9
花は流れ、雫は弾む

#アックス&ウィザーズ #戦後

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#アックス&ウィザーズ
🔒
#戦後


0




「それっぽいモンスターの話が出てたから依頼を受けて来たんだけど、案内されてやるぜーって人いる?」
 グリモアベースにて。猟兵たちをぐるりと見まわしたカノン・チェンバロ(ジェインドウ・f18356)がやたら気やすく気楽な声をかけた。
「きれいな水源の近くでね。ひんやりと水に入ってお花見もできるお仕事だよ」
 ざっくりとした仕事概要に何人が腰を上げただろうか。



「もともとは近くの街の人たちの、隠れた憩いの場なんだってさ」
 仕事の話の始まりは、簡素な説明からだった。
「場所は水源が豊かな岩山のふもとのあたり……といっても到着するあたりは平坦なんだけど。碧く色づいた泉が広がってて、退治すべきモンスターのいる岩場にはその泉を越えなきゃいけない」
 泉の水源の周辺で花が満開になる時期で、水に乗って大量の花弁が流れて来るそうだ。その泉は山の水源の終着点、花びらが最後にたどり着く場所でもあるから、最終的に水面が全てといっていいほど埋まってしまうとか。
「水は凍えるほど冷たくはないし、とても澄んでるから汚れる心配もないよ。だけど花びらのあるところ……特に水際を歩くときは気をつけてね」
 理由を尋ねれば、“花びらで陸との境目がちょっと見えづらいから”との回答。
 山あいから流れて来る水に海のような波はない。しかし水源からの流れや空気の滞留のためなのか、かすかだが水が寄せて返すような動きをする。
 そのせいで少し陸地にも花弁が乗り上げていて、花びらごと地面を踏みしめたと思ったら水の中にダイブした、なんてことがある。それはちょっとあんまり楽しくない出来事だろうから。
「あ、水を汚したり土地を傷つけたりしそうな行動には気をつけてね。それと水底はかなり深さがバラバラだからボートとかで進むのはちょっとムリだと思う」
 気をつけなければいけないのは概ね環境や地形に影響を及ぼすことぐらいか。
 浅い場所を歩いて行くのはもちろん場所によっては深瀬もあるからそこは潜って進んでもいい。
 上流から下流までくだってきた流木には人が乗れるほど大きな物もあるので、そこに上れば水から少しのあいだ退避したり体を休める事もできそうだ。
 他にも探せば面白いものが見つかるかもしれない。
「もしかしたら岩場までの近道になる場所とかあったりしてね。わかんないけど」
 あったら楽しそうだよねなんて呑気な声をこぼすカノンの手のひらの上で、グリモアが光を灯しはじめた。


永夢ヨル
 永夢ヨルともうします。ご覧いただきありがとうございます。
 全章が水いっぱいなシナリオです。

 1章は花びらと水に浸かり、進んでいく冒険です。しっとりめ。
 2章は水辺でほのぼのと集団戦闘です。ぷるぷるしそうです。賑やかめ。
 3章は涼しい場所で水と花を愛でる日常です。ほのぼの。少しきらきらします。

 各章のプレイング募集はマスターページや採用なしのリプレイを冒頭に執筆するなどでお知らせしていきます。
 募集していない時にいただくと流れる可能性が高いです。すみません。
 ご縁がございましたらよろしくお願いいたします。
13




第1章 冒険 『花筏に溺れて』

POW   :    花びらや水飛沫を跳ね上げながら渡る

SPD   :    花びらの合間をたゆたうように泳ぐ

WIZ   :    ゆらゆらしてる花筏を眺める

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 視界に入りきらないほど広がっている水辺の先では、輪郭あらわな岩の山肌が隣あわせにかすんで見える。
 真っ青な空を映し込む水面は、はかなく溶けてしまいそうな白いろの花びらでほとんど覆い隠されていた。
 どこもかしこも水だらけで、花弁が流れついてはへりに重なり雪のように積もってゆく。
 モンスターがいるのはこの先で、そこに到着するにはこの広々とした泉を避けて通ることはできない。
 避けられないということは、その過程で思う存分に水のもたらす温度を堪能できるということだ。

 ――さあ、いざ花の泉へ。



(リプレイ執筆およびお届けは7月20日(月)からになります)
祝聖嬢・ティファーナ
WIZで判定を
*アドリブ歓迎

『フェアリーランド』の壺の中から風/水/生命の精霊と聖霊と月霊を呼んで花筏を眺めながら精霊・聖霊・月霊に“七色こんぺいとう”を配って虫や風の精霊・水の精霊・生命の精霊を自然や状況に合わせたり関わったりしながら眺めたり話したりして楽しみます♪
突然の強い風や水飛沫には『月世界の英霊』で空間飛翔して避けたりします☆彡
猟兵や他の自然とも話したり、最近の出来事とかを聴いたりします♪
ちょっと気になる事や点があったら、そっとメモを録って置きます☆彡

必要そうなら『聖精月天飛翔』でWIZやSPDを強化して水飛沫や障害を回避してみます☆ミ

「精霊・聖霊・月霊のミンナも頑張ろうね!☆ミ」



「きれいな水でいっぱいだね。……精霊・聖霊・月霊のミンナも頑張ろうね!☆ミ」
 一面ひろがる水にたゆたう花筏をひととおり眺めると、手にした『フェアリーランド』の壺を手にして祝聖嬢・ティファーナ(フェアリーの聖者×精霊術士【聖霊術士】・f02580)が呼びかける。
 その内側で過ごしていた精霊たちが器の広口から躍り出るのを出迎えて挨拶を送ると、壺と入れ替わりに色とりどりの砂糖菓子を取り出し手渡してゆく。愛らしい星粒のような七色のこんぺいとうを配ってまわると、たちまちティファーナの周りは賑やかさであふれた。
 花弁の隙間から光を照りかえす水は澄んでいて、人の手つかずで水も花もありのままに在るみたい。訪れた精霊たちもその地に住み着く存在たちも、こころなしか生き生きとしているように見えるのはそのせいだろうか。
 ともあれ遊ぶことが本来の主目的ではないから、周囲の地形の様子などにも意識を傾けてみる――自然の気配が強いせいか、この一帯はどこも力強さを感じた。
 花びらをまとう水が、かすかな波に踊ってはねて雫はティファーナに飛び込んでいく。
「わっ! 元気だね☆ミ」
 たかが水されど水、小さな体にあまり強く当たってしまうと油断できないものだから、空間を移ってなだらかに生まれる波の送り出す大きな飛沫を避ける。
 ティファーナが明るい声をたてると、外の誰かが来るなんて久しぶりなのだと自然からの答えがあった。
 ――もともと静かな場所ではあったが、モンスターが訪れるようになってからはますます静かになっていた。生活の水を求めて来る人は古くから多かったけれど最近はいなくなっていて、構いに行くことも減って退屈なのだと言う。
 聖少女たちへと語り掛けたのは言葉ではなく、恐らくは精霊と共にある者だからこそ漠然と感じとれるものだ。夏季の熱気をさらう風がティファーナを撫でてゆくのも水が乗せている花びらで色どろうとするのも、自然へと語りかける存在がそこにあることや精霊たちの訪れが嬉しかったのかもしれない。
 合間に自然から聞いた内容をメモに取りながらも、少しの間だけ彼らの声に応えるかたちで水遊びを堪能することになった。

 ティファーナが自然と一通り語り終えると、ゆるやかに動き続ける水の上で花びらが模様を描いていた。
 ――敷きつまった白い花弁の隙間から空を映して真っ青に染まった水面が、まるで線を引いたように水辺の上でのぞいていた。
 ほとんど逆の岸へと真っすぐに続いている水面の青は、まるで先行きの道しるべのようにしばらく残っていたという。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニコリネ・ユーリカ
きれい。幽邃の秘境って感じ
ぷるぷるに遭うまでは景色を愉しませて貰いましょ

この泉を進めば良いのね
UCで周囲に浮かぶ花に変身! 花筏の仲間に入れて貰おうっと
(迷彩・目立たない)
水面を移動すれば深浅差がある水底を気にしなくてもいいし
歩いたり泳いだりして水を掻き混ぜなくても済むもの
沢山の花弁とすれ違いながらスイスイ進むわ
(地形の利用)
水流が勝るなら風属性の魔法で思う儘の場所へ
事前に地図を確認して、迷わず辿り着きたいな

花屋だけど花になって浮かぶのは初めて
空や周囲の自然を眺めながら悠々と進みましょ
地の利のある相手に引けを取らぬよう
地形や風土を掴み、後の戦闘に役立つよう情報収集

はーお水が冷たくて気持ち良い!


ベリオノーラ・アンフォール
この世界には何度か依頼で訪れていましたが、まだまだ初めての出会いがあって、とても素敵な世界ですね。

今回の目的地まではもう少し距離があるみたいなので、それまでは花筏の景色を楽しみながら歩いていきましょう。
せっかくの綺麗な景色ですからね。

水辺をしばらくは歩くことになりますし、あまり汚れてしまってはあとが大変でしょうから、精霊さんの力を借りて泥跳ね防止と境目の確認用に強すぎない程度に風を足元にまとっておきたいと思います。
歩ける場所がなければ・・・もう一度精霊さんにお願いして、水面を凍らせて足場を作りましょうか。
日の光を受けて氷の中ので輝く花びらも、自然の景色ではありませんが綺麗ですね。


アウロア・ラスヴェート
アドリブ&他者との絡みOK

私は花筏にするわ。

ふふ。
空を見上げる訳じゃない水辺の花見もいいわね。

水面もキラキラしていて花を閉じ込めた宝石の様…。

久しぶりに綺麗な景色を観ながらのんびり出来そうね。

戦闘になるのはこの先らしいし…
今はこの景色をゆったり眺めていましょう。

花の香りも、心做しか柔らかく感じるわ。

サロンの仕事が立て続けにあったから…本当に癒される空間ね。

歌うのは好きだし苦にもならないのだけれど、些か窮屈なのよね。
あの場所は…。

此処なら変に求められる事もない。
いつもよりもっと自由な音を紡げそう。
(自然と唇から歌が零れ)

後は
周りの人達が何をしているか見ていましょうか。

沢山の笑顔が、今は見たいわ。



 誰かが訪れて賑わうところもあれば、言葉交わす者の少ない静やかなところもあった。

 水面にひしめく白い花は濡れると溶けてしまいそうに透きとおり、あまり強くないが近くに寄ると甘くも清涼感のある香りをほのかに漂わせる。
 ゆらゆらと水が揺らめく上で淡い青みの白花が流れる中、同じ姿なれども異なる流れに乗って進む花一輪。
 それは、泉の表面に浮かぶ花のひとつにみずからの姿を変えた猟兵。ひっそりと花筏の仲間に混ざっているニコリネ・ユーリカ(花売り娘・f02123)だ。

 ――きれい。幽邃の秘境って感じ。

 水流からなる波は激しさこそないが、泉一帯を行き交う水は動きがどこか定まらない。風の精霊に呼びかけて背ならぬ花弁を押し進めて貰いながら、岩山から続く地層に濾された水の質感と、澄んだ空気に冴える景色を楽しんでいた。
 こうして浮かぶ花のひとつとして水上を滑ってゆけば水深を気にしながら進まなくてもいいし、水をかいて濁らせたりせずに進んで行ける。
 水を潜るくらいは地形を大きく変えるような事ではないが、それでも乱さないに越した事はないだろう。――全て花の姿のまま、思考をめぐらせてゆく。
 そこに浮かぶ花を見るのは初めてであったし、花に姿を変えるのもまた初めての事。けれど花となることにニコリネが抵抗を感じなかったのは生業ゆえ花が身近であるからか、それとも新たな目線を知る好奇心がまさったのか。
 ともあれ花の姿をとって知れたこともあった。
 花弁に受ける風の撫でごこち、浮かぶ水の感触。どれも人の時とは違っている。
 水に触れるのは不快ではない。高い波でも生まれなければ水の底まで沈みそうになることもないから、花弁は流れに乗るのに適したものになっているのかもしれない。
 花のつくりに興味を傾けながらも進む速さは鈍っていない。水のあるほとんどの場所は見晴らしがよく、稜線が目指す方角の目印となる。加えて事前に水辺と陸地の形などの情報を聞いていたニコリネだったから、迷うことは無いと言ってよかった。

 ――はー、お水が冷たくて気持ち良い!

 これは魔物が巣食った場所まで向かういっときの旅路だが、その地点までは直線でもまだ先のこと。
 たくさんの花弁とすれ違って進む道のりで満ちる自然を堪能しながら、その中でも隙なく地形を見定めながら進んで行く。
 猟兵たちは各々の手順で進む――花の筏もその一人。
 波打つ金の髪も、髪と同じまつ毛が縁どる紫の瞳も。今は白い花の姿に隠して、ニコリネは静かに水面を泳いで行った。



「……あら?」
 ふと精霊の動きを感じて目をやれば、花が流れに逆らいがちに進んでゆく――ベリオノーラ・アンフォール(キマイラの精霊術士・f08746)はその様子をみつけて、不思議そうに見送った。
 このあたりの風の精霊の悪戯だろうかと首を傾げていたが、自然豊かな場所で遊びまわる者がいてもおかしいことではない。これもまた景色の一つかと淡く笑んで、白いろのしきつまった地面に再び足を出してゆく。
 ベリオノーラが一歩を進めるたび地面を包む花びらが舞い上がり、花弁におおわれた水面は揺れてなだらかな波紋を生み出す――それは精霊に借りた力によって、足元にまとった風がなす仕事。
 地面と水の境界がはっきりと可視化できたら、浮かび上がった地面に次の一歩を進めていく。風が足元を払うことで水の中に落ちてしまうのを防ぎ、また歩くなかで跳ねる泥を退ける役目も果たしていた。水辺はまだ続くし、今からあんまり汚れてしまっては後が大変そうだ。
 精霊の力とともに歩きながらも、ベリオノーラはひらけた景色に金の瞳を向ける。
 この一帯の泉の水は空が曇っていても青みを帯びているらしい。晴れた日は空の色を映し込んでさらに冴えた色をするというが、波にゆれて時おり隙間からのぞいた水面は確かに光を溶かしたような碧色をしていた。
 これまでも幾度かこの世界に訪れていたが、それでも初めて目にするものも、出会うものも数多い。この水と花に満ちた風景もその一つだ。
 素敵な世界ですね、と誰にともなく落とした呟き。
 せっかくの景色を堪能すべく、彼女自身が纏う衣にも似た白花の水辺に進みだす。

 ――しばらく進んだ頃。
 踏み出そうとした花弁の絨毯が、波紋を広げるばかりであることに気づいて立ち止まった。
 ぐるりとあたりを見渡してみたが、少しずつ進む花びらとその隙間から陽を跳ね返した光ばかりが目立っている。どうやら、ここから先は水を超えて行くしかないようだ。
 一呼吸おいてから、柔らかく落ち着いた声が足元の水へ語り掛ける――“精霊さん、力を貸してくださいな”。
 いくばくかの言葉を交わすと、足元ちかくの水に変化が起こった。強い熱を好まない水の精霊がベリオノーラの進もうとする方向にある水面を冷やし固めていって――やがて水の上の花びらの一部が動きを止めた。
 女性ひとりが乗って進むには充分な大きさの氷が生まれ、次の地表まで点々と続く足場の道の出来あがり。
 踏み出す――前にその氷を確かめるように見つめてみれば、純度の高い宝石のような透明度を持った氷は閉じ込めた花弁を模様のようにして、水とはまた違う輝きを照り返していた。
 その氷は自然に出来たものではないけれど。
「綺麗ですね」
 新たな出会いが、また一つ。
 他者に見えないところで頬をゆるめて花の泉の中を進んで行くベリオノーラは、その道のりの途中で誰かの歌声を耳にした。
 それはまるでこの場所のために用意されたような、伸びやかで透きとおる歌声だった。



「ふふ。空を見上げる訳じゃない、水辺の花見もいいわね」
 たえず揺らめく水面にアイスブルーの瞳をおろし、花弁がたゆたうさまを見つめているのはアウロア・ラスヴェート(シンフォニア・f16546)。
 水際の近くに佇むようにして眺める一帯は街中にあるような喧噪からはほど遠く、水のかすかに寄せてかえす水の音がもっとも大きく聞こえてくる。
 熱をさらうような風に乗って鼻腔をくすぐるほのかな香りは、甘さの中に清涼感を与えては残してく。すっと抜けるようでいて柔らかく感じられたのは、こわばりがちだった肩の力が抜けているからかもしれない。
 ――アウロラは、歌魔法の使い手だ。声質も声量も変幻自在、その名があらわすような虹色の声を持っている。技術に富んだ歌い手を望むような貴族のサロンから、寵愛を受けているのも不思議なことではないだろう。
 そういった場所で歌うのも要求があるのも、嫌というのでは決してない。ないのだけど……格調の高い空間に長いこと居つづけていると息が詰まる。アウロラが空気の異なる場所を求めたのも無理からぬことだった。
 そうして今、自然の景色が目前にある。
 型に固まりそうな思考のふたを開くかのような感覚に、彼女が連れて来ていた雰囲気はすっかり和らいでいた。
 野生の水がけずりあげた岩がかたどる水際や、不規則でいて規則的にもおもえる花弁が埋め尽くす水面。 半透明の花弁をたたえた淡い碧の水は、陽光を照り返して宝石のように輝いている。
 技術を駆使したサロンの緻密な内装とはまた違った、独特の風合いと味わいを持つ美。
 久しぶりに生命力にあふれた風景を目の当たりにしてひとときの自由を満喫する歌姫の唇は、知らずしらずのうちに歌を口ずさんでいた。
 それは誰かに求められるものではなく、誰かに聞かせるためのものでもなく。
 この景色を見て浮かんだ旋律をそのまま譜面のない音符に乗せて、浮かんだ言葉をそのまま歌詞へと紡ぐもの。
 涼しさをともなう風が歌を乗せて、運んで行く。

 ――歌をやめないままにアウロラがあたりを見渡せば、遠目に各々の方法で水の上を進みゆく何人かの猟兵たちの姿が見えた。
 それぞれの見るものも進み方も異なるけれど。誰もかれもがその風景の中で何かしら満たされるものがあったように、仕草を見ていると思えるものだ。
 この花びらの海の中、青い空の下で彼ら彼女らは笑っているようだった。
 距離が開いていて本当に見えているわけじゃないのは少し残念だけど、その喜びの気配を感じられれば自然と胸が弾んだ。
 やがて即興の歌唱をきりよい小節まで歌いあげ、その先をハミングがつないで続く。
 光させば七色を浮かべる髪がふわり、歩き出したアウロラの背で弾む。ひざ下で広がったドレスの裾をひるがえし、彼女も他の猟兵たちがむかう方向へと進み出した。
 魔物が待つという場所まではまだ距離がある、そこに辿りつくまでのあいだ。
 ――沢山の笑顔が、今は見たい。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロリーナ・シャティ
【要晶】
「ついた、よ、珂奈芽さん」
グリモアベースで声掛けられた時、怪しまれずに名前を思い出すのは正直大変で
でも、イーナなんかに優しくしてくれる人は貴重だと思うし、大切にしたい
忘れんぼなこととかはまだ怖くて言えないけど…それでも

耳飾りに水の上を歩ける力を付けて来たけど…
「わわ、わわわ」
覚えたての技能はギリギリどうにかしてる状態で、ちょっとでも集中が切れたら転びそう
だけど、視界の端で珂奈芽さんがふらついたのを見た時思わず体が動いた
自分が泳げないのも忘れて
「珂奈芽さ…っ!……ぁれ?」
浅瀬、だったみたい
2人ともすっかりずぶ濡れ、ちょっと恥ずかしい…
でも
「…ゆっくり、行こ」
流木の上で時々休憩しながら、ね


草守・珂奈芽
【要晶】
蛍石だからか水が苦手で水泳授業も未経験。
でも行きたいって悩んでた所にロリーナちゃんが!一緒なら安心だよね、ラッキー!
「ふわあ、夢みたいな景色なのさ!」

〈念動力〉とUCで翠護鱗を足場にして渡るよ。
びびってる心は隠したつもり。これくらい余裕じゃなきゃね!
「しっかり!ゆ、ゆっくりで大丈夫さー」
でも溺れたらと思うと自分もぎこちなくて…あっ、と思ったら踏み外してた!
「ぴゃー溺れるー!?」
なんてばしゃばしゃ暴れたけど…ここ、浅瀬じゃん。
「ご、ごめんね、ロリーナちゃん」
できるところさ見せたかったのに…恥ずかしすぎて水に映る顔が茹で蛸みたい!
ロリーナちゃんに頷いて、もっかい頑張るよ。
うう、優しいなあ。



 花びらばかりの景色ひろがる一角に、ふたりのクリスタリアンの訪れがあった。
「ついた、よ、珂奈芽さん」
 ロリーナ・シャティ(偽りのエルシー・f21339)のためらいを含んだような声が、静けさの中で染み渡るようにつむがれる。
 少女と見まがう少年は一緒に訪れた相手にむくと、片腕で景色を示してそちらを見るよう促した。
「ふわあ、夢みたいな景色なのさ!」
 到着してすぐ視界に飛び込んできた景色に、草守・珂奈芽(小さな要石・f24296)がロリーナとは対称的な元気いっぱいの声を上げる。
 目を輝かせて感嘆をさけぶ珂奈芽に、ロリーナは安堵と胸のくすぐったさを感じていた。
 この場所にふたりで訪れたのは、グリモアベースで彼女がロリーナに声をかけたのがきっかけだ。
 珂奈芽が屈託なく喜んでいるのを見ると、それだけでも同行してよかったと思えた。
 そして同時に、声をかけられた時も気付かれないように彼女の名前を思い出せてよかった、とも。
 ロリーナの記憶は混濁が多く、時によっては忘却する事もある。一言で言えば“忘れんぼ”。
 それはまだ知らせることに怖さが勝って、同行している少女には言えてないことがらだけど。
(でも、イーナなんかに優しくしてくれる人は貴重だと思うし……)
 自分自身のことを“なんか”と思うロリーナにとって、珂奈芽はそんな自分に優しくしてくれる人。
 そんな人は大切にしたい。天真爛漫な少女を見て、そう感じていた。
 ――そんなふうにロリーナが心を巡らせるなか、珂奈芽の方は相手が一緒に来てくれたことに想い馳せていた。
 珂奈芽は蛍石のクリスタリアンだ。宝石の体を持つ人型の鉱石生命体、とは一口に言ってもその宝石の種類は様々なもので、もちろん石の性質も多岐にわたる。
 珂奈芽はその中で変わり種に当たる方であり、宝石は骨格の形成が中心であって肉の体を持っている。
 それでも宝石の性質が影響しているのか水は苦手だし、水泳の授業も経験したことがない。
(でも、ロリーナちゃんが一緒なら安心だよね、ラッキー!)
 興味があったけれど水が不安で悩んでいた時、見つけたロリーナに声をかけた背景にはそんな事情もあった。
 まるきり頼ろうなんて気はもちろんないが、隣に並ぶ誰かがいるというのは存外に心強いものだ。
 水が不安だというのは、少なくとも今はロリーナに知らせがたい事なのだけど――。

 そんなわけで、お互いに優しい隠しごとをしたまま、二人は花の満ちた水へと進みだした。



 水辺を渡る対策は、それぞれが個別に準備してきていた。
 ロリーナは水上歩行の力を宿した耳飾りを用いて、水の上を歩けるように。
 珂奈芽は無数の魔力結晶を足場にし、彼女自身の力で操って進めるように。
 ――だが。
「わわ、わわわ」
 ロリーナの術は覚えたてで不慣れなもの。足元をしっかり支える力を維持するのに精一杯で、少しでも気を抜くと解けてしまいそうだ。
「しっかり! ゆ、ゆっくりで大丈夫さー」
 元気づけようと声を上げる珂奈芽も、平気そうに見せていながら内心ではとてもビビっていた。
 これくらい余裕じゃなきゃね!……そう自分を奮い立たせようとしていても、いざ足場にした翠護鱗の上に乗ってみると、動きも声もぎこちない。
 大丈夫、まだ大丈夫――みずからに平静を呼びかける言葉で頭を埋めてゆき、足元を安定させようと、していたけど。
「あっ」
 ロリーナの視界の隅に映る、ぐらりと揺れた珂奈芽の姿。
「珂奈芽さ…っ!」
 ロリーナの身体は勝手に少女へ駆けだした。
 足を踏み外した少女が揺れる水面に傾いてゆくのが、ひどくゆっくりに感じられる。水の中に落とさせるまいと、人工皮膚に包まれた人肌色の指先が珂奈芽を引き戻すべく伸びた。
 泳げないことなんてその瞬間、すっかり頭から抜けていた。
 けれど――落下は止まらない。

 間に合わず、ふたりで一つの水柱。跳ね上がった水の滴とともに、花弁があたりに舞い散って――――。

「ぴゃー溺れるー!?」
「……ぁれ?」
 ばしゃばしゃ、ばしゃばしゃ。
 水面で沈みきるまいと両手を暴れさせる蛍石の少女の隣で、淡青緑の少年が先に何かに気づいた。
「……浅瀬、だったみたい」
「――――」
 ぴたりと珂奈芽の動きが止まった。
 おそるおそる水底に足を下ろすと、そこには凹凸ながらも水底があった。
 小柄な方に入る二人でもしっかりと踏みしめれば肩より上が出せるぐらいの、水深だった。
「ご、ごめんね、ロリーナちゃん」
 状況を理解したとたん、恥ずかしさが天元突破して珂奈芽は顔がかっと熱くなる。できるところさ見せたかったのに……水はひんやりと心地よく冷たいのに、水面に映った顔色はまるで茹で蛸じゃないか!
 一方、恥ずかしさを覚えていたのはロリーナの方もだった。落ちたところは溺れようもないところだったのに、ふたりして大あわてで――何ともいえずお腹の奥をくすぐられるような感覚におそわれて。
 ――でも。
「……ゆっくり、行こ」
 謝る少女にロリーナが返したのは穏やかな言葉。
(うう、優しいなあ)
 相手の心づかいを噛みしめながら、珂奈芽は聞こえた声にしっかり頷き返した。

 人が座って乗れるほどの大きな流木を目標にして、そこまで進んだら一休み。
 それを繰り返して慣れて行きながら少しずつ、けれど確実に目的地へと近づいてゆく。
 そうして二人の宝石が水辺を渡りきる頃には、たぶん、落下する心配なんていらなくなっているのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『ドロゥプス』

POW   :    ダンス
【ダンス】を給仕している間、戦場にいるダンスを楽しんでいない対象全ての行動速度を5分の1にする。
SPD   :    留まらせる
【瞳】から【ウインク】を放ち、【「可愛い」と感じさせる事】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ   :    眠らせる
【スマイル】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全対象を眠らせる。また、睡眠中の対象は負傷が回復する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 広びろとした花筏の水辺を渡りきった猟兵たちが凹凸激しい岩場まで辿り着くと、それは待ち構えていたかのように姿をあらわした。

 ――てっぺんとんがりまるっとボディ。
 ――ぱちくりまたたくつぶらな瞳。
 みずみずしさを見せつけるようにぷるるんと揺れて踊るは半透明の寒天質。
 戦場に笑顔と安心とときめきと癒しをお届けすること間違いなし!
 可愛いを凝縮してゼリー容器で固めたようなそのモンスターは、人呼んでドロゥプス。

 戦場となる地には、猟兵たちが越えた泉に注いでいるのだろう流水がそこかしこを伝っている。
 足場となる場所にはさまざまな質感の岩が入り混じり、砂の表面のようにざらついた岩もあれば、濡れると踏んばれないような鏡面のごときなめらかさを持つ岩もあった。
 踏みしめて沈むような泥地はない。だがその分、転ぶととても痛い。猟兵たちなら大した怪我にはならないだろうが確信できる、間違いなく痛い。
 もっと上流から運ばれてきているらしい花弁は、ところどころに乗り上げて岩肌を白花柄に変えている。
 そんな岩場の影からドロゥプスの一匹が顔――ほぼ全身――を出せばどこに身を隠していたのだろうか、お好きな色を選び放題勢ぞろいとばかりに次から次へと湧いて出た。

 光を透かして泉と違った意味で宝石のようにきらめいているけれど、これもまた過去の残骸。
 癒しに呑まれて過去に喰われるものが出ないよう、骸の海に還してやらなくては。



 パラメータ『かわいい』値が測定不能モンスターとの、ほのぼの集団戦闘です。
 たいていのシリアスは裸足での逃亡が見込まれます。
 2章だけのご参加も歓迎しております。

(プレイング募集は7月26日(日)の9時以降からになります)
ベリオノーラ・アンフォール
あれは・・・とても可愛らしい見た目ですが、オブリビオンなのですよね。
これからの季節にぴったりな涼しげボディに誘われて、一般の方に被害が出てしまうかもしれませんし、今のうちに何とかしましょう。

私はみなさんの治療とサポートにまわろうと思いますが、直接的な攻撃はほとんどなさそうなので光鳥でみなさんの状態を正常に保ち続ければ大きな問題は起きなさそうですね。

ですが、油断は禁物です。
ここがお聞きした情報通りの場所でしたら、こけてしまったが最後、しばらくはひりひりとした赤い肌をさらしてしまうことになってしまいますから。


ニコリネ・ユーリカ
POW
まぁ貴方達も踊るのね
なんて可愛いぷるぷるダンス
私も負けていられない

足場に注意しつつシーウォークで接近
Tステップとターンを混ぜながらリズムに乗り
ここ一番の魅せ処で流れるようなランニングマンをキメる!
パリピなシャッフルダンスで行動速度を保ちつつ
シャッター棒でつんつん、歌いながらのダンスバトルよー!
[パフォーマンス・ダンス・歌唱]


お花ひらひら
敵はぷるぷる
一緒にダンスを踊りましょう
ウインクひとつ
スマイルひとつ
一緒にプルプル舞いましょう
ひぃ、ふぅ、みぃ、よーぉ!(敵を数えて)
あか、きぃ、あお、みどり!(やっつける)

邪悪な部分を取り除き、カラフルゼリーにしてあげる
食べられるかなっ、美味しいかなっ!



 ぷよん。ぷよん。ぽよよん。

 色彩豊かな半透明がぽてりぽてり、見た目カラフルなくずもちかゼリーな体を弾ませながら辺りいっぱいにあらわれた。
 水に濡れてつややかさを増すまんまるフォルムの大群は猟兵たちを見つけると、一般的なサイズの人が余裕でクッションできる質量を、ぷるるん♪と体を震わせる。
「まぁ、貴方達も踊るのね」
 何体かが身体をひねったり上下に揺れたりするのを見て朗らかな声を上げたのは、ニコリネ・ユーリカ(花売り娘・f02123)。
 何体かがそろって同じ動きをしたり、岩の上下で交互に弾んだり。何匹かはそろって整列し、何引きかは岩場をお立ち台にしてクルクルぽよん。ホップ、ステップ、ローリング――いかにもご機嫌な動きのカラフルゼリーが見ている者を注目させんとするように、とにかく変幻自在に踊っている。
 なんて可愛いぷるぷるダンス。
「私も負けていられないわね!」
 つるつるの岩場の上は足を取られて転倒しないよう注意しながらも、確実に接近してゆく歩調はシーウォーク。軽やかなスキップにも似た細やかな足どりで近づきながら、ぷるぷるたちの刻むリズムに合わせて乗ってゆく。
 軸足の足裏だけを地についたスムーズな移動から、かかとを引き寄せ一回転ターン!
 気づけば負けじと揺れるドロゥプスたちとニコリネの、同じ岩盤の上でのダンス・バトル・ステージが始まっていた。

 そんな状況を見つけて様子をうかがっていたのは、同じくオブリビオンを退治するためにこの岩場に訪れた猟兵の一人、ベリオノーラ・アンフォール(キマイラの精霊術士・f08746)。
 まるでバランスボールのようにリズミカルに弾む半透明モンスターと、その光景に溶け込んで生き生きと踊る金髪の女性の様子を見ていると、襲われて苦戦していやしないかという懸念が手を離した風船のようにふんわり飛んでいった。
 あのぷるぷることドロゥプス、きゃるんと全方位どの角度から見ても愛くるしい外見をしているが、だがしかし……ああ見えて未来を蝕む過去の残滓。紛うかたなきオブリビオンだ。無害そうだからというだけでこのまま放置してはいられない。
 これからの季節にぴったりな涼し気ボディに誘われて、一般の方に被害が出てしまうかもしれない
 ――そう! ときめきや愛らしさで水辺から離れられなくなってしまうかもしれない。ぷるるんとしたボディの触れごこちや温度に魅了されて、ひと夏と共に現実が終わってしまうかもしれないのだ。今のうちに前に何とかするのが最善だ。そもそもソレらはただ在ることが脅威であるのだから仕方ない。
 ……もう一度、盤上の様子を伺った。
 視線の先にいるモンスターたちは踊っているばかりで直接的な攻撃はしていない。攻撃的な行動に出る気配もない。
 であれば、前線で戦っている女性が維持できるようにフォローすれば戦況の利が敵に傾く事はないだろう。
 そう判断したベリオノーラは意識を集中し、周囲に祈りの呼びかけを始めた。



 ニコリネの歌に合わせて、ひらひらと花が舞う。
 ぷるぷるたちの踊りに合わせて、ぱらぱらと水が散る。
 ダンスオンザ岩盤with清水――そこで猟兵とオブリビオンはまるで呼応しあうかのように機敏な舞いを見せていた。
 複雑な足遣いのシャッフルダンス。刻みつづけるリズムはいっこうに速度を落とさないまま右足、左足、一回転――。
 そこで絶えないスマイルから、モンスターへ送るウィンクひとつプレゼント。虚をつかれて、ぱちくりまたたくゼリーボディのまあるい瞳。
「ひぃ、ふぅ、みぃ、よーぉ!」
 四拍子の一小節にあわせて、端から一体ずつシャッター棒で指し示し。
「あか、きぃ、あお、みどり!」
 次の一小節で一体ずつに降り注いだのは、ぷるぷるたちに負けない七色の光。オブリビオンに向かって架かった未来への虹!
 ――邪悪な部分を取り除いて、カラフルゼリーにしてあげる!
 すっかり踊るリズムにノリノリだったぷるぷるは、リズムから外れて回避なんてとうていできなかった。ニコリネが抱く希望の心に存在の過去の部分を溶かされて、しゅわしゅわとソーダのように爽やかな音の泡をたて……それこそ固まりかけのゼリーのように、あかあおきいろみどりは、ほろりと崩れて動かなくなった。
 まずは四体。しかし、まだまだおびただしい数のオブリビオンがいる。
「食べられるかなっ、美味しいかなっ!」
 にもかかわらず残ったゼラチン質を見たニコリネからそんな歌が出てきているのは、息切れも体力の低下も感じていなかったからだろう。
 消耗したぶんの体力を補うものが、確実にある事は踊りながらも感じていた。

 一羽、二羽、四羽、八羽――羽ばたく音が響きだす。光る鳥が飛び立ち始める。
 周囲の石が輝くや、鳥へと姿を変えていっていた。
 増えてゆく鳥の中心には白いローブをまとう女性、ベリオノーラが立っている。
 少しばかり自らの力を削るけれど、その鳥は他者を癒すもの。ベリオノーラの力が同じ場に訪れている猟兵の――ニコリネの疲労を癒し、動き続けることを可能としていた。
 ――――どうか、誰も傷つくことのない安らぎある世界を……。
 詠唱が、周囲にちらばる無機質を羽ばたく光に変えてゆく。
 光鳥のもつ力はオブリビオンによって何らかの傷をもたらされた時、心強い癒しになるだろう。
 もちろん誰にも怪我はないほうがいいし、そうであればベリオノーラの負担もないのだけれど。それはそれとして。
「油断は禁物、ですね」
 独白とも、誰かに向けたともつかない声は周囲の岩場の様子をよく見たゆえのものだ。溶岩質のざらついた石は足場を安定させるけど触れたら痛く、つるつるの石は撫でごこちはいいけど水に濡れると滑りやすい。
 もしも足の踏み場をあやまったら。こけてしまったが最後、しばらくひりひりと赤い肌をさらすことになってしまう……そんな事態、できればやっぱり避けたいものだから。
 訪れる猟兵の気配を背中に覚えてはふわり、鳥がまた一羽。
 その輝きは何らかの傷を受けたときは勿論、何かのはずみで盛大に転んでしまった時にも心強い癒しになるだろう。

 ぷるりぷるるん、ぷるぷるりん。
 半透明の菓子みたいなオブリビオンは、まだまだそこに数えきれないほどいる。
 けれど今に巣食って未来を食む過去たちは、少しずつだが確実に光に変わっていっていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロリーナ・シャティ
【要晶】
か、可愛い…の?
よく、わからない
イーナ、自分の感覚に自信がなくて
自分の、事なのに

オブリビオンは、倒さなくちゃ
馬鹿って解ってる自分で
それだけで頭の中の『忘れない事ゾーン』みたいなのは一杯なの

「えと、足元気を付けて…」
もう独り言なのか話しかけてるのかもわかんない
濡れた足場…きっと滑っちゃう
敵の情報は、グリモア猟兵さんから聞いてる
ええと、じゃあ…うーん…
「そう、だっ」
UC発動
実際の足場よりちょっと高い所に鎧をいっぱい出して、足場にする
イーナより上手に戦う人の事は沢山見てきた
忘れても『忘れ切れない』くらい
思い出すの、あの人達みたいに…そう、踊る様に、斬る
「ラパンス、行こうっ」
珂奈芽さん見てて!


草守・珂奈芽
【要晶】
「めんこい…けどこれもオブリビオン、なんだよねえ」
呼び出した精霊さんたちとも仲良くしてるしやりづらいのさ。
おお、神通力でつついても柔らかさが伝わる…恐るべし。
ロリーナちゃんも可愛すぎて悩んでるし。それなまら分かるー。(勘違い)

気を取り直して…精霊さん達と神通力で敵を〈捕縛〉!
「ロリーナちゃん、足場さんきゅー!安心して戦わせてもらうよ!」
ロリーナちゃんが頑張るなら、それをバッチリサポートするのさ!
…殴っても負ける気がするし!いろんな意味で!
攻撃さ当たるよう逃がしは…しないけど、押さえ込むたびひしゃげてるのもめんこいのはずるいぞー!?
「いっけー!(わたしが挫ける前に)一気に決めちゃえー!」



「めんこい…けどこれもオブリビオン、なんだよねえ」
 カラフルなゼリーよろしくぷるんぷるんしている群れを見つめて、草守・珂奈芽(小さな要石・f24296)が吐息をひとつ。
 滲み出した過去。現在を食らい未来を断つ――それがオブリビオン、猟兵が退治すべき確固たる敵。
 だというのに。困ったことにこの球体(一部とんがり)、見た目からして癒し系なのだ。
 まず呼び出した精霊たちに対する愛想のよさがすごい。ぽよぽよと流体ボディランゲージをするモンスターに、見えない精霊たちが半透明ぷるるん系軟体にタッチして揺らしたりしてすっかり仲良しだ。別の戦場とおぼしき方から聞こえてくる歌声に乗って揺れ動いたりしていて、とにかくその動きが全体的にプリティでキュート。何とあざとい生き物なのだろう。
 ため息まじりな珂奈芽の一方で、彼女の感想を聞いたロリーナ・シャティ(偽りのエルシー・f21339)は悩んでいた。
(か、可愛い……の?)
 このまるくて部分的にとんがった生き物は、かわいい。とあらわされているのだが。
(イーナ、自分の感覚に自信がなくて……)
 判断をつけあぐねて「そうだね」とも「そうかな」とも言えずにいた。
 自分が感じているものは真実そう思っているものなのか。感情が実感に乏しいのは抑制されているのか、もともと起伏が少ないからか。
 よく、わからない。それが、現状のロリーナに出せる結論。
 自分の、事なのに――自分の心の真実がどうなっているのかを結論づけるには、彼の持つ情報は多くない。あるいは、こぼれ落ちる記憶が確信を遠ざけているのか。
 そんな不安を抱いているロリーナに、珂奈芽はひっそりと悩んでいるのを察していた。
(ロリーナちゃんも可愛すぎて悩んでるし。それなまら分かるー)
 正しく察せてはいなかった。大変ポジティブで微笑ましい勘違いだった。
 かわいさについて悩んでいるという点は一緒なので、広義では二人の心は一つとも言えた。
「と、とりあえず、ちゃちゃっと始めちゃうのさっ!」
 気持ちの切り替えも兼ねて声を上げた珂奈芽。ロリーナもそれに小さくうなずく。
(オブリビオンは、倒さなくちゃ)
 すぐに忘れてしまう自分を馬鹿だと思うロリーナは、それでもオブリビオンが倒すべき敵だという事は『忘れない事ゾーン』に――しっかりと記憶を維持できる領域に、刻んでいる。
 忘れないと決まっているものはきっと、どうしたってロリーナにとって変えがたいものだ。
 お互いの意図したこととは違ったが、その結果二人とも敵に勇む心構えが決まった。
「気を取り直して……〈捕縛〉!」
 ぷにぷにしたものたちとたわむれる精霊達に呼びかけ、そして珂奈芽が持つ神通力を手繰り――遠方にいる何匹かの雫型の生き物がえもいわれぬ声をあげて、その場でぐにょんと潰れてぺっちゃんこになった。
「お、おお……」
 いろんな意味で敵の反応にほんのり動揺を見せた珂奈芽と。
「えと、足元気を付けて……」
 半ば独白のように呟いたロリーナ。
 少女が敵のめんこさに翻弄されている間に、少年は熟考ながら臨戦に意識が移行しつつあった。形状的な意味でたいへんなことになっている敵を油断なく見つめ、地形を見つめ少し考える。
 岩場にはざらついた場所と、念入りにやすりがけしたような場所がある。二人の場合は要注意なのは後者で、ここに踏み込んだらきっと足を滑らせてしまう。
「そう、だっ」
 だったら、とロリーナは己が力を練り上げる。
 ――ユーベルコード、発動。
 通常は身にまとうものとして使われる事の多い鎧だが、この場では濡れて滑る岩場を踏まなくて済むよう足場としての具現化をこころみた。
 そうして地面より高い所に生まれる全身鎧は、ふたつ、みっつ、よっつと増えて――やがて開けた岩場より一段高くに、鎧で組まれた足場ができあがった。
「ロリーナちゃんさんきゅー! 安心して戦わせてもらうよ!」
 珂奈芽は屈託のない声を響かせて、敵陣を見渡すため一歩を進み出る。
 ロリーナも置いてはゆかれない。手に握るのは長柄武器。少女に並ぶようにして進み出て、いざ押さえこまれたオブリビオンたちの元へ。
 引っ込み思案で物静かな少年に、時に空回りしながらもはつらつと払拭する少女。どこかちぐはぐな二人のクリスタリアンは、けれど二人で戦いに挑むことに不安を感じてはいなかった。



(神通力でつついても柔らかさが伝わる……恐るべし)
 押さえこんでいる柔軟モンスターの感触が、直接さわったわけじゃないのにわかる。
 伸び具合、沈み具合、震えの小刻みさ。どれをとっても心地のよい感触が想像できる――珂奈芽は内心では戦慄していた。
 それに。
(押さえ込むたびにひしゃげてるのまで、めんこいのはずるいぞー!?)
 ぺしゃんと潰されたときに余ったところがはみ出てるのまでぷるんと弾力をもってる姿が何かめんこい。そこにおめめが寄っていって周囲に助けてアピールするのとかもめんこい。こんなのまるで、めんこいのバーゲンセールだ。
 こんなの殴ったら、色んな意味で負けてしまう気がする――そう、直感が告げていた。
 そんな珂奈芽の横でロリーナはといえば、どんなふうに戦うかで頭がいっぱいになっていた。
 視界ではドロゥプスたちは束縛を逃れるために様々な手を尽くす。
 頭のてっぺんのツノをしぴぴっと震わせ回転し、全身をひねって縦長の螺旋状に形状変化。かと思えばくびれをつくってヒョウタンのような形になってみたり、ぶるぶると表面を波立たせて動くオブジェみたいになってみたりと、不定形ボディのなんと器用なことか。
 思考にめぐらせるのはこれまで見て来た他の人の戦い方。
(イーナより上手に戦う人の事は沢山見てきた……忘れても『忘れ切れない』くらい)
 踊るような動きをしているオブリビオンを湖水の深みのような緑で見つめて思い描く情景は、その中を動く“誰か”の姿。
 一人ではない。記憶に残る一人ひとりの姿を、動きを、戦い方の数々を。
 重ねては繋ぐように、そう。そして――。
「ラパンス、行こうっ」
 つかんだ――そう感じた。
(珂奈芽さん、見てて!)
 声にした名は、兎の耳のような二又の刀身の長柄武器。浮かんだのは同じ戦場にいる少女の名。回想でたどった感覚をなぞりながら宝石の穂先を構える。
「いっけー! 一気に決めちゃえー!」
 わたしが挫ける前に! なんて思惑を言外に秘めた掛け声は、少女より一歩先に踏み出したロリーナの背中を押した。
 足場となった鎧の側面を蹴って、敵たちとの距離を一直線に詰めて――。
 ――踊る様に、斬る。
 ざらついた岩場に、ひねりを加えて着地しながら。
 逆回転に踏み込んで。
 両足を交互に軸にして回りながら。
 緩急をつけて大振りに回した武器で。
 極めた武芸は舞うようだとは誰が言い出したことか。呼吸に合わせた攻防の挙動は効率と不意打ちを兼ね備えて踊っているかのようだった。モンスターのリズムに合わせた呼吸は相手の次の動きを読みやすく、封じやすくした。
 まるい輪郭に次々と入った切断線からその半身がつるりと割れていっていたけど、その事に他のぷるぷるが気づく頃にはロリーナが次のワルツの相手を選んでいる。
 こりゃあたまらんとばかり逃げ出そうとしたのも何体かいたが、珂奈芽もそれを見逃すほど甘くはない。神通力で引き留め、姿を見せない精霊たちが行く手をひそかに阻んだ。
 もう、そこにいるモンスターに逃げ場はなくなっていた。

 ――しゅわあ、と。
 ソーダの泡のように儚く立ち昇って、消えてくゼリーはあと何匹か。 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

祝聖嬢・ティファーナ
WIZで判定を
※アドリブ歓迎

ドロゥプスを見て「オブリビオンでは無く自然な存在なら良かったのに…☆彡」と呟いて『フェアリーランド』の壺の中から風の精霊・聖霊・月霊を呼んで猟兵にも“七色こんぺいとう”を配って『クリスタライズ』で姿を隠して『エレメンタル・ピクシィーズ』で属性攻撃を『神罰の聖矢』で聖攻撃もらいます仕掛けます♪
敵の攻撃は『月世界の英霊』で空間飛翔して避けて敵のUCを『月霊覚醒』で封印/弱体化させます☆彡
『聖精月天飛翔』でWIZを強化して『叡智富める精霊』+『神聖天罰刺突』で苛烈な猛攻を仕掛けます!

「自然を害さないでね♪」と「歌唱や舞踏で“自然な花園”へ還してあげるからね☆彡」


アウロア・ラスヴェート
※アドリブ、他者さんとの絡み大歓迎

ふふ、可愛い子達ね。
それでも…敵なのよねぇ。

気合いを入れていかないとね。

…と言っても、私自身は攻撃手段を持っていないから、困ったわ。

しかも、この子達とは戦闘での相性も悪いみたい。

なら、戦場全体に私の歌を響かせるしかないわよね…!

【歌魔法:サウンド・オブ・パワー使用】
この場に居る全員の能力の底上げに徹する!

眠気なんかに負けるもんですか!

私ひとりきりじゃ無理な事なら、私の歌を変換し「皆が活きる力」になってやるわ!

勇猛果敢に…戦意を損なわない様に…活力が泉の様に湧き出す歌を…!
数曲の混合編成で、戦闘が終わるまで歌い続けていくわ。

貴方達…
今度は碧い海の底で、静かにね…



「ふふ、可愛い子達ね」
 形のよいカラフルなわらび餅を手あたり次第にもりつけたみたいな光景になっている岩場一帯を見渡して、アウロア・ラスヴェート(シンフォニア・f16546)は胸に沸いた素直な感想をこぼす。
「それでも……敵なのよねぇ」
 抗いようのない運命というものはある。可愛らしさがどれだけ天元突破していようとも、現在を喰らうオブリビオンを放っておくという選択肢はない。
「オブリビオンでは無く自然な存在なら良かったのに…☆彡」
同じ場に居あわせた祝聖嬢・ティファーナ(フェアリーの聖者×精霊術士【聖霊術士】・f02580)もまた、アウロアの言葉に続くように呟いた。
 オブリビオンでなければ依頼が回ってくる事もなかったが、それでもただのモンスターであったら追い出すぐらいで済ませられたかもと考えたりしないでもない。言っても詮ない事だ。
「精霊、聖霊、英霊、月霊よ……出番だよ☆彡」
 先に動き出したのはティファーナの方だった。
 手にした壺はフェアリーランド、呼びかけはそこにいた精霊たちに向けたもの。四大属性に光に聖属、そして月の精霊たちはそれぞれ姿を見せてティファーナのまわりにそろい立った。
 フェアリーが精霊たちと話しながら配ったのは、ドロゥプスにも負けない色と数のお菓子。てのひらサイズの星のような七色のこんぺいとうが、フェアリーたちの小さな手に手渡されてゆく。
「あら、有難う」
 精霊達に行き渡ると、フェアリーが持ち出した色とりどりの砂糖の星は、他の猟兵たちの手元にも配られる。それを手のひらに受け取ると、アウロアはあでやかな笑顔で礼の言葉を告げた。
 受け取った菓子を眺めてからティファーナを向いた時にはもうフェアリーと精霊たちの姿が見えず、一足先に戦場に向かったのだとわかった。
 ティファーナから渡された、目の届く全員の猟兵にくばったらしい砂糖菓子をしばし見つめる。
 このこんぺいとうを頂くのは、目の前の可愛らしい敵を退治した後になるだろう。思いきり心のままに歌った後は、きっとその甘さは優しく身に染みわたるだろうから――後の楽しみとなった菓子をそっとしまうと、胸を張って息を吸う。
(気合を入れていかないとね)
 ひらけた空間に、力強い歌声が響き渡った。

 ●

 身体を楽器に奏でられる旋律が辺りに満ちてゆく。
 ぷるぷるオブリビオンのひなたぼっこスペースだった岩場の一角は、何処からか飛び交いだした光鳥の姿とあわさって勇ましくも幻想的な舞台に一転した。
 静謐ばかりだった空気の波長はすべて歌の魔法に揺らされて、周囲に広がる水も波うつかのよう。ぷるぷるは音に驚いたのか、何が起きたのかを確かめるように、あっちこっちを飛び跳ねだした。
「歌い、踊り、唄い、舞踏れ♪」
 どこからともなく響いた幼さの残る声は、アウロアの歌に調和しながら無数の魔力の矢と共に降りそそぐ。
 ――素ノ源ヨリ来タレリ。
 えっちらおっちら逃げまどうドロゥプスたちの上で舞い踊る、水晶のように透きとおって姿を隠したままのティファーナ。それからティファーナが呼びだした精霊、聖霊、そして月霊。
「精霊、聖霊、英霊、月霊よ、叡智と膂力を示せ!☆」
 きらきらと輝く精霊たちの力が各属性の力をぷるぷる一面に放ってゆく。範囲が広い。
 風にふかれて表面が乾いてすりガラスのようになり、火にあぶられてちょっと焦げ、水を吸ってぷっくりとして動けなくなり、岩にはさまって抜けなくなった。
 光に照らされ乱反射すると行き先は見えなくなっちゃうし、闇の中も前が見えなくなっちゃうしで岩場の上のぷるぷるは有象無象の右往左往。
 けれどティファーナの取る手は続く――ひとかたまりになっているモンスターの一群を指さしてそこに落ちるは神罰の聖矢。
 一匹一匹を無数の聖なる矢に貫かれていくぷるぷるモンスターの姿はまるで、つまようじが突き立てられた玉ようかんのようだった。

 しかし、オブリビオンも黙ってやられようとするわけがない。
 フェアリーの姿は見えなかったが、一面に届く歌唱の歌い手の姿は声を頼りに見つけることができた。
 ようやく――見つけた歌声の主の姿に顔をむけて、ぱっちりおめめをキュッと弓なりにした。
 まんまるについている顔らしいパーツは目だけなのに、なぜかスマイルだとわかってしまう――そんなぽよぽよした不思議な笑顔。もしも無防備に見ていたら、心までふにっとまあるくされて休息モードに持ち込まれてしまっていたかもしれない。
 だが、そうはならなかった。
「月は眼醒めた……其の総ては庇護と加護と祝福を絶たれる☆」
 ティファーナが呼びかけるや月霊は月齢さまざまな“月”を呼び出し、スマイルスライムにその光を放ったのだ。
 笑顔になっていたぷるぷるフェイスは夜を思わせるけど結構強い光にびっくりして、おめめをしぱぱっとまたたいた。無意識に行使されているスマイルパワーは月霊の月光によってほどかれ、モンスター自身の戦意も削がれてしまっていた。
 加えて、アウロアの力強い歌声が今もなお心躍らせる旋律を唄うことで覚醒をもたらしていたのも外せない。
 歌魔法――サウンド・オブ・パワー。
 攻撃の手段をもっておらず、直接的に戦うにも相性が悪い。そう考えたアウロアは前戦に立つ者の鼓舞に専念していた。
 武器とは形あるものや、みずからの手に握るものばかりではない。聴く者の心を揺らし影響を与える歌こそが武器であり、それはアウロアが歌姫たる所以でもあった。
 眠気なんかに負けるものかと自分自身も奮い立たせながらの熱唱は曲を変え拍子を変えて今なお続き、戦いが続くまで終わる予定はない……聴けば動きたく、前に進みたくたくなる歌は、聞くものに眠る時間すらもったいないと思わせるほどに強かった。
 眩しいほどのあまたの月と、眠る暇なんてないと思えるほど心弾む音楽。眠気を封じる対策が二人がかりで取られてしまえば、かわいいスマイルはかわいいスマイル以上になることはできないのだ。
 もう笑顔に眠気をもたらされる心配はない。
 間違いなく、今が好機だ。
「神罰なる天罰の刺突を!☆彡」
 ティファーナの号令で、モンスターたちを貫いた光に加えて降り注いだ貫通武器。
「“自然な花園”へ還してあげるからね☆彡」
 つまようじが大量の竹串に進化したかのような――そんな光景に変わってハリネズミみたいになってしまったオブリビオンは。
 神罰の光が薄れたときには、すっかり虹色のクラッシュゼリーのように砕け散って、岩盤の上で輝いていた。
 


 戦場だった場所は気づけば静かになって、また水のせせらぎの音が強く耳に届くようになっていた。
「貴方達……。今度は碧い海の底で、静かにね……」
 たぷりとゆれた透きとおりボディが今や細やかな灰のようになってさらさらと流れてゆくところに、そっと送られたアウロアのささやきは先ほどまでの歌の印象を忘れさせるほど優しい。
 今ここにあるのは花弁を運ぶ碧色の水源だけど。もしも骸の海もそんな場所であったら、そこはたゆたう過去の癒しになるだろうか。
 フェアリーに貰ったこんぺいとうを指先で弄びつつ少し考えて……ふとアウロアが口ずさみ始めたのは穏やかな音階、ゆるやかな旋律。
 それが夜想曲か子守歌か、はたまた彼女の即興なのか。
 知っているのは今のところ、虹色の髪の歌姫だけ。

 この周辺はまた、一般の人が安心して訪れられるようになるだろう。過去には一旦お引き取り頂いて、現在に生きる人々の生活を支える水辺に戻るのだ。
 この岩場ににじみ出た過去の群れは、猟兵たちによって全て骸の海へと還された。
 そこで退治されたドロゥプスたちが消えきるまで陽の光にキラキラ輝いていた七色の残骸は、それはそれはキレイだったという――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『洞窟涼み』

POW   :    細かいことは気にしないで涼む。

SPD   :    光源を集めたりしてみる。

WIZ   :    水に足を浸してみたりする。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 街人たちのひそかな憩いの場。
 その付近にたむろしていたモンスターたちは無事に猟兵たちの活躍によって退治されたので、依頼の報酬がわりに一晩、その場所に立ち入ってのんびり過ごしていいという手はずになった。

 その場所というのは岩肌を貫通させたような洞窟。
 山頂から雪解け水が通り抜けてく場所のひとつで、水流によって長い年月をかけて削られてできたとみられている。
 入口はゆるやかで広く、奥に行くほど上ってゆく傾斜がある。さらに深く進んでゆくとだんだんと幅が狭くなって、花の群生の行き止まりにいきつくということだ。
 流水によってできた場所で今もくぼみなどには水が中を通っていっているのだが、それほど急な流れではない。また、どこも幅がせまく浅いので水に入っても流される心配はないだろう。
 流水は澄んでいるが、その流れには群生地から流れてくる花びらが散っているから誤って足を踏み入れる……という事もそう多くはないはず。
 洞窟の中でも危険な場所は景観を崩さないようにふさがれているから、出られなくなるようなところに迷い込む恐れもない。

 なぜ解放が夜なのかといえば、その時間帯が一番の“見ごろ”だからだろう。
 日没を迎えると花はぼんやりと青白い光をともし始めて、次の日の出までそれを見続けられる。光っている間は香りが強くなるのもその花の特徴で、甘さのなかに清涼感のある芳香で洞窟の中は満たされる。そして花に似た光を翅に持つ蝶が花に集まってきて、花の群生地は光がささなくても満月に照らされたときのような明るさになる――。

 この場所で気をつけて欲しい、と言われているのは。
 根づいている花にはさわらないこと。
 蝶が傷つく事はしないこと。
 水をひどく汚したり洞窟の形を変えるような行為はしないこと。
 それから、持ってきた物はちゃんと持ち帰ること。
 だいたい公序良俗を守れれば何かを持ち込んでもいいし飲食をしても大丈夫。水に流れている花弁は拾い集めても大丈夫だし、蝶は後で傷つけずに放せるならカゴに入れたりしてもいいし、水を口にしてもいい。
 水も空気も今の季節にしてはひんやりとしているから、人によっては少し肌寒いかもしれない。壁面に水がつたっていて水が垂れてくることもあるから気になる人は何か羽織ったり、濡れてもいい格好をしたり、水をしのげるものを持ってくるといいだろう。

 水の音が響く洞窟に訪れた猟兵たちは、季節の熱が遠いこの場所でどのように過ごして行くのだろう?



 洞窟の外は月あかり、洞窟の中は花あかり。夜間、日常の3章です。
 こちらの章だけのご参加も歓迎しております。
 POW/SPD/WIZは参考程度に、お好みのかたちでお過ごしください。
(プレイングは8月9日(日)10時以降に送信いただけるよう、ご協力をお願いいたします)
逆戟・イサナ
他の猟兵サンらのように
護る仕事を務めた訳でもないが
珍しい水辺を堪能できるとあらば、
お邪魔させてもらうとするかねェ

光る花びらが流れて行き着く果ての洞窟、か
コレもある意味では花畑と呼べるのかねェ?
響く水音に、光る花弁の薫り……夢ン中に居るようだな
こういう景色の中で終わりを迎えるなら、
次は花になってみるのも悪くないかもしれん
……なんてな。半分くらいは戯言だ

昔のことなんざ覚えちゃいないが
こんな景色を知っていたなら
忘れ得ぬ記憶にもなりそうだが……
ま、これから新しく知れるものが
多いと思えば良いってことかね
……美しい世界があったもんだなァ


アドリブも歓迎です



 洞の中ほどで足を止めれば、その背で束ねた紫の糸がさらりと流れる――草履で地盤を踏みしめるのは、逆戟・イサナ(渡し守・f28964)。
 この場所が今宵のみ猟兵たちに貸し切りにされる理由となった一連に、イサナは関わっていなかった。しかし今回その物事に関わらなかった者が訪れても問題はないと、誘いをかけたグリモア猟兵本人が説明していたのだし気後れする理由もないだろう。
 珍しい水辺を堪能できるのならば……と、誘いの声に乗ったのは正解だったと言えた。
 岩の洞を細く流れる清水に乗って流れるのは、清涼さの香る青白い光。それはこの場所を通り過ぎ、あるいは流れつく無数の花弁が灯した花明かり。
 これも、ある意味では花畑と呼べるだろうか――目にした事のなかった光景を意識に映し込み、浅い窪に腰かける。まばらに仄青いともしびを散らす光源を見回した。
 静寂を堪能していればせせらぎの音が絶えず、時おりぴたりと重なる水滴の着水が不規則の時間を奏でる。細く長い空間に反響してこもる共鳴の、柔らかな振動を硬質の岩盤が素直に通してくる。隙間を抜ける夜風が温度をさらうかわりに花の芳香を運んで来た。
(――夢ン中に居るようだな)
 そんな感想が自然と浮かんだのは、人の気配からも喧噪からも遠い空間だからだろうか。それとも居心地のよさを覚えながらも、水の中に魚などの気配が薄いせいか。答える者はなく、返るのは川辺にたゆたう錯覚を与えるような流水のしらべばかり。澄ませられる五感を、この場所は静かに撫でて行く。
「こういう景色の中で終わりを迎えるなら、次は花になってみるのも悪くないかもしれん……なんてな」
 軽い語調で〆た独白の半分は戯言だ。
 昔の事などは覚えていない。自身がどのような存在かは漠然と知れたとしても、みずからの本来の姿は思い出せていない。或いは本当に花だったとしても、少なくとも今はそれを確信するに足るものは持ちあわせがなかった。
 見るだに夢のようなこの場所を知っていたなら、今でも忘れえぬものになりそうなものだが、と――欠け落ちた記憶に少しばかり感慨めいた心地を抱いたものの、それで思考は一旦中断する。
(ま、これから新しく知れるものが、多いと思えば良いってことかね)
 そうして悲観から遠い思惑が浮き上がり、吹き抜ける風の反響にほどけていった。
 知らないというのはそれだけ目に映るものが真新しいということであり、知らぬものの数だけまだ見ぬ未知の驚きが待ち構えているということだ。
 世界とは清濁を合わせ持つのが常なれども。忘れられない記憶が今宵のようなもので連ねられてゆくのであれば、忘却したという事実も悪くない事のように思える。
 なだらかに光流れる水面へと視線を移す。煙管を持つ手を足に預けて感嘆の吐息をひとつ。
「……美しい世界があったもんだなァ」
 そう呟いた口角が持ち上がる。烏羽玉の瞳が細まって、無意識のうちに緩んだ。
 これから新しい物をたくさん目にすることになるだろう。今宵に感じた感嘆を、それを凌駕する驚きを今後に幾度となく巡り合う事となるかもしれない。そして、それもこれも何れ知って行ける事だ。
 何はともあれ、夢見の夜はまだこれから。
 今宵は渡し守ではなく、ただこの場所の来訪者の一人として。今しばし、イサナはこの景色に心身を落ち着けてゆくことにした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニコリネ・ユーリカ
現地の人が折角教えてくれた憩いの場所
彼等を不快にさせないよう約束を守って
有難く魔物退治のご褒美を受け取りましょう

和更紗の大判ストールを羽織って散策
ここでしか見られない景色を愉しみ
UDCアースでは見かけない花を具に観察
此処のお花が綺麗なのは水が澄んでいるからかしら
すこうし口に含んで、透き通ったお味から勉強
うちのお店も水の品質を考えたいわねぇ

……ぴゃっ!
水滴が額に触れてビックリ
そうだった、おでこを守ってなかった
これだからデコリネって言われるのよ(ゴシゴシ

素敵な冒険の思い出に水に流れる花を拾い集めて
後でハーバリウムを作りましょう
ここでしか見られない花の彩を閉じ込めて
掛け替えのない宝物になりますように


ベリオノーラ・アンフォール
みなさん、お疲れさまでした。
これでしばらくは水源の周りの安全も確保されたのではないでしょうか。

それにしてもこの場所は聞いていたとおり、本当に綺麗な場所ですね。
普段に比べると多くは消耗していませんが、少し身体を休まさせてもらいましょう。
ここには他の猟兵の方もいらしていますし、どんなことをなされているのか少し眺めさせていただこうと思います。

少し水に浸かりすぎたのか身体が冷えてきましたね・・・。
ちょうどお腹も空いてきましたので、トランクからココアとスティッククッキー、それと以前この世界のベリーで作ったジャムを出して一息いれましょうか。
精霊さん、ごめんなさい。少しココアを温めてくれませんか?



 現地の人々の憩いの空間を、今宵だけは貸し切りで過ごさせて貰えることになった――そう呼びかけを受けて訪れた一人は、ニコリネ・ユーリカ(花売り娘・f02123)。
 難なく歩むには少し光量は頼りないけれど、他の光を持ち込まねばならないほど暗くもない。この場所を壊さぬようにと心がけながら進みやがて、傾斜の控えめな場所で足を止めた。
 少し肌寒いほどの温度を保つこの場所で、肩を冷やさぬように包むのは大判の和更紗。布の合わせを整え、軽く羽織りなおした――落ち着いた彩度で描かれた文様は、花びらの淡い光でぼんやりと浮かんでまた風情をかもしている。
 仕事に参加していなくても過ごせるけれど、実際に仕事に参加した彼女には、この場所で過ごす時間はご褒美といって差し支えないものだった。

 薄青い光を絶えず灯す花びらは夜光虫にも似て、しかし明滅しない光は後から絶えず流れてゆく。花売りをしているニコリネの意識が花の生態に向くのは、ごく自然な事だっただろう。
 環境が異なるせいか世界の基盤の違いなのか、この光る花と同じものは普段すごしているUDCアースでは見かけない。似た花の存在は探せばあるのかもしれないが、実際に目にした事は少なくとも今のところなかった。
 ――此処のお花が綺麗なのは、水が澄んでいるからかしら?
 透明感ある空気は文明の違いか、はたまた地質のせいか。真昼には空を映して青く見える流水も、手にすくい取った水は当然のように濁りのない無色。ニコリネはそれを少しだけ、口へと寄せて流しこむ。
「うちのお店も、水の品質を考えたいわねぇ」
 硬水のわずかな重さと透き通った味わいを覚えながら、どうしようかしらと岩で閉ざされた天井に視線を上げ――……。
「ぴゃっ!」
 上を向いた瞬間、額に滴る冷たい温度に小さな悲鳴を上げた。
 ――そうだった、おでこを守ってなかった。
 真夏の熱との無縁さに気をとられていた事をしみじみと痛感しつつ、前髪からさらされた額の雫を手の甲でぬぐいとる。
「これだからデコリネって言われるのよ」
 誰かに向けてこぼしたわけでもなかったけど、何とはなし気恥ずかしさを感じて独りごちた。また顔面に水が当たらないように、視線をまた水面に下ろす。
 水面では相変わらず、花が流れ続けていた。
 幾つかの小さな茎に束なった花が流れていることもあれば、花びらだけが点々と水上を染めるように転がっていることもある。ある花は一輪だけで小舟のように真上を向いて泳いでいた。
 まだ雫の名残に濡れた指を水に乗る花へと伸ばすと、ニコリネは一輪ずつ、ひとふさずつ、丁寧に花を集めだした。
 流れつく花で、ハーバリウムを作ろうと思ったのだ。昼夜で表情を変える花は、この地に至るまでの心躍る冒険を想い出すしるべとなるだろうから。
 この花も、その記憶も、かけがえのない宝物になるように、と――。

 ……やがて、透明な器の中で時を留めた彩花の標本ができあがった時。
 その花びらが思い出したように光る様子を花売りは目にする事となるのだが、それはもう少し後のこと。



 そんなニコリネの様子を、距離のあいたところから何とはなしに眺めていた者があった。
 その者はベリオノーラ・アンフォール(キマイラの精霊術士・f08746)、彼女もまた魔物退治に参加していた一人だ。
 驚くような声が聞こえたのが、身体を休めてゆこうと洞窟に進もうとした時のこと。何かあったかと様子を伺いに来てみると、そこに他の来訪者の姿があったのだった。
 とはいえ女性を見つけたころには落ち着いた様子で花を集めていたから、その作業を見守るにとどめて場を離れ――大きな水の溜まりを見つけて、手にしていたトランクを傍らに降ろした。
(みなさん、お疲れさまでした)
 ねぎらいは誰かに直接伝えてこそいなかったが、魔物の退治に参加した人々には共通した思いだっただろう。
 これで、しばらくはこの水源の周囲の安全は確保される。襲撃の心配もなく後に何かを成すという気負いもない、まぎれもない安息の時間が訪れていた。
 水際に腰を下ろしてゆるやかな水流を眺めれば、石の層が模様を描く水底がそこにある。
 ブーツの編み上げを緩めて足先を解放すると、水面の温度を確かめるようにつま先で触れてみる。涼をもたらす風が知らせるとおり、やはり温度は今の季節には少し冷たいくらいだ。
 花びらの間を縫うように、足首から上までを水に沈めていった。
 さらさらと緩慢ながら流れつづける水は熱をさらってゆくけれど、痛みをもたらすほどではない。尽きることなく流れてくる花びらは時々ベリオノーラの足にまとわって、少しのあいだそのひざ下を仄明かりで飾ってはまた流れに乗って離れてゆく。
 しばらくそうして水の流れがもたらす景色や、抜ける風が岩壁を撫ぜて鳴らす独特の音色を楽しんでいた。

 ――ふと、軽く水中で揺らした足先に少しの鈍さをおぼえて、水にひたる時間が長くなってきていた事に気づく。
(……一息いれましょうか)
 ちょうどお腹も空いて来ていた所でもあったから、よい頃合いだろう。静かに足先を引き上げ、隣に置いていた年代物のトランクに手を伸ばした。
 あざやかな色のリボンが映える鞄を開く。そこから取り出してゆくのはココア、スティッククッキー、それからこの世界のある地で生産されている苺で作ったジャム。
 薄明かりでも冴える赤色が詰まった瓶と細長いクッキーを並べ、ココアの入った器を膝上に置く。両手で器を支えると、控えめな声量が周囲に囁きかける。
「精霊さん、ごめんなさい。少しココアを温めてくれませんか?」
 遠慮がちな願い出の直後に、火の粉の散るような小さな光のまたたきが数度――器を包んだ手に伝う穏やかな熱を雄弁な答えにして、精霊たちはその声が聴ける者のみに届く楽し気な笑み声を響かせる。
「ありがとうございます」
 願い出に応えた精霊へと緩む声で礼を告げ、水に流したのと同じだけの熱を口に運びだした。

 季節のもたらす暑さを忘れて、今しばらく甘さごと暖かさが全身へ広がる心地に身を浸す。
 ベリオノーラの手にする器が空になる頃、流れつく花びらはより光を増して彼女たちを照らしているだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロリーナ・シャティ
(参考シナリオID:12545(3章))
【要晶】
「う、うん、待って…!」
珂奈芽さんを出来るだけ早く追い掛ける
イーナ、鈍くさくてすぐ転ぶから…
いつもの事だし、転ぶならそれでもいいけど

「へ?」
何かあるんだっけ
グリモア猟兵さんの話はちゃんと聞いてたつもりだけど急に思い出そうとしても…
でも思い出す前に答えは出た
「わぁ…!」
綺麗
…ああ、そうだ
「珂奈芽さん」
首から外したペンダントの紐を持ったまま王冠型の飾りだけを水に沈めて、また持ち上げる
「フィオライト…水に濡れると光る石。初めての冒険で見つけたの」
王冠の中の玉は蒲公英色の光
「猟兵のお仕事、慣れた?」
大変だし、辛い事も沢山ある
だけどたまにはいいことがあるの


草守・珂奈芽
【要晶】
これくらいの水なら怖くない!今度は自信持ってリードするのさ!
「さーて、最後の冒険なのさっ!がんがんいこー!」
精霊さんの光で多少の暗さも段差も気にせず行くよー!

「ロリーナちゃん、このお花畑のこと知ってる?すごいんだよー」
突然誘ったから知らないよね?サプライズになったらいいな。
日が沈んできたら精霊さんは消灯。そうすれば、ほら。
「優しい光で綺麗だよね。それにちょうちょが来て…もっと明るくなるの」
寄り添えばもっと輝くなんてロマンチック。ロリーナちゃんの飾りもステキだなあ。
「うん。まだ戦うのは怖いときもあるけど…こんな冒険が出来るなら頑張れるよね!」
わたしももっと、ステキなものを見つけたいし!



 時は日没近く。

「さーて、最後の冒険なのさっ! がんがんいこー!」
 静寂の洞窟の入り口で響きわたる明るい声。声の主は意気揚々と片腕を振り上げ先陣きって進みだした少女、草守・珂奈芽(小さな要石・f24296)だ。
(これくらいの水なら怖くない! 今度は自信持ってリードするのさ!)
 二人とも泳ぐのは得意ではないが、今夜探索する水辺にあるのは浅く静か流ればかり。これなら水に沈む心配もないから、この場所を楽しむことに集中できそうだ。そう思うと自然に足取りは軽くなった。
「う、うん、待って……!」
 軽快なステップをロリーナ・シャティ(偽りのエルシー・f21339)が、おぼつかないながらも早さを上げて追い掛けて行く。
 洞窟の中は心もとない薄暗さだったけど、珂奈芽が呼びかけた精霊が要所を照らしあげてくれるおかげで段差を見落とすほどではない。よく転ぶことの多いロリーナは何度か足を凹凸にとられかけたが、幸い派手な転倒は免れていた。
 洞穴も全く塞がっているのではなく、所どころから赤い斜陽が差し込んでいたから真っ暗にはなっていない。
 少しずつ狭くなってゆく道のりを進み、洞の奥に辿り着く頃にはその光もずいぶんと弱くなっていた。
 少ない光源で浮かびあげられる風景は。何処となく青みを帯びて見える水、なめらかに寒色の影を落とす岩壁――その奥で身を寄せ合うように咲く花を、少女の呼びかけた精霊の光が照らしあげる。
「ロリーナちゃん、このお花畑のこと知ってる?」
「へ?」
 すごいんだよー、と弾む声で言う珂奈芽に、ロリーナが軽く緑の瞳をまたたかせた。
 この地での仕事を受けた際、グリモア猟兵からの説明はちゃんと聞いていたつもりだが、ロリーナは記憶を留めおくのが苦手な節がある。彼はその内容をすぐには思い出せないでいたし、誘いを持ち掛けた少女の方も特に説明をしていない。
(何か、あるんだっけ)
 花畑の事がわからず考え始めたロリーナの様子に、珂奈芽は心なしか楽しそうだ。
 目的地に到着して早々、疑問に傾いていた意識の天秤。
 けれども。
 思い出す前に――差し込む陽光が見えなくなったのとほぼ同時。精霊の光が消灯を促された瞬間、その答えは出た。
「わぁ……!」
 二人の周囲に浮かび上がった、月明かりのような青みの光。
 それは確かに、ひっそりと岩壁にそって咲いている花が放つ色だった。
(――綺麗)
 感嘆だけが声になった。ロリーナの胸の内で呟かれた声にならない感想も、ごくシンプルなものだけがただただ浮かぶ。
「優しい光で綺麗だよね」
 そう言った少女の方は、驚く相手の様子を見られて頬が緩むのを隠せない。喜ばしいサプライズになったらいい、との思惑はどうやら見事に成功したようだ。
「それに……もっと明るくなるの。あっ、もう来てる! ほら」
 薄明かりの中に手のひらで視線を促し、言葉の続きをつないだ珂奈芽。その先には花と同じ色の、けれどひらひらと翻るように動く光の姿がひとつ。
 暗がりに慣れてきた瞳でそれが蝶だと理解できた。光に引き寄せられているのか、それとも香りに誘われているのか――花々の傍らへと寄り添うように一頭、二頭と集まりだした蝶の光で二人がいる場所は徐々に明るくなってゆく。
 二人が魔物退治で戦っていなかったら見られなかったかもしれない光景。しばらく言葉をとどめていた。
(……嗚呼、そうだ)
「珂奈芽さん」
 寄りそえばもっと輝くなんて、ロマンチック……と、その光景にほんのりと魅入っていた珂奈芽に、ロリーナが呼びかける。
「うん? なになに?」
 振り向いた金色の瞳の前で、少年は細いリボンに吊るされた王冠のペンダントを外して見せた。そしてリボン紐を握ったまま近場に軽く屈むと、丸い石を中にたたえた王冠だけを水に沈めてすぐに引き上げる。
「おお……! ステキだね、ここに咲いてる花みたいに光ってるのさ」
 今度は少女が驚きの声を上げる番だった。小さなクラウンの中の灰白の石は、水に触れるや蒲公英色に染まって光を放っていた。
「フィオライト……水に濡れると光る石。初めての冒険で見つけたの」
 表情の少ないながらにロリーナが語る装飾品の出所は、彼にとって意味のある品であるという証左だった。その石は彼一人だけで水の底へと手を伸ばし、その指が拾いあげた太陽の花。
「猟兵のお仕事、慣れた?」
「うん!」
 問われた珂奈芽は二もなく答える。
 浮かべた笑顔は彼女が先を進む時に見せる強がりのそれではなくて、輝くような、満面の。
「まだ戦うのは怖いときもあるけど……こんな冒険が出来るなら頑張れるよね!」
 ――わたしももっと、ステキなものを見つけたいし!
 少女の素直な想いの吐露に、ロリーナは「そっか」とこぼして淡く微笑んだ。
 彼が大切に身に着けているフィオライトのように、少女もいずれ心照らすような宝物を見つけるのかもしれない。
 初めの出会いから、しばらく時間が経っていた。二人は冒険の中で出会い、そして今は共に仕事や冒険に出るようになっている。
 ロリーナが問い掛けを向けたのは、あるいは比較して見えてくる変化を何処となく感じ取っていたからか。

 大変だし、辛い事も沢山ある――だけど、たまにはいいことがある。
 だから、これからも冒険に出るのだろう
 怖さや恐れに立ち向かった先にこそ見える、心を鮮やかに染め上げる瞬間を、二人とももう知っているから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アウロア・ラスヴェート
※他の方との絡み、アドリブ歓迎


…そうね。
戦闘も終わったようだし、村人達の厚意に甘える事にするわ。

月の無い夜だけれど、大丈夫かしら?
(道中は小さなカンテラ等の明かりを頼りに進みます)

仄かにあの辺りが明るくなってるわね…
(明かりを消して、明るい場所へ吸い込まれる様に足が向かう)

あら…
うふふ。

私が蝶になっていた様ね。

…綺麗な花。安心する香り…。

それに…
ふふ。
あなたも私と一緒に来たのね。
(蝶に話しかけ)

水に足はつけないでおくわ。

…水面で花を散らせたく無いし…この子達も、食事をするのに落ち着かないだろうし。

だから私は此処で

『美しいもの』を五感に焼き付けておくわ。

村人達の大切な場所だもの。
壊さない様にね。



 指先に下げた灯りを頼りに歩みを進めば、洞窟の中は月の無い夜。アウロア・ラスヴェート(シンフォニア・f16546)は、小ぶりなカンテラの細い光を頼りに岩穴の中をくぐっていた。
 魔物退治の――その実態はオブリビオンの――退治を終えての一休み。この地の外部の者である猟兵たちがここで過ごせるのは今宵だけ。利用している市街の人々から退治のお礼として一晩すごせるよう融通してもらったそうで、アウロラもまたその厚意に甘えて休息に訪れた一人だ。
 洞穴のつくりはさほど複雑ではなく、移動するのに苦労はなかった。
 岩肌が照り返す照明のコントラストに足をかけ、歳月をかけて雪解け水が岩盤を削りあげた洞穴の中では、何処でもかすかに水の音が聞こえてくる。こもっているから少し遠くを流れる音も届いているのだろう。
 光のほとんど入ってこない場所だから大丈夫かと懸念もあったが、どうやらその心配はいらないようだ。
 時おり足元に光をかざして足場にしたい場所の輪郭を確かめたり、水面に揺らぐカンテラの炎を見やって建造物のようには整えられていない地形を見定める。路となる穴は少し狭くなってきて、思わぬ凹凸にぶつからぬよう慎重に進んで行っていた。
 と。
「――あら」
 歩みを向けるさらに奥で、それまで見えなかった色が見えた。カンテラの表面を軽く覆って目を凝らすと、仄かなれども青を淡く帯びた光が確かにあった。一旦立ち止まってカンテラの覆いを開き火へと意気を吹きかけると、辺りからはたちまち暖色の光が薄れ去る。
 アウロアの足は、気づけば吸い寄せられるように光の方へ進んでいた。
 そして、――。

 光源が何かを目で見て確かめられたのは、袋小路に行き着いた頃だった。
 そこに広がっていたのは、壁にひしめく小ぶりの花々。銀河が夜空に描く河のように光をおびて、花弁の一枚一枚がうすぎぬのようにひらりひらりと夜風に揺れており――その光を真似ているかのような色の翅した蝶が寄りそっていた。
「私が蝶になっていた様ね」
 彼女自身もまた花の光に吸い寄せられたから。自然の中に溶け込んだような錯覚を与えられたような、不思議な心地になる。ふふ、と鈴の転がるような笑い声がこぼれて空気に溶けた。
 そうして蝶と花の光に浮かび上がる一帯を眺めていると、一頭の蝶がアウロアの後ろから肩を越えて碧い瞳の前へと踊り出る。
 視界に間近で入り込んだ翅が光の帯を引いたのは残像か、それともかすかに散った鱗粉だったのか。
「あなたも私と一緒に来たのね」
 囁いてアウロアが薔薇色の指先を差し出すと、蝶は一瞬だけその先端で翅を休めてすぐに飛び立った。
 離れた一頭が花に留まる他の蝶たちに混ざるのを見届けると、花のない岩に腰を落ち着ける。
 水に足を沈めて涼を取ることもできたが、それを彼女はしなかった。水面に落ちた花を散らせるのも気が引けたし、蝶たちも普段とは違う気配や水流に落ち着かなくなってしまうかもしれない。
 それよりも。目前にあるありのままの『美しいもの』を、全ての感覚へと焼き付けて行こうと決めた。
 人工を介さぬ美しさそのままに。花が彩る星々の中で泳ぐ蝶、その光を受けて夜空のように艶めく岩。水に揺れ風にそよぎ、細い小川を流れてゆく花弁。
 壊さぬように、ただそこにあるように。

 しばし歌声を休めて暁の歌姫は、花の星座の箱庭で静謐の時を過ごして行く――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

祝聖嬢・ティファーナ
※アドリブ歓迎

水気を含んだ風に眼を閉じて『フェアリーランド』の壺の中から風/水/火/土/光/闇の精霊と聖霊と月霊を「ミンナ出て来て良いよ♪」と声を掛けて“七色こんぺいとう”を分け渡して、「ちゃんと猟兵さんにもご挨拶しようね☆彡」と再度渡して配って貰います♪
月霊もおっかなびっくりですが「大丈夫だよ♪渡してごらん☆彡」と猟兵と関わらせてあげます☆彡
足先を水に点けてみたり、水気の風を全身に浴びて「精霊も聖霊も元気に楽しそうにはしゃいで喜んでいるって嬉しくて優しくなれるなぁ♪」と精霊・聖霊・月霊も喜んでいます☆彡

オブリビオンが居なくなると、こんなにも自然が生き生きするんだなぁ♪と眼を閉じて空気を満喫☆



 清廉な水の気配のたっぷり乗った風を、目を閉じて感じ取る。
 祝聖嬢・ティファーナ(フェアリーの聖者×精霊術士【聖霊術士】・f02580)は洞窟に穿たれた窪の一つで、精霊たちと共に夜の気配を楽しんでいた。

 精霊に、聖霊、そして月霊。フェアリーランドの壺から呼び出した彼らに七色のこんぺいとうを配るのは、この聖なるフェアリーがいつも行く先々で決まって取っている行動だ。
「ちゃんと猟兵さんにもご挨拶しようね☆彡」
 そう伝えて託した砂糖菓子は精霊たちに貰ってもらうためではなく、同じ場所に訪れた猟兵たちの手元に届けるためのもの。
 洞窟に訪れたおりに、彼女と付き添う精霊たちからお菓子の星を受け取っていた者もいたようだ。
 その中でも月霊はおっかなびっくりだったが、ティファーナがいつもこんぺいとうを通して人との関わりを行っていたから、そろそろ少し慣れてきているかもしれない。
「大丈夫だよ♪ 渡してごらん☆彡」
 そんな明るい声を背に受けた月霊の差し出したお菓子を、受け取った猟兵は微笑まし気だったという。

 風を浴びていたのは、そのような猟兵との関わりが一段落してそれぞれの時間を過ごしだしてからのこと。
 ある者は水に足をつけ、ある者は蝶と寄り添い、ある者は花の中ほどへ行き光に照らされている。
「精霊も聖霊も、元気に楽しそうにはしゃいで喜んでいるって……嬉しくて、優しくなれるなぁ♪」
 口をついてこぼれでた言葉は、ほとんど無意識のうちだった。花を崩すようなことにならないように、語らう声も動きも少しひかえめにしているけれど。そう、大騒ぎするばかりがはしゃぐという事でもないのだし。
 見ればわかるのだ、精霊たちはみなこの貸し切りの夜を、心から楽しんでいると。
 やるべきことを成し遂げ、平和を噛みしめられる。それが優しくなれるということに繋がるのだろうか。
(オブリビオンが居なくなると、こんなにも自然が生き生きするんだなぁ♪)
 自然発生した動物であれば、あるいはそれがモンスターだったとしても、いなくなる事が必ずしも自然を守る事には繋がらないこともあるかもしれない。
 だがオブリビオンは別だ。過去に喰われ囚われてしまえば未来を生きるべくもない。過去の記録を繰り返す淀みは、未来を生きる力になりえない。
 オブリビオンがいなくなった場所が力に満ちているのは、そのせいかもしれない。
 何はともあれ。今みたいに生きている時間を肌に感じられて嬉しいのだろう、戦いで時に苛烈な姿を覗かせたりもしたフェアリーの少女は今は朗らかに笑っていた。
 それは恐らく、全ての猟兵たちにとって等しい喜びだろう。

 ――にじみ出る過去に負けず進む今、そして未来の輝きは絶えない光の先にこそある。
 この場所を後にするまでの時間を猟兵たちは思い思いに過ごしたら、また明日からの日々に向けて歩み出すのだろう。それまでは。
 地上の星空で夜に思いを馳せて、今はそれぞれの安らぎに微睡むようなひとときを――。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月18日


挿絵イラスト