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ashes to ashes

#カクリヨファンタズム

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#カクリヨファンタズム


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「月、ねぇ……血に染まる世界にはおあつらえ向きの儚い輝きだ。灰は灰に、塵は塵に。人々に忘れ去られた妖たちの掃き溜めにはふさわしい末世の光景だとは思わないか、なあ……?」
 黒曜の角と赤い入れ墨を持つ男が、戯れに食んでいた煙管から紫煙をくゆらせながらつぶやいた。
「く、来るな……あっちにいけ……!!」
 白い骸骨のような姿をした妖怪が涙ながらに懇願するそばから躍りかかった骸玉がその体を乗っ取り、オブリビオンと化してしまう。
「あああ、あぁ――!!」
 まさに地獄絵図だった。
 高みの見物を決め込んでいる煙管の男――火我美に率いられたオブリビオンの群れは更なる犠牲者を求め、さまよい続ける。
 妖怪たちは抵抗もむなしく飲み込まれていった。
 何故ならばここは、『慕』の概念の消えた世界。妖怪たちは互いに思い合うことを忘れ、孤独で無力な存在として乗っ取られるのみ。
「決して手に入らない相手に懸想して苦しむことも、悶えることもない楽な世界さ。少しばかり退屈なのが玉に瑕だが、まあ、その暇潰しにこうして月夜にそぞろ歩くのも悪くない」
 火我美は煙管を傾け、満ち足りた笑みを唇に浮かべた。

 嗚呼、楽土なり。
 月の照りゐる失慕の夜半は。

「お集まり下さり感謝致しますわ」
 黒弗・シューニャ(零・f23640)は小さくお辞儀して、事の流れを語り始める。発端は、幽世からあるひとつの感情が消え去ったことによる。
「消えてしまったのは『慕』の概念。故に妖怪たちは互いを思い合うことを忘れ、其処は『孤独』の世界となってしまったのですわ」
 そうして孤立した妖怪たちに襲いかかる骸玉の数々。飲み込まれた妖怪はオブリビオンと化して、同胞であったはずの仲間を炎の海で追い立てる。

 淡い月光の元、蛍のように飛び交う骸玉。
 逃げ惑う妖怪たち。
 その身を乗っ取られ、仲間を襲うオブリビオンの群れ。

「さながら、絵巻に描かれた地獄のようですわね……襲われているのはニクカリと呼ばれる妖怪で、元は仏の遣いでいらしたのだとか。一刻も早く現場に向かい、彼らを助け、骸玉に呑まれた妖怪を救ってあげてください」

 そこは、墓地と無数の橋梁が組み合わさった奇妙な空間。どこからか満足げに笑う男の声が聞こえて来る。
 くゆる紫煙が月に照らされた墓地の夜空に、薄っすらと長い尾を引いて流れていった。


ツヅキ
 プレイング受付期間:公開時より常時受付中。プレイングをいただいた順にリプレイを個別でお返しします。

 共同プレイングをかけられる場合はお相手の呼び名とID、もしくは団体名をプレイング冒頭にご記載ください。
 おひとりさまでのご参加及び途中参加や1章のみのご参加なども歓迎です。お好みのタイミングでご参加いただけましたら幸いです。

●第1章 雑魚戦
 オブリビオンの数は10体ほどですが、時間がかかると妖怪が新たに骸玉へと飲み込まれ、敵が増えてしまいます。
 妖怪たちも応戦しますが、互いに協力できないために劣勢です。他人を慕うという感情が消えてしまっているために、猟兵の言うことも素直に聞き入れることができません(現地の妖怪のみの症状で、猟兵の身にまでは及ばないようです)。できるだけ彼らが新たな犠牲者とならないように戦い、オブリビオンの群れを撃破してください。

●第2章 ボス戦
 第1章に登場するオブリビオンを全て撃破できた場合、火我美に戦いを挑むことが可能になります。

●第3章 お月見
 夜半の満月をお気の向くままにお楽しみください。
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第1章 集団戦 『ニクカリ』

POW   :    お礼参り
自身の【寄生した肉体の無念解決】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。
SPD   :    今生焼き
自身の【命】を代償に、【寄生先に憑依するヒヌカン】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【紅蓮の炎】で戦う。
WIZ   :    死期目
攻撃が命中した対象に【運命的生命力を減少させる呪い】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【次々と発生する「不慮の事故」】による追加攻撃を与え続ける。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

物部・出雲
なるほどなァ、孤独か
孤独であることは生命には酷で在ろう
まして、認知されてこその妖怪などもってのほかだ
然り、俺もそうだ
神は人に「信じられない」限り存在すら危ういとも
これは大事件よ、解決を急ぐぞ
――ほうれ、目を覚まさんか。それとも、俺が照らしてやらねば己の姿も見えまいかァ?

【黒陽:災禍焔】
悪霊退散、骸退散。貴様ら、御仏の使いであろう?
その様では報われまい。慈悲深い涙が流れることで在ろうよ。
俺か?はっは!俺は神ゆえな――仏から信者を奪うのもまた一興ではあるが
宗教戦争もはやりではあるまい?しかし、そうさなぁ
本当の楽土というものを俺が照らしてやろうぞ。まずは――お前たちを穢す魂を導いてやったあとで、なァ



 「なるほどなァ」、と合点して己が顎先を擦る指先までもが闇を溶かし込んだかの如き黒。物部・出雲(マガツモノ・f27940)は孤独に堕とされた者らの境遇を憂い、同情の嘆息を漏らした。
 当然、件の墓地へと向かう脚は速度を上げる。
 ほぼ唯一の色彩と言っても過言ではない金の瞳孔は闇を透かして煌めき、おそらくは人外の者にしか持ち得ぬ妙な気高さを醸し出すのだった。
 然り、出雲は人に在らず。
 この身は仮初。
 その正体は、人を模した凶つの黒竜――神。
「故にな、俺にもわかるのだ。孤独がどれだけ貴様らの存在を蝕むか、生命にとって酷で在ろうか。なにしろ、人に認知されねば存在すら危ういのだからな」
 即ち、大事件なのである。
「解決を急ぐぞ」
「ああ。俺は目立たないように裏から行く」
 共に駆けた猟兵が気配を断って闇に紛れるのとは対照的に、出雲は堂々と件の墓地へと踏み入り、高らかに声を張り上げた。
「――ほうれ、目を覚まさんか。それとも、俺が照らしてやらねば己の姿も見えまいかァ?」
 その途端、目の前の妖怪たちを追うのに夢中だった加害者側のニクカリが一斉に出雲を振り返った。
 まるでその注目こそが心地よいとばかりに胸を逸らし、睥睨するかのように首を傾けて流し目を送る。
「悪霊退散、骸退散。貴様ら、御仏の使いであろう?」
 やれやれと肩を竦め、
「その様では報われまい。慈悲深い涙が流れることで在ろうよ」
 流れるような口上。
 突然の乱入者にニクカリは戸惑い、「敵か?」と尋ねた。その間に襲われていた方のニクカリはそそくさと出雲の背後に隠れ、守りを乞うように足元へとひれ伏した。
「苦しゅうないぞ。貴様らを救ってやりに来たのだ。はっは! 俺は神ゆえな――仏から信者を奪うのもまた一興ではあるが、宗教戦争もはやりではあるまい?」
 出雲は早く逃げろとでも言いたげに後ろ手で合図を送り、大口を開けて豪快に笑い放つ。
「ひッ――」
「ちなみに貴様、本当の楽土というものを知っておるのか?」
 信仰そのものを覇気として纏い、まるで鎧のような黒炎を纏った出雲の姿に怖じるニクカリ目がけて解き放つ、黒き陽焔。
「ぐああ、ああッ……!!」
「答えよ、使い?」
 だが、ニクカリは苦し気に首を振るばかりだ。
 出雲は軽く落胆し、ならばと笑った。
 前向きで、頼もしく。
 大きく揺るぎのない声色だった。
「そうさなぁ。では、本当の楽土というものを俺が照らしてやろうぞ。まずは――」
 そこで僅かに口調が変わる。
 骸玉に乗っ取られ、自由を失ったもののために、やさしげに。
「お前たちを穢す魂を導いてやったあとで、なァ」

成功 🔵​🔵​🔴​

黒鵺・瑞樹
アドリブOK
右手に胡、左手に黒鵺の二刀流

「慕」の消失ってさ、規模の大小の差はあれどどの世界ででもあると思う。
隣接世界のUDC-HUMANもそういうのが原因で起きるんじゃないかな。

俺自身は存在感を消し目立たない様にたち回る。
可能な限りマヒ攻撃を乗せたUC五月雨、および同時に多くの柳葉飛刀も投擲。なるべく多数へダメージを与える。
合わせて、近寄ってきた者、よりダメージを負ってるものに近づき直接胡による暗殺攻撃で戦闘不能に追い込む。
敵の攻撃は第六感で感知、見切りで回避。回避しきれないものは黒鵺で武器受けで受け流し、カウンターを叩き込む。
それでも喰らってしまうものは火炎・激痛耐性、オーラ防御で耐える。



「ああ。俺は目立たないように裏から行く」
 同行した猟兵と別れた黒鵺・瑞樹(境界渡・f17491)は、呼吸ひとつの合間に一切の気配を消し、目についた橋梁の欄干を渡って戦場の裏手へと回り込むことにした。
「……『慕』の消失、か」
 唇だけを動かして独り言つ。
 誰かを想うこと、自分以外の存在の思いを受け入れること。その規模の大小の差はあれど、どこの世界でも起き得るのではないだろうか。
 瑞樹は思うのだ。
 例えば、隣接世界のUDC-HUMAN。あれもまた、そうした欠落が原因だとしたら? 思考する視界に骸玉が闇に描く不気味な軌跡が見えてきた。敵が近い。そして、救うべき存在までの距離もまた。
「いくぞ、黒鵺」
 囁きに応えるように、左手のナイフが震えた。
 ――五月雨。
 裕に数十を超える黒刃を、奇襲の体で降り注ぐ。
「わっ!」
 前触れなく襲われたニクカリが驚き、麻痺によって動けなくなった体を愕然と見下ろす背中へと、朱色の紐を括りつけた柳葉飛刀が次々と突き刺さってゆくのは見事だった。
「思うところはあるが、だからといって逃がすつもりはないんでね」
 残った柳葉飛刀を全て擲つと同時に、瑞樹は姿勢を低く保ったまま疾風の如きに駆ける。
「な――」
「遅い」
 竈の神による業火が完全に発露するより早く、瑞樹は敵の懐に潜り込んでいた。
 胡なる刀。
 一刀の元に敵の喉笛を切り裂き、絶命を与える。
 素人の動きではないと、ニクカリの間に動揺が走った。その逡巡すらも瑞樹は感じ取り、利用する。
「どうした、動きが鈍いぜ?」
 かかる火の粉は気膜による防御と耐性に任せて無視し、紅蓮の炎本体を躱すことにのみ注力する。
「このっ……!」
 大振りになった相手に隙が生まれた。
 瑞樹はすかさず逆手に持った黒鵺の刀身で炎を薙ぎ払い、がら空きになった心臓へと胡の切っ先を突き込む。
「あばよ。乗っ取ったその体、本人の元に還してもらうぜ」

成功 🔵​🔵​🔴​

アーレ・イーナ(サポート)
 サイボーグの戦場傭兵×咎人殺し、20歳の女です。
 普段の口調は「ボクっ娘(ボク、~君、~さん、だね、だよ、~かい?)」、敵には「冷酷(私、てめぇ、だ、だな、だろう、なのか?)」です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!



 アーレ・イーナ(機械化歩兵・f17281)は敵を制圧する。
 半機械の体を駆り、戦場に舞う。
 敵は己の戦いぶりを映す鏡だ、リトマス紙だ。
 華麗に戦えば敵も美しく散り、颯爽と撃ち倒せば風のように消えて滅する。
「というわけで、早々に勝負を決めさせてもらうよ。覚悟の程はOK? まあ、『待って』と言われたところで力加減はできないんだけど――ね!」
 戦場のただ中へと跳躍、軽やかに着地したアーレの手元から伸びた拷問具が複数のニクカリを捕縛。
「捕まえた!」
 破顔一笑、地面を蹴って中空へと身を躍らせる。橋梁の柱上に降り立つと同時に縄を退き、捕らえた体をきつく引き絞った。
「おっと」
 死に物狂いで反撃したニクカリの炎が頬を掠め、灼けるような痛みにアーレは軽く舌を突き出して頭をかいた。
「危ない危ない。もう二度と死にかけるのは御免だからね、そろそろ決めさせて頂戴なっ!!」
 くんっ、と指先の力を伝えた拷問具が大きくしなる。体をひねり、回転の力を加えて振り回した相手を強かに地面に叩き付けると、それはぴくりとも動かなくなった。

成功 🔵​🔵​🔴​

菱川・彌三八
あゝ、好い夜だ
其れに此処、墓に橋…成程、絵巻てなァ云い得て妙だな
俺とて欄干にでも腰掛けてその様子を手控えしてえ、が…
此奴等の後に興味があるってんなら、遣るしかあるめえよ

筆ァ四つもありゃあ上等だ
彼方此方の道に沿わせて、道中の敵を次々潰す
おっと、一群守りに欲しいな
したが、筆をもう一本
焦る事無く橋を歩くを楽しむかの如く、鼻唄混じりに群れを繰る
仏の遣いが助けを乞うなんてなァ可笑しな話サ
精々派手に逃げな、其方の方が見つけやすい

此奴等を惑わす喪失感が、俺に効かねェなァ残念でならねえ
余計な気に縛られねェンなら、月も綺麗に見えるだろうサ
羨ましいこった

さ、好い喧嘩が出来そうなんだ
とっとと斃されてくれねェナ



 あゝ、好い夜だ――菱川・彌三八(彌栄・f12195)は闇に沈む幽玄なる景色を前にして、感嘆の吐息を細やかについた。
 これが散策ならば、ちょいと其処の赤い橋の欄干に座し。こういう時のために着物の内に忍ばせた紙の出番とばかりに手控えを……という気分であるのだが。
「聞いた話じゃ、今宵の興味は彼奴等の後でときやがった。遣るしかあるめえな、この筆でよ」
 すらりと指先に抜く、四つの筆。
 たっぷりと墨を毛先に含み、絵師に振るわれるのをいまやと待ち詫びる。彌三八は首を巡らせ、さて、と顎を引くように頷いた。
 ――極上の絵巻が、幕を開ける。
 彌三八が筆を走らせると、道に沿って無数の千鳥が飛翔した。北、南、東、西。四方に散らした群れは瞬く間に暴れるニクカリにまで追いつき、その体を激しく啄んだ。
「そら、直ぐに次がゆくぜ」
 動揺し、敵を探して惑う彼らのすぐ脇を、千鳥の群れを足場に遊歩する彌三八が鼻歌混じりに通り過ぎる。
「ぎゃ――……!?」
 一拍遅れ、群れに呑まれた断末魔の叫びすらも塗りつぶして千鳥は静けき墓地の空を飛び交った。
「み、見逃してくれ……!!」
「仏の遣いが助けを乞うなんてなァ可笑しな話サ」
 懇願しつつ、呪いを嗾けようとしていた相手の意図を見抜いて彌三八は鋭く敵を睨み付ける。
 ぱちん、と弾けるような音がして呪詛が形を失った。口に咥えた五本目の筆が守りの一群れを差し色のように侍らせていたのである。
 精々派手に逃げろとばかりに顎をしゃくると、彼らは諸手を上げて逃げ出した。
「――――?」
 彼奴等を惑わせる喪失感が己に効かぬのは残念なことだ、と相変わらず淡やかな光を湛えて空に在る月を見上げた際のことである。
 気を煩わせる概念さえ無ければきっと、妙な感傷に邪魔されることなく月も在りのまま綺麗に見えるだろうにと。
 微かな羨望を感じ取ったかのように、その男は彌三八を見ていた。遠く、河原の橋にかかる橋梁の袂。
 大きな太刀をたずさえている。
「……どうやら、好い喧嘩が出来そうだ」
 彌三八は独り言ち、再び千鳥を放つ。
「彼奴等は前座よ。さ、とっとと斃されてくれねェナ。処で、こう云う時になんと袖にはけるか御存知かい?」
 千鳥に埋もれゆくニクカリに、江戸の浮世絵師曰く。
「“おあとがよろしいようで”ちゆうのサ。そら、判ったらどいたどいた。冥途への道は作ちやるよ。千鳥の紋が六文銭代わりさナ」

成功 🔵​🔵​🔴​

クロト・ラトキエ
はい、今晩は♪
斯様に好き月夜に、此れは如何なるご趣向で?

顔に笑み、声には楽、心は凍土。
戦場なんて因果な塒に長い事居ますとね。
疑心や独りなんてのとの付き合い方は、まぁ解ってくるもので。
無事な妖怪を背に、オブリビオンに相対。
ああ成りたく無ければ退がってて下さいね?と…
慮るでも何でも無い、只の警告。
邪魔さえせず居て下されば良い。
『慕』えないだけで、嫌がらせを好むのでは無いでしょう?

UCの水の魔力を鋼糸に纏わせ攻撃力に。
そこらを飛ぶ骸魂は憑依前に断つとして。
相手の視線、体幹、踏み込みに手足の振り…
視て、次手を見切り、回避へ繋げ。
縛め、追い詰め…骸魂のみの撃破を狙いたく。

君らの主…まー孤独嫌いのご様子で



「はい、今晩は♪」
 孤独なる闇の世界を訪れたクロト・ラトキエ(TTX・f00472)は黒衣を翻し、飄々とした笑みを浮かべてみせた。
「いけませんね、同士討ちとは。斯様に好き月夜に、此れは如何なるご趣向で?」
 手袋に包まれた手を軽く振れば、蹂躙に夢中になっていた相手が驚いて凝となるのがどこかおかしい。
 答えられぬのだ。
 骸魂に侵され、オブリビオンと化したニクカリには決して揺らがぬ微笑の意味も、楽を醸す声色の真意も、ましては凍土と化せし心の中までは見透かせまい。
 ――何者だ、この黒衣の男は――?
 果たして、その疑問は『慕』の概念を失っていたからに過ぎないのだろうか。どう対処すべきか結論を出し得ないでいる彼らに真向い、クロトは肩を竦めて吐息する。
「そんな目で見ないで頂けます? 戦場なんて因果な塒に長い事居ますとね。疑心や独りなんてのとの付き合い方は、まぁ解ってくるもので。ああ、そちらの方。ひとつだけ約束を……」
 クロトは余裕綽々で彼らの間に割り込み、襲われていた方をさりげなく背後に庇いながら鋼糸を構えた。
「“ああ”成りたく無ければ退がってて下さいね?」
 言い終えるが早いか、膨大な量の水の魔力がクロトの指に絡む鋼糸に迸る。ひゅん、と嘶くような撓音を上げて周囲を浮遊していた骸玉を撃墜。完全に先手を取った。まだ反応できないでいるニクカリの首と両手首、腰を鮮烈なる暗器術によって絡めとると、それを限界まで引き絞った。
「あ、あ……」
 背後から怯えた声が聞こえるが、どうやら邪魔をする心算はないようだ。例えその行動が『慕』に連なる信頼に起因するのではなく、恐怖や被支配感によるものだとしてもクロトは構わない。
 鋼糸を更に絞り、憑依した骸魂のみを体から締め出す。
「さ、次はどなたの番で?」
 挑発に乗った相手の視線、体幹、踏み込み及び手足の振り。全てをクロトは見逃さない。
 ――読まれている。
 その事実自体がニクカリの動きを牽制する。明らかに鈍った行動を読み切ったクロトはあまりにも容易に彼らの攻撃をすり抜け、鋼糸を意のままに操った。
「そろそろ終わりにしましょうか。どうやら、後がつかえているようですので」
 いつしか、自分たちを見つめる視線にクロトも気が付いていた。彼らの主。罪のない妖怪に骸魂を嗾け、同胞を屠れと命じた黒幕の。
「………まー孤独嫌いのご様子で」
 鋼糸の穢れを払い、肩越しに振り返る。
 既に、くゆる紫煙は消えていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

水衛・巽
アドリブ歓迎

「軽率に世界が滅ぶ」、まったくもってその通りのようで
これでは慕どころか想も思も喰われかねない気がします
手早く行きましょう

式神使いにて朱雀をニクカリの集団へさしむけ
周囲を飛び回らせ注意を惹く
可能なかぎり多くを巻き込めるよう
橋梁ではなく墓地に集められれば上々ですが、さて

死期目の呪いを受けたなら呪詛耐性で軽減のうえ
呪詛にて呪詛返しを試みましょう
破魔で破ってもいいのですが、それでは芸がない

御仏の使いであったなら炎は見慣れたもののはず
しかしながら、これが浄炎であるか獄炎であるか
それは私の判ずるところではありません
身をもって判別していただきましょう



「厄介な事態ですね。――『軽率に世界が滅ぶ』、でしたか? まったくもってその通りのようで」
 同行している他の猟兵と短い挨拶を交わし、水衛・巽(鬼祓・f01428)は仕方なさげな微笑を湛えた。
 時は夜半。
 肌寒く吹き荒ぶ湿った風は肌に纏わりつくように温く、幽世の異常を訴える。
 本当に、喰われてしまったのは慕の概念だけなのだろうか。思わずそんな疑念さえ脳裏を過ぎるような、不気味な夜だった。
「これでは慕どころか、想も思も喰われかねない気がします。他人に対して何の感情も抱けない、しじまの世界……ぞっとしませんね。手早く、お仕置きと行きましょうか」
 一寸先も見通せぬ闇に沈む墓地に舞い降りつつ、手早く印を結んで放つ式神――十二天将が一、火神の朱雀。
「さあ、奴らの注意を惹き付けておくれ」
 巽は朱雀を放ち、自らは橋を越えて墓地と外世を分かつ境を踏み越えた。炎の鳥に追い立てられたニクカリがやってくる。
「いらっしゃい。もっと奥まで――そう、後ろは振り返らずに」
 黒ずんだ素足が墓石の前を通り過ぎ、近づいてくる。
(「まだ、もう少し」)
 できるだけ多く集めてから、巽は彼らの放つ呪詛をまとめて受け止めた。何という怨念、未練、憎悪。だが、受け止めきってみせよう。
「ふ……――!」
 巽は淡い微笑を唇に刻み、一息で呪詛を紡いだ。引き受け、耐え切った呪詛を上回る呪詛によって“返し”を受けたニクカリが苦悶の表情を浮かべて体を捩る。
「いかがです? 破魔によって葬るよりは芸のあるところをお見せしたつもりなのですが」
 おっとりと首を傾げる巽の元に戻った朱雀が、その肩口に降り立った刹那にひときわ大きく羽ばたいた。
「ぐあ、ああッ……――!!」
 見る間に焼かれたニクカリの骸魂が抜け出し、再び舞った朱雀の炎によって浄化されてゆく。
 なるほど。骸魂に穢された身にはどうやら浄炎となるらしい。もしも御仏の使いのままであったなら逆に獄炎と成ったかもしれないが。
 巽は燃え尽きる魂に指先を添え、囁いた。
「迷い彷徨うのは今夜で最後にしましょう。どうぞ、やすらかに」

成功 🔵​🔵​🔴​

筧・清史郎
【奇縁】

俺は長年箱で在った故、感情というものに対し理解できない部分はある
思慕も、抱いた事があるかと問われれば
正直すぐには思い当たらないが

ひととして歩み出し、様々な心の機微を見て感じてきて
思慕もなくなってはならぬものという事は分かる
現に俺も、共に在る皆を慕っているしな

ああ、呑まれた妖怪さんを助けよう
それにしても、伊織と清宵は非常に仲が良いな(微笑まし気に

UCで強化
炎は水属性広範囲衝撃波で相殺
敵の攻撃命中せぬよう心がけ立ち回り
花霞に紛れる様に残像駆使、確り敵の動き見切り対応
皆と連携し刀で骸魂を斬る
妖怪さん達にも声や行動で此方の思いを示そう

感情とはやはり興味深いものだな
俺も皆と、より知っていきたいと


呉羽・伊織
【奇縁】
曾て俺が失ったのは概念そのものでなく
恩人と慕った―其こそ孤独から拾い上げてくれた人で
こんな辛苦を味わうなら、いっそ最初から縁も心も無ければと思った事もあった

でもやっぱ、なくてはならぬ、よな
曾て恩人に培い、今は仲間と育むこの念は―人を慕う心は、徒に消してはならぬ大事なものだ

で、清史郎とは今日も喜んで助け合うが―アンタ(清宵)とだけはお断りなんだが!
此は飽迄事を成す為
妖達を助ける為
よし清史郎、寝言野郎は置いといて仲良く取り戻しに行こう!

残像で撹乱しつつ、早業で攻撃重ね、刃に想い重ねて連携
UCで憑物たる敵のみを断つ

色々言いつつも
聞き入れられずも
仲間も妖怪も援護
身も心も、孤独の底から助け出そう


佳月・清宵
【奇縁】
思慕は時に苦悶にも変ず
なら気楽に独りふらりと生きるも良い
確かに其も一理ある

だが俺は奴よか余程良い性格でな
そうした思慕が織り成す人の様を眺めて楽しむも一興と思う訳だ
(戯言嘯きつつ連れの言や様子に笑い)
何にせよ、其を奪われちゃ敵わねぇよなぁ
此処に消えるは無粋な輩のみで良い

――おいおい、今まで散々世話焼いてきてやったのに何をぬかす?
舎弟として素直に慕えよ
それに仲間外れは良くねぇよなぁ、清史郎?
全く、手前等もつうかあで面白ぇ限りだ

耐性で身を補強
残像で目を眩まし回避しつつ早業連携
UCに呪詛返しの効果乗せ返礼

仲間妖怪問わず
迫る魔の手にゃ暗器投げ牽制

邪魔者こそ灰塵に帰せ
人の情の醍醐味、面白味を返せよ



 箱。
 其れは感情を持たぬ道具。
 ひと。
 此れは様々な心の機微を持つ存在。
「やあ、これは見事な望月だな。淡き月明かりになんと骸魂の映えること」
 扇で口元を覆い、含み笑う筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)の隣で呉羽・伊織(翳・f03578)が艶やかな長髪をかき上げる。
「皮肉よな。慕う心がなければ、あの月を美しいと想う者もいないというわけだ。勿論、深い感動を呼ぶが故に深淵に突き落とされるか如くの辛苦を味わうこともあるとわかってるが」
 嘗て失った人を思い出せば、この胸はまだ痛みを訴える。いっそ最初から縁も心も無ければと思った事もあった。
「でもやっぱ、なくてはならぬ、よな」
 伊織はほんのりとはにかみ、傍らの清史郎を見た。
「曾て恩人に培い、今は仲間と育むこの念は―人を慕う心は、徒に消してはならぬ大事なもの。そうだろう、清史郎?」
「ああ」
 いまなら頷ける。
 共に在る皆を慕うこの清史郎と、思慕を抱いた記憶などすぐには思い当たらなかったという昔の清史郎。
 その違いは小さくもおおきく、紙一重で違う次元に生きている。
 ふたりのやり取りを脇で眺めていた佳月・清宵(霞・f14015)にやりと笑み、したり顔で戯言を吐く。
「ま、ないよかあった方が退屈しねぇってわけさ。時には苦悶にも変じ、時には絶望に身をやつす因縁となるかもしれん厄介な代物だからな。気楽に独りふらりと生きるも良い――っつう極論も確かに一理あるだろうがよ」
 だが、と清宵は武器を抜いた。
「俺は奴よか余程良い性格でな。そうした思慕が織り成す人の様を眺めて楽しむも一興と思う訳だ」
「……悪趣味」
 ぼそりと伊織。
「なんか言ったか?」
 清宵が凄めば、伊織の唇が自然と尖る。
「清史郎とは今日も喜んで助け合うが―――アンタとだけはお断りなんだが! なんでここにいるんだよ」
「――おいおい、聞き捨てならねぇなぁ」
 ずい、と身を乗り出して顔を突き合わせると、清宵は器用に片方だけ眉を跳ね上げた。
「今まで散々世話焼いてきてやったのに何をぬかす? 舎弟として素直に慕えよ」
「誰が舎弟だ! 此は飽迄事を成す為、妖達を助ける為に駆け付けたんだ」
 それからふたりは同時に清史郎を振り返り、
「よし清史郎、寝言野郎は置いといて仲良く取り戻しに行こう!」
「仲間外れは良くねぇよなぁ、清史郎?」
 異句異音に訊かれた清史郎は、しかし、微笑ましそうに表情を緩めてこう言った。
「ああ、呑まれた妖怪さんを助けよう。それにしても、伊織と清宵は非常に仲が良いな」
 すると、笑って肩を竦める清宵曰く。
「全く、手前等もつうかあで面白ぇ限りだ」
「それほどでも」
 慎ましやかに扇を一指し舞わせ、清史郎は戦いの構えを取った。この桜が乱れ咲く空間において遅れは取らぬ。
 軽口を叩いている間に、三人はいよいよ件の墓地へとたどり着いていた。悲鳴を上げて逃げ惑う妖怪に迫る魔の手を、清宵はまず、擲った暗器で打ち払ってやった。
「おっと、それで狙いを付けてるつもりかい?」
 清宵を捉えたとばかり思えた呪詛の礫は、しかし彼の残像を掠めたに過ぎない。
「どこを狙っている!」
 同じく、伊織は幾重にも己の姿を重ねることで相手を攪乱しながら距離を詰め、横薙いだ黒刀で確実に傷を与えていく。あまりの早業に、妖怪たちは呆然と口を開けたまま腰を抜かしている有り様だ。
「下がれ!」
「あ、あう……」
 恐怖に顔を歪めたまま震えるニクカリに伊織は微笑みかけ、聞き入れられぬことを承知のうえで言った。
「大丈夫だ。キミらが失ったものは必ず取り戻す。なくてはならぬもの、だからな――はッ!」
 骸魂に侵されたニクカリの、増大した身体能力によって見舞われる引っ掻きは重い。それを渾身の力で跳ね返す。伊織の援護を受け、花霞の中を清史郎が駆けた。ひい、ふう、みい――群がる相手を満遍なく薙刀で払い除ける。
 清史郎は前を向いたまま、妖怪たちに語りかけた。
「いまは信じられないかもしれないが、ご覧の通り、俺たちは敵ではない。その証をこれから見せよう。伊織、清宵。準備の程は?」
「いつでもいいぜ」
 伊織の翳喰が武具に息づき、
「灰燼に帰してやる。人の情の醍醐味、面白味を返せよ」
 ――幾つもの狐火が清宵を中心として戦場に迸った。
「目には目を、歯には歯をってなぁ。こいつは今までの返礼だ、受け取ってくんな」
 呪詛を孕んだ炎に焼かれ、身悶える者たちを清史郎と伊織の剣閃が同時に敵の群れを斬り伏せた。
 すれ違うふたりの視線が僅か一瞬だけ絡み合い、――想い重なる。刀身が鞘に収まる音と同時に、断ち切られた骸魂が爆ぜた。
「感情とはやはり興味深いものだな」
 満足げに清史郎は呟き、それを教えてくれた者たちを振り返る。これからも知っていきたい。もっと、ずっと。より深く繊細なる領域にまで。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
さて孤独――孤独ね
あァ、そいつは辛かろうとも
……その味を、私はようく知っているよ

全く同族同士で争うんじゃあない
何の解決にもなるまいよ。そうなっちまうと、助けるには少々手荒になるぞ
その呪いは全て貰い受けよう。我が呪詛と変わるが良い
起動術式、【奸計の霜王】
そら逃げてみろ。足に腕に、触れれば凍る――ならば心臓に突き立てればどうなるか

……と、その前に
貴様らにも紡いだ絆の主くらいあるだろう
そいつがそう簡単に奪われたりなんぞするものか
ただ少し、混乱したついでに忘れているだけさ。さ、思い出すと良い

暗くて冷たいだけの牢獄は辛かろう
暖かくて優しい場所に戻るが良い
手くらいは、私が引いてやろうじゃあないか



 孤独――孤独ね。
 さて、その概念を私に語らせると裕に夜が明けてしまうので端的にまとめてやるとだ。
 そいつは、辛い。
 胸を棘のついた刃で抉られるような、鋭くも鈍い痛みが魂を蝕んでゆく。よく知っているよ。
 その味は、苦くて切なくて。
 あまりの苦しみに耐えかねて、痛みにすら酔いしれてしまいたくなるほどに狂おしいその味を、私はよく、ようく知っているよ。
「――と、そういうわけで。呼ばれて飛び出て、ニルズヘッグ・ニヴルヘイムここに参上」
 外套を夜風にたなびかせ、ニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)は騒乱のただ中へと舞い降りた。
 突然の闖入者に、反応はふたつ。
「な、何者だ!? 邪魔をするならお前も殺してやる」
 これは骸魂に乗っ取られた側のニクカリの反応で、
「あわわわわ、な、なんか現れた……!?」
 さらなる敵が登場したのかと早合点しているのが襲われている方のニクカリの反応である。
 ニルズヘッグは両者を宥めるように片目を閉じてみせた。
「全く、同族同士で争うんじゃあない。何の解決にもなるまいよ」
 だが、何しろ世界は孤独に満ちている。こちらの仲裁を簡単に受け入れるわけがないことを承知していたニルズヘッグは当然、その後の展開も読んでいた。
「ごちゃごちゃ抜かすならお前も一緒くたに燃やしてやるぜ!!」
 やれやれ、と肩を竦めながら上向けた手のひらから数十本にも及ぶ氷刃が迸る。
「――そうなっちまうと、助けるには少々手荒になるぞ。そら、逃げてみろ。足に腕に、触れれば凍る――ならば心臓に突き立てればどうなるか」
「なにっ……――!?」
 ニルズヘッグに差し向けられていた呪詛の念が氷刃に接触した途端、まるで塗り替えられるように呪詛が反転した。
「呪詛という概念においてこの私を上回れるとでも思ったか?」
「ば、馬鹿な……やめろ、とまれ――とま、えっ?」
 驚くべきことに、呪詛を破って突き進む氷刃はニクカリの心臓に到達する寸前に停止する。
「な、なぜ……?」
「貴様らにも紡いだ主くらいあるだろう。そいつがそう簡単に奪われたりなんぞするものか」
 思い出せ、と促すニルズヘッグの声色に彼らはあからさまに苦しみ始めた。中には跪き、涙を流すものまでいる。
「や、やめてくれ……そうやって優しく語りかけるのはやめてくれ……ください……まるで、心にぽっかりと穴が開いたようだ。あ、ああ……!!」
 大切なる概念を奪われた存在を労わる想いは、それに応えられぬ者たちに地獄の苦しみを呼び覚ます。
 ニルズヘッグはそっと指先を動かして、氷刃に最後の一押しを加えた。
「案ずるな。いま、暖かくて優しい場所に戻してやる。暗くて冷たいだけの牢獄は辛かろう。手くらいは、私が引いてやろうじゃないか。なあ?」
 氷刃に射抜かれた骸魂がニクカリの肉体を離れ、闇夜を駆けるように飛翔してから滅する。まるで流星のように消えていったそれを横目で見送り、ニルズヘッグは勝ち誇ったように微笑した。

成功 🔵​🔵​🔴​

鷲生・嵯泉
思う心を忘れる、か
……其の方がいっそ楽に成れる場合もあるやもしれんが
想いが在ればこそ強く在る事が叶うのも又事実だろう

仏の遣いが地獄の遣いと化すなぞ説法にも成らん
ともあれ時間が惜しい、此方に気持ちを傾けずとも構わん
事実としての助けである事だけ理解すれば良い
少しでも下がれば其れで十分だ
――破群領域
フェイント絡め、襲われている者との隙間を縫って打ち据えて呉れよう
……総て砕かれる前に吐き出すが良い

忘れる事の叶わない痛苦を孕んだ想いとて、己を形作るもの
孤独の内に堕ちるよりも、余程「生きる」事が出来よう
何より――此の想いを失った時、己が己で在るなどと云えはしない
今は孤独こそが此の身の敵であるのだから



(「思う心を忘れる、か……」)
 急げ、と鷲生・嵯泉(烈志・f05845)は駆ける脚を早める。闇の向こうから僅かに水の流れる音が聞こえるのは、近くに川でもあるからか。
「まるで賽の河原だな。全く、仏の遣いが地獄の遣いと化すなぞ説法にも成らん」
 嵯泉は行く手を遮る橋梁の欄干に片手を添えて飛び越え、一気に戦場へと躍り出た。
「――命が惜しくば下がっていろ。この刃は、領域内にいる者を残らず叩き潰す」
 端的なる指示。
 感情を排した、理解のみを求め得る言葉はそれ故にすんなりと彼らの元に届いたようだ。
 ――そうだ、行け。此方に気持ちを傾けずとも構わん。少しでも下がれば其れで十分――。
 襲う者と襲われる者。
 両者の距離が開いた瞬間、鞭状となった愛刀を蛇のように鋭くくゆらせる。
「わあっ!」
「どこを見ている?」
 一刀目はフェイク。
 刃の行方を見失い、右往左往するニクカリらを嵯泉は瞬く間に打ち据えていった。
「襲われる側が統率を失っているというのなら、お前たちも同様なのだろう?」
 言葉と刃で追い詰める。
 思う心さえ無ければいっそのこと、楽に成れる場合もあるだろう。だが、と嵯泉は手首を返し、辛辣なる太刀筋にて敵の吐き出した骸魂を屠った。
「想いが在ればこそ強く在る事が叶うのも又事実だろう。私には、其れを失くしたお前たちは抜け殻にしか見えん。忘れる事の叶わない痛苦を孕んだ想いとて、己を形作るもの。故に、苦難あれど抱き続けることの方が孤独の内に堕ちるよりも、余程『生きる』事が出来よう」
 真っすぐに見据えた独眼の眼前で、破群領域の餌食となった骸魂が爆ぜる。散り逝く華のような残像が嵯泉の赤目を闇夜に浮かび上がらせた。
「これで全て、か」
 納刀し、よく通る声で告げる。
「出て来い黒幕。お前の行いは幽世に住まう者から己が己で在るという証明それ自体を奪うも同義の痴れ事だ。言っても判らぬというのなら、今からそれをお前の身に刻み付けてくれよう」
 今は孤独こそを其の身の敵であると自覚する男は、静まった墓地の夜気を斯様な宣戦布告にて震わせたのである。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『燻ぶる灰の『火我美』』

POW   :    焦がし尽くす刃
【触れた者を灰にする呪炎纏う刀】が命中した対象を切断する。
SPD   :    零れ落ちた炎
【狛犬の妖『朱虎』】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
WIZ   :    縋りつく呪灰
攻撃が命中した対象に【纏わりつく呪いの灰】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【焦熱】による追加攻撃を与え続ける。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は御鏡・十兵衛です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「くっ、はっははははは!!」
 豪快な笑い声と共に姿を現した赤髪の男――火我美は、綺麗に片のついてしまった戦場跡を見渡して肩を竦めた。
「せっかく嗾けた骸魂がパァだ。それに、聞いてたよ。なくてはならないものだとか、本当の楽土を照らしてやろうだとか。そうやって大口叩くからには勿論、それだけの実力を持ち合わせているんだろうな」
 ざわりと引き抜かれた太刀が纏うのは触れた者を灰と化す呪炎。寄らば斬るとばかりに、火我美は胸の高さにそれを構えた。
「俺の呪いは強烈さ。炎を纏った刃は高熱によって触れた者を溶かし斬り、灰を受ければ最後、よほどの距離を取らない限りは火傷になって治らない。それに、こいつの牙から果たして逃れられるかな?」
 火我美の刃から零れ落ちた炎が狛犬となって猟兵たちに牙を剥いた。
「さあ、想いが在るから強く在れるというのならその証拠を見せてみやがれよ。ただし、手短にな」
 今夜は満月だ、と火我美は皮肉げに言った。
 月明かりに照らされた彼の背後には、ひと際おおきな橋梁が聳えている。その真下には流れる川があって、丸い月が水面に浮かんで揺らめいた。
「俺も月見と洒落込みたいんでね。さあ、月の沈まぬうちにとっととケリをつけようぜ」
黒鵺・瑞樹
アドリブOK
右手に胡、左手に黒鵺(本体)の二刀流

真の姿に。
隠密行動はきかないだろうな、だから真っ向勝負を仕掛ける。
正面から踏み込み胡と本体二刀流によるUC菊花を叩き込む。
こちらにも伽羅と陸奥って頼れる相棒がいるんだ。狛犬の対応は任せる。
陸奥の風はどこまで通用するかわからないけど足の速さは負けないし、伽羅は水龍で水の扱いは得意で雷撃も扱える。決して負けやしないさ。

敵の攻撃は第六感で感知、見切りで回避。回避しきれないものは本体で武器受けで受け流し、カウンターを叩き込む。
それでも喰らってしまうものは火炎・呪詛・激痛耐性、オーラ防御で耐える。

あぁそれに。戦いの中で折れるのなら本望だ。



 ――この状況、隠密行動はきかないか。
 即座に判断を下した黒鵺・瑞樹(境界渡・f17491)の行動は早かった。刹那、一陣の風が吹き抜ける間にその髪と瞳は色を変え、纏う衣までもが装いを異にする。
「ほう、やる気かよ」
「問われるまでもないさ」
 選択したのは小細工なしの真っ向勝負。瑞樹は火我美に対して正面から踏み込み、風を切って馳せた。
 迎撃に動いた狛犬の進路をふさいだのは突如として飛び出した白虎の陸奥である。互いに唸り、噛み合って地面を転がる二頭の操る炎と風が撒き上がって紅蓮の竜巻を生み出した。
 全くの互角。
 だが、瑞樹にはもう一頭の頼れる相棒がいた。名を伽羅という水竜は雷雲を呼び、狛犬の炎を鎮めてしまう。
「ふっ……――!」
 間一髪、火我美の刃を躱した瑞樹は上体を捻ることで回転力を乗せた二刀を連続で叩き込み、最初の主導権を握った。
「ちぃッ――」
「まだだ!」
 たまらず退きかけた火我美を追い、破れ被れに突き込まれた刃を黒鵺の黒刃で跳ねのけた。
 火我美の異能は剣術そのものではなく、それが纏う呪炎にある。確かに受け流してなお、触れ合った刃面から本体である黒鵺を通じて浸食する禍つ火に瑞樹はありとあらゆる耐性を駆使して抗った。
「痩せ我慢するなよ」
 再び、両者の刀が鍔迫り合う。
「退けよ、このままだと折っちまうぜ」
 至近距離で睨み合いながら挑発してくる相手へと、瑞樹もまた不敵に微笑んで見せた。
「悪いが、戦いの中で折れるのなら本望だ……!」
「――なに?」
 完全に抑え込んだとばかり思っていた火我美の予想を裏切り、瑞樹は黒鵺を犠牲にすることすら厭わぬ気迫でさらに一歩を踏み込んだ。
「馬鹿な」
 真正面からの力比べで引けを取るとは思わなかったのだろう。驚きに目を瞠る火我美の姿を輝く両目に映しつつ、瑞樹は右手の胡を薙ぎ払う。――合計で九。二刀は瞬時に幾重もの弧を描き、火我美の身に菊花の花弁が描ききられたのである。

成功 🔵​🔵​🔴​

水衛・巽
アドリブ歓迎

おや、意見が合いましたね
これほど大きな満月をただ見送るほど残念なこともない
我々の実力に関してはご安心を
勝てぬ勝負をふっかけるほど猟兵は暇ではないので

呪いと火に並々ならぬ自信がおありのようで
ならば破魔と水剋火の理でもってお相手しましょう
高熱の灰も躾の悪い狗も纏めておいでなさい
そのほうが手っ取り早く済む

リミッター解除した高速詠唱で速攻を仕掛け
灰や狛犬は破魔で構成した水の壁で防御
狙いは火我美ただ一体
水の縄で縛り上げれば呪炎も封じられるはず

棘には鎧無視攻撃を乗せて貫通力を上げ、
万が一水壁を抜けてきた呪炎があれば呪詛耐性で耐えましょうか
もっとも、火が水に剋つことはありませんけど



「おや、意見が合いましたね」
 指先に紡いだ霊符をそっと唇に当て、水衛・巽(鬼祓・f01428)は愛想よく笑って告げた。
 夜。月。幽世。陰陽師。
 あまりにもお誂えに過ぎる舞台。満月はなお儚く、戦いの行方を見守るかのようにふたりを照らしている。
「戦いの前にふたつだけ、申し上げておきましょうか。ひとつは、こちらもこれほど大きな満月をただ見送るつもりはないということ。そしてもうひとつは、我々の実力に関しての保証です」
 指先の霊符に術力が漲る。巽はこれ以上ないほどに極上の微笑を湛え、請け負った。
「どうぞご安心を。勝てぬ勝負をふっかけるほど、猟兵は暇では御座いません」
 言い終わるが早いか、すかさず呟いた詠唱による破魔の速攻が巽の周囲に水の壁を築き上げた。
「――水、だと?」
「ええ。呪いと火に並々ならぬ自信がおありのようでしたので。ならばこちらも遠慮なく全力で行かせてもらおうかと」
「ちッ、いい性格してやがる」
 察しのよい火我美へと、巽は軽く手招きして見せた。
「さあ、高熱の灰も躾の悪い狗も纏めておいでなさい」
 ――そのほうが、手っ取り早く済む。
 獰猛に飛びかかる狛犬を檻のように水の壁に閉じ込め、無力化と同時に闇の奥から伸びた黒蛇の尾が火我美の腕に巻き付いた。
「こいつは……!?」
「凶将・玄武。その呪炎は封じさせてもらいますよ」
 尾はいつの間にか水の縄と化して相手の肩から腰にまできつく絡みつき、無数の棘を突き立てる。
 火を尅する水の拘束具は火我美の自由を奪い、鎧ごと砕いて肉を抉る。降りかかる灰燼を水壁によって相殺しつつ、巽は尋ねた。
「どうしました? まだ、私の元へはひと欠片の呪炎も届いておりませんよ」
 悔しげに臍を噛む相手に、薄っすらと微笑すら浮かべて巽は――五行の理を知り尽くす陰陽師は告げたものである。
「もっとも、火が水に剋つことはありませんけど。どうやら、勝負あったようですね」

大成功 🔵​🔵​🔵​

久遠寺・遥翔(サポート)
「先制攻撃」「空中戦」「ダッシュ」「ジャンプ」「残像」による高機動戦闘で翻弄しながら「第六感」「見切り」で敵の攻撃を回避、あるいは「オーラ防御」「盾受け」でガードして「カウンター」も狙う
また、ある程度の属性攻撃は耐性で耐えられるはずだ

炎の「属性攻撃」「焼却」「2回攻撃」「鎧砕き」「鎧無視攻撃」「生命力吸収」により相手の装甲を焼き尽くしながら生命力を奪う炎の斬撃で攻め立てるぜ

敵が空中戦を得意としている場合は天焔解放を使う
失敗が溜まっていたら魔焔解放で逆転狙いだ
他にも状況に応じた攻撃系のユーベルコードで立ち回るぜ



「へえ、そっちも炎を使うのか。奇遇だな」
 久遠寺・遥翔(焔黒転身フレアライザー・f01190)は樹上から飛び降りると同時に気膜を張り巡らせ、衝撃に備えた。
「どこだ!?」
「こっちだよ」
 うまく背後を取れたことに喜色を浮かべ、手にした黒剣に宿す炎は生命力に満ちた緋色の火焔。
「さあ、勝負だ。俺とそっちの炎とどちらが強いかなッ!!」
「ふん、受けて立つぜ。呪いの灰に焦がれて朽ちなッ……!」
 鈍い音を立て、刃と刃が激しくぶつかり合った。
「よッと!」
 遥翔は組み合わず、跳躍して近くにあった橋梁まで後退。肩を焼く火の粉を払い除け、楽しそうに口笛を吹く。
「あっぶねー。耐性がなかったら火傷してるとこだぜ。でも、タイミングはわかった」
 よし、と頷いて肩を回すと、靴先で二回ほど足場を叩いてから再び跳躍。
「こいつ……!」
 突撃と離脱を繰り返す遥翔に翻弄され、相手が苛ついたまさにその隙をついた一撃だった。
「――ここだ!」
 太刀を振るう袖下に潜り込み、ほとんど密着した状態から放たれる神速の拳は黒き焔を宿して容赦ない打撃を与える。
「ち……ッ」
 火我美の足元が揺らいだ。
 遥翔が笑う。
 黒剣を持ち直し、命を刈り取る死神めいた炎を宿した剣先をがら空きの体に突き立てる。
「……やるねえ」
「ま、正義の味方ですからね」
 これくらいは、と軽く惚けながら更に攻め立てる。相手が降参と云うまで手を休めてやるつもりはなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

物部・出雲
ふはははッッ――!!それはそうとも、もちろんだとも!!
なにせ神である故なァ
お前に退屈はさせんとも
斬り合い、殺し合い、お前を受け止めてやろう。それこそ、「強い」ものの証明であろう?
お前の呪いを祓うのがこの禍神、物部出雲の役目で在ろうて

――お前の呪いの焔と、俺の禍焔、どちらが上か燃やし合おうではないか

さあ、どこからでもかかってくるがいい。「すべて燃やしつくしてやる」。
【黒陽:災禍焔】
こいつは――お前には少し強すぎる火力やもしれぬなァ
俺達はきっと相性がいいぞ、鬼
呪われて燃えるお前を、その犬どもを、刃を受け止めて打ち消してやろう
かはは、ぬるい、ぬるいなァ
――では、本物の熱さというものを教えてやろう



「ふはッ」
 気づけば、物部・出雲(マガツモノ・f27940)は腹を抱えて吹き出していた。
「ふはははッッ――!! それはそうとも、もちろんだとも!!」
 言った方の火我美が目を丸くするほどの啖呵を切って、出雲は大きく胸を逸らした。
「なにせ神である故なァ。お前に退屈はさせんとも。さあ、どこからでもかかってくるがいい」
 またしても出雲の全身を覆いつくす禍つ火を前に、しかし火我美は動かない。いや、動けないのか。
「どうした、こぬのか?」
 出雲は謳うようにたずねる。孤独なる世界での暇潰しを求めて斬り合い、殺し合うのがお前の望みであったはずではないか、と。
「油断して負けるのは嫌いなんでね。慎重にいこうかと」
「ほう、存外かしこいのな。確かにこいつは――お前には少し強すぎる火力やもしれぬなァ」
 す・べ・て・燃・や・し・つ・く・し・て・や・る。
 出雲の唇の動きを読んだ火我美が咄嗟に飛び退いた。だが、遅い。既に出雲の手には彼の愛刀たる布都斯魂剣が召喚されており、黒陽によって補助された太刀筋はおよそ百以上にも及ぶ乱撃の様相を呈した。
「ぬ……――!」
「――お前の呪いの焔と、俺の禍焔、どちらが上か燃やし合おうではないか。なァ? 俺は戦いを好いておる。なぜならそれは、『強い』ものを証明する最も単純かつ明快な方法だからだ。そして、お前の呪いを祓う唯一の方法でもある」
 ぐっ、と出雲の威圧が増した。
「まだ、上があるのか……!」
「ははッ! こいつは――お前には少し強すぎる火力やもしれぬなァ」
 出雲は更に炎を撒き散らし、間隙なく火我美を追い込んでいく。決意だ。禍神たる物部出雲の、己の役目を果たそうという揺らがぬ意思、その証明。
「俺達はきっと相性がいいぞ、鬼」
「ほざけ、神」
 火我美の太刀が盛り返す。
 全ての者を灰燼に帰す緋焔と災禍を呼びし黒焔。互いに絡み合って夜すらも溶かすかの如く、激しく燃え盛る。あまりの暴火に火我美の狛犬が弱腰になって鳴いた。
「かはは、ぬるい、ぬるいなァ」
 もっと熱くなれ。
 それこそ失慕の痛みすらも忘れるほどに、熱く、どこまでも激しく。もはや出雲は禍焔そのものであった。
 まるで、どこからどこまでが己であるのかもわからなくなりそうな。おおらかに包み込み、ひとつになってしまう。
 神の抱擁。
 見る者がいれば、そんな言葉が天啓のようにひらめくであろう光景だった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
ほほう?そいつは良い
ならば力比べといこうじゃあないか
――その呪い、喰わせてもらう

起動術式、【破滅の呪業】
触れたら灰になるのであろう?そら、氷竜の鱗も燃やし尽くせるのか、やってみるが良い
挑発と同時に氷幕を展開、時間を稼ぐ間に、その呪詛全て掻っ攫わせて頂こう

全く手ぬるいなァ――お返しだよ
呪詛により増強した氷の属性攻撃で、一息に穿ってくれよう
熱がお得意なんだろう?さァ溶かしてみるが良いさ
ま、溶かそうが斬り落とそうが、幾らでも湧いて出るがな

独りで月見なんざ、何が楽しいのか分からんな
貴様なぞに独占されては、折角の名月も悲むであろう
安心して骸の海に還るが良い
この月は、私たちが皆で楽しく味わうさ



「なるほど、貴様の言い分は相分かった。ならば話は早い。正々堂々、力比べといこうじゃあないか?」
 ほほう、と興味をそそられたように呟いたニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)が挑発の笑みを浮かべて指先をくい、と上向きに動かした途端。
 周囲に薄っすらと漂う冷気。
 しなやかに、けれど強靭なる氷の幕がニルズヘッグを薄紗の向こうへと隠してしまったのである。
「触れたら灰になるのであろう? そら、氷竜の鱗も燃やし尽くせるのか、やってみるが良い」
「言ってくれるぜ。なら、遠慮なくいかせてもらう……!」
 言葉通り、火我美の太刀筋は迷いがなかった。真っ向から斬りかかってくるのを、ニルズヘッグも堂々と待ち受ける。
 そして振り下ろされた呪炎の太刀はずぶりと氷幕に沈み込んだきり、どちらが優勢とも云えぬ拮抗状態が続いた。
「突っ立ってるだけかい?」
 手こずっているのを誤魔化すように尋ねる火我美に、ニルズヘッグは「さてな」と嘯く。
「そもそも、私は“突っ立っているだけ”のつもりなど毛頭ないのだが?」
「なんだと?」
「全く手ぬるいなァ――お返しだよ」
 はっと目を瞠る火我美を、膨張した氷幕が無数の氷柱となって襲いかかった。完全に意表を突かれ、防御も間に合わない。
「馬鹿な、これだけの氷幕を展開しつつ同時にこれだけの攻撃を放つなど――」
 そこで彼も気が付いたようだ。しかし、ニルズヘッグは構わず暴虐なる氷の嵐をけしかけ、四方八方からその身を穿った。
「熱がお得意なんだろう? さァ溶かしてみるが良いさ」
「てめぇ、俺の呪詛を喰いやがったな……!」
「ふふん、気付くのが遅いのだ。見よ、これぞ破滅の呪業たる術式の組成図。貴様の呪詛はよい肥しになってくれたぞ?」
 無論、火我美も反撃に出る。しかし、取り込んだ呪詛を根源とする氷嵐は留まるところを知らずに暴れ回った。
 月光に煌めく氷の結晶が燻る火の粉と狂い踊る。
 ふと肩口にまで舞い降りてきた灰燼を、ニルズヘッグは悪足掻きを捻じ伏せるように尾先で振り払った。
「ち……――」
 既に形勢は着いている。
 軽く肩をそびやかしたニルズヘッグは、月を見上げて呟いた。
「なあ、火我美とやらよ。独りで月見なんざ、私には何が楽しいのか分からんな。そんな貴様なぞに独占されては、折角の名月も悲むであろう」
 ニルズヘッグの眼前に、左右から氷幕が降りてくる。
 文字通り、戦いの幕を閉じるために。
「安心して骸の海に還るが良い。この月は、私たちが皆で楽しく味わうさ」

成功 🔵​🔵​🔴​

庵野・紫
アンの家族たちをイジメてたのはアンタ?
どーでもいいけどちょっと黙ってくんない?
早くお月見したいのは同感だけどさー
アンタを潰すのはアンだよ?

蛟を使うまでもないよねー。
【鋼の靴】
呪われた脚は鋼のように鋭いんだよ。
炎の刀を退ける重い一撃を食らわせてあげるー。
アンタの刀もカッコイイけど、アンの刀の方がオシャレっしょ。

えー、なになに?怖いんですけど。
念動力で足元に転がる石を操ってアイツにぶつけちゃえ!
あーあー、この身体ってほんと戦いにくいんだよね。
カワイイからこっちの方が良いんだけどさー。

懐に入り込んで重い一撃を食らわせたい。
アンタの物言い、ほんっとムカつく。
早く決着をつけようよ。



「どーでもいいけどちょっと黙ってくんない? あんまりペラペラ喋られるとしらけるんだよね」
 頭の高いところで括った鮮やかな色合いの髪を靡かせ、庵野・紫(鋼の脚・f27974)は颯爽と火我美の前に割り込んだ。
「アンの家族たちをイジメてたの、アンタでしょ? あーいうの困るんだよね」
「はァ? 家族?」
 何のことだと眉をひそめる相手を、きつい眼差しで見据える。腕を組み、胸を張って啖呵を切る。
「さっきのニクカリよ。ここの妖怪達はアンの家族も同然なの」
 だから、と紫の足元が揺らめいた。
「――それに手を出したアンタを潰すのはアンだよ?」
 刹那、風切り音と共に鋼のように鋭く重い一蹴が火我美の太刀を彼の腕ごと跳ね上げる。
「なッ……、蹴りを使うのか!?」
「アンタの刀もカッコイイけど、アンの刀の方がオシャレっしょ」
 まさしく、すらりと伸びた両脚は紫にとっての刀身そのものであった。体勢を崩したところを追い撃たれた火我美は、もう少しで致命傷をくらうところだった。
「危ねえな。生意気なこと言ってると本気になるぜ」
「えー、なになに? 怖いんですけど」
 凄む相手など紫はお構いなしに、足元に転がる石を念動力で動かして礫のようにお見舞いしてやった。
「ってぇな!?」
「べー、っだ。あーあー、この身体ってほんと戦いにくいんだよね。カワイイからこっちの方が良いんだけどさー」
 本来、人の体の作りは戦いに向いていないのだ。それでも紫はこの体が気に入っている。愚痴を言いつつも火我美の太刀をすんでのところで躱し、懐へ入り込む機会をうかがい続けた。
「そう簡単に近寄らせるかよ? 見え見えなんだよ、動きがよ」
「アンタの物言い、ほんっとムカつく」
「他に手はないのかい?」
「ざーんねん。アンタなんかに蛟を使うまでもないよねー。ああでも、早くお月見したいのは同感なんで、早く決着をつけようよ」
「!?」
 その時、放った石が火我美の目を襲った。一瞬の隙に紫は彼の太刀を握る手元を掴んで真下に潜り込み、そこを起点にして思いきり右脚を蹴り上げる。
「舐めるのもいい加減にしてよねー」
「ぐッ……」
 アッパーの要領で顎を穿たれ、血を吐いた相手に紫曰く。
「アンタを潰すのはアンだって言ったでしょ? さあ、観念しなよ。逃がす気なんかこれっぽっちもないんだからさ」

成功 🔵​🔵​🔴​

神薙・焔(サポート)
●一言でいうと
元気なセーラー服ガジェッティア(帝都桜學府に編入) with ガトリングガン

●外見
燃えるような赤毛、猫っぽいよく動く緑の目、自身ありげ
クセのある髪を飾り気のないカチューシャで纏めている
セーラー服、スカートの下はスパッツ
小柄でスポーティ。ふとももが健康的、胸は巨

●性格
強気で自信家、理系女子。普段は見せないが寂しがり屋
動物好き、大食い。またゲーム好きで腕前もなかなか

一人称:二人称:三人称=あたし:あなた:〇〇ちゃん/くん/さん

●戦闘
ガトリングガンでの拠点防衛や援護、接近戦では焔を纏ったバルディッシュで戦う
重い一撃と範囲攻撃を使い分け、感情の昂ぶりで心臓の焔が燃え上がる



「ふうん、緋色の焔かあ。あたしのと似てるね。でも――」
 柄の長い戦斧を振りかざし、神薙・焔(ガトリングガンスリンガー・f01122)は佇んでいた橋梁から火我美目がけて飛び降りた。
「そんな死臭漂う焔とあたしのそれを一緒にしてもらっちゃ困るんだよね。早期決着をお望みのようだし、さっさと終わらせよ?」
 焔はにっこりと微笑み――その可愛らしい笑顔とは裏腹なまでに凶悪な威力を誇る一撃を見舞う。
「げッ……!?」
 掠っただけで浅くはない傷が刻まれる。余波を受け、崩れ落ちる瓦礫を足場にして距離を取った焔は、持ち替えたガトリングガンで厚い弾幕を張り巡らせた。
「角度OK、風向きOK」
 舌を打って、火我美が追撃に出る。
 勿論そこまで計算済みだ。
「さあ、連続射撃はじまるよー!」
 近づかれる前に蜂の巣にしてやる。ゴーグルに転送された標的情報を解析。割り出された最も効率的な射撃範囲を照準に捉え、すかさず全弾を撃ち放った。
「ッ――!!」
 まさに大火力。
 焔の放った無数の弾丸はそれぞれが独立した炎の塊となって火我美を撃ち抜き、辺りを火の海へと変えたのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

メリル・フィート(サポート)
常に冷静に、よく見てよく考えて行動します。
考えても解決できなかった時に拳の出番です。
とりあえず殴れば大体の事は解決します。
それでも無理なら…それは私一人では解決できないと言う事です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!



「なるほど、了解しました。拳で語れ――と仰るのですね? それなら、私にも可能です」
 メリル・フィート(妖狐のゴッドハンド・f28434)は美しい所作でお辞儀をすると、其の身に無敵たる想念の鎧を纏った。
「いきます」
 先手を取り、覇気を漲らせた拳を出し惜しむことなく全力で見舞う。
「へえ、やるじゃないか」
 太刀を盾にして凌ぐ相手の、反撃の機会を奪うが如き連撃はメリルの体に刻み込まれた記憶そのものだ。
 頭では思い出せずとも、この拳が覚えている。
 自分と師を繋ぐ唯一のもの。
 それがメリルの武器。
 故に彼女が戦うのか、それとも他の理由があるのか。メリルの表情からその真意は読み取れない。
 わかるのは、己の拳への絶対なる信頼のみ。
「とりあえず殴れば大体の事は解決します。それでも無理なら……それは私一人では解決できないと言う事です。けれど、これは違いますね? 解決を前提とした依頼ならば、後者である可能性は限りなく低いはず」
 遂に、メリルの殴打が火我美の防御を崩した。懐に入ってしまえば無手のこちらが有利。
「――もらいました」
 体勢を立て直す暇など与えてやらない。小柄を生かして死角を取ったメリルは相手の急所へ容赦なく撃ち込んだ拳から漏れ出ずる覇気を陽炎のように揺らめかせ、最後まで冷静なまま告げたのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

コノカ・ハギリガワ(サポート)
『やるわ。私に任せなさい!』
 サイボーグの鎧装騎兵×戦巫女、18歳の女です。
 普段の口調は「女性的(私、あなた、~さん、なの、よ、なのね、なのよね?)」
出身世界:スペースシップワールド

性格:勇敢
戦場では積極的に前線に切り込み、敵の注意や攻撃を引き受けます

・戦闘
勇翠の薙刀を主に使って戦います
また、エメラルドアームから発生させた障壁で仲間を庇います

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!



 特殊な加工のされた翠色の長手袋を左腕に嵌め直し、コノカ・ハギリガワ(勇を示す翠・f06389)は橋梁を背後に佇む相手を『敵』だと認識してひたと見据えた。
「いくわよ。そこまで大見得切ったからには、楽しませてくれるんでしょうね?」
 強気に言い放ち、自ら相手の間合いに飛び込むコノカの得物を見て、火我美が言った。
「薙刀か!」
「ええ。見せてあげるわ、勇翠の力を!」
 視力と暗視に優れるコノカにとって、夜戦という条件はむしろ有利に働いたようだ。的確に火我美の太刀筋を見極め、攻撃の隙をついて薙刀に纏わせた斬撃波を叩きつける。
「おっと――」
 肩を撃たれた火我美の狙いが逸れた。
 ――ここ、だ。
 伸ばした指先から展開される障壁で相手の刃を受け流し、コノカはそのまま突っ込んだ。
「朱虎!」
 盾となって飛びかかってくる狛犬の牙をもってしても、薄っすらと翠色に発光する障壁は破れない。
「はッ!!」
 手応えあり。旋回させた薙刀は火我美の脇腹を抉り、焔よりよほど赤い鮮血を月下に迸らせた。

成功 🔵​🔵​🔴​

菱川・彌三八
ごちゃゞゝゝうるせえ
興醒めだ

太刀を抜くより速く、地を滑るが如く飛んで間合いを詰め、相手の正面
…と見せかけて、刹那で死角に入り横面に一撃
そら、首を捻じ切るぜ
追って脇腹、人中に入れて一旦間合いを取る
時に不定形な動きで其の視界から外れて躱す

さて呪いはお前ェ自身か刀の方か
抜けねェ様にするが早ェかなァ
喧嘩で得物に頼り続けるなんざつまらねえからよ
頼るしかねぇってんなら抜きゃいいサ

鳳凰は他所じゃ灰から生まれ変わると云うらしい
なァ、ウマァ合うじゃねェか
燃え広がる部分はくれてやる
腕か脚か頭か、残りゃ一撃入れられる
俺ァしこたま遣りあえりゃ好い
後ァは尻腰
こちとら吉祥の加護がある
呪いなんざ耐えるも弾くも如何ともならあ



「ごちゃゞゝゝうるせえ、興醒めだ」
 菱川・彌三八(彌栄・f12195)の決断は速かった。相手が太刀を抜くより早く、正面に潜り込むと見せかけた刹那、その姿が消失。
「どこに――」
「そら、首を捩じ切るぜ」
 死角から放たれた掌底による殴打。強かに横面を叩かれた火我美に反撃する猶予を与えず、彌三八は脇腹と人中にそれぞれ一発ずつをお見舞いしてから再び相手の死角に飛び退いた。
 ――吉祥・鳳凰。
 彌三八の全身を覆う刺青は不死を司る雌雄一対の鳥を描き、肉体そのものを強化する。
「さて呪いはお前ェ自身か刀の方か。抜けねェ様にするが早ェかなァ」
 指を鳴らし、煽るように顎を上げて敵を見下ろした。
「喧嘩で得物に頼り続けるなんざつまらねえからよ。頼るしかねぇってんなら抜きゃいいサ」
「……興醒めだと言うわりに、やる気じゃねェかよ」
 火我美は地面に血を吐き、指先に絡めた太刀緒を引いて結び目を解いた。
「そういやあ、アンタはアレをなくちゃならねえもんだとは言ってなかったな。悪かったよ、忘れてて」
 腰から太刀を落とし、構えた手刀に呪炎を宿して刃と変える。どうやら呪いは本人の側に起因するらしい。
 推測を裏付けるように、火我美が吼えた。
「ああ、そうだ。アンタにならわかるかもしれないな。決して叶わぬ懸想に憑りつかれ、愛する者をこの手にかけた愚かさ故に孤独の世を望んだ男の虚無感をなァ――!!」
 躍りかかる紅蓮の手刀を彌三八は素手で受け止め、開いた懐に拳を繰り出す。互いに触れたところから炎が揺らめき、殴り合うふたりの周囲を業火が呑み込んでいった。
 片や、呪いの灰燼を振り撒く死の焔。
 片や、灰から生まれ変わると云う鳳凰の焔。
「ウマァ合うじゃねェか」
 全身のほとんど全てを焼かれながらも、彌三八はしっかりと地面を踏み締め、更に一歩前に出た。
「ほらよ、いくらでも灰にしてくンな。俺ァ其の度に立ち上がって、お前ェの虚無感とやらを終わらせてやらあ」
 ――灰が。
 火我美の呪いを受けて彌三八を覆っていた灰が崩れ、その下から鳳凰の刺青が瑞々しくかがやいた刹那。
「がッ……――」
 まだ、炎に飲まれていない部分があった。彌三八が至近距離からの頭突きを食らわせると、もろに食らった火我美の体が仰向けのまま吹き飛んでいく。
「尻腰の差ァが出たナ……おっと」
 勝負の着いた途端に膝が笑った。彌三八はその場に手をつき、焼かれた肺を労わるようにゆっくりと息を整える。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クロト・ラトキエ
想いで強く云々と、心にも無い事を談る気は更々。
ですが…想い慕って届かぬそれを『苦しむ』だなど、また可愛らしい事を仰る。
…他者への慈悲とか憐憫で振るう太刀でも無いでしょう?

えぇ、手短に参りましょう?
寂しがり屋さん。
物見より盗み聞きより、今宵は共に遊んであげますとも。

剣技なら。
視線、体幹、構えに踏み込み。速度、切っ先、軌跡…
見切り得た全てを知識に照らし、時に掛けた鋼糸を引き移動、
又は空中をも己が領域と、躱し立ち回り。
…挑発めいた言は、熱くさせる為。冷静さを奪う為。
動きの合間に、周囲に鋼糸を。
UCで上げる攻撃力、纏わす水の魔力――

もう、独りの退屈も無いですよ。

一気に糸を絡げ引き、炎も呪も纏めて、断つ



「おやおや、十把一絡げはよしてもらえません? 想いで強く云々と、心にも無い事を談る気は更々ありませんので」
 微かな風切り音を立て、火我美の脇を抜けた鋼糸が背後に聳える橋梁の柱にしっかりと巻き付いた。
 クロト・ラトキエ(TTX・f00472)はそれを手繰り寄せ、空中をも己が領域と心得て踊る。
 ――水の魔力によって彩られし、鋼糸の使い手として。
「へえ、ならアンタはどうしてここへ来た?」
 唸りを上げて襲い来る剣先を最小限の動きで躱し、間合いを取るための後方回転をひとつ挟む。
 乱れた髪をかき上げ、笑み一つ。
「寂しがり屋さんのお相手をしてあげるため、ですかね?」
 更に鋼糸を巡らせつつ答えれば、あからさまに火我美の動きが鈍る。心の入らぬ剣戟などクロトにとっては児戯に等しい。軽く鋼糸で跳ね除けられた刃を構え直し、探るような瞳がこちらを見ていた。
「……なんだって?」
「想い慕って届かぬそれを『苦しむ』だなどと可愛らしい事を仰っていたじゃないですか」
 会話する間にも、クロトの魔力を注がれた得物は蜘蛛の檻のように戦場の至る所に糸を張り、着々と準備を整えつつあった。
 火我美は気付かない。
 否、クロトが気付かせない。
「可愛い?」
「そう」
 くすりと柔和な笑みが零れるとき、クロトの“悪癖”がその片鱗をみせた。
「……他者への慈悲とか憐憫で振るう太刀でも無いでしょう? 苦しんでいたのは他でもないあなた。救われたかったのもあなた。それをわざと強がって、いじらしいじゃないですか、ねぇ?」
「――ッ」
 図星だというのは、耳まで赤くなった火我美の反応で明らかだった。
「……アンタ、何者だ」
「名乗るほどの者ではございません」
 さっきまでの毒なる空言はどこへやら、軽妙なる敬語にて嘯いたクロト曰く。
「見ての通りの猟兵ですよ。さぁ、物見より盗み聞きより、今宵は共に遊んであげますとも」
「上等だ。俺の触れられたくねえところに踏み込んでおいて、生きて返してなんかやるもんかよ。勝負だ。あの月が沈む前に――」
「えぇ、手短に参りましょう?」
 既に見切った斬撃の合間に踏み込み、その軌跡が消えるより先に最後の仕上げを手繰り寄せる。
 両指で一気に糸を絡げ引くと、周囲に張り巡らせておいた鋼糸が火我美を絡め取って逃さない。
「もう、独りの退屈も無いですよ」
 炎も呪も纏めて、断つ。
 血と焔の花を咲かせる鬼に、慰めにもならない言葉を手向けながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鷲生・嵯泉
大言壮語はお前とて変わるまい
云われずとも証左なら幾らでも示してやろう
確と其の目に刻むが良い

視線に切っ先、爪先等と、計り得る総てから
戦闘知識と第六感にて攻撃は先読み躱し、破魔の刃にて相殺
多少の傷は激痛耐性と覚悟で捻じ伏せる
此の程度で膝など付かん
命を賭して我が身を憂う護りとの約定、違え等するものか
――遮斥隕征、刃に宿れ
衝撃波散らしたフェイントで隙を抉じ開け
怪力乗せた斬撃で以って斬り伏せて呉れよう
お前如きの呪いなぞ、より強い火勢には呑み込まれると知るがいい

案じずとも月が沈むより先にお前が沈む事になる
現れるなら幾度でも、月の沈む前に沈めてくれよう
――骸の海へとな
解ったならば、疾く潰えろ。過去の残滓



 鷲生・嵯泉(烈志・f05845)が体の前に刀を持った手を伸ばせば、赤き飾り緒がたなびいて闇に一筋の模様を描いた。
 大言壮語ならお互い様である。故に手加減などいらない。全力で鍔迫り合う迄のこと。
「ほう、打刀か」
 刀同士の戦いを悦ぶように火我美も構えに入った。
「云われずとも証左なら幾らでも示してやろう。――確と其の目に刻むが良い」
 嵯泉がその刀身を引き抜くと同時に火我美が地を蹴った。目と目が合い、ついで剣先と剣先、そして互いの爪先までもが互いの殺気に反応して牽制し合う。
「――!」
 まず、火我美の刀が距離を計るように薙がれたのを峰で受け流し、燃ゆる呪炎は刃に宿した破魔の力で勢いよく散らした。
「――遮斥隕征、刃に宿れ」
 余波の火の粉が頬を掠め、肌に赤黒い跡を残してゆく。だが、僅かに眉を動したのみで傷の痛みを噛み殺し、膝を――つくどころか、大きく一歩を踏み出した。
 怖じぬ、退かぬ、負けぬ。
 命を賭して我が身を憂う護りとの約定、違え等するものか――!!
「これは……――!?」
 てっきり大振りの一撃が来るかと身構えた火我美だったが、構えた刀をすり抜けるように衝撃波が散ってゆくのを見て驚きの声を上げた。
「くっ」
 慌てて炎を纏いやり過ごそうと目論むも、嵯泉の刃が相手のそれを強引に抉じ開けてしまうほうが早い。
「俺の、炎が――!?」
 触れたものを断つはずの炎はしかし、遮斥隕征の効果によって急速に鎮まって沈黙。
「お前如きの呪いなぞ、より強い火勢には呑み込まれると知るがいい」
「がっ――……!」
 死灰を撒く灰燼の焔のただ中に飛び込みながらも、嵯泉の双眸はしっかりと開かれていた。
 巨岩をも砕く怪力で叩き斬られては火我美とて堪らない。ほとんど地面を転がるようにして追撃を逃れるが、すぐには立ち上がれない。
「く……」
 蹲って呻く鬼を、嵯泉は月を背に負って見下ろした。
「悦べ、月はまだ上天に在る。現れるなら幾度でも、月の沈む前に沈めてくれよう」
 ――骸の海へ、と。
 月の光すら届かぬ、遺物の眠る海へ葬り去る。触れたものを無効化し、破壊する此の刃がその道標となるだろう。
「解ったならば、疾く潰えろ。過去の残滓」

成功 🔵​🔵​🔴​

佳月・清宵
【奇縁】
色々言われたもんだな?
まぁ月見も良いが、それ以上の興を拝めるだろうよ(再び連れに笑い)
此の念が如何に面白い様相を成すか、見逃すなよ

言うや否や早業UC
水間縫い不規則に舞わせ撹乱補助とフェイント
その影から暗器で2回攻撃
皮肉の目潰しを

火にも刃にも身の内から焦がし蝕む呪い込め、呪詛と意趣返し
此ばかりは水でも消えまい
残像も加え欺き
剣筋や所作見切り回避
最悪耐性で捩伏す

騙討ちは悠々避け追撃
おう節穴、はたいて目ぇ覚ましてやろうか?
清史郎、馬鹿は放って二人で行くか?

戯言と裏腹に一斉に
手向にもってこいの二振と戯れる様に花嵐と刀踊らせて

独りも悪かねぇが、コイツら見ながら酌み交わす方が一等味わい深くなるんでな


呉羽・伊織
【奇縁】
委細は右に同じく―今は力以前に慕わしく頼もしい友人を持ち合わせてる
序でに厄介なオマケもいる
其が何を示すか―月見の余興に御覧じろってな!
ああ、俺達で必ず

敵動作探り癖や隙の情報収集
連携し残像で撹乱
第六感と見切りで回避
常に呪詛纏う身
耐性も十分

刀や炎に力削ぐ水
腕に麻痺の毒
目元に目潰しの闇
と変眩放ち阻害狙い援護

清史郎とは確り足並揃えつつ
不意に清宵に一撃
と見せかけ背越しに敵へ騙し討ち
おっと随分口達者なんで敵と間違えたわ!
清史郎誤解ヨあの狐だけは信じちゃ駄目!
意趣返しも程々にしろ!

軽口叩くも隙見て共に攻勢へ
後は語るまでもない―手向けは花明で一閃

ああ、早く楽しい月見を―一層縁も感慨も深まる様な一時を!


筧・清史郎
【奇縁】

俺も元は、感情を持たぬ道具で在ったが
ひとと成って、想いが在るからこそ強く在れる事を知った
そしてそれを知らぬとは、気の毒だな
せめて来世で知れるよう、俺達の手で還してやろうか

縋りつく呪灰も、当たらねば問題はない
敵の攻撃が命中せぬよう、確りとその動きに注視し見切り立ち回り
残像駆使し敵を翻弄、躱せぬものは広げた扇で受け流す
皆と連携し、隙生じさせ攻勢に転じる
その呪炎、水龍の矢で消し飛ばしてやろう

伊織と清宵は、本当に仲睦まじいな
流石、呼吸も抜群だ(微笑み
ふふ、では皆で共に
縁の証である花映の刃を手に、仲良く皆で仕掛けよう

手短に片をつけたいのは同意だ
慕う皆と早いところ、楽しく月見と洒落込みたいからな



「まったく、色々言われたもんだな?」
 よく喋る鬼だ、と清宵は袖の下から取り出した護身用の煙管に火を付ける。
 白い指先と炎の対比が闇に浮かぶ――それに目を奪われている間に、佳月・清宵(霞・f14015)の周囲を件の狐火が取り巻いた。
「てめぇの云う通り月見も良いが、今宵はそれ以上の興を拝めるだろうよ」
 なぁ、と笑いかけられた筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)は「是」と頷いて曰く。
「俺も元は感情を持たぬ道具で在ったが、ひとと成って、想いが在るからこそ強く在れる事を知った」
 隣で拗ねている――厄介なオマケのせいだ――呉羽・伊織(翳・f03578)の肩に手を置き、清史郎は憐みさえ含む雅な微笑を火我美に向けた。
 ある真理を知るものと、知らぬもの。
 圧倒的な差が、両者の間には在る。
「…………」
 火我美の指先が鯉口を切る音に耳を傾けつつ、清史郎もまた愛刀の柄に手を添えた。厄介なオマケの存在に何やらぶつくさ呟いていた伊織はといえば、どうやら清史郎の取り成しに溜飲を下げたらしい。
「委細は右に同じく――今は力以前に慕わしく頼もしい友人を持ち合わせてる」
 序でに厄介なオマケもだが、と渋々付け足す伊織に清宵曰く。
「つれないねぇ。折角の月夜だ、もう少し素直になったらどうだい」
「誤解を招くような言い方をするな!」
 などと言い合いつつも、敵に向かって啖呵を切るふたりの息はぴったりと合っていた。

「此の念が如何に面白い様相を成すか、見逃すなよ」「其が何を示すか――月見の余興に御覧じろってな!」

 三人は一斉に散開し、彼らの残像と水間を不規則に舞う狐火の攪乱が火我美の手元を狂わせる。縋りつく呪灰も、当たらねば問題はない――清史郎は剛柔を使い分ける相手の太刀筋から一時も目を離さず、滑るような扇使いで刃の軌跡をやんわりといなしてやる。
 其の度に、桜の花弁が夜風を孕んで戦場を彩った。
「花吹雪とは気取るねぇ、色男」
「お褒め頂き光栄だな」
 揶揄にも動じず、ひらりと白刃を躱してたずねる。
「知りたくはないか、想い想われることの真なる価値を」
 囁きに、火我美の太刀を握る指が震えた。
 清史郎は同意を求めるように、清宵と伊織を振り返る。
「せめて来世で知れるよう、俺達の手で還してやろうか」
 ああ、と伊織の頷きが返る。
「俺達で必ず」
 既に敵の癖を見切るには十分な時間が過ぎている。伊織は残像を囮として、火我美の気を引き付けた。彼の呪いを孕んだ灰燼は伊織に降りかかると同時に雪のように消え失せる。
「破邪――? いや、違う」
 目を凝らす火我美に伊織は教えてやった。
「そう、同じ呪詛だよ。慣れてんだ、こういうのには」
 清史郎と足並みを揃え、彼が舞うのに合わせて黒刀を操っていた伊織の手元が不意に“狂った”。
 どう考えても己を狙ったとしか思えぬ一撃を、清宵は苦も無く躱す。
「おっと、随分口達者なんで敵と間違えたわ!」
「おう節穴、はたいて目ぇ覚ましてやろうか?」
 ここまで来ると、もはや一種の夫婦漫才ではなかろうか。彼らはまるで事前に示し合わせたかのように悪態をつきながら、同時に攻撃を放った。
 先に届いた暗器ふたつに気を取られ、目元を狙った闇の変眩に視界を奪われた火我美は毒に痺れる腕を庇い、大きく後退。
「ちっ、めくらましにわざと不仲を装ってんじゃないだろうな?」
「そんなわけないさ。伊織と清宵は本当に仲睦まじいのだからな。流石、呼吸も抜群だ」
 などと清史郎が持ち上げるので、清宵はにやにやと揶揄うように伊織を見るし、伊織は憤慨したように喚くのだった。
「清史郎誤解ヨあの狐だけは信じちゃ駄目! あっ」
「清史郎、馬鹿は放って二人で行くか?」
 ぐい、と伊織を押しのけて前に出ようとする清宵だが、それをさらに押しのけて伊織も一歩を踏み出す。
「意趣返しも程々にしろ! 清史郎、放って行くならこいつの方だ!」
 譲らぬふたりに清志郎はくすりと笑い、縁の証である花映の刃を引き抜いた。
「ふふ、では皆で共に」
 いつしか、彼らを守るように呪詛を孕む紫煙が幕のように漂っている。火我美の焔と刃を通じて彼の身を蝕むそれは、清宵の煙管からたゆたう呪詛の群れだった。
「どうだい? 此ばかりは水でも消えまい」
「ち――」
 しかも、清宵を斬ったかに思えた太刀は残像に惑わされ空振るばかり。
「手短に片をつけたいのは同意だ。慕う皆と早いところ、楽しく月見と洒落込みたいからな」
 花映、水龍の矢を桜雨と舞い降らし。
「ああ、早く楽しい月見を―一層縁も感慨も深まる様な一時を!」
 花明、桜雨を映して月下に閃く。
「相変わらず、手向けにもってこいの二振りだな」
 清宵は煙管を咥えたまま、それらと戯れるように花嵐と刀を躍らせた。
「独りも悪かねぇが、コイツら見ながら酌み交わす方が一等味わい深くなるんでな」
 急所を同時に刺し貫かれ、血を吐きながら倒れてゆく鬼を無量の桜吹雪が見送った。呪炎も灰燼も何もかもが、儚く淡い色彩にかき消されてゆく。

 ――そして後には、天辺の月ばかりが残された。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​




第3章 日常 『月を眺めて』

POW   :    月よりお団子

SPD   :    ススキを波打たせる風の音に耳を傾ける

WIZ   :    景色をめでて

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 流れる水面に淡く照る月が映り込んでいる。季節感を狂わせるススキの薙ぐ微かな音色も道端に咲く彼岸花の紅も、幽世においては不可思議こそ常なるもの。
 月見におあつらえ向きの広い河原のそばで、ニクカリたちが餅をついている。どうやら団子と、酒もあるようだ。
「さきほどは助けてくれてありがとうございます。あちらにお酒と団子を用意したので、よかったらどうぞ」
 彼らは猟兵のために茣蓙を敷き、そそくさと消えていった。

 夜明けにはまだ遠い、夜半の月。
 愛でるも、食すも、語らうも、気の向くままに。
仲佐・衣吹(サポート)
私ことウォッチが対応致しましょう
執事のように礼儀正しく丁寧口調の人格
常に微笑みを絶やさず立ち振る舞いはスマート

調べ物や相手から信用を得ることが必要ならば適任でしょう
あー……少々吃驚したり怖かったりするアクシデントには弱いのですけれど
数秒固まった後に、微笑みと口八丁で誤魔化すのは得意ですよ

アイテムやユーベルコードはその場に応じて選んで下さって結構ですよ



「へえ、とても綺麗な月夜ですね。なるほどお月見ですか、状況理解致しました」
 軽く胸に手を当てた仲佐・衣吹(多重人格者のマジックナイト・f02831)がお辞儀をする背後から、「こんばんは」とかけられた声がある。
「ああ、どうも……ひぇっ」
 闇の中からぼんやりと現れたニクカリはまさにお化け屋敷の幽霊そのもので、不意をつかれた衣吹はもう少しで飛び上がるところだった。
「あっ、驚かせてしまってごめんなさい!」
「いえいえ! 全然大丈夫ですよー? ああ、給仕でしたらむしろ私もお手伝いしましょうか? 私ことウォッチはこういうことに手馴れておりますので」
「ええっ? そうなんですか?」
「そうなんです」
 衣吹はにっこりと微笑み――そのスマートな笑顔一発で、ニクカリはすっかり心を許してしまったようだ――自ら酌に回り、やすやすとその場の雰囲気に溶け込んでしまう。
「たまにはこういうのも楽しいですね。お代わりはいかがです? どうぞ、今夜はゆっくりしていってくださいね」

成功 🔵​🔵​🔴​

睦沢・文音(サポート)
『聴こえますか?私の歌が!』
年齢 14歳 女
外見 147.1cm 黒い瞳 黒髪 色白の肌
特徴 いつも笑顔 柔和な表情 胸が大きい お尻が大きい ネットが好き
口調 清楚(私、あなた、~さん、です、ます、でしょう、でしょうか?)

他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません

他の猟兵のサポートに回り、事件の解決にあたります
日常パートならば飲食や歌をうたうことをメインに行動します

他の参加者様との連携リプレイ歓迎です
最大の目的は、事件を解決に導くことです
その為なら、ある程度の怪我や些細な失敗はやむを得ないものとします



 河原にやってきた睦沢・文音(フォーチュンシュネルギア・f16631)はゆたかな胸の前で手を組み、「わぁ」と感嘆した。
「きれいなお月さまですね。それに、とても不思議な場所です。まるで、お伽話の本のなかに入り込んでしまったかのような……あっ」
 文音は何かに気付き、走り出す。
「お団子があるんですね」
「はい! まだあったかいですよ」
 喜んで受け取った文音は、「あーん」と美味しそうに頬張る。見ている方が幸せになってしまいそうなほど、嬉しそうに食べる。
「おいしいです。とても柔らかくて、ほんのり甘くて」
「たくさんあるので、いっぱい食べてくださいね」
「わわっ!」
 どっさり団子をもらってしまって、文音は嬉しさと困惑がない交ぜになる。
「全部食べたら太っちゃいそうです。でも、ほんとにおいしい。そうだ、お礼に歌わせてくれませんか?」
 周囲の邪魔にならないように静かな曲を選んで口ずさむと、集まってきたニクカリがゆらゆら揺れる。
 文音は目を閉じて自然の音に耳を傾けた。
 月の光も、川の流れもススキを揺らす風の音も、全てが音楽。
 全てが響き合い、歌となる。

成功 🔵​🔵​🔴​

菱川・彌三八
静かな方が良い
橋の欄干に腰掛けて、まあるい月と芒の音を聴く

御託が多いな気に入らねえが、遣り合う相手にゃ上々
身を焦がす熱が、文字通り体を焼く程の立ち回り
お陰で十全にゃ遠い
息する度、熱した鉄を飲み込むかの様だ
だが、夜風が随分と心地良い
鈍い痛みがあの楽しさを呼び起こす

想いは枷になるが、夫れ自体に善悪はねえ
飲まれっちまうかは己次第てえとこだな
彼奴は何と云っていたか
分かりもしねェが、分かる気もねェ
死んで尚八つ当たりたァくだらねえや

月が明るくて、喧嘩の熱が好くて
お前ェが隣に居たら
…只其処に在る月を綺麗だと思えねえたァ難しいモンだ
帰る頃には熱は癒えるだろうか
そいつがちいと惜しいなんざ、俺も大概飲まれてやがる



 ――静かな方が良い。
 橋の欄干に腰を下ろした菱川・彌三八(彌栄・f12195)の影が闇よりも更に深い漆黒を川面に落としている。片膝を軽く立て、頤を仰向け、まあるい月と芒の音に耳を傾けている。
「あァ、夜風が傷に染みやがる」
 満更でもない様子で彌三八は月を眸に宿し、欠けたることのない望月の淡い輝きは身も心も癒すかのような。まるで焼けた鉄を飲み込むかのような痛みに耐え、両肺をしとやかな夜の空気でゆっくりと満たしてゆく。
 脳裏に甦るのは、先の戦いのことだ。
 御託の多い相手だったが、遣り合う分には上々の腕だった。楽しかった。そして、熱かった。想いは枷になれど、夫れ自体に善悪はなく。だとすれば、あれは――あの鬼は深淵に飲まれてしまったのだろう。
 例えば、彌三八が腰掛けている欄干の内と外。そのどちらに落ちるか賭けをするようなものだ。やじろべえのように揺れる心は、ほんの僅かな刺激によってどちらにも倒れ得る。
「……彼奴は、何つってたかナ」
 ふと思い出す。
 分かりもしないし、分かる気もしない言葉であった。
「死んで尚八つ当たりたァくだらねえや。せめて、なァ? 取り返しが効くなァ死ぬ前までよ」
 もしも、と彌三八は仮定する。
「お前ェが隣に居たら――」
 そこで台詞を切り、痛む腕をあげて頭をかいた。言葉が続かない。現実、彌三八は独りで月を見ているのだから。
「只其処に在る月を綺麗だと思えねえたァ、難しいモンだ」
 在れを手控えるつもりが、これではろくに筆も持てやしない。だが、惜しいと思うのはむしろ癒え始めた熱のほうで。
「俺も大概飲まれてやがる」
 月を仰ぎ、唇開き。
 まるで芒の旋律に音色を足すように、溜息一つ零れていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒鵺・瑞樹
アドリブ同席OK
WIZ

夏に秋の風情を楽しめるのか、これはぜひとも月見で一杯とするところ。
不思議な感じは常に桜咲くサクラミラージュと同じで、でもやっぱり違うのはここが一度は人に忘れられた存在がいるからだろうか。
季節を問わず楽しめるってところは猟兵ならではかもしれんな。
この景色、知り合いでも誘えればよかったかもしれんが…まぁいいか。
でもニクカリたちも一緒に酒盛りすればよかったのにな。
それとも先ほどの戦いがちょっと尾を引いてるんだろうか?…たしかに遠慮なくやったが。

頂いた団子と景色をつまみに酒飲み。
四季で嫌いなものはないが特に好ましいのは秋だから、この景色はとてもいい。
彼岸花も好きな花だし。



「それにしても、不思議な感じだな……夏に秋の風情か。どことなくサクラミラージュを思わせるけど、やっぱり根本的なところで違う気がする」
 黒鵺・瑞樹(境界渡・f17491)はニクカリにもらった団子と酒を手に、月見の場所を探して辺りを眺め渡した。
 何が違うのだろう。
 ふと、その原因に気が付いた。世界の問題というよりはそこに生きる者の違い。一度は人に忘れられた存在たちが寄り集まって出来た幽世だからこその、現実感の希薄さ。
「ああ、あった」
 瑞樹は目当ての花を見出して、自然と顔が綻んだ。
 芒に混ざって夜風に揺れる彼岸花はどこか寂しく、けれど可憐で美しい。特に嫌いな季節はないが、好みで言えば秋は中でも特別だ。季節を問わず、こうして色々な世界を楽しめるのは猟兵ならではの楽しみでもある。
「知り合いでも誘えればよかったかもしれんが……まぁいいか。ニクカリたちも一緒に酒盛りすればよかったのに」
 ちら、と振り返ると彼らは猟兵たちの邪魔にならないように茂みの向こうに隠れてしまっている。
「もしかして、怖がられてる?」
 たしかに遠慮なくやってしまったのは事実であったので、瑞樹がそんな誤解をしたのも無理はなかったかもしれない。
 しかし、実際はといえば――、
「あれが猟兵さんかー! 噂には聞いてたけど、かーっこいー!」
「どうしよう、お酌しにいっても迷惑じゃないかな?」
「やめておけよ、月見の邪魔したら悪いだろ!」
 ――などなど、きゃっきゃと騒がれていたのだが。
 真相を知らない瑞樹は団子をつまみつつ、「まぁいいか」と足を組み直して月見を堪能することにしたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ソフィリア・ツイーディア
エミール(f11025)と共にお月見へ
芒の音に誘われ、小さな従者くんとお月見を楽しみます
「そんなに緊張しないで?――私を、連れて行ってくれるかな」
差し出された手にそっと手を重ねて彼の案内に任せましょう

静かな世界、月と団子と、そしてエミールが入れてくれたお茶と。
……うん、美味しい。
でも、私の為とは言え動き回ってくれているエミールに申し訳ないですね
「エミール。もう大丈夫だから、あなたも隣に座りましょう?」
エスコートしてくれたんですもの。"一緒"でないと、勿体ないでしょう。
…そうだ、頑張ってくれたあなたへ。
ほら、口を開けて。お団子を一緒に食べましょう?
―ええ、あなたのその笑顔が私も嬉しいですから。


エミール・シュテルン
ソフィリア様(f00306)とお月見へ…
人が少なく月がよく見えそうな茣蓙へ、エスコートしますね
(少し躊躇うような恥じらうように手を差し出し
「その…私で、よろしければ」

お月見にお団子…となれば、もちろんお茶も大事ですね
実は、緑茶よりも紅茶の方が淹れる方が得意なので…
少し緊張してしまいますが自分で飲むときよりも丁寧に丁寧に淹れます
ソフィリア様に美味しいって思っていただけるでしょうか(ソフィリア様をそっと見つめ
安心したら、少しお腹がすいてきたようなので、私も……
えっあの、その…(あーんに照れつつ小さく口をあけ)
「程よい甘さで、美味しいですね」
本当はあーんの衝撃でほとんど味がわからないとはいえませんね



 月光を受けてきらめく芒の音色に耳を傾けるように、ソフィリア・ツイーディア(空の騎士・f00306)はそっと瞼を伏せて河原へと降り立った。
「不思議な場所だね。子どもの頃に読んでもらった異国の絵本に出てくるような、とても趣のある風景……」
「え? あっ――は、はい、そうですね」
 薄っすらと闇に浮かぶソフィリアの髪が月光に美しく映えているのに見惚れていたエミール・シュテルン(一途な・f11025)は頬を染めながら慌てて頷いた。
 ソフィリアはくすりと微笑み、エミールに尋ねる。
「そんなに緊張しないで? ――私を、連れて行ってくれるかな」
「その……私で、よろしければ」
 エミールの耳が躊躇うように震えた後、恥じらうような仕草で差し出された手にソフィリアはそっと自分の手を重ねて言った。
「楽しみだね、お月見」
「ええ。いろいろ用意してきましたので、ご期待いただければと……」
 そわそわと辺りを見回し、エミールは人が少なく月がよく見えそうな茣蓙を選んでエスコートする。
 ちょうど、高い場所にある橋梁の袂が空いていた。あそこなら木々も邪魔にならず、特等席で月を愛でることが出来そうである。
「ソフィリア様、お茶をどうぞ」
 少しだけ、指先が緊張に震えているのに気づかれてしまったかどうか――。
「いい香りだね」
 エミールが丁寧に淹れてくれたお茶を、ソフィリアはふぅと冷ましてから口元に運ぶ。
「……うん、美味しい」
「ほ、本当ですか? よか――あっ」
 緊張が解れて安心した途端、空腹を感じたお腹が小さく鳴ってしまった。赤面するエミールをソフィリアが呼び寄せる。
「エミール。もう大丈夫だから、あなたも隣に座りましょう?」
「そ、それでは失礼して……」
 遠慮がちに隣へ腰を下ろすエミールだが、並んで座る二人の間には50センチほどの慎ましやかな距離がある。
「それじゃ、隣とはいわないよ?」
 ソフィリアは小首を傾げ、自分の隣を手のひらで軽くたたいた。
「せっかくエスコートしてくれたんだもの、もっと近くへきて? 私は、あなたと“一緒に”月が見たいんだよ」
「はっ、はい」
 意を決して、エミールはソフィリアのすぐ隣に移動する。
(「し、幸せ過ぎる……」)
 もうそれだけで恐悦至極に打ち震えるエミールであったが、ソフィリアが指先に取った団子をこちらに向けられ、ぎくしゃくと彼女の名を呼んだ。
「ソ、ソフィリア様!?」
「頑張ってくれたあなたへ、私からのお礼。ほら、口を開けて」
「えっあの、その……」
 照れながらもあーんと口を開けると、間近にソフィリアの顔がある。
「はい、あーん」
 ソフィリアはエミールに食べさせてあげてから、自分もひとつ団子を取り上げ、ぱくんと頬張った。
「美味しいね、エミール」
「ええ。程よい甘さで、美味しいですね」
 本当はあーんの衝撃でほとんど味などわからなかったのだが、エミールは神妙な顔で何度も頷いた。
「本当に?」
「勿論ですっ」
「ならよかった」
 可愛いエミールの笑顔に、ソフィリアも嬉しそうに笑い返す。
「今夜は、素敵なお月見になりそうだね――」
 並んで座る2人の背中越しに浮かぶ月はどこまでも大きく幽玄に輝いている。淡く黄金に。夜半を満たす静かなる刻を彩るようにして。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
黒い蛇竜と一緒に月を見上げる
去っていくニクカリたちに手を振りつつ酒を飲み
団子は蛇竜にやろうかな
旨いか?良いもの貰えて良かったな!

周りに沢山の気配、穏やかだけど確かに誰かがいる場所
やっぱり月見はこうでなくちゃな
何だって、独りより誰かと一緒の方が楽しい
蛇竜もそう思うだろ?いつも一緒にいてくれるもんな、お前は

ああ、でも今はきっと、独りで何かするのも悪くはないんだろう
帰れる場所があって、迎えてくれる誰かがいるから
寂しいのを紛らして笑わなくても、悲しいのを呑み込むために酒を飲まなくても良い
それはきっと、凄くしあわせなことなんだ

だから今日は、心から月を愛でてから
待っててくれる暖かい場所に、私も帰ろう



「……終わった、か」
 ニルズヘッグ・ニヴルヘイム(竜吼・f01811)が槍を納めると、それは一匹の蛇竜となって彼の傍らに寄り添った。
「ご苦労さん。それと、貴様らも無事でなによりだ」
「こちらこそ、助けてくださってありがとうございました!」
 ニクカリたちは一斉に頭を下げてニルズヘッグにお土産を渡すなり、ざざーっと一斉に姿を消してしまう。
 ニルズヘッグは彼らが見えなくなるまで手を振ってから、さて、と辺りを見回した。
「周りには知った顔もいるようだが。どうしたものかな」
 戦いを共にしたばかりの者たちが、いまは穏やかに月見に興じる気配。敏感にそれらの気配を感じとった尾先をくゆらせながら、ニルズヘッグもまた静かに月が見られる場所を選んで腰を下ろすことにした。
 ひとりでよいのか、と尋ねるように蛇竜が首を傾げる。
「ん? ああ。何だって、独りより誰かと一緒の方が楽しいもんな。でも今はこれでいいんだ」
 ニルズヘッグは気を許すものにだけ見せる微笑を浮かべ、蛇竜の顎を指先で軽く撫でてやった。
 いつも一緒にいてくれる、ニルズヘッグの蛇竜。こちらに同意するように鳴き、おとなしく膝の上に乗ってくる。ニクカリにもらった団子をやると夢中で食べた。ニルズヘッグも月を愛でつつ、盃を傾ける。
「でかい月だなぁ」
 ほろ酔い気分で、感嘆の声を漏らした。
 ――帰れる場所があって、迎えてくれる誰かがいる。
 寂しいのを紛らして笑わなくても、悲しいのを呑み込むために酒を飲まなくても良い。それはきっと、凄くしあわせなことで。
「ん? 蛇竜も飲みたいのか?」
 酒の匂いに興味津々の蛇竜に、ニルズヘッグは悪戯っぽく笑った。
 ――だから今日は、心から月を愛でてから。
「結構きついぞ。さすが、妖怪たち手造りの地酒といったところか。そうだ! たくさんもらったから、土産に持って帰るのもよいかもなぁ」
 よいことを思いついたとばかりにニルズヘッグは破顔し、再び酒で満たした盃を口元に運ぶ。
 散々食って、飲んで、それから。
 ――皆が待っててくれる暖かい場所に、私も帰ろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鷲生・嵯泉
……季節を考えれば些か不思議ではあるが
此の辺りも幽世らしさというものか

架けられた橋梁の欄干に凭れ月を――水面に映る其れを見遣る
僅かに揺らぐ月の姿は、何処か人の心を思わせる
確かに其処に在る様でいながら、少しの波紋で消え失せて
再び凪いだ処で同じ姿では二度と映らない……

しかし心の奥深くに根差した想いは、移ろう事なぞ無いままに在り続ける
其の在り様は水面に映る月では無く、空に掛かる月に似通う
時と共に姿を変えながらも確と、在る

其の根差す想いがあるからこそ、往くべき道に迷わない
決して見失わぬ様にとの願い――己で在り続ける為の礎
水面の月を揺らがせぬ様に、空に掛かる月で在れる様に
――もう二度と。何物にも奪わせん



 鷲生・嵯泉(烈志・f05845)は無言で刀を鞘に納め、芒を靡かせる夜風に目を細めた。巨大な月に照らされたそれらの光景はまるで黄金の波間を思わせる。
「幽世の秋、か……つい現実感を狂わせられるな」
 元の世に帰れば燦々とした陽光の降り注ぐ夏の最中――それがここでは虫が鳴き、芒の穂が揺れている。
 嵯泉は手頃な橋梁の欄干を選んで背を凭れると、川面に浮かぶ水月を見つめた。風に凪がれるまま、僅かに揺らぐ月の姿は何処か人の心を思わせる。
 確かに其処に在る様でいながら、少しの波紋で消え失せて。再び凪いだ処で同じ姿では二度と映らない……。
 ふと、嵯泉は空へと視線を動かした。
 水面の月は揺らげど、空に掛かる月は変わらず其処に在る。
 心の奥深くに根差した想いはきっと、あの月のように移ろうことなく在り続けるのではないだろうか。
 例え表層が水月のように変化しようとも、満ち欠けを繰り返しながらも必ず夜空を巡る天の月のように確と、在る。
 瞼を閉じても、眼裏に残る月の姿がとある願いを想起する。誰の心にもあるべき、己が己たる所以に根差す確かな想い。だから、往くべき道に迷わない。
 耳を澄ませば、どこからかよく知った笑い声が漏れ聞こえて来る。全く、どこにいても目立つ盟友だ。
 嵯泉は含み笑いを噛み殺し、改めて月を見つめた。
 其れは願いだ。
 己の歩むべき道を決して見失わぬ様に、心の奥底に抱かれた――己で在り続ける為の礎。水面の月を揺らがせぬ様に、空に掛かる月で在れる様に。
「――もう二度と。何者にも奪わせん」

大成功 🔵​🔵​🔵​

水衛・巽
これから8月になろうと言う頃合いなのに
ここはもう秋なんですね
まあ丁度良く涼めて良い事ではあるんですが
なんとも季節感が狂うと言うか、
雨と湿気のあちらに戻りたくなくなると言うか

花より団子ならぬ月より団子という事なのか
それとも素直に月見団子という事なのか
…あんな事を言ったは良いものの
ひとりで月見酒と洒落込めるほど風流を解するわけではないので
ありがたく月見団子でも頂戴しましょう

それにしても
幽世は季節まで様変わりするとは思いませんでした
ああいや、こちらの住人から見れば
別の世界のほうが本来の季節から様変わりしているのでしょうね



「こうも涼やかだと、雨と湿気のあちらに戻りたくなくなってしまいますね」
 適当な茣蓙を選んで腰を下ろした水衛・巽(鬼祓・f01428)は、手元でそよぐ芒の穂に指先を触れながら微笑んだ。
 外はこれから8月になろうと言う、暑さも厳しさを増す頃合いだと言うのによもや風情のある光景である。
「なんとも季節感が狂うと言うか、面白いとでも言うか……」
 この降ってわいた季節外れの月見という状況と戯れつつも、巽はどこまでも素面である。ひとりで月見酒と洒落込めるほど風流を解するわけではないというのが本人の弁であった。
「花より団子ならぬ月より団子という事なのか、それとも素直に月見団子という事なのか――いずれにしても、折角頂戴したのですから堪能するとしましょうか。月も、団子も、そしてこの幽世も」
 まるで言葉遊びのように調子をつけて謡い、有難くひと仕事を終えた後の空腹を満たさせてもらうことにする。
 団子は妖怪のお手製らしく昔ながらの素朴な味わいで、なんとなく懐かしい感じがした。
「まさか、幽世は季節まで様変わりするとは思いませんでした。――ああいや、こちらの住人から見れば、別の世界のほうが本来の季節から様変わりしているのでしょうね」
 言うなれば、表と裏が簡単に入れ替わる絡繰戸のような関係だろうか。見方を変えればその意味がまるでひっくり返ってしまう、対照的なる世界。
 巽はくすくすと笑みをこぼし、頬杖をついて丸く大きな月を見上げる。それにしても美しい。芒の穂が擦れ合う音色、虫の鳴き声、川面のせせらぎ。永遠の秋を閉じ込めたかのような光景のひとつとなった巽は、気の済むまで月夜を楽しんだのである。

大成功 🔵​🔵​🔵​

佐那・千之助
クロト(f00472)、あれがほしい?
月を眺めて、ゆるり問う。
綺麗なものを希むその手は、何処か放っておけないようで

彼が欲するものなら、とってきたくなるが…。
月見を楽しむひと達を眺めて、
皆を困らせるわけにはいかないかと笑う。

腰を浮かせそうな彼を、視線で引きとめ。
私も、こうしているだけで…。
月を共に眺めていられれば、他には何も。声すらなくとも構わない…

河辺で餅をつくニクカリさん達。
一人ではできないその共同作業は、あるべき感情が戻ったから成せること。
彼はひかりを求めたように見えたけれど、
ニクカリさん達にとっては彼こそひかりだったことだろう。

私にとっても、また…。
…ああ。呑んでもないのに、酔うてしまう


クロト・ラトキエ
千之助(f00454)を誘い。
茣蓙、有難く。

何処の世界も月は月…
なのにUDCアースもダークセイヴァーも此処も、違って見える。
本当に別物かもですが。

月を見上げ。
つい、手を伸ばす。
――当然、触れられやしないのに。

掛かる声に「あっ」と気付き。
すみません。折角ご一緒願っておいて…と千之助に詫びて。
欲しいわけでは…
ただ、癖で。と、
つられる様に、仄か笑う。
何か口にする物、貰って来ましょうか?と。
僕は…こうしているだけで、十分ですので。

ひかりに、焦がれて来たのかもしれない。
…今一番のひかりは、隣に在るのに。
手を伸ばしたら…怒られる、かな?

かの鬼と、縁だ何だと話やしましたが…
僕も他所の事は言えないなぁ、なんて



 茫洋とした月夜に連れ立つ、黒と火橙の人影――クロト・ラトキエ(TTX・f00472)は佐那・千之助(火輪・f00454)を茣蓙まで手招き、「お付き合い頂けて嬉しいです」とはにかむように微笑んだ。
 空には月。
 何処の世界でもそれは変わらぬはずなのに、クロトの目には違って見える。あるいは、とある考えが脳裏を過ぎった。
 ――本当に別物かもしれない。
 それからの行動はまるで無意識だった。
 月を見上げ。
 当然、触れられやしないとわかっていながら、つい手を伸ばす。
「クロト、あれがほしい?」
 綺麗なものを希むようなその所作があまりにも無垢に見え、何処か放っておけない気分になった千之助はそう尋ねたものである。
「あっ」
 己の仕草にまるでいま気づいたかのように、クロトは少し慌てた様子で前髪を弄った。
「すみません。折角ご一緒願っておいて……」
「いや、クロトが欲するものなら私もとってきたくなるが――」
 千之助はちら、と月見を楽しむひと達を眺めながら、悪戯めいた微笑を唇に浮かべてみせる。
「皆を困らせるわけにはいかないか。あれがなければ、月見が成り立たん」
 まるで、そうでなければ本気でとりにいくぞ、とばかりに得意げな笑顔であった。クロトは恐縮しきりで首を振る。
「あの、欲しいわけでは……ただ、癖で」
「癖?」
「はい」
 こくりと頷くクロトを可愛く思ったのか、淡く笑う相手にクロトもまた表情を緩めた。
「何か口にする物、貰って来ましょうか?」
 だが、無言の視線に引き止められて小さく息を呑む。
 二藍の双眸が、幽夜に美しく映えて。
「…………」
 目で促されるまま、クロトはゆっくりと腰を下ろして彼の隣に座り直した。
 こうして、ただふたりで共に月を眺めていられるだけで――他にはなにも要らない。声すらなくとも構わない……。
 河辺ではニクカリたちが一生懸命に餅をついている。その共同作業がうまくいっていることこそが、猟兵たちの活躍によって失われた概念を取り戻せた証明に他ならない。
 ふと、千之助が唇を開いた。
「彼はひかりを求めたように見えたけれど、ニクカリさん達にとっては彼こそひかりだったのではないか、と――」
「ひかり、ですか」
 もしも、ひかりに焦がれることが生きとし生けるものの性なのだとしたら。今一番のひかりは隣に在って。
「――」
 はっと、互いの視線が間近で合った。
 いつの間にか、クロトの伸ばした指先が千之助の袖を掴んでいる。千之助は鷹揚に微笑み、尋ねた。
「それも、癖?」
「……怒りますか」
 千之助はゆるゆると首を振り、クロトのしたいがままに任せる。さっきから彼が月ではなく自分ばかりを見ているので、クロトは恥じらうように身じろいだ。
「あの、月はあちらですが……」
「だが、ひかりは此処に在る」
 呑んでもいないのに、その尊さにうっかりと酔うほどに。ふたりはそのまま暫しの間を共に過ごした。
「……他所の事は言えないなぁ」
 かの鬼と、縁だ何だと話しておきながらの有り様にぼやいてしまう。素面のはずなのに、なぜだか頬が熱かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

物部・出雲
おお。気が利くな
――月か。
月は、あまり得意でないのだが
月とは狂気の象徴と言われる。魅入られた人間や妖怪が狂うのをよく見てきたのだ。人狼なんかが、一番わかりやすい例であろう?
それに、かつて、この俺と死闘を繰り広げた邪神とやらも、月にゆかりのあるものだったか――。
いや、しかし。これが無いとまた太陽(おれ)の休む時間が無いのもまた、事実よな

なれば月見酒といこう
なあに、静かで涼しい夜もまた悪くはあるまい
――うむ、酒はうまい。団子もよい味だ
ニクカリども、お前らも食せばよいものを
宴ぞ。此度は勝利の宴で在る故な。静かに、楽しもうではないか
まこと、よい月よ
――理想の果てに浮かぶ望月の、尚も輝かしいことか!



「おお。気が利くな」
 渾身の出来栄えである団子と酒を差し出すニクカリたちに、物部・出雲(マガツモノ・f27940)も満面の笑顔で応え――そして何故か、ひとりになった途端に表情を曇らせた。
「――月か。狂気の象徴とも言われる、陰の星」
 あれに魅入られた人間や妖怪が狂うのを出雲はよく見てきたものだ。
 例えば、人狼。
 月夜に狂いし彼らの慟哭にも似た咆哮が、いまにもどこからか聞こえて来るようで。
(「……それに、あの邪神とやらも月にゆかりのあるものだったか」)
 出雲は追憶に耽るように目を細め、あまりにも巨大なる満月に流し目をやった。あの死闘。いまでも鮮やかに、全てを思い出せるほどの。
「おっと、いかん。せっかくの月見酒だ、楽しまねば損だからな。――それに、これが無いといとまた太陽の休む時間が無いのもまた、事実よな」
 太陽――出雲はさっそく手酌し、健啖家の一面を余すところなく発揮した。次々と団子を腹に収め、盃を空にする。
「――うむ、酒はうまい。団子もよい味だ」
 そして物陰から様子を窺がっているニクカリたちを呼び、
「お前らも食せばよいものを。宴ぞ。此度は勝利の宴で在る故な。静かに、楽しもうではないか」
 すると、ニクカリたちの間でざわめきが巻き起こった。
「いいんですか!?」
「無論よ」
 にかっと笑えば、歓声と共に駆け付けるニクカリ一行。彼らは喜んで出雲を取り囲み、先を争うように酌をしては団子のお代わりを山のように積み上げた。
「はっは! まこと、よい月よ」
 一気に空けた盃を高々と掲げ、出雲は勝利の美酒に酔う。
「――理想の果てに浮かぶ望月の、尚も輝かしいことか!」
 陰なる月の輝きさえも、出雲が浴びればまるで陽の日差しの如くにきらめいて見えるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

呉羽・伊織
【奇縁】
ああ―心を持てて本当良かったと思える眺めと気分
…よし無礼な奴は無視して楽しい宴に耽ろう!(清史郎挟む形で狐避け)

月も然る事乍ら、団子も魅力的に輝いて―目にも耳にも楽しい風情に、好物まで味わえるとは贅沢だな!

…後は水差す狐さえいなけりゃ!
両手に野郎で御免な清史郎…
誰がンな真似するか!
ところで清史郎酔ってる?目ェ霞んでない?不仲だからネ!
(言いつつも酌み交わしほろり)
くっ、清史郎がいてくれて色々と本当良かった
此方こそむさくて悪いケド、ウン、満足げで幸い!
狐は団子で口塞いでろ
嗚呼…黙ってりゃまだマシなのにな!

と実際静まれば―本当、悪かない
何だかんだと佳景を肴に
夜と共に深まる興を楽しみ明かそう


筧・清史郎
【奇縁】

季節を飛び越えたかの様な、見事な月の宵だな
お待ちかねのひとときを、存分に皆で仲良く楽しもう

おお、団子と酒もあるのか
それはとても嬉しい(とんでもない甘党で健啖家

ふふ、やはりふたりは仲が良いな
伊織と清宵のやり取りには微笑まし気に
まぁ一杯どうだ、伊織
友へお酌をしつつにこにこ笑みを
相変わらず麗しい華ではなく相手が俺で申し訳ないが、団子もとても美味だぞ(ご満悦
清宵ももう一杯どうだ?ふふ、確かに酒も進む
清宵に彼岸花咲く月夜はよく似合うな

空を見上げれば煌々と、水面に視線落とせば静かに揺らめく月
そんなふたつの月を愛で、さわりと聞こえる夜の音に皆と耳を傾けながら
杯に揺れる水面にも月を映して、飲み干そうか


佳月・清宵
【奇縁】
天も地も至れり尽くせりとは乙な事だ
さて、後は愉しく無礼講だな?

月に草花、水鏡
序でに顔触れも揃い踏み
肴にゃ事欠かねぇな
ああ、清史郎は見事な健啖も披露してくれる男だったか
そりゃまた楽しみだ

然し隣の奴は餅以上の膨れ面だな?
いっそ自ら花代わりに一差舞う様な余興と愛嬌でもみせろよ
(代わって暫し酒傾け、横の様子を眺めて笑い)
ころっとその態度とは本当に面白い程チョロい奴だな
全く、一興も一興――良い肴が拝めて最高だ
ああ、お陰で今宵は一等酒が進みに進む
アンタも何かと見事に映えるな
流石色男ってとこか
黙ってりゃ云々とてめぇが言うか(伊織を笑い飛ばし)

風情に浸る不意の間もまた愉しくてならぬ
諧謔も静寂も実に佳い



 ……まるで、御伽話の絵巻に迷い込んだかの如き幽世の月夜に酌み交わす酒の美味きこと。戯れめいた話声が尽きることなく聞こえて来るのは、男三人並んで座した方向からだった。
「ああ――心を持てて本当良かったと思える眺めだな! しかもこの団子美味過ぎない? 妖怪の手作りって凄くない? オレ、何個でもいけそうなんだけど」
「ああ、俺もこのもてなしはとても嬉しい。……うん、確かに美味いな。それに眺めも格別だ」
 呉羽・伊織(翳・f03578)は筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)の同意を得て破顔一笑した。
「だよな! ……後は水差す狐さえいなけりゃ!」
 悔しそうに、清史郎を挟んだ向こう側に座る佳月・清宵(霞・f14015)を見やって言った。
「両手に野郎で御免な清史郎……」
「なら、いっそ自ら花代わりに一差舞う様な余興と愛嬌でもみせろよ」
 清宵は清史郎の酌を受けながら、相変わらず伊織をからかってやまない。
「誰がンな真似するか!」
「おう、餅以上の膨れ面が見事だな」
 などと余裕で笑うので、伊織は頭に来て山盛りの団子を彼に向かって突き出した。
「狐は団子で口塞いでろ。嗚呼……黙ってりゃまだマシなのにな!」
 ぷいっと横を向いて拗ねるのが可愛くて、清史郎はくすくすと肩を竦めて忍び笑う。
「ふふ、やはりふたりは仲が良いな」
「……ところで清史郎酔ってる? 目ェ霞んでない? 不仲だからネ!」
「そうなのか?」
 清史郎は小首を傾げ、伊織の盃にも酒を満たした。
 仲良く酒を酌み交わしつつ、微笑ましげに感想を告げる。
「とても楽しそうに見えるぞ? それに、団子も美味いしな。俺は皆で来られてとても嬉しい。相変わらず、麗しい華ではなく相手が俺で申し訳ないが」
 すまないな、と場を癒してくれる清史郎に伊織はほろっと来て、彼の存在に感謝の念さえ抱いたのだった。
「此方こそむさくて悪いケド、ウン、満足げで幸い!」
 あまりの変わり身の早さに清宵は小さく吹き出し、小刻みに肩を揺らした。
「本当に面白い程チョロい奴だな。全く、一興も一興――良い肴が拝めて最高だ」
 月に草花、水鏡。
 川面の月は朧に揺らめき、芒の音色が虫の鳴き声に重なって風雅なる旋律を紡ぎあげる。
「天も地も至れり尽くせりとは乙な事だ。折角の無礼講、楽しまなきゃ損ってもんだろう?」
 お陰で、今宵は一等酒が進みに進む。
 清宵が黙々と盃を空ける隣で、清史郎も満腹を知らぬかのように団子を腹に収めてゆく。その健啖ぶりは気持ちがよいほどで、あっという間に空いた皿が積み重なった。
 その間、伊織は「おや」と眉を上げてふたりを見守っていた。実際静まってみれば――本当に、案外と悪くない。
 まるで、季節を飛び越えたかの様な。見事に輝く月宵の下で。
「清宵に彼岸花咲く月夜はよく似合うな」
 清史郎に衒いもなく褒められた清宵もまた、微笑と共に囁き返した。
「アンタも何かと見事に映えるな。流石色男ってとこか」
「ああ、清史郎は狐と違って雅だからな。立っても座っても喋ってもいい男だ」
「伊織、それをてめぇが言うか?」
 軽く笑い飛ばす清宵だが、その声色はどこか愉しげだ。諧謔も静寂も実に佳い。風情に浸る不意の間もまた、快いひと時だった。
 空を見上げれば煌々と輝き、視線を落とせば静かに揺らめく水面の月。どちらの月も愛おしい。何だかんだと佳景を肴に盛り上がるうち、夜と共に深まる興を皆で楽しみ明かす。
「存分に堪能させてもらったぞ」
 やがて清史郎は杯を掲げ、揺れる水面に月を掬い取って飲み干した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年07月24日


挿絵イラスト