生命の値打ち、その良し悪し
●絶対生命
人が最も渇望するものは一体何であろうか。
生命である以上、その生命活動を存続することこそが、本能の根底にあるものであるとするのならば、生命の維持に必要なエネルギーであろう。
そのエネルギーは生命によって異なる。特に知的生命であるというのならば、その違いは顕著である。
「金、金、金……金があれば大抵のことは解決するが、金のないやつは大抵のことができないのは当然のことだよな」
目の前が赤黒く明滅する。
殴られたのだとわかるのに数瞬の時を要した。衝撃が遅れてやってきたような感覚、頬骨が熱を帯びる。
「金が無いから借りる。まあ、当たり前のことだ。だがよ、借りたら返すっていうのも当たり前のことだ。金が返せないなら、金以外のもので返してもらう。これも至極まっとうなことを言っているよな? 間違っていないよな?」
言っていることは正しい。概ね。
それは理解できる。けれど、今自分が置かれている現状はどうだ。
目の前には数人のチンピラ……いわゆるヤクザ者たち。一人の大柄な男は借金の取り立て屋である。
自分には詳しいことがわからない。
思い返して見れば、両親が事故で亡くなってから、こうした悪夢のような日々が始まったようだった。まるで他人事のように考えるのは、もう自身が諸々のことを諦めてしまっているからだろう。
確かに目の前の大柄な男の言うことは正しい。
借りたものは返す。
当たり前のことだ。けれど、それは己にはまるで見に覚えのないものである。実際、見に覚えはないし、彼等が言うところの自身の両親が抱えていた負債というのも事実無根であった。
だが、己はそれに気がつくだけの知識もなければ、頭の冴えもなかった。
だから、もう疲れてしまったのだ。
なんでこんな酷いことをするのだと訴える気力もない。もう終わりにして欲しい。
そう言うと、大柄な男はつまらなそうに顔を寄せて耳元に囁いた。
「そうか。疲れてしまったか。なら仕方ないな」
そうかそうか、と今までの態度がなんだったのかというように態度を軟化させる。気味が悪い。
「お前の両親な。あれは気の毒な事故だったんだぜ。本当にな。買ったばっかりの新車でついついテンションが上がってしまってな。そうしたら、前にトロトロ走ってる車がいるじゃないか。こっちのテンションぐだ下がりだよな。オレもまあ、悪かったよ。カっとなってしまったら、ほら、アクセル踏み込んでしまうだろ?」
まさか、と思う。
理解を拒否する。事故死だと言われた己の両親の死。それが―――。
「まさか死ぬなんて思わなかったんだ。悪かったよ。でもまあ、あれくらいで死んでしまうほど運が悪かったんだ。オレがどうこうしなくても、いずれどこかで死んでたよ」
まったく悪いと思っていない、それこそ誰かに己の武勇伝を言い聞かせるように大仰に嗤う男。周囲のチンピラたちも釣られて嗤う。
嗤う。嗤うな。嗤う。嗤うな。嗤う。
―――そうして、凄まじい激昂の後、己の手足を縛る拘束が弾け飛び、己の体は己ではないモノに変貌していた。
それはそう意図したものではないにしても、儀式であった。
人型邪神降臨儀式『ドゥドゥガレウ』―――それが己が成り果てた絶望の末路。
●人の過ち
グリモアベースに集まってきた猟兵たちを出迎えるのはナイアルテ・ブーゾヴァ(フラスコチャイルドのゴッドハンド・f25860)であった。
頭を下げ、微笑みを絶やさぬ彼女の表情はわずかに陰りを伴ったものであった。
「お集まり頂きありがとうございます。今回の事件はUDCアース。邪神とその眷属が跋扈する世界です」
現代地球と変わりない文明を持つ闇の裏側で邪神たちが復活を企てる危険な世界である。
この世界においてオブリビオンとはUDCであり、UDCとはすなわち邪神であることが多い。そのUDCが発生したということなのだろう。
「にわかに信じがたい事実ではありますが、人間がUDCに変身したようなのです」
その言葉は衝撃とともに語られたことだろう。ナイアルテの言葉は、それだけ猟兵たちの間に震撼をもたらしたのだ。
「今回の事件……UDCに変身してしまった人間の方……お名前はわからないのですが、まだ成人していない年頃の青年です。彼は両親を交通事故で亡くし、ご両親が抱えていた借金の返済のために学業を止め、働いていたそうです」
痛ましい事件であり、事故である。
そう思われていた。だが、真実は違う。両親が引き起こした交通事故ではなく、故意に事故を誘発し、両親を死亡させた一般人がいるのだ。
その一般人はあろうことか、本来存在しないUDCに変身してしまった青年の両親が抱えていたという借金をでっち上げ、青年を精神的にも肉体的にも追い詰めるゲームを行っていた。
「つまりは、そういうことです。己の欲求を満たすためだけに他人を利用する人……その策略に嵌ってしまったのです。そして、その事実を告げられ、打ちのめされた心は壊れ、UDCへと変貌してしまったようなのです」
不幸中の幸いであるが、猟兵はまだ青年がUDCへと変貌した直後、まだ誰も傷つけていない状況に間に合うことができる。
急行し、このUDCを打ち倒せば、完全にUDC化してしまう前に救えるかもしれないのだ。
「UDCへと変貌してしまった青年の周囲には有象無象のUDCが集まっています。場所は、事務所ビルの一区画です。まずはこの周囲にとりまくUDCの排除を……然る後に、本命であるUDCを打倒してください」
無論、本命であるUDCに対しては、事情を踏まえた上での説得も可能であろう。戦ってUDCを霧散させることで変身した青年はUDCから人間に戻るようであった。
「急がなければ完全にUDCへと成り代わってしまうでしょう。また、事件の起こった場所には青年だけではなく、彼を追い詰めた張本人たちも居ます……彼等のやったことは許されざることですが、オブリビオンでもなんでもない一般人です。悪意ある者たちですが……殺さぬ範囲で懲らしめる必要があります」
それは再犯を繰り返させぬように、そして今回のような事件を二度と起こさせぬためである。
どうか、お願いいたします、とナイアルテは頭を下げて猟兵たちを見送る。
世界はこんなにも美しいのに、悪意もまたこの世界を構成する一部なのだと知る。それでもなお、世界は美しいと言えるだろうか。
護りたい世界の一部だと飲み込めるだろうか。それを乗り越える力が生きる者には備わっているのだと信じる他ない。
ナイアルテは、猟兵たちに縋るように下げた頭を上げ見守るのだった―――。
海鶴
マスターの海鶴です。
今回はUDCアースにて、人がUDCへと変貌してしまう事件を解決するシナリオとなります。
●第一章
集団戦です。
UDC-HUMAN……今回の人がUDCへと変貌してしまった個体を差します。このUDC-HUMANのまわりに集まってきた有象無象のUDCを排除します。
戦う場所は事務所ビルです。事務所らしい内装です。ぱっと見た感じはただのオフィスですが、内情はヤクザやそれに連なる者たちの所有物です。
UDC-HUMANのいる一区画まで駆け上がっていく必要があります。その道程にUDCが散在しています。
●第二章
ボス戦です。
悲しい出来事に寄って心を閉ざし、UDCへと変身してしまった人間、すなわちUDC-HUMANとの戦いになります。
オープニングの情報はすべてグリモア猟兵から伝えられていると考えて頂いて結構です。
UDC-HUMANを倒し、霧散させることによってUDC-HUMANは元の人間へと戻ります。
●第三章
日常です。
青年をUDCになるまで追い詰めた張本人たちに制裁を加えます。
トラウマになるほど恐怖与える、金銭的に破滅させる、犯罪の証拠を揃えて逮捕する、ボコボコにするなど、殺さない範囲でなら完膚なきまでに叩きのめして頂いて結構です。
これだけの悪事を行った人間であっても、猟兵の前では無力です。
再犯を犯し、またふたたびUDC-HUMANの発生とならぬように彼等を叩きのめす必要がありますので、遠慮は無用です。
それでは、UDCアースに蔓延るUDC化の事件を解決する皆さんのキャラクターの物語の一片と成れますように、いっぱいがんばります!
第1章 集団戦
『ヂゾ・リダグロボ』
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POW : ゴゴギヅブグ
自身が戦闘で瀕死になると【受けたダメージへの耐性を持つ99体の幼蟲】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
SPD : リダギヅブグ
【捕らえた雌が幼蟲を生む苗床に変わる光景】を披露した指定の全対象に【幼蟲を生むための餌と苗床になりたいという】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
WIZ : ブサギヅブグ
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【雄は捕食、雌はレベル体の幼蟲を産む苗床】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
UDCアースのとある事務所ビル。
その建物すべてが今やUDC-HUMANの誕生と共に集まってきた有象無象のUDCに溢れた魔境と化していた。
猟兵達は目的の階であるUDC-HUMAN誕生の区画まで駆け上がらなれけばならない。
しかし、その道程には有象無象のUDC……ヂゾ・リダグロボが溢れ返っていた。
一見すると幼虫の如き姿。
けれど、その能力はおぞましいものばかりであった。加速度的に増えていく圧倒的な繁殖力。それは一体一体が能力の低いUDCであっても、無限に増え続ける存在であることは変わりない。
溢れかえったUDCが世界にどのような影響を与えるかなど、考えるだけでも空恐ろしい。
本命であるUDC-HUMANを一刻も早く倒さなければならない状況に置いて、このヂゾ・リダグロボの存在は鬱陶しいを通り越して、もはや脅威であった。
「ギギギギギ……」
だが、それでも猟兵達は成し遂げなければならない。
生命の良し悪しは己達が決めるものではないが、それでも、無辜たる生命がUDC……オブリビオンに翻弄されていい理由があろうはずもないのだから―――!
アイラザード・ゲヘナ
痛ましい話じゃのぅ。
こうなる前に、誰かに相談できれば…いや、言うまい。起きたことにもしもは虚しいだけじゃ死のぅ。
しかし、おぞましい姿のUDCじゃ。
これをこのままにしておくわけには良くまいて。
『浄化』効果のある『結界術』を展開じゃ。
ココからら進ませぬ。
愛用の二丁拳銃に『破魔』と『除霊』の弾丸を装填した『二回攻撃』で連射じゃ。
しかし、きりがないのぅ。
では、UCの二日月を発動じゃ。
「では、月夜の踊りを魅せるとするのかのぅ。」
この雑居ビルとここのモノは全て、件の屑どもの持ち物と聞いておるのぅ。
被害は全く気にせず攻撃じゃ。おっと流れ弾がうっかり高そうな置物壊したのぅ。
正当防衛じゃ(しれっ)
世界はこんなにも美しいのに、悪意はそこかしこに巣食っている。
悪意がなければ善意もないのだとすれば、それは釣り合いというものであるのかもしれない。揺れる天秤のように悪意と善意が傾き、傾けられ、その下にいる者に降り注ぐ。
それを痛ましい話だと思うのは、その者の心にある善き心が痛むからに違いない。
アイラザード・ゲヘナ(セカイの渡り鳥・f18145)はおおよその事情を察していた。世に憚るは常に憎まれし者であるのかもしれない。
「痛ましい話じゃのぅ……」
心の底から溢れ出た言葉であった。
両親の死。
それすらも底が抜けたような悪意ある者によるものだとしたのならば……心折れてしまうのもまた無理なからぬことであったのかもしれない。
だからこそ、アイラザードは思う。
「こうなる前に、誰かに相談できれば……いや、言うまい。起きたことに、もしもは虚しいだけじゃしのぅ」
誰かが。
そう、誰かがいればよかったのだ。けれど、それはないものねだりであり、もしかしたらの可能性でしかない。
アイラザードが出来ることをするしかないのだ。事務所ビルの中へと駆け込んでいけば、出迎えるのはUDCヂゾ・リダグロボ。
「しかし、おぞましい姿のUDCじゃ。これをこのままにしておくわけには良くまいて」
振るう手が張り巡らせるは浄化の力籠められし結界術。
それによって事務所ビル全体が結界に覆われ、もしも、ヂゾ・リダグロボが外に出ようとするならば即座に感知できることだろう。
「ココからは進ませぬ」
降霊術によって呼び寄せられた雑霊が弾丸と化し、アイラザードの構える二丁拳銃―――ミスティック93R、レジェックAzが火を噴く。
罰当たりな、アイラザードは感じたかも知れないが破魔と降霊の弾丸として装填された銃の威力はヂゾ・リダグロボにとっては脅威そのものであった。
未だ幼虫状態であるがゆえであろうが、この事務所の中にいる一匹でも解き放たれれば、UDCアースに未曾有の危機が訪れることは想像に難くない。
「しかし、きりがないのぅ……では、月夜の踊りを魅せるとするのかのぅ」
数で圧するUDCヂゾ・リダグロボを駆逐するためには、こちらも数で圧するしかない。そう判断してユーベルコードが発動する。
―――二日月(カグヤ)。それは幾何学模様を描き複雑に飛翔する、魔力で再現された夜に浮かぶ二日月。それは曲刀の如き鋭く細い弧を描く月。
掲げられた手に応じるように、数百と言わず舞い上がった二日月が弧を描いて事務所内のヂゾ・リダグロボのおぞましき幼虫たちを切り裂いていく。
その様子はまさに蹂躙そのものであり、破壊の権化のようであった。
もちろん、周囲の建物への被害は……まるで考えられていなかった。
「この雑居ビルとここのモノはすべて、件の屑どもの持ち物と聞いておるのぅ……」
そう、このビルはすべて、この事件の元凶たる人物たちの持ち物である。
それが他の善良なる者たちの持ち物であれば、アイラザードもまた手段を講じたかも知れない。けれど、今回に限っては悩むところはないのだ。
「おっと流れ弾がうっかり高そうな置物を壊したのじゃ」
うっかり。
そう言い訳するような言葉を紡ぎながら、次々とUDCを撃破していくアイラザード。うっかり、と茶目っ気を出しているが瞳は笑っていなかった。
彼女は今回の件に関して、もしも責任を取れと元凶たる人物たちに言われたとしてもきっとこう応えるつもりだろう。
「正当防衛じゃ」
そう、しれっと。悪意には悪意で返す鏡のように―――。
成功
🔵🔵🔴
村崎・ゆかり
ああ、気分悪くなる話ね。いいでしょ、全部叩き潰しましょう。
黒鴉の式を先行させて状況把握。その後、アヤメと共に突入するわ。
「破魔」「浄化」炎の「属性攻撃」の不動明王火界咒を放って、立ち塞がるUDCを焼き払い、道を作って上階目指し突っ切る。
アヤメ、後詰めをお願い。牽制程度でいいけど、とどめを刺すかどうかの判断は任せる。
進むのに邪魔なUDCは、火界咒で一撃必殺狙い。数を増やされたりなんてさせるもんですかっての。
所詮、異形の怪異ども。明王の憤怒の炎に灼かれなさい!
接近を許したら、薙刀で「なぎ払い」「串刺し」にする。間合いの長い武器でよかったわ。近づくのも嫌。
抜けた! ここが問題のフロアね。状況は――?
悪意ある者が、己の悪意を自覚する者とそうでない者に二分されるのだとすれば今回の事件の元凶たる男は悪意を自覚する者であっただろう。
そうでなければ開き直り共取れるような暴露はしないであろう。己の心が悪意に塗れていると自覚してなお、己は他者からの悪意に苛まれることはないと知っている者であった。
底知れぬ悪意とは、こういう事を言うのだと言うように自覚在る悪意は明確に他者を傷つけるためだけに振るわれる。
自分には関係がない。己こそが悪意の権化であるのだから。
「ああ、気分悪くなる話ね」
えづくような気色の悪さを肺の奥から絞り出すように村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)は吐き捨てた。
諸々の事情はグリモア猟兵から聞いて察している。
その悪意の最果てが、この結果である。今目の前にしている事務所ビルの中には夥しい数のUDCヂゾ・リダグロボが蔓延っている。
その数は把握しきれないが、一匹も逃すわけにはいかない。
すでに先行した猟兵が外に一匹も逃さぬように結界術を用いているのを確認できた。
それは黒鴉の式に先行させたおかげで把握している。式神アヤメと共に後は事務所ビルへと突入するだけだ。
「いいでしょ、全部叩き潰しましょう」
アヤメも同じ気持ちであろう。共に駆け込んだビルの中は目を覆わんばかりの光景であった。
壁、床、天井、至るところに散財するヂゾ・リダグロボの群れ。
一匹二匹と数えるのも億劫になるほどの数。だが、ゆかりは臆することはない。
「ノウマク サラバタタギャテイビャク――」
ユーベルコード、不動明王火界咒(フドウミョウオウカカイジュ)によって投げつけられた白紙のトランプから噴出した炎が立ちふさがるヂゾ・リダグロボの群れを焼き払っていく。
「ギギギィィィィ―――!」
断末魔のような聞くに堪えない金切り声を上げてヂゾ・リダグロボが燃え尽きていく。中には中途半端に生き残る個体があった。
まずい、とゆかりが思う瞬間に瀕死状態に陷ったヂゾ・リダグロボに突き立てられる苦無。式神アヤメがサポートに回ってくれるおかげで打ち漏らすことはない。
瀕死の状態から一気に増えるこのUDCの特性を把握し、即座に動いてくれるのは共に戦い、育んだ関係があってこそだった。
「打ち漏らしはお気になさらずに。それよりも前を―――!」
アヤメの言葉に飛びかかってきたヂゾ・リダグロボを薙刀で薙ぎ払い、串刺しにする。お見事、とアヤメが言うが此の程度のこと造作もないのだ。
間合いの長い武器は戦いの中ではそれだけ有利なものである。だが、場所を間違えずに己の武器の長所を知るのであれば、さらに戦いはゆかりたちに有利に傾くだろう。
「所詮、異形の怪異共。明王の憤怒の炎に灼かれなさい!」
数を増やさせることもしない。
目指すは一撃必殺。それでも打ち漏らすことは式神アヤメのサポートに寄ってことごとく芽を潰される。
此の炎はゆかりの怒りそのものでもあった。
一刻も早く、UDCへと成り果ててしまった青年を救わねばならない。
それだけが、全てを失った彼の心をひとかけらでも多く救う唯一の方法であるとゆかりは知っているからだ。
「ああ、もう! 近づくのも嫌だっていうのに! 鬱陶しい!」
目指すフロアは近い。
けれど、目的のフロアに近づくにつれてヂゾ・リダグロボの層も厚くなる。当然といえば当然か、とゆかりはさらに炎を噴出させて進むのだった―――。
成功
🔵🔵🔴
ルムル・ベリアクス
アドリブ歓迎
人間がUDCになってしまうなんて。でも救えるかもしれないなら、その希望に賭けましょう。
それにしても、青年を追い詰めた男……。人の命を弄ぶなら、同じ人間であっても放っておけませんね。
ともかく、この気分が悪くなるような虫の群れを抜けることが先決です。
UCでフォーチュンカードから悪魔の軍団を召喚し、突撃します。
悪魔達よ、フロアの損害は気にしなくていいですよ?思い切り暴れてください。
虫相手です、火と硫黄の鎧は効果てきめんでしょう。熱でひるんだ敵を肉弾戦で撃破してもらいます。
悪魔達に守ってもらいながら、目的の区画を目指します。
UDCになってしまった青年。きっと、必ず助けてみせます……!!
それは一人の奇妙なる男性であった。
銀色の鳥の頭部を模したような仮面を身につけ、タロットカードを手にした男性。その赤き双眸には生気はなく、呼吸をして立っていることから生きているのだろうと推察できる。それくらいに生気のない瞳をしていた。
けれど、事務所ビルをみつめる赤い瞳は一点の曇りもなくまっすぐと向けられていた。そのビルの中で何が引き起こされているのか確実に理解していた。
猟兵―――ルムル・ベリアクス(鳥仮面のタロティスト・f23552)はヒーローマスクである。
かの肉体は瀕死の青年のものであり、こうして猟兵として戦う意志は鳥の頭部を模したような銀色の仮面に宿るのである。
「人間がUDCになってしまうなんて。でも救えるかも知れないなら、その希望に賭けましょう」
ルムルの体は自然と、いや……必然と事務所ビルへと踏み出していた。可能性がゼロでないのであれば、足りないパーセンテージは愛というエゴで埋めればいい。
それがルムルという猟兵のあり方であった。
「それにしても、青年を追い詰めた男……。人の生命を弄ぶなら、同じ人間であっても放ってはおけませんね」
事務所ビルに入り込めば、至るところに幼虫のような姿をしたUDCヂゾ・リダグロボたちが散財していた。
しかも、先行した猟兵達が倒したであろう同胞たちの死骸を貪り、苗床と変え、再び繁殖しようとさえしていた。
あまりにもおぞましき生態。これが一匹でも残してしまえば、UDCアースと言えど未曾有の危機に陷ってしまうことは明確であった。他の猟兵が張った結界も保険にしかならない。
ここで手を抜くことは許されないとルムルは判断した。
「ともかく、この機敏が悪くなるような虫の群れを抜けることが先決です」
手にしたフォーチュンカードが宙に浮かび、閃く。
ユーベルコード、インファーナル・トループス。
「異界の門よ開け……。悪魔の力を見せる時だ!」
それはフォーチュンカードにより導かれ、姿を表した屈強なる人型の悪魔たち。次々とユーベルコードによって、その屈強なる肉体に合わせるようにオブリビオンを焼く火と硫黄の鎧を身に纏い、宙を舞う。
それはルムルの高き技量に寄ってUDCヂゾ・リダグロボの全体の数に及ばないまでも、彼が目的のフロアまで辿り着くには容易なる軍勢となって幼虫たちを駆逐していく。
そんな悪魔の軍勢たちにルムルが告げた命令は単純明快にして、たった一つであった。
「悪魔達よ、フロアの損害は気にしなくていいですよ?思いっきり暴れてください」
ルムルにとって、この事務所ビルは護るべき人間の所有物ではない。であれば、加減であるとか、配慮は必要ない。命令とは単純であれば単純であるほどに効力を発揮するものである。
悪魔の軍勢は血気盛んに宙を駆け巡り、天井や壁、床に這うUDCヂゾ・リダグロボを次々と焼き潰していく。
虫である以上炎と硫黄の鎧は覿面である。成すすべもなく、悪魔たちに蹂躙されていく幼虫たち。炎で怯んでいるせいか、さしたる抵抗もなく次々と潰され、ルムルの進む道を切り開いてく。
こうなればルムルのすることは、悪魔たちの進撃に合わせて歩を進めることのみ。
彼の通った後にはUDCヂゾ・リダグロボの死骸の一つすら残らぬ焼け野原の如き轍が残るばかりである。
しかし、その赤き瞳は未だ油断を許さなかった。
そこにある決意……彼の言葉を借りるのであれば、愛というエゴの名のもとに宣言するのだ。
「UDCになってしまった青年。きっと必ず助けてみせます……!!」
それが己のエゴであると言われたとしても関係ない。
救われるべきものは救われるべきである。哀れであるとか、慰めるべきであるとかは関係がない。
ルムルは己の愛でもって人を救うと決めた猟兵であるのだから―――!
大成功
🔵🔵🔵
カシム・ディーン
…良くある事ですよ
力と知恵が無ければこうして弄ばれ食物にされる
この世界はもう少しマシと思いましたがやはりありましたか
だがあいつは…悪運だけはあったようですね
こうして察知されたんですから
ユベコ発動
【属性攻撃】
炎属性を己含めダイウルゴス達にも
お前ら的にはこういう文明ってどうです?(賛成0反対79
食料的には?(賛成70反対9
では…お残し厳禁でお願いしますね
【力溜め・二回攻撃】で襲い掛かり
ダイウルゴス群
【二回攻撃・捕食】でしっかりと喰らい付き噛み砕いて粉砕しながら捕食
一体で倒せない時は二体に合体(必要なら
丁寧に分散し容赦なく炎で焼いては捕食して貪りつくす
今まさにビル内は異形の宴と化すのだろうか
「……良くある事ですよ」
その言葉は、今回の事件の舞台となった事務所ビルに響き渡った。
よくあること。
それは言葉の主の経験してきた世界からすれば、そういうことであったのかもしれない。その経験からくる言葉の重みは、他者が理解出来るものではない。
共有はできるかも知れないが理解はできない。
そこにあるのはカシム・ディーン(小さな竜眼・f12217)だけが持つ見解であったからだ。
「力と知恵が無ければこうして弄ばれ食物にされる。この世界はもう少しマシと思いましたが、やはりありましたか」
よくあること。
それがここにもやはりあるのだと語る彼の心情にあったのは落胆か安堵か。
「だが、あいつは……悪運だけはあったようですね。こうして察知されたんですから」
彼の周囲にはUDCヂゾ・リダグロボが天井、壁、床と所狭しと蠢きひしめいている。常人が見れば、それだけ発狂してしまいそうな光景。
ギチギチと歯を鳴らし、獲物であるカシムを睨めつける幾つもの双眸。あるのは捕食者としての自覚のみであろう。
だが、カシムは臆すること無く己のユーベルコードを発動する。
「万物の根源よ…帝竜眼よ…文明を構成せしめし竜の力を示せ…!」
ユーベルコード、帝竜眼「ダイウルゴス」(ブンメイヲシンリャクシユウゴウスルモノ)。それは彼の技量に合わせた数の眼球に数字の描かれた小型ダイウルゴスを召喚するユーベルコードである。
召喚された小型ダイウルゴスは、カシムによって炎属性を付与され、その勢いを増していく。
「お前ら的にはこういう文明ってどうです?」
問いかける言葉は小型ダイウルゴスたちに。
数字の描かれた眼球がぎょろりと蠢けば、その意志が伝わっる。賛成0反対79。可決される。
「食糧的には?」
賛成70反対9。ならば、話は早いとカシムはうなずく。力を貯める。
「では……お残し厳禁でお願いしますね」
なにせ、一匹でも残してしまえば、UDCヂゾ・リダグロボは、そこから繁殖していく。例え最後の一匹になったとしても己の同胞の死骸すら苗床として繁殖していく恐るべきUDCなのだ。
彼の言葉は、まさしくそうした脅威を取り除かなければならないという絶対たる決定であった。
一気にフロアを駆け抜けるカシム。襲いかかるUDCヂゾ・リダグロボは力の貯められた拳で瞬く間にニ連撃を叩き込み、潰す。
ユーベルコードに寄って呼び出されたダイウルゴス群は次々と幼虫であるUDCヂゾ・リダグロボに食いつき、噛み砕き粉砕しながら捕食していく。これならば死骸もの残らず、利用されることもない。
一体がダメであるというのならば、合体させる。だが、数で圧することがUDCヂゾ・リダグロボの強みである以上、此方に求められるの数と速度である。
点ではなく面。
つまりは場合によっては牙ではなく炎を吐き出し、面制圧を行っていくダイウルゴス群。その仕事ぶりは徹底的であり丁寧であると言えたであろう。
炎はフロアをなめるように吹き付けられ、幼虫たるUDCヂゾ・リダグロボのギチギチという奇妙な叫び声が怨嗟のように鳴り響いていく。
何もかもが燃え尽きていくビルの中で凄惨たる異形の宴は、未だ序盤。
これより引き起こされるは、さらなる惨憺たる宴である。一匹残らず焼き潰すまで、その宴は終わることはない―――。
大成功
🔵🔵🔵
須藤・莉亜
「人がUDCになるねぇ。そうなるとどうなんだろう?敵さん?それともまだ人なのかな?」
んー、どうなんだろう。
不死者の血統のUCを発動し、吸血鬼化して戦う。敵さんの生命力と血を吸い尽くしながら、ゆっくり行こうか。まだ考え中だしね?
移動中は僕の生命力吸収で弱った敵さんを、二振りの大鎌を持たせた悪魔の見えざる手に攻撃させる。
たまに深紅で拘束しての吸血で味見するのも忘れずに。
「鬼か人か。まだ人であるなら、敵さんだけど、優しく殺してあげないとね。」
何故、心壊れた人間がUDCへと変貌するのかはわかっていない。わかっていないことが多すぎる。未だ謎多きUDCである。
「人がUDCになるねぇ。そうなるとどうなるんだろう?敵さん?それともまだ人なのかな?」
須藤・莉亜(メランコリッパー・f00277)の疑問に応える者はいない。
グリモア猟兵から提示された情報をさかのぼってみても、完全なるUDCへと変貌するとどうなるのかもわかっていない。
わからないことだらけであるのだ。莉亜にとっての最大の関心事は己の吸血衝動を開放して良い相手なのか、そうでないのか……それだけである。
「んー、どうなんだろう」
のんびりとした口調とは裏腹に事務所ビルの階段を登っていく彼が身に纏うのは他者の生命力を奪うオーラ。
それはユーベルコード、不死者の血統(イモータル・ブラッド)。己を吸血鬼化させる恐るべき力。
「ギギギィィィィ―――!」
事務所ビルの天井や床、壁一面にびっしりと這うUDCヂゾ・リダグロボたちが莉亜を襲う。
先行する猟兵達によって数は減らされているが、このUDCは同胞の死骸であっても苗床として繁殖していく。おそらく猟兵達が倒した死骸を使って再び増えているのだろう。それだけでも恐るべき繁殖能力である。
一匹でも残してしまえば、そこから再び繁殖するという厄介極まりない能力。しかし、莉亜にとって、それは問題ではなかった。
彼は考えているのだ。
悪魔の見えざる手が持つ二振りの大鎌。白と黒の大鎌が振るわれる度にUDCヂゾ・リダグロボたちの絶叫が響き渡る。
瀕死の状態にすらならぬ一刀両断と生命力を奪うオーラによって、ことごとくが霧散して消えていく他ない。
そんな中を莉亜はゆっくりとだが、確実に事務所ビルを上って目的の区画を目指すのだ。
「まだ考え中だしね……あ、と―――」
紅の鎖が飛びかかってきた一匹のUDCヂゾ・リダグロボを捉え、搾るように轢き潰す。深紅と呼ばれる鎖から伝わる味覚。
「―――……味見をって思ったけど、これはあんまり美味しくないや。弱いからかな?」
深紅を通して伝わる味覚は雑味の多い味であった。
正直何度も飲みたいと思う味でもなければ、珍しい……珍味であるからという感慨も浮かばない。やはり数だけで押す相手は、そういうものであろうと莉亜は納得してさらなる上階を目指す。
「鬼か人か。まだ人であるなら、敵さんだけど、優しく殺してあげないとね」
この先に待ち受けるであろうUDCへと変貌してしまった青年……UDC-HUMAN。
そのUDC-HUMANがどれほどのものであるかもわからない。
けれど、心を壊すほどに辛い出来事がきっかけでUDCとなってしまったのであれば、優しく、と思う程度には慈悲もあるのだろう。
けれど、UDCか人か。そのどちらにも傾く可能性を秘めたオブリビオンの持つ血の味。
それが如何程のものであるのか、それを思うと吸血衝動は肥大していくようなが気がした―――。
大成功
🔵🔵🔵
数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】
……また、だってのか。
どうしてこう、世の中にゃ下種な奴ばかりのさばって……!
どうせここに居る奴らも同類だってんだろ?
それなら潰しながら駆けあがってやらぁ!
屋内戦なら、コイツで一気に機動性を上げてツッコむ。
【人機一体】を発動し、カブの機動性をそのままに、
辺り構わずメーザーの熱線で消毒してやらぁ!
繁殖しようとするグロい物見せるんじゃないよ!
そいつらは念入りに『衝撃波』を飛ばしてぶっ潰す。
それもこれも行きがけの駄賃さ、
『ダッシュ』一番に目指すは彼の場所!
変異なんて終わらせやしねぇ、
これ以上邪神の「被害者」を増やしてたまるかよ……!
この世界は美しい。
そう思うのは世界の一側面でしかないのかも知れないし、薄暗い闇が存在するからこそ明るい場所が存在するのと同じことであったのかもしれない。
だからといって、残酷なる現実をすべて肯定するわけにもいかない。
もしも、そうなった時に真っ先に闇のどん底まで叩き落されるのは、いつだって弱者であるからだ。
「……また、だってのか。どうしてこう、世の中にゃ下種な奴ばかりのさばって……!」
数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)の言葉には怒気が籠もっていた。やるせない気持ちは、いつだって人の心に澱のように沈んでは積み重なっていく。
エンジンの音が見上げた事務所ビルの入り口で響く。彼女がまたがった宇宙カブJD-1725のエンジンが徐々に唸りを上げていく。
「どうせこに居る奴等も同類だってんだろう?それなら―――」
ユーベルコード、人機一体(チャージアップバディ・ジャンクションドライブ)。それは彼女がまたがった宇宙カブが変形したパワードアーマーを身に纏うユーベルコードである。この瞬間より彼女は、事務所ビルを疾駆する一陣の風と成る。
「―――潰しながら駆け上がってやらぁ!」
一瞬で事務所ビルへと突入し駆け上がっていく多喜。彼女を出迎えたのは無限にわき続けるのではと思えるほどの膨大なる量で猟兵を圧しようとするUDCヂゾ・リダグロボの群れ。
天井、床、壁……どこを見ても幼虫の姿をとったUDCヂゾ・リダグロボの群れで充満している
「繁殖しようとするグロい物見せるんじゃないよ!」
ユーベルコードに寄って宇宙カブと一体となった彼女にとって、高出力レーザーの放射はこの程度の敵を殲滅するには十分過ぎる威力であった。
一匹でものがしてしまえば、UDCヂゾ・リダグロボは同胞の死骸からでも苗床と変え、絶大なる繁殖力で一気に増えてしまう。
故に一匹たりとて、打ち漏らすわけにはいかないのだ。
放たれたメーザーが衝撃波を伴ってしたたかに幼虫たちを壁に打ち据える。疾駆する彼女が目指すのはUDCへと変貌してしまったという青年のいる区画。
上へ、上へと気持ちが急く。
「変異なんて終わらせやしねぇ……!」
己の友人のことを胸に抱く。
それを思う度に心に浮かび上がってくるのは『何故』という感情ばかりである。『何故』UDCへと変貌を遂げてしまったのか。『何故』。『何故』。
なんでこんなことになってしまったのか。
それは彼女にとっても縁浅からぬことである。友人もまたUDCへと変貌してしまった者。
「これ以上邪神の『被害者』を増やしてたまるかよ……!」
あんな思いをするのは、己一人だけでいい。己が最後であればいい。
この事務所ビルに集まってきた有象無象のUDCのように増えることなど許しはしない。その決意を抱き、多喜は疾風のようにメーザーを放射しながら、すべてのUDCを焼き尽くさんと駆け抜けるのであった―――!
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
人の世に悪意の種は尽きまじ
ウォーマシン(戦闘兵器)たる我が身が証明する真理の側面でもあるのでしょうね
それでも、悲劇が更なる悲劇を呼ぶのを『悪しき』と断じ救いに赴きましょう
それが私にとっての『騎士』の在るべき姿なのですから
…現実的な対処も必要ですが
妖精ロボを●操縦しビル内を探索、重要書類確保
生きている端末から●ハッキングで●情報収集、データ全て吸い出し
火事場泥棒染みていますが後の被害者救済や『制裁』に役立つ情報
戦闘の余波による紛失の危険鑑みれば致し方ありません
並列処理は戦機の十八番
同時並行で敵排除
●怪力での大盾殴打で即死させ、撃ち漏らしは随伴妖精ロボのレーザーで●なぎ払い一掃
広い階段を駆け上がり
どれだけ世界が美しかろうとも、世界は常に一色ではない。一枚の岩でもない。
この美しさが善と悪、白と黒が綯い交ぜになった以上の……さらなる混沌が醸し出し一条の虹のようなきらめきであったのだとすれば、人の瞳に映る世というものは、なんとも儚い物である。
「人の世に悪意の種は尽きまじ。ウォーマシンたる我が身が証明する真理の側面でもあるのでしょうね」
トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は事務所ビルの中を進む。床や壁には先行した猟兵達が倒したUDCヂゾ・リダグロボの死骸が散在している。入念に破壊されているのは、死骸からでも苗床と化し、繁殖されるのを防ぐためであろう。
ユーベルコード、自律式妖精型ロボ 遠隔操作攻撃モード(スティールフェアリーズ・アタックモード)によって自身の電脳とリンクした複数の偵察用妖精型ロボから送られてくる情報を処理しながらトリテレイアは進みゆく。
事務所のフロアはUDCヂゾ・リダグロボの死骸で目も当てられぬ惨状となっているが、このフロアに残された機器は無事であった。ならばハッキングから後々の被害者救済や『制裁』に役立つ情報を吸い出しておく必要があった。
「なるほど……この世界のデータベースはセキュリティが甘いようですね。とはいえ……」
火事場泥棒じみているが、とトリテレイアは自嘲する。だが、これは必要なことなのだ。
そうしていると次々とUDCヂゾ・リダグロボの死骸から羽化するように飛び出してくる幼虫たち。なるほど、時間差で苗床となった死骸から繁殖すれば猟兵も見逃してしまうというわけである。
「行く手を阻みますか……それでも、悲劇がさらなる悲劇を呼ぶのを『悪しき』と断じ救いに赴かねばなりません。それが―――」
未だトリテレイアはデータ機器からの情報収集によって動けない。
だが、彼は機械騎士でありウォーマシンである。並列処理は戦機の十八番。同時並行できないで何が機械騎士か。
アイセンサーが輝き、周囲に浮かぶ妖精型ロボたちが一斉に苗床となっていた死骸より飛び出したUDCヂゾ・リダグロボを頭部に内蔵されたレーザーで一掃していく。
「私にとっての『騎士』の在るべき姿なのですから」
すべてのデータの吸い出しが終わり、トリテレイアは駆け出す。
大盾を構え残るUDCヂゾ・リダグロボを強打し一撃のもとにUDCを打倒していく。打ち漏らすことはない。
この中の一匹でも逃せば、またさらなる悲劇が起こってしまう。それだけはなんとしても阻止しなければならないことであるのだ。
だからこそ、トリテレイアには加減がない。一切の油断もなく躊躇もなく、妖精型ロボたちと連携し叩き潰し、焼滅していく。
「……現実的な対処も必要ではありますが……御伽噺とは程遠いですね」
だが、今はそれでいい。そうであるべきであると己が判断した。この判断が誰かの悲劇を救い、波及していく悲しみの連鎖を止める手立てとなるのだから。
『本物』にたとえ成れなくても、近づくことはできる。『本物』以上になれぬ道理など何処ににもないのだから。
フロアを駆け抜け、一気に目的の区画へと駆け上がっていくのだった―――。
大成功
🔵🔵🔵
荒覇・蛟鬼
この手の仕事は小さい頃からやりましたよ。
獄卒の仕事には罪を犯した妖怪への制裁も
ありましてね……それはもう色々と。
■闘
では、“仕事”を始めさせて頂きます。
と、その前に愛おしい御姿の蟲を振り払いませんとな。
集団から孤立している個体を見つけ出し、そいつに
向かって【ダッシュ】で接近、その脳天目掛けて
【一撃必殺】の拳を放ちます。
分裂されないよう、一体ずつ確実に仕留めますか。
敵が近づいてきたらその動きを【見切り】つつ
【残像】を見せつけ後方へ下がり、お返しと
言わんばかりに【カウンター】の足払いでバランスを
崩してやりましょうかな。
着実に頭数を減らしていけば、いずれ皆いなくなるかと。
※アドリブ・連携歓迎
制裁をしなければならない。
それは誰しもが得手とするものではない。ほとんどの人間がそうであるように情けというものが心の中には存在している。
なまじ知性があるせいで、己の身に置き換えてしまう。だからこそ、制裁を受けるべき人間を許してしまう。許容してしまうと言ってもいいだろう。
だが、果たしてそれは本当に正しいと言えるのだろうか。
それに否を突きつけるのが、荒覇・蛟鬼(鬼竜・f28005)という猟兵であった。
「この手の仕事は小さい頃からやりましたよ。獄卒の仕事には罪を犯した妖怪への制裁もありましてね……それはもう色々と」
一歩を踏み出す。
事務所ビルにはすでに先行した猟兵達が戦いを繰り広げているようだった。あちらこちらから盛大な音が響き渡っている。
それだけ今回の事件の現場に集まってきた有象無象のUDCの数が尋常ではないのだ。UDCヂゾ・リダグロボ……脅威的な繁殖能力に寄って数を増やすUDCである。
たった一匹でもうち漏らしてしまえば、元の木阿弥である。
彼等は同胞の死骸ですら苗床に変えて一気に数を増やす。だからこそ、一匹たりとて逃さずに霧散させなければならないのだ。
対する蛟鬼は無手。
多数を相手取って戦うには不向きであった。だが、まるで意に介していないように彼は進む。それが理由にはならないというように。
「では、“仕事”を始めさせていただきます。と、その前に愛おしい御姿の蟲を振り払いませんとな」
彼の美的感覚は独特のものであった。
誰もが目を背けるような幼虫の姿をしたUDCヂゾ・リダグロボの姿を、言葉偽り無くそう思うのであろう。
事務所ビルの中を駆け上がり、次々と孤立した幼虫をユーベルコードによって、一撃必殺の如く拳がうち貫いていく。
「分裂されないように、一体ずつ確実に仕留めますか……数が多いようですが、なに―――」
続くように襲いかかる個体も残像が翻弄したかと思った瞬間に蹴撃によって態勢を崩す。次の瞬間、内側から破裂するようにして幼虫の身体が弾け飛ぶ。
態勢を崩した幼虫に彼の拳が炸裂したのだ。
「着実に頭数を減らしていけば、いずれ皆いなくなるかと」
あまりにも効率の悪いやり方ではあった。
けれど、これが最も確実なる戦い方でもあると蛟鬼は確信を持っていた。彼には一本通った芯がある。
決して曲がらず、決して折れず、決して慮ることのない真っ直ぐな芯が。
それを時に人は忌み嫌うのかもしれない。けれど、この純然たる芯こそが世界を護るための最善であると彼はわかっている。
いつだってそうだ。
小さな塵から全ては始まる。世界の終わりだって、最初はそうなのだから。
「こうした賽の河原の石積みの如き作業……本来は監視するのが仕事ではありますが不得手ではありません」
再び彼の拳が幼虫を弾き潰す。ここには自分ひとりではない。想っていた以上に早く仕事は終わりそうだ。
疾く仕事が終わる分には大歓迎である。仕事は迅速丁寧に誤り無く……それこそが彼の中にある真理であった―――。
大成功
🔵🔵🔵
テイラー・フィードラ
……痛ましい話であるな。
この事件、早く解決してくれよう。
まずはこの蟲の対処からであるか。
数があまりにもおかしい。見るにその場で繁殖行為かつ急成長をしているとみた。
ならば、数相手にこなせるモノを寄越そう。
魔を呼ぶ呪言を詠唱、呼び出すは眠と翼を司る悪魔『ハルモニア』。
代価となる供物として己の右手を強く握りしめ、手指骨の骨折による苦痛と破けた皮膚からの出血を備える。
呼び出したならば即座に恋歌を謡わせ、敵を眠らせ動きを止め、翼を生やさせ生命力消費と餌から引き離す。
吸血鬼としての血より右手を再生させつつ、左で長剣を抜き切り払っていこうか。
しかし、数が多い。剣も鈍るほどなら踏み砕いて進もうか。
UDCへと変貌を遂げる人間の心は散り散りに壊れてしまっている。
人の心の強さはそれぞれである。耐えられる悲しみや苦しみには限度があるが、一律ではないのだ。
それを知る者だからこそ、テイラー・フィードラ(未だ戴冠されぬ者・f23928)の言葉は重々しいものであった。
「……痛ましい話であるな。この事件、早く解決してくれよう」
王たる気質を持つ彼にとって、万民のうちの一人であったとしても、それは己のことと同義である。それだけの激情を秘めているからこそ王たる器であると彼自身は言うだろう。
万民を知り、一人を知る。断じて一人を知って、万民を知ることが正しいわけではない。
故に彼の心は一人から寄り添う。万民一人一人を思わぬ王に成るつもりもなく、それが出来ぬと己は思っていない。
「まずは、この蟲の対処からであるか」
事務所ビルに乗り込んだものの、テイラーを圧倒するのはUDCヂゾ・リダグロボの、その圧倒的な数である。
先行した猟兵達が数多くの幼虫の姿であるUDCヂゾ・リダグロボを屠り去ってきたはずである。
それでも有り余るほどの数が未だ事務所ビルにうごめいていた。あまりにもおかしい数。これこそがUDCたる所以であろう。
「なるほどな。見るにその場で繁殖行為かつ急成長をしているとみた……ならば、数相手にこなせるものを寄越そう」
テイラーの手にした禍々しき杖、凶月之杖に浮遊する赤き宝石が輝く。
「我が命を結び堕翼授けし悪魔よ。贄を代価に貴殿の力を発揮せよ」
悪魔召喚「ハルモニア」(デーモンサモン・ハルモニア)。それこそがテイラーのユーベルコード。
7つの白翼と清らかなローブに身を包んだ天使の如き女性の姿をした悪魔が召喚される。
微笑む姿はまさに天界の者であると疑いようもない。けれど、彼女はれっきとした悪魔である。
「―――供物を」
要求。
時間が惜しい。それにテイラーは最初からわかっていたことだった。召喚した悪魔が己に求める代償を。
「ならば、求める力に応じた和が苦痛と血液を」
テイラーの告げる言葉が終わりきらぬ内に己の指が次々と折れ、皮膚を裂いて出血する。ただ指を折られたというだけではない、それ以上の激痛がテイラーを襲う。
だが、それがなんだというのだ。己の感じる痛みが、UDCに変貌してしまうほどに心壊された者の痛みに勝るはずがない。
「歌うがいい。恋歌を。翼在る者を堕する術を」
一瞬で悪魔ハルモニアの歌声が戦場たる事務所ビルを支配する。圧倒的な力。幼虫たるUDCヂゾ・リダグロボも羽根を生やし飛ぼうとしても無意味である。
睡眠恋歌と飛翔堕翼、この二つの力を振るう悪魔ハルモニアの前には、その力のどれもが効力を発揮しない。
一方テイラーは吸血鬼としての力の発露により右手を再生させる。振り抜かれた剣がUDCヂゾ・リダグロボの体を引き裂き、止めを差していく。
しかし、数が如何せん多すぎるのだ。
「剣が鈍るほどの数とはな……ならば、王らしく踏み砕いて進もうか」
脚甲が高らかに鳴る。幼虫たちが拉げる音と共に響かせながら、テイラーの行軍は止まらない。
目指す区画はもうすぐそこである。
この痛ましき事件の渦中にある青年を一刻も早く救わんと、テイラーは進むのであった―――。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『人型邪神降臨儀式『ドゥドゥガレウ』』
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POW : 邪神よ、我が慟哭に来たれ(デウスエクスマキナ)
【邪神の依り代】に覚醒して【蛇は血にまみれたような大蛇】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD : …俺は生きたい……たとえ他の命を喰らっても……!
戦闘中に食べた【血の味を感じさせる、生物の魂】の量と質に応じて【生命力と】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
WIZ : 『寄生卑竜ニーズヘッグ・封印の呪詛』
【体中を裂いて現れる、魂喰らいの無数の蛇】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠マックス・アーキボルト」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
奪われたのならば、奪い返せばいい。
それは至極当然なことであり、当たり前のことであった。
変貌を遂げた己の前で尻餅をつくように腰を抜かしている男が言った言葉通りであった。
「当たり前のことだ」
そう。当たり前のことだ。奪ったのなら、奪われても文句は言えまい。
己の変貌した姿……青年であった体は縮んだように見える。
それどころか、体を動かす度に節々が痛む。何か動きにくいと感じる。まだ馴染んでいない、そう思える……なるほど、と思った。
己の関節は人形のように球体の関節になっている。これにまだ慣れていないのだ。
「奪ったのなら、奪われて然るべきだ。お前は奪った。二つも。もっとしたら、さらに多くを奪って平然としている。これは当たり前のことではない。異例でもない、特例でもない」
一歩踏み出す度に、あれだけ恐ろしく思っていた男が引きつったように泣き叫んでいる。いやだ、と。他の己を囲んでいた男たちもそうだ。やめてくれという。
己だっていやだったのに。やめてほしいと言ったのに。
それでもやめなかったのは、お前たちである。なら、いやでもやめないでいいはずだ。
「帳尻合わせをしなければならない。そうだ。そのとおりだ。奪わなければ。奪われたもの全部、取り戻さなければ―――」
けれど、もうそれはどこにもないのだと知って、せめて代わりのものをと手をのばす。
生命の値打ちがどれほどのものであるかわからない。けれど、良し悪しはわかる。
「お前のソレは、奪って良いものだ」
―――猟兵達が、目的の一区画にたどり着いた瞬間、その光景は飛び込んできた。UDCに変貌した青年……人型邪神降臨儀式『ドゥドゥガレウ』が、彼を陥れた人間たちを抹殺せんとUDCへと変貌したての力を振るおうとした、その瞬間であった―――。
村崎・ゆかり
一刻の猶予もないわね。飛べ、黒鴉! かの異形の動きを鈍らせよ!
彼が人の生命を奪ったら、魂はより闇に沈む。そんな事はさせないわ。
巫覡載霊の舞を起動させながらUDCと犯罪者達の間に割って入り、一般人はアヤメに任せる。
あなたに一片の罪も無いことは分かってる。でも、いいえ、だからこそ、そのままにはしておけない。
UDCの体表を破って襲ってくる蛇は、薙刀で「なぎ払い」ながら絡め取り、穂先で「浄化」「破魔」火の「属性攻撃」を発動させて焼却するわ。
「衝撃波」「除霊」「破魔」「全力魔法」を込めて、UDCを「串刺し」にすべく突進する。
あたしたちはあなたを苦しめに来たんじゃない。救いたいの。人間としてのあなたを!
それは慟哭であったが、声無き叫びであったのかもしれない。
生命をソレと呼ぶほどにまで追い詰められた心は、張り裂けそうになっていた。それがわかるからこそ、村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)は事務所ビルを駆け上がってきていた。
「一刻の猶予もないわね。飛べ、黒鴉! かの異形の動きを鈍らせよ!」
一般人の男へと伸ばされたUDC―――人型邪神降臨儀式『ドゥドゥガレウ』の腕を既のところで止めたのは、彼女のはなった式神の黒鴉であった。
虚ろな瞳がゆかりとかち合う。
ぞわりと背筋が泡立つ。それは何もかも諦めている者の瞳だった。がらんどうであるというのに、そこに充満しているのは怒りしかなかった。怒りに身を任せることで諦めたのだ。
人であることを。もうそこにあるのは、奪われたものを奪い返すしかないという己の中にある怒りに突き動かされている哀れなる人形でしかなかった。
だが、ゆかりは歯を食いしばる。
退けるわけがない。彼が人の生命を奪ったら、魂はより闇に沈む。
「―――そんな事はさせないわ!」
ユーベルコード、巫覡載霊の舞によって、ゆかりの姿が神霊体に変ずる。手にした薙刀に籠もるは浄化と破魔の火。
式神アヤメに一般人の男たちを任せてゆかりはUDCである『ドゥドゥガレウ』と対峙する。ゆかりはたしかに戦いに来た。けれど、それはUDCへと変貌した青年を助けたいと思うからだ。
「あなたに一片の罪も無いことはわかってる。でも、いいえ、だからこそ、そのままにはしておけない」
ゆかりの言葉は果たして、青年の心に届いただろうか。
何も悪くない。被害者でしかない。悪いのはあの男たちである。進んで罪を負う必要はないのだ。
だが、返答の代わりに『ドゥドゥガレウ』の体表を引き裂いて現れたのは魂喰らいの無数の蛇たち。
一気にゆかりへと飛びかかり、彼女のユーベルコードを侵食していく。
「こ、の―――!」
手にした薙刀から放たれれる浄化と破魔の力によって蛇たちを焼却する。ぼろぼろになって消し炭のように消えていく蛇たち。だが、それで終わるわけがない。
次から次へとゆかりの体を這うようにして迫る蛇たち。
その蛇たちの尋常ならざる数は、きっと青年の心の中に溢れた怒りの数であろう。それを反映するかのようにゆかりのユーベルコードは徐々に引き剥がされようとしていた。
それでもゆかりは言葉を紡ぐ。事情はわかっている。けれど、人の憂いに添うからこそ、優しさは生まれるのだ。
「あたしたちはあなたを苦しめに来たんじゃない。救いたいの。人間としてのあなたを!」
構えた薙刀の突きが放たれる。
その一撃は這い寄る蛇たちを吹き飛ばし、『ドゥドゥガレウ』の体を貫く。全力の力を振り絞った一撃は衝撃波と共に一区画を振動させる。
「―――救われて、何になる。本当に救ってほしかった生命は、もうどこにもないのに」
ゆかりの言葉は青年の心に届いた。ひび割れのように、確かにUDCに変貌した体に亀裂を入れた。あの言葉はまごうこと無き青年の本心。
だが、彼の言う通りであるともゆかりは思った。
彼の事情はわかっている。両親を殺された。裁きを受けぬ者がいる。その怒り、哀しみ、そして一度は諦めてしまった自分への……失望。
「それでも! あたしは人間としてのあなたを救う!」
諦めない。
どれだけの言葉が必要であったとしても、その体を蝕む千の諦めを振り払う万の言葉でもって必ず救うのだと―――。
大成功
🔵🔵🔵
アイラザード・ゲヘナ
アドリブ、他猟兵との連携はOKです。
しょーじき、不本意じゃのぅ。
こんな屑を守るのはひじょーに不本意じゃが…主が手を汚す価値すらあるまい。
こ奴に奪われた…。ならば取り戻すべきじゃ。主の人生を。
今、主はまた失おうとしとるのじゃぞ。いや、捨てようとしているというべきじゃな。
結界術で青年と屑の間に壁を作るのじゃ。
これ以上はさせぬぞ。
輪廻蝶に浄化の鱗粉を運ばさせるのじゃ。
この屑どもを見張っておるのじゃ。勝手に逃げぬようにな。
攻撃が命中せぬ様に気をつけねばのぅ
UC:新月でユーベルコードを相殺じゃ。
これ以上その青年のモノを奪わせるわけにはいかんのじゃ。寿命…命は宝。生きてさえいれば、必ず希望はあるのじゃぞ。
弾け飛ぶ神霊の如き力。
きっと、この場に駆けつけた猟兵達は皆同じ思いであったかも知れない。
アイラザード・ゲヘナ(セカイの渡り鳥・f18145)は、嘆息混じりに呟く。
「しょーじき、不本意じゃのぅ。こんな屑を護るのはひじょーに不本意じゃが……」
猟兵とUDC―――人型邪神降臨儀式『ドゥドゥガレウ』のユーベルコードのぶつかり合いは、建物全体を揺るがす力の奔流であった。
アイラザードは、その力の本流から、事件の元凶たる一般人の男たちを護るように結界術でもって壁を作り出す。いや、壁ではない。それは檻であった。
「これ以上はさせぬぞ。お主が手を汚す価値すらあるまい」
そう言って、一般人の男たちを結界で持って閉じ込めたのだ。これであれば戦闘の余波で彼等が傷つくことはない。
アイラザードが恐れるのは、こんな屑たちであっても生命を落とせば青年の人生に影が落ちることであった。
「奪われた。そいつらに奪われてしまったのだから、奪い返さなければならない……もう奪い返せ無いのなら、代わりのものを奪わなければならない」
うわ言のように『ドゥドゥガレウ』はひび割れた体から無数の蛇たちを湧き出させる。それはユーベルコードを封じる脅威である。それに触れられてしまえば、どんな猟兵であってもユーベルコードを封じられ、力が半減してしまう。
「此奴に奪われた……ならば、取り戻すべきじゃ。主の人生を。今、主はまた失おうとしとるのじゃぞ。いや、捨てようとしていると言うべきじゃな」
それは奪われる以上のことである。
奪うことで己の人生に陰りが落ちる。その陰りこそが邪神の目論見の一環であるのかもしれない。陰り深くなった心は、闇を宿す。
そうなってしまえば、そこにはもはや人としての生は存在しない。あるのは、ただただUDCとして暴虐の限りを尽くす無為なる時間だけだ。
それを捨てるとい言わずしてなんとする。
「そのユーベルコード、主の寿命を削っているのであろう! これ以上、その青年のモノを奪わせるわけにはいかんのじゃ!」
アイラザードのユーベルコード、新月(カグヤ)が発動する。魔力で持って再現された月のない夜が周囲を包み込む。
すでにアイラザードは、そのユーベルコードを見ていた。無数の蛇が猟兵の体を這い上がり、ユーベルコードの力を蝕んでいくのを。
ならば、それを相殺することなど容易いことである。
「寿命……生命は宝。生きてさえ入れば、必ず希望はあるのじゃぞ」
生きてさえいれば。
死んでしまえば、人の生はそれまでである。生命とは地続きである。誰も彼もが両足を地面につけて己の人生の轍を刻んでいく。
長く険しい道だって目の前には続いているであろう。
底の見えぬ闇の如き谷もあるだろう。這い上がることすら出来ぬと思う山もあるだろう。だが、いつだって正しいのは険しく厳しい道である。
今、目の前のUDCへと変貌してしまった青年は見通せぬ闇のごとき谷間にいる。けれど、アイラザードは知ってほしいと願った。
「月のない夜の闇は、見通せぬほどに暗きものであるかもしれぬ。だがのぅ、新月の夜には星々がまばゆく輝く。道標無き暗闇の中で遭っても、光明の一筋を見出すこともまたできよう」
新月の夜は必ず、次なる満月の夜へと連なる一夜に過ぎないのだと。
「だから、主も希望を捨てるな」
その言葉に『ドゥドゥガレウ』の体を覆うひび割れが深くなっていく。新月の夜は、湧き出る無数の蛇たちをことごとく相殺し、霧散させていく。
言葉は言葉に過ぎない。音の響きだ。
だが、感じるからこそ力になる。その証拠のように、『ドゥドゥガレウ』はまた体のひび割れを大きくした。
辛くても生きて欲しい。
それはアイラザードの願いでもあり、きっと亡くなった青年の両親の願いでもあるはずなのだから―――。
大成功
🔵🔵🔵
テイラー・フィードラ
復讐自体は止める気はせんし否定もせん。
だが、命を奪う行為は認めん。それを行ったが最後、私はお前を討たねばならん。
彼は怒りに支配され、禍ツ神に囚われ大蛇となるだろう。
ならば、普段より狭い場所であるが、フォルティ頼んだぞ。
此方は何処の影より具現化した相棒に飛び乗り、蛇を蹴り反転し大蛇の攻撃を跳び躱しながら、彼に対し声を張り伝えよう。
私自身も貴殿に共感する思いはある。
だが、愛した妻子も民も国も、滅ぼされた俺のような亡者となるな。
思い出せ、己が父母が己に語り掛けた言葉を!罪過在る者への罰は既にある。
僅かでも同意する意思があるならば、その猛る激情と邪神の汚染を抑えんとする勇敢たる心を芽生えさせようか。
ひび割れるUDC―――人型邪神降臨儀式『ドゥドゥガレウ』の体。
それは猟兵たちの度重なる説得の言葉に応じるようにひび割れを大きくしていた。だが、それでもなお、その身を飲み込んだ怒りは、虚無感は晴れることはない。
それほどまでに心壊すことを、この場において保護されている一般人の男たちは行ったのだ。
他者が大切に思うものを理解せず、踏み壊すことができる人間たちなのだ。
「復讐自体は止める気はせんし、否定もせん」
テイラー・フィードラ(未だ戴冠されぬ者・f23928)は、UDCへと変貌してしまった青年の心にそう同意した。己もまた恩讐の果に在る身であるからだ。
果たされた弔いは、彼の心に何をもたらしたのだろうか。それはテイラー自身が心に抱くものであり、また……そう、囚われた者へと手向けるものでもあった。
「だが、生命を奪う行為は認めん。それを行ったが最後、私はお前を討たねばならん」
その言葉に『ドゥドゥガレウ』は咆哮する。慟哭したと言っても良い。
「奪われたのだ! 俺は! すべて! 何もかも! ならば、奪い返させてもらう! そうしなければ、俺は何も始められない―――!」
その体より溢れた蛇たちは血濡れた大蛇へと変貌を遂げる。完全なる蛇神の依代へと変貌を遂げた『ドゥドゥガレウ』。
怒りに飲まれた姿はまさに禍ツ神。荒れ狂う大蛇はテイラーへと襲いかからんと、その強大なる顎を広げる。
「―――フォルティ!」
テイラーの影より現れた霊馬フォルティが、その筋骨隆々たる体躯に己の主人を乗せ駆ける。追いすがる大蛇を蹴り飛ばし、反転する。
続けざまに放たれる大顎と牙の鋭い一撃。
それをフォルティの脚力が俊敏に躱し続ける。テイラーがすべきことは、かのUDC、『ドゥドゥガレウ』を刃で持って制することではない。
王たる者にとって振るう力は剣のみではないのだ。
「私自身も貴殿に共感する思いはある」
その言葉は静かなる言葉であった。
しかし、よく通る声であり、蛇神の依代として覚醒した青年の心に届くものであった。それこそが王たる資質の一角。
上辺だけの言葉ではない。あるのは真実だけだ。純然たる結果。
「だが、愛した妻子も民も国も、滅ぼされた俺のような亡者となるな。」
何かもをも失った。残ったのは激情のみ。己の胸の内側を焼き焦がした激烈たる感情。区切りはあった。しかし、残ったのは―――。
それは己以外の誰かが被ってはならぬ道程である。テイラーはそう思っていた。激情に飲まれることを悪しとするわけではない。
怒りは純粋な力だ。
何かを成す、その原動力となるだろう。振るう剣を握る腕に、踏みこたえる脚に、その力を与えるだろう。
だが、激情たる怒りの行き着く先は……抜け殻のように燃え尽きる灰色でしかない。それをテイラーは乗り越えてきた。
同じ轍を誰かに踏まさぬと、また剣を手にとったのだ。
「思い出せ、己が父母が己に語り掛けた言葉を! 罪過在る者への罰は既にあるのだ!」
それは王の演説(タチアガレユウカンタルモノヨ)。
「わずかでも同意する意志があるのならば、その猛る激情と蛇神の汚染を抑えんとする貴殿の心に応えよう!」
テイラーの言葉は力ある言葉。
きっかけは些細なものであるかもしれない。王であるのならば、その芽生えた小さな息吹を守らねばならぬ。
凍えるような吹雪の中であっても、その小さな火を護る。その決意がテイラーにはあり、それは飛び火したように青年の心に火を灯す。
蛇神の依代として覚醒した身体がひび割れ、崩れ落ちる。再び、『ドゥドゥガレウ』の体は球体関節のある姿へと戻っていく。
荒れ狂う大蛇は霧散し、鳴りを潜めた。それはテイラーのユーベルコードだけの力ではない。
「ならば、その勇敢たる心芽生えた貴殿に応えよう。後は任せておけ!」
テイラーの言葉はきっと、暗闇の中にある青年の心を、暖かく照らし出すことだろう。それはテイラーの王としての言葉。勇敢たる不屈の心を与える、導きの言葉であったのだから―――。
大成功
🔵🔵🔵
ルムル・ベリアクス
青年を前にして、彼が味わってきた苦痛が伝わってくるようで胸が痛みます。
あなたはもう、十分頑張りました。これから報われるべきあなたが、こんなどうしようもない人達の価値観に囚われる必要など、ないはずです。
……それに、生命を値踏みしてあれこれするのは、人間ではなく悪魔の仕事ですからね。
まずフォーチュンカードを次々と剣に変え【投擲】、【乱れ撃ち】し、蛇の攻撃から男達を守ります。必要なら【かばう】を使います。人間である以上、命は守るのがわたしの務めですからね。
次に両手のカードを剣に変化させ、絡みついてくる蛇を二刀流で切り伏せます。チャンスを見て懐に踏み込み、カードを大剣に変化させ、本体に一撃を加えます!
人の心の苦しみを推し量ることは難しいことである。互いの物差しが互いに一つだけのものであるのならば、正確に苦しみを理解できることはできない。
しかし、それでも人は感情という手段によって苦しみや痛みを共有することが出来る。そういう生命であるからこそ、ルムル・ベリアクス(鳥仮面のタロティスト・f23552)は、目の前のUDCへと変貌を遂げた青年……人型邪神降臨儀式『ドゥドゥガレウ』を見つめていた。
その体は幾人かの猟兵たちの説得とユーベルコードに寄ってひび割れ始めている。痛ましいと思う。それが己のエゴであることは理解している。
この胸が感じる青年の苦痛は、正しく青年と同じものであるわけではない。それでも、とルムルは思うのだ。
「あなたはもう、十分頑張りました。これから報われるべきあなたが、こんなどうしようもない人達の価値観にとらわれる必要など、ないはずです」
すでに猟兵によって確保された、青年がUDCへと変貌するきっかけを作った男たちを横目で見やる。
どうしようもない。
こんな男たちの言葉を真に受ける必要はないのだと、影響を受ける必要はないのだとルムルは言う。
「奪われたものは返らない。無くしたものは戻らない。別の何かで埋め合わさなければ、いつまでたっても、こぼれ落ちていくばかりだ。生命の値打ちはわからない……が、良し悪しは必ずあるはずだ!」
『ドゥドゥガレウ』のひび割れた体から溢れ出る無数の蛇たち。
それはユーベルコードを封じる力を持つ蛇神の使い。それに触れられてしまえば、如何な猟兵と言えど、ユーベルコードを封じられ、力が減じてしまうことだろう。
「……生命を値踏みしてあれこれするのは、人間ではなく悪魔の仕事ですからね」
手にしたフォーチュンカードが次々と剣へと変えられる。
それはユーベルコード、ヴォーパル・ファング・オブ・フレイム。悪魔の力宿りし、生命を吸う炎の刃。
ルムルはそれを絶え間なく投擲し、蛇たちから元凶たる男たちを護る。
蛇たちは執拗に男たちを狙う。
それもそのはずだ。UDCであって青年の目的は猟兵の抹殺ではなく、あの男たちの抹殺であるからだ。
炎の刃を抜けて、無数の蛇たちが結界に守られた男たちを狙って飛びかかる。
だが、それを身を挺して護るのが、ルムルである。
「―――何故、そんな男たちを護る。護る価値などないはず!」
いいえ、とルムルは笑って言うだろう。
「人間である以上、生命を護るのがわたしの務めですからね」
だから、それ以上の理由はいらないのだと笑うのだ。
それはあまりにもエゴイスティックな愛であった。何をおいても優先されるのは人間の生命。それは良し悪しではなく、価値である。彼自身が胸に抱く愛。
その愛の前に一瞬『ドゥドゥガレウ』の表情がひきつる。
「言ったはずです。生命を値踏みするのは人間ではなく悪魔のすること―――甦りし悪魔よ、その牙で地獄を顕現させよ!」
再びルムルの両手に携えられたフォーチュンカードが炎の刃へと姿を変える。絡みつくように飛びかかる蛇を斬り伏せ、一気に『ドゥドゥガレウ』へと間合いを詰める。
「何もあなたが手を汚す必要なんて無いのです。必要なことはすべて、わたし達が……だから」
ニ刀で蛇を切り捨て、間合いを詰めたルムルの手の内に新たなるフォーチュンカードが現れる。
ユーベルコードによって姿が大剣へと変じ、上段から振りかぶられた一撃を『ドゥドゥガレウ』へと見舞う。ひび割れた体にさらなる深手を追わせる。
溢れでる蛇たちは散り散りに霧散し、消えていく。
「―――だから、あなたは報われるべきなのです。あなた自身のためにも、あなたを思っていた誰かのためにも」
大成功
🔵🔵🔵
須藤・莉亜
「おー、盛り上がってるなぁ。さて、血はどんな味かな?悲嘆を感じる味かな?それとも憤怒な味?」
道中考えてた結論。UDCの状態ならセーフでしょ。セーフ。大丈夫、僕くらいになると、痛みもなく血を奪えるから。
引き続き、吸血鬼化して戦う。
んでもって、先ずはArgentaを周囲に展開。それらを時には盾に、時には足場にしながら接近。移動しながらも生命力吸収能力を使いながら、敵さんと蛇の生命力を奪って吸い殺しに掛かりつつ、自身を限界以上に強化しとく。
近づけたら、強化された能力を駆使して一気に敵さんの懐に飛び込み全力で吸血。
捕まっちゃったら、悪魔の見えざる手に敵さんを攻撃してもらおうか。
「お―――ァ……! オオオオッ! 奪う……! 奪わなければ! 生命は生命でしか贖えないのだから」
慟哭の如き咆哮が、人の変貌したUDC―――人型邪神降臨儀式『ドゥドゥガレウ』から放たれる。
猟兵たちの言葉、そして攻撃に寄って徐々に追い詰められているはずである。だが、それでも力は健在そのものであり、その身を焦がす怒りの炎は消えない。
消えるわけがない。
どれだけの物を奪われたのかわからない。己が大切に思うものすべてを奪われてなお、それでも足りぬと取り立てる者たちこそ、この世界に要らぬものであると吠えるのだ。
「おー、盛り上がってるなぁ」
のんびりとした口調で現れたのは、須藤・莉亜(メランコリッパー・f00277)である。ゆらりと紫色の髪をゆらし、その視線が捉えるのは、当然UDCである。
抑圧された吸血衝動が疼く。
「さて、血はどんな味かな? 悲嘆を感じさせる味かな? それとも憤怒な味?」
どちらだろう? と首をかしげる。
道中ずっと考えていたのだ。UDCに変貌した人間は、彼の言うところの敵さん、オブリビオンであるのか、それともそうではないのか。
彼の出した結論は、UDCの状態であるのならば、セーフである。
「大丈夫、僕くらいになると、痛みもなく血を奪えるから」
だから、と莉亜は獰猛なる笑みを浮かべて、ユーベルコード、不死者の血統(イモータル・ブラッド)を発動させる。
吸血鬼化した体を覆うのは他者の生命を奪うオーラ。周囲には銀の槍が展開され、駆け出す。
『ドゥドゥガレウ』より溢れ出す蛇たちが一斉に襲いかかるも、銀の槍によって薙ぎ払われる。
「邪魔―――……!」
時に盾として、時に足場として莉亜は戦場となった事務所ビルの一区画を駆け抜ける。彼の目的である吸血を成すためには、どちらにせよ接近しなければならない。
飛びかかる蛇の数はかぞえきれず、触れられてしまえばユーベルコードを封じられてしまう。
かすることも出来ぬ攻撃であるが、彼の類まれなる吸血のちからは、それを凌駕する。
強化された力は己の肉の器である体の限界まで引き上げられている。
「奪う―――! 奪い返す! すべて、すべて、奪い返さなければ、誰も報われない」
咆哮する『ドゥドゥガレウ』へと至る。懐に飛び込んだ莉亜の鋭い犬歯が腕へと食らいつく。
それは一瞬の出来事であった。
突き立てられた歯から伝わる感触は硬い、血の通わないような感触であった。まるで球体人形を噛んだときのような、そんな感触。
ただ、噛み砕くだけであり、味は無味無臭。なんの感慨も思い浮かばない。
犬歯を離し、莉亜は後ずさる。
「そっか……悲嘆でも憤怒でもないんだね。ただ、もう空っぽなんだ。だから諦めているんだね……諦めているから、味も血もないんだ」
それは、とても悲しい。
青年が空っぽであったからではない。味わおうと思っていた血を味わえないこと、血の通わぬ体になったことが、悲しい。
「―――なら、仕方ないよね」
悪魔の見えざる手が『ドゥドゥガレウ』を強かに打ち据える。
ないものはねだれない。
その空っぽの体であるUDCであるというのならば、後はただ打ち倒すのみ。それが、血が吸えず、溜まっていくフラストレーションを解消する手段でしかないのだ。
「血が通わない悲嘆も、憤怒も。無味無臭だってことがわかったけでもよかったかなぁ……」
未だ力をふるい、悪魔の見えざる手と打ち合う『ドゥドゥガレウ』。
その姿を見やりながら、莉亜は身を焦がす吸血衝動に耐えるしかなったのだった―――。
大成功
🔵🔵🔵
カシム・ディーン
…こいつは本当によくある事です
お前がこいつ等に奪われ続けたのはお前に知識が無かったから
力が無かったから
諦めたから
(…この苛立ちはなんだ
そしてお前はこいつらを殺して怪物になって消え失せる
まさに惨劇ですね
(激情に駆られた彼に何度も切り裂かれ殴られ叩きのめされながらも【医術・情報収集】で動きを見据え致命を避
ユベコ起動…!
…違うだろう?
弱者は救われないなんて誰が決めた
誰だって救われてもいい筈だ!
帳尻が合わないって言ったな
ああその通りだ!
お前は!「不幸になった分だけ幸せにならなきゃ」帳尻が合わないでしょうが!
【力溜め・二回攻撃】で拳で殴り返す!
始めたいんだろう!
だというならそんな邪神なんぞから出てこい!
一人にとっては特別なことであっても、他の誰かにとっては取るに足らぬことであることはありえない話ではない。
何を大げさに言うのだと、カシム・ディーン(小さな竜眼・f12217)は吐き出す。
「……こいつは本当によくある事です。お前がこいつ等に奪われ続けたのはお前に知識が無かったから。力が無かったから。諦めたから」
こいつら、とは元凶たる一般人の男たち。彼等は猟兵に寄って保護されている。
お前、とはUDC人型邪神降臨儀式『ドゥドゥガレウ』へと変貌した青年。
よくある話だ。己の住んでいた世界ではよく聞く話であると。世界が違えば、価値観も違う。ありとあらゆる悪徳が美徳とされる世界だってあるやもしれない。
だから、よくあることだとカシムは言う。
自身もまたそのとおりだと認める。だが、この苛立ちはなんであるのだろうか。
猟兵たちの説得と攻撃に寄って、『ドゥドゥガレウ』の体はひび割れている。大剣による斬撃、見えぬ拳による殴打。
そのどれもを受けてなお、その力は健在そのもの。未だ立ち上がり、カシムへとユーベルコードを封じる蛇を吐き出し続ける姿は、カシムの苛立ちを加速させたかもしれない。
「そして、お前はこいつらを殺して怪物となって消え失せる。まさに惨劇ですね」
ユーベルコードを封じる蛇に触れるわけにはいかない。
躱し、見切りながら『ドゥドゥガレウ』から放たれる拳を受け続ける。
「―――だからなんだというのだ。奪い、奪われるのがよくあることだというのならば、その惨劇すらよくあることだというのだ」
致命傷を避け続け、拳を受け続けるカシム。
その慟哭の如き叫びは、互いの心には届かない。互いの生まれ育った環境が違いすぎる。物差しが違いすぎる。
「ならば、お前から奪ったとしても何も問題はない。弱者は弱者のままでしかないというのなら―――」
「……違うだろう?」
ユーベルコード、帝竜眼「ベルセルクドラゴン」(トウソウノキョウキトキワメシリセイヲヒメシモノ)が輝く。全身を覆うのは、狂える竜のオーラ。
自身が受けた負傷に比例した戦闘力が増強されていく。ギシリと身体が軋む。
「弱者は救われないなんて誰が決めた。誰だって救われても良いはずだ! 帳尻が合わないって言ったな」
打ち込まれた拳の痛みは頬を突き抜けて、心にまで届くような悲哀の拳であった。
下手なオブリビオンの拳よりも効く。
だが、この身に宿るオーラは、その痛みに比例して力を増していく。
「ああそのとおりだ! お前は! 『不幸になったブンだけ幸せにならなきゃ』帳尻が合わないでしょうが!」
溜め込まれた力が拳へと集約されていく。
その力は筋肉を隆起させ、その絶大なる力を拳に寄って炸裂させる。『ドゥドゥガレウ』の体を捉えた拳が、凄まじい轟音を響かせ撃ち抜かれる。
吹き飛ぶ体。
弾けていくUDCとしての体表の破片。
ゆらりと立ち上がってくる『ドゥドゥガレウ』の体の内側は、まさしく空虚であった。何もない。がらんどうであった。
「始めたいんだろう! だというなら、そんな邪神なんぞから出てこい!」
カシムの咆哮が響く。
それは感じた苛立ちのままに言葉を紡ぐ彼の心の発露であった。何も終わってはないのだと。
すべてを失ったというのならば、再び最初から始めることもできるはずなのだと、カシムは拳と共に思いを『ドゥドゥガレウ』へと叩き込んだのであった―――。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
(無法者達は他の方によって保護、と…有難い限り。対処に専念出来ます)
大蛇に変じた対象の攻撃を●怪力●盾受けや●武器受けで弾き
その胸を苛む無念と哀しみ、そして怨嗟
耐え難きものなのでしょう
ですがその荒ぶる心を邪神に捧げ、最期に依代として己が心まで奪われる
そんな哀しき結末など現実にあってよい筈がありません!
その力は貴方から大切なモノを奪った存在と同類
これ以上、奪わせはしません
噛み付きを●見切り脚部スラスターでの●スライディングで頭部下に潜り込み大盾殴打のアッパー
UCで腑分けするように腹を剣で攻撃
依代が中に居れば引きずり出し
私は、私達は貴方を護る為にここへ来たのです
これからの沙汰、お任せいただけますか
青年が変貌したUDC―――人型邪神降臨儀式『ドゥドゥガレウ』との戦いの推移は猟兵たちの度重なる説得と攻撃に寄って、猟兵たちに傾いていた。
だが、それでも『ドゥドゥガレウ』の力は健在そのもの。その姿はすでにひび割れ、その球体関節人形のような姿の体表は崩れ落ちている。
その空虚なる内側、その虚を覗かせながらも、未だ立ち抵抗しようとする姿はいっそ哀れであったかも知れない。
トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)にとって、他の猟兵達がすでに無法者……つまりは青年をUDCへと変貌させるきっかけとなった一般人の男たちを確保していることは、ひとつの懸念材料が廃されたことであった。
これならば『ドゥドゥガレウ』の対処に専念ができる。
「まだだ―――まだ何も奪えていない! 何一つ! ひとかけらとて―――! これではあんまりだ!」
幾多の猟兵の言葉があっただろう。
励ます言葉もあれば、凶行を止めようとする言葉。そのどれもが、青年本来の心を呼び覚ますものであった。
だが、それ以上に奪われた者の悲哀と憤怒は容易に覆い隠していく。
ひび割れ、内側の空虚を晒す『ドゥドゥガレウ』の体の内側から無数の蛇たちが噴き出す。一瞬にして、その体を覆うのは蛇神の依代としての姿。
「何一つ報われないままに、終わってしまう」
溢れ出た蛇たちは一気に蛇神の依代として覚醒した力によって大蛇へと変貌する。
トリテレイアは、その大蛇たちの攻撃をウォーマシンたる膂力で持って大盾を振るい、受け止めていく。
「その胸を苛む無念と哀しみ、そして怨嗟……耐え難きものなのでしょう」
それは想像するしかない。いや、想像するという言葉も正しくはないのかも知れない。推察するほかないのだ。機械であるこの機体において、想像とは縁遠いものである。
「ですが、その荒ぶる心を邪神に捧げ、最期に依代として己が心まで奪われる。そんな哀しき結末など現実に合って良いはずがありません!」
アイセンサーが輝く。大蛇たちの大顎を開いた噛みつき攻撃をスラスターを噴出させることに寄って、地面すれすれを這うように滑り込んで態勢を整えて、床を蹴り上げる。
飛翔するままに大蛇の顎を大盾でしたたかに打ち据え、弾き飛ばす。
トリテレイアの目的は大蛇ではない。依代として覚醒した『ドゥドゥガレウ』本体のみ。蛇神の依代となった姿は強大そのものであり、その体から本体たる『ドゥドゥガレウ』を探し出すのは容易ではない。
「その力は貴方から大切なモノを奪った存在と同類―――」
アイセンサーの輝きと共にユーベルコードが輝く。
機械騎士の精密攻撃(マシンナイツ・プリセッションアタック)。それこそが、彼がウォーマシンである最大の利点。
あらゆる攻撃は、トリテレイアの電脳が導き出した計算式に寄って放たれる。絶妙なる力加減、鋭さ、摩耗係数、何もかもを完璧に計算しつくされた斬撃は、本体を避け、依代として覚醒した体を腑分けのように正確無比に切り裂く。
「これ以上奪わせません!」
切り開かれ、霧散していく蛇神の依代としての体。
霧散した中心に合った『ドゥドゥガレウ』の空虚なる瞳とトリテレイアのアイセンサーが交錯する。
「私は、私達は貴方を護るために、ここへ来たのです。これからの沙汰、おまかせいただけますか」
何も案ずることはないのだとトリテレイアは言う。
その言葉は確かにUDCへと変貌した青年の心に届いただろう。だが、それでも、邪神たるUDCは青年の心を覆っていく。
救われない魂などあってはならない。吹き飛ばされるトリテレイアは、空中で体制を整え、着地する。
一瞬交錯した自身のアイセンサーと、『ドゥドゥガレウ』の空虚な瞳。
あの空虚なる瞳の意味を考える。
何かも失ってしまったと諦めた瞳。
ならば、そこに光を灯すのが騎士であろう。
あの瞳は―――。
騎士としての矜持が示す道行きを全うするとトリテレイアが誓うには十分な瞳であった―――。
大成功
🔵🔵🔵
荒覇・蛟鬼
度し難いサマですな……そうした一時の感情が
世を蝕み、果てには滅ぼす“塵”を生みだすのです。
それを体現した以上、あなたも裁かせて頂きます。
■闘
裁くといっても、討つのはUDCだけですけれど。
して、先ずは大蛇の動きに細心の注意を払いますか。
蛇がどこから仕掛けるかを【第六感】で予測、
口を開く瞬間を【見切り】ながらそのでかい顔を
素手で【グラップル】して止めます。
うまく止めたら【怪力】で押し返してバランスを
崩させ、一瞬の【ダッシュ】から急接近を図り、
【一撃必殺】の拳を叩き込みましょう。
致命的な所に命中すれば、万々歳ですな。
力無き者でも、世を蝕む存在には容赦致しませんので。
※アドリブ・連携歓迎
体表は崩れ落ち、その内側のがらんどうである空虚なる様を晒しながら、人型邪神降臨儀式『ドゥドゥガレウ』は未だ動いていた。
四肢がつながっているだけで、その胴体の前面は殆どが崩れ落ち、闇色の内側をさらけ出す。猟兵たちの説得や攻撃があってもなお、その動き、力に精彩を欠くことはない。それが邪神たる力の一片であるというのならば、どれほどの力を持っているのかわからぬほどであった。
「奪う……奪う……奪われたのだから奪わなければならない。奪われなければ、考えることもなかったのに。怒りが溢れて止まらない。哀しみが染み込んでくる」
UDC『ドゥドゥガレウ』の体の内側からあふれる力は邪神の依代たる力。溢れ出した力は蛇となって蠢き、大蛇の如き姿となって猟兵を襲う。
対するは、荒覇・蛟鬼(鬼竜・f28005)。
その邪神の依代となった姿を見やり、嘆息するように言う。
「度し難いサマですな……そうした一時の感情が世を蝕み、果ては滅ぼす“塵”を生み出すのです」
きっかけは些細なことである。
だが、『ドゥドゥガレウ』は吠える。これが些細なことであるはずがない。己の奪われたものは、断じて“塵”ではないのだと吠えるのだ。
蠢く大蛇が一斉に襲い来る。もたげた大顎は人を丸呑みにしても有り余る巨大さ。鋭き牙は容易に鍛えられた肉体であっても貫き食い破るだろう。
「それを体現した以上、あなたも裁かせていただきます。裁くと言っても、討つのはUDCだけですけれど……して―――」
大蛇の大顎を危なげなく躱し、踏み出す。一歩踏み出した瞬間に、その大きな頭をつかみ、止める。万力の如き力であった。
大蛇は己が動けなくなったことを奇妙に思う。どれだけの力を込めても、びくともしないのだ。
「先ずは大蛇の動きを止めますか……」
ぐ、と脚を踏み込む力を込める。たったそれだけでびくともしなかった大蛇の身体が後ずさる。
なんたる膂力。
否。それは力ではなく技術。足運び、力の込め具合、力点、あらゆる鍛錬練磨が成し得る業である。
「さあ、ここからですよ。嘆く者はいつまでも嘆くと良いでしょう。けれど、その嘆きが他の者に塁すると知ることもまた必要なことでありますから」
押し返した大蛇の体を横倒しにした瞬間、ユーベルコード、一撃必殺が炸裂する。ただの拳が大蛇の体を木っ端微塵に粉砕する。
圧倒的なる拳の一撃の前に、どれほどの巨躯も意味をなさない。
「ふむ、これはこれで万々歳ですな」
快活に笑いながら、駆け抜ける。大蛇を失った『ドゥドゥガレウ』に、その身を護る術はない。
邪神の依代として体を覆う禍々しき力を蛟鬼の拳が一撃必殺の元に打ち払う。霧散して消えていく邪神の力。
だが、それで拳を止めるわけではない。
「力無き者でも、世を蝕む存在には容赦いたしませんので」
それは慈悲無き一撃。
人形のようだった体は散々に崩れ、打ち砕かれた。
それを見下ろし、蛟鬼は満足げにうなずく。“塵”は正しく滅しなければならない。そこに一切の慈悲があってはならない。
その一時の慈悲こそ、まさしく“塵”である。情けをかけることが他者のためになるのではない。
それを体現する者として、蛟鬼はオブリビオンの前に立ちふさがるのだから―――。
大成功
🔵🔵🔵
数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】
そこまでだ、邪神。
テメェは賭けの胴元と一緒だ。
唆すだけ唆して、最後に全部持ってく算段だろうがよ。
帳尻なんてのはな、そうやって合わせるもんじゃねぇ。
外様の力を借りて成したなら、
その外様にケツの毛どころか魂まで毟られちまう。
だから、抗え、目を覚ませ。
人の世の不義理、理不尽はなぁ。
人の世の力で返してこそ意義があるってんだよ!
身体が変異していたとして、
不定形でないって事は邪神の核みたいなものは
厳然と存在するはず!
彼を『鼓舞』して人の世に繋ぎ止めながら、
その一点を見極める。
そうして本体を目掛け、【魂削ぐ刃】を振り抜くよ!
おい、チンピラ共。
お前らの始末も残ってるから逃げるなよ。
人型邪神降臨儀式『ドゥドゥガレウ』は、その体を事務所ビルの床に叩きつけられ、関節があらぬ方向へとネジ曲がった状態であったとしても立ち上がっていた。
体の前面は猟兵たちの攻撃に寄って砕かれ、崩落している。
その内側の空虚なる闇をさらけ出しながらも、軋む体のままに立ち上がってくる。そのがらんどうなる体のどこに、そんな力が残っているのかと思うほどに執念であろうか、立ち上がるのだ。
「奪われたのだから、奪わなければ。帳尻が合わない。こんなに不幸せなことがあっていいはずがない。あってはならないはずだ―――」
慟哭じみた言葉が『ドゥドゥガレウ』から溢れ出している。
ともすれば、それは悲哀に満ちた言葉であるように見えたかも知れない。哀れなる犠牲者の言葉。それを思えば、鈍る力もあるはずである。
「そこまでだ、邪神。テメエは賭けの胴元と一緒だ」
輝き鈍らぬ力を滾らせて、数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)は立ちふさがる。その瞳に映るのは怒りであった。やりきれぬ想いが彼女を突き動かしていた。
「唆すだけ唆して、最期に全部持っていく算段だろうがよ」
彼女にはわかっていた。
『ドゥドゥガレウ』が発する言葉はすべて、UDCへと変貌した青年の言葉ではないと。全ては、彼が変貌したUDCが放つ言葉。
そこに真実も真理もない。あるのは虚構と虚しさだけだ。
「帳尻なんてのはな、そうやって合わせるもんじゃねぇ。外様の力を借りて成したなら、その外様にケツの毛どころか魂まで毟られちまう。だから―――」
多喜にとって邪神とはそういう存在である。
唆し、たぶらかし、堕するように仕向ける打算深い存在。それをよく知っていた。
「だから、抗え、目を覚ませ。人の世の不義理、理不尽はなぁ。人の世の力で返してこそ意義があるってんだよ!」
邪神の依代として覚醒する『ドゥドゥガレウ』。その体を覆うオーラはまさに邪神そのものであり、猟兵達が何度も打ち払ってきたものである。
それらが全てここに結実している。
一度や二度では諦めぬ不屈の心が猟兵達にあるからこそ、可能であったこと。何度も何度も邪神を討ち、その力をそいできた。
「―――……見えたよ、本当の「アンタ」って奴が……。引き裂け、アストラル・グラインド!」
大蛇が多喜を襲う。
だが、彼女はそれに構わなかった。彼女が見据えるのは、邪神の依代の中心たる核に存在するものだけだ。
どれだけ身体が変異していたとしても、不定形ではないというこおてゃ、邪神の核が必ず存在している。
己の言葉は鼓舞だ。
だが、その鼓舞も感じられなければ意味がない。
彼女が此処に至るまで、幾多の猟兵達が青年へと声を投げかけていた。声はただの音の響きであり、力ではない。
だが、その言葉に感じるものがあるのだとしたら、それは力になるだろう。いつだって、受け止める者がいるからこそ、言葉は力へと変わるのだから。
自分ひとりだけの力ではない。
己と此処に駆けつけた猟兵達が居たからこそ、見えるものがある。
揺らめくように光るサイキックエナジーを纏った手刀が、魂削ぐ刃(アストラル・グラインド)となって邪神の核を切り捨てる。
一刀のもとに両断された核は、ひしゃげ、ぐずぐずになって崩れ去っていく。
骸の海へと還っていく『ドゥドゥガレウ』としての身体。
もとの青年の体が事務所ビルの床に転がる。それを見て、多喜は胸を撫で下ろす。ひとまずは、よかった、と。
だが、猟兵たちにはまだやらなければならないことがある。
「おい、チンピラ共。お前らの始末も残ってるから逃げるなよ」
釘を指すように多喜は言葉を言い放つ。
この事件の元凶はUDCであるのかもしれない。だが、きっかけを作ったのは、紛れもなく同じ人間である。
その悪意の大本を叩かねばならないのだから―――。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 日常
『人間の屑に制裁を』
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POW : 殺さない範囲で、ボコボコに殴って、心を折る
SPD : 証拠を集めて警察に逮捕させるなど、社会的な制裁を受けさせる
WIZ : 事件の被害者と同じ苦痛を味合わせる事で、被害者の痛みを理解させ、再犯を防ぐ
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
猟兵達によって保護されていた一般人の男たち。
彼等こそ、青年の心を追い詰め、壊した張本人たちである。
UDCへと変貌した青年は救われた。未だ意識は戻らないようであるが、生命に別状はないようであった。
それだけが、不幸中の幸いである。
だが、それで終わるわけではない。
この悪意ある男たちが野に放たれれば、再び青年のような者が現れるだろう。
それを防ぐために猟兵達は彼等に制裁を加えなければならない。無論、死に至らしめるようなことはしてはならない。
二度と同じようなことができぬよう、きっちりと落とし前をつけなければならない。人生とはそういうものである。
「は、ハハハ―――、いやぁ、助かった助かった! あんたたちすごいな! とんでもねぇな!」
自身達が助かったということを自覚した途端、彼等は我に返ったように口々に猟兵たちを褒めそやす。
取り入ろうとしているのかも知れないし、ごまかそうとしているのかもしれない。
だが、猟兵たちにはもう全てわかっている。
彼等のやってきたこと、事情、全て。
ならば、今此処で下さなければならない。
人を傷つけた報いを贖う罰を―――。
アイラザード・ゲヘナ
ヤレヤレじゃのぅ。
しかし、ひじょーにムカつくあの顔を恐怖に染めて溜飲が下げるというのも乙かもしれんのぅ。
さて、なら妾たちより相応しいものを呼ぶかの。
『結界術』を展開。
十日夜を発動、眠らせるのじゃ。
ゆっくり眠るがよい。ようこそ悪夢の世界に…。
そして『降霊』術でこの屑どもの被害者の霊を呼び寄せるのじゃ。
ああ、悪霊だと被害が大きくなるので『浄化』しておくのじゃ。
霊にちょっとした復讐を囁くのじゃ。
夢枕に立ち、存分に『恐怖を与える』とよいのじゃ。
主らの苦しみの万分の一でも返してやるがよい。
うむ。霊はきちんと『除霊』しておくのじゃ。
主らの縁者には妾があとで事の次第を報告しておくのでな。
安心して眠るがよい。
口々に猟兵たちの活躍を褒めそやす男たち。
己達が加害者であるということをひた隠しにし、自身たちもまたこの事件に巻き込まれた存在であるとアピールする。
こういう抜け目のない所があるからこそ、今まで取りこぼされてきた悪意であると言えよう。
そんな彼等を見やり、アイラザード・ゲヘナ(セカイの渡り鳥・f18145)は嘆息すると共に肩を竦める。
「ヤレヤレじゃのぅ……しかし、ひじょーにムカつくあの顔を恐怖に染めて溜飲を下げるというのも乙かもしれんのぅ」
彼女にとって、彼等という存在は腹立たしいことこの上ない存在である。
ムカつく、という言葉の一つでは言い表せないほどの所業を重ねてきた者たちであることはアイラザードもわかっていた。
今までも、これからも、自分たちの行ってきた行いを精算するつもりもなく、己の悪意の赴くままに生きていこうとしているのだ。
それを裁く。
制裁を加える。だが、それはアイラザードたち自身が直接手を下すのも間違いではないのだが、彼女はもっと相応しい者がいると考えていた。
結界術を展開し、その内側に一般人の男たちを閉じ込めた。
「え―――!? あ! おい! どういうことだよこれは! なんでオレたちを―――!」
アイラザードの結界術の中で男たちが喚き立てる。
それを涼しげな顔をしながら彼女はユーベルコード、十日夜(カグヤ)を発動させる。結界術の中で魔力が再現するのは十月十日の夜の静けさと月光である。
そこには彼等の声は結界の外に飛び出す前に闇の中へと吸い込まれていく。
「やかましい声が聞こえなくてせいせいするのじゃ。さて、ゆっくり眠るが良い……ようこそ、悪夢の世界に……」
アイラザードの声が静かに響き渡り、直後、男たちは皆昏倒するように結界の中で意識を失う。眠っているのだ。
それがどうすれば制裁になるのか……それはその直後にわかる。
降霊術によって呼び出された、この男たちの憐れなる犠牲者たちの霊。彼等が夢枕に立ち、己達が味わった恐怖と苦痛を与えさせるのだ。
万が一に悪霊になっていると困る。前もってアイラザードは浄化し、被害を抑える。
「主らの苦しみの万分の一でも返してやるがよい」
そうささやく。
その声色は優しかったが、そこに容赦はいらないという言外の意味も含まれていた。喪われた生命が戻ることはない。
返ってくることは何一つない。
だからこそ、万分の一であったとしても、それは常人にとっては耐え難い苦痛になるだろう。
結界術の中で悲鳴のようなうめき声が響き渡る。
それはまるで十月十日を凝縮したような濃厚なる怨嗟の日々。それでもって万分の一でも、犠牲者の霊たちの心が癒やされればいい。アイラザードはそう思う。
そして、ユーベルコードの効果が切れる頃、呼び寄せた霊たちに手向けるように除霊していく。
「主らの縁者には妾が後で事の次第を報告しておくのでな」
それが今を生きる者たちにどれだけの癒やしを与えるかはわからな。
けれど、何も伝わらないよりは良いだろう。それがきっかけとなって、心癒され、立ち直る者だっているかもしれない。
そう思えば、アイラザードは慈しみを籠めて、集めた霊たちを見送る。
「安心して眠るがよい―――」
それを願わずにはいられないのだった―――。
大成功
🔵🔵🔵
ルムル・ベリアクス
アドリブ歓迎
よかった、彼が無事で……。青年が傷を負っているのであれば、手持ちの道具で手当てします。
彼を傷つけた男達、ですが……。人間である以上、命は保証します。でも、多少痛い目見てもらいますよ。再犯を防ぐためです。
命を粗末に扱った人は、悪魔の裁きを受けてもらいますよ?と、優しく声を掛けます。UCで召喚したコルヌダマエに取り憑かせ、全感覚を失わせます。コルヌダマエの姿だけでも彼らには十分恐怖でしょう。人間は、感覚の無い状態に置かれると十数分で精神に異常をきたし、幻覚を見るそうです。暫しの間、悪魔のおぞましい夢を見てもらいましょう。今まで苦しめてきた人の苦痛を体験させ、反省してもらいます。
結界の中で行なわれる悪夢を見せる猟兵のユーベルコード。
その効果が切れる頃、UDCへと変貌した青年を介抱していたルムル・ベリアクス(鳥仮面のタロティスト・f23552)は胸をなでおろす思いであった。
「よかった、彼が無事で……」
倒れ込んでいた青年を保護し、体に外傷がないかを一通り確かめていたのだ。すべての生命ある者を護る、そう決めた彼にとってUDCへと変貌した青年に怪我がなかったのは不幸中の幸いであった。
怪我をしていたらいけないと持ってきていた手持ちの道具も無駄になったようだが、こんな風に無駄になるのであればルムルは大歓迎であった。
結界術の中からなだれ込むように駆け出し、倒れ込む一般人の男たち。
彼等の顔は等しく青ざめており、結界の中で見せられていた悪夢がどれほどのものであったかを物語っていた。
「はぁ……! はぁ……! なんだよ、ありゃぁ! なあ、なんなんだよ!」
彼等が見ていたのは、彼等の犠牲者となった者たちの霊たちが見せる苦しみの怨嗟続く十月十日の悪夢。
「彼を期ずつつけた男達、ですが……」
ルムルにとって生命在る者はすべて護る対象である。
それが今回の事件の元凶たる要因であったとしても、変わることのない矜持と言っても良い。そこだけは彼にとって曲げてはならない信念でも合った。
だが、それでも多少痛い目は見てもらわなければならない。
「再犯を防ぐためです。心苦しいですが……生命を粗末に扱った人は悪魔の裁きを受けてもらいますよ?」
彼等の目の前に立つルムルは優しく微笑む。声色も優しく、彼の言葉は悪夢から覚めたばかりの彼等にとって天の恵みのごとき慈雨であったのかもしれない。
だが、現実はそう甘くはない。
「煙の悪魔よ、晴れぬ闇で惑わせよ……」
ルムルのユーベルコード、サモン・コルヌダマエが発動する。フォーチュンカードから呼び出されるのは黒煙に無数の目が浮かぶ悪魔。
その容貌を見て男達はか細い悲鳴を上げる。彼等にとって現れた悪魔は、言葉の通り超常の存在、悪魔なのである。
尻餅をついて後ずさろうとする彼等を応用にコルヌダエマ―――意志を持つ黒煙の悪魔はまとわりつき、彼等のすべての感覚を喪わさせる。
すべての感覚。そう、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚……真っ暗な暗闇に叩き落され、上も下もわからなくなるほどの目まぐるしい感覚。
これが先ほどまで見ていた悪魔によるものであるのだと、男達は理解すらできないだろう。
声を発しても、己の声すら聞こえることはない。
自身が言葉を発しているのか、そうでないのかもわからない。何も聞こえず、何も感じられない。
何も見えない。それが、どんなに恐ろしいことかをその心身に叩き込まれていく。
「人間は感覚のない状態に置かれると、数十分で精神に異常をきたし、幻覚を見るそうです……しばしの間、悪魔のおぞましい夢を見てもらいましょう」
ルムルの声色は相変わらず優しかった。
けれど、そこにあったのは命の保証をするだけで、それ以外のことは感知しないと言っているのと同じであった。
「今まで苦しめてきた人の苦痛……身を持って体験し、反省してもらいましょう」
わたしが与える罰はこれくらいに、とルムルはユーベルコードを解除する。黒煙が晴れ、男達の感覚が正常に戻ってくるようであったが、彼等は未だ覚めぬ悪夢に床の上でのたうつように体をビクつかせるだけだった。
幻覚を見る直前まで、とルムルは決めていたのだが、どうやらルムルが思う以上に彼等の精神性は脆弱であったのかもしれない。
「……反省しているかどうかは聞き出せそうにありませんが……まだ生命は在るようです。よかったですね?」
その言葉は優しくも残酷なるものであった。銀色のマスクの下にある赤い瞳は、彼等の反省を見届けるように行く末を暗示するかの如く、生気なく鈍く輝くのであった―――。
大成功
🔵🔵🔵
村崎・ゆかり
幸い、あたしたちは正義の味方じゃない。だから、あなたたちのような悪人を勝手に断罪する。
「降霊」太歳星君降臨。
大いなる災厄神、太歳星君に請い願い奉る。無道を為せし者共に、因果の返(かや)りをもたらさんことを。
あたしが呼び出す太歳星君の力は、道理をねじ曲げる「呪詛」。
これからあなたたちは、あらゆる事に失敗し続ける。敗者として、この先の人生を生きていくのよ。しかも、この呪いはあなたたちだけでは終わらない。七代先まで祟る。
子々孫々からも指弾されながら、負け犬人生を送るがいいわ。
もっとも、この呪いを背負って七代も系譜が続くかどうか。
呪いを解こうとするのは止めときなさい。呪詛返しに失敗して被害が出るだけ。
事務所ビルの床にのたうつように転げ回る一般人の男たち。
彼等こそが、UDCへと変貌した青年が心を壊すきっかけとなった者たちである。彼等の行いは到底、容認できるものではなかった。
しかし、彼等をこのまま返してしまえば、またどこかで青年と同じような犠牲者を出すことになるかもしれない。いや、絶対にやるであろうと思ったのは、村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)であった。
他の猟兵のユーベルコードにて、彼等は悪夢を立て続けに見せられていた。己たちを謗る亡霊たち、感覚を喪失させる悪魔。そのどれもが彼等の正気を石臼で削るようにして、傷を与えている。
「クソったれ……! なんで俺たちがこんな目に……! おい、あんたは俺たちを助けにきたんじゃないのかよ……!」
男の一人が未だそんな口が聞けるのかと関心するほどに吐き捨てる。ゆかりはそれを見て嘆息する。
「幸い、あたしは正義の味方じゃない。だから、あなたたちのような悪人を勝手に断罪する」
え、と男達がどよめく。
怪物から助けてくれたのは、そういうことではないのかと。だが、ゆかりの言葉は彼等にとって衝撃的な事実であった。正義の味方ではない。ゆかりが許せないと思ったから、断罪するのだと。
「地の底巡る大いなる厄災の神、太歳星君よ。我が願いに応え、怨敵を調伏せしめんがためこの地へと出でまし給え! 疾!」
ゆかりのユーベルコード、太歳星君降臨(タイサイセイクンコウリン)によって召喚される美髯を蓄え官服を纏い羽扇を持った太歳星君。
「大いなる災厄神、太歳星君に請い願い奉る。無道を為せし者共に、因果の返りをもたらさんことを」
ゆかりの言葉に頷きが返される。男性たちはこれから己たちの身に降り注ぐ痛みや苦しみに備え、構えるようにして顔や頭を庇うようにしてうずくまる。
だが、一向に何かが起こる気配はない。
なんだ、虚仮威しか……と顔を上げた瞬間、ゆかりの紫の瞳と視線がかち合う。
「あたしが呼び出す太歳星君の力は、道理を捻じ曲げる『呪詛』。これからあなたたちは、あらゆる事に失敗し続ける。敗者として、この先の人生を生きていくのよ」
にこりと微笑む姿は見目麗しい女性であったが、吐き捨てる言葉は唾棄する者へと向ける言葉だった。
彼女のユーベルコードに寄って一般人の男達に降りかかる災難とは、一時では終わらぬものであった。
あらゆることに失敗する。つまりはこれから行なわれる言い訳や弁明にすら失敗してしまうということだ。
「しかも、この呪いはあなたたちだけでは終わらない。七代先まで祟る。子々孫々からも指差されながら、負け犬人生を送るといいわ」
さらなる絶望的な言葉がゆかりから吐き捨てられる。
その呪いの効果である。己だけではすまさぬと明確な憤怒を以てゆかりは、彼等に対峙している。他人の苦しみに敏感ではないものは、生きる価値はないだと言わんばかりの呪詛。
「―――もっとも、この呪いを背負って七代も系譜が続くかどうか……」
それはもう誰の目にも結果は明らかだろうとゆかりは蔑む。どうか呪いをと縋ってくる男達の手を振り払い、ゆかりは事務所ビルを後にしようとする。
ああ、そうだ、とゆかりは思い出したように振り返っていう。
「呪いを解こうとするのは止めておきなさい。呪詛返しに失敗して被害が出るだけだから」
もう何もかもが手遅れなのだと告げて、ゆかりは静かに階段を降りていく。
嘆くような叫びが聞こえた気がしたが、それは果たして、ゆかりの言葉に対してだろうか。それとも、他の猟兵から与えられる制裁によるものか……。
ゆかりにとっては、どちらでもよかった。
もうあんな悪人たちに関わるのは御免だと、ビルを後にするのだった―――。
大成功
🔵🔵🔵
須藤・莉亜
「あー、結局血はお預けかぁ…。とりま、煙草で我慢っと…。」
てか、うるせェ。喚くな、クズども(毛先から徐々に髪が黒に染まっていき)…おっと、危ない(染まり掛けた髪の色が元に戻る)ルールは守らないとねぇ。
さて、どうしたもんか。適当に悪戯しとけばいいかな?殺しちゃダメみたいだしね。
呪具解放【血飲み子】のUCを発動。白啜に血を吸わせ、男たちの感覚を操作してもらう。
男達が最も恐れるモノを見せて聞かせて感じさせる事にしよう。
「白啜、壊しちゃダメだからね?いや、フリではなく。」
僕は一服してるから、終わったら呼んでー。
これからの己の人生を憂いて喚く男達が居る。
猟兵たちの制裁によって、人生の歯車が狂わされた男たちだ。悪夢、呪詛、どれだけのことをしたのか須藤・莉亜(メランコリッパー・f00277)にはあまり興味がなかった。
彼の興味は敵さん―――オブリビオンであるUDCの血の味が、今回あまり味わえなかったという事実にしか向いていなかった。
だから、彼等がどれだけ己たちの身に降り掛かった不遇を嘆こうともあまりにも興味がわかなかったのだ。
「あー、結局血はお預けかぁ……とりま、煙草で我慢っと……」
しようがないから、と煙草でどうにか気をなだめようと取り出したのだが、あまりにも男達の嘆く声がやかましく聞こえてしまい、ぴくりとこめかみが動く。
じわりと紫と黄色の髪が黒く染まっていく。
「てか、うるせェ。喚くな、クズども」
苛立ちが募る。こちらは血が飲めず、鬱憤が溜まっているのだ。吸血衝動を抑えに抑え続けた結果であるが、この元凶が喚く男達にあるのだと思えば、一瞬で理性が吹き飛びそうになる。
吸血衝動のままに振る舞ってしまいそうになる衝動を既のところで押さえつける。
「……おっと、危ない。ルールは守らないとねぇ……」
いけないいけない、と黒く染まりかけていた髪の色がもとに戻っていく。吸血衝動を抑え込んだのは良いが、どうしたものかと莉亜は首をひねる。
殺してはいけない。
それは最初から言われていたことだ。ならばどうするか。適当にいたずらでもしとけばいいかな?と彼は重たい腰を持ち上げる。
「白啜、壊しちゃダメだからね?」
ユーベルコード、呪具解放【血飲み子】(ジュグカイホウ・チノミゴ)によって開放されし、血飲み子から召喚された悪魔、白啜……白髪の女性悪魔が降り立つ。
こくりと頷くが、どうにも挙動が怪しい。
こちらの意図を理解しているようではあるが、あの目はどう考えてもこちらの言動が振りであると感じてるようであった。
「……いや、フリではなく」
首をかしげる白啜。やっぱり、と感じながらも再度言い聞かせるように、男達の感覚を操作し、男達が最も恐れるモノを見せて効かせて感じさせるようにと言う。
ゆっくりと白啜が手を持ち上げ、男達のこめかみに指を差し入れる。
ずぶり、と音がしたが実際に差し込まれているわけではなく、魂や感覚に直接干渉しているのだろう。
次々と上がる絶叫と悲鳴。
男達がどんなものを見せられているのか、まったく興味がわかない。
「僕は一服してるから、終わったら呼んでー」
そう言って莉亜は戦いの現場となった区画から出ていく。
手には煙草。あ、火どこだっけ? とポケットを探りながら彼は後にする。絶叫は遠く聞こえるばかりであるが、紫煙くゆらせれば、もうどうでもいいや、そんな風に感じながら、次なる敵さんへと思いを馳せるのだった―――。
大成功
🔵🔵🔵
テイラー・フィードラ
失われた命は帰ってこない。だが、まだ戻せるものはある。
故にこそ、宣告する。頭を垂らし首を差し出せとは言わん。今までお前らが悪行により得た富を全から一まで返してもらおうか。
そこで喚く賊徒共に質疑を答えるよう促す。内容?お前らが持つ全て富は何処にあるかだ。
話は全て聞いている。お前らが此処に居る青年に対して何を行ったか、過去に行った所業も全てだ。それを聞くに、コレが初犯でないだろうが。
答えられたならばUDC組織に依頼し文字通り全て取り返すよう依頼、助けた青年にも僅かながらだが戻せる物もあるはずだ。
だが、一つでも忘れ、間違えようものならばそれは真実に非ず。
眼開く事すら行えぬ苦痛を罰に、何度でも問おう。
頭がどうにかなってしまいそうな感覚であった。それは次々と襲い来る悪夢と感覚の喪失、さらに襲いかかる呪詛。
そして、再び目の前に現れる悪夢。
そのどれもが猟兵たちの制裁によるものであった。未だ肉体的にどうにかされるということはなかったが、UDCへと変貌した青年の心を弄び、壊した張本人たちである一般人の男達は、感覚をいじられ事務所ビルの一区画で悶え苦しんでいた。
それをテイラー・フィードラ(未だ戴冠されぬ者・f23928)は苛立たしげに見つめていた。
まだ終わらないのだろうかと。
彼の心は憤怒に彩られていた。殺してはならない。それはグリモア猟兵の言葉であったが、ある種慈悲でもあり、ある種残酷なるものでもあった。
だが、それだけのことをあの者たちはしたのだ。それがテイラーの心を散々にかき乱す。
「うぅ……どうして、こんな……おぇっ!」
びちゃびちゃと事務所ビルの床にぶちまけられる吐瀉物。
感覚をいじられてしまい、身体が耐えきれなかったのだろう。それを見てもテイラーの心は静まることはなかった。
「喪われた生命は帰ってこない。だが、まだ戻せるものはある」
その言葉は一見静けさを物語るような言葉であった。淡々とした言葉。それは王として、裁定者としての責務であった。
「ゆえにこそ、宣言する。頭を垂らし首を差し出せとは言わん。今までお前らが悪行により得た富を全から一まで返してもらおうか」
そんなことで、この絶え間ない拷問じみた制裁が終わるのであれば、と男達はテイラーの前に膝を折って、すがりつく。
ならば、よし、とテイラーは頷く。
「我が問に答えよ」
うなずいたテイラーから放たれた言葉はあまりにも重かった。強烈なる眼光は一切の不正を許さぬ鋭さがあった。
これは偽王判決(トイコタエラレルナラバ)である。
「お前らが持つすべての富は何処にあるかだ。話はすべて聞いている。お前らが此処に居る青年に対して何を行ったか、過去に行った所業もすべてだ。それを聞くに、コレが初犯ではないだろうが」
それはもうわかっていたことだ。
ある猟兵が降霊術に寄って呼び出した彼等の被害者の霊たちを見れば、わかりきっていた。
だが、それでも彼等は取り繕うことをやめない。
どうにか躱してやろうという魂胆が透けて見えた。だが、テイラーのユーベルコードは、それを許さない。
男達の身を撃つ電撃の如き痛み。
それはテイラーの質問に対する答えが真実ではないという証。
「言ったはずだ、全から一まですべてであると。何故隠し立てる」
それはもう疑問でもなかった。ただの確認であった。忘れているものがあるだろう、隠しているものがあるだろう。事実ではないことがあるだろう。その鋭き眼光の前に、ありとあらゆる企てが水泡に帰すると男達は漸く思い知ったのだ。
「眼開くことすら行えぬ苦痛を罰に、何度でも問おう。お前らの持つすべての富は何処にある。いいか。すべて、だ―――」
その質疑は、男達が思い出せぬほどに忘却の彼方まで追いやられた事実までをも暴き出す。すべてを、とテイラーは宣言した。
すべて、と。
それはせめてもの慰めである。
かの男たちに虐げられてきた人々の心を、縁者たちの心を慰める一端にしかならないだろう。けれど、テイラーはやらなければならないと思ったのだ。
誰もが自身の痛みには敏感であるが、他者の痛みには鈍感である。
だからこそ、王たるテイラーは他者の痛みに慮らなければならない。それが王たる資質であると彼自身が信じているからだ。
まだ、偽王判決は終わらない。
彼等の余罪すべてが詳らかになるまで―――。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
UDC組織の力も借り、秩序奉ずる騎士として司法の網の目が存外に粗くはないことを証明しなければ
UDC組織のデータベースから●世界知識として入手した司法知識
(1章で)確保した悪行に纏わる情報
これらを高速で解析
罪状を余すところなく立件に至るまで情報整理
不正手段で得た証拠は司法の場では証拠足り得ず
入手経路偽装や現地組織への誘導の方法も立案
組織の手を借りるのも手か…
……結局、私も無法の手段に頼るということは変わらず、ですか
過去の被害者達への保証や救済の手段も立案しなければ
正道を外れたからには、それに見合った成果か責任が必要です
電子の海は不得手ではありませんが…長い戦いになりそうですね
猟兵たちによる制裁は多岐にわたる。
それもそのはずである。数ある世界の中から猟兵達はそれぞれ選ばれる。世界は一つではなく、多種多様に存在しているのだから、当然といえば当然であった。
悪夢、感覚喪失、呪詛、尋問……未だ彼等の肉体にダメージを与えるような制裁は加えられていない。
だが、すでに彼等の心は心身共に弱りきっているのは明白であった。
そう、心の器である肉体。肉体が傷つかぬ限り、その器の中身たる精神は溢れていくことはない。だが、精神から来る影響は肉体に変化をもたらす。
もうすっかり逃げ出すこともしようとはせず、元凶たる男達は諦めきった、憔悴した姿で事務所ビルの一角に居た。
それでも彼等は再起を狙っている。
それだけ虎視眈々と誰かの善意の取り零しを狙っているのだ。だからこその悪意ある者たちと言えよう。
トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)にとって、それは看破していたものであった。だからこそ、彼は事務所ビルへと突入していく際に事務所の中にあるデータ機器からすべてのデータを吸い出していたのだ。
「ふむ……UDC組織の力も借りることとなりますが……秩序奉ずる騎士っとして司法の網の目が存外に粗くないことを証明しなければ」
天網恢恢疎にして漏らさず。
その言葉を実践しなければならない。それこそが、彼が騎士たる者であるという矜持なのだから。
ウォーマシンたる彼の電脳に収められたUDCアースの世界知識から、司法知識と入手したデータを照らし合わせていく。
高速で解析し、罪状を余すこと無く立件に至るまで情報を整理していく。
「不正手段で得た証拠は司法の場では証拠足り得ず……入手経路の偽装や言質組織への誘導の方法も立案……組織の手を借りるのも手か……」
様々な手段、方策が電脳から打ち出されていく。
ありとあらゆる手段を講じて、男達の罪状を立件していかなければならないのだから、なりふりかまっては居られない。
そこまで電脳がはじき出して、トリテレイアは息を吐き出すように肩を竦める。アイセンサーが弱々しくも明滅する。
「……結局、私も無法の手段に頼るということは変わらず、ですか」
今回の青年の分だけではない。過去、かの男達に虐げられた者たちのものまで含めて立件していかなければならないのだ。
保証、救済……自身がすでに決めたことは実行しなければならない。どんな手段を用いたとしても、彼等の今後のために出来うる限りをしなければ。
それこそが騎士たる己の矜持にそぐうものだ。
「正道を外れたからには、それに見合った成果か責任が必要です……電子の海は不得手ではありませんが……これは、長い戦いになりそうですね」
結局の所、トリテレイアが危惧するようなことにはならなかった。
猟兵の一人が行った尋問によって、所得している財産や余罪はすべて暴き出されていく。それとトリテレイアの習得したデータが役立ち、思った以上の速度で持って過去の被害者や青年への保証や救済が為されていく。
それはある意味でトリテレイアにとって喜ばしいこであった。だが、素直に喜ばしいと思えるほどではない。
なぜなら、すでに彼等の犠牲者の多くは亡くなっているし、残された家族や縁者たちの心が慰められることはあっても、贖われることはない。
自身が機械の身体であっても、ひしひしと感じる電脳へのストレス。いつの日にか、彼等の心が真に救われる日を思うしかない。
その歯がゆさを感じながら、トリテレイアは、本当の意味での長き戦いが始まったばかりなのだと感じるばかりであった―――。
大成功
🔵🔵🔵
数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】
お前さん方、頭悪いんだねぇ?
アタシがさっき言ったのも忘れてるなんてな。
……言ったろうが、「次はテメェらだ」。
けどなぁ、アタシだって人の子だ。
さっき彼に啖呵を切った手前もある。
だから。
法律的に真っ当に、搾り上げてやるよ。
人の世のチカラしか使わねぇんだ、感謝しろよ?
まずは全部書類関係を持ってきな。
持ってこれなきゃそれだけで債権が消えちまうよ?
そうそう、それでいい。
しっかしこの書類も杜撰だねェ、コイツは無効だ。
これも、これもだね。
……ああ、何か言いたそうだね。
問われたら全部不備事項をことごとく説明しようじゃないのさ。
ぐうの音も言わさずに、逆に財産を全部巻き上げてやる!
ああ、と思ったのが正直な感想であったかも知れない。
猟兵達による度重なる制裁は、ようやくにして元凶たる男達の意識に罪の意識を植え付けることができるようなレベルにまで至ったのかも知れないと数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)は思ったのだ。
悪夢、感覚喪失、尋問や過去の余罪を暴き立てるなど……猟兵達による行動は迅速そのものであった。
最初の頃は彼等もどうにか取り繕うと、お目溢しがあるのではないかと期待していたのだろう。
結果は、ご覧のとおりである。
「お前さん方、頭悪いんだねぇ?アタシがさっき言ったのも忘れてるなんてな」
ふぅ、と吐息を漏らす。嘆息した、といってもいいだろう。
UDCを打倒した後、彼女は確かに言ったのだ。
「……言ったろうが、『次はテメェらだ』って……けどなぁ、アタシだって人の子だ。さっき彼に啖呵を切った手前もある」
だから、と多喜は笑う。笑わなければならない。憎しみだけがすべてを解決するなんてあるわけがない。
それを取り除かなければ、己の言葉を正しいと胸を張れなくなる。
「法律的にまっとうに、搾り上げてやるよ。人の世のチカラしか使わねェんだ、感謝しろよ?」
すでに尋問は始まっていたし、ありとあらゆる方面から情報も集められていた。
だが、それでも多喜は彼等自身の手で始末をつけさせることを望んだ。己たちのやったことを自覚させなければならない。
もしかしたら、とっくに自覚した上で開き直っていたのかも知れない。
けれど、それでも。多喜はどこか期待していたのかも知れない。彼等にも良心の呵責が存在していたのではないかと。
「まずは全部書類関係持ってきな。持ってこれなきゃ、それだけで債権が消えちまうよ?そうそう、それでいい」
彼等は多喜に言われるままに事務所中から、もたつくようにしながら関係書類を持ち出してくる。それは本来必要のないことでは合ったが、それをさせることに意味を見出すこともできる。
「しっかし、この書類も杜撰だねェ、コイツは向こうだ。これも、これもだね……ああ、何か言いたそうだね?」
言い訳が飛び出してくる。
ああ、とまた多喜は思う。失望する。あれだけの制裁を受けてなお、保身に走るだけの悪意はあるのだと。だからこそ、多喜は徹底することにしたのだ。
罪暴く言の葉(ディテクティブ・ロイヤー)が容赦なく彼等の弁明を切り裂く舌戦となって飛び出す。
ぐうの音も言わさずに、逆に財産の全てを巻き上げてやらんとする勢いで多喜は次々と彼等の言い分を切って捨てていく。
「―――まっとうに絞り上げるって言っただろう? また忘れちまったのかい? やるなら徹底的に。それがアタシのやり方だからさ」
そう言って、彼女の制裁は続く。
彼等は今後ありとあらゆる面に置いて、他の猟兵達から加えられた制裁と相まって、身の破滅を体現していくだろう。
だが、忘れてはならない。
彼等のやったことはすべて因果応報である。彼等の人生が今まで明るいものであったというのならば、これはその代価である。
山があったのだから、谷もまた存在する。頂きに上り詰めたと思った瞬間から、衰退がある。当然のことだ。
それが他の誰かの痛みの上に成り立ったものであるのなら、なおさら。多喜は容赦しない。誰かを傷つけて平気な顔をして胡座をかく者たちを―――。
大成功
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カシム・ディーン
ああ
殺しさえしなければいいんですよね?
拷問は他の奴らに任せますか
お前ら若しかして勘違いしてません?
僕らの目標はそいつじゃないんですよ
本当の標的は…お前らですよ
前日?後日?
【情報収集】で全員の素性を確認
更にクレジットや通帳とも把握し全額強奪(半分は青年に進呈
【属性攻撃】で幻属性を己に付与して彼らに【変装】
彼ら名義で闇金融(金利トゴ以上)に借りれるだけ借
その事実を伝
借りた物は返さなければいけない
お前らの言葉ですよね
あ
当然彼に対する今迄の不当な借金の返還と慰謝料も月一人10万ずつ払って頂きます
そうですね…45年奉仕ですね(笑顔
逃げたいならどうぞ?
人間が食われるゲームも面白いですよね?(後ろに竜達
心神喪失というのは、こういうことを言うのかも知れない。
事件の元凶となった男達が失ったものは多すぎるように思われたかも知れない。財産はすべて剥奪され、余罪は立件され、挽回の目は尽くが潰されてきた。
猟兵達による制裁は、猟兵に寄っては温情のあるものもあったのかもしれない。いや、温情があった、と思わせるほどに苛烈な者が多かったのだろう。
肉体的にダメージを与える者はいなかった。
それは甘さではない。カシム・ディーン(小さな竜眼・f12217)にとっても、それは当然事であった。
「ああ、殺しさえしなければいいんですよね?」
それは確認というよりも、今から己が行おうとしている制裁へのお膳立てであったのかもしれない。精神的にも、肉体的にも、拷問の類は他の連中に任せようと彼は思ったのだ。
そういうのは、自分の仕事ではないと。自分がやらなければならなことはまだまだ沢山あるのだ。
「お前らもしかして、勘違いしてません? 僕らの標的はそいつじゃないんですよ。本当の標的は……お前らですよ?」
彼の言葉は、UDCを打倒した後、駆け寄ってきた元凶たる男達に投げかけられた言葉だった。カシムにとってUDCを打倒することは副次的なものに過ぎない。いや、本来の目的であったことは間違いない。
だが、やらなければならないことは、別にあるのだ。
カシムはすでにかの男たちの素性を確認しきっていた。年齢、出身、生活態度や、サイクル。そのすべてを。
そこには当然クレジットや通帳など口座すべてを抑えることも含まれていた。
全額を引き落とし強奪した後、自身は彼等の姿に変装し、彼等の名義で闇金融に借りられるだけの借金をこさえたのだ。
「借りたものは返さなければいけない。お前らの言葉ですよね?」
再びカシムが彼らの目の前に現れた時、彼等の顔は引きつっていた。
彼等がこれから行なわなければならないのは、過去の罪状や余罪を追求されることであり、それに加算されるように借金の返済までついてきたのだから。
だが、それでも終わらせることはないのだとカシムは笑う。
「あ、当然彼に対する今までの不当な借金の返還と慰謝料も勿論払っていただきます……そうですね……45年奉仕ですね」
それくらいが打倒であろうとカシムは笑顔を作る。
憤怒の表情よりも、こちらの表情のほうが彼等の絶望を煽ることができるだろうと考えたのだ。
目論見通り、彼等の顔が絶望に染まっていくのを感じながらカシムはさらに付け加える。逃げ道を塞ぐと言っても良い。
「逃げたいならどうぞ?」
それは唯一の温情のように思えた。
だが、次の瞬間、儚くもその温情は打ち砕かれる。希望を見出した者にこそ絶望は強力な棘となって突き刺さる。
「人間が食われるゲームも面白いですよね?」
背後に控える竜達が、逃げた先の運命を物語っていた。彼等にもう逃げ道はない。誰かを傷つけた代償は必ず払わせる。
カシムにとって、それは当然の摂理である。
少しの容赦もいらない。温情も、何もかも。彼等が出来る贖罪はこれくらいしかないのだと、カシムは笑顔のまま告げるのであった―――。
大成功
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荒覇・蛟鬼
さあさあ、世界を救う重大事業の始まりですぞ。
あなたの罪状から最も適当な罰はですね(黒本開き)
これですな、『籠戻りの刑』行きますか。
■行
【POW】
先ずは【嘗女の惑乱】を用います。人差し指で相手の
頭をツンとつき、『おぞましい存在に立ち直れない
程の【恐怖を与えられた】』と情報を流しましょう。
この刑の特徴はですね……
こ受けた者は恐怖を受けた負担が原因で記憶を
無くし、心は赤ん坊に戻ってしまうのでございます。
仮に記憶が戻っても恐怖を受けた記憶が甦り……
二度と己を取り戻せないのですよ。
時間があるなら、彼等の部下にも執行し、仕上げに
110へ連絡し『保護』を申し出れば終わりですな。
※アドリブ歓迎・不採用可
「さあさあ、世界を救う重大事業の始まりですぞ」
それは芝居がかったような口調で始まった言葉であった。まるで現実感がないと、荒覇・蛟鬼(鬼竜・f28005)の前に引っ立てられた男達―――UDCへと変貌した青年の心を壊すほどにいたぶった者たちは思ったかも知れない。
事実そうであったであろう。
彼等にとって、猟兵の存在は超常の存在そのものであった。そうでなければ、あんな不可思議な力が振るえるはずがないのだから。
そんな彼等の心情を知ってか知らずか、蛟鬼は手にした黒き台帳をぱらぱらとめくっていく。
それは品定めをするようでもあり、ただの作業でもあった。
「あなたの罪状から最も適当な罰はですね……コレですな、『籠戻りの刑』行きますか」
それはちょっとそこらまで、と気安いノリで告げられた言葉であった。彼にとって、これは作業であり務めであり、日常茶飯事たることであった。
人差し指が男達の額を軽く小突く。
ユーベルコード、嘗女の惑乱(ナメオンナノワクラン)。それはあらゆる知覚に様々な誤情報を流す一手。
次の瞬間、彼等の瞳の焦点が縦横無尽に暴れまわるように上下左右に慌ただしくブレ始める。それはまるでおぞましい存在を前にした人間の行動であった。
今、彼等の視覚にはおぞましい何かが存在しており、その存在が彼等の心に消えぬ恐怖を刻み込んでいた。
どんな光景を彼等が見ているのかはわからない。窺い知ることができるのは、彼等が次々と失禁し、事務所の床に盛大なる染みを作ってしまったことぐらいであろう。
それだけ恐ろしい光景が広がっているのだ。
そんな彼等を見て、うんうんと頷く蛟鬼。これもまたよく見た光景である。珍しいものではない。彼の経験上、そうなるであろうということは容易にわかるのだ。
だからこそ、彼は言葉を紡ぐ。聞いているか居ないかわからないが、刑を執行する以上、伝えるべきことは伝えようとしているのだろう。
「この刑の特徴はですね……これを受けた者は恐怖を受けた負担が原因で記憶を無くし、心は赤ん坊に戻ってしまうのでございます。仮に記憶が戻っても、恐怖を受けた記憶が蘇り……二度と己を取り戻せないのですよ」
その言葉はすべてが事実であったことだろう。
今後の彼等の人生がどんなものになるかわからない。けれど、たった一つ言えることがる。彼等は他者を貶めた。
その咎により、先の見えぬ暗闇の中に投ぜられたのだ。
「ふむ……やりすぎ、とまた言われそうですが、仕方のないことですな。まあ、この世界で言う110番へ連絡し『保護』を申し出ることくらいはしておきましょう」
次々と今回の事件の元凶たる男達は、恐怖の記憶を植え付けられていく。
何度も何度も苛むように繰り返される悪夢。
悪意あるものは、必ず鏡合わせのような悪意によって滅ぼされる。それがどんな存在であったとしても、必ず罰は受けなければならない。
それを体現する蛟鬼は軽く伸びをして、その場を後にする。
これですべての咎は贖われたのかと問われれば、彼はなんと応えるだろうか。その答えは未だない。
幸いであるとするのならば、どちらにせよ、彼等にはもう二度と同じ悪事は繰り返すことはできない。それだけは確かであった―――。
大成功
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