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しあわせにおぼれて

#カクリヨファンタズム

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#カクリヨファンタズム


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 ……逢魔が時。
 元より人ならざるものたちの住むこのカクリヨファンタジアにおいても、この時はそう呼ばれているのだという。そもそもが現世と対なる名で呼ばれるこの世界ならば、昼と夜の交わるこの時間に、境界の揺らぐものは何か。
 ここはかつて忘れられた者たちや、その末裔が集う世界だ。『現代』という括りを伴って常に歩み続ける星から綻びた幽世は、時が止まったようにその時の姿を留めている。
 かの星の者たちがこの世界を眼にすることがもしもあったのならば、見たことも無い筈の街並みをこう形容することだろう。――懐かしい、と。
 入り組んだアーケード商店街の通り。辺りを照らす灯籠。過去を積み重ねて出来たような、不思議な郷愁漂う世界。だが過去の面影を色濃く残すこの世界は、同時に過去から生ずる存在――オブリビオンと表裏一体でもある。

 今この時刻、帰路に就く妖怪たちの上、なにか淡紅色のものが落ちてくる。
 ひらり、はらりと舞うそれは、空を揺蕩う花弁のようであり、海を微睡む泡のようであった。
「わあ、きれい」
 二足で歩く犬のような姿をした子どもの妖怪が、手を伸ばしてそれを取ろうとする。
 ――と、その『なにか』がちかりと光った。眩しさに目を細めた子供は、だがその直後、その目を力なくつむり、ぱたりと地面に倒れてしまう。
『なにか』はその数を劇的に増やしていた。通りを歩いていた妖怪たちはみるみるうちに地面に倒れていく。明らかに異常事態なのに、みな幸せそうな貌で眠っていた。
 やがて眠る妖たちの中から、むくりと起き上がる者達が現れる。夢遊病のような仕草で身体を起こしたものたちの背には、極彩色の翼が宿っていた。


「カタストロフってのは幸いにも見た事はねェが、放っとくとそれに近い状況になりかねねえんだ」
 赤い角に、傾奇者めいた派手な和装。ジャスパー・ドゥルジー("D"RIVE・f20695)がそう告げた。
「カクリヨファンタズムのある一角で『花』が大量発生した。空から大量の花弁が降ってくるんだ。そいつに触れると『抗い難いしあわせな夢』に襲われて目を覚ませなくなる。
 それだけじゃねえ。あるべき姿を狂わされた眠りの世界には骸魂が充満している。こいつが妖怪たちを呑み込むとオブリビオンになっちまうんだ」
 さいわい、呑み込まれた妖怪たちはオブリビオンを斃すことによって救出が可能だ。だが『花』の広がりは早く、全貌も知れぬこの世界すべてが眠りの世界へと変貌するまでそう時間はかからないという。

「早急にこの『花』をもたらした元凶を叩くべきだな。幸い親玉は一体。骸魂によって新たに誕生したオブリビオン達を叩いていれば、眠りの世界を阻害するあんたらを邪魔しにくる筈だ」
 問題は、とジャスパーは云う。
「この『花』の効能は恐らく、猟兵達にも及ぶ。力の弱い妖怪たちと違って即座に眠りに落ちる程ではねェけど、幻覚くらいは見るかもしれねえ」
 その詳細までは予知は及ばなかったと、申し訳なさそうに頭を掻くジャスパー。
「花の力はたとえ嗅覚や視覚を遮断しても襲い来る。全く影響を受けずに進むというのはおそらく不可能だ――ま、あんたらなら問題はねェって信じてるぜ」
 そしてジャスパーは花に満たされた領域へと猟兵達を転送すべく、ゲートをひらくのだった。


ion
●お世話になっております。ionです。
 初カクリヨファンタズム。しあわせに包まれた世界。滅亡の危機。
 プレイング受付:各章、断章投稿時に受付開始日時をお知らせし、集まりを見てMSページに終了日時をお知らせします。

●一章:<冒険>
 花に満たされた街を進んでゆきます。
「しあわせな眠りの世界」を司る花のような泡のようなものが、あなたに幻影をもたらすことでしょう。
 フラグメントの選択肢は特に気にせず、あなたの幸せをプレイングに綴って頂ければと。詳しくは追加OPにて。

●二章:<集団戦>
 骸魂によってオブリビオンにされてしまった者たちとの戦いです。
 救うための配慮は特に必要なく、倒すと元の妖怪に戻ります。
(勿論工夫や想いをプレイングに込めて頂くのは大歓迎です)

●三章:<ボス戦>
 この騒動を起こしたボスとの戦いです。
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第1章 冒険 『けものみち』

POW   :    自らの肉体を傷つけるなどして正気を保つ

SPD   :    あらかじめ備忘録となるものを所持しておく

WIZ   :    魔法や道具で進むべき道を拓く

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 グリモアによって新たなる世界に導かれたあなたが見たものは、幻想めいた幽世の街。
 複雑に、或いはでたらめに。現代地球では過去となったものたちが積み重なり、山のように迷宮のように、世界を形成している。
 花の嵐のその中心へ、猟兵達は歩を進める事だろう。おそらくはそこに元凶がいるのだと信じて。
 ふと、予知にもあった花におかされ眠りについた妖怪が道端に横になっているのが目に入る。その表情は、まるで母の腕の中で眠る赤子のように安らかだった。
 近づくたびに花の嵐は強まり、斃れている妖怪たちの数が増えてゆく。ちかり、と何か微かな光がまたたいた。
 目を眇めたあなたは、或いは情景が変化している事に気がついて驚きに目を見張り、或いはもう覚悟は済んでいた事だと冷静に辺りを眺める。

 ――それは、あなたの心の中にある、『しあわせ』の光景。
 いかに猟兵といえど、抗いきれなければ……醒めない眠りに堕ちてしまうことだろう。

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 プレイングは6/28(日)朝8:31~受付開始です。終了の目安は集まりを見ながらMSページにてお知らせいたします。
 しあわせな光景を夢に見る事でしょう。現在・過去・或いは望み通りの未来……それは皆様の心が望む通りに。
 なお「抗いなければ醒めない眠りに堕ちてしまう」とありますが、こちらは意図的に眠ったままになろうとしない限り、何らかの手段で抗いきれたものとします。
 なのでプレイング内では対策にはあまり文字数を裂かず、想い想いにしあわせを綴って頂いて大丈夫です。
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ビスマス・テルマール
●逆境に行き着き前の
この光景は数年前に保護者同伴で他所のコロニー船に行って行った森間学校のサマーキャンプ……お父さん……お母さん、それにクラスの皆っ!?

そう言えばこんな時期も、いや……この時期が終わるまでは至って普通の幸せな生活だった気が

此処から帰ってきた後でしたっけ?地獄の日々が始まったのは

ソレを知ってるので
溺れるにも溺れなれなく目が覚めるんですが

恩師と出会い
色々あって猟兵になった後

帰ってきたら親もクラスメイトもオブリビオンに刷り変わっててましたね

あのキャンプの時
ひょんな事から一人ハグれ迷子になってましたが

刷り変わったのは
あの時でしょうか?

と思案をしつつ進みます

※アドリブ絡み掛け合い大歓迎




 生まれ育ったコロニー船とは違う光景が、幼いころの自分には新鮮だったのを覚えている。
 ビスマス・テルマール(通りすがりのなめろう猟兵・f02021)の視界には、いつの間にか他所のコロニー船で行われたサマーキャンプの光景が広がっていた。
「これは……」
 いつの間にか、自分の姿も縮んでいる気がする。まだ旅行行事に保護者の同伴が必要なほどに小さい子どもに――保護者?
「お父さん、それにお母さん?」
 ちいさなビスマスが振り返ると、記憶にあるままの両親がそこに居た。優しく微笑んで、ビスマスへ行ってらっしゃいと促す。その先には。
「……クラスの、皆!?」
 きゃあきゃあとはしゃいでいる、かつてのクラスメイトたち。
「そう言えばこんな時期も……いや、この時期が終わるまでは至って普通の生活だった気が……」
 ビスマスに気づいたひとりが、おいでと手を差し伸べる。一緒に遊ぼう、と。陰惨ないじめも、親のネグレクトも、まだ無縁の世界。
 あの手を取ったら、ずっとずっと幸せに溺れられるのだろうか。けれど彼女は、ビスマスは。
「此処から帰ってきた後の地獄の日々。ソレを知っているから、溺れるにも溺れられませんね」
 いつからか、両親やクラスメイト達は、ビスマスの知る彼らではなくなっていた。あれだけの人数が一斉に『すりかわった』のだから、きっとビスマスがこのあと、ひょんなことからひとりはぐれて迷子になったあの時に、すべては起こっていたのかもしれない。
「あの時迷子になっていなかったら、みんなはみんなのままだったでしょうか?」
 きっと、そうではない。一緒にいたとしても、猟兵でもないただの少女だったビスマスに、過去の怪物に抗えるだけの力はなかったに違いない。同じようにオブリビオンに刷り変えられ、ビスマスではないものになって、そして。
 恩師が教えてくれた人の優しささえ、知らないままだった事だろう。
「だから、わたしは……進まないと」
 しあわせな夢の、その先へ。今のビスマスには、状況を切り拓くだけの力があるのだから。
 クラスメイト達や両親に背を向けて、ビスマスは歩き出した。その足取りは力強く、かつて状況に翻弄されるだけだった少女の姿は、どこにもない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エミリロット・エカルネージュ
●爺ちゃんとの餃子のお店の食べ歩き

餃子頭のバイオモンスターの餃心拳老師、つまり爺ちゃんといつの間にか、ヒーローズアースのとある地区の繁華街で餃子専門店を食べ歩きしていたんだけど

たまに勉強も兼ねて、こう言う事もあったね……あっ、チョコ餃子もこの時に知ったんだっけ?

これにバニラアイスのトッピングは欠かせないよね。

と……爺ちゃんと団欒を楽しむ最中、隣の客が唐揚げ頼んだのが目に入って

その時に、餃心拳一門が因縁つけられて壊滅に追いやられたのって

唐揚げや揚げ物を扱う流派だったのを思い出して

と言うかこのお店、餃子だけじゃなくて唐揚げ専門店も兼ねてたっけっ!?

って感じに目を覚ます

※アドリブ絡み掛け合い大歓迎




「んーっ、やっぱり餃子っておいしい!」
 ここはヒーローズアースのとある繁華街。赤色のファードラゴン、エミリロット・エカルネージュ(この竜派少女、餃心拳継承者にしてギョウザライダー・f21989)は、ここで餃子の専門店を渡り歩いていた。
「爺ちゃんも食べてる? これすっごくおいしいよ!」
 傍らの『爺ちゃん』――餃心拳老師を見上げると、彼も満足そうに餃子を頬張っていた。その頭まで餃子の形なので、まるで大きな餃子に小さな餃子が吸い込まれていくよう。彼はバイオモンスターなのだ。その不思議な姿も、エミリロットにとっては見慣れたもので。
(「ああ……そうだった」)
 どこかで『現在』のエミリロットが囁いていた。たまに勉強も兼ねて、師匠とこんな風に色々な店の餃子を食べ歩きしていたのだ。
 他の人が作りだしたものを知らずに、美味しい餃子が作れるわけがない。その精神は、今のエミリロットにも受け継がれている。
「えっ……ねえ師匠、チョコ餃子だって。美味しいのかな?」
 見慣れない趣向に目を瞬かせるかつてのエミリロット。ああ、そうだ。この時にチョコ餃子を知ったんだった。
「バニラアイスを? トッピングするの?」
 興味深いのがほとんど、本当においしいのかと訝しがるのが少々。団欒を楽しむ二人の隣で、通りかかった客が唐揚げを注文していた。
「唐揚げ……」
 油の匂い。肉の揚がる音。ぱちぱちと弾けるそれが、エミリロットの記憶を呼び覚ます。
「餃心拳一門に因縁をつけて、壊滅に追いやった……あの」
 爺ちゃんを紛争に巻き込んだ者達。彼らは……唐揚げや揚げ物を扱う流派だったのだ。
 なんとか奥義を継承することは叶った。餃心拳を継ぐに相応しい力を。けれどあまりに多くがエミリロットから喪われていった。何も持たなかった記憶喪失の少女を育ててくれた、厳しくも優しい爺ちゃんの命は、永遠に戻らない。
「というかこの店、餃子だけじゃなくて唐揚げ専門店も兼ねてたっけっ!?」
 ――はっ、とベッドから跳ね起きるようにエミリロットの意識が覚醒する。
 ただしそこにベッドはなく、ただ不思議な街並みに乱れ舞う花吹雪だけがあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

佐々・夕辺
お父さん、お母さん、お腹減った
小さな私がそういうと、お母さんはあらあら、と笑った

「今日は煮物にしましょうか」

私は大きく頷いて、食卓を片付ける手伝いをする
お父さんも手伝ってくれて、二人でわらべ歌を歌う

あらかた片付け終わって、お母さんがご飯を作ってる間
窓から外を見ると、村のあちこちに暖かい灯りが付いていて
皆ごはん時なんだと知る

平和な村の光景
空を見れば精霊たちが楽しそうに泳いでいて
私たちは彼らの力を借りて、実りを村にもたらす役目を負っていた
きっとこんな、例えば煮物は美味しいだとか
そんな小さな幸せが、ずっと続くのだと思っていた

二度と戻らない
戻れない、私の幸せ
もう、あの村は何処にもない




「お父さん、お母さん、お腹減った」
 気がつくとちいさな少女はそう云っていた。あらあら、と少女の母は笑った。
「今日は煮物にしましょうか」
 こくりと少女は頷いた。お母さんの煮物は好きだ。やさしい味がするから。
 云われるまでもなく、自分からてきぱきと食卓の片づけをする。少女の父も手伝ってくれた。二人でわらべ歌を歌いながら楽しくやれば、片づけはあっという間に終わる。
 あらかた片付け終わってしまった少女は、たんとんと刻まれる小気味よい包丁の音に耳を傾けながら、ぼんやりと窓の外に目を向ける。
 薄暗くなった村のあちこちに暖かい灯りが付いている。皆ごはん時なんだな、と思った。あの灯りのひとつひとつに、こんな風になんでもない光景があるのだろう。
 光景といえば。空を見渡すと、精霊たちが楽しそうに泳いでいるのが目に入った。幻想的な光景も、少女たちにとってみれば日常そのものだった。
 少女たちは彼らの力を借りて、実りを村にもたらす役目を負っていた。心を通わせれば作物は豊かに実り、ひとの手でこうして食卓に上る。
 気づけば優しい香りが少女の鼻腔をくすぐっていた。具材も調味料も、きっとそう珍しいものではない。なんてことはない、その時あるもので作られた料理。でも、少女はそれが好きだった。
(「小さな幸せ。煮物は美味しいとか、お父さんやお母さんが優しいとか――」)
 そんなちいさな幸せが、ずっとずっと続くと、信じていたのに。

 もう、あの村は何処にもない。
 もう、戻れない。
 少女は生き延びたかった。生き延びねばならなかった。大飢饉に襲われたあの村で生き延びるためには――……ああ、なんでも食べなければならなかった。
 お父さん。お母さん。逢いたいけれど、もう逢えない。その温もりを、優しさを、しあわせが胸を刺すと同時に、かつての少女を苛むものがもうひとつ。
 求めていいはずがないのに。欲しいのは、食べたいのは、今でも――。

 はっ、とかつての少女は目を醒ます。
「……いかなきゃ」
 戻れない悲しみも、自分の中に確かに眠る矛盾も抱えて、少女は進む。花の嵐の、その中心へ。
 佐々・夕辺(凍梅・f00514)。蜂蜜色の妖狐は、今も精霊と共に在る。

大成功 🔵​🔵​🔵​

綴・真砂
惑わす狐が惑わされたらあかんやろ
(と言いつつ簡単にかかっちゃうちょろい狐)

………(ただただ風景と声に魅入る)
おかん、おとん…みんな…

すでに滅び、かけらも残らなかった大切な人たち、そして燃え尽き消え去った故郷
それがすべて記憶のままに出てきていた
優しい親の声に遊びに誘う友の声
懐かしくて、嬉しくて、でも悲しくて、ごちゃごちゃな感情で泣き笑いしながらおちてます
理解しているから起きようとしますが、もう少しだけ、もう少しだけと薄れた思い出にすがってそうです




「惑わす狐が惑わされたらあかんやろ!」
 ぱんぱんと頬を叩いて気合一発。狐の耳も尾もぴんと立ち、金色の眸は魅入られてなるものかときつく先を睨みつける。
 これで大丈夫な筈! と綴・真砂(妖狐の陰陽師・f08845)は歩みだしたけれど。
「…………」
 直後、尾は力なく垂れ、貌はただただ茫洋と風景を見つめていた。
「おかん、おとん、……みんな……」
 からからの喉から絞り出された言葉。耳はただ彼らの聲を聴きとろうとそばだてられていた。
 だって、もう……見える筈のない、聞ける筈もない、ものだったから。
 友が真砂の名を呼ぶ。遊びに行こう、と。両親は優しく見送ってくれるのだ。遅くなる前には帰っておいでとか、そんな言葉と共に。
 いつの間にか、真砂の眸からは涙が溢れていた。懐かしくて、嬉しくて、でも悲しくて――ごちゃまぜの感情が真砂の胸を打つ。どれが一番強いのか、真砂自身にも分からなかった。
「ど、どうしたの? 大丈夫?」
『友人』が心配そうに貌を覗き込んでくる。真砂は何も云えず、ただ何度も頷くだけだった。
 何も云えない真砂の頭を、友人がそっと撫でてくれた。その微かな重さもあたたかさもいやにリアルで、真砂の眸からまたひとしずく、きらりと光るものが落ちていった。
 みんな、もうどこにもいない。あの日の虐殺が全てを奪っていった。
 生まれ育った故郷はあかあかと燃え、両親も友も、大切な人達はみな、かけらも残さずに消えていった。
 もう、真砂の心の中にしかいない。
 生き延びた少女は自信をもたらす紅を引き、こう吹聴するようになった――生きとるだけで丸儲けや、と。
 けれど今は紅も涙で濡れ、自信に満ちた普段の表情はどこにもない。
 幻影に巻き込まれてからずっと、心のどこかで警報は鳴り続けている。起きなければいけない。起きてこの先にいるものを討つために、ここに来たのだから。
 だけど。
(「もう少しだけ――……もう少しだけなら、大丈夫やんね……?」)
 完全に呑み込まれてしまうまでには、ちゃんと目を醒ますから。
 だからもう少しだけ、あと少しだけ、このしあわせにおぼれさせて。

大成功 🔵​🔵​🔵​

イージー・ブロークンハート
【Pow】
アックス&ウィザーズの下町、家々に挟まれたこぢんまり三階建ての家――オレの家。
針子のお袋に商家勤めの親父。穏やかな兄貴にしっかり者の姉貴、悪戯の天才の弟にしょっちゅう家を飾り付ける双子の姉弟、いつもにこにこの妹。
末の妹の誕生日。願ったのは家族の肖像画。どこに飾るとか絵ってたけーとか色々あったけど結局みんなでなんとかした。7人兄妹に父母の九人でぎゅうぎゅうのテーブルに手作りケーキ、料理、飾り付け。
絵画の布を外して――みんな笑ってる、幸福の肖像画。
イー兄。末の妹がオレを呼ぶ。笑って。
硝子と化した左腕を鞘をしたままの剣でぶん殴り叩き割る。
硝子。
あの頃のオレになかったもの。
もう、帰れるかよ。




 イージー・ブロークンハート(硝子剣士・f24563)は、「どこにでもいそうな男」と称されることが多い。
 肌を見せぬ革鎧と風変わりな硝子の剣のほかには、高めの身長と人の好さそうな笑顔ぐらいしか特徴のない、そんな男である。
 平凡なイージーは、生まれた家もやはり平凡だった。アックス&ウィザーズの下町、家々に挟まれたこぢんまり三階建ての家。大金持ちはないが、明日の糧に困るほど貧しいわけではない、普通のくらし。敢えて言うのなら、少しばかり家族が多かったことくらい。

(「ああ、これは――そうだ、末の妹の誕生日のことだ」)
 まだ小さな妹は、家族の肖像画が欲しいと願った。「ちいさな家のどこに飾るんだ」とか、「絵ってたけー!」とか、そんな心配はあったけれど。大切な家族の願いを叶えてあげたいという気持ちは、八人みんな一緒だった。
(「八人――そう、妹と合わせて、九人で暮らしていた」)
 針子のお袋に商家勤めの親父。穏やかな兄貴にしっかり者の姉貴、悪戯の天才の弟にしょっちゅう家を飾り付ける双子の姉弟、いつもにこにこの妹――そして、イージー。
 九人が集うぎゅうぎゅう詰めのテーブルに、隙間なくごちそうが並べられた。手作りのケーキに料理、飾り付けだって皆でやった。
 それだけで、妹は目を輝かせて喜んでくれた。喜ぶのはまだ早いぜ、とイージーが絵画の布を外した。
 みんなが笑ってる、幸福の肖像画がそこにはあった。
 イー兄、と妹がはしゃいだ聲で名前を読んだ。あどけない笑顔。
 イー兄、ありがと、だいすき――。

 ――硝子が砕ける音がした。
 革鎧の下、決して人前では晒さぬ硝子の膚に深い罅が入っていた。刻み込んだのは、同じく硝子の剣の鞘。
 その痛みが、イージーを現実に引き戻したのだけれども。
「……硝子」
 あの時のイージーにはなかったものだ。心臓に杭のように寄生する硝子剣が、イージーに戦う力と何者にも脅かされない命を与えた。その代わりに躰はじわじわと硝子に侵食され、いずれこの身はヒトではなくなる。
「……もう、帰れるかよ」
 呻くように呟いた。呪いに蝕まれようと、硝子の剣士は、呪われた剣を振るわねばならないのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

乱獅子・梓
【綾(f02235)と】
自分の中の『しあわせ』の光景か
どんな夢を見せられるんだか、正直少しの好奇心もある
お互いうっかり寝過ごさないようにな

目を開けても、特に変わった事はなくて
まだ花の影響を受けていないんだろうかと
ふと近くを見たら……幼くなった綾の姿
こういうの、少し前にアルダワであったな…!?
確かにあの時、何の邪心も無い綾と戯れた一時は
俺にとって幸せだったんだろうな

よーし、じゃあ空の旅と行くか!
ドラゴンの焔を成竜にさせ
綾と共にその背に乗って街の上空を飛行
あそこがさっきまで俺達が居た場所だぞ
綾の頭を撫でながら一つ一つ質問に答えてやる
街を照らす夕焼けもとても綺麗で
…日が落ちるまでにはちゃんと帰ろうな


灰神楽・綾
【梓(f25851)と】
花に触れると、覚めない眠りに落ちていく…
俺のユーベルコードにもそういうのあるけど
まさか自分が体験出来るなんてねぇ
じゃ、次会うのはあの世じゃない事を祈るよ

※夢の中では子供の姿に
思考も口調も幼児化

――あれ?梓だー
よく分からない街にいて最初は不安だったけど
梓を見つけて安心する
安心したら、不安が興味に変わってきて
ここ以外はどうなっているのかな?と
色んな場所を見てみたくなってきた
梓、一緒に行こうよ
梓の服の裾をくいくいと引っ張る

うわーっ焔大きい!
焔に乗り、梓の膝の上に座っていざ出発
家、お店、公園、山
迷路のように複雑に並んでいて面白い
あれなーに?と指差して梓にいっぱい聞いてみる




「自分の中の『しあわせ』の光景か」
 目元を隠す濃い黒のサングラス。その奥の赤で花吹雪を見遣るは乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)。
「花に触れると、覚めない眠りに落ちていく……」
 隣で赤いレンズの奥の眸を細めているのは灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)だ。
「俺のユーベルコードにもそういうのあるけど、まさか自分が体験出来るなんてねぇ」
「どんな夢を見せられるんだか、正直少しの好奇心もある」
 綾の笑みに同調するように、梓がニッと白い歯を見せた。
「じゃ、次会うのはあの世じゃない事を祈るよ」
「お互いうっかり寝過ごさないようにな」
 何でもないように。二人は言葉を交わし、レンズの奥の目を瞑る――。

「……ん」
 ゆっくりと目を開けた梓の視界は、特に変わった様子もなく。
「花ってやつの影響、まだ受けていないんだろうか?」
 それとも俺には効かないんだろうか、なんて軽口を呟きつつ、ふと視線を巡らせると。
「……綾?」
「――あれ、梓だ!」
 綾が梓の元へと駆け寄ってくる。とてとてと、小さな歩幅で、精一杯。
 そう。綾は小さな子供の姿になっていた。よく耳を澄ませば、姿だけではなく話し方もやや幼い様子で。
「……こういうの、少し前にアルダワであったな……!?」
 あれは不思議な魔法の眠りについた時だったか。考え込む梓の袖を、綾がぎゅっと掴んだ。はじめての場所で不安な子供が、兄に縋るように。
(「幸せか……確かにあの時、俺はしあわせだったんだろうな」)
 邪心も、死闘を求める性もない。無垢で、無邪気に慕ってくれる子ども。
 悪くない、と自然に口元が緩む。
「ね、梓。梓に逢えてよかったけど、ここ以外はどうなっているのかな?」
 その綾は、梓を見つけた安堵によって、不安が興味に変わってきた様子。
「ん? 確かにな」
「梓、一緒に行こうよ」
 くいくいっと袖を引っ張る子ども。貌には確かに22歳の時の面影が残っているのに、常闇と戦乱の世を生きてきた『灰神楽・綾』とは似ても似つかぬ無邪気な笑顔。
 となれば、お人好しの梓が面倒見の良さを発揮したくなるのは当然で。
「よーし、じゃあ空の旅と行くか!」
「キュー!」
 肩に乗る小さな炎竜『焔』に命ずれば、頼もしい相棒はみるみるうちに姿を変え、立派な成龍に成長する。
「うわーっ、焔大きい!」
 かっこいー! と目を輝かせる綾。梓が先にその背に跨り、綾の手を引いて膝の上へ導いた。
「景色がよく見えるように飛んでくれよ」
 悠然と羽を羽搏かせた炎の竜は、あっという間に空へ。
「すごい、すごい!」
 幼い子どもには、過去の積み重なった古い街並みはかえって真新しいのだろう。昭和の風情が残る公園、昔ながらの駄菓子屋、古い家屋――そういったものを眼にするたびに、聲を弾ませて梓に問うた。
「梓、あれなーに?」
「ん? あれはな……」
 はしゃぐ綾の頭を撫でてやりながら、一つ一つ梓は答えていった。梓が家を出たあとに、梓の父が拾って育てたのだというダンピール。本当にこんな子どもの頃があったのかは、梓も知らない。闇に覆われたかの地では、子供が飢餓や恐怖や略奪といったものに脅かされずに生きていくだけでも大変なのだから。
 きらきらと目を輝かせる綾の顔を、夕焼けが真っ赤に照らしている。綺麗だ、と目を細めて梓は綾に云った。
「日が落ちるまでにはちゃんと帰ろうな」
「うん!」
 しあわせな夢から目覚めても。
 梓と綾は共に居る。それは変わらないのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

汪・皓湛
しあわせの、光景ですか
予想はつきますが、さて、どれ程か
興味も胸に、花の嵐へ

見えたのは予想通りの
そして二度と見られぬだろうと思っていた風景
通りを行く多くの人間
道にはあらゆる店が並び、水路にも魚売りの船
豊かな水が巡り、生命力と輝きに満ちた街
胸がしあわせと共に満たされる

ああ、万禍
見えるか、我々が愛したあの街だ
…はは、そうだな
お前の呪いを剥ぐには不向きな街で…だが、良い街“だった”

わかっている
あの街は今よりも遥かに過去のもの
戦乱、時代の変化
それらの流れに呑まれ、恐らくはもう何も残ってはいまい

大丈夫だ万禍
私はお前との誓いを違えはしない
私はお前を残して眠りはしない

私のしあわせはお前と共に在る
行こう、万禍




 ――万の禍を斬り祓う剣の呪いは、命を斬る毎に剥がれてゆくのだという。
 だから本来ならば斬り伏すに値する命に溢れている方が『都合がよい』。汪・皓湛(花游・f28072)と名乗る花神にとって、それは只の武器ではなく、大切な友でもあるのだから。
「しあわせの、光景ですか。予想はつきますが、さて、どれ程か……」
 興味を胸に花の嵐へと身を躍らせた皓湛の目に映るのは、彼の推測通りの光景だった。
 しあわせと笑顔に包まれた街。
 通りを行き交う多くの人間たち。
 道に並ぶあらゆる店。水路には魚売りの船が浮かび、通りかかった婦人に新鮮な恵みを勧めている。
「ああ、万禍。見えるか、我々が愛したあの街だ」
 視線を落とさぬまま、携えた友へと呟いた。
「……はは、そうだな。お前の呪いを剥ぐには不向きで……だが、良い街“だった”」
 剣は、傍目には何も言葉を発していない。だが神剣の意思を受け止めたように皓湛は薄く笑んだ。
「……わかっている」
 きっと、あの街は。おそらくはもう何も、残ってはいまい。
 皓湛がこの地にいたのは、彼らが幽世に移るよりも、ずっとずっと昔のことだ。
 人の命は短く、だからこそ限られた恵みを奪い合う。たとえ争いが起きずとも、世代がかわれば時代もかわる。
 それを悲しむばかりの皓湛ではないのだ。人の生み出す新しいものは、いつでも新鮮な驚きを皓湛にくれる。だからこそ皓湛は人に混じることを好んでいた。それは幽世に移った今でも変わらない。
 けれど、この地を見る己の胸がしあわせで満たされているのも、また事実。
「大丈夫だ万禍。私はお前との誓いを違えはしない」
 今度は手元の友に視線を落とし、はっきりと告げた。
「私はお前を残して眠りはしない」
 新しいものは、常に古いものを踏み台にして発展してゆく。積み重なり忘れ去られた『あの街』という過去の残り香も、広く入り組んだ幽世のどこかにあるのだろうか。
 どちらにせよ、皓湛は止まらない。想いを馳せることはあっても、それだけだ。
「私のしあわせは、お前と共に在る」
 皓湛――思い出深い街に因む名を持つ花神は、静かに呪われし神剣に触れた。
「行こう、万禍」

大成功 🔵​🔵​🔵​

パウル・ブラフマン
大変!こんなに大勢…早くお助けしなきゃ。
Glanzのエンジン音にも
起きる気配のない彼等を心配しつつ
ジャスパーがくれた情報を元に
花の齎す幻覚と立ち向かおう。

Glanzの後部座席から
心地いいハイ・バリトンが耳裏を擽ってくる。
『ぜーんぶ忘れて逃避行と洒落こもうぜ』
愛しい恋人と寸分違わぬ声のソイツは
【運転】中のオレの腕に
運命の紅い糸みたいに、熱く長い尻尾を絡めてくる。

『痛みもダチも必要ない。パウルさえいれば―』

静聴にそこそこに
ジャスパーもどきの顔面に裏拳をブチ込んで叩き落とそう。
落車の瞬間に花弁でも散るかなぁ。

このオレが居眠り運転なんざするかよ?
痛みもダチもタイセツなジャスパーが、オレは大好きだしね。




 モンスターバイクGlanzのエンジン音が轟いても、斃れた妖怪たちはぴくりともせず。
「大変! こんなに大勢……早くお助けしなきゃ」
 情報を元に迷いなくGlanzを駆るパウル・ブラフマン(Devilfish・f04694)が、道端の妖怪たちを心配そうに見遣る。
 花の嵐は止む気配を見せず、不意に隻眼の視界が霞んだ。おっといっけなーいとおどけつつ体勢を整え直したところで、不意に誰もいないはずの後部座席から気配が漂ってきた。
 振り返らなくても、パウルはそれが誰なのかを知っていた。無数の花の中でも馨る心地よいティーローズも、膚で感じる気配も、そのものだったし、それに――。
(「オレが視るしあわせなんて、決まってるよね」)
 そう口には出さなかったけれど。
「パウル」
 先ほど自分たちを見送った筈の聲が、甘く耳裏を擽ってきた。
「ぜーんぶ忘れて逃避行と洒落こもうぜ」
 耳に馴染む心地いいハイ・バリトン。パウルが黙っていると、熱く長い尻尾が甘えるように腕へと絡んできた。まるで運命の紅い糸みたいに。
「痛みもダチも必要ない。パウルさえいれば――」
 その言葉が決定打のように、パウルの右腕が唸る。甘く囁く顔面めがけ、裏拳をブチ込んでやった。
 恋人モドキの驚愕する気配にも、パウルは眉根ひとつ寄せない。バランスを崩して落車した身体が地面に当たった瞬間、辺りを舞っているものと同じ花弁に変貌して消えてゆくようだった――ようだった、というのは、見向きもせず、視界にも収めていなかったから。
 興味など欠片も湧かなかった。だってそれは、彼ではない。
「このオレが居眠り運転なんざするかよ?」
 大切な仲間やお客さん達を運ぶ運転手が。
 大切なGlanzのハンドルを握る自分が。
 幻覚ごときで惑わされるわけがないと、薄く笑んだのだった。
 それに――……もうひとつ。
「オレの大好きなジャスパーは、絶対にあんなことは云わない」
 痛みもダチも、タイセツなものみんな愛するジャスパー。
 そんなジャスパーが、オレは大好きだしね、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『迦陵頻伽』

POW   :    極楽飛翔
【美しい翼を広げた姿】に変身し、レベル×100km/hで飛翔しながら、戦場の敵全てに弱い【誘眠音波】を放ち続ける。
SPD   :    クレイジーマスカレイド
【美しく舞いながらの格闘攻撃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ   :    迦陵頻伽の調べ
【破滅をもたらす美声】を披露した指定の全対象に【迦陵頻伽に従いたいという】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 嵐の中心部に近づいていくにつれ、噎せ返るような馨がより一層強まっていく。
 ともすれば再び精神を呑み込まれてしまいそうな気配に抗いながら、猟兵達は歩んで行く。
 花が多く立ち込めるにつれ、妖怪に影響を及ぼす骸魂も動きが活発になるのか。今まではただ斃れているだけだった妖怪たちの中に、姿を変貌させ起き上がるものたちが現れはじめた。
 骸魂の性質に因るものなのか、そのどれもが、元の妖怪とはかけ離れた姿をとっていた。
 極彩色の羽をもつ、鳥と人を掛け合わせたような姿の少年。
 美しくもおぞましい異形の奏でる歌は、花とは違う種の催眠の旋律。

 誘眠音波は、それ自体はけして強力なものではない。だが戦場には奥に潜むオブリビオンの花弁も舞っている。気を抜けば再び夢に意識を攫われる事になるだろう。
 類まれなる歌声に耳を奪われれば、心までもが美しき異形に支配される事となる。
 それらを潜り抜ければ、異形は武器らしい武器を携えてはいない。直接の戦闘能力ならば、猟兵に分があることだろう。

 異形は一般人である妖怪達を呑み込んでいる。それは非常に強固であり、全力で挑んでも彼らを傷付ける心配はない。
 気を払うべきは、異形の操る催眠の力。呑まれれば、道は閉ざされる。

======================
 プレイング受付:7/5(日)朝8:31~7/7(火)夜23:59まで。
 催眠に抗う過程がメインでも、戦闘をメインにして頂いても、お好きなように。
======================
青原・理仁(サポート)
人間
年齢 17歳 男
黒い瞳 金髪
口調 男性的(俺、呼び捨て、だ、だぜ、だな、だよな?)

性格面:
やさぐれ、ぶっきらぼう
積極的な人助けはしないが、見捨てきれずに手を貸してしまう

戦闘:
武器は使わず、殴る・蹴る・投げるなど、技能「グラップル」「怪力」を生かしつつ徒手空拳で戦う
構え方は古武術風

雷属性への適性があり、魔力やら気やらを雷撃に変換し、放出したり徒手空拳の際に纏わせたりします


七瀬・麗治(サポート)
沈着冷静な、黒スーツのUDCエージェント。
多重人格者で、闇人格「ロード」は好戦的で尊大な性格です。
一人称はオレ(私)、二人称はあんた、おたく(貴様)
体育会系のスポーツマンで、肉や魚料理を好んでよく食べます。
結構動物好きで、特に柴犬を好みます。硬派に見えて、
恋バナが大好きです。
麗治は調査や情報収集、ロードは戦闘中心という具合に、
シナリオの内容に応じて自由に人格を使い分けてください。

集団戦では『寄生融合兵器』『暗黒騎士団』など多数を相手取るUCを使用します。『オルタナティブダブル』による連携攻撃も得意です。

特にサポートの必要が無ければ、流してください。


リスティ・フェルドール(サポート)
援護・治療・盾役として参加いたします。最優先は自分を含む仲間全員の生存と帰還。成功の立役者ではなく、命の守り人として最悪の結果を回避できれば、それ以上に望むことはありません。

真剣な雰囲気は邪魔をせず、仲間同士の険悪な雰囲気はあえて朗らかに。チームワークが生存率を上げる一番の方法として行動します。

ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
あとはマスター様におまかせいたします。よろしくおねがいします!




「……さて、オレがその『しあわせの光景』ってやつを拝めたとしたら」
 シルバーフレームの眼鏡をくいと上げれば、レンズの奥、七瀬・麗治(ロード・ベルセルク・f12192)の紅い眸が怜悧に光る。
「どんな光景が映っていただろうな? やっぱあの地にサッカー場を」
『私の城を建てるのだろう?』
 麗治の奥に潜む“もうひとり”が、事もなげにそう返した。
「またその話かよ、元はと言えばオレが……」
『待て』
 あわやいつもの喧嘩に――なりかけたところで、異形の唄声が響き渡る。くらりと意識を持っていかれそうな、魔性の美声。
「これは……」
『私に身体を委ねよ』
 もうひとりが――告げる。麗治がいらえを返すよりも先に、その身体が纏う雰囲気が変わってゆく。
 闇人格「ロード」。UDCを強制的に移植された際に麗治の裡に生まれた、狂暴な男。
『さぁ……尽く叩き潰せ』

 ロードの放った暗黒騎士団の群れと共に、迦陵頻伽へと距離を詰めるものがあった。鋭い眼光を宿す青年、青原・理仁(青天の雷霆・f03611)だ。
 その姿が黒き騎兵たちの中でひときわ目立っているのは、鮮やかな金髪だけが理由ではない。全身に纏った雷電が、理仁の姿を蒼白く照らしていたからだ。
「スピード上げていくぜ……まだまだこんなもんじゃない」
 身体の奥に眠る力を雷に換える理仁の力。時にそれは鋭い雷撃になり、時にこうして身体能力の増強に使用する。
(「ああ、やっぱりこの方が俺には向いてる」)
 拳ひとつで道を切り拓く。ぶっきらぼうな根無し草。
 そう、間違っても人々を癒し導く『聖者』だなんて柄ではないのだ。そう嘯く理仁が、結局は困った人を見棄てる事は出来ないのが、きっとその証拠ではあるのだけれども。
 拳を握る。全身に纏わせた雷電が理仁の拳に集約されていく。まだだ、まだ足りない。全力をぶつけなければ意味がない。

 極彩色の羽がふわりと舞った。理仁の鋭い拳を迎え撃つように、その身を躍らせる。
 だが、流れるような連撃が理仁に叩き込まれるよりも速く、鋭い一閃が異形に迫った。
 迦陵頻伽を貫いた蒼き槍はドラゴンへと姿を変え、ブレスを吐いて白い膚を灼く。
「余計な事を」
 つい、やさぐれた言い方をしてしまう理仁にも。
「困ったときはお互い様、ですよ」
 槍の持ち主、リスティ・フェルドール(想蒼月下の獣遣い・f00002)はふわふわと笑みを返すのだった。ともすれば女性とも間違われかねない線の細い貌に浮かべた柔和な笑顔は、チームワークこそが命を繋ぐと知っているからこそ。
「礼は云わねえぞ」
 ぶっきらぼうな答えにも、リスティは穏やかに頷くのみ。彼は命の守り人なのだ。
 凶悪なオブリビオンをその槍で屠りたいわけではない。ましてやそれによる称賛など、リスティには興味の及ばないことだった。ただ、
「最悪の結果を回避できれば、僕が来て良かったなって思えますから」
 そう。それ以上に望むことなど、リスティには存在しない。共に戦場に来た理仁たちが無事であれば。あとは彼らの力が悪を討ち、しあわせに捉われた人々を解放してくれる。
「ふん……」
 理仁の拳に集まった紫電はばちばちと爆ぜ、解放の時を待ちわびている。
 その狙いは、リスティが連撃を逸らしたことによって丸腰同然の異形へと。
「喰らいやがれ」
 重く鋭い一撃と共に、雷撃が迸った。
 ぐらりと大きく体勢を崩した迦陵頻伽を、何十もの黒き刃が狙い澄ます。
 暗黒騎士団。闇のロードが従えし騎兵の得物が、一斉に異形を襲う。
『貴様が真実美しく囀る鳥ならば、私の城に招き入れてやっても良かったが』
 どこかで城は立てないぞと拒絶の聲が聴こえてきた。それをも鼻で嗤い、傲慢不遜の闇人格は云った。
『囀りすらも三流以下だ。さっさと消えろ』

 最後の一撃を喰らった直後、異形の姿は霧のように掻き消え、呑み込まれていた妖怪が解放される。
 斃れそうになる彼をリスティが支えた。
「もう少しだけ、お休みくださいませ」
 そっと、その身体を横たえらせる。あとはきっと、続く猟兵達が首魁を討ち、紛い物の夢から解放してくれるはずだから。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

佐々・夕辺
花が眩しい
まるで此処にだけ、春を詰め込んだかのよう
…散らさなければ
全て凍らせてやるわ

口の中に広がるのは、血の味?
心の中に湧き上がるのは、食欲?

音で意識が定まらない
私は求めている、…求めている
其れは人の世では許されない嗜好
お父さんとお母さんが残した最後の愛

そういえばついこの前
「いつか来る死を貰う」と約束したっけ
血肉をお腹に全部収めて、涯の涯まで連れて行くのだと
きっとそんなのはあの人だけ
あの人の事だけは一生忘れないのだろう

…行かなくちゃ
私は、行かなきゃいけない!
生きなきゃいけないのよ!

管狐を一斉発射して梅と氷に身体を変じる
共に行きましょう
そうして敵たちをぐちゃぐちゃに切り裂き、撃ち抜きましょう




 未だ、意識がうまく定まらない。花が眩しくて。
 まるで此処にだけ、春を詰め込んだかのよう――そんなことをぼんやりと、心のどこかで佐々・夕辺(凍梅・f00514)は想っていた。
(「……春?」)
 見上げる夕辺の纏う着物羽織がふわりと揺れて、仄かに梅花が馨る。羽織だけではない。着物にも簪にも、かの花があしらわれている。梅は春を告げる花。春は実りが生まれる季節。だけど夕辺は――。
「……散らさなければ。全て……凍らせてやるわ」
 ぎり、と唇を噛んだ。血が滲んで……それにしてはやけに多い。まるで口いっぱいに血を孕んだものを頬張っているように。
 これは、違う。私の血じゃない。
 心がざわついた。これは、忘れもしない甘美なあじ。そして今感じているものは、
(「……食欲?」)
 音で意識が定まらない。
 私の求めているものは、人の世では許されない。
 けれど確かに、お父さんとお母さんが遺してくれた最後の愛だったのだ。
「愛……そういえば」
 いつか来る死を貰う、と約束をしたばかりだった。
 血肉をお腹に全部収めて、涯の涯まで連れて行くのだと。
「きっとそんなのは、あの人だけ」
 だからあの人の事だけは、きっと一生忘れない。
「……行かなくちゃ」
 甘美な味を振り払うように、聲を絞り出した。
「私は、行かなきゃいけない! 生きなきゃいけないのよ!」
 命を繋いでくれた両親のために。
 命の遣り取りを承諾してくれた人のために。
 管狐が夕辺のあちこちから現れ、異形に襲い掛かる。幻影を振り払った夕辺の躰は花と氷に変じていた――鋭利な刃と、冬を耐え忍ぶ梅に。
「共に、行きましょう」
 冷たい冬にひらく花は幻影を引き裂くように舞い、怯んだ異形たちへ管狐と氷が襲い掛かる。
 切り裂かれ、撃ち抜かれた異形は、夕辺の見たしあわせな幻影よりも儚く消えていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【梓(f25851)と】
んー…夢の中に梓が出た気がするんだけど
どんな内容だったっけ…?覚えてないや
「ああ、楽しいなぁ、幸せだなぁ」と
感じていたのは覚えているのに
ねぇ梓、君はどんな夢見てたのか教えてよ

俺としても、赤の他人に与えられた
幸せの中でぬくぬく過ごすのは
あんまり趣味じゃ無いんでね
一度は夢見させてもらったけど
残念ながら二度目は無いよ

うろちょろ飛んでて面倒くさいね
普通に敵を追いかけ攻撃しに行くフリをしつつ
さり気なくPhantomを広範囲に放つ
これは一見只の無害な蝶
でも少しでもそれが敵に触れた瞬間、UC発動
鎖で捕縛し、動きを抑え込む
さぁ梓、あとは任せたよ

で、さっきの話の続きなんだけど
えー、ケチー


乱獅子・梓
【綾(f02235)と】
こいつ…覚えてないとか何てベタな…
俺も綾の夢を見たわけだが
「子供の綾と一緒に遊んだ夢」だなんて正直言いづらい
あー、その話はこいつらの相手をした後でな

気を抜いたらまたあの
『しあわせ』な夢にご招待されるわけか
確かにあれは良い夢だった
だが人っていうのは残念な生き物でな
幸せに浸りすぎてしまうと
やがてそれを幸せと認識しなくなってしまう
だからもうあの夢には戻らない
俺の中で綺麗な思い出として
大事にとっておきたいからな

目障りな花弁は焔のブレスで焼き飛ばす
綾によって敵が捕縛されたら
零を成竜に変身させUC発動
より美しい歌声を聴かせてやるよ
おねんねするのはお前らの方だ

俺の夢の内容?…秘密だ




「んー……」
 レンズの奥の目を擦り、灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)が首を傾げる。
「夢の中に梓が出た気がするんだけど、どんな内容だったっけ……?」
「……覚えてないのか?」
「覚えてないや。『ああ、楽しいなぁ、幸せだなぁ』と感じていたのは覚えているのに」
「……何てベタな」
 そう、乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)は呟かずにはいられなかった。何せ変化がなかった梓自身は、共に視た夢のことを確りと記憶しているのだから。
(「しかし、確かに俺も綾の夢を見たわけだが……『子供の綾と一緒に遊んだ夢』だなんて正直言いづらい」)
 只の夢ならば、まだいい。しかしあの花弁が齎すのは『しあわせの光景』だとはっきり明言されてしまっているのだ。
「ねぇ梓、君はどんな夢見てたのか教えてよ」
 そんな梓の心の裡など知らぬ綾がいつもの笑みを寄せてくる。
「あー、その話はこいつらの相手をした後でな」
 はぐらかすの半分、実際に気を引き締めねばならないのが半分だった。美しき異形は極彩色の翼を大きく広げ、眠りに誘う歌声を響かせている。
「後で、ね。覚えておくよ」
 薄く笑んだ綾の口元に、戦闘狂の一面が覗いた。やはりその笑みはあの無垢な子どもとは随分と違っているように思え、梓は肩を竦める。
「気を抜いたらまたあの『しあわせ』な夢にご招待されるわけか。確かにあれは良い夢だったが」
 ふうん、と興味深そうな綾をいなしつつ、梓が云う。
「だが人っていうのは残念な生き物でな。幸せに浸りすぎてしまうと、やがてそれを幸せと認識しなくなってしまう」
 幻影齎す花吹雪は、異質を排除するようにいよいよ激しく乱れ舞う。眩む視界に鞭揮い言葉を続けた。
「だから、もうあの夢には戻らない。……俺の中で綺麗な思い出として、大事にとっておきたいからな」
「そうだね。俺としても、赤の他人に与えられた幸せの中でぬくぬく過ごすのは、あんまり趣味じゃないんでね」
 地を蹴り走り出す綾の手にはありとあらゆる死合を可能とするハルバード。幸せは自分で掴み取る主義なのだ。そう、こんな風に。
「一度目は夢見させてもらったけど、残念ながら二度目はないよ」
 綾の得物を見留めた異形が翼をはためかせ、大きく後方へ下がる。
「うろちょろ飛んで面倒くさいね」
「目がぱっちり醒めてりゃ"追いかけられる"だろ」
 射程に収めるべく追いかけるように見せかけ、そっと幻影の赤い蝶の群れを放つ。重ねるように梓の使役する焔のブレスが爆ぜた。目障りな花弁を焼き払い、蝶を紛れさせるように。重ねたのはもうひとつ、あくまで綾が接近戦に持ち掛けたがっていると敵に錯覚させる言葉。
 綾と小竜に気を取られていた異形に一匹の蝶がひらひらと近づいた。一見無害で脆弱な只の蝶。だがそれがほんの微かに異形に触れた瞬間。
「逃がさないよ。離してあげられるのは俺だけだから」
 蝶の輪郭が歪み、鎖となって異形を絡めとった。
「さぁ梓、あとは任せたよ」
「ああ。……より美しい歌声を聴かせてやるよ」
 ――『おねんね』するのはお前らの方だ。
 梓の肩を蹴って宙へと躍り出た氷と水の竜が成竜となり、咆哮をあげる。神秘的な聲が悪しきものの生命力を奪い、命潰えた骸魂は捕らわれていた妖怪を解放する。
 静寂が訪れて、綾がくるりと振り返った。
「で、さっきの話の続きなんだけど」
「さっきのって」
「梓の夢の話」
「……秘密だ」
「えー、ケチー」
 後でって云ったじゃない、とぼやく綾に、まあそのうちな、と歩き出す梓。
 ――待ち構えているものは、果たして。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

綴・真砂
不愉快な声やな
薄れた記憶を思い出させてくれたんはありがとうやで
せやけどな、その不愉快な歌声はあかん
あんたと一緒におりたはないんや


弱いもんには弱いもんなりの戦い方があるんや

羽を狙って攻撃を仕掛けるで
飛べない鳥は鳴かないってやつやね
できうる限り憑りつかれた本体さんは傷つけたぁないしな

親玉出てきたらじっと機会を待ちつつ梅雨払いや
幻惑には幻惑を呪いには呪いを
優しき思いでの祝いと幻想への呪いをこめて
東方宿陣尾宿にて親玉を一時的に動きとめるで

いまや!動けんうちに!!

絡み等どんとこ~お好きに動かしてや


汪・皓湛
深く馨る花嵐
迦陵頻伽の見事な歌
数多の花に花神として親近感を覚え、
流れる歌声は素直に美しいと思った
…だが、天上の宴を思わすこの空間に溺れたくはない
そうなっては私の望みが叶わない

手にしている万禍を強く握り、歌に抗う
過ごした年月がわからなくなるほど永い時を共にしてきた
この重み、この感触
私にだけ解る万禍の声
私の、かけがえのない友

美しき此の黒を今一度ひかりのもとへ
それが、出会った時から変わらない至上の望み

…申し訳ありませんが
如何に美しき歌声の主であろうと、従えません
私の魂を従えられるのは私と、この万禍だけ

微笑み、花嵐に黒き桜の花弁を乗せる

…違う形で出会えていたなら、友となれたかもしれませんね




 ――深く馨る花嵐。
 迦陵頻伽の見事な歌。
 汪・皓湛(花游・f28072)は。数多の花には花神として親近感を覚え、流れる歌声には素直に美しいと感じる。
 自然豊かな野山にも、人々が営む街にも花を咲かせてきた皓湛だ。花が無害であるのかそうでないのか、もしくは只の花かそうでないのか、それだけの違いでしかない。
「……だが」
 白い指に力を込めれば、頼もしい友の感触が皓湛を鼓舞してくれる。幻惑に抗う力をくれる。
「天上の宴を思わすこの空間に、溺れたくはない」
 そうなっては、私の望みが叶わないのだから。
「不愉快な声やな」
 敵とあっても美しいものは素直に称賛する皓湛とは対照的に、嫌悪感を隠そうともしないのが綴・真砂(妖狐の陰陽師・f08845)だった。
「薄れた記憶を思い出させてくれたんはありがとうやで。せやけどな……その不愉快な歌声はあかん」
 頭が痛くなる。縋りたくなる。呑まれそうになる。けれどそれが叶わないことは真砂自身が一番良く知っているのだ。
 ありふれた平和な光景をしあわせな夢に視たのは――その平穏が二度と帰ってはこないからに他ならないのだから。
 思い出せばまた涙が滲みそうになる。あんなに泣いたのにまだ枯れないんやろかと真砂は思った。それともあれは夢だったから?
 けれど涙は飲み込んで。茫洋と浮かぶ異形を、しかと睨みつける。
「あんたと一緒に、おりたはないんや」


 真砂の霊符が放たれる。狙いは異形の本体ではなく、悠然と羽搏く極彩色の羽。
「あんたらは、うちの事弱いもんって見下しとるかも知れんけど」
 貌をぐしゃぐしゃにして泣き崩れていた自分を、この異形たちは知っているのだろうか。それとも他人の溺れる幸せが何かなど興味はないのだろうか。
 霊符はすんでのところで躱される。けれど間髪入れず真砂が再び繰り出した。今度は二枚同時。逃げ場を狭めていくように。
「弱いもんには、弱いもんなりの戦い方があるんや」
 飛べない鳥は鳴かない、ってな。
 真砂の霊力を込めた護符が、異形の飛翔能力を奪う。
「できうる限り、憑りつかれた本体さんには傷つけたぁないんやけど」
 喉の唸るような音。空を奪われた鳥が、鉤爪で蹴りを放つ。真砂が身を翻した先、地面がひしゃげた。
「あっぶな」
「中の御方を解放する為には、斃さねばならないようですね」
 黒き剣を構える皓湛に、真砂が目を見開いた。安心してくださいと皓湛は笑む。
「万禍はその名の通り、禍いを斬るものですから」
 遥か昔より在った花神。過ごした年月が分からなくなるほどに永い間、ただ一つ確かだったのはこの神剣と時を共にしてきたということ。
 この重み、この感触、そして皓湛にだけ解る万禍の声。
(「私の、かけがえのない友」)
 人が死んでも街が滅んでも、友は皓湛の手の中に居た。
 美しき此の黒を今一度ひかりのもとへ。
 それが、花神と神剣が出会った時からかわらない、至上の望み。
「なら、頼んだで」
 真砂の指が翻る。繰り出したのは霊符ではなく、数多の人形たち。
「幻惑には幻惑を。呪いには……呪いを!」
 優しき思いでの祝いと、幻想への呪いを同時に込めて。張り巡らせた結界と人形たちの妖術が、異形の動きを今度こそ封じ込めた。
「いまや! 動けんうちに!」
 真砂の聲と同時、黒き剣の輪郭が綻びる。みるみるうちに溢れだすそれは黒い桜の花弁。幻影の花をも飲み込む漆黒が異形を包み込んで――。
「申し訳ありませんが、如何に美しき歌声の主であろうと、従えません」
 ――私の魂を従えられるのは私と、この万禍だけ、と。
 皓湛が微笑むと同時、呼応するように万の花弁が咲む。骸魂を祓われた妖怪が、元の姿となってゆっくりと斃れそうになるのを慌てて真砂が支えた。
 それを眺めながら、つと皓湛は視線を落とす。花弁が集まるように、皓湛の手の中に剣が戻ってくるところだった。
「……違う形で出逢えていたなら、友となれたかもしれませんね」
 その声は、きっと万禍にだけ届いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

パウル・ブラフマン
愛機Glanzに【騎乗】したまま
現場に到着~!
てかあんな風にカラダを奪うとかさ…
見た目イカしてるけど
やってるコト超Wackじゃね?

同時に戦場に居合わせた猟兵さんで
機動力マシマシご希望の方が居たら、後部座席へご案内~♪

猛【ダッシュ】で特攻からの
【スライディング】&【なぎ払い】で
綺麗な羽を散らしまくっちゃうぞ☆
ワォ!キミも躍っちゃう?
オレらも派手にキメようぜ、Glanz―UC発動!

FMXとブレイクダンスを融合させた
超速【運転】ワークで
寸での処で敵の攻撃を躱し
【カウンター】の要領で
展開したKrakeで狙撃していくね!

…クレイジーっぷりは、オレのがちょっとだけ上だったかな?

※アドリブ&共闘&同乗歓迎!




「とうちゃ~く!」
 陽気な運転手、パウル・ブラフマン(Devilfish・f04694)が愛機Glanzを駆って現場に辿り着く。
 異形が振り向き、彩の添えられた目元が視える。長く尖った耳に額から生える角。その背に宿した羽は異なれど、どことなく先程の幻影を思わせるような姿で。
「てかさぁ、さっきのあれといい、こんな風にカラダを奪うことといい」
 きゅ、とハンドルを握る手に力が籠る。
「見た目イカしてるけど、やってるコト超Wackじゃね?」
 口元には笑みを浮かべたまま。只猛然と、Glanzを駆る。薙ぎ払うようなスライディングが異形の羽を散らし、花の嵐に彩を添えた。
「せっかく綺麗な羽なのにね」
 迦陵頻伽。美しい羽と歌声。こんな使い道でなければ――その名に相応しい存在になれただろうに。
 けれど異形は傷ついた羽を翻し、格闘の構えを取る。
「ワォ! キミも躍っちゃう?」
 そういうの大好きだよ、とパウルは隻眼をきらめかせ。
「オレらも派手にキメようぜ、Glanz――UC発動!!」
 ひときわ高くGlanzが吼えた。狂った舞踏の如き動きで繰り出された鉤爪は、大きく車体を傾けたGlanzによってすんでのところで躱される。
 未来世界の技術が産み出したモンスターバイクと、その性能を極限まで引き出す運転手の技術が、並の人間ならば目に捉える事さえも困難な早業を避けてみせた。
 白銀が大きく跳躍し、その上でパウルも両足を蹴りだして身体を宙に浮かせてみせた。FMXの要領でもあり、最高の相棒とブレイクダンスに興じているようでもある。
 只のパフォーマンスではない。逆立ち状態のパウルの腰から四本の触手が伸び、取り付けられた砲台が一斉に異形を狙っていた。
「クレイジーっぷりは、オレのがちょっとだけ上だったかな?」
 なんてね、とパウルが呟いた直後、四筋の眩い光が迦陵頻伽を撃ち抜いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

イージー・ブロークンハート
幸福なあの日が何度もフラッシュ・バックする。
あの日の何日後だっけ。オレがコロンと違う世界に転がり込んじゃったのは。
今頃みんな何してんのかな、あの日みたいに笑ってんのかな。
剣なんか覚えて、旅してたんだぜなんて言ったら、どんな顔するかな。
剣を抜く。
逆手に持ち、切っ先は己が胸へ。
誕生日、ケーキ、フォーク、おいわい。
不老不滅のオレはもう、あの輪にはほんとうの意味で加われない。
投げ打とう。
命を、たやすく。
胸を貫き、硝子剣に血を与え、そのまま粉々にへし折る。
降ってくる花びらを舞う羽根を、逆巻いて昇れ、砕けた硝子剣。
捕食しろ、殺戮しろ。

夢は覚めるからこそ、夢なんだ。

(アドリブ・ピンチ・連携・その他可能です)




 立ち上がらなければ。
 頭ではわかっているのに、幸せな光景が何度も何度もフラッシュ・バックする。
 イージー・ブロークンハート(硝子剣士・f24563)が、生まれ育ったアックス&ウィザーズとは別の世界に飛ばされてしまったのは、あの日の何日後だったか。
 今頃何してんのかな。あの日みたいに笑ってんのかな。
 剣なんか覚えて、旅してたんだぜなんて言ったら、どんな顔するかな。
 あどけない末妹の顔が浮かぶ。あの時みたいに無垢な笑顔でかっこいいって褒めてくれるだろうか。それとも、もうすっかりおませさんになってしまっただろうか。
「……オレのことなんて忘れたかな」
 それでもいい。悲しまれるよりは。だって、もうオレは。
 震える指が柄に触れる。剣を抜く。逆手に持ち、切っ先は己の胸へ。
 剣。……刃物。ナイフ。ケーキを、切り分けて。誕生日。フォーク。おいわい。
「オレは、もう……戻れない」
 たとえ家族が温かく迎え入れてくれたとしても。
 同じ時は歩めない。硝子に蝕まれたこの身体では。
 胸を貫く。命を、たやすく投げ打つ。鮮血は流れ出るよりも早く硝子剣に吸収される。柄に込める力の向きを変え、そのまま硝子剣をへし折った。
「捕食しろ。殺戮しろ。逆巻いて昇れ」
 不滅の剣は無数の硝子片となり、花弁を喰らっては力を増し。
 異形に襲い掛かり、命を喰らっては力を増し。
 最後にはらはらと舞い落ちた花びらさえも喰らっては、満足したように柄へと舞い戻る。すべての破片が戻ってしまえば、そこには何事もなかったかのように、硝子の剣が蘇っていた。
 硝子に心臓を蝕まれたイージーの命も、こんな風に舞い戻る。
 イージーという名の男が死ぬ時は、この身がすべて蝕まれる時。
 大切な家族たちのように、人として死ぬことはもう叶わない。
 いかに彼らが迎え入れてくれても、その輪にはほんとうの意味では加われない。

「夢は覚めるからこそ、夢なんだ」

 呟いた聲は、悲しいほどに力強かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『水底のツバキ』

POW   :    届かぬ声
【触れると一時的に言葉を忘却させる椿の花弁】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    泡沫夢幻
【触れると思い出をひとつ忘却させる泡】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ   :    忘却の汀
【次第に自己を忘却させる歌】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全対象を眠らせる。また、睡眠中の対象は負傷が回復する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠黎・飛藍です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 花の馨が一層強くなる。
 泡のように曖昧だったしあわせの花弁は、奥に進むにつれてはっきりとその姿を現す。
 ……椿だ。
 ぽとんと落ちるのではなく、嵐となって舞っている。

 その中心に、女がいた。
 女と形容したが、その下半身には脚がなく。きらきらと光る鱗の先、羽衣を思わせる鰭が悠然と虚空に揺蕩っている。

『ゆめは、おしまい』

 女の唇がそう動いた。
 女の放つ花弁。泡。そして歌声。その全てが、猟兵の記憶を奪いにかかる。
 しあわせの記憶を。

 夢を魅せるのは、人の幸せな記憶こそが彼女の糧なのだろうか。
 しあわせは、覚えておきたい? それとも――……。

===========================
 もしも切り捨てたい記憶があるのなら、相手の術にかかるのも一興でしょう。忘却に抗っても、術中に嵌っても、プレイングに不利は生じません。ご自由にどうぞ。
 プレイング募集:7/12(日)朝8:31~7/14(火)夜23:59ごろまで。
===========================
エリカ・グランドール(サポート)
 サイボーグのシャーマン×電脳魔術士のエリカ・グランドールです。
 戦闘はあまり得意ではありませんが、周囲の状況を観察して違和感のある箇所を発見したり、敵の弱点を推測して隙を作り出すといった行動で皆さんをサポートしたいです。

※セリフ例
「今、何か光りました。ここに何かあるのでは……」
「あの敵の動きには規則性があるわ。うまく狙う事が出来れば……」

 冷静沈着と言う程ではありませんが、ビックリする事はあまりありません。
 あと、笑いのツボが良くわかっておらず「今の、どこがおもしろかったのでしょうか?」と、真面目に聞き返す事もあるようです。

 ユーベルコードは、エレクトロレギオンを好んで使います。


アストラ・テレスコープ(サポート)
宇宙とロマンと冒険が大好き!

ロマンを感じだらミニロケットを噴射して後先構わず飛んでいくよ!

戦うときはコズミックロングボウから矢を乱れ撃ちしたり
左腕のミニロケットを発射して爆撃したり
ロケット噴射しながら飛び回って空中戦したりするのが得意!
あと元は天体望遠鏡だから目の良さには自信があるよ!

必殺技は「流鏑流星(メテオリックストライク)」、「星間尋矢(スターダストストライク)」の遠距離攻撃と
「ロケットブレットハートビート」で自分ごと突撃したりロケットだけ突撃させたりする攻撃(使うとおバカになる)だよ!

アドリブも連携もアレンジもなんでも大歓迎!

よろしくね!


ヤニ・デミトリ(サポート)
あっけらかんとした、愉快に生きたいブラックタール。
時々非人間的な合理さを見せますが、基本的にはお人よし。

通常の敵は普段通りに、惨い敵には冷徹に対応します。
タールの身体と尻尾型のバラックスクラップを主な得物とし、
変幻自在に変えてトリッキーに戦うのを得意とします。
攻撃や撹乱の席に主に行きがちですが、
人手が足りなければ攻撃面での援護やサポートも行います。
元気な根は人でなしですが、愉快が第一なので課題解決の為には尽力を厭わず、
また人の話もよく聞きます(尚解っているかは別です)

ネタ、シリアスどちらも雰囲気に沿って動きます。
公序良俗を乱さない範囲なら自由に、よろしくお願いします。




「あれが、骸魂によってオブリビオンとなった存在……『水底のツバキ』ですか」
 翠の双眸が敵を見据える。つくりものめいた彩は、エリカ・グランドール(サイボーグのシャーマン・f02103)がサイボーグであるが故か。その奥で光が絶えず瞬いているのは、演算デバイスが起動した証拠。
「新しい世界! 出逢ったことのない人達! ん~、ロマンだよねっ!」
 エリカの隣で少女が聲を弾ませる。プリズムきらめく不思議な眸。光によって色を変える髪。どこか宇宙世界を連想させる装いは、少女――アストラ・テレスコープ(夢望む天体望遠鏡・f27241)が、その名の通り天体望遠鏡のヤドリガミだからなのだろうか。
「でも、幸せな夢を奪うだなんて頂けないよね!」
「はい、『悪い奴』にはさっさとご退場願うに限るっスよ」
 ヤニ・デミトリ(笑う泥・f13124)が同調する。実の所、ヒトの定義する善悪というものは、未だ学んでいる途中でしかないのだが。
 愉快そうにスクラップの尾を揺らした直後――人の形が、てろりと溶けた。
 ブラックタール。
 擬態を得意とするヤニにしてみても、その身体は移ろいやすく、その思考もまた然り。
 ヒトと泥のはざまを揺蕩うような彼が、奪われては困るしあわせとは何だろうか。愚直なだけの軍兵にゆらぎをもたらした人間だろうか。
 人型より溶けた泥が尾の上に零れ落ちる。がしゃん、と尾が金属音を鳴らした。呑み込むように。泥を啜って、未だ足りないと渇望するように。
「俺があげられるのはここまでっス。あとは――自分で獲るっスよ」
 泥を平らげた寄せ集めの尾は、いつの間にか巨大な鬼磯目を連想させる姿へと変貌していた。

「敵の放つ攻撃に注意してください。殺傷力は低いですが、どれも記憶を奪う作用があるようです」
 放たれる技の性質を分析しながら、エリカが無数の機械兵器を放つ。三百を遥かに超える小型の軍隊は記憶とも、言葉とも無縁だ。
「対処法は?」
「防ぎきること。射程範囲がかなり広いようです。射程外からの遊撃は厳しいと思われます」
 グリモア猟兵たちが情報共有や儀式を行う場を設け、自身も猟兵として幾度も戦場に立ってきたエリカにしてみても、新たにグリモアベースと繋がったこの世界の敵については知らないことだらけだ。数に富むが耐久性に欠けるエレクトロレギオン達がすべて消えてしまう前に、少しでも情報を掴もうとサイバーアイを行使する。
「なら、私にどかーんとお任せだよ!」
 アストラの携えたコズミックロングボウが、左胸のミニロケットが。花も泡も蹴散らして、その歌声さえも掻き消してゆく。
 それだけではない。腰部に取り付けられたロケット達が一斉に噴射し、アストラの身体が宙に躍り出た。
 天体望遠鏡から生じたアストラは、その大きさゆえに滅多に本体を持ち歩かない。命を脅かされずに済むアストラはある意味では不死身。けれどそれでも此度の敵が齎す忘却は、確かに彼女を蝕む事であろう。
 それは、避けねばならない。
(「あの人の夢を、私が受け継ぐって決めたんだもん!」)
 自分を大切にしてくれた、星を観るのが好きだったひと。本当は眺めるだけでは足りなかった。あの美しいきらめきを、実際に訪れてみたかった。
 その夢を忘れてしまったら、きっとアストラはアストラではなくなってしまう。だから忘却などには、文字通り指一本触れさせるわけにはいかない。
 腰の四台のロケット達が大きさを増してゆく。花も泡も燃えつくすように熱を上げる。
「いっくよー、どっかーん☆」
 巨大なロケットの噴射の勢いを利用してオブリビオンに突っ込むアストラは、さながら奔星のよう。
 花弁がヤニへと襲い掛かる。その身を蝕もうとした刹那、人の形がぐにゃりとひしゃげるように溶けて嵐を避けた。
 ヤニが目線を上げると、今まさにアストラが猛スピードで女に吶喊したところだった。轟音。光が爆ぜる。
「随分痛そうな技使うっスね、あのロケットぶつければいいのに」
「アストラさんのあれは、ロケットの全力噴射と衝突の衝撃に耐えられる程の身体能力を齎すと同時に、一時的に知性が下がってしまう技のようですから」
 視覚から取り入れた情報を元に、冷静に分析するエリカ。
「まさに、火事場のなんとか力ってやつっスか……ふふ」
「……? 何か、面白い事でも?」
 肩を振るわせるヤニに小首を傾げる。
 場が和んだのはほんの一瞬。煙の晴れた向こうから、未だ健在の女が見えた。
「しつこいのは嫌われるッスよ。……ねえ?」
 再び繰り出される花弁。ぐにゃりと躱したヤニの殺戮機械、その触手が喰らうべき獲物を察知して牙を剥く。
 その白い膚を機械が喰らうた直後、エリカが残る全てのエレクトロレギオン達をぶつけていった。
 ――戦いは、未だ始まったばかり。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

佐々・夕辺
椿を取り、一輪握り散らす
……人の過去を掘り返すなんて、良い根性してるじゃない
趣味が悪いわよ!

管狐を一斉射
一つでも当たれば貴方は終わり、後は凍えていくだけよ
持久戦といきましょう
貴方が凍り付くか、私が己を忘れるか
どちらが先かしらね?

――歌が聞こえる
――眠い
――寝てたまるか!

持っていた守り刀を己の太ももに突き立てる
これをくれた子には悪いけど
私を守って…!

…幸せだった日々は、もう帰ってこない
でも、私は新しい幸せを手に入れたわ
傍にいてくれると言った人がいる
一人にしないと言った人がいる
…其の声を、忘れ始めている

でも!
また思い出すために!
私は貴方に勝つのよ!

鬱憤晴らしよ
更に一撃
直接駆け込んでぶん殴ってやるわ




 どれくらいの時が経っただろうか。
 あの女が佐々・夕辺(凍梅・f00514)の視界に入ってきた直後、椿を一輪握り散らしてやったのは覚えている。
 叫んだのも覚えている――「人の過去を掘り返すなんて、良い根性してるじゃない。趣味が悪いわよ!」……と。
 それから全身に隠した管狐を一斉に発射したのも。

 管狐は確かに椿の女を捉えた。その白い膚に梅型の痣を刻み、厳冬の如く体温を奪ってゆく。限られた花しか咲かぬ厳冬のように。
「持久戦といきましょう。貴方が凍り付くか、私が己を忘れるか……どちらが先かしらね?」
 女は笑っていた。笑って歌を紡いでいた。女もまた、冬に耐える花の名を冠していた。
 あれからどのくらい経っただろう。時間の感覚すら、"忘れて"しまったような心地。

(「――歌が聴こえる」)
 気を抜くと意識を持っていかれそうになる。視界が霞む。眠ってしまったらきっと――二度と帰ってこられない。
「寝て……たまるか……!」
 聲を絞り出す。躰を奮い立たせる。美しい守り刀を己の太腿に突き立てた。血が流れる。どくどく熱く流れ落ちてゆく。
「ごめんなさい、あなたのくれた刀をこんな事に使って……でも」
 ――おかげで、目が醒めたわ。
 思い切り刃を突き立てた脚の傷をものともせず、走ってゆく。距離を詰める。
 ……幸せだった日々は、もう帰ってこない。
 けれど夕辺は新しい幸せを手に入れた。
 傍にいてくれると言った人がいる。
 一人にしないと言った人がいる。
 ――どくん、心臓が震える。其の声を忘れ始めている自分に気がついた。あれほど大切な記憶さえも奪ってしまうというのか。
「でも! また思い出すために! 私は貴方に勝つのよ!」
 既に管狐たちが女の体温をごっそりと奪っている。このままでもひとりの猟兵の成果としては十分すぎる程だっただろう。それでも夕辺は拳を握った。幻惑から逃れるのではなく、その中心に自分から突っ込んで、乗り越えて、拳を振り翳してやった。
 茫洋と瞬くだけだった女の瞳がほんの少しだけ驚愕に揺れて。
 殴り飛ばした夕辺もほんの少しだけ、胸がすくような心地だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

綴・真砂
夢は夢、いつかは醒めて悲しき現実へと戻るんや
せやけどな、優しい夢があったら生きていけるんよ?
悲しい苦しいそんな思い出もそれもまたうちを作る一つやせやからどれもあんたにはあげん、きえてんか?

からくり人形で攻撃をしつつ盾と距離を撮りつつ攻撃を

フォックスファイアを織り交ぜて多方向からの攻撃で牽制と行動阻害をしつつチミチミ攻撃
大丈夫や、消えたらまた出るで魚系に火は弱い?
熱ぅしたらゆだるんちゃうん?さぁやってみよか
相手が崩れたら複数合体で一気にとどめを刺す

うちができんでも、誰かに引き継げるやろ?
ねちねちちまちま弱らせるで




 綴・真砂(妖狐の陰陽師・f08845)が女の元へとたどり着いた時には、もう既に他の猟兵が交戦していた直後だった。
 元より陽の光を知らぬような女の膚は更に蒼ざめ、その体温の多くが奪われている事を真砂は察した。
「お、これは都合がいいかもしれんな」
 なんて含んだ笑みを見せ、真砂が手繰り寄せたのは無数の狐火。自在に動き追いつめる幽幻の炎。
「熱ぅしたらゆだるんちゃうん? さぁ……やってみよか」
 人魚のような姿をした女ならば、冷たい水を泳ぐ魚のように熱には弱いに違いない。ましてや今は体温が奪われている状態だ。温度差はますます女を蝕むだろう、と。
 炎が舞う。舞っては女を焼いていく。それでも悲鳴らしきものは上げず女は歌を紡いでいた。忘却の歌。しあわせ紡いで奪い去る歌。
 ゆめはおしまいと女は云っていた。
「ああ……そうや」
 知れず、真砂は呟いていた。
「夢は夢、いつかは醒めて悲しき現実へと戻るんや」
 父も母も、友人も、もういない。どこにもいない。
 優しい聲も、温かいぬくもりも、三十六世界のどこにも存在していない。
「せやけどな、優しい夢があったら生きていけるんよ?」
 それに、と真砂は笑んだ。
「悲しい、苦しい……そんな思い出もそれもまたうちを作る一つや。せやからどれもあんたにはあげん」
 狐火は踊り狂うように宙を舞い、重ね合っては勢いを増してゆく。燃え盛る炎と真砂の聲だけに気を払っていた女は、背後から迫るものを文字通り見落としていた。真砂の手繰るからくり人形だ。
 呪詛を引き受ける人形が真砂の記憶を護っていた。炎に紛れ放たれた一撃が女の背を打ち払った。
 とうとう歌が止む。
「……きえてんか?」
 怯んだ女目掛け、すべての炎を合わせた火球の如き追撃が放たれる。視界が白み――それでも真砂は知っていた。オブリビオンというのは、しぶといものなのだ。
 けれどそれは猟兵もまた同じ。真砂がこの一撃で全ての力を使い果たしても、続く猟兵に引き継げる。
「せやからねちねちちまちま弱らせればええんや。こないな風にな」

大成功 🔵​🔵​🔵​

イージー・ブロークンハート
そう。夢はおしまいだよ。夢は覚める。お誕生日会みたいに終わる。
どんなに長い歌だって、そう。
あんたは忘れたかった?忘れさせたかった?
それとも、しあわせを与えたかった――ほしかった?
記憶を、しあわせな夢を、忘れたら、なかったことになんのかな。
オレはね、なくなると思わないよ。
忘れたら、忘れた形に穴が開くだけなんだと思う。
やってみよっか。
いや、しあわせな記憶を忘れたいんじゃないけど。なるべく抗うけど。
でもおかげでしあわせな日を思い出せたから。
ちょっと、あんたに付き合いたいなって。
奪われてなくなると、なかったことになるのか。
アット・ラスト。
最後には、どうなるのか。
(アドリブ・ピンチ・協力可能です)




「そう、夢はおしまいだよ」
 同調するようにイージー・ブロークンハート(硝子剣士・f24563)は笑った。
「夢は覚める。お誕生日会みたいに終わる」
 皆で歌を歌って、ご馳走を食べて、片付けてしまえば、それで終わり。
 どんなに長い夢だって、そう。
「あんたは忘れたかった? 忘れさせたかった?」
 それとも、と一歩踏み込む。女は変わらず忘却の歌を口ずさんでいた。イージーに目も呉れず。
「それとも、しあわせを与えたかった――ほしかった?」
 この世界のオブリビオンは、骸魂というものにより発生するらしい。骸魂は、幽世に辿り着けぬまま死んだ妖怪が転じるものらしい。
 ひとの記憶を奪う彼女にも、しあわせな夢があったのだろうか。喪ったものがあったのだろうか。
「記憶を、しあわせな夢を、忘れたら、なかったことになんのかな」
 オレはね、とイージーは女の眼を見て云った。
「なくなるとは思わないよ。忘れたら、忘れた形に穴が開くだけなんだと思う。……やってみよっか」
 無防備に近づく。忘却の汀が耳から脳裡を侵食していくよう。
(「忘れたい、わけじゃない」)
 けれど耳は塞がなかった。必死にあの日を、家族たちの笑顔を思い出しながら心で抗った。そう、あの笑顔を鮮明に思い出せたのも、この女のおかげだから。
「だからちょっと、あんたに付き合いたいなって」
 伸ばした腕が女の手を取った。まるで皮鎧越しに硝子の呪いが映ったかのように、女の膚に罅が刻まれる。イージーとは違う、不可逆の罅。
「奪われてなくなると、なかったことになるのか――最後には、どうなるだろうな?」
 アット・ラスト。きっとよくある顛末が待っている。
 ぱりん、と硝子の割れる音がした。
 きらきら光る欠片が地面に落ちた所で、イージーの意識が途切れた。


 イージーが目を醒ましたのは、何もかもが解決した後だった。
「オレは……ああ、そうか」
 想い巡らせるイージーの裡に、しあわせの光景はあっただろうか。家族たちの顔を、名前を、憶えているだろうか。
 零れ落ちた記憶があったとしても、硝子の心はきっと、その姿を留めている。いつかそこに、あたたかいものが埋まると信じて。

大成功 🔵​🔵​🔵​

汪・皓湛
『汪大哥、お花見せて!』
私をそう呼び慕ってくれたあの子
漁師の子で声が大きく、街一番の元気な幼子で…名は…名、は

ああ
あの子の名が、あの子に見せた花が思い出せなくなる
声と顔も朧げになって、まるで泡のように消えていく

…生まれてからの全てを覚えているなど不可能と
そう解っていても、思い出が奪われゆく感覚はなかなか堪えますね

笑って万禍を抜き、UCを
私にだけ聞こえる怒声には後で謝りましょう、時間が惜しい
意識は黒き彼女を斬る事に集中
思い出奪う泡が来るなら鞘で薙ぎ払い、
そこを通り、彼女へ向かう斬撃をひとつ

夢が終わり、いつか忘れてしまうとしても
私はそれを、自然のままに任せたい
故に
これ以上は、何も差し上げませぬ




 ――思い出。
『汪大哥、お花見せて!』
 ああ、随分懐かしい響きだ。水面に浮かび上がる泡のように、汪・皓湛(花游・f28072)の記憶が呼び覚まされる。弾む声。『大哥』と親しみを込められた呼び方。なにもかもが懐かしい。
 漁師の子で聲が大きく、街一番の元気な幼子だった。私が笑って花を見せれば、それこそ花が咲くようにぱっと明るい笑顔を見せてくれた。
(「あの子の名は……名、は」)
 ――思い出せない。あの子の名が、あの子に見せた花が。
 声と顔も朧げになって、まるで泡のように消えていく。はっと目を見開けば、現実の泡が皓湛の元へと迫っていた。
 ――これが、敵が齎す忘却?
 ――それとも、必然?
 皓湛よりも遥かに短命な人間ですら昔のことを忘れるという。遥かな時を生きる皓湛の記憶の中にしか残っていないあの子が、皓湛の記憶の中でゆっくりと、けれど確実に薄れてゆく。
「……生まれてからの全てを覚えているなど不可能と。そう解っていても、思い出が奪われゆく感覚はなかなか堪えますね」
 自嘲めいた笑みを零し、神剣を抜いた。その刃を包む禍々しい黒霞がほんの少し皓湛に移ったようだった。夥しい骸と血が齎す呪いの一部、魂の在り方さえ変えるような何かが。
「すまない、後でいくらでも聞く。きちんと謝るから」
 友からの怒声は皓湛の耳にしか届かない。抗議してくる友をいとしく思いつつも、今はとにかく時間が惜しい。
 その鞘が泡を薙ぎ払う。今の皓湛と万禍ならば、斬撃を振るえば衝撃波で以て更に広範囲の泡を破壊する事も出来たが、万一にでも友を危険に晒すわけにはいかなかった。
 万禍が斬るべきは只ひとつ。幸せ奪う人魚のいのち。
「夢が終わり、いつか忘れてしまうとしても……私はそれを、自然のままに任せたい」
 あの子が、あの街が、花神の出逢った様々が、消えていったとしても。それはきっと正しいことだ。
「故にこれ以上は、何も差し上げませぬ」
 泡の消えた先、人魚と皓湛を阻むものは何もない。
 万禍の力が、黒霞纏わりつかせた皓湛の剣術が、命喰らう衝撃波となって水底のツバキに襲いかかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

パウル・ブラフマン
そういえばおとぎ話で
泡になっちゃった人魚のお姫様がいたっけ。
オレはDevilfishだけれど
ごめんね、おねーさんの願いを叶えてはあげられない。

UC発動!
愛機Glanzに【騎乗】したまま戦場を駆け回るね♪
ゴキゲンな【運転】テクで
迫りくる泡を躱しながら接近するよ。
念の為にFaustを前方に展開して
極力泡への接触を避けたい処。

伸ばしたKrakeの射程に
おねーさんを収めたら狙撃開始ィ!
ヒット&アウェイ戦法で安全圏を行くけど
一発でも泡に当たっちゃったら
踵を返して一気にフルスロットル。
猛スピードで特攻して全砲【一斉発射】をお見舞いするゾ☆

オレから昨日のジャスパーの寝顔の記憶を奪ったね?
許さない、絶対にだ!




「そういえば、おとぎ話で泡になっちゃった人魚のお姫様がいたっけ」
 パウル・ブラフマン(Devilfish・f04694)が思い出すのは、大切な人を殺せずに幸せを手放した人魚の話。
「オレはDevilfishだけれど……ごめんね、おねーさんの願いを叶えてはあげられない」
 人間に似せた容姿に蛸の触手を生やした男は、その四肢で愛機Glanzを駆る。
「いくよ……UC発動!」
 残る四本――つまり触手に取り付けられた砲台が女を見据え。
 撃つ。鱗が剥がれる。女が泡を向ける頃には、パウルはフルスピードからの急激なスライディングで身を躱していた。奪わせないためのヒット&アウェイ。指貫グローブから黒球の如き盾を展開する周到ぶり。
 それでも漂う泡の軌道は読みづらく、不規則に跳ね返ったもののひとつがとうとうパウルの肩を掠めていった。
「あ――……」
 かつて怪物だった男は、本来は『忘却』を知らない。
 忌むべき記憶も、愛すべき記憶も、脳という膨大な記録媒体に全て刻み込まれている。
 ゆえに何が掠め取られていったのか、すぐに分かってしまった。ぶちんと脳裡で何かが弾ける音を、確かに聴いた。
「っる……ぁアア!!」
 女から距離を置こうとしていたGlanzが唸り、泡も女も蹴散らしてしまえばいいと言わんばかりの特攻を見せる。ひっきりなしにKrakeを撃ち続ける反動で触手が軋む。支える胴体が痺れる。それでもパウルは砲撃を止めなかった。
「オレから昨日のジャスパーの寝顔の記憶を奪ったね?」
 初めて彼が部屋を訪れてくれた日から、大切に積み重ねてきた思い出。パウルの身体がその機能を止めるまで、彼の裡でずっとずっと丁寧に保存されているはずだったものだ。日常を毎日共に過ごしているという、かけがえのない証。それを――それを!
「許さない、絶対にだ!」
 蹂躙という言葉が相応しいほどに、Krakeは女を撃ち続けた。
 その時己に生じた感情はきっとどす黒くて醜くて――ああ、この穢れは彼の元に帰るまでに、すべて落としきってしまわねば。

大成功 🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【梓(f25851)と】
へぇ…綺麗だね。人魚かな?
オブリビオンながらその美しさに見惚れる
思えば、さっきのオブリビオンも、世界に降り注ぐ花弁も
ここには美しいものがいっぱいだねと思いを馳せる

もとより、俺なんて人生の半分くらいの
記憶が既に無いからね
ただでさえ少ない貴重な記憶なんだ
俺もあげるわけにはいかないね
梓と違ってどこか軽いテンションで言うけど
意思の強さは彼にも引けを取らず

UC発動
敵の放つ忘却の泡を一つ残らず破壊する
両手のDuoを大きく振り薙ぎ払い
無数のナイフを放射状に投擲し
俺にも梓にも触れさせない
過去を守るために自分の未来を削っていくだなんて
我ながら滑稽だなと思うけど
それでも構わないさ


乱獅子・梓
【綾(f02235)と】
ハッ。イイ夢を見せておいて
今度はそれを奪いに来るのか
随分調子が良いな
悪いが、俺の記憶も、俺の夢も、全て俺のものだ

クソみたいな、それでも愛してやまない世界で生まれ育ったことも
そんな世界を変えたくて家を飛び出したことも
旅の途中で竜と出会い、共に戦う力を身につけたことも
そして綾と出会い、今日に至る全てのことも
お前にくれてやるものは一切無い

何の躊躇いもなく自身の命を削る綾の戦い方には
そろそろ釘を刺しておこうかと思いつつ
あいつの作ったチャンスを活かして速攻でケリをつけるぞ
焔を成竜に変身させUC発動
敵の攻撃が綾に防がれ隙が生まれた瞬間
一気に接近、威力を増したブレス攻撃を浴びせる




「へぇ……綺麗だね。人魚かな?」
 オブリビオンながらにその姿は美しいと、灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)は素直に口にする。思えば先程のオブリビオンも、世界に降り注ぐ花弁も、目を惹くものだった。
「ここには美しいものがいっぱいだね」
 きっと平和が戻れば、この地本来の美しさというものもあるのだろう――子どもの綾が惹かれた数々を、彼は覚えていないけれど。
「ハッ。イイ夢を見せておいて、今度はそれを奪いに来るのか。随分調子が良いな」
 素直に称賛する綾とは対極に、そう吐き棄てるのは乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)。パートナーの静かな怒りを察知したのか、その肩で小竜の焔もくるると小さく唸っている。
「悪いが、俺の記憶も、俺の夢も、全て俺のものだ」
 クソみたいな、それでも愛してやまない世界。闇と吸血鬼が支配する世界で、理不尽にまみれて生きてきた。
 そんな世界を変えたくて、家を飛び出した。
 旅の途中で竜と出会い、共に戦う力を身につけた。
 一度だけの帰省で綾と出会った。
 今日に至るまで、いい思い出ばかりでは決してない。それでも。
「お前にくれてやるものは一切無い」
「そうだね。俺もただでさえ少ない貴重な記憶、みすみすあげるわけにはいかないね」
 色濃いグラス越しでもわかるほどに女をねめつける梓とは対照的に、何を考えているのか今一つ掴みがたい笑顔で綾は云う。
 けれどその想いと意志の強さがけっして梓にも引けを取らないことは、綾の次の行動が示していた。
「俺に出来ないことは無い……いいかい、『無い』んだよ」
 戯言のように告げた直後、至る所で泡が弾け飛ぶ。その直後、放射状に放たれていた無数のナイフがぽたりぽたりと地に落ちた――ナイフを放っていた事すら悟らせないほどの早業。
「おい綾、それは」
 梓の言葉にはやや咎めるようなニュアンスが含まれていた。あらゆる不可能を切り捨てる程の綾の力。其れは勿論、強大な力に相応しい代償を必要とする。
「お説教ならあとでゆっくり聞くよ」
 はぐらかすように肩を竦めた直後、ナイフの猛攻を掻い潜ってきた泡を大鎌が薙ぎ払う。
「俺にも、梓にも、触れさせない」
 改めて願いを口にした。綾の感覚がますます研ぎ澄まされ、あらゆる方向から迫る泡が止まっているかのように見える。代わりに削られていくのは綾の寿命――すなわち、未来。
(「過去を守るために自分の未来を削っていくだなんて、滑稽だと思う?」)
 誰にともなく問いかけた。実際自分でも滑稽だと思っているのだ。奪われる思い出は、既に忘れてしまったものかもしれないのに。先程視たしあわせのように。
 それでも構わないと思えるのは――。
「仕方ないな、後で覚悟してろよ」
 何の躊躇いもなく命を代償とする綾に内心思う事はあれど、強大な力が活路を拓いてくれたのは事実。ならば梓に出来る事は、それを逃さぬ事だけ。
「行くぞ、焔」
 成竜へと姿を変えた紅き炎竜が空へ舞い上がる。泡沫夢幻の泡が新たな脅威目掛けて放たれた。
 狙いは正確。けれど新たに放たれたナイフが、それらをひとつ残らず割っていく。
「云ったでしょ、俺に不可能はないんだよ……なーんてね」
「今の焔に敵うやつもいない。相手が悪かったな」
 水底のツバキが再び泡を繰り出すよりも早く、世界を喰らうが如き灼熱が焔より放たれた。


 焔が椿の人魚を散らしたあと、街のあちこちで人々が目覚める気配が漂ってきた。
「文字通り、夢はおしまいってか」
 ニッと口角を上げた梓の肩に、ちいさな姿に戻った焔が降り立ってキューと誇らしげに啼いた。よくやったとその背を撫でてやりながら、梓は綾に向き直る。
「後で聞くって云ったよな」
「梓が視た夢を教えてくれたら考えなくもない」
「おい、それは卑怯だぞ」
 睨むような視線を躱すように、綾がひらりと身を翻し帰路に就く。
 きっと妖怪たちから奪われた思い出たちも、彼らの元へと戻ることだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年07月15日
宿敵 『水底のツバキ』 を撃破!


挿絵イラスト