【旅団】淡灯の彩
【これは旅団シナリオです。旅団「花筏の池」の団員だけが採用される、EXPとWPが貰えない超ショートシナリオです】
しとしとと降る、恵みの雨。
雨は必要なものだけれど、それが毎日続くのは――と思う人も多い。
そんな日々を吹き飛ばすためにも考えられた様々な催し。それはキマイラフューチャーの世界にも持ち込まれ、楽しまれていた。楽しいイベントを無くすだなんて、日々楽しく暮らす彼等が捨て置くわけがないのだ。
「これに行こうと思う」
本格的に暑くなる前がいいよね。そう口にしながら雅楽代・真珠(水中花・f12752)が視線を向けるのは、春から羽衣石家の庭園で見掛けるようになった面々だ。
ぷるんと揺れる水饅頭を集う客たちへと配り終えた執事人形が、スッと全員分のチラシも配っていく。真珠は、何事だろうと全員の視線がチラシの上を滑り切るまで口を挟まず、水饅頭を口にして少し待つ。
チラシを染めるのは、夜の色。そして点々と散る小さな光は蛍だろう。下部には紫陽花の花が描かれ、催事の開催期間から時間や場所、『屋台もあるよ☆』なんて文字も見える。裏返せばモノクロの写真が印刷され、その艷やかな光沢と技術からサムライエンパイアではない世界のものと伺えた。
広々とした公園の、池に浮かぶ紫陽花の花。所々に水盆が置かれ、その中にも紫陽花が游いでいるようだ。涼しげに泳ぐ花を見て、涼しい気持ちになれる催しだと説明も書かれていた。
花だけではなく、屋台もあると記されていた通り、様々な店もある。紫陽花の苗や、紫陽花モチーフの菓子や小物などの店がならぶその催しは『七変化フェスタ』と呼ばれており、夜になれば蛍が放たれ、小さな灯りがゆらゆらと公園を彩り、それもまた美しいのだ――。
読み終えたであろう君たちが顔を上げると、真珠はクッションをたくさん重ねた四阿の椅子にゆったりとくつろいだ姿で、胸の前で両手の指を軽く交差させて口を開いた。
「サムライエンパイアでは見られない変わった紫陽花もあるようだよ」
僕はそれを見に行きたい。だからお前たちもどう? と首を傾げて。
「初夏の催事だからね、浴衣も涼やかでいいかもしれない」
裏面に印刷されていた写真にも、そんな姿の人々が映っていた。普段どおりの姿でも楽しいだろうけれど、夏らしい装いをしてみるのも楽しそうだ。
「当日にゲートを開いて直接行くから、各々準備だけはしておいで。――楽しい初夏の一日を過ごそうね」
ゆっくり開く花のように柔らかに笑み、水饅頭の最後の一匙を口へと運ぶのだった。
壱花
真珠がいつもお世話になっております、グリモアに宿った人格の壱花です。
今回は旅団シナリオなので、冒頭通りとなります。
御池御一行、初夏の彩りをお届けいたします!
●できること
昼は、紫陽花鑑賞。夜は、ホタル鑑賞。
こんな花があった! と言えば、そんな感じのお花も咲いています。キマイラフューチャーなので色々とあるのです。ご自由に想像の翼を広げてくださって大丈夫です。
やりたいことをやりたいようにどうぞ。
普段着での参加の場合は特に必要ありませんが、浴衣でコレが良いと言う柄があれば記してください。浴衣の柄が想像つかない……と言う時は『真珠に選んでもらった浴衣』と魔法の呪文を唱えておくと、「仕方のない子だね」と真珠が選んだものを着ていることでしょう。
●プレイング送信タイミング
旅団内スレッドにてお知らせいたします。
すてきな初夏の思い出となりますよーに!
第1章 冒険
『ライブ!ライブ!ライブ!』
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POW : 肉体美、パワフルさを駆使したパフォーマンス!
SPD : 器用さ、テクニカルさを駆使したパフォーマンス!
WIZ : 知的さ、インテリジェンスを駆使したパフォーマンス!
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
アルモニカ・エテルニタ
いつものお庭にも咲いていた花だけれど
咲く場所が異なれば趣も異なりますのね
常と異なるといえば、皆様の装いも
あたくしの浴衣の青は、あの花々と似ているかしら
紫陽花の様々な色合いを表現したかき氷を味わいつつ
まだまだ目移りしてしまう
真珠様はどれがお好き?
あれは、折り紙の紫陽花?
……まあ。折り紙にそっくりな、本物の花でしたのね
そちらは、彩の変わる花
青、桜色、銀色……あたくしったら、少し欲張りみたい
こうして水に浮かべるのは、花が終わる前にと剪定された紫陽花なのだとか
そう思うと、蛍の光は花々を送る灯のようで
こんなにも鮮やかで、心安らぐ葬送もあるだなんて、ね
ええ、たとえ短い命でも、記憶には永く残しておけますもの
蘭・七結
薄紅から薄紫へと移ろう浴衣を纏う
からからと下駄の音たちが心地良いわ
皆さんの浴衣もお花の彩に染まったよう
アジサイのゼリーに惹かれてしまったの
きらきらと煌めく彩たち
お味はとてもやさしいの
かき氷も飴細工も、ステキね
七変化のお祭りに心が踊ってしまう
折り紙の花に、硝子の花
目に留まったのは真白い花たち
そ、と指さきで触れたなら
触れた箇所からじわり、あかく色付く
これは、すきな彩に染まるお花かしら
皆さんはどんな色を灯すのでしょう
アジサイとホタルのいのちの彩
とりどりの花たちはまるで
水のなかでしずかに眠っているよう
ホタルは、お花をいざなっているのかしら
いのちの煌めきとは、とうといものね
このやさしいひと時を忘れないわ
錦夜・紺
紫陽花に蛍
なんて贅沢な祭りだろう
皆の装いも涼し気だな
普段着とはまた趣の異なる
藍染に花を散らせた浴衣を纏って
あちらで飴細工が売っていたから
手に取ってしまった、と
棒の先についた紫陽花の飴花弁をくるりと回す
かき氷もゼリー美味そうだ、あとで買うか……
池に揺らめく紫陽花はまさに圧巻
ほう、と感嘆の声が零れる
この煌めくものは…硝子の紫陽花か
雫をのせた花弁は淡い色どりを宿して
折り紙の花に、彩の染まる花も興味深い
何色に染まるだろうか、とそっと花弁に触れ
蛍の光は送り火、か
そういえば蛍の寿命も短いのだったか……
残された少しの命たちが魅せたこの美しい光景を
よく覚えておかねばな
そう言って
指先に止まった蛍を空に送りだした
●
涼やかな風が頬を撫でる。今の時期は湿度を感じてしまうサムライエンパイアとは違う、さらりと乾いた風だ。その風に鴇鼠掛かった灰色の髪を揺らした蘭・七結(まなくれなゐ・f00421)は、そっと顔の横で髪を抑えた。
視界に映る色彩は楽しげで、それでいて共に歩く面々の色彩も賑やかで楽しい。髪を抑えた袖の色もまた、この場を彩る彩のひとつだと気が付いて。そっと唇が柔らかな弧を描く。
「どうしたの、七結」
黒い浴衣に身を包んだ執事人形『如月』の腕に抱かれた、白地に大輪の芍薬を咲かせた浴衣の人魚――雅楽代・真珠(水中花・f12752)が振り返る。公園を彩る紫陽花や歩む人々の彩りにゆるりと目を向け、そうしている間にいつの間にか足を止めていた事に気が付いて、からりころり。下駄を鳴らして、紫陽花の花のように移ろう浴衣を揺らして、真珠と同じように振り返っている面々の元へと向かった。
「七結様、気になる花がありましたの?」
アルモニカ・エテルニタ(Colchicum・f22504)が、そっと隣に並んで問う。二人の浴衣は同じ花を彷彿させるものだが、薄紅から薄紫へと移り変わる七結の浴衣と違い、アルモニカは青い空の色。ふたつの違う手毬花のように華を咲かせた。
ふるりとかぶりを振った七結に、そうと唇だけで微笑んで。
「アルモニカさんは?」
「あたくしもまだまだ目移りしておりますの」
珍かな花を見つけたら教え合いましょうねと約束をして、紫陽花色の移り変わるシロップが掛かったかき氷をしゃくり。
「紺は見つけたの?」
女性ふたりが並んだのなら、と。自然と真珠は錦夜・紺(謂はぬ色・f24966)の隣へ。藍染に花を散らせた浴衣は、一足早く夜を迎え入れたようだと思いながら、手にした飴をぺろり。紺が買っているのを見て自分もと求めてしまった紫陽花の飴花弁は美味しくて可愛くて真珠の気に入るものであった。
「今の所、この飴が一等だろう」
「そうだね」
棒の先の紫陽花の花をくるりと回せば、真珠も深く頷き同意を示す。
「あら、こちらの花も美味ですわよ」
「このゼリーもとてもやさしいお味よ」
アルモニカがかき氷を示せば、七結もキラキラと煌めく紫陽花を模したゼリーを示す。紫陽花色のそれとは別にどちらにも黄色い丸いゼリーが乗っており、スプーンでツンと突けば外の張りのあるゼリーが割れて、甘いレモンのジェルがとろりと溢れて更に色や味の変化が楽しめるのだと言う。
それぞれが手にした紫陽花の甘味はどれも好ましく思え、互いに後から食べてみようと思えるもの。次は何を食べてみようか、あれも後から買ってみよう。なんて思いながらも漫ろ歩いた。
「真珠様はどれがお好き?」
「どれも見た目は好きだよ。味は……全部を食べてから決めなくては」
「まあ、真珠さんってば全部制覇するおつもり?」
「そうだよ」
当然でしょうと真珠が頷けば、女性陣たちの声が華やいで。
賑やかなものだと紺は小さく笑みを零した。
道なりに水盆に浮かぶ紫陽花を愛で、甘味を楽しみ、そうして歩を進めて向かうのは公園の中央の池だ。
「これは……すごいな」
ほう、と感嘆の吐息を零した紺の瞳に映るのは、池に揺らめく紫陽花たち。選定された手毬花がぷかぷかと水に揺蕩い、艶やかさを増して池を飾っていた。
浮かぶ紫陽花たちの種類は統一されておらず、暫く見つめればたくさんの種類の紫陽花たちが浮かんでいることが解る。コンペイトウ・ブルー、テマリピンク、アナベル、万華鏡……よく見掛ける有名なものから、キマイラフューチャーでしか見られなさそうな変わり種まで様々だ。
「この煌めくものは……」
陽の光がきらりと反射するのが水に濡れているせいなだけではないのかと気付いた紺が覗き込んだのは、硝子の四葩。池の雫を煌めかせた花弁は、他の紫陽花たちの色も映して淡く彩りを宿していた。
「あれは、折り紙の紫陽花?」
紺が見つけた硝子の花に綺麗と口元を綻ばせたアルモニカは、その花の先に折り紙を見つけた。最近顔を覗かせている庭園の東屋で真珠が折っていたのを見せてもらったことがある。折り目を付けて少し開いて、そうして重ねた折り紙のような――けれど、折り紙は紙だ。特殊な折り紙を用いなければ水に浮いていることは出来ないだろう。
「折り紙ではないようだよ」
「……まあ。折り紙にそっくりな、本物の花でしたのね」
しゃがんで指を伸ばしてみれば、確かに艷やかな花の触り。
同じようにアルモニカの横にしゃがんだ七結がそっと指を伸ばしたのは、真白を連ねる紫陽花の花。
――指先が、花弁に軽く触れた。
「まあ」
熱が移るようにじんわりとあかく色付く紫陽花に、七結よりも先に傍らのアルモニカが声を上げた。
「色が変わるものまであるのか」
七変化とはよく言ったものだと、半ば感心してしまう。
「これは、すきな彩に染まるお花かしら」
あかは、七結のすきな彩。
皆さんの色は? と視線を向ければ、そっと指が伸ばされて。
「……僕は変わらないみたいだ」
「真珠さんは白がお好きなの?」
「うん。僕の色だからね」
「あたくしは……あら」
青、桜色、銀色……。様々な色を付けた花弁に、少しだけ照れたようにアルモニカが微笑う。
「あたくしったら、少し欲張りみたい」
「好きなものが多いのは、悪いことではないだろう」
好きな物が少ないと聞かれた時に困る、と。多くは語らぬ忍も指を伸ばし、花弁を傷つけぬように優しく触れた。
そうして染まる花の色は――。
時に新たに見かけた甘味に目移りしながらも口にして。たっぷりとある時間をのんびりと過ごし、そうして気付けば空も紫陽花のように色を変えていた。
最初に蛍の灯りに気付いたのは誰だっただろうか。見てと示された指先を全員で追い、ふわりふわりと波を描くように光を浮かばせる蛍を見た。
水に浮かぶ紫陽花は、花の盛りを終える前にと選定されたものなのだとか。仮面の下から覗く形の良い唇が、しじまに優しく声を響かせる。それを思えば蛍の光は花々を送る灯のようだ、と。
「こんなにも鮮やかで、心安らぐ葬送もあるだなんて、ね」
「蛍の光は送り火、か」
「ホタルは、お花をいざなっているのかしら」
「悪くない想像だね」
水を覗き込めば、浮かんだ紫陽花の下にも紫陽花の彩が見えて。
最期の彩りを人々に残した後、こうして水の中で静かに眠りにつくのかもしれない。
そういえば、と紺は蛍へも視線を移す。
「蛍の寿命も短いのだったか……残された少しの命たちが魅せたこの美しい光景をよく覚えておかねばな」
「ええ、たとえ短い命でも、記憶には永く残しておけますもの」
「いのちの煌めきとは、とうといものね」
そっと伸ばされた紺の指に、蛍が止まる。
小さな虫と鮮やかな花の、生命は淡灯。
そのどちらも煌めいて、尊くて。
その一時をこうして共に迎えられることもまた尊いものだ。
「このやさしいひと時を忘れないわ」
「僕も、忘れないよ」
小さく落ちた華の声に重なる声は、長寿の者が持つ響き。
愛おしい小さな灯りがちかちかと光って紺の指先から飛びたつ気配を見せれば、四人の視線は一つ所へ集まって。それぞれの想いを胸に、淡灯を空へと送り出した。
淡い灯りが消えたとしても忘れはしないよ、と。
大成功
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