半可な攻撃ではその歩みを止める事はできないだろう。

「させるかよ!! 鷹虎バッタ男、スイコアームから水流ジェットだ! ダークデザイアを直接狙ってやれ!!」

 鷹虎バッタ男──長いのでここからは『タトバ男』と略す──がその脚力で飛びあがると、水虎を模した腕から強化されたジェット水流を発射した。それはダークデザイアを護ろうと立ちはだかった、岩石あやかし達に激しくぶつかる。だがしかし。

「チッ、足を止めもしねえ!」
「アッハッハッハ!! これもまた相性の差だよ! 岩石は流れる水をも分かち、河をも分けてしまう! 治水堤防くらい知っているだろう? 悲しいかな、致命的なメダル選択ミスだ! ま、その3枚しか持ってないのなら致し方ないが!」

 激しい水を止め、流れを変えるのもまた岩石。水は岩石あやかしたちによって受け止められ、あらぬ方向へと流されていき、ダークデザイアに届きはしない。位置を変えても、すぐに岩石あやかしが動き、あやかし達が全てびしょぬれになっていくだけだった。

「そして、水の間隙を狙い!! 喰らいたまえ、ダークデバフ!!」

 水流ジェットが止まった隙を狙い、岩石あやかし達の隙間を縫ってダークデザイアの腕にあるメダルシューターから灰色メダルがタトバ男や凶津、シームルグ向けて次々と発射される。岩石あやかしの力を帯びたそのメダルは、張り付いた対象に石化によりスピードを下げたり防具を脆くする弱体降下を齎す。更に巨体の隙間から狙う事で回避を難しくする。だが、二人もそれは予想していた。

「鷹虎バッタ男、タカテングヘッドでメダルを見極めて回避だ! 避けきれないのは突風で吹っ飛ばせ!」
「シームルグ! 貴方も風お願い!」

 2人が同時に指示を出し、あやかし達がそれに応える。タトバ男は鷹天狗の頭の能力、即ち空から獲物をも捕らえる鷹の目。その視力を持って高速で飛ぶメダルを見極め、回避できるものはその脚力と水流ジェットで回避。回避不能のものは頭部の翼から放つ風で吹き飛ばしコースを変えた。シームルグもまた鳥の王と称される存在。ならば、鳥の目とその風を起こす力は鷹天狗よりも上であった。同じように回避、もしくは突風でメダルを吹き飛ばす。
 岩石の力を宿していても、放てるようになっているならばメダルは軽い。風で吹き飛ばす事は十分に可能だった。

「チッ! だが以前、我が軍団の進撃は留まる事知らず! 濡らした程度ではこの歩みは止まらない!」

 重量感溢れる足音と共にどんどん岩石あやかし達が接近してくる。その姿がどんどん大きくなって見えてきても、凶津は動じずに笑っていた。

「ああ。確かに実質濡らしただけだ……でもいいんだよ。なぜなら、『それが目的』だからな! さ、後は頼むぜ!」
「ええ。さあ、本領発揮よ、シームルグ! 今、私が望んだとおり。鳥達は真の名に戻った。サエーナの樹に、生命の木に!」

 シームルグが空で翼を広げると、その下の床から突然大いなる樹が突き出てあっという間に地下本拠地にそびえ立った。

「樹の召喚だと!? だが、その樹一本で軍団を止めることなど……!」
「ええ、これはまだ前段階だもの」

 深菜が樹を見上げれば、その枝にシームルグが止まり、そして思い切り羽搏いた。すると樹から大量の種が出現し、シームルグの起こした風に乗り、岩石あやかし軍団の全てに降り注いでいった。その数、実に800万。あやかし全ての岩や土でできた身体に種が埋まっていく。そして――

「木は土を根で縛り、木は水によって生かされる。貴方達の弱みはそこだと、鳥達は言う――」

 次の瞬間、その身体からたくさんの根や樹が生え、岩石あやかし達の身体に穴を開け粉砕していく。脚を粉砕された岩石あやかし達が崩れ落ち、根が床にまで達すれば、もはや岩石あやかし達は樹が生え芽吹く、苗床にしかならなくなった。
 崩れ落ちていく岩石あやかし達の姿と轟音を耳しながら、深菜は息を荒くしつつ、岩石あやかし達に指を突き付けた。

「悪いけど、勝負すらお断りよ」



「な、なんだこれは!!」
「その様子だと、シームルグの名前は知ってたみたいだけど、伝承は知らなかったみたいね。シームルグは大木に棲み、その羽搏きによって落ちた種子からあらゆる植物が芽吹いた、と言われているわ。貴女が岩石あやかしを使うのは読んでたから、この伝承の再現で戦いすらさせずに一網打尽にさせて貰ったわ」
「ハハッ、たっぷり水を吸わせた甲斐があったぜ。すくすくと元気に育ったもんだ!」

 岩石あやかし達の崩壊ぶりに凶津が気持ちよさそうに笑った。そう、二人はたまたまここで共に戦線に立った訳ではない。ダークデザイアを狙ったジェット水流も、本命は庇うであろう岩石あやかし達に水を振り撒き、岩や土に水を吸わせておいて、シームルグによって撒かれる種をより速くより強固に育たさせる事だったのだ。

「グッ……だ、だが、まだだ!! エンシェントガーゴイル!!」

 完全崩壊したと思われた岩石あやかし達だったが、その中から全身から植物を生やしつつも、立ち上がり咆哮するエンシェントガーゴイルが現れた。身体が巨大な分、植物による動きへの阻害も少なかったようだ。

「いいや、終いだ! 鷹虎バッタ男!!」

 仲間の慣れの果てを踏み潰しながら突き進んでくるエンシェントガーゴイルの正面、そこにタトバ男が立っていた。その周囲を水流が、暴風がともに逆巻き回る。タトバ男もまた回転し、風により宙へと浮かんでいく。そしてその位置は、シエーナの樹の真正面。そこにはまだ枝にとまっているシームルグがいた。

「後押し頼むぜ!」
「ええ。シームルグ、思いっきりお願い!」

 シームルグが再び思い切り羽搏けば、起きた突風がタトバ男を直撃。されど、その身に纏った風が故に、それはその身体を思いきり、エンシェントガーゴイルへと撃ち放つ銃の点火の役目を担い、キックの態勢を取ったタトバ男を、水流と暴風と共に発射した!

「ロック岩永! サラマンダー火口の奴が心配してたぞ! ……これが終わったら、顔見せといてやれ!!

 行け『鷹虎バッタ男』、サイクロンオーシャンキックッ!!」

 エンシェントガーゴイルの胸元にタトバ男が到達、その強固な体を風の勢い、纏う水流、そしてその脚力から繰り出された蹴りが次々に粉砕していき、あっという間に背中へと突き抜けた。

 エンシェントガーゴイルは光に包まれ、やがて灰色のあやかしメダルへ戻る。そのメダルが壊れ、中から長髪のガーゴイル、ロック岩永が現れて落下。それを飛び立ったシームルグが背中で受け止めた。



「バカな、エンシェントガーゴイルまで……ハッ!!」

 手持ちの中での最大戦力が倒された事に呆然したダークデザイアだったが、まだ空中にいるタトバ男の腕から発射されたジェット水流に気付き、変形した髪の毛で盾を作りそれを防いだ。

「ぐっ!! はは、残念だったな、これくらいでは……!」

 水流で壁に叩きつけられ、まだ止まらぬ水流の水圧でその場から動けていないが、ダークデザイアはまだダメージを受けてはいなかった。そう、『まだ』。

「ああ、それでいいんだ、それでな! 転身ッ! 【水神霊装(スプラッシュフォーム)】!」

 その時にはもう、跳躍した凶津がその水流に飛び込んでいた。その凶津の仮面は今までの赤ではなく、青色に染まり、巫女服も青い部分が増えている。これがユーベルコード【水神霊装(スプラッシュフォーム)】の効果。水中に適応しスピードを超強化する姿である。本来水が無い地下であったが、タトバ男の水流により限定的な水中条件を実現。更に。

「てめえのその身体が海洋あやかしなのはもう察しがついてんだ! 水があって、相手が海洋あやかし! ならもうここは完全に水中だよなああああ!!」
(少しゴリ押しな気もするけどね)
「グッ!!」

 慌てて水流の水圧から逃れようとするダークデザイアだったが、その前に水流に乗りその目前までたどり着いた凶津が、薙刀を薙ぎ払いその身体を切り裂くのが先だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御門・結愛
UDCアース出身の結愛は
「あれはプルティアなの?」
「いえ、あんなものは決して違うわ!」

「メダルの力を直接ぶつけないと」
メダブラスターを取り出し
「貫きなさい!『ユニコーン』」
メダルを装填し貫通付与の魔法弾を放つ
「まだ足りないの?」

海のフィールドにされたら水中で剣と銃を構え
「例え絶望的な戦いでも、正義の味方として、この子の騎士として、絶対にあきらめない!」
一枚のメダルが目の前に現れ
「力を貸してくれるの?」

「ペガサス!」
白き翼を広げ空へ舞い
「憐れな亡霊よ。裁きを受けなさい」
構えたブラスターからフルチャージした雷【属性攻撃】
「彼女たちは返してもらうわ」
【スナイパー】でオブリビオンの本体、弱点を撃ち抜く



●鳥の落とした羽根は天馬を呼ぶ

「くっ……思った以上にダメージが大きい。まさか、破魔の加護でもかかっていたのか……?」

 ダメージを受けた隙にその場から離脱したダークデザイアは、スーツに受けた傷を抑えながら息を荒くしていた。そんな彼女に更に追撃の猟兵が現れる。

「あれもプルティアなの?」

 UDCアース出身である御門・結愛(聖獣の姫騎士・f28538)は、ダークデザイアの口にしたプルティアという言葉に反応していた。確かに可愛らしい少女の見た目は彼女も知っているプルティアの姿を思わせる。だが、彼女はすぐに頭を振る。

「いえ、あんなものは決して違うわ!」

 いつでも諦めず戦う、可愛らしくもカッコいい少女像。それを思い出す。かつて憧れた正義の味方。その1つに確かにそれは含まれていたからだ。

「人々の願いや思いを利用して怪人等を作り自分達の為に利用する。貴方はむしろ、その敵役ですわ!!」

 ロック岩永は助けられたが、まだ彼女が依代にしている者が残っている。そう、ここまで来ればもう1人しかいない。

「返していただきます。海洋あやかしメダル使いの、オーシャン大海様を!」
「……やれやれ。さっきのでそうだろうとは思ったが、やはりバレてはいたか」

 そう言ったダークデザイアの姿が変わっていく。肌が青色に染まり、耳が魚のヒレのように変わる。髪こそ長いままだが、それ以外の部分は明らかに人魚の特徴だった。今までの姿はダークデザイアが乗っ取った事による汎用的な姿。これこそが彼女の『真の姿』という事になる。

「当然です。バード羽鳥様が青鬼に、ロック岩永様があやかしメダルにされていた。となればもう、消去法で貴方が取り込んだのは1人しか在り得ません。それに、新聞記事で拝見した3人の願い。どれもこの事件の原因になってもおかしくないものでした。でも、大海さまの願いだけは少し違いました」

 岩永が≪メダリスト王になる≫、羽鳥が≪あやかしメダルを集める≫。2人の願いは『変化』だ。これから行い、自分の現状を変えるもの。だが大海の願いは。

「≪ずっと皆でメダルバトルをしていたい≫。……彼女が本当はどういうつもりでこう願っていたのかはわかりません。ですが、貴方にとってはとても心地良いものだったのではないですか? なにせこの願いは……『停滞』。現在のままずっといたい。いつか誰かが飽きて終わらせるのを拒否している……不変の過去である貴方達、オブリビオンにとってとても触りのいい欲望!」

 たった少しの違い。だが、オブリビオンが元にする欲望としては3つの中では1番可能性が高い、という事はできた。

「クックックック! ああ、そうとも! だから私はこの大会を主催したのさ! メダルバトルを永遠に続け、欲望を解放し、そしてオブリビオンになってもずっとずっとずっとメダルバトルをし続ける!! そうしてやがてこの世界を全てその状態にする!! そう、その世界の実現こそが私達の目的だ!」

 転移前に『配下を増やす事以外に他の目的があるかもしれない』と言われたが、なんてことは無かった。その目的は転移させられてきた瞬間この町でまさに行われていたのだ。メダリストを捕えていた永遠のメダルバトル。それをオブリビオンになっても続ける事が彼女の目的であり、少しずつ範囲を広げて未来に世界全てに引き起こそうとしたカタストロフだったのだ。

「必ず実現させて見せる!! 彼女の欲望を、必ず!! これは正義でない筈がない!! ダーク・リベレーション!!」

 傷を気にもせず高笑いするダークデザイアの身体に闇でできたオーラのようなものが纏われる。これこそが真の姿を晒す事で、取り込んだ欲望で自身を強化する技、ダーク・リベレーション。

「ハアアッ!!」
「えっ! 速っ……!!」

 強化した力で一気に間合いを詰め、突っ込んでくるダークデザイア。結愛はあまりの速さに戸惑い、咄嗟に蹴りを入れてしまった。闇雲に突っ込んできたので、その蹴りはまぐれ当たりもあるがダークデザイアの顔にもろに入った。

「きゃああああっ!!!」

 だが跳ね返され、その力で吹っ飛んだのは結愛だった。なんとか受け身を取り床に転がるが、ノーガードで歩いてくるダークデザイアがそれを笑顔で見ていた。

「彼女の欲望は≪ずっとみんなとメダルバトルをしていたい≫。故に、あやかしメダルを使わない攻撃は一切私には通用しない! あやかしメダル以外に干渉されない、永遠に存在し続ける力! それこそ、彼女が望んだ力だ!!」

「違いますわ! 貴方は彼女の願いを曲解しているだけ! 彼女はきっと、メダルバトルをやめる友達などがいてそれで、少し不安になってしまっただけですわ! 楽しい時間を少しでも終わらせたくなかった。そんな彼女の願いを、貴方は利用した……!!」
「ハハハ、会った事も無い君にそんなことを言われても、ね!!」

 再び突っ込んでくるダークデザイア。だが、からくりが分かった以上結愛には対抗手段がある。何せここに集った猟兵の中で1番あやかしメダルと共にいたのは彼女なのだから。

「(メダルの力を直接ぶつけないと)メダブラスター!!」

 ダークデザイアも左手に装着しているメダルシューター。それと同じ機構を持つ結愛の武器、メダブラスター、それを構え、メダルを装填する。

「貫きなさい!『ユニコーン』!」

 一角に由来する貫通効果のユニコーンのメダルを発射した。これならば防御しようともそれを貫通するし、メダル自身による攻撃なのでリベレーションの無敵効果をも貫通できるはずだと踏んだ。だがそのメダル弾にもダークデザイアはニヤリと笑い。

「確かにメダルを使う攻撃は通る、というのは確かだがね?」

 腕から水流ジェットを放つ、まるで先程自分がされた意趣返しのようなものを床に放つと、その反動で移動。それにより、受け止める事無くユニコーンメダルを回避してしまった。

「えっ……!?」
「だからといって、相手が真面に受ける、なあんて考えるのは……少々実戦不足じゃあないかな!!」

 人魚としての真の姿を晒したからこそ使える、水の力。そのジェット水流が今度は結愛に直接襲い掛かる。慌てて一角獣の聖剣で受け止めるが、ユニコーンメダルを手放したせいでパワーの下がった剣では受け止めきれず、またも吹き飛ばされてしまった。

「あううっ!!」

 今度は床に打ち付けられ、転がる結愛。初陣ではリーダー青鬼こそ倒したものの、それは他猟兵の助力があってのもの。今回は1人であり、そして相手はミイラ青鬼とはレベルの違うボス、ダークデザイア。実戦不足を指摘されてしまうのも致し方は無かった。

「威力は悪くなかったが、悲しいかなスピード不足だね? おや? なんだか顔色が悪いね……もしや、今撃ったのがたった1枚のあやかしメダルだった、なあんてことは?」
「あっ……!?」

 ハッとし、周りを見回すが、周囲にはあやかしメダルは落ちておらず、何故か鳥の羽根が散乱している場所だった。

(し、しまった……!)

 メダルを発射する事で敵の無敵を貫通する。発想は良かったが、外れてしまえばそれは唯一の有効手段を失ってしまう事になる。ユニコーンメダルによって造られた一角獣の聖剣ならダメージは通るだろうが、ユニコーンメダルから距離を離してしまったせいかパワーは下がってしまっている。ミイラ青鬼のように闇属性の浄化をしようにも、遠距離から水によるジェット水流で攻撃され続ければそれも叶わない。

「ハハ、どうやらそうらしいね。絶望的だ。諦めて、私達と共に歩もうじゃないか? なあに、悪いようにはしないさ」

 攻撃が効かなくなったとみるや笑顔で問いかけるダークデザイアだが、その手はジェット水流をいつでも撃てるように構えられている。

「……冗談じゃ、ない!」

 だが結愛は諦めない。確かに状況は絶望的。けれども聖剣とメダブラスターを構える事は決してやめない。

「プルティアだって、絶望的な状況でも絶対諦めなかった! ここで諦めたら、貴方に囚われた大海様も、そして私と共に戦ってくれているユニコーンも、皆裏切る事になる! そんなのは、嫌だ! 例え絶望的な戦いでも、正義の味方として、この子の騎士として、絶対にあきらめない!」

 絶対に諦めない。そんな結愛の不屈の決意、それが、新たな力を呼ぶ。

「そんな事を言っても現実は……何!?」
「えっ……?」

 結愛の周りにあった大量の羽根。それが光を帯びると、結愛の目の前に次々と集まっていく。それは段々と形を形成していく。丸の形を描いた、そう、その形はまるで、あやかしメダルのような。


 結愛もダークデザイアも知る由は無かった。彼女らの周りにあったのが、先の戦闘でシームルグが起こした羽搏きに紛れて舞い散ったシームルグの羽根だった事を。それが風に乗り、結愛の戦闘場所に舞い散っていたのだ。神意を帯びた羽根は伝承では傷をも癒したと言われる。ならばそれが大量にもあれば、『何か』を召喚する触媒には十分になり得る。

 そしてシームルグは神話体系の流れでスラヴ神話に取り込まれ、セマルグルという神としても祀られている。このセマルグルは鳥と動物が混ざり合った外見であるという説がある。鳥と動物が混ざり合ったもの。グリフォン、キマイラ等数多の神話や伝承にも多くのものがあるが、その中でもメジャーなものの1つが――――



「ペガ、サス……?」



 光が消え、結愛の目の前に現れたあやかしメダルの絵柄。それは翼を持ち、嘶きをあげる馬……否、天馬の姿。ユーベルコードの力ではなく、今度は結愛の不屈の意志によって新たなあやかしメダルが此処に生み出されたのだ。

「力を貸してくれるの?」

 答えるように、メダルが結愛の手元へと落ちた。それに結愛は頷く。諦めなかったからこそ、得た力がある。ならば、やるべきことはもう決まっている。

「翼広げ駆ける天馬、我が想像の力に依りて、風雷纏いて空を舞わん! 『ペガサス』!!」

 新たなメダル、ペガサスの力、そして結愛の【アリスナイト・イマジネイション】が合わさり、新たな力が形成される。ペガサスを模した新たなドレスが装着、更に背中に白き翼が広がり、手に持っていたメダブラスターがペガサスメダルの力で変化し、『天馬の雷銃(ペガサス・マグナム)』になった。

「なっ……! だ、だが、私にはメダルに関係の無い力は通じない!!」

 慌ててジェット水流を発射するダークデザイアだったが、しかし

「天空飛翔!!」

 それは空を切った。その頭上を翼翻した結愛が舞い、そして雷銃を構えた。

「なっ、速……!?」
「憐れな亡霊よ。裁きを受けなさい」

 そこから発射される雷弾。ペガサスが新たに授けた、雷と風の属性は、結愛の飛行スピードを格段に上げ、そして更には雷弾の発射を可能にした。雷でできた弾、当然その速度は雷に準じ、先程のコイン弾とは比べものにならない速さだった。

「グアアアアアアッ!!!」

 回避などできず、しかも先の戦闘で濡れ、更には今大海としての人魚の姿を晒しているダークデザイアに、雷の連続攻撃は多大な効果を齎した。ちなみにこの雷はペガサスメダルによって付与された物。つまり立派な『あやかしメダルによる攻撃』扱いされる。よって、リベレーションの無敵は働かないのだ。

「ウッ、ガッ……あっ!?」

 身体の痺れで身体を上手く動かせない中、ダークデザイアにとって更に悪い光景が目に飛び込んできた。
 空から降り立った結愛が外したユニコーンメダルを拾い、それを雷銃に装填。そしてその銃口をダークデザイアに向けていたのだ。雷弾でさえこの有様なのに、そこに更にメダルそのものが直撃なんてしてしまったら。

 雷銃から電気が迸る。麻痺して動けない今こそがチャンスと見た結愛は、雷をフルチャージし雷銃に籠め、そしてユニコーンメダルによる貫通効果を持った弾を装填したのだ。狙うは顔。オブリビオンの本体である、黒いドミノマスク。外せば妖怪といえど危ないかもしれない箇所だが、彼女はまるで外す気がしなかった。新たな仲間、そしてユニコーンが共に放つ一撃。そして必ず当てる、という自分の意志。これだけあればもう……!


「オーシャン大海……彼女は返してもらうわ」


 雷光が奔った。一瞬にして過たず黒き仮面本体に直撃した雷貫角弾は、ダークデザイアを爆発で包み込んだ。




「いない……仕留められなかった、か……」

 煙が晴れた後、誰も見当たらない様子に肩を落とす結愛。手ごたえはあったが、本拠地内の他の場所に逃げてしまったらしい。ダメージは与えたはず。後は他の猟兵に託すしかない、と思いつつ捜索に入る結愛。ふと、ペガサスメダルを取り出し、それに微笑んだ。

「ありがとう。……これから、よろしくね?」

 それに応えるように、ペガサスメダルに光が当たりキラリと光った。

成功 🔵​🔵​🔴​

ミルケン・ピーチ
WIZ

中身はオーシャン大海ちゃんで、捕まってるのがロック岩永くんだね!
最後までメダルを使って戦うよ!
召喚するのは世界一有名なUMA『ネッシー』!
嘘だって言われてもずっと世界中の人から愛され続けてるレジェンドUMAだ!

ネッシーに【騎乗】して【動物と話す】で指示して【運転】するよ
相手は岩タイプのあやかしだね
ガーゴイルなら飛んできそうだから【空中戦】の【戦闘知識】で敵の攻撃を【見切り】、【カウンター】の頭突きで相手を粉砕だ!

そこから【スペシャルピーチドロップ】でガーゴイルをお尻に当て、一緒にダークデザイア向けて落下、【重量攻撃】だ!

みずフィールドでいわは本気を出せない!
特徴と相性を活かさなきゃね!



●波間にに竜と岩が泳ぐ

「みつけたー! もう逃がさないからね!!」
「クッ、また、か……!!」

 本体であるマスクに大きなダメージを受け、人魚ではない人間のような姿に戻ってしまい退避してきたダークデザイアに更に追手が追いついていた。ミルケン・ピーチ(魔法少女ミルケンピーチ・f15261)である。

「幼子だとはいえ、甘く見ては困る! ダーク・ホームグラウンド!!」

 体勢を整えたダークデザイアは自身の髪の毛を空に放つと、それが折り返し降り注いでくる。其れが床に突き刺さるが、そこはミルケンのいる場所とは全然違うところだった。

「? もう上手く当てられもしないのかな?」
「フフ、いや、これで十分当たっているさ!!」

 ダークデザイアがそう言うと、あっという間にダークデザイアやミルケンの足元を含めた周囲が海水に変わってしまった。

「あわわわ!!」

 いきなり足元が海水に代わり海に落ちるが、ぷかーと浮かんで沈みはしないミルケン。なんでだろうねえ、見えない浮輪があるのかねえ。どこだろうねえ。

「ハハハハ!!」

 一方ダークデザイアも海に落ちるが、沈まないどころが足を沈めるだけでほとんど動いていない。

「そっか、身体が人魚だから!」
「そういう事さ。ここでは私は自在に動ける。キミは流石にそうはいかないだろう?」

 機動力の差で一気に追い詰める、どうやらそういう魂胆のようだ。だがミルケンはふふんと笑う。

「そんなことないもんね! 最後までメダルを使って戦うよ! 嘘かほんとか湖に泳ぐ首長恐竜! メジャーさすっごいゆーえむえー! およげー! 『ネッシー』!!」

 ミルケンが海にメダルを投げると、長い首が海面から伸び、大きな背中にミルケンを乗せた。これこそUMAの中でも知名度ならひときわ高いであろう存在。

「嘘だって言われてもずっと世界中の人から愛され続けてるレジェンドUMA、ネッシーだ!」

 色んな説あれども未だに人々に愛される、まさにレジェンドクラスの存在、ネッシー。ミルケンが乗り、話しかければその技量であっという間に共に戦うものとして十二分な連携を築き上げる。

「フッ、そう来ないとね。ロック岩永こそ解放されたが、灰色あやかしメダルの力はまだ残っている! さあおいで!!」

 そう言って、灰色メダルを海、そして空に投げるダークデザイア。空に投げたメダルは、『ガーゴイル』へと変わる。流石にエンシェントガーゴイルよりは小さいが、飛行可能なだけに海の影響は受けていないようだ。

「やっぱりガーゴイルだ! あれ? でも海にも投げちゃったけど、海で活動できる岩のあやかしなんているの?」
「ハッハッハ。確かにそうそういないだろうね。でもね、だからといって、まさかガーゴイルしか出てこない、なんて思っていたのかい?」

 そうダークデザイアがニヤリと笑った途端、海の中から何かが盛り上がって来た、それは最初、草木の生えた岩や土のように見えた。だがそれは間違い。広範囲に出てきたような其れは、もう――

「し、し、島あああああああああああ!?」
「ハハハ。もうちょっと前の当たりを見たまえ」

 大きな島のように見えたその前。そこには亀の頭がちょこんと海面からのぞいていた。

「ザラタン。とあるペルシア人の学者の著書で逸話が紹介された、島のような甲羅を持つ巨大な海亀さ。草木が茂る程の甲羅なら岩のようだっておかしくない。立派な岩石系あやかしだろ?」
「そ、そんなのあり!?」
「ありさ。そしてザラタンにより足場が確保された、という事は?」

 ザラタンの甲羅にあたる草木の間から、ゴーレムやぬりかべ、小泣き爺らが顔を出す。そしてぬりかべやゴーレムが体の一部や石化した小泣き爺を投げたり、ガーゴイルたちも一斉にミルケンやネッシーに襲い掛かって来た。

「ま、負けるもんかあああああ!」

 だがミルケンとて流石に攻撃自体は予想はしていた。ネッシーを操り、上手く海面を動き、ザラタンからの岩石砲弾やガーゴイルの襲撃を回避する。

「こ、これでなんとか……あれ?」

 辺りを見回すと、ダークデザイアが見当たらないことに気が付いた。そう、ミルケンはガーゴイルの襲撃のみの想定だったとはいえ対抗策は用意していた。だが、忘れてはいけない事があった。それは、『ここはダークデザイアの肉体である妖怪が得意とする場所』だということ。そうなれば、攻撃はガーゴイルのみならず。


「隙だらけだよ!!」
「うわあっ!?」

 ミルケンの背後の海面から、ダークデザイアが飛び出してきて長く伸びたその髪の毛でミルケンを捕縛すると、あっという間に海の中へと引きずり込んだのだ。

(や、やばい、これ……!!)

 水中の中を引きこまれながら、ミルケンはダークデザイアを見た。その下半身は人魚の形になっており、悠々と海中を泳いでいる。ダークデザイアが得意としているフィールドになっているのなら、ダークデザイアは逃げるだけだろうか。岩が海に不向きなのはダークデザイアとて承知の上。ならば、岩石系あやかしはむしろ牽制や陽動で、本命の攻撃はむしろ、自在に海を泳げるダークデザイア自身となる。ミルケンはガーゴイル用に空中戦の用意をし、空に注力する余り、海からダークデザイア自身が襲ってくる可能性を外してしまっていたのだ。

「フフ。可哀想だが、このまま溺れ死なせて貰……何!?」

 だが、ミルケンにばかり注意を向けてしまったのはダークデザイアとて同じだった。潜航してきたネッシーがその長い首を伸ばし、ミルケンを掴む髪の毛を掴むと、そのまま一気に上へと放り投げたのだ。流石にパワーの差は明白であり、髪ごとミルケンもダークデザイアも海面から上へと一気に放り出されてしまう。

「クッ、しまった!!」
「……あっ!!」

 まだ酸素不足の状態からなんとか気を取り直したミルケンは、目の前とそして海面を見て、まさに絶好の状態という事に気付いた。

(ありがと、ネッシー!!)
「うおりゃあああああああ!!!」

 そう気合を入れて叫んだミルケンは、いきなり目の前に出てきて面を喰らったガーゴイルに頭突きを喰らわせた。怯んだガーゴイルは徐に高度を下げてしまう。位置的に自分の下、そして髪の毛で繋がったダークデザイアの上に来た事を確認したミルケンは意を決して体勢を整えると

「必殺、【スペシャルピーチドロップ】!」

 そこから重量感溢れる尻と共に一気にガーゴイル目がけて落下した。頭突きで上手く動けなかったガーゴイルはもろに尻の直撃を受けて落下。つまり……。


「なんだ一体わぷぅ!?」

 当然ながら、その下にいたダークデザイアもまたガーゴイルにぶつかり尻の勢いのまま落下していく。海洋に適応している身体も、空に放り投げられてはどうしようもない。

「くっ、このまま私をガーゴイルごと海に落す気か!! だが、海ならば私の身体なら問題は…………あ」

 たとえ高度から落ちたとしても、海ならば人魚の身体でダメージは無効にできると踏んだダークデザイアだったが、その下に見やったものを見て顔が青くなった。
 そこにあったのは、自分がさっき出した、島の如き甲羅、ザラタンの甲羅だった。自分で岩石系あやかしと言い切ったのだ。その堅さは確かな物だろう。そんなところにぶつけられては……!

「ま、まず……」
「どっかーーーーーーん!!!」

 酸素不足で悲鳴を上げるぺしぇの肉体により意識も朦朧としている中、ミルケンは力の限りガーゴイルとダークデザイアを、自分の尻と強固なザラタンの甲羅で思い切り挟み込んだ。強烈な衝撃がガーゴイルとダークデザイア、そして2体を伝わりミルケンの全身にも響く。

「ぐあああああああっ!!!」



 酸素不足と衝撃の反動により、気を失ったまま空に放り出されたミルケンの体。それをネッシーが空中でマントを咥えてキャッチ。ダークデザイアもまた気絶し、指示系統を失って動かないかりそめのあやかし達を余所に、効果が消える前に海洋フィールド内を泳いでダークデザイアの周辺から退避して行った。
 ネッシーときちんと会話をし、連携と意志を確かにしたこと。それがここで2人の大きな差となり、ミルケンの退避を許すことになった。

成功 🔵​🔵​🔴​

サエ・キルフィバオム
☆アドリブ絡み歓迎
「オーシャン大海と融合してるなら、なぜメダルを隠していたのか」
諸々から融合先は大海、所持メダルは岩永と断定

先の3枚のメダルを根拠に以下を推理
・大海とデザイアとで望みに齟齬があるからメダルは力を貸さなかった
・大海の望みと食い違ってるデザイアの欲望は誤り
・ならばメダルたちは大海を助けたがっているはず

【コミュ力】【言いくるめ】で指摘しリベージョンを【怠惰ナ信号ノ超越】でコピーし、大海のメダルの力を借りて変身

「忘れた?この子たちは私のメダルじゃない」
「私自身のメダル行使権を使わせてもらうよ!」

一見弱い妖狐のコインはここまでの戦いで進化条件を満たしていた
九尾と化した妖狐と合体攻撃します


大神・狼煙
……夢を追い続けるメダリストが他人に縋るほど、儚い夢だったんですか?


大海と融合している、と推測


ライバルが『道具』にされようと、洗脳されようと、構わないのですね?


きっと返事はないが、隙を見せれば吸血、弱体化を狙う


メダルは岩石系と予測し、手洗鬼に殴らせる

並の妖怪では相手にならない質量で、切札を切らせる策

支配欲のある実力者なら、岩石系最強の妖、殺生石をお持ちでは?

手洗鬼すら霧散するが、呼び出せば最期、敵味方問わず皆殺し

……ところで、一服いかがですか?

殺生石の可燃性有毒ガスの中でライターを着火

全てが吹き飛ぶよやったね!

穴の外では、大地の化身故に硫黄が効かないダイダラボッチによる右フックがお待ちです



●そして海は燃え上がり、闇より解放される

「グッ、ハァ、ハァ……」

 意識を取り戻した物の、大分体力を消耗したのか息も絶え絶えなダークデザイア。だがしかし、彼女もまた、それこそプルティアの如く、諦めてはいなかった。

「まだだ、まだだ……!!私は彼女の、大海の欲望を叶えるんだ……!!そうだ、その正義を果たす為ならば、私は、私はまだ諦めない!!」

 その姿がまた人魚の、大海自身の姿になっていく。どうやら無意識にダーク・リベレーションをまた発動したらいい。あるいはそれは、大海となる事で自身の正義が正しいのだと認識したいが為かもしれない。

 その『正義』を、彼は容赦なく切り崩しに行く。

「……夢を追い続けるメダリストが他人に縋るほど、儚い夢だったんですか?」

 そう問いかけながら現れたのは、大神・狼煙(コーヒー味・f06108)だった。あやかしメダルを弄りながら、大海の姿のダークデザイアに、いや、むしろそれは大海に向けて問いかける。

「他の自分自身で夢を追いかける人達に恥ずかしいとは思わないんですか? ああ、恥ずかしいどころか、ライバルが『道具』にされようと、洗脳されようと、構わないのですね? ましてやオブリビオンにして同じ夢に引きずり込もうとは、本当に大した夢だことだ」
「うるさい!! 彼女の欲望を、バカにするな!!」

 すっかり余裕がなくなったダークデザイアが激昂して狼煙に反論した。

「彼女は関係ない! 私がやったまでだ! 彼女の欲望を叶える為、そして全ての欲望を叶える為に、私がやった事だ!! だから彼女を揺さぶるのはやめ」
「なあんだ……なら、簡単な事ではないですか」

 狼煙は微笑み、そして眼鏡のブリッジを上げてついに口にした。



「他でもない。彼女の願いを、夢を愚弄したのは――アナタじゃないですか」


「な、に……!?」
「彼女の願いは、≪ずっとみんなとメダルバトルをしていたい≫。恐らくはそれは、皆と仲良く、とかが付くんでしょう。何せ元の世界で忘れられ、やっとここに辿りついた果てで出会った共通の遊戯仲間です。いつこれが終わってしまうか、いつ誰かが消えてしまうか。それが不安になっても仕方ないでしょう。そうなればそんな願いを抱いても仕方ない。そんな願いを貴方は、よりにもよってオブリビオン化させて永遠にメダルバトルをさせればいい、などという最悪の曲解をした。分かりますか? 貴方は、彼女の欲望を叶える正義など、全く果していないのです。はは、何が正義の味方。貴方は紛れもない。



 全ての願い、夢、そして欲望の――――『敵』だよ」


 決定的な言葉を告げた。欲望の味方として自分を定義した、ダークデザイアへの、決定的な否定な言葉だった。

「ガ、ウ、ウルサイ……ウルサイイイイイイイ!! 私は、私は私は私は、欲望を叶える者だああああああああ!!!!」

 彼女を纏う闇のオーラが更に増大する。だがその顔色は明らかに悪い。

(多少は大海自身への揺さぶりは効きました、かね? 後は『アレ』を引きずりだせるかどうか)

「出て来い!! 岩石あやかし!!」

 まだ残っていた灰色あやかしメダルを投げ、大量の岩石あやかし軍団を召喚する。それで狼煙を押し潰そうという魂胆らしい。

「無駄です」

 だが、その軍団が一薙ぎに何かが振られたと思えば、一撃で大半が破壊、粉砕された。

「な、に!?」
「やれやれ。本当にミイラ青鬼戦でのこちらの様子は全く見ていなかったんですね。私の手持ちを知っていれば、質量作戦だなんて考え付かなかった筈なんですがね?」

 軍団を薙いだ何か、それは既に召喚していた手洗い鬼の腕だった。別に手洗い鬼は掬うしかできないわけではない。やろうと思えばその圧倒的な巨大な手ではたくなり殴るなりもできる。巨大故に、それだけで一軍を壊滅できるというだけだ。
 ちなみに召喚したのは、先程長台詞でダークデザイアの矛盾をあげていた時。召喚口上? こんなのにそんなの必要あります? 2回目でしたし省略省略、と狼煙の目が語っていた。

「お、のれ……!!」
「当然あやかしメダルで出しているので、貴方もぺしゃんこにできますね……というわけでおしまいです。まさかこんな相手を倒せるようなのはいないでしょう?」

 ダークデザイアを見下すような、挑発的な視線を狼煙が向ける。ダークデザイアの頭上で拳を構える手洗い鬼も今かという状態で止めを刺さんとしている。


「…………フ、フフフフフフ!! 倒せるようなのはいない、だと? ……これはロック岩永のあやかしメダルを取り込んで作ったメダルだ。ロック岩永本人とその手持ちメダル自身は既に解放されてしまった。だが、コピーとしてこの中に全てのストックは存在している。そして当然……ロック岩永の切り札たる、レジェンドクラスのメダルもね!!」

 そう言ってダークデザイアは、最後の灰色あやかしメダルを取り出し、それを上空へと投げた。そして現れるのは……一見、ただの巨岩。変哲も無ければ、手足も無い、本当にただの岩だった。

「さあ、全てを呪い蝕み殺し尽せ!! 『殺生石』!!」

 その石から煙のようなものが出てきて、それが手洗い鬼の手に触れた瞬間、手洗い鬼の身体が黒い瘴気に蝕まれ霧散して行った。

「なっ!? 手洗い鬼が!! 殺生石、それはまさか、かの大妖の!!」

 服の袖で咄嗟に口を覆った狼煙が距離を取りながらそう口にする。こんな行動をとったのは、彼が激しい硫黄の匂いを感じ取ったからだ。

「そう! かの大妖が討ち果たされ、石となりその後毒の煙を撒き散らして多くの命を奪った! その伝承に伝わるのがこの殺生石! ほぼ全ての妖怪も殺し尽す、最強の岩石系あやかしだ!!」

 毒の煙が広がっていき、生き残っていた岩石あやかし軍団までも蝕み崩壊させていく。だがダークデザイアにはもう、殺生石しか見えていないようで、全く身もしていなかった。

「安心したまえ。プレイヤーには硫黄や煙は及ぶが、毒はいかないように制限がされている。だがその分、あやかしメダルで召喚した妖怪には絶対的に作用する! そして、私にはあやかしメダルによる攻撃しか通用しない! そう、つまり、これで私に対抗できる存在は全て殺生石が必ず殺す、絶対の布陣が完成したのさ!! フフハハハハハハハハ!!!!」

 リベレーション状態のダークデザイアはあやかしメダルでしか倒せない。だが、あやかしメダルで召喚した妖怪は殺生石に必ず殺される。これこそがダークデザイアの切り札。限定無敵状態と、その限定を特攻殺害するあやかしにより完全無敵状態を実現する最強コンボ状態だった。

「なんという事だ、これでは確かにもう、成す術がない……」 
「そうだろうそうだろう。なあに、心配するな。君達は心から私たちの欲望に寄り添えるようにしっかり……」

 絶対的勝利を確信し、いつもの調子がやや戻ってきたダークデザイアだった。故に、狼煙が何気ない仕草でポケットから取り出したものに気付かずに。

「……ところで、一服いかがですか?」
「は? 何を言」

 次の瞬間、狼煙が着火した『ライター』の火から一気に炎が伝わり、殺生石を中心に漂っていた硫黄ガスが爆発。周辺を一気に爆発に包んだ。今回参加した戦いで必ずナパームやら瓦礫流星群でどこかを破壊する男、クラッシャー大神のノルマ達成の瞬間であった。

「ぐあっ!!!」

 大爆発で吹っ飛び倒れるダークデザイア。あやかしメダルによる攻撃以外には無敵、ではあるが、この爆発は自分が召喚した殺生石の硫黄ガスに着火されて発生した物。元のライターでの炎と原因の硫黄ガスで、半減程度にはダメージを喰らっていたのだ。

「く、くそ……だが、バカな男だ。あんな距離では奴も自滅した筈」

 見れば、確かに狼煙がいた処には何も残っていない。粉々になったか、とダークデザイアが安心しかけた時だった。


「本当。もうちょっと余裕というか、合図が欲しかったわ」
「ははは、それは失礼しました」

 それは消えたはずの男と、ここまで聞いた事が無い声だった。
 聞こえた方を見れば、そこには無事な姿の、なぜか腕にロープが絡み付いた狼煙、そしてそのロープの先を手に持っている、サエ・キルフィバオム(突撃!社会の裏事情特派員・f01091)の姿があった。

 そう、前回は偶発的に組んだ2人だったが、今回は事前に組んでダークデザイア撃破に当たっていたのだ。狼煙がある目的の為に先に出て、挑発。目的を達成したならば、ライターで着火。そこを物陰に潜んでいたサエが『多目的伸縮ロープ「猫背」』で狼煙の腕を取り、爆発が届く前に引き寄せる、という手はずだったのだ。ただ少し掠ったのか、狼煙の靴の先から少し煙が上がっている。

「クッ…! だが、少しすれば殺生石の殺害ガスも復活する! 今更、1人増えたところで!!」
「そう。なら、1つ質問いい? なあに、簡単な質問。そもそも疑問だったんだけど……。


 あなた、なんで大海のメダルを使わず、岩永をわざわざメダルにして、しかも部下に預けたの?」

 サエはそう疑問を口にした。勝利に至る為の、最後の1ピースを埋める為に。

「なっ……! な、なんでそんなどうでもいいことを君達に」
「なら代わりに指摘してあげる。単純な話。『使いたくても使えなかった』から、でしょ? 大海のメダルを、どんな手を使っても、召喚も強化も何もできなかった」
「グッ!!」

 歯噛みしたダークデザイアの表情に、サエはそれが正解だったと確信した。

「なら壊すなり捨てるなりすればよかったろうけど、それもできなかった。大海の意識はまだ完全には消えていなかったから。だから、彼女のメダルを壊す、捨てる、なんてことをして彼女の精神を揺るがすのは博打が過ぎたのよね? より未来を拒み欲望を強めるか、壊したばかりに貴方に反発して取り込みを解除される危険性もあったから。全ての欲望の肯定、という割には大分セコい行動ね? だから貴方は中身を言わずに鍵を掛けた宝箱を部下に預けた。手元に置いておかなかったのは、大海がそれを意識し続ける事で刺激される事を恐れたからかしら」
「ガ、グ!!」

 どうやら全てが全て図星だったようで、ダークデザイアは何も言えなくなっていた。だがサエの追求はまだ終わっていない。

「じゃあ次。なら、『なんで貴方がメダルを使えなかったのか』。これも簡単よね。『メダル自身が拒否したから』。全部が全部ではないでしょうけど、あやかしメダルには意志があるのもあるみたいね。貴方がメダルを使えなかったのはこれしか考えられない。じゃ、ここで更にもう1つ踏み込むわ。『なんでメダルが拒否しているのか』。そう、ここが肝心だったの。これも簡単」

 そしてサエはダークデザイアを指差した。ついにたどり着く、勝利の為の最後の段階。



「さっきの彼との問答の通り、貴方と大海の欲望の解釈には齟齬がある。その齟齬をメダルは感じ取り、拒絶した。貴方は主に相応しくない、とね。
 さあ……最後の問いかけをするわ。これで終わり。



 『明確に貴方は悪だと。大海の欲望を叶えてなどいないと。語る第三者がいた場合――貴方は、正義と共に振りかざすその力を使える』のかしら?」



「ナ、ナ、ニ……!?」


 ダークデザイアの顔がこれ以上ないくらいに歪んだ。そう、それこそがサエのたどりつきたかった到達点。

 ダークデザイアのダーク・リベレーションが『大海の欲望を叶える誓いの元に発動され、その誓いが正義であるほど強化される』。それは既に姫騎士の戦いで集められた情報で、ピンクヒーローの戦闘の間に推測されていた。ならば限定的無敵を突き崩す弱点はそこにある、と。

 このユーベルコードにおいて正義であると判断するのは誰か。何も無ければそれはデザイア自身。大海と会った事の無い猟兵側からでは、欲望を叶えていないので悪である、という断定は難しい。故にデザイア自身が正義と信じている限りはその強化は強固だった。

 だが、サエと狼煙が見つけた『アレ』の中身。それこそが猟兵が証明できる切欠の『証拠』だったのだ。海洋系メダルを自分で使わず、わざわざ封印して手元からまで遠ざけた理由。それを少しずつ論理的に考えてみた結果たどり着いたのが、あやかしメダルにより、ダークデザイアの誓いが正義ではないと証明できるという結論だった。


「ワ、私は、正義だ!! 欲望を叶える、正義の味方だ!! 彼女の欲望を、叶え」
「いいえ、貴方は大海の欲望を叶えてなどいない。私がそう言いました」
「そしてその証拠として、この貴方が使えないあやかしメダルを提示する。私もそう言ったわ」

 狼煙とサエが並び、共に指を突き付け、トドメの一言を繰り出した。




「「お前は、紛れも無い『悪』だ」」



「ウ、グ、グ、グアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


 頭を抑えたダークデザイアが苦しみ、纏っていた闇のオーラが彼女から剥がれていく。そしてその姿も、元の人間のようなマスクをした少女に戻る。正義ではない、と確実に証明されてしまったが故に、ダーク・リベレーションの効果が消え失せたのだ。尤も、実は解除されたのはそれだけが理由ではなく。

「タネは割れたね。バラして組み直すよ! 【怠惰ナ信号ノ超越(クイック・ピアシング・フォックス)】!」

 剥がれた闇のオーラがサエの耳元に集まっていくと、1つのピアスとなり装着される。

「ま、まさか、私の技を……!!」
「ご名答。貴方の技の弱点を指摘して、実証すれば同じ効果を持てるピアスとしてこちらに持つことができる、という訳ね。客観的に証明が難しかったから、少し手間がかかったけど。さて」

 ピアスを軽く弾くと、サエは3枚のメダルを取り出した。それは彼女がここまで使ってきた妖狐ではなく、『クラーケン』『スキュラ』『カリュブディス』。それを見てダークデザイアがハッとする。

「それは、大海の!!」
「そう。貴方が宝箱に閉じ込めておいたメダルよ。確か、合体した妖怪の欲望を叶えると誓えばいいのよね?」
「ま、まさか貴様!!」
「ええ、その『まさか』よ!」

 良い笑顔でサエは3枚のメダルを掲げる。

「サエ・キルフィバオムが誓うわ。貴方達の欲望……いえ、願いを必ず叶える。オーシャン大海を、あの悪徳マスクから必ず助け出す。この誓いを、正義と認めてくれるのなら……このピアスに応えて!!」

 そしてピアスが輝きを放つ。輝きがサエを包み、メダルも又それから逃げる事無く包まれていき……!


「ありがと♪」


 光が消えれば、そこはバニースーツのような服に変わったサエの姿。だがその一部からはイカやタコのような触手が伸び、手の先からは全てを引きずり込むような渦巻きが宙に発生していた。『クラーケン』『スキュラ』『カリュブディス』、3枚の海洋系あやかしメダルと見事合体を果たした事で少しアレンジされたサエの真の姿がそこに在った。


「な、に……!?」
「おお、これは見事なモノですね。まさかここまで相手の技を逆手に取れるとは」

 驚愕するダークデザイアを尻目に、素直に感心する狼煙。

「貴方が爆発で適度に弱らせて、反抗を削いでくれたからあそこまで追い詰められたのよ。それに、まだ終わってない」
「ええ、まだ最後の仕込みがありましたね」
「な、なんだ、まだ一体何をする気だ!!」

 ここまででもう大分弱らせられ、更には技まで奪われたと言うのにまだあるのか、というダークデザイアに、サエが当然というように告げる。

「忘れた?この子たちは私のメダルじゃない。私自身のメダル行使権を使わせてもらうよ!」

 そう、サエはメダルと合体したが、これはあくまでユーベルコードの効果。メダルバトルという体であれば、サエはまだ自分のメダルを召喚していない。

「これが最後!」

 そう言って、サエはメダルを投げた。それはようやく殺生ガスを出すほどに回復しかけていた殺生石の真上に。

「ハッ! 何をするかと思えば、何を出そうとすぐに殺されるだけ……!?」

 出た瞬間に殺生ガスで殺されると思っていたダークデザイアだったが、あまりに予想外の事が起こった。
 殺生石が崩れるとともに、その欠片がサエが投げたメダルへと吸い込まれていくのだ。

「な、な、なぜだ!!!!」
「じゃあ種明かし。私が投げたのは、『妖狐』。ここまで共に闘ってきた、単体では弱いコモンあやかし。でも少し前に事例があったみたいに、この子もまた進化する可能性を宿している。数回のバトル経験。そして……『本来の姿が封印されたもの』を取り戻せば」

 その言葉に、ダークデザイアが青ざめた。察しがついたのだ。何せ、召喚した本人なのだから。

「先程は大妖、と誤魔化しましたが……殺生石の元になったのは、さる上皇が愛した玉藻の前という女性。そしてその正体であった……『九尾の狐』。貴方のメダルが岩石系とわかった時点で、持っているのでは、と博打ではありましたが当たって良かったですよ。手洗鬼を犠牲にはしましたが、まんまと出してもらえましたから」

 そう、狼煙が先に出てきた目的。それこそが、ダークデザイアに殺生石を召喚させる事。これこそが、最後の仕込みだったのだ。


「さあ、ひとつかここのつか。答えは出た、ここのつ! 今こそ封印されし力を取り戻し、本来の力を取り戻せ!! 全て傾かせ! 『九尾』!!」


 メダルからついに最後の妖怪が出現する。
 生えた尻尾は1本ではなく9本。姿は既に2回現れた弱弱しい少女ではなく、妖艶で全てを破滅させかねないような蠱惑な笑みを讃えた美女。それはまるで本来の素を出したサエのような変わりようでもあった。その妖気も圧倒的で、場の全てを重圧で支配するかのような程である。それこそが中国、そして日本に渡った傾国の大妖怪、『九尾』の姿だった。


「グッッ!!」

 圧倒的妖気を称えるレジェンドクラスのあやかし、そして3枚のメダルと合体したサエ。その2人を前に追い詰められたダークデザイアは――。


「違う、違う、違う、違う! 正義だ、正義だ、私は正義なんだああああああああ!!!」

 未だに自分の悪を認めない、必死の形相で空高く飛びあがった。そう、頭上には大穴があった。そこからならまだ逃げの可能性があると踏んで。その必死さ故か、あっという間に地上へと――。



「だから――――逃がす訳ねえだろうが」



 たどり着く前に、振り下ろされた巨腕により叩き落とされた。

「ガフッ!!!」

 落下するダークデザイアの目に、その男が写った。九尾とサエに気を取られ、意識から外してしまった男の顔が。

「九尾さんが派手に出てくれたので、そこでダイダラボッチを再び出して地上の穴から見えない場所に隠していましたよ。もう貴方が取る手はそれくらいだと思ったいましたからね?」

 ダークデザイアの逃げを封じる為に、狼煙は先んじて手を打っていたのだ。

「何から何までありがとね?」
「いえいえ。その代り、トドメはきっちりお願いしますよ」
「ええ……任せて!!」

 九尾とサエが落下するダークデザイア向けて飛ぶ。落下しきる前に空中で倒し切る為に。

「グッ、させ、るかあああああ!!!」

 ダークデザイアの髪が拳、剣、槍、鎌、あらゆる近接武器になり2人を殺そうと向かってくる。だが、サエは冷静に手元で宙にカリュブディスによる渦巻きを形成する。

「グッ、アアッ!!」

 巻き込まんとするその大いなる力に、ダークデザイアは攻撃をする前に体勢を崩され、サエに向けて一気に引き寄せられる。そこをすかさずクラーケン、スキュラの触手を伸ばし、髪の根元、攻撃の為の手足、全てを絡め取り完全に捕縛する。

「ゴッグギィ!!」

 変な声が漏れるのも気にせず、その身体を天に掲げる。その真上には、九尾が既に待機していた。その九つの尾すべてに炎が灯り、そしてサエの腕に触手が集まりドリルのような槍を形成すると、サエもまた足から水流を発射してダークデザイアへと突っ込んでいく。




「ワタ、シハ……ヨク、ボウヲ……カナ、エ……!!」
「結局あなたは、欲望を叶えてあげると言う自己満足、それに浸る自分の欲望を満たそうとしていた。それだけ、よ!!」




 九尾の炎が過たず全てダークデザイアの本体であるマスクに命中。

 顔から外れ、宙を舞ったそれにサエの触手槍が突き刺さり、刹那の後、マスクを完全に粉砕した。



 こうして、欲望の味方を自称したオブリビオン、ダークデザイアの撃破は成功した。
 そして触手で抱えたまま、オーシャン大海もまた救出に成功したのだった。



●さらばだ、歴戦のメダリスト達よ。


 その後、猟兵らは大海、岩永、羽鳥、そして青鬼にされていた妖怪を介抱。幸い、妖怪であったのもあり全員大きな傷は無かった。
 大海はもしかしたら、今回多くの妖怪を巻き込んだ事で自責の念に駆られてしまうかもしれないが、それでもサエは大丈夫だろうと思っている。
 メダリストはノリ重視の良い妖怪が多いし、それに彼女には寄り添ってくれるあやかしメダルがいるのだから、と彼女の傍らにメダルを返しながら確信していた。

 その後、猟兵らは任務の為に拾ったりしていたメダルの持ち主を探し、自分で捨てたメダリストに一言言ったり、持ち主がないメダルは貰ったりしていた。
 むしろ町のメダルのほとんどはダークデザイアが開催の為に拾ってきたものらしいので、どうするかは猟兵ら次第になるだろう。
 シームルグに関してはレジェンドクラスではあるが、
 バード羽鳥が『この町に来る前に拾ったが、自分が相応しいという自覚は無かったので、育ててくれた人に譲っても構わない』との事だった。
 途中で生み出されたり発生したメダルに関しても特に問題無く猟兵らの元に残ったり残らなかったりするだろう。


 そして流星群やら色々で駆けつけたり街の外から戻って来たメダリストたちと猟兵らが色んな話で盛り上がったり、メダルバトルのアドバイスをしたり、今度こそ普通の大会をしようと話し合い、その時は呼んでくれという猟兵もいたりしたかもしれないが……それはまた、猟兵それぞれの物語である。



 そしてどこかで声が上がる。町のどこかで、あるいはこの世界のどこかで。宙を舞う、あやかしメダルの輝きと共に。



「メダルバトル、開始!!」 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年07月22日


挿絵イラスト