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深淵(Operation Abyss)

#UDCアース #呪詛型UDC

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● 施設に残された手記。

 こつこつこつ。
 よるのあしおとまだひびく。
 だれかがいまもおしごとしてる。
 こつこつこつ。
 きのうはさんにんいなくなり。
 きょうはさんにんあしおとふえた。
 こつこつこつ。
 こつこつこつこつこつこつこつ。
 あしたはひとり、あしおとふえる。

● グリモアベース 作戦会議室。

 グリモアベースの作戦会議室に集まった猟兵達にユウキは告げる。
「UDCで救援要請だ」
 曰く、別の事件で保護した少女と組織の部隊が行方不明になったらしい。
「簡単に説明するとだな、その子の両親は我々に敵対的な教団の研究所で勤務してたらしいんだが、数日前に組織の作戦で研究所は制圧。その子もそこで保護された。だが、先日奇妙な事に調査に赴いた部隊が姿を消してな」
 そして、調査に赴いた部隊が姿を消した次の日の夜、少女が姿を消したそうだ。
「明らかにその研究所になにかあるのは分かっているんだが、少数とは言え精鋭といって差し支えない職員で構成された部隊が消失したとなると、彼等では手に負えない案件である可能性が高い。よって、諸君の手を借りたい」
 そう言って部屋の電気を消すと、プロジェクターを操作したユウキ。
 薄暗い部屋のホワイトボードに、古びた施設の映像が写し出される。
「今回、諸君に調査を依頼する施設だ。外観は古いが、内部はそれなりに新しい。だが、制圧作戦の際に教団の戦闘員との交戦もあったため、酷く散らかっていることが予想される。おそらく死体も手付かずだが勘弁してくれ」
 続いて映し出される研究所の見取り図。
「一階は研究員等の居住スペースだが、ここは特に問題は無いだろう。少なくとも、地上の調査中は職員達に異常は見られなかった。最奥部にエレベーターがあり、そこから地下の研究所に侵入出来るが後述の理由から電気設備がどうなっているか分からない。ライトは支給するが、必要に応じて各員光源を用意する事を推奨する」
 地下の研究所とされるスペースはかなり広そうだ。
「地下に降りた部隊が帰還しなかったのは先程話したが、雑音が酷いものの地下に降下後の音声ログが残っている」
 そう言ってログを再生するユウキ。
 最初、地下までエレベーターで降下した部隊が、足元に水が溜まっている事を報告する。
 しばらくはそのまま地下を探索していたようだが、途中からなにか不可解な事が起こり始めた。

 雑音、隊員達の足音らしき水を蹴る音だけが聞こえる。
「…て」
 隊員の1人が声を上げた。
「な………か聞こえ……か?」
 雑音が激しい。
 隊員の声もよく判別出来ない。
「足……と?」
 雑音が少し弱くなる。
「バカな、こんなに水浸しなんだぞ?」
「でも……ほら!」
「……クソっ、なにか居る……構えろ」
 銃を構える音、微かに、こつこつという足音らしき音が聞こえる。
 再び、雑音が強くなった。
「こ……ちわ」
「君は……つば……ちゃん? ど……て?」
 隊員の声とは違う、幼い少女らしき声と、途切れ途切れの隊員の声。
 雑音が大きくなる。
 雑音に発砲音と悲鳴が微かに混ざってブツリと音がすると、音声が止まった。

「以上が通信機越しにこちらに届いたログの内容だ、この後、隊員達からの通信が途絶。また、ログの幼い声だが解析の結果、居なくなった少女の物と酷似しているという事が判明している……んだけどな」
 そう言ってユウキは少し言葉に詰まる。
「実際、この音声がこちらに届いた時には、まだ少女……石川・椿(イシカワ・ツバキ)は組織の保護施設に居たんだ。少女の喪失は隊員達が消えた日の夜。よって、この声の主が少女の可能性は低い……だが、ログで声の主を認めた隊員がおそらく"つばきちゃん"と呼んでいるのもまた事実……はっきりいって訳がわからん」
 そう言いながら、ユウキはプロジェクターに少女の写真を映した。
 小さく儚げな笑顔のかわいらしい少女だ。
「この子が例の少女だが、隊員達の消失に関わっている可能性もゼロじゃない。注意してくれ」
 そして、ユウキはゲートを開き始めた。
「地下は足元が水浸しらしく、電気がショートしている可能性がある。ま、だからライトを支給するわけだな。また、喪失した少女、石川・椿に関してはもし発見してもむやみに保護しようとするな。作戦の概要は以上だ。行ってこい、猟兵」


ユウキ
 はじめましてこんにちわ。
 (´・ω・)b<はじめちわ!!
 ユウキです。
 熱くなって来ましたね。
 最近は少し寝苦しい夜が続きます。
 そんなわけでホラーです。
 ……が、注意事項があります。
 まず、あまり人数を採用出来ません。
 また、アドリブが強くなります。
「この子は絶対怖がったりしないよ!」
 みたいなキャラクターより、むしろ怖がりなキャラクター、あるいは精神的に追い詰められてみたいキャラクターを参加させてみると面白いかもしれません。
 また、どう考えてもホラーにならないようなプレイングは採用しません。
 その代わり、私の全力でホラーを演出します。
 最後に、基本的に三章まで戦闘は無いです。
 各章で何をすれば良いのかは、前章の最後や章の始まりに簡単な状況説明を行うので、そちらを参考にどうぞ。
「それでは皆様、暗い水の底を覗く準備は出来ましたか?」
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第1章 日常 『廃研究所の噂』

POW   :    噂なんて気にしない! 深く考えないで、手当たりしだいに調べてみよう。正面から真相を確かめる。

SPD   :    周りの状況に気を配りながら探索し、何らかの異変がないかを察知してみる。

WIZ   :    閉鎖された理由は何だろう? 資料や物品を探して手に取るなど、残されているナニカを手掛かりにしてみる。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「アンタらが……」
 送られてきた猟兵達を見つけた戦闘服の男が近づいて来る。
「待ってたよ。見ての通り、施設周辺は封鎖してある。一般人はシャットアウト完了、邪魔は入らない筈だ」
 そう言って、人数分の鍵束とライトを手渡す。
「お互い"アレ"に関しちゃプロだからな。分かっているとは思うが……」
 "アレ"とはUDCや邪神の事だろう。
「場合によっては内部が頭に叩き込んだ地図とは全く違う異空間になっている可能性だってある……充分注意して行けよ。また、地上からの支援もアンタらが地下に降りたらなにも出来ない。何かあるなら今のうちに言ってくれ」
 そう言うと、男は配置に戻る。
 目の前には、古びた建物がひっそりと佇んでいた。

【地上で出来ること】
1、UDC組織の職員から情報を聞く(質問は2つまで。当然知らない事もある)

2、追加で必要な物の申請(2つまで。用意出来ない場合もある)

3、職員を連れていく(1人選択する度0~5名)

 このいずれかから好きなだけ選択して行動出来ます。
 もちろんなにもせずに降下しても構いません。
 選択した結果は全章において反映され、最終的な結果に繋がります。
 また、全ての行動において技能が使えます。(上手くいけば本来聞き出せない情報や、渡せない物を渡してくれるかもしれません)
 一章では、降下からあるイベントが起こるまでの探索を描写します。
また、全ての行動が最終的に良い結果に繋がるとも限りません。
スフィア・フローラ
「よろしくお願いします、皆様」
丁寧に一礼してどう調査するかの方針を練る

追加で無線機を申請。地上部隊と連絡が取れれば予測外が起きた時
危機を知られられる。使えなかった時も後続隊がその事を把握できる。
職員は連れず、単独(猟兵がいた場合は少人数)で降下

方針としては状況証拠を主に収集して探索。
闇雲に歩き回っても仕方ないと判断して何か端末や紙媒体から
情報を入手できないか試みる。効率的に調査する為にも
他の猟兵や職員とは離れて行動。
「突然電気が付けたり消えたりとか…ありませんよね?」
「幽霊とか…出てこなければいいのですが…」と内心ビクつきながら探索。驚きすぎれば素の口調が出てしまうかもしれない



 簡単なあいさつを交わし、スフィア・フローラは先程の男へと歩み寄る。
 何か必要なのかと尋ねる男に、通信機をくれないかとスフィアは言った。
「それは構わないが、おそらく外部との連絡は不可能だぞ。あの音声ログだって回収できたのは奇跡みたいなもんなんだ」
 そう言いながらも渡された通信機を見る。
 一応正規品なのでそれなりに性能の良い物らしいが、それでも地上との交信は不可能とのことだ。
「では、ほかの猟兵にも渡してください。内部であれば、そこまで離れなければ使えるでしょう?」
 それを聞いた男は怪訝な表情でスフィアを見る。
 暫くその姿を凝視していたが、暫くして呆れたように呟いた。
「⋯⋯さっきも言ったがあんたらを信用して無い訳じゃない。だが⋯⋯単独行動はお勧めできんな。どうしてもというなら止めはせんが⋯⋯⋯⋯」
 何があるか分からない以上単独行動のリスクは相当のものだ。
 だが、スフィアが引く気が無い事を悟ると、それ以上は何も言わなくなった。
 礼を返すと、地下へと続くエレベーターへと歩きだす。
 地上は職員達が調査を進めているらしく、そこかしこに職員の姿があった。
 地上だけを見れば、あまり危険な状況には見えないが⋯⋯⋯⋯
 そんなことを思いながら、目の前のエレベーターの扉を開く。
 一瞬、ひやりとした空気がスフィアの肌を撫ぜた。
 身震いをして首を振る。
 ⋯⋯くだらない考えだ。
 そのエレベーターに乗り込んで扉が閉まると、低く小さい音とともにエレベーターは降下を始めた。
 世界が小さな空間だけになり、耳に響く音はエレベーターの駆動音だけになった。
 地下に降りるにつれて、嫌な想像を頭から振り払うのが困難になって行くのが分かった。
――このエレベーターは地獄に続いているのかもしれない。
 荒唐無稽な妄想なのは分かっているのに、こべりついた錆の様にそのくだらない妄想が心にへばりついて離れない。
 それにしても長いエレベーターだ。
 ゆっくり降りていくそのエレベーターが地下に着いた瞬間響いた軽快な到着音とともに、その空間の息苦しさからスフィアは逃げるように外に出る。
 目の前の空間は、思っていた以上に綺麗だ。
 白い蛍光灯と清潔な白い壁。
 並べられたベンチも綺麗に並んでおり、荒らされた様子も無い。
 ⋯⋯だが、なんだこの匂いは?
 血の匂いではない。
 何かの薬品のような匂いが空間全体に漂っている。
 目の前にたった一つ見える扉を開くと、その臭いの正体が分かった。
 少し低くなった足場は全体的に水に沈み、部屋から漏れる光で照らし出された真っ暗な空間が広がっていた。
 扉を開くと部屋に充満した薬品の匂いが強くなった⋯⋯おそらく、いや、ほぼ確実に体に良い物ではないだろう。
 しかし、それでも踏み出さねば調査にならないと尻込みする心を叱咤して足を踏み出した。
 ひんやりとした水が膝下を濡らし、小さな波紋が広がって行ってすぐに見えなくなる。
 耳を澄ましても、時折どこかで水の跳ねる音しか聞こえない真っ暗な空間。
 支給されたライトを点灯するのだが、スフィアは目を疑った。
 ライト自体はそれなりに明るいはずなのに、真っ暗な空間が光を吸い取ってしまうかのように照らし出された空間が狭いのだ。
 長く続く廊下の数メートル先で光が途切れ、この廊下がどれほど長いのかが分からない。
 スフィアはそっと息を吐き出すと、真剣な顔を作って歩きだす。
 ここはもう邪神の領域だ。
 本能が直感的にそう告げている。
 心が壊れればそれこそ邪神の思うつぼだ。
 心を強く持ち、ここでいったい何があったのか。
 それを調べる事が今の自分にできる事だろう。
 静かな水音を立てながら、スフィアはその暗闇へと歩きだした。
 頼りないライトの明かりで見える空間に精いっぱいの注意を払い、耳を澄まして異様な音を探る。
 しばらくの間、その暗闇を進んでいくと、目の前に扉が見えた。

 ザァー⋯⋯ザザァー

「ひ⋯⋯ッ!?」
 不意に胸元から響いた大きな雑音に驚き、情けない声が漏れてしまう。
 上で受け取った通信機が、何かの電波を拾っているようだった。

『ザァー⋯⋯ザザァーれか⋯⋯だれか⋯⋯ちら⋯⋯地上部隊応答を⋯⋯⋯⋯』
 受け取ってきて正解だった。
 通信機の雑音が切れたと同時にスイッチを押して応答を行う。
「こちら派遣された猟兵です。調査隊の方ですか? こちらには救助の準備があります。 聞こえていれば応答を!」
 それを何度か繰り返し、返答を待つ。
『ザァー⋯⋯ザザァー』
 返答が返ってきた。
 雑音に耳を澄まし、その中にかすかに聞こえる声を聞き取ろうとする。
『ザァー⋯⋯ザザァーた』
 まだるっこしいが、調査隊が生きているのなら見捨てるわけにもいかない。
 衛生兵として、そんなことは出来
『みつけた』
 不意に雑音が消えた通信機から、クリアな声が聞こえた。
「え⋯⋯今なんて⋯⋯?」

 こつこつこつ。

 耳に響く足音。
『みつけたミツケタみつ⋯⋯ミツけタみつけたみツケタ⋯⋯⋯⋯こんにちわ、おねえさん』
 響く足音が早くなる。
 先程まで歩いてきた何もない廊下の方角から、何かが近付いてきている。
――逃げなければッ!――
 心臓は早鐘を打ち、周囲を照らすライトが震える。
「⋯⋯扉ッ!!」
 体当たりで目の前にある扉を開くと、翻って力づくでその扉を閉める。
 扉の鍵を閉めると、扉を照らしながら後ずさる。
 近づく足音、早打つ心臓の音がうるさい。

 ドン!!

 何かが閉めた扉を叩く。
 
 ドン!!
 ドンドンドン!!

 強く叩く音がしばらく続いたが、諦めたのか扉を叩く音は消えた。
「⋯⋯⋯⋯」
 扉を開けて確認したいが、まだ目の前にいるかもしれないという恐怖心が勝る。
 小さくため息をついて、部屋の中を調べてみることにした。
 軽くライトで照らしたものの、壁は見えない。
 だが、小さな机にちょこんと置いてある手帳に気がつくと、歩み寄って手に取った。
「日記⋯⋯? イシカワ⋯⋯ヒロキ?」
 そう言えば、居なくなった少女の性も、確か石川と言ったか。
 そう考えれば、これは父親の日誌?
 疑問は読み進めるにつれ確信に変わる。
 内容を要約すれば、この男はもともと小さな開業医だったこと。
 同じく看護師として勤務していた女性と懇意となり、二人の娘を授かった事。
 椿と燕。
 双子に付ける名前には安直かもしれないが、バードウォッチングと登山が趣味だった二人にとっては良い名前だと思っていたこと。
 だが。
 
 どうして⋯⋯あぁ、神様。
 私の可愛い椿。
 どうしてあなたは彼女を奪うのだ。
 どうしてそんな残酷が事が出来る?

 日記の最後のページによるならば、娘の一人である椿が、事故で亡くなったらしい。
 だが、そうなれば組織が保護した少女は椿ではなく燕なのではないか?
 それとも、保護された石川・椿はやはり人間ではなかったのか?
 そして、なぜこのような善良そうな男が邪神教団の研究員などをやっているのか?
 疑問だけが増える。
 その時だった
 バチバチと嫌な音がして、不意に天井の蛍光灯が激しく明滅する。
「何ッ!?」
 周囲を見回したスフィアの目に、異様な光景が映った。
 思えば、ずっとそこにいたのだろう。
 ずっとスフィアを見ていたのだろう。
 逃げるのか、あるいは戦うのか。
 選択肢が浮かんでは消える。
 その場にいたスフィアに出来た事は。
「キャァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
 ただ、悲鳴を上げる事だけだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クリミネル・ルプス
【周囲を探りつつ異変を察知】
建物の外からUC使用し、『目に見えるモノ』と『そうでないモノ』の齟齬を探る方針で。
【質問】
「地下に降りた部隊の人数構成は?」
「少女の保護した事件の概要は?」
【欲しいモノ】
・不明隊員の装備や私物(匂い(思念含む)を探る為))
・炎を生じない発光体(サイリューム系の発光素材)を20本ほど。
【職員】
エレベーターまでの案内に一人。
(話を聞きながら)

【探索】
地下に降りたら周囲を検知しながら最奥を目指す。
探索済の所はサイリューム投げ入れる。
死体は見慣れてるが暗い負の感情や想念には当てられ易い。
「死体よりも怪物よりも恐ろしいモンって、ヒトやん?」


氷川・零
これが初任務...ですが、零は問題ありません。大丈夫です、訓練は受けています。
まずは保護した際のツバキさんの様子を聞きましょう。その時点で異常が見られる場合、彼女を討伐する必要があるかもしれませんから。それから、敵対的な教団の信仰していたUDCの情報も。用心に越したことはありません。
電気系統が故障しているなら、修理用のツール一式を持ち込みたいです。零は【メカニック】です。動かなくなった設備を復旧できるかもしれません。それから、ツバキさんの持ち物を一ついただけないでしょうか?『コゴロウ』の鼻の【失せ物探し】が、ツバキさんの元へと導いてくれる筈です。
職員の皆さんは、バディの降下を手伝って下さい。



 一人の降下の後、二人の猟兵がその後を追うようにやって来る。
 エレベーターへの案内を頼み込むと、道すがらに質問が飛んだ。
「最初に降りたっていう連中の規模と、そもそものここを襲撃したときの作戦の概要が知りたいんやけど」
 クリミネル・ルプスがそう問うた。
 案内を頼まれた隊員が言うには、降りた人員は三名。

 加藤・博(カトウ・ヒロシ)
 部隊の指揮官で、経験豊富な職員だったらしい。男性。

 東雲・孝(シノノメ・コウ)
 音声ログで最初に足音に気付いた新人。男性。

 飯島・幸子(イイジマ・サチコ)
 椿の世話を担当していた職員。女性。今回、椿が居なくなったことに責任を感じて無理やり志願したらしい。

 その言葉に、少し怪訝そうな声をクリミネルは上げた。
「そもそも、最初は立った二人で行く予定だったんか?」
 それを聞いた職員が渋い顔を作る。
「本来、制圧された場所だ。俺たちだってそんな場所の状況調査に数を出せるほど暇じゃあない。石川・椿失踪にしたって⋯⋯」
「その居なくなった少女、石川・椿とはどのような少女だったのですか?」
 そう質問するのは、氷川・零だ。
 真っ直ぐな青い目を向け、職員に聞く。
 だが、それを聞かれた職員は少しバツの悪そうな顔をしながら首を振った。
「⋯⋯こんな言い方もあれなんだがな。どうにも気味の悪いガキだった。⋯⋯⋯⋯あの子の親は最初の突入の時に止む無く射殺。あの子もそれを見ていたはずなのに⋯⋯まるで全部わかっていますと言わんばかりに俺たちに黙ってついてきた。塞ぎ込んだ様子ならまだ分かる⋯⋯だけどあの子はそんなんじゃない。ありゃ人形だ。指示に従うだけの操り人形⋯⋯そんな様子だったな」
 そう言いながら、職員の目は細まる。
 だが、零は続けるように促した。
「そもそも、ここの教団はどういったものを信仰していたんですか?」
 教団の信仰対象がが分かれば、相手がどういった敵なのかは多少は絞り込めるかもしれない。
 そう思ったのだが。
「知らん、それを調査するのが当初の目的だったんだ」
 それを聞いたクリミネルが驚いたように聞く。
「相手の信仰対象も分からずに襲撃したんか!?」
 そんな危険な行動をしたの言うのか。
 もし、その教団の信仰対象が物理的な物体だとしたら。
 それが反撃に出てくれば、無駄な犠牲を払うだけだった可能性だってあるのだ。
「⋯⋯少なくともここがそういう施設じゃないということ自体は確認していたんだ。聞いていなかったか? ここは研究所だと。どちらかといえば最近現れ始めたUDC₋Humanの研究をしていたらしい。下手な成果を上げられるより先に叩いて潰さなきゃならなかったんだよ⋯⋯侵攻対象はともかく、教団自体はあんたらをここに送った奴が追ってる連中だ『Victim』それが名前なのか何かの暗号なのかは知らないが、少なくともそう呼ばれてる教団だよ」
 それ聞いて、二人は少々考え込む。
 そもそも少女の“人形のようだった”という評価が引っ掛かる。
 それは本当に人間だったのだろうか。
 考え込むまま進んでいくと、一行はエレベーター前へとたどり着いていた
 そこには狼が一匹。
「早いですね、コゴロウ?」
 零がそう聞くと、コゴロウと呼ばれた狼は小さく鼻を鳴らし立ち上がる。
 それをすっくと持ち上げて職員に押し付けると、困惑する職員に零は言う。
「下は水浸しなのでしょう? バディの降下の補助を願います」
「あぁ!?」
 一瞬驚いた様子だったが、必要なら手を貸せと指示されている。
 少々重いが、仕方のない事か。
「分かったよ⋯⋯で、他に何か必要な物は?」
「何か最初の三人の持ち物と、ケミカルライトみたいなもんがあれば借りたいんやけど」
「こちらは⋯⋯電気設備の故障ならなんとかできるかもしれません。工具箱と⋯⋯⋯⋯そうですね。その、石川・椿の持ち物は何かありますか?」
 二人共。
 クリミネルは自身の鼻で。
 零は相棒の鼻で、匂いからアプローチを計るつもりらしかった。
「⋯⋯あのガキの持ち物は無いな。元々何も持っちゃいなかったんだ。他は用意できるからちょっと待ってろ」
 そう言って職員はいったんコゴロウを下ろすと、指示されたものを取りに戻った。


 長いエレベーターの降下の後、職員を含めた三人は広場のような場所にいた。
 薄暗いラウンジを照らすライトが、その場所がラウンジであることを示している。
 正面に扉があり、その先には同じように薄暗い廊下が広がっていた。
「おかしいな」
 そう言って顔をしかめる職員。
 地価は水浸しになっているはずだ。
 だが、周囲に水気は無い。
「⋯⋯ダメや、匂いもせぇへん」
 職員三人の私物の匂いを嗅いだクリミネルが鼻を鳴らし、首を振る。
「⋯⋯コゴロウ?」
 職員の近くに居たコゴロウが、怯えるようなそぶりを見せていた。
「⋯⋯仕方あらへんよ、お前さんも感じるんやね?」
 そう言ってクリミネルがコゴロウをそっと撫ぜる。
 クリミネルを見る二人に、クリミネルはそっと答えた。
「⋯⋯なんだかは分からへんけど⋯⋯⋯⋯すごい数や。すごい数の何かがこの先にいる⋯⋯⋯⋯うちらを見とる」
 職員が一瞬怯えたような顔を作るも、諦めたように呟いた。
「⋯⋯ここに留まってもしょうがないんだろうな」
 そう言って二人に通信機を手渡した。
「最初に潜った猟兵からあんたらに渡せと言われてたんだ。中であれば通信も届くだろうってさ」
 それを受け取った二人は、とりあえず通信を行ってみることにする。
「だれか、だれか聞こえますか、こちら地上部隊応答を」
「無駄だよ、地上になんか届かないさ」
 零は一応の確認ですと言って、再び呼びかける。
「先に降りた猟兵の方、こちら氷川・零。合流を求みます、応答を」
 ⋯⋯。
 無線機からは、うんともすんとも反応はない。
「ダメみたいやな」
 そう言って、通信機をしまうと歩き出す。
 しらみつぶしに扉を開いては内部を確認し、調べた部屋にはケミカルライトを投げ入れる。
 調べた部屋の確認と、最悪の場合でもケミカルライトを追って行けばエレベーターに戻れるはずだ。
「電気設備の動力室が見つかれば、明かりをつけることも可能だと思うのですが⋯⋯⋯⋯」
 だが、それは案外呆気なく見つかる。
 しばらく部屋の中を見て回った零は、これなら何とかなりそうだと言って作業に取り掛かった。
「⋯⋯やっぱりおかしいな。部屋の配置がめちゃくちゃだ。こんなところに部屋はないはずなのに⋯⋯本当にでたらめな連中だな」
 怪訝そうな顔をする職員にクリミネルは言う。
「そういうもんや、邪神だけやない。ほかの世界の化け物共も、まともな奴なんかほとんどおらへんよ」
 俺なら諦めちまうな。
 そんな風に男は力なく笑う。
 ただでさえ邪神たちの対処で手いっぱいだというのに、他の世界の面倒まで見ていられないと。
「⋯⋯まだ、見てるのか?」
 入り口をじっと見つめるコゴロウを撫でて職員が聞く。
「せやな、でも⋯⋯誰も近付いてこーへん。ただ見てるだけや」
 そう言ってクリミネルは扉を一瞥する。
 クリミネルの目にはいったいどんな光景が映っているのか興味が湧いたが、職員は聞かなかった。
 どうせろくでもない答えが返ってくるのだろう。
「できた。すいません、スイッチを入れてみて貰えますか?」
 しばらくごそごそと機械をいじっていた零に言われた職員が、動力のメインスイッチを入れた。

 バチ⋯⋯バチバチッ!!

 激しい音がしたと思うと、ゴウンゴウンと小さな音が部屋に響く。
 そして、照明のスイッチを入れると部屋が明るくなった。
「ふぅ、これで多少は気味の悪さも和らぎますね」
 零がそう言ったその時だった。

 キャァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!

 誰かの悲鳴が廊下を響き渡る。
「行くで!!」
 言うが早いか飛び出すクリミネルを、職員と零が追う。
 明るくなった廊下を駆け抜け、クリミネルが叫んだ。
「あそこや!!」
 指し示す扉を蹴破ると、激しく明滅する電灯と腰を抜かし座り込んだ女が一人。
 そして、その女が見つめる先の壁には⋯⋯⋯⋯
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

キャロル・キャロライン
皆様、よろしくお願いいたします

こちらに来る前のユウキ様の説明では、「デンキセツビ」「エレベーター」といった言葉をお聞きしました
正直なところ、私はこの世界のことはよく分かりません
ですので、一緒に付いてきて下さる方がいると助かります

建物の中は暗闇となっているかもしれないとお聞きしています
右手に剣、左手には盾。そして、武具に力を込め、それらを淡い光に灯しながら、探索を行います

こういったところで調べものをするのは、皆様の方がお得意ですよね
私はそれを邪魔しないよう、皆様を守る盾に徹した方が良いかもしれません

この建物の中では何らか戦いがあったようです。
何が出てくるか分かりません
常に周囲に気を配りましょう



 大体の概要を話し終えた男は、きょろきょろと周囲を見回すキャロル・キャロラインを見て、不安そうに聞く。
「⋯⋯大丈夫か?」
 そう聞く男に、キャロルは質問を返した。
 だが、その言葉に男は目を丸くすると驚いたようにこう叫ぶ。
「なんだって!?」
「⋯⋯ですから、えれべーたーってなんですか?」
 彼女にこの世界の知識など皆無である。
 そして、たとえ記憶したとてすぐ消える。
 だから彼女は生前有していた記憶しか持ちえないのだ。
 本当に大丈夫かと頭を抱える男は、道案内は必要かと皮肉交じりに聞いてきた。
「あ、助かります」
 おそらく皮肉すらまともに解さんのだろうと諦めた男は数人の職員を呼ぶと、キャロルをエレベーター前へと送るよう指示を下す。
「お嬢様が怪我しないようにな?」
 呆れたようにそう呟いて職員とキャロラインを送り出すと、ため息をついて呟いた。
「本当に大丈夫なんだろうな?」


 エレベーター前にたどり着くと、帰ろうとする職員をキャロルは呼び止める。
「あら、帰ってしまわれるのですか?」
 それを聞いて一瞬目を丸くする職員は、だが諦めたように言う。
「了解ですお嬢様。頼みますから逸れないでくださいね、探すのも面倒ですので」
 下が地獄であるなら降りたくはない。
 だが、可能な限りの支援をしろとの命令を受けている。
 ここは諦めて、腹をくくるしかない。
 軽く装備を点検して、エレベーターへと乗り込んだ。
 静かに降下していくエレベーターの中で、彼女に渡そうとした無線を引っ込める。
 ⋯⋯たぶん渡しても使い方を理解できないだろうと。
「⋯⋯何の匂いでしょう?」
 エレベーターの扉が開くと、目の前に広がるのは赤い世界。
「こりゃ⋯⋯鉄錆?」
「⋯⋯血も混じってるな」
 キャロルについてきた二人の職員が銃を構えた。
「私の後ろに。盾になります⋯⋯」
 その言葉に、職員たちは黙って従った。
 淡く光る剣と盾を構えたキャロルの後ろで、フラッシュライトを点灯した二人が前後を照らす。
 歩き出す三人が一歩ずつ歩みを進めるたびに床が軋む。
 ライトで照らされた壁には、それが何なのか考えたくも無い肉の塊が所々にへばりつき、悪臭を放っていた。
「⋯⋯目の前」
 前方を歩いていた職員がキャロルの肩を叩き、歩みを止めさせる。
「えぇ、見えています」
 そこにあったのは、下半身の無い死体。
 上半身は床に何度も執拗に叩き付けられたかのように歪み、潰されている。
 ゆっくりと歩み寄った三人。
 キャロルは前方に集中し、一人は後方に目を光らせている。
 前方を警戒していた職員が一度しゃがんでその死体を素早く調べ始めた。
「⋯⋯⋯⋯クソ、博(ヒロシ)だ」
 職員が苦虫を噛み潰したように言うと、懐から何かを取り出す。
 それは、紙切れのようだった。
「なんです?」
 キャロルが聞くと職員が読んで内容を簡潔に伝えた。
「こいつは最初に調査に来た連中の隊長だった男だ⋯⋯下半身だけの人間みたいなバケモノに襲われたらしい。それと⋯⋯死んだ人間をどこかに連れて行ったと書いてある⋯⋯もう一人、孝(コウ)も殺されて連れて行かれたらしい」
 だが、それならば疑問が残る。
「では、なぜその人は連れていかれなかったのでしょう?」
 職員はしばし考えこんで立ち上がると、首を振った。
「さぁな、囮だとすればもう俺たちも殺されてるだろうし⋯⋯あるいは、まだ近くに居るかもしれないな」
 そう言って立ち上がった瞬間。

 バチバチバチ!!

 天井で何かが弾けた。
 周囲を警戒する目が険しくなるが、何か変わった様子はない。
「驚かされますね⋯⋯」

 キャァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!

 轟く悲鳴。
 一瞬顔を見合わせた三人は、即座に走り出す。
 揺れ動くライトに照らされたのは開け放たれた扉。

 座り込む女性。
 それの後ろに並ぶ三人の人影。
 皆一様に、壁を凝視している。













 否。
 壁に張り付くように纏わりつき蠢く肉の塊と、そこから生えた大量の目玉を見て、唖然としていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『廃墟の触手たち』

POW   :    廃墟に乗り込み、触手生物を駆除する

SPD   :    人が迷い込まないように廃墟周辺を封鎖する

WIZ   :    自らを囮に触手生物を誘き寄せる

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 どういうことだ?
 その気味の悪い目玉の化け物は、ただこちらを見るばかりで動く事は無い。
 時折蠢く触手の様な物。
 そして、その場にいる全員の頭に声が響いた。
「殺して⋯⋯逃げて⋯⋯放っておいて⋯⋯殺す⋯⋯許して⋯⋯許さない⋯⋯⋯⋯」
 矛盾する男とも女ともとれる声が、脳内で言葉を紡ぐ。
 ⋯⋯どうするべきだろうか。
クリミネル・ルプス
「確かに、『観られて』たんやね……」
壁一面の眼球と触手に対してよりも、その【内面に有るモノ】に嫌悪感を抱く。
【推察】
研究されていたモノに先遣隊と死骸が取り込まれたモノであろうと推察。ココロに響く『声』は思考などが同じ故……。カタチは違えど元々は人間の可能性が高い。
【囮となり誘き寄せる】
打撃や斬撃、爆発、炎などは地下なので崩落、酸欠の恐れがある事を考え、全身の汗腺から眼に見えぬサイズの糖質の小針を準備。
隊員を地上へ逃す様に動き、触手に絡まれながら小針を広い面積に散布付着させて全体ダメージ狙う。
(共闘など歓迎)


スフィア・フローラ
「何…これ…」
このまま気絶してしまえば楽だったのに。自分の精神力は
それを許してくれなかった。目の前の怪異から逃げるには…?
交戦か、退避か。私は「癒し手」特化で戦う力は弱い。

なら、この場は任せてしまおう。早くこの場から逃れて、
生存者を見つけなきゃ。「椿」、或いは「燕」…
最低でもこの子が『どうなっているか』確かめなきゃ。
さっき拾ったメモが確かなら飯島様が生存している可能性がまだある。
「お願い…飯島様でも椿様でもいいから無事でいて…」

でもなぜだろう。最初に感じた胸騒ぎが止んでくれない。
もしかして最初聞こえた“声の主”がその少女…?
「とにかく前に進まなきゃ…どんなに怖くても」



「何…これ…?」
 意識など手放してしまった方がよかったのかもしれない。
 目の前に見えるそれは、おおよそ悪夢という言葉ですら生ぬるいほどに醜悪な肉の塊だ。
「確かに、『観られて』たんやね……」
 そう呟くクリミネルは静かに見た。
 醜悪な外見の内に籠る意識。
 これの正体を推測するのも嫌になる“犠牲者達”の叫びを。
「⋯⋯どうあがいても無理やな」
 小さく首を振った。
 どうあがいてもこれはもうどうしようもない。
 もしただ一つ救いの道があるのならば、それはとどめを刺すことだけだ。
 ⋯⋯そして、それを彼女たちは遂行しなくてはならない。
 望もうが望むまいが、だ。
「私は⋯⋯」
 決意の籠るクリミネルとは対照的に、スフィアの目は泳いでいた。
 起こすべき行動が思い浮かばず、自身に出来ることは何なのかを問いかけることに時間を浪費する。
 闘争か逃走か。
 目の前の醜悪な怪物に戦慄する自身に今できることは何なのか。
 ⋯⋯生存者を探さなくては。
 目の前の怪物の事なんてどうだっていい。
 任せてしまえばいい。
 どうせ自分が居たところで戦いには役に立たないのだ。
 恐怖は脳を麻痺させ、手前勝手な御託を正当化する。
「⋯⋯ッ!!」
 だっと走り出して扉をくぐる。
「スフィアはん!?」
 扉の先は水浸しだったはずなのに、目の前に広がる世界は乾ききって一歩を踏み出すごとに乾いた靴音を響かせる。
 だが、そんなことも気にならない程にスフィアは憔悴していた。
 行方不明の少女、椿⋯⋯燕?
 どっちだっていい。
 なんなら飯島とかいう隊員だっていい。
 生き残りを探さなければ。
 ⋯⋯この場から逃げる理由になるならなんだってよかった。
「ああもう! 世話の焼ける子やね!!」
 目の前の怪物の事もそうだが、走り出してしまったスフィアを放っていくわけにもいかない。
 残る二人に対処を任せ、クリミネルはスフィアを追う。

 暫く走って、スフィアは急に立ち止まった。
「何考えてるんや!!」
 すぐ後ろを追っていたクリミネルがそう咎め、スフィアの目線の先をふと見る。

 ゴッ! ゴッ! ゴッ!

 鈍い音を立てて、何かが人を踏みつけていた。

 ゴッ! ゴッ! ゴッ!

 もはや動かない人間を踏みつける、大量の足。
「あ~あ。こっちに来ちゃったんだ?」
 不意に響く少女の声。
 その無数の足の先に⋯⋯⋯⋯少女は立っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

氷川・零
【SPD】
あ、ああ...声が、頭の中に...!

零はパニックになるが、バディに喝を入れられる。そう躾けられている。一時的に持ち直すだろう。行動は『安全地帯を確保する』為に、UCのタレットを設置する。負傷者や、戦えない者がいた場合は何処かの部屋に設置する。他の猟兵が撃破に向かっており、火力が足りない場合は、廊下に設置する。前方に味方がいる場合は、撃たないように注意する。

零は渡された通信機で、必死にオペレーターを務めるだろう。足りない物資がある場合は、3Dプリンターで作ってくれるかもしれない。他の猟兵がしっかり動けるように、支援に徹するだろう。


キャロル・キャロライン
――ッ!

上げそうになった声を押しとどめます
あれがこの地のオブリビオ――

そこで気付きます
ユウキ様の話に“予知”や“オブリビオン”という言葉がなかったことを
人を惨殺した者がいるのは確かですが、私達猟兵が相手をすべき存在とは限りません

オブリビオンではないという保証もありませんが、安易な攻撃は避けるべきでしょう
それに、この頭に響くこの言葉。とても悲しく聞こえます
お二人を庇うように、そしてお二人から庇うように間に立ちます

~様、あれがオブリビオンだという情報はございますか?

死した存在だからと言って、オブリビオンであるとは限りません。
心と身体、双方への侵食を警戒しつつ近付きます

この声は、貴方のものですか?



「あぁ⋯⋯あ⋯⋯」
 脳裏に響く声にパニックを起こす零。
「⋯⋯ッ!」
 キャロルも一瞬武器を構えたが、
 だが、それでも彼女達はまだ冷静だ。
 少なくとも逃げ出す前に、目の前のそれが何なのか見極めようとしている。
 職員たちも息をのみ、目の前の怪物へ武器を構えたまま発砲はしない。
 二人が何か行動するのを待っているようだった。
「ガフッ!!」
 零の相棒である狼が一鳴きして、パニック状態の零を現実へと引き戻した。
――そうだ、私がパニックになってどうする。
 頬を叩き、冷静に目の前の怪物を見る。
 醜悪。
 だが、それでいて攻撃の意思は見えない。
「この声は、貴方のものですか?」
 キャロルがそう言って怪物との距離を詰める。
 目の前の怪物が言葉を紡いだのなら対話も可能だろう。
 不意の攻撃を警戒したまま、ゆっくりと近づいていく。
「あぁ⋯⋯あぁ⋯⋯殺して⋯⋯嫌だ⋯⋯⋯⋯死にたくない⋯⋯⋯⋯化け物になんてなりたくない⋯⋯⋯⋯」
 再び響く声。
 だが、ここで零はあることに気付いた。
「⋯⋯あなたは、一人ではないのですか?」
 相反する言葉。
 もしあれが一人でないのならば、そのことに説明がつく。
「みんな⋯⋯居る⋯⋯誰がここにいるのか分からない⋯⋯私は⋯⋯俺は⋯⋯あぁ⋯⋯」
 キャロルがそっと息を吐く。
 おそらく敵意はない。
 だが。
「⋯⋯私達があなた方に出来ることは、せめて安らかにあなたたちを殺すことしかないのでしょうね」
 それを聞いた怪物はぶるりと震えた。
 そんなことをしたくはないが、かといって他に手が無いのだ。
 彼らを元に戻せる保証が無い。
「⋯⋯分かった」
 暫く震えていた怪物はそう呟いた。
「⋯⋯でも、きっと奴が来る。少しでも残れば奴が来る⋯⋯⋯⋯全部⋯⋯⋯⋯壊してくれるか?」
 奴⋯⋯きっと彼らをこんな風にした者の事だろうか。
 少し悩んで、二人は首を縦に振る。
 その時だった。
 コツコツコツコツ。
 固い床を踏む足の音が響き渡り、怪物が震えた。
「来る⋯⋯来るッ!!」
 廊下の方から聞こえてくる音に職員たちを下がらせ武器を構えた。
 コツコツコツコツコツコツ。
 そして、廊下から姿を現したのは⋯⋯⋯⋯足だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 集団戦 『雑踏』

POW   :    雑踏
【四方八方から行き交う雑踏の踏み付け】が命中した対象に対し、高威力高命中の【無限に続く雑踏の踏み付け】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    行進
【物理法則を無視した隊列行進】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ   :    環境統一
防具を0.05秒で着替える事ができる。また、着用中の防具の初期技能を「100レベル」で使用できる。
👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 足だ。
 いくつもの"足だけ"が、宙に浮かんで硬質な足音を立てて近付いてくる。
 男の足。
 女の足。
 ブーツを履いた足。
 スニーカーを履いた足。
 ヒールを履いた足。
 本来その上にあるはずの股も、上半身もない。
 そして空間全体に、少女の甲高い笑い声が響き渡った。
「みなさんダンスはいかが? でも下手な人は踏まれちゃうかもね? キャハハハッ!!」
 声は少女のそれだ。
 だが、少女というにはあまりにも悪意に満ちた笑い声。
「どうせ忙しそうに歩いてばっかで暇なんでしょう? だったら足だけでいいじゃない? ぐちゃぐちゃにしてそいつのお仲間にしてあげるよ!!」
クリミネル・ルプス
【『悪意』には悪意を、『死』には死を持って】が基本的なスタンス。
「……助けを求める気持ちが裏返って捻れて歪んだやねぇ……」
言葉とは裏腹に眼前の脚に向ける殺意と攻撃の意思は冷ややかである。
UC【膨張せし小針】を用いて、『脚』に触れた(打撃、防御した部位などからも)場所から壊してゆく。
遺体を利用したモノなら組織に糖質も残っている予想で。
【グラップル】【怪力】で掴み壊し、【激痛耐性】で冷ややかな気持ちのままに壊す。

「……助けて欲しかったんやろ…………」
かつて『壊され』そして猟兵に救われた自分。理解しながら自分は壊して解放することしか出来ない。
【共闘、アレンジ歓迎です】


スフィア・フローラ
もう、こうなったら戦うしかないんですよね。
だったら、腹くくってやりますよ…!怖がっている場合ではない!
…でもやっぱり怖い。
「『踊らされるな、踊らせてやれ』…です…!」

戦術は単純です。逃げ回りながらグランツを撃ちまくる。
今の私にできるのは回復魔法で味方を援護しつつ、
光の矢で撃ち抜く事のみ。
「光よ…私に力を!」
「どうせ暇…ですって…?蹴りで仲間を癒せるとでもお思いで…?」

もう惑わされたり、迷ったりしませんよ。
見えない恐怖より見える恐怖の方がまだマシです。
怪異を撃退したら改めて…事件を解決させねばなりません。だから_
「絶望も、恐怖も…私が撃ち抜いてみせます」



 悪意に満ちた笑い声。
 目の前にいる少女から発せられたそれに、クリミネルは牙を剥く。
「『悪意』には悪意を、『死』には死を持って⋯⋯覚悟しいや、ガキンチョ。うちはそこまで甘かないで?」
 目の前で笑う少女は、恐れるどころかさも楽しそうに言ってのける。
「あら、だけれど私は帰るわよ? だってもう用は無いもの。あの子は回収したからね」
「待って!!」
 そう言ってスフィアが叫ぶ。
「あなたは⋯⋯あなたはどっちなの?」
 そう。
 椿と燕。
 今回の事件にかかわった二人の少女。
 スフィアが見た手記によれば、椿という名の少女はとうに死んでいる。
 だが、保護された少女は椿と名乗っていた。
「ふーん、あれ読んだんだ⋯⋯じゃあ、簡単に答え合わせしてあげよっか。せっかくだから」
「そんな暇あらへんでッ!!」
 クリミネルが腕を振ると、細い針のようなものが少女めがけて飛んでいく。
 だが、それをかばうように飛び出す足がその針を受け、まるで内側から何かに押し広げられるかのように裂けていく。
「あら危ない。えっとね、お姉さんたちが保護したのは燕だよ。あの子、自分の事を椿だって名乗る様にしてたから⋯⋯あのクソ親のせいで」
 そう言って吐き捨てるように言う少女、椿。
「あの子は優しいから⋯⋯私が死んだあと、変な宗教みたいな連中にどっぷりつかったあの二人のために、ずぅっと小芝居を打ってたんだよ。まるで私があの子の中にいるみたいに。変な連中と付き合っちゃダメだって⋯⋯⋯ま、そうでもしなきゃあの二人が構ってくれなかったのもあるかもしれないわね⋯⋯いずれにせよ、こうやって本当の私が生き返ったんだから、もうあの子に自分を偽らせる必要は無くなる。その辺は、ここにいた連中に感謝してあげてもいいわ」
 そう言って周囲を見渡す。
「ここにいた連中はどうなったんや? 少なくとも、死体が仰山あったはずやけど?」
 まぁ、分かりきっている。
 だが、少女の隙を作るため。この場に留まらせるために、あえてそんなことを聞いた。
「⋯⋯おかしなことを言うのね? さっき見たんでしょ、あれ。それに、目の前にもいるじゃない⋯⋯⋯⋯ほら、その白いスニーカーの足⋯⋯⋯⋯パパだよ?」
 ケタケタと笑いながら少女が指さすその先には、確かに白いスニーカーを履いた足があった。
「自分のお父さんを⋯⋯⋯⋯」
 スフィアがわなわなと震える。
 だが、椿は面白くなさそうに言った。
「いい子ぶらないでよ。この男はね⋯⋯死んだ私なんかに執着して、生きているあの子を蔑ろにしたの⋯⋯当然の報いよ」
 反論しようとするスフィアが面白くないのか、椿は一言放つとまるで亡霊のように消えていく。
「ま、いいわ。精々ダンスを楽しんで頂戴な、おねーさん」
 消える間際、酷く無機質な声が響いた。
「⋯⋯殺れ」
 その言葉と同時に足たちが二人に襲い掛かる。
「クソッ!!」
 クリミネルが応戦するが、いかんせん数が多い。
 スフィアは何かを考えるかのように固まってしまい、戦力になりそうにない。
「こなくそッ!!」
 だが、だからといって置いていくわけにもいかない。
 スフィアを守るように立ち、足たちと交戦する。

 恐怖はある。
 そして、先程の少女の話がどこまで真実なのかは知らないが、もし真実だというのなら同情も。
 目の前でクリミネルが戦っていた。
 ⋯⋯私はどうすればいい?
 もし目の前のあれが本当に犠牲者なのだとすれば⋯⋯
 ⋯⋯私に出来ることは⋯⋯⋯⋯
 そんなことは分かりきっている。
 不意にクリミネルの死角から襲い掛かる足に、愛用のサファイアロッドを向けると叫んだ。
「絶望を⋯⋯撃ち抜いてみせるッ!」
 放たれた光の矢がその足を穿つ。
「どうせ暇…ですって…?蹴りで仲間を癒せるとでもお思いで…?」
 私には私の仕事がある。
 先に戦い、傷ついたクリミネルに癒しの魔術を唱える。
「⋯⋯やっとやる気になったんか。随分スロースターターやね?」
 そう言ってにやりと笑うクリミネルに一言謝罪すると、真っ直ぐに敵を見た。
 ⋯⋯恐れはある。
 だがもう迷わない。
「『踊らされるな、踊らせてやれ』…です…!」
 そう言って再び構えるスフィアの前にクリミネルは立つ。
「うちが囮になるさかい、うちを撃ったら後でしばくで?」
 そんな風な軽口に、もし誤射してもすぐに治すからと軽口で返す。
「行きますよ!」
「了解や!!」
 迷いのない二人の前に、たかが足の群れなど敵ではない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

氷川・零
まさか、あの”足”に潰されて、この人たちは”ああ”なってしまったのでしょうか?絶対踏まれてはなりませんね...

アレは椿さんでしょうか?椿さんはUDC-Humanだった?前の襲撃の時は大人しく確保されたそうですが...いえ、師匠ならまずこう言うでしょう。「分からないなら殴るべし」と。

まずは足の怪物を倒すべきですね。

何か周りで使えそうな物はないでしょうか?あの足達が「踏む」という動作をする以上、地面との接触は必ず行うでしょう。地面が水浸しで、電気系統が生きているなら、【メカニック】【破壊工作】で「電気ショックトラップ」を作成できるかも。えっと、後は零のUCで味方の装備を強化するぐらいでしょうか?



 響く声に身構える。
「あぁ⋯⋯あぁ⋯⋯ッ!!」
 怯えるように背後の肉塊が嘶く。
 まさか、あの”足”に潰されて、この人たちは”ああ”なってしまったのか。
 零の脳裏に一瞬にして仮説が立つ。
 だが、今はそんなことはどうでもいい事だった。
 きっと、そんなことを気にしている間に自分の後ろにいる肉塊たちの仲間入りを果たしてしまうだろう。
 そんなのは御免だった。
「コゴロウ!!」
 相棒の名を呼べば、いつでも行けると言わんばかりの低い唸りが響く。
「援護するッ!!」
 連れてきた職員も銃を構えた。
「セーフティを解除します⋯⋯⋯⋯」
 先程の少女の声。
 状況はうまく理解できないが、師の言葉にこんな状況にぴったりな言葉があった。

 『分からないなら殴るべし』

 酷く雑把だが、考えるだけで何もしないよりよほどましだ。
 先に仕掛けたターレットのスイッチを入れると、けたたましい発砲音が鳴り響く。
「ガウッ!!」
 それと同時に、職員の発砲とコゴロウの攻撃が始まった。
 一度攻撃を2人に任せ、零は周囲を探る。
――何か⋯⋯何か使えそうなものは⋯⋯ッ!?
 天井から垂れる配線。そして⋯⋯⋯⋯水たまり。
 素早く天井から垂れる線を引っ掴み、近くにあった金属に近づけると、バチンという音と共に青いスパークが走る。
 これならいけるはずだ。
 配線の先にあったブレーカーボックスを開けて、恐らく配線がつながっているであろうブレーカーを落とす。
 そのまま線を引っ張り出して水たまりへと投げ込むと、コゴロウを呼んだ。
「コゴロウッ!!」
 主人の意図を汲んだのか、配線のつながる水たまりへと飛び込むコゴロウ。
 幾何かの足がそれを追うように水たまりへと足を踏み入れる。
――もう少し⋯⋯ッ
 びちゃびちゃと音を立ててコゴロウへと迫りくる足たちを観察し、最適なタイミングを計る。
「今だッ!!」
 零の叫びと共にコゴロウが飛び退いた。
 それと同時にブレーカーを引き上げると。
 バチンという音と共に水たまりへと電流が走る。
 凄まじいスパークと共に、巻き込まれた足たちがどんどんと黒く焦げていき、畳み掛けるかのようにタレットと職員が射撃を続け、複数の足を排除していった。
 咄嗟の思い付きではあったが、うまくいった。
 仮にも戦闘中だというのに、零の頬が緩む。
 こういう経験は、やはりうれしいものだ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

キャロル・キャロライン
あれらがオブリビオンなのかどうか、それは分かりません
ですが、私達に敵意、悪意を持っていることは明らかです
ならば私は、私の責任として、ここまで御同行いただいたお二人をお守りいたします

剣と盾とを構え、お二人を背に庇いながら、魔法の指輪で結界を張ります
UCで幾多の白銀の鎖を召喚し、敵の足を動きを見切って捕縛
続けて白銀のランスを召喚し、動きを鈍らせた足を貫き、制圧します

本来ならば、あのツバキという少女を追うべきなのでしょう
足を従え、この場にいた方々をあのような姿にしたこと、決して許せるものではありません

ですが、私はこの世界の者ではありません
オブリビオン以外のことに干渉する権利はありません



 仲間たちが戦っている。
 あの少女がオブリビオンなのか、私にはそれは分からないことだ。
 本来ならあの少女を追うべきなのだろう。
 たとえどんな理由があろうと、彼女の行いは悪である。
 断罪されるべきものだ。
 ⋯⋯だが、もし仮にそうだとしても、私には彼女を追うことは出来ない。
 そして目の前の存在についてもオブリビオンであるという保証がない以上、本来ならば戦えば世界への過度な干渉になりうる。
 それは意に反する。
「⋯⋯ですが」
 責任がある。
 自分の背後で武器を構え指示を待つ二人の職員を視界の端に見た。
 彼らをここへ連れてきたのは私だ。
 であるならば、私には彼らを守る義務がある。
 重い槍をを地面へと突き立て、敵へと真っ直ぐに手を伸ばすと、指にはめた指輪が淡く輝いて、薄ら白いベールが広がっていった。
 温かなそれが三人を包むと、キャロルは静かに呟く。
「カテーナ⋯⋯咎人を縛る鎖を⋯⋯ここへ」
 その言葉に呼応するかのように白銀に輝く鎖が放たれた。
 鎖は真っ直ぐ撃ち果たすべき敵へとその身を伸ばす。
「逃がしませんよ」
 かつてフェンリスヴォルフを縛ったグレイプニールが如く。
 それは眼前の敵を縛り、その動きを止めた。
 それを好機と見て後ろで武器を構えた二人をキャロルは制止する。
「手出しは無用⋯⋯私にはあなた方をここに連れてきた責があります。その責をどうか務めさせてくださいませんか?」
 一瞬二人は目を見合わせたが、黙ってキャロルの言葉にうなずくと武器を下ろした。
「感謝致します⋯⋯では⋯⋯⋯⋯」
 じたばたともがく哀れな囚人達に、裁きの鉄槌を。
 突き立てた槍を掲げて、祈りを捧ぐ。
「ハスタス⋯⋯罪を裁く断罪の槍よ。その身をもって浄化を示し、その輝きをもって不浄を裁き給えッ!!」
 指輪の放った淡い光とは比べ物にならぬ強い光が槍の先端から放たれた。
 放たれた光は分かたれ、一つ、また一つと寄り集まり、それぞれが鋭い槍へと変わっていく。
 全ての光が形を成したとき。
 キャロルは静かに槍を下ろすと、彼らに命を与える。
「Perforatus!!(穿て!!)」
 キャロルの声に従い放たれた光は一切の躊躇なく縛られた敵へと降り注ぐ。
 
 暫く経って、光の雨が降り止むと同時に鎖は役目を終えたかのように虚空へと消えた。
 いつからだろうか?
 地下にいたはずの全員はいつの間にか最初に降りたホールに集い、職員たちは何事かと慌てている。
「⋯⋯恐らく、あの少女がここを去ったのでしょう⋯⋯⋯⋯ですが、恐らく先程の“アレ”は残ったままです」
 そう。
 少女が去ったとて先程の犠牲者達の肉塊はまだこのフロアの奥に居るのだろう。
 ⋯⋯だが、それにキャロルは干渉しない。
「後の事後処理はお任せします⋯⋯⋯⋯帰りましょうか」












 to UDC本部
 from 石川椿及び調査チーム捜索班
 Subject 作戦終了簡易報告。


 石川椿及び交戦したUDC

 失踪した少女、石川・椿に関してUDC化の嫌疑あり。
 対象は恐らく施設内にあった遺体の脚部を用いたと推測されるUDCを召喚し逃走。
 逃走と同時に地下空間の異常性は無効化されたことを確認しました。
 また、脚部を用いたと思われるUDCは猟兵が交戦し抹消しました。

 調査チームと発見した“上半身の集積物”

 調査チーム三名の死亡を確認。
 これらの脚部も襲ってきたUDCのパーツにされた模様。
 また、元々の遺体含め使用されなかった脚部以外の部位は集積され、同じく怪物に変異していることを確認。
 しかしながら、自我の片鱗と共に“彼ら”が抹消を望んだため、こちらの判断で対応しました。
 調査チームの遺族への迅速な対応を願います。


 補足
 
 件の少女に関して、その能力こそはっきりとはしないものの、恐らく邪神クラスのものと推定。
 また、昨今のUDC-Human事件に関して、有力な情報は掴めず。
 今後とも猟兵の力が必要になることは想像に難くない。
 引き続き、協力要請を続けられたし。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年07月19日


挿絵イラスト