突然ですが、世界は滅亡しました
●突然ですが、世界は滅亡しました
世界が滅び、幽世から武器という概念が失われ、
そして武器だったものは全て『枕』になった。
●そういう世界なので
「みなさん、カクリヨファンタズムという世界についてはご存知ですよね」
白い軍服を纏った少女が切り出す。
するとグリモアベースの景色がゆらめき、現代人にはノスタルジックな印象を抱かせる、木造建築の町並みを映し出した。
これが過去の遺物で組み上げられたという世界である。
「そこではさっそくカタストロフが起きてしまいまして、世界がピンチなんです」
なんでも世界から何か一つの概念が失われてしまったのだという。どんな概念か現時点ではまだ不明だが、放置はできない。
「新しい世界と、そして未知の異変……何が起きるかわからずとても危険ですが、どうかみなさんには事件を解決してほしいです」
失われた概念に起因する現象はまだ確認されていないが、すでに幽世には夥しい数の骸魂が現れ、オビリビオン化したものたちが跋扈してるのだという。グリモア猟兵が提供できる情報はそれだけだ。あまりにも少ない。
「……よろしくお願いします。世界を救ってください」
少女は深く深く頭を下げた。きゅっと結ばれた口元は、己の不甲斐なさを恥じるようであった。
あ、そうだと少女は顔を上げる。
「あの、せっかくの新しい世界ですし、事件が解決したらちょっと観光してみるのはどうでしょう」
面白いものが見つかるかもと付け加えて、改めて猟兵たちを送り出すのだった。
鍼々
鍼々です。
今回はたぶん武器以外は普通の戦闘シナリオです。つまり枕投げで戦います。OPにはほとんど記載しませんでしたが、2つの重要事項がありますので確認をお願いします。
1つ目。
武器の消えた幽世は、攻撃手段が全て枕になる「枕投げの世界」となります。
例えば伝説の聖剣エクスカリバーという武器があれば、伝説の枕になります。
猟兵のみなさんが持つ武器も例外ではありません。武器はないけど魔法で戦うよという人もなんか枕魔法になります。
ユーベルコードで武器を作っても枕になります。事件を解決すれば元に戻ります。
2つ目。
今回のシナリオでは、武器や魔法が枕になるという現象は事前には知らされません。OPのグリモア猟兵も知りません。
そして、全ての猟兵は何か不思議なひらめきによって『枕投げで戦うべきだ』と理解します。スムーズにいきます。
1章の補足。
麒麟です。普通に戦ってくるので普通に枕投げで撃退します。枕はその辺にいっぱいあります。
2章の補足。
徒手空拳での戦いを広めたいボスオブリビオンです。もちろん枕投げで撃退します。どんな枕でもいいです。
3章の補足。
食べ物を中心に幽世を観光できます。もう枕はありません。
第1章 集団戦
『麒麟』
|
POW : カラミティリベンジ
全身を【災厄のオーラ】で覆い、共に戦う仲間全員が敵から受けた【攻撃】の合計に比例し、自身の攻撃回数を増加する。
SPD : 因果麒麟光
【身体を包むオーラ】で受け止めたユーベルコードをコピーし、レベル秒後まで、身体を包むオーラから何度でも発動できる。
WIZ : キリンサンダー
【角を天にかざして招来した落雷】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を災いの雷で包み】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
田畑に囲まれた村、すなわち農村らしい土地でそのオブリビオンは暴れていた。
麒麟である。たぶん普通に戦ってくるだろう。
それはまあ脇に置いといて、ひとつ枕投げの話をしよう。
枕とは、主に羽毛やスポンジなどを布袋に入れてクッション性を持たせた寝具である。ときにはプラスチックや籾殻を入れたものも存在する。これを投げあって遊ぶのが枕投げという遊戯である。よく修学旅行の夜とかに開催されるやつだ。
遊びである以上はルールが存在し、そしてローカルルールも度々見受けられる。例えば複数の枕を一度に投げていいとか、枕を掴んだまま直接叩きつけていいとか、だいたいそういう感じである。
要は枕さえ使っていればいいので、麒麟と戦うときも自由に使用していいということだ。
エカチェリーナ・ヴィソツカヤ
・心情
ふむ、どのような概念がなくなったのかはわからないが、危機というのならそうなのだろう
では、事件を解決しようじゃあないか
(ここから実際に戦闘開始。ユーベルコードで作った武器が枕になった!)
……まくら、枕?……………………なるほど?こういうこともあるのだな
(彼女は世間知らずなので受け入れてしまった!)
・戦闘
枕になろうとも、やることは変わらないさ
ユーベルコード『雹嵐』で作り出した枕で、敵に対して攻撃するぞ
・その他
アドリブ等は大歓迎さ
鬼桐・相馬
[冥府の槍]が紺青に燃える抱き枕になっている?
――まぁ、俺の悪意を喰うなら問題ないな。
【POW】
その辺にいっぱいある枕。抱き枕になった冥府の槍。
戦闘の余波を受け飛んできた枕が角に刺さる。
そうだ、俺はこれ(枕)で戦うべきだ。今確信した。
手数より威力重視の攻撃を。枕に[怪力]をのせた[なぎ払い]を炸裂させ、舞い散った中身による視界阻害も狙う。枕カバーが筒タイプのものはハンマー投げのように遠心力を利用し、中身だけを飛ばして遠隔攻撃を。
うん、枕投げだな。
敵の攻撃は[野性の勘と戦闘知識で見切り]回避。
消耗した敵集団へ[ダッシュ]で接近、冥府の抱き枕を使いUC発動。
睡眠を邪魔された奴の八つ当たりみたいだ。
●
世界が、爆ぜた。
下手人は全身に雷を帯びた麒麟である。その角から呼び出した強大な雷霆が、農村の大路地を穿ち大気を焼いていったのだ。
爆心地から2つの影が飛ぶ。紙一重で直撃を躱した者たちは、それぞれ木造の屋根や地面に着地した。
「異常は?」
影のひとり、鬼桐・相馬(一角鬼・f23529)が問うた。
「まだわからないな」
もうひとり、エカチェリーナ・ヴィソツカヤ(ジェド・マロースの孫娘『スネグーラチカ』・f28035)が答えた。
此度の事件で、カクリヨファンタズムから失われた概念は不明。そういうことで二人がまず行ったのは偵察である。偵察と言っても、麒麟へ近づき、攻撃を誘って観察するという実に大胆なものだ。リスクを負えば、それだけ得るものは多いだろう、と。
だが。
「…………」
エカチェリーナは青緑色の目を細める。いまのところ、麒麟や周辺に変わった様子は見られない。
「仕方がないな」
「そうだな」
二人の猟兵が目を見合わせた。様子見はこれで終わり。戦闘に支障をきたす概念の可能性が低いなら、このまま倒してやればいい。
相馬は獲物を背から引き抜く。大柄な彼をして身の丈ほどもある大業物。あたかも罪人のように、はたまた看守のように、青黒い冥府の炎を纏い続けるそれは。
それは、抱き枕だった。
「……え」
エカチェリーナが目を丸くした。なんか戦場に相応しくないものが見えた。
こほんと咳払いをひとつ。世の中広いのだ。そういう人もいるのだろう。見るからに体格の良い成人男性が抱き枕を手放せないなんてことはきっとある。あるんだ。そういうふうに納得した。
納得したので虚空へ手を翳す。麒麟を打倒するために呼び出すのは雪娘と雪女の象徴、すなわち魔力を帯びた氷による……。
氷枕である。
「……まくら」
「なるほどな」
どうやらこれが今回おかしくなった概念らしい。
結局の所、相馬がそれで困るかというと、そうでもなかった。
何やら抱き枕になってしまった槍であるが、手に持ち続けていると心が落ち着く。敵を視界で収めたときに浮かんだ、引き倒して首を踏みにじりながら嬲ってやろうという嗜虐心が泡のごとく消えてゆく。間違いない、冥府の槍は抱き枕となったいまでも己の悪意を喰らい続けている。
相馬には、それがわかるだけで十分だ。
共闘するエカチェリーナはすぐに順応し、さっそく氷枕を幾重にも展開し麒麟の退路を断つ飽和攻撃を繰り広げている。なるほどさすが妖怪だ。この手の異変など慣れたものなのだろうと感心する。相馬は彼女が世間知らずであることを知らない。
「踊れ踊れ雪の……氷枕たちよ」
エカチェリーナはひとりで麒麟を相手に善戦していた。大量に射出される氷枕はひとつひとつの威力こそ低いが数で補う。また、麒麟が反撃で呼ぶ落雷も、彼女を中心にした枕の層で阻まれ届かない。
このままいけば彼女はひとりで麒麟を下すだろう。しかし敵は一体だけではなかった。
二匹目の麒麟が背後から暴風となって突進を仕掛けていたのだ。
「……!」
エカチェリーナは寸前で気づくが間に合わない。
だから相馬が割り込んだ。自ら弾幕の海に飛び込み、細い体を抱えて強く地を蹴る。
轟音。余波で大量の枕が吹き飛び、平屋の瓦礫が舞い上がった。
「……怪我はないか」
二匹の麒麟から大きく距離を空けた地点でエカチェリーナの体が降ろされる。
彼女を救った羅刹の額を雫が伝い、地面に染みを作った。
「角が……」
「かすり傷だ」
相馬は角に刺っていた氷枕を毟り取る。氷枕の中身は保冷剤だ。あのどろっとするやつ。
「敵は二体になった。俺にどうしてほしい?」
「敵が一箇所に固まっていれば枕の弾幕で抑え込める」
なるほど、と相馬が額を拭う。彼の目の先には壊れた家屋と、そのなかに散乱する枕があった。
「まかせろ」
二匹の麒麟を前に、エカチェリーナが宙へと浮かび上がる。大量の枕による制圧射撃は、こうして空に浮かんでいたほうが死角が少ない。
敵は左右から挟み撃ちを仕掛けようと回り込む。疾走の合間に角を振り、落雷を呼び寄せるが先んじて攻撃を放ったエカチェリーナには届かない。彼女の展開する膨大な数の枕による層は、ひどく分厚い。
だから、麒麟は多少の被弾を覚悟しての突進へと切り替える。対するエカチェリーナ、攻撃を一体に集中させ打ち据える。
そしてフリーとなったもう一匹の麒麟を彼が対処するのだ。
「ふん!」
蕎麦殻のたっぷり詰まった枕が、羅刹の膂力で振り回される。生地はたちまち破れ、その裂け目から大量の散弾が敵の顔面へと飛びかかった。
「ギャウッ!?」
麒麟が堪らず足を止める。羅刹を目の前にしてそれは迂闊だったと言わざるを得ない。大きく踏み出された足が地を揺らし、大振りで勢いを付けた枕が際限なく加速。麒麟の胴を側面から打ち付け吹き飛ばす。
弧を描いて宙を舞うオブリビオンの体。地に落ちて転がれば、そこはエカチェリーナの敷くキルゾーンだ。
「数を増やすよ」
馬鹿な、と麒麟から信じられないという表情が向いた。だがエカチェリーナは真剣だ。むしろ自信さえ滲ませる。
「踊れ踊れ氷枕よ、今宵の舞台は今此処に――……」
新雪の如く眩しい両手が、天高く突き上げられた。そこに咲くのは弾幕の華。ひとつひとつが宙に軌跡を描き、そして全体で精緻な模様を結ぶ。
ユーベルコード『雹嵐』。雪娘の掌から咲く魔力は、400を優に越える花弁となり、二体の麒麟へと降り注いだ。もちろん全てが氷枕であった。
倒れ伏した二体を、その周囲を。あるいは一切合切全てに破壊を振りまく。
「これで」
瓦礫を蹴り上げ駆ける影がひとつ。羅刹だ。その手には純白の羽毛枕と、そしてよく手に馴染んだ抱き枕が握られている。
全身を氷枕に打ち据えられた麒麟が立ち上がろうとする。だが遅い、投げつけられた枕を受けて倒れ込んだ。
再び立ち上がろうとする頃には、地獄の獄卒はもう目の前にいる。
「終わりだ」
大きく大きく両手で振りかぶられる抱き枕は、よりいっそうの青黒い炎を吐き出し、羅刹の全力を以て叩きつけられた。
轟音。風が吹き荒れ、地は割れ、土砂に至っては大穴を拵えて弾け飛んだ。
そして。
「雪みたいだな」
空から降り注ぐ羽毛を見上げて、エカチェリーナが呟くのだった。
オブリビオンの姿は、もうない。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
白鳥・深菜
(白兵武器。魔導装備。バイク。
両手両足頭に装備していた10の武器。
これが全部枕になってる事実を認識して、開口一番)
「馬鹿じゃないの!?見つける以前に私が面白いものになってもうたわ!?」
しかし眼前にはオブリビオン。狩らなきゃ(猟兵の矜持)
とりあえず手元には愛用の枕が10個くらいあるし。
投げよう。投擲技能で投げよう!
電撃耐性のある枕は盾にしつつ投げよう!
しかし枕だけでは正直不安。
枕の弾幕に隠れて【煌めく月虹の矢】でも混ぜておこう。
こういう小賢しさが、明日の勝利を生み出すのだ。
――かくして戦場に放たれたのは、レベル×5個の混沌の枕――
「――馬鹿じゃないの!?!?」
エル・クーゴー
●POW
躯体番号L-95
当機は射撃戦に高い適性を発揮します
L95式ウェポンエンジン、始動
L95式マニピュレーター、展開
L95式アームドフォート、装弾
採用弾頭、対四足獣型オブリビオン殲滅用フレシェット――
……………(弾倉を確認する)
―――――(>>>枕<<<)
(うちのサーチドローン『マネギ』に砲弾を運ばせてフォートへ改めて装填させてみる)
―――――(>>>やっぱり枕<<<)
躯体番号L-95
当機は飛び道具全般の運用に高い適性を発揮します
それはマクラナゲに於いても同様です
(割り切って適応を試みる)
マクラ構造体の解析_及び_気温湿度風速抵抗を踏まえ弾道予測を開始――完了しました
>ファイア(一斉発射)
●
「目標、発見しました。四足獣型、体毛・枝角の特徴より、カクリヨファンタズム固有オブリビオン、麒麟と断定します」
凪いだ水面のような声が響く。よく言えば落ち着いた、悪く言えば人間味のないエル・クーゴー(躯体番号L-95・f04770)の声だった。
「それなら、軽くひと当てしておびき出そうかしら」
できる? とエルに視線を送るのは白鳥・深菜(知る人ぞ知るエレファン芸人・f04881)である。
彼女たちは農村から少しばかり離れた、藁塚の陰に立っていた。敵の数がわからず、ましてやこの世界から失われたという概念も未だ判明していない。迂闊に敵地へ踏み込まないことを彼女たちは選択したのだ。
むしろ敵を挑発して誘い、迎え撃つ。というのが深菜の提案である。
「躯体番号L-95」
対してエルは諾とも否とも言わず、ただ背面の武装を展開した。エンジン始動、補助パーツ展開、姿勢安定性確保。ずるりと伸びた銃砲身が真っ直ぐに目標へと突きつけられる。
「当機は遠距離狙撃に高い適性を発揮します」
それは何よりも雄弁な承諾であった。
ずどんと撃ち出される枕。
ぼふっと目標の顔面に着弾する枕。
ぷんぷん怒り狂って周囲を見回す麒麟。
「…………」
深菜はエルを見た。
エルは弾倉を確認した。
ぎっしり詰まっている枕があった。
ドローンに指示し予備弾倉を持ってこさせる。
やっぱり枕だった。
「……」
エルが深菜へ顔を向けた。無表情ながらに『そっちどうなってるか報告してくんろ』と言いたげである。
深菜は躊躇った。
それはもう躊躇った。嫌な予感がビンビンしていた。
だってなんか既にもうふわもこした感触がするもん。両手両足から。頭もなんだか重い気がする。
「ええ……」
恐る恐る頭のものを手に取ってみた。
枕だった。深菜の携帯していた魔導書や短剣、果てはグローブやリボンに至るまで、その全てがふかふかの枕に置き換わっていた。
「馬鹿じゃないの!?」
悪態が口をついて出る。知らぬ間に枕を全身に装備したただの面白い人にされたのだ。これくらいは許してほしい。
エルの視線が生暖かい気がする。いや、きっと気のせいだろう。彼女の目元はいつもと変わらずゴーグルに覆われていて何も伺えやしない。
やがて、麒麟が新たな動きを見せる。
大声を出してしまったためか、麒麟はエル達を既に捕捉していた。後ろ足で大きく立ち上がり、踏み込みと同時に角を振り下ろす。たちまち空が悲鳴を上げ、雷霆が二人へと降り注ぐ。
「どうにかこのまま戦うしかないようね!?」
咄嗟に枕を盾にしたのは大当たりだった。バチバチと周囲に雷の名残が散ってゆく。直撃を受けた枕はなんと焦げ目ひとつない。下手に元の性質を引き継いでいるせいで、実は武装は無事でどっかにあるかもという希望を的確に断ってくれる。切ない。
麒麟はこちらへ走り出していた。雷撃が通じないとあれば、近接攻撃をということなのだろう。
武器に頼らず魔法だけで戦うべきか。そう結論付けながら深菜は背後を気にかける。敵の攻撃は完全に防いだはずだが、万が一ということもある。
「躯体番号L-95――……」
よかった、無事か。振り向いた深菜はそのまま硬直した。
「当機はマクラナゲに於いても高い適性を発揮します」
空戦用強化パーツ群すべてに枕を乗っけたエルがいた。両手にも枕が握られ、枕投げ完全武装形態である。
「……」
枕を持ちながら無言のサムズアップ。
順応早すぎないかと突っ込む時間はない。麒麟の足音が迫っていた。
「マクラ構造体の解析も完了しました」
土を蹴り上げ、恐るべき加速を伴い突進を仕掛けてくる麒麟に対し、エルの声はやはり平坦なままだった。気負いや緊張などの色はない。
仮に解析など必要だったのかと問われたら、彼女は是と返しただろう。麒麟の突進をギリギリまで引きつけてから、右手の枕を投げつけた。ぼふんと顔面へ命中し、そして大量の羽毛が弾けてその視界を埋め尽くす。布袋には予め切れ目が入れられていたのだ。
「!?」
驚愕に支配された麒麟はエルと深菜の回避に気付かない。すぐさま首へ側面からの重い衝撃。回避と同時にエルより放たれた蕎麦殻枕が直撃したのである。
慣性を維持したまま転倒する麒麟へ、深菜が素早く跳躍。両手に握った枕を真上から隕石のように叩き落とす。
が、所詮は枕だ。これだけで倒しきれる気がしない。
それなら数で押すというのがエルだ。空戦用パーツに山積みした枕の総重量はいかほどか、ありったけを掴んで一気に投げ飛ばせば、次々と麒麟の体を打ち据えていく。もちろん銃砲身とてただの置物ではない。爆薬で一瞬のうちに音速を突破させられた枕が膨大な運動エネルギーを目標へ叩きつけるのだ。
エルの一斉射撃を眺めているうち、深菜は不意に思い出した。
何をかと言えばもちろん魔術である。
そもそも枕で戦わなくてもいいんじゃないか。
「混沌よ……」
空高く飛び上がり、銀髪と白梟の翼に光を散らす。
「普く色を導きて」
詠唱を引き金に、体内を魔力が循環する。掌を敵に向け、真っ直ぐに伸ばした腕こそが魔法騎士の銃身。いまは細剣を失えども、オブリビオン一体を仕留める程度ならこれで十分。
「――華を咲かせよッ!」
深菜の詠唱が完了する。弾ける燐光。渦巻く魔力は臨界点を突破し、無秩序不揃いの属性を帯びて、敵へ矢となり殺到する!
もちろん全部枕である。
「――馬鹿じゃないの!?」
もちろんいろいろな属性の枕なので低反発ウレタン枕とかビーズ枕とかあったし、果にはタワシ枕とかゴム枕とかちょっとセンシティブな抱き枕まであった。
「バッカじゃないの!?!!」
概念がカクリヨファンタズムから失われるとはこれほど恐ろしいものなのか。
頭を抱える深菜の先で、オブリビオンはゆっくりと消滅していくのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
朝沼・狭霧
アドリブ絡み自由
【心情】
嘘だ!絶対ヴィルさんパンジャンドラムを隠してるでしょう
やだやだ、パンジャンやだぁ…
えっ、普通の…依頼…?(不思議そうな顔で)
普通の依頼って何をすればいいんでしたっけ?
あーはいはい、あの麒麟さんを飲み込んだ
骸魂だけを倒せば助ける事ができるんですよね?
…枕投げで戦う事だけしか特に考えてないとかないですよね?
ね?
仲間が戦ってくれている間に
麒麟に向けてUC本当の友達の歌を使用
友人のことを思う歌がなぜか枕の歌になりますが
ちゃんと効果はあるのでしょうか?
なんだか愉快な歌になっているのですが…
(枕の歌)
敵が無力化されたらよく切れる枕で骸球を切り裂いて
麒麟さんを取り出そうとします
チル・スケイル
情報が少ない…こういう時はまず、装備の確認を…………
…………(杖が…ない……)
……はっ!アッ…アッ…(何かが入ってくる…頭に入ってくる…!)
……ああ…全ては枕投げで決まるのですね…わかりました…
…(杖から氷の魔法弾を放つ代わりに、杖だった枕から枕の魔法弾を放つ事で戦う)
…(狙撃杖のような細長い枕からは、精密で高威力な枕が飛び出す)
…(突撃杖だったはずの枕からは、大量の枕が高速連射される)
…(大砲のように大きい枕からは、当たれば破損し羽毛を撒き散らす枕が飛び出す)
…(うむ、必要な枕は揃っている。これなら戦える)
…(まとめて片付ける…【氷術・爆】、いや今は【枕術・爆】を敵の集団に叩き込む)
●
蹄が土を蹴り上げる。それが生むのは加速だ。
麒麟は加速に加速を重ね、農村の路地に立つ二人へと突進を仕掛けようとしていた。角の先端を雷が走れば、たちまち空気が焼き焦げた。
彼我の距離は瞬く間に縮まり、いまに犠牲者が出るという場面で、朝沼・狭霧(サギリ先生・f03862)が口を開いた。
「嘘だ! 絶対パンジャンドラムがいるのでしょう!?」
キキーッと麒麟がブレーキをかける。その表情は困惑に満ちていた。
「絶対、どこかに!」
狭霧は地団駄を踏む。恐ろしいことに敵の存在など一切気づいていない。それどころか瞳から光を消して、絶対どこかにと繰り返し呟いている。
控えめに言って麒麟はドン引きである。
さらに、すとんと突然両膝をついたものだから麒麟は後ずさった。
「やだぁ……」
狭霧の目が潤む。
「パンジャンやだぁ……」
なぜ彼女の口から唐突に某UDC世界の某国の某欠陥陸上地雷が出てくるのかわからない。余人には預かり知らぬことだが、きっと彼女は最近の事件で心に深い傷を負ってしまい、いまだ苦しんでいるのだろう。
麒麟はちょっと可哀想になって顔を逸らし、もうひとりの猟兵を見た。
「アッ……アアッ……!」
体を大きく反らして頭を抑えるチル・スケイル(氷鱗・f27327)がいた。
なんか滅茶苦茶苦しんでいた。薄く開いた口をわななかせ、震えながら虚空を凝視している。
控えめに言わなくても麒麟はドン引きである。
あろうことかチルは何やら受け入れたように頷き出し、細長い抱き枕を強く抱きしめるのだった。
もう帰ろうかな、と麒麟は思う。二人とも明らかに正気じゃない。
その一方でチルは、心のもやが晴れる想いを抱いていた。
目が焦点を結ぶ。
そうだ。いつもの杖がなくなってしまったが、ここに枕がある。枕さえあればいい。枕投げがすべてを解決するのだ。
「私は……パンジャンは……、あ?」
しばらくすると狭霧が落ち着いてきた。変わらず雫が頬を伝っているが、麒麟を認識するようになっただけで大きな前進だ。
「もしかして、普通の依頼なの?」
呟いた。麒麟は相変わらず困惑してる。
「普通の依頼って、……何をすればいいんでしたっけ?」
麒麟は首を振る。そんなこと聞かれても知らんがなと答えるしかない。
すると、そんな彼女へ救いの手が差し伸べられる。
「……」
チルだった。彼女はまっすぐ枕を突き出していた。
「え……?」
目を瞬かせながら狭霧が受け取る。きょとんとした顔は、次第に笑顔へ変わっていった。
つまりそういうことになった。
そういうこととはつまり、枕投げである。
麒麟が農村を駆け回ると、かするように次々と枕が着弾してゆく。ときには地面へ、ときには壁へと。
「……」
チルの放つ魔法弾だった。本来ならば杖から放たれるはずが枕から飛び出ているし、もちろん目標を狙うのは氷の魔法弾でなく枕属性のブツである。
冗談のような光景だが狙いはガチだ。羽毛のたっぷり詰まったふわふわ枕からは豪雨のごとく大量の枕が連射され、敵の体力を削りながら追い立ててゆく。
物量とは力だ。枕の嵐が誘導するのは農村の出口付近、物見台の傍である。
麒麟が目標のポイントへたどり着いたのを見、チルは即座に枕を切り替えた。細長い抱き枕だ。重力で頼りなく垂れ下がる先端を見て誰が狙撃杖だったものと気付けるだろう。
ぼふん。
ぎゅっと中身の詰まったビーズ枕が飛び出す。それは一瞬で物見台の中心を通り抜け、崩壊を呼んだ。崩れ落ちる木片が敵を下敷きにする。
「……」
拘束完了。寡黙なチルは何も言わないがその表情で語る。いまからとどめを差すぞと。
杖代わりの枕を手放し、彼女は駆け出す。一気に決着をつけるため。
ローブの袖から伸びる手に宿るは強大な魔力の気配。常ならば氷山もかくやという氷の弾丸が生み出されるのだが、今回ばかりは枕に置き換わるだろう。いいのだ、それで十分だ。
いかに柔らかい枕といえど、巨大なものを叩きつけてやれば倒せるだろう。
「……!」
しかし、ここに否を唱えるものがいた。
物音に気づいてやってきた新しい個体である。初めからトップスピードを出し、速度と巨体を生かした突進をチルに浴びせようという算段である。
『ハッピーエンドはいつやってくるの――』
ならばここで歌うのが狭霧だ。民家の屋根の上に、枕を抱きしめながら強い情動を歌声に乗せる姿が見える。
それがどうしたというのか、歌なんぞであの突進が止まるものか。仮にこの光景を見る者がいればそのように思ったかもしれない。しかし、彼女の歌声には力があった。まじないの宿る歌、すなわち呪歌であるのだ。歌であるからには肉体を破壊するのでなく、魂に作用する。
『温かい布団、ふわふわの枕に抱きしめられたとき――』
もちろん攻撃手段なので歌詞の枕化は免れないよね。
歌の効果か、新しい麒麟は突然チルから舵を切った。彼女の目の前で直角に曲がり、なんともう一体のほうへ走ってゆく。
いや、狙いは枕だ。チルの放った枕の魔法弾が山積して作ったふかふかの塊である。
『このまま浸っていたい、いつまでもいつまでも――』
麒麟がぽーんと跳んだ。そして枕の山に飛び込んだ。足をたたみながら全身で羽毛の歓迎を浴び、さらには転がりまわることで感触を味わい尽くす。ときどき狂ったように立ち上がり、みずから何度も枕に頭を叩きつけていた。
「……」
チルはこれの一部始終を見ていた。
特に感想を述べたりはしない。いつのまにやら止まっていた足を再び動かす。この状況は、むしろ敵が固まっていてまとめて片付けるのに好都合だ。
『ああ、ぼくを起こさないで――』
狭霧は目を瞑り大きく息を吸う。そして美しいビブラートが世界に波紋を生む。オブリビオンどもはすっかり枕に夢中で、チルの接近に気づきやしない。
だん、とチルの足が地面を強く蹴る。竜の体を高く高く打ち上げ、そして放物線の頂点、ついにその腕に巨大枕が顕現する。至高の手触り、天上の柔らかさ、ただし質量と体積は致命級。
「…………ッ!!」
慣性、体のバネ、右腕力に重力加速やら諸々を乗せてついに枕が上から打ち下ろされた。
目標は麒麟二体。果たして彼らは回避を思い浮かべることすらできず、その直撃を受ける。
ぼっふーん。
柔らかな材質から空気が溢れる音と、大量の羽毛が弾けた。
羽毛の舞い散る雪景色を、ひとりの女性が歩く。
狭霧だ。
彼女は力尽きた麒麟のそばで膝を付き、そっと頭を抱きしめる。
骸球の支配から開放された、穏やかな表情があった。
「これでもう、大丈夫ですからね」
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
インディゴ・クロワッサン
武器が枕に………?
「て、マジで黒剣が枕になってるー!?」
あ、良く見たら藍薔薇の紋章がくっついてるよ…違和感しかないね、これ(笑)
えーと、なんだっけ、骸魂だっけ?
「とりあえず、味見させてよ」
指定UCを使って一対ニ翼を生やしたら【空中戦/空中浮遊】も使いつつ、愛用の黒剣だった枕を振るって【衝撃波/吹き飛ばし】。
敵の攻撃は【見切り/第六感】とかで避けながら【カウンター】狙いで【怪力/殺気/鎧砕き/鎧無視攻撃/部位破壊】。
弱った敵が居たら、容赦なく【吸血/生命力吸収/早業】でご馳走さま。
「ピリピリして面白い味~」
ちょっと痺れるのが逆に良いかもねー、これ
啜れなかったらじたばたしてると思うよ(笑)
ニール・ブランシャード
ここが新世界のカクリヨファンタ………あれぇ!?新世界滅亡しちゃうの!?いきなり!?
それは困るよ!さっそく敵をやっつけ………
ウワーッぼくの武器(戦斧)が「7」の字の形の抱き心地良さそうな抱き枕になってるよぉ!!
それならUC「黒い手」を使って………手から無限にフワッッフワの羽毛が出てくるよぉ!!
よく見ると周りには枕がいっぱい…。
なるほど。わかった。かんぺきにりかいしたよ。
枕投げすればいいんだね!!
というわけで周りにある枕を片っ端から投げてみたり、7字型抱き枕で遠心力つけて敵を殴ってみたり、UC使ったら手から出てくる羽毛を敵になすりつけたりしてみるよ。
…こんなに羽毛散らかして、お掃除がたいへんそう。
●
がっしょがっしょと金属の擦れる音が鳴る。騒音の主は黒い騎士鎧で、木造家屋ばかりの農村のなか、追いかけてくる麒麟を背に懸命な走りを見せていた。
兜の隙間からは暗闇しか伺えないものの、恐怖より困惑の空気が見て取れる。
ニール・ブランシャード(うごくよろい・f27668)が麒麟から逃げる経緯はこうだ。
音に聞く新世界ということできょろきょろと周囲を伺い、何も変な様子はないけど本当に滅亡しちゃうのかと驚いているうち、徘徊する麒麟と遭遇。いざ愛用の長柄斧を取り出し戦闘態勢に入ろうとすれば、両腕のガントレットが握るのは何故か抱き枕だった。
「ウワーッ! ぼくの武器がなんか抱き枕になってるよぉ!!」
そりゃ逃げるだろう。誰だって逃げる。敵に勝てるか勝てないかではなく武器が異常事態なのだ。
遁走の揺れで抱き枕の先端がぶらんぶらんする。めっちゃ振り回される。この抱き枕はなぜ形状が『7』のようになっているのだろうか。走っているだけで折れ曲がった先が尋常じゃないくらいにぶらぶらするのだ。されどさらさらふかふかの触り心地でもある。こんな状況でなければ感触を楽しんでみたい一品だった。
さてどうするか。いっそ反転して枕を叩きつけてやればいいのか。ニールが逡巡してるうちに状況は変わる。
「なんだか大変な状況らしいね」
走っているニールの進行方向に黒衣の男が立っている。インディゴ・クロワッサン(藍染め三日月・f07157)の声だった。彼としては鎧の者がなぜ抱き枕を後生大事に抱えながら走っているのかがわからない。きっと戦闘中でも枕が手放せない人なのかもしれない。
「まあいいや」
鎧の事情はともかく、ちょうどよく獲物が近づいてきてくれる状況だ。ぱぱっと片付けてついでに血の味でも確かめさせてもらおう。
インディゴは己が武器を引き抜いた。
大人の上半身ほどもあるボリューム、シルクの滑らかな手触り、指をそっと押し返す柔らかい弾力。そして薔薇の紋章をデーンと黒い生地の中央へ丁寧に施している。
もちろん枕である。
「うわ、黒剣が枕になってるー!?」
インディゴは一瞬にしてニールの逃げる理由を悟り、並走しながら麒麟から逃げることとなった。
別にこのまま戦えばいいじゃんと気づくまで、およそ一分ほど走り続けることになる。
金属の靴底とブーツが同時に土を踏みしめた。
お互いに得物を構えるタイミングも同じ。後ろから迫る麒麟へと武器を振りかぶりながら反転。それぞれ鏡写しのように、枕を水平に叩きつけて吹き飛ばす!
「ギィアッ!?」
放物線を描き、古家に叩きつけられ倒壊させる。瓦礫のなかすぐに立ち上がろうとするが、そんなことインディゴが許すはずがない。頭を起こした麒麟には、既に目と鼻の先まで迫った彼の姿が見えた。速すぎる。背から伸びる一対の翼がこの急速接近を実現したのだ。
麒麟の体に再び枕が叩き込まれる。次は下から掬いあげるような一撃だ。決して軽くない体はしかし、恐るべき怪力が難なく打ち上げた。
高く浮かび上がった麒麟の角に、雷が宿る。ただでやられ続けるつもりなどない。上空から雷霆を降らしインディゴを打ち据えるつもりなのだ。果たして眼下へそれを振り下ろし、雷鳴と破壊を振りまこうというとき、麒麟は目を見開く。
「!?」
そこにインディゴの姿はもうない。
間髪を入れずに衝撃が襲いかかる。飛び上がり、真横まで回り込んだ彼が枕で追撃を放ったのだ。
どん、ざざあ。
地上に落ち、大きな引摺り跡を描きながら転がる麒麟の体へ、新たな枕が飛ぶ。
ニールの放ったものだ。倒壊した家屋に散乱する無数の枕をニールは拾い上げていた。武器が枕になってしまったなら、枕で戦えばいい。ちょうどここには無数の枕があって、好きなだけ投げつけられるではないか。ガントレットの指が複数の枕を一纏めに掴み、片っ端から投射してゆく。
敵に思考の間を与えぬうちに大股で踏み出す。靴底が力強い足跡を刻んだ。
一連の攻防でニールはひとつの事実に気づいた。
例えどれだけ強く枕を当てても、枕で敵を斬ることはできない。
本来ならば最初の振り返りざまの一撃で両断できていて然るべきなのだ。だが、枕では叶わなかった。
武器として使うことはできるが、やはりどこか頼りない。それがニールの評価だ。
であれば、枕以外で決着を付けるのが最上である。
鎧を纏った体が走る。麒麟目掛けて左手を振りかざしていた。
鎧の隙間から滴る黒は猛毒だ。あらゆるものに浸透し、腐食させる。麒麟程度なら一撃必殺となるだろう。
そして攻撃である以上はやっぱり枕だった。
「やっぱりそうなっちゃうの!?」
なっちゃった。
鎧の隙間から溢れてくるのは液体でなく黒い羽毛だ。はらはらと地面に落ち、じゅわっと音を立てるのだから毒性は据え置きなのだろう。
「ええいそれなら、このまま!」
布と綿にまみれてなんとか姿勢を起こそうとする敵を、やがて左手が捉える。ガントレットが首を握りしめれば、たちまち黒羽毛が触れて染み込んでゆく。
麒麟は暴れた。絶叫しながら暴れた。首を足を振り回し、全ての膂力を振り絞ってニールを引き剥がそうとする。
「く、うううう……!」
だから今度はニールが耐える番だ。重心を落とし両手で掴まることで決して放すまいとする。その間にも毒性の羽毛は次々と浸透するのだから。
麒麟が最後のあがきを見せる。頭の角でニールを突き刺そうというのだ。鋭利な先端が兜の隙間を狙う。
「おっと、それは通さないよ」
寸でのところでグローブが角を掴み、そのまま握りつぶす。インディゴだ。
麒麟の動きはもはや抵抗か痙攣か区別が付かない。ゆえに彼も抑え込みに参加。そして。
「いただきます」
牙を剥き出しにして首筋へ噛み付いた。
「……えっ!?」
思わず喉がひっくり返りそうになったニールである。いま自分は現在進行系でこの敵に毒を流し込んでいるのだ。
そんな、いかにも毒が全身に回りつつあるようなものを齧って無事に済むとは到底思えない。
あろうことか齧るだけでなく血を吸ってまでいるじゃないか。ニールとしては一緒に毒を吸ってしまうんじゃと気が気じゃない。
「…………」
やがて完全に脱力した麒麟をインディゴは放す。その手で口元の赤を拭った。
「ど、どう……?」
ここでいう『どう?』とは『体調に変化はない?』と同義である。対してインディゴは何でもないように答える。
「うーん、ちょっと舌がピリピリする味かな」
ニールの肩がぎくりとした。未だ黒々とした羽毛ばかり生む腕に目を落とす。
「面白い味だったよ」
「そっか……」
牙の食い込んだ傷口を眺める。血に毒が混ざっていなかったことをニールは祈った。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
第2章 ボス戦
『キョンシー木綿』
|
POW : キョンシーカンフー
【中国拳法の一撃】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD : 百反木綿槍
自身が装備する【一反木綿が変形した布槍】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ : キョンシーパレード
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【キョンシー】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
小さな山と畑に囲まれた村の、一番大きな建物の屋根にそれは座っていた。骸魂『一反木綿』が取り付いてオブリビオン化したキョンシーである。
やがて失われる夜空を見上げながら足を揺らす。
さて、自分がカタストロフを起こした動機はなんだったか。実のところほとんど覚えていない。
剣や槍を使わず誰かと戦いたかった気がするし、そうではなかった気もする。
ああきっと、動機は別々なのだ。
なにか試合のように遊びのように戦いたかったのはキョンシーだった自分の動機で、世界を滅ぼしたいのはオブリビオンになった自分の動機だ。
後者の願いが叶えば、きっと前者の願いは永遠に叶わなくなるだろう。
でもまあ。
もういいのだ。どうでもいい。
世界が終わってしまえば、こんな空虚な気持ちも消え去るのだから。
骸魂に憑かれたキョンシー、すなわちキョンシー木綿はただ世界の滅びを待った。ついでに滅びが早く訪れますようにと祈った。
Q.つまりどういうこと?
A.キョンシー木綿はそのままだと徒手空拳で戦おうとしますが、雑に説得すれば雑に枕投げで戦おうとします。彼女の足元のころころした布が枕です。
チル・スケイル
説得しません。相手は徒手空拳で戦い、私は枕を使う。そこがいい。
…つまり。ただ遊びたかっただけの妖怪を利用し、世界に害をなそうというのですね。
オブリビオンの中でも、許し難い部類です。ええ、その手口が武器を枕にする事だとしてもです。
…(左手に【ストゥーマ・フシロ】、右手に【カシュパフィロ】。キョンシーの群れを連射で押し留め、近づかれないようにキョンシー木綿を撃ち抜き吹き飛ばす)
…(先の戦いで、枕と化しても威力と圧力は健在なのを確認している。問題ない)
…(【氷術・召竜】で仕留める。発射され戦場に溢れる大量の枕に竜の霊を宿す)
…(ふかふか枕の腕でオブリビオンを捕え、激しく振り回してから飲み込む)
●
世界の滅びが訪れるまで寛ぎながらぼんやり待つ。そんなキョンシー木綿の予定はあっさり変えられた。
民家の屋根を見上げるチル・スケイルによって。
彼女は滅びの元凶へ抱き枕を向けながらじっと見据えた。罪を憎んで人を憎まずという言葉があるが、チルにはキョンシー木綿に対する強い敵意はない。ただ世界の滅びに駆り立てたものを許さぬ瞳でまっすぐに射抜いていた。
チルは構えた枕の引き金を、まだ引かない。
そもそも枕に引き金はないし、元も杖であるのだが、少なくともまだ仕掛けようという気はない。
対して、キョンシー木綿は静かに屋根を立ち上がる。虚ろな瞳に敵意は薄いが、猟兵を倒さねばという本能が見て取れる。
「……」
まだ、仕掛けない。
眼下の枕を持つ姿に、それで何をするつもりだと睨めつけながら、一歩また一歩。屋根の縁まで進んだ。
「……」
チルはまだ仕掛けない。枕を持つ手に緊張や油断の気配はない。
ついに少女の骸が屋根を蹴った。地上へ跳び下りようとする。
いまだ。
「……あなたは」
枕から魔法弾が放たれる。爆発的な初速。元が狙撃銃に似た杖だったならば、撃ち出される魔法弾の速度と貫通力もそれに準ずる。例え枕型の弾しか打てなくとも、宿した破壊力は敵を打ち砕くに十分。
「オブリビオンの中でも」
敵に空中で進路変更する手段がない以上は絶対に回避不可能というタイミング。空を切り裂く枕は破壊の力を遺憾なく発揮しキョンシー木綿に殴り込んだ。
直撃。
いや、否だ。
まっすぐと頭部を狙った枕は細い足によって蹴り上げられる。衝撃で敗れる布。飛び散る羽毛。
「許し難い部類です」
間髪をいれずにチルの第二射。狙いは蹴り上げた勢いのまま上下反転した敵の頭部。寸分違わず殴り飛ばすだろう。
「猪口才なッ!!」
しかしキョンシー木綿の身のこなしは軽かった。いち早く地面に両手をつき、腕の力のみでの横っ飛びにて枕を回避。
だん、と強く地を蹴る足はチルとの距離を開ける。
キョンシー木綿は短いやり取りでチルの実力を把握しつつあった。接近は困難。仮に実現したとしても、彼女が持つもう一つの枕が火を吹くだろう。最初に撃ってきた枕とは違って短いそれは、連射力に秀でていると推測する。
であれば。
「一人で挑んだことを後悔するがいい……!」
細い足が再び地を蹴る。木造の家屋に穴を開けながら飛び込み、射線から身を隠すことにしたのだ。
「……」
チルは、追わない。そして表情を変えぬまま持ち替える。長い抱き枕から短くふかふかの柔らかい枕へ。それは敵が読んだ通りの連射重視枕だ。
おお、おお。
あああ、ううあ。
うめき声と足音。突如、農村の至るところから青白い肌の屍人形が迫りくる。
敵にキョンシーへと変えられた、農村の妖怪たちだった。
「……」
枕の掃射が大量のキョンシーをなぎ倒す。一秒程度の射撃で五体以上は倒しただろうか。だがキョンシーどもは四方八方からチルへの接近を目指し、なにより完全に包囲していた。五体、あるいは十体。または十五体と倒したところで状況は改善せず、それどころか倒したキョンシーはすぐに立ち上がってくる。周囲に散乱する枕が敵の行軍を遅らせているのが唯一の救いで、残念ながらそれだけだ。
チルは両手に持つそれぞれの枕で撃つ。ひたすら撃つ。でも、やはり倒したところで刻一刻と包囲は狭まっていく。
それは決して抗えない大きな波のようであった。
だから、ここでチルは札を切る。
「……喪われし命脈に、我が氷雪を巡らそう」
ドラゴニアンの体から魔力が渦巻き、周囲にばらまかれた枕を絡め取る。引き起こされるのは偉大なる霊の降臨だ。氷竜の霊が、キョンシーの撃退に使用された枕へと降りて立ち上がらせる。可愛らしいディフォルメ竜のプリントされた抱き枕がキョンシーの群れを捕らえて押し倒した。
数の優位はここに逆転する。もはやオブリビオンのもたらしたキョンシーより冷え冷え抱き枕のほうが多い。
この瞬間を、キョンシー木綿は狙っていた。
チルが札を切った瞬間、数多のキョンシーを足場に電光石火の早業で接近。猟兵の腹を貫かんと飛び蹴りを放つ。
そして、チルもまた狙っていた。
待ち構えていたように淀みない動作で狙撃銃型抱き枕を構え、襲撃者へと突きつける。
「なァ――ッ!!」
「……」
僅かに魔法弾(枕)のほうが早い。
寸前まで迫っていた飛び蹴りは零距離射撃で返り討ちにされ、枕から膨大な衝撃を腹に受けながら再び木造の家屋に穴をあけるのだった。
成功
🔵🔵🔴
インディゴ・クロワッサン
※説得:無
………ふわぁ…(大あくび)
「枕だらけだもん、仕方ないよねぇ…」
さ、戦うぞー
【SPD】
羽を増やして真の姿(二対四翼)になったら、改めて【空中浮遊】してから、拷問具:嘆きの金糸雀 で拷問具(だった筈の枕)を呼び出して…
「うーん、金糸雀だけじゃ不安だなぁ…」
ここはUC:飛翔する黒の刃 (枕)も使って、敵の攻撃の対策もしつつ、撹乱しちゃいますか!
UCと拷問具枕の弾幕を放ちながら【闇に紛れる/迷彩/目立たない】で隠れて、黒剣だった枕に【だまし討ち/衝撃波/スナイパー】なんかを乗せて【投擲】。
〆は、地上の敵に向かって蹴り(【怪力/踏みつけ】)を繰り出して…
「何とかキーック!…なんてね☆」
●
枕と羽毛にまみれたままキョンシー木綿は倒れていた。彼女は既に他の猟兵から枕投げを受けていて、いまはぼうっと空を見上げている。自分はなぜ枕で攻撃されたのかよくわからない。
不思議なことに、その疑問へ答える者がいる。
「枕だらけだもん、仕方ないよねぇ……」
ふわ、気だるそうに欠伸をしながら歩いてくるインディゴ・クロワッサンだった。
「……!」
キョンシーは体のバネを使って直ちに起き上がった。敵だ、新しい敵がやってきたのだ。頭頂から足の先に至るまで、隅々に戦意を巡らせる。
反対に、インディゴという男は不思議なほどに自然体だった。
自ら世界崩壊の元凶まで赴いてきたというのに、まるで気負う様子がない。大きな欠伸はその証拠だ。
「さ、やるぞー」
真剣味の感じられない声にオブリビオンが激昂する。
「この……ッ!」
瞬間、彼女の帯びる布が渦巻き、引き裂けていった。裂けた布はめりめりとさらに細かく分化してゆき、さながら樹形図のようにそれぞれ鋭利な先端を形作る。
すなわち、槍衾だ。
「いけッ!」
号令に従い、無数の布槍がインディゴへと殺到する。最短で到達する直線軌道。左右の逃げ道を潰す弓形軌道。さらにその隙間を埋め尽くすものと、殺意の具現となって襲いかかる。
「おっと」
落ち着いた声。
「上方面がお留守だったかな?」
果たして槍が貫けるものは何もなかった。代わりにインディゴが驚いた顔を空中から見下ろし、ゆっくりと口元で弧を作る。彼の背にはコウモリとよく似た二対の翼が伸びていた。
「その……」
ぎり。キョンシーが奥歯を噛みしめる。
「澄ましたツラに穴を開けてやるッ!!」
再びの号令。敵が飛べると認識したからには上下にも対応した。全方向360°から一斉に槍が迸る。怒りを纏った凶器は先程より一段と速い。
であれば、インディゴは次の手を打つ。懐から取り出すのは拷問器具、苦悩の梨……によく似たクッション。平時は鳴らすと様々な処刑道具を呼び出してくれる優れもの。優れているので枕になっていても処刑道具を呼び出してくれる。
もちろん全て枕になっていた。ファラリスの雄牛はディフォルメが愛らしい牛型抱き枕で、棘付き首輪に至っては柔らかなファーがふんだんに使われたネックピローである。
冗談のような光景だが、しかし数は膨大。
処刑道具(枕)のすべてはインディゴの意志のもと発射され、布槍の群れと真正面から激突した。
相殺に次ぐ相殺で大量の布と綿、羽毛が舞い散る戦場にて、キョンシーは敵の姿を探す。
彼女の動員した布槍は膨大で、初めのうちは十分に押し切れると思っていた。
それがどうだ、いまや敵の弾幕は圧力を増し、かろうじて拮抗できるかという程度に留まっている。そのうえ布と枕の残骸で視界が悪く、いつのまにか目標を見失ってしまっていた。
「くそ……!」
キョンシー木綿は歯噛みする。視線は上下左右、さらに前後へ。あらゆる方面からの奇襲へ警戒を続ける。膠着した状況ならば必ず何かを仕掛けてくるだろうと思っていた。
やがて彼女の予想は的中する。
しかし方向は上下左右のどちらでもなく、真正面からだった。
突如、数多の残骸に閉ざされた景色に穴があく。
かろうじて目で捉えられたのは、赤い紋章が拵えられた黒い生地。それはたったひとつの小柄な枕で、しかしいかなる力で投げられたのか、軌道を阻むあらゆるものを蹴散らしながら、一直線にキョンシーへ迫った。
「――ッ!」
咄嗟に回避行動を取ろうにも間に合わない。弾速が速すぎる。
柔らかいはずの枕がずしんと胸に破壊の力を叩きつけてきた。一瞬で息が絞り出され、小柄な体躯が吹き飛ばされた。
どすん、どすん。
さながら鞠のように地面の上を跳ねた。胸を射抜いた運動エネルギーはそれでも収まらず、しばらく転がることでようやく止まる。
「けほ、ごほ……ッ」
仰向けで荒い息をつくキョンシーの顔面に、突然の柔らかい感触。枕だ。
「……ッ!!?」
「苦悩の梨って知ってる?」
半狂乱になりながら上体を起こして枕を取り除くと、インディゴが目の前にいた。
「こうやって」
慌てて立ち上がったキョンシーへ再び枕が押し付けられる。
取り除く間もなく、衝撃。
「こうやって開いた口に突っ込むものなんだけどね」
ブーツの靴底が、枕越しに顔面を蹴り飛ばし、再び大きく吹き飛ばすのだった。
成功
🔵🔵🔴
朝沼・狭霧
アドリブ絡み自由
【心情】おお、なんだか可愛らしい子ですね
ちょっと調子が出てきましたよ
ふむん、別に枕投げじゃなくても別の事で戦っても
良さそうですよね
そう、例えばえっちぃ事とかでも…
(ゴゴゴゴ…)(一瞬ピンク色のオーラを纏う)
…んーやめやめ折角ですから今日は枕投げで戦いましょうか
おーいそこのキョンシーさん世界滅びるらしいから
枕投げしましょう(ネコさんの柄の枕を装備
布が枕なんですか
それってちょっと寝にくいのでは…
どれちょっと貸してください
(ソーイングセットでちくちくして他の枕の綿を詰め込み羊の柄の刺繍
できたー完成です貴方の枕です
二人でえいやと枕投げを開始
私が勝ったら骸魂を切り裂いちゃいますよー
てやー
鬼桐・相馬
何、あれは……枕なのか?
安眠とは程遠いデザインに心の内で驚く。
【POW】
こんなにも武器が溢れているのに使わないなど、俺の中では有り得ない。
リーチの差、飛び道具としての性能。それでも徒手空拳で挑む気か?
[冥府の槍](抱き枕版)で敵を指し示し[挑発]。
散乱する枕を使い[怪力をのせた攻撃で部位破壊](布地損傷)、時折[スナイパー]技能を使った正確な枕投擲により敵の[体勢を崩す]。
カンフーによる破壊攻撃は[黒曜の軍制コート]の内側に[情報収集]で事前に厳選した強靭な低反発枕を仕込み耐える。
その後[カウンター]気味にUC発動、冥府の抱き枕で敵の骸魂「一反木綿」のみを切断しよう。
こんな枕、使っちゃ駄目だ。
●
大量の羽毛が散乱する場所からキョンシー木綿が立ち上がる。
「……どうして、枕で戦おうとするんだ!」
既に他の猟兵から散々に枕をぶつけられたのだろう、羽毛が頭に乗っていた。生気の薄い瞳には、枕を散々ぶつけられたことに対する強い抗議が宿っている。
「枕投げが嫌ですか?」
応えるのは朝沼・狭霧だ。
腰に手を当て、軽くしなをつくりながら空いた手で髪を掻き上げる。どうも彼女には敵意らしきものが見当たらない。
キョンシーの拳が握られる。さらにどんっと地面を強く踏んだ。
「嫌とかそうじゃなくて、戦いには――……!」
「別に」
キョンシーの顎がくいと持ち上げられる。
「!?」
呆けた表情で目を丸くした。狭霧はいつの間にか目の前にいた。
「枕投げじゃなくても別のことで戦っても、いいですよ?」
「べ……べつの、こと」
別のこと。
キョンシーが思わず返した問いに、狭霧は意味深な笑顔を近づけ、近づけて、めっちゃ近づけて。
「ちょ、ちょちょっと、まっ、近い! 近い!?」
「可愛らしい子ですね」
あわや唇が触れ合おうとする寸前で、狭霧の赤い唇は逸れる。そして耳元で止まり、何かしら呟いた。
それなら、――――……。
「…………っ!?」
紫色の顔を真っ赤に染め、キョンシーは渾身の力で後方にジャンプ。
「枕投げ! します!!」
なんか敬語調になった。背を縮こまらせた小動物めいた様子だった。
するとしばらく立っていた鬼桐・相馬が口を開く。
「何だそれは、枕なのか?」
硬い言葉に、キョンシーは批難されたように感じて肩をびくりとさせた。ちょうど布生地ロールを抱き上げたところだった。
「布のまま枕とするのは……」
「え……」
狭霧が同調する。
「そんな枕、使っちゃ駄目だ」
「えっえっ」
困惑した瞳が相馬へ向く。体格の良い男性が枕を抱き込むようにして腕を組んでいるではないか。背筋をピンと伸ばした堂々たる姿勢と抱き枕のミスマッチにキョンシーどういう顔したらいいかわからない。
「その枕で安眠できるとは到底思えない」
「それってちょっと寝にくいのでは?」
投げ合うための枕も寝心地を確保しておかないといけないんですか? キョンシー木綿びっくりである。いや、寝心地はともかくとして狭霧の可愛らしいネコ柄枕や、青黒い不思議なフリルがたくさん拵えられた相馬の抱き枕と比べると、確かに布生地ロール風枕は貧相と言えなくもない。
「ちょっと貸してください」
「え、いやあの」
さっと狭霧に回収される。返事をする間もなかった。いやあのそれ仮にも自分の半身なんですけども。
ちくちくと針が一反木綿を往復する。よく考えてみればこれはキョンシー木綿の一部というか、そもそもキョンシーに取り付いた骸魂の象徴なのだから、ソーイングセットで加工されると地味にダメージが入るのかもしれない。どことなく生地の端が縫われるたびビクビクと悶絶するが、裁縫と並行して綿を詰め込む狭霧は忙しく気付く様子はない。
そして、キョンシーはというと別件で口を出せる状況じゃない。なぜなら。
「武器なしで俺にどう戦うつもりだったんだ?」
「あ、いえ……その……」
相馬に説教されていた。
相馬の正面、縮こまるキョンシーがちらちらと彼の手足に視線をやる。丸太のように太い、とは言わないが鋼のようには頑強であった。
体重とは力であり、体格も力であり、リーチもまた力である。徒手空拳となればそれらの優位性は顕著だ。ボクシングが体重で階級を分けられているのがその証左になる。
「武器があれば、多少の不利を埋めることができる」
飛び道具を使えば手足の長さを遥かに越えたリーチを確保できよう。相馬がキョンシーに言いたいことは次のひとことに集約される。
「つまり、枕だ」
「まくら……」
「枕を使え」
「はい……」
怖い。どうして枕をここまで推されているのか理解できない。ただ枕もとい武器を使うメリットについては完全にその通りなのがなんだか悔しい。
「できました」
突然狭霧が立ち上がる。両手で大きく広げるのは羊柄の刺繍が施されたのは大きな枕。指で押せばふわっと柔らかく受け止めて、優しい弾力を返してくれるだろう。生地の中央で蝶と戯れる羊のなんとも可愛らしい、渾身の逸品だった。
「どうも……」
キョンシー木綿はいよいよどうすればいいかわからなくなった。礼を言えばいいのか、思わぬガチな完成度に引けばいいのか、この場で使用して寝てみればいいのか。そもそもあなたたちは私と戦いに来たんですよねなどと怖くて聞けない。
相馬はその完成度で満足気に頷く。
「これで枕投げができるな」
「あ、やっぱりやるんだ……」
てやー。可愛らしい掛け声がした。
「……はい」
緩やかな放物線を描いてくる枕をキョンシー木綿はキャッチ。そして笑顔で手を振りながら背面に花を咲かせる狭霧へ振りかぶる。
こちらもやはり優しい加減で投げ返せば、受け止めた彼女は嬉しそうにしていた。
なんだか平和な遊びだなぁとキョンシーが思った矢先のことである。
「!?」
大慌てでしゃがんだ。チリッと凄まじい勢いで帽子を掠めていった何かが、そのまま木に命中して半ばからへし折った。めりめりめり、ずずうん。木と地面の悲鳴が周囲に轟く。
「……」
恐る恐る振り返ればそこには枕を投げたばかりの相馬がいる。
「どうした、投げ返してこないのか」
ご覧くださいこの温度差。
どんなテンションで枕投げすればいいかわかりゃしない。そもそも彼がその辺から拾った枕を投げつけてくる理由もよくわからない。彼専用らしき抱き枕はずっと片手で保持されたままである。
それでもキョンシーは頑張った。理解できずともせめて不興を買わぬよう相馬のやり方に倣った。羊柄枕を小脇に抱えながら無地の枕を拾って、踏み込む。
体のバネと重心移動、そこへ腕力を乗せて全力投射!
「ふんッ!」
腕一本で弾かれた。
「ええ……」
もう驚くよりも前に硬直した。え、どういうこと? かなり本気で投げたんだけど。
するとおもむろに袖を捲りはじめるではないか。気がつけば妙にもこもこした彼の袖は、二の腕まで引き上げられると、なるほど中に仕込んだものを露わにする。
「低反発枕だ」
「ええ……」
枕投げは攻撃だけでなく防御も重要と言いたいのだろうが、そろそろキョンシーは現実逃避したい。枕投げガチ勢だ。ここに枕投げガチ勢がいる。一応は戦いに一切妥協しないと言いかえられるかもしれないが。
「よそ見はだめですよー」
狭霧の投げた枕が柔らかい感触で頭を包む。こちらは相変わらずぽわぽわしている。仕方なく投げ返せば無邪気に喜ぶのだから、なんだか憎めなくなる。
「よそ見をするな」
次は相馬の声。
ゴ ッ ッ ッ ! !
枕が脇腹を撃ち、軽い体はたちまち大きく吹き飛ばされ、地面で二回三回とバウンドし、勢いの衰えぬままごろごろ転がり、やがて民家にぶつかることでようやく止まった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
白鳥・深菜
「この全身枕の私を、面白い人で終わらせないでください!!!」(雑な説得)
というわけで枕投げ戦争だ。
諸君、私は枕がそれほど好きってわけでもない。
でも枕が武器なら武器は枕の位置にあるでしょう?
そう、その辺に転がっている枕――
あれは、この枕投げにおける武器。
投げる意志を持って、手にした時点で、
この武器を装備したこと言えるだろう。
つまり。
私が持っている枕すべては、装備中の武器――
【白銀の剣の魔神】のパーツとして最高の性能を持てるという事!
(たくさんの枕を抱え込んで)これで理屈は通った――力に目覚めよ、枕神!!
ニール・ブランシャード
…この抱き枕、すごく抱き心地がいいなぁ。
このまま元に戻らなくて、鎧の中に入って抱き枕を振り回して戦うタールになっちゃったらすごく…困るけど…。
ちょっと惜しくなってきちゃった…。
うん。この事態を見るにあの妖怪さん
は枕投げがしたかったんじゃないかな。
きっとそうだよね。よし説得してみよう。
本当にこのまま世界が終わってしまっていいの?
本当は…枕を…
枕を投げたいんじゃないの…?
枕でも油断できない。遠心力をつけてぶつけられれば衝撃はものすごいよ。お互いね。
ぼくは速さでは劣るかもしれないけど、抱き枕のリーチがあるし、飛んでくる枕を打ち返すこともできる。
…そういえばさっきの吸血してたあの人、大丈夫かなぁ…?
エカチェリーナ・ヴィソツカヤ
・心情
なに?今ここでは枕で戦うのがルールではないのか?
・戦闘
ユーベルコード『雪崩の巨神』で枕を装備した雪の巨人を召喚
して戦おう
……ところでひょっとして、雪の巨人も枕の巨人になるのか?
・その他
アドリブ等は大歓迎さ……というより、もう任せた
エル・クーゴー
●WIZ
●雑説得
躯体番号L-95
当機は説得工作にも高い適性を発揮します
イソノー
マクラナゲしようぜー(棒)
●マクラナゲ
・【ウイングキャット『マネギ』】発動
・空飛ぶ変なデブ猫をMAX395体召喚、枕持たせて空をフヨフヨ飛ばせてイソノ(仮)の上らへんに送る
・そして枕をポコポコ投下
・およそ陸戦での展開のみを想定されて久しい枕投げ界へ一石もとい一枕を投じる革命的戦術
・二次元平面に追加される縦軸という要素
・航空戦力/制空権という、戦史を根底から覆す新たなる概念をここに提唱する――!(※空中戦技能)
・マネギ達は友軍への枕の運搬にも活用する
・戦場に頭数が飽和しそうな時は、一部のマネギ達に昼寝させとく(枕活用)
●
さんざんっぱら枕をぶつけられてきたのか、キョンシー木綿は震える手を地面につく。呼吸を整えながら体を起こし、立ち上がる。
すると目の前にエル・クーゴーがいた。
隣にはエカチェリーナ・ヴィソツカヤもいて、さらに背後では雪を固めて作ったような巨人がいる。
全員が枕を手に持っていた。
「……」
なにこれ。
息苦しい沈黙を経て、キョンシーはつばをのみ、口を開く。
「なにこれ」
すると反応を返したのはエルだった。
突然足を肩幅に開いたかと思えば、そのまま前傾姿勢をとり手元の枕をぽんぽん叩いてみせた。
もちろんエカチェリーナもそれに倣う。彼女がそうしたからには巨人だって同じ動きをする。
「……」
ぽんぽんぽんぽんぽん。
ぽんぽんぽんぽんぽん。
「いや、やらないからね?」
エカチェリーナが動きを止める。そして不思議そうな表情を作り、口を開いた。
「いまここでは枕で戦うのがルールではないのか?」
「ないよ!!」
ない。ない。そんなものないったらない。武器が枕にでもなってしまえばみんな素手で戦うことになるだろうとはほんのり考えていたが、まさかそのまま枕をぶつけにくるとは思わなかったのだ。
「躯体番号L-95」
突然動きを止めたエルが呟いた。
「当機は説得工作にも高い適性を発揮します」
どうしよう。キョンシーは一歩後ずさる。どうしてこの人達は説得してまで枕投げをしたいのか。その情熱は一体どこから来るのか。あとエカチェリーナの背後にいる雪の巨人が気になってしょうがない。なに? アレも枕投げしたいの?
「イソノー、マクラナゲしようぜー」
ぽんぽんぽんぽん。
再びの前傾姿勢。枕を叩きながら棒読みのセリフを垂れ流すエルに表情の変化は見られない。いや、ゴーグルが顔の大半を覆い隠しているがわかる。絶対真顔でやってる。
ぽんぽんぽん、ぽん。
エルが動きを止めた。そして静かに直立し、額を拭ういかにもやり遂げたポーズ。頷くエカチェリーナ。
「説得に成功しました」
「よし」
「いまのが説得!? ぜんぜん成功してないよ!!」
素直になっとこうや……みたいな空気を醸す視線へキョンシーが背を向ける。流されてはいけない流されてはいけないと自身に言い聞かせた。ついでに両手で耳をふさいでおく。アーアー聞こえない、これで枕投げの誘いは完全に断れた。そのつもりだった。
「……」
そっと肩に手が置かれる。血の通わないキョンシーの体さえひんやりと冷たく感じる手。
「何をしたって絶対枕投げは…………い゛っ!?」
直後にズシンと重みがきた。
恐る恐る何事かと振り返れば肩に手を置くエカチェリーナの真顔と、まったく同じ動作で手を置いてくる3メートル超の巨人。
長身の彼女がすっと顔を近づけてくれば、巨人もまたぬぅっと同じことをするもんだから、もはや震えながら頷く以外の選択肢がキョンシーにはなかった。
「はい……やる、やります……」
「待って、そんな無理強いするようなのは違うよ!」
がっしょん。なんかきた。兜の奥を伺えない鎧騎士がやってきた。ニール・ブランシャードである。
「言うことを聞かせるんじゃなくて、もっと彼女の素直な気持ちを大事にしよう」
「率直に言ってもう帰りたいですね」
そっけないコメントが出たがニールに気にした様子はない。
むしろガントレット越しにマイ抱き枕の感触を楽しみながらキョンシーへと近づき、努めて穏やかな声を出すではないか。
「妖怪さん。あなたは心の底では枕投げを望んでいたんじゃないかな……?」
「ないです」
キョンシーは秒で首を振る。
「でもね、根拠ならあるんだ!」
ニールの自信に満ちた声で貫かれて、驚愕の表情はじわじわと困惑に染まっていった。根拠? ないが? 枕投げなんて自分からは微塵も望んじゃいないが?
そんな反応を前にしても彼の確信は揺らがない。ぴんと立てた人差し指を向けると、その先ににはキョンシーの手に抱かれる枕があった。
「現に、あなたは抱き枕を持っている……!」
はっとキョンシーの目が見開かれた。
「完璧な説得です」エルが頷く。
「完璧じゃないです!!」
「反論の余地もないな」エカチェリーナと巨人が腕を組む。
「いっぱいあります!!」
ぜぇぜぇと肩を上下させる様子に、ニールの生優しい視線が向く。よほど感触を気に入っているのか彼の手はずっと抱き枕を揉んでいた。
「かわいい枕だね。羊柄なのかな?」
枕への拘りが何よりの証拠だよと言いたげな声色だ。キョンシー木綿の一反木綿要素は、武器が枕になる世界の影響から逃れることができなかった。妙にふかふかした布生地ロールなのだがまあいいかと思ってるうち、なんと他の猟兵に改造されて可愛らしくなってしまったのである。キョンシーが望んだわけではないし、羊と指定したわけでもない。
「これはむりやり……」
反論の声は、か細かった。
「でも、あなたはそれを受け入れたから持ちつづけてる」
「……」
否定はもうない。三人の猟兵が見守るなか、長い長い沈黙の果に彼女は頷くのだった。
「待ちなさい! その枕投げ、私も参加するわ!」
「またなんかきた!」
まだ何か起きるのか、いい加減泣きそうなキョンシーが周囲を見回す。するといた。大きく白い枕の塊のようなものがいて、ずるずる近づいてくるではないか。こわい。
ついに枕を司る神とかそのへんの存在が、これまでの散々な枕の扱いで抗議をしに来たのか。いや、違うのだ。これは全身に枕を装備した白鳥・深菜なのだ。
悲しいことに武器が枕にされる概念は、全身を魔術アイテムと白兵武器で武装した彼女に仕事しすぎてしまって、両手両足に胸と腹や頭に枕を付けた姿になり、さらには時間の経過で枕集合体のきぐるみから顔だけ出した風体にまでなってしまったのである。
枕と向き合いすぎてちょっと面白くなっちゃった人にしか見えない。
「私も参加してオブリビオンを倒すわ。じゃないと……」
すっと息を吸う音。
「全身枕のただ面白い人で終わっちゃうから!!!」
本人にも自覚はあった。
果たして異形の登場はキョンシーのみならず、他の猟兵にも衝撃を与えた。
特に一番ショックが大きかったのはニールだ。抱き枕になった武器の感触を楽しむあまり、もうずっとこのままでいいかなぁなどと思い始めた矢先のことである。全身を枕で覆ってしまった深菜の姿が、枕に執着しすぎた己の未来と重なって見えてしまったのだ。彼は道を踏み外してはいけないと自戒する。具体的には『うごくよろい』から『うごくまくら』になる前に。
「さあ、始めましょう」
もふぁあ。深菜のもこもこ枕が蠢き布擦れ音を立てる。枕の下でキョンシーへ指を突きつけたらしい。
「ここはすべての武器が枕になってしまう世界……」
きぐるみから覗ける顔に闘志が漲る。
「つまり、枕で全身を覆った私は武器で全身を覆ったのと同じ!」
「う、うん……?」
一理あるがビジュアル面で大問題だ。
「さあ、構えなさい。枕投げを開始するわよ!」
いざ枕投げだと構えて、まずは先にエルを仕留めようと振りかぶるキョンシーに、痛烈な洗礼を浴びせたのは真上から落ちてきた枕である。
「は……?」
先手必勝のつもりだった。エルとニールよりもはやく投げる自信があった。
だが現実では先に被弾したのが自分で、しかし相手はまだ投げてもいない。
「ッ! 上になにかいるのか!?」
いた、いたのだ。恰幅の良い猫型ドローンがいくつも上空で陣取り、各々が枕を投下してくる。
いきなり予想もしない角度から襲撃を受けて浮足立つキョンシーへ、今度はニールが一気に踏み込む。接近戦だ。
「せいっ!」
大柄の鎧騎士から振るわれる大振りの一撃。水平を走る抱き枕は即座に頭を下げた敵を捉えられずに虚空を薙ぐ。だがニールは冷静だった。決して焦ることなく、長い抱き枕のリーチを生かしながら振り回してゆく。
「冷静だな」
「そうね、相手のほうが素早いということを彼はよくわかってる」
そんなことを話しながら攻防を見守るのはエカチェリーナと深菜だ。彼女たちは枕投げに参加していない。せめて1対4は許してと懇願され1対2を二回行うことになったのである。
ぶうんぶうん。ニールの抱き枕が立てる風切り音は一定。体重と遠心力を乗せて十分な威力を確保しながらも、ペースを保ちながらキョンシーへ白兵戦で威圧し続けている。
一見して避け続けるキョンシーのほうが上手に見えるものの、その裏で彼女は焦りに支配されていた。
原因はもちろん空爆にある。
「ところであのドローンに名前はある?」
「マネギよ」
翼を生やした猫のドローン『マネギ』による枕は、直撃したところで致命傷になりえない。威力だけで比べるならニールのフルスイングのほうが圧倒的に脅威だ。
だが動員されたマネギの数は膨大。よって投下される枕も膨大であり、いかなる達人であろうと上空からの攻撃と鎧騎士の白兵攻撃を同時に捌くことなど不可能に違いない。さらにはニールの鎧は落ちてくる枕を物ともしないのだ。
必然的にキョンシーは防戦一方となる。マネギからの無数の枕を甘んじて受けながら、ニールの抱き枕を自分の抱き枕で防ぐしかできない。
いやひとつだけ手はあった。キョンシーにはニールから距離を取り、地に落ちた枕を投げつけるという手段が残されている。
だが。
「な……! 枕の上に猫が!?」
そう、役目を果たした猫型ドローンが枕に寝転がっていたのだ!
「これじゃ枕を回収できない!?」
無理に取ろうとすれば猫が悲しんでしまう事実を前に、キョンシーはただ呆然とするしかない。
「躯体番号L-95」
ざり。足音ともに背後から声がした。エルのものだ。
「当機は制空権の掌握と――」
ゴーグルに隠れた表情を変えないまま、マネギ達へ掌を翳す。すると一体が浮き上がり、使用していた枕をエルへと手渡した。
「そして、兵站戦術にも高い適性を発揮します」
「まさか、この猫は……!」
お気づきだろうか。枕投げの革命児が齎した概念はふたつ。『制空権』と『兵站』である。航空戦力による空爆という攻撃バリエーションの開拓と、枕の回収及び使用済み枕の封印。それをドローンの使用で成し遂げたのだ。枕投げに制空権云々なんてあるのかと突っ込む者などここにはいない。
「…………」
キョンシーの脳裏に敗北の二文字がよぎった。無理だ、これは勝てない。たかが枕投げなのに戦法があまりにもガチすぎる。
とはいえ、勝てないとしてもせめて一矢報いたいものだ。
エルとキョンシー、お互いが息を止める。両足を開いて腕を振りかぶり、全身の力を腕の先端、枕に乗せて投げつけた。
キョンシーとしてはこれで相討ちになればいいと思った。
「まだ、ぼくがいるよ!」
だからここでニールが介入する。
鎧の内部を満たすブラックタールの体が唸りをあげ、鉄の靴底が地を踏んだ。振動で巻き上がる砂埃を置き去りにしてもう一歩。さらに一歩。
ニールには場面がゆっくり見えた。交差する二人の投げた枕、そのたなびくカバーすらくっきりと見えた。キョンシーの表情が段々と驚きに染まる。エルのほうは何も変わらない。
四歩。それが枕の軌道へたどり着くまでに要した歩数だ。たったの四歩。エルを狙おうとした枕はその道半ばに立つニールを打つだろう。
「てえぇぇぇぇいッ!!」
鎧が軋む。関節が軋み、ガントレットが軋む。走りながら大きく振りかぶられた彼の抱き枕は、凄まじい膂力をもって加速し、敵の枕を打ち返す!
「ぐあッ!?」
初めに腹へエルの枕が直撃。くの字に折れたキョンシーの体へ打ち返された枕が追撃をかけ、大きく吹き飛ばされることとなった。
休憩におよそ10分ほど要して、いよいよ深菜とエカチェリーナの番となるが、キョンシーははやくも心が折れかけていた。
これまでの怒涛の枕投げの影響は大きいが、それ以上に対戦相手のビジュアルがすごい。
すらっとした女性であるエカチェリーナの横に、3メートルを越える身長の雪の巨人。全身が枕でもこもこになったきぐるみ状態の深菜。え、本当にこれと枕投げするんです?
「……」
しばらく腕を組んでいたエカチェリーナだが、巨人に震えるばかりで仕掛けてこないキョンシーに瞑目する。
「何もしないならこっちから行くぞ」
長い足を前に出し、半身にした体で大きく踏み出しながら、重心移動を腕の力に乗せて、一気に投げる。無駄の力のない投擲だ、弾速は十分に速い。とはいえキョンシーにとって対応できないものではない。
「ッ! ……これくらいなら!」
手に持つ枕で十分に防御可能。しかし問題は直後にあった。
地を揺らすズゥゥンという踏み込み、ブォォォと空を切る音、さらには豪腕から飛ぶ砲弾が衝撃波を纏う!
「うぇええええ!?」
こっちはもう死にものぐるいで避けた。エカチェリーナ本人からの枕は防げたものの、巨人の一撃は命中しただけで木っ端微塵である。むしろギリギリな回避をしたせいで風圧に転がされる始末。
やばい。あの巨人の枕がどうしようもなくやばい。めりめり、みしみし聞こえる異音に目を向ければ、ちょうど大穴の開いた民家が倒壊するところだった。やばい。
「すばしっこいな」
地面の枕を拾いながら続く、第二第三の大砲。
キョンシーが死にものぐるいで回避をするたびクレーターが量産されてゆく。
「すごい威力だね……」
「大艦巨砲主義も立派な戦い方と言えます」
言葉を交わすエルとニール。交代した彼らは離れた位置で見学に徹している。次々と作られてゆく大穴を見ても二人の表情は変わらないが、ニールに限ってはきっと鎧の奥で百面相していることだろう。それだけに巨人の放つ大砲の威力は凄まじい。
「このまま勝てると思う?」
静かな問いにエルは首を振って返す。
「このままでは先に枕が尽きます」
指摘通り、エカチェリーナが突然動きを止めた。
枕投げは投げた枕を回収しながら投げ合う遊びであるが、巨人の放つ枕はあまりの威力に枕自体が耐えきれず破裂してしまう。それはエカチェリーナの攻撃のたび枕が減ることを意味し、ついに彼女は枕の全滅という攻勢限界を迎えてしまったのだ。
状況に気づいたキョンシーは己の抱き枕に目を落とし、無手のエカチェリーナと交互に見、つぶやく。
「あれ、もしかして勝てる……?」
敵に枕がないのならこのまま一方的に攻撃できるのでは? キョンシーの胸中に咲く僅かな希望。
「いいえ、私がいるわ!」
それを打ち砕くきぐるみ枕ガールの声。
そう、のっしのっしと二人のあいだに割り込む深菜こそ、いまや荒廃した戦場に残された唯一の枕である。
「見せてあげる。この全身枕の姿がただの出落ちじゃないことを」
「ぬかせ!」
今度はキョンシーから仕掛けた。抱き枕を振りかぶりながら全速力で接近し、跳躍から顔面を狙う振り下ろし。
これを深菜は腕を交差させて受ける。腕全体を覆う枕がクッションとなりバフッと衝撃を受け止めるのだ。
鍔迫り合いならぬ枕迫り合いが展開され、キョンシーはより一層の力を込める。これまで幾度も枕で打ち負かされてきたのだから、今度こそはと持てる限りの力を振り絞った。迫り合う枕は徐々に深菜へと傾いてゆく。
「ねぇ」
焦りを見せずに深菜が口を開く。
「あなたは枕の使い方を間違えているのよ」
「……!?」
キョンシーの顔が歪んだ。いまさらそれを言うのか、と。
「枕はね。こうやって使うの!」
瞬間、彼女の全身を覆う枕が変形する。腕を覆う枕は二倍モコモコに、足を覆う枕も二倍モコモコに。さらには胸を腹を、さらに背を覆う枕までもが二倍モコモコとなる。見よ、これこそが装備した枕のポテンシャル引き出し同化する脅威の力。深菜の切り札たる『白銀の枕神』は、3メートルを越える巨人となって敵の枕を押し返す!
「――見た目変わってないじゃん!! ただ大きくなっただけじゃん!!」
「枕パンチ!」
二倍のリーチを獲得した枕ハンドがキョンシーを打つ!
「ぎゃん!?」
リーチが二倍だから威力もきっと二倍。さらには柔らかさまで二倍。加えて圧倒的体格差からの一撃を防ぎきれずキョンシーは地面を転がった。
「決着を付けましょう」
瞬間、深菜がエカチェリーナに目を合わせた。すべてを理解した頷きが返ってくる。
「叫びよ響け、大地を鳴らせ」
雪娘が巨人を伴って駆ける。目当ては深菜。否、最後に残った唯一の枕。
「それはさながら……、枕投げのごとく!」
雪娘の動きをトレースする3メートルの巨人は、同じ体格の枕巨人を軽々と持ち上げた。そうだ、いまからこれを投げるのだ!
雪の巨人が大地を踏む。雪の巨人が振りかぶる。枕投げ史上これほど巨大な枕を投げた者がいただろうか。いや、いるわけがない。
「「いっけえええええッ!!」」
スイングの遠心力が最大となった瞬間、深菜は雪巨人の腕を蹴り、一直線に飛び出した!
巨人二体の力を束ねた弾速はいかほどか。大気が弾け、衝撃波を撒き散らし周囲の木々をなぎ倒すほどだ。
これを凌ぐ手段などキョンシーにありはしない!
「うわ、こ、こないで……!? そんな枕投げやだあああ!!」
悲鳴とともに、農村全体が大きく揺れた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
●
多数の羽毛が舞う。
さながら罪を濯ぐ新雪のように倒れた少女の体へと落ちてゆく。
骸魂たる一反木綿が剥がれ落ち、彼女はただのキョンシーへと戻されていた。
破滅を望む意志は、もうどこにもない。
幽世の世界で溢れていた枕は一斉に祓われ、もとの姿を取り戻す。
かくしてカクリヨファンタズムは、破滅の危機から救われたのだった。
第3章 日常
『食い倒れ行脚』
|
POW : やっぱり食べるならボリューム重視
SPD : いろんな種類のものを食べたいね
WIZ : 珍しい食べ物、何かない?
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
ここはカクリヨファンタズムにおいて食い倒れ横丁と渾名される場所。
もし猟兵達が一度足を踏み入れてしまえば、きっと大変だ。
妖怪の姿を見ることができ、さらに世界を救った猟兵たちは様々な料理でもてなされるだろう。
カクリヨファンタズムは、古代から現代の文明様式が無規則に混在した世界だという。
であれば様々な料理が見られるかもしれない。
Q.つまりどういうこと?
A.好きな料理をどうぞ。検索できる範囲で描写がんばります。なんか架空の料理を捏造してもいいですが、わかりにくかったり食品の衛生や安全を損なうものは採用率が下がります。
OPに登場したグリモア猟兵は本章での登場予定はありませんが、キョンシーのほうは自由にしていいです。
白鳥・深菜
「じゃあ焼肉」(思考時間1秒の結論)
――で、具体的には何の、どの部位の焼肉にするかというと……
「すみません。今流行りのメニューをお願いします」
これは委託する事にした。
妖怪達の料理事情はよく分からないから、
どういうのものが流行りなのか全く見当がつかない。
とはいえ、折角遠出してるのだし、
その世界ならではのネタになりそうなものは頼んでみたい……
そうして出てきたのが「鹿」の肉。
うーん、もっと変なのを期待はしてたけど……
でもまあ、ウマい鹿肉だわ。これはこれで。
しかしまあ。
馬に始まり、鹿で終わった、この騒動。
――本当に、バっカじゃないの。
●
どどど、と天狗らしき妖怪が白鳥・深菜めがけて駆けてくる。
世界をカタストロフから救った猟兵は幾人もいたものの、そのなかから深菜を選んだのは外見にシンパシーを抱いてのものか。
天狗を筆頭に経立、さらには河童のような者たちが深菜のもとへたどり着き、喜色をたっぷり滲ませながら口を開く。
「見つけた、事件を解決したひとだ! ねぇ何か食べたいも――」
「焼き肉で」
食い気味に弾き出された回答を受け、妖怪たちは顔を見合わせるのだった。
肉の焼ける音は雨音に似ていると言ったら、果たしてどれだけの人間が頷くのだろう。
金網の上で焼けていく肉が醸し出す音は以外にも静かで、心を落ち着けてくれる。
「……」
天狗たちに案内された店は何やら薄暗い焼肉店で、メニューらしきものが何もなかった。妖怪達の食事事情を知らない深菜としてはきちんと食べられるものが出るかどうか疑問があったが、少なくとも金網の上で焼けるものを見る限りはあまり心配する必要はなさそうだ。
このカクリヨファンタズムならではの食べ物を、と思って注文は妖怪たちに任せたのだが、案外期待できるかもしれない。
「それで、これは何の肉なのかしら」
問えば妖怪たちは顔を見合わせて意味深に微笑む。当ててみろ、ということらしい。
「そう。変な肉じゃなさそうだけど……」
まずはほのかに煙を上げる様子を矯めつ眇めつ。肉の色合いは濃い赤で、いわゆる霜降りという部分は見られない。焼ける匂いにはほのかな野性的な臭みがあり、この時点で豚や牛など一般的な家畜ではないと見える。
ひとこと断ってからタレをつけて頬張った。
初めに感じたのは食感。脂肪分が少なく柔らかめの肉質だ。焼いたときから気づいていたように若干の臭みがあるが、さほど気にならない。むしろ咀嚼すればするほどじわりにじみ出る肉のうまみがなんとも言えない。いつまでも噛んでいたくなるような味だ。
「……」
「……」
妖怪たちは変わらずキラキラした目を向けてくる。自分たちの食事よりも深菜がどう回答するかに夢中らしい。
ふと、深菜は気づいた。彼らの瞳には当てられるかもしれないという一定の期待が見られる。すると他の世界で流通しない肉ではないということだ。この世界でしか食べられないような肉、というのを期待していただけに少しばかり残念だったが、そこまで情報が揃えば当てられなくもない。
「わかったわ」
ごくり。じっとこちらを伺う妖怪たちの喉が鳴った。食べているのは深菜だけというのだから妙な話だ。
いつの間にか店主らしき妖怪までじっと解答を待っている。
さらには窓から通行人までが覗き込んでいる。
なんだか大事になってきたなと深菜は思った。
「鹿肉でしょう?」
だから至極あっさりと言ってみた。
「……」
「……」
どよめき。妖怪たちが顔を見合わせてから十秒、二十秒。
やがて厳しい表情の店主が深菜の前まで歩いてくる。
「正解!」
わあっと妖怪たちが歓声を上げる。お互いに手を叩きあいハグまで交わす。店主はと言うとニコニコ顔でテーブルに皿を次々乗せていくではないか。
「当たってよかったわ」
当たり障りのないコメントをしながら深菜は思う。この騒動は馬に始まって鹿で終わったことになるのか。
全身の武器が枕になったときは、本当に馬鹿じゃないかと思ったが。
「ねえ見てこれクジラ肉!」
「こっちは熊肉と犬肉ね! どっちがどっちか当ててみて!!」
どうやらこの世界は、馬鹿騒ぎを楽しむ住人が多いらしい。
大成功
🔵🔵🔵
チル・スケイル
武器のメンテナンスをする間もなく、妖怪の皆さんに誘われたわけですが、あまり多人数で連れ立って飲食という気分では…
…スシ?わかりました、ご相伴に預かりましょう(スシが好き)
というか、スペースシップワールド以外にもスシ文化があるのですね
静かによく味わって食べます
見たこともない食べ物が出てきても「これもスシなのですね」くらいの感覚で普通に食べます
今回の事件やこれまでの私の戦いについて、妖怪たちに色々と聞かれるかもしれませんね。包み隠さず答えます
…はい、杖が枕になったと気づいた時は、思わず取り乱してしまいました…ですがしばらくすると、不思議と頭の中が澄みわたるような感覚があり…(食べながら語る)
エカチェリーナ・ヴィソツカヤ
心情
ふむ、料理が楽しめるのか
ならばいいだろう……盛大に、楽しむとしよう
・行動
POWを選択だ
色々とボリュームがありそうな料理を楽しむとしよう
……それはそれとして、可能なら食前に雪の巨人と共に民家の修繕を手伝うとしよう
枕投げで壊してしまったからな……直すのに手を貸すのは当然だ
・その他
アドリブ等は大歓迎さ
●
ひとくち頬張ると、甘みを帯びた上品な脂が舌の上でほろほろととろけて、酢飯の風味を包みこんでゆく。
味覚すべてが脂に塗りつぶされてしまったかというと、そうではない。脂の旨味と同居するマグロの味わいがそして肉厚の食感が満足感を演出する。
チル・スケイルは嚥下し、目を細めながらトロの余韻に浸った。
その真横ではエカチェリーナ・ヴィソツカヤがサーモンを楽しむ。極寒の水を泳いできたという魚にはトロに勝るとも劣らないほどに脂が乗り、同じく深い味わいを蓄えている。ぷりっとした弾力のある身と、炙られた皮が織りなす食感に魅了されてしまいそうだ。
チルとエカチェリーナのふたりは寿司を頬張っていた。
不思議なことにエカチェリーナが食事を摂ると、奥で巨人が同じポーズをとる。エア飲食だ。
巨人の周囲ではそれを面白がった妖怪たちがエア飲食の真似で遊んでいる。
ここは食い倒れ横丁のそば、戦場となった農村に隣接した場所。
世界崩壊の危機がなくなったことで大いにはしゃいだ現地住民がまず始めに行ったことは、事件の解決を成した猟兵を見つけて包囲することだった。
その勢いは水を得た魚のようで、彼女たちの袖を引き、ぜひ何かご馳走しようとしたのだ。
これに対し、武器のメンテナンスをしたいと言ったのがチルで、民家の修繕をしたいと言ったのがエカチェリーナだった。
特にチルは静かな食事を好む。料理と1対1の対話をするような、そんな雰囲気を求める。
「ラーメンとかどう?」
「遠慮しておきます」
だから誘いにあまり乗り気ではなかった。
「カレーあるよカレー!」
「……」
首を振って返す。
「寿司ならどう?」
「食べます」
やっぱりそういうことになった。
では民家の修繕をしながら食べられるようにしようと妖怪たちが気を利かせた結果が寿司桶の配達である。ときにはマラソン、ときにはバケツリレーを介して寿司桶が届けられ、二人の前に積み重なる。
エカチェリーナが次に渡されるのはゲソであった。
ひとたび頬張るとつるっと滑らかな表面が舌に触れ、噛みしめるたびにコリコリとした食感が返ってくる。イカの味わいは脂のそれと違うまろやかな甘みがある。これが酢飯や醤油の味わいとよく馴染むのだ。噛めば噛むほどよく馴染んで、味の比率を変えながら楽しませてくれる。うまい。
「……うん?」
ふと、エカチェリーナは雪の巨人の様子に気がついた。もともと彼女のユーベルコードによって生み出された3メートルほどのそれは、寿司を食べる彼女の動きを再現しているが、何も持っていないせいでパントマイムのようになっている。それはいい。
目を引かれるのは、そんな巨人に興味を持った幼い妖怪たちが寿司を持たせようとしていることだ。
「マグロくう? マグロ!」
「にーちゃんそのままだと小さすぎない?」
「そうだな、ちょっと待っていま合体させるから」
さてこれをどうしたものか。腕を組むエカチェリーナと巨人に気付かず妖怪は寿司を3つほど組み合わせて握り飯のように丸めているではないか。
「それは私が食べる」
子どもたちの視線がエカチェリーナに集中した。しばらく彼女と巨人を見比べて、動きの共通点から何らかの従属関係にあると推し測り、やがて手製のマグロ握り飯を差し出す。
「ありがとう」
なんとも不格好な握り飯だった。酢飯を丸く固めて、表面に切り身を貼り付けただけの食べ物で、巨人用サイズのそれはエカチェリーナが限界まで口を開いてもまだ大きい。
なんとか齧っても、口内を隙間なく埋め尽くす酢飯は咀嚼にたいそう時間がかかり、やがて飲み込めた頃には妖怪の子供が新しい巨大寿司を作り上げていた。
「……」
「……」
互いに頬をぱんぱんに膨らませながら向き合っていると、どこからともなく笑い声が溢れ出た。
「それにしても」
繰り返し寿司を差し出してくる妖怪の切り出しに、チルが顔を向ける。
噛むたびに舌の上で美しい太陽色のつぶが弾けて、コクのある味わいが広がってゆく。頬張る前に観察したイクラの、キラキラした輝きは期待通りの味わいを齎してくれる。
「……」
チルは無言で続きを促す。沈黙したままなのは口に食べ物があったからだが、そうでなかったとしてもやはり沈黙していたかもしれない。
「これ、なにがあって壊れたんだい?」
妖怪の視線の先には、雪の巨人が民家の屋根に開いた大穴を木板で塞ぐ様子があった。
「随分と激しい戦いだったみたいだねぇ」
ねぎらいのつもりか、さらなる寿司が進められる。なにも考えずに受け取り齧ったチルは、質問へ答えるより先に寿司を観察した。ハンバーグだこれ。
「枕投げです」
周囲の視線が一斉にチルへ向く。
「枕を?」
「はい、枕を」
「投げて?」
「時には撃ったりして」
なぜそれでクレーターができたり建物が壊れたりするんだと言いたげな顔をされるが、チルとしては枕投げで実際にそうなったのだからなぜと聞かれてもさあと答えるしかない。
「そもそもなんで枕投げをしようと……?」
おずおずとした質問が横から挟まれる。赤い着物におかっぱ頭。座敷童子のような娘だ。差し出された軍艦巻きを口に入れる。
こりこりする歯ごたえ。あっさりした塩加減と脂の味。鶏の軟骨だろうか。娘の表情は偉人を見てるような真剣さで、からかいの色はない。
「突然、杖が枕になって」
なんとそのような危機があったのかと口々に交わされる小声。労りの表情。気の毒そうな様子。
「でも、枕を持っているとだんだん枕の声が聞こえてきて」
それが徐々に『え、大丈夫なのそれ』とかいう反応に変わっていく。チルの頭に硬いものとぶつかった跡がないか探し始める。
「頭も澄んでいって。天啓だと思ったんです」
メディック、メディックを呼べ! あとカウンセラーだ。事件解決の功労者にPTSDの疑いあるぞ!
「いいえきっと。あれは枕が見せてくれた運命だったんですね」
ひとしきり語り終えたチルが気付くと、目の前には新しい寿司の代わりに何やら担架が鎮座していた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鬼桐・相馬
食い倒れ横丁……飲んでもいいよな。
骸魂が剥がれ落ちたキョンシーを連れてたらふく飲み食いできる店を探そう。
――ん、キョンシーって飲食できるのか?
ふと疑問に思うが白飯を食べる様子をUDCアースの映画か何かで見たことがあるし、まぁ大丈夫だろ。
キョンシーと共に食事を。見た目にインパクトのある料理、珍味、普通の飯。
好きなものを食べていい、俺は食べるより酒が飲みたい。
どうせザルやらワクやら言われる身、色んな酒を大量に持ってきて貰い楽しもう。
さて、お互い十分に飲み食いしたら。
腹ごなしに組手か、寝心地いい枕を探しに行くか、或いはキョンシーがしたいことをしよう。
(存分に酒が飲めるし)世界が滅びなくて良かったな。
インディゴ・クロワッサン
「キョンシーちゃん大丈夫ー?」
いやぁ、無手での戦いが苦手とは言え、少しは武器無しで戦ってあげれば良かったかなー、とかは思ったんだけど
「まぁ、時既に遅し って事で、ね!(笑)」
え、良いの!?やったー!
「そうだなぁ…どっかでは冷たい茶碗蒸しみたいなやつの事を『たまご豆腐』って言うらしいから、それと『ヴァイスヴルスト』があればいいなー♪」
おぉ、これこれ! ん~ 美味し~♪
「…あ、ケバブもチーズホットグも美味しそう…」
と思ったけど、とあるお店を見つけたから、そっちに行こーっと☆
「すいませーん『生煎饅頭』下さいなっ☆」
この焼き小籠包みたいなやつはね…出来立ては熱いんだけd(顔に肉汁が飛ぶ)あっつ!!!
●
「おーい」
体を揺すられる感覚に屍人少女が目をこすり、それからはっと目を開く。
「うわわわわあっ!?」
インディゴ・クロワッサンの顔が眼前にあった。それまで寝そべっていたキョンシーは飛び起きそうになり、必死に後ずさりをした。
が、不格好な後退はある背中にぶつかったもののせいで止まる。
「相当怖がられてるみたいだぞ」
腕を組みながら立つ鬼桐・相馬だった。
「あばーっ!? すみませんでしたもうしませええん!!?」
もはやキョンシーには涙目でひっくり返って縮こまるしかない。無理もない話だ。インディゴと相馬は特に恐怖を植え付けた二人だったのだ。
「相当怖がられてるようだよ」
互いの指摘に互いが首をひねる。彼らにとってはいつもどおりの戦いだったかもしれない。
それはさておき、インディゴは再度声を掛けにいく。
「キョンシーちゃん大丈夫ー?」
小さな肩がびくりと跳ねた。しかしそのままいつまで経っても枕をぶつけられないことに恐る恐る顔を上げ、二人の手に枕がないことを気付く。
「……もう枕投げてこない?」
短い沈黙。
「ああ、戦いは終わったからな」
相馬の一言によって、キョンシーはようやく体から力を抜くことができた。
「……」
和風の料理屋にて。
キョンシーの青白い顔がじっとスプーンで掬った物体を観察する。
次いでインディゴを見れば、彼は同じものを口に入れるところだった。
「プリンみたいに見えるでしょ? たまご豆腐っていうんだ、食べてみなって!」
戸惑いながら頷く少女を見て、インディゴがもうひとくち。出汁と薄口醤油をベースにしたタレの風味が口内にさっと花開き、よく馴染んだ玉子の味わいがやってくる。タレを付けただけの冷たい豆腐といえば冷奴に似た部分があるが、このたまご豆腐というのはまろやかで優しい味を楽しむことができるのだ。東洋妖怪いちおしの品である。
「どう?」
視線の先でキョンシーは目を丸くしながら口元を抑え、次々とスプーンで口に運んでいっている。返事こそないが表情を見れば感想は一目瞭然。
その隣の相馬といえば、たまご豆腐をしばらく舌の上で転がすように味わってから嚥下し、一気にお猪口を呷った。日本酒の鋭く磨かれた味は喉元を流れ、酒精がかあっと熱をともしてゆく。遅れてやってくる研ぎ澄まされた香りがたまらない。
こちらも返事はない。目を伏せながら頷く様子が満足感を代弁している。
「気に入ってくれたようだね!」
「ああ」
礼とばかりに相馬が新しいお猪口をインディゴの前に置いて日本酒を注いだ。
「ありがとう」
一気に呷る。瑞々しい果実のような風味が味覚を潤して、さりげない辛みが後を引く。
「うまいねー!」
「たまご豆腐にどうかと思ったが、大当たりだった」
成人男子の会話にキョンシーが疑問符を浮かべる。頬はぱんぱんだ。いつの間にか追加注文していたらしい。
「例え同じ原料と同じ製法でもな、精米の度合いひとつで酒はがらりと表情を変えるんだ」
相馬は酒気の心地よさにすっかり気を良くして教える。ザルとか言われる程度には酒に強い男だが、酔わずとも旨い酒があれば気分だって浮ついてくるものだ。
とはいえ幼い風貌のキョンシーにはまだよくわからない知識だ。頷くインディゴからはたぶん正しいことを言っているのだとしか伺えない。
店の入口から皿を持った者が近づき、インディゴが待ってましたと手を挙げた。
「実は色々頼んでたんだよね。……お、これがきたか」
ヴァイスヴルスト。その白いソーセージを見たときの反応はキョンシーより相馬のほうが大きかったかもしれない。つるりとした真珠色には、日頃からソーセージという食べ物に親しんでいる者ほど衝撃を受けやすいだろう。
なぜたまご豆腐や日本酒が出るような店にそんなものがあるのかと疑問に思うかもしれないが、なにせ二人は紛れもなく救世の英雄である。飲食店の立ち並ぶ場所であれば店主たちがこぞって何か食べて食べてとやってくる。そのなかにインディゴのリクエストに応えられる者がいたという話だ。
「これはねー、こうやって食べるのさ」
相馬とキョンシーの目の前で、ナイフを使って外皮を切ってゆく。ヴァイスヴルストは皮を食べずに中身だけを食べるのが特徴だ。
フォークを突き刺しても抵抗感は少ない。とても柔らかいのだ。はんぺんのようにふわっとした柔らかさと弾力が同居舌食感。肉の味わいをハーブが上品に整えてくれる。
「皮は必ず切るのか?」
「切らずに一緒に食べてもいいよー。……ん~、美味し~♪」
質問に返しながら今度は皮ごと頂く。恐る恐る食べ始めたキョンシーを尻目にして、早々にひとつ食べ終えた二人はビールのジョッキを一気に傾けた。
「あとさー、ケバブと……そうそう、アレもほしいな」
次々と食べ物を注文していくインディゴと、酒類を注文していく相馬に食い倒れ横丁の者たちは大忙しだ。
ふと、一生懸命に食事をとっていたキョンシーが手を止めて、遠い目で妖怪たちを眺める。彼女の浮かべる表情の意味が相馬は不思議と理解できた。きっと彼女も陽気な妖怪の一員だったのだろう。
だが、妖怪もろとも世界を滅ぼしかけた。破滅の衝動は取り憑いた骸魂のものであって彼女の意志ではないが、滅ぼしかけた事実はなくならない。
申し訳なさと悲しみが、彼女の心に影を落としている。
「お、きたきた『生煎饅頭』待ってたよっ☆」
インディゴが一際大きな声を出しながら器を受け取った。
よく熱が通り透き通った皮の饅頭を箸で摘み上げ、一気に頬張る。差し出した妖怪が止める暇もない。
「アッッッつ!?」
熱々の肉汁に悲鳴が飛ぶ。言わんこっちゃないと笑いが起きた。ある妖怪は苦笑しながらおしぼりを探し、またある妖怪は冷ましてから食べなきゃと肩を叩く。
相馬はジョッキを空にし、それから釣られて笑っていたキョンシーに口を開いた。
「滅びなくて良かったな」
世界が。
振り向いたキョンシーは、噛みしめるように頷くのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
エル・クーゴー
●珍しい食べ物、何かない?
・↑って感じで、マネギの大軍がキョンシー娘に絡みに行く
・食べたいのはこいつらだ!
・その数400体(ゾロゾロ)
・さっきのバトルでレベル上がったからMAX395体からちょい増えた
アーカイブ参照
該当ワード、抽出――
>昨日の敵は今日の友
(キョンシー娘の隣歩きながら素顔オープンでサムズアップする)
(昨日じゃなくてついさっきだが細かいことはキニシナイ)
・キョンシーっつったらチャイナだし点心とかリクエストするマネギ達
(画像表示したホロ・ウィンドウをマネギ筆頭「マネギ(親機」)が肉球でつっついて示す)
・中華まん、焼売、餃子etc
・マネギ達が食べる
・物食べられるドールなのでエルも食べる
●
「ぬわーっ!!?」
小柄で青白い体が倒れた。尻もちをつき、そのまま背中と後頭部を地面に打ち付けた。
そこへ猫が跳び乗る。一匹や二匹ではない。体すべてを覆い隠してしまうほどの大量の猫が乗り、前足でふにふにふにふにと踏みつける。
「な、なんで、なにこれ!? B級パニックホラー!?」
乗ってくる猫と囲んでくる猫、合わせて400匹もいるとしたらまさしくキョンシーの叫びのようにパニックホラーだ。それらはすべて背中から翼を生やした恰幅の良い猫たちで、ご丁寧にも空まで飛んで隙間のない包囲網を完成させている。
いくらもがけども一向に離れてくれない猫の群れ。微かな隙間から見えるのは、ゴーグルを持ち上げて裸眼で見てくるエル・クーゴーしかない。
「私を食べるつもり!?」
ゆっくりと、徐々に開いてゆくエルの唇がキョンシーには死刑宣告の前触れに見えた。
「違います」
「違うの!? 私なんで襲われてるの!?」
「あなた見て投票したいようで」
「なに!? 私は何の選挙に出馬させられてるの!?」
ふっと一匹の猫がエルとキョンシーのあいだを遮る。何やら口元に紙のような物を咥えていて、よく観察すれば400匹すべての猫が紙を所持していた。
恐怖がゆっくりとしぼんでゆき、困惑に染められてゆく。
猫の紙を摘んで見れば『中華まん』と書いてあった。
「こちらが投票結果です」
エルの指先から浮かび上がるホロウィンドウは円グラフ。点心の得票率が34%で、中華まんと焼売、餃子がそれぞれ20%代となっていて、それぞれSD調のデブ猫がポーズを取っていた。
「食べ物のリクエストになります」
話が見えずぽかーんとしたままのキョンシーへ、再度エルが口を開く。
「案内をお願いします」
当然ながらひとつの店に400もの猫が押しかけたおかげでそこは一瞬にして猫屋敷となった。
とはいえ、猫たちは野生のものではなくエルと親機に従うドローン達だ。椅子やテーブルを汚すことなく料理を待つことができる。であればもう外見が風変わりなだけの客と変わらない。
一匹の猫が小皿の小籠包に顔を近づけた。登り立つ湯気にヒゲをひくつかせ、香りを楽しんでいるようだ。単純に猫舌で熱が逃げるのを待っているのかもしれない。その隣には焼売や大根餅があって、やはりそれぞれ猫が控えている。
しばらくして料理の品々の香りが店内を満たすようになったところで、ようやく彼らは動きだす。
小籠包の先端部分を猫が齧った。すると破けた皮から熱々の汁が溢れ出し小皿に水溜りをつくる。鶏ガラと生姜に整えられた肉の旨味のぎゅっとつまったスープ、これがなんともたまらない。猫は覆いかぶさるようにしてスープを舐め取ってゆく。
随分と美味しそうに食べるが、それを見守るキョンシーとしては猫的にNGな食材が含まれてないかと気が気じゃない。ほらあるじゃん、ネギとかイカはよくないとか。猫であって猫ではないのだから問題ないのだろうか。真相は闇の中である。
そしてエルは、海老蒸し餃子を箸で摘んだ。
これも小籠包や焼売に並ぶ定番メニューだ。皮が中のエビを透かしてほんのり色づいた様は実に食欲をそそる。
口に含めば、最初に舌を迎えるのは酢醤油の絡んだ滑らかな皮。それでいてゼリーのようにぷるぷると柔らかい。
そんな皮を噛み破るとやはり汁が溢れ出る。小籠包のそれと違って魚介の風味をふんだんに含んだスープだ。熱と旨味がふわっと口内に満ちてゆく。この瞬間を忘れられない人間のなんと多いことか。点心で火傷する者たちはきっとこの魔性に取り憑かれてしまっているのだ。粗くみじん切りにされたたけのことむき海老が咀嚼のたびにほぐれて、そしてスープの味わいと馴染んでいく。
「……ど、どう?」
エルへとキョンシーが質問を飛ばす。彼女の手元には未だ手つかずの皿があり、表情にはそれを聞くまでは食事どころじゃないと書いていた。
頼まれて案内した手前、喜んでもらえるかが気になるのは仕方のないことだ。味わいながら幸せそうに転がる猫たちと違って、エルという少女は感情が表情に出ないのだから。
「……」
「……」
しばらくの無言。嚥下する様子がひどくゆっくりに見えた。
料理を出した店主も気になるようで、キョンシーと並んでじっとエルを見守る。
不意に、人形の手が虚空へと持ち上げられた。空中にタイピングしてホロウィンドウを呼び出す。店内の情景が録画されているではないか。
「躯体番号L-95」
仕事を終えた手が今度はサムズアップを作った。
「当機は飯テロにも高い適性を発揮します」
カクリヨファンタズムの時はゆっくり流れてゆく。この世界では何気ない食事も、滅びへと至る大いなる危機も、あるいは一風変わった勝負すら、何気ない日常の一部として記憶されてゆくのだろう。
いつか再び事件が起き、たちまち解決されて、冒険や遊びと共に語られる。
ここは、きっとそういう世界なのだ。
大成功
🔵🔵🔵