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薫りを纏うは

#サクラミラージュ

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#サクラミラージュ


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 ああ、帰ってきてくれたんだねぇ。寒くなかったかい?
 お腹空いてるのかい? 好きなものを作ろうね。いっぱい食べてね。


「すみません、サクラミラージュの事件に、お手伝い願えませんかー……」
 寧宮・澪がグリモアベースで黒猫を抱きながら声をかける。影朧を匿う事件を予知したのだ。
「ええと、香を扱うお店で、影朧を匿っているみたいんなんですがー……正体が、よくわからなかったんですよ」
 サクラミラージュのとある店、「薫草堂」。火をつける一般的なお香、匂い袋、香木の他、それらを使うための道具の販売や、香りを焚き染めた布雑貨等を取り扱う、香りの専門店だ。店主は齢60過ぎの女性、鈴原あさを。夫を早くに亡くし、子供達は既に独り立ちして時折帰ってくる。アヤメとキクという名の猫を飼っている。
 この店主が影朧を匿っているようなのだが、どこにいるのか、どんな影朧なのかはっきりしなかったのだ。
 猟兵の皆にはまずその店に赴き、店主と話をしてみてほしい。
 ちょうどオリジナルの匂い袋を作る体験もやっているので参加して楽しんでもいい。普通に香関係の品について聞いてみたり、買い物を楽しんでもいい。
 香りを楽しんで、その上で少しおかしなことが無いか聞いてみてほしいのだ。香や香り物を好きな客には心安く話してくれるし、きっとそれは匿う影朧について繋がるだろうから。猫好きでもあるので、それも話すきっかけになるかもしれない。
 影朧に繋がる情報を得たら探し出し、出来ればその影朧を癒やしてあげてほしい。
「不明点が多い、依頼ですがー……どうか、ご協力、よろしくお願いしますー……」
 黒猫と一緒に頭を下げて、澪は猟兵を送り出すのだった。


霧野
 組香って興味深い。
 よろしくお願いします、霧野です。

●シナリオについて
 香関係の物を扱うお店で、影朧の情報を入手して見つけ出してください。

 一章:猫を飼っている香関係の専門店に行ってお買い物や会話を楽しんでください。その中で何か不思議なことを聞くと影朧の情報につながるかもしれません。無理に聞き出さず、お買い物や体験を楽しんでいただいても構いません。
 日常です。
 二章:入手した情報から影朧を見つけ出してください。
 冒険です。
 三章:見つけた影朧との戦いです。
 ボス戦です。

●複数人で参加される方へ
 どなたかとご一緒に参加される場合、プレイングに「お相手の呼び名(ID)」を。
 グループ参加を希望の場合は【グループ名】を最初に参加した章にご記入いただけると、助かります。

●アドリブ・絡みの有無について
 以下の記号を文頭に入れていただければ、他の猟兵と絡んだり、アドリブ入れたりさせていただきます。
 良ければ文字数節約に使ってください。
 ◎:アドリブ歓迎。
 ○:絡み歓迎。
 〆:負傷OK。
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第1章 日常 『香煙を薫らせて』

POW   :    元気の出る香りを楽しむ

SPD   :    リラックスする香りを楽しむ

WIZ   :    ロマンチックな香りを楽しむ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 香りの店、「薫草堂」。
 少々年季のいった店構え。飴色に磨かれた木で出来た店内には様々な香りの品がある。
 薫物、練り香、香木。香り袋に香立て、香炉といった用品の品々。
 ほのかに炊かれた香りは邪魔をせず、静かに心弾ませてくれるだろう。
 にこにこと穏やかに笑う店主のあさをへと言えば、香り袋作成の体験をさせてくれる。
 店から続く家にいるのか、時折猫の鳴き声と鈴の音がする。
 さあ、どう楽しもうか。
杼糸・絡新婦


ええなあ、お香は好きやし、
せっかくやからお店の品を見せてもらおかな。
猫も眺めたいし、触らせてもらえるんやろか?

寝る前とか落ち着きたい香りが欲しいんやけど、
季節柄でおすすめとかありますか?
あと、腕に乗せたからくり人形のサイギョウに
あうような匂い袋ないやろか。

と声をかけ礼儀に気をつけつつ【コミュ力】で会話と【情報収集】

お一人で長い間やっとるんですか?
夜のとか物騒な事とかない?
ちょっと変なこととか気になることとか、
気をつけたほうがええよ。

そういや猫は香りとか平気なん?
柑橘系は苦手なイメージがあったけど。




(ええなあ、お香は好きやし、せっかくやからお店の品を見せてもらおかな)
 はんなりと杼糸・絡新婦(繰るモノ・f01494)は店頭の品を見て回る。雨が続く時期から徐々に暑くなる次節にあわせてから、爽やかな香りの品を今は多めにおいているようだ。小物もシンプルであったり、梅雨から夏の花をもした品々がメインになっている。
 その中に猫の小物や香立ても混じっているのは、店主が猫好きだからだろうか。
(猫も眺めたいし、触らせてもらえるんやろか?)
 今もちりん、と奥の方で猫の鈴が鳴っている。
 さてどうしようかと思っていれば、熱心に見てくれる絡新婦ににこにことあさが話しかけてきた。
「お客さん、何か気になるのありまして? 良ければ教えてくださいな」
「ああ、寝る前とか落ち着きたい香りが欲しいんやけど、季節柄でおすすめとかありますか?」
「そうですね、今の時期でしたらやっぱり爽やかなんが人気ですねぇ」
 礼儀正しく応じた絡新婦に、あさをはふんわり笑みを深めて答えてくれる。
 蓮の花のような香りの荷葉、落ち着いた白檀、変わりどころに薄荷を混ぜた練り香。焚けばすっきりと爽やかな香りが香るだろう。
「あとねぇ、お茶の葉っぱもいいんですよ」
 少し古くなったお茶、あんまり美味しくないお茶でいい。茶香炉という道具を使えば、お茶を焙じるいい香りが楽しめる。
 ふんふん、と頷いてから絡新婦はそういえば、と腕に乗せた狐のからくり人形、サイギョウを示す。
「あと、こっちにもあうような匂い袋ないやろか」
「あら、狐の」
 狩衣姿の人形と目線を合わせ、あさをはいくつか匂い袋を持ってくる。
「侍従や、黒方のような落ち着いた香りが良さそうですねぇ」
 少し苦めの落ち着いた香りはそばにいても邪魔にならないだろう。袋の布地も落ち着いた紺や黒のものを差し出してくれる。
「ああ、これも悪くないです」
 さてどれにしようか、と悩みつつ。あさをに世間話、というように話しかけた。
「お一人で長い間やっとるんですか?」
「ええ、もう結構長いですよぉ」
「夜のとか物騒な事とかない? ちょっと変なこととか気になることとか、気をつけたほうがええよ」
「そうねぇ、一人やし……ちぃと気いつけたほうがいいかねぇ」
 話すうちに本来の少々地方訛のある言葉で語り、気安くウンウン、とうなずきながら、けれどここいらで危ないこととかは聞かないとも教えてくれる。
「そういや猫は香りとか平気なん? 柑橘系は苦手なイメージがあったけど」
「ああ、強い香りはやっぱだめやねぇ。好き嫌いあるし、あんまり店には頻繁には顔出さないねぇ。気が向けば来るときもあるけど」
 そしてふと、気づいたように、変わったことといえば、と。
「アヤメ……飼い猫なんやけどね、しばらく帰ってこなかったんよ。だいぶ弱ってたんで、もう会えんのかな、って覚悟してたんやけどね。帰ってきたら元気になっとって安心したんよ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

シビラ・レーヴェンス
露(f19223)と。
「ほぅ。これが…」
初めての感覚を経験するのはいつも心地がいい。
魔術の儀式に用いられることもあるから興味はあったが…。
柔らかくいい匂いだ。それぞれの香りが邪魔をしていない。
店で並んでいる香や器具を一つ一つ時間をかけて観察。
露に説明を促されても知識がないからわからない。
ふむ。調べるのもいいがこういう時は店主に聞く。
丁度情報を得たいと思っていたところだ。香の情報も得たい。
露が指さす香のこと…香料の素材や器具のことを聞く。
そんな話の中に最近起こった不思議なことの話題を含ませる。
話題はさりげなく違和感のないように。恐怖を与えないよう。
一つ二つ、何か購入しようか。今の住処に置きたい。


神坂・露
レー(f14377)ちゃんと一緒に。
年季があるお店に踏み込んだらそこは匂いの国だった。
…って文章にできるぐらい素敵なお店ね。凄いわ!
レーちゃんの後ろからついていく感じでお店を巡るわ。
お店の中で何時ものようにくっついたら迷惑かけちゃうし。
時々だけど猫さんと鉢合わせしちゃって挨拶するわ。
なんだか陶器の道具が多いわ。鉄素材のもある…感じ?
わからないこと…全部わからないんだけど…は人に聞くわ。
聞く人は勿論レーちゃん。「ねえねえ。これって何?」って。

…レーちゃんでもわからないことってあるのね…。新鮮だわ。
でもでも。おばーちゃんに説明して貰うのもいいわね♪
「じゃあねじゃあね。これって何に使うのかしら?」




 シビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)と神坂・露(親友まっしぐら仔犬娘・f19223)は二人で並んで店に入る。
「ほぅ。これが……」
「年季があるお店に踏み込んだらそこは匂いの国だった。……って文章にできるぐらい素敵なお店ね。凄いわ!」
 飴色に磨かれた木の建物は光を程よく取り入れて、店内を優しく照らしている。うっすらと焚かれた香の香りが漂う風情は初めての感覚だった。
 いつだって初めての感覚を享受するのは心地よい。シビラは後ろに露を連れながら店内を見て回る。いつものように露がくっついて回らないのは、流石に邪魔だろうと配慮したからだ。
 シビラはじっくりと香や器具を観察する。
(魔術の儀式に用いられることもあるから興味はあったが……)
 そういった特別な道具ではなく、ただ薫りを愛でて楽しむという品々は、柔らかくいい匂いがする。強く主張しすぎず、お互いを邪魔しないようになっている。
 香木やそれを砕いたもの、細い線香、コーン型の香、匂い袋に、薫りを移した布地。陶器の香立てや、金属の香皿。竹で編んだ籠のようなものや灰のようなものまである。
「なんだか陶器の道具が多いわ。鉄素材のもある……感じ?」
 きょろきょろと陶器や金属でできた道具達を露は眺める。一体何に使うのか、露にはさっぱりわからないものばかりだ。
「ねえねえ、レーちゃん。これって何? どうやって使うの?」
 わからないなら人に聞く。もちろん頼りになるシビラにだ。
 しかし聞かれたシビラも首を傾げる。彼女も知識が無いのだからわからないのだ。
 その仕草に露は少々目を丸くする。
「……レーちゃんでもわからないことってあるのね……。新鮮だわ」
「そうか」
 少々面映い心地になりながらもシビラは店主へと目を向けた。
(ふむ。調べるのもいいがこういう時は店主に聞くか)
 影朧の情報を得るにも、香の情報を得るにもちょうどいい。そういう意図を込めた視線を露にむければ、同意するように頷いた。
「店主、少々いいだろうか」
「おばーちゃん、教えて!」
「はいはい、おやお嬢さん達、お買い物かい?」
 呼ばれたあさをは頬を緩めて笑い皺たっぷりの笑顔を浮かべる。幼い年頃の二人を見て懐かしみ、慈しんでいるようだ。
「おばーちゃん、これって何?」
「これが香りの元になる木ですよ」
 細く削られた木や刻まれた木などが密封された容器に詰められ、仕舞われている。これを混ぜて自分の好きな香りを作ることもできるのだ。
「じゃあねじゃあね。これって何に使うのかしら?」
「これはね、香炉に敷く灰よ」
 特別な香りをつけていないこの灰をじっくり温めて、直接灰の上に香木などを温める空薫、器ごと手にとって香りを楽しむ聞香などに用いるという。
 あさをに説明してもらうのも存外楽しく、露の興味は尽きない。シビラも静かながらも興味深く聞いていた。そのまま道具類の説明に移っていく。
「こっちは何?」
「これはね」
 説明をするあさをの声に猫の声が被る。
「あれま、出できたのかい?」
 店の奥にある暖簾から猫が顔を覗かせていた。ちりん、と鈴を鳴らしながら香りの少ない道具類の方へやってきて、あさをの足元へと擦り寄る。
「猫さん! こんにちわ?」
 興味津々の露に見つめられると猫は少々居心地悪そうに、菖蒲の模様の首輪を見せながらあさをの影に隠れてしまう。
「つれない……」
 少々しょんぼりした露に苦笑して、あさをは猫を抱き上げて露に見せてくれる。
「ごめんねぇ、ちょっと知らない人でびっくりしたみたい」
「そうなの……?」
 まじまじ見られるのにはやはり居心地悪そうで、猫は腕から抜け出して奥へと戻ってしまう。
「あー……」
「ごめんねぇ」
 苦笑するあさに気にしないよう首を振るシビラ。ちょうどいいから今のうちに一つか二つ、香を買うことにした。
 梅雨から夏向けの商品が多めに並べられており、爽やかな香りが楽しめる。火を使わない物を、とあさをが進めるのは匂い袋。ほのかに香る小さな袋を持ち歩いてもいいし、箪笥などに衣類やハンカチなどの小物と一緒にしまって香りを移しても楽しめる、と。
 そんな使い方を話しながらどんな包装にしようかねぇ、なんて笑うあさをに、シビラは何でもないように話しかける。
「最近、ここら辺で何か不思議なこととかなかったか」
「不思議なこと? そうねぇ、おばけや妖怪なんて話は聞かないわねぇ」
 見た目の幼さにそういった不思議を探しているのかとあさをは笑い、ふと、という感じで話す。
「ああ、そうねぇ、さっきの猫。ちょっと前まで弱ってたの。しばらく前にお出かけして、帰ってきたら元気になっていたのよ。不思議よねぇ?」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

永倉・祝
秋人くん(f24103)と。

お香のお店。僕はこう言うお店には入った事はないのですが秋人くんはどうでしょうか?
秋人からはいつもふんわりといい香りがするのですが匂い袋でも持ってるのでしょうかね。

…その…僕も持ってみたいななんて。
出来れば同じ香りのものを…。
そうすればいつも秋人くんと一緒にいるような気分になれそうで…あぁ、でもそれだとずっとドキドキしてしまうかもしれませんね。

あの僕らが持つ匂い袋。おすすめのものはありますか?
ふふ、いい香りですね…。
素敵なものを選んでもらえました。
このお仕事は長いのですか?
(などと会話しながら最近の話など聞いて)


鈴白・秋人
祝さん(f22940)と

あら、こういったお店は初めてでしたのね。

そうですわね…
芍薬なんて如何?

甘い花の香り。
執筆の合間にリラックスできてよ?

わたくしの…?
もしかして練り香水かしら。

少し強めの、桜の香りが好きですの。
でないとすぐに香りが飛んでしまって…祝さんをドキドキさせられませんわ。
うふふ。
(いじらしさと健気さが愛おしく)


祝さんもいい香りがしてよ?
紙と、インク…
偽りない貴女自身の…
わたくしの…好きな香り。

わたくしも揃いのものを持ちたいですわ。

(香りを手に、心做しかホクホク顔の祝さんが可愛いなぁ…と)


…あら?
何処からか猫の鳴き声が…

わたくし、猫好きですの。
もし良ければ、撫でさせて頂けません事?




 永倉・祝(多重人格者の文豪・f22940)と鈴白・秋人(とうの経ったオトコの娘・f24103)は肩を寄せ合い品物を見ていた。
「僕はこう言うお店には入った事はないのですが秋人くんはどうでしょうか?」
「あら、こういったお店は初めてでしたのね」
 香木や練り香、線香。それらを使うための道具や用品。並ぶそれぞれに眠たげな視線を送る祝へと、そういうことなら、と早速秋人は香りの見立てを始める。
「そうですわね……芍薬なんて如何?」
 差し出された香りを染み込ませた紙のサンプルを嗅いで見れば、どこか落ち着く心地のほんのりとバラのような、甘やかな香り。
「甘い花の香り。執筆の合間にリラックスできてよ?」
「ああ……いいですね」
 寝ることと執筆することを愛する祝に、いい香りでしょう、という秋人に祝は頷きながら、彼から香る柔らかな別の香りに目を僅かに細める。
「秋人くんからはいつもふんわりといい香りがするのですが匂い袋でも持ってるのでしょうかね」
「わたくしの……? もしかして練り香水かしら」
 固形の香水とも言える、香料や香り付けした蜜蝋などを練って詰めたもの。香水よりも広がらず、柔らかめの香りを楽しめる。
「わたくしは少し強めの、桜の香りが好きですの。でないとすぐに香りが飛んでしまって……祝さんをドキドキさせられませんわ」
 少しだけ秋人が祝に身を寄せれば、彼女より高い位置にある耳の辺りや首元からうっすらしていた桜の香りがより感じられる。落ち着くような、むしろ落ち着かないような心地に祝の胸は秋人の言うようにどきどきと高鳴った。
「祝さんもいい香りがしてよ? 紙と、インク……偽りない貴女自身の……わたくしの……好きな香り」
 なんて囁くその声にすら、さらにどきどきと胸を弾ませながらも祝は言う。
「……その…僕も持ってみたいななんて。出来れば同じ香りのものを……」
「あら」
 いじらしく健気な祝の言葉に秋人は少しだけ目を丸くする。愛おしさが胸に溢れてなんとも心地よい。
「そうすればいつも秋人くんと一緒にいるような気分になれそうで……あぁ、でもそれだとずっとドキドキしてしまうかもしれませんね」
 ごく僅かに頬を染めた祝の姿はたいそう可愛らしく、秋人の艶めく唇もゆるり綻んでいく。
「うふふ。わたくしも揃いのものを持ちたいですわ」
「よかった」
 ならば早速、にこにこと若いっていいわねぇと遠くで見守る店主へと祝声をかける。
「あの僕らが持つ匂い袋。おすすめのものはありますか?」
「はいはい、そうですねぇ」
 あさをは微笑ましく書生姿とハイカラ美人をしばし見比べて、匂い袋を二つ持ってきた。
 祝には金の縫取りや朱色が入った袋を。
 秋人には黒と濃緑の布地の袋を。
 差し色は違えど意匠はよく似ており、揃いの品とわかる物。そして袋から香るのは、淡い淡い墨と桜の香り。どこか落ち着く涼やかな墨の香りの中に、ほのかに甘い桜が香る。
「ふふ、いい香りですね……素敵なものを選んでもらえました」
 互いを示すような香りにどことなく顔を綻ばせ、祝は呟く。心做しかホクホク顔に見える、そんな姿も愛おしいと秋人も袋を手に微笑んだ。
 そんな二人の耳に猫の鳴き声がする。
「……あら? 何処からか猫の鳴き声が……」
「ああ、うちのこだねぇ」
 いつの間に裏から出てきたのか、一匹の猫が店の中にいた。菊模様の首輪の猫は、あさをの足元でちょこんと座っていた。
「わたくし、猫好きですの。もし良ければ、撫でさせて頂けません事?」
「はいはい、構いませんよぉ」
 よいしょ、と腕の中に抱えられ、気を逸らされた猫の背を秋人は優しく撫でる。しばし大人しく撫でられてから、キクは裏で呼ぶもう一匹の声に惹かれて抜け出していった。
「じゃ、お包みしましょうかね」
「はい、お願いします」
 選んだ袋をもう一度受け取って包む店主へ祝は話しかける。
「このお仕事は長いのですか?」
「そうですねぇ、もう結構長いですよ」
 ちょっとした世間話から、最近の事件や噂に話を広げ、そしてあさを自身はどうか、と問いかけてみれば。
「私やここいらは平穏なもんですが……ああ、うちの猫、さっきの子の他にもう一匹いるんですが。その子が弱っていたと思ったら姿見えなくなって。心配していたら、ひょっこり帰ってきて。すっかり元気になっていたんですよねぇ。不思議でしょう?」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

メルステラ・セレスティアラ


『香を聞く』
この言葉が図書館で開いた本を読んだ時からずっと心に残っているの
こちらのお店で『香を聞く』体験が出来るのかしら?

実はお香に興味があるのだけど少し敷居が高くて…
良かったら店主様のおすすめをお願いしたいわ
初心者でも気軽に試せるものを
そうね、リラックス出来る優しい香が、いいわ

ふんわり薫る香に身を委ねて、心で、或いは感覚で香を楽しむ
成る程、これが『香を聞く』ということ
とても深い世界、ね

店主様有り難う、素敵な経験が出来ました
時に、最近店主様はどうですか?
いえね、素敵なお香のお陰で私の心に余裕が出来たもので、ついつい聞いてしまいました
此処はかわいい猫ちゃんたちも居て、本当に素敵なお店ですね




 メルステラ・セレスティアラ(夢結星・f28228)は以前からやってみたいと思うことがあった。
(『香を聞く』)
 この言葉は図書館で開いた本を読んだ時から、ずっとメルステラの心から離れないのだ。香りを嗅ぐ、ではなく聞く、なんて。少し不思議で面白い。
「ねえ、店主さん。こちらのお店で『香を聞く』体験が出来るのかしら?」
「聞香かい? はいはい、できますよぉ」
「実はお香に興味があるのだけど少し敷居が高くて……良かったら店主様のおすすめをお願いしたいわ」
「おやおや、そうかい。結構簡単なんよ。やってみるかい?」
 店主のあさをは、店の上がり口、奥まって上がり框になっているスペースにおいでおいでとメルステラを手招く。菊の模様の首輪をした猫が占領する文机の下から少し年季の行った道具を取り出していた。あさをの私物なのだろう。
 道具を並べながら、あさをはメルステラへと声をかける。
「どんな香りがいいでしょう?」
「初心者でも気軽に試せるものを……そうね、リラックス出来る優しい香が、いいわ」
「じゃあ、白檀にしようかね」
 優しく爽やかに甘い香りで、落ち着くだろうから、と。
 まずは白檀を細かく削ったものそのままを、メルステラに聞いてもらう。その次に香炭団をおこす。そうしたら香炉灰を柔らかくほぐして、おこした炭団を埋め込み、山を造り、火の気を通す窓を作り、銀葉と言われる雲母の板を乗せた。そしてそこに白檀の香木をいくつか乗せる。
「ほい、これでね、香炉を水平に持って……顔のそばで聞いてご覧」
 火傷には気をつけて、と言うあさをの指示通りに注意して持ち上げて、『香を聞く』。
 線香や香木で香りを広げるのも良いが、こうやって手の中から穏やかに香る静けさも心地よい。
 ふんわりと落ち着くような優しい甘い香りに身を委ねて、心で、或いは感覚で香を楽しむ。
「成る程、これが『香を聞く』ということ。──とても深い世界、ね」
 しばし白檀の香りを聞き、メルステラは満足したように呟いて炉を下ろす。
「店主様有り難う、素敵な経験が出来ました」
「いえいえ、どういたしまして」
 香木と銀葉を外し、炭団が燃え尽きるまで危なくないように籠を蓋にして片付けるあさをへメルステラは声をかける。
「時に、最近店主様はどうですか?」
「最近、ですか?」
「いえね、素敵なお香のお陰で私の心に余裕が出来たもので、ついつい聞いてしまいました」
 人を思いやる余裕が生まれたのだとメルステラは言いつつ、文机に陣取った猫をちらりと見た。
「此処はかわいい猫ちゃんたちも居て、本当に素敵なお店ですね」
「ふふ、ありがとうございます。最近ねぇ……不穏なこともここいらじゃ聞かんけど。ああ。うちの猫、もう一匹、弱ってたのがふらっといなくなって帰ってきたら元気になっとったんよ。不思議やねぇ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

紫丿宮・馨子

香りの品を扱うお店…そしてお猫様がいらっしゃるとなれば
行かねば

猫に害の少ない愛用の香を焚きしめた衣で店に足を踏み入れ
様々な香りと香道具の鎮座するそこは
わたくしにとって仲間たちに囲まれていると同義
自然、口元がほころびます

香炉たちにそっと触れて
良き主に出会えますようにと祈り
UCを使用して店主様の元へ

香炉灰とおすすめの香を購入
わたくしも自身で香を作り、焚きますから
様々な香りに触れてみたいのです

あら、お猫様…
わたくしの衣にはうちのお猫様たちの匂いがついているやも
譲渡会で迎えた子猫
兄弟がいるなら一緒にと3匹
不思議な縁で今も一緒に暮らしております
店主様は何か不思議な縁を感じられたことはおありでしょうか?




(香りの品を扱うお店…そしてお猫様がいらっしゃるとなれば)
 行かねば、という思いに突き動かされ、紫丿宮・馨子(仄かにくゆる姫君・f00347)は薫草堂に赴いた。
 猫の嫌がらぬ害の少ない香りを極ほのかに焚き染めた衣に身を包み、店内へと足を踏み入れる。
 飴色に手入れされた店内に僅かに香る香木や練り香の香り、様々に彩られた香道具。綺麗に整えられ並べられたこの場は、香炉のヤドリガミの馨子にとって仲間に囲まれていると同じ意義を持つ。自然と香が香るようにふわりと馨子の口元がほころんだ。
 様々な色や形の、主を待つ香炉達をそっと撫で、馨子は祈る。
(良き主に出会えますように)
 大切に愛されて、十年百年と年経ていけますように、と。優しく祈り、香炉灰の袋を手にして店主へと向かう。
「もし、少々よろしいですか」
「はいはい、なんでございましょう」
 たおやかな仕草に感嘆するような笑みであさをは応対する。
「おすすめの香などありますでしょうか。わたくしも自身で香を作り、焚きますから、様々な香りに触れてみたいのです」
 六方の薫物はもちろん、時節に合わせ気持ちにあわせて香を合わせて作るのはお手の物。猫の嫌がらぬ香りを合わせた香とて馨子の手製である。だからこそ様々な香りにも触れてみたいとも思うのだ。彼女の世界が更に広がっていくと感じられるから。
「そうですねぇ……今の香りもいい香り」
 優雅な所作で馨子が動くときに僅かに香る衣の香りを聞いて、あさをは少し悩む。公家のような丁寧な振る舞いにさて、どのような香がいいかと思うのだ。
「ああ、こんなのはいかがでしょう」
 そう言って出してきたのは印香。干菓子のように固められた、ころんと小さめの香。季節を表した香り香を、菊や桜、イチョウや松など様々な形に固めたものだ。どちらかというと落ち着いた香りが多いだろうか。
 見るも可愛らしい形は馨子の心もほんわりと綻ぶ。
「まあ、可愛らしい」
 先に手に取った香炉灰と印香を購入することにして、あさをへと包んでもらう。最中、裏から猫が2匹顔を出した。
「あら、お猫様……」
 馨子の衣に残る他の猫の匂いを気にしてか、そろりそろりと彼女の足元をうろついている。
「おやおや、アヤメにキクがすみませんねぇ」
「いいえお気になさらずに。わたくしも猫を飼っていますの」
「おや、あなたも。可愛らしいでしょう?」
「ええ、とても」
 今も留守を守ってくれているだろう、かつて譲渡会で迎えた兄弟の子猫3匹。星に海、空と名付けた可愛い家族。
「不思議な縁で今も一緒に暮らしております。店主様は何か不思議な縁を感じられたことはおありでしょうか?」
「そうですねぇ……不思議な縁というか、この子」
 あさをはアヤメを抱き上げる。
「弱ったまま外に行ってしまって、もう会えないかと思いましたが……帰ってきてくれたんですよ。それも元気になって。不思議でしょう?」

大成功 🔵​🔵​🔵​

国栖ヶ谷・鈴鹿
桜花(f22716)と!



香袋を作る体験だって!
お洒落な今時の帝都の女子としては、こういう雅な一点は、一層魅力をあげると思うんだ。

桜花にぴったりの香りも、店主さんのオススメを聞いてみない?
そうそう!桜花の香袋、挿枝袋で桜の花を飾ってみない?絶対、可愛いし、ぴったりな気がするんだ。
将校さんみたい?
(桜花に似合うならいいんじゃないかな?笑顔で答えて)

ぼく?ぼくはどうしよう?
あ、この狐の香袋いいなぁ、可愛い!香りは栴檀もいいなぁ、栴檀ってバニラやチョコレヱトみたいな素敵な香りがするんだ、だから持ち歩いてもよし、飾ってもよしな香りなんだ。

(すっかり、夢中になって)


千束・桜花


鈴鹿殿(f23254)と共に参ります!

"香"ですか……ううん、たしかにいい匂いがしますねっ!
一流の将校ともなれば一流の香りを纏うもの!
しかし私、こういうのには疎いのですよね

こういうときには店主殿に聴くに限ります!
可愛くて強い将校に似合う香りをお願いします!
……分かりづらいですかね?
挿枝袋! ははぁ……なかなかおしゃれですね
帝都桜學府の将校には相応しいんじゃないでしょうか!

鈴鹿殿は御洒落ですなぁ!
この栴檀ってやつの香りを嗅いでいたら私はお腹が空いてきてしまいました!
カフェーみたいな香りですよねっ!




 国栖ヶ谷・鈴鹿(未来派芸術家&天才パテシエイル・f23254)と千束・桜花(浪漫櫻の咲く頃に・f22716)はころころとした笑い声をさざめかせて店へと赴いた。
「香袋を作る体験だって! お洒落な今時の帝都の女子としては、こういう雅な一点は、一層魅力をあげると思うんだ」
「"香"ですか……ううん、たしかにいい匂いがしますねっ! 一流の将校ともなれば一流の香りを纏うもの!」
 お洒落に、一流に、と夢を抱高鳴る胸を弾ませながら、柔らかく磨かれた引き戸を開ける。
 飴色に光る木々の中、綺麗に並べられた香やその素材、そして香道具。小さな香炉や可愛らしい香立て、干菓子のような形の印香、甘い香りに爽やかな香りがほのかに立ち上る。
 しばし店内をそぞろに見て歩き、あれは何、これはどう、と年頃の娘らしい話をしつつ。店主へと香袋を作る体験をしたいといえば、店の一角へと案内された。
 座卓に付けば可愛らしい布や組紐、細かに砕かれた木々や香料などが座卓の上へと並べられる。紐に通したり袋に飾るために、とんぼ玉や飾り結びされた紐やらも一緒に置かれている。
 二人で香料を少し香ってみたり、布を選んだりと悩む中、桜花がぽつりと呟いた。
「しかし私、こういうのには疎いのですよね」
 ひたすらに帝都を、臣民を守るため百戦練磨の學生将校目指して日々切磋琢磨する桜花はこういったお洒落には少々疎い。ならば、と鈴鹿は先達の知恵を借りようと友に提案する。
「なら桜花にぴったりの香りも、店主さんのオススメを聞いてみない?」
「そうですね! もし、店主。よろしいですか?」
「はいはい、いかがなさいました」
 若い娘さんの明るい様子を見守るあさをは、呼ばれてそばへと寄ってくる。
 桜花はとん、と自身の胸を叩き意気揚々と問いかけた。
「ぜひ可愛くて強い将校に似合う香りをお願いします! ……分かりづらいですかね?」
「まあまあ、こんなにかわいい将校さんにねぇ」
 今をときめく花盛りの乙女を微笑ましく見るあさを。さてどんな香りにしましょうか、と桜花にいくつか好みを聞いて香料を選び始める。
「そうそう! 桜花の香袋、挿枝袋で桜の花を飾ってみない? 絶対、可愛いし、ぴったりな気がするんだ」
 香を聞く場において、花の香りが邪魔をしないように造花を飾ることがある。そのため、季節折々の造花を刺して飾る香袋──挿枝袋があるのだ。
「挿枝袋! ははぁ……なかなかおしゃれですね。帝都桜學府の将校には相応しいんじゃないでしょうか!」
「将校さんみたい? ……うん、桜花に似合うならいいんじゃないかな?」
「そうでしょう!」
 ふふんと胸を張る桜花に鈴鹿はにこにことした笑顔だ。
 挿枝袋は昔の将校が髪さした花と、宿直のときの用具を詰めた袋を元にして作られたとも言う。将校にもピッタリといえばピッタリだろう。
 そんな桜花のために、それならとあさをは黒地に桜文様の落ち着いた、しかし可愛らしい様相の挿頭袋を出してくる。そこに刺された造花はもちろん桜の花だ。
 中に入れる香は沈香、薫陸、白檀、桜の葉よ花など。落ち着いた香りの中にふわりと桜が香る香へと仕上がった。
「うん、素敵です! 鈴鹿殿は如何しますか?」
「ぼく? ぼくはどうしよう? ……あ、この狐の香袋いいなぁ、可愛い!」
 鈴鹿は雛罌粟の花と狐のシルエットが刺繍された袋を手に取る。赤の雛罌粟に金の狐の取り合わせ。鈴鹿のシンボルが組み込まれた袋を手ににっこり笑う。
「香りは栴檀もいいなぁ、栴檀ってバニラやチョコレヱトみたいな素敵な香りがするんだ、だから持ち歩いてもよし、飾ってもよしな香りなんだ」
 栴檀の花の香りは甘く芳醇に感じられる。甘いお菓子のような香りへと、パンジャンドラム以降のスランプなどの負荷も忘れて、すっかり鈴鹿は夢中になっている。
「鈴鹿殿は御洒落ですなぁ!」
 くん、と栴檀の花の香りを香る桜花も笑顔になる。何とも美味しそうで甘い、乙女の好む香りだ。
「この栴檀ってやつの香りを嗅いでいたら私はお腹が空いてきてしまいました! カフェーみたいな香りですよねっ!」
「うん、帰りにカフェーよっていこうか!」
 乙女は花にも香にも甘味にも目を輝かせる。そんな二人を店主と、時折顔を出す猫達が見守っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リルリトル・ハンプティング

あのね、わたし帝都初めてなの!
だから誠司さん【f22634】に同行お願いしたのよ
とっても心強いんだから!

店主さんご機嫌よう!
ここは不思議の国かしら
だって素敵で沢山の香りがするもの!
猫さん達も可愛い…撫でたい…あっ、そうそう
ここに居るのは店主の方と猫達だけなの?

ね、ね、誠司さん
何か作ってみたいの!
匂い袋?を、互いに選んで贈るとかどうかしら
誠司さんや店の人に色々聞いて一生懸命作るのよ

誠司さんのイメージはね
とっても澄んだ朝の木漏れ日
優しくて、爽やかで
静かに香る安心…かしら!そんな風に作ってみたの
誠司さんが気に入ってくれたら嬉しいのよ!

わたしのもありがとう!
卵帽子が少しずれる位に喜んじゃうんだから!


楠樹・誠司

リルさん(f21196)と
常の装いでは屹度畏れを招くから
着物を一枚、新しく卸した
店主が西洋めいた少女を不思議そうに見詰めるならば
店主と猫達其々に頭を下げて

彼女は舶来船から渡航した御令嬢です
私は其の護衛を
此度は是非、思ひ出作りをと思ひまして

ええ、リルさん
今日という日が貴女の心に
あたたかなものばかりを齎せますやうに

鈴蘭、野ばら、柑橘
綻ぶ花のやうな
陽だまりの似合ふ貴女へ
健やかであれと、願ひを込めて

差し出された柔らかな香りに目を細め

有難う御座います、リルさん
嗚呼。故郷を、思ひ起こすやうだ

店主殿
慈しみ深き貴女にも、冀ふものは、おありでせうか
私は……私は其れが何であつたのか
今も思ひ出せぬまヽでゐるのです




「あのね、わたし帝都初めてなの!」
 リルリトル・ハンプティング(ダンプディング・f21196)は跳ねるように飛び跳ねてはしゃぐ。件の店へと向かう道をたどる足取りは軽い。なぜなら彼女は一人ではなく、楠樹・誠司(静寂・f22634)と一緒にいるからだ。この世界に詳しい、頼もしい彼と共に行くのなら何も恐れることなどない。
 常の将校姿ではきっと怖がらせてしまうから、と側付きにも見える和装を一枚、新しく卸した誠司と共に「薫草堂」の戸を潜る。
「店主さんご機嫌よう!」
「はいはい、いらっしゃいませ」
 明るくはしゃぐように入ってくる少女と、その護衛のように従う青年へと店主は頭を下げる。
 その見る目に不思議そうな気配はない。猟兵が如何なる世界でどのような装いでも違和感に思われないという能力のお陰だろう。舶来船で来日した令嬢と護衛というように見えているのかもしれない。
 きょろきょろとリルリトルは目をぱちくりとさせながら店内を巡る。
「ここは不思議の国かしら」
 木々の欠片に固めた香、柔らかな香りの布地。小さなまあるい香立てやいろいろな形の香皿、手のひらに乗るような香炉。リルリトルにはどれもが珍しく、店内にほのかに香る香の香りも不思議な心地だ。
「だって素敵で沢山の香りがするもの!」
「おやまあ、うれしいね」
 嬉しそうに笑う店主の腕の中でぴくぴく耳を揺らす猫にもリルリトルははしゃいでいた。
「猫さん達も可愛い……撫でたい……あっ、そうそう
ここに居るのは店主の方と猫達だけなの?」
「うん? 今うちにいるのは、私と猫達だけだねぇ」
 子供はたまに帰ってくるが、世帯を持ってもう外に出ているし、と。
 そうなの、と呟くリルリトルの隣で誠司は店主へと頭を下げる。
「此度は是非、思ひ出作りをと思ひまして」
 幼い少女のためにここに来たのだ、と伝える。
「なるほど。いい話だねぇ」
「ね、ね、誠司さん、何か作ってみたいの! 匂い袋? を、互いに選んで贈るとかどうかしら」
「ええ、リルさん。構いません」
「ではこちらにどうぞ」
 丁度空いた座卓へと二人を案内し、あさをは香料や袋を並べていく。
「えっとね、誠司さんのイメージはね。とっても澄んだ朝の木漏れ日、優しくて、爽やかで、静かに香る安心……かしら!」
「なるほどねぇ。じゃあこっちの香りとか、これとかかしら」
 差し出されるのは沈香、白檀、ひのきや松の木。爽やかな木々の香りをリルリトルはじっくり選ぶ。
(誠司さんが気に入ってくれたら嬉しいのよ!)
 リルリトルは店主にも聞き、誠司にも好みを聞き、木の香りや香料をくんくんと香りながら、誠司に似合う香りを、と香を合わせていき。
(今日という日が貴女の心に、あたたかなものばかりを齎せますやうに)
 誠司も柔らかな手触りの布地を選び、そこに詰める香りを真剣に選んでいく。
(鈴蘭、野ばら、柑橘。綻ぶ花のやうな、陽だまりの似合ふ貴女へ)
 どうかその笑顔が曇ることのないよう、健やかであれ、と願いを込めながら、誠司は柔らかく甘い、元気の出るような香りを選び。
 大人ならではの経験と器用さで、リルリトルより先に作業を終えた誠司が孫を見守るような顔で作業を見ていた店主へと話しかける。
「店主殿、慈しみ深き貴女にも、冀ふものは、おありでせうか」
「あらまあ、お上手。願うものですか」
 照れつつもそうねぇ、とあさをは少しだけ首を傾げて。
「子供もすでに一人立ち、家族でたまに帰って来てくれるし。一緒にくる孫もかわいいし。猫達も一緒にいてくれますしねぇ」
 日々食べて生きていくに十分な稼ぎもあり、近所にも恵まれて、あとは先に行っている夫のところに向かうまでゆっくり生きていたいということくらい、だろうか。
 そんな風に、穏やかに年を経た老女は柔らかに笑って言う。そんな彼女へ誠司はぽつりと小さく零す。
「私は……私は其れが何であつたのか。今も思ひ出せぬまヽでゐるのです」
「あら、まあ」
 常と変わらぬ表情だったろうか、今己がどのような顔をしているかわからない。けれどもしかしたら、寂しげな顔をできただろうか。
 店主はただ柔らかく笑い、そばに来た猫を膝にのせて撫でている。
「きっといつか、思い出せるかもしれませんし。思い出せなくとも別の望みが見つかるかもですねぇ」
 だってほら、と一生懸命に小さな袋へ合わせた香を詰める少女を優しく見て。
「できたわ! 誠司さん、どうぞ!」
 小さな手のひらに爽やかな朝の木漏れ日の香りを乗せて差し出してくる少女に。
「はい。──有難う御座います、リルさん。嗚呼。故郷を、思ひ起こすやうだ」
 誠司は目を細める。差し出された柔らかな香りに、いつもよりも少しだけ柔らかく笑えた気がした。
「わたしのもありがとう!」
 交換するように差し出された、柔らかな鳥の子色と薄卵色の袋に詰められた花の香りに、リルリトルは頭に乗せた卵の殻の帽子をずらすほどに喜ぶのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

可惜夜・藤次郎
【藤溟海】


藤の香りは身近なものだが、たまには違う香りも良い
友人らと連れ立ち、ふらりと店に
どれ、折角だから香り袋を作ってみるか
皆もどうだいと手招いて

花が馨れば香にも成るのだな
香る花の名冠する2人に、お揃いにするかいと笑いかけ
香でリラックスすれば、ライラの執筆も捗るだろうぜ
おれは藤以外にしてみたいが、ふむ
香木の煙い感じは好みだな
そちらをメインに選びつつ
ユーリは気に入る香りはあるかい
ウォーターリリーなんか似合いそうだが
確かに櫻宵は雅な香袋が似合うな
普段使いにでもして貰えたら嬉しいね
おれはデスクにでも置こうか

…噂の猫は店には顔を出さないのかね
零した呟きは何気なく
少し、会えるのが楽しみだったからなァ


誘名・櫻宵
【藤溟海】


しとりとした雨の香りに花香が混じる
良い香りね!
ふわり馨る春に自然と頬がゆるむ
香水とは違う
ふうわり柔い馨がすきなのよ

とりどりの花香から、お気に入りを選ぶ…どれも良いから惑ってしまうわ
あら、ライラックとお揃いに?
それは光栄ね
私もお揃いにさせてもらうわ
なんて悪戯に笑む
藤次郎に香木はとても素敵ね!大人の香りだわ
なるほど
ユーリに睡蓮の香りはよく似合いそう

ありがとう、ライラック
褒められば嬉しくて
香袋がもっとお気に入りになる

私は桜龍…常から桜を纏うから
桜の香りは馴染み深いのだけれど…
このさくらは、特別ね

猫、こちらに来ないのかしら
戯れたかづたのに残念ね
マタタビの香…なんてあったら
きてくれたのかしら


ライラック・エアルオウルズ
【藤溟海】


雨の匂いに、飽いたからね
代わる香りを招きたいなと、
友追えば淡い香りに綻んで
安らぐものと雨下でさえも、
恒添える香り袋とは名案だ

おや、花香はとりどりだね
藤に桜と限らず、“僕”までも
白檀の混じるライラックは、
香水とはまた違って興味深く
確かに執筆も進みそうだ
ふふ、御揃いにしようか
此方も光栄で嬉しく思うよ
香木添う藤次郎さんは新鮮で
睡蓮は真白い花のかたちも、
ユーリさんに良く似合うな

袋詰めれば、小さく愛らしく
櫻宵さんは和物が馴染むねえ
眺めたのちに、眉下がり
――猫、逢えないのかい?
慰めとばかりに頂く鈴鳴らし、
木天蓼無くとも音で招けぬ物か

鈴の御返しに香りの御裾分け
香り袋を目前揺らせば、届くかな


ユーチャリス・アルケー
【藤溟海】


楽しむ時間は、いつだって目が覚めるよう
柔らかな気配と、見慣れた手招きに釣られ
ゆうらり宙游ぎお店へ

いい香りを、持って游げるの?
お皿の上の香りは、その時きりですもの
浮き立つ気持ちは迷わず白く軽そうな袋へ指伸ばし、
けれど知らぬ香りばかりで絞りきれない
香る木は少し知っていても、
トウジロウの示した香りはやっぱり初めて
ーーあぁ、水の気配がある
ウォーターリリー、似合うのならもっと嬉しい
習いながら形作りましょう
サヨの器用な指先は、とても熟れて見えるわ
佇まいもあるのかしら

翳るライラックの手元へ
ねこの音と似ているわ、と小さな鈴差出し
猫のあなたたちも花の名なのね
どんな香りがするのかしら
会えたら、良いのに




 しとしとと微雨の降る帝都をふらりふうわり足を運ぶ4人がいた。
(藤の香りは身近なものだが、たまには違う香りも良い)
 そう思った可惜夜・藤次郎(千夜百花の愛・f16494)は 藤溟海の友人へと声をかけ、香を扱う店へと赴く。
 その後を誘名・櫻宵(貪婪屠櫻・f02768)は追いかける。柔らかな雨の中にほのかに桜の香りをたなびかせ。
「雨の匂いに、飽いたからね」
 ライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)は雨に代わる香りを招きたい、と淡い藤と桜の香りのする友を追い、綻ぶように笑み浮かべ。
(楽しむ時間は、いつだって目が覚めるよう)
 ユーチャリス・アルケー(楽園のうつしみ・f16096)も、藤次郎の常の柔らかな気配に誘われて、友と共に魚の尾を揺らし、ゆうらり宙游ぐ。
 戸を引き、雨を払いながら入っていけば、外より幾分湿気の少ない店内にはほのかに香が炊かれているようで、存外心地よい。
「おやまあ、雨に降られなさったかい」
 店主がそれぞれに出してくる手ぬぐいを受け取り、水を拭って。僅かに残る雨の香りと香の香りが交じる中、4人は店内を少し見て回る。
 線香に三角の香、押し固めた印香。香木もあれば、香りを含ませた布や細かな石。香炉に香立て、炭や灰。様々な香りに関する品が整えられて並べられている。
 そんな店の飴色の壁に貼られた張り紙に、藤次郎は目を止め、友を手招く。
「どれ、折角だから香り袋を作ってみるか。皆もどうだい」
「うん、安らぐものと雨下でさえも、恒添える香り袋とは名案だ」
「いい香りを、持って游げるの?」
「そうよ、いつでも好きな香りを纏えるの」
「素敵ね、お皿の上の香りは、その時きりですもの。持ちながら游ぐのもいいわね」
 静かに、けれど楽しげに。各々店主に示された店の一角、座卓の前へと思い思いに座る。
 店主が出してきたのは木を砕いた物や花の香りを詰めた石、花や葉の欠片などの香料。それに色とりどりの袋に紐に、とんぼ玉や磨いた石などの装飾するもの。
 藤次郎は手近な細かな香料を香る。手にしたのは藤の花の香りをぎゅっと詰めたような香り。ほんの僅かに入れてもきっと甘やかな香りがするだろう。
「花が馨れば香にも成るのだな」
 まさに今知った、と言わんばかりに藤次郎は笑んでいた。
「良い香りね!」
 櫻宵が香るは自身とは少し違った春の香り。桜の花を乾かし砕いたそれは生花と少し違うけれど、心地よい香りが静かな雨の香りと混じる。ほのかに残る柔らかさに顔がゆるりと綻んだ。
「香水とは違う、ふうわり柔い馨がすきなのよ」
 とりどりに並べられた花の香りから気に入ったものを、と思うけれど、どれもこれも良い香りで櫻宵の指は迷ってしまって。
「おや、花香はとりどりだね」
 藤に桜に菊、季節にこだわらず集めた和の花の香りもあれば、珍しくも洋の花の香りも、と様々な品揃えにライラックの顔も緩む。
「藤に桜と限らず、“僕”までも」
 そこから一つ、紫丁香花──ライラックの香りを詰めた香料を手に取る。これと合わせるなら白檀の香りもいいかもしれないと呟いた。
 ライラックと桜、花を名に含む二人がゆるりと香るのに藤次郎も楽しげに笑いかける。
「いっそ二人でお揃いにするかい? 香でリラックスすれば、ライラの執筆も捗るだろうぜ」
「確かに執筆も進みそうだ。ふふ、御揃いにしようか」
「あら、ライラックとお揃いに? それは光栄ね。私もお揃いにさせてもらうわ」
「此方も光栄で嬉しく思うよ」
 ライラックは朗らかに、櫻宵は悪戯に笑みながら顔を見合わせ、二人でどんな香りにしようかと囁きあう。
 藤次郎は藤は常に側にあるし、たまには別のものにしようと木の香りへと手を伸ばす。
「ふむ。香木の煙い感じは好みだな」
 少し刺激的な香り、落ち着く香り、花とは違った甘い香り。様々な香木を香り、自身に合うような香りを選んでいく。
「藤次郎に香木はとても素敵ね! 大人の香りだわ」
「そうだね、普段と違うけれど新鮮でいいと思うよ」
 ユーチャリスは袋を先に決めていた。店主へと袋の拵えを習い、彼女の髪に似た柔らかな手触りの白く軽い袋を真っ先に手に取り、水の青の紐、魚の鱗と似たとんぼ玉を通す。
 けれど差しだされた香りはどれも知らぬ香りばかり。僅かに砕かれた香木には覚えがあれど、藤次郎の、櫻宵の、ライラックの示す香りはやはり砂漠では香ったことのない花ばかり。初めての香りで悩み、どれにするか絞りきれない。
 そんな彼女に藤次郎は声をかける。
「ユーリは気に入る香りはあるかい」
「そうね、どれも良い香りで悩んでしまって」
「ふむ、ウォーターリリーなんか似合いそうだが」
 柔らかな袋を指でもてあそびながら悩むユーチャリスの前へ藤次郎は一つの花の香りを差し出した。
「──あぁ、水の気配がある」
 ウォーターリリー、睡蓮。水面に浮かぶたおやかな蓮の香りは清涼感のある石鹸のような、穏やかな水に通じる香りを感じる。砂漠で夢見る並々と豊かな、けれど静かに癒やされるような水の香りにユーチャリスは微笑んだ。
「なるほど。ユーリに睡蓮の香りはよく似合いそう」
「ああ、睡蓮は真白い花のかたちも、ユーリさんに良く似合うな」
「そう、そうであればもっと嬉しいわ」
 ウォーターリリーと香りを長持ちさせる素材を合わせ、少しずつ調整しながら詰めていく。
 そんなユーチャリスの前では櫻宵が手早く慣れた手つきで袋へ紐通し、ライラックと揃えた穏やかに、けれど集中できるような花の香りの香を小さな袋へと器用に詰めていた。
「サヨの器用な指先は、とても熟れて見えるわ」
 優美な佇まいも相まって、ユーチャリスには少し羨むほどに手際よく詰めているよう思えるのだ。
「ありがとう、確かに扱いには慣れているかも」
 生まれも育ちも、こういった和のものを扱うに長けた家であるのだろう、櫻宵の手つきに迷いがないのもそう見える一因であろうか。
「櫻宵さんは和物が馴染むねえ」
「確かに櫻宵は雅な香袋が似合うな」
「ええ、本当に」
「ありがとう、ライラック、藤次郎、ユーチャリス。私は桜龍……常から桜を纏うから、桜の香りは馴染み深いのだけれど……このさくらは、特別ね」
 そう口々に褒められれば嬉しくて、出来上がったばかりの小さな香袋がもっと気に入りのものになる。
 あとの三人も己の香り袋を完成させ、各々ころんとした小さな袋を見つめて笑みを皆で交わし合う。
「可愛らしいわ」
 水の香りにユーチャリスは嬉しげに。
「うん、持ち歩くにも、執筆の際に机に置くにも良さそうだ」
「普段と違う香りも新鮮ね」
 揃いの花の香りにライラックと櫻宵も笑い合い。
「せっかくだ、普段使いにでもして貰えたら嬉しいね。おれはデスクにでも置こうか」
 少し煙の香の交じる、落ち着いた香りに藤次郎も笑みを浮かべた。
 各々の香袋の感想も口にしていれば、ちりん、ちりんと店の裏から鈴の音が鳴るのが聞こえる。
 これが話にあった猫の鈴か、と思った藤次郎の口からぽつりと溢れる呟き一つ。
「……噂の猫は店には顔を出さないのかね」
「猫、こちらに来ないのかしら。戯れたかったのに残念ね。マタタビの香……なんてあったらきてくれたのかしら」
 少々寂しげな顔の櫻宵にもそう言われればライラックの眉も下がる。
「――猫、逢えないのかい?」
「少し、会えるのが楽しみだったからなァ」
 藤次郎の言に更に翳るライラックへと差しだされたのは小さな鈴。
「ねこの音と似ているわ」
 ユーチャリスはちりんと小さな鈴を転がして、ライラックの手元へと落とす。せめてもの慰め、とばかりライラックは鈴を手の中で転がして。
「会えたら、良いのに」
「木天蓼無くとも音で招けぬ物か」
「おや、うちの猫に会いたいのかい」
 細々したものを片付けて戻ってきたあさをが、皆が零した呟きを拾った。気分しだいだけれど、と暖簾を潜って裏へ行く。
 しばし待てば、戻ってきたあさをの腕の中には二匹の猫。菖蒲の模様の首輪と菊の模様の首輪をした飼い猫を抱えて四人の元へと赴いた。
「はいはい、こっちがアヤメ、こっちがキクと言いますよ。ちょっと強い香りは苦手だけれど今は大人しいかねぇ」
 今は少々機嫌がいいのか、大人しく抱えられた猫達。柔らかなその体や、眠たげに耳を僅かに揺らす仕草は可愛らしい。
 あまり注視しないように、少々そっけない態度でいれば逃げずに近寄ることもあるのだ、と藤次郎の膝へと乗せてみる。とろりと柔らかく、けれども丸まって心地よい場所を探すアヤメ。
 不思議な物体に藤次郎は少々惑いながらも少しだけ指を伸ばし撫でれば温かい。ライラックも手を伸ばして、背中のあたりを程よい力で撫でてやる。アヤメは気持ちよさげに一つあくびをした。
 櫻宵の腕に抱えられたキクは、確かに水のように伸びて柔らかに形を変えていた。慣れた手つきでこちらも喉を撫でてやれば心地良さげに喉を鳴らす。
「猫のあなたたちも花の名なのね。どんな香りがするのかしら」
 ユーチャリスは間近で見る、水のように柔らかなその体を少しだけ、香ってみる。
 キクからは店の中の香に混じって、穏やかな野原の日だまりのような香りがした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【不死蝶】◎
お香ってお線香くらいしか思いつかなかったんだけど
こうして見ると色んな物があるんだねぇ
店内を見回して新しい出会いに胸弾ませる

へぇ、匂い袋作り体験も出来るんだね
…まず匂い袋って何だろう?
店主さんにどんなものか質問
ふんふん、携帯したり寝室やクローゼットに置いたり…
結構色んな使い道があるんだね
梓、せっかく来たんだしひとつ作ってみようよ

もし店主さんが直接教えてくれるなら
作りながら、最近変わった事はないかと
さり気なく情報収集してみようか

一つ一つの原料の香りを嗅ぐだけでも楽しいね
ビビッときたものを調香
こういうのはきっと直感が大事
袋は蝶々の絵柄のものとか無いかな
赤色がベースだったらもっと嬉しいな


乱獅子・梓
【不死蝶】◎
お香と聞くと何となく年寄り向けなイメージがあったが
心なしか若い女性客も多く見かける気がする
なるほど、アロマ感覚で使えるものとか色々あるんだな

大男二人組がフローラルな香り漂う
可愛らしい巾着袋を持ち歩くというのも
なんだかシュールな光景だが…
綾が乗り気なことだし、付き合ってやるさ
匂い袋作り体験に承諾

どういう香りが良いかよく分からないから
無茶振りかもしれないが
「俺に合ってそうな香りは?」と
おすすめを聞いてその通りに調香
袋はモノトーン系のシンプルめなやつ
綾は相変わらず赤と蝶が好きなんだなと笑み

不思議な香りに引きつけられたのか
焔と零が顔を覗かせてきた
鼻をくんくんと動かす仕草が可愛い




 灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)と乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)は「薫草堂」の店内を見ている。
「お香と聞くと何となく年寄り向けなイメージがあったが」
 そう呟いて梓が店内を見ればそうでもなく、若い女性も多く見かける。
「なるほど、アロマ感覚で使えるものとか色々あるんだな」
「ねー。お香ってお線香くらいしか思いつかなかったんだけど、こうして見ると色んな物があるんだねぇ」
 綾のイメージする線香、三角系の練り香、型に入れて整えた印香や、そのままでも燃やしても楽しめる香木、香り付けされた袋や小石、布地。そういった香りの品に関連する香炉や香立て、道具達。新しい事柄との出会いに胸弾ませつつ、店内を見回せば「匂い袋作れます」の張り紙が目についた。
「へぇ、匂い袋作り体験も出来るんだね……まず匂い袋って何だろう?」
「うん? 体験物か」
「ちょっと聞いてみよう、すみません」
「はいはい、何か御用でしょうか」
 奥の上がり框で店番をしている店主を呼べば、にこにこと人好きのする笑顔を浮かべて答えてくれる。
 まず匂い袋とは、と聞けば、いくつか持ってきたのは小さな巾着。通りのいい袋の中に香料を詰めて作る、火のいらない香り物だという。
「ふんふん、携帯したり寝室やクローゼットに置いたり…
結構色んな使い道があるんだね」
 綾は隣で同じように頷いていた
「梓、せっかく来たんだしひとつ作ってみようよ」
「大男二人組がフローラルな香り漂う可愛らしい巾着袋を持ち歩くというのも、なんだかシュールな光景だが……」
 まあ、綾が乗り気であるなら、と梓は付き合うことにする。
 案内されたのは店の一角に用意された座卓。そこに座っていると、店主が香料の木や香りを染ませた石、巾着の袋に組み紐、飾り用のとんぼ玉や細工を持ってきてくれる。
 店主が密閉した香料の蓋を開けて香りながら、好きな香りをちょっとずつ、合わせて混ぜて、詰めるのだと教えてくれる。最後に巾着に詰めて出来上がりだ。
 綾は早速各種の香料を試していく。甘い香り、すっきりした香り、優しい香り、スパイシーな香り。似ているようで違う香りを試しながら、自分の直感に訴えてくるものを選ぶ作業はかなり楽しい。だんだん出来上がる自分の香りに綾は顔を綻ばせていた。
 そのついでに、ついていてくれる店主へと、世間話ののりで聞いてみる。
「最近変わった事はない?」
「そうねぇ、事件や怪しい何やらは聞かないねぇ。せいぜい……うちの猫が一匹、弱ってたのが、出かけて帰ってきたら、元気になったくらいかねぇ」
 もう会えないと思ってたのに、不思議でしょう? とおっとり笑う店主。
 相槌を打ちながら、綾はその情報を内に留めておく。
 一方、香料を試しながら悩んでいた梓は難しい顔だ。眉間にしわができている。なかなか直感的に選んでいくのは難しい。多少無茶ぶりかもしれないが、と店主へ声をかける。
「すまない、店主? 俺に合ってそうな香りはあるか?」
「お客さんにねぇ。そうだね、甘い香りよりは落ち着いたほうが良さそうかね」
 沈香にほんの少しの白檀と木蓮、松などの渋い、スッキリした清涼感があり、僅かに甘い香りに仕上げるのはどうだろうか、と。
「ふむ、それもいいな」
 割合は自分で決めることにし、少しずつ掬い、混ぜて、香って。好みの香を作ったらあとは袋に詰めるだけだ。
「俺これがいい!」
 そう言って綾が手にしたのは薄紅から濃い赤のグラデーションの中に、黒い蝶が刺繍された袋。蝶々の飾り結びの紐が装飾につけられている。
「綾は相変わらず赤と蝶が好きなんだな」
 そう笑う梓の手元には黒に白糸で雪の縫取りが小さくされた袋。モノトーンでシンプルなそれに先程の香料を詰めて、口を締める。
 紐を持ってゆらせば、先程調香した香りがしたほのかに漂う。
 その香りに引きつけられたのか、焔と零が梓の脇から顔をにゅっと出して袋を香りに来た。くんくん、すぴすぴと鼻を動かす仕草が可愛らしかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『華の帝都の追走劇』

POW   :    とにかく走れ。力の限り道を征く。障害物も退けたりしよう。

SPD   :    壁を伝って走ろう。建物の上を行こう。屋根を飛んで伝って追いかけるのだ。

WIZ   :    地図を読んで先回りしたり魔力で追いかけたり。様々な智慧で追跡しよう。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


● 
 話を聞けば。
 姿を見れば。
 猟兵達にはわかってしまう。
 
 アヤメという名の猫、あれが影朧だと。


 店主にそれを告げれば、少しさみしそうな顔で頷いた。
「弱って、よく伏せってたあの子が……帰ってきて急に元気になったから。そんなことがあるなんて、と思っていたけれどねぇ」
 店の裏からアヤメを、影朧を連れてきてくれる、が。

 アヤメは一目散に逃げ出した。

 猟兵の集まった店を走り抜け、帝都の町中へと走る、跳ねる、飛ぶ。
 辺り一帯を逃走路とし、猫の身軽さと影朧の身体能力を活かして壁を、屋根を道を、走る飛ぶ、駆ける。

 それを追いかけるのは猟兵達。
 帝都での追走劇が幕を上げた。
====
・匿っていた影朧は飼い猫のアヤメの姿をしていました。逃げたアヤメには目的地があるようです。帝都中を飛んだり跳ねたり、走ったりして逃げていきます。目撃証言集めるもよし、ひたすら追いかけるもよし、先回りするもよし。探してみてください。
・2章は6/29の朝の8:31以降から受付いたします。
その前の送られたものは一旦お返ししてしまうかもしれません。
メルステラ・セレスティアラ
アヤメちゃん待って……!
すぐに追いかけましょう
私は空飛ぶ魔法の箒に乗って追うわ
だって私は『魔女』ですから、ね

アヤメちゃんの逃げた方向へ空から追跡
なんといっても追いかけっこの相手は俊敏な猫ちゃん
あっという間に見失ってしまったわ
こんな時は『素早く動いている』対象に探知の魔法を発動よ
多重詠唱で探知の魔法に性能アップの魔法を重ねて精度を上げてみましょう
アヤメちゃんらしき対象者を発見

むむむ、見つけてもすぐに逃げられてしまう
アヤメちゃん待ってー
それにしてもアヤメちゃんはいったい何処に行こうとしているんだろう?
そこの猫さん、アヤメちゃんの目的地知らないかにゃー?




「アヤメちゃん待って……!」
 メルステラ・セレスティアラ(夢結星・f28228)は箒に乗って追いかける。ふわりと箒は帝都の空へ飛び上がり、上空からアヤメの姿を追いかける。
(だって私は『魔女』ですから、ね)
 逃げ出したアヤメの向かった方へと空を行く。高いビルジングも込み入った道も空からゆくならば関係ない。ミルクティ色の髪を靡かせて、桜舞う帝都を飛んでゆく。
 けれど相手は素早い猫、人よりも随分と小さい体は物陰に素早く隠れ、メルステラは簡単に見失ってしまう。
(こんな時は)
 メルステラは空を飛びながら口の中で小さく呪文を呟く。ひとつふたつ、波のように重ねる魔法。素早く動くものを対象に探知を、さらにその性能を上げる魔法を重ねて紡ぎだす。
 先程のアヤメくらいのサイズの素早く動くものを絞り込んで探して見ればいくつか反応がある。その中でも特に大きく動くものに狙いを定めれば、ビルの屋上を走るものを感知した。普通の猫には難しいそこへと向かってみれば、菖蒲の模様の首輪をした猫の姿。
「アヤメちゃん待ってー」
 ふわりと箒に乗って向かい、端にいる猫に声をかける。が、すぐに地上へ向かって壁を走っていく。
(むむむ、見つけてもすぐに逃げられてしまう)
 その小さな背中を魔法を維持しながらメルステラは飛んでゆく。
(それにしてもアヤメちゃんはいったい何処に行こうとしているんだろう?)
 そんな風に考えていると、視界に塀の上であくびをする猫が入ってくる。
「そこの猫さん、アヤメちゃんの目的地知らないかにゃー?」
 話しかけられた野良猫はただにゃあ、と首を傾げただけだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

杼糸・絡新婦

SPDにて行動。

う~ん、ここは素直に追いかけてみますか。
ユーベルコード『変化の術』にてトレンチコート着用。
【追跡】で追いかける。

鋼糸を利用し、
高所に渡ったり、足場にして飛んだりして、追いかけていく。
弱ってよく伏せていたていうてたけど、
これだけ動き回れたら嬉しいもんやろか・・・。

見失いそうなときや見失った場合は、
【第六感】で進んだり、
周囲の人から【情報収集】
「薫草堂」の猫について聞いてみる。

さてさて、どこへ行きなさる。




(う~ん、ここは素直に追いかけてみますか)
 ぱっと取り出したるはトレンチコート。くるりと回せばあら不思議、ほんの瞬きするほどの間に絡新婦がトレンチコートを着ていた。真っ白な着物の上に茶のコートを来た絡新婦はアヤメの走って行った方向へ向き直る。
「よっと」
 絡新婦はおもむろに鋼糸を振り、屋根の瓦へと引っ掛けそのまま自身の体を引き上げる。高い位置へと飛び上がり、走り去る小さな影の方へと走る。屋根と屋根とを飛んで走り、より高いビルヂングへ渡るためにも糸を張り、足場にして飛んでいく。さらにビルヂング同士の間にも糸をはり、その上を渡る。その様は危なげなく、自由自在に帝都の空を糸と絡新婦が舞う。
 同じように建物を走っていくアヤメの姿を追いかけていく。
 影朧だからこその身体能力で帝都の建物の屋根を走り、壁を伝い、道を行く。その体は骨ばっており、よく手入れされている毛並みも少し張りがない。大事にされていたのはわかるが、かなりの老齢なのだろう。
(弱ってよく伏せていたていうてたけど、これだけ動き回れたら嬉しいもんやろか……)
 弱っていたというのも年齢のためだろうが、今はそんなことを感じさせずにアヤメは走っている。
「さてさて、どこへ行きなさる」
 まるで猟兵を導くかのように走るアヤメ。その姿を見失うこともなく、すぐに追いつきそうで追い付かないその姿を絡新婦は糸を操り走っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

紫丿宮・馨子

アヤメ様っ…どちらへっ…
ただ逃げたのではなく
どこかを目指していらっしゃるのでしょうか?

先日の依頼で蘇った箱の中で運ばれる記憶…あれはわたくしのもの?
魂に問いかけUC使用
式神朱雀と共に飛んでアヤメ様を追う
情報収集/動物と話す/世界知識/祈り/慰め/優しさ

アヤメ様、アヤメ様
お待ちくださいまし
何か成したいことがおありなのですか?
わたくしたちは、あなた様のこころを無碍にしようというわけではございません

もしわたくしが影朧となったのならば
大切な人の元へ還りたいと願うでしょう
…わたくしの、大切な人…?
ふとよぎったのは
見覚えのない質素な漢服姿の男
誰、と考ずる間もなく消えて
浮かんだのは
最近共に任を果たした背中




「アヤメ様っ……どちらへっ……」
 馨子は逃げたアヤメを追いかけて外に出る。
 追いかけて首を振れば、他の猟兵に追われてすぐに雑踏や建物に隠れて見えなくなるその姿。
 それを追うために、馨子一度深く己の中に沈む。
(先日の依頼で蘇った箱の中で運ばれる記憶……あれはわたくしのもの?)
 先の依頼での一幕。棺の中に収められ運ばれる心地は、かつて香炉の身で箱に入れられ、海を渡った その記憶によく似ていた。その頃ヤドリガミでなかった馨子が覚えているはずのない記憶。
 それを縁に己が魂に問いかけて、沈む自身の根源を呼び起こす。馨子は鮮やかな朱の衣と翼を纏い、同じく朱の朱雀と共に浮かび上がり、帝都の空を行く。
「アヤメ様、アヤメ様、お待ちくださいまし」
 確信を持てぬ記憶は一度しまい、猫の姿の影朧へ問いかけながら追いかける。
(ただ逃げたのではなくどこかを目指していらっしゃるのでしょうか?)
 かけられる声に影朧が答えを返したりはしないが、まるで猟兵達をどこかへ案内するように、帝都を身軽く駆けてゆく。その足取りに迷いはない。
「何か成したいことがおありなのですか? わたくしたちは、あなた様のこころを無碍にしようというわけではございません」
 そう語りかけながらも、走り続ける影朧の姿にふと思う。
(もしわたくしが影朧となったのならば大切な人の元へ還りたいと願うでしょう)
 そう願うのだ。では、還る場所は、と考えれば。
(……わたくしの、大切な人……?)
 走る影朧の姿が崩れて揺らぐ。その中に一瞬誰かの影が見えた。
 その影に馨子の脳裏に呼び覚まされたのは、土を捏ねる見覚えのない質素な漢服姿の男。
 見た覚えのない姿に誰、と思う間もなくかき消えて、すぐに浮かび上がってきた大切な人の姿は。
 先の任務で長い黒髪靡かせて馨子を庇う背中だった。

成功 🔵​🔵​🔴​

シビラ・レーヴェンス
露(f19223)と。
何故か無意識に店主の両手に手を重ねて撫でてしまった。
店主の気持ちを少しでも和らげたかったのかもしれない。
私がした行動だが私自身よくわからん。
露ならわかる…ふむ。まだ落ち込んでいたのか。君は。
どうやら露を…私達を猟兵だと判断して逃げたようだ。
しかたがない。落胆する露の頭を撫で気持ちを慰めてやろう。
「急ぐぞ。アヤメは待ってくれそうもない」
露と共にアヤメの姿を確認しながら可能な限り追う。
壁や建物の上…小道や路地など通れるところは追う。
流石に猫のみ通過できる場所は同じようにするのは無理だが。
しかし相手が相手だからな。見失う恐れは大いにある。
だから保険として【三体の従者】で追跡。


神坂・露
レーちゃん(f14377)と追跡。
あー…。猫さんに嫌われちゃったわ。あたし。
じっと見つめちゃったのがいけなかったのかしら。
それとも…猫さんの苦手な恰好だった…?雰囲気?
うーんうーん…?どうしたら仲良くできるかしら。
あれ?気が付いたらレーちゃん撫でてくれてる♪
「あ、うん♪ あたしもいくわ~」
レーちゃんと逃げちゃったアヤメさんを追うわ。
通れるところはレーちゃんと追っていくわね。
見失っちゃったら見てた人を探してみるわよ。
アヤメさんの姿を説明して大体の方向を聞くわ。
時間節約のために【月影】で二人に分かれてしちゃう♪
それでも見失っちゃっても大丈夫だと思うわ。
だってレーちゃんが手を打ってないわけないもの。




 あさをは少しだけ悲しげに微笑んで外へと出ていくアヤメを見送る。その手へとシビラは何故か自身の手を重ねていた。皺を刻んた小さな手を優しく撫でている。
 店主はそんなシビラにありがとう、と柔らかく笑って見せた。
 シビラ自身にもなぜそうしたのかはわからない。店主の気持ちを少しでも和らげたかったのだろうか。この気持ちは露ならわかるか、と思って振り返れば、そこには少ししょんぼりとした姿があった。
「ふむ。まだ落ち込んでいたのか。君は」
 そう呟くシビラの声は露にはまだ届かない。
「あー……。猫さんに嫌われちゃったわ。あたし」
 先程猫に避けられたことに肩を少しだけ落として、普段の様子からちょっとだけしょんぼりとした露はうんうんと考えていた。
「じっと見つめちゃったのがいけなかったのかしら。
それとも……猫さんの苦手な恰好だった……? 雰囲気?」
 露は仲良くしたかったのだ。ただ猫にも気分にもよるが、今回はぐいぐい見つめられるのが苦手だったために避けられたのだった。
 そんなことを知らない露はまだ悩んでいる。
「うーんうーん……? どうしたら仲良くできるかしら。」
 おもちゃとか、何か気を惹くものがあればいいか。それともじっくり見つめないほうがいいのか。そう考える露がふと気づけば、自身の頭を柔らかく撫でる手があった。
 「あ、レーちゃん撫でてくれてる♪」
 落ち込む露を慰めるため、シビラは優しく頭を撫でていた。
「先程避けられたのはともかく、今のはどうやら露を……私達を猟兵だと判断して逃げたようだ」
 だから別に嫌われたわけではないだろう、とシビラは言う。
「そうねぇ。アヤメはじーっと見られるんが苦手な子やっただけよ。別に嫌ってるわけじゃないと思うわぁ」
「ほんとう?」
「ええ、ええ。ほら、キクは大丈夫よ」
 あさをもそっと言葉を添え、側に出てきたキクを露へと渡してやる。菊の模様の首輪した猫は大人しく露に抱かれている。
「うわぁ、やわっこい」
 元気を取り戻した露へとシビラは声をかけ、店を出る。
「急ぐぞ。アヤメは待ってくれそうもない」
「あ、うん♪ あたしもいくわ~」
 既に走り去ったアヤメだが、他の猟兵達も追いかけている。そちらの方へと走り出せば良さそうだ。
「चलो, चलो नृत्य करते हैं।♪」
 月光の下で踊ろうと、異国の言葉を露が呟けば、踊るように楽しげな足取りの姿がもう一人現れる。二人に増えた露とシビラは猫の姿の影朧を追って走り出す。
 壁を登り、建物を飛び越え、細い路地でも通れる場所は一緒に走り抜ける。一対増えた目で見逃さぬように見守って、小さな影を小さな少女達が──そして目立たぬ3つの小さな影が、一緒に追いかけていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リルリトル・ハンプティング

猫さんがオウガ…じゃなかった影朧なのね
誠司さん【f22634】と一緒に追跡よ!

猫さんってば時計ウサギより早そうなのよ
誠司さんの仲間が追いかけられそう?
くくりって言うのね、わたしはリルリトルよ
よろしくね!

わたしは臣下達を呼んでサポートするのよ
目立たず動いて逃走ルートを調べるわ
全速力の猫さんはきっと噂になると思うの
それをこっそり情報収集よ!

後は一生懸命走って追いかけるけど…うぅ
誠司さんに遅れちゃいそう…?いいの?
わたし抱えて大変じゃない?
うん…ありがとう!

ふふー
何だか凄く勇気が湧いてくるのよ
きっと誠司さんが頼もしいからね!

大切な人と離れたくない気持ちはとても解るの
だから確り、猫さん捕まえましょ!


楠樹・誠司

リルさん(f21196)と
唯、屹度
……離れ難かつたのでせう

路地に入られては我々が追い辛くなりませう
お任せ下さい、適任が居ります

蠱毒の底より出づる者
――出でませ、くくり
御前の鼻なら、辿れるだらう

姫君の声に応じる様に吠える様
宙を翔ける狗神を先導を託し後を追う
為るべく人気の無い方へ、威嚇させ誘導交え乍ら
リルさんの仲間達と合図を送り合い、我々は走……、

彼女と自分では余りに歩幅が違ふ
神はひとに触れてはならぬ
迷いはあつた
けれど、

どうぞ、リルさん
確りと掴んでいて下さい

両腕を差し出しちいさな姫君を抱え上げ
高く吠える狗神の影を追い始め

守るべきものを今度こそ違えぬ
其れが今の
……ひとの身体を得た私の願ひなのだから




 外へと出ていく猫を見て誠司は小さく小さく、呟いた。
「唯、屹度……離れ難かつたのでせう」
 あの猫の姿の影朧がここを訪れたのは何故なのか、その理由を想像して。放って置くことも出来ぬとリルリトルと共に外に出る。
「猫さんがオウガ……じゃなかった影朧なのね」
 走っていく姿はただの猫よりも早く、身軽く辺りを飛んでは駆けていく。
「猫さんってば時計ウサギより早そうなのよ」
「路地に入られては我々が追い辛くなりませう」
 人に比べれば十分に小さな体が、見る間にますます小さくなっていく様にリルリトルはうーんと悩む。誠司も同意して頷き、銀の笛を取り出す。
「誠司さんの仲間が追いかけられそう?」
「お任せ下さい、適任が居ります」
 そっと笛へと指を添え、言葉を唱える。
「蠱毒の底より出づる者――出でませ、くくり」
  ダイモンデバイスである残月より呼ばれるのは犬の姿の悪魔。蠱毒を超え、残った狗神だ。
 現れた悪魔へとリルリトルは歓声をあげる。
「くくりって言うのね、わたしはリルリトルよ。よろしくね!」
 その声に答えるように吠えるくくりへと、誠司は言う。
「御前の鼻なら、辿れるだらう」
 対価となる霊力を渡されて狗神は宙を翔ける。先導を任せて追えば間違いはないだろうから。できることなら人気のない方へと吠えて威嚇し、誘導できたらいいが目指す場所があるようで難しいか、とも思いながら。
「わたしもサポートするのよ」
 リルリトルのその言葉に応えて彼女の仲間達が現れる。カラフルな模様の描かれたイースターエッグに手足の生えた愉快な仲間達は、目立たぬように静かに動きながら、彼らの姫君のために走る猫の噂を集めるのだ。小さな足を動かして、あちらこちらへと向かっていく。
「では、参りませう」
「うん!」
 そう言って走り出す誠司だが、すぐに足が緩む。身長差のあるリルリトルとの一歩の差が余りに大きく、ともすれば置いていきかねなかったから。彼の一歩が彼女の二歩にもなりそうなその差にしばし誠司は考える。
(神はひとに触れてはならぬ)
 互いのためにならぬから。しばし悩んだけど、誠司は一度足を止めた。遅れそうになっていたリルリトルが追いつくのをしばし待つ。
「誠司さん?」
 問うように誠司を見上げるリルリトルへと両腕を広げて屈む。
「どうぞ、リルさん」
「いいの? わたし抱えて大変じゃない?」
「大丈夫です。確りと掴んでいて下さい」
「うん……ありがとう!」
 しっかりとリルリトルを抱え上げ、誠司は高く吠える狗神の影を追い始める。揺れも小さく、安定した腕の中でリルリトルは微笑んだ。
「ふふー何だか凄く勇気が湧いてくるのよ。きっと誠司さんが頼もしいからね!」
 空を翔け行く狗神を見上げ、時折情報を届ける臣下の声を聞きながらリルリトルは影朧を思う。
「大切な人と離れたくない気持ちはとても解るの。だから確り、猫さん捕まえましょ!」
「ええ、必ず」
 小さな体を守るように抱えながら誠司は走る。
(守るべきものを今度こそ違えぬ)
 ひっそりと願いを改めて強くしながら。
(其れが今の……ひとの身体を得た私の願ひなのだから)

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

灰神楽・綾
【不死蝶】◎
飼っていた猫そっくりの影朧か…
本物のアヤメはもう亡くなっているのかな?
そうだね、今は影朧の猫を探さないと
店主さんには悲しい思いを
させることになるかもしれないけど…

石がドラゴンに変わった上に人語を喋ってる…
と梓のUCに軽い感動を覚えつつ
一緒に焔に乗って空へ
でもいちいち道端の石に聞いてたんじゃ
ちょっと効率悪いよね
もっと街全体を見渡せるような…
あの高い建物のてっぺんにある風見鶏とかどう?
影朧は屋根の上を全速力で走っているようだから
きっと目立つと思うんだよね

それでも足取りが掴めなくなったら
UC発動し、紅い蝶に影朧を追跡させる
俺も何か役に立たないとね
え?ほら、大冒険した方が楽しいじゃない?


乱獅子・梓
【不死蝶】◎
「猫は死期を悟ると姿を消す」とか言うしな…
もともと弱っていたらしいし
その可能性も否定は出来ないな
とはいえ、その真相がどうなのかは
今は置いておくしかない

さて、どう探したものか
店の前にあった適当な石っころを拾い上げ
UC発動、ドラゴンの姿に変える
この店から出た猫がどの方角に向かったか質問
成竜となった焔の背に乗り、空から追いかけるぞ

お、良いアイデアだな綾
ここらで一番高い建物へ焔を向かわせ
そこの風見鶏をUCでドゴラン化
猫の特徴を伝え、何処へ行ったか聞く

…ってちょっと待て
お前のそれ使えば最初から
影朧の場所が分かってたんじゃないか?
にこやかにぬかす綾を軽く小突く
この件が片付いたら説教タイムだ




「飼っていた猫そっくりの影朧か……」
 走り去った猫の姿の影朧を追い、外に出た綾は同じように出てきた梓へと呟いた。
「本物のアヤメはもう亡くなっているのかな?」
「「猫は死期を悟ると姿を消す」とか言うしな……もともと弱っていたらしいし、その可能性も否定は出来ないな」
 弱った姿を見せぬよう隠れて休むための場所を探してそのまま、という行動なのか、飼い主を思いやって弱った姿を見せぬためなのか。本当に死んだ猫が影朧になって帰ってきたのか。
「とはいえ、その真相がどうなのかは今は置いておくしかない」
「そうだね、今は影朧の猫を探さないと」
 店主には悲しい思いをさせることになるかもしれないが、影朧を放っておくわけにはいかないのだから。
 梓は辺りを見渡し、店の前に転がっていた一つの石ころを拾い上げた。
「誇り高き竜と成れ」
 瞬時に小さなドラゴンへと変わった石ころに梓は先程、猫が走っていった方角を問いかける。ドラゴンはあっち、と小さな爪で一つの方向を指差した。
(石がドラゴンに変わった上に人語を喋ってる……)
「綾、行くぞ」
「うん」
 梓のユーベルコードに軽い感動を覚えている綾へ声をかけ、梓は成竜の姿になった焔の背に乗り込んだ。綾も同じく背に乗る。
 二人を背に乗せた焔は帝都の空へと羽ばたいた。
 聞いた方角へと飛んでいきながら、綾はふと思いついたように言う。
「でもいちいち道端の石に聞いてたんじゃ、ちょっと効率悪いよね」
 地上に降りて、石に聞いて、また飛んで、と繰り返すよりもより効率のいい方法を考え、焔の飛ぶ先にある風見鶏を指差した。
「もっと街全体を見渡せるような……あの高い建物のてっぺんにある風見鶏とかどう?」
 ああして高い位置にあるものならば見えるだろう、と。
「影朧は屋根の上や壁も全速力で走っているようだからきっと目立つと思うんだよね」
「お、良いアイデアだな綾」
 早速その風見鶏をドラゴンへと変え、菖蒲の模様の首輪をした、普通の猫にはありえない身体能力の猫の行き先を聞く。
 風見鶏が変じたドラゴンは、今まさに隣を通り過ぎていった猫を指差した。途中で追い抜いていたらしい。
 建物に比べれば小さな猫は屋根から降りて路地へと入っていく。上空から探すのは難しいかもしれない。
「どうするか……降りるか?」
 そう考える梓の横を紅い蝶が羽ばたいた。
「行ってらっしゃい」
 綾が呼び出した紅い蝶が猫を探しだす。路地裏を走る猫を見つけて追いかけはじめた。
「これなら位置もわかるから迷わないよ」
「そうか……ってちょっと待て」
 さあ行こうと促す綾に梓の厳しい視線が突き刺さる。
「お前のそれ使えば最初から影朧の場所が分かってたんじゃないか?」
「え、だって一回は見つける必要があったし」
 それにね、とにこにこと笑いながら綾は言う。
「ほら、大冒険した方が楽しいじゃない?」
「ぬかせ」
 即座に梓に軽く小突かれた。
「この件が片付いたら説教タイムだ。どっちだ?」
「えー……。あっち」
 綾の指す方向へと向かい、焔は羽ばたくのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

永倉・祝
秋人くん(f24103)と。

あの猫さんが影朧だったようですね。
死期を迎えたところで影朧に…飼い主としてはやはり生きていてくれることが嬉しいですから…連れてきてくださってありがとうございます。

身軽な猫ちゃんを普通に追いかけたとしても追いつくのはなかなか難しいでしょうね。
でたらめに逃げられたら厄介ですが…。
猫ちゃんはここを離れてどこか行くところがあるのなら。
その場所に向かえば見つけられるかもしれませんね…。
店主さん猫ちゃんが行きそうな場所に心当たりはありませんか?
(心当たりがあるならその場所へないようなら秋人くんと相談して猫が好みそうな場所へ。


鈴白・秋人
祝さん(f22940)


あさをさん、どうか気落ちせずに…。
弱っていたあの子が、影朧になっても、元気な姿で貴女の前に再び現れた事に意味はあると、わたくしは思いますわ。

わたくし達は、唯屠るだけではありません。
あの子の魂の道行を開くのが仕事ですの。
…きっと、其の魂は貴女の元へと帰ってきますわ。


わたくしの推測では、人も動物も最期には好きなものの元…
愛しいものの所へ向かうのではないかしら?

例えば…
元気になった体で産んだ子の元へ向かうとか

人目に付かず、日も当たり、子を育てるのに適した場所…

(祝さんの情報も加味。地図を広げ、陽の昇りと最初に飛び出した方向から、大まかな場所を特定。怖がらせ無い様こっそり待つ)




「あの猫さんが影朧だったようですね」
 走り去ったアヤメの姿の影朧を見送り、ぽつりと祝は呟いた。死期を迎えたところで影朧にになったのだろうか。それとも別に理由があったのだろうか。今はまだわからないけれど。
「……飼い主としてはやはり生きていてくれることが嬉しいですから……連れてきてくださってありがとうございます」
 祝と秋人は影朧をすぐに追いかけることはせず、キクを抱えたあさをへと近づいていく。少しだけ気落ちしていたようなあさをは、近寄ってきた二人にそれでも先程のような笑顔を浮かべてみせた。
「あさをさん、どうか気落ちせずに……」
 そっと秋人はあさをの細い腕へと手を添えて優しく撫でる。慰めの気持ちが伝わるように、と。
「弱っていたあの子が、影朧になっても、元気な姿で貴女の前に再び現れた事に意味はあると、わたくしは思いますわ」
 寂しく弱った姿を残すのではなく、しばし元気な姿を見れたことはあさをにとっても慰めであっただろう。死を迎える最中にもう一度、あさをに会いたかったのかもしれない。
「わたくし達は、唯屠るだけではありません。あの子の魂の道行を開くのが仕事ですの」
 決して滅ぼすための存在ではない、と。秋人は誇りを持って断言できる。
「……きっと、其の魂は貴女の元へと帰ってきますわ」
 くるりと巡る魂の輪に乗って、あさをの元へと帰ってくるはずだから。
「ええ、ええ。どうかアヤメをお願いします」
 そう言って、あさをは頭を下げた。
 その信頼に応えようと二人はこれからの行動を考える。
「身軽な猫ちゃんを普通に追いかけたとしても追いつくのはなかなか難しいでしょうね」
 祝の言うように人に比べて小さな体で、さらに影朧としての身体能力で高い場所や壁を伝い、狭い道も素早く走るというのなら人の姿で追いかけるのは大変だろう。さらに撹乱するようにあちらこちらとでたらめに逃げられたら厄介なのは目に見えている。
 ならば、先にどこに行くかを予想して先回りするのが良さそうだ、というのが二人の判断だ。
「猫ちゃんはここを離れてどこか行くところがあるのなら。その場所に向かえば見つけられるかもしれませんね……」
「わたくしの推測では、人も動物も最期には好きなものの元……愛しいものの所へ向かうのではないかしら?」
 秋人であれば祝の元へ。祝であれば秋人の元へ。そういう風にアヤメも向かったのではないのだろうか。そう秋人は推測する。
「例えば……元気になった体で産んだ子の元へ向かうとか」
「そうですね。店主さん猫ちゃんが行きそうな場所に心当たりはありませんか? お子さんのところとか」
「うぅん、アヤメの子ねぇ」
 あさをは首を傾げる。アヤメの生んだ子はこの周りの家々に貰われていった。つい昨日にも会ってたようだから、そこを目指したということはないかも、と。
「ああ、でも。たまに行っている場所があったねぇ」
 ここから人の足でも30分ほど。小さなアヤメが拾われた、小さな空き地。他の猫も時折現れるその場所は日当たりもよく、気に入りの場所であったと言う。身を隠すのに丁度よい箱やら丸太やらも積まれていたはずだ。
 地図を広げ、最初に走っていった方角とてらして確認すれば、そちらに走っていったのは間違いないだろう。
 二人、あさをに行ってきますと言って、店を出て急いで向かう。
 走り込んでくるだろう影朧を脅かさぬよう、静かに待つために。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

可惜夜・藤次郎
【藤溟海】


ぬくくやわらかだった手触りは名残惜しい
さてさて、猫は死期を悟ると消えると聞くが
どちらへお行きだろうな

櫻宵、頼めるか
流石に人の脚では追いつけん
いつかの話で聞いた追跡の術を頼りにして
速足で歩む
帝都の人々に、
動物会話で動物に、
アヤメの情報を尋ねながら
行き先は勿論、この街で生きたあの子のことを
どんな風に過ごして、どんな子と仲が良くて、どんなに好かれていたか
きっと生きた軌跡を知れば、魂巡らせる手助けにもなるだろう
探偵の真似事は経験がある
ユーリにコツを教えながら
とは言え、ゆっくりもしてられないが

焦っても仕方ないさ、ライラ
元より魂は巡るもの
此処が分かりやすく転生できる世界で良かったんじゃないかね


ライラック・エアルオウルズ
【藤溟海】


あの子が影朧だとはね
飼主の元へそうと帰るのが、
ひと時限りでは寂しくあるもの
巡る先で再会を、と背押そう

櫻宵さんの猫追う蝶へ
戯れ付かれないでね、と冗談粧し
皆と《追跡/情報収集》
反面教師にはならぬよう、
ユーリさんの手本となれるかな

弱る体で何処へと出掛けて、
どうして影朧となったのだろう
選び向かう“死に場所”にと、
何方か心当たりは無いものか
――それと、好物も知りたいな
あの子へ供えるためにさ

未だ共に居たくて帰ったのかな
それとも、最期の別れを告げに?
何方にしても、矢張り悲しいから
出来る限りと言葉を探さないと

焦って身傾けば、頭掻いて
ああ、そうだね、藤次郎さん
帰り道も帰る場も
あの子は迷う事はない筈だ


ユーチャリス・アルケー
【藤溟海】


水のようで岩のよう
けれどねこ以外に、成るなんて
急ぎましょうね

勝手の無い街と身軽な相手
聞き広げては皆と確認して、
情報集め絞り込んで行きましょう
…行ける、かしら

サヨから飛び立つ黒色を頼もしく見上げ
ひとへの訊ねかたはライラックに、
追いかけかたはトウジロウを見て、
僅かな時間、僅かな進歩でも学びましょう

行きたいのは、会いたいのは、
嗚呼、あなたのことばかり考えている
…香り
キクの香りは、陽のような、
砂漠より柔らかくて水気のある、あたたかな場所の香り
野原へは、行きたいかしら
それとも、隠れたいの?

わたくしは息絶えゆくいのちになら
迷わず向かえるのに
廻るいのちはお転婆ね
どうか、また、お店に行ってあげて


誘名・櫻宵
【藤溟海】


やわこくて暖かで可愛らしかったわぁ
私、癒されちゃった!
でも猫が影朧だったなんて
猫は死期を悟るとというけれど
最期ならば望む場所へおくってあげたいわ
藤次郎とライラックの言葉に頷いて私も願う
また巡り出逢えるように

怖がらせないように少し離れたところから
「呪華」の黒蝶飛ばせてアヤメを追わせましょう
蝶の持ってくる情報と、皆と集めた情報とを照らし合わせて
そして想いと想いを結びつけてあの子のゆく先へ導きましょう
私達に桜の癒しは使えぬけれど
この街で人々と過した記憶はきっと癒しとなるはず
好む香りもきっと
ユーリの言葉に微笑む
落とさぬように焦らずにしかと紡いでゆきましょう

大丈夫、きっとまた
帰ってきてくれる




 するりと降りたぬくもりは、溶けるような手触りは少々名残惜しかった。藤次郎は店から出ていった猫の影朧へそう思う。
「やわこくて暖かで可愛らしかったわぁ」
 抱き上げた体は温かく柔らかで、櫻宵へと癒やしを齎した。
「あの子が影朧だとはね」
「水のようで岩のよう。けれどねこ以外に、成るなんて」
 柔らかくとろけた体、ずっしりと岩のような温かさ。けれどもそれ以外の、世界に害を成し得るものになってしまったことはひどく残念だ。ライラックとユーチャリスは何とも切ない心持ちを感じる。
「さてさて、猫は死期を悟ると消えると聞くが。どちらへお行きだろうな」
「最期ならば望む場所へおくってあげたいわ」
「飼主の元へそうと帰るのが、ひと時限りでは寂しくあるもの。巡る先で再会を」
「急ぎましょうね」
 その魂が巡った先で、もうひとたびの再会を。安寧を得たあとに暖かな出逢いを。それを齎すために藤溟海の面々は店を出る。
「櫻宵、頼めるか。流石に人の脚では追いつけん」
「ええ。──さあ、見つけてちょうだいな」
 頷いた櫻宵の白い肌と対を成すような黒い蝶が浮かび上がる。心を侵す呪詛を纏ったその蝶へライラックは柔らかに微笑んだ。
「戯れ付かれないでね」
 冗談めかした言葉に、ひらりと翅を揺らして答えるかのような黒い蝶は、影朧を脅かさぬよう少し離れた場所から追跡を始める。
 その蝶を追うように四人も歩き出す。
 ユーチャリスには帝都は馴染みのない場所だ、勝手はわからない。
「……行ける、かしら」
「大丈夫」
 人当たりの良い笑みを浮かべ、ライラックはユーチャリスを励ますように言葉を紡ぐ。そして彼女の手本となるように、帝都をゆく人々へと話しかけた。「薫草堂」のアヤメのことを。語り口は穏やかに、相槌は興味深げに。様々な情報を集めていく。
 藤次郎も人々や更には辺りにいる猫へと話しかける。駆けていったであろう猫の後を追うために。彼の影朧の情報を集めるために。時折探偵のコツを、彼の経験からユーチャリスに教えながら。
 導くように追いかける黒い蝶を頼もしげに見上げ、二人の手本に習いながら、ユーチャリスも彼女の力を尽くす。僅かでも学んだことを活かして慣れぬ帝都の道を游ぎ、情報を集めては確認して影朧の行く先を絞り込む。
 そうやって三人が集める情報と、蝶が齎す情報を合わせて、櫻宵は影朧へとゆく道を、想いと想いを結んで繋いで導いていく。アヤメがこの街で過ごした記憶は、あの影朧へも繋がるだろうから。
「弱る体で何処へと出掛けて、どうして影朧となったのだろう」
 ぽつりとライラックが呟いた。
「選び向かう“死に場所”にと、何方か心当たりは無いものか」
 あさをに聞いてきても良かったかもしれない。アヤメの好んだ場所を、よく向かう場所を。
「――それと、好物も知りたいな。あの子へ供えるためにさ」
 巡る時に、巡った後にでもいい。アヤメの好物があればどんなにか慰めになるのではないか。そう思ってライラックの聞き込みに熱が入る。
 藤次郎も様々な人に、動物にと話しかける。行き先だけでなくこの街でどのようにアヤメが生きてきたかを。
(どんな風に過ごして、どんな子と仲が良くて、どんなに好かれていたか)
 猫同士、より細かな話が聞けぬものか、と野良猫にも聞き込みを。
(きっと生きた軌跡を知れば、魂巡らせる手助けにもなるだろう)
 アヤメという猫を知ることで、その影朧を巡らせる一助になれば、という想いから藤次郎は彼の猫を知りたいと願うのだ。
(行きたいのは、会いたいのは、嗚呼、あなたのことばかり考えている)
 ユーチャリスはひたすらに影朧を想う。勝手が違う世界で、道を知らぬ街で、身軽な相手を追いかける。情報を集め、考え、行き先を絞り込む。それはあたかも夢中になって追いかけるようで。想うその中でふと、ひっかかった何かを口に出す。
「……香り」
 先程店で、すぐ近くで感じたキクの香り。アヤメと共に暮らした猫からは日だまりのような香りがした。
(砂漠より柔らかくて水気のある、あたたかな場所の香り)
 猫はもしかしたらそういう場所を好むのだろうか。それとも身を守るために隠れたいのだろうか。ただひたすらアヤメの心を思って、ユーチャリスは影朧への道を、情報を探す。
(私達に桜の癒しは使えぬけれど)
 櫻宵はそんな仲間の集める情報を整理しながら走っていった影朧を想う。
(この街で人々と過した記憶はきっと癒しとなるはず)
 集まる情報に虐げられたというものはなく。朗らかに見守られていたのだろう、自由気ままな猫らしく、そのままを愛されていただろうものばかり。
 ほんの少し気のはやるユーチャリスを手招きし、確実に近づいていると、蝶の齎す情報を伝えてやる。
「だから大丈夫よユーリ。落とさぬように焦らずにしかと紡いでゆきましょう」
「ええ、そうね。そうね」
 そうやって追いかけていれば、影朧の向かう先も見えてくる。かつてアヤメが好んでいた場所、日当たりのいい空き地、けれど身を隠すのに丁度よい箱やら丸太やらもあるという其処を目指して走っているようだということもわかってきた。
 そちらへと足を運ぶ中、ライラックがもどかしげに言う。
「ねえ、かの影朧は、未だ共に居たくて帰ったのかな。それとも、最期の別れを告げに?」
 何を想って帰ってきたのか、それはアヤメしか知らないのだろう。何方であってもそれは──悲しい。
 どう伝えれば、どう想えば、どう紡げば。言葉を生業にするからこそもどかしい、切ない、この気持ち。
 焦る想いに身を傾げ、頭をぐしゃりと掻いていれば、宥めるように藤次郎は言う。
「焦っても仕方ないさ、ライラ。元より魂は巡るもの」
 どんな世界のどの場所であっても元々巡るものだから、早くも遅くもいつかは訪れるものなのだ。
「此処が分かりやすく転生できる世界で良かったんじゃないかね」
 それが見えぬ世界であるよりは、残るものも逝くものも、少しでも心安くあれるかもしれない。少しでも覚悟をできるかもしれない、と。藤次郎は諭すようにも、優しく慰めるようにも聞こえるような声音で語りかける。
「ああ、そうだね、藤次郎さん」
 その声にライラックは心がなだらかに落ち着いたように感じた。
「帰り道も帰る場もあの子は迷う事はない筈だ」
 ならば巡らせてやれば良い、と前を見る。
 二人の後を追うように、櫻宵と並んで游ぐユーチャリスも呟いた。
「わたくしは息絶えゆくいのちになら迷わず向かえるのに──廻るいのちはお転婆ね」
 死を友とするユーチャリスは死にゆく者へと向かうのは容易くできるのに、とほんの少しだけ嘆いて。その後に祈る。
「どうか、また、お店に行ってあげて」
 来世を願う彼女の言葉に、櫻宵は愛でるように微笑んだ。
「大丈夫、きっとまた帰ってきてくれる」
 アヤメにとって、あの場所は──大切な、帰る場所だったのだから。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『寄り添う存在』

POW   :    あなたのとなりに
【寄り添い、癒したい】という願いを【あなた】に呼びかけ、「賛同人数÷願いの荒唐無稽さ」の度合いに応じた範囲で実現する。
SPD   :    あなたのそばに
【理解、愛情、許し、尊敬、信頼の思い】を降らせる事で、戦場全体が【自分が弱くあれる空間】と同じ環境に変化する。[自分が弱くあれる空間]に適応した者の行動成功率が上昇する。
WIZ   :    あなたはもう大丈夫
自身の【誓約。対象の意思で別れを告げられ消える事】を代償に、【対象自身の選択で心に強さを持ち、己】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【過去を振り切った強さ】で戦う。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠宮落・ライアです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 ある猫と影朧の記憶。

 その猫は幸せだった。
 温かな住処、柔らかな仲間、美味しい食事。
 それを与えてくれる、変わった匂いのする人間。
 その猫に傷はなかった。
 優しく見守る周囲、多少うるさい小さな人間、けれど帰るべき場所があった。
 弱って動かなくなる前に、心地よい広場を目指して──帰るつもりだった。
 日向ぼっこしている内に、眠っていた。
 薄れいく意識の中で、帰らなくては、と猫なりの愛を抱いた。
 そうしてその魂は輪廻へと巡っていった。

 その影朧は愛を与える。
 記憶も感情も、癖も。偽りとわかっていながら、写し取ったその姿のすべてで過去へと縛り付ける。善意から愛を──毒をあたえる。
 影朧は死にゆく猫の愛を写した。その愛のまま、飼い主のもとに戻って、愛を与えた。そして倒されるならば──愛のままに姿を消してみせた。


 猟兵達が帝都の一角にある空き地へと赴いてむれば、追いかけていた影朧が茂みを覗いていた。
 そこを覗けば、もう冷たくなった猫の体。tamasiiha輪廻にすでに巡っただろう。
 ならばこの影朧は、と猟兵達が警戒を強めれば。
 ぐらりふわりと影朧の姿が崩れる。靄になったその向こうに見えるのは、猟兵それぞれが心許した何かの姿だった。

====
・本来のアヤメは既に輪廻の先へと巡っていました。影朧『寄り添う存在』は、その心に惹かれて、アヤメの姿であさをに寄り添っていました。
・この影朧は貴方にも寄り添うでしょう。家族や恋人、ペットの姿でそこにいます。すでにいなくなった人かもしれません。生きていて、今ここにいないだけの人かもしれません。
どう跳ね除けるも、幻想に惑うも自由です。
・特に思い当たる姿がなければ、再びアヤメの姿を取るかもしれません。ただ愛らしく、貴方の側に寄り添ってくれるでしょう。
シビラ・レーヴェンス
露(f19223)と。
元の姿に戻ると思っていたが…猫の姿のままか。
そして寄ってきた?先程までは嫌がり逃げていたのに?
何を考えているんだ。この影朧は。何かの罠を…張った?
隣に居るだろう露の様子を確認。相手の攻撃もわかるだろう。
露の行動が変になっていると判断したら一緒に距離を置く。
露の様子からみるに…なるほど。幻覚の類か。
頬を張れば痛みと衝撃で正気になるだろうか。…!(叩く)
文句は影朧にでも言え。この影朧を『海』へ還すぞ。
とはいえ魔術で攻撃も忍びないな。幾ら偽っていたとしても。
「言葉はわかるか? すまないが還ってくれないか?」
触れながら話しかけてみよう。
触れる前に狂気耐性とオーラ防御を付与する。


神坂・露
レーちゃん(f19223)と。
あれ?なんであの人が?もう亡くなってるのに。
最後の所有者だったあの人…また逢えるなんて…。
うわぁ~ん…逢いたかったわ逢いたかった!
「っぷきゅ?! …痛ぁ~い!」
あれ?ここは?あ。猫さんと…レーちゃん♥
簡単に事情とその対応の説明をされて少し怒るわ。
「…むぅ。しかたがないけど殴るなんてぇ~…」

それはいいけど…さっきのは猫さんの力なのね…。
なんだか傷つけたくないわね。この猫さん。
レーちゃんも同じこと考えてるみたい。えへへ…♪
レーちゃんがこの猫さん触れるならあたしもする!
「おいでおいで♪ 怖くないわよ~」
今度こそこの猫さん抱っこして頬ずりしたいわ。
あ。耐性と防御しないと。




 シビラはほんの少し眉根を寄せた。猫の姿が崩れて靄へと変わりそれから影朧自身の姿に戻ると予想していたのに、靄の向こうから現れたのは先程から追いかけてきた猫のままだったからだ。
 おまけに本当のアヤメのそばに案内することが終わったから逃げる必要などない、とばかりに寄ってきてシビラの足元でちょこんと座っているという。
(何を考えているんだ。この影朧は)
 先程まで嫌がり逃げていたのではないのか、と思考を巡らせればすぐに新たな考えが浮かぶ。
「何かの罠を……張った?」
 もう逃げる必要がないのなら逃げなくていいのならば、すでに影朧の術中なのかもしれない。すぐに隣に居るだろう露へと目を走らせる。

「あれ? なんであの人が?」
 露に向かって靄の向こうから現れたのは、懐かしい人だった。遊牧民の装いを纏うその人はもうすでにこの世にいるはずのない人。もう逢えるはずのない人だった。
 その人が露へ向かって歩いてくる。露は一歩目は恐る恐る、続く足は駆け足で、懐かしいその人へと駆け出して飛び込んでいく。
「うわぁ~ん……逢いたかったわ逢いたかった!」
 ぎゅうと抱きつけば、放牧の日々で自然と鍛えられた体がしっかりと露の体を抱きとめてくれた。
(……また逢えるなんて……)
 懐かしい日の下で外を駈けていく動物や自然の匂いや、しっかりと受け止めた腕に甘えながら、露はくすん、くすんと甘えるように鼻を鳴らす。露を受け止めたその人は静かに露に寄り添っていた。
 想定外の出会いに、ただ留めて受け止めてくれる愛に浸ってこのまま、もう少し、と思っていると肩を揺すられる。いやいや、と首を振って温かなぬくもりに溺れてもしつこく揺すられる。それでも無視していたらやめてくれたようで、揺すられる気配がなくなった。

 靄のような塊を抱きしめている露を揺する手を止めて、シビラは嘆息する。
(……なるほど。幻覚の類か)
 距離を取ろうにも靄はついてくるし、露も夢中になっているようで離れるのに協力すらしない。
 どうにも様子がおかしいのは分かりきったので、目を覚まさせるためにシビラは腕を振り上げた。
「……!」
 ぱぁんと露の頬を張る。結構いい音がした。
「っぷきゅ?! ……痛ぁ~い!」
 過去の愛へと浸っていた露もその衝撃で現在へと意識を戻す。
「あれ? ここは? あ。猫さんと……レーちゃん♥」
 先程まで抱きついていた懐かしい人は姿を消して、側には追いかけてきた猫と大切な親友の姿。
 シビラがから簡単に推測と事情、対応の説明を受ければ、いかに露であっても張られた頬を膨らませて、怒りを表した。
「……むぅ。しかたがないけど殴るなんてぇ~……」
「文句は影朧にでも言え」
 目覚めないのだから他にやりようがないのだ、とシビラは冷静に告げた。しょうがない、と露も割り切って側にいる猫の姿へと視線を移す。
「……さっきのは猫さんの力なのね……」
 もう会えない人に出会えた喜びと、やはり幻に近いものだったのかという切なさとが入り混じった声だった。
 少し沈んだような露へと、それでも、とシビラは凛と告げる。
「この影朧を『海』へ還すぞ」
「うん。でも、なんだか傷つけたくないわね。この猫さん」
 そう呟く露にシビラは何も言わない。けれど同じことを考えているかのように、呪文を紡ぐこともせずに猫を見つめているのだ。その様に露は何だか嬉しくなる。
 露の推測通り、偽りの姿であっても魔術で滅ぼすのは忍びない、とシビラは猫へと屈んで手を伸ばす。
「言葉はわかるか? すまないが還ってくれないか?」
 一応、狂気への耐性と、オーラで防御を張りながらその背を撫でてやれば猫の姿の影朧は、気持ちよさげに喉を鳴らす。周囲を取り囲む靄が薄らいだ気がした。
「レーちゃんがこの猫さん触れるならあたしもする!」
 露は今度こそ抱っこするのだ、と勢いづくのをこらえて、撫でられる猫へと静かに腕を差し伸べる。
「おいでおいで♪ 怖くないわよ~」
 見つめすぎないように、怯えさせぬように。そうして待っていれば、寄り添う存在である影朧は今度こそ露も腕の中へとやってくる。
「うわぁ。うわぁ♪」
 優しく落とさぬように抱きかかえれば、暖かな重みが心地よい。思わず頬ずりすれば、懐かしい人によく似た、日向の匂いがするのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

楠樹・誠司
リルさん(f21196)と

『静寂の樹よ。また一年を、健やかに過ごせますやうに』

数多の祈りが
願ひが聴こえるのに

『如何か。如何か、■■■■に。
 ――御前はまう、■■なのだから――』

嗚呼
……あゝ、何故
私は、

顳顬に激痛が走る
其れは今迄の何より鋭い
溢れる喘鳴
仮初めの心臓が、五月蝿い位に脈打っている

ふと
自身の直ぐ近くから響く確かな聲
『誠司』と
ひとの貌を得た私の名を呼ぶ聲
握られたてのひらに我に返り
硬く目を瞑り頭を振って応じ

大丈夫です
私は、此処に居りますとも

夢は現へ
幻は在るべき処へ
一太刀のもとに斬り伏せて御覧に入れませう

優しい夢を
そして、傍の頼もしい姫君へ
有難う御座います
……良い夢を見たのだと
そう、思うのです


リルリトル・ハンプティング
誠司さん【f22634】と!

あらら?
お父様、お母様?
どうして来たの?わたしが心配になっちゃった?
大丈夫よわたしちゃんと国に帰るってお約束したし
今はね頼もしい…頼もしい?
…あ、誠司さん!
そうなの今ね誠司さんと猟兵のお仕事してるのよ
お父様とお母様は頑張るわたしを信じて壊れた国を直す事に集中してるの
だから貴方達は偽物ね!

——でも、姿が見られて嬉しかったのよ
ありがとう

誠司さん!大丈夫?
幻を観てるのね、よし今度はわたしが助けになるのよ!
わたしに気付いて、と呼びかけ誠司さんの手をそっと握るの
…誠司さん?良かった!

さぁ、後一息頑張りましょう!
卵歩兵を突撃させて、気を取られてる隙に金のスプーンで叩いちゃうのよ




『静寂の樹よ。また一年を、健やかに過ごせますやうに』
 誰かの祈る声が聞こえる。一つ二つ、数多に響いて重なる声は途切れずに。静寂を揺らす願いの声。その声が聴こえるのに。
『如何か。如何か、■■■■に。――御前はまう、■■なのだから――』
 顳顬に痛みが走る。ズキリズキリと今までに感じたどれよりも鋭い痛みが、喉から喘鳴を零させる。仮初の体の中心が、どくどくと響くほどに脈打っている。
(嗚呼……あゝ、何故──私は、)
 ただただ■■■■に、そんな願いのはずなのにひどく痛い。己は何だったか。人を愛し、請いて乞いて、恋て、その果てにどうしたのだったか。■■になったのだったか。
 そばに寄り添うその願いの幻に、誠司は囚われていた。

「あらら? お父様、お母様?」
 リルリトルの前にやってきたのは、彼女の愛する家族だった。故郷に残っているはずの彼らが現れて、リルリトルへと寄り添ってくる。
「どうして来たの? わたしが心配になっちゃった?」
 優しく手を差し伸べてくる仕草は、優しく語りかけられる声は、リルリトルの愛する両親そのものだ。怪我はないか、病気はしていないか、困ったことはないか。表し方は様々だけれど、いつだって親は子供が心配なのだ。
「大丈夫よ、わたしちゃんと国に帰るってお約束したし」
 こんなに元気だ、と人の手を広げて笑ってみせる。それにね、と言葉は続く。
「今はね頼もしい……頼もしい?」
 かちりとたまごの殻が何かにぶつかったような、引っ掛かりを覚える。うーんと手繰って見れば、それは大切な友人の記憶。
「……あ、誠司さん!そうなの今ね誠司さんと猟兵のお仕事してるのよ」
 頼もしい友人と共に、事件を解決するために頑張っているのだ。そう、そうだ。そんな自分を両親は信じて送り出したのだ。
「お父様とお母様は頑張るわたしを信じて壊れた国を直す事に集中してるの。だから貴方達は偽物ね!」
 だからここにいるはずがない、とリルリトルは否定する。リルリトルの両親の姿が崩れていく。丸いたまごの殻がふわりと広がって、靄へと変わる。
「──でも、姿が見られて嬉しかったのよ」
 まだ帰ることはないけれど、幻でも嬉しかったのだ。
「ありがとう」
 リルリトルの周囲から靄が薄れていく。その向こうに立つ誠司の姿が見えた。
「誠司さん! 大丈夫?」
 駆け寄るリルリトルに反応することなく、靄の中をじっと誠司は見続けている。先程の自分と同様に幻を観ているのだ。
(今度はわたしが助けになるのよ!)
 自分に気づいてほしいと願いながら、そっと誠司の大きな手を握り、彼の名を呼ぶ。

 痛みと願いの声に翻弄される中、ふと気づく。願いの声とは違う、確かな声がする。その声が名前を呼んでいる。
『誠司さん!』
 それは静寂の樹ではなく、ひとの貌の名前。神ではなく誠司という猟兵を表す短い呪。握られた小さな手の暖かさに幻が崩れて消えていく。
 幻から解放された誠司へとリルリトルは声をかける。
「……誠司さん? 良かった!」
 誠司は一度、固く目をつぶり頭を振った。もう静寂を揺らす願いは聞こえない。
「大丈夫です。私は、此処に居りますとも」
 拒絶された存在は揺らいで 、誠司とリルリトルの姿を取る。今ここにはない過去を、愛を振り切ったその強さを表すように二人の前に立っている。
「さぁ、後一息頑張りましょう!」
「はい。夢は現へ、幻は在るべき処へ。一太刀のもとに斬り伏せて御覧に入れませう」
 小さな卵の兵隊達がリルリトルの掛け声に合わせて幻の二人へと突撃していく。足元でぽんぽんぽんとカラフルに割れる兵隊に気を取られる誠司の幻を、誠司本人が澄清で切りさいた。リルリトルの幻は、リルリトル本人が金のスプーンで卵の殻を叩けば消えていく。
 薄れていく靄の中、誠司は呟く。
「優しい夢を」
 そして、傍の頼もしい姫君へと向き直り、かすかに笑った。
「有難う御座います」
「どういたしまして! どんな幻を見ていたの?」
「そうですね……良い夢を見たのだと。そう、思うのです」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

杼糸・絡新婦
・・・そうかあ、その人の姿とるか。
自分が会いに行くと決めとるから、
その必要はないよ。
どういうつもりであの猫の姿で
店主さんの所に行ったか知らんし、
それが良いことなんかいらんことなんかも分からんけど、
自分には必要ない、自分が決めたことやから。
すまんな。

あんたさんが寄り添うただけのものならば、
攻撃させんといてほしいんやけど、
攻撃せなあかん存在やったら向けるのは憎しみやで。

さて、どうする?




 サイギョウを抱えた絡新婦の前にも、ゆらりと揺らいだ靄の向こうからとある人が現れる。
「……そうかあ、その人の姿とるか」
 絡新婦の前に立つその人は、絡新婦が会いに行くと決めている人。今ここにいるはずのない人の姿だ。その人はただそこにあって、そっと絡新婦を待っている。ただ絡新婦を肯定するような、そんな空気を纏わせて。側にいけば快く迎えてくれるだろう。
 けれど絡新婦がその人に近づくことはない。二人の間の距離は縮まらない。一つ、嘆息して絡新婦は話しかける。
「なあ、自分が会いに行くと決めとるから、寄り添うんも、愛するんも必要はないよ」
 絡新婦は影朧を否定する。今この場で、影朧の思う愛に捉えなくたっていい。その姿で自分に寄り添う必要はない。絡新婦が自分で会いに行くと決めているのだから。
 故に絡新婦はその影朧を拒絶する。 四つ色の糸を巻きつけた杼を手の中で弄びながら、影朧を否定する。
「どういうつもりであの猫の姿で店主さんの所に行ったか知らんし、それが良いことなんかいらんことなんかも分からんけど」
 それは優しさなのか害意からなのか絡新婦にはわからないことだけれど。確かなことは。
「自分には必要ない、自分が決めたことやから」
 わざわざその姿を取った影朧へと髪を揺らして首を振った。己には不要だ、と。
「すまんな」
 詫びながら、形を崩し靄へと変わる人影へと語りかける。
「あんたさんが寄り添うただけのものならば、攻撃させんといてほしいんやけど」
 攻撃してこなければ、絡新婦も攻撃しない。このまま還ってくれないか、と。ただ寄り添って愛を与えてくるだけであれば──戦う理由もないのだと。
「攻撃せなあかん存在やったら向けるのは憎しみやで」
 杼の先を突きつけ決めろと促す。
「さて、どうする?」
 問いかけに靄は揺らぎ、絡新婦の周囲から薄れて消えていくのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

紫丿宮・馨子
嗚呼…アヤメ様は、もう…
わかっていたはずなのに
固くなったその小さな体を見ると涙が

…どうしてあなた様が、ここに…

目の前に現れたのは『箱』へ入った時に共に戦った彼
どうして、と問うた答えは自分が一番わかっている
彼は自分が想い破れて泣くことすらできなくなった時に
異変を察知して旅団の自室を訪ねてくれて
泣けるようになるまで
笑えるようになるまで
寄り添ってくれた人

だから泣きそうになったわたくしにまた
寄り添ってくださるのでしょう

『馨子さん、アヤメさんが…』
ええ、このままでは可愛そうにございますね

UC使用
亡骸を抱きしめて冥福を祈る

ありがとうございます
いつか本物の彼との約束を果たせるようにと願い
影朧へそっと黒方符を




「嗚呼……アヤメ様は、もう……」
 わかっていたはずだった。影朧となっているのなら既にアヤメは、死んでいたと理解していたはずだった。結果として別の影朧であっても、予測できたのだから。
 もう動かない、猫らしい柔らかさを失ったその体を見ていると涙が浮かぶ。馨子の視界がぼやけ、いけないと拭って目を上げれば、目の前に人影があった。目を大きく見開いて見つめてしまう。
「……どうしてあなた様が、ここに……」
 そこにいたのは黒い髪の青年。一つにくくった髪を背中に流し、柔らかな微笑みを浮かべて立っている。そう、『箱』に入った依頼のときも共にいてくれた彼だった。
 大切な人、と思い浮かべた彼が現れたことにどうして、といったけれど。理由は馨子が一番わかっていた。
(あのときもそうでした)
 自分が感情を押し込めた時に、異変を察知して旅団の自室を訪ねてくれた。 偽りの笑みを浮かべた自分を指摘し、想い破れたその事実を受け止められるよう導いて、本当の表情で泣けるようになるまで、笑えるようになるまで。優しい、そう今のような笑顔で寄り添ってくれた人だった。
 理解してくれる、許してくれる、そんな想いの満ちる空間で、弱く泣きそうになった馨子へと寄り添ってくれるのだろう。彼の手がそっと馨子の手を握る。
『馨子さん、アヤメさんが……』
 地面に横たわる小さな体を示して柔らかい声で話しかけてくれる。だから馨子は先へと迎えるのだ。
「ええ、このままでは可愛そうにございますね」
 そっと眠るアヤメを抱き上げて、ぬくもり移すように抱きしめて、柔らかな布の上に寝かせてやる。
 それから、寄り添う彼へと向き直った。
「……ありがとうございます」
 幻であっても、助けに来てくれて。
 いつか本物の彼との約束を果たすために、馨子は黒方の香りの符を取り出す。そして幻の彼へと投げつけて、留まるだけの過去を振り払うのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

永倉・祝
秋人くん(f24103)と。

アヤメはちゃんと輪廻の輪に戻れたようですね…せめて体だけはあささんのもとへもう一度帰りましょう?
今回の影朧は今まで出会った影朧と違って【概念】のような存在ですねーー

…僕にとって自分が弱く荒れる相手…
理解、愛情、許し、尊敬、信頼、その全てをくれる存在…秋人くん…ですよね。
僕のこと呪のこと全部知っててそれでも優しく愛おしく接してくれる。
僕は秋人くんの前では確かに弱くなってしまいます。けれど…彼を守る強さだけは持っていたいんです。

繋いでいるはずの手が暖かいこれならきっと…
【指定UC】
寄り添う存在というのはなんとも甘やかですがそれだけじゃダメなんだと思います。


鈴白・秋人
祝さん(f22940)と

アヤメさん…確かに。
(命尽きた猫へ絹のハンカチを。そうして祝さんと手を繋ぎ)

あさをさんの元へ弔いに参りましょう。


甘やかな概念…
まるで、阿片に溺れ堕ちてゆく魂の様

緩く、優しく、包み込む温かさで、愛を偽り、そうしてなり代わるもの

温かい心を持ったアヤメさん亡き今、

其の愛を利用し此の世に形をとった事…罪に等しく
(瞑目した思考から握った手を信じ現実へと意識を集中覚醒し)

ならば、此処からは断罪の時間

祝さん、共に参りましょう!
(しっかりと離さない力で手を繋ぎ)

【指定UC使用】
自身の生命力を犠牲に成功する力を分け与える

繋いだ手から自身の分まで祝さんの行動、力を全肯定
パワーアップさせる




 少ない情報を手繰り寄せ、合わせて紡いだその場所に確かに影朧は現れた。けれど倒れる猫の姿を確認したと思えば、影朧が取っていた猫の姿は崩れていく。
 その傍らの本来のアヤメの体は、布の上に乗せられ穏やかな顔をしていた。静かに横たわる猫はまるで眠っているようだった。けれど身じろぎしないその体から命はとうに失われて、魂はとうに巡っている。
「アヤメはちゃんと輪廻の輪に戻れたようですね……」
「そうね、確かに……」
「せめて体だけはあさをさんのもとへもう一度帰りましょう?」
「ええ、あさをさんの元へ弔いに参りましょう」
 祝は少し安堵したような声音で呟き、秋人はそっと猫の体に絹のハンカチを柔らかくかけてやる。暖かな場所ではあるけれど、もうしばし寒くないように、と。
 それから、二人で手を繋いだ。
 ふわりと靄が周囲に立ち込めていた。まるで全てを受け止め、信頼し、許してくれる。そんな空気に満ちていく。弱くあっていいのだと許すような想いが、靄から伝わってくる。
 秋人は目を閉じて思考の海を泳ぐ。弱くなった自身が誰を見るのかわからないけれど、静かに考えを巡らせる。
(甘やかな概念……まるで、阿片に溺れ堕ちてゆく魂の様)
 靄から伝わるその想いは、世界を朧にして虜にする、あの香りのようだと秋人は感じた。身を委ねれば心地よく、甘やかして温めてくれるだろう。けれど苦しみを見えぬところで背負うような、薄ら寒さも感じるような。
(緩く、優しく、包み込む温かさで、愛を偽り、そうしてなり代わるもの)
 それは、ただただ甘やかな毒だった。過去に留めるその所業は決して許せぬものだった。
 しばし悩む秋人の傍らで、祝も靄を見る。
「今回の影朧は今まで出会った影朧と違って【概念】のような存在ですね──」
 確かな姿を持たず、願いや想いを写し出す存在のようだ。
 そう、今だってとろり、たゆたう影朧の奥にちらりと姿が浮かびだす。艶やかな装いの、黒髪の麗しい人の姿。
(……僕にとって自分が弱くあれる相手……)
 影朧がうつろう靄となって降らせた理解、愛情、許し、尊敬、信頼の想い。そのその全てをくれる存在を写し出す。
(……やっぱり秋人くん……ですよね)
 祝という存在、呪の存在。二人のことを全て知りながら、それでも優しく、愛おしいと。いつだって包むように柔らかに接してくれる秋人。愛しい愛しい、と柔らかに伝える、祝を委ねられる存在。
(ああ、確かに彼の前では弱くなってしまいます)
 それでも、祝は思うのだ。それだけではいけない、と。
(けれど……彼を守る強さだけは持っていたいんです)
 互いに同時に、繋いでいる手に少し力を入れて握り合う。靄の想いを跳ね除けて、現実に二人でしっかりと立っている。
「温かい心を持ったアヤメさん亡き今、其の愛を利用し此の世に形をとった事……罪に等しく」
 その感触を信じて、秋人は思考を覚ます。
「ならば、此処からは断罪の時間」
 目を開けて靄を見据え、すぐ傍らの祝を信じて力を使う。
「祝さん、共に参りましょう!」
 手をより力強く握り、彼女を支える力を、己の生命の力を変えて注ぎ込んでいく。
(手が暖かい)
 その暖かさは祝を肯定し、行動を、力を支えてくれるだろう。
(これならきっと……)
 祝は彼女の著作を取り出した。するりと情念の獣が現れて靄へと飛びかかっていく。
「寄り添う存在というのはなんとも甘やかですが、それだけじゃダメなんだと思います。ねえそうでしょう?」
 問いかけに答える声はなく、二人の周囲の靄が薄れ消えゆくまで、靄を獣の牙が貪るのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

乱獅子・梓
【不死蝶】◎
そこには、巨大な紅き竜
…ああ、随分久しぶりだな
それが幻影の類だとは察したが
今は惑わされるのも悪くない

俺がガキの頃出会った竜であり、焔の母親でもある
出会った時には竜は既に弱っていて
最後に俺に焔を託してくれた

ほら、焔もこんなにデカくなったぞ
成竜となった焔を見せてやれば
焔も本当の母子の再会のように喜んで
母竜の所へ向かい、寄り添っていた
この影朧が本当にただただ
「寄り添う存在」なら良かったのにな
少し経てば焔は自ら俺の元に戻ってきた
それがただの幻影だと分かっていたのか
例え本物でも焔の中で区切りはついていたのか

この通り、焔は立派に育ったし
もう何も心配することはない
だから、もう一度安らかに眠れ


灰神楽・綾
【不死蝶】◎
やっぱり、本物のアヤメは既に亡くなってたんだね
影朧がここへ導いてくれなければ
この子はずっと誰にも
見つけてもらえなかったかもしれない
出来れば、全てが終わった後に
亡骸を店主さんに引き渡してあげたいけど…
その前に、この影朧とも何かしらの
決着を付けないといけないんだね

梓の前に現れる巨大な竜
少し前、アックス&ウィザーズで
梓から話を聞いたあの竜のことか

ふと自身の足元を見るとそこにはアヤメ
そういえば、お店では交流出来なかったから
今だけは良いよね
アヤメを抱き上げ、梓達をただ見守る

そう、例え悲しい別れがあっても
いつかは前へ進めるもの
だから、優しい過去はここでおしまい
UCの花弁を、竜へと手向ける




「やっぱり、本物のアヤメは既に亡くなってたんだね」
「ああ」
 この影朧がその姿を借りただけとはいえ、その事実には変わりなかった。ふわりと猫の姿が解けて梓と綾を包んでいく。
「影朧がここへ導いてくれなければ、この子はずっと誰にも見つけてもらえなかったかもしれない」
 綾がかつて拾われたように、誰かに見つけてもらうために影朧はあえて逃げたのかもしれない。
「出来れば、全てが終わった後に亡骸を店主さんに引き渡してあげたいけど……」
 ふわりふわりと広がった靄の向こう、その奥に見えるのは巨大な紅き竜。竜は穏やかな眼差しで梓の前へと進みくる。
「……ああ、随分久しぶりだな」
 決して現実に叶うはずのない出会いに梓は懐かしそうに小さく笑う。だってその竜はもう死んでいるはずなのだから。
(幻影の類だろう。が、今は惑わされるのも悪くない)
 かつて梓が子供の頃に出会った竜。その時には弱っていて、最後に相棒の焔を託した母竜。
「ほら、焔もこんなにデカくなったぞ」
 肩の上に乗った小さな竜がキューと鳴く。ぱたりと羽を羽ばたかせて、母竜のそばへと寄っていく。もういない、けれどその姿と愛を蘇らせた母は小さな我が子にそっと顔を添わせた。
「ちょっと待ってろ」
 梓が焔に力を貸せば、ぐんと仔竜の姿が変わる。母竜と遜色ない大きさで、鮮やかな赤色の成竜へと変じていた。我が子の成長した姿に母竜は嬉しげに、誇らしげに鳴いている。
「この影朧が本当にただただ「寄り添う存在」なら良かったのにな」
「…この影朧とも何かしらの決着を付けないといけないんだね」
 そこにいるだけで世界を壊すそんな存在でなければ、ずっと幸せに日々が続いたのかもしれない。もう会えない存在を偲ぶだけ、捉えずに添うだけの存在であったならば。決別せずに共存できるのかもしれない。
 けれどこれは影朧、オブリビオン。決して相容れない存在である。
 しばし母子の語らいをする竜を眺める綾の足元に、小さな影が現れていた。
(そういえば、お店では交流出来なかったから)
 今だけは、とアヤメを抱き上げる。柔らかく温かな体は存外伸びながらも綾の腕の中に収まった。
 綾自身が弱くあれるような、絶対的に愛して甘やかして──過ぎれば歩みを留める存在は、記憶を失ったが故に現れないのかもしれない。綾はただ黙したままアヤメを構い、梓と二頭の竜を見守っている。
 母子の声が止む。焔は母から離れ、梓の元へと帰ってきた。少し甘えるように擦り寄る焔をそっと梓は撫でてやる。
(それがただの幻影だと分かっていたのか、例え本物でも焔の中で区切りはついていたのか)
 いずれにせよもう甘えるだけの仔竜ではないということなのだろう。
「この通り、焔は立派に育ったしもう何も心配することはない。だから、もう一度安らかに眠れ」
「そう、例え悲しい別れがあってもいつかは前へ進めるもの」
 綾は抱えたアヤメを下ろし、コートからJackを一つ取り出した。猫はすっと靄の中へと消えていった。
「だから、優しい過去はここでおしまい」
 決して立ち止まって入られないのだから。
 別れの言葉と共に、ナイフが紅く解けていく。蝶の形の花びらが母竜の幻を包んでいく。
 手向けの花に包まれて消えていく母竜へ、キューと別れの声がした。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

可惜夜・藤次郎
【藤溟海】


帰ってきたのは影法師、か
本物は愁いなかったようで、それは結構だったな
であれば追跡中の情報収集は完全にご近所散策だったなァ
それも結構
次はゆっくり周りたいものだぜ

愛を受け、愛を与えるもの
その性質だけ見れば慈悲ある良きものだが、果たして自我の無い鏡写しは虚しさもあるものだ
どうか魂あるならば、巡った先で、ひとりの己として、自分を育て、自分という自我で選んだひとを、愛し添うてやってはくれまいか
アヤメを愛したあの女性のように、共に愛され添うた猫のように
誰かを写さぬ唯一のお前の意思で、きっとただひとりの、お前の愛すべき存在を

永くを生き多くと添うたが、生きて目の前にあるのはその時だけなのだから


ユーチャリス・アルケー
【藤溟海】

(※癒す桜の精があれば委ねる)

ひとつ心配は減ったわね
あの子が愛した場所を教えて貰った、ということだと思うわ
暖かなものばかり教わったもの

寄り添う
えぇ、よく知っている
わたくしはその為の人形ですもの
僅かずつの時を過ごした数多の顔が過っていく
けれど、あなたたちはわたくしの全てであったから
瞬きすれば、此処は砂漠ではない
目の前には、逢ったばかりのアヤメの姿
ねぇ。わたくしも、抱いてみても良いかしら?
皆の想いを聞きながら、
…まるで愛情でくるむみたいね、と目を細め

目指す場所は、出来たかしら
見付けようと、思えるかしら
あなたにはここがお仕舞いではなく、旅の途中なのね
それでも歩み出す手助けを、《終着点》で


誘名・櫻宵
【藤溟海】


噫、よかった
あの子はもう既に廻っていたの
安堵と共に桜が花開く
あら
あなた達と巡るご近所散策もとても楽しきひとときであったわ
アヤメに感謝しなきゃと思うくらいに
次はゆるりと散策いたしましょう
今度はあなた達と寄り添いたいわ

寄り添う存在、ぬくい暖かさに頬が緩む
私がひとりではないと教えてくれる
桜と共に寄り添い、笑み咲いてくれる
甘やかな愛を舌の上でころがして、温かな温もりごと抱きしめたいくらい
……私にも寄り添ってくれる存在があるの

寄り添ってくれてありがとうと
猫のままのあなたを撫でる
愛を届けてあげて
虚像ではなく、あなたの選んだいっとうに
寄り添って

巡る時の中、そんな春があなたに咲くように
祈っているわ


ライラック・エアルオウルズ
【藤溟海】


影朧とならず、巡ったのだね
あの子を良く知らぬ時よりも
それは良かったと心から思える
それだけで、有意義な時だったさ

――ね、アヤメさん
僕達が追うままの、猫の姿
柔い子へ静かに語り掛け

あの子の代わりと添うた、
貴方は優しい子なのだろう
けれども、あの子はどうなる?
密やかと眠りについたあと、
死に寄り添うひとも居はしない
それがあの子の愛だとしても
あの子が受けるべき、愛を
寄り添う貴方が壁となって、
奪ってしまっているんだよ

それも、矢張り悲しいから
もう寄り添わなくて大丈夫
あの子の愛も、貴方の愛も
あのひとへ伝えてあげよう

だから、貴方は巡りゆき
唯々優しくあれるよう
愛するひとへ添えるよう
僕も、そうと祈っているよ




 目の前にいる影朧はアヤメが変じたものではない、と知れば一つ安堵が湧き上がる。
「影朧とならず、巡ったのだね」
「帰ってきたのは影法師、か」
「噫、よかった。あの子はもう既に廻っていたの」
「ひとつ心配は減ったわね」
 布に包まれて眠るその顔は、苦しむことなく穏やかなもの。道々聞いた話でも愛された猫であったから、健やかに巡ったのだろう。
「本物は愁いなかったようで、それは結構だったな」
 そうなると追跡中の情報収集はご近所の散策だったか。猫を探して追いかけたり、近所の者に雑談ながら話を聞いたりと、楽しかったものだ。
 ふわりと桜の花を咲かせ香りを纏う櫻宵は一緒に笑う。
「あら、あなた達と巡るご近所散策もとても楽しきひとときであったわ。アヤメに感謝しなきゃと思うくらいに」
 まとめた情報を更に精査して、この辺りの地図を作って、もう一度ゆっくり巡るのも面白いだろう。その中でまた新たな楽しみが見つかるかもしれない。
「次はゆるりと散策いたしましょう。今度はあなた達と寄り添いたいわ」
「そうさな、次はゆっくり周りたいものだぜ」
 ユーチャリスとライラックも穏やかな笑みで頷いた。
「あの子が愛した場所を教えて貰った、ということだと思うわ。暖かなものばかり教わったもの」
 狭い路地や猫の集まる場所の探索、店先での猫談義、子供らとのおいかけっこしながらの情報収集。生前のアヤメのことをよく知れる、そんな時間だった。愛された猫の記憶を教えてもらう、時間だった。
「うん、あの子を良く知らぬ時よりもそれは良かったと心から思える……それだけで、有意義な時だったさ」
 ただ、店にいた猫から愛されて過ごした猫であったと知ったからこそ影朧になっていないという事実がより良いと感じられるのだ、と言う。
 ふわりと猫の形を崩した靄が広がる。その向こうに、また小さな影が見えてきた。
 先程まで追いかけてきた、追う過程で気にかけ、優しい親愛を抱いた猫の姿だった。
 その猫はなんの気負いもなく4人に向かって歩いてくる。
 辺りに漂う靄からは、何か胸に迫るような想いが広がっていた。信頼、親愛、友愛、そんな感情が溢れてきそうになる。
「愛を受け、愛を与えるもの」
 藤次郎は影朧の与える影響を紐解いていく。
「その性質だけ見れば慈悲ある良きものだが、果たして自我の無い鏡写しは虚しさもあるものだ」
 ただただ映し出しただけの、先に進まない愛情。成長もなく、ただ留めてしまうための愛情。それは何も産まず、ただ虚しい。
 ちょこんと座って話を聞いているようなアヤメの姿の影朧へ、藤次郎はゆっくり語りかけつつ、顎の下を撫でてやる。
「どうか魂あるならば、巡った先で、ひとりの己として、自分を育て、自分という自我で選んだひとを、愛し添うてやってはくれまいか」
 影朧はくるくる喉を鳴らしている。
「アヤメを愛したあの女性のように、共に愛され添うた猫のように。誰かを写さぬ唯一のお前の意思で、きっとただひとりの、お前の愛すべき存在を」
 人の色より神の色を濃くした瞳で、彼は乞う。
「永くを生き多くと添うたが、生きて目の前にあるのはその時だけなのだから」
 神である彼にしてみれば、生命のある時間など刹那にも等しくなるのだから。せめてその中でも、心通わすその時を迎えてほしいと、藤次郎は告げる。
 にゃあ、と鳴いて藤次郎の指に身をすり寄せてから、するりと離れ、櫻宵へと近づいた。腕を伸ばせば素直に抱き上げられてくる。
 そっと頬を添わせれば、動物のぬくい暖かさに頬が緩む。触れ合った熱が、櫻宵が一人でないと教えてくれる。
(ええ、そうね)
 そのぬくもりに櫻宵は一人を思い浮かべる。桜と共に寄り添い、笑み咲いてくれる、麗しい人魚。
(甘やかな愛を舌の上でころがして、温かな温もりごと抱きしめたいくらい)
 そうしたらきっと月光の尾鰭をたなびかせ、櫻宵へと添うてくれるのだ。
 ひらり、白い魚の尾が靄の向こうに翻った気がした。それを見送って、腕の中のアヤメの背を撫でる。
「……私にも寄り添ってくれる存在があるの」
 改めてその存在を思えたことに、ありがとうと礼をする。
「ねえ、あなた。愛を届けてあげて」
 心地よさそうに撫でられる影朧へ、櫻宵は語りかける。
「虚像ではなく、あなたの選んだいっとうに寄り添って」
 誰かの愛を映し出して留めるののではなく、一番を見守るように寄り添ってほしいと櫻宵は願うのだ。
「巡る時の中、そんな春があなたに咲くように祈っているわ」
 にぃ、と呟いて、するりとアヤメの姿の影朧が腕から抜け出した。そのままライラックのそばまでやってくる。
 彼はしゃがんでアヤメの姿の影朧へ語りかける。
「――ね、アヤメさん」
 たとえ真のアヤメでは無いにしても、追いかけてきたのはこの猫の姿だ。だからライラックはアヤメと呼びかける。
「あの子の代わりと添うた、貴方は優しい子なのだろう」
 アヤメの愛を受け止めて、あさをのそばに行ったのだから。
「けれども、あの子はどうなる?」
 けれどここで眠った本物のアヤメはどうなるのか。ただここで、一人眠るだけだ。
「密やかと眠りについたあと、死に寄り添うひとも居はしない。死の間際に願ったそれがあの子の愛だとしても、その愛を受けて返してもらうべきはあの子だ」
 けれどその愛は届かない。
「あの子が受けるべき、愛を、寄り添う貴方が壁となって、奪ってしまっているんだよ」
 届かない愛も、宛先の違う愛を受けるのも、どちらもやはり悲しいのだ。だから、ライラックは諭すように語りかける。
「もう寄り添わなくて大丈夫。留める必要はない。あの子の愛も、貴方の愛も、あのひとへ伝えてあげよう」
 正しい形で愛が巡るよう努めよう、とライラックは約束する。
「だから、貴方は巡りゆくといい。唯々優しくあれるよう、愛するひとへ添えるよう。僕も、そうと祈っているよ」
 にゃう、と返事をするように鳴いた猫の姿は宙を游ぐユーチャリスの方へと歩いていく。
 近寄る影朧を見ながら、皆の愛を見ながらユーチャリスは考えていた。
(寄り添う──えぇ、よく知っている)
 何故ならそれは彼女の存在意義とも言えるから。
(わたくしはその為の人形ですもの)
 僅かずつではあるけれどそばに添い、過ごした数多の顔が過る。いつかは横たわるものへと添うのが、ユーチャリスの全てであった。
 一瞬砂漠の幻影が、日差しが、乾いた空気を感じる。瞬きすればその幻影は消え去り、薄らと囲む靄と、先程逢ったばかりのアヤメの姿の影朧が目の前ににいた。
「ねぇ。わたくしも、抱いてみても良いかしら?」
 そっと腕を伸ばせば抵抗せず、柔く抱き上げられる体。あやすように抱きかかえながら、皆の想いを聞いて感じたことを影朧へと告げる。
「……まるで愛情でくるむみたいね」
 良き先へと巡れるよう、三者三様の愛の形を示していたのだから。ならばユーチャリスも彼女の愛を示してみよう。優しく額を擽って、ささやきかける。
「目指す場所は、出来たかしら。見付けようと、思えるかしら」
 個を育てて愛を見つけ、寄り添うもよし。
 一番大事なものに、愛を届けるもよし。
 優しくあり、愛を伝えるもよし。
 きっと他の愛の形も表せられるだろうから、好きに決めればいいのだと、ユーチャリスはそっと背中を押す。
「あなたにはここがお仕舞いではなく、旅の途中なのね」
 まだまだ、歩んでいけるように。そう願って。
 そっと、歪な生の終わりを告げた。



 影朧はふわり、最後のひとかけを散らして消えてゆく。猟兵達に送られて魂の巡る輪に還って行く。
 傷を癒せたその影朧は、またこの世界に今度は影朧自身が愛して、そしてともに進むために巡ってくるのかもしれない。

 眠るアヤメの体はあさをの元へ届けられた。
「ああ。帰ってきてくれたんだねぇ。寒くなかったかい?」
 そうっと心地よさそうに眠る体を受け取った。
「おかえり。暖かそうでよかったねぇ」
 彼女は慈愛に満ちた顔で、猟兵達へと向き直る。
「ありがとうねぇ。アヤメを連れて帰ってきてくれて」
 心からの感謝の言葉を、猟兵達へと贈った。

 またいつか、この店に住民が増えるかもしれない。そのときに再び訪れるのも──いいかもしれない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年07月15日


挿絵イラスト