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薫りを纏うは(作者 霧野
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 ああ、帰ってきてくれたんだねぇ。寒くなかったかい?
 お腹空いてるのかい? 好きなものを作ろうね。いっぱい食べてね。


「すみません、サクラミラージュの事件に、お手伝い願えませんかー……」
 寧宮・澪がグリモアベースで黒猫を抱きながら声をかける。影朧を匿う事件を予知したのだ。
「ええと、香を扱うお店で、影朧を匿っているみたいんなんですがー……正体が、よくわからなかったんですよ」
 サクラミラージュのとある店、「薫草堂」。火をつける一般的なお香、匂い袋、香木の他、それらを使うための道具の販売や、香りを焚き染めた布雑貨等を取り扱う、香りの専門店だ。店主は齢60過ぎの女性、鈴原あさを。夫を早くに亡くし、子供達は既に独り立ちして時折帰ってくる。アヤメとキクという名の猫を飼っている。
 この店主が影朧を匿っているようなのだが、どこにいるのか、どんな影朧なのかはっきりしなかったのだ。
 猟兵の皆にはまずその店に赴き、店主と話をしてみてほしい。
 ちょうどオリジナルの匂い袋を作る体験もやっているので参加して楽しんでもいい。普通に香関係の品について聞いてみたり、買い物を楽しんでもいい。
 香りを楽しんで、その上で少しおかしなことが無いか聞いてみてほしいのだ。香や香り物を好きな客には心安く話してくれるし、きっとそれは匿う影朧について繋がるだろうから。猫好きでもあるので、それも話すきっかけになるかもしれない。
 影朧に繋がる情報を得たら探し出し、出来ればその影朧を癒やしてあげてほしい。
「不明点が多い、依頼ですがー……どうか、ご協力、よろしくお願いしますー……」
 黒猫と一緒に頭を下げて、澪は猟兵を送り出すのだった。





第3章 ボス戦 『寄り添う存在』

POW ●あなたのとなりに
【寄り添い、癒したい】という願いを【あなた】に呼びかけ、「賛同人数÷願いの荒唐無稽さ」の度合いに応じた範囲で実現する。
SPD ●あなたのそばに
【理解、愛情、許し、尊敬、信頼の思い】を降らせる事で、戦場全体が【自分が弱くあれる空間】と同じ環境に変化する。[自分が弱くあれる空間]に適応した者の行動成功率が上昇する。
WIZ ●あなたはもう大丈夫
自身の【誓約。対象の意思で別れを告げられ消える事】を代償に、【対象自身の選択で心に強さを持ち、己】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【過去を振り切った強さ】で戦う。
👑11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠宮落・ライアです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 ある猫と影朧の記憶。

 その猫は幸せだった。
 温かな住処、柔らかな仲間、美味しい食事。
 それを与えてくれる、変わった匂いのする人間。
 その猫に傷はなかった。
 優しく見守る周囲、多少うるさい小さな人間、けれど帰るべき場所があった。
 弱って動かなくなる前に、心地よい広場を目指して──帰るつもりだった。
 日向ぼっこしている内に、眠っていた。
 薄れいく意識の中で、帰らなくては、と猫なりの愛を抱いた。
 そうしてその魂は輪廻へと巡っていった。

 その影朧は愛を与える。
 記憶も感情も、癖も。偽りとわかっていながら、写し取ったその姿のすべてで過去へと縛り付ける。善意から愛を──毒をあたえる。
 影朧は死にゆく猫の愛を写した。その愛のまま、飼い主のもとに戻って、愛を与えた。そして倒されるならば──愛のままに姿を消してみせた。


 猟兵達が帝都の一角にある空き地へと赴いてむれば、追いかけていた影朧が茂みを覗いていた。
 そこを覗けば、もう冷たくなった猫の体。tamasiiha輪廻にすでに巡っただろう。
 ならばこの影朧は、と猟兵達が警戒を強めれば。
 ぐらりふわりと影朧の姿が崩れる。靄になったその向こうに見えるのは、猟兵それぞれが心許した何かの姿だった。

====
・本来のアヤメは既に輪廻の先へと巡っていました。影朧『寄り添う存在』は、その心に惹かれて、アヤメの姿であさをに寄り添っていました。
・この影朧は貴方にも寄り添うでしょう。家族や恋人、ペットの姿でそこにいます。すでにいなくなった人かもしれません。生きていて、今ここにいないだけの人かもしれません。
どう跳ね除けるも、幻想に惑うも自由です。
・特に思い当たる姿がなければ、再びアヤメの姿を取るかもしれません。ただ愛らしく、貴方の側に寄り添ってくれるでしょう。
シビラ・レーヴェンス
露(f19223)と。
元の姿に戻ると思っていたが…猫の姿のままか。
そして寄ってきた?先程までは嫌がり逃げていたのに?
何を考えているんだ。この影朧は。何かの罠を…張った?
隣に居るだろう露の様子を確認。相手の攻撃もわかるだろう。
露の行動が変になっていると判断したら一緒に距離を置く。
露の様子からみるに…なるほど。幻覚の類か。
頬を張れば痛みと衝撃で正気になるだろうか。…!(叩く)
文句は影朧にでも言え。この影朧を『海』へ還すぞ。
とはいえ魔術で攻撃も忍びないな。幾ら偽っていたとしても。
「言葉はわかるか? すまないが還ってくれないか?」
触れながら話しかけてみよう。
触れる前に狂気耐性とオーラ防御を付与する。


神坂・露
レーちゃん(f19223)と。
あれ?なんであの人が?もう亡くなってるのに。
最後の所有者だったあの人…また逢えるなんて…。
うわぁ~ん…逢いたかったわ逢いたかった!
「っぷきゅ?! …痛ぁ~い!」
あれ?ここは?あ。猫さんと…レーちゃん♥
簡単に事情とその対応の説明をされて少し怒るわ。
「…むぅ。しかたがないけど殴るなんてぇ~…」

それはいいけど…さっきのは猫さんの力なのね…。
なんだか傷つけたくないわね。この猫さん。
レーちゃんも同じこと考えてるみたい。えへへ…♪
レーちゃんがこの猫さん触れるならあたしもする!
「おいでおいで♪ 怖くないわよ~」
今度こそこの猫さん抱っこして頬ずりしたいわ。
あ。耐性と防御しないと。



 シビラはほんの少し眉根を寄せた。猫の姿が崩れて靄へと変わりそれから影朧自身の姿に戻ると予想していたのに、靄の向こうから現れたのは先程から追いかけてきた猫のままだったからだ。
 おまけに本当のアヤメのそばに案内することが終わったから逃げる必要などない、とばかりに寄ってきてシビラの足元でちょこんと座っているという。
(何を考えているんだ。この影朧は)
 先程まで嫌がり逃げていたのではないのか、と思考を巡らせればすぐに新たな考えが浮かぶ。
「何かの罠を……張った?」
 もう逃げる必要がないのなら逃げなくていいのならば、すでに影朧の術中なのかもしれない。すぐに隣に居るだろう露へと目を走らせる。

「あれ? なんであの人が?」
 露に向かって靄の向こうから現れたのは、懐かしい人だった。遊牧民の装いを纏うその人はもうすでにこの世にいるはずのない人。もう逢えるはずのない人だった。
 その人が露へ向かって歩いてくる。露は一歩目は恐る恐る、続く足は駆け足で、懐かしいその人へと駆け出して飛び込んでいく。
「うわぁ~ん……逢いたかったわ逢いたかった!」
 ぎゅうと抱きつけば、放牧の日々で自然と鍛えられた体がしっかりと露の体を抱きとめてくれた。
(……また逢えるなんて……)
 懐かしい日の下で外を駈けていく動物や自然の匂いや、しっかりと受け止めた腕に甘えながら、露はくすん、くすんと甘えるように鼻を鳴らす。露を受け止めたその人は静かに露に寄り添っていた。
 想定外の出会いに、ただ留めて受け止めてくれる愛に浸ってこのまま、もう少し、と思っていると肩を揺すられる。いやいや、と首を振って温かなぬくもりに溺れてもしつこく揺すられる。それでも無視していたらやめてくれたようで、揺すられる気配がなくなった。

 靄のような塊を抱きしめている露を揺する手を止めて、シビラは嘆息する。
(……なるほど。幻覚の類か)
 距離を取ろうにも靄はついてくるし、露も夢中になっているようで離れるのに協力すらしない。
 どうにも様子がおかしいのは分かりきったので、目を覚まさせるためにシビラは腕を振り上げた。
「……!」
 ぱぁんと露の頬を張る。結構いい音がした。
「っぷきゅ?! ……痛ぁ~い!」
 過去の愛へと浸っていた露もその衝撃で現在へと意識を戻す。
「あれ? ここは? あ。猫さんと……レーちゃん♥」
 先程まで抱きついていた懐かしい人は姿を消して、側には追いかけてきた猫と大切な親友の姿。
 シビラがから簡単に推測と事情、対応の説明を受ければ、いかに露であっても張られた頬を膨らませて、怒りを表した。
「……むぅ。しかたがないけど殴るなんてぇ~……」
「文句は影朧にでも言え」
 目覚めないのだから他にやりようがないのだ、とシビラは冷静に告げた。しょうがない、と露も割り切って側にいる猫の姿へと視線を移す。
「……さっきのは猫さんの力なのね……」
 もう会えない人に出会えた喜びと、やはり幻に近いものだったのかという切なさとが入り混じった声だった。
 少し沈んだような露へと、それでも、とシビラは凛と告げる。
「この影朧を『海』へ還すぞ」
「うん。でも、なんだか傷つけたくないわね。この猫さん」
 そう呟く露にシビラは何も言わない。けれど同じことを考えているかのように、呪文を紡ぐこともせずに猫を見つめているのだ。その様に露は何だか嬉しくなる。
 露の推測通り、偽りの姿であっても魔術で滅ぼすのは忍びない、とシビラは猫へと屈んで手を伸ばす。
「言葉はわかるか? すまないが還ってくれないか?」
 一応、狂気への耐性と、オーラで防御を張りながらその背を撫でてやれば猫の姿の影朧は、気持ちよさげに喉を鳴らす。周囲を取り囲む靄が薄らいだ気がした。
「レーちゃんがこの猫さん触れるならあたしもする!」
 露は今度こそ抱っこするのだ、と勢いづくのをこらえて、撫でられる猫へと静かに腕を差し伸べる。
「おいでおいで♪ 怖くないわよ~」
 見つめすぎないように、怯えさせぬように。そうして待っていれば、寄り添う存在である影朧は今度こそ露も腕の中へとやってくる。
「うわぁ。うわぁ♪」
 優しく落とさぬように抱きかかえれば、暖かな重みが心地よい。思わず頬ずりすれば、懐かしい人によく似た、日向の匂いがするのだった。
成功 🔵🔵🔵🔵🔴🔴

楠樹・誠司
リルさん(f21196)と

『静寂の樹よ。また一年を、健やかに過ごせますやうに』

数多の祈りが
願ひが聴こえるのに

『如何か。如何か、■■■■に。
 ――御前はまう、■■なのだから――』

嗚呼
……あゝ、何故
私は、

顳顬に激痛が走る
其れは今迄の何より鋭い
溢れる喘鳴
仮初めの心臓が、五月蝿い位に脈打っている

ふと
自身の直ぐ近くから響く確かな聲
『誠司』と
ひとの貌を得た私の名を呼ぶ聲
握られたてのひらに我に返り
硬く目を瞑り頭を振って応じ

大丈夫です
私は、此処に居りますとも

夢は現へ
幻は在るべき処へ
一太刀のもとに斬り伏せて御覧に入れませう

優しい夢を
そして、傍の頼もしい姫君へ
有難う御座います
……良い夢を見たのだと
そう、思うのです


リルリトル・ハンプティング
誠司さん【f22634】と!

あらら?
お父様、お母様?
どうして来たの?わたしが心配になっちゃった?
大丈夫よわたしちゃんと国に帰るってお約束したし
今はね頼もしい…頼もしい?
…あ、誠司さん!
そうなの今ね誠司さんと猟兵のお仕事してるのよ
お父様とお母様は頑張るわたしを信じて壊れた国を直す事に集中してるの
だから貴方達は偽物ね!

——でも、姿が見られて嬉しかったのよ
ありがとう

誠司さん!大丈夫?
幻を観てるのね、よし今度はわたしが助けになるのよ!
わたしに気付いて、と呼びかけ誠司さんの手をそっと握るの
…誠司さん?良かった!

さぁ、後一息頑張りましょう!
卵歩兵を突撃させて、気を取られてる隙に金のスプーンで叩いちゃうのよ



『静寂の樹よ。また一年を、健やかに過ごせますやうに』
 誰かの祈る声が聞こえる。一つ二つ、数多に響いて重なる声は途切れずに。静寂を揺らす願いの声。その声が聴こえるのに。
『如何か。如何か、■■■■に。――御前はまう、■■なのだから――』
 顳顬に痛みが走る。ズキリズキリと今までに感じたどれよりも鋭い痛みが、喉から喘鳴を零させる。仮初の体の中心が、どくどくと響くほどに脈打っている。
(嗚呼……あゝ、何故──私は、)
 ただただ■■■■に、そんな願いのはずなのにひどく痛い。己は何だったか。人を愛し、請いて乞いて、恋て、その果てにどうしたのだったか。■■になったのだったか。
 そばに寄り添うその願いの幻に、誠司は囚われていた。

「あらら? お父様、お母様?」
 リルリトルの前にやってきたのは、彼女の愛する家族だった。故郷に残っているはずの彼らが現れて、リルリトルへと寄り添ってくる。
「どうして来たの? わたしが心配になっちゃった?」
 優しく手を差し伸べてくる仕草は、優しく語りかけられる声は、リルリトルの愛する両親そのものだ。怪我はないか、病気はしていないか、困ったことはないか。表し方は様々だけれど、いつだって親は子供が心配なのだ。
「大丈夫よ、わたしちゃんと国に帰るってお約束したし」
 こんなに元気だ、と人の手を広げて笑ってみせる。それにね、と言葉は続く。
「今はね頼もしい……頼もしい?」
 かちりとたまごの殻が何かにぶつかったような、引っ掛かりを覚える。うーんと手繰って見れば、それは大切な友人の記憶。
「……あ、誠司さん!そうなの今ね誠司さんと猟兵のお仕事してるのよ」
 頼もしい友人と共に、事件を解決するために頑張っているのだ。そう、そうだ。そんな自分を両親は信じて送り出したのだ。
「お父様とお母様は頑張るわたしを信じて壊れた国を直す事に集中してるの。だから貴方達は偽物ね!」
 だからここにいるはずがない、とリルリトルは否定する。リルリトルの両親の姿が崩れていく。丸いたまごの殻がふわりと広がって、靄へと変わる。
「──でも、姿が見られて嬉しかったのよ」
 まだ帰ることはないけれど、幻でも嬉しかったのだ。
「ありがとう」
 リルリトルの周囲から靄が薄れていく。その向こうに立つ誠司の姿が見えた。
「誠司さん! 大丈夫?」
 駆け寄るリルリトルに反応することなく、靄の中をじっと誠司は見続けている。先程の自分と同様に幻を観ているのだ。
(今度はわたしが助けになるのよ!)
 自分に気づいてほしいと願いながら、そっと誠司の大きな手を握り、彼の名を呼ぶ。

 痛みと願いの声に翻弄される中、ふと気づく。願いの声とは違う、確かな声がする。その声が名前を呼んでいる。
『誠司さん!』
 それは静寂の樹ではなく、ひとの貌の名前。神ではなく誠司という猟兵を表す短い呪。握られた小さな手の暖かさに幻が崩れて消えていく。
 幻から解放された誠司へとリルリトルは声をかける。
「……誠司さん? 良かった!」
 誠司は一度、固く目をつぶり頭を振った。もう静寂を揺らす願いは聞こえない。
「大丈夫です。私は、此処に居りますとも」
 拒絶された存在は揺らいで 、誠司とリルリトルの姿を取る。今ここにはない過去を、愛を振り切ったその強さを表すように二人の前に立っている。
「さぁ、後一息頑張りましょう!」
「はい。夢は現へ、幻は在るべき処へ。一太刀のもとに斬り伏せて御覧に入れませう」
 小さな卵の兵隊達がリルリトルの掛け声に合わせて幻の二人へと突撃していく。足元でぽんぽんぽんとカラフルに割れる兵隊に気を取られる誠司の幻を、誠司本人が澄清で切りさいた。リルリトルの幻は、リルリトル本人が金のスプーンで卵の殻を叩けば消えていく。
 薄れていく靄の中、誠司は呟く。
「優しい夢を」
 そして、傍の頼もしい姫君へと向き直り、かすかに笑った。
「有難う御座います」
「どういたしまして! どんな幻を見ていたの?」
「そうですね……良い夢を見たのだと。そう、思うのです」
成功 🔵🔵🔵🔵🔴🔴

杼糸・絡新婦
・・・そうかあ、その人の姿とるか。
自分が会いに行くと決めとるから、
その必要はないよ。
どういうつもりであの猫の姿で
店主さんの所に行ったか知らんし、
それが良いことなんかいらんことなんかも分からんけど、
自分には必要ない、自分が決めたことやから。
すまんな。

あんたさんが寄り添うただけのものならば、
攻撃させんといてほしいんやけど、
攻撃せなあかん存在やったら向けるのは憎しみやで。

さて、どうする?



 サイギョウを抱えた絡新婦の前にも、ゆらりと揺らいだ靄の向こうからとある人が現れる。
「……そうかあ、その人の姿とるか」
 絡新婦の前に立つその人は、絡新婦が会いに行くと決めている人。今ここにいるはずのない人の姿だ。その人はただそこにあって、そっと絡新婦を待っている。ただ絡新婦を肯定するような、そんな空気を纏わせて。側にいけば快く迎えてくれるだろう。
 けれど絡新婦がその人に近づくことはない。二人の間の距離は縮まらない。一つ、嘆息して絡新婦は話しかける。
「なあ、自分が会いに行くと決めとるから、寄り添うんも、愛するんも必要はないよ」
 絡新婦は影朧を否定する。今この場で、影朧の思う愛に捉えなくたっていい。その姿で自分に寄り添う必要はない。絡新婦が自分で会いに行くと決めているのだから。
 故に絡新婦はその影朧を拒絶する。 四つ色の糸を巻きつけた杼を手の中で弄びながら、影朧を否定する。
「どういうつもりであの猫の姿で店主さんの所に行ったか知らんし、それが良いことなんかいらんことなんかも分からんけど」
 それは優しさなのか害意からなのか絡新婦にはわからないことだけれど。確かなことは。
「自分には必要ない、自分が決めたことやから」
 わざわざその姿を取った影朧へと髪を揺らして首を振った。己には不要だ、と。
「すまんな」
 詫びながら、形を崩し靄へと変わる人影へと語りかける。
「あんたさんが寄り添うただけのものならば、攻撃させんといてほしいんやけど」
 攻撃してこなければ、絡新婦も攻撃しない。このまま還ってくれないか、と。ただ寄り添って愛を与えてくるだけであれば──戦う理由もないのだと。
「攻撃せなあかん存在やったら向けるのは憎しみやで」
 杼の先を突きつけ決めろと促す。
「さて、どうする?」
 問いかけに靄は揺らぎ、絡新婦の周囲から薄れて消えていくのだった。
成功 🔵🔵🔴