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届けこの声、あの人の元へ(作者 かやぬま
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●あなたを呼ぶ、その声を
 会いたい。会いたくて、名前を呼んだ。
 けれども、いくら呼べども願いは届かなくて。
 行き交う人々の、仲睦まじげに交わす言葉が耳を打って仕方がなくて。

 それが、あまりにも羨ましくてたまらなかったから。
 ――恨めしくてたまらなかったから。

 だから、奪ってしまいましょうって。
 ――そう思っただけだった。

●会いたい人はいますか
 グリモアベースの一角で、ミネルバ・レストー(桜隠し・f23814)が大きく腕を振って猟兵たちを呼んでいた。また事件かと数名の猟兵が反応すれば、ミネルバは安堵の息を吐いてから言葉を紡ぎ始めた。
「ありがとう、気づいてくれて――ここでわたしがみんなを呼ぶんだもの、事件に決まってるのはさて置きとしてね」
 新しい世界が見つかったのは知ってる? と、事件の舞台を匂わせて。

「カクリヨファンタズム、聞いてた以上にとんでもない世界だったわ。何せ『声』という『声』が失われたっていうんだもの」

 幽世(かくりよ)から、一切の『声』が『消えた』という。住人たる妖怪たちはことごとく喋ることが叶わなくなり、それはまるで『沈黙の世界』のよう。
 先程のミネルバのようにある程度は身振り手振りでもやっていけるだろうが、それでも一切声を発することが出来ないというのは大問題だ。
「好きな人に想いを伝えるなら、言葉の代わりにハグでもいいでしょうけど……やっぱり、喋れないのは不便よね。歌が好きな妖怪だっているかも知れないし」
 ――そんな妖怪が居たとしたら、それこそ声が出ないなんてこの世の終わりよ。

 とにかく、軽率に世界の終わり――『カタストロフ』が起きるという噂は本当だった。
 当然それが起きるには原因、首謀者がいるのだろうけれど。
「どうやらね、幽世から『声』を奪ったのは『骸魂(むくろだま)』の仕業で間違いなさそうよ。それで、みんなの出番ってわけ」
 ミネルバの背後に浮かび上がるビジョンには、それはもう愛らしい茶まろのわんこが。
「この子は集団でわんわんって攻めてくるけど、見た目の愛らしさに油断しないでね。それで、うまく骸魂だけを倒せればこの子たちも無害な妖怪に戻れるから」
 あんまり殺意満々で行かないであげてくれるとうれしいわね、と小さな声で言って。
「事件の元凶はまた別にいるの。ちょっとハッキリ見えなくて申し訳ないけど、茶まろわんこと同じように……『誰かに会いたがってる』みたい」
 幽世中から『声』という『声』を奪うに至るまで、思い詰めているのだろうか。
 オブリビオンと言えども、この世界では骸魂に呑まれた妖怪であることには変わりなく。ならば、茶まろわんこ同様に上手く立ち回れば救ってやれる目もあるだろう。

「事件が解決したら、かくれんぼでもしてきたらどうかしら。もちろん、最後はきっちり見つかってあげて、相手を安心させてね」
 呼べども呼べども見つからずじまいなんて、さみしすぎるから。
 どうか、楽しいお遊びという形で丸く収めて欲しいと願うのだ。

「よろしくお願いね、みんなも、途中ではぐれたりしないように気をつけて」
 何せ、人ならざるものが棲まう『幽世』なんだもの。
 そう言って、六花のグリモアを輝かせながらミネルバは軽く手を振った。


かやぬま
●ごあいさつ
 初めまして、またはお世話になっております。かやぬまです。
 カクリヨファンタズムを舞台にしたお話をお届け致します。

●補足説明
 このシナリオで失われた概念は『声』ですが、猟兵の皆様および敵の骸魂たちは普通に会話ができます。深く考えずに振る舞って頂いて大丈夫です。

 第1章では、いっぱいやって来る茶まろわんこが相手です。わんこたちは『誰か』を探してさまよっている様子です、元々は無害な犬の妖怪ですので出来れば助けてあげて下さい。

 第2章は事件を引き起こしたボスの骸魂との戦いです、こちらも何やら事情がある様子。こちらは多少の会話が可能なようです、詳細は追って記載致します。

 第3章は無事『声』を取り戻した妖怪たちとのかくれんぼを楽しめます。
 もしも『ペア、もしくは団体でかくれんぼがしたい!』という場合にも対応出来るようにする予定ですので、こちらも実際に章が進んだ際の追記をお待ち下さい。
 なお、グリモア猟兵のミネルバにお声掛け頂ければ顔を出すことも可能です(お呼ばれがない場合は登場しません)、良きように使ってやって下さい。

●プレイング受付期間について
 MSページとツイッターの両方でご案内致しますので、恐れ入りますが一度ご確認の上お越し下さいますと大変有難いです。
 また、取扱説明書部分だけでも構いませんのでMSページの記述にもお目通し下さいますと嬉しいです。

 それでは、皆様の素敵なプレイングをお待ちしております!
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第1章 集団戦 『茶まろわんこ』

POW ●スペシャルわんこアタック!
単純で重い【渾身の体当たり】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD ●おいかけっこする?
【此方に近寄って来る】対象の攻撃を予想し、回避する。
WIZ ●もちもちボディのゆうわく
全身を【思わず撫でたくなるもちもちボデイ】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
👑11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●名前を呼ばれて、吠えて答えて
 会いたい、会いたいよ。
 どこにいるの? ……ええと、誰だったっけ?
 こんなにも会いたいと願うのに、肝心の『誰か』が思い出せない。

 いっぱい可愛がってくれて、いっぱい大事にしてくれて。
 ――そんな『誰か』に、会いたいのはまちがいないんだ。

●茶まろわんこと遊ぼう(バトルです)
 転移を受けて幽世に降り立った猟兵たちがすぐに感じ取ったのは、不自然なまでの静寂。そこに確かに妖怪たちの姿はあるというのに、誰一人として『声』を上げない。
 口をぱくぱく、必死に一点を指し示して何かを訴える様子に目を向ければ、麿まゆも愛らしい茶色の丸っこいわんこが群れを成してこちらを見ているではないか。
 小首をこてんと傾げて愛嬌を振りまくけれど、妖怪たちは一斉に首を振る。

 ――だまされるな、あいつらがやったんだ!

 身振り手振りや目線でそう訴える妖怪たちと茶まろわんことを見比べて、猟兵たちは決意する。
 今もなお周囲には仲間を増やそうとする骸魂たちが飛び交い、早急に対処しなければさらなる被害が予想される状況だ。

『わん、わんわんっ』

 つぶらな瞳で鳴くわんこたちは、元々骸魂に飲み込まれてオブリビオンと化したもの。ならば、元凶たる骸魂さえ倒してしまえば。

 ――どうやって? そりゃあ、気が済むまで遊び倒してあげてさ。
 ――隙を見せたところを、コツンと一発で解決ってなもんよ。

 まるでそう言いたげに、見守る妖怪たちがジェスチャーで教えてくれた。

 ※攻撃方法をご覧頂ければお分かりの通り、基本的に茶まろわんこは猟兵の皆様にじゃれついてくる感覚で攻めてきます。
 上手くあしらってあげて、攻撃はユーベルコードひとつでペチンという感じでオッケーです。
 もちろん、一応悪事に加担しているので、お仕置きもアリです。良きように!
薙殻字・壽綯
……静か、ですね。…静かなのは、好きです
私の声しか、響かない……この冷たい空間は、恐ろしいものです。ですが……孤独を思わせるから、無性に落ち着いてしまうのです

……愛嬌のある顔、ですね…。……もっちりとしていて、可愛いです。事前に説明がなければ、警戒しないのは難しいでしょうね。愛想が、あります
撫でたく、なります。ですが…声を盗られたくはありませんので…
かけっこ、しませんか? 走るのは、得意な方です
骸魂だけを吹き飛ばせるように、疲れたところを狙ってみます

………会いたい、人。かあ
彼女は、声なき世界を笑い、音なき世界に泣いた。の、かな……いえ、すみません、独り言、ですので
なんでも、なにも、ありません


●好ましき静寂
 カクリヨファンタズムの世界から『声』が消えたというのは本当で、そこに住人たる妖怪たちの気配は確かにあるものの、本来耳を打つであろうざわめきがまるで聞こえない。「……静か、ですね」
 だから薙殻字・壽綯(物書きだった・f23709)は、そう素直に口にした。
「……静かなのは、好きです」
 古き良きサイレント映画を見ているような――いや、その世界の中に入り込んだとさえ言える心地にそう呟くのだ。
「私の声しか、響かない……この冷たい空間は」

 ――恐ろしいものです。

 好ましい、しかし、恐ろしい。壽綯は確かにそう言った。
(「ですが……孤独を思わせるから、無性に落ち着いてしまうのです」)
 周りには確かに妖怪たちが存在して、己らを見守っているのだけれど。
 それをまるで感じさせない静寂が、まるでここに立つ己がひとりきりなのだと思わせる。
 一人が怖いというものがいる一方で、一人が落ち着くというものもいる。
 こと他人と距離を保ちたいと考える壽綯にとって、疾く解決せよと言われたはずの静寂の世界に、ある一定の理解を示してしまうのだ。

『わんわんわんっ』
 今、この世界に於いて声を発せられる存在は。
 壽綯たち猟兵と、オブリビオン――骸魂のふたつ。
 果たして、予知の通りにもちもちころりとした愛らしい風体の『茶まろわんこ』が、くるんと巻いたふわもこの尻尾をぶんぶん振って壽綯を見ていた。
 つぶらな瞳でこてんと首を傾げて、とにもかくにも構って欲しいというていである。
「……愛嬌のある顔、ですね……もっちりとしていて、可愛いです」
 今にも飛びついてきそうなわんことある程度の距離を置きながら、壽綯が呟く。
(「事前に説明がなければ、警戒しないのは難しいでしょうね」)
 そう、このわんこが対処すべき骸魂だと知らされていなければ、無警戒においでと手を出して手痛いしっぺ返しを受けていたやも知れないから。
 それだけ、茶まろわんこには容易く抗えぬほどの愛想があったのだ。

『わん、わん!』
 不意に、ただでさえもふもふしていて愛らしい茶まろわんこのボディが、こう……もちっとした感触をも帯びたように思えたのは、骸魂ならではの禁断の必殺技だろうか。

 ――撫でたく、なります。

 ソワッ。壽綯の手が無意識に上がりかけて、いやいやと踏み止まって首を振る。
(「ですが……声を盗られたくはありませんので……」)
 どんなに愛らしくても、相手は骸魂。今回の事件を引き起こした輩の尖兵でもある。
 気を抜いたら相手の術中に陥るのは必定、ならば――。
 ねえねえ、撫でてみない? と言わんばかりに身体を揺らすわんこに向けて、問う。
「かけっこ、しませんか?」
『……わぅ?』
 撫でてあげるのも良いけれど、犬はことさら人間と遊ぶのが大好きだろう。
 こう見えて走るのは得意な方だからと、壽綯はわんこにそう提案した。
 意図としては、存分に遊んでやってへろへろになった所を、骸魂のみを吹き飛ばしてわんこをまっとうな妖怪として救い出すことこそが狙い。
 野次馬の妖怪たちが、壽綯の意図を察して道を開ける。それに一礼して返し、壽綯は一歩先を行きながら、振り返ってわんこへと手招きする――『おいで』と。
 
『わん、わんわんっ! わんっ』

 あそんでくれるんだ! そう察したわんこがちまっこい四つ脚で地を蹴って駆ける。
 しかし侮るなかれ、足が短い犬種でもその走力は驚くべきものが往々にしてある。
 この茶まろわんこも――見た目からは想像もつかない速度で壽綯に迫る!
(「速い……ッ」)
 これもう何の勝負かわかんねえなという感じになりそうだったが、そこは壽綯も筋トレとストレッチを日々の習慣として取り入れる猛者である。簡単には負けない。
 そうして、キャッキャウフフしているように見えて実はお互いガチで走り回るという地味に壮絶な戦いが続き――遂に、わんこがこてんと横になった。息がめっちゃ荒い。

 ――ああ、楽しかった。
 ――こんな風に、遊んだんだっけ。

 もっちりボディが横倒しになっている様は、抗いがたい魅力を持っていた。
 だが、それも次第に効力が失われていき、ふわもこのボディに戻っていく。
 そんな毛並みをそっと撫でてやりながら、壽綯は独りごちる。
「……会いたい、人。かあ」
 はっはっはっはっ、わんこは息を整えるように舌を出して腹を上下させる。
「彼女は」
 もふっ、もふっ。柔らかい毛に埋もれていく手はわんこの温もりに包まれ。
「『声』なき世界を笑い、『音』なき世界に泣いた。の、かな……」
 遠い誰かを思う言葉で、自然と撫でる手が止まり、わんこが少しだけ顔を上げた。
 それに気付き壽綯が視線を合わせてやんわりと笑んで返す。
「いえ、すみません、独り言、ですので」

 ――頃合い、でしょうか。

 すちゃっとその手に握られたのは、無骨な短機関銃であった。本来ならば周囲の妖怪たちから息を呑む声が聞こえただろうが、それさえも今は封じられている。故に、無音。
 しんしんと降る雪のように、短機関銃はその先端から色褪せた南天の花へと姿を変えて、すっと静かに身を離したわんこの身体へと降り積もり――。

「なんでも。なにも、ありません」

 いつか、会いたい『誰か』のことを思い出して、願いが叶いますように。
 南天の花弁に覆い尽くされた茶まろわんこの身体は、次にざっと風が吹いて花弁が散った時には、微弱な力を持つばかりのわんこ妖怪へと戻っていた。
成功 🔵🔵🔴

逢坂・宵
【🐕】

会いたい誰かを思い出せぬもどかしさは、僕たちが想像するよりつらいものであるのでしょう

わんこ達に埋もれるザッフィーロに大人気ですね、と笑みつつ
身を寄せてくるわんこを撫でわしわしと擽ってゆきましょう

しっかりとした短い毛並みがメレンガとは違った感覚ですね
そうしているとわんこ達を押しのけるように身を割り込ませてくるメレンガに目を細め
伴侶の呟きには
はい、いったい誰に似たのでしょうね?と笑って
抱き込まれたならここにも大きな寂しがり屋のわんこがいますね、と見上げてみましょう

ええ、みなさん 会いたい人に会いに行きましょう
名前はわからなくとも、きっとその人に会えたなら
あなたがたは幸福を得るのでしょう


ザッフィーロ・アドラツィオーネ
【🐕】

会いたい相手を思い出せない、か
…斯様な存在を邪険に扱える訳なかろう?
そう眉を下げやって来たわんこ達に押し倒されながらその身を撫でんと試みよう
…メレンガと違いなんだ、毛は短めなのだろうか?
そう毛並みに手を埋めつつ至近に居る宵へ視線を投げ行く―も
何やら茶まろわんこの間に割り込んでくるメレンガを見れば思わず口元を緩めてしまうやもしれん
…本当にお前は寂しがり屋だな
誰に似たのだかと、メレンガと宵を交互に見遣りつつ宵毎腕の中に抱き込まんと手を伸ばしてみよう

…お前達も会いたい者が居るならば斯様な所に居てはいかんのではないか?
あの世でゆっくり待ち人を待てるよう、送ってやる故
さあ、行ってこい


御宿野・メレンガ
【🐕】

御主人達と一緒にお出かけ!嬉しいです!
でも喋ったら御主人達びっくりしちゃいますからね!言葉は喋りませんよ!秘密なのです!
ふんすふんすと尾を振り御主人達を見上げ先導する…も
押し倒された青い御主人を見れば慌てて駆け寄ります
ああー青い御主人!大丈夫ですか!
黒髪の御主人も!ぼ、僕を見て下さい!とにゅにゅっと交互に柴わんこと御主人達の間に入りつつくぅんと鳴き声を
君達は会いたい人、思い出せないですか?
大丈夫です!きっと向こうで思い出しますよと柴わんこ達に【ガジェットショータイム】
ホルンから空に虹を描きますね!
えへへ、わんこは虹の元でお空で飼い主を待つって聞いた事あるです
だからね、きっと会えますよ!


●犬は結構やきもちを焼く
(「御主人達と一緒にお出かけ! 嬉しいです!」)
 浅黒い肌持つ青年と宵闇の星のような青年を先導するように、意気揚々ととてとて歩くのは御宿野・メレンガ(賢い動物のガジェッティア・f25514)。
 見た目は立派なコーギーだが、その身には肉球が彫られたスーザフォンを背負い、マーチングバンドのメンバーめいた礼装に身を包んでいるあたりがひと味もふた味も違う。
 そう、メレンガは人語を解するだけの知能がある――『賢い動物』であった。
 故あって、御主人達――ザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)と逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)には、そのことは内緒にしているけれど。

(「でも、喋ったら御主人達びっくりしちゃいますからね! 言葉は喋りませんよ!」)
 秘密なのです! ふんすと鼻息ひとつ、メレンガはあくまでも一匹のコーギーとして四つ脚で先を行く。
 そんなメレンガを微笑ましく見守りながら、着実に歩を進めていた宵が噂の茶まろわんこの姿を認めて目を細める。
「……会いたい『誰か』を思い出せぬもどかしさは、僕たちが想像するよりつらいものであるのでしょう」
 会いたい人に会えない、という時点ですでにさみしいことだというのに。それが誰かも思い出せぬとあっては、もどかしさも相まってそれはとても辛いものに違いないと宵は思う。
 その点、己はひどく幸いなのだろう――そう思って視線を向けた先のザッフィーロは。
「会いたい相手を思い出せない、か……」
『わんわんっ、わんっ』
 茶まろわんこがひい、ふう、みい……五匹、ずらりと並んでいた。待って? こちらは二人と一匹だよ? 数でマウント取るの止めよう?

「……斯様な存在を、邪険に扱える訳がなかろう?」

 だが、ザッフィーロは漢前であった。眉尻を下げてそう言うと、一斉にわわんと体当たりを仕掛けてきた五匹のわんこ達を避けるでもなく払いのけるでもなく。
 その全てを受け止めて、押し倒され――たまらず尻餅をついた場所に蜘蛛の巣状のヒビが入るという地味に凄絶な事態に陥りながらも、その身を撫でるべく手を伸ばすのだ。
「大人気ですね」
 ふふ、と笑んでから宵が近付く。無闇に取り乱さないのは最愛の伴侶への信頼故か、数匹のわんこが撫でて欲しそうに身体をもちもちさせながら近付けばそれを受け入れる。

 ――もちっ、ふわっ、もふっ。

 元は無害な柴犬なだけあって、その毛並みは短くしっかりとしていた。両の手で一匹ずつわしわしとくすぐってやれば、茶まろわんこたちはくぅーんと切なげに声を上げた。
「……メレンガとの違いは何だ、毛は短めなのだろうか?」
 ザッフィーロも三匹のわんこに埋もれながら、逆にそれを良いことにもふり放題。
 茶色の毛並みに大きな手を沈めてそう問えば、いつの間にかすぐ傍に顔を近づけていた宵から返事が返ってくる。
「ええ、メレンガとは違った感触ですね――やはり、毛並みが」
 そこまで言って、遮られた。物理的に。メレンガだった。
(「ああーっ青い御主人! 大丈夫ですか!」)
 地形がちょっと破壊されているあたり、実は大丈夫ではないかも知れない。
(「黒髪の御主人も! ぼ、僕を見て下さい!」)
 何で他のわんことキャッキャウフフしているんですか、最愛のわんこは僕じゃなかったんですか!?
 そう言いたげに、メレンガはその身をザッフィーロと宵と、そして茶まろわんこたちの間に割り込むように入りつつ、くぅんとひとつ切なげに鳴いた。
 そんなメレンガを見遣って、ザッフィーロは思わず口元を緩め、宵は目を細める。
「……本当にお前は寂しがり屋だな」
 愛い奴め、という風にメレンガを見るザッフィーロの呟きに、宵が応じる。
「はい、いったい誰に似たのでしょうね?」
 そうくすりと笑って返せば、視線がぶつかったザッフィーロの両の腕が伸びてきて、あっという間にメレンガごと抱き込まれたものだから、これには宵も苦笑いで。

「――ここにも、大きな寂しがり屋のわんこがいますね」
 そう、紫眼を細めて伴侶を見上げた。

 メレンガがするりとザッフィーロの腕から逃れたのは、茶まろわんこと対峙するため。
 わんわんと吠えているだけのように見えて、犬同士しっかりと言葉を交わすのだ。
「わん、わんわん(「君達は会いたい人、思い出せないですか?」)」
『わうっ(『う、うん……』)』
 そこでメレンガが、スーザフォンの立派に咲いた朝顔から大きな虹を描き出す!
「わんっ!(「大丈夫です! きっと『向こう』で思い出しますよ」)」
 それはまるで空にかかった橋のよう――文字通りの、虹の橋だ。
 ほわあと口を開ける茶まろわんこたちに、メレンガは吠えて、告げた。
「わんわんっ!(「えへへ、わんこは虹の元で、お空で飼い主を待つって聞いたことあるです」)」

 ――だからね、きっと会えますよ!

『くぅん……』
 でも、となおも躊躇うわんこにはザッフィーロと宵が。
「……お前達も、会いたい者が居るならば斯様な所に居てはいかんのではないか?」
 ――あの世でゆっくり、待ち人を待てるよう、送ってやる故。
「ええ――みなさん、会いたい人に会いに行きましょう」
 ――名前はわからなくとも、きっとその人に会えたなら。

 黒い霧が立ちこめ、流星の矢が降り注いだその後には。
「あなたがたは、幸福を得るのでしょう」
 骸魂から解放されて、無害な柴わんこに戻った五匹の犬たちが、ころんころんと転がっていた。
成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴

ヘンリエッタ・モリアーティ
よろしい、遊んであげるわ。
 黄 昏 の 遊 戯 で ね !
まあ全力で犬と遊ぶってだけなんですけど

誰かを探してさまよっている、って。それって飼い主とかかしら
ウワーッ 渾身の体当たりがーッ!
なんのこれしき黄昏ガード。掴んでこねくりまわしてよしよししてあげましょうねヨォシヨォシ……!!

わっふわふし始めたところをお尻ぺんっとしまして
犬のしつけは頭を叩くのではなくおしりとかを叩くといいそうよ
はい、落ち着く。オーケー?
あのね、黒い服だからすごく抜け毛が目立つのよね
ウワーッ 大群が ウワーッ
なんのこれしき黄昏よしよし
この私、世界の為なら阿修羅になることも辞さないので
ヨォシヨォシ
…飼い主のこと教えてくれない?


●しつけのお時間です
 立ちはだかるはもっちもちの茶まろわんこ、その数両の指では数えきれず!
 立ち向かうのは悪徳教授の名を欲しいままにするヘンリエッタ・モリアーティ(円還竜・f07026)!
『わんわんっ、わん!!』
 くるんと巻いた尻尾を千切れんばかりに振って鳴くわんこたち。対するヘンリエッタは金の龍が刻まれたテンプルを持つ眼鏡の位置を直しながら淡々と告げた。
「よろしい、遊んであげるわ」

 ――ただし、私の『遊び』はいつでも全力。ついて来られるかしら?

 不敵に笑んだヘンリエッタが、鷹揚に両手を広げた。纏う気配は王者をも凌駕する、圧倒的な殺戮者のそれであり。
「絶滅よ――絶えて死ウワーーーッ渾身の体当たり!!!」
 それはまさに神々の黄昏(ラグナロク)、人と犬との一大決戦。わんこたちも一切の手加減なしのフルパワーで、次々とヘンリエッタ目掛けて突撃していったのだ。
 CV:竹立幾美様という破壊力バツグンの声で圧倒的なわんこ遊びを繰り広げるつもりが、まさか互角に攻め込んでくるとは骸魂わんこ侮れじ。
(「誰かを探してさまよっている、って。それって飼い主とかかしら」)
 教授らしく、探偵らしく、ヘンリエッタは思考を止めず。しかし、黄昏ガードも忘れずに。そう易々と体当たりを喰らってやる義理もなく、適当に一匹を引っ掴む。
「よしよししてあげましょうね~~~ヨォシヨォシ」
 わっしゃわっしゃと茶まろわんこがこねくり回されて気持ち良さげに身をよじる。
 そうしてわっふわふとし始めたあたりでヘンリエッタがわんこのお尻をぺしり!
(「犬のしつけは、頭を叩くのではなくおしりとかを叩くといいそうよ」)
 という訳で、叩かれたわんこはヒィンと一声鳴いて大人しくなる。
「はい、落ち着く。オーケー?」
 そんなヘンリエッタの腕の中で、右へ左へ身体をすり付けてくるわんこ。愛らしい仕草だが、ヘンリエッタは思わず眉間に皺を寄せる。何故なら――。

「……あのね、黒い服だからすごく抜け毛が目立つのよね」

 そうなのだ。どんな毛色の子であろうとも、多かれ少なかれ毛は抜ける。そして、それはどう足掻いても触れ合う人間の服にくっ付いてしまうのだ。
 こうなっては粘着テープの力なくしてはほぼ解決できない、後でしこたま付いた茶まろわんこの毛を自らの手で掃除する姿を想像して、ヘンリエッタはちょっぴり情けなくなる。
 だが、追い討ちをかけるかの如くさらなる茶まろわんこがヘンリエッタに迫る! しかも今度は一度にわっと飛びかかってきたではないか!
「ウワーーーッ!! 大群がッ、ウワーーーッ!!」
 もみくちゃにされながらも、いかなる原理か黄昏よしよし。これがガチの喧嘩だったら今頃集団戦の雑魚敵なんて瞬殺でしたね……わんこたちは命拾いしましたね……。
「この私ッ! よーしよしよし、世界の為なら……よしよし良い子、阿修羅に! よしよーっし!! なることも、辞さないのでッ! ヨォシヨォシ!!」
 決して腕を六本にするとか物理的に阿修羅になる訳ではない。だが、ヘンリエッタの黄昏よしよしがあまりにも高速だったものだから、そう見えてもおかしくはなかっただろう。
『ひぃん、ひぃんっ』
『くぅーん……』
 切なげに上がるわんこたちの声は、満足か服従か。多分、半分半分だろう。
 頭やら腹やら尻尾の付け根やらをよしよししてやりながら、円還竜は問う。
「……飼い主のこと、教えてくれない?」
『わぅ……』

 ――こんな風に遊んでくれる人であったことには違いなく。
 ――ああ、きっと、あれは自分を誰よりも大事にしてくれた人。

 一匹、また一匹と。ヘンリエッタにお尻をぺんとされた子から、文字通り次々と憑きものが落ちたかのようにこてんと転がっていく。
 その姿は、最早世界に害なす骸魂ではなく、愛らしい豆柴の妖怪であった。
成功 🔵🔵🔴