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幽世かくれんぼ

#カクリヨファンタズム

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#カクリヨファンタズム


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●みつけて、みつけないで
 ――真っ赤な鳥居を四つ越えたら。
 うんとちいさく身体を丸めて、オレンジ色の夕陽に染まる境内の隅に隠れよう。
 ひとりでも、ふたりでもいい。もっとたくさんいてもいい。なるべくなら大きな声で。

「もういいよ」

 そう言ったなら、足元の影が真っ赤に伸びる。
 鳥居は百から千を越え、君が来た道は枯れた花のよに崩れて落ちた。
 オレンジ色の夕陽が照らす真っ赤な社は急に大きくなった気がするのに、あちこち朽ちて、何処が道だかわからない。
 道という道を見失う。――世界の全部が、道を失う。
 道の代わりにそこにあるのは、ぽかりと誰そ彼に浮かぶ、丸い格子窓。
 開けばきっと、君が眠りたい場所がある。隠れたい場所がある。

 いいよ、もうかえるみちはない。
 もういいよ、ずうっとここであそんでいよう。

●もういいかい、もういいよ
「……かくれんぼは、お得意かしら?」
 唐突な問いかけを口にして、宵雛花・千隼(エニグマ・f23049)は猟兵たちを見渡した。
 けれどもすぐに考え直したように、白い髪をふわりと揺らして首を振る。
「いいえ、それはどちらでもいいわ。――アナタたちには、世界の滅亡を止めて貰わないといけないの」
 突然だけれど。そうさらりと付け足して、千隼は怪訝そうな顔をしながらも足を止めてくれた猟兵たちに話を続ける。
「新しい世界――カクリヨファンタズムのことは、もう聞いていると思うのだけれど。早速そこで概念がひとつ失われて、カタストロフが起ころうとしているのだわ」
 しょっちゅうそんな危機が起きるとは聞いたけれど、こんなに気軽に見つかると思わなかったのよと、白い女はそっと息を吐く。
「失われたのは『道』の概念。今あの世界は全ての道が朽ちて、迷子の世界になっているの」
 迷子の世界。確かめるように繰り返した声に、千隼はこくりと頷く。
「気をつけて。アナタたちは、道なき道を進まなければならないわ。起点となっているのはとある神社。時間はずっと夕暮れで、立派で大きな真っ赤な鳥居と社が印象的だけれど、オブリビオンの影響で無限に広がっている。――迷宮化していると言っていいわ。どこに何があっても可笑しくなくて、とてもおかしい」
 そんな場所でオブリビオンを倒しながら進もうとすれば、迷うなんてとても簡単で、はぐれたなら再び出会うのは極めて困難だろう。けれど。

「……けれど。道を消したオブリビオンは『かくれんぼ』が好きなようよ。だから、そのルールに則ってさえいれば、オブリビオンを見つけることも、はぐれた仲間と再び合流することも不可能ではないわ」
 ルールは簡単だ。『もういいかい』と言ってオブリビオンを探すこと。はぐれて誰かに見つけてほしいなら『もういいよ』と言って待つこと。
「オブリビオンも誘き寄せることになるから、『もういいよ』のほうは安全な場所を確保して、充分注意をして使ったほうが良いと思うわ。……最終手段として、覚えておいて頂戴な」
 くれぐれも忘れないで、と念を押すように静かに口にして、千隼はふと僅かに眦を緩めた。
「――隠れんぼ。懐かしい人もいるかしら。したければ、世界滅亡を防いだあとにきっとできるわ。この世界のオブリビオンは元は妖怪たちで、骸魂に呑まれてしまっているだけだから。倒せば、救出もできるのですって。きっと一緒に、楽しんでくれるわ」

 たまには童心に返るのも、悪くないのではないかしら。そう僅かに笑んで、新たな世界へ猟兵たちを送り出すべく、光はゆっくり広がった。


 目を開ける。
 何処か懐かしくて、けれど初めて見るその場所で、まずは雷を聞いた。
 姿は見えぬ。けれども嘶くその声は、まるで雷そのものだ。
 ――夕暮れの中に雄々しく立つ、炎を鬣とするその獣。神々しく見えそうなそれが、毒を吐き散らすように雷を吐き、災いを落とす。
 麒麟。
 呟いたのは誰だったか。瑞獣と知られるその存在たちは、けれども災禍の塊と成って、猟兵たちを夕闇に潜んで待ち構えている。


柳コータ
 お目通しありがとうございます。柳コータと申します。
 今回は新世界の危機へかくれんぼと共にご案内いたします。気軽に楽しく、懐かしく。人によってはしっとりと。

●ご案内
 プレイングボーナス:かくれんぼのルールに則って行動する。

 一章:集団戦。オブリビオンたちを見つけながら倒して下さい。
 OPにある通り『もういいかい』と言うと敵が飛び出して来るようです。『もういいよ』は【同行者がいる場合】、隠れている方の場所を感知させることができます。ただし敵もかなりの数が来るのでそれなりに危険です。
 また、OPにある『丸い格子窓』は全章通じて安全な隠れ場所として使えます。あなたの懐かしい隠れたい場所や眠りたい場所が現れます。使う場合は指定して下さい。使用は自由です。
 二章:ボス戦。『道』を消した元凶との対決です。緩めに説得要素が含まれます。二章開始時にマスターページで詳細をご案内します。
 三章:日常。かくれんぼをして遊びます。妖怪たちもウッキウキなので一緒に遊べます。
 こちらの章のみの参加も勿論OKです。三章開始時にマスターページで詳細をご案内します。
 お声がけがあれば、千隼も遊びに混ざらせて頂きます。

●プレイング受付について
 一章は公開後から受付とさせて頂きます。導入追記はありません。
 〆切、二章以降のご案内はマスターページで随時お知らせ致します。

 同行者がいる場合は【チーム名】または呼び名と(ID)を記載して下さい。
 複数参加の場合は三名までとさせて頂きます。

 なるべく皆様の採用を目指しますが、時間の都合等で難しい場合がございます。
 それでは、どうぞよろしくお願い致します。
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第1章 集団戦 『麒麟』

POW   :    カラミティリベンジ
全身を【災厄のオーラ】で覆い、共に戦う仲間全員が敵から受けた【攻撃】の合計に比例し、自身の攻撃回数を増加する。
SPD   :    因果麒麟光
【身体を包むオーラ】で受け止めたユーベルコードをコピーし、レベル秒後まで、身体を包むオーラから何度でも発動できる。
WIZ   :    キリンサンダー
【角を天にかざして招来した落雷】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を災いの雷で包み】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

夏目・晴夜
リュカさん(f02586)と

我々が歩んできた栄光の道のりという概念も失われているのでしょうか
それは困りましたね……しかし私にいい案があります

まず、わざとはぐれて丸い格子窓の元に隠れ
『もういいよ』で敵を誘き寄せてリュカさんに撃って頂きます
格子窓の元に現れる場所は、明るければ何でも

よし、それでは『もういいよ』
……なんか想像以上に数が多いですね
まあ此処は安全らしいので大丈夫でしょうが

いや、マジで多いですね!
「憑く夜身」で敵の影を操り動きを封じておきます
でも効果は一時的なんですよね
リュカさん、まだですか!リュカさん!

……いや、泣いてないですけど
私が敵の動きを封じていたから撃ちやすかったと褒めてください


リュカ・エンキアンサス
晴夜お兄さんf00145と

…何だか、物騒だな
お兄さん、俺からはぐれ…
いい案って?
お兄さん?…お兄さん?(いない

いや、まあ、探すよ。探すとも
狼狩りは得意なんだ

で、まずはふらっと適当に探す
お兄さんが半泣きでもういいよ言い出したらそちらに駆け付ける
別にゆっくりするつもりはないけど、安全第一、無理しない範囲で急ぐからね
道中敵を見つけたら、進行の邪魔にならない程度に散らして
お兄さんを見つけたら、あとは全力で撃つ。きちんと制圧射撃で始末しよう

…で。
…お兄さん?
俺にいうこと、ありますよね?
(ぐりぐりほっぺをつつきながら

……
心配するから、ほどほどにね
あ、うん、撃ちやすかったよ。えらいえらい(投げやり棒読み




 道は確かに、何処にもなかった。
 足元にあるのは不自然に膨らんだ影ばかりで、それが途切れたと思えば、朽ちた花が揃ってじっとしている。荒れ果てた獣道ですらない。踏み締める地はあるのに、まるで底無し沼へ足を進めてゆくような不気味さに、リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)は肩に掛けた銃を無意識に片手で確かめながら、ぽつりと呟いた。
「……何だか、物騒だな。本当に道がない」
「我々が歩んできた栄光の道のりと言う概念も失われているのでしょうか」
 リュカの表情の動きも少ないが、その隣で大きな狼耳を揺らして鳥居を抜けた夏目・晴夜(不夜狼・f00145)も無表情がちなまま、言葉は滑らかに続く。
「それは困りましたね。褒め称えるにも事象は必要です。これを取り戻すには摩訶不思議なこの場所の敵を倒さねばなりませんが」
「……さっきから景色が変わらないな。敵の気配はあるけど、姿がひとつも見えない」
「これも困りましたね。……しかし私にいい案があります」
 晴夜の口元が悪戯に笑って、紫苑色の瞳がぽつぽつと浮かぶ丸い格子窓を映した。
 オレンジ色の夕焼けが、ずらりと並んだ真っ赤な鳥居を不自然なほど綺麗に照らしている。
 社の奥へ方向も変えずに進んでいるはずなのに、延々と続く鳥居は未だすぐ背にあって、夕闇に浮かぶ社は開いた境内に欄干と影と、朽ちた橋を繰り返す。それなのに、戻れる気は微塵もしない。
(……嫌な感じだ)
 帽子を引き被り直して、リュカは一度目を伏せる。ここに来た瞬間に聞いた、雷の音。あれはおそらく敵の『鳴き声』だ。一瞬だけ垣間見た姿は四つ脚の獣。燃えるような鬣に、空を掛ける蹴爪。――あれは、麒麟と呼ばれるものだろう。本来は吉兆を齎す瑞獣であるはずだが、あんなものが束になって向かって来るのはあまり考えたくはない。
「お兄さん、俺からはぐれないでね。ところでいい案って……」
 リュカはふと隣を確かめるように顔を上げていつも通りに声を掛けた。――けれどもそこには、不可思議な景色が続くばかりで。
「お兄さん? ……晴夜お兄さん?」
 何を遊んでいるんだって、からかうのは後にしてほしいって、一言文句を言うことすらできなかった。気配を探る。辺りを見渡す。
「……いない」
 相手がどこにもいない。いつの間にかはぐれた。――否、自主的にはぐれたのはすぐにわかった。わかってしまって、リュカはつい口元を押さえる。
「……いや、まあ。探すよ。探すとも」
 反射的に出そうになったため息は、もう一度会ったときに取っておこう。
 かちゃり、愛用の銃に揺れる明星が僅かな音を鳴らして揺れた。
 銀灰色の耳も尻尾も見えやしないが、見つけられない気もしない。
「狼狩りは得意なんだ」

 ――くしゃみが出そうで出なかった。すっきりしませんね、とひとりごちて、晴夜は目当の『窓』に辿り着く。
「それにしてもリュカさん、どこに行ったんでしょうね。はぐれようとしなくてもはぐれるでしょう、これ」
 いい案を告げることなく実行してリュカの隣から何気なく離れた。その数歩後に振り向けば、リュカの姿も気配もなかったのだから、正しく迷宮と呼んで良いだろう。
 そんなことを考えながら夕焼けに浮かぶ格子窓をぐいと開けば、その先には陽に満ちた場所があった。どこか懐かしい気がする、ちいさな場所。そこにひょいと入り込んで、窓の戸は開けたまま晴夜は『いい案』を実行する。
「よし。それでは――『もういいよ』」
 瞬間。ドォン! と、耳を劈く雷鳴がすぐそばでした。
 さすがにぎょっとして耳も尻尾もピンと立ったが、それより夕闇の影から飛び出して来た敵の姿の多さにぎょっとした。
「……なんか想像以上に数が多いですね」
 まあ此処は安全らしいので大丈夫でしょうが。ええ大丈夫ですよ。
 つい引き攣った口元で呟いてしまう。だってどうしたって見えるのだ。
 我を忘れたような麒麟たちが、晴夜の声に釣られたように勢い良く駆けて来る。増える。
「いや、マジで多いですね!」
 咄嗟に指先から不可視の操り糸を放つ。絡み付いた糸たちは真っ直ぐこちらへ向かって来る麒麟の先頭の一匹を転ばせて、けれどもすぐ後ろから飛び出すのを、さらに動きを封じる。
(でもこれ、効果は一時的なんですよね)
 倒す術がない以上、足止め以外の何者にもならない。となればこの作戦の要は。

「リュカさん、まだですか! リュカさん!」
「……はあ。見つけた」
 リュカのため息と弾道は真っ直ぐ落ちて、格子窓に突撃しようとした麒麟を撃ち落とす。
 ゆっくりしたわけでもないが、途中からしっかり場所は把握できた。敵が一斉に一箇所を目指して走るのだから、尚のことだ。そしてそれは、格好の的でもある。
 一息に集まった敵たちを撃ち落とし、晴夜の糸が留めた場所を軸にして銃弾を降らせれば、一瞬のうちに雷の音が打ち消された。
「……で、お兄さん?」
 他の気配が来ないのを確かめてから、リュカは晴夜が隠れた格子窓に手を伸ばした。
 ぐりぐりぐりぐり。思い切り頬をつついてやる。
「俺に言うこと、ありますよね?」
 けれども、晴夜はリュカの真顔を真顔で見返した。
「なんですか。私が敵の動きを封じていたから撃ちやすかったと褒めてください」
「……心配するから、ほどほどにね」
 自信たっぷりな彼らしい言い分に、リュカは軽く肩を竦める。
 ああうん撃ちやすかったよ、えらいえらい。――投げやりな褒め称えに、そうでしょうと晴夜が胸を張って格子窓から出る。
 くだらないやりとりをしながら再び二人並べば、不気味な夕闇が少し和らいだような気がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

神代・凶津
ここが新世界『カクリヨファンタズム』か。
まさかUDCアースの隣にこんな世界があるとはな。
「・・・何だか不思議な世界だね。」
全くだぜ、相棒。
何はともあれ行動開始だ。
行くぜ、相棒ッ!

と、意気揚々に歩きだしたはいいが早速迷ってないかコレ?
オブリビオンも一向に見つからねえし。
「・・・確か、かくれんぼのルールに則ってば見付けやすいって。」
かくれんぼ、ねえ。
も~いいかいッ!ってか?
これで出てくるかねえ?

敵が来たら風神霊装を纏って戦闘開始だ。
破魔の力を込めた薙刀で攻撃だ。
敵のカウンターは見切って避けつつ逆にカウンター返ししてやるぜ。

この調子で進んで行こうぜ。


【技能・破魔、見切り、カウンター】
【アドリブ歓迎】




 赤い鼻緒の下駄で鳥居を抜ける。
 同じ鮮やかな赤の袴と艶やかな長い黒髪を揺らし、少女は未知の世界を見渡した。
「ここが『カリクヨファンタズム』か。まさかUDCアースの隣にこんな世界があるとはな」
 けれども先ず響いたのは、ぶっきらぼうな男の声。――それは、少女が両手に持った赤い鬼の仮面、神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)の声である。
 相棒たる少女、神代・桜は然程動かぬ表情のまま、こくりと頷いた。
「……何だか、不思議な世界だね」
「全くだぜ、相棒」
 懐かしいような気がする。ぽつりと溢すのは、実家である神社と今立つ社が似通った場所だからか。
 夕陽に染められた境内は、不自然にその奥を隠すように広い。けれども不思議と道らしい道は見当たらず、不規則に欄干や窓辺や橋が続いては、ふと思い出したように丸い格子窓が浮かぶ。
 美しく、どこか物寂しく、懐かしさを誘う。――やたらとその場に馴染む巫女装束の少女と凶津は暫し足を止めかけて、唐突な雷鳴を聞いた。
「……っ」
 咄嗟に武器に手を掛けて、雷鳴のしたほうを振り仰ぐ。その先に、社の屋根と炎のように揺らめく鬣を持つ獣を見つけて、瞬きひとつの間に見失った。けれども。
「……いるね。たくさん」
「ああ。何はともあれ行動開始だ。行くぜ、相棒ッ!」

 ふたりは道なき道を意気揚々と歩き出した。――までは良かったのだ。
 いつものように仮面である凶津を頭に付けて、気配を探り歩き行く。道がないゆえに欄干を、朽ちた橋を、影に浸かったような鳥居の側を。同じ景色をひたすら繰り出す社の奥を。
「相棒よ。早速迷ってないかコレ? オブリビオンも一向に見つからねえし」
「……気づくのが遅い」
「なんだとコラ」
「……確か、かくれんぼのルールに則れば、見つけやすいって」
「かくれんぼ、ねぇ」
 半信半疑のような声音で凶津は呟き、それじゃあ、と息を吸う。――仮面に息を吸うなんてことが必要かどうかはさて置いて、その間で桜が仮面を手に取って、前へ掲げるようにする。

「も〜いいかいッ! ……てか?」

 ぐわんと響いた凶津の声が、社のあちこちに響き渡る。不気味なほどに反響したその声は『合図』となって、まず大きな雷鳴が轟いた。振り向いたその夕闇の影から大きな獣が、麒麟が飛び出したのはそのときだった。
「行くぜ相棒ッ!!」
「――転身ッ!!」
 凶津と桜、二人の力が合わされる。少女の顔を覆った鬼の仮面がにぃと笑えば、荒れ狂う風と共に霊装を成し、手にするは薙刀。ごうと唸る暴風は禍々しくも鋭利な刃と共に敵を薙ぎ払う。
「まだ来るぜッ」
「……多いっ」
「いいじゃねえか、鬼さんこちらってなァ!」
 声に釣られて飛び出した麒麟たちは、あちらこちらから現れた。雷を招来し、撃ち落とし、暴れ来たる獣たちを、ふたりぶんの力を乗せた薙刀が破魔を持って薙ぎ倒す。
 迷宮めいた社の果ては見えずも、仮面と少女、合わせた力は衰えぬ。
「――さあ、この調子で進んで行こうぜ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

物部・九耀
【くろしろ】
ああ、懐かしいわね、おまえさま
私たちの社の周りで子供たちがやっていたわ
そうねえ
私たちはひとの真似事は得意でないわ、特にこういう戯れは
そう自虐をするのでないの
禍津の神でも、おまえさまは特別よ
ええ、仰せのままに
九耀はおまえさまの隣にいるわ

おまえさまの声には敵わぬけれど、わたくしも呼びましょう
そうそう、鬼になった子供もそう言っていた――「もういいかい」
おいでなさいな、怪異たち
不浄は、わたくしが全て押し流してくれましょう
おまえさまが楽しそうなのは良いけれど、そちらばかり構ってもらうのではずるいわ
水纏う神罰、【一撃必殺】の拳
かつての神威には届かずとも、皆、喰らって爆ぜてしまえばよろしいのよ


物部・出雲
【くろしろ】
ほォう、かくれんぼかァ!どう楽しもうなァ九耀よ
我らは所詮隠れるのが下手であろう。俺は声が大きいし、お前は神性があるしなァ
――、此度の手合いはあの裏切りの四つ足よ。そういうのには敏感かと思ってな
がっはっは!自虐でないとも
目立つのならば目立って気を引いてやろうというのだ
離れるなよ、九耀

呼び出してやろう、よくとどろく俺の声でな――「もういいかい」と
さァて、やってきたか
忙しない足音をよく聞いてやるとも

誰の赦しを得て我が愛しき半身を襲う
そう死に急ぐな四つ足。噫、望み通りに――派手に散らせてやろうぞ
光栄に思え。これぞ我が、【一撃必殺】であるッ!
ハッハー!盛大に暴れてやろう、俺の名を恐れよッ!!




 ――社は神を祀るもの。
 鳥居を潜り抜ける黒と白、二つの姿は混沌とした境内にやけに馴染んだ。
 意気揚々と肩で風を切る、黒い肌の男。淑やかな足取りでその傍らをゆく、白すぎるほど白い肌の美しい女。人の身に化けた二柱の夫婦神は、果てなく続く黄昏に佇む他所の社を見渡した。夕闇に、ぴりりと肌を刺すような殺気めいた気配が混ざる。
「ほォう、かくれんぼかァ! どう楽しもうなァ九耀よ」
 物部・出雲(マガツモノ・f27940)は遠慮もなしに大きな声を響かせた。それに驚くでもなく、物部・九耀(白水竜・f27938)は穏やかに微笑む。
「ああ、懐かしいわね、おまえさま」
 かくれんぼ。自分たちの社の周りで子供たちがやっていたのを、昨日のことのように覚えている。
 はしゃぎ回る足音も、賑やかな笑い声も、参拝の足音すら聞かなくなって久しいけれど。
「私たちはひとの真似事は得意ではないわ、特にこういう戯れは」
 ひととは常に、見守るものであった。その祈りに、信仰に応えて神威を顕す。神代と呼ばれたかつての頃は、神々がそこかしこに溢れていた。その中でも竜神と呼ばれた出雲と九耀は強大な力を誇り、対の龍として祀られた。――けれども始めからそうであったわけではない。
「ああ、我らは所詮、隠れるのが下手であろう。俺は声が大きいし、お前は神性があるしなァ」
 清きと悪しき、天が成した黒白の二対の龍の片割れたる出雲は、破滅を司る。その邪からイヅモ神は神ではあれど『竜神』として認められなかった。マガツモノとして、その力を得るまでは。
 生まれながらに竜神であった対、恵みの水を司る白龍とは異なると、誰より己が知っている。
「……そう自虐をするでないの」
 ほうとゆっくり息を吐いて、九耀は穏やかな声で夫を見上げる。澄んだ清流のような青の瞳がふと微笑んだ。
「禍津の神でも、おまえさまは特別よ」
 既に信仰は喪われ、神としての力は衰えた。九耀とて、一滴を大河に変えた白龍としての神性はないに等しい。けれどもだからこそ、この拳ひとつを堂々と握れる今も悪くはないと思う。
「――がっはっは! 自虐でないとも」
 出雲は呵呵大笑して、変わらぬ景色が続く社を進む。
「此度の手合いはあの裏切りの四つ足よ。そういうのには敏感かと思ってな」
「ああ、神鳴りの嘶きがうるさいことね。……けれど、おまえさまに勝るものではないでしょう」
 くすりと微かに笑う九耀の声に応える代わり、出雲口元が不敵に笑う。この声が、マガツモノとしての有り様が目を引くならば。
「離れるなよ、九耀」
「ええ、仰せのままに。九耀はおまえさまの隣にいるわ」

 ――雷鳴を遮るように、声がとどろく。『もういいかい』。
 ――とどろく声を追うように、涼やかな声が響く。『もういいかい』。

 楽しげな子供らの足音を、夕闇の向こうに聞いたのはいつか。
 代わりに響いて来るのは荒れ狂う妖たちの忙しない足音。それはまるで濁流が押し寄せるように、炎が野を駆け抜けるように黒と白目掛けて突っ込んで来る。瑞獣であったはずの麒麟は、その色ばかりは鮮やかで、けれども骸に呑まれて淀んでいるのもよくわかる。
「おいでなさいな、怪異たち」
 ふわり、嫋やかな白い腕を伸ばして九耀は麒麟たちを招く。その指先に、掌に。纏うは清き水の流れ。
「不浄は、わたくしが全て押し流してくれましょう」
 押し寄せる怪異を、白き龍は鮮やかなまでに殴り飛ばして。
「誰の赦しを得て我が愛しき半身を襲う」
 そう死に急ぐな、四つ足。黒き龍は底冷えする声と共に焔と握り込んだ拳を振り抜いた。
「臆、望み通りに――派手に散らせてやろうぞ!」
 麒麟たちと共に地面が抉れ、禍津の神は真髄たる破壊を掌に宿して、半身へ殺到しかけた麒麟たちを吹き飛ばす。呵呵と笑う声は変わらず大きく夕闇に響いた。
「……おまえさまが楽しそうなのは良いけれど、そちらばかり構ってもらうのではずるいわ」
 ふと僅かに不満げに、九耀が囁いてひょいと一歩前へ出た。振り下ろされるのは、水纏う神罰の拳。出雲の焔の拳と並べば、黒白焔水が渦を成す。それが、かつての神威には届かずとも。二柱の竜神は楽しげに瞳を交わして、並び立つ。

「皆、喰らって爆ぜてしまえばよろしいのよ。ねえ、おまえさま」
「ハッハー! よく言った九耀。いざ参ろう、盛大に暴れてやろう、俺の名を恐れよッ!」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

オズ・ケストナー
紅(f01176)と

あれ、クレナイ?
どこいっちゃったんだろう
さがそう
クレナイはかくれんぼがとくいだからきっとだいじょうぶ
クレナイの家の一面の彼岸花
全然見つけられなかったことを思い出して微笑む

ころんだ狛犬の影
木の上
さがしてもみつからない

もういいよ、が聞こえたら
わくわく駆けていく
クレナイ、みーつけたっ

おにさんがたくさんあつまってきたけど
クレナイといっしょだもの
うん、鬼退治しちゃおう

ガジェットショータイム
大量の小さな筒
引き金を引けば一斉に放たれる豆爆弾
あっ、おにはそと、だねっ
わ、クレナイはももだ
みんなありがとう

走りながら撃って相手の豆を回避
おにさんこーちらっ
回避できない時は武器受け
斧で豆を打ち返すよ


朧・紅
オズさん(f01136)と《紅》人格で

うや、オズさん?
はぐれましたです?

懐かしいのですね
僕のお家でやったかくれんぼ

見渡す限りの彼岸花
僕の色が溶け込んで
そうしたらほら
もうみつからないのです【丸い格子窓】

あの時みたいに探して下さってるでしょか
思い出してふふり

もういいよ

たんぽぽ色にふにゃり笑顔
みつかりましたぁ

ついでにおにさんもいっぱぁい釣れました
一緒におにさん退治しちゃいましょう!

わぁ、お豆さんばーんてすごい!
僕も!
ぅや!犬さん猿さん雉さん手伝ってくれるです?
そして手には…桃?
えーいと投げたらどどんとバクハツ
鬼退治~
一緒にぱたぱた駆け回り投げて
僕も敵からの桃爆弾はギロチン刃で打ち返すですよ!

そぉれ♪




「すごいのです、オズさん!」
「すごいね、クレナイ!」
 ぱたぱた、ぱたぱた。軽い足音が二人ぶん、鳥居を走って潜り抜けてゆく。
 オレンジの陽に鮮やかな赤髪とプラチナブロンドを透かして、朧・紅(朧と紅・f01176)とオズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)は満面の笑みを交わした。
 せーので飛び込んだ、初めてだのに懐かしいせかい。道をなくした社は、ぐんぐん鳥居を増やして伸ばして、朽ちた花が足元を埋めてゆくけれど。
 ふたりで走れば、躊躇うことなんてなかった。
 道なき道をこどもたちは駆けてゆく。夕闇、夕暮れ。もう帰らなきゃって、まだそんなことはない。

「……あれ、クレナイ?」
 やっと鳥居を抜け出して、いつの間にかいた境内の階段。けれど隣に、見慣れた姿はいなかった。
「どこいっちゃったんだろう」
 オズはぐるりと、辺りを見渡す。それでもやっぱりあの子はいない。
 オレンジ色夕陽に染まるの社は、ひとりきりで見渡せば随分広く感じてしまうけれど。
「さがそう」
 そう、探せばいい。昔みたいに。やるぞとぎゅっと掌を握り込んで、オズは再び進み出す。
(クレナイはかくれんぼがとくいだから、きっとだいじょうぶ)
 いつだったろう、あれはクレナイの家で。一面の彼岸花の中で遊んだ、かくれんぼ。
(ぜんぜんみつけられなかったんだ)
 彼岸花に溶け込んだ、きみのいろがとてもきれいで。
 懐かしくて、つい口元が緩んでしまう。キトンブルーの瞳が柔く笑って、なつかしいなあと呟いた。朽ちた花を、そっと飛び越える。
 ――ねえ、きみはおぼえているかな。

「うや、オズさん? はぐれましたです?」
 夕焼け色の社で、紅もひとりになったことに気づいた。
 辺りには影が深い色で落ちて、ぽつぽつと丸い格子窓が浮かんでいる。オレンジ色の景色の中に、見慣れたたんぽぽ色は見つけることができなかった。それでも。
(懐かしいのですね、僕のお家でやったかくれんぼ)
 そう、これはきっとかくれんぼと同じ。なら、きっと探してくれる。
(それなら、隠れる場所は)
 一番近くに見つけた丸い格子窓を開く。――その先には、『あのとき』と同じ、見渡す限りの彼岸花がある。その中に潜り込んだなら、色はすっかり溶け合った。
(あのときみたいに、探して下さってるでしょか)
 ふふり、笑う。思い出す記憶は、今でもとびきり楽しいものだ。あのときは見つけられることはなかったけれど。
「もういいよ」
 小さな声は、何処かへ響いた。

「!」
 不思議と聞こえたその声に、オズはぱあっと笑顔になった。
 転んだ狛犬の影を通って、木の上を跳ねて、欄干を駆けてその奥へ。きみの居場所。今度こそ!
「――クレナイ、みーつけたっ」
 彼岸花と同じ色。紅くてきれいなその中に探していた少女を見つけて、オズは満面の笑みを浮かべて。
「みつかりましたぁ」
 あかいろの中にひょこりと咲いたたんぽぽ色に、紅もふにゃりと笑う。
 けれど、やって来たのはオズだけではなかった。重なる雷鳴。蹄のおと。一斉に影から飛び出して来た麒麟たちに、ふたりは同じように口と目を丸くした。
「わわ。ついでにおにさんもいっぱぁい釣れました。オズさん、オズさん。一緒におにさん退治、しちゃいましょう!」
「うん、鬼退治しちゃおうっ」
 もうクレナイといっしょだもの、きっとできるね。ふわりと笑って、オズは大量の筒を喚び出した。引き金を引けば、パァン! と明るい音と共に、一斉に豆爆弾が放たれる。
「わぁ、お豆さんぱーんてすごい!」
「ふふ、おにはそと、だねっ」
「僕も!」
 きらきらと楽しげな声を上げて、紅も想像を巡らせた。おにさんこちら。鬼退治。――手には桃。
「ぅや! 犬さん猿さん雉さん、手伝ってくれるです?」
「わ、みんなありがとう。クレナイ、そのもも……」
「えーいっ、なのです!」
 懐かしくてうんと楽しげな想像で、思い切りよく投げた桃は、オズの豆爆弾と一緒になって、どどどんと爆発し、敵を吹き飛ばす。
「わ、すごいっ」
「鬼退治〜ですね。オズさん、行きましょう!」
「うん! おにさんこーちらっ」
 ぱたぱた、ぱたぱた。楽しげな足音がまた響く。呼ぶ声でまた弾けて、無邪気な子供たちは駆け回りながら鬼退治して、花咲くように笑みを交わした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

橙樹・千織
リルさん(f10762)と

帰り道だけじゃなく、道という道が全部…
ええ。館に必ず帰りましょう
迷子にならないように…(ならない自信は皆無
え?そうですねぇ
そうしてもらえると助かります

ふふ、かくれんぼだなんて何時ぶりかしら
頼りないかもしれませんが私もいますし、二人で隠れればきっと大丈夫ですよ

あぁ…やってしまった
隣にいたはずのリルさんが見当たらない
急いで見つけなきゃ
野生の勘を働かせ
耳をそばだて歌を、声を探しましょう

歌うような呼び声に表情を緩ませ
私も…みぃつけた

ふふふ、いつ聞いても美しい音
彼に手を出そうものなら容赦はしません
狙いを定め、まとめて刃の花弁でなぎ払いましょう

さぁさぁ、次に見つかるのはだあれ?


リル・ルリ
千織/f02428

游いで帰る道が無くなってしまったなんて
それでも僕は、館に帰るんだから
千織、はぐれたら大変だから迷子にならないように気をつけようね
そうだ、はぐれないように手を繋ぐ?

妖とのかくれんぼ
本当に隠されないようにしなきゃ
…僕は少し、かくれんぼは怖いんだよ

疲れたら丸窓に潜り込む
そこは優しい――桜の館の、陽だまりの中
帰る場所があるってうれしいな
もしもはぐれてしまったら、ここに隠れて居よう
中で歌ったら外の君にも聴こえるかな?

もういいかい、
歌うように呼んだなら
みぃつけた

水泡のオーラ防御で千織を守って
君へ鼓舞を込めて歌うのは『魅惑の歌』
動き縛って蕩かせて
さぁ、千織
今だよ!

まだまだ始まったばかりだ!




 まるで波が砂を攫うように、進んで来た道は喪われた。
 振り向けばそこにあるのは朽ちた花と影ばかり。――もう戻れないと、深い影が告げるようで。
「……游いで帰る道がなくなってしまったなんて」
 ふわりと月光の代わりに夕焼けのオレンジに透ける尾鰭を揺らして、リル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)は澄んだ瞳を瞬かせた。
「帰り道だけじゃなく、道という道が全部……」
 これが、世界の終わりの始まり。橙樹・千織(藍櫻を舞唄う面影草・f02428)はぽつりと呟いて、いっそ穏やかにさえ見える景色を見渡した。夕闇の社は何処か懐かしい気さえするけれど、帰る場所がそこにないのは確かなことだ。
「それでも僕は、館に帰るんだから」
 今は戻れぬ道を見返るのをやめて、リルは果てなく続く迷宮めいた社の奥を見据えた。そのはっきりとした意思の強さに、ゆっくりと千織も微笑む。
「ええ。館に必ず帰りましょう」
 ――あのいとしい春に満ちた館へ、きっと。
 そうして二人は並んで進み始めたところで、ふとリルが千織のほうを見やった。
「千織、はぐれたら大変だから、迷子にならないように気をつけようね」
「え?」
「うん?」
 迷子にならないように。勿論この場でそれが重要なことであるのは千織とて理解している。はぐれたら再び会うのは難しいとさえ聞いたのだから。けれども。
(ならない自信がない、だなんて)
 言っても良いものでしょうか。つい真顔で考え込んででしまう。方向音痴を甘く見ないで頂きたい。迷うつもりがなくたって迷ってしまうのがそれなのだ。
「そうだ、はぐれないように手を繋ぐ?」
「……そうですねぇ、そうしてもらえると助かります」
 一緒に帰ろうね、と。リルから示された提案に千織は微笑んで、差し出された手を取った。
 社の奥は、同じ景色が連続しているようだった。同様にやはり道はなく、ぽつぽつと夕闇のところどころに丸い格子窓が浮かんでいる。敵の気配はそこかしこに満ちていて、けれど姿かたちは見えない。
「ふふ、それにしてもかくれんぼだなんて、何時ぶりかしら」
「千織は、よくやっていた? ……僕は少し、かくれんぼは怖いんだよ」
 リルが僅かに小さくなる声で、囁きを落とす。それに千織は柔らかく微笑んで繋いだ手を握り直した。
「頼りないかもしれませんが、私もいますし、二人で隠れればきっと大丈夫ですよ」
 ――そう、思っていたのだけれど。

「あぁ……やってしまった」
 何も握ってはいない片手を見つめ直して、千織は深く息を吐いた。
 月光ヴェールのきらめきは、見渡す限りの誰そ彼にない。すっかりかの人魚の気配が消えてしまっている。
(急いで見つけなきゃ)
 ピンとヤマネコの耳を立て、神経を研ぎ澄ましてその気配を――歌声を探す。
 きっと。きっと彼ならばあの歌声で教えてくれるはずだと、そう確信めいた信頼が、確かにあった。

「……あったかいな」
 千織と何時の間にかはぐれてしまって、ひとり、妖とのかくれんぼ。それにリルが疲れてしまうのは、思ったよりも早かった。
 安全だと教えられていた、入り込んだ丸い格子窓の中には、陽だまりに満ちた桜の館があった。
 大好きな、リルの帰るべき場所。帰りたい場所。――嗚呼、ここでなら。
(歌ったら、外の君にも聴こえるかな?)
 ――もういいかい。もういいよ。
 歌うように、呼びかける。懐かしい旋律と、初めての旋律に混ぜるように。
 瞬間、雷が大きく鳴いた。けれど気にしなかった。人魚はどこまでも澄んだ透徹の声で歌をうたう。
「……ふふ、みぃつけた」
 からり、格子窓がそうっと開く。先んじてリルが言ってしまえば、そこから覗いた千織が、ほっとしたようにゆるりと笑った。もう一度子供のように手を繋いだら、優しい場所から人魚はするりと抜け出して。
「私も、みぃつけた」
「また会えてよかった、千織。他のたくさんにも見つかってしまったようだけれど」
「あらあら。そうですねぇ。ならこちらも見つけてあげましょうか」
 微笑んで、千織は手に馴染む薙刀を構える。リルが頷く代わりに歌い出せば、きらきらと美しい水泡のオーラが千織を守った。響き出した歌声は、敵の荒ぶりを蕩かすように。
「さぁ、千織、今だよ!」
「えぇ、参りましょうか。彼に手出しするなら、容赦はしません」
 美しい歌声が響き、刃の花弁が舞い踊る。――演目は、まだまだ始まったばかりだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

誘名・櫻宵
かくれんぼ、ねぇ
懐かしいわ
と言っても、私と遊んでくれるトモダチなんて
昔は居なかった
専ら怒り狂った父から隠れてまわっていた気がするわ
逃げ込み隠れる場所はいつも師匠のいる山だった
帰れなくなっては困るわね
丸窓の中は
あたたかな春が咲く私の館、中庭の光景
―私には帰りたい場所がある

遊びましょ!
もういいかい?
踊るようにかけて
みぃつけた
首をはね四肢を薙ぐ
斬撃這わせて蹂躙し破魔宿らせた衝撃波を思い切り放ちなぎ払い
傷を抉って確実に仕留めていくわ

あなたは美味しいかしら?たんと食べて(生命力吸収)あげる
「朱華」
桜咲かせ加速し斬り咲き殺してあげる!
見切り躱せばすかさずカウンター

もういいかい
まだ隠れんぼは終わってないわ




 よく知った歌声が、誰そ彼のどこかで響いているような気がした。
 気のせいかしら。小さく笑って、誘名・櫻宵(貪婪屠櫻・f02768)は延々と続く混沌の社を改めて見つめた。その影に潜みかくれている妖の気配に、気付けぬはずもない。
「かくれんぼ、ねぇ」
 懐かしいわ。呟いた声は夕闇に溶ける。
(と言っても、私と遊んでくれるトモダチなんて昔はいなかったけれど)
 そういう遊びがあるのだと、知ってはいた。誰かと遊ぶ、かくれんぼ。無邪気に誘う声も、楽しげに頷く誰かも、あの頃は。
「帰れなくなっては、困るわね」
 気まぐれに覗いた、ぽつりと浮かぶ丸い格子窓には春を擁する館があった。――あたたかな春が咲く、私の館。
 ――さよ。
 ――櫻宵!
 ――櫻宵さん。
 ――櫻宵?
 賑やかな声が。友の声が。失いたくないその場所が。
(私には、帰りたい場所がある)
 子供の頃のように、隠れ回る必要はない。怒り狂った父はここにはおらず、師匠の山に逃げ込むように隠れた子供も、ここにはいない。

「さあ、遊びましょ! ――もういいかい?」
 夕闇の影で刀を抜いたなら、飛び出して来た麒麟の首をぽんと撥ねた。
 踊るように真っ赤な欄干を駆けて、うねる橋を越え、さらに顔を見せた荒ぶる者たちに衝撃波を叩き付け、薙ぎ払う。
「みぃつけた」
 逃げ場所なんて何処にもない。目前に身を踊らせたあなたが悪いわ。
 くすくすと櫻宵は笑い零して、集う四つ足の四肢を舞うように落としゆく。
「ねえ、あなたは美味しいかしら?」
 桜獄の大蛇は笑って笑ってあぎとを開くように刀を振り下ろす。夕闇に桜がぶわりと散れば、そのいのちは私のもの。
「咲き殺してあげる!」
 楽しげに、愉しげに。荒ぶるものを桜に変えて。――狭間で聞こえた歌声が、ほんとうならば尚のこと。
「――もういいかい。……おいでなさい? まだ隠れんぼは終わってないわ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント
◆SPD
昔はよく遊んだものだ
まさかオブリビオンとかくれんぼをする事になるとは思わなかったが

視覚と聴覚で辺りの様子を探る
ユーベルコードの効果も利用して周囲を警戒、包囲や不意打ちを防ぎたい
敵が見当たらなければ、素直に“かくれんぼ”に付き合ってやる事にする
かくれんぼの鬼は得意だったが…さて、オブリビオン相手ではどうだろう
「もういいかい」と呼び掛け、歩きまわって探してみる

オブリビオンが出てきても、「みつけた」では終わらないようだ
銃を構えて、攻撃を開始する
妖怪を救出する事を念頭に置いて、あまり無駄に傷を付けないように意識
骸魂を狙って手早く、囲まれたり、逃げられてかくれんぼが鬼ごっこになる前に片を付けたい


箒星・仄々
懐かしい世界に懐かしい遊びですけれど
道の概念が失われるとは剣呑です
世界滅亡を防ぎましょう

「もういいかい」と同時に
魔法の迷彩纏い夕暮れに溶けて

忍び足で位置取りしたら迷彩解除
「見いつけた!」
弦や剣に属性魔力を宿し攻撃

翠の音や花萌の刃:風
緋の音や銀朱の刃:炎
蒼の音や紺碧の刃:水

遠距離⇔近距離と縦横無尽に立ち回り
三魔力の旋律や剣戟で畳みかけ
災厄のオーラを吹き飛ばし滅します

麒麟さん
貴方も骸魂に呑込まれたのでしょうか
お可哀想に
今お助けします

旋風纏い回避
激流や業火の盾で防御
集団に囲まれた時には一旦格子窓へ
冬の炬燵でぬくぬくして英気を養います

事後
麒麟さん方をお助けできなかった時は
鎮魂曲を奏でます




 夕焼け色がやけに懐かしい。
 社を飾る赤は鮮やかすぎるほど鮮やかな赤なのに、それを染める夕焼けに踏み込んでしまえば、僅かに子供の頃に戻ったような錯覚が過ぎった。
「昔はよく遊んだものだ」
 シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は頭を軽く振ってその錯覚を追いやると、愛用の武器の場所を指先で確かめる。
「まさかオブリビオンとかくれんぼをすることになるとは思わなかったが」
「――ええ、本当に。懐かしい世界に懐かしい遊びですけれど。道の概念が失われるとは剣呑です」
 シキが見渡した視界の中で、ひょこりと現れた小柄な影があった。
 艶やかな黒い毛並みに、大きな帽子。ケットシーだと一目でわかる箒星・仄々(ケットシーのシンフォニア・f07689)は、紳士然としてそこに立ち、目的を同じとする猟兵たるシキにつぶらな瞳を向けた。
「世界滅亡を防ぎましょう」
「それが仕事だ」
 大小ふたつの影が夕闇を駆ける。
 小さなひとつ。仄々の影は景色に紛れるように迷彩を纏い夕暮れに溶けた。
 大きなひとつ。シキは研ぎ澄ました感覚で、辺りの様子を注意深く探ってゆく。――潜む気配は数多。けれど出てくる様子もない。
「……やはり、このままでは何も出て来ないか」
「そのようですね」
 ならば手段は、ひとつしかない。
「もういいかい」
 景色に溶けた仄々の声。
「……もういいかい」
 備えを充分に取った、シキの声。
(かくれんぼの鬼は得意だったが……さて、オブリビオン相手ではどうだろうな)
 そうシキが考えかけたのと同時に、雷鳴が耳を劈いた。
 思わず仄々もシキも息を呑む。――聴覚に優れたふたりの耳は、荒ぶる麒麟の嘶きがはっきり届いた。
「見いつけた!」
 飛び出した麒麟の隙を狙うように、仄々は身を隠していた迷彩を解く。同時に魔法剣に属性を乗せれば、翠の刃が風を呼ぶ。
「こちらですよ、麒麟さん」
 翻弄するように、仄々はあちらこちらへ身軽に飛び回る。迷宮と化した社は、動きを読まれぬようにするのには丁度良い。
「貴方も骸魂に呑まれたのでしょうか。お可哀想に」
 仄々が魔法剣から竪琴に持ち替え、緋色の弦を弾けば、炎がたちまちそのたてがみごとを呑み込んだ。
「今、お助けします」

 ――やはり、『みつけた』だけでは終わらないらしい。
 何処から湧いてくるのかと思うほど飛び出して来る麒麟たちを正確に撃ち抜きながら、シキはその脚を主に狙う。
 骸魂に呑まれた妖は救出できるのだと聞いた。それならば、無駄に傷つける必要はない。
 銀色の狼耳を真っ直ぐ立てて、飛び出して来るタイミングを正確に測る。引き金を引く。
 片は手早く付けるに限る。かくれんぼが鬼ごっこになってしまうその前に。
「そちらに一体!」
「了解した」
 仄々の声が真っ直ぐ飛んで、シキが寸分違わず麒麟を撃ち落とした。
「まだ来るか」
「ええ、残念ながら団体さまです」
「ならば全て、片付けよう」
 かちゃり。シキは銃を持ち直す。仄々の魔法剣にも蒼き水の魔力が宿れば、その銃口と切っ先は、夕闇から出ずる者たちへ再び向けられた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

疎忘・萃請
黄昏時を、歩く
一本下駄をカラカラ鳴らして探しに行こう

もういいかい
身の丈ほどの斧を携え問いかけよう
みぃつけた、みぃつけた
オマエも寂しかったのか?
大丈夫、見つけたぞ
アタシはここに
オマエもここに
見つけるのは得意なんだ
鬼だから
捕まえるのも得意なんだ
鬼だから

ほら捕まえた
オマエは殺生を嫌うとても優しい妖怪だ
美しいから、羨ましいよ
サヨナラサヨナラ
此処ではない何処かでまた会おう
また見つけてやるからな

斧を振りかぶり、その巨躯を穿つ
こんな幼い見た目だが、なかなかだろう?
それじゃあ、またな

もういいかい、もういいかい




 からから。からから。
 黄昏を歩く足音にしては、それは随分相応しかった。一本下駄が鳥居を越える。
 道なき道のその奥へ、小柄な影が大きな影を引き連れる。
「もういいかい」
 疎忘・萃請(忘れ鬼・f24649)は身の丈ほどの斧を携えて、ひとりぽつりと声を投げやった。
 ――瞬間、とどろく雷鳴に、謳うように下駄が鳴る。
「みぃつけた、みぃつけた」
 飛び出して来た麒麟を萃請の斧が薙ぎ払う。何故かしら、骸魂に呑まれたその存在。
「オマエも寂しかったのか? 大丈夫、見つけたぞ」
 忘れられた鬼は言う。恐れすら抱かれぬ鬼は笑う。
「見つけるのは得意なんだ」
 ――鬼だから。
「捕まえるのも得意なんだ」
 ――鬼だから。
 からり、下駄の音が社に響く。うねり、拗れて二度と帰れない、迷宮と化した社を小さな鬼がゆく。

「ほら、捕まえた」
 飛び出したその姿を、目に焼き付けるように萃請は見つめる。
 炎のようなたてがみに、鮮やかな四肢と、瑞獣たるその四つ足。
「オマエは殺生を嫌うとても優しい妖怪だ」
 美しいから、羨ましいよ。呟く声は、何よりの。――振りかぶる斧は、確実に。
 サヨナラサヨナラ。紡ぐ挨拶は、同胞に近しい者へ向けての餞に。
「此処ではない何処かでまた会おう。また見つけてやるからな」
 斧で穿つ。その手応えを確かに感じて、呼び寄せた麒麟たちを呑まれたものから叩き出してゆく。
「……こんな幼い見た目だが、なかなかだろう?」
 鬼だから。
 また紡いで、萃請は社の奥へさらに進んでゆく。
 からから、からころ。下駄を鳴らして。――もういいかい、もういいかい。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
やれ、ジジは何処に行ったか
『道』がない――斯様に面倒なものだったとは
疾く見つけねばならん、が
幼き頃の様に拗ねなければ良いが
肩を竦めるも笑声は殺して

奇襲に備え、周囲を警戒
溜息すら零れる状況だが、やる事は決まっている
――『もういいかい』
敵が動けば透かさず魔方陣を展開
高速詠唱の【雷神の瞋恚】で広範を穿てば
動き程度は封じられよう
ふふん、雷の扱いならば私も心得ておる
オーラ防御で、破魔で落雷の威力を削ぎつつ
不意に耳を打った従者の声に、先を急ぐ
幾ら群れを成して襲って来ようとも
合流が叶えば我等の敵ではない
限界迄範囲を広げた神罰にて、灸を据えてやろう

…さあ見つけたぞ、ジジ
此度も私の勝ちだな


ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と
…さて、逸れた師父は何処へ行ったのやら

心配は要るまい
何しろ何処に隠れても
必ず師父は俺を見つけてしまった故

古い建物の影、柱の隙間
または縄の掛かった大きな樹の洞
身を縮められる場所へと滑り込む

傍らに、ふと見出す丸い窓
格子の間に木洩れ陽差す
いつか潜んだ、幼い手による『秘密基地』
――要らぬよと手ひと振り
微かに届く慣れた声に、「もういいよ」
雷の気配に【星守】を
麒麟らがこちらに意識を向ける裡に
星が辿り着けるよう

素早く防御解けば戦列へ
師へと標的移した連中を打ち据える
大人しくせよ、じゃじゃ馬ども
師へは寄せた眉で応え
うむ、その得意顔でなければ敬服したところだ

…冗談だ
みつけてくれて、ありがとう




 ――夜がため、夕闇は影を濃くするものぞ。
 けれども道を失った社に満ちる黄昏はまるで夜を知らぬもののように、夕闇をいたずらに引き伸ばす。
 軽い足音で真っ赤な鳥居を抜けたのは、アルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)だった。星宿す瞳は辺りを見渡し、夕暮れの知らぬ黎明を髪に揺らして、軽く息を吐く。
「……やれ、ジジは何処に行ったか」
 道なき道は視界を変えるごと景色を繰り返していた。果てのない社は境内の奥へ至ったと思えばまた延々と鳥居を潜らせて、真っ赤な欄干を立ち並べ、かと思えば不意に影に浮かぶ格子窓をぽつりと浮かべる。
 見慣れた夜色――ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)を不意に見失ってしまってから、その姿はとんと見当たらなかった。
(疾く見つけねばならん、が)
 『道』の概念がないとは斯様に面倒なものか。これではまるで、子供が手遊びに組み上げた玩具の箱庭のようだ。
 ふと脳裏に過ぎるのは、双つ星の森で探した幼子の面影。
(幼き頃のように、拗ねなければ良いが)
 つい音もなく笑みが零れた。もう、秘密基地に隠れる小さき子はここには居るまいに。
「……かくれんぼ、か」
 アルバは呟いて、笑んだ唇を綺麗に結んだ。見渡せば溜息ばかりが大きくなるが、やることは決まっている。
 そこかしこ、漂う敵の気配に意識を向ける。夕闇に潜む影は数多。その何処から現れてもおかしくはない。
「――『もういいかい』」
 刹那、雷鳴が耳を劈いた。同時に飛び出してくる気配に一息も置かずに魔法陣を展開する。
 荒ぶる神の如くに飛び出した麒麟の鮮やかな体躯を、雷が穿った。ひとつ、ふたつ。いくつもの。天から落ちる雷は、同じく雷を纏う麒麟のそれすら叩き落として。
「ふふん、雷の扱いならば私も心得ておる」
 得意に笑えば、アルバはひょいと欄干の上を駆ける。耳を澄ます。
「少し静かにせよ。声が聞こえないだろう」

 オレンジ色の夕焼けを縫って夜が進む。
 歩けど、進めど、道はない。ただ伸びる影ばかりが深い色で足元にある。
「……さて、逸れた師父は何処へ行ったのやら」
 長い手足を影に潜めて、知らぬ場所を探索するように再び歩き出しながら、ジャハルはぽつりと呟いた。
 敵が潜む気配は色濃い。けれど心配は要るまいと、確信めいたものがあった。
(何しろ何処に隠れても、必ず師父は俺を見つけてしまった故)
 幼い頃、もっと身体が小さくて、星かたりを聴かせて貰っていた頃。
 絶対に見つからぬと思った場所に入り込んでも、必ず見つかった。――それが遅いと少し不満でさえあった。
「……あれは」
 ふとジャハルが目の前に見つけたのは、丸い格子窓。道なき影のその上に、ぽかりと浮かんだその窓は、覗けば懐かしい景色が見えた。
 森の奥、木漏れ陽差す『秘密基地』。幼い手できれいなものを集めて、並べて。迎えに来る見つける声に駆け出した。懐かしい場所に、瞳が僅かに和らいで。
「――要らぬよ」
 けれど、手を振った。そこに逃げ込む幼子は、もうここにはいない。
 そのときだ。何処かから耳慣れた声がした気がした。――『もういいかい』。
「『もういいよ』」
 ジャハルは秘密基地に背を向けて、夜灯しの瞳を夕暮れの向こうへ向ける。
 自らの声に被せるような雷の嘶きが落ちた刹那、全身に竜鱗を纏った。呪詛が模るそれは紫黒を纏い着かせて四肢の動きを阻害する。けれども決して麒麟たちの攻撃を通しはしない。
 影から飛び出して来る麒麟らの、その数の多さはなかなかのものだ。けれども打ち据える雷を跳ね返し、ジャハルは駆けて来るその星を待つ。

「――さあ見つけたぞ、ジジ」

 ふわり、夕闇に鮮やかな蒼き星が輝く。見慣れた姿、声。――懐かしいその言葉。得意満面なその表情すら。
「此度も私の勝ちだな」
「……うむ。その得意顔でなければ敬服したところだ、師父よ」
 軽い足音が並べば、当然のように背中を合わせて主従は並び立つ。ジャハルが寄せた眉で返して、防御を解いた。ほとんど同時に、群れをなして突っ込んで来た麒麟たちをアルバの雷が、ジャハルの拳が打ち据える。――いくら数が勝ろうが、ふたりであれば敵ではない。

 冗談だ、と。拳を握り直す僅かな間で、ジャハルは師に囁いた。その得意な顔すらきっと待っていた。いつかの小さき子供のように。
「みつけてくれて、ありがとう」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

尾白・千歳
さっちゃん(f28184)と

かくれんぼだって!懐かしいね~
もう!子供じゃないんだから迷子になんてならないよ!
さっちゃん、遅いよー!早く!
遊ぶのは後!

覚悟を決めたら、大きく息を吸って
もういいかーい!って叫ぶの
わぁ、いっぱい出てきちゃったよ!?
どうしよう、さっちゃん!?
あ、そっか、攻撃すればいいのか
さっちゃん、そこ邪魔!どいて!
【骸合体「ヤマタノオロチ」】で攻撃しつつ
きゃーきゃー逃げ回って
ふぅ、逃げ切れたかな
えー!?私と同じ術がどうして使えるの!?
ズルーい、私、いっぱい練習したのにー…(ぶーぶー
いいもーん、私、諦めないもん!

…最後のヤツ、さっちゃんが横取りした!
もぅ!私がとどめさしたかったのに!


千々波・漣音
ちぃ(f28195)と

おい、ちぃ、迷子になってオレの手煩わせんなよ
(幼馴染が逸れないか実は内心超はらはら)
手、とか繋げば…迷子にならねェんじゃね?(ちら
って!もうめっちゃ先に!?待てってばよ!

ちぃと一緒に、もういいかい!
めちゃ出てきたな!?
でもオレにかかれば何て事ねェ(ドヤ
ちぃ、オレの後ろに…って、はァ!?邪魔ァ!?
ちょろちょろすんなよな!?
隠れとけって言っても聞かねェだろうし…
体張ってちぃ全力で守り、頑張る姿にさり気にフォロー入れつつ、バス停ぶん回す!
オレの方が神としての格は上だ
神罰を受けろ!(UC

ふふん、オレの力を見たか?(ちら
って、フォローしたのに、なにその理不尽!?
いつもの事だけどな…




 ぴこり、大きな狐耳が好奇心いっぱいに鳥居を潜る。
「さっちゃんさっちゃん、かくれんぼだって!」
 住み慣れたこの世界が危機に陥ることは割といつものことで、尾白・千歳(東方妖怪のどろんバケラー・f28195)はすっかり慣れた心地で滅亡を始めた社の迷宮に足を踏み入れた。
「懐かしいね〜」
「おい、ちぃ。迷子になってオレの手煩わせんなよ」
 無邪気な少女を追うように踏み込んだのは、バス停を担いだ青年だ。千々波・漣音(漣明神・f28184)は『漣神社前』と書かれた、決して軽そうではないそれを当然のように片腕で担いで、ぶっきらぼうな物言いで千歳を数歩遅れて追う。――不遜な物言いに反して、その内心は落ち着きがないのだが。
「もう! 子供じゃないんだから迷子になんてならないよ!」
 さっちゃんのいじわる! 幼馴染たる漣音の一言に、千歳はぷすーと膨れてしまう。
(何それかわいい。て言うかホント逸れるなよな)
 口には決して出さないが、楽しげな足取りで進もうとする千歳が迷子にでもなったら。そう思えば漣音としては落ち着くはずもなかった。そう、そして迷子にさせないために。頼もしい理由がここにある。
「手、とか繋げば……迷子にならねェんじゃね?」
 ちらっ。――と、すぐそこにいる幼馴染を窺ったところで気づく。
「さっちゃーん! 遅いよー! 早くー!」
「――って! もうめっちゃ先に!? 待てってばよ!」
 手とか繋ぐどころではなかった。秘めた恋心を寄せる幼馴染みの少女は、本当に目が離せない。

 道を喪った社の中は、想像以上に入り組んでいた。背筋がざわざわするような気配がたくさんあるのに、姿はひとつもありはしない。
「聞いた通り、呼ばねェと出て来ないだろうな。――神鳴りの音、多分麒麟だろ」
「そうなの? じゃ、じゃあ一緒に言おう、さっちゃん」
 漣音の見立てに覚悟を決めて、千歳はすうっと大きく息を吸う。せーの、の代わりに瞳を交わせば。
「もういいかーい!」
 叫んだ声はふたりぶん。――瞬間、響いた雷鳴はいくつもの。夕闇の影から、隠れていた麒麟たちが二人目掛けて駆けて来る。
「わっ。わぁ、わぁ! いっぱい出て来ちゃったよ!」
「めちゃ出て来たな!?」
「ど、どうしようさっちゃん!」
 一気に迫る荒ぶる妖たちに千歳は一瞬慌てるけれども。漣音もちょっと驚いた程度に出て来たけれども。
「――でもオレにかかれば何てことねェ、ちぃ、オレの後ろに、」
「あっ、そっか、攻撃すればいいのか。さっちゃんそこ邪魔! どいて!」
「ってはァ!? 邪魔ァ!?」
 切り替えの早い千歳がぴょんと身軽に飛び出す。宿すのはヤマタノオロチ。どろんと大きく化けて麒麟たちを追い払おうとする、けれども。
「きゃー! やっぱり多いよう!」
「だから言ったじゃねェか、ちょろちょろすんなよな!?」
 囲まれそうになる千歳を守るべく、漣音はバス停を勢い良く振り回す。
 猛る麒麟は瑞獣――竜神と同じ、神の末端。
「だがオレのほうが神としての格は上だ。神罰を受けろ!」
 派手にバス停がクリティカルヒットを決めれば、麒麟たちはいとも容易く吹き飛んでゆく。
 一先ず押し寄せた敵が引いたのを見てとって、漣音はバス停をガンと鳴らしてその場に立てた。

「ふふん。オレの力を見たか、ちぃ?」
「さっちゃんズルーい!!」
「はァ!?」
「私だっていっぱい練習したのにー! さっちゃんが最後のヤツ横取りした! もぅ! 私がとどめさしたかったのに!」
「ちょっ、フォローしたのになにその理不尽!?」
 ぶーぶーと文句を言う千歳には、けれどどうやら怪我のひとつもない。それを見て取りながら、漣音は深々と溜息を吐いた。
「いつものことだけどな……」
 ――これが幼馴染みふたりの、いつも通りである。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

蘭・七結
ナハトさん/f01760

かくりよ
初めて降り立つ世界に心が踊るよう
かくれんぼは、すきよ
追うも追われるも、こなしてみせるわ

鬼はわたし
十までを七度、数えるわ
どうかよい場所に隠れてちょうだいね
ひ、ふ、み――
なな、や、この、とお

もう、いいかい

もういいよが聞こえずとも
あなたを見つけに往きましょう

嗚呼、あなたは隠れるのがお上手ね
彼方へ此方へと視線を移ろわせる
あなたから贈られた栞を握りしめて
眸を伏せ、耳を澄ます
彼方の方かしら?
栞の導きのままに歩みを寄せる

ナハトさん、みいつけた

どうやら遊んでほしい子がいるよう
もう少しだけ遊びましょうか
喚び起こすのは黒鍵の刃
あなたと立ち並ぶのは久方ぶりね
その後ろは任せてちょうだい


ナハト・ダァト
ナユ君/f00421

幽世…
隣接すル、顕出とハ異なル世界、カ…
訪れるのハ当然初めテだガ
まさカ、遊戯ヲするとハ

知識トしテあるだけデ
経験ハ無イ
しかシ、潜むコツは知っテいるヨ

気配を溶け込ませ、影に潜み
格子窓を見つけて
「もウいいヨ」

呟くと同時に、窓の中へ

花畑、かナ?

広がるのは暗い聖堂
憶えは無い
けれど、馴染みのある場所と感じ

「啓示」…ハ、無かったカ

自ら捨てた導を思い出し、説明のつかない感覚になりかけた所で
首飾りに触れ

約束ハ、会ったネ

改め直した所で探しに来た少女の気配を察知
窓の外へと繰り出し

やレやレ、しかシ
思イの外、経験ヲ得られたヨ

幽なル獣達
遊ぶにハ、加減ハ要らないネ
でハ、大地ガ私ノ領分ダ
任せ給エ




 懐かしい気配がする。――けれどそこは、間違いなく始めての世界。
 鳥居は無尽に続く道なき迷宮の門。社は果てなき迷い路へ。
「……かくりよ」
 ここが。とんと降り立った世界の地を、紅い爪先が確かめる。夕闇に柔く馴染む長い髪を揺らして、蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)は心躍らせて、共に来たひとを振り返った。
「かくれんぼは、すきよ。……あなたは?」
 そこにいるのは、夜を吸い上げて光を宿したような、漆黒のブラックタール。揺れるローブの奥でナハト・ダァト(聖泥・f01760)は首を傾ぐようにした。
「知識トしテあるだけデ、経験ハ無イ。……しかシ、潜むコツは知っテいるヨ」
「ふふ。なら、鬼はわたし。十までを七度、数えるわ。どうか良い場所に隠れてちょうだいね」
 かくれんぼ。それに則ったほうが良いと言うのなら、あそびましょう。
 ナハトが動き出したのを見送って、七結はゆっくり目を閉じた。
「ひ、ふ、み――」
 約束通り、数え始める。一度、二度、くりかえし――七度目は。
「なな、や、この、とお」
 数えてしまえば、すぐのこと。気配はとうに遠くて、目を開けば夕焼けが少し眩しい。

「もう、いいかい」

 ――もウいいヨ。

 その声がどこかから聞こえた気がして、七結は軽い足取りで踵を返す。
 何処かで鳴る雷の音は聞かぬふり。だって、探すべきひとがいる。
(あなたを見つけに往きましょう)

 隣接する顕出とは異なる世界。幽世、と名付けられたこの世界には、ナハトも初めての訪れだった。
(まさカ、遊戯をするとハ)
 背に聴こえていたはずの、七結の数える声が聞こえなくなる。それに気づきながら、ナハトは影にするりと潜み進む。
 その先で影にぽかりと浮かぶ、丸い格子窓を見つけた。――ここならば。
 数える声は、既に聞こえない。もしかすると迷宮に囚われたやもしれない。けれど声が聞こえた気がした。『もういいかい』と問いかける、彼女の声。
「もウいいヨ」
 答えると同時に、窓の中へ滑り込んだ。
(花畑、かナ?)
 そこには、薄暗い聖堂があった。憶えは無い。けれど、やけに馴染みのある場所である、そんな気がした。
(『啓司』……ハ、無かったカ)
 自ら捨てた導を思い出せば、説明のつかない感覚に襲われそうになる。――けれど。
 ふと触れた、首飾り。金の鎖と、紅い花。甘い香りはそこに、未だ絶えずある。
「約束ハ、あったネ」
 ふと、外に気配を感じたのはそのときだ。

「――ナハトさん、みいつけた」

 からり、窓を開けた先。ナハトは柔らかく笑う少女に見つかった。
 七結は夕闇に淡く微笑む。
「嗚呼、あなたは隠れるのがお上手ね。あなたから贈られた栞がなければ、きっと迷ってしまっていたわ」
 あちら、こちら。何処も彼処も懐かしい気配を纏うこの世界。影に引き摺られないよに、手にした栞を手掛かりにして。
「さあ、往きましょう。どうやら遊んでほしい子がいるようだから」
「やレやレ、忙しなイ。しかシ、思イの外、経験ヲ得られたヨ」
 するりと窓から外へ繰り出せば、雷鳴が夕闇を裂く。七結が指した、遊んでほしい子はあれかと察する。
「幽なル獣たち、遊ぶにハ、加減ハいらないネ」
「ええ。もう少しだけ、遊びましょうか」
 荒ぶる者へ、七結は黒鍵を抜く。刃たる鍵はかたりと鳴って、黒き縁を刻むように。
「……あなたと立ち並ぶのは久方ぶりね。その後ろは、任せてちょうだい」
「でハ、大地ガ私ノ領分ダ。任せ給エ」
 背を合わせ、向かい来る麒麟の群れに腕が伸ばされる。きざんで。
 微かな謳うような七結の声に重ねるように、ナハトの喚んだ樹が地に根を張り、力を渡す。道なき道で、決して彷徨わぬよう。
 雷鳴の瑞獣は黒鍵に導かれるように嘶きをあげ――その骸魂を弾き出された。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

境・花世
綾(f01786)と

薄闇にはぐれた手が空っぽで落ち着かない
迷子になったのはきみかわたしか、
一体どちらだったろう?

考えたってやることはひとつだけ
鳥居の影から怖れもなく飛び出して、
妖よりも速くかろやかに駆けてみせよう

もういいかい、花びらで敵を包んで
もういいかい、扇から放つ風で転ばせて

現れる敵を無力化しながら鳥居の先へ
暗がりを見透かす眸で、
確かにきみの足跡を辿る

もういいかい、もういいかい、
ほら、そこにきみの彩
夜目にも美しい花嵐の向こう側
全力で敵をかき分けるのは一番乗りしたいから

綾、綾、見ーつけた!

もう迷子になったらだめだよ、なんて
お姉さんぶって繋ぐ手は
ありもしない遠い想い出みたいにあたたかい


都槻・綾
f11024/花世

夕暮れ色に艶やかに染まる鳥居
ひとつふたつと数えていたら
いつの間にか
影法師はひとりきり

迷ってしまったかしらね

見渡すけれど
何処にも姿が見当たらない

迷子の鉄則は
其の場を動かぬこと、でしたか

ならば此処を見つけてくれるまで
鳥居の陰へ隠れて居ましょ

きっと彼女は
己を探して駆け回っているに違いなく
慌てる姿を想像し
愛らしさにちいさく笑み零す

耳を澄ませば
遠く近く
定かではない距離で
花咲く声がするから

もういいよ

歌う口振りで告げたなら
途端、周囲に揺らめき湧く麒麟達へ
高速詠唱での花筐を贈ろう

夕陽色した凌霄花
吹奏楽器めいた花弁の嵐が
彼女を導いてくれるだろうか

――はい
見つかりました

笑み深めて
あなたの名を呼ぶ




 夕闇は、花の色を柔らかくする。
 けれど、夜を連れては来ない橙に、すっかり迷宮と化す社はふたりをひとりにして見せた。
 ――きみのよるいろが、いない。
 見渡して、境・花世(はなひとや・f11024)は片方の手を開いて、握る。
 からっぽの手は頼りなく、落ち着かない。
 迷子になったのはきみかわたしか、一体どちらだったろう。
(なんて)
 ――考えたって、やることはひとつだけ。
 鳥居の側で足を止めれば、影が深まる。潜むものは数多、道はない。それでも構いはしなかった。
 ふわり、鮮やかな髪を靡かせて。花が舞うように花世は駆け出す。
 足音は軽く幽世に響いて、影を引きずる者たちをかろやかに置き去りにしてゆく。
 怖くはなかった。きみを見つけなくちゃ。ただそれだけで、足取りは軽くなる。かくれんぼを始めようかって、それだって言っていなかったのに。ああ、でも。
「もういいかい」
 扇を開き、風を呼んで。鳴く雷を合図にしよう。
「もういいかい」
 飛び出して来た敵を、花びらが包み込む。――きみに聞こえたなら、きっと。

「……おや」
 都槻・綾(糸遊・f01786)が気がつけば、いつの間にか、影法師はひとつきりになっていた。
 鳥居を数えていたはずだけれど、隣にいたはずの花色はなく、夕暮れ色に社は染まる。
「迷ってしまったかしらね」
 見渡すけれど、やはり姿は見当たらない。綾は歩み出そうか、僅かに逡巡をする。
(迷子の鉄則は、其の場を動かぬこと、でしたか)
 それならば。
(待っていましょう、あなたのことを)
 この場所を見つけてくれるまで、鳥居の影にそっと寄り添おう。――きっと彼女は見つけてくれる。今もきっと、綾を探して駆け回っているに違いない。
 慌てたかしら。きっとそう。慌てる姿は、きっとたいそう愛らしい。
 くすくす、笑み零したその頃に――定かではない距離で、声がした。
 もういいかい。――そう呼ぶのなら。

「もういいよ」

 花咲く声に、歌うよに。
 告げた途端に影から飛び出した麒麟たちへは、花びらを贈る。紡ぐ詠唱が、近く足音を呼ぶだろうか。ぶわりと膨れて舞う花嵐を夕空へ導いて。
 弾き飛ばされた麒麟の数体が色の違う花びらに包まれたのはそのときだ。

「綾、綾、見ーつけた!」

 花びら舞う、夕暮れの中。綻ぶ笑みが、名前を呼んだ。
「――はい、見つかりました」
 釣られるように笑みを深めれば、花咲む彼女が手を伸ばす。
 からっぽの片手は、手を握る。お姉さんぶるように握れば、そのあたたかさが手に心地良い。
「もう迷子になったらだめだよ、綾」
「ふふ。ええ、花世」
 夕闇に、ふたつの影法師が並ぶ。――繋いだ手は、ありもしない遠い思い出みたいにあたたかかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

三岐・未夜
【団地】

道の概念がなくなるってどういうことことなんだろ……でも、迷子はやだなあ……

かくれんぼ懐かしいな
もういいかい、もういいよ、はあるけど、まーだだよ、はないんだねぇ

団地仲間といるから、気持ち的にはちょっと安心感

硝子、僕たちが鬼だよ
晶もいっぱい遊ぼうねぇ
零時、スペワでもかくれんぼってあった?
あのね、鬼は、もういいかい、って言いながら、隠れてる子の、もういいよ、を待って探すんだ
……って言っても、このオブリビオンは、もういいかい、で飛び出して来ちゃうみたいだけど

もーいーかい!
童心に返りつつ【誘惑、おびき寄せ】
みーつけた!
敵が出て来たらUCの火矢で【操縦、属性攻撃、範囲攻撃、誘導弾、全力魔法】


笹鳴・硝子
【団地】

なんか私の知ってるかくれんぼと違いますね
……違った筈…(実質2回程度しか遊んだことが無いので記憶が朧気だ)
「まあでも、飛び出してくるのは須らく敵って解ってるのは楽でいいですね――【晶】」
『はぁい!ともだちいっぱい!遊ぶよー!』
呼べば幼い子供の声で答えながら【ざわつく影の獣の仔・晶】が姿を現す
「零時くんのかくれんぼデビューなんですから、これ終わったら正しいかくれんぼしましょうね。正しいルールはみゃーが知ってますからね」

もういいかい?
尋ねた(技能【おびき寄せ】)声に敵が現れたら
「みーつけた!」
きちんと言って(【晶】にも言わせます)攻撃
骸魂に取り込まれた妖怪達を見つけ出してあげられますように


兎乃・零時
【団地】

…道を失う…迷子の世界?
概念を失うって魔術かなんかかな…?

まぁ道がないなら作りゃいい!
丁度、道を描く魔術は有るし!

かくれんぼ……?
ともかく、三岐も笹鳴も宜しくな!俺様頑張る!
勿論晶も!
(晶をあまり見た事ない為、興味津々

スぺワでもかくれんぼはあるぜ
聞いたことあるし!
まぁやったことはないんだけどな!

へー、そういう遊び…楽しそう!
えー、此れだけで出でてくんの…?まぁいっか!

もういーかい!
初めての遊びにワクワクしつつも【気合い】を入れて大声で呼びかけ

敵が出てきたら
UCをぶっぱなす!
光【魔力溜め×属性攻撃×全力魔法】!
此奴使えば光の道出来て分かりやすいだろ!

あぶねぇ攻撃は【逃げ足×ダッシュ】だ!




 ――道はそこにあるようで、決してない。
 道のように見えるものは、影であったり、朽ちた花であったり、何もない夕べに浮かぶ格子窓である。それはこの世ならざる幽世の、世界の破滅の第一幕。

 静かで寂しい誰そ彼時。三つぶん響いた足音が鳥居を潜れば、社は俄かに賑わった。
「道の概念がなくなるってどういうことかと思ってたけど……迷子はやだなぁ……」
 進むべき確たる道も見当たらない。三岐・未夜(迷い仔・f00134)は少しだけ気が引けたように、迷宮と化した社を覗いた。
「でも、かくれんぼは懐かしいな。硝子はしたこと、ある?」
 未夜が問うのに、笹鳴・硝子(帰り花・f01239)は長い髪を揺らしてひとつ頷いた。
「ありますよ。ただなんか、話を聞く限り私の知ってるかくれんぼと違いますね……たぶん……」
 違ったはず、と言葉尻が萎んで行ったのは、硝子も二回ほどしかやったことがないせいだ。朧な記憶ではあるが、少なくとも。
「隠れているほうが飛び出して来る遊びでは、なかったはずなんですが」
「だねぇ。それに、まーだだよ。がないんだ。隠れるか出てくるか……ちょっとドッキリみたいだね」
「まあでも、飛び出して来るのは全て敵って解ってるのは楽でいいですね」
「零時、スペワでもかくれんぼってあった?」
 ひょいと未夜が訊けば、青色藍玉の髪をきらきらとさせた少年――兎乃・零時(そして少年は断崖を駆けあがる・f00283)はきょとんとして首を傾げた。
「かくれんぼ……?」
「そう、かくれんぼ。あのね、鬼はもういいかいって言いながら、隠れてる子のもういいよ、を待って探すんだ。……って言っても、このオブリビオンは、もういいかい、で飛び出して来ちゃうみたいだけど」
「へー、そういう遊び……ああ、スペワでもかくれんぼはあるぜ。聞いたことあるし! まぁ、やったことはないんだけどな! でも楽しそう!」
 零時がぱあっと表情を輝かせれば、それじゃあ、と未夜が頷く。団地仲間といるおかげで、気持ちがちょっとだけ安心していた。
「みんなでやろう。僕たちが鬼だよ」
「みんなでできるのか!」
「零時くんのかくれんぼデビューなんですから、これ終わったら正しいかくれんぼしましょうね。正しいルールはみゃーが知ってますからね」
 わくわくした声をあげる零時の隣で、硝子がそう言ってから、ふと声の方向を変えた。視線の先でざわりと動くのは影。影のような、獣の仔。硝子の傍らに常にいる、彼女の弟を自称するUDCである。
「――【晶】」
『はぁい! ともだちいっぱい! 遊ぶよー!』
「おっ、おお、三岐も笹鳴もよろしくな! 勿論晶も! 俺様頑張る!」
 初めて目にする晶にぱちぱちと水色藍玉を瞬かせながら、零時は楽しげに破顔する。未夜が頷いた。
「それじゃあやろう。晶も、いっぱい遊ぼうねぇ。……みんなで言う?」
「いいですね、何せ飛び出して来るらしいですから」
『やるー!』
「それだけで出てくんの……? まあいっか、みんなでやろうぜ!」
 三人――四人の意見が出揃えば、夕暮れの境内に並んで立って。
『せーの!』

「もーいーかい!!」

 声が揃えば、高らかに。夕闇に小さな鬼たちの声が響いた。――その、次の瞬間だ。
 ドォン!
 大きな音が鳴り響く。それが雷鳴だと気づく頃には影と言う影から、麒麟の姿が溢れるように出て来ていた。
「うわぁ! ほんとに来た!」
「出てきたねぇ。そしたらちゃあんと――」

 ――みーつけた!!

 再び四つ揃う声で、三人は駆け出す。
 未夜の火矢が空駆け、数多の妖を撃ち落とす。追随するのはざわつく影――硝子と晶の放つ雷撃。そこに眩い光の道成す零時の魔法が合わされば、瞬きのうちに夕闇は明るく照らされる。
「道がないなら作りゃいい!!」
「零時、すごいすごい。硝子、いけそう?」
「ええ。……骸魂に取り込まれた妖怪たちを、ちゃんと見つけ出してあげましょう」
 光魔法、火雨、影の斬撃。それぞれが補い合うように妖たちを倒しゆく。それぞれを見失わぬよう、三人並べば迷いもしない。
 やがてその戦う音が止む頃に、彼らは気づく。
 喜ぶように飛んでゆく、妖怪たちの嬉しげな姿。それでも明かせぬ迷宮の奥。

 唐突に現れた、真っ赤な真っ赤な大鳥居。――その上に、虚に立つ何かがいると。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『フェニックスドラゴン』

POW   :    不死鳥再臨
自身が戦闘で瀕死になると【羽が燃え上がり、炎の中から無傷の自分】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
SPD   :    フェニックス・レイ
レベル分の1秒で【灼熱の光線】を発射できる。
WIZ   :    不死鳥の尾
レベルm半径内の敵全てを、幾何学模様を描き複雑に飛翔する、レベル×10本の【炎の羽】で包囲攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 色を変えない夕焼け空に、赤い赤い影が伸びた。
 現れたのは見上げるばかりの大鳥居。本来ならば社の入り口であり出口でもあるそれは、迷宮の中に夕闇を、訪れた者たちを閉じ込めるようにそこに在る。
 ――その上に立つ虚な影が火を噴いた。
 まるで翼を広げるように燃え盛る炎の中にいるのは少女の姿を模す竜神。
 信仰さえ忘れ去られた神たる者は、虚な視線を眼下へ向ける。
「もういいかい。まあだだよ。――まだ、帰ってはいけませぬ」
 声は落ちる。夕闇のそこかしこから、惑わすように。
「何故、帰ってしまうのですか」
「何故、忘れてしまうのですか」
「何故、幸せでいてくれないのですか」
「何故、何故、何故――死んでしまうのは何故ですか」

 帰り道があるからですか。

 途端、我を忘れたように炎を噴いて、竜を呑む火の鳥は翼を広げた。
 ごうと迫り来る炎は尽きることを知らず、止まることを知らない。その火炎の塊が落ちて来る。
「ずうっとここで、遊んでいましょう」
箒星・仄々
不死鳥さんを海へお還しし
竜神さんをお助けしましょう

水の魔力矢の弾幕で羽迎撃
荒ぶる激流の如く

抜けた羽を疾風加速の残像や
纏う水流の泡で防御

幾何学模様の隙間に矢
波濤連ね
不死鳥さん消火&竜神さんに力を

不死鳥
幽世へ辿りづけず
ご無念は如何ほどか
貴方を貶めるその未練の軛から解放します

竜神
信仰を
人との繋がりを喪い
寂しいですよね

何故と問うは即ち
心を過去に留めること

問うべきは何の為に
心を未来へ向ける時です

幽世の成り立ちを想えば
無理なお願いかも知れません
けれど是だけは判って下さい
是から多くの縁を幾らでも結んでいけるのです
貴女のお心のままに
そう、例えば私達と

今、お助けします

事後に不死鳥さんへ鎮魂曲
静かな眠りを祈念


シキ・ジルモント
◆SPD
一人残される寂しさに覚えが無いわけではないが…
しかし望むままずっとここに居てやる事はできない
竜神の声に耳を傾けつつ、戦って正気に戻す

ユーベルコードを発動
灼熱の光線を回避する為、狙いを定めさせないように常に動き回る
能力の代償は顧みず、光線を掻い潜って攻撃の合間に隙を探し、射撃で反撃を試みる

ずっとこの場にいる事はできない
死なずに永遠に存在する事もできない
生きている限り変化は必然だ

…だが、変化するからこそ、別れや喪失ばかりでは終わらない
誰かが居なくなり忘れられてしまっても、また別の誰かと出会う事もあるだろう
現に俺はあんたと出会い、記憶した
帰り道を見つけてここから去っても、この記憶は残り続ける


神代・凶津
あの鳥居の上に居るのが今回の事件の元凶かッ!
倒して正気を取り戻してやろうぜッ!

「・・・竜神には龍神で対抗しましょう。」
アイツを喚ぶのか相棒ッ!
代償は何時も通り相棒の神楽舞の奉納だな。

『空亡』が敵と戦っている間、相棒が神楽鈴を持って神楽舞を捧げるぜ。
敵の攻撃を見切りつつ避けながら神楽舞を止めないように立ち回るぞ。

忘れられた竜神と龍神、だけど神楽舞という形で信仰を捧げられてる分、こっちの方が馬力が上に違いないぜッ!


【技能・ダンス、見切り】
【アドリブ歓迎】




 黄昏が赤く焼け上がる。
 炎の翼は小さな影を捕えるように広がり、呑み込まれた少女の姿を模す竜神は、炎と共に落ちながら、焦点の定まらぬ瞳を虚空に向けた。無意識にも放たれる、威圧、虚無、狂気。――正気ではない。それだけが誰の目にも明らかだった。
「あの鳥居の上に居るのが今回の事件の元凶かッ!」
 肌を刺すような、ぴりつく空気を破ったのは真紅の鬼の仮面――神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)である。彼を両の手に抱えた少女・桜はその声に表情ひとつ動かさずに頷いた。
「……竜神」
「そうらしい。倒して正気を取り戻してやろうぜッ!」
「――戦って、正気に戻す」
 凶津の宣戦布告めいた一言に、シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)も低く呟いた。見上げる先にはたったひとりで鳥居の上にぽつりと立つ竜神がいる。
「一人残される寂しさに覚えがないわけではないが」
 それが偶然であれ、必然であれ。気づけばたった一人きりで、誰かの声を聞くこともない。神の得た信仰とは異なろう。けれどその寂しさに似たものを、シキは知っている。
「……しかし望むまま、ずっとここに居てやることはできない」
「ええ、残念ながら。竜神さんをお助けしましょう」
 箒星・仄々(ケットシーのシンフォニア・f07689)もひとつ頷いて、落ちて来る我を失くした竜神を見やった。
 炎の翼が、ごうと唸る。竜神を呑み込んだ骸魂は、火の鳥――不死鳥と呼ばれるものだろう。
 死なぬ鳥が、死んだことを認められずにそこにいる。
「幽世へ辿り着けず、死の概念を見失った不死鳥さん。……ご無念は如何ほどか。貴方を貶めるその未練の軛から解放します」
 仄々の放つ魔力矢は一瞬のうちに束になり、水の気を纏い焼ける空に激流を成す。
 水矢の弾幕に迎え撃たれた敵の炎は、水とぶつかり合う派手な音を立てて一度掻き消され、地面に落ちた。
「来るぞ」
 けれどもそれも束の間、土煙の合間から灼熱の光線が放たれる。
 寸前に低く警告したシキは、青い瞳を光らせて地を蹴った。――瞬きの間にその姿が掻き消える。身体の隅々まで行き渡らせた本能の直感と、その感覚のままに動くことを可能とした肉体が、獣のように駆け回り、同時に放たれたようにさえ見える光線を掻い潜る。
 がりがりと削り取られて行くのは、影を濃く伸ばす地面の土。そして、シキの命そのもの。けれどもその代償を顧みることなく、狼は青き瞳を輝かせて獲物の隙を見つけた。
 駆けながら正確に構えられた銃口が、敵を撃ち抜く。
「……ッ、何故」
「生きているからだ」
 極近くに踏み込んだ瞬間に漏れ聞こえた声音に短くシキは言葉を返す。
「限りある命を持つ者たちは、ずっとこの場にいることはできない。死なずに永遠に存在することもできない。――生きている限り、変化は必然だ」
 僅かに揺らいだ竜神に銃弾を叩き込んで、シキが跳び離れる。その間を稼ぐように、仄々の風を纏う魔矢が連なり放たれた。
「何故と問うは即ち、心を過去に留めること。……心を未来へ向ける時です」
 問うべきは何の為に。神として在ったその意味を本当に失わぬように。
「――何故」
 竜神は再び空へ飛翔する。認めるべきを認められていたならば、こうしてはいないはずの存在だ。揺らぎ、ふらつき、それでも炎を吐くことを止めない。
「……竜神には龍神で対抗しましょう」
 ぽつりと、平坦な声が呟いた。凶津と共にいる桜の声だ。
「アイツを呼ぶのか、相棒ッ!」
 あまり使いたくない奥の手だがな、とからりと笑う凶津の声に、桜は静かに目を伏せて刀を抜く。
 ――妖刀、解放。
 禍々しい気と共に、目の前の大鳥居ほどに大きな龍の影が一瞬でそこに現れる。百鬼夜行龍『空亡』。目の前の竜神と同じく、忘れ去られし龍神。その巨体が、竜神へ牙を剥く。
「相棒、いつも通りにな」
「……うん」
 龍神と竜神のせめぎ合い。その足元で、巫女の舞が始まった。何よりも空亡が愛する神楽舞。その奉納を代償として、龍は猛る。たった一人であれ、神がため。その信仰は、間違いのないものだ。
「信仰を捧げられてる分、こっちの方が馬力が上に違いないぜッ!」

 龍神に手を取られた竜神が、再び地に落ちて来る。その隙を垣間見て、シキが再び射程範囲内へ間合いを詰め弾丸を放ち、仄々の魔矢が飛ぶ。
「信仰を、人との繋がりを喪う。……寂しいですよね」
「……だが、変化するからこそ、別れや喪失では終わらない」
 心に添うように、仄々とシキの言葉は竜神へ向けられた。
「幽世の成り立ちを思えば、無理なお願いかもしれません。けれどこれだけは解って下さい。――これから多くの縁を、幾らでも結んでいけるのです。あなたのお心のままに」
「誰かが居なくなり、忘れられてしまっても、また別の誰かと出会うこともあるだろう。現に俺はあんたと出会い、記憶した」
「そう、例えば今ここにいる私たちが、その証人です」
 二人の言葉に、炎が揺れる。竜神の動きが鈍くなる。
 その隙を逃さず凶津たちの龍神が雷と共に食らいついた。炎の羽が舞い上がる。
 こうして戦った、その記憶さえ。
「帰り道を見つけてここから去っても、この記憶は残り続ける」
 シキの落ち着いた声音が、確かに紡ぐ。――帰り道は、記憶を持ち帰るための道でもあるだろう、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

境・花世
綾(f01786)と

ああ、楽しいかくれんぼだったねえ
いつまでもきみと手をつないで
こうして遊んでいられたらよかったと、
影の呼び声に頷いてしまいたい

……だけど、ずうっとここにはいられないね

燃え盛る翼を見上げてぽたり落ちる涙は、
つめたく静かにそぼ降る淋しい雨
嘆く炎を包みこむようにして、
すこしずつその願いを鎮火させよう

焦げる哀しみを浄化する馨は、
わたしの涙も止めてくれるようで
泣き虫じゃないよ、ほんとうだよ
拗ねた口ぶりでぐいと眦を擦る

帰る場所など未だ知らなくても
きみの手のひらの温もりを留めおきたくても
わたしは歩かなくちゃ――もう行かなくちゃ
雨上がる空に還り逝く骸魂たちを
いつまでもずっと、見送って


都槻・綾
f11024/花世

齎された問いも
遊びの誘いも
置いて行かれまいとする幼子が
必死に裾を掴んでいるみたいに
切実さと悲哀を感じるから

――何故でしょうね
歴史が育まれ
遺伝子が継がれ
ひとりひとつの生涯をかけて尚
解き明かされぬ謎

誰もが幸せで居たい
安堵する所に帰りたい
大切な日々を覚えていたい
其れでも、儘ならないの
だからこそ、どんな瞬間も愛おしいの

竜神に寄り添う涙雨
淡く笑んで傍らのひとを撫でれば
強がりもまた可愛らしくて

帛紗に染む柔らかな香りは
雨の優しさと相混じり
穏やかに穏やかに
竜神の悲しみを浄化する祈り

在るべき所を標しましょう
彼方の海こそが骸魂達の帰る場所だから

指差した空は雨上がり
いつしか虹の橋も架かるでしょうか




 何故。何故。何故?
 こどものように、声は繰り返す。戸惑ったように、迷ったように。炎の翼が黄昏を焼く。
「ずうっとここで、あそんで――」
 そうしていればよいのだと。そうしていてほしいのだと、声は誘って許す。子供みたいなわがままを、何度だって繰り返して影は深く濃く伸びる。
「……ああ、楽しいかくれんぼだったねえ」
 繋いだ手はそのままで、境・花世(はなひとや・f11024)は柔らかな声で囁いた。うつくしい花が咲くように、その鮮やかな瞳が開く。
「なぜ、か。……ねえ、綾」
 きみはどう思う?
 問われたその隣で、都槻・綾(糸遊・f01786)はやわく手を握り直して、ゆっくりと微笑んだ。
 黄昏から落ちる声は、どこか切ない。置いてゆかないでと泣く幼子のように響けば、花緑青の瞳が一度伏せられた。
「――何故でしょうね」
 歴史が育まれ、遺伝子が受け継がれ、何千何万、何億というひとりひとりの生涯を掛けてなお、その謎は解き明かされはしない。夕闇に滲む声に、花世は少しだけ顔を俯けた。
「いつまでもきみと手をつないで、こうして遊んでいられたらよかったな」
 再び開かれて花世を映す綾の瞳は変わらず何処までも優しい。
 片手にあるぬくもりも、いつかはほどかねばならないもの。まだ遊んでいよう、帰らないでいようって、その手を引くのはあの影とおなじこと。

「……だけど、ずうっとここにはいられないね」

 ぽたり。美しく咲く八重牡丹は咲いたまま、鮮やかな瞳にひたひたと溜まり落ちる涙があった。
 だあれも潜らぬ大きな鳥居のその上で、燃え盛る翼はひどく寂しそうで、淋しい。
 顔を上げて、視線を上げて。そうすればひとりでに降る雨は――きみの願いを鎮めるために。
 手が離れた。
 叫ぶように放たれる炎の羽をふたり、同じようにひらりと避ける。
 音もなく、けれども確かに降る雨は、寂しがりの竜神に寄り添うような涙雨。その隙間を埋めるように、ふわりと香り立つのは夢路の花薫り。焦がす炎を浄化するように、やさしい涙を止めるように。
「誰もが幸せで居たい、安堵するところに帰りたい、大切な日々を覚えていたい――それでも、儘ならないの」
 嘆く翼が灼熱の光線を乱れ打った。けれどもそれは雨に半ば掻き消されて、柔く薫りと混じり合えば、穏やかな祈りに浄化されゆく。
「だからこそ、どんな瞬間も愛おしいの」
 綾の手が、そっと傍らで泣くひとを撫でた。
「やさしい泣き虫さん」
「……泣き虫じゃないよ」
「ふふ」
 強がりもまた可愛らしいもの。綾が淡く微笑めば、花世はぐいと眦を拭った。
「ほんとうだよ」
 ほんの少しだけ拗ねた声音になってしまう。誤魔化そうかと思ったけれど、きっとお見通しなのだろう。だから花世は少しだけ赤い目元で寂しがりのかみさまと、雨を仰いだ。――やめないで、やまないで。
 帰る場所など未だ知らない。
 きみの手のひらのぬくもりを留めておきたい。
 それでも。
「わたしは歩かなくちゃ。――もう行かなくちゃ」
 見上げる先、炎が雨の中で小さくなる。何故と問う声はしなかった。代わりに傍らから、ほら、と促す声がする。
 指差された先の空に、ふわりと淡く灯るような光があった。きっとあれはかくれんぼで送り出した、還りゆく骸魂たちのひかり。
「在るべき所を標しましょう」
 あの光を寂しい炎もまた追えるように。
 ひととき、雨に混じる薫りと共に、炎がふと掻き消えた。そうして覗く雨上がりの空には、光が游ぐ。
 花世も綾も、そして竜神も――そのひかりを見送った。ずっとずっと、いつか。虹の橋が架かるように。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

オズ・ケストナー
紅(f01176)と

道をなくしちゃったのはきみなの?
ごめんね、ずっとここにはいられないんだ

しあわせでいてほしいの?
すきなひとに、いきていてほしいの?
いっしょだ
わたしも、そう思うよ

クレナイのこともだいすきだもの
しあわせでいてほしいし
いきていてほしいって思うよ

わたしができるのは、きみを覚えていること
クレナイと、みんなと
いっしょにたのしくあそぶことだよ
またねっておわかれして
次にあうときも、たのしくあそぶんだ

現れたアスレチックに目を輝かせ
わたしもっ
ガジェットショータイム

クレナイを真似てトランポリン
筒状のスライダーで飛び込んで
おいでーっ
筒潜ればそっと生命力吸収

クレナイ、たのしいねっ
もっとあそぼうと笑って


朧・紅
オズさん(f01136)と《紅》人格で

…しあわせも…いきるのも
オズさんがそう言ってくださるなら僕がんばちゃうのです(えへへ

僕も
おとーさんとおかーさんないないしちゃって
一緒だった記憶もほわわと朧げなのですけれど
それでも心のどこかがあたたかくて
だから僕は戻らず留まらず『先』に行きたい、かもっ

ぅや
それはとっても素敵っ
皆で遊ぶですっ
れっつ水上アスレチック!【空想造血】

飛石の上を皆で鬼ごっこ
攻撃はトランポリンで大ジャンプ避け
其の侭水に飛び込めばバシャーンと水攻撃
濡れてもたのし!

この楽しいを思い出に刻んで


僕はきっと幸せさんっ
オズさんも幸せだといいなぁ
この先もずぅっと…

わぁい遊ぶのですって笑顔返して




 オレンジ色の夕焼けはとても綺麗なのに、どこか寂しい色に見えるのが不思議だった。
 かくれんぼで見つけられなかったのかな。見つけてもらえなかったのかな。――見つけられないかくれんぼだって、きっととても鮮やかな思い出になるのに。
「……道をなくしちゃったのはきみなの?」
 オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)は鳥居の下でぽつんと立つようにしている竜神へ、首を傾げた。虚ろな瞳が透き通ったあおいろを見つけて、反射のように収めていた真っ赤な炎を燃やす。
「ごめんね、ずっとここにはいられないんだ」
 どこかあどけないオズの言葉は、けれどはっきりとそう伝う。
 何故、とどこかぎこちなく機械じみた単調さで、竜神は再び繰り返す。それにオズは、ほんの少しだけ泣きそうな微笑みを浮かべた。
 しあわせでいてほしいのも、すきなひとに、いきていてほしいのも。――いっしょ。いっしょだ。
「わたしも、そう思うよ」
 それでもそれが、願うだけでは叶わないのだって、知ってしまった。
「……しあわせも……いきるのも」
 ぽつんと思い出すように、なぞるように呟いたのはオズの傍らに立つ朧・紅(朧と紅・f01176)だった。
 難しいことは、紅にはわからないことが多い。けれどそれでも、顔を上げれば優しい笑顔が笑うのだ。ほわりと朧に霞む記憶の中で、あたたかさだけは、きっと確かで。
「クレナイ」
 たんぽぽ色が笑う。
「クレナイのこともだいすきだもの。しあわせでいてほしいし、いきていてほしいって思うよ」
「……えへへ」
 紅も、ふにゃりと釣られて笑ってしまう。
「オズさんがそう言ってくださるなら、僕頑張っちゃうのです」
 幸せも、生きるのも。それを望んでくれる誰かが今いて、きっといつかもいたはずだ。――もう随分朧げな記憶になってしまったけれど。
(ないないしちゃった、おとーさんとおかーさん)
 思えば、心のどこかにあたたかさをくれるから。だから。
「僕は戻らず留まらず、『先』に行きたいかもっ」
 明るい声が夕焼け空に響けば、それに堪らなくなったかのように竜神が飛翔して狙い定める。それでもオズと紅は笑みを絶やさなかった。
「ねえ、きいて。わたしができるのは、きみを覚えていること。クレナイとみんなと、いっしょにたのしくあそぶことだよ」
「ぅや、それはとっても素敵っ。皆で遊ぶですっ」
「きみもあそぼう! それで、またねっておわかれして、次にあうときもたのしくあそぶんだ」
 これは戦いだと知っているけれど、無邪気なこどもたちは笑う。遊ぼう。声が跳ねて響く。
 楽しげなそんな声は、この社に響かなくなって久しい。
「ぼうぼう、燃えるのは熱いのです。――れっつ水上アスレチック!」
 紅の声と共に、自由気ままな想像が形を成す。水の上に広がる遊び場には、飛び石もトランポリンだってある。炎の羽が飛んでくるのを思いっきりトランポリンで跳ねたら避けて、そのまま水に飛び込んだなら、大きな水飛沫はひとりぼっちのあの子に届く。
「えへへ、濡れてもたのし!」
「わ、すてきだねクレナイ。わたしもっ」
 楽しげなアスレチックにきらきらと瞳を輝かせたオズが呼び出すのは、もうひとつの楽しげなトランポリン。紅のそれと並べば、一緒にぽんと飛び上がって。
「おいでーっ」
 ふたりぶんの楽しげな声に釣られて、炎の羽は降り来たる。けれどもどこか戸惑ったように、その攻撃の精度は低い。
「今、僕はきっと幸せさんっ」
 オズさんも幸せだといいなぁ。
 紅がトランポリンで跳ねながら零す願いは、この先もずぅっと続くように。
「クレナイ、たのしいねっ。もっとあそぼう!」
「わぁい、遊ぶのですっ」
 満面の笑みがあふれて零れる。ひとりぼっちのだれかにもこの楽しいを思い出に刻んで。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

尾白・千歳
さっちゃん(f28184)と

んー私たちと遊びたいのかな?
どうする?
あ、かくれんぼしよっか(手ぽむ
じゃぁ、あなたが鬼
私、逃げるね!
…待って
さっちゃんってば何でついてくるの?
一緒じゃすぐ掴まっちゃうでしょ
かくれんぼのルールも知らないの?(溜息

まぁだだよ
むむ、尻尾や耳が邪魔っ
隠れようにもなかなか良い場所は見つからず
大鳥居の陰に身を潜めて様子を伺い
もういいよー

なんか暑いなぁ…
うわっ、火が落ちてきた!熱い!
じっとしてるのなんて無理!逃げるー
はっ!?見つかった…こっちこないでよぅ!
式神の蝶々で牽制しつつ
さっちゃんを探し

いたー!どこに行ってたの!?
やれやれ、すぐ迷子になるんだからー
私がしっかりしなきゃね!


千々波・漣音
ちぃ(f28195)と

んじゃ、オレ様が遊んでやろーじゃねェの(バス停握り
って、マジかくれんぼするのか!?
何処に一緒に隠れる…って、え、別!?
いや知ってるけど!
お前一人とか不安しか…って、もう始めてるし!

仕方なくちぃに悟られないよう近くに
てか、あいつ全然隠れてねェしっ(はらはら

ほら、見つかってるじゃねェかよっ
…まぁそんなとこがまた可愛いけど
は、ちぃに怪我とかオレがさせねェ
水属性の衝撃波広範囲に放ち、炎全て相殺
ちぃの蝶舞う中UC、水矢の包囲攻撃を存分にくれてやる
遊びは終わりだ、炎なんざ水竜の矢で全て消してやるよ!

ちぃ、大丈夫だったか…って、はァ!?俺が迷子なのかよ!
…でもまぁ、無事でよかった(ホッ




 何故、と問う声は夕焼け空にひとりぼっちに響いて聞こえた。
 どうしてそんなに寂しそうなんだろう。尾白・千歳(日日是好日・f28195)はぴこぴこと大きな耳を揺らして首を傾げる。
 今そこにひとりぼっちだって、声を掛けたら。呼んだなら。来てくれる誰かは、あの子にはいなかったのかなあって。
「ね、さっちゃん」
「ん?」
 ほら、当たり前に返事が返る。昔からそうだ。ううん。千歳はもっと首を傾げた。
「んー……私たちと遊びたいのかな? どうする?」
「んじゃ、オレ様が遊んでやろーじゃん」
 得意げに笑って千々波・漣音(漣明神・f28184)が担いでいたバス停を握り直す。それが遊び道具かどうかはさて置こう。漣音は素振りよろしくバス停をぶんと振るけれど。
「あ、かくれんぼしよっか」
 千歳はぽむんと手を打って、名案とばかりに口にした。漣音の素振りも思わず止まる。
「え、遊ぶってマジのほう……」
「じゃあ、あなたが鬼で……私、逃げるね!」
 そのまま身軽に本当に隠れに行こうとするものだから、敵より何より漣音が驚いた。
「ちぃ、待っ……マジでかくれんぼするのか!?」
「するよ? かくれんぼ、あの子好きなんだよね」
 だったら丁度良いものと千歳は進む。いやそういう問題じゃねェんだってばっていうかめちゃくちゃこっち睨んでるからアイツ!――とは、千歳の楽しげな顔を見ると言えなくなるのが漣音である。
「はー……じゃあ何処に一緒に隠れ、」
「ちょっとさっちゃんってば、なんでついてくるの!」
「えっ」
「一緒じゃすぐ捕まっちゃうでしょ?」
 しょうがないなあ。呆れたため息が目の前で落とされるから、漣音はぽかんとするしかない。
「えっ、別!?」
 敵がそこにいて今にも攻撃して来ようとしているのに無防備に別々に隠れる気だこの幼馴染。いや明らかに不味いだろう、絶対その尻尾とか耳とか出すだろう、そもそも心配すぎて気が気では――。
「もー、かくれんぼのルールも知らないの?」
「いや知ってるけど! お前一人とか不安しか……ってもういねえし!!」
 ああもうわかった、わかりましたよ。こういうのはもう慣れっこだ。深々としたため息と一緒に、漣音も仕方なく一応隠れに行く。
 見渡せばやっぱりすぐ見つかる幼馴染の近くに悟られないよう、バス停を握って。

「まぁだだよ」
 言いながら、千歳は隠れ場所を探す。どうしようか。見渡してもいい物陰は見当たらない。
「あっ」
 ――そうだ、この大きな鳥居の影にしよう。灯台下暗し、きっと意外で見つからないはず!
 なんてひょこひょこ入り込む影からは、案の定ぴこぴこ耳や尻尾が覗くのだけれど。
「もういいよー」
 どこか平和な声が響いて、僅かあと。じゅう。影を焦がす炎があった。
「うわっ、火が落ちてきた! 熱い! しっぽ焦げちゃう……って」
 思わず千歳がぴょんと影から飛び出した、ほとんどその目前に『鬼』はいた。
「み、見つかった……こっち来ないでよぅ! おいで、蝶々さん!」
 咄嗟に蝶の姿を取る式神を放つ。一瞬のうちにぶわりと広がった蝶たちは敵の視界を塞ぐけれど。
「わぁん、すぐこっち来た! やだもう、さっちゃんどこー!」
「――ほら言わんこっちゃねえ、見つかってるじゃねェかよっ」
 ぶんと振り回されるバス停が、千歳に迫った敵の動きを牽制したのはそのときだ。
「……まぁそんなとこが可愛いけど」
「さっちゃんいたー! どこ行ってたの!? もう、すぐ迷子になるんだから!」
「って、はァ!? オレが迷子なのかよ!」
 ずっとちゃんとハラハラ見守ってたんですけど! とは言えないのが漣音が漣音たるところである。すっかり吐き慣れたため息ひとつで、漣音は敵に向き直る。
「遊びは終わりだ。炎なんざ水竜の矢で全て消してやるよ!」
 燃え盛る炎を、漣音が放つ水矢が射抜いてゆく。全ては水により相殺され、千歳の放つ蝶と共に敵の姿を囲い込む。
(ちぃに怪我とか、オレがさせねえ)
 うなる炎を、天罰の如き水が呑む。綺麗な蝶の式神が封じ込む。おまけとばかりに漣音がバス停で殴り飛ばせば、敵は夕焼け空に吹き飛んだ。
「ちぃ、大丈夫だったか……」
「あー! さっちゃんまたとどめ持って行ったー!」
「はァ!? そこかよ!? ……でもまぁ、無事で良かった」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

物部・九耀
【くろしろ】
忘れられるのは神の宿命でしょう
生命は、畏れるものを神と呼ぶのです。畏れるものの少なくなった彼らが、我らを忘れるのは当然のこと
神たるもの、その歩みさえ祝福すべきこと
それを嘆いているから、零落したのではないですか

憐れだとは思います
わたくしもまた忘れ去られてゆくもの
けれどわたくしたちには成さねばならぬことがあるわ
再び、生命と共に生きる日のために

おまえさま、援護をするわ
【ミゼリコルディア・スパーダ】――水と共に迸りなさい
あなたの焔を掻き消し、おまえさまの焔を強めて

悪とは許容で、善とは不寛容
けれど怒らせて怖いのは、いつでも許容を知る者でしょう
……我が夫は丁度、そういう方。大人しく諦めなさい


物部・出雲
【くろしろ】
死んでしまうのは俺たちが強すぎるからだ
――九耀の言うこともある
のう、堕ちた我らが同胞よ。その姿になっても未だ分からぬか
我々は神である。帰り道を塞いでやるのは、命への試練であるか?
いいや、違うであろうなァ――これは貴様の我儘だ

愚かな
いのちの自由を認めない貴様に信仰など在り続けるはずもなかろう
お前は神の器でない
神であるのならば、己の為に在ってはならぬ
世界の為に在るのが常だ
不死鳥の格すら天に還せ。見苦しいにもほどがある――噫、なんと浅ましい龍か
恥を知れ。布都斯魂剣、奴を裁くぞ
【招来:忌禍焔舞】
光栄に思えよ、獣
そして俺の前から失せよ――貴様に明日すら惜しいわ。骸の海に往ね!




 ――社はヒトが神を祀るもの。
 その存在を畏怖と共に認め、信仰し、願い奉る。そしてその信仰は短い命と共に引き継がれ、あるいは忘却される。
 何故。神よりほんの僅かな命を持つヒトは、その短い命の在るうちに、歩み続けるからだ。
 何故。神よりとても弱い命を持つヒトは、その生命を怖れずに生きるようになったからだ。
 白き竜たる物部・九耀(白水竜・f27938)は息を吐いた。視線の先には問うばかりの『同胞』がいる。道を隠した竜神も、その気配を察したように二柱を見た。
 白と黒。二対の龍は、竜を睨む。
「忘れられるのは神の宿命でしょう」
 九耀はたった一言でその問いを断じた。
「生命は、畏れるものを神と呼ぶのです。畏れるものの少なくなった彼らが、我らを忘れるのは当然のこと」
 流れる水のように淀みなく、いつかの世に恵みを齎した白龍は言う。信仰と共に畏られるがゆえに、人柱を捧げられることとて珍しくはなかった。けれど人が幾度も産まれては死ぬうちに、そのような世はもう過ぎたのだ。
 神代は既に、今にない。
「神たるもの、その歩みさえ祝福すべきこと。――それを嘆いているから、零落したのではないですか」
「――我が半身の言葉がわかるか、同胞よ」
 低く夕闇に響く声で物部・出雲(マガツモノ・f27940)は口を開いた。
「ヒトが死んでしまうのは、俺たちが強すぎるからだ」
 彼らが死んでしまうのか、神が酷なほど死ねぬのか。神威を喪っても尚、神として在らねばならぬのは、神たるものの宿命とも言えるかもしれない。
 それでも出雲たちは見守った。寄り添った。自らたちを忘れゆく人々の生き様を、畏れを克服し、神に依らぬ生命となって歩みゆく姿を。
「のう、堕ちた我らが同胞よ。その姿になっても未だ分からぬか」
 黒き偽龍は笑いはせぬ。ただ据えた金の瞳ばかりが、燃える炎を映して怒る。
「我々は神である。帰り道を塞いでやるのは、生命への試練であるか?」
 いいや。いいや。低い声は怒声を孕んで、じりりと黒炎が夕焼けを焦がした。
「違うであろうなァ――これは貴様の我儘だ」
 その程度を察するのは、神でなくとも造作もない。
「……おまえさま」
 涼やかな声が支えるように傍らに寄った。諫めるのではない。止めるのでもない。九耀はただ、番いの怒りを理解する。信仰を喪い、再び得ようとする神であるがゆえ。
 いつの世も、悪とは寛容で、善とは不寛容。けれど。
「怒らせて怖いのは、いつでも許容を知る者でしょう。……我が夫は丁度、そういう方。大人しく諦めなさい」
 九耀の言葉の半ばで、しかし不死鳥の竜神は飛翔した。そんな話は聞きたくないとばかり猛る炎を吐き散らす。

「愚かな」

 出雲の声は地を這うように低く、吐き捨てられた。
「いのちの自由を認めない貴様に、信仰など在り続けるはずもなかろう。お前は神の器ではない」
 黄昏を焦がす黒炎が、揺らぎ滲んで男を包む。此処に、と喚んだ布都斯魂剣を手にすれば、慣れた邪が黒肌の手に馴染んだ。奴を裁くぞ、そう落とす声に剣は応える。
 落ちて来る炎を、片腕で薙いだ。
「神であるならば、己の為に在ってはならぬ。世界の為に在るのが常だ。――見苦しいにも程がある」
「……憐れだとは思います。わたくしもまた、忘れ去れてゆくもの」
 九耀は静かに言葉を紡ぐ。
 信仰のひとつひとつは、新たに生まれる命に刻まれはしない。だからこそ枯れ細り、僅かな水脈しか残せぬ神の身になったとて。けれどこうして傍らに立てる半身がいる。
「わたくしたちには、成さねばならぬことがあるわ」
 ――再び、生命と共に生きる日のために。
 それを見失ったつもりは毛頭ない。美しく微笑んで、白い腕が黒き腕に添えられた。
「おまえさま、援護をするわ」
 存分にその怒りを思い知らせておやりなさいな。
 柔らかな声が、黒炎を支え強くする。彼方より飛来する剣は、神威の水を迸らせて、空を逃げる竜を叩き落とした。
「臆、なんと浅ましい龍か。恥を知れ!」
 雷のような怒声が轟く。かつてであれば神の怒りと震えた者がいたろう。
 瞬く間に夕焼けに浮かんだ布都斯魂剣の数は四十を越えた。光栄に思えよと、そのひとつひとつは禍津力を持ってして、黒焔を纏う。
 その視界を晴らすべく、水流が弾けた。
「今よ、おまえさま」
「俺の前から失せよ。――貴様に明日すら惜しいわ。骸の海に往ね!」

 夕闇に轟音。天より注いだ黒龍の怒りは、かつての神を知らしめるように鳴り響いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

誘名・櫻宵
焼けるように熱いと思うたら
迷子の小鳥をみつけたわ
人々の為と戦った竜神は忘れられ
そして己自身も見失ってしまったのかしら
なんとも哀れで―どこか共感できるわ
どこかの誰かのようで
(思い浮かぶのは、己と同じ顔をした始祖たる竜神)

帰る場所があるから外へ出かけていけるのよ
待っていてくれるひとがいるから、生きて帰ろうと思うのよ
だから幸せなの
私はそれを知った

私の居場所は、春暁の館
桜獄に咲く桜の元へ

振るう刀に破魔こめて
桜花で焔を逸らしていなし
『浄華』
衝撃波放ち空間ごと斬り裂くわ
炎はあまり好かぬのよ

もういいかい?
隠れんぼはおしまい
迷子の心をみつけましょう

みぃつけた
その炎ごと斬って祓って帰してあげる
あなたの帰る場所へ




 ――それでもなお、焔は消えぬ。
 地に叩き落とされた不死鳥の竜神は、暫しの後にずるりと身体を引き起こした。
 叫びのひとつもあげぬのは、それさえ忘れてしまったからか。ただ燃える瞳ばかりが虚無を孕んで道なき世を広げ続ける。
「……臆、道理で。焼けるように熱いと思うたら」
 迷子の小鳥を見つけたわ。小鳥と言うには大きいかしら。
 困ったように息を吐いて、けれど誘名・櫻宵(貪婪屠櫻・f02768)は美しく微笑んだ。
 じりりと焦げるのは夕闇で、囚われた魂で、忘れ去られてしまった神威。
 あれがかつて人々の為と戦った竜神だろうか。見据えても、その過去など見透かすことはできないけれど。あの竜神が道と一緒に己すら見失ってしまっているのは、わかる。
「なんとも憐れで――どこか共感できるわ。……どこかの誰かのようで」
 ふわり、夕闇に桜鼠色の髪が靡いて赤色の影をひく。同じ形を取る己が影。――同じ顔をした、始祖たる竜神。
 けれど。誘名櫻宵は『櫻宵』であり、龍である。

 ゆっくりと櫻宵は刀を引き抜いた。唇には笑みがただ浮かぶ。進む歩みは、帰り道を見失わない。それが喪われようと、きっと。
「ねえ、聞こえているかしら。帰る場所があるから、外へ出掛けてゆけるのよ。……待っているひとがいるから、生きて帰ろうと思うのよ。桜は散るために咲くのではないの」
 幸せを知っているかしら。問う声に答えがないことはわかっていた。故に伝う。知り得たことを、影を引いて。一歩ずつ前へ進みながら。ごうと唸り落ちてくる不死鳥の竜にただ微笑む。
「だから幸せなの」
 私の居場所は、春暁の館。桜獄に咲く桜の元。
 逃げずとも、隠れずともいい。――生きて帰って良い場所へ。
「私は、それを知った。……あなたは見つけられなかったかしら」
 刀で受け止めた炎の羽がじりりと白い肌を焼こうとする。焼けてしまうわ。呟いて。
「炎はあまり好かぬのよ。――花に変えて良いかしら」
 刹那、薙ぎ払われた刀と共に、唸る炎を桜嵐が掻き消した。空間さえ斬り裂く斬撃は、その足元に花筏の池を成した。敵が身を引く暇もなく、浄華の花嵐は敵を雪ぐように叩き込まれる。

「みいつけた」

 破魔の気を宿した櫻宵の刀が、その炎ごと斬り祓う。終始、櫻宵は美しく微笑んでいた。それもまた、餞のひとつ。ねえ、帰してあげましょう。
「かくれんぼはもうおしまい。お帰りなさい、あなたの帰る場所へ。――迷子の心をみつけていらっしゃい」

大成功 🔵​🔵​🔵​

疎忘・萃請
オマエもか。オマエもそうなのか?
アタシもだ
オマエも、優しいな
ヒトは脆く、儚い。死んでしまうのは、悲しいな
しかし、だからこそ。美しく尊いものなのだと、アタシは思うよ

そら、共に遊ぼう
寂しくなんかないから
来い、妖怪ども。鬼を頭に行進だ
カマイタチの風で、河童の水で、共に遊ぼう
もう寂しい思いはさせない
アタシと一緒に行こう、遊ぼう
昏い道は鬼火と狐火で燈そう

アタシが覚えてる
アタシが恐れる
アタシが…信じる

さあ、帰ろう
からころ、からから。一本下駄を鳴らして




 おかえりよ。――最後に見送った人の子は、どんなふうに生きたろう。
 夕闇に伸びる大きな影に、疎忘・萃請(忘れ鬼・f24649)はふと思う。あの子もきっと忘れたろう。だって、ヒトは脆く、儚い。そういうものだ。
「死んでりまうのは、悲しいな。忘れられるのは、寂しいな」
 オマエもか。萃請は未だ炎を絶やさず虚ろに燃えるいにしえの神に首を傾いだ。
「オマエも、そうなのか? ヒトを見送り続けて、自分さえわからなくなったのか」
 何故。問う声は変わらない。答えはない。
 目されもしなくなった神々は、ヒトが死にゆく理由も問うことすらできずにただ忘れ去られるのみだ。かなしい。かなしい。けれど。
「しかし、だからこそ。美しく尊いものなのだと、アタシは思うよ」
 それすらわからなくなってしまったか。
 問う前に、不死鳥の竜神が炎を吐いた。萃請はからりと下駄を鳴らして、叩きつけられた炎の羽を躱す。
「そら、共に遊ぼう。寂しくなんかないから」
 ふわり、白い腕が沿ぐわぬ斧を天に掲げた。来い、コイ、来い、コイ。
「――来い、妖怪ども。百鬼夜行とゆこうじゃないか」
 先頭は鬼。アタシがゆこう。文句なんてお言いでない、そら、並んだ並んだ。誰そ彼時なら此処にある。
 カマイタチの風が炎を裂いて、河童の水遊びで熱すぎる炎を消す。ふよりと踊る狐火は、踊るぼんぼりのようにくるくると。正気のない不死鳥の竜神を、遊ぶように百鬼の列に混ぜ込んだ。
 鬼は笑う。
「オマエもアタシと一緒に行こう、遊ぼう。昏い道は燈せば良い。鬼火も狐火も、いくらでも」
 からころからころ、一本下駄が鳴っては列の指揮を取る。
「アタシが覚えてる。アタシが恐れる。アタシが――信じる」
 だあれもいなくなったって。鬼だから。きっとそれもできよう。竜神が僅かに顔を上げた。その炎はやはりやまないけれど。妖の列に押され揉まれて、ぐたりとその身体から僅かに力が抜ける。
 さあ、帰ろう。――喪った道を、見つけにゆこう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

三岐・未夜
【団地】

待って待ってそれ殺そうとしてるじゃん!
何で死んでしまうも何も人は普通は炎で焼かれたら死ぬからね……!

あのかくれんぼモドキ、かくれんぼじゃないし……楽しくないし……
僕、帰ったらお裾分けして貰った美味しいご飯待ってるし、友達も待ってるし
幸せは、自分ちにあるもん
無理矢理留めて危ない目に遭わせて、剰えそれを幸せ扱いさせようだなんて、無理があるよ
……淋しかったの?
誰を想ってたのかなんて知らないけどさ

水の破魔矢を選択して【操縦、破魔、属性攻撃、誘導弾、全力魔法、弾幕】
炎に対抗するならやっぱ水かなって
手が足りなきゃ【多重詠唱】で手数増やして、【第六感、見切り】で無駄撃ちは減らすよ


笹鳴・硝子
【団地】


「待ってください。あのかくれんぼで楽しくここで遊んでいてくれるって思ってたんですか?本気で?本気と書いてマジで?」

楽しくなければ帰りたくもなりますよ
帰りたいと思えるのは幸せだからで……ああまあ大体みゃーと零時くんが良いこと言ってくれてるのでそこんとこ良く考えて下さい


虚ろになった神の本来の姿を取り戻す為に、力を貸すのもシャーマンとして吝かではない
「ぼうぼうぼうぼう燃えてると考えも纏まらないでしょうから、ちょっと燃えないようにしましょうね」
【頻伽】(高速詠唱・2回攻撃・歌唱・多重詠唱・慰め)で自分含め皆への攻撃を可能な限り防ぎつつ、神が正気を取り戻せるように

あとは零時くんとみゃーに任せます


兎乃・零時
【団地】

うわっ何だあの鳥居!

っていうか遊ぼうとしてんなら何で炎を吹いてんだ…?

はー!?
俺様は忘れたりしねぇぞ!(ぷんすか

それに帰らないと眠れないし…
あと俺様の幸せは俺様が決めるし、俺様はぜった死なないぞ!!
なんせ俺様の夢は全世界最強最高の魔術師になる事だぜ、そう簡単に死ぬかってんだ!

UC…もとい事前に来てた『紙兎』の援護をもらいつつ
迫る光線はパルに張って貰った【オーラ防御】で防いで貰ったり
【ダッシュ×逃げ足×気合】で避ける!
皆に合わせて光【属性攻撃×援護射撃】な魔力放射も忘れない!

そっちがやべぇの放つなら…これならどうだ!

光【属性攻撃×魔力溜め×限界突破×全力魔法】
極大光線《オーバーレイ》!




 火を噴く不死鳥の竜神は、幾度落ちても健在だった。あるいは既に何かを感じることなどできていないのかもしれない。けれどもともかく度重なる戦闘を見届けたところで――まだ、炎を上げていた。
「うわっ何だあの鳥居! すごいな、いつ出て来た? 魔法か!?」
「待って待って、零時出てこうとしないで、待って、あれ殺そうとしてんじゃん!」
「……いえほんとに。あのかくれんぼで楽しくここで遊んでいてくれるって思ってたんですかね」
 マジで? 本気と書いてマジで? 笹鳴・硝子(帰り花・f01239)がつい早口に呟いた、その瞬間に三人が身を潜めた影に炎の羽が掠める。あっマジですね。結構本気で正気じゃないやつ。悟ってちょっと頭を抱えた。
「ていうか、遊ぼうとしてんなら何で炎噴いてんだ?」
「それ言ってあげてよ、何で死んでしまうも何も、人は普通は炎で焼かれたら死ぬからね……!」
 きょとんと首を傾げたのは兎乃・零時(そして少年は断崖を駆けあがる・f00283)で、前髪で隠れて見え難い表情でさえちょっと青ざめたのは三岐・未夜(迷い仔・f00134)だった。
 あのかくれんぼモドキ楽しくないし、そもそもかくれんぼじゃないし。
 呟く未夜は、ついこのまま引っ込んでしまいたい気持ちにだってなる。そもそもあの竜神とかいうやつこわい。人見知りにはあれと対話しろとか難易度が高過ぎる。けれど。
 小さな子供よろしく背を丸めて、未夜は燃え盛る敵を改めて見た。――目が合った!
「僕、帰ったらお裾分けして貰った美味しいご飯待ってるし、友達も待ってるし……幸せは、自分ちにあるもん」
「そうだそうだ! それに帰らないと眠れないし……俺様は忘れたりしねぇぞ!」
 一方は致し方なく、一方は元気よく敵の前へ姿を見せた。零時はぷんすか憤慨して、ぷくーっと頬を膨らませる。遺憾の意!
「あと俺様の幸せは俺様が決めるし、俺様はぜったい死なないぞ!!」
 なんせ俺様の夢は、全世界最強最高の魔術師になることだからな!
 ででん、と小さな身体で大きく胸を張って、零時はそう宣言する。きらきらした青色が、ぴかぴかに輝いた。
「そう簡単に死ぬかってんだ――って、わぁぁ!!」
じゅっ。ちょっと焦げた匂いを残して、灼熱の光線が零時を掠め撃った。
「お、おまえっ、まだ俺様話してたんだぞっ!?」
「平気ですか零時くん。そりゃあ隙くらい狙いますよ、敵ですから。……それに、楽しくなければ帰りたくもなりますね」
 当然のことですよ。硝子は肩を竦めて不死鳥の竜神を見る。――虚ろな神には、どうも言葉が響く素振りもない。
「ぼうぼうぼうぼう燃えてると、考えも纏まらないでしょうから。ちょっと燃えないようにしましょうね」
 すう、と息を吸う。次に硝子が紡ぎ出すのは、歌だ。さかしまの歌。極楽浄土さえ、捉えて解れ、さあ歌え。
 神でしょう、あなたは。その本来の姿を取り戻すのに力を貸すのは、シャーマンとしても吝かではない。――歌が響けば、炎を相殺する。
 その隙を穿つように、破魔の矢が未夜から放たれる。水の気を纏った破魔矢は狐耳がぴこりと動くその間に数を増やして、一直線に飛んでゆく。
「無理やり留めて危ない目に遭わせて、あまつさえそれを幸せ扱いさせようだなんて、無理があるよ」
 炎を操るなら、水はやっぱ苦手かなって。よくよく狙い澄まされた破魔矢は過たず竜神を射抜く。
「……淋しかったの? 誰を想ってたのかなんて、知らないけどさ」
「幸せじゃなかったんでしょうか。帰りたいと思えるのは幸せだからで……ああまあ、大体みゃーと零時くんが良いこと言ってくれてるので、そこんとこ良く考えて下さい。――零時くん、行けますか」
「おうとも! パル!!」
 零時の声に応えて跳ねるのは、紙兎。心強い式神は、言うまでもなく零時に防御を与え、暴発しやすい零時の魔法を組み上げるだけの時間を稼ぐ。
「そっちがやべぇの放つなら……これならどうだ! ――オーバーレイ!!」
 放たれるのは極大光線。それは硝子と未夜が作り出した大きな隙を狙い撃つ。

「……そういえば零時、さっきやったかくれんぼってホント、モドキだからね」
「えっ」
「あれ、本当のかくれんぼと思わないでくださいね。ちゃんと後でやりましょうって言ったでしょう」
「やった、『カクレンボ』、できるんだな!」
 ぱあっと輝く表情に、未夜も硝子も頷いて。
「できるんじゃない、そう言ってたし。帰り道が見つかったらさ」
「ええ。……これで少しは、頭が冷えれば良いですが」
 しゅうしゅうと、土埃が深く煙る。――その奥で、身動きする者は、果たして。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リュカ・エンキアンサス
晴夜お兄さんf00145と

今度は、お兄さんがかっこいいところを見せてくれるらしいので、
うん、頼りにして…る…

うん、頼りにしてるよ(お兄さんのこと、しっかり守らなきゃ

とはいえお兄さんが敵を引き付けてくれてるのはありがたい。
その間に俺は敵を銃撃する。なるべくお兄さんが怪我しないように、邪魔するように撃ち込んでいくよ
(敬う……敬う?
う、うん、お兄さんのかっこいいところ、楽しみにしてる

…うん、悪いけど、俺たちは先に帰るよ
なぜって言われると困るな…
俺は帰る家も待つ人もないし
それは、お兄さんのかっこいい台詞に期待しよう


まあ確かに、いつまでも遊んでるのはカッコ悪いからね
あなたも、どこかに帰れるといいね


夏目・晴夜
リュカさんf02586と

先程はリュカさんのほうがカッコよかった事は否定しません
しかし次はこのハレルヤが、あっつ!
このハレルヤが活躍してみせますから、頼って下さってもいいですよ

まず『喰う幸福』の高速移動で一気に接敵
光線は【第六感】で躱して妖刀での斬撃、或いは斬撃からの衝撃波で【目潰し】し、以降の光線の命中精度を低下させます
この素晴らしき活躍。リュカさんがハレルヤを敬う気持ちも回復したでしょう?
後は存分に斬り裂いて【串刺し】にしてカッコいいところを更に披露していきます

我々は帰ります
いつまでも遊び呆けるよりも、ちゃんと帰るほうが褒められますからね!
やれやれ、期待以上にカッコいい事を言ってしまいました




 まだ、そこにいる。
 その気配を察して、リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)は銃を手元に引いた。視線は、もうもうと上がる土煙の中へ油断なく向く。
「――ですから。先程はリュカさんのほうがカッコよかったことは否定しません。しかし次はこのハレルヤが、」
「お兄さん」
「あっつ!」
(……踏み込むと危ないよって、言おうとしたんだけどな)
 ワンテンポ遅かったらしい。夏目・晴夜(不夜狼・f00145)は土煙から不意に飛び出した火球のごとき炎の塊に掠められてほんの一瞬ぽかんとし、
「このハレルヤが活躍してみせますから、頼ってくださってもいいですよ」
 何事もなかったかのように胸を張った。お兄さん、ちょっと耳の先っぽ焦げてるよ。――と言うのはたぶん、言わないほうが良いんだろう。察した。
「……うん、頼りにして……る」
 る。消えそうになった語尾を咳払いして言い直す。
「お兄さんのこと、しっかり守らなきゃ(うん、頼りにしてるよ)」
「リュカさん、何か逆になってません?」
「気のせいだよ」
 ホントだってば。そう、どちらも本当のことだ。だから気にしないことにして、改めて土煙から飛び出した炎の塊を注視する。
 ヒトの形を取った神。不死鳥の竜神はもう随分と攻撃を受けてぼろぼろに見えるのに、いや増して感じるのはその熱ばかりだ。ゆらゆらと、夕焼けが陽炎に揺れる。
「その様相で未だ立っている辺り、痛覚も何も吹き飛んでいるのでしょうか。……ともあれ」
 鞘のない一振りを、晴夜は足元にてとてと寄って来た白柴から受け取った。もっふりふわふわのからくり人形は、よく出来ましたと褒めて撫でれば満足げに後ろに下がる。ええ、そのまま後ろのほうへ。せっかくの毛並みが焦げてしまっては勿体無いですから。
 とて、とてて。小さな姿が銃を構えたリュカの後ろにひょこりと隠れたのを見て取って妖刀はぐわりと顎を開くように喰らい取った怨念を吐き出せば、それは晴夜を青く覆い尽くす。
 その後は、瞬く間さえなかった。――とん、と。不死鳥の竜神の傍に晴夜はいる。反射的に跳ね飛ばそうとした敵の動きを宙で躱せば、そのまま斬撃もろとも振り下ろす。
「……ッ!!」
 確かな手応えと共に、叫び声ともつかぬ音が夕闇に響く。真っ赤な空に赤が舞えば、竜神の片目は抉られた後だ。一瞬あとに吐き出される光線は精細を欠き、避けるのは酷く容易い。
 夕焼けの中で晴夜は笑う。
「ああ、暗くならないのは良いですねえ。こちらからは良く見えるのに、そちらからはもう見え難いでしょう? ――さあ、リュカさん」
 今ですよ。……あ、今のすごくカッコよくなかったですかそうでしょうそうでしょう。良いんですよ敬って。
「う……うん、お兄さんかっこいい……」
「勿論ですとも!」
「……ところ、楽しみにしてる」
「このハレルヤの素晴らしき活躍、とくとご覧下さい!」
 銃声に被る晴夜の声が嬉しげに響く。敬うってなんだろう。リュカが宇宙より広大な辞書を引くより先に引き金を引いて、晴夜が引きつけた注意の隙を突くように的確に銃弾を当ててゆく。
(お兄さんがあんまり怪我しないように)
「串刺しにしてさしあげま、あっつ!」
(……お兄さんの尻尾とかが火事になる前に)
 遠近両側から狙われてしまえば、飛翔の術を持つ竜神とて逃げ場がない。ぐらりと傾くその影に、息の合った攻撃が刻まれてゆく。
「――何故」
 吐き出されたのは、炎と問い。もはや問うことしかできないのだろう。その瞳は未だ、虚ろな狂気を孕む。
 晴夜が一度距離を取りながら、呆れたように肩を竦めた。
「問われても。我々は帰ります」
「……うん。悪いけど、俺たちは先に帰るよ。何故って言われると困るけど。俺は帰る家も、待つ人もないし」
 ね、晴夜お兄さん。リュカは視線を上げる。
「理由は、お兄さんのかっこいい台詞に期待してて」
「ふ、そう言われると応えなくてはなりませんね。何故って、それは――」
 晴夜は瞳を細め、形よく整った狼耳をそよがせて胸を張った。

「いつまでも遊び呆けるよりも、ちゃんと帰るほうが褒められますからね!」

 ほんのちょっと沈黙があった。晴夜の後方で白柴のえだまめがこてんと首を傾げる。
 なにそれおいしいの? なんて言っていたのかは置いておいて。
「やれやれ、期待以上にカッコいいことを言ってしまいました。さあ、リュカさんどうですか。敬ってもいいんですよ」
「……あ、えらいえらい、すごいよお兄さん。敬わないけど」
 完全に棒読みのリュカの声が、響くでもなく夕焼けに落ちた。
「……まあ確かに、いつまでも遊んでるのはカッコ悪いからね」
 最後。ぐらつく影に銃弾をひとつ。
「あなたも、どこかに帰れるといいね」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
千織/f02428

わぁ、大きい鳥居だ
こんな大きいのははじめてみたよ
これはこれで素敵だけれど――僕は、僕らは帰るから
僕達のお家に
美しい桜に美味しいご飯、暖かなお風呂に―咲き誇る笑顔がぬくもりが
僕らを待っているから

君にもあったのではない?
帰りたい場所が
今は、飲み込まれてわからなくなっているのだろうけれど―ちゃんと
思い出させてあげる

水のオーラで千織を包んで守るよ
鼓舞をのせて歌う「月の歌」
傷を癒して、その背をおして
せめて僕にできることを
炎などに負けないように歌で千織を支えるよ

君も帰るべきだ
帰れる場所があることはしあわせなことだよ
そして、帰れる場所が見つかるのもまたしあわせなこと

でも、遊べて楽しかったよ


橙樹・千織
リルさん(f10762)と

大きな鳥居ですねぇ
あらあら、そう言われても…
帰らせてもらいますよ、必ず
大切な人達が大切な場所で待っているのですから

火炎耐性と破魔を込めたオーラ防御を自分とリルさんに張り巡らせ
攻撃には水の属性を付与しておきます

…全ての原因が帰り道があるからとは限らない
理由はその時の状況によって違うのですよ
武器受けで攻撃を受け流してマヒ攻撃のカウンターを叩き込む

ずうっと此処で遊んではいられない
私達には私達の居場所がありますから
あなたにもあったでしょう?
無くなってしまったなら、また作れば良い
それができる道が、世界が繋がったのだから

ふふ、そうですねぇ
またご縁があったら…遊びましょう?




 ひらり、月光ヴェールが夕焼けを游ぐ。
「わぁ、見て千織。大きい鳥居だ」
 ふふり、その傍らでヤマネコの尾が揺れる。
「ええリルさん、大きな鳥居ですねぇ」
 こんなに大きいのははじめてみたよ、と声を弾ませたのはリル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)で、おっとりと笑っているのは橙樹・千織(藍櫻を舞唄う面影草・f02428)である。
 二人がこうしてやたらと穏やかなやりとりができるのは、呑気と言うわけでもない。ただ、知っているからだ。この殺伐とした戦いの気配も――絶望を抱いた虚無にも。それに。
「これはこれで素敵だけれど……僕らは帰るから」
 僕たちのお家に。そう言ってリルがそっと一片拾うのは、足元に残る桜の花弁。
「美しい桜に美味しいご飯、暖かなお風呂に――咲き誇る笑顔が、ぬくもりが。僕らを待っているから」
 ゆらり、夕闇が燃ゆる。一見した傷も何も酷いのに、尚も留まることを知らぬ炎を宿して、竜神は虚ろな瞳を二人へ向けた。
 何故、帰ってしまうのですか。そう問う声が、不気味に滲んで聞こえる。
「あらあら、そう言われても。帰らせてもらいますよ、必ず。リルさんが仰ったでしょう」
 柔らかく笑って見せて、けれど千織は強く意思を示した。その手にも一片、桜の花弁がある。
「大切な人たちが、大切な場所で待っているのですから」
 帰る道がなくたって、こうして導は残された。それを辿るのは、それぞれの意思だ。
「千織。……今度は、迷子になってはいけないよ?」
 リルの指先から、馴染んだ水の気配が千織に渡される。それはふわりと千織を包んで守る、守護のひとつ。
「あらあら、ふふ。……言われてしまいましたね。ええ、迷いません」
 少しだけ恥ずかしそうに笑う千織からもリルへ、そっと返す。それは破魔を込め、火炎を退ける守護のひとつ。
 ――気をつけて。
 言葉よりも確かな守りを分け合えば、それは何よりの導になり得る。
 千織が握り向ける薙刀の切っ先には水流が宿り、燃え盛る不死鳥の竜神の瞳と橙の瞳が見交わした。影を蹴る。それと同時に、どこまでも透き通った歌声が響き始めた。
 それは『月の歌』。さあ物語の終盤を彩ろう。――月が囀り、泡沫散らす。
 人魚の歌声は、迷宮めいた社と夕闇に何処までも響き渡ってゆく。その一音は傷を癒す。その一音は背を押して。
(僕にできることを。……僕にしかうたえない歌を)
 響いて、聞いて。そんな炎なんかに負けないように。

 長獲物を苦もなく振り抜いて、千織は炎の羽を受け流す。掠める火の粉が怖くすらないのは、貰った守りがあるからだ。躊躇わず踏み込めるのは、背を押す歌声があるからだ。
 切っ先が花弁と散って、不死鳥の竜神を包み込む。山吹と八重桜。ふたつの花弁は柔く舞えども、鋭く抉る。
「ずうっと此処で遊んではいられない。私たちには私たちの居場所がありますから」
 あなたにもあったでしょう? もう、忘れてしまいましたか。
 問う千織の声に、リルの声も続く。
「帰りたい場所が、君にもあったはずだよ。今は、わからなくなっているのかもしれないけれど」
 ちゃんと思い出して。思い出せるものならば、思い出させてあげるから。
 歌う声は微笑んで、透き通る月を呼ぶように響く。
 その歌声に熱に焼けた肌が癒されるのを感じながら、千織も瞳を見据え直した。
「無くなってしまったなら、また作れば良い。それができる道が、世界が繋がったのだから。だからこそ――道は無くしてはいけません」
「そう。帰れる場所があることは、しあわせなことだよ。……そして、帰れる場所が見つかるのも、またしあわせなこと」
 ああ、だから。みいつけたって、言ってほしかったのかな。
 もうその声にさえ、返る言葉はないけれど。櫻雨が竜神を雪ぐ。送り出すような歌と共に。
「……君も帰るべきだ。ああ、でも。遊べたのは、楽しかったよ」
「ふふ、そうですねぇ。またご縁があったら……遊びましょう?」
 歌声は澄んで響き、花が舞う。――春の館へ帰るは、もうすぐ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
やれ、寂しがりの聞かん坊め
貴様の云い分なぞ知らん
疾く消えよ――ジジ?
お前、一体何を考え…って!?
不意の浮遊感
赤い鳥居に降ろされ暫く鼓動が耳を打つ
飛ぶならば疾く云え、この阿呆!
今云えば良いという訳ではない!
…こほん、致し方ない
ほれ、不本意ながら来てやったぞ
これで存分に遊べよう
ふん、負けても泣くでないぞ?

ジジを追う炎の鳥
魔方陣を描き【女王の臣僕】を召喚
涼しければ多少は頭も冷えるのではないか?
ふふん、燥ぐな燥ぐな
飛来する羽の挙動を観察し蝶の群れで凌ぐ
遊び疲れた頃合いであろう?
万物には終りがある
そして、終りがあるからこそ面白い
我々は帰らねばならぬでな
――貴様も、そろそろ帰るが良い


ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と
遊べ遊べと強請るのは
寂しいからか、竜の神
ならば思い切り戯れてみるか

師を担ぎ、翼で鳥居の上へと
うむ、飛んだぞ
片耳を塞ぎながら翼ひと打ち
久々に鬼ごとと参るか、師父

こちらだ、と独り宙羽搏く音で誘きよせ
炎の鳥を【竜追】で躱す
戯れと思えば然程の速度は出ぬが
今は、その方が良かろう
すんでの所で墜ちる様に高度下げ
或いは鳥居蹴って切り返し上空へ
そら、もうひとりの鬼に捕まるぞ
氷の蝶の軌道へと招くように螺旋描いて
燃える翼へと刃を振り下ろす

…戯れの仕舞いは、さぞ名残惜しかろうが
己を信ずるものらを失くし
もはや戻れぬならば
お前が信ずるものを探しては如何だ

――人を導くのは
神とやらばかりではない故に




「……酷い有り様よな」
 大鳥居の上にぽつねんと立つ揺らぐばかりの炎の影に、アルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)は溜息を吐いた。
 憐れまれても、怒りを買っても、諌められても。その身が傷ついていることにすら、不死鳥の竜神は気づいていまい。――否、何処かに響いてはいるのかもしれない。
 だからこそ度重なる戦闘で剥き出しになった炎は、なお燃ゆるしかできぬのか。
「神であったと言うが、幼子のようだな。……やれ、寂しがりの聞かん坊め。貴様の云い分など知らん」
「……そうか」
 頷いたのは竜神ではない。竜は竜でも竜人である。ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)は黄昏の鳥居の上に立つ小さな影を見上げて、ゆっくりとその黒銀の竜翼を広げる。
「疾く消えよ。――さもなくば、」
「寂しいからか」
 単調で、けれども純粋な声音がアルバの声を不意に遮った。
「……ジジ?」
「遊べ遊べと強請るのは。寂しいからかと聞いている。……応えはないか、竜の神」
 ないだろう。予期したことだ。あの燃え盛る瞳の奥に、正気など今は何処にもない。
 わかった、と低く落として、同時に黒翼が擁する白亜の翼が風を孕んだ。
「おいジジ、お前一体何を考え――てっ!?」
「ならば思い切り、戯れてみるか」
 ひょい。からの、見事な飛翔でジャハルは夕焼けを飛ぶ。その肩に、荷物よろしく抱えられたアルバがいる。加速度的に鳥居の真上まで飛び上がったジャハルは、持ち上げたときと同じ易さですとん。と鳥居の上に降ろされた。
「……っ、な……」
 一瞬前まで重力と共にあった身体が浮遊感に包まれて、その次の瞬間には当然のように上空に置かれた。――否が応でも心臓も走ると言うものだ。
「飛ぶならば疾く云え、この阿呆!」
「うむ、飛んだぞ」
「ええい、今云えば良いという訳ではない!」
 ばくばくばくばくばく。無駄にうるさく耳を打つ鼓動に押し出されるようにアルバが苦言を呈するも、当のジャハルは涼しい顔だ。いつものことだが。
「だいたい何用でこのような場所に……」
 深々とした溜息と共にアルバは従者を見る。戦いようなら、いくらでもあるだろうに。けれどもジャハルは淀まぬ言葉と瞳で、アルバを見返した。
「鬼ごとをするには、同じ足場が必要だろう」
「……まったく」
 幼子ならばここにもいたか。純粋なその心根は、昔から変わらぬままのものだ。愛しいものだ。軽く肩を竦めれば、その動作が許容と知っている黒竜は、翼を一打ちして空を飛ぶ。
「久々に鬼ごとと参るか、師父。鬼は竜の神として」
「……致し方ない」
 こほん。ようやく落ち着いた鼓動を仕切り直すように咳払いをひとつして、アルバは同じ高さに立つ不死鳥の竜神に星の瞳を向ける。
「ほれ、不本意ながら来てやったぞ。これで存分に遊べよう」
 この場所でも、あるいは領分とするだろうこの黄昏の空も。鬼はふたりで不足はあるまい。
「ジジよ」
 アルバが夕焼け空を過ぎるジャハルを呼んだ。
「……負けても泣くでないぞ?」
 ふふんと胸を張るその一言は、戯れを楽しめと云うのと同じく。きょとんと夜灯しの瞳を瞬かせて、ジャハルも僅かにその瞳の色を輝かせた。いつかの小さな子のように。

 戯れの鬼ごとは、然程派手にはならないものだった。
 何故なら不死鳥の竜神は手負いであったし、ジャハルの翼も然程も勢いをつけない。
 こちらだ、と螺旋を描き誘い込むように呼んだ炎の気配を、風を纏いてひらりと躱す。ぐんと上げる高度で誘き寄せれば、すんでのところで堕ちるように高度を下げて。その両足が鳥居を駆ければ。
「そら、もうひとりの鬼に捕まるぞ」
 軽い足音で駆けたアルバが魔法陣を描き出す。赤く焼けるばかりの空に、舞い踊るのは青き蝶。氷の気配を纏うその翅が壁を成せば、一瞬のうちに叩きつけられた炎の羽を確かに防ぐ。
「ふふん、噪ぐな噪ぐな。……ああ、しかし」
 そろそろ頃合いか。呟いたアルバに空を滑空していたジャハルが頷いた。
「遊び疲れた頃合いであろう?」
 凍てる蝶たちが、その炎を包み込む。それでも炎を吐こうとした燃える翼に、ジャハルの刃が振り下ろされた。
 遊んでばかりもいられない。こうしている間にも、世界は破滅へ向かっているのだから。
「……遊び方を思い出したか、竜の神。戯れの仕舞いは、さぞ名残惜しかろうが」
「万物には終わりがある。そして、終わりがあるからこそ面白い」
 ジャハルの言葉の端を引き継ぐようにして、アルバは告げる。
「我々は、帰らねばならぬでな」
 ――貴様も、そろそろ帰るが良い。
 良く通るアルバの声が落ちる竜神の背に掛かる。その、帰り道を覚えているならば。
「もはや戻れぬならば、お前が信ずるものを探しては如何だ」
 ジャハルの声が、届いたかどうか。ただ、燃える炎はその勢いを失った。
 残るのは虚ろな瞳。ただその瞳は、迷い子のようにも見えるから、ジャハルはもうひとつ、言葉を足した。例え祈りがなくとも。信仰が為されずとも。――神と、呼ばれなくとも。

「人を導くのは、神とやらばかりではない故に」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

蘭・七結
ナハトさん/f01760

移ろうことなき夕暮れ時の世界
此処は、闇に覆われた常夜に似ているよう
夕闇の彩は帰り時を知らせる合図
ずうと遊び続けるのも魅力でしょうね

けれど、ね
それでは何時の日にか飽いてしまう
もういいよ、と
誰も彼もが手放してしまうわ

愉しいと思えることは、大切なことよ
その心を大事に懐いていたいから
かえりましょう
あなたの、わたしたちの、かえる場所へ
そうと手を伸ばして誘いましょう

夕闇のままで静止する景色を絶ち切りましょう
夜の幕が降りて、朝の陽光が降り注ぐ
当たり前のようで、そうではないこと
時の移ろいは、とてもいとおしいわ


ナハト・ダァト
ナユ君/f00421

ナユ君ノ、通りダ
然るべキ在り方デ、世界ハ其処ニ座しテいル

利デあリ、義務デあリ、徳ダ
全テ、為ルがままニ進のだヨ
逆らウならバ、此処デ止めよウ

嘗てノ栄光ガ目を奪うなラ
陽光ヲ以テ、戻シ覚まそウ
伸ばされタ彼女ノ手ニ、意識ガ触れるまデ
何度でモ、身ヲ灼こウ

明日ノ今日ハ、過去ヲ積み重ねタ未来ダ
「瞳」ニ映り続けル限リ、この時間ヲ視ていたイ

これガ、「いとおしい」ト言うのなラ
あア。私ハ、全てニそウ感じテいるヨ

“虚”ガ満ちる様ダ
これハ、一体。何なノだろウ。




 夕暮れ時に、炎は僅か。
 鳥居の影からゆらりと動き出す、その姿はもう限界を越えていることは確かだった。
 猛る炎を吐けもせず、あとは残り香のように、ぱちり、ぱちりと火の粉を散らす。
「……まだ、問うの?」
 蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)は静かな声で、不死鳥の龍神へ声を掛けた。
 はいともいいえとも返らぬ応えは、返せぬものであるのだろう。
 まるでこの場所の夕暮れと同じ。時を止めたように、ただそこに絶望が在り続ける。
「移ろうことなき夕暮れ時の世界。……此処は、闇に覆われた常夜に似ているようね」
 明けぬ夜も、染まる黄昏も。時を止めて立ち止まってしまえば、おなじこと。
 夕闇の彩りは帰り時を知らせる合図。――ずうっと遊び続けるのも、魅力でしょうね。
 少しだけした想像は、とても何気ないもの。帰る必要がないのなら、いつまでだって遊んでいられる。けれど。
「けれど、ね。……それでは何時の日にか飽いてしまう。誰も彼もが、手放してしまうわ」
 もういいよ。紡ぐその言葉の意味が、きっと変わり果ててしまうから。
「ナユ君ノ言う通りダ」
 七結の傍らで、ナハト・ダァト(聖泥・f01760)は頷いた。
「然るべキ在り方デ、世界ハ其処ニ座しテいル」
 それを崩せばあらゆるものが崩れるだろう。道だけではなく、世界の全てが。
「これハ利デあリ、義務デあリ、徳ダ。全テ、為ルがままニ進むのだヨ。――逆らウならバ、此処デ止めよウ」
 ゆらり、揺らぐ竜神が、それでも炎の羽を飛ばしゆく。さほど狙いの精度も高くないそれは、ナハトの太陽を宿す片腕で叩き落とされた。
「嘗てノ栄光ガ目を奪うなラ、陽光ヲ以テ、戻シ覚まそウ」
 光あれ。なんて言葉は言うでもないが。失われたかつての意思は、何処にある。ナハトの身体はゆらりと形状を変えて、陽を差した。何度だってその身を灼いて。ぐらり、不死鳥の竜神が傾ぐ。
「……愉しいと思えることは、大切なことよ。かくれんぼでも、何でも構わない」
 その心を、大事に懐いていたいから。
 七結が紡いで、ふと微笑んだ。柔らかく、やわらかく。――手を伸ばす。
「かえりましょう。あなたの、わたしたちのかえる場所へ」
 その手が、そっと。ほんの少しだけ、不死鳥の竜神の手に触れた。もう倒れ伏しそうなかみさまは、そのぬくもりに触れるや、事切れたようにくず折れた。
 刹那、その身体から不死鳥の炎が切り離されたように抜け出づる。それこそが骸魂。寂しがりの竜神の心に巣食った妖者。
「……逃しはしないわ」
 竜神の身をそっと寝かせて。黒鍵の刃を手にして、七結は逃げ出そうとする炎の翼を見据えた。ろくに飛べもしないのに、足掻くように色を止めた夕闇に羽ばたくそれは、ナハトの光にも灼かれて、落ちる。
「止まる世界の景色を断ち切りましょう。――夜の幕が降りて、朝の陽光が降り注ぐ。……それは当たり前のようで、そうではないこと」
「明日ノ今日ハ、過去ヲ積み重ねタ未来ダ。私ハ『瞳』ニ映り続けル限リ、この時間ヲ視ていたイ」
「ええ、そうねナハトさん。……時の移ろいは、とてもいとおしいわ」
 微笑むのと同じほどゆっくりと、丁寧に。黒鍵の刃が夕闇を斬り裂いた。その隙間に、ナハトの光が差せば――見えるのは、隠されてしまっていた『道』たち。
 その姿と共に、夕闇がゆっくりと夜を連れてくる。移ろい、移ろう。瞳に見える、これが『いとおしい』というのなら。
「あア。私ハ、全てニそウ感じテいるヨ」
 ああ、まるで。――まるで。
(“虚”ガ満ちる様ダ。……これハ、一体。何なノだろウ)
 いとおしい。その感覚にナハトは暫し思考して、ふと隣で眠りついたかみさまを撫でる七結を見た。
 視線が合えば、七結はしぃ、と口元に指を立てる。
 虚ろばかりだった竜神は、まるで幼子のように眠っていた。
「つかれてしまったのでしょうね。……たくさん、泣いたのだもの」
 知らぬ間であったとしても。呑まれてしまった意思だったとしても。
「……モウ少し、そうしテいてやると良イ」
「ええ、ありがとう」

 頷いた七結のその腕の中、眠り落ちた竜神はやがて光と成って、流星のように流れて行った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『妖怪かくれんぼ』

POW   :    気合いで見つける

SPD   :    いろんな場所を歩く

WIZ   :    わざと驚かされる

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 夜はつるべ落としのように、あっと言う間にやって来た。
 ふと顔を上げれば、夕闇に道を失っていた社は何処かで見たことのあるような、ありふれた社の姿をしていて、大鳥居から境内へ、石畳の道が伸びる。
 ぽかんとした猟兵たちの前に、ふよふよと宙をゆくのは青い狐火。それを思わずじっと見ていれば。
 ――どろん!
『目が合った! 目が合った! お客人! お客人!』
 不思議な音と一緒に現れたのは丸いフォルムのタヌキ――のように見える妖怪。
 嬉しげな声を合図にしたように、石畳の両端にぽんぽんぽんと狐火が並び灯ってゆく。どこからともなく賑やかな声が、わあっと猟兵たちの周りに集う。
『ありがとうありがとう、お客人! やあ、麒麟のお腹は狭くてな!』
『しってるぞしってるぞ、猟兵って言うのだろ、いいなあいいなあ、ちゃあんと見える!』
 タヌキにキツネ、一本傘に喋る雪洞。百鬼夜行もかくやと言った様相で、数多の妖怪たちは猟兵たちを嬉しそうに大歓迎する。それが迷宮と化した社に骸魂に呑まれて囚われていた妖怪たちだと察するのに時間は掛からなかった。
『遊ぼう、遊ぼう! かくれんぼはもう飽きたかい?』
『なら話をしよう、化け術を見ておくれ!』
『かくれんぼだって何だって構わないのさ、遊んでくれる誰かはみぃんな見えなくなってしまったんだもの』
 わいわい、わいわい。あちらこちらから楽しげな声がして、妖怪たちが跳ね回る。

『さあさ、帰るそのまえに!』
『カクリヨを楽しんで行っておくれよ!』
境・花世
綾(f01786)と

幽世の夜に灯る賑やかな声に
思わずわたしもはしゃいでしまうよ

今栖んでる世界にはもう居ない妖たち
こうして逢える不思議な奇跡に、
なんだか胸があったかくなるような心地がする

っと、タヌキさん、危な――さすが綾!

王子様みたいな姿に思わず見惚れれば、
おんなじ眼差しのキツネさん
うんうん、わかるよ、綾は素敵だもんね
わかるけど……けど……
彼に注がれる愛らしいらぶらぶ光線に、
何故だかちょっぴり頬が膨れてしまう

わ、キツネさん、どうしたの

ふわふわと懐かれて、すぐに柔く緩む頬
ごめんね、一緒に綾のこと見つめようね
なんてこっそり話しかけて仲良く並べば、
いつのまにか王子様が、やさしい眸で笑ってる


都槻・綾
f11024/花世

其処彼処で賑わう明るい声に
柔らかな笑み浮かべ
妖し達に誘われるがまま
存分に遊びましょ

タヌキさんの化け術は
かくれんぼの目くらましに
とても有効そうですねぇ

褒め称して
やんや拍手を打てば
得意気にどろんどろん
めくるめく変身披露

やがて
くらくら目を回したタヌキさんを
大丈夫ですか、と支えたところで
キツネさんから届く「キュン!」の眼差し

きらきら見上げる姿も愛らしいけれど
花世のほんのりむくれた表情も可愛らしい

そっとキツネに
「御覧なさい、春爛漫ですよ」と
彼女を示して耳打ちしたなら
今度は花世へむけて「キュン!」の様子

懐かれて嬉し気にふわふわ咲く笑顔に釣られて
ふくふく肩を揺らす

花世の表情も変化の術みたい




 夜の社に灯る狐火は青と赤。
 石畳の両側に交互に並んだ妖灯りは、夕暮れよりも暗いのに、よほど明るい声が賑やかす。
 賑やかなその声につられるように、境・花世(はなひとや・f11024)の声も弾んだ。
「わ、見て綾、タヌキさんが空を飛んでる」
 どこを見渡しても妖がいるこの世界。――カクリヨの世界。けれどこの妖たちはかつて今栖んでいる世界にいたはずで、今はもういないものたち。心から嬉しそうな様子で猟兵たちを歓迎する妖たちを見れば見るほど、胸があったかくなる心地がした。
「あ、キツネさんの狐火が花になった。どうなっているのかな……。――綾、綾! ほら、雪洞が踊ってくれているよ」
 あそぼうだって、とどこか稚く笑う花世に、都槻・綾(糸遊・f01786)は柔く頬を緩めた。
「ふふ、お誘い上手な妖たちですね。つい遊びたくなってしまいます」
 賑やかに騒ぐ妖の声も、隣で弾む明るい声も愛らしい。はしゃぐ声たちを見守るように、綾はゆっくり歩を進めた。
「今宵は存分に遊びましょ。……おや、タヌキさん?」
『お客人、お客人! おいらの化け術を見ておくれ!』
 どろん! と景気の良い音と一緒に、綾と花世の前に現れたのはタヌキの妖怪だった。可愛らしい丸いフォルムでびしっと構えるのは木の葉。きらっきらしたつぶらな瞳には、勿論否なんてない。
「おや、それは楽しみな。お願いできますか?」
「きみはどんな変化ができるのかな」
『やった、やった、どんなってそれは、ちゃあんと見ていておくれ!』
 そぉれ、どろん!
 綾と花世の頷きに飛び跳ねるほど嬉しげにして、タヌキは不思議な煙と共にどろんと姿を変えて。
「わ、ダルマさん? 凛々しいね」
 どろん!
「お次は掛け軸ですか。これは芸が細かい、人気を博した水墨画です」
 どろん!
「あ、それはわたしの扇子だね? ほんとうにそっくりだ」
 どろん!
「……おや、今度はすっかりかわいいカエルさんに」
 なんてめくるめく変身披露を手を打って褒めそやして楽しんでいたのだけれど。見て貰える上に声まで掛けて貰えて、すっかりはしゃいでしまったタヌキはどんどん変身を続けて行って、――しまいには。
『ふわぁ、おいらなんだか楽しくて、せかいがぐるぐる』
 目を回してしまったタヌキは、宙でふらふらとして、そのままぽとんと落ちそうになる。
「っと、タヌキさん、危な――」
 花世が少し慌てて声をあげたのと、するりと手が伸びたのは同時だった。小さな体を受け止めるようにそっと支えたのは、綾の大きな手。
「大丈夫ですか」
 柔らかな微笑みと声と気遣いと。それはまるで王子様のようにも見えてしまう。見惚れてしまった花世の頬が淡く色づいた。
「さすが綾!」
『キュンッ。だぞ!』
 その声は、ちょうど花世の隣からした。ぱちぱちと目を瞬かせてそちらを見れば、そこにはぽっと頬を染めてきらきらした瞳で見つめている、ぷかぷか浮かぶキツネがいる。
 おや、と綾が顔を向ければ、キツネは更に視線を熱くした。
『ラブなんだぞ!』
 紛う方なきらぶらぶ光線。惚れっぽいキツネの妖怪は、すっかり綾にときめいてしまったらしい。ぴょんっと勢い良く遠慮もなしに綾の懐にダイブすると、すりすり頭をくっつける。
「うんうん、わかるよ。綾は素敵だもんね。……わかるけど」
 けど。
 同じひとに見惚れた者同士、花世だってその気持ちはよくわかる。けれどもあんなに素直にあからさまに、何なら今頭を撫でて貰っていたりするのは、何故だかすこし。
「……」
 ぷく、と花世の頬が少しだけ膨れた。

 ――勿論それに気づかぬ綾でもない。きらきららぶらぶな視線も愛らしいけれど、彼女のほんのりむくれた表情も可愛らしい。
「……ふふ。キツネさん、あちらも御覧なさい」
 春爛漫ですよ、とそっと耳打ちをしてやれば、ぱっとキツネは顔を上げて。そうして今度は、とてもかわいい花を見つける。
『キュンッ。なんだぞ! ラブなんだぞ!』
「わ」
 今度は花世目掛けて飛びつくと、キツネはきらきらした瞳のままで花世に頬擦りをする。
「キツネさん、どうしたの。……ふふ、くすぐったい」
 ふわふわ、懐く仕草にはむくれた頬もつい緩んだ。続ける声はひそやかに。
「……ごめんね。一緒に綾のこと見つめようね」
『だぞ!』
「ふふ」
 むくれて、緩んで、ふわふわと。
 こっそりと話しかけるその表情にもつい笑み零した綾は、小さく肩を揺らして笑う。かわいらしい。
(花世の表情も変化の術みたい)
 それは言葉にはせずに思い留めて、『王子様』はやさしく微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朧・紅
オズさん(f01136)と《紅》人格で

わぁ、みんなモフッかわい!
ご無事でよかったのですね

やたぁ皆で一緒に遊ぶですっ
もちろん、かくれんぼっ
オズさん、今度は僕がおにさんやりたいです!
ちゃぁんと見つけるですから待っててくださいねっ

いーち、にー

もーいいかい?

遊びも全力、ですっ
第六感でお宝探し♪

傘置で目が合った唐傘お化けさん
ご神木の前を駆けて
この石尻尾が生えてますねっ?狸さん
オズさんもかくれんぼ上手っ
でもでも
ぴょんと木に登って見渡して
輝いた光に目をやれば
夕焼けに照らされる太陽みたいな金色発見です

うゃん♪
ぴょんと飛んで駆けて一直線

オズさんみぃつけたです!
ぅや猫さんも♪
笑顔で捕まえた

オズさんもーいっかい!


オズ・ケストナー
クレナイ(f01176)と

わあ、うんうんっ
みんなのこと、ちゃんとみえてるよ
いっしょにあそぼうっ

なにしてあそぶって?
もちろん、かくれんぼっ
クレナイがおに?
いいよっ、クレナイみたいにじょうずにかくれるからね

みんなと駆けていく

もういいよ

そうっと隠れたのはご神木みたいな大きな木の陰
静かに現れた猫又においでおいでして
胸に抱く
しーって人差し指立て
いっしょにかくれよう

見つからないようにって思うのに
見つけてくれるかなってそわそわ
足音が聞こえたらどきどきして
クレナイもこんなきもちだったのかな

わあ、みつかっちゃった
笑顔で捕まって
ふふ、やっぱりクレナイはつよいね

もちろんっ、もういっかいやろやろ
こんどはわたしがおにっ




 お祭りみたいな楽しさが、夜いっぱいに広がっていた。
 ぼうと音を立てて灯る狐火、どろんどろんと顔を出すタヌキやキツネの妖怪たち。その誰も彼もがめいっぱい楽しそうなのだから、釣られて楽しくもなってしまうもの。
『お客人、お客人! 見えるのだなあ!』
「わあ、うんうんっ。みんなのこと、ちゃんとみえてるよ」
 いっしょにあそぼう! 夜の中で太陽みたいに笑って、オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)は嬉しげな妖怪たちに笑いかける。
「えへへ、みんなモフッかわい! ご無事でよかったのですね」
 オズの隣で朧・紅(朧と紅・f01176)も、ふにゃりと頬を緩ませる。楽しげな気配にはつい足取りも軽くなって、ぴょんと跳ねてしまったりして。目が合った!
「妖怪さんたち、いっしょにあそぼうっ」
 オズが満面の笑みで誘いかければ、ぽぽぽんっと狐火が重ね灯った。
『遊ぶのかい?』
『あそんでくれるのか!』
「やたぁ、皆で一緒に遊ぶですっ」
 紅もこくこく頷けば、わあっと妖怪たちの歓声が上がる。
『やあやあ、何して遊ぶんだい?』
『おいら何でもうれしいぞ!』
 わいわい集う妖怪たちの興味津々な声に、オズと紅は顔を見合わせた。そしてにぱっと笑い合ったなら。
「ふふー。それはもちろんっ」

「――かくれんぼ!」

 ふたりぶん、重なった声と歓声が決定の合図だった。
「オズさん、今度は僕がおにさんやりたいです!」
「わ、クレナイがおに? いいよっ」
 はい! と手を挙げて希望して見せた紅に、オズは笑顔で頷いた。何だか不思議と、紅を探すのはオズの役目のような気がしていたけれど、隠れるのだってきっと楽しい。
「クレナイみたいにじょうずにかくれるからね」
「やったぁ、ちゃぁんと見つけるですから、待っててくださいねっ。十数えたら、いきますよっ」
 ほらほら、妖怪さんたちも!
 紅の声に促されて、妖怪たちも楽しげに隠れ場所を探しに向かう。オズも浮かれすぎて転びかけたタヌキの子を抱えて駆け出した。
 それを見送るようにして、紅は目を閉じて両手で目を塞ぐと、数を数え始める。
「いーち、にー、さーん、しーの」
 ゆっくりゆっくり、よく聞こえるように大きな声で。夜の社に声が響いてゆく。
「もーいいかい?」
 十数えて、聞いた声には。
 ――もういいよ。
 聞き慣れた声が優しく響いた。それで目を開ければくるり、振り向いて紅も駆け出す。
「さぁ、探すですよ。遊びだって全力、ですっ」
 軽い足音で駆け込んだ境内は相変わらず賑やかで、大きな御神木がある。
 けれども冴えた勘が働いたのは、参拝用の順路案内の側に置かれた傘置き。すっかり他の傘に紛れるようにしているけれど。
「唐傘お化けさん、みーつけた!」
 やっぱり目が合った! どこか照れ臭そうに唐傘の妖怪は傘置きを飛び出した。
「それからそれから……あっ、この石尻尾が生えてますねっ?」
 びくーっ。と石が震えた。絶対に震えたしやっぱりフサフサな尻尾がある。つんとそのもふもふを突っついて。
「タヌキさん、みーつけた!」
 あちこち駆けて、紅は隠れている妖怪たちを見つけてゆく。けれどもなかなか、一番見つけたいひとが見つからない。
「オズさんもかくれんぼ上手っ。でもでも!」
 紅は楽しげにしたまま、境内の端にある山沿いの木にぴょんと登った。こういうときは視点を高く持つのです。――そうしたらきっと、ほら。
 夜の中でもきらきらした金色が、見つかるはずだから。

「ふふ、しー、だよ」
 オズは御神木の影に隠れて、膝にいる猫又に静かにと人差し指を立てて見せた。いっしょの場所に目をつけたかくれんぼ仲間だ。
 さっきから紅の軽い足音と、妖怪たちを見つける声が明るく響いている。夜の中の御神木の影はうんと暗いけれど、それが怖くないのは、きっとあの声たちがするおかげ。
(見つかっちゃだめなのに、そわそわする)
 ふしぎだな、オズはどきどきする胸を押さえて、顔をすり寄せる猫又を撫でる。
(クレナイもこんなきもちだったのかな)
 そう、彼岸花みたいな綺麗な赤を思い浮かべたそのときに。

「――オズさん、みぃつけたです!」

 満面の笑みが、オズを見つけた。だから見つかってしまったのに、オズもふわりと笑ってしまう。
「わあ、みつかっちゃった。ふふ、やっぱりクレナイはつよいね」
「えへへ、頑張りましたぁ。ぅや、猫さんもみつけたです!」
 猫といっしょに立ち上がれば、紅もオズも笑顔は絶えず。すっかり見つかった妖怪たちもわやわやと集まってくる。
「オズさん、もーいっかい!」
「もちろんっ。もういっかいやろやろ。――みんな、みんな! こんどはわたしがおにだよっ」
 もっと遊んで帰ろうか。楽しげな声は夜に尽きずに、笑顔と一緒に明るく響いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

三岐・未夜
【団地】

かくれんぼ、ちょっと楽しみだったんだよね
小学生以来だなぁ、かくれんぼとか鬼ごっことかドロケイとか、今度団地でやるのも良いかも?

じゃんけんで、鬼は硝子
折角だし、晶も隠れれば良いと思うよ?
もういいかい、に慌ててまだだと告げて隠れる場所を探す
ヤバい何かガチすぎる
硝子そうだよペンデュラム持ちじゃんやだー!
……ていうか零時そういえばクリスタリアンじゃん……透明化持ってるよね……

……これ真っ当なかくれんぼと違う……(でも負けたくないから同じ土俵に立つ狐)

滅多に戻らない黒狐の姿に戻って人姿じゃ入れない場所に潜り込む
見付かりませんように!の【祈り】と周囲に認識阻害代わりに【催眠術、全力魔法】で姿隠し


兎乃・零時
【団地】

青い狐火……火の魔術か…!?
ってか狸だ!俺様聞いたことある動物だ!

かくれんぼ?さっきのはモドキだったんだろ?
飽きるも何もまだ俺様はやれてもねぇんだ!

だからさ!
皆でかくれんぼ、やろ!!

…化け『術』…え、視れんの?
かくれんぼ終わった後見せてもらうとかダメ…?

成程、るーるは大体把握した……

―――見つからなきゃ良いんだな?

普段はキラキラしてる宝石髪も、UC使えば一切みえねぇだろ
…まぁ気配まで隠せれるか分かんねぇから…
さらに俺様は【忍び足×目立たない×闇に紛れる×地形の利用】でどこら辺行ったか分かりづらくして全力で【物を隠す】様に隠れる!
(魔術は使わない)

あ、透明駄目ならそれはそれなしでやるぞ?


笹鳴・硝子
【団地】

飽きてませんよ、かくれんぼ
今度は真っ当なかくれんぼをしませんか
ちょうどこちらには、今日が初かくれんぼの零時くんがいるのです
一緒に盛り上がるのはいかがです?

「つまりみんなが『もういいよ』って言ったら探し始めれば良いのですよね、みゃー?」

でしたら

わたしが

みんなまとめて

みつけてあげましょうねえ

些細な変化しか見えないほぼ真顔の笑顔で愛用のペンデュラムを掲げる
【追跡・失せ物探し・情報収集・地形の利用・視力】
「ローカルルールが発生した程度のことです些末些末」
『おねえちゃん、おとなげなーい』
なんとでもお言いなさい
私は遊ぶ時は本気で遊ぶ女
ましてここには見つけて欲しかった子達がこんなにいるんですから




 夜の帳が落ちて、子供はみんな帰る頃。
 けれども待って待ってと引き留める賑やかな声に、灯る狐火に、足を止める猟兵たちがいる。
「青い狐火……あれ、火の魔術か? 赤いのもあるぞ!」
 妖怪たちの賑やかな声に負けじとばかり、兎乃・零時(そして少年は断崖を駆けあがる・f00283)ははしゃいだように髪まできらきらさせて、灯る狐火を指す。
「さあ、どうだろ。……にしても零時、魔術っぽいのに目がないよね」
 そこかしこではしゃぎ回るタヌキやキツネやらの妖怪たちを前髪の下から見やって、三岐・未夜(迷い仔・f00134)は、でも、と遊びに誘う声に少しだけ口元を緩めた。
「かくれんぼ、ちょっと楽しみだったんだよね。やるの、小学生以来かな……硝子は?」
 問われて、辺りの妖怪たちをじっと見守っていた笹鳴・硝子(帰り花・f01239)は未夜の問いにも妖怪たちの問いにも答えるように口を開いた。
「飽きてませんよ、かくれんぼ。――それに、ちょうどこちらには今日が初かくれんぼの零時くんがいるのです。一緒に盛り上がるのはいかがです?」
 いつもより少しだけ柔い声で硝子が答えれば、零時が嬉しそうに表情を輝かせ、妖怪たちからはわっと歓声が上がった。
「さっきのはモドキだったんだよな? 飽きるも何も、まだ俺様はやれてもねぇんだ!」
 だからさ!
 小さな身体は胸を張り、零時は明るい声で友人たちに、妖怪たちに笑いかける。

「みんなでかくれんぼ、やろ!!」

 やろやろ、やるやる! わあいわあい! あちこちから賑やかな妖怪たちの声があがって、とある団地からやって来た三人と妖怪たちのかくれんぼは始ま――「あっ、俺様まだるーるちゃんと知らないぞ!」「みゃー、説明してくださいって言ったじゃありませんか。真っ当なかくれんぼを知っているのはみゃーなんですよ」「なんで僕が悪いみたいな言い方……ええとね零時、」「……! 成程!」――はじまる。
 仁義なきじゃんけん勝負の結果、硝子が鬼に決定して、一足先に妖怪たちは楽しげに隠れに向かう。それを見送りながらいた硝子の隣にひょこりと影が覗いた。『晶』である。
『みんなで遊ぶの?』
「ん、そうだよ。晶もやる? 折角だし、晶も隠れれば良いと思うよ?」
「晶だ! 一緒に遊ぼうぜ、みんなでやったほうが楽しいしさ!」
『おねえちゃん、さがしてくれるの?』
 晶の声に、硝子はこくりと頷いた。未夜がしてくれた説明を、もう一度確かめるように自分の中で噛み砕く。
「つまり、みんなが『もういいよ』って言ったら、探し始めれば良いのですよね、みゃー?」
「うん、そう」
「でしたら」
 わかりました、とほとんど仕事を放棄した表情筋のまま、硝子はにっこりと笑った。
 真顔の笑顔である。とてもこわい。
「わたしが」
 かちゃん。ゆらりと揺れて彼女の手から掲げられたのは――愛用のペンデュラム。雷水晶は重力に従って落ち、けれどゆらゆら揺れもせずに『鬼』の揺るがぬ意志を示した。
「みんなまとめて、みつけてあげましょうねぇ」

 ひっ、だか、ぎゃっだか、そんな悲鳴が約二名からあがったのもお構いなしに、硝子はくるりと背中を向ける。
「さあ、始めますよ。――いち、に、さん……」
「ちょ、待って待って……! ヤバイ何かガチすぎる。行くよ零時、隠れなきゃあれはすごくヤバイ」
「や、ヤバイのか」
『おねえちゃん、ほんきだぁ』
「って晶も言ってるし……! 硝子そうだよペンデュラム持ちじゃんやだー!」
 未夜はいっそ顔面蒼白の勢いである。零時も駆け出しながら、何ともなしにそのヤバイの欠片は理解した。たぶん。
「わ、わかった。――見つからなきゃ良いんだよな? 俺様それなら得意だぞ!」
 きらり、零時の宝石の身体がきらめく。行くぜ、と零時の声が確かにしたと思った次の瞬間には、零時の姿はそこになかった。代わりに、元気の良い足音と声だけが駆けてゆく。
『お客人、化け術でかくれているのかい?』
「えっ、化け術? 違うけど、狸はできるのか? かくれんぼ終わったあとに見せて貰うとかダメ?」
『良いとも!』
「やった! 約束な!」
 なんて無邪気な声が遠のいて。
「……透明化……」
 そういえば零時クリスタリアンじゃん。気づいて未夜は呆然とした。

「…………これ、真っ当なかくれんぼと違う……」

 気づいたのがちょっとだいぶ遅かったから、未夜はもういいかいと呼ぶ声に慌ててまぁだだよと返して――姿を変える。
 したっと社の石畳に降り立ったのは黒狐。滅多に戻らない姿に戻って、未夜は人の姿では入れそうにない社の床下に潜り込んだ。真っ当なかくれんぼとは。だって負けたくないもん。自分以外の二人が反則的にかくれんぼ向きなのがいけない。
(見つかりませんように!)
 全力で祈って周囲に認識阻害の魔法を広げてついでに催眠術も付与して。――反則的なのはどっこいどっこいである。

 もういいかい。もういいよ。響いて来た声を確認して、硝子はペンデュラムが指す先へ迷わず歩き出す。探し物は得意なほうだ。あらゆる意味で。
『おねえちゃん、おとなげなーい』
「なんとでもお言いなさい。ローカルルールが発生した程度のことです些末些末」
 言いながらまずは妖怪を見つける。タヌキの信楽焼に化けた子は、みいつけたと声をかけると嬉しそうにどろんっとした。そこからは次々に、影に、足元に、わかりやすく尻尾を出して。楽しそうに隠れている妖怪たちを見つけ出してゆく。見つければ妖怪たちは皆一様に嬉しそうな顔を見せた。
『やあ、見つかった! ありがとうありがとう』
「いえ。私は遊ぶ時は本気で遊ぶ女」
 ――増してここには、見つけて欲しかった子たちがこんなにいるんですから。
 僅かに口元が笑みらしい形を作って、かくして(真っ当ではない)かくれんぼは白熱した。

 やがて存分に遊び尽くした三人と妖怪たちは再び賑やかに顔を合わせる。
「……団地でやるときは今度こそ真っ当なのがいい」
 未夜がぐったりと疲れた声で。
「え? 楽しかったぞ、かくれんぼ!」
 零時がうんと楽しげな声で。
「ええ、楽しかったですよ。……あの子たちも楽しんでくれたようで」
 硝子が向けた視線の先で、妖怪たちが嬉しげに飛び跳ねた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

箒星・仄々
WIZ

夜のお社でかくれんぼ!
正にお化けの世界っぽくて雰囲気がありますね

今日だけは思い切り夜更かし

沢山遊んで
沢山の愛情や好意を妖怪さんが感じて下さると嬉しいです♪

千隼さんもぜひご一緒に~
忍者さんは隠れるのが得意そうです

狸さん狐さん一本傘さん雪洞さん
皆で遊びましょう!

色々と見て回りたいので
私が鬼になりますよ
皆さんがどうやって隠れるのか興味もありますし

鳥居で「もういいかい」

手水舎でお清めし
妖怪さん達の幸せを願いお参りしたら
うろちょろ探検

本殿にも隠れたりしているでしょうか?
あれ?拝殿に雪洞が

敷地内をぐるり
傘が立てかかっていますけれど

鎮守の森の中に狛狐がいますよ

狸さん千隼さんがどこにおられるか楽しみです




 形の良い耳をぴんと立てて、尻尾が揺れる。
 夜目のよく利く翡翠の瞳をぱちりとさせて、箒星・仄々(ケットシーのシンフォニア・f07689)は楽しげな社を見渡した。
「夜のお社でかくれんぼとは! 正にお化けの世界っぽくて雰囲気がありますね」
『お客人、お客人! 遊んでくれるのかい?』
「ええ勿論、喜んで。たくさん遊びましょう」
 ヒトに見られなくなってどれほどだろう。この幽世にいる妖怪たちが、たくさんの愛情や好意を感じてくれるように。うんと楽しんで。
「今日だけは思い切り夜更かしと行きましょう。千隼さんも是非ご一緒に!」
 ふと通り掛かって見えた白い人影――宵雛花・千隼は、仄々の声に気づいて瞬いた。
「……良いのかしら」
「皆で遊んだほうが楽しいですよ。忍者さんは隠れるのが得意そうですし」
 なら喜んでと千隼が頷けば、仄々は見渡す限りの妖怪たちへ声を掛けてゆく。
「タヌキさんキツネさん、一本傘さん雪洞さん、さあ、遊びましょう。私が鬼になりますよ」
 よく通る声で言ったなら、妖怪たちが嬉しげにする。
『見つけてくれるのか、お客人』
「はい。色々と見ても回りたいですしね」
 ですから皆さんご自由に隠れてください、と仄々は軽い足取りで鳥居のほうへゆく。それを合図にしたように、妖怪たちも千隼も隠れに行って。
 仄々がゆっくり十を数え終わる頃に響く――もういいかい。
 どこからともなく返る、『もういいよ』。それに顔を上げて、仄々はまず鳥居をくぐる。
 まずは手水舎で手を清め、参拝のしきたりを守ってお参りから。
(妖怪さんたちが、幸せでありますように)
 ずっとこんなふうに楽しげであればきっと良い。そんなことを思いながら、かくれんぼの探索へゆく。
 まず覗こうとした本殿だったけれど、ふと気づく。よく見れば仄々が今いる拝殿に――雪洞。
「ふふ、見つけましたよ。……照らしていてくださったのですね」
 ありがとうございますと微笑めば、雪洞が嬉しそうに跳ねた。そのまま社のをぐるりと歩き回って、何気なさを装った一本傘に、狛狐を見つけた。
「あとは……タヌキさん、千隼さんはどこでしょうね。……おや」
 仄々が何気なく呟いて見上げた先。鳥居の上で、どろんっと音がひとつする。そこに、人影とタヌキが一匹。
「おや――見つけました」
「……あら、見つかってしまったわ」
『すごいぞすごいぞ、お客人! ありがとう!』
 タヌキが嬉しげに跳ねれば、わいわい賑やかな声が再び集まって、楽しい夜は更けてゆく。
 今宵は幽世かくれんぼ。――妖怪たちの歓声を耳に残して。

大成功 🔵​🔵​🔵​

物部・九耀
【くろしろ】
まあまあ、可愛らしいこと
ええ、ええ、見えますよ。一緒に遊びましょうね
どうしましょうね、おまえさま
私の知る子供との遊び方といえば、拳を交えて新しい湖を生んだりだとか……
おまえさまと私の言う遊びは、どうにも「物騒」だと聞くわ

そうね、おまえさまの言う通り
ここは皆様の得意なことを拝見しましょうか
この姿もまた、生命を模倣したものではあるのだけれど
何にでも変化出来るというのは、馴染みがないのです
おまえさまに照らされても分からないほど変化が上手い子がいるなら
そのときには、そうね……褒美として飴を授けましょう
わたくしも頑張るとしましょうか
ふふふ、これも神たる審美眼の訓練――という奴になるのかしら


物部・出雲
【くろしろ】
タヌキとキツネのもてなしか
さァ、どうする九耀。何をして遊んでやろうか
俺達にも子供はごまんといたが
そういえばヒトの親子のように戯れたことはない
いやはや、ヒトはやはり器用よな。俺など、息子を投げ飛ばして山に大穴を開けては
娘を川に叩き落とした弾みで温泉をわかせたものだが――

ならば、ここは妖怪に合わせてやらんか九耀
かくれんぼでは味気ない。「あてっこ」といこう
お前たちが得意なものに化けて、俺達の前から隠れてみせよ
なァに、俺は神だ――お前たちのことなど、さくっと見抜いてやろう
見事命中であれば拍手せよ。俺を信仰してみせよ。偉大なる神であるとな!
では、――照らしてやろうとも。お前たちの姿を!




 夜に火を灯せば盃を満たして、妖怪たちは陽気に遊ぶ。
 ここは社。神のいた場所。其処がいっとう安全だと、妖怪たちは知っていた。
 いつかの世。ヒトが神を信じたように、妖もまた神を信じた。あるいはヒトより余程身近に、神の存在を知っていた。――そして神もまた、妖たちを知っている。ヒトより一歩此方に近い、ヒトにも神にもあらぬもの。
『竜神さま! 竜神さまだ!』
『すごいぞすごいぞ、夫婦神だ。このカクリヨにだってそうそう残っていやしない』
『神さまなら、おいらたちが見えるのかい? 見えておくれよ、遊んでおくれ!』
 鳥居を潜ってゆっくり石畳を進み、拝殿を越えて本殿へ何気なく入り込む――二柱の神がそうするうちに、妖怪たちはいつの間にやら、たっぷり満員御礼の様相を呈した。
「まあまあ、可愛らしいこと。そんなに急いで喋らなくとも、夜はまだ長くありますよ」
 くすくすと柔らかな笑みを零して、物部・九耀(白水竜・f27938)は青の双眸を緩めた。それでまたわっと賑やかさを増す妖怪たちは、よっぽど嬉しいらしい。遊べ遊べと集るのに、気を悪くした様子もなく、九耀は真白い髪を揺らして笑う。
「ええ、ええ、見えますよ。一緒に遊びましょうね」
「そら、お前たち。少しは息継ぎをせぬか。もてなしはどうした?」
 わいわいと殺到するタヌキやらキツネの妖を大きな手でひょいひょいと摘み上げて、物部・出雲(マガツモノ・f27940)は呵呵と笑う。
「さァ、どうする九耀。何をして遊んでやろうか」
「どうしましょうね、おまえさま。私の知る子供の遊び方と言えば……」
 白い頬に手を当てて、九耀は少し考えてから。

「拳を交えて、新しい湖を生んだりだとか」
「臆、それを遊びとするならば――俺など、息子を投げ飛ばして山に大穴を開けては、娘を川に叩き落とした弾みで温泉を沸かせたものだが」

 それは神々の遊びであって国生みの亜種である。なんてことを突っ込めるような妖怪がいるはずもなく、九耀と出雲は首を傾げて懐かしい頃を思い返す。
「俺たちにも子供はごまんといたが、そういえばヒトの親子のように戯れたことはないな」
「ええ、そうね。おまえさまと私の言う遊びは、どうにも『物騒』だと聞くし」
「いやはや、ヒトはやはり器用よな。――ならば、ここは妖怪に合わせてやらんか、九耀」
 どこか悪戯に、けれども楽しげに笑った出雲に、九耀は続く言葉を待たずして頷いた。
「ええ、おまえさまの言う通り」
「まだ何も言ってはおらぬぞ」
「その顔で笑うおまえさまを止めるものですか」
「流石、我が半身よ。……では妖怪たち、かくれんぼでは味気ない。『あてっこ』と行こうではないか」
 出雲の低くも良く通る声に、妖怪たちはぱちくりと顔を見合わせた。
 あてっこ? あてっこ。なんだろう。なんだろな?
 ざわざわと伝わる妖怪たちの声に、出雲は仁王立ちしたままで説明を続けた。
「お前たちが得意なものに化けて、俺たちの前から隠れて見せよ」
『化け術も見てくれるのかい?』
「ええ、そうね。おまえさまの言う通り――ここは皆さまの得意なことを拝見しましょうか」
 するりと黒い男の隣に、白い女が並ぶ。その姿も、生命を模倣したものではあるのだけれど。
「神とは言え、何にでも変化出来るというのは、馴染みがないのです」
 姿は竜か、人か。大きく分ければその二つになろうか。神として、龍として与えられた姿かたちは、神ゆえにおいそれと変えられるものではない。
 けれども妖怪たちはその得意の変化で変幻で、いくらでも姿を変えることができる。あるいは、ヒトに認識されることさえも。

「なァに、俺は神だ。――お前たちのことなど、さくっと見抜いてやろう」
「ふふふ。これも神たる審美眼の訓練――と言う奴になるのかしら。おまえさまに照らされてもわからないほど変化が上手い子がいるなら」
 そのときには、そうね。
 九耀は再び頬に手を当てた。それからふと袂に手を入れれば、取り出したのは青い巾着。そこからころりと転げ出すのは、色とりどりの飴玉たち。
「……褒美として、飴を授けましょう」
 雨を降らせてあげましょうとは、今は言えぬ。けれども甘い飴ならば、細いヒトの手からでも渡せるものだ。
 微笑んだ九耀に、笑う出雲に、妖怪たちは飛び跳ねる。
『やるぞやるぞ、竜神さまに変化を見せるぞ!』
『おいらが先だい、ひっこめひっこめ!』
『あめだま、おくれー!』
「臆、喧嘩している暇があるのか? さあ往け、隠れよお前たち。そして、見事命中ならばはくしゅせよ。俺を信仰してみせよ。偉大な神であるとな!」
 出雲声が社に響く。雷よりは夜通し燃える焔のように猛く強く、そして楽しく。
「……おまえさま、楽しそうね」
 細い肩を震わせて笑う半身と肩を並べて、白と黒の龍神は妖怪たちへ姿を示し、そして示せと導くように。
「お前もな、九耀。――では、照らしてやろうとも。お前たちの姿を!」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

夏目・晴夜
リュカさんf02586と

折角の機会です
隠れんぼで勝負しましょう
…あれ、そんなルールでしたっけ?
いや撃たないで下さいよ!?

おやおや、そんな高い所に隠れたりして
ハレルヤの背の高さを狸ちゃんと一緒に羨んでいるんですか?
って人形じゃないですか!うわ、罠まであるとは猪口才な…!
よし、本物のリュカさん見つけ――あっクソ、足が速い!

…大人を甘く見てはいけません
特にハレルヤが本気出したら手が付けられなくなりますよ

もう『喰う幸福』の高速移動で先回りしまくります
ほら、それ以上逃げると私の寿命がドンドン減っていきますよ!
今もドンドコ減ってますけど罪悪感とか無いんですか!
それ以上逃げたら本気で散らしますよ、喚きを!!


リュカ・エンキアンサス
晴夜お兄さんf02586と

良いよ、かくれんぼしようか
俺は逃げるからお兄さんが捕まえる側ね
名前を呼んで見つけたって言って触らないとだめだからね
…え。逆じゃないかって
うっかり撃っちゃうと困るから…(視線をそらし

狸を頭にのせて逃走
基本木の上とか建物の影とお兄さんの視線より高い位置を狙って逃げる
で、ダミーの人形とか踏んだら音がなる罠とか作っておちょくりまくる
そして掴まりそうになったら本気で逃げる
このための触らなきゃダメってルールだ

そして暫くおちょくる
っていうか何それ大人げなっ
そういわれたら…

あれ
俺、何してるんだっけ、って、思ったら、おとなしく捕まる
…なんだか年甲斐なくはしゃいだ気がする。楽しかった




 夜に楽しげな声ばかりが響いて聞こえるのは、まるでお祭りのようだった。
 そこかしこに灯る狐火に、あちらこちらで飛び跳ねる妖怪たちがいるおかげで、夜の社はちっとも暗くなければ、むしろうんと騒がしい。
「折角の機会です。隠れんぼで勝負しましょう、リュカさん」
 夏目・晴夜(不夜狼・f00145)がそう言う周囲には、キツネの妖怪たちと狐火がある。彼の頭でぴこんと立った狼耳に親近感でも覚えたのか、キツネたちはご機嫌である。
「良いよ、かくれんぼしようか」
 こくりと頷いて、リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)はどろん! と楽しげに遊ぶタヌキの妖怪を両手でキャッチする。それ以上遊んだら目が回るよ、とぱちくり瞬いたタヌキを腕に納めた。
「俺は逃げるから、お兄さんが捕まえる側ね」
「おや、そう来ましたか。てっきりリュカさんのことですから私を捕まえたがるかと」
「ん、いや、だって」
 逃げるなら頭の帽子押さえててくれる? と丸こいフォルムのタヌキを頭の上にぽすんと乗せながら、リュカはすっと目を逸らす。
「……うっかり撃っちゃうと困るから」
「いや撃たないで下さいよ!? リュカさんこっちを見て下さい、うっかり脳天ぶち抜かないとこのハレルヤと約束しましょうそうしましょう」
「がんばるね」
「目が合わない!」
 勿論、うっかり撃ち抜くなんてことはしないのだけれど。リュカはそっと肩を竦めてから、あまり動くことのない表情のままで晴夜を見上げた。
「それじゃ、始めよう。ちなみにお兄さんが鬼だけど、捕まえるときは名前を呼んで見つけたって言って触らないとだめだからね」
「……あれ、そんなルールでしたっけ?」
 それってほとんど鬼ごっこでは。なんて言う間にリュカは駆け出す。頭の上にタヌキを乗せたまま。
 シンプルな遊びにローカルルールの発動なんて珍しくもない、要は遊んだもの勝ちなのだ。

 隠れることにもよくよく慣れたリュカが選んだのは『上』だった。
 かくれんぼのコツとして視線より上は死角になり易い、と言うのがある。基本的んは自分の視界の範囲で探すせいで、その上まで意識が及ばないのだ。
 けれども遊ぶのは猟兵同士であるゆえに――その気配は慣れた者ほど察し易い。
「おやおや、そんな高いところに隠れたりして」
 ざあ、と葉擦れの音を鳴らす木の上の影に、晴夜はくつりと笑う。
「ハレルヤの背の高さをタヌキちゃんと一緒に羨んでいるんですか? さあリュカさん、みつけ……」
 したっと木の上に一瞬で至って手を伸ばしたところで。
「って、人形じゃないですか! うわ! 何かネバネバしますけどリュカさん、これトリモチ……キツネさんこれ燃やせます!?」
 ますとも! 楽しくてついついて来ていたキツネの妖怪がべったりくっついたトリモチを器用に燃やしてくれる――けれども。
 ぷぎゅう。
「今度は何ですか何の音ですか」
 次に追って降りた屋根の上では駆けると愉快な音がする罠を踏んでは追いかけるどころでもない。
「罠まであるとは猪口才な……! しかし見つけましたよリュカさん、その頭のタヌキちゃんこそ本物の証!」
「どこで判断してるの、晴夜お兄さん。……でも、捕まる気はないよ」
 一瞬の視線の交錯の後、リュカは一気に駆け出した。このためのルール制定である。全ては全力で晴夜をおちょくるために――もとい、全力で遊ぶために。小柄なその身が本気で駆ければ、一瞬のうちに距離は遠ざかる。
「あっクソ、足が速い!」
 遠ざかる人影を見失わないように追いかけながら、晴夜はふと笑う。このままでは一向に距離は縮まらないだろうけれど。
「……大人を甘く見てはいけません。特にハレルヤが本気を出したら、手が付けられなくなりますよ」
 にいと笑って妖刀に手が触れた。瞬間、その怨念を身に纏えば――晴夜の速度は爆発的に上がる。一瞬で、リュカの行く手に先回りができるほどに。
「えっ、ちょ、お兄さんそれ」
「ほら、それ以上逃げると私の寿命がドンドン減っていきますよ!」
「いや知ってるよ、だってそれ」
 代償系のユーベルコードだもの。遊びで使うものじゃないもの。割とガチで命を張って戦うときに何か格好良く猟兵が駆使するものだもの。
 一瞬のうちに詰め寄っては寸でのところでリュカが躱す、というのを数度繰り返しながら遊びは続く。遊びのはずだ。たぶんそう。
「今もドンドコ寿命が減ってますけど罪悪感とかないんですか!」
「いやそれ俺が言いたいんだけど、うわ、大人げなっ」
「それ以上逃げたら本気で散らしますよ――」
「……っ、散らすって」
「喚きを!!」
 あっ俺の知ってるお兄さんだ間違いない。ちょっと一瞬本気で身構えそうになったの返してほしい。
 なんて刹那の冷静がリュカの頭に帰って来てしまえば、あとは早かった。
「あれ、俺何してるんだっけ……」
『かくれんぼ!』
「いやこれかくれんぼじゃないけどね。……と」
「――捕まえました、よ!」
 がしっと。リュカの腕を捕まえる晴夜がいる。夜の社の屋根の上。気づけばすっかり妖怪たちの観客だっていたらしい。わあっと歓声が上がれば、二人顔を見合わせる。
「……ここは形式的に、みーつけたとか言っとくべきなんです?」
「さあ、もう喜んでるからいいんじゃない。……なんだか年甲斐なくはしゃいだ気がする」
 楽しかった、とリュカが小さく笑えば、晴夜も得意げに胸を張った。
「ええ、私もついはしゃいでしまいました。命を削って楽しみましたよ!」
「……お兄さんさん、ほんと、そういうとこだと思うよ」
 何がとは言わないけど。
 呆れ半分、楽しさ半分。結局はどちらも笑ってしまえば、リュカと晴夜のカクリヨかくれんぼは妖怪たちの歓声を受けて、幕を下ろした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

尾白・千歳
さっちゃん(f28184)と

わーい、妖怪さんたちいっぱい!
じゃぁ、今度こそかくれんぼしよ!
誰が鬼をやってくれる?
私、逃げるね!

鳥居の傍の大きな石柱の陰にじっと身を顰め
む、尻尾が邪魔
あ、今度は耳が…(悪戦苦闘
嘘っ、見えてる!?
あー!何でここに来たの?
これじゃすぐに見つかっちゃうよ(ぷんすか
私が見つかったら次はさっちゃんが鬼ね!

狸さんたち化術上手だね
む、私だって出来るよ!
…あれ?
やーん、いつもの葉っぱ忘れたっ
あれがないと上手く出来ない~
悔しい…!
もう!笑わないでよ!

あっ、鬼が来た
さっちゃんが!ここに!いるよ!(ドンと突き飛ばし
こうやって遊ぶの、昔みたいで懐かしいね~
ふふーん!
私、捕まらないもーん!


千々波・漣音
ちぃ(f28195)と

よし、オレ様達が遊んでやろう
なぁ、ちぃ…って!また勝手に始めてるし!?

隠れ場所探し視線巡らせれば
頭隠して耳や尻尾隠さずなちぃ発見
おい、ちぃ。耳や尻尾めっちゃ見えてるぞ(さり気に隣に隠れ
そうぶーぶー言うな、てか何でそれオレが鬼!?
あ、ほら…シーッ

鬼やり過ごし周囲窺えば、狸の化け術披露が見えて
化け術、お前も少しは上達したのかよ?
そう小声で揶揄う様にちぃ見れば
悔しがる姿に内心、なにそれ可愛い

あ、やべ、また鬼が…って!ちょっ、だあッ!?(突き飛ばされ見つかる
ちぃ、おまっ…ああ、懐かしいけど、けど…!
…仕方ねェな、じゃあ次はオレが鬼な
ふ、全員ソッコーで見つけてやるからな!(超やる気




 夜の社では楽しげに遊ぶ声がやまない。
 妖怪たちは飽きもせず、遊んで遊んでと猟兵たちを見つけては遠慮もなしに寄ってゆく。
「わーい、妖怪さんたちいっぱい!」
 タヌキにキツネ、諸々と。仲間めいた妖怪たちの姿を見つけて、尾白・千歳(日日是好日・f28195)は嬉しそうにぶんぶんと大きな尻尾を揺らした。
 その尻尾の動きに眦を少し緩めながら、千々波・漣音(漣明神・f28184)も楽しげな声に応える。
「よし、オレ様たちが遊んでやろう。なぁ、ちぃ……」
「じゃあ、今度こそかくれんぼしよ! 私逃げるね!」
「って! また勝手に始めてるし!?」
 鬼は……そうだなそこのキツネ! そうお前だ、決定! なんて漣音が指名すれば、むしろ嬉しげにキツネの妖怪はぴょんぴょん飛び跳ねた。
 漣音の竜神の気は感じ取っているのだろう、神からの指名だなんて喜ばないはずもない。
 そうして始まるかくれんぼ。――漣音は癖のように、ただひとりを探してしまうのだけれど。
「あ」
 隠れ場所を見つけようと視線を巡らせれば、まず一番始めに見つかる、大きな尻尾。
 鳥居の傍の大きな石柱に、頭隠して尻尾隠さずの幼なじみがいるのは一目瞭然だった。ふよふよ、ぴこぴこ。尻尾だったり耳だったりが忙しなく動くのが、やっぱりどうしたって可愛いのだからしょうがない。

 勿論千歳だって頑張ったのだ。この大きな尻尾が隠れるように。
(む、尻尾が邪魔)
 と、尻尾を隠せばぴこんと耳が出る。
(あ、今度は耳が……)
 立ってみたり、座ってみたり。くるくる回ってみたりして。むむむ、と眉間に力一杯シワを刻んで、身を潜めようとするけれど。
「――おい、ちぃ。耳や尻尾めっちゃ見えてるぞ」
「嘘っ、見えてる!? って……」
 ひょいと何気なく隣にしゃがんだ漣音に思わず飛び跳ねそうになって、千歳は見慣れた姿にぷうっと膨れた。
「もー! さっちゃん、何でここに来たの? これじゃすぐに見つかっちゃうよ」
「そうぶーぶー言うな、ほら、耳押さえろ、シーッ」
 近づいて来た鬼の気配に、漣音は人差し指を一本立てる。千歳の尻尾は漣音が隠すようにしているからはみ出さない。咄嗟に漣音の言うように耳をぽむんと押さえれば、鬼は気づかず石柱を通り抜けて行った。
「……よし、行った」
「ホント? 私が見つかったら次はさっちゃんが鬼だよ?」
「本当だって、ってか何でそれオレが鬼!?」
 つい全力で突っ込んでしまうけれど、幸い近くに鬼はいないらしかった。ちらと再度周囲を窺って、漣音の目に留まったのは、他の猟兵に化け術をどろんどろんと披露しているタヌキの姿。
「なぁ、ちぃ。化け術、お前も少しは上達したのかよ?」
「む、私だって出来るよ! もっと綺麗にどろんってできるもん」
 小さな声で揶揄うように。漣音がくすりと笑って囁いた言葉には、千歳の耳がぴーんと立った。
「へえ?」
「むむむっ。いいよ、見せたげるっ。……って、あれ?」
 いざどろん! と構えたところで気づく。大事なものがない! 慌ててぱたぱたポケットを探るけれど、やっぱりない。
「やーん、いつもの葉っぱ忘れたっ。さっちゃん隠してない!?」
「隠すか!」
「ううう、あれがないと上手くできないんだもん。う〜悔しい……!」
「ふ、はっ」
 悔しそうに大きな目をじんわり滲ませて悔しがる千歳に、思わず漣音は噴き出した。思い切り笑ってしまわないように堪えるけれど、つい零れてしまう。
(何それ可愛い)
「あっ、笑わないでよ! さっちゃんのばか! いじわる!」
 馬鹿にしているでもない笑みは、とことん優しく甘いのだけど。千歳はやっぱり気づかないで膨れるのだ。

 ――と、足音が千歳の耳に届いたのはそのときだった。
「鬼が来た!」
「お、じゃあまたやり過ごして……」
 がしっ。渾身の握力!
「え」
「さっちゃんが!」
 ぐいっ。渾身の腕力!
「ちょ」
「ここに!」
 どん!!
「いるよー!!」
 ずしゃあああ。渾身の突き飛ばしの術! 術でもなんでもない物理なのはご愛嬌である。
 漣音が転がり出たのは鬼のキツネの真ん前に。
「ちぃ、おまっ……」
「ふふー。ねえさっちゃん、こうやって遊ぶの昔みたいで懐かしいね!」
「ああ懐かしい、懐かしいけど、けど……!」
 ぽん。漣音の肩にキツネの肉球。モフモフがどんまいとばかりに触れたなら、鬼は漣音の番である。
 オレ? あなたです。なんてやりとりをキツネと目でして、大きなため息は三拍分。
「……仕方ねェな。じゃあ次はオレが鬼な」
 漣音が立ち上がれば、わあっと妖怪たちから歓声が上がる。
 ああ、懐かしい。何度こうして遊んでやっただろう。
「ちぃ、妖怪たちも! 全員ソッコーで見つけてやるからな!」
「ふふーん、私、捕まらないもーん!」
「言ってろ、始めるぞ!」
 数を数え始める漣音の声が、夜の社に響き始める。
(ちぃは覚えてないかもしれねェけど)

 ――わざと見逃したとき以外、漣音が千歳を見つけられなかったことなんてないのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント
妖怪達が無事で安心した
…元気が良すぎて気圧される程だ
しかし、意思疎通のできる人に出会った事を喜ぶ彼らを無下にもできない
かくれんぼくらいなら付き合おう

妖怪と一緒に隠れる場所を探して歩き回る内に『丸い格子窓』を発見、興味を引かれて中を確認してみる
見えるのは外観とは違う、粗末な小屋の中だろうか
…そういえば子供の頃、住む者の居なくなった古い小屋を遊び場にしていた事があったな
大人たちには見つからない、良い遊び場だった

その小屋とよく似ているからか
ここならきっと見つからない、そんな気がする
妖怪と一緒に、そこに隠れて
鬼が来るまで話をしてみてもいいかもしれない
化け術もそうだが、この世界には興味深い事がとても多い




 くるくると元気良くはしゃぎまわる妖怪たちの姿は、まるで幼子のようでもあった。
 そのとき限りを思い切り遊び尽くすような遠慮のない賑やかさに、シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は小さく笑う。
(妖怪たちが無事で安心した)
 それは心からだ。この仕事に来たのは世界を救うためであり、妖怪たちを救うためでもあったのだから。
『お客人、お客人! おいらたちと遊んでおくれよ!』
『かくれんぼをしよう! やっぱりたのしいぞ、たのしいぞ!』
(……元気が良すぎて気圧される程だが)
 わあわあとひっきりなしにくっついて来る妖怪たちに、シキは僅かに苦笑した。けれどもこの喜びも、妖怪たちがいかに見える者に会えていなかったかを滲ませるもの。そう知るからこそ、無下にもできない。
「かくれんぼくらいなら、付き合おう」
『やった! やった!』
『ならおいらが鬼だ、おまかせだ!』
『一緒に行くぞ、隠れるぞ!』
 一瞬のうちに鬼が決まって、妖怪たちはわいわい言いながらシキの背を、腕を引いてゆく。
「何処か良い隠れ場所があるのか」
 問うたシキには、どろんとタヌキが化けて見せた。一瞬そこに見えたのは、丸い格子の。
『隠れ場所なら、あれがいちばんたのしいぞ!』

 どこだろな、ときょろきょろする妖怪たちと一緒に社を歩き、隠れ場所を探す。
 先程惑いに惑った角は曲がればあっさり次の道を見せて、何ともなしに気が抜けるようだった。
「……あれか」
 その、角の先。シキはふと浮かんでいる丸い格子窓を見つけた。あれだあれだ、と声を弾ませる妖怪たちに興味をそそられるようにして、そっと中を覗く。
 一瞬光るばかりに見えたその窓の先には――どこかで見た覚えのある、粗末な小屋の中の風景があった。
(あれは)
 ――そういえば。いつか、まだ子供だった頃。
 住む者のいなくなった古い小屋を、遊び場にしていたことがある。
(大人たちには見つからない、良い遊び場だったな)
 懐かしい記憶が浮き上がるごと、窓の中の風景は鮮明になるようだ。その中に入り込めば、ああこんなに狭かったかと少し笑う。
「来るといい。ここならきっと見つからない」
 興味津々に覗き込む妖怪たちを呼んでやれば、嬉しそうに飛び込んで来る。
『すごいなすごいな、ここどこだ?』
『ひみつきちだ!』
「……ふ、そんなものかもしれないな」
 鬼が来るまで、話をしようか。シキが言葉少なに向けた興味に、妖怪たちは色めきたった。
 いくらでも何でも聞いておくれよ。そんな気前の良い言葉に話は始まる。
 ――鬼役のタヌキが混ぜておくれよ! と飛び込んで来るまで、あと。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
やれ、つい先刻まで骸魂に呑まれていたというに呑気な奴等よ
…かくれんぼは其処のデカブツには些か分が悪く
宜しければ、他の遊戯を致しませんか?

従者の暴言を静止しつつ
化けると云えば、此奴も中々の物を隠しておりまして
…ほれ、お前の翼を見せてやれ
阿呆、斯様な事は知っておる
然し此処ではそう云った方が分り易い

その御姿を見れば魅せられぬ者はそう居るまい
興奮冷めやらぬであろう妖怪達の姿を
微笑ましくも誇らしげに満面の笑顔
ふふん、それ見た事か
寧ろ気味悪がる方が可笑しいのだ
戯け、私は私の美意識を言葉にした迄

而して――ジジよ
お前は私という師がありながら
他の物に師事しようとは
私は悲しいぞ、等と嘘泣きを


ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と
妖怪とは、かくも賑やかなのか

披露される狸の化け術を眺め
ほう、それで驚かせているのだな
我が師も化けるのが得意だぞ
なぜ小突く

師父よ、翼は化けではなく
…まあいい、毟ってくれるなよ
妖怪達に手が届くよう腰掛けて翼を広げ
ついで、ざわりと腕を竜のそれへ変じ
狐火に似せて小さく炎を吹き灯すなどして

脅かそうと思ったのだが
此処では薄気味悪くも見えぬらしい
燥ぐ妖怪達に、師の誇らしげな顔
それは落ち着かぬながら、何処か
…そうか
ありがとう、師父

礼など要らぬが
化け術をもう一度見せてくれぬか
俺もひとつ覚えてみたいのだ

む、違うぞ師父
これは決して他に師事したわけでは

…俺の師は師父一人
そこから逃げも隠れもせぬさ




 世界の破滅はすぐそこに――なんてことなど忘れたように、星の瞬く夜に妖怪たちのはしゃぐ声がよくよく響く。
「……やれ、つい先刻まで骸魂に呑まれていたというに、呑気な奴等よ」
 呆れ半分、もう半分は笑みを滲ませてアルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)は従者の隣で肩を竦めた。蒼き星の瞳が、やっと訪れたカクリヨの夜を見上げる。
「ほう、この世界の月は大きいな。……さしずめ、夜への道も失われていたと云うところか」
「月のおかげで星が少し霞むのが物足りぬが――しかし、妖怪とはかくも賑やかなのか」
 アルバよりも高い視線で夜空を見上げてから、その視界すらくるくるどろんと飛び回る妖怪たちの姿にジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)は常の平坦を保った声で呟いた。けれどもその瞳は、子供のような興味深さで妖怪たちを映す。
『お客人! お客人! お空よりおいらたちを見ておくれよ!』
『あそぼう、あそぼう! かくれんぼが楽しいぞ!』
『化け術はどうだい、あのお月様にだってなってみせよう、小さいやつだ!』
 視線に気づいた妖怪たちは、すかさず二人の前にやって来た。口々に楽しそうに言っては、文字通り飛び跳ねながら遊びに誘う。
「……かくれんぼは其処のデカブツには些か分が悪く。宜しければ、他の遊戯を致しませんか?」
 丁寧な声でさらりとジャハルをデカブツ呼ばわりしながら、アルバが妖怪たちへ言葉を向けた。
 他の遊戯と言う言葉には、妖怪たちはむしろつぶらな瞳をきらきらさせる。
『他の遊びか!』
『あそぶぞ、あそぶぞ!』
『おいらの化け術は遊びになるかい、ほらほら!』
 我先にと瞳に映ろうとして妖怪たちは夜をくるくる飛び回り、どろん! と音がすぐそこで鳴った。もくもくと不思議な煙が僅かに烟った後には、もふんとタヌキの尻尾の生えた手のひらサイズのお月様がそこに浮かんでいる。
 ジャハルは丁度視線の高さに浮かんだ尻尾つきの月に、夜色の瞳をぱちりとさせた。
「ほう、月か。それで驚かせているのだな」
『月だぞ! 驚いたかお客人! やったやった』
 月がきゃっきゃと喜んで、すぐにどろんとタヌキに戻る。それを更に興味深く見つめて、ふむ、とジャハルは大きな節張った手を妖怪のタヌキへ伸ばした。手のひらをその小さい頭と並べる。
「……先程の月より小さいな。自分よりも大きなものにも成れるのか」
『化け術だからな!』
「化ける。……ああ。我が師も化けるのが得意だぞ」
 ガッ。瞬間的にアルバの肘がジャハルの脇腹を突いた。割と勢いが良いのはその逞しい腹筋を鑑みての加減である。
「……なぜ小突く」
 小突いたどころの音ではなかったはずなのだけれど。アルバにとっては想定内の反応だ。にっこり笑って不服そうな視線は黙殺する。
「化けると云えば、此奴も中々の物を隠しておりまして」
『ほほー!!』
「ほほう」
 興味を思い切り惹かれた妖怪たちの声と、程度こそ違えど興味を示す本人の声。
 にっこり。綺麗に笑った顔はそのまま、些か低いアルバの声がぼそりと落ちた。
「……お前がそのような顔をしてどうする。ほれ、お前の翼を見せてやれ」
「翼? 師父よ、翼は化けではなく」
「阿呆、斯様なことは知っておる。然し此処ではそう云ったほうが分かり易い。――見よ、妖たちのあの期待の眼差しを」
 きらきら。きらきら。どんなだ、どんなだ?
 いつの間にかさらに数が増えてもいるのに気づけば、ジャハルは少しだけ眉を顰めて、ほんの小さく息を吐く。この純真な瞳に偽るのはどうにも気が引けなくもないが、がっかりした顔はなお、させたくもない。
「……ジジ。これは嘘ではないぞ。存分にお前を魅せてやれ」
 手近だった鳥居の側の段差に腰掛ければ、アルバがその耳元にそっと声を落とす。それはまるで子を見守る親のような、背を押すそれだ。ジャハルはひとつ頷いて、その背の竜翼を広げた。
 広がるのは黒銀の鱗持つ翼。それと相反してよく馴染む白亜の羽はふわりと優美にカクリヨの夜風を孕み、ついでにざわりと木々が鳴るのに合わせて、逞しい両腕は竜のそれへと変じた。それと同時に浮かぶ狐火の隣へ炎を吹き灯せば――。

 ――わあっ、と。

 大きな歓声が、社いっぱいに響いたようだった。
『すごいぞすごいぞ! お客人、どうなったのだ、それはどんな化け術だ?』
『なあなあ、もしや竜神さまか? とっても綺麗な翼に鱗だ!』
『キュンッ。だぞ! その腕、かっこいいんだぞ!』
 きらきらした視線がいっぱいにその翼に腕に、ジャハルに注がれる。それに面食らったのは当人のほうで、心底満足そうな満面の笑みを浮かべたのはアルバだった。
「……脅かそうと、思ったのだが」
「ふふん、それ見たことか」
 言っただろう。アルバはきらきらと靡く髪を揺らして笑う。その星の瞳が誇らしげに黒き竜を映す。何せ一番にその魅力を知っていたのはアルバだ。妖怪たちがよじ登るその翼が小さき頃からずっとずっと羽ばたくのを見て来た。――その美しさを知らぬは本人ばかりだと言ってやることもなかっただけだ。
「そうか……此処では薄気味悪くも見えぬのか。妖怪変化に竜の神もいる世界ゆえ」
「阿呆。寧ろ気味悪がるほうが可笑しいのだ。ほれ、もっと背を伸ばせ」
 大きくなったのは、その身体だけではあるまいが。くつくつとアルバが笑うのに、ジャハルはどことなく落ち着かなげに身じろぎをした。
 柔らかいもので背中を撫でられるような。あるいはいつかの日に師から隠れて待って見つけて貰えたときのような。どことなくそわそわとして、けれど嫌ではない、この心地は何処か。
(……そうか)
 ――きっとこの心地を、嬉しいと呼ぶのだ。
「ありがとう、師父」
「戯け、私は私の美意識を言葉にした迄」
 常に着せ替え人形をやっているのだから知っておろうと笑い飛ばして、アルバはすっかりジャハルに懐いた妖怪たちに目を細める。
「ジジ、その者たちの礼を聞いてやれ」
『ありがとう、お客人! おいらたち感動したのだぞ!』
『ありがとう、ありがとう! 化け術を頑張るのだぞ!』
 ぴょんと飛んで、肩の上。ぽんと跳ねて、頭の上。嬉しげなその様子には、釣られたようにジャハルの口元も僅か緩んだ。
「……礼など要らぬが。良ければ化け術をもう一度見せてはくれぬか」
『! 見てくれるのか!』
「うむ。俺もひとつ覚えてみたいのだ」
『ならば、ならば、おいら渾身の変化の術を……』
 そうタヌキの妖怪が木の葉を構えたちょうどそのときだ。よよよ、といかにもな泣き声がした。

「――ジジよ。お前は私という師がありながら、他の者に師事しようとは」
 私は悲しいぞ。アルバ渾身の嘘泣きの発動である。これぞ化け術(玄人向け)。
『ぬあ! 綺麗なお客人が泣いたぞ!』
『いけないいけない、一大事! 美女を泣かすと天が怒るのだ!』
「いや、師父は女ではないが――違うぞ師父、これは決して他に師事したわけでは」
 わあわあ。わあわあ。途端に騒然とした妖怪たちと、少しだけ慌てたように否定するジャハルと。
 アルバはすんすんと泣き真似を披露しながら、手で抑えた口元は笑う。その笑みにふと気づいたジャハルが安堵したように軽く息を吐けば、アルバが悪戯に微笑んだ。
「……俺の師は、師父一人」
 大丈夫だと妖怪たちを翼を動かすことで宥めて、ジャハルはゆっくり言葉を紡ぐ。
 その星を守る意志は変わらぬ明星の輝きに似て決して曇らぬ。幾年月日が流れ、星の形が変わろうと。
「そこから、逃げも隠れもせぬさ」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

蘭・七結
ナハトさん/f01760

黄昏の彩が深い色を帯びてゆく
嗚呼、無事に時が流れだしたようね

ふよりと浮かんだ青い火の玉
好奇心のままに手を伸ばしてみたなら
――わっ、
どろんと現れた妖たちに眸が瞬く
ふふ、驚かされてしまったわね
すぐ傍のあなたに視線を送り、微笑を転がす

ステキな世界での、ひと夜の時間
折角こうして出逢えたのだもの
わたしとあなた、妖の皆さんで遊びましょう
もう一度、鬼ごっこは如何かしら
今度はわたしが隠れましょう

心躍るままに、格子窓へ
『もういいよ』

見える景色は何処かしら
常夜の館、あたたかな春のなか
かえる場所は、見つかっていた

あら、ナハトさん
ここで『みいつけた』と、言うのよ

……ふふ。見つかってしまったわ


ナハト・ダァト
ナユ君/f00421

平穏を取り戻した世界を見渡し
コレが、幽世本来ノ景色カ
呟き、隣に立って驚かされている彼女へ視線を戻して

化け術カ、興味深イ
宿る好奇は世界特有の種族や技術に向いている様子

立ち去る前に、提案された遊戯の時間
確かニ、貴重ナ体験ダ
参加するヨ
だガ、興じるのハ初めテでネ
加減が分からず、ルールに則りながらも
持ち得る能力の全てで遊びを行ってしまうかもしれない

妖怪達ニ確認ハ取るヨ
学びとハ、そウいウ物だからネ

たびたび指摘されながら
時間をかけて見つけた格子窓の先で彼女と再会
映る景色に、言葉を失してしまい

……そうダ
――見つけたヨ、ナユ君

さア、戻ろウ
無意識に触手を伸ばす
帰り道ハ、エスコートするヨ




 夜へ、夜へ。黄昏の色が深くふかく、藍の色を帯びてゆく。
 ふわりと髪を牡丹を揺らして過ぎゆく風は夕闇の熱を冷まして――代わりに賑やかな声を連れ出した。
「……嗚呼、無事に時が流れ出したようね」
 柔く頬にかかった髪を押さえて、蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)は空の移り変わりを見送る。――その視線の先にほうと灯る、青い狐火がひとつ。
 擽られたのは好奇心。その青い火は、熱いのかしら、それとも。
 そうっとそうっと白い指先が、狐火に触れた。その瞬間。
 どろん!
「――わっ」
『やったやった、お客人! 驚いてくれてありがとう!』
 不意にその狐火から現れたタヌキの妖怪に、七結の小さな声が零れた。現れたタヌキは嬉しげに、くるくると宙を飛び跳ねる。その無邪気な仕草には、つい眦も緩んでしまうというもの。ころころと、小さな笑い声が夜に転がった。
「ふふ、驚かされてしまったわね。……ねえ、ナハトさん。ご覧になったかしら」
「ああ、化け術カ、興味深イ」
 七結の隣でカクリヨの世界を覚えるように見渡していたナハト・ダァト(聖泥・f01760)はぱちりと覗く光を丸くして興味深そうに、現れた妖怪たちと七結を見た。
 平穏を取り戻した世界は、滅亡の危機に瀕していたとは思いもよらないほどに穏やかだ。不思議と何処か懐かしい気がする風景は、今はすっかり妖怪たちのお祭り騒ぎとなっている。
「コレが、幽世本来ノ景色カ」
「ええ、きっと。……ステキな世界でのひと夜の時間、わたしとあなた、妖の皆さんで遊びましょう?」
 折角こうして出逢えたのだもの。七結はナハトと妖怪たちを見渡して微笑んだ。妖怪たちは勿論否もない。大袈裟なほど喜んで、なにするなにする、と二人の周りをくるくる回る。
「もう一度、かくれんぼは如何かしら。今度はわたしが隠れましょう」
「確かニ、貴重ナ体験ダ。――参加するヨ」
 ナハトが頷けば、わあっと妖怪たちの歓声があがる。よっぽどかくれんぼが好きなのか、あるいは誰かと遊べることが嬉しいのか、その両方か。
 だガ、とナハトは僅かに首を傾げた。
「興じるのハ初めテでネ。ルールは把握しテいるつもりだガ。ナユ君を探せバ、良イのだネ」
「ええ、そうよ。どうかゆっくり数を数えてね」
 微笑んで、七結と見つけてほしい妖怪たちが隠れるために動き出す。
『お客人、数を数えなきゃあならないぞ! さあ始めよう。いち、にの、さん……』
「シ、五、ロク――」
 十まで、七度。ゆっくりと繰り返したなら、ナハトは七結たちが隠れた社のほうへ向き直る。

「もウいいかイ」
 そう聞いたなら、何処からともなく聴こえてくる――もういいよ。
『探しにゆこう、お客人! ……あっ、足跡を調べたりする遊びじゃないぞっ』
「ふム。効率的だト思うノだがネ。でハどうしテ探すべきだろウ」
 遊びにはさほど慣れてはいないナハトには『遊びだから』の手の抜き方がわからない。けれども周りについてくる妖怪たちは、それすら楽しむようにナハトの問いに答えて遊ぶ。
『あちこち色々、自分でたくさん探すんだ。そのほうがきっと楽しいぞ!』
「成程、ありがとウ」
 ひとつひとつ、確認を取りながら、ナハトは七結たちを探して進む。
(学びとハ、そウいウ物だからネ)

 七結は軽い足取りで、とある隠れ場所を探していた。
『お客人、どこに隠れるおつもりだ?』
「ふふ、そうね。とっておきの場所、かしら」
 そう言って社の中を見渡す。迷宮でもなんでもないその道は、少し辿ればすぐに探していた丸い格子窓を見つけることができた。夜にぽつんと浮かぶのは、不思議だけれど怖くはない。
(見える景色は何処かしら)
 からり、何気ない音で窓は開いて見せた。その奥に広がる景色は――常夜の館、あたたかな春の中。
 七結の見つけた『かえる場所』。帰りたい場所。
 そうっとそこに入り込めば、不思議と心が和らぐような心地さえした。
「……ナハトさんが来るまで、お話をしましょうか」
 妖怪たちと共に隠れて、秘密のお話。――あなたの足音が聞こえるまで。

 成程、とナハトは視界の先に浮かぶ窓を見つけて、七結の隠れ場所を察した。
 時間をかけて見つけた、先にはナハトが隠れたその場所。彼女が開いたその先は、どんな景色を広げたろうか。
 近づけば、微かな話し声がする。その窓を、そっと覗いて――ナハトは、言葉を失った。
 あたたかな春が、そこにある。
 話に花を咲かせていた少女は顔を上げると、ナハトと目が合って微笑んだ。
「あら、ナハトさん。……ここで『みいつけた』と、言うのよ」
「……そうダ。そうカ」
 それが遊びのルール。約束のことば。

「――見つけたヨ、ナユ君」

 言葉と共に触手を伸ばす。それはほとんど無意識だった。するりと伸びた触手が、窓から出る七結を支える。
「……ふふ。見つかってしまったわ」
 くすくすと微笑んで、七結はナハトの隣に並ぶ。その足元に、帰り道は消えることなく。
 道すがらで見つけた妖怪たちが、共に探した妖怪たちが、その背を押すように楽しげな声をあげる。
『お客人、どうか気をつけて!』
『また来ておくれ、遊んでおくれ!』
「ふふ、ええ、きっとまた」
 無邪気な声を背に、二人は帰路を辿り始める。――あたたかな、あの場所へ。
「さア、戻ろウ。……帰り道ハ、エスコートするヨ」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
千織/f02428

良かった。みんな無事に抜け出せたみたいだね
わぁ、すごいな
絵本でしかみたことのない、妖怪達がたくさんだ!
傘おばけに狸に狐に……壁みたいな子やあのヒラヒラした子は何だろう?
賑やかな笑み咲く空間に、僕も笑顔が零れちゃう
うん!
帰る前に寄り道だ
皆で一緒に遊ぼうよ

しっかり見えてるよ、皆の姿
へぇ、そんな遊びをしているの?
妖達の歌はあるのかな
僕、歌が得意なんだ!
ねぇねぇ、皆で歌って踊ろうよ
童歌?童謡でもいいよ
君達の歌が知りたいな

タヌキも狐もふわふわだけど、僕のヨルだってふわふわしてて負けてないんだから
なんて胸をはる

そうしてたくさん遊んだならば
じゃあねと手を振り帰るんだ
僕達の大事な、お家にね!


橙樹・千織
リルさん(f10762)と

あらあら、まあまあ!
リルさん見てください、あんなに沢山の妖さん達が!
あっという間に賑やかになっていく境内に耳をひょこひょこ
幼い頃、見かけたような姿もちらほら
……少しだけ、寄り道して帰りましょうか?

ふふふ、ええ、ええ
みなさん、ちゃあんと見えていますよ
普段は何をして遊んでいるんです?
化け術?何に化けられるのかしら?
あらあら、合唱ですか?ふふ、皆さん上手ですねぇ
知っている歌があれば一緒に口ずさんでみましょうか

狸さんも狐さんもふわふわですねぇ
ヨルさんとどっちがふわふわかしら

寄り道もそろそろこの辺で
またいつか会えるといいですねぇ
なんて手を振って帰りましょう
皆さんがいる大切な館に




「あらあら、まあまあ!」
 妖怪たちの賑やかな声の中で、楽しげな声がおっとりと、けれどはしゃいだように混ざる。
 ひょこひょこと揺れる耳で賑やかさを聞き取るたび、橙樹・千織(藍櫻を舞唄う面影草・f02428)はどこか懐かしいような心地で、ふわりと表情を緩めた。
「リルさん見てください、あんなに沢山の妖さんたちが!」
「わぁ、すごいね千織。絵本でみたことのない妖怪たちがたくさんだ!」
 きらきらと瞳も声も輝かせて、リル・ルリ(『櫻沫の匣舟』・f10762)もこくこくと頷いては辺りを見つめる。
「良かった、みんな無事に抜け出せたんだね。こんなにたくさん居たなんて」
 あそこにいるのは傘おばけかな。タヌキにキツネ。それからそれから。
「壁みたいな子や、あのヒラヒラした子は何だろう?」
「ふふ。あれはきっとぬりかべさんと一反木綿さんですよ。……せっかくですから、少しだけ寄り道して帰りましょうか?」
 きっとお土産話もたくさんできますよ。そう千織が微笑めば、リルも勿論頷いた。
 楽しげな声たちは聞いているだけで楽しくなる。笑顔になれる。
「うん! 帰る前に寄り道だ。皆で一緒に遊ぼうよ」
 ふわ、ふわり。リルが宙で尾鰭を揺らせば、その声に仕草に釣られたように妖怪たちもわいわいと集まって来る。

『すごいぞすごいぞ、お客人! 人魚さまか? 伝説か?』
『耳に尻尾に角に翼に――お客人! もしや名うての化け術師!』
『見えるのだろ見えるのだろ、おいらたちと遊んでおくれ!』
 一度に妖怪たちが我先にと話し出せば、それだけで賑やかさは増してゆく。その無邪気な声に千織もリルも笑って応えた。
「ふふふ。ええ、ええ、みなさん、ちゃあんと見えていますよ」
「しっかり見えてるよ、皆の姿。ね、妖怪の歌はあるのかな?」
『うた?』
 きょとんとしたように、タヌキがつぶらな瞳をぱちくりとした。
『歌えるのか、お客人!』
「うん、僕は歌が得意なんだ!」
 満面の笑みでリルは頷く。一等得意でだいすきなこと。
『でもおいらたち、歌って言えば』
『童謡くらいしか知らないのだぞ』
「童謡? 童謡でもいいよ。君たちの歌が知りたいな」
 リルの柔らかでよく通る声に、妖怪たちが頷いて。

 その隣では、千織があらあらとタヌキたちの化け術披露を見守っていた。
 代わる代わる、どろん! と、元気の良い音でまた姿を変えるその子たちの頭を撫でて、すごいですねえ、と和み微笑む。
「ふふ、たくさん化けられるのですねえ。普段からそうして遊んでいるんです?」
『そうだぞ、おいらたち、化けるの大好きだからな!』
「まぁ、それはそれは。――あら」
 歌声が聴こえてきたのはちょうどそのときだ。耳に馴染んだ懐かしい童謡が妖怪たちで紡がれている。
「ふふ、合唱ですか? 懐かしい歌ですねぇ」
「そう、みんなに歌を教えて貰っているんだ。……もしかして千織も、知っている?」
 鼻歌で小さく口遊む千織に、リルは楽しげな表情をさらに輝かせた。
「ねぇ、皆で歌おうよ。きっと楽しい思い出になるから」
 そうして皆で大きく歌い出せば、いつの間にか妖怪から妖怪へ、歌は少しずつ広がって、気づけばとてもたくさんの声が優しい童謡をうたう。
 そうしてたくさん遊んだならば――歌の終わりに手を振って。

「じゃあね、みんな! 今夜は遊んでくれてありがとう」
「寄り道もそろそろこの辺で。またいつか会えるといいですねぇ」
 いつまでだって遊んでいられそうな気がするするけれど、帰る道はもうそこにある。
 その道を辿るために、リルたちは頑張ったのだ。――帰りたい場所へ帰るために。
『ありがとうありがとう、お客人!』
『また歌を聞かせておくれ!』
 背中から嬉しそうな声が見送ってくれる。それに二人で笑い合って、手を振って――鳥居をくぐる。来たときとは反対のほうへ。
 消えぬ道をリルは帰る。千織は帰る。皆がいる大切な館へ。
「帰ろうか」
「ええ、帰りましょう」

 ――僕たちの大事な、お家にね!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

誘名・櫻宵
隠れんぼですって、誘
得意かしら?
傍らを歩く桜わらしに笑みかけ
そんな訳ないだろという視線に肩を竦める

妖達は仲間の座敷童子とでも思っているのかしら?さっきから囲まれて微笑ましい
せっかくだから妖達と遊ぶわ

もういいかい
まぁだだよ

隠れ鬼は私
私は見つけるのは得意なの
傘おばけも猫又も狐も狸も見つけたわ

けれど
誘が見つけられない

帰り道がわからぬ御魂(あなた)
あなたは何処にかえりたいの

――桜の咲くあの場所へ

そんな声が聴こえた気がして
黄昏に沈む人形を抱きあげる

みぃつけた
あなたの心を

もういいよ
私はあなたを信じるわ
あなたの願いと存在を認めるわ

一緒に帰りましょ
桜の咲くあの場所へ

一緒に見つけましょう
惑う御魂(友)を癒す道を




 遊びに誘う声たちが、帰るものを見送る声が夜に聞こえる。
 夜の風に桜鼠色の髪を遊ばせて、誘名・櫻宵(貪婪屠櫻・f02768)は未だ帰路に着かぬまま、社の賑やかな通りを歩いていた。その傍らを歩くのは、小さな桜わらし。
 誘、と呼べば顔が上がる。その視線は愛らしい見目に反して酷く面倒そうであったりするけれど。――何せ、その周りには妖怪たちがわんさといるのだ。
『なあなあお客人、遊ぼう!』
『お前さんも遊びに来たのだろ、かくれんぼをしよう!』
「ふふ、かくれんぼですって、誘」
 ――遊ぶわけないだろ。
 こんなのと。そう言いたげな白けた視線を向ける妖怪たちと、桜わらしの依代に御霊を降した誘は、視線の高さは全く同じであるのだけれど。
「せっかくだから遊びましょう。……あなたもね」
『あそんでくれるのか!』
 ぴょんと跳ねて喜ぶ妖怪たちに櫻宵は頷いて、ちゃっかりと誘を頭数に数えて入れる。
「鬼は私。……見つけるのは得意なの。頑張って隠れていらっしゃい」
 そうして数を数えて送り出す。楽しげな妖怪たちの声が、夜のそこかしこで響いているのが、何処か不思議な心地だった。
「もういいかい」
 ――もういいよ。
 返る声は妖怪たちの。あの桜わらしは応えたろうか。わからない。
 迷うことなく櫻宵が足を進めれば、妖怪たちはすぐに見つかった。傘おばけも猫又も、キツネもタヌキも次々と。やあやあ、さすが得意なだけはある。なんて嬉しそうな声に微笑んで。
 けれど。

(誘が見つけられない)

 誘七の始祖の御霊を宿す、さくらいろ。――自らと同じ顔をしたかの龍が、何処にいるのかわからない。
「誘」
 呼び掛ける声が、人の気配の少なくなった境内に響く。
「イザナ――何処にいるの」
 あなたは何処にかえりたいの。
(私は見つけたわ。帰りたい場所を、見つけたの)
 刹那を生きてゆくのではなく、帰る場所を持って生きること。
 大切にしたい者たちと、共に生きてゆくこと。
(帰り道がわからぬあなた)
 まだ、わからないままかしら。同じ魂を租にするさくらいろ。
 息を吐いて、耳を澄ました。いいえ、きっとわかるはず。その色は、『私』のものでもあるのだから。

 ――桜の咲く、あの場所へ。

 声がした、そんな気がした。櫻宵は顔を上げる。足を進める。その宵の先、夜へ沈むように隠れた人形へ、そっと手を伸ばす。
「みぃつけた」
 あなたの心を。
 抱き上げる櫻宵の両の手は優しく、その人形を抱き上げる。抱きしめる。
 ――もういいかい。問われた気がして。
「もういいよ」
 答えることができた。躊躇うことなく、逃げることなく。隠れていたのはどちらだったか。
「……私は、あなたを信じるわ。あなたの願いとその存在を認めるわ」
 紡ぐ言葉は言霊になる。抱きしめた桜色は、抵抗するでもなく静かに櫻宵の腕に収まった。頷いた、そんな気がした。
「一緒に帰りましょ。桜の咲くあの場所へ」
 私が、わたしたちが帰りたい、あの場所へ。
「そして一緒に見つけましょう。――惑う御魂を癒す道を」
 いつか何処かで、友とその道が交わるように。狂い咲く櫻を導く道を。
 ふわり、幽世の風が帰り道へと進む櫻宵と誘の背を見送るように吹き抜ける。
 やがてひとひら残された桜の花弁が、夜の何処かへひらりと運ばれた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

疎忘・萃請
千隼を誘って

救い出した賑やかな妖怪たちの声を背中に、静かな場所を探す
賑やかなのを眺めるのは好きだが、そこへアタシが入るときっと白けてしまうから
皆を眺めながら酒でも飲もうか

からりら一本下駄を鳴らし手ごろな場所を探していると、白い後ろ姿を見つけた
たしか、此処へ転送してくれたグリモア猟兵だ
初めての戦場へ送ってくれた礼を言おうと近づいて、驚いた
何を泣く、何故泣く
アタシがヒトに寄るのはまだ早かったのか、と臍を噬む
そ、そうだ、隠れ鬼に興じよう
もしよければ、アタシを探してはくれないか
怖ければ、放っておいてくれて構わないから

言うが早いか樹上の木の葉に紛れて
「もういいよ」

見つけてもらうのは、嬉しい物だなぁ…




 賑やかな声は少しずつ、少しずつ静けさを取り戻してゆく。
 帰りゆく猟兵たちの足音が、笑い応えるその声が、じゃあね、またねと去ってゆく。
 それでも疎忘・萃請(忘れ鬼・f24649)は僅かに残る賑やかな声に混ざろうとはしなかった。
 からり、ころり。下駄を鳴らして静かな場所を探して歩く。
(賑やかなのは好きだが、そこへアタシが入るときっと白けてしまうから)
 鬼は嬉しい賑わいには向かぬのだ。ならば静かな宵の影から、皆を眺めて飲む酒のほうがきっと良い。
 からり、からりら。
 一本下駄が静かな夜にはよく響く。手頃な場所はあるだろうかと見渡して――萃請は白い影を見つけた。
(あれは)
 一瞬見間違いかと思いかけて、すぐに此処への案内をした猟兵だと気づく。
(初めての戦場へ送ってくれた礼でも言おうか――)
 そう思って足を進めかけて、驚いた。
 気配を察して振り向いた白いその女は、泣いていた。
「何を泣く――何故泣く」
「……なぜ、って」
(ああ、アタシがヒトに近寄るのはまだ早かったのか)
 相手がきょとりとしたのにも気づかずに、萃請は臍を噬む。慌ててからり、踵を返せば、少し早口に言葉を継いだ。
「そ、そうだ、隠れ鬼に興じよう。もしよければ、アタシを探してはくれないか」
「良い、けれど。……あの、」
「怖ければ、放っておいてくれて構わないから」
 何か相手が言いかけたかもしれない。けれどもそれよりは一刻も早くここから離れるべきだと思う。だから萃請は言うが早いか、樹上へ跳んだ。木葉に紛れてしまえばわかるまい。この姿は見せてはならなかったのだ――。
「もういいよ」
 探されなくとも構わない。そういう思いで一応紡いだ。遊びに誘った礼儀のうちだ。誰も見つけることがなくとも。目が合うことが、きっとなくとも。

「――みつけたわ」
「え」
 たぶん、ほんの数秒だった。ぽかんとした萃請の前に、先ほど見た白色がいる。泣いたまま、若干不服そうな顔をして。
「真上に跳んで隠れて見せたのは、ワタシを揶揄っているのかしら。……それとも、泣かせたの思わせたワタシのせいかしら」
 軽く息を吐いて、女は首を傾げる。その頬を流れる一筋を、すいと拭って見せて。
「ごめんなさい、ワタシ、いつも泣いているだけなのよ。……アナタのせいでもなんでもないし、それに」
「……それに?」
「ワタシ、隠れ鬼はこれでも得意だわ。……見つけられた気分は、いかが?」
 小さく笑って勝手なことを言う白いのに、萃請はいくつか瞬いてから、ほんの少し可笑しくなった。
「ふふ」
 ああそうか、怖くはなかったのか。それだけわかって、何処かほっとした。それに。それに。

「見つけてもらうのは、嬉しいものだなあ……」

 つい、そんなことを零してしまうほど。
 大喜びをした妖怪たちの心地が、わかってしまうほど。

 ――今宵は幽世かくれんぼ。やがては静かな宵の向こうに余韻を残して。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年07月11日


挿絵イラスト