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きみのいろ、きみのおと(作者 晴海悠
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●風鈴市にせまる影
 ちりん、ちりん。音が風に揺れる。
 屋台の軒先に連なる鈴の音は、初夏のほとぼりを冷ますかのよう。
 ここはUDCアース、とある海辺の村。
 神社の境内にて開かれる風鈴市は、
 近隣、あるいは遠くから訪れる人たちで程よいにぎわいを見せる。

 りぃん、りぃん。
 耳心地のいい鉄の音と共に、三羽の燕がくるくると舞い。
 冷ややかな石の鈴の隣では、絵付けされた焼き物の鈴が木馬のようにゆっくりと回る。

 いつから愛されてきたのか。
 夏空に響む鈴の音は、いまも昔も人の心を癒す。
 足を止めて指さす、新婚夫婦の目の前で。
 硝子の中で泳ぐ金魚が、ゆったり緋色の尾をたなびかせる。

 ふいに、その音がけたたましく、割れんばかりに響き渡った。
 鳥の群れの地鳴きの如く、鳴り響く風鈴がよからぬものの到来を触れて回る。
 祭りの屋台を薙ぎ倒し、ハート形をしたチョコの怪物が暴れまわる。

 すっかり露払いのされた祭りの跡地、白く面を覆った鬼神が砂利を踏む。
「……」
 かの鬼は、何も云わぬ。
 旧き夫婦神の片割れは、いまや復讐鬼となり果てた。
 悪縁ばかりか良縁、命の糸すらも斬りて、その刀は血に染まる。

 かの鬼に、街を滅ぼそう等という目的はない。
 ただ、邪魔なのだ。探し求める妻以外の、すべてが。

 ゆえに、鬼神は刀を振るう。
 花も人も散らし、砂利道に紅の河を築く。
 愛しき者の姿を風の中に求め――。

 ぶつり、と。糸を断たれた硝子の金魚が、砂利の上に砕け散った。

●きみとのいと
 りぃん――。虚空のゆらぐグリモアベースに、らしからぬ音が響く。
 手に提げた風鈴を揺らしてみせたリグは、足を止めた猟兵たちに笑いかけた。
「UDCアースでのお仕事、首尾よくいけばお祭り観光つき。そんなご案内、いかがかしら?」
 リグが今回指し示す場所は、とある海沿いの漁村。
 魚がおいしく、縁ある神社がある以外は目立ったもののない、静かな田舎の村だった。
 近年の村おこしで催されたものは、風鈴市。
 湾の内側にあり、ほどよく風の吹き抜けるその村は、全国から集められた鈴たちが心地のよい音を奏でるのにうってつけの場所だった。
「有名ってほどじゃなくても、例年少しずつ人も増えてうまくいってるみたい……なんだけど」
 皆が猟兵として呼ばれた以上、その平穏が乱される事は言うまでもなかった。

 神社から車で数分ほどの、廃倉庫。
 そこに邪神教団の教徒が陣を敷き、オブリビオンの群れを引き寄せてしまうとの事だ。
「まずチョコの怪物が現れて、祭りをめちゃめちゃにしちゃうの」
 想いを果たせなかった乙女たちの無念から生まれた怪物は、何とかして自らを食べてもらおうと迫ってくる。
 悪意のみられない敵ではあるが、『骸の海産』のカカオが人体にいい筈がない。
 誤って一般人が口にすれば、二度と意識は醒めないだろう。
「幸いなのは、召喚される場所が廃倉庫の中ってこと。こちらから攻めこめば、人知れず無害化できるわ!」
 教徒たちは捕らえずとも逃げ果せるとの事だが、怪物たちはそうはいかない。
 禍根は断っておく方がいいだろう。

 チョコたちを倒せば終わりかというと、そうではない。
「強力な個体が現れるから気を付けて。邪神教団の本命はこっちみたい」
 古くは神として奉じられたはずのそれは、今や鬼神として現世を彷徨う。
 膂力たくましく大地を断ち割り、悪鬼羅刹と化せば陣風の如く触れる者を斬り捨て。
 そして何よりも恐るべきは、その神力である。
 悪縁のみを斬ってきたはずの刀で、仲を斬り裂かれようものなら。
「どんな縁でもばっさり斬られちゃうって噂よ。親子や仲の良い人同士で向かうなら気を付けて――最悪、互いの事をしばらく思い出せなくなるかもしれないわ」
 抗う術はないのかと問われれば、グリモア猟兵は少し考えた後でこう告げる。
「一番手っ取り早いのはどうにかしてかわすか、打たせない事かしら……あ、でも」
 ふと意地悪な笑みを浮かべ、彼女の言うには。
「いっそ神様が妬くぐらい、縁の強さを示してみせるのも手かもね?」
 自分でけしかけておいて、きゃーと照れる仕草をしてみせるこの猟兵、確信犯である。

 事がすめば、風鈴市は何事もなかったように開催されるだろう。
 祭りで見かけるイカ焼きや焼きそばにくわえ、目玉はなんといっても風鈴の屋台。
 音の澄んだ鉄の鈴に、精巧な硝子細工のもの。買うもよし、手に取り見て歩くもよし。
 初夏にふさわしい音を奏でる風鈴の市は、花火とはまた違った趣を味わわせてくれるはずだ。
 また、体験コーナーでは風鈴の絵付に挑戦することもできる。
 細い筆でガラスに絵を描くのは大変だが、世界にふたつとない自分だけの風鈴は格別の思い出になるだろう。

 依頼のあらましを語り終えたリグは、グリモアを手に浮かべゲートを開く。
 浮かび上がるゆらぎの向こう、さざ波の揺れる漁村の光景が広がっていく。
「さっきはああ言ったけど……切る、結ぶ。縁ってそんな単純なものじゃないと思うわ」
 心配を取り払うように、笑ってみせた彼女はこうも言い。
「切れちゃったら、また結べばいいのよ! 何度も糸を撚って縁を重ねるうち、きっと前より強く結べるわ!」
 軽くウインクをして、旅立つ猟兵たちの背に投げかけるように。
 いってらっしゃい! 明るい声と共に、グリモアの道は開かれた。


晴海悠
 お世話になっております! 晴海悠です。
 初夏の訪れを感じる神社の境内で、風鈴市が開かれています。
 しかし、市を楽しむには難を退けねばならないようです。

『プレイングの受付』
 各章の冒頭に短い文章を挟み、受付開始の合図とします。最初のみ、3章だけなど、お好きな形でお越し下さい。
 また、受付期間のご案内をマスターページに記載する事があります。特に3章は週末などに合わせ、可能な限りお受けしたいと考えています。よろしければご参照下さい。
(複数名の合わせプレイングは2~3名までならはりきって承ります!)

『1章 集団戦』
 デゾレ・ショコラ。
 叶わなかった恋の残滓が、チョコの姿をとって現れたようです。
 リプレイは廃倉庫にたどり着いた時点から開始し、邪神教団の教徒は何もせずとも逃げ出します。
(捕縛した場合、UDC職員が責任を持って身柄を引き取ります。捕縛の二文字だけで事足ります。一応一般人なのとお話が暗くなるため、命を奪う系のプレイングは採用を見送らせて頂きます)

『2章 ボス戦』
 禍罪・擬切。
 いにしえの時代に神として奉られ、いまや鬼神となり果てた夫婦神の一柱です。
 純粋かつ強力な技を持つほか、WIZの能力で立ち向かった場合には縁切りの刀で皆様の大切な仲を断ち切ろうとしてきます。
 対抗するには、冒頭でリグが述べたものが参考になるでしょう。

『3章 日常』
 神社の風鈴市でのひと時。
 色とりどり、形さまざまの風鈴を眺めたり購入できるほか、体験工房では風鈴の絵付け(硝子、陶器)も楽しんで頂けます。こちらからのアイテム発行はできませんが、思い出としてお持ち帰り頂ければ幸いです。
 一般的な祭りの屋台は出ているほか、神社にお参りもできますので、自由な発想でお過ごし下さい。
 なお、リグは呼ばれても登場致しません。最後まで皆様の物語として、お楽しみ頂ければと思います。

『その他注意点』
 皆様の関係性を大事に描きたいので、両片思いなど描写のご希望がある場合はプレイング内にて分かるようにして頂けると助かります。
 縁の解釈は親子・親友などご自由にどうぞ。カップルさんは種族・性別問わず大好物ですが、ロマンス以上の子どもにお見せできないやりとりはどなた様であっても採用を見送らせて頂きます。

 それではリプレイでお会いしましょう! どうぞ、いい思い出を育まれますよう。
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第1章 集団戦 『デゾレ・ショコラ』

POW ●おねがい、たべて!
自身の【体を食べて貰うという目的】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。
SPD ●わたし、おいしい?
【体当たり】が命中した対象に対し、高威力高命中の【溶かした自身の体の一部】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
WIZ ●このおもい、うけとって!
レベル×1個の【情念の強さに比例した威力の】の炎を放つ。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる。
👑11 🔵🔵🔵🔵🔴🔴

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ゲートを抜けて間もなく、潮風の香りが鼻をくすぐった。
 神社にほど近い、使われなくなった廃倉庫。
 漁業用の格納庫だったそこには、うち捨てられた資材を残して広大な空間が開けていた。
 窓は少なく、内部の様子は外からでは容易にうかがい知れない。
 だからこそ、教団に目を付けられたのだろう。

 教団の描いた方陣から、茶色い何かがあふれでる。
 宙に描くハートの型を満たすように降り注ぐそれは、瞬く間に可愛らしいチョコの形に冷え固まる。

 『EAT ME』――わたしをたべて。
 想い人との縁を紡げなかった乙女たちの想いは、誰彼構わず愛を授ける魔物となった。
 無垢なその瞳は、恋する乙女のもの。
 しかし骸の海に長く浸された愛は、すでに毒も同じ。
 受け取ってしまえば、体の内から溶かされてしまってもおかしくはない。

 つぶらな目で迫るそれを、退けるべく――戦端は切って開かれた。
キャプテン・ハマーヘッジ
「無垢な少女達の恋心の残滓か…。その姿、捨て置くには忍びないな!」
宇宙紳士であるキャプテン・ヘッジハマーは、敵の真正面に立ちふさがる。
「それ程までに食べてもらいたいなら、この私があえてその思いを受け止めよう!宇宙紳士であるこの私、キャプテン・ヘッジハマーが…!!」あえて攻撃を食らうことで、他の猟兵たちを攻撃からかばいつつ、敵の暴走を止めようとします。


杣友・椋
▼アドリブ歓迎

足を踏み入れた廃倉庫
逃げ出す教徒たちに一瞥をくれ、小さく舌打ちする
……目障りな奴等
ぶっ潰してやりたいけど、今まず俺たちが相手をするのは――あいつらだ

黒槍を構え駆ける先は、群れた想いの残滓たち
おまえたちを受け止めてやりたい所だけど、
生憎あんまり甘いのは得意じゃない
それに「あいつ」以外のチョコレートは受け付けていないんだ
黒槍の一振りによる旋風で敵を薙ぎ払い
残った奴は得物で【串刺し】に

敵たちからの攻撃は【オーラ防御】【激痛耐性】で出来る限り耐えたい
人々を癒す風鈴市の無事の為、
この場所まで導いてくれた、世話になっている灰髪の彼女の為――
おまえたちを、今ここで倒さないといけないんだ


 鋼鉄を蹴破る音とともに、廃倉庫の扉が開け放たれる。
 見つかった事を悟り、足早に逃げ出す教徒たち。そして彼らと入れ違いに、姿を現した男が敵の前へと立ち塞がる。
「無垢な少女達の恋心の残滓か……その姿、捨て置くには忍びないな!」
 光遮る巨体。太く張るような声。彼こそは宇宙紳士、キャプテン・ハマーヘッジ(スペースノイドのブラスターガンナー・f28272)。自由を胸に誓い、冒険を愛して宇宙を駆ける、正義の好漢である。
 齢四十五にして冒険への憧れは色褪せず、今なお彼を突き動かす。そんな純真な心を持つ彼だけに、少女たちの無垢な思いは痛いほどに伝わってきた。
 どん、と厚い胸板を叩き、男は両腕を広げる。
「君たちの想い! この私、キャプテン・ハマーヘッジが引き受けよう!」
 熱く紳士的な彼の語りにも耳を傾けず、教徒たちは散り散りに逃げていく。危うくぶつかりかけた教徒に軽く舌打ちをして、杣友・椋(涕々柩・f19197)は去り行くその背を見送った。
「……目障りな奴等」
 ぶっ潰してやりたいとも思ったが、椋たちの前には先立つ脅威が控えている。
「今まず俺達が相手をするのは――あいつらだな」
 邪神と眷属たちを倒せば、ひとまず教徒たちの目論見は潰える。村に、祭りに被害を出さぬためにも、まずは目の前の眷属たちを倒す必要があった。

 逞しき巨躯を誇る熱血漢に、麗しき風貌を持つ竜の青年。
 想いを伝えるに不足はなしと見たのだろう――愛の押し売りをするように、チョコの姿をした眷属たちが二人へと群がる。
 押し寄せる彼女たちの想いを受け止めるように、ハマーヘッジが敵の真正面に立つ。
「ああ、その思い伝わってくるとも! それ程までに食べてもらいたいなら、この私があえて受け止めよう!」
 たくましい腕で体当たりを受け止めた瞬間、チョコたちの目が輝く。きらきら期待に満ちたその目は、わたし、おいしい? と問うようで。
 溶けたチョコの破片が溶岩のように降り注ぎ、味わう暇もなくハマーヘッジの巨躯を包んでいく……が。
「なんの、これしきっ……!」
 巨漢のキャプテンはそれら猛攻をものともせず、一身に引き受けてみせる。いつ止むとも知れぬ愛のアピールだが、彼は持ち前の体力を頼りに猛攻を耐えしのごうとしていた。
 すり抜けてきたチョコを、椋の持つ黒槍の穂先が捕らえる。串刺しにしたチョコの破片を振り捨てるように掃い、椋はあらためて愛に飢えた眷属たちを見据える。
「無碍にせず、おまえたちを受け止めてやりたい所だけど」
 長い睫毛の下、翡翠色をした双眸が細められる。優しい言葉と裏腹に、若き竜の意志は数多の想いを前にしても揺らがない。
 おいしく食べてもらえると思ったのか。カラースプレーで化粧をしたチョコが、自身の体をぱきりと割って椋へと差し出す。しかし椋は拒むようにオーラで身を包んで護りを固める。
 願うはチョコたちの想いの成就でなく、風鈴市の無事。いかに無垢な想いとはいえ、ここでなびく訳にはいかない。
「おまえたちを、今ここで倒さないといけないんだ」
 槍の先で距離を取った椋に、追いすがるようにチョコたちが跳ねる。しかし熱烈なラブコールを、阻む者がいた。
「ぬうおお……!」
 体中がチョコ塗れになろうとも構わず、巨漢の男が割って入る。その手には光線銃が握られていたが、ハマーヘッジが銃口をチョコたちに向ける事は決してない。紳士としての熱き誓いを胸に、ただただ敵の猛攻を耐える事でのみ防ごうとする。
「ここは私が引き受ける! 想いを全て受け止めてこそ、宇宙紳士というもの!」
 あり余る体力で攻撃を一手に引き受けるハマーヘッジ。頼もしい彼の援護に礼を述べ、椋が敵へと駆ける。
「生憎、あんまり甘いのは得意じゃない――それに」
 振るわれる黒槍の穂先が、颯をよぶ。一瞬閉じた瞼の裏に、思い浮かべるは一人の少女。
 天使の羽根宿す姿と似つかず、その心は感情豊かで、時にやきもち焼きで。不用意に好意を受け取ってしまえば、彼女の優しい顔がむくれてしまうだろうから。
「……あいつ以外のチョコレートは受け付けていないんだ」
 ただ一人の『本命』除いて、抱く瓢風の懐に入る事は能わず。砂埃をさらって渦巻く風が、チョコたちを想いごと骸の海へと運んでいった。
成功 🔵🔵🔵🔵🔴🔴