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踏み出す勇気も、引き返す勇気も

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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●気付かれず足蹴にされる芽
「みんなみんなー! 来てくれてありがとーっ! あははっ! どうぞどうぞ座ってくつろいでっ!」
 開口一番けたたましく、高砂・オリフィス(南の園のなんのその・f24667)は人差し指を上げてそう言う。彼女のハッスルした雰囲気に、猟兵たちは気圧されつつも、話を切り出した彼女にその先を促した。なんだかほっとけばいつまでも雑談してそうな、そのまま脱線して戻らなくなりそうな不安感を払拭すべく、オリフィスは肯く。
「オッケー! じゃあ説明するねっ。驚かないで聞いてね。ぼくが伝えたいのはひとつ! 常闇の世界ダークセイヴァー! ここでとある事件が起きる! そんな予感がひしひしとするんだよねっ」
 支配者級のオブリビオンが闊歩し、民を虐げる苦境が日常化してしまっているこの世界。その中であえて支配を敷くものではなく民に紛れることで、その民が苦しむ顔を間近で見つめるオブリビオンが存在していることは想像に難くない。
「事件の解決、そしてその機を生かして潜伏したオブリビオンを発見あーんど討伐っ! それこそが今回のお願いなんだ! うまーくトラブルシューティングしながら、オブリビオンを追い詰めてちょーだい!」

 『闇の救済者(ダークセイヴァー)』という言葉に聞き覚えはあるだろうか?
 100年にも及ぶヴァンパイアの圧政に屈しかけていた人々の中で、反抗勢力としてついに立ち上がった人々の総称である。彼らは圧政の及ばない自然区域や貧民街に拠点を築き、虐げられた民衆を救う活動を行なっている。猟兵の背中に憧れ、そして猟兵たちが名付けた世界の名前そのものを冠する、レジスタンス。それが闇の救済者だ。
「同時多発的に、世界各地で活動が確認されてるんだっ。あははっ。すごいよね! でもね、ここ。ここ! この辺りなんだけど」
 ブリーフィングルームに広がる乾いた紙の匂い。机に広げられた古めかしい地図を、伸ばした指で示す。村、およびその一帯の森や洞窟。そこに大量のバツ印が描かれている。覗き込む猟兵たちの顔を見上げて、背筋をそらした姿勢のままオリフィスは言った。
「ヴァンパイアの謀略だよゼッタイ……! 闇の救済者の拠点が掘り起こされて、組織の人たちはみんな捕縛。しかもしかも処刑されかかってるっ。領主の配下に、じゃないんだよ!? 元からその村や近くに住んでた人たちの手で、ていのいい生贄として差し出されたんだ」
 立ち上がった者の足を掬い……。
 そして、背後から誤射したかのような振る舞い。
 ぽたぽたと地図がにわかに湿気を帯びる。堪えきれなくなったのだろうか。ぼくは悔しいよっ、と、予知した内容を思い返すたびに双眸に涙を浮かべているようだった。
「ぐすっ。どうか無辜の人たちを殺めずに闇の救済者を守って! それが、狙いの外れたオブリビオンがハデに動き出すきっかけになるはずだからっ」

 闇の救済者たちの嫌疑が、すなわち「濡れ衣」が剥がれたとしても、村の中で起きる騒乱は止まらないだろう。そこに潜伏していたオブリビオンが、安寧をよしとはしないからだ。仲間同士で傷つけ合う、内部抗争に発展することは止められない。
「――でも、みんなの力なら、抗争は止められる。だよねっ?」
 例えば、力ずくで、剣を奪い、時には盾になり、人々を庇う。
 例えば、歌や踊り、食事を振る舞い、人々を宴に持ち込む。
 例えば、争いの原因を突き止めて、人々に説得交渉する。
 例えば、暴力に抗い、暴力から隠し、暴力による傷を癒す。
 リンチや私刑が横行すれば、社会性は失われ、守るべきはずの生活は永遠に帰ってはこない。なんとか、この状況下でも無闇に命を奪い取ることなく、事態を決着に導いてほしい。

「残念だけど、オブリビオンの正体はうまく読み取れなかったんだ。けどねっ、内部抗争が決着した頃合いで、あっちから姿を現すよ! 闇の救済者さんたちもみんなの避難誘導はしてくれるから、みんなはこのオブリビオンの討伐に全力を注いでよねっ」
 繰り返しになるが、これはピンチであるとともに潜伏したオブリビオンを炙り出す大いなるチャンスともいえる。
 取り逃すことのないよう、出し惜しみなく討伐に注力してほしい。

「いっこ決断すると、ほかの選択をぜんぶ切っちゃったみたいで、時々すごーく後悔するよねっ。でもだからって、何にも選ばないのは間違ってるってぼくは思うから! みんなの力で、誰が悪いやつなのかびしーっと突き止めてやろうよ! ファイト!」
 目尻を拭って、彼女は笑う。送り出された猟兵たちが顔を上げれば、そこは、埃と黴と、血の臭いが充満する、闇世界の風景が広がることだろう。


地属性
 こちらまでお目通しくださりありがとうございます。
 改めましてMSの地属性と申します。
 以下はこの依頼のざっくりとした補足をして参ります。
 今回は抗争待ったなしの殺気立つ辺境村で、仲立ちに奔走していただきます。目新しいキーワードもありますが、懐かしのシナリオフレームです。

 この依頼はシリアス系となっておりますので、嬉し恥ずかし描写は十全に反映できない可能性があります。
 あえて不利な行動をプレイングしたとしても、🔵は得られますしストーリーもつつがなく進行します。思いついた方はプレイングにどうぞ。
 基本的に集まったプレイング次第で物語の進行や行末をジャッジしたいと思います。

 続いて、非戦闘章について補足をば。
 第1・2章の冒険とも、PSWは参考までの一例となります。基本的にはプレイングに記載されている内容をもとに描写させていただきます。もちろん、PSWに則ったプレイングも大歓迎です。

 では皆様の熱いプレイングをお待ちしています。
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第1章 冒険 『<濡れ衣>闇の救済者への嫌疑を晴らして!』

POW   :    力づく(手加減や峰打ち)で闇の救済者への迫害を止める。

SPD   :    闇の救済者を名乗って追いかけさせ、疲れてあきらめるまで鬼ごっこ。

WIZ   :    情報を分析し、闇の救済者にかけられた嫌疑を晴らす。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 こんなことなら、いっそ踏み出さない方が幸せだった。

「ぱぱ、まま、たすけて……」
 怯える女の子をそっと抱きしめる。指先から滲んだ血が痛ましい。治療キットも、何もかも家に置いてきてしまった。思い返せばそれも誤算だったが、もう戻れない。今もあいつらが血まなこになって探していることだろう。
 闇の救済者の、俺を。
 闇の、「救済者」……?
「ハッ」
 自嘲気味に笑う。何が闇の救済者だ、馬鹿馬鹿しい。それを名乗った皆は、全員広場に連行されてしまった。手ひどい拷問を受けたものもいるという。でなければこうも芋づる式に隠れ家が暴かれたりなんてしない。降伏しても、どんな弁明も聞き入れられず、逃げた俺もこのザマだ。今も追手が迫っている。すぐそこに、すぐそこまで。俺たちを磔にしようと息巻いて、外を探し回る足音と、丸腰の俺と巻き込まれた不運なこの子の息遣いだけがひどく喧しく聞こえる。肺が、痛い。
 この廃教会の隠れ家も、見つかるのは時間の問題だろう。
「ミコル……こわいの……。ミコル?」
「大丈夫だ」
 大丈夫なものか。
 とうに折れてしまっている。
 何かを守るために立ち上がったはずだった。全てを失って、すがるように希望に魅入られて、そして世界は何も変わってないことを思い知った。もううんざりだ。辛い。ほとほと疲れた。いい加減にしてほしい。

 俺は救済者なんかじゃない。
 止まった世界は動かない。
 何も変わらない。

 終わりだ。
 全部。何もかも。
トール・テスカコアトル
「と、トールがだーくせいヴぁーだ!がおー!」
トール、あんまり頭良くないからな
それに、説得とか出来るくらいに口が回ったりもしない……わかってる
「だーくせいヴぁーは!この世界をよくしたいからたたかうよ!文句があるならかかってこい!がおー!」
絶対、こっちからは手を出さない
丈夫さには自信があるんだ
トールならいくらでも殴っていいよ
「ひっ……ひぃ……」
怖いけど……逃げない

きっと、この人達も怖いんだよね
立ち向かうなんて余計で、ヴァンパイアの機嫌を損ねたくないんだ
「でも、でもね」
そうだ、勇気をだすよ
こわくっても逃げない
耐える
せめて体を張って頑張るくらいじゃないと、不誠実だよね
「大丈夫……トールに任せて」


リーヴァルディ・カーライル
…そういえば猟兵が本格的に活動するまでは、
領主に逆らうなんて宣えば、こういう反応が自然だったわね…私の故郷では…

UCを発動して17人の吸血鬼狩人を召喚
全員で残像のように存在感を希薄にして闇に紛れる

…目的は闇の救済者の救出と敵の情報収集よ

…相手は扇動されているだけの民衆、殺す必要は無い
…だからと言って、手心を加える必要も無いけどね

…いつも通り、為すべき事を為しなさい

戦闘知識を頼りに連携して村人達の死角から切り込み、
先制攻撃の早業で彼らを無力化して捕まった者達の解放と、
精神属性攻撃(弱)の呪詛を用いた洗脳による情報収集を行う

…どうやって彼らの居場所を知ったの?
お前達の知っている事を全て答えなさい




 震えている。
 怯えている。
 その恐怖が、人を生き延びさせた。

 領主という影がこの世界を支配する限り、切っても切り離せない恐怖という感情。出る杭は打たれ、仮初の平穏でそれを覆い隠し、ひっそりと天災が過ぎるのを待つ。立ち去らない嵐はない。仮に止まなくとも、その一瞬一瞬の風雨を凌ぎさえすればよい。目をつけられるのは運が悪かったから。隣人が捧げられればほっと安堵し、己でなかったことを感謝し、次の恐怖に背を向け逃げ惑う。
 そんな者どもに、くれてやるような得物を、カーライルは持たない。
 ごく短い下知で彼らは事をなすと、仕上げに言葉の刃を振りかざした。
「…お前たちの行動は、生産性が皆無」
「ひっ」
 勇壮な狩人たちを率いるのが、可憐な少女であるという事実に対して発せられる当然の疑問すら失せてしまうほどに、リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)の言葉からは覇気が滲み出ていた。過去に支配されることならいざ知らず、過去にとらわれるなど人の営みとして言語道断。世界の情勢は刻一刻と変化し、己の知る故郷だけがこの世界の全てではなくなっている。
 有り体に言えば、古い。刷新すべきだ。
 アップデートされ続けるのは戦術、戦略も同じことで、蓄積した戦闘知識は地理に詳しい村人たちの裏をかいて死角を突き、あっという間に無力化してしまった。
 へたり込む村人たちの前に、腕組みするリーヴァルディは詰問する。

 目的は二つ。
 一つは、敵の実情把握。
 そのために、存在感を希薄にして闇に紛れ、ゲリラ的に村人たち追手を捕まえては、こうして問いただしているわけだ。
「…どうやって彼らの居場所を知ったの? お前達の知っている事を全て答えなさい」
「あ……あぁあ」
「…二度も同じことを言わせるつもり?」
 紫の瞳が怪しげな光を湛えて闇夜に浮かび上がる。多少の呪詛を交えた視線で、村人たちを射抜いた。無辜の民ならいざ知らず、今一歩で取り返しのつかないことをしでかした奴らだ。
「(…相手は扇動されているだけの民衆、殺す必要は無い。…だからと言って、手心を加える必要も無いけどね)」
 過度に甘やかす、そんな選択肢は最初から存在しない。
「あいつら、秘密裏に行動しているとはいえ人手不足だろ……だから支援するって提案して、話を……」
「…全て、答えなさいと言った」
「……一人捕まえて――吐かせたんだよ! だって仕方ないだろ! 誰だって死にたかない。それに、この辺りにはオブリビオンがいるって噂が流れてんだ。でも村人誰も彼もがそんなやつ知らないっていう。領主だって最近は静かなもんさ! なら可能性は一つしかないじゃないか!? クソッ! 先手を打って、でないと、目をつけられてからじゃ遅いんだよ!」

 纏う黎明礼装に、そっと手を触れる。
 そして、ゆっくりと深く息を吐いて、思い出す。
 あくまで己の戦いは、夜と、闇とを終わらせるための手段。仮に傍若無人な振る舞いを見咎めたとして、そこに振るってしまえば力はただの暴力と化す。
 リーヴァルディは天を仰いだ。
「…あの勇士の、首尾はどうかしら?」

 もう一つの目的の、行方を憂いた。その予感は当たらずも遠からずである。なぜなら、その「勇士」は――決してスマートでない。


 ――(ひょい)すかっ!

 見上げた視線の先を、石礫が飛んでいく。直線的な軌道だ。トール・テスカコアトル(ブレイブトール・f13707)にとって避けることは難しくない。仮に放たれたものが銃弾であったとしても、この軌道であれば避けることができるだろう。
「(自信は……ないけど)」
 今まで多くの死線をくぐり抜けてきた彼女だからこそ、わかる。
「(きっと、この人達も怖いんだよね)」
 その確信は、この村の本質を正しく捉えていた。恐怖。その強固な鎖は、見えない形でこの一帯を、ひいてはこの世界そのものを強く縛り付けて離さない。その圧力に晒されていたからこそ、トールは誰よりも、この村人たちの理解者たり得た。心に影を落とした恐怖という感情は、ほかの気持ち全てを上から塗りつぶしてしまう。どんな色の感情であれ、どんな人物の心中であれ。
 トールがこなしてきた冒険の数だけ、恐怖はあった。
 怖いからといって、それに立ち向かうかどうかはまた別問題なのだ。
 それを、この一帯のことしか知らない村人たちには万の言葉を尽くしたところで、乗り越えるという体験を共有しようというのは不可能な話である。無理だ。経験値が違う。生まれたての子供に己の名前を呼ばせようとするような無謀さである。

「と、トールがだーくせいヴぁーだ! がおー!」
「うっうわああぁあアアアーっ?!」

 ならば、こちらから名乗ってやろう。
 慌てふためいて波立つその気持ちは、ちょっとしたお仕置きだ。もちろん、トール自身目的を見失ってはいない。でも。でも、だ。

「だーくせいヴぁーは! この世界をよくしたいからたたかうよ! 文句があるならかかってこい! がおー!」

 そこだけは、履き違えられると困るから。叫ぼう、声を大にして。

「ひッひィ!? こ、こちとらそんなに大それたことは望んでないんだよぉ!」
 細身の棍棒で頭部目掛けて殴りかかる。
 その答えは、角に命中した途端に真っ二つに棍棒が折れたのみだった。
「ひっ……ひぃ……」
「えっ」
「ちがった! ぜんぜん効いてないよ! 早く仲間たちを解放しろー!」
 右拳を握りしめて、むんと、緩みかけた表情を引き締める。危なかった。怖かった。でも絶対にこちらから抵抗はしないと心に決めている。これから刃物やら松明を持ち出されても、寄ってたかって押し込められようとも、これは頑丈さが取り柄の自分にしかできない立ち回りだ。たっぷりと付き合って、目一杯村人たちを疲弊させてしまおう。
 折れた棒を手に呆然としている村人を立ち上がらせると、その目を覗き込む。

 震えている。
 怯えている。
 その恐怖を打ち払うのは、勇気だ。

「大丈夫……トールに任せて」

 こわくっても逃げない。
 それこそ、世界を背負って立つ、たった一つの資格。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ルルチェリア・グレイブキーパー
≪白銀≫
アドリブ歓迎

闇の救済者として立ち上がった事を間違いだと思って欲しくないわ
その決意は絶対に無駄じゃないのよ

勿論よシホ
その為に私達猟兵が居るんだから

私は闇の救済者を名乗り
UC【骸獣召喚】で呼んだクルーガーに乗って
街の住人達と鬼ごっこ!

私が♰闇の救済者♰
ルルチェリア・グレイブキーパーよ!
捕まえてご覧なさい!

本物の闇の救済者さんから引き離す様に
街の住人達を連れて逃げ回るわ
飛び道具や罠は≪第六感と野生の勘≫で
クルーガーに指示を与えて回避

その間にシホに闇の救済者さん達を保護してもらうわ

余裕が有れば、追いかけて来る街の住人達に
闇の救済者を迫害する理由を逃げながら聞いてみましょう


シホ・エーデルワイス
≪白銀≫

生きるべき人が死ぬべき人の犠牲にならない世界を作る

依頼『選ばれなかった未来、遠く霞んだ過去』で思い出した
養父はそう言い世界の敵になった

ねえ
ルル
私達なら誰も切り捨てずに救えるよね?


ルル達が陽動している間
『聖笄』と<忍び足で目立たない>ようにし
廃教会に隠れている救済者さん達を<第六感と聞き耳で探し救助活動>
見つけたら村人さん達が近づかないよう人払いの<結界術>を張り
負傷者を【祝音】で治療

騒乱の発生経緯を<情報収集>


来るのが遅くなってごめんなさい

いいえ
まだ終わりではありません

確かに人は非道な過ちを犯す愚かさがあります
でも
同時に何度も立ち直れる強さがあります

もう一度私達と共に助けてみませんか?




 ――ヒトが、この世に生まれてくる理由の話をしよう。

 一つは、幸せになるため。もう一つは……誰かの幸せの糧となるためだ。

「(私達は――他人が幸せを感じる為に犠牲となった)」

 黒い闇、それを負の想いと呼ぶのならばきっとそうだ、仄暗い情念の淀みの中で、彼女――シホ・エーデルワイス(捧げるもの・f03442)を救い出したのは、他でもない世界そのものだった。シホはオラトリオである。猟兵としての力は、出会いと可能性を大いにもたらした。その過程で、多くの「私」が「私」に記憶を託し、そして躯の海の深淵に沈んでいった。手を伸ばしても届かない。それは過去だから。思い返しても思い出せない。それを抑止されているから。ああ。暗い。だのに、ほっとする。生まれ変わり殻を破る心地よい衝撃と、覚醒するという恐怖。深い、果てしなく遠い、だけどいつでもそばにある、そんな、黒い闇。先が見通せない。振り返っても、道はない。
 もう、思い出しているのに。
 もう、思い出しているのに……?

「……ぁ」

 ――ズキリ。

 ねえ
 ルル
 私達なら誰も切り捨てずに救えるよね?

 瞳の奥底に幻視した、かつての闇の中での養父との邂逅が、シホを、「私」を、狂わせる。
 普段なら、当たり前のように信じられる可能性が、未来が、希望が――、
 かつて自身が得た答えによって踏み躙られてしまう。

 踏み出さなければ、足元を気にする必要はない。
 思い出さなければ、記憶に苛まれる必要はない。

 「私」に少しだけ、人を救う勇気をください。

 心の中で、仲間の名を呼んで。
 頭を痛める花薄雪草は廃教会の前で、静かに蕾を開花させる時を待つ。


「勿論よシホ。その為に私達猟兵が居るんだから」

 月影に骸のシルエットが重なる。ひとりごちるルルチェリア・グレイブキーパー(墓守のルル・f09202)――ルルは、不意に頭を下げる。刹那、骸獣《クルーガー》の鎌首に、仕掛けられた罠の矢が命中し乾いた音と骨片を撒き散らした。なるほど、これはなかなかの威力だと感心する。むしろ、当たったらどうするの、などと文句の一つでも言ってやりたいところだが、今は状況がそれを許すまい。
 振り返れば、手に手に松明やらボウガンやら、手斧を持った住民たちがわらわらモタモタと追いかけてくる。振り切ってしまうのは容易い。しかし、それでは意味がない。
 背に両手をついて、バネのように跳ね上げた体躯が、宙でバランスを取って、器用にクルーガーの背に仁王立ちする。今宵は月が綺麗だ。その姿は冷たい風に煽られて、よく映える。

「私が♰闇の救済者♰ ルルチェリア・グレイブキーパーよ! 捕まえてご覧なさい!」

 無論、欺瞞だ。
 黒き死霊術士たる彼女は霊を除いて孤高、誰かと群れて「闇の救済者」を名乗ったことはない。

「名乗ったら追いかけてくる、ということはそれなりに名が知られているということね。いったいどれだけの恨みを買えばこうも追い回されるものなの?」
 頭部を修復したクルーガーはグルグルと困ったように唸りを上げる。
 それがわからないうちは鬼ごっこに付き合ってやるしかない。なかなかに骨が折れる作業だ。一蹴するのは赤子の手を捻るより容易いことだが、闇の救済者を名乗った時点でその線は消えている。
 あるいは、ずいぶんと距離をとった今なら、聞き込みを敢行する余裕もあるか。一か八か、仁王立ちしたまま、ルルは追っ手に向かって声を張り上げた。
「私、あなたたちの気に障るようなこと、何かしたの?」
 これでも、かなり譲歩した、穏便な聞き方だということは留意されたい。物心ついた頃から霊とは仲良し。言葉のキャッチボールより、本心をぶつけ合うことで距離を縮める振る舞いこそルルの真骨頂。そして、何よりその口下手さもとい刺々しい雰囲気は、彼女のチャームポイントである。

 ――ブンッ!
「ひゃ!」

 その返答は、投げつけられた手斧によってなされた。
 いかに野生の勘を働かせていようとも、さすがに面食らう答えだ。悲鳴を小さく噛み殺すと、キッと睨めつけ返す。

「何するの!?」
「黙れ! お前たち闇の救済者がいなければ、この村は安泰だったんだ!」
「領主に目をつけられることもなかったんだぞ! 余計なことをしやがって」
「オラたちは、ただ普通に生活できてればよかったんだ! それを……!」

 黙って耳を傾けてやれば、そうだそうだの大合唱。投げつけられる石ころを払いながら、ルルは嘆息する。どうやらそう根深い問題ではないらしい、という安堵と、なんとも短絡的で感情的な人々への呆れと。内混ぜの感情を一挙に吐き出すと、もはや反論する気も失せたのか、ルルは再び背を向け逃げ始める。
 ルルは分かっている。この振る舞いもまた人の営みであると同時に、守るべき人の一部であることを。
 だから、シホへの言葉も撤回しない。

 その為に私達猟兵が居るんだから――!


 ――ギィイイイイ……

 廃教会の扉が、軋んだ音とともに開かれる。

 鋭い目つきの、疲弊しきった青年。
 粗末な身なりの、怯えきった少女。

 白き翼を携えた少女は、その前に、蒼い双眸で即座にブービートラップを見破ると、銀弾を撃ち込み破壊する。銃音が響き渡るが、潜入前に施した結界の中でのみ反響し、一切の痕跡を外に漏らさない。もっとも、目についた追ってはあらかた引き付けてもらっているため、念押しの意味が強いのだが。
 さて。

「来るのが遅くなってごめんなさい」
「っ……? お前は、誰だ?」

 「私」は、何だ?
 それを一言で説明するのは難しい。一層頭の奥が強く痛む。

 怯まず、手を差し出した。

「頼む。この子は、違うんだ!」
「待って。何があったのか、教えてもらえますか?」
「……だ……闇の救済者の拠点が暴かれた。俺たちはあいつらに、村の奴らに売られたんだ。皆磔にされる。見せしめだ。この村を、この辺りを、いらない騒ぎに巻き込んだ、その責任を取れと」
「あなた、名前は?」
「……ミコル」

 この村で起きていることをたちまちに理解した。
 濡れ衣でも、気休めでも、ヒトは時に刹那的に、安寧という名の幸せを求める。張り詰めたまま生きていける人間なんていない。機械か、さもなくば人の身をやめでもしなければ、たちまちにおかしくなってしまう。だから、だとしても、責められない。
 シホは、頭の痛む理由を知っている。だから言える。

 それでも、まだ、「終わり」ではない、と。だって、生きている。

 何のために生まれてきたのか、彼らが答えを出すのはまだ早計だ。

 生きるべき人が死ぬべき人の犠牲にならない世界を作る。
 それが世界の敵になるという決心であるならば、私は、生きとし生けるものに癒しを与え続けよう。この身を、全て捧げたとしても。それが私が、「私」がこの世界に与えられた意義。

「ミコル、もう一度私達と共に助けてみませんか?」

 確かに人は非道な過ちを犯す愚かさがあります
 でも
 同時に何度も立ち直れる強さがあります

 今、手は差し伸べられた。始まりかけた終わりは、静かに変転する――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雨音・玲
アイツが泣いての初めて見たな…
大事なダチからの依頼だ、俺の出来る範囲で事件に当たる

さて状況が切迫している中、問題は「どう」動くか
まぁ判断の前に、地形・状況・規模etc…手持ちの情報が少なすぎる
なら情報を集めりゃいい
別に俺が全てを解決するわけじゃない
最終的に負けなけりゃそれでいい
情報屋は裏方で十分だ
久々に全力の「カラス」の手腕見せてやろうじゃねぇか

選択UCを使用
背後の巨大な召喚魔方陣から無数の烏の群れを「頼むぜ!!相棒!!」と空に放ち
事細かく無数の瞳で周辺の情報を集め情報を整理し
他の猟兵たちと情報を共有します

さぁかくれんぼ好きのオブリビオンさんよ
俺たちがまるっと全て炙り出してやるぜ!!


アリソン・リンドベルイ
【WIZ 午睡に誘う茉莉花香】
ーーー治療を、申し出ましょう。善と悪を論じられるほどに私は賢くありませんが…少なくとも、傷を癒やし、心を落ち着かせる事は誰にとっても必要な事ですから。
【医術、礼儀作法、救助活動、奉仕、コミュ力、かばう、覚悟】……広場の「闇の救済者」さんたちに、治療を。加えて、村の人々にも手当てが必要な方がいらっしゃれば、そちらも癒やしましょう。 ええ、ええ。難しいのは承知の上ですが、どうか自制を。報復と疑心に苛まれては、無為に傷つく人が増えるだけです。…納得できないというのなら、納得しなくてもいいわ。私は私の我侭として、好き勝手に治療させてもらうから。血の気の多い方は眠って頂戴?



 真っ赤なリボンの上にふわりと一匹の烏が着地する。
 ガァガァと一見ただの耳障りな鳴き声と錯覚するそれを聞いて、アリソン・リンドベルイ(貪婪なる植物相・f21599)は首肯する。各地で仲間たちが現地村人に接触、保護を進めているらしい。情報収集役の裏方を買って出てくれた存在の、確かな報告だった。すでに始まってしまったこの騒ぎの拡大を防ぐためにこうして同時に、各地で事に当たっているわけであるが、アリソンはその内最も苛烈な中心部に飛び込むのが役割だ。
 だからタイミングが重要だった。それは、今。
 中空でくるりと回転すると、広場の真上から降下する。その注目を浴びるよう、旋回するカラスが高い声で鳴いた。

「な……ッ?!」
「こいつ、飛んで……は、羽根?」

 手に手に使い古された刃物やら、周囲を照らす松明やらを構え、事態に困惑を隠しきれない村人たち。それらが取り囲むのは、十字架に括り付けられぐったりとしている、青年や女性たち。痛々しい腫れ跡や止まらない出血もさることながら、その表情には裏切られたという絶望感を拭いされず浮かべていた。この騒乱が起きてなお精気がない。
「……私にはこれくらいしかできませんが」
 爽やかな芳香を放つ茉莉花が花開くと、甘いリラックス効果が辺り一面に広がって、たちどころに周囲の人間を眠りの世界に落とした。取り落とされた刃物は一まとめにして茂みに投げ込む。次に、項垂れた闇の救済者を拘束から解き放ち、安静に寝かせる。眠りが深ければ深いほどに負傷は回復するのだ。今はゆっくりと休んでほしい。

 そうこうしているうちに、新手がぞろぞろと広場に集まってきた。さぞ驚嘆したことだろう。村人も闇の救済者も一様に眠らされ、すやすや寝息を立てており、その輪の中心にはアリソンが翼はためかせ飛んでいるのだから。
「うわっ、こりゃ……」
「あんた……なんなのよ一体……」
「領主か、領主なのか?!」
「ええ、ええ。難しいのは承知の上ですが、どうか落ち着いて、まずは自制を」
 まず、治療が必要な方は、どうぞ前へ、と促す。《午睡に誘う茉莉花香》は対象を制限しない。その香りに身を預けさえすれば、誰であれ深い眠りと引き換えに、傷を癒す。この世界ではなかなか珍しい甘く爽やかな香りだ。きっと気に入ってくれるはず。
「……意味わかんねえっ、見境なしで一網打尽のつもりだろ! やってられるか……ッ」
 
 ――ガッ! からんからんッ

 男の、後ずさる踵に蔓が巻きつく。後ろ手に構えていた鎌が地に落ちて、金属音を響かせた。
「うぉ!?」
「…納得できないというのなら、納得しなくてもいいわ。私は私の我侭として、好き勝手に治療させてもらうから」
「ヒイィいい!」
「まずは深呼吸、それでも血の気の多い方は眠って頂戴?」
 ドサリ、ドサリと心ない村人たちが地を枕に寝息を立て始める。

 報復。
 疑心。
 その発生源は、実に些細なこと、それこそ噂話程度であったのではないかとアリソンは推測する。この動揺具合、何より「被害者である」という強い自覚のある表情、行き当たりばったりな行動……これが何か綿密に仕組まれたものだとは、到底思えない。どうも心情が先行し過ぎている。
「ああ、俺もそう思うぜ」
「貴方は……」
「その烏は相棒さ。感覚を共有してるんだ。便利だったろ」
 潜んでいた廃屋から顔を覗かせ、近くに音もなく飛び降りたのは雨音・玲(路地裏のカラス・f16697)。その異名にふさわしい辣腕で、あらゆる情報を集めていたというわけだ。当然、目立つような立ち回りではない。むしろ裏方、地味な役だ。
 だが、その廃屋に刻まれた大規模な魔法陣、そこから出入りする大量の「相棒」たち。入手した情報の精査と共有。刻一刻悪化する状況に対応するために、相応に消耗しているはずだ。
「でも寝てるわけにもいかないんでね。大事なダチからの依頼だ、俺の出来る範囲で事件に当たってるよ」
「この村に知り合いでもいるの?」
「いや」
「えっ」
 ……口にするのは憚られるが。

 今の自分には妻がいて、息子がいる。
 ダチも、いる。
 守るべきものができた己の強さは、情報屋としての勘をより冴え渡らせてくれる。知らない世界を知って視野が広がり、路地裏を駆け回っていた頃からひと回りもふた回りも成長している。
 愛妻家だと胸を張るようで、無性に照れくさいから割愛するが。気合はますます昂って十二分!

「さぁて、いっちょやりますか! 治療は引き続き任せるぜ」
「ええ、ええ。もちろん、全てを癒やしましょう」
「この一帯の人全員を監視する勢いで、飛ばすぜ。虫一匹見逃したりしねーよ」
 頼むぜ、相棒! と発破をかけて、暗天へと送り出す。天を穿ち闇を祓う銃の雨のように、降り注ぐのではなく舞い上がり黒翼を散らし飛ぶ。眩い魔法陣、羽ばたく音は嵐の前触れ。どんな予兆も見逃さない、これ以上の血は流させない。
 もう、涙を流させはしない。

 ――さぁかくれんぼ好きのオブリビオンさんよ
 俺たちがまるっと全て炙り出してやるぜ!!

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​


「ぱぱ?」
 振り返った少女は、そこを見る。
「そこにいるの?」
 烏の鳴き声がした。爽やかな香りが吹き抜けた。勇気が燃える予感がした。
 だからそれは気のせいだとはっきりわかった。幼い彼女を除いては。
「ぱぱ……そこにいるのか?」
「うん。ねぇ、ミコル」
「こわくなんてないさ。もう大丈夫」

 頭を撫でてやる。子供は感受性が強い。そんな自分だってまだ大人だとはいえないけれど、でもこれだけははっきりとわかる。木々の奥に光る眼光なんてありはしない。見守る視線など存在しない。ぬくもりなんてないのだ。

 だから、どうか振り返らないで。
鳩麦・灰色(サポート)
「ウチ、やなくて私も手伝わせてもらうよ」
「アンタ(敵)はそこで黙ってて」

◆特徴
独り言は関西弁
話言葉はほぼ標準語
脱力した口調
『敵さん』の行動の意図を考える傾向があるが内容に関わらず容赦しない

◆行動
【ダッシュ】【クライミング】【地形の利用】で場所を問わず速く動く事が得意

戦闘は速さで回避重視
味方が居れば武器の音で【存在感】を出し率先して狙われにいく

攻撃は主に【衝撃波】を込めた鉄パイプを使用、空砲銃は場合に合わせて使用

◆UC
索敵、回避特化ではUC『三番』
集団戦では『四番』
敵単体では『一番』か『二番』を使用する

◆日常
日常は何かしつつ寝落ちる事が多い


協力絡みセリフ自由
他おまかせ。よろしくおねがいします!


木霊・ウタ(サポート)
『命を弄ぶ者に、俺が負ける訳がない!』
 人間のサウンドソルジャー×ブレイズキャリバー、16歳の男です。
 口調は常に「男性的(俺、呼び捨て、だ、だぜ、だな、だよな?)」です。
浸食する過去への怒りと共に、捨てられた過去の復讐者らを哀れにも思っていて、それを滅して安らかをもたらしたやるのも猟兵の使命と考えています。
 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!


リカルド・マスケラス(サポート)
『さーて、どう調べるっすかね~』
装着者の外見 オレンジの瞳 藍色の髪
基本は宇宙バイクに乗ったお面だが、現地のNPCから身体を借りることもある
得意なのはサポートで、非戦闘時はコミュ力や宇宙バイクの機動力で情報収集をしたりなどが可能。ある程度のその世界の知識や常識なども世界知識でわきまえていたりもする。
また、仮面単体の時のサイズを利用すれば、念動力と組み合わせて、狭い場所を通ったり潜入調査を行うこともできる。

基本的には真面目に仕事はしますが、きれいなお姉さんと一緒に行動できる選択肢があれば、迷わずそちらを選ぶチャラいキツネさんです



 合流した猟兵たちが、廃教会から救出された青年と少女を連れて歩く。あらかた追手を引き離したとはいえこの村は未だ騒乱の渦中である。安全な場所まで護衛をしなければ、と猟兵の考えが一致したのは当然の帰結といえよう。もっとも、この殺気だった雰囲気で「安全な場所」と言い切れるところが果たしてどれだけあるものなのか。自然と人気のある広場に進路を向けているが、それが果たして正しい選択なのかもイマイチ自信がない。
 青年と少女もだんまりだ。どんよりと重苦しい空気に耐えかねて、誰が口を開くのか。

「あかん。ウチ、我慢できひんくなって来たわ」
「同感っすよ〜。自分らでアゲていきましょ」
 一瞬顔を見合わせて、ウェーイとスキンシップをはかるリカルド・マスケラス(ちょこっとチャラいお助けヒーロー・f12160)に、左腕一本で拒絶の意思を示す鳩麦・灰色(音使いおおかみ・f04170)。タイミングはぴったりだったが、呼吸は絶妙に合っていない。
「ノリが悪いっすねー」

「こほん。どうして二人は襲われてたんだ? 俺たちでよければ話を聞くぜ」
 頭部にある傷痕が痛々しい木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)が、快活な笑みを浮かべて身をかがめる。立ち止まって視線を少女に合わせる。しかし灰色とウタが揃って右腕を隠しているのをみると、黙して怯えたままだ。彼女もまた手を怪我している。感受性が強いのかもしれない。
 見かねた青年は自分をミコルと名乗ると、ウタらに事情を説明した。
 この村の近隣にオブリビオンが潜伏しているという噂が流れたこと。恐怖に駆られた村人たちが、闇の救済者こそが領主ヴァンパイアと結託しているのではないかと疑い始めたこと。その思い込みがいつのまにか確信に変じ、ついには闇の救済者の一人を闇討ちしたこと。その一人を情報源として次々と拠点が暴かれ皆捕われてしまったこと。
 ミコルはそんな闇の救済者の一人であり、難を逃れて廃教会に隠れていたというわけだ。

 そんな話を聞き役に徹し引き出したリカルドはパチンと指を鳴らした。舞い降りた事の真相のビジョンが朧げにだが形になったようだ。
 そして、それは灰色も同じようで。
「なるほどね」
「あれっすね」
 再び顔を見合わせる二人。
「村人の方にオブリビオンがいるんだよ」
「きっと闇の救済者にスパイがいるっす」
「「え?」」
 そして首を傾げた。意見の相違である。
 無理からぬことだ。情報収集をしている猟兵や、各地で接触をしている者からもそのオブリビオンの情報はまだ得ていない。ましてや手がかりすら出てきていないのであれば、推論も束ねるのは難しい。

「ミコルは心当たりはないのか?」
「……あったらこんな目にあってるわけないだろ」
「そっか。そうだよな」
 ウタは励ますように拳を握って、天に掲げる。
「だけど、人の命を弄ぶ悪いヤツは必ず俺が、俺たちが倒す。今は先が見えなくたって、最後に勝つのは正しいことをしてた人なんだ」
 ウタは猟兵としての使命感に燃える好青年である。その言葉の端々から悪を打倒する強い意志が溢れている。その勢いに、ミコルもまた少なからず影響を受けたのだろう。

 しかし、さらなる苦難が彼らを待ち受けていることを、今はまだ誰も知らない――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​




第2章 冒険 『<内部抗争>なぜ仲間同士で傷つけ合うの?』

POW   :    力づく(手加減や峰打ち)でリンチを止める。/リンチされている人をかばう。

SPD   :    歌などの披露やおいしい食事を振る舞い、心に余裕が持てる様にする。/リンチされている人を隠す。

WIZ   :    争いの原因を調べて、嘘やデマ情報を暴く。/怪我人を手当てする。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 治療を施された闇の救済者たち。鎮圧された村人たちの暴走。事件は、潜伏したオブリビオンを始末することで解決へと向かっていく――そのはずだった。
 しかし、争いは終わらない。むしろ、加速していく。

「だから、言ったでしょう……何度も、濡れ衣だって! 私たちは味方だって! なのに……こんな、こんなのって! こンの分からずや!」

 ――ボゴッ……!

 詰め寄ったのは、最初に村人に闇討ちされて捕まり、拷問によって拠点の情報をリークしてしまった闇の救済者のメンバーだ。彼女が目をつけられたのはたまたまで、強いて言えば「運がなかった」という他ないのだが、その怒りと無念、自責の念は相当のものだろう。綯交ぜになった感情が鉄拳に込められ、その場にいた村人の顔に突き立てられた。
 呆気にとられる面々。誰も彼もが予想してなかった自体。
 怯える少女を抱き、ただただ立ちすくむ闇の救済者の青年ミコル。

「今やっと確信が持てた。私たちを迫害するお前たち、お前たちの中に! 化け物が隠れ潜んでいるんだ! 最初に手を出したのはお前たちだぞ、これは正当防衛だッ!」

 阿鼻叫喚。
 その表現が今はふさわしい。
 追うものと追われるもの。守るものと守られるもの。善意と悪意。懇意と敵意。それらが反転し、行方を見失い、絡み合って互いを憎み合う。取り落とした得物を再び握りしめ、ないものは拳を握りしめ、猟兵たちの目の前で喧嘩を始めた。

 喧嘩、否、これはもはや――小さな戦争だ。
 止められるのは猟兵しかいない。
アリソン・リンドベルイ
【WIZ 庭園守護する蜂軍団】
真の姿を開放。緑のスーツに身を包み、杖を掲げて蜂の群れを呼び出します。―――おいで、私の蜂たち。この子たちは、悪意と敵意、害意には敏感なのよ。……そうね、あんまり大きな声と動きを出すと、針で刺してしまうかもしれないわ?
【空中浮遊】で中空に滞空しつつ、暴力の連鎖が禍根となるまえに、武力で介入。 共通の脅威が存在しないと立ち止まれないのなら、私が双方にとって平等に、恐ろしげな存在として振る舞います。蜂たちも、興奮して飛び回ってくれるでしょうし…。 姿を変じて、癒しではなく武力を用いて、村人や「闇の救済者」とは違う異質な、自分勝手な異邦人として…武器持つ人を静止します。


トール・テスカコアトル
「……おお……もぉ」
めっちゃくちゃだよ。めっちゃくちゃ
突っ込む
喧嘩の最中に、傷付け合いの真ん中に
「や、やめ、やめろーーーー!!」
もう、もう
「バカなの!?なに、バカなの!?」
トールは傷付けない
体当たりする
引き倒す
……止める
「相手を見てよ!傷ついてるじゃん!血が出てるじゃん!……泣いちゃいそうじゃん!」
痛いよ
苦しいよ
トールだって逃げたいよ……皆そうなんだよ。貴方も、貴方達もそうなら分かってよ
「同じじゃん!……ダメだよ、こんなこんな風にしちゃ、ダメ!!」
大きな声を出すよ
泣くよトールは遠慮なく
……泣くトールに勝てる?
「ひぃっ……ひぃっ……」
殴りなよ、けど、トールを先に
「ぐすっ……ひぐっ……」
にげないよ



 任せて、って言ったのに――
 任せて、って……言ったのに!
 ……おぉ……もぉ。
 荒く息を吐いて、乱れた呼吸のままで、割って入って、思う。聞き入れてもらえなかった。考慮してもらえなかった。省みられなかった。前にも進めなかった。その無念。噛み締めたって飲み下せない。
 彼らは、彼女らは、踏み出す勇気も、引き返す勇気も持ち合わせてはいなかった。停滞。そして、輪廻。憎悪で憎悪を塗りつぶす無限ループ。暴力を暴力で返す報復。反抗できる相手だけを「敵」として定め、殴れる相手だけを選んで殴る。
 それがどれほど明日への芽を摘んでしまうことか。楽な方へ楽な方へと流れていっては、行き着く先は奈落の底だ。

「や、やめ、やめろーーーー!!」

 拳法でも武道でもない、身を投げ出した力任せのタックル。
 それ故に受け身などロクに取れもしない、闇の救済者を巻き込みながら、もんどりうって転んだ。口の中が血の味がする。転んだ拍子に切ったのか。
 トールは刺激される痛覚に目尻を濡らした。
「痛ッ……なに……するんだよっ!?」
「バカなの!? なに、バカなの!?」
「バ……っ!?」
 売り言葉に買い言葉だ。苛立たしさは募るばかりで、引き倒された締め付けと衝撃に、ぐらんぐらん頭を揺らす。揺らしながらも、必死に押し退けようと、めちゃくちゃに拳を振るう。まさか恵まれた体格のこのドラゴニアンが自分よりも若いことなど、思い至るはずもなく。
「退け! 黙れ! 私が悪かったのか?! ええ! 違うよね、違うでしょ!? 私は人間! 人でなし扱いしたのはあっち! でしょ! こうでもしないと気が済まないの納得できないの、我慢、できないの!」
「相手を見てよ! 傷ついてるじゃん! 血が出てるじゃん! ……泣いちゃいそうじゃん!」
「うるさいうるさいうるさい黙れ!」

 痛いよ。
 苦しいよ。
 トールだって逃げたいよ……皆そうなんだよ。
 貴方も、貴方達もそうなら分かってよ。

 頬に、腕に、角に、爪を立てられ、殴りつけられながら、それでもトールは闇の救済者をつかんで離さない。その内、疲れ果てたのかそれともやっと聞き入れる心算なのか、脱力した。
「ハァッハァッ! ハッ……ど、どいてよ」
「ダメ」
「このままじゃ、私、人のこと信じられないよ」
「ダメだよ」
「私だって信じたいよ。でも怖いんだよ。もういつ裏切られるかわからないの。だから今ここではっきりと釘を刺しとかなきゃ、私の気持ちがどこかに飛ばされちゃうの。心ここにあらずなの! もう元には戻れない、でも前にも進めないのこのままじゃ!」

「同じじゃん! あの人たちも、貴方も!」
「っ!?」
「……ダメだよ、こんなこんな風にしちゃ、ダメ!!」

 大声を出されて。
 怯まされて。
 癇癪にも似た、躾のような、そうして押さえつけられてようやく彼女も気づいた。目の前の竜人もまた大いに涙を流していることに。滂沱と止め処なく溢れ出る滝のようなそれに気づいて、己がどれだけ錯乱していたのかをようやく見つめ直すことができた。相手を見る余裕が生まれた。
 目の前のヒトを見た。
 傷ついている。血が出ている。
 泣いている。
 見た。
 犯人は――私だ。
 ……同じじゃん。

「ぐすっ……」
「ひぃっ……ひぃっ……」
「ひぐっ……」

 もう。
 最悪だ。

 ――ふと、耳に残る音がした。
 ぶんぶん。ぶぉん。

 ―――おいで、私の蜂たち……。

 この世で最も健気な生き物。
 大人しい気性で、小さく、そして勇敢だ。

 ……まるで誰かさんのようだ。と、アリソンにそこまで含めた考えがあったかどうかはさておき。
 ふわり浮遊した影が、広場のくまなくを視認する。
 闇の救済者、村人、猟兵。
 その全てが注目している。己の一挙手一投足と、真の姿を。深緑に包み込んだ肢体に、手にした木製の杖。そして、蜂起する蜂たちを。
 《庭園守護する蜂軍団(ガーデンソルジャー・レギオンホーネット)》、それが彼女の技の名前。彼女が望めば、この一帯さえ己の庭と化す。そして、底意地の悪いものは、この庭には「不要」。
「何だこれ……?」
「虫?! で、デカ……!」
「この子たちは、悪意と敵意、害意には敏感なのよ。……そうね、あんまり大きな声と動きを出すと、針で刺してしまうかもしれないわ?」
 親切にそう忠告してやれば、拳や得物を振り上げていた者たちも、沈黙を噛み締めざるを得ない。まだ刺されてもいないにもかかわらず、痛みを堪えるような表情で怯えながら、あたりの様子を窺う。しかしそれが敵意にまで発展しないのは、この世界の人々が服従するということに慣れ切っているから。こうして従わせてやれば一旦の動きは止めることができる。
「今のわたしは少し機嫌が悪いの。少し大人しくしてもらえるかしら」
 杖の先を突きつけて、そう宣言する。
 呼応して飛び立ち、辺りを飛び回る庭の衛士たち。
 詰問というよりも命令の強制に近い。

 跳ね起きた闇の救済者の女性、最初に捕まった彼女も面食らう。
「や、やめて!」
「どうして? あなたたちは共通の脅威が存在しないと立ち止まれない。そうよね?」
 蜂たちがまるで球のように寄り集まって、彼女の目線の先の中空で静止する。
 目に見えた武力行使。
「なら言ってみて。わたしがあなたたちの敵だとしたら、どうするの?」
 ご覧なさい、と周囲を見ることを促した。誰も彼もがすっかり戦意を喪失してしまい、うなだれている有様だ。それほどまでに身も心も弱くなってしまっている。視線の先には絶望感が蔓延している、少し前まではそれが当たり前だったがなにも感じなかったが、今ではそれがひどくみすぼらしく思えて情けなさがこみ上げてきた。
「私だけでも戦う!」
「理解されなくても?」
「今は理解されなくても、誰に踏み躙られたって構わない。私は……私は、怖いけど。戦う」
 それが、勇気ある行動、なんだよね、と。
 目を覚ましてくれたトールにそう問うて。トールもまた涙を拭って天を仰いだ。

 オラトリオ・アリソンは笑顔のまま見下ろした。
「それならいいのよ」
 そうだ。
 どんな種だって育つまではどんな花が咲くかはわからない。黄色い花を咲かせるか、赤い果実を実らせるか。もしかしたら見るに耐えない歪な姿になるかもしれない。それでも、花開き実るまでは風雨に耐え、激しい日光に耐え、干魃に耐え、耐えて耐えて耐えなければならないのだ。それが自然の摂理というものだ。
 自分勝手な異邦人がそれを伝えようとしても難しい。
 しかし、思いは伝わったようだ。

 受け止めることは勇気。受け入れることもまた勇気。
 ならばせめて私たちは、この闇覆う世界に差し込む穏やかな陽射しにならなければ。

 紅玉が、梔子が、静かに闘志を燃やし昂っていく――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

リーヴァルディ・カーライル
…随分と元気が有り余っているみたいね?
そんなに暴れたいなら私が相手をしてあげるけど?

上空に向け銃を乱れ撃ちして喧嘩を止めUCを発動
召喚した黒炎剣を地に突き立て武器改造する

…この炎は過去の存在だけを焼く審判の火よ
今を生きる者には何の熱も痛みも与えない

…さあ、疑いを晴らしたい者から炎に触れなさい

…なんて、急に言っても困惑するでしょう?
だから貴方達全員、平等に焼いてあげるわ

黒炎柱を剣に纏わせ存在感を放ち注意を引き付け、
切っ先から地中に残像のように物質を透過する黒炎を広げ
宣言と同時に全員の足元から黒炎を放ち敵を炙り出す

…元より犯人探しだの何だのする気は無い
お前のような小賢しい輩は力業で推し通るに限るわ


ルルチェリア・グレイブキーパー
≪白銀≫
アドリブ歓迎

収まりそうにだった争いがまた激しく!?
これもヴァンパイアの策略なのかしら……
だけど諦めて堪るものですか!

見に行きましょうシホ
今度こそ誰も犠牲にせずに済む結末を

暴動を止める為に「楽しいお祭り」の雰囲気で
UC【百友夜行】で妖怪達の行列を召喚するわ
詠唱に時間を掛けずに、威力を抑えて召喚よ

♪お化けネズミと化けネコ神輿
 喧嘩しないで出てらっしゃい♪

面白おかしくはしゃがせて
ギスギスした空気を一掃するわ

緊張した空気が緩めば
シホのUCで村人や闇の救済者さん達が落ち着いてくれる筈

出来れば
最初に捕まった闇の救済者さんを保護して
煽る様な発言をした詳しい事情を聞きたいわ
違うかもしれないけど念のため


シホ・エーデルワイス
≪白銀≫

眼前の光景と私が前世で見た光景が重なる

シホ
これでも彼らを守る意義はあると言うのか?
それともあの時の様に人々の理不尽な不平不満まで背負うのか?

そう養父に囁かれた気がする

確かに一見全て無駄に思えてしまう
そして
この状況は私独りでは手に負えない

前世で瘴気に侵された人々を殺めた光景を幻視

でも
今は皆がいます

ルル
私はあの時辿り着きたかった結末を見たい


リンチされている人の救助活動を最優先
激痛耐性のオーラ防御でかばい
【終癒】で負の感情を祓う

余裕ができたら扇動者を優先して【終癒】を当て第六感と見切りで反応を情報収集
もしオブリビオンだったら手ごたえを感じるでしょう


無意識下で洗脳されているかもですが
警戒します


木霊・ウタ
心情
本当はどちらも同じ未来を
夢見て望んでる
そんな両者が争うなんて哀しいし
こんな事絶対に在っちゃダメだ
絶対に止めるぜ

…吸血鬼め(ぎりっ
必ず化けの皮を剥がしてぶっ飛ばしてやる

行動
ギターを奏で歌う
即興でカントリーなロードっぽい曲を

ここは皆の故郷で
お互いに協力し合う仲間で
文字通り日の光溢れる未来を共に望んでるってことを
思い出してもらえたら(←UCの共感はコレ
今の状況が吸血鬼の陰謀だって
きっと気づいてくれるって信じてるぜ


争いが一先ず落ち着いたらミコルへ質問

巻き込まれた少女をなぜ連れているのか
村人から追われたミコルと一緒の方が
少女にとって危険だった
置いて逃げた方が安全な筈だ

(ミコルが
いや少女が敵だ、多分)



 人は、己のちっぽけな幸せのために、他人の大切なものを平気で奪っていく。それが本質であり、行く末は闘争と、破滅だ。哀しいことに、その他者を虐げる兆候が表に出るものと、そうでないものがいる。
 それは、人の「強さ」と言えるかもしれない。

 その中年男性は突如として傍らに現れた、否「居た」。黒の短髪、黒い瞳、長身痩躯、聖騎士然とした振る舞い。何より世では見慣れない形状の十字架型の片手半剣、忘れようもはずのない容姿。

 悪魔憑きなどこの場にいない。
 悪魔憑きなどこの場にいない!
 いるのは人間だけ。本質と、本性とをあまねく曝け出した人間だけ。

「お義父様……?」

 今ならはっきりとわかる。シホのそばに彼はいる。ならば、彼は何だ。人か、魔性か、幻影か? 今この場にいる彼は――? その横顔だけで鮮烈に呼び起こされる。想起する。そして、後悔が再燃する。疑問を焼き尽くしてなお、余りある後悔の連続。彼は口を開いた。あろうことか、話かけてきたのだ!
「シホ」
「う……あぁ……!」
 一歩後ずさる。
 彼は追い詰めているつもりもないのだろう。なぜならすでに思い出している、過去の焼き直しである。
「これでも彼らを守る意義はあると言うのか? それともあの時の様に人々の理不尽な不平不満まで背負うのか?」
 その通りだ。立場が騎士であっても、この身がオラトリオであっても、執れる手段や導ける結末が同じなのでは、全く変わっていない。やることはいつも同じ。救うべき対象の有様もまた、同じ。人間の性質がどこの世界も、いつの時代も、変わらないように、生まれ持った性質は変わらない、変えられない。変わってはくれない。
 悪魔はいつもそばにいる。
 例えば、忘れもしない『あの女性』。例えばそれに憑かれた人々。
 あるいは、私自身――。

「私、私は、何度。あと何度……?」

 しかし、世界は広く、決して一人のものではない。
 後悔がないと、言い切れる者もいる。

 燃える闘志が燻る前に、その感情を種火にして一層強く燃え広がる。
 炎熱が天を焦がすその時、視界は、曇天は、紅ではなく、黒に覆われる。

 ――限定解放。
 それはヴァンパイアを狩るダンピールであるリーヴァルディにのみ許された、吸血鬼化の秘奥だ。
 …元より犯人探しだの何だのする気は無い。
 それが彼女の言い分である。言い訳などでは断じてない。殺し。救う。救い、殺す。殺戮による救済。一瞬とはいえ己を魔道に落としてまで、その身を苛むほどに、決意は固い。揺るがない頑なさは弱さと強さの表裏一体。ゆえに、彼女はその炎の発散を数瞬逡巡する。躊躇うことがすでに「できなくなっている」リーヴァルディにとって、身を捩り苦悩するシホは、自分には選択し得ない選択肢を持つためだ。
「…でも」

 しかし、よもや猶予は幾ばくもない。
 戦争は、始まっている……!

 ――パァンッパァン……!

「…随分と元気が有り余っているみたいね? そんなに暴れたいなら私が相手をしてあげるけど?」
 総毛立つ心地で、音の発信源を見やる村人たち。当然、その元は銃を天に向けたリーヴァルディだ。片手に銃、片手に炎剣。それが脅しでないことは、誰の目からも見て取れた。しんと静まり返る。誰の声も聞こえない。
 黒き炎が煌々と燃え盛る。その音さえも、耳には届かない。
 まるで視覚が聴覚を上書きしているかのようだ。それだけに、今この場にいる彼女の存在感はずば抜けていた。注目を集めている今だからこそわかる。炙り出せる。
「(…いる。こんなにも、すぐ近くに…)」

 ♪お化けネズミと化けネコ神輿
 喧嘩しないで出てらっしゃい♪

 ♪寂しさ 今こそ押し込めて
 強い自分ら 守っていこう♪

 地面から湧いて出たネズミが、宙を泳いで現れた猫が、激しい風と祝福の旋律に乗せて、静寂を破りハーモニーを紡ぐ。《百友夜行(フレンズカーニバル)》の盛り上げ部隊と、地獄をも吹き飛ばす力強い演奏家の即興タッグ。
「諦めて堪るものですか……!」
「絶対に止めるぜ!」
 自然と詠唱を口ずさんでいた。不思議とギターを奏でていた。
 喧騒の種をシャウトでふっ飛ばす。得物は尾や爪で弾き飛ばす。その内それさえも演出の一環なんじゃないかと勘違いするほどに、久しく忘れていた楽しげでテンションの上がるアトモスフィア。
 誰にも止められないなら波に乗れ。波に乗れないなら空気を作れ。息苦しいなら風を吹かそう。其の嵐は破壊のためにあらず。
「だってあんたらどっちも、同じ方向を向いてた。今も向いてる! そうだろ?」
 ジャーン! と一層高らかにかき鳴らして、ウタが暗天を穿つ。
 その先にある光を、指差すかのように。
 俺たちは、見ている先は同じだ――!

「見に行きましょうシホ」
「……っ、でも、私は……」
 言い切る前に、ぎゅうとその肩を抱きしめられる。ルルと、彼女が身に纏う霊魂たち。彼女はシホの心情を痛いほどわかっているから、その先を簡単には言わせない。
 演奏に合わせて軽やかに、だけど、足取りはしっかりと地に足つけて。
 立ち上がらせる。傍らなんて見る必要は、ない。
「いい? 今は私がいる。それに仲間がいる」
「あ……」

 誰も犠牲にせずに済む結末を、今度こそ。
 確かに一見全て無駄に思えてしまう。
 この状況は独りでは手に負えない。それでも。

「ルル。私はあの時辿り着きたかった結末を見たい」
「やっと言えたわね」

 優しき癒しの束が、天から降り注ぐ。まるでそれは光の雨か、触れられるオーロラか。みるみるうちにこの場にあった最後の憎悪や怒りや、負の感情が燻り出されていく。
 終癒――死者へ捧げる弔いの祈り、捧げるものの、精一杯のサプリケーション。

 天からは光、ならば地からは影、といったところだろうか。靄か蜃気楼のように立ち昇る黒炎が、ついにリーヴァルディによって解放される。恐怖に歪むようなことは、光のベールのおかげでない。この炎もまた肉体を物理的に燃やすものではない。この炎は影を燃やす。脅し文句と共に村に火を放つことを覚悟していただけに、このような形に収束したのは僥倖だった。
 兎にも角にも、力で推し通るに限る。

 平等に燃える。
 火は、絶えない。
 心ある限り、選別なんて為されない。
 例外は、心もない者だけ。

「まさか……!」
「えっ?!」
 シホの視線が、民衆をかき分けて一人を捉えた。《終癒》で癒せない存在、それは……オブリビオン、過去を置いて他にはいないためだ。
 ルルにとってもそれは意外な結論であった。

「…随分小賢しい真似をしてくれた…」
 ぶんと剣を振り、炎を払う。炙り出しは成功した。リーヴァルディはようやく見とめた敵の存在に、切っ先を向けて戦線布告する。

「……なあ。一つ聞いてもいいか?」
 ワイルドウィンドを下ろし、大剣「焔摩天」を持ち上げながらウタは問う。

「最初から気になってたんだ。ミコル、どうしてそいつを連れてるんだ?」

「……は?」
「あんたは追われてた身だよな。村中の人たちから、血眼になって、捕まったら酷い目に遭わされるのが目に見えてた。じゃあ一人で逃げろよ。付け加えるとその子にとっても、だぜ。ハッキリ言って一緒にいる方がお互い危険だろ。置いて逃げるなり、別れるなり、どう考えたってその考えは普通じゃない。よほどの理由があるのか、それとも言えない理由でもあるのか、どっちかだ」
「あ……」
 ミコルは、わからないという顔をした。
 なんとなく放っておけなかった。可哀想だ。それだけだと説明して、果たして通じるだろうか。

「簡単に言うとだな。その子が敵だ、多分」

 だって彼女の……この「真っ白い」女の子の手は、こんなにもべったり血塗られているのに。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『慈愛の聖女』

POW   :    ちをあげるから、かわりにあいをください
【指先から流す血液】が命中した対象を高速治療するが、自身は疲労する。更に疲労すれば、複数同時の高速治療も可能。
SPD   :    こわいの、こっちにこないで
自身が【殺意】を感じると、レベル×1体の【相手が畏怖する存在】が召喚される。相手が畏怖する存在は殺意を与えた対象を追跡し、攻撃する。
WIZ   :    たすけて、ぱぱ
無敵の【ぱぱ】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はメルヒェン・クンストです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「ぱぱ、ぱぱ!」

 ぴょこりと獣相を体に現出させた少女は、指先から血がどばどばと噴き出るのも構わず、騎士然とした男の太腿に抱きついた。呆然とするミコルには目もくれず、人懐こい笑みを浮かべている。
 ……この子、こんな表情もできたのか、なんて場違いな疑問を呈する。正気に戻った闇の救済者たちが、村人を先導し避難させる。それでも、ミコルだけは膝をついたままだ。

 身構える猟兵に、少女は、笑いかけていた。

 ――自身が怯えれば怯えるほど、闇の救済者にも、村人にも、恐怖を与える存在を生む能力。
 ――自らを負傷しているか弱い存在だと周りに誤認させる、出血を伴う回復能力。
 この二つは大いに村を混乱させてくれた。側から見てとてもおもしろかった。

 そして――数多の人間と、おまけに猟兵たちの思念を読み取り、創造した「ぱぱ」。
 顔にこそ影が差して一見黒いのっぺらぼうのようだが、想像できる限りの剣技や魔法、暴力、何より悪意を募らせた「無敵のぱぱ」!

 たった今、少女は「聖女」と化したのだ。

「みんな、ころして!」

 悪はいる。無邪気に。
 幸せは壊される。無自覚に。
トール・テスカコアトル
「トール、怒ってるよ」
きっと貴女には分からないんだろうね……皆の苦しさ、悲しさ、怖さ

もちろんトールも怖い戦いたくない負けたくない……倒したくなんてない……けどね

「変身」
『説明しよう!義憤をもって恐怖に打ち克ち、誰かのために戦う時!トールは勇気の戦士へと覚醒するのだ!』

「ブレイブ……」
トールの勇気は、パンチ力
「スマーーーッシュ!!」
この拳の重さは、勇気の重さ
幾ら強いパパさんだって……だからこそ恐怖を知らないし勇気を知らない
「軽いんだよ」
吹き飛ばせば、弱くなる一方だよね……疑い無く信じられる?

「みんな、頑張ってるんだぞ」

「あなたみたいのがヘラヘラ笑って壊しちゃいけないんだぞ!」

一閃、痛みなく、斬る



 腹部のベルトを露出させると、円錐を重ねた形のバックルの中央、その開口部に一つの石「ニギ=アラ」を装填する。呼応するようにエネルギー孔から真っ赤な光が放たれ、その身体を包み込んだ。

「変身」

 上半身から脚先の下部までがほの暗い色調のスーツに包まれ、翼の付け根辺りにブースターが装着され点火の時を待つ。
 さらに手足、尾の先と根本には黄金に輝くリングが装着され、腰帯からいっそう強い光が放たれる。
 頭部が光に包まれ、その光は顎と口を露出させたタイプの仮面に変わる。ツノの上から覆う兜のような仮面の上で、普段なら伏し目がちのつぶらな眼孔が赤い光を宿す。

 優れた動体視力を持つものの目からはその変身プロセスを逐一捉えることができたが、常人からすればその光景は、トールが勇気の戦士と一瞬で入れ替わったようにしか見えなかっただろう。

『説明しよう! 義憤をもって恐怖に打ち克ち、誰かのために戦う時! トールは勇気の戦士へと覚醒するのだ!』
 この場に似つかわしくない不気味な白さを纏う聖女、さながら悪役のように、そしてお約束ゆえに、その説明台詞じみたどこからともなく聞こえたナレーションをもってしてはじめて、聖女は反応をしてみせた。
「へんしんした……?!」
「ブレイブトール、それが今の名前だ」
「ふふうん。でもね、もとがよわそうなおねえさんなら、ぱぱはまけないよ」

 豪! と迸るエネルギーが踏みしめた大地をひび割れさせる。
 舞い上がった土埃がふわふわと宙に浮く様は、通常の物理法則を超越した、戦士の力が溢れ出ていることを予感させる。
「トール、怒ってるよ」
「きずつけるつもりは、なかったの。でもぱぱにくらべれば、みーんな、よわそうなのはかわらないよ」
 きをおとさないで、と微笑する聖女に、トールは哀れむような視線を送る。それがバイザー越しであったためか聖女が気づかなかったことは果たして幸せだっただろうか?
 トールが、揶揄されたことに対して怒っているわけでは、無論ない。
 皆の苦しさ、悲しさ、怖さ。それらを弄び、散々に責め抜き、挙句自傷をさせていた子供心。無自覚で無邪気な、悪。それに対する怒りだ。その悪の前に無敵を騙る騎士が立ちはだかる。
「(もちろんトールも怖い戦いたくない負けたくない……倒したくなんてない……けどね)」
 しかし、一つの石の光に今や翳りは微塵もない。

 「ブレイブ……」

 突如、騎士の全身から、喧しいくらいに激しくオーラが噴き出す。
 髪は激しく逆立ち、筋肉が膨張して体が一回り大きくなる。猛々しい覇気を発し、犬歯をむき出し威嚇する姿はまるで鬼のようだ。妄想よりオーソドックスなヴァンパイアの戦闘モードを擬えたのだろう。紳士的な存在が圧倒的な暴力を振りかざした時、与える恐怖とプレッシャーは倍増する。
 刹那のうちに肉薄した騎士はトールに右腕を振り下ろした。拳技というよりも腕力で圧砕しようと繰り出した一撃。彼女はそれを左拳で迎え撃つ。
 腕のエネルギーは右手に集約されている。トールの左は未だ手付かずの状態だ。しかし、騎士が目を見開いた頃には、己の自慢の拳が打ち砕かれてその一撃の交錯に競り負けたことを実感する瞬間が訪れていた。なぜだと疑問符が浮かぶ隙を、見逃すヒーローはいない。
 戦いは嫌いだ。だから、一瞬で終わらせる。

 「スマーーーッシュ!!」

 思いっきり跳躍し、騎士の顎に全力の右拳を叩き込んだ。
 殴りつけられた男の姿が、忽然。

 ――消えた。

 トールの一撃で吹き飛び、空へと舞い上がったのだ。

「軽いんだよ」
「は……?」
 理解できない、追いつかないのは聖女も同じこと。
 否、理解したくないというのが本質であろう。何かの間違いを、無敵の存在に認めてはならない。
「ぱぱ、ぱぱ! はやく、ころして!」
 暗がりから次々に「ぱぱ」を召喚し、不意打ち気味にけしかける。しかし、ほとんどが触れることもできないか、あるいは一撃のうちに活動能力を使い果たして屈するのが関の山だ。聖女の顔が、不機嫌そうに歪む。
 何が軽いだ。
 彼女は知らないのだ。恐怖も、それに立ち向かう勇気も。何せその勇気を塵か芥のように足蹴にし、嘲笑っていたのだから。この世界を変えるために、日常を守るために、戦っていた決心の重さを知らないからこそ重ねられた悪行だった。
 向き合わないものは、それ以上は前に進めない。
 ゆえに、オブリビオン、「過去」なのである。

「みんな、頑張ってるんだぞ」
「こないで」

「ひとつになれるんだ。お前が、邪魔しなければ」
「いや」

「……なんでまだ笑ってるんだ」
「こわいの……!」

 「あなたみたいのがヘラヘラ笑って壊しちゃいけないんだぞ!」

 虚空に向かって手を伸ばす、その聖女を音もなく。
 すれ違い様に剣撃一閃、両断した。

 その血潮を焼き尽くすような勇気の熱が、血飛沫さえも蒸発させる。舌を突き出し目を剥いてガクガクと体を震わせる聖女。その場に崩れ落ち、白き体を泥濘で穢す。

「……トールだって怖いよ。でも、だから、やるんだ」

 勇を、奮われ――倒れ伏す聖女。
 今は戦えない、みんなの代わりに――勇を、示す!
 戦え! ブレイブトール! 負けるな! ブレイブトール!!

成功 🔵​🔵​🔴​

アリソン・リンドベルイ
【WIZ 禁樹・黄金の枝】
そう。なら、貴方は敵ね。
【禁樹・黄金の枝、生命力吸収】……別に怒ったりはしないわ。怒ったり、恨んだり。そういった感情は、この世界に住む人たちが抱くべきで、私が述べるべきではないでしょうから…。 ただ、決して相容れません。私は彼らに生きていて欲しいですし、それを貴方が阻むというのなら……どちらかが消えるしかないでしょうから。
全身にヤドリギの枝を宿して、空から墜落するように体当たりをします。無敵、最強、不滅……そういったものは無いのですよ。全て、全ては産まれて生きて死んでいくのです。そうであるからこそ、精一杯生きようとする人は、咲き誇る花々は美しいのですから……!



 顔を上げ、むっくり起きた聖女は、己の流血で傷を癒したのか、ぱんぱんと土埃を払うと微笑みを顔に貼り付ける。失血、失態。なるほど。まさしく本当に恐ろしいのは己自身。真の敵こそ己。油断なく挑めば無敵なのだ。折れていた猫耳がぴょこんと立ち上がった。
 さて獲物はと、辺りを見回して、視線が止まる。
「なにを、してるの?」
「害虫駆除」
 ぴくりと眉を顰める聖女。アリソンがあえて敵意の強い言葉を選んでいるとは露知らず、思惑通り聖女は次のターゲットを宙舞うオラトリオに定めた。軌跡を漂う芳香が鼻腔をくすぐる。本来なら癒しとなるそれも、人並外れた嗅覚を持つ聖女からしてみれば不愉快な刺激にしかならない。
「そうかんたんにいくかしら? ざっそうさん」
「雑草……」
「おこったの?」
「別に」
 ……別に怒ったりはしないわ、とアリソンは吐息する。
 己の怒りなど二の次だ。
「(怒ったり、恨んだり。そういった感情は、この世界に住む人たちが抱くべきで、私が述べるべきではないでしょうから…)」
 この世界の人に代わって、なんておこがましいにも程がある振る舞いだ。あくまで凛と咲き誇るのは、その土壌にあった種子がふさわしい。根付いていない己の言葉は、この逞しい環境には似合うまい。
 ただ、それは眼前の敵とて同じこと。
 己の快楽のために他者に苦渋を強い、弄び、そしていざ戦闘となっても他人任せでヘラヘラと笑っているだけの彼女。
「ただ、決して相容れません」
「そうなのね!」
 ならばどちらかが消えるしかない。彼らに生きていてほしい。彼らを台無しにしたい。それらが両立することはありえない。二者択一。
「だから、どちらかが消えるしかないでしょう。……生存競争を、しましょう」

 ――《禁樹・黄金の枝(レジサイド・ゴールデンバウ)》……!

 黄金とその名を冠するも、しかしてその実態は血肉を喰らう、自然摂理・弱肉強食の体現者。漲る生命力は青々とし、名前から想起されるような宝石の如き輝かしさからはかけ離れている。
 しかし、エネルギーに満ち溢れ、命を吸ってなお猛る眩さに違いはないだろう。
 術者とて、例外ではないのだが!

「じばくするの?」
「……いきます」
 とっさに騎士を攻撃軌道上に割り込ませて、縦にしたのは良い判断だった。
 しかし、致命的だったのはその攻撃の性質を見誤ったことだ。繰り出してきたのはおそらく植物を身に纏った体当たりだと推測した聖女は、結果的に養分を与えてしまうことになる。
 アリソンがその身から生やす「ヤドリギ」に――!

「ぱぱさんとひとつになれるなら、本望……ですよね?」
 すでにその拘束は雁字搦め、術者であるアリソンまでもを絡めとって餌とする勢いだ。聖女も騎士ごと縛られて、身悶えするうちにどんどん巻きついて離れない。たしかに「ぱぱ」は愛おしい。
「ちがうの! ぱぱはつよいからすきなの!」
 すわないで、すわないでと駄々っ子のように、実際にその精神性は幼さを隠し切れていないのだが、ぽかぽかと握りこぶしをぶつけるばかりで拘束が解ける素振りはない。
 それを諭してやるのは、アリソンのなけなしの情けであったろう。
「それはすきという気持ちではないんですよ。あなたの想像力は枯れているから、教えてあげます」
 再び空に舞い上がると、さらに寄生木の量を増して、今度は広場に佇む十字架を折るように巻き込んでタックルする。新たな養分を得た植物は、元あったヤドリギをも互いに食い合うようにして成長し、一滴残らず血を搾り取る勢いだ。回復能力のある血液など、肥料としてこれ以上のものはない。中身のない空っぽの騎士が悶えてる間にも、聖女の方は目で見てわかるほどに衰弱していく。
 それでも、彼女は己の過ちを顧みない。

「うそ、うそうそ。ぱぱ、ぱぱ!」

「無敵、最強、不滅……そういったものは無いのですよ。全て、全ては産まれて生きて死んでいくのです。そうであるからこそ、精一杯生きようとする人は、咲き誇る花々は美しいのですから……!」

 手折る者は……許さない。

 怒りではなく、信念で。
 宿る闘志を結実させる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木霊・ウタ
心情
皆の命と未来を守るぜ

「聖女」、か
既に心は歪んでて
そして心底、父を求めてるのは確かだ
海へ還してやろう

戦闘
爆炎噴射で移動
ミコルを背中に庇い声掛け
未来への歩みを止めるな!
生き抜け!
と避難勧奨

獄炎纏う焔摩天でぱぱを薙ぎ払う
炎壁で武器受け

聖女>
確かに強いな
けど
大切な娘が血を流すのを
好しとする訳ないぜ
本当のぱぱなら

と疑念刺激
…ちょいと可哀想だけど

血を獄炎で炙り回復阻止

聖女
回復のお礼に愛をねだる、か
余程辛い過去だったんだな
可哀そうに
もう十分だ
紅蓮に抱かれて休め

炎渦にUC織り交ぜ理不尽な未来を灰に
「骸の海で本当のパパと寄り添う、心満ちた微睡みの刻」を願う

事後
聖女へ鎮魂曲
安らかに

村の未来を祝する曲を賑やかに



「あーっ! ぱぱーっ、ぱぱーっ!?」

 散々に搾取され、残り滓となったような様子の「ぱぱ」に駆け寄る少女。失血しながらも、丹念に血を吸わせて介抱する。あるいはその姿を、誰かの涙ぐましい過去に重ねさせて、はたまたその当人の哀れむべき過去を想起させて、同情を訴えかけてきた。彼女が用いてきた常套手段だ。それも真に迫る、己でさえ真実だと思い込んでる、自己暗示に近い。
 そういう「過去」なのだ。

「もうたくさんだ」
 海へ還してやろう――。
 と、焔摩天を掲げて、ウタは言う。
 
 既に心は歪んでいて、世界を浸食する過去の一端であり末端であり。
 その心は歪んだままに真っ直ぐで、この世界が生んでしまった一部である。

「うわっ!」
 逆巻く炎が波濤となって辺りの空気を飲み込んでいく。
 跪いていた男、ミコルもまたその勢いに思わず立ち上がる。体の浮き上がる感覚と、熱気に酔って立ちくらむ。自分の預かり知らぬところで事件が収束していく。……己が、きっと己が、この事件を際限なく広げて、嗚呼、まったく黒幕であったかもしれないのに!
 しかし、そんな彼の悩みを、背中で激励する。
「まだ負けじゃない。だよな!?」
「だって……もう」
「そのために俺がいて、俺たちがいて――あんたがいるんだ」
 その波間を斬り抜けるようにして、復帰した騎士らしき異形が、迫りくる。炎の壁を展開し、周囲を取り囲む。熱い。ひたすら熱い。肌を焼く痛み、喉を焦がす熱気。なのに、そのひりつく感覚が、まだ生きているという実感を強く呼び覚ます。

 これはメッセージだ。
 生き抜け、闇の世界の救済者として――!

「未来への歩みを止めるな!」

「……未、来……?!」

「ああ! ……なぁ!」
「貴様!」
 騎士が獄炎に呑まれる。地を裂き、巻き上げた埃で掻き消さんと身震いするその騎士の肩にトッと片足を乗っけると、したたかにけり込んだ。
「ガッ?!」
「大切な娘の血で奮起、か。美談でも好しとする訳ないぜ。本当のぱぱなら」
「ヌゥ!? 黙れ黙れ黙れ!」
 折れ曲がった首のまま、まるでその顔に意味などないかのように、関節挙動を無視した腕がウタの脚を掴み、地に叩きつける。止まる呼吸、揺れる視界。あげかけた声を飲み込むと逸らす首筋に、突き立てられた剣の切っ先が掠める。かすり傷。血風ではなく火の粉と煙でむせ返る。

 ――ズッ……ガァン!

「ぐオ!?」
 反転する世界、背をバネにして跳ね上がると、騎士の顎をブーツが蹴り、さらに仰向けになるその体を炎の斬撃で両断する。鈍い音が広場に響き渡り、勝利を確信させるような大炎上を起こした。
「灰に還りな!」
「いやぁ!」
 炎の一閃、その軌跡。スローモーションのように、割って入る白い影は聖女だった。指だけでなく、肩から太ももにかけて真っ直ぐ袈裟懸けに切られていく。そこから噴き出す流血に果たしてどれほどの回復能力があるのかは定かではないが、しかし紅蓮の腕に抱かれることを彼女はよしとした。
 そして、殺意……死への恐怖が、さらなる脅威を呼び覚まし過去の味方となる。
 影から放たれた魔法弾の連射が、炎の壁を貫通してウタの四肢に命中した。今度は叫び声を抑えきれず、歪んだ顔のまま、衝撃を受け止める。
「ケホッ! もう十分だろ……何がそこまで」

「こわいの。ぱぱ、おねがい」
 たって、わたしに、あいをください、と。
 広場で焼け落ちる十字架。それを背もたれに立ち上がる騎士。そこに指を這わせ、癒す代わりに衰弱していく聖女。あまりにも「出来すぎた」光景。パチパチと火の粉が散って暗がりに映えて、目を背けたくても釘付けにされる。
 守ることが愛なのか?
 強請ることは罪か?

 身体が動く限り、魔法弾の雨霰を躱しながら、ウタは、祈ることを止められなかった。
 鎮魂の歌の、一フレーズを口ずさむ。
 
 生命を讃えよう。

 過去がもたらす、理不尽な未来を。

「燃やすぜ!」

 ――ガッ! ガッ! ガッ! ゴウッ……!!

 魔法弾痕、そのクレーターが村に消えない傷跡として刻まれながら、その合間を縫って、衝撃波をお見舞いする。絶対に、焼き尽くす。その決心は精神力すなわちエネルギーとして刀身に漲り、行く場を求めて敵に吸い込まれていく。断末魔の叫びすらない。喉の奥から絞り出すような苦悶の声は、ミコルがこの場にいればきっと駆け寄らせてしまっていたに違いない。度を超えた悲痛さであった。しかし、彼の姿はもうこの辺りにはない。彼は彼なりの守るべき戦いに身を投じている。その決心は、燃えるような旋律がつけてくれたから。もう止まらない。この足が動く限り、踏み締めて、佇まない。

 広場の十字架が、ついに跡形もなく灰と化す。それは、まるでこの村の未来を祝福するかのように――。

成功 🔵​🔵​🔴​

リーヴァルディ・カーライル
自身の戦闘知識を読み魔力を溜めた敵騎士の乱れ撃ちを、
第六感を頼りに殺気を見切り大鎌をなぎ払うカウンターで迎撃

…成る程。私達の思念、感情が読めるのね

…生前のお前が正しい目的でその力を使っていたとしても、
悪戯に人々の疑心を煽り、貶める今の在り方は許容できない

…この一撃で無明の世界に葬送してあげる、慈愛の聖女

UCを発動し魔法陣に大鎌を突き立て武器改造
大鎌を取り込み限界突破した獄鳥を突撃させて精神に切り込み、
犠牲者達の残像を暗視させる呪詛のオーラで防御を無視し、
心の傷口を抉り生命力を吸収する闇属性攻撃を行う

…見えると言うならば、見せてあげる
お前が今まで弄んできた者達の怨嗟を。憎悪を。そして絶望を!


シホ・エーデルワイス
≪白銀≫


聖剣で剣の師匠である養父と切り結ぶ

確かに剣技も魔法も一つ一つは強力
けど
数多の思念から創造され
一つの存在として確立していない

動きを<第六感と聞き耳で見切り戦闘知識に基づいて学習
ルルの援護で飛来する砲弾を背中に隠し
直前で残像>回避で当てる

師匠の強さは剣技でも魔法でもありません
どんな苦境でも諦めず守り抜く意志の強さです!


聖女は【終癒】で優しく看取りたい

確かに彼女の行いは残酷だけど
私達が痛めつける事で
ミコルさんの守ろうとした想いを踏み躙ってはいけないと思う


ミコルさんと手を繋ぐで鼓舞

どうか自分を責めないで下さい
警戒していた私も見抜けなかったのです

貴方には助けを必要としている人がいる事を忘れないで


ルルチェリア・グレイブキーパー
≪白銀≫
アドリブ歓迎

【お子様幽霊たちの海賊団】で空飛ぶ海賊船を召喚
子供幽霊達が銃弾・砲弾の雨を降らせ後方からシホの援護をするわ
シホの邪魔はさせないんだから!

私の前に丸い獣耳の黒髪の死霊術士
父らしき人が立ち塞がる
例え強敵だろうと召喚したお子様幽霊の中には
父に詳しい子達が居る

エリちゃんの くせに つよすぎ! なまいき!
この あくじょずき! へたれ! いせきオタク!
めがねがほんたい!

子供幽霊達が創造された父、エリオットに悪態をつき
イメージダウンさせ能力に疑問を抱かせる
や、優しい所も有ったから……

偽物はハチの巣よ!

村人達にはニコルさんも騙された被害者だとフォローするわ
みんな遊ばれていただけなのよ



 しかして灰の中から、絶望の騎士は立ち上がる。嗚呼、勝機は何処か。大義などない戦い。生前の気高さ、意志の強さ、それらを紛い物のように模倣し、否、再現した――最強の騎士。
 シホ・エーデルワイスは夢想する。
 ぱぱ、ぱぱ……か。

 聖剣に圧力がかかる。
 それが、突如振り下ろされた剣撃をすんでのところで止めた、その圧だと気づいたのは数瞬前のことだ。いつ距離を詰められた? いつ攻撃された?
 いつ、戦いの最中、物思いに浸っていいと習った?
「ッ――救います」
 聖なる御言を口腔の中で唱える。
 魔法剣が純白のオーラを纏い、剣圧を押し返すと、斬り上げたそのままの勢いで魔力を込めた掌底を当てた。……浅い。鎧越しなのもあるが、急所を外されたような、ズラされた実感が残る。灰の臭いだけが鼻に残り、その中に微細な殺気が混ざっていることを感じ取った。
「逃げた者がいるな……背中が見えるぞ」
「!? させません!」
 殺気ははるか後方――ではなく、依然、己へと。
 生々しく、首筋を撫でるように、添えられる。
 再び剣撃を跳ね除け、一旦距離を取る。あえて避難した者を口にしたことで、注意を後ろに向け、眼前を斬る。……なんて小賢しい。これが騎士か、騎士の振る舞いか? 勝つために方法を選ばない、それが強さであったとしても、仮に強かったとしても、騎士道精神にもとる行いだ。軽蔑する。

 ……なのに。

「成長したな」

 どうしてこうも心を騒つかせるのか。
 こんなにも薄っぺらい言葉なのに、ましてまやかしなのに。
 とっくに振り払った、かつて見とめた記憶。それを頼りに呼び起こされた、その姿が、自分を認め、肯定してくれる。わかっていても、わかっていたとしても、どうしても、心を土足で踏み込まれているような感覚が、正気を失わせる。相手の術中だ。悟らせるな。私は捧げるもの。施しなど受けては、ならない。言葉を投げかけられるな。耳を塞げ。目を閉じ、剣を振るえ、剣が重ければ引鉄を。それも難しければ――。

「「「もーっ!」」」

「……え?」

「エリちゃんの くせに つよすぎ!」
「なまいき!」
「この あくじょずき!」
「へたれ! いせきオタク!」
「めがねがほんたい!」

「ヌゥ……!」

 ――ボン! ドンドォン! バゥ!!

 影が、戦場を覆った。
 立ちすくむシホを隠す、《お子様幽霊たちのお遊戯(ゴーストキッズコンビネーション)》。彼女たたからすればこの凄惨な戦場も刺激的な遊び場に過ぎない。風邪を孕んだ帆が高らかに膨らみ、楽器のようなけたたましさで銃と砲とを噴かせる。肌を焼く熱気に意識をはっと立ち戻らせると、シホは振り返った。
 そこには、友がいた。
「撃って撃って撃ちまくって! シホの邪魔はさせないんだから!」
「ルル……!」
「確かに彼は手強いかもしれない。でもね?」
 呼び出した子たちの中には、彼をよく知るものもいる。弱点とて、例外ではない。
「こほん、や、優しい所も有ったから……」
 もちろん、美点も。
 そして、シホはふと気づく。彼女は眼前の騎士に獣の丸耳も見て取れなければ、死霊術に長けている様子も確認できない。すなわち、彼を補強しているのは、彼を呼び出しているものの自信。自分たちが怯え、竦み、苦手だと思えば思うほどより強大な姿、はっきりとした声と実体を持ってのしかかるのだと。墓守のルルは、知らず知らずのうちに打ち破ってみせた。幻影の本質を見抜き、その弱点を説得力と実力でねじ伏せたのだ。

「師匠の強さは……」
「何度、交えたところで!」
「剣技でも魔法でもありません」
「なに……?!」
 その言葉を皮切りに、剣の切っ先が精細を欠く。鈍る剣を叩き追って、魔力の塊を胸にぶつける。今度は逃さない。渦となった白い魔力が暗い世界に差す光明のように一本の道筋に収束する。手応えあり、だ。「偽物は!」信じている。「蜂の巣よ!」伏せ、援護射撃を背中越しに直撃させ、体を宙で前回転させると、そのまま――振り下ろした!

 ――ザンッ……!!

「どんな苦境でも諦めず守り抜く意志の強さです!」
「ぐうっおおおおオオ……?!」

 体が、両断された。

 しかし、野望はまだ霧散しない。

 斬られた隙間が煌めいて、エネルギーの爆発的な奔流を生み出す!
 自爆、か――?!

「…成る程」

 半分に分けられた人体を、さらに横なぎに、四等分に!
 過去を刻み、寸断し、バラバラにして未来への道筋を閉ざす。大鎌を振り抜いたリーヴァルディが視線を離さず油断せず、どこか納得した素振りで、居た。
「私達の思念、感情が読めるのね。…生前のお前が正しい目的でその力を使っていたとしても、悪戯に人々の疑心を煽り、貶める今の在り方は許容できない」
 早口で言い切ると、遠心力を利用して、さらに鎌のなぎ払いを繰り出さんと身構える。
 彼から読み取った思念は、敵対者の排除。そして、愉悦。ひたすらに状況を愉しみ、敵を嬲り、そこに偽りの正義を被せては騎士や父の名と姿を騙る、俗物。内……敵視の念は、自分から借り受けたものだ! とリーヴァルディは確信する。
 弱肉強食、二者択一。
 どちらが立つ限り、決して倒れることはできない、燃え盛る敵愾心。
「…随分としぶとくしてしまった。でも終わり」
 炎を呑むのは、水でも氷でもない。
 地獄の炎すら焼き尽くす、死と呪い!
 それは罰というのも生温い。

「…この一撃で無明の世界に葬送してあげる、慈愛の聖女」

 勝利の宣言――ではない。
 死の宣告――でもない。

 焼き払う。そう言っただけだ。事象やら概念やら小難しい話ではなく、現象として、それを起こすと言った。だからこそ幼さ、無垢さを体現した聖女にもその意味がはっきりと伝わった。十重二十重に刻まれた紋章が光り輝き、星座のように視界に広がる。自身を飲み込む、自信ごと平らげる、聖女は光の中に、光を吸い込む洞洞たる闇を幻視する。
「こわい……やだ、やだ……!」
「…限定解放」
「どうして、あいして、あい、してぇ!」

 抱擁するは死の黒鳥。
 呪いを纏い翔ぶ、血の臭いを滲ませて。
 大気が、焦げる。

「…見えると言うならば、見せてあげる。お前が今まで弄んできた者達の怨嗟を。憎悪を。そして絶望を!」

 呪いの写し身よ、もしも受け止められるのなら、抱いてみせよ。地獄の炎すら温いとゆうのなら、抱き返してみせよ。追い詰められる絶望感。拷問される苦悶。助けを求めても聞き入れられない失意。互いに互いを憎しみ合わなければならない閉塞感。……裏切られた、絶望を!

 悲鳴すらない。苦悶すらない。
 ……呪詛が、聖女を焼き尽くす!

 骨まで、魂まで、存在を全て、塵に還すまで――!


 浄化の光が、広場に満ちていく。

 還っていた魂に、安らぎのひとときを。

 村人たちには、ルルが誠心誠意の説明を行なっている。多少賑やかさが優ってしまっているが、ともあれミコルもまた被害者だったのだと、事態を収めてある。曰く、「みんな遊ばれていただけなのよ」。領主でもないヴァンパイアの戯れ、人の苦悶の表情を肴に、無窮の退屈を癒していた。この場にいるのは皆被害者。
「だから、必要以上に凹まないの! そして責めないこと!」
 そう窘められると、強く出られない村人たち。かの闇の救済者も、持ち前の胆力で、許す、気にしていないと頷いていた。

「貴方も、どうか自分を責めないで下さい」
「俺には……あの子が、俺たちを貶めるだけに現れたようには思えない……」
 自分や、村人たち。仲間への言い訳だとわかっていても、浄化の光に包まれてなお、心中を吐露するミコル。光に癒されたからこそ、素直になれた。父を求めた心は、ホンモノだったのだ。心は重なり合って、言葉は言霊となって、知らず知らずのうちに村人たちの心に蔓延し、締め付ける。
 シホは考える。この世界の被害者に、何を捧げられるだろうか、と。輝ける明日を共に迎えることはできなくとも、苦難を乗り越えた背中を後押しすることはできないか……?
「忘れないで」
「……え?」
 指先が、重なり合い、触れる。
 困惑するミコルの手を、シホが握っていた。

「貴方には助けを必要としている人がいる事を忘れないで」

 そうだ。
 きっかけを捧げよう。

 思い出も、後悔も、残っていく。

 ならばこの出会いだって、残るだろう。

 焼け跡を、踏み締めて。もう一度。何度でも。
 
 さあ、一歩を踏み出して、その先へ――!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年08月12日


挿絵イラスト