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歪められたフェアリーテイル

#アリスラビリンス #猟書家

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#アリスラビリンス
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#猟書家


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●黒ずくめの訪問者
 ここはアリスラビリンスにおける不思議の国のひとつ。ねずみに似た愉快な仲間たちが小さいながらも住みよく整えられた街を作り上げた小さな国。
「皆様、ごきげんよう」
 ある日突然この国に現れたのは、見たところオウガでもアリスでもないようだった。被っていた黒いシルクハットを取っては、丁寧にお辞儀をして挨拶したタキシード姿の紳士の傍には、似たような黒ずくめの服を着た紳士淑女たちがこちらをにこやかに見つめていた。
 けれどこの国の住人である愉快な仲間たちは違和感を覚える。彼らはこちらを見つめ一様に笑顔を浮かべてはいるが、その瞳は全く笑っていないように思えたからだ。
「私どもは『猟書家(ビブリオマニア)』と申します。あなた方は物語はお好きですか? あなた方に似た生き物が活躍する話もたくさんございますね」
 意図を図りきれないままの愉快な仲間たちに、彼らは返答を求めているのではないのだろう。答えを待たずに笑顔で手にしていた本を開く。
「本の世界に憧れたことはありますか? 手に汗握る活劇を、心温まる感動を……そして救われぬものが抱く絶望と憎悪を……心行くまで堪能なさってください」
 その途端、愉快な仲間たちの視界が暗転し、気が付いたときには見たこともない場所にいた。自分たちの国ではない。しかもここに来たのはこの国の住人全てのようだった。
「ここは一体……」
「さっきの人たちは何だったの……?」
 口々に不安を口にする住人たちが見たのは、奇妙な光景。
「ねえ、見て!」
 空には太陽が浮かんではいたがどこか作り物めいている。そこに矢印と数字が描かれていたのだ。
「あっちに進めってことかな?」
「でも言うとおりにして大丈夫かな?」
 矢印の方に進む者と、逆を行く者。
 矢印を先に進むと、空の太陽の数字も増えていき、情景も移り変わっていくようだった。そして逆に進んだ者は、急にふらふらと力を失い、しまいにはぐったりと倒れだした。
「この先に進んだ方が良さそうだけど……一体何が待ち受けているのかな」
 不安そうに呟く愉快な仲間たちの前には、怪しげな森が広がっているのだった。

●グリモアベースにて
「みんな、集まってくれてありがとう」
 いつも依頼に当たってくれる猟兵たちにそう笑顔で礼を述べると、エリシャ・パルティエル(暁の星・f03249)は今回の予知について語り始める。
「あたしが今回予知したのは、アリスラビリンスでの事件……不思議の国の住人が本の中に囚われてしまうというものよ」
 ある日突然現れた「猟書家(ビブリオマニア)」と名乗る存在に、彼らが手にした本の世界へと放り込まれてしまうというのだ。
「猟書家と彼らが持つ本についてはまだよくわかっていないんだけど……とにかく本の中から住人たちを助け出してほしいの」
 本の世界では、空に浮かぶ太陽の矢印に進んでいかなければならない。逆方向に進めば急速に生命力を失い、やがて「本の世界の住人」となってしまい、二度と戻ることができないだろう。彼らと共に物語を進め、無事に帰還する結末を迎える必要がある。
「みんなシンデレラっておとぎ話は知ってるわよね? この本の世界はその物語に似ているんだけど……ちょっとずつ違うみたい。まずは舞踏会が開かれるお城に向かわなきゃいけないんだけど、助けてくれる魔女や妖精たちはいないから、みんなの力で住人たちを連れてまずは目の前に広がる迷いの森を越えていってね」
 本来の物語であればねずみは魔法によって馬に変身して馬車を引く。それを参考に乗り物を利用したり、猟兵の相棒である動物たちを使って、住人たちを安全に運ぶのもいい。ねずみにしては少し大きい彼らだが、猟兵一人でふたりほどは運んであげることもできるし、二足歩行もできる彼らに歩いてもらっても構わない。森は不思議な魔力でその出口を不確かにしているが、必ず出口は見つかるはずだ。
「これが物語なのだとしたら、正しい道があるはずだから。いろいろ試して出口を見つけてね」
 そうして無事目的の城に着いたのなら、オウガたちが待ち受けている。この世界において「戦闘番地」と書かれたページに辿り着くと戦闘が発生する。戦闘中もどんどんページが……物語が進んでいく。
「ひとつ気を付けてほしいのがね、オウガたちはこの世界の特性をよく理解していて、普通の攻撃の他にも外から来た存在を矢印以外の方向に投げ飛ばそうとしてくるの。これをされると生命力を奪われて本の住人にされかねないから……何か対抗手段を考えておくといいと思うわ」
 シンデレラの物語はいじめられていた心優しい少女が幸せを掴む物語。ただこの世界においては何かが違っている。その物語がどのようなものであれ、結末を見届け、この世界に放り込まれた不思議の国の住人をもとの世界へと戻さなければいけない。
「よくわからないことは多いけど……みんななら必ず素敵な結末に導いてくれると信じているわ。どうか気を付けて……よろしくお願いするわね」
 そう言ってエリシャは星型のグリモアを掲げると、物語の世界へと転送を開始するのだった。


湊ゆうき
 こんにちは。湊ゆうきです。
 本の世界に入れたらいいのに的妄想をしていた若かりし頃があります。

 第一章は冒険です。目の前に広がる迷いの森を抜けてください。移動手段を用意するのもよし、地道に歩いて迷いの森の障害を突破するもよし。行動例は参考までにご自由にどうぞ。こんな障害や罠があるのでこう突破するというのを書いていただいてもいいですし、住人たちをフォローしながら進んでもらってもいいです。空を飛んで行ってもいいですが、何かしら障害がありますのでそれを突破する術を書いておいてください。住人は一般的なねずみより大きくて(うさぎぐらいのサイズ)、二足歩行でき、会話もできます。抱えても運べます。
 第二章は集団戦、第三章はボス戦です。現れたオウガたちは本の特性をよく理解しているので、通常の攻撃の他に、外から来た者達を矢印以外の方向に投げ飛ばそうとします。これに対抗する手段もぜひ考えてみてください。
 住人たちは戦闘に参加せず、邪魔にならないように見守っています。

 一部のみ、途中からのご参加も大歓迎です。
 本の世界での冒険、存分に楽しんでください。
 皆様のご参加お待ちしております!
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第1章 冒険 『迷いの大森林』

POW   :    気合で突っ込む

SPD   :    機械技術等を駆使して突っ込む

WIZ   :    魔術等を駆使して突っ込む

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🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

リゼ・フランメ
迷い、迷いの歪められた森路ね
導き手や助ける人はいなくて、自らの力だけで進むしかない
それもまたいいのかしら
シンデレラのように、誰かに助けられる存在よりも
自分で救いを求め、理想を叶える
そんな存在になりたいのだから

「どちらかというと、私は人魚姫の方が好きなの。我が身を省みず、願いへと突き進むその姿が」
愚かに見えても、美しい

出口の気配を察知しながら
迫る罠を、宿した三つの魔力で払いましょう

迎撃に迫るモノは炎で焼き
足止めや茨の道は水で流し
同時に風を周囲に舞い散らせ、反射や反応を感じて出口を探して
魔力で惑わし不確かなら、私も魔力で察知をね

何度も何度も、一歩ずつ確かめて
絶対にあるという出口へと向かいましょう


春霞・遙
Bibliomania?本を集めずにはいられない神経症でしたっけ。そういう変わり者がこの世界には出没しているんですね。
確かに大図書館のように物語に溢れているこの世界は収集しがいがあるのでしょう。
ここは灰かぶりですか。グリム童話では魔女の代わりに母の墓に植えたハシバミの木が娘を助けたそうですけれど、さて私は善き魔女になれるでしょうか。

【カガリビノマジナイ】で邪魔をする魔力を祓って正しい道を探します。
茨の茂みが道を塞ぐなら木々を燃やすし、月が陰るなら白い石のように道を照らしましょう。
下草を払い、愉快な仲間たちが進みやすいよう道を先導し、安全そうであれば彼らの話も聞いてみたいものです。



●主なき物語
「ふむふむなるほど、ここが本の中の世界……というわけですか」
 現地に到着して辺りを見回すと、春霞・遙(子供のお医者さん・f09880)は興味深そうに観察を始めた。
 おとぎ話のような長閑さすら感じられる世界。地面もしっかりしているし、目の前には予知にあった森もある。けれど空を見上げれば作り物めいた太陽があって、そこに矢印と数字が書かれている実体を感じられない世界。
「物語はもう始まっているのね」
 ルビーの如く鮮やかな赤い髪と瞳を持つドラゴニアンの少女、リゼ・フランメ(断罪の焔蝶・f27058)が呟くと、辺りにいたねずみに似た愉快な仲間たちが、縋るような視線を向ける。
「あ、あの……猟兵の方ですか? いったい何がどうなったのか、見たことない人たちが現れて本を開いたと思ったらこの場所にいて……」
 ねずみのひとりがそう言ってここに至るまでの出来事を説明すると、遙はその言葉のひとつを繰り返す。
「Bibliomania? 本を集めずにはいられない神経症でしたっけ。そういう変わり者がこの世界には出没しているんですね」
 ビブリオマニア――蔵書狂や愛書狂とも言われるが、単なる読書愛好家というわけではない。UDC組織に所属し、普段は関連病院で医師として勤めている遙には、それが病的なものであることがわかるのだ。それは本好きなどという可愛いものではなく、本を収集せずにはいられない強迫観念すら抱く立派な神経症であるのだ。
「確かに大図書館のように物語に溢れているこの世界は収集しがいがあるのでしょう」
 いったい彼らが何者なのか、何が目的なのかは今のところわからないが、病的なまでに本を収集しているのなら、このように正統派おとぎ話のスピンオフ的な本を持っているのも理解できる。
「ここはシンデレラに似た物語だと言っていたわね」
 リゼは目の前に広がる迷いの森を見つめる。この先に舞踏会が開かれるお城があるというが、シンデレラを助けてくれる存在はここにはいない。
「導き手や助ける人はいなくて、自らの力だけで進むしかない……」
 しかしそこまで言って、わずかに口元に微笑を浮かべる。
「それもまたいいのかしら」
 シンデレラのように誰かに助けられる存在よりも、自分で救いを求め、理想を叶える――リゼはそんな存在になりたいのだから。
「ここは灰かぶりですか」
 シンデレラ、サンドリヨン、灰かぶり。UDCアース世界ではポピュラーすぎる童話だ。
「グリム童話では魔女の代わりに母の墓に植えたハシバミの木が娘を助けたそうですけれど……」
 魔女が魔法でみすぼらしい服をドレスに変え、かぼちゃを馬車に変えたというのが一般的だが、シンデレラの協力者は物語によって様々な形をとって現れる。
 物語の中でシンデレラを救ったというハシバミの木の枝に炎を灯し、遙は迷いの森を照らし出す。
「さて私は善き魔女になれるでしょうか」
 ハシバミは知恵の象徴であり、魔除けの力があると言われる植物。遙が得意とするこの悪霊祓いのまじないは、迷いの森の妖しい魔力を祓い、正しい道を探し当てることだろう。
「あまりたくさんで行動しても動きにくいでしょう。歩いて森を越えれそうな方は一緒に」
 のちほど合流するであろう、このあとやってくる猟兵に残りの愉快な仲間たちを託し、遙とリゼは森へと分け入る。

「この世界のもとになったシンデレラってどんな話なの?」
 年若いねずみの少女が興味深そうにリゼにそう問いかけた。この不思議の国では知られていないようだ。
「いじめられていた心の美しい少女が、苦難を乗り越え、助けを得て最後に幸せになる話……かしらね」
「幸せに……じゃあ、この先進んで行けばきっと幸せな結末がやってくるのよね」
 ほっと安心した様子の少女に、遙は少し肩をすくめて見せる。
「本家のストーリー通りならね。童話は幸せな結末ばかりとも限らないから」
「どちらかというと、私は人魚姫の方が好きなの。我が身を省みず、願いへと突き進むその姿が」
 例え声を失っても。その愛が伝わらなくても。それでも自身の想いを貫き通したその清廉な魂が。愚かに見えても、美しいとリゼは思うのだ。
「ここ、さっきも通った?」
 似たような風景に不安の声をあげるねずみの少年に、遙はハシバミの枝を掲げる。
 鬱蒼と茂る森の木々から伸びる枝が灯りを避けるように動くと、あの作り物めいた空が見える。太陽のそばに書かれている数字はいくつか進んでいた。
「同じように見えてもきちんとページは進んでいるようですよ。矢印の方向に進めば物語は自ずと進むでしょう」
 安心させるように言ったところで、一行を前へと進ませまいとするかのように、目の前に突然現れた茨の茂みが行く手を阻む。
「簡単には進ませてはくれないようね。物語に試練はつきものだから」
 リゼはそう言うと、炎と水と風の魔力を自身の中で高め、覇気の如く身に纏うとその力を強化する。
「道を塞ぐなら燃やすまでです」
 遙がハシバミの枝に宿した炎で茨の茂みを焼き払うと、燃え尽き道を塞ぐ残骸をリゼが水を操り流していく。
「すごい!」
 ねずみたちが称賛の声を上げる中、リゼは風を操り、周囲に舞い散らせながら、その反射から出口を探る。魔力が強くなっている方こそが出口に近いのだろう。
 先へと進み、ハシバミの枝を掲げて空のページを確認すれば数字は増えていた。
「少し時間はかかるけれど確実に一歩ずつ確かめて進みましょう」
「矢印の逆に進むことは危険だけれど、逆に言えば矢印の方へ、ページが進む方へ進んで行けば必ず出口に辿り着ける」
 そう確信を得た二人は、小さなねずみたちが歩きやすいように下草を払いながら、障害物を焼き払い、時に水で流し、魔力を感じながら確実に出口へと進んでいくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

中村・裕美(サポート)
副人格・シルヴァーナ
『さてと、お仕事頑張りませんとね』
多重人格者の殺人鬼× 竜騎士
外見 赤の瞳 白の髪
特徴 長髪 のんびり 社交的 惨殺ナイフを愛用 実は胸が大きい
口調 (わたくし、~さん、ですわ、ますの、ですわね、ですの?)

裕美のもう一つの人格で社交性と近接戦闘特化。柔らかな物腰や【優雅なるご令嬢】で対人系は得意な方。【情報収集】も得意です。
探索系であれば、ドラゴンランスを竜形態に変えて偵察に出したりなども可能。
裕美のハッキング能力等が必要な場合は【オルタナティブ・ダブル】で呼び出します

あと、虫が苦手


レーシィ・ルミルーン(サポート)
活発な口調が多いです。あまり悩むタイプでもないので質問もどんどんしますし思ったことは口にします
よく笑います。苦しい時も笑みは崩さず疲れてきちゃったかも、等半笑いで言ってしまうくらいに明るい性格です

良くないことは良くないと思うなぁ、等きちんと否定し行動に移します。
激怒することは少なく怒っても、もぉー怒っちゃったから、やったなぁー、等ソフトに怒ります

よく独り言の様に世間と話したりします。戦場でしゃがみこみ作戦会議なんかを行ったりもします
世間の最も多い発言は紳士風な話し方の闇医者ですが、その他どんな話し方をする世間がいても構いません
世間になるには豊富な知識とアクセス権限が必要なため尊敬し慕っています



●魔女はいなくても
「あらあら、ここはもう物語の中、というわけなのですわね」
 のんびりとした口調でそう告げたのは、中村・裕美(捻じくれクラッカー・f01705)のもう一つの人格のお嬢様然としたシルヴァーナ。柔らかな物腰でおっとりとしていて……ネガティブ思考をこじらせてしまった裕美とは対照的だ。
 空には作り物めいた太陽。横に書かれている数字はおそらくページ数なのだろう。目に映る景色から素早く情報収集していると、一緒に転送されてきた猟兵仲間もこの世界に驚きの声を上げていた。
「わーあ、物語の世界! え、シンデレラって言うの? へーえ、そんな話なんだ。世間様はなんでも知ってるんだね!」
 独り言のように呟かれた言葉。けれど、金色の髪をした愛らしい少女――レーシィ・ルミルーン(歩く診療所・f24573)はフラスコチャイルドのソーシャルディーヴァ。体内に埋め込まれたネットワークサーバーでネットと繋がることができる。フラスコチャイルドのレーシィはネットに育てられたようなもの。レーシィは世間様と呼んでは、その豊富な知識に助けられることも多く、尊敬しているのだ。
「さあ、では物語を進めましょうか……あなたたちもご一緒に?」
 ねずみのような姿をしたこの世界に飛ばされた愉快な仲間たちを見て、シルヴァーナが優しく微笑む。ねずみたちはシルヴァーナの柔らかな物腰に安心したような表情を浮かべるが、言いにくそうに口を開く。
「はい、お供したいのですが、足腰の悪い仲間もいるんです……大変申し訳ないのですが、その者たちを運んでいただくことはできますか?」
「ええ、構いませんわ。わたくしでも十分運べるサイズ感ですから」
「あ、でもでも、世間様が言うには、シンデレラはかぼちゃの馬車でお城に向かったって。何か乗り物を用意できないかな?」
 レーシィの提案に、シルヴァーナは優雅なしぐさで頬に手を当て考え込む。
「それはとても良い考えですが、あいにくここにはそのようなものは見当たりませんわね……」
「馬車っぽいのなら、作ることができるよ」
 じゃーん、とゲームデバイス【ECP】を取り出すレーシィ。電子の海と異世界をも繋ぐデバイスは、電子の海に存在する物体を異世界に具現化させることができる。
「でも、馬車をひく動物がいないかな……ねずみさんを馬にすることもできないし」
「あら、小型の竜でよろしければお手伝いできますわよ」
 そう言うと、シルヴァーナの持つ黒い槍が見る間に体長30cm程の黒い竜に変身する。
「うん、そのぐらいの馬車を作ればいいんだね」
 かぼちゃを象った小さな車両がこの不思議な本の世界に具現化する。電子の海にもかぼちゃの馬車は存在したようだ。小ぶりではあるが、ねずみの住人たちを何名か乗せて運べるものではあった。
「ありがとうございます! 足腰が悪い者が乗れれば、他の仲間は歩いても構いませんので」
 普段は偵察などの任務もこなす黒竜が、かぼちゃの車体を引くことに抵抗があったのかどうかはわからないが。普段から裕美やシルヴァーナの助けとなってくれる優秀な相棒は足腰の弱いねずみたちの足となってくれた。
「あら、ページ数が進んだようね。この矢印を進んで行けば話が進んでいきそうね」
「お城に舞踏会……どんな物語が待ち受けているのかな……え、世間様、それはネタバレになっちゃう!」
 この先の物語に何が待ち受けているか、今はまだわからないけれど。
 シルヴァーナとレーシィも他のねずみたちを胸に抱いて歩きながら、黒竜のひくかぼちゃの馬車は迷いの森を進んでいくのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

彩瑠・翼
んん、住人のみんなが困ってるの、放ってはおけないよね!
オレもできること頑張ってみるよ!

一緒に来た猟兵仲間さんが迷いの森の出口まで行けてるなら、
住民のみんなを【白馬の王子様】のテレポートで運んでみようかなって思うよ

テレポートができない場合は
普通のお馬さんとしてみんなを乗せて運びたい
その場合は、オレ、お馬さんの手綱引いて先導するね

でも、本の中だし、いつもよりも干渉あるかな?
ちょっと怖いけど、罠はオレが自らかかりにいったら危ない?
いや、でもこーゆーのは誰か行かないと乗り切れないこともあるし!(盛大な勘違い)
よっし、ここは知り合いのお兄さんの修行だと思って!
[気合い、覚悟、元気、勇気]で、いっくよー!



●白馬に乗った王子様
 シンデレラ――それはUDCアースの日本で育った彩瑠・翼(希望の翼・f22017)にとっては馴染みのある物語。けれどこの世界においてはそのストーリーはどこか違うようだ。辺りを見回しても、助けてくれる魔女は見当たらない。
 不安そうに辺りを見回すねずみの姿をした愉快な仲間たちの様子を見ては翼は心の中で強く決意する。
(「んん、住人のみんなが困ってるの、放ってはおけないよね!」)
 知らない世界に突如飛ばされた不安はどれほどのものだろう。つい先日も翼はアリスラビリンスの中の不思議の国のひとつでお茶会に参加した。あんな風に楽しい時間を取り戻してあげたい。そのためには自分にできることをすると決めたのだ。
「えっと、ここにいるみんなで全員かな?」
 残っている住人は五名ほど。他のねずみたちは別の猟兵に導かれて既に迷いの森の中に入っている。
「はい、歩ける者は先に行って、足腰の弱い者は乗り物に乗せてもらいました。僕らはどちらでも大丈夫です!」
 全員が置いていかれることなく先に進めるようにと責任感が強そうなねずみの青年が翼にそう告げる。
「うん、わかったよ。できればみんなを危険な目に遭わせることなく運んであげられたらって思うんだけど……」
 翼の作戦はこうだ。先に森を進んでいる他の猟兵仲間が森の出口に既に到達しているのなら、ユーベルコード【白馬の王子様】を使ってテレポートしてしまうのだ。そうすれば住人たちを疲れさせず危険な目にも遭わせず移動させてあげられる。
「よし、やってみるよ!」
 気合を入れ、光輝く白馬を召喚し、ねずみたちと共に白馬の背に跨るとテレポートを開始――しようとしたのだが、どうにもうまくいかなかった。まだ仲間たちが迷いの森を抜けておらず、その不思議な魔力に邪魔をされているせいかもしれない。
「そう上手くはいかないか……でもでも、みんなのことは俺が必ず無事に送り届けるからね!」
 そう言うと翼は馬から降り、その手綱を引いて歩き出す。ねずみたちは馬の背やたてがみにしっかりと掴まって運ばれている。歩幅が小さなねずみたちは同じ距離を歩くにしても人間よりも疲れてしまうことだろう。翼もまだ成長期途中で背も低い方だが、それでもねずみたちより大きい。家族や大切な人たちを守りたいと願う翼らしい優しい気遣いだった。
「迷いの森、かあ……こういうのって罠とかあったりするんだよね」
 物語である以上、何もないとは思えない。もし住人たちが先に罠にかかってしまったら――ならば、翼自ら罠にかかりにいくというのはどうだろう。怖いし、危険かもしれないが……。
「いや、でもこーゆーのは誰か行かないと乗り切れないこともあるし!」
 物語に山場があるように、何かが起こらなければ話は進まないのかもしれない。きっとそうなのだ。盛大な勘違いでもありそうだが、思い込んだら真っ直ぐな翼は使命感を持って前に進み出る。
 強くなるには修行が必要なのだ。知り合いのお兄さんがやたらと修行や合宿を一緒にやりたがってくるので、それは正直あまり遠慮したいことではあったのだけれど、ここにきてその必要性が少しだけわかった気がした。
 ならばと覚悟を決めて勇気を出して。馬を待たせて怪しげな茂みを覗き込んだ。
『ウエエエエエイ!』
 がしゃんがしゃんと大きなハサミをふりかざし、ダイヤモンドの如き透明な輝きを放つあの姿は――。
「えっ、か、カニ!?」
 つい先日も見かけた――というか戦った気がするそのカニが、翼をひたりと睨んでいる。
「いやいや、ここはアリスラビリンスだし、本の中だし。あのカニがいるわけないって!」
「翼さん、どうかしたんですか?」
「あのカニ強いからみんな気を付けて!」
「……カニ? 僕には何も見えませんが……」
 そこではっと気づく。これは幻影か何かなのではないか。翼の深層心理にあるものが具現化して見えるだけで……。
「だったら負けるはずない!」
 元気いっぱいに声を出してアリスランスを構える。
「ウエエエエエイ!」
 なぜか思わずカニと同じ声を上げた翼の一撃に、幻影のカニは霧散した。
「……ふう、いつになったらカニとの縁が切れるのかな……」
 遠い目をした翼だが、ねずみの青年の声に我に返る。
「翼さん、今度はあっちから何かが……」
 森の地面を這うように茨がつるを伸ばしてこちらに迫ってくる。棘のあるつるに捉えられればただでは済まないだろう。
「え、あれはさすがにちょっと……よし、今度こそ!」
 ねずみの住人たちが全員いるのを確認し、翼は再び馬に跨ると駈足で走らせる。
(「みんなを安全な場所まで……!」)
 願いを受け取ったかのように、白馬は皆を乗せたまま空を駆けるが如くテレポートした。
 一瞬の浮遊感ののち、目の前には猟兵の仲間と先行したねずみの住人達。空の太陽の数字はずいぶん増えていた。
「良かった……」
「ありがとうございます。翼さん!」
 ぐったりと疲労感を感じながらも、ねずみたちの感謝の言葉をこそばゆく感じるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

小雉子・吉備
シンデレラ……桃太郎とはまた違う方向性の、それ以前にジャンルも違うけど

こんな話もあるんだね、所々にある悪意を感じる人(義理の家族とか)の部分は兎も角、お話に感じる好意は悪くないかな?

とシンデレラの事を【情報収集】しながら思いつつ

〖POW〗
取り敢えずキビが取れる手は
狛犬の〖なまり〗と猿の〖ひいろ〗に【動物使い】で、この子達の【第六感】頼って根気よく

途中で住人に遭遇したら、事前に用意してきた吉備団子を差し上げ【情報収集】もしつつ、キビ達に出来る範囲で住人達のフォローをしつつ前進

障害物は〖なまり〗に〖虹色狛犬「虹色息吹きのレインボースパーク」〗で指示して排除かな?

〖アドリブ絡み掛け合い大歓迎〗



●追憶の先に
「シンデレラ……桃太郎とはまた違う方向性の昔話なんだね……」
 本の中の世界にやってきた小雉子・吉備(名も無き雉鶏精・f28322)は、ここに来るまでに収集した情報を整理しながら、この世界について考えていた。
 東方妖怪の吉備は、ある日記憶を失い幽世に流れ着いた名も無き雉鶏精だ。自分探しのために幽世を放浪しているところ骸魂に巻き込まれ、そこを猟兵に助けられた過去がある。幽世に隣接する現世から流れてきたあらゆるヒーローを扱った作品の追憶に触れたことがきっかけで、猟兵になった吉備にとってヒーローたちは憧れであり目標。そして吉備は正義の味方として日々邁進しているのだ。
 桃太郎は悪い鬼を退治する冒険活劇。シンデレラはいじめられていた少女がその心の美しさで幸せを掴む話。シンデレラをいじめる悪意のある存在など思うところはあるけれど、その話に感じられる好意は悪くないと吉備は思う。
「冒険の始まりだね。なまりちゃん、ひいろちゃん、よろしくね」
 青い利発そうな狛犬のなまりと、人体発火能力を持つ赤い猿のひいろに笑いかけると、頼もしい視線が返ってくる。
「迷いの森……か。ここはこの子たちの第六感に頼ってみようかな」
 不思議な森の魔力にも動物的な勘でいち早く気づいてくれることだろう。この世界に放り出されたねずみの愉快な仲間たちはもうすでに他の猟兵と森に入っているようだが、途中で出会えるかもしれない。
 空に浮かぶ作り物めいた太陽の矢印の方向へと吉備たちは歩き出した。

 小さいが利発ななまりは、先に猟兵が辿った足跡や小さな馬車の轍を見つけ、森の中を進んでいく。吉備も空に浮かぶ太陽とページ数を確認し、正しい方角に進んでいることを確信する。
「ひいろちゃん、どうかしたの?」
 順調に進んでいたところ、ひいろが何かに気づいてばっと駆けだした。何事かと吉備が覗きこめば、そこにはまだ年若そうなねずみの少年がうずくまっていた。
「どうしたの? みんなとはぐれたの?」
 吉備がしゃがみ込んで話しかけると、ねずみの少年は少し安堵した表情を浮かべ頷いた。
「歩いてみんなのあとをついていっていたんだけど、茂みに足を取られて転んじゃったら……みんなの姿が見えなくなってて」
 それもこの迷いの森の魔力のなせる業なのか。ともかく、ここで合流できてよかった。安心させるように微笑むと、吉備はこんなこともあろうかと準備してきた吉備団子を少年に差し出す。
「良かったら食べてね。キビの好物だよ。元気がでると思うから」
 その厚意をありがたく受け止めたねずみの少年は美味しそうに吉備団子を頬張った。
「とっても美味しい! なんだか懐かしい味がする……」
 お腹も膨れ、すっかり元気になった少年をひいろの背に預けると、吉備たちはまた先へ進んでいく。
 先を行く猟兵たちがこの森に仕掛けられた不思議な障害物を排除してくれたおかげでさほど大きな困難には出会わなかったけれど。
「これはなかなか邪魔だね」
 道を塞ぐのは倒れた木々。先を行く猟兵たちが後ろから迫る何かを封じるために使ったのかもしれない。
「なまりちゃん、目標を排除するよ……準備は良い?」
 吉備が問いかければ利発な狛犬はすぐさま意図を理解する。吉備がビームカードを手に指示を出せば、なまりはその口から虹色をしたビームブレスを放ち、目の前の障害物を排除する。
「うわあ、綺麗だね……!」
 ひいろの背に掴まりながら、ねずみの少年は七色の光線に感嘆の声を上げる。それは童話の世界に似つかわしい美しくもメルヘンチックな光景だった。
「みんな元の世界に帰りたいよね。物語の結末を見届けて、無事に脱出しよう」
 その後も様々な障害物を乗り越えると、やがて吉備たちは森の出口へと到達した。
「キビが救われたみたいに、先ずは手の届く範囲から」
 人々の物語への好意と善意が吉備に力を与えてくれるから。正義の味方として、彼らを助けるのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『意地悪な三姉妹』

POW   :    長女の飽くなき食欲
【あらゆる物を貪り尽くす暴飲暴食モード】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
SPD   :    次女の罵詈雑言の嵐
【悪意と侮蔑に満ちた心ない悪口】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    三女の羨みの手
自身が【羨望心】を感じると、レベル×1体の【相手の物を無理矢理奪おうとする無数の腕】が召喚される。相手の物を無理矢理奪おうとする無数の腕は羨望心を与えた対象を追跡し、攻撃する。
👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●欲望のなれの果て
 迷いの森を抜けると、そこにはいくつもの塔がそびえたつ白亜の城。
 舞踏会が開かれるというわりに、人の気配があまりせず、城門を守る兵士の姿も見えない。
 不思議に思いながらも矢印に導かれ城の中へと進んでいくと、空に浮かぶ数字もどんどん大きくなっていく。
 やがて辿り着いたのは舞踏会が開かれるはずの大きな広間。そこにいたのは、姦しい三姉妹だった。
「これもあれもそれも、全部食べたいわ。美味しいものを食べることこそが至福。ちょっと、それはあたくしのよ、横取りしないでくれるかしら?」
 赤いドレスを着た長女はたっぷりとその身についた脂肪を揺らしながら、ばくばくとテーブルの上のご馳走を次から次へと口に運んでいた。
「全く食べるしか能がないの? 卑しいったらないわ。こんなのと血がつながってると思いたくもないわ。……ちょっと、あなたたち、何を見てるの?」
 青いドレスの次女は、侮蔑に満ちた目で姉を見つめては遠慮の欠片もない罵詈雑言を口にする。そうして、唖然としてその様子を見ていた猟兵とねずみたちに気づくと、石ころでも見るかのように蔑んだ一瞥を寄越す。
「なあに、あなたたち? そろいもそろって、美しい顔に素晴らしいスタイル……身に着けているものもなんて素敵なものばかり……妬ましい……羨ましい……さあ、みんなまとめてこっちに寄越しなさい!」
 緑のドレスを纏った三女はその瞳に暗い羨望の色を宿すと、猟兵たちを睨みつける。欲しいものは何でも奪って手に入れる――その欲望のまま欲にまみれた手を伸ばしてきた。
 三姉妹がいるこの広間に入った時、「戦闘番地」と書かれた文字が現れた。どうやら彼女たちを倒して先に進まなければならないようだ。
 シンデレラに出てくる意地悪な姉は二人だったような気もするが、その性格の悪さは存分に原作を受け継いでいるようだ。
「あたくしたちはね、この美しさでお城への滞在を許されているのよ。好きなものを食べ放題。歌って踊って自由に暮らしているの。素敵でしょう?」
 舞踏会といっても、王子様もいなければ他の招待客もいない。ただ意地悪で心の醜い三姉妹が永遠に続く宴を浅ましく繰り返しているだけだ。
「あなたたちもここにいるといいわ……永遠にね」
 にんまりと意地の悪い笑みを浮かべる三姉妹は、この世界の性質をよくわかっている。外の世界から来た存在が矢印の逆に進むと、生命力を奪われ、やがては本の中の住人になってしまうのだと。
 ねずみたちが戦闘に巻き込まれないよう、安全な場所にいるように告げると、猟兵たちはこの物語に渦巻く悪意へと立ち向かった。
小雉子・吉備
何だろう、このシンデレラの物語の悪意の集合体みたいなの……少なくとも邪魔なのは解るけど

〖矢印対策〗
〖時の愚鈍「スロウフールハウル」〗の弾を【高速詠唱】で背後に展開しクッションに


〖POW〗
【先制攻撃】の【高速詠唱】で【オーラ防御】を込めた〖時の愚鈍「スロウフールハウル」〗の【弾幕】を【範囲攻撃】でばら蒔き

その【弾幕】で【盾受け】したり【第六感】で【見切り】回避しやり過ごしつつ

〖雉鶏精の羽針〗を【属性攻撃(重力)】を込め撃ち【動物使い】で〖なまり〗と〖ひいろ〗で撹乱

隙見てUCを【貫通攻撃】で

三姉妹がキビのUC発動前に互いに姉妹喧嘩で大ダメージを負った事実を捩じ込むよ。

〖アドリブ絡み掛け合い大歓迎〗


春霞・遙
少女にかまどの灰の中の豆を拾わせたいじわるなお姉さんたちは、欲望のために趾を落とし踵を落とし、最後には強欲なその目玉を鳩に抉り出されてしまったそうですよ。
ページをめくることを阻むのであれば、この物語を結末へ進めるためにその口を硝煙の香りの豆で塞いであげましょう。

折り紙の鳩たちをけしかけて彼女たちの顔を、手を、足を、散々つつかせて行動や連携を邪魔します。
投げられないよう距離を取って、こちらからは射撃で攻撃。
近づかれたら残しておいた鳩に瞳を狙って攻撃させます。
もし近距離で悪態を吐くために口を開いたなら、その口に銃口を突っ込みますよ。
悪いお豆はおなかの中へ ってね。



●悪意との対決
 お城の中で開かれていたのは舞踏会ではなくて。シンデレラも王子様もそこにはおらず、心の醜い三姉妹が欲望のまま過ごしているだけ。
「何だろう、このシンデレラの物語の悪意の集合体みたいなの……」
 シンデレラの話は情報収集済み。意地悪な継母と義姉たちがいるのはわかっているが、それにしても露骨なまでに悪意と欲望に満ちている。正義の味方である小雉子・吉備(名も無き雉鶏精・f28322)の心が向けられるのは人の善意。それは今の吉備の支えとなった作品たちに触れた証。
 人が生きている以上、負の感情が生まれるのはわかる。けれどそれが歪み大きくなると、誰かを傷つける刃になる。
「少女にかまどの灰の中の豆を拾わせたいじわるなお姉さんたちは、欲望のために趾を落とし踵を落とし、最後には強欲なその目玉を鳩に抉り出されてしまったそうですよ」
 それは子どもたちが聞かされるおとぎ話には記されていない、残酷な童話の顛末。
 春霞・遙(子供のお医者さん・f09880)は、この自らの心の醜さに気づいていない三姉妹にそう語りかけた。
「一般的に知られてる話より、原作は残酷なことがあるよね……昔話でも、かちかち山やさるかに合戦は悪に対する報復が凄惨だったりするし……」
 教訓をはらむおとぎ話は、悪というものに容赦がない。そのことを思い、吉備は悪意の塊である三姉妹に対峙する。
「まあ、誰がいじわるだっていうの? あたくしたちは心も外見も美しいというのに。さあ、ほらあなたたちもここにいて、あたくしたちのために働くといいわ!」
 赤いドレスの長女が手にした鶏の丸焼きにかぶりつき、あっという間に平らげると、あらゆる物を貪り尽くす暴飲暴食モードへと変貌する。その瞳にはもはや理性はなく、貪った食材の力で超攻撃力と超耐久力を得ては猟兵たちに殴りかかる。
「させないよ!」
 突っ込んでくる長女に向かい、吉備は高速詠唱し【時の愚鈍「スロウフールハウル」】の弾幕を展開する。オーラ防御の込められたそれは弾の周囲の時間のみを鈍重にする力がある。
「あなたたちはどんな結末を迎えたいですか? お望みならば鳩につつかせますよ?」
 攻撃力は高まっただろうが、動きを遅くし、阻害すれば恐れることはない。遙の手から八十を超える鳩が解き放たれる。それは不思議な力で強化された折り紙でできた鳩。遙が念じれば鳩たちは広間の中を自由に飛び回り、姉妹たちの顔や手足をつつきだす。
「ええい、邪魔ね! 鳥はみんな焼いて食べるわよ!」
「助けてくれる動物は鳩だけじゃないよ」
 うるさそうに鳩を払う三姉妹に向け、吉備は青い狛犬なまりと赤い猿ひいろを向かわせる。なまりは次女のスカートを引っ張り、ひいろは三女が猟兵の持ち物を掠めようとした手をひっぱたく。
「きいい! なによ、動物風情が! どうせ使役されるしか能のない生き物のくせに!」
 悪口雑言とともに、なまりが矢印とは逆の方へ投げ飛ばされる。しかしそれに対しては対処済みだ。吉備は時の愚鈍「スロウフールハウル」の弾を高速詠唱で吉備の背後に展開。投げ飛ばされたなまりを受け止めると、盾代わりにもなる魔法弾幕がクッションのように吉備の身体を受け止めた。
「なまりちゃんとひいろちゃんへの悪口は見過ごせないから!」
 動物は物語においてとても大切な役目を果たす。それを使役されるしか能がないだなんて。吉備だってなまりとひいろを力で従わせているわけではない。彼女たちにもきちんと意思があるのだから。
「そうやって蔑んでいた存在に目玉を抉り出されるのも、また物語というべきでしょうか……」
 因果応報――そんな言葉が遙の脳裏によぎる。
 折り紙の鳩たちを念力で操りながら、遙自身も拳銃で三姉妹を狙い撃つ。ドレスの足元を狙い、近寄って投げられないようにしっかりと距離を保つ。
 吉備もまた投げ飛ばされる前に攻撃へと転じる。頭の高い位置で結い上げた焦茶色の髪。霊力を帯びたその髪の毛の一部が雉鶏精の羽毛へと変わる。その羽毛が針に変われば重力を伴い悪口を言っていた次女へと突き刺さる。動きが鈍ったそのタイミングで、さらなる攻撃を叩き込む。
 この物語の世界に現れたワームホールから美しい虹色の雉鶏精の羽が放たれる。
「大きな痕の切欠を過去に捩じ込む、その鍵を汝に穿たんっ!」
 羽が突き刺されば、そこに改竄された過去が捩じ込まれる。三姉妹がお互いを罵りあう姉妹喧嘩で傷つけあい、大きな痛手を負ったという事実を傷口をえぐるように捩じ込む。
「うるさい、このデブ!」
「あんたの手癖の悪さにはほとほとあきれてるのよ!」
「ちょっと、そんな頭悪そうな悪口しか言えないの?」
 ぎゃあぎゃあと罵りあう姿は、あきれるほどみっともない。
「ちょっと待ってよ。あいつらが悪いのよ。全部全部あいつらが……!」
 矛先をこちらに向けてきた三姉妹に、遙はやれやれと首を振る。
「ページをめくることを阻むのであれば、この物語を結末へ進めるためにその口を硝煙の香りの豆で塞いであげましょう」
 近づいてくる三姉妹の瞳を鳩たちが狙い、攻撃する。
「なんて悪趣味なの! あたくしたちの美しい顔が傷つくでしょ!?」
 ひたすらに悪態を吐き続けるその姿は滑稽でもあるが――。
「口ががら空きですよ」
 普段は子どもたちに優しい医師でもある遙だが、目の前のオウガには――欲望にまみれた悪意には容赦なかった。
 無防備に開け放たれたその口へと遙はためらいなく銃口を突っ込んだ。
 銃声が鳴り響くと、罵詈雑言を口にしていた次女がどさりと倒れた。
「悪いお豆はおなかの中へ……ってね」
 もう二度と悪口を言えなくなった次女に向かい、遙は静かにそう告げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リゼ・フランメ
あら、童話の世界にとてもらしい醜と罪があるわね?
それでこそ、断罪たる私の剣の存在理由になるわ
斬りて裁き、焼いて清め、よりよき明日に
原罪を抱いて産まれた私達は、せめての贖いと断罪を繰り返すのだから

暴食、悪意に、嫉妬
それらが幸せな暖かさを傷付け、失わせないように

「私自身を正義とは言わない。けれど、断罪者として」
罪が重ねなれ、広がり、私の故郷のように焼いて灰とならぬように
「剣と炎で、踊らせて貰うわ」

矢印には従うと見せ、舞うようにダッシュで切り込み
単純な動きと見せながら、無差別攻撃で無差別攻撃が来れば
フェイントで動きに緩急をつけ、火のように揺らめく残像を見せ
攻撃を避けた所に、破魔を乗せた早業での一閃を


彩瑠・翼
うわぁ…
(姦しさと食欲に引き気味)

ね、ねぇ、おねーさん、
そんなに食べてばっかだと、王子様来てくれないよ?(恐る恐る
お、オレはごめんね、おねーさん達はちょっと…好みじゃないからっ(酷い

オレにも二人姉さん居るし、
ホントだったら、女性に暴力振るっちゃダメなんだけど、
今回はねずみさん達守るためだし、[覚悟]を決めるよ

攻撃されたら【アリスナイト・イマジネイション】の鎧で防御

食べられても平気でちょっぴりヘルシー、かつ丈夫なこんにゃくゼリーの鎧だよ!
おねーさん、ほら、これ食べてダイエット!

オレからの攻撃はアリスランスでの[ランスチャージ]で!
おねーさんが苦しまないように、急所を狙って一突きでを心がけてみるね



●物語の行方
 罵詈雑言を吐き出していた青いドレスの次女が弾丸に撃ち抜かれて倒れると、形勢不利を悟った長女と三女が慌てふためいて逃げ出すが、そうはさせまいと猟兵たちはオウガの前に立ちはだかる。
「あら、童話の世界にとてもらしい醜と罪があるわね?」
 ふわり、と蝶のように軽やかに、リゼ・フランメ(断罪の焔蝶・f27058)は純白の優美な長剣を構えては強欲な姉妹の前に立ちはだかる。
「それでこそ、断罪たる私の剣の存在理由になるわ」
 全ての命が罪を抱いたとしても、その咎が、人を傷つけ続けないよう。そうリゼは願っているのだ。灰と雪に埋もれた故郷の記憶を忘れることはない。悲劇を巻き起こす罪を、焼き尽くし終わらせなければならない――過去を繰り返さないために。
「きいい! 何よ、そんな紅玉みたいな美しい瞳でこっちを見て! その剣もなんて綺麗なの……欲しい、欲しいわ!!」
「ふん、何よ。美しさならあたくしたちも負けてはないわよ? 見てなさい。目に物言わせてやるわ……!」
 三女の羨望心と長女の食欲が刺激され、ますます姦しくなった様子に、彩瑠・翼(希望の翼・f22017)は正直ドン引きしていた。
(「うわぁ……」)
 声に出すと睨まれそうなので、そっと胸中で呟くに留める。
 翼にも姉が二人いる。だから女性という存在がどういうものか、どちらかというと知っているほうだと思う。姉二人は翼に優しいし、たまに翼に対して溺愛ぶりがすぎることもあるけれど……目の前の姉妹は、女性の嫌なところを集めた見本みたいに思えるのだ。
 見た目がどうというよりも、他人を見下し軽蔑するその心の持ちようが彼女たちを醜くしているのだろう。だが、怯んでばかりはいられない。翼は家族や大切な人達を守れる、カッコいい大人になることが目標なのだ。
「ね、ねぇ、おねーさん……」
 恐る恐る長女に声をかけると、ミートパイを貪っていた巨体が振り返る。
「そんなに食べてばっかだと、王子様来てくれないよ?」
 がつがつと口に運んではごくんと飲み込むと、長女は相手が可愛らしい少年だと知ると、うふふと色目を使って微笑んだ。
「そんな心配無用よ、坊や。こんなに美しいあたくしたちならいつだって王子様から声がかかるというものよ。それとも、坊やが王子様になってくれるのかしら?」
 先ほど白馬に乗ってこの城にやってきた翼は確かに王子様ではあったが、王子様にも拒否する権利があるというもの。
「お、オレはごめんね、おねーさん達はちょっと……好みじゃないからっ」
 身の危険を感じた翼はさっと距離をとる。翼の言葉にみるみる機嫌を悪くした長女は、食欲の赴くまま食べたご馳走を力に変え、食べ終えた皿を投げて攻撃してくる。
「なんて失礼な坊やなの! 礼儀からやり直してあげるわ!!」
 そこへリゼが颯爽と現れ、食欲の果てに理性をなくした長女へと剣を振るう。
「斬りて裁き、焼いて清め、よりよき明日に」
 原罪――人は生まれながらに罪を負っているという。きっと生きている限りそこから自由になることはなくて。けれどだからこそ、せめてもの贖いと断罪を繰り返す。そう、リゼは思うのだ。
 劫火の名を冠する長剣が、その罪咎を一閃する。
「その剣を寄こしなさい!」
 長女への攻撃に集中している隙を狙い、三女の羨みの手がリゼへと伸びる。無数に現れた手を舞うように回避すると、その手に捕らわれないようにフェイントを交えた動きで、まるで炎のように揺らめく残像を残して後ろに飛びすさる。
「暴食、悪意に、嫉妬……それらが幸せな暖かさを傷付け、失わせないように」
 破魔の力を込めた早業の一撃が閃いた。
「ぐうう、悔しい! せめてあなたをこの世界に閉じ込めて出れなくしてやるわ!」
 矢印の逆へと追い込もうとする次女の一撃を軽やかに舞うようにかわすと、リゼはもう一度罪を焼き尽くす劫火の剣を振るう。
 どう、と倒れた三女のドレスの下から、どこかからくすねた宝石やアクセサリーが転がり出る。羨望のままに伸ばした手が何かを掴むことは、もうなかった。
「ほら、おねーさんこっちだよ!」
 速く動くものを無差別に攻撃するという暴飲暴食モードになった長女の攻撃をこちらに引き寄せるため、翼は矢印の方向に気を付けながら広間をダッシュした。
(「ホントだったら、女性に暴力振るっちゃダメなんだけど……今回はねずみさん達を守るためだから」)
 姉二人の顔を思い出し、女性に優しくが小さいころから身についていた翼だが、今回ばかりは仕方ないと覚悟を決める。あんな欲望の塊のような存在をも女性扱いしてしまうあたり、やっぱり翼は王子様だった。
 覚悟を決めた翼は集中するとこの場に相応しい戦闘鎧を想像から創造する。
「おねーさん、ほら、これ食べてダイエット!」
 ぷるんとした弾力のある透明感のある鎧、それは――。
「食べられても平気でちょっぴりヘルシー、かつ丈夫なこんにゃくゼリーの鎧だよ!」
 あらゆるものを貪り尽くす暴飲暴食モードとなっている長女は、あっさりと翼の誘いに乗っては突っ込んでくる。巨体がどうと突っ込んでくるが、その弾力を活かして衝撃は吸収されダメージは少ない。けれど、小さな翼と欲望のまま食べ物を貪り続けた巨体では体重差が歴然としていて、翼は矢印の逆へと追いやられていく。
 だんだんと力が抜けていくのを感じた翼だが、やがて後退が止まる。リゼが床に槍を突き立て、これ以上後退しないように槍を支えに鎧の上から翼を支えていたのだ。上の姉と同じ年頃の、強くて美しい女性。
 翼は力を振り絞ると、アリスランスを横にして、その巨体を押し返す。
「ありがとうっ!」
「無事ならよかったわ。さあ、この物語に終止符を打たなくては」
 頷いたリゼは、純白の剣を手にこの悪意へと立ち向かう。
「私自身を正義とは言わない。けれど、断罪者として」
 物静かな中に、強い意志がこもった声。決して消えることのない苛烈なる炎はいつだって胸の内にあるのだから。
 罪が重ねなれ、広がり、自身の故郷のように焼いて灰とならぬように――。
「剣と炎で、踊らせて貰うわ」
「まだよ、まだ食べ足りないの……!」
 長女が手当たり次第に皿の上のものを口に運んでは、それを力に無差別攻撃に転じる。リゼは舞うような動きに緩急をつけ、その力を分散させ衝撃を最小限に押しとどめる。
 反撃の瞬間を見定めると、リゼは手にした剣に破魔の力を宿す。罪を焼き尽くす火焔を纏った刀身が長女へと迫ると、断罪の神霊力が籠められた一撃が、長女の巨大な肉体を傷つけることなく、罪と霊魂を切り裂いていく。
「さあ、今よ」
 かけられた声に翼は大きく頷くとアリスランスを構えた。大切な人たちを守るため。今はねずみの住人たちをもとの世界に戻すためにもこのオウガを倒さなくてはいけない。
「ここにとどまっていられないんだ。未来も希望も失わせはしないから!」
 真っすぐに槍が長女の心臓を貫いた。せめて苦しまないようにと、急所を狙った翼の一撃が彼女たちを支配していた悪意と欲望から解放する。
 宙に浮いたページを表す数字がいくつか進んでいることに気づき、翼はぽつりと呟いた。
「この物語はどんな結末を迎えるのかな……」
 シンデレラは果たして幸せになれるのだろうか。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『『七罪』嫉妬のシンデレラ』

POW   :    シンデレラ・ストーリー(シンデレラの物語)
【理想とする美しさと強さを備えたプリンセス】に変身し、武器「【全てを破壊し、全てを防ぐガラスの靴】」の威力増強と、【無敵の美しさと魔法の加護を得る魔法ドレス】によるレベル×5km/hの飛翔能力を得る。
SPD   :    戦略級空中機動要塞・パンプキンフォートレス
自身が操縦する【超重火力のカボチャ型空中機動要塞】の【45cmカノン砲、多連装ミサイルの威力】と【対物理・魔法装甲及び対電子プロテクト】を増強する。
WIZ   :    常時発動型UC『恵まれし者達への嫉妬』
【嫉妬の闇の魔力を纏った自身の肉体や武器】で受け止めたユーベルコードをコピーし、レベル秒後まで、嫉妬の闇の魔力を纏った自身の肉体や武器から何度でも発動できる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はフレミア・レイブラッドです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


※連絡事項※
第三章のプレイング受付は、導入文挿入後、7/23(木)8時半からを予定しています。
 
●救われなかったシンデレラ
 意地悪な三姉妹との戦闘を終えた猟兵たちが矢印の方向へと進むと、あたりの景色が一変した。まるで絵本のページをめくるかのように場面が転換する。
 猟兵たちが目にしたのは、城の入り口。長い階段が城へと繋がっている、シンデレラがガラスの靴を落としてしまうあの場所だ。
 階段の一番高いところに、一人の少女が佇みこちらを見下ろしていた。
 漆黒のドレスにティアラ。手には透明なクリスタルの杖。銀の髪に赤い瞳の美しい少女であるが、その顔に笑顔はない。
「……ここに辿り着いたのね」
 物憂げにそう口を開くと、彼女は――『七罪』嫉妬のシンデレラは、ゆっくりと階段を降り始める。
「シンデレラのストーリーは知っているわよね? けれどこの本の中では手助けしてくれる存在はいなかった……そうでしょう?」
 確かにここに至るまで本の世界の中に助けてくれるものはおろか、三姉妹を除けばそれ以外の登場人物もいなかった。
「努力すれば、善い行いを続けていれば報われるなんて嘘よ。わたしは努力したわ……でも、誰も助けてくれなかった。誰も……何も……! だからいらないものは全て消したの。この世界から」
 その瞳の奥に世界への不満を滲ませ、救われなかった自分とその世界への絶望を抱くシンデレラになれなかった少女。
「それなのに、あなたたちは。いともたやすく乗り越えてしまう。わたしとあなたたちと何が違うの? 恵まれた人たちはどうして努力もなしに幸せを手にいれるのよ!」
 恵まれない境遇でありながらも、それでもと前を向いて希望を抱いて努力してきた。けれど、世界は彼女にだけそっぽを向く。
「だったら、希望や夢なんていらない。世界への絶望と憎しみをわたしの力にするの」
 彼女の感じた苦しみや悲しみがいかほどだったのか。猟兵たちに知る術はないが、その魂が闇に染まってしまうほどに大きかったのだということは想像に難くない。
「あなたたちを帰さない。幸せになることなんて許さない。わたしと同じように思い通りにいかない世界を憎めばいいのよ!」
 苛烈な心情を吐露した嫉妬と絶望に囚われたシンデレラは、猟兵たちをこの世界に閉じ込めようと動き出した。
レーシィ・ルミルーン
そっかー、いっぱい辛い事あったんだねー。ちょっとかわいそかも
えっ!世間様泣いてるの?こんなにかわいい子がふびん?
何があったか聞きたいの?うん!じゃあ聞いてみるね!

世間様にカノン砲やミサイルを、召喚した荷電粒子砲で、シンデレラさんの攻撃を、電動ノコギリや大鋏で迎撃してもらいながら、今までどんな辛い事があったのか、どんな努力が報われなかったのか聞いてみます。
もしかするとレーシィも世間様も同情してしまうかも
その思いをUCに、誰よりも対話が強くなりたいと願います

善い事ができて、努力もして、真っ直ぐに純粋に生きてた頃があった。その頃を思い出して欲しい。もし少しでも尊かったって思えるなら、皆を見守っていて


モース・レフレクソン(サポート)
ボスは強力な攻撃が必要だ。アイアンフェザーを構えて、強力な牽制射撃をしつつ一気に近づく。そして近距離で装甲突破型アンチマテリアルライフルを撃つ…が、これも牽制射撃だ。
後ろか側面に回り込んでユーベルコード掌底発破(パームバーンを叩き込んでやる。
肉片にするつもりで行くぞ。



●もうひとつの物語
 目の前に現れた嫉妬と絶望に囚われたシンデレラは、聞いていたストーリーとは全然違うけれど。
「そっかー、いっぱい辛い事あったんだねー」
 自身もフラスコチャイルドとして作られた命であるレーシィ・ルミルーン(歩く診療所・f24573)ではあるが、彼女は嫉妬のシンデレラのようにこれほどまで強く誰かや世界を憎んだ記憶はなかった。
 ネットを介すればいつだってそばに誰かがいる。彼女を作った孤独な闇医者はレーシィの中にネットワークサーバーを埋め込み共にいるが、彼女の教育は接続している他者に任せていた。それでもレーシィは目の前にいる嫉妬のシンデレラをかわいそうだと思えるような、困っている存在を見過ごせない真っ直ぐな性格に育っていた。
「えっ! 世間様泣いてるの? こんなにかわいい子がふびん?」
 先ほどシンデレラのストーリーを教えてくれた『世間様』がどうやら嫉妬のシンデレラの境遇に心を痛めているらしい。
「何があったか聞きたいの? うん! じゃあ聞いてみるね!」
 彼女がどうやら辛い目に遭ってきたことはわかるが、その詳細まではわからない。まずは耳を傾けてみなければとレーシィも頷く。
「ねえ、シンデレラさん。辛いことがあったのはわかるし、かわいそうって思う……もし良かったらわたしたちに何があったか教えてくれないかな?」
 屈託のないレーシィの問いかけに、嫉妬のシンデレラは不愉快そうに顔をしかめる。
「……そうやって、不幸なわたしを笑いものにしたいの? それともかわいそうと慰めて聖女でも気取りたいのかしら」
 純真そうに見える愛らしい少女の言葉を嫉妬心に駆られたシンデレラが簡単に受け入れるはずはなかった。
「ち、違うよ! そんなつもり……えーと……」
 言い淀んでいる間に、嫉妬のシンデレラはユーベルコードで戦闘態勢に入る。嫉妬の炎に揺れていた瞳が、力強く凛とした輝きに変わる。高潔な雰囲気を漂わせた彼女は、物語に登場する強く美しいプリンセスそのもの。加護を受けた魔法のドレスは彼女に高速の飛翔能力を与える。武器にも防具にもなる美しいガラスの靴で、階段の上から跳躍した。
 その時、レーシィの背後から発砲音がした。銃弾は嫉妬のシンデレラを掠めるが、その軌道を逸らすことに成功する。
「……牽制射撃だ」
 ややぶっきらぼうに呟かれたその言葉を発したのは、モース・レフレクソン(サイボーグの戦場傭兵・f06734)。彼は大型拳銃【アイアンフェザー】を構え、次の射撃に備える。
 レーシィが敵から何かを聞き出そうとしていることはわかった。どんな理由があろうと敵は敵だ。だがモース自身も幼い頃、暮らしていた隠れ里が山賊に襲われ捕まった。人身売買に手を染めていた山賊たちによりモースは商品とされ、とある研究施設に引き取られることとなる。そこで待っていたのは実験体となる運命。幼いモースは兵器としての人形に改造され、その後サイボーグとして戦いの中に身を置くこととなった。
 こんな話は猟兵の中では珍しくない。兵器として任務に当たってきたモースにしてみれば敵の事情など関係ない。殲滅するだけだ。
 だが、世界に対する理不尽な思いを抱える気持ちもわからないではない。それにレーシィが傾聴という姿勢を見せている以上、無下に殲滅するわけにもいかない。危険が迫れば打って出よう。彼が今までの経験から得た戦闘知識をもってすればそれは可能だった。
「……牽制で時間稼ぎはできる……話を聞き出したいなら、手早くな」
 何度か牽制射撃を放つと、場所を変え、今度は装甲をも破壊する強力な【装甲突破特化アンチマテリアルライフル】で狙い撃つ。
「う、うん。わかった!」
 このままでは上手く話を聞くことができない。ならば、彼女から話を聞き出せるように。
 レーシィは自身のネットワークサーバーを通じて、ネットに繋がる人々に呼びかける。どうかこの不憫なシンデレラの心を少しでも軽くするために、彼女と対話をする力をください、と。
 すぐさま賛同と共感を集めたその願いはレーシィの力となって実現する。
 モースの牽制射撃によりこちらに攻撃を仕掛けられずにいた嫉妬のシンデレラの動きが止まった瞬間に、レーシィは真っ直ぐに彼女の瞳を見つめて語り掛ける。
「わたしはね、遺伝子操作で造られたクローン人間なんだよ。だから、ネットで教えてもらったことしか知らなかったりするの……普通の人みたいにあなたに何があったのか上手に想像することができないと思う。だから、教えてほしいの。シンデレラさんにどんな辛いことがあったのか」
 悪意だと穿ってしまう嫉妬のシンデレラに対し、ただ純粋に自身の言葉を述べるレーシィ。フラスコチャイルドとして命を授かった彼女の出自は決して幸せなものではない。そのことが嫉妬のシンデレラの口を開かせたのかもしれない。
「……元の世界の記憶は曖昧よ。それでも心に刻まれているの。わたしは努力しても報われなかったと……。気が付けば知らない世界にいて、わたしを食べようとするオウガに追われて……誰も助けてくれなくて……それでも元の世界に帰ろうとしてもわからなくて……」
 彼女は元はアリスだったのだ。知らない世界で突然命を狙われ、愉快な仲間たちに出会えず、辛い思いをしていた。
「せいいっぱい助けを求めたのに、誰も応えてくれなかった。それでも生き延びようと草を食べて、泥水をすすった……孤独と恐怖と空腹で眠ることもできなかった。やがて絶望し力尽きて……」
 自身がオウガになっていた。
「……ごめんね、助けてあげられなくて……」
 赤い瞳がうるんで涙が一筋頬を伝う。レーシィだって猟兵だから。危険がわかっていたのなら助けに行くこともできたのに。けれどグリモア猟兵の予知の外で起こる事件も知らないだけでたくさんあるのだろう。
「同情なんていらないの……あなただって同じよ。この世界に閉じ込められて絶望を味わうの!」
 話は終わったと判断したモースがユーベルコードを発動させ、攻撃回数を重視した銃弾を連射する。可変し、グレネードランチャーとなった両腕から正確に狙い撃たれた銃弾が嫉妬のシンデレラを襲う。
 しかしその攻撃は嫉妬の闇の魔力を纏ったクリスタルの杖で受け止められる。その弾丸を受け止めると杖を振るい、全く同じ威力でモースへと返す。
「世間様!」
 レーシィの体内のサーバーを介し、召喚した荷電粒子砲が放たれた銃弾を相殺する。その後も何度も同じ銃弾を放たれるたび、電動ノコギリや大鋏など手段を変えながら迎撃する。
「至近距離からの攻撃の方が有効か」
 鋭い眼光で敵を見つめ、モースは再度の牽制射撃を行いながら嫉妬のシンデレラの懐に飛び込んでいく。
「善い事ができて、努力もして、真っ直ぐに純粋に生きてた頃があったなら……その頃を思い出して欲しい」
 アリスは元の世界の記憶を失くしているという。でもレーシィの言葉を聞いてくれた彼女なら、きっと真っ直ぐで純粋な心を持っていたのだと思えるから。
「もし少しでも尊かったって思えるなら、皆を見守っていて……」
 彼女の絶望を終わらせなくてはいけないと思うから。祈りを込めてそう呟くのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

小雉子・吉備
本来の世界を

悪意によって運命を
物語を歪められた
シンデレラちゃんは

救えるなら救いたかった

けど、それが出来ないなら
皆を守り……これ以上シンデレラちゃんの手を汚させないっ!

〖POW〗
【早業】でUCを発動し真の姿❮雉鶏精・鳥獣人形態❯になり【高速詠唱】で〖時の愚鈍「スロウフールハウル」〗を【誘導弾】を込め【範囲攻撃】の【弾幕】展開

妨害しつつ

〖ひいろ〗ちゃんと〖なまり〗ちゃんに【動物使い】で対応したカードで牽制

キビも【激痛耐性】と【オーラ防御】で備え

【空中戦】で駆け〖偽御神刀・吉備男〗で【属性攻撃(重力)】と【貫通攻撃】を込め

【第六感】で【見切り】つつ
【2回攻撃】を決めるよ

〖アドリブ絡み掛け合い大歓迎〗


リゼ・フランメ
夢や理想、幸せを追い求めること
切実なまでに求めて、願い、祈い続けることこそが大切なの
夢を見続けて
それを現実でこそ形結ぶ為に

「シンデレラ。貴女の罪は、諦めた事よ」
自らの手で叶えようという、想いと祈りを途絶えさせ
嫉妬と憎悪で、絶望へと自ら墜ちて世界さえを染めたこと

「故に、ここに断罪の刃を。後に希望を掴む為に」

相手も飛翔するなら私もUCを発動し全力飛翔
ただ頼るのはUCの効果ではなく、速度を上乗せした私の剣

相手の翔る向きを見切り、炎と化す羽根を散らして動きを制限
その瞬間に早業での切り込み
破魔を宿し、罪と悪しき魔法と焼却する劫火の斬撃を、舞い踊るように

ガラスの靴さえ灼いて斬る、私の想いの炎を刃に乗せ放つ



●炎の舞
「シンデレラちゃんは、アリスだったんだね……」
 仲間が聞き出した彼女の絶望は、アリスラビリンスのどこかの不思議の国に迷い込んだ少女が誰にも縋ることができずに世界を恨んで果てたという事実。元の世界でも辛い思いをしていたこともあって、彼女は世界に見放されたと思ったのかもしれない。
「悪意によって運命を……物語を、歪められたシンデレラちゃん……」
 小雉子・吉備(名も無き雉鶏精・f28322)は自分の手をじっと見つめた。彼女が不思議の国のどこかで助けを求めていたのなら。この手がもし届いたならと思ってしまう。 
「救えるなら救いたかった……」
 けれどもう過去には戻れない。この本の世界にいつまでも留まっているわけにもいかない。ならば。
「皆を守り……これ以上シンデレラちゃんの手を汚させないっ!」
 必ず仲間たち全員を守るという正義の誓いのもと、吉備は真の姿を開放する。焦茶色の髪は若草色へと変化し、雉鶏精の特徴が色濃く表れた鳥獣人形態となる。
 相手も理想のプリンセスへと変身し、その能力は強化されているだろう。ならばと吉備は高速詠唱で【時の愚鈍「スロウフールハウル」】に誘導弾を込め、広範囲の弾幕を展開する。弾幕の周囲の時間のみが鈍重になり、高速の飛翔能力を得ていた嫉妬のシンデレラの動きが鈍る。
「あなたは希望や夢はいらないと言った」
 そこへ白き翼を持つ天使の姿となったリゼ・フランメ(断罪の焔蝶・f27058)が劫火の名を冠した優美な剣を手に同じく飛翔して迫る。
「夢や理想、幸せを追い求めること。切実なまでに求めて、願い、祈り続けることこそが大切なの」
 剣を振るう度、ふわりと羽根が舞い落ちる。それは触れると炎になる。嫉妬のシンデレラは炎にまかれまいと羽根を避け、知らずにリゼに動きを制限されていた。
 夢は力になる。夢を見続けて、それを現実という自分だけの物語の中で形結ぶために。
「シンデレラ。貴女の罪は、諦めた事よ」
 辛い目に遭ってきたことはわかる。けれど本当に別の道はなかったのだろうか。あとほんの少しで何かが変わることはなかったのだろうか。
「自らの手で叶えようという、想いと祈りを途絶えさせ、嫉妬と憎悪で、絶望へと自ら墜ちて世界さえを染めたこと」
 破魔を宿した刀身が、嫉妬のシンデレラへと振り下ろされる。全てを防ぐガラスの靴の力を宿したクリスタルの杖がその攻撃をはじき返し、逆に攻撃へと転じる。だがリゼもくるりと優雅に回転し、舞い踊るかの如く美しい残像を残す。
「誰もがあなたみたいに強くないの。希望を踏みにじられて、見失って……そんなものを願い続けられるわけがない」
 シンデレラの杖とリゼの剣が交錯し、まるで二人でダンスを踊っているかのように。リゼの赤い髪と美しい戦装束が蝶のように軽やかに舞い揺れる。
「確かにそうだよ……キビだって、あの時助けられていなければどうなっていたか……」
 記憶を失って辿り着いた幽世で、骸魂に巻き込まれた所を猟兵に助けられた吉備。吉備は世界の善意に触れ、シンデレラは悪意に希望を失った。たったそれだけの違いというなら、吉備とシンデレラはお互い逆の道を辿っていたかもしれないのだ。
「シンデレラちゃんが弱いわけじゃない。誰か一人でも助けてくれる人がいれば希望を失わずに済んだと思うから」
 吉備がビームカードを操ると、赤い猿ひいろが自身の持つ能力を最大限に引き出され、嫉妬のシンデレラへと敏捷な動きで飛び掛かる。格闘を得意とするひいろの拳をガラスの靴で防ぐが、そちらに気を取られ、リゼの放った羽根が炎となりドレスを燃やす。ひいろの格闘技もまた炎を纏うもの。攻撃を防がれても、その勢いを利用し後ろへ飛び退ると、今度は強烈な蹴りをお見舞いする。今度はひいろの攻撃による炎が嫉妬のシンデレラを炎に巻くが、魔法のドレスの加護が数舜後に炎を消し去っていた。
「わたしにはあなたみたいに助けてくれる人も仲間もいなかった……あなたは恵まれているの……わたしの気持ちがわかるはずないの!」
 嫉妬のシンデレラの攻撃から守るように、今も吉備のそばには小さな青色の狛犬なまりがいてくれて。シンデレラにはそれが眩しく映るのだろう。
 シンデレラが言葉とともに杖を振るうと、嫉妬の感情が込められた衝撃波が吉備を襲う。なまりを背後にかばい、オーラ防御でそれに耐える。
「この世界に閉じ込めてあげる!」
 全てを破壊するガラスの靴の力を宿した杖での攻撃が、至近距離にいたひいろへと迫ったのを見て、吉備は別のビームカードを操りなまりに指示を出す。
「なまりちゃん!」
 利発ななまりはすぐさまひいろに迫る危機を察し、ダッシュで駆け寄ると虹色のビームブレスを嫉妬のシンデレラに向かって放出する。ガラスの靴の力を攻撃から防御へと変えざるを得なくなったシンデレラは、一度距離を取ろうと宙に舞い上がる。
 リゼもまた蝶のごとくふわりと宙に舞う。たとえ自らの翼が炎に焼かれ、飛ぶことが困難になったとしても。リゼは決して諦めることはない。夢を追い求めることをやめたりはしない。嫉妬と絶望に囚われた彼女の目には今は希望の片鱗すら見えなくても。希望が存在しないわけではない。掴み取る機会は必ずあると思うから。
「あなたの目には今は希望が映らないのかもしれない……まずはその感情から解き放たれることよ」
 リゼは純白の長剣を持つ手に力を籠めると、全力で飛翔し肉薄する。
「故に、ここに断罪の刃を。後に希望を掴む為に」
 飛翔速度を上乗せしたリゼの一撃をガラスの靴で受け止めるも徐々に押されていく。その間も羽根が宙を舞い、触れたものを炎へと変えていく。
 吉備もまた自らの翼で宙を舞い【偽御神刀・吉備男】を手に攻撃に加わる。
 目の前のシンデレラは、理想の美しさと強さを兼ね備えたプリンセスだというのに、彼女の根底にあるのは嘆きや恨みで。
「この物語の結末は……」
 おとぎ話はめでたしめでたしで終わることが多いけれど、まだこの物語の結末は見えてこない。
 桃太郎の刀との一説がある御神刀を模した刀を手に、吉備は重力の属性を込めた一撃を叩き込む。目の前のシンデレラが桃太郎における鬼だとは思えないけれど。彼女を開放するには倒すしかないのだとしたら。
「恵まれたあなたたちには負けない……!」
 嫉妬を燃やすシンデレラに対し、リゼもまた想いでは負けるつもりはない。
 物静かさの中に秘めた苛烈なる炎。その想いを刃に乗せた華麗なる一撃は全てを防ぐはずのガラスの靴にひびを入れた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

春霞・遙
ハツカネズミがやってきたのでそろそろおはなしはおしまいですよ。
きっとこんな寂しい本の中にいるから悪い方にばかり考えてしまうんです。ここを出てストーリーに縛られない世界に行きましょうね。
さあさ12時を告げる鐘を鳴らしましょう。じきに貴女の物語にかかった魔法が解ける時間です。

善い魔法使いにはなれそうにありませんが杖でお相手します。
飛び道具は回避したり杖でいなしたりします。
その上で近接できればガラスの靴も魔法のドレスも【退魔呪言突き】で打ち消します。
彼女の魔法が解けてしまえば私の役目はおしまい。猟書家の本を出てアリスラビリンスから帰るまでユーベルコードが使えなくなる分は杖術で補います。


彩瑠・翼
お姫様の攻撃は【アリスナイト・イマジネイション】で防御
シンデレラの話なら、王子様っぽい衣装の鎧にするよ

オレだって男だし
王子様として戦うお姫様の攻撃は受け止めたいよね

[手をつなぐ、優しさ、鼓舞]で話したら
ちょっとでも気持ち癒せるかな?

攻撃はアリスランスでの[ランスチャージ]での
急所めがけての一撃必殺を目指す
弱っちいけど[覚悟、勇気、気合い]で頑張るよ

おねーさんの幸せは何だったの?
世界なんて、いつだって思い通りにならないよ
だから何が幸せかは自分で決めて
自分から取りにいかなくちゃ!

絶望したり、嫉妬なんてしてる場合じゃないよ
それよりちゃんと自分を褒めてあげてよ
おねーさんはすごい魅力的で、綺麗なんだから



●魔法が解けるとき
「ハツカネズミがやってきたので、そろそろおはなしはおしまいですよ」
 猟兵たちの攻撃により魔法のドレスもぼろぼろになり、美しさと強さを兼ね備えたプリンセスにも疲労の色が滲んでいた。
 杖を支えに何とか立っている嫉妬のシンデレラに向かい、春霞・遙(子供のお医者さん・f09880)はそう声をかけた。自分は善い魔法使いになれそうにはない。けれど、物語の導き手にはなれるから。
「おねーさん、だいじょうぶ……?」
 【アリスナイト・イマジネイション】により王子様然とした無敵の戦闘鎧に身を包んだ彩瑠・翼(希望の翼・f22017)がそっと手を差し伸べる。
 仲間が聞き出してくれた情報から彼女の絶望は理解できた。そして仲間の攻撃でもう充分弱っている。あとは、彼女の心に寄り添いながら彼女が納得するエンドマークをつけてあげたい。
「きっとこんな寂しい本の中にいるから悪い方にばかり考えてしまうんです」
 誰もいない寂しい世界。自分を害するものもいないが、自分を慰めてくれるものもいない。
「ここを出てストーリーに縛られない世界に行きましょうね」
 遙の言葉に、嫉妬のシンデレラは強く首を横に振った。こんな寂しい世界でも彼女はここを離れたくないというのだろうか。
「おねーさんの幸せは何だったの?」
 ひとつ聞いてもいい、と翼は問いかけた。彼女が満たされる条件は、彼女が幸せだと思えることを叶えてあげることではないかと思うのだ。
「わたしの幸せ……」
 それはアリスとして異世界に召喚される前の記憶。曖昧でおぼろげだけど、確かに努力してでも手に入れたい何かがあったはずで……。
「……夢はあったけど、努力しても報われなくて……」
 その言葉に翼は大きく頷く。翼だって早く大切な人を守れるように強くなりたい。でも戦うことにはまだ慣れないし、時には逃げ出したくなることもある。
「世界なんて、いつだって思い通りにならないよ」
 でも、それを理由に嘆いていたら幸せが逃げてしまうから。
「だから何が幸せかは自分で決めて自分から取りにいかなくちゃ!」
「わたしだって、昔はそう思っていた時があったわ……」
 少しだけ記憶が蘇る。ああ、そうだ。どうして自分がここにいるのかようやくわかった。
「だったら、絶望したり、嫉妬なんてしてる場合じゃないよ」
 翼はそっとシンデレラの手を取る。手袋越しにでも伝わる温もりはちゃんとあって。真っ直ぐ目を見て笑いかける。
「それよりちゃんと自分を褒めてあげてよ。おねーさんはすごい魅力的で、綺麗なんだから」
 ほんの一瞬、嫉妬と絶望に囚われたシンデレラの瞳に喜びの色が滲む。けれどそれも一瞬のことで、彼女は何かを決意したように翼の手を離すと距離を取る。
「……思い出したの。この物語はわたしのための物語。……わたしが書いた物語なのよ」
 異世界に来る前に物語を綴っていた。たくさんの人を喜ばせたくて書いていた話。でも努力は報われなくて。そうして絶望に囚われたある少女の話を書いた。
「……だからこの本にいることに固執していたのですね」
 遙は思わず納得していた。他人の目には寂しく映るこんな世界でも、彼女にとっては彼女が望む世界なのだ。
「幸せは自分で掴むと言ったわね。だからわたしはこの物語の中で生きるの」
 それが自分の幸せなのだと宣言して、嫉妬のシンデレラは再び杖を構えた。
「おねーさん……」
 目の前のお姫様を救いたい。けれど彼女が戦うことを選択したというのなら、王子様はその気持ちと攻撃を受け止めるまでだ。翼もまた王子様然とした鎧に身を包み、アリスランスを握りしめた。
「あなたを導く善い魔法使いになれなくて残念ですが……こちらも杖でお相手しましょう」
 魔法使いの象徴である木の杖を手に、遙も前へと進み出る。
 嫉妬のシンデレラは魔法のドレスを翻らせ、ガラスの靴の力を宿した杖を振るう。嵐のような衝撃波を、翼は遙の前に出てかばうように受ける。王子様はこんなところで倒れたりしない。絶対に目の前のお姫様を救うのだ。その強い気持ちが鎧をより強固なものにする。
「ありがとうございます。あの魔法を封じるにはもう少し近づきたいところですが……」
「ん、わかった。おねーさんの攻撃を受け止めてるその隙に……」
 衝撃波をことごとく防がれ、遠距離攻撃から近接に切り替えようとしたシンデレラはひびの入ったガラスの靴で翼に襲い掛かる。全てを破壊するというその靴が、翼の鎧に亀裂を生む。けれど、翼もまた絶対に壊れないという強い思いを抱いて鎧が砕かれるのを回避する。
 その攻防の隙をつき、遙は一気に距離を詰める。
「長き刹那の無力を糧に。生者を屍に、祝福を呪いに、強者は地に臥せよ」
 力強い言葉とともに、杖は振り下ろされる。魔法の加護を受けたドレスも、全てを破壊し、全てを防ぐガラスの靴もその効果を反転させられ、無力化する。強い効果を発揮するがゆえ、その代償も大きい。遙はしばらくユーベルコードを使用することができなくなる。
「さあさ12時を告げる鐘を鳴らしましょう。じきに貴女の物語にかかった魔法が解ける時間です」
 物語はもう終わりを迎えようとしている。彼女を苛む嫉妬や絶望から解放されてもいいはずだ。
「ねえ、おねーさん……この本はおねーさんが書いた物語だって言ったよね?」
 自身を守るドレスもプリンセスたらしめていたガラスの靴の力もない。そんなシンデレラに向かい、翼は真摯な瞳で問いかけた。
「じゃあ、この物語の結末はどうなるの? おねーさんは何を望んだの?」
 絶望に囚われたシンデレラは本の世界にやってきた人間をこの本に閉じ込めて満足して終わる。そんな結末だとはどうしても思えない。
「あなたが願ったのは幸せな結末なのではないですか?」
 それはきっと呪縛からの解放で。
 翼はアリスランスを構えると、覚悟を決めて急所めがけて槍を突き出した。せめて苦しまないようにと一撃必殺を狙う。
 王子様はお姫様を助けるから。それは絶望や嫉妬という感情から解放すること。
「……ラストシーンはね……全ての感情から解き放たれて鳥になって飛んでいくの……翼を広げて、どこまでも自由に……」
 胸に槍を受け、ほんの少しだけ微笑んで。でもどこか満足そうに目を瞑ると、彼女が望んだ結末の通り、嫉妬と絶望に囚われたシンデレラは白い鳥となって飛んで行った。
 空に浮かぶ太陽が最後のページを示し、目の前に「おしまい」や「完」、「Fin」といった文字が浮かび、この物語に終止符が打たれる。
「魔法は解けてしまいましたね……この物語における私たちの役目もおしまいです。さあ、帰りましょう」
 遠くから様子を見守っていたねずみたちが現れ、次々に猟兵たちへ感謝の言葉を告げる。遙はしばらくユーベルコードを使うことはできないが、その間は杖で乗り切ろう。この住人たちを送り届けるまでは。
「おねーさん……今度はきっと幸せになれるよね」
 物語は人生と同じ数だけあるはずだから。
 白い鳥が飛んで行った空を見上げ、翼はそうぽつりと呟いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年07月28日


挿絵イラスト