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黒白の鉄靴、剣火と共に進軍せり

#ダークセイヴァー #辺境伯の紋章 #ドイツ流西洋剣術

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●白群に黒剣在り
 明けぬ夜に呑まれ続ける救い無き世界。月明かりすらも微弱な薄闇は、辺りを静寂に包み続けている。生きる者、動く者、息づく者も居ない大地。その中に響く音があった。規則正しく刻まれる、地面を踏み砕く多重音。それは白き装束を纏った軍勢である。まるで祈るように、捧げる様に、長い長い槍の穂先を天へ掲げながら進軍していた。
 白、それは一見すれば清浄さや潔白を示す色だ。しかし、彼らを見てその感想を抱く者は恐らく居ないだろう。擦り切れ、薄汚れ、所々が紅に染まったその姿は、聖性からは程遠い。実際、その印象は間違っていない。かつての在り方はどうあれ、今の軍勢は死と破壊を撒き散らすだけの『過去』なのだから。
「……屋根、牡牛、鋤、愚者」
 そんな掠れた白の中心に、ただ一点の黒が存在していた。内側が蒼い鍔広な帽子兜と手足を包む装甲。ヴェールの如き髪の下には、漆黒のフリルドレスに包まれた華奢な体躯。そして、身の丈に伍するかという蒼を差した黒剣。正しく剣士と評すべき少女は、まるで護られるように、率いる様に白の中へ身を置いていた。
「先、後、柔、剛、間……怒りに十字、縦横と弧」
 少女はずっと、何事かを呟いている。それが意味するものは、断片的過ぎて定かではない。しかし茫洋とした表情は繰り返し繰り返しそれを口遊み、舌に、耳に、意識に擦りこもうとしているようであった。
「忘れるべきモノ。忘れてはいけないモノ。忘れたくないモノ……忘れられないモノ」
 そうして不意に、少女は足を止めた。同時に白き群れもまた進軍を停止する。命ぜられる事も無く白者たちは左右へ別れると、少女のために道を作った。一直線に形作られた花道を静かに歩みながら、黒き剣士は軍勢の最前列へと進みゆく。その視線の先にあったのは、ある小さな村落だった。
「あれはきっと……すぐに忘れてしまうモノ。忘れてしまって良いモノ」
 少女が漆黒の切っ先を村の方角へと突きつけるや、それと呼応するように配下たちは槍の角度を垂直から水平へと構え直す。その行為が意味するところなど、一つしかない。
「なら、それが在ろうが無かろうが……関係ないよね?」
 規則正しい足音は、輪唱の如き間断のない喧騒へ。村落目掛けて雪崩れ込む白き軍勢、その数瞬後から響く散発的な銃声と断末魔。それらは一刻も持たずに絶え果て……やがて、小さな集落は紅蓮の焔へと飲み込まれてゆくのであった。

●辺境伯、蹂躙す
「……と、いう予知を見てね。詰まるところ、今回キミたちに防いでほしいのはこのオブリビオン集団、通称『辺境伯』による人類生存圏への襲撃だ。という訳で、説明と行こうか」
 グリモアベースに集まった猟兵たちを前に、ユエイン・リュンコイスはそう言ってパタリと読みかけた本を閉じる。その背には『西洋剣術図解』と言う題名が印字されていた。
「ダークセイヴァーは吸血鬼によって人類が完全制圧された世界だ。けれど、近年はみんなの活躍によって徐々にではあるが人類側の生存圏を確立する事に成功し始めていた。『人類砦』や異端の神々を討つことによって開拓した『辺境空白地帯』などがそうだね」
 その他、猟兵たちが各地を治めていた領主を討伐する事によって独立を勝ち取る集落なども現れている。それは喜ばしいことだが、当然吸血鬼たちからすれば愉快な事ではない。幾度となくそうした生存圏は狙われ、その度に猟兵たちが死闘を繰り広げてきた。此度の襲撃もその一つではあるものの、これまでとは些か趣が異なっているのが問題なのである。
「此度のオブリビオンは先ほども言った様に『辺境伯』と称される個体でね。なんでも体の何処かに紋章の様な寄生虫型オブリビオンを宿していて、それによって戦闘能力が凄まじく強化されているようなんだ……これは単に、強力な敵が現れたというだけの話じゃない」
 この寄生虫によって強化された『辺境伯』は一体だけではなく、ダークセイヴァーの各地で確認されている。詰まり、どこかにそれを振りまいている『黒幕』が存在するという事に他ならない。
「現時点では『黒幕』の正体は一切が不明だ。だけど、そんな事が出来る手合いが弱いはずもない。まず間違いなく、一山いくらの敵とは一線を画す『上位存在』であることだけは揺らがないだろうね」
 故に此度の目的は人類生存圏の防衛のみならず、『辺境伯』を討ち寄生虫を回収する事によって敵の手掛かりを探る事にもあるのだ。
「さて、前置きが長くなったね。それらを踏まえてまず皆にやって貰いたいのは、人類生存圏の防衛準備だ」
 相手は明確に人類側の居住地を狙って進軍してくる。ならばそれを利用しない手はない。防衛戦において、攻撃側は守備側戦力の三倍は必要になるというのは有名な話だ。その利を存分に生かすべきだろう。
「今回狙われる集落は……以前、猟兵によって救われた村のようだね。蛇頭の領主をレジスタンスが猟兵と共に討ったらしい。だから住民も好意的だし、協力を取り付けるのはそう難しくは無いだろうね」
 非戦闘員の避難や防衛設備の敷設に加え、行動次第では少数ながら支援戦力を得られる可能性もある。ここで効果的な手を打てれば、その後の戦闘も有利に運べるはずだ。
「相手は黒衣の少女剣士と、それに率いられた白き軍勢。この剣士が『辺境伯』という訳だね」
 軍勢は集団戦術に長けており、槍衾による突撃や火矢の斉射を基本戦術としている。これらに対する対抗策を考えるのがまずは先決だろう。剣士は記憶に関する異能を扱う他、元々の剣の技量も高いらしい。寄生虫の強化も相まって、侮れない相手だ。
「守りながらの戦いだ、厳しい場面も多々あるかもしれない。でもそれは、キミたちの活動が実を結んだが故でもある。だから、どうか負けないでおくれよ?」
 そう説明を締めくくると、ユエインは仲間たちを送り出すのであった。


月見月
 どうも皆さま、月見月でございます。
 此度の戦場はダークセイヴァー。軍勢を率いし辺境伯を迎撃して頂きます。
 ……東洋は勿論、西洋剣術も良いものです。半可通なのでふわっと知識ですが。
 閑話休題、以下補足説明です。

●最終成功条件
『辺境伯』オブリビオンの撃破。

●第一章開始状況
 辺境にある小規模な集落が戦場となります。ある悪趣味な領主の圧政に苦しんでおりましたが、かつて猟兵と協力し打倒に成功しました。その為、住民はみな極めて友好的です。
 住民の数は百人ほどで、老若男女様々。周囲は木々が生えており、材木の確保には困りません。また、そこまで大掛かりな物でなければ住民から融通して貰う事も可能です。
 加えて、かつての経験から多少戦闘の心得を持っている住民も居ます。協力を得られれば、集団戦時に支援を受けることが出来ます。

●第二章以降について
 第二章については集団戦となります。村を蹂躙しにやってきた白き軍勢を迎撃します。
 第三章では敵群を突破し、黒き剣士とのボス戦となります。
 各章状況は都度、断章にて告知いたします。

 それではどうぞよろしくお願い致します。
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第1章 冒険 『辺境伯迎撃準備』

POW   :    襲撃を行うポイントに移動し、攻撃の為の準備を整える

SPD   :    進軍する辺境伯の偵察を行い、事前に可能な限り情報を得る

WIZ   :    進路上の村の村びとなど、戦場に巻き込まれそうな一般人の避難を行う

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●勇気/友誼は褪せることなく残れり
 その村は、小規模ながらも比較的恵まれた状況にあったと言えた。設備的にも、そして村人たちの精神面という意味に置いても、である。無論、独力で辺境伯を撃退し得るレベルではないが、少なくとも同規模の村よりかは良いと言えるだろう。

 まず村の周囲には森が広がっており、それがこれまで外部の吸血鬼勢力から存在を隠すのに一役買っていた。これらを数本切り倒せば柵や木杭の材料にもなる上、身を隠す環境としては持ってこいの密度である。更にこれら木々により、村から伸びる数本の道以外には大規模な軍勢が通れる空間が存在しないのも迎撃側としては好都合だ。とは言え、小集団に分かれての浸透突破を図られる可能性もあるので、過信は禁物だろう。
 また、村を囲う様にぐるりと腰ほどの大きさの柵が巡らされている。このままでは敵の突撃を抑え込むには心許ないが、手を加える基礎としては悪くない。かつて、村人たちが領主へ立ち向かった時には存在しなかった為、その後に彼らが独自に考えて作り上げた物なのだろう。
 そして、当の住民たち自身の素質も闊達なように見えた。確かに領主の圧政によって若い男手は目減りし、生活とて決して余裕があるとは言い難い。しかし、常に伸し掛かっていた脅威が消え、自分たちの事を己の手でを決められるという事実は彼らに活力を与えてくれていた。
 加えて、主攻は猟兵たちに任せていたとはいえ、共に戦い勝利したという事実は今日に至るまで村人たちへ自信と勇気を齎している。彼らは今も尚、友誼を忘れてなどいないだろう。

 だが、何も手を打たなければこのささやなか生存圏は剣火の元へ消え果てる。それだけは決して容認できるものではない。一度得た希望と平穏を再びへし折られるなど、許してはならないのだ。
 猟兵たちは村の入口へ降り立つと、それぞれの考え得る策を講じるべく行動を開始するのであった。

※マスターより
 プレイング受付は4日(土)朝8:30より開始いたします。
 一章は迎撃準備となります。情報はOPと断章を参照ください。それではどうぞよろしくお願い致します。
アリステル・ブルー
協力必要な猟兵さんがいたら積極的に手伝うし得た情報も共有するね。

●行動SPD
まずは戦力の把握からってね!
その前に住民に
「前回戦闘になった場所や有利に戦える場所知っていますか?」
って確認をしておくね。少しでも有利に立ちたい。
それからUC影身と使い魔ユールで手分けして地上2人空1羽で敵の偵察追跡を行うよ。ユールとは必要なら視覚共有。木々の闇に紛れて目立たず動けるかな…?
余裕があればユールに住民に聞いた情報や、あと今回戦場になりそうな場所見て欲しいな。
無理なら無理で出来る事をしていこう!

こんな世界でも僕の生まれ育った世界だからね。いつまでも吸血鬼共の好きにさせてあげないよ。

(連携アドリブ歓迎)



●情報こそが全ての要
「やるべきことはたくさん思いつくけれど、まずは話を聞くべきかな。ユールに飛んでもらうのは、その後からでも遅くはないだろうしね?」
 まず真っ先に小村へと降り立ったのはアリステル・ブルー(人狼のクレリック・f27826)であった。彼は肩へ留まった青い小鳥に話しかけながら、まずは付近の情報を得るべく村の中へと足を踏み入れてゆく。
「……見ない顔だな。余所者か? 一応、吸血鬼には見えんが」
「迷い込んだって様子でもないな。何者であれ、こりゃあ嫌な予感がするぞ」
 元々が閉鎖的な気風の上、わざわざ危険を冒して出歩く旅人なども皆無と言って良い。故に、見慣れぬ人物の来訪に村人たちは作業の手を止め、警戒と疑念の入り混じった視線を投げかけてくる。しかし、それにアリステルが臆する様子はなかった。彼とてこの世界の生まれだ、村人たちの心境は当然理解できる。だからこそ人狼は相手を安心させるように笑顔を浮かべながら、手近な村人へ向けて口火を切った。
「すみません。ちょっとお尋ねしたいことがあるのですが……前回、戦闘になった場所や有利に戦える場所知っていますか?」
「戦闘、ってのはどういうことだい。見ての通り、ここは単なる寂れた村だぜ? そんな荒事なんてとてもとても」
 この世界における処世術は目立たない事だ。下手に力があれば悪目立ちする上、領主殺しは知られれば報復の大義名分となりかねない。だからこそ、応対した村人は肩を竦めながら答えをはぐらかす。強かなことだと苦笑しつつも、アリステルはもう一歩踏み込んだ内容を口にした。
「……皆さんが領主を討った時のことですよ。安心してください、僕も猟兵ですから」
「なに、猟兵さんだって!? そりゃあまた、よく来てくれたな! 是非とも歓迎したいところだが……どうやら、そんな状況じゃないらしい」
「ええ、そうなんです。実は……」
 一年前の戦いは猟兵と村人しか知り得ぬ情報だ。それを知っているというだけで、彼らとしては信頼するに値する。しかし、当初アリステルが口にした言葉から村人は不穏な空気を悟っていた。人狼が掻い摘んで事情を説明すると、見る間に村人たちの顔が青ざめてゆく。
「辺境伯なんつう連中が、この村目指してやってくる!?」
「はい。ですからその迎撃のため、この周辺の情報を教えて欲しいのです」
「それなら猟師連中が一番詳しいはずだ、今呼んでこよう……全く、とんでもないことになったぞこりゃあ」
 俄かに騒然となる村の空気を肌で感じつつアリステルは猟師から情報を聞き終えると、それを確かめるべく一度村の外へと出た。彼らの事は気掛かりだが、まずは為すべき事を一つずつこなさねばならない。
「まずは敵が到着するまでの猶予を知りたいね。空からはユールに見て貰うとして、もう少し人手が欲しいかな。となれば……」
 アリステルが意識を集中させると、彼の影が実体を伴って起き上がった。そうして二人と一羽は三方に分かれ、敵の姿を求めて駆け出してゆく。村から伸びる道は相手も利用しているはずだ。故に、敢えて彼は森の中をひた駆けていた。
(木々の闇に紛れて目立たず動けるかな……? これだけ見通しが悪いなら、罠とかを仕掛けても良いかもしれないね。余裕があれば、ユールに良さそうな場所の目星をつけて貰おうか)
 人狼の身体能力ならば、この程度の悪路は苦にもならない。恐らく、村とそこへ至るまでの森が戦場となる可能性が高いだろう。彼は道中の地形情報を頭へ叩き込みつつ、先へ先へと突き進んでゆく。
(……こんな世界でも僕の生まれ育った世界だからね。いつまでも吸血鬼共の好きにさせてあげないよ)
 そうして、暫し走り続けた果てに――彼の鋭敏な聴覚と嗅覚が、血臭と鉄靴の響きを感じ取る。アリステルは仲間へ情報を伝えるべく伝書鳩代わりに小鳥と感覚を共有しながら、自身は辺境伯軍の偵察と追跡に専念し始めるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

須藤・莉亜
「辺境伯ねぇ。血の味はどんなもんかな?」
まあ、今考える事でもないか。お仕事お仕事っと。

周囲に木があるみたいだし、召喚した腐蝕竜さんに頼んで、集落からなるべく遠い所から木を持ってきてもらって、集落の周りにばら撒いて貰う事にしようか。
ちっとは敵さんらの動きの邪魔になるんじゃないかな?

僕は、そうだね。異空間収納のすゝめに入れてきた食料でも振る舞っとこう。腹が減っては戦は出来ないらしいからね。
お酒もあるけど…。これは様子を見て出す事にしよう。

あ、腐蝕竜さんには木を持ってくるついでに、周囲に状況を確認しとくように頼んどこ。

「腐蝕竜さん。もうちっとあっちにも運んどいてー。」


此衛・ファウナ
【POW】
まずは土木作業ですわね。
こういうの、わたくしはあまり詳しくありませんので心得のある方に指揮はおまかせしますわ。
機竜の馬力があれば、人力ではとても運べないような重量物を運ぶのも容易。
巨木や大岩を用いて防衛線をより頑強にする事もできるでしょう。
村の方々だけでは力及ばぬような物を率先して機竜で運搬して防衛戦の準備を進めていきますわね。

さて……準備が一段落しましたら大きな穴を掘りましょう。
機竜の上部が地上に覗くぐらいの深い穴ですわ。そこに機竜を隠して即席のトーチカに致しましょう。
攻める側にとってトーチカの厄介さは筆舌に尽くしがたい物、砲兵も居ないならばこれは堅牢な城塞そのものになりますのよ。



●竜の咆哮、黒森に響き渡りて
「辺境伯ねぇ。血の味はいったいどんなもんかな? 寄生虫付きってのは少しばかり気になるところだけれど……まあ、今考える事でもないか。さて、お仕事お仕事っと」
 村の外周部へ姿を見せていたのは、咥え煙草から紫煙を昇らせた須藤・莉亜(メランコリッパー・f00277)だった。彼は先行して偵察に赴いた仲間より伝えられた情報を確認しつつ、相手について想像を巡らせている。だが、それについてはこの後否が応にも顔を合わせて確かめる事になるのだ。今は目の前の作業へ集中すべきだと、煙草の火を揉み消しつつ意識を切り替える。
「こんだけ木があるんだし、利用しない手はないよね?」
「となると、まずは土木作業ですわね。こういうの、わたくしはあまり詳しくありませんが、地形情報は共有頂いていますし問題はございませんでしょう」
 周囲へ広がる森へ視線を向ける莉亜のすぐ傍では、此衛・ファウナ(徹甲竜騎・f27282)が相槌を打ちながら木肌へ手を当てて状態を確認しているところであった。
「日差しが射さぬ環境とは言え、太さや頑丈さなどは申し分ありませんわね。これなら、十分に資材として流用可能ですわ」
「それは重畳。とは言え、ここら辺の木を切り倒しちゃうと防衛時に困りそうだからね。出来るだけ村から遠い場所から取って来るべきかな。普通なら、運搬するのも一苦労なんだろうけど……」
「わたくしたちであれば、問題はございませんわね」
 そういってファウナはさっと手を一振りし、莉亜は爪先で地面を軽く叩いた。瞬間、令嬢の頭上へ一陣の影が差し、青年の足元の地面が盛り上がる。そうして姿を見せたのは鋼鉄に覆われし機械竜と、身体の所々が腐り落ち骨を覗かせた腐蝕の死竜であった。片や無機物、片や死肉とは言え竜の名を冠するモノたちだ。飛行能力は勿論、重量物の破壊や運搬など造作もないだろう。
「機竜の馬力があれば、人力ではとても運べないような重量物を運ぶのも容易。巨木や大岩を用いて防衛線をより頑強にする事もできるでしょう。障害や遮蔽物となるような岩はこちらが運びますゆえ、木に関してはお任せしてもよりしいですか?」
「もちろん。腐蝕竜さんが運んできてくれたら、そのまま集落の周りへばら撒いて貰う事にしよう。足場が悪くなればちっとは敵さんらの動きの邪魔になるんじゃないかな? あとついでに、周りの様子を見ておくように頼んでおこうか」
 二人はそれぞれ役割について手短に打ち合わせると、各々の竜を作業へ向かわせる。腐蝕竜は森の外周を目指し真っすぐに移動を開始し、機竜は瞳を見開きながら枝葉や茂みに隠れた巌を探し始めた。
「さて、と。資材を運んできてくれる間は手持無沙汰だし、こっちもこっちで動こうかな」
「おや、どちらへいかれるのですか?」
 そう言ってその場から踵を返す莉亜へ、ファウナが不思議そうに声を掛ける。その問いかけに対し、青年は一冊の本を取り出してページを開いて見せた。すると、紙面からぽろぽろと食料が顔を覗かせる。
「腹が減っては戦は出来ないらしいからね。協力をお願いするにしろ、避難して貰うにしろ、体力を付けるに越したことは無いだろうからさ」
「なるほど。どうやら村側も辺境伯襲撃の報を受けて動揺している様子ですし、胃袋が満ちれば多少の落ち着きも得られましょう。こちらの様子は見ておりますので、資材が集まりましたらお呼びしますね」
「すまないね、よろしく頼むよ?」
 そうして、その場を仲間へ任せつつ青年は村へと足を踏み入れる。当然ながら、内部の雰囲気は慌ただしかった。男たちが手持ちの武器を確認したり、各家々で女子供が家財道具を取り纏めていたりと、出来る限りの行動をしようとしている様子が見て取れる。しかしその動きの端々からは、隠し切れぬ動揺が滲み出ていた。
(捨て身の覚悟で領主を討つのと築いた故郷を護るのとでは、掛かるプレッシャーもまた違うんだろう)
 ならばそれを少しでも取り除くべく、莉亜は魔道書から次々と食料を取り出すと村人たちへ配って回ってゆく。
「はい、ちょっとしたものだけれど差し入れだよ。勝つためにも、まずは腹ごしらえが重要だからね?」
「こいつはかたじけない……だが、こちらも余裕がある訳ではないからな。正直言って助かるよ、ありがとう」
「日持ちする物は持ち出し用に入れて置いた方が良いだろう。そうでないものは有難く頂こうか」
 パンやハム、乾し魚にチーズと果物。長期保存できそうなものは念のため取って置き、それ以外については各々で分け合い口へと運ぶ。日々の食事は飢えないための最低限な内容で、量と質ともに質素なものだ。だからこそ、いつ振りかも分からぬ満足な食事に村人たちは顔を綻ばせる。
(お酒もあるけど、これは様子を見て出す事にしよう。祝杯にはまだちょっと早いからね……っと?)
 数本の瓶は取り出さずに魔道書の中へと仕舞い直していた時、村の入口でファウナが手招きしている姿が視界の端に映りこんだ。竜たちが戻ってきたのだろう。莉亜は村人たちの様子をもう一度だけ見やると、元来た方向へと戻ってゆくのであった。

「おお、たくさん持ってきたね。腐蝕竜さん、もうちっとあっちにも運んどいてー」
「村の方々だけでは到底力が及びませんし、設置までこちらで済ませてしまいましょうか。そうですわね、相手から見て好ましくない位置は……ここでしょうか?」
 莉亜が戻って来ていた時点で、村の外周部には数十本の丸太と大岩が積み上げられていた。求め出せばキリがないが、これでも十分に障害物としての役目を果たしてくれるだろう。青年と令嬢はそれぞれ指示を出しつつ、丸太による段差や大岩による防壁を構築してゆく。竜たちはここでもその膂力をいかんなく発揮し、人間だけで在れば数日は掛かるような作業を瞬く間に完遂して見せた。
「一先ずはこれで最低限の形にはなりましたわね。さて……となれば、もう一工夫と参りましょうか」
 ファウナは作業を終えると、今度は機竜に地面を掘らせ始めた。掻き出された土砂を土塁代わりに積み上げつつ、猛烈な勢いでより広さと深さを確保してゆく。瞬く間に掘り下げられた穴は、機竜の巨躯をすっぽりと覆い隠すほどの規模になっていた。
「穴の中に竜を潜らせるのって、どういう狙いなのかな?」
「即席のトーチカですわ。攻める側にとってトーチカの厄介さは筆舌に尽くしがたい物、砲兵も居ないならばこれは堅牢な城塞そのものになりますのよ」
 ファウナは莉亜の問いに応えつつ、穴の底へ身を埋めた機竜の背へ跨って細かな位置調整を行い始める。トーチカとは軍事的設備の一種で在り、コンクリートに包まれた陣地を指す。その多くは機銃や火砲を備えており、極めて強固な防御能力を発揮するのだ。彼女は鉄に覆われた竜によってそれを再現していたのである。
「相手の装備は剣と槍、遠距離火力は弓が精々と中世レベル……ならば、近代戦の術理を以てお相手して差し上げましょう」
 そう言って、ファウナはそっと眼鏡のズレを直す。きらりと輝くレンズの奥底には、軍人としての冷徹さが滲んでいるのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

春乃・結希
私に出来るのは前に出て引きつけるくらい…
それを援護してくれたら…そうだ!

『銃撃てる人募集!』のカードを掲げて声をあげます
銃を使える方ー!いますかー?
あっ、ありがとうございますっ
よかったら私の作戦聞いてください

銃を出して狙える穴を開けた盾を作って欲しいんです
必要な木を切り倒して運ぶくらいは私にも出来ます!【怪力】
完成したのものは、皆さんが既に作ってる柵と合体
これで敵の火矢を防ぎつつ、銃が撃てる、はず
設置する場所は他の猟兵さんが調べてくれた敵の多い方角に絞ります
…今からでも作れますか?

敵が攻めて来たら、そこからバーンって!
…私ですか?私銃へたくそなので…
で、でもちゃんと戦います本当ですよ…っ



●教えは忘れず、意志は絶えず
「う~ん。柵を作るだのなんだのというのは技術が必要ですし、斥候も既に出ているんですよね? 出来ること、出来ること……」
 村へ降り立った春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)は、腕を組んで悩まし気に首を捻っていた。村の外からは土木工事の作業音が聞こえて来るものの、そう言った技術の要る作業は得手と言い難い。道路工事の経験こそあるが、あれも師にレクチャーを受けつつの作業であった。かと言って敵の様子を窺おうにも、余り人数を割いては相手に猟兵の存在を察知される恐れがある。
 であれば己は何をすべきか、そして何が出来るのか。そこから次の行動を導き出そうと、結希は思考を口遊み整理する。
「となると、私に出来るのは前に敵を出て引きつけるくらいで……それを援護してくれたら助かるけど……あ、そうだ!」
 ふと、少女は何かを思いつくと適当な木板を引っ張り出し、その表面へ筆を走らせ始める。そうして一頻り何かをしたため終えると、彼女はそれを掲げて声を張り上げた。
「すみませーん! 銃を使える方ー! いますかー? この後のことで、ちょっとお手伝いをお願いしたいのですがー!」
 板に掛かれていたのは『銃撃てる人募集!』という文言であった。文字が読めない場合も考え、可愛らしいマスケット銃のイラスト付きである。結希の呼びかけに真っ先に反応したのは、武器の確認を行っていた若い男衆だった。彼らは他の猟兵から提供された食料を口へ放り込むと、得物を手に歩み寄ってくる。
「呼んだかい、お嬢ちゃん。銃が必要ってんなら、喜んで力を貸すぜ?」
「弾も火薬もカツカツだが、暇を見ては練習してきたんだ。足はひっぱらないはずさ」
「わわっ、皆さんありがとうございますっ。よかったら、私の作戦聞いてください」
 彼らの技量は当然、猟兵と比べるべくもない。だが、決してずぶの素人という訳でもなかった。かつては弾込めすら覚束ないレベルだったが、教えられた射撃の要点を愚直に守った結果、僅かずつではあるが腕前を向上させてきたのである。これならば問題は無いだろうと、結希は己の考えを説明し始めた。
「皆さんにはまず、銃を出して狙える穴を開けた盾を作って欲しいんです」
 それはいわば銃眼。城壁などに空いている小さな穴を想像するのが近しいだろう。あれは身を隠しつつ安全に弓や銃で射掛けるための設備だ。彼女はそれを手持ちの盾に応用しようと考えたのである。
「材料として必要な木を切り倒して運ぶくらいは、私にも出来ます! 完成したものは、皆さんが既に作ってる柵と合体……これで敵の火矢を防ぎつつ、銃が撃てる、はず。切ったばかりの生木なら水分も多いから燃えにくいですし」
「盾か……確かに柵は隙間が多い。敵の突進は止められたとしても、細い矢ならそのまま素通りしそうだしな」
 村自体を守れたとしても、その過程で村人の命が失われてしまっては話にならない。しかしこれならば、支援射撃と生存性を両立させることが出来る。また壁ではなく盾として作るのも、それに寄与する妙手であった。
「設置する場所は他の猟兵さんが調べてくれた敵の多い方角に絞ります。それにいざとなったら柵から盾を外して、身を守りながら逃げる事だって出来ると思うんですが……どう、ですかね。今からでも作れますか?」
「もちろんだ! 木の加工も生活上必要だからな、他の連中の手も借りれば必要な数は揃えられるだろう」
 結希の提案に男たちは腕を叩いて快諾してくれた。となれば、ここからは時間との勝負だ。結希が木を切り倒して村内へ運び込むや、木こりや猟師を中心に分担して作業を進めてゆく。
「穴が大き過ぎれば攻撃が入り込みそうだが、小さ過ぎちゃ角度が取れないな」
「確か、それなら外に向かって窄まる様に穴を開ければ良いって聞いた覚えがあります! 敵が攻めて来たら、そこからバーンって!」
 設計の要点は結希の知識が、実作業は村人たちの腕前が、それぞれの足りない部分を補いながら盾を完成させた。出来上がったそれらを眺めつつ、猟師は結希に尋ねる。
「我ながらこいつぁいい出来だ。嬢ちゃんも一つ持ってったらどうだい?」
「……私ですか? いや、私はほら、銃がへたくそなので……で、でもちゃんと戦います、本当ですよ…っ!」
「ははは! その立派な剣をみりゃあ分かるさね、心配はしとらんよ……だから頼んだぜ、猟兵殿?」
 村人の言葉には確かな信頼が籠められていた。それを感じ取った結希は静かに、だが力強く頷きを返すのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ダビング・レコーズ
周辺地形の状況を踏まえ、敵の大部隊が通過する可能性が最も高いのは村から伸びる街道でしょうか
最も横幅が広い街道を迎撃地点に設定し防衛準備を整えます

【アドリブ連携歓迎】

防護壁の構築を開始
構造は単純かつ簡易的とします
主な材料は周辺の豊富な木材資源を利用
短期間で強固な防護壁を構築するため木材は大型のものを選択
伐採にはヒュージブレード形態のアイガイオンを使用
規格外な巨木であっても伐採に支障は無いでしょう
伐採後はアイガイオンをパワーローダー形態に変形させ速やかに運搬、及び防壁構築作業を行います
なお要害となっている森林地帯の機能を損なわないよう、伐採する樹木の間隔は無作為かつ分散的にします



●断ち切り、積み重ね、守り抜く
 集落周辺の防衛準備は着々と進行していた。ならば、もう少し遠くへ手を伸ばすのも十分選択肢へと入り得る。そう判断したダビング・レコーズ(RS01・f12341)の姿は、村から伸びる街道の途上にあった。
「周辺地形の状況を踏まえ、敵の大部隊が通過する可能性が最も高いのは街道でしょうか。無論、分散して浸透してくる可能性もゼロではありませんが、戦いにおいて数は力です。余程の事態でない限り、それを活かしてくるのが定石でしょう」
 彼が選んだのは最も幅が広い街道である。此処に狙いを絞ったのはある意味当然だろう。大軍で迂闊にも幅の狭い道を進み、前後にしか身動きの取れない状況で打ち破られた例は枚挙に暇がない。敵がそのような愚を犯すことに期待するなど、その方が愚かと言える。
「相手は当機を始めとする猟兵の存在をまだ察知しておりません。故に奇策を取る可能性は低く、だからこそ付け入る隙がある。それに主だった防衛線が村付近の一つのみというのも、些か以上にリスクが高い。接敵までの猶予もありませんし、速やかに作業を開始しましょうか」
 ダビングがシステムを起動させると定められた手順に従い空間が歪められ、巨大な鋼鉄が呼び出された。それは一振りの巨大なプラズマブレード。彼はそれを手に取り、己の機能と接続する。
「VBPL1Xアイガイオン、ブレードコネクト。全システム完全同期開始……さて、まずは切り出しから始めましょうか」
 鋼鉄に火が点り、超高熱の刃を生み出す。眩い熱の光で闇を照らしながら、彼は周囲の森林地帯をセンサーで走査する。知りたいのは樹木の分布と密度だ。
(構造は飽くまでも機能性を重視し、単純かつ簡易的とします。短期間で強固な防護壁を構築するため、木材は大型の物を優先して選択……ですが同時に、要害となっている森林地帯の機能を損なわないよう注意しなければ)
 いま、時間は何よりも貴重なものである。当然ながら、細い木をちまちまと組み上げている暇など無い。その点、太さのある木であれば極論、ただ積み上げただけでも十分に防壁としての効果を発揮する。
 だがその一方、木を切る範囲が集中してしまえば空白を生み、逆に相手へ進軍する余地を与えてしまう。だからこそダビングはただ木を切るのではなく、森の密度を保つように心掛けねばならなかった。
「人間の影響が及ばぬというのも、時には良し悪しですね。豊富な木材資源が手付かずで残っているというのは、この場合有利に働きます。例えば……このような巨木が残っているように」
 街道から森の中へと踏み入ったダビングの前へ姿を見せたのは、見上げるほどの大木であった。常人を凌ぐ彼の両腕を以てしても、幹を抱きすくめるには到底足りない程の太さもある。このレベルがあと数本あるとくれば、幸運と言う他ないだろう。彼はゆっくりとプラズマブレードを構える。
「規格外な巨木であっても、アイガイオンならば伐採に支障はありません。火が燃え移る前に、溶断することが可能です」
 そうして地面を思い切り踏み締め、ダビングは得物を振りかぶった。堅き木肌は瞬時に焼き切られ、まるでバターを抉るが如く横なぎに切り裂かれる。そうして戦機が降りぬいてから一拍の間を置いて、轟音と共に幹は地面へ倒れ伏すのであった。
「……さて、量としてはこれくらいで十分でしょうか。運搬についても、アイガイオンと合体した当機の出力ならば問題はありません。許容負荷の範囲内です」
 同じ作業を数度繰り返したのち、ダビングは鋼鉄を地面へ突き立てるとそれを変形させた。アイガイオンの強化外骨格形態である。彼はサイズを二倍近くにまで巨大化させると、枝葉の着いたまま転がった丸太を担ぎ上げ、街道を遮る様に並べてゆく。
「加工を考えれば切り落とすべきでしょうが、此度は用途が用途です。これだけ太い枝ならば十分遮蔽物になり得ますし、水分を含んだ葉は延焼にも強いでしょう」
 そうして重機さながらの働きぶりにより、瞬く間に丸太を積み重ねた防護壁が街道上へ聳え立った。即席の防御設備としては上等だろう。彼は一区切り作業を終えると、ちらりと背後を見やる。
「この防御壁と村周辺の防衛設備、二つが組み合わされば敵軍を撃退する事は十分に可能でしょう……懸念があるとすれば、それを率いる『辺境伯』単体の戦闘力ですか」
 戦いの結果は八割がた事前の準備によって左右される。しかし、『辺境伯』は間違いなくそれを覆し得る二割であるはずだ。キュルリと音を立てて、ダビングのアイカメラは未だ見えぬ敵の姿を求めて収縮するのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…正直、武力的な意味では今の貴方達は足手まといでしかない

…だけど、次は貴方達だけで迎撃しなければいけないかもしれない

常に私達のような存在がいるかからない以上、
猟兵が矢面に立てる間に抗う意志のある者は、積めるだけ経験を積むべきよ

…闘うにせよ、逃げるにせよ…ね


…情報収集や迎撃準備は他の猟兵に任せて村人達の元へ向かい、
闘う意志のある者達を集めてもらいUCを発動
村人達の能力や才能を暗視して見切り、
戦闘知識を基に彼らを班分けして効率的に作業させる

…貴方は手先が器用だから大工を中心に工作班になって

…貴方は機転が効くみたい。村長の元で避難の手伝いを

…貴方達は弓の才能がある。猟師から撃ち方を習って



●かつてといまは異なりて
「猟師と木こり連中は盾や柵作りに駆り出されているそうだ」
「一応、こっちも弓や槍を用意してるが……昔とは状況も違うしな」
 手に職を持っている者は、ちらほらとではあるが猟兵の求めに応じて防衛準備の手伝いを行い始めている。しかし一方、それ以外の大多数は未だどうすべきかを悩んでいる風であった。猟兵たちの実力は良く知っている、故にこの場は任せて避難すべきか。それとも、かつての様に例え微力でも村に残って援護を行うべきか。
 どうすべきかと決めあぐねる村人たちの前に歩み出たのは、リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)であった。彼女は冷ややかな視線で彼らを一瞥しつつ、静かに口を開く。
「……正直、武力的な意味では今の貴方達は足手まといでしかない。例え、些かばかりの鍛錬を積み重ねていたとしても、ね」
 リーヴァルディの率直過ぎる物言いに、思わず村人たちも鼻白む。しかし、荒々しい反発や感情に起因する反駁は出てこなかった。それは以前の領主討伐時、勝算も策も無く勢いのみで決起しようとした村人たちへ浴びせられた言葉そのものだったからである。あの時は文句をつけたが、既に己の立ち位置については嫌と言うほど理解させられていた。故に、彼らはぐっと少女の言葉を受け止める。リーヴァルディはその様子に目を細めつつ、更に言葉を続けた。
「だけど……次は貴方達だけで脅威を迎撃しなければいけないかもしれない。常に私達のような存在がいるかからない以上、猟兵が矢面に立てる間に抗う意志のある者は、積めるだけ経験を積むべきよ。一度だけでなく、何度でも」
 ――闘うにせよ、逃げるにせよ、ね。
 賢者は歴史から学び、愚者は経験より学ぶ。この世界は吸血鬼によって手本とするべき知識が消し去られている以上、愚かと蔑まれようとも経験に頼るしかないのだ。故にこそ、彼女は問いかける。
「……貴方達に戦う意志はあるの? 例え支援だけだとしても、矢面に立たぬとしても、命の危険がある戦場へ赴けるのかしら?」
 ここかある種の分水嶺。此度の戦いへどう向き合うかを決める場となるだろう。ある者は少女を真っすぐに見つめ返し、ある者は互いに目配せし合い、ある者は村や家を横目で見やり……そして。
「俺はやるぞ。こうして本当の意味で生きる場所を手に入れられたんだ。また奪われるなんざ御免被る」
「何ができるかは分からん。だが、何かは出来るはずだと信じている。どうか協力させてくれ」
 村人の多くが、はっきりと意志を示した。戦う熱を、抗う心意気を叫んで見せたのだ。それを聞き届けた少女は一度、静かに目を閉じる。
「……分かったわ。それならばこちらも出来る限りのことするつもりよ。本来の使い方とは、少しばかり違うかもしれないけれどね」
 そうして再び瞼が開かれた時、リーヴァルディの右目は紫から真紅に染め上げられていた。一瞬、吸血鬼を想起してたじろぐ村人たちだったが、鋭き眼光は逃げ隠れすることを許さない。そうして彼女は手早く、だが確実に住民一人一人を見定めてゆく。
 本来、この魔眼は敵の弱点や死角を可視化し、それら情報的優位によって自らを強化する異能である。だがそれを応用すれば村人たちの潜在能力を見極め、素質や向き不向きを把握する事が可能となるのだ。
(正直言って余り猶予があるとは言えない……差が微々たるものであっても、効率化できるならそれに越したことは無いからね)
 そうして一頻り能力を把握し終えると、リーヴァルディは村人たちを作業ごとに反分けし始めた。
「……貴方は手先が器用だから、大工の工作班を手伝って。貴方は機転が効くみたいね。村長の元で、女性や子供と一緒に避難の手伝いを……貴方達はどうやら弓の才能がある。付け焼刃でも構わないから、猟師から撃ち方を習って」
 少女の指示に粛々と従うのも、猟兵と言う存在に対する信頼感故だろう。彼らはそれぞれに割り振られた役割を果たすべく、慣れないながらも作業へと専念し始める。
「さて……ここからはどこまで準備を詰められるか、時間との勝負ね」
 そんな村人たちの様子を見届けながら、リーヴァルディは右目を閉じて魔眼を鎮めるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

フィーナ・ステラガーデン
相手が大群ならこっちも手がいるわ!
っていうかあんたらの村ならあんたらも手伝いなさい!

じゃ!皆で罠を仕掛けるわよ!
まずは前の猟兵が集落の周りに撒いた木にも油なり燃えやすいものを混ぜておきましょ!あまり燃えやすい物は村の中に置いておきたくないし、どんどん使うのよ!

次は落とし穴よ!
トーチカの迂回路とかに仕掛けておけば引っかかってくれるんじゃないかしら!
中には残った油と可燃物!
その油落とし穴から離れた場所にもいくつか掘っとくといいわ!
そっちには猟で狩った獣の内臓とか肥とか臭いでばれやすいものでも入れておいて相手を誘導する形が良いわね!

(アレンジアドリブ連携大歓迎!)


ナギ・ヌドゥー
事前情報によれば敵は集団戦術に長けている……
この世界の上位存在とやらが送ってくる軍勢なのだから、その統率は相当なものと推測します。
できれば敵の出鼻を挫いて先手を取りたいですね。
襲撃地点と思われる場に罠を設置します。
踏んだら毒煙幕が作動する簡易な罠を広範囲に設置【罠使い・毒使い】
危険物ですけど勝てたら【毒耐性】持ちの自分がちゃんと処理するのでご安心ください。
負けてしまったらぼくら諸共村は全滅、手段は選べません。
毒が効く相手かどうか分からないのが難点ですが、
最低でも煙幕で視界を塞ぎ命中率や衝力を弱める事は出来るでしょう。
攪乱させたと同時に仕掛けるので近場に潜んでおきます。



●弱者が勝つには仕込みは欠かせぬ
 先んじて村へ降り立った猟兵たちによって、村人はそれぞれに役割分担や班分けが行われていた。作業の効率化に加え、後から来た猟兵が協力を仰ぎやすいようにという配慮である。ならば有難く利用させて貰おうと、農夫を中心とした集団へ威勢の良い声が掛けられた。
「はーい、注目~! 相手が大群ならこっちも人手がいるわ! っていうか、あんたらの村ならあんたらも手伝いなさい!」
 声の主はフィーナ・ステラガーデン(月をも焦がす・f03500)だ。以前と訪れた際と同じように、快活な様子で村人たちを集めて回っている。ふと、それに応じた村人の一人が何かに気付くと、にこやかに破顔しながら歩み寄ってきた。
「おうおう、あんときの御嬢ちゃんか! 久しぶりだなぁ、相変わらず元気なのは変わっ……本当に変わってないようで何よりだな、うん」
「ははは、そっちも無事なようで良かったわ! ところで、いまドコを見て変わってないっていったのかしらねぇッ!?」
 猟兵を頼りにしている事に偽りはないが、見知った顔ならば安心感はさらに増すのだろう。切羽詰まった状況だが、緊張しすぎと言うのも宜しくはない。軽口を叩き合うことで適度に力が抜けるのは良い傾向である。そうして打ち解けた頃合いを見計らい、横からナギ・ヌドゥー(殺戮遊戯・f21507)が本題を差し込む。
「事前情報によれば敵は集団戦術に長けています……この世界の上位存在とやらが送ってくる軍勢なのだから、その統率は相当なものでしょう。真正面から当たれば、きっと苦戦は免れません」
 ナギの話す内容によって、村人たちの表情が引き締められる。だが、再び緊張しているという訳ではない。問題があるならば、それに対してどうすべきか。猟兵ならば必ず答えを導き出してくれると彼らは知っているのだ。
「それならば、敵の出鼻を挫いて先手を取りたいところです。奇襲や背後からの不意打ちという手もありますが、それを皆さんに求めるのは些か以上に酷です。故に……」
「皆で罠を仕掛けるわよ! どんな大軍が来ても蹴散らせるように、たっぷりとね!」
 罠、それは弱者が強者に抗し得る数少ない手段の一つである。上手く嵌まれば顔を合わせる前に相手が自滅してくれるのだ、防衛側にとってこれほど打ってつけの戦術は無いだろう。
 村人たちを引き連れながら二人が向かった先は、村の外周部。そこには既に、先んじて作業に着手していた仲間によって丸太や大岩による防御陣地が構築されていた。ここが最終防衛ラインである以上、強化してし過ぎるという事はない。
「まずは前の猟兵が集落の周りに撒いた木にも、油なり燃えやすいものを混ぜておきましょ! あまり燃えやすい物は延焼しそうだから村の中に置いておきたくないし、どんどん使うのよ!」
「ぼくも並行して別の作業をお願いしたいので、半分ほどこちらに来てもらって良いですか? ……万全は期しますが、余り村に近くない方が良い類の罠ですので。出来れば手先の器用な方が望ましいですね」
「わかったわ、それじゃあそっちは任せるわね!」
 村人の半数ほどを引き連れて防御陣地の外縁へと向かったナギを見送ると、フィーナはくるりと残った村人たちへと向き直る。
「さて、と。それじゃあこっちも始めちゃいましょうか!」
「りょーかい。ただ、手当たり次第に丸太へ油を仕込むだけで良いのかい?」
「うーん、そうねぇ……」
 フィーナは爆炎に長けた魔法使いだ。勢い一辺倒な言動とは裏腹に、火というものの強みも弱みも熟知し切っている。だからこそ、一見すると複雑な防御陣地の何処になにを配置すればよいのか見抜くことが出来ていた。
「燃え広がりやすいように出来れば風通しの良いところがいいわね! でも、風向きには注意すること! 自分で自分を蒸し焼きにしちゃ世話ないから、私の指示をよく聞いて作業するのよ! いいわね!」
「オーケイ、頼りにしてるぜ大魔女の嬢ちゃん?」
 やる事は決まれば後は早いもの。少女の指揮の元、村人たちはテキパキと可燃物の設置を進めるのであった。

「……さて、これくらい離れれば問題はないでしょう。余り近すぎては、同士討ちの危険がありますし」
「同士討ちって……いったい、何を仕掛けるんだい?」
 一方、外延部まで来たナギもまた罠の設置を開始しようとしていた。その内容は一体何のかと尋ねる村人に対し、彼が見せたのは禍々しい色をした液体である。その正体は様々な怪物の屍より精製された毒液だ。
「空気に触れた途端、気化して周囲へ広がる毒物です。これを使って、踏んだら毒煙幕が作動する簡易な罠を設置して頂きます。当然ながら危険物ですけれど、勝てたら耐性を持つ自分がちゃんと処理するのでご安心ください」
「ど、毒って……大丈夫なのか、それは」
 武器や火は見慣れていても、毒というものにはなじみが薄いのだろう。村人たちもどこか不安げな様子を見せていた。その恐ろしさは使用者であるナギ自身が最も深く理解している。だがそれでも、彼は仕掛けの内容を変えるつもりはなかった。
「……懸念は分かります。ですが、負けてしまったらぼくら諸共村は全滅。どのみち、命が潰える事となります。故に手段は選べません」
 負ければ、死。それはこの世界にとって当たり前すぎるルールだ。ならば、例え痛みを伴う危険が在ったとしても、勝つための選択をしなければいけなかった。
「毒が効く相手かどうか分からないのが難点ですが、最低でも煙幕によって視界を塞ぎ命中率や衝力を弱める事は出来るでしょう。混乱した状況のまま後ろの防御陣地へ突入させれば、どのみち大打撃は免れません」
「なるほど、狙いは分かった。作業を行おう。ただ、もしヘマをして毒をばら撒いちまったら、治療だけは頼んだぜ?」
「ええ、それはもちろん」
 毒への恐怖は消えないものの、ナギの説明によって罠の必要性を村人たちは理解する。彼らは猟兵の説明に耳を立てながら、慎重に作業を開始してゆくのであった。

「さって、油を仕込み終わったら次は落とし穴ね! トーチカの迂回路とかに仕掛けておけば引っかかってくれるんじゃないかしら!」
 再び場面は村の外周部へ。フィーナは村人たちと一緒に一通り丸太へ油を撒き終えると、次なる罠へと着手し始めていた。今度の罠は落とし穴。古典的ではあるが、既存の設備と組み合わせればより効果を発揮するだろう。
「中には残った油と可燃物! 燃やしても良いし、そのままでも滑って上がれなくなるわ! その油落とし穴から離れた場所にもいくつか掘っとくといいわね!」
「ふむ、そっちには何を入れるんだ?」
「そっちには猟で狩った獣の内臓とか肥とか、臭いでばれやすいものでも入れておいて頂戴! 囮で注意を惹いたところで、本命に誘導して落としてやるわ!」
 罠に偽物を混ぜるのは常套手段である。それだけで相手の心に疑念が生まれ、疑いはより足を鈍らせるはずだ。そうして一度足を止めてしまった者は、敵でなく単なる獲物へとなり下がる。
「流石にちょっと効率が落ちてるわね……畑を耕すのとはやっぱり労力が違うか」
「なら丁度良かった。こちらの作業は終わりましたから、彼等にも手伝って貰いましょう」
 急ピッチで作業を進めるフィーナ達だったが、人の身長と同じ深さまで穴を掘るというのは中々な重労働だ。四苦八苦しながら土を掻き出している最中、タイミング良く戻ってきたナギたちが作業へと加わる。これで人手は二倍、敵の到着までには作業を完了させることが出来るだろう。
「こっちはもう問題なさそうですね。それなら……」
「あら、何処に行くの?」
「今から先ほど仕掛けた罠の近くへ潜んでおこうかと。ぼくなら毒の影響は受けませんし、罠の発動と同時に仕掛けるつもりです」
 そう言って元来た道を戻ってゆくナギと、引き続き落とし穴の掘削に勤しむフィーナ。斯くして、着々と迎撃の準備は進んでゆくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
『辺境伯』…幾度か交戦しましたが、ある意味で強化された個体以上に率いる軍勢への対処に頭を悩ませます
此度の戦場は平地…地理的条件もあるとはいえ敵の行動の選択肢は広いのですから

なので選択肢を絞ります
村人から●情報収集し得た地形情報からエリア選定
UCを散布し進軍困難なスリップ地形を作成
防衛設備への進軍の誘導を狙います

無理矢理に侵入された場合に備え、散布前に鳴子かアラートを仕掛けておきたいですね
●世界知識と●破壊工作の知識を応用し村人へ伝授
設営を手伝っていただきます

(機械馬に●騎乗しつつ火炎放射器のような散布機でUCを撒き)

ご協力ありがとうございました
皆様が紡いだ人類の希望、潰えさせはしません



●更に堅固に、更に鉄壁に
「『辺境伯』……幾度か交戦しましたが、ある意味で強化された個体以上に率いる軍勢への対処に頭を悩ませます。状況も様々な上、獅子に率いられれば羊の群れとて狼を打ち負かすものですゆえ」
 着々と迎撃準備が進む中、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)はかつての戦いを思い出してそう独り言ちていた。漏れ出た独白の通り、彼が『辺境伯』と化したオブリビオンとその軍勢に挑むのは初めてのことではない。戦場となる地形、率いる将の気質、そして配下の特性。一戦一戦異なるそれらに対して、都度都度対策を考えるのは確かに楽な仕事ではないだろう。
「翻って見るに此度の戦場は平地、それも森の広がる土地柄……地理的条件もあるとはいえ、敵の行動の選択肢は広いのですから」
 大軍が大軍のまま動ける場所は村から伸びる数本の街道だけだが、分散してしまえば森の中を踏破する事も可能だろう。そうなれば各個撃破は容易くとも、物量に圧されかねない。だが、かと言って森の中へ身を潜めても読みを外してしまえば、敵は道を伝いそのまま村まで到達してしまう。
「……いえ、悩んでいても仕方が在りませんね。ここは土地勘のある方へ話を聞くべきでしょう」
 だが、情報的なアドバンテージはこちらにある。猟兵は辺境伯の存在を知っているが、相手はまだこちらに気付いていない。優位な状況で奇策を打つというのは考えにくいだろう。故に取るであろう戦法も自ずと見えてくる。トリテレイアは村人に話を聞き、相手の通りそうな土地を順次ピックアップしてゆく。
「一番道幅の広い街道には、既に他の猟兵が防御壁を構築済み、と。ただ、万が一他の道を選ばれると対応が後手に回りかねませんね……それならば」
 防衛準備の進捗状況をメモリへ入力し終えると、未だ手薄と思われる地点をカバーすべくトリテレイアは行動を始める。まず彼は選別地点へ向かう前に手隙の村人たちを集め、ある物の作成方法について説明を行っていた。
「……紐と木板で出来る、音の鳴る仕掛けとは。簡単だが中々に便利そうだ」
「ええ。今なら木の端材も大量に出ているでしょうし、孔をあけて麻紐を通すだけ完成です。それなりに数が要りますので、どうか作成と設置に助力頂けますでしょうか?」
 鋼騎士が作成を依頼しているのは『鳴子』であった。紐を張り巡らせ、それに触れると振動によって木板がぶつかり合い、発せられる甲高い音によって侵入者の存在を知らせる警戒具である。単純であるが隠匿性に長け、紐と板のみで出来る簡便さから古来より様々な場面で用いられてきた。これならば村人でも問題なく作ることが出来るだろう。
「土地勘は皆さまの方があるでしょうし、纏まった数が出来ましたら指定した場所へ順次設置をお願いします。作業が完了次第、こちらが仕掛けの詰めを行いますので」
「相分かった。時間いっぱいまでこちらも頑張らせて貰おうか」
 そうして作業を依頼するとトリテレイアは呼び出した機械馬に跨り、先んじて街道を駆け抜けてゆく。目指すは一番幅の広い街道の途上、仲間の築いた防御壁である。機馬の脚力ならば、すぐさま設営拠点まで至ることが出来た。
「最も敵の来る可能性が高い此処を第一防衛線。集落の周囲に巡らせた罠群を第二、そして強化した柵と射撃隊を配置した最終の第三……即席にしては中々の厚みを持たせられたと言えましょう」
 これも猟兵と村人が力を合わせたからこそだ。故にそこからルートが外れ、努力が水泡と帰すのだけは避けねばならない。馬上のトリテレイアが取り出したのは、一見すると火炎放射器の様な装備。彼が先端を街道上へ向けるや、透明な液体が迸りじっとりと路面を濡らしてゆく。
「摩擦抵抗を極限まで低下させる薬剤です。籠城戦時の熱した油という訳ではありませんが、触れればまともに動くことも出来ないはず。鳴子を設置次第、そちらにも散布していきましょうか」
 群対群の戦いは一にも二にも数と衝撃力。その一方を奪えるのは大きい。これら防衛策の効果を十全に発揮させるためにも、トリテレイアは馬首を返して次なる地点へと駆け出してゆく。そうして他の細い道や森の中の獣道など、鳴子を設置した地点へと薬剤を散布し迂回路を封じていった。
「これで指定された箇所は全部だな。間に合って良かったぜ」
「ご協力ありがとうございました……皆様が紡いだ人類の希望、決して潰えさせはしません。必ずや吉報を齎しましょう」
 作業を終えて汗を拭う村人へ、鋼騎士は感謝の言葉を述べる。開戦の時はもう間もなく。徐々に緊張を孕んだ空気が辺り一帯へ漂始めるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

セルマ・エンフィールド
この村でしたか。
あの戦いからもう一年……今のこの村の様子を見れば、人がこの世界で生きていくのに、吸血鬼の領主など不要ということが分かります。

さて、敵の軍勢が通る道の防衛準備は進んでいるようですし、私は少数が別のルートから村を襲うのを防ぐための準備をしましょうか。
以前ともに戦った村の住民に敵の軍勢が迫っていること、少数が森を抜けてくる可能性があることを伝えます。
さらに他の猟兵から敵が通ってくる道や敵の姿形の情報もあれば伝え、敵がどのあたりに来るか村人と一緒に予測を立てます。
彼らもただ守られるだけというのは納得しないでしょう。村人も戦える者何人かでチームを組み、見回りをするようにしましょうか。



●今再び、肩を並べて
「なるほど……説明を聞いた時からもしやと思っていましたが、この村でしたか」
 慌ただしく迎撃準備が進められる村へ降り立ったセルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)は、周囲の様子を見渡しどこか懐かしそうに目を細めた。彼女もまた領主討伐に関わった猟兵の一人である。
「あの戦いからもう一年……今のこの村の様子を見れば、人がこの世界で生きていくのに、吸血鬼の領主など不要ということが分かります。例え貧しくとも、此処には人の意志が感じられますから」
 セルマもこの場に集った幾人かの仲間同様、この世界を生まれ故郷としている。愛着は勿論あるが、その記憶の大半は暗澹たる日々が占めているのが実情だ。だからこそ、こうして吸血鬼による圧政から解き放たれ、己の足で立つ村人たちの姿は喜ばしい光景であった。
「さて、敵の軍勢が通る道の防衛準備は進んでいるようですし、私は少数が別のルートから村を襲うのを防ぐための準備をしましょうか。幸い、つい先ほど警戒網の構築も済んだようですし、そこに便乗させて頂くのが手早いですかね」
 其処此処から聞こえてくる進捗情報へ耳を傾けてみると、メインと想定される侵攻経路に加え、そこから外れた細い街道や森の中に鳴子を使用した警報装置が設置されているらしい。おまけに油や洗剤じみた摩擦を奪う液体罠も散布済みとのこと。仕掛け人の名前も良く知る相手とあって、狙撃手はそれの仕掛けを踏まえた上で己の構想を適宜修正していった。
「となると、後は人手が欲しい所ですが……」
「おぉ? 狙撃手の嬢ちゃんじゃないか! アンタも来てたとはな。その節は本当に世話になった。今回も頼りにしているぜ?」
「皆さんは……丁度良かった。こちらからもお願いしたいことがあるのですが」
 考えを纏め終わった時、タイミング良く村人の一部がセルマの姿に気付いて声を掛けてきてくれた。以前、彼女がマスケット銃の射撃について指導した相手である。かつては発砲音に驚き、弾込めすらも覚束なかったが、今では持ち歩く際に銃口を人へ向けないよう心掛ける程度には扱いに慣れたようであった。これならば、戦力として数えることが出来るだろう。セルマの求めに、村人たちは鷹揚に頷いてくれた。
「他ならぬ嬢ちゃんの頼みだからな。出来る限りのことはするつもりさ」
「であれば、哨戒と遊撃を頼めますか? これだけ備えが充実していれば、皆さんだけでも十分に行動可能なはずです」
 そう言って、狙撃手は現在の防衛状況と敵の動きについて整理しつつ、村人たちと共有する。進軍中の辺境伯軍に対し、防衛側はメインの街道途中に即席の丸太壁を、村の周囲には罠群と銃眼を備えた柵を、そしてそれ以外の街道や森の中に鳴子の警戒装置を配置している。深みのある防御陣地だが、一つ欠点があった。
「この状態ですと、皆さんの出番は戦闘の終盤です。しかしそうなると必然、序盤から中盤にかけては遊兵……詰まり、手持無沙汰となってしまいます」
 微力とは言え、折角の戦力を遊ばせておくのは勿体ない。戦力の質は兎も角、数と言う点ではこちらが劣勢なのだ。使えるものはなんでも使う気概が必要だろう。加えて、その提案は村人たちの心情を慮ってのことでもあった。
(彼らの様子を見るに、以前から成長したという自負もあるはず。領主討伐時よりも一歩踏み込んだ役割を与えてあげれば、感情的にも納得して下さるでしょう)
 ちらりと横目で村人たちの反応を窺うが、熱心に説明へ耳を傾けており特に異を唱える様子はない。ならばと、セルマは更に説明を続けた。
「……ですので、戦場が村から離れている間はチームを組んで見回りをお願いします。バランスを鑑みて、近接武器を使える方と一緒に行動するのが安全でしょうね」
 メインの戦場となるのは恐らく街道上だが、戦闘とは流動的なもの。途中で小集団に分かれ、他の道や森に紛れて浸透を狙う敵も出てくるだろう。そうした敵をいち早く発見し足止め、可能であれば撃退するというのが彼らに課せられた役割である。勿論、危険は伴うがそれへの対策も当然セルマは考えていた。
「もし、手に負えないと判断した場合は鳴子を鳴らしつつ、液体罠を利用して速やかに村まで撤退してください。報せてさえくれれば、私たちが駆けつけて対応します」
「もしも敵がそのまま戦場から動かず、こっちに来なかった時は?」
「その際は街道脇の森へ身を隠しながら支援射撃をお願いします。その際も敵が一定以上進軍したら、村へ戻って迎撃の準備を進めてください」
 どう転んでも、戦力は決して無駄にはならない。主戦場の華々しさとは無縁だが、こうした地味な裏方と言うのも重要な役回りだ。それを狙撃手は十重理解していた。
「以上ですが、何か質問はありますか?」
「いいや、しっかりやって見せるさ……なぁ、今回も勝とうや」
 そうして説明を終えると、両者は頷き合いながらそれぞれの役目を果たすべく散ってゆくのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

勘解由小路・津雲
ここは陰の気が強すぎて……と、思っていたよ、一年ほど前はな。そんな世界でも変わるものだな。

【行動】
 そうだな、森の中で火矢を使われるとやっかいそうだ。
【結界術】に【火炎耐性】と【属性攻撃】で水の属性を付与して、禁火の術といこうか。こいつを村のあちこちと近くの森に仕掛けておこう。

あとは村人の護衛に【後鬼】を貸そうか。村人には、こいつは動く砲台、声をかければ操作できるから、好きに使ってくれと言っておこう

こいつはもちろん自分で動けるが、長年この地に住んだものの勘が、センサーの能力を超えることもあるだろう。村人と協力して動いた方が、上手くいくこともあるはずだ。ここには自分の村を守った勇士たちもいるしな



●火を遮り、災いを断つ
「この世界は陰の気が強すぎる……と、思っていたよ、一年ほど前はな。そんな世界でも変わるものだな。いや、人が己の意志で生きる以上、そこに熱が生まれぬはずもないか」
 地面へ足を下ろして早々、勘解由小路・津雲(明鏡止水の陰陽師・f07917)は記憶に残っていた村の様子との変化に、微笑ましげな表情を浮かべる。世界を覆う暗闇は未だ晴れず、状況も状況なので村内の雰囲気は慌ただしい。だが一方、以前の捨て鉢な空気は感じられず、代わりに人間らしい活気がそこに在った。
「……さて、見た限り迎撃の準備はかなり詰められているな。他に手を回すならば、被害を抑えるために攻めではなく守りの方が良いだろう」
 そう言って津雲は村から外へと歩み出すと、防御陣地の外側へと至る。設置済みの罠を発動させぬよう足の踏み場に注意しながら、彼は周囲へ広がる森の中に踏み入ってゆく。
「幾ら生木が燃えにくいとはいえ、それにも限度がある。守りを抜かれずとも、森に火を放たれれば防ぎきれん。なら、それへの対策もしておくべきだろうな」
 敵の目的は飽くまでも『人類生存圏の殲滅』、これに尽きる。極論、猟兵は愚か自らの命すら無視して火責めを強行された場合、強引に目標を達成される恐れも無い訳ではないのだ。そう言った不安要素を潰すべく、彼はこうして足を運んでいた。
「水を撒いて湿らせておくというのも一手ではあるが、それだけの水量を確保できる保証はない。時間も手も足りないことだし……そうだな、ならばこの術で行くか」
 陰陽師は木の生え具合や地下に流れる微かな水脈の気配を探りつつ、術を施すに適した地点へと当たりをつけていった。そうして幾つか丁度良さそうなポイントへ霊符を仕込むと、錫杖を手に意識を集中させてゆく。
「必要な要素は耐火性と水の気、詰まるところ金生水に水剋火。思い描くイメージは差し詰め金の壁、水の流れと言った所か」
 錫杖を通して注ぎ込まれる霊力へはっきりとした輪郭を与え、それを土地そのものと結び付けて固定化する。術が形を結んだところで、津雲は効果を確かめるべく術式を起動させた。
「金城鉄壁、業火を遮り災いを断たん……急々如律令!」
 瞬間、森と村の境目に出現したのは黒々とした鉄を思わせる半透明な壁だった。その正体は、霊力によって編み上げられた禁火の術である。五行思想において金気は水を生み、水は火に克つものとされている。加えて金属は火を生む元である木に対しても克つことから、術は極めて強力な耐火性能を獲得していた。
「まぁ、なんてことはない。いわば火災の時に降りる防火シャッターみたいなものだ。使わぬに越したことは無いが、いざという時に有るのと無いのとでは気持ちに違いも出てこよう」
 ともあれ、火に対する護りも万全と言えるだろう。だが、何事にも絶対はない。万が一村へ火の手が廻った時にも備え、津雲は村の内部にも同様の術を設置すべく元来た道を戻って行った。
「おお、異国の魔術師殿! 貴方も来ておりましたか、これは心強いですな。あの時貸して頂いた投げ槍、真に役立ちました」
「うむ、そちらも息災なようで何よりだ。しかし……そうか、攻撃手段か」
 津雲が術を付与していると、ちらほらと見覚えのある顔が声を掛けてくれる。彼らの元気な姿に思わず目を細める一方、武器を示す単語に眉根を寄せた。
「村の外には迎撃手段が豊富な一方、内側はまだ手付かずといった様子。まぁ此処まで踏み込まれた時点でほぼ負けだが、遠距離武器ならばまた話は違ってくるだろう。という訳で頼めるか、後鬼?」
 主の呼びかけに応え、装甲に身を包んだ二脚機が姿を見せた。見慣れぬ機械の姿にたじろぐ村人たちを安心させるよう、陰陽師は装甲版を撫ぜながら口を開く。
「安心してくれ。こいつは動く砲台。声をかければ操作できるから、どうか好きに使ってくれ。そちらと協力して動いた方が、上手くいくこともあるはずだ。」
「え、いいのですか? そんな物をまたお貸し頂いて……」
 村人の気遣いに、津雲は首を振って問題ないと応ずる。
「こいつはもちろん自分で動けるが、長年この地に住んだ者の勘がセンサーの能力を超えることもあるだろう。ここには自分の村を守った勇士たちもいるしな」
 不安もある。心配もある。だがそれ同じくらい、信頼があった。その期待に応えるべく、村人は力強く頷く。その瞳に力強い意志が宿っているのを、陰陽師は認めるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ファン・ティンタン
【WIZ】Re:邂逅から始まる戦闘準備
アドリブ共闘可

ん……ここ、蛇殴った時の場所か、懐かしいね
前回にも村周辺は見ているけれど、情勢の変化は村の人に素直に聞いて【情報収集】しておこうか

で、今回は防衛戦、と
ふむ……折角だ、地の利を生かそう

【精霊使役術】
と言っても、今回は悪霊の類かな
出て来い、土蜥蜴
さて、あなた達の内に“アイツら”の残滓が混ざっているかは知らないけれど
今は私が主だよ、働け

事前情報から、敵の進路想定箇所に足を絡めとる生きた沼を仕掛けよう
泥濘と腐臭に泥む土蜥蜴、あなた達なら、悪意には敏感でしょう?

ああ、それと
少しでも命が惜しい村人には避難してもらおう
今回の敵は、一癖も二癖もありそうだから



●敵意も悪意も、憎悪さえも呑み下し
「ん……ここ、一年くらい前に蛇殴った時の場所か。来たのは一度だけとは言え、懐かしいね」
 星明かりも乏しい宵闇、死臭を孕んだ空気、黒に塗りつぶされた世界。村の入口へ降り立ったファン・ティンタン(天津華・f07547)が肌身に感じる空気は、記憶の中に残された風景と寸分の違いも無かった。無論、他の依頼でダークセイヴァーそのものへは何度か足を運んでいるものの、それでも微かな感慨が胸を過ぎる。だが、一年と言う時間は決して短くない。依然として変わらぬものがある一方、確かな変化を齎すには十分すぎる時間でもあった。
「世界は変わらずとも人は変わる、か。こうして生まれ出た微かなさざめきが、いずれ大きな唸りとなり広がってゆくのだろうね」
 白き少女が耳を澄ませば、村の其処此処から声が聞こえてくる。かつて聞いた声は罵声混じりの切羽詰まった怒号だった。未来など見通せず、刹那的な熱狂に身を任せる捨て鉢な行動。だが、今は違う。辺境伯の襲撃を乗り切り、今を護り明日を手にしようという意志が感じられる。ふっと、ファンの口元に思わず穏やかな笑みが零れた。
「周辺の地形は前回の時に一通り見て回っているけれど、こっちは浦島太郎状態だ。ここは挨拶がてら、村人たちに最近の情勢や変化について聞いて回るとしよう」
 夜闇にはらりと白い装束をなびかせつつ、ファンは村へと足を踏み入れる。彼女を見つけぱっと顔を輝かせる見知った顔へ、小さく手を上げて応ずるのであった。

「……で、今回は防衛戦、と。攻め入ったあの時とは立場が逆だね。ふむ、それなら……折角だ、ここは地の利を生かそう」
 暫しの後、一頻り村人から話を聞き終えたファンの姿は、村からやや離れた場所にあった。其処はかつて蛇頭の領主が根拠地としていた屋敷である。憎き領主の住処ゆえ、訪れる者もほとんどいないのだろう。豪奢で在ったはずの建築はすっかり荒れ果て、目ぼしい物は残らず持ち去られている。だが、少女が必要としているのは財貨でも武具でもなかった。
「精霊使役術……と言っても、今回は悪霊の類かな。陽も差さず、風も澱むようなこの場所では精霊も真っ当ではいられないだろうしね。それに場所が場所でもあるから、はてさて……さぁ、仕事の時間だよ。出て来い、土蜥蜴」
 ファンが険しい口調で呼び掛けると、もぞりと地面が蠕動する。まるで子供が泥人形でも作るかのように土塊は蠢くと、やがて一つの形を形成した。それは確かに蜥蜴だが、四つ足ではなく二足で歩む類のもの。流線形のシルエットは、どこか一年前に交戦した悪逆なる騎竜を思わせた。
「さて、あなた達の内に“アイツら”の残滓が混ざっているかは知らないけれど、もしそうであれば中々に良い意趣返しだろうさ。どんな心情かは分からないけれど今は私が主だよ……働け」
 元来、この術は扱いが難しく常に暴走の危険を孕んでいる。普段は交渉術や魔力を代価として精霊を従わせているが、此度は心なしか荒々しさの度合いが普段よりも高いように思えた。しかし、ファンは動ずることなくその手綱を握り、自らの支配下へと置くことに成功する。
「事前情報から相手に騎兵戦力は無く、ほぼ全てが徒歩で移動しているのは把握済みだ。なら、足元から絡め取ってやれば効果は覿面だろうね」
 少女が視線を向けると、土蜥蜴たちはぞるりと下へ沈み込む。全身が地下へと埋まり、水面の如くひとつ波紋が広がれば、あとはもう一見して何の変哲もない地面がそこに在った。だが試しにファンが小石を投じてみれば、とぷんと音を立てて飲み込まれてゆく。これぞ、土蜥蜴による生きた底なし沼である。
「泥濘と腐臭に泥む土蜥蜴。あなた達なら、悪意には敏感でしょう? それに、仲間や村人を飲み込むことは決して許さないけれど……敵ならば、幾らでも腹へ収めて構わないよ」
 好きでしょう、そういうの。ファンの問い掛けに対し土蜥蜴は頭を半分だけ覗かせると、嘲り笑う様に目を細めた。その悪辣さを是としつつ、油断は禁物だと白き少女は警戒心を引き締め直す。
「さて、それじゃあ敵が来るまで進路想定個所に潜んでいて貰おうか。なに、焦らずとも敵は直ぐ来るさ……となれば、そろそろ非戦闘員にも避難して貰った方が良いかな? 今回の敵は、一癖も二癖もありそうだからね」
 敵の予想進軍ルートは、屋敷から見て村を挟んでちょうど反対側だ。心情面を除けば避難場所として打ってつけだろう。ファンは無数の土蜥蜴を従えながら、元来た道を戻ってゆくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

落浜・語
久しぶりに来たけれど、何事もなかったようでよかったよ。
いや、あったから来たんだけれどさ。

さて、何をするべきか……。
槍衾での突撃ってことは直線かつ横幅が必要になってくるんだよな。
だったら、柵とか作ってやると突撃は防げるかな。幸い材料には困らなさそうだし。
あとは単純に落とし穴か。機動なんかをそいでやるのもいいか。
既に積み上げられている木を一部流用させてもらえないか交渉して、駄目ならまた調達を。ま、いくらでもあるわけだしな。
穴掘りは、仔龍の雷【属性攻撃】を地面に落とすことでできないかな。



●細に凝り、微を詰め、より強固へ
「おお、口の達者な兄ちゃんじゃないか! よく来てくれたなぁ……俺たちが言えた義理じゃないが、元気そうでよかった」
「久しぶりに来たけれど、そちらも何事もなかったようでよかったよ。いや、何事どころか大事があったから来たんだけどさ……」
 落浜・語(ヤドリガミの天狗連・f03558)が村へ降り立って早々、彼の姿を見つけた村人が声を掛けてきてくれる。文化的に噺家と言う概念が無い為か、口の立つ青年と認識されていることに苦笑を浮かべる語の肩を、ポンと村人が親しげに叩いてきた。
「なぁに、どんなに大変な事や辛いことがあっても、協力し合える相手が居ればどうにかなるってのをアンタらに教えて貰ったからな。こっちも頼らせて貰うし、逆に何かあれば力になるぜ。今は勿論、これからだってな!」
 状況としては決して楽観視は出来ない。だがそれでも、村人たちは微力ながらも全力を尽くしている。彼らがそうすることが出来るのは、語を始めとする猟兵の活躍があったからこそだ。その言葉に対し青年は照れくさそうに頬を掻きつつ、それならばと口を開く。
「なら早速で悪いけど、一つ頼みがある。木の棒や板、あとは紐が在ったら幾つか分けて貰えないか?」
「お安い御用さ。どこもかしこも資材が入用なんでな、手分けして順次切り出している最中だ」
 村人が示す先には、大小様々な形に切り出された木材が積み上げられていた。これならば足りないという事はあるまい。青年はその中から手ごろな大きさの資材を見繕うと、両腕に抱えて運び出してゆく。
「それじゃあ、有難く貰っていくぜ? ……さて、こんだけ手厚く支援して貰っているんだ。負けるに負けられないな、これは」
 向かう先は村の外、今も尚急ピッチで作業が進められている防御陣地。ずり落ちかけた端材の位置を揺すって整えながら、そんな小さな呟きと共に語は決意を新たにするのであった。

「さて、何をするべきか……槍衾での突撃ってことは、直線かつ横幅が必要になってくるんだよな。それこそ、村から広がるこの街道なんかは打ってつけのはずだ」
 防御陣地に到着すると、一旦持ってきた資材を下ろしつつ前方へ視線を投げかける。村から広がる道は幾つかあるが、その中でも最も幅の広い街道方面に対して防御が集中していた。敵の最も大きな強みは物量であり、それを活かす為には一定程度の広さが必要である。ならば、数の暴力を封じるにはどうすれば良いか。
「だったら、柵とかを作ってやると突撃は防げるかな。あとは単純に落とし穴か。前進を躊躇わせて、機動力なんかを削いでやるのも効果的かね?」
 衝撃を受け止める、あるいは足を活かせない状況へと誘い込む。迎撃戦と言う関係上、地の利はこちらにあるのだ。優位を活かさぬ手は無いだろう。
「……まぁ、これに関しては同じ考えの仲間が先に動いていたようだしな。既にある物へ乗っからせて貰うのが一番手っ取り早いか」
 村の周りには強化の手が加えられた柵や、大岩と丸太を組み合わせた障害物、毒霧と落とし穴を始めとする罠群が仕掛けられている。一から新しい物を作るのも良いが、これらに手を加えて更なる強化を施すのも悪くはない。語はちらりと後ろの柵を見た後、視線を眼前に広がる丸太群へと向けた。
「となると、手を加える余地がありそうなのはこいつらだな。これだけ太ければ土台としても十分だし、隠れられる場所は幾らあっても困るもんじゃない」
 語は転がる丸太の側面に穴をあけて棒を差し込み、麻紐で板を結び付けてゆく。耐久性こそそれなりだが、こうなってしまえば相手も突破するのに一手余計に費やさざるを得ない。そうした小さな手間取りも積み重なれば大きな時間のロスとなり、その分だけ防衛側が有利に立ち回れるのだ。
「っと、数的にはこんなものかな。側面に回られると怖いし、そっちにも落とし穴を何か所か追加しておきたいが……仔龍、やってみるか?」
 額を伝う汗を拭いつつ、語は柵の設置作業に一区切りをつける。だが休んでいる暇など無いと、次いで手を付けたのは陣地の両脇部分だった。正面側と比べてではあるが、この箇所の防備は幾分か手薄だ。それを補うべく追加の落とし穴を掘ろうとした青年は、頼れる相棒の手を借りることに決める。
 呼びかけに応えて顔を覗かせた鈍色の龍は示された地点を一瞥すると、主の期待に応えるべく魔力を練り上げ始める。それをみた語は微笑ましげに笑みを浮かべる一方、リラックスさせるように小さな背を撫でた。
「あんまり力み過ぎないようにな? この周りには可燃物も仕掛けられているらしいから、引火させないように注意してくれよ」
 それにより適度に力が抜けた仔龍はきゅるりと一声鳴くや、小さな落雷を幾つも立て続けに降り注がせた。それらは寸分違わず狙った地面を穿ち、引火を起こすことなく地面に穴を空けることに成功する。
「お、雷の操作もうまくなってきたな。さって、後は穴を隠せば一先ずは作業完了だ」
 青年は誇らしげに鎌首をもたげた仔龍を労いつつ、最後の仕上げへと取り掛かってゆくのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ペイン・フィン
……確か、去年、蛇を退治したところだっけ
懐かしい、ね
……仕方ないとは言え、脅した記憶があるよ
そこは、ちょっと、気まずい

気を取り直して、コードを使用
動物変身して、オコジョの姿に
同時に、技能を使用
偵察、情報収集、世界知識をベースに
迷彩、目立たない、忍び足で隠密行動
あと、空にバベルを飛ばして、撮影
聞き耳、第六感、視力、暗視を併用して、感覚強化

敵の居そうな所、ギリギリまで隠密して接近
情報をなるべく集めてから、帰還
できれば、弱点情報とか、知りたいな
あくまで、外部から来た敵だけど…………
周辺動物が何か知ってないか、動物と話して聞き込みもしておこうか

やれること、やるだけやって
何度でも、護ってみせる、よ



●機を窺え、立つべきはもう間近故に
「……確か、去年、蛇を退治したところだっけ。懐かしい、ね。もう、一年も経ったんだ……」
 見渡す景色は、記憶とほとんど変わっていない。しかし、行き交う人々や彼らの間を流れる空気は殆ど別物と言って良いだろう。それが穏やかなもので在れ、鉄火の匂いがするものであれ、活力に溢れていることに変わりはないのだから。
 そんな村の様子を穏やかそうな心持ちで眺めていたペイン・フィン(“指潰し”のヤドリガミ・f04450)であったが、ある場面の記憶へ意識が及ぶとややバツの悪そうに目を伏せる。
「……仕方ないとは言え、ちょっとばかり、強めに脅した記憶があるよ。今思い出しても、必要だったとは、思うけど……そこは、ちょっと、気まずいかな」
 尤も、当時の村人たちは相当頭へ血を昇らせていた。ちょっとやそっとの言葉では止まりそうになかった以上、多少強引な手段を取るのも必要悪だったと言えるだろう。勿論、共に領主を討ったことで彼らが恩義と親しみを感じてくれていると、頭では理解している。ただ、それでも気後れはしてしまうもので。
「うん……取り合えず、気を取り直して、やるべきことをしようか。既に、大分時間が経っているから、ね。敵も、もうすぐそこまで、来ているはず」
 防御陣地の充実ぶりを見るに、作業着手から相応の時間が経過しているのは明白である。最早、いつ敵と遭遇してもおかしくはないだろう。その際に先んじて敵を見つけ、どれだけ早く先手を取れるかが緒戦の趨勢を左右するはずだ。
「いつ戦端を開くかの主導権は、こっちが握っておきたいし、ね? 自分は、ギリギリまで偵察に専念する、つもりだけれど……今のままじゃ、ちょっと目立つ、かな?」
 その為にもペインは敵の動向と布陣、付け入ることの出来そうな隙を開戦直前まで、可能な限り収集するつもりであった。ただ、今のままでは隠密行動に適しているとは言い難い。故に、青年は身体の調子を確かめる様に大きく伸びをするや……しゅるしゅると、まるで風船から空気を抜くように自らの体積を圧縮していった。そうして瞬き一つする間に青年の姿は消え、代わりに残ったのは真白いオコジョのような小動物。これこそ、姿を変えたペインその人で在る。
(これなら、まさか自分が猟兵だとは、思わないだろうね。ついでに、道すがら森の動物から話が聞ければ、御の字だけど……まぁ、いまは一人じゃないし、ね)
 二足から四足へ変わった感覚に体を慣らしていると、オコジョの隣に降り立つ影があった。それは鋼によって形作られたツバメだ。ペインのスマホが変化した鉄の鳥も、空の目として偵察に加わってくれる。カメラ機能を利用して写真や映像を持ち帰れば、口頭では伝わりにくいニュアンスも共有できるだろう。
(それじゃあ、時間も惜しいし……行こうか)
 翼を広げてツバメは空へと飛翔し、オコジョは下草に紛れながら森の中を駆けてゆく。小さき姿なれど、その背には大きな期待を背負っているのであった。

(あれだけの大人数が移動していれば、どうしたって目につく。それが鳥であれ、鼠であれ、ね?)
 偵察に赴いてから、暫しの後。ペインはそれほど苦労せずに、辺境伯軍の姿を捉えることに成功していた。森の中を見慣れぬ者たちが群れを成して移動すれば、大抵の動物は驚いてその場を離れる。そうして散り散りになった生き物たちの話を聞くことによって、彼は敵の位置を辿ることが出来たのだ。
(……まだ、こっちの存在には、気付いていない、みたいだね)
 辺境伯軍は大方の予想通り、最も幅の広い街道に沿って進軍している。表情はすっぽりと白い頭巾に包まれていて読み取れないが、誰も彼もが真っすぐに前を見据えて歩いていた。こちらとしては好都合だが、一方でその底知れぬ不気味さが感じられる。
(そして、あれが、件の辺境伯……剣の腕は、立つって話だけど。将としては、そこまで優秀では、ないのかな?)
 そして、その中心でぼんやりと虚空を眺める少女こそ、軍勢を束ねる辺境伯その人である。話を聞けた動物たちによると、軍靴の音に驚きはしたものの指揮や命令の声は聞いた覚えが無いのだという。もしかしたら、個としては優秀でも長の資質に欠く類の相手なのかもしれない。
(それでも……どうにも、嫌な感じだね)
 だが、仮にそうだとしてもペインは安堵出来る心持ちになれなかった。そうした欠点を補う底知れなさが、主従どちらにも有る様に思えたからだ。
(……バベルも撮れたみたいだね。頃合いだし、そろそろ戻ろうか)
 ともあれ、一人で情報を抱え込んでも始まらない。仲間と共有すれば見えてくれるものは在るはずだ。
(やれること、やるだけやって……何度でも、護ってみせる、よ)
 そうして、ペインは迫り来る開戦の瞬間を感じながら素早くその場より去りゆくのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 集団戦 『信仰し進軍する人の群れ』

POW   :    人の群れが飲み込み、蹂躙する
【槍を持ち一斉突撃を行うこと】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    全てを焼き払い、踏みつけ進軍する
【持ち帰られた弓から放たれる斉射】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【火矢】で攻撃する。
WIZ   :    守るべき信仰の為に
対象のユーベルコードに対し【集団による防御結界】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


※マスターより
断章、プレイング受付告知はは9日(木)夜頃を目途に投下予定です。
●厚き護り、雲霞の白群
 駆け付けた猟兵と協力してくれた住民たちにより、村の周囲には辺境伯軍と矛を交えるに十分な厚みを持った迎撃体勢が整えられていた。既に非戦闘員も避難を済ませ、残るは猟兵と戦闘参加の意思を示した者たちのみ。構築されたその全容を列挙すれば、以下のようになる。

 まず、第一防衛線。これは敵が通る可能性が最も高い幅広の街道、その途上へ設置された防御壁である。切り倒した巨木を積み重ねただけの単純な構造だが、素材の長大さと頑丈さによって敵の攻撃を受け止めるだけの強度を得ていた。
 また、それ以外の細い道や森の中には鳴子罠による警戒網が構築され、迂回しようとしてくる敵の浸透部隊をいち早く察知できるようなっている。更に摩擦を奪う液体罠や地面に偽装された人食い沼もセットで設置され、有志による武装哨戒班が油断なく睨みを聞かせていた。
 次いで、第二防衛線はトラップフィールドだ。毒霧、火責め、落とし穴という三種の罠が所狭しと設置されている。例えそれらを突破しても無数の丸太や岩石によって構成された障害物、頑強なトーチカが行く手を阻むだろう。
 そして最終である第三防衛線。此処ではぐるりと村を囲う様に銃眼が空けられた盾付きの柵が聳え立ち、その後ろではマスケット銃を構えた村人が万全の状態でスタンバイしている。更に森へは防火術式、村内部では二脚機が射撃支援についているなど、細かい所もカバー済みだ。

 以上のように、並大抵の敵では到底突破し得ぬ布陣であった。これに猟兵の戦力が合わされば、勝利は確実なようにも思える。しかし、偵察に出た面々から齎される情報は安堵を与えるどころか、敵の底知れなさをひしひしと伝えてきていた。
 茫洋とした黒剣の剣士に、ただひたすらに前進を続ける白き軍勢。その数は如何ほどだろうか。少なくとも、三桁は優に超えていよう。頭はすっぽりと頭巾に包まれ表情を窺うことは出来ず、視線さえも判別し難い。だが猟兵たちには確信が在った。あれらは、己が命を惜しむような感性を持ち合わせてはいない、と。目的の為ならば、群の利に個を磨り潰す者たちだと。外見から察するに、本来は信仰へ向けられるべき献身が狂っているのだろう。この手の死兵は数以上の厄介さを発揮するはずだ。
 故にこそ、最初の一撃でどこまで流れを引き寄せることが出来るか。ジリジリとした焦燥感の中、防衛線の各所へ散らばった猟兵たちは今か今かと開戦の瞬間を待ち侘び……そして。
「うん? あれ、は、なに? みんな、一旦停止を……」
 白群を率いし黒剣士が第一防衛線を認め、配下へ立ち止まるよう呼び掛けた、その瞬間。相手が何かしらの行動を開始する前に、猟兵たちは先手を打って飛び出してゆくのであった。

※マスターより。
 プレイング受付は10日(金)朝8:30から開始となります。
 第二章は対集団の迎撃戦です。一章での準備が充実していた為、防衛設備を利用することでプレイングにボーナスが付きます。
 また本章では戦闘の流れや時間経過の関係上、プレイング失効期限とリプレイの構成次第では再送をお願いする可能性がございますので、ご了承頂けますと幸いです。
 それでは引き続き、どうぞよろしくお願い致します。
須藤・莉亜
「来たね。もう一本くらい煙草吸いたかったけど、しょうがない。」
腐蝕竜さんを還す前に、血を貰ってっと。

竜血摂取のUCを発動し、竜人モードで戦う。
先ずは火矢を防ぐために周囲にArgentaを展開。まあ、ないよりマシでしょ。
んでもって、僕は強化されたスピードと反応速度を駆使して、障害物を盾にしながら敵さんに突貫し、二振りの大鎌でバラしにかかる。狙いは手足、出来れば首。多少の傷はすぐ治るし、足を止めずに敵さんらの邪魔をしまくってやろう。
悪魔の見えざる手には奇剣と深紅を持たせて、僕のフォローにまわってもらう。

もちろん、吸血して味見するのも忘れずに。喉が渇いてきたしねぇ。



●開戦謳うは竜の咆哮
「……来たね。慌ただしくなるだろうし、正直もう一本くらい吸いたかったけど、こればかりはしょうがない」
 誰よりも早く開戦の火蓋を切ったのは、第一防衛線近くに身を潜めていた莉亜であった。彼は匂いを悟られぬよう注意深く吸っていた煙草をもみ消すや、そのまま街道上へと飛び出し積み上げられた巨木を駆け上がる。そうして敵の頭上を取った青年の背後に、更なる影が姿を現す。それはここまで忠実に主へと付き従ってきた腐蝕竜。
「頼りになるけど、今回はここまでかな。この数相手だと、腐蝕竜さんも単なる的になりかねないしね。ただ還す前に、ちょっとだけ血を貰ってっと」
 莉亜はさっと手を眷属の肌へ添わせると、傷口からどろりとした黒い血液を掬い取り……それを、口へと運んだ。鮮度など語るべくもなく、控えめに言って味も良くない。だが体へと取り込まれた竜の因子は、劇的な変化を彼に齎す。額より伸びる双角、体表へ浮かび上がる漆黒の鱗に、禍々しき皮膜の翼や棘の生えた尾。敵軍を上方より睥睨するは、悪鬼か魔竜を思わせる異形であった。
「これは……なるほど。既に猟兵(イェーガー)が手を回していた、と」
「気付いたところでもう遅いよ? 数の差は圧倒的だけど、だからこそって手もあるからね?」
 当然、黒剣士を始めとする辺境伯軍も莉亜の姿を視認し、ようやく自分たちが置かれた状況について理解する。だが、それも遅きに失するというもの。彼らが行動を起こすよりも先に、竜人が宙空へと身を躍らせた。その周囲へ現れるは無数の槍、その数八十と二本。更に身体から伸びし不可視の腕は真紅の鎖と無色の刃を握り締め、そして彼自身は黒白の大鎌を携える。単騎でありながら多勢を蹂躙する暴威が、それらにありありと籠められていた。
「狙いは手足、出来れば首が最上かな。多少の傷はすぐ治るし、ある程度の被弾は許容しながら足を止めずに邪魔をしまくってやろう……それにこうも密集していれば、専ら同士討ちしてくれそうだしね?」
 直下に屯する敵兵を大鎌の一閃で切り飛ばし、着地地点を確保。咄嗟に繰り出された槍の穂先を鎖で絡め取り、無色の刃で纏めて断ち切り初撃を凌ぐや、莉亜は交戦を開始した。手を、足を、首を。当たるを幸い、進路を文字通り『斬り』拓きながら竜人は一瞬たりとも足を止めることなく敵の真っただ中を駆け回ってゆく。
 更に一度こうなると、本来であれば個を圧倒するはずの数が逆に足枷となって柔軟な対応を阻害してしまう。寄り集まっているが故に身動きが取り辛い上、常に友軍誤射の危険が付き纏うのだ。取れる対策と言えば、利点を捨てて一旦散開し敵の機動力に合わせるか……あるいは、もっと単純に。
「……こんなところで足止めを喰らっている暇は在りません。総員、目的に殉じなさい」
 誤射を恐れず、味方ごと敵を磨り潰すか。黒剣士が端的な号令を下した瞬間、後方の白兵たちが一斉に弓を構える。一糸乱れぬ動作で火矢を番えたかと思うや、彼らは躊躇なくそれらを放つ。点ではなく面による一斉射はその範囲内に莉亜を捉えていたが、当然彼の周囲に居た兵士たちをも巻き込んで降り注いでいった。
「仲間ごと巻き込んで、か。分かっていたけれど、相手もどうやらまともじゃないらしい。一本一本は微々たる威力とは言え、これだけの数が揃えば流石に話は別だね……ここは大人しく障害物を利用させて貰うよ」
 周囲に展開した槍で火矢を撃ち落としつつ、竜人は防御壁の後ろ側へと身を滑り込ませる。ちらりと相手を見やれば、何人もの白兵がまるで松明の如く火達磨と化していた。やはりと言うべきか、相手に命を惜しむなどと言う考えはないらしい。
 だが、恐るべきはその執念か。炎に包まれながらも彼らは得物を握り締め、幽鬼の如く防御壁へとにじり寄って来ている。しかして、莉亜の抱いた感想には恐れなど微塵も滲んではいなかった。
「ああ、勿体ない……人間の身体が幾ら水分豊富とは言え、あれじゃあ全部蒸発してしまうよ。こっちも喉が渇いてきたしねぇ、少しは味見をしたいんだけど」
 見た目こそおどろおどろしいが、実態は単なる死に体。ならば何を恐れる必要が在ろう。どこか暢気さを思わせる独白を零しながら、竜人は防御壁の後ろから飛び出すと瞬時に敵兵を切って捨てた。そのまま再び矢を番えんとする白兵の懐まで肉薄するや、その胴を鎌刃にて貫く。青年は刀身を伝う鮮血を指先で掬い取り、そっと舐め取る。
「味は……まずまずだね。質より量ってところかな?」
 敵の狂気に負けず劣らぬ、異質なる光景。莉亜は愉快気に目を細めながら、再び敵中を疾走し始めるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

トリテレイア・ゼロナイン
第一防衛線
機械馬に●騎乗
UC用いた敵中突撃敢行
到達や突破までの時間を可能な限り遅らせ味方の援護による被害拡大が狙い

浸透部隊対策に心砕いても、戦う際は街道でのリスキーな突撃戦法…
我ながら不合理と言えますね
ですが、これが私の得手であり、騎士として為すべきと定めたこと
…易々と村へ通しはしません

火矢は●盾受けや頭部格納銃器のスナイパー武器落としで対処
格納銃器の弾切れ前提の●なぎ払い掃射や●怪力で振るうウォーマシン用のランスや●踏みつけで攻撃

弾に槍…此方の『手』が長い利点あれど脚が止まった時が最期

止まる訳には…!

センサーでの●情報収集で周囲の状況や頃合い●見切り格納スペースの煙幕手榴弾●投擲目潰し、離脱


リーヴァルディ・カーライル
…本来なら私も前に出るところだけど…
経験を積めと言った本人が大暴れしていたら世話が無いわね

限界突破した呪詛を込めた紅月を召喚しUCを発動
月光のオーラが防御を無視して敵全体の生命力を吸収し弱体化させる

…何を呆けているの?この程度の事で一々、狼狽えないで

敵はもうすぐそこよ。貴方達は眼前の敵に集中しなさい

過去の戦闘知識を基に村人達の指揮を行い、
自身に向かう攻撃を暗視して見切り回避しつつ、
彼らの矢弾で敵軍を乱れ撃ち経験を積ませるわ

第六感が味方の危機を捉えたら音速超過の早業で切り込み、
魔力を溜めた爪から闇属性攻撃の斬撃を放ち敵陣をなぎ払う

立て直すまで時間を稼いであげる
急ぎなさい、まだ終わりじゃないわよ?



●紅月鋼騎、白き軍勢打ち払い
 先陣を切った猟兵により、敵軍は俄かに混乱状態へと陥っていた。とは言え、自らの命を厭わぬ相手である。そう間を置かずに混乱から立ち直ってくるだろう。ならば、その前に出来る限りの時間を稼ぎ、後続のために場を整えるべきだ。
「……浸透部隊対策に心砕いても結局のところ、戦う際は街道でのリスキーな突撃戦法。我ながら不合理と言えますね」
 戦場に響くは騎馬の蹄音。敵軍がどれも徒歩ならば、それは猟兵のものに他ならない。鋼鉄で出来た愛馬に跨りながら、皮肉気に独り言ちるのはトリテレイアである。本人の口ぶりは自嘲気味だが、そう卑下するものでもない。迂回軌道を封じる策を取ったからこそ、こうして堂々と敵へ挑むことが出来るのだから。
「ですが、これが私の得手であり、騎士として為すべきと定めたこと……易々と村へ通しはしません。数を束ねしそちらの槍衾と、単騎掛けの馬上槍。どちらが勝るか勝負と行きましょう!」
 速度を生むのは脚部だけではない。騎馬や鋼騎士の各部へ内蔵されたバーニアが展開、噴射炎の輝きを曳きながら一気に加速してゆく。それに対し、白兵は密集陣形から槍衾を形成、そのまま臆することなく突撃を敢行してくる。鎧に身を包んでいるとは言え中身は生の身体、強度速度共にトリテレイアと比べるべくもない。だが、後から後から湧いて出る物量は、生きた壁とも形容することが出来た。
 更には、少しでも勢いを減じさせるべく雨あられと火矢まで降り注ぎ始める。
(弩弓や大型の固定弓なら兎も角、数頼みの火矢などこの身にとっては微々たるもの……ですがっ!)
 外宇宙の暗黒でも稼働できるように設計された鋼騎士にとって、油や火薬を燃焼させた程度の温度などぬるま湯に等しい。だが、彼は敢えて各所に装備された内蔵機銃を展開し、直撃軌道を取る火矢のみを瞬時に選別し叩き落してゆく。それでも手が回らぬならば大盾を掲げて守りとする。
 なぜ、こうまで慎重を期するのか。それは彼が数と言う要素を軽視せぬからに他ならない。
(矢弾に槍……此方の『手』が長い利点はあれど、脚が止まった時が最期。如何に無敵を鎧とて、空隙を突かれて敗れ去る様は幾度となく見てきました。囲まれれば無事で済まない以上、決して止まる訳には……!)
 フォーミュラとの戦争時には、度々尋常ならざる耐久力を持った敵が現れていた。だが、それらはほんの僅かな隙間を攻撃され、尽くが敗れ去っている。幾度となく攻め手としてそれを行ってきたが故に、逆の立場となっても慢心する事など到底できなかった。
(全霊を賭した突撃で前衛を打ち破り、密度の薄い後衛にまで至りさえすれば!)
 そうして、敵前衛との距離がゼロへ至る。瞬間、宇宙戦艦の装甲板とはまた異なる、生々しい質感が穂先を通して感覚器へと伝わってきた。刹那の均衡を経て、巻き上げられるは白兵の肉片。千切れた手足や胴体が飛び交う真っただ中を、トリテレイアは強引に突き進む。
(この調子ならば、衝撃力を失う前に突破が……っぅ!?)
 だが、突如ガクンと騎馬の動きがつんのめる。何事かと視線を下へ向ければ、折れた槍の穂先や敵の血肉が乗騎の関節部へと食い込み、動きを阻害していたのだ。
「自らの命と引き換えに足止めとは。やはり、侮りがたい敵手です!」
 そこは当然、敵の真っただ中。異物を排除する僅かばかりの時間すらありはしない。途端に殺到してくる敵を馬上槍で薙ぎ払い、弾切れも厭わぬ弾幕射撃で弾き返してゆく。だが物量は実際脅威であり、徐々に殲滅速度が追いつかなくなり始めた。
「これは少々、不味いですね……!」
 このままでは、かつて斃してきた敵の二の舞になりかねない。そう危惧する騎士の頭上へ――。
「……血の神祖、限定解放。元は天上に坐すモノへ頭を垂れていたのでしょう? ならば、此度も同じことよ。さぁ……血と生命と魂を捧げよ」
 真紅に染め上げられた月が現れ、煌々と輝き始めた。無論、それは尋常の月ではない。照らされた者から生命力を奪い尽くす、呪詛を秘めし吸魂の月明かり。騎士が素早くセンサーを巡らせると、防御壁の向こう側に仲間の存在を感知する。
「助太刀、感謝いたします……!」
「こちらこそ回りくどい方法で申し訳ないわね。本来なら私も前に出るところだけど……経験を積めと言った本人が大暴れしていたら、世話が無いからね?」
「それはどういう……なるほど、理解しました。であれば、今しばらくは敵を惹き付けましょうか!」
 この御業の主はリーヴァルディであった。窮地を脱した騎士の礼に対し、彼女は肩を竦めて応える。本来、この技は月光を呼び出すだけではなく、真の姿を開放し己を強化するもの。だが、にも拘らず前へ出る様子がない。それに一瞬だけ騎士は訝しむものの、すぐさま事情を察し戦闘へと舞い戻ってゆく。ちらりと少女が振り返った視線の先に、その理由があった。
「……何を呆けているの? この程度の事で一々、狼狽えないで。猟兵の戦いは既に一度見ているのでしょう」
「す、済まない。確かにそうだが、やはり慣れなくてな……だが、頼もしい事この上ないぜ」
 リーヴァルディの背後に居たのは、マスケット銃や弓矢を携えた村人たちである。彼女は準備時の発言を実行し、こうして戦闘経験を積ませるべく戦闘可能な者たちを連れてきていたのだ。彼らは一瞬紅い月に見惚れていたものの、少女に窘められて気持ちを切り替える。
「敵はもうすぐそこよ。貴方達は眼前の敵に集中しなさい。幸いなことに、今はあの騎士殿へ意識が集中しているわ。こんな好機を逃す様では、自衛なんて夢のまた夢よ」
 年端もいかぬ少女の言葉は辛辣だが、指示内容はどれも的確だった。直線軌道の銃と曲射弾道の弓、それぞれが狙うべき目標について示しつつ、装填時間の隙を生まない為に攻撃タイミングをそれぞれずらすよう言い含めている。
 トリテレイアが囮役を買って出ている上、防御壁に身を隠している彼らは未だ敵に気付かれておらず、初撃の準備を整える時間は十分にある。だが、一度引き金を引いてしまえば、もう後戻りはできないだろう。
(それでも……否、だからこそ意味があるわ。自らの生死を賭した、その一瞬一瞬が最上の糧となるはずだから。こればかりは的を狙っていても、決して得られないものね)
 そうして村人たちはそれぞれの得物を構え、号令を待つ。ジリジリとした焦燥感の中、その瞬間を待ち続け……そして。
「――いまよ」
 命じる言葉は小さく、しかし続いて発せられた音は轟音と呼ぶに相応しかった。火薬の炸裂音、弓の鳴弦。それらが消え去るよりも前に、攻撃を受けた白兵たちは纏めて倒れてゆく。
「よし、やった! やったぞ!」
「やっぱり、当てられさえすれば効くもんなんだな……」
 喝采を上げる村人たち。だが、すかさずリーヴァルディの警告が飛ぶ。
「次弾の射撃準備を急ぎなさい、まだ終わりじゃないわよ? いまのでこちらの位置も見つかったから、敵が来るわ!」
 言葉通り、伏兵の存在に気付いた白兵たちが一斉に視線を向けてきた。頭巾に隠された無感情な視線に射貫かれ、一瞬だけ村人たちの動作が止まる。それを見かねた少女は、今度こそ自らの身を敵前へと晒す。
「立て直すまで時間を稼いであげる。だから一矢でも一発でも多く撃ちなさい!」
 槍を手に躍りかかってくる白兵の懐へ強化された脚力で踏み込み、魔力を帯びさせた爪先より漆黒の斬撃を生み出して薙ぎ払う。村人たちを森の中へ逃げ込ませれば、鳴子による警戒網や数々の罠によって、安全に撤退することも出来るだろう。だが、一発撃っただけで逃げ帰るようでは先がない。
「護りながら戦うのも楽ではないけれど……必要な労を惜しむつもりはないわよ」
「その心意気に敬服致します。ならば先程助けて頂いた恩を、今この場で返しましょう!」
 敵を蹴散らしながら、トリテレイアはリーヴァルディの元へと駆け付けてきた。彼が細長い缶のような物を複数投擲すると、それらは濛々と白煙を吐き出し始める。煙幕で方向感覚を失わせれば、村人の方へ向かう事もままならないだろう。
「本来は離脱用でしたが、この様な使い方も有効でしょう」
「そうね。それじゃあ、もう少しばかり粘ってみましょうか?」
 そうして機械の駆動音と魔力の調べ、炸裂する弾矢の響きが絶えず戦場へと上がり続けるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ダビング・レコーズ
多数の生体反応を確認
やはり来ましたか
これより迎撃行動に移行します

【POW・アドリブ連携歓迎】

第一次防衛ラインで待機
事前に敷設した防護壁を防波堤として運用
伐採するにもヒュージブレードが必要となった巨木で構築された防護壁ならば、槍の一斉突撃にも対処可能でしょう
当機の攻撃及び防御機能の拡充を目的としパワーローダー形態のアイガイオンとドッキング
地面に突き立てたスヴェルをセントルイスの銃架とし(所謂輝き撃ち)継続的な制圧射撃を行います
敵の数は感知可能な数だけで百を超過
戦闘中は恐らく幾度となくEパックの再装填を繰り返す事態になるでしょう
高速でリロード(早業)を完了させ絶え間なく射撃を続けます


アリステル・ブルー
(アドリブ連携◎詠唱省略OK)

協力の同意があれば積極的に他の猟兵さんと協力/サポートするね!

●行動WIZ
僕は第一防衛戦に行くね
上空からは使い魔ユールに偵察してもらって戦況把握するよ。
迂回してくる敵の相手を希望だけど、戦況や人数次第では主戦場に行ってもいいよ。主戦場が手薄なのも困るしね!
基本は木立の闇に紛れて忍足で奇襲…なんてできないかな? 利用できるものらしていくね、
黒の細剣は抜いたまま活動する。余裕があるならユールの援護射撃もね!
敵を目視した有効射程内の敵すべてを【指定UC】で攻撃するよ。

ここから先は絶対通さない。
人の希望を奪う権利なんてありはしないんだから。



●多勢を退け、小勢を塞ぐ
「数度の戦闘を経て、なお多数の生体反応を確認……やはりこちらへ来ましたか。これより、当機も迎撃行動に移行します」
 敵が来てしまったことを嘆くべきか、己の予測と対策が功を奏したことを喜ぶべきか。どちらにせよ、今は敵を打ち倒すのみ。ダビングは自らの積み上げた巨木の上で敵を睥睨しながら、常に流動し続ける戦況の把握に務めていた。
(敵の衝撃力自体は、敷設したこの防護壁が防波堤として機能し受け止めてくれている……火矢や槍の一斉突撃も、伐採するにもヒュージブレードが必要となった質量と頑丈さを考えれば、十二分に耐え切る事が出来るでしょう)
 高熱の刃を以てようやく切り倒したのだ、それに匹敵する威力でなければ丸太はビクともしないだろう。それに加え先ほどまで生えていた存在故に、内部には多量の水分が蓄えられている。火で炙られ続ければ話はまた別だが、少なくともすぐに燃えてしまう事もないはずだ。
「とは言え、何事も油断は禁物です。攻めるにしろ、護るにしろ、数と言う要素は侮れませんから」
 そう言って、ダビングの手に握られしは先の準備に使用した大型可変外骨格アイガイオン。彼はそれを熱刃としてではなく、己が手足の延長として扱う事に決める。人型と成った機械の中へ戦機が収まり、ただでさえ巨大なシルエットをより増大化させた。彼は防護壁から地面へと降り立つや、巨躯と比例して巨大化した武装を展開する。
「多数の敵を相手取るならば、こちらも相応の手数を用意しなければ殲滅が間に合わないでしょう。敵の数は感知可能な数だけで百を超過……さて、Eパックが持てばよいのですが」
 地面へ突き立てられるは、白銀の多積層実体盾『スヴェル』。がっちりと下端部を食い込ませて安定性を確保すると、それを銃架として荷電粒子スマートガン『セントルイス』を立てかける。それはさながら彼自身がある種の砦や橋頭保になったとも、或いは創作物の大型機動兵器と化したようにも思えた。
 通常であれば、こんな相手に槍や弓で挑もうとは思わないだろう。だが、相手はマトモではない。故にこそ、白兵たちは恐れも怯えも感じさせぬ機械的な動きで鉄巨人へ挑み掛かろうとし……。
「――当機の全火力を以て、殲滅を開始します」
 輝く弾丸によって、それらは骸すら残さずに消し飛ばされてゆくのであった。

「……主戦場も大分派手にやっているね。あの様子だったら任せてしまっても問題ないかな? ただ、もし危なくなりそうならユールに教えて貰おうか。主戦場が手薄なのも困るしね!」
 一方、街道上の第一防衛線から離れた森の中。アリステルは茂みの中へ身を隠し、息を潜めていた。偵察に向かわせた小鳥の使い魔から齎される情報により、彼は主戦場の様子もリアルタイムで把握することが出来ている。戦機の仲間が八面六臂の活躍をしてくれているならば、今しばらくは援護の必要も無いだろう。それよりも、と彼は立ち並ぶ木々の間へと視線を移す。
「……予想通り、迂回して回りこもうとする相手も出て来たね。ただ、まだ数がそんなに多く無いのは救いかな? 対処に手間取ると他の連中にも気付かれそうだし」
 彼の見つめる先には薄暗い闇の中を蠢く、白い影が在った。それは第一防衛線から離れ、森の中を踏破して村へ至ろうと目論む白兵たちの姿である。彼らの目的は猟兵と戦い勝利する事ではなく、村とそこに住まう人々を殺戮することだ。極論、誰か一人でも村へ取り付き火矢を放てば、それで目的は達せられる。
 とは言え、主戦場があの有り様だ。迂回を選んだ者たちも統制してそうしたのではなく、混乱に押し出される形でやって来たという方が正しいかもしれない。そも、見通しが悪いとはいえ白い装束は些か以上に目立っていた。その上、頭を頭巾で覆っているという格好のため、目や耳が効くとも思えない。
「木立の闇に紛れて忍足で奇襲……なんてできないかな? 周囲に警戒を払っている様子もないし、鳴子や罠も利用出来たら良いんだけれど」
 アリステルはすらりと黒い刀身の細剣を鞘走らせ、音も無く手近な相手へ背後から忍び寄ってゆく。枝葉を踏みその音で気付かれると言うのは余りにもベタだが、森ゆえにその危険も馬鹿には出来ない。彼は気配を消して至近距離まで近づくと、片手で口元を抑えつつ一息に刃を突き立てた。
「!? っ! ぅ……――」
「まずは一人、と。うん、この調子なら何とかなりそうだね」
 骸と化した敵を音を立てぬよう横たえつつ、アリステルは次の目標へと狙いを定める。そうして二人、三人と着実に敵を各個撃破してゆく中、突如として甲高い音が彼のすぐそばで鳴り響いた。
「っ!? なるほど、目敏い相手も居たみたいだ……!」
 さっとそちらに視線を走らせると、先んじてアリステルを発見していた白兵が今まさに飛び掛からんとする姿が見えた。鳴子が無ければ先手を取られていただろう。彼は咄嗟に得物を振るう……が、相手もまた瞬時に防御結界を展開してきた。単騎ゆえ強度は脆弱だったが、軌道を逸らされ致命にまで至らない。
「残念だけど……そっちと違って、僕は一人きりじゃないんでね?」
 だが、アリステルに焦りはなかった。幾何学的模様を描きながら、木立の間を飛翔するモノが在る。それは鳥の如き無数の刃。鳥刃は白兵の全身へ突き立つと、相手の攻撃が届く前にその命を刈り取って行った。
「助かったよ、ユール。さて、周囲の敵は今ので粗方片付けられたようだね……っと、主戦場の方もどうやら佳境みたいだし、僕もそちらに行くとしようか」
 主の元へ舞い戻ってきた小鳥より、主戦場の様子が伝えられる。それを聞いたアリステルは仲間の援護に向かうべく、森を後にするのであった。

「Eパック、残存エネルギー量ゼロ。再装填までおよそ四秒。Eパックは残り数量三。彼我の距離は……当初より、僅かずつではありますが縮まってきましたね」
 そうして、視点は第一防衛線へと戻る。ダビングはエネルギーの枯渇した弾倉をパージしつつ、新たな予備パックを得物へと叩き込む。その足元には熱を帯びて蒸気を上げるから弾倉が、幾つも積み重なっていた。
 ダビングと辺境伯軍の攻防戦は一進一退の様相を呈しながらも、僅かずつではあるが敵方が前線を押し上げつつあった。火力、射程、耐久力、全ての点において戦機が勝っている。だがどれだけ手早く行おうと、弾倉交換の一瞬だけは射撃が止む。敵は夥しい犠牲を出しながら、その刹那を利用してじりじりと距離を詰めていたのである。
(とは言え、飽くまでも此処は第一防衛線。敵の漸減と言う目的自体は十分に果たせてはいますし、タイミングを見て撤退すれば良いと言えばよいのですが……)
 前線を引き下げるという事は、村との距離が近くなるということ。欲を言ってしまえば、此処で決着をつけるのが最上ではある。だが、そう容易い相手ではないことはダビングも重々承知していた。
(さて、どこまで粘れるますか……っ!)
 と、ここで幾度目かも分からぬ火矢が飛んでくる。戦機にとっては取るに足らぬ牽制と捨て置いていたが、ここに来て熱に炙られ続け乾燥した防護壁に火が付いた。まだ範囲は微々たるものだが、もしこれだけの有機物が燃え上がればダビングとてただでは済まない。
 ――オオオオオォォォォッ!
 更にそれを好機と見て、敵軍も一斉突撃を敢行してきた。その勢いたるや鬼気迫るもので在り、この一瞬だけは殲滅速度を進軍スピードが上回る。あわや敵に取り付かれるかと思われた、その寸前。
「うーん、こういう状態の相手って痛みには寧ろ強いし……なら、眠って貰おうか!」
 戦場に数多の鳥が舞う。それは森から駆けつけてきたアリステルによるものだ。鳥たちが両翼で白兵を切り裂くや、苦痛の代わりに睡魔を与えてゆく。興奮状態の敵は半ば痛みを無視できるが、眠さはそうもいかない。
「あとは頼んだよ!」
「了解しました、協力感謝します。この一瞬さえあれば、当機にとっては十分です」
 そうして動きの鈍った敵兵へ、ダビングは銃身が焼けつくのも構わずに射撃を叩き込んでゆく。こうなればあとはもう脆いものだ。血液すらも蒸発し、骸は熱に焦がされて。
 一時とは言え、ダビングとアリステルの眼前からは敵の姿が一掃されるのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

フィーナ・ステラガーデン
じゃあ私は第一防衛線後方あたりで杖に乗って空中で待ち構えるとするわ!
人の群れが第一防衛線に入ったあたりで障害物に足を取られているのを確認すれば【属性攻撃】で巻いた油に引火させて、あらかた障害物を利用し終わったら矢を打たれる前にすぐさま第二防衛線後方まで移動
その後発見されて弓を構えてきたら涼音の出番よ!
遠距離準備してる奴らを斬り払いなさい!
涼音には無双も仕事だけど、あらかた弓持ちを斬ったら
攻撃を避けつつ罠への誘導をやってもらうわ!
落とし穴にかかったら再度上空から火球を飛ばして落とし穴の油に引火させる感じね!
じりじり後退しつつ罠を活用していく流れね!
(涼音の描写詳細お任せアレンジアドリブ連携歓迎!


此衛・ファウナ
●プレイング
機竜の操縦席で敵が第一防衛線を抜けるのを待ち受けましょう。
目標、第一防衛線一帯!
全火器兵装使用自由!
この第二防衛線に迫る敵の群衆を砲撃で漸減しますわよ!

水上艦としては小さな機竜ですが、生身の人体を相手にするなら火力は過剰なほどですわ。
高角砲と噴進弾の面制圧で気勢を削げば、どれだけの練度があろうとマトモな軍隊ならば後退するはず……


……止まりませんの!? そんな、読み違えたなんて!
予想以上の障壁強度、想定外の狂信……完全にわたくしの判断ミスですが、退がるわけにもいきませんわね……
たとえ囲まれようと討たれるまでは砲撃し続けて味方の負担を軽くしますわ。
いざとなれば、わたくしごと機竜を……



●迎え撃つは業炎と竜弾の二重奏
 第一防衛線での戦闘により、辺境伯軍は早々に出鼻を挫かれていた。防御壁が抑えとなって進軍を阻み、足が止まった所で乱戦へと持ち込む。緒戦のぶつかり合いは猟兵の目論見通りに推移している。だが、如何せん数の差ばかりは埋めきりがたい。防御壁に取り付く者、大きく迂回して突破を図る者など、ちらほらと体勢を立て直し始める白兵も現れ始めていた。
「とは言え、まだまだ大部分は混乱状態のようね! だったら、もう少し足止めさせて貰うわよ!」
 だが、そうは問屋が卸さぬと前線へ駆けつけたのはフィーナである。杖に跨り戦場上空を飛び回りながら、敵の全体像を俯瞰してゆく。相手は火矢を使うらしいが、こと炎と言う分野で後れを取るなど魔女の矜持が許しはしない。敵の密度と罠の位置を照らし合わせ終わると、少女は一気に高度を下げた。
「一撃で吹き飛ばしてあげても良いけど、せっかく手間暇を掛けて仕掛けたんだもの! 使わなきゃ勿体ないって話よね!」
 敵がこちらへ気付くよりも先に、フィーナは散発的に火球を放つ。焔が白群の中へ飲み込まれた瞬間、ぼわりと紅の線が敵中を駆け抜けた。それは事前に撒いておいた油によるもの。炎は敵を飲み込むと同時に、火の壁と化して陣形を寸断してゆく。
「これなら暫くは……っと、おぉ!? 危ないわね、もう!」
 だが、敵も然るものだ。仲間が火達磨になるのを尻目に、白兵たちはフィーナを叩き落さんと次々と矢を放ち始める。威力自体は大したことが無いが、掠めれば今度は己が炎と化す。もしそのまま敵中へ落下でもすれば、圧殺は避けられないだろう。
「ま、ここはこんなものね! となれば、あとはとっとと第二防衛線まで下がるわよ!」
 ここで魔女はその場で粘るのではなく、一度後退する事を選んだ。踵を返す彼女の背後では防御壁が焼け落ち、炭を踏み砕きながら敵が雪崩を打って突撃してくる。白兵の視界は、朧気ながらも既に村の輪郭を捉えていた。そのまま、目標へ向け進む敵の群れへ……。
「突破しこの第二防衛線に迫る敵群を砲撃で漸減しますわよ! 目標、第一防衛線一帯! 全火器兵装使用自由! 射線上に友軍の姿なし……撃ェッ!」
 強烈な砲射撃が襲い掛かった。身体を貫く弾丸に鮮血が舞い散り、見る間に白い装束が朱に染まってゆく。その発射元を辿れば、大穴の底へ身を収めた機竜。背に跨ったファウナは、己が戦果を確認し思わず笑みを浮かべる。
「水上艦としては小さな機竜ですが、生身の人体を相手にするなら火力は過剰なほどですわ。況や、技術レベルがこれほどまでに隔絶しているのであれば猶更でしょう」
 一般的に戦車や重砲と軍用艦の砲を比べた場合、自重や用途の差によって後者の方が高火力である場合が多い。例え小型と言えども、絶大な威力を発揮するのは当然である。相手も相応に装備は整えてはいるだろうが、それも飽くまで中世レベルでの話だ。鋼板を穿つ弾丸の前では障子紙も同然。
「ただ、念には念を入れておくのが無難ですわね。仰角誤差修正、噴進弾一斉射!」
 幾条もの煙を曳いて飛翔してゆくのは機竜背部に搭載された噴進弾、いわゆるロケット弾である。点や線で薙ぎ払う銃弾と違い、こちらは爆発と言う面で敵を圧倒する。直撃を喰らえば、近代装備で固めた兵士とて無事では済むまい。
 噴進弾は着弾と共に炸裂し、地面ごと敵を吹き飛ばしてゆく。攻撃地点はさぞや凄惨な光景と化しているだろうが、濛々と立ち込める土煙によってそれらは覆い隠されていた。
「罠や障害物を活かすまでもありませんでしたわね。高角砲と噴進弾の面制圧で気勢を削げば、どれだけの練度があろうとマトモな軍隊ならば後退するはず……」
 ファウナの見立ては決して間違いではない。槍と弓矢で近代装備と戦えと言われれば、大抵の者は拒絶するだろう。だが……戦争とは理性的に準備され、狂気によって激化するもの。彼女はそれを知識として知っていても、肌身に感じたことはこれまでなかった。
 ――ォォォォオオオオオオッ!
 土煙の奥から、底知れぬ声が木霊する。粉塵を蹴散らし、飛び散った同胞の血肉を踏みにじりながら、白き軍勢は先と変わらぬ勢いを以て突撃してきたのである。集団障壁による防御で、被害を最小限に抑え込んだというのも勿論ある。だがそれ以上に、少女の相対する者たちは生憎『マトモ』ではない。
 死を厭わぬ軍勢。合理とはまた別の理屈によって動く集団なのである。
「……止まりませんの!? そんな、読み違えたなんて! 予想以上の障壁強度、想定外の狂信……完全にわたくしの判断ミスですが、退がるわけにもいきませんわね……」
 読み違えたのは経験の浅さゆえか。素直に己の失策を認めるのは良き点ではあるが、では次にどうするかと言う選択肢が瞬時に思いつけない。否、思い付きはするのだが、敵が迫っているという状況を加味したとしても、それは些か以上に過激すぎる方法であった。
「たとえ囲まれようと、この身が討たれるまでは砲撃し続けて味方の負担を軽くしますわ。いざとなれば、わたくしごと機竜を……」
 少女はその場に留まりながら、攻撃を継続し続ける。身を挺して戦況に貢献すると言えば聞こえは良いが、それは少しばかり思考が固すぎるというものだ。確かに敵は多勢である。だが、数に劣るとはいえ……。
「ああ、もう! なに勝手に覚悟決めちゃってんのよ!? 此処にはあたしも居るって忘れてないかしら! それに……切った張ったは任せたわよ、涼音!」
 こちらにもまた、頼れる仲間が居るのだから。第一防衛線より後退し、第二防衛線後方で体勢を立て直したフィーナが叫ぶと同時に、一陣の疾風が前線を駆け抜けた。チリン、と。涼やかな鈴の音が小さく響いたかと思うや、最前列の一隊が血飛沫を上げて崩れ落ちる。
 思わず足を止めた敵の前に立ち塞がったのは、紅の和装を纏った女剣士。油断なく得物を構え、鋭い眼光で敵を睨みながらも、口元には微かな微笑が浮かんでいた。
「久方ぶりですね、こうして此処に来るのも……さて、と。時代遅れな敵には、同じように古めかしい剣術でお相手するとしましょうか」
「最優先は弓矢を構えた連中よ! でも、切り込みすぎなくても良いわ。適度に搔き乱したら、こっちに誘い込んじゃって!」
「委細承知ッ!」
 そうして槍衾を断ち、火矢持ちを刈り取りながら女剣士は縦横無尽の活躍を見せてゆく。それを見つめていたファウナも思わずハッと我に返るも、援護射撃を続行すべきかの判断に逡巡する。
「剣士殿の負担を減らすなら、攻撃の継続を……しかし、噴進弾や高角砲では巻き込む恐れも……」
「慌てなくても大丈夫! そっちも出番もすぐに……そら、来たわよ!」
 そんな新米軍人へ、紅の魔女がタイミングを示す。見ると、じりじりと後退する女剣士に誘引された敵兵が、次々と落とし穴へと落下してゆく瞬間が視界に飛び込んでくる。幾ら覚悟を決めようと、瞬時に穴は埋められまい。今度こそ敵軍の足が完全に止まる。
「私は穴に落ちた連中を蒸し焼きにしてやるから、そっちは足を止めた連中をお願い!」
「りょ、了解しましたわ! 身動きできなければ、先ほどと同じように一網打尽にしてさしあげます!」
 女剣士が飛び退ったと同時に、フィーナの爆炎魔法とファウナの操る機竜による一斉射が降り注ぐ。脱出困難の落とし穴は瞬く間に地獄の炉に変じ、そうでない者も耕された地面と混ざり合い肥料と化す。全滅にはまだまだ遠いが、一先ず三人の少女は敵の第一波を殲滅する事に成功した。
「なんとか凌げましたか……やはり、今回の戦いは罠の活用が肝となりそうですわね」
「そりゃそうよ! 効果を発揮して貰わなくちゃ仕掛け損だからね!」
「それに私の足なら、罠が起動する前に駆け抜けられますから相性も良さそうです」
 緊張の汗を拭うファウナと得意げに胸を張るフィーナ、まだまだ余力を残す女剣士。三人は互いの健闘を労いつつ、続く第二波も撃退すべく気を引き締め直すのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セルマ・エンフィールド
来ましたか。では、こちらも始めましょうか。

敵が多いところがあったらすぐに向かえるよう村の中心部に立ち【氷の獣】を呼び出します。
狼の行動半径は7km弱、十分村の端から端までカバーできます。

こちらが先に敵を発見できたら狼たちを茂みや木々を利用し忍び寄らせて死角から敵を襲わせます。
もし村人が先に敵を発見し戦闘になったのなら近くの狼たちを援軍に向かわせ、敵の目の前に立って攻撃を引きつけつつ、火矢で森に延焼しそうなら、その身を以って火を消してもらいましょう。火は氷を溶かしますが、氷もまた火を和らげることができます。

狼たちに時間を稼いでもらっているうちに私も接敵出来たらフィンブルヴェトで敵を撃ち抜きます。



●牙を剥きしは狩猟の流儀
「…………来ましたか。では、こちらも始めましょうか」
 遠くから戦闘音がうっすらと響いて来るとは言え、前線からの正確な情報はまだ届いていない。だが、村の中心で待機していたセルマは愛銃を手に立ち上がる。狩る者としての第六感が、村へと接近しつつある気配を感じ取ったのだ。
「とは言え、目や耳は良いとしても手ばかりは数も長さも足りません。ならば、優秀な猟犬に手伝って貰うとしましょう」
 幾ら銃器が射程に長じる武器種とは言え、それにも当然限度がある。単独では全ての戦場へ睨みを利かせられぬ以上、まずは頭数を増やすべきだろう。それに狩りには供回りが付き物だ。狙撃手の出番はトドメの一撃と相場が決まっているのだから。
「群れは……三つほどに分ければ十分ですかね。各種罠に加えて、哨戒班の方々もある程度の武装もしています。狼たちの脚力であれば、致命的な事態へ陥る前に駆け付けられるでしょう」
 そうして、セルマが呼び出したのは氷で出来た狼たちである。全身からは温度差でうっすらと靄が漂っており、大地を踏み締めるたびに足跡と共に霜が残りゆく。少女は獣たちを三つの群れへ分割すると、それぞれ三方向へ向かわせる。彼らが独自行動できる範囲は、使い手を中心とした半径七キロメートル。動き回るには十分すぎる距離だろう。
「さて……状況次第ではありますが、私も動けるように準備しておくべきですね」
 獲物を見つけ、猟犬が追い立て、狩人が仕留める。何も変わりはしない。セルマは油断なく愛銃を構えながら、従者からの一報を静かに待つのであった。

「敵さんの姿は今のところなし……だが、気は抜けないな。どっから来るか分かったもんじゃない」
 他方、村の周辺を広がる森林地帯。その中を哨戒担当の村人たちが油断なく警戒を行っていた。勝手知ったる土地とは言え、視界は良いとは言い難い。彼らは半円状に陣形を組みながら、ゆっくりと進んでゆく……と。
 ――カランッ、カランッ!
「鳴子が鳴ったぞ、右手からだ!」
「数は二! 液体罠に嵌まってやがる!」
 乾いた木材の甲高い音が鳴り響き、その源では摩擦係数を奪う液体によって白兵二名が成す術も無く地面を張っていた。これ幸いにと村人たちは鉛玉と近接武器を叩き込み、危なげなく敵を屠り去る。こうして村人たちのみで戦闘を行えるのも、猟兵の下準備ゆえ……だが。
 別方向から彼ら目掛けて数本の火矢が飛んでくるに至り、事態は一変する。
「っ、新手だ!?」
「しまった、銃の再装填がまだ終わってないぞ!」
 銃声は鳴子以上に良く響く。今ので感づかれたか、数名の白兵が猛然と距離を詰めてくる姿が見えた。対して、狼狽える村人たちの反応は致命的なまでに遅い。あわや、敵の攻撃が届くという寸前。
 ――ウォォオオンッ!
 両者の間へ氷狼が割って入ったかと思うや、敵の腕に食らいつきそのまま投げ飛ばす。 既に幾人か仕留めたのだろう、狼たちの身体は所々が朱に染まっている。それがセルマによる援護だと理解した村人たちは、足手纏いにならぬよう速やかに距離を取り始めた。
「くそ、狼よりもこっちが優先か!」
 しかし、白兵たちは氷狼たちを槍で追い払いつつ、村人たちへ次々と火矢を浴びせかけてくる。きっと、当たれば儲けもの程度に考えているのだろう。外れたとしても火が木々に燃え移り、ゆくゆくは村を飲み込む火災となるからだ。それを理解している村人が思わず歯噛みする。
「くそ、あいつら……! だが、消火活動をしようにもこれじゃあ」
 そんな懸念を察してか、氷狼の一部が戦闘より離脱すると自らの身を挺して火を消し止め始めた。熱で炙られ溶け出した水が炎に触れ、じゅうと音を立てて蒸発する。これで延焼は堰き止められたが、代償は狼を構築する氷そのもの。同じことを何度もしていれば、いずれは戦闘力を喪失してしまう。
「援護をすべきか? だが、下手をすれば狼を撃ってしまうぞ」
「いや……あの動きは、なんだか」
 どうすべきかと逡巡する中、ある者が獣の動きに何らかの意図を感じ取る。吼え立てつつも、余り前に出過ぎない。だがそれは攻めあぐねているというよりは、特定の位置へ誘導しているようで。
「――追い立て役、ありがとうございます。これで、射線は通りました」
 刹那、一発の銃声と共に白兵の頭部が弾け飛んだ。思わずそちらを向いた者たちも、二発、三発と立て続けに発砲音が響く度、同じ末路を辿る。瞬く間に地面へ敵の骸が転がり並ぶ。そんな場へ、戦果を確認するように姿を見せたのはセルマだった。
「援軍が間に合ったようで何よりです。こちらが一番敵の数が多かったので、私も駆け付けたのですが……」
「ふぅ……相変わらず、惚れ惚れする腕前だぜ。助かったよ、ありがとう」
 窮地を脱し、思わずほっと溜息を吐く村人たち。他方面に向かわせた群れからは粗方の敵は狩り終えたとの報告も入り、一先ずは安全が確保されただろう。
「……とは言え敵の残存数はまだまだ多いですし、気は抜けませんね」
 引き続き、哨戒は密にしなければ。溶けた氷狼の身体を修復しながら、セルマは油断なく敵の進行方向を見つめるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

勘解由小路・津雲
【路地裏】4名
ふむ、敵の防御結界がちとやっかいかもしれんな。おれはあれをなんとかしてみよう。

【作戦】
【エレメンタル・ファンタジア】を使用、霧を発生させる。攻撃よりも、目隠しが目的。ペイン支援にもなれば。
【衝撃波】などを使い、敵の方を薄く、こちらを濃くなるようにしてみよう。
そして【式神】を使い、罠のある地帯に誘導。そのままでは結界に防がれるだろうが、式神に【霊符】を持たせ、相手に干渉。【結界術】+【封印を解く】で解呪といこうか。
通常なら技能でUCの解除は難しかろうが、語の支援を受けた状態ならば。
問題は、あいつら、罠をものともせずに突っ込んできそうなことだが……。ま、そのときはファンにまかせよう。


落浜・語
【路地裏】

さてさて、細工は流々仕上げを御覧じろ、だな

いくら細工をしておいてもそれに連中を放り込まないことにはどうにもならないわけでして。
【視力】や【聞き耳】を使って【情報収集】し、その場その場の戦況を活劇譚の形で語り【鼓舞】すると同時に情報伝達する。
他の人が攻めたり、何らかの行動の合図やらになれば良い

基本的には遮蔽物や、津雲さんの作った霧に身を隠して語るけれど、必要ならトラップの前辺りで連中の突撃を呼び込み、沼やら落とし穴に嵌めてやることも考えておこう。
後は、円環を【念動力】で操って【挑発】してみたり【暗殺】狙って見たりとかできそうならやってみるか。
まぁ、俺の仕事のメインは伝達だからな。任せた


ペイン・フィン
【路地裏】

さてさて
自分は引っかき回して、連係を崩させて貰うとしようか

動物変身を解除しながら、コードを使用
血霧を纏って、姿を消しては、血煙の残像と共に、また現れる
時には敵陣まっただ中に移動したりして、同士討ちを狙おうか
視力に暗視、第六感の感覚技能を使って、視認しづらい相手も狙っていこう

手にするのは"ジョン・フット"
火矢ごと焼き潰し、火矢の炎を弾いて敵を燃やす
同時に焼却+継続ダメージ
火傷と炎で体力も徐々に減らしていこうか

ん、この感覚は……
他の人には、害かもしれないけど
自分にとっては、力を高めるリソース
ありがたく、使わせてもらうよ。ファン

あの場所は、燃やさせない
代わりに、肉も魂も、焼け焦げると良いよ


ファン・ティンタン
【WIZ】信仰の堕ちし沼
【路地裏】4名
アドリブ可

防衛線は十全
仲間内の符牒も示し合わせ済み

では、【蹂躙】には蹂躙で応えよう

雁首揃えた連中を一々相手するのは骨が折れるからね
物量を制するは効率、だよ

【大怨声】
霧に乗じる私は、敵群から少し間を置いた中衛といったところか
ペインの気配から狙うべき方向は推測できるだろう
イミナ、てきとーに頼むよ?
【呪詛】が敵群を呑めば儲けもの
ならずとも、広がる呪場は彼にとって悪いモノではないから大丈夫
そして、餌場が整えばあとはヤツらの仕事

いいかな、熊が鮭のはらわただけを食うように、旨い所を喰ったら次にいけ
多勢を効率良く無力化するには、仕留めきるな
出血を強いて、敵の数を枷にしろ



●手札全てを使いて挑め
 第一防衛線を突破し、辺境伯軍本隊は第二防衛線へと迫りつつあった。先駆けとして突出した第一波や、迂回路を探っていた小集団はその尽くが撃退されている。となれば、敵もまた正面突破を狙って本腰を入れてくるというものだ。猟兵側も十二分に備えているとは言え、油断は禁物で在ろう。
「さて、敵さんも気合が入っているみたいだね……だけどこっちだって防衛線は十全、仲間内の符牒も示し合わせ済み。来ると分かっていた相手に負ける訳にはいかないね」
 第二防衛線で仲間たちと共に待ち構えていたファンは、真紅の左瞳で敵の陣容を一瞥する。当初より数は減っているが、それでもまだまだ多い。だが少女の口ぶりは臆するどころか、不敵な色さえ見え隠れしていた。
「さてさて、細工は流々仕上げを御覧じろ、だな。全員死兵で突っ込んでくるんだろ? 使えるもんは全部使わなきゃ、手が回らなくなりそうだ」
「ふむ、となると敵の防御結界がちとやっかいかもしれんな。術を行使する者の数が増えれば増えるほど、強度を増す性質と見た。おれはあれをなんとかしてみよう」
 先んじて交戦した仲間たちから、敵の使用してくる戦術について既に情報共有が成されている。語は自らの仕掛けた罠の配置を改めて確かめ直し、また津雲は障害となるであろう異能の分析を進めている。ともあれ、凡その作戦内容については既に打ち合わせ済みだ。後は、各々がそれを実行できるか否か。
「……さて、と。自分は縦横無尽に引っかき回して、連係を崩させて貰うとしようか。代わりに、後ろは任せるよ?」
 だが、こと連携と言う点において彼らの経てきた経験は長く、厚い。変身を解き、小動物から常の人間形態へと戻り行くペインの言葉からも、その自負が滲んでいる。それに多数を相手取る戦闘は青年の得意分野でもあった。
「では、蹂躙を望む相手にはこちらも蹂躙で応えよう。雁首揃えた連中を一々相手するのは骨が折れるからね……物量を制するは一にも二にも効率、だよ」
 そう言って白き少女は赤髪の青年と共に敵陣目掛けて飛び出してゆき、陰陽師と噺家は防衛線付近にてバックアップに専念し始める。対辺境伯軍迎撃戦は此処より佳境を迎えてゆくのであった。

「先の禁火術式敷設時に、周辺一帯の水脈については把握済みだ。全てを凍てつかせられれば最上だが、そう容易くはいかぬだろう。視界を遮ることが出来れば御の字か」
 仲間が接敵するよりも先に動いたのは津雲であった。彼が錫杖の石突を地面へめり込ませると、そこより濛々と濃密な霧が溢れ出始める。汲み上げた地下水を冷却し、凍てつく氷風へと変じさせたのだ。陰陽師が手を振るうと、今度はそれに合わせて風が吹き荒れてゆく。大気の流れは拡散しようとする白煙を一定の領域へ押し留め、仲間を覆う隠れ蓑を形成していった。
「これじゃあ、視界は効かないだろうが……こっちの本領は耳と口なんでね。言葉だけで情景を形作るなんざ、得意中の得意ってもんだからな」
 そして語もまた、己が役割を果たすべく口を開く。敵味方で濃淡に差があるとはいえ、視界が良いとは言い難い。しかし、彼に限ってはその要素を無視できた。朗々と響き渡る言葉は霧越しでも明瞭に響き、紡がれる言葉はありありと見えざる情景を浮かび上がらせるのだから。
「一度は領主を討ち果たし、自由を掴んだ小村に、再び迫るは『辺境伯』! 死すら恐れぬ白兵が、死を振りまかんと軍靴響かせ忍び寄る! 左手に三隊右手に五隊、遥か後方では火矢を番う! 此度語りますは、今再び村を護らんとする猟兵の活劇譚で御座います!」
 その言葉が仲間の背中を押すものだという点に変わりはない。だが内容に敵の布陣や動向を混ぜ込んで伝えることにより、前衛は隠蔽を維持したまま相手の動きを把握する事が可能となったのである。こうなってしまえば、霧は単なる目晦ましに留まらない。既にその一帯は、踏み込んだ敵を際限なく呑み込むキリングフィールと化していた。
 だが敵にはそもそも恐怖も、躊躇も、ましてや保身すら存在しない。一部は後方から火矢を霧の中へ射掛けつつ、残りは同士討ちの可能性を一顧だにせず槍を構えて突入してくる。
「『ヤツら』の出番はもうちょっと引き付けてからかな……攻撃手段的に、今の私は中衛と言ったところだね。ペインが先行しているようだし、その気配から狙うべき方向も推測できる」
 敵味方の動きを感じ取りつつ、ファンは白煙の向こう側を睨みながら小さな手鏡を取り出した。その鏡面が映し出すのは、光ではなく闇。どろりと汚泥の如き漆黒が溢れ出したかと思うや、白き少女はそれを掬い取りばら撒くように投擲する。
「イミナ、てきとーに頼むよ? 飽くまで攻撃だから、呪詛が敵群を呑めば儲けもの。ならずとも、広がる呪場は彼にとって悪いモノではないから大丈夫……寧ろ、良い支援になるだろうしね」
 それは飛沫の如く拡散するや、純白の大気を侵すかの如く黒き風となって拡散してゆく。それが誰に、何処まで届いたのかまでは視認できない。しかし、地の底より囁くような呪詛とくぐもった呻き声が其処此処から聞こえてくるに、戦果は挙げられているのだろう。
 手鏡の放つ呪詛は敵の命を奪い去るだけでなく、飛び散った地点を中心としてその場を霊的に汚染する。本来であれば、敵は愚か味方にすら毒となる呪い。だがそれが逆にプラスとなる数少ない例外こそ、最前線を縦横無尽に駆け回っているペインであった。
「ん、この感覚は……なるほどね。ありがたく、使わせてもらうよ。ファン」
 白霧に混じる黒風の匂いを感じ取り、赤髪の青年は薄く笑みを浮かべる。幸か不幸か、彼が力の源とするものは様々な負の感情。数多の手を渡り煮詰められた呪いなど、燃料としては最上と言えるだろう。
 ペインが此度の戦友として選んだのは、蒼炎を噴き上げる焼き鏝。呪詛と言う薪をくべられた拷問具はより一層煌々と燃え上がり、噴き上がる煙は真紅に染まり行く。白、黒、紅。三色の斑模様の中へと身を溶け込ませると、彼は先程から狙いをつけていた気配のど真ん中へと瞬間移動する。
「無理にトドメを刺す必要はない、か……延焼と火傷は着実に体力を奪い、やがて命すらも焼き尽くす。特に"ジョン・フット"の炎はね?」
 突如として現れた敵へ咄嗟に反応出来ただけ、敵も天晴だと言えるだろう。同士討ちすら厭わず、猟兵を串刺しにすべく槍を突き出す。だが一手先んじたペインの振るう焼き鏝が槍の穂先を溶断し、そのまま敵を炎の指先で絡め取って行った。
 致命にまで至ってはいないが、これで問題はない。如何な強靭な精神力とて、身体が付いてこなければ無力なもの。それに後始末の算段とて既に用意してある。
(なら、自分がやるべきことは、敵の頭数を速やかに減らすこと……)
 そうして、ペインは次々と敵を無力化してゆく。単に燃やすだけでなく、敢えて同士討ちするに任せることによって、最小限の労力で最善の結果をもぎ取り続ける。そうして倒した敵の数がとうに二桁を越え、幾度目かも分からぬ瞬間移動をした時……。
「っぅ!? 弾かれ、た? これは……結界?」
 強烈な衝撃と共に、彼は強引に敵と引き離された。倒された仲間の断末魔から、朧気ながらも対策を講じてきたのだろう。白兵は移動の瞬間を狙って防御結界を発動させ、強引にペインを弾き飛ばしたのである。その衝撃を目印として、その周囲一帯へ間髪入れずに火矢が降り注ぎ始めた。白兵たちは結界を維持して無傷な一方、流石のペインもこれには防戦に徹さざるを得ない。
(全力を叩き込めば、結界は破壊できるだろうけど。その間はどうしたって火矢に晒されるだろうね。さて、どうしようかな……うん?)
 被弾覚悟で突っ込むか、一旦捨て置いて別の敵を相手取るか。逡巡する青年の横を、フッと一陣の風が通り抜けた。鳥だろうか? 否、霧に紛れて良くは見えなかったが、それでもペインはその正体をすぐさま見抜くことが出来る。
「これは、式神?」
「……結界術はこちらの領分でもあるからな。術を行使する人数に差があるとは言え、語の支援を受けているんだ。解呪の一つ程度、こなしてみせようか」
 それは式によって動く東洋の使い魔。それを通じて聞こえてきた陰陽師の声が、此処から先は己の得意分野だと告げていた。もし視界が明瞭であったのならば、飛翔する式神が嘴の先に細長い符を咥える姿を見ることが出来ただろう。
「結界を張る事が出来るというのは、逆説的にどこをどうすればそれを打ち崩せるかを知る事でもある。ベースとなっている基盤が馴染みの薄い西洋のものとはいえ、それでも相通ずるものはあるからな……そら、そこが要だろう?」
 式神はふわりと敵の周りを一巡りすると、ある一点目掛けて突撃する。そのままぺたりと身体を結界表層へ張り付かせるや、霊符へ籠められた術式による干渉を開始した。相手も祈りを捧げて維持に努めるものの、此処で重要なのは数ではなく質。術者としての練度の差は如何ともしがたく、数瞬の間を置いて結界はまるで硝子の如く砕ける。
「さぁ、これで邪魔する者はもう居ない。存分にやってやれ!」
「うん、ありがとう……お誂え向きに、火矢も飛んできたしね」
 そんな仲間の状態を霧越しにはすぐさま把握できず、引き続き火矢が撃ち込まれる。ペインはそれを叩き落しつつ熱量だけを絡め取ると、そのまま護りを失った敵へと打ち返してゆくのであった。
「前衛が潰され、そろそろ後詰めを吐き出してくる頃合いだな。作戦を次の段階へと動かすには丁度良い。そんなに村へ近づきたければ、お望みどおりにしてやろう」
 ペインやファンの活躍により、敵の前衛は粗方討ち取られた。このままでは埒が明かぬと判断した白兵たちは、霧の外で援護に回っていた者たちも掻き集めて再度の突撃を敢行する。しかし意外にも、猟兵たちはそれを止める様子はなかった。それどころか、津雲は式神たちを忙しなく行き来させる事により、相手を自陣へと誘導し始めてすらいる。
 疑うほどの柔軟さが無いのか、或いは分かった上で敢えて乗っているのか。敵群は一切の躊躇も無く前へと進み続けてゆく。
「辺境伯の軍勢は、ただひたすらに五里霧中の路を突き進む。果たしてそれは、勇気か無謀か忠心か。盲目なのも良し悪しと、いずれ身を以て学ぶでしょう……ってな。全く、あれだけやられてんのに良くやるもんだぜ」
 その内にゆっくりと視界が明瞭さを取り戻し始めた。陰陽師の生み出した霧を抜けたのだ。そんな白兵たちの眼前へ姿を現したのは、それまでずっと活劇譚を紡ぎ続けていた語りであった。噺家はくるくると指先で円環を弄びながら、不敵な物言いで挑発の言葉を浴びせかける。
「さて、何がアンタらを突き動かすかまでは知らないが。まさか此処まで来て怖気づくってこともないだろ。ほんの十メートルばかし進めば、俺を捕まえられるぜ? 自慢じゃないが、運動が得意とも言い難いしな」
 言葉と共に投擲された円環は、相手の鼻先を掠める様な軌道を描き、頭巾を薄く切り裂く。果たしてそれで本当に相手が激昂したのか、布越しでは判断できない。だが、その一撃を切っ掛けとして敵が語目掛けて殺到し始めたのは確かであった。
「おいおい、本当に躊躇なく来るのか。踏破する自信があるのか単なる考えなしか……ま、ぁ当然、種も仕掛けもあるって訳で」
 語は前を向いたまま、ステップを踏むように後退する。それに釣られるように敵群もまた青年を追いかけ……ある地点へ足を踏み入れた瞬間、先頭を駆けていた十数名の姿が掻き消えた。それは語を始めとする猟兵が事前に掘り抜いていた落とし穴である。一度落ちれば、外からの手助け無しで這い上がる事は困難を極めるだろう。
「しかし、これほど綺麗に決まると何だか気持ちいいな」
「とは言えあいつら、罠をものともせずに突っ込んできそうだ。これまでの戦いぶりを見るに、仲間の死体で穴を埋めかねん」
 ずりずりと穴の壁面をひっかく者、強引に踏破を試みては落ちる者。まるで己が身と引き換えに罠を潰せればよいと言わんばかりの物量攻勢に、津雲が眉根を顰める。しかし、こうなってしまえばほぼ八割がた勝負は決したと言って良い。
「ま、俺たちの仕事のメインは伝達と援護だからな……という訳で後は任せた」
「オーケー、任された。こうして餌場が整えば、あとは『ヤツら』の仕事さ」
 語の言葉に応え、白霧の中から歩み出てきたのはファン。前線から戻ってきた彼女は足元を小さくつま先で叩いた。すると、まるで水面の如く波紋が地面を広がってゆく。
「いいかな、熊が鮭のはらわただけを食うように、旨い所を喰ったら次にいけ。多勢を効率良く無力化するには、最後まで仕留めきるな。出血を強いて、敵の強みであるはずの数を枷にしろ」
 落とし穴の各所から、声にならぬ悲鳴が響き渡る。ぶしゃりと朱色の雫が飛び散ったかと思うや、孔の中から這い上がってきたのは土塊で出来た二足の蜥蜴たちであった。それらは水分以外の液体で口元を濡らしながら、嗜虐的に瞳を細める。
「……わざわざ注意するまでも無かったか。確かに連中もその手の趣向が好きそうだったしね。まぁ、こちらに牙を剥かない限りは好きにすると良いさ」
 それは下準備の段階で呼び出していた土蜥蜴の群れ。素材とした思念が思念だった為か、行動の一つ一つが悪辣この上ない。だが、敵を狩り立てるという点では非常に有用であった。
「それじゃあ、その調子で残りも食べて貰おう。精々好きに食い散らかしておいで……もし、生ばかりでは飽きると言うなら」
「……火を通すのも、良いだろうね。あの場所は、絶対に燃やさせない。代わりに、そちらの肉も魂も、余さず焼け焦げると良いよ」
 幾ら何でも、これは流石に分が悪いと悟ったか。白兵たちはここでようやく後退を試みるものの、突如として燃え上がった炎の壁が行く手を塞いだ。それはファンと同じように駆けつけてきたペインによるもの。予め仕掛けてあった油や可燃物を、焼き鏝で着火したのである。
「焼かれ、囚われ、挙句の果てに貪り食われるか。敵ながらゾッとする末路だな。だが、これも戦場の倣いだ。因果応報、報いは受けて貰うぞ」
 唯一、それらを防げそうな手段である防御結界も津雲が念入りに中和し無効化してゆく。そうして、怖れを知らぬ白き者たちは成す術も無く刈り取られてゆき……炎の壁が燃え尽きる頃には、死体すらも残さず敵軍は姿を消していたのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

ナギ・ヌドゥー
トラップフィールドにて戦闘
敵が罠にかかると同時に攻勢を掛ける
敵UCの火矢は視認必須、毒霧の煙幕でしばらく使えまい。
この間に【誘導弾・制圧射撃】の【弾幕】を浴びせる
罠の効果が確かなら誘導弾の命中率で圧倒できる筈
この掌より放つ光弾は己が殺戮衝動そのものと言っていい。
敵の屍を積み上げるほど昂ってくる!

しかし敵は多勢な上に死兵
必ず突破して来る者がいる筈
そいつらはUC「禍ツ肉蝕」にて絡め捕る【捕縛】
動きを封じた敵共は皆、このソウルトーチャーに喰わしてやろう【捕食】
恐怖を知らぬ狂気の兵、我が呪獣の贄となるに相応しい!


ブラミエ・トゥカーズ
これはまた、懐かしい姿であるな。
昔、よく余の犠牲者諸共、余を焼き滅ぼしていた者共にな。
余の知る者共とは異なるであろうが。

【WIZ】
真正面から吸血鬼の貴族として迎撃する。
傷つけられても【生命力吸収】にて回復。
妖怪として恐怖を与えれば、さらに回復。
吸血鬼として糧を得れば、さらに回復。

UCの発動は敵体内にて発生するウィルスのため、肉眼では”見えない”。
一人でも罹ればあとは鼠算的に拡がってゆく。

見えぬ防げぬ死の恐怖は如何程であるかな?

【罠】
敵に伝染った病を他者に広げない為、火系の罠を借りる。
なお、当人も普通の火は天敵。
火が余計に拡がらない様に霧変化【天候操作】で火勢を操作する。
天敵だけど。



●病で蝕み、毒にて侵し、顎にて喰らう
「これはまた、懐かしい姿であるな。昔、よく余の犠牲者諸共、余を焼き滅ぼしていた者共にな……無論あれらは過去からの異物故、余の知る者共とは異なるであろうが」
 先に戦闘を行った猟兵たちが派手に暴れまわったのだろう。ちらほらと起動された罠の痕跡が残され、燻ぶる煙の嫌なにおいが鼻を突く第二防衛線付近。そこで傲然とした雰囲気を纏いながら、ブラミエ・トゥカーズ(”妖怪”ヴァンパイア・f27968)は敵を待ち受けていた。
 第一、第二の戦闘で減らしたとはいえ、相手の数はまだまだ多い。ブラミエの放つ鋭い視線の先では、仲間の無残な末路へ動ずることなく歩を進める敵後続部隊の姿が見える。その数は単独で相手取るには一見荷が重いようにも思えるが、さりとて彼女に退くつもりなど毛頭なかった。
「好ましいことに、この世界に陽の光は存在しない。怯懦に塗れ饗宴に逃避する王の如く、日傘の下へ身を縮こまらせなくて良いのは真に好都合……吸血鬼の貴族として、正々堂々と真正面から迎え撃ってやろう」
 敵軍も仁王立つブラミエの姿を視認したのだろう。後方の白兵はピタリと足を止めて弓に火矢を番え、前に立つ者は陣列を組んで槍を構える。それに対し、吸血鬼もまたぞわりと身体を震わせた。
「では……赤き死の恐怖にて、妄執に彩られた白を塗り潰してやるとしようか」
 そうして、吸血鬼が敵陣目掛けて吶喊を開始するのと、火矢の援護を受けた槍衾が吸血鬼を迎え撃つのはほぼ同時であった。降り注ぐ火矢は人間離れした脚力で着弾地点を駆け抜けて避け、そのまま敵前衛の真正面へと身を躍らせた。
「種族柄、火は苦手であるからな。かと言って、白木の杭を心臓に打ち込まれるのはもっと御免被るッ!」
 繰り出される槍撃のうち、致命打となる攻撃の身を見極めて避けてゆく。代わりにそれ以外の刺突が身体を掠め、病的なまでに白い肌へ朱色の傷跡を刻み込む。微々たる出血だが、それも積もり積もれば動きを鈍らせ、命の灯火を弱らせるだろう。だが、忘れてはならない。少女は吸血鬼なのだ。血が足りなければ、奪えばいいだけの話だ。
「余り味が良さそうには思えぬがな。だが、余に血を流させた咎を見逃す理由にはならん。然るべき代価を払うが良い!」
 ブラミエは二振りの刃を振るって槍の穂先を切り払うや、敵の懐へと肉薄。そのまま牙を手近な白兵へと突き立てた。啜り上げる血液は瞬く間に彼女の傷を塞ぎ、戦う為の活力を齎してゆく。
「これで恐怖の一つでも抱いてくれればしめたものだが、己が命も厭わぬ者共だ。それも望み薄だろう。しかし……」
 左右の剣で敵を屠り、噴き出す血を浴びてより自らの力を高める吸血鬼。そんな相手に恐怖を抱かずとも、脅威は感じたのだろう。前衛は密集体形から結界術式を発動してブラミエを弾き飛ばし、その隙に後衛の火矢で討ち取らんとする。だが、それも想定の内だ。
「余の病毒は既に貴公らを蝕んでおる。さて、肉眼では捉えられず、結界すらも潜り抜ける病原体……見えぬ防げぬ死の恐怖は如何程であるかな?」
 必殺の一手は既に完成している。ブラミエが酷薄に告げた直後、前衛の数名が頭巾の端より血を流しながら絶命した。その血に触れた者もまた、同様に崩れ落ち倒れてゆく。その正体は致死性の伝染病。一度広まれば、全てが死者へ変わるまで決して収まる事のない災厄である。
「しかしかと言って、病が村人や仲間にまで広がる事は余の欲するところではない。炎熱が有効である以上、天敵だ苦手だのと言ってはおれんな」
 ブラミエは飛んできた火矢を命中直前に引っ掴むと、それを火種として燃焼罠を発動させた。自らを霧へと変じさせて火勢を操りながら、吸血鬼は敵を焼き払ってゆく。だがそれを見て、彼女の弱点を見抜いたのだろう。辛うじて無事だった後衛が狙いを定め、霧状態のブラミエへと火矢を放ち……。
「……これは弓に限った話ではないが。飛び道具というものを当てるためには、撃つ前は勿論、撃った後も視認必須なのだと聞く。ならば、これは覿面に効くだろう!」
 刹那、地面より濛々と噴き上がった煙によってそれらは絡め取られた。微弱とは言え気流の変化は矢の軌道に変化を及ぼし、射撃の尽くは吸血鬼を穿つことなく地面へと突き刺さる。
 更にそれは単なる煙に在らず。毒々しい色の大気にどれほどの暴威が秘められているのか、発動者にして仕掛けた張本人であるナギは誰よりも良く知っていた。
「これで貴様らはまともに矢を当てることが出来ん。だがその点、こちらはそんな些末事に気を遣う必要もない。毒の霧は周囲一帯をまるごと飲み込む上……狙いを付ける意味が無いほど、お前たちはうじゃうじゃと群れているからなッ!」
 彼の言動から、準備段階で見せた紳士的な立ち振る舞いは既に消え去っていた。温和な仮面を脱ぎ捨てた青年は、その獰猛な本能に従い両腕を前方へと突き出す。
「この掌より放つ光弾は己が殺戮衝動そのものと言っていい。毒霧を巻き上げ、死を齎す輝きだ。嗚呼、敵の屍を積み上げるほど昂ってくる!」
 そこから解き放たれしは無数の魔力弾。それらは毒の風をその身に帯びながら突き進み、次々と弓兵を撃ち抜き血肉を吹き飛ばしてゆく。辛うじて一命を取り留めたとしても、それは死の瞬間を少しばかり伸ばすだけのこと。傷口より入り込んだ毒霧が身体を侵し、内部より細胞を死滅させていった。
「だが、これで終わりという訳ではないだろう? 多勢な上に全員が死兵、この程度で歩みを止める様では他の猟兵との戦闘でとうに殲滅し切っているはず。居るのだろう、これらを突破しうる者がな!」
 戦闘は猟兵優位に推移している。だが、ナギは油断することなく霧と炎の中を見つめていた。果たして、幾つもの影が浮かび上がったと思うや、火傷と病毒に蝕まれた白兵が捨て身の突撃を敢行してくる。
「貴公、そやつらは余の赤死病にも罹患しておる! 如何に耐性があるとはいえ触れればただでは済まん、用心せよ!」
「なるほど、そいつは怖いな。なら死兵の相手は呪われし獣に相手をさせるとしようか……ソウルトーチャー!」
 ブラミエの警告を受け、ナギはぱちりと指を鳴らす。すると彼の足元へ音も無く現れたのは、骨と筋肉が剥き出しとなった四つ足の獣。咎人の血肉によって形作られた悍ましき拷問兵器である。
「我が血を喰らい、禍つ力を示せ。これ以上、一歩たりとも近づけさせるな」
 獣は牙で主の手を薄く裂き、舌先で滲んだ血液を舐め取った。するとぼこぼこと肉が蠢いたかと思うや、屍肉で出来た触手と鋭き骨針を形成。それらを伸ばし、或いは飛ばし、向かってきた敵の手勢を一人残らず絡め取る。
「恐怖を知らぬ狂気の兵。その裡に抱く妄執と不合理、我が呪獣の贄となるに相応しい!」
 生物の限界を超えた膂力で白兵たちを引きずり寄せながら、獣はミチミチと音を立てて己の顎を目一杯に開く。それは最早、攻撃ではない。餌を前にした、獣の捕食以外の何物でもなかった。暫しの間、骨を砕き、肉を千切り、内臓を咀嚼し嚥下する音が響き……それらが収まったのち、周囲から敵の姿は生死を問わず消え去っていた。
「なるほどな。既に死んだモノならば、二度は死なんか。全く、げに恐ろしきものよ」
「アンタの病原菌だって性質の悪さじゃ負けず劣らずだろう。ワクチンが存在すると言ったって、この世界の文化レベルだとまだ未発見だろうしな」
「うむ。だからこそ、念入りに消毒をしておかねばな。敵は撃退できたが、代わりに病で村人が全滅など笑い話にもならん」
 霧から人の形へと戻りつつ、ブラミエは念入りに辺りへ火を放ってゆく。一連の攻勢によって粗方の罠は使い切った。次の戦闘からは第三防衛線へと戦場を移すだろう。ナギは踵を返して後退しながらも、ちらりと背後に残っているであろう敵軍へと視線を向けるのであった

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

春乃・結希
第3防衛戦で待機

…ん、来ましたね
私が引きつけるから、みなさんはその銃で、私の背中を押してください
…大丈夫です。私は強いので。
『with』と…それに人類砦のみんなと一緒なら、負ける気なんてしません【勇気】
みなさんの帰る場所、絶対に護ろうね!【覚悟】

射撃の援護と共に突撃
うん、みんないい感じです。私達も頑張らないとね!『with』!
UC発動
槍が届くよりも早く、巨大化した『with』を振います【怪力】【重量攻撃】
頭上を飛び越える火矢もこれなら少しは薙ぎ払えるはず
敵を討ち漏らしても『wanderer』での【ダッシュ】で距離を詰め叩き潰します

この世界の希望を消させたりしない
ここは絶対に…通さないから!



●その強さは、希望を繋ぐ
「……ん、来ましたね。第一、第二で減らしているはずなのに、まだあれだけの数を残しているとは。念には念を入れておいて正解でした」
 村を護る最終ラインである第三防衛線。そこで待機し続けていた結希は、こちらへと接近しつつある敵影を捉えていた。先の防衛線で散々に打ち倒されたのだろう、それらを集団と呼ぶには些か疎らである。だが、こうしている間にも続々とその数が増えてゆく。街道上を愚直に突き進んだものに加え、鳴子や数々の罠を踏破して迂回に成功した者が居たのだろう。
 当然ながら無傷な者など居らず、一様に大小様々な傷を負っている。しかし、それでもなお逃亡や撤退を選ばず、ただひたすらに村を目指して進み続ける執念は脅威と言う他なかった。
「皆さん、準備は良いですか?」
「勿論。此処を抜かれたらその時点で終わり……文字通り、死んでもやって見せるぜ」
 だが、それと相対する村人たちの士気は高かった。元から故郷を護る為に進んで志願しているというのもあるが、それ以上に他の防衛線で戦果を挙げている仲間の情報が入ってきていると言うのも大きい。彼らはやれた、ならば自分たちも出来るはずだ。そんな自信を感じ取り、結希は安心したように苦笑を零す。
「死んじゃ駄目ですよ、生きる為にこうして戦っているんですから……それでは私が引きつけますから、みなさんはその銃で、私の背中を押してください」
「って、おいおいおい! 自分で死ぬなと言った傍からそいつはちょいと……」
 敵を見ても動じなかった男たちが、少女の言葉には慌てた様子を見せる。村人たちの攻撃は命中率を上げる為、一斉射撃が基本となっている。細かな射線調整など望むべくもなく、そんな中へ身を躍らせれば当然誤射の危険が跳ね上がるだろう。恩人を撃ってしまうかもしれないと危惧する村人たちへ、結希は胸を張って一人一人の顔を見渡す。
「……大丈夫です。私は『強い』ので。『with』と…それに人類砦のみんなと一緒なら、負ける気なんてしません。だから……」
 みなさんの帰る場所、絶対に護ろうね!
 そう力強く言い切られてしまったならば、これ以上言葉を募るのは野暮というもの。村人たちは静かに頷くと所定の配置へとつき、銃眼越しに銃口を突き出す。そうして、必中を狙える距離ぎりぎりまで敵を引き付け、そして。
「今ですっ!」
 重なり合う発砲音を合図として、柵の内側より結希が疾風の如く飛び出した。弾丸が空気を切り裂く音がすぐ耳元から響いてくるも、少女は恐れるどころか笑みすら浮かべて見せる。
「うん、みんないい感じです。着実に敵の数を減らせてる。なら、私達も頑張らないとね!『with』!」
 何を恐れる事が在ろう。背を護るのは互いに信頼を結んだ仲間、眼前の敵は数もまばらで満身創痍。そして手には、最愛の刃が握られている。いつもの戦場だ、慣れ親しんだ戦いだ。ならば、この信念もまた変わることは無いのだ。
「この場において誰よりも強いのは……私たちだからッ!」
 前方と斜め左右、三方向から接近してきた白兵が槍を繰り出してくる。どれかを避ければどれかに貫かれる、必殺の連携。それに対し、少女は圧倒的な力で尽くをねじ伏せた。振り抜かれた剣の刀身が瞬時に巨大化、槍が届くよりも先にその大質量によって敵を薙ぎ払ったのである。
「もう、一撃……っ!」
 手首を返し、重心を移動させ、めり込む足で地面を踏み締める。常人であれば押し潰されかねない巨剣を、しかして結希は巧みに操り二の太刀を繰り出す。攻撃後の隙を狙って襲い掛かった敵兵に、そんなものは無いと命を代価に教え込む。
 ならばと、相手は武器を火矢に持ち替え瞬時に放つ。これだけの重量ならば機敏に動けないだろうという判断だ。それ自体は間違ってはいない。だが、そんな常識を打ち破ってこそ猟兵は猟兵足り得るのだ。
「このままじゃ、火矢が後ろにも行っちゃう……なら、せぇのおっ!」
 刀身が巨大化しているという事は、それだけ届く範囲が広がっているということ。ミシミシと大地を踏み砕きながら、結希は愛剣を振り上げて矢を片端から叩き落してゆく。そのまま、倒れこむ大質量の勢いを攻撃の勢いへと転化する。
「素早く動けない、だから距離を取れば安全だと思っているんでしょうけど……甘いですよ!」
 脚部より噴き上がった魔導蒸気の勢いにより、少女の身体が前へと押し出される。それに伴い、巨なる刃はその攻撃圏内へと弓兵たちを捉え……。
「この世界の希望を消させたりしない。どれだけの数で来ようと人ひとり、例え矢の一本だって! ここは絶対に……通さないからッ!」
 何よりも強き決意と共に振り下ろされた刃は、迫り来る悪意と敵意を全て叩き潰した。それはまるで、少女の言葉に偽りはないと証明するかの如く。傷ひとつなき剣は燦然と敵の前に立ちはだかり続けるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 ボス戦 『忘却のモーラ』

POW   :    アナタがキライ、ソレもすぐに忘れるけれど
【自身の記憶】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【殺戮捕食態】に変化させ、殺傷力を増す。
SPD   :    アナタも仲間になればイイ
【嫌悪】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【沸き立つ黒い血のかたまり】から、高命中力の【大切な記憶を失う刃】を飛ばす。
WIZ   :    アナタはだあれ? どんなヒト?
対象への質問と共に、【自身の武器】から【記憶を貪る黒い薔薇】を召喚する。満足な答えを得るまで、記憶を貪る黒い薔薇は対象を【黒い花弁】で攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は藍崎・ネネです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


※マスターより
断章とプレイング受付告知は16日(木)夜を目途に投下予定です。
どうぞよろしくお願い致します。
●忘却し、されど染み付き、覚え、忘れぬモノ
 防護壁にて押し留め、罠によって侵し落とし焼き払い、弾丸の嵐が吹き荒れる。村へと迫っていた白き軍勢はその尽くが討ち果たされ、周囲一帯から一兵残らず消え去っていた。場所によっては敵の骸すらも見当たらないというのだから、行われた戦闘の苛烈さは推して図るべきである。
 だが――これはまだ、前哨戦だ。
 先の総軍に匹敵するどころか、凌駕し得る戦力が未だ残っている。それはつまり、首魁たる『辺境伯』に他ならない。
「……誰も、いなくなってしまった、わね。でもどうせ、これも忘れてしまうのだろうけど」
 場所は村の外縁部、焼けこげた木材や使用済みの罠によって荒れ果てた戦場。其処へ姿を見せたのは、剣を携えし漆黒の少女剣士。己が配下を全滅させられたというのに、その表情にはいかなる悲哀も、驚愕も、怒りも浮かんではいない。ただただ、茫洋とした視線で周囲の惨状を見渡すだけだ。しかし、それも無理はないだろう。
 この少女が司りし異能、それは『忘却』だ。敵の、そして己の記憶を代償として技を行使し力を得る者。故に、彼女が覚えていられる物事は極めて少ない。恐らく己を『辺境伯』と変じさせた上位存在についても、既に朧気にしか記憶出来ていないはず。言葉通り、命を投げうった者たちの死すらもいずれは忘れてしまうだろう。
 唯一確かなのは『モーラ』という自らの名のみ――いや、否。
「やらなくちゃいけない事は、覚えている。人間の生きる土地を、命を斬り捨てろと」
 モーラはそっと、胸元に手を伸ばす。蒼と黒を基調とした容姿の中、左胸に一点だけ艶やかな紅が煌めいている。それは宝石によく似た、蜘蛛の様な蟲だ。恐らくこれこそが彼女へ力を与えている、『辺境伯の紋章』と呼ばれる寄生虫型オブリビオンであることに間違いはないだろう。その紋章がある限り、黒剣士が目的を見失う事は無い。
「……そして、もう一つ。忘れても、思い出せなくなっても、決してこの体から消えぬものは」
 彼女が忘却せぬものは、殲滅命令に加えてまだ存在している。モーラはヒュンと風を切りながら、得物である蒼黒の剣を構えた。流れる様に組み上げられしはある種の型。剣を頭上に掲げ、或いは後ろ腰に添わせるように引き。または切っ先を突きつけながら顔の横へ保持し、かと思えば地面すれすれまで降ろす。剣の路に詳しい者が見れば、それが体系立った技術である事が分かるだろう。
「……例え、記憶が無くなろうとも。いつ、どこで、誰に倣ったのか分からなくても。この技だけは、体が覚えているから」
 忘却が不可避なのだとしたら、忘れても尚使えるよう肉体へ染み込ませてしまえばよい。きっと、始まりはそんな意図だったのだろう。何千、何万と言う反復によって無意識下にまで擦りこまれた剣術が、少女の両腕へ確かに息づいている。
 彼女を支配するのはある種の諦念なのかもしれない。敵も、味方も、己自身さえも砂城の如く崩れゆき、全てはただ記憶の轍と過ぎ去り行く。だがそれでも、固執すべき執念と呼べるものは在った。
「それじゃあ、無駄話もこの辺にして、そろそろ始めようか。騎士の決闘という訳では無いけれど、名乗りたければお好きにどうぞ。尤も……」
 ――どのみち、長くは覚えていられないけれど、ね?
 そう告げた瞬間、それまで纏まりの無かった雰囲気が引き締められ、研ぎ澄まされた刃の如き緊張が張り詰めてゆく。異能と剣術を両輪とし、それを紋章と言う軸で結合させた戦闘力は、生半な実力では到底抗し得ぬだろう。
 だが、猟兵たちとてこれまで数々の激戦を潜り抜けた者ばかりだ。先の軍勢との戦闘を経て、身体も程よく温まったと言った所である。それに背後へ護るべき人類の生存圏を、籠められた期待と希望を背負っているのだ。如何な強敵で在れ、空虚な力を振るう者になど負けられない。

 さぁ、己が得物を執れ。
 白き群れと蒼黒の剣士、彼らの進軍を猟兵(キミ)たちの手によって終わらせるのだ……!
 
※マスターより
 プレイングは17日(金)朝8:30より受付開始します。
 第三章は蒼黒なる少女剣士とのボス戦となります。記憶と忘却の異能に加え、剣術の技量も高いレベルで備えています。『辺境伯の紋章』によって能力が大幅に底上げされていますが、同時にそれが弱点にもなっています。上手く紋章を狙うことが出来れば、優位に戦闘を進められるでしょう。
 それでは引き続き、どうぞよろしくお願い致します。
ブラミエ・トゥカーズ
貴公は吸血鬼か?

現在未遭遇
【WIZ】
余が何であるかを問うか。
ならば答えぬわけにはいかぬな。

妖怪として貴族として応える。
その結果を知っていても。

記憶:
ブラミエを構成する人格記憶は人々に紡がれた吸血鬼伝承。

その為、記憶を失うと残るのは妖怪ですらない、猟兵になった病原体。人々を殺戮し、己も撲滅、研究し尽くされた最弱の生命体。

記憶によらない妖怪の本能部分で影響範囲や恐怖を得る事に行動。

吸血鬼(枷)を消しちまえば、残るのはわしになってしまうわなぁ。小娘。
わしがなんだってか?
表の世界の医者共に聞きな。わしより詳しいからよ。

わしであるのも面倒くさい。返すならとっとと返せ。

致死性控え、苦痛多めの症状を与える。



●血を啜り、血を渡り、血に溶けゆ
「名乗れと問われれば是非もなし……だが、その前に余からも問いを投げ掛けさせて貰おう。貴公は吸血鬼か?」
 堂々と仁王立つ黒剣士の前へ、先陣を切って歩み出たのはブラミエであった。敵の纏う気迫に物怖じすることなく、それどころか敢然と胸を張って相対する。彼女は相手を値踏みするように目を細めながら、逆に質問をぶつけた。
「生憎と、未だ同輩には相見えぬのでな。爵位を名乗る者ならば、もしやとも思ったのだが」
「……記憶は、不確かだけれど。でも、それくらいなら分かる、わね。答えはノー、よ?」
 ブラミエの問いに、モーラは肩を竦めながら首を振る。どうやら本物の魔性という訳ではないらしい。だろうなと、猟兵もまた半ば予想していた答えに嘆息した。そんな敵手の様子に、黒剣士は小首を傾げながら口を開く。
「それなら、アナタは何なのかしら? 流石に吸血鬼という知識までは、失っていないもの。でも、それとは些か違うようだけれども」
 そう言葉を紡ぎながら、モーラはゆるりと剣を構える。幾ら忘却を常とする身で在ろうと、使える異能まで失念している訳ではないようだ。黒い薔薇が花開き、刀身へ茨を絡みつかせてゆく。
「余が何であるかを問うか。ならば、答えぬ訳にはいかぬな。妖怪としても、貴族としても、それを避けて通ることは余の矜持が許さぬ」
 問答に付き合わず、無視して速攻を掛けるという選択肢もあるにはあった。だが、それは余りにも野暮というもの。己の在り方を誤魔化す様な振る舞いなど、ブラミエの誇りは決して受け入れない……例え、それが己の不利になると理解していたとしても。
「……我はブラミエ・トゥカーズ。カクリヨファンタズムより来たりし貴族にして、御伽噺の吸血鬼なり! さぁ、参られよ辺境伯。これよりは決闘にて語らう時間ぞ!」
「ええ、ええ。教えて頂戴、アナタの事を。知らなければ、忘れる事だって出来ないのだから」
 そうして、両者が動いたのはほぼ同時だった。だが、事前に異能の下準備を行っていた黒剣士側が一手先んじる。黒薔薇から鋭利な刃の如き花弁を飛ばしながら、構えを維持しつつ踏み込んで来た。得物を腰溜めに引いた構え、俗に『鋤』と呼ばれる突きに適した型である。吸血鬼に相応しく、心臓を一突きにする目論見だろう。
 それに対し、ブラミエは双剣を以て応ずる。二刀流の扱いは難しいが、左右の剣を攻防へ自在に使い分ける動きは実に強力である。しかし、ひらひらと舞う花弁は捉え難く、また数も多い。それら全てを防ぐ事は困難を極め、すり抜けた数枚が吸血鬼を切り裂いてゆく。
(っ!? これが記憶を失う感覚か……なんとも不愉快な!)
 正確に言えば、彼女は吸血鬼そのものではない。人々の間へ流布し紡がれた、吸血鬼と言う『伝承』の集合体である。故にこそ、記憶を奪うという効果は覿面に効いた。何故ならば、伝え継承される記憶という概念こそが『伝承』。それを失うという事は己が存在の崩壊に直結する。ガクリと一瞬動きが鈍り、そしてその隙を相手は決して見逃さない。
「あら、あら。自分が何者かまで、忘れてしまわないで。でないと、心臓を狙う意味がなくなってしまうもの」
「かっ、ふっ……!?」
 そうして繰り出されし刺突は、ブラミエの心臓を深々と貫いた。傷口より滂沱と血が流れ落ち、ぐらりと身体が傾ぐ。呆気ないものだと、詰まらなさそうに見下ろす黒剣士の前で、吸血鬼は藻掻くように震える手を伸ばし……。
「ふっ、クク……クハッ。まぁ、こうなるよなぁ? 吸血鬼である『余』を消しちまえば、残るのは『わし』になってしまうわなぁ。のう、小娘」
 ガシリ、と。黒剣に咲く黒薔薇を鷲掴みにした瞬間、それは急速に腐敗してゆく。何かがおかしい、そうモーラが思った時には既に何もかもが遅かった。古き伝染病は黒剣士の体内へと入り込み、身体を蝕み始める。俄かに咳き込み始める相手へ、ブラミエはくつくつと嗤い声を上げた。
「アナタ……吸血鬼、じゃ、ない!?」
「なら、わしがなんだってか? 表の世界の医者共に聞きな。わしより詳しいからよ。尤も、この世界じゃあまだまだ現役やもしれんがな」
 彼女は伝承の集合体だが、それを纏める核が存在している。それこそが赤死病。妖怪ですらない、猟兵となった病原体である。人々を殺戮し、己も撲滅、研究し尽くされた最弱の生命体。記憶によって封じられていた本能が、此処に枷から解き放たれ牙を剥いたのだ。
「とは言え、わしであるのも面倒くさい。ほれ、消したのではなくて食ったのだろう? 返すならとっとと吐き出せ」
「あ、がぁ……はっ!?」
 命を奪うよりも、より長き苦痛を。そうして得られた感情と共に、ブラミエは吸血鬼としての記憶を取り返してゆく。胸元から刃を引き抜きつつ距離を取る彼女の前で、モーラは腐りかけた花弁で自らの腕を薄く裂く。すると、荒い息を吐きながらも再び剣を構えた。
「……痛み、なんて。忘れてしまったわ」
「はっ、やせ我慢も其処までゆくと見事なものじゃな!」
 その言葉が嘘か真か、そこまでは分からぬ。だがさも愉快と言った風に、ブラミエは呵々と笑みを浮かべる。確かに手傷は与えた。だが、戦闘はまだ始まったばかり。
 病毒を抑え込み不敵に笑う黒剣士へ、吸血鬼もまた酷薄に口元を歪めるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

須藤・莉亜
「さっきの血は微妙だったけど、君のは期待できそうかな?」


UCで二振りの大鎌を複製し、全方位から敵さんをバラしにかかる。
そうだねぇ、紋章とやらを狙って行こうか。敵さんが紋章を守るなら、紋章以外の場所を攻撃。その攻撃で隙が出来れば、また紋章を狙う事にしよう。
敵さんの攻撃を複製した大鎌や、悪魔の見えざる手で防御するのも忘れずに。

もちろん吸血も狙って行くよ。僕の髪が一本触れただけでも血を奪えるしね。ああ、敵さんの手足を切り刻んで、動きを止めてから噛みつくのも楽しそうだね。

そう言えば、嫌悪の感情を持っちゃダメなんだっけ?今は美味しそうな血を奪うのに夢中だからねぇ。むしろ、幸福を感じてるんだけど。



●血こそ至上の幸福なれば
 身体を蝕む病を抑え込みつつ、黒剣士は油断なく得物を構える。如何な凶悪を誇る病とて、『辺境伯』と化した敵を一息には刈り取れぬ。そんな敵の様子を興味深げに観察しながら、次いで姿を現したのは莉亜であった。
「ふぅん……さっきの血は微妙だったけど、君のは期待できそうかな?」
「あら、良いのかし、ら? ワタシの血は、病原菌に塗れて、いるけれど」
 うっすらと汗を浮かばせつつそう不敵に問う相手に対し、混血児は問題ないと肩を竦めた。
「なに、その程度で体調を崩すほどヤワじゃないよ。まぁ、味への影響は多少あるだろうけど」
「それはちょっと、困ったわ。少しは嫌悪を抱いてくれると、助かったのだけれど、ねっ!」
 会話からそのまま流れる様に、モーラは戦闘へと移行する。彼女の帯びる剣術体系においては『先』を取る事、詰まりは主導権を握る事に重きを置く。先に仕掛け、対応を強い、後手に回った所を押し切る。当たり前のようだがそれ故に難しく、かつ重要だ。
 頭上付近で得物を保持する『牡牛』の構えのまま踏み込んでくる黒剣士に対し、莉亜は一瞬だけ思案した後に対応を決める。
「先の先、という奴かな。武芸についてそこまで詳しくはないけど、殺し合いである以上はセオリーも変わらないだろうし、それに……」
 バラバラにした方がいっぱい血が出るよね?
 莉亜は黒白の大鎌をひょうと頭上へ放り投げた。くるくると円を描く弧刃はまるで万華鏡の如く増殖してゆき、都合百と六十余りの数となる。流血と吸血、二つの呪詛を孕んだ無数の刃が四方八方天地を問わずにモーラへと襲い掛かった。
「さて、これでどうかな。差し詰め、さっきとは逆の立場と言えるけど」
「なら、結果も分かっているのではなくて? さっきと変わらず、よ」
 相手は辺境伯、そう一筋縄ではいかない。黒剣士は側頭に構えた剣を手首の返しを利用して回転させ、迫る鎌刃を弾き返す。更には刃同士を絡ませ一纏めにすると、強引に振り払い前進し続けてゆく。
「なるほど、ただ数に任せても効果は薄いようだね。なら……やっぱり、狙うべきは『其処』かな?」
 相手の力量を把握した青年は、大鎌の軌道を若干修正する。その切っ先が狙うのは、少女の胸元に輝きし紅だ。弱点を狙うのは戦いにおける鉄則。果たして、モーラの動きは目に見えて精彩を欠き始める。
「これ、は……身体の動きが、勝手に変わる?」
 『辺境伯の紋章』は確かに力を与えてくれる。しかし、何の代償も無しという訳ではないようだ。自らが攻撃されるのを厭ってか、紋章は宿主へ防御を強いているのだろう。普通のオブリビオンなら己が意志力でねじ伏せられるが、モーラの剣技は半ば無意識下のもの。故にその影響を如実に受けてしまっていた。
「事情は分からないけれど、隙が出来たね。ほら、紋章以外の防御が薄くなっているよ」
 それを見逃すほど、莉亜は甘くない。手や足と言った末端部分をすかさず切り裂き、敵を出血させてゆく。止血を阻害し、主へ味覚を共有する刃は着実に黒剣士の体力を削り取るものの、彼は思わず顔を顰めた。
「……やっぱり、病気の血っていうのは良くないね。こう何というか、雑味があるかな」
「それはご愁傷様、ね!」
 我知らず零れた嫌悪の感情、それをモーラは待っていた。流れ落ちた血が一つに纏まり沸き立つや、そこから刃を生み出し放つ。血刃は莉亜目掛けて飛翔するや、軌道上の大鎌を破壊し進路を確保する。そこを駆け抜けた黒剣士は一息に青年を攻撃圏内へと捉えた。
「そう言えば、嫌悪の感情を持っちゃダメなんだっけ? 美味しそうな血を奪うのに夢中だからねぇ。むしろ幸福を感じてたんだけど、まぁこういう事もあるさ」
「近すぎれば大鎌は取り回しが悪い。形勢逆転、かしら」
「いいや。こっちとしても、この距離の方が色々とやりやすいんだよねぇ」
 間髪入れずに刃を振るうモーラ。だが、その動きは途中で不自然に停止する。目を剥く彼女がはっと視線を走らせると、全身に髪の毛が絡みついていた。不可視の腕が手繰りし、変幻自在の繰り糸。こうなってしまえばそう簡単には解けない。ゆっくりと、莉亜は捕縛した相手へと近づく。
「知ってる? 血液ってさ、骨髄の中で作り出されるんだってね。胸骨、肋骨、骨盤……あとは」
 脊椎とか、ね。そうして青年は相手の首筋へと牙を突き立てた。皮膚を、肉を破り、犬歯を骨まで届かせる。流れ込んでくる甘やかな液体に、彼は恍惚と口元を歪ませた。
「やっぱりだ。造られたばかりの血は、まだ汚染されていないみたいだね」
「っ、吸血鬼よりも尚、吸血鬼らしいわ……ねっ!」
 自らの肉が裂ける事も承知で、黒剣士は強化された身体能力で強引に髪を千切り、莉亜を突き飛ばして距離を取る。彼女の身体能力ならばもうそろそろ病原体も駆逐し切り、細かな傷も塞ぐことが出来よう。
 しかし、首筋に刻まれた二つの噛み跡。それだけはもし相応の時間を掛けたとしても、癒えることは無いと直感する。手を当て止血を試みる相手の姿を見つめながら、莉亜は唇に残った血液を舌先でちろりと舐め取るのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ダビング・レコーズ
貴女も過去を喪失してもなお任務を遂行し続けているのですか
目的や答えなど存在しない
全ては今為すべき事を為すために
戦い続けた果てに代償を贖う手段と責務があると

【POW・アドリブ連携歓迎】

現在使用可能な兵装はルナティクスとスヴェルのみ
よって近接戦闘にて目標へ対処
全機能解放(真の姿化)
オーバードライブギア起動
反応速度と運動性を限界以上に向上させ高速剣戟に対応
戦術的には紋章を狙うべきですが固執し過ぎれば隙が生じかねません
殺戮捕食態化した剣の直撃をシールド防御で阻止しながらカウンターを合わせられるタイミングを読み攻撃を加えます

この剣圧が代価とした過去の重さなのか
或いは鋭さが痛みなのか
それさえも忘却の底か



●蒼黒と白銀、剣火を散らす
 緒戦のぶつかり合いは猟兵側優位と言えるが、相手はまだまだ健在。間接的な消耗こそあれど、致命的な傷自体はまだ受けていない。なればと、白き装甲を身に纏ったダビングの巨躯が前へと歩み出る。
「……貴女も過去を喪失してもなお任務を遂行し続けているのですか。目的や答えなど既に存在しない。意味も意義も、必要性さえも当に思い出せないと言うのに」
「ええ。そう、ね。でも、そうしろと言われた事だけは、覚えている。こんなものも、貰ってしまったから」
 黒剣士は胸元の紅へ指を這わせた。記憶は消え去っても残る物はある。そこに籠められた意図は酷薄やもしれぬ。しかし、それでも己は何かを承諾して従ったのだ。であれば、忘れたからと反故にするのも寝覚めが悪い。彼女の心境を形容すればそんな所だろう。
「全ては今為すべき事を為すために。戦い続けた果てに、記憶と言う代償を贖う手段と責務がある、と」
「そんな、大それたものでは、ないけれど……でも、こんな技を身に着けて、いるのだもの。なら、やはり戦うのが一番だから、ね?」
 そうして、モーラの指先は胸元から己が得物へと移る。彼女は両手で蒼黒剣の柄を握り締めながら、切っ先で地面を擦るような構えを執った。それは『愚者』と称される防御に適した型で在り、その意味するところは一種の誘いである。
「セントルイスはEパックの残量がゼロ。となれば、現在使用可能な兵装はルナティクスとスヴェルのみ。よって近接戦闘にて目標へ対処……どうやら、そちらもそれをお望みの様ですからね」
 ダビングは右手に荷電粒子ブレード『ルナティクス』を、左手に重層実体盾『スヴェル』をそれぞれ装備し、敵手と相対する。月色の刃は煌々と輝きを放ち、盾は大柄な体躯をすっぽりと覆い隠す。
 戦機という生まれも相まって、まさにその姿は完全武装の騎士と呼べた。防御力は折り紙付きだ。しかし、これでも尚足りぬとダビングの電子頭脳は判断する。
「コードODG承認。全システム、リミッター解除。オーバードライブギア、スタンバイ……全機能、解放」
 各種制限機構を全て解除。危険域ギリギリまで動力炉の出力を上昇させ、機動力に重点を置き機能を特化させてゆく。漏れ出たエネルギーが装甲各所より燐光を放ち、バチリと紫電を迸らせている。これにて準備は整った。後は只、死合うのみ。
「それでは、参ります」
「ええ。先手は譲ってあげる、わ……さぁ、来なさい?」
 律儀にも宣言した後、ダビングは地面を割らんばかりの勢いで踏み込んだ。盾で左半身を庇いつつ、狙うは右からの薙ぐ様な斬撃。必殺必中の一撃に対し、黒剣士は切っ先を基点として柄部分を上段へ瞬時に跳ね上げる。切っ先を下にし、垂直に構えられた剣へと輝刃が吸い込まれてゆき……。
「っ、軌道を逸らされましたか!?」
「真正面から受け止めたら、バラバラになってしまうもの」
 手応えは余りにも軽かった。それが刀身に沿わせて斜め上へと威力を受け流したのだと気づいた時には、相手は既に反撃へと移っていた。狙いはがら空きとなった右脇腹付近。
 ダビングのアイカメラはそれをはっきりと捉えていた。相手の刀身に茨が巻き付いたかと思うや、凶悪な棘によって殺傷力を増加させる様子を、である。彼は己が反応速度を限界まで、否、それ以上引き出して何とか盾による防御を間に合わせる。
「あら? 今のは取れたと、思ったのだけどね」
「盾で防いでもこの威力……戦術的には紋章を狙うべきですが、ただでさえ相手は強敵。なまじ固執し過ぎれば、逆にこちらに隙が生じかねません」
 見ると、複合装甲が数層纏めて抉り取られていた。紋章を狙えば防戦なり弱体化なりを狙えるが、それが在るのは文字通りの心臓部分。当然、攻撃を届かせるのは容易なことではない。
「来ないのかしら。なら、今度はこちらからよ!」
 ならば攻守交替と言わんばかりに、モーラは一転して攻勢を強め始めた。振るわれる一撃一撃はどれも重く、速い。限界以上に躯体を行使していなければ、早々に鉄屑へと変じていただろう。だが攻め手が苛烈で在ればある程、感情回路を無謬が走り抜けてゆく。
(これらの異能は己が記憶と引き換えのはず。この剣圧が代価とした過去の重さなのか、或いは鋭さが痛みなのか……きっと、それさえも忘却の底か)
 一方は意識した時には既に記録を失い、もう一方は自ら進んで忘却へ身を浸す。そんな過去に対する両者の立ち位置の差が、結果的に勝敗を分ける事となる。
「もう、自慢の盾も持たないよう、ね。それじゃあ、これで……さようなら、よ」
 盾の耐久力が限界に近いと見抜いたモーラは、決着をつけるべく大上段から叩きつける様に刃を振り下ろす。怒りの名を冠する一刀を以て、鋼鉄を真っ二つにせんと挑み……。
「残念ですが……貴女の動きは解析し終わりました。記憶を容易く手放す者と、些細な情報すら逃すまいとする者。その差は決して、小さくはありません」
 半歩身を引いたダビングによって、空を切った。地面へめり込む切っ先を引き戻す一瞬、戦機にはそれだけで十分。先程と立場が逆転したかの如き光景の中、月光色の刃は黒剣士の胸元ヘと吸い込まれてゆき――。
「かっ、はぁっ……!?」
「予想以上の硬度により両断ならず。されど、まずは一撃」
 紅の紋章へ、一筋の傷を刻み込むのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

リーヴァルディ・カーライル
…どうやら彼らは上手く離脱できたみたいね
今日の経験は今後の未来を築く上で得難い財産になるはず

だからこそ、その未来を…彼らが命を賭して得た物を奪うお前を許しはしないわ

殺気や気合いを絶ち存在感を消して残像のように闇に紛れ、
敵の死角を暗視して切り込み紋章を狙う早業の先制攻撃を行う

…知らぬと宣うならば見るがいい。吸血鬼狩りの業を…

戦闘知識と第六感を頼りに敵のカウンターを見切りUCを発動
局所的に魔力を溜め限界突破したオーラで防御して、
大鎌を武器改造して手甲剣を怪力任せに突き刺し、
体内で呪詛を爆発させて傷口を抉る闇属性攻撃を放つ

…確かに強くて鋭いけど、それは悪手よ?

骨子の無い剣で、この私を斬れると思うな



●鬼討つ御業、想喰らう薔薇
「ぐ、ふっ……なるほど。これは中々、効くわ、ね。こういう時、記憶が無いのも困りものかしら。覚えていれば、まだ身構えられたでしょうに」
 初めて直撃と呼べる一撃を叩き込まれ、堪らず身体をよろめかせる黒剣士。『辺境伯の紋章』の尋常ならざる硬度によって間一髪防がれたとはいえ、身体を襲った衝撃は決して小さくない。そんな苦しげに咳き込むモーラを、遠目から観察する者がいる。
「……どうやら彼らは上手く離脱できたみたいね。多少の無茶はさせるけれども、無理は禁物。経験が途絶えてしまっては、元も子もないもの」
 それはリーヴァルディであった。闇に身を潜めた彼女は横目で敵の様子を窺いながらも、その視線は村の方へと注がれている。村人たちは守りを固めつつ、固唾を飲んで猟兵と辺境伯の戦いを見守っている。ざっと見た限り、その顔触れに欠けはない。戦闘へ参加した者らへ被害が出ていないことに、少女はまず小さく安堵した。
「経験とは記憶。記憶とは知識。今日の経験は今後の未来を築く上で、どんな武器や財貨よりも得難い財産になるはず。だからこそ、その未来を……彼らが命を賭して得た物を奪うお前を許しはしないわ」
 そこでようやく、彼女は視線をモーラへと移す。その瞳からは既に穏やかな色は消え去っており、代わりに濃密な憤怒と殺意が籠められている。しかし、彼女は静かに目を閉じて荒ぶる心を鎮めようと努めた。敵は間違いなく手練れだ、垂れ流しの敵意などすぐさま察知してくるだろう。
「下手に魔力や異能を使うべきではないわね。業腹だけど、そちらの戦法に倣わせて貰うわよ」
 彼女が本来想定敵としている吸血鬼は闇と夜を得手とする支配者だ。故にそんな相手を欺くためには、敵以上に暗黒へ慣れ親しまなければならない。音を、気配を、存在感を、己と言う個の輪郭を漆黒へと溶け込ませながら、リーヴァルディは飛び出した。
(捨てるのが好きならば、精々自分の分だけに留めて置く事ね。尤も、今回は記憶だけでなく……命まで置いて行って貰うわよ)
 木から木へと飛び移り、茂みに紛れ、擦過音すら立てずに地面を蹴る。自らを気取らせぬ完全なる不意打ちだ。そのたった一度きりの好機で最大の成果を引き出すべく、彼女は『吸血鬼の紋章』一点に狙いを絞る。
(……知らぬと宣うならば見るがいい。吸血鬼狩りの業を。骸の海へ還る前に、お前の脳裏へと天敵の脅威を今一度刻み込んでやろう)
 先の交戦時に既に一撃浴びせられているのは確認済み。一撃で破壊とまではいかずと、弱体化なり防御行動を誘発できれば十二分。一歩、また一歩と彼我の距離を詰めてゆき、相手を攻撃圏内へと捉えた――瞬間。
「っ!? いつの間に、こんなに距離まで……!」
「欲を言えばもう半歩踏み込みたかったけれど、この間合いでも十分よ。反応するには遅きに失している!」
 気配は完全に消えていた、故に第六感とでも言うべきか。不意に振り返った黒剣士と視線が合う。目を見開きながら咄嗟に得物を振るってくるも、リーヴァルディは慌てることなく腕を繰り出す。其処には主武装である大鎌を変形させた、手甲が嵌められている。無論、ただの防具ではない。内蔵した黒刃を飛び出させ、拳撃の勢いを乗せた刺突が迎撃を掻い潜って紋章へと吸い込まれる。
 ガチリと言う、硬質な手応え。だが確かに、艶やかに輝く紅の表層へ傷を刻み込んだことを吸血鬼狩りは視認した。
「見事、と言うべきかし、ら……! でも其処は、私の間合い、よ?」
「生憎だけれど、それについてはこちらも同じよ。もう色々と抑え込む必要もないし……見せてあげる。吸血鬼狩りの覚悟を」
 モーラは瞬時に記憶を失う事を許容するや、それを養分として黒剣の鍔を中心に黒薔薇が咲き誇る。立ち直りの速さは称賛に値するが、リーヴァルディにとっての戦闘は劣勢が常だ。この程度、凌げなければ吸血鬼など到底倒せぬ。身を捻って上段から振り下ろされた刺突を躱しつつ、彼女は全魔力を投じて爆発的に能力を増強する。
 それは対吸血鬼用の切り札、代償は自身の戦闘不能。制限時間はおよそ一分半。
「記憶が無くても、分かるわ。それ、長続きしなさそうだもの。なら、その間凌げれば、ワタシの勝ちね?」
 それに対し、黒剣士は剣を体の正面に置き、腕を真っすぐ突き出す構えを執る。この『長き切っ先』と呼ばれる型は名前通り間合いを取る事に適している。手甲と長剣、リーチ差を活かして時間を稼ごうという魂胆なのだろう……が。
「……確かに強くて鋭いけど、それは悪手よ? 私は似たような状況を、何度も経験しているのだから!」
 同じ事を考える手合いなど、吐いて捨てるほど見てきた。そして、その尽くを屠り去ってきたのだ。躊躇なく吶喊する少女へ、モーラは刺突を繰り出す。だがそれを凝縮させた魔力障壁によって受け流し、再び懐へと飛び込んだ。
「経験の差と言っても良いけれどね。だけどそれよりも……骨子の無い剣で、この私を斬れると思うな」
「なるほど、これが同じ轍を踏むという奴かしら……ッ!」
 手甲剣が相手の脇腹を穿つ。其れは呪詛を体内へ流し込むや、内部より吹き飛ばす。これには流石の辺境伯も堪らず膝をつく。追撃を試みたいところではあるが、制限時間はもうすぐに迫っている。リーヴァルディは素早く撤退を選択すると、続く仲間へと後を託してその場を離れるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

トリテレイア・ゼロナイン
力の糧として頂いて結構
騎士としてその修練に敬意を表します
私の名はトリテレイア 
いざ…!

体躯のリーチ差で能力差埋め
●武器受け●盾受け駆使
反撃軸に戦闘
剣技で重要なのは足回り
下半身防御は厳に
盾の死角利用した敵の攻撃はセンサーの●情報収集で把握
脚部スラスタ起動●スライディングで仕切り直し

(剣技に加え得物の差が響いてきましたか)
破損盾の●投擲●目潰しから剣で攻撃

(…剣が!いえ…)

無手…剣士としての敗北引き換えに攻撃誘い見切り
自己ハッキング限界突破怪力の裏拳で右腕代償に敵の剣逸らし
紋章へ鉄爪を展開し左の貫手繰り出し

貴女自身とも言えるその剣の冴え
お見事でした
ですが私も背に…騎士として譲れないものがあるのです



●騎士よ、纏いし武威の意味を謳え
「此度はこちらが多勢を以て敵に挑む。されども、それを卑怯などとは思いません……貴女はそうしなければ勝てぬ相手であると、認めている事に他ならないのですから」
 脇腹より滂沱と血を流す黒剣士。応急処置を行っている敵手へ、次なる対戦者の名乗りを上げたのはトリテレイアであった。彼は鋼鉄で形作られた体躯で地面を踏み締めながら、騎士剣と大盾を構える。こちらは初めから、剣に依る立ち合いを望んでいるようであった。
「記憶を代価に異能を振るう……ならば、私の存在も力の糧にして頂いて結構。記憶が無くとも、深層意識に刻み込まれた技術の数々。騎士として、其処まで積み上げられた修練に敬意を表します」
「とはいえ、記憶が無くて苦戦している真っ最中だけれど、ね? でも、そうね……アナタなら、話は別かしら」
 これまで散々に記憶や経験の有無を突かれてきたのだ。容易く代償へ放り込むスタンスこそ変わらないが、その有用性は文字通り身に染みて実感しているところである。翻って見るに、彼女はさきほど鋼騎士と背格好がほぼ同じの戦機と交戦したばかり。流石にその記憶まで投げ捨ててしまうほど、彼女も軽率ではなかった。
 傷だらけの身体なれど、剣を構える所作に緩みはない。あまつえさえ不敵な笑みを浮かべながら、愉快そうに目を細める。
「早速だけれど、その経験を活かさせて貰うわ。そう長くは持たないとは言え、貴方のことも覚えておくと役立つかもしれないし……ねぇ、名前を教えて下さる?」
「是非もありませんね。私の名はトリテレイア。トリテレイア・ゼロナイン。銀河帝国製ウォーマシンにして、騎士を志すもの。いざ、尋常に……!」
 ――勝負!
 その言葉を合図とし、二人の騎士は同時に前へと飛び出した。接敵するまでの数瞬、彼らは己が全力を出すべく準備を整えてゆく。蒼黒の剣士は必要な記憶以外を削ぎ落して黒薔薇へと与え、複合装甲すらも食い破る攻撃力を纏わせる。一方、鋼鉄の騎士は飛び道具など野暮だとばかりに内蔵銃器を軒並みパージ。機動力と防御能力を飛躍的に上昇させ、高速近接戦闘へと自身を適応させた。
 そうして刹那の準備時間は瞬く間に過ぎ去り、彼我の距離をゼロとした両者は真っ向から激突する。
「やはり、重い、わね。アナタたちの、攻撃って……っ!」
「と言いながらも、まずはこちらの盾を着実に削り取ってゆくのは敵ながら流石と言えましょう。であれば、少しばかり趣向を変えてみると致します!」
 トリテレイアは体躯とそれに伴うリーチ差を活かし、大上段より騎士剣を叩きつける。だが、黒剣士は剣道の正眼にも似た構えから腕を跳ね上げ、剣圧を斜め下へと巧みに受け流した。それは『王冠』と称される護りの技。
 そのまま鋼騎士の左半身を覆う大盾の影へとスライドし、得物を叩きつけて体勢を崩さんと狙ってくる。持ち前の重量で踏ん張りを利かせたが、代わりに盾の表層へ深々と傷が刻まれていった。
「足を止めた者から斃れてゆく……戦争は勿論、決闘でもその鉄則は変わりません。防ぐばかりが能と思われるのも心外ですからね。鋼の騎士道、その本領をお見せしましょう!」
 防御に徹していてはいずれ押し切られる。そう判断したトリテレイアは外見に似合わぬ機敏さを発揮し始めた。致命打となる攻撃のみ盾で防ぎ、それ以外は極力足回りを活かして回避してゆく。だが当然ながら、それは関節部に多大なる負荷を与える挙動だ。地面を蹴り上げるたびに、膝や足首より嫌な軋みが生じる。
(どのみち、長くは持ちませんか……ブースターやセンサーを総動員しているとは言え、あちらも木偶ではありません。いずれ、こちらの能力も把握されるはず)
 鋼騎士がカウンター狙いで立ち回っている事を加味したとしても、敵の攻め手はなお苛烈だった。通常の斬り合いに加え、盾越しという死角からの攻撃や足を狙った奇手によって翻弄してくる。このままではジリ貧だ。
(剣技の力量差に加え、得物の差が響いてきましたか……となれば)
 トリテレイアの騎士剣は切れ味よりも耐久性重視のもの。与えるダメージ量ではどうしても相手に劣る。なればと思案する相手へ、モーラは誘う様に言葉を浴びせた。
「どうしたのかしら、騎士様。このままでは、そう遠くない内に決着、よ?」
「それは御免被ります。ではそろそろ、こちらからも仕掛けさせて頂きましょう!」
 鋼騎士は敢えて敵の挑発に乗った。脚部スラスターによるスライディングで距離を取って仕切り直すや、破損した盾を投擲して相手の視界を塞ぐ。その隙に再び距離を詰め、斬撃を叩き込まんとする……が。
「残念、それは想定の範囲内ね?」
(ッ……剣が! いえ……だとしてもッ!)
 盾は切り払われ、更には騎士剣すらも半ばより叩き切られてしまう。そのまま無防備なトリテレイアへ斬撃が放たれる。まさに万事休す。しかし彼は、瞬時に屈辱を受け入れる覚悟を決めた。
「無手……剣士としては敗北と言えましょう。貴女自身とも言えるその剣の冴え、実にお見事でした……ですがっ!」
「っ、何を……!?」
 彼は右手と引き換えに斬撃を逸らし、直撃を回避する。更には鳴り響く警告を無視しながら、己自身へとハッキングを敢行。ただでさえ酷使している躯体から更なる出力を絞り出し、自壊覚悟で鉄爪を展開した左手による抜き手を放った。狙いは当然、紋章ただ一つ。
「私も背に……騎士として譲れないものがあるのですッ!」
 剣士としての誇り、己が身体と引き換えに繰り出した、渾身の一撃。それは寸分の狂いも無く、狙い違わず紅の輝きを穿ち貫くのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

セルマ・エンフィールド
あなたが吸血鬼であればまた違った感情を持ったでしょうが、そうでないならば……憐れですね。

今剣を振るう目的は破壊でしょうが、元々その力を身に着けたのは何のためだったのでしょうか?
私は覚えています。この世界で私が、他の人が生きるため戦っている。

私に嫌悪の感情がないので記憶を奪う刃は飛んでこないでしょうが、それでも近接技巧の高い相手。
こちらも【ニヴルヘイム】を使用し、増強された身体能力を活かし、敵の剣を受け流すようにフィンブルヴェトで武器受けしつつ銃剣で応戦、隙を見て隠しているデリンジャーをクイックドロウ、敵の足に撃ち動きを止め、フィンブルヴェトからの絶対零度の弾丸を辺境伯の紋章に打ち込みます。



●煮え立つ血潮、凍てつく氷弾
 さしもの辺境伯も、立て続けに叩き込まれた攻撃は堪えるのだろう。ぼたぼたと地面に血溜まりを作りながら、ぐらりと身体をよろめかせる。ある種、同情を誘う光景でもある。しかし、それを見つめるセルマの視線は常と変わらぬ冷ややかなものであった。
「あなたが吸血鬼であればまた違った感情を持ったでしょうが、そうでないならば……憐れですね。その剣技、ここまで至らせるまで相応の年月を要したでしょうに」
「な、ら……少しは、手加減してくれても、良いんじゃないかし、ら?」
 立っているのも得物を杖代わりにしてやっとという有様。モーラは如何にも哀れな声音でそう問いかける。だが、それでもなおセルマは揺るがない。どころか、狙撃手は流れるような動作で愛銃へ初弾を装填した。
「……ご冗談を。手負いの獣に油断する猟師などいません。それにふらついていても体の軸は微塵もブレていない……そろそろ、欺瞞は止めたらどうですか」
「ふ、ふふっ……嫌ね、全く。傷を負っているのは、本当なのに、ね?」
 そうして銃口を向けられるにまで至ると、黒剣士はピタリと体の揺れを停止させた。剣を地面から抜き、それを腰だめに構える。その所作にブレは微塵も感じられない。言葉通り、確かに全く効いていないという訳ではないだろう。だが先ほどまでの態度は己のダメージを過剰に見せつけ、相手の慢心を誘わんとする駆け引きの一環であったのだ。
 しかし、それを仕掛ける相手が悪すぎた。あらゆる意味で狙撃手とは目が命だ。スコープ越しに敵の状態を把握しなければならぬセルマにとって、その程度の演技など子供だまし以下である。
「飛び道具って、やっぱり厄介よ、ね。距離を詰めるまでは、一方的に攻撃されてしまうのだもの。少しでも近づいてくれたら、良かったのだけれど」
「そうでなくとも、嫌悪の感情を僅かでも抱けば足元の血溜まりから刃が放たれる。直撃して記憶を奪えれば御の字、外れても踏み込む為の隙が出来る。大方、そんなところでしょう。記憶や経験が無くとも、咄嗟に策を弄せるとは」
 じり、と。両者の間へゆっくりと緊張感が張り詰めてゆく。すり足で彼我の間合いを測りながら、セルマは銃口を、モーラは切っ先を相手へ向け続けている。如何にして先手を打つか、或いは攻撃を凌ぎ反撃を叩き込むか。互いの挙動による目に見えぬ駆け引きが、目まぐるしく交わさていた。
「……いま剣を振るう目的は破壊でしょうが、元々貴女がその力を身に着けたのは何のためだったのでしょうか? 紋章の強化も込みとは言え、それだけの技術を身に着けるのは生半な覚悟では足りないはず」
 相手が手練れで在ればあるほど、セルマの胸中には嫌悪ではなく憐れみや寂寥感が吹き抜けてゆく。目の前の黒剣士が、かつてはどのような立場だったのか。真実はとうの昔に忘却され、確かめる術など無い。だが、分野こそ違えどもそこへ到達するまでの労苦を、彼女は知っていた。
「私は覚えています。この世界で私が……他の人が生きるため戦っている。その始まりがあればこそ、退くことも、負けるつもりもありません」
「……そう。なら、精々、足掻いてごらんなさい?」
 そうして、先に仕掛けたのはモーラであった。彼女は最短軌道で繰り出せる刺突を狙い、前傾姿勢で踏み込んでくる。彼我の距離は斬り合うに遠く、撃ち合うには近い。接敵までの数瞬が勝敗を決すると判断したセルマは、瞬時に切り札の使用を決めた。
「接近すれば勝機がある、それに誤りはありません。ならば私が限界を迎えるのが先か、あなたが斃れるのが先か……勝負といきましょうか」
 それは霧の国の名を冠する術式。自信を中心とする半径八十メートル余りを絶対零度の冷気で覆い尽くし、身体能力と射撃能力を増大させる技である。極めて強力である一方、効果時間は最大で九十九秒。それを過ぎれば反動が身体を襲う、諸刃の剣だ。
「足を止めたら、そのまま氷漬け、ね……ええ、問題ないわ」
 熱を奪う冷気、肌に張り付く霜、柔軟性を失う皮膚。動く度に体表が裂けるにも関わらず、相手は意にも介せず吶喊してくる。放った応射の弾丸も見切って躱すなど、驚嘆に値するだろう。
「これだけやって、ようやく五分ですか……っぅ!?」
 そうして相手の攻撃圏内へ捉えられた瞬間、神速の刺突が叩き込まれる。咄嗟に猟銃先の銃剣で受け止めながらも、薄く肩口が切り裂かれた。真っ向からのぶつかり合いは、意図せずして鍔迫り合う構図となる。至近距離にある黒剣士の顔が、酷薄な笑みを浮かべた。
「あら、あら。これじゃあ、自慢の銃も撃てないわ、ね」
「……そう見えますか。だとすれば、それは」
 こちらの狙い通りですね。対してセルマは一方後ろへ身を退くや、なんと銃を手放した。いきなりパワーバランスが崩れ、思わず相手は前へとつんのめる。黒剣士がその最中に見たものは、スカートの内側より抜き放たれた都合四挺もの短身銃。
「狙撃手ならば近接戦に備えて、サブアームを用意しているものですよ?」
 刹那、四挺全てが一斉に火を噴き、黒剣士の両膝と足を撃ち抜いた。瞬く間に冷気が脚部を凍てつかせ、機動を封じる。弾切れとなった銃器を投棄しながら、セルマは手放した愛銃を蹴り上げて掌中へと再び収め……。
「……尋常ならざる硬度であろうと、凍てつけば脆性の一つも得るでしょう」
 絶対零度の弾丸にて、心臓部に寄生せし紋章を寸分違わぬ正確さで撃ち抜くのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

此衛・ファウナ
貴女がこの軍勢の指揮官ですのね。
強い……わたくしより経験も技量も全て上回る猟兵の皆さんを相手にしてなお退かぬ武勇、きっといまのわたくしでは手負いの貴女とて足止めすらできないでしょう。
――いまのわたくしでは!
貴女が己の記憶を燃やして力とするなら!
わたくしはわたくし以外の世界全てからわたくしという命が生きた証を砕いてお相手いたしましょう。
今ここにいるわたくしが誰の記憶にも残らず消え去ろうとも!
貴女の最期にわたくしという存在を刻みつけて逝きます!
輝く夢遥か、もう戻らぬと誓うならば!
どうか彼女の高みに届くに至る、有り得たかもしれないわたくし達よ。
消えゆくわたくしに代わって人を護り果てる誇りを!



●忘れる者、忘れられる者
「がっ、は……!? これは、これは。ただのマスケット銃よりも、余程強烈、ね……!」
 心臓部へ直撃した弾丸に、モーラは堪らず身体をくの字に折り曲げていた。驚嘆すべき紋章の耐久力によって貫通こそしなかったが、衝撃まではそうもいかない。攻撃の特性によって傷口が凍結し、出血が最小限に抑えられていることだけは不幸中の幸いと言うべきだろう。
 荒い呼吸を繰り返し、口元にはどす黒い血が滲む。それでも倒れぬのは流石と言うべきか。そんな敵対者の眼前へ、ゆっくりと歩み出る者がいる。
「……貴女がこの軍勢の指揮官ですのね。先刻は指揮を執る様子が見られず、その実力は如何ほどばかりかと訝しんでおりましたが……」
 それはファウナであった。白の詰襟と紫の袴を棚引かせながら、彼女は眼鏡の奥で静かに目を細める。この竜人とて仮にも一端の軍人である、指揮官に依る陣頭指揮のリスクは重々理解しているつもりだ。だがそれを差し引いたとしても、この剣士の指示は鈍すぎた。よもや、単なる見掛け倒しか……ふと抱いたそんな疑念は、既に彼女の中から消え去っている。
「強い、ですわね……わたくしより経験も技量も全て上回る猟兵の皆さんを相手にしてなお退かぬ武勇。きっといまのわたくしでは、手負いの貴女とて足止めすらできないでしょう」
「お褒めに預かり、光栄、ね? なら、そのまま道を空けてくれると、嬉しいのだけれど」
「それが出来ぬ相談であることは、わたくしが答えるまでもなくご承知の上でしょう。浅学非才の身なれども、軍衣を纏う者。敵前逃亡など言語道断ですわ」
 戯けるように会話を交わす黒剣士は、一見すればひどく無防備なように見える。だが、ファウナはそれが一種の構えであることを見抜いていた。だらりと得物をぶら下げた様な緩い姿勢。それは『愚者』と称されるカウンター狙いの型に他ならない。
 舌戦一つとっても、この抜け目のなさである。相手は記憶を失っている分、経験の浅いファウナとそう大差ないように思えるが、肉体そのものに蓄積された技術の差は歴然。足止めすら難しいというのは謙遜でもなんでもなく、純然たる事実を表したものだ。
 だがそう理解しても尚、軍人の瞳に映る戦意は些かの陰りも見えなかった。
「仮にこのままぶつかったところで、稼げる時間は精々数十秒、分に至れば御の字と言った所。単なる犬死とそう大差ないでしょう……そう」
 ――いまのわたくしでは!
 竜人が裂帛の気合を叫んだ瞬間、ビキリと周囲に亀裂が走る。それは空間そのものに作用する『何か』。得体の知れぬ存在を感じ取った黒剣士は咄嗟に己が武器へ薔薇を咲き誇らせた。
「その異能は、自らの過去を代償として力を得ると聞き及んでいます……貴女が己の記憶を燃やして力とするなら! わたくしはわたくし以外の世界全てから、わたくしという命が生きた証を砕いてお相手いたしましょう!」
 瞬間、少女を囲む空間そのものが砕け散った。硝子の如き輝きと共に姿を見せたのは、少女と瓜二つの姿、しかもそれが複数。それは『在り得たかもしれぬ未来』より呼び出された未来のファウナ自身である。当然、今の彼女よりも成長し、多彩な技能を身に着けているだろう。なるほど、心強い味方だ……代償に目を瞑れば、であるが。
「元の地力が劣るのならば、同じように記憶を差し出したところで届きはしません。ならば、それ以上を捧げるだけのこと! 今ここにいるわたくしが誰の記憶にも残らず消え去ろうとも! 貴女の最期にわたくしという存在を刻みつけて逝きます!」
 ――輝く夢遥か、もう戻らぬと誓うならばッ
 この異能を使用するに少女が支払う対価は記憶と記録、つまりは自身を証明する存在そのもの。この時点で誰かの記憶からファウナの姿は失われ、書類や足跡から名が消えているだろう。もしかしたら、それは助けたはずの村人たちかもしれない。
 だが、構わなかった。万人を護った、その事実を自身が覚えてさえいれば、それで。
「どうか彼女の高みに届くに至る、有り得たかもしれないわたくし達よ……消えゆくわたくしに代わって、人を護り果てる誇りを!」
「……愚かで、哀れで、いじましい娘ね。良いわ、石火に舞い散る夢と、せめて踊ってあげましょう?」
 瞬間、儚き未来と忘却されし過去が激突する。モーラは軍刀を手に斬りかかって来た部隊長を刺突にて串刺しにし、背後から接近していた工作兵を横薙ぎの一閃で両断した。未来が消滅する度、少女が歩むことの出来るはずだった道が一つ、また一つと閉ざされてゆく。
「未来と言っても、こんなものかし、ら?」
「否です! 無数の『もしも』、それらの大半が失われようとも……那由他の果てに貴女を斃し得る『一』があれば、それで良いのです!」
 だが、それが攻撃の手を緩める理由にはならなかった。ファウナは己が可能性を手繰り寄せ、少しでも痛手を与えんと試みる。銃兵と狙撃手による十字砲火が脇腹を撃ち抜き、擲弾兵の投擲した手榴弾が炸裂する。それを受けながらも、黒剣士は術式の行使者たるファウナ目掛けて吶喊する。対して、少女は凛然とした雰囲気を纏う己自身を呼び出し、捨て身の覚悟で太刀合わせ……。
「いち、撃……たしか……に」
「試合に勝って、勝負に負けた……とでも言えば良いのかしら、ね?」
 未来が黒剣士へ渾身の斬撃を刻み込むのと、過去がそれ諸共に少女を貫くのは、ほぼ同時であった。力尽き、その場へ倒れこむファウナ。だがモーラとて、瀕死の身にその一撃は堪えたようだ。
 トドメを刺す余裕も無く、黒剣士は軍人の横へがっくりと膝をつくのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

落浜・語
【路地裏】

ふむ、とりあえず深い事は考えずにはっ倒せばいい感じか。
あぁ、あの時の。こんな心強い味方はないな

UCは『活劇譚』を使用。
「嘗て厄災振り払い、安寧手にした村落へ 此度迫るは辺境伯。 手にした安寧奪わせまいと 訪れますは猟兵方
此度語りますは、忘却すれども歩みは止めず、今この時を護る為、駆け戦う方々の物語にございます!」
【鼓舞】し、場を盛り立てる
俺のできるお膳立てはこんなもんだが、あとは任せた

かた(語/騙)ることは俺の本質だ。忘れようがないし、忘れたところで何か問題があるわけでもない。
何者かって、俺かい?死神だよ。少なくとも、お前にとってはな
(ぼくは、あるじさまのしにがみだったかもしれない)


フィーナ・ステラガーデン
【路地裏】
涼音継続で戦闘メインも涼音で路地裏メンバーと連携し戦闘
wizUCは涼音が受ける

・涼音心情
妖刀に支配されていたとはいえ愛した人々を切り捨ててきた過去を持つ彼女は内心未だ引きずり
自分は何者かと聞かれると只の人斬りではないかと頭によぎる
目標とするは剣士、されど自分が望む剣士像は定まらず
剣がブレ窮地に陥る
(その間フィーナは消えないよう膨大な魔力を送り続ける)
過去には刀に操られ、今では正体が道具であるヤドリガミ達に守られる現状

・答
剣士にとって刀とは一方的に使うものではない、ましてや刀に使われるものではない
共に同じものを目指し、共存し、共に戦う
それが帯刀涼音という剣士

もう迷うことはない


ファン・ティンタン
【WIZ】Iam …
【路地裏】
アドリブ歓迎

ん、涼音がいる
と言うことは……魔女の人、フィーナもいる
思えば、戦場の付き合いも長いね
折角だ、共闘といこうか


敵の問いに、言葉が詰まる
私がナニモノか、なんて―――

記憶を辿る走査線上にノイズが走る
自意識外から探る作用へ、何かが遮るかのように、虫食われた記憶が抵抗する
ざらざら、がりがり
精神が摩擦する、軋む

それでも
周りの皆が、問いへと姿で示す
一つ確かな己の意義を、思い出していく

―――私は、闘う者に、寄り添う物だ
持ち主を護り、その力となる物
これだけは変わらない、変わりようがない

故に、己が意義を全うしよう
涼音、機は一任するよ
【天踊閃華】
私の全ては、刃を振るう者の為に


ペイン・フィン
【路地裏】

貴女の力は、記憶を喰らうんだね
悪食同士、どうにも、妙な気分、だね

真の姿を解放
背が縮んで、数歳程度幼くなり、周囲に血霧のような怨念が満ちる
手にするのは猫鞭"キャット・バロニス"
さて……、悪食同士、戦おうか

限界突破、力溜め、怪力、魔力溜め、ドーピング、リミッター解除、封印を解く
……真の姿の能力を、更に限界を超えて、引き出し、攻撃を回避しようか

嫌悪感は、感じない
自分の負の感情なんて、感じる前に飲み干してしまうし
貴女を嫌うなんて、無い

……さて
コードを使用

無防備に攻撃を受けた上で、それを無効化
そして、猫鞭で武器とコードを封じようか

剣士に対して、決着は、やっぱり剣士が良いよね
じゃ、後は任せた、よ


勘解由小路・津雲
【路地裏】5名
おっと、大将のおでましか。黒幕の情報を引き出せそうにはないが、まあ何か手がかりがあれば。
おや、分散して戦っていたから気づかなかったが、……おお、あのときの。あの敵相手に、頼もしい援軍だな。

【戦闘】
【符術・鳥葬】を使用。虫を啄むには鳥を用いよ、ってね。まあ、叩き落されるだろうな。
が、【属性攻撃】で式神を低温化、剣で切る度にはりつくようにしよう。それはゆっくりと切れ味と動きを落としてゆくはず。

で、おれが何者かって?
私は勘解由小路家に伝わる呪具にして、そこに囚われ、「白虎」の名を与えられし金属の精霊。
……正体を明かすのは好きじゃないんだ。ま、あんたはすぐに忘れるだろうがね。



●合縁習合、その答えに未来あれ
 度重なる猟兵との交戦により、黒剣士の体力は着実に削り取られていた。右胸に寄生している『辺境伯の紋章』もまた直撃打を数発受けており、宿主に対する強化能力が僅かではあるが低下している。此処こそが戦いの流れを決める分水嶺、そう判断した路地裏野良同盟の四人は迎撃戦から引き続き、仲間との連携を活かして勝負を挑まんとしていた。
「おっと、いよいよ大将のおでましか。言動的に黒幕の情報を引き出せそうにはないが、まぁ何か手がかりがあれば御の字と言った所だな」
「ふむ、とりあえず止むに止まれぬような裏事情もなさそうだし、深い事は考えずにはっ倒せばいい感じか」
「の、ようだな……おや、どうしたんだファン。明後日の方向なんて見つめて」
 ある程度距離を取って遠巻きに敵の様子を観察しつつ、津雲と語はどう攻めるべきか言葉を交わし合っていた。だがその最中、ふと陰陽師はファンが敵とはまた別の何かへ視線を向けている事に気付いた。どうしたのかと問いかける仲間へ、白い少女はそっと答えを指し示す。
「ん、あそこに涼音がいる。と言うことは十中八九……魔女の人、フィーナもいるね。ほら、見えた」
「おお……分散して戦っていたから気づかなかったが、魔女殿と涼音殿か。二人も来ていたのだな」
 その先では丁度、赤き魔女と紅の女剣士が意気揚々と戦場へ姿を見せた所であった。目立った負傷も無く元気そうな姿に、自然とファンは穏やかな笑みを浮かべていた。
「なるほど、アイツが白い連中の親玉って訳ね! 何だか剣の腕が自慢らしいけど、こっちだって負けちゃいないわ! という訳で頼んだわよ、涼音!」
「ははは……良い思い出ばかりとは参りませんが、私も剣の路を歩んでいた身ですからね。どうぞお任せあれ」
 路地裏の面々とフィーナ達との間に直接的な交流こそなかったが、さりとて全くの初対面と言う訳ではない。こうした依頼の場において、顔を合わせたことが何度かあったのだ。そも、かの女剣士が巻き起こした事件とその顛末に、ファンと津雲、ペインの三名は深く関わっている。加えて、図らずとも一年前の領主討伐戦時にも偶発的な連携を行った事があった。それに関しては語も強く覚えている。
「確かにあの時も居合わせてたしな。そりゃ、駆け付けてもおかしかないか」
 あちらも四人の姿に気が付いたようだ。フィーナが勢いよく手を振り返し、涼音がぺこりと丁寧なお辞儀をしてくるのも、そうした縁に起因する。始まりはどうあれ、今ではもう立派な戦友である。手の内とてある程度は把握済み、なれば力を合わせぬ道理もない。
「……思えば、かれこれ戦場での付き合いも長いね。折角だし、共闘といこうか」
「まっかせなさい! 一年前よりもさらに強くなっているから、きっと驚くわよ!」
 ファンの申し出に対し、フィーナは一も二も無く快諾した。相手は近接戦の手練れ、前衛として戦える者が増えるのはお互いにとっても悪い話ではない。即席とは言え連携戦ともなれば、猟兵側の士気も上がると言うものだ。
「なるほど。剣術を使う敵を相手にするならば、これ以上ないほど頼もしい援軍だな」
「確かに、こんな心強い味方は早々居ない。それじゃあ、頼りにさせて貰うとしますか」
「その節は、本当に感謝しています……こちらも、皆さんと一緒なら負ける気がしませんから」
 一方、黒剣士は俄かに共闘態勢を整えてゆく猟兵側を、ジッと静かに眺めていた。僅かばかりの時間も無駄にせず、それまで受けた傷の回復に専念していたというのもある。だが過去の積み重ねと言う己では決して望めぬものに対し、何か思う所が在ったのかもしれない。
「……なるほど。確かに、記憶を捨て去るワタシでは、そうした繋がりは得られないもの。これまでは、不要と切り捨てて来たけれど。ここまで追い詰められたのなら、そう軽んじることも考えものかし、ら?」
 ぽつりと零れ落ちた呟きは幾分か自嘲が混じっているとは言え、これまでと変わらぬ茫洋然としたもの。言葉と裏腹に、声音からは諦念が滲み出ていた。何かを感じ、抱いたところで、それすらもそう間も置かずに忘却の彼方へと消えてゆく。自分はそういうものだという、一種の達観。だが一人だけ、その感覚を共にできる者が居る。
「……貴女の力は、記憶を喰らうんだね。自分の場合、糧にするのは負の感情だけれど……悪食同士、どうにも、妙な気分、だよ」
 それはペインであった。記憶と感情と言う違いこそあれど、何かを代償として力を得る点では共通点があると言える。彼の言葉に偽りがないと本能的に察したのだろう。モーラは興味深そうに目を細めた。
「感情、ね。記憶とは似て非なる想い……それを元にした力は、いったい如何ほどのものなのかしら?」
「気になるのかな。大丈夫、いま答えを見せてあげるから……」
 そう言うや、ペインは自らの周囲へと赤き霧のような物を出現させてゆく。それらはこの地へ満ちる怨念の具現化だ。かつて虐げられた村人、先刻散った白兵たちの想念を喰らい、青年は少年へと姿を変える。真紅の仮面で顔を隠した姿は幼いながらも、秘める力は格段に高まっていた。
「へぇ……なるほど、ね。中々、面白いものが見られたわ。いずれ忘れてしまうのが、とても残念だけれど」
 敵の変化を見て、黒剣士は感嘆の溜息を漏らす。だが、その口振りには恐れも危機感も無い。言葉が暗に示すのは自らが記憶する側、つまりは勝利し生き延びるのだという自負であった。
「さて……もうそろそろ、準備も整ったかな。それじゃあ悪食同士、戦おうか」
 そうしてペインは己が同胞たる拷問具の内、猫鞭を取り出して構えた。何も彼は同情や憐みで言葉を交わしていたわけではない。急遽発生した共闘に合わせ、仲間たちが戦闘準備を整える為の時間を稼いでもいたのだ。つまり武器を手にしたという事は、それらが完了したという事に他ならない。
「ええ、それじゃあ……始めましょうか?」
 弾丸の如く飛び出す黒剣士と、それに応ずる指潰し。両者のぶつかり合いを合図として、戦いの火蓋が切って落とされるのであった。

「鞭、だなんて。中々面白い武器を使うの、ね?」
「ッ!?」
 九条の鉤爪を巧みに操りながら、ペインは繰り出される斬撃と打ち合ってゆく。鞭と剣は差し詰め柔と剛の関係と言えた。威力では黒剣に劣るものの、刀身を絡め取って軌道をずらし、必殺の斬撃を回避する。実力伯仲、だがそれは防御を主眼とした場合だ。いま必要とされているのは、敵を打ち倒す攻めの力。
(真の姿を開放して、能力は大幅に底上げされた、けど……まだ、足りない。もっと速く、鋭く、強く……!) 
 敵を上回る為に、ペインは己の持ちうる手札を全て使いきる覚悟だった。身体を、魔力を、反射神経を総動員して果敢に攻め立ててゆく。だが、それは身体へ過剰な負荷を掛ける事と同義。本来であれば、そう長くは持たないものだが……。
「おいおい、無理は禁物だぜ? 先にこっちが息切れしちゃあ世話ないからな」
 仲間の声が耳に届くと同時に負担が一段和らいでゆく。その主が誰か、今更振り返って確かめるまでも無い。噺家の言葉は単なる音の振動に在らず。仲間の背中を押し士気を高める、何よりの鼓舞なのだ。
「嘗て厄災振り払い、安寧手にした村落へ、此度迫るは辺境伯。手にした安寧奪わせまいと、訪れますは猟兵方。此度語りますは、忘却すれども歩みは止めず、今この時を護る為、駆け戦う方々の物語にございます!」
「我らの戦いは活劇譚が無ければ始まらないからな。さて、それではこちらも仕掛けさせて貰おうとしよう。語が支援なら、俺は妨害。虫を啄むには鳥を用いよ、ってね」
 朗々と響き渡る語の大音声によって、戦場に存在する仲間たち全ての能力が底上げされる。津雲はしっかりとその恩恵を受け取ってから、自らもまた役割を果たすべく戦闘に参加してゆく。
 袖の袂から霊符の束を取り出すや、それをばらりと宙空へ放る。陰陽師が素早く十字を切った瞬間、紙片は鳥の形へと変形し一斉に飛翔を開始した。
「紙で出来た鳥、かしら……確かに鬱陶しいけれど、特に脅威は感じられないわ、ね」
 式神そのものにはそこまでの威力も耐久性も無い。ペインと交戦する黒剣士が得物を振るう度、攻撃の余波を受けて弾け飛んでゆく。だが津雲にとってその程度は想定の範囲内、故に焦る様子はなかった。
「まあ、叩き落されるだろうな。と言うより寧ろ、叩き落して貰わなきゃこっちが困るという話なんだが」
「何を言って……っ!?」
 訝しむモーラだが、そこで違和感を覚えた。黒剣が僅かながらに重い。はっと視線を走らせると刀身に式神の残骸が張り付き、あまつえさえ薄っすらと霜まで帯び始めている。
「式神に冷気を仕込ませて貰った。一発一発だと見ての通り大したことはないが……積み重なれば、切れ味や太刀筋も鈍ろうというものだ」
 勿論、式神は仲間の攻撃を自ら回避する上、仮に当たっても冷気を放出することは無い。じわじわと真綿で首を絞められるのは黒剣士だけだ。忌々しそうに歯噛みしながら、モーラは津雲や語を睨みつける。
「味な真似を、してくれるわね……! でも、こちらにはまだ余力がある、わ。隙を見て、支援役のアナタたちへ斬りこめば、操作を乱せるはず……!」
「確かにそいつは勘弁願いたいね。だけど、良いのかいアンタ……こっちにゃまだ二人、前衛役が残ってることを忘れてやしないか?」
 皮肉気に肩を竦めた語の横を、紅白の風が吹き抜けた。ファンと涼音、共に太刀を主武装とする剣士が戦線へと加わる。二人とも、ペイン同様に語の活劇譚で強化済みだ。さしもの黒剣士とて、三対一は些か以上に分が悪い。
「対多数には屋根の構えがセオリーだけれど……駄目ね、息がぴったり。これじゃあ六刀流を相手にしているようなものかしら?」
 モーラの全身へ細かな傷が刻まれ始め、ぽたぽたと地面に血の雫が滴り落ちてゆく。だが防戦に徹しているとは言え、白兵戦に長けた猟兵を複数相手取って致命傷を逃れている時点でやはり尋常な力量ではない。
「何者かも分からず、されど剣の技量だけは一流。ある意味、求道者の理想とも言えるかもしれませんが……」
「武の基本は心技体。紋章で身体能力を上げ、積み重ねた技術が在ったとしても、心が伴わなければ伽藍洞だよ? まぁ、それでも強いのだから性質が悪いけどね」
 涼音の振るう日本刀は独特の反りと切れ味を活かした斬撃を、ファンの本体たる白刀は真っ直ぐに伸びた刀身による刺突を、それぞれ間断なく浴びせかけてゆく。僅かに生まれる攻撃間の隙とてペインの猫鞭が埋めてしまうのだ、付け入る間など皆無だ。
「ふ、ふふ……こうまで繰り返し指摘されたら、こちらも反論の一つもしたくなるわ、ね。ワタシが自分自身を見失っているというけれど。それじゃあ、記憶がしっかりとあるアナタたちは……」
 ――自分がナニモノか、本当に理解しているのかしら?
「っ!? それ、は……」
「……私がナニモノか、なんて―――」
 モーラの振るう得物に黒き薔薇が咲き誇る。それは己の、そして敵対者の記憶を貪るべく刃の如き花弁を舞い散らせ始めた。威力は元より、その副次効果は厄介極まるもの。咄嗟に前衛の三者は飛び退って距離を取り、代わりに津雲が式神たちを向かわせる。
「数には数だ。幸い、式神にはまだまだ余裕がある。これで花弁の密度を減らしてやれば、また近づくことも……うん? ファン、それに涼音? なんだ、いったいどうした!?」
 花弁の対処は任せろと告げる陰陽師だったが、そこで仲間の様子に違和感を覚えた。白き少女は頭痛を覚えたかのように頭部を抑え、紅の剣士は胸を押さえて身体をよろめかせている。明らかに尋常な状態ではないことは明白だ。
「なんだか二人の様子がおかしくないか……? フィーナさん、そっちはどうだ!」
「い、いきなり動きを止めちゃったのよ!? 魔力を送り続けてるけど、維持するための消費量が跳ね上がってる!」
「おいおい……ここに来て奥の手でも隠し持ってたのか? こりゃ幾らなんでも不味いぞ」
 語がフィーナに確認を取るも、返ってくるのは切羽詰まった言葉のみ。よもや、未だ明らかになっていなかった敵の能力なのか。予想外の事態に対し俄かに戦慄が走る。だが、魔力を介して繋がっているフィーナがいち早くその原因に気付くことが出来た。
「ううん、多分違う。あの子……問い掛けに反応して、過去のやらかしを思い出しちゃってるわ!? それで思い詰めて、動きが鈍ってるみたい……!」
「なるほど、確かにそう容易く割り切れる内容ではなかったしな。となると、詳細は分からんがファンも同じ理由だろう。だが、いまは他人がどうこう出来る余裕はないぞ……!」
 魔女の言葉に陰陽師は合点がゆくも、原因が分かったところで手が回らない。黒剣士はフリーになれば、まず確実に動けぬ二人を狙うだろう。それを防ぐにもペインが相手をし続けなければならないが、その為には津雲と語の支援が不可欠だ。フィーナも涼音の維持に手一杯な現状、二人へ手を差し伸べる余力が無い。
「あら、あら……あれだけワタシに言い募ったのに、いざ自分が突かれると脆いモノ、ね。誰にも言えない、隠し事だなんて。そんなの……忘れてしまった方が、自他ともに安心するでしょう? そんな記憶、在っても無くても同じ、よ」
「っ、そうはさせない……!」
 ちらりと、ペインと切り結びながらモーラが少女たちへ意味深な視線を向けた。相手の狙う所を察した青年は、我知らず消化しきれぬ程の嫌悪を抱いてしまう。想い人の記憶を消すと暗に告げられたのだ、それも無理はない。だが、それこそ敵の思うつぼだ。
「繋がりは確かに、強さを齎してくれるわ、ね。でも……時にはそれが、枷となるわ」
 ぞるりと、黒剣士の足元で滴り落ちた血が沸き立つ。それらは瞬時に沸騰すると刃を形成し、ペインへと一直線に向かい、そして……。

(過去は決して……良い事ばかりではなかった。ええ、そうです。その言葉に、偽りは在りません)
 ――帯刀涼音と言う少女の半生は、一言で表せば呪われていたと言って良いだろう。
 剣の道を志し、武の頂きを望み……妖刀を手にした瞬間、その在り方は捻じ曲がった。
(忘れられる、なら……忘れても良いのなら、どんなに楽な事でしょうか)
 彼女は斬った。試合相手を、敵を、父母を、愛する男を、そして己さえも。刀に支配されていた、そう言い訳する事も出来るかもしれない。だが、彼らの命を奪った生々しき感覚は未だ両の手に残り、心を苛み続けている。
(でも、忘れられる筈がない。忘れたくない。だって、愛していたのだから)
 何者かと問われれば、剣士であると答えたい。しかし、望む剣士像は今を以ても定まらず、こうして弄された言葉に精神を搔き乱される始末。自らを救い、共に肩を並べている者たちを悪く言うつもりは毛頭ない。だがかつては妖刀に操られ、今は道具を正体とする物たちに守られている。本来は使う側の立場であるはずなのに、だ。果たして、これが剣士などと呼べるのだろうか?
(私はきっと、何一つ変わっていない……かつて妖刀を手にした時から、あの蹈鞴場で斃れた時から、ずっと)
 ――単なる、人斬りなのだ。
 視界が暗い、剣が重い、足が動かない。少女はぐるぐると無間地獄に囚われ続ける。もういっそ、このまま消えてしまうのが楽なのだろうか。我知らずそう思い始め、そして……。

(駄目、だね。これは……我ながら、情けないよ)
 ――正直なところを言ってしまえば。
 ファン・ティンタンという刀の過去がどれほど明瞭かと問われれば、実のところ黒剣士と似たような状態と言って良かった。無論、あそこまで酷くは無いものの、その記憶には明確な『欠け』が存在する。
(思えば、先の戦争の時も似た様な事があったね……気が付いたら周りが焼け焦げていて、何を想い起こしたのかまでは覚えていないのだけど)
 己がナニモノか。そこへ意識を届かせようとする度に、記憶を辿る走査線上にノイズが走る。彼女はヤドリガミ、器物より変じた者。故に普通の人間の様な物忘れには縁遠いはず。なのに、どうしても『何か』が思い出せない。
(小手先の答えを告げてしまえば、それで凌げはするだろうね。でも、それじゃあ私自身が納得できない)
 自意識外から探る作用へ、何かが遮るかのように、虫食われた記憶が抵抗する。ざりざりと、がりがりと。精神が摩耗し軋む、不快な感覚。まるで頭蓋を内側から削り取られているようだ。
 朧気に思う。真実に辿り着くのは、きっとこの場ではないのだろう。だが、それでも。
(……私は一体、何なのだろうね?)
 その問いを避ける事だけは出来そうになかった。喘ぐように外界へ手掛かりを求め、そして……。

 ――そして。
「……信じてる、から。例え、ファンの過去に何が在ったとしても」
 ペインの身体へ血刃が命中した。紛う事なき直撃である。刃は青年の肉体を切り裂くと同時に、最も大切な記憶を奪い去るだろう。そうなれば、まともに戦う事など出来まい。思わず、黒剣士の相貌に勝利への確信が浮かぶ。だが刃は皮膚を破るどころか、音も無く指潰しの裡へと吸い込まれていった。
「は、なぁ……!?」
「自分が愛している事に、変わりはないから。だから……その程度の揺さ振りで、想いが揺らぐと思うな」
 目を剥く黒剣士の周囲に、無数の猫鞭が出現した。それは九つに分かれた先端を振るったと思うや、瞬く間に相手の全身を縛り上げる。革縄は圧迫止血の要領で傷を塞ぐと、攻撃の起点となる出血を完全に止めてゆく。これでもう、血刃は放てまい。
「こちらの異能を、封じた……! でも、また、花弁が残って……!?」
「お前がその場から動けないのなら、こちらとて取れる手が広がるというものだ。ただ、答えを得れば活動を止めるのであったな、その薔薇は。なら、望みを満たしてやろう」
 だが、まだ舞い散る花弁が残っている。それを二人の少女へ差し向けんとしたモーラだったが、既にそちらへは津雲が式神を回していた。霜を張り付かせた無数の花弁は、醜く萎れて地面へと落下してゆく。その光景を詰まらなさそうに眺めながら陰陽師は……金属鏡は、質問の答えを返した。
「で、おれが何者かって? ……私は勘解由小路家に伝わる呪具にして、そこに囚われ、『白虎』の名を与えられし金属の精霊……正直言って、正体を明かすのは好きじゃないんだ。まぁ、幸か不幸か、あんたはすぐに忘れるだろうがね」
 素の口調が現れたのは一瞬だけ。普段の調子が戻ると同時に、ぼろりと更に花弁が落下し消滅する。なればと、その横で様子を窺っていた語も腹を括ったように深々とため息を吐いた。今この場で問いに答えることは、自分だけでなく仲間の為になると悟ったが為だ。
「かた(語/騙)ることは俺の本質だ。あんたの剣術みたく骨身に染みついたもんだしな。忘れようがないし、忘れたところで何か問題があるわけでもない……ただ、そうだな」
 こほんと、語は小さく咳払いをした。そうして人差し指を立て、まるで蝋燭を吹き消すかのような仕草と共に答えを紡いだ。
「俺が何者かって答えるなら、死神だよ。少なくとも、お前にとってはな。生憎だけど、炎を移す機会も与えるつもりはないぜ」
 ――あるいは。ぼくはほんとうに、あるじさまのしにがみだったかもしれない。
 噺家の言葉へ重なる様に、幼子の声が聞こえたのは単なる空耳か。仮にそうでなかったとしても、黒剣士がそれに耳を傾ける余裕はなかっただろう。式神による相殺に加え、二人分の答えを得てしまったのだ。花弁はもう、ちらほら程度にしか舞っていなかった。
「これは、お見事というしか無いわ、ね。でも、そちらも二人戦えない。条件的にはこれで五分よ」
 剣を振るって猫鞭の拘束から逃れつつ、黒剣士は体勢を立て直す。異能は封じられても、まだ頼みの剣術がある。この人数差ならまだ戦況を覆し得ると吼える相手に、語とペインはくるりと背を向けた。
「おっと、そいつは早合点ってやつだ。俺のできるお膳立てはこんなもんだが……ま、十分だろ。てな訳で、あとは任せた」
「このまま、自分が戦っても良いけど……剣士に対して、決着は、やっぱり剣士が良いよね?」
 いったい何を考えているのか。不可解な行動を警戒するモーラの前へ、彼らと入れ替わる様に歩み出るモノが在る。
「皆の答えが、聞こえたよ。ありがとう……そのお陰で、己の存在意義を思い出せた」
 それはファンだ。彼女の歩みにもう危うさはなく、紅の左瞳からは一切の迷いが払われていた。外界へと自己定義の手掛かりを求めた少女は、仲間たちの在り方によって己自身が何であるかを見つけることが出来たのだ。
 その結果を、白刀は噛み締める様に口にする。
「―――私は、闘う者に、寄り添う物だ。持ち主を護り、その力となる物。これだけは変わらない、変わりようがない。過去がどうであれ、この在り方こそが真実だよ」
 現在に至るまでの道程がどうであろうと、今と始まりだけは揺らぐことは無い。一振りの刀として鍛造され、今この瞬間もそうであり続ける。ならば己は武具だ。使い手と共にある、一片の鋼刃に他ならない。それこそ、彼女が導き出した答えである。
「故に、己が意義を全うしよう……さぁ、涼音。顔を上げて?」
 ファンはそのまま歩を進め、紅衣の少女の元へと辿り着く。怯える様な、怖がる様な仲間の顔をそっと手で包み、狼狽える視線と瞳を合わせる。それは奇しくも、かつて赤き魔女が行ったことと全く同じ構図で在った。
「ぁ……わたし、は……いったい、なん、で」
「それは貴女自身が答えを導き出さないといけない事だよ。故に、多くは語らない。だから代わりに……涼音、機は一任するよ。私が身を許す相手なんて、そうそう居ないのだからね?」
 ――私の全ては、刃を振るう者の為に。
 少女の眼前で、ファンは自らを一振りの刀へと変じさせる。迷いなき精神を具現化したが如き、真っすぐな刀身。柄を涼音へ向けて、刃は静かに地面へと突き立っていた。それが示す意味など一つしかない。
(……自分を使え、と。そう言って下さるのですね)
 こうまで、信じてくれるのだ。ならば己はどうするべきか。否、どうしたいのか。一度救われるだけでは飽き足らず、また女々しく縋るなど。そんな醜態、剣士どころか人としても度し難い。他人がどう思うのかではなく、自分で自分が許せなくなる。
「極論、刀とは単なる武具の一つなのかもしれない。でも……剣士にとって刀とは一方的に使うものではない、ましてや刀に使われるものではない」
 そう思い至った瞬間、涼音の心に一陣の風が吹き抜けた。どうしたいかなど、初めから決まっていたのだ。少女はそっと白刀の柄を握り、力を籠める。
「どちらかが上に立つのも、逆に下で傅くのも、私が望む剣士の姿とは違う。共に同じものを目指し、共存し、共に在りて戦う……対等な関係。それが、それこそがっ!」
 ――それが帯刀涼音という剣士だッ!
 答えは得た。もう迷うことは無い。女剣士が裂帛の気合と共に友を引き抜くや、その魂を表するかの如く、リィンと清らかなる鈴の音が戦場へ響き渡った。刃が使い手を、使い手が刃を高めるその姿は、記憶と言う繋がりを断った黒剣士とは余りにも対照的であった。
「…………ふぅん。なるほど、ね。訂正するわ。記憶があっても無くても同じ、なんて言った事を、ね?」
「意外ですね、わざわざ発言を正すとは」
「謝った事すらすぐに忘れるもの……ふふ、冗談よ。記憶をなくしても、剣だけは手放せない身。ならそれに対してくらい、真摯で在りたいの。それに、ね」
 アナタの方が強いとは、一言も言ってないわよ? 黒剣士はそう言って、己が記憶を貪りし剣を構えた。此処より先に言葉は不要。戦意に応じて、涼音もまた白き刃の切っ先を相手へ向けた。
 モーラの構えは先程の戦闘時にも取った、『屋根』と称される剣が右肩と垂直になるよう真っすぐ構えた型だ。恐らくは上段より繰り出される強力な袈裟斬り、『怒りの斬撃』によって相手を両断する狙いなのだろう。
 対して涼音の姿勢は切っ先を相手の眼へ向ける、いわゆる『正眼』の構えである。これを基点にあらゆる動きへと繋げる事が出来る、攻防自在の型。剣術の基礎にして奥義とも呼べる形だ。
 両者ともに、すり足で間合いを測りながら攻撃の機を伺う。だが、白刀がこの姿を維持できる時間には限りがある。時間を掛ける分だけ、それだけ余裕が失われてゆく。しかしそうと理解しながらも、涼音は思わず懐かしさを覚えていた。
(まるで……本当に、蹈鞴場の再現ですね。いまは、味方同士ですけど)
(それなら、結果も同じで頼むよ? あの時だって、私に勝ったんだからね)
(ええ、それは勿論……絶対に負けませんから)
 手の中の友と短く言葉を交わす。張り詰める緊張の中、暖かな想いと共に余分な力が抜けてゆく。だが、相手はそれを集中の乱れと受け取ったのだろうか。刹那、神速の踏み込みと共に斬りかかって来た。
 だが、対する女剣士は僅かな迷いも無く、流れる様に剣閃を閃かせ……。
「……お見事、と言うべきかしら? 文字通りの、紙一重、ね」
 黒剣士の袈裟斬りは涼音から紙一枚分を隔てて空を切り、対して女剣士の繰り出した刺突は深々とモーラの胸元を穿ち貫いていた。正しく絶死の一刀、しかし辺境伯の紋章によって微かに軌道がずれたのか、心の臓を捉えるには至っていない。ずるりと、白刃を強引に引き抜ぬいた黒剣士は、覚束ない足取りで距離を取ってゆく。此処で勝負を決したいのは山々だが、もう時間が残されていなかった。
 だが命は取れずとも、その勝敗は明白である。
「やっ……たーーッ! この勝負は私たちの……涼音とファンの勝利よッ!」
 それまで固唾を飲んで趨勢を見守っていたフィーナが、もう我慢できないとばかりに喝采を上げた。魔女の叫びを切っ掛けに、他の仲間たちも安堵と喜びの混じった笑みを浮かべ、二人の勝利を言祝いでゆく。それを受けながら、涼音は握る白刀へと視線を落とす。
「……ありがとう、ございます。あれから時間が経ってしまったけれど。ようやく一歩、進めた気がします」
「それは何よりだよ。私も自分自身について再定義出来たし……一先ず、お互いに一区切りってところかな」
「……はいっ!」
 そうして、剣士と刀も互いに笑い合う。その笑顔は涼風の如く、どこまでも爽やかなものであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

春乃・結希
忘れることをなんとも思っていないあなたが理解出来ない
私は思い出を集めるために旅をしているから

大剣を抱きしめ、自己暗示の深みに潜る
楽しかった事も、つらかった事も、私の大切な記憶
『ふたり』で歩いた思い出…私に、力を

『with』——私の側に居てね

真の姿解放
背負う焔は私の想い【勇気】
あなたなんかに消せるわけがない【覚悟】
…すごく綺麗に剣を振るんですね
少し羨ましいです
私の力は、『with』と私の前に立つものを
叩き潰す為だけのものだから【怪力】【重量攻撃】

UC発動
今日のことも忘れてしまうのかな?
あなたが忘れても、私は覚えてる
あなたとこうして戦った事も、私の大事な思い出だから
…違う形で、また会えたら嬉しいな



●蒼黒よ、灼白の輝きを抱いて還れ
「か、はぁっ……全く、剣の腕で負けて、は。立つ瀬がないわ、ね……」
 如何に強大な『辺境伯』と言えど、幾度もの戦闘によって受けた傷は着実に命を蝕んでいた。流れ落ちた血の量も危険域をとうに越え、頼みの綱であるはずの『紋章』とて既に弱々しい。身体能力でも、剣の技量でも、自分は劣っていなかったはずだ。ならば、何故こうなったのか……繰り返し指摘された原因を想い、モーラはふっと笑みを漏らす。
「記憶とは、いわば情報。己の歩み、経てきた道程、交わした刃……弱者を蹂躙するには不要だけれど。同格相手にそれがないのは、やっぱりちょっと不便だったかし、ら?」
 幾ら必要な事だったとはいえ、過去を自らの手で投棄するという行為、その短所。それを自覚したが故の自嘲だが、やはりその言動には歪さが滲み出ている。嘆くのでも、悼むのでもない。ただ戦うのに、勝利する為に『不利』であると、そう感じているのだ。
 死に体の敵が漏らした、そんな捻じ曲がった感傷。それは引導を渡すべく相対した結希にとって、決して相容れぬ内容であった。
「不便、ですか……忘れることをなんとも思っていないあなたが、正直言って理解出来ない。だって私は、思い出を集める為に旅をしているから。失うどころか自分の手で捨て去るだなんて、考えられない」
 少女とって、その様な在り方は歪み以外の何物にも見えない。苦笑する敵とは対照的に、猟兵の眉間には深々と皺が寄っていた。
 結希は旅人である。帰る土地無き根無し草ではあるが、それでも旅の身空というのも良いものだ。出会った人物、食べた物、見た光景。どれもが今の彼女を構成する要素である。だからこそ、それを己の意志で削ぎ落すなど、想像もつかなかったのだ。
「そんなに、大事じゃないわよ。何かを忘れ、忘れたという事実さえも忘却してしまえば、なんの影響もなくなる……無いモノに、どうして心動かされるのかしら?」
 確かにそれはある種の正論だ。記憶喪失者にかつての思い出話を聞かせたところで、心は揺れ動かない。何故ならば当人にとっては、自らと繋がらぬ文字通りの他人事でしかないからだ。いわばそれと同じだと、黒剣士は肩を竦める。
「先ほど戦った相手も、過去が存在していたが故に苦しみ、悶えた。結果的に敗れた身の上だと、詭弁にしかならないかもしれないけれど……これもある種の救いじゃないかしら」
「……それは絶対に違います。そんなのは痛みや悲しみを隠して、誤魔化しているだけ。単なる、逃避です。だってその証拠に、あなたは体に染みついた技術に頼り続けている。ただ戦うだけなら、異能だけでも十分なはずなのに」
 しかし仮にそうだとしても、結希はそれを是とする事など出来なかった。思えば、黒剣士の戦いからして矛盾を孕んでいる。本当に記憶を失う事を何とも思っていないのであれば、積極的に異能を使えば良いのだ。にも関わらず、黒剣士は未だ剣の技を頼りとしている。それが一体、何を暗に示しているのか。
(……単に技術さえあれば、力さえあれば強いだなんて、私は思わない)
 結希はそっと、漆黒の大剣を掻き抱いた。敵を前にして、余りにも無防備な行為。だが黒剣士は何故か、手を出すことはしなかった。そして少女は深く、深く、愛剣と心を共有させてゆくように意識を深層へと鎮めてゆく。
 この剣を手にした時から楽しい事も、辛く苦しかった事も、数多く体験してきた。だが中身はどうあれ、それら全てが掛け替えのないものであり、今の結希を支えてくれている。もし記憶を失っても、身体能力や培った技術は確かに変わらぬだろう。だが、愛剣を単なる武器としか認識できなくなった己は、今の自身よりも確実に弱いはずだと断言出来る。
(だから『with』――私の側に居てね。今や未来は勿論、過去も変わることなく、ずっと)
 瞬間、結希の身体が焔に包まれたかと思うや、その姿に変化が生じた。黒を基調とした装束は純白に染まり、背には紅焔に輝く翼が生え揃う。ゆっくりと開かれた瞳は真紅の煌めきを放っていた。
「……背負う焔は私の想い。重ねられる重みに耐え切れず、自分で過去を降ろしてしまったあなたなんかに、消せるわけがない」
「なるほど、確かにこれは手強そうね。なら、早速試してみようかしらっ!」
 蒼黒と灼白、対を成すかの如き二人の剣士が真正面から切り結ぶ。結希の白剣は身の丈ほどもある大長物、威力は凄まじいが取り回しにはやや欠ける。故に黒剣士は三角形を描く足捌きと虚実を織り交ぜた速さ重視の攻め手にて、猟兵側の翻弄を狙ってゆく。
「……すごく綺麗に剣を振るんですね。まるで流れる水か吹き抜ける風のよう。少し、羨ましいです……私の力は、『with』と私の前に立つものを、叩き潰す為だけのものだから」
「謙遜を。直撃どころか、掠っただけでもそのまま手足を持っていかれそうな威力だと言うのに。でも、そうね……その強さが想いに依るものだとしたら」
 ――こうされたら、困るわよね?
 モーラはこれまでの戦闘で負った傷より流れ落ちた血を操ると、己が在り方を忌む敵手へと刃を放った。切り傷一つでも負えば、大切な記憶を失う忘却の斬撃。至近距離かつ高速で戦闘している結希にとって、突如割り込んできたそれを防ぐ手立てはない……。
「ええ。確かに困ります。だから……絶対にそうはさせません」
 通常であれば、だが。不意に白き刀身が輝いたかと思うや、物理法則を半ば無視した軌道を描いて血刃を叩き落した。思わず目を剥く黒剣士だが、斬撃はまだ止まらない。
「こんな、隠し玉を……ええ、驚くと同時に、素直に感心するわ。これは確かに……『強い』。見事、ね」
「……でも、あなたは今日のこともぜんぶ忘れてしまうのかな? そうして心動かされた瞬間も、それで抱いた感情も、何もかも」
 自身の不利にも関わらず、モーラはただただ純粋に相手の強さを称賛した。だが一方の結希は笑みを浮かべるものの、其処には一抹の寂しさが混じっている。それを断ち切る様に、打ち払うように、少女は全霊を賭して愛剣を振るいゆく。
「だけど、あなたが忘れても、私は覚えてる。それが良い事なのか、哀しい事なのかは、分からないけど。あなたとこうして戦った事も、私にとっては大事な思い出だから」
 二撃、三撃と続く連撃を、辛うじて弾き返す黒剣士。しかし、七撃目で対応しきれなくなり、八撃目で得物をかち上げられ、そして……。
「だから……違う形で、また会えたら嬉しいな」
「ふっ……そう、ね。その時は少なくとも、この技についてくらいは……いえ」
 ――アナタの顔だけでも、覚えておきたいわ、ね?
 渾身の力を籠めた九撃目が、無防備な敵の胴へと叩き込まれた。大威力に耐え切れず黒剣士の身体は吹き飛ばされ、その衝撃で紅の輝きが虚空に舞う。
 くるりくるりと放物線を描くそれは、自然と結希の元へと向かってゆき。
 命を失った亡骸は、まるで風化するようにぼろぼろと崩れて去ってゆき。
 少女の掌へ『紋章』が納まったと同時に、蒼黒の骸は跡形も無く消えて逝った。それはまるで、黒剣士が代償にし続けた記憶を思わせる様で。
「……うん。絶対に、忘れないから」
 今の戦いを深く噛み締める様に、己が心へ刻み込むように、結希はぎゅっと紋章を胸に抱くのであった――。

 ――斯くして。
 『辺境伯』軍迎撃戦は、此処に猟兵の勝利を以て幕を閉じた。この戦いが関わった者に何を残し、或いは儚くも忘れ去られるのか。それは定かではない。
 しかし、彼らによって『未来』が護られたという事実だけは、何人たりとも消せはしないだろう。
 歓喜に沸く村の様子を眩しげに一瞥すると、猟兵たちはそれぞれの今へと帰ってゆくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年07月21日


挿絵イラスト