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心色

#UDCアース #感染型UDC

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 古い廃ビルがあった。
 何らかの事件があって閉鎖されただとか、本当はこの場所にビルなんて存在しないのだとか、様々に言われている曰く付きの場所だ。
 そんな場所には、人が寄る。興味本位で。あるいは、人目につきたくなくて。
 その青年は、興味に惹かれて訪れた者だった。何の噂を当てにしてきたのかももう忘れたけれど、深く考えずにその場所を訪れて。
 そうして、出会ったのだ。
 廃れたコンクリート建築には随分と似つかわしくない、アンティークな人形と。
「見つかってしまったわ」
 まるで、その人形のモデルになったような、美しい少女と。
「上手に隠れていたのに。今度は私が鬼の番ね」
 にこにこと楽しげに笑って、少女はきらきらと美しい宝石を手のひらで遊ばせる。
「貴方を見つけたら、私の勝ちね。その時は、貴方の魂をもらうわ」
 ね、いいでしょう? 少女の無邪気な問いかけに、青年は息を呑む。
「かくれんぼよ、かくれんぼ。私は貴方をきっと見つけるわ」
 そう言った少女の周囲には、いくつもの額縁があった。
 いつから……いや、最初からあった。そう、最初から、その額縁はそこにあった。
 けれどそれよりも異質な人形に目を奪われて、全く気が付かなかったのだ。
 よく見れば、その額の中には少女と同じ姿の人物が描かれていると言うのに。
 幾つも幾つもならんだ額縁に描かれた同じ顔の少女が、じぃ、と青年を見つめている。
「上手に隠れなくては、すぐに見つけてしまうわ。だって、私のことを見つけたのは貴方だけなんだから」
 誰かにお話してしまってはいけないわ。それでは私が見つけられなくなってしまう。
「それじゃぁ、数えるわね」
 ひとーつ、ふたーつ。
 数える声を背に、青年は恐怖を貼り付けた顔で駆け出した。
 けれど、逃げても逃げても声が聞こえる。もういいかい、と声が聞こえる。
 だから。青年は口にしたのだ。恐ろしい少女との『かくれんぼ』を広く伝えて、自身の隠れ蓑を作ろうとしたのだ。
 噂は広まる。口伝てに、次々と。
 ねぇ、知ってる? あの廃ビルで――。


 かくれんぼするもの寄っといで。人差し指を立てて、グリモア猟兵、エンティ・シェア(欠片・f00526)は歌うように誘う。
 興味を引いたなら、依頼があってね、とメモ帳を開いて。
「感染型UDCの話は聞いたことがあるだろうか。それの対処をお願いしたいんだ」
 そのUDCはアンティーク人形のような可愛らしい少女の姿をしているそう。
 古い廃ビルに――廃ビルから繋がる異空間に住み着き、訪れた者に自分の噂を流させる。それによって、目撃者や噂を聞いた者から精神エネルギーを奪い取っているのだと言う。
「彼女は自分の姿をあえて見つけさせて、今度は自分が見つけに行く。その時は魂をもらうと脅かして、そうならないためには自分の噂を知るものを増やすしかないと唆すんだ」
 そうすれば、噂はねずみ算式に増えていく。誰しも我が身が可愛いからねとエンティは笑う。
「そうして得た精神エネルギーで大量の配下が生み出されつつあるんだ。それは彼女を最初に見つけた者のところに現れようとしている。ひとまずは、それを対処して欲しい」
 第一発見者を救出した後、件の少女を見つけた場所へ駆けつけ、第二次の大量発生が起こる前に撃破するのが目的だ。
 現れる配下は額縁だと言う。
 少女の姿を描いたものが殆どだが、この額縁の実態は近くにいる存在をキャンパスの中に閉じ込める呪いの額縁。運悪く巻き込まれた者が描かれている可能性もあるだろう。
 もっとも、額縁を破壊すれば閉じ込められた者も助かるらしい。景気よく壊しておくれと微笑むと、それでね、と話を続ける。
 少女の棲家に繋がる古い廃ビル。その入り口にたどり着けば、どこまでも登り続ける階段と、どこまでも降り続ける階段とがある。
 どちらに行っても、行き着く先は同じという不思議な階段だ。
「行き着く先は同じなんだけどね、たどり着くには『鍵』が必要になるんだ」
 鍵とは、形あるものではない。
「幸せ、だそうだよ」
 君の思う幸せを、言葉として紡ぎ出さなければならない。
 そうすることで、より強い精神エネルギーを生み出して、少女の元へと導いてくれる『鍵』となるのだ。
「奪われるわけではないからね、気楽に構えて行くといい。気恥ずかしいとかそういうのはまぁ……堪えて?」
 にこりと笑んで、心の準備が出来たなら向かっておくれと促すのであった。


里音
 お世話になっております、里音です。今回はUDCアースでの冒険です。
 集団戦、冒険、ボス戦の流れとなっております。

 集団戦では大量に発生した呪いの額縁を景気よく破壊していただくことになります。
 現場に第一発見者の青年が居ますが、特に指示がなくとも勝手に自衛はするでしょう。
 配下の大量発生でいよいよ自分が見つけられると恐れている青年はとりあえず居合わせた猟兵達に少女の事を語ろうとしてきますので、逃げたのを探すと言う手間は発生しません。

 冒険ではひたすら登るor降りる階段を進んで頂きます。
 その道中で、ご自身の思う『幸せ』について語って頂きます。
 何かを食べている時、何かを愛でている時、誰かと居る時など。
 ささやかな事で問題ありません。自分は経験したこと無いけど多分こういうのが幸せって言うんだろうな~くらいの軽い内容から全力の布教、惚気まで、概ねなんでも。
 ※実際の版権物が絡むものに関しては採用を見送りますのでご注意を。

 第二章、第三章の開始段階で断章を挟みますのでご確認いただけると幸いですが、その前にプレイングをかけて頂いても問題ありません。
 皆様のプレイングお待ちしております。
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第1章 集団戦 『呪いの額縁』

POW   :    待ち伏せ擬態状態
全身を【霊的にも外見的にも一般的な額縁】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
SPD   :    作品モデルの複製
自身が【破壊される危険】を感じると、レベル×1体の【肖像画に描かれている存在】が召喚される。肖像画に描かれている存在は破壊される危険を与えた対象を追跡し、攻撃する。
WIZ   :    無機物の芸術家
【額縁の中心】から【対象を急速に引き寄せる魔力】を放ち、【キャンバスに取り込み肖像画に変える事】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ヴェル・ラルフ
久し振りのUDCアース
感染型のオブリビオン…中々に巧妙な手口だね
好奇心は抑えられないもの
青年の気持ちは分からないでもないな
ちょっと、運がなかったけれど、ね

大量の額縁はさながら美術館だね
絵にされるのはごめんだから
景気よく壊して中の人も助けるとしよう

まずは絵が嫌うであろう炎で攻撃
己の手のひらにナイフで傷をつけ、噴き出す火を操り炙り出す
かくれんぼも嫌いじゃないけど、鬼ごっこの方が好きなんだ

額縁の中の人物が召喚されたら【反照舞踏脚】
敵の攻撃を見切り、回避しながらカウンター
蹴り技と如意棒「残紅」による殴打で打ち砕いていく

★アドリブ・連携歓迎




 久しぶりに訪れたその世界。UDCアースは相変わらずどこか忙しなく、それでいて殺伐とした雰囲気すら醸し出していた。
 雑踏を抜け、ヴェル・ラルフ(茜に染まる・f05027)がたどり着いた先は何処かの大学だろうか。なるほど、噂話が広まるには絶好の場所であると思案する。
(感染型のオブリビオン……中々に巧妙な手口だね)
 人の好奇心というやつは抑えがたいものだ。自由な時間の増えがちな大学生というやつはその辺り顕著なのかも知れない。
 ほんの少し年上が居並ぶ中を抜け、ちょっと運のなかった件の青年が居るらしい場所へと駆けつけたヴェルは、一門を曲がった瞬間、唐突に広がった光景に、微かに目をむいた。
 それは美術館さながらの……いや、それを想起させるのがほんの一瞬で終わる程度には異様な光景。
 大量の額縁が、辺り一帯を埋め尽くすように浮遊しているのだ。
 ぐるりと見渡せば、金髪の少女を描いたものが大多数。しかしその中に、見るからに大学生と思しき人物の姿も描かれているのをみとめ、ヴェルはなるほどと口元だけで呟く。
「絵にされるのはごめんだな」
 飾られ愛でられる趣味はないよと、人の気配に近づいてきた額縁を一瞥すると、ヴェルは自らの手を傷つける。
 じわり、血が滲んだ後、それは鮮烈な色の炎へと変わり、手のひらから噴き出した。
「絵なら、炎は苦手かな?」
 試すように炎を差し向ければ、案の定。火のついた箇所から勢いよく燃え上がる額縁が悲鳴のようなものを迸らせると同時、辺りの額縁が怯えたように後ずさる。
 思ったとおりと口角をあげて、ヴェルは次々と炎を移していく。
「かくれんぼも嫌いじゃないけど、鬼ごっこの方が好きなんだ」
 さぁ、早く逃げないと全部燃やしてしまうよ。そんなヴェルの気配に、額縁達は自身が破壊される危機感にとらわれる。
 同時に、肖像画に描かれている少女が、額縁を守ろうとするかのように、ずるりと絵から這い出してきた。
「お出ましか」
 大量の額縁から現れる大量の少女が一斉にヴェルへと襲いかからんとするのを見、ヴェルは鬼ごっこの鬼役として前進していた身体を一旦退かせる。
 手のひらで踊らせた炎を収め、代わりに握ったのは深緋の如意棒。
 軽い素材のそれは、ヴェルの手にしっくりと馴染み、手足と同じように動いてくれる。
 とん、とん。足元を爪先で二回小突く。リズムを取るようなそれを合図にふわり軽やかに跳躍したヴェルは、一度引いた間合いを一気に詰めた。
「舞い散る朱、煙に巻け」
 少女の懐深くに踏み込んで、くるり、旋回させた如意棒で一息に叩き上げ、叩き伏せる。
 ステップを踏むような足取りで、自身の身をも旋回させれば、迫る少女の攻撃からひらりとすり抜けて。視線を合わせた次の瞬間には、高く上げた蹴撃を見舞って。
 軽やかに、靭やかに。舞うようにしてヴェルは次々と少女を撃破していく。
 中には絵に囚われた学生らしい姿もあったが、彼らそのものではないのなら、躊躇う理由もない。同じように叩き伏せ、本体たる額縁を打ち砕くだけ。
(そう言えば噂の青年は……)
 居るはずだよなと視線を巡らせるが、雑踏以上に積極的な人型の殺到で、それらしいものは判別できない。
 何にせよ倒してからかと独り言ち、ヴェルは再び額縁との戦いに専念するのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

宮矢三・祇明
戦闘
物陰に隠れて、【ユーベルコードNo.86 インクネコ】を発動し、塗料を材料に召還した液体状の猫をいたるところに忍ばせ、現場の状況を把握してから、シューティングゲームでも始める気分で弓と矢を構え戦闘を始めます。
攻撃時には以下の技能を使用【援護射撃15、咄嗟の一撃6、呪殺弾6、一斉発射3】
敵の攻撃に対しては、フック付きワイヤーを使い、技能【敵を盾にする3】を使い、敵を盾にして攻撃を防ぎます。

【絡み、アドリブOK】


杼糸・絡新婦
噂は広まるのも早い言うけど、
ほな、お兄さんはこの後、
どんな噂を流してくれることになるんやろうなあ。
ま、どうでもええけど、死なんように気をつけや。

錬成カミヤドリで鋼糸・絡新婦をレベル分召喚。
鑑賞には不向きやな、いや、鑑賞させる気はないんかな。
蜘蛛の巣のように張り巡らせ【罠使い】
【フェイント】を入れ誘い込み、攻撃。
糸を絡みつけ、拘束した【敵を盾にする】ことで
他の敵からの攻撃を防ぐ。
1対多数のかくれんぼてちと不公平ちゃいますか。




 誰かが戦い始めた。その様子を、物陰に潜みながら宮矢三・祇明(多重人格者の探索者・f03726)は観察する。
(ここは見つから無さそうですね……)
 既に居る敵対者の方へ集中しているからと言うのもあるだろう。確かめて、祇明はさっと辺りに塗料をばらまいた。
 それは地面に落ちるより早く、ひょいと身軽に着地する猫の姿に転じる。
液体状の、どこかぷるんとした猫は、インクの色をうっすらと残しているようにも見えるが、背景と同じような色をも持ち合わせているのか、じっくりと観察しないと見つけられないような存在だった。
 そんな猫を、出せるだけ出した祇明は、戦場を囲うように猫を忍ばせながら、ふと、気がつく。
(……一人、増えた)
 きら、と。何かが光を反射して煌めくのが見える。
 それは陽の光であり、他の猟兵が放っていた炎であり。いずれにせよ、それは戦場に張り巡らされるようにきらきらと伸びており、それによって明確に額縁達の行動を阻害しているようだった。
「1対多数のかくれんぼてちと不公平ちゃいますか」
 こてりと首を傾げて、どう思う、と問うように呟いたのは、杼糸・絡新婦(繰るモノ・f01494)だ。
 その足元には、すっかりへたり込んで這いずるように逃げ出そうとする青年の姿がある。
「死なんように気をつけや」
「え、えぇ、守って、守ってくださいよぉ……!」
 こいつ、ヘタレだな。祇明は直感的にそう思う。似たような感想を絡新婦も抱いているだろうが、にこりと微笑むだけで顔には出ていない。
 ささやかなやり取りの間にも、絡新婦は指先で器用にきらきら光る糸を――鋼糸を操り、額縁を釣り上げるようにして捕えては、召喚された少女からの攻撃を塞いでいく。
「鑑賞には不向きやな、いや、鑑賞させる気はないんかな」
 見せる気があるならもっと綺麗に並んでこちらに絵を向けてくれないと。アドバイスをするように、鋼糸の一本をぴんと引けば、そっぽを向いていた額縁の端を引っ掛けてくるりとこちらを振り向かせる。
「ひぃ……」
 青年にとっては最早恐怖の対象でしか無い少女の絵が、まるで実態を持つように次々と額縁から抜け出てくるのを見て悲鳴を上げかけたが、不思議と、少女達は襲いかかってこない。
 まるで、何かに引き止められたように、まごまごするばかりなのだ。
 蜘蛛の巣状に張り巡らされた鋼糸は、光の加減で見えたり見えなかったり。それにより、ある時は少女や額縁の足を止める盾となり、またある時は不用意な者らを掻っ捌く刃となる。
 そんな光景を眺めながら、祇明は意図した配置に猫たちがたどり着いたのを共有した五感で確かめて、さて、と茶褐色の弓を構えた。
 どことなく古めかしい、骨董品じみた弓と、何の変哲もない矢。
 構えながら見据えた祇明の視界は、己と猫達の視線が全て重なったような状態。
 一番隙が大きくて、最も射線が通りやすくて、味方の邪魔をしなさそうで、こちらに気づかれることも無さそうな。そんな敵を狙いすまして矢を放つ。
 張り巡らされた鋼糸の間を突き抜ける矢の存在は、当然絡新婦にも察知できて。
 それが新手ではなく、明確に額縁を狙っているのを確かめて、ふぅん、と口角をあげる。
「よかったねぇ、お兄さん。助けてくれそうなお人、まだ居るみたいよ」
 しかし射手の存在に気づく敵も居るようだ。隠れた敵へと向き直り、額縁の中心から何らかの魔力を放つのをみとめれば、絡新婦の瞳がすぅと細くなる。
「真っ白で寂しいんやろか。けど、させんよ」
 張り巡らせた鋼の糸は、己の指先から伸びるもののみにあらず。
 念動力で同時に操るそれらでおいたのすぎる額縁を絡め取れば、先程とは異なった方角から矢が飛びとどめを刺していく。
 上手に逃げてはるなぁ、と頷いて、青年の方はどうしただろう、となんとなく振り返れば。
 生け垣の間に潜り込もうとしているのか、じたばたとしている背中が見えて。うん。と思わず優しい目をした。
「背中向けてばっかでなく、良ぉ見といてくれてもええのに」
 廃ビルの少女の噂を広めた時のように、救われた体験談も広く流してくれることになるのだろう。
 しかしこの調子では、恐怖から随分と脚色された内容になりそうだ。
 それはそれで楽しみかもしれない、なんて胸中だけで思案して。
 敵に向き直った絡新婦は、丁度自身の真正面に位置する物陰に、猫耳のついたフードをかぶった人物が矢を番えて構えているのを、見つける。
 ――にゃーん。
 何処からともなく聞こえた猫の声が促すような気がしたから、くいと鋼糸を引いて、その矢の射線上に、敵を並べるように誘導してみた。
(……本格的に、シューティングゲームみたいですね)
 おあつらえ向きの『的』へ矢を放った祇明は、よぎった思考に、ほんの少しだけ楽しげな顔をするのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

千頭・定
私も噂話大好きです!
怖いお話は夏の風物詩。正々堂々真っ向から挑んでいきましょう。

素敵な絵ですねー!
美術の授業は不得意なので、小粋な感想は言えませんが。
壊してしまえば感想はいりませんね!
寄生UDCの可愛いヴェーで攻撃です。お兄さんは攻撃したらダメですよう!
ばしんと叩きまして。対応できない敵には、私がナイフで応戦しますよう。

何だか、素敵な絵を破壊するのは申し訳ないです。
美術が苦手で良かったです。えへ。

(アドリブその他お任せ致します)




 額縁が群れて、少女が召喚され、それが、次々と破壊されていく。
 なんとか身体を潜り込ませた生け垣からそんな光景をおっかなびっくり見つめていた青年は、戦場に新たに加わる存在を見つけた。
「素敵な絵ですねー!」
 マジで言ってんの? 青年は心の中で思った。
 なにせ青年にとってはもう恐怖の権化そのものである。よく見れば素敵なのかもしれないがよく見るのも怖い。
 しかし溌剌と戦場に立つ、見るからに自分より年下の少女――千頭・定(惹かれ者の小唄・f06581)は臆するどころかいっそ嬉々として居るようにさえ見える。
 よっぽど、絵画が好きなのだろうか――。
「美術の授業は不得意なので、小粋な感想は言えませんが。壊してしまえば感想はいりませんね!」
 マジで言ってんの???
 可愛い顔してアグレッシブなのかなこの子とかなんとか現実逃避気味の思考に走り出した青年と、定の視線がふと合う。
 かと、思えば。
「ごちそうさまでしたっ」
 すぃと視線がそれる間際の、にっこりとした笑顔と共に、定の背から、黒い影のような、触手のような――得体のしれない何かが、膨れ上がるようにして現れた。
 それは爆ぜるのと同じような勢いでみるみる内に巨大化し、額縁へ、絵姿の少女へ、それから、近くに居た青年へ――。
「ヴェー、お兄さんは攻撃したらダメですよう!」
 敵と見方は区別しましょう。窘めるような声に、すんでのところでギュインと攻撃の矛先を変えた、『ヴェー』と呼ばれた何か。
 区別しなければ攻撃回数が増えるのに勿体ない……なんてヴェーが思ったか否かは定かではないが、宿主の意志は尊重するのが可愛い邪神の良いところ。
 定的にはばしんと叩いてしまえというノリではあるが、実際叩かれた額縁達はばっさりと捌かれたり貫かれたりとなかなかの惨状具合だ。
 それでも難を逃れた額縁達へは定がナイフを手に距離を詰める。
 使い捨ての解体ナイフ達は敵を効率よく解体するために打たれたものたち。一度刃を食い込ませれば、ざらりと撫で付けるような素振りで絵画を引き裂いていく。
 一瞬、絵の中の少女が絶望し悲しげに叫ぶような顔をした気がしたけれど、定はそれを真っ直ぐ見つめ、うん、と一つ頷く。
 書かれた絵であるはずの存在が顔を変えるというのは実に怪談らしい。
 怖い話は夏の風物詩。まだ少しばかり早いながらも暑さだけはとんでもなく主張してくるこの季節、ちょっぴり背筋を撫でられるくらいの恐怖演出はばっちこいだ。
 正々堂々真っ向から。挑んで倒して、それでおしまい。
 今はとにかくこの大量発生を凌ぐことの方が大事で重要なのだ。
 そうしてまた一つ額縁を掻っ捌いていくヴェーを横目に、それにしても、と定は思う。
「何だか、素敵な絵を破壊するのは申し訳ないです」
 折角綺麗に描かれたものをと眉を下げるのかと思えば。
「美術が苦手で良かったです。えへ」
 にこっと。茶目っ気たっぷりに笑った。
 感情移入して躊躇ってしまうより余程良いだろうと前向きに思考して、定は景気よく額縁を破壊していく。
 そんな定の戦いっぷりをあわわと眺めながら、そういう問題だろうかと青年が思ったとか思わなかったとかは、ほんの余談。

大成功 🔵​🔵​🔵​

髪塚・鍬丸
感染型UDCの対処だな。任務了解、だ。
御下命如何にしても果たすべし。

敵の数が多い。地の利も敵にある。
強化された【視力】を凝らし、戦場の【情報収集】。地形を把握。
死角に回られない様、背後に壁を背負う位置を取る。
UC【畏笛の術】で【範囲攻撃】。共鳴現象で物質を破壊し、魂すら震わせ砕く咆哮を放つ術。
反撃を【見切り】、【早業】で回避しつつ術で敵を薙ぎ払っていく。
数が多過ぎるなら、今一度周囲を確認。青年は無事に逃げ出しただろうか。
仲間もいるなら退避を頼み、自身も建物内を移動する。
周囲に敵しかいない状況を作り出そう。
【限界突破】で無差別攻撃。壁による反響と共鳴を利用し攻撃力を三倍化。
一気に【なぎ払う】ぜ。


崎谷・奈緒
ふむふむ、噂を媒介にパワーアップするオブリブオンかあ。頭いいな!
お兄さんはちょっと運が悪かったねえ。まま、ここはアブナイからおねーさん達に任せてくれたまえ。

すごい数の額縁だあ。絵にされるのは遠慮したいな。
閉じ込められた人は、額縁を壊せば助けられるんだね?
細かいこと考えるの苦手だし、ここはUC【かつて見た光】で一網打尽にしちゃおう。
ハーモニカを演奏して、テンションが上がるほど衝撃波が強くなる技……演奏するのはもちろん激しいロック!渾身の【パフォーマンス】【楽器演奏】で、威力も倍率ドンだ!

額縁からの攻撃も、正面から演奏の衝撃波で受け止める!避けることは考えない!気合の見せ所!

【アドリブ・連携歓迎】




「ふむふむ、噂を媒介にパワーアップするオブリブオンかあ。頭いいな!」
 感染型、と分類されるその実態が、接触の必要も同じ場所にいる必要すらない、際限なく尾ひれをつけて広がる噂にあると聞いて、崎谷・奈緒(唇の魔術・f27714)は感心したように頷いた。
 なるほどな、と似たような感想を呟くのは髪塚・鍬丸(一介の猟兵・f10718)。
「感染型UDCの対処だな。任務了解、だ。御下命如何にしても果たすべし」
 送り届けられたその場所で、ふわりと浮かぶ額縁の姿をみとめれば、鍬丸は即座に瞳を凝らし、その場の情報収集を開始する。
 他に駆けつけた猟兵が幾らか退治しているようだが、大量発生というだけあって、まだその数は油断のならない数だ。
 加えて破壊されるという危機感を抱いた時点で絵の中の少女すらも戦力として召喚される。敵の数が多いことは単純に厄介である。
(おまけに空中移動が可能、と。地の利もあちらにあると考えていいか)
 囲まれることは厄介だ。素早く壁際に陣取り、背後からの強襲に警戒した鍬丸は、自身が持つ広範囲を攻撃する技を備えながら、最も効率的な攻撃箇所を探る。
 その間に、奈緒もまた敵数の多さに辟易したような顔をしながら、安全地帯と戦闘領域の境をひょいと軽快な足取りで踏み越える。
 歩む足元には破壊された額縁の残骸と同時に、絵に取り込まれてしまったのだろう、学生と思しき人間が数人、呻きながら横たわっているのが目につく。
 破壊すれば無事に助け出せるらしい。聞いた話のとおりだ。
 それならば細かいことは考えない。目の前にずらり、上下も左右もなく不規則に居並ぶ額縁の群れを破壊し尽くすだけだ。
 その手段となるハーモニカを取り出したところで、呻き転がる人々とは違って、おろおろしながらも無事を確保し、はらはらと戦場の成り行きを見守る姿を一つ、見つける。
 件の第一発見者の青年か。ふむと思案し、すたすたとその近くに歩み寄ると、さっと庇うような位置で奈緒は立つ。
「お兄さんはちょっと運が悪かったねえ。まま、ここはアブナイからおねーさん達に任せてくれたまえ」
 運が良ければちょっとした肝試しで済んだかも知れないことだけど、好奇心は猫をも殺すとはよく言ったもので。これに懲りるか否かは彼次第だが、UDCの企みに巻き込まれてしまっただけというのなら、助けないわけにも行かない。
 正義の味方を気取る気はないけれど。守りたいものを守るためには、必要なことなのだ。
「さ、気分もアガってきた――練習の成果、キミに見せてあげよう!」
 取り出したハーモニカに唇を当て、確かめるように数音。それだけで己とハーモニカをシンクロさせた奈緒は、激しい音色を掻き鳴らす。
 その旋律は、まごうこときロック。ハーモニカ一つで奏でているとは思えない重厚な音楽は自然と奈緒の気分を高揚させ、周囲を盛り上げるようなパフォーマンスも重なれば、さながらショーライブ。
 そうして最高潮に盛り上がったテンションを、文字通りぶつけるべく、数多くの『聴衆』へと意識を向けた。
 途端、放たれたのは音圧を伴う衝撃波。びりびりと額縁を震え上がらせるその音に、絵の中の少女が一瞬耳を塞ぐように見えたが、聞かないなんて勿体ないとばかりに、次々と音を叩きつけていく。
 奈緒のテンションが上がるほどにその威力を増す音の波に、鍬丸はかすかに目を丸くしたが、ふと楽しげに笑んで、大きく、息を吸う。
 次に吐き出されたのは、人間の耳が捉えることのできない音域に至る、咆哮。
 聞こえずとも、確かに空気を震わせるその音は、額縁をも震え上がらせ、そのまま破壊させる。
 音と音が重なるその空間に閉じ込められたような状態となった額縁達は、成すすべなく粉砕されるばかりとなった。
 びりびりと、空気が、肌が、震える心地に。それによって恐ろしい額縁達が次々と破壊されていく光景に、青年は釘づけられるように見入る。
(逃げてはくれないか……。だが、この調子なら――)
 数が多すぎるならば、青年を逃し、味方にも退避を促して敵だけの状況を作っての無差別攻撃も考えた鍬丸だが、奈緒の音楽に音の振動を乗せる事で期待した以上の効果は得られたのだ。
 この調子ならば、一手間掛けずとも倒し切る事ができる。
 もっとも、奈緒が無事ならば――。
 ぴくり、演奏の最中、音に震える額縁が一矢報いようとするかのように奈緒をキャンパスに取り込もうとしてきた。
 吸引しようとする魔力に、一瞬、引き寄せられたような気がした奈緒だが、ぐっと踏み止まり、なおも激しくハーモニカを響かせる。
 退かない。避けない。物理的に引き寄せてしまおうとするより先に、心惹く音色でねじ伏せる。
(気合の、見せ所――!)
 その対峙すらも、奈緒の昂揚を高めるのに一役買う。
 それにより、鍬丸が思うよりもずっと早く、辺り一帯の額縁は消え去っていた。
「はは……すっげぇや……」
 ぽつりと聞こえた呟きは青年のものだった。鍬丸がその声にちらと彼を見やれば、初めに見た時には怯えきって情けない行動ばかりしていたその顔も、晴れやかになっていた。
「現金なもんだが……」
 この調子ならば、恐怖からくる怪談じみた噂ではなく、勇ましい猟兵達の武勇伝が口をついて紡がれることだろう。
 ……UDC組織に、情報統制されるまでは。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『階段怪談』

POW   :    ひたすら現地調査

SPD   :    口コミやネット情報などを搔き集める

WIZ   :    噂そのものについて検証する

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 第一発見者の青年は無事に保護され、実際に少女を見た者による噂の拡散は収まるだろう。
 とは言え、すでにばら撒かれてしまった噂は数多く、それを糸に精神エネルギーを吸い上げる手はずは整ったまま。
 噂がただの噂で終わるよう、根源を倒すべく、猟兵達は廃ビルへとたどり着いていた。
 その入口は一見すれば何の変哲もないビルの一階。照明が切れた薄暗がりの中、上に登る階段と下へ降りる階段が伸びているという、普通の光景だ。
 だが、一度その階段に足を踏み入れれば、その異様さに気がつくだろう。
 何処まで行っても、その階段は終わらない。ひたすら登り、あるいは降りるだけ。
 上りを選ぶのも下りを選ぶのも、気分でいい。登ることと降りること、それぞれに意味を見出してもいい。
 いずれにせよ、君達はもう一つの異様に気がつくことだろう。
 隣に、前に、後ろに――誰も居ないという現実に。
 一人きりで進む階段。その行き先はどちらも同じだと、グリモア猟兵は言った。そして、その階段を抜けるには、『鍵』が必要だとも。
 『鍵』とは、『幸せ』なのだと聞く。
 自らが思う幸せを口にすることで、より強力な精神エネルギーがUDCの懐に飛び込もうとしている事を主張することとなるのだ。
 そうすれば、噂の拡散を待たずに得られる獲物を囲い込むべく、UDCが自ら棲家への入り口を開いてくれる。
 誰も居ない、こんな状況。誰も聞いていない事を見越して語るのも良いかも知れない。
 さぁ、聞かせてもらおう。君の、ささやかな幸せを。
崎谷・奈緒
ふうむ?上りでも下りでも同じ行き先になるのか。ふしぎ!
上り階段を使おう。まあなんとなくね。目標に近づいていく感じがするよね。

自分の幸せを話せ、か。いっぱいあるぞー。
朝起きたら、母さんがトースト焼いてくれてることとか。職場で仲間とがんばってることとか。疲れた夜にビールをがぶ飲みすることとか。本を読むこととか。ヘッドホンで好きな音楽を聞いてる時とか。よーし何か買うぞーって意気込んで友達と買い物に行って、結局何も買わずに一日おしゃべりと新作チェックだけで終わっちゃうこととか。

ああ、そうか。あたしは、自分の人生を愛してるんだな。それが一番の幸せだな。

……んんんー!誰も聞いてなくても恥ずかしいわー!




 なんとなく。そう、なんとなくだ。崎谷・奈緒は上りと下り、二つの階段を見比べて、上り階段へと足を進めた。
 どちらに行っても行き先が同じという不思議な現象の理由は、きっと考えても無駄なのだろうと割り切って、ただ、なんとなく。上へ上がるほうが、目標に近づいていく感じがすると、思ったのだ。
 しかし、上れど上れど、その階段が終わることはない。踊り場を幾つも過ぎてきたが、入れそうな扉があるでもなく、ただ延々と同じ光景をぐるぐる回りながら登るだけだ。
「ふうむ?」
 なるほどこうなっているのか、と一度立ち止まって前や後ろ、階段から身を乗り出してあるはずの上や下を確認する。
 何処を見ても、抜け道があるようには思えない。しっかりと異空間に突入している感じだ。
「自分の幸せを話せ、か」
 それが鍵になるのだと聞いた。奈緒は上るペースを少し緩めながら、そうだなぁ、と思案する。
「いっぱいあるぞー」
 考えるまでもなくあれもこれもと浮かぶのは、幸せな日常。
 その中から一つ選ぶなんて真似はできそうもないから、思いつくままにどんどん口にしていく。
「朝起きたら、母さんがトースト焼いてくれてることとか」
 食事が用意されているというのはありがたいことだ。それ以上に、毎日顔を合わせて挨拶ができる家族がいるということも。
 慌てて飛び出す日があったとしても、おはようと行ってきますはいつだって欠かさない。
 仕事に行けば、同じ志を持つ仲間が居る。目標へ向かって切磋琢磨しあえる存在が居るというのは、働く日々にとっては重要だ。
 そうして疲れた夜には、ビールをがぶ飲みすることだってある。その飲みっぷりは若い内だけだなんて茶化しながらもそういう日も必要だよなと笑って過ごせる心地よさも、幸せなこと。
「後は本を読むこととか。ヘッドホンで好きな音楽を聞いてる時とか。よーし何か買うぞーって意気込んで友達と買い物に行って、結局何も買わずに一日おしゃべりと新作チェックだけで終わっちゃうこととか……」
 指折り数えながら、途中で数えることも忘れるくらい、ぽんぽんと脳裏に浮かぶ幸せを口にしていった奈緒は、いつの間にか止まっていた足に気づきながらも、己の足元を見ることはしなかった。
「ああ、そうか」
 清々しい気付きの表情は、いつだって、前を見て、上を見ている。
「あたしは、自分の人生を愛してるんだな。それが一番の幸せだな」
 取り立てて強運に恵まれているわけではない。人によっては平凡だと言われるような毎日かもしれない。
 それでも、奈緒にとっては特別なのだ。自分だけの特別な日々。
 それを当たり前に送れる毎日が、それを積み上げていく人生が、誇らしくて、愛おしい。
「……んんんー! 誰も聞いてなくても恥ずかしいわー!」
 人が聞いていたらどんな顔をするだろうか。なんて想像してしまっては行けない。
 だってそんなこと考えたって意味がないくらい、奈緒の中ではその幸せは確定的なのだから。
 幸せだ。改めて口にすれば、カチャリ、何処かで鍵の開く音がした。
 ひょいと視線を上げれば、数段先の踊り場に、いつのまにやら扉が出来ていた。廃ビルから伸びる階段に備えられたにしては、脆そうで防犯できそうにもない木製の扉。
 何処かの部屋に続くような、簡素な扉。
「……これは、どこに続くんだろうね?」
 どこかで見たことがあるような。そんな不思議な心地と少しの好奇心。抱えて、奈緒は扉をくぐるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

髪塚・鍬丸
幸せについて語ればいいんだな。
とは言え、好きな所に行って旨い物や旨い酒を喰らって楽しんで……。今の生活で充分幸せなんだがな。

……これじゃあ鍵にはならないか。ならば……。

俺は「道具」だ。道具になるべくして生まれ、道具として鍛えられ、道具として使われてきた。
それが嫌で逃げ出した訳だが、こいつは失敗だった。強いられた生き様だろうと、これが俺だ。「本当の自分」なんて都合のいいもんは無い。

だから、自分自身の為の道具となる。自分で選んだ任務を果たす為に、鍛えた身体と技術と知識の全てを使う。
果たした瞬間、今までの全てが報われる。これが俺の幸せだ。

こいつで鍵が手に入れば先に進む。御下命如何にしても果たすべし。




 さてと踏み込んだ階段は、いつまで経ってももどこにもたどり着かず、いつの間にか共にいた気のする誰かを引き離す。
 不思議空間に突っ込んだのは踊り場一つ越えた辺りですぐに気がついた。髪塚・鍬丸はそれでも歩調を緩めないまま、鍵となるらしい幸せとやらについて思案する。
「好きな所に行って旨い物や旨い酒を喰らって楽しんで……。今の生活で充分幸せなんだがな」
 嘘偽りなく、十分だと思っているが、どこに視線を巡らせても、どれだけ耳を澄ませても、鍵が開くような感覚は得られない。
「……これじゃあ鍵にはならないか」
 そんなものではないだろうと言われているのか。だとすれば随分と余計なお世話である。
 それとも、もっと具体的にと言われているのか。
「ならば……」
 思い起こしたのは、かつて鍬丸が居た忍の里。
 サムライエンパイアのどこぞとも知れない、誰も知る必要すらない場所で、ひそりと佇み、同じ忍同士で身を寄せ合って生活していた空間。
 誰も彼もが忍らしくというべきか、同じ様な顔をして、同じ様な日々を送っている。
 ほとんどすべてが管理されるような環境下で、鍬丸は『道具』として存在してきた。
 そうなるべくして生まれ、そう在るべしと鍛えられ、そういうものだと使われて。
 繰り返し。それが、嫌で。逃げ出した。
「だが、こいつは失敗だった」
 逃げ出したところで、何も変わらなかった。いや、逃げ出したことで気が付いたとは、言うべきか。
 どんな風に強いられた生き様だろうと、己は何処までも道具。これこそが、己なのだと。
「逃げ出したところで、『本当の自分』なんて都合のいいもんは無い」
 どこまで行っても道具なのだ。それを理解したと言うのに、里を抜けたという状況のせいで追っ手から逃げ隠れるという日常が追加されてしまった。
 自分の考えの甘さに辟易したこともなくはない。
 だから。決めたのだ。
「自分自身の為の道具となる」
 己には鍛えた身体と技術と知識がある。これは幸いなことだろう。
 そして里を抜けたことで、自分で任務を選ぶことが出来る。
 自身で選んだ任務を果たすために、自身が培ってきた全てを使う。
「果たした瞬間、今までの全てが報われる。これが俺の幸せだ」
 道具であることに変わりはない。使う対象が変わっただけだ。
 それでも、もしかしたら。そうやって『選んで』『決める』という行為も、幸せの一部なのかも知れない。
 カチリと短い音が聞こえた。目の前には、開いた南京錠がぶら下がった重そうな閂付きの扉。
「逃げ出さなければ……この類の鍵は開けなかったかもしれんな」
 自身の幸せについて考えることも、忍の里に居たままではなかったかも知れない。
 だとすれば、失敗だと思った逃亡も、悪いものではなかったのだろう。
 己の使える技術と知識が、増えることとなったのだから。
「御下命如何にしても果たすべし」
 この先に居るのは敵なのだろう。ならば進むだけだとばかりに手をかけた閂は。
 見た目に反して、不思議なほどに軽かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴェル・ラルフ
ひたすら階段を登ってゆく
たかく、たかく
この先にあるものが、何であれ
僕が鍵を開くために口にする幸せは、ひとつだから

僕の支えの青い蝶
僕を探しに来てくれた義妹
かけがえのない僕の太陽と星
僕の導となる親友たち
そのどれも、空にあるものだから

誰もいないこの場所でなら、僕の願いも口に出して良いだろうか
駆けるなかで
音にかき消されるような小さな声で

キミたちが
自然の中で、明るい中で、
生きてゆくその姿
キミたちのしあわせな姿があってほしい
そして
できれば僕もその側に
いさせてくれないかな

意識すればあつく燃え出すこの羨望を
身を焦がすようなこの願いを

さあ手繰ってくれないか


★アドリブ歓迎




 迷うことなんて無い。選べというなら上るだけ。
 小気味よく階段を上っていくヴェル・ラルフの足取りは軽く、ふと見上げた先の永遠に続きそうに見える光景にさえ、笑みが浮かぶ。
 たかく、たかく。ひたすら階段を登ってゆく。
 この先にあるものが、何であれ。求められているのが『幸せ』の『言語化』だというのなら、ヴェルが口にするそれは、ひとつなのだ。
 ――僕の支えの青い蝶。
 それはヴェルを探しに来てくれた義理の妹。
 ――かけがえのない僕の太陽と星。
 それはヴェルの導となる親友たち。
 蝶も、太陽も、星も、どれもが空にあるものだ。
 だからこそ、高く高く登っていく。その階段が天まで届くというのなら願ったりだ。普段は触れることのできないような聖域に立ち入れるのなら心が震える。
 想像が齎した一瞬の昂揚に足が逸りそうになるのを抑えて、一定のペースで階段を登っていく。
 聞こえるのは、自分の足音ただ一つ。
 ここに居るのが、自分ひとりなら。だれも、聞いていないのなら。
(僕の願いも口に出して良いだろうか)
 一度口を開いて、閉じる。カンッ、と音を立てて飛び出すように駆け上がる。
 静かすぎた世界の中に、幾つにも反響する足音を響かせながら、ヴェルは囁くような声で言う。
「キミたちが――」
 自然の中で、明るい中で、生きてゆくその姿。
 キミたちのしあわせな姿があってほしい。
 ――そして。
「できれば僕もその側に、いさせてくれないかな」
 思い描くだけで、また心が震える。
 熱を持って、あつく燃え出すような羨望。
 叶わぬものだと思ったことすら、あっただろう。そんな資格はないと切り捨てたことさえも。
 けれどいま、願っている。願えている。大切な彼らの幸せを願うばかりでなく、その側に在る自分の姿も、描けている。
 そこに居る自分は、幸せそうに笑っている。
(ああ……)
 身が焦げる。熱に、焼かれているように。
 心臓が跳ねるほどに昂揚しているように感じるのは、息を切らすほどに駆けているせいだろうか。
 どちらでもいい。どちらでも構わない。駆け上っていけば、思い描いた幸福に手が届くような心地さえしていたヴェルは、大きく、詰まった息を吐き出すようにしながら、ふいに、足を止めた。
「は……さあ、手繰ってくれないか」
 これが僕の幸せだと、荒く乱れた吐息の隙間で知らしめれば、カチン、と短く音がした。
 鍵の開く音だと理解して顔を上げた先には、精微な装飾で縁取られた、透明な硝子の扉が佇んでいる。
 目の前まで歩み寄って、薄っすらと己が映るそれを見て、確かにこれは硝子だと理解できるのに、その先に透けて見えるはずのものが全く見えない。
 かといって、全くの暗がりが続いているわけではない。むしろ、どこか崇高な場所に続いているかのような気さえするのだ。
「……これが、僕の幸せのかたちだとでも?」
 なるほどね、と。くすり呟いて、ヴェルは扉を開き、進んでいった。
 己の描く幸せと現実の間には、硝子一枚の隔たりだって無いのだと証明するかのように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

杼糸・絡新婦
ほな下りながら幸せについて考えてみましょか。
(マイペースに幸せについてツラツラ考えつつ進んでいます)
そうやね、まずこの姿であること。
そりゃ、物のままご主人様に使われとった事も幸せったけど、
自分の足でこうやって色んな所歩きまわって、
色んなもん見て、触って、美味しいもん食べて、
そうやな、友達出来て一緒に回るのも楽しい、
どこへ行こうかワクワクするし、
誘ってみるのもええな。
(からくり人形のサイギョウを見やり)
もちろん、お前さんと渡り歩くのも楽しい。
そういったことが幸せなんやろな。
あれ、そう思うと、
この先に何があるのか興味深いのも楽しいこと?
いや、流石にそれはちゃうか。




「ほな、行ってみますか」
 とん、と杼糸・絡新婦が歩みだしたのは下り階段。マイペースにのんびりと、ひたすらに降りていく階段を進みながら、幸せというものについて、考えてみることにした。
 意外と下りというものは足に来る。けれど、それを知ることが出来るのも、足というものがある故だ。
 くす、と。絡新婦は微笑んで己の足を見る。滑らかで鋭利な鋼の糸のままでは知ることもなかった感覚。
「幸せ……そうやね、まずこの姿であること」
 ヤドリガミとして身を得るということは、知識としてしか知らなかったあらゆるものに触れられる。
 すぅ、と手すりを撫でながら、また一段、階段を降りて。絡新婦は少しだけ首を傾げた。
「そりゃ、物のままご主人様に使われとった事も幸せったけど……」
 そもそもこれは比較すべきものではない気もする。物として大切に扱われ続けたからこそ、ヒトとしての身体を得た。過程の話であって、本質が異なるものではないのだろう。
 こうやって自分の足で歩き回って、色んなものを見て、触れて、美味しいものを食べて。
 出来なかったことを一通り試すまでに、どれくらいかかることだろう。
 そんな風に思い描けども、きっと次から次から新しい興味と遭遇して、一生かかったって人の体を経験し尽くすことなんて出来やしないのだ。
 そんな身体を得るに至った。それが、幸せでないはずがない。
 うん、と頷いて、またのんびりと階段を降りる。
「そうやな、友達出来て一緒に回るのも楽しい」
 言葉を交わして同じものを体験して感想を共有するというのは、物の状態ではなかなか難しいことだ。
 それが、同じヤドリガミからその他の色んな種族まで、友人として行動出来るようになった。
 彼らとどこへ行こうか。考えるだけでもワクワクするし、実際に誘って見るのも、きっと楽しいことばかりだ。
 この仕事が終わったら少し探してみようか。自分の気になった場所を一緒に気に入ってくれたらいい。
 想像に穏やかな笑みを湛えていた絡新婦は、ふと、物言わずずっと連れ立ってくるからくり人形を振り返る。
「もちろん、お前さんと渡り歩くのも楽しい」
 傍目には一人旅の装いかも知れないけれど、いつも共をしてくれる心強い存在。
 ものであった頃の自分のように、幸せを感じてくれているだろうか。それとも何か不満の一つでもあるだろうか。
 いつかこの子も自分と同じようにヤドリガミとなって、操る糸から自立して肩を並べる日が来たりするのだろうか。
 可能性を考えられるということは、それだけ、その相手を大切に思うことで。
 そんな、ささやかなようで強い縁を感じる事もまた――。
「そういったことが幸せなんやろな」
 つぅ、と。指に絡めた糸を引き、なぞる。相変わらず物言わぬからくり人形は、そのかすかな動きで身じろいだように見えて、ほんの少し、同意してくれたように思った。
 ふ、と笑って、絡新婦は唐突に先の踊り場に現れた扉を見つける。
「さっきはなかった気がするんやけど……」
 しかも、廃ビルの階段には有り得そうもない、穴一つない綺麗な障子戸。
 にもかかわらず、ご丁寧に扉として機能させるためのドアノブがついた、開き戸なのだ。
 明らかな異常に対し、そろり、警戒を残した慎重な手付きながら、躊躇はなくドアノブを握り、ひねる。
 鍵は、掛かっていない。どうやら自分の話に満足してくれたようだ。
 ふぅん、と口元だけで呟きながら、絡新婦はこの先に何があるのだろうかとほんの少し心を踊らせて。
 あれ、と声に出した。
「そう思うと、この先に何があるのか興味深いのも楽しいこと?」
 興味を抱いて、少しばかりわくわくして。それは、先程までの幸せ語りとどこか共通するものがあるのではないか。
「――いや、流石にそれはちゃうか」
 感情の混同は、あやういもの。きちりと線引きを確かめて、絡新婦は戸の先へと向かうのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

千頭・定
いつの間にか一人ぼっちなのですが!!
ここが階段、昇り降りし放題の場所…ちょっと楽しそう。
こういう時の敵は上にいます。ボスは上にいるって決まってるんです。

幸せー幸せー…難しいですねえ。
女子高生の思う幸せなんて知れてますよう。テストの点が良かったり、好きな人ができたり、たい焼き食べたり。

でもでも。私はお仕事でお役に立てた時が最も幸せですかね。
私自身や、家の評価に繋がりますから。
私の主人はろくにお礼も言ってくれませんがね!


ふう。上ばっかりは疲れてしまうので、ちょっと降りてみるのも良いですよね。

(アドリブその他お任せです)




 ビルの前には数人の猟兵が居たはずだし、狭い階段だからと一斉突入はしなかったものの、程々に固まって移動し始めたはずだった。
 しかし、いざ立ち入ってみると、どうだろう。千頭・定はいつのまにやら一人きりで階段に立っているではないか。
「いつの間にか一人ぼっちなのですが!!」
 大きな声を出しても、どこまでもどこまでも反響するのは一人分の声だけ。分断させて一人ずつ叩こうという魂胆でないのは安心できたような、案外甘いような。
 ともかく、気を取り直して進み始めた定は、真っ直ぐ上り階段を進んでいく。
「こういう時の敵は上にいます。ボスは上にいるって決まってるんです」
 自信満々に進んでいきながらも、程々に上った先で振り返れば下にも延々続いて見えるようになった階段を見下ろして、昇り降りし放題の場所というのはちょっと楽しそうなんて思ってみたり。
 ともあれ、いつまでもここに居るわけにも行かない。鍵となるのは自身の幸せだとは聞いているのだから、定もまた己の幸せというものについて考えを巡らせてみた。
「幸せー幸せー……難しいですねえ」
 口にするのはとっても簡単だ。
 しかし、『しあわせ』というのはイコール『いいこと』であるという発想で止まる。
「女子高生の思う幸せなんて知れてますよう」
 テストの点が良かったり、好きな人ができたり、たい焼き食べたり。
 せっかくだから帰りにたい焼きを買っていこうか。ふとした思いつきは一旦横に置いておいて。
 日常におけるささやかないいことならばあれこれと思い浮かぶが、それが幸せというものかと問われると、もうちょっと考えさせてと言いたくなる。
 難しく考えすぎ、ということだろうか。それでも定はうーんと唸って、唸って、唸りながらとんとんと階段を上っていく。
「しあわせ、しあわせー……」
 ひょい、ひょい、と。階段をひたすら上っていた定は、ふと足を止める。
 自分がこうしてこんな場所で必死に頭を捻っているのは何故だろう。それは、そう、お仕事だから。
 代々続く戦闘一族の一員として、女子高生をする傍らUDC組織のお手伝いだって積極的だし、本家筋の人間にも仕えて己の責務を果たしている。
 そんな、一般的とは少し違う定の日常の中で、幸福だと感じる瞬間が、ある。
 仕事で役に立てた時。
 自分の力が仕事に適応して、十分な成果を得られた時だ。
 それは定自身や、家の評価にも繋がる大切なこと。任される以上はプレッシャーの一つも感じるし、その上で役に立てたと実感できた時の嬉しいことと言ったら。
「私の主人はろくにお礼も言ってくれませんがね!」
 無いことが当たり前過ぎて突然律儀に礼を言われても異常を疑ってしまいそうだが、言葉一つでも、もらえるならば当然嬉しいのだ。
「ま、今更期待もしませんけども!」
 誰も聞いていないのだ、言うだけただというものだ。
 それにしても、随分と上ってきたものだ。ふう、と息をついて、定はくるりと振り返る。
「上ばっかりは疲れてしまうので、ちょっと降りてみるのも良いですよね」
 見てきた景色は変わるのか。それともやっぱり同じものなのか。
 興味本位で進んでみようと足を踏み出したところで、定は今さっき通り過ぎてきたばかりの踊り場に、扉が現れているのに気が付いた。
「んんー?」
 どう見ても扉だ。鉄製の、非常口とか書かれていそうな、ちょっぴり頑丈な扉。
 きゅっ、とひねったノブは、簡単に回る。鍵は既に開いているのだ。
「招かれてるってことですかね」
 独り言ちて、定は勢いよく扉を開く。そういうことなら乗り込むまでだ。
 今回の仕事もしっかりと果たすために。

大成功 🔵​🔵​🔵​

宮矢三・祇明
私は、階段を降ります。
階段を降る理由は、本能的に地下室など暗く湿った場所が好きという、何気ないものです。

階段を抜ける『鍵の幸せ』は静寂
誰にも邪魔されずに、部屋の隅で楽な体勢でゆったりとしている時が幸せです。暇つぶしの本があればなおよし。

[アドリブ・その他歓迎]




 階段を降りる。降りる。ひたすら降りる。
 上り階段も選べたが、宮矢三・祇明は元より本能的に地下室などの暗く湿った場所が好きなのだ。
 廃ビルの上層部も多少埃っぽく陰鬱な雰囲気くらいありそうな気はするが、外観からして広く大きな窓で明り取りがされていそうな上階よりは、下階の方が余程己の嗜好に合うだろうと感じている。
 降りる階段を選ぶものは祇明の他にも居たが、一つ目の踊り場を過ぎた辺りで己一人になっていることに気が付いた。
 それに気が付いた数瞬だけ、祇明は立ち止まって周囲を見やったが、特に不安を覚えるでもないし、不都合を感じるわけでもない。
 むしろ、自分一人の足音ばかりが響く空間というのは、祇明にとっては心地よくすらあった。
 祇明はまたひたすら階段を降りる。降りながら、壁に出来たよくわからない雨漏りのようなシミや汚れ、剥がれかけのポスターなんかを眺めて歩く。
 足音は、どこまで行っても一人分。
 祇明が何も言わなければ、反響する足音と、たまに溢れるため息だけが場を満たしていた。
(静かですね)
 此処が階段でなければ、どれだけ良かったことだろう。
 例えばこの踊り場くらいスペースでいい。誰にも邪魔されない空間があるというのは良いことだ。
 試しにちょこんと座ってみる。そうして、壁にもたれかかってみる。
 硬い。座り心地はまったくもってよろしくないが、人間一人分くらいのムダのないスペースと、相変わらずの静かさ、それに薄暗い雰囲気は悪くない。
 カーペットを敷いて、クッションを転がして、抱えながら横になれば居心地がいいだろう。
 此処に暇つぶしの本があればなおいいのだが。
「私の幸せは静寂です」
 こういう……これよりはもう少し楽な姿勢で居られるような空間に居ることが、幸せなのだ。
 他の者はワクワクするようなことや温かさを感じるようなことでも口にしているだろうか。そういうのが好みなのだろうか。
 そんな事を思わなくもないが、しかしながらこれが己の幸福なのだから、仕方がない。
 と、いつまでも座っていてもどうしようもないと不意に顔を上げた祇明は、自分が居る踊り場に扉が現れていることに気がつく。
 それと同時に、扉からカチャンと鍵が開く音がしたのも。
「……いいんですか」
 無駄な装飾のない磨りガラスの扉。ドアノブすら無いそれのどこに鍵がかかっていたというのだろう。
 首を傾げつつも、押せば開くそれを、ぐいと押しやる。
 ギィ。歪な音がした。まるで、この先はこの世ならざる空間に繋がっているのだと、主張するかのように。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『ザ・ソウルケージ・ジュエラー』

POW   :    宝石は舞い踊りながら、いつしか輝いて
【呪いの光を帯びた数多の宝石 】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    宝石に映る貴方の魂は、いつだって煌めいて
【宝石 】で受け止めたユーベルコードをコピーし、レベル秒後まで、宝石 から何度でも発動できる。
WIZ   :    宝石に詰まった沢山の夢に、いつまでも照らされて
小さな【宝石 】に触れた抵抗しない対象を吸い込む。中はユーベルコード製の【対象の望みが反映された幸福な夢の世界】で、いつでも外に出られる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は照崎・舞雪です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 扉を抜けた先にあったのは、古い美術館のような場所。
 廃ビルの一室とはとても思えない空間は、あの階段を進む間に歪んでしまったのだろうか。
 無記名のプレートだけが掛けられた壁には、噂の第一発見者を襲った額縁達が並んでいたのだろうか。
 今は、空っぽになった壁ばかりが広がっていて。とても、寂しい空間に見えた。
「見つかってしまったわ」
 小さなアンティーク人形を抱きしめた少女が、ふわりと笑う。
 それは額縁達の中に描かれていたのと同じ顔。抱えたアンティーク人形もまた、同じ顔をしている。
「上手に隠れていたのに。今度は私が鬼の番ね」
 くす、と笑った少女は、ぼとり、アンティーク人形を床に落として、代わりにきらびやかな宝石を幾つも幾つも宙に踊らせた。
 その宝石は、とても美しいのに。どこか悍ましいものに見えて仕方がない。
 けれど同時に、とても魅力的なものに見えて仕方がないのだ。
「幸せな人達。あなた達を捕まえたら、魂を私に頂戴?」
 なんにも心配は要らないわ。もらった魂は、宝石の中に大事に仕舞っておいてあげるから。
 なんにも心配は要らないわ。宝石の中は、とっても素敵で幸福な夢の世界なのだから。
「なんにも心配は要らないわ。だから、かくれんぼはやめて、鬼ごっこにしましょう?」
 私とあなた達が遊んでいる間に、きっと噂はもっともっと広がって、かくれんぼの子たちは配下がきっと見つけてくれるもの。
 そう言って微笑んだ少女こそが、この異世界の美術館に住み着いた感染型UDC――ザ・ソウルケージ・ジュエラーだ。
 彼女の言葉通り、ここで猟兵達が対峙している間も、噂はどんどん広まっていく。
 けれど、彼女をここで倒してしまえば、それはただの都市伝説の一つで終わる。
「もーいいかい?」
 心は決まったかしら。そう小首を傾げて、少女は笑う。
 その色は、どんな煌めきを見せてくれるのかしらと、楽しげに――。
崎谷・奈緒
いい雰囲気の場所だけど……女の子?なるほど、キミがボスキャラか。素敵な夢を見せてくれるって気持ちは嬉しいけど、あたしはもう十分幸せなんだよなあ。申し訳ないけど、都市伝説のままでいてもらおう!

見た感じ、攻撃方法はあの宝石に関係してるのかな。うーん、どこかの本で宝石は熱に弱いって読んだような?むやみに近づくのはよくなさそうだし、UC【母の子】で、火炎を操る獅子「ユエル」を呼ぶよ。綺麗な宝石はもったいないけど、距離をとりつつ火炎の渦でまとめて燃やしちゃおう。討ち漏らしは自力の演奏攻撃でなんとか落とすしかあるまい。
勝利のカギはキミだ、ユエル!がんばれ!勝ったらフライドチキンだぞ!

【アドリブ・連携歓迎】


髪塚・鍬丸
宝石を警戒。能力複製と見た。ならば…
【求蓋の外法】。修行を極めた未来の自身の可能性…壮年の自分の幻影が己に重なり一体化。その技に身を委ねる。
左手で「八法手裏剣」…爆薬を仕込んだ手裏剣を複数【投擲】、漂う宝石に触れた瞬間爆発。宝石の壁を吹き飛ばす。
【2回攻撃】【ダッシュ】【早業】。投擲と同時に突進、こじ開けた宝石の間から懐に飛び込み刀で切り裂く。
通常攻撃なら模倣出来ない可能性を突く。模倣されたとしても、この技は「未来」の「成長」の「可能性」の召喚。過去に縛られたお前さんには使いこなせんよ。
【貫通攻撃】。金剛石すら切り裂く完璧な刃筋とタイミングの斬撃。
そう簡単にくれてやれる程、俺の魂は安くないさ。


杼糸・絡新婦
お嬢ちゃんルールわかってる?
鬼ごっこはな捕まった側が今度は鬼になるんやで、
その覚悟は出来とるんかい?

他の猟兵に気を取られているなら【忍び足】で接近し、
鋼糸で攻撃。
鬼さんこちらと【挑発】しつつ
敵の攻撃を【見切り】で回避しながらタイミングを図り、
脱力し受け止めるか、
また他猟兵への攻撃を【かばう】ことで
オペラツィオン・マカブルを発動。

もうういいかい?


宮矢三・祇明
戦闘
【No.181 グラフィティスプラッシュ】を使用
敵の宝石を塗料で覆いつぶし、宝石が手に直接触れられない状況をつくり、敵のWIZ攻撃を無効化できないか試みます。
敵がSPD攻撃を仕掛ければ、コピーされたユーベルコードが放つ塗料を確かめ、私自身の戦闘力を高めるものなら気がれなく宝石にユーベルコードを放ち地形を塗りつぶし自身の戦闘力を高めます。敵の戦闘力を高めるものならすぐに矢を放ち宝石を破壊して、弓矢を使った戦闘に切り替えます。
POW攻撃に対しては、技能【破魔・弾幕】をつかい、破魔を込めた塗料を弾幕状に飛ばし宝石を破壊します。

心情
鬼ごっこは苦手なので、陣取りゲームをします。

【アドリブ・絡み歓迎】


ヴェル・ラルフ
宝石の中は遠慮したいね
内側から見える世界は、ひといろだけなのだろうから
あまり魅力的ではないよ
移りゆく色こそ、変わりゆく命こそ、美しい

攻撃方法はあの宝石かな
敵の攻撃は「残紅」で武器受け
冷静に攻撃の方法を分析する
少女本体に攻撃するには、あの宝石を無効化する方がいいかな

どうやら人を宝石にすることが趣味みたいだし
誘いをかけてみようか
キミは僕の色を持っているかい

口車に乗ってくれるかな
捕まえにきたら、【反照舞踏脚】
宝石の攻撃を第六感も働かせて避けながら叩き落とし、少女へ接近
背後をとってナイフを突き立てる

逃げるのも得意だけれど、実は捕まえる方が、性に合ってるんだよ
負けず嫌いなんだよね

★アドリブ、連携歓迎


千頭・定
うふふ、可愛いです。見つけちゃいました!
噂話、都市伝説に直面しているとは大興奮。
それでは、それでは―お仕事を開始しましょう。

両腕に私のUDCを巻いてでっかくします!
ビックハンドです。ヴェーはパワータイプなので!
移動は早業。彼女からの攻撃は見切れるよう目を離しません。
正々堂々真っ向から攻撃です。

単なる噂なら良いのですが、日常に侵食されては困ります。こちらは、こちらで穏やか生活している人間なもので。
噂話はここでおしまい。

…綺麗なお部屋ですが、あんまり壊しちゃマズかったですかね。
請求はUDCさん宛にお願いします!!




 対峙者は、お人形のような女の子。確かめるように見て、千頭・定は興奮気味に口を開く。
「うふふ、可愛いです。見つけちゃいました!」
 隠れる気のないかくれんぼ。見つかってしまったわと少女が微笑むなら、見つけたのだと胸を張って然るべき。
 廃ビルの階段から続いたとは思えない空間をしげしげと見渡していた崎谷・奈緒もまた、最後に目に留めた少女をじっと見つめて、なるほどと呟く。
「キミがボスキャラか」
 どことなく厳かでいい雰囲気の場所には少し年齢的に不釣り合いなようで、けれど不思議としっくり来る存在。
 口を開かず佇んでいたとしても、その少女がこの場所の主であることは悟れただろう。それが害意とも取れる言葉を口にするのなら、なおのこと。
 警戒心は各々に。宮矢三・祇明と髪塚・鍬丸は既に仕掛ける瞬間を伺うようにぴりぴりと張り詰めた空気を醸し出しており、少女が手の中や周囲に遊ばせている宝石を少しでも動かそうものならすぐさまけしかけんと身構えている。
 そんな姿をちらちらと横目に見ながら、最終的には訝るように少女を見やった杼糸・絡新婦は、はぁ、と大きな溜息をついてみせ、少女の視線を誘導する。
「お嬢ちゃんルールわかってる? 鬼ごっこはな捕まった側が今度は鬼になるんやで」
 ――その覚悟は出来とるんかい?
 威嚇するように、す、と瞳を細める絡新婦に対し、ぱち、ぱち、と。きょとんとした顔で幾度か瞳を瞬かせた少女は、小首を傾げた。
「そうよ、だから、私が鬼よ」
「鬼のあんたがこっちを捕まえた後の話や」
「まぁ!」
 おかしなことを言うのね、と少女は笑う。
 覚悟だなんて、そんなのは要らないわとふわふわ、ころころ、楽しげに。
「だって私が皆捕まえておしまいだもの」
 そうでしょう? 同意を求めるように微笑んだ少女の周囲から、爆ぜるように宝石が飛ぶ。
 それは広々とした室内を真っ直ぐに横切り、礫の如く猟兵達へと打ち付けられようとしていた。
「それが素敵な夢を見せてくれるって言う宝石か」
 幾つも弾けた煌めきの礫に、奈緒が興味深げな声を上げれば、そうよ、そうよと楽しげな声が部屋中に響く。
「言ったでしょう、なんにも心配は要らないわ!」
「気持ちは嬉しいけど、あたしはもう十分幸せなんだよなあ」
 だから丁重にお断りさせてもらおう、と、奈緒は素早く宝石を躱す。無論、他の猟兵とて得体のしれない宝石に易々と触れるようなことはしない。
 さしたる速度も持たない礫を、躱し、あるいは弾き落として。
「鬼ごっこは苦手なので、陣取りゲームをします」
 ばしゃり、塗料をぶちまけ、宝石を包み込んだ祇明は、これで万が一触れてしまった場合の保険になるまいかと思案しながらも、油断なく宝石の軌道を見据え、床に広がった塗料の上に立つ。
「遊びに誘うなら相手の同意を得ないと成り立ちませんよ」
 そういうものでしょう、と少女を怪訝に見る祇明に、そういうものだね、とくすり笑う声。
 深緋の如意棒をくるりと回して構えながら、ヴェル・ラルフは「生憎だけど」と肩をすくめる。
「宝石の中は遠慮したいね。内側から見える世界は、ひといろだけなのだろうから」
 あまり魅力的ではないよと告げるヴェルの瞳は、同じ色の宝石をじっと見つめる。
 その中には、宝石の煌めきとは違う『幸せ』が詰まっているのだろう。触れれば得られる、やすい幸せ。
 自分が見たいものだけを都合よく見つめ続けるような『幸せ』なんて、つまらないものだ。
「移りゆく色こそ、変わりゆく命こそ、美しい」
 そういうものだよと柔らかに語るヴェルに、少女は不思議そうに首を傾げるだけ。
 語り合う口と通じる言葉を持ち合わせても、理解し合えることはありえない。
 それでこそ、噂に語られる都市伝説というものだ。
 決定的な部分で噛み合わない会話にその本質を見た定は、興奮に湧く胸中をなだめるようにくふりと笑い、背中から這い出てきたUDC、『ヴェー』を自身の腕に纏わせていく。
「それでは、それでは――お仕事を開始しましょう」
 言うが早いか、定は地を蹴って真正面から少女へ肉薄する。
 少女の手から幾つもの宝石が放たれるのを見るが、じっと見つめ、それが先程の『捕まえる』ためのものとは違うことを見極めたなら、必要以上に恐れるものでもない。
「いただきますっ」
 にっ、と口角を上げて笑った定がその両手を振り上げた時には、UDCを巻きつけて膨れ上がるように巨大化した拳が、強く握りしめられていた。
 目が合った少女が瞠目するのが見えた次の瞬間には、振り下ろした拳が部屋の床を粉砕していた。
「むむ、外しましたか」
 しっかりと距離を詰めた一撃だったが、呪いの光を帯びた数多の宝石が、拳に幾つも放たれて、その速度をわずかに緩めさせたのだ。
 それでも、ヴェーのパワーが弾かれることなく押し切った。結果、退避するには不十分だった少女は苦痛を表情に載せ、睨むような顔で見据えてくる。
 その顔も、守るように浮遊する宝石達に遮られるが、その光景を見るや、鍬丸の左手から複数の手裏剣が放たれた。
 正確無比な手裏剣が壁のように並ぶ宝石に届くや、ぼん、と強い破裂音。
「きゃあ!」
 きん、と音を立てて弾け飛ぶ宝石や火薬の破片に晒され悲鳴を上げた少女は、きっ、と鍬丸を睨み、宝石が受けたその技を模倣すべく煌めかせた。
「無駄だ」
 宝石が受け止めたのは、何の変哲もない手裏剣。少々爆薬を仕込んではあるが、それは威力の補強にすぎない。
 ――臨む兵 闘う者 皆 陣列べて前を行く。
 鍬丸の技の本質は、未来に獲得しうる可能性を引き出すもの。
 欠かさず鍛錬し、道具としての己を磨き続ける事を当然のように続けた鍬丸が、いずれは身につける技術の憑依。
「よしんば模倣できたとしても、この技は「未来」の「成長」の「可能性」の召喚。過去に縛られたお前さんには使いこなせんよ」
 何が強化されるでもなく、何が開放されるでもない感覚に歯噛みする少女に、たん、と如意棒で床を鳴らし、ヴェルはその視線を引く。
 キッ、と強い視線が向けられるのを確かめてから、くす、と挑発的な笑みを浮かべて。
「どうやら人を宝石にすることが趣味みたいだけど……キミは僕の色を持っているかい」
 例えば、そう、燃えるようなあかがね色とか。
 あるいは澄み通るような空色なんて。
 誘うような煽るような言葉に、む、と少女らしく見える拗ねた顔をして見せて、お望みとあらば好きなものを選ぶといいわと言わんばかりに、ヴェルへ向けて無数の宝石を飛ばす。
 魂を捕らえようとするものと、模倣しようとするものと。入り交じるものの見分けは、あまりつかないけれど。
 幾つかが宝石の煌めきとは違う色――祇明の塗料だ――が乗っているのも見極めながら、たん、と今度は自らの靴底で床を鳴らし、ヴェルはひらり、舞踏する。
 くるりと回した如意棒が幾つかの宝石を弾き、あるいは煙に巻くようにするりと躱すのにわずかに見入りながら、奈緒は自身へも向けられる宝石へ、向き直る。
 少女自身ではなく、宝石が彼女の手足となって攻撃してくるならば、それを砕くべしというのは皆と同じ発想だろう。
 どこかの本で、宝石は熱に弱いと読んだ記憶がある。あの宝石が果たしてその常識に当てはまるかはさておき、無闇に近づくのが良くないのは明白。ならば――。
「来て、ユエル!」
 呼び寄せたのは、灼熱色に燃える鬣を持つ獅子の霊。
 あかあかと燃えるそれを震わせ、ぐるると喉を鳴らした『ユエル』は、主に迫る宝石へ向けて、火炎の渦を伴う咆哮を奔らせた。
 ごう、と真っ直ぐに放たれた炎の渦が宝石を飲み込み、跡形もなく滅するのを見て、よし、と力強く笑んだ奈緒は、打ち漏らしに備えて握りしめたハーモニカを構えながらも、声援を送る。
「勝利のカギはキミだ、ユエル! がんばれ! 勝ったらフライドチキンだぞ!」
 主の声が嬉しいのか、フライドチキンに釣られたか、二度目の咆哮にはやや喜色が滲んで聞こえたのは、何も奈緒だけではあるまい。
 少女の憤慨と炎の勢いにまぎれて、するりと死角に入り込んだ絡新婦が、囁くような声と共に鋼糸で少女を刻む。
「鬼さんこちら」
 絡ませた鋼糸で操るように振り向かせ、挑発するように囁やけば、少女はまた幾つもの宝石を展開し――ばしゃ、と唐突に浴びせられた塗料に、また悲鳴をあげる。
「白もなかなか似合いますね」
 真っ白な塗料がじわりと滲み広がって少女を染めていく。髪からも滴るそれを、わなわなと震える手のひらで受け止めて、癇癪を起こしたように、少女は喚いた。
「もう、もう……鬼は、私の方なのに!」
「そう簡単にくれてやれる程、俺の魂は安くないさ」
 少女を守るようにしていたはずの宝石の壁は、弾かれ、溶かされ、隙間だらけ。
 こじ開けるまでもなく肉薄した鍬丸は、悪足掻きのように飛び込んできた宝石もろとも、構えた刀で深々と少女を貫く。
 割れた破片を踏み砕き、ヴェルがさらに背後からナイフを突き立てた。
「逃げるのも得意だけれど、実は捕まえる方が、性に合ってるんだよ。負けず嫌いなんだよね」
 貫く刃に、ぐ、と苦悶の声が漏れる。
 その瞬間に、反撃しようとしてか宝石が煌めくのを二人は見た、けれど。
「下がり」
 とん、と柔らかに押しやる手のひらに促され、咄嗟に身を引いた鍬丸の代わりに、絡新婦がその攻撃を受け止めた。
「取ってくんは勝手やけど、覚悟がないと、真似れんよ?」
 おかえし。己の幸せのかたちでもあるからくり人形、サイギョウが、無防備に攻撃を受けた絡新婦の代わりに、それを吐き出し主を守る。
 一矢報いることさえ叶わなかった少女の前に、再び、巨大な拳が振り上げられる。
「単なる噂なら良いのですが、日常に侵食されては困ります。こちらは、こちらで穏やか生活している人間なもので」
 日常を脅かす噂話はここでおしまい。
 今度こそ、いただきます。
 渾身の力を込めた一撃を受け止める宝石は、もう無い。奈緒のユエルが放った炎が、全て溶かし尽くしたから。
 自身に落ちた影を振り仰いだ少女が、あ、と短く声を漏らした刹那、床を抉る程の衝撃が、ぐらりと部屋全体を揺らした。
 一瞬の静寂の後、ヴェーを退かせ普通の身体に戻った定は、確かに仕留めたことを見極めた後、はたと気が付いたように周囲を見渡した。
 厳かな雰囲気のあった美術館は、すっかりバラバラに散らばった破片や塗料、焼け焦げた跡とおまけの大穴で見るも無残となっていた。
「……綺麗なお部屋ですが、あんまり壊しちゃマズかったですかね」
「さぁ。元々存在しない場所かもしれませんよ」
 足元に転がるなにかの欠片を爪先で小突きながら、祇明が肩を竦めて見せれば、定はうーんと唸って、最終的にさっさと踵を返した。
「請求はUDCさん宛にお願いします!!」
「はは、幾らになるんだろうねー」
 愉快げに笑い、後に続く奈緒。
 それぞれが通ってきたはずの道は、一つの背の高い重厚な扉に集約されている。見た目通りに重いそれを鍬丸とヴェルが押し開けば、外にはUDCアースの日常が広がっている。
 もう二度と訪れることはないだろう美術館らしき異空間。最後に一人振り返り、絡新婦は静かな声で囁いた。
 ――もういいかい?
 返る声は、聞こえない。それは一つの怪異が、ただの噂として幕を閉じた証であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年07月16日


挿絵イラスト