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グランディディエライトの泪

#グリードオーシャン

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#グリードオーシャン


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●悲劇
 赤に黄に、紫に黒。緑、金、透明、それに青。
 無数の煌めきが散りばめられた砂浜に、苔むした巨体が横たわる。
 「今だ!」と誰かが叫んだ。同時に、「駄目だ!!」という怒号も聞こえる。
 ――駄目だ、駄目だ。絶対にマムだけには仕留めさせるな!
 徐々に血腥さを増してゆく砂浜を、青い髪を靡かせる女が、巨大な銛を手に颯爽と走っていた。
 ――マム!
 足元が砂であることをものともしない女の跳躍に、一人の若い男が縋りつく。
 ――せめて、俺が!
 ――それもあの娘にとっては、哀れだろうよ。
 二人が言い合う。
 そこへ横たわっていた巨体が圧し掛かった。

●千玉島の『今』
 その島は、サムライエンパイアから落ちてきたらしい。
 だが名残は島の奥に幾つかの社が残るくらい――いや、最たる名残は名前だろう。
 不思議と、その島の浜には石が流れ着く。正しくは、「石」ではない。所謂「宝石」に類する原石だ。
 覚醒者以外は航海を行わぬ荒れ狂う海を渡った宝石たちは、形も大きさも種類も様々だ。しかし時に生活用具にも、資金源にもなる石たちは、島にとって大事な宝。玉と称され島民たちに大事にされる。
 故に、島の名前は『千玉島』。幾千もの玉が流れ着く島。起源の文化を響きに残す島。
 そして今回、千玉島で起きた悲劇は、「海賊の掟」の端を発する。
 「メガリスの試練」で死者が出たのだ。そして「死者」は「コンキスタドール」になってしまった。
 身内の恥は身内で雪ぐ。掟に則り、千玉島を統べる海賊たちは、このコンキスタドール討伐に繰り出す。
 幸い、死者はひとり。つまり、コンキスタドールは一体。対する海賊たちは百近く。圧倒的な数の優位もあり、問題なく処せるはずだった。
 ――しかし。
「このごろね、コンキスタドールがね、強くなってきているんですって。そしてね、仲間をたーくさん呼んで、海賊さんたちを負かしちゃうの」
 悲劇を予知したウトラ・ブルーメトレネ(銀眸竜・f14228)は、むーんと皺を寄せた眉間を指先でつついて口を尖らせる。
 なんでも、捕まった十数人の海賊たちが水際に掘られた穴に閉じ込められ、溺死寸前なのだとか。しかも捕まった海賊の中に頭領である『マム・グランディディ』がいるらしく、コンキスタドールの魔の手から逃れた海賊たちも、うかつに手が出せない。
「真っ青な髪のひとが、『まむ』だと思うの。とってもつよそうなひと。どうして、つかまってしまったのかな?」
 尖らせていた口を今度はへの字に曲げたウトラは、そこで我に返った。
「ううん。わからないことを、ここで考えていてもしかたないの。大事なのは、いそがなきゃってこと!」
 ぎゅっと両手を強く握り込んだウトラは、ぴしりと背筋を伸ばして猟兵たちに向き直る。
「おねがい。みんなを助けてあげて」


七凪臣
 お世話になります、七凪です。
 絆の物語をひとつお届けに参上しました。

●シナリオ傾向
 ぷち謎解き&心情系。

●シナリオの流れ
 【第一章】集団戦。
 …囚われた海賊たちを救い出しつつ、情報収集。詳細は導入部を追記します。
 【第二章】ボス戦。
 …詳細は導入部を追記します。
 【第三章】日常。
 …千宝島の浜辺で宝石拾い。夏の想い出を小瓶に詰めて持ち帰ることが出来ます。詳細は導入部を追記します。

●その他
 各章、導入部を追記後にプレイング受付期間等のお報せをシナリオページ内に記載します。
 またシナリオ運営状況に関してはマスターページの【運営中シナリオ】にて随時お知らせ致します。
 三章のみ、お声がけ頂けましたらウトラがご一緒させて頂きます。

 皆様のご参加、心よりお待ちしております。
 宜しくお願い申し上げます。
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第1章 集団戦 『グリードミミック』

POW   :    メガリス・ランページ
【纏ったメガリス全て】を巨大化し、自身からレベルm半径内の敵全員を攻撃する。敵味方の区別をしないなら3回攻撃できる。
SPD   :    強欲の罠
【触手や巨大な口から敵を取り込み】【武器や装飾を奪って】【装備すること】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
WIZ   :    ホシイ!ヨコセ!
レベル×1tまでの対象の【武器や装飾品】を掴んで持ち上げる。振り回しや周囲の地面への叩きつけも可能。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●キィキィ鳴く怪物と海賊たち
 波打ち際に掘られたにしては、随分と大きな穴だ。深さは5メートルはあるかもしれない。
 物理的に掘っただけではなく、コンキスタドールとしての力で強化してあるのだろう。僅かも崩れることなく、押し寄せる波を吸い込んでいる。
 そして穴の底では、十数人の海賊が届かぬ空を見上げていた。
 縄で縛り上げられた彼ら彼女らに身の自由はない。軽くない怪我を負った者も多い。
「コンキスタドールのやつら、襲撃の気配を察すると、穴の中の仲間を攻撃しようとするんです」
 駆け付けた猟兵たちに凡その状況を語って聞かす老齢の海賊の顔は渋い。自分たちの手で掟を果たせぬどころか、他者の手を借りねばならないことが口惜しいのだろう。
 本来なら、返り討ち覚悟で自分たちだけの手で全てを決したいはずだ。
 そうしないのは、千玉島の海賊団の頭領――マム・グランディディが義理堅く、情に厚い人間だからだ。
 四十台も半ばのマムは、海賊たちのみならず、全ての島民に愛されている。そのマムがコンキスタドールに囚われる間際に『皆、生きろ』と命じたのだ。
 マムの言葉には逆らえない。だがマムを見捨てたくない。
「マムは他の連中が全員助け出されるまでは、穴から出ることはないでしょう。皆を逃がす間に自分が嬲り殺されると分かっていても」
 義理や優しさばかりで海賊の頭領は務まるまい。本来なら、より多くを生かす為に自らが助かることを良しと出来る人だと、難を逃れた海賊は言う。
 つまり今の彼女がそうしないことには理由がある筈だ。しかし真相に迫ろうとすると、物陰に潜む海賊たちは決まって口を真一文字に引き結ぶ。
 理由は分かっているが、語りたくないのだ。おそらくそれが、他の誰でもないマムの誇りを貶めると思っているから。
 そこにはきっと、誰がコンキスタドールになってしまったのかが関わる。
 ――いったい誰が、メガリスの試練で死んだのか。
 誰かが分かり、「それ」との戦いに海賊たちが加勢してくれたなら、事は有利に運ぶはずなのに。
 知るには、囚われた仲間を全て助けて信用を勝ち取るのが手っ取り早い。
 キキ、キキ、キキキ、――キィ。
 耳障りな声を上げて、穴の周囲を徘徊しているのは宝箱の怪物だ。見た目通り、金目のもので気を引ける可能性は高い。知能はさほど高くなさそうだから、数体をまとめて引き付けることもできるだろう。
 仲間を案じる海賊を伴うことも出来る。老若男女それぞれだが、上手くフォローをすれば雑魚を蹴散らす足手纏いにはなるまい。その最中に、何かを聞き出すことは不可能ではなさそうだ。聞き出す、といえば。救出対象からも話は聞けなくもあるまい。
 どう立ち回るのが上策か。
 どんな人物を伴い、或いは救出優先するかも肝になる。

 潮は間もなく満ち、穴は海と一体化する。
 そうなる前に、意を決さねば。
 
 
【事務連絡】
 当シナリオは、1章、2章は少数進行。3章のみの参加も歓迎する方針です。
 執筆・リプレイを公開する予定の日は、当日朝までにその旨をマスターページの【運営中シナリオ】欄で随時公開します。
 公開されたリプレイにある情報を元にプレイングをかけて頂くことも可能ですので、どのタイミングでプレイングを送信するかの参考になさって下さい。
 ※一章は、第一陣リプレイ公開前にプレイング受付を締め切ることはありません。
 第一章・第二章は、プレイングの再送を此方からお願いすることはありませんが、システム的に送信可能な間は幾度でも送信して頂いて構いません(都度、プレイング内容を変えるのも可です)。
 ただし、シナリオ進行具合によっては、比較的早期にプレイング受付が終了することもありえます。予めご了承下さい。

 ・第一章プレイング受付期間
  この文章が公開された時点より~(締切未定)
 ・採用人数
  成功度達成人数+α
  (+αがないおそれがありますので、不採用を容認できない方へは参加をお勧めしません)
 ・他
  第一章はソロ参加推奨です
ジャック・スペード


真実を明らかにすることが
マムへの背信に成ると想うなら
選択の訳を無理には聴かない

だが、――仲間を助けたくは無いか
囚われて居る者がまだ居るんだろう?
余所者に全てを頼るほど
海賊の誇りは安く無い筈だ

立ち向かう勇気が有る者は
共に仲間を助けに行こう
アンタたちのことは俺が必ず守る

機翼を展開し宙を飛び、海賊を伴い洞窟へ
彼らや救出対象に攻撃が向けば
奉仕のこころで此の身を盾にして庇う

光の粒子で敵の気を引きつつ
掴まらないよう翼を活かし空中移動しながら
マヒの弾丸を乱れ撃ち彼らの援護を
溺れそうな海賊は、怪力で引き上げ連れ出そう

真実を話す相手は俺じゃなくていい
ただ、俺達「猟兵」のことを信用してくれるなら
――それで十分だ



●無償
「仲間を助けたくは無いか」
 緊張感が落とした沈黙を、無機の掛け合わせである合成音が破る。
「囚われて居る者が、まだ居るんだろう?」
 まるで潜む物陰そのものが走り出したようだ。陽に照らされた砂浜に駆け出す漆黒に、足踏んでいた海賊たちが目を瞠る。
 影と見間違えた漆黒は、鋼の男(ヒト)だ。
 ――来い。
 蠢く怪物の群れに突っ込む男の背に、海賊たちは熱ある魂の声を聴く。
 ――共に、征こう。
 立ち向かう勇気を試されている。それでいながら、必ず守ると言っている。
「うおおおおお」
「マム、今いく!!」
 血気盛んな年頃なのか、若い男ふたりが鋼の男を追って茂みから飛び出すと、ひとり、ふたりと続く数が増えた。
(「そうだ、それでいい」)
 視覚ではなくセンサーで海賊たちの動向を把握する鋼の人――ジャック・スペード(J♠️・f16475)は、機翼を展開すると宙を翔って加速する。
 余所者に全てを頼るほど、海賊の誇りは安く無い筈だ。
 同時に、ジャックは義理堅い海賊たちに見返りを要求する男ではない。
「あの風すら越えてみせよう」
 水際に掘られた穴へと群がる怪物たち目掛けて飛ぶジャックの軌跡に、細かい光の粒子が煌めく。
「――キキ?」
「キキキキキ!」
 目新しい輝きを、新たな宝と勘違いしたのか。欲深い怪物たちの意識が、虜囚から逸れる。そこへ若い海賊の鉈が迫った。
「くたばりやがれ、この化け物が!」
 腕に相応の自信はあるのだろう――だからこそ真っ先にジャックの後を追えたのだ――海賊の一撃に、雑魚でしかないグリードミミックの目玉に似た器官がぐしゃりと潰れる。
 仕留めきったわけではない証に、怪物の四肢はまだ蠢いていた。が、そこへ他の青年たちが一気呵成に攻めかかる。
「その意気だ」
 夢中になるあまり、意識が敵一体にのみ注がれている海賊たちの周囲を空から守りながら、ジャックは若者らの士気を煽った。
 自分たちに出来ることがあると、未だ動きあぐねている者たちも、仲間の勇気に感化されるに違いない。それは海賊たちの――延いては、『マム』の誇りを守ることにも繋がる。
(「真実を離す相手は俺じゃなくていい」)
 的確に麻痺弾を撃ち込むジャックに、裏は無い。
 ジャックはヒーロー。奉仕のこころで正義を成す者。
(「ただ、俺達『猟兵』のことを信用してくれるなら――それで十分だ」)

 無償の献身は、時に何よりも深く大きく人心を動かす。

大成功 🔵​🔵​🔵​

キアラ・ドルチェ
一緒に行くのは若い力自慢の海賊さん
「マムはとても強くて、貴方達にとって大切な方なのですよね」と道中雑談
「そんな方が簡単に捕まる理由が分かりません。敵が倒すのを躊躇う相手なのでは?」とカマかけ
私もお手伝いする以上、本当の事を知る権利があると思います
それが仁義というものでは? と少し強弁 

現場では召喚した子犬たちに、拾った宝石を一つずつ持たせて穴とは逆方向に走らせ怪物たちを穴から遠ざけようとします
海賊さんには穴にロープを垂らして貰い、一人ずつ救出
私は穴の下に降り縄をナイフで切って回り、海賊さんに一人ずつ引っ張り上げて貰います

万一ミミックが引き返して来たら子犬たちを再召喚
海賊さん達を守るよう布陣


アルバ・アルフライラ
やれ、随分と狡猾な怪物共よ
…案ずるな、海賊共――彼奴等の敬愛する『マム』を
救い出す為の助力は惜しまぬ

怪我人を連れ出すならば相応の力が欲しい
…もし、其処な御仁
呼び止めたのは屈強な男海賊
連れ出せる者が多ければ多い方が良い
コミュ力で会話を重ねては
うっかり情報を零すのを待つ
何、些細な情報でも構わんさ
如何なる情報であっても
集まる程、真相に近付くものだ

――さて
金目の物に目がないとあらば、此方に考えがある
我が蒐集品の数々、煌びやかな宝石を放る
彼奴等がそれを取り込めば…準備は完了だ
【妖精の戯れ】で纏めて吹き飛ばしてくれよう
その後は消耗している者を最優先で救出へ
それでは…仲間の救出と参りましょう

*敵以外には敬語



●飴と鞭
 ――佳い動きだ。
 先陣を切った鋼の猟兵の動きを星の眸で追ったアルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)は、腰に携えた革袋の中を無造作にまさぐった。
(「やれ、随分と狡猾な怪物共よ」)
 虜囚を糧に反撃の手を封じるとは、どこが頭か分からぬ形の怪物のくせに、悪知恵はそこそこ回るらしい。
(「金目の物に目がない、か」)
 きらきらしい輝きに我先にととびつくグリードミミックらの浅ましさに、アルバはにんまりと口の端を吊り上げる。
 適当に知恵があり、貪欲なまでに浅ましい。アルバにとっては、得意な手合いだ。
 革袋の内のアルバの指先には、ひんやりとした硬質なものが触れていた。
 本来なら、下衆な小悪党になぞ呉れてやるには惜しい品々だ。
(「……案ずるな、海賊共――彼奴等の敬愛する『マム』を救い出す為の助力は惜しまぬ」)
「さあ、好きなだけ持ってゆけ!」
「キキ!?」
「キキ、キキキキ!!!」
「キィ、キィ」
 白い砂浜目掛けアルバが放った煌びやかな宝石の数々に、宝箱の怪物たちは、文字通り、目の色を変えて群がった。

「ネミの森の子犬たちに誘われたのよ楽しいパーティ♪ さあ、みんなで歌って踊りましょうっ、イッツショウタイム!」
 白に緑に、そして青。若い木々が萌える森を思わす色合いのスカートの裾をひらりと翻し、キアラ・ドルチェ(ネミの白魔女・f11090)はドルイドの杖を掲げて踊るように唱えた。
 するとふかふかでもふもふ姿――おおよそ、世に浸透した小狡いイメージとはかけはなれた――のコボルト達が、わらわらと千玉島の海岸を走り出す。
 しかもただ走っているのではない。銘々が砂浜に散らばっている宝石を抱え、海賊たちを捕える穴へ背を向け駆けずっているのだ。
 ――宝が持ち去られてしまう。
「キキ!!」
「キキ、キィ、キィ!」
 欲に塗れた焦燥にかられたグリードミミックが、一体、二体、三体、四体と、本来の役目を忘れてコボルト達を追いかけまわしはじめる。
 その隙に、キアラは手薄になった穴を目指した。
「どなたか、力自慢の方! ついてきてくださいっ」
 一度だけ振り返って声を放ると、はっと弾かれたように体格の良い若い海賊がついて来る。
 ゆっくりと会話をする時間がないのが口惜しいくらい、目的地までは瞬く間だ。
「これ、持っていてください」
「お前はどうする?」
「私は、こうします!」
 持参していたロープの端を海賊へ持たせ、キアラは穴の縁から穴の底を目指して砂地を蹴った。
 相応に高さがあるのはキアラも理解していた。だがゆっくり伝い降りるより、落下する方が早いし、何より穴には既に海水が入り始めている。つまり、衝撃は水が殺してくれる。
「お前、なにもんだ!?」
 唐突に降ってきた少女に、声を発する余力のある海賊が唸りをあげた。手負いの獣の威圧だ。けれどキアラは少しも怯まず、「助けに来ました」と朗らかに笑むと、彼を縛る縄をナイフで切り解く。
「――お前、」
「大丈夫、皆さんを自由にするだけです」
 海水と砂に足を取られながら、キアラは縄を切って回る。自分で動けそうな者もいる、既に息が細い者もいた。
 怪我が重い海賊は、キアラが垂らしたロープを自力で登ることは出来なそうだ。ならば身体にロープを固定して引っ張り上げてもらうに限る。その為に、上に力自慢を待機させているのだ。

 キアラを追う形になったアルバは、穴の底へ消えた少女の思惑を推し量る。
 思惑は同じだろう。声をかけた海賊も似たり寄ったりだ。
「ルッカさん、デゾルデさん。右に二体、お気を付けください」
 体格に恵まれた壮年の男海賊へ促したアルバが注意は、コボルトとひと悶着を繰り広げているグリードミミックの位置と数だ。
「おうよ」
「アンタこそ、スッ転ばないよう気をつけな」
 寄越された気持ちの良い返事に、アルバは内心で一先ずの納得を頷く。
 アルバの助力を請う丁寧な申し出に応えてくれたのは、二人の男たちだった。装い用の白粉を持参していれば、もう二人くらいは加勢してくれそうな気配はあったが、ないもの強請りにかける時間も今は惜しい。
 それにあっけらかんと名を明かしてくれる二人がついてきてくれただけで、結果的には上々だ。
 ――と、その時。
 穴の縁に立ち、ロープを引き上げようとしている若者に、コンキスタドールが襲い掛かろうとしているのが見えた。
「「レンティ!!」」
 ルッカとデゾルデの咆哮に、アルバはもう一人の海賊の名を知る。
「大丈夫ですよ、レンティさんもお守り致しましょう」
 ロープを手放せないせいで無防備になっているレンティに牙を剝こうとしている怪物は、都合がよいことに先ほどアルバが撒いた餌に食いついた個体だ。
(「宝には満足したか。であろうよ、お前如きには過ぎた宝であったからな」)
 ――さあ、覚醒の時ぞ。
 アルバの涼やかな一声に、レンティまであと一歩というところまで迫っていたグリードミミックが爆ぜた。
 否、一体だけではない。体内にアルバの撒き餌を孕んだ怪物が、次から次へと爆ぜて逝く。

 重傷者を運ぶには、倍の人数が必要になる。騒乱の最中であれば、尚の事。
「マルダ、しっかりしろ」
「イージャ、すぐだからな」
 背に負った息も絶え絶えの仲間を、ルッカとデゾルデが繰り返し励ます。マルダを後方から支えるレンティも同じだ。
 イージャがルッカの背から滑り落ちないようアルバは手を貸しながら、周囲に油断のない眼差しを馳せる。
 茂みを抜けて、少し。集落がみえた。ここまでくれば安全だろう。迎えに駆け付ける人影の数をかぞえたアルバは、歩を弛める。
「お医者様などはいらっしゃいますか? 必要あれば、治療もお手伝いできますが」
「助かる。チルカのトコは試練の時の怪我人でもういっぱいなんだ」
(「ほう」)
 他愛ない会話の中に散らばる情報に、アルバは心の目を猫のように細めた。
 チルカとは、島の医者の名だろう。そしてそこには「メガリスの試練」で怪我をした者が収容されている。しかも、複数名。
(「落命した者は、怪我を負った者を庇った可能性もあるか?」)
 視えてきた輪郭は、まだおぼろげだ。されど踏み込む状況にはない――、とアルバが期そうとした慎重を、警戒を兼ねて付き添っていたキアラが、若年者ならではの勇猛さでぶちやぶる。
「マムはとても強くて、貴方達にとって大切な方なのですよね」
 穴の底に居た青い髪の女性。半身に力が入らない程の重傷を負いながら、仲間全員の無事を優先し、梃子でも動かぬ風だったのをキアラは思い出す。
「そんな方が簡単に捕まる理由が分かりません」
 事実、グリードミミックの群れ程度なら単身突破できそうな風貌だった。
「敵が倒すのを躊躇う相手なのでは?」
「っ!」
「キィは――っ」
 キアラのかけたカマにまんまと引っ掛かった海賊が、慌てて口をつぐむ。けれど、キアラは語気を強めて言い募る。
「私もお手伝いする以上、本当の事を知る権利があると思います。それが仁義というものでは?」

 もしジャックが無償の献身を見せていなければ、或いはアルバと共にの懸命な助力の後でなかったら。
 海賊たちはキアラの正論にもムキになって心を閉ざしていただろう。
 しかしそれは、仮定。
 我が身を顧みず助けられ、こうして一緒に友の命を救ってくれた者の姿に、海賊たちは義を視る。
「……キィは、マムの娘なんだ」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


●形勢
 囚われた海賊の救出には、既に少なくない手が割かれている。
 コンキスタドールの本命が現れるまでに、マムまで穴から引き上げることは可能だろう。
 むしろ問題は、状況に混乱し銘々勝手に動き始めたグリードミミックの方だ。好きにさせれば、集落の方まで足を延ばしかねない。
 それに雑魚とはいえ、手すきの海賊が無闇に挑んでは返り討ちにあってしまうおそれもある。
 海賊たちの信頼は、既に勝ち取った。
 ならばあとは、どうするべきか――。
菱川・彌三八
なある…否、皆まで云うねえ
今ァ奴等ぶっ飛ばして仲間を助けるのに気を向けな
付いて来たきゃ好きにしな
だが、助け出すってんなら膂力のある方が好い

金目の物なんざ手持ちにゃねえ
だが、此奴らにゃ此れっくらいで充分
独鈷を複数展開して纏めて化物の気を引き、素早く駆けて引きつける
ちいと穴からは離れて、気が向かねェ様立ち回るとしようか
万一にでも邪魔ァしようってんならすかさず独鈷を眼目掛けて飛ばす
お前ェの相手は俺サ
引きつけた奴等ァ総て目を狙う
大概ェ生き物は弱点だからな
…生き物か?此れ

さて、事が済んだらちいと聞かしちゃくれねェか
けじめ着けンだろ
手を借りたと思うンなら話すも人情だゼ
安心しな、悪いようにゃしねえよ



●キィとマムとアスディード
 潮目が変わった。
「すまない、た――」
「皆まで云うねえ」
 何にでも縋りたい気持ちと、矜持と義理と。その狭間で揺れ動いていた海賊たちに起きた新肝の変化を肌で感じ取った菱川・彌三八(彌栄・f12195)は、肩まで顕わになるほど、袖をぐいっとまくり上げた。
「あ――」
「今ァ奴等ぶっ飛ばして仲間を助けるのに気を向けな」
 たすけてくれ、も、ありがとうも。何れも受け取り拒否した彌三八は、帯をきつく締め直した夏用着物の裾を割ったところで、一度だけ海賊たちと視線を交わす。
「付いて来たきゃ好きにしな」
 足手纏いは要らない、と。だが遣りたい事があるなら思う存分やればいい、と。
 言外に含ませた台詞に、威勢良さげな三人が顔を見合わせている。が、彼らの決断を待つ必要もない彌三八は、ばっと砂浜へ躍り出た。
 粋な江戸っ子は、宵越しの銭は持たぬもの。とどのつまりが、金目の物にはとんと縁がない彌三八だが、キイキイ五月蠅い怪物たちへの手立てがないわけではない。
 ――むしろ。
「此奴らにゃ此れっくらいで充分でい!」
 オン イダテイタ モコテイタ ソワカ
 紙に空にと自在に走らせることが出来る筆を今、向ける先は己自身。
 纏った韋駄天の梵字に、彌三八は加速する。
「ほうれ、こっちだこっち!」
 洟垂れ小僧が尻を叩く代わりに、彌三八はこれみよがしな煽り文句でグリードミミックの耳を浚い、中空に扇状に展開させた独鈷で目を奪う。
「キキ」
「キキイ!」
「キィ、キィ!」
「――その名を、呼ぶな!!!」
 彌三八には耳障りな音にしか聞こえない怪物の声に、語気を荒げる青年がひとり。彌三八に鼓舞され戦線に加わった三人のうちの一人だ。年の頃は彌三八よりいくらか下だろうか。
(「なんでえ?」)
 内心で首を傾げた彌三八は、『キキ』か『キィ』のどちらかが、誰かの名前であろうことにあたりをつける。
(「状況からして、その『キキ』だか『キィ』が、あの怪物たちの親玉ってとこかい」)
 読めた物語の粗筋は、まだ情報が足らなさ過ぎて判然としない。されど推し量るより大事なことは眼前の出来事だ。
「お前ェの相手は俺サ」
 浮かべる独鈷の一柄を、彌三八はムキになった青年へ襲い掛かろうとしている怪物の目玉向けて飛ばす。
 ぐちゃりと潰れた音は生々しいが、墨を濃く練る時と同じと思えば筆の運びも軽くなるというもの。
「邪魔すんなら、すっこんでナ!」
「すまない!」
 彌三八の一喝に、まだ名も知らぬ青年海賊が腹の底からの詫びを返す。
 嗚呼、悪くないヤツだ。酒でも酌み交わせば、気持ち良く酔える相手に違いない。
 気風の好さを感じた青年へ、顎をしゃくって先を示した彌三八は、虜囚の穴から敢えて遠ざかった。
 こうして引きつけておけば、救出にかかる手数は間違いなく減る。
「オイ、狙うなら目玉にしときナ! 大概ェの生き物の弱点だと相場は決まってらあ」
(「ん? 生き物か、此れ」)
 頭をもたげた疑問には、ひとまず蓋をするで良さそうだ。だって先ほどの一撃が効果的だったのだから。

「けじめ着けンだろ」
 安心しな、悪いようにゃしねえよ。
 乱戦が一頻りの落ち着きをみる頃、件の青年の肩を叩いた彌三八は、幾つかの事情を知る。
 口惜しさを隠さぬ青年海賊の名は、アスディード。彼は『キィ』と恋仲にあった男であり――。
「マムは、俺を庇ったせいで囚われてしまったんだ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャハル・アルムリフ
女頭領のそれを知る由もないが
曲げられぬもの
己より重いものの存在は、痛い程に

海賊に助力を乞うならば
穴で待つもの等の信頼も厚かろう
年嵩の、それでいて引き上げに足る屈強そうな者
決して無作法に暴かず

化け物どもは此方で引き受ける
貴殿は、仲間を
…海賊の誇りを穢す真似はせぬ故、安心してくれ

盗み聞きも無作法だろう
陽動の要請は此奴に、と
海賊には安否窺うための【月の仔】同伴

化け物連中の鑑識眼が確かでない事を願い
革袋の中身は蒐集部屋から持ち出した「宝」
煌めく無銘の鉱石、欠けた玻璃、折れた銀の剣
欲しければ奪ってみよ

一部は仔竜に持たせ
掲げ、尾に翼に引っ掛け共に低空飛行
おびき寄せ接触序でに叩き落とし
群れを引っ掻き回さんと



●海の古木
 ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)が革袋から取り出した見事な輝きを放つ石に、数体の宝箱の怪物が首だか胴だか判然としない部位を巡らせる。
「欲しければ、奪ってみせよ」
 これみよがしに掲げて走ると、怪物たちはうようよとジャハルの後を追う。
 安い挑発に乗る相手で良かったと、ジャハルは内心で胸を撫でおろした。
 伴う仔竜に持たせた玻璃も、尾に括りつけた銀の剣も、そして手に持つ石も、蒐集部屋から持ち出した『宝』の一部ではあるが、価値が高いものではない。
 石は煌めくことにのみ秀でた名もなき鉱石。玻璃はところどころが欠け、罅も入っている。銀の剣も切っ先が折れた品。けれどどれもが己の目に留まり、自分一人のものではない領域に収められていたものだ。纏わる記憶がないわけではない。すすんで粗雑に扱いたくなどないが、とは言え命とならば天秤にかけようもない。
「キキ!」
「キキイ、欲シイ、寄コセ!!」
 宝に見向きもしないほどグリードミミックが鑑識眼に優れていないことを祈っていたジャハルは、事の成り行きに砂を蹴る足を軽くする。
 怪物らに取り囲まれる寸前での加速だ。手が届く間際だったものが遠退けば、追う側は躍起になる。
「キキ、キキ!」
「寄コセ、寄コセ、寄コセ!!」
「キキキキキ、キィ!!!」
(「かかったな」)
 いっそう躍起になった怪物を引き連れ、ジャハルと、ジャハルと仔竜は、虜囚の残された穴から、それとはなしに遠ざかってゆく。
 共に参じた猟兵たちが助力している海辺の救出劇は、順調に進んでいるようだ。自発的に動き出した海賊もいる。その指揮を執っているのは、ジャハルが助力を乞うた屈強な翁。
 ――化け物どもは此方で引き受ける。
 ――貴殿は、仲間を。
 ――……海賊の誇りを穢す真似はせぬ故、安心してくれ。
 老いてなお曇り遠い老翁の眼が、ジャハルの七彩に何を視たのか、ジャハル自身は知る由もない。しかし老翁は、迷う素振りを一切みせず、ジャハルに与することを良しとした。
 護衛につけた月の仔――ジャハルが喚べる、二対の翼を有し透ける体躯を持つ蛇――と共有する視覚から、全ての救助がどれほどで終わりそうかをジャハルは計る。
 自力で動けぬ者の引き上げには、相応の時間を要した。数は虜囚のおおよそ半分。その山を越えてしまえば、後は早い。
 一人、二人と救い出され、穴に残るのが青い髪の女一人になった時。追いすがる怪物を尻尾で薙ぎ払っていたジャハルは、頬を張られた感触に目を瞠った。
『聞け』
 聴こえた声は、ジャハルの耳が捉えたものではない。そして頬への痛みも同様だ。それはいずれも仔竜が得たもの。
『ゴーラル、どうかしたか?』
『何でもありませんよ、ディディ』
 曲げられぬもの、己より重いものの存在ならば、例え女頭領のそれは知らずとも、ジャハル自身が痛い程しっている。だから決して無作法はするまいと、ジャハルは敢えて仔竜と繋がる五感のうち、聴覚を遮断していた。
 繋がってしまったのは不意打ち故だ。だが、短く聞えた翁の声が、己に向けられたものであることをジャハルは即座に察した。
『キィは貴女によく似た娘でしたな。だから身を呈して、仲間を庇った』
『真実、私に似たのなら。あそこで負けはしなかったはずさ。つまりは、キィの実力不足。延いては、在奴に試練を受けさせた私のミスだ』
『そう仰いますな。きっと早く貴女に追いつきたかったのでしょう』
『――永遠に追いつけなくなったがな。いずれにせよ、堕ちてしまったなら、討つだけだ』
『ディディ……』
『その名は止めよ、海の古木。今の私は、皆のマムだ』

「――」
 報酬として聞かされたのだろう会話に、ジャハルの裡に新たな漁火が灯る。

大成功 🔵​🔵​🔵​

泉宮・瑠碧
…この世界では
そういう試練があると、知っていますが…
…悲しい結果は、あります、ね

私は杖を手に天飛泡沫
距離を取りつつ
穴へ向かう対象へは水鳥で牽制と足止めを
水鳥の半数は残して待機

ミミック達が杖に興味を示せば
気を惹いて、彼らの頭上高くへ抛ります
私以外では、形を失くしますが

気を取られたら
風の精霊へ願い
纏めて穴付近から吹き飛ばす様に
刃も交えた渦を

残れば穴に近い順に一体ずつ
氷の槍を放ちます
…ごめんね

救助は動ける人から
そのまま他の人も共に助けて脱して貰う為に
怪我人へは待機させていた水の鳥を舞わせて治癒を

試練で死しても…恥などでは無いと、思います
誇り、として扱って欲しいと…願います
…どんな方、だったのですか?



●それは恥ではなく
 猟兵として渡る世界には、いずれにも固有の文化があることを泉宮・瑠碧(月白・f04280)は識っている。
 文化とは、そこに住まう人々の根源にかかわることだ。つまりは、尊重すべきもの。
 『メガリスの試練』もそうだ――と、瑠碧の理性は理解しようとするが、感情が震えることは止められない。
(「……悲しい結末は、あります、ね」)
 続々と運び出される重傷者に付き添う瑠碧の胸は、ツキツキと小さな棘に刺されたような痛みを訴え続けている。
 敵味方関係なく、全ての命に健やかであって欲しいと思う瑠碧だ。既に失われてしまった命があることを切なく苦しく思う。
 そしてこれから奪う命があることへも同様に。
(「……ごめんね」)
 付近の海賊たちの耳に届かぬよう、胸の中で小さく詫びて、瑠碧は追い縋ってくる宝箱の怪物目掛けて氷の槍を放った。
 ギギ、と濁った悲鳴は断末魔だろう。その響きは瑠碧にとっては哀れを誘うものであったが、海賊たちの顔には安堵が広がる。
 先行した猟兵たちの手によって、傷の深い者から順に運び出された海賊たちは、浜辺から少し離れた集落の広場へ担ぎ込まれていた。本当ならば、すぐにでも医者の居る建物へ運び入れたいらしいが、そこは『メガリスの試練』で怪我を負ったものでいっぱいらしい。
 手当に励む海賊や島民たちの会話から凡そを察した瑠碧は、足りぬ医療の手を補うために、哨戒させていた水の鳥たち全てを手元に呼び戻す。
「……大丈夫ですよ」
 天飛泡沫――瑠碧がUCで召喚した鳥は、元は浄化の水だ。攻撃能力も持ちはするが、怪我の治癒にも効果を発揮する。
 怪我の度合いに応じて鳥たちの数を調整し、瑠碧は海賊たちの傷を癒してゆく。時間も力も限られているから、全員の完治は能わぬが、それでも瑠碧の献身ぶりは、他の猟兵たちの働きぶりも手伝って、海賊たちの心を解きほぐす。
「……どんな方、だったのですか?」
 半身が潰れた男へ包帯を巻きながらの瑠碧の尋ねに、恰幅の良い中年の女が首を傾げる。
「……試練で、亡くなった方が……いらしたのです、よね……」
「ああ……キィのことかい」
 躊躇うように間をおいて語る瑠碧に、死を悼む想いを見たのだろう女の眉間に深い縦皺が刻まれた。
 話すべきか否か、迷いがあるのだろう。けれど――。
「……試練で死しても……恥などでは無い、と。私は思います……。私、なら……きっと、誇りとして、扱うと――」
「――そうだね」

 瑠碧の言葉に耳を傾けたのが子を持つ母であったのは、幸運という此処までの猟兵の努力を知る神の采配。
 母に憧れる、意思の強い娘。年の頃は、瑠碧とちょうど同じ。
『力も十分にあったさ。例年通りなら、ちゃんと勝っていたはずだよ。いや……少しばかり、気が急いていた部分はあったんだろうね。だからこそあの娘は、無茶をした。きっと、母親みたいに皆を守りたかったんだろうね――』
 語られるキィという娘の像に、瑠碧の心は大きく震えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ミラリア・レリクストゥラ
なんて、高潔…

【WIZ】

互助関係と一口に言えるような物では、こんな状況にはなりません。
今、私が想像できるよりも。更に深い信頼が結ばれている筈…そんな人をむざむざ失わせるわけには!

満ち潮による水責めに、徘徊する敵ですか…
時間をかけると人質が溺れてしまいますし、速度が重要…?
…!いえ、私の唄であれば、時間というリミットを引き延ばせます!

【過去は過去たる地へ沈む】は、無機物を操作可能な土へと変化させる唄!
周りの地形を一時的に高く変えてしまえば、時間稼ぎができる筈!

できれば人質も底ごと引き上げたいですが、敵も居る中でその余裕があるかどうか…
敵の対処ですか?…唄で防御に徹しつつ、味方にお任せになるかと…



●海の申し子
「未来を夢見た あの日の幻」
 胸に手を押し当て、ミラリア・レリクストゥラ(目覚めの唄の尖晶石・f21929)は己が全霊を以て高らかに歌う。
「とこしえに 底へと」
 ――なんて、高潔……。
 マム・グランディディの為人を耳にして、ミラリアはオパールの瞳を熱くした。
 互助関係と一口に言えるような関係性でないのは、すぐに分かった。いや、己の想像をも遥かに超えた深い絆と信頼で、海賊たちとマムは結ばれているのだろう。
 ――そんな人を、むざむざ失わせるわけには!
「底へと 眠りなさい……」
 想いの強さは、時に力の強さに比例する。
 余韻までも海風を凌駕したミラリアの歌に、無数の煌めきを内包した白い砂が蠢いた。範囲は、おおよそミラリアの視界に入るすべて。無機物である砂を意識下におき、操作可能な土塊へと変えたのだ。
 もしミラリアが力及ばぬ非力者であったなら、効果範囲はもっと狭かったろう。だが現実のミラリアは、海賊たちへ十分な手を差し伸べられるほど強い。
 その強さを、今まさに尊厳を害されそうになっている者へ対し、ミラリアは発揮する。
 走る他の猟兵や海賊たちの動きを妨げぬよう細心の注意を払って、ミラリアは砂浜に高低差をつけてゆく。それだけで、這いずり動くグリードミミックの動きを阻害するのには十分だ。
 生まれた余裕が、他の多くを自由にする。
 水責めの穴から一人、また一人と海賊たちが救い出されるのを、ミラリアは歌い続けながら見守った。
 穴の底ごと砂を操るという手段もあったが、怪我人へ与える負荷が未知数であることで躊躇われたし、何よりミラリアは一人で戦場にいるわけではない。
(「お任せできる部分は、お任せしましょう――」)
 陽動を買って出てくれている猟兵もいる。彼らがグリードミミックの気を引いてくれているお陰で、ミラリアに興味を示す宝箱の怪物は皆無だ。ミラリアは、生きた宝石そのものの姿をしているのに。
 海辺の日差しを照らし返す髪も、頬も、指先も。瞳を除いた全てがスピネルのミラリアは、ともすればグリードミミックらの格好の獲物になったに違いない。
 しかし全てが噛み合った現状、ミラリアが危険に晒されることはなかった。
 存分な働きには、存分な働きで返すために、ミラリアはノーブルレッドの喉を震わせる。
 そうしてミラリアはやがて見るのだ。
 波が虜囚の穴を埋め尽くすより随分早く、自分と同じ年頃の女が底から這い上がってくるのを。
「すまない、手間をかけた!」
 誰の耳にも届くよう、はっきりとそう告げる彼女の髪は、人のそれであるのに、グランディディエライトのような鮮やかな海の色をしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『社永守乃勇魚『しろながすのいさな』』

POW   :    其の身、目に見ゆるより巨躯なり
【自身が放つ重圧(プレッシャー)】を巨大化し、自身からレベルm半径内の敵全員を攻撃する。敵味方の区別をしないなら3回攻撃できる。
SPD   :    形あるもの、存ずるを能わず
単純で重い【自身の巨体】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
WIZ   :    此処は根之國なりや
【今までに喰らったメガリスの成れの果て】を降らせる事で、戦場全体が【根之堅洲國(ねのかたすくに)】と同じ環境に変化する。[根之堅洲國(ねのかたすくに)]に適応した者の行動成功率が上昇する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は早乙女・龍破です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●避け得ぬ別れに救済を
「すまない、手間をかけた!」
 囚われて穴から救い出されたマム・グランディディが己が健在を千玉島に知らしめた直後、大気が低く轟いた。
 否、轟いたのは大気ではなく海だ。
 浜から少し離れた海面が、ゆっくりと盛り上がる。そして波のカーテンを払い退けるように現れたのは、鎮守の森を背負った巨大な鯨だった。
「キィ!!」
 アスディードが悲痛な声で、鯨を呼ぶ。
 キィ――それはマム・グランディディの実の子であり、アスディードと恋仲だった齢19の娘の名前。
 先ごろ行われたメガリスの試練で斃れたキィは、敗北した相手と同種の怪物と成り果てた。『人』としての生を終えてしまった彼女が、再び『人』に戻る事は、例え海と大地が入れ替わろうともあり得ない。
 ここで、終わらせるしかない。
 結論は、覆りようがない。
 別れは、避けられぬ。
 娘を討つ母の胸には、相応の傷が残るだろう。
 恋し合った青年の心にも、生涯消えぬ昏い影を落とすだろう。
 他にも、消えぬ何かを得る者もいるはずだ。
 だが、もし。
 誰かの声が、なにがしかの想いが、怪物の内に未だ残るかもしれないキィの心に響いたなら。それが千玉島の皆々に伝わったなら。
 救われる何かもあるかもしれない――。
 
 
【事務連絡】
 基本運営方針は、第一章導入部後の事務連絡を参照願います。
 
 ・第二章プレイング受付期間
  7/30(木)の8:30~(締切未定)
  ※受付開始日に変更があった場合は、下記に追記を行います
 ・採用人数
  成功度達成人数+α
  作業状況が不安定な為、第一章にご参加下さった方でも不採用になる可能性があります。
  予めご了承下さいませ(努力はします)。
 ・他
  引き続きソロ参加推奨ですが、状況に応じこちらで幾人かをまとめることは有り得ます。
  第一章で出た情報は、状況に関わらず参加者全員が得ているものとします。
ミラリア・レリクストゥラ


救助は成功、ですけれど…

【WIZ】

あれは…あの島のような巨体が、『キィさん』ですか!?
そんな……そんなのって!!

(…いえ。一番辛いのは、海賊の方々。共に日々を過ごした、船や島の全て。
今、私が紡ぐべきは、憤りの言葉ではありません。希望に繋がる唄を、今)ひゃあっ!?!?

い、いくら【宝石の体】でも、この速度で降って来たものが直撃したら…
?なんだか、禍々しい…これ、メガリスでしょうか?
海賊さんに話を聞ければ、何かの糸口にできそうな気がしますが…っ

どうあっても戦闘中!今はただ、私に出来る唄で皆さんへの援護と【鼓舞】を!
【彼方へと繋がる希望】――!


泉宮・瑠碧
…守りたかった、のですね

ねえ、キィ
君が守った方々は、命は救われても…
心は、救われません

もう、人には戻れなくても
…皆を見守る事は、出来ませんか

…守りたかった人達を、大切な人達を…
どうか、このまま、置いていかないで

私は風の精霊の竪琴を手に
祈りを籠めて歌う事で清祓道標

根之國ならば浄化と破魔も込めて
成れの果ても癒せる様に

付与されれば傍に行き、勇魚に寄り添いましょう
…私と、同じ歳と、聞きました
お母様や恋人、仲間が居て…
お話を、聞いてみたかった、です

…浄化され、少しでもキィが残るなら
悔いや己を責めるお母様に、そのお母様も大切にしてくれる彼に
大切な方々に、伝えてあげて
謝罪でも、感謝でも…大好きでも

…お疲れ様



●喩え絶望しようとも
 虜囚となった海賊たちの救助には成功した――けれど、眼前の光景にミラリア・レリクストゥラ(目覚めの唄の尖晶石・f21929)はオパールの瞳に絶望にも似たものを兆す。
「あれは……あの島のような巨体が、『キィさん』ですか!?」
 そんな、まさか、という思いがミラリアの全身を戦慄かせる。
 大勢を運ぶ船を思わすそれは、ただの鯨では有り得ぬコンキスタドールの異容だ。
 メガリスの試練で斃れた者がコンキスタドールになってしまうという話は知ってはいたが、まさかここまで、とは。
(「……いえ」)
 『人』とはかけ離れてしまった姿には、おそらく生前の面影は皆無だろう。懸命に目を凝らしても、年頃の娘であったはずの片鱗さえもみつけられない。
 貶められてしまった人としての尊厳に、ミラリアは唇を噛む。
(「いえ……いいえ。一番辛いのは、海賊の方々。共に日々を過ごした、船や島の全て」)
 どれだけきつい封をしても漏れ出てしまいそうな怒りを、ミラリアは周囲を見渡すことで制御する。
 ――今、私が紡ぐべきは憤りの言葉ではありません。
 理不尽をどれほど嘆こうと、憤怒しようと、過ぎ去ってしまった時を遡ることはできない。
「私にできることは唄うこ――っ!?!?」
 煌めく砂浜を強く踏み締め、前へと一歩踏み出したミラリアは、世界が変容する気配をスピネルの肌に感じ取って、改めて『キィ』の巨体を振り仰ぐ。
 あれだけの質量が圧し掛かって来ようもなら、ミラリアの宝石の体であろうともひとたまりもあるまい。木っ端みじんに砕かれて、砂浜に流れ着く数多の宝石たちと同化する未来が視えるようだ。
 それにコンキスタドールの口端から覗く禍々しい何かも気掛かりのひとつ。
(「……あれが、メガリス、でしょうか?」)
 一点に視線を注ぐミラリアの様子に気付いたのか、近くにいた若い女海賊が「あんたもアレが気になるのかい?」と声をかけてきた。
「キィを喰ったヤツも、あんなんだったらしいよ。で、時折あれを吐き出すんだとさ」
「そうなのですか……」
 喰らわれて、吐き出されて、そうして同じ形になってしまったのだと、どうしようもないやるせなさと共に聞かされたキィの終焉に、ミラリアの心はますます軋む。
「……いのーちぃ、の」
 大きく吸い込んだ海風を、ミラリアは軽やかにして果敢なる旋律に変えて紡ぎ始める。
 キィのコンキスタドールとしての姿は、彼女を屠ったコンキスタドールを写しただけかもしれない。ならば彼女が吐くメガリスの理由は追うことは出来ない。
 いや、可能であったとしても。苛烈な戦場へと移ろう浜辺で、猟兵たるミラリアが成すべきことはただひとつ。
「叫び、伝えられたなら!」
 胸の奥、腹の底。精神の深い部分から、ミラリアは謳い、唄う。
「あーした、は。きっと、輝くからぁ!」
 高らかに響き渡る、彼方へと希望を繋げる歌。聞く者の魂を鼓舞し、常以上の力を引き出すことも可能とする歌。
(「どうあっても、今は戦闘中。私は、私に出来る事を――皆に、力を!」)

●浄化の祈り
 泉宮・瑠碧(月白・f04280)は両手をぎゅっと胸の前で結ぶ。そうでもしないと、内側から悲しみが波のように溢れ出てしまいそうだったのだ。
 しかし、いつまでも閉じこもってはいられない。
 すぅと吐いた息を、大きく吸って。ともすれば早鐘を叩きそうになる心臓を、瑠碧は意思の力で静め、波に洗われる水際を直視する。
(「……守りたかった、のですね」)
 もし生前のキィが、島をも飲み込みそうなほどの立派な体躯を有していたならば、如何なる脅威にも負けはしなかっただろうし、『全て』を守ることが出来ただろう。
 それは荒ぶる海へ対しても同じこと。
 キィの母は海賊だ。つまりキィは生まれながらの海賊。海に繰り出す星の下に生まれた娘。
 もしかしたら、不安なく航海できる船を欲したこともあるかもしれない。仲間を、誰一人失わない為に――。
「ねえ、キィ」
 全ては想像の域を出ない。が、瑠碧は同じ年だと聞いた娘へ向けて、精一杯に腕を広げて差し出した。
「君が守った方々は、命は救われても……心は、救われません」
 ――だってもう、君を喪ってしまったから。
 ――喪っただけでなく、これからまた失わなければならないから。
「もう、人には戻れなくても……皆を、見守る事は、出来ませんか……?」
「……守りたかった人達を、大切な人達を……どうか、どうか……どうか、このまま置いて、いかないで?」
 巨体を丸ごと抱きしめたくて、けれど叶わなくて。瑠碧は風の精霊の加護を宿す竪琴を構えた。
 ――我は願う、時の迷い子に、還り道が示されん事を。
 ――……導は此処に。
 爪弾く音色に合わせ、瑠碧は唇で祈りを紡ぐ。あらゆる浄化を招き、此の浜辺に立つ≪同胞≫へ癒しを齎す歌だ。
 これならば、一帯が根之堅洲國に転じても人々を守ることができるだろう。
 そう――瑠碧は、全ての命を守りたい。キィも、仲間を守りたかった。
「……私、君からいろいろなお話を、聞いてみたかった、です」
 キィ――勇魚のコンキスタドールへは、あまり近付くことは出来なかった。何故なら、そこは多くが入り交じる激戦の地だからだ。癒し手として全貌を捉え、必要あらば歌わねばならぬ瑠碧が踏み込むには、危険とデメリットしか存在しない。
 だからせめて心だけはと、瑠碧はキィに寄り添う。
 母や、恋人、仲間。キィが生きていたら、同い年ならではの話が出来ただろう。宝石が散らばる砂浜より、キラキラとした笑顔を目にすることも出来たかもしれない。
(「……キィ」)
 可能性を心に散りばめれば、覆らない現実がなおいっそう辛くなる。だが瑠碧より辛いのは、キィの母と、恋人と、長く苦楽を共にしてきた仲間たち。
(「……少しでも、キィが残っていてくれますように……」)
「我は願う、」
 浄化の歌を繰り返し始め、瑠碧は祈る。怪物の底に、真のキィが眠っているよう。浄化の歌で、僅かでも目覚めてくれるよう。
 そして。
(「悔いや己を責めてるお母様に、そのお母様も大切にしてくれる彼に、大切な方々に、伝えてあげて」)
 ――謝罪でも、感謝でも……大好き、でも。
「時の迷い子に、還り道が示されん事を…導は此処に」

 まっすぐに戦場を見据え、ミラリアは明日を視る。
(「これ以上、穢させはしません」)
 凪ぐ瑠璃色の海を、瑠碧は思い描く。
(「……君も、疲れや傷を、癒されますように」)
 二色の歌が、千玉島の海辺を満たす――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャハル・アルムリフ
――親と、子と

己であったなら
逆であったなら
…討てるだろうか

過る疑問を押さえつけ
迷えば海賊達をも危険に晒す
彼らの覚悟も無駄に出来ぬ

…下手を打ってしまったな

巨鯨見据えて剣を構え
狙うは腹部
激突の寸前を見切り、翼羽搏かせ
突き立てた剣とともに勢いのまま飛翔、斬り裂く
少しでも怯めば、その体の樹木へ取り付いて

…斯様な在りようを
一番許せぬのはお前自身であろうな

決して恥じることなどない
きっと己より大事なものを知っていた
最期まで戦ったお前は
「マム」の、皆の誇りに違いなかろうよ

触れる手に知らず労りが篭もれど
その一端を知れるからこそ
命を賭した娘に報いる術は【雷帝】を以て

――ああ、しかし
別たれるというのは、さびしいな


キアラ・ドルチェ
私と同世代の子が怪物に成り果て、『人』としての生を終える
…正直、こんな不条理許せません
でも、私には時間を巻き戻すことはできない

ならば…私に出来る事は
「マム、アスディードさん、そして島の皆さん。キィさんに貴方達は想いを、思い出を、伝えたい事を伝えるべきです」
「そして…ちゃんと別れを告げるべきです!」
化け物として葬るのではなく、『人』としておくるためには、それが絶対に必要だって想うから…キィさんの為にも、島のみんなの為にも

茨の世界を展開し、キィさんの動きを止め、話しかける隙を作ります!
何度千切られようと、この身に被害が及ぼうと止めないっ
「人として見送ってあげてくださいっ」
これが白魔女の仁義です!


菱川・彌三八
そうか

何が正しいか、なんてもんありゃしねえ
故に此奴等はやるだろう
だからこそ、最期は俺の役目じゃねえ

俺がするなァ膳立てだ
鳳凰で飛んで、其の巨体が島を潰さねえ様
しっ掴んでぶん投げるか、或いは蹴りで軌道変えるくれえさ
娘の事をしらねえ俺が語りかける言葉は持たねェし、届きはしねえだろう
だが、お前ェを知る奴らの声くれえ聴こえる筈だ

愛なんてモンに優劣なんざありゃしめえが、だからと云って同じたァ限らねェ
語り掛けんなァ情の役目
叱りつけんなァ親の役目サ
無論、長としても
…其々がけじめをつけねばなるめェ
だが、堪える事もねェ

真に覚悟が決まったら引き合わせちやる
終わらせてやらねェナ
何時迄もあの姿で善い筈がねえんだからよ


ジャック・スペード


キィ、と言ったか
アンタには手向の花を送ろう
リボルバーから銀の弾丸放ち
薔薇妃の戒めで動きを鈍化させたい

放たれる攻撃は無差別か
マムとアスディードに向かった重圧は
展開したシールドで防ぐか
この身を盾にして庇う

マムもアスディードも傷付けさせはしない
嘗てヒトだったキィの誇りも護ってみせよう
奉仕のこころと激痛耐性があれば
どんな損傷も耐えられる

護りたかった恋人を、憧れていた母親を
アンタはいま、傷付けようとしている
命を賭けるほど大切なヒト達だったんだろう

アンタの容は変わって仕舞ったかも知れない
けれど、抱いた想いは、結んだ絆は
決して消えたりなんかしない

未だ自我があるのなら
「キィ」として、皆に別れを告げてやるんだ



●盾
 起動させたバーニアを全力で吹かし、出現した巨大鯨の周囲をぐるりと回り、再び砂浜へ降り立ったジャック・スペード(J♠️・f16475)は、姿を変えてしまった娘――であったもの――へリボルバーの銃口を向けた。
「咲き誇れ、紅き女王よ」
 ジャックの口元の大気を僅かに震わせるだけの詠唱に、機械仕掛けの神が目覚める。
「キィ、と言ったか。アンタには手向けの花を送ろう」
 引かれたトリガーに、銀の弾丸が放たれた。
 夏の陽光を眩しく煌めかせて飛んだそれは、巨体の胸鰭付近に着弾すると、途端に紅い蔓薔薇へと変わって茨を伸ばす。
 一弾、二弾、三弾、四弾。
 高さや角度を変えて、ジャックは連続で鯨を撃った。
 内蔵センサーでの測定値は、個体と認識できる限界に近い。つまりそれほどの巨躯だ。咲かせる花の及ぶ範囲は、知れている。
 しかしジャックは挫けることを知らぬヒーローだ。加護の歌の力も借りて、年頃の娘であったコンキスタドールを飾り、そして戒めてゆく。
 ――その最中。
「、っ」
 体表のセンサーに拾い上げた小さな変化に、ジャックは反射で駆けた。
 最初は、降り出し始めの小雨に似ていた。だが瞬く間に顕わになった何人にも抗いかねる重圧は、浜辺に集った全ての者に襲い掛かる。
「伏せろ!」
 警鐘を短く吼えて、ジャックは一人の女と一人の青年の前へ滑り込んで仁王立つ。
「――ッ」
 余さず受け止めようと広げた両手の関節部が、逆に折れ曲がりそうなくらいに軋む。それでも状態を保とうとするせいで、四肢のあらゆる個所が異常熱を発し始めた。
 だが、ジャックは細かい火花を散らしながらも耐える。
「ちょっ、アンタ」
 片腕が使い物にならないのだろう女を庇おうとしていた青年の焦りの声に、ジャックは無言の背中で応えた。
「アス、彼に従え」
 ジャックの意を汲んだのは、中年の女――マムだった。そのマムの一言に、下手に動けばジャックの負担が増すことを理解したアス――アスディードは、マムに覆いかぶさるようにして身を丸める。
 流石は皆に慕われる頭領と、頭領の娘を恋人とした青年だ。
 苦境に晒されながらも、ジャックは二人の為人に『ココロ』を温め、その二人の盾とならんといっそう専心する。
(「マムも、アスディードも傷付けさせはしない」)
(「他でもない、嘗てヒトだったキィの誇りを護るためにも」)
 装甲が、細かく剥がれ落ちていく。けれど後方からの支援のおかげで、決定打となりはしない。無論、己がどれだけ損傷しようとも、ジャックは奉じるココロで耐えてみせるつもりであったが。
「聞け、キィ!」
 重圧に身を晒し、ジャックはヒトではなくなった娘に呼び掛ける。
「アンタはいま、大切なヒトたちを傷付けようとしている。命を賭けるほど、大切なヒト達だったんだろう?」
 ――恋した男。
 ――憧れた母。
「アンタの容は変わって仕舞ったかも知れない。けれど、抱いた想いは、結んだ絆は、決して消えたりなんかしない」

 残るか否か分からぬキィの自我へ、ジャックは訴える。
 何としても「キィ」として別れを告げさせるために。

●白の仁義
 どうしたって目頭が熱くなってしまう。
 唇をきゅっと引き結んだキアラ・ドルチェ(ネミの白魔女・f11090)は、首を左右へ幾度か振って、御しがたい悲哀を原動力へと昇華する。
 ――キィ。
 名前しか知らない、自分と同世代の少女。
 それでも母や恋人、海賊たちの態度から、彼女のこれまでの歩みや人柄を推し量ることは難しくなかった。
 祖母の名を継ぎ、父の血を継ぎ、母の称号を継いだキアラのように、キィもまた多くを継いで、繋いでゆけるだけの人物だったに違いない。
(「……許せません」)
 その彼女が、怪物に成り果て、『人』としての生を終えてしまう――。
(「……こんな不条理、許せるはずがありません」)
 肌が白むほど力を込めて握り込んだ掌に、爪が食い込む。
 ――口惜しい。
 数多を継いだキアラといえども、時間を巻き戻すことはできない。キィの命を救うことはできない。
 ならば。
(「……今の、私に出来ることは」)
「マム、アスディードさん、そして島の皆さん!」
 場を圧する重力をも凌駕する気概を胸に、キアラは抜けるように青い夏空へ向けて声を張った。
「キィさんに貴方達は想いを、思い出を、伝えたい事を伝えるべきです」
 いや、空へではない。ジャックに庇われているマムやアスディード、そして呼び掛けた通り千玉島にいる全員へ、想いを届けようとしたのだ。
 戦場と化した浜辺には、二人の女の歌の恩恵が満ちている。だから全霊を賭したキアラの訴えが剣戟に負けることはない。そして固唾を飲んで成り行きを案じているだろう島民は、小さな変化にも敏い。
 すぅ、と。海風に逆らう緑の大気の流れをキアラが頬に感じたのは、その時だ。
 気紛れな精霊の悪戯のように、色素の薄い髪が甘く揺らされたかと思うと、指先が薄いヴェールを纏ったかのような感覚を味わう。
 ――おねがい。
「!」
 聞えた気がした声の主を探して首を巡らすと、巨大な鯨がゆっくり瞬いている――ように見えた。
 錯覚かもしれない。しかしキアラは自分の――白魔女の直感を信じた。
「そして……そして! ちゃんと、別れを告げるべきです!!」
 化け物として葬るのではなく、あくまで『人』としてお別れをして、見送るのだとキアラは説く。
 そこには苦痛が伴うだろう。悲しみをより強く実感することになってしまうだろう。でもそれが絶対に必要なのだ。キィの為にも、遺される人々の為にも。
「太陽と月とターリアよ、荊の棘となり眠り姫の祝福を我が手にっ!」
 仰いだままの空へ右手を掲げ、キアラは爪の痕が深く残る掌にありったけの魔力を集中させる。
 やがて魔力は繭のように白く輝き、魔法の茨を伸ばし始めた。
「皆さん、どうか、声を! 届くと、信じて!」
 キアラが繰る茨が、巨大な鯨の動きを戒めようと纏わりついてゆく。同時に、キアラの茨に呼応したかの如く、ジャックが咲かせた薔薇が耀き、細い茨を強くする。
「どうか、どうか。人として、キィさんを見送ってあげてくださいっ」
 我が身も顧みずキアラは訴え、力を振るう。
 それこそ、千玉島の皆々の勇気の背を押す、白魔女の仁義。

●風
 ――翔雲。
 筆を、払う。
 ――弥栄。
 墨を含ませずとも伸びやかに走る毛先が、肌一面を滑る。
 菱川・彌三八(彌栄・f12195)の全身を鳳凰の刺青が覆うまで一瞬だ。
「鳳鳴朝陽」
 そうして彌三八は、空へと高く速く飛ぶ。
「っとぉ、いけねエ」
 勢いのあまり行き過ぎかけて、彌三八は中空で身を翻すと、巨大な鯨の背中へ降り立つ。
 全身を二種の茨で覆われた鯨は、酷く動きにくそうだ。それでいて苦痛を感じているようでもないのは、浄化の歌の効果だろうか。
 とは言え、抗っていないわけではない。地響きのように伝わる揺れは、コンキスタドールの胎動。千玉島を、そこに住まう皆々を、砕き壊して丸呑みにしようという魔の衝動。
 巨体の上から浜辺を見下ろし、彌三八は巨大鯨が一帯を圧し潰そうとしていることを察する。
「ッハ、しゃらくせエ」
 緑の苔に覆われた背を蹴飛ばして、彌三八は再び空へと舞い上がり。十数メートルいったところで、急速反転からの角度を変えて、胸鰭付近を目掛けて急旋回。
 自身の力が、鯨の質量に対して及ばないことを彌三八は把握している。が、それはあくまで地上での話。浮いているなら、勝機はある。
「そおら、よ――っ、と」
 どてっ腹に見舞った蹴りに、巨体がふらりと揺らめいた。そのまま勢いを殺しきれずに、軌道を変えて海へと落ちる。
 上がった飛沫が、豪雨の如く彌三八の全身を濡らす。
 ――何が正しいか、なんてもんありゃしねえ。
 ――故に此奴等はやるだろう。
 ――だからこそ、最期は俺の役目じゃねえ。
「俺がするなァ、お膳立てサ!」
 重くなりがちな空気を一掃するよう、彌三八はことさら軽快に吼えると、空へと三度舞う。
 身を捩った巨大鯨が、彌三八を追って浮上する。けれど戒められて碌に泳げもしない鯨は、僅かに浮いて、圧を発するのが関の山。
 自分を地面に這いつくばらせようとするその力を、彌三八は純然たる速さで切り裂く。
「なァ、聴けヨ!」
 キィの事を知らぬ彌三八には、彼女に語りかける言葉がありはしない。だが、千玉島の皆々はそれを持ち、先ほどから次々に声を上げ始めている。
「お前ェを知る奴らの声くれえ聴こえる筈だろう」
 愛に、優劣はない。とは言え、同じとは限らない。
(「語り掛けんなァ、情の役目」)
(「叱りつけんなァ親の役目サ」)
 黒き鋼の男――ジャックに庇われている男女を視界の端に映し、彌三八は巨大鯨の周囲を旋回する。いつどこからでも仕掛けられるという意思表示だ。
(「無論、長としても……其々がけじめをつけねばなるめェ」)
 コンキスタドールの動きが鈍る。だのに大きくなる身震いは、内側からの抵抗の顕れのようだ。
(「だが、堪える事もねェ」)
「オイ! 真に覚悟が決まったら引き合わせちやる、遠慮はすんナ!」
 ずれて回り始めてしまった歯車も、最後くらいは噛み合わせるべく、彌三八は海賊の頭であり、キィの母たる女へはっぱをかける。
 ――終わらせてやらねばならない。
 ――何時までも、こんな化け物の姿で善い筈がないのだから。

 故に幕引きは、猟兵の手ではなく、彼女らの手で。

●導き
 ――親と、子と。
 日頃は秘す翼を大きく広げ、いっそ恨めしいほどに青い空をジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)は羽搏く。
 青は、空の色。茜に始まり、青へと転じ、また茜に染まって藍に眠る。ジャハルにとってもっとも輝かしい人を彷彿とする空は、しかし今日は空虚さがぬぐえない。
(「己であったなら」)
(「逆であったなら」)
 動きの殆どを茨によって封じられ、発する魔の気配は歌によって浄化され、鳳凰に翻弄される鯨を追うのに、速さと緻密さは不要。
 だからだろうか、ジャハルの胸の裡には『もしも』が浮かんでは消え、消えては浮かびを繰り返す。
 果たして、己だったなら。親を、討てるだろうか。例え、堕ちて煌めきを失っていたとしても――。
(「……迷うな」)
 徐々に輪郭を明らかにしてくる疑問を、ジャハルは心の手で捻じ伏せ、意識の外へ投げ捨てる。
 深い呼吸で、ジャハルは無用なざわつきの一切を斬り捨てた。
 戦場に迷いを持ち込んではならない。迷いは己が身のみならず、他者をも危険に晒す。今ならば、海賊たちや千玉島の民に類が及んでしまいかねない。
(「彼らの覚悟も、無駄には出来ぬ」)
「……下手を打ってしまったな」
 ジャハルの口から、自責の念が零れ出た。独白だ、誰の耳にも届きはしない。だが、もし届いていたら「そんなことはない」と多くは口を揃えて言っただろう。特に、力を借りた海の古木なら、声を大にしたに違いない。
 故にこそ、ジャハルはいっそう気を引き締める。
 背に手を回し、長大な黒剣の柄を掴むと、ジャハルは一息に正面へと構えて加速した。
 どうあがいても、海賊たちの力だけでこの巨大鯨に終焉を迎えさせることはできない。可及的速やかに事の解決を図るには、どうしたって猟兵の破の力が必要だ。
 愛する者の化身の悲鳴や苦痛を、地上の人らは眉を顰めて聞くだろう。ともすれば、正解だと知りながらも、傷付ける相手を憎んでしまうおそれもある。
(「だが、それで善い」)
 必要な汚れ役なら喜んで買おうとジャハルは腹を括った。それになにより――。
「……斯様な在りようを、一番許せぬのはお前自身であろうな」
 年頃の娘であったキィ自身が、巨大鯨という異容を、大切な人らに見せたいわけがない。
 気付くと、緑色の風がジャハルの翼に力を与えていた。
 よく知る風ではない。が、折れぬ心を感じさせる風だ。見れば巨大鯨の体表を、多くの緑が覆っている。
 ――おわらせて。
「引き受けた」
 幻聴かもしれぬ『聲』にジャハルは歯切れよく是を返し、地表すれすれまで滑空した。
 目指すのは、白く柔らかな腹。
「決して恥じることなどない」
 ともすれば押し潰される危険も顧みず、ジャハルは巨大な影に沈み込む。此処ならば、誰の目に留まることもない。
「きっと己より、大事なものを知っていた」
 剣を頭上高く掲げる。
「最期まで戦ったお前は、『マム』の、皆の誇りに違いなかろうよ」
 翼で空を搔けば、おのずと剣先が巨体の内へと飲み込まれていった。
 溢れ出た温かい朱が、ジャハルを頭から染めてゆく。黒き男が、全身を赤くするまで時間はかからなかった。けれどこれが終わりではない。
 視界までもを紅くしたジャハルは、柄を離す。無論、自重で剣は抜けて海へと落ちる。されどジャハルはそれを追わず、深々と刻んだ疵へ掌を押し当てた。
 命の拍動が、伝わって来た。
 まだ生きている証だ。
 しかし終わることを『本人』が望むものだ。
「お前の誇りに、全霊で応えよう――そこだ」
 ジャハルの頭に伸びる角が、紫電を帯びる。常闇をも切り裂く雷のそれだ。最初は小さく、だが瞬きの間に膨れ上がった光は、鞭のように撓り、刃のように研ぎ澄まされてコンキスタドールの腹を空目掛けて貫く。

●惜別
 海賊や島民が口々にキィへの感謝や情愛を叫ぶ砂浜に、一筋の雷鳴が轟いた。
「行くかい?」
「頼む」
 ジャックの背面に降り立った彌三八の手を迷わず取ったマム・グランディディは、代ろうとするアスディードを目線ひとつで封じる。
「お前が負う必要はない。あの娘も、それは望まない――連れていってくれ」
「応よ」
 反論を待たずに、彌三八は槍を引き寄せたマムを連れて飛ぶ。
 残されたジャックは、恋人を亡くす青年の慟哭にココロを痛めた。

 彌三八に連れられたマムが、鯨の眉間に立つのをキアラは眼差しを遠くして見つめる。
 ――あいしていたわ、かあさん。
『わたしもだ』
 ――ちからたらずで、ごめんね。
『そう思うなら、精進するために新たな命となって必ず帰って来い』
 緑の風が運ぶ母娘の会話に、キアラの瞳からついに涙が溢れ出す。
 砂浜で見上げるしかない海賊や島民の多くも啜り泣いていた。

 身内の恥は身内で雪ぐ。それが海賊の掟。けれどキィの足跡のどこにも恥はない。
 それでも決着を自らの手でつけるのは、海賊の仁義であり誇り。延いては、キィの矜持。
「――ああ、しかし」
 マム・グランディディが突き立てた槍に命の限界を迎えたコンキスタドールは、シャボン玉のように散り溶け始めた。
 ぱちん、ぱちん。
 陽光に虹色に染まって割れる命を、ジャハルは切なく見送る。
「別たれるというのは、さびしいな」

 最期のひとつまで弾け切るまで、千玉島の砂浜には別れを惜しむ『人』への追悼が響く。
 幾重にも反射する虹色の光の中に、青い髪をした少女が手を振り微笑んでいるのが視えたのは、ただの幻であったのだろうか。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『宝玉を拾う』

POW   :    宝玉を拾うと、忘れていた過去が蘇る

SPD   :    宝玉を拾うと、誰かの夢か幻を見る

WIZ   :    宝玉を拾うと、未来が見える

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●そして『今』は『過去』になる
 海で命を落とした者への弔いの意味もあるのだと、硝子の小瓶を手にしたマム・グランディディは言った。
 千宝島の浜に流れ着く宝石は、海賊や島民たちの生活を支える大事な資源だ――つまりは、命の源。
 散った命は、宝石となって還ってくる。
 迷信に過ぎぬ始まりは、やがて島の風物詩となった。
「まぁ、子らにとってはただの遊びだ。気にせず、好きなものを好きなだけ拾っていってくれ」
 長らしく気丈さを崩さぬマムに、心を寄せる者もいるだろう。が、憐み続けては彼女の矜持に障る。
 ならば今は、彼女の言葉通りにするに限る。
 砂浜に散らばる宝石たちは、種類も形も千差万別だ。名もなき石もあるだろう、何れかの地では稀代の貴石であったり、誰にでも親しまれている鉱石もある。
 拾い上げたそれらは、小瓶に詰めれば失くす心配もない。
 中には宝石に、過去や未来、幻を視る者もいるというが、真偽のほどは定かではない。
「今回の礼だ。好きに過ごしてくれ」
 石の気紛れに飲まれぬよう、と笑って付け足したマムは、猟兵たちを砂浜へと送り出す。
 
 
【事務連絡】
 第三章は、基本『再送前提』でプレイングを受付させて頂きます。
 まずは個別ページ(https://tw6.jp/scenario/master/show?master_id=msf0038076)内の【シナリオ運営について】をご一読下さい。
 ※『★』はプレイング内ではなく、一言感想欄で構いません。
 ※既に『★F』申請をして下さっている方は、記号の記入は不要です。

 ・第三章プレイング受付期間
  この文章が公開され次第~8/3(月)8:29まで
 ・採用人数
  全員採用はお約束できかねますが、執筆可能なものは頑張る所存
 ・他
  三章執筆期間中に、アリスラビリンスの戦争シナリオを運営する可能性があります
  お届け順が前後するかもしれませんが、そのことをご了承頂けぬ方へは参加をお勧めしません
  また【シナリオ運営について】を未読と思しき方は、執筆可能なプレイングであっても、不採用とさせて頂くおそれがあります。ご注意ください(再送関連をご確認頂けているか不明のため)
泉宮・瑠碧
…マムは、強いです、ね
「僕」なら
こうあるべき、という指針があっても
私には、何も、無くて…
まだ、ずっと、悲しいままで…駄目です、ね

緑の宝石…翠玉を一つ
手に取らずに覗き込みます
姉様の瞳の様な、その緑
昔のままの、姉様の笑顔を見た気がして…涙一つ
…どうして、皆、独りにするの、かな…?

ごし、と拭ったら
改めて、青い宝石を一つ拾って、後でマムへ届けましょう
垣間見えた気がする少女と、マムの髪に似た青い色を
憐みより、希望を籠めて

私は、キィときちんと逢った事は、なくても
…私のお願いを聞いてくれた、優しい方です
マムや皆を寂しくなんて、させない筈だから
新たな命となって、きっと帰ってくるように…
そう、信じています

またね



●未来
 全てが波に洗われてしまった浜は、哀しみが遠い昔の事であるかのように美しい。
 そこに泉宮・瑠碧(月白・f04280)は青い髪の女を重ね見た。
「……マムは、強いです、ね」
 呟いた途端に、現実が押し寄せる。
 ――『僕』なら。
 こうあるべきという指針を持てただろう。だがそれはあくまで『僕』の話。
(「……私には、何も、無くて……」)
 他者にとっては些細な一人称の違いにすぎないかもしれない。けれど瑠碧の中では大いに意味を持つ『僕』と『私』。
 『僕』で在れぬ娘は、まだ、ずっと、悲しいまま。
(「……駄目、です……ね」)
 自己を否定したところで、『僕』にもなれず、瑠碧は沈鬱の眼差しを足元へ落とす。
 爪先が沈む白い砂のあちこちに、様々な色が散らばっている。そんな中、瑠碧の目を惹いたのは、やはり緑。
 そろりと膝をついて、覗き込む。間違いない、翠玉だ。
 角がとれてきれいな丸となった石は人の瞳を思わせ、瑠碧の胸を疼かせる。無論、誰とも知れぬ余人の眼ではない。
(「……姉様」)
 記憶にある――記憶にしかない――姉の瞳を映したような緑に、瑠碧の目の奥がジリっと痛んだ。
 視界が、潤み出す。
 滲む視界に、翠玉の目をした人の笑顔が視えた。
「……どうして……どうして、皆、独りにする、の、かな……?」
 いや、視えた気がしただけかもしれない。しかし堪え切れなかった涙が一粒こぼれて、まるい翠玉を濡らしてしまう。
 喪った哀しみは、今も癒えない。
 でも、俯き立ち止まり続けてはいられない。
「――姉様」
 長い吐息の最後にひとつ呼び、瑠碧は手の甲で目元を拭うと、立ち上がる。ほつりほつりと歩むうち、青い宝石に出逢った。
 晴れた日の海を閉じ込めた青だ。垣間見た気がした少女と、マムの髪の色によく似た青だ。
 今度は、その一粒を拾い上げる。持ち帰るつもりはないので、小瓶には詰めなかった。だってこの青は、マムへ贈ると決めたのだ。
 ――哀れでなく、希望を込めて。
「……大丈夫です」
 『キィ』として逢ったことは一度もない相手だ。だが、瑠碧は彼女の優しさを信じられた。だってキィは、自分たちの願いを聞き届けてくれた。化生となりながらも、己を保ち、娘として母に別れを告げてくれた。
「マムや、皆さんを……寂しいままになんて、させない筈……」
 だからきっと、必ず。
「キィは、新たな命となって……還ってきます。帰って、きます……」
 小さな青い宝石を胸に抱きしめ、瑠碧は未来を信じて祈る。
「また、ね?」
『また、ね!』
 集落を目指し歩き出した瑠碧の背中に響いた快活な幼子の声は、ただの波音であったのか、それとも――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

キアラ・ドルチェ
マムとキィさんの会話を見て、私も母さまを思い出しました

母と比べればまだまだ白魔女としての能力は未熟だけれど
キィさんみたいに、矜持は母に負けない所まで来られてるのかなって

そして…もし私が猟兵として倒れた時
母は褒めてくれるのだろうか、と
…いいえ、やはりそれは駄目。母も泣き虫だから泣かせちゃうもの
母にマムのような想いをさせちゃダメなのです

砂浜で太陽に緑色の宝石をかざします
そこに見えるのは年を重ね落ち着いた白魔女姿の私
…いつか、私が辿り着く場所
「頑張らなきゃ、いけませんね」
本当の意味で「ネミの白魔女」の称号を継承するために

その誓いを石に託し持ち帰ります
身近に置いて、いつもこの気持ちを思い出せるように…



●誓い
 強い日差しに、キアラ・ドルチェ(ネミの白魔女・f11090)は被った白い魔女帽のツバを、そっと摘まんで引き寄せた。
 緑色の葡萄が飾られたそれは、『ネミの白魔女』が代々継承してきたものだ。つまり、繋がりの証。

 ――あいしていたわ、かあさん。
『わたしもだ』
 ――ちからたらずで、ごめんね。
『そう思うなら、精進するために新たな命となって必ず帰って来い』

 目を閉じたキアラの裡に、マムとキィの会話が蘇る。同時に、湧き上がってくるのは、キアラ自身の母のこと。
 自分と母を比べた時、白魔女としての能力や経験はまだまだ足りぬと――未熟だとキアラは己のことを省みる。
(「でも、私も。キィさんみたいに」)
 何故だろう。矜持だけならば、母に負けないところまで来たと、今のキアラは思えた。
「母さま」
 瞼を押し広げ、広がる大海原へ視線を遣る。
 遠い水平線に幾つも浮かぶ島々は、洋々と多難が混在する前途のようだ。
 社会勉強を兼ねて飛び込んだ猟兵としての日々は、キアラに成長を齎すと同時に、時に命を危険に晒す。
(「もし、私が猟兵として斃れたら。母さまは……」)
 褒めてくれるのだろうか、と過った想いを、キアラは即座に首を左右に振って打ち消した。
「いいえ、それは駄目」
 駄目、駄目、駄目。
 祖母を継ぎ、父を継ぎ、母を継いだキアラだけれど、おおよそは母譲りだ。泣き虫なところだってそう。
「母さまに、マムのような想いをさせちゃダメなのです」
 魔女帽から離した手を、ぎゅっと力強く握り締め、キアラは自分で自分を頷く。
 ――負けない。
 ――斃れない。
 ――死なない。
 ――生きて、必ず、辿り着く。
 胸一杯に息を吸い込み、強い眼差しを馳せた先。目に留まったのは、帽子を飾る葡萄とよく似た緑色の宝石。
 感じた運命に、キアラは拾い上げると、姿勢を戻す勢いのまま、それを力強く輝く太陽へ翳す。
 遮られた光が、クラックの殆どない石の中で像を結ぶ。それは齢を重ねて落ち着いた白魔女の姿。何時かキアラが辿り着くべき場所。
「頑張らなきゃ、いけませんね」
 ――本当の意味で、『ネミの白魔女』の称号を継承するために。
 翳す角度を変えて、でもやっぱり像が視得る気がする緑の宝石を、キアラは硝子の小瓶にそっと落とし入れ、コルクで封をする。
 誓いは、成された。
「では、帰りましょうか」
 腰にかけた鞄に小瓶を仕舞い、キアラは千玉島の海へ背を向けて歩き出す。
 残される足跡は、振り返らずに未来へと続くもの。
 誓いの小瓶は身近に置き続ける。いつでも『今』の気持ちを思い出せるように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
🐟櫻沫


命の欠片の宝石
過去の欠片だ
この一瞬もまた過去になる
今と過去は寄り添うものだって思うんだ
過去の僕が知ったら驚くぞ!
水槽の外で、歌って笑って生きて、愛する恋人も大好きな帰る場所もある
可愛いペンちゃんもいて、それに……
(傍を舞う、黒蝶々達へ視線をやり微笑む)
……家族が、いる
瓶詰め人魚は戀をして
極彩の世界をしったんだ!

拾い上げた水色は深い深い湖の色
ぷくりと浮かぶ泡沫に、黒曜の街が浮かび上がるよう
僕の故郷
ヨルは色んな色の石だね!

ふふ!綺麗でしょう
櫻宵は?
桜色だ
君のような、綺麗な桜色
僕を小瓶に?
なら僕は君という桜を鉢植えに植えてしまおうか?
なんて

自由に咲く君が一番綺麗
今も明日もずっと
そばにいるよ


誘名・櫻宵
🌸櫻沫


今は、過去になっていく
過去を重ねて未来を紡ぐ
なんだか痛いほどわかる気がするわ
私はずっと過去に囚われて
過去に追われて
諦めて縛られていた

けれど、今は違うわ
私はこの命を生きると、決めたもの
殺し屠る悪龍ではなくて
愛しいものを守れる守護の龍として

拾い上げた桜の宝石を日に翳し覗き込む
チラリ
血のような赤が瞬いて、黒い桜が咲いて――そしてまた桜色に戻る
うふふ
桜はあえかな薄紅をしているのが一番綺麗よね

リル、綺麗な石は見つかった?
あら素敵
あなたの湖を閉じ込めたような青だこと
リルを小瓶に入れたくなるわ、なんて

時折黒に揺蕩う石を大切に抱きとめて微笑む
大丈夫
傷ついた過去も全部
受け入れて癒して
咲かせてみせるから



●櫻沫の櫻
 今は、やがて、過去になる。
 そうして過去を重ねて、重ねて、重ねて、未だ見ぬ明日――未来を縒り紡いでいく。
 降り立った砂浜に吹く海風に、頭上の角に咲く桜を揺らしながら、誘名・櫻宵(貪婪屠櫻・f02768)は世の道理に想いを馳せた。
 重ね続けることを、不条理を抱いたことがないではない。
 しかし今は。
(「なんだか、痛いほどわかる気がするわ……」)
 振り返る過去は、長らく櫻宵を囚えていたもの、追われていたもの。諦めて、縛られていたもの。
 ふと視線を巡らせると、月光ヴェールの尾鰭がそよいでいる。ペンギンの雛を模った式神もいる。ひとりと一体の、楽し気な笑い声が聴こえる。
 これこそ櫻宵の、今。
(「そう……今は違うの」)
 痛いくらいの陽光に照らされる己が手へ、櫻宵は目を落とす。
 かつて殺した手だ。屠った手だ。喜々と血濡れた手だ。紛れもない、悪龍の手だ。
 けれども今は違う。
 愛しいものを守れる龍だ。即ち、守護の龍。
 血濡れた過去は変らねど、これから紡ぐ未来は自由であることを、櫻宵は識った。識ってしまった――教えて、もらった。
 湧き上がる熱に浮かされたように、櫻宵はゆらりと足元に手を伸ばす。
 指先が触れたのは、奇しくも桜色の宝石。いびつな球体だが、大ぶりの葡萄くらいの質量がある。摘まむには、もってこいだ。
 だから拾い上げて、摘まみ、日に翳した。
 ――チラリ。
 覗き込めば一瞬、血のような赤が瞬いた。かと思いきや、黒い桜が咲いて――また元の桜色に戻った。
 不思議な石に、うふふ、と笑いが口を吐く。
「桜はあえかな薄紅をしているのが一番綺麗よ……ね?」

●櫻沫の沫
 揺れる尾鰭で砂を撫でたら、隠れていた輝きが次々と顕わになる。
 まるで魔法の箒のようだ――なんて自分の尾鰭を褒めそやしたたリル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)は、無造作に散らばる彩たちに命を視た。
 それらは紛れもなく、そう思う人がいる限り、命の欠片。そして過去の欠片。
(「この一瞬もまた、過去になる」)
 何も特別な事なんかじゃない。
 だって、『今』と『過去』は寄り添うものだから。
(「過去の僕が知ったら驚くぞ!」)
 遠い過去を想ったリルは、今を思う。
 水槽の外で生きる自分。
 水槽の外で、歌って、笑って、生きている自分。
 水槽の外で、愛する恋人も、大好きな帰る場所もある自分。
「それに、可愛いペンギンちゃんもいるんだ!」
 声に出して笑えば、てちてちと砂浜に足跡をつけていたヨルが、ぴゃあっとリルを振り仰いだ。
 可愛らしい、愛おしい、大事にしたい。
(「それに……」)
 傍らを舞う、黒い蝶々たちへ視線をやると、リルの貌には自然と笑顔が浮かぶ。
「……家族が、いる」
 瓶詰だった人魚は、過去のこと。
 過去を重ねた人魚は、戀をして、極彩の世界を知った。
「ヨルー?」
 語尾を歌わせ呼ぶと、ペンギンの雛型式神が飛べない翼をばたつかせながら、よちよちと歩み寄って来る。首から下げた硝子の小瓶には、色々な石がたくさん詰まっていた。
「たくさんの思い出みたいだね」
 そっと頭を撫でてやれば、嬉しそうにヨルが目を細める。しかし褒めてばかりはいられない。はてさて自分はどんな石を拾って、詰めようか。
「あ」
 目に留まったのは、運命だ。
 水――それも深い深い湖の――色の小さな石。游ぎ寄って拾い上げると、ぷくりと小さな泡沫が内包されているのがわかった。
 その泡沫に、黒曜の街が浮かび上がって視えたのは、ただの目の錯覚だろうか?
(「これは、僕の故郷」)

●櫻+沫+1=家族
「あら、素敵! あなたの湖を閉じ込めたような青だこと」
 いつの間にか視線を寄越してくれていた櫻宵の歓声に、リルは「だろう?」と胸を張る。
「ふふ、でしょう!」
「ええ、とっても。つられてリルを小瓶に入れたくなるわ」
 冗談とも本気ともつかぬ櫻宵の軽口に、それじゃあ、とリルは肩を聳やかす。
「櫻宵のは、君のような綺麗な桜色だし。僕は君という桜を鉢植えにしてしまおうか?」
 たおやかな美貌の持ち主なれど、リルの芯は強かだ。ともすれば、漢気に溢れることさえあるかもしれない。
 続けて「なんてね」と微笑まれても、いっそその抱擁感に櫻宵が身を委ねたくなっても致し方なし。
 だがこれらは仮定の話。
 櫻宵とリルとヨルは、二人と一匹で、これからの未来を生きて、今を過去へと変えてゆく。
「自由に咲く君が一番綺麗。だから、今も明日も、ずっとずっと君のそばにいるよ」
 リルの詞は、永遠を誓う詩。
 くるまれた櫻宵は、改めて不意に黒に揺蕩う石を大切に抱きとめ、穏やかな微笑みをリルへ還す。
「ありがとう、私もよ」
 ――大丈夫。
 未来の約束を、違えやしない。
 傷付いた過去も、全部、全部、受け入れ癒し、鮮やかに咲き誇ってみせるから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ミラリア・レリクストゥラ
…では、風習に倣って私も。

【SPD】

(十分に離れてから)
戦いの勇気は、猟兵になって嫌と言うほど目の当たりにしてきましたが…
お別れの勇気は別物。私の唄で、奮わせる事がかなったかどうか…船長さんの様子からは、判断できませんね。

気を取り直して、浜を歩きましょうか。
波の音と一緒に、平和と海を楽しみながらのお散歩です。
日差しを受けて原石から見え隠れする輝きの数々。海辺なのも相まって、現世ではないみたい…あら?

これは…中の石が、くっきり2色に分かれてますね?まるで、私自身みたい。
特別な縁を感じますし、私はこちらを…



●縁
 広い浜辺に、ミラリア・レリクストゥラ(目覚めの唄の尖晶石・f21929)は一人だ。
 皆が帰ってしまったのではない。ミラリアが自分の意思で、一人になれる場所まで歩いて来たのだ。
 目立ち始めた岩場は、気ままな探索には向かないだろう。でも、クリスタリアンであるミラリアにとっては、何故だか心地よい波動を感じる地だ。
 なんとはなしに左胸に手をおけば、掌に伝わる鼓動がある。ミラリアが黙す鉱石ではなく、生ける人であるが故のものだが、猟兵である以上、いつ止められるものとも知れぬそれ。
(「戦いの勇気は、猟兵になって嫌というほど目の当たりにしてきましたが……」)
 水平線の彼方へ向けていたオパールの眼差しを閉ざすと、グランディディエライトの煌めきが脳裏に浮かぶ。
(「お別れの勇気は――別物」)
 自分の唄が、娘と別れざるを得なかった母を奮わせることが出来たかは、分からない。
 彼の人は――海賊頭であり、船長でもあるだろう『マム』は、如何なる時も泪を見せぬ強さを持っているかもしれないから。
 でも、もしかしたら。
「……いいえ」
 語られぬ『if』をミラリアは切り捨てると、気持ちを改め、歩みを再開する。
 波の届かぬ砂は、太陽に焼かれて熱い程だ。かと思えば、踝まで波が遊ぶ砂はひんやりと冷たい。
 潮は変らず満ちる頃らしく、先ほどまでは届かなかった波が、少し後には乾いていた砂を優しく潤す。
 喧騒は既に忘れ去られ、平和と平穏を絵に描いたような時間だ。
 鼓膜を撫でる波音も、子守唄めいている。
 弔いの儀式と訊いて倣いはしたが、おどろくほどに島は凪いでいた。
 この穏やかな一時そのものが、自分たちが護ったもののひとつであることをミラリアは意識することなく、許された安寧を全身で甘受する。
 訪れる人が少ない浜辺だからだろうか、砂を彩る石たちの数は多い。
 それらが浴びる日差しを照り返す様はとても目映くて、海辺であることも相俟ってか、此の地が現世であることを忘れかけさせる。
「……あら?」
 そんな中、ミラリアの目に二色の光が飛び込んだ。拾い上げてみると、ウズラの卵より少し小さな無骨な石が、きれいに二色に分かれた澄んだ輝きを抱いていた。
 まるで自分のようだ。
 思い至った感想に、小さく笑ったミラリアは、コルクで封をされたガラスの小瓶の口を開ける。
 感じた縁は、誰かの幻が視えた気がしたからか、それともただの勘か。いずれにせよ特別な出逢いを、ミラリアは今日の記憶として携える。
 ――カラン。
 二色の貴石を封じた小瓶を小さく振れば、涼やかな歌が響いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

菱川・彌三八
瑪瑙や珊瑚以外でこんねェな藍だ紅だの見たことねェや
幾つか集めて並べてみた
話を効くに、物によっちゃあ更に砕くとびいどろが如く澄んだ色にもなるらしい
偶に武器やら飾りに付けてる奴等が居るが、あれか
何れにせよ、此方じゃ見ねェ
後でちいと街に顔出して、如何扱うか見て行くかね

其の前に、弔いとやらに倣うか
価値なんざ分からねえから、持ってくなァ気に入った物にする
ちいと迷って、時折天色と桜色に光る乳白色を

…あの男ァ悔いを残すかなァ
将又、恨むか
だがありゃ女追って死んでも可笑しかねェ性質な気がしたのさ
マ、他人の事なんざわかりゃしめえがよ

矢張りもう一つ、波を閉じ込めた水晶の様な石も持って行こう
何、只の思い出よ



●二色(ふたいろ)の
 たらたらと伝い続ける汗を手拭いで拭い、菱川・彌三八(彌栄・f12195)は子供のようにしゃがんで浜辺に陣取った。
「へェ……」
 思わず口を吐いた感嘆は、白い砂に鎮座した豊かな彩のせい。
 瑪瑙や珊瑚以外で、藍だの紅だのという鮮やかな色を彌三八は見たことがなかった。だから興味に任せて拾い集め、ずらりと並べてみたのだ。
 指先でツンと突くと、紛れもない石の感触が伝わってくる。だのに、澄んだり、曇ったり、濁ったりと様々だが、とにかく美しい。
「――む」
 浮かんでしまった少々こそばゆい感想に、彌三八は唇をへの字にするが、やっぱり『石』への興味は尽きない。
 そういえば、と思い出したのはいつか聞いたか読んだかした話。
 更に砕いて磨けば、びいどろよりも燦燦と輝き、向こう側が見通せるくらい澄んだ色にもなるらしい――あくまで、物によっては、だが。
「ああ、アレか!」
 しかし思い出したら合点が行った。
 時折、武器やら飾りやらに大層きれいなものを付けている人物を見たものだ。石のようではあったけれど、そこいらに転がるものとは月と鼈なそれに、彌三八は首を捻っていたが、その正体は『此れ』だったらしい。
「後でちいと街に顔出して、如何扱うか見て行くかね」
 何れにせよ、彌三八の日常では早々お目にかかれぬものだ。どうやったら、まだ石ころに近しい此れ等が、逸品へと変貌を遂げるのかを、後ほどたっぷり見せてもらうと心に誓い――その時、宝石を砕いた『絵の具』なるものに出逢うのだが、それはまだ知らぬ未来――彌三八は改めて、並べた石たちに向き直る。
 弔いの習慣だと、言っていた。
 ならば倣わない謂れはない。
 浮かせていた尻を砂につけ、折っていた足で胡坐を組む。それから頬杖をついて、彌三八は並べた石たちをじっくりと見分する。
 驚くような貴石が混ざっているかもしれないが、生憎と価値に関してはからっきしな彌三八だ。
 だとするならば、択ぶ基準は気が合うか否か。
「うーん、どいつにするかねエ」
 全てを持ち帰るという選択肢は爪の先ほども浮かばない。故に彌三八は、突いたり、矯めつ眇めつして眺めたり、日に透かしたりする。
「よし、お前に決めた」
 そうして選んだのは、時折、天色と桜色が煌めき遊ぶ乳白色の石。
 だが、それをころりと小瓶に転げ入れても、何かが引っ掛かる。
「……あの男ァ、悔いを残すかなァ」
 ――将又、恨むか。
 彌三八の脳裏を過っていたのは、アスディードという名の青年だ。自分より幾らか若い彼への彌三八の評価は、『女追って死んでも可笑しかねェ性質』。
「マ、他人の事なんざわかりゃしめえがよ」
 首にひっかけていた手拭いを、パァンと音を立てて一振りし、彌三八は立ち上がるついでに、砂浜からもう一粒を拾い上げた。
 水晶の中に、無数の針が生えたものだ。その針が一方に集中し、しかも藍色をしていることから、波を閉じ込めたようにも見える。
「なァに、只の思い出よ」
 誰に聞かせるでもなく呟いて、彌三八は海の欠片を小瓶に封じた。
 優しい色味と、力強い色味。並ぶ二色は、何故だかとても似合いな気がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャック・スペード
容を変えて巡る「命」か
どの煌きも尊いものに想えるな

ウトラ、良ければ一緒に拾わないか
あんたはどんな石を集めるんだ
好きな彩があるなら、探すのを手伝おう

俺は……小さな宝石にしよう
彩の好みはないので、様々な彩を集めたい
目に留まった綺麗な石を
壊さないように、そっと拾い上げて

掌中に転がる煌めきは
物語を持たぬ此の身に
未来も過去も見せてくれないが

色んな彩を瓶に詰めれば
小さな世界が色付くようで
こころが癒されるような気がする
これは大切に持って帰るとしよう
ウトラの瓶は、どんな彩に染まったのだろうか

そうだ、集めた中で一等赤いものは
良ければウトラへ贈ろう
コレは俺より、あんたに相応しそうだからな



●物語
 誘ったウトラは、砂浜を無邪気に駆けている。
 年頃の機微には疎いジャック・スペード(J♠️・f16475)だが、彼が見聞きしてきた人らと比べると、ウトラは他より幼く感じる気がしないでない。
 が、『一緒に拾わないか』とかけた声に満開の笑顔を咲かせた少女の深淵を、ジャックは暴こうとも思わない。
 だからジャックは、時に波と戯れる少女と共に、ゆっくりと千玉島の海辺を歩く。
(「容を変えて、巡る『命』か――」)
 そういう謂れがあるのだと知ると、白砂に鮮やかな色を煌めかせる石たちがいっそう尊いものに想えた。
 まるで宇宙(そら)に輝く星のようだ。
 想像を廻らせていたら、不意に下から覗きこんで来たウトラの顔がアップになる。
「ジャックさんは、どんなのがすき?」
 同じ問い掛けを先にしたのはジャックの方だ。その時に寄越されたのは「わからない」という応え。
『かわいい、と、きれいは、好き。おいしいも、だいすき!』
 とどのつまりは「選べない」ということなのだろうと判じたジャックは、ならば自分はと胸の裡に訊き、
「……小さい宝石にしよう」
 と、自嘲めかして答えた。
 何てことはない。ウトラと同じに、ジャックにも彩の好みはないのだ――或いは、まだ知らぬだけかもしれないが。
「じゃあ、わたしも。ちいさいの、たくさんにする!」
「そうか」
 またぱたぱたと駆けていく少女の後姿を見送り、ジャックは無垢なキャンバスを思わす砂浜へ意識を注ぐ。
 目に留まるどれもが、綺麗で儚い。だから拾い上げる手は、自然と慎重になる。
 鋼の黒き掌に転がすと、いっそう耀きが際立つ気がした。無骨に過ぎる己が身も、こういう時ばかりは悪くないように思える。
 人の手により創り出され、一度は遺棄されたジャック。始まりが無機であるなら、生きた物語なぞ『此の身』は持たぬと思っているし、だからこそ美しい石たちが未来や過去を見せてくれることもないと思っている。
 それを恨めしいとは今は感じない。
 色んな彩をひとつひとつ小瓶に詰めてゆけば、小さな世界が色付いていくように見えるからだ。
 きっとこれが『こころが癒される』と言うのだろう。
 正体不明の仄かな熱源を胸にジャックは、始まりは空っぽであったのが嘘のような硝子の小瓶を、大切そうに手で包み込む。
 満たされた思い出は、いつか未来を開く鍵になるかもしれない。
「みてみて! わたしのも、いっぱい!」
 戻って来たウトラが太陽に掲げた小瓶の中身も、少女の髪の彩に似た虹色だ。そこでふと、ジャックは一度封をした小瓶の口を開け、中から一等赤い一粒を取り出す。
「良ければウトラへ、これを贈ろう」
「――え?」
 赤は、ウトラの角と翼と尾――竜種の顕れが持つ色だ。故に、ジャック自身が持つよりも、ウトラにこそ相応しいと思ったのだ。
「ウトラ?」
 しかしジャックは、赤を目にしたウトラが僅かに震えたのを見過ごさなかった。唇も、色を失くしたように見える。
「すまない。要らぬ気遣いだったか――?」
「ううん! ちがうの」
 引き戻そうとした手を、思わぬ力強さで囚われたのにジャックは目を瞠った。
「――ありがとう」
 ジャックと比べてはるかに華奢な手が、赤をそろりと摘まんで、自らの小瓶に収める。
「だいじに、する、ね」
 意を決したような笑顔の裏に、如何なる物語が潜むかジャックは知らぬ。けれど受け取った以上、ここから先はウトラの物語。
「帰るか?」
 然してジャックは、翼の生えたウトラの背を押す。

 択び、詰める。そうして空っぽは、やがて満ちる。
 それを人の生の縮図のようにジャックが感じるのは、何時の事か。
 自身が歩み続ける日々も、また同じに――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャハル・アルムリフ
砂浜へ屈めば、ほうと零れる溜息
成る程これは見事な浜だ

青、蒼、碧
小さな欠片をひとつ、ふたつ
砂の間に見出しては吟味して
――む、
飛沫を浴びてようやく
波打ち際まで来てしまっていた事に気付く

寄せては返す、薄布めいた波間に
砂の上に流れ着いた煌めき
透けて見えぬそれを手探りで掬う

透明な、色も無ければ名も知らぬ石
抱いた罅割れのなかに七色の虹
ほかの傷無き箇所には見えぬ彩は
ひどく不思議なものに思え

陽の射す海へと石を翳せば
思い出せない誰かの呼ぶ声が聞こえた気がして
思わず見回せど波音ばかり

命…か
…何処かで痛い思いをしたのだろう
塞がることのない罅は痛々しくも
うつくしいのだな、お前の傷は
長い旅路を労うように小瓶の天辺へと



●美しき罅
 燦燦と降り注ぐ真夏の陽光が、じりじりと黒い体躯を焦がしてゆく。
 頭に手を遣れば、黒い髪がもった思わぬ熱に、きっと驚くことだろう。しかし砂浜に屈んだジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)の口からまろび出るのは、感銘の溜め息ばかり。
 散らばる彩たちは、眩しい白砂にも負けぬ輝きを太陽に返している。
「成る程、此れは見事な浜だ」
 いつ見つかるとも知れぬ――そも、見つかる確証もない――貴石を探すことも、未踏の地を征く冒険めいて楽しいが、とっておきのおもちゃ箱を目の前にひっくり返されたような光景もまた、はるか遠い童心を擽るものだ。
 とはいえ、ジャハルの目に留まるのは青、蒼、碧――何れも『あお』の系統ばかり。
 それが最も近しく慕わしい彩からかもしれぬが、意識しない無骨な男は、ひとつふたつと砂の間に見出した欠片を拾い上げては、ためつすがめつ吟味に余念がない。
 彩は決まっているが、形も大事だ。わずかな傾きだけで、放つ光が変わるのだから。
 妥協の甘えは、とんと湧かぬ。
「――む」
 だからジャハルが波打ち際まで辿り着いていたのに気付いたのは、波の飛沫を浴びた時。
 火照った肌に跳ねた冷たさは、ひんやりとした宝石の肌を思わせ心地よい。
 誘われるように歩を更に進めると、波に足を洗われた。
 攫われるほどではない波だ。寄せては返す様は、薄布が被されては引き、引いたかと思えば被されるのによく似ている。
 と、その波間にジャハルは新たな煌めきを見た。
 たった今、運ばれて来たばかりの煌めきだ。千玉島に辿り着いたばかりのそれは、悪戯な薄布が存在を隠してしまう。透ける石ゆえ、なおさらに。
 もたもたしていては、また海に連れていかれてしまいかねない。少し慌てたジャハルは、手探りで煌めきを探す。
 手の甲を、波が撫でる。
 指の間を、砂が流れる。
 擽ったさに知らず口の端は上がるが、当の本人の意識は探索にだけ向けられていた。そうしてようやく掬い上げたのは、透明で、色もなく、名前どころか数多見てきた宝石のいずれにも当てはまらぬ石。
「――」
 何とはなしに、立ち上がる。
 日に翳すと、罅割れを内に抱いているのが見えた。しかも、中には七色の虹。
 角度を変えて確かめる。だが何れから眺めても、虹の彩はほかの無傷の箇所には顕れない。
 ひどく不思議なものに思えたジャハルは、今度はその石を海へと翳した。
 陽の射す海は、砂上より眩しく煌めき、空を映した青に輝いている。
 その時だ。誰かの呼び声が聞えた気がしたのは。
「――?」
 ジャハルの思考を、疑問符が埋め尽くす。そも『誰か』とは思えど、誰かすら定かではない。そして今一度の呼び声を探して一帯を見渡しても、あるのは波音ばかり。
 皆目見当もつかぬ出来事に、ジャハルは唯一明らかである掌中の石を見つめ直す。
 内に抱く罅に、痛みを覚えた。
「命……か」
 此の石も、何処かで痛い思いをしたのだろう。だから、塞がることのない罅を得たに違いない。
 されど、その罅は――。
「うつくしいのだな、お前の傷は」
 目を細め語り掛ければ、罅が持つ虹色が刹那、鮮やかさを増したように見えたのは気のせいか。
 いや、気のせいでも構いはしない。
 長い旅路を労うよう、ジャハルは柔い手つきで美しき傷もつ石を、小瓶の天辺へと休ませる。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月03日


挿絵イラスト