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探偵VS怪盗?! 神出鬼没の切り札惨上!

#サクラミラージュ

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#サクラミラージュ


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 帝都、某博物館。
「ハッハッハッハッ! この宝物は、この私が頂いた!」
 高笑いをあげながら、博物館から颯爽と壁にぶつかったり、何かスッ転んだりしながら、逃げ出す男。
 捕まえるのが哀れと思ったか、なんだかなあ、みたいな空気を人々が発する中を駆け抜けていくその人物を更に高いところから、ひっそりと見つめる男が一人。
「やれやれ……美しくない、美しくないですねぇ。あれが怪盗のあるべき姿、なのでしょうか?」
 何処か残念そうに呟きながら逃げ出す男を見て。
 呆れた様に溜め息を吐くその男がともあれ、と一つ息を吐く。
「まあ、博物館に囚われのお姫様を救いたい人情は認めますが。人傷沙汰起こしていたら世話がありません。……まあ、此処は財宝と言う名のお姫さまを救うために、探偵の振りでもしてみましょうか。さぁて、猟兵の皆さんは、彼女を救うためにどんな冒険を繰り広げるのでしょうかねぇ?」
 クツクツクツと肩を振るわせながら。
 すったもんだな目にあっている怪盗目掛けて仮面の探偵(?)は、ひらりと宙を舞った。

 ――幻朧桜の桜吹雪が舞う、この場所で。


「……なんかどっかで聞いた事がある様なノリな気がするけれど。取り敢えず、お姫様、と呼ばれる宝石がサクラミラージュのある博物館から盗まれる事件が起きるみたいよ」
 眉間に皺を寄せ、何処か疲れた様に溜息を一つつきながら。
 エリス・シルフィード(金色の巫女・f10648)が軽く頭を横に振る。
「簡単に言うと、サクラミラージュの帝都にあるとある博物館に展示されている宝物が『怪盗』を名乗る影朧に盗まれると言う事件みたいなのよね。多分、宝物に呪的な何かがあって、其れによって力を得ようとしているとか、そんな感じなんだろうとは思うわ」
 軽く米神を解しながら、エリスが溜息を一つつく。
「ただね。どうにもそのお宝を奪っていった『怪盗』を追う自称仮面の『探偵』がいるみたいなのよ。名前は、『ババ』って言うらしいのだけれど、恐らく偽名ね、これは」
 妙な確信と共にそう告げて軽く頭を押さえながらエリスがホロリ、と微苦笑を零す。
「まあ、正直敵か味方かは分からないわ。ともあれ、この『怪盗』を追う『仮面探偵ババ』を追跡できれば今回の事件を起こしている黒幕の影朧の『怪盗』に会えると思うわ。その『怪盗』を転生させるさせないは、皆次第だとは思うけれどね」
 そう呟いて。
 静かに息を吐きながら、軽く頭を横に振るエリス。
「経緯はどうであれ、影朧にそんな大切な宝物を奪われる訳にはいかないのよ。其れを追っている自称『仮面探偵ババ』に対する対応は皆に任せるから、取り敢えず今回の事件を起こす影朧の『怪盗』を倒してきて。皆、宜しく頼んだわよ♪」
 ――ポロン、と春風のライラを爪弾いて。
 そう告げたエリスの言葉に押される様に……猟兵達はグリモアベースから姿を消した。


長野聖夜
 ――これは、神出鬼没な怪盗の物語。
 いつも大変お世話になっております。
 長野聖夜です。
 サクラミラージュ、第6本目をお送り致します。
 尚、第1章は影朧を追う、自称『仮面探偵ババ』さんを追って頂くことになります。
 この『仮面探偵ババ』さんを追い色々と推理をしていけば、本命である影朧の『怪盗』さんを捕まえられる、と言う訳ですね。
 因みにこの『仮面探偵ババ』さんですが、『切り札』と名乗る事もある年齢不詳の青年さんです。
 ポイントは『仮面』と名前にあります。
 ついでに帝都全体が追いかけっこの舞台になると思われますので、『仮面探偵ババ』の追跡については、お好きな様にプレイングをお送り頂いて問題ございません。
『仮面探偵ババ』について地道に聞き込むも良し見つけたとして追いかけるも良しです。
 尚、自称『仮面探偵ババ』さんは追跡は幾らでも出来ますが、逮捕・捕縛は出来ない点だけはご了承下さいませ。
 因みに、『怪盗』さんが盗んでいった『お姫様』についての調査も一応可能です。
 プレイング受付期間及びリプレイ執筆期間は下記となります。
 プレイング受付期間:7月2日(木)8時31分以降~7月4日(土)13:00頃迄。
 リプレイ執筆予定:7月4日(土)14時以降~7月5日(日)一杯迄。

 ――それでは、楽しき快刀乱麻な物語を。
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第1章 冒険 『探偵を尾行せよ!』

POW   :    尾行がバレた! 逃げる探偵を一直線に追いかける!

SPD   :    屋根の上を跳びながら尾行する。

WIZ   :    使い魔を放ったり、索敵魔術などで位置を特定する。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ウィリアム・バークリー
探偵と怪盗、ですか。世界を間違えてないかなー?

まあいいです。美術館の上空で「目立たない」よう「空中戦」で四方を確認。
怪盗と探偵の追跡劇を見つけたら、そちらへ飛んでいきましょう。

まずは探偵の横に並んで。
こんばんは、Masked Detective.なんだか初めて出会った気がしないんですが。
とにかくお手伝いしますよ。
あの影朧を追えばいいんですね。
いきなり魔法叩き込んでいいですか? あー、盗難品を万一傷つけることを考えたら、慎重にならざるを得ませんか。面倒な。

それじゃ、ぼくは先行しますから、しっかりついてきてください、Mr. Joker!

「空中戦」の速度を上げて、目指すは影朧の背後。逃がしませんよ。


ソナタ・アーティライエ
怪盗ですか……その呼び名、懐かしいです
つい思い出に浸ってしまいそうになりますけど
今はお仕事を頑張らないとです

まず探偵の馬場様?への差し入れにと、あんぱんと牛乳を購入
探偵の方はこの2つを好まれると聞いたのですけれど、喜んで頂けるでしょうか?
その為には見付けて追いつかないと
表に出たらばったり、とかそんな都合の良いことは……

叶うなら馬場様と一緒に怪盗を追いたいです
どちらにせよわたしの足ではとてもついていけませんので
ちょっとズルしちゃいます
気付かれにくいよう空間入れ替えのみを用いて
裏路地を迷路状にして怪盗を迷わせたり
怪盗との距離を詰めるのもありですね
一般の方を巻き込まないよう、使う場所には気をつけます


夜月・クリスタ
ババ…トランプ…ジョーカー?世界は違うけど、そんな怪盗がいたと報告があったっけ。もし本人なら、同じ怪盗として協力出来るかもしれない。さぁ怪盗フォックステール、任務開始だ!

周囲の高い建物へ昇り、【視力】で周囲を観察。逃げる人間とそれを追う人間を探し、追う側が仮面を付けているかを確認後【追跡】を開始。

追跡中は【地形の利用】しつつ【怪盗の曲芸】で移動。もちろんあの怪盗とは違い、周囲を壊さず回りを【誘惑】する事を忘れずにね?

探偵ババに接触出来たら、恐らく彼と同じ同業者として話かけ、あの怪盗を捕縛する為の協力と話せる範囲での情報提供をお願いしよう。正直同じ怪盗として、あんな無様な怪盗は認められないし。


文月・統哉
【文月探偵倶楽部】

にゃはは、神出鬼没は怪盗なのか探偵なのか
まるで神隠しにでもあったみたいだね
俺達の事を超弩級戦力でなく猟兵と呼ぶ彼は

犯人は現場に戻る…かはさておいて
彼が探偵役なら
事件を追っていけば自然と遭遇できるに違いない

先ずは博物館へ
視力・コミュ力・読心術・第六感も活用し情報収集

彼が『囚われのお姫様』と形容する訳を知りたい
博物館に展示された経緯や
元の持ち主の事も辿れるだろうか

お姫様か…
影朧の慣れない様子の怪盗役にも何か理由がある筈だ
背景を知る事で事件解決の糸口を掴みたい

>ババと遭遇したら
同じ事件を追ってるのだし
出来れば互いに協力できればと思うけど
どうだろうかジョー…仮面探偵のババさん?(笑顔


彩瑠・姫桜
【文月探偵倶楽部】

SPD

…ババ、ねぇ
覚えのありすぎる名前に価値観とノリが、別人物とは思えないのよね
世界違うけど、まさか彼、私達と同じ…って、そこまでは飛び過ぎかしら

細かな情報収集は統哉さんに任せるわ
私は屋根伝いに跳びながら、あるいは地を駆けながら
仮面探偵ババをひたすら追いかけて追跡

追跡時は動きや衣装などを観察しながら
[第六感]働かせつつ[情報収集]するわね

同一人物じゃないにしても
私の知ってる怪盗と性格似てそうなのよね
追跡されることそのものを楽しんでそうだし
ともあれ追いかけて話はしてみたいわよね
どうせすっとぼけるんでしょうけど

>ババさん
協力することは貴方の美学にも反しないと思うけど
どうかしら?


藤崎・美雪
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎
成功数過多なら却下可

あー…どこかで聞いたような話ですネ
この世界でも怪盗と仮面探偵の組み合わせは鉄板なのか?
…いや普通は怪盗が仮面を被っているよな?
両方被っていたらハリセンぶちかますか

とはいえ、影朧の手に渡るとまずい宝石のようだし
ひとまずは自称探偵さんとやらを探しますか

正直、追跡は不得手だが
そもそも高いところにいるわけだし
白昼堂々宙を舞っていたら目立つだろ
目立たなかったら逆に怪しいが

博物館の周囲で目撃者を探して聞き込み
容姿を特定したら【もふもふさん達の追跡行動】
屋根の上を徹底的に捜索させるよ

ちなみにその探偵、蝶型の仮面をつけていたりとかする?
何となくそう思うだけだが




「ニャハハ、神出鬼没は怪盗なのか、探偵なのか、どっちなんだろうな?」
 ふわり、と幻朧桜の桜吹雪が舞う帝都にて。
 例の探偵怪盗ババとやらを追うために姿を現した文月・統哉が愉快そうな笑みを浮かべている。
「……と言うより、探偵と怪盗って、世界を間違えてないかな~? とか思うのですが」
「……そうかも知れないですネ」
 軽く首を傾げるウィリアム・バークリーにちょっとだけ片言で呟き、目を細めるのは藤崎・美雪。
「……まぁ、ねぇ」
 米神を解しながら何処か疲れた様に同意の溜息を一つ吐くのは、彩瑠・姫桜だ。
「それにしても、怪盗、なのですね……その呼び名、とても懐かしいです」
 言葉通り懐かしそうに目を細めてそう呟いたのは、ソナタ・アーティライエ。
 んっ、と軽く唇に指をあてて、コトリ、と首を傾げているソナタの脳裏を過ったのは……。
(「次にお会いするのは、私では無いかも知れませんが……もしまた会う機会がございましたらその時まで……いと健やかに、フロイライン」)
 そう告げて、丁寧なカーテシーと共に風の様に自分の目前から消えていった青年と、その手にあったトランプのジョーカーを思わせる仮面。
 そんな懐かしさに目を細めていると……。
「ええと……怪盗探偵ババだっけ……? ババ……トランプ……ジョーカー? 世界は違うけれど、そう言えばそんな怪盗がいたっていう報告があったね」
 夜月・クリスタが軽く首を傾げながらポツリと呟くと、ええ、と何処か達観した様な眼差しで姫桜が頷きを一つ。
「その事件、正しく私達が関わった事件なんだけれど。何と言うか、あの怪盗探偵の名前やら価値観やらノリが、もう覚えがあり過ぎてね……」
「というか、この世界でも怪盗と仮面探偵の組み合わせって鉄板なのか? ……いや、普通は怪盗が仮面を被っているよな? 最早何処から突っ込めばいいのか、さっぱりなんだが」
 鋼鉄製のハリセンを何時の間にか取り出し肩に乗せながら、どこか遠い眼差しになって矢継ぎ早に問いかける美雪に、ニャハハ、と統哉が笑いかける。
「まあ怪盗は事件を起こし、探偵は事件を解決するのは王道だね。探偵の方が仮面被っているってのは、流石にあんまり聞いた事気がするけれど」
「まあ、そうだね。でももし本人なら、同じ怪盗として協力できるかも知れない」
 統哉の呟きにクリスタが頷きつつ、何処か愉しそうに口元を綻ばせている。
 姫桜がそうね、と軽く頷き、ソナタがそんなクリスタの発言に目元をそっと和らげた。
(「もし本当にそうでしたら……とても、素敵な事ですね」)
「まあ、何はともあれ。取り敢えず美術館に行きましょう、皆さん」
「うん、そうだね。さぁ、怪盗フォックステール、任務開始だ!」
 纏める様に頷くウィリアムに、クリスタが軽く拳を空中に突き上げる。
 ――と。
「あっ、統哉さん。情報収集は任せたわよ」
「ニャハハッ、お任せ!」
 姫桜がさりげなくポン、と背を叩きながら告げたそれに、統哉がサムズアップをしながら快活な笑みを浮かべ、直ぐに目を瞑り、博物館の中へと足を踏み入れていった。


(「犯人は現場に戻る……かはさておいて、彼が探偵役なら事件を追っていけば自然と遭遇できるよな」)
 やや騒然とした博物館の中に白昼堂々、目を瞑って入る統哉。
 そんな彼の姿を認めた警備員の一人が統哉へと駆け寄ってくるが、統哉が超弩級戦力であり、博物館内で今回の事件について情報収集をしに来たことを明かすと、最敬礼の気配と共に、事件現場へと統哉を案内していく。
 案内される中で、その警備員に対して、統哉がそう言えば、と問いかけた。
「怪盗を追う仮面探偵とか言うのが来ているぽいって話を聞いたんだけれど、彼が、盗まれたそれを『囚われのお姫様』と形容しているらしいんだが、何か盗まれた財宝について知っているかな?」
 統哉の問いかけに、警備員がそうですね、と軽く肩を竦めている。
「そういう話でしたら、館長室に案内した方が良さそうですね。此方です」
 そう告げて警備員に案内されていく統哉。
程なくして警備員がある一室の前に止まって、扉を開く音。
 静謐な空気を漂わせるその部屋の中に、一人の男がソファに腰かけている気配が感じられる。
「館長。超弩級戦力の方をお連れしました」
「ああ、良かった! 是非ともそこに腰を掛けて頂いて貰いたまえ!」
 ちょっと鷹揚な態度でそう頷く館長に、畏まりましたと一礼し、その場を後にする警備員。
 警備員を見送ってから統哉が近くのソファの気配に気が付いて腰を掛けると、館長がさて、と呼びかけていた。
「この度はよくぞいらして下さいました、超弩級戦力の皆様。いや~、私達だけでは幾らでも解決出来……そうなんですけれど、少々面倒事が幾つか重なってしまっておりましてね」
「面倒事?」
 統哉の問いかけに、はい、と館長が一つ頷く。
 その額から流れる汗をハンカチで拭いている空気が感じられた。
「いえねぇ。盗まれたのは宝石なんですけれどね。これがどうも『女神の瞳』とか呼ばれる、曰くつきの宝石でして」
「『女神』の……?!」
 思わぬ単語に統哉が瞑っていた目を思わず開き、パチクリと瞬きをする。
 統哉の驚き具合に目を白黒させつつも頷き、館長が説明を続けた。
「まあ、築数百年の伝統の中で常に大切に守られ、此処で展示され続けていた宝石なのですが。何でもそれにまつわる物をすべて集め切る事が出来れば世界をも変えることが出来る凄まじい魔力を持つ宝石だとか、或いは『女神』と呼ばれる存在が甦るとか、何か色々曰く付きの宝石でして」
 さらさらと口に出される館長のそれに、目を瞑り直し、思わず唸る統哉。
(「……偶然とはとてもじゃないけれど思えないなぁ、これは」)
 ――まるで神隠しにあったかの様に現れたジョー……仮面探偵ババ。
 ――『囚われのお姫様』と呼ばれた盗まれた宝石、『女神の瞳』
 ――そしてそれを盗んでいく『怪盗』の存在。
(「そう言えばジョーカーは毎回、盗まれようとしていた物を結局盗まずにオブリビオンを俺達に倒させてはさっさと退散していたな……」)
 そんなことを思いだしながら、統哉がそう言えば、と館長に問いかけた。
「さっき此処に入ってきた時、博物館内は騒然としていたけれど、館長さんは此処にいるなんて、随分と落ち着いているんだな。影朧も、どうも怪盗役に慣れていない様だし」
「ああ、それはですね。今回の犯人自称大怪盗はですね……確かに帝都を大騒ぎさせるんですが、大体何処かでやらかすんですよ。で、結局財宝を手に入れるのに失敗しているんですよね。例えば今回ですと、探偵さんが手を貸してくれているわけじゃないですか。それなら、まぁ何とかなるだろうな、と」
 完全に他力本願な館長に思わず、ガクッ、と腰が砕ける統哉。
 だがそこまでの話を聞いてあることに気が付き、はっ、とした表情になる。
(「いや……ちょっと待て。普段であれば館長にさえこんな風に笑い話にされてしまう事件なのに、それが予知されるってことは……」)
 それだけ危険な何かが起きる可能性が高い、と言う事。
(「これは一刻も早く、ジョー……ババを見つけ出して合流した方が良さそうだな」)
 一先ずそう結論付けて軽く一礼し、館長室を辞する統哉であった。

● 
「Air Walk」
 小声で小さく術式を呟きながら。
 ウィリアムがふわり、と美術館の上空を舞う様に飛び上がる一方で。
 クリスタがスルスルスル……と自らの四肢を器用に操り、近くの時計塔へと上って背筋を伸ばし、目を細めて周囲を観察し、標的を探している。
 一方、地上では……。
「正直、追跡は不得手だが、そもそも高いところだし、白昼堂々宙を舞っていたら目立つだろうな」
「ええ、そうね」
 美雪のその言葉に、同じく地上にいる人々を捕まえて話しかけようとしていた姫桜が、首を縦に振っていた。
「あっ、あの……」
 そこにトコトコトコ……と両手に袋を提げて姿を現すソナタ。
 下げられた袋の中に入っているのは、あんぱんと牛乳。
「……ソナタさん、それは?」
 ひょこひょこ、と言う様に周囲をフワフワと見回しているソナタのその両手に提げられたあんぱんと牛乳に、姫桜が軽く首を傾げて問いかけると、ソナタが、至って真面目な表情でその、と呟いた。
「探偵の馬場様? への差し入れにと購入して来たのですが、そのお店の方がオマケとのことで沢山下さいまして……ちょっと多くなってしまいましたので、皆様にもお裾分けに、と……」
「と言うか、何故、あんぱんと牛乳……?」
「あっ……いえ。探偵の方はこの2つを好まれると聞きまして、その……馬場様? に喜んで頂けるかな、と……」
 澄んだ純粋無垢な光を称える海を思わせる青い眼差しでそう呟くソナタに、う、うん、と頷き、ソナタに差し出されたあんぱんと牛乳を受け取り、もそもそと口にする美雪。
 そんな美雪に微笑を零しつつ、辺りを見回していた姫桜が、それにしても、と路上一面に散らばる予告状とその周囲で寝転がりそのまま霰のない姿で眠りに落ちている人々を見て、溜息を一つ。
 もそもそとあんぱんを囓りつつ、ゴクン、と一つ飲み干したところで、姫桜が何となく言わんとしたことを察したのであろう。
 美雪が、ああ、と同意の頷きを一つした。
「何というかまあ……これ、あからさまな痕跡だよな。……寧ろ罠なんじゃぁないか、と思う位に」
 ハリセンで犯人しばき倒してやろうか、等と考えている美雪の呟きに、姫桜がコクリと首を縦に振る。
「あっ……これがその、予告状と言うものなんですか?」
「ええ、まあ、トランプでは無いみたいだけれどね」
 ついでに眠っている人々の所々に傷があるが、何だか知らないが少しずつその傷が癒えていっている。
 ユーベルコヲドの類いであろう事は直ぐに推測がついたが、兎に角追っていけば労せずして捕まえられそうだ、と姫桜は直感していた。
 一方で……。
『もふもふさん達、探しものをお願いしたい。頼んだよ』
 そう、美雪が告げると同時に。
 モフモフした動物の影達が姿を現し、ちょこちょこと空中に浮いて調査を続けるウィリアムや、ピン、と耳と尻尾を立てて、目付きを細めて周囲を睥睨し、追いかけっこの様子を掴もうとするクリスタ達の手伝いをする様に、博物館の屋根の上をちょこまかと走り回り始めた。
 ――と。
「うん……? あれかな」
 大量の予告状がばらまかれ、眠りに落ちている人々を道標に。
 屋根をピョン、ピョン、と身軽に飛び移っていたクリスタが見つけたのは、人間大の大きな影。
 華麗に跳びはねている様に見えるが、体の彼方此方に瘤やらなんやらが出来た銀髪ポニーテールな女性の姿が見える。
 そんな女性がスタリ、と建物の屋上に着地するや否や。
 ゴボリ、と女性が立った地面が陥没し、そのままひゅ~ん、と間の抜けた音と共に、地表へと落下していく姿が目撃された。
 その彼女の姿を見て。
「……あれが、怪盗?」
 フルフルと肩を振るわせ、絶対零度とも感じられる程に低い声で呟くクリスタ。
 そのクリスタから漂う不穏な空気をウィリアムが感じながら、そうですね、とちょっとだけ引いた声音で返している。
 ウィリアムの目は、落下していった女性を追う様に華麗に白絹のタキシードの上から羽織った白きマントをムササビ状にして滑空しながら、彼女を追う様に下りていくシルクハットの男を認めていた。
(「もしかして……あれが、Masked Detective.ですか。服装こそ違いますが、身に纏っている空気に懐かしさが……」)
 そんな事を思いながら、空中をローラースケートで滑る様に疾駆し、其方へと向かっていくウィリアムと同じく、師から受け継いだ白いマフラーを風に靡かせながらタン、タン、と軽やかなステップを刻んで、時計塔からビルへと移動し、仮面探偵達を追うクリスタ。
 丁度、そんな時だったのだ。
 ――ビターン!
 まるで、地面に顔から突っ込む様に正面激突する凄まじい音が、辺り一帯に響いたのは。


「ちょっ……ちょっと?! 何、この音!?」
 辺り一帯に響き渡ったその音に、ビクリ、と驚いて背筋を震わせる姫桜。
 その腕の玻璃鏡が姫桜の驚きを露わにする様に波立っているのをちらりと横目で見ながら、美雪が飲みかけていた牛乳を思わず吹き出し、わなわなとその身を震わせている。
「まっ……まるで空中を華麗に飛んでいた筈が、うっかり何かにぶつかって落下そのまま地面に衝突してしまった様な音だったな……!」
(「……これが、怪盗? 私達が追っている影朧は、本当に怪盗なのか……?!」)
 思わず内心で突っ込みを入れる美雪はさておいて。
 ソナタがその音がした方……そこは繁華街の一角にあるとある建造物……の方へと足を向け、とある角を曲がって、その建造物に入り込むと。
「おや? これはこれは……Guten Abend、フロイライン」
 ムササビ状態で滑空し、しなやかに大地に降り立った仮面の青年が優雅に白いマントを靡かせながら、ボウアントスクレイプ。
 彼の姿を見たソナタは、あっ、と思わず声を上げ、口元を両手で覆う。
「貴方様が馬場様……ですか?」
「フフ……然様でございます、フロイライン」
 戯けて軽く肩を竦める仮面探偵ババに、あ、あの! とソナタが懐にとっておいたあんぱんと牛乳を差し出していた。
「差し入れ、と言うのでしょうか? その、探偵の方はこれを好むと伺っておりますので……」
「おう、これはこれは、ありがとうございます、フロイライン」
 白手袋を嵌めたしなやかな手でソナタから差し出された其れを受け取り、鮮やかな手腕で懐に入れる仮面探偵ババにほぅ、と懐かしそうに吐息を一つ漏らすソナタ。
「あいたたたたたっ……! ですが、こんなピンチに陥るのも、怪盗の醍醐味ですよ……!」
 巨大な人型を地面に作りながら起き上がった怪盗が、謎の美学を口にしながらピョン、と起き上がり、落下して破壊してしまった建物の中で起き上がって、壊れた足場を使って再び高みへと上っていく。
 と、そこで。
「ですから、人傷沙汰は怪盗にとって御法度なのですがね。全く、美しく無い。この様に周囲に一般人がいらっしゃる地区などに飛び込んでしまえば、彼等に死人が出てしまうかも知れないではありませんか。本当に美しくありませんね、あの方は」
 と、軽くぼやきながら周囲にその辺りで眠りこけていた人々を守る白色の結界を張る仮面探偵ババ。
 姫桜と美雪が騒ぎに気がつき、ソナタとババのいるボロボロになった建造物へと飛び込んだ。
 その白タキシードに身を包み、トランプのジョーカーを思わせる仮面を被っている青年を認めて、姫桜が思わず米神を解している。
「ねぇ、貴方。私、服装は違うけれど貴方にものすご~く似た様な人を見た覚えがあるんだけれど」
「おやおや、貴女もですか、フロイライン姫桜」
 大仰に手を広げてわざとらしく呟く仮面探偵に、愈々以て姫桜が目を細める。
「貴方、どうして私の名前を知っているのかしら? やっぱり貴方……」
「ハッハッハッハッハ……さぁて、あの怪盗を追わなければなりませんねぇ。ああ、でも猟兵の皆さんもいる様ですし、これなら追うのも難しく無さそうですが」
 そう告げて。
 ひゅっ、と懐から白い糸の様な何かを発射、てんやわんやで上空に飛び出した怪盗を追おうとする仮面探偵に、あの、とソナタが問いかけた。
「おや、どうか致しましたか、フロイライン?」
「その……あの怪盗様を追う手伝いを私にもさせて頂けませんか、ババ様」
 特に媚びるわけでもなく、慈愛の浄眼でじっ、と仮面探偵を見つめるソナタ。
「そうね。あの怪盗を追いかけるために私達と協力することは、貴方の美学にも反しないと思うけれど、どうかしら?」
 続けられた姫桜の言葉に構いませんよ、と丁寧に一礼する仮面探偵。
「しからば、少々失礼致しますよ、フロイライン方」
「きゃっ……?!」
「ちょっ……何っ!?」
 そのまま優しい手付きでソナタと姫桜を抱え上げる仮面探偵に、小さくて愛らしい悲鳴を上げるソナタと、驚いて目を思わず白黒させる姫桜。
「ヘルウィリアムと違って貴方方が、空中散歩は中々大変でございましょう? そんなわけでIt’s Show Time! でございます」
 呟くと同時に、伸長した糸を引いて瞬く間に空中へと上っていく仮面探偵。
 姫桜とソナタと一緒に、空中に飛び出していった怪盗を追って瞬く間に天空の高見に至った仮面探偵を呆けた様に見る美雪だったが、程なくして、はっ、とある事に気がつき、わなわなとその身を震わせた。
「くっ……つっ、突っ込みを入れる隙さえ与えない……だと……?!」
「何というか、どう考えてもあれはジョーカーだよなぁ……」
 その声に気がついてふと美雪が其方を見れば、情報収集を終えて姿を現していた統哉がいる。
 ニャハハッ、と笑いながら統哉がまあ、と呟き閉じていた双眸を開いて、パチン、と美雪にウインクを一つ。
「何はともあれ。俺達も追っかけてみようか、美雪」
「あっ、ああ、そうだな、統哉さん。そうしよう」
(「絶対に後で一発ハリセンぶち込んでやる……!」)
 そう内心で固く決意を固めながら、美雪が統哉に頷くのだった。


「あっ、そっちに行くのは危ないよ! 向こうに行って……ね?」
 何処か愛らしいウインクをパチン、と散乱していた瓦礫から仮面探偵が守った人々の避難誘導を行なうクリスタ。
 と、丁度その時。
 建物の中から瞬く間に飛び出していった怪盗を追う様に、シュルシュルシュルッ、と伸長した白い糸を近くの壁に引っ掛けて軽やかに姿を現した仮面探偵が担いでいた姫桜とソナタを丁寧に地面に下ろしているのに気がつき、やぁ、とクリスタが声を掛けた。
「君が、噂の仮面探偵ババ君?」
「ふふ……その通りですよ、フロイライン。……っと、おや、もしかして貴女も怪盗でございますかな?」
 クリスタの呼びかけに糸を巻き戻しながら問いかける仮面探偵ババに、そうだね、とクリスタは頷きかけた。
 ウィリアムもまた探偵の隣に並んで、その仮面の横顔を見つめている。
「見れば見るほど、ぼくの知り合いによく似ていますね、Masked Detective.あっ、貴方が追っている影朧はあちらへと向かいましたよ」
「フフッ、流石は猟兵の皆様ですね。私が追っている相手について、よくよく分かっていらっしゃるようで」
 大袈裟に感心した様に頷く仮面探偵に、それで、とクリスタが問いかけた。
「正直、僕としてはあんな無様な怪盗認められないんだけれど。もしご同業なら、手伝って貰えないかい?」
 クリスタがそう告げながら逃げてまたすっ転びつつ、受け身をとって風に飛ばされて何処かへと飛んでいこうとする怪盗を指差しつつ溜息を吐くと、仮面探偵がハッハッハッハッハ、と愉快そうに笑い声を上げた。
「無論、名のある猟兵の皆様にお手伝いして頂けるというのなら、心から歓迎致しますよ。その為の情報提供でしたら惜しみも致しません」
「話が分かるね。さて、それじゃあ、あの怪盗をこれ以上変な被害が出るよりも前に捕縛するには僕達はどうしたら良いのかな?」
「魔法で撃墜とかで構わないのならば、此処から氷柱の槍を撃ち込みますが」
 クリスタが問う間に、ウィリアムが自らの手に氷の精霊達を収束させている。
 そんなウィリアム達と、地上から此方を見上げている統哉と美雪を見て、いえいえ、と仮面探偵が首を横に振った。
「ヘルウィリアム。そういうわけにはいかないのですよ。其れではあの怪盗が抱えている宝石が傷ついてしまいますし、一般人への人傷沙汰にもなってしまいます。流石に其れは私の美学に反しますねぇ」
「ああ、確かに。まぁ、一般人を守り、且つ盗難品のことも考えると慎重にならざるをえないのは当然ですね。……なんとまぁ、面倒な」
 呟き目を細めるウィリアムに、クリスタがまあねと軽く同意する。
 地面に優しく下ろされた姫桜が微かに頬を赤らめつつ、軽く肩を竦めていた。
「取り敢えず地上と空から追い詰めていくのが一番って所かしら」
「そうですね、フロイライン姫桜。下のヘル統哉達とも協力するのが一番でしょう。後ここからでしたら……あの怪盗は、一応人命には配慮する様ですからやはりあの裏路地に逃げるでしょうしねぇ。……まぁ、その度に事故が起きて人傷沙汰になるから私としてはとてもとても彼女に協力は出来ないのですが」
 大仰に頭を振り、慨嘆する様に溜息を吐いた仮面探偵が指差した方角は、帝都の中でも人気を感じさせられない裏通りであった。
「あっ……そう言うことでしたら、多分、私お役に立てると思いますよ?」
 風に靡いて少々乱れたピュア・ブルームを、そそくさと直しながら。
 ソナタの提案に、へえ、とクリスタが軽く感心した様に頷く。
「それじゃあ、ソナタさんの力も借りて、さっさとあの無様な怪盗を捕まえてしまおうか」
「では、ぼくが先行しますから、しっかりついてきて下さいね、皆さん!」
 クリスタの頷きと、ほぼ同時に。
 ウィリアムが風の精霊を靴に纏わせてフワリと空中に浮かび、そのままズボリ、と崩れかけている足場を踏んでしまってそこから必死に踏ん張って抜け出し、仮面探偵が指差した方角に向かって方々の体で逃げ出す怪盗を追って駆け出していく。
 クリスタが、ひょい、ひょい、と曲芸の様な足取りで屋上の淵を蹴って次、次、とジョーカーとジョーカーに抱えられたソナタに続き、その後ろから姫桜が後を追い、そして地上を統哉と美雪が駆け抜けて怪盗を追い詰めるべく最後の行動を開始した。


「ハァ、ハァ、ハァ……! な~んで、まだ追ってくるんですかぁ! 振り切れた筈なのにぃ!」
 肩で荒く息をつき、悲鳴の様な絶叫を上げながら。
 風に浚われそうになった黒いシルクハットを慌てて抑え込み、やや涙目でバタバタと裏路地に向かって駆けていく怪盗。
(「確かこっちに逃げ道があったはず……あそこにある気球に乗り込めれば、今度こそ上手く……!」)
 等と勢いこむ、彼女だったが。
 まるで、そんな彼女の希望を打ち砕くかの様に。
 不意に、ぐにゃり、と空間が歪む様な感覚を覚えた。
「ほぇ?」
 怪訝そうにパチクリ、と目を瞬かせる怪盗が、角を右に曲がる。
 この角を右に曲がって更にもう一つ先の角を左に曲がれば気球が在る筈だったのだが……。
「ええっ、なんで十字路になっているんですかぁっ!? 私、曲がる角間違えちゃいましたかぁ!?」
 情けない悲鳴を上げる怪盗の後ろから、ウィリアムの叫びが聞こえた。
「待てぇ~っ!」
 後ろから聞こえてくるウィリアムの叫びに気がつき、咄嗟に左に曲がろうとする怪盗だったが、そこにはくるりと空中で華麗に回転しながら大地に降り立つクリスタと姫桜。
「おおっと、こっちは通行止めだよ!」
「さっさとお縄に尽きなさい、影朧!」
「ええっ!? な……ならばっ!」
 と、真っ直ぐに走り出そうとする怪盗の前にすかさず姿を現したのは……。
「ニャハハッ、こっちも通行止めだよ」
「……さぁ、良い加減観念して貰おうか?」
 クロネコ刺繍入りの緋色の結界を張って通せんぼをしている統哉と、その後ろに愛らしいモフモフさん達を引き連れて、鋼鉄製ハリセンを胸元で強く強く握りしめて構えている美雪の姿。
「ええええええええっ、どっ、どうなっているんですかぁ、これはぁ?!」
 悲鳴と共に白い涙をこぼしながら、唯一開いていた道……右の角を曲がって前進する怪盗。
「さぁて、行きますよ、Mr. Joker!」
「ふふふふふっ、勿論ですよ、ヘルウィリアム。フロイライン。引き続き、宜しくお願い致します」
 ウィリアムの呼びかけに特に否定もせずに頷き返しながら、仮面探偵ババが手を取って隣を走るソナタを見やる。
 ソナタはそれに微笑を浮かべてはい、と頷き、傍を浮遊している銀竜アマデウスを美しい銀のハーモニカへと変形させ、そっと唇に当ててそれを吹き始めた。
(「『迷える子羊、導く御手を……』」)
 ソナタのその、ハーモニカで奏でる曲に籠めた祈りに応じる様に。
 周囲の幻朧桜が白きオーロラの様な輝きに満ち満ちて、白き桜吹雪を辺り一帯へと吹雪かせている。
 その桜吹雪に包まれた裏路地は瞬く間にその姿を変えていった。
「相変わらず、お美しい音色を奏でるのですね、フロイラインは」
 そんなソナタの奏でる音楽を感じ取ながら、仮面探偵がそう告げたところで。
 仮面探偵の隣に立った統哉がニャハハッと仮面探偵に笑顔を向けた。
「やっぱり仮面探偵のババさん……ジョーカーなんだな」
 統哉の問いかけに仮面探偵ババ……がハッハッハッハッハ、と愉快そうな笑い声を上げる。
「さぁて、どうでしょうねぇ? ともあれ、そこのフロイライン怪盗と同業ではございますがね」
 そう告げてクリスタを見る仮面探偵ババ。
「ああ……じゃあ、君もやっぱり怪盗なんだ。ヒーローズアースにいた筈の怪盗がサクラミラージュに出てくるなんて、びっくりだね」
 そんな彼にクリスタが口元に笑みを浮かべながら、相槌を一つ打つ。
 クリスタと彼のやり取りを聞いて、姫桜が怪訝そうに首を傾げた。
(「やっぱり、こいつジョーカーなのね。でも……どうやってサクラミラージュに来たのかしら……?」)
 そこまで考えたところで、まさか、とポツリと呟く姫桜。
「貴方、私達と同じって訳じゃないわよね?」
「さ~て、どうでしょうかねぇ、フロイライン姫桜。まっ、何はともあれ……そろそろ第1幕は、終了みたいですよ?」
 そう告げて。
 怪盗ジョーカー……否、仮面探偵ババを名乗る男に呼びかけられて辿り着いた路地裏の袋小路で、怪盗と呼ばれた女は、ぷるぷると全身を震わせていた。
「なっ……なんで~っ!? どうして、行き止まりに辿り着くんですかぁ!? おかしい、前に来た時は、こんな事無かったはずなのに……!」
「さて、追いかけっこは此処までですよ、怪盗さん。大人しく奪われた宝石を返してお縄につくなり、転生されるなりして下さい」
 絶叫する怪盗にウィリアムがそう呼びかけると、女は屈辱に塗れた表情になりながら、ぴぃっ、と口笛を一つ吹いた。
 突っ込みを入れる機会を待ち続けていた美雪が、モフモフさん達から知らされたその情報に気がつき、警戒の声を上げる。
「上空から多くの影朧、か。……皆、準備を忘れるなよ?」
 美雪の警告に、クリスタ達猟兵と、仮面の男が、其々の表情で頷いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『帝都斬奸隊』

POW   :    風巻(しまき)
【仕込み杖を振り回して四方八方に衝撃波】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    神立(かんだち)
【仕込み杖】による素早い一撃を放つ。また、【インバネスと山高帽を脱ぐ】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ   :    幻日(げんじつ)
自身の【瞳】が輝く間、【仕込み杖】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


*業務連絡:次回プレイング受付開始期間及び、リプレイ執筆期間は下記です。
プレイング受付期間:7月9日(木)8時31分以降~7月10日(土)一杯迄。
リプレイ執筆期間:7月10日(土)20時頃~7月11日(日)一杯迄。
何卒、宜しくお願い申し上げます*

 ――バサリ。
 怪盗を追い詰めた猟兵達の上空から飛び掛かってくる、漆黒の衣装に身を纏った男達。
「あっ……ああ~! やっと、やっと来ましたね~、あの組織の皆さん!」
 バタバタと天空から現れた男達に両手を振る怪盗を、まるで見下した様な眼差しで男達は見つめていた。
「今度こそ、首尾よく行ったのだろうな?」
「あ、あったりまえです! この帝都の大怪盗たる私に不可能なんてある訳ないじゃないですか~、もう!」
 ぷくっ、と頬を膨らませて抗議する女怪盗に、ふん、と軽く鼻を鳴らす男達。
「そういう割には……余計な奴等と一緒にいる様だが?」
「えっ、い、いえ、それは、そのですね……そう!」
 ポン、と手を一つ叩き。
 目前にいるトランプに描かれたジョーカーの様な顔を思わせる仮面をつけた青年……仮面探偵ババにその指をズビシッ、と突きつける。
「この人です! この仮面探偵ババとかいう変な奴に尾けられてしまったのです! こんなイレギュラー、私全く聞いていませんでしたよ! 何なんですか、このヘンテコな探偵は!」
「ハッハッハッハッハ! 只の気まぐれな探偵に決まっているではありませんか。全く、私の美学に反する貴女を、この私が見逃すとでも?」
 大仰に手を振り、呵々大笑する仮面の男に、漆黒の衣をまとった男達が冷酷な殺気を叩きつけ、鋭く目を細めた。
「……ふん、貴様が我等が組織の野望を阻もうとする極悪人か。ならば、此処でその息を止めてやるまでの事。無論、此処を見てしまったお前達、超弩級戦力も例外ではない」
 告げながら低く戦闘態勢を取り、仕込み杖を構える男達に、やれやれ、と言う様に首を横に振る仮面の男。
 そのしなやかな白手袋を嵌めた左手が、自らの白いシルクハットを押さえ、右手の袖からはそっと多種多様なトランプのカードが顔を覗かせている。
「ああ、流石に私ではこれには対応できませんね~、いやはや、困った、困った」
 そう、わざとらしく溜息を一つ吐きながら。
 この場にいる猟兵達に、仮面の男がわざとらしく肩を竦めて呼び掛けた。
「どうでしょう、猟兵の皆さん。私に協力して、この影朧達を懲らしめて頂けませんでしょうか? あれを影朧達の手に渡すのは、避けたいものですので」
 そう言ってボウアントスクレイプを猟兵達に向けてする、仮面の男に対する、猟兵達の、その答えは……。

*以下、ルールです。
1.戦場:比較的高さのある袋小路です。ともあれ、戦うには十分な広さがあります。
2.仮面の男は、猟兵達に敵対しません。共闘は可能です。尚、特に指示などなくとも皆さんが戦っている間の自衛位は何とかできます。
3.この戦いにボスである大怪盗は参加しません。ただ、隙あらば逃げるかもしれませんので、その対策を書いて頂ければプレイングボーナスが手に入ります。

 ――それでは、良き戦いを。
ウィリアム・バークリー
これは噂に聞く幻朧戦線とかいう連中ですか? 何にしろ、口封じをしようとする輩達に遠慮する必要はありませんね。

スチームエンジンとSpell Boostした上で、Active Ice Wall起動。影朧の攻撃は、氷塊で全部「盾受け」します。
数は充分用意しました。必要とあれば、皆さんもご自由に使ってください。

怪盗さん、数は充分用意したと言いましたよね。あなたの行き先は、全部行き止まりです。

さて、怪盗さんの様子に気を配りながら、襲ってくる影狼を何とかしましょうか。
氷塊と氷塊の間に挟んで叩き潰したり、「衝撃波」を纏わせた砲弾として使用したり。

影朧の攻撃は「見切り」つつ、ルーンスラッシュで反撃しましょう。


ソナタ・アーティライエ
争い事は苦手ですけれど、それでも出来ることはあります
それに……ここ一帯はすでにわたしが掌握していますから……

怪盗を追い詰める際に用いた空間支配の権能を引き続き使用
今度は断絶生成も含めてすべてを駆使し
仲間の戦いをサポートする戦場を構築します

儚い見た目とは裏腹に強固な断絶は攻撃を受け止める盾や、相手の動きや陣形を制する壁に
入れ替えによる有利なポジション確保や、危機的状況からの離脱など
戦場全体の状況把握と仲間の援護に努めますね

配下を見捨てて一人だけ逃げようなんて……
そもそも簡単にこの迷宮から逃げられると?
空も封じさせて頂いていますよ

アドリブ・他の方との連携歓迎です


夜月・クリスタ
もちろんだよ、それを奴らに渡すわけにはいかないからね。さぁ、二人の怪盗を恐れない人から掛かって来ると良い!

僕は【ダッシュ】【ジャンプ】【スライディング】で【残像】を発生させながら地面と空中を駆け回りながら【挑発】、攻撃がババさんに集中させしないよう彼らの注意を僕に引きつけつつ、ババさんと協力して影朧達を一ヶ所に纏めていこう。

一ヶ所に集まったら空中へ駆け上がり【妖狐複製・破魔苦無】で苦無の雨を降らせ、【呪殺弾】で確実に殲滅していこう。あと周囲に被害を出さない為に狙いは確実に付ける!

ついでに複製した苦無を、大怪盗の近くに10本位仕掛けておこう。逃げようとしたら【念動力】で動かし、妨害だ!


彩瑠・姫桜
【文月探偵倶楽部】
ジョーカーことババと共闘

敵は各個撃破を意識するわ
UC【咎力封じ】使用し
敵の動きを封じた上で[串刺し]にしていくわね

かなり高速の攻撃仕掛けてくるようだけど
仕込み杖を取り払うことができたら少しは攻撃を緩和できるかしら
[第六感、情報収集]も使って敵の動きをできる限り観察しながら
攻撃の隙を狙っていくわね

万一ババに敵の攻撃が及ぶようなら
[かばう、武器受け]で対応するわ
自衛するでしょうから心配はしてないけど
それでも流れ弾に当たったら目覚め悪いもの

>大怪盗
逃がしてしまうのも面倒だし
捕まえていたら情報収集に有利なのかもしれないわよね
逃げようものなら、足を狙ってUCの拘束ロープをお見舞いするわ


藤崎・美雪
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎

…実はどっちも怪盗でしたというオチだったか
それはさすがにワカリマセンネー(棒)

さて剣呑な輩が出てきたが
一体組織の野望って何だ?
素直に喋って…くれんだろうな

しかしこれはちょいと数が多いな
仮面探偵ババとやら、敵方を撹乱する術を持っていたら助力をお願いしたいのだが
…笑って拒否するならこの鋼鉄製ハリセンが唸りを上げるが

シンフォニックデバイスを通して敵全体+怪盗に聞こえるように歌うぞ
「歌唱、優しさ、慰め」+【幸福に包まれしレクイエム】だ
各々の存在そのものが幸福であると諭しつつ全体の無力化を図るよ
その上で怪盗の脳天にハリセン叩き込むか

…幻日は当方に仕込み杖が向かないことを祈るか


文月・統哉
【文月探偵倶楽部】

共闘なら大歓迎だぜジョーカー♪

オーラ防御を展開すると共に
退路へワイヤーのばし罠を張り大怪盗の逃走防止に

女神の涙、指輪、瞳
女神と呼ばれる存在が甦る…か
前にパティが買った神話の本の内容も思い出そう
ジョーカーはどうしてここに
女神を護りたいそんな風に感じるけども

そして彼らだ
組織の野望とは何だろう
オブリビオンが主体の様だし
影朧戦線とはまた違う様に思うけど
いっそ推測を重ねつつ直接聞くのも手か
嘘を吐くならそれはそれ
ダメージ通し倒せれば問題ない

敵を観察、情報収集
仕込み杖の動きに注意し
攻撃を見切り宵で武器受け
組織の野望とは何か
宝石をどう使うのか
黒幕は何者か
生じる疑問を次々とUCに乗せぶつけるぜ




「……これは、噂に聞く幻朧戦線とか言う連中でしょうか?」
 インバネスコートを翻しながら、地面に着地した男達の姿を見て軽く首を傾げつつ、ルーンソード『スプラッシュ』の鍔に取り付けられた『スチームエンジン』を起動させるウィリアム・バークリー。
 唸りをあげるスチームエンジンの音に呼応する様に、周囲の大気中の水分が凝縮されて氷の礫となり、『スプラッシュ』の刃に複雑なルーン文字を刻みこんでいく。
「ああ、そう言えばいましたね、この世界には幻朧戦線と言う皆さんが。あの方々は一般人なのですが、流石にあの思想には共感出来ないのですよねぇ。何よりも他の人を巻き込み、死者が生まれてしまうのは美しくありません」
 ウィリアムの呟きに仮面の男が飄々と肩を竦めながらやれやれ、と言う様に首を横に振っている。
 無数のトランプのカードを白いタキシードの裾から引き抜く様な仕草を見せる怪盗……否、仮面探偵ババを名乗る彼の呟きに、口の端に笑みを浮かべた夜月・クリスタが破魔の苦無を手に握りしめて頷いた。
「うん、そうだね! 人に被害を出す様な怪盗は、怪盗失格だよね! 僕も協力するよ!」
「……怪盗がひとり、怪盗がふたり、怪盗がさんにん……怪盗が多すぎますネ。と言うか、……探偵も実は怪盗でした、というオチでしたカ。それはさすがにワカリマセンネ-」
「ハッハッハッハッハッ。フロイライン美雪。そうだったのですよ。いやぁ、私の完璧な偽装をこうも易々と見破るとは。流石は猟兵の皆様のご慧眼、恐れ入りますなぁ」
 藤崎・美雪の棒読み突っ込みに、大仰に両手を広げながらいけしゃあいけしゃあと宣う仮面の男の半ば煽り同然のそれに美雪の腰ががくっ、と砕ける。
 その腰に帯びていた鋼鉄製ハリセンが、天空より差し込む日の光を受けて、キラリと神々しい輝きを放っていた。
(「こ、こいつ、絶対分かって言っている……! な、なんて性質の悪い……!」)
 わなわなと肩を振るわせる美雪にニャハハッ、と完爾に笑いながら、仮面の男に向けて、文月・統哉が、ぐっ、とサムズアップを一つ。
「共闘なら大歓迎だぜ、ジョーカー♪」
 そう告げながら、クロネコ刺繍入り深紅のオーラを解放して自らを守る結界を練り上げ、何時の間にか着込んでいたちょっと目付きの悪いクロネコレッドの着ぐるみの懐から、クロネコワイヤーを引き出し構える統哉に、全く……と呆れた様に溜息をつきながら、彩瑠・姫桜が漆黒の槍schwarzと純白の槍Weißの二槍を構えていた。
 そんな姫桜達の様子を見ながら、はい、と、ソナタ・アーティライエが静謐さを携えた青い瞳……慈愛の浄眼が放つ澄んだ青い光でジョーカーを優しく見つめて頷き、周囲をふわふわと漂う銀竜アマデウスへとそっと手を差し出している。
「ええと……馬場様……ではなくジョーカー様、なんですよね? 争い事は苦手ですけれども、それでも、私にも出来ることはありますから……」
 ソナタのその、言葉と共に。
 ソナタに差し出された掌の上にアマデウスがそっと乗るや否や、アマデウスが小さな鳴き声を一つ上げ、美しい白銀のフルートへと姿を変えていった。
 風が吹き、ソナタのピュア・ブルームのドレスの裾が、ふわりと妖精の様に舞う。
「ささ……今の内、今の内ですよ……!」
 風に乗って聞こえてきた泣き声……本人的には囁いているに違いないが、まるで功を奏していないそれを呟きながら、よじよじと壁を登ろうとする大怪盗の鼻先に、カカカカカカッ! と鋭い音を立てて突き立つ10本の苦無。
「えっ……えええええっ?!」
 驚きのあまり上半身を仰け反らせて大仰に其れを躱す大怪盗に掛けられるのは、何処か無慈悲にすら感じられるクリスタの声。
「おっと、君は逃がさないよ? こんな騒ぎ起こしてくれちゃった怪盗として、ちゃんと、責任を取ってもらう必要があるからね?」
 その声の奥に潜む修羅の様な何かを感じ取り、ギギギッ……と、まるで機械の様な動きで顔を向ける大怪盗を、にっこりと、けれども謎の気迫の様なものを漂わせて睨み付けるクリスタ。
 そのクリスタの笑みを見た大怪盗の背筋を、何か冷たいものが走り抜けていった。
「さっさと行け、自称大怪盗。貴様の役割はとっととそれを持ち帰る事であろう」
 そんな大怪盗を追い立てる様に。
 吐き捨てる様に呟く男達の姿を見て、はぁ、と頭を振りながら、仮面の男が小さく嘆じていた。
「ああ、美しくない、美しくないですよ、貴方達。さて、皆様方、準備は宜しいですか?」
「……まあ、剣呑な輩が出てきた以上、こいつらを叩かない理由はないが……」
 何処か疲れた様な溜息と共に、軽く頭を抱えた美雪が呟き。
「まあ、口封じをしようとする輩達に遠慮する必要は一切ありませんからね」
『スプラッシュ』の剣先に描き出されたルーン文字を見つめながら、ウィリアムが小さく呟き、収束されていく氷の精霊達を解放せんと構え。
「ふふ……勿論だよ! さぁ、僕達怪盗二人と、皆を恐れない人からかかってくると良い!」
『It’s Show Time!』
 クリスタが笑みを浮かべて破魔の苦無を構えるのに合わせて仮面の男が頷き、ばさり、と白のタキシードを覆うマントを翻すとほぼ同時に。
 すっ、と目を細め、疾風の如き勢いで、男達が一斉に襲い掛かってきた。


「その瞬間は読み通りですね……! Active Ice Wall!」
 インバネスと山高帽を脱ぎ捨てて更に自らの身を加速させて迫り来ようとする男達よりも一歩先んじて。
 ウィリアムがスチームエンジンの起動と共に、I(イサイス)、M(エワズ)等の『スプラッシュ』に刻みつけられたルーン文字から視界を覆わんばかりの閃光の如き青白い光を発する。
 その青白い光を伴って現れた氷塊の群れが、戦場全体を包み込んだ。
「何っ?!」
 突然の氷塊の群れの登場に、助走で勢いをつけていた男達の一部が正面激突して鈍い音が響き、或いは辛うじてそれらを飛び越し、或いはインバネスを脱ぎ捨てるのが間に合って疾走、と其々の力量に応じた行動を取ったが故に、男達の陣形が崩れた様を見つめてよし、とウィリアムが頷いている。
「氷塊の数は十分用意しました。必要とあらば、皆さんもご自由に使ってください!」
「それじゃあ、遠慮なく行くよ!」
 ウィリアムの呼び掛けに応じたクリスタが大気の力を自らのレガリアスシューズへと圧縮して、レガリアスシューズを起動させて加速して風の様に戦場を駆け抜けながら、周囲に佇む氷塊を軽々と蹴って白き残像を曳き、天空へと駆け上がっていく。
「逃がすものか」
 そう呟いて、クリスタを追いかけようとする複数の黒服の男達に向けて。
「貴方達の好きにはさせないわ!」
 氷塊の影から拘束ロープを解き放ち、文字通り男達の足下を掬う姫桜。
 その間にも大怪盗は戦場から逃げようとクリスタの10本の苦無を迂回して壁を蹴り上がろうとするが、その瞬間大怪盗が、今、正に蹴り上がろうとしていた壁が逆さまになる。
「えっ?! な、何が起こっているって言うんですかぁ~!?」
 重力に逆らえず落下しながら悲鳴を上げる大怪盗の耳に、美しく柔らかな白銀のフルートの音色が届いた。
 ソナタが奏でるフルートの銀と形容しうる音楽を耳にしながら、美雪が戦況を見渡しつつ、はぁ、と軽く溜息を一つ。
「ソナタさんの迷宮である程度はカバーできる様だが……それでもちょい、と数が多い気がするのだよな」
「ハッハッハッハッハッ……そんな事は無い、と私は思いますがねぇ?」
 ソナタの生み出した迷宮に迷い込みすったもんだな目に遭っている男達と大怪盗を見つめながら愉快そうに笑う仮面の男に、米神を解しながら美雪が問い詰める。
「……ええと、仮面探偵ババとやら?」
 心なし、美雪の米神に青筋が浮かんでいる様に見えるのは気のせいだろうか?
「はい、なんでございましょうか、フロイライン美雪?」
 けれどもそんな事はお構いなしに道化しめいた笑いを仮面に浮かべて正々堂々と聞き返してくる男に、美雪がとうとう眉間に皺を寄せて、目を細めた。
「お前さん、敵方を攪乱する術を持っていないか? 持っている様だったら、助力をお願いしたいのだが」
 因みに美雪さんは、鋼鉄製のハリセンを右手で既に振り上げている。
 まるで、仮面の男を脅迫するかの様に。
「違う。これはお願いだ」
 銀のオーロラの敷かれた天空で繰り広げられるクリスタと男達の追走劇を見上げながら、誰もいない虚空に向かって吠える美雪に驚いて、思わず目をパチクリとさせつつ白銀のフルートから唇を外したソナタが、コトリと、愛らしく首を傾げた。
「あっ、あの、美雪様? どうかなさったのですか?」
 曇りのない澄んだ慈愛の浄眼で問いかけてくるソナタに何となく申し訳ない気分になった美雪が、慌ててふるふると首を横に振っている。
「い、いやソナタさん。気にしないでくれ。何でも無いから」
「……? あっ、はい。承知致しました」
 美雪の回答に無垢な笑みで頷いたソナタが、再び白銀のフルートに唇を当てて吹奏を再開。
 再開された美しき銀の音色が辺りを包み込み、それがウィリアムの解き放った氷塊と重なり合い、男達の障壁となって襲いかかっている。
 例えば男達がクリスタを追って氷塊を飛び越えた瞬間に空間が歪み、突如として現れた裏路地の壁に勢いを殺しきれず、ビタン! と鈍い音を立てて激突する、と言った様に。
 そのまま失神して落下してくる2人の男に、姫桜がschwarzとWeißを其々に突き立て止めを刺してからシュルシュルシュル……と伸長した拘束ロープを投擲した。
「かなり高速の攻撃を仕掛けてくる様だけれども……これならどうかしら!?」
 その拘束ロープは、地面に落下して鼻先をぶつけて涙目になっていた大怪盗が慌てて周囲を見回しカニ歩きの要領で横に移動しようとした所に迫ってきている。
「えっ……な、なんで地面に落ちたばっかりなのにこうなるんですか~?!」
「ちっ……!」
 動揺したか、ワタワタと両手をバタつかせる大怪盗に舌打ちを一つ鳴らし、男の一人が彼女を庇う様にその前に立ちはだかった。
「ならば、その武器を奪い取るまでよ!」
 姫桜が叫びながら手元で拘束ロープを操作して、大怪盗の前に壁となって立ちはだかった男の仕込み杖を締め上げていく。
「ぬうっ……?!」
 仕込み杖を絡め捕られて一瞬動きを止めた男へと、クロネコワイヤーを壁に引っ掛けて巻き取り、肉薄する統哉。
 その状況を見て取ったウィリアムが、『スプラッシュ』で姫桜を狙った男を袈裟に断ちつつ、左人差し指で、統哉の近くに浮かぶ氷塊を指差し。
 ソナタもそれに呼応する様に、フルートの曲調を白銀のオーロラ漂わせる神秘的な音色から、紗幕の紗を思わせる薄絹の絨毯を思わせるふんわりとした音色へと変調させ、ウィリアムの氷塊に立ち上がった統哉が向かう道筋を編み上げている。
(「今です、統哉様……!」)
 祈る様なソナタのその声が届いたか、氷塊を蹴って、統哉がそのまま紗の絨毯に立ち上がって『宵』を擦る様に振り上げた。
 下段から振り上げられる様に放たれた黒猫の幻影が、姫桜の拘束ロープに仕込み杖を絡め捕られた男を締め上げていく。
「な、何だ、この黒猫の幻影は?!」
 驚愕に目を剥く男に『宵』を油断なく構えながら、鋭い口調で統哉が問いかけた。
「お前達、何という名前の組織なんだ? それとその組織の野望とは、なんだ?」
「ふっ、よくぞ聞いてくれた! 我等は、『影の女神を愛でし結社『ニーズヘッグ』! 世界を骸の海へと還すべく、世界中で暗躍する秘密結社だ!」
 どーん! と言う効果音が入りそうなくらいに胸をそびやかし、威風堂々、誇り高き口調で言ってのける男の姿に、美雪が強く鋼鉄製のハリセンを握りしめる。
「わざわざ自分達で秘密結社とか言うのか!? さっきまであれ程シリアスな雰囲気満載だったのに、ネタキャラに滑り落ちるじゃないか!?」
 力強く鋼鉄製のハリセンを握りしめたまま間髪入れずに美雪が突っ込みを入れるのにハッハッハッハッハ! と仮面の男が愉快そうに笑った。
「き……貴様! 我等の崇高なる使命を馬鹿にしたな! おのれ、この極悪人めっ!」
 怒号と共に鋭く瞳を輝かせ、仮面の男に肉薄しようとする男達。
 だが、その男達が向かってくると思ったその刹那。
 ――ふぉん。
 奇妙な幻惑の音と共に、仮面の男が不意に姿を消した。
「な……何だっ?!」
 怪訝そうに周囲を見回す男達だったが、不意にその上空に2つの気配を感じ取り、思わず其方を見やり、あんぐりと口を開ける。
「き、貴様達どうやって……!」
 慄く男達が見たのは、天空に、地面と水平に張られた紗幕の上に立つ怪盗クリスタと、仮面の男のツーショット。
 突然のクリスタ達の移動に自分達の理解が及ばず、状況を把握しようと周囲を見渡す男達の耳に、ソナタの奏でる白銀のフルートの音色が響き渡った。
「ちっ……そっちの小娘か!」
 舌打ちをしてソナタに向かって急行しようとする男達の姿を見て取ったウィリアムが、すっ、と横一文字に左人差し指を空中で振るう。
 その主の命令に応じた無数の氷塊を生み出した氷の精霊達が、一斉に動き出した。
 男達の回りを踊る氷塊達は、まるで、男達を取り囲むストーンサークルの様。
 そこにマントをはためかせた仮面の男が無数のトランプカードを射出、男達の手足を縫い留める様にして身動きを取れなくさせている。
「さて、それではよろしくお願い致しますよ、フロイラインクリスタ?」
「お任せあれ! これがダブル怪盗の神髄だよ!」
 仮面の男の呼び掛けにクリスタが快活に笑って、周囲に生み出していた大怪盗の足止めの為に放った10本を除く62本の狐火の如き輝きを伴う破魔の苦無を驟雨の如く大地へと降り注がせた。
 雨あられと降り注ぐ62本のそれが、ウィリアムの氷塊とトランプカードによって身動きの取れなくなっていた十数人の男達を次々に貫いくのを空中で見て取った仮面の男が、何を思ったか、パチン、と指を鳴らす。
「今ですよ、フロイライン姫桜」
「……わっ、分かっているわよ!」
 しれっ、と戦局を見て取り的確な指示を出すジョーカー……と言うかババの言葉に、何となく決まり悪さを感じて顔を真っ赤にしつつ、姫桜が破魔の苦無に貫かれている男達の輪へと踏み込んで二槍を竜巻の如く薙ぎ払う様に振り回す。
 その周囲にウィリアムが展開していた氷塊が、姫桜の二槍の回転によって生み出された風によって砕かれて氷の礫と化し、次々に男達の額や、大切なところ、その他の急所に当たって次々に戦闘不能へと陥らせていった。
「続けてお願い致しますよ、フロイライン美雪」
「くっ、くそっ、何かいい様に使われている気がするが……!」
 ちゃんと指示通り自分達を援護する怪盗に、美雪が突っ込みを入れつつも、戦況的には同意だったのか、姫桜の動きに合わせて高らかなメソソプラノで歌い始める。

 ――それは、幸福でいる事の素晴らしさを称賛する鎮魂曲。

 その曲調の美しさに気が付いたか、白銀の音色を思わせる旋律を奏でていたソナタもまたフルートの曲調に、美雪の歌に合う音色を加えて、新たな旋律を組み上げた。
「ああ……あの御方の為にこの力を尽くすことが出来る……何という素晴らしさだ……」
「ああ、盟主様……。この世で愛に満ち溢れた、貴女様の為に我々は……」
(「なっ……何だ、何なんだこいつらは!? なんか盟主様とか新しい単語が出てきたぞ、おい!?」)
 美雪の歌声とソナタの音色に踊らされた最早天にも至らんばかりの歓喜の表情を浮かべる男達に、思いっきり腰を引く美雪。
 一方大怪盗もまた、恍惚とした表情を浮かべ……。
「ああ……最高です……例えば100万もする絵画を盗むために、1憶のお金を消費するこの無常なる幸せ……!」
 夢見心地な口調でそう叫んでいるのに気がつき、鎮魂曲を歌いながらも美雪が心の中で思わず途方に暮れた。
(「だ、ダメだこいつら……何というか……ポンコツ過ぎる……」)
 美雪の心の声を、読み取ったかの様に。
「隙ありだ!」
 紡ぎだされた禁断の歌によって、頭の中にモワモワと沸いてきた空想を頭を振って打ち払い、その目を漆黒に輝かせて仕込み杖による無数の打撲を解き放つ男がいた。
(「くっ……?!」)
 咄嗟のそれに美雪が反応できなかった、その刹那。
 不意に美雪と、迫りくる男の間の道が断絶され、そこを飛び越える様に現れた姫桜が二槍を風車の様に回転させながら男の仕込み杖による斬撃と打撲を打ち払う。
「今よ、統哉さん!」
「よし、行くぜ!」
 姫桜の呼びかけに応じた統哉が、すかさずと言った様子で振り上げた『宵』を袈裟に振るうと同時に、衝撃波の様に黒猫の幻影が解き放たれて男を絡め取る。
 それに対して怪訝の声を男が上げるよりも早く、統哉が問いかけを口にしていた。
「お前達は、その宝石を何に使うつもりなんだ?」
「我等が盟主様を蘇らせ、骸の海に迎え入れる為……!」
 ――バリン。
 その応えと同時に甲高い音を立てて黒猫の幻影が解き放たれるが。
「隙ありですよ! 『断ち切れ、スプラッシュ!』」
 その隙を見逃さず、側面に回りこんだウィリアムの氷の精霊達を纏った『スプラッシュ』による逆袈裟の斬撃が男を深々と切り裂き、傷口事全身を凍てつかせていく。
 堪えきれずに男がその場に膝をつき、ぜえ、ぜえ、と肩で荒い息を吐いていた。
「くっ……油断したか……」
 そのまま崩れ落ちる様に倒れる男の姿に、他の男達が動揺を露わにしたその隙を見逃さず、ソナタがフルートの曲調をまるで季節の変わり目の様に激しく変化させる。
 その音色に、応じる様に。 
 クリスタと仮面の男が佇む白銀のオーロラの道が敷かれた空間が、美雪の歌で恍惚としている状態から立ち直りつつある男達を包囲する様な形に変動していた。
 連続した状況の変化について行けず、辛うじて仕込み杖を振るってクリスタと仮面の男に攻撃を仕掛ける男達だったが、男達が捕らえられたのは、クリスタが作り出された白のオーロラの道を駆け抜けて生み出した残像と、まるでテレポートするかの様に仮面の男の前に現れた姫桜の二槍のみ。
「ばっ……馬鹿な……我等の攻撃がまるで当たらない、だと……?!」
 悲鳴の様にも聞こえる、影朧達の声。
(「此処は、今は、私が支配している空間です」)
 純真無垢なその心に授けられた権能を活用し、影朧達を惑わすソナタが心の裡でそう男達に囁きかけるその間に。
「慄け、咎人! 今宵はお前達を串刺しよ!」
 仮面の男の前で仕込み杖を弾いた姫桜が叫びながら、その二槍を男達に突き刺し。
「まだまだこれで終わりなんかじゃないよ!」
 更にクリスタが、破魔の苦無の先端から妖狐が操ると思わせる灯を解き放ち、その呪的魔力で男達を次々に呪殺していく。
「ああっ……皆様が、皆様が私の為に倒れていく……。皆様! 私の為に戦わないでくださいませぇ!」
「……どうして、貴女のために私達が戦う必要があるのよ?」
 美雪の歌にすっかり毒気を抜かれていたのか、まるで囚われのヒロインの様な戯言を紡ぐ大怪盗に疲れた様に息を吐きながら、懐に忍ばせていた猿轡を投擲する姫桜。
 統哉がクロネコワイヤーを伸ばしてその猿轡を結び付けて其れを振るい、大怪盗の背後から彼女に猿轡を噛ませていた。
「ふがっ!?」
 猿轡を噛まされ、引き摺り倒される様に地面へと仰け反りかける大怪盗。
 そこにウィリアムが地面に展開していた無数の氷塊が手ぐすね引いて待ち構えているのに気がつき、血相を変えた大怪盗が咄嗟にクロネコワイヤーを引き剥がしつつ受け身を取って、つるりと氷塊に滑りながらも、辛うじて転倒を避けるが。
「怪盗さん、数は十分用意した、と言いましたよね。更にこの空間は、ソナタさんの迷路とも化していますので、あなたの行き先は、全部行き止まりです」
 呟いたウィリアムが『スプラッシュ』を、魔法陣を描く様に一回転。
『スプラッシュ』の動きに応じる様に氷塊達が大怪盗の周囲を漂い、彼女の退路を塞がんと、その周囲を取り囲んでいく。
 そのウィリアムの術式に重ねる様に、ソナタが自らの音色に今までとは微妙に異なる音色を混ぜて奏でるや否や、美雪のいる空間がぐにゃりと歪んだ。
 そして、まるでワープしたかの様に、大怪盗の背後に美雪が姿を現す。
「ふっ……ふががっ(えっ……ええっ)?! ふっ、ふがふが、ふががぁっ(な、何ですか、この気配はぁっ)?!」
 背後を取られた大怪盗が感じたのは、その背にゴゴゴゴゴゴゴッ……と言う擬音が聞こえてきそうな、赤い炎の様な闘志。
 その右手にがっしりと鋼鉄製のハリセンを構え、左手にグリモア・ムジカを握りしめ、鎮魂曲を奏で続ける美雪の姿が、何故かありありと思い描けた。
「お前のために、戦っている訳じゃ、ない!」
 ――バチコォォォォォォォォォンッ!
 その頭部に叩きこまれた鋭い鋼鉄製のハリセンの一撃に、大怪盗が思わずきゅう、と目を回して気絶。
 その間にもソナタによって奏でられた白銀と称すべき音色が、次々に周囲の空間を白きオーロラや紗幕へと作り替えていき、高速で移動する筈の男達を確実に追い詰めていく。
 追い詰められた男達を一人、また一人と姫桜達が打ち倒していき、程なくして。
 ウィリアムの『スプラッシュ』による袈裟が残った数人の内の1人を切り刻み、姫桜の放った二槍が2人の内1人を薙ぎ払い、もう1人を串刺しにし、クリスタの破魔の苦無の複製品から放たれた妖狐の操る狐火の如き白き魔力の炎が、数人の男達を焼き払った。
 残されたのは、ソナタの奏でる音楽によって生み出された白きオーロラによって形成された左右を白銀のオーロラの壁に、前後をウィリアムの氷塊に、そして吊り天井の如く空中に浮かぶトランプカードの結界から垂れ下がる様に突き立っているクリスタの10の破魔の苦無に囲まれつつ、何時の間にか虜囚の如く手枷を嵌め込まれ、猿轡を口に噛まされ、そして両足を拘束ロープでぐるぐる巻きにされた大怪盗と、何とかそれを守る様にと立ち塞がっていた黒猫の幻影に締め上げられた1人の男だけだ。
 美雪の奏でる鎮魂曲に全身から力が抜け、虚脱した表情になっている男に、黒猫の幻影を絡みつかせたまま統哉が、
「さて、お前達の黒幕は誰なんだ? 教えて貰おうか?」
 と、聞くと。
 呆けた表情の男がああ、とまるで恋する初心な少年の如く身を震わせながらペラペラと口を開き始めた。
「それは我等が主! 我等が盟主様だ! 最もあまりにも高貴過ぎて我々の様な下っ端は一度もお目に等掛かったことが無いがなぁ!」
「なんで、そんなオブリビオンを、お前達は崇拝できるんだ!」
 パン! と言う威勢のいい音と共に、統哉の放った黒猫の幻影から解放されたその男の後頭部にスパコーン! と美雪の鋼鉄製ハリセンが綺麗に決まる。
 思わぬ急襲にそのまま前倒れに崩れ落ちた男に、そこはかとない悲しみを感じながら、統哉が『宵』を大上段から振り下ろした。
 その『宵』が幻朧桜を思わせる、淡い桜色の輝きと共に垂直に吸い込まれる様に男の背中に達し……そのまま背骨を貫通し、心臓を貫き彼の魂に、終止符を打った。


 ――パチパチパチパチパチ……。
「いやはや、流石ですねぇ、猟兵の皆様は」
 男達が一人残らず殲滅された様子を見て。
 仮面の男が拍手を叩く。
 フルートから唇を離したソナタが、そんな仮面の男の感動に何処かほっ、とした様に頬を緩ませ、そっと胸に手を置いて息を一つ吐き、姫桜が呆れた様な表情で軽く頭を横に振った。
「何処までもぶれないわね、貴方」
「いやいや、フロイライン姫桜。これは私の本心ですよ。そして……フロイライン美雪。貴女も中々良き歌を歌うのですね」
 そう告げながら、何処か愉快そうにソナタを見つめる仮面の男。
「フロイラインが柔の歌とすれば……フロイライン美雪の歌は、差し詰め剛の歌、と言った所でしょうか。いやはや良き歌にございます」
 そう告げて、優雅にボウアントスクレイプを美雪にして見せる仮面の男に、美雪が大仰に溜息をついた。
「誉め言葉として受け取っておこう。しかし、何というか……貴方にはどうにも調子を狂わされるな……」
(「と言うか、今回の影朧は、こんな奴等ばかりなのか……?」)
 幸せそうな表情で眠る様に止めを刺されている男を見つめ、美雪が何ともいえない表情で頭を振った。
 けれども統哉の目は、飄々とした態度を取り続けている仮面の男を見つめている。
(「女神の涙、指輪、瞳……それによって、女神と呼ばれる存在が甦る……か」)
 思索を進める統哉の脳裏を、嘗てヒーローズアースで共に戦った【文月探偵倶楽部】の団員の一人が購入した本の内容が過っていく。
 本の表題は、『神話・女神の涙』
(「あの本に書いてあった女神伝説は、確か……」)
 よくある御伽噺の様な内容だった。
 嘗て、女神とだけ人々に呼ばれた存在がいた。
 女神は世界を生み出し、その世界の住民達をも生み出したと言う。
 そこに生み出された住民達は、女神によって繁栄した世界で幸福に生きていた。
 けれどもある時、より良き繁栄を望んだ住民達によって世界中の人々が争い、そしてそれに対して女神は、手を差し出すことが出来なかった。
 悲嘆と絶望にくれた女神は自らの体を引き裂き、その痛みと死の中で深い眠りに陥り、そして……そのあまりの心身の苦痛に耐えかねて、世界に一滴の涙を零した。
 その涙こそが、『女神の涙』である……そういう話だった筈だ。
「争い、か。そう言えばヒーローズアースも、サクラミラージュも、幾度もの戦いの後に、今の世界が在るという話だったな……」
 サクラミラージュは、700年以上前に帝都に統治される以前には幾度も戦争が行なわれていた世界であり、ヒーローズアースは、幾つもの戦いの歴史が記録として残っている世界だ。
 或いは其れが、この伝承の切っ掛けを作っているのだろうか?
 疑問は膨れるが解を見いだせず、統哉はもう一つの疑問へと思考を進める。
 その疑問とは……。
(「ジョーカーはどうやって、此処に来たんだろうな? 女神を護りたい、と言う風にも感じられるのだけれど」)
 其れを聞いたとしても、仮面の男……ジョーカーが教えてくれるとは思えないが。
 奇妙な痼りというか、疑問が、統哉の中に燻り続けている。
 統哉が思考を進めるその間に、そう言えば、とソナタが鈴の鳴る様な声で呟いた。
「ここから逃げられない様に閉じ込めさせて頂いていますけれども……あの大怪盗様? は、どうしていらっしゃるのでしょうか?」
「さて……? 先程ハリセンを叩き込んだ時には、気絶していた筈だが……?」
 ソナタの疑問に、美雪が軽く答えを返すその間に。
 壁に張り付く様にして大怪盗の動きを警戒していたクリスタが、皆! と少々上擦った声をあげた。
「何か、檻の中が光っているよ?!」
「……えっ?」
 クリスタの呼びかけに、姫桜が其方を思わず振り返った、正にその時。
 ――カッ!
 一瞬、壁の中から眩い輝きが漏れてくる。
「……流石は女神様、慈悲深いことです。……いや……これは……」
 その輝きを認めた仮面の男……怪盗ジョーカーが、何処か達観した様な、口調こそ暢気だが、微かに緊張を孕んだ声音でそう呟いた、その刹那。
 大怪盗のいるであろう場所で瞬く様な光が迸り、大怪盗を取り囲む壁を弾き飛ばした閃光が、猟兵達の目を覆った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『帝都を騒がす大怪盗』

POW   :    私は人を殺さない! …そのシリアスさだけを殺す!
【怪盗としてありったけの浪漫と非殺の決意】を籠めた【愛用のステッキ】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【シリアスな空気と戦う意思】のみを攻撃する。
SPD   :    毎回ピンチに陥って見せるのも怪盗の醍醐味ですよ!
【あえてピンチな状況に追い込まれた】時間に応じて、攻撃や推理を含めた「次の行動」の成功率を上昇させる。
WIZ   :    怪盗といえばやっぱり予告状ですね!
【辺り一面に舞い散る予告状】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全対象を眠らせる。また、睡眠中の対象は負傷が回復する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠村雨・ベルです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


*業務連絡:次回プレイング受付期間及びリプレイ執筆期間は下記の予定です。
プレイング受付期間:7月16日(木)8時31分以降~7月18日(土)16:00頃迄。
リプレイ執筆期間:7月18日(土)深夜~7月19日(日)一杯迄。
何卒、宜しくお願い申し上げます*

 ――眩い閃光が晴れた、その直後。
「やりました! やりましたよ!」
 弾んだ声音と共に、『女神の瞳』の眩い輝きを受けた大怪盗がドドン! と言う効果音と共に姿を現した。
「帝都を騒がす大怪盗! ただいま惨・上!」
 尚、惨の字は、誤字に非ず。
 現れた大怪盗を名乗る女はあまりの喜び故か、その両目から滂沱の涙を流し、腰に納めていたステッキを引き抜いた。
 ――ガツン。
 引き抜いた勢いのあまりに自らの手を打ち据え、フー、フー、とその手に息を吐きかけているのはご愛敬。
「あの組織の盟主様が、私の大活躍をきっと称えて下さったのでしょう! ああ! 力が! 力が湧いてきますわ!」
 ――ガシャン、ガラガラガラガラガラ……!
 ビンビンと放たれるその気配に圧される様に、周囲の建築物が少しずつ崩れ落ちてきているのに気がつき、仮面の男……怪盗ジョーカーが軽く頭を横に振った。
「ああ、流石にまずいことになりましたね」
 風に揺られて周囲に咲く幻朧桜の花が散り、桜吹雪となって襲いかかってくるのをトランプカードで編み上げた結界で防御しながら、参りましたねぇ、と肩を竦める怪盗ジョーカー。
「これでは、周囲の人々に影響が出てしまいます。それはあまりにも美しくありませんねぇ、はぁ……」
 シルクハットを小脇に抱えて、空を仰いで溜息を一つ吐きながら。
 怪盗ジョーカーが猟兵の皆さん、と優雅にボウアントスクレイプを一つして問いかける。
「と言う訳で、恐れ入りますが。私に力をお貸し頂けませんか? 一先ずあの自称大怪盗があそこに持っている『女神の瞳』を、誰かが盗み取ることが出来れば彼女も戦闘能力を失い、転生できる様になる筈ですから」
 そう告げたジョーカーが指差したのは、大怪盗の胸の谷間で黒く怪しく光り輝くダイヤモンドの様に美しい宝石。
 恐らく其れが『女神の瞳』、なのだろう。
「ああ……これだからニーズヘッグは嫌なんですよね。彼等が絡むと、大体何処かの世界が大変な事になり、刃傷沙汰になってしまう。これは、私の美学とは決して相容れませんねぇ。と、言う訳で皆さん。It’s Show Time!」
 その怪盗ジョーカーの合図に対する、猟兵達の、答えは……。

*今回のルールは下記です。
1.戦場は今までと変わりませんが、UCで改変された地形は元通りです。
2.仮面の男は共闘可能ですが、彼は基本的に大怪盗から宝石を奪う事を優先します。尚、ジョーカーが奪った宝石をどうするのかは、皆様との会話等で決まります。
3.仮面の男を逮捕・拘留することは出来ません。また、影朧の大怪盗は『女神の瞳』により強化された訳ではなく、戦える状態まで回復したに過ぎません。ので、難易度は普通です。
4.望むなら仮面の男の代わりに、大怪盗から宝石を盗む事が可能です。但し、『怪盗』的な立ち居振る舞いが出来る人の方が当然成功率は上がります。
 また猟兵達が盗んだ場合、『女神の瞳』は自動的に博物館に返却されます。
*此方は、フレーバー的な意味での『怪盗』となります。その為、ユーベルコード云々よりもキャラ設定やプレイングを優先して『盗む』プレイングを採用致します。

 ――それでは、良き戦いを。
ソナタ・アーティライエ
展開に戸惑いながらも
ともかく周囲に被害を広げないよう、皆様に怪我のないよう
その2つを心に留めて対応させていただきます

アマデウス、フルートから竪琴へと姿を変え
第六感の鳴らす警鐘に遅滞なく反応し
予告状に込められた力を無効化するために動きます
歌と絃音が紡ぐのは命溢れる楽園の物語
無数の予告状は光の粒子となって解け、新たな姿となり再誕
『睡眠』の属性を宿した小鳥たちは大怪盗さんへお返し
『癒し』の属性を宿した仔猫たちは仲間の許へ

宝石は、ジョーカー様が必要だと仰るなら
お渡ししても良いかと思います
理由もなく誰かが悲しむような事をする方ではないと思っていますから
ただ……その理由が解消されたら元に戻して頂きたいです


ウィリアム・バークリー
ああ、何か雰囲気が変わりましたね。これは甘く見ると痛い目に遭うかも。

それでは、Active Ice Wall展開。大怪盗の動ける範囲を制限します。
ぼくは後方から味方の動きをよく見て、氷塊が邪魔にならないように。
乱戦になりそうですからね。投射系の攻撃は控えないと、味方に誤射しそうです。
こういう時に便利なのが、Slipの魔法。氷の「属性攻撃」付きで、大怪盗の足下を凍らせて、滑って転んでもらいましょう。効果的な魔法とは、派手なものとは限らないんです。

皆さん、隙は充分に作ったつもりです。『女神の瞳』取り戻してください。
後はお任せします。

宝石を取り返された大怪盗の姿が崩れていく。輪廻の輪に還るのかな?


夜月・クリスタ
直接対決の時間だ。キミのような二流怪盗が勝つか、僕達二人の怪盗が勝つか勝負しようじゃないか!という訳でジョーカーさん、今度も頼むよ。

【犯行予告状】を投げつけよう。怪盗としてのプライドというか、本来の目的…あえて警戒させる事で隙を生み出す為さ。怪盗なら予告状を出す意味知ってるはずだけどな…。

そして僕は【怪盗行為】で女神の瞳の盗みに挑戦し、成功したらある物を代わりに握らせよう。手の中に物体の感触があると、咄嗟に盗まれたと気づかないものだしね。

二人のどちらかが盗み出せたらトドメと行こう。握らせた物…仕込み拳銃を妖力で操り、頭部に向けて【零距離射撃】!…もう一度怪盗について学んでから、出直してきなよ。


彩瑠・姫桜
【文月探偵倶楽部】
ジョーカーと共闘

大怪盗から攻撃受ける可能性ってあまりない気がするけど
必要なら[かばう、武器受け]で対応するわ

それにしても今回の敵、皆どこかおかしいんじゃない?今更?(頭抱え)
ツッコミ代わりに【双竜演舞・串刺しの技】で一撃入れちゃっていいかしら?

あ、言っとくけど
私はこれでもシリアスオンリーなんだから(多分
貴女みたいなコミカル要素なんて持ち合わせてないんだからね?!

私は怪盗にはならないんで
皆ノリノリなら頑張って

ジョーカーが『女神の瞳』を盗む気なら
手にして何するのかが気になるので一応会話してみたいわ
統哉さんはその辺もう推理してるの?
なら答え合わせしてみるのもいいかもしれないわね


文月・統哉
【文月探偵倶楽部】

UCで宝石の偽物を大量生産
パンと弾けてハズレの紙が出る仕掛け付き♪
ノリノリで怪盗役の補助に回るよ

可能なら祈りの刃で送る
ネタを貫くその姿勢嫌いじゃないぜ
立派な怪盗に生まれ変わったら
また会おうな!

ニーズヘッグか
北欧神話は詳しくないけど
彼らと罵り合う君は
さながらフレースヴェルグだね
死者を嘴で引き裂くという鷲
なあジョーカー
もしかして君は女神の事を直接知っているのかい?
絶望した女神を眠らせたのは…
にゃはは、単なる想像だよ
でももしそれが女神の遺志であるならば
君はもう女神を悲しませたくないんだろうなって
毎度博物館に戻すのは
女神の宝石は女神の愛した人々と共にあるべきだと思うから
なんてね(笑顔


藤崎・美雪
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎
ツッコミ全振り問題なし

おかしい…何かおかしいぞ
大怪盗との対決という盛り上がる状況のはずだが
どうしてこうも締まらないのか!?
…まあ、ドジっこ属性に加えて「惨上」となった時点で締まらんわな

それはさておき
存在自体が幸福であると語っても意味は薄いな
ならば大怪盗よ、もふもふに埋もれて眠り
さらなるドジっこ属性を発揮するが良い
(歌唱、優しさ、慰め+【スリーピング・シープ】)
※大怪盗の転生は皆様にお任せ

宝石は博物館に返すべきだな
ジョーカーが盗もうとしたら「紳士が淑女の胸の谷間に手を突っ込めるのか」とにこやかに脅そうか
大怪盗が転んで頭を地面にぶつけたら、ポロリと落としそうな気もするが




「おかしい……何かおかしいぞ」
 大怪盗の胸の谷間で、黒く怪しく光り輝く宝石……『女神の瞳』
 そして、それによって崩れ落ちていく、周囲の建築物。
 つまりそれは……。
「このままでは帝都はカクリヨファンタズムレベルで大ピンチ! それを食い止める為に怪盗同士が腕を競い合い、その宝石を奪い取って大怪盗と対決するという映画とかなら最高に盛り上がる状況の筈なのに……!」
 まるで、バトル物でよく出てくる必殺技の解説者の如く捲し立てながらもフルフル震えている藤崎・美雪の視線の向こうでは。
「あうっ!?」
 バチコン! と鈍い音と共に抜き放った筈のステッキで自らの手を打ち据え、フー、フー、と涙目で息を吐きかけている大怪盗がいた。
 その残念さ加減に、ぐぁ~っ、と鋼鉄製ハリセンを虚空に向けてブンブンと振り回しながら美雪が魂の叫びを一つ。
「どうして……どうして、こうも締まらないんだ~!!」
「み、美雪様……」
 鋼鉄製ハリセンを振り回しながら叫ぶ美雪の様子に白銀のフルートへと姿を変えていたアマデウスに念話で白銀の竪琴に変形しても貰える様お願いをしつつ。
 ソナタ・アーティライエが変貌していくこの世界の様子に戸惑いを隠せず慈愛の浄眼を宙に彷徨わせながら、指をくわえる様に唇にピタリ、と当てて愛らしく首を傾げていた。
「ええと……今、私達の前で何が起きているのでしょうか?」
 パチクリと瞬きをして純粋に疑問を呟くソナタに同情しつつ、Weißを握った左手で頭を抱えて海よりも深い溜息を一つ吐いたのは、彩瑠・姫桜。
「多分、突っ込んだら負けなんじゃないかしら……。と言うか、今回の敵、皆何処かおかしいわよね!? あの大怪盗? の言っている盟主とか言うのも……ええ」
 尚、その右手に身に付けている銀製の腕輪に嵌め込まれた玻璃鏡も、まるで呆れて空を見上げているのではないかと思える程に澄み切ったなんとも言えない玻璃色の光を、鏡面に映し出していた。
「まあ、そうかも知れませんけれど……流石にあの輝き、雰囲気が変わったと思えるのは間違い無いですよね。……甘く見ると、痛い目に遭うかも知れません」
 何処か冷静な表情で、左手の人差し指で空中に青と桜色の混ざり合った魔法陣を描き出しながら。
 警戒を呼びかける表情で呟くウィリアム・バークリーにニャハハッ、と文月・統哉が着ぐるみ探偵、着ぐるみレッドのスーツにその身を包みながら愉快そうに笑った。
「そうだね。まあ、でも此処は2人の怪盗に任せてみるのが一番なんじゃないかな? その方が楽しそうだしね♪」
「ふふっ、統哉君、よく分かっているみたいだね」
 何処か弾んだ声で笑う統哉に、口元に笑みを綻ばせてそう告げるのは。
 ――怪盗フォックステール、夜月・クリスタ。
 そんなクリスタの心情を代弁するかの様に。
 幻朧桜の花弁達が風の精霊達に酔う様に空中を舞い、クリスタの白き怪盗のマフラーと、クリスタとその背を向かい合わせにして立ち、シルクハットの鍔を軽く握って僅かに浮かばせている怪盗ジョーカーがタキシードの上から羽織る、マントを靡かせていく。
『背中合わせの怪盗』の間を駆け抜けていく桜吹雪と言う何処か情感の伴う光景の中で、緩やかに爪弾かれたソナタの弦の音色に合わせる様に紡がれ始めた『幻創』の歌が、何処か非現実的な美しさを醸し出していた。
「なっ……何でですかぁ!? 何で、何であっちの方がこの世紀の大怪盗である私よりも怪盗っぽいのですかぁ?!」
「いやぁ……そりゃあまぁ、なぁ……」
『天然』、という言葉がしっくり当て嵌まるぼけを見事に噛まして叫ぶ大怪盗に、何だかとても居たたまれない気持ちになり、呆れた様に美雪が目を細めている。
(「何だ、ツッコミ専になる覚悟があるにも関わらず、彼女を見ていると、こう、思わずホロリとしてしまう様な、なんとも言えない悲しさを抱いてしまう、このモヤモヤとした感覚は……」)
 そう胸中で美雪が呟くその間に、怪盗クリスタが、破魔の苦無に結びつけた犯行予告状を、怪盗ジョーカーが、トランプのジョーカーを思わせる絵札の描かれたカードを大怪盗に対して突きつけた。
「さて……直接対決の時間だ。キミの様な二流怪盗が勝つか、僕達2人の怪盗が勝つか……勝負といこうじゃないか!」
 何処か芝居がかった口調でそう告げてクリスタが破魔の苦無と共に犯行予告状を。
 怪盗ジョーカーが絵札の書かれたカード……それは、怪盗ジョーカーの犯行予告状……を大怪盗に向けて投擲し、其々に胸を反らして口元に不敵な笑みを浮かべた。

 ――『今宵、女神の瞳を頂きますby怪盗クリスタ&ジョーカー』

 そう告げる、己が怪盗の矜持と共に。


「こ……これはぁ! 怪盗必須アイテム予告状! でも予告状とは……本来こういものですよね!?」
 怪盗クリスタとジョーカーに投げつけられた予告状を見て、半ば興奮気味に捲し立てながら、バラバラバラバラバラ! と白い予告状を辺り一面へと乱れ撃つ大怪盗。
 その予告状の群れは……。
「あれか! あの一番最初の逃亡劇で散らばっていたあの予告状か! そんな風に予告状を適当にばらまくとか……其れって、本当に怪盗なのか!?」
 思わず、と言った様子で美雪がツッコミを入れる傍ら、ピリリ、と背筋に流れる悪寒の様なものを感じたソナタが、すかさず白銀のフルートから白銀のリラ型の竪琴へと姿を変えたアマデウスを優しく爪弾きながら、甘く柔らかな天使の様な柔らかい声音で、命溢れる楽園の物語を自らの内から溢れ出す『聖』なる主の権能の欠片を伴った光の歌として紡ぎ出す。
 紡ぎ出された歌声によって、大怪盗の投擲した無数の無機物であった予告状達がクリスタ達に突き刺さるよりも前に、光の粒子と化して解けて仮初めの命へと姿を変えていった。
 ――ある予告状は、『睡眠』の属性を宿した小鳥達に。
 ――また、ある予告状は、『癒し』の属性を宿した仔猫達へと。
「ナー、ナー、ナー」
 何やら生まれたての仔猫の様な愛らしい鳴き声を上げながら、姫桜達に懐くかの様に近付いていくる仔猫達に、はきゅ~ん! とハートを貫かれ、姫桜がにこぉっ、と相好を崩す。
「かっ……可愛い……♡」
 そのまま仔猫達に背中に乗っかられたり、足下に群がられたりするこのモフモフ感に、姫桜がふにゃふにゃしていると……。
 ――テチテチテチ。
 呆れた様に、Weißがホワイトドラゴン形態になって自分を小突いてきた。
「……はっ! わ、分かっているわよ、これは回復! 回復よ! 私はこれでもシリアスオンリーなんだから……!」
 そう言って気を取り直した姫桜に、美雪が思わずソウデスネ。と小声で突っ込みを入れていた。
「……あ、あの、私としては皆様を癒すためにやらせて頂いたのですが……大丈夫でございましょうか?」
 ちょっとだけ心細げな表情になるソナタに美雪が大丈夫だ、と首を縦に振る。
「あのドジっ子属性の大怪盗は、ほら……」
 告げながら美雪が指差した先にいた大怪盗は、ソナタが再構築した『睡眠』属性の小鳥達に啄まれ、或いは、肩やらシルクハットやらに乗っかられて、何だかとても眠くなってきたのか、ゴシゴシと相手のシリアスさだけを断ち切るという、大惨事能力を持つステッキで、眠たげに自らの目を擦っていた。
「ふわぁ~。何だか私、眠くなってきましたぁ~……。ああ……この夢現な感じ、とっても不利な筈なんですけれど、とても幸せですねぇ~……」
「あんな惨上と化しているからな」
 幸せそうな眠りに陥りそうになりながら、何やら漆黒の輝きを更に強くする大怪盗の姿に、油断できないな、と言う表情になりつつソナタにそう返す美雪。
 実際、冗談の様に素早く此方に肉薄し、そのシリアスさと戦う意志を断ち切ろうとする愛用のステッキを振るう速度と足捌きは、眠気全開に加え、存分にドジっ子属性を発揮して周囲の壁に激突しているにも関わらず、やたらその破壊力を増し始めていた。
「! Active Ice Wall!」
 崩れかけている周囲の瓦礫から統哉達を守るべく、編み上げた魔法陣を起動させ、無数の氷塊の塊を射出するウィリアム。
 それらの無数の氷塊達が崩れ落ちて来る瓦礫の破片や、大怪盗の足捌きを的確に抑え込んでいくが、それでも大怪盗の勢いが止まる気配はない。
「ムニャムニャ……こういうピンチこそ……怪盗の醍醐味なのです~……!」
 寝言の様に呟く大怪盗のそれに、ウィリアムが気を引き締めた表情の儘に、ルーンソード『スプラッシュ』を抜剣、大怪盗の足下へと突きつけ、その剣先で若草緑色と、青、そして桜色が重なり合った魔法陣を描き出し、その足下の地面を凍てつかせ、凹凸の無いつるつるとよく滑る氷の床を生み出した。
「『Slip!』」
「ふ……ふにゃぁ?!」
 ウィリアムの作り出した氷の床にすっかり嵌まった大怪盗がそのままの勢いでつるつると滑り勢いよく転ぶと同時に、スッポーン! とその手からステッキを取り落とす。
 そのステッキがゴチン! と鈍い音と共にクリスタを庇ったジョーカーに当たり、アイタタタタタと軽く痛む額をジョーカーが摩る姿を見て、あっ、とウィリアムが思わず小さく声を上げた。
(「敢えてピンチな状況に追い込まれれば追い込まれるほど、次の行動の成功率が上がる、と言う訳ですか……!」)
「全くこれは酔拳……と言うより、睡拳じゃないか……! 何なんだこの大惨事は?!」
 美雪が突っ込みを入れつつ、転んで態勢を崩した大怪盗へと子守歌を奏で始めた。
(「ドジっ子になればなる程あの大怪盗の技の成功率は上がるが……度の過ぎたドジっ子属性となれば、話は別だろう」)
 ――そう。
 花に水をやりすぎると却って良くない理論、と同じ様に。
 ……だから。
『羊さん、羊さん、皆の心も体も、そのもふもふで癒してやってくれ』
 半ば自己暗示に近い何かを呟きながら、子守歌を完成させる美雪。
 美雪のその子守歌に感応する様に姿を現したのは。
(「も、モフモフ……モフモフしたくなる……!」)
 ソナタの呼び出した仔猫たちにじゃれつかれて心の癒しを得て、戦意を維持し続ける姫桜が思わず頬を赤らめてしまう程に可愛らしい、そんなモッフモフな羊達。
「めぇ~、めぇ~……」
 聞くだけでも眠くなりそうなそんな鳴き声を上げながら我先にと、大怪盗へと迫っていく羊たちの群れに圧迫され、ウィリアムに転ばされた姿勢の儘に、思わずスヤァ、と眠りこけかける大怪盗。
 その傷は癒えている様な気がしないでもないが、その間にもソナタが奏でた竪琴の音色に乗って仔猫と化した予告状達に戯れられて、先程出来たタンコブを癒された怪盗ジョーカーとクリスタが、ウィリアムが呼び出した氷塊の群れを足場に一気に大怪盗に肉薄する。
 迫ってくる気配に最初に投げつけられた予告状の効果か、一瞬我に返って寝ぼけ眼を擦る大怪盗がそんなクリスタ達を安らかな眠りにつかせるべく予告状をばらまこうとするが、それはソナタの奏でる白銀の竪琴の美しい音色と透き通った『聖』を思わせる歌声によって、瞬く間に小鳥と仔猫達へと変化し、姫桜達に癒しを、大怪盗に何処か充足した眠気を与えてくれた。
 そして、その間に。
「君のお宝、頂くよ!」
「これこそ、怪盗の醍醐味というものでございます」
 クリスタがすっ、と転びながらも尚、まるで接着剤で貼り付けられたかの様に大怪盗の胸に居座る(?)黒い宝石へと手を差し出し、その反対から怪盗ジョーカーもまた、白手袋に包まれた手を、優雅な手付きで突き出している。
 ――と、此処で。
「待て、ジョーカー。貴方の様な紳士が、淑女の胸の谷間に手を突っ込めるのか?」
 その右手に、鋼鉄製のハリセンを持って。
 見る人によってはなんか見た瞬間に息が止まってしまいそうな程の満面の笑顔を浮かべた美雪の晴れやかな説得……。
「いや、脅しに決まっているだろう!」
 ……もとい美雪の脅迫に、ふ~む、と怪盗ジョーカーが軽く唸るその間に。
「頂きだよっ!」
 ――シャッ!
 まるでチェシャ猫(妖狐だが)の様なしなやかで鋭い動きで、大怪盗の胸の宝石に手を伸ばしたクリスタの手が届いた。
 そのまま目にも留らぬ早業で、左手でスタイルの良い胸を覆う白い和装束に忍ばせていた自らの拳銃を引き抜き、大怪盗の手に素早く其れを握り込ませる。
 妙に生暖かく、禍々しい漆黒の輝きを放っていた宝石がクリスタの手元に戻るや否や、急にその光の勢いが弱くなり、小さな正しく瞳を思わせる白い光を伴った宝石へと姿を変えるその間に、それまで睡拳の様な様相を呈していた大怪盗の体から、ヘニャヘニャと力が抜けていくのを、クリスタは感じ取った。
「……ふわぁ~……はふぅ……もふもふ羊さん、フワフワ小鳥さん気持ちいいですぅ~……って、あれ?」
 何やら幸せそうな声をあげながら、ゆっくりと起き上がった大怪盗。
 ふと、自らの手に握り込まれた冷たい感触に、ああ……と、何故か妙に感無量と言った表情を見せていた。
「ふふふ、これが女神の瞳……! この素晴らしい宝物が遂に、遂に私の手の中に……!」
「ニャハハッ! それだけじゃないぜ!」
 自己陶酔ここに極まれり、と言った表情の大怪盗の様子に、口元に笑みを浮かべた統哉が大量の宝石の偽物を生産、ウィリアムが凍結させた大地の上に其れをばらまく。
「ほら、他にもこんなに一杯あるぜ! お前の大好きな宝石の山が!」
 眠気に苛まれつつも立ち上がった大怪盗の追撃を避けるべく、クリスタがひらり、ひらり、と白いマフラーを風に靡かせながら鮮やかに、怪盗ジョーカーが、統哉の作り出した宝石の一つをまるで魔法の様に抱えて飄々と氷塊を伝って離脱していく。
 そんなクリスタとジョーカーを追おうと思った矢先の、統哉の呼び出した宝石(模造品)の群れに、目を正しく宝石に変えた大怪盗が、ウィリアムによって凍結した氷の大地の上で何度もこけつまろびつつしつつ思いっきり首を突っ込んでいた。
「ああ! これは、私の探し求めていた女神の瞳! これさえあれば盟主様も、ニーズヘッグも私の事を認めて下さるはずですわ!」
「なんでそこ、記憶がこんがらがっているんだ! 幾ら何でもポンコツ過ぎるだろう!?」
 金の亡者の如く宝石に取り憑かれて何だか今までの全てを否定する様な爆弾発言さえ飛び出す大怪盗のそれに耐えきれずに美雪が突っ込みを入れ、そのままズカズカと近付いてき、鋼鉄製ハリセンでシパコーン! と、それはそれは力強く大怪盗の頭部を叩いていた。
「ぐっ……ぐぅっ?! こ、この私のシリアスな空気と戦う意思のみを断ち切る力が、通じないとでも言うのですか!?」
 驚愕覚めやらぬと言う表情と化し左手に一杯の偽『女神の瞳』を抱え込んだ大怪盗にそれまで愛らしい仔猫やら羊の群れに胸キュンしていた姫桜がはっ、と再び我を取り戻した。
「いっ……言っておくけれど、わ、私は、貴女みたいなコミカル要素なんて持ち合わせていないんだからね!?」
「何でそこでツンデレるんだ姫桜さんが!」
 顔を真っ赤にしながらプイッ、と大怪盗から顔を背ける姫桜に美雪が思わず突っ込みを入れる。
 そんなコントの様なやり取りに、クスリ、と柔和な微笑を浮かべたソナタが白銀の竪琴の音調を変え、澄んだ美しい歌声を辺り一帯に響かせた。
 ――と。
 ――パン! パパン! パパン!
「っ?! な、なんですか!?」
 突然、自分の左手の中で爆発した偽『女神の瞳』達に驚きのあまりに目を剥き凍り付いた表情になる大怪盗。
 その左手では、可愛らしくアッカンベ~をしてちょろっ、と舌を出した偽『女神の瞳』が弾け、その口からカタカタカタカタカタ……とファックスの様に、『ハズレッ!』と書き付けられた白い紙が吐き出される。
「えっ、ちょ、ちょっと……外れ? こ、これってどういう……?」
「あれ? まだ気がついていないの?」
 慌てふためいた様子でキョロキョロと辺りを見回す大怪盗をからかう様にクリスタが声を掛け、その手の中にあった本物の『女神の瞳』をわざとらしく、ひらひらと翳す。
 そのクリスタの手の中にある物が何であるのかに気がつき、ええっ?! と心外そうな悲鳴を、大怪盗は上げていた。
「ちょっ、ちょっと待って下さい。そ、それじゃあ私のこの右手に握りしめられているものは……?」
 と、大怪盗が自らの右手をぱかっ、と開けたその瞬間。
 クリスタが『女神の瞳』と入れ替えて大怪盗の手に握りしめさせた拳銃の銃口が、キラリ、と空から射してくる光によって美しく輝いた。
「えっ……ええと……?」
 テンパって頭が真っ白になってしまっている大怪盗のその姿に一つ頷き、クリスタがジョーカーに目配せし、そして……。
 ――パチン!
 クリスタとジョーカーが指を鳴らした、その刹那。
「もう一度怪盗について学んでから、君は出直してきなよ!」
 クリスタの、その決め台詞に合わせる様に。
 ――ズキューン!
 零距離でクリスタが大怪盗に握らせた拳銃から銀の弾丸が飛び出しそれが大怪盗の額を撃ち抜き、大怪盗が大きく仰け反り……更に。
 ――つるん。
 まるでお約束の様にウィリアムによって凍り付いた地面で滑って見事にすっ転ぶ大怪盗。
「効果的な魔法とは、派手なものとは限らないんですよ? 姫桜さん、今です!」
「せ~の!」
 ウィリアムの呼びかけに応じる様に。
 姫桜が構えた二槍を、ツッコミがてら完全に転倒して、ピクピクと全身を痙攣させている大怪盗に向けて突き出した。
 漆黒と、純白……2つの輝きを伴ったその二槍が、無様に転倒している大怪盗の心臓と喉仏を貫いた杭の様に、大怪盗の体を地面に縫い止めている。
「統哉さん、此処から先は任せた」
 美雪のその言葉に押される様に統哉が頷き。
 すかさず構えた漆黒の大鎌……『宵』の刃先に桜色の輝きを伴った一閃を放った。
「ネタを貫くその姿勢、嫌いじゃないぜ! 立派な怪盗に生まれ変わったら、また会おうな!」
 その、統哉の呼びかけと共に。
『宵』の刃が大怪盗の体を断ち切り、その全身を光と化させて消えさせていく。
「大怪盗の姿が崩れていく……。これならきっと、輪廻の輪に還れますよね……?」
 統哉の刃によって光となった大怪盗の姿を見送りながらのウィリアムの呟きに。
 竪琴を奏で、歌を歌っていたソナタがそっと其れを止め、純真で優しき光を称えた作り物の青き瞳……『慈愛の浄眼』でウィリアムをチラリと気遣わしげに見つめ……それから花の咲く様な柔らかな微笑みを浮かべて、静かに頷いた。
「はい。きっと……あの御方は、還る事が出来たのだと思います。何よりも……皆様が、其れを願っていらっしゃるのですから」
「……そうだな」
 ソナタのそれに美雪が静かに頷き、光となって、消えていった大怪盗を見送った。


「それにしても、ニーズヘッグか……」
 夕焼け空に消えていく、大怪盗の光の残滓を見送りながら。
 統哉が腕を組みながら呟いている。
(「北欧神話は、正直詳しくないんだけれど……」)
「彼等、ニーズヘッグと罵り合っていた君は、さながらフレースヴェルグ、だね」
 ニーズヘッグは世界を喰らい、終末を乗り越える大蛇。
 一方でフレースヴェルグは死者を嘴で引き裂く鷲。
 つまるところ、水と油の関係に近いと言う事だ。
「それはジョーカーに対して言っているのかしら? それとも、彼女のこと?」
 そんな統哉の呟きを耳に留めた姫桜が気になったかそう問いかけると、統哉がポリポリと頬を掻きながら姫桜の方を振り向いた。
「さ~て、どっちなんだろうね?」
 何処か誤魔化す様な、冗談めかした笑みを浮かべる統哉に、姫桜がそう、と軽く呟き、それからウィリアムの氷塊から滑る様に華麗に下りてきたクリスタと怪盗ジョーカーの方へと視線を移した。
 因みに、『女神の瞳』は、クリスタの手中にある。
 其れを怪盗ジョーカーが狙う可能性も0では無いが、今の所はそう言う素振りは見せていない。
 怪盗ジョーカーの方をしげしげと眺めつつ、くい、とソナタが愛らしく小首を傾げていた。
「そう言えば、そのクリスタ様が持っていらっしゃる宝石……『女神の瞳』、でしょうか。そちら、怪盗ジョーカー様にとって必要な物、なのですよね?」
 静々と言った様子で問いかけるソナタに、怪盗ジョーカーは飄々と肩を竦める。
「そうでございますね。確かに必要と言えば必要ではございますが、既にそれはフロイラインクリスタ様を初めとした、猟兵の皆様の物でございます。となれば、今の私にとっては必ずしも必要な物ではございませぬ」
 戯けた様な仕草で肩を竦めるジョーカーに、クリスタがニッコリと笑う。
「まあ、今回の『怪盗』としての戦いでは、あの二流怪盗についてはさておき、僕の勝ちって事だよね? となると、ジョーカーさん的には、今回はもう僕から盗るつもりないでしょ? それは怪盗のプライドが許さないものね!」
 冗談めかして告げるクリスタに、おおと大きく両手を広げ、恭しく一礼する怪盗ジョーカー。
「然様にございます。やはり他の怪盗に先に奪われたのであれば、その所有権は、その怪盗にあるものでございましょう。でなければ、私にとっての怪盗界の仁義に反します故に」
「怪盗界の仁義、か……。その割には、あの大怪盗からは奪おうとしていた様だが?」
 美雪の質問に、あれは、と軽く怪盗ジョーカーが首を横に振った。
「あれは私の美学に反しております。フロイラインクリスタは私の中の美学に反さない範囲で私を見事に出し抜き、今回の戦利品を得る事が出来たのです。でしたら、今回は素直に私が負けを認めるのは、何もおかしな事ではございますまい」
「まあ、Mr.Jokerがそう言うのならば、ぼくは良いのですが。何だか、自分なりのルールとか美学に凄く拘っていますよね、あなたは」
 ウィリアムのさりげない問いかけに、シルクハットを軽く持ち上げて道化師めいた笑みを浮かべる怪盗ジョーカー。
「そうでもなければ、怪盗を名乗るつもりはございませんよ、ヘルウィリアム。いずれにせよ、今回も猟兵の皆様には助けて頂いたわけです。いやはや助かりました、助かりました」
 そう言って大仰に一礼する怪盗ジョーカーの姿に、以前、ヒーローズアースで夕暮れ時の空の中で出会った時の事を思い出したソナタが、そっと微笑を浮かべた。
「ふふっ。まあ、ジョーカー様がそう仰るのであれば、私も別に構いません。少なくともジョーカー様は、理由もなく誰かが悲しむ様な事をする方では無いと思っていますし」
 にっこりと、無垢さを感じさせられる天使の様な笑みを浮かべるソナタにフフフッ、と口元に微笑を綻ばせる怪盗ジョーカー。
 そんな怪盗ジョーカーの様子を見ながら、姫桜が軽く統哉を小突いた。
 小突かれた統哉が姫桜を見やれば、姫桜が統哉の方へと身を寄せて、そっと耳元で囁きかけている。
「どうして怪盗ジョーカーが『女神の瞳』を盗む気だったのかとか、手にいれて何をするのかとか、その辺り、統哉さんはもう推理しているのかしら?」
 その姫桜の囁きに口元に微笑を浮かべた統哉が囁き声で返す。
「少しだけね。今なら、聞いたら教えて貰えるかな?」
 そう言って目を輝かせている統哉にそうね、と姫桜が微笑してウインクを一つ。
「答え合わせ位は、して貰えるんじゃないかしら?」
「おやおや、年頃の男女が内緒話とは……これはこれは興味深いお話ですねぇ、フロイライン姫桜&ヘル統哉」
「ちょっ、べ、別にそう言うのじゃ無いわよ……!」
 からかう様に問いかけてくる怪盗ジョーカーに、思わず頬を赤く染め上げて、姫桜が突っ込みを入れるのにニャハハ、と統哉が笑って怪盗ジョーカーにウインク。
「なあ、ジョーカー。もしかして君は、女神のことを直接知っているのかな?」
 統哉の問いかけに、怪盗ジョーカーはほぅ、と仮面の向こうの瞳をグルリと愉快そうに回転させた。
「さてはて、ヘル統哉はどうしてその様にお思いになりましたかな?」
「いや、前にジョーカーが狙った『女神の涙』の伝説……と言うか、御伽噺の書かれた『神話・女神の涙』って本を読んだことがあってね。その時に人々に救うために手を差し出すことが出来ず、絶望と悲嘆にくれた女神の話がのっていてさ。その絶望した女神を眠らせたのは、もしかして……」
 統哉のかまかけにさてはて、と言う様にクイ、クイ、と両肩を左右に持ち上げる怪盗ジョーカー。
 仮面の口元に浮いた、余裕綽々と言った笑みも全く変わっていない。
「御伽噺は、御伽噺。それ以上でもそれ以下でもございませんよ、ヘル統哉。それに、私にとっては、これも一種の娯楽でございますから」
「……娯楽?」
 怪盗ジョーカーの言葉に軽く首を傾げたのは姫桜。
 姫桜の問いかけに然り、と怪盗ジョーカーが笑って頷く。
「怪盗にとって、盗むことは生業であると同時にある種の生き甲斐なのでございますよフロイライン姫桜。私が世界の彼方此方に散らばると噂されている『女神』のコレクションを追っているのも、私の好奇心を満たすため、ですしね」
「にゃはは、そうかそうか、ジョーカーはそう答えるのか」
 笑いながら頷く統哉にハッハッハッハッハと笑い返す怪盗ジョーカー。
「ヘル統哉の想像力や推測力にはいつも驚かされますが……しかし、どの様にしてその様にお考えになられましたかな?」
「にゃはは、単なる想像だよ、想像」
 微かに興味深そうに問いかける怪盗ジョーカーにそう答えながら。
「……でもさ」
 と、統哉もまた、軽く肩を竦めて見せている。
 まるで、何かを期待するかの様な輝きを、その紅の瞳に抱きながら。
「もしさ、ニーズヘッグが女神を骸の海に目覚めさせるのを否定して、眠りにつき続けたいって言う女神の遺志があるならば、そんな女神の遺志を受け取って、悲しませたくないって考える奴がいたとしてもおかしくないなって思ってね」
「ほうほう」
 期待の眼差しと共にそう問いかける統哉の言葉に最もらしく首肯するジョーカーを、ちらりと目線で走査しながら、統哉が続ける。
「毎度博物館に戻すのは、女神の宝石は、女神の愛した人々と共に在るべきだと思うから……とかね」
 そう、晴れやかな笑顔を浮かべながら問いかける統哉に怪盗ジョーカーがハッハッハッハッハ、と心底愉快そうに笑い声を上げた。
「私は怪盗ですよ? 囚われの姫君……『女神』や美しきものが悲しむ姿を見たい筈がないではございませんか!」
 パチリ、と。
 仮面の奥の瞳がウインクを一つする姿を見て、成程、と統哉が頷きを一つ。
「まっ、取り敢えず今回はそう言うことにしておこうか」
 これ以上の詮索は難しそうと判断し、統哉がそう結論づけたその間に、あっ、と何かを思い出したかの様に、ソナタが小さく口を両手で押さえ、それから、何処か恐る恐る、と言った様子で怪盗ジョーカーに自らの胸の内に育まれたそれを差し出す。
「あの……初めて私がジョーカー様にお会いした時、私を庇って下さったのも、あんな風に最後に会いたいと漠然と思っていた私の前に姿を現して下さったのも……そう言う事、なのでございますか?」
 つまり、自分が、美しきモノ……ミレナリィドールであるからこそ、優しくしてくれたのだろうか。
 そんな漠然とした不安を胸に抱きながらそう口にしたソナタのその不安を察したのか、怪盗ジョーカーはいいえ、とはっきりと首を横に振った。
「あの時は、貴女様の歌に心奪われた一人のファンとして、姿を現したのですよ、フロイライン。貴女様の純粋な美しさを現した、あの歌に、でございますね」
 ――パッ、と。
 一輪の花を手品の様に取り出しながら告げ、其れを差し出す怪盗ジョーカーに、ソナタが瞬きを一つしながらそっとその花を受け取る。
 花から香る甘い香りが、一瞬不安に満たされたソナタの心を優しく包んでくれた。
 そっと安堵の息を吐くソナタの姿をちらりと見やりながら、続けて美雪の方へと怪盗ジョーカーが視線を移す。
「フロイライン美雪。貴女様の歌も、大変聞き惚れるものでございました。もし宜しければ、此方を受け取って下さいませ」
 と、怪盗ジョーカーが告げれば。
 ぱっ、と左手に魔法の様に一輪のバラが現れ、美雪の前に差し出される。
 このまま行けば花を叩いてしまうと判断した美雪が、振り上げかけた鋼鉄製ハリセンを引っ込めそのバラの花を静かに受け取り、はぁ、と溜息を一つ吐いた。
「本当に調子を狂わされるな……貴方には」
「褒め言葉として受け取っておきましょう。それでは、今宵は此処までにございます。其れでは皆様……良き、宵の口を」
 ――フワリ。
 まるで、そんな怪盗ジョーカーの呟きに合わせる様に。
 風が吹き、桜吹雪がウィリアム達の前を過ぎ去っていく。
 風に乗って桜吹雪が去って行ったその時には……既に怪盗ジョーカーの姿は、影も形もなく、消え去っていた。
 代わりに……。
「成程……確かに宵の口、だね」
 先程の怪盗ジョーカーの言の葉の意味を考えてクリスタが何気なく空を見上げて、納得した様に感嘆の唸りを一つあげていた。
「……黄昏時、ですか」
 クリスタと共に、空を見上げたウィリアムが、夕日がとっぷりと沈んでいくその様子を見つめて、ほう、と少し見とれる様な表情をして息を一つ吐く。
 姫桜がぐしぐし、と手櫛で軽く髪を整えながら、軽く頭を横に振った。
「全く……いっつも、突然現れた、と思ったら急に消えちゃうのよね、怪盗ジョーカーは」
「そうですね。ですが、となるとまた何かの拍子に何処かの世界にふらりと姿を現すのかも知れませんよ」
 姫桜のその呟きにウィリアムがそう返しにゃはは、と統哉が笑い声を上げた。
「そうだな。また、その時が来るかも知れないなら、続きはその時にでも聞いてみれば良いか」
「……何処まで答えて貰えるかは、甚だ疑問だと思うがな……」
 貰った一輪のバラをどうしたものか、と言う表情で見つめながら小さく突っ込む美雪に、クスリ、とソナタが微笑んだ。
「さて、僕達の仕事は終わりだよ。取り敢えずこれを、博物館に返さないとね」
 クリスタが手に取っていた『女神の瞳』を見つめながらそう促すと。
 ウィリアム達猟兵は其々の表情で頷き、博物館へと戻っていく。

 ――また何時か、何処かで。

『誰か』へのそんな想いを、その胸に抱きながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年07月19日


挿絵イラスト