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夏庭の夢境

#グリードオーシャン

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#グリードオーシャン


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●夏海の花庭
 その場所は不思議な海の庭。
 ひとびとから『向日葵島』と呼ばれる島の臨海。
 透き通った蒼海の最中に海底から水面へ幾つもの泡沫が浮かんでいく。
 其処にとりどりに咲くのは、太陽や桜花めいた色の花弁を湛えた向日葵たち。
 浅い海底に沈んだ船の周囲には美しい珊瑚礁が広がっており、水面から差し込む光を受けてきらきらと耀く魚が悠々と泳いでいる。
 エイや飛魚、熱帯魚。その魚たちはよく見ればガジェットだった。
 海中に花が咲き、魔法の泡が揺れる海の底。
 領域内では、花や魚、珊瑚の近くなら呼吸もできて会話も自由だという。
 普段は水が冷たくて潜るのは厳しいが、夏の季節になると島に住むひとびとは海中庭園に潜って遊ぶのが恒例となっている。
 其処に名を付けるのなら、夏花揺蕩う海の庭。
 そうして今日も、鮮やかな花の色と共に歯車仕掛けの魚が楽しげに泳いでゆく。

 しかし、或る日。
 平穏そのものである向日葵島に奇妙な船が流れ着いた。
 島の裏手、あまり人が寄り付かない寂しい岸辺に止まった幽霊船。
 その船首像は魔物化しており、乗組員はひとりも見えない。代わりに揺らめく炎を持つ人影がひとつ、ぽつんと甲板にいるだけ。
 呪われた船首像が妖しい笑い声を響かせる中、ちいさな人影は砂時計を揺らす。
『叶え損ねた夢のある方、列へお並びください』
 虚ろにも聴こえる声で使者めいた人影は呟いた。周囲に誰も居なくとも、未だ誰も並んでおらずとも、使者はもう一度言葉にする。

『――叶え損ねた夢のある方、列へお並びください』

●夢を視る海
 其処は嘗て、アルダワ魔法学園にあった一角だったという。
 魔法の力ごと落ちてきたそれは今、海の世界のひとつの島となっている。
「その島はコンキスタドールにも支配されておらず、とても平和みたいじゃのう。しかし間もなく、島の裏手に妙な幽霊船が流れてついてしまうのじゃ」
 グリモア猟兵のひとり、鴛海・エチカ(ユークリッド・f02721)は『向日葵島』と呼ばれている島について語った。
 船と共に訪れるのは使者と呼ばれるコンキスタドール。
 夢を映す炎を持っている使者。それをこのまま放っておくと島の内部に侵入してしまい、人々を惑わせるという。そうならぬように事前に島に向かい、船が流れ着いた時点で倒して欲しいのだとエチカは願った。
 しかし、事実を教えて平和な島の者達を悲しませる必要はない。人々は笑顔のまま、ただコンキスタドールだけを人知れず倒してそっと去るのが良いだろう。
「でも急に島に入っては不審じゃからのう。表の岸辺にある『海の庭』に遊びに来たことにすればいいのじゃ!」
 そうすれば島民も怪しまずに受け入れてくれる。
 何せ海中に花が咲いていて、自由に呼吸や会話が出来る特別な庭だ。
 魔法領域はアルダワ魔法学園時代の遺物ではあるが、自慢の場所を楽しんでくれる者が訪れたと知れば大歓迎してくれるだろう。
「そんなわけでまず、夏の海で思いきり遊んでくると良いぞ」
 夏に向けて水着を用意している者も多いはず。
 周囲を泳ぐ機械魚や美しい珊瑚、生きている海の生き物たちと戯れたり、遊び場として敢えて沈めたという船の周辺で海底探索を行ってみても良い。泳げない者は海に浮かぶ花を眺めたり、釣りをしたりして楽しむこともできる。
「夕暮れまでたっぷり遊べるからの。大いに楽しんできて欲しいのじゃ」

 そして、日が暮れたら次に向かうのは島の裏手側だ。
「戦場は寂れた岸辺になる。暗くなる頃に幽霊船めいた船が流れ着くのじゃ」
 其処では先ず、呪われた船首像が出迎えてくる。
 魔物化した船首像は人を見つけると捕え、船内に運ぼうとする。されど連れ込まれては此方も不利になってしまう。敵の数は多いが蹴散らしてしまえばいいと告げ、エチカは此度の首魁について話してゆく。
「その名は『使者』という。何処からの、何の使者なのかは分からぬ。されど、そういった存在らしいのじゃ」
 使者は夢でしかありえない理外の力を与えるという。
 たとえば、理想とする夢幻の力。
 或いは夢への想いの強さに比例した痛み。または過去や未来を起因とした絶望。
 そういった効果を此方に与えてくるという。
 それがもし島民にまで及べば、不和や争乱の元となり、平和は崩壊すると予想される。
「使者は叶え損ねた夢が有る者を呼んでおる。されど使者は夢を叶えるとは一言も言ってはおらぬでのう。惑わされるではないぞ!」
 不穏を呼び起こすならば討伐してしまうのが一番良い。
 そう告げたエチカは仲間達を見渡し、頼んだのじゃ、と信頼の宿った笑みを向けた。

 何よりまずは夏の海を楽しむ時間だ。
 海中に咲く向日葵、すいすいと泳ぐ歯車仕掛けの魚や珊瑚。不思議な沈没船。
 さあ――夏のはじまりを告げる一日が、君を待っている。


犬塚ひなこ
 今回の世界は『グリードオーシャン』
 海の庭で遊んだ後に、島に現れるコンキスタドールを打ち払うのが目的となります。

 プレイング受付期間や締切についてはマスターページに記載する予定です。お手数ですが、ご参加の前にご確認ください。

●第一章
 日常『夏花揺蕩う海の庭』
 島名は向日葵島。時刻はお天気の良い昼間です。
 水中で呼吸や会話が出来るという、アルダワの魔法が掛かった領域で遊べます。雰囲気はフラグメント画像(OP画像)のイメージです。
 水着で泳いだり、水中に咲く向日葵を眺めたり、海上で釣りをしたりと海で出来ることなら何でも可能です。島民との交流は必須ではありませんので、無理に声をかける必要はありません。
 一章だけの参加も歓迎致します。どうぞご自由にお過ごしください。

●第二章
 集団戦『呪われた船首像』
 時刻は夕方~宵の口。
 戦場は寂れた岸辺と漂着した幽霊船の間。
 魔物化した像は分裂しているのでたくさんいます。容赦なく倒してください。

●第三章
 ボス戦『使者』
 不思議な姿をした使者。
 過去の出来事、未来への夢などを利用して絶望させたり、夢の強さに比例する痛みを齎す力を持っているようです。
 差し支えなければ、皆様の夢や理想をプレイングにお書き添えください。
 その内容に拠った理想の力や夢の痛み、絶望が与えられることになるので、抗って打ち破るという流れになります。(書いていなくても大丈夫です。ただし夢や理想が書かれていない場合、曖昧な描写になることをご了承ください)
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第1章 日常 『夏花揺蕩う海の庭』

POW   :    海の生き物たちと戯れる

SPD   :    海中探索、泳いで回ろう

WIZ   :    海に浮かぶ花を楽しむ

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

フリル・インレアン
ふわぁ、ガジェットさんのお魚さんって、まるでアヒルさんのお友達みたいですね。
アヒルさんも優雅に泳いで楽しそうですね。
あれ?アヒルさんってそもそも泳げるんでしたっけ?
水の上に浮いているイメージしかなかったのですが、でもアヒルさんは器用に泳いでいますし、気にするなってことでしょうか。

あ、アヒルさん待ってください。
私もすぐに行きます。



●季節のはじまり
 夏めいた陽射しが岸辺に降り注ぐ。
 透き通った蒼の海は煌めいていて、新たな季節の到来を飾っているかのよう。
「ふわぁ、綺麗ですね」
 フリルは輝く海を眺め、浮き輪をぎゅっと抱きしめる。錨型の透明な浮き輪を腕に抱いたフリルの今日の装いは水着。
 青と白のボーダーシャツ、黒のショートパンツとサンダル。
 腰元には青いリボンが揺れていて実に夏らしい様相だ。
「あれ?」
 海辺から水の中を覗き込むと、何かが泳いでいく姿が見えた。どうやら魔法機械仕掛けの魚たちがすいすいと動き回っているらしい。
「このお魚さんたちって、まるでアヒルさんのお友達みたいですね」
 かれらが同じガジェットであることから不思議な親近感を抱き、フリルは双眸を細めた。よく見ればアヒルさんは既に水中で優雅に泳いでいるようだ。
 楽しそうだと感じたフリルは、まず準備運動を始める。
 身体を伸ばして曲げて、十分に解してからゆっくりと爪先を水につけてみた。
 ちゃぷ、と音が響くと同時に冷たさを感じる。
 まだ体が水の温度に慣れていないようだが、フリルは思いきってそのまま一気に腰まで身を浸してしまう。すると徐々に心地好さが巡っていった。
 水の冷たさ、頭上から射す日差しの熱。どちらも良いものだと思える。
「アヒルさんってそもそも泳げるんでしたっけ?」
 そんなとき、ふとフリルは疑問を抱いた。
 アヒルさんの形状からして水の上に浮いているイメージしかなかったのだが、どうやら問題なく泳げるらしい。
「アヒルさんは器用に泳いでいますし、気にするなってことでしょうか」
 きっとそうですよね、と自分で納得したフリルは頷く。
 そうしているとアヒルさんがフリルを誘うように海中から顔を出した。
 くるりと彼女の周りを回ったかと思うと、アヒルさんはすぐに先程のガジェット魚たちの方に泳いでいってしまった。
 おそらく、早く来いという旨を伝えたのだろう。
「あ、アヒルさん待ってください。私もすぐに行きます」
 このまま浅瀬にいるのも楽しいけれど、水中には同じくらい――もしかしたら、もっと素敵な景色が広がっているかもしれない。
 期待に胸を膨らませ、少女は海の中に潜ってゆく。
 向日葵が咲き、珊瑚が煌めき、機械魚がゆうゆと泳ぎ回る海庭の情景。
 きっと其処には夏を彩るひとときが待っている。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
「ほら、溺れないために横泳ぎや着衣の立ち泳ぎを習いますでしょう?よほどの低温や荒天でもない限り、沈まない自信はあるんですよ?ただこう…移動するのが亀より遅いだけで」
目を剃らす

「これ、本当に花なのでしょうか。全然別の生き物なのでは…?」
水着のパレオで散策しつつ、海中浮遊する向日葵をつつく
「だってどこから栄養補給しているんでしょう?光合成も葉でおこなっているんでしょうか。それとも擬態しているだけで、実際は全然別の生き物なんじゃないでしょうか」
ミドリムシ想像しながらまた向日葵をつつく

散策後は気分良く歌いつつ島民と交流
名物が何かどこで食べられるか情報交換
大家や女給仲間への土産になりそうな物を聞いておく



●島に吹く風
 波打ち際に細波の音が響く。
 海風は心地好い。上空で鴎も鳴いており、まさに夏らしい情景だ。
 桜花は今、水着姿で浜辺に立っている。その視線は空から水場へと向けられ、寄せては返す波模様が彼女の瞳に映っていた。
 一呼吸置き、桜花は胸元に手を当ててみる。
「ほら、溺れないために横泳ぎや着衣の立ち泳ぎを習いますでしょう?」
 語るのは今の状況を確かめる為の言葉。
 再び吹き抜けてきた海からの風が、桜花の纏うパレオの裾を穏やかに揺らす。
 ざざん、と波の音も響き続けていた。
「よほどの低温や荒天でもない限り、沈まない自信はあるんですよ? ただ……」
 桜花は俯く。
 これは自分を見つめ直して認めるためのもの。そう、事実確認だ。
「……移動するのが亀より遅いだけで」
 言い切った桜花は海から目を逸らす。泳げないわけではないが大得意かと問われると首を縦に触れないというだけ。
 軽く肩を落とし、問題はないのだと自分に言い聞かせた桜花。
 彼女は意を決して水中へと進む。水に足を浸せば、冷たい心地が広がっていった。そのまま歩いて海中に進んでいけば魔法の夏庭にいけるらしい。
 桜花はそっと進んでいく。
 すると聞いていた通り、海中には魔力が満ちていた。揺蕩う水の心地はそのままに、地上と同じ呼吸と会話ができる空間だ。
 其処に潜って行く最中、桜花の視線の先で何かが揺れていた。
 向日葵だと察した彼女は近付いてみる。
「これ、本当に花なのでしょうか。全然別の生き物なのでは……?」
 パレオが波間にふわりと揺れる中、海中を浮遊している向日葵をつついてみる。
「だってどこから栄養補給しているんでしょう? 光合成も葉でおこなっているんでしょうか。それとも擬態しているだけで――」
 疑問が浮かび、桜花は様々な考えを巡らせていった。結局、これはこういうものだと思うのが良いだろうという結論になる。
 ミドリムシを想像しながら、桜花はまた向日葵をつつく。
 その瞬間、花弁が幾つか離れて広がった。
 透き通った青の世界に、黄色と桜色の花弁がひらひらと舞って浮かんでいく。桜花はその景色を見上げて息を吐いた。
 泡沫が水面に立ち昇っていく光景も綺麗だと思い、桜花は暫し景色を楽しんだ。
 それから十分に散策をした後。
 桜花は気分良く歌いつつ、島民との交流に向かった。アルダワの文化を受け継いでいる島は賑やかながらも穏やかだった。
 名物が何か、どこで食べられるか。
 或いは自分の世界にいる大家や女給仲間へのお土産になりそうなものを聞きに。そして、向日葵島の地上に咲く花を見学しにいく為に、桜花は島の中心へと歩いていく。
 背にした海から吹く風は最初に訪れたときと同じように心地よくて、これから始まる楽しい時間を予感させてくれた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

真宮・響
【真宮家】で参加

ふむ、アルダワ由来の島ね。水中で呼吸と会話が出来るとは。奏と瞬は海で泳ぎたい?じゃあ、そうしようか。

自前の水着はホルタータイプのワンピース水着。アタシは泳ぎながら歯車仕掛けの魚と戯れたいねえ。イルカとかもいるだろうか?折角の機会、存分に遊ばせて貰うかね。そうだ、会話も出来るなら、魚を手に乗せて【歌唱】出来るかね?試してみるよ。赫灼のアパッショナートで魚を周りに集めるのもやってみる。


真宮・奏
【真宮家】で参加

水中で呼吸や会話が出来るんですか?不思議で、素敵な所ですね。水玉模様の紺のレースビキニを着て、瞬兄さんと珊瑚や向日葵を見たいです!!瞬兄さん、行きましょう!!(ぐいぐい)

見て下さい、瞬兄さん。向日葵が元気に咲いています!!え?私が向日葵に見えますか?嬉しいです~(どきどき)あ、お魚さんも気持ちよさそうに泳いでます~(真っ先に追いかけて行く)うん、凄く楽しいです!!


神城・瞬
【真宮家】で参加

ふむ、アルダワ由来なら、水中で呼吸や会話が出来るのもうなずけますね。良くみれば魚も歯車仕掛けですし。あ、水中の珊瑚や花を見て回るのですね?奏、そんなに引っ張らなくてもちゃんと付いて行きますので・・・

自前の黒のサーフパンツの水着を着て、奏と珊瑚や花を見ます。向日葵は、奏のように太陽のように可憐ですね。(微笑んで、奏の頭を撫でる)確かに多くの魚が泳いでますが・・・奏、置いていかないで~(必死に奏を追いかけていく)付いていく僕の苦労も分かってください、全く。



●向日葵と歌
 季節はまさに夏。
 燦々と降り注ぐ太陽の日差しを受けた響は海を眺める。
「ふむ、アルダワ由来の島ね」
 夏らしい雰囲気が満ちる中、水面は陽を反射してきらめいていた。波間の向こう側に見える臨海は透き通っていてとても綺麗だ。
 響に続き、奏と瞬も浜辺を進む。
 波打ち際から少し先に向かうだけで、すぐに遊び場である夏庭に行けるようだ。
 水中で呼吸と会話が出来るとは、と響が呟くと奏が首を傾げる。
 見た目はごく普通の海に見えるが水中に巡っている魔法が通常の活動を可能にしているらしい。なるほど、と両手を重ねて納得した奏が微笑む。
「不思議で、素敵な所ですね」
「ふむ、アルダワ由来なら、水中で呼吸や会話が出来るのもうなずけますね」
 瞬も海の中を覗き込み、感心した様子を見せた。
 よくみれば魚も歯車仕掛けで面白い。どうする? と振り返った響が身につけている水着はホルタータイプのワンピース水着。
 対する奏は水玉模様の紺のレースビキニだ。そして、瞬は黒のサーフパンツの水着で泳ぐ準備もばっちり。
「瞬兄さんと珊瑚や向日葵を見たいです!!」
「あ、水中の珊瑚や花を見て回るのですね?」
「奏と瞬は海で泳ぎたい? じゃあ、そうしようか」
 元気よく主張した奏の瞳もまた、陽光を受けて輝いていた。瞬は彼女が大きな期待と楽しみな気持ちを抱いているのだと悟り、穏やかに微笑む。
 首肯した響は改めて海を見つめた。
 ちょうど浜辺にいるのも暑く感じてきたところで、涼むのにも良いタイミングだ。
 海で涼むのが良いと感じた響は先に踏み出していく。波間に爪先を浸して歩くと、ぱしゃぱしゃと小さな飛沫が跳ねた。
「うん、気持ちいい」
 二人もおいで、と響が手招きをする。
 奏は瞬の手を取ってぐいぐいと引っ張って響の元に向かっていく。
「瞬兄さん、行きましょう!!」
「奏、そんなに引っ張らなくてもちゃんと付いて行きますので……」
 それにきっと珊瑚や花は急がなくても逃げないだろう。奏もそれを分かっているのだろうが、早く景色を見てみたいという思いが先行している。
 嬉しそうに笑う奏。
 腕を引かれて付いていく瞬。
 そんな二人の姿を見守る響。
 三者三様の楽しい夏の一日が此処から始まってゆく。

 夏庭の海中。
 身を浸した水の中には心地好い空間が広がっていた。最初こそ反射的に息を止めてしまったが、不思議な感覚が満ちたことで思いきって口を開く。
「これは面白いですね」
 地上にいるときと変わらぬ呼吸が出来たことで、瞬はまた感心を覚えた。
 響はというとすぐに海中の感覚に慣れており、すいすいと水底に泳いでいっている。わあ、と口許を綻ばせた奏は前方を指差した。
「見て下さい、瞬兄さん。向日葵が元気に咲いています!!」
「向日葵は、太陽のように可憐ですね。奏のようにも見えて可愛らしいです」
 瞬は示された方に目を向け、思ったままの感想を口にした。思わずどきどきしてしまった奏は両手で自分の頬を押さえる。
「え? 私が向日葵に見えますか?」
「はい、花のようですよ」
「嬉しいです~」
 胸の鼓動が高鳴っていくことを感じながら、奏は花が咲くような笑みを浮かべた。
 瞬も微笑み返し、奏の頭を撫でる。
 二人の和やかな時間が流れていく中で、響は歯車仕掛けの魚と戯れていた。魚たちが泳いでいく横に続き、響は周囲に視線を巡らせた。
「イルカとかもいるだろうか?」
 きょろきょろと暫し探していると、魚と同じく魔法機械仕掛けのイルカが沈没船の中から現れた。遊ぼう、と語るように響の傍まで泳ぎ寄ってきたイルカはきゅいきゅいという可愛らしい機械音で鳴いた。
「折角の機会、存分に遊ばせて貰うかね」
 行こう、と誘って泳ぎ始めた響は向日葵がたくさん咲く海底に向かう。
 海中に咲き乱れる花は不思議な雰囲気がするが、こうして水に揺蕩う花々の様相は綺麗で愛らしい。
 イルカと共に花の周囲を暫し泳いだ響は、ふと思い立つ。
「そうだ、会話も出来るなら歌も歌えるかね?」
 そっと手を伸ばすと、ちいさな魚が彼女の掌の上に近付いてきた。
 其処から響き渡っていったのは赫灼のアパッショナート。情熱を込めた響の歌が水中に伸びやかに広がっていく。
 魚が次第に一点に集まっていく様を見つめ、奏は双眸を細めた。
「あ、お魚さんも気持ちよさそうに泳いでます~」
 その先に響がいるとわかり、奏は魚を真っ先に追いかけて行く。はたとした瞬は彼女との距離が大きく開いてしまったことに気付き、慌てて泳いでついていった。
「確かに多くの魚が泳いでますが……奏、置いていかないで~」
「瞬兄さん、はやく! ほら、凄く楽しいですよ!!」
「ああ……もうあんなに遠くに……。付いていく僕の苦労も分かってください、全く」
 必死に奏を追いかけていく瞬。
 歌を頼りに泳いでいく二人はやがて、響と合流する。
 それから三人と歯車イルカ、ガジェット魚たちとの更に楽しい時間が流れていく。そのときにどんな会話をして、どのような思い出が重なっていったのか。
 それもまた、彼女達の夏を彩る記憶のひとつとなってゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒鵺・瑞樹
アドリブOK

海中で呼吸もだけど。歯車仕掛けの魚って、その…錆びないのか?
本体が金属のナイフなだけにちょっと気になるところだけど。
でも呼吸もできるところだしなぁ。そういうものだと割り切ればいいだろうか。

青い無地のハーフタイプの水着で。…一応髪もまとめとくか。浮力が働かないとは限らないしな。
海底探索したり向日葵眺めたり、海底から揺らぐ太陽を見上げたり。
きっと人の身を得たからできる事をしてゆったりとすごそうかな。
ちょっと魚を捕まえられるようなら捕まえて観察したい気もする。
出来ないなら逃げられないようにそっと近づいて観察。
UDCで水中で泳ぐ魚のおもちゃを見た事あったけど、あれとはまた違うんだろうなぁ。



●ひとである意味
 魔法学園の不思議な魔力が宿った島。
 其処に訪れた瑞樹は向日葵島と呼ばれる島に降り立ち、浜辺に辿り着く。
 波打ち際には白い水飛沫が散っていて、陽射しが海を照らしていた。夏らしい様相だと感じながら瑞樹は歩を進めていく。
 その際に思うのはやはり、この島の臨海の特色について。
「海中で呼吸もだけど。歯車仕掛けの魚って、その……錆びないのか?」
 ゆらゆらと揺れる波間を見下ろす。
 錆びが気になるのは瑞樹の本体が金属のナイフであるゆえ。見つめる先には既に海中で遊んでいるひとびとの姿も見える。
 遠目に見えたガジェットの魚たちも錆びなどはひとつもなく、すいすいと自由に泳いでいるようだ。
 島の自慢だというように、ああやって長年動き続けているのだろう。
 此処は自分が過ごしている日常とは違う不可思議な領域。郷に入れば郷に従えとも言うように身を委ねてみるのも悪くはない。
「でも呼吸もできるところだしなぁ、アルダワの破茶滅茶さを思えばここではこれが普通なのかもしれないな」
 きっと、そういうものだと割り切ればいいはずだ。
 瑞樹は佇まいを直す。今の彼の装いは青い無地のハーフタイプの水着だ。
「……一応、髪もまとめとくか」
 髪に手を伸ばした瑞樹は手早く髪を結んでいく。それから軽く屈伸をした後、彼は海の中に踏み出した。
 其処から一歩ずつ、波を掻き分けるように進んでいけば身体がゆっくりと海の中に沈んでいく。溺れているのではなく、普通に地上を歩くような流れだ。
「へぇ、これはすごいな……」
 何の違和感もなくあっという間に浅瀬から深い箇所にまで訪れることが出来た。既に顔まで水に浸かっているが、何の弊害もない。
 ガジェットが泳ぐ海の様子を見遣りつつ、瑞樹は海底へと向かっていく。
 まずは探索。珊瑚の横で揺られる向日葵は流石に初めて見た。水面から射す光が向日葵を照らしている様は美しく、暫し眺めてみる。
 海底から振り仰ぐ太陽は地上からは見られない良い景色だった。
「さて、少しゆったりと過ごそうかな」
 瑞樹は魚に手を伸ばしてみる。そうするとガジェットフィッシュは尾鰭を揺らしながら瑞樹の手の上に訪れた。
「ネジ巻き式……? なるほど、こうなってるのか」
 おそらくは島民が定期的にネジを巻いて、動力を補給してやっているのだろう。
 魔力の有る無しこそ違うが、以前に見た水中で泳ぐ魚の玩具に似ている。もっと別の仕掛けを想像していた瑞樹は何だかおかしくなってきた。
「おいで、ネジを巻いてやろう」
 近寄ってきたガジェットに触れた瑞樹は双眸を細め、きりきりとネジを巻く。
 先程までふわふわと揺蕩っていただけの魚の動きが急に機敏になり、瑞樹の周囲を素早く回った。視線で魚を追った瑞樹は、これでよし、と頷く。
 沈没船のオブジェの方角に向かって進み始めた魚を追い、瑞樹はこの先への思いを巡らせる。これがきっと、人の身を得たからできることだ。
 今の姿、今のかたちで。
 感じられることをめいっぱいに体験して行こうと決め、瑞樹は泳ぎ出した。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

逢坂・宵
ザッフィーロ(f06826)と

ラッシュガードと膝丈サーフパンツを着込んでかれとともに海岸へ

大丈夫ですよ、ザッフィーロ
ここの海は穏やかなようですから
ほら、と軽く手を引きつつかれとともに海の中へ

はい、本体は持ち込んでいませんよ
ですからほら、そのように力を入れずに。僕がいれば大丈夫ですから
不安げなかれに微笑んで見せて、色鮮やかな向日葵とガジェットの魚たちが織りなす海中庭園に感嘆の声を

すごいですね……!
幻想的で……そう、物語に聞く竜宮城の景色のようではありませんか
美しい眺めをきみと見られて、しあわせです

ふふふ、そうですよ。悪くないでしょう?
これからも色々な海の思い出を作っていきましょう、ザッフィーロ


ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と
ラッシュガードと膝下丈のサーフパンツにて海岸へ

う、海の中に入るのか
呼吸出来るとは言え…なんだ。浮かんでは来られるのか…?
恐る恐る海を見つめながらも宵に手を引かれれば覚悟を決め海の中へ

宵。本体は仕舞って来たな…?暗い海中にて朽ちる訳に…は…
そう不安から自然と多くなる口数を宵へ向けながらも、海中の向日葵を見れば思わず見惚れてしまうやもしれん
ああ…本当に美しい光景だ
一人では決して見れなかっただろう光景を眺め繋いだ手を握り直そう
竜宮城か?まあ、お前が共に在るのならあの漁師の様に海底で過ごすとて恐ろしくないかとそう笑みを
ああ、これからも色々な景色を見て行こう
…まあ、手は繋いでいて貰うがな



●繋ぎ続ける形
 訪れた海は眩しい陽光を受けて光り輝いていた。
 波の音を耳にしながら歩く砂浜は心地よく、宵とザッフィーロは夏の到来を感じる。
 ラッシュガードと膝丈サーフパンツという出で立ちで並び歩く彼らは、暫し海岸を散歩していた。その理由はザッフィーロが少しばかり戸惑っていたからだ。
「う、海の中に入るのか」
 魔法の力で呼吸が出来るとは聞いていたが、やはりいざ目の前にすると尻込みしてしまう気持ちもあった。
「大丈夫ですよ、ザッフィーロ」
 隣を歩む宵は彼を落ち着かせる為に優しい声色で語りかける。
 解ってはいるんだが、と呟いたザッフィーロは水の下を覗き込むように波打ち際に歩み寄っていった。
「これは……浮かんでは来られるのか……?」
「見てください。ここの海は穏やかなようですから」
 宵は沿岸を示す。
 そうして彼はザッフィーロの手を軽く引き、海の中へと導いていった。手を握り返しはしたがザッフィーロはまだ不安げだ。
 恐る恐る海を見下ろし、宵に引かれるままに一歩、また一歩と足を踏み入れる。
 もうすぐ浅瀬は終わってしまう。やがて覚悟を決めたザッフィーロは宵と共に海の中へ飛び込んだ。
 静む身体。浮かぶ泡沫。
 透き通った青が視界いっぱいに広がったかと思うとひんやりとした心地が巡る。
 水が揺らめいている景色が見える以外は地上と何ら変わらぬ感覚だ。砂浜から歩いてきたときと同じ雰囲気だが、周囲に魚が泳いでいることで此処が海の中だと分かる。
「ザッフィーロ、見てください」
 宵は傍らの彼を呼んだ。
 思わず目を瞑っていたザッフィーロだが、意を決してそっと瞼を開いてみる。
「これが海の中か……」
 其処でようやく周囲の景色を目にしたザッフィーロは感心していた。しかし、すぐにはっとして宵に確認の為の問いかけをする。
「宵。本体は仕舞って来たな……?」
「はい、持ち込んでいませんよ」
「暗い海中にて朽ちる訳に……は……」
 警戒を解いていない様子のザッフィーロは宵の手を少し痛いくらいに握り締めた。対する宵はそれも受け入れ、安心させるために微笑みを浮かべてみせる。
「ですからほら、そのように力を入れずに」
「だが……」
「僕がいれば大丈夫ですから」
 視線を合わせると、漸く手の力が緩まった。
 宵はそのまま視線を巡らせ、色とりどりの向日葵や元気よく泳ぐガジェットの魚が行き交う景色を見遣る。同様にザッフィーロも其方に目を向け、ほう、と息を吐いた。
 その途端にあぶくが浮き上がって、天上の水面に昇っていく。
「綺麗ですね」
「成程、これは見応えがあるな」
 色鮮やかな向日葵と光を受けて燦めく魚と泡沫。それらが織りなす海中庭園に感嘆の声をあげた二人は海中の景色を楽しんでいった。
 先程は不安から自然と口数が多くなっていたが、落ち着いたことで普段のザッフィーロに戻っていく。見惚れてしまうほどの情景を大いに眺めた宵達は、ゆっくりと歩くように泳いでみる。
 その先には珊瑚と熱帯魚めいた魚が集まる場所があった。
 宵は水底を蹴り、ザッフィーロと共にそちらに駆け泳いでいく。そして、美しいコーラルピンクでいっぱいの領域を瞳に映す。
「すごいですね……!」
「ああ……本当に美しい光景だ」
「幻想的で……そう、物語に聞く竜宮城の景色のようではありませんか」
「竜宮城か? あの話は結末が……いや、お前が共に在るのなら、あの漁師の様に海底で過ごすとて恐ろしくないか」
「ふふふ、そうですよ。悪くないでしょう?」
 宵がこの光景を物語に喩えたことで、ザッフィーロの口許に淡い笑みが咲いた。
 きっとこの光景はひとりでは見られなかっただろう。繋いだ手を握り直したザッフィーロは、自分達の傍を泳いでいった熱帯魚型ガジェットを見送る。
 周囲に満ちているのは穏やかな雰囲気。
 宵は静かな幸せが海に揺蕩ってると感じながら、ザッフィーロを見つめる。
「美しい眺めをきみと見られて、しあわせです」
「偶然だな、俺も同じことを思っていた」
 ザッフィーロも頷いて答えた。
 思考が似るようになったのもずっと一緒に過ごしているからかもしれない。宵は今までを思い返し、この先についても考えていく。
「これからも色々な海の思い出を作っていきましょう、ザッフィーロ」
「ああ、宵。これからも色々な景色を見て行こう」
 視線を交わしてから、二人は同じ方向に眼差しを向けた。時に向かい合い、時に同じものを見て進んでいく。
 波間と水面。そして向日葵と泡沫の中に、こうして自分達がいること。
 それが今みつけられる幸せのかたちだ。
 するとザッフィーロが不意に咳払いめいた声を落として、ちいさく付け加える。
「……まあ、手は繋いでいて貰うがな」
「ええ、勿論です」
 交わすのは手や眼差しだけではなく、想いも一緒に。
 そして――宵達はしっかりと繋いだ掌に、そっと力を込めあった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

小花衣・亜衣
雨宮・いつき(f04568)さんと

猟兵になって初めての冒険、ドキドキします…けど、頑張って猟兵デビューしないと…!
あ、水着どうしよう…鴛海・エチカさんに聞いてみようかな

すごい…
鴛海さんに選んでもらった水着を着て海に入ると、目の前に広がる幻想的な光景に思わず魅入られちゃいます。
元気一杯に泳ぐガジェット達
不思議な泡と綺麗な珊瑚
水中で咲く花!
今まで見た事無い景色です!

わわ…ボーっとしていました…すみません!
ふぇ、一緒に…ですか?
は、はい…その、よろしくお願いします…

あ、雨宮さん凄いです!
見てください、向日葵と泡のカーテンです!
雨宮さんと海を満喫、このまま敵が来なければいいのに…
そう思っちゃいました。


雨宮・いつき
小花衣さん(f25449)と

絡繰の魚、珊瑚のように咲き誇る花
色んな世界で色んな不思議と出会ってきましたけど、
ここも負けず劣らずに不思議な場所です
この素敵な光景と島民の事を想えば、御勤めにも身が入るというもの
…けれど、ずっと気を張り詰めるのも考え物
今はこの美しさを満喫する事にします

…おや、彼処に居る方も猟兵でしょうか
小花衣さん、っていうんですね
ね、遠慮しないで貴女も一緒に遊びましょ
こんな機会、滅多にありませんものっ

脛くらいの浅瀬で、裸足でひんやりとした心地良さを味わったり
寄ってくる小魚と戯れたり、押しては寄せる花弁の美しさを堪能したり
…ふふ、そうですね
このまま平穏な時が続けばいいのに



●夏色の邂逅
 波の音が響き、夏の風が吹き抜けてゆく。
 不思議な魔法がかけられた蒼海の水底は硝子のように透き通っていて、覗き込むだけで目が奪われてしまいそうなほど。
 絡繰の魚、珊瑚のように咲き誇る花。
「……綺麗ですね」
 つかさは水面の下に見える世界を眺め、そっと思いを馳せる。
 これまでも色んな世界で様々な不思議と出会ってきた。けれども、此処も負けず劣らずに不思議な場所に思える。
 世界自体は欲が渦巻く海とも言われるが、この島はとても平和らしい。
 此処にある素敵な光景と島民のことを想えば御勤めにも身が入るというもの。
「けれど、いけませんね」
 この後にやるべきことが待っているとはいえど、気にしすぎてずっと気を張り詰めるのも考え物だとつかさは知っている。
 顔をあげた彼は眼鏡を指先で掛け直し、青い空と広い海を見渡した。
「今はこの美しさを満喫する事にしましょうか。……おや?」
 つかさはふと、行く先に人影を見つける。
 あの人も猟兵だろうかと考え、何気なしに歩みを寄せていくつかさ。
 その先で出会うことになるのは――。

 今はまだ、いつきに気が付いていない亜衣。
 少女は現在、白の水着のフリルを揺らめかせながら浜辺を歩いていた。
 此処に来る前に選んで貰った今年はじめての水着は、白を基調としたおとなしめのワンピースタイプのものだ。
 肩口と腰元にふんわりとしたレース状のフリルがあしらわれており、歩く度に上品に揺れるのが特徴。更に背中の方のフリルは、前部分よりも少し長めに作られたマレットドレスタイプになっている。
「これから初めての冒険が始まるなんて、ドキドキします……」
 けれど頑張らなくちゃ、と意気込む亜衣の胸は言葉通りに高鳴っていた。水着も、この後に巡ることも初めて尽くし。
 少し恐いような気持ちもあるが、飛び込んでみなければ何事も分からない。
 そして、亜衣は思いきって海へと駆け出す。
 魔法の領域はもうすぐ目の前。えい、と身を沈めてみると、其処には――。
「すごい……」
 色とりどりの魚に、海中に咲く向日葵。
 海に入ってすぐに広がる幻想的な光景に思わず魅入ってしまいそうだった。
 ガジェットの魚は元気いっぱいに泳いでいて、不思議な泡と綺麗な珊瑚が美しいと思えた。何よりも水中で咲く花が揺れているのが良い。
「今まで見た事無い景色です!」
「本当ですね。とても美しいです」
 亜衣が感動した様子で海の景色を眺めていると、後ろから声が聞こえた。
 驚いて振り向いた亜衣はうっかりその声の主にぶつかってしまう。
「わわ……ボーっとしていました……すみません!」
「大丈夫ですよ。海の中なので痛くはありませんでした。それよりも、お名前を聞いてもいいでしょうか?」
 ぶつかった相手は先程に浜辺で亜衣を見つけたつかさだ。
 亜衣があまりにも純粋に喜ぶ姿を見て微笑ましくなり、声を掛けたらしい。
「ふぇ……はい!」
 頷いた亜衣は自分の名を告げる。
 対するつかさも同様に答えながら自己紹介を終えた。
「小花衣さん、っていうんですね。ね、遠慮しないで貴女も一緒に遊びましょ」
「一緒に……ですか?」
 つかさからの思いがけない誘いに対して亜衣はきょとんとして首を傾げる。つかさは年相応の少年らしい笑み浮かべ、せっかくですから、と海の景色を指差した。
「こんな機会、滅多にありませんものっ」
「は、はい……その、よろしくお願いします……」
 屈託のない笑みに恥ずかしそうな視線を返し、亜衣はお辞儀を返す。
 一緒に海で過ごす相手が出来たことに更にドキドキしたが、いつしか亜衣の気持ちは綺麗な景色と楽しい雰囲気に向いていった。
「あ、雨宮さん凄いです!」
「どうしたんですか、小花衣さん」
「見てください、向日葵と泡のカーテンです!」
「凄い……小花衣さんは素敵なものを見つけるのが上手いですね」
 つかさは亜衣が楽しげに示す先を眺め、双眸を穏やかに細める。そうして二人は寄ってくる小魚と戯れたり、水面から降り注ぐ陽射しの合間を泳いだり、押しては寄せる花弁の美しさを堪能したりと大いに楽しんでいった。
 やがて二人は海から上がり、脛くらいの浅瀬にまで戻ってくる。
 ひんやりとした心地を確かめつつ、つかさは上機嫌に爪先で水を軽く蹴った。跳ねた飛沫が水面に落ちてきらきらと輝いている。
 その光景を見つめていた亜衣はちいさな溜息をついた。
「雨宮さんと海を満喫できて、とても楽しいです。このまま敵が来なければいいのに……なんて、思っちゃいました」
 亜衣の言葉があまりにも可愛らしく、心からのものだと分かったのでいつきはくすりと笑った。そう感じていたのは自分も同じだったからだ。
「ふふ、そうですね。このまま平穏な時が続けばいいのに」
 微笑みを交わした二人は今此処に流れる時間を楽しんでいこうと決めた。
 たとえ自分達にとっての平穏が束の間であっても。
 この向日葵島に住むひとびとにとっては、永遠の平和であるように願って――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

浮世・綾華
【秋】

俺は泳がないケドな
呼吸とかできんなら入れなくもねーが…
俺は此処で釣りしてる

はいはい
いってらっしゃ…
うわっ…
水がかかるがきよしはもう海の中
あいつ…(後で覚えてろよ

準備が出来たら釣りを始める
水中にはたくさんの魚が泳いでいるのが分かって
あれ全部ガジェットなんだよなと

それに
なにより美しい花に心奪われる
向日葵、ほんと綺麗
好きな花だし、見ているだけで和んで
竿のことをすっかり忘れてた

あ、お。かかった――

っと――あ?
綾華かよじゃねーよ
それはこっちの台詞だ
此処、釣りすぽっとなんですケドぉ
泳いでたら危ねーじゃん

は?心配してないし
俺の釣りの邪魔すんじゃねー!
近くにあったビーチボールを思い切り投げつける


砂羽風・きよ
【秋】

綾華ー、海だー!!
やべーやべー!めっちゃ綺麗だな!
泳ぐぞー、はしゃぐぞー
準備運動をきっちり行い

え、綾華泳がねーの?
釣りか?お、じゃあデッケー魚釣ったら教えてくれ!

そんじゃ、行ってくるぜ!
俺の格好良い泳ぎ姿、しっかり目に焼き付けろよ!

とう!と盛大に飛び込んで水飛沫を綾華に掛ける

うおー、スゲーマジで息吸えるわ
泳ぐ魚に目を見開き
これ全部ガジェットとかマジか
俺でも作れるんかな

つーか、折角だしやっぱ綾華と見てーな
ちょっと戻ってみっかなんて思っていたら
ズボンに針が引っ掛かる
――え、おいおいおい、マジか!

やべぇ、引き上げられる!って綾華かよ!
…確かに
綾華、俺の怪我の心配してくれるんだな

いてーいてー!



●向日葵と熱帯魚
 太陽の光が燦々と降り注ぐ海辺。
 片手を庇代わりにして目許に添え、何処までも広がる海を眺める。
「綾華ー、海だー!!」
「ああ、海だな」
 波止場を駆けていくきよを追った綾華も海を瞳に映す。きよが少年のように喜んでいる理由もよく分かった。輝く水面に心地好い夏らしさが満ちているからだ。
「やべーやべー! めっちゃ綺麗だな!」
 泳ぐぞー、はしゃぐぞー、と口にして準備運動をはじめたきよは泳ぐ気満々。
 きっちりと身体を解していく彼を見遣り、綾華は最初に告げておく。
「俺は泳がないケドな」
「え、綾華泳がねーの?」
「俺は此処で釣りしてる」
「お、じゃあデッケー魚釣ったら教えてくれ!」
 振り向いたきよが不思議そうに首を傾げた。対する綾華は波止場の先端を示す。きよは少しだけ残念に思ったが、無理に止める理由もない。分かった、ときよが頷けば見送りの視線が向けられた。
「了解、釣れたら呼ぶ。呼ばないかもしれない」
「そんじゃ、行ってくるぜ! 俺の格好良い泳ぎ姿、しっかり目に焼き付けろよ!」
「はいはい、いってらっしゃ……」
 楽しげに宣言したきよに綾華がひらひらと手を振ろうとした、そのとき。
「とう!」
 きよが盛大に飛び込んだ。
「うわっ」
 上がった水飛沫が白い軌跡を描きながら綾華に飛来する。思わず片腕で防御した綾華だが、それなりの量の水が掛かった。
「あいつ……」
 あっという間にきよは海中に潜っていってしまう。
 後で覚えてろよ、と言葉にした綾華は肩を竦め、滴る雫を指先で掬った。
 
 透き通った海の最中。
 海底を目指して泳ぐきよは感動めいた思いを抱いていた。
「うおー、スゲーマジで息吸えるわ」
 水中にいて身体が軽いというのに、呼吸は地上にいるときと同じように出来る。思わず言葉にした声もちゃんと聞こえていた。
 ひんやりとした水の心地はとても気持ち良い。
 傍を泳いでいった魚に目を見開き、きよは感心する。一見は普通の魚にも見えるがよく見れば歯車仕掛けだ。
「これ全部ガジェットとかマジか。スゲーなぁ」
 俺でも作れるんかな、と興味深く魚を眺めたきよは、そちらに付いていってみることにした。魚は海中に咲く不思議な向日葵の傍を抜けて悠々と泳ぐ。
 何処からか流れてきたのか、海中に花弁が舞っていた。
 ちいさな向日葵の花のひとひらずつが浮かぶ泡沫と重なって躍っている。綺麗だと感じながらも、ふと思うのは綾華のこと。
「つーか、折角だしやっぱ一緒に綾華と見てーな」
 共に泳ぐことは出来なくても、この花弁を拾って見せに行くことは出来る。見れば先程からきよにクマノミ型のガジェットが一匹くっついてきている。
 一緒に行くか、と問いかけたきよに対して、魚は同意するように寄り添ってくる。
 そして、彼は魚と花の土産を綾華に見せる心算で戻っていった。

 一方、その頃。
 目映い太陽の光に双眸を細め、のんびりと釣り糸を垂らす。
 綾華は立て掛けた釣り竿に軽く手を添え、海風を感じながら過ごしていた。
「お、魚だ。すげー」
 波止場からでも海中の様子はよく見える。鱗が反射して光った様に気付いた綾華は、眼下にたくさんの魚が泳いでいることに感嘆の声をあげた。
「あれが全部ガジェットなんだよな」
 はからずもきよと同じ感想を抱いていたことは知らず、綾華は水中を覗き込む。
 揺蕩う花の色が見えた。
 太陽の色を映したような花の色彩と、揺らめく姿に心奪われるようだ。花弁が中で散ったのか、透明な青の中にゆらゆらと揺蕩う彩が生まれた。
「向日葵、ほんと綺麗」
 元々あの花は好きだから見ているだけで和む。
 景色を見て、こうやって長閑に過ごすのも良いものだ。ふと視線を戻した綾華は釣り竿が揺れ始めたことを察する。
「あ、お。かかった」
 手を伸ばした綾華は魚を釣り上げようとして腕を引いた。しかし、妙な手応えだ。
「っと――あ?」
 疑問が浮かんだそのとき、波止場に大きな影が現れた。

 同じ頃。
 きよは違和感を覚えて戸惑っていた。ズボンに何かが引っ掛かったのだ。
 魚ちゃん(きよ命名)が、危ないよ、と言うようにきよを突っつく。されどガジェットの警告も虚しく、きよの身体は引っ張られてしまう。
「――え、おいおいおい、マジか!」
 やばい、引き上げられる。
 そう感じたとき、きよの身体は海上にあがった。一瞬後。波止場と水面、双方から向けられた視線が重なっていた。
「って綾華かよ!」
「綾華かよじゃねーよ。それはこっちの台詞だ」
 暫し見つめ合ったきよと綾華は今の状況を理解する。魚と花を見せたかったきよ、釣り針を垂らしていた綾華。二人の行動が絶妙に重なった結果が、悲しみと怒りのきよし一本釣りというわけだ。
「此処、釣りすぽっとなんですケドぉ」
「……確かに」
 すまん、と素直に謝ったきよは波止場に上がった。ふるふると犬のように首を振って水気を飛ばしたきよに向け、綾華は大事がなくて良かったと語る。
「泳いでたら危ねーじゃん」
「綾華、俺の怪我の心配してくれるんだな」
「は? 心配してないし。俺の釣りの邪魔すんじゃねー!」
 きよがぱっと表情を輝かせたことで、綾華は反射的に近くにあったビーチボールを掴んだ。そのまま彼に向けて全力で投げられたボールは、避けることの叶わない無慈悲な豪速球となって飛ぶ。
「いてっ、あ……うわー!」
 ばしゃーん。
 ボールを正面から受けてしまい、均衡を崩したきよが海に落下する。先程の水飛沫のお返しだ、と告げようとした綾華だったが――。
「……。まあ、こうなるよな」
 きよが飛び込んだときよりも大量の飛沫が弾けてきた。ぽたぽたと髪先から垂れる海水を拭った綾華は水面を見下ろす。
「いてーいてー! そっちがその気なら、こっちは魚ちゃんと一緒に戦うからな!」
「魚ちゃん?」
 立ち泳ぎをしながら一緒に落ちたボールを手に取ったきよ。その姿を見つめた綾華は其処でやっと、きよがガジェットの魚を連れていることに気が付く。
「実はさ――」
 そうだ、と頷いたきよは手を止め、魚ちゃんとの出逢いを語り始めた。コンニチハ、というように魚は水面でぴちぴちと跳ねている。
 きよの手には綾華へのお土産代わりの花弁がしっかりと握られていた。
 そうして暫し、夏の海で過ごすひとときが巡ってゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

百鬼・智夢
薄荷さん(f17474)と

薄荷さんとお揃いの水着
少し恥ずかしくてもじもじしながらも
海の広大さに圧倒され無意識に薄荷さんの手をきゅっと握り

いえその、実は……わ、笑いませんか…?
私…学校以外、外に出た事があまり無くて…
海は、浜辺までしか…
泳ぐのは、授業以外初めてなんです…
だから、えっと…き、緊張、してしまって…

恐る恐る海に入れば広がる絶景に瞳を輝かせ
凄い…凄いです…!
お花って水中でもこんなに綺麗に咲くんですね!

薄荷さんについて泳ぎながら
わっ、ピンクの向日葵が…
あっ、あっちに船もありますよ!
新たな発見があるほど緊張が解れ、笑顔が溢れて

わっ、私も…今日ここに来れて、よかったです
海、とっても素敵です…!


薄荷・千夜子
智夢さん(f20354)と

向日葵カラーの水着を智夢さんにも準備してお揃いに
向日葵の海なんて素敵ですよね、とても夏らしくて!
握られた手に微笑んで
せっかくなのでいっぱい楽しみましょうね!

手を引いて海の方へ
海面から花を眺めるのも良いですがせっかくなら海の中で見たいですよね
智夢さんは泳ぐの苦手ですか?
この海は海中でも呼吸や会話も大丈夫のようですからきっと慣れやすいと思いますよ
怖がらせないようゆっくり手を引きながら海の中へ
智夢さんを案内するかのようにゆっくりと泳ぎながらも水中に咲く向日葵に目を輝かせ
太陽の下の向日葵も素敵ですけど、海中でなんて他では見れませんね
素敵な景色を一緒に見れてよかったです!



●夏の彩と海の色
 高くて青い空、何処までも続く蒼海。
 夏の熱を宿した風が吹き抜け、髪を撫でていく。燦々という言葉が相応しいほどに目映い太陽の光は、海を煌めかせていた。
 向日葵の色を思わせるお揃いの水着を身に纏って、海辺を歩く。
 智夢は千夜子と自分を見比べながら、恥ずかしげにもじもじしている。その様子にくすりと笑った千夜子は海の中を示した。
「向日葵の海なんて素敵ですよね、とても夏らしくて!」
「はい、とっても綺麗で……」
 智夢は海の広大さに圧倒されており、無意識に千夜子の手をきゅっと握る。千夜子は握られた手に微笑み、そっと彼女の手を引いた。
「せっかくなのでいっぱい楽しみましょうね」
 海面から花を眺めるのも十分に良いけれど、こういった状況ならばやはり海の中で見たいもの。波打ち際に歩み寄った千夜子は、透き通った青の向こう側に見える花々を見て、双眸を細めた。
「智夢さんは泳ぐの苦手ですか?」
 千夜子が問うと、まだ恥ずかしそうにしている智夢がおずおずと口をひらく。
「いえその、実は……わ、笑いませんか……?」
「笑うって、何をですか?」
「私……学校以外、外に出た事があまり無くて……海は、浜辺までしか……」
 千夜子が首を傾げると、智夢は泳ぐのは授業以外では初めてなのだと語った。だから緊張してしまっているらしい。
 千夜子は頷き、そんなことで笑ったりしないと答えた。
「この海は海中でも呼吸や会話も大丈夫のようですからきっと慣れやすいと思いますよ」
「えっと……が、頑張ります」
 優しい千夜子の微笑みと言葉を受け、智夢は少しの安堵を覚える。
 波が寄せては返す浜辺は穏やかだ。
 それゆえに海の中だって平穏で心地の好いはず。
 千夜子は彼女を怖がらせないようにゆっくりと手を引き、徐々に海へ入っていく。まずは細波が揺れる波打ち際へ。
「わっ……」
「大丈夫ですよ、冷たくて気持ちいいですから」
 驚く智夢に声を掛けながら、千夜子は一歩、二歩と浅瀬に進んでいった。
 少しずつ智夢が水に慣れていると感じた千夜子は一気に海中に向かう。とぷん、と水に浸かる音と共に二人は海の夏庭へと飛び込んだ。
 思わず目を閉じた智夢。
 しかし、千夜子に肩を叩かれて恐る恐る瞼をひらく。
「向日葵がたくさんですね。それにお魚も気持ちよさそうに泳いでいて可愛いです」
「凄い……凄いです……!」
 智夢は広がる絶景に瞳を輝かせる。先程まで怖がっていた智夢が嬉しそうにしている様子を見て、千夜子は穏やかな気持ちを覚える。
「お花って水中でもこんなに綺麗に咲くんですね!」
「魔法のお花らしいですから、特別なのかもしれませんね」
 千夜子も水中に咲く向日葵に目を向け、そっと花の傍に泳いでいった。
 水のひんやりした心地。
 揺らめく花の色彩と、向日葵の傍を悠々と進む魚達。
 熱帯魚めいた姿をしているかれらを見つめているだけで心が躍り、更に楽しい気持ちが湧いてくるようだ。
 智夢は千夜子の傍を離れないように手を握り直す。
 しかし先程とは違って、その掌からは戸惑いなどは感じられない。
 夏色の海の庭に居ることが楽しい、心地好い、という気持ちが伝わってきた。千夜子は口許を緩め、海の奥へ進んでいった。
「太陽の下の向日葵も素敵ですけど、海中でなんて他では見れませんね」
「そうですね……わっ、薄荷さん!」
 千夜子が穏やかに語る中、智夢が前方を指差す。
「どうかしましたか?」
「ピンクの向日葵が……凄いです、とても綺麗です!」
 示されていたのはこれまで見てきた太陽色の向日葵ではなく、桜や桃を思わせるピンク色の向日葵だ。青の最中に揺らめく桜色は不思議だが、見ているだけで幻想的な雰囲気を感じさせてくれた。
「見てください、こっちには珊瑚があります!」
「あっ、向こう側に船もありますよ!」
 千夜子が珊瑚礁を見遣ると、智夢が新たな場所を見つける。そういった発見があればあるほど緊張が解れ、智夢にもたくさんの笑顔が溢れていった。
「少し冒険してみますか?」
「は、はい……ちょっとどきどきしますが、薄荷さんと一緒なら!」
 沈没船を指差した千夜子にこくりと頷いた智夢はぐっと掌を握り締めた。気合いを入れたらしい彼女の姿が愛らしく思え、千夜子は誘う。
「……お魚さん?」
 すると先程まで向日葵の傍を泳いでいたガジェットの魚が、千夜子達に先行するように沈没船の方に泳ぎ出した。
 どうやら案内をしてくれるようだと察し、智夢は千夜子と視線を交わしあう。
「こっちだよ、と言ってくれてるのでしょうか……?」
「そうみたいですね。行きましょう!」
 手を繋いだ二人は魚の後を追い、水底の冒険に出発する。
 それから船の中を泳いだ彼女達は様々な光景を見た。島民によって設置されたらしい宝箱。その中に詰まった硝子で作られたイミテーションの宝石の数々。
 集まった魚達が織り成す色とりどりの遊泳模様に、鮮やかな向日葵がそれはもうめいっぱいに咲き誇る一角。
 それらを大いに楽しんだ二人は海中の大きな岩場に腰掛けていた。
 楽しかった、と語る千夜子は智夢にとびきりの笑顔を向ける。
「素敵な景色を一緒に見れてよかったです!」
「私も……今日ここに来れて、よかったです。海って、とっても素敵です……!」
 お互いに抱く思いは同じ。
 夏と海色の記憶に彩られた今日という一日の出来事。
 それはきっと――海を怖がっていた少女が、海を好きになった特別な日。
 千夜子は嬉しさを覚えながら水面を振り仰ぐ。其処から降り注ぐ陽の光もまた、自分達が纏う向日葵の色のように思えた。
 そして、穏やかで楽しい夏の時間がゆっくりと流れてゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ミラ・ホワイト
アディティアさま/f13867

はじめて飛び込む青の世界
ひとりで泳ぐのは心細いから、ね
手を繋いでいてほしいの
昇るあぶくに逆らって
揺らめく夏の匂いの中へ

仰げば差込む光の紗
俯けば揺蕩う水底の瑠璃
見渡す先に咲く向日葵はまるで
――夏空と海と花畑がひとつに融け合ったみたい!

優雅に游ぐ熱帯魚達の尾鰭を追って
ぎこちない二本脚を揺らしてみるけれど
まだまだ人魚姫には程遠いかしら
でも…っふふ、そうね
走って泳いで贅沢三昧!

蕩ける光と青とが眩い
――知らなかったの
空と海と陸の、全ての命がその生を謳歌する
アディティアさまのお好きな夏は
こんなに愛おしい季節だったのね
海の中で咲う太陽の花に頬寄せて
とびきりの笑顔をあなたへ


アディティア・ラート
ミラ君(f27844)と

海自体は慣れたもの
でも最後に潜ったのはいつだったかな
それに水中散歩は初めてさ
心細いと訴える彼女の手を冒険心に満ちた表情で取って
大丈夫、きっと楽しいよ
あぶく越しの彼女を見守りながら、いざ

上へ下へとせわしなく首を動かす彼女が愛らしい
しかし本当に夢のように美しい
夢なのかな

ははは、はじめてにしては上手いじゃないか
人魚姫もいいけれど――僕たちせっかく脚を賜ったんだ
人魚姫の切望したこれで楽しもう

僕の大好きな夏を気に入ってもらえて嬉しいよ
でも僕もね、こんな夏は初めてだ
射し込む光を受けて輝く向日葵は地上のそれより輝いてみえる
不思議な感覚に酔いながら向日葵に触れ
――どれもこれも眩しいなぁ



●波間に満ちる花
 細波の音が耳に届き、蒼海を見つめる。
 陽射しを受けて煌めいている水面が揺れて、ひとつの波となって浜辺に届く。海の景色は見慣れたものでも、波の音色はいつだって心地好いと思えた。
 けれど、最後に潜ったのはいつだっただろうか。
 アディティアは陽の眩さに双眸を細めてから、傍らに立つミラを見遣る。
 するとミラがそっと手を伸ばしてアディティアの掌に触れた。ミラにとっては、初めて飛び込む青の世界。
「ひとりで泳ぐのは心細いから、ね」
 手を繋いでいてほしい。そう告げられたことで、アディティアはミラの手を取った。冒険心に満ちた表情を浮かべた彼は頷いてみせる。
「大丈夫、きっと楽しいよ」
 それに自分だって水中散歩は初めて。
 今は同じ初めて同士なのだとアディティアが語ると、ミラも首を縦に振った。
 そして、二人は波打ち際に進む。
 ぱしゃりと跳ねた雫が足元を濡らした。その冷たさに顔を上げたミラの視線に気付き、アディティアも眼差しを返す。
 そのまま頷きを交わした二人は少し強く手を握りあった。
 それを合図代わりとして、アディティアとミラは共に海の中に身体を沈める。
 揺らめく青、昇るあぶく。
 水面に浮かんでいく泡の流れに逆らって、いざ揺らめく夏の匂いの中へ。
 アディティアはあぶく越しの彼女を見守りながら、底へ底へと泳いでいく。彼に手を引かれていたミラはいつの間にか目を瞑ってしまっていた。
 しかし、眩さを感じて瞼をひらく。
「……!」
 呼吸も出来て、言葉も紡げる夏の海庭。けれども最初は言葉が出なかった。
 振り仰げば差込む光の紗。
 俯けば揺蕩う水底の瑠璃が見える。見渡す先に咲く向日葵はまるで、そう――。
「夏空と海と花畑がひとつに融け合ったみたい!」
 感じたままの思いを言の葉に乗せ、ミラは景色を見渡していく。
 上へ下へ、せわしなく首を動かす彼女の姿が愛らしいと思いながら、アディティアも周囲の情景を確かめていった。
 透き通った青の世界には様々な色が溢れている。
 光の波、向日葵の花、熱帯魚めいた魚達の鱗や珊瑚の色彩。
「しかしこれは、本当に夢のように美しい」
 ――もしかしたら、夢なのかな。
 そんな風に半分だけ冗談めかしたアディティアも感嘆の思いを抱いた。されどもう半分は本気でもあった。
 彼の物言いにちいさく頷き、ミラはゆっくりと手を離す。
 そうした理由はもう心細さなど何処にもなかったから。アディティアが先程に告げてくれた通り、楽しい気持ちが巡っている。
 ミラは優雅に游ぐ熱帯魚達の尾鰭を追い、ぎこちなく二本脚を揺らしてみた。
 そうすれば身体が前に進む。溺れる心配のない海ではこんなにも簡単に泳ぐことが出来て、何だか嬉しくもなってきた。
「ははは、はじめてにしては上手いじゃないか」
 ミラの泳ぎを見守っていたアディティアも魚の後に付いていく。
 ひらひらと小さな尾鰭を揺らす熱帯魚は愛らしく、水中を揺らめく姿を見ているだけで穏やかな気分になってきた。
 ミラは珊瑚の近くを泳ぐ魚達を眺め、自分の足や泳ぎと見比べてみる。
「まだまだ人魚姫には程遠いかしら」
「そうだね、人魚姫もいいけれど――僕たちせっかく脚を賜ったんだ。人魚姫の切望したこれで楽しもう」
 するとアディティアは物語に喩え、自分達の手足を示した。
「でも……っふふ、そうね」
 ミラも自分の掌と足先を見遣り、その通りだと同意を示す。
 つまりはそう、走って泳いで贅沢三昧!
 楽しそうに笑ったミラの周りに泡沫が浮かび、きらきらと光を反射しながら水面に向かって昇っていった。
 その軌跡を目で追ったミラとアディティアは海の世界を存分に楽しんでゆく。
 蕩ける光と青とが折り重なって眩い。
「――知らなかったの」
「……この心地が?」
 心のままに声を紡いだミラにアディティアが問いかける。ええ、と答えたミラは思いをそうっと語っていった。
 空と海と陸の、全ての命がその生を謳歌する。
 魔法にかけられた世界で今、はっきりと感じられる自然の在り方。それはとても良いものだと思えた。
「アディティアさまのお好きな夏はこんなに愛おしい季節だったのね」
「僕の大好きな夏を気に入ってもらえて嬉しいよ。でも僕もね、こんな夏は初めてだ」
 ずっと、ずうっと海に潜っていられる世界。
 くるくると泳ぐ機械仕掛けの魚。そして、射し込む光を受けて輝く向日葵。
 水の中で悠々と咲き誇る花の色が地上のそれより輝いてみえるから、今という時間が特別なものに思える。
 不思議な感覚に酔いながら、アディティアは向日葵に触れた。
 そうすると波に揺れた花弁が何枚も散って舞い、海の中に新たな色彩を宿す。ゆらゆらと揺れながら沈んで降るそれは、宛ら花の雨のよう。
「――どれもこれも眩しいなぁ」
 見上げれば、陽光が花を照らしている。
 掌を目許に添えて瞼を緩める彼を見つめ、ミラは海中で咲う太陽の花に頬を寄せた。
「はじめての海を、あなたと見られて良かった」
 ひとりきりで訪れたなら、未だ戸惑いを覚えていたかもしれないから。
 そうして、ミラはとびきりの笑顔を向ける。
 頷くアディティアは、どういたしまして、と穏やかな言葉を返した。微笑むミラと揺らめく向日葵はどうしてか、とてもよく似ている。
 その理由はきっと、其処に花と笑顔という倖せが咲いているからだ。
 この感覚をもっと感じて確かめていく為に、二人は共に泳ぎ出した。楽しくて穏やかな二人の時間はまだまだ終わらない。
 さあ、いざ。花が揺蕩う青の世界の水底へ――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

榎本・英
【春嵐】

まさか水着を着る時が来ようとは。
外に出ろと置かれた水着が役に立ったようで何よりだよ。

此処だけの話、実は泳ぐ事は得意では無いのだよ。
ひとたび海に潜れば、私は緩やかに底へ落ちて行くのさ。
カナヅチと云うやつだね。

しかし、この海は特別なようだ。
水底の向日葵は夏の象徴。
君の糸を手繰り、指先を掬った。

溺れたら私を担いで地上まで連れて行ってくれるかい?
とんだ戯れだ。

あの時は君と共に底へと落ちたけれども
今は、君と共に泳ぐ

小さな背に残った傷はまだ癒えていない
君の背に触れ、傷跡をなぞる
嗚呼。そうだ。
向日葵の花で隠してしまおう

なゆ、なゆ

ひまわりもよく似合う


蘭・七結
【春嵐】

夏の装いを纏わうあなた
常の和装とはたがうから、かしら
なんだか不思議な感覚がするわ

まあ、そう。あなたも
泳ぎがニガテなのは、わたしもおんなじ
息継ぎの仕方がわからないの
溺れたなら共に沈むのでしょうね
……なんて、だいじょうぶよ

共におちたのは昏くつめたいみな底
隣で泳ぐのは明るくあたたかな海のなか
会話もいきも出来るだなんて、不思議ね

あなたの指さきが左の背を伝う
嗚呼、そんなかおをしないで
あなたの片頬に触れ
片方の指さきは首筋を伝う
かつての鬼が沈めた痕に、そうとかさねた

陽光のような明るい一輪
真夏を彩るというヒマワリの花

指さきから滲む心地よい温度
あなたの笑顔は、とてもあたたかい
英さんは、陽のひかりのようね



●花に結わう光
 夏らしい陽射しの中で麦わら帽子が風に揺れた。
 牡丹一華が結わえられたあかいリボンが、海の先に流れていくかのようにはためく。
 英は帽子が飛ばされてしまわぬように押さえ、軽く息を吐いた。
「まさか水着を着る時が来ようとは」
 英は燦々と照りつける陽を避けながら、外に出ろと置かれた水着が役に立ったようで何よりだ、と独り言ちる。
 彼の呟きを聞いた七結は淡く笑んだ。
 夏の装いを纏う今の英と、常の和装姿を思い浮かべて比べると何だかおかしい。決して似合っていないだとかではなくて、とても新鮮に思えたからだ。
「いつもとはたがうから、かしら。なんだか不思議な感覚がするわ」
「そうかい? 君の姿も涼しそうでとても素敵だね」
 互いの装いへの思いを述べ、二人は海辺に踏み出してゆく。波の音が響き、砂浜に柔らかくて白い水飛沫がささやかに跳ねていた。
 波間をヤドカリが歩いていく様を見つけた七結は口許を綻ばせる。
 暫し彼女と共に波打ち際を見つめた英は、観念したように口をひらいた。
「此処だけの話、実は泳ぐ事は得意では無いのだよ」
 ひとたび海に潜れば、英は緩やかに底へ落ちて行くことしかできない。語られたことに軽く目を見開き、七結は口許に手を当てた。
「まあ、そう。あなたも」
「なゆも?」
 泳ぎが苦手なのは自分も同じだと告げ、七結はそうっと頷く。
 七結は息継ぎの仕方がわからない。きっと溺れたなら共に沈むのでしょう、と彼女が語ると英は神妙な表情を浮かべた。
「互いにカナヅチと云うやつだね」
「……なんて、だいじょうぶよ」
「嗚呼。この海は特別なようだ」
 二人は海の奥深くを見つめ、目を凝らしていく。透明度の高い海では既に何人ものひとびとが潜って泳いでいた。
 其処には水中で咲く不思議な向日葵と、悠々と泳ぐ機械仕掛けの魚も見える。
 水底の向日葵は夏の象徴。
 英は双眸を細め、七結の糸を手繰るように指先を掬った。共に水の中に飛び込む前に確かめておきたいことがある。
「溺れたら私を担いで地上まで連れて行ってくれるかい?」
 とんだ戯れだ。
 そんな風に思った英に対し、七結は勿論だというように首肯した。
 そして、ふたりは海に潜る。
 あの日、あの時。共におちたのは昏くつめたいみな底。
 けれども今は隣で泳ぐ彼がいるから、明るくてあたたかな海だと感じられる。
 ひんやりとした心地が巡る以外は地上と何も変わらなかった。沈んでいくのも怖くはなくて、七結は英の手を改めて握り返す。
「不思議ね」
「嗚呼、不思議だとも」
 呼吸も出来て、こうして言葉も交わすことが出来る。
 波間から見た花も魚も鮮明に眺められて、とても心地が好い。英も何気なくあの時と今を比べつつ、七結と共に先を目指して泳いでいった。
 水中に揺らめく髪。
 彼女の髪先から、繋いだ手、肩口、と視線を移していけば小さな背が見えた。其処に残った傷はまだ完全には癒えていない。
 英は七結の背に触れ、指先で傷跡をなぞってみた。
 七結は抵抗することなく彼の手を受け入れ、触れたちいさなぬくもりを確かめる。
 何も言葉はないけれど、英の顔は何とも云えない表情になっていた。
 ――嗚呼、そんなかおをしないで。
 七結は英の片頬に手を伸ばして触れ返した。
 片方の指は首筋を伝っていく。そして、七結はかつての鬼が沈めた痕に、そうと指先を重ねてなぞった。
 水底の最中、向かいあうかたちで視線を交わすふたりは互いの熱に触れあう。
 遥か頭上の水面から陽光が差し込み、ゆらゆらと揺蕩っていた。
「嗚呼。そうだ」
「……英さん?」
 視線を巡らせた英はふと思い立ち、七結の手を引いて泳ぎ出す。向かう先には桜や太陽を思わせる色合いの向日葵がめいっぱいに咲いていた。
 昏い思いも、この傷も。
 向日葵の花で隠してしまえばいい。
 たくさんの花の中心。導かれた先で英がやっと穏やかに笑ったので、七結も微笑みを宿す。陽光のような明るい一輪は、真夏のひとときを彩ってくれていた。
 ふたたび繋いだ手。
 触れあったときに感じた、指さきから滲む心地よい温度。傷はいつか癒えて消えゆくのかもしれないけれど、抱いた思いは忘れはしない。それにもし痕が残り続けるのならば、それ自体が思いが消えぬことの証明にもなる。
「なゆ、なゆ」
「なあに、英さん」
 呼び掛けられた言葉に柔い眼差しを返し、七結は英をまっすぐに見つめた。
 英は彼女の後ろで揺らめく向日葵を瞳に映して、思うままの言葉を贈る。
「嗚呼、ひまわりもよく似合う」
 すると大きく水面が揺れ、向日葵の花弁が何枚も海中に散った。ひらり、ふわりと水に揺蕩っていく花の流れに目を向け、英は口許を緩める。
 その笑顔がとても愛おしく感じられて、七結も同じ方向を見遣った。
 冷たさなんて解けてしまうくらいに、あなたの笑顔はとてもあたたかいから。
「英さんは、陽のひかりのようね」
 水面に揺らめく光を見上げた七結もまた、心からの言の葉を紡いだ。
 花のような君。ひかりのようなあなた。
 互いに抱く思いは嬉しくて、それに何よりもかけがえがなくて――。
 海の底で過ごす時間はとても目映く、あらたな季節の巡りを予感させてくれた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

兎乃・零時
アドリブ歓迎!
あーや(f12718)と!

遊べるー!

まぁ敵倒すのもあっから遊ぶの最初だけどさ!

だよな!こんな魔法かかってんだ
調べて損ないよな!
ガジェット!かっけぇな…そーゆうの俺様も欲しいぜ…!

今日は(2020の最新)水着着て来たぜ!
着替えは持ってきてるがな!
(水中なので地味に体光ってる)

よっしゃ、せっかくだし泳ごうぜあーや!
向日葵のある所まできょうs…な、なんか近くないか?
というか泳ぎつつ触るのあぶ…ひぅ?!

な、なんで抱き着くんだぁ!!

あっぶねぇじゃんもう!

おぉ、向日葵とか景色綺麗だな!

…髪…?
そ、そっか!
ふふふ、そうだろ綺麗だろ!
俺様の髪はすっごいからな!
(嬉しい(撫でられるのは気にしてない


小澄・彩
アドリブ歓迎!
れーくん(f00283)と!

夏の日差し!広がる海!
戦いの前に英気を養うには最高だね!

今回は水着コンテストで着てたメイド風ビキニでれーくんにご奉仕してくよ! 僕の生きがいだしね!
元気でかっこかわいいれーくん見ながらがんばっちゃう!

海調べるの、いいと思う!
僕も魚のガジェットは気になるから、万能採取ガジェット放流しとくよー。帰ったら一緒に研究研究♪

一緒に遊ぶのもいいけど…ちょっといたずらもしちゃう!
たとえば、海の中でれーくんの体にそっと抱きついたり
れーくんの髪をそっとなでてほめたり
それでいろんな表情を見れたら"私"はうれしいな!

もしドキドキしすぎちゃったら…笑って手を引いてごまかすさ!



●アクアマリンの海
 目映い陽射しにそよぐ風、青くて広い空と海!
 季節はまさに夏。全力で季節を楽しめるひとときが巡ってきた。
「遊べるー!」
「戦いの前に英気を養うには最高だね!」
 零時と彩は砂浜に立ち、燦々と降り注ぐ太陽を受けていた。すぐ近くからは絶え間なく寄せては返す波の音が聞こえてくる。
 二人は元気良くはしゃぎ、砂を蹴って駆けてゆく。
 此度の彼らの装いは水着。
 零時はスペースシップを思わせる宇宙的でサイバーな装い。
 彩はメイドを思わせるビキニ姿。どちらも白と黒を基調としており、髪やアクセントのブルーカラーが印象的な衣装となっている。
 しかし、二人の水着の色合いは同じでも雰囲気は全く違う。
 これこそが個性が光ると表すに相応しい様相だ。
 彩が言葉にした通り、この後には島の平和を守るための戦いが待っている。そのことをしっかりと胸の奥に抱きつつも、まずは楽しむのが先決。
 波打ち際で飛沫と戯れる零時を見つめ、彩はぐっと掌を握り締める。
「今日はめいっぱいれーくんにご奉仕してくよ! 僕の生きがいだしね!」
 気合いは十分。
 元気で格好良くて可愛い零時と過ごせる時間を思い、彩は満面の笑みを浮かべた。
「あーや、そろそろ行こうぜ!」
「うん、海の冒険の始まりだよ!」
 視線を交わし、頷きあった二人は海中の庭に向かうために踏み出していく。
 せーの、で飛び込んだ海の中。
 水飛沫をあげながら潜った其処には、想像以上の様々な色彩が満ちていた。
「おお、凄いな! これが魔法の庭か!」
「わああ、綺麗!」
 二人の目には色とりどりの熱帯魚や海に咲く不思議な向日葵が映っている。
 呼吸は地上に居たときと同じように出来た。
 互いに言葉にした声もしっかりと聞こえており、行動もしやすそうだ。
 彩はふと、水中で零時の身体や髪が光っていることに気付く。その様子と景色が合わさる光景とても美しいと感じた。
 不思議で綺麗な情景を眺める零時はというと、仕掛けや魔力の流れに興味津々。
「この海、調べてみる?」
「だよな! こんな魔法がかかってんだ。調べて損ないよな!」
 そわそわしている様子を悟った彩が問いかけると、零時は嬉しそうに大きく頷いてみせた。そんな二人の傍を歯車仕掛けの魚がすいすいと泳いでいく。
「可愛い魚!」
「これもガジェット! かっけぇな……そーゆうの俺様も欲しいぜ!」
「よーし、僕も魚のガジェットは気になるから、調べていくよー」
 彩は万能採取ガジェットを放流していき、周辺の様子を探ることにした。
「色々分かったら報告しあおうな!」
「うん、帰ったら一緒に研究研究♪」
 明るい笑みを重ねた二人はやがて、本来の目的である遊びに注力していく。
 ガジェットの魚達が向日葵が多く咲く一角に向かったことで、二人はその後を追いかけていくことにした。
「よっしゃ、せっかくだし泳いでいこうぜ、あーや!」
「向こうの方だね!」
 さっそく泳いでいく零時の後に続いた彩はふと思い立つ。普通に遊んでも楽しいだろうが、ちょっとばかり悪戯をしてみても良いだろう。
「向日葵のある所まできょうそ……な、なんか近くないか?」
 零時は振り返り、向日葵の園を指差して元気よく笑った。しかし、彩が妙に距離を詰めてきたので首を傾げる。
「そうかな? 気のせい気のせい!」
 もちろんわざとだ。笑顔で誤魔化した彩は、競争を始めよう、と零時を誘った。
 不思議に思いながらも零時は頷き、其処から向日葵までのレースが始まる。勇んで泳ぐ零時に対し、彩は手を伸ばした。
 その指先が手に触れ、彼は思わず視線を彩に向ける。
「というか泳ぎつつ触るの危な……ひぅ?!」
「だってれーくんが速いから!」
 言葉と同時に彩がぎゅっと零時に腕を回した。慌てた零時は競争どころではなく、じたばたと水を掻く。されどすぐに彩が危ないと気付いて動きを止めた。
「だからって、な、なんで抱き着くんだぁ!! あっぶねぇじゃんもう!」
「危なかった? ごめんね、何となくだったよ」
 彩はそっと抱きついた腕を離さないまま、からかい気味にくすくすと笑む。
 そうしているうちに二人は向日葵の元に辿り着いた。
「おぉ、向日葵の景色が綺麗だな!」
 遠くから見た光景も良かったが、こうして近くで眺めるのも圧巻だ。零時が彩に笑いかけると、彼女は向日葵と零時を交互に見遣った。
 頭上の水面から降り注ぐ光が花と彼を明るく照らしていたからだ。
「れーくんの髪もすごく綺麗!」
「……髪?」
「うん、きらきらしてるから触りたくなっちゃう」
 彩は零時の髪を撫でて褒める。少年は何だか嬉しくなり、得意気に胸を張る。
「そ、そっか! ふふふ、そうだろ綺麗だろ! 俺様の髪はすっごいからな!」
 抱きつかれたときは焦ったようだが、撫でられることは気にしていないようだ。慌てたり笑ったり、彩を気遣ったり、得意そうにしたりと零時の顔はころころと変わる。彩は先程までの零時を思い返し、嬉しそうに目を細めた。
「れーくんのいろんな表情を見れたから、私はうれしいよ!」
 僕ではなく、私と言った理由は彼女が少年に心を許しているゆえ。
 けれども髪を撫でているうちにどうしてかドキドキしてきてしまった。彩はふるふると首を振り、その気持ちを振り払うように零時の手を引いた。
「お? 何だ?」
「そろそろガジェットが戻ってきてるかも。行こ行こ!」
「そうだな、戻ってみるか!!」
 少年達は向日葵の園から踵を返し、珊瑚礁の方角へ進んでいく。
 まだ日暮れまでは時間もたっぷりある。
 これから巡っていく楽しい時間に思いを馳せ、二人は夏の海を満喫していった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ラナ・スピラエア
蒼汰さん(f16730)と
水着コンの装いで

泳ぎはあんまり得意じゃないけれど
呼吸が出来るのなら大丈夫そう

海中の向日葵の花はどこか神秘的で
でも、どこか切ないような夏の記憶
蒼汰さんの声を聴けば、驚いたように瞳を瞬く
…あ
おしゃべり出来るんでしたね
ふふ、水の中なのでつい口を開くのを忘れちゃいます
はぐれないよう手を握って海中散歩

イルカさんですか?
辺りを探せば上を泳ぐ影
あ、あの子じゃないですか?
機械じみた、不思議な姿を見つけて泳ぎだす

楽しそうな姿を見れば、自分のことのように嬉しくて
蒼汰さんの夢、叶いました?
良かったです
その瞬間に一緒に居られることが嬉しくて
他の夢が叶う瞬間も
傍に居られたらと、つい願ってしまう


月居・蒼汰
ラナさん(f06644)と
水着に着替え、翼と尻尾は仕舞って

…わ、本当だ、水の中なのに息が出来る
水の中に咲く向日葵っていうのも不思議だけれど
…綺麗ですね、ラナさん
なるべく花や珊瑚の近くを泳ぎつつ
ラナさんが泳ぎづらそうなら手を引いたりして
のんびりと散策を
…そうだ、イルカはいないかな?(きょろきょろ)
俺、小さい頃、イルカと一緒に泳ぎたいなって
思ったことがあって…

ラナさんの声に招かれるままイルカらしき影の元へ
一緒に泳げたらきっと、年甲斐もなくはしゃいでしまいそう

そうですね、一つ叶いました
…それだけじゃなくて
ラナさんと一緒にこの時間を楽しめることも嬉しいのは勿論だけど
ここでしか楽しめない夏を、心ゆくまで



●イルカの夢と夏の海
 降りそそぐ陽射しに目を細めて、海を見下ろす。
 吹き抜ける海風は心地よく、透き通った蒼海がきらきらと光を反射していた。
 それぞれに夏の装いを身に纏い、島の波止場に訪れたラナと蒼汰は今、ひといきに海に飛び込もうとしていた。
「行きましょうか、ラナさん」
「はい、泳ぎはあまり得意じゃありませんけれど……行きます!」
 蒼汰は翼と尻尾を仕舞い、ラナはぐっと両手を握って意気込む。視線を交わしあった二人は、せーの、という掛け声と共に地面を蹴った。
 そして――。
 跳ねる水飛沫。冷たい水の心地。浮かんでいく数々の泡沫。
 澄んだ蒼の中に潜っていく二人は不思議な感覚をおぼえていた。身体は沈んでいるのだが、地上から跳躍し続けているかのようだ。
 それもこの海の領域に魔法が掛かっているからに違いない。
 目を凝らすと、海上からも見えていた向日葵の花が揺らめいている姿が見えた。海中の花はどこか神秘的で、けれどもどこか切ないような夏の記憶を思い起こさせる。
 ラナが向日葵を見つめる傍ら、蒼汰も今の心地に感心していた。
 水の中なのに本当に息が出来ること。水中に咲く向日葵が鮮やかな色を湛えて、波間に揺れていること。どちらもとても不思議だった。
「綺麗ですね、ラナさん」
 向日葵から視線を巡らせ、ラナの方に向いた蒼汰が笑いかける。
 隣から蒼汰の声が聞こえたことで彼女は驚いたように幾度か瞳を瞬いた。
「……あ。おしゃべり出来るんでしたね」
「俺も実際に喋ってみて、少し驚きました」
「ふふ、水の中なのでつい口を開くのを忘れちゃいます」
 おかしそうに笑いあった二人はそっと浅い箇所の水底に降り立つ。海底から見上げる水面は煌めいていて、所々から陽光が差し込んでいた。
 その光に向日葵の花や珊瑚が照らされている様はとても美しい。
「ラナさん、向こうに行ってみましょう」
「待ってください。はぐれないように……」
 蒼汰が誘うと、ラナがそっと腕を差し伸べた。手を繋ごうという意味なのだと分かり、蒼汰はその掌を握り返す。
 手を引いて、引かれて、共にゆっくりと泳ぐ海中散歩は穏やかな始まりを迎えた。
 揺らめく光と花。
 淡い色と愛らしい様相の珊瑚。
 その近くを泳いで通り、夏の色彩に満ちた海を進む二人。
 景色を眺めるだけでも楽しいのは互いが傍にいられるから。蒼汰は繋いだ手を離さないように、そしてラナが泳ぎ難くはないか気遣いながら青の世界を行く。
 あるとき、二人の傍をガジェットの魚達がすいすいと泳いでいった。綺麗だと感じたラナが熱帯魚を見つめていると、ふと蒼汰が思い立つ。
「そうだ、イルカはいないかな?」
 普通の魚以外にもエイや熱帯魚がいるのならば、もしかしたら何処かにイルカもいるのかもしれない。きょろきょろと辺りを見渡す蒼汰は少しばかり真剣だ。
「イルカさんですか?」
「俺、小さい頃、イルカと一緒に泳ぎたいなって思ったことがあって……」
「夢だったんですね。でしたら探しましょう」
 蒼汰が照れくさそうに頬を掻く様が愛らしく思え、ラナもイルカ探索に乗り出す。
 珊瑚礁の奥。魚が泳いでいく先。
 向日葵畑めいた水底の向こう側、と様々な場所を見ていくラナと蒼汰。そして暫し後、ラナは大きな影が海底に落ちていることに気が付く。
 見上げてみれば、悠々と泳ぐ影が見えた。
「あの子じゃないですか?」
 機械じみた不思議な姿を見つけてラナが泳ぎ出す。見失わないように先に向かった彼女を追い、蒼汰も声に導かれるままに進んだ。
 すると、ラナ達の気配を察したイルカがくるりと振り向く。
 きゅい! と声をあげたイルカはラナの周りを泳いだ。どうか蒼汰さんの方に、とラナが掌で示すとイルカは彼の方に近付いていく。
「こ、こんにちは」
 蒼汰が挨拶をすると、イルカは蒼汰を誘うように尾を振った。
「ついてきて、と言っているのでしょうか?」
 どうやら一緒に行こうと言っているようだ。ラナと頷きあった蒼汰はイルカの後についていく。イルカは泳ぎの速度を緩め、蒼汰達に合わせてゆったりと海中を巡った。
 それから二人と一匹は様々な場所を楽しんだ。
 沈没船の穴が空いた床を潜り抜け、新たな珊瑚の群生地を通る。
 海藻が揺らめいて暗い森のようになっているところに通り掛かったときは、思わずラナと蒼汰は再び手をぎゅっと握りあってしまった。
 けれども蒼汰はずっと楽しげで、まるで少年のようにはしゃいでいた。
 幼い頃の夢がこうして叶っている。
 そう思うとラナも自分のことのように嬉しくなってきた。何よりも自分もイルカと遊べたことが楽しい。
 やがて、イルカはバイバイと告げるように尻尾を振って去っていった。
「ありがとうございました」
「どうか元気で、また」
 イルカに手を振った蒼汰とラナはその姿が見えなくなるまで見送る。そうして、ラナはずっと嬉しげな顔をしている蒼汰に問いかけた。
「蒼汰さんの夢、叶いました?」
「そうですね、一つ叶いました」
「ふふ、良かったです」
 この瞬間に一緒に居られることが幸せに思える。ひとつ、と彼が言っていることから夢はまだあるのだろう。
 そうだとしたら、他の夢が叶う瞬間も傍に居られたら――。
 つい願ってしまう思いは言の葉にはせず、ラナは穏やかに双眸を緩めて微笑んだ。
(……それだけじゃなくて、いつか)
 蒼汰は自分の心に思い描いている一番の夢を想う。
 けれど今は、この時間をラナと一緒に楽しむことの方が大切だ。蒼汰もまた言葉にしない思いを胸に秘めた。
 蒼汰とラナは水底の景色を改めて見渡し、次は何処に行こうかと話しあう。
 海のひとときはまだ終わらない。
 だからこそ――ここでしか楽しめない夏を、心ゆくまで。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ディアナ・ロドクルーン
🌸🐺
今年用意した水着で志桜と海で遊ぶわ
正直まだ海は苦手意識はあるけれども、志桜と一緒だったら全然平気

……あ、ちょっとまって。まだ心の準備がおわってな ぁぁぁ(容赦なく手を引っ張られて海にドボン。恐る恐る目を開けると陸と変わらぬ様子に安堵する)
本当…大丈夫だわ、すごい魔法ね。良かったぁ
え?どこどこ。わ、面白い魚ね。ねえ、魚に餌をあげちゃ駄目かしら?どう思う?

水中に咲く花も陸で見るのと見え方が違うわ
海流で黄色の花が揺られて、青の世界に漂っている風でとても映えている
この光景を一緒に来た可愛い妹と目が合うと、微笑んで

うん、とても綺麗。志桜と一緒に見る事ができて良かった


荻原・志桜
🌸🐺

用意した桜の水着を身に纏い
姉と慕う人の手を引いて海の中へ!
泳ぎは正直まだ不安だらけ。でもなんとかなる!

さあ、お姉ちゃんいくよ
大丈夫、志桜がちゃんと着いてるから
れっつごーっ!

ゆっくりと息を吸う、声も出る
魔法ってやっぱりすごい!とキラキラ眸を輝かせ

お姉ちゃん、目を開けて?
にひひ、志桜の言った通り大丈夫でしょ?
ほら!あそこの珊瑚の影に魚がいる!
海中で歯車仕掛けの魚が泳いでるのも面白いね
餌をあげるのも楽しそうだけど何を食べてくれるんだろう?

水中でも太陽が恋しくて上を向いて咲く向日葵
見上げれば浮かぶ花々と差し込む光が反射して
その光景に隣の姉へ笑み咲かせる

きれいだね、お姉ちゃん
一緒に観れて良かった



●花咲く海と青の世界
 海辺に煌めく太陽の光は眩しい。
 透き通った水面の向こう側には色とりどりの彩が見えた。
 向日葵の花に珊瑚礁。それから様々な熱帯魚。それらを瞳に映した志桜は隣を歩くディアナの手を取った。
「さあ、お姉ちゃんいくよ」
 志桜は淡い桜とリボンがあしらわれた水着。ディアナはクロスデザインの黒水着。対照的な夏の装いを身に纏った二人は、浜辺から続く波止場へと駆けていく。
「待って、志桜。急がなくても海は逃げないわ」
 志桜に引っ張られていくディアナは平静を装っているが、その実は少しだけ海への苦手意識を宿している。以前にも二人で海に向かった経験があるゆえに何とか克服できそうだが、いざ飛び込むとなると勇気が必要だ。
 志桜の方も正直を云えば泳ぎに関しては不安が多かった。
 けれども、今日は姉と慕う大好きな人と一緒。それに魔法の海だから、なんとかなる! という気持ちではしゃいでいる。
 志桜はディアナの不安めいた思いを感じ取り、明るく笑ってみせる。
「大丈夫、志桜がちゃんとついてるから」
「……」
「準備できた? それじゃあ、れっつごーっ!」
 無言で眼下を見つめるディアナ。その腕をぐっと引く志桜。
 ディアナがはっとしたときには既に遅く、二人の身体は海に落ちていく。
「……あ、まだ心の準備がおわってな――」
 ぁぁぁ、という悲痛な声をあげるも虚しく、強く目を閉じたディアナは志桜と共に水中に沈んだ。とはいっても、海中はやさしい魔力に満ちている。
「平気だよ、お姉ちゃん。目を開けて?」
 すぐ近くで志桜の声が聞こえたことで、ディアナは恐る恐る瞼をひらく。
「あら? ……不思議ね」
 水のひんやりとした感覚はあれど息苦しくはなかった。視界もクリアで、こうして会話だって出来る。水が揺蕩っている以外は陸と変わらぬ様子に安堵したディアナは、ほっと胸を撫で下ろした。
 志桜もゆっくりと息を吸い、声が水中に響いていく様を確かめる。
「魔法ってやっぱりすごい!」
 眸を輝かせた志桜はそのままディアナの手を引き、水底の方に向かっていった。泳ぐというよりも歩く感覚の方が近く、少し残っていた心配も何処かに消えていく。
 お姉ちゃん、とディアナを呼んだ志桜は得意気に笑ってみせた。
「にひひ、志桜の言った通り大丈夫でしょ?」
「本当……大丈夫だわ、すごい魔法ね。良かったぁ」
 確かめるように周囲を見渡したディアナはそっと水を蹴る。すると身体がすいすいと動いていき、気持ち良さを感じた。
 志桜も上機嫌に水底に着地して、珊瑚の色彩を眺めてゆく。
「ほら! あそこの珊瑚の影に魚がいる!」
「え? どこどこ」
 指で示された先にディアナが視線を向けると、歯車仕掛けの魚が泳いできた。ネジ巻き式という古風な出で立ちだが、魚には魔力が宿っていることが分かる。
「こんな風に機械仕掛けの魚が泳いでるのも面白いね」
「わ、可愛い。ねえ、餌をあげちゃ駄目かしら? どう思う?」
 志桜が手を差し出した先に魚が集ってくる。ディアナも倣って腕を伸ばせば、そのうちの数匹が近寄ってきた。
「楽しそうだけど何を食べてくれるんだろう?」
「餌……魔力?」
「あっ、こうかも。ネジをこうして、こうやって……」
 二人で首を傾げる中、志桜がふと思い立つ。ネジに手を伸ばした志桜はそのままきりきりと巻いていく。餌やりというよりも動力確保に近い行動だが、魚達が歯車仕掛けならば納得もできる。
 ディアナも一匹ずつネジを巻いてやり、妙なおかしさにくすくすと笑った。
「魚さん、もう行くの?」
「そうみたいだね。お魚さん、またねーっ!」
 そして、更に元気になった歯車魚達はすごい速さで泳いでいく。その後ろ姿を見送った二人は、次に色鮮やかな向日葵が咲く一帯に向かってみた。
 水面から差し込む光が海底に揺らめいている。
 桜色の向日葵を見つけたディアナは微笑ましげに双眸を細める。志桜も太陽のいろに似た花を眺め、水の天涯を振り仰いだ。
 水中でも太陽が恋しくて、上を向いて咲く向日葵。
「わあ……」
 浮かぶ花々と差し込む光が反射する様は穏やかながらも美しくて、志桜は感嘆の声を零した。それと同時に幾つもの泡沫が浮かびあがり、天上に昇っていく。
 志桜はディアナを見つめ、きれいだね、と笑みを咲かせた。
「水中に咲く花も陸で見るのと見え方が違うわね。本当にすごい……」
 波に揺られるようにで桜色と黄色の花が揺蕩って、青の世界に溶け込んでゆく。志桜の声を聞き、眼差しを向け返したディアナもそっと微笑んだ。
 交わす視線、重なる笑み。
 巡っていくのは和やかな感慨と時間。
 其処に強い波が来たのか、花を大きく揺らした。それによって花弁が幾つも散ったことで、海中に新たな色が生まれ、青の景色が更に彩られていく。
「花の雨だよ、お姉ちゃん!」
 両手を広げて海中に降る花を受け止めた志桜の瞳が煌めいていた。
 その横顔を見つめるディアナも腕を伸ばして、ひとひらの花を掴み取る。魔力を帯びた花弁が淡く光り、二人の指先を照らした。
「うん、とても綺麗。志桜と一緒に見る事ができて良かった」
 ディアナが紡いだ心からの言葉を聞き、わたしも、と志桜が口許を綻ばせる。
 揺らぐ海は心地好くて、ちいさな幸せが満ちていく。
 そうして――二人で見上げた海の空は何処までも広く、青く澄んでいた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

日下部・舞
火神・五劫(f14941)と参加

「……教えると言っても、そんなに難しいことじゃないの」

今の私はコンテストで用意した黒のビキニ姿
もっとも彼が私の容姿に関心がないのはわかってる
だから気にせず指導に徹する

「本来、ひとは浮くようになっているから、余計な力を入れなければ大丈夫」

まず手本を見せる
ゆるりと海を揺蕩うように

「手や足は、舟を漕ぐ櫂を意識して」

生粋の戦士だけあって飲み込みは早い
簡単なヒントでもう動きが違う
しなやかな私に対して、彼は力強い動きを見せる
少し見惚れてしまうくらい

海の中を揺蕩う
さしずめ今の私はオフィーリア
彼女みたいに溺れたかのように潜る
深く深く、ただ深く

「大丈夫、ただ潜っていただけだから」


火神・五劫
舞(f25907)と

「よろしく頼む。泳ぎは正式に習ったことがなくてな」

黒地の飾り気のない競泳水着姿
彼女は色合いこそ同じだが、華のある装いだな

「ふむ、力を抜くのか。泳ぎ以外にも応用できそうだな」

細かな部分まで習得せんと
手本を見せてくれる舞の動きを注視
流れるような動きとしなやかな身体に見惚れるが
修練にしては些か扇情的すぎるような…気のせいか?

「なるほど、櫂。こういった感じか?」

指導に従って泳いでみれば
以前よりも悠々と水の中を動ける
彼女を頼って良かったと、自然と和らいだ瞳を向ければ
いない
いや、見つけた
深く深く水底へと…まさか

無我夢中で水を掻き、手を伸ばし、舞を腕の中へと
「…消えてしまうかと思ったぞ」



●海に沈みゆく
 波打ち際に立ち、視界いっぱいに広がる海を眺める。
 穏やかな海辺。澄んだ蒼海は果てしなく続いているかのようだ。
 本日、此処で行うのは舞による五劫への泳ぎ方指南。光を受けて煌めき、打ち寄せる波の音を聞きながら、五劫は佇まいを整えていった。
 彼の装いは黒地の飾り気のない競泳水着姿。
 対する舞は黒の金魚を思わせる上品な水着を身に纏っていた。同じ黒であっても双方の印象は随分と違う。
 色合いこそ似ているが、彼女の方が華のある装いだと思えた。五劫は舞に軽く礼をしてから、此度の指導について願う。
「よろしく頼む。泳ぎは正式に習ったことがなくてな」
「……教えると言っても、そんなに難しいことじゃないの」
 舞はパレオを外し、一歩先に歩み出る。
 水着自体は布面積が少ないものなのだが、彼が自分の容姿に関心がないことはわかっている。それゆえに舞は露出など気にせず、指導に徹する心算だ。
 こっち、と五劫を誘った舞は水辺に足を浸した。
 降り注ぐ太陽の光が目映い。
 水温も丁度良く、泳ぎ方を教えるにも良い気候と日和だ。
「本来、ひとは浮くようになっているから、余計な力を入れなければ大丈夫」
 舞は浮力について語り、そのまま先に進んでいく。
 五劫は彼女が手本を見せてくれるのだと悟り、浅瀬まで歩いて近付いた。
「ふむ、力を抜くのか。泳ぎ以外にも応用できそうだな」
 頷く彼に視線だけを返し、舞は泳ぎ始める。
 とはいっても遊泳するのはまだ少し先だ。ゆるりと海を揺蕩うように、先程伝えた通りに身体の力を抜いて浮かぶ。
 特に此処は海。波に合わせて身体が揺らぎ、心地の良さが巡ってくる。
 意外に簡単なの、と告げた舞は更に言葉を続けていった。
「手や足は、舟を漕ぐ櫂を意識して」
 舞は五劫が見えやすいように動きを大きくして見せる。その一挙一動を見逃さないよう、五劫は彼女の姿を瞳に映し続けた。
 良い手本だと感じたのは、舞が自分を気遣って動いてくれているからだ。
 舞の動きを注視する五劫は、流れるような動きとしなやかな身体に見惚れる。だが、修練にしては些か扇情的すぎるのは気のせいだろうか。
 されど浮かんだ思いは言葉にせず、五劫は彼女の動きを真似てみる。
「なるほど、櫂。こういった感じか?」
「そう、流石ね」
 舞は頷き、彼の動きを確かめていく。五劫は生粋の戦士だけあって飲み込みは早く、自分の出した簡単なヒントだけで習得してしまいそうだ。
 現にもう動きが違う。
 しなやかな自分に対して、彼は力強い動きを見せてくれた。
 少し見惚れてしまうくらいに――。
 舞が考えていることを知らぬまま、五劫は指導に従って泳いでみる。すると以前よりも悠々と水の中を動ける気がした。
 自分の身体能力が高いことも理由かもしれないが、やはり舞の教え方が上手かったからだ。彼女を頼って良かったと感じた五劫は、自然と和らいだ瞳を向ける。
 だが、いつの間にか彼女の姿が何処にもなくなっていた。
「いない……?」
 舞の姿を探す五劫は視線を巡らせる。
 当の舞は何処に居るのかというと、五劫を置いて海の深くへと沈んでいた。
 水の中を揺蕩う。
(――さしずめ、今の私はオフィーリア)
 そんなことを思いながら、彼女の如く溺れたかのように潜る。
 深く深く、ただ深く。
 この海では呼吸も会話も出来るというけれど、目を閉じれば普通の海と同じように思えた。彼は自分を探してくれるのだろうか。たとえ見つけてくれなくても――。
 そう考えた舞は更に沈む。
 身体と同時に過ぎった思考も没んでいくかのようだ。
 青の世界は透き通っていて、どうせならすべてを透明にしてくれないかとも思った。
 その頃、五劫は彼女の姿を捉えていた。
「いや、見つけた。……まさか」
 深い水底に潜っていく舞を見つけた五劫は無我夢中で水を掻いた。今しがた泳ぎ方をしっかりと覚えたばかりだということも忘れて、懸命に潜った。
 沈む彼女に追いついて、名を呼ぶ。
 そうして手を伸ばした彼は舞を腕の中へと抱き止めた。其処でやっと彼女は瞼をひらき、五劫の顔を見つめる。
 何事もないと察した五劫は安堵の気持ちを抱き、舞を見下ろす。
「……消えてしまうかと思ったぞ」
「大丈夫、ただ潜っていただけだから」
 舞は涼しい顔をして、助けてくれてありがとう、と一応の礼を告げた。
 本当は助けなど要らなかったが、五劫が果敢に腕を伸ばしてくれたことが嬉しくなかったかと云えば嘘になってしまう。
 波打ち際まで戻ってきた二人はそのまま砂浜に腰を下ろす。
 冷たく心地好い水。
 燦々と照りつける光と、穏やかな海風。
 どんなことがあっても変わらぬ自然の流れは雄大だ。その心地をそっと感じながら、彼らは暫し夏のひとときに浸った。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朧・ユェー
【月光】

水の中で遊べるとは不思議で楽しい島ですねぇ

そうですね、海の中で散歩は初めてです。
おや?ルーシーちゃんは泳ぐのは初めてですか?
彼女を片手で抱き抱えてそっと海の中
えぇ、捕まえて離しませんよ。
波やお魚さんにも君を攫わせなんかさせません。

おや?向日葵ですねぇ
とても煌めいて美しい
僕の?僕はルーシーちゃんの綺麗な髪を思ったよ。
僕の瞳、君の髪の色。向日葵は想い出の花だね。

機械の魚や珊瑚を眺めて喜ぶ彼女に微笑む
あぁ、危ないから一緒に探索しようねぇ

嗚呼、こんなにも心穏やかに過ごせるのは君のおかげなんだろうと幸せなひと時を過ごす


ルーシー・ブルーベル
【月光】

水の中でお話出来るなんて不思議な島ね
息をしてもお鼻がツーンってしないし

せっかくだから海の中をお散歩しましょう
泳いたことはなくて
慣れない海へ入るのはちょっと不安になる
もし波にさらわれそうになったら
ゆぇパパ、捕まえてね

あっ、見てパパ!
お花が海のなかで咲いているわ
水光がお花をてらしてきれい
ヒマワリというのね
花の色はパパの目に似ているかも
ルーシーの髪?
じゃあパパの目とルーシーの髪の色は一緒?
想い出…えへ、うん

お魚さんもたくさん
ゆらり泳いで
これが機械?だなんてびっくり

これはなに?サンゴ?
ねえ、あっちの船も探検してみましょう?

慣れない海は不安だったはずなのに
一緒なら何時しかワクワクに変わっているの



●初めての海とちいさな冒険
 夏の陽射しを受けて、手を繋いで歩く。
 波打ち際から響いてくる細波の音は心地よく、穏やかな気持ちを運んできた。
「行きましょ、ゆぇパパ」
「さっそく楽しんでいきましょうか、ルーシーちゃん」
 ルーシーに誘われ、ユェーは浜辺に向かう。その際に話していくのは不思議な魔法が宿ったこの島のこと。
「水中で自由に遊べるとは面白くて楽しい島ですねぇ」
「本当ね、水の中でお話出来るなんて不思議な島ね」
 ユェーが双眸を細めて語れば、ルーシーも興味深そうに頷いた。何より息をしてもお鼻がツーンってしないし、と話す少女は何だか初々しい。
「せっかくだから海の中をお散歩しましょう」
「そうですね、こういった散歩は初めてです」
 ユェーは少女が行きたいところに何処でも付いていく心算だ。見れば海の中にはきれいな珊瑚礁が見えた。まずはあの色彩を楽しむのが良いだろう。
 しかし、ルーシーは少し不安げになっていた。
「……ねえ、ゆぇパパ」
「どうしました?」
「あのね、もし波にさらわれそうになったら、捕まえてね」
 魔法の海であるから怖くはないと分かっていても、慣れない海へ入るのは緊張する。そう語った少女の声を聞いたユェーは首を傾げた。
「おや? ルーシーちゃんは泳ぐのは初めてですか?」
「うん……」
 俯く少女をこれ以上不安がらせないためにユェーは優しく微笑んでみせる。
 そして、先程の願いに答えた。
「えぇ、捕まえて離しませんよ。波やお魚さんにも君を攫わせたりしません」
 彼女を片手で抱いたユェーはそっと海の中に潜っていく。とぷん、と足を水辺に沈めてそのまま歩いていけば、あっという間に身体が海の中に入っていった。
 浅瀬から少し深い場所へ。
 透き通った青の世界が徐々に広がる。ルーシーは最初こそ驚いていたが、透明な海の景色に瞳を輝かせはじめた。
 既に身体すべてが水に浸かっているが、視界も良好で呼吸も出来る。
 こうして落ち着いていられるのもユェーが傍に居てくれるからだろう。
「あっ、見てパパ! お花が海のなかで咲いているわ」
「おや? 向日葵ですねぇ」
 水の中に揺蕩う光が花を照らしていてとても綺麗に見えた。ルーシーはその花を見たのは初めてで、ユェーが語った名前に興味を示す。
「ヒマワリというのね」
「とても煌めいて美しいですね」
 首肯したユェーはルーシーと一緒に暫し向日葵の花を眺めた。こうやって水の中で咲く魔法の花が初めてならば、次は地上に咲くものを見せてやりたいと思う。
 辺り一面に向日葵が広がる花畑はどうだろう。少女がどんな反応を見せてくれるかの想像をユェーが巡らせる中、ルーシーは向日葵にそっと手を伸ばして触れてみた。
 何だか親近感を覚えたのは、きっと――。
「花の色はパパの目に似ているかも」
「僕の? 僕はルーシーちゃんの綺麗な髪を思ったよ」
 少女がふわりとした声色で話すのを聞き、ユェーも思ったことを言葉にする。
 きょとんとしたルーシーは問い返した。
「ルーシーの髪? じゃあ、パパの目とルーシーの髪の色は一緒?」
「僕の瞳、君の髪の色。向日葵は想い出の花だね」
「想い出……えへ、うん」
 花が咲くようにルーシーの口許が綻ぶ。ユェーはそんな彼女が愛らしいと感じて、更に笑みを深めていった。
 そして、二人は珊瑚礁の近くに進んでいく。
 其処には色とりどりの機械仕掛けの魚たちが泳いでいた。
「お魚さんもたくさんね」
 もうすっかり海に慣れたルーシーは、ゆらりと泳ぐ魚についていく。これがガジェットだなんて、と興味津々の少女は何処か楽しげだ。
「こっちを見てください、ほら」
「これはなに? サンゴ?」
 ユェーが指差した珊瑚を見つめ、その淡い色に目を細めるルーシーは好奇心でいっぱいだった。その近くに沈んだ船を見つけた少女はユェーの手を引っ張る。
「ねえ、あっちの船も探検してみましょう?」
「あぁ、危ないから一緒に探索しようねぇ」
 引かれた手をそっと取り、ユェーはルーシーに付いていった。
 機械の魚や珊瑚、船を眺めては喜ぶ彼女を見守るのが今のユェーの役目だ。ルーシーも彼が居てくれるからこそ、少しだけ歳相応な振る舞いができる。
 不安はもう何処にもない。
 ワクワクに変わっていった気持ちを確かめ、ルーシーは仄かに微笑む。
「わあ……ゆぇパパ、こっちに何かあるわ」
「じゃあ行ってみようか」
 沈没船の中に隠し通路らしきものを見つけた少女の表情が明るくなった。
 ユェーは冒険が始まる予感を覚えながら、何があってもルーシーを護るという決意を密やかに固める。
(嗚呼、こんなにも――)
 心穏やかに過ごせるのは君のおかげ。
 きっとそうに違いないと感じた彼は、幸せなひとときに身を委ねた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

花屋敷・幽兵
ベイメリア(f01781)とマスクの様な黒い海パンで赴くぜ
色々考えたが結局無難な奴に落ち着いたぜ!
海の中に入れて呼吸ができるのか…凄いな
飲み物は入れたら混ざってしまいそうだな…入る前に飲むか?ほい、乾杯。

うーむ、不思議な感覚だな。海藻とかが揺れるさまをまじまじと見れる機会はそうはない。
これは素晴らしい、魚も凄いな、何かいっぱいいるぞ?
光に照らされた魚と向日葵か。これは確かに自慢もしたくなるな。
俺もちょいと自慢してくるか。…でかいだろ?と周りへアピール。白い水着でこれだ、凄いだろ(大事なので2回)
マスクは仕事の時にしておこうと思ってな。はは、素敵か。服を用意したらもっとすごいかも知れないな。


ベイメリア・ミハイロフ
幽兵さま(f20301)と
今年の白いビキニ姿で参ります

海上から眺める海の中…確かに向日葵がございます
どうなっているのでございましょう?
左様でございますね、お飲み物は
今ここで乾杯を

二人で海に入り
幽兵さま!ご覧下さい
イルカさんでございますよ!
あっ、あちらには、綺麗なお色のお魚さんが!
本当に!いっぱいなのでございます!
向日葵とお魚さん、そして日の光の共演
とても綺麗でございますね
島民の皆さまがご自慢に思われるのも頷けます

そういえば、本当に息もお話もできるのでございますね

幽兵さまの本日の装いは黒でございますか
でかぃ…?水着が、でございましょうか
マスク姿でない幽兵さまは新鮮
ふふ、お素敵でいらっしゃいますよ



●乾杯からの海日和
 海から吹く風が髪を揺らしていく。
 浜辺に立つ幽兵とベイメリアは穏やかな海の景色を見つめた。太陽の光は燦々と降り注いでいて、海は目映く輝いている。
「平穏ですね」
「ああ、平和だ!」
 頷きあった二人の装いは対照的な黒と白。
 幽兵は普段纏っているような黒の水着姿。色々と考えたが結局は無難なスタイルに落ち着いた結果がこの様相だ。
 対するベイメリアは白を基調とした上品で繊細なデザインの水着。胸元や首、腰元にあしらわれた金のアクセントが印象的で美しい。
 ベイメリアは海を覗き込み、眼下で揺れる花の色を確かめていた。
「海の中……確かに向日葵がございます。どうなっているのでございましょう?」
「本当だな。しかも海中でも呼吸ができるなんて……不思議だ」
 感心する幽兵は魔法の効果を思う。
 息が続いて会話ができたとしても、流石に水の中では飲み物は味わえないだろう。入れたら混ざってしまう、と話した彼に同意を示し、ベイメリアはグラスを掲げる。
「左様でございますね、お飲み物は……」
「入る前に飲むか?」
「ええ、今ここで乾杯を」
「ほい、乾杯」
 幽兵も腕を差し出し、彼女が持つものに自分のグラスを重ねた。
 ちいさな心地好い音が波の音色に混じって響き、ベイメリアはそっと微笑む。
 そして、暫し後。
 ベイメリアと幽兵は魔法の海庭に潜っていった。
 海中に沈む感覚はいつもと違っていて、泳ぐというより歩いて進む動作に近い。これなら誰も溺れる心配はないと感じた幽兵は興味深く辺りを見渡した。
「うーむ、不思議な感覚だな」
 視界もクリアで、海藻が揺れている様もよく見える。こうやってまじまじと見られる機会はそうはないと思えば貴重な体験だ。
「これは素晴らしい。魚も種類が多いな。何かいっぱいいるぞ?」
 幽兵は振り向き、ベイメリアに熱帯魚めいた魚達を見せてやろうとした。しかし、その視線の先では――。
「幽兵さま! ご覧下さい、イルカさんでございますよ!」
 少女のよう瞳を輝かせるベイメリアがいた。
 今しがた目の前を通っていった機械仕掛けのイルカに興味津々なベイメリアは、幽兵を呼んでいた。その興奮が冷めやらぬ前に幽兵の前から熱帯魚が泳いでいく。
「お、そっちに行ったか」
「あっ、綺麗なお色のお魚さんが! 本当に! いっぱいなのでございます!」
 はしゃぎながらも、ベイメリアはちゃんと幽兵の言葉を聞いていたらしい。たくさんのガジェットフィッシュを前にして彼女は両手を広げた。
 その指先にちいさな魚達が集まってきたことで、ベイメリアの口許が緩む。
「そういえば、本当に息もお話もできるのでございますね」
 はっとしたベイメリアは其処で漸く魔法の海の凄さに気が付いた。
 凄いよな、と答えた幽兵は彼女の様子を見守り、楽しいなら良いことだと感じる。
 そして、二人はイルカが進んでいった方を見遣った。
 其処には向日葵が咲いている。魔法の力で水中に咲く花々は色鮮やかで愛らしい。更に水面から射す光が花を照らしており、幻想的な風景になっている。
 光に照らされた魚と向日葵。
 まるで一枚の絵のようだと思った幽兵は色々と納得していく。
「これは確かに自慢もしたくなるな」
「向日葵とお魚さん、そして日の光の共演。とても綺麗でございますね」
 首肯したベイメリアもこの島の自慢だという景色を瞳にしっかりと映した。幽兵は珊瑚礁にも意識を向け、淡い色合いも良いものだと語る。
「どこもかしこも綺麗だな」
「島民の皆さまがご自慢に思われるのも頷けます」
 二人は暫し、様々な色彩が揺らめく海の世界を堪能していった。
 そんな中でふと幽兵が思い立つ。自慢という言葉に思うことがあったらしい。
「俺もちょいと自慢してくるか」
「幽兵さま?」
 ベイメリアが首を傾げていると、彼は周囲に或るアピールをしはじめた。
「……でかいだろ?」
「でかぃ? 水着が、でございましょうか」
 自分を示す幽兵の言動の意味がわからず、ベイメリアはきょとんとしてしまう。その様子もまた良いのだという言葉は押し込め、幽兵はもう一度言う。
「白い水着でこれだ、凄いだろ」
 大事なことなので二回いうスタイルだ。何故なら本当に凄いから。
「……?」
 結局、幽兵の自慢の意味が分からなかったベイメリアだが、彼が得意気なのでそれで良いことにした。
 ベイメリアは自分の水着を示されていたことを思い、自分と対照的な色合いを纏う幽兵の装いを改めて見つめる。
「幽兵さまの本日の装いは黒でございますか。マスク姿でない幽兵さまは新鮮です」
「マスクは仕事の時にしておこうと思ってな」
 自分の格好を見せるように海中で回ってみせた幽兵。その姿を見ていたベイメリアは楽しげにくすくすと笑った。
「ふふ、お素敵でいらっしゃいますよ」
「はは、素敵か。服を用意したらもっとすごいかもしれないな」
 幽兵もつられておかしくなり、二人の笑みが重なる。
 此処に満ちる平穏は決してなくなってはいけないものだと思えた。ベイメリア達は静かに頷きあい、魚達が向日葵の園に向かう後を追って泳いだ。
 今はこうして、めいっぱいに海を満喫する時間。
 これから巡っていくひとときを思い、二人は透き通った青の世界をゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

尭海・有珠
【わだつみ】

お、いこういこう!
水の中でも呼吸ができるなら、より抵抗も少ないだろ
レンの提案に大いに乗り気で(相変わらず表情変化が薄いまま)海の中へ
手を繋いでたら、多少は怖くないだろうか
ちゃんと繋いでる、大丈夫さ万が一があれば助けてやるから

藍が慣れるまでゆっくりいこうか
珊瑚がこんなに色鮮やかに水中で見れたのは私も初めてだが
水中に咲く向日葵というのは面白いし
泳いでいく魚の群れをつい目で追ってしまう
体がふわふわしていて冷たいのに
目の前に花が咲いていて、友と言葉を交わせるとは不思議な気分だな

レンに訊かれ
珊瑚に、向日葵、魚に頭上の光を見回して

どれも好きだけど、私も
二人とこうして楽しく過ごせる時間が好きだよ


芙蓉・藍
【わだつみ】
海の中で……息が、できるのか……?

服装は膝丈までの和柄の水着に日除けの羽織り
海は見たことはあっても入ったことはない
長らく籠の鳥として生活していたので泳げない為
普段はあまり水辺に近づかない
無表情に近いがかなり緊張している

レン、有珠と共に海底散歩
息ができるとはわかっているものの……最初は周りを見る余裕もないだろうな……
レンや有珠の様子を見つつ、ゆっくりと息を吸い、吐く
……うん、不思議な感覚だな
握っている手の力は少しだけ緩めるが、やはり不安があるので繋いでいてもらおう

水中花は見たことはあるが、向日葵ほど大きなものは初めてだよ
……俺は……2人と、こうしている時間が好き、かな


飛砂・煉月
【わだつみ】

――な、3人で水の中行ってみねー?
嫌じゃなかったらってぱっと笑って
いつもより軽い水辺の装いは浮足立つ証かな
藍が躊躇ってたら…じゃ、手繋ご?
絶対、離さないから
藍を真ん中に有珠とふたりで手を引いてもイイかもなー
へへ、有珠も乗り気で嬉しい

透き通った蒼海の中、3人でゆっくり行こうなー
海の中の向日葵は初めてで
悠々と泳ぐ魚は全然歯車仕掛けに見えなくて
普段はできない海底での会話につい楽しくなっちゃう
めっちゃテンション上がるね、ここ

言の葉紡げる海の庭
有珠と藍はどれが好きー?ってへらり
どうせならこの蒼の中でオレに聞かせて

自分の視線も一巡させて、頷いて
……ん、オレも
ふたりとのこういう時間すっごい好き!



●一緒に居られること
「――な、三人で水の中行ってみねー?」
「お、いこういこう!」
 穏やかで目映い光が満ちる海辺にて、煉月は有珠と藍を誘う。有珠はいつもの表情ながらも快く答え、煉月が指差す魔法の海庭に目を向けた。
 透明度の高い蒼海の様子は、遠目から見るだけでも美しい。
 花と珊瑚、熱帯魚やエイ。
 様々なものが見られるという海中には興味を惹かれるものがたくさんあるようだ。
 しかし、藍はというと上手く返答できないでいた。
「大丈夫か、藍」
「平気だって。水の中でも呼吸ができるから、抵抗も少ないはず」
 有珠と煉月が問いかける中、藍は彼らと海を交互に見遣る。事前に聞いてはいても、いざこうして初めての海に訪れるとなると随分と感覚が違った。
 つまりはそう、藍は少しばかり戸惑っているようだ。
「海の中で……息が、できるのか……?」
 服装こそ膝丈までの和柄の水着と日除けの羽織だが、藍はこれまで海に入ったことはない。見たことはあっても近付かなかった。
 その理由は長らく籠の鳥として生活していたからだ。
 煉月は藍の様子を確かめ、嫌かなのと心配する。しかし藍は首を横に振って、そうではないのだと何とか示した。
「じゃ、手繋ご?」
 すると煉月はぱっと笑い、藍に手を差し伸べる。有珠もそれは良い案だと感じて彼の反対側の手を取った。
 きっと手を繋いでいれば多少は怖くなくなる。もし何かがあっても一蓮托生だ。
「ちゃんと繋いでる。大丈夫さ、万が一があれば助けてやるから」
「そうそう! 絶対、離さないから」
 勿論、三人でどうにかなる気はない。有珠と煉月と手を繋ぐことになった藍は静かに頷いた。始終無表情の藍だったが、緊張していた心持ちは徐々に安堵へと変わっていっているような気がする。
 そして、藍を真ん中にして一行は水の中に向かっていく。
 いつもより軽い、水辺の装いは浮足立つ証。
「へへ。有珠、藍、準備はいい?」
 嬉しさに満ちた笑顔を浮かべた煉月は、せーの、と呼び掛ける。有珠がそれに合わせて藍の手を引くと、三人の身体は海中にそうっと沈んでいった。
 沈む、潜る。そして、もっと沈む。
 不思議な感覚が巡ったが溺れているわけではない。普段に感じている水の心地とは違う気がして、有珠は幾度か瞼を瞬いた。
 平気かと藍の様子を見た彼女は、問題なく水中で呼吸が出来ることを確かめる。
 一気に水に入りはしたが、水底にゆくのはゆっくりと。
「すごいな、本当に喋れる!」
「ああ……」
 煉月が瞳を輝かせる中、藍は二人の気遣いを感じながら頷く。
「ほら、向こうに珊瑚が見える」
 息ができるとはわかっているものの、藍には有珠達のように景色を楽しむ余裕はまだ生まれていなかった。ぎこちなく首を回し、海底を見下ろす。
 そうして、煉月と有珠の様子を見た藍は緩やかに息を吸って、吐く。
 それを繰り返すこと暫く。
 漸く自分でも慣れてきたと感じた藍。彼は其処で初めて、それまで強く握り返していた掌の力を緩めた。
「……うん、不思議な感覚だな。それに綺麗だ」
 藍が落ち着いたと察した有珠は、良かった、と頷く。これで三人で同じ景色を楽しむ時間が始められると感じて、煉月も笑みを深めた。
 それにしても、と有珠は珊瑚を瞳に映す。
「珊瑚がこんなに色鮮やかに水中で見れたのは私も初めてだ」
「海の中って見えにくいからなー」
「そういうもの、なのか……」
 視界は良好。寧ろクリアに見えて不思議なくらいだ。
 珊瑚から視線を移せば、水中にふわりと浮くように咲く向日葵が見えた。花の合間には色鮮やかな魚達が泳いでいく姿がある。
 すいすいと進む魚の群れを目で追い、有珠は景色を楽しんだ。
 煉月も魚を眺め、まったく歯車仕掛けに見えないことを不思議がる。それに、こうやって普段はできないはずの海底での会話が面白くて堪らない。
「めっちゃテンション上がるね、ここ」
「上がっているかは分からないが……悪くない、と思った」
「初めての海がここで良かったのかもしれないな」
 通常の海であったら、藍もこれほど早くは慣れなかったかもしれない。今度は泳がなければいけない海に行こうかと冗談めかしながら、有珠は花に手を伸ばした。
 向日葵が揺らめく様は美しい。
 身体がふわふわしていて冷たいのに、目の前に花が咲いていて――息継ぎをすることなく友と言葉を交わせるという時間は貴重なものに思えた。
 藍も彼女に倣い、花を見上げる。
「水中花は見たことはあるが、向日葵ほど大きなものは初めてだよ」
 波間の天涯からは光が射し込んでいた。
 揺蕩う光の線が花や珊瑚、魚達を照らすことで幻想的な世界を彩っている。ずっと水の空を振り仰いでいたい気分になり、藍と有珠は目を細めた。
 煉月も悠々と泳ぐ魚を見つめ、ふと思い立つ。
 ひとつ、言の葉を紡げる海の庭で聞いてみたいことがあった。
「有珠と藍はどれが好きー?」
 へらりと笑って見せた彼は、どうせならこの蒼の中で聞かせて欲しいと願う。
「どれ、というと――」
 有珠は問われたことについて少し考え、珊瑚から向日葵、魚、頭上の光の順番に周囲を見回していった。
 藍も何を選ぶか考えていたが、ふとしたときに有珠と視線が合う。
 どの景色だと限定はされていない。
 それならば、自分達が答えるのはたったひとつ。
「……俺は……二人と、こうしている時間が好き、かな」
「どれも好きだけど、私も。二人とこうして楽しく過ごせる時間が好きだよ」
 藍と有珠の言葉は百点満点。
 煉月はこれまで以上に嬉しい気持ちを覚え、自分の視線も一巡させてから頷いた。
「……ん、オレも。ふたりとのこういう時間すっごい好き!」
 気持ちは同じ。
 抱く思いだって一緒だった。
 海から感じていた心地好さよりも、もっと良い気分が巡っていく。
 有珠は花を、藍は水の天涯を、そして煉月は色彩豊かな魚達を見つめる。今日此処で、こうして過ごした記憶を忘れないように――。
 景色を瞳に映す彼らは、何よりも嬉しくて尊いひとときを楽しんでいった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

オズ・ケストナー
【紅一珠】

水の中で目を開ければ
わあっ
遠いほど青に染まるひまわりに口をあんぐり
色を確かめにそっと近づく
ちゃんときいろだ
シンジュが隣に来たら微笑んで

……あれ?
きいろじゃないのも見える
桜花の花弁を見つけたら指さして
シンジュみたいな色っ

きれい
花を大事に受け取り
ありがとうっ

音に振り返れば機械のおさかな
二人を手招いてついていく
クレナイが泳ぎづらそうなら手を引いて
ごはんっ
なにをたべるんだろ
クレナイがつつくのを真似て一緒につついて
ふしぎ

クレナイ、なにか見つけた?
ふねだっ
たんけんしようっ

たからはなにかな
きれいなサンゴかな
ふふ、でもわたし
もうたからものは見つけたよ
抱いたひまわり見て

サメ、いるかな?
どきどきわくわく


朧・紅
【紅一珠】

だっぱんと海に飛び込めば
一面の向日葵にオズさんと一緒にうわわぁってお口開け目を奪われるのです
お二人の色がいっぱいなのですねっ

ぅや!真珠さん色きれいっ
桃色たいようありがとです

花を抱いてばたばた拙い泳ぎでついてくです
オズさんの手に引かれ
ご飯食べに行くのかなぁ?
機械のごはんってなんだろ
堅いのか気になって
手を伸ばしてちょんと突ついて戯れようと

向日葵の先にゆらり影
うや?オズさん、真珠さんアレ!
僕偉いですかっやたぁ

ご本の物語ではおっきな貝の中におっきな真珠があったりするですが
真珠さんには負けますねっ
あとあと
鮫さんがガオって出て来るの
もし居たら逃げなきゃですねっ

宝物…
向日葵を見て
ですねって笑い合う


雅楽代・真珠
【紅一珠】
祖国と違う海
珍かな魚に目を瞬かせる

花弁が青に透けるね
近付いて確かめるオズに游いで近寄り花に触れ
聞こえた声に小さく笑む
そうだね、僕のよう
游いで僕に似た花を捕まえにいくよ
鮮やかな夏花はオズの色
紅には僕の色でいいかな
花を捕まえたら紅とオズにあげよう

桜色の向日葵といっしょに泳ぎ
手招かれるままについていく
機械の魚、不思議だね
尾鰭の動きをつい目で追ってしまう
ぱたぱた忙しなく尾鰭を動かして
どこへいくのだろうね

ん、船だね
船がある
偉いよ紅、よく見つけたね
入り口はどこ?
魚たちが住処にしているのならば
追えば中に入れるだろうか
僕よりすごい宝はあるのかな

少し昏い船の腹
探検に弾む心と太陽の花を連れ
遊びに行こう



●花と海と冒険と
 波間に揺らめく陽の光。
 其処に透き通った青の彩が煌めいている平穏な海辺にて。
 水の中に飛び込んだ音が響くと同時に水飛沫があがった。その音は、いの一番に海に入った紅が立てたもの。
 続いて真珠がしなやかに水に潜り、その後をシュネーを連れたオズが追う。
 一瞬で冷たい水の心地が広がる。
 海の中だからか、気付けばオズと紅は目を瞑ってしまっていた。飛び込んだことでたくさんの泡が天上に昇っていく中で、真珠は二人を呼ぶ。
「お前たち、見てご覧」
 人魚の尾を翻した真珠は水底を示した。
 その声を聞き、瞼を開いたオズと紅はそれぞれに感嘆の声をあげる。
「わあっ」
「うわわぁっ」
 ひらけた視界にはいっぱいの向日葵の色彩が満ちていた。
 遠いほど青に染まる向日葵。口をあんぐりと空けたオズは、声がクリアに聴こえることに気が付く。同様に口をひらいて驚いていた紅も息が苦しくないことに不思議さを覚えつつ、すぐににっこりと笑った。
「なかなか、悪くないところだね」
 真珠は普段と変わらぬくーるでびゅーてぃーな雰囲気のままだったが、祖国とは違う様相の海や、珍かな魚に目を瞬かせている。
 向日葵の色を確かめに行くため、オズはそっと花に近付く。
「ちゃんときいろだ」
「お二人の色がいっぱいなのですねっ」
 紅はオズの髪に似た太陽色の向日葵と、真珠が纏う薄紅の彩を宿す向日葵を交互に見遣って比べた。真珠も、すい、と泳ぎ寄って間近で花を眺める。
 隣に来た真珠に微笑んでみせたオズは桜花の花弁を指差し、紅の言葉に頷いた。
「ほんとだ、シンジュみたいな色っ」
「そうだね、僕のよう。花弁が青に透けているからかな」
 だからだろうか、花は青い瞳のオズと水と縁深い真珠によく似ている。
 花に触れた真珠は小さく笑み、海中で揺らぐ向日葵に細い腕を伸ばした。放っておけば流れていく花だが、今だけは捕まえてもいいだろう。
 游いで向日葵を抱いた真珠は、それぞれの色の花をそうっと運ぶ。
「ほら、捕まえた」
 鮮やかな夏花はオズへ、紅には真珠の色を宿す向日葵を。これでいいかな、と花を渡した真珠は穏やかに双眸を緩めた。
「ぅや!」
「きれい。ありがとうっ」
「真珠さん色もきれいっ! 桃色たいよう、ありがとです」
「……太陽?」
「はい、どっちもぴかぴかですからっ」
 陽の彩はオズ色の向日葵だけだと思っていたが、紅が桃色もおひさまだと語ったので真珠は軽く首を傾げた。
 向日葵自体が太陽めいているのだから、そう表すのも良いかもしれない。
 オズは二人の遣り取りを眺めて嬉しげに微笑む。そうしてシュネーにも向日葵をよく見せてから、オズは大事に受け取った花を抱いた。
 夏の海の中で、夏の花を手にする気分はとても良いものだ。
 紅も花を抱いて、足をばたばたとさせて嬉しそうに泳ぐ。そんなとき、三人の耳に不思議な機械音が届いた。
「魚?」
「わあっ、機械のおさかなだ」
「ぅや、かわいいのです!」
 音に振り返れば歯車仕掛けの魚が見えた。熱帯魚めいた愛らしい姿をしたそれらは、どうやら珊瑚礁の方に泳いでいくようだ。
「ついていってみようっ」
 オズは真珠を手招き、紅の手を取って泳ぎ出す。
「機械の魚、不思議だね。あんなに忙しなく尾鰭を動かすのも面白い」
 つくりものであるからか、真珠は自分に似ている鰭の動きを目で追ってしまう。そして真珠も桜色の向日葵といっしょに泳ぎ、手招かれるままにオズの後に続いた。
「ご飯食べに行くのかなぁ?」
「ごはんっ なにをたべるんだろ」
 何を食べるのか。ごはんは硬いのか、そもそもどんなものなのか。
 楽しく会話を交わしながら、三人は魚と共に珊瑚の水底に辿り着いた。珊瑚の周りでくるくると踊るように泳ぐ魚に、紅が指先を伸ばす。
 ちょんとつついてみれば、ガジェット達も紅にじゃれつくように近付いてきた。
 紅を真似たオズも一緒になって魚をつつくと、彼らの周りにたくさんのガジェット魚が集まってくる。
「少し……多くない?」
 魚は真珠の周囲にも現れ、遊んでというようにふわふわと泳いだ。
「ふふ、シンジュが好きみたい」
「人気者ですね! ……うや? オズさん、真珠さんアレ!」
 そうやって戯れている最中、紅が向日葵の先にゆらりと揺らめく影を見つける。どうしたの、と真珠が視線を巡らせると、大きな影が横切っていった。
「鮫だね」
「サメっ サメがいるんだね」
 真珠が冷静に言葉を落とせば、オズがわくわくしたようすで影に視線を向ける。
 どうやら鮫もガジェットらしく危険なものではないようだ。それに加えて、鮫は沈没船がある方に向かっている。
 紅が見つけて示したのは鮫だけではなかったらしい。
「ん、船だね。偉いよ紅、よく見つけたね」
「僕偉いですかっ やたぁ」
 わーい、と両手を上げて喜ぶ紅。オズも船を見て冒険心が疼いたのか、シュネーと一緒にきらきらと瞳を輝かせている。
「たんけんしようっ」
「探検ですねっ」
「入り口はどこ? 向こうかな」
 すっかり冒険気分の三人は沈没船の中に潜っていった。
 鮫は入口でのんびりと落ち着いている。ガオ、などと急に襲ってきたら大変だったが、ガジェットなのでとても友好的だ。
 紅は不思議と楽しさが入り交じる気持ちを抱き、意気揚々と進んでいく。
 その中で真珠とオズはぐるりと船底を見渡す。
「僕よりすごい宝はあるのかな」
「たからはなにかな。きれいなサンゴかな」
「ご本の物語では底に沈んだおっきな貝の中に、おっきな真珠があったりするですが、真珠さんには負けますねっ」
 戯れに交わす言葉だって、今という時間を彩る楽しいもののひとつ。
 紅の声を聞き、オズは或ることを思い立つ。
「ふふ、でもわたしはもうたからものは見つけたよ」
 抱いた向日葵を見たオズはもう一度、やさしく花を抱きしめた。紅も向日葵を見てから笑みを浮かべ、大きく頷いてみせる。
「宝物……これですねっ」
 花を大切に抱き、笑いあう二人はなんと可愛らしいのだろう。真珠は和やかな気持ちを抱き、心からの笑みを湛えた。
 冒険に弾む心と太陽の花を連れて、更に深くて静かな水底へ――。
 三人の探検は、まだまだ此処から続いていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユヴェン・ポシェット
水中に居ると心地良い。…何故か安心するんだよな。
ミヌレを見ると興味深そうに機械の魚を眺めている。外から差し込む光に鉱石竜の身体が輝いて綺麗だな、とぼんやり思う。
この水の中の世界で咲く向日葵が不思議で、楽しい気持ちにしてくれる。この色の花弁のものは初めて見るな。
UC「halu」を使用し、自身の腕を目の前の可憐な向日葵の姿を真似てみる。魚に夢中だったミヌレが此方寄ってくる。
ん?どうしたミヌレ。魚はもう良いのか?…え。向日葵も可愛いけど他のも見たい…?否、魚は無理だって。
笑いながら、そんなやり取りをして。

海の中でしか会えない生き物達が沢山で嬉しくなるよな。一緒に泳がせて貰おうぜ。行こう、ミヌレ!



●蒼海と向日葵
 一面の青が広がる海の中。
 泡沫が生まれては天上の水面に昇り、差し込む陽光を受けて煌めいていた。
 頭上を振り仰いだユヴェンは目を細めた。揺らめく海面が水中から見られるというだけでも美しいが、周囲には鮮やかに咲く向日葵が見える。
 いつも以上の穏やかさを感じるのは、きっと此処が水の中だから。
「……何故か安心するんだよな」
 ユヴェンは共に海に潜ったミヌレを見遣り、穏やかな笑みを湛えた。普通ならばこんなに長くは潜っていられないが、此処は魔法が掛かった場所。
 ミヌレは最初こそぎゅっと目を瞑ってユヴェンにくっついていたが、呼吸や会話が出来ると知るとすいすいと泳いでいった。
 普通の水場と比べると抵抗もなく、まるで地上を自由に飛んでいるような感覚で水中を進むことも可能だ。
「ミヌレ、何か気になったのか?」
 見ればミヌレは海底近くにいた機械の魚を眺めていた。
 珊瑚のまわりを泳いでいる魚は色とりどりの熱帯魚めいた姿をしている。魚達も綺麗だが、外から差し込む光に鉱石竜の身体が輝いている様も良いものだ。
(綺麗だな……)
 魚を追いかけはじめ、途中から逆に魚に追いかけられているミヌレを見つめたユヴェンは、ぼんやり思う。
 するとミヌレがユヴェンの傍に泳ぎ寄ってくる。
 たすけて、と言うように背中に隠れたミヌレ。どうやら追いかけてくる機械仕掛けの魚が十匹を越えたので退散してきたようだ。
「追いかけっこをしていたのか。あの数は流石に……おっと」
 魚達はユヴェンの傍に集い、周囲をくるくると何度かまわった。魚はその後、向日葵が多く咲く一角に泳いでいく。
 誘ってくれているのだと察したユヴェンはミヌレを連れて其方に向かう。
 水中の世界で咲く向日葵は不思議だが、何だか楽しい気持ちにしてくれる。桜色の向日葵の花弁を眺めたユヴェンは興味深そうに花々を観察していった。
「この色の花弁のものは初めて見るな」
 そして彼は自らの力を用いる。自身の腕を可憐な向日葵の姿を真似た姿に変えてみれば、また魚を追いかけていたミヌレが寄ってくる。
「ん? どうしたミヌレ。魚はもう良いのか?」
 鉱石竜はユヴェンの腕をじっと眺めていた。それから何かを思いついたらしく、てしてしと前足で花に触れて要求する。
「……え。向日葵も可愛いけど他のも見たい……? 魚に変えるのか?」
 流石に魚は無理だ。
 でも見たい。さかなかわいい。
 そんな遣り取りを交わしながら、ユヴェンは楽しげに笑う。
 望まれたように腕を魚には出来ないが、これから違う景色や生き物を探しにいくことは出来る。ユヴェンはミヌレを誘い、まだ巡っていない領域に進んでいく。
 見遣った先にはエイが悠々と泳いでいた。
 ミヌレは興味津々に近付いていき、ユヴェンはその背を追っていく。海の中でしか会えない生き物と触れ合える。この時間がとても心地好く感じられた。
「一緒に泳がせて貰おうぜ。行こう、ミヌレ!」
 そうして、ユヴェンは泳ぎ出した。
 波間に揺蕩うひととき。それは何処までも平和で、穏やかで――揺らめく水面から射す光が彼らをやさしく照らしていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

フェレス・エルラーブンダ
くろば(f10471)と
去年みんなに、はだかではいるのは風呂だけだって教わった
にんげんのオスとメスはむつかしいな
撫でられると勝手に喉が鳴ってしまってすこしくやしい

みんながたのしいをおしえてくれたから
みず、こわくなくなった
だからな、くろば
おまえもだいじょうぶだ

あれがたいようのはな
あってる?

ひまわりのそばに泳ぎ寄る
はなが咲いている景色自体見慣れないものだけれど
みなそこに幾つも浮かんだきいろは、きれいだとおもった

みろ、かおよりでかいぞ
わたしよりせもたかい
きっとつよいはなだ

こころ
……たくさんたべるだけじゃ、ならない?
そうか
もっとつよいねこにならないと
くろばのこわいものがきたとき、やっつけられないからな


華折・黒羽
フェレスさん/f00338

そうですね、海などでは水着を着ないと大変ですから
言って伸ばした手はその頭を撫でながら
お揃いの様に上げられた前髪がなんだかおかしくてくすりと笑う

まだ少しだけ水への抵抗はあるけれど
今年で克服すると決めたのだ
楽しむとは遠い真剣な顔で彼女に続いて海へと入る

水を吸って身体が重くなる感覚にもすこしずつ慣れながら
見渡せば透き通る海の中
咲き誇る向日葵が揺れていて

はい、あれが太陽の花
向日葵ですよ
背比べをする姿にまたも和んで笑顔が咲く

フェレスさん
この向日葵に負けない様に
俺達も強くならなきゃいけませんね

力だけじゃない
心も
大切な人達と一緒に生きて
過ごしていく為に

さあ、他の所も回ってみましょう



●水中花とつよいねこ
 海辺には穏やかな波の音が響いている。
 フェレスは波打ち際を駆け、ぱしゃぱしゃと飛沫を散らした。振り返った先には黒羽がゆっくりと歩いてきている。
 今日のフェレスの装いは緑を基調とした水着姿。
「去年みんなに、はだかではいるのは風呂だけだって教わった」
 それだから着てきたんだ、と告げたフェレスはその場で回ってみせた。その腰元に結ばれたリボンがささやかに揺れる。
「そうですね、海などでは水着を着ないと大変ですから」
「にんげんのオスとメスはむつかしいな」
 黒羽も涼しげな夏の様相を身に纏っていた。
 偉いですね、と語った彼はフェレスの傍らに歩み寄り、その頭を撫でた。
 くるる、とフェレスの喉が鳴る。勝手に鳴ってしまったので不可抗力だと思いたいが、少しだけくやしい。
 黒羽はそんな様子を微笑ましく思う。
 お揃いのように上げられた前髪もなんだかおかしくて、くすりと笑った。
 そして、二人は海と向き合う。
 互いに水は苦手だった。けれど今は花咲く海の庭に行こうと決めている。まだ少しだけ水への抵抗はあるけれど、今年で克服すると決意した。
 黒羽が海を眺める最中、フェレスはこくりと頷いてみせる。
「みんながたのしいをおしえてくれたから。みず、こわくなくなった」
「……はい」
「だからな、くろば。おまえもだいじょうぶだ」
 未だ少しだけ戸惑っているのをフェレスに見透かされてしまったらしい。はたとした黒羽は顔を上げ、静かに笑む。
「大丈夫です。そろそろ行きましょうか」
 フェレスに背を押して貰えたから、導くのは自分から。
 黒羽は彼女を誘いながら面持ちを正して海へと入ってゆく。ひやりとした感覚と同時に、冷たい水が毛並みに染み込んできた。
 互いの尻尾がふるふると揺れている。水を吸って身体が重くなっていったが、此処は魔法の海。いつもの水よりも幾分か抵抗も軽い。
 水の心地に少しずつ慣れながら、二人はそっと水底を目指した。
 最初は目を瞑ってしまったが海中の雰囲気はやさしい。フェレスに続いて黒羽も瞼をひらき、辺りを見渡してみる。
 確かに呼吸も出来て歩くように泳げるようだ。ふしぎだな、と呟いたフェレスはそっと水を掻いて進んでみる。
 透き通る青の世界の中では、見事に咲き誇る向日葵がふんわりと揺れていた。
「あれがたいようのはな。あってる?」
「はい、あれが太陽の花。向日葵ですよ」
 花を指差すフェレスに頷き、黒羽も其方に近付いていく。
 フェレスは向日葵の傍で花弁をじっと観察した。花が咲いている景色自体、彼女にとっては見慣れないもの。だけれど、水底に浮かぶ色彩はきれいだと思えた。
「みろ、かおよりでかいぞ」
「向日葵は大きな花が印象的ですね」
「わたしよりせもたかい。きっとつよいはなだ」
 フェレスが花と並んで背比べをする姿に和み、それまで少し緊張が残っていた黒羽にも笑顔が咲く。
 強い花、という言葉を聞いた黒羽はそっと頷く。
「フェレスさん、俺達は……」
「くろば?」
 何か思うことがあったらしい黒羽に気付き、フェレスは首を傾げる。黒羽は向日葵と自分達を交互に見遣ってから掌を握り締めた。
「この向日葵に負けない様に、強くならなきゃいけませんね」
 力だけじゃない、心も。
 大切な人達と一緒に生きて、過ごしていく為に――。
 今日は少しだけ水を克服できた。そう思えば黒羽の気持ちも未来に向かってゆく。
「こころ。……たくさんたべるだけじゃ、ならない?」
「色んなことを知っていかないと、なれないかもしれません」
「そうか」
 問いかけたフェレスは暫し考え込む。
 そして、もっとつよいねこにならないと、とちいさく意気込んだ。ねこは元々ひとりで生きていけるくらいに強いけれど、更に強くなることだって悪くはない。
 だって、とフェレスは言葉を続ける。
「くろばのこわいものがきたとき、やっつけられないからな」
「頼もしいですね、フェレスさん」
 黒羽は彼女が紡いでくれた言葉が胸に染み込んでいくような気がして、穏やかな心地を覚えた。そうして、黒羽は花の領域の向こう側を示す。
「さあ、他の所も回ってみましょう」
 夏の海庭には向日葵だけではなく、たくさんの楽しい景色やものが待っている。
 煌めく水面から降り注ぐ陽のひかり。
 色鮮やかな色彩を見せてくれる熱帯魚めいた機械仕掛けの魚達。冒険心が擽られる沈没船や、淡く美しい色を宿した珊瑚礁。
 様々なものを知って、見て、少しずつ強くなっていこう。
 そうすればきっと、確かな自分として、これからも生きていけるはずだから――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

誘名・櫻宵
🌸櫻沫

水の気配
震えてなんていられない
私は進む
怯えてなんていられない

人魚の手を握り
白無垢水着を揺蕩わせ向日葵咲く水底を歩む
大丈夫
私は大丈夫
逃げないわ
リルに微笑んで―その視線の先に揶揄いの言葉を投げるわ
そんなに私の美脚が気になるの?


ワンピ水着を着た誘(初めは褌をしめてきたので着替えさせたわ)は不思議そうに周囲を見渡しながらヨルと遊んでいるし―いいことね

リルの隣ならこわくない
極彩の人魚に双眸細める
私はあなたに彩をあげられたのかしら
彩られたのは私のほう

私の戀は毒林檎
あなたが食むというならば
共に歩むその先に
幸せになりたいの

私は私として咲くわ
咲かせるわ
未来を

きゃあ!
ヨルがミサイルみたいに突っ込んできた!


リル・ルリ
🐟櫻沫

わぁ!綺麗な海だね、櫻!
向日葵が沢山だね!

ほら櫻
怖くないでしょ?
水が嫌いな癖に強がる君の手をぎゅと握り
お気に入りの花魁人魚の水着を着て、ゆるり歩む君の隣を游ぐ
水に透ける白無垢の様な水着姿に、気がつけば見蕩れてしまう
羨ましいくらい綺麗な脚についつい視線がいって…

な、何でもないったら!

カナンとフララが水底を舞う様子に微笑んで
ペン魚のヨルがそこら中を嬉しそうに泳ぎ回るのを見守って
向日葵の海を櫻と二人散策する
ふふ
可愛いなぁ

僕は白
君と出逢って世界をしって
戀をして愛をしり
極彩に染ったんだ
櫻宵
ありがとう

君の戀は毒林檎?
一欠片も遺さずに食べてみせる

当然だよ
君は君の桜を咲かせるんだ
幸せっていうね

ヨル!?



●君のいろ、あなたの世界
 沈み、潜り、辿り着いた澄んだ水底。
 尾鰭を揺らして游ぐリルは櫻宵の手を取り、眼前に広がる景色に瞳を輝かせる。
「わぁ! 綺麗な海だね、櫻!」
 黒薔薇が彩る静かな水底も大好きだけれど、色鮮やかな向日葵が咲き乱れる明るい海も美しいと思えた。リルの手を握り返し、櫻宵はそうっと瞼をひらく。
 呼吸は出来ても水の気配は消えない。
 けれど、震えてなんていられない。恐ろしいものから目を逸らすことはできない。
 私は進む。
 怯えてなどいられないと決意したばかりなのだから――。
「……本当、綺麗ね」
「向日葵が沢山だよ。ほら櫻、怖くないでしょ?」
 水が嫌いな癖に強がる櫻宵の心は分かっている。リルは白無垢水着を揺蕩わせる櫻宵にやさしい微笑みを向けた。
 リルには何も隠せはしないと櫻宵も悟っている。
「大丈夫、私は大丈夫。逃げないわ」
 櫻宵は自分に言い聞かせながらリルに微笑みを返した。
 花魁人魚と白無垢桜龍。並んで歩き、游ぐ二人は海中の花にも負けないほどに艶やかで鮮やかな色彩を纏っている。
 リルはいつの間にか、櫻宵の水に透ける麗しい水着姿に見蕩れてしまっていた。
 その視線に気が付いた櫻宵は揶揄いの言葉を投げる。
「そんなに私の美脚が気になるの?」
「だって、綺麗な足だから羨まし……な、何でもないったら!」
「ふふ、リルは嘘が下手ね」
 途中まで言葉を紡ぎかけたリルがふるりと首を横に振った。誤魔化せていないことが可愛らしく、櫻宵はくすくすと笑う。
 二人の近くにはリルに寄り添う幽世蝶やヨル、櫻宵が連れてきた誘もいた。
 カナンとフララは二羽で一緒に揺蕩いながら水底の様相を楽しんでいる。声は聞こえないが、こっちですよ、とフララがカナンを案内しているようにも見えた。
 最初はヨルも蝶々の後についていっていたが、途中からお邪魔な気がしてきたのか、誘の方に泳いできていた。
 誘はというと、桜色の貝殻を持ってすいすいと泳ぐペンギン魚を目で追っている。表情は変わらないままだが、誘もそれなりに遊んでいる心算らしい。
 誘は館で海の準備をしていた当初、勝手に褌をしめてきていた。その姿を発見した櫻宵が悲鳴をあげるという一幕もあったが、今はこうしてワンピースタイプの水着に着替えさせられている。
「ふふ、可愛いなぁ」
「楽しそうでいいことね」
 リルと櫻宵はヨル達を見守りながら、自分達も海中散歩を楽しんでゆく。
 水の心地は慣れないがリルの隣ならこわくない。フララがそうしているように、海中を案内する形で、リルが櫻宵をいざなっていた。
「こっちだよ、櫻宵。珊瑚がきらきらですごく綺麗だ!」
 極彩の人魚に双眸を細めた櫻宵は、ふと浮かんだ思いを言葉にしてみる。
「私はあなたに彩をあげられたのかしら」
 彩られたのは私のほうだけど、と付け加えた櫻宵はリルを見つめた。視線を返したリルはふわりと極彩色の装いを揺らして、これが君のいろだよ、と答える。
 僕は白。まっさらな白だった。
 けれど、君と出逢って世界をしって、戀をして愛を宿した。苦しいことも、痛いことも、愛おしい気持ちも自身を彩るもの。
「僕は君のおかげで極彩に染ったんだよ、櫻宵。――ありがとう」
 自分の色であった白を纏う櫻宵に手を伸ばし、リルは心からの言葉を贈る。
 櫻宵は真っ直ぐな人魚の瞳を覗き込んだ。其処に映る己の姿。それこそがきっと、リルが見ている――他の何者でもない、櫻宵というただひとりの存在だ。
「でもね、私の戀は毒林檎なの」
「君の戀がそうなら、一欠片も遺さずに食べてみせるよ」
 本当は食べてはいけないもの。
 けれどリルは何の躊躇いもなく答えてみせる。櫻宵はそれがリルらしいと思い、自分だけの人魚の手を取った。
「……あなたが食むというならば、」
 物語の結末を幸福で彩りたい。共に歩むその先で、幸せになりたいから。
 だから、と櫻宵は宣言する。
「私は私として咲くわ」
「当然だよ。君は君の桜を咲かせるんだ」
「ええ、咲かせるわ。未来を――」
「そこに名前をつけよう。幸せ、っていうね」
 青の世界で重ねた思いは清廉な白と、世界を飾る極彩色。
 ふたりの微笑みが深く交わり、巡り之く先への誓いめいた思いが生まれる。
 しかし、そのとき。
 ジェット泳法で珊瑚礁と向日葵のハイパーレースコースを泳ぎ走っていたペンギンがものすごい勢いで突っ込んできた。
 どうやらいつの間にかヨルがガジェット魚達と競争を始めていたようだ。
 その勢いはまるでミサイル。
「きゃあ!」
「ヨル!?」
 櫻宵とリルの間をペン魚と機械魚が通り抜け、二人は驚いてしまう。安全なコース脇ではフララとカナンが心配そうにヨルを見ており、誘がレースクイーンの如くひらひらと桜色の向日葵を振っていた。
 思わず吹き出したリルと櫻宵は顔を見合わせる。
「ヨル、気をつけてね!」
「誘、その向日葵はどこから見つけてきたの?」
 それぞれに声を掛けながら、二人はヨル達の元に泳いでいった。
 こんな風に不思議な時間を過ごすのも悪くはない。青の世界に満ちる心地は何処までも穏やかで、きっと――この先も楽しくて賑やかな時間が流れてゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

レイラ・エインズワース
祇条サン(f02067)と

ワァっ、素敵な景色ダネ
私だって大丈夫ダヨ!?泳げなくて去年修行したカラ
デモ、こんな風に息も話もできるトコあるナラ、こっちでやれば良かったカナ?
炎も消えないカラ、平気平気

色鮮やかな向日葵の中を泳ぐと、本当に空デモ飛んでるみたい
一緒に泳ぐ魚たちも、機械仕掛けで幻想的な気がするヨネ
伸ばす手は見守って、どうだっタ?なんて感触を聞いたりしナガラ
せっかくだからと私も触れてみようカナ
うん、楽園があったラ、こんな風なのカモ

そうダネ
こんな素敵な場所を守ろうとするヒトたちに
危ないコトはあってほしくないカラ

それに、夢を映す幻燈なんてちょっと運命感じるしネ
ちゃんと止めて、無事帰ろうネ


祇条・結月
レイラ(f00284)と

潜るのは、平気?
海の上からでもすごい綺麗な場所だから……
そっか。炎も大丈夫なら安心
確かに此処なら練習も楽しそう

……ほんと、すごいところ
水がこんなに澄んで向日葵が咲いていて
そこに魚が泳いでるの。なんだか、空の中にでもいるみたい

触ってみても平気かな、って手を伸ばしてみたりして
手触りはちょっと不思議かも。触ってみる?
どこかの楽園にでも生きたまま迷い込んじゃったかな、ってくすっと笑って詰まらない冗談を口にして

……ほんとに綺麗
毎年楽しみにして、大切にしてる人たちがいる場所

……だね。
勝って。いつも通り帰ろ。
ちゃんと守るから、なんて大きなことはいえないけど。
一緒に、無事に



●決意は海に秘めて
「ワァっ、素敵な景色ダネ」
 煌めく海を前にして、瞳を輝かせたレイラが楽しげな声をあげる。
 燦々と降りそそぐ太陽の光は心地よく、目映さも夏らしさを感じさせてくれた。
 愛らしいフリルが揺らめく水着姿で波打ち際に駆けていったレイラを追い、結月は緩やかに歩いていく。
「レイラ。潜るのは、平気?」
 問いかける結月は無理をしなくても良いと語った。
 その理由は炎が消えてしまいやしないかと懸念したから。対するレイラは首を振り、炎は平気だと答えた。
 安堵した様子の結月は海の中を見遣る。
「海の上からでもすごい綺麗な場所だから……ここ楽しんでも良さそう」
 するとレイラは水中の花庭で遊んでみたいと答えた。泳ぎはどうなのかという視線が彼から向けられ、レイラはぐっと掌を握る。
「私だって大丈夫ダヨ!? 泳げなくて去年修行したカラ」
「それじゃあ水の中で遊ぼうか」
「デモ、こんな風に息も話もできるトコあるナラ、こっちでやれば良かったカナ?」
「確かに此処なら練習も楽しそう」
 結月は楽しげに笑ってみせ、行こうか、とレイラを誘った。
 此処から巡るのは花の海庭で過ごすひととき。不思議な魔法が掛かった世界へと踏み出した二人は、ひといきに水中に潜ってゆく。
 そして――。
 目の前に広がったのは色鮮やかな向日葵が海中に広がる景色。
「……ほんと、すごいところ」
 澄んだ水とふわふわと浮かぶ花々は綺麗だ。こういった場所では咲かないはずの向日葵が揺らいで咲き誇っている光景は圧巻だった。
 先ず視界が予想以上にクリアなのも驚いたが、呼吸も会話も自由に出来る。
「なんだか、空の中にでもいるみたい」
「本当に空デモ飛んでるみたい」
 レイラは去年の練習の成果を見せるべく、すい、と花に泳ぎ寄っていった。透き通った青の世界を行けば、泳ぐよりも飛ぶと表す方が相応しいと思える。
 色鮮やかな向日葵の中を進むと、辺りを悠々と泳いでいる熱帯魚が見えた。
「魚だ。これもガジェットだったかな」
「一緒に泳いでくれてるネ! みんな機械仕掛けで幻想的な気がするヨネ」
 結月とレイラは頷きあい、魚達が泳いでいく方についていくことにする。ゆらゆらと尾を揺らしている魚は愛らしい。
 かれらは時折、此方に近付いてきて周りを回ってから進んでくれる。それを見ているだけで楽しかった。
 人懐っこさを感じさせる熱帯魚に向け、結月はそっと腕を伸ばしてみる。
「触ってみても平気かな」
 すると魚の方から結月の手に近寄ってきた。
 熱帯魚が触れた指先がくすぐったくなってしまい、結月は思わず手を引っ込める。
「どうだっタ?」
「手触りはちょっと不思議かも。触ってみる?」
 その様子を見守っていたレイラはくすりと笑み、せっかくだから、と自分も手を差し伸べた。触れてみれば結月の言った通りの感触がした。
 魚達は悪戯っぽいらしく、結月の手だけではなく頬もつっついてくる。
 レイラの腰元に回ってきた魚もくすぐるように鰭を動かしていた。魚達を掌でそっと掬い上げて、コラ、と怒りながらも笑うレイラはとても楽しげだ。
 周囲には美しい珊瑚礁が水上から射し込む光を受けて輝いていた。
「どこかの楽園にでも生きたまま迷い込んじゃったかな」
 結月は冗談めかして語る。
 しかしレイラは本当に感心したように頷き、結月と一緒に辺りを見渡した。
「うん、楽園があったラ、こんな風なのカモ」
 不意に二人の視線が重なり、互いの口許に穏やかな笑みが咲く。
 そして、結月は改めてこの海に思いを馳せた。
「……ほんとに綺麗で、良い場所」
「そうダネ」
「毎年楽しみにして、大切にしてる人たちがいる場所だってのも頷けるね」
「こんな素敵な場所を守ろうとするヒトたちに、危ないコトはあってほしくないカラ、私達が頑張らないとネ」
 結月の思いに同意したレイラは、それに、と言葉を続けていく。
「夢を映す幻燈なんてちょっと運命感じるしネ」
「……だね」
 静かに首肯した結月は彼女が紡いだ決意に耳を傾けた。共に見つめる先には揺らめく青の様相と穏やかな海の情景が何処までも広がっている。
「ちゃんと止めて、無事帰ろうネ」
「勝って。いつも通り帰ろ」
 一緒に、無事に。ちゃんと守るから。
 そんな大きなことは言葉には出せないけれど、結月の胸裏には確かな思いがある。
 そうして、結月とレイラは泳ぎ出す。
 まだ日暮れまでは時間がある。それまでめいっぱい、このひとときを楽しむ為に。
 一面の澄んだ青に揺れる向日葵。
 それはきっと――護るべき平穏と長閑さの象徴であるはずだから。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロカジ・ミナイ
【綾十路】

ねぇ、向日葵島だって
いい名だねぇ

おやおや十雉は泳ぎが苦手かい?泳げるかい?泳げない?大丈夫よ
息できるんだから溺れやしねえさ
あとは、まぁまぁ、流れに身を任せるのも悪くないんじゃないの
…そうだね、紐がなけりゃ手を繋いでやるっきゃねぇな、カカカ!

水の中に咲いてる向日葵なんて初めて見たよ
その生態に興味津々の僕さ
植物標本とはよく言ったもの
そういやあの中に一度入ってみたかったんだっけ

でもここには興味のわくものがまだ沢山あって
歯車仕掛けが視界を横切れば、あれまぁかわいいお魚さんだこと
餌とか何食うのかな
あ!綾が魚にお手手チューしてもらってる!
僕にもしてくれねぇかな
楽しい気分なら僕も分けてやれるからさ


宵雛花・十雉
【綾十路】

青い海!咲き誇る向日葵!
いいねぇ夏だねぇ
いやまぁ、泳げるかって聞かれたら泳げねぇんだけどさ
って笑いごとじゃねぇんだってロカジ
沈んじまったら助けてくれよ二人とも、約束だぞ
手繋いでくれんならそれでもいいからさ

海の中に入りゃ案の定沈むし流されっけど
息が出来るってだけで安心感あるよ

お、見てみろよ2人とも
綺麗な魚がいるぜ
見つけたら大はしゃぎで2人に教える
って、これもガジェット?ってヤツ?
スゲェな

そもそも歯車仕掛けって飯食うのかな
油…とか?

って、いいなぁ綾
すげぇ懐いてんじゃん
しかもカッコいいこと言ってる…
油しか思いつかなかったのが恥ずかしくなってきた
けど確かに、楽しい気分ならオレも分けられっかも


都槻・綾
【綾十路】

水に揺らぐ花の幻想的なこと
植物標本へ飛び込んだ心地です

向日葵がゆるり葉を躍らせる様は
まるで
可憐な少女か艶やかな淑女からの誘いのようで
葉に手を重ね、恭しく一礼
そっと花のかんばせを俯かせる姿が愛らしい

微笑んだところで
視界の端、

…ほんとうに流されていますね

ロカジさんの言のままに
流れに身を任せ過ぎて歩みから離れていく十雉さんを
きょとんと眼で追う

手を繋いだ方が良さそうかしら

首を傾げるけれど
呼び掛けの声が朗らかだったから
大丈夫そうと綻んで

色鮮やかな光景に眩く眸を細め
傍の魚へ手のひらを差し出せば
懐いたようにちょんと触れて来るから

私達の楽しい気持ちが
餌なのかもしれませんね

どうぞ
満腹になってくださいな



●満ちゆく青
 目の前には白い砂浜と青い海。
 背には島を彩るように咲き誇る向日葵畑。からりとした清々しい夏の陽射しを受けたロカジは、島の心地を感じながら大きく伸びをした。
「ねぇ、向日葵島だって」
 いい名だねぇ、とロカジが示した海の底にも色鮮やかな向日葵が見える。
「青い海! 咲き誇る向日葵! いいねぇ夏だねぇ」
 十雉も果てしない蒼海を眺め、傍らに立つ綾に呼び掛けた。ええ、と頷きを返した綾は素足を波打ち際に浸す。
 水に揺らぐ花のなんと幻想的なことか。
 行きましょう、とロカジ達を誘った綾は水中へと踏み込んでいく。
 その後に続いた十雉は少しだけ戸惑うような仕草をみせた。そのことに気付いたロカジは軽く首を傾げて問う。
「おやおや十雉は泳ぎが苦手かい? 泳げるかい? 泳げない?」
「いやまぁ、そう聞かれたら泳げねぇって答えるしかないんだけどさ」
 矢継ぎ早に聞いてくるロカジに対して十雉は肩を竦めてみせる。彼は普段通りに笑ってはいるが、心配がないかと云えば嘘になってしまう。
 潔いねぇ、と口にして返答に頷いたロカジは十雉の背を叩く。
「大丈夫よ、息できるんだから溺れやしねえさ」
「そうですね、危ないものもないようですから」
 綾も振り返り、十雉を見つめた。
 そんな遣り取りを交わしながらも三人は水中に向かっている。水を掻き分けるロカジの後ろで十雉は首を左右に振っていた。
「笑いごとじゃねぇんだってロカジ、綾。沈んだらオレは抗えねぇ」
「あとは、まぁまぁ、流れに身を任せるのも悪くないんじゃないの」
「……ふふ」
 二人の遣り取りを聞き、綾はおかしげに口許を緩める。
 その中で十雉は徐々に水位が高くなっていくことを確かめていた。徐々に近くなる海中の様子は気になるが、やはり懸念は消せない。
「沈んじまったら助けてくれよ二人とも、約束だぞ」
「ええ、約束しましょう」
「紐がなけりゃ手を繋いでやるっきゃねぇな、カカカ!」
「手繋いでくれんならそれでもいいからさ」
 そんなこんなで、いつの間にか一行は海の中に辿り着いていた。水中だというのに、あまりにもごく普通に呼吸が出来るものだからとても不思議だ。
 綾は周囲を見渡し、海中に咲く向日葵を指差す。
「見てください、花があんなに。植物標本へ飛び込んだ心地です」
 水の冷たさは感じるが、立っている心地は地上とあまり差異がない。
 向日葵がゆるりと葉を躍らせる様は、まるで可憐な少女か艶やかな淑女からの誘いのよう。花に游ぎ寄った綾は葉に手を重ね、恭しく一礼してみせる。
 そっと花のかんばせを俯かせる姿が愛らしく、綾は淡く微笑んだ。
「優雅だねぇ、綾」
「ほんと、植物標本とはよく言ったものだね」
 十雉とロカジは水中花に馴染む綾の姿を見て、それぞれの感想を言葉にする。水の中に咲いてる向日葵を見るのは流石に初めてで、ロカジはその生態に興味津々。
 そういやあの中に一度入ってみたかったんだっけ。そんな風に独り言ちて、本当の標本を思い浮かべたロカジは楽しげに笑った。
「うわ……ロカジ、綾。流れてる、オレ流されてねぇ?」
 そのとき、十雉から助けを求める声があがる。予想していた通りに沈んで流されてしまっているようだ。
「待ってて、今行くからさ」
 十雉はやや慌てかけたが、ロカジが泳いで来てくれたことに加えて、息が出来るということで安心感があった。
「……ほんとうに流されていますね」
 流れに身を任せ過ぎて歩みから離れていく十雉。その姿を追った綾はきょとんとしていたが、すぐに静かに泳いでいき、十雉達の横につく。
 手を繋いだ方が良さそうかしら、と綾は一瞬だけ考えて首を傾げる。けれども十雉の呼び掛けの声が朗らかに聞こえたので、大丈夫そうだと綻んだ。
「十雉、その岩のあたりなんてどうだい。落ち着きやすそうだよ」
 ロカジも珊瑚礁の近くの良い場所を見つけて導いていった。そうすれば、十雉も流されずに済む場所に辿り着く。
 珊瑚が煌めく岩場に腰を下ろした十雉はやっと一息をついた。
 よく見てみると珊瑚の合間には色とりどりの魚がいる。お、と目を細めてそれらを見遣った十雉は綾達を呼んだ。
「見てみろよ二人とも。綺麗な魚がいるぜ」
 十雉は少年のように目を輝かせていた。
 先程まで流されかけていたというのに、今は好奇心の方が強く出ている。
 ロカジも魚が泳ぐ一帯を覗き込んだ。すると飛び出してきた歯車魚がロカジの周りをくるくると回っている。まるで踊っているようだ。
「あれまぁかわいいお魚さんだこと」
「これもガジェットってヤツ? スゲェな」
「餌とか何食うのかな」
「そもそも歯車仕掛けって飯食うのかな。油……とか?」
 ロカジは回る魚を目で追い、十雉は魚の歯車が廻る様を眺めていった。
 綾は色鮮やかな光景に眩く眸を細め、傍に訪れた魚へ手のひらを差し出す。すると魚は綾に懐くように指先に触れて来た。
「もしかすると、私達の楽しい気持ちが餌なのかもしれませんね」
 綾は穏やかさを覚え、戯れる魚をそうっと見守る。
 その様子に気が付いたロカジもまた、はしゃぐ少年めいた瞳を向けた。
「あ! 綾が魚にお手手チューしてもらってる!」
「って、いいなぁ綾。すげぇ懐いてんじゃん。しかもカッコいいこと言ってる……」
 油は違うよな、と自分の発言を思い返した十雉は少しばかり恥ずかしくなった。けれどやはり綾の言うことも一理ある。
 ロカジも頷きを返し、僕にもしてくれねぇかな、と魚に手を差し伸べた。
「楽しい気分なら僕も分けてやれるからさ」
「確かに、楽しさならオレもあげられっかも」
 十雉も倣って魚に触れてみる。彼らの傍に寄ってきた機械魚達は楽しげに揺れ、その指先や手の甲を突いてきた。
 綾は手のひらの上でくるりと泳ぐ魚を瞳に映し、微笑みを宿す。
「どうぞ、満腹になってくださいな」
 綾の言葉を聞き、ロカジと十雉も笑みを深めた。
 水底に満ちていくのは楽しさ。
 本当にこの魚達が喜と楽を食べるのならば、もうすぐいっぱいに満たされるはず。
 そのとき、彼らの頭上に大きな影が現れた。
「あれは――」
「エイだ、エイだぜ二人とも」
「お? 何か向日葵を……いいねぇ、花の雨だ」
 水面の天上を振り仰いだ三人は歯車仕掛けのエイを見つける。ガジェットが運んできた向日葵の花弁が散り、彼らの元に降り注いできた。
 太陽の色と桜や桃の色を宿す魔法の花が水中にひらひらと舞っていく。
 花と魚が戯れる様に和やかさを感じて、彼らは暫し美しい景色を眺めた。これだけではなく、ここには興味のわくものがまだまだ沢山あって、きっと飽きない。
 次はあの沈没船の方に行こうか。
 また流れされないように。
 そんな軽い会話を交わした三人は、泳ぎ(或いは沈み)はじめていく。
 さあ、進もう。
 何処までも広がる海の心地と、青く澄んだ世界を楽しむ為に――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『呪われた船首像』

POW   :    まとわりつく触腕
【下半身の触腕】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    掻き毟る爪
【水かきのついた指先の爪】による素早い一撃を放つ。また、【自らの肉を削ぎ落す】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ   :    呪われた舟唄
【恨みのこもった悲し気な歌声】を聞いて共感した対象全てを治療する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●呪われし歌声
 時刻は巡り、夕暮れが訪れた。
 既に日は沈みかけており、辺りは徐々に薄暗くなっていく。
 向日葵島の裏手にあたる寂れた岸辺には、異質なものが流れ着いていた。
 其処に漂着したのは幽霊船めいた船。
 風に軋む壊れた船体。折れたマストや崩れ落ちた船首。その上でゆらり、ゆらりと怪しげな灯が揺らめいていた。
 
「……あぁ、ア――」
 夜の色を水面に映し始めた海辺に踏み込んだ時、不気味な声が耳に届く。
 猟兵達が声の主を探ると、難破船からぞろぞろと何かが這い出してきた。次々と浜辺に現れたのは女性めいた姿をした魔物達。
 呪われた船首像だ。
 船首像とはいっても彼女達は異形化している。触腕を蠢かせ、呪いの歌を響かせる悪しき存在、即ちコンキスタドールとなっているようだ。
「みな、深き海へ……沈め……」
「憎め、叫べ、歌えや、歌え……」
「さあ……おいで……苦しみの世界へ」
 恨みの宿った悲し気な歌声を響かせ、魔物達は此方を虚ろな瞳で睨め付ける。
 そして、隙あらば捕らえようとしてくるだろう。
 このような存在を島に蔓延らせるわけにはいかない。未だよく見えぬ船の上に佇む首魁の元に辿り着くためにも、この浜辺で彼女達を蹴散らさねばならないだろう。
 何よりも、哀しき歌をこれ以上、響かせ続けないために――。
 そして、戦いは始まりを迎える。
 
榎本・英
【春嵐】

今、何か声が聞こえたような……。
まさか幽霊……?
嗚呼。なゆ、私の見間違えかな?
あれは幽霊の船で、彼女たちはゆうれ……?

帰ろう。今すぐ帰ろう。
呪われたら帰れなくなる帰ろう。
嗚呼。ナツ、やる気満々なのは良いが、飛び出しては危な
なゆ助けてくれ……!

あの女たちの腕が私の腕を……!
こうして連れて行かれるのだね?
私は暗い場所も幽霊も苦手なのだよ!

念の為にと持ってきた著書から獣を生み出し
彼女たちの手が私に触れないようにしてもらおう
襲い来る腕を薙ぎ払い、距離を開ける
なゆ!幽霊が、思ったよりも沢山いるではないか!

頼むから早く何処かに行ってくれ。
私は美味しくない……!
嗚呼。なんとも情けない。


蘭・七結
【春嵐】

岸辺にやってきた異質なもの
この不気味な雰囲気は、もしかして
瞬いて目を擦りもう一度瞬く
嗚呼。これが幽霊船、なのかしら
夢でも幻でもなく現実のよう
まさか本物に出会えるだなんて

まあ、ふふ。ナツも来たのね
ナツも気になるのかしら
少し近づいてみま……、……英さん?

こうして手繰り寄せてみな底に落すのね
あなたたちの手で溺れるのは、イヤだわ
だいじょうぶよ、英さん
ひとりたりとも触れさせはしないわ

あかい糸を伸ばして、絡めて
その四肢と喉にあかいろを沈めましょう
指さきから痺れるようでしょう?
――お静かに
その手を封じて声を奪ったのなら
ほら、怖くないわ
仕上げは獣たちに委ねましょう

英さん。なゆを、みて
……まだ、こわい?



●あかに沈む
 夕暮れから夜に移り変わる合間の時刻。
 目映い昼の陽射しは消え去り、昏い世界が広がる最中に響き渡る声。声。声。
「今、何か声が聞こえたような……」
 英はぼんやりとした岸辺の光景を見遣り、思わず後退った。
 ――まさか幽霊。
 そう考えた瞬間、背筋がぞっとする。英が固まっている中で七結も耳を澄ませた。岸辺にやってきた異質なものが何かを呟いたり、歌ったりしているようだ。
 この不気味な雰囲気はもしかして、と瞬いて目を擦る。
「嗚呼。これが幽霊船、なのかしら」
「なゆ、私の見間違えかな? あれは幽霊の船で、彼女たちはゆうれ……?」
「……そうみたいね」
 英が震える声で問いかけ、七結は首を縦に振る。
 夢でも幻でもなく現実のようだ。そう判断した七結は、まさか本物に出会えるだなんてと口にしてから、もう一度瞬いた。
 七結から望まない同意を得られたことで英の表情が曇る。
「帰ろう。今すぐ帰ろう。呪われたら帰れなくなる帰ろう。嗚呼。ナツ、やる気満々なのは良いが、飛び出しては危な――」
 言葉が止め処なく溢れてくる英の傍らを子猫が駆けていった。英が手を伸ばしたが既に遅く、ナツは浜辺に躊躇なく進んでいく。しかし放って置くわけにはいかない。英は恐怖と戦いながらもナツを追い、子猫が船首像に近付く前にキャッチした。
「まあ、ふふ。ナツも来たのね。ナツも気になるのかしら」
 七結は子猫の無邪気さにちいさく笑った。
 英が先に向かった様を見遣った七結は歩を進めようとする。だが、すぐに彼から助けを求める声が響いた。
「なゆ、なゆ、助けてくれ……!」
「少し近づいてみま……、……英さん?」
 薄暗くて見えなかったが、英は船首像が長く伸ばした触腕によって腕を掴まれていたようだ。ナツはちゃっかり英の腕から逃げ出し、安全な場所に逃げている。
「あの女たちの腕が私の腕を……! こうして連れて行かれるのだね? 私は暗い場所も幽霊も苦手なのだよ!」
 矢継ぎ早に恐ろしい気持ちを言葉にした英は焦っていた。
 普段の彼と比べると想像も出来ない様子だが、こんな姿を見せられるのも他でもない七結が相手だからだろう。
 七結は即座に身構え、英を掴んでいる呪われた船首像を瞳に映す。
「こうして手繰り寄せてみな底に落すのね」
「……あ、アァ――」
 対する魔物は掠れた声で何かを呟いた。意味のない奇妙な声だ。それを聞いた英の身体がぞわぞわと震える。
 七結もぞっとするような感覚をおぼえながら頭を振った。
「あなたたちの手で溺れるのは、イヤだわ」
「離してくれ! 嗚呼、なゆ」
「だいじょうぶよ、英さん。ひとりたりとも触れさせはしないわ」
 英が触腕から逃れようと藻掻く。七結は双眸を鋭く細め、彼を捕らえている腕に向けてあかい糸を伸ばした。
「――!」
 その途端、船首像から悲鳴めいたくぐもった声が響く。絡まった糸が英に纏わり付いていた腕を瞬時に切り落としたらしい。
 英はその機を利用して腕から離れ、七結の傍らに駆け戻る。安堵した様子を見せた彼はすぐさま著書を取り出し、其処から獣を呼び出した。
「嗚呼。嗚呼、良かった。もう彼女たちの手が私に触れないようにしてくれるかい」
 次の瞬間、情念の獣の指先が英の前方に迸る。
 獣は襲い来る敵の腕を薙ぎ払い、英は七結と共に相手との距離を開けていった。
「英さん、だいじょうぶ?」
「何とか……! 気持ちの上では平気ではないが、何とか!」
 英は大丈夫だとは返せずに曖昧かつ語気の強い言葉を返した。よほど捕まったことが恐ろしかったのだと察した七結は、英を守るように立ち塞がる。
 その間に、腕を切り落とされた個体とは別の敵が彼女達の近くに集まってきた。
「なゆ! 幽霊が、思ったよりも沢山いるではないか!」
「そのようね。嗚呼、歌も聞こえるわ」
 英が更に情念の獣を呼び寄せると、七結もあかい糸を周囲に巡らせる。
「みな、深き海へ……沈め……」
 船首像達はおどろおどろしい歌を紡ぎはじめていた。七結はその四肢と喉に狙いを定め、あかいろを沈めようと試みる。
「指さきから痺れるようでしょう? ――お静かに」
 先程と同じように腕を落とし、次は声を奪ってゆく。更に体勢を崩した敵に獣の力が巡った。そうすれば恐ろしい歌声は消え、船首像達も倒れ伏していく。
「ほら、怖くないわ」
 仕上げを獣達が行ってくれたことを確かめ、七結は英に振り返った。
 既に彼らの周りには敵の影はない。されど英はいつの間にか目を閉じており、敵が倒れたことに気が付いていなかった。
「頼むから早く何処かに行ってくれ!」
「英さん」
 取り乱しそうになっている英に手を伸ばし、七結はそっと名を呼ぶ。いつの間にか足元にはナツが戻ってきており、にゃあうと鳴いた。
「私は美味しくない……!」
「英さん、もう終わったわ。なゆを、みて」
「なゆ……」
 七結の指さきが頬に触れたことで、英は漸く平静に戻った。告げられた通りに瞼をひらけば花のような君の姿が視界いっぱいに広がっている。
「……まだ、こわい?」
「嗚呼。なんとも情けない」
 問いかけに対し、もう大丈夫だと答えた英は首を横に振った。
 君が居てくれて良かった。
 そう告げるような眼差しを返した彼に微笑み、七結はそうっと彼の頬を撫でた。
 まるで彼が幼い少年のようだと思ったのは、少しの秘密にしようと決めて――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

真宮・響
【真宮家】で参加

船の安全を護るはずの船首像が幽霊船ともなると死を齎すものと成り果てるか・・・歌を歌う身としてはいつまでもこの呪いの歌を響かせる訳にはいかないし・・この素晴らしい島にこういう存在は、いらないね。

この素早い一撃はまともに受けたくないね。真紅の騎士団を発動、前面の抑えを頼む。アタシ自身は【忍び足】【目立たない】で敵の背後を取り、敵の攻撃を【オーラ防御】【見切り】【残像】で凌いでから【怪力】【二回攻撃】【串刺し】【範囲攻撃】で纏めて貫いていく。この平和な島に呪いの存在は不要だ。せめて海に還りな。


真宮・奏
【真宮家】で参加

船にはあんまり詳しくないのですが、船首像というのは船の先の方にくっついてる船の守り神で間違いないですかね?とても綺麗なお姿だったはずなのに、怖い姿になって死を誘うのはとても痛ましいです。この島の為にも、終わらせないと。

纏わりつく触腕が気持ち悪いですね。トリニティエンハンスで防御力を高め、【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【拠点防御】でダメージを抑えますが。嫌な感触は変わらないと思うので、即刻【衝撃波】【二回攻撃】【範囲攻撃】でふっ飛ばします。哀れとは思いますが、ここは人が楽しむ美しい島です。呪いを齎す存在は退去願います!1


神城・瞬
【真宮家】で参加

幽霊船、ですか。その船の船首像なら死を齎すものとなるのも納得出来ますね。ですが・・ここまでです。ここは皆が楽しく過ごす花咲く島。人々が集う島に、呪いの存在は不要です。

敵の爪が届かない距離を維持して、風花の舞を発動。杖の攻撃と共に【誘導弾】【鎧無視攻撃】【マヒ攻撃】【目潰し】【部位破壊】で攻撃。更に【破魔】を併せた【結界術】で敵の攻撃の動きを縛ります。敵の接近を許したら【衝撃波】で吹き飛ばし、吹き飛ばしきれない敵がいたら【オーラ防御】【第六感】で対処。ここに貴方達の居場所はありません!1骸の海にお還り願います!!



●重なる三つの力
 寂れた岸辺に漂着した船は奇妙な光を宿していた。
「幽霊船、ですか」
 瞬は難破船の上に灯る仄かな輝きは、此度の首魁が宿すものなのだろう。しかし現在、船の前には這い出てきた船首像の魔物で満たされており、船そのものに近付けない。
 響は身構え、敵を見据える。
「船の安全を護るはずの船首像が幽霊船ともなると死を齎すものと成り果てるか……」
「えっと、船にはあんまり詳しくないのですが、船首像というのは船の先の方にくっついてる船の守り神で間違いないですかね?」
「ええ、そうです。幽霊船の船首像なら死を齎すものとなるのも納得出来ますね」
 奏が首を傾げると、瞬が頷いて答えた。
 おどろおどろしい姿をした船首像。彼女達は此方を呪いの世界に引きずり込まんとしているようだ。
「あぁ――憎め、叫べ、歌えや、歌え……」
 触腕を蠢かせた船首像達は奇妙な歌を歌っている。
 それを耳にした響は頭を振った。呪いが籠もった声は哀しげに感じられる。歌を歌う身としては、いつまでもこの呪いの歌を響かせる訳にはいかない。
「この素晴らしい島にこういう存在は、いらないね」
「そうですね。元はとても綺麗なお姿だったはずなのに、怖い姿になって死を誘うのはとても痛ましいです」
 響の言葉に首肯した奏はそっと決意する。
 この島の為にも、この歌を終わらせなければならない。
 瞬は何体かの敵が自分達に迫ってくることを察し、六花の杖をしかと構えた。
「その歌を歌い上げたいのでしょうが……ここまでです。ここは皆が楽しく過ごす花咲く島。人々が集う島に、呪いの存在は不要です」
 敵の爪が届く距離に入る前に発動させたのは風花の舞。
 複製しされた杖が念力によって操作されていく中、響と奏も動き出す。杖を追って爪を振るった魔物の一閃は鋭い。
「この素早い一撃はまともに受けたくないね」
 響は真紅の騎士団を発動していき、かれらに前面の抑えを頼んだ。
 その間に彼女自身は忍び足で敵の背後に回り込んでいく。奏は響の動きを確かめつつ、炎と水、風の魔法を紡いでいった。
 守りの力を高めた奏は敵が蠢かせている触腕の動きを見遣り、すぐさま防御する。
 纏わりつくそれは水気を帯びていた。大きなダメージを負うことはなかったが、べたべたするので良いものではない。
「見た目以上に触腕が気持ち悪いですね」
「気をつけてください、また来ます!」
 奏が触腕から抜け出した次の瞬間、瞬が呼び掛けた。
 爪と腕が振るわれると察した彼は杖を操作し、相手の動きを阻んでいく。敵の目を潰し、其処に麻痺を乗せて一気に触腕を破壊する。
「――今だね」
 次の瞬間、敵の後ろに回り込んだ響が赤く光る光剣で切り込んだ。
 一体目のトドメを出した彼女はすぐに身を翻し、二体目に目を向ける。同じく次の敵を見据えた瞬が更に六花の杖を迸らせた。
 爪が素早く振るわれる。
 しかし、瞬が発動させた破魔を併せた結界術が敵の攻撃の動きを縛った。そのまま衝撃波で船首像を吹き飛ばした瞬はオーラの防御を重ねて、奏と共に守りの体勢に入る。
 真紅の騎士団も応戦し、殆どの魔物を抑えていた。
「行きます!」
 奏は騎士達に感謝を覚えながら、自らも攻勢に出る。
 防御を固めても触腕の嫌な感触は変わらなかった。それゆえにそれをどうにかするのが良いと考えた彼女は、衝撃波を紡ぎあげていく。
 一気に力を解き放った奏に合わせ、響も怪力を駆使して敵を穿っていった。
 広範囲に広がる奏の魔力。それによって弱った敵を連続で攻撃し、串刺しにしていく響。二人に続き、杖を操って援護する瞬。
 三人の連携は見事に巡り、船首像の魔物は次々と倒れていく。
「纏めて貫いていくよ」
「はい、手加減はしません!」
「この先に平和を取り戻すためにも、やってしまいましょう」
 近くに残っているのは残り二体。
 呼び掛けた響が先陣を切って光剣を振り上げ、奏と瞬が魔力を重ねていく。対する相手も爪を振るったが、響は刃で弾き返した。
 そして――。
「この平和な島に呪いの存在は不要だ。せめて海に還りな」
 響が刃を振るった瞬間、奏の魔法と瞬の魔杖が残った敵に向かって放たれた。
 それぞれの一閃が敵を貫く。
「悲しい歌やその姿は哀れとは思いますが、ここは人が楽しむ美しい島です。呪いを齎す存在は退去願います!!」
「ここに貴方達の居場所はありません!! 骸の海にお還り願います!!」
 凛と響く声には強い意思が宿っていた。
 そうして、三人に襲いかかってきた船首像は倒れ伏す。
 まだ周囲に敵は残っているようだが、他の猟兵達が船首像を相手取っている。すべての敵が倒れるのも時間の問題だろう。
 魔物達が返り討ちにされていく様を確かめ、三人はしっかりと頷きあった。
 幽霊船は妖しく光っている。
 甲板に佇むちいさな人影が揺らめいた気がして、彼女達は気を引き締めた。
 間もなく、新たな戦いがはじまることを予感しながら――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒鵺・瑞樹
アドリブ連携OK
右手に胡、左手に黒鵺(本体)の二刀流

楽しい時間はあっという間に終わってしまうな。
またこの島にこれるように憂いは断っておかないと。

基本存在感を消し目立たない様に立ち回る。
可能な限りマヒ攻撃を乗せた暗殺のUC五月雨で攻撃し多数にダメージが行くように、およびマヒを飛ばす。マヒが通れば数が他猟兵の役に立つだろうし、数がいても何とかなるだろう。
近づいてきた個体には直接胡や本体で応戦。
敵の攻撃は第六感で感知、見切りで回避。回避しきれないものは本体で武器受けで受け流し、カウンターを叩き込む。
それでも喰らってしまうものはオーラ防御、激痛・呪詛耐性で耐える。



●屠りの二刀
 楽しい時間はあっという間に終わってしまう。
 目映い太陽の光も、透き通った青の世界も今は宵の色に沈んでいた。
 昼間の海辺で過ごした時間を思い、瑞樹は二刀を構える。普段通りに右手に胡、左手に黒鵺を携えた彼は浜辺に目を向けた。
「アァ、ア――」
 瑞樹の視線の先には呪われた船首像達が犇めいている。
 苦しげに呪詛を吐き出す彼女達は魔物化していた。ああなってしまったことは哀れなのだろうが、情けをかける理由はない。
「またこの島にこれるように憂いは断っておかないとな」
 瑞樹は彼女達を完全に屠ることを心に決め、薄闇に身を潜めていく。幸いにもまだ向こうは瑞樹の存在を察知していないようだ。
 既に岸辺では戦いが始まっていた。
 方々から呪いの歌が耳に届く中、瑞樹は力を紡ぐ。黒鵺を一気に複製した瑞樹は狙いを定め、呪われた船首像達に向けて解き放った。
 其処に乗せたのは麻痺の力。
 触腕を切り落とす勢いで迸った刃が次々と魔物達に突き刺さる。
 刃の軌跡は宛ら、五月雨の如く。
 多くの敵を巻き込んだ数多の一閃は着実に呪われた船首像を貫いていった。ひとつずつのダメージは軽くとも、仕込んだ麻痺が後から生きてくるだろう。
 そして、瑞樹は身を翻す。
 黒鵺を放ったことで何体かの魔物が此方に気付いたらしい。
「気付かれたか。ま、仕方ないよな」
 広範囲に攻撃を放った故、それも承知の上。
 初撃さえ上手く巡ればそれでよく、後は相応に立ち回っていくだけ。敵が自分に目掛けて爪を振るおうとしていることを察知した瑞樹は胡を振り上げた。
 鋭い爪と刃が衝突する。
 鈍い音を耳にしながら、瑞樹は素早く身を引いた。大振りの爪撃だったゆえに標的を失った敵の体勢が揺らぐ。
 その隙を狙った瑞樹は身体を回転させながら両手の二刀で敵の腕を切り刻んだ。
 地に落ちる触腕。それを見遣ることなく更に一閃。後方から巡らせた本体の写しで以て敵の背を貫き、別の個体へ。
 次の一体が振るった爪が瑞樹の身を引き裂く。
 されど瑞樹とてまともにくらう心算はなかった。身体をそらしたことで薄く傷が刻まれた程度に損傷を抑えた彼は反撃に移っていく。
「これで終わりかな」
 思いきり叩き込んだカウンターの一撃が呪われた船首像を切り刻んだ。
 それによって二体目の敵が倒れ、瑞樹は辺りを見渡した。
 魔物達はまだ残っている。戦う仲間達の援護に回ろうと決めた彼は更に五月雨の力を紡いでいき、出来る限り多くの船首像を巻き込めるように狙った。
 そうして戦いは続いていく。
 未だ遠く見えるだけの幽霊船上では、不思議な灯が揺らめき続けていた。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

フリル・インレアン
ふえぇ、幽霊船です。
幽霊船からいっぱい出てきました。
怖いです。
でも、ここならこのユーベルコードの真価を発揮すると思うんです。
ガジェットショータイムです。
ここの海ならガジェットさんのお魚さんが助けてくれると思います。
ふええ!?あの背びれはもしかして、サメさんですか。
怖いものには怖いものってことでしょうか?
でも、周りを回るだけでなにもしませんね。
ふえぇ、船首像さんが自分を傷つけて攻撃してきました。
あれ?サメさんが船首像さんを襲い始めました。
元が船首像でも体を得たということは体を傷つければ血を流し、サメさんはそれに反応したということでしょうか。



●サメVS船首像
 岸辺に流れ着いた船は妖しく、奇妙な光が揺らいでいた。
 フリルは移り変わる夜空の下で光るものを眺め、身体を震わせる。
「ふえぇ、幽霊船です」
 それだけではなく、船から浜辺に呪われた船首像達が這い出てきていた。ふぇ、と更なる声をあげたフリルは蠢く彼女達を見て縮みあがる。
「幽霊船からいっぱい出てきました。怖いです」
 その姿はまさに幽霊かつ魔物。
 うねる触腕に苦しげな歌声。呪われし者という名称がぴったりな相手だ。しかし、フリルだって怯えているだけではない。
 頭の上に乗っているアヒルさんも、やってしまえと言っているようだ。
「怖いですけれど……でも!」
 ここならユーベルコードの真価が発揮できると考えたフリルは片手を宙に掲げる。
 ――ガジェットショータイム。
「ここの海ならガジェットさんのお魚さんが助けてくれると思いま……ふえぇ?」
 この状況に友好な魔導機械を召喚したフリルはきょろきょろと辺りを見渡した。言葉が途中で止まってしまったのは、其処に現れたのが魚以上のものだったからだ。
「ふええ!? あの背びれはもしかして……」
 サメだ。
 想像していた可愛いお魚ガジェットではなく、フリル以上の大きさのサメガジェットだったことに驚きはした。しかし、これこそ呪われた船首像に対抗し得るものだ。
「怖いものには怖いものってことでしょうか?」
 サメガジェットは周りを回るだけで何もしない。果敢に牙を剥いて船首像に襲いかかっていくのだと思っていたが――。
 そのとき、フリルは異変を悟った。
「ふえぇ、船首像さんが自分を傷つけています!」
 おそらく敵は己の肉を削ぎ落とすことで呪いを増幅し、一気にフリルを貫くつもりらしい。フリルは危機を察してその場に蹲った。
「ふぇっ!? ……あれ?」
 だが、その前にサメガジェットが動き出す。
 瞬く間にサメが船首像を襲い始め、フリルに近付かせまいとしていた。きっと敵から血が出たことで反応したのだろう。
「頑張ってください、サメさん。ふぇ、でもまた血が……ふええぇ」
 齧り付くサメ。自らを掻き毟る魔物。
 少しばかりスプラッタな光景が繰り広げられる中、フリルはガジェットを応援した。
 そして、徐々に船首像は倒れていく。
 フリルを狙っていた敵が全て倒れたことでサメガジェットは満足気に戻っていった。船首像が消えたことに安堵したフリルは胸を押さえる。あまりにも迫力のある戦いだったのでドキドキしていた。
 そして、何となく見遣った幽霊船。
 其処にはまだ怖いものが待っていそうで、フリルの鼓動は更に早鐘を打っていく。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

ユヴェン・ポシェット
花や珊瑚に囲まれ、海の生き物達と綺麗な海で充分楽しんだ。
ならば、あとはやるべき事をやらないとな。 
しかし空が暗くなってくると、海は一変するものだな。
吸い込まれそうだ…この海にこの歌声。ある意味雰囲気があるとも言えるが、ずっと聴くにはあまり気分の良いものではないな。
歌…
憎しみ、苦しみ…。呪われた、とはいえ、それらの感情は何処からか生まれたものなのだろうか。

行くぞ、ミヌレ。
槍となったミヌレを手に、相手を貫く。連れて行かせはしないさ、コイツも俺も。
槍で攻撃を払い、受け止め、そして攻める。この、悲しみの歌を終わらせるために。
そして、この戦いが終わる時には、幸せを願う音色を奏でようか…



●葬送の先に幸せを
 色鮮やかな夏の花、淡い色彩の珊瑚。
 浮かびあがる泡沫や海の生き物達に囲まれ、美しい海を楽しんだ。
 そのことを思い出しながら、ユヴェンは宵空の下に広がる景色を見つめる。既に日は落ちており、辺りは薄闇に包まれていた。
「あとはやるべき事をやらないとな」
 ユヴェンは島の裏手に当たる岸辺に辿り着いている。昼間は煌めいていた海も今は静かに凪いでいた。漣の音は昼と同じだが、陽がないというだけで随分と印象が違う。
「しかし空が暗くなってくると、海は一変するものだな」
 宵空を映して揺らぐ波間。
 まるで吸い込まれそうな様相だと感じたユヴェンの耳に歌声が届きはじめた。
 ――みな、深き海へ沈め。
 全てを呪う歌が薄暗い浜辺に響き渡っていく。ユヴェンは身構えながら、幽霊船から這い出てきた魔物達を見遣った。
「……この海にこの歌声。ある意味雰囲気があるとも言えるが、ずっと聴くにはあまり気分の良いものではないな」
 ――憎め、叫べ、歌えや、歌え。
 歌は尚も続き、徐々に他の魔物達も声を合わせていく。
 憎しみ、苦しみ。
 ただそれだけを歌っていく者達は何処か哀しげだ。呪われたとはいえ、それらの感情は何処からか生まれたものなのだろうか。
 ユヴェンに彼女達の感情の根源を探ることは出来ない。
 ただああして呪いを歌うだけの存在に成り果てたのならば、葬ってやるのが道理。朽ち果てた船と共に沈むのが船首像の末路だったはず。
 その結末も悲しいが、こうして彷徨い続けるだけの今よりは真っ当な終わりだ。
「行くぞ、ミヌレ」
 ユヴェンが呼び掛けると同時に槍竜が元気よく鳴いた。
 槍となって手に収まったミヌレを握り締め、ユヴェンは地を蹴る。此方に気付き、迫ってきた船首像を見据えた彼は竜槍の切っ先を差し向けた。
 触腕を蠢かせた相手はユヴェンを絡め取ろうと狙う。だが、ユヴェンは近づいてきた腕を槍で切り払った。
「連れて行かせはしないさ、コイツも俺も」
 ミヌレもユヴェンと同じ意思を抱いているらしく、槍が自然と動く。
 切り落とされた触腕が地面に落ちた刹那、ユヴェンの一閃が船首像の胸を貫いた。それは一瞬のこと。引き抜くと同時に船首像の一体が倒れた。
 しかし敵の数は多い。
 ミヌレの槍を次の標的に向けたユヴェンは更に駆けていく。
 纏わりつく触腕は四方から迫ってきていたが、ユヴェンは冷静に対処した。槍で攻撃を払い、受け止め、そして――攻める。
「終わりだ」
 終幕の宣言を告げ、ユヴェンはひといきに魔物達を穿っていった。
 この、悲しみの歌を終わらせるために。
 そして、この戦いが本当に終焉を迎えた時には彼女達の幸せを願う音色を奏でよう。
 その為に槍を振るい続けるのだと決め、ユヴェンは果敢に立ち回ってゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

雨宮・いつき
小花衣さん(f25449)と

やって来ましたね…元は船旅の安全を願うための像だったのでしょうが、こうなってしまっては討つ他ありません
いきましょう、小花衣さん

取り囲まれては厄介です
冷撃符で氷の壁を沢山生み出して敵を分断、
雷撃符の雷で確実に撃破していきましょう
…とはいえ、あまりにも数が多い
壁を作っても歌声は聞こえますし、治療をされて長期戦になれば、疲労が溜まっているこちらが不利でしょう
ですが…

呪いの唄にも負けずに広がる、小花衣さんの歌
戦に不慣れな彼女がこうも頑張ってくれているんです、弱音を吐いていられません!
小花衣さんのおかげで体力が回復した隙に、管狐達を呼びだして一気に攻め立てます!


小花衣・亜衣
雨宮・いつき(f04568)さんと

素敵な夕暮れが不気味に…つ、ついに戦いが…
ぎゅっと身体が強張っちゃう
でも雨宮さんの声と存在が力をくれました!
頑張ります!

わわ!雨宮さんの氷とか雷とかスゴイ!
でも敵の数も多い…この暗い唄も気持ちを沈ませる
暗い唄と想い…私に晴らせるかな…
いや、晴らすんだ!

目を閉じてゆっくり想いを紡ごう
暗い雨雲を溶かす青空
荒波を鎮める穏やかな母なる海を
辛い痛みを撫でてあげる、暖かい子守歌を
優しい日々を思い出して、痛みを空に還しましょう
一人じゃない、想いを繋いで、暗い気持ちも痛みも消せる

癒しの想いを紡いで解放…響かせ奏でる…優しい詩
天に、海に、皆に、あまねく癒しを【エクセフィリア】



●痛みを空へ
 普段の夕暮れは穏やかだというのに、今宵の空気はざわついている。
 その理由は島の裏手にある岸辺に幽霊船が辿り着いたから。船から這い出てきた者達はどれもがおどろおどろしく、悍ましい声をあげていた。
 彼女達が謡う歌は奇妙で恐ろしい。
「素敵な夕暮れが不気味に……つ、ついに戦いが……」
 亜衣の声は震えている。それを自覚すると同時にぎゅっと身体が強張ってしまった。
 いつきは亜衣を庇う形で一歩前に出て、呪われた船首像達を見据える。
「やって来ましたね……」
 元は船旅の安全を願うための像だったのだろうが、今の彼女達は魔物化している。こうなってしまっては討つ他はない。
 そう語ったいつきが近付いてくる敵と距離を計っている様を見つめ、亜衣は不安げな表情を見せる。
「本当に戦うのですね……」
「大丈夫です。いきましょう、小花衣さん」
 しかし、いつきは穏やかに笑ってみせてくれた。ひとりではない。そう伝えてくれた気がして、亜衣は掌を強く握り締めた。
 恐れてばかりではいけない。そのことを教えて貰えた。
「頑張ります!」
 亜衣は彼の声と存在を頼もしく思い、勇気を振り絞る。そっと頷いたいつきは敵を見渡した。敵の数は多く、取り囲まれてしまっては大変だ。
 冷撃符を取り出し、構えたいつきはまず自分達の領域を作っていくことにした。
「壁を作ります。小花衣さん、気を付けてください」
「は、はいっ」
 いつきの呼び掛けに亜衣が答えた瞬間、符の力が発動して氷壁を形作っていく。敵を分断しながら次に取り出したのは雷撃符。
 敵の触腕が届く前に解き放たれた雷撃が周囲に巡っていった。
「わわ! 氷も雷もスゴイ!」
 亜衣はいつきの力に驚きつつも更なる頼もしさを覚える。だが、雷撃を受けた魔物達はそれぞれに歌を響かせはじめた。
 ――皆、沈め。我らのように、苦しみを味わえ。
 呪われた舟唄には恨みが籠もっている。方々から歌われる声を聞き、亜衣はふたたび震えそうになってしまう。
 敵の数も多く、この暗い唄も気持ちを沈ませる。
(暗い唄と想い……私に晴らせるかな……)
 つい不安な気持ちが浮かんだが、亜衣は首を左右に振った。今だっていつきが氷壁を張り巡らせ、雷撃で敵をいなしている。
「……いや、晴らすんだ!」
 雨宮さんの為にも、と意気込んだ亜衣は決意を言葉にする。
 周囲はいつきが氷壁で守ってくれていた。それならば自分は目を閉じて、ゆっくりと想いを紡いでいける。
 息を吸い、唇をひらいた亜衣はそっと歌を謳いはじめた。

 暗い雨雲を溶かす青空。
 荒波を鎮める穏やかな母なる海を。
 辛い痛みを撫でてあげる、暖かい子守歌を。

 いくら壁を作っても敵の歌声は聞こえた。治療をされて長期戦になれば、疲労が溜まっているこちらが不利になるといつきは感じていた。
 しかし、いつきは耳に届きはじめた亜衣の歌を聞いて思い直す。
 呪いの唄にも負けずに広がる彼女の声はやさしい。きっと今も戦いの恐怖と戦っているのだろう。しかし、懸命に響かせる歌は心を静める声となっていく。
 そして亜衣は更に謡う。

 優しい日々を思い出して、痛みを空に還しましょう。
 一人じゃない、想いを繋いで、暗い気持ちも痛みも消せる。

 戦いに不慣れな彼女がこうも頑張ってくれているのだ。いつきは心を奮い立たせ、癒やしの歌から得た感情を力に変える。
「そうですね、弱音なんて吐いていられません!」
 船首像達も絶えず呪いの歌を紡いでいるが、此方だって負けてはいない。
 体力が回復した隙にいつきが呼び出したのは管狐達。
「御勤めの時間です。さあ皆さん、出ませい出ませい!!」
 呼び出した御狐戦隊が敵に向かっていく。咥えた小刀と狐火で以て魔物を穿っていく彼らに力を与え、いつきは一気に攻め立てていった。
 瞼をひらいた亜衣はその姿を瞳に映し、次々と船首像が倒れていく様を見守る。
 癒しの想いを紡いで、解き放つのは祈りと願い。
 響かせ奏でる、優しい詩は魔物と化した者達を葬送するためのものでもあった。
「天に、海に、皆に、あまねく癒しを」
 今はひとりではないから。
 いつきと亜衣は真っ直ぐに標的を見つめ、哀しき存在を葬っていく。
 共にこの戦場を切り抜け、次に進む為に――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

兎乃・零時
アドリブ歓迎!
あーや(f12718)と!

元の姿(設定資料スタイル!)に着替え済み!
闘うならやっぱこの姿だろ!

…ってかやっべぇのいる…
(怖っ)
…ったりまえだろ!当然放っておかねぇさ!
やってやろうぜ、あーや!

パル!

UC使用

すごく痛いが知った事!
友達にケガさせるよりマシ!
無理もしねぇさ!
…触んの!?



全身に魔術で光属性を付与
ダッシュで接近
痛みは気合い×激痛耐性で我慢!

宝石兎な手足で光「属性攻撃×踏みつけ】全力殴り!
その際
「極光の古文書」から出した魔法陣を手足につけ連打と共にくっつけ!
詠唱完了後
魔法陣に魔力注いで起動!

【零距離射撃×一斉発射×全力魔法】

連・光線《レピート・レイ》!

零距離で沢山ぶつける!


小澄・彩
アドリブ歓迎!
れーくん(f00283)と!

BUのフィルムスーツ姿をベースにUCを使って重装備!

でもでもほおっておけないし、ほおっておくつもりもない。でしょ?れーくん!
――うんうん、それこそれーくん! いっちょやったろ!

れ、れーくん痛そうだけど大丈夫?(驚きながらさわさわ)
……無理しちゃ、駄目だからね。あと後で触らせて!

それじゃあ先鋒いくよ!
UCで高速で飛び回りながらの空中戦!「ディア」の継戦能力を生かしてれーくんの援護に回るよ!銃撃、ミサイル、誘導レーザー。大盤振る舞いだ!

れーくんが攻撃しやすいようにまとめたり、逆に溜で隙が出来そうになったら撃ち払ったり。

れーくんの暴れまわる環境は僕が作る!



●閃光の軌跡
 水着から普段着へ――もとい、戦闘用の服に着替えて準備は万端。
 零時と彩は夕暮れから宵に移り変わる岸辺を見つめ、気を引き締める。
「闘うならやっぱこの姿だろ!」
「こっちも準備完了!」
 二人は身構え、島の裏手に流れ着いた幽霊船に意識を向けた。其処から這いずり出てきた呪われた船首像は悍ましい姿をしている。
「……ってかやっべぇのいる」
 怖っ、と素直な感想を落とした零時は思わず後退ってしまった。
 本当に怖いね、と返した彩は彼の少年らしい反応にちいさく笑む。彩とて恐ろしくないわけではないが、彼と一緒だと思うと勇気が満ちた。
「でもでもほおっておけないし、ほおっておくつもりもない。でしょ? れーくん!」
「……ったりまえだろ! 当然放っておかねぇさ!」
 彩の呼びかけを聞き、零時はぐっと拳を握り締める。敵は呪いの歌を紡ぎ始めているが、それはきっと悲しみから成るものだ。
 哀れな存在と成り果てたものを屠り、葬る。
 そう思えば怖さなど吹き飛ぶ。何よりも零時としては友人の前で怖気付く姿は見せられないし、見せたくはない。
「やってやろうぜ、あーや!」
「――うんうん、それでこそれーくん! いっちょやったろ!」
 彩は重武装と大型ブースターを纏い、装甲の具合を確かめた。そして、零時と共に敵を捉えられる範囲に向かっていく。
 呪われた船首像達も此方に気が付いたらしく触腕を蠢かせた。
 それに対抗するべく、零時は傍の紙兎を呼ぶ。
「パル!」
 貰った薬を飲んだ零時は宝石兎獣人に変身していった。身体に宝石兎の手足や耳、尻尾が生えていく。その際の痛みが少年の表情を歪ませる。
 はっとした彩は駆け寄り、彼の身体に触れた。
「れ、れーくん痛そうだけど大丈夫?」
「すごく痛いが知った事! 友達にケガさせるよりマシ!」
 大丈夫だと強がる少年はふるふると兎耳を震わせる。この痛みこそが己の力を高めてくれる。それに今しがた言葉にした通り、こんな痛みなど誰かが傷付く心の痛みと比べれば何でもないものだ。
「……無理しちゃ、駄目だからね。あと後で触らせて!」
「無理もしねぇさ! え……触んの!?」
「約束だよ!」
 どさくさに紛れて約束を取り付けた彩は意気込む。既に魔物達は目の前にまで迫ってきているゆえに気は抜けなかった。
「それじゃあ先鋒いくよ!」
 ――システム戦闘モードを起動。ジェネレータ出力上昇、各武装アクティブ。オールクリーン。戦闘行動を開始――。
 一気に飛び立った彩は上空に舞い、見える範囲の全ての敵に銃弾を降らせていく。
 対する船首像も触腕を伸ばして彩を捕らえようとするが、高速で飛び回る彼女を捉えることすら至難の技だ。
 零時は彩が敵を引きつけてくれていると察し、自分も攻勢に出ることを決めた。
 全身に魔術による光を纏い、一気に駆ける。
 まだ身体に巡っている痛みは気合いで抑え込み、我慢しながら疾く駆け続ける零時は確りと敵を瞳に捉える。
 兎の手足で大きく地を蹴って、同時に光を放つ。
 彩が飛び回る上空まで跳んだ彼は落下の勢いに乗せ、船首像を一気に踏みつけた。ぎゃ、と悲鳴が上がってもお構いなしにそのまま宙で回転した零時は前足を振り被る。其処から全力の殴打を見舞えば、一体目の敵がその場に倒れた。
「れーくん、良い感じ!」
「あーやも無理しすぎるなよ!!」
 彩からの声に応え、零時は地上から上空を見上げる。
 彼女は自分の役目を確りと心得ている。零時が攻撃しやすいよう敵を纏め、逆に隙が出来そうになれば撃ち払うことだ。
「れーくんの暴れまわる環境は僕が作る!」
「頼んだ!」
 零時は彩に頼もしさを覚え、次の行動に入っていく。
 極光の古文書から出した魔法陣を手足につけ、連打と共にくっつける。其処から詠唱を始めた零時は魔力を注いでいった。
 起動。そして、魔物に接敵すると同時に発動させる。
 ――連・光線《レピート・レイ》!
 零距離から放たれた一斉射撃が魔物を一気に貫き、目映い光で辺りを照らしながら迸っていく。彩は地上から昇る光に目を細め、次々と敵が屠られていく様子を見下ろした。
 しかし、まだ戦いは終わっていない。
「いくよ! 銃撃、ミサイル、誘導レーザー。大盤振る舞いだ!」
「まだまだやるぜ、あーや!」
 彩が鹿角の武装マウントユニットを操って戦場を翔けていく姿を見上げ、零時も更なる魔力を魔方陣に込め始める。
 光が満ち、銃弾やミサイル、レーザーが戦場に舞った。
 その軌跡はきっと、この場に存在する敵がすべて倒れるまで続いていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
🐟櫻沫

おばけいそう……んん!怖くないぞ!
歌―背筋がゾッとするような
この歌は、いけないな
ヨル、じっとしててね
カナン、フララ……大丈夫だよ
水の中は僕の舞台でもある
聴かせてあげる、僕の歌を!

櫻が戦いやすいよう、舞台を整える事もできるけど
君が水と共にと言うならば尊重しよう
僕の櫻に鼓舞を、這い寄る呪詛には破魔をこめ
歌う『蜜の歌』
歌をうたで塗り替えてあげる
さぁ、櫻に斬られにおいで
龍の領域に
彼の神罰が、しかと彼等に下るよう
逃がさぬよう
捉えて、離さない

傷つけさせはさせないよと水泡のオーラで櫻と、そしてヨル達も守る
皆で水の中にいられること
僕はとっても嬉しいんだ
水は、僕の住処だから
団欒の時を、邪魔なんてさせない


誘名・櫻宵
🌸櫻沫

ここが幽霊船ね…呪いに満ちた歌が聴こえるわ
リル、大丈夫?怖くないかしら?
うふふ、その意気よ!
あなたの歌を、本当の歌を聴かせてあげなさい

誘はヨル達といてね
……ちゃんと戦えるってことを示さなきゃ
全盛のあなたには劣るのかもしれないけれど
私は、師匠(あなたの親友)の弟子なんだから

うふふ
水の舞台かしら?響く歌声に淡く笑む
…大丈夫、私はやれる
怖くなんてないわ
リルも、皆もいる―今の私は水と共に咲く桜龍
やっぱりリルの歌が一番よね
刀に破魔宿らせて
いのちを桜と変え咲かせる神罰と共になぎ払う
複数に傷を負わせて『艷華』を放つ
全て蹂躙し春を咲かせるように
逃がさない
綺麗に喰ろうてあげる

夏と春の共演のようでしょう?



●海と歌
 寄せては返す波の音。
 音自体は昼間と同じだが、空が夜の色に移り変わる今は不思議と違って聞こえる。それは此処に不思議な幽霊船が流れ着いているからかもしれない。
「あれが幽霊船ね……。呪いに満ちた歌が聴こえるわ」
「おばけいそう……」
 波の音に混じって聞こえはじめた歌を聞き、リルは震えそうになる身体を押さえた。呪いに満ちた声は背筋がゾッとする。
「リル、大丈夫? 怖くないかしら?」
「んん! 怖くないぞ! でもこの歌は、いけないな」
「うふふ、その意気よ!」
 怖さをぐっと堪えたリルを見守り、微笑んだ櫻宵はリルの傍に立つ。幽霊船から這い出てきたものたちは触腕を蠢かせていた。
 リルはヨル達に下がっていて欲しいと告げ、岸辺の陰に向かわせる。
「ヨル、じっとしててね。カナン、フララ……大丈夫だよ」
「誘はヨル達といてね」
 櫻宵も桜わらしに願い、かれらに背を向けて歩き出した。
 ――ちゃんと戦えるってことを示さなきゃ。
 抱いた思いは胸に秘め、櫻宵はリルと共に岸辺に向かった。きっと全盛期の彼には劣るのかもしれない。それでも、と思う確かなこともある。
(私は、師匠――あなたの親友の弟子なんだから)
 受け継いだのはひとつではない。この身以外にも、この刀を振るう力を授けて貰った。今こそ其れを見せるとき。
「櫻、来たよ!」
「ええ、迎え撃ちましょう。あなたの歌を、本当の歌を聴かせてあげなさい」
 リルが呪われた船首像達の接近を知らせると、櫻宵は屠桜を鞘から抜いた。刃を差し向けた先には歌う魔物達が恨みの籠もった瞳で此方を睨め付けている。
 櫻宵に頷いたリルは胸元に手を当てた。
 そして、響き続ける船首像の歌に対抗するべく呼吸を整える。
「聴かせてあげる、僕の歌を!」
「うふふ、水の舞台かしら?」
 櫻宵が戦いやすいように舞台を整えることもできるけど、彼が水と共にと言うならば尊重したかった。
 櫻宵は淡く笑む。しかし、その胸の裡には拭いきれない僅かな不安が残っていた。
(……私はやれる。怖くなんてないわ)
 己を鼓舞すると同時にリルが紡ぐ蜜の歌も響きはじめる。それは何度も聴いてきた歌。継がれた歌はいつだって櫻宵の背を支えてくれた。こうしてリルも、皆もいる。
「やっぱりリルの歌が一番よね」
 大丈夫。――今の私は水と共に咲く桜龍。
 自分に言い聞かせ、地を蹴った櫻宵は呪いの声を打ち破らんとして駆けた。
 リルも自分だけの櫻に想いを向け、這い寄る呪詛には破魔を込めて解き放ってゆく。彼女達が歌い続けるなら此方だって謳い返すだけ。
 歌をうたで塗り替えて、とかしてあげる。櫻宵が刃を振り上げる姿を瞳に映し続け、リルは歌う。すると辺りは水底めいた雰囲気に包まれていった。
 享楽蕩けて夢の中。
 囚われ揺蕩う現の海に 堕ちる阿密哩多。
 愛慕に誘い 惑い果てても離しはしない。
 蠱惑的に甘く蕩ける歌声は魔物達の耳に届き、意識を惑わせてゆく。
「さぁ、櫻に斬られにおいで」
 龍の領域に。
 彼の神罰が、しかと彼等に下るように。決して逃がさぬように。人魚は彷徨うもの達を捉えて離さない。
 櫻宵は迫りくる触腕を一閃で切り落とし、敵が振るう爪を刃で受け止めた。
 刀には破魔の力を宿らせて、更に薙ぐ。そうすれば斬った魔物の部位から桜の花がはらはらと散った。
 いのちを桜と変えて、咲かせるそれこそが神罰。
 櫻宵は歌と共に舞うが如く優雅に歩を進め、振るう刃で華を咲かせていく。
 その後方から一体の船首像が爪を伸ばした。しかし、櫻宵を見つめ続けていたリルがその腕を届かせるはずがない。
「傷つけさせはさせないよ」
 リルは水泡の防御膜で以て櫻宵を守った。そして、ふと岸辺に咲く桜花が波間に揺蕩う様を見遣る。皆で水の中にいられること。こうして櫻宵が水を受け入れてくれたこと。それがとても嬉しかった。
「水は、僕の住処だから。団欒の時を、邪魔なんてさせない」
 宣言したリルは更に歌を紡ぎ、宵空の下に魔性の歌声を響かせ続ける。
 櫻宵も全て蹂躙して春を咲かせるように立ち回り、敵を葬っていった。苦しげで憎しみに満ちた歌声はひとつ、またひとつと減っていく。
「逃がさないわ。綺麗に喰ろうてあげる」
 この光景はまるで夏と春の共演のよう。美しいでしょう、と問いかけた櫻宵は最後の一体に刃を向けた。
 そして、リルの歌が最高潮に達した瞬間。
 魔物の胴体が真二つに切り落とされ、龍呪が巡り――其処から艷めく桜花が咲いた。
 歌と華の共演は其処で終幕を迎える。
 其処から先に続くのは、夢の境を魅せるものとの舞台だ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
【綾十路】

導きの女神像も
船から堕ちれば
黄泉醜女になってしまうの

彼方の海へ辿り着けたなら
泣いて過ごすこともなかったかもしれないのに

狡いですねぇ
やはり少し、憐れに感じます

ロカジさんへ微笑んで告げる
だって
斯様に痛々しい呪いの歌でも
寄り添えば微かに癒しを覚えるから

篠笛で奏でるのは葬送の調べ
歌声に合わせた音色は低く寂しく
やがて
軽やかな曲調に変えて昇華へと導く
十雉さんから分けられた力で
より明朗な彩りに

唇寄せた笛が、ふわり解け
数多の青い花弁になっても
ひろい海原を臨むような遥かなる旋律を
彼女達の耳に遺すと良い

仕留めは、どうぞひと思いに
色男殿に、お任せしましょう

今度こそ航路を違えず
骸海の岸辺へ辿り着けますように


宵雛花・十雉
【綾十路】

別嬪さんっていやぁ別嬪さんだけどさぁ
ちょっと…いやだいぶ血色悪すぎだぜ

哀しい歌なんざ御免だね
楽しい歌なら一緒に歌ってやってもいいよ

案外ドライじゃんロカジ
さっきかわいそうって言ってたのになぁ
なんて軽口を叩いて
…ま、狡いってのにはオレも同意だよ

ビャッとしたとこをガッといくんだな、りょーかい
ならオレはUCで2人の力を引き出してやるよ
パワーアップってやつ?
オレの分も張り切って殴ってきてくれ

綾の笛の音に思わず聴き惚れちまいそうになるよ
さっきまであんなに哀しそうだった歌声も
不思議と美しいものに聴こえた

2人をサポートするようにオレも薙刀で戦うよ

そろそろおねんねしな
海の底でもどこでも好きな場所でさ


ロカジ・ミナイ
【綾十路】

わっ
別嬪さんが仰山いると思ったのに!

かわいそうにね、座礁した船は放置されるもんだけど
見なよ、寂しくって泣いてらぁ

同情なんてケチなもの抱えてないよ
だって僕と船はこれっぽっちも関係ないし
こんな歌聞かされちゃ呪われ損じゃないか

女の姿形で涙なんか流してさ
狡いや

さてさてどうするよ、色男たち
そうね、僕は
十雉に強さをもらって
まとめてビャッとしてもらって
綾の笛の音に感動して膝をついたところを
ガッとひと思いにやる係をしようかな
いっとう好みの子から始まるか、
いっとう好みの子を最後までとっておくことになるか
どっちにしたってやる事は同じよ

バイバイおやすみ
最期に逢ったのが色男らで良かったね
帰ってこなくていいよ



●哀し舟歌
 嘗ては導きの女神像だったもの。
 航路を見守る存在も、船から堕ちれば黄泉醜女になってしまう。
「彼方の海へ辿り着けたなら、泣いて過ごすこともなかったかもしれないのに――」
 浜辺に流れ着いた幽霊船。
 其処から這い出てきた呪われし者達を見遣った綾は、続けて十雉とロカジに目を向ける。彼からの視線に気が付いた十雉は肩を竦めてみせた。
 本当に、と視線を返した彼の隣ではロカジが明らかに残念そうな声をあげた。
「別嬪さんが仰山いると思ったのに!」
「確かに別嬪さんっていやぁ別嬪さんだけどさぁ。ちょっと、いやだいぶ血色悪すぎだぜ。彼女ら、かなり怒ってるみたいだしさ」
 憤りに哀しみ、苦しみと怨嗟。
 そういったものを歌にして紡ぎあげる船首像達は魔物化している。
「かわいそうにね、座礁した船は放置されるもんだけど、あれは……。見なよ、寂しくって泣いてらぁ」
「寂しさだけから来る歌なのでしょうか」
 顎で彼女達を示したロカジに対して綾は軽く首を傾げた。
 どうなのかね、と呟いた十雉は船首像達が迫ってくる様を見つめ、警戒を強める。
「何にしても哀しい歌なんざ御免だね」
 楽しい歌なら一緒に歌ってやってもいいよ、なんて軽口を叩いた十雉は身構えた。綾とロカジも其々に構え、敵を迎え撃つ姿勢を取る。
 ――さあ……おいで……苦しみの世界へ。
 誘うように歌う魔物達は下半身を蠢かせて這って来た。ロカジは彼女達へと冷ややかな視線を向け、頭を振る。
「なんだい、同情なんてケチなもの抱えてないよ」
「案外ドライじゃんロカジ。さっきかわいそうって言ってたのになぁ」
「だって僕とあの幽霊船はこれっぽっちも関係ないし、その上でこんな歌聞かされちゃ呪われ損じゃないか。それに女の姿形で涙なんか流してさ、狡いや」
 十雉の言葉を受け、ロカジは思ったままの言葉を落とす。
 すると綾も同意を示した。
「狡いですねぇ。けれどやはり少し、憐れに感じます」
「……ま、狡いってのにはオレも同意だよ。綾は可哀相に思うの?」
 十雉が問えば、綾は微笑んで告げる。
「だって、斯様に痛々しい呪いの歌でも寄り添えば――」
 ほら、と綾は歌に耳を澄ませる。微かにだが彼の身に癒しの力が巡っていた。なるほどね、と答えたロカジは綾の共感力の高さに感心する。
 そして、いよいよ交戦出来るところまで船首像達が迫ってきていた。
「さてさてどうするよ、色男たち」
「私は彼女達の歌にこの音色を」
 ロカジが投げかけた声に対し、綾は篠笛を胸の前に掲げてみせる。良いんじゃないかと十雉が頷くと、少し考えたロカジが口をひらいた。
「そうね、僕は十雉に強さをもらってまとめてビャッとしてもらって、綾の笛の音に感動して膝をついたところをガッとひと思いにやる係をしようかな」
 随分と感覚的な作戦だ。
 十雉は笑い出しそうになりながらも頷く。
「ビャッとしたとこをガッといくんだな、りょーかい」
 つまりは十雉が後方支援で綾が陽動兼攻撃役、ロカジがトドメという連携方法だ。頑張れよ、と鼓舞の言葉を紡いだ十雉は己の力を巡らせていく。
「ほらよ、パワーアップってやつ? オレの分も張り切って殴ってきてくれ」
 兵ノ言霊によってロカジ達に力が与えられた。
 首肯した綾は目を閉じ、篠笛を奏ではじめる。確かな音となって敵の歌声に合わさったのは葬送の調べ。
 その音色は最初こそ低く寂しい流れだったが、やがて軽やかな曲調になっていく。
 彼女達を昇華へと導く為に。十雉から分けられた力で、笛の音色はより明朗な彩りで飾られていくかのようだ。
 唇を寄せた笛が、ふわりと解けて数多の青い花弁になっても旋律は止まらない。
 ひろい海原を臨むような遥かなる響きが、彼女達の耳に遺すと良い。
 そう願われた音を聴き、十雉は双眸を細めた。綾の笛の音は思わず聴き惚れてしまいそうなほどに美しい。
 先程まであんなに哀しそうだった歌声も、どうしてか今は不思議と穏やかだ。
 そう感じるほどに演奏は心地好い。
「さてさて、どうしようかな」
 ロカジは綾が舞わせた音と花の流れを読み、魔物達を見渡した。
 いっとう好みの子から始まるか、それともいっとう好みの子を最後までとっておくことにするのか。何やら考えを巡らせているらしいロカジを横目で見遣り、十雉も竜胆の名を冠する薙刀を構えた。
「何だ、目移りしてんのか」
「まぁね。ま、どっちにしたってやる事は同じよ」
 互いに軽口を交わしあった二人は一気に攻め込む。窈窕たる妖刀を抜いたロカジが手前の船首像を斬り、続いた十雉が援護に入った。
 綾は青の花弁を周囲に散らし続け、此方に襲い来る者達を牽制する。
 振るわれる爪がロカジの右腕をかすって血が散った。されど彼は怯まず、蠢く触腕を斬り裂き返す。
 花は散り、穏やかに舞う。
 気高き剣閃が夜を裂き、喉元に振るわれた薙刀の一撃が呪われし歌を止めた。
 やがて船首像達は次々と倒れ、残るは一体のみとなる。
 綾は身を引き、残された魔物を見つめる。
「仕留めは、どうぞひと思いに。色男殿に、お任せしましょう」
 綾が示したのはロカジだ。
 十雉も彼に最後を託すべく薙刀で触腕を斬り伏せ、道をあけた。身を翻す際に十雉は彼女らへ己の思いを向ける。
「そろそろおねんねしな。海の底でもどこでも好きな場所でさ」
 そして――。
 ロカジが一気に踏み込み、歌を紡ごうとしていた船首像に肉薄した。その瞬間、喉元に刃が深々と突き刺さった。
「バイバイおやすみ。最期に逢ったのが色男らで良かったね」
 帰ってこなくていいよ。
 いちばん好みだった女の耳元で囁いたロカジは刃を引いた。返り血が彼の頬に飛び散ったと思った刹那、魔物に成り果てたものはその場に崩れ落ちる。
 そうして船首像達は消えていった。
 ロカジは刀を鞘に収め、十雉も薙刀を下ろす。綾は二人の頼もしさを誇らしく思いながら、もう一度篠笛を奏でていく。
 曲に込める思いはひとつ。
 
 今度こそ航路を違えず、骸海の岸辺へ辿り着けますように――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朧・ユェー
【月光】

おや?船でしょうか?
綺麗とは言えませんが昔は素敵だったのでしょうねぇ
ルーシーちゃん危ないので近づいては駄目ですよ?
何か有りそうだとそっと彼女を片手で抱きかかえ
不安そうな君の顔を覗き込む
大丈夫、傍にいるから君を護るから安心して
と優しく微笑む

船首像?
その様な姿になってまで
いったい何があったのでしょうか

そして哀しい歌ですね

例え君達に何かあったとしても
彼女との大切な想い出の場所
きっと沢山の人達がこれからも大切な場所へとなるでしょう
それを穢す事は
そして僕の大事な彼女を捕らえさせは許しません
指一本も触れさせない

暴食のグールを屍鬼へと変化させ

さてお喰べなさい
哀しみの歌をを消す様に
ゆっくりお休み


ルーシー・ブルーベル
【月光】

ひ。

のどの奥であがる声をぐっと抑えて
しがみつく手に力が入る
……大丈夫よ、パパがいるもの

たそがれ時は境があいまい
何が出て来てもおかしくはないけれど
船の先にいる女の人は船を守ってくれるものだって聞いたわ
それがこうなってしまうなんて、一体なにが

海は前までこわい所かもって思っていた
けれど、今はちがうの
パパとの思い出がある場所で、
お友だちにとって大事な場所でもあるわ

だから苦しい、暗い色だけに染めてしまおうという
あなたの歌には頷けない

海のような青い花をみせてあげる
おいで
こちらに伸ばす腕を切り払ってしまって
特にパパに触れるものは、絶対にだめよ

きっと海があなたの哀しみを包んでくれるわ
おやすみなさい



●記憶の海に餞を
「おや? 船でしょうか?」
 島の裏手の浜辺にて、ユェーは薄ぼんやりと揺れる灯を見た。
 波の音が静かに響く中、漂着した幽霊船は静かに止まっている。辺りを包む夕闇は徐々に色濃い夜の色に変わっていくだろう。
「綺麗とは言えませんが昔は素敵だったのでしょうねぇ」
 ユェーは遠目に見える船を眺め、感じたままの思いを言葉にした。その最中で蠢き始めた不穏な気配を感じ取り、ルーシーは思わず声を上げそうになる。
 ひ、と喉の奥であがる声をぐっと抑えたルーシーはユェーの服の裾を握った。
「ルーシーちゃん、危ないのでまだ近付いて駄目ですよ?」
 その恐怖を察したユェーは、しがみついてくる少女の背に掌を添える。ルーシーは首を振り、こわくない、こわくない、と何度か口の中で繰り返した。
「……大丈夫よ、パパがいるもの」
「本当に?」
 ユェーはそのまま片手で彼女を抱き、不安そうな顔を覗き込む。
 そして、更に言葉を続けた。
「傍にいるから。君を護るから、安心して」
「……うん」
 優しく微笑むユェーに頷きを返したルーシーは改めて景色を見渡す。
 たそがれ時は境があいまいで、何が出て来てもおかしくはない。けれども、船から這い出てきたもの達は明らかに異様だ。
「船首像? あの様な姿になってまで、いったい何があったのでしょうか」
「船の先にいる女の人は船を守ってくれるものだって聞いたわ」
 二人は浜辺に蠢く魔物をしっかりと見据える。彼女達に、或いは船に何が起こって、ああなったのかは窺い知れない。
 ただ分かるのは、船首像達が哀しき歌声を響かせているということだけ。
 ――みな、深き海へ沈め。
 ――憎め、叫べ、苦しみの世界へ。
「哀しい歌ですね」
「あんな歌、ずっと歌っているのはつらそうだわ」
 ユェーが身構え、ルーシーも戦いが始まると察する。いつでも力を揮える用意をしながら二人は敵を迎撃する構えを取った。
 呪いの舟歌に混じって波の音が聞こえてくる。
 ルーシーは以前まで、海はこわいところかもしれないと思っていた。けれど、今はちがうと言い切れる。
「この海は、パパとの思い出がある場所。お友だちにとって大事な場所でもあるわ」
 だから呪いとコンキスタドールになど穢させはしない。
 少女の決意を聴き、ユェーも首肯する。
「例え君達に何かがあったとしても、同情は出来ません」
 此処は彼女との大切な想い出の場所。それにきっとこれから、沢山の人達にとっても大切な場所になっていくはず。
 夏の海での記憶はきらきらと煌めいていた。
 自分達だけではなく、この島に住むひとびとや、此処で過ごした皆の為にも。ユェーは流れる紅血の雫を代償にして、暴食のグールを屍鬼へと変化させていく。
「僕の大事な彼女を捕らえることは許しません」
 指一本も触れさせない。
 ユェーが宣言すると、黒き鬼が船首像達に襲いかかっていった。まとわりつく触腕を斬り裂く鬼の姿を見つめ、ルーシーも力を解放していく。
「苦しいのも、痛いのもいやね。でもね、暗い色だけに染めてしまおうというあなたの歌には頷けないの」
 自分を守ってくれるユェーの役に立ちたいと願い、少女は妖精花を咲かせていく。
 それに彼女達が血の赤や苦痛の黒しか見えていないのなら、別の色を与えよう。
「海のような青い花をみせてあげる」
 おいで、と手を伸ばせば其処から釣鐘水仙の花弁が舞った。
 それは海で見た透き通った泡沫のように淡く揺らぎ、美しい軌跡を描きながら飛翔する。花は此方に伸ばされる腕を切り払い、鋭利に迸った。
「特にパパに触れるものは、絶対にだめよ」
 彼が自分への敵を阻んでくれるならば、自分は彼に迫る敵を屠るだけ。守られてばかりではないのだと示すようにルーシーは花を散らせ続けた。
「お喰べなさい。哀しみの歌を消すように――」
 ユェーも屍鬼に願い、魔物達を喰らわせてゆく。狂気と暴食の鬼は花に切り刻まれた敵を狙い、瞬く間にそれらを喰らい尽くしていった。
「あ、アァ……」
 苦しげな声をあげた船首像を見下ろし、ユェーは別れの言葉を落とす。
「ゆっくりお休み」
 砂浜に倒れ、底に沈んでいくかの如く消える魔物達。彼女らを見下ろしたルーシーもそっと、葬送の思いを送った。
「きっと海があなたの哀しみを包んでくれるわ」
 ――おやすみなさい。
 手向けの言葉は静かに、安らかな眠りを願って紡がれた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ノエル・フィッシャー(サポート)
『例え全ては救えずとも、誰一人として見捨てはしない』

・経験値が欲しいから、雑な扱いでもいいので採用してくれると嬉しいな。
・グリードオーシャンまでの全技能を4~5保有してるから、何かいい感じのがあればそれを使うよ。
・ユーベルコードは所持してるものからいい感じのを使うよ。
・他の猟兵との絡みも歓迎だよ。共闘するのなら、ボクは補助に回して構わないよ。彼が技能を使用するのなら、ボクも同じ技能でサポートするよ。
・もし男なのか女なのか問われたら「見ての通り」と答えるよ。モニターの前のキミもね。
・他の猟兵に迷惑をかける行為、公序良俗に反する行動はしないよ。

あとはお任せ。好きに使ってね。



●守るべきもの
 浜辺から規則的な波の音が聞こえ、ノエル・フィッシャー(呪いの名は『王子様』・f19578)は前方を見据えた。
「なるほどね」
 ノエルが耳を澄ませたのは細波の音ではない。
 聴いていたのは岸辺に流れ着いた幽霊船から這い出てきた魔物の声だ。かつては船首像だったらしいそれらは呪われた舟唄を口にしていた。
「みな、深き海へ……沈め……」
「憎め、叫べ、歌えや、歌え……」
「さあ……おいで……苦しみの世界へ」
 そういった内容の歌声はおどろおどろしく、下半身を蠢かせる様を悍ましい。
 ノエルは無銘の剣を鞘から抜き放ち、浜辺を這いずる敵に刃の切っ先を向けた。グリードオーシャン内の平和な島に魔物が蔓延るなど放ってはおけない。
 例え全ては救えずとも、誰一人として見捨てはしない。
 それがノエルの矜持であり、今も胸に掲げる意志だ。ノエルは地を蹴り、一気に刃を振るいあげた。対する船首像の魔物は爪で対抗する。
 刃と爪が衝突し、鈍い音が辺りに響いた。
「お前も、海に……沈め……」
 間近でノエルと魔物の視線が交差する最中、怨嗟に満ちた声が落とされる。
 なるほどね、と呟いたノエルは素早く身を引いた。不興を感じたノエルが双眸を薄く細めると、何かの力が周囲に渦巻き始める。
「キミの無礼をボクは許そう――だが彼らが許すかな!?」
 その声と共に現れたのは幻影の親衛隊だ。
 ノエルを攻撃しようとする魔物に向かって突撃した親衛隊達は剣や槍を振るう。彼らが敵を弱らせていく中、剣を構え直したノエルも更に斬り込んでいく。
「悲しみを歌い続けるよりも、海に還る方がきっと良いよ」
 さあ、終わらせよう。
 凛とした言葉が紡がれた刹那、夜空の星を映した刃が煌めいた。
 そうしてノエルは見事に呪われし魔物を葬り、哀れな存在を骸の海へと送った。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

ハルア・ガーラント(サポート)
オラトリオのバロックメイカー×シンフォニア
口調:基本丁寧、時々くだける
「よ、よろしくお願いします」
「うぅ……怖い、でも、やってやります!」

怖がりで自信なさげですが、やる時は[仄昏い炎の小瓶]を胸の前で握りしめ[勇気]を出します。翼は大型で出し入れ不可ですが、その代わり[空中戦]はかなり得意です。

攻撃は背の翼に巻き付く[咎人の鎖を念動力]で操作、[マヒ攻撃]又は[銀曜銃を誘導弾]で射出します。
敵の攻撃は[第六感]で感知[オーラ防御]か飛翔して回避。鎖にオーラを張り巡らせ壁・盾のように使う事もあります。

UCは援護系を優先して使いますが、攻撃した方が有効だと判断した場合は攻撃系UCを使います。



●恐怖を越えて
 平和な島に幽霊船が流れ着いた。
 船から現れる呪われた魔物の退治を願われ、ハルア・ガーラント(歌う宵啼鳥・f23517)は夕暮れ時の浜辺に訪れていた。
 空は既に宵の色に移り変わっており、空には一番星が輝いている。
 しかし周囲の光景はおどろおどろしい。何故なら、漂着した幽霊船から女性の姿をした悍ましい化け物が這いずってきたからだ。
「うぅ……怖い……」
 ただでさえ魔物と聞いて恐ろしいというのに、呪われた船首像達は奇妙な歌を紡いでいた。怨嗟が籠もった歌もまた、ハルアの恐怖を掻き立てる。
 ――みな、深き海へ沈め。
 ――憎い、憎い、苦しい。
 そういった言葉を音に乗せた魔物達は、どうしてか哀しげにも見えた。いつまでも怖気付いてはいられないと思い直したハルアは気力を振り絞る。
「怖い、ですが……その悲しい歌を終わらせます!」
 彼女にとっての救世主の証である仄昏い炎の小瓶を握りしめると、その中で冥府の紺青色をした炎が揺蕩う。その温もりが伝えてくれるのは勇気だ。
 その間にも敵は迫ってくる。
 対するハルアは翼を広げ、其処に巻き付く咎人の鎖を解き放っていった。鎖が迸り、敵の行く手を阻む中でハルア自身も銀曜銃を構える。
 撃ち放った銃弾で敵を穿ったハルアは、相手の動きをよく見定めていく。
 来る、と感じた瞬間に地を蹴った彼女は高く飛翔した。伸ばされた触手腕がハルアを追ってきたが、すぐさま背の鎖を用いて振り払う。
 更に鎖にオーラを纏わせたハルアは防御に転じながら滑空していった。
「どうか、鎮まって」
 ふわりと地上に降り立った彼女は花唇をひらく。
 其処から紡がれたのは天使言語による粛静歌だ。ひらかれし静寂の門から、しじまを好む存在――その使いである複数の白梟が現れる。彼らによって空間に張られた魔法陣が呪われた船首像達の歌声を封じた。
「……!」
 喉を押さえた魔物達に大きな隙が出来る。
 その一瞬を狙ったハルアは鎖を迸らせ、銀曜銃の引き金に手をかけた。
「おやすみなさい……」
 そして――銃声と別れの言葉が響き渡った刹那、魔物に引導が渡される。
 呪いの唄を歌い続けていた魔物。彼女達は自らに課したであろう呪詛から逃れるように、骸の海に還っていった。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

御園・桜花
「思ったよりダメージが入らないのは、貴女達の歌声のせいでしたのね」
「呪われてもなお、船首像であったことを忘れずに、誰かを守る呪歌を歌い続ける…お可哀想に」

他の仲間を巻き込まないよう離れUC「アルラウネの悲鳴」
敵が近付いてくる迄に悲鳴で敵を粉砕する
息継ぎは敵の動きを第六感や見切りで読んで行う
「音には音を。多少は他の方の役にも立つでしょう」
「どんなに素早く動けても。貴女は近付くまで私の悲鳴を浴び続ける。それでは貴女の身体が保たないのですよ」

「船が沈まねば、きっと貴女はヤドリガミになれたことでしょう。今はただ、骸の海にお還りを。そして何時か貴女がまた船首像に宿るのをお待ちします」
最期は鎮魂歌で送る



●果てなき海に沈む
 海辺に現れた魔物達を引きつけ、桜花は駆ける。
 砂浜は広く、漂着した幽霊船からはもう随分と離れていた。その訳は他の仲間に自分の力が及ばぬようにするためだ。
「もうそろそろ良いでしょうか。この絶叫、どうぞ味わってくださいませ」
 桜花は十分に敵を誘ったと判断してアルラウネの悲鳴を響かせた。
 アルラウネが引き抜かれた時のような鋭い声は、彼女を追ってきた呪われた船首像達に向けて放たれる。しかし――。
「あぁ、ア……」
「憎め、叫べ、歌えや、歌え……」
 絶叫による衝撃は船首像が歌う奇妙な歌によって癒やされていった。思ったよりダメージが入らないと感じた桜花はその理由を悟る。
「これは貴女達の歌声のせいですのね」
「さあ……おいで……苦しみの世界へ」
 船首像達は尚も歌い、下半身の触腕を蠢かせた。
 どうしてこのような姿になり、呪いを歌っているのか。それを知ることも聞くことも叶わないが、彼女達は囚われているのだと感じた。
「呪われてもなお、船首像であったことを忘れずに、誰かを守る呪歌を歌い続ける……お可哀想に」
 誰かを船に引き摺り込もうと動く彼女達は逃れられない。
 呪いを宿し続け、苦しむという運命から。
 桜花は自分に迫りくる敵を捉え、完全に近付かれる前にもう一度悲鳴を響かせた。敵を粉砕しながら、彼女は息継ぎのタイミングを計っていく。
「音には音を。多少は他の方の役にも立つでしょう」
 すると相手は己の肉を裂き、更に素早く動こうと試みていた。そこまでして他者を傷つけようとする船首像の姿を見つめ、桜花は何とも言えない思いを抱く。
 されど攻撃を受けるわけにはいかない。
 相手の動きを第六感で察知し、しかと見切った桜花は攻撃の手を緩めなかった。
「どんなに素早く動けても。貴女は近付くまで私の悲鳴を浴び続ける。それでは貴女の身体が保たないのですよ」
「アァ……!」
 呻く呪われた船首像は苦しみ、徐々に弱っていく。
 きっと彼女達も元はただの船首像であり、船の行く先を見守っていただけなのだろう。物であったものがこうして肉体を得ていることを思い、桜花は思いを言葉にする。
「船が沈まねば、きっと貴女はヤドリガミになれたことでしょう」
 そうなることが幸せかどうかは分からない。
 されど桜花は、今の状態よりもそちらの方が良いと思った。それでも今はもうその未来は望めない。桜花は次が最後の一撃になると感じ取り、一気に叫ぶ。
 そして――。
「終わらせましょう。今はただ、骸の海にお還りを。そして何時か貴女がまた船首像に宿るのをお待ちします」
 船首像が倒れる姿を見送り、桜花は鎮魂歌を紡ぐ。
 消魔物達は怨嗟の声をあげながら骸の海に沈むように消えていった。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

逢坂・宵
ザッフィーロ(f06826)と

ええ、本当に見事と言うほかない素晴らしい眺めでした
ですが、あのような輩がいるのならば撃退しておかねば安心できませんねと握られた手を握り返して

あいかわらず倒せぬモノには苦手意識のあるらしいかれに愛おしげに目を細めて
そんな可愛らしくて頼もしいところも好きですけれどね
ザッフィーロに護られるばかりの僕ではありませんよと
「高速詠唱」「属性攻撃」を付加した【天撃アストロフィジックス】にて敵を蹴散らそうと試みましょう

敵に直撃する流星を見るなり元気になったかれには思わず笑みをにじませて
ええ、僕ときみの邪魔をする幽霊などいませんよ
すべてきみと僕が討ち取って見せますからね


ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と

本当に美しい風景だった…
斯様に美しい島ならば数日滞在して…も…
…否、夜は避けた方が良いな…
そう現れた幽霊船を見つめれば宵の手を強く握ろうと思う
だから何故、夏には幽霊等倒せぬやもしれぬモノが出て来るのだ…!!
だが宵は、宵だけは護って見せようと前に出『かば』いつつ【罪告げの黒霧】を周囲に展開を
き、霧を越えて来れる物なら来てみるがいい…!
だが宵の星が敵を直撃すれば強張っていた肩から力を抜こう
…なんだ、倒せるのではないか…!
そうと解れば怖い物等ないと『怪力』任せに手のメイスを振るって行こう
そう、幽霊等居らん故、共に討ち取って行…、…。
…ゆ、幽霊等居らぬと言って居るだろう…?宵…?



●幽霊船と星と霧
 宵空の下、二人は昼間のことを思い返す。
「本当に美しい風景だった……」
「ええ、本当に見事と言うほかない素晴らしい眺めでした」
 ザッフィーロと宵は共に過ごした海中での景色に思いを馳せながら、そのときとはまったく様相の違う海を眺めた。
 島の裏手に位置する岸辺には妖しい幽霊船が漂着している。
 波間に揺れる船はおどろおどろしく、そのうえ其処からは下半身の触腕を蠢かせた奇妙な魔物が這いずり出てきていた。
「斯様に美しい島ならば数日滞在して……も……」
「ザッフィーロ?」
 彼が紡ぎかけた言葉が途中で止まったので宵は問いかける。
 ああ、と頷いたザッフィーロは首を横に振った。
「……否、夜は避けた方が良いな」
 彼が呪われた船首像に抱いている感情を察し、宵は同意を示す。ザッフィーロは無意識に宵の手を握り、僅かな不安を押し隠した。
「そうですね。あのような輩がいるのならば撃退しておかねば安心できません」
 宵はそんな彼の手を握り返す。
 取り繕ったとしてもザッフィーロの心境は言葉通り、手に取るように分かる。幽霊船を見つめる彼がこれ以上の恐れを抱かぬよう、宵は握る手に力を込めた。
「だから何故、夏には幽霊等倒せぬやもしれぬモノが出て来るのだ……!!」
 相変わらず、倒せぬモノには苦手意識があるらしい。
 愛おしげに目を細めた宵はザッフィーロに大丈夫だと告げてみせる。
「きみのそんな可愛らしくて頼もしいところも好きですよ」
 それに今回の敵は倒せる存在だ。
 幽霊船めいてはいるが、乗っているのはコンキスタドール。即ちオブリビオンである以上、猟兵に何とか出来ない相手ではない。
「だが……宵は、宵だけは護って見せよう」
 決意を固めたザッフィーロは前に出て、宵を庇う姿勢を見せた。
 好きだと言われたことで戦う気概も湧いてきている。宵は本当に頼もしいザッフィーロの背を見つめ、更に口元を緩めた。
 そして、此方を認識した敵が恐ろしい歌声を響かせながら近付いてくる。
「みな、深き海へ……沈め……」
「憎め、叫べ、歌えや、歌え……」
 恨みのこもった悲し気な歌声は船首像達の身を包み、癒やしの力となっていた。しかしそれを上回る攻撃を行おうと決め、宵は詠唱を紡いでいく。
「ザッフィーロに護られるばかりの僕ではありませんよ」
 共に並び、戦い抜く為に。
 一歩前に出た宵は彼の傍につき、一気に天撃の力を発動させてゆく。
 ――太陽は地を照らし、月は宙に輝き、星は天を廻る。
 言の葉が紡がれ終わった瞬間、天から降りそそぐ星の矢が呪われた船首像達に襲いかかっていった。
 合わせてザッフィーロが動き、身に満ちた穢れが混じる黒い毒霧の吐息を放つ。
 罪告げの霧が辺りに立ち込める中、彼は敵に鋭い視線を向けた。
「き、霧を越えて来れる物なら来てみるがいい……!」
 精一杯の言葉を言い放てば、宵が巡らせた流星の力が更に降ってゆく。宵の星が敵を直撃したことで、強張っていたザッフィーロの肩から力を抜けた。
「なんだ、倒せるのではないか……!」
 改めて事実を確かめ、安堵したザッフィーロ。彼の姿が妙に微笑ましく思え、宵はそっと頷き返した。
「この調子で行きましょうか」
「ああ、そうと解れば怖い物等ない」
 宵は次の詠唱を声にしはじめ、ザッフィーロは己の怪力に任せ、手にしたメイスを全力で振るっていった。
 やがて、彼らを狙っていた敵は次々と地に伏していく。
「僕ときみの邪魔をする幽霊などいませんよ」
「そう、幽霊等居らん故、共に討ち取って行……、……。……ゆ、幽霊等居らぬと言って居るだろう……? 宵……?」
 その際に宵が落とした言葉が気になってしまったザッフィーロは首を傾げた。ふたたび恐怖めいた思いが浮かんできたのか、その動きはぎこちない。
「ええ、すべてきみと僕が討ち取って見せますからね」
 宵はもう一度、大丈夫だと告げて笑みを滲ませる。
 何も怖くはないのだと語った彼は首魁が潜んでいるであろう幽霊船を見据えた。
 そう、二人でなら――どんな困難だって、乗り越えていけるはずだ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ディアナ・ロドクルーン
夜の帳が落ちるとまた島の雰囲気も替わるものね
しかもここには―…(異質な流れモノを見て)
コンキスタドールとはいえ、あの子は此処に来たら泣いちゃいそうね。来なくて正解よ

さ、海へと誘う者たちを片して幽霊船への道を開きましょう

数が多いから一体一体相手をするのも億劫だわ
周りの人達とも協力して倒していきましょうね

周囲を囲まれないように注意しながら、見切り、第六感で攻撃を回避
UCを使いながら剣を使ってマヒ攻撃で動きを鈍らせていきましょう

その腕に捕まるわけにはいかないわ
護るべき船はもうない。悲しい歌を歌うのはこれでお終いにしましょう



●歌声と夜の夢
 宵が巡りゆき、夜の帳が落ちていく。
 煌めいていた海は静かに凪いでいて、昼間とは違う景色が見えた。
「時間が移り変わると、こうも島の雰囲気も変わるものね」
 ディアナは波の音に耳を澄ませ、海から吹き抜けてきた夜風を感じる。
 髪を撫でていった風は何処か寂しげだ。そう感じる理由は、見つめる岸辺に奇妙な幽霊船が揺らめいているからかもしれない。
「しかもここには――」
 異質な漂着物の甲板には不思議な灯が見えた。
 あれが此度に倒さねばならないコンキスタドールなのだろう。それを示すように船からは呪われた船首像達が這い出てきている。
 その姿はおどろおどろしく、響く歌声も恐怖を掻き立てた。無論、ディアナはそんなものに怯えることはないが、ふと或る少女のことが脳裏に過る。
 あの子は此処に来たら泣いてしまいそうだ。大丈夫かしら、とちいさく独り言ちたディアナは身構えた。
「さ、海へと誘う者たちを片して幽霊船への道を開きましょう」
 見据える先には何体かの船首像が蠢いている。
 夜の夢に誘うように、ディアナは月見草の彩を宿す刃を手に取った。クリスタルオパールの白き刀身が空に輝く一番星を映して、ささやかに煌めく。
 そして、次の瞬間。
 刃を振るったディアナは周囲に鋭利で透明な硝子の薔薇を舞わせた。花は宵空を彩るように巡り、近付いてくる魔物達を穿ってゆく。
 対する船首像は舟歌を紡ぐことで自分達の身を癒やしていった。
 ――おいで、苦しみの世界へ。
 手を伸ばして恨みの籠もった詩を歌う彼女達は何処か哀しげだ。まるで寂しいと告げているように感じたが、ディアナは首を横に振る。
「遠慮させて貰うわ。それにしても、数が多いから一体一体相手をするのも億劫ね」
 周囲を見渡すと、他にも戦っている猟兵が居た。
 みな頼もしいと感じたディアナは双眸を細める。そうして彼女は敵に囲まれないよう立ち回りながら、硝子の薔薇を巡らせた。
「動けなくしてあげるわ」
 其処に乗せたのは麻痺の力。
 剣を振るえば新たな花が夜の最中に咲き、夢のような光景を作り出していく。
 薔薇の力を受けた船首像の魔物達も徐々に動きが鈍っていった。それでも相手は触腕を伸ばしてディアナを捕らえようとしてくる。
「残念ね、その腕に捕まるわけにはいかないの。代わりに、これで――」
 飾ってあげる、と告げたディアナはハロ・ライラの切っ先を敵に差し向けた。
 刹那、数多の薔薇が迸る。
 花の嵐が止んだと思ったときにはもう、魔物は地に伏していた。
「あなた達が護るべき船はもうない。悲しい歌を歌うのはこれでお終いにしましょう」
 けれど、せめて最期は美しい花で葬送を。
 哀しき者達の歌に終止符を打ち、ディアナはそっと剣を下ろす。
 そうして、倒れた魔物は骸の海に還されていった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

日下部・舞
火神・五劫(f14941)と参加

「敵よ」

黒を基調とした戦闘服に着替えて、手には夜帷を下げている
隣の羅刹に告げると同時に私は駆け出す

「私にできることは少ないの」

敵を斬ること
攻撃に耐えること

その二つだけ
特別な能力はないし、首が落ちたら死ぬわ

「足手まといと感じるなら見捨ててくれて構わない」

敵に死の刻印を与えて【暗黒】を発動
負の力は彼女たち自身が抱えている

悲嘆、憎悪、憤怒、絶望
そして虚無が全てを飲み込む

触腕が絡みつく
私は強引に【怪力】で引き千切る
ダメージは確実に蓄積する

「大丈夫。大したことない」

彼の動きは的確で、その表情には余裕がある
戦闘では彼のほうが上手みたい

「お願い。任せるわ」

戦いはまだ続くから


火神・五劫
舞(f25907)と

藍の衣を纏い、火影を携えれば
胸の奥に戦意が滾る
さて、仕事の時間だな

この島の平穏も勿論だが
「生憎、俺は目の前の物事に背を向けるのが苦手でな」
やや危うさを感じる彼女の背も守ってみせよう

視野を広く持ち、敵群の動きを『見切り』
火影での『なぎ払い』
刃から出づる『衝撃波』を
攻撃の軸に据え動く

優先して狙うは
一、舞を積極的に狙う者
二、舞の攻撃範囲から逃れんとする者

四方八方より迫る触腕は
避けるも全てを捌くも難しいか
あえてこの身で受け止め
【ブレイズフレイム】で焼いてしまおう

舞へ伸ばされた触腕にも炎を延焼させ対処
「ああ、手早く片付けよう」
彼女の猛々しい様をもう少し見ていたくもあるが
言葉には表さず



●護りの力と負の歌声
 時刻は宵の始め。
 空を映した海が夜の色に染まっていく最中、それは現れた。
「敵よ」
 舞は現在、黒を基調とした戦闘服に着替えている。その手には夜帷を下げていた。彼女は隣の羅刹――五劫に告げると同時に駆け出す。
 同じく五劫も敵の気配を察知して、その後に続いた。
 彼は藍の衣を纏い、火影を携えている。
 幽霊船から這い出てきた呪われた船首像達。それらを見据えれば、五劫の胸の奥に戦意が滾っていった。
「さて、仕事の時間だな」
 舞は既に標的を捉えている。後れを取るわけにはいかないとして五劫も一気に駆けていく。すると敵は奇妙な歌声を響かせた。
 ――みな、深き海へ沈め。
 触腕を蠢かせている船首像は悍ましい魔物と化している。
 以前はきっと美しい像だったのだろうが、今は見る影もなかった。されど舞も五劫もその姿に怯みなどはしない。
 舞は隣に並び立った五劫に向け、静かな言葉を落とす。
「私にできることは少ないの」
 敵を斬ること。それから、攻撃に耐えること。
 その二つだけだと語った舞は自覚している。自分に特別な能力はないし、首が落ちたら死ぬということを。
 五劫はそんな彼女にやや危うさのようなものを感じたが、大丈夫だと頷く。
 この島の平穏は勿論、こうしていま目の前にある危険に真っ直ぐに向かう。それこそが彼が抱くありのままの矜持だ。
「足手まといと感じるなら見捨ててくれて構わない」
「生憎、俺は目の前の物事に背を向けるのが苦手でな」
 舞の背も守ってみせると決め、五劫は迫りくる敵の様子を窺う。自らが狙うべき対象は既に定めていた。
 先ずは舞を狙わんと動く者。既に彼女には数体の敵が纏わりつこうとしていた。
 舞は夜帷を振るい、相手に死の刻印を与えていく。五劫は彼女の攻撃を見つめ、自らも敵群に衝撃波を放った。
 刹那、舞が巡らせた暗黒の力が発動する。
 絶え間なく生命を蝕む負の衝撃は、魔物達自身が元から抱えている感情に応じてじわじわとその身を侵してゆく。
 悲嘆、憎悪、憤怒、絶望。そして、虚無が全てを飲み込む。
 五劫はその範囲から逃れようとする敵を見定め、敵の全面に回り込んだ。
 火影で船首像を薙ぎ払えば、刃から出づる衝撃が激しく迸る。彼が振るう刃は未来を護る為の牙。今で言う未来とは即ち、舞と共に進む先のことだ。
 幽霊船は今も尚、波間に妖しく揺らめいていた。
 呪われた船首像達もまた、此方を引きずり込まんとして動いていく。
 四方八方から舞に迫る触腕を察知した五劫は咄嗟の判断を下した。それは、あれを避けるのも、全てを捌くのも難しいということ。
 それならば――。
 敢えて飛び込み、この身で受け止めてしまえばいい。
 痛みを堪えた五劫の身体から地獄の炎が噴き出す。このまま相手を焼いてしまおうと決めた彼は触腕に焔を迸らせていった。
 同時に舞にも触腕が絡みついていく。
 対する彼女が取ったのも、五劫と或る意味でよく似た反撃だ。強引に怪力で以て引き千切る。それは力技ではあったが、敵の手足を封じる確実な一手でもあった。
 しかし、ダメージは確実に蓄積していく。
 巡る戦いの中で舞は五劫の眼差しを感じ、頭を振ってみせた。
「大丈夫。大したことない」
「それなら良い。手早く片付けよう」
 五劫は舞の言葉を聞き、彼女に伸ばされた触腕にも炎を延焼させていく。絡みついていた腕が地に落ちたことを確かめ、舞と五劫は敵に更なる反撃を見舞っていった。
 その際に舞は五劫の動きを見遣る。
 彼の動きは的確で、その表情には余裕があった。昼間の海での指導では自分の方が慣れていたが、戦闘では五劫の方が上手だということがよく分かる。
 その間も舞は死の刻印を新たに付与し続け、敵を着実に弱らせていた。
 そんな中で数体の敵が五劫の方に押し寄せていく。
「お願い。任せるわ」
 自分が無理に追うよりも彼に一任した方が良いはずだと判断した舞は、五劫へと信頼の言葉を向けた。
 五劫は頷くことで返答として、襲い来る敵に火影を振るう。彼女の猛々しい様をもう少し見ていたくもあるが、言葉には表さない。
 迸る炎と負の力。重なり合う二人の力は一体、また一体と敵を屠っていった。
 やがて――彼女達の周囲には、倒れ伏した数多の船首像が転がっていた。
 されど二人とも気は抜かない。
 これは前哨戦のようなものだと知っているからだ。
 舞も五劫も武器を収めたりはせず、幽霊船の甲板に鋭い眼差しを向ける。其処で揺らぐ灯はまるで、此方を誘っているかのようだった。
 そして、此処からもまだ戦いは続く。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

芙蓉・藍
【わだつみ】
心情
昼の海はとても綺麗だった
夕暮れも海と空の境界線が美しくずっと見ていたいくらいだった
夜は……流れ着く幽霊船、か
夏の夜は肝試しをするのものだとどこかで聞いたことがあるよ
肝試しというには少々物騒なようだけど
夏を満喫するには、ちょうどいいのかもしれないね
有珠が肝試しが苦手なら、次は別の夏を満喫しに行こう

戦法
狐火による撹乱を行う
一部の狐火は光源として使う
攻撃時、仲間に当てないように注意して操作する
敵の攻撃時、触腕や爪に当てて相殺できないだろうか
こちらからの攻撃はレン、有珠に近い順に行う
近づかれた場合、狐火が間に合えば狐火で迎撃
間に合わない場合は素手での応戦だな
力比べなら負けないつもりだ


飛砂・煉月
【わだつみ】
さっき迄が綺麗だった分、随分と不気味になったなー
空気も、イヤな感じ
この光景も――正直気色悪いね
肝試し…かあ
はは、なら次は有珠を真ん中にして肝試ししよっか?
今回は潰すけど

藍が撹乱、有珠が範囲攻撃してくれるから
オレは穿白――ハクを撫でて、
…行こうぜ、相棒
ダッシュで踏み込み、正確な槍投げを
竜牙葬送で一体ずつ確実に撃破をしてくな
藍の狐火が光源なら、より安定して投げれそ
間に合うならふたりの盾に、信頼ゆえの役割分担ってヤツ
勝手に避けるから心配しなくていーよ!って後ろに聲ひとつ

痛みに負けることはない、そんなの今だけだ
足は止めない、理由がないから
ふたりが居るなら安心して行けるってオレは知ってるから


尭海・有珠
【わだつみ】
あんなに綺麗だったのに、この幽霊船はちょっと私はな
えっ、肝試し
嫌だよやめてくれ、えっ、嫌だ行きたくない
全部燃やすなら…まあ、良いけどさぁ
いや肝試し、しないからな!

藍の狐火からワンテンポ遅らせる形で
炎の≪剥片の戯≫を浅くでも良いので、広範囲に降りそそがせる
レンには特に当たらないように、操作はするが
「出来るだけ、頑張って自分で避けてくれ!」
レンがの死角に回り込みそうな敵へは攻撃を厚めに

相手の物理攻撃は、杖と剣で弾いて押し返す
ごめん、藍助かった、ありがとう

憎しみも叫びも、恨みさえも成り立ちに関わるものであるなら
それも致し方ないかもしれないがな
此処にいられるのは、私には迷惑なんでな



●海辺と夜の灯
 燦めく太陽の下、海中から振り仰いだ水面。
 花が咲く青の世界で魚達が泳いでいた光景を思い、藍達は夜の海を見つめる。
 昼の海はとても綺麗だった。過ぎ去っていった夕暮れも海と空の境界線が美しく、ずっと見ていたいくらいに思えた。
 だが――。
「夜は……流れ着く幽霊船、か」
「あんなに綺麗だったのに、この幽霊船はちょっと私はな」
 藍の視線の先、波間には妖しい船が揺らめいている。有珠は頭を振り、ホラーな雰囲気を感じる船から視線を逸らした。
「さっき迄が綺麗だった分、随分と不気味になったなー」
 煉月も浜辺を見遣り、この空気もイヤな感じだと語る。幽霊船だけならまだしも、今は浜辺に悍ましい者達が這い出て来ている。
 有珠が船を直視したくなかったのも呪われた船首像が蠢いているからだ。
「この光景も――正直気色悪いね」
 煉月が肩を竦めると、藍はふと思い出す。
「夏の夜は肝試しをするのものだとどこかで聞いたことがあるよ」
「肝試し……かあ」
「えっ、肝試し」
 藍に頷く煉月に対し、有珠は思わず一歩後退ってしまった。
「そう呼ぶには少々物騒なようだけど。昼とは違った形で夏を満喫するには、ちょうどいいのかもしれないね」
「はは、なら次は有珠を真ん中にして肝試ししよっか?」
「嫌だよやめてくれ、えっ、嫌だ行きたくない」
 煉月達が勝手に次の予定を決めそうになっていることに気付き、有珠は戸惑いと焦りと怯えが入り混じった顔をして首を振った。
 藍はそんな彼女の表情が珍しいと思いつつ、大丈夫だと告げる。
「有珠が肝試しが苦手なら、次は別の夏を満喫しに行こう」
「そうしよっか。今回は潰すけど」
「全部燃やすなら……まあ、良いけどさぁ」
 煉月が敵に意識を向けたことで有珠は安堵混じりの言葉を落とした。その様子を見遣った煉月は最後にこっそり付け加える。
「また今度ね」
「いや肝試し、しないからな!」
 有珠はその言葉を聞き逃さず、全力で拒否の意思を示した。
 そして、戦いは始まりを迎える。
 
 ――さあ……おいで……苦しみの世界へ。
 呪われた船首像が奇妙な歌を響かせ、青白い手と触腕を蠢かせた。
「やっていこうか」
「ああ、あのようなものは骸の海に還してしまおう」
 藍は狐火を呼び起こし、其処から一拍遅らせる形で有珠が炎を生んでいく。ふたりが撹乱を行ってくれている間に煉月は穿白――ハクを撫でて、準備を整えた。
「……行こうぜ、相棒」
 そう呼びかければ竜は白銀の槍となり、煉月の手に収まる。
 駆けた煉月は紅玉の柄を強く握り、ひといきに敵との距離を詰めた。炎が船首像の視界を覆っている間に踏み込み、正確な槍投げで以て貫く。
 そうすれば一体目の敵がその場に伏した。
「よし、次だ!」
「向こうからも押し寄せてきたね」
 一気に倒せたのも有珠が迸らせた剥片の炎が敵の力を奪っていたからだ。
 煉月の声に答えた藍は出だしは順調だと感じ、次の敵に意識を向ける。一部の狐火を光源として用いながら、藍は慎重に狐火を操った。
 其処へ有珠が更なる力を揮う。
 解き放たれた薄刃の焔は宙を舞い、広範囲に渡って迸ってゆく。その合間を縫うように駆ける煉月に向けて有珠が呼び掛けた。
「出来るだけ、頑張って自分で避けてくれ!」
「勝手に避けるから心配しなくていーよ!」
 有珠に片手をひらひらと振り返した煉月は余裕たっぷりの笑みを見せる。それに今は藍が燃やしてくれている光源だってあった。
 此処まで補助して貰えているのだから何も心配はない。
 藍が敵の動きを乱し、有珠が満遍なく衝撃を与え、煉月が竜牙葬送で以て一体ずつ確実に撃破していく。
 それだけではなく、煉月はふたりの盾になるべく立ち回っていった。
 有珠も敵の動きを見極め、煉月の死角に回り込みそうな相手がいれば其方への攻撃を厚めに重ねていく。藍もたた闇雲に撹乱するだけではなく、触腕や爪に狐火を当てて更なる援護に回っていた。
 それは信頼があるゆえの役割分担。
 上手く連携が巡っていることを確かめ、藍はふたりに声をかける。
「レン、有珠、そっちからも敵が来ているよ」
「了解!」
「……!」
 その呼び掛けに煉月は反応できたが、有珠の方が一瞬だけ遅れる。はっとした煉月は咄嗟に彼女の元に駆けた。
 迫る触腕。
 それを避けることも受け止めることも出来ないと分かっていたが、自ら敵の前に立ち塞がった煉月は有珠への攻撃を肩代わりする。
 衝撃が彼の身を貫く様を間近で見た有珠は息を飲んだ。しかしすぐに杖を振り上げ、あらたに迫ってきていた攻撃を弾き返す。
「ごめん、藍、レン。……助かった、ありがとう」
「これくらい平気平気」
 礼を告げて体勢を立て直した彼女に笑みを返し、煉月も身構え直した。
 今だけは痛みに負けることんどない。
 たとえ耐え難い苦痛が続いたとしても足は止めないと決めた。何故なら、立ち止まる理由がないから。
 それに、ふたりが居るから安心して戦える。
 そのことを煉月はよく知っている。それゆえに押し負けたりなどしない。
 強い意志を抱く煉月の思いを感じ取り、藍も気を引き締める。そして、ふたりに大事がないことを確認した藍は引き続き狐火を飛ばしていった。
「こっちだって力比べなら負けないつもりだ」
 竜槍を振るう煉月に合わせ、舞い飛ぶ狐火は夜の海を不思議に彩っていく。
 有珠も炎を揺らめかせて敵を穿っていった。
 やがて、彼らの周囲に集まってきていた船首像が次々と屠られる。その誰もが哀しげな声をあげて倒れていった。
 魔物の声を聞きながら、有珠は抜き放った澪棘の刃を差し向ける。
 彼女達の憎しみも叫びも、恨みさえも、成り立ちに関わるものであるなら致し方ないかもしれない。しかし、この島の平穏を乱すならば容赦は出来ない。
「此処にいられるのは、私には迷惑なんでな」
 だから、さよならだ。
 藍と煉月が見守る中、有珠は最後の一体に刃を振り下ろした。斬撃が昏い海辺に一瞬だけ煌めいた刹那、悲しき存在に終わりが齎される。
「この辺りの敵は一掃出来たかな」
「そうみたいだな! 後はあっちの船の方か。ハク、行けるか?」
 藍は周囲を見渡し、煉月は相棒に問う。手の中の槍から確かな応えが返ってきたように思え、煉月は気合いを入れる。
「……幽霊船か」
 有珠は行く先で巡るであろう戦いを思い、少しの懸念を抱いた。
 されど、そんな思いもすぐに何処かに消えてしまう。その理由は簡単。自分の傍には信頼できるふたりがいるからだ。
 そうして、一行は首魁が待つであろう幽霊船に視線を向けた。
 海風を受ける船上。甲板で揺らぐ灯は、ゆらゆらと妖しく躍っていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

荻原・志桜
ひっ…、いま変な声が…!
うう、うー…、なんでわたし此処にいるんだろ
いや理由は分かってるんだけど

連れが心配で思わず追いかけてしまった
でも足を踏み入れて直ぐに後悔
物音ひとつに驚き乍ら半泣き
此処はひとりで来るものじゃない!

ひゃあああっ?!!
う、うう…。 あ、あれが原因、なの?
わあああっ来ないで!!

近付く魔物に牽制の意味を込めた魔法を放ち
それが効果あると知れば、スッと目を細める

え、あたった…?
おばけじゃ、ない。幽霊でもない
わたしの魔法が効くなら――倒せる!!

倒せるなら問題ない!と吹っ切れて
杖を掲げれば薄紅に光る幾何学模様を展開させ
複製した剣は冷気を纏わせ青の粒子を纏う

その歌も全部、凍てついてしまえ!



●幽霊と灯
 時刻は宵から夜へと移り変わっていく。
 あれほど目映かった海も、ひとたび日が沈めば昏い色を宿すのみ。空には一番星が輝いていたが、海面には妖しい幽霊船が映っていた。
 志桜は今にも朽ち果てそうな船を見遣ってから、さっと視線を逸らす。
「ひっ……、いま変な声が……!」
 海風を受けて船が軋む音に混じって奇妙な声が聞こえてきた。まだ岩陰に隠れているので浜辺が見えないことは幸か不幸か、志桜は震えそうになる身体を押さえる。
「うう、うー……、なんでわたし此処にいるんだろ」
 恐怖と戦う志桜はぎゅっと目を瞑った。
 しかし自問せずとも理由は分かっている。あのひとが心配だという気持ちの方が怖さよりも勝っていたからだ。
 思わず追いかけ来てしまったが、戦場に足を踏み入れて直ぐに後悔した。
 待っていた方が良かったのかもしれない。
 既に戦いは始まっており、嘆きの声や何かが蠢く音がする。
 思い知ったのは、此処はひとりで来るものじゃないということ。物音がひとつ聞こえる度に半泣きになりながら、志桜はおそるおそる瞼をひらいた。
 その瞬間。
「――みな、深き海へ……沈め……」
 おどろおどろしい歌声が聞こえた。それもほとんど耳元近くでだ。
「ひゃあああっ?!!」
 志桜の瞳には間近まで迫ってきている船首像の魔物が映っていた。悲鳴をあげながら全力で後退した志桜は思わず尻餅をつてしまう。
 それと同時に、これが聞いていたコンキスタドールなのだと察する。
 蠢く触腕。鋭い爪。
 何よりも恨めしそうな顔が怖い。
「う、うう……。わあああっ来ないで!!」
 這いずってくる敵に怯えた志桜は杖を支えにして慌てて立ち上がり、更に後ろに下がった。其処から一気に魔力を紡ぎ、鋭い光を解き放つ。
 狙いは定めず、牽制の意味で迸らせた魔力が魔物の周囲で弾けた。
「う、ァ――」
 それに驚いたらしい船首像が一瞬だけ怯んだ。弾け散った氷の残滓が船首像の身を掠めることで僅かな傷を刻む。
「え、あたった……? おばけじゃ、ない」
 はっとした志桜は双眸をきつく細め、杖を握り締めた。
 大丈夫。平気、と自分に言い聞かせた志桜は更に魔力を集わせていく。次はかすり傷程度ではなく、真正面から当ててみせると決めた少女は一気に力を解放した。
「わたしの魔法が効くなら――倒せる!!」
 倒せるなら問題ない。吹っ切れた様子の志桜は杖を掲げて触腕を弾き、その勢いに乗せて薄紅に光る幾何学模様を展開させていく。
 浮かびあがる剣に冷気を纏わせれば、其処に青の粒子が集まっていった。
 そして、志桜は歌う船首像の喉元を狙い撃つ。
「その歌も全部、凍てついてしまえ!」
 刹那、氷撃が敵を貫いた。それも一撃だけではない。幾何学模様から生み出された剣が幾重にも重なって四方八方から呪われた船首像を切り刻み、串刺しにしていく。
 薄紅と青の軌跡が止んだ時、魔物は完膚なきまでに倒されていた。
「ちょっとやりすぎたかな……?」
 けれど怖かったのだから仕方がない。先程の耐え難い恐怖を思い返して震えそうになった志桜は胸元に手を当て、ほっと息をついた。
 そうして少女は幽霊船を見つめる。
 船は甲板に不思議な光を宿したまま、昏い波間に揺らめいていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

祇条・結月
レイラ(f00284)と

楽園を哀しい場所にはできないね
行こっか

苦無の投擲で初動を先手を取るけど……
歌を聴いたら再生してるっぽい?
―――厭な歌

レイラ、ごめん。お願いね
そう残して前に出て敵を抑えに行く

【切り込み】、【敵を盾に】して包囲されないようにして霊符を纏う苦無を召喚
格闘戦に使ったり、必要なら迷わず投擲
出し惜しみはしないし、レイラの方には抜けさせない
大丈夫、無茶はしてないし頼ってるのは僕の方……なんて

厭な、歌。
そう思いながら耳を傾けてしまうのは共感する部分もきっと、僕の中にあるからなのかもね

でも、そっちへは行きたくない
君がまだ、じゃなくてずっとなら良いなってちょっと笑って
うん。止めて帰ろう


レイラ・エインズワース
祇条サン(f02067)と

うん、あんな素敵な場所を悲しみで潰しちゃうわけにはいかないカラ
一緒に行って止めようネ

わぁ、まるで幽霊船みたいだネ
船首像というよりはもうセイレーントカそっちに近いのカナ
うん、悲しくてよくない歌
この場所には似合わないカラ、ここで止めよう

相手の歌を止めるように喉を狙って冥府の槍を
【呪詛】はこちらの専売だカラ
隙にはさせないヨ
祇条サンが前に出たら援護するように槍の雨を降らせるネ
無茶は駄目ダヨ
でも、頼りにしてるカラ

悲しいから、って嘆くだけじゃきっと何も変わらないカラ
うん、まだそっち側に行く予定はないもんネ
あはは、ありがとなんて笑顔で
またここに来られるように
ちゃんと止めて、帰ろうネ



●哀しみと呪いの聲
 夕陽が完全に海の向こう側に沈む。
 訪れた夜は穏やかな静寂に包まれるはずだった。今宵、あの朽ちかけた船が浜辺に漂着するまでは――。
「わぁ、まるで幽霊船みたいだネ」
 レイラは妖しい灯を燈している船を見遣り、嫌な気配がすると語る。
 結月も昼間は煌めいていた浜辺と海の中を思い、頭を振った。
「楽園を哀しい場所にはできないね」
「うん、素敵な場所を悲しみで潰しちゃうわけにはいかないカラ」
 あの船から現れる者達はこの島や海を穢してしまうだろう。
 現に今、砂浜には悍ましい姿をした船首像の魔物が這い出てきている。
 魔物達はあの恐ろしい見た目で島の人々を船に引きずり込もうとするらしく、放っておくわけにはいなかった。
「行こっか」
「一緒に行って止めようネ」
 結月の誘いに頷き、レイラは決意をあらたにする。
 浜辺に現れているコンキスタドールは魔物化しており、船首像というよりはセイレーンのようだ。レイラは身構え、海に浮かぶ船に呼び寄せて攫うと存在と成り果てたものを強く見つめた。
 みな、深き海へ沈め。
 憎め、叫べ、歌えや、歌え。
 さあおいで、苦しみの世界へ。
 彼女達は呪いの舟歌を紡ぎ、触腕を蠢かせながら這いずってくる。
「――厭な歌」
 刹那、風を切る鋭い音が響く。
 結月は完全に近付かれる前に苦無を投げ放ち、敵の動きを牽制した。霊符が巻かれた刃が船首像の触腕を縫い止める中、彼が落とした言葉を聞いたレイラも頷く。
 彼女は鬼火を纏う槍を解放して、其処に追撃を加えていった。
「うん、悲しくてよくない歌」
「歌詞もそうだし、歌と一緒に再生してるっぽい?」
 だが――確かに破魔の力を込めて傷を与えたはずだというのに、船首像は何もなかったかのように這って来ている。
 どうやら仲間同士で共感しあい、癒やしの力に変えているようだ。
「そうみたいだネ。あんな歌、この場所には似合わないカラ、ここで止めよう」
 苦しみに苦しみを重ねても完全には癒えやしないのに。
 レイラは哀しげな表情を浮かべ、一気に力を紡いでいく。まずはあの歌を止めなければ無為に回復されていくだけだ。
 レイラが相手の歌を止めるように喉を狙って冥府の槍を降らせれば、それに合わせて結月が駆け出す。そして、結月は彼女に後ろを託す。
「レイラ、ごめん。お願いね」
 そう言い残した彼は敵を抑えに向かった。
「大丈夫だヨ、祇条サン」
 彼の後ろ姿を見送ったレイラは呪いの歌に呪詛を返してゆく。その間に結月はひといきに敵に切り込み、触腕を斬り落としていく。勢いよく斬りつけた腕が宙に舞い、彼はそれを盾代わりにしながら包囲されないよう立ち回る。
 敵の眼前まで迫った彼は更なる苦無を召喚して、零距離からの一閃で完膚なきまでに相手を切り刻んだ。
 更に振り返り様に空中に浮かぶ苦無を掴み取り、側面の敵に迷わず投擲する。
 出し惜しみはしない。
 その理由はレイラの方に敵を抜けさせないため。
 果敢に戦う彼の姿を捉えるレイラも、援護する形で槍の雨を降らせ続けていく。
「無茶は駄目ダヨ。でも、頼りにしてるカラ」
「大丈夫、無茶はしてないし頼ってるのは僕の方……なんてね」
 互いに視線を交わした二人は魔物を穿っていく。冥府の槍に喉を貫かれた敵を狙い、結月は苦無を胸元に突き刺した。
 それによって既に数体の敵が倒れ伏している。
 周囲の猟兵が相手取っている敵も次々と崩れ落ちていった。結月はまだ残っている敵を見渡し、彼女達が歌う声に耳を澄ませる。
「厭な、歌」
 もう一度、先程と同じ思いを呟く。そう思いながらも意識を傾けてしまうのは苦しみや怨嗟を謡うことに共感する部分があるから。
(きっと、僕の中にも――)
「祇条サン?」
 僅かに俯いた彼の様子に気付いたレイラが名を呼んで、どうしたのかと問いかける。すると結月は顔をあげ、何でもないと答えた。
「残念だけど、そっちへは行きたくない」
 手を伸ばしてきた魔物に対して、結月は拒否の意思を見せる。その様子に安堵を覚えたレイラも呪いの歌を紡ぐ敵に言い放った。
「悲しいから、って嘆くだけじゃきっと何も変わらないカラ……。うん、まだそっち側に行く予定はないもんネ」
 言葉の後半は結月に向けたものだった。
「そうだね。けれど――まだ、じゃなくてずっとなら良いな」
 そんな風に少し笑ってみせた結月は残り一体になった敵を見遣る。レイラも笑みを返し、ありがと、と返した。
 仲間達によって辺りの敵は一掃され、自分達が相手取るこの個体が最後だ。レイラは意識を集中させながら、次を終わりの一撃とするべく敵を見据える。
「またここに来られるようにちゃんと止めて、帰ろうネ」
「全部止めて、帰ろう」
 しっかりと頷き返した結月は、レイラと同じ思いを抱いていることを示した。
 破魔霊符の刃が夜闇に閃き、鬼火を纏った槍が真っ直ぐに飛ぶ。そして――ふたつの刃に貫かれた哀しき魔物が地に伏した。
 歌声は完全消え、辺りには何処か不穏な細波の音が聞こえはじめる。

 これで呪われた船首像はすべて倒れた。
 嘆きを歌った者達は海に還され、残すは幽霊船に乗っている首魁のみ。
 猟兵達は進むべき先を見つめ、次なる戦いの場に向かっていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『使者』

POW   :    お求めは此方
演説や説得を行い、同意した全ての対象(非戦闘員も含む)に、対象の戦闘力を増加する【そのものが理想とする夢幻の力と全能感】を与える。
SPD   :    本当にそう?
対象への質問と共に、【自身の頭部の罅割れ】から【夢を映す炎】を召喚する。満足な答えを得るまで、夢を映す炎は対象を【対象の夢への想いの強さに比例した痛み】で攻撃する。
WIZ   :    甘き時は落ち
【夢見るものの願いを妨げるに相応しい物や事】で武装した【過去や未来から】の幽霊をレベル×5体乗せた【絶望】を召喚する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ニュイ・ミヴです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●夢の境
 漂着した幽霊船。
 朽ちかけた船の甲板に使者は佇んでいた。
『――叶え損ねた夢のある方、列へお並びください』
 砂時計と不思議な炎灯を携え、宙に浮かんでいるもの。それは明らかな人外の姿をしている。その表情は見えず、何を考えているのか、何が目的なのかも読めない。
 言葉も何処か虚ろであり、少年とも少女ともつかぬ声色だ。
 コンキスタドールは甲板に踏み入った猟兵達を見遣るような仕草を見せた後、更なる言の葉を紡ぐ。
『きみにも、あなたにも、叶えられなかった夢や思いがあるはずです。今宵は特別に時間を巻き戻して、或いは、進めてさしあげましょう」
 砂時計が逆さまにされたかと思うと、誘うような灯火が揺らいだ。
 すると猟兵達の周囲に不思議な力が渦巻きはじめる。

 或る者には理想とする力と全能感が宿った。
 また或る者には、夢への想いの強さに比例した痛みが齎される。
 別の者には、夢が叶えられないという絶望が与えられた。
 
 そのどれもが猟兵本人が宿す夢や理想、心の奥底に秘めた願いから生み出されているようだ。痛みや絶望はともかく、理想の能力が与えられたならば抗わずとも良いと思われる。だが、それらを認めてしまってはいけない。
 何故なら、強すぎる力はいつしか歪みを生み出すからだ。
 それは絶望も痛みも同じ。
 他者から無理に渡された夢の力など受け入れて良いものではない。猟兵達は与えられたものに抗い、敵の力を打ち破らねばならない。
 どうやら使者自体は夢の力を巡らせるだけで、攻撃動作は一切行わないらしい。その代わりに回避力だけは突出している。
 しかし、突破口はある。
 猟兵が夢を打ち破る度に使者の力が削られる。つまり、此方が歪んだ夢を否定していけば自ずと敵は弱っていくということ。
『さあ、見せてください。叶え損ねた夢、叶えたい夢、願い続ける希望を――』
 それはいつか、絶望に変わるから。
 使者は此方の夢を覗き見るように炎の灯火を掲げた。
 砂時計の粒がさらさらと零れ落ちている。
 希望と理想の幻影は夢の境で揺らぐ。そう、全ては――時の砂が落ちきるまで。
 
ユヴェン・ポシェット
叶えられなかった夢か

俺は…世界から逃げたかった。生まれた場所へ戻りたかった、あの人と共に…あの人が壊れ砕け散る前に。

…白い聖獣と共にあの優しい森奥で動物達と生きていたかった。死ぬまでずっと。

「ユヴェン・ポシェット」、今の俺がいるのはアイツが居たから。彼女にもう一度会いたかった。友として以前の様に。
…俺だけではない、ミヌレも。ミヌレをアイツの元へ帰してやる、その約束の為に俺達はここまできたというのにな。
全てもう、叶う事はない

夢や望みを厭う程…
何度絶望を味わってきた事か。
それでも失わなかった大切なものがあるから、大切な者達があるから俺は居る
そっと寄り添う竜をみる
大丈夫だ、もう独りではないからな



●過ぎ去りし想い
 叶えられなかった夢。
 それは過去の追憶。今という時間軸に存在しない消えた可能性だ。
『叶え損ねた夢のある方、列へお並びください』
 再び使者の声が聞こえた。
 コンキスタドールが手にしている灯火が揺れたかと思うと、ユヴェンの前に懐かしい光景が広がっていく。それが魔力による幻視でしかないと分かっていても思考はどうしても其方に引き寄せられてしまう。
(――俺は……)
 そうだ、世界から逃げたかった。生まれた場所へ戻りたかった。
 あの人と共に。あの人が壊れ砕け散る前に。
 ユヴェンの胸裏には森の穏やかな日々が浮かんでいた。其処は緑がやさしい風を受けて揺れ、季節の花が咲き、折々の果実がみのる豊かな場所だ。
 胸裏に蘇るのは白の聖獣と共に過ごしていた、あの頃。
「ミエリ……」
 ユヴェンは自分がそう呼んでいた聖獣を思い返す。
 彼や森の動物達と生きていたかった。死ぬまでずっと。変わることのない世界でささやかな幸福に包まれていたかったというのに。
 しかし、炎が絶望を連れてきた。
 燃え落ちる枝葉。焼け焦げた亡骸。そして――。
 思わず目を瞑ったユヴェンは幻想の光景を振り払った。優しいだけで終わらなかった事の結末が否応なしに思い起こされていく。
 だが、夢の記憶は終わらない。
『……ユヴェン』
「マドレーヌ?」
 不意に呼ばれたことでユヴェンは声の主の名を言葉にする。
 されどそれは記憶の中から響いたものに過ぎず、彼女本人は何処に居ない。
 ユヴェン・ポシェット。
 この名があるのは、彼女が居たからだ。ユヴェンの元の名が長いと言って短く縮めた彼女は今、とても遠い存在になっている。
 彼女にもう一度会いたかった。友として、以前のように。
 するとすぐ隣でミヌレの声が聞こえた。
 悲しげな声だったのは、おそらくユヴェンと同じように彼女を想っているからだ。
 自分だけではなくミヌレも絶望を覚えているのだろう。
「ミヌレ……。お前をアイツの元へ帰してやるという約束の為に、俺達はここまできたというのにな」
 共に歩んできたからこそ分かる。
 望んで手を伸ばしたかった全ては、もう叶うことはないのだと。
 絶望の亡霊達がユヴェンを包み込もうとしている。小僧、ユヴェン、と自分を呼ぶ彼らの声がしたが、それもまやかしだと理解していた。
 ユヴェンは俯きかけたが、すぐに顔をあげて幻の亡霊を見据えた。
 これは絶望の形だ。
 夢や望みを厭う毎に何度、味わってきたことか。
「それでも失わなかった大切なものがあるから、大切な者達があるから、俺は此処に居る。ミヌレと……皆と共に立っているんだ」
 ユヴェンはそっと寄り添ってきたミヌレを見下ろす。
 絶望は越えるためにある。昏い感情に負けて、深い海の底に沈むような自分達ではないはずだ。何故なら――。
「大丈夫だ、もう独りではないからな」
 そして、ユヴェンは夢の幻影を打ち破った。
 見据える先に佇む使者。掲げられた時計の砂は、さらさらと零れ落ちていた。
 時は決して戻ることはないのだと示すが如く――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

日下部・舞
火神・五劫(f14941)と参加

残念ながら叶えたい夢はない
願いや果たしたい約束の相手はもういない

「力なら必要ないの。もうあるから」

夜帷を振るい叩きつける
そして隣にいた羅刹の様子がおかしい

「彼に何をしたの?」

力の対価は命や魂でしょう?
夢や望みを叶えると囁き、真に与えるのは死と絶望

「深淵を覗くとき、あなたもまた深淵に覗かれているのよ」

【殺戮回路】を発動

瞳が赤く輝き、破壊衝動に身を任せる
私自身の力で捕らえて【怪力】で決して離さない

「あなたの本当の夢を教えて?」

耳元で甘い囁き
掴んだ腕はもう骨ごと砕いてしまってる
その夢と望みも全部壊してあげる

刻限が迫る

「借り物の力で、全能も何もないと思う」

時間だわ


火神・五劫
舞(f25907)と

逆さまになる砂時計、揺らぐ灯火
刹那、不自然な程に湧き上がる力

視線を落とした掌の
その指先まで満ちていく
ああ、これだけの力があれば
何だって叶えられるだろう

意識が遠のく中、思い馳せる
俺は何を望んでいた?
欲しかったもの
守りたかったもの
大切だったもの
すべて、既に遠い過去のこと

今、俺は何を望む?

【鉄心制裁】
握りしめた拳にてぶん殴るは俺自身
煩悩を祓い、地を強く蹴り
沈みかけた舞を腕の中へ

「俺が、消えさせない」

空いた片手で
舞が暴れた跡の瓦礫を
『怪力』任せに敵へ投げる

万能でも全能でもない、人ひとりの力だ
だが、それで十分

使者の誘いに背を向け
己が足で立って歩くにも
守りたいものを
この両の手で守るにも



●夢無きもの
 使者は叶え損ねた夢がある者を呼んでいる。
 普通に生きてきた者であれば、何かしらそういったものも持ち得ているのだろう。
 されど舞は首を横に振る。
 残念ながら叶えたい夢はなく、願いや果たしたい約束の相手はもういなかった。それも或る意味では叶え損ねたと言えるのかもしれないが、今の舞は動じたりなどしない。
「力なら必要ないの。もうあるから」
 言葉と同時に舞は夜帷を振るいあげ、一気に敵との距離を詰めた。
 其処から一気に刃を全力で叩きつける。だが、使者は舞の一閃をいとも簡単に避けてしまった。
 敵は回避に特化しているのだと察した舞は出方を窺うことにした。特定の部位狙い、或いは一点集中でなければ相手に傷を負わせることは出来ないだろう。
『叶え損ねた夢のある方。さあ、ご案内します』
 すると身を翻した使者が砂時計をゆっくりと引っ繰り返した。はたとした舞は隣にいた羅刹の様子がおかしいことに気付く。
「彼に何をしたの?」
 しかし答えはなく、五劫の異変だけが大きくなっていった。
 逆さまになる砂時計、揺らぐ灯火。
 刹那、不自然な程に己の中に力が湧き上がっていることが分かった。五劫は視線を落とし、掌を見下ろす。
 見れば、己の指先にまで有り余るほどの力が満ちていた。
「ああ、これだけの力があれば……」
 何だって叶えられる。
 自然と声にしていたのは全能感から来る強い言葉だった。その代償なのか、普段の思慮深い五劫の意識は遠くなっている。
 力に溺れ、力に呑まれる。そんな雰囲気が五劫から感じられた。
 しかし彼はその最中に思いを馳せる。
 ――俺は何を望んでいた?
 欲しかったもの、守りたかったもの、大切だったもの。
 そのために力が欲しいと思ったのだったか。それもすべて既に遠い過去のこと。求めたのは過去で、此処にあるのは現在だけ。
 それならば。
 ――今、俺は何を望む?
 五劫は思いを巡らせる。それは疑問となって裡に沈む。
 力を手にすることを望んだのは過ぎ去りし時の自分。今の己は、このような能力を得ていいものなのだろうか。
 舞は敵の力に抗い始めている五劫を見つめ、彼は大丈夫だろうと感じた。簡単には当たらぬと分かっていても舞は敵へと斬りかかる。
 力の対価は命や魂のはず。
 夢や望みがあるかと囁き、真に与えるのは死と絶望。
 使者の行動の理由はともかく、相手が求めている結果を舞は知った。そして彼女は己自身の力を強めていく。
「深淵を覗くとき、あなたもまた深淵に覗かれているのよ」
 倫理回路を不活性化させて破壊衝動を増幅させる。
 舞の瞳が赤く輝いた。衝動に身を任せた彼女はそれまでとは比べ物にならないスピードで使者に近付く。
 その瞬間、巻き起こった風で使者のマントが大きく捲れあがった。
 何もない。使者という存在の中身は空っぽだった。まるで幽霊のようだと感じながらも、使者を捉えた舞は囁く。
「あなたの本当の夢を教えて?」
 腕が掴めれば骨ごと砕いてしまっていただろう。敵を痛めつけることも出来た舞が何もしなかったのは、使者には腕がなかったからだ。
 詳しく云うならば、衣服と頭部、手首のみが浮かんでいるだけだった。
 この使者はおそらく概念のような存在。
 相手には夢も望みもなく、壊すまでもなく最初から何も持っていない。あるのは不可思議に揺らぐ灯火と奇妙な砂時計だけ。
 ならばきっと、そのどちらかが本体だ。
 舞は自分の腕からすり抜けた使者を見上げ、風に揺らめくマントを瞳に映す。
 それと同時に五劫が夢の力から抜け出した。
 彼がそうすることが出来たのは、握りしめた拳で以て自分で自分を殴り抜いたゆえ。つまりは自身に活を入れたのだ。
 煩悩を祓った彼は地を強く蹴った。
 自分が全能感に惑わされている間に舞はかなり敵と攻防を繰り広げたようだ。五劫は自分も負けてはいられないとして、近くの瓦礫を怪力で以て投げ放った。
「やはり当たらないか」
 敵は夢を与える以外の行動をしてこない代わりに回避力が高い。
 五劫もそれを理解し、どう出るべきか考えた。
 今扱えるのは万能でも全能でもない、人ひとりの力だ。だが、それで十分だと思えた。
 そのとき舞は気が付いた。五劫が与えられた力を完全に拒絶した瞬間、使者の纏う魔力が大きく削られたことを。
 すると使者は再び、あの言葉を囁いた。
『――叶え損ねた夢のある方、列へお並びください』
 望めば力が与えられるのだろう。
 だが、舞も五劫も使者の誘いを受け入れるつもりなど微塵もない。
「借り物の力で、全能も何もないと思う」
 それゆえに己の手で。
 舞は増幅させた力で以て夜帷を鋭く振るい、砂時計を狙う。対する使者は時計に触れさせまいとして物凄い勢いで距離を取った。
 思った通り、あれが使者の力の源だ。
 しかし舞には力の代償である刻限が迫っている。
「時間だわ」
 意識が遠退く間際、舞は五劫に己が気付いたことを伝えた。倒れ、沈みかけた舞を腕の中に招いた五劫はしかと頷く。
「俺が、消えさせない」
 決意めいた感情を込めて紡いだ言葉には強い思いが宿っていた。
 五劫は昏睡した舞を抱え、守りながら戦い続けることを誓う。あのような使者の誘いには背を向けて、ただ己が足で立って歩く。
 守りたいものを、この両の手で守る為にも惑わされてなどいられない。
 夢のかたちはひとそれぞれ。
 無理に掘り起こされるものでも、強要されるものでもないのだから。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒鵺・瑞樹
アドリブ連携OK
右手に胡、左手に黒鵺(本体)の二刀流

叶えたい願いはある。けれど夢は夢のままでいい。
夢は叶える物。だけど俺は叶えなくていいと。
たとえ叶わなくても、現実のささやかな癒しとなれば。
ゆめまぼろしにしがみつくわけじゃない。ただひび割れ砕ける心を繋ぎ留めれれば俺には十分だ。

先程と同様、存在感を消し目立たない様に立ち回る。
マヒ攻撃を乗せた暗殺のUC菊花で攻撃。代償は寿命。心に比べれば、身体の負担なんてたいしたことはない。
敵の攻撃は第六感で感知、見切りで回避。回避しきれないものは本体で武器受けで受け流し、カウンターを叩き込む。
それでも喰らってしまうものはオーラ防御、激痛・呪詛耐性で耐える。



●沈めた夢
 浜辺で戦った時と同じように、瑞樹は二刀を携えていた。
 胡と黒鵺を強く握り締めた彼は使者を見据え、一気に甲板を蹴り上げる。
 先程のように気配を消せば敵に察されずに済むだろうか。目すらない使者は何処を見ているか分からず、何らかの動きも見せない。
 敵の後ろに回り込んだ瑞樹はひといきに一閃する。だが、回避に特化しているらしい相手は難なく一撃を避けてしまった。
 そして、後ろを向いたまま瑞樹へと語りかける。
『叶え損ねた夢のある方、列へお並びください。順番は守りましょう』
「順番などあってないものだろうに」
 恐怖こそしなかったが、瑞樹は相手に得体の知れない奇妙さを感じた。同時に通常の攻撃では太刀打ちができないのだと悟る。
 敵との距離を取った瑞樹は思考を巡らせていく。
 おそらく敵は回避の代償に何か弱点を持っている。それを探り当てて一点に狙いを定めれば活路が見出せるはずだ。
(何処だろう。顔か、あのマントの中か……灯火か?)
 敵を見据える瑞樹は砂時計に目を遣る。彼処から溢れ出す魔力めいたものが、この場に訪れた猟兵達に夢を視せているのだろう。
 順番、と言われたように次は瑞樹の元に敵の力が及びはじめる。
 叶えられなかったもの。
 即ち未だ手にしていない、叶えたい願いは瑞樹にもあった。瑞樹だけが知る感情や想いが胸の裡に溢れていく。
 夢の炎が不可思議に揺らいで瑞樹に痛みを与えた。
 胸の奥が痛い。
 夢を叶えたかった、叶えられなかったという思いが胸裏を貫く。しかし瑞樹は頭を横に振って齎される思いを否定した。
「――夢は夢のままでいい」
 夢は叶えるものだという。だけど俺は叶えなくていい、と口にした瑞樹は甲板を踏み締め、使者を静かに睨みつけた。
 たとえ叶わなくても、現実のささやかな癒しとなればそれで構わない。
 ゆめまぼろしにしがみつくわけではない。ただ、ひび割れ砕ける心を繋ぎ留められれば、自分には十分だと思える。
 刹那、痛みが収まった。それは瑞樹が使者の齎した夢を破ったということだ。
 砂時計に宿っていた魔力が僅かに弱まる。
 瑞樹は青の瞳に敵を映したまま、二刀で斬りかかっていく。相手が回避するならばそれを上回る速度と回数で圧倒すればいい。
 疾さの代償は寿命だが、心に比べれば身体の負担なんて大したことなどない。
 瑞樹は刃を振るい続ける。
 与えられた夢など意味がないのだと語るように、ただ只管に――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

真宮・響
【真宮家】で参加

叶えたい願いか・・・これからも家族3人で仲良く暮らして、奏と瞬が一人前になること。・・・いずれかは想いが通じ合っている奏と瞬が家庭を持って幸せになればいい。

確かにその願いは途方も無い願いだ。奏と瞬が健やかに一人前に育つとは限らないし、時間もかかるだろう。義兄妹である2人が結ばれるとも限らない。願いの大きさの分、襲ってくる痛みも強いだろう。

でもこんな痛みに屈するものか。赤の他人に母親としての願いを邪魔させるものか。【怪力】を込めった竜牙で痛みを振り切るように槍を振り抜く。アタシの願いはアタシのものだ。誰にも譲らない!!


真宮・奏
【真宮家】で参加

私の理想ですか?どんな激しい戦闘でも大事な人を護り抜く強い騎士になる事です!!確かにどんな戦闘でも傷つかない身体を得ることは嬉しいですが・・

でもおかしいのは分かります。戦友を護って傷ついてこそ、護っているという実感が持てます!!戦友の代わりに傷つかないで何が騎士ですか!!こんな滑稽な万能な力はいりません!!

【怪力】で全力で信念の一撃で偽りの夢を全力で打ち破ります!!自分の夢は自分の力で叶えます!!先に進ませて貰いますよ。


神城・瞬
【真宮家】で参加

叶えたい希望・・・いつまでも家族3人で暮らしたい。いずれかは一人前の男として胸張れるようになった時に、1人の男として奏の傍に。

確かに途方もない夢です。今まで10年以上義兄妹として暮らしてきてそれ以上の関係になるのは世間から批判を受けるかもしれない。でも僕は男として奏の想いを受け止めてやりたい。

迫って来る絶望は心が折れそうになるほど強いものだろう。でも僕は赤の他人に願いを邪魔させる訳にはいかない。【高速詠唱】【全力魔法】【多重詠唱】【魔力溜め】で全力の氷晶の槍で歪んだ夢を打ち破る。僕の誓いは誰にも邪魔はさせない!!



●三人の願い
 叶えたかった夢、叶えたい希望、叶わなかった思い。
 それらが砂時計の魔力によって呼び起こされ、心を蝕むものとなって巡る。
 響に奏、瞬。
 三人が視せられたのはそれぞれに違う夢のかたちだった。
 
 響の夢。
 彼女が叶えたいと願ったのは家族のことだ。
 今と同じように、これからも家族三人で仲良く暮らしていく。穏やかな日々と幸せな時間が続けば他には何も要らないと思えるほどに大切な夢である。
 望むのは平穏。
 そして何よりも、奏と瞬が一人前になって立派に育っていくこと。
 想いが通じ合っている奏と瞬がいずれ家庭を持って幸せになればいい。その姿や生活を見守っていくことが母としての願いだ。
 しかし、それは普通のことであるがゆえに途方も無いと云える。
 何故なら人生には幸せだけが訪れるわけではない。自分は勿論、奏と瞬が健やかに一人前に育つとは限らない。
 これから時間もかかっていくだろう。
 戦いに身を置く者として、どんな危機や怪我に見舞われるかも分からない。
 それに義兄妹である二人が結ばれるとも限らなかった。困難は誰にでもやってくるゆえ、順風満帆とは行かないだろう。
 けれども愛しい者の幸せを願ってしまうのが人の性。
 願いの大きさの分、襲ってくる痛みも強く――響の胸の奥は酷く傷んだ。胸元を押さえた響は思わず片膝をつく。
 これがあの使者の力だと思うと末恐ろしく思えた。

 そして、奏の理想。
 それは強さを求めることだった。
 どんなに激しい戦いであっても挫けない心を持つこと。そして、どのような状況に置いても大事な人を護り抜ける強い騎士になること。
 それには傷付かない心と身体が必要だ。
 何にも動じず、大切なものやひとを守護し続けるのが奏の夢。
 それが今、使者の力によって叶えられようとしている。奏は自分の中に何でも出来るという全能感が溢れていることを感じていた。
 確かにどんな戦闘でも傷つかない身体を得ることは嬉しい。
 今ならどれほど恐ろしい戦場に向かっても恐れずに闘うことが出来るだろう。
 鋭い攻撃を受けたとしても跳ね返して立ち向かえる。傷などひとつも負わずに帰還することだって可能はなず。
「でも……おかしいです」
 しかし、奏は今の力を否定するように首を振る。
「こんなのは違います。戦友を護って傷ついてこそ、護っているという実感が持てます!! 戦友の代わりに傷つかないで何が騎士ですか!!」
 響は拒絶する。
 与えられた力で戦うつもりなど欠片も起きなかった。それゆえに叫ぶ。
「こんな滑稽な力……万能であってもいりません!!」

 同じ頃、瞬も夢に囚われかけていた。
 彼にとっての叶えたい希望。それは響が抱くものとよく似ていた。
 いつまでも変わらず家族三人で暮らしたい。平和な生活がずっと続いて、皆で笑い合える世界があれば良い。
 そのように願うのは至極当然のこと。
 大切な人が傍にいる今が大切で、永久に失くしたくはないと願うのは当たり前だ。
 そして、いずれは一人前の男として胸を張れるようになったとき。ひとりの男として奏の傍に寄り添いたい。
 愛しい人に何も不穏な出来事がないように。
 戦う猟兵として無理なことだと分かっているし、確かに途方もない夢だ。
 それに今まで十年以上も義兄妹として暮らしてきた。これから、それ以上の関係になるのは世間から批判を受けるかもしれない。
「でも――」
 男として、奏の想いを受け止めてやりたい。
 そのように想うのは悪いことではないはずだ。迫って来る絶望は心が折れそうになるほど強い。胸裏に響く痛みは酷くなっていったが、瞬はこの苦しみすらも抱えていかなければならないものだと思った。

「瞬兄さん!」
 そのとき、奏の声が響く。
 はっとした瞬と響は一足先に夢の力から脱していた奏に目を向けた。
 与えられた騎士の力は不要だ。
 持ち前の怪力を発揮して、全力で信念の一撃を放った奏は瞬の傍に駆け寄っていく。彼女が偽りの夢を打ち破ったことで使者の力も弱まった。
「自分の夢は自分の力で叶えます!!」
「そうですね、僕達の力で……」
 顔をあげた瞬は頷く。
 赤の他人に願いを邪魔させるわけになどいかない。瞬も奏と同じように全力を紡ぎ、氷晶の槍で歪んだ夢を崩壊させる。
「僕の誓いは誰にも邪魔はさせない!!」
「みんなで先に進ませて貰います!」
 二人が強く宣言した声を聞いた響は、自然と笑みが浮かんでいくことを感じた。
 そうだ。こんな痛みに屈するものか。事情も何も知らないコンキスタドールに母親としての願いを邪魔させたりはしない。
 竜牙で痛みを払うように槍を振り抜き、響は目の前に揺らぐ夢を一閃した。
「アタシ達の願いはアタシ達自身のものだ。誰にも譲らない!!」
 三人は夢という名の魔力を見事に破った。
 それによって使者の砂時計にほんの少しだけヒビが入る。僅かではあるが勝機が巡っていく兆しが見えた。
 三人は互いを想う心を感じ取り、これからも共に戦い続けることを誓ってゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

兎乃・零時
アドリブ歓迎
あーや(f12718)と!

俺の夢は大きく絶望も大きい

それを前に
震え息荒れ

視界に
『俺の絶望』から夢幻の力使い護ろうとする姿が…

待て
やめろ
力借りる事あっても
犠牲は違う
俺の目指す頂は
そうじゃない!

震える体で駆けだした

だって

…あーやっ!

UC
詠唱開始
地走り
全身
杖に
光属性付与魔術をかけ
杖先から光の道描く魔術放ち光の道駆ける
駆ける地踏む度
力増幅し
空放つ魔力の軌跡は魔力の逆噴射で駆け
空中のあーやの前へ跳ぶ!

…俺を護るんなら!
俺はお前を護るし絶望も討つ!
文句は言わせねぇ

だって

お前が居ない世界
嫌だから!

浮いた体まま
藍玉の杖Ⅱ型構え
絶望貫く光を

リミッター解除
光属性攻撃
貫通攻撃
限界突破全力魔法!

極光一閃!


小澄・彩
アドリブ歓迎!
れーくん(f00283)と!

僕は皆を導くために生まれた。世界を超えて、夢を応援して、導くために。
僕とキミは少し似ている。でも、だからこそ許せない。
与えられたもので自滅する?夢を抱けば絶望する?

ちがう!

知恵と力で導くことを。笑いあって夢の先の希望を目指すことを。
誰かのために出来ることを――僕の存在意義を、否定はさせない!

UCを発動。廃熱でツインテールがどんどん桃色に変化。
夢幻の力を制御、利用しながら大きく羽を広げてれーくんを襲い来る絶望から守り支援するよ。

たとえこの力で無に返っても。
覚えていてくれる人と、喜びが一つあればそれでいい!
心が重なり紡がれる歌を、私は最期まで歌い続ける!



●キミのいる世界に
 全世界において最強で最高の魔術師。
 少年が抱く理想は果てしない高みを目指す大きな夢。
 だが、此度の敵の力は思いが強ければ強いほど、それに比例した痛みや絶望を齎す。
 零時は今、打ち拉がれてしまいそうなほどの絶望を前にしていた。
「……っ、何だ、これ……!!」
 夢は大きいがゆえに絶望も深くなるのだと悟り、零時は震えている。普段なら俺様は負けないと啖呵を切って立ち向かえた。
 しかし今はどうだろう。
 呼吸は乱れ、足はふらつき、心が揺らぎ続けている。
 そのうえ視界には零時の絶望から夢幻の力を使い、護ろうとする彩の姿が見えている。
「待て、やめろ」
 咄嗟に紡いだ言葉にはいつもの少年の勢いはない。
 駄目だ。いけない。やめてくれ。
 声にすらならない思いが零時の中に過ぎっていくだけ。手を伸ばそうとしたが、それすら出来ないのは夢の代償か。
 力を借りる事あっても、それによって犠牲を伴うのは間違っている。
「俺の目指す頂は、違う……。違うんだ、そうじゃない!」
 ああ、だけど。
 零時は抗おうとする。これまでの絶望は本当の絶望ではなかった。追い求める夢があるから恐怖も震えも和らいでいた。
 しかし今は夢が叶わないと告げられているような感覚がある。真の絶望はこんなに酷くて深いものなのか。
 少年は震えていた足を何とか動かした。
 それまで一歩も動けなかったが、勢いをつければきっと進める。
 そして、零時は駆け出した。
 だって――。

 同じ頃、彩も自分が抱く理想のかたちを確かめさせられていた。
(僕は、皆を導くために生まれた)
 それは存在理由であり、生まれながらにして抱く理想でもある。
 世界を超えて、夢を応援して、導くために自分は今も此処にいる。夢を導くという意味では目の前にいる使者もそうなのかもしれない。
「僕とキミは少し似ている。でも、だからこそ許せないよ」
 彩は使者から与えられている不思議な力を感じていた。元あった能力に加え、この力があれば何だって出来る気がする。
 しかし、これに頼ればよくない未来が待っていることもわかった。何よりも零時が使者の力を受けて苦しんでいる。
 そんなものが良いものであるはずがない。それでも、と彩は拳を握る。
「与えられたもので自滅する? 夢を抱けば絶望する?」
 幽霊船に吹いてきた風が髪を揺らした。昼間の心地よい風とはうってかわって悲しげな風のように思える。
 それは今、この場の空気が淀んでいるからだろうか。
 そう感じながらも彩は頭を大きく振り、コンキスタドールを見据えた。
「――ちがう!」
 キミのやろうとしていることは夢を騙った蹂躙だ。彩は指先を突きつけ、こんな全能感など人に与えてはいけないと否定する。
 貸し与えられたものに真の意味はない。それは流儀と矜持に反するから。
「知恵と力で導くことを。笑いあって夢の先の希望を目指すことを。誰かのために出来ることを――僕の存在意義を、否定はさせない!」
 凛と彩が宣言した、次の瞬間。
 力を振り絞った零時が彩の名を呼んだ。
「……あーやっ!」
 少年は其処から詠唱を開始した。
 甲板を駆け抜け、全身と杖に光の魔術をかけて杖を掲げる。
 杖先から光の道を描く魔術を放てば光の道が浮かびあがった。駆ける地を踏む度に力が増幅していき、空に放つ魔力の軌跡があらたな光となって迸る。
 更に魔力の逆噴射で駆けた零時に視線を向け、彩も呼び返した。
「れーくん!」
 そして、彩も更に自分の能力を発動させていく。
 廃熱でツインテールは桃色に変化していた。大きく羽を広げた彩は襲い来る絶望から少年を守る為、全力を振るう。
「たとえこの力で無に返ってもいい。覚えていてくれる人と、喜びが一つあればそれで構わないから!」
 心が重なり、紡がれる歌を、私は最期まで歌い続ける。
 宣言した彩はオプチカルユニットと融合して歌声を響かせていく。それは周囲の仲間にも広がっていくが、今はただひとりのため。
 その声を聞いた零時は空中を舞う彩の前に跳んだ。まだ絶望は押し寄せてくるが、それ以上に聞き捨てならない言葉を聞いた気がした。
 無に返る?
 喜びがひとつでいい?
 それは自分を捨ててまで戦うということだ。自分の中に巡る感情よりも他を想う感情の方が強くなったとき、零時の震えは消えていた。
「あーや! お前が俺を護るんなら! 俺はお前を護るし絶望も討つ! いいか、文句は言わせねぇ!!」
 だって――。零時は先程に心の中で思ったことをもう一度反芻する。
 そして今度は胸に秘めず、はっきりと宣言した。
「お前が居ない世界は、嫌だから!」
「れーくん……うん、ありがとう!」
 零時は浮いたまま藍玉の杖を構え、絶望を貫かんとする光を解き放っていく。
 全てを込めて。
 己が持てる限りの光を此処に。
 限界なんて越えて、その先を目指すために。
 ――極光一閃!
 彩の激唱に眩い光が重なり、昏い絶望は反転させられていく。
 絶望の向こう側。その先にはきっと希望という名の生きる道が続いているから。絶対に何も手放さず、夢の境を超えていこう。
 少年達の思いは果てしなく強く、戦場に巡り続けてゆく。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

波瀬・深尋
夢や理想なんて
考えたこともないが

ーー本当に、そう?

なんて
返ってきた言葉に
目の前で揺れる炎に
飲み込まれそうになる

失くさない思い出
喪った筈の幼い日々

しあわせな記憶が残ったまま
生きていける自分の姿は

まるで夢物語か
でも違うだろ
こんなふうにして
手にして良いものじゃない

抗う中、召喚された幽霊は
まるで昔の俺みたいに見えてーー

ああ、そうか
この世界に迷い込んだ時の俺も
ずっと夢や理想を描いていて
それが叶ったら、どんなに良いものか

それでも、俺は、

ーー喰えよ、ミカゲ

俺の全部、喰らい尽くせ

欠けた記憶は戻らない
描いた夢も理想も叶わない

だからこそ、
全てが絶望に変わっても
それすらも抱えて生きていく

そうして、俺は、前に進むから



●失い続ける物語
 夢、理想。望むもの。
 考えてみても浮かばない、幻想のようなもの。
 それが波瀬・深尋(Lost・f27306)が抱く夢への感慨だった。しかし目の前に立つ使者は灯火を揺らめかせ、問いかけてくる。
『――本当に、そう?』
 揺れる炎が深尋の瞳に映った。その瞬間、何だか飲み込まれてしまいそうな感覚が彼の中に巡っていく。
 視界が揺らいだ。壊れた幽霊船の甲板が酷く軋んだ音を立てる。
 身体が痛い。
 違う。胸の奥が痛いのだ。そう気付いた深尋だったが、それを止めることは出来ない。敵から否応なしに与えられる苦痛は深尋を深く抉る。
 失くさない思い出。
 喪った筈の幼い日々。
 しあわせな記憶が残ったまま、生きていける自分の姿はまるで夢物語のよう。
 夢を映す炎は幸福を見せてくれる。
 このまま、目の前のものを受け入れてしまえばどんなに幸せだろう。もしかすれば痛みすら失くせるかもしれない。
 そんな思考が過ぎったが、深尋は首を振った。
「でも、こんなの……」
 違うだろ、と深尋は口にする。夢は夢だ。こんなふうにして手にして良いものではないのだと分かっていたし、痛みだってなくならない。
 深尋が夢の炎に抗う中、召喚されていく幽霊達。
 それはまるで、昔の自分の姿であるように見えてしまった。
「ああ、そうか」
 深尋は何かに気付き、納得した。
 この世界に迷い込んだ時の自分も、ずっと夢や理想を描いていたのだろう。それが叶ったら、どんなに良いものかと思った。
 痛む胸を押さえた深尋はふらつきそうになりながらも一歩を踏み出す。
「それでも、俺は、」
 ――喰えよ、ミカゲ。
 言葉を最後まで紡がぬまま、深尋は己に宿るオウガを呼んだ。失っても良い。失くしても構わない。きっとそのために此処に来たのだから。
 俺の全部を喰らい尽くせ。
 夢を見たって欠けた記憶は戻らず、描いた夢も理想も叶わないと知っているから。
 でも、だからこそ思うことがある。
 全てが絶望に変わっても、それすらも抱えて生きていくと決めていた。
 そうして――。
「俺は、前に進むから」
 気付けば齎されていた胸の痛みは消えていた。それは深尋が確かに、敵の満足する答えを示してみせたという証でもあった。
 すると使者が手にしている砂時計が幽かに震える。
 深尋は自分の抵抗が相手の力を削ったのだと察し、僅かな安堵を覚えた。
 おそらくこれからも自分は多くのものを失っていく。けれども、それで良いのだと思えた。今の己が抱く感情は、きっと――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

芙蓉・藍
【わだつみ】
心情
夢や、理想……秘めた願い、か
自分の両親は、どんな顔だったのだろうとは、思いはする
幼い頃に引き離されたからか、ほとんど覚えていない
昔ならばともかく、今はもう自分自身で脱出するという夢を掴んだ
もし会えたのなら産んでくれてありがとうという言葉だけはかけたい気もするね
そのおかげでレンや有珠と居られるのだから
幼い頃なら簡単に捕まっていたかな
もう、両親からの愛を欲するほど幼くはない

【行動】
二人と過ごす『今』を大事にしたい
近くに二人がいるなら手を握ることで精神を落ち着けます
二人が動けない状態で幽霊などが襲ってきた場合は狐火で迎撃
自分自身、なるべく早く相手のUCに抗い、攻撃を仕掛けます


飛砂・煉月
【わだつみ】
其処に在るのは、絶望だ

牢を毀して得た自由が、再度閉ざされた
冷たい場所
冷たい床
元より少ない寿命か
得られぬ血液ゆえか斃れる、感覚

オレが失くなってく
朽ちて亡くなってく

――たったひとりで
また独りのままで

…いや、こんなのは、
そんなのは幻だ
与えられただけの絶望だ
元より絶望から始まった生だからこそ
オレはいつだって掴み取る
諦めなんてのはとっくに捨てたんだッ

藍の様子に、その手を取ってキミが安心するなら
はは…安心してるのオレの方かもしんない
有珠、キミは大丈夫?
そっかって、目を細めて
オレもさ有珠と藍が居るから大丈夫
独りじゃないの、安心してるんだ

ハクの名前を呼んで、牙痕侵食を持って絶望を薙払い
――終いに、


尭海・有珠
【わだつみ】
どこにも行けず
奪われる瞬間から、目を逸らすことも塞ぐこともできない絶望
何もできないまま目の前で失われる光景は
何度だって見て
何度だって逃れたいと思って、失いたくなかったって今でも思う
…だから、心も心を映す表情も毀れたんだが

連れ出されて自由な空を見て、与えられて、そして奪われて
また奪われ続けるのか

首の傷に一度触れる
いいや、奪われないために、自由を手放さないために今私は生きてるんだ

藍の手を握れば、温もりが伝わって心が落ち着く
…大丈夫、レンと藍がいるから、私は動ける
二人を奪われたくないんだ、諦めも悪いもんでね
口の端だけで笑って
当たろうと当たらなかろうと氷の≪剥片の戯≫を敵にぶちまけてやる



●絶望を越えて
 夢と理想、秘めた願い。
 幽霊船の甲板に訪れた一行は、敵の力に飲み込まれていた。
 藍と有珠、煉月の三人。彼らには今、自分が夢見る理想、或いは過去に対しての幻影めいたものが見えている。
 戸惑う暇すらなかった。使者は誰にも等しく幻を視せてくる。
 妖しい灯火の炎が揺れた。
 そんな中で藍が思っていたのは自分の両親について。
 ――どんな顔だったのだろう。
 そのように思いはする。けれど実感が持てないというのが本音だった。藍の前に現れた幽霊は顔がはっきりと分からず、ぼんやりとしている。
 その理由は幼い頃に引き離され、ほとんど両親を覚えていないからだろう。
 顔が見えない。存在しているかも分からない。
 絶望めいた感覚が藍に巡る。
 しかし藍は思った以上に動揺していなかった。昔ならばともかく、今はもう自分自身で脱出するという夢を掴んだからだ。
 むしろ、産んでくれてありがとう、なんて言葉をかけようかと思った。
 そのおかげで煉月や有珠と居られるゆえに感謝の方が強い。されどこれは幻。もしいつか、しっかりと顔を確かめられたときにとっておくのが良い言葉かもしれない。
 きっと幼い頃なら簡単に捕まっていた。
 けれども、もう――両親からの愛を欲するほど幼くはない。それが今の藍だ。

 一方、有珠はその場に立ち尽くししていた。
 どこにも行けず、逃げることも叶わない。奪われる瞬間から、目を逸らすことも塞ぐこともできない絶望が齎された。
 何もできないまま目の前で失われる光景。
 それは、これまでに何度だって見て、何度だって逃れたいと思ったもの。
 失いたくなかった。
 今でも強く思う感情が有珠を支配していく。この懐いがあるからこそ、現在の有珠が形成されたと言っても過言ではないほど。
 それだから心も、それを映す表情も毀れてしまった。
 連れ出されて自由な空を見て、与えられて。そして、奪われて。
 未だ終わらない。また奪われ続けるのかと感じれば、胸を押さえた有珠の裡に更なる絶望が生まれて咲いた。
 有珠は無意識に首の傷に一度だけ触れる。
 すると騒いでいた心の内がほんの少しだけ凪いだ気がした。
「……いいや、」
 有珠は首を振り、この感情も絶望もただ無理矢理に与えられたに過ぎないものだと思い直す。奪われないために、自由を手放さないために――今、私は生きている。
 そう思えば、ただ立ち竦んでいるだけではいられなかった。

 其処に在るのは、絶望だった。
 煉月が牢を毀して得た自由が再度閉ざされたように感じられた。
 冷たい場所。冷えた床。
 あたたかなものなど何もない。元より少ない寿命か、得られぬ血液ゆえか、斃れる感覚ばかりが広がっている。
 ――オレが失くなってく。朽ちて亡くなってく。
 たったひとりで。
 また、独りのままで。孤独に打ち拉がれたまま消えていくだけになってしまう。
 絶望が塗り重ねられて大きくなっていく。
 もう嫌だ。誰か。そのように助けを求めたりは出来ない。誰にも頼れないと心の奥底で知っていたから。自分でしか自身を救えないと、或いは己ですら救えないのだと思ってしまっていたゆえに。
 煉月は酷く痛む胸に手を添える。そうして、唇を噛み締めた。
「……いや、こんなのは、」
 そんなのは幻だ。
 落ち着け、と頭の中で思うことに反して心がざわついていく。それでも煉月はしかと今の状況を打破する道筋を考えていった。
 与えられただけの絶望に恐怖するわけにはいかない。
 元より絶望から始まった生だからこそ、いつだって掴み取ってみせる。
「オレは……そうだ。諦めなんてのはとっくに捨てたんだッ」
 だから手を伸ばす。
 助けて貰うのではなく、再び自分で絶望を毀すために。

 三人の心は一度は囚われながらも、皆がしかと夢の魔力に抗った。
 その瞬間、絶望は晴れる。
 藍は強く思った。
 二人と過ごす『今』を大事にしたい、と。そして藍は二人に腕を差し伸べ、その手を握ることで精神を落ち着けた。
「藍?」
「こうすると安心するから」
 有珠が首を傾げると、藍は真っ直ぐに答える。
 握られた手を有珠が繋ぎ返す中で煉月は淡く笑んだ。
「はは……安心してるのオレの方かもしんない。有珠、キミは大丈夫?」
「……大丈夫、レンと藍がいるから」
 私はもう動ける、と煉月からの問いに告げ返した有珠は頷いた。伝わってくる温もりは心を落ち着けてくれる。
 独りではない。確かに繋がっている。
 そのことが改めて分かっただけで、なんと心地好いことか。
「そっか。オレもさ、有珠と藍が居るから大丈夫」
「私も二人を奪われたくないんだ、諦めも悪いもんでね」
 煉月は自分の中に安堵が巡っているのだと感じていた。その声が随分と穏やかなものだったので、有珠も口の端だけで笑ってみせる。
「二人とも、あれを」
 そのとき藍がコンキスタドールの様子を示した。三人が絶望を振り払ったことで魔力が削られ、使者の持つ砂時計にヒビが入ったらしい。
 それはまだ小さなものだが、いずれは割れてしまうであろうことも分かった。
 ならば此処からは全力を揮うのみ。
 藍が狐火を呼び起こし、有珠は氷の剥片を紡ぐ。二人に続いた煉月はハクの名前を呼び、使者を貫くことを誓った。
 何度、絶望が齎されたとて薙ぎ払ってみせる。
「――終いに、」
「そうだね、終わりにしよう」
「ああ、皆の手で」
 三人は確かな頷きを交わし、其々の力を巡らせていった。たとえこの後にどんな戦いがあったとしても絶対に皆で帰還してみせる。
 そう心に決めて――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朧・ユェー
【月光】

叶えたい夢…など無いはず
そう思っていた

普通の父と母
一緒に育つはずだった兄と弟

何気無い日常
退屈な日常
笑い合う普通の家族

痛みが身体をはしる

金色の煌めきが見に映る
これは何だろう?
先程まで見た向日葵の色
嗚呼、僕の天使の髪の色

視界が幻が薄れていき
愛おしい子の姿が目にうつる

この子も何か見せられているのだろう
苦痛と一人戦っていた

そっと抱き締め優しく撫でる
大丈夫、僕は傍に居るよ
だから戻っておいで

自分の身体の痛みなど
あの時の痛みに比べれば可愛いものですねぇ

残念ですね
僕の願いは今叶っていますから
大切な家族、それが本物で無くとも
僕とっては本物よりも大切な

屍鬼
悪い夢ごと喰べてしまいましょう

ルーシーちゃんお帰り


ルーシー・ブルーベル
【月光】

かなえたかったゆめ

青空の下
草や野花いっぱいの草原でピクニックをするの
ルーシーのママ、パパ
本当のルーシー
それから、本当のママ

みんなでお話しして笑って
みんな仲良しで
たくさんルーシーといっしょに遊ぶの
体も良くなったみたいね
お花が欲しいの?とってきてあげる

ワスレナグサ?いいわ
ブルーベル?また?いいわ!
ポピー?もちろんよ!
ヒマワリ?

……それ、は、だめ

ああ、いたい
身体が焼けるよう、息が出来ない
みんなも焼けてしまう
ヒマワリを手放せとみんなが言う

だめよ、ルー
共に生きると決めたあなたにもあげられない

だって
これはルーシーとパパのお花なんだから!

帰るわ
「ルーシー」のパパの所へ
うでの中に飛び込む
――ただいま!



●大切な家族
 かなえたかった、ゆめ。
 それはきっとたくさんある。たったひとつに起因するものだと分かっていたが、もっともっと多くのことをしたかったと願う気持ちは幾つも浮かんできた。
 ルーシーが視せられている理想の世界。
 其処は青空の下。
 草や野花でいっぱいの草原で、皆でピクニックをする景色が少女の瞳に映っていた。
 ルーシーのママとパパ。それから本当のルーシー。
 そして、本当のママ。
 其処にはちゃんと自分もいる。誰も悲しい顔や苦しい表情をしていない。楽しくお話をして、笑いあって、みんなが仲良しでいた。
 少女はたくさんルーシーといっしょに遊んで、野原を駆け回る。
「体も良くなったみたいね」
『   』
 少女が微笑むとルーシーは何かを言った。声は聞こえなかったが何を言っているかは分かったし、今の少女は何の疑問も覚えない。
「お花が欲しいの? とってきてあげる」
 駆け出した少女の後にルーシーがついてくる。あの花が欲しいと示すルーシーに対して少女は快く応えていく。
「あのワスレナグサ? いいわ、待ってて」
「ブルーベル? もう、また? でもいいわ!」
「次はポピー? もちろんよ!」
 そんな風に少女は笑って、ルーシーに花を手渡していく。
 しかしあるとき、彼女は太陽のような色の花が欲しいと所望した。
「ヒマワリ?」
『   』
 またルーシーが何かを言った。次の声は何を言っているのか分からなかった。
 少女は急に心が重くなった気がして、ふるふると頭を振る。どうしてか分からないが渡したくはないと思った。だから手にした向日葵はルーシーにあげていない。
「……これ、は、だめ」
 いたい。
 それまで幸福だった心が軋んだ。身体も焼けるようで息が出来ない。
 ルーシーが、パパとママ達が、みんな燃やされてしまう。ヒマワリを手放せとみんなが言うけれど、どうしても放せなかった。
「だめよ、ルー」
 共に生きると決めたあなたにもあげられない。だって、これは――。
「ルーシーとパパのお花なんだから!」

 少女が幻想を視ている中、ユェーもまた使者の力に囚われていた。
 叶えたい夢など無いはずだった。
 だが、そう思っていただけだと知ったのはユェーの裡に不思議な力が巡ったからだ。
 視えたのは普通の父と母。
 そして、一緒に育つはずだった兄と弟の姿。
 何ら変わりのない平穏で何気無い日常がユェーの心象風景として現れる。
 それは退屈な日常とも呼べるものだ。笑い合う普通の家族がいて、他愛のない会話を交わして、また同じ日々を過ごす。
 これが自分の夢だったのだろうと感じたユェーは双眸を細めた。
 このまま理想を眺めていようか。そうすれば苦しいことなどないまま、この心地好い全能感に浸っていられる。
 ユェーの裡にはそんな思いが浮かんできていた。
 しかし、不意に痛みが身体に走っていく。同時に金色の煌めきが目に映った。
 ――これは何だろう?
 嗚呼、そうだ。
 先程まで見た向日葵の色。僕の天使の髪の色だ、と感じたときにはもう視界に入っていた幻が薄れていた。
 そして、愛おしい子の姿が見える。
 その子はどうしてか苦しんでいるように思えた。きっと彼女も何かを見せられているのだろう。ユェーには何も視えないが、苦しみを慮ることは出来る。
 苦痛と独り戦っているのならば自分が手を差し伸べてやれるはずだ。
「ルーシーちゃん」
 その名を呼び、ユェーは腕を伸ばす。
 今まさに幻の渦中にいる彼女に届くかは分からなかった。それでも、何もせずに見ていることなど出来やしない。
「大丈夫、僕は傍に居るよ。だから――戻っておいで」

 叫んだ少女は偽りの世界を拒絶した。
 何処からか自分を呼ぶ声がする。ただの少女としてではなく、ルーシーとして。
 けれどもその声の主はブルーベルの家の者として呼んでいるのではない。等身大の自分として求めてくれているひとだ。
 少女――ルーシーは向日葵を抱きしめる。
「……帰るわ。ここは違うの」
 ルーシーがゆっくりと瞬きをした次の瞬間、幻想は向日葵と共に消え去った。
 そして、少女はひらけた現実の最中に駆けていく。其処には両手を広げているユェーの姿があり、ルーシーはその腕の中に思いきり飛び込んだ。
「――ただいま!」
「おかえり、ルーシーちゃん」
 少女を抱き留めたユェーはそっと腕に力を込め、優しく撫でる。
 先程に感じた自分の身体の痛みなど、あの時の痛みに比べれば可愛いものだ。それに今は大切な子が傍にいる。
「大丈夫だった?」
「えぇ、問題はありません」
 ユェーを見上げたルーシーは自分達が使者の力を振り払えたのだと感じた。
 彼もしかと頷き、コンキスタドールの方に向き直る。
「残念ですね、僕の願いは今叶っていますから」
 大切な家族の幻想が見えたが、それが本物でないことも知っていた。それに自分にとっては本物よりも大切な子がいる。
 ユェーが微笑むと、ルーシーもそっと口許を緩めた。
 そうして少女は使者が持っているものにひび割れが入っていることに気が付く。
「あの砂時計、われているのね」
「そのようですねぇ。それでは、悪い夢ごと喰べてしまいましょう」
 答えるやいなやユェーは屍鬼を展開した。
 おそらくは自分達の理想が振り払われたことで魔力の根源である砂時計にダメージが入ったのだろう。
 もう少しで全ての決着が付く。
 そのように感じたユェーとルーシーは頷きあい、続く戦いを見据えてゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

榎本・英
【春嵐】

叶え損ねた夢か。
私は無いが、なゆ。君はどうかな?

嗚呼。時を戻すも進めるも結構。
遠慮させて頂くよ。
私は今を生きているのだからね。
著書の獣も、それを望んでは居ないのだよ。

過去に縋るのも結構。
未来に希望を抱くのも結構。
私の夢も希望も願いも何もかも、私の物だからね
知らない輩に、やすやすと見せる訳にはいかない。

君に問おう
『君の見せるこれは、私を惑わす為の物かな?』
生憎、これはただの夢でしかない。
私の夢を映す炎でしかない。
なぜこのような物を見せるのか。

炎は時に脅威にもなるが、容易く鎮火する事も出来るからね。
獣達も、嗚呼。ナツもお怒りのようだ。

なゆ、夢は夢だ。
私達は今を生きる。


蘭・七結
【春嵐】

叶えられずに葬られた夢
嗚呼。あったのかもしれないわね
けれどそれは、たがうかたちで結びを得ているの
もしも。叶えたわたしが居たのならば
今のわたしは存在しないのでしょうね

わたしは、今がとてもたのしいわ
過去を逆巻くこと、未来を手繰ること
そのどちらも必要はないの
わたしたちはいきたいと望んでいきている
過去を懐き、みえない未来へと歩みたい
その歩みに干渉する力はいらないの
注がれるあなたの力を否定するわ

全能力を、立ち塞がる困難を
眼前のあなたを、ちょきんと絶ち切ってゆく
薙ぎ払って前へと往きましょう

夢見ることは間違いではない
けれど溺れることは、しない
わたしも英さんもいきてゆく
いきているの
今までも、これからも



●いま、このとき
『――叶え損ねた夢のある方、列へお並びください』
 使者は語る。
 夢や理想、希望を見せて欲しい、と。
 英はその声を聞き、肩を竦めた。考えてみても今は思い至らない。あったとしても浮かばぬのならばそれまでのことなのだろう。
「叶え損ねた夢か。私は無いが、なゆ。君はどうかな?」
 隣に立つ七結に問いかけた英は返答を待つ。
 つまりは叶えられずに葬られた夢。あるかしら、と考えた七結は眦を僅かに緩めた後、花唇をひらいた。
「嗚呼。あったのかもしれないわね。けれど……」
 それは、たがうかたちで結びを得ている。嘗ての自分が願った儘ではなかったのだろうけれど、廻り囘って今がある。
 もしも、それを叶えたわたしが居たのならば、今のわたしは存在しない。
 そのように答えた七結は結論を出す。
「わたしにも、叶え損ねた夢はないわ」
 すると使者が片手に掲げた灯火の炎を強く燃やした。叶えられなかった夢がないと話したふたりに無理矢理に何かを視せようとしているのかもしれない。
 英は眼鏡の奥の片目を軽く細め、首を振った。
「嗚呼。時を戻すも進めるも結構」
 遠慮させて頂くよ、と言葉を付け加えた彼は夢や理想を見せてもらわずともよい理由を語ってゆく。
「私は今を生きているのだからね」
「そうね。わたしは、今がとてもたのしいわ」
 七結も英に同意を示した。
 それゆえに過去を逆巻くことも、未来を手繰ることも、どちらも必要はない。
 自分たちはいきたいと望んでいきている。
 生きて、往く。
 過去を懐き、みえない未来へと歩みたいと願っているから。その歩みを止めてしまうような干渉はいらない。
 使者から注がれる力を否定した七結は凛とした眼差しを向ける。
 嗚呼、と続けた英も静かな拒絶をあらわした。
「私も、彼女も。著書の獣も、それを望んでは居ないのだよ」
 過去に縋るのも結構。
 未来に希望を抱くのも結構。
 己の夢も希望も願いも、何もかもが自分だけの物。大切に想うひとと共有することはあっても、知らない輩にやすやすと見せる訳にはいかない。
 そうして英は問い返す。
「君に問おう。――『君の見せるこれは、私を惑わす為の物かな?』、と」
 質問と共に著書の頁を手繰れば、情念の獣が周囲に現れた。
 使者に向かって迸る無数の手。
 其処に合わせて七結が鍵杖を振りあげ、ひといきに敵を狙ってゆく。獣の手が使者を掠める。更に七結が振り下ろした黒鍵の刃が軌跡を描いた。
 しかし、回避に特化した使者はどちらもひらりと躱してしまう。
 それでも英達は怯むことなどなく、それぞれの力を揮っていった。無論、敵から齎されかけた全能の力など用いてはいない。
 立ち塞がる困難があったとしても乗り越える。障害となっていくのならば、ちょきんと絶ち切ってゆくだけ。
 すべて薙ぎ払って前へと往けば、自ら望む先に辿り着けるはず。
 七結が揮う黒鍵の一閃を見つめた英は夢を映す炎に意識を向け直した。ゆらゆらと使者の手の中で揺れているそれは蠱惑的だ。
「けれど生憎、それはただの夢でしかないのだよ」
 夢を映す炎でしかない存在に心を傾けたりはしない。そして、なぜこのような物を見せるのかと使者に問うた英は眼差しを向け続ける。
 答えはない。
 されどそれは情念の獣達が使者を攻撃し続けるということでもある。
「夢見ることは間違いではない。けれど溺れることは、しないわ」
 七結はゆらりと不可思議に揺らめく使者を眸に捉えながら、踊るように黒鍵の刃を振るい続けた。英も彼女の補助になるべく立ち回り、獣に己の力を注ぐ。
「炎は時に脅威にもなるが、容易く鎮火する事も出来るからね。獣達も、嗚呼。ナツもお怒りのようだ」
 威嚇の声をあげる仔猫を見遣り、英は片目を閉じてみせる。
 使者が持つ砂時計はさらさらと流れ落ちていた。砂が夢の刻限を表しているようだと感じながら、英は七結に呼びかける。
「なゆ、夢は夢だ」
「夢ではなく、わたしも英さんもいきてゆく」
「嗚呼、私達は今を生きる」
「いきているの。今までも、これからも」
 死んだ過去に縋っていくよりも、未だ誰も知らぬ未来に果てない理想を抱くよりも、今という瞬間を一緒に。
 そうすれば屹度、ふたりだけの先が見えてくるはずだから。
 時計の砂は零れ落ち続ける。
 まるで終幕までの時を刻むが如く、ゆっくりと――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
🐟櫻沫

叶わなかった願い、理想―

学校に通ってみたかった
一杯勉強して
館に帰れば
おかえりと櫻とヨル(大人ペンギンの姿。ヨルの理想かな?)
とうさんとかあさんと、それに一華と縁も皆がいて
離れたところには誘達もいる

暖かに笑って団欒を、なんて……夢
近くを飛ぶカナンとフララの姿に柔く笑む
もう僕の理想は願いは叶ってる
叶える
そのままと言わずとも近づけられる
受け継いだ匣舟は愛は想いは
この胸の中に咲いている
僕は今を生きてるんだから!
惑わされない
偽りなど「見ずともよい」でしょう?

櫻宵
戻っておいでと歌う、『水想の歌』
破魔をこめて鼓舞を込めて歌うよ

向き合うといい
己と過去と
呑まれないように何時だって、傍に寄り添っているから


誘名・櫻宵
🌸櫻沫

目の前にいるのは私


イザナ

私の成りたかった理想

ならその身を寄越せと
応えが分かっているのに笑う
意地悪ね


私は私としていのちを生きるの
愛しいひと達と

私達の想いは同じ
いつか迎えるその時
絶望で終わりになんてさせぬと
重なる夢に
救えぬ厄の姿
届かなくて
絶望と痛みと苦しみの中散る黒桜

澱みと哀しみと苦しみを断つのが願い
彼の神がどんな存在かと問いに笑む
私の師匠であり初めての友

―櫻宵の友
彼奴は私との約を果たしてくれていた
私はあの子の生きる道を邪魔しようなどと思わない
過去は唯
今と寄り添うもの

リル、お待たせ
破魔で霊を祓い飛ばし放つ「浄華」
妨げ事なぎ祓い
ありがとう、リル
糧にして進むわ
私達の匣舟の行く路を切り拓くの



●想い重ねて
 甘き時は落ちて、叶わなかった願いの欠片が灯火に映る。
 夢の炎に導かれるが如く、リルの胸裏から滲み出した理想。それは――。
(そうだ、学校に通ってみたかったんだ)
 たとえば、桜舞う学園。
 いっぱい勉強をして、友達と休み時間や放課後を過ごして笑いあう。
 桜の館に帰れば、おかえり、と櫻宵とヨルが迎えてくれる。そのヨルはというと、きりりとした大人ペンギンの姿になっていた。きっとそれがヨルの理想の姿だ。
 迎えてくれるのはふたりだけではない。
 ノアとエスメラルダ――とうさんと、かあさん。それに一華と縁。これまで知り合ってきた大切な皆がいて、少し離れたところには誘達もいる。
 今日は新しいことを習ったんだよ。
 そんな風に話せば皆がやさしく聞いてくれる。
 皆があたたかに笑って団欒を、という夢のかたちがリルの理想。
「でも、そうだね」
 リルは淡く笑む。夢の炎が揺らいでからずっと、カナンとフララが自分を守るようにすぐ傍を飛んでいた。
 大丈夫だよ、と二羽に告げたリルは理想の世界から視線を外す。
 確かにあれは夢。けれど、もうリルの理想と願いは叶っている。ううん、と緩く首を振ったリルは、叶えるのだと言葉にした。
 視えた通りのままではなくとも少しずつ近付けられる。
 受け継いだ匣舟は、愛は、そして想いは――この胸の中に咲いているから。
「貰った理想は要らないよ。僕は今を生きてるんだから!」
 惑わされない。
 誘われたりもしない。だって、とうさんだって言っていた。
「偽りなど『見ずともよい』でしょう?」
 あのときの言葉は忘れない。演じるのでなければ偽りは無為。お前は何も見なくていいというのはきっと、今という本当のことを見ていろという意味でもあるはず。
 理想は胸の裡へ。
 ましてやそれが自分を蝕むものならば、夢の炎の力など跳ね除けて進んでいける。
 ねぇヨル、とリルが語りかければ仔ペンギンがきゅっと鳴いて跳ねた。フララはペンギンの頭に止まり、カナンはリルの指先に舞い降りる。
 そしてリルは花唇をひらいた。
 後はいつもと何も変わらない。普段通りに、ただひとりの為に詩を紡ぐだけ。

 櫻宵の目の前に現れたのは自分自身。
 一瞬はそう感じたが、すぐに違うと分かった。
「イザナ……」
 どうして彼の姿が視えているのかを理解した櫻宵は僅かに俯く。
 あなたが、私の成りたかった理想だから。
 自分にだけ聞こえる声で囁いた櫻宵は逸らしていた視線を戻した。幽かな声を拾ったらしいイザナは櫻宵に手を伸ばす。
 ――それならばその身を寄越せ。
 応えが分かっているのに笑うのは意地悪だ。昔ならば受け入れたかもしれない。そのために生まれたのだと本能めいた感覚が告げていたから。
 けれど、今は違った。
「……嫌」
 首を横に振って拒否の意を示した櫻宵は言葉を続けていく。
 きっと今のイザナにならば分かって貰える。目の前の人影は夢の炎が齎した幻影ではあるが、近くには桜わらしの気配もした。
 もしかすればこの幻影のイザナ自体が桜わらしの変じた姿なのかもしれない。
 自分に、理想に、それから彼自身に伝えるように、櫻宵は思いをはっきりと紡ぐ。
「私は私としていのちを生きるの。愛しいひと達と」
 いつか迎えるその時を絶望で終わりになんてさせない。
 重なる夢に、救えぬ厄の姿。
 伸ばした手は届かなくて、絶望と痛みと苦しみの中に散る黒桜の幻視が揺らぐ。
 理想も夢も、叶わずにただ無為に終わるだけなのだと思い知らされているかのような感覚が櫻宵に齎されていった。
 しかし、自分達の想いは同じ。
 澱みと哀しみと苦しみ、全てを断つのが願い。
 ――彼の神はどんな存在か。
 イザナから投げかけられた問いに対して櫻宵は微笑んでみせる。
「私の師匠であり初めての友よ」
 ――友。
 櫻宵が宣言した言葉にイザナが何か考え込む仕草をした。
 彼奴は自分との約を果たしてくれていた。私はあの子の生きる道を邪魔しようなどと思わない。過去は唯、今と寄り添うものなのだから。
 そんな意思が伝わってきた瞬間、櫻宵が見せられていた絶望の光景が砕けた。
 前世と現在。ふたつの魂の意思が重なり、夢の炎の魔力を凌駕したのだろう。櫻宵は血桜の神刀たる太刀、屠桜の柄に触れる。
 そのとき、人魚の歌声が夜の狭間に響きはじめた。

 ――リルルリ、リルルリルルリ。

「櫻宵、戻っておいで」
 リルが紡ぎあげるのは、愛をあなたへ、と謳う水想の歌。
 麗らかな春を呼ぶようにリルは守りの水泡を満ちさせ、破魔の力を宿す桜吹雪が周囲の闇を淡く彩った。
 きっと櫻宵は向き合っている。
 己と過去と、現在に。
 それは重く伸し掛かる程の複雑に絡みあった縁だ。リルは櫻宵が深みに呑まれないよう、何時だって傍に寄り添っていたいと願った。
 その歌声に双眸を細め、櫻宵は屠桜を抜き放つ。
「リル、お待たせ」
 自分よりも一足先に理想と幻影から抜け出していたリル。流石は私の人魚だと笑み、櫻宵は桜嵐を纏う。それは浄化の華となって戦場に巡り、使者の力を揺らがせていった。
 与えられた夢を打ち破ったことで使者の砂時計に満ちていた魔力が削られている。確かな衝撃を与えているようだと察し、ふたりは身構え直す。
 その最中、櫻宵は愛しい人魚に自分が出した答えを告げていった。
「ありがとう、リル。全てを糧にして進むわ」
 過去は過去として抱き、これからの未来を進んでいく。
 自分達の匣舟の行く路は他でもない自身の歩みで切り拓いていくものだ。
 それがいま漸く解ったから――櫻が、咲いた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ハルア・ガーラント
【WIZ】
母は父の家庭をぐちゃぐちゃにしてわたしを産みました
あの女が全部悪いのと何度も聞かされた言葉
――でもそれ、嘘だったね
悪いのは母さんとわたしだった

夢や希望と言われすぐに思い浮かぶのは、海の見える故郷の町
蔑む視線も、態度も、言葉もない
みんな笑顔で、両親も笑顔で
夢だからこそ、あれは現実だったのだと解る絶望

先程の戦闘で握りしめた[仄暗い炎の小瓶]に再び触れ自らを[鼓舞]
あの経験があったからオラトリオになって、猟兵になって――大事な存在と出逢えた

幽霊が絶望なら、きっと召喚されるのは見慣れた表情の故郷の人達
蘇る恐怖に身体を竦ませながらUC発動します

飛び交う白鷲にお礼を
あなた達もわたしの味方だったね



●炎の証
 希望や望み、夢。
 そう聞いてすぐにハルアの中に浮かんだのは、海の見える故郷の町だった。
 其処には蔑む視線も、態度も、言葉もない。
 みんなが笑顔で、両親も笑顔でいる。幸せな世界でしかない理想。
 そんな光景がハルアの裡に流れ込んできた。しかしこれが夢だからこそ、あれは現実だったのだと解る絶望が押し寄せてくる。
 夢を見ていた。
 否、それはただの夢だと思いたかった過去の真実。
 ハルアは使者の手の中で揺らいだ夢の炎を見つめながら、裡に巡る奇妙な感情と向き合わされている。
 思うのは母のこと。彼女は父の家庭をぐちゃぐちゃにして、ハルアを産んだ。
 あの女が全部悪いの。
 幼い頃に何度も聞かされた言葉を純粋に信じていた。そういうものなのだと当たり前に思っていたこと。しかし現実を知った今、それは違うと分かっている。
「――でもそれ、嘘だったね。母さん」
 ハルアは思いを言葉にした。
 悪いのは母と自分だった。純粋でいられた幼い頃とはもう違う。真実を知った時の感情がふたたび溢れてきた。
 あの使者の力がそうさせているのだろう。
 けれども、母の言葉が嘘だったことは変わりのない事実だ。胸の奥や頭が酷く痛んで、ハルアは額に掌を当てた。
 この痛みこそが絶望の証。普段は押し込めていても、こうやって切欠を得れば自分を蝕む強い感情となるのだろう。
 自分に纏わりつくように揺らぐ幽霊達は、見慣れた表情の故郷の人達の姿をしている。それはとても怖くて、竦んでしまいそうだ。
 しかしハルアはただ押し負けたりなどはしない。
 自分がこの場に立っているのにも理由があった。それに今は、使者が持つ夢の炎などよりも確かで強い炎を手にしている。
 ハルアは紺青の炎が宿った小瓶に触れ、自らを鼓舞した。
 大丈夫。もう、大丈夫。
 自分に言い聞かせるように囁いたハルアは思う。あの経験があったからこそオラトリオになって、猟兵になって――大事な存在と出逢えた。
 昏い感情が連れてきたのは悲しみや絶望だけではないと識っている。
 恐怖は完全に消えたわけではない。それでも、この怖れこそがハルアに力を宿してくれるものでもあった。
 望郷の想いが淡く仄かに光る白鷲へと変じて、幽霊を穿ってゆく。
 飛び交う白鷲はまるで、彷徨える魂と絶望を浄化していくように空を翔ける。暗い夜の最中を羽ばたく鳥達を見たハルアは双眸を淡く細めた。
「あなた達もわたしの味方だったね」
 それを改めて知れたから、今だけは平気だと思える。
 白の翼が戦場に舞う中で冥府の炎が静かに揺れた。揺蕩うこの火が傍にあれば、まだ先へ進んでいける。
 そんな気がして、ハルアはそっと小瓶を握り締めた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

フリル・インレアン
ふえぇ、夢を妨げる絶望ですか。
そんな物は怖くありませんよね、アヒルさん。
絶望なんて、これまでの多くの冒険でたくさん見てきましたが、全てを乗り越えてきたんです。
この先の未来で何が起ころうが、どんな過去が立ちふさがるかなんて関係ありません。
今の私達が諦めない限り、道は続いていくんです。

絶望の過去と未来で希望を進む私達にたどり着けますか?
今の私達を示すようなガラスのラビリンスを
アリスとして過去を失い、未来を探して迷宮を彷徨う私達を。



●アリスの夢
 夢を問い、理想を尋ねる。
 幽霊船の上で浮遊するコンキスタドール、使者は夢の炎を手にしていた。
 それが揺らぐ度に仲間達に幻想や幻影が齎されていく。フリルは未だ少しの恐怖に怯えながらも敵の様子を窺っていた。
「ふえぇ、夢を妨げる絶望ですか。でも幽霊じゃないなら平気です」
 恐れ慄くばかりのフリルではない。
 確かに幽霊船自体の雰囲気は怖くて恐ろしいが、それは見た目だけの話。いま対峙しているコンキスタドールの力ならば畏れることはないと思えた。
「そんな物は怖くありませんよね、アヒルさん」
 ガジェットに呼びかけたフリルは少しずつ魔力を紡いでいく。
 怖くはないと語った理由はこれまでの冒険にある。今まで、フリルはアヒルさんと一緒に様々な困難を乗り越えてきた。
 アルダワではいつも驚くような迷宮を越えてきたし、別の世界でだってたくさんの敵と出逢って、ひとつずつ解決してきた。
 苦しい戦いもあった。悲しい事情を抱えている人も見てきた。
「絶望なんて、これまでの多くの冒険でいっぱい見てきました。ですが、全てを乗り越えてきたんです」
 そうですよね、とアヒルさんに呼びかけたフリル。
 いつも、ふえぇ、と悲鳴をあげているか弱そうな少女ではあるが――。もし本当に弱いのならば、今此処にフリルは立っていない。
 魔力で齎される絶望など彼女を脅かすものではないのだ。
「この先の未来で何が起ころうが、どんな過去が立ちふさがるかなんて関係ありません」
 過去を悔いたり、未来を諦めたりはしない。
 フリルは周囲を見渡してから自分が紡いできた魔力をひといきに解放した。
「今の私達が諦めない限り、道は続いていくんです」
 だから――。
 フリルの言葉と同時に辺りに透明な何かが広がっていく。それは使者を逃さぬように巡らせるガラスのラビリンスだ。
 今の自分達を示すような透き通った世界。
「絶望の過去と未来で希望を進む私達にたどり着けますか?」
 アリスとして過去を失い、果てなき未来を探して、迷宮を彷徨う私達を。
 捕まえられるならどうぞ、と告げたフリルの眼差しはただ真っ直ぐに使者に向けられていた。その視線は強い意思を宿していて――少女の確かな成長が其処に見えた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

逢坂・宵
ザッフィーロ(f06826)と手を繋いで甲板へ向かいましょう

夢?
叶えられなかった思い……?
聞こえた声音に視線を向ければくらり視界が歪んで
僕をかくあるべき器物として大切にしてくれた最初の主人たる天文学者と
その後引き継がれた細工師がまぶたに浮かび
ずっと永遠に彼らのところにいたいと
天図盤として扱ってくれるひとのところにいたいと
そんな「もしも」が―――

いえ、いいえ
それは違います!
ぴしゃり叫べば愛しいかれと繋いだ手を握り、反対の手で懐に入れた対の守り刀を握りましょう
過ぎたる「もしも」のゆめなど
かれと出会えたこの「現在」を否定することに他なりません
ええ、ザッフィーロ
僕たちならば、怖いものなどありませんとも


ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と手を繋ぎ甲板へ

…夢…?お前は何を言って…
訝し気に声を投げるも、兄を謂れのない罪…魔女狩りで亡くし幸薄い人生を歩みつつも幸せを掴んだ黒髪の所有者が幸せに天寿を全うする様を、そして彼女の子孫をずっと見守って行きたいと指の上見ていた夢を思い出させられれば息苦しさに眉を寄せてしまう
祖母として見ず異端を兄に持つ女として虐待死させたその孫を
見守りたいと願った彼女の子孫を己の手で殺したいと忘れかけていた願望を再度自覚すれば自然と手に力が籠り行くも
握った手の感触に気付けば息を吐き絶望を振り払おう
…俺にはもう、守る手も肉も…そして何より大事な今がある
ならば惑う事等…有る訳なかろう?なあ、宵?



●過去と現在、そして未来を
 手を繋いで甲板に向かう宵とザッフィーロ。
 其処に見えた使者という名のコンキスタドールは、猟兵達を静かに迎えた。
『――叶え損ねた夢のある方、列へお並びください』
 使者は不可解なことを語る。
「……夢? お前は何を言って……」
「叶えられなかった思い……?」
 ザッフィーロが使者に問いかけようとしたとき、視界が急に揺らいだ。コンキスタドールの手の中にある夢の炎が揺蕩った瞬間、宵の意識も遠くなる。
 そして、二人はそれぞれの抱く理想と夢の幻影を視せられることになっていく。

 ザッフィーロは額を押さえてから、ゆっくりと顔を上げた。
 彼が見ているのは、過去の記憶から拾いあげられた理想の光景のようだ。
 兄を謂れのない罪――魔女狩りで亡くし、幸薄い人生を歩んだ黒髪のひと。それはザッフィーロの嘗ての所有者だ。
 不幸に見舞われながら、それでも幸せを掴んだ彼女の姿が見える。
 そして、ザッフィーロはそのひとが幸せに天寿を全うする様や、彼女の子孫が平穏に過ごしている日々を見守っていた。
 今の姿ではなく、人々の指の上でずっと見守っていきたい。
 嘗て思い描いていた物としての夢。それを思い出させられたザッフィーロは不意に息苦しさを覚え、眉を寄せてしまう。
 祖母として見ず、異端を兄に持つ女として虐待死させたその孫。
 見守りたいと願った彼女の子孫を、己の手で殺したい。忘れかけていた己の願望を再度自覚すれば、自然に手に力が籠もる。
 しかし、ザッフィーロは其処ではっとした。
 握った手の感触がある。それは幻影に惑わされているときには意識できなかった、宵の手の温もりだ。
 ザッフィーロは心を鎮めて息を吐く。
 今、この熱を感じられるのは現在の自分が彼と共に此処に立っているから。それゆえに絶望を振り払おうと決め、ザッフィーロは幻影を振り払った。

 同様に宵もまた、過去の記憶から生み出された理想を見ていた。
 宵の描く夢の中には或る人がいる。
 それは自分をかくあるべき器物として大切にしてくれた、最初の主人たる天文学者。そして、その後に引き継がれた細工師だ。
 まぶたに浮かんだ彼らの姿はとても懐かしい。
 ずっと永遠に彼らのところにいたい。静かに、ただ穏やかに、器物として――天図盤として扱ってくれるひとのところに居続けたい。
 そんな『もしも』があればどれほど良かっただろう。
 宵は脳裏に過ぎった思いを反芻する。しかし、宵はすぐに頭を振った。
「いえ、いいえ」
 確かにこれは理想だ。
 器物としてこの世に生み出された以上、それを望んでしまうのは必然。けれども今の宵はただの物などではない。
 人の身を得たからこそ繋いだ縁がある。
「それは違います!」
 ぴしゃりと叫んだ宵は強い力の籠もった手を握り返す。愛しいかれと、こうして触れあえる今が大切だ。
 宵は反対の手で懐に入れた対の守り刀を握った。
 過ぎたる『もしも』のゆめなど要らない。かれと出会えたこの『現在』を否定することに他ならないからだ。

「宵……」
「ええ、ザッフィーロ」
 呼ばれた声に頷きを返した宵は希望と絶望を打ち払う。
 そうすればコンキスタドールが手にしている砂時計に新たなヒビが入った。おそらく自分達が夢の魔力を拒絶することで相手の力を削げたのだろう。
「……俺達にはもう、守る手も肉も……そして何より大事な今がある」
「過去も大切でした。ですが、今にだって大事なものがあります」
 ザッフィーロと宵は言葉を交わす。
 繋いだ手は決して離さなかった。そのおかげで自分達は使者が齎す夢や歪められた理想から脱することが出来たのだ。
「ならば惑うこと等……有る訳なかろう? なあ、宵?」
「僕たちならば、怖いものなどありませんとも」
 ザッフィーロは穏やかに微笑み、宵も双眸を細めて答えた。いつだって二人で多くのことを乗り越えてきたのだから、今回だって同じだ。
 収束していく敵の魔力を見据え、宵とザッフィーロは強く手を握りあう。
 この感覚と温もりこそ確かな絆。
 現在という時間に自分達を繋ぎ止める、大切なものだと信じて――。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
崩れた梁を上り地上に出た時
街は既に壊滅していた
転がる赤が人の死体なのも理解できなかった
だからただ、通り過ぎてしまったけれど
言葉を知り願いを知っていたら
同じ事はしなかったろう
あの破壊と死を防げなかったとしても

叶う事が可能な願いなら叶えば良いと思う
共存できるならば共存できればと思う
だって願いは叶わない
共存できる願いも限られる
そうして残った箱庭を
守る事しか出来ないのだから

「私は…願いを知る前に、願いは叶わないと知りましたから」
UC「召喚・精霊乱舞」使用
敵も幽霊も全て打ち砕く

「他者の絶望を願うほど、貴方の絶望は大きかったのでしょう…お可哀想に。せめて次は、貴方自身の願いが叶えられますよう」
鎮魂歌で送る



●鎮魂と葬送
 使者の持つ炎が揺らぎ、夢の力が巡る。
 桜花の胸裏に蘇っていたのは、今は遠い過去の出来事だ。
 あの日、崩れた梁を伝って登っていった桜花は地上に出た。そのとき桜花の瞳に映った街は既に壊滅していた。
 転がる赤。地面を汚しているもの。
 瓦礫の下に押し潰された何か。微かに動いてはいたが、やがて止まったもの。
 当時の桜花には理解出来ていなかった。
 それが、人の死体であったことを――。
 それゆえにただ通り過ぎてしまった。けれど今は何であるかがよく分かる。
 あのときに言葉を知り、願いを知っていたら同じ事はしなかっただろう。きっと人々を弔い、手を合わせて冥福を祈った。
 あの破壊と死を防げなかったとしても、せめてもの手向けを添えられた。
 凄惨な光景を見ても何も感じられなかった自分を変えたい。出来るならば、この願いを叶えたいと思った。
 共存できるならば――。
 其処まで思考を巡らせた桜花は首を横に降る。
 この感覚は幽霊船の上に浮遊するコンキスタドール、使者から齎されているものだ。
 それに桜花は識っている。
 だって、願いは叶わない。共存できる願いも限られている。
 救えるものは数少ない。
 理想の上では全てを救済すると誓うことも出来るが、手の届かないものも多くある。
 そうして残った箱庭を守ることしか出来ない。
 識っているからこそ、桜花は使者の夢の力に呑まれたりなどしなかった。
「私は……願いを知る前に、願いは叶わないと知りましたから」
 何処か悲しげな言葉が零れ落ちる。
 しかし、しかと前を向いた桜花はコンキスタドールを瞳に映し込む。
 ――おいで精霊、数多の精霊、お前の力を貸しておくれ。
 精霊達を呼んだ桜花は自分の周囲に渦巻いている幽霊を穿っていった。その幽霊達はあの街で死んでいった者達の顔をしているように思える。
 されど桜花は怯まない。
 魔力弾で以て、敵も幽霊も全て打ち砕く勢いで力を巡らせた。
 使者は回避に特化しているゆえになかなか攻撃が当たらない。だが、幽霊達は次々と精霊達によって浄化されている。
「他者の絶望を願うほど、貴方の絶望は大きかったのでしょう……お可哀想に」
 使者を見つめ続ける桜花は語りかけた。
 相手からの答えはないが、かわりに砂時計がゆらゆらと揺らいだ。其処に入ったひび割れは使者の弱り具合を示しているようだ。
「せめて次は、貴方自身の願いが叶えられますよう」
 瞼を閉じた桜花はそっと鎮魂歌を紡ぎ始める。あの日、あのときに出来なかった葬送を、いま此処で行うために――。
 そして、歌は夜の静寂に深く響き渡っていった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

小花衣・亜衣
雨宮・いつき(f04568)さんと

な、なんだか不気味な敵ですね…
夢や理想…私の夢は…仲の良い友達…
顔色を窺わなくても済む友達…
でも私なんかに友達が出来るのかな…
出来ても飽きられたり
私と居ても楽しい事なんて…

【凄い……小花衣さんは素敵なものを見つけるのが上手いですね】
でも雨宮さんは一緒に楽しんでくれた
素敵なものを見つけるのが上手だって!
勝手に絶望しちゃう、そんな私にも良い所があるって教えてくれた!
素敵な海で出会えた人、あの人へ想いを伝えたい
絶望に負けない私が居る気づかせてくれたあの人に!

夢をつかみ取る力を
絶望に負けない力を
何度も立ち上がる力を
柔らかな笑顔が素敵な貴方に伝える
この詩に想いを乗せて!


雨宮・いつき
小花衣さん(f25449)と

夢、理想、希望
僕にとってのそれは、己の使命を全うする事
人の世の理を守り、人々を助け…いつか僕達が戦わなくても済む世にする事
その為に修行を重ねて、幾度となく大きな戦を潜り抜けてきた
けれど

…本当は怖いんです
里で落ちこぼれだった僕の力が、これから先も通用するのか
いつか役に立てなくなり、自分に何の価値も無くなってしまうんじゃないか
今まで敢えて考えないようにしていた思いが表出して、絶望に飲まれそうになって
でも

心奮い立たせてくれる歌が聞こえてくる
…想いを向けてくれるなら、応えるしかないじゃないですか
絶望も何もかも狐火で照らし、遍く魔をその炎で以って打ち払います!



●貴方へ紡ぐ詩
 使者の声は少年とも少女ともつかない不思議なものだった。
 掌の上に掲げられた夢の炎が不思議に揺らぎ、もう片方の手に提げられた砂時計の中では砂粒がさらさらと零れ落ちている。
 亜衣は浮遊する使者を見上げ、竦みそうになる身体を両腕で押さえた。
「な、なんだか不気味な敵ですね……」
『――叶え損ねた夢のある方、列へお並びください』
「夢、ですか」
 コンキスタドールが再び言葉にした声を聞き、いつきも不気味さを感じる。気を付けてください、といつきが亜衣の前に一歩踏み出したそのとき、夢の炎が揺らいだ。
「あ、雨宮さん……?」
「小花衣さん……!」
 その途端に視界が奇妙に揺らぎ、二人は否応なしに使者の力に呑まれていった。

 もう一度、夢と理想を問われた気がした。
 亜衣はぼんやりとした夢の狭間で、自分は何を求めているのか考える。
(……私の夢は……仲の良い友達をつくること……)
 友達の定義は難しい。
 顔色を窺わなくても済む友達。ときおり喧嘩をしたとしても信じあえる相手。そもそも喧嘩が出来るくらいに対等な人が友達というのだろう。
 ずっと明るい性格の人が羨ましかった。密かな憧れからだろうか、好きになった作品の中でも明朗なキャラクターを好むことが多い。
 そんな風になれて、友達が出来たら良いと亜衣は望んでいた。
(でも私なんかに友達が出来るのかな……)
 亜衣は俯く。
 もし出来たとしてもいつか飽きられやしないだろうか。それに自分と居ても楽しいことなんてないはず。一度は抱いた希望が徐々に絶望になっていく。
 友達など求めてはいけないのかもしれない。そう思ってしまう心が亜衣の裡に滲み、昏くて悲しい感情が満ちてきた。
 しかし、そのとき。
『凄い……小花衣さんは素敵なものを見つけるのが上手いですね』
 海の庭で過ごしたときに聞いた、いつきの声が脳裡に過ぎった。そのときの彼は優しく微笑んでくれていた。きっと、あの笑顔の裏に蔑みなどなかったはず。
「雨宮さん……」
 気付けば亜衣はいつきの名を呼んでいた。
 彼は一緒に楽しんでくれた。素敵なものを見つけるのが上手だと言ってくれた。勝手に絶望してしまう、そんな自分にも良い所があると教えてくれた。
 素敵な海で出会えた、あの人へ。
 他でもない、彼に。
「伝えなきゃ……絶望に負けない私が居る気づかせてくれたあの人に!」
 この想いを――!
 亜衣の心に強い思いが溢れたとき、使者から齎された絶望は打ち払われてゆく。

 同じ頃、いつきも理想と希望に向き合っていた。
 いつきにとってのそれは、己の使命を全うすること。
 人の世の理を守り、人々を助ける。それこそが怪異と戦い続けてきた妖狐の一族に生まれたいつきの宿命だ。
 誰かが理不尽に見舞われぬよう、無辜の民が徒に命を奪われぬように。
 そして、いつか自分達が戦わなくても済む世にすること。
 いつきはその為に修行を重ね、幾度となく大きな戦を潜り抜けてきた。いつきは決して、先祖代々受け継がれてきた使命を放り出したりはしない。
 そのために大人びた振る舞いをすることもあり、気を張って生きてきた。
 無論、少年らしさが出ることも儘あるがそれは別の話。
 いつきの希望は誰かのために在る。
 使命のためなら、身体を張って傷つくことだって――と、考えたいつきの表情が曇っていく。違う、怖くないわけではない。
 いつも、いつだって不安が心の奥底に仕舞い込まれていた。
「……本当は怖いんです」
 ぽつりと零れ落ちた言葉はいつきの裡から溢れ出した本音だった。
 確かに修行は重ねたが、里で落ちこぼれだった自分の力が、これから先も通用するのかという懸念がずっと消えてくれなかった。
 いつか役に立てなくなって、自分に何の価値も無くなってしまうのではないか。
 今まで敢えて考えないようにしていた、けれども常に押し隠していた思いが表出していき、いつきは未来への恐れという絶望に飲まれそうになってしまう。
 しかし不意に其処へ優しい雰囲気が満ちはじめる。
 そして、歌が聴こえた。

 夢をつかみ取る力を、絶望に負けない力を。
 何度も立ち上がる力を、柔らかな笑顔が素敵な貴方に伝える。
 この詩に想いを乗せて。

 それは亜衣が紡いでいく想詩奏の歌声だ。
 いつきにはその歌が心を奮い立たせてくれる調べに思える。顔を上げたいつきは自分の胸の裡から不安が取り払われていくことを感じ取っていた。
「そうでした、僕は……」
 どれほど絶望したとしても、戦い続ける運命も意思も変わらない。
 それに、といつきは傍に立つ亜衣の横顔を見つめた。
「……想いを向けてくれるなら、応えるしかないじゃないですか」
 いつきは心に決める。
 絶望も何もかも狐火で照らして、遍く魔を炎で焼き尽くすと。彼の視線を感じて振り向いた亜衣が静かに微笑む。
 貴方といる今だけは、何も怖くない。
 そのように告げるかの如く、両手を胸の前で重ねた亜衣は歌声を響かせていく。
 そうして二人は其々の絶望を跳ね除けた。それによって使者が持つ砂時計の中身が落ちる速さが変わっていく。
「いきましょう、小花衣さん」
「はい、雨宮さん……!」
 あれは何かの兆しに違いないと感じた二人は力を揮う。
 そして、爆ぜる幽幻の炎が蒼く迸り、想いを籠めた歌声が戦場に響き渡っていった。
 この先に訪れる戦いの終幕を目指して――少年と少女は戦い続けてゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
【綾十路】

おや
困りましたねぇ
私には夢らしき夢がないのだもの

眉尻を下げて肩竦めども
ロカジさんから溢れる夢の数々に綻んで

兵どもが夢の跡
いいえ
国破れて山河在り――かしらね
失った夢が新たな景色をあなたに齎した

大切なものならば
落とさないように抱えていらして、と
笑んで地を蹴る

くるり跳んで
檣や空さえも足掛かりに
軽やかに使者の背後へ

私の願いは
叶うなら生前の主と話してみたかった――くらいで
もはや取り戻せぬ時間に
此れまでどれだけ銷魂してきたか、なんて
今更突きつけられなくても
存じておりますよ

眼差しは僅かに眇めたけれど
笑みは絶やさぬまま
十雉さんと呼吸を合わせ
向けられた炎ごと白刃で斬り薙ぐ

えぇ、誠に
余計なお世話ですねぇ


宵雛花・十雉
【綾十路】

夢…夢ねぇ
少なくとも今の『オレ』にゃ夢なんてねぇかな
2人から目を逸らしてぽつりと呟く

はは、夢いっぱいじゃんロカジ
けど…アンタ軟派で欲張りに見えて案外一途なんだな
そういうの、悪くねぇや
アンタをそこまで夢中にさせる『あの子』ってのが気になるとこだけど
その子についてはまた改めて聞かせてもらうよ

赤鬼と青鬼を喚び出して戦わせる
絶望なんざ力で捻じ伏せてやるよ

いいぜ、綾
アンタに合わせるよ
呼吸を合わせて鬼を炎の方に向かわせる

ほんとはさ、とっくの昔に分かってんだ
オレの夢が絶対に叶いっこないってこと
夢の代わりにあるのは諦め
だから今さら期待も絶望もしてやらねぇよ
残念だったな、お節介野郎


ロカジ・ミナイ
【綾十路】

なんだいお二人さん、夢がないって?
僕の夢の一個もあげようか

流鏑馬の選手、きっと僕に嫉妬した誰かに邪魔された
別嬪のあの子ら、今頃は誰かの嫁さんさ
欲しかった服、金が無いのは縁が無いのと同義
医者、嫌いなもんにはなれなかった

どれもこれも「一番」を叶えてもらうための、いわゆる餌よ
僕の理想と欲と痛みは、あの子に全部、ハートと一緒にくれてやったのさ

それでいい
ちんまいのを仰山抱えてたら幾つか溢しても仕方ねぇが
一個だけ背負ったものは落とさないだろう?

夢なしのお二人さんの気が合うのに合わせて
僕も渾身のひと振り

ありがとよ
忘れてた希望を思い出すのは悪い気分じゃない
…けども、ちょいと余計なお世話だったね



●兆し
 さあ、見せてください。
 叶え損ねた夢、叶えたい夢、願い続ける希望を――。

 そのように語った使者は片手に持った砂時計を妖しく揺らめかせた。
「夢……夢ねぇ」
「おや、困りましたねぇ」
 死者に対して視線を返し、綾と十雉は同時に言葉を落とす。どうしたんだい、とロカジが問うと彼らは答えた。
「少なくとも今の『オレ』にゃ夢なんてねぇかな」
「私には夢らしき夢がないのだもの」
 十雉は二人から目を逸らしてぽつりと零し、綾は眉尻を下げて肩を竦める。
 ロカジは幾度か瞼を瞬いた後、自分にはそれなりに夢や理想があったのだと語った。
「なんだいお二人さん、僕の夢の一個もあげようか」
 口の端を軽くあげたロカジが話していくのは、これまでに抱いた夢や出逢ってきた者達への思い。とはいっても、軽口と少しの冗談に乗せての話だった。
 まずは流鏑馬の選手。
 あれはきっと僕に嫉妬した誰かに邪魔されて潰えてしまった。
 次に別嬪のあの子ら。
 幾夜も共に過ごした彼女たちも今頃は誰かの嫁として暮らしているのだろう。
 欲しかった服。
 金が無いのは縁が無いのと同義で、貯まる前に売れていった。
 それから医者。
 嫌いなものにはなれなかったのは当たり前で、今に至っている。
 されど、どれもこれも『一番』を叶えてもらうための、いわゆる餌だ。ロカジはそんな風に言葉を紡ぎ、掌を自分の胸に当てる。
「僕の理想と欲と痛みは、あの子に全部、ハートと一緒にくれてやったのさ」
「はは、夢いっぱいじゃんロカジ」
「兵どもが夢の跡。いいえ、国破れて山河在り――かしらね」
 ロカジの抱いた夢を聞き、十雉は感心する。綾はというと溢れる夢の数々に口許を綻ばせ、失った夢が新たな景色をあなたに齎したのだという感想を抱いた。
 それでいいんだ、とロカジは頭を振る。
「ちんまいのを仰山抱えてたら幾つか溢しても仕方ねぇが、一個だけ背負ったものは落とさないだろう?」
「成程なぁ。けど……アンタ軟派で欲張りに見えて案外一途なんだな」
 そういうのも悪くねぇ、と十雉は頷いた。
 十雉は夢がないと嘯いた自分と、妙に捻くれながらも素直に語ることの出来るロカジとを比べてしまう。
 綾は彼らに穏やかな眼差しを向けていた。
「大切なものならば、落とさないように抱えていらして」
 綾は笑みを湛えたまま、敵に視線を映す。
 使者は暫しロカジの言葉を聞いていたが、不意に夢の炎を強く燃やしはじめた。十雉もそのことに気付き、来る、と感じる。
「アンタをそこまで夢中にさせる『あの子』ってのが気になるとこだけど、その子についてはまた改めて聞かせてもらうよ」
「そうだね、今は奴さんの相手をしなきゃね」
 ロカジが十雉の声に頷いた次の瞬間、使者の能力が発動した。
 先んじて駆けた綾が甲板の床を蹴る。
 そのままくるりと跳んだ彼は船の檣や帆先さえも足掛かりにして、軽やかに使者の背後に回り込み、ひといきに着地した。
 其処へ一閃。
 だが、回避に特化しているという使者は綾の一撃を避けてしまう。背後からだというのにまるで最初から其処に何もなかったかのように、使者は移動していた。
 使者は更に言葉を落とす。
『きみや、あなたの、叶えたい夢を聞かせてください』
 男女どちらとも取れぬ不思議な声色で問われたのは先ほどと変わらぬ質問だ。
 綾はほんの少しだけ困ったように眉を下げ、それならば、と使者に向けて自分の抱く思いを伝えていく。
「私の願いは、叶うなら生前の主と話してみたかった――というくらいです」
 しかし、それは願い続けるものではない。
 もはや取り戻せぬ時間に此れまでどれだけ銷魂してきたか、なんてことを今更に突きつけられなくても十分に分かっている。
 それでも、使者の力は綾にじわりとした痛みを与えてきた。
 それは耐えられないものではない。敵と距離を取った綾の後方では十雉が千代紙の鬼を式として、赤鬼と青鬼を顕現させていた。
「絶望なんざ力で捻じ伏せてやるよ」
 宣言した十雉は、自分の周囲に集い出した幽霊に神織の双鬼を向かわせる。
 使者によって呼び出されたこれらを放っておけば、共に戦う二人や他の猟兵にも被害が及んでしまうだろう。
 それゆえに早々に片付けるのが十雉の役目だ。
 ロカジも手伝うと告げて、刀に己の血液を滴らせる。そうすれば刀に雷電が迸り、魔を断つ刃となっていく。
 綾も天を翔けて敵の死角を取れるよう立ち回り、得物を振るっていった。
 綾は向けられた炎ごと白刃で斬り薙ぐ勢いで使者に迫る。再び敵はひらりと一撃を躱したが、綾にも考えがあった。
「十雉さん、此方に」
「いいぜ、綾。アンタに合わせるよ」
 綾の意図を察した十雉は、彼と呼吸を合わせていく。片方の鬼を炎の方に向かわせれば、綾と青鬼が敵を挟撃する形となった。
 刹那、綾の一閃が使者の頭部を斬り裂いて、重い衝撃を与える。
 ひゅう、と軽い口笛を吹いたロカジは二人の息がぴったりだと感じ、自らも使者の方へと駆けていった。
「気が合うねぇ。僕も仲間に入れてよ」
 雷撃を纏った渾身のひと振りで以て、追撃を加えるロカジ。
 その身には使者から与えられた力が満ちている。その御蔭で彼は回避を上回る速度で相手を捉え、誘雷の一撃で穿つことが出来た。
 だが、この力をそのまま受け入れていいわけではないと分かっている。
「ありがとよ、忘れてた希望を思い出すのは悪い気分じゃない」
 ロカジは使者の力を手放した。
 それによって魔力の廻りがおかしくなったのか、使者が持つ砂時計に亀裂が入る。それを察した十雉は敵の力が弱まりつつあることを感じていた。
 そして、十雉は胸裏に思いを巡らせる。
 夢がないと語ったが、本当はとっくの昔に分かっていた。
 自分の抱いていた夢が絶対に叶いっこないものだということと、夢の代わりに諦観を抱いたということを。しかし、だからこそ抗える。
「今さら期待も絶望もしてやらねぇよ。残念だったな、お節介野郎」
「感謝は嘘じゃないよ。……けども、ちょいと余計なお世話だったね」
「えぇ、誠に余計なお世話ですねぇ」
 十雉の言葉に続けてロカジが思いを語り、綾も首肯した。
 眼差しは僅かに眇めたけれど、常の笑みは絶やさぬまま。行きましょう、と告げた綾が更に宙を翔れば、ロカジがその後を追い、十雉の鬼達が続く。
 絶望も希望も、力も要らない。
 それはただ無理に与えられたものであるゆえ。三人がそれぞれに使者への拒絶を示したとき、再び砂時計に異変が起こった。
「ありゃ、何か変だね」
「何か知らねぇけど、良い感じに弱ってねぇ?」
 ロカジは時計の砂の零れ落ちる速度が早くなっていることを示し、十雉も敵の弱体化が著しいと悟る。
 おそらくはこのまま戦えば使者を倒せるところまで辿り着けるはずだ。
 頷きと視線を交わした三人は夢を映す炎を瞳に映した。
 きっと、もうすぐだ。
 あの悪しき炎が完全に消えた瞬間、戦いは終わりに導かれていくのだろう。彼らの耳に届く静謐な波音はまるで、終幕を報せる音色のようだった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ディアナ・ロドクルーン
―夢? 夢ですって?
そんな甘言に乗るとでも?

確かにやり直したい事がある
後悔していることがある

あの時―あの時に自分を押さえることが出来ていたら…と! 

(ぎり、と口元を忌々し気に歪め)

忌まわしき月の夜、抗えぬ破壊衝動に我を忘れ
理性を取り戻した時には血だまりの中で倒れている師父の姿
深い絶望と心にぽっかり穴が開いたような喪失感は私を苛んだ

この手で師父を殺めた事実は覆らない
私の手は赤く染まり汚れきっている
時を巻き戻したって結局何も変わりはしない

…お前が満足するような答えなぞ持ち得ていないわ
身の痛みならいくらでも耐えられる

夢を覗き見た代償は大きいわよ
いくら素早かろうとも私の剣は確実にお前を捉えて屠る


荻原・志桜
叶え損ねた夢?
ううん、わたしはまだ走り続けている途中だもの
わたしの夢は唯一の人の傍にいること
魔法で誰かを導けるような先生になること
だからアナタに願うものなんて、

揺らめく炎に映されたものに目を見開く
幼いわたしではなく、いまの自分と恩師が並び立つ姿

そうだね
あの人が生きていたなら、いまも教えを学べていたら
成長したわたしを見てくれていたら
そんな想像することもあるよ
叶うはずない夢

でも先生はいない、教えを乞うことは叶わない
戻りたいと、変えたいと何度も願ったけど
巻き戻してかけがえのない今を捨てたりしたくない
結んだ縁を解くことはしたくない
その幻は受け入れられないよ

顕現せよ天の楔
夢を歪ます輩に戒めの白銀を穿て!



●月夜の紅
 叶え損ねたもの、叶えたいこと、願い続ける希望。
 それは夢という存在。
 心を持つものならば一度は抱いたことのある未来や、過去への思い。それを問う使者を見据え、ディアナは双眸を鋭く細めた。
「――夢? 夢ですって?」
『さあ、見せてください。きみの、あなたの、夢を。それを力に変えましょう』
「そんな甘言に乗るとでも?」
 掛けられた言葉に首を振るディアナに対し、使者は夢を映す炎を揺らめかせる。その瞬間、ディアナの胸裏に或る思いが浮かびあがった。
 あの日、あの時。
 あの瞬間に戻りたい。やり直したい。
 今も心の奥で軋み続ける感情が後悔として巡っていく。
 あの時に自分を押さえることが出来ていたら、違う道を歩んでいたかもしれない。過去を取り戻せるならば今だって、と思う心が広がっていく。
 ディアナは口元を忌々し気に歪める。ぎり、と痛いほどに唇を噛み締めたのは、脳裏にあの光景が蘇ってきたからだ。
 きっとこの環状は使者の力によって齎らされているのだろう。
 見たくはない。考えたくもない。
 そう思って否定しても、否応なしにあの情景が巡っていく。
 あれは忌まわしき月の夜。ディアナは抗えぬ破壊衝動に我を忘れていた。
 その最中に何があったのかは思い出したくもない。詳しく経緯を追わずとも、結果だけがすべてだったから。
 理性を取り戻した時には血だまりの中で倒れている師父の姿があった。
 何があったかは想像に難くなく、ディアナはただその場に立ち尽くしていた。
「――師父」
 ディアナの花唇から一言だけ、声が零れ落ちる。
 何もかもに暗い影を落とす深い絶望と、心にぽっかり穴が開いたような喪失感。それはあの時から、今も自分を苛んでいる。
 どんな理由であろうと、この手で師父を殺めた事実は覆らない。
 己の手は赤く染まり汚れきっている。
 時を巻き戻したって、やりなおしたとて、結局は何も変わりはしないのだと思えた。
 絶望は重く伸し掛かる。
 それでも、と痛みを抑え込んだディアナは使者を睨み付けた。
「……お前が満足するような答えなぞ持ち得ていないわ」
 心の痛みは消えない。
 けれど身の痛みならいくらでも耐えられる。
 ディアナは胸元に手を当てて呼吸を整えた。痛みも抱えていけると分かった今、後は見据える先に浮遊する使者を屠るだけ。
 そして、彼女に宿る刻印が輝きはじめる。

●隣に
 ――叶え損ねた夢。
 不思議な砂時計を手にした使者は夢があるかと問いかけてきた。
 志桜は少しだけ考えた後、ううん、と首を横に振る。何故なら自分はまだ走り続けている途中。夢とは今、まさに叶えている最中なのだと思えた。
 そして、志桜は答える。
「そんなの、ないよ。わたしの夢は唯一の人の傍にいること。魔法で誰かを導けるような先生になること。だから、アナタに願うものなんて、……」
 しかし、その言葉は不意に止まった。
 使者がもう片手に持つ夢を映す炎が奇妙に揺らめいたからだ。
 其処から広がっていくのは、志桜の記憶から生み出された願いのかたち。
「そら、せんせい……」
 映されたものに目を見開いた少女は思わず、其処に立っているひとを呼ぶ。
 幼い頃に出逢ったひと。今も大切に想う恩師。
 けれどその隣にいるのは幼少の志桜ではなく、いまの自分だ。幻想内の志桜の髪色は桜色ではなく黒髪のまま。
 けれども、彼と並び立つ自分の髪の先だけが桜色に染まっている。
 彼の魔力を少しずつ享受したということなのだろうか。あのまま、恩師と共に過ごしていられたらこうなっていたのかもしれない、という幻視が目の前にあった。
「……そうだね」
 夢の炎を見つめる志桜は其処から目が離せないでいた。
 あの人が生きていたなら、いまも教えを学べていたら、成長したわたしを見てくれていたら――と、そんな想像をすることもある。
 彼への感謝と懐いが消せないから、この幻想も消せない。
 それは叶え損ねた、叶うはずない夢。
 胸の痛みが強くなった。このまま苦しみに呑まれてしまいそうにもなる。
 でも、と志桜は瞼を閉じた。
「もう先生はいないの。教えを乞うことは叶わないし、今のわたしがなくなっちゃう」
 海から吹く風が桜色の髪を揺らす。
 戻りたい、変えたいと何度も願ったけれど、巻き戻したりは出来ない。それに、かけがえのない今を捨てたくなかった。
 結んだ縁を解くこともしたくない。だから――。
「その幻は受け入れられないよ!」
 ごめんね、昊くん。ううん、ありがとう。
 アナタのおかげで、わたしは此処に立っていられるから。
 今は大切なひとや大好きなひとと一緒に、この先の未来を生きていくよ。幻ではない、本当のアナタに逢えるときまでは。
 志桜が瞼を開けたとき、其処にはもう彼の幻想は無かった。

●夢の向こう側
 波の音が響く中、刻印が煌めく。
 ディアナの背後で誰かが動く気配がしたかと思うと、聞き慣れた声が響いた。
「お姉ちゃん!」
「志桜?」
 振り向いたディアナは志桜がこの場に訪れていたことに驚く。
 オバケが怖かったのではないか、もしかしたら自分を心配してついてきてくれたのかもしれない、という様々な考えが巡ったが、隣に並び立った志桜が杖を構えたことでディアナも身構え直す。
 視線を交わした二人は使者に意識を向けた。
 意思は同じ。積もる話は後にして、今はただあのコンキスタドールを倒すのみ。
「夢を覗き見た代償は大きいわよ」
「叶えられなかった夢も含めて、全部わたしたちだから!」
 ――顕現せよ天の楔。
 志桜が詠唱を始めた刹那、ディアナは甲板を強く蹴り上げた。高く跳躍して、其処から振りあげた夜夢の刃が星明かりを反射する。
「いくら夢を操ろうとも、私の剣は確実にお前を捉えて屠るわ!」
「夢を歪ませる輩に戒めの白銀を穿て!」
 声と思いが重なった瞬間。
 使者が持つ時計の砂がさらさらと零れ落ち、硝子に罅割れが刻まれる。
 そして、歪んだ夢を齎す戦いは終焉に向かってゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

祇条・結月
レイラ(f00284)と

住み慣れた古い家、仕事場
そこに僕と元気な祖父の姿

それとも。いつかどこかの未来に、一緒に……

そんな夢を望んだせいかな
顔も知らない家族かもしれない誰か。未来のじいちゃん
他にも責めるような声が、目が痛くて
いっそそっちへ行けば楽なんだろうけど

今、隣に居るレイラを見たら

それでも僕は未来が欲しいな
幸せになりたいって努力してる誰かや
今が、楽しいって言ってる友達の「普通」を嘘にしたくない
そのために自分の力でできることする
君の都合のいい夢は要らない

応援、してもらえるほど前向きなのかな、って笑って
それに応援してもらえる分に返せるものが欲しいって思ってる
ただの我儘

けど。うん、ありがと


レイラ・エインズワース
祇条サン(f02067)と

伽藍洞のローブに、怪しい幻灯
本当に他人の気がしない相手だネ

見える景色は原初の光景
そこでの私は死者の再現ではなく蘇生を可能にして
みんな幸せに暮らしていく
或いは、まだ物だったころ救えなかった無数の景色が連続で投影された後

真っ暗な景色にただ紫の灯が浮かんで
私が出来損ないでなければト
私のせいダト
私がいなければト
苛む声がする、だからここで終わってしまえト

デモ知ってる
良く知ってる
そんな声はずっと響いているんだカラ

でも、歩みを止めないッテ
少なくとも諦めて過去に還るのはやめるッテ
そう今は思ってるカラ

うん、その通りダと思うヨ、祇条サン
前を向いて歩いて歩いて行くナラ、応援してるからサ



●ただ、前を向いて
 伽藍洞のローブに、怪しい幻灯。
 幽霊船の甲板に浮遊するコンキスタドールを見れば見るほど妙な感覚が生まれる。
 不思議な姿をした使者を見遣り、レイラは改めて長杖を握った。其処に宿る藤の花を模した飾りが揺れる。
「本当に他人の気がしない相手だネ」
『さあ――今宵は特別に時間を巻き戻して、或いは、進めてさしあげましょう』
 すると使者は手にした夢を映す炎を強く燃やした。
 はたとした結月は砂時計から視線を移し、灯火の方に目を向ける。
「巻き戻すって……」
 しかしそのとき既に使者の力は発動してしまっていた。
 やがて甘き時は落ち、過去の情景と記憶が織り交ざった景色が巡りゆく。

 結月の胸裏に或るものが浮かびはじめる。
 其処は住み慣れた古い家で、視えたのは仕事場の光景だ。
 地方の小さな町にある鍵屋の仕事場には、結月自身と元気な祖父の姿がある。穏やかで慎ましい時間が流れていて、このままずっとこうあれば良いと思えた。
 これが理想なのだろうか。
 それとも。
(――いつかどこかの未来に、一緒に……)
 結月の中に不思議な思いが宿る。
 こんな光景が見えるのはそんな夢を望んでしまっているから。
 断片的な思いが巡ったかと思うと、結月の耳に責めるような声が聞こえ出した。視線を感じる。自分を非難しているのだとよく分かる目だ。
 それは使者によって呼び寄せられた、顔も知らない家族かもしれない誰かであり、未来の祖父めいた姿をした幽霊達だった。
 痛い。胸が軋むように痛くなる。
 これが使者の齎す恐ろしい力なのだと感じたが、結月は気付く。この理想や夢の形は自分の中に元からあって、無から作られたわけではない。
 つまりこの痛みは全てを諦めたり、放り出したときに感じる絶望の形だ。
(いっそ、そっちへ行けば楽なんだろうけど……)
 幽霊達と一緒に。
 ふとした思いが過ぎった時、結月は隣にレイラがいたことを思い出した。
 今、隣に居るレイラを見ただけで気持ちが上向く。これは過去から作り出された幻想であり、現実に敵うようなものではないはずだから。
 そうだ、と口にした結月は強く思う。
 それでも僕は未来が欲しい。
 幸せになりたいと努力している誰かや、今が楽しいと言っている友達の『普通』を嘘にしたくない。
 そのために自分の力で出来ることするのが役目であり、やりたいことだ。
 だから――。
「君の都合のいい夢は要らない」
 銀の鍵を握った結月は使者から齎された幻想を否定する。
 鍵を掲げた刹那、偽りの過去と未来を封じるための錠前の力が広がり、絶望と幽霊達を消していった。

 同様にレイラも或る景色を見ていた。
 彼女の瞳に映っているものは原初の光景だ。
 そこでのレイラは死者の再現ではなく、蘇生を可能にしていた。そんな奇跡の力を持ち得ていれば永遠の幸福を齎すことも可能だ。
 そうして、みんなが幸せに暮らしていく。まさに理想の世界だった。
 誰も欠けない。
 愛おしいひとや大切なひとがずっと傍にいる。誰もが経験する別れを超えて、永久の夢を叶えることが出来る存在。
 レイラは暫し、理想でしかない光景を見つめていた。
 しかし不意に幻想は壊れはじめる。まだ物だったころ、救えなかった無数の景色が連続で投影されていく。
 理想とは正反対の絶望の情景が視えては消え、レイラに暗い感情を落とした。
 真っ暗な景色にただ紫の灯が浮かんでいる。
 ――お前が出来損ないでなければ。
 ――あんたのせいだ。
 ――お前がいなければ。
 亡霊めいた者達が口々にレイラを責めた。
 苛む声はずっと止まず、かれらは叱責を続けていく。
 ――ここで終わってしまえ。
 一瞬だけ、絶望に従ってしまえばいいのかもしれないと思えた。しかしレイラは緩く首を振り、声を否定する。
「デモ知ってるよ。良く知ってるカラ……」
 或る意味では肯定の意思でもあるのだろう。何故なら、そんな声はこれまでずっとレイラの裡に響いていたのだから。
「でも、歩みを止めないッテ、少なくとも諦めて過去に還るのはやめるッテ――そう今は思ってるカラ!」
 レイラは宣言と共に狂気の魔術師を召喚した。
 使者が呼び出した幽霊に対抗するが如く、亡者の群れが迸る。更に幽霊船ごと穿つような雷撃の魔法が響き渡り、周囲に激しい光が広がった。

 そうして二人はそれぞれに絶望を打ち破る。
「祇条サン!」
「うん、レイラ」
 彼の名を呼べば、確かな返事が戻ってきた。レイラは幻影や絶望に呑まれそうになっていたときに聞こえた結月の言葉を思い出す。
 都合のいい夢は要らない。
 まさにそうだと頷いたレイラは使者を見据えながら、彼の思いに同意を示した。
「その通りダと思うヨ、祇条サン」
「こんなもの撥ね退けよう」
 頷きあった二人は使者の様子を窺う。既に絶望の幽霊や幻想は消え去っている。見れば使者が持っている砂時計の硝子に幾つもの亀裂が入っていた。
 あれが本体だ。
 魔力の揺らぎから、そのように感じたレイラと結月は視線を交わす。
「前を向いて歩いて歩いて行くナラ、応援してるからサ」
「応援、してもらえるほど前向きなのかな」
 だから一緒に終わらせよう、とレイラの瞳は語っていた。結月は軽く笑って、うん、と答える。応援してもらえる分に返せるものが欲しい。これも自分のただの我儘だと分かっていたが、結月は鍵をふたたび握り、そっと思いを強めた。
「けど。……うん、ありがと」
「それじゃ行くヨ。あんな偽りの夢なんて、砕いちゃう為ニ――!」
 そして、レイラの声と共に終劇の一閃が解き放たれた。

●境界
 誰もが歪んだ夢を否定し、或いは認めて抗った。
 理想は理想のまま。夢は自分だけのものとして胸に抱く。夢がなくとも、今を生きる自分という存在を強く持った。
 そうすることによって、使者の力は削られていく。
 猟兵達ひとりずつの一撃が、一閃が、思いが重なり、そして――。
 使者の本体であった砂時計が割れた。

 ひらり、ひらりと、主を失ったローブが風に乗って飛んでいく。
 夢を映す炎は消え去り、割れた頭部は甲板にごとりと重い音を立てて落ち、手首部位だけだった手から砕けた砂時計が取り落ちた。
 そして、砂時計から声が響く。
『……叶……損ね……夢…………方、列へ……――』
 使者の声は次第に小さくなり、やがて海風に砂が流された事によって完全に消えた。
 これで終わったのだと誰もが感じていた。
 あとに残ったのはギィギィと船が軋む音と、穏やかな風の心地だけ。
 夢の境は此処まで。
 島の平穏は守られたのだと感じた猟兵達はそれぞれに思いを抱き、海を見下ろした。
 星を映す水面は静かに煌めいている。
 揺らめく波間にはもう何処にも、不穏な色は映っていなかった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月05日


挿絵イラスト