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いつか幸福の花束を

#UDCアース

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#UDCアース


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●いつか幸福の花束を
 立ち入り禁止のロープをくぐって、錆びついて壊れた門の間をすり抜ける。敷地内に侵入するまで、どきどきと心臓の鼓動がうるさかったが、結局、此処に来るまで誰に見咎められることもなかった。

「あなたも、眠りに来た人?」

 ふいに声を掛けられて振り向けば、セーラー服にパーカーを着込んだ少女が立っている。恐る恐る頷けば、彼女はぎこちない笑みを返す。
 二人で病院の中へと歩を進める。既に何人ものひとりぼっち、あるいはふたりぼっちが到着していて、自分と同じ人間がこれだけの数居ることに、少しだけ安堵した。
 彼女も似たようなことを考えているのかもしれない。パーカーに隠された左腕をぎゅっと掴みながら、先程よりもやわらかい笑顔を浮かべている。

「もう、痛いことはないんだよね」
「……きっと、そうだよ」

 彼女の痛みは、不幸がなんなのかは知らない。だけど夜な夜な、衰弱していく僕を見ながら泣き続ける母の姿を見るのは、もう耐えられなかった。長時間の外出に慣れていないせいで、ごほ、と咳き込む僕の背中を、彼女は何も訊かずにそっと撫でてくれた。

 手を差し伸べてくれたあの人の言葉を、脳内でもう一度再生する。

「キミの幸せを、ボクが叶えてみせよう」

 ――やっと、終われるんだ。

●いまは微睡むお別れを
「UDCアースのとある地方都市で、人々が行方不明になっています。皆さんの力を貸してください」
 グリモア猟兵の鎹・たから(雪氣硝・f01148)は、普段よりもどことなくかたい表情を浮かべている。集まった猟兵達が説明を促せば、小さく頭を下げて事件を語り始めた。
「彼らの居場所はわかっています。二十年ほど前に閉鎖された廃病院に、自ら集まっているのです。全員、そこで昏睡状態に陥っています」
 ずっと眠り続けているのだと、少女は静かに続ける――原因は、邪神なのだと。

「人々は幸福でなくてはいけない。その願いが暴走した結果、彼は『穏やかな死こそが人々の幸福』だと信じています。眠り続けているのは、重い病気を抱えていたり、辛い家庭環境の中に居たり、様々な理由で苦しい日々を送る人達ばかりです」
 幸福ではない日々に疲れた人々は、邪神のやさしく狂った誘いを受けて眠ることを選んだ。邪神が穏やかな死を与えようとしているのならば、人々の命は風前の灯火だろう。
「今すぐその病院へ行けば、まだ間に合います。皆さんが邪神をほろぼせば、UDC組織がすぐに人々の保護に向かえるように手配してくれています」
 ただし、その邪神を倒す前に、彼に付き従う者達を排除しなくてはいけない。羅刹の娘は、ぐ、と唇を噛みしめてから言葉を続ける。
「皆さんにほろぼしてもらうのは、幼いこども達です。邪神教団の信者だった両親と一緒に、人々を『楽園』へと連れていく仕事をしていました。今は、『幸福な死』を信じる邪神の手伝いをすることで、自分達もいつか『楽園』に行けるのだと信じています」
 自身の正義とのジレンマを感じているのか、その瞳の輝きも揺れている。けれど、と、目の前の猟兵達を見据えて、たからははっきりと自分の意思を口にする。
「幸せは、生きているからこそ得られるはずです。どうか、死のうとしている人々をすくってください」

 転移準備を進めながら、少女はもうひとつ願いごとを口にする。
「保護された人々は、組織の運営している大きな病院へ運ばれます。その病院の庭で、花を植えるお手伝いをしてほしいのです」
 ちょうど庭を新しくしたばかりで、植える草花も決められていないのだとか。今は秋、冬を越すのは大変ではないかと思うが、毎年雪の少ない地方なのだという。それに花の種を撒けば、春には綺麗な花々が咲くだろう。

 雪と色硝子の瞳が瞬いて、六華輝くグリモアが現代日本への道を繋ぐ。幸福の意味を、問いながら。


遅咲
 こんにちは、遅咲です。
 オープニングをご覧頂きありがとうございます。

●成功条件
 全てのオブリビオンを撃破し、花を植える。

 再送前提の少し遅い進行となります。
 どの章からのご参加もお気軽にどうぞ。
 皆さんのプレイング楽しみにしています、よろしくお願いします。
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第1章 集団戦 『楽園の『僕』』

POW   :    かあさまのいうとおり
【手にした鳥籠の中にある『かあさま』の口】から【楽園の素晴らしさを説く言葉】を放ち、【それを聞いた対象を洗脳する事】により対象の動きを一時的に封じる。
SPD   :    とおさまがしたように
【相手の首を狙って振るったナイフ】が命中した対象を切断する。
WIZ   :    僕をおいていかないで
【『楽園』に消えた両親を探し求める声】を聞いて共感した対象全ての戦闘力を増強する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

鳴宮・匡
死を選ぶだけの勇気があるなら
苦しくても生き抜くほうを選ぶことだってできるんじゃないか

……なんて簡単な話じゃないんだろうな
少なくとも、こういう“普通の”人間にとっては

ひとの形をしているのならやることは決まってる
一射で膝を穿ち、バランスを崩したところで頭を狙う
数が多いのなら囲まれないように留意して
必要なら他の猟兵と協働を

――死の先にしか幸福がない、と
昔の自分も、同じことを思って
擦り切れるまで走って、そうして死のうと思ってたんだ
……それなら、死ぬことを許してもらえると思ってた

でも、今は
生き抜いた先にある幸福が欲しいと思ってる
もう、『楽園(かこ)』に焦がれる子供じゃない
……そんな声には、惑わされないよ


佐藤・和鏡子
戦闘ではミレナリオ・リフレクションで攻撃を相殺したり、医術や救助活動で味方の治療に当たったり、救急箱をシールド型に変形させての防御など、防御・援護重視で立ち回ります。
眠ることを選んだ気持ちも分かりますし、重い病気を治せるわけじゃないし、歪んだ家庭環境をまともに出来るわけじゃない。
それでも、看護用ミレナリィドールとして人を救い・守るために作られた身として命を守りたいし、心を救いたいです。
連携アドリブ大歓迎です。
描写にタブーは一切ありません。
ありとあらゆる形で使い倒して頂いて大丈夫です。



 ガラス張りの広く大きな窓から、滲むように光が差し込んでいる。散乱する書類を踏み越えて、鳴宮・匡は自ら眠りにつく人々を想う。
 ――死を選ぶだけの勇気があるなら、苦しくても生き抜くほうを選ぶことだってできるんじゃないか。
「……なんて簡単な話じゃないんだろうな」
 少なくとも、こういう“普通の”人間にとっては。死を振り撒くことで生を掴み取り続けた匡でも、彼らの選択を理解はしてやれた。
 男の隣、紫銀の纏め髪が光を反射して揺れている。佐藤・和鏡子は無言のまま、救急箱を抱えてふと立ち止まった。乱雑に捨て置かれた車椅子の向こう側、自分と同じ位の背丈がいくつか見えたから。
「あなた達も、楽園をめざしているの?」
 そう問いかけた子供達の瞳は、うつろに二人を見つめている。いいや、と首を横に振った匡の答えに、子供達は残念そうに互いの顔を見合わせた。
「なら、教えてあげる。ね、かあさま」
 一人の少女が抱えている鳥籠から、異臭がする。嬉しそうに少女が鳥籠の中にあるそれを撫でれば、ア、と歪んだ鳴き声をあげる。しかしそれが言葉を紡ぐよりも速く、ひどく小さな発砲音が響く。
 右膝を穿たれた少女がその場に崩れ落ちれば、すかさず匡の拳銃は二発目の銃声を鳴らす。額を貫かれ後方に血飛沫を散らした少女が、鳥籠から手を離して倒れ伏す。仲間の様子に驚いたように悲鳴をあげたものの、すぐさま子供達は裸足で此方へと駆ける。
 男は慌てることなく、淡々と引き金を引く。死神の眼差しが貫く先、標的を違えることはない。と、仲間が倒れたタイミングで距離を詰めた少年が居た。小さなナイフの刃が閃いて、匡の首を裂こうとした瞬間、パステルカラーのシールドが間に割って入る。がきん、と刃物と盾がぶつかり合えば、シールドを展開した和鏡子が唇を噛みしめる。
「させません」
「どいてよ! 先生をじゃましないで!」
 少年が叫びながら更にナイフを振るう度、淡い色の救急箱だった盾に切り傷が走る。いいえ、と和鏡子は首を横に振って、ぐっと力を込めて少年の体を一気に押し返すと同時、匡の銃弾が少年を墜とす。
 看護用ミレナリィドールは、ちいさな胸を痛めていた。眠ることを選んだ気持ちはよくわかる。重い病気を治せるわけじゃないし、歪んだ家庭環境をまともに出来るわけじゃない。それでも。
「私は人を救い、守るために作られました! 命を守りたいし、心を救いたいです。それは、あなた達の心も」
 これ以上、子供達に誰かを傷つけさせたくはなかった。眠り続ける人々を目覚めさせたかった。その為ならば、この機械仕掛けの体を使い潰されても構わない。
「なら会わせてよ! とおさまとかあさまに、会わせてよ……ッ!」
 泣き叫ぶ少女の声に合わせるように、和鏡子も声をあげる。零れる涙は子供達の願いに共鳴したせいか、それとも。
 全く同じ泣き声によって威力が相殺された隙に、匡は最後の一撃の為に拳銃を構える。楽園を求める幼い嘆きに、静かに語りかけた。
「――死の先にしか幸福がないって、同じことを思って。擦り切れるまで走って、そうして死のうと思ってたんだ」
 それなら、死ぬことを許してもらえると思っていた。けれど今は、生き抜いた先にある幸福が欲しいと切望している。
「もう、『楽園(かこ)』に焦がれる子供じゃない……そんな声には、惑わされないよ」
 血飛沫が舞って、最後の一人が倒れた時。淡紫の瞳から、再び雫が流れ落ちた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

明日知・理
(アドリブ、マスタリング歓迎
NG:味方を攻撃する)

_

…穏やかな死もまた幸福の一つであると、俺は思う

心の数だけその者の幸福がある
けれど、その結果邪神が目覚め、生を幸福とし笑っている人々が泣いてしまうのなら

「……」
──刃を向けよう
この子ども達に

それが猟兵たる俺の責務だろう

_

庇える対象がいるなら積極的に庇う

…俺が孤児院にいた頃の血の繋がらない弟妹たちを思い出す
ずっと俺にくっつき無邪気に笑っていた、今はもう亡き…俺が護れなかったあの子達を
『おいていかないで』と言う声が記憶の中の弟妹達と重なる
けれど
──俺は

刃を──振り下ろす

己の中の何かが悲鳴を上げて軋むことに、見ないフリをして


ヴェル・ラルフ
死がもらたす静けさが、安寧
その考えが哀しいものだと
故郷の常闇の世界を出た今は、わかる

そんな哀しい考えを布教する邪神は
例にもれず戦い方が賤しい

愚直なまでに、親の言いつけを守る子どもたち
君たちを憐れむのは失礼だけれど
ただかなしい

ちいさな彼らの握るそのナイフ
【反照舞踏脚】で回避しながら手刀で叩き落とす
向かってくる君たちのその姿は
親からの愛を得るためのもの
邪な神が嘯く平和を享受するためのもの

そんなの間違ってる、君たちはただ生まれてきただけでいいんだ、自分のいのちを楽しんで、全うすればいいだけだったんだ

そう思っても
口は噤んでナイフを振るう
ただ、君たちのいのちが
解き放たれるようにと願いながら

★アドリブ歓迎



 さして広くはない病院の二階は、小児科として機能していたらしい。掲示板に貼られたお花見の写真はすっかり色褪せていて、桜の花弁を模した折り紙も陽に灼けている。
 埃を被ったキッズスペースの中を一瞥して、明日知・理は散らかったおもちゃの行く末を少しだけ想った。開かれたままの絵本も、もう誰にも読まれることはないのだろう。
 穏やかな死も、また幸福の一つである。心の数だけその者の幸福があるのだと、痛みを知っている理には理解できた。けれど、その結果目覚めたモノが、人々に牙を剥くのなら。
「……」
 二人の少年は、言葉を交わすことなく廊下を進む。ヴェル・ラルフの白い指先が、ナースステーションを飾っていたであろう花瓶にそっと触れた。ことりと音を立てたそれの中には、枯れた茎が数本立っているだけだった。
 死がもらたす静けさが、安寧――その考えが哀しいものだと、故郷の常闇の世界を出た今は、わかる。そんな考えを布教する邪神は例にもれず、
「――戦い方が、賤しいな」
 病室から顔を出したちいさな狂信者達は、二人を見つけて歪んだ眼差しを向けた。二人よりもうんと幼い子供達の手には、爛々と輝く刃が握られている。
「楽園をさがしているの?」
「私達が、先生のところに連れていってあげる」
 そう口々に話すな否や、彼らが一斉に二人の元へ駆けだす。ぺたぺたと裸足の音がするものだから、理には、まるではしゃいでプールサイドを走る小学生のように思えた。
 それでも、生を幸福とし笑っている無辜の人々が泣いてしまうのならば。踏み込んだ足に力を入れたまま、薄紺の鞘から素早く抜かれた白刃が一閃。
 眩しい程に淡くやわい雨に似た剣閃が、子供の小さな体に刻まれる。悲鳴をあげるよりも速く潰えたいのちに怯えることもなく、小柄な身が次々に二人の猟兵に襲い掛かる。
「だいじょうぶ、みんなでとおさまみたいにやれば!」
 それは、決して慣れた身のこなしではない。ああ、と声を洩らしたヴェルの夕焼けの双眸が、ナイフを振りかざす少女を見遣る。軽やかな脚が宙を舞って、素早く少女の背後を取った。
 愚直なまでに親の言いつけを守る彼らを、此方の物差しで憐れむのは失礼なのだとわかっていても。
「(ただ、かなしくて)」
 とん、と軽い手刀でナイフを床に叩き落し、その勢いのまま黒刃が少女の頸筋を断つ。ふいに、真横から気配を感じて視線を流せば、二人の子供がナイフを突き立てようと急接近している。一人目を躱したものの、次は受け止めることを覚悟したヴェルの膚は、未だ裂かれてはいなかった。
「キミ、」
「平気だ。もう終わらせるぞ」
 間に割って入った理の、白いパーカーの袖が赤く染まっている。無愛想に返した彼の真意を悟って、ヴェルは気遣う声を途切れさせて頷く。
 理の脳裏に過ぎるのは、孤児院にいた頃の血の繋がらない弟妹達のこと。兄貴分にくっついては、無邪気に笑顔を咲かせていた――もう居ない、護れなかったあの子達。
「『おいていかないで』」
 今聴こえた声は、目の前の彼らか、それとも記憶の弟妹だったか。
「(けれど、俺は)」
 花を濡らす俄雨よりも美しい刃が輝く度に、己の中の何かが悲鳴をあげてはきぃきぃ軋む。
「なんで、かあさまに会いたいだけなのに」
「……ッ」
 懸命なのは、親からの愛を得るために。邪な神が嘯く『平和』を享受するために。
「(そんなの間違ってる、君たちはただ生まれてきただけでいいんだ、自分のいのちを楽しんで、全うすればいいだけだったんだ)」
 叫びだしたい感情を全て封じ込めて、口を噤んだ夕映が二振りの刃を振るう。せめて、ただ、このいのち達が解き放たれるようにと祈りを込めて。
 ――互いに見ないふりをして、言葉にすらしないまま。ダンピール達は、刃に付着した紅を落とした。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ロニ・グィー
アドリブ・連携・絡みも歓迎!

楽園かー
楽しそうだね!

●UCを発動させ、その間だけの楽園を作る
現世は醜く食欲で穢れていて、天国は清く美しいって?
―――例えば、こんな風に?
絶えず春の花が咲き乱れ、暑くも寒くもなく、いつも穏やかな日差しが降り注いで…
天上の理想の世界、何にわずらわされることもない、快適な場所
他人の心の刺々しさに苛まれることなく、そして…家族が愛してくれる

疲れてるんだよ
だから眠るといい
疲れ果てた心にはこんな楽園にも負けないこの世界の本当の素晴らしさ美しさは見ることができない
だから眠るといい

たくさん眠って、たくさん楽園の夢を見て…
――――百年たったら帰っておいで!

おやすみ



 た、た、た。テーマパークに遊びに来たような軽い足取りで、少年は診察室というプレートが並ぶ廊下を通り抜けていく。花桃の髪を靡かせて、ロニ・グィーは鼻歌まじりに呟いた。
「楽園かー」
 それはどんな所だろうか、色々と考えを巡らせてみては、うん、と頷いて。楽しそうだね、と行く先を塞ぐ者達に声をかけた。あちこちの部屋と廊下の向こう側から現れた子供達は、ロニの答えに嬉しそうに笑う。
「そう、たのしいんだよ」
「私達はまだいけないけど、先生が連れてってくれるの」
「だからあなたも、」
 一緒にいこう、と、言い終わるかそうでないうちに、裸足の子供達は小さな刃を握りしめて駆けだす。ロニは慌てることなく、子供達の拙い動きを見切って身を翻す。それはどこか鬼ごっこじみていて、手が触れたら負けという程度の緊張感で行われていた。
 ねぇ、とロニが子供達に呼びかける。
「キミ達の言う先生は、まだ楽園に連れてってくれないんでしょ? なら、ボクが見せてあげるよ」
 ――現世は醜く食欲で穢れていて、天国は清く美しいって?
 例えば、こんな風に。少年の身を繕ったままの神は、歪みに満ちた心を夢へと誘う為の世界を創造る。
 子供達が瞬きをした次の瞬間、彼らの眼前には春が咲き乱れる花畑が広がっていた。埃にまみれた白の診察室は何処にもなく、穏やかな陽射しが降り注いでいる。驚きを隠せない子供達の耳に届いたのは、恋しい恋しいと探し求めていた声。
「とおさま、かあさま、」
 天上にあると謳われる理想の世界で、他人の心の刺々しさに苛まれることもなく――家族が間違いなく、自分を愛してくれる。
「疲れてるんだよ、だから眠るといい」
 彼らとさして変わらぬ見目で、かみさまは優しく言葉を紡ぐ。疲れ果てた心には、こんな楽園にも負けない、この世界の本当の素晴らしさを見ることが出来ないでいるから。
「たくさん眠って、たくさん楽園の夢を見て――百年たったら帰っておいで!」
 ロニは骸の海へと還る幼子達に、やわいおやすみを送り届ける。
 ――次に目覚めた時には、この世界の本当の美しさに気付けるように。

成功 🔵​🔵​🔴​

セプリオギナ・ユーラス
「子ども……か」
言葉とは裏腹、それはただの“過去[敵]”としてしか目に映らない。
過去は過去へ
あるべき場所へ

「……もういい、睡れ」
生き延びることにのみ救いがあるとは言わない。だがそれでも、死してなお彷徨い続けることなどない。
……嫌いだ。救いようのない過去から来るそれらが、とにかく、嫌いだ。

霧に包んで、何も見えないように(誰からも)(俺からも)(何も)(俺自身さえも見えないように)
そのまま眠るように還るがいい
可能な限り迅速に、的確に、殺戮刃物で穿つ。
これ以上苦しむことのないように。せめて消えゆぬ刹那の夢の中でくらい、求めた者と共に……そんなくだらない願いを込めて。
ただ、振り下ろす。


神坂・露
あたしの親友ならこーゆーときにどう考えるのかしら。
…うーん…うーん…。そうね。多分…多分だけど。
まだ生があるなら抗って見せろ…とか言っちゃうかも。
ふふ♪うん。何時もの口調で言っちゃうわね。親友。
親友の姿と声を思い浮かべたら勇気が出たわ。うん。
「ごめんね。…でも、通らせてね…」
クレスケンスルーナに意思を籠め刀身を紅く輝かせ。
【赦光『赫月』】で…子供達を…一掃するわ。
病院の中だから余り高い威力にはできないけど。
首を狙った攻撃は武器でガードするわ♪

『楽園』のことを説明されてもよくわからないわ。
体験したことないし行ったこともないもの。
言葉だけだと実感が…。
「ごめんなさい。凄い場所なんでしょうけど…」



「あの子なら、こーゆーときにどう考えるのかしら」
 リハビリステーションへと足を踏み入れた時、ふと神坂・露が呟いた。セプリオギナ・ユーラスは言葉を返すこともなく、歩行練習用の手すりや車椅子の群れに視線を巡らせている。
 うんうんと首を捻って考え込む少女の脳裏には、いつもクールで淡泊な反応を見せるあの子の姿が過ぎる。
 ――まだ生があるなら、抗ってみせろ。
 想像してみた彼女はいつもと同じで、思わずふふ、と笑みが零れてしまった。そんな仕草を、白衣姿の男は怪訝そうに見遣る。
「……何がおかしい」
「ううん、だいすきな親友のことを考えてたの」
 あの子の姿と声を思い浮かべるだけで、勇気が湧いてくるから。閉じられたカーテンの隙間から漏れる光に照らされた、幼い狂信者達との対峙もこわくはない。
「ねぇ、あなた達も楽園にいこうよ」
「かなしいことはなんにもないんだよ」
 薄く埃の積もった床で、ぺたぺたと素足が音を立てる。ちょうど二人を挟み撃ちにするように囲む彼らの虚ろな瞳を見て、セプリオギナは独りごちる。
「子ども……か」
 その言葉とは裏腹に、彼の鋭い眼にはただの“過去〔敵〕”としてしか映らない。どのような姿かたちであろうとも、過去は過去へ、あるべき場所へ。互いに背を向けて、二人の猟兵は眼前に立ちふさがる子供達へと牙を研ぐ。
 最初に動いたのは子供達の方で、猟兵達へ駆け寄っていけば拙い動きでナイフを振りかざす。彼らとさして背格好の変わらぬ露がその身を躱すと、漏れ出る陽光に月色の髪が反射して、きらきらと波打つ。
「きみも楽園にいきたいでしょ?」
「楽園ならちっともさみしくないし、いたいこともないんだよ」
 仲良しの友達を遊びに誘うような言いぐさに、露はやんわりと困った表情を返す。
「よくわからないわ。体験したことないし、行ったこともないもの」
 言葉だけでは実感がわかない理想郷を、彼らは心の底から信じているらしい。すごい所なのだろう、けれど。
「私はだいすきな人が居る、この世界がいいの」
 露が舞踏を踊っているのと同時、セプリオギナの元にも子供達は駈けていく。手にした鋭利な刃物がなければ、どこか朗らかな雰囲気さえ纏って。
「その白い服、あなたも先生みたい」
「ぼく達、先生のお手伝いをしてるんだよ」
 みんなを一緒に連れていけば、わたし達も楽園に連れていってもらえる。先生がそう約束してくれたから。口々に喋る過去の残滓を、レンズ越しの眼は苦々しく視ていた。
「……もういい、睡れ」
 吐き出た言葉の色は、先程よりもひどく冷たい。生き延びることにのみ救いがあるとは言わない。だがそれでも、死してなお彷徨い続けることなどない。
 ――嫌いだ。救いようのない過去から来るそれらが、とにかく、嫌いだ。
 白衣に包まれた男の全身から、朦々と漆黒の霧が放出される。差し込んでいた陽光はあっという間に消え失せて、やけに静かな闇だけが広がる。きっと、彼らの目には何も見えてはいない。見えていないのはセプリオギナとて同じで、そう。
 誰からも、俺からも、何も――俺自身さえも見えないように。だのに男の感覚は、彼らの姿を確かに捉えていた。
「暗いよ、とおさまぁ」
「どこ、かあさま、どこぉ!」
 怯える幼子達の悲鳴が溢れては、瞬時に何者かによってかき消されていく。的確に、迅速に、淡々と殺戮刃物が穿たれていくから。
 霧中であろうと、露の第六感は研ぎ澄まされたまま。背後に立った少年の一撃を、振り向きざまに三日月の銘を持つ剣で防ぐ。流れるように飛び退いた時、剣に籠められた意思が刃を紅々と照らし始める。
「ごめんね……でも、通らせてね」
 るぉおん、と。犬の娘は麗しく吼える。月夜の晩に、仲間を求める狼のように。永く長く続いた遠吠えに合わせて、焔を宿した斬撃が黒霧の中を奔った。悲鳴をあげることなく何人かがこと切れたを音で知りながら、少女は再び咆哮する。
 これ以上苦しむことのないように――せめて、消えゆく刹那の夢の中でくらい、求めた者と共に。
 それがくだらない願いであることくらい、殺人者にだってわかっていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

冴木・蜜
……、死は
救いではない
救いには、成り得ないのですよ

歪んだ救済はなんとしても止めます

人型を維持しつつ体内毒を濃縮
相手が振るうナイフを
敢えて躱さずそのまま首で受けましょう
切断されたら液状化して戻ればいい

刃を受けたらすかさず『微睡』
飛び散った肉体さえも利用し
気化毒で何もかも蕩かして差し上げましょう

今は目を閉じて
眠っていて

あの時交わした約束は一体何だったのか
頭の中が、ぐちゃぐちゃと
掻き回されて

言わなければいけないことが
あったは ず
なのに

手が震える
あの絶望が私のかたちを奪う
嗚呼
やはり

怖い
未だ真実を知る勇気が持てない

他の猟兵が往く道を拓いたら
そっとその場を後にします

いつか私が答えを見つけたら
その時は、必ず



 窓のない、白い廊下が続いている。手術棟と称された区画は、実際には二部屋か三部屋あるかないかだろうと思えた。仕切りのように閉じられていた自動ドアは、とっくに電源が落とされている筈なのに、静かな音を立てて動き出し、猟兵を迎え入れる。
 ――死は、救いではない。
「救いには、成り得ないのですよ」
 歪んだ救済は必ず止める。そう誓った冴木・蜜がこぷりと零した言葉は、目の前に立ち塞がった子供達に向けられたものか、あるいは。
「そんなことないよ、ねむるだけなんだから」
「楽園にいくだけ。ゆっくり、しずかに」
 陽の射さない空間で鈍く輝く刃を握りしめる幾人かの姿を、薄紫の瞳が確かに見つめる。忘れてはいけないように、覚えておくように。
「あなたも先生なら、わかるでしょ? それとも、」
 ――先生に会いたくてここに来たんじゃないなら、先生を邪魔しに来たの?
 一人の少年が、蜜の身を包む白衣を指差して問うたから。ふいに、指先からぽたりと黒い雫が落ちた。
 返事を返さぬ男を見て、此処に来たなら敵意は明らかと言わんばかりに、少年少女はナイフの切っ先を蜜に向けて一斉に走り出す。
 一方、蜜はその場から動くことはない。ただ、体内を巡る重たい毒を可能な限り濃縮させていた。その行動を知る由もない少女が背後に回って飛び掛かれば、男の頸を間違いなく掻っ切った、筈だった。
 刃が触れた瞬間、切断面からとぷりと溶けだす黒い液体。ひ、と幼い悲鳴が漏れて飛び退いたのが、液状化しタールの身体に戻った蜜にもわかった。人の形を残した頭が、少女と視線がかち合う。途端、ふるりと身体を震わせその場に倒れ込んだ仲間に、子供達がざわつく。
 気化した毒が瞬時に幼い肉体を巡って、こと切れている。人の形に戻した上半身と首を繋ぎ合わせて、人外は子供達を視界に捉える。飛び散る黒飛沫はそのままに、空気に融けた死毒が幼いいのちを蝕んでいく。
 痛みや苦しみを訴えるよりも前に、床に崩れ落ちていく子供達へと、蜜は静かに語りかける。
「今は目を閉じて、眠っていて」
 ――これが仮に人間のものであったなら、血の海と称してもおかしくはない。
 白い廊下にぶち撒けられた黒は、ちいさな屍を置きざりに蜜の元へと戻っていく。見れば、最奥の部屋の手術中のランプだけが赤く点灯していた。
 恐らく、いや確実に。件のオブリビオンはこの中に居る。それが「誰」なのか、知っているのは蜜だけで。
 あの時交わした約束は一体何だったのか。ぐちゃぐちゃと、掻き回される頭の中。ひゅ、と声にならない呼吸と共に、白い唇から伝い落ちる黒液。
 言わなければいけないことが、あったは、ず――なのに。
 震えだす掌を見れば、勝手にどろどろと元の形へと戻っていってしまう。絶望が、人外の意識を奪う。嗚呼、と、やっと音に成った言葉が落ちた。
 怖い――未だ真実を知る勇気が持てない。
 そう確信して、蜜は自動ドアへと向かう。点灯する赤いランプを背中に、そっと立ち去った。
 いつか、いつか。私が答えを見つけたら。
「――その時は、必ず」

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『ハピネスドクター』

POW   :    「苦しまなくていい、もう楽になっていいんだよ」
【しあわせな幻覚を伴う劇薬】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    「ボクと一緒に、みんな幸せになろう」
【幸せなまま自死に至る『幸福薬』】を給仕している間、戦場にいる幸せなまま自死に至る『幸福薬』を楽しんでいない対象全ての行動速度を5分の1にする。
WIZ   :    「だからキミ達には誰も救えないのだよ」
戦闘用の、自身と同じ強さの【かつて相手が救えなかった誰かの幻】と【かつて相手が諦めた過去の幻】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は冴木・蜜です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 手術中のランプが点灯する手術室の自動ドアが開く。足を踏み入れた猟兵達の視界には、いくつもの手術台を円形に並べた中心に立つ男の姿が在った。
 沈んだクロッカスカラーの髪が、ふわりと揺れる。何処か物憂げに、嗚呼、と『先生』は呟いた。

「あの子達は、苦しまずに逝けたろうか」

 どうだった、と訊くように。医師は猟兵達へと視線を投げかける。眠る人々は何処だと猟兵の一人が問えば、ひどく優しい顔をして。

「眠っているよ、穏やかにね。誰もが邪魔をすることのない、静かな場所で」

 途端、ドアが勝手に閉じる。力づくでこじ開けようにも、ぴくりとも動かない。人々を見つけたければ、彼を殺す以外方法はないだろう。

「幸福を求めることの何が悪い? 彼らは、ただ穏やかな時間を手にしたいだけだ」

 男が手にしている試験管の中身が、とぷりと揺れた。

「ボクは彼らを、救わなくては」

「苦痛ばかりの世界など、要らない」

 ――生と死が、匂い立つ。
セプリオギナ・ユーラス
……以前にも、見た顔だ。人々を救おうとする医師の姿をした、過去。
繰り返す。何度も見た幻をまた見るだけ。
夜毎繰り返す夢と変わらぬ光景

救えなかった無数のいのち
無数の、
助けを求め伸ばされる手、すがりつくこえ、
見捨てないでと嘆く視線

──嗚呼、知っているとも
俺には誰も救えない。
救えなかった。
だれひとりとして、救えなかった
誰を救おうと試み、その為に誰を諦めても──

くだらない、つまらない現実でしかない過去の幻

「……邪魔だ」
幻は、所詮幻にすぎない
救いも、幸福も。
「貴様という存在は──毒だ」
その幻はヒトという脆い生き物には強すぎる猛毒だ。

ならば。

壊すしかあるまい
殺すしかあるまい
その行いが救いなどとは程遠くとも。



 以前にも、見た顔だ。人々を救おうとする医師の姿をした、過去の残骸。セプリオギナ・ユーラスの痛烈な眼差しを、オブリビオンは穏やかな顔で受け止める。
「嗚呼、キミ。ボクに会ったのか。きっと、キミに阻まれて救えなかったボクに」
 けれど、次はない。そんな戯言を綴りながら、とぷりと試験管の中身を床に溢す。じゅ、と気化したそれが、咽るような死の匂いを伴っていくつもの群れを形作る。
「同じだな」
 あの時と同じやり方だ。何度も見た幻を、また見るだけ。夜毎繰り返す夢と変わらぬ光景が現れる。幻の向こう側で、医師と医師は射殺すような視線をかち合わせた。
「その所作に佇まい。キミも医者の端くれなら、患者の幸福を模索しているだろう?」
 ――それとも、嘆く声を全て振り払ったかい?
 呻く声は群れから吐き出されたモノだった。ひどく爛れた全身に悲鳴をあげる男、幼い赤子を抱いて泣き喚く母親、ひゅぅひゅぅ途切れ途切れの呼吸を洩らす老女。幾人もの患者が、セプリオギナという一人の医師を求めて腕を伸ばす。
 今にも消えかけてしまいそうな無数のいのちが、男に縋りつこうと必死に群れを成す。
「見捨てないで」
 白衣の裾を握って呟いた少女の顔は、先程殺したちいさな狂信者の中に居た誰かだったろうか。
「──嗚呼、知っているとも」
 俺には誰も救えない。救えなかった。だれひとりとして、救えなかった。誰を救おうと試み、その為に誰を諦めても。何度も何度も繰り返しては、ひとごろしは夜毎夢見る。くだらない、つまらない現実を、在りし日の幻を。
「……邪魔だ」
 一つの継ぎ目も光沢もない、闇色の立方体が少女の頭を床に叩きつけた。ぶしゃりと血が噴き出せば、正六面体の群れは一斉に亡霊の肉体を損壊させていく。拓かれた道を駆ければ、嘘偽りの臓物を踏みつけた感覚がした。
 幻は、所詮幻にすぎない。彼の言う救いも、幸福も。
「貴様という存在は──毒だ」
 その幻は、ヒトという脆い生き物には強すぎる猛毒だ。ならば、と。殺戮刃物の切っ先は一切の迷いなく過去の左腕を白衣ごと裂いたあと、すかさず腹に突き立てられる。
 壊すしかあるまい、殺すしかあるまい。
 ――その行いが、救いなどとは程遠くとも。

大成功 🔵​🔵​🔵​

明日知・理
(アドリブ、マスタリング歓迎)

_

「救いたい」という貴方の意志は尊いものだと思います
だが俺には受け入れられない
幸福になる権利はあるというだけで、幸福でなくてはならないなんてことあるはずがないんだ
穏やかな死だけが幸せではない
貴方が本当に彼らを救いたいのなら

彼らに──諦めさせるなよ

_

…それでもこの刃に迷いが浮かぶ
彼らの気持ちが解るなどと傲慢な事は言えない
この刃には今眠っている彼らの未来も懸かり
もしかしたら彼らは、辛い現実を生きていかねばならぬのではないかと

…半端なのだ、俺は

「だからキミには誰も救えない」のだと
眼前には今は亡き孤児院の弟妹たちがいて

それでも
俺は

…眼前の弟妹たちに刃は向けず
『先生』だけを



「『救いたい』という、貴方の意志は尊いものだと思います――だが俺には受け入れられない」
 頭に被ったフードの隙間、少年の瞳にはいつもの鋭さが冴えている。『先生』に向けた言葉の端くれは普段よりも丁寧で、けれど明らかな断絶を表していた。
「キミも、大勢と同じ立場を取るんだね」
 先程刃が刺さった腹部を赤く染めながらも、医師はさして痛がる素振りもなく、ただ少しばかり残念そうな口調で返す。
「幸福になる権利はあるというだけで、幸福でなくてはならないなんてことあるはずがないんだ」
「なら、ボクを止めるかい。その割には、震えているけれど」
 それが身体の話ではないことを、明日知・理はわかっていた。刀の柄に手を掛け、鞘が鳴るのを抑えて抜刀したものの、白くかがやく刀身は迷いを映している。
 眠りにつくことを選んだ人々の気持ちが解るなど、傲慢にもほどがある。この刃には彼らの未来が懸かっていて、その先の未来が必ず明るい保証は何一つない。もしかしたら彼らは、辛い現実を生きていかねばならぬのではないか。俺は、
「――中途半端だね」
 彩の違う紫がぶつかり合って、少年の心臓が早鐘を打つ。溢れ落ちる試験管の中身が、妙に懐かしい匂いを漂わせた。
 ぐずぐずと形作られる人の姿は皆やけにちいさくて、理はサァ、と過ぎていく寒気を感じた。その様子を眺めていた医師が、嗚呼、とどこか得心したように。
「だからキミには誰も救えない」
 お兄ちゃん、と、誰かが呼んだ。それは全員だったかもしれない。忘れることなど一生ない、ちいさな愛おしい宝物。理という猟兵が存在する理由になった、おさないいのち達がそこに居た。
 たすけて、どうして、こわいよ、理兄ちゃん。怯えるように悲しげに、兄の名を呼ぶ幻に、少年は唇を噛みしめて。
「ごめんな」
 たとえ彼らがゆめまぼろしであろうとも、刃は向けられなかった。向けた瞬間に、『明日知・理』が終わってしまいそうだったから。そっとちいさな手を振り払い、たった一度目を閉じる。兄の姿が視えなくなって、弟妹はおろおろと彼を探し始めたと同時、理は今度は間違いなく、医師だけを視ていた。
 速く、早く、奔く。その場で走っていたのは少年と、花驟雨の斬撃だけ。氷混じりの雨が、手術台と医師の頭上に降り注ぐ。
 穏やかな死だけが幸せではない。本当に人々を救いたいのなら。
「彼らに──諦めさせるなよ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

佐藤・和鏡子
違う、こんなの救いじゃない。
こんなのが幸福であって良いはずがない。
人を救うために作られた身としてあなたと戦います。

ユーベルコードで医療用ロボットを呼び出して戦わせ、私自身は他の方の援護や治療をメインに立ち回るようにします。
連携アドリブ大歓迎です。
どんどん動かして頂いて結構です。


ロニ・グィー
アドリブ・連携・絡み歓迎!

眠ることで見ることのできる世界はなんて素晴らしいんだろう!
なんて誰か言ってたけれど大抵は楽しかった思い出のツギハギじゃないかな
みんな大事なクリエイターなんだ
筆休めの天国なんて退屈だ!ボクは断固抗議するよ!
コンテンツは常に刷新し続けてもらわなきゃ飽きちゃうよ

死は状態だ
生きていることと、死んでいることに大差は無い
死は安らかで、生の終わりはドラマチックだ
それはとても悲しいけれどとても美しい
だからボクが死んでいるなら、死んでいる方がいいって言うもね
でも残念!今ボクは生きているからね
生きている方がいいって断言するよ!

ましてや死者でも生者でもないキミにそんなの決められちゃあ困るよ



「キミ達は、何も理解してはいないのだね。いや、まだ理解に至るまでの経験を積んでいないのか」
 降りやんだ氷雨に全身を斬り裂かれ、オブリビオンは呼吸を乱す。ぽたぽたと床を濡らす血溜まりにも目を止めず、白衣のポケットから取り出した薬剤シートから錠剤を取り出した。
 ガリ、と歯で噛み砕く音を響かせ一気に飲み込む。流れるような視線を投げた先に居る少女に、声をかける――特にキミは、まだ何も、わかっていない。
「違う、こんなの救いじゃない」
 佐藤・和鏡子は大きく首を横に振り、震える声で否定する。だって、こんなのが幸福であって良いはずがない。私が造られた理由は、こんな形で誰かを救うためじゃない。
 和鏡子の前で、桃色の髪がさらりと揺れた。次に紡がれた言葉は、医師や少女の慟哭なんかよりも、ずっとあっけらかんとしたもので。
「眠ることで見ることのできる世界はなんて素晴らしいんだろう! ……なんて。誰か言ってたけれど、大抵は楽しかった思い出のツギハギじゃないかな」
 空虚な眼孔を隠した眼帯の奥で、ウィンクでもしているかのように。ロニ・グィーは朗らかに笑う。
 この世のすべての人間は、みんな世界を形づくる大事なクリエイター。かみさまの欲求(ハッピー)を満たしてくれるのは、生きる人々そのものだから。
「筆休めの天国なんて退屈だ!ボクは断固抗議するよ!」
 ――コンテンツは、常に刷新し続けてもらわなきゃ飽きちゃうよ。
「自分が知っている救いだけを肯定する為に、自分の我欲の為だけに、苦しむ人々を揺り起こそうとするのかい? ひどく幼い考えだね。ボクはずっと様々な治療を試し、救済を模索してきたんだ。これは、そうして至った結論なんだよ」
 突如、医師は何の予備動作もなく、フラスコになみなみと入った鮮やかな紫をぶち撒ける。その中身がロニに付着すると、人工的な甘ったるい匂いが漂う。ほんの僅か、眉間に皴を寄せた金色の双眸が追いかけた幻覚が、ロニの思考を完全に奪う前に。キュイ、と駆動音が鳴って、パステルカラーのちいさな医療用ロボットが無数に飛び回る。少女が少年の口元に無理矢理吸入器を押しつけて数秒、大きな金の眼がぱちりと瞬きしたのを和鏡子は確かめる。
「大丈夫ですか!」
「……と、うんうん、だいじょーぶ。ありがと! ちょっとだけつまんない夢を見るとこだった」
 大半のロボット達が、アームに装備したメスや注射器で医師を治療せんと襲いかかるなか、一機だけはロニの口元の吸入器に繋がっている。彼の吸入器を外して、和鏡子はきゅっと唇を噛みしめて医師を見る。
「私は、人を救うために作られた身としてあなたと戦います。私の考える救いが違っても、あなたの言う救いも絶対に違うから」
 私の生まれた理由を、果たし続けるために。看護用ミレナリィドールの淡紫を、医師はどこか眩しそうに見つめ返した。なら、と呟いて、試験管をその場に叩き落す。ぱりんと割れた硝子の破片が煌いて、同時にうっすらとおひさまの匂いが香る。
「キミは、キミが救えなかった人々にも、同じことを言うのかな」
 ゆっくりと形を成していく者達を見て、和鏡子の唇がふるりと動く。やさしく微笑む年老いた患者達は、彼女の記憶データに永久に遺り続ける顔だった。ぽろりと涙を零した少女の隣、少年は頬を膨らませる。
「優しい看護師さんをいじめるなんて、とんだお医者さんだね! キミみたいな人には、きっと誰も診てもらいたくないよ」
 そうして、今度はボクの番だと言葉を続けたロニは、和鏡子に後ろに下がるように告げる。
 紺色のパーカーが、肉体ごと端から粒子へと変化していく。桃の髪も金の瞳も、全てが砂塵と変わっていけば、手術室の中を轟々と砂嵐が吹きすさぶ。静かなロニの声が響き渡った。
 ――死は状態だ。生きていることと、死んでいることに大差は無い。死は安らかで、生の終わりはドラマチックだ。それはとても悲しいけれど、とても美しい。
「だからボクが死んでいるなら、キミみたいな誰かは死んでいる方がいいって言うかもね」
 次の瞬間、和鏡子には砂嵐がわらったように思えた。だって、かみさまの言葉がとても楽しそうだったから。
「でも残念! 今ボクは生きているからね――生きている方がいいって断言するよ!!」
「くっ」
 無事の右腕で砂嵐から視界を庇おうとする医師に、無駄だよ、とロニはうたった。肉を殺ぎ、骨を削り、かたちあるものもかたちなきものも粉々に。医師のうたう救いもろとも、彼の全身をざりりと墜とす。
「ましてや、死者でも生者でもないキミに、そんなの決められちゃあ困るよ」
 過去の幻が、思い出の海原に還ろうとしている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鳴宮・匡
通り過ぎてきた過去の中には
助けられた“かも知れない”命がある

それでも昔の自分は
手を伸ばすことで救えるものより
自分の命を繋ぐことだけを求めて
何もかもを諦めて、捨ててきた

眼前を塞ぐ幻の数はいっそ夥しいほどだろう
その全てを憶えている
いつ、どこで、どんな風に殺した相手かも

目を逸らしはしない
再びそれを殺すことを恐れもしない

だって、もう決めた
“これからはもう何も諦めない”と

最後に向き合うのは、救えなかったたったひとつ
痛みと共に今も胸の裡に眠る、大切なひとの姿
それでも、引き金を引く指は違えない

使命感のためじゃない
差し出された手に縋るしかなかった命を
邪神の糧になんてさせたくはない

ただそれだけの、身勝手な理由だ



 先程までの砂嵐が嘘のように消え失せた室内には、砕け散った瓦礫の破片が山のように積み上がる。殺がれた骨肉がぼろぼろと落ちて、それでも医師はまだ人の形を保っていた。
 けれどそれも、ほんの少しの後押しさえあれば、跡形もなく終わるのが見て取れた。最後の射手となる為に現れた男の顔を見て、医師は笑う。
「そうやって、キミ達はまた救わないんだね――救おうとしないのだ。見て見ぬふりをして、真実に辿り着くことを拒んで」
 足元の瓦礫をからんと蹴って、鳴宮・匡は静かに拳銃を構える。ごぷりと血を吐くオブリビオンを見据える瞳には、どこかやわらかな憂いがあった。その眼差しと視線をぶつけた医師は、ため息をつくように嗚呼、と零す。
「なんだ――キミは随分と、自覚があるんじゃないか」
 かしゃんと割れて散らばる硝子の破片。くゆる硝煙と焼けた肉が混ざったような、匡のよく知る世界が匂い立つ。
 悪臭を放ちながらぐずぐずと形を取るそれらの数は夥しく、数えることすら難しいほどの人数なのに、何故か全員の顔に覚えがある。それもその筈だ、と匡は思った。
 通り過ぎてきた過去の中には、助けられた“かも知れない”命がある。
 それでも彼は助けなかった。手を伸ばすことで救えるものよりも、自分の命を繋ぐことだけを求めて、生き延び続けた――何もかもを諦めて、捨ててきた。
 右眼がない兵士はあの夜に狙撃した。腹部に穴を開けた若い男は暴動の最中に。下半身のない少女は空爆に巻き込まれ、もう殺してくれと乞われたから。ちいさな男の子は、己が十の年を過ぎて暫くした頃のこと。
「憶えているさ、全て」
 ぱん、とちいさな発砲音が連続する。死神の眼は全ての顔を見据え、引き金を引いている。一度も目を逸らすことはなく、再びそれらを殺すことを恐れもせず。だって、もう決めた。
「“これからはもう何も諦めない”と」
 瑠璃唐草の約束がきらきらと揺れる。次々に消え失せる幻の群れの後ろ、医師はひくりと喉を動かした。
「本当に、何ひとつ諦めないのかい」
「ああ」
 短い問答を交わした二人の間に立った一人の人物に、匡は銃口を向ける。救えなかったたったひとつが、やわい笑みを浮かべて立っている。ふいに胸がつきりと痛んだけれど、想うあの人は胸の裡で眠りに就いているから。
 病院内の何処かで眠る人々を想う。これは使命感なんて大それたものではなく、差し出された手に縋るしかなかった命を、邪神の糧になどさせたくはなかっただけ。
「ただそれだけの、身勝手な理由だ」
 終幕を降ろす銃弾は幻ごと、医師の額を貫く。かき消えた幻の後ろ、顔を伝う赤色で青白い膚が彩られる。嗚呼、と吐息を洩らして、
「ボクも、諦めたくなかったんだよ」
 理想を追い求めた過去は、骸の海へ還っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『希望の花を繋ごう』

POW   :    体力を活かして、広範囲にいっぱい植える

SPD   :    花壇の縁にまっすぐ植える等、丁寧さが求められる部分を担当する

WIZ   :    デザインに工夫を凝らしてみたり、模様状に植えてみたりする

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 施錠されていた手術室のドアが開いて、猟兵達の脳裏に医師の言葉が過ぎった。『誰もが邪魔をすることのない、静かな場所』。
 向かった先は暗く静かな霊安室で、部屋一杯に並べられたベッドの上で穏やかに眠る人々を発見する。
 すぐさま現場に踏み込んだUDC組織の職員達が保護した結果、全員命に別状はないという。

 彼らが運び込まれた病院の、大きな中庭。花壇も鉢植えもふかふかの土が丸見えで、此処に彩が齎されることを期待しているように思える。
 庭を遠巻きに眺める患者やその家族、医療スタッフも幾人かが笑って手を振っている。

 手元に用意されているのは花の種や苗、スコップなどのガーデニング用品。一般的な物は大体貸し出されるという。

 ――冬を乗り越えてくれる、そんな庭をつくろう。
神坂・露
戦いには遅れちゃって会えなかったけど。
お話を聞いたらなんだか悪い人でもなさそうね。

どんな手段でも方法でも今の技術では治せない病で。
苦しんで生きてる人が愛しい人物だったら。
あたしも安らかな死をその人物に与えるかもね。
それが常識ではダメなことだとしてもあたしは…。
「…わかる…気がする…」

お花寒色系統よりも暖色系統の色の方がいいかしら。
だってだって暖色って春を『感じられる』色だもの♪
そういえば。
冬の季節のお花も鮮やかな赤とか黄色とかあるわね。
例えばシクラメンとかフクジュソウとか梅とか…。
流石に梅とかは難しいから手軽なものを植えたい。

お医者さんが消滅した場所にも供えたいわ。
切り花でもなんでもいいから。



 神坂・露の小さな掌が、シクラメンの苗をそっと取り上げる。ビニールポットから抜け出した土ごと、パステルカラーの植木鉢へとお引っ越し。しっかり馴染ませるために、ふかふかの土で覆って埋めていく。
 丁寧な手つきで花の苗を植木鉢へと植え替えてやる少女が想うのは、会うことはできなかった邪神のこと。その場で対峙した猟兵達の話を聞けば、なんだか悪い人でもなさそうに思えたものだから。
 例えば、ありとあらゆる手段や方法を全ての異世界で探し回っても、今の技術では絶対に治せない病が在ったとして。その病に侵され、苦しみながら生きる誰が、愛しい人物だったなら。
 自分も、その人に安らかな死を与えるかもしれない。それが常識では許されないことだとしても、あたしは、
「……わかる……気がする……」
 優しさや愛情表現は人それぞれで、誰かをたすける手段も、救われる方法も十人十色――彼の願いは、許されないものだったけれど。
 ほろ、と零れたひとりごとは誰にも知られぬまま。露はいつものやわい笑みを浮かべて、作業を続ける。花の彩は暖かいものを、と決めていた。だってだって、春を『感じられる』色だもの。
 冬の鮮やかさなら梅だけど、それはちょっぴり難しいから。福を招く黄色のフクジュソウを植木鉢に、寒さに強いプリムラは小さな花壇へ。

 ――その後、作業を終えた少女は、UDC組織の職員達が事後処理でせわしなく働く廃病院へと戻ってきていた。
 職員達の邪魔にならぬよう、鮮やかなガーベラのミニブーケを手術室の隅に供える。彼女の手向けた花と優しさを、誰もが疎ましがらずに、そのままにしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鳴宮・匡
ずっとこの手は、殺すことしかできなかった
自分の命を害する可能性のある選択肢を、すべて切り捨てて生きていた

本当は、助けたかったものや、殺したくなかったものもあったかもしれない
それに気付いたのは
数えきれないほどのものを殺して、見捨てたあとで

きっと、ずっと、それを後悔していて
だからもう、諦めないと決めた

殺すためだけにあった自分は変えられない
これからも殺していくことに変わりはない
それでも、それだけで終わりたくない
殺すだけじゃなく、生かすためのものでもありたいと
今は、思うから

花を植えるのだって、初めてだ
うまくなんてできないけど、精一杯やるよ

これは誰かのための慰めであると同時に
……自分のための、一歩なんだ



 ひゅるりとつめたい風が吹く中庭を囲む、病棟や待合室の光景を窓越しに見遣る。車椅子に腰掛け、孫らしき少年と会話する老人。点滴スタンドを連れて静かに移動する若者。
 ふと、此方を見つめるパジャマ姿の少女と目が合って、鳴宮・匡はちいさく笑む。恥ずかしそうな微笑に何気なく振った掌の皮膚は、普通よりも随分とかたく、タコがいくつも出来ている。
 ――ずっとこの手は、殺すことしかできなかった。
 自分の命を害する可能性のある選択肢を、すべて切り捨てて。生を掴み続けることばかりに必死で、助けたかったものや、殺したくなかったものにも気付けずに。
 気付けた頃には、とうに数えきれないほどのいのちを殺して見捨てたあと。物心ついた時から、そんな世界で生きていたから。
「言い訳は、もういいんだ」
 元よりするつもりはなかったけれど、きっと、ずっと。凪いだつもりでいた海は、水底で後悔していて。
 だからもう、諦めないと決めたのだ。よし、と軍手をはめる。花を植えるのだって初めてだ。
「うまくなんてできないけど、精一杯やるよ」
 春になれば、淡い紫と黄色を咲かせるパンジーの苗を小さな花壇へと配置して。きちんと根付くように土をやさしくしっかり被せてやる。チューリップの球根は、スコップで深く穴を掘った場所へひとつひとつ丁寧に。何色が咲くかは聞いていないから、咲いた時のお楽しみ。
 殺すためだけにあった己は変えられず、これからも殺していくことに変わりはなく。それでも、それだけで終わりたくない。
 ――この手が生かすためのものでもありたいと、今は思えるから。
 ちいさないのちが、春になったら咲けるようにと。こころが、願っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロニ・グィー
アドリブ・絡み歓迎!

冬越しの種植えってのも確かにちょっと変な感じだね
まあ霊安室で冬越しするよりは穏当かな!

ふんふん、なるほるなるほど
本によると…
冷えすぎて霜が降りたりしないようにわらを敷いたりするんだね
後は保温シートを被せたり……うへぇ、春になっても色々やらなきゃいけなくと大変そうだ
まあ暇潰しにはいいかもね

花は専門外!
でも大きな花を咲かせて色鮮やかなのがいいよね!
そんな感じのがいいな!どんなのがある?

●終わって
ふぅーけっこう疲れたね
でもまあなんかいい感じじゃない?うんうん!
それじゃあ、花の咲くころに!
ちゃんと世話しなよ?見に来るからね!

楽園の花も悪くないけれど…手ずから育てた花もいいものだよね



 冬越しの種植えってのも、確かにちょっと変な感じ。
「まあ霊安室で冬越しするよりは穏当かな!」
 今回の事件で新たな患者が生まれなかったことに、ロニ・グィーは笑顔を咲かせる。彼らのこれからはわからないけれど、それでも。
 さて、と手にしたガーデニングの本を開く。意外にも彼は真面目な様子で、ふんふん、なるほどと頷きながら頁を捲る。
 冷えすぎて霜が降りぬよう、藁を敷いて温度と湿度を保つらしい。更には保温シートを被せてやったり――その工程の多さについ、うへぇ、なんて声が洩れた。
「春になっても色々やらなきゃいけないのか」
 大変そうだ、と呟きながらも熟読する姿は、まるで赤子をはじめて育児する親のよう。
「まあ、暇潰しにはいいかもね」
 患者自らが世話することをスタッフへと提案し、パーカーの長い袖を捲りあげる。
 花は専門外だけど、大きく色鮮やかに咲くのがいい。
「うんと大きくて、綺麗でかわいい感じのがいいな! どんなのがある?」
 それなら、とスタッフが指差したのは、鮮やかな彩を約束するアマリリスに、大輪や八重咲きなど種類豊富なペチュニア。
 種を撒き、藁を敷き、そっと水をやる。苗を植え、シートを重ねて、また水をやる。いのちをつくるかみさまのように、やさしく荒地を満たしていく。
 ふぅ、と一仕事終えた頃には、思ったよりも疲れていた。
「でもまあなんかいい感じじゃない? うんうん!」
 2階から感じた視線の先に、見た覚えのある姿。それは霊安室で眠っていた少女の一人だった。
「ちゃんと世話しなよ? 見に来るからね!」
 ロニが大声で呼びかければ、少女はびくりと肩を震わせる。彼の髪が春を思わせたのか、少女は恐れた表情は見せなかった。
 楽園の花も悪くないけれど、手ずから育てた花もいいもの。
「それじゃあ、花の咲くころに!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

明日知・理
アドリブ、マスタリング歓迎

_

己の手が土塗れになることも厭わず花の種を植える
神さまと両親を信じて逝ったあの子たちと、誰かを救いたいと願って逝った邪神への弔いを込め

……俺のしたことは本当に正しかったのか解らない
幸せを決めるのはその人自身だ。俺がどうこう言う筋合いはない
だが、考えるのだ。
『救う』とは何なのかを。そして、その行為にも責任は伴うのだと。
……彼らに恥じぬ、生き方をせねばと思う。
邪神に誘われ眠っていた彼らにだけではない。
散って逝ったあの子どもたち、邪神、
そして俺の…孤児院の弟妹たちにも
恥じぬ生き方をせねばと。

──何度雨が降っても、いつかはあがる。
そのときに、花は──咲き誇れるだろうか。



 背の高い身体を丸めるようにして、明日知・理は黙々と花の種を植えていた。両手が土まみれになるのも構わずに、ちいさないのちを丁寧に土のベッドへ包んでいく。
 寡黙な彼は誰にも吐露することはなく、けれど神と両親を信じたあの子達と、誰かを救いたいと願った邪神への弔いを込めながら。
 ヒメナデシコの種を撒き終えたら、次はカスミソウの種が入ったパッケージの中身を空ける。白く愛らしい花の群れの姿を思い浮かべて、ほんのすこし唇を噛む。
 ――俺のしたことは本当に正しかったのか解らない。
 幸せを決めるのはその人自身であって、正しい幸福など価値観ひとつで何千通りにも変わる。自分がどうこう言う筋合いもなければ、押しつけるつもりもない。
 けれど、少年は考える。考えなくてはいけないのだ。
 誰かを『救う』とは何なのか。そしてもし、誰かを救いたいというなら、その行為にも責任は伴うことを。
「(……彼らに恥じぬ、生き方をせねばと思う)」
 邪神の眠りに誘われた人々に対してだけではない。親のぬくもりを乞うた子供達、救い続けようと足掻いていた医師――そして、喪くしてしまった大切な弟妹達に、誇れる生を。
 無愛想で不器用な彼には、愚直な生き方しかできない。それが痛々しいものであっても。自分で決めた約束を、果たしたいと思ったから。
 ひとつひとつ、種を撒いて土を被せた花壇の上に、さぁさぁと霧雨のように如雨露の水が降り注ぐ。どちらの花も、パッケージの写真の咲き誇る姿が愛らしくて。それがなんだか、胸に遺り続ける弟妹達の笑顔のように見えた。
 何度雨が降ろうとも、いつかは晴れて虹が出る。
 そのときに、花は──咲き誇れるだろうか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セプリオギナ・ユーラス
(ころり、ころり)(◆正六面体が転がる)
球根を選んで植えていく。
冬を越し、春には花を咲かせるだろう。
──もちろんそれまで、ちゃんと世話ができればだが。

……ゆっくりと時間をすごすことも、彼らには必要だろう。
傷はすぐには癒えない。
心も身体も、治療にはときがかかる。

(ころころ)(ころころ)
その時間を、来年に咲く花のことを思いながら過ごすのは、きっと悪くない。

(……ころり) (どうか。)
彼らがまた、前を向いて生きられるように。
そんなささやかでくだらない願いを込めて。

珍しく無言のままの◆正六面体は未来の花畑……今はただの露出した土の上を転がっていく。



 ――ころり、ころり。
 漆黒の正六面体が土の上を転がっていく様を、病院の関係者は勿論、患者達も特に気には留めない。猟兵という存在の特性を活かしながら、セプリオギナ・ユーラスは球根を植えていく。
 四角形がどうやって、という疑問は、それを覆う黒い霧が解決する。揺蕩う霧に包まれながら、球根がふわりと宙に浮いていた。スタッフが掘った穴の中へと、球根が吸い込まれるように収まれば、質量のある霧が土を流し入れていく。
 花言葉はよく知らないが、白く愛らしいオキザリスとスノードロップは、健気な姿で春を告げてくれるだろう。冬を越して花を咲かせる光景は、人々の心を和ませてくれるはず──もちろんそれまで、ちゃんと世話ができればだが。
 いつもならお喋りな正六面体は、無言の物質として土の上をころん、ころん。傷つき眠りに落ちた人々への想いが、ブラックタールの心の中でいっぱいになっている。
 支えてくれる人が居る穏やかな場所で、ゆっくりと時間を過ごすことも必要だと、医者としての彼はよく知っている。心も身体も、全ての傷がすぐには癒えないことも。
 組織によれば、殆どの人々はこの病院に転院させるか、通院させることが可能らしい。来年に咲く花のことを思いながらこの場で過ごすのは、きっと悪くない。
 ――ころころ、ころん。
 全てを救えずとも、救いたいと、治ってほしいと思うから。表情を見せぬ正六面体の姿でセプリギオナは願う。
 彼らがまた、前を向いて生きられるように。ささやかでくだらない、けれど医者として亡くしてはならない大切な願いを込めて。
 今はまだ芽吹かぬ未来の花畑の上を、ころころ、ころり。


 車椅子に乗った少年が、大きな窓越しに庭を眺めている。ボランティアが球根や種を植えてくれたのだと、傍にいる看護師が教えてやる。
 春になったらここが花でいっぱいになるのよ、と優しく語る看護師に、ぽつりと呟いた。

「咲くのが、楽しみだね」

 ――いつか、幸福の花束を。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年11月11日


挿絵イラスト