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ゆかりのスキな駄菓子屋さん

#UDCアース

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#UDCアース


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●も一度食べたい遊びたい
 古ぼけた民家に看板はない。
 しかしそれは店だった。店番は一人。カウンター奥に腰掛ける、老婆だけ。
 決して広くはない室内の大部分を占める陳列棚。背の低いもの高いもの、その上にぎゅぎゅっと並ぶガム、アメ、スナックに不思議なシート、透明ケースの中のイカ……コンビニでは見かけないようなこまごまとしたパッケージたちが賑やかしい。
「よく来てくれてたのに、さみしいもんだねぇ……」
 ひとり思い出すのは、元気な笑顔と挨拶で百円玉を握りしめる子どもたちの姿。
 "常連客"であった彼ら彼女らが、小学校に上がってもうどれほど経ったろう。やっぱり、今時のお菓子の方が口に合うのだろうか。
 しわくちゃな手がラムネの詰まった色取り取りのプラボトルを撫でる。
 そのとき――不意に響く、はめ殺し戸のかしゃんと揺れる音。
 あの子たちかな?
 顔を上げた老婆の目に映ったのは。ガラスにいくつもいくつも塗りつけられた、べったり赤い手形。

●ゆかりのスキな駄菓子屋さん
 ――と、いうわけなのです。
 ニュイ・ミヴ(新約・f02077)がぐんにょり。
「おうち……お店に入ろうと、女の子たちが集まっているので、まずそれを止めてあげてください」
 彼女らは、ゆかりちゃんという名で呼ばれるオブリビオン。元は行方不明になった小学生とのことだが、今となっては救う術はない。
「生前の記憶に基づいて、このお店に来ているのかもしれません」
 そうだとするならば、思い出の場所だけはせめてと守ってあげることができるだろう。
 店の前は道路になっていますが、人や車の往来はまばらなようですとニュイ。道幅も申し分なく、戦いに集中することができる。
 そこで一度言葉を切り。
「くんくん……あれ。転送の途中なのに、なんだか甘い香りがしますね?」
 なんだろう?
 首部分を捻るブラックタールであったが、"引き付けられた"より強大なオブリビオンとの戦闘も予想されるので注意してほしい、とすぐに話を括った。
「あっ。こわくなったら迎えに行きますから、ご安心を!」
 ――等と明るく言いはするが、それはきっとすべて終わった後だ。頭部が、移り変わり赤く色付き始めた空へと向けられた。
「お腹の空く時間でしょうし、おやつを買って帰るのもいいかもしれませんねぇ」
 でも、晩ご飯が入るくらいまでですよ?


zino
 閲覧ありがとうございます。
 zinoと申します。よろしくお願いいたします。
 今回は、なんとなくなつかしいUDCアースへとご案内いたします。

●最終目的
 オブリビオンを撃破して、駄菓子屋を楽しむ。

 第1章:集団戦。
 第2章:ボス戦。(おいしそう)
 第3章:駄菓子屋での日常。

●第3章について
 駄菓子屋をお楽しみください。普通の駄菓子屋にあっておかしくないものならば、大体はあります。
 夕暮れ時。外にベンチがある他、シャッター通りなので、店先ですこし食べたり遊んだりしても大丈夫そうです。
 実在する商品はふんわりと暈させていただきます。また、アイテムの自動発行はありません。

 お手数となりますが……。
 複数人でのご参加の場合、【お相手のIDと名前(普段の呼び方で結構です)】か【グループ名】をプレイングにご記入いただけますと幸いです。
 個人でのご参加の場合、他参加者様と時間を共にする場合がございます。確実な個人描写をご希望でしたら、【単独】とご記入ください。

●その他
 ホラーの皮を被ったのほほん系です。きっと。難易度も同様に。
 セリフや心情、結果に関わること以外で大事にしたい/避けたいこだわり等、プレイングにて添えていただけましたら可能な範囲で執筆の参考とさせていただきます。

 以上、ご参加を心待ちにしております。
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第1章 集団戦 『ゆかりちゃん』

POW   :    「ただいま」「おかあさん、おとうさん」
戦闘用の、自身と同じ強さの【母親の様な物体 】と【父親の様な物体】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
SPD   :    「どうしてそんなへんなかおでわたしをみるの?」
【炎上し始める捜索願いからの飛び火 】が命中した対象を燃やす。放たれた【無慈悲な】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
WIZ   :    「ひどいよ、ひどいよ、ひどいよ」
【嗚咽を零した後、劈く様な叫声 】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

錬金天使・サバティエル
なんというか、不気味な敵だな……私は絶対に近づきたくないからね。接近戦は他の猟兵に任せる。状況次第ではサポートすることもやぶさかではないが。
件の道路を見渡せそうな建物の屋上か屋根の上に陣取って狙撃で倒そう。さすがに百メートル以上離れたら向こうの攻撃も届かないだろうしね。
戦闘が始まる前でも敵が沸いて出たらでもいいが、早いところ駄菓子屋の入り口前に呪刻鉄鋼弾を撃ち込んで鋼鉄の壁で塞いでしまおう。戦いが終わったら呪刻爆切弾で壊せるから問題ないはず。


柊・雄鷹
ゆーかりちゃん!遊っびましょ!
…なんて、明るく言うてもあかんなぁ
こんな小さい子まで、オブリビオンになってまうんか
胸くそ悪いな、ほんでもって悲しい
ばっちゃんはお店でお留守番しといてなぁ
…ユカリちゃん、ワイと遊ぼう

なるべく遠距離から、自作のダガーを使って投擲攻撃や。
空からの攻撃もありやで。
もし近距離に入られたらあれや、凍刃の鷹を抜くしかないなぁ。
これ、ワイ自身の腕も凍るんやけど…。
まぁその分、めっちゃ強力で心強いからえぇんやけど。

なぁゆかりちゃん、鳥って好きか?
ユーベルコード『御鳥番衆』で空一面を鳥で埋めるで

女の子を苦しめるのは性に合わんけど、ごめんな
来世でデートしたるから、良い子に待っとくんやで


コノハ・ライゼ
うわぁ想像は出来たけどなんつうかやっぱり、怖ぇね

駄菓子屋のばあちゃん危ないのもナンだし
店前にバリケードになりそうなモンあったら置いてガードして
戦うンも出来るだけ道真ん中でしようか

【WIZ】
多数ってンなら周りから囲いこむよに【彩雨】を降らせようか
退路絶ちつつ「石榴」で『傷口をえぐる』ように斬り込み
『2回攻撃』で再び【彩雨】を
今度は手近な数体に集中させ降らすヨ

嘆きも痛みも、おにーさん聞く耳ねぇんだわ
せめてこれきりで、オヤスミ
もう痛くないからネ




 ぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺた。
 押し付けられた赤色が垂れ落ちる様は、塗りたてのペンキのよう。

 汚されていない最後のスペース、引手にも手が伸ばされる――だが。届ききる前に、最も戸に近かった怪異の軽い体は突き飛ばされることとなる。
 どっ、と、上体深く撃ち込まれたダガーの勢いによって。
 でこぼこ劣化したアスファルトに、夕陽が大鳥の影をつくっていた。投擲の形に伸ばされた影の両手が、顔の横添えられる。
「ゆーかりちゃん! 遊っびましょ!」
 ゆかりちゃん、そう呼ばれた少女だったものたちの首が油の切れた機械みたく鈍く傾き、軋み、ぐりんと一斉に声の主を見る。
 応えるように、鳥――柊・雄鷹(sky jumper・f00985)が、勇壮たる翼を畳んで地へ降り立った。
(「こんな小さい子まで、オブリビオンになってまうんか」)
 表情のある筈の場所へ貼り付けられた探索願がはたはた揺れて、その姿がなんとも痛々しい。……胸くそが悪い、悲しい。
「明るく言うてもやっぱし、あかんなぁ」
 滲む笑みには苦味が混ざる。ゴーグルをくいと上げて、しっかりと逸らさず前を向く雄鷹。それを見続けるオブリビオン。
『しらないひとと、あそんでもいいの?』
「ああ。今日は特別や。……ユカリちゃん」
 ワイらと遊ぼう。続々駆け来る猟兵らを背に繰り返す誘いへの返事は明るく弾む、うん! の多重奏。

『なにしてあーそぼ?』
『ゆかりはね、しゃぼんだまがいいな』
『ゆかりは、みずふうせん』
 ゆかりは、ゆかりは――口々に語られてゆく"夢"。自分は今も日常の中にいるのだと疑いもしない。
 同じゆかりちゃんが今まさに息絶えたことなど、きっと気付いてもいないのだ。
 想像できた光景だけれど、なんというか、やはり。
「怖ぇね」
 短く言葉を切るコノハ・ライゼ(空々・f03130)は、彼女らのおしゃべりを止めさせるため雨を降らせる。
 まるで悪い冗談のようであっても、現実であると男はよく知っていた。これはそう、数あるうちのただのひとつであると。
 雲に似た髪色も夕空にきらきら煌めく水晶の針も赤紫がかってとても綺麗なのに、害にしかならず触れるそばから冷たく鋭利に柔肌を裂いた。
『きゃあ! いたいよいたいよ』
 わぁっと同じ声による悲鳴が上がり始めても、コノハは動じることなく状況を見る。今ので多少、店先の山を崩せたか――駄菓子屋とその主に傷をつけさせるのもなんだ。まずはこのまま、出来る限りを遠ざける。
「構わねぇかな?」
「ええで。しゃぼんだま、映えたんやろうけどな」
 ノスタルジックな空模様に、雄鷹は僅か惜しむみたく嘆息して……敵中へ飛び出しゆく男に合わせ、両手の指にずらりとダガーを挟んだ。
 一息で連携の意思疎通を完成させる。
 上手に人間に"化けた"狐男だが、狩りをする姿は野生のそれ。爪と牙に代わってナイフ、石榴の一振りで確実に命を奪う。
 おびえ、泣き出そうとする口へは羽根状の刃が投げ込まれた。
『こわいよ、やめて、もっとたのしいあそびがいいよ』
『ねぇ、おかしをたべるとげんきになれるよ』
 震えるもの、励ますもの――オブリビオンの反応はちぐはぐとしている。だがまともに反撃をできていないことは、確かだった。
 励ましの声にお菓子のことを思い出したらしい。奥の方でぼーっとしていた何人かの少女が手をつなぎ、スキップで店の傍へ近寄ろうとして……――ガウン!!
 衝撃音とともに大きく地面がめくれた。
 否。めくれたように見えて、一瞬にしてそこに出来上がっていたのは、店を覆い庇う風に地面に突き立つ壁だ。

 宝石の如く黒光りする鋼鉄の壁面には、ぐにゃっと歪んだゆかりちゃんたちが不思議そうに首を傾げ映り込んでいる。
 それは――同刻。戦場から距離を取った民家の屋根上で狙撃を試みようとしていた、錬金天使・サバティエル(賢者の石・f00805)の力だった。
 呪刻鉄鋼弾。敵を狙ったものが外れたわけではない。狙いは正確に、敢えて地面を撃つことで錬金呪術にてそこに壁を作りあげたのだ。
 加えて、ある程度が入り口付近から散らされたおかげで、策の実現が容易ともなっていた。
 これで暫くは無理矢理に突入されることもないだろう。
「私は近付きたくないからね……っと」
 その分、こうしてサポートをすることはやぶさかではない。構え続ける湖の歌には得意とする錬金術が作用して、労せず吐き出す命奪う為の通常弾。
「駄菓子屋、だっけ。宝石みたいなのも、置いてるのかな」
 常連さんたちにオススメだけ聞いてみるのもよかったもなぁ。
 なんてね。真っ直ぐに飛び立った鉛玉が、あたりを見回す少女の頭を二つまとめて打ち抜いた。
 黄色かった帽子が、赤く染まって地面に落ちる。
 それが味方による援護だと悟れば、店の安全をと考えていた二人は閉じた口の中で感謝を述べ。
 行き場を見失った数人が立ち往生する間をも許さず、店側からすくい上げるように駆け込んだコノハが斬撃により道路側へと押し退ける。
『やだっ、やだぁ!』
「嘆きも痛みも、おにーさん聞く耳ねぇんだわ」
 てらり血濡れた手のうちの輝きは、子どもたちの憧れる玩具にも似ている。ごめんなんて――言ったところで。
 前衛を任せた分だけ仕事はこなす、サバティエルによる援護狙撃が合間を縫い。
「なぁゆかりちゃん、鳥って好きか」
『とりさん……?』
 すき! 無邪気に返る声もいくつか。
 問い、じゃ見せたると応える雄鷹は、近所のやさしいおにいさん?
 まず感じるのは、視線――全方位から射る。見返す先は上空。そこで初めて、空へ蓋をするみたく群れる鳥の群れに気付くことになる。
『あっ』
 かわいい! みんなみて、と、指差す人差し指はしかし、次には啄まれ無くなる。
 傍目に愛らしい体当たりであっても、相応の速度を保つなら爆撃と大差ない。
『あ……? あああああ』
 浅く息を吐いて、使役する男はダガー揮う手も休めない。それしか、してやれない。
(「女の子を苦しめるのは性に合わんけど、ごめんな」)
「来世でデートしたるから、良い子に待っとくんやで」
 次々に舞い降りる鳥。鳥。
 いずこかへと走り出す素振りを見せようものなら、サバティエルが腰から下を撃ち抜いて近寄らせない。逃がさない。
 混沌とした敵の様子。一層に鴉なんてのが似合いそうな不気味さだと、改めて思っていたろうか。
 器用にも鳥の群れを掠めることすらなく遠距離射撃をこなしてみせるスナイパーの正体が齢十一の少女であると知れるのは、もう少しあとの話。
『いたぁっ……おかぁ、おかあさんどこぉ』
 ずりずりと這い回る上半分だけのゆかりちゃん。
 藁にも縋るみたいに地面を泳ぎ、やっと両手が触れた靴。首をいっぱいに傾けて、見上げてもそこには知らないおにいさん。次の最期にも、逢えやしない。
「オヤスミ」
 一歩分、足を退ける。そうしてコノハの手が翳す集中豪雨は、名も知れぬオブリビオンたちを墓石代わりに貫いてゆく。……せめてこれきりで。
 ――もう痛くないからネ。
 群青により近付いた針の雨は、色に見合わぬ微かな熱を灯す。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エンジ・カラカ
お菓子一緒にたーべよ。
アァ……でもそれだけ集まると店に入れないなァ……。
そこどーいーて

味方には耳を塞ぐよう促して先制攻撃で人狼咆哮。
どいてーって分かるカ?
ミンナも早く食べたいンだ。独り占め?二人占め?は良くないなァ……。

一緒に食べるなら尚更サ。
どんなモノがあるのか見たい見たい。
コイツらを薙ぎ払うのは任せろ。
味方と連携して早く駄菓子にありつきたいなァ……。

アァ……そういえば一緒に食べるンだった。
じゃあもう少し遊んでから。
素早さを生かした二回攻撃、属性攻撃を使って遊ぶ。

物足りないなァ……。
腹は減らないなァ……。


アル・ディオール
ねえ、ゆかりちゃん達、皆でお菓子でも食べながら仲良く…
って、そんな雰囲気じゃないよね

囲まれないように距離を取って戦おう
【荒れ狂う星光の槍】で攻撃
数が増えちゃうと厄介だから召喚を使う子を優先して狙うよ
それ以外は弱った子達から

『ちょっと怖いけど…敵とはいえ小さな女の子を攻撃するのは抵抗あるよね

【全力魔法・2回攻撃・高速詠唱】を用いて
せめて苦しまないように一気に倒してあげちゃおう

敵の攻撃は【見切り・第六感】で捌いて行こう
避けきれないなら【オーラ防御】
叫声は【呪詛耐性】で軽減できる?

『あーもうやりにくいなぁ
これが終わったらおやつタイム…
今はその事だけを考えて戦いに集中しないと
おやつ、おやつ…(涎だばー




 オブリビオンが溶け消え始めて黒ずむ地面。
 最後まで残っていたボロボロの帽子がふるりと震えたかと思えば、それを被って、下からまた別のゆかりちゃんが滲み出る。
『ぅ……あ、あぁ、ここは……』
 個々の体験は継承されないようだ。"自分"を殺した猟兵らの姿を見るなり泣き叫んでもおかしくないだろうに、なつかしの店にまずは視線を奪われている。
 だから、店の前は常に人だかり。
「ねえ、ゆかりちゃん達、皆でお菓子でも食べながらさ」
 仲良く遊ぼうよ――心からそう言えたなら、どれだけよかったか!
 親しげに声を掛けたアル・ディオール(ぼんやりエルフ・f06347)も、先に戦いに入ったものたちと同じようにゆっくりと首を振った。
 これは、敵。小さな女の子でも加減はできない。
 ひた、ひた……ひた。
 すぐ近くまで寄る足音。また別のゆかりちゃんかと飛び退きかけるアルだが、かーてーてー、と間延びした、しかし幼げというには薄暗い男声が続いたことで冷静に前だけ見据え続ける。
「いいなァ、いいなァ。どんなモノがあるのか見たい見たい、ミィンナ早く食べたいよなァ」
 エンジ・カラカ(六月・f06959)。猟兵のひとりだ。表情薄く姿を見せた男の、利き手には遊び道具が握られていて。
 それが赫々語る声なき言葉は、"だから、どーいて"。相棒と共に、一方的に遊びの始まりを告げる。
 オオォォォ――!!
 まさに急転直下。今しがた魂のこもらぬ挨拶をした男の口から、たった息継ぎの間ののちには体組織を破壊する程の重厚なる咆哮が漏れ出るのだ。
 声の圧は衝撃波。ふわふわと地面の上に立っていただけの少女らは、体をおよそバケモノらしく変形させながらあちこちへと弾き飛ばされてゆく。
 ベキゴキボキバキ、……壁にへばりついた華奢な体を見下ろすエンジは、無害になったそれを引っ張って剥がし、丁寧なまでに地面へ寝かせた。そうそう、後でお菓子を一緒に食べよう。
「イイ子で待とうか。独り占めは良くないからサ」
 目配せで初手を察していたアルは、その光景を前にそろりと手を下す。薙ぎ払いは任せろとは言われたものだが、成る程――なるほど。

『おばあちゃん、たすけて! こわいひとたちがいるの!!』
 駄菓子屋を振り返り、鋼の壁に塞がれた戸ではなく窓へと駆け寄ろうとする生き残りのゆかり。
 人間をやめた悲愴な姿を、縁のある者に見せてしまうわけにはいかない。アルは彼女たちには永遠になれない、ずっと大人な歩幅で走って回り込むと進路へ立ち塞がる。
「行かせては、あげられないんだ。……よろしくね」
 杖の形を取る光の精は気難しいけれど、主の無益な死は望まないようだ――ぶわりと、アルの周囲へ輪を描きながら守るように浮き出た光の槍は、少女らが数えられる数を超えていた。
 ドッと貫く光束。
 一番に狙ったのは、父母召喚の素振りを見せていたもっとも小さい個体。おさげ頭ががくんと前へ崩れる。
 折り重なって倒れる体が、ひとまとめに地面へ縫い付けられてゆく。動きを止めてもおかまいなしに、敵としてそこに存在する限り穴だらけにしてしまう。
 荒々しく踊りまわる光は、揮い手の気性とは異なり随分と獰猛だった。
(「あー、もう」)
 ……それでも、下手に苦しませるよりはずっといい。これでいい。
 みつめるアルは柔らかな金の髪にわしゃりと指を沈ませ、やりにくさにほんの少し瞼を伏せた。眼裏の闇にもチカチカと、宿す光は万華鏡みたいに咲いて散ってと眩しい。
「腹、減らないなァ……」
 光の軌道を読み、受けた敵が吹き飛ばされる位置を目算して一足先に踏み込むという荒業。エンジは獣の感性でそれをやってのけ、首や胸奥の急所を穿ちともしびを吹き消してゆく。
 捜索願いが焦げて燃えて顔が露わになりかけても、関心なく次のゆかりちゃんとの遊びへ移る。
 風にも靡かず、手放せぬ拷問器具にぼうと纏わりつく暗色の炎は、これから訪れる夜よりももっと昏い。けれども、御飯時を迎えるにはまったく物足りない。
「たのしいだろ? おトモダチ、ミンナ呼んでおいでヨ」
「そうだね、一気に終わらせておやつタイム……」
 アルが強く思い描く、色取り取りのおいしい姿。だれにもしあわせは奪わせないぞの一念を支えに、光槍の残りを指先弾いて向かわせる。
 ……そういえば、転送時に感じたお腹のすく匂いは消えるどころか強まったような。
 甘いお菓子大好きなアルの鼻はセンサーよりも精密だ。これはそう、とてもよく嗅ぎ慣れた――?

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リュラ・シバネ
いいね〜駄菓子屋さん。
でもそろそろ子供はお家に帰さないと。

とりあえず【念動力】【衝撃波】を使ってユーベルコードを強化、範囲攻撃で散らす形をとるよ。なるべく本体に当たるように調整できるといいけど。


絢辻・幽子
うーん、オカルトは好きなのですが
行方不明の小学生……というあたりが切ないですね。

もうしわけないのだけど、成仏していただかないとね?
燃えちゃう炎はないないしてしまいましょう
ふふ、ほら、鬼ごっこです
車とお店、人には気をつけて遊びましょ?
咎力封じ、それと……私のからくり人形もいっしょに
追いかけて、逃がしませんから。

……どっちがホラーかわかりませんね?
あっ、尻尾だけは燃やさないでください
お手入れ大変なんですよ?

……まぁ、でも、かわいそうな事になっちゃった子を
ただ、倒してバイバイも僅かな良心が痛みますね
駄菓子のひとつ、ふたつ持って還ってもらえたら
いいのですけど。




 みんな。みんなって、だれ?
 あのこはゆかり、あのこもゆかり、わたしは――だれ?
 ぽこぽこ地面に穴が開く。だれにも解けない虫食いみたいにたくさん、生まれては黒塗りのまま消えて、最終的にはもう十体程の怪異がソコから這いだした。
 いや、あと一体。
「あら、あらあら。怨んでますねぇ。怨んでますか?」
 ざわと膨れ上がる霊気が、別のものまで呼び寄せてしまった――そう思う者がいたとして責められはしない。
 声の主、絢辻・幽子(幽々・f04449)の立ち姿はといえば、"本場モノ"だったのだから。
 黒の衣に隠された指先から、垂れ下がった糸は地面にまで伸びている。女の通った後が血の跡のようになっていた。クマの浮く夢心地の貌で、ぬるく笑む。
「もうしわけないのだけど、成仏していただかないとね?」
 行方不明の小学生。切ない。そうした感情と、オカルト好きの際どいときめきは隣りあわせ。
『ゆかりは、おかしをかって、おうちでママたちとたべるんだから!』
 声を荒げて憤る個体に貼られた紙切れが炎を帯びてゆく。
 ふふっと息零して、幽子はドレスの裾をめくった。真暗闇から転がり出るのは、ひとのこ。素体のままの球体関節人形。
 そういうことでしたら、尚の事。
 不出来なコマ送りの動きで身を起こした人形は、直後に思いがけない速度で這いずりだした。ぽっかり空いた瞳の空洞が恐怖を加速させる。
『きゃっ!? おばけ!』
『いやあ、こっちこないで!』
 逃げ回る姿は、なんて無力で弱弱しいおんなのこ。どちらがホラーかと頭に過るものもあるけれど、なんと言われようと呼ばれようと、最早幽子にはさほど気にもならない。
「――ほら、鬼ごっこです」
 燃えちゃう炎もないないしてしまいましょう。意のまま伸ばす赤い蜘蛛の糸が、首元に絡みついてきゅうと締め上げれば火はぽつぽつ消えていった。
 ゆるく取り込まれただけの何体かが全身をばたつかせ、逃げようともがく。そこを一度に弾けさせるのは、リュラ・シバネ(観測者・f12014)の不可視の力――サイキック。
「いいね~駄菓子屋さん」
 リュラはおどけた微笑を口元に貼り付けたまま、腰に両手をあてて古めかしい一軒家を眺め上げる。なかなか雰囲気あるじゃないかと満足げに頷く。
 戦いの最中であってもマイペースな様子には、戦場馴れと生来の性質が窺えた。
「この年頃の子どもって、どんなものが好きなんでしょうね」
「そうだなぁ、砂糖のかたまりとか?」
 オブリビオンを観察する瞳は、ふたりでむっつ。リュラの手の甲でギョロリと動いた赤目が、少女らを更に震え上がらせることとなった。
『やだぁ! おうちにかえりたいよぉ!』
「お家、か」
 手伝ってあげる。異形の共生者は実に気安く言ってのけ、すうと中空で指を動かす。疑問符を浮かべて数個の頭がその動きを追う。
 だが指の辿る先へ視線が行きつく前に、となりの子の頭とごっつんこさせられた視界が真っ黒になる。リュラの念動力が、そうさせていた。
 頭同士の境がなくなるほど塊になって倒れたならばもう動かない。
『――ひッ』
 パパ! ママ! たすけて!!
 泣き叫ぶ幼い子。
 必死に駆け付けようとして腕や足だけ現界した大人たちは、しかしそれ以上形取ることは許されず、真面目に働くエージェントが際限なく叩き込む衝撃の波に掻き消されていなくなる。
 うろおぼえな、帰り道を辿ろうと体を翻しても赤い糸としがみつく人形とが、それ以上身動ぎひとつさせてはくれない。
 こわい。どうして。いつもみたいに、たべてあそんで、それだけなのに――ゆるやかに齎されるのは疑問への答えでなく、思考の終わり。
「さ、お家に帰る時間だよ」
 すぱんと空気の鳴る音は、絶望に崩れ落ちようとしていた少女自身の首元から。

 転がる、□□□ちゃんや□□□くんだったものたち。
「まぁ、でも、こうしてただ倒してバイバイも僅かな良心が痛みますね」
「ふむ」
 ちょっとでも俯くとかかる影が増し異様に落ち込んで見える幽子を、リュラが横目に見る。数秒だけ考え込む仕草。ぽんと手を打つ。
 戦いの余波で割れた窓硝子からひょいと店内に"手"を伸ばした彼女のオーラが、カウンターに小銭を投げ落とす代わりザラメの塗された飴玉やチューブ入りのゼリーをひとつふたつ持ち出してくる。
「これでいーい?」
「わ。……十分だと思います」
 猟兵らに課せられた任務は、オブリビオンの討伐それだけ。
 仕様の無いこと。此処に転送されてからというもの、耳にしたものは被害者らの悲痛な声ばかりだったけれど。
 風の音かもしれないが――消えゆく最期に聞こえた気のしたものだけは、年相応の明るい笑い声のようだった。
 菓子と少女たちの消えた後には、土や砂に混じってよくよく見れば小銭の欠片が落ちている。
 なぜだかまだ、あたたかい。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『四四八『デビルズナンバーおかし』』

POW   :    悪魔の戦棍(デビルメイス)
単純で重い【鈍器クッキー】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    悪魔の甘味(デビルスイーツ)
【全身】から【食べずにはいられない甘くて美味しいお菓子】を放ち、【幸福感】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ   :    悪魔の菓子(デビルスナック)
【クッキー】【マカロン】【オランジェット】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は六六六・たかしです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 毒されている。
 息が詰まる。
 甘美な香りも強まりすぎれば、頭痛を覚えさせるように――。
 どぎついカラーをしたその怪異が、店脇の路地裏から現れ出たときの空気もまるでそれであった。
『せっかく"こっち"に引き込んだのに』
 第一声。
『このボクがもっとおいしいお菓子をあげるって言ってあげてたのになぁ、バカな子たちだなぁ』
 なんだい、こんなボロい家なんかにさ!
 吹けば崩れそうな駄菓子屋を蹴飛ばさんとして、おっとっとと言いたげにその前に立つ猟兵たちを見下ろすことになった瞳はカスタードの光沢。
『でもボクはお菓子が大好きなこどもたちの味方だからね、代わりに怒ってあげるよ』
 みんな、ほんとうはおしゃれなボクのお菓子をおなかいっぱい食べたかったんだろうなぁ。
 猟兵って、ひどいなぁ。
 家の屋根まで届く程に巨大な、菓子の体。手のひらから零れ落ちた鈍器のようなクッキーが、ゆかりちゃんたちの溶け込んだ地面を砕き割った。
錬金天使・サバティエル
「私もスイーツは好きだがさすがにあれは……いや、バラバラにしてやればいけるか?」
あの大きさに菓子の体だと銃弾の効き目は悪そうだな……接近するか。
足元の屋根に撃った錬金呪術・阻鋼の壁がせり出す勢いで跳んで接近し、錬成カミヤドリで複製した賢者の石に羽根を貼り付けて飛ばそう。
むこうから攻撃してくるなら好都合。羽根を貼り付けた泥の霊で受けてしまえば、奴の武器は錬金呪術で切断されて使い物にならなくなるだろう。


エンジ・カラカ
匂うなァ……。アァ……吐き気がするほど甘い匂いだ。
この香りはあまり好きじゃない。

なァ……辰砂。どうやったらあの匂いは消えるンだ?
先制攻撃で賢い君に命を与える。薬指の傷跡から滴る血はあの甘い匂いも消せるのか……賢い君なら出来るかァ。

二回攻撃と属性攻撃も合わせて使って甘さを打ち消す。
何事も限度ってもんがあるだろ?

狼の鼻は良すぎる程良いンだ、今回の敵サンは甘すぎる。
纏ったボロ布で鼻を隠して匂い対策。敵サンより先に倒れそうだ……。
足止めはするから、代わりにさっさと焼いてほしいなァ……。


リュラ・シバネ
うーん実は甘味より辛味派な私なのだ…!
菓子は甘いもの、なんて慢心を体現すらしたその甘々な考えを改めるがいいさ。

見た目脳筋だし、殴り合いじゃ私は分が悪いかな。援護としてサイキックブラストで【範囲攻撃】【念動力】を駆使し動きを封じよう。
あとは変形させたサイコキャノンで、遠巻きにちまちま削ろう。
うん、つまみ食いはしない。



 黒々、跳ね上げられたアスファルトの破片。
 不自然にぴたり宙で静止させるのは、此処に渦巻くゆかりちゃんたちの怨念――なんてことはなく。
「まぁ分かりやすいヤツだこと」
 念は念でも、新手の現れに軽く肩を回してみせるリュラの念動力。
 ちらと目線を向けたなら、お菓子でできた体へ向かって羽虫の群れのように石片が飛び交うこととなる。
『むむっ』
 唸る怪異は目元すら掠めてゆく石礫を手で握り潰し、ご自慢のボディが食べられませんな状態になることを避けようとして。
 敵前において、必死になり過ぎていた。
 石の中に、もっと凶悪な物質が混ざっていることに気付かない。より豪速で向かい来たいくつかを纏めてぐっと捉えた――そう思ったのに、まさか触れた己の指が粉砂糖みたいに欠け落ちるだなんて!
「私もスイーツは好きだが」
 あどけない声。
 巨体の頭上から落ちたそれは、家々の屋根から突き出すには不似合いな鋼鉄の足場……ちょうど駄菓子屋を守る石壁と似たような物体を蹴って、黒髪をぶわりと風に躍らせる。
 浮かんで追従するのは、今しがた菓子巨人が掴んだ礫の余り。"賢者の石"と、使い手たる少女、こうして姿を見せたサバティエルはそう呼んでいる。
 頭の輪と背の翼はこの世すべての富を溶かし込んだみたく純金――天使さま、子どもたちが見ていたならぱ、そう声を揃えたろうに。
 すれ違い様、こいつは食えたものかと赤色が覗き見る。傷の目立つクッキーの戦棍。穴の開いたサンドの体。砕けたキャンディーの指。扱う宝石に比べれば、どれも随分と"やわらかい"。
「ふむ。バラバラにしてやればいけないこともないか」
 そうして乱れの無い着地。きゅっと高い音で靴が鳴ったのに、漸く事態を呑み込んだらしいオブリビオンがわなわな震える。
『だったら一番に食べさせてやるぅ!』
「それには及ばない」
 食べたいものも、欲しいものも自分で選ぶ。
 少女がぺいと手を払えば石たちもまた飛んでゆき、主にとって不要の烙印が押された体を代わりに食べてしまうのだ。
『のわぁぁぁ』
「おっ、喜んでる喜んでる」
 すぱんすぱん切り落とされる賑やかしい菓子は見遣るリュラの上にも降り注いでくる。だがつまみ食いしようって気は起きない。
 それよりもだ、飛来物への対処で一層足元がお留守になった敵の至近へ潜り込む。ぐりゅんと両掌の目が見開かれ、トンとそれらを押し当てる。
 だって私、実は甘味よりも辛味派でね?
「菓子は甘いもの、なんて慢心を体現すらしたその甘々な考えを改めるがいいさ」
 ――バチッ!
 接触面から真白い火花が散り、焼き菓子の香ばしいを通り越した焦げ臭さが一気に風に乗った。サイキックブラスト。流し込んだ高圧電流によって、苦味を加えて味付けし直すリュラ。
 焼かれた脚ではキックも儘ならない。遅れて掴みかかる手から身を低くして逃れる彼女を前に、ものの焦げたこちらの方がまだマシだと、エンジはマスク代わり顔に当てていた襤褸布を初めてずらす。
「アァ……さっきからドタバタドタバタ。動く度に臭いのなんの」
 万人に好かれる人気モノだと云うのなら、利き過ぎる狼の鼻へも配慮してもらたいたいものだ。
 もっとも、送り返す先は変わらないが。

「なァ……辰砂。どうやったらあの匂いは消えるンだ?」
 男の左手薬指。古傷のはずが、そこに刻まれた跡からは今も滴る鮮血があった。綺麗な赤い輪を描いて、拷問具と絡まり合えばエンジだけに答えが分かる。
 あぁ、あぁ。俺もそう思う――などと。
 しゅるりと伸びだす血か糸か知れぬ束は、目下もっとも香りのうるさいクリーム部分へ向けられた。
 常は絡んで編んでの妨害に秀でた彼の相棒であるが、今ばかりは直に牙を剥いて鬱陶しい体を削り取ってゆく。
 大振りでメイスが叩き落とされようとしたところへ、ネットのように広がってエンジの頭部を守り。それに信を置いていた男は回避に労することもなく、すぐに次の手札を切れる。
「何事も限度ってもんがあるだろ?」
 胴を構成するストロベリーチョコを、何重にも括り付けられた赤糸がべきんと折った。達磨落としの要領で、不安定に傾いて胸が腰とくっつく。巨人の頭が低くなる。
『なっ、なんだ? 何が気に入らない? 別の味にしてほしいのか、しかたないな……!』
 内包するクリームも削がれ厚みの落ちて、なんだか急激に貧相になったオブリビオン。
 呟くと、手の甲や巨躯のクッキー部に開いた細かな穴からオレンジ色の液体が流れ出る。熱気とともにフルーティな香がむわりと立ち込めた。
 体中をべったりてかてかコーティングするオランジェットの色香も、好まぬものにとっては引き続きただのドギツい香害。
 エンジは再びサッと衣を引き上げ呼吸。十全に役目を果たした辰砂が、扇風機みたく回転し傍で風を送り散らす等している。リュラはふうと肩を上げ下げして。
「まったくダメ。唐辛子くらい噴き出してくれないと」
 話にならない。そう、女の手首に通した腕輪が粒子を纏って姿を変じ、小型のエナジー砲と組み上げられてぽっかり口を開き。
 吐き出すのは、眩しくてと~っても辛いエネルギー弾。顔面を庇おうとした菓子の腕の片方がじゅっと音立て肘まで溶け落ちる。
「その調子でさっさと焼いてくれ」
 布越しのもごもごとした音がエンジから零れ、攻勢を支援すべく妖しい煌めきを強めた宝石がぱらぱら敵へ吹き付ける。
「ほぅ、あまり見かけない石だな? 利口じゃないか」
「……お目が高い」
 ちょっとした興味を示すサバティエルに、覗く狼の目元のみ細く笑う。
 辰砂、聞いたか。褒められたぞ。
 こうして働いていてくれるだけで、取り込んだ吐き気を催すささくれが落ち着く気がする。さすがは俺の、賢い君。
 傍からは理解され難い感覚、拷問具に染みついた血のにおいに馴染んでいるからこそ――ではあるのだが。彼らの微かな安息を邪魔するものは今、地団太を踏む迷惑な巨人の他にいない。
「駄菓子屋ってのは甘いものだけじゃなくて、色々置いてるからこそ楽しいんだよ。バカにする前に見習った方がいいんじゃない?」
 サイコキャノンでの砲撃の合間、親指で古民家を指してみせるリュラにますます悔しげにする菓子巨人。続く連撃の中、彼女に溶かされた腕の側に持っていたクッキーメイスをなんとか持ち直すだけで手一杯だ。
『くうぅぅ、乾き切る前に妙なもんまで貼り付けやがって……!』
 ひどいひどい! お菓子を愛さない猟兵はひどい!
 わんわと叫んで宝石弾き撃ち出された唯一比較的無事な両肩のマカロン弾であったが、合間に自ら身を晒したのは泥の霊、盾を構えたサバティエル。
 間抜けめ! ボクのマカロンは甘くないぞ!
 きっとそう思ってカップの下の口元はにやついたものの。天使が望んで触れたものが、たちまち切り落とされてしまうことをすっかり失念していたのだからおめでたい。
「学習しないな」
『ガがが……』
 誰にも味わってもらうことなく細かに割られた自信作が地面に落ちる。……いや、ちょっとだけ手の甲に飛び散った欠片を少女が指ですくって、口元へ。
「なんだ、どれだけおいしい味かと思えば」
 ふつうじゃないか――興醒め隠さぬ子どもによるその言葉が、なによりグサッとオブリビオンのハートを抉ってゆく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

柊・雄鷹
あーあ。地面がバキバキやないかい
けど、そうかぁ……お前がゆかりちゃんを呼んだんか
小さい無垢な女の子に、酷いことするな
お前みたいな腹痛起こしそうなお菓子、ワイはお断りやわ

羽を生かしての【空中戦】やっ
【戦闘知識】から急所になりそうな場所へ、5本のダガーを【投擲】
ぜぇんぶワイの自慢のお手製や、好きに喰ろてくれ!

近距離に迫ってきたら、ユーベルコードの出番やな
【鎧砕き】もあるから、そのデカブツボディにも良ぉ効くんとちゃう?
『月下氷塵』……「凍刃の鷹」を使った一撃必殺や
ワイの腕まで凍らせてもうような、氷の【属性攻撃】

ここで散ってけ、そんであの世で、ゆかりちゃんにしっかり謝るんやで


アル・ディオール
見てるだけで胸焼けしそうだね、色も毒々しいし
ゆかりちゃんみたいな純朴そうな子にはそっぽ向かれるわけだよ
全然興味なんかそそられない…

え?さっきからお腹の音が鳴ってるって?
…うるさいな気のせいだよ

攻撃は【荒れ狂う星光の槍】
【全力攻撃・高速詠唱】に加え【破魔】の力もおまけにつけちゃう
なんか憑かれてるっぽいしね

鈍器の一撃でお店が壊れちゃったら大変
距離を取りつつ引き離しながら戦おう【見切り】

強化されたら武器や鎧(?)を狙い撃ちして弱体化出来ないかな
【2回攻撃】で本体と並行して攻撃してみよう

『君がボロ家呼ばわりしたそのお店
俺は凄く魅力的に感じるよ
暖かい雰囲気だし何よりワクワクするもん
…君と違ってね


コノハ・ライゼ
ナニコレと不快感を隠さず
先程よりより分かり易く眉間に皺寄せ
それじゃそっぽも向かれるサ、相手の気持ちもガン無視だもの

【WIZ】
囲って飛び込み気を引こう
けれどコイツにオレの飴は勿体ナイ
もっとよぉく焼けば匂いもマシになるだろとばかりに
【月焔】を四方八方から撃ち込んで炎を目眩ましにし近付き
『2回攻撃』で『傷口をえぐる』ように「柘榴」で斬り付ける

美味そうじゃあナイが『生命力吸収』しとかないと匂いでやられそう
攻撃や強化の隙をつき『捨て身の一撃』を刺し込もうか
その攻撃に気が向いたらもうけもの
死角より炎を全弾叩きつける『だまし討ち』で更に大きな隙を作るヨ

こちとら繊細ナンだ、それに
オレの作るモンのが美味いってネ


絢辻・幽子
あらあら、まぁまぁ……
なんて……おいし、そう?いや、うーん、もはやぼろぼろ
箱の中でふられたケーキの様ですね?
品のない甘ったるい香りは好きではないですし……

燃やしてしまいましょう、えぇ、燃やしましょう。
狐の炎に焼かれてしまいなさいな
甘すぎるのってすぐに飽きちゃうんですよね。

ゆかりちゃん達は
『もっとおいしいお菓子』より、自分のお小遣いの中で
一生懸命考えてお友達と一緒に楽しんで食べられる
そんな駄菓子の方が子ども達にとっては素敵なお菓子だったのかも
しれませんねぇ?

私にはよく、わかりませんけど。
ただ、わかるのはあなたは美味しくなさそうということですね。

(実は、甘いものが好き。アップルパイとか好き)




「しょぼくれとるヒマあるなんて余裕やんなぁ」
 声掛けがあっただけ親切? 否。
 既にこの場に一歩たりとも逃げ場はない。ぐるんと空を旋回して、指二本を立てる雄鷹は表向き朗らかに挨拶までしてみせるが。
 フリーになった彼の手指からは五本の短剣が放られたあとだ。
 交戦を空から眺め、急所とも呼べる箇所にアテをつける作戦――見つけたそれは"頭部"だった。狙い目といってもいいか。
 片腕は無く、もう片手の指は欠け。要はほぼほぼ庇えずに、こうやってカッティングされることになる。
 片目を含む、スポンジとクリームが数個に分かれてずり落ちた。
『ぎぃああッ……!!』
「地面はバキバキやし。ゆかりちゃんもお前が呼んだんやろ? 小さい無垢な女の子に、酷いことするな」
 騒がしく悶える菓子巨人など蚊帳の外。消えていった少女たち、平和であるべきこの地を思って投げかけるまなざしは一転、鋭く。
「お前みたいな腹痛起こしそうなお菓子、ワイはお断りやわ」
 たしかに。色も毒々しければ、見ているだけで胸焼けしそうだと嫌なポイントを羅列しながらアルは大きく頷く。
「ゆかりちゃんみたいな純朴そうな子にはそっぽ向かれるわけだよ。全然興味なんかそそられない――」
 ぐうぅぅ。
「…………ぅ」
 が――腹の虫は素直。大好物の甘いお菓子を突き付けられて、理性を別の何かが上回ってしまったって仕方がない。
 じわっと見てくるコノハが己の口のあたりを人差し指でとんとんつつく仕草。
 ハッとして袖で口元を拭うアルであったが、大丈夫。涎までは垂れてない。……ふぬ。腹筋に力を入れて杖を握り直す。
「気のせいだから」
「ふはっ、イイじゃあないの。気ィ張り過ぎないのも大事ってネ」
 もちろん彼が戦いには手を抜かないことを分かった上での茶々。だっておいしいたのしい駄菓子屋タイムは、もうすぐそこなのだ。
 この怪異をぶっ飛ばせば。それにと、明確な不快感、敵へ向けたコノハの眉間には深い皺が刻まれており。
「これだ。相手の気持ちもガン無視だもの」
 こくり……誤魔化しきかず俄かに頷くアルの長耳は肌の色味もあって赤らむが、面持ちばかりはしんと泰然に巨人と相対す。
「だっ、だからね。だから――俺も、君なんて食べてあげない」
 高く風巻く音は、ケープをはためかせ少年がばっと広げた腕に沿い、空気中に数多の星光の槍が姿を現したから。
 高速詠唱、からの全力魔法。
 揃うを待ちもせず、端のものから順に弾丸より迅く敵へ向かって迸る!
 オランジェットのコーティングも、到底間に合わない。型でくり抜かれた風にこぶし大の穴が等間隔でうつくしく開けられた胴は、すっかりスカスカ。
 あらあら、まぁまぁ。
 空間にグレーがかった声が落とされる。女――幽子の気配は依然霊じみていた。圧倒的劣勢による意識の散漫も手伝って、背後のすぐそこで見上げられていたことに、こうして音が発せられ初めて気付く巨人が肩を揺らして振り返る。
『なん』
「なんて……おいし、そう? いえ。箱の中でふられたケーキの様ですね?」
 ボロボロと、楽しまれる前から崩れてしまった不良品。スイーツとしての尊厳そのものをゆるやかに崩しにかかる一声に敵は絶句、コノハはぶふっと吹き出して。
「どうだい、こんがり手直ししてやるなんてのは」
「燃やしてしまいましょう、えぇ、燃やしましょう」
 品の無い甘ったるい香りは、そも好きではないもの。
 返す女の指の先にぽつりとあかりが灯り、そこから枝垂れ柳の如く地面へ流れ落ちる。ごうごう、生き物にも似て火の玉たちが菓子の足元まで這い進む。
 後退しようとしたものなら、引いたかかとが焼ける。幽子の狐火とともに燃え立つ月焔――コノハの炎が、薄ぼんやり空に顔出す本物に比べうんと冴えて耀うのだ。
 照らされて爛々光るあやかしのライラックとアイスブルー。子どもだって恐れるかえりみちの夕闇――逢魔時には、ご注意あれ。
 途端に一点へ向け収束した火群が、巨人の体を呑み込んだ。

『ぐああぁあ!! あづッ……ボクは焼き済だぞ!?』
 なんとかしてオーブンより強烈なこの熱から逃れたい! 半狂乱でぐわんぐわんと振るわれる戦棍が指の足りぬ手からすっぽ抜け、偶然にも駄菓子屋の屋根を打ち付けんとする。
 そこを見逃さず、即座に攻撃の矛先を変えたのは、アル。
「君がボロ家呼ばわりしたそのお店。俺は凄く魅力的に感じるよ」
 口中唱え、数十の槍が重なり合えば花火のように空を灼く。真っ直ぐに走り、岩以上に硬いはずの悪魔のクッキーをたちどころに粉砕した。
「暖かい雰囲気だし、何よりワクワクするもん」
 ……君と違ってね。
 穴開きで焦げ焦げのオブリビオンからはもうおいしそうな香りもしない。ぐぅんと曲がって今一度狙いを改めた光たちが、大慌てを続ける体へしとど撃ちつけられた。
 同時、炎と光とに身を潜め斬り込んでいたコノハ。開きたての穴に捩じ入れた柘榴が横一文字に傷を押し広げ繋げる。悪童による壁の落書きみたいに好き勝手――ヒット・アンド・アウェイを為し、飛び退く男へ鈍重な手は追い付けない。
『どうしてだ? 万人が死んででも欲しがる甘味、ボクのリサーチは完璧だった筈なのに……』
「悩めるあなたに、私の考えを教えてあげましょうか」
 ゆかりちゃん……子どもたちにとっては、"もっとおいしいお菓子"よりも、お小遣いの中で一生懸命考えてお友達と一緒に楽しんで食べられる――そんな駄菓子の方が素敵だった。
 かも、しれませんねぇ? 紡ぎ語尾を上げる幽子の元には、先程から更に勢いを増した火の玉らが控えていた。
 私にはよく、わかりませんけど。淡々と女は続けるが、きっとそれは的を射ており――生前の少女らに度々接触していたオブリビオンはだからこそ、根本的な敗北を前にショックを受けた様子で動きを止めてしまう。
 整った薄紫の唇が笑ったように、見えた。
「安心してくださいな。あなたが美味しくなさそうということに、変わりはありませんもの」
 それから静かにしずかに、ろうそくの火を吹き消すかたちに。吐息を零せば、女の狐火が舞い立って。
『ッッやめてくれ! もうこれ以上焼かないでくれぇ!』
「うん? ならワイの出番ちゅうことやんな?」
 よぉく冷やしたる。
 抜き放ち、雄鷹が握る凍刃の鷹。キイィッと空気に爪立つ音は、急速冷凍され割れる硝子のよう。だがこの一刀は罅割れぬ――少なくともこんなふざけた存在、幾つ断ったところで。
 腕をも喰らい始める冷気に、当の本人はいっそ口端を上げてみせた。本日も機嫌のよろしいようで!
 刃携えたオラトリオの体が風を切って低空に飛ぶ。真横を羽ばたいたとき吹きつけた凍て風に本気を見て取り、コノハもまた駆け出した。これで、決まる。
「そーかそか、カワイソーだしならオレもこっちで!」
 追い立てていた月白の狐火を、巨体の脇を抜ける雄鷹への援護に使うが最後手品みたく掻き消してやって、宙で取り直す真紅の刃。
『ぬっ、ぬぬぬ』
 バラバラに突撃を掛ける彼らを如何に対処したものか……ダガーの初撃で大きく抉られた上、元からクリームしか詰まっていない巨人の頭では、ぐるぐる思考が渦巻くだけ。
 とりあえず、目先の男を踏みつける――?
 深く考えずぐわんと持ち上げた足。コノハが振り抜いた柘榴はその足裏に深々刺さって本体にまで届かない――そう、思われた。
 が。
「なぁんて、信じた?」
 ごおん!!
 上手を取ったと安堵した瞬間に、視覚外から怒涛の炎塊を叩き付けられれば、どうなってしまうだろうか? 当然ながらモロに喰らう。上げた片足は勿論のこと、散々削られてきた下半身まるごと燃え滓に変えられてしまう。
「ほらネ。オレの作るモンのが美味い」
 刃を以って、だまし討ちついで都合よく最低限の活力をいただいたわけだ。人に近いくせ狐の計算高さで、男は赤い舌を見せた。
 後方へと零れ落ち始める上体。自然、上を向くまなこには、紫の濃くなった夕空と――鳥。
「ここで散ってけ」
 ――そんであの世で、ゆかりちゃんにしっかり謝るんやで。
 霜など段飛ばしに凍えつかせながら、身の内を鷹が通る。とろけるクリームだって、跳ねてアスファルトを叩く頃には立派な結晶に変わってしまう。それ程の、純然たる力。
 氷が覆ったものは果たして刃と腕だけであったのか。逆さになった世界の中。凍てついて見下ろす猛禽の瞳が、オブリビオンの認識できた、終わり。


 やがて、駄菓子屋の入口を覆う石壁が取り払われる。
 ゆかりちゃんたちが消えたことで、塗り付けられた手形もまた消えていた。あるのは、学校帰りにちょっと寄り道しておやつを買って帰るような、ありきたりな日常だけ。
「店ん方、あんまし崩れてへんくてほっとしたわ」
「キズナの勝利ってヤツ?」
 邪魔な瓦礫を蹴って退かす、男二人は健闘をたたえ合うように視線を交わし。
「何を買うか皆さん、もうお決めになって?」
「俺は逆に迷っちゃってるよ……全部なんてありかな?」
 女が問えば、エルフがそそっと腹を摩った。

 そうして、生きるひとの手が引手を掴んで戸を開ける。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『むかしなつかし』

POW   :    欲しいものを買う

SPD   :    隅々まで見て回る

WIZ   :    品物や店に想いを馳せる

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 陳列棚にはたくさんの菓子。壁掛けになっている玩具類。
 狭いスペースを目一杯使って、訪れる人々のため夢の詰まった世界が作り上げられている。

 やさしく香るのは白檀、だろうか。
「おや……ふふ、わたしったら、耄碌しちゃった」
 カウンター奥には変わらず老婆が腰掛けていた。彼女は卓上に置いていた眼鏡をそうっとかけて、見慣れぬような、見知ったような、客たちへと会釈する。
 破片が零れていないところを見るに、窓の硝子は元から割れていたものらしく。
 のったりとしたこの様子ではどうやら、大して外での騒動にも気付いていないようだ。どこかで工事が始まった、大きいトラックが通った――耳の遠い老人にとっては、その程度だったのかもしれない。
 子どもの手形なんて、なつかしい故人を夢枕に見るのと同じまぼろしに過ぎぬなら。
「いらっしゃいませ。一応、ここでお店をやっていてね……今日はもう店じまいしようかと思っていたんだけれど、うれしいもんだねぇ」
 かちかちと吊り下げ灯の垂れた紐が引かれると、室内の暖色のあかりが強まった。
リュラ・シバネ
は〜やっとこの時間だね、みなさんお疲れ様。

とりあえずおばあちゃんとちょろっと世間話でもしようかな。駄菓子屋は好かれるモンだけど、あれだけ寄せ付けたんだ、きっといいお店なんだろうなぁ。

あとは辛そうなものを夢邪鬼と物色…記憶消去銃はあるけど、できれば目立たないよう努力しようか。

…とと、そうそう、私の数少ない駄菓子知識なんだけど。
10円ガムは、外側のカラーの包み紙の繋ぎ目がズレてるやつが当たり紙が入ってること多いんだよね。
や、別にサイキッカーだからって透視とかしないから!


エンジ・カラカ
アァ……臭くない。
さっきのアイツは鼻がイカれるかと思った……。

独特の香りを放つソイツらは全然臭くなくて、不思議だなァ……。
手にとって見てみよう。
瓶、小さな何か、透明な容器に入れられた茶色いやつら。
アァ……不思議だ。
牢獄にはここにあるモノは無かった。それどころか彩りすら無かった。
こんなにも色とりどりのモノが食える何て信じられないなァ……。

オススメは?食えるならなーんでも食うサ。
それを土産に買って帰ろう。
相棒もそろそろ別の食べ物がほしくなっている頃かもしれないンでね。


錬金天使・サバティエル
「へえ……こういうところは始めてきたが、いいところだね。風情があって。」
こういう平和な場を見ると守れてよかったと思うよ。
しかし駄菓子屋というのは初めて見るお菓子が沢山あるね。どれを食べようか迷ってしまうな。
……こうなったら気になったものは全部一つずつ食べてみようか?お金はあるし。


絢辻・幽子
SPDで

大人ですから、制限なくいーっぱい
あれもこれもーって買えちゃいますけど……
おやつは300円までにしましょうか。

店内をうろうろ、壁の玩具を上から下までながめてみたり
玩具のなかにあるキラキラの指輪に心ひかれたり
なんでしょうね、宝箱をみている気持ちです
尻尾が揺れてしまいますね。ふふ。

紙巻きたばこのようなラムネ菓子と
しゅわしゅわ飴やらぐるぐるってしたゼリー
コーラやラムネの10円グミ
……300円は多かったかも?
ぐんにょりしていたニュイさんに少しおすそ分けしましょう

……子ども心が騒ぐのか
キラキラの指輪が気になって仕方ありません
おばあちゃん、指輪っておいくらです?
(おやつ以外は大人の力)


アル・ディオール
へへー待ちに待ったおやつターイムだね
実は俺、駄菓子屋さんに入るの初めてなんだ
どんなお菓子があるのか楽しみたのしみ

『こーんにーちはー

【WIZ】
ここお店?お家みたいだねー
わぁ…見たこともないお菓子が一杯…ってこんなに安いの?
ねえ、このシートなぁに?食べられるの?
この…スナック?焼肉味とか海苔塩とか書いてあるけど、ご飯じゃないの?
…え、これイカ?イカだよね?

お菓子を買うのは勿論だけど
折角だからおばあちゃんにお話とかも聞いてみたいなー
人気のお菓子とか、いつからやってるかとか、面白いお客の話とか
すっごく興味があるんだー
俺変かな?子供みたいだよね…へへ

ふふふーいいところ見つけちゃった
また絶対来よーっと



 お疲れ様、とのリュラの声掛けにいくつも声が返り。
 安全を確認した猟兵らは、思い思いに店内を見て歩くことにした。頑張った腕のびのび、こんにちはを告げるアルはぱあっと瞳を輝かせて。
「へへー待ちに待ったおやつターイムだね」
「アァ……臭くない。さっきのアイツは鼻がイカれるかと思った……」
 思い返すだけで過ってきそうな甘ったるい毒。頭を振ったのち首元の布をくつろげたエンジも、いくらか広まった視野に際立つカラフルたちとご対面。
 はじめ摘まみ上げてみるのは、やたら長く細いチューブ。長いだけで何も書かれていない。黄緑、ピンク、青と賑やかしいそれらを照明が色移りした瞳に映り込むほど近く見つめる……というよりも、睨む。眉間の皺が深刻。
「……不思議だ」
「なんでしょうね、宝箱をみている気持ちです」
 壁の玩具を上から下まで眺め幽子は似た思いを抱いていたようで。こちらもまた曇り硝子をあてられたかの表情からは浮き沈みが察しがたいものの、弾む心は揺れる尾に表れている。
「大人ですから、制限なくいーっぱい。あれもこれもーって買えちゃいますけど……」
 おやつは三百円まで。そんな子どものルールも、この場の楽しみ方のひとつなれば。
 守ってみるのもいいと選び抜くうち、キラキラな指輪にぴたり吸い寄せられた紫の視線。頭を傾けて傾けて、その度変わる灯の映り込む角度を楽しんでみたり。
 すっかり夢中な二人を間から覗くリュラは、一応……僅かながらも駄菓子屋知識を有するものとして、固まったままのエンジへはラムネみたいなもんだよと答えを用意。
「食えるのカ」
「外側の包みはムリだけどね。中のは白くてふつうに甘い」
 へぇ。いつしか全色手中に納めていた男の声に、ノイズの如くに喜色が混ざる。牢獄にはここにあるモノは無かった。それどころか彩りすら、無かった。
「こんなにも色とりどりのモノが食える何て信じられないなァ……」
 だったら、この舌と牙で総て暴いてやろう。続く、味は全部同じなんだけどさ、との補足はどうやら届いていない模様。
「ね。見たことないお菓子が一杯で驚きだよ……ってこんなに安いの?」
 やばい、コンプリートが冗談じゃ済まなくなっちゃうかも! アルはアルで、お菓子は大好きでも駄菓子屋さんは初めて。
 このシートなぁに? 食べられるの?
 この……スナック? 焼肉味とか海苔塩とか書いてあるけど、ご飯じゃないの?
 びゅんびゅん飛び出す疑問質問雨霰、リュラ先生もちょっと追いつけない具合。他に詳しいやつはと視線を巡らせるも幽子はお察し、そういえば最もお年頃らしい子がいた気が?
「おーい、君――……いやそれどしたの」
 黒髪の天使、サバティエル。その両腕というか、上体にはのしかかるかの量でもさっと菓子の山が。
「? なにかおかしいかい?」
 初めて見るお菓子ばかりで迷ってしまったのだ。気になったもの全部買ってしまったって、よいではないか。
 欲しいものは奪うどころか錬金しちゃおうな逞しい思考回路の少女は、お金ならあるとキリリ。大丈夫かと言いたげに見つめる幽子。
「串ものだけでも前が見えなくなっているのでは」
「なに。そんな、ことは……」
 あるかも?
 如何に敏腕だろうともまだ十一歳。抱え上げたケースを縦に三段積むだけで、結構に結構なことに。
「あー、そのイカ? イカだよね、俺も気になってたんだ。俺が買うから、分けっこして食べよ」
 もうちょっとだけお兄さんなアルが横からひょひょいと取り上げた。
 好みの甘さではないかもしれないけれど、これだけ沢山詰まっているんだから、みんなで楽しめば丁度良いと笑み。
「そういうことなら仕方ない。乗ったよ、そちらの要求は?」
「俺ねぇ、あのガムが五つ入ったのも気になる。ひとつだけすごく酸っぱいらしくて……」
 菓子探しの輪が広がってゆく。

 紙巻きたばこのようなラムネ菓子、しゅわしゅわ飴、ぐるぐるってしたゼリー、コーラやラムネの十円グミ。
 一歩歩く度に、幽子には新鮮な出会いが待っていて。手の内に築かれてきた山はと云えば、あまりサバティエルのことを言えない事態に。
(「……300円は多かったかも?」)
 ぐんにょりしていたニュイにも後で少しおすそ分けしておこう。伸び縮みしてはしゃぐ様が目に浮かぶ。
 ――そうした女の姿は、菓子そのものに馴染みのない人狼の男にしてみれば大変に精通して見えて。
「よほど慣れているらしい。オススメは?」
「私? んー、どんな味がお好きでしょう」
 好みの味?
 そんなものあったろうか。深く考え込むみたく黙するエンジを目に、でしたらと幽子が手を開いて促すのはたばこ型の。今度は、チョコ。
「絵になりそうだなんて、それだけですが」
 慣れなどでなく、腕の中のものもすべて直感、瞳に映った好み。ふっとした微笑と囁き声を受け、なるほどと男の指が伸ばされた。
「光り物を好むのだと思ったな。これなんてのはどうだろう」
 とは、やり取りを小耳に挟んだ少女の声。年齢によるものかまた別の要因か、同じく駄菓子屋初体験であっても吸収スピードはすごいらしく、まるで迷子の子羊を導くかのように"オススメ"を指し示す。
 ぱちぱちキャンディー……小さな包みの表には、風船を裂いて弾け飛ぶ色とりどりの石が。まだある。金銀紙のキャラメル、ラメ加工されたフルーツパウダー。
 エンジの興味とも概ね合致するような、それもその筈ジュエリー好きのサバティエルの指す半分くらいは、自分も食べようと目をつけていたものだったり。
「へぇ。食えるならなーんでも食うサ」
 男は言って、嫌う理由も無さそうなオススメとされたすべてを余さず集める。これらを土産に持ち帰るとして、誰より早く会計を終えた。
「もう見て回ったのか?」
「アァ……相棒もそろそろ別の食べ物がほしくなっている頃かもしれないンでね」
 今日は砂糖漬けになってばかりで、きっと拗ねていることだろう。
 足早に戸を潜り、店先で咥えた一本のチョコレート。ビターな味わいは舌触り程よく。こんな香ならば、たまには悪くない。

 品々の中には、大迫力の墨字で"激辛"と主張しているものもあり。
「あ。リュラさん? こちらなんてすごく辛そうで……」
 ……?
 気配は近いのに返事がないことを不思議に思った幽子が見遣れば、そこにはぬらぬらとした液状の白いヒトガタが。――彼女のUDC?
「手足みたいに使ってますね」
「はっ。ごめんなんて?」
 いえ、解決しました。差し出してみたパッケージをぼやけた手がぬるっと握り込んだから、恐らくはそれなりに主の好みなのだろうと。
 それを老婆が気にする様子もなく。使い手的には、たしかに目立たせないよう努力はしているけれども。駄菓子を愛するのなら怪異もまたかわいいお客様……そう構えている節すらある。
(「さっきの子どもたちのこともあるし、いざとなればと思ってたけど」)
 出番の無さそうな記憶消去銃を懐に押し込んだまま、会計ついでリュラはカウンター傍に寄った。
「よろしく。それにしてもすごいねここ、品揃えも豊富でさ」
「ふふ、家はボロいけどねぇ、甘いの辛いの酸っぱいの……みんな好みが違うから、そこだけは満足して帰ってもらいたくて」
 リュラ自身、運んできた菓子はきっぱり辛いものに偏っていて。空気と。会話と。優しい手つきで袋に詰められてゆくそれらを見るに――なんとなく、この店があれだけ"寄せ付けた"理由が分かった気もする。
「客代表として礼を言っとくよ、ありがと。……お。やっぱり十円ガムもあるかぁ」
「ガムの一粒から売っていると? 袋詰めにでもした方が効率が良いだろうに」
 十円ガム。そう呼ばれた菓子の包みを、ここ十年では聞いたこともないようなキャラクターたちが飾っている。これにはサバティエルも首を傾げて、一目には分からぬ粒を表裏して味を確認することに。
「クジになってて、ガムごとに当たり外れがあるんだ。でね、外側のカラーの包み紙の繋ぎ目がズレてるやつが当たり紙入ってること多くて」
「遊び心、か……ん、総当たりもいいが、選ぶ楽しみもちゃんと用意してるんだね」
「リュラさんはやっぱり大先生だね。でもー、サイキックで当たりを見つけたりはー……」
「や、別にサイキッカーだからって透視とかしないから!」
 またもや全種類わさっといきかけていた少女は、アドバイスを元に年相応のにらめっこに興じてみる。もひとつ追加で、と、卓上にガムを置いたリュラは二度目のお会計。これが多分、当たり!
「へへっ、うそうそ。でもそんな攻略法? もあるなんて、面白いね。俺ね、もうずっとワクワクが止まらないよ」
 子どもみたいで変かな、二人と共に目星をつけたガムを手にはにかみ笑うアルの横。誰より早く否定するのは、意外な――それでいてよく似合う、幽子。
 お金に余裕がありながら当たりクジを探すのも。普段なら食べない甘味や辛味が美味しそうに見えるのも。小さなものたちが、宝物みたいに輝くことだって。
「きっとこの場所では、それが正しいんです。おばあちゃん、指輪っておいくらです?」
 入店してこちら気になって仕方のなかったフィエスタ・ローズ。玩具の輪っかと知って尚、本気で欲したってそれもよし。三十円で、立派に煌めく夢が手に入る。
 両腕一杯に抱えたお菓子をよいせと運び、カウンターまでなんとか到着したアルもお会計コールっ! 待つ間、そろばん弾くしわくちゃな手の正確さをじっと眺めているだけでも、何かの楽器の演奏会みたいで楽しい心地。
「ねぇおばあちゃん、ずっとお店をやってて面白いお客さんとかっていたー?」
「ええ、ええ。それはもうたくさん」
 外のベンチで宿題をしていく子たち。さんすうの問題に、わたしのそろばんを頼りにしてねぇ。
 たまに老人同窓会の会場みたいになったり、学校の先生がお忍びでいらっしゃったり――そして、今日。あなたたち。
「おかげでわたしは、何十年も元気にやらせてもらってるよ」
「……そっか」
 また、絶対来るね。ときめき詰まった紙袋をぎゅうと抱く少年の、そんな言葉と笑顔がきっと、なによりの。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

柊・雄鷹
【サイハテ】

おばーちゃーん!お邪魔するでっ!
駄菓子屋さん、何か独特な雰囲気あって良ぇなっ
ここはワイが奢ったるから、皆好きなだけ買いやー

皆のオススメあったら教えて!ワイも食べたい!!
ワイのイチ押しこれっ!中にチョコの入ったマシュマロやでーっ!
おー、チョコどら焼きも酢漬け大根美味しそう!
甘いのも酸っぱいのも、両方大事や、両方買うでー!
ミニチュアヨーグルトは蓋の色も可愛いなぁ、買おう買おう!

箱買いしても良ぇんかな… あれや、子供が一度は夢見る大人買いってやつ!
(テーちゃんと視線を交わす)…買う?買っちゃおか!
10円のやっすい棒は種類が豊富やな
これ全種買って帰らん?皆へのお土産ってことで!


オルハ・オランシュ
【サイハテ】
お邪魔します、おばあちゃん
ここがUDCアースのお菓子屋なんだ
こんなにたくさん……!目移りするよ!
雄鷹の奢りだなんていいこと聞いちゃった
ふふ、遠慮しないからね

この世界では乾燥ラーメンをお菓子にしちゃうの?
ええっ大根まで!?斬新……
でもアインが言うなら美味しいんだろうな
チョコ入りマシュマロ美味しそうだね
ねぇ見て、このミニチュアみたいなヨーグルトすごく可愛いの
私はこれにしよう!

まぁまぁ晴夜
定の言うようにとりあえず試してみない?
本物の納豆じゃないんだし、案外いけちゃうかもしれないよ
私は本物の味も知らないんだけどね
やっすい棒っていうの、人気だねー
お土産に全種類はもちろん大賛成!


千頭・定
【サイハテ】で参加です。
こんにちは!
太っ腹雄鷹さんが奢ってくださるそうで楽しみです。

駄菓子屋さん、懐かしいですねぇ。小さい頃に父によく連れて来てもらいました。
私は当時、この蒲焼さんにハマっていまして…おねだりして箱買いしてました。………箱買い(雄鷹さんへ期待のまなざし)

皆さんのオススメは何ですか?アインさんの…酢漬け大根は…初めて見ました。ご飯に合わせて食べたいような…!
オルハさんはヨーグルトですか?ぜひぜひ一口。蒲焼さんと交換しましょう!

やっすい棒は私もチーズが大好きです!
納豆だって意外と美味しいんですよう。晴夜さん、ここでちょっと納豆チャレンジしてみましょう。

(アドリブ歓迎です)


アイン・ローレンス
【サイハテ】の皆さんと参加

まあ素敵な駄菓子屋さんですね
特有の温かさと言いますか、何度も足を運びたくなる魅力がたっぷりです

私のオススメはこちら「酢漬け大根」
酸っぱい味付けにしゃきしゃきの食感…
お漬け物のようでご飯のお供に最高ですよ
もちろんお酒のおつまみにも

雄鷹くん男前!お言葉に甘えてお願いしちゃいます
ふふ箱買いは大人の特権ですよね
私も動物たちに一口サラミを箱買いしてしまいましょう
晴夜くんにメダルのチョコとてもしっくりきますね
箱買いをおねだりする定ちゃんですと!?…最高
オルハちゃんはヨーグルト?懐かしい。木のスプーンで食べるのが好きではまってました!

まあやっすい
全員分買っていってもお買い得ですね


夏目・晴夜
【サイハテ】の皆様と

ええと、お邪魔します――うわ、何ですか此処は
どこをどう見てもお菓子ばかりで、まるで楽園はないですか

あ、ユタカさんオススメのチョコのマシュマロ食べたいです
チョコがサンドされた一口どら焼きと、あとメダルみたいなチョコも
あー酢漬け大根も美味しそうですね…!アインさんのレビュー上手です
ヨーグルトも確かに可愛くて興味津々です
ユタカお父さん、全部買って下さい

やっすい棒?
ああコレ、名前は聞いた事あります
チーズ味が美味しそう、この味食べてみたいです
納豆味はいらないです

は、納豆チャレンジを今ですか?
え、いや、それはまた後日やります。必ず、多分、おそらく
それよりも早く、全種買っていきましょうよ




「おばーちゃーん! お邪魔するでっ!」
 お次は団体さま。常は大空のもとに集う面々の、本日の集合場所は駄菓子屋!
 にっこにこと明るく声を上げたのは雄鷹。飛びこそしないが飛び込むように、早速と手前の棚のひとつへ駆け寄る。
「こんにちは!」
「お邪魔します、おばあちゃん。……ここがUDCアースのお菓子屋なんだ」
 その後ろからひょっこり顔を出す頭が、千頭・定(惹かれ者の小唄・f06581)やオルハ・オランシュ(アトリア・f00497)ら四つ。
「うわ何ですか此処は。どこをどう見てもお菓子ばかりで、まるで楽園ではないですか」
「楽園……そうですね、特有の温かさと言いますか、何度も足を運びたくなる魅力がたっぷりです」
 夏目・晴夜(不夜狼・f00145)の涼しげな瞳は面食らったように丸まって、踏み出しかけた足が行き場を迷う。アイン・ローレンス(気の向くままに・f01107)はその背をさわわっと押してやり、ふふり同意。
 そんな仲間たちを前に、雄鷹は得意げに目を閉じ。入口側を振り返ってばばぁーんと両腕を広げてみせた。背後に宝の山を背にしたときの、ボスキャラのソレ。
「なっ、ええ雰囲気のとこやろ? ここはワイが奢ったるから、皆好きなだけ買いやー」
 成人済のこの男、ひみつきちを前にした少年のように悪戯っぽい笑みがよく似合う。それでいてしっかりおにいさんだ。
「ごちそうさまです、太っ腹雄鷹さん」
「ふふ、遠慮しないからね」
 定がきりりと且つ抜け目なく礼を返す横でいいこと聞いちゃった、とオルハも早速探検開始。興味のまま、右へ左へ頭を振れば耳もいっしょにぴょこぴょこ。
「でも、こんなにたくさん目移りするよ! みんなのおすすめとかってあるのかな?」
「あっ、ワイも知りたい。教えておしえて!」
 ちなみワイのイチ押しこれっ!
 コロッと子どもサイドに戻った雄鷹が指差すのは、チョコ入りマシュマロ。覗き込む晴夜にとってもまだ菓子として見覚えのある存在で、すぐに味のイメージができる。
「食べたいです。紫の方は一体」
 それは亜種の芋餡……などと、興味津々な少年へ教え込む青年の図。向かい側では女三人、エルフの服の袖を引くキマイラ。
「これは? この世界では乾燥ラーメンをお菓子にしちゃうの?」
「はい。手でもみ崩してそのまま食べても、お湯をかけて本物のラーメンみたいに食べるのもよし、万能です。そんな私のオススメはこちら」
 アインが手に取ったのはスティックゼリー……ではなく横の。意外にも渋い、酢漬け大根。とても刺激的なカラー。
「ええっ大根まで!?」
「酸っぱい味付けにしゃきしゃきの食感……お漬け物のようでご飯のお供に最高ですよ。もちろんお酒にも」
 斬新……異文化体験に戦くオルハであったが、うっとり顔でアインが推すならきっと間違いはないと自分も一枚買ってみることに。それに定はじめ数人の手が続く。
「大根、は初めて見ました。ごはんも買って帰りたくなっちゃいます」
「レビュー上手ですよね、アインさん。玩具みたいですが、こういったものも食べられるとは」
 呟く晴夜の手の内にはメダルを模した小さなチョコが。包み紙がてらてら光ってやたらと豪華な、そこがより子ども心を擽るのだろう。……ついつい数枚積んでしまう。
 次いで二列離れたところの一口チョコサンドどら焼きに目を向ければ、雄鷹が先に手を伸ばしていた。
「うん、ワイもオススメのやつぜーんぶ欲しい! 甘いのも酸っぱいのも、両方大事や」
 したたたと人数分を数えてお買い上げ準備はバッチリ。集えば満ちる賑やかで、親しみやすいいつもの空気。そこに透かして見れば、思い出はどこかキラキラと。
(「皆さんとだと新鮮に感じますが……やはり駄菓子屋さん、懐かしいですねぇ」)
 小さい頃には父によく連れて来てもらった。定は、居心地のよいそれらを満ちる香りごと胸いっぱい吸い込んで口元にほんのすこし笑み。そう、つらいことばかりじゃなかった。

「わぁ、ジャムも置いてるんだね?」
「そのままでもいいですが、おせんべいにつけて食べると格別なんです」
 オルハが手に取っていたのは、小分けに詰められた真っ赤な果肉ジャム。見知らぬこの場所に、なんだか親近感が湧いてくる。アインが解説すれば、じゃあこれと……それも!
 と、セットでみるくせんべいが選ばれて。
 あれがほしくなれば、これもほしくなる。駄菓子の魔力はとてもつよい。
「三日はお菓子に困らないかも」
「ねー、雄鷹くん男前ですねぇ」
 ……大丈夫、財布の中身はしっかりこっそり確認してきた――!
 きゃっきゃはしゃぐ皆の数歩分だけ後方で雄鷹はうむと力強く頷いて。だから、定がぺらっぺらしたシートがたくさん入った"箱"をまるごと大事そうに抱え見上げてきても、その視線を真っ向から受け止める。
「この蒲焼先輩は父との思い出の……」
「よしきた買っちゃおな!! 箱か? 箱がええんやな!」
「はい。……せっかくなら、皆さんで食べたいので」
 子供が一度は夢見る大人買い。ノったおにいさんも、これにはちょっぴりドキドキ背伸び気分で笑い合う。
 おねだりする定ちゃん――最高。二人のやり取りを慈母の微笑みで見守るようでいながら、アインの思考はといえばそういった。
「大人の特権ですよね、大賛成です。私も動物たちに箱買いしてしまいましょう」
 言って、一口サラミの詰まった小箱を確保。そこへ肉っぽいなにかのオーラを敏感に察知した晴夜がしゅっと顔を出してくる。
「待った。私の分もひと箱追加で是非」
「お肉もいいけどねぇ見て、このミニチュアみたいなヨーグルト!」
 すごく可愛いの、私これにする、弾む声で手招くオルハのもとへ今度はぞろぞろ勢揃い。視線の先には、指の先にちょこんと乗るくらいのこれまた一口サイズの容器。
「懐かしい……木のスプーンで食べるのが好きではまってました!」
「素敵な選択です、ぜひぜひ一口。蒲焼先輩と交換しましょうっ」
 定、したたか。こんなに小さいのにしっかりヨーグルトの味なんですよねと、アインの思い出話が再び花咲けば聞き入る駄菓子屋初体験組。
「蓋の色も可愛いなぁ、ほんまよう出来とるわ」
「たしかに……ユタカお父さん、」
「おっけー買お買お! なぁおばぁちゃんどっかカゴとかあらへん?」
 全部買ってください。皆まで言わずとも晴夜の気持ちは雄鷹の気持ちとイコールであったらしく、財布係の自棄でなく心から楽しむ横顔は眩しい。少年も、それが分かるからはたと尾揺らし満足げ。

 みんなで選んだお菓子たちは、気付けば各自の両手が塞がるほどわんさかと。老婆が出してきてくれた木編みのカゴも満杯。
 それでもまだまだ、気を惹く品は尽きないわけで。
「む。お父さん、隣の……これは?」
「おとんやないけどな――おまえは! やっすい棒!」
「また身も蓋もない」
 でも、その名前は聞いたことあります。棒状のスナック菓子だ。山積みの実物を目にするのは初めてというだけで――しかし種類のなんと多いこと。
 コーンポタージュ、明太子、サラダにたこやき……。
「チーズ味が大好きです!」
 定がしゅびびっとコメントして、晴夜がこくり首を縦に。俺もこの味が食べてみたいと摘まみ上げれば、山がざらざら雪崩れて中から不思議な味も飛び出してくる。
 …………納豆味?
「いらないです」
 誰かに何かを言われる前に宿敵・くさったまめを真顔拒絶する少年。あからさまに指が避けて通った箇所を別の手二本が堀り返した。
「納豆だって意外と美味しいんですよう。晴夜さん、ここでちょっと納豆チャレンジしてみましょう」
「まぁまぁ晴夜。定の言うようにとりあえず試してみない?」
 本物じゃないんだし案外いけちゃうかもしれないよと前向きに送り出そうとするが、オルハ、実は本物を食べたこともない。
「え、いや、それはまた後日やります」
 必ず、多分、おそらく――。
 俊敏性フル活用、入店時よりもすばやく入口へ動いた晴夜が追い詰められることはなかったものの。大賛成を受けた全種類土産の名の元、好きな子もいるかもだしねーと納豆味もきっちりカゴに追加された。
「こんなモンでええやろ。皆へも立派なお土産ができたな!」
「まあやっすい! お買い得ですね。腕がもう数本あれば、なんて」
 やっすい棒だけでなく、全体的に大変お安い。少年少女らの戯れる様を横目に、オトナたる二人がカウンターまでを歩いた。
 昔の思い出の味。今の気になる味。永く愛される存在だからこそ、指差し合って"好き"を共有できる価値は、お値段以上。
 袋から溢れ出すほどの戦利品を抱えたなら、サイハテまで、おいしい帰り道のはじまり!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

華切・ウカ
駄菓子!駄菓子!
ニュイ君に声をかけてご一緒できれば嬉しいです!
何をお買い求め? 交換します?

色んな種類がありますね。すごい……
どれもこれも美味しそうで楽しそうで目移りするばかり!
あっ、これは紐をひくとフルーツ飴? 楽しそうです!
一個……これにしましょう! 何が来ても美味しくいただけます!
ニュイ君もおひとつどうです? ウカが御馳走します!

あっ、色合いが水色とか、ピンクとか……こんにゃくぜりー?
なぜ、こんにゃくでぜりーを作ろうと思ったのか……ふしぎです
…ちょっとぷにぷにです(ぷにぷに)
はっ、ニュイ君、こんにゃくゼリー食べ続けたらカラフルになったり……
でもニュイ君はそのお色だからニュイ君…!


チロル・キャンディベル
だがしって何かしら?
ニュイ知ってる?よかったらチロにいろいろ教えてほしいのー

えっと、チロはきらきらいろんな色のがすきー
なにがあるかしら?(わくわく)
きなこぼう?よーぐると?見たことないのがいっぱいね!
これおっきー!ふがし?何かしら
これきれいね、こざくらもち?おもちなの?
あ、このカラフルゼリーはニュイみたいね
つんつんぷにぷに思い出すの

あんまり食べるとダメよね
ごはんが食べられないのダメなのは、ニュイとのやくそくなの

どれもきらきらでなやんじゃう!
あ、ニュイのおすすめ教えてほしいの
お店のおばあちゃんも、おすすめ教えてくださいなー
チロもいっしょに食べたいから、お店のお外でいっしょに食べましょっ




 割れた窓にぺた……と張り付いて店内を窺っていたタールの腕(?)が突如として伸ばされる。
「ニュイ君! 見つけましたよ、何をお買い求め? いっしょに見て回りましょう」
「ニュイ、だがしって何かしら? よかったからチロにもいろいろ教えてほしいのー」
 両側から。
 現れたる可憐な娘たち、華切・ウカ(空鋏・f07517)とチロル・キャンディベル(雪のはっぱ・f09776)はさぁと戸を潜り店内へ。ずるずるずる。
「あっわっ、だだだいじょうぶでしょうか? お二人まで怪しまれちゃうかも……」

 ――結論として、色んな意味で心配は無用だった。
 二人とともにきゃっきゃ喜ぶニュイ・ミヴ(新約・f02077)。ウカにチロルは、時計回りにと決意の表情で決めてからも気になるものばかり。右へ左へと手が伸びる。
「色んな種類がありますね。すごい……」
「チロね、きらきらいろんな色のがすきー」
「さっきいただいたのですが、こちらおすすめですよ!」
 しゅわしゅわーってして! との感想がうごうご入れば、しゅわしゅわー! と真似したチロルが透明ボトルに詰められたまぁるい飴玉を見つめ。
 ちっさな手が頑張ってボトルの蓋を回していると、別な手がそばへ星屑を降らせる。ウカが見初めたこんぺいとう。手乗りサイズの半円パッケージ。
「チロちゃん、お好きかなって」
 裏返せば、色取り取りの星……或いは花がぎゅっと集ってそこに。
「うん! すてきっ」
 にっこり笑い合って、こんぺいとうに指を伸ばすチロルの横、開きかけの蓋はささっとウカが開けてあげた。
「ウカさんの目はさすがなのです! ニュイはこのカラフルも気になります」
「あっ、これは紐をひくとフルーツ飴? 楽しそうです!」
 おひとつどうです? 御馳走します! そうウカが握り拳をつくる、こちらもまたくじ引きの一種。一本、先っちょを摘まんで引っ張れば外れで三角錐、当たりで色んな動物の形の飴がついてくるワクワクな代物。
 チロもー! と、三人が一斉に引くと……コロンとした愛らしい動物が、なんと三匹!
「わっ。ニュイのがソルベに似てるの!」
「くまさん、とりさん、ねこさん……でしょうか? かわいい!」
 これでぷにぷにしていたら危なかった――とりさんを掌に乗せたウカを間に挟みながら、交換っこが行われた。
「えへへ、ソルベはそーだ味なのね。たのしみ……ねぇねぇ、これもおかしかしら?」
 きな粉棒に、ちいさなヨーグルト。それから大きな麩菓子。
 チロルの春色の瞳に映る菓子たちはどれも魅力たっぷりに、召し上がれと主張してくる。
「みんなあまーいのですよ、あとで食べっこしましょう!」
「交換、大賛成です! ……あっ」
 あ?
 見れば、小さく声を上げたウカがひとつの棚に釘付けに。ごっつんこする角度に首傾げそろりと近寄る他二人。まんまる黒色水色ピンク色、なるほどこれは――こんにゃくゼリー?
「あ、ニュイみたいね。つんつんぷにぷに思い出すの」
「そうですね、……ちょっとぷにぷにです」
 ぷに、ぷにぷに。チロルはついでにニュイをもぷにぷに。
 なぜこんにゃくでぜりーを作ろうと思ったのか。過った疑問もぷにの前には霧散する。
 友人の声が頭の中でエコーがかりながら右から左へ抜けかけていたところで、ハッとした顔で振り返るのも、ウカだ。
「ニュイ君、こんにゃくゼリー食べ続けたらカラフルになったり……」
「? ウカさんがお望みなら、がんばります!」
 頑張ってどうこうできるのか――この場にツッコミはいない。チロルも両手を上げての笑顔で応援してくれるのであった。

「どれもきらきらでなやんじゃった! ねっ」
 ベンチに深く腰掛けた人狼の少女の足がゆらゆら。たのしいお買い物を済ませた三人は、店の外で小休憩。
 おばあちゃんのオススメはやはりというべきか、麩菓子やこんぶといった懐かしい香りのものたちばかり。
 それをみんなで選んだキラキラしたお菓子たちと共に広げれば、ますます駄菓子屋らしい雰囲気がでてくる。
「チロちゃん、次はどれ食べます?」
「んー。んん……ごはんが食べられないのダメなのは、ニュイとのやくそくなの」
 だから、あんまり食べるとダメよね。さっきは飴だったから、次はグミ……でもおほしさまもかわいい! 沢山のお菓子の中から、一番食べたいものを真剣に選んでゆくチロル。
 耳をぴこぴこお腹をさすさす、自身の腹具合と相談しながら悩む様は微笑ましい。
 問題は、その隣でオレンジ色ゼリーばかり取り込むスライムもといブラックタール。
 きなこ棒をねじねじしていたウカの手が震える。震えて、すっ……とタールの肩(?)に手を置いた。ぐにょぅん。
「っニュイ君、もういいんですよ。ニュイ君はそのお色だからニュイ君ですし……!」
 とてもすごく、断腸の思い感。
 幾何かの静寂ののち、にょろと伸びてきたタールによってウカの掌へ、つるつるぐにゃっとしたなにかが落とされた。
「これは……」
「これはニュイの奢りなのです! えっと、この色でもおいしいニュイだと思って食べてください!」
 よく似た黒ゼリー。ラベルはコーラ味。恐らくは元気付けようと、先程のウカの爽やかな奢りを真似したかっただけだ――が。
「ニュイ君を食べるなんてとんでもない!?」
「ウカ、大丈夫よ、ニュイなら黒みつ味なのよー」
 更なる混乱を引き起こしたのは、いうまでもない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
エンちゃん(f06076)と

駄菓子屋初めてなのよねぇ、先生ヨロシクー
なんて言いつつきょろきょろ
聞いてるのか聞いてないのか
菓子の味よりもパッケージのカラフルさやチープさに目を惹かれたり
小さな玩具に興味津々だったり

エンちゃんもよく入り浸ったりしてたの?
やっぱり懐かしい?それともまだまだ現役かしら
先生への興味も次から次へ

少年時代?あは、無かったりして
子供の頃の記憶ないのよ、だから自分でも人生謎だわ

ねぇねぇ、お土産に買って帰って店で遊ぼう!と
お気に入りを幾つか手に
チョット戦争は店外でしてよね、なんて言っても止めはせず

そうだ先生!噂のくじ引きってのはドレの事だろう
それも挑戦したら駄菓子屋コンプできる?


エン・ギフター
コノハ(f03130)と

俺も然程詳しく無ェ!好きに見れば…
って聞いてねえなおい
まあ、目移りしてる姿はある意味微笑ましいのか?
露骨に不自然な原色の菓子が醍醐味じゃね、と
ゼリーやジュースをコノハに向けて放り

俺?UDCアースの生活が一番長いが
駄菓子屋体験は成人後だから現役だぞ

つかコノハこそ少年時代何やって過ごしてたんだよ
コノハの方が送ってきた人生謎いと思う
へえ記憶喪失的なやつか
んじゃ今日がコノハの少年時代な

土産…
癇癪玉と水風船にしとく
店で戦争始められるぞとやる気顔

くじか、玩具くじとかどうよ
駄菓子屋コンプいけるいける
こっちは空気ポンプで跳ねる蛙当てシュコシュコ

婆ちゃん勘定頼む
また来るな、長生きしろなー




 先生ヨロシクの一声に、エン・ギフター(手渡しの明日・f06076)は呆れ顔。
 言った当人、コノハはといえば早速、此方の文句もまるで聞く素振りなく品々に視線奪われているものだから。
「俺も然程詳しく無ェってのに」
 がしがしと頭を掻いて。背丈ばかり高い男の斜め後方から興味の先を覗く。カラフルでチープなパッケージ、いっそ遊び方の謎な玩具類……まあ、目移りしてる姿はある意味微笑ましいのか?
「露骨に不自然な原色の菓子が醍醐味じゃね」
「お、それオレの目の付け所を褒めてくれてンの?」
 調子良くにへらり笑む男の顔へ半ば投げつけるみたく、捩じれたゼリーやミニボトル入りジュースを放るエン。
 それにすら楽しげにちゃらちゃら、危なげなく受け取ったコノハは手の内のお宝から"先生"へと視線を移した。興味は店だけに尽きず。
「エンちゃんもよく入り浸ったりしてたの? やっぱり懐かしい?」
 それともまだまだ現役かしら。てっきりまた別な菓子の説明でも求められるのだろうと構えていたエンの、俺? の声は、きっと自身の想像以上にきょとんとした響き。
「UDCアースの生活が一番長いが、駄菓子屋体験は成人後だから現役だぞ。……つかコノハこそ」
 少年時代、何をやって過ごしていたんだと問い返す。縁あってこうして付き合いはしているが、普段の様子と同じくらいこの男の送ってきた人生も"謎い"。興味と呼ぶなら、お互い様だ。
「少年時代? あは、無かったりして。子供の頃の記憶ないのよ、だから自分でも人生謎だわ」
「へえ。記憶喪失的なやつか」
 特段深刻な空気もなく言ってのける男と、受け止める男。これもまた言葉遊びのひとつと笑い飛ばしてもいいが――エンは、少しばかりおどけた風に片眉を上げてみせた。
「んじゃ今日がコノハの少年時代な」
「……、そりゃまた。ステキな一ページをありがとネ」
 くつり喉鳴らし笑う狐男。はいはいと、次の棚へとトリアシの方が先を歩く。

 数分後。
「ねぇねぇ、お土産に買って帰って店で遊ぼう!」
 あらかた菓子を見繕って一周したら、玩具の前で足が止まる。
「土産……ありだな、店で戦争始められるぞ」
「弾けるヤツ? チョット店外でしてよねー」
 乗り気を見せるエンの手により選ばれたのは、癇癪玉と水風船。
 サツ呼ばれちゃうなどと言いはしても止める気のない店長。竹とんぼや暗所で光る七色キューブの他に、シャボン玉なんてムードでない? そう、基本的には楽しいことに目がないわけで。
「ミンナ喜びそー。そうだ先生! 噂のくじ引きってのはドレの事だろう」
「くじか、まぁ色々あるみてぇだがあれなんてどうよ」
 あれと言い示すは、引いた番号の景品がもらえる当てものくじ。の、玩具版。挑戦したら駄菓子屋コンプできる? と彩増す瞳はやはり大きな子どものようで、いけるいけるなんて雑に頷いてやるのだ。
「婆ちゃん、勘定とくじ2回分頼む」
 ざららーっとカウンターに品物が流し置かれ。にこやかに頷く老婆が持ち出した箱へ、二人交互に手を突っ込み――取り出すのは。
「37番……虫なンだけど! えっエンちゃんのずるくない?」
「いぇーい悪ぃなぁコノハ」
「うふふ、入れ替え前で、外れの方が少なくなってるんだけどねぇ」
 パステルブルーのムカデさんと、空気ポンプで跳ねるカエルさんのご登場。ワンモアチャンスで挑んだ男の手には、パステルピンクのトカゲさんが追加された。
「エサじゃんかー。後でオレにもソレ触らしてぇ?」
「どんだけ悔しいんだよ……店着いたらな」
 シュコシュコ空気を入れると元気にジャンプする緑色。ぺたっぺた、エサを踏み越え卓上を這い進むカエルを二人して目で追っているうちに、会計が終了したらしい。
 小銭で支払い、薄茶色の紙袋はコノハが礼とともに両手で受け取った。
「デモ、楽しかった! 次は当たりいただくかんね、ばあちゃん」
「ん。また来るな」
 このひとときへの感謝込め、小さく会釈。
 長生きしろなーとエンが肩越し手を振れば、ゆっくりと手が振り返される。
 やがて後ろ手に戸を閉めれば、あたりはすっかり晩ご飯の気配。
 焼き魚の香りが香ばしい――どこにでもある、だれかの愛した日の暮れだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年02月02日
宿敵 『四四八『デビルズナンバーおかし』』 を撃破!


挿絵イラスト