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絶海牢獄、ヨモツアミオリ(作者 オーガ
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 それを知る者がいれば、第4環源13世代珪素性有機結合類β3型単分子強化素材なる材質で精製された壁が広がっているのだと、理解できるだろう。
 その名に意味はない。場所が違えば、その呼び名も形式も変わる、別名など幾万通りもあるだろう。それ程に複雑化した広大な宇宙世界からの落とし物。
 それが、円錐を逆さにして海に突き刺したような形の孤島。ヨモツアミオリ。
 その内部は多重の層が下部へと続くミルフィーユを円筒で繰り抜いたような形状を作っている。
 比較的な安全な入り口を確保する海賊達は、手に入れた奴隷を送り出していた。彼らが狙うのは、そこにあると言われているグリモア。
「ッあっぅ、ぎぁ!!」
 水没層と非水没層がまばらに交わっているヨモツアミオリの底へと向かう奴隷。数多くいるその奴隷の一人が、千切り取られて赤く染まる暗い水の中へと消えていく己の腕を見届けて、激痛に叫びを上げた。それに近くにいた深海人の奴隷がその体を掴んで壁へと押し付ける。
 のっぺりとした同色の壁が続く中に、明らかに異常な赤錆び、しかし澄んだ結晶が浸食している。
「……っ、おい! 早く結晶に触れ!」
「っぐ、ぅ……ッ!!」
 腕を失った奴隷は、その先を無くした肩をその結晶に押し付ければ、バギキッ、と乾いた音が響き、その肩に腕が形作られていた。
 いや、腕、というには硬質に過ぎるか。その色合いは壁の結晶と何一つ違いはなく、しかし、細かい澄んだ結晶の腕は、滑らかに奴隷の信号に従順に答える。
 ゴ、ッ! とむしろ生の腕であった頃よりも力強く壁を押し出せば、弾丸のように水中を駆け抜けていく。
「……逃げる……っ、ぞ?」
 深海人の奴隷を掴んで水を掻く奴隷の眼前に、しかし、その動きを知っていたかのように回り込んでいる、骸が浮かんでいた。
 その白い骸のうちから伸びた黒い鞭が、二人の奴隷の胴体を切り裂いて、鮮血に水を染める。一瞬のうちに絶命するような傷。
 だが、幸か不幸か、男の腕には赤錆びた結晶があり、その腕で深海人の腕を掴んでいた。
 乾いた金属音が重なり。
「……ッ、ガ、はぁッ!」
 切り裂かれた胸と腰をまるで直前まであった腹を再現した水晶が繋いで、二人の奴隷は瞬く間に息を吹き返す。
 その腕を伸ばし、前の、上の層へと逃れる為の超科学的な非物質ハッチを目指す。
 海賊が目指すもの。この現象を起こす水晶を生み出すもの。
 不死のグリモア。
 眉唾物のそんなものがこの最下層にあると、信じて海賊は、骸を被る影が蠢くこの牢獄へと奴隷を投じ続ける。
 最後は、朽ち、癒え結晶体の人型へと化し生き続ける。死も生も無い、奴隷の地獄。
 それが、このヨモツアミオリであった。


「つまり、比較的危険な入り口は、フリーパスだね」
 ルーダスは、つまりと言葉の後に、端的に言った。
 コンキスタドール『淵沫』の巣食う水没状態の層が近い場所は、海賊が占領しているわけではない。力に自身のあるものは、そこからメガリスを求めて侵入する事もあるらしいが、未だ最奥まで至った誰かがいない、ということからその全てが失敗している事は察せられる。
「だけども、猟兵たる君たちなら問題は無いと思うんだ」
 ルーダスは、何か案を投じない。息が出来ない水没層での戦闘もどうにかするだろうと、投げやりなようにも見える信頼を勝手に寄せている。
 というわけだ。ルーダスは言う。
「迫りくる淵沫の群れを排除しながら、この島の最奥を目指してくれ」
 そして、不死のメガリスの噂の解明と、コンキスタドールの排除。
 猟兵としての依頼は、それだけだ。とルーダスは締めくくった。





第2章 ボス戦 『潮騒』

POW ●青い鳥
【朽ち続ける苦痛を伝播させ、心身を砕く叫び】を聞いて共感した対象全てを治療する。
SPD ●不死鳥
【自壊と共に破壊を振り撒く、擦れる翼の羽音】が命中した対象を高速治療するが、自身は疲労する。更に疲労すれば、複数同時の高速治療も可能。
WIZ ●極楽鳥
【錆びた水晶を生成し、侵食させる砕けた欠片】が命中した対象を治療し、肉体改造によって一時的に戦闘力を増強する。
👑11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ルーダス・アルゲナです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 波の音が広がる。
 ザ、ザァ……、と反響を残して、水晶の擦れる音が潮の奏でる音のように寄せては返す。
 そこは、広い空洞だった。いや、周囲を見ればその空間が、幾つもの階層が崩れて出来た空間だと知れるだろう。
 赤錆びた水晶が覆う天蓋の下。
 瓦礫と水晶で作られた、鳥の巣のような広い空間に、鳥はいた。
 錆び澄んだ水晶の体を震わせ、潮騒を奏で。
 狂う意思のままに、幸福あれと声を震わせる。
 破壊と治癒を延々と繰り返す、かつてこの島に墜ちた災いが、広い箱庭でその翼を広げた。


 第二章、潮騒との戦闘です。

 痛いですが治ります。ご自由にプレイングください。
 好きに書きます。

 よろしくお願いいたします。
ロニ・グィー
【pow】
うーん、これは…持って帰れそうにないなあ
なんか反抗的だし、お話もできそうにないし
奴隷の子たちは他の子にお願いするとしてー……
じゃあ壊すね!

んもー!うるさーい!
そんなに痛いんならそれを和らげてあげるよ!
食べちゃえ!
って各種耐性で耐えながら餓鬼球くんたちにあの子の苦痛を食べてもらって和らげよう
おかわりが必要ならじゃんじゃん出すよ
効果があるようならさらにUC発動!
餓鬼球くんたちに追加でドリルボールくんたちも巻き込んだ嵐になってドーンッ!とぶつかってガリガリ粉砕するよ!ついでに食べさせて
どこまで再生できるか試してみよう!

あ、砂になるまで砕いてダメそうなら他の子たちに頼るよ


ヴィクトル・サリヴァン
…治療頑張りすぎて疲労が割と厳しいかも。
でも道中粗方救えたし、後は遭遇、治療されなかった奴隷がいない事を祈りつつ、もう少しだけ頑張ろうか。
…それにしても変わった場所、あと音だね。聞き入るとまずそうだ。

可能な限り速攻狙い。
高速詠唱からの水属性魔法で水の鞭を生成、潮騒に叩きつけ床か壁に叩きつけ隙を作る。
生じた隙を狙い銛を全力で投擲、その体を地形に縫い止めつつUC発動。
さあ盛大に噛み砕け、水のシャチならば破壊も苦痛も問題なし。
煩く叫ぶ潮騒の口、頭部を噛み砕け。
疲労に痛みは少々きついがここの奴隷に比べれば短いし。
彼らに恥ずかしい所見せられないからいつも通りのペースで立ち続けるよ。

※アドリブ絡み等お任せ


 風を切る音が叫びを放つ。
 震える体が潮騒となる。
「変わった場所だね」
 瓦礫が乱雑に一面に敷かれた床。数層分の瓦礫が水晶の上に積もっているらしいそれを踏みながら、シャチの獣人は赤錆びた空を飛ぶ鳥を見上げた。
「……あと、――音」
 場を埋め、反響して跳ねる声とも音ともつかぬ絶叫が全身に叩きつけられる。
 聴覚器官を貫いて、脳をざりざりと削り取るような不快が体中から湧き出でる。いや、不快、というよりも痛みか。
 あまり、この音に聞き入るのはまずそうだ、と判断しながらも耳を塞いでも、振動が蝕んでくるのだろう事は分かる。
 これまで治療した奴隷達からの話から、ある程度、その能力について把握が出来ている。
「っ、と」
 僅かにふらついた足元に、シャチの獣人、ヴィクトル・サリヴァン(星見の術士・f06661)は、疲労から来る眠気すら自覚して頭をふる。
 そんな彼の顔を覗き込むように腰を折る少年が問いかけた。
「ん、どうかした?」
「いや、この音結構クるなって」
 力を入れる、体を頭上から垂らす糸に引っ張り上げられるような状態を意識する。殆どの奴隷達は上層の非水没層に待たせてはいる。ただ、この恐らく最下層、この近辺にいた奴隷は、近くに潜ませている。
 この深さまでくる実力者。とはいえ、これの相手をさせられる程万全ではない。
「あー、うん。煩いよねえ」
 とピンク色の髪をした少年が、自分の腕の感触を確かめるように二、三度握りながら「じゃあ」と告げる。
「壊すね!」
「うん、――速攻でやろう」
 ヴィクトルは頷き、波の音を砕かんと、空の鳥を睨み上げた。

 あの子達の希望、みたいなもんだもんねえ。
 ロニ・グィー(神のバーバリアン・f19016)は、顔色に一つも出さずにヴィクトルに同情めいた感情を差し向けていた。
 道場というよりは、応援、に近いか。
 実質、助けた奴隷たちの治療をヴィクトルへと一任して、まあ悪く言えば放り投げた結果、救世主的な視線を向けられる結果となった上、ヴィクトルのおおらかな性格が災いしてかそれを自然体で受け止めている。
 故に、彼らに弱っている所を見せじと立っている。流石に間近にいれば、多少は分かる。
「もー、損しちゃって」と直接は言わない。ロニは小さく口に出して、首を傾げたヴィクトルに微笑んで見せる。
 いつもなら、「えー? なに強がっちゃってんの?」と煽り倒している気がするけれど、しかし、ロニの意識の大部分は、ヴィクトルには向いてはいなかった。
 握り、確認した腕から力を抜く。
 叫びが放たれた瞬間、その腕が砕けたのをロニは確かに見ていた。いや腕だけではない。腕から走った亀裂が胸を渡り、首にまで至った感覚が確かにあった。
 にも拘らず、そこに傷は無い。いや、傷はもう無い。
 砕かれて、肉と骨とに分断されたそれは、誰でもないあの潮騒に癒された。
「あー、うん。煩いよねえ」
 痛い。
 そう響いた声は、果たしてロニ自身のものか、それとも、その叫びを放ったあの鳥のものか。
 どちらにせよ、ロニの笑顔に僅かに険を覗かせたのは、その押し付けであった。
「じゃあ」
 メガリスだったとて、持って帰れそうにない。いや、違う。持って帰れそうかどうかなど考えてはいない。
 反抗的、話も通じそうにない。自分を押し付けてくるばかりの狂った性分。
 持って帰る気は、失せた。
「壊すね!」
 瞬間に現れるのは、真黒く蠢く球体の群れ。
 ゴ、バッ!! と一斉に潮騒へと全てを喰らう餓鬼球が殺到する!
「そんなに痛いんなら、それを和らげてあげるよ!」
 全部、食べちゃえ! 声に応じるように、奔る黒球たちが咢を開き、その赤錆びた体に食らいつく。
 ゴガ、ギャギャ!!
 砕ける音と、黒球に赤錆びた欠片が跳ねて、浸食しあう。潮騒にもたらされる苦痛を、その概念を喰らう餓鬼球と、絶えず崩壊し、朽ち続けるその在り方がせめぎ合っている。
 均衡が保たれる。だが、ロニの願うのは、均衡ではなくその崩壊だ。故に。
「……足りない、なら!」
 ヴィクトルと視線を交わす。笑んだ意味を彼は分かってくれるか、それは知らないけれど。
 削ぎ切る刃を前面に生やした球体を、彼がドリルボールと呼ぶ球体群を召喚し、全てを巻き込んで、ロニはその身を砂嵐へと変じた。
 空間をすら削り取るようなゾ、ボッ!! と凶悪な音と共に、細かい砂の集合体となったロニの意識を、絶叫が揺さぶる。
 粒の一つにすら破壊と治癒の、激痛を浴びせる潮騒にしかし、その勢いが止むことは無い。
 痛い。
 痛い。
 だとして、それでボクが止まらなきゃいけない理由にはならないのだから。
 豪然と、砂嵐が潮騒を包み込んだ。
 棘が砂が砕いた結晶を食らい、砕かれた結晶がロニの体を蝕み、癒し、侵していく。
 手応えはあっても、成果を感じられない。
 どれ程、その身を砕いて削ろうと、即座に再生をする。
「じゃあ、一回違う方法を試してみよっか」
 ギュ、ァと砂が瞬く間に渦巻、集束して、ヒトの形を取ったと思えば、それは色を帯びて、ロニの姿を取り戻し。
 そして、それと立ち代るように、巨大な鞭が振るわれた。透明な水が作り出す巨大な水流という名の鞭。

 ヴィクトルは、魔法で作り出した膨大な水量を率いながら、その瞬間を待った。
 砂嵐が晴れる、その瞬間を。
 ロニと交わした視線が語っていた何かに感じた、いずれ来る好機を見逃さないよう。
 そして、砂嵐が晴れる。
「……っ」
 突如消えた猛攻に、その翼が僅かに動揺したように動きを見定める、その間隙。ロニが包み込んだ砂嵐が叫びを、その水晶の反響を阻んでいた間に制御下に置いた膨大な水の塊が、詠唱を受け形を成した。
 駆けるその先端。暴圧とかした水流がビュ、ゴァ!! と鞭となって宙をたじろいだ鳥を過たず捉えていた!
 避ける事もままならず、膨大な質量の慣性に潮騒が地に叩きつけられ、しかし、即座に再生したその翼を広げた、その時。
 ひゅ、ガッ!
 一本の銛が、その擡げ上げた頭部へと突き立っていた。
 それを投げ放ったヴィクトルは、散った瓦礫から伝播する激痛のシグナルに牙を噛みながら耐え、上空へと振るった鞭へと詠唱する。
 疲労も、激痛も、視界を揺らがせるほどに刻まれてはいるが。
「……ここの奴隷の人達に比べたら、ほんの少しだ」
 擲った手を開くとともに、頭上に立ち上っていた水流が、一直線に潮騒へと駆ける。さながら弾丸と化したその先端が捻じれ、膨らみ、潮騒へと届くその間際にその姿は巨大なシャチへと変貌を遂げる。
「さあ、盛大に噛み砕け」
 崩壊の痛みを与える絶叫も、水には意味を為さない。砕けようと即座にヴィクトルの制御が瓦解を防ぎ。開かれた狂暴な咢が、その体が宙へと逃げるよりも早くその頭を。
 ゴ、ギン――。
 噛み砕いた。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵