――素晴らしい(ブラボー)! 素晴らしい(ブラボー)!
――踊り終えた私に、歓喜の声とともに拍手が贈られる。
――観客席に座っているのは、たった一人の婦人。彼女は手を止めて、私に微笑む。その微笑みは幼い女の子のもののようにも、麗しき貴婦人のもののようにも見えた。目と目が合って、私はすぐに魅了される。
――貴女こそ私のプリマ! さあこちらへ来て。
――先ほどまで一緒に踊っていた仲間……ライバル……みんなは今や動きを止め、マネキンのように横たわる。スポットライトは二つだけ。私を照らす。彼女を照らす。他は闇に溶けていく。
――私は彼女に手を取られ、魔性の微笑みに連れ去られていく。一瞬の暗転。
――次の場面は薔薇の香りに満たされた庭園。芳しいけど赤い香り。赤の園は迷路のように入り組んでいて、だけど私が惑うことはない(彼女が手を引いてくれているから……)。庭園の中心には林檎の樹が立っていた。
――この樹はもっとも美しい魂のために魔法の実をつけるの。貴女のことよ。永遠の若さ、永遠の美……貴女の命を私に頂戴。
――私はこくりとうなずいた。
「集まってくれてありがとうございます。アリスラビリンスで、事件です」
グリモア猟兵のゾシエ・バシュカ(f07825)が猟兵たちの顔を見回す。考えをまとめるかのような一瞬の沈黙を挟んでから、続きを話し出す。
「『猟書家(ビブリオマニア)』という黒ずくめがからんでいて、不思議の国がかれらの本の中の世界に取り込まれてしまっています」
その本の世界は薔薇の迷路で閉ざされた劇場の世界。劇場の支配人、『薔薇園の番兎』ローゼスはもっとも優れた踊り手を選び、庭園の魔法の林檎に命を捧げさせるのだという。本の世界に囚われたアリスは書かれた物語をなぞってライバルと競い合い、踊り手として成長していく。そしてある日、劇的な収穫の時が訪れるのだ。
「悪趣味な本だと思います。ですが、ある程度は台本に従わなければいけません。転送した時点で、本の中の世界に入り込んでしまうので」
赤い庭園を照らすのは真っ白な太陽。太陽には矢印……進むべき方向と現在のページ数が示されている。矢印の方向に進めば物語が進むが、逆方向に進めば急速に生命力を失い、本の住人にされてしまうのだ。
「最初は、庭園を管理する小人たちと遭遇します。かれらはみなさんに対して敵対的ですが、なだめすかすなり、敵わないことを見せつけるなりしてやれば大人しくなって劇場に案内してくれるはずです」
劇場では厳しいレッスンやライバルとの切磋琢磨の日々が描かれる。ライバルを蹴落としたり、時には友情を育んで実力を認めさせたりして、猟兵たちがローゼスを前にしての「公演」にたどり着くのが目的となるだろう。
「ここで囚われたアリスの女の子――名前はエデレスちゃんというんですけど――とも出会えます。彼女は本の世界の住人になりかかっていますが、一緒に進めるように励ましてあげてください。『正しい方向』に進むのが、けっきょく助けになります」
公演のページに進めれば、劇場でローゼスと相対することができる。本の世界の支配者であるローゼスは、通常の戦闘行動のほかに、場面転換して自分のテリトリーの庭園に移動させ、猟兵を矢印以外の方向に誘導して本に取り込もうとする搦め手も用いるらしい。
「とはいえ、そこまで来たならあと一歩です。エンディングを書き換えてやってください」
説明は以上です、とゾシエ。手のひらの上にグリモアが現われ、輝きはじめる。それでは、よろしく頼みます。そう言って、猟兵たちを送り出した。
kurosato
kurosatoです。実にお久しぶりですね。
のんびりペースで書き進めていこうと思いますので、改めてよろしくお願いします。
●シナリオについて
第2章は少し特殊な処理になるかと思います。戦闘フラグメントですが、日常描写的なことやアリス(エデレス)との交流などを試みることもできます。創意工夫をこらしてみてくださいね。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしています。
第1章 冒険
『小人の国』
|
POW : 力こそパワー。無敵っぷりを見せつけて勝ち目がないことを見せつける
SPD : ちょちょいのちょい。相手の武器を取り上げて武装解除
WIZ : 美味しそうな食べ物や素敵な物を渡して和平交渉
👑7
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
|
種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●1→
一瞬の浮遊感の後、猟兵は『赤い果実に、赤い魂』の世界に降り立った。
最初に感じたのは、咲き誇る薔薇の甘い香り――そしてその奥に塗り込められた腐臭。
左右は背の高い薔薇の植え込みが壁となっており、足下には細かな丸石が敷き詰められている。地面にしっかり足をつけて立っているはずなのに、感触はどこかあやふやで、現実感に乏しい。これが物語の中ということなのか。夢を見ながら「これは夢だ」とわかっているときのような、なんとなく後ろめたく居心地の悪い気分だ。
一緒に転送されたはずの仲間の姿が見えないが、おそらく、庭園の迷路で分断されて、いくつかの地点で同時に「最初のページ」が演じられているのだろう。頭上を振り仰げば薄く虹色にたなびく雲の中に白く輝く太陽が浮かび上がっている。数字は「1」、矢印は「→」、ちょうど迷路の続く方向と一致していた。(太陽は眩しいほどに光っているが、熱を伝えてはこないようだ。ややじっとりと湿り気を帯びた空気は暑くもなく、寒くもなく、かといって快適というわけでもなかった)
矢印の示す方向に従って進むと、数字が次々と加算されていく。正しく「読み進めている」のだ。迷路を抜けられれば、はぐれた仲間たちとも合流できるはずだ。
――私は左手を迷路の壁について進んでいった。そうすれば、いつかは迷路の出口にたどり着けると、誰かから教わったことがあったはず。でも、誰が教えてくれたの?
――思い出せない。だんだん、思い出せなくなっていく。
――かぶりを振って目を上げると、いくつもの目が私を見返していた。
植え込みの影から、小人の庭師たちが姿を現した。幼い子どものような小さな身体に大きな頭が乗っていて、顔には老人のような皺が幾重にも刻まれている。かれらは手に手に鋏を、鎌を、鍬を持っていて、それが立派な武器だといわんばかりに突きつけて、猟兵に問うた。
「ここはローゼン様の庭園ぞ。招きもなしにみだりに立ち入っちゃなんねえ場所だ。おんしは客か、盗人か?」
――かれらの視線が突き刺さる。その目の光の剣呑さは、その手の鋏さながらだ。私は歓迎されていないみたい。
――どう答えよう?
シウム・ジョイグルミット
[SPD]
へぇ、この本はまず薔薇が歓迎してくれるんだねぇ
地面に違和感あるけど、【空中浮遊】でふわふわ移動しちゃえば問題ないかな
おっと、小人くん達は刃物を持ってるみたいだね
危ないから、『Crazy Blackjack』召喚!
刃物に噛みつかせて、全部お菓子に変えちゃおう
ボクは盗人じゃないから、お菓子でも食べてまずは皆落ち着いて~
実はボク、踊りに結構興味があるんだよねぇ
で、この劇場でレッスンを受けてみたくて来たんだけど、よかったら案内してもらえないかなー?
まぁ、本当は踊りに自信なんてないんだけどね
【演技】で誤魔化せるといいなー
空中でふわふわ浮いたり、【残像】で消えたりしたらそれらしく見せられるかな?
星羅・羽織
自由に動かしたり喋らせたりしてOKです!
悪趣味でも、私が、入れば、ハッピーエンドだから。
それに、世界の構築、改変、興味がある。
調べて、応用すれば、役に立つ、可能性。
力づくでも、いい、けど、ゆっくり調べるなら、平和に行くのが、一番。
「私は、客。通して、くれ、る?」
証拠は、ないけれど、こんなのは、どう?
私が作った、魔法の、お菓子。
宇宙<魔力>のキャンディー、星の光がかかったクッキー。
特別な、味。楽しい、気持ちになる。
きっと気に入るはず、だから。
●25↑
「へぇ、この本はまず薔薇が歓迎してくれるんだねぇ」
本の世界に降り立って第一声。シウム・ジョイグルミット(風の吹くまま気の向くまま・f20781)は感心したように咲き誇る薔薇の迷路を眺める。黒ずんだ棘蔦が絡み合って壁となり、花の赤さは鮮やかな血を連想させずにはおかない。地面の感触を何度かたしかめ、――敷き詰められた丸石にはいつか噛みついてきそうな違和感を覚えた――そっと蹴ると、シウムの身体がふわりと浮かんだ。
「これなら問題ないかな? それじゃ、行こ~」
「うん……」
呼びかけに、生返事で応えたのは星羅・羽織(星空に願いを・f00376)。彼女もまた、興味津々といった様子で周囲を眺め回している。視線は各所にさまよい、前後、左右、下ときて、上へと向けられた。空に浮かぶ太陽。ページをあらわす数字と矢印。
そもそも。本の中の世界とは? 『猟書家(ビブリオマニア)』なる者たちが本を開くと、不思議の国の住人はその世界に飲み込まれてしまうという。世界を構築、改変する力。これは果たして魔法なのか。実体がなく夢であるかのような「あやふやさ」は、それ自体がフェイクかもしれない?
(興味が、ある。調べて、応用すれば、役に立つ、可能性)
魔法研究者としての羽織が顔を出していたが、遠ざかっていくシウムの背中に気づき、慌てて追う。調べるのは、ついで。この悪趣味な物語をハッピーエンドにするために来たのだから。
矢印に従って進むと、迷路は自ら向かってくるかのように形を変え、二人は時には行き止まりに導かれ、時には逆行を強いられる。それで正しい。迷路では迷うのが道理というもの……。ページ数は進み、物語に定められた出会いの場面に至る。薔薇の植え込みの影から、小人たちが顔を出した。鋏を、鎌を、鍬を突きつけて問う。客か、それとも盗人か。
「私は、客。通して、くれ、る?」
羽織がそう答えると、小人たちはうさんくさげなまなざしを向けた。証拠はないけど、と懐を探り、羽織は小人たちに手のひらの中のものを見せる。乗っていたのは夜空のオーロラのようなゆらめくキャンディーと、砂糖のような星の光がかかったクッキー。
「こんなのは、どう? 私が作った、魔法の、お菓子」
小人たちは魅入られたかのように羽織の手の中のお菓子を見つめ、ごくりとつばを飲み込んだ。
「贈り物を持ってきたのか?」
「そう。食べてみて。特別な、味。きっと気に入るはず、だから」
「うんうん。だから危ないものはしまっちゃって」
そう言ってシウムがパチンと指を鳴らすとトランプのカードが現れて、小人たちの持つ武器に噛みついた。彼女のユーベルコード『Crazy Blackjack(クレイジー・ブラックジャック)』は、カードが噛んだものをお菓子に変えてしまう。
「ボクも盗人じゃないから、お菓子でも食べて落ち着いて~」
鋏がマジパンに変わり、あっけにとられた小人は一口かじって「甘い」とつぶやいた。羽織が振る舞ったお菓子も小人たちに行き渡り、不思議な魔法の味が彼らを魅了していく。
「楽しい気持ちになる、でしょ」
その通り、小人たちはもはやすっかりいい気分だ。もとより皺の寄った顔は浮かんだ笑みでさらに皺だらけになっている。シウムがこの期を逃さず、
「実はボク、踊りにけっこう興味があるんだよねぇ。この劇場でレッスンを受けてみたくて来たんだけど、よかったら案内してもらえないかなー?」
と、畳みかける。実際に踊ってみせると、滑稽に誇張された動きが笑いを誘った。踊り終えたシウムが一礼すると、小人たちが拍手喝采を贈り囃したてる。
「ようしわかった。おんしらを案内しようぞ!」
「ありがと~!」
二人はにこやかな小人たちに連れられて迷路を抜ける。ページは進む。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
オルヒディ・アーデルハイド
※絡み・アドリブ・連携歓迎
【WIZ】
『いつでもフワリン』で呼び出したフワリンに乗って移動
オウガの力を使えば力こそパワーで切り抜けそうな気がするけど
平和的に解決したいし現場の人に話を聞いた方が良さそうだし
小人の庭師に対して〔礼儀作法〕や〔コミュ力〕で会話を試みる
客?盗人?
ボクには解らない
気が付いたらここにいたの
解らないけどここに呼び出されているって事は招かれた客かな
とにかく記憶喪失で迷子状態なの
最初にキミはだれかな?
ここはどこなの?
わたしはだれなの?
なにをすればいいのかな?
キミに会えてよかった
何もわからない状態で彷徨っていたから
御礼に美味しいおやつをあげるね
何故だか持っていたから
●32←
オルヒディ・アーデルハイド(アリス適合者のプリンセスナイト・f19667)はユーベルコードで召喚した「フワリン」に乗って迷路を漂っていた。フワリンはひれ脚をはためかせ、甘く香る空気をゆるやかに掻いて進んでいく。と、フワリンが首をめぐらせて背中を振り返り、オルヒディにアイコンタクトを送った。なにかを見つけたようだ。フワリンが前に顔を向けて示した先、迷路の曲がり角から鍬の先がはみ出しているのが見えた。
グリモア猟兵が予見していた庭師の小人だろうとあたりをつけつつ、オルヒディは自身に取り憑いたオウガの力を意識する。この力を使えば小人たちを蹴散らしてこの場を切り抜けられはするだろうけど……。
ここは平和的に解決しようと心に決め、フワリンの背から降りて呼びかけることにした。
「出ておいで道案内がほしいんだ」
鍬の先がぎくりと揺れる。機先を制されたかたちでしばし惑ったような間をはさんで、小人たちがぞろぞろと姿を見せた。咳払いをひとつしてから、台本通りの台詞を告げる。
「ここはローゼン様の庭園ぞ。招きもなしにみだりに立ち入っちゃなんねえ場所だ。おんしは客か、盗人か?」
「客? 盗人? ボクには解らないキミたちは誰なの?」
「え、わ、わしらはこの庭を管理している庭師だが……」
オルヒディはまくしたてて続ける。あるいは途切れない歌のように。わからないけど気がついたらここにいたのということは招かれた客かなとにかく記憶喪失で迷子状態なの。
「迷子?」
「どうするのがいいんだ?」
「客かもしんねんだろ?」
小人たちは戸惑っているようだったが、オルヒディはかまわず言葉を継いでいく。ここはどこなのわたしはだれ? なにをすればいいのかな?
「連れて行って――」
「――いいだろ? あっちで決めるだろうさ」
小人たちの話はまとまったらしい。劇場に案内してやる、とかれらは請け合ってくれた。オルヒディはその返事に満足してにこりとあどけない笑みを作る。
「ありがとうキミに会えてよかったなにもわからないまま彷徨っていたから」
お礼に美味しいお菓子をあげるね、とオルヒディ。なぜだか持っていたからと言う彼を、小人たちはよわったように見やるが、抜け目なく菓子は受け取る……きっと、彼らの働きが報われることは稀なのだろう。
オルヒディは再びフワリンの背にまたがり、ふわふわと漂い進んでいった。
成功
🔵🔵🔴
フィリップ・スカイ
キーラ(f05497)と参戦だ。
いやー、メルヘンはメルヘンでもダークメルヘンって感じですねえ。
赤い帽子が似合いそうな小人さんたちだ。
ま、女の子のピンチにはイケメンの王子様か騎士が駆けつけるってのが王道だ。いっちょカッコいいところ見せますか。
鋏だの鎌だの、そんなブンブン振り回しちゃ道具が泣くぜ。
おまけに、無残に壊されちまうと来た。
俺のブラスターで撃って弾いて壊してやるってことですよ。
そんなトロくちゃ止まってるのと変わらねえぜ。
制圧したら、お嬢さんにお声がけですね。
俺はフィリップ、こっちはキーラ。お嬢さん、お名前は?
冬晴・キーラ
フィリップの野郎と参加するぜー☆
やったー、ダークメルヘン劇場だー。
めっちゃ視聴率とったろ☆
あー、小人さんじゃん、かわいー。
どうもお客です☆ スーパー豪華なやつです。
はいこれ、ローゼンからの招待状な。歓迎しろ☆
つーか、君たち可愛いね。
フィリップが無力化したらぬいぐるみさんチームにスカウトしたろ☆
うちで働かない? 三食昼寝付きのアットホームで和気あいあいとした高待遇な職場だぜ☆
アデレスちゃんに出会ったら励ましたろ☆
いけるいける、数字とれる顔してるよ☆
おい、フィリップ なに鼻の下伸ばしてんだ☆
●46→
メルヘンはメルヘンでも、
「ダークメルヘンって感じですねえ」
「やったー、めっちゃ視聴率とったろ☆」
と、物語の舞台を見回してはしゃいだ様子のフィリップ・スカイ(キャプテンスカイ・f05496)と冬晴・キーラ(きらきらきーら・f05497)。暗闇のごとく黒い蔦の壁に鮮やかな真紅の薔薇が花開いて進路を示している。フィリップが植え込みの壁に左手をつくと、指を刺した棘が小さな血の玉を作るが、どうやら痛みさえも曖昧だ。ふーん、とうなって、
「なんだかここ、長居しないほうがよさそうじゃない?」
「じゃ、行くぜ☆」
矢印に従い、示される順路通りに進んでいく。と、前方の地面に見えたのは女物の薄い手袋。左手用で、棘に引っかかって破れたらしい。拾い上げ、キーラはしげしげと手袋を眺める。
「まだ温かい」
「本当に?」
「いや、わからねーけど」
だけど、“アタリ”を引いたんじゃないか。そんな予感が二人の脳裏をよぎった。善は急げとばかりに歩調を速めると、迷路が蠢いて二人を導く。右、正面、左、右……そして、お定まりの台詞が耳に届いた。目の前の曲がり角の向こうから。
「おんしは客か、盗人か?」
「どうもお客です☆」
大声で答えながらキーラが角を曲がると、そこにいたのは数人の小人に囲まれた少女。年の頃は十代なかばといったところだろうか。その少女が声に振り返ると、長い黒髪がつむじ風のように遊び、紫水晶を思わせる瞳に思わず視線が吸い寄せられる。
数字とれる顔してるじゃん、とキーラは心の中でつぶやく。こんな場面でなければ口笛でも吹いたかもしれない。ともあれ、小人たちから救い出すのが先決だ。
「はいこれ、ローゼスからの招待状な。歓迎しろ☆」
キーラが押しつけた封筒を、小人たちは疑わしげに見る。もちろん、そんなものはないのででっち上げだ。
「赤い帽子が似合いそうな小人さんたちだ。鋏だの鎌だの、そんなブンブン振り回しちゃ道具が泣くぜ」
リラックスした足取りでフィリップが近づいて小人たちと少女との間に割って入ると、友好的な(しかし営業用の)表情のままで言い放つ。
「しかも無残に壊されちまうときた」
目にも留まらぬ『閃光撃ち(フラッシュドロウ)』。フィリップのブラスターが正確に武器だけを捉え、弾き飛ばす。落ちた先の地面でどろりと金属が溶けて、すぐに固まった。
「そんなにトロくちゃ止まってるのと変わらねえぜ。行っちまいな」
あんぐりと口を開け、フィリップを見上げた小人たちはきびすを返すと我先にと迷路の先へ逃げ去っていく。「勧誘したかったのに!」と憤慨するキーラを尻目に、フィリップは肩をすくめてから少女に向き直った。
「女の子のピンチにはイケメンの王子様か騎士が駆けつけるってのが王道ってね。無事ですか、お嬢さん」
「お前がそんなタマかよ。なに鼻の下伸ばしてんだ☆」
「いいだろー? こほん。俺はフィリップ、こっちはキーラ。お嬢さん、お名前は?」
少女は震える唇から声を絞り出した。
――エデレス。私は劇場に行かないといけないの。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『星屑のわたし達』
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POW : パ・ド・ドゥをもう一度
【ソロダンスを披露する】時間に応じて、攻撃や推理を含めた「次の行動」の成功率を上昇させる。
SPD : 我らがためのブーケ
いま戦っている対象に有効な【毒を潜ませた美しい花束】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
WIZ : そして、わたし達は星になる
【星のような煌めきを纏う姿】に変身し、武器「【白銀のナイフ】」の威力増強と、【魔法のトウ・シューズ】によるレベル×5km/hの飛翔能力を得る。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●55↓
場面転換。
猟兵たち、そして囚われのアリスたるエデレスは薔薇の迷路を抜け、劇場へとたどり着いた。古い木造の建物は長い影を落とし、周囲から「浮いて」見える。たとえるなら、風景画のなかでその建物だけが写真からの切り抜きだったとしたら、同じような違和感を覚えるだろう。
分厚い扉をノックするが、返事はない。意を決してその扉を開くと、胸の悪くなる臭いが鼻をついた。黴臭さと汗臭さが混ざった臭い。エントランスには幾人もの人影があった――ただし、人間ではない。この世界に用意された物語の端役だ。様々な顔形、髪の色、肌の色、瞳の色を持つが、強いて覚えようとしなければ、たちまち記憶から霧散してしまうような無個性さ、否、「誰でもよさ」が皮肉にも最大の特徴だ。
かれらは一斉に振り返った。一体が進み出て、猟兵たちの前に立つ。
「よく来たわね、あなたたち。私のことは『先生』と呼んでちょうだい。自己紹介をしてくださる?」
――その日から厳しいレッスンの日々が始まった。
――みんなが『ライバル』だった。誰よりも美しく、誰よりも輝けなければここに来た意味がない。
――だけど私には『先生』がいた。『親友』も。『気になる相手』だって。もちろん、いつも隙をうかがっている『嫌なやつ』も……。
――私はすべてをこの劇場で学んだ。
劇場支配人を前にしての「公演」が近々行なわれるという。その舞台で認められたたった一人が栄冠を手にすることができるのだ。しかし、その舞台に立つためにはライバルを蹴落として自らの実力を証明する必要がある。
この際、手段は問われない。ひたむきな努力が実を結ぶかもしれないし、実力を認めた友が勝ちを譲ってくれるかもしれない。あるいは「実力」にものを言わせてライバルを排除することさえ可能なのだ。
最後の章に至る前に、きっといくつもの星屑がまたたいては消えるだろう。
冬晴・キーラ
フィリップ(f05496)の野郎と参戦するぜ☆
この演劇の練習の中で最終的に1番になればいいんだろ?
いいぜ、そういう熱い青春物って嫌いじゃねーからさ。
わかってんだろーな、フィリップ。真正面からやってやろーじゃんか☆
つーわけで、予めライバルを蹴落とすべく靴に画鋲入れたり大道具のネジをぬいぐるみさんチームに緩めさせるように指示したり銃に実弾込めたり衣装に落書きしたり、不幸な事故が多発しちまうように細工して回る☆ 事故なら仕方ないね☆
アクションシーンになったらなるべく大暴れするー☆
これならライバルを怪我させてもコラテラルダメージだぜ☆ 演劇は何が起こるかわかんねえなー。こわいなー☆
フィリップ・スカイ
引き続きキーラ(f05497)と参戦。
へえ、バレエねえ。
やったことねえし、ろくに見たこともねえけど、挑戦してみますかね。
演目は……この「海賊」ってやつ?俺に向いてそうだ。奴隷商人に囚われたエデレスちゃんを颯爽と助け出す俺ってな。
稽古はまあ、最初ぐらいは熱心にやってみましょうかね。どんなもんかわかんねーけど、運動は苦手じゃないぜ。
さて、アクションシーンのどさくさに紛れて、ライバルには何人かリタイアしてもらいますかね。直接的かつ暴力的な方法になりますが、うまくごまかして行きましょう。乱闘シーンでこけたり、大道具の事故なんかよくありますしね。知らないけど。
キーラ、お前も手伝ってもらうぜ。
●61↑
バレエなどやったこともなければ真面目に見たこともなかったが。最初くらいは熱心にやってみましょうかね、とフィリップは考えていた。運動は苦手じゃないし、なんとかなるでしょう。どんなもんかわかんねーけど……。
しかし、『先生』の指導は厳しかった。まるで重力が働いていないかのような足さばきは日常生活ではけっして使われることのない筋肉を酷使するし、指先に至るまで神経の通った演技を求められるとなれば生半可な集中力でできることではないのだ。
フィリップの毎日は練習と汗と涙に彩られたものに変わった。朝から晩まで踊り続け、もう動けないとばかりに寝台に倒れ込み、泥のような身体に囚われた眠りの間にも舞踏の、あるいは飛翔の夢を見る。
「いいぜ☆ そういう熱い青春モノって嫌いじゃねーからさ」
レッスンの休憩時間。タオルで汗を拭きながらも足を上げたり身体をひねったりしているフィリップに、キーラがしみじみと感じ入った様子で声をかける。ああ、とフィリップは首肯して返す。
「この演目、俺に向いてそうなんだ。奴隷商人に囚われたエデレスちゃんを颯爽と助け出す海賊、俺……ってな」
白い太陽に刻まれたページ数は順調に進んでいる。今日のうちにあのステップをものにしておきたかった。「明日は通し稽古なんだって?」とキーラ。
「わかってんだろーな、フィリップ。真正面からやってやろーじゃんか☆」
真っ正面から、実力を出し切って……まさしく熱い青春モノみたいな台詞だった。キーラの瞳のなかに、青く煌めく星明かりとともにフィリップは己の姿を見た。俺は本当に、持てるすべての能力を――手段を――もって、取り組んでいると言えるのか……?
最終的に一番になればいいんだろ☆
それはさながら悪魔の囁きのようで、目が覚めた。
思えば、練習の日々の中で『ライバル』たちは一人、また一人と緩やかに数を減らしていた。階段を踏み外して足をくじく者がいた。倒れてきた大道具に押しつぶされた者がいた。奈落に転落した者がいた。あまりにも多すぎる、不自然なまでに不幸な事故の数々。劇場に取り憑いていると囁かれるようになったグレムリンの正体については今は明かすまい。
そして通し稽古当日。その瞬間までは、すべてはつつがなく進んでいるように見えた。
囚われたヒロインが奴隷市場に連れてこられた場面。奴隷商人に扮して駆けつけた海賊が彼女を高値で引き取り、二人は再会を喜び踊り出す。様子を怪しんだ兵士たちが取り囲むと海賊の正体が露見して乱闘となるが、二人は手に手を取って逃げおおせる、という筋書きだ。
海賊役のフィリップとヒロイン役のエデレスは、兵士役の『ライバル』たちに囲まれ、舞台狭しと旋舞する。練習の甲斐があって、その姿は凜々しく、動きは冴えている。
フィリップはこの期に何人かの『ライバル』に退場してもらうつもりだった。直接的かつ暴力的なやり方でだが、……フィリップは、安心させるようにエデレスに微笑みかける。
と、音楽に合わせて兵士たちのマスケット銃がポンポンと軽い音を立てて火を噴いた。文字通りの意味だ。小道具は本物の銃にすり替わっていたのだ。弾丸が飛来し、海賊はヒロインを引き回して避ける(台本通りだ)。一人の兵士役が弾丸に貫かれて倒れた。炸裂音はいくつも続き、そのたびに名前もわからない『ライバル』が倒れる。
フィリップはエデレスの手を取って何度も身を翻し、ついには舞台上から姿を消す。
天井から下がるきらびやかなシャンデリアの根元には、ひそかに数体の人形がよじ登っていた。キーラの操るぬいぐるみだった。ぬいぐるみは一仕事終えたとばかりに額の汗を拭う仕草をすると、不器用そうな丸い手から工具を取り落とす。だが、それが床に落ちた音には誰も気がつかなかった。大きなシャンデリアが落下して砕け散るすさまじい音にかき消されたからだった。
暗転。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
高階・茉莉(サポート)
『貴方も読書、いかがですか?』
スペースノイドのウィザード×フォースナイト、25歳の女です。
普段の口調は「司書さん(私、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)」、時々「眠い(私、キミ、ですぅ、ますぅ、でしょ~、でしょお?)」です。
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、
公序良俗に反する行動はしません。
読書と掃除が趣味で、おっとりとした性格の女性です。
戦闘では主に魔導書やロッドなど、魔法を使って戦う事が多いです。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
●78←
本の中の世界にも夜が訪れる。空には相変わらず白い太陽が鎮座しているが、その光は朧気になり、地上を明るく照らしはしない。まるで月に擬態しているみたいだ(なら月はどこに行ったのだろう?)。迷路を彩る薔薇はそのものが光を放っているかのように暗闇の中に赤く浮かび上がっている。
――おかしなことが起こってばかりで気が高ぶって、今夜は消灯時間を過ぎても眠れなかった。
――少し夜風に当たるだけのつもりだったのに、いったいなにを間違ったのか……。
――帰り道がわからなくなってしまうなんて。
エデレスは薔薇の庭園で迷っていた。夜の世界は昼間とまるで違う一面を見せて、記憶していたはずの道筋をたどれない。何度も間違った角を曲がるたびに、どんどんと混迷の深みにはまっていく。
アーチをくぐった先で、人影に出くわした。そこは四方へ道が続く迷路の中の小部屋になっていて、どこかで見た絵画のようにその部屋にだけ月光が明るく青く差し込んでいた。その人物は顔を上げてエデレスを見た。手に持った本を今まで読んでいたらしい。赤いアンダーリムの眼鏡に、エデレスは知っている人だと気がつく。高階・茉莉(秘密の司書さん・f01985)だった。
「やっと来ましたね」
白い太陽に示される矢印に従いページを進んできて、導かれた先のこの小部屋で、茉莉の読書家のカンが告げた。ここは、誰かに出会う場面だと。
エデレスの紫の瞳は不安げに揺れていたが、茉莉の穏やかな雰囲気に少し気を取り直したようだった。迷ってしまってと切り出す彼女に、茉莉は案内を買って出た。太陽の矢印が「正しい方向」なのだから、お安いご用だ。
生ぬるい微風が庭園を満たす甘い香りをかき混ぜ、足下の砂利の不確かな感触が、なかば眠りながら歩いているかのような気分にさせる。道すがら、茉莉は先ほど読んでいた本のことを話して聞かせた。それは図書室で見つけた劇場の歴史についての本だった。いわく、ここの劇場はとある劇作家が自らの作品を演じさせるために建てられたこと。その「お話」をいたく気に入り、本当のことだと信じ込んでしまった愚かしくも無邪気なお姫様がいたこと。お姫様のユメを守るために悪魔と取引がなされたこと……。
「あとはここを真っ直ぐ行けば劇場に帰れますよ」
そう言って、茉莉はエデレスの背中を押し出した。不思議そうに見返す彼女に、私はもう少し外にいたい気分なんです、と言い訳する。
その背中を見送ってから、茉莉は振り返る。いわく、夜の庭園には『怪物』が徘徊しているという。何者かがつけてきていたのには気がついていた。武器を花びらに変えて放つと、ジャスミンの芳香が薔薇の腐臭を圧倒して夜気を切り裂いた。
成功
🔵🔵🔴
オルヒディ・アーデルハイド
※絡み・アドリブ・連携歓迎
【POW】
『華麗なる燕舞』でダンスに挑む
ソロで踊れても皆で誰とでも踊れないとね
即興のリード&フォローで踊れないとね
初めて聴く曲でも、テンポの遅早があっても、踊れないとね
場所や衣装や靴が、特別のものでなくとも踊れないとね
その実力を見せつける
ボクと一緒に踊ってくれませんか
ソロダンスを披露してるところにペアダンスを申し込む
相手の手を取り
ワルツやタンゴやフォックストロット
チャチャチャやサンバやルンバ等の社交ダンスで
スローやクイック等の緩急のあるテンポのリズムで振り回す
なかなかできますね
これでどうですか
ついてこれるかな
パートナーがダウンしたら相手を変えて踊る
●84↓
劇場のレッスンルームは幾人もの『ライバル』たちでひしめいていた。壁一面に大きな鏡が張られており、部屋の広さは実際の二倍もあるかように錯覚してしまう――それを差し引いてもけっして手狭なはずがないのだが、ダンスとステップの練習に熱が入った面々にとっては、ときにお互いがぶつからないように気をつけなければならないくらいだ。
真剣な表情で鏡に向かい、ソロダンスを練習している『ライバル』の一人に、オルヒディは目をつけた。ここまで生き残っているだけあって、その舞踏には否応なしに人目を奪うだけの魅力がある。感心しつつも、だけど、と考える。ボクの実力を見せつけてやろう。自身に憑依したオウガの力を呼び覚ます。うってつけのユーベルコード。
「ボクと踊ってくれないかな? ペアダンスの練習がしたいんだ」
手を取って誘うと、品定めをするような視線。真っ直ぐに見つめ返すと、その『ライバル』の瞳が瞬間瞬間に揺らめいて色を変えていくのがわかる。なにを考えているのかも。向こうだって、ボクを叩き潰したいんだ。
パ・ド・ドゥ(二人のステップ)がはじまる。まずはゆったりとしたアダージュから。リードし、相手の姿勢を支え、優美かつ繊細な姿勢とバランスを要求すると、『ライバル』は難なくついてくる……なかなかできますね、とオルヒディは笑む。ほんの小手調べでも、相手のレベルが高いことは見て取れた。これでどうですか? テンポが急に速くなる、かと思えば急激に遅くなる。即興を混ぜ込み、様々なダンスの技法で振り回す。それでもかろうじて食らいついてきたが、時間の問題にすぎず、いつの間にか『ライバル』はオルヒディの『華麗なる燕舞(エンドレス・ヴァルツァー)』の添えものにすぎなくなっていた。
踊り終えると、相手はがくりと床に膝をついて、その姿勢のまま動かなくなった。自らの脱落を悟ったのだ。オルヒディはレッスンルームを見回す――自身の内側でオウガの歓喜が膨れ上がるのを感じながら――と、他の『ライバル』たちは二人のダンスに見入って、茫然とした様子で突っ立っていた。
次はだれにしようかな。だれでもよかった。手近な一人の手を取って告げる。藍と青紫の連星の瞳がきらめいて、『ライバル』は気圧されたようだったが。
「ボクと踊ってくれないかな? 新しい曲の練習もしたいんだ」
かれらにとって、挑戦を受けない選択肢はなかった。パ・ド・ドゥをもう一度。……もう一度。
もう一度。その日のレッスンはオルヒディがお腹をすかしてしまうまで続いた。
大成功
🔵🔵🔵
シウム・ジョイグルミット
[SPD]
アリス発見! 会えて嬉しいよー♪
よーし、一緒にレッスン頑張ってプリマを目指そう!
というわけで、エデレスと友達になって励ませるといいなー
上手くいかなくて悩んでるならアドバイスしてあげたり
そのためにはボクも【学習力】で覚えていかないとだね
他にも、疲れたら甘いものでも食べて元気回復したり
レッスン終わったらお風呂に行って身体を洗ってあげたり
『Lucky Star』は基本発動させておこうかな
エデレスに嫌がらせしてくる子がいるだろうからね
その時は【野生の勘】と【見切り】でしれっと回避させてあげよー
でもって悪い子は【早業】でこっそり食器を飛ばしてお仕置き♪
目指す道を塞ぐのは、時計ウサギが許さない!
リリー・ベネット
エデレスさん、一緒に踊ろうじゃないですか。
バレエは得意なんです。
私が……ではなく、私のお人形達ですが。
ずるいことをして相手を蹴落としたり、蹴落とされたり。
ちょっとしたトラブルがあったり……。
色々なことがあっていいと思いますが、今の貴方には素敵なライバルなんていかがでしょうか。
私のお人形達は、それはそれは踊りが上手なんですよ。
先生の厳しい指導の元、切磋琢磨する姿はとても美しいですね。
努力の上に積み重なった実力こそ、私は美しく思います。
今だけは、私達がいます。
頑張っている貴方は決して独りきりではないことを知っていただけたら、前に進みやすいのではないでしょうか。
●99→
――こんなのひどいわ、と私は嘆いた。怒りと悲しみ、そして怖ろしさに身体が震えて、涙がこぼれてしまうのを止められない。
――私がレッスンに遅れたのは、この日だけだった。
「エデレスさん、一緒に踊ろうじゃないですか」
そう言って手を差し伸べたのは、リリー・ベネット(人形技師・f00101)。劇場の裏でうずくまっているエデレスを見つけたのだ。エデレスは泣きはらした目で、リリーの白皙の美貌を見上げる。その声と態度は落ち着いたもので、エデレスの高ぶった感情をなだめる役に立った。だが、彼女は座り込んだままで首を振る。
だいいち、あなたは踊れるの? リリー自身が踊っている姿を、エデレスは見かけたことがなかった。その問いかけにリリーは、バレエは得意なんです、と返す。
「私が、ではなく、私のお人形たちが、ですが」
リリーの人形、アントワネットとフランソワーズがエデレスの目の前で優雅に一礼すると、ふたりは手に手を取って踊り始めた。リリーの言うとおり、そのダンスは時に激しく、時に繊細で、しかも内に秘めた情熱的な感情までも表現していた! その感情は人形たちのものなのか、それとも操り手たるリリー自身のものなのか……。エデレスは口に手を当ててそのダンスを目に焼き付けた。もう涙は乾いている。
事情を聞くと、エデレスの衣装が何者かに破られていたという。リリーはそれなら私が直しましょう、と請け負うと、エデレスに手を貸して立たせた。
「みなさんが切磋琢磨する姿はとても美しいと思います。努力の上に積み重なった実力こそ、美しいものです」
ずるいことをして相手を蹴落としたり、蹴落とされたり、色々なことがあってもいい、とリリーは語る。ですが、と。
「貴方はひとりきりではありません。今だけは私たちがいます。アントワネットとフランソワーズだって素敵なライバルになれると思いますよ」
その言葉を聞いて、エデレスの顔には晴れがましい表情が浮かぶ。
――ええ、ありがとう。よろしく……。
「ちょっと待った! 素敵なライバルならここにもいるんだからね!」
いつもは垂れているウサギの耳をぱたぱたとはためかせて、シウムが割り込む。エデレスがレッスンに来なかったのに気がついて飛んできたのだった。突然の登場とその剣幕に、エデレスもリリーも一瞬、ぽかんとしてシウムを見つめる。
なにを隠そう、エデレスに出会えたことを喜び、彼女のことを人一倍気にかけていたのが時計ウサギたるシウムであった。
つらく厳しい練習を供にするなかで、シウムとエデレスは、少しずつ少しずつ糸をこよるように絆を紡いできた。ページをめくるように、鮮やかに思い出される日々の出来事……。
ある時はアドバイスを交わしあい、お互いの上達を喜びあった。疲れたときは『寮母』に内緒で甘いお菓子を分かちあった。一緒にお風呂に入ったり、スタイル維持や肌のお手入れについて語り明かしたこともあったっけ。シウムはそばに居てエデレスを嫌がらせや攻撃からそれとなく守っていて、実のところ、こっそりとお仕置きした『嫌なやつ』の数は片手では足りない。それだけに、今度の見逃しはシウムにとって痛恨だった。
しかも、慰める役をとられるとは。でも元気になってくれたのならよしとするべきか。
「一緒にレッスン頑張ってプリマを目指そうって言ったじゃない!」
なかば混乱しつつも、懸命に寄り添おうとするシウムの思いに、エデレスは思わず吹き出してしまう。さっきまで泣いていたはずなのに。
「なに笑ってるのかなあ。ほら、顔洗って、レッスンに行こうよ」
シウムはエデレスの手を取って走り出す。そんな二人を、リリーは苦笑しつつ――微笑ましく思いつつ――見送った。
――練習が上手くいくときもあれば、いかないときもあった。打ちのめされ、諦めかけた日もあったけれど。
――それでも、いつも支えてくれる人がいたの。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
第3章 ボス戦
『『薔薇園の番兎』ローゼス』
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POW : アリスの生き血で実る禁断の果実
戦闘中に食べた【アリス(猟兵含む)の血を吸い実ったリンゴ】の量と質に応じて【アリスのユーベルコードを習得し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD : 迷い込んだ者の生き血を啜る迷宮
戦場全体に、【触れた者の出血を促す棘を生やした茨の壁】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
WIZ : 薔薇園を拒む者に施される拷問
【ハートのワンド】が命中した対象の【体に絡みつく蔦】から棘を生やし、対象がこれまで話した【薔薇園を否定する言葉】に応じた追加ダメージを与える。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠幻武・極」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●108←
猟兵たちは『ライバル』たちを蹴落とし、無事に「公演」のページへとたどり着いた。
幕が上がれば、ずらりと並んだ空の観客席のなかにたった一人だけ、『薔薇園の番兎』ローゼス――この劇場の支配人にして、猟兵が討つべきオブリビオン――の姿が見られるだろう。
『赤い果実に、赤い魂』の内容通りに進むなら、この公演で見初められた踊り手は林檎の樹の生け贄にされてしまうことになる。だから、エンディングまで進んではならない。支配人と相対するこのチャンスに、ローゼスを倒して悲劇を回避するのだ。
――息が詰まるような緊張と胸の高鳴り。だけど、不安なわけじゃない。
――幕が上がるわ。今から。
気がかりなことがあるとすれば、この戦いの場面に守るべきエデレスもまた居合わせてしまうと言うことである。
リリー・ベネット
さあ、お楽しみのお時間がやってまいりましたよ。
私は楽しむわけにいかないので……本気で行きますよ。
アントワネット、フランソワーズ、お願いしますね。
アントワネットのナイフで〈先制攻撃〉〈マヒ攻撃〉、ぴょんぴょん跳ね回られると困りますから少し動きを封じておきましょう。
【歌う人型機械人形】でフランソワーズに漆黒の槍斧を持たせて攻撃します。
丹精込めた薔薇園かもしれませんが……些か悪趣味なようで。
貴方の望む舞台は、フランソワーズが壊してさしあげますよ。
もしエデレスさんか襲われそうな時があれば、アントワネット、〈救助活動〉をお願いしますね。
〈時間稼ぎ〉してくれれば、フランソワーズが叩き潰しにいきますので。
シウム・ジョイグルミット
[POW]
やっとここまで来たねぇ
とは言ってもエデレスを渡すつもりはないからね、覚悟してもらわないと!
それじゃ、猟兵仲間のサポートしながらエデレスを守ろうかな
『Contradiction』で食器達を召喚!
ローゼスはリンゴを食べると強くなるみたいだね
なら食べる直前にナイフを飛ばしてリンゴを吹き飛ばしちゃおう
これで新しい能力は使えなくなるかな
その隙に仲間の皆はガンガン攻めちゃってー!
エデレスを狙ってくる可能性もあるよね
その時はお皿を飛ばしてエデレスの身体を覆って、攻撃から守るよ
あとは仲間を矢印と逆方向に飛ばしたりもしそうだね
お皿を並べて壁にして防げるか試してみようかな
硬いから痛いかもだけど許してね♪
フィリップ・スカイ
キーラ(f05497)と参戦だ。
こんな自己陶酔の激しい三流の筋書きには付き合ってられねえよなあ?
俺たちのアドリブで痛快活劇に変えてやるよ!
俺のドラテクなら狭い道だろうと茨の道だろうと関係ねえ。暴れまくって、その綺麗な衣装にタイヤ跡つけてやるよ!
キーラがぬいぐるみたちと暴れ始めたら、連携してスモークを炊いて舞台の雰囲気を台無しにしてやるぜ。花火とか、派手な音を鳴らしてやるのもいいな。
エデレスちゃんのフォローも忘れずにな。いざってときは後ろに乗せて安全なところまで逃してやるのさ。
冬晴・キーラ
フィリップ(f05496)の野郎と参戦するぜ☆
どうしてもバッドエンディングに進みたいみてえだけど、そんな面白くねえ結末じゃ数字取れねえな☆
作劇作画作曲演出総監督のキーラちゃん達が書き換えてやるぜー☆
ローゼスはリンゴを食うのがお望みらしいので、たっぷり食わせてやる☆ キーラちゃん特性のスパイスたっぷりスーパーウルトラ激辛の毒リンゴをよー。
ローゼスが場面転換して自分の有利に事を運ぼうとしてきたら、ぬいぐるみさんチームと一緒に背景を飾り立てて書き換え、賑やかでポップで楽しいこっちの領域に上書きしてやる☆
星羅・羽織
一章に引き続き、好き放題に動かしてください!
他の人との絡みも大歓迎です。
悪い、エンディングなんて、許さない。
まかせて。あの子を、助ける、から。
まずは、「公演」に沿って、動く。
私は、主役の、タイプじゃない。
だから、脇役として。
踊りが必要なら、頑張って、みる。
いつもの服装、ローブ(本体)の姿で、くるくる回る、くらい、だけれど。
うまくエデレスに、近づくことが、できたら、どさくさに紛れて守る。
デュプリケート・オリジンで、私の本体の複製体を、作る。エデレスを、包んで、防御。
複製体は、もっと作れる。ローゼスの、攪乱にも、使えるかも。
みんなと、連携できると、いい。
●112↑
音楽が流れだし、舞台が幕を開ける。勇壮な調べとともに海賊たちが現われるが、一転して嵐が巻き起こり、船は難破してしまう。乙女たちの住む島に流れ着き、海賊はその美しい娘の一人と一目で恋に落ちる――。
まずはお題目通りに「公演」が演じられる。降って湧いた突然の恋に翻弄されるように、フィリップは情熱的な踊りを披露する。フィリップは今、自分が立っている場所を劇場というよりはコロッセオのように感じていた。光が当たっているのは舞台の上だけで、取り囲む無数の客席は暗闇に沈んでいる。それでもなお、見ている者の存在はありありと意識させられた。たった一人の観劇者、ローゼス。
柔らかいドレスに身を包んだ彼女は、淑やかな微笑を顔に貼り付けてこちらを見ている。ダンスがお眼鏡にかなったものか、時折白ウサギの耳がぴくりと跳ねる。
エデレスが舞うと、ローゼスの瞳には深い満足の色が見えた。実に美しい、完璧なダンスだった。しかし、さらに島の娘たちが踊りに加わると、ローゼスは困惑した。
●121↓
羽織はくるくると踊っていた。まったくもって、なっていない。本来、このレベルの踊り手がこの「公演」までたどり着くなど、あってはならないのだ。つまり、この本の筋書きに反するなにかが起こっている。ローゼスが悟ったのはそんな事実だった。
私は、主役の、タイプじゃない。羽織は思う。華々しいスポットライトが欲しいわけではない。脇役として、必要なことを。たとえば――。
回りながら、羽織は挑発的な視線をローゼスに向けた。思い通りには、ならない、よ。
意図を察し、ローゼスは弾かれたように立ち上がる。その胸中にあるのは、いまや困惑ではなく怒りだ。端正な顔に剣呑な彩りが差し込み、ゆがむ。
――たとえば、囮。立ち上がったローゼスの首を、漆黒のギロチンが断ち斬った。リリーの『歌う人型機械人形(ミレナリィドールレプリカ)』、フランソワーズの振るった槍斧。ローゼスの頭が、いくつかの座席の上で跳ねては落ちていく。残された血の跡からは、甘い匂いが立ち上っていた。
突然の惨劇の光景に、エデレスが短く悲鳴をあげる。踊りは止まった。だが音楽はまだ止まず、不自然に転調して歪んでいく。
鳴り止まぬ不協和音のなか、ローゼスが嗤う。
――嗚呼、可笑しい。本の結末は決まっているのよ。書き換えられるなんて信じているのかしら?
劇場そのものの悲鳴のように不協和音と嗤い声が響き渡ると、真っ暗だった高い天井と壁が裂けていく。庭園の腐った薔薇の臭気が雪崩れ込んでくる。場面が転換されようとしているのだ。
羽織は震えて立ちすくむエデレスに駆けより、ローブをその細い肩にかける。『デュプリケート・オリジン』による、ヤドリガミたる羽織の本体の複製だ。そのローブは星空の輝きと冷たい熱を宿していた。
「大丈夫。助けるために、来たんだよ。悪い、エンディングなんて、許さないから」
たどたどしく、囁くように発された言葉。しかし、本の世界の支配者が「死んだ」一瞬にかけられたその言葉はエデレスの呪縛をわずかに削いだ。
――どうして忘れてしまっていたのかしら? ここが何処かも、私は知らないってことを!
暗転。
●133←
次の瞬間、猟兵たちは赤い薔薇の迷宮に放り出されていた。この庭園はローゼスの領域。分断しての各個撃破、あるいはあわよくば迷わせて本の世界に取り込んでしまおうという算段だろう。こういった戦術を使ってくることは予見されてはいたが。
実際にやられると厄介この上ない。リリーは険しい視線を眼前の敵に投げかける。そこにはローゼスそのひとが意地悪な笑みを浮かべて立っていた。一度分かたれた頭は元の位置に納まっており、首をぐるりと囲む赤い線が名残として残っているだけだ。
犠牲になったアリスたちの生命をその腹に収めていたわけだ。一回殺しただけではまだ死なないのか。残念だったわね、と、オブリビオンは囁く。
「いえ、これからがお楽しみの時間ですよ」
リリーは軽口を叩いてみせるが、戦闘能力的には格上の相手と一対一、しかも敵のテリトリー内。戦況は不利だとリリーは悟る。となれば、時間稼ぎに全力を注ぐしかない。
「アントワネット!」
ローゼスがワンドを突きつけようとする機先を制して、人型機械人形アントワネットがナイフを投げつけると、ローゼスは切っ先が突き刺さるのもお構いなしに、手のひらでナイフを受け止める。続くフランソワーズの槍斧は、ワンドを翻してはじき返した。人形たちの連携は巧みで、お互いの隙を補い合ってローゼスの攻め手を封じていく。
ローゼスは焦れたように迷宮の茨を操り、リリーと人形たちを捕縛せんとするが、
「フランソワーズ!」
振るわれた重撃が周囲の薔薇の壁ごと粉砕して仲間を守る。
「丹精込めた薔薇園かもしれませんが……些か悪趣味なようで。貴方の望む舞台は、フランソワーズが壊してさしあげますよ」
――悪口なんて、非道いわね。
リリーの言葉に、ローゼスはけたけたと嗤う。そうしながら、フランソワーズの槍斧を、再びワンドで受け止める。
と、二つの武器が打ち合った場所から突如、棘蔦が伸びてフランソワーズを拘束する。ローゼスのユーベルコード、『薔薇園を拒む者に施される拷問』。薔薇園を否定する言葉を発した者への報復だ。しまった、と思う間もなく、ローゼスの口が三日月型の笑みを形作り、さらにワンドが振るわれる。
しかし、その攻撃がリリーを捉えることはなかった。飛来した銀食器の大皿が、ハートのワンドをはじき返したのである。
「見つけたよ!」
緑の髪に弾むウサギの耳を振りかざし、シウムが駆けつけた。ユーベルコード『Contradiction』で召喚した皿とナイフの群れを念動で操り、ローゼスを攻めたてる。不意を突かれたローゼスの身体に、小さな刺し傷と切り傷がいくつも刻まれていく。
「食器は食べるためだけの道具じゃないんだよ♪」
その通り、シウムにとってそれは武器であり、防具である。リリーの時間稼ぎが功を奏し、これで二体一。しかも、猟兵たちは双方とも手数に優れた能力の持ち主だ。ローゼスは淑女にあるまじき舌打ちをすると、身を翻して走り去ろうとする。すかさず追おうとするリリーとシウムだったが、生ける迷路が壁を作り出し、主への道を阻んだ。
壁を破砕するも、すでに敵の姿は見えず……。しかし、どこへ向かったのか見当はついた。正しい道は常に示されている。
●149→
――なんということかしら。この私がちっぽけな敵に背を向けて逃げるなんて!
――この屈辱、忘れないわ。必ず復讐してみせる!
ローゼスは不安定な地面を弾むように駆けていた。迷路の奥へ、奥へ。あの林檎を食べなくては。いのちがもっといるのよ。
深奥に進むにつれて、迷宮の壁に咲く薔薇は密になり、その香りも色も濃くなっていく。アリスの生き血をすすってこの花々は咲くのだ。迷宮の中心には赤い果実をつけた魔法の樹がローゼスを待っている。
どんなに走っていても息が切れることはない。本の中の世界で、夢のような場所では呼吸などいらなかった。そのことに気づきさえすれば……。もっとも、ローゼスにとってここ以外の世界があったかどうかはあやふやだった(理屈からいえば、あるはずだったが)。
自分の足音だけが響く迷宮に、いつの間にか別の音が混ざっていることに、ローゼスは気がついた。その音は強いていえば蜂の羽ばたきを連想させたが、違うものだった。それが近づいてくる。
ローゼスは一旦足を止め、周囲を探る。白ウサギの耳がレーダーのように動く。それは壁一枚隔てた向こうまで近づいていることがわかった。と、
「その綺麗な衣装に!」
その「音」は壁を登り、乗り越えて飛翔し。見上げるローゼスと白い太陽を隔てる逆光の影になる。影は万有引力の法則に従い、加速度をつけて落ちる。
「タイヤ跡つけてやるよ!」
もとい、やったぜ。音の正体は、フィリップの駆る宇宙バイクだ。フィリップにとって、道が狭かろうが茨だろうが関係はなかった。スターライダーの卓越した操縦技術はもはや超常の域に達し、常識では考えられない機動を実現する。
スピードのついた宇宙バイクは正面の壁に激突すると思いきや、薔薇の壁が地面であるかのように再び天へと飛翔し(花は無残にもタイヤに踏み散らされた)、宙返りして方向転換。一度の轢き逃げでは飽きたらず、もう一度ローゼスに突進していく。
悪態をつき、ローゼスが地面を転がって避けると、薔薇の茂みが主を傷つけないために道を空けた。薔薇園の主が一声命じると、意思を持つかのように茨の蔦が伸びて、フィリップと宇宙バイクを絡め取ろうとする。しかし、神速に達する宇宙バイクを捉えるには遅すぎた。フィリップはあっさりと身を引いてローゼスの視界から消えてしまった。
歯がみするローゼスだったが、いらだちとともに服をはたき、再び走り始めた。
●157←
ローゼスは茫然とした。目にした光景が信じられなかったからだ。
「遅かったじゃん。パーティー会場にようこそ☆」
薔薇の庭園の深奥、林檎の樹が生える場所は、真紅の色と香りに満たされた厳かな神秘の場所のはずだったのに。
いまどきそんなんじゃ数字とれねえなって思ったんで賑やかでポップに模様替えしといてやったぜ☆ 鮫のような歯をむき出して笑うキーラ。その言葉通り、林檎の樹には砂糖菓子やオーナメントが釣られ、周囲はクリスマスのような有様に作り替えられていた。否、クリスマスだったらもう少し雰囲気に統一感というものがあるだろう。しかも、ぬいぐるみさんチームが絶賛作業続行中だ。まだやるつもりらしい。
「リンゴがお望みなんだろ? たっぷり食わせてやる☆ キーラちゃん特性のスパイスたっぷりスーパーウルトラ激辛の毒リンゴをよー」
キーラが紫色に変色した林檎を投げつけると、それはローゼスの顔面にあたり、ぼとりと地面に落ちた。ローゼスの靴がその果実を踏み砕く。
――お前がやっているのは冒涜だわ。
冷たい声に、キーラは嘲笑で返す。バッドエンドが今日日流行るかよ。お礼はいいよと嘯くと、ついに作業が完了したぬいぐるみたちが整列し、同意するように頷くと、どこからともなくスモークが流れ込み、バチバチと断続的な花火が上がる。
あまりの怒りに突き動かされ、言葉もなしにローゼスがワンドを振りかぶり、キーラに向かって投げつける。小さな的だったが、先ほどの林檎のお返しにキーラの顔に当たり、一瞬で膨れ上がった茨の蔦がその身体を締め上げ、拷問じみた苦痛を与える。激痛に身をよじるキーラの幼い悲鳴がこだまする。
が、ローゼスは無手になった。その瞬間を見逃さず、銀のナイフと皿が飛来して、次々と突き立てられた。赤い血が流れて地面を甘く染めていく。シウムだ。先ほどのスモークと花火は他の仲間の行動を隠すための目くらましだったのだ。
やっとここまで来たねぇ、とシウムは心の中で思う。エデレスを渡すつもりは毛頭ない。
「覚悟してもらわないとね!」
銀食器の群れがローゼスを包囲、一つ一つは浅くとも無視できない数の手傷を負わせていく。煙を上げて血が蒸発すると、たちまち傷が塞がったのだが。
(あれ、なんか老けた?)
シウムはローゼスの異変に気がついた。傷が癒えるたびに、ローゼスの肌は肌理が粗くなり、顔には皺さえ現れ始めたようだ。ため込んだいのちが費えようとしているのだろうか。
バキリ、と破砕音が響いた。リリーのフランソワーズがハートのワンドを折り砕き、キーラを解放したのだ。手を貸してキーラを助け起こしながら、そうする間にも、アントワネットのナイフ投げがシウムを援護している。そういえば、とリリーは思い返す。簡単には死なないと思ってか、ローゼスは当初から細かな負傷を無視して戦っていた。
ローゼスは獣のような獰猛な唸りを上げて、シウムに飛びかかった。接近してしまえば包囲攻撃は維持できないと見ての攻撃だ。突き刺さるナイフも壁にするために空中に並べた皿もお構いなしで、悪魔の本性をむき出しにした突進の勢いを止めきれない。
「ッ! ……!!?」
手痛い一撃を喰らうと覚悟したシウムだったが、無重力の感覚とともに視界が急激にブレて、刹那のうちに宙に連れ去られていた。フィリップの『ゴッドスピードライド』が、間一髪に救い出したのだ。舌噛んだ、と抗議しようとするシウムだったが、目の前の光景に舌の痛みも忘れて叫ぶ。
「止めないと!」
ローゼスは、林檎の樹に近づいていた。主のために、樹は赤々とした果実を実らせて待ち受けている。あれを食べると、ローゼスは新たな力を得てしまう。
「こっち、だよ」
その時、羽織が戦いの場に現われた。エデレスの手を引いている。ローゼスにとって、素晴らしい生け贄となるアリスを。
――私の、
ローゼスは、ほとんど反射的にそちらに足を向けた。黒髪に紫水晶の瞳の乙女に向かって、他にはなにも見えていないかのように。間違いだった。
ローゼスの視界に、突然星空が広がった。複製された羽織の星のローブ。抱き留めるように優しく、真綿で首を絞めるように絡め取る。番兎は自らの庭園に倒れ伏す。
断頭の一撃が再度見舞われ、もってオブリビオンは赤い塵と消えた。
●
もはやページは数えられない。本に存在しないエンディングにたどり着いてしまったから。支配者がいなくなり、庭園は徐々に崩壊しつつあった。本の世界は消え失せ、囚われのアリスは元いた不思議の国へと帰還することになる。
「ありがとう、私を帰してくれて」
猟兵たちとの別れに、どこか寂しそうにお礼を言うエデレスに、猟兵はお互いの顔を見合わせ、破顔して答えた。
また来るよ。今度は世界を救いに。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵