●静かの海より
水面は凪いで、船はなく。
夜はさざなみ、あかりなく。
砂を浚って暗闇が寄せて引いてを繰り返し、
揺り籠に誘うように心地よく、うたかたの世に命を運ぶ。
穏やかにこのまま時が過ぎたなら良かったのだが、そうとはいかず。
ゆぅらり、ゆらり。
りぃん、り、りぃん。
射干玉の海より出でて揺蕩うは、過去より来る異形の姿。
砂浜の先に見えたる人間の灯に狙いを定め、泳ぎ出した。
●月の入り江へ
「海は好きか?」
開口一番、何を聞くかと思えば。
浅沼・灯人(ささくれ・f00902)はコピーしてきた資料を配り終えると集結した面々に質問した。
別に世間話がしたくて聞いたわけではない。今回の予知に見えた場所がそうだったから聞いたまでだと付け加え、赤熱した墨色の目でざっと全員の反応を見れば、予知の説明を開始した。
「……サムライエンパイア湾岸部、ある村の近くの砂浜にオブリビオンが大量発生するようだ。そいつらを始末してきてほしい」
見えた情報は文字に図にと起こしてきたこの男、資料を捲り戦場の状態を解説する。
場所はとある海。丁度三日月のような形になった入り江にオブリビオンは出現する。目視できる程度の距離にいくつかの村があり、出現したオブリビオンはこの村々に向かって進撃して言うのだという。
「万が一、連中が村に到達すれば……まあ地獄絵図だな。村の痕跡ひとつ残さないくらいに荒らされる。必死こいて守れよ」
出現した敵については砂浜にいさえすれば自然と猟兵たちへと近寄ってくる。到着したら即戦闘できるほどには支度を整えて欲しいと男は告げる。手元のそれはその為の資料だと。
到着及び敵出現時の時間帯は日が暮れて間もなくの薄暮。
戦場予定地となる砂浜は平地と比べれば足場は悪いが障害物はほとんどない。対策さえすれば不便なく戦えるだろう。
「村の人間は祭りの用意やら何やらで海には近づかない。その辺は心配せずに戦えるぞ」
祭り?と声が上がれば、男は無愛想な悪人面に小さく笑みを浮かべて。
「ああ、戦いが終わった後は寄ってきてもいいだろうよ。数は少ないが出店もあるみたいだぜ」
たまには休暇もいいもんだぜ。と真白いグリモアを取り出し、起動させた。
日照
ごきげんよう、日照です。
三作目は戦って遊んでの極めて普通なシナリオです。
●シナリオの流れ
一章では彼岸の兜風鈴達、二章では黒翡曜と戦っていただきます。
相手へ言葉は伝わりませんし、相手は言葉を返すこともできません。それでも思いの丈を伝えたいのなら、ぶつけていってください。
三章では夜のお祭りを楽しんでいただけます。花火や村のちょっとした特産品、ご飯などを楽しめます。
また、戦闘章ではおひとりさま参加の方でも、他の方と2~3人をまとめて描写する事もございます。
おひとりさま希望の場合は文字数削減も兼ねて†を最初に記入を。†孤独に闇と戦う戦士†となっていただきます。
●あわせプレイングについて
ご検討の場合は迷子防止のため、お手数ではございますが【グループ名】か(お相手様のID)を明記くださいますようお願い申し上げます。
では、良き猟兵ライフを。
皆様のプレイング、お待ちしております!
第1章 集団戦
『彼岸の兜風鈴』
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POW : 風鈴の音が響き渡る
予め【風鈴の音を響かせ続ける 】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
SPD : 風鈴の音が共鳴する
【共鳴振動となる甲高い風鈴の音 】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ : 風鈴の音が死者を呼ぶ
【黄泉の国 】の霊を召喚する。これは【悲鳴】や【武器】で攻撃する能力を持つ。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ルビィ・リオネッタ
相棒にして恋人のシオンと共闘
海が出身地ってわけじゃないのに、夕暮れの波の音ってどうして懐かしくなるのかしら
「任務じゃなきゃ、いいデートになったんじゃない?シオン」
・戦法
人家の明かりを目印にしてるのかな?
なら焚火を用意すればおびき寄せ効果がUPするかもね
シオンに薪を集めて貰い、魔法かマッチで火をつけるわ
「こんな素敵な夜だもの。一緒に踊ってくれない?」
鈴の音を背景に、攻撃回数重視の『死の舞踏』を
【暗視】で相手の位置を見極め【目立たない】ように【ダッシュ】で海岸を飛ぶわ
地形に影響される相棒の分、アタシが動き回るようにする
【暗殺・2回攻撃・早業・フェイント・空中戦】全部組み合わせて数を仕留めていくわね
六道・紫音
相棒にして恋人のルビィ(f01944)と共闘
波の音は心を落ち着ける、ゆっくり耳を傾けたいが…。
「祭りがあると言ってたろ、さっさと片付けてデートにするぞ」
・策
ルビィと協力して焚火を作り、敵を誘き寄せてから一網打尽にする。
薪集めは俺の担当だ、素早く『ダッシュ』と『怪力』を駆使して集めよう。
「火は任せたぞ」
・戦術
焚火に敵が寄って来たら『残像』を伴いながら『ダッシュ』で一足飛びに駆ける《縮地》にて敵中へ踏み込む、足場が悪いので足捌きには最大限注意。
「一網打尽にする!」
範囲内の全ての敵を『見切り』で瞬時に捕捉し『鎧無視効果』と『怪力』で硬い外郭すら無効化する陸之太刀《絶佳》を『捨て身の一撃』で放つ。
●そらにみつ
ぱちり、ぱちり。
日が沈んで間もない砂浜に、薪の燃え爆ぜる音が響く。月のない快晴、星もまだ瞬かない薄青はどこか空虚で、冬の空気の冷たさが天と地をより引き離しているかのようだった。
焚火の傍には人影ひとつ。肩まで伸ばした黒髪を潮風に揺らす青年――六道・紫音(剣聖・f01807)は波の音に耳を傾けて、心中の水面へ広がる波紋を鎮めていた。
「海が出身地ってわけじゃないのに、夕暮れの波の音ってどうして懐かしくなるのかしら」
彼の肩から愛らしい疑問が飛んでくる。恋人の肩に座って頬杖をついているのは妖精のルビィ・リオネッタ(小さな暗殺蝶・f01944)だ。彼が薪を集めてきているときに見た水平線を焼き焦がす夕焼けも美しいものではあったのだが、今、眼前で秘色に静まる海にはまた異なった印象を受けていた。
漠然とした感情に名付ける言葉を迷う妖精少女へ、恋人は何処で得たのかも忘れた知識を引っ張り出す。
「生物は皆、海から生まれたと言われている世界もある。本能的に感じている部分もあるのだろうな」
全てが海から生まれたというのなら、種族の異なる自分たちも元を辿れば同じであったのだと微かに笑えば、妖精は愛おしそうに男の横顔を見つめ、その頬へと寄り添った。
遥か遠くに水平線、島らしい島も見えない静かな入り江。これから戦場になるとは思えないほどに緩やかで穏やかで、冷たい時間。交わす言葉さえ凍り付かせて、意識を飲み込む寂莫の光景に二人は暫し見入っていた。が……
――りぃん、りりぃぃん。
ぱちん。薪が爆ぜる。
そこに寂しげな鈴の音が混ざれば感傷に浸るのも終わり。青年は腰に佩いた刀に手をかけ鍔を鳴らし、妖精はふわりと肩から飛び立った。
「祭りがあると言ってたろ、さっさと片付けてデートにするぞ」
「あら?今はデートじゃないの?」
「今は、任務だ」
そっけない返事と共に、二人の戦いが始まった。
●埋け火の消ゆるその前に
――りぃぃぃん。
二人の周囲を囲むように、壊れた兜が宙を舞う。外見の悍ましさと相反し、響く鈴の音は楚々として典麗。胸の奥から垂れた糸を小さく引くように、兜風鈴たちは鳴き濡れていた。
ルビィは風鈴たちの合間を揚羽の翅ですり抜ける。焚火の灯りとまだ暮れきらぬ空のお陰で視界には問題がないものの、砂地を駆けて戦闘するには相棒には些か不利だろう。ならば、代わりに。
「こんな素敵な夜だもの。一緒に踊ってくれない?」
薔薇の意匠を施した白銀の細剣を構えれば、妖精少女の輪舞が可憐に幕開ける。
風を裂いて接近する妖精に、兜風鈴達は切りつけられる刹那まで気付かない。己が欠けてようやっと、深紅の裾を翻し空を踏んで舞う妖精の姿を見つけるのだ。そうして傷を負い、気付いた風鈴達はりぃんと音を鳴らして妖精の鱗粉を追いかける。
次第に、妖精の踊りに引き寄せられるかのように、与えられた小さな傷から欠片を零しながら兜風鈴たちが集まり始めてくれば、
「シオン!」
「応さ!一網打尽にする!」
戻って来た妖精が相棒の名を呼ぶ。すらんと引き抜くは宝刀《皇月》。刃毀れひとつない刃が黒塗りの鞘から鋼の閃きを見せる。ルビィはふわり彼の肩――安全圏へと舞い戻れば紫音は敵の距離と配置を一瞥で把握、砂に足を取られるのなら、この場から動かずただ、一振り。
男の刀が空を斬る。先頭にいた一体が冴える一撃を前に鮮やかな切り口で真っ二つに斬り割られれば、その後ろに続く兜風鈴達も同様に。陸之太刀《絶佳》は男の前方20mに集った兜達を悉く叩き割っていく。勿論威力というものは、刃から遠ざかるほど落ちていくもの。それでも事前に文字通り切欠となる程度の傷をつけておけば十二分。衝撃波を浴びた兜は受けた傷から砕けて散っていく。
集う兜が落ちていけば、次の一群が集まる前に再び心を鎮めんと紫音は大きく息を吐いて呼吸を正した。
「次だ、頼んだ」
「任せて」
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
緋翠・華乃音
海を……見たいとは思わない。
そこは生命の出発点であり――終着点なのだから。
――還れ。君らは、生まれて良い生命ではないんだ。
戦場がある程度見渡せる場所(遠距離且つ可能なら高所が望ましい)に潜伏。
右耳を飾る十字架を指先で小さく弾き、その腕(かいな)に流星を模した狙撃銃を展開。
"目"と"耳"には自信がある。瑠璃の瞳は星明かり程度でも十分に夜の世界が見て取れる。
風鈴の音は好きだが、度が過ぎるのならヘッドフォンで塞いでしまおうか。
"耳"を失うくらいのハンデは構わない。
可能なら他の猟兵と共闘を望む。
接近戦も得意だが正直言って面倒くさい。やる時はやる。
――次に生まれる時は、今を生きる生命として始まろう。
ナナ・モーリオン
(歌うように、戯れるように、歩み出て)
りん、りん。
綺麗な音。ボクの鈴と同じ。
けど、ダメだよ。あっちはダメ。
あっちは、君たちの居場所じゃないよ。
おいで、おいで。こっちにおいで。
ボクが全部、受け止めてあげる。
憎いの?それとも、羨ましいの?
あっちのひとは、それを聞いたら、受け止められないから。
だから、ボクに教えて。
全部聞いて、受け止めてあげるから。吐き出しちゃえばいいよ。
吐きだしちゃったら、もう休もう?
きっと、静かに眠れるよ。
(必要あれば、槍で攻撃。
怨念そのものに等しいので、倒すというよりは槍への同化に近いかも)
(使用技能【呪詛】【呪詛耐性】【オーラ防御】)
●たまきはる
場所は変わり、砂浜の何処。
――りぃん。りりぃん。
兜風鈴達の哀切の歌が砂浜に響き渡る。空にはぽつりと一番星、深さを増し始めた闇の下、風鈴達は鳴り時雨れる。それに呼応するように海から光の玉が現れて、ふうわりふわりと空を泳いで兜風鈴達の傍で形を取り始めた。
それらは皆、ひとのかたちをしていた。どれもこれも同じようだがどこかが違う。黄泉より呼び寄せられた彼らは苦しげに呻いて泣いていた。この海に縁のあるものであったのだろうか、手に持つ武器は銛や鈎、あるいは網と、漁具に見えるものが多い。
――ちりりん。
音色の異なる鈴の音が紛れて響く。死者の霊に臆することなく槍の形のそれを燃え上がらせる。
ナナ・モーリオン(スケープドール的なモノ(本人談)・f05812)は死霊術士だ。死せるもの達を前にしても恐怖で震えることはない。少女は呪詛を受け止めるものだ。彼らの嘆きへ、生けるものを呪うその声へ哀れみさえも感じない。
「おいで、おいで。こっちにおいで。ボクが全部、受け止めてあげる。」
鈴の音に混じり語り掛ける少女の声は、歌うように招くように移ろう彼らへ注がれる。生けるものへと死者たちが叫ぶ。その声ごと、ナナの炎が呑み込んだ。
人形少女の振るう槍は決して彼らを傷つけない。彼女が振るうソレは、呪いと怨みで構築されている。故にだ、槍の通り過ぎたのち霊達は一様に燃え上がるソレに吸われて熔け落ちる。
「憎いの?それとも、羨ましいの?あっちのひとは、それを聞いたら、受け止められないから」
少女へと歪な銛が投げつけられる。それを眼前へと呼びだした闇黒で防護すれば、銛の切っ先がとぷんと浸り、嚥下するようにすべて沈め込む。
「だから、ボクに教えて。全部聞いて、受け止めてあげるから。吐き出しちゃえばいいよ」
少女へと向けられる怨嗟が濃度を増していく。けれど人形は表情一つ変えることなく、向けられた怨嗟をその炎で平らげていく。呑邪の黒水晶、そう名乗る彼女に相応しく、呪われし彼らは見る見るうちに彼女へと呑まれていった。
そんな時だ。気付かぬ間に、兜風鈴の一体がナナのすぐ後ろまで迫っていた。受け止めてくれと、そう思ったのかは誰にもわからない。ゆぅらりと揺れて、りぃん、りぃん。その背へ呼び起こせる限りの全霊を送り出そうとし――
遠く、空ではないどこかから流星が迷い込んだ。
「えっ」
流星は人形少女の背後へ降り落ち、兜が一つぱきんと音を立てて割れ爆ぜた。
●命は知らぬ救いの音
そこは月を見下ろす街道沿い。
狙撃銃を構えた緋翠・華乃音(prelude finale.・f03169)は命中を確認すれば片耳の十字架を弾く。質量を無視して保管する無垢の涙へ狙撃銃を一時的に収納すれば、即座に立ち上がり次のポイントへ移動する。
人並外れた視力を持つ華乃音は援護射撃を行いながら戦闘中の各人を見て回ってきたが、一番危うい戦い方をしているのは、彼女だ。
(あんな小さな女の子一人に戦わせるわけにもいかないな)
接近戦は出来なくもない。忍ばせる他装備も使えないわけではない。だが同時に、彼女と並び立って戦うというのも違うと感じた。
(あの子は、救おうとしてるのだろうか)
対話など意味のない相手に呼び掛けながら、虚ろの炎で黄泉へ還す。
慈悲があるのか、容赦がないのか、はては屠ることを悦んでいるのか。何れもその表情からは窺い知れない。けれど確かに彼女の行動から、華乃音は救いを感じ取っていた。『主は心の砕けたものに近く、たましいの悔いくずおれたものを救われる』などと書には記されていたが、彼らからすればあの場にたったひとりで立つ少女にこそより近くある。だからこそ救いを求めているのだろう。
(なら、俺はここからでいい)
男の選択は、砂浜へと降り立たず援護する事。
先程とは違う角度、異なる草叢に身を置いて再び片耳の十字架を弾けば狙撃銃を呼び出す。人形少女へと揺らめき近寄る兜一体へと照準を合わせれば、此処にいてはならない彼らへ、終わりを始まりへと繋げる為の星を降らす。
――次に生まれる時は、今を生きる生命として始まろう。
揺れる兜の一つを、救いの流星が弾き飛ばした。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
多々羅・赤銅
海は縁が無えんだよなあ。内陸育ち炎の子なもんで。
しかし、なるほど、良い開放感だ。ーー音の邪魔するもんが、なくていい。
のんびり独りごちながら、刀一振りのみを持ち、前へ。
達人の剣刃一閃に斬れぬものはなし
音すら斬ってご覧にいれる。
ゆーて、空気の層を斬り裂いて真空を一瞬作って、そこで音を途絶えさせるだけだけどなあ。結局は空気が無けりゃ音なんざ伝わらねえだろ?割と避けれる避けれる。
見切り、感、フェイント、あらゆる技術と経験が、音の出所と届く秒数を鬼に伝える。片っ端から風鈴を斬るついでに音を斬る。
全ての音を斬ること叶わずとも、痛みに強いこの身は、刃舞わせる事を止めない
ちょっと黙っとけ
潮騒が折角良い音なんだ
●ゆふつづの
場所は再び変わり、また何処か。
――りぃん、りりぃん。
粛々と吹き込む風に乗せて悲愴感を誘う鈴の音が流れてくる。透き通ると言えば聞こえがいいだろうか。只管に冷たく、只管に空しく、誰もの心へするりと入り込み、熱を奪っていく。
が、女の耳には其れも入らず。
「いいねぇ、海。好い音だ」
海を前に仁王立ち、傍らには大業物を一振り。銘と刻まれたその名こそ多々羅・赤銅(ヒヒイロカネ・f01007)。この女の名である。内陸育ちの身としては、こういった海辺はあまり立ち寄ったことはなかったのだろうか。己の声さえも深々と染み入り、掻き消してゆく漣に耳を傾け、浸った。
しかし間合い近くにまで寄られれば流石に振り返る。りぃん、りぃんと連なり揺れる様をひとつの鼈甲色で右から左、ざっと数を数えて途中で厭きる。今数えたところで何だ、どうせ最後は零になる。零にする。
「ちょっと黙っとけ。潮騒が、折角良い音なんだ」
言うが早いか動くが早いか、赤銅は自慢の刀の柄を握り、轟っ!と片腕で空を薙ぐ。その風圧に刹那にして十数の兜が鳴り止んだ。否、止められたのだ。
「達人の剣刃一閃に斬れぬものはなし、音すら斬ってご覧にいれる……ってなぁ」
音を斬る等という芸当が出来るものなのか。これが、音の仕組みさえ理解していれば可能であると彼女は言う。震わせるべきモノを断てばいいのだ、伝えるべきものを断てばいいのだ。歯車ひとつなくなるだけで機能しなくなる絡繰りを、剣豪たる女は容易く斬ってのける。そしてその上で
「全部ぶった斬る」
斬、と第一陣を斬って割る。同時に三つ、真一文字に断たれた兜が砂に埋もれる。
続いて迫る第二陣、空を斬られるその前に身を震わして鳴き響くも、その最中に一閃、一閃、また一閃。荒々しくも繊細に、薄皮一枚剥ぐように鍛えた鋼で目に見えぬはずのモノを削ぐ。音を無くして震えるそれを、ひとつひとつ確実に割って落とす、断って落とす。斬り落とす。
時に両手で柄を握り締め渾身の力で叩き落とし、振り上げるより速いと思えば迫る兜を引っ掴み、他の兜へ投げ飛ばす。ぶつかり合った兜を纏めて一気に打ち据えて、返す刃でまた空を裂く。
砂を蹴散らして鬼が笑う。笑って斬る。遠目に見つけた誰かがいたなら、舞っているようだと言っていただろう。なんとも楽しそうな鬼の声は、薄暮の海に凛と響いていた。
「さあさあ!悪鬼魍魎問答無用、一切合切大成敗、赤銅様のお通りだよぉ!」
芸舞はまだまだ終わらない。
大成功
🔵🔵🔵
伊能・為虎
波の音と鈴の音……その鈴が敵でさえなければ静かで風流なのにねー。
彼岸、というか骸の海?からわざわざ上がってきたところ悪いけれど、またオヤスミしてもらおっか
(WIZ重視)
あっそうだ。オヤスミする前に、うちの"わんちゃん"と遊んでおくれよ
【疾駆する狗霊】を呼びだそう。<なぎ払い>で出来るだけ多くの風鈴さんを捉えるようにお願いね
村により近づいている敵を優先してね
風鈴以外の悲鳴の声(呼ばれた死者の声)が聞き取れたら、狗霊の咆哮で邪魔できたらいいな
吠えても駄目そうなら突撃で、頭数を早めに減らすよ
一体でも村に着かせないように、がんばろう
カーニンヒェン・ボーゲン
ふむ、足場の悪さは不動で行える攻撃手段を選択し、ある程度の利を得ましょう。
相手が複数なので不安もありますが、砂地「迷彩」のローブをはおり「目立たない」よう努めます。
「地形を利用」し距離を取って、伏せるか座した体勢で【UC:死霊】を喚びます。
蛇竜には遊撃手として動き回る攻撃指示、
騎士には動かずとも届く限り手近な相手への攻撃指示。
接近する鈴音の出先は視認できるようにしておきます。
優先して蛇竜を寄越しましょう。
位置を特定されたなら仕方ありません。身をさらし、「高速詠唱」で消える度に召喚しなおしです。
可能ならば杖で攻撃をいなすついでに【剣刃一閃】に切り替えられると尚良いのですが。
引く事はありませんな。
●さざなみや
場所は変わり、何処かの波打ち際。
大きな耳を海へと向けて、人狼の少女……否、少女のような衣装に身を包む少年は海を堪能していた。寄せて、引いて。延々と同じ感覚で繰り返される波の音は心にも凪を呼び込む。そこに。
――りぃん、りりりぃん。
ゆらりと近寄る鈴の音の、重なり合うは幾重にか。これが敵じゃなければなぁ、などとぼやきながら伊能・為虎(天翼・f01479)は桃色の裾を翻してやんわりと一礼。
「ではでは此度も戦華繚乱の戦舞(いくさまい)、捧げ奉らん!……なーんてね」
舞う動作の一環のように札で覆われた妖刀を抜き放てば、空に印を切って呪を唱える。
――荒魂等此処へ出で候え、祟り給え呪い給え。
さすれば刀から溢れ出る、宿りしもの。不定形のそれが呪の進行に合わせて顎を作り、目を作り、耳を作り……一匹の首を産み落とす。
「いっくよーわんちゃん!ごーごー!!」
為虎の明るい掛け声に応えて現れた狗の首が荒々しく吠えた。空虚な音をも打ち消すほどのけたたましい咆哮に、兜風鈴達は一同その場に静止する。
止まってしまえばただの餌。ただの塵。首だけ狗の禍き牙が、ない腹を満たさんと兜達を食い荒らす。元より悲鳴など上げるようなものではないが、噛み砕かれる刹那に小さく鳴らした音は苦しげにも聞こえた。
その一方、為虎への接近を許してしまった個体も幾つかあった。それらが共鳴するかのようにりん、りりぃんと鳴り響けば、為虎を囲うように死者の魂たちが朧に浮かび上がる。
「わわっ、と。わんちゃんばーっく!!」
投げつけられた網をすんでのところで躱して、刀を振る。狗は噛み砕いたおもちゃを捨てればぐるりと反転、主人の求めに応じて死霊達へとまた一啼き。悲鳴に上塗りする呪言めいた鳴き声を撒き散らし、近くに顕現していた死霊たちを一蹴したのだが、
「いやいやいや、流石にこの数はきついかも!」
別の風鈴が即座に補充の霊を呼び起こす。愛狗一頭と自身だけでは対処しきれない、死霊の一体を妖刀で撫で切りながら愚痴をこぼした時だった。
少年の近くにいた兜一つに飛びつく細長い何か。瞬く間に兜へ巻き付けば、ぐしゃり。砕けた兜風鈴がひとつ地に落ちた。驚きながらも風鈴と共に落ちたそれを見れば、大型の蛇のような生き物がとぐろを巻いて此方を見ていた。敵意の類がないとわかれば、狗を再び兜達へと向かうよう指示して、それに微笑む。
「わぁ……えっと、ありがとう?」
為虎の言葉が届いたか否か、蛇竜はしゅるりと舌を出した。
●寄りくるものはいずこから
蛇竜と為虎達からそれほど距離を置かない場所より、兜風鈴達を射抜くように見つめる一対の黒。
(さて、まだ此方は気付かれていないようですが、どう動きましょうか)
いくつかある砂の小山のうち、ひとつ。同色のローブに身を隠し、砂山の合間から様子をうかがう人狼紳士の姿がそこにあった。この足場の悪い戦場においてカーニンヒェン・ボーゲン(或いは一介のジジイ・f05393)の取った戦法は、攻撃手段さえ整えば非常に有効なものだった。別所で戦う剣豪と妖精のように集めたところを斬るというのと同じく。動かぬことで不利を殺し、己の得意範囲で敵を討つというもの。
カーニンヒェンは蛇竜に続いて、今度はひとりの騎士を呼ぶ。騎士へ動かずこの場で敵を待つようにと指示を言い渡せば、狼紳士は蛇竜と狗の首の合間で刀を振るう為虎の姿を見た。
(あのお嬢さん……で、いいのでしょうか。随分と派手に動いておられる)
遠目に見れば性別の判断も付かない為虎の、若さ溢れる戦闘姿を孫の晴れ姿でも見るような目で見ていたことをこの場の誰もが気付いていない。カーニンヒェンは隠れ座したまま柔らかに微笑み、手にした杖を構え直した。
(老いぼれはここより援護に徹しましょう)
そんなカーニンヒェンの近くにも――正確に言うならば彼の前に立つ死霊騎士へと、引き寄せられた風鈴達がゆぅらりゆらりと現れる。澄んだ風鈴の音が響き渡れば、忽ちに。死霊騎士の周囲には住む世界の異なる同族達で溢れていった。
騎士は足こそ止めたまま、まずは上半身の動きだけで兜を強引に斬り付ければ、ひび割れた兜がふらりと落ちてくる。騎士はそのまま周囲の死霊を薙ぎ払わんと刃を返すも、落ちた兜はまだ完全に壊れてはおらず。身を震わせて、増援を。
それを止めたのは人狼紳士が抜き放った、居合にも似た杖による一閃だった。
(本来の剣閃に劣る、ただの技ではありますが……まあ、この程度は出来ますか)
罅割れた箇所に叩き込まれた鋭い杖の打撃が、兜を一つ骸の海へと還した。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
三岐・未夜
風鈴の音って結構好きなんだけどなー……これは好きくない……。あと季節外れじゃないかなお前ら。
音を媒介にするなら、とりあえずその邪魔をしてみよっかな。
火属性の矢を作って、【属性攻撃】で強化。爆音上げつつ狙撃するよ。爆発音と空気への振動、砂浜の砂の巻き上げで上手いこと的の風鈴の音も妨げられたらいいけど。
【誘導弾】【範囲攻撃】【援護射撃】【破魔】で出来る限り狙撃して、周りへの負担も減らしたいな。
僕への攻撃は【誘惑】と【催眠術】で当てづらくして、【第六感】で感知しながら逃げることにする。
……ともが初めて予知したんだもん。その悲劇を現実になんてして堪るかっての。
って訳で!みんな燃えちゃえ!
●彼方に夜は迫り来る
――り、ぃぃ、ん。
波よりも弱く、か細く、鈴が鳴る。
各所で行われている戦闘も終わりを迎えようとしているそんな中、三岐・未夜(かさぶた・f00134)の周囲にはまだ多くの風鈴達が揺れていた。
決して、苦戦しているわけではない。事実、彼は傷らしい傷も負っていない。ただ、未夜はより多く、より多くと敵を引き寄せるために走っていた。砂を巻き上げながら、焔の矢で穿ちながら、そうして他の面々より多くの鈴を連れていた。
もし、この場に一般人がいたのなら百鬼夜行だの狐の祟りだの言われていたかもしれない。炎を引き連れ、空漂う兜に追われる黒狐の姿は深まる夜の中でもひときわ目立っていたことだ。
「……季節外れじゃないかなお前ら」
長い髪の隙間から、夕暮れ映す宵の瞳が兜風鈴達を睨む。揺らめくその姿の先に、予知を見たといったよく世話を焼いてくる男を思い出した。表情こそ変えなかったが、その心中は大体察せられる。
彼の最初の予知なのだ。初めて見てしまった、悲しい未来だ。
「その悲劇を現実になんてして堪るかっての!」
こん。こん。こん。
狐の形に手遊びすれば、現れるのは燃え上がる破魔矢。手招くごとに倍、倍、倍。少年の周囲を埋める炎の鏃が、黒狐の姿を影法師のように浮かび上がらせた。
「お前たちの音、すきくない。だから、全部止めてやる」
炎を背に、未夜が静かに敵意を籠める。兜風鈴達は一斉に鳴り響き数多の死霊を呼び起こしたが、最早数などいくらいようが変わりない。
見据えた先、集めきった残りの敵へ、還すべきもの達へと残る矢全てを解き放った。誘導で撃ったものを除いてもまだまだ残りは十分。八十余りの狐の火が、二度目の夕焼けを落とす。
「みんな、みんな燃えちゃえ!」
狐の合図で、焔が躍る。仲間達から離れたのは人見知りゆえではない。この広範囲の絨毯爆撃に巻き込まないためにだ。爆音、轟音。砂と粉々に割れた兜が飛び散って、死霊たちは焼き滅ぼされて消えていく。
それでも壊しきれなかった兜風鈴が、未夜の前へと浮き上がる。兜達に痛みはない。いくら罅が入ろうと、形が残っていれば身を震わせて鳴り響くだろう。
――幾度となく巻き上げた砂粒が、どんなに内から傷つけようと。
りいん、と。もう音は響いてこなかった。震えた兜達はそのまま更なる傷を抱いて砕けていき、砂に混じって風に吹き散らかされていく。ひとつ、ひとつ。落ちて砕けて、消えていって最後のひとつ。未夜は徐に手を伸ばした。もうぼろぼろの風鈴は指先が届くよりも先に砂より細かく散り散りになって、落ちていった。
大成功
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第2章 ボス戦
『黒翡曜』
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POW : 地天の甲
全身を【堅牢地神の加護により硬質】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
SPD : 銀砂の星
対象のユーベルコードに対し【長尾から発生させた光粒】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
WIZ : 気嵐の夢
「属性」と「自然現象」を合成した現象を発動する。氷の津波、炎の竜巻など。制御が難しく暴走しやすい。
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠弦月・宵」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●よもすがら
鈴の音の止んだ、夜の海。
空には満天。月明かりに邪魔されることもなく、戦いを終えた猟兵達を労うように瞬いていた。
ふと、海を見た誰かがそれを見つけた。
それは波間に揺れる夜に紛れ込むように、すうっと、流れていく一筋の煌き。
――否、長く棚引くそれは空より映した星の尾に非ず。
ざぶんと飛沫を散らしてそれが姿を現せば、猟兵達は一度、その姿に見惚れた事だろう。あまりにも美しい、宵闇を負うた一匹の亀に。
それはゆうらりと、宙を揺蕩っていた。波と遊ぶように、時折潜っては水面から顔を出して、穏やかな海を楽しんでいるようにも見えた。
『黒翡曜(こくひよう)』――自然を壊すものを淘汰する、人の敵。
それは猟兵達に気付けば、立ち去れと言わんばかりに鳴いた。先程の兜風鈴達ともまた違う、神の声にも近い清らさで警告をする。
だがここで立ち去ればどうなるか?知れた事、背後に点り始めた人々が、生活の灯がこれ一匹によって壊される。
選択の余地はない。子亀であるが故にこれを今倒す必要があるのだ。
秋津洲・瑞穂
人類至上に囚われた亀の声など、清らかであるものか。
人の営みもまた天然。いつから自然の埒外に出たというの。
宣教師にでも唆されたのかしら、亀?
蟻塚や蜂の巣は美しき大自然。町の風情は醜い人工物。
そうした区別は、人だけが特別だという優越感の裏返しよ。
秋津洲の巫女は欺瞞を許さない。
亀が上陸したなら、【残像10/オーラ防御10】に身を任せ、
【勇気8/ダッシュ9】をもって『剣刃一閃』の間合いに駆け込むわ。
【2回攻撃10/鎧無視攻撃10】による一刀二斬を喰らうがいいの。
愚かなり黒翡曜。おまえに自然の理を教えてあげよう。
自然とは変わり続けて止まらぬものよ。
停滞を望む者は、ついには無為である。心得るがいいわ。
●変動せよと巫女は言う
宵の狭間を揺蕩い、海岸線へと。
夜色の海をその甲羅へ宿した子亀は、高く細い声で何かを訴えながら猟兵達の前へと舞い泳ぐ。星屑を砕いて塗した長い尾も、ゆるやかな軌跡を描いて漂う。
ただの人であれば、その光景を目にするだけで子亀へ『神』を見出したかもしれない。あるいは御伽噺や伝承にあるような、海の御使い。
「人の営みもまた天然。いつから自然の埒外に出たというの」
しかし彼女、秋津洲・瑞穂(狐の巫女・f06230)からすれば害悪以外の何物でもなかった。万人のために在りし巫女は、棘の上に毒を塗り付けたような苦い言葉を吐きつける。
「蟻塚や蜂の巣は美しき大自然。町の風情は醜い人工物。そうした区別は、人だけが特別だという優越感の裏返しよ」
皮肉めいた口振りで鞘に手をかけて、狐巫女の娘は深海色へと駆けだした。白いマフラーが平行に二筋、少女の後を追ってゆく。対する子亀はというと、じっと瑞穂が接近するのを見ていたがおもむろに手足を、首を甲羅の中へとしまい込もうとしていた。防御の態勢を取られる前に、駆けた少女は亀へ向かい跳んだ。
鞘からするりと滑り出す細身の刃が、一瞬にして二連。
――ぎぎぃぃぃぃぃん!
金属がぶつかり合う時にも似た鈍い音が二つの間を劈いた。あと何歩で事足りただろうか、宙に静止する子亀へ大きな傷を与えられぬまま、浅瀬に降りる。
しかし、決して無傷でもない。宵藍の甲羅が僅かに欠けて落ち、周囲に幾つもの亀裂を生んでいる。まだ足りない。必要なのは一刀でも二斬でもない。
「もっと、打ち込む必要があるみたいね」
一度亀から距離を取れば、ローファーが濡れることも構わずに波間に立ち、刀を天へと垂直に構え直す。唾鳴り、微動だにしない異形へと再び走ればもう二閃。完全防護の形を取ったその甲羅に、同じ個所を狙って斬撃を浴びせる。
直ぐには壊れることはないだろう、それほど己を過信してもいない。瑞穂は澱みなく、揺るがなく、刀を振るい続けた。
「それでも、秋津洲の巫女はおまえの欺瞞を許さないわ」
睨めつける紅桔梗のまなざしに、静かな怒りを湛えて。
成功
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ナナ・モーリオン
……もしかしたら、キミも、ボクたちと似たようなものだったのかもね。
命が生まれ出て、そして還り逝く、海……その、モリビト。
……けど、ダメだよ。
もう、キミの役目は終わったんだ。
ここはもう、今を生きる人たちの居場所。キミの居場所じゃない。
見ていられないかもしれないけどね。あとはもう、みんなに任せよう?
本当に淘汰しなきゃいけないのは、自然を乱すものじゃない。
『今』のありようを乱すものなんだ。
だから、還ろう。
骸の海に。
役目を全うした者が静かに眠る、海に。
ボク『たち』が、送ってあげるから。
(コードで狼憑依させて呪詛、呪詛耐性、怪力、野生の勘あたり使って肉薄して獣じみた俊敏さと力強さで狼爪をどーん)
三岐・未夜
もし元がどんなに純粋な存在でも、清いものでも、あれはオブリビオンだから。人に害を齎すものだから。
……此処で倒さなきゃ。
走り回ってちょっと疲れちゃった。儚火、乗せて。
儚火に乗って、【属性攻撃、破魔】で清らかな破魔の炎を纏って突っ込むよ。何とかなる、大丈夫。だって、僕は玄狐だからね。水は制して地は均してあげる!【2回攻撃、操縦、誘導弾】
【誘惑、催眠術、おびき寄せ、時間稼ぎ、フェイント】で蜃気楼みたいにゆらゆらと、敵の狙いを霞ませるよ。
……負けらんないから。
大丈夫、僕だってひとりでも頑張れるよ。
……オブリビオンになる前だったら、御伽噺みたいに背に乗ってみたかったなあ。竜宮城とか、あるのかな。
●制して均す黒きもの
瑞穂が斬りこむ、ほんの僅かに前。
ナナ・モーリオン(スケープドール的なモノ(本人談)・f05812)は子亀が幽玄に空中を泳ぐ姿を遠目に見つめていた。夜の入り口、星灯りの煌き始めた深縹色とそれを映した海の間。深海から引き揚げられたか、夜から零れ落ちたか、何方でもあるような深い色合いの甲羅と星色の尾。その姿に、今は眠りし大狼の姿を重ねていた。
(命が生まれ出て、そして還り逝く、海……その、モリビト)
命の巡りを見守るもの。その枠組みから外れながらも世界に組み込まれてしまった、ことわりたる存在のなれの果て。
核の奥を締め上げる感情に、どんな名前を与えればよかったのだろう。同情ではない、嫌悪でも崇拝でもない、人形少女は目を開けたまま心の海へと答えを探しに潜り落ちた。
同刻、先の戦いで走り疲れた三岐・未夜(かさぶた・f00134)も子亀の姿を見つめていた。吐息を漏らし、声には出さぬままその姿に絵本の一頁のような情景を見出す。
(……オブリビオンになる前だったら、御伽噺みたいに背に乗ってみたかったなあ)
子供の感性で思い浮かべた竜宮城。こんないきものが率いてくれる場所はまさに「絵にも描けない美しさ」だったのだろうか。刹那、未夜の心は見知らぬ海底へと引きこまれていた。
ふたりを現実へと呼び戻したのは、瑞穂の剣戟。鈍く鋭い音に眼前の敵を認識すれば、浸っていた思考を切り替える。
「もし元がどんなに純粋な存在でも、清いものでも、だめなんだ」
「そうだよ。ダメだよ。もう、キミの役目は終わったんだ。だから」
――僕・ボク『たち』が送ってあげる。
黒水晶の少女と、玄狐の少年。二人の思いが重なり、同時に呼び起こすは互いの輩、共に在りし獣たち。
「儚火(ハナビ)!」
未夜の声に応じて巨躯の黒狐が召喚される。白い尾先を揺らす狐がぺったりと砂浜へ屈めば、疲労の残る身体で背へと乗り込んだ。足を任せる代わりに周囲には焔、魔を祓い穿つ清らの鎧を纏い、夜の化身に向かい突進させた。
「我はモーリオン。眠るべき魂と共に在る者」
ナナもまた大狼へ呼び掛ける。けれど未夜のように姿かたちをそのままに現世へと顕現させるのではなく、魂のみを。器たる娘の肉体へと注ぎ込む。
「我はモーリオン。魂の眠りを乱す輩に、鉄槌を下す者!」
守護者の意思に、人形少女の肉体が爆ぜ跳ぶように砂浜を疾駆する。
二人の接近に瑞穂が子亀から離れれば、先に襲い掛かるはナナの細腕。握る妖刀は獣の殺気を放ち、不動の子亀へと牙を立てる。
が、かつて生物であったものの本能なのか、防御の体勢を解除して、ゆぅらり。力任せに振り下ろされた妖刀の一撃を僅かに逸らさせ、背負う珊瑚のいくつかを斬り落とさせた。獣が吼える。構えた一本きりの爪で子亀を再び狩らんと襲い掛かれば、向けられた背に一筋の薄い傷を残す。
「還ろう。骸の海に。役目を全うした者が静かに眠る、海に。もう、もういいんだよ。ここはもう、キミのい場所じゃないんだよ」
宿した狼に肉体を任せたまま、僅かに目覚めたナナの意思は唇だけを動かした。優しさと悲しさの織り交ざる声が無機質さを孕んで響く。しかし、眼前の宵藍には届かなかったのだろう。ナナの腕より、その手に握る憤怒の爪より高く泳ぎ出せば空中で弧を描いて、子亀は長い尾から星を零した。
一瞬、敵の姿を大狼が見失う。その隙をついて子亀は真っ直ぐと、流星の如くナナへと降り落ちる。
が、煌きの先へナナを捉えようとした視界に、埋め尽くされるのは炎のあざやかさ。未夜と黒狐の突進を子亀は寸前で回避したものの、彼らの通り過ぎた後――燃え盛る炎の通り道へと紛れてしまい、苦しげに鳴いた。
「大丈夫?」
黒狐の上から未夜が覗き込む。人見知りの激しい彼ではあるが、戦場においてはそうともいかず。意図せず助けてしまった人形少女へと声を掛けた。
気配の薄れかけた大狼を再び呼び起こしながらも、ナナは自身の三倍はある巨躯の狐の背へ向けて、恐らくはそこにあるはずの少年の眼を見て礼を言う。
「だ、だいじょうぶ。ありがとう……」
「ん、よかった。えっと、きみ。僕があいつの気を引くから、その隙に攻撃とか……できる?」
「うん、いける。今度はボクも……我が往く」
懸命に声と知恵を絞りだした未夜へ、ナナが答えようとした瞬間。幼い声色が唐突に変化し、眼差しの険しさが増す。そこにいるのはもうナナ・モーリオンではない、魂の眠る黒き森の主だ。
一瞬戸惑ったものの、戦意が失われたわけではないのであれば、寧ろ少女へ頼もしさすら感じながら未夜は同じものへと視線を移す。
炎の中から星を零し、甲羅からも夜の欠片を散らして宵藍が舞う。あれはオブリビオンだから。人に害を齎すものだからと、再び海へと逃げ込む子亀を夕暮れ時の目で追いかけた。
「……ちゃんと、此処で倒さなきゃね」
大成功
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ルビィ・リオネッタ
相棒にして恋人の紫音(f01807)と共闘
綺麗…町を襲わなければ、ずっと見てたかったのに
無用な苦しみは与えたくないわね、早めに片をつけましょ、シオン
・戦法
あの尾から出てくる光の粒で一部の攻撃が防がれてるのね
尾を斬り落としたら戦況が楽になるんじゃないかしら
シオンが海上に行くには工夫がいるわね
「シオン。足場を作るわ」
恋人の肩に乗り『操りの盾』で22個の妖精の盾を操る
水上に平行に、シオンの駆ける歩幅に浮かせるわ
彼の動きはよく分かってる
求めるなら階段状に海の上へ
索敵も任せて
黒翡曜が海に潜ったら【視力・暗視】で海面をよく見る
動きを【見切り】【先制攻撃】出来る位置へ導くわ
「行って、シオン!受け止めるわ!」
六道・紫音
相棒にして恋人のルビィ(f01944)と共闘
そうだな、俺達の力で早急に片をつけよう。
苦しむ間さえなく、一刀に全てを懸け斬り捨てる。
・戦法
ルビィを肩に乗せ、彼女に足場を作って貰いながら刀の間合いまで接近する。
「足場を頼む、縮地の走法…ルビィなら合わせられるさ」
盾を足場に『残像』を伴いながら『ダッシュ』で一足飛びに水上を駆ける《縮地》で移動。
索敵を任せ、ルビィから合図があったら攻勢へ。
「任せろ、ルビィ!」
『第六感』と『見切り』で敵を捉え、『鎧無視効果』で刃の通る箇所を見極めて狙い、『怪力』を発揮して膂力を増し『捨て身の一撃』により全神経を攻撃に集中した【壱之太刀《斬鋼》】で尾を一刀両断する。
●星落ちる
炎の波間より、夜の波間へ。
子亀は焼けた身体を冷やそうとしたのか、ざぶんと海へと潜っていった。星灯りと宵闇に染まり上げられた海面は、子亀の姿を完全に溶かして隠してしまう。身動きが取れないまま、再び海面へと出てくるのを待つことしかできない猟兵達。
が、じっと水面を見つめる面々のうち、ひとり。恋人の肩の上、ルビィ・リオネッタ(小さな暗殺蝶・f01944)は暗澹とした水面に黒翡曜の姿を見つける。その名に違わぬ紅玉の眸は、この暗がりでもくっきりと亀の輪郭を海中に捉えていた。
「どうだ、ルビィ」
「ゆったーり泳いでるわ、あの子。……はぁ、町を襲わなければ、ずっと見てたかったのに」
夜空に刷毛を浸けて、そのままべったりと塗りたくったような甲羅の色を、ルビィは薄明りの中で追い続けていた。両手で頬杖をつき、己の肩で愚痴る恋人の頬を六道・紫音(剣聖・f01807)は指先でつつく。
「美しかろうが敵は敵だ。見惚れないでいてくれよ」
「見惚れていたら妬いてくれる?」
「……そうだな、妬いてしまうな」
睦言のように紡がれる軽口に微笑んで、ルビィは再びじっと海を見つめた。波の動きの合間に輝く星の尾を追って、敵の動きを見逃さぬように観察を続け……
「……一気に沈んだ。浮かんでくるわ!行って、シオン!真っ直ぐよ!」
「ああ、うまく合わせてくれよ!」
水面に映された星空へ新たな星座を織るように、複製された妖精の盾が不規則な道を作り上げていく。目指すは――急上昇を始めた海中の影。
相棒の言葉に紫音は跳躍、小さな足場を転々と蹴り海の上を走った。ルビィの指示した一点、ただそこへ目掛けて全速力で駆け抜ける。男の歩幅と速度に合わせてルビィが足場を組み替えてゆけば、止まることなく。
子亀が大きく飛沫を上げて、海面へと跳ね上がるのとほぼ同時、紫音は間合いに踏み込んだ。
「苦しむ間さえなく、一刀に全てを懸け斬り捨てる」
妖精の組み上げた盾の階段を駆け上り、紫音は子亀の軌道よりも更に上へ。最後の一段を蹴り飛ばして、我が身も顧みず大上段から振り下ろした宝刀に剣気をも宿らせて、叩き込む。
――がぎぃぃぃぃん!!
捨て身の攻撃の対価として海面へと垂直に落下する手前、ルビィが絶妙のタイミングで寄せ集めた盾の密集地へ紫音が空中で辛うじて体勢を整え直し無事着地。再び散開させて道を作れば、爪先さえも濡らすことなく二人は海岸へと帰還した。
完全に回避することも防御の加護を得ることもできず、子亀はその背により深い傷を負う。が、それ以上に。
「狙い通りか」
「ええ、うまくいったみたいね!」
紫音が放った渾身の一撃――壱之太刀《斬鋼》は甲羅より下、あの美しく流れていた星色の尾をすっぱりと斬り落としていた。音も立てずに海へと還った流星に子亀自体は気付いていない。背の傷から更に夜の破片を落しながら海岸を目指して空を泳いでいた。
大成功
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緋翠・華乃音
……まあ、君が生まれてしまった事に罪は無いんだけどな。
……本当に、大人しく還ってはくれないものだろうか。
寄る辺の無い者が抱く孤独は良く理解出来る。
君は――独りで、寂しいのだろうか。
基本的な戦術は風鈴戦と同様。
"目"と"耳"と"直感"で敵の行動を見切り、予測を立て、先読み――そして狙撃。
常に一定の距離を保ち『気嵐の夢』の兆候を感じ取れば直ぐに後退。
『銀砂の星』を警戒し、基本的にユーベルコードは有効打を狙える一度しか使わない。
『地天の甲』発動時にはあまり攻撃をせず、リロードや狙撃位置の変更を行う。
――おいで、瑠璃の蝶たちよ。
せめて星の焔に灼かれて還れ。
カーニンヒェン・ボーゲン
まるで宙を切り取って海に浮かべたかのような…、
実に不可思議で、幻想的な光景にございますな。
しかし。星の灯を背負う彼の者が、人の営む炎を呑み込むというのであれば、このジジイはその眼前に、立たぬわけにはいかぬのですよ。
魔導書を手に持ち【UC:アザゼル】を喚びます。
警戒すべきはまず相殺と硬化です。硬化のうちは移動のみ行い、隙を窺います。
それ程の巨躯ならば海を背にしたとしても死角はあるはず。
必要ならば先に眼を潰すのもまた一手として、
夜闇に紛れれば多少姿は隠せましょうか「目立たない」「地形の利用」。
アザゼルを上空高くに昇らせ、星空に紛れて風の矢を降らせるように指示を。
願わくば、宵闇の眠りは安らかにあれ。
●眠りを祈る瑠璃と風
「おや、貴方は」
紫音がルビィと共に海上に浮かび上がる道を駆け出したちょうどその頃、カーニンヒェン・ボーゲン(或いは一介のジジイ・f05393)は銀髪の青年へと声を掛けていた。半瞬反応が遅れるも、その声が自分へ向けられたものと知れば緋翠・華乃音(prelude finale.・f03169)は黒翡曜の観察を一時中断し、人狼紳士を濃藍の瞳で見つめ返す。
「俺に何か?」
「貴方の事は遠目に気付いておりましたよ。先程の戦い、此方へも二発寄越してくれたでしょう?」
「……ああ」
先の兜風鈴戦、共に前線には立たなかった二人。各戦場を巡り、遠方からの射撃で密やかに敵の数を減らしていた華乃音の事をカーニンヒェンは見逃さなかった。出来損ないではありますが、執事ですので。などと朗らかに微笑む老紳士に、華乃音は視線を逸らした。戦闘中とはいえ彼からの視線に気付かなかった事への悔しさ少々もだが、十二分に距離を取っていたにもかかわらず自分を見つけられていたという事にどうにも慣れない感覚があった。
若葉の青さに古い記憶を重ねてみれば、何ともこそばゆい。老紳士は頬を緩めて華乃音へと追撃の賛辞を加えようとしたのだが、海上から響き渡った音へぴくりと耳を傾ける。
「どうやら彼の御仁達、上手く此方へ誘い出してくれたようですな」
「そうだな。……罪はなくとも、放置はできない。大人しく還ってもらわないと」
「ええ、早々に正しき海へとお帰りいただくとしましょう」
ご武運を、と会釈してカーニンヒェンは華乃音から離れていった。華乃音もまた子亀の観察を再開し、攻撃の隙を伺う。剣豪の手により尾が落とされ、防衛手段の減った今ならば仕留めることも容易くなろう。
だが、その姿は。
(まるで親を探す迷子だな)
甲羅の傷は痛々しく、清らと思えたその声も今はか細く。ふらりゆらりと宙を漂う姿に微かな哀切を感じた。もしかしたらこの異形は、独り世界に投げ出されただ寂しいだけなのではないだろうか。そんな錯覚を抱いてしまいたくなる。
(寄る辺の無い者が抱く孤独は良く理解出来る。だが、君は)
どんな思いを描こうと青年がしてやれることは一つだけ。十字を弾いて、狙撃銃を構えた。海岸上空へと躍り出た宵藍に前衛陣が容赦なく攻撃を仕掛けていく中を、注意深く、味方には当たらない刹那を狙って引き金を引いた。
華乃音の狙撃が子亀の脚を打ち抜いたのを確認すれば、カーニンヒェンは魔導書を取り出す。詠唱を素早く終えれば支度を整え、機を待ちながら敵の様子を見つめてみる。
宙を浮かべる深海色は罅割れ欠けてしまっても美しさは変わらず。寧ろ傷口から甲羅の欠片を零して泳ぐ姿は夜を撒いているかのようでもあった。
しかし万が一にも取り逃せば、この不可思議ないきものは彼らの背の先、人々の積み上げてきた文化の炎を消し尽くす。
――このジジイはその眼前に、立たぬわけにはいかぬのですよ。
「アザゼル、哀しき霊よ!」
瑞穂の刃を弾いた後、黒翡曜が防御の構えを解いた瞬間を見極めればその名を叫ぶ。遥か上空、南の空に紛れたそれは過去からの帰来者、かの子亀と同様忌むべきものでありながら人に使役されしもの。掲げた手に風を集わせ番えるように腕を引けば、解き放つ。
上空より迫る風の矢に宵藍は反応が遅れる。解いたばかりの加護を再び得るには間に合わず、射貫かれたのは背に飾られた珊瑚達。砕かれ、吹き散らかされれば中空で大きく身体が傾く。
(さあ、ジジイの役割はここまで。後は頼みますよ)
カーニンヒェンの作った最大の好機を、華乃音は逃さない。狙撃銃を片耳の十字へと収納すれば、誰の耳にも入れないように囁いた。
――おいで、瑠璃の蝶たちよ。
華乃音から溢れ出したそれらは眼前の敵と似た色をしていた。宵藍の子亀を屠るべき花と見定めれば、夜空を群れて覆う瑠璃の蝶は風の中を踊る。高波に呑まれるように蝶の群れの中へ消えていった子亀は、ひと際苦しそうに慟哭する。どんなに身を翻し暴れても振りほどけない蝶々たちは星の煌きを宿した鱗粉を撒き散らし、燃え上がらせていく。
夜が、瑠璃の星海に溺れていた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
多々羅・赤銅
はーん。硬いなーお前。いやあ、立派だ。お前使って刀打てねえかなあ……さぞや美しい刃になる。
ただ良き事をしようとしてんのに、殺されるとか寂しいよな。
こんなに綺麗な夜だから。
お前と逢えた事、連れていきてえな。なんて、
ま!お前からすりゃお断りでしかねーし!
やるか!
と言っても流石に硬ぇ、こりゃ焦ったらだめだだめだ。
折られぬように見切り残像で立ち回り。ただ一箇所を狙いすまし斬撃振るう。
大立ち回りのようでいて丁寧に。
鋼を槌で伸べるように。
牢を銀匙で掘るように。
ああ
お前ここが痛いか
どんな硬い岩も、脆弱な目を穿たれれば割れるように
それはそれは丁寧に
鎧無視の一閃、滑らかに
子亀を斬りて、ご覧入れる。
ジン・エラー
ほォ~~~亀じゃねェかマジで
綺麗な見た目と音してンのに、随分と偉そォ~~~~じゃねェの
去るのはお前だぜクソ亀
お前が海からの使いだろォ~~~が神からの使いだろォ~~~が
関係ねェなァ!!!
【オレの救い】で救うことにゃァ変わりねェ
後ろの灯り、光
アレ、消してェンだよな?そうだよなァ
ン~じゃまずは
オレの光を消してみな
消させやしねェーよ
消えねェーよ
亀如きに消せるもンかよ
●刃の先に、救いあれ
細波に壊れて零れた甲羅の欠片が浚われる。舌先の飴玉のように波の中へと転がされて、崩れ消えていく。
弱弱しく鳴いた黒翡曜が高度を落とし、丸く。甲羅の中にと柔らかな身を引き籠らせれば、最初は巨大に見えた影が幾分か小さくなってしまっていた。堅牢地神の加護により攻撃の大半が防がれている今、誰もが武器を下ろし機を待つことにした。
静寂。誰もが声を出すことさえも忘れた集中と緊張の最中。
「へ~~~~~い!まだやってるぅ?」
しんと静まっていた遅れてやって来た男の、鮮やかな夜藍が風に舞い上がった。
振り返ればそこに輝く桃と金。手をひらひらと振って、スキップするかのような軽さで戦場へと踏み込んできたのはひとりの聖者、泥色の肌のジン・エラー(救いあり・f08098)。背に負う救済の箱が砂浜へつけた足跡を根こそぎ消していく。
「まだやってるな、よぉっしよぉし。ほォ~~~亀じゃねェかマジで」
「なんだ、聞き覚えある声って思ったら」
幾度かの戦場での顔も知った相手に、多々羅・赤銅(ヒヒイロカネ・f01007)も肩に置いたままの刀を砂浜へと突き刺し手を振り返す。近づいてきたジンが傍に並べば、甲羅に籠ったままの子亀を親指で指差して。
「マジで亀だよ亀。それがさぁ、結構堅いんだよこいつ」
「ほォーん、マジぃ?でもあれじゃね?なんかクッソ弱ってね?」
「あと一息ってところで篭られてさぁ」
「ふ~ん」
まじまじと、隙だらけでありながら何人にも傷つけられないその姿をジンは見る。
本当ならば彼らが背負う村々の灯を消させぬためにと、誰も彼もがこの敵と戦っているはずなのだが、実際はご覧の有様だ。遅参したが故の現状ではあるが、どこか拍子抜けしてしまっていたのかもしれない。
浦島太郎になるつもりなどはないが、このままこの亀が籠り切りになって夜を明かすような事になっても困ったものだ。この場にいる誰も彼もが疲弊していくだけの状況、何一つ、面白くもない。仕方なしに頭を掻いた手を停滞の最中へ差し込んだ。
そう、この泥色の聖者は『全てを』救うものである。
「それじゃあオレがこのクソ亀を救ってやるよ」
男の手を光が包む。闇を生まれた仄灯りは月に似て、しかし温かさはなく。
「お前が海からの使いだろォ~~~が神からの使いだろォ~~~がよォ」
頑なに身を縮めこむ亀の、腹甲を撫でる。すべらかで僅かな熱を持った子亀の腹は生き物のそれと同じだ。生まれ出でた海の違い、ただそれだけがこの子亀を万物の脅威と成した。
命である以上、救いは平等に注がれ、罪は均しく濯がれる。だが今子亀がいるのはこの泥色の聖者の眼前だ。生まれた世界も、死にゆく場所も関係なく、独善的なまでに救いをばら撒く聖者が、行進する道の真ん中だ。
「関係ねェなァ!!!全部救うのがオレだ!!!」
あまりにも傲慢な慈悲が瞬きを強烈な光明へと変える。閃光弾にも似た目を灼くジンの救済の光は思わず仲間達でさえも目を細め、影を作り、防ぎ、背けた。
叩き込む掌打。子亀の腹に内部を揺らす強力な一撃が入れば、絹を裂くような子亀の悲鳴が海岸に響いた。
子亀の震えた身体が最期の力を振り絞る。壊れる甲羅も、落ちた珊瑚も、子亀の目にはもう映らない。眼前、救いを口にする男の光と。遠く、点り始めたその光だけを認識したことでようやっと子亀は『畏れられるもの』として覚醒した。
砂を撒き散らし、己の周囲に暴風の渦を呼び起こす。それは、あらゆる灯を吹き消す暴威だ。この世にあるあらゆる自然の中で唯一、滅ぼすことに特化した炎という驚異。そこから自然を守るための黒翡曜による救いの風だ。
吹き荒れる嵐が他の猟兵が風壁の外へと追いやった中、刹那に滑り込んだのは一振りを手に間合いを詰めた赤銅だ。ずっと待っていた。この亀が隙を見せるただ一時を。
何時如何なる時でも吹き荒れる嵐の中心は時さえも置き去りに、静穏。先程ジンが打ち込んだ掌打により、罅割れた腹甲の隙間から夜色の肉が見える。
「お前使って刀打てねえかなあって思ったんだよ……さぞや美しい刃になる」
先程の、強烈過ぎた救済に心を奪われてしまったそれには、眼前の女の事など見えていない。宵藍の子亀は嵐を呼び続け、鳴き続け、ただの天災へと変わり果てていた。
赤銅はその間にも零れて落ちる亀の甲羅を一欠片、砂に埋もれてしまう前に拾い上げる。掌の中で輝く、底知れぬ深海と星屑を呑む夜闇色。ポケットへとしまいこめば改めて両手で柄を握る。
「だから、この一太刀を過ぎて残ってたなら、お前の欠片残さず呉れよ」
女の瞳孔が開く。食い縛った歯が唇から覗いて、振り上げた刃と同じく光った。
振り下ろす。最早傷だらけの甲羅は鎧でもなく、ただ身に纏うのみ。
女の刃は亀裂の合間を通り抜け、丁寧に。鋼を槌で伸べるように。牢を銀匙で掘るように食い込む。切っ先に鋼の手応えとやおい肉の感触が伝わる。そして――
嵐が消え去り、そこには桃色の羅刹と波の音だけが残っていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 日常
『花火を楽しんで』
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POW : 花火を楽しむ。たーまやー
SPD : 出店や料理を楽しむ。
WIZ : 村人や友人との交流を楽しむ。
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●祭りの夜
男は村で猟兵達の帰りを待っていた。
戦闘には参加することの出来ない代わりにこの村で祭りの準備を手伝っていたようだ。いつの間にか身に着けている衣服も村人から渡された着物に変わっている。
「お疲れさん。祭りの支度も無事終わったぜ」
村には活気が満ちて、子供たちは既に大はしゃぎ。
玄関先に大鍋が置かれた家や、軒先に手製の小物を並べている家、各々が祭りのためにと用意した小さな店の間に提灯を並べて立てて、夜でも明るく人々を照らす。
そう、猟兵達の守り抜いた灯が、ここにある。
「あっちじゃトンボ玉とかアクセサリーに使えそうなもん売ってるし、あの家はいらない端切れで風呂敷や布の小物売ってるとさ。そこん家のガキは押し花作ったんだとよ。いい商売人になるぞありゃ」
上機嫌な男は猟兵達が戦っている間に、随分と村人たちと親しくなっていたようだ。説明している間にもあちこちから手伝いをしてほしいと声が掛けられている。
すぐ行く、と返したそのあとに思い出したように付け加えたのは花火の話。
「ああそうだ、花火の打ち上げだけどもう少し遅くなるみたいだから、しばらくは線香花火で我慢してくれ」
と、希望者に村人手製の線香花火を渡したら男は便所サンダルを引きずりながら呼ばれるままにあちらこちら。
ここから先はただ穏やかに。村の中で楽しんでも、また海岸へ戻ってもいい。
帰還は明朝。騒がしの夜は、守り抜いた者に守られた者、すべての人々のために捧げられた。
ナナ・モーリオン
(ぼけー、と海岸に佇んで海を眺めている)
……寂しかったのかな、あの子。
眠ってた骸の海から、こんな所に染み出してきて。
誰かに、構ってほしかったのかな。
……キミは、どう思う?
(空を仰ぐ。返事は無い。解釈はMSにお任せ)
……そっか。
……ごめんね、乱暴しちゃって。
ちゃんと、還れた?キミの居場所に。
こっちの事は、こっちの人に任せれば大丈夫だから。
だから……おやすみなさい。
安心して、おやすみなさい。
静かで、安らかな、骸の海の中で。
●静かの海は夜の中
水面は凪いで、船はなく。
夜はさざなみ、あかりなく。
砂を浚って暗闇が寄せて引いてを繰り返し、
揺り籠に誘うように心地よく、うたかたの世に命を運ぶ。
ああ、なんて美しいのだろうか。
●語らいの夜
搗色の海は満天と、先程までの戦闘の痕さえも呑み込んで穏やかに。祭りの喧騒はこの海までは届かず、静寂。ここにあるのはただ他の音さえも包み込む潮騒と風の冷たさだけだ。
終息の砂浜に、ナナ・モーリオン(眠れる森の代理人形・f05812)はいた。スカートに砂がつくのも気にせず座りぼんやりと、細波と宵闇に浸る世界に、ただひとり。
――寂しかったのかな、あの子。
思い浮かべたのは、自分達が屠った天災の姿。最後の最後でその片鱗を見せた宵藍の子亀は、確かに人々の鏡至りえる存在だった。が、死霊術士の眼にはそれだけには見えなかったようで。
「誰かに、構ってほしかったのかな」
と、ぽつり。
死せる彼らは、終わってしまったもの達は、骸の海で永劫の安寧を約束される。彼らが世界の外にある事でこの世にあるもの達は明日を知る事ができるのだ。それは極楽へ昇る事よりも、地獄へ堕ちる事よりもやさしい救いであるはずなのに。
突如、世界の中へと染み出してしまった。きっとあの子亀の親だって、兄弟だって、骸の海で共に揺蕩っていたのかもしれない。そんな中たったひとつきり、この世界へと放り込まれてしまったあの子亀はどんな気持ちだったのだろうか。
「キミは、どう思う?」
天を仰ぎ、満天へと問い掛けた。語り掛ける先には何もない。ただ星々は瞬き、小さく、激しく、その命と時を消費していく。
されどその煌きに散り逝ったひとつの命を重ねれば、祈らずにはいられなくて。酷く痛めつけてしまったことを小さく悔いながら、在るべき場所へと還れたことを信じた。
――こっちの事は、こっちの人に任せれば大丈夫だから。
――だから……おやすみなさい。
――安心して、おやすみなさい。
――静かで、安らかな、骸の海の中で。
魂眠る場所の代理人の小さな祈りが、やさしい願いが、波の間に消えていった。
……はずだった。
「……あれ?」
ふと、人の声に振り返れば、どうやら村の男衆たちらしき人影達が砂浜にいろいろと品を運び込んできていた。見慣れない大筒に少女の頭よりも大きな玉の入った箱、大工らしき男は小さな社を即興で作り、やれ急げそれ急げと罵声交じりに大仕事。
突然の事にナナが大きな目を更に丸く見開いて唖然としていると、男の一人が見慣れない服の童女の姿を見つけた。
「お、なんだいお嬢ちゃん、一人でこんなとこいたら危ないぞ」
「え、っと。あなたたちは?」
「俺たちゃ花火師さ!この一年の終わりを祝って、お天道様に負けねぇくらいどでかいのを一発空にあげるんでぃ」
一年の終わり?とナナが不思議そうに見つめ返せば、村や町ではあまり見ない紫水晶の瞳に吸い込まれかけた男の一人が照れながらも答えた。
「ああ、ここいらじゃ冬の終わりを二度目の大晦日ってことにしてるのさ。春が来る前にどどーんとさ。でないと水天様が寂しがっちまう」
「すいてん、さま?」
「そうさ、この海にはなぁ、それは美しい神様が住んでるんだ。ああそうだ、うちのおっかぁが語るの上手いんだよ。村に行って聞いてきな。ついでに飯もたらふく食ってくるといいさ!今日は祭りなんだからな!」
大きな声で笑って、男は作業に戻る。猟兵達の戦闘により遅れた作業を一気に終わらせるべく、怒号も飛び交う大騒ぎである。ナナは遠目に気付いた。即席の社に飾られていたのは、小さな亀の姿をした石像。運び込まれる前に丁寧に磨かれたのか、甲羅は黒曜石の艶やかさ。供え物を前に満足そうに首を天へと向けていた。
「……寂しくは、ないのかもね」
ナナは誰にも気づかれないように、小さくつぶやいて、笑った。
大成功
🔵🔵🔵
ルビィ・リオネッタ
相棒にして恋人の紫音(f01807)とデートするわ
村に被害は無いようね
シオンの肩に乗って祭りを見ながら歩くわ
(アタシが小さくなかったら手を繋いだり寄り添ったりできるのに)
「なっ、何言ってるのよ(真っ赤)」
布を売る店に目を留める
思いついた事があるの
今日の夜空みたいな色や柄の布は無いかしら…?
シオンから素敵な言葉を貰って、ほんのり切ない今日の夜をとっておきたいの
近い物を探してシオンの首にマフラーみたいに巻く
最初はしっかり、後はふわっと
出来上がったらその中に入りシオンに寄り添いたい
「(布に顔を半分埋め)そうかもしれないわね」
そろそろ花火の時間かしら
「ふふ…どこまでも真面目よね、シオンは。アタシもよ」
六道・紫音
相棒にして恋人のルビィ(f01944)とデートする
ルビィを肩に乗せて祭りを見て回ろう。
「ふふ、俺から離れるなよ?」
種族差を気にしているであろうルビィを指で撫で、微笑んで。
「触れ合う事さえ出来なくても、君への気持ちは止まらない。
君が水面に映る蜃気楼だったとしたら、俺は永遠に君を見つめているよ」
布を扱う店に目を止めたルビィを見て、何か買おうと勧める。
布を買ってマフラーのようにルビィが俺に巻いたら、ルビィをその中に入れて寄り添おう。
「こうやって寄り添えるのは、俺達だけの特権だろ?」
そのまま花火を2人で見上げて。
「花火は夜空を照らす煌めきなら、君は俺の人生を照らす輝きだよ…愛してる、ルビィ」
●確認の夜
一方、村の中はというと、猟兵達以外にも近隣の村々からも人が集まり、密度を増していた。村人達も客を呼び込もうとあちらこちらで声を出し一層賑やか、心地よい喧しさが耳を撫でていく。
「よかった、村には被害がなかったのね」
「ふふ、嬉しい気持ちはわかるが俺から離れるなよ?」
「わかってるわよ」
その賑わいの中に一組、ゆったりと出店を巡る男女の姿があった。傍目には男一人ではあるが、その肩で安らぐルビーの煌きはまごうことなき男の恋人。六道・紫音(剣聖・f01807)とルビィ・リオネッタ(小さな暗殺蝶・f01944)。海岸での戦いを切り抜けた、村人たちは知らない英雄たちである。
戦いの事は知られていないものの、村人たちは外からやって来た彼らにも親しみを持って話しかけてくれる。紫音もすれ違いざまに子供たちに声を掛けてみたり、店先から呼び込む売り子へ手を振り返してみては村人との交流を。が、妖精の目には別のものが映っていた。
(アタシが小さくなかったら手を繋いだり寄り添ったりできるのに)
手を振り返していた先の、若い娘の姿。妖精の自分とは異なる、恋人と並んで遜色ない身長。生まれ持った我が身を呪うというほどではないものの、こういった状況では意識せずにいられなくなる。もし。その言葉へ理想を描きながら現実、己の抱く感情から目を背けたくなった。
暗く、紅玉が揺らぐ。そんな視界を埋める大きな指。
「どうしたルビィ」
「あっ」
頬を撫でる武骨なぬくもりが、紫音の無意識の気遣いが温かくて、掌を添えれば
「なんでもないわ」
笑顔と強がり。ルビィは彼の隣にいるに相応しく、仄かな劣等感を深層に隠した。
しかし相棒は、恋人は、愛おしい人の悩みなどとっくに気付いている。村人へと向けるそれよりも柔らかにルビィへと微笑めば、一層甘い愛を語らう。
「触れ合う事さえ出来なくても、君への気持ちは止まらない」
「なっ、何言ってるのよ!」
「君が水面に映る蜃気楼だったとしたら、俺は永遠に君を見つめているよ」
間近で囁かれる言葉にルビィが顔まで赤く、熱くして黙り込む。愛らしい恋人の姿にくくっと喉を鳴らすように笑えば、人の流れの邪魔にならぬように移動し立ち止まる。恋人からの視線を感じて照れ隠しに逸らした先、ルビィは店先のそれを見つけた。
「ねえシオン」
「ん?どうした」
「あそこの店、ちょっと行ってみない?」
指差した先の家、いくつもの布が並べられ吊り下げられた店がある。色鮮やかながらどこか優しげな、植物染めの布地たちが殺風景な台の上でに淡い虹を作っている。
紫音の肩から飛び立ち、軒先へ。
売り子をしているのは藍色の着物の老婆だ。皺を刻んだ顔に緩い笑みを浮かべて妖精へ「いらっしゃいませぇ」と間延びした挨拶をかける。人を避けながら追い付いた紫音がルビィと同じように品を覗き込めば、財布の中身が幾らであったか脳内で並べだした。
「どれが欲しいんだ?」
「今日の夜空みたいな色や柄の布……かしら」
「いいな、今日の思い出にという事か」
「ま、まあね」
「あらあら、可愛いご夫婦さんだこと」
紫音に囁かれた言葉の甘さを忘れないように、この夜の切なさを胸に残すために。そうとは言えないまま言葉を濁したルビィの前、老婆がにこやかに二人へと声を掛けた。二人が一斉に顔を上げた。互いの顔を見合わせ、再び背ける。老婆はどこか懐かしさと初々しさを感じながら空を見上げて、弱った視力と昔の記憶を重ね合わせた。
「今日は水天様のお祭りだからねぇ。これとかどぉ?」
「まあ!」
差し出されたのは老婆の纏う着物よりもなお濃く青い濃藍に白字を交互に織り込んだ布だ。口伝されるこの土地の神「水天様」の色を想定して織られたという木綿の布地は、帯にしては短く、襷にしては長く。襟巻にはいいんじゃあないかしら、などとのんびり老婆は語る。
受け取ったルビィが試しに紫音の周囲を飛びながら、くるりとひと巻き。少しばかり短いがマフラー代わりに丁度いい。お買い上げを決めたなら財布を取り出すのは紫音の方。少し多めに渡して釣りはいらないと告げれば慌てる老婆からそっと離れていった。
買ったばかりの布地をルビィは改めて紫音の首に巻き直した。最初はしっかり解けないように、あとはふんわり空気が籠るように。冬の夜風はまだ冷たいから、なんて呼び込まれれば最後の仕上げに小さな妖精の身体をすっぽりと収めて。
「こうやって寄り添えるのは、俺達だけの特権だろ?」
「……そうかも、しれないわね」
花恥じらう乙女の頬は、恋人の頬に寄せられ温もりを分かちあう。
花火の時間まで、もう少しこのまま。
大成功
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伊能・為虎
琳兄(f03493)と一緒に出店見に行くよ
灯人さんが話していた、トンボ玉売っているところまで行くね
※関係
琳兄は僕に仕事と住む部屋までくれた雇主さん
お喋りも楽しいお兄さん的存在
色々あるね、あれも可愛いなぁ……あっ、このお花の模様のも……
あ、あれはなんだか飴みたいな色していて可愛いなぁ
上機嫌に耳をゆらゆら、
トンボ玉の様々な模様に目輝かせて見てまわる
琳兄が一個くらいなら奢るって話してくれたし、どーれにしようかなー
もう迷って迷って。好きな色は白とか桃とかなんだけど……(手のひらにいくつか載せて、むむむ)
って、あわわちょっと増えて、あっでも可愛……もー余計決められないよー!
(いたずらに対し嬉しい抗議)
飾磨・霜琳
イコ助(f01479)と一緒にトンボ玉を見に行くぜ
村守るために頑張ったんだろ、ご褒美と誘ってくれたお礼に
トンボ玉一個くらいなら奢ってやるかね
※関係
イコは俺の飾磨屋(簪屋)唯一の店員だ
「可愛い」を見つける目には一目置いてる
頼もしくてかわいい自慢の子だ
簪職人としちゃァ、買って帰って素材にしたり
覚えて帰って自分で作ってみたりしたい、あいであの宝庫だな
提灯に照らされてきらきらする硝子を眺めて次の作品に思い馳せる
迷ってんのかいイコ助、お前さん色の好みは? こんなのもあったぜ
迷ってるところに候補を増やして遊びつつ
楽しそうな様子を見て孫を見る爺の顔をしてるかもしれねぇな
●勉強の夜
「琳兄ぃー!こっちこっち!はぁやぁくぅー!」
「そう急くなってイコ助。店ぁ逃げはしないぜ」
戦闘で負った傷や疲労もなんのその、伊能・為虎(天翼・f01479)は元気に飛び跳ねて人混みの中を走っていく。そのあとをゆっくりと追うのは黒髪を結い上げた青年――為虎の勤める簪屋の店主、飾磨・霜琳(飾磨屋・f03493)だ。
兜風鈴退治を懸命に終えたその後、村で待ち合わせした二人は、話に聞いたトンボ玉の店を探して人通りの激しくなった村の小道を歩いていた。
「誘ってくれたお礼にトンボ玉一個くらいなら奢ってやるかね」
「本当!ほんとにいいの!!」
「応さ、村守るために頑張ったんだろ?ご褒美だご褒美」
霜琳がわしゃしゃしゃしゃと為虎の頭を撫でれば、耳がせわしなく揺れる。やったー!と駆けていく為虎に代わり、灯人から店の場所を聞いた霜琳が後ろから声を掛けつつ道を案内し現在に至る。
途中、炊き立て白米の塩にぎりや具沢山の味噌鍋という誘惑にも負けず真っ直ぐと。着いた店には既に何人もの人が並べられた硝子玉を品定めしていた。
細身な身体を上手く利用して最前列までやってくれば、為虎はしゃがみ込んでそれらを見つめる。田舎の祭りと侮ることなかれ。家の前には彩り豊かなトンボ玉が所狭しと詰め込まれた底の浅い箱が三つ四つと並べられている。
「すーごぉい!こんなにたくさんある!」
「いらっしゃいませー!どうぞ、爺様たちったら今日のために張り切って作り過ぎちゃったのよ!」
聞けば隣村に嫁いだ姉の旦那と、彼女の爺様父様が硝子の職人なのだという。普段なら良品は町まで売りに行くばかりなのだが、この祭りの時は別。気合を入れて作って作って作りまくったところ、全員売り子に立てないほどへとへとに疲れて寝込んでしまったのだという。
後からのんびり追い付いた霜琳も箱の中を覗き込む。まさかこれほどの数があると思ってもいなかったのか、感嘆の声が漏れ出た。
「いやァ、眼福眼福。こいつはすごいねェ。簪職人としちゃァ、買って帰って素材にしたり覚えて帰って自分で作ってみたりしたいもんだ」
「まあ!お兄さん簪屋さんなの?素敵だわ!」
田舎村の娘にとっては憧れなのだろう。せっかくだから勉強しましょう!と少しばかり安い値段を提示する。これには霜琳も営業ではない笑顔でにっこり。
商売人たちの話は馬耳ならぬ狼耳をもすり抜けて、すっかり品定めモードへと突入しているのは為虎。箱前にしゃがみ込んでひとつひとつ、気になったものを摘まみ上げては提灯の明かりに透かして見る。
(あ、これ飴玉みたいだなぁ)
薄桃色に渦巻くような白の帯、いちごと牛乳を混ぜて固めたような一粒をころんと反対の掌へ。
(こっちはお花の模様!)
次は緑色の玉。白い花模様が可愛くてついつい頬も緩んでしまう。これも考え中に、と片方の手へ。ほかにもいくつか奢ってもらう候補を見つけていく。あの海のような青い玉、夕焼けの太陽みたいな玉、白地に青の水玉文様なんてさわやかかなぁとさらに追加。
次第に増えていった連れ帰り候補を転がしてはトンボ玉を吟味する為虎。大きな狼の耳がぴこぴこと揺れては、声は出さずに目を輝かせる。しかし一つだけともなるとどうにも迷いが出てしまう。眉根を寄せて真剣に悩む横顔をひょいと覗き込んでみれば、霜琳は為虎に問うてみた。
「迷ってんのかいイコ助、お前さん色の好みは?」
「好きな色?えーっと、白とか桃とかなんだけど……」
悩みながらも声を掛けられれば笑顔で。迷いからやや尻すぼみな声を聴いて、霜琳は為虎が答えた色を箱の中から探し出す。
「それならこいつはどうだい?こんなのもあったぜ」
「あっ、桃色ならこれも可愛いですよ!」
「お、姉さんいいねぇ、これは本物かい?」
「そうなんです!うちの爺様自慢の作品なんです!」
「ほぅれイコ助、これも加えてやんな」
「あわっ、あわわわわわ……」
売り子の娘と霜琳によってあれよあれよと増やされるトンボ玉。掌にころころと山が出来上がっていくのを困った顔で見つめるも、やはり目利きの腕は店主の方がまだ上のようで。
煙が棚引くように白が流れる赤の玉や、透明に青の流水が渦巻く中へぽつぽつと桜色が散りばめられた物、更には「爺様自慢」の薄桃の中に本物の白の花が閉じ込められた玉、他にも他にも……慌てふためく間にも為虎の好みに合致するものがころんころんと追加されていく。
「もー余計決められないよー!」
嬉しい悲鳴が、店先にこだまする。困り顔すら愛らしいのか、霜琳は好々爺の眼差しで為虎へとっておきの一粒を渡した。
どれを連れ帰ったかは、二人と売り子の娘だけが知っている。
大成功
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カーニンヒェン・ボーゲン
このジジイは、降りかかる脅威を退ける為にと参りましたので、
目的としては達成致しました。
…ですが、己らが導き出した解の先を見届けるのも、また責の一つですか。
一夜限りとはいえ、灯りの元に集う人々を見届け、花火を楽しみましょう。
浅沼どの(f00902)より線香花火を受け取り、村人たちと親しげに話す様子を微笑ましく見守ります。
花火の打ち上がるのを待ちつつ、手元の小さな火の欠片に村の姿を重ねます。
あの過去の守亀は、この火を嫌って現れたのでしょうか。
火薬は大きくなり過ぎれば文字通り争いの火種になる。
大きな火は確かに大きな犠牲を生みましょう。しかし、
火も人も紛う事なく、大自然の中の小さな輝きの一つなのです。
緋翠・華乃音
(瑠璃の蝶と戯れながら、銀毛の猫は海岸を逍遙する)
……仕事も終わった事だし帰ろうか。
……いや、何処に帰れば良いのか分からない迷子は俺の方だったな。
こんな戦いを続けて一体何の意味があるのだろうか。
誰に望まれた訳でも、誰かが望んだ訳でも無いのに……まるで呪いみたいだな。
……まあ、良いか。
長くない命、意味も無く消費した所で誰に文句を言われる訳でもない。
●物思いの夜
海岸、花火の準備が整いだした一角から遠く。
瑠璃の蝶を指先に、緋翠・華乃音(prelude finale.・f03169)はひとり静寂の中にいた。猫の気紛れと同じく、ただ足の赴く儘にふらふらと歩いていたらいつの間にか随分と村から離れていた。
立ち止まり、遠くなった灯りを見つめながら青年は子亀の事を思い出す。別に、恨みがあったわけでもなく、ただ倒さねばならなかったから倒しただけの存在。この世にあるだけで、未来を奪い去る異形。誰に望まれた訳でも、誰かが望んだ訳でも無いのに彼らを倒し続ける自分。
(こんな戦いを続けて一体何の意味があるのだろうか)
ふ、と蝶が指先を離れていく。灯りのある村ではなく満天を映した海へ向かいひらりひらりと飛んでいくと、夜と闇の堺に吸い込まれていった。あの蝶のように、夜へと還れたら自分は幸福なのだろうか。同じ瑠璃色の瞳に、憂いと一握りの諦めが宿る。
そこへ、ふらりとやって来た男がいた。
「おや、こんなところでまた御会いするとは」
奇遇ですなぁと温恭な雰囲気で華乃音に話しかけてきたのは先の人狼紳士、カーニンヒェン・ボーゲン(或いは一介のジジイ・f05393)。
先程までは村の中で人々の愉しげな様子や、花火の支度に忙しい男衆達を邪魔しない程度に観察していたのだが、ふと、遠ざかる人影が気になり後を追って来たところだった。
会釈と共に帽子を軽く上げ、青年とはまた異なる星色の髪を宵藍の中に煌かせる。
「花火待ちですか?」
「そういうわけでもないんだが……帰るのは明日の朝らしいからな。どっちみち手持無沙汰は変わらないか」
「ああ、貴方も。ジジイも目的は果たしましたので、本当なら帰るだけだったのですが」
己らが導き出した解の先を見届けるのもまた責の一つと、人の群れの中へ歩を進めていたのだという。村人たちとの交流はどうやら満足のいくものだったようで、口元を緩めて青年に先程まで見ていたものを話してくれた。
大したことのない世間話だ、内容だけなら華乃音の胸に響くものはひとつとしてない。けれどどうにも、良すぎる耳が老人の話を脳へと届けてしまう。カーニンヒェンの愉しげな語り口が、その光景を脳裏に再現させてしまう。
無性に、寂しくなった。
自分の帰る場所などよくわかっていない。どこへ向かえばいいかもわからない。こうして救われて、誰かに嬉しそうに語られるような人生を、己は歩んでいけるだろうか。
どこまでも空虚で、そこを抜けていく風が、無性に寂しい。
ふいに視線を逸らした。そんな華乃音の様子に気付いていながら、話し続けていた老紳士はやんわりと声掛ける。
「はははっ、老い耄れの話はつまらなかったでしょうか」
「……そうじゃない、そうじゃないんだ」
「おや、では何か思うところが?」
「……何でもない」
逸らしたままの視線が波打ち際を見つめる。浚われる砂は何処まで流されていくことだろう。この砂のように自分の命が浚われていくのは、何時。
苦しげな青年に、お節介とは思いますが、と前置きをしてからカーニンヒェンは眼前の青年よりも数十年ほど遠い道の先から口を開く。
「若いうちは色々と思い悩むところも御座いましょう。それでもその悩みが、積み重ねた日々が、いずれ貴方様の道を照らすことでしょう」
「道?」
「ええ。この先の短いジジイにも、道を照らす灯火が御座います。例えば、今しがたお話しした村の人々だとか、昔別れた恋人だとか、親兄弟、様々な人々と過ごしてきた時間。そこで得てきた多くが、命の道を照らす灯火となりえるのです」
一呼吸。
「今はわからぬことも多いでしょう。しかし、今を以てして鬩ぎ合う過去と未来の混沌の先。貴方様が、このジジイが、誰ぞの灯火となりえているかもしれない事、心の片隅にでも置いてくだされ」
胸に手を置き、華乃音へと微笑んだ。そして、その動作により人狼紳士はふと思い出したように懐を探る。湿気ていないでしょうか、と取り出したのは白い包み紙。中には数本、村に帰還した際に渡された線香花火が入っていた。
「そうだ、浅沼殿からいただいた線香花火、おひとついかがでしょうか」
「あぁ……そういえば」
そんなものもあったな、と華乃音は反芻しきれていない老紳士の言葉を一度の売りの書庫へと押し込めた。道の中に灯火。そんな言葉を聞いたせいか、なんとなくで花火に手を伸ばす。
グリモア猟兵から預かったマッチ箱をカーニンヒェンが取り出せば、一本マッチを擦って炎を灯した。小さな灯りが二人の間の暗闇にぽうっと浮かび上がれば、風に消される前に手作り花火の先端へ。
風除け代わりにしゃがみ込み、マッチの炎を翳して間もなく、ぱちりと火花がはじけだした。UDCアースで売られているものよりももっとか細く、拙い光の花が白い砂浜に花弁を落していく。その炎の合間、傷つき甲羅の欠片を零しながら漂った宵藍の子亀の姿を思い出していた。
あの子亀は、火を嫌っているようだった。この花火の先端に塗りこまれたそれも、大きくなり過ぎれば文字通り争いの火種となりかねない。生きるものを容赦なく焼き滅ぼすそれらは水面の護手からすれば恐ろしい脅威であったのかもしれない。
それでも。
「大きな火は確かに大きな犠牲を生みましょう。しかし、火も人も紛う事なく、大自然の中の小さな輝きの一つ」
人狼紳士は語る。彼らの畏れたそれもまた、この世に在りし自然の一つであるのだと。戦場でそれを告げた娘の姿も思い出しながら、ただ、静かに。
「……そして、人は、光ある方へと惹かれていくものです」
眼前の青年のあやうさに見て見ぬふりをしていられず、お節介と言葉を重ねていく。救いを差し伸べているわけでもなく、何かを求めているわけでもなく、ただ、そこに。長い道を歩いてきた一人の男として、己とは異なる道を歩む青年へ未来のいくつかを提示した。
ぱちぱちと散っていく火花を見つめながら、華乃音は呟く。
「光、ね」
燃え尽き、ぽとりと落ちた赤の種が、砂浜にひとつ埋もれていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
多々羅・赤銅
灯人灯人。今暇?いや忙しいな?1分私に貸して。うそ、3分かも。
トンボ玉見てたけど目移りしてさー。記念にピアスにすっかなーと思うんだけど、どれか見繕ってくんね?あんま深く考えねーでぱっと選んでくれりゃそれが良い。
やっほーさんきゅーありがとさん!あ、これお礼。
(透き通る水色、白、少量の赤から成るトリコロールのトンボ玉。水流かあるいは熱気の流れを切り取ったかのようにガラスの中でうねっている)
奢り。似合うと思ったの。飾りでもお守りでも好きなように使って。
あ、未夜たしか来てたよな?どっかで見た?いやあの子にも見繕ったんだけどさー。ちょっと砂浜で手間取ってたら見失って……ああこの甲羅?
へっ。後のお楽しみ。
三岐・未夜
とも!とも!勝った!
当たり前のことを伝えに、真っ直ぐにグリモア猟兵の元に駆けて行く。
子供じみたVサイン、ぱたぱたぶんぶん振られる尻尾。
視てしまった悲劇なんてその通りに起こしてやるものかと思って、珍しくひとりで依頼に飛び込んだから。
無事に終えたことが、嬉しい。
きゅー、とお腹が切なく鳴る小さな音。ぴこぴこしていた狐耳が、ぺたんと下がった。
……とも、おなかすいた。あと海辺だから寒かった……。
あったかいものが食べたいと我儘に強請って、ぐいぐいと灯人の服の袖を引く。
断られるなんて思ってない。
はらへり狐がしょぼくれて、あったかいもの探し。
線香花火も打ち上げ花火も気になるけれど、目下、空腹だった。
ジン・エラー
おうクソガキども、そりゃァなンだ
ほォ~~~~~い~~ィモン作ってンじゃン
灯人ォ~~~これ買おうぜ
えェ??お前ガキのモン買ってやらねェ~~~の?
そりゃァ~~~非情じゃねェ~~~~かい??
なァ???
灯人お前火ィ出せるだろ
オレの光と合わせてなンか出来そうじゃね??
あ?なンだよ
別に嫌ならオレ一人で海でも照らしてくるだけだぜ
花火の前の余興ってヤツだ
それかまァ……お前と他のヤツ交えて遊んでもいいなァ
アヒハハハハ!!!
●宴の夜
「とも!!ともー!!!!」
黒狐の襲撃を背中で受け止めた灯人は、うげぇと小さく呻いた。普段なら竜の男の凶悪面は五割増しになっている事態だが、気を許し合っているからこそこの程度の反応で済んでいる。
跳び付いてまずは満足したのか、三岐・未夜(かさぶた・f00134)は尻尾をぶんぶんと振りながらぴっしりとVサイン。
「とも!とも!勝った!」
「わーったわーった、よくやったな」
「ふへへへへへへへ」
その言葉から何を欲しているかを悟れば、灯人は未夜の頭をこれでもかと撫でまわした。尻尾から聞こえてくる音がぶぶぶぶぶぶぶぶぶと結構な速度を示している。
しかし、狐の少年が望むものはこれだけではなく。着物の裾を掴めばぐいぐいと引っ張って催促……しようとしたところで、くきゅるるる、と腹の虫が鳴き出す。
「……とも、おなかすいた。あと海辺だから寒かった……」
「あー……そうか、ならぬくいのがいいか」
へっとり伏せられた耳を横目に、摘ままれた裾を振りほどきもせず歩き出して四件ほど先。やってきたのは村の料理自慢達が作った味噌鍋の店。ほんの数分前まで大行列が出来上がっていたが丁度全員捌き終わったところのようで、大鍋をかき混ぜる壮年の男性がこちらに懐っこい笑顔を向けてきた。
「らっしゃい!……お、兄ちゃんなんだい?腹ぁへったんかい?」
「おう。俺のはいいからこいつに一杯頼むわ」
「えっ!!?」
試食は散々したから食べなくてもいいかと一人分を注文すれば、隣から分かり易い落胆の声が上がる。ちらりと横目で見た先で、一緒に食べようの眼差しを長い前髪越しに向けてくる未夜。
「……やっぱふたつ。俺の少なめで」
「あいよぉ!」
押し負けた男が指を一本追加すれば、壮年の男性が椀を二つ用意した。否、元から二つ用意していた。ひとつは並々具もたくさん、もう一つは少量芋ひとつ。一度二つとも灯人が受け取れば、中身を見た後に少し箸を動かし未夜へと手渡す。
はらぺこ黒狐は白く湯気立つ椀に再び尻尾を振り回せば、元気に「いただきます!」と受け取った。追加で渡された箸で流し込むように具も汁も纏めて啜れば、ご満悦。
「はふ、ふ。んー……おいし」
「当たり前だ。味付け俺だぞ」
「道理でおいしいわけだ」
村人達と味付けについてを熱く議論していたのも最早遠い話。さっくり食べ終わった灯人は椀を男へ返して未夜が食べ終わるのを待つ。余談だが、未夜の椀からえのきというえのきを取り除いていたことは当人だけの秘密だ。
軒先に並ぶ箱に腰掛けて、はふはふと食べ進める姿を微笑ましくも無表情に見守っていると、
「ぃやァ~~~~~っほォォォォォう!灯人元気ィ?」
と、第二の襲撃者が背後を襲う。流石にこれは回避した灯人だが、連れねェなァとにんまり細められた目元で見つめてくる男に悔しさなど微塵となかった。
吃驚して咽る未夜を余所に、灯人を見上げる金と桃色の正体はジン・エラー(救いあり・f08098)、顔見知りではあるが如何せん会話は少なかったためか、純粋に未夜への態度が甘すぎたか、温度差はかなりのものだ。
「ジンか。……どうした、つかなんで人の周りぐるぐる回ってんだよ」
「や~~~せっかくだから祭り楽しもうと思ってさァ、村のあちこちうろついてたンだけどいい~~~店見つけてよ!ほら行こうぜ行こうぜェ!」
「のわっ!!?」
容赦なく腕を引っ掴めば、振り払われるよりも早く引っ張られて連れていかれる。実質拉致だ。食べ途中の未夜が「と、ともー!」と声を上げるもあっという間に引き離される。
そうして引っ張られること二軒と半分先、家と家の間で押し花を広げている子供たちの元までやって来た。
「おうクソガキども!お客サマ追加してきたぜェ!!」
「あっ、にーちゃん!おかえりー!」
「なになに?おきゃくさま?」
歳はそう離れていない姉弟が、泥色の聖者の再来に目を輝かせる。ようやっと振りほどけた腕を払いながら灯人が覗き込めば、一瞬子供たちの表情が強張る。が、躊躇なくその顔面を引っ掴むジン。
「ハイハイ怖い顔はやめましょーね」
「んがっ!!てか誰のせいでこうなってるか」
「まー気にすンなって。それよりさァ灯人ォ~~~これ買おうぜ」
ジンの指差す先、並ぶ押し花の種類は偏っているものの、子供の店にしてはなかなかの品揃えだ。栞として使えそうなものが多く、中には花を組み合わせて絵を描くように並べたものまである。他の世界に持って行っても十分に商売できる代物だ。
しかし、灯人からすれば置いてきた弟分の事の方が気になる。人見知りする性格だ。早めに戻ってやりたい心がざわついている。
「いや、でも」
「えェ??お前ガキのモン買ってやらねェ~~~の?そりゃァ~~~非情じゃねェ~~~~かい??なァ???」
「ねー!ヒジョー!!」
「にいちゃん、ひとつ買っとくれよぉ」
「……ぐ」
強引だ。完全に押し売り状態である。
言い負かされるわけではないのだが、子供達に対してやや甘いこの男、結局フクジュソウの押し花栞を一枚購入することにした。見た目の割に押しに弱すぎる。
金を受け取り、栞と一緒におまけのぴかぴかしたどんぐりを渡してくる子供たちの笑顔が眩しい。そして隣の男の笑顔がその倍くらい眩しい。
「ヘ~~~イ、毎度ありィ!!」
「なんだ、このハメられた感……敗北感……」
「いいじゃンいいじゃン、世のため人のため金で天下を回すのもお仕事ってもンだぜ!」
シシシと笑うマスクの男は既に一輪分購入済みの様子。何を買ったかを問うてみたが、それは秘密の一点張り。
「あ、とこでよォ、灯人お前火ィ出せるだろ」
「え?……まあ出せるが」
「そんじゃ」
「お、いたいた」
ジンが更なる企みを公表しようとしたそこへ、一目で誰かわかる聴し色。内側を水縹に染めた鮮やかな髪に、目立つ長身。多々羅・赤銅(ヒヒイロカネ・f01007)が知人たちを見つけて寄って来た。
「あンれェ~~~?奇遇じゃン」
「お、また会ったね。なんか話し中悪いけど灯人借りてくわ」
「なあお前ら俺を醤油かなんかだと思って……おい!なあ!聞いてる!?」
挨拶早々、灯人の腕をがっしりと組めば連行二回目。面食らった顔で止まったジンが遠ざかるのを見ながら、赤銅に引き摺られるがまま次の店へと連れ出される。
たどり着いたのはトンボ玉の店だ。ここも随分と客と品物が減ってはいたが、売り子の娘はまだまだ元気だ。
「いらっしゃーい!……あれ、お兄さんどうしたの?」
「あー、ちょっとな」
店の支度を手伝った手前、顔は覚えられていた灯人が苦い顔をする。一体なんだと思って隣を見れば、真剣そのものの表情を浮かべた赤銅が灯人の両手を包むように握ってきた。
「1分私に貸して。うそ、3分かも」
「今更何分でも構わねぇよ……で、なんだ?」
「トンボ玉、記念にピアスにすっかなーと思うんだけど、どれか見繕ってくんね?」
と、箱の中へ手を突っ込む赤銅。ざらりと掬えば色とりどりの硝子玉が、提灯の明かりの中で薄く温かみを増させる。二箱にまで減ったとはいえ、随分な量がある。これは確かに迷うだろうな、と二つ返事で承諾すれば真面目に吟味する。
「灯人はさぁ、どれがいい?あんま深く考えねーでいいよ」
「んー……じゃ、これ」
言って、選んだのは赤とピンクのマーブル模様。炎の中に花霞が揺らめいているようなデザイン、うねる模様の中にはハート型に見えなくもない形もあった。女性の好みそうな一粒だが、今の今まで底の方に隠れていたようだ。
掌へ落とされれば、一度むずりと笑みを堪えて。
「やっほーさんきゅーありがとさん!」
「どーいたしまして」
「それじゃーねー、あ、これお礼」
返すその手で箱の中からひとつ、摘まみ上げて渡したのはトリコロールのトンボ玉。透き通る水色、白、少量の赤、硝子玉の中を絡むようにうねる様は水流のようにも熱気のようにも見えた。
「奢り。似合うと思ったの。飾りでもお守りでも好きなように使って」
「さんきゅ。……土産だらけだなぁ、今回は」
「土産……あ、そういえばさ」
「ん?」
「未夜たしか来てたよな?どっかで見た?あの子にも見繕ったげよーと思ってさぁ」
「……あー……」
見た、どころか途中まで一緒に行動していたのだが、あちらこちらに引き回されてすっかりとはぐれてしまった。ただ、人見知りが発動していたのなら恐らく今も同じ場所で小さくなっていることだろう。
味噌鍋の店の場所を教えればトンボ玉の代金を支払った赤銅は破顔して、上機嫌に灯人の前を歩きだす。
「なんだぁ、じゃ、迎えにいこっか。花火もそろそろだろーし」
「……だな」
道行く人の邪魔にならないよう、赤銅の後ろをついて歩く。あとは迎えに行った未夜を存分に甘やかし、花火でも見ながらのんびりと祭りの終わりを楽しんで――
と、終わるはずもなかった。再び男を見つけた泥色の聖者が勢いよく、且つやや喧しいくらいの声量で灯人へとタックルを仕掛けてきた。
「あ、居ったー!!とォ~もォ~ひィ~とォ~~~~!!火ィ貸して火ィ!!」
「っあー!!わかった行くから!!赤銅ぉ!未夜頼んだな!」
「え?あー、分かった。いってらー」
タックルを避けた後、そのまま火を貸す名目でジンについていった灯人。その後、海辺でやけに眩しい発行体と炎のイルミネーションが見えて、村の子供達と合流に成功した赤銅と未夜が大はしゃぎしていたことをここに残しておこう。
●爛漫の夜
村の提灯のいくつかが消された。それが合図となっていた。
祭りも終わり、最後の最後、締めくくりはやはりこれ。
「さぁ!嬢ちゃんも特等席で見ていきな!」
「う、うん」
誰もが待ち望んでいたその瞬間。ざわめきがその音ひとつでかき消される。
「あっ、見てシオン!」
「やっと始まったか」
人々はその音に、満天の星空へと伸びていく白い茎を追うように空を見上げて。
――どぉん!
開いた花は満開、空に赤く、黄色く、白く、花弁を広げては散っていく。
「琳兄ぃ!ほら言わなきゃ!たーまやー!!」
「ははっ、それじゃ……たーまやー」
――どぉん、どどぉん!
冬の空へと捧ぐ万色の菊は、陸に上がれぬ水天様への感謝の花束。
「……」
「いやはや、見事ですねぇ」
この瞬間だけ、人々はみな同じ方向を向いていた。
ただ天に咲く花々を、天を裂く爆音を、思いはどんなに異なれど一様に。
――どぉん!
「とも、ともすごいよほら!」
「かァ~~~~~ぎやァ~~~~~!!ってかぁ!!」
しかし、ひとり。人々の顔を見回していた男だけがそれに気が付いた。
「おい、赤銅。なんだそれ」
「んー?」
ポケットからはみ出していた宵藍のそれを取り出して、赤銅は宝物を自慢する子供のように、けれど大切なことだけ隠す大人の女の素振りで笑った。
「へっ。後のお楽しみ」
大成功
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