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偽りの後先

#サクラミラージュ #幻朧戦線 #籠絡ラムプ

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●前
 幻朧桜が一年中咲く誇るサクラミラージュにおいても、季節の花々は桜の花弁に負けず劣らず咲き誇っている。
 しとしとと雨が降りしきる梅雨の頃。
 雨のしずくは花々を濡らす。それは艷やかな色をさらに引き立たせる輝きにも似ていたことだろう。

 紫陽花寺と呼ばれる敷地に紫陽花の花が咲き誇る名所がある。
 すでに紫陽花が咲き誇り、一面に広がる光景は誰もが足を止めて見入ることだろう。
 だが、そんな紫陽花寺を懸命に駆けていく青年があった。濡れるのも構わず、懐にしまい込んだ包を濡らさぬように懸命に走っていた。
 息が上がる。
 足が痛みを訴える。けれど、彼は走る。走らねばならない。少しでも早く病床の母に薬を届けなければならない。

 自分の稼ぎでは充分に治療してあげられない。手に入る薬もまた少量だ。
 だが、それでも彼は走る。少しでも母の病状が良くなるようにと。
「きっと、きっと良くなる……! 僕が、僕がきっと……!」
 それは足掻くような、みっともない走りであったかもしれない。けれど、彼の眼差しは梅雨時期の曇天にあって尚、輝いていた―――。

●後
「く―――ッ! 我等『幻朧戦線』の邪魔をする者は誰か!」
 帝都の闇夜にまぎれて騒乱を生み出す幻朧戦線の構成員達。彼等は常に帝都の平穏を偽りと断じ、平穏続く大正の世を終わらせようと暗躍している。
 彼等は今、帝都において騒ぎを起こそうとして、一人のユーベルコヲド使いに悪事の計画を挫かれた。
 幻朧戦線の目の前には槍斧構えし鉄仮面。緑の外套を羽織、振るう一撃はどんな悪事をも見逃さない。
 誰が呼んだか、十字鉄仮面侍。
「貴様らの悪事は全てお見通しだ。この鉄十字が輝く時、正義の裁きを受けると知れ―――!」
 手にした槍斧を振るい、幻朧戦線の構成員たちを打ち倒す十字鉄仮面侍。

 打ち倒された構成員たちは皆、警察へと突き出され拘束されていく。
「ありがとうー! 十字鉄仮面侍ー!」
 人々の拍手喝采が、鉄仮面のユーベルコヲド使いへと惜しみなく浴びせかけられる。そう、帝都において一躍時の人となった十字鉄仮面侍。
 新聞の一面には、そのミステリアスな容貌と正義を為す行いに賞賛の言葉が惜しみなく綴られている。
 市井の子供たちは十字鉄仮面侍ごっこばかり遊び、「この鉄十字が輝く時」という決め台詞が流行語になるほどであった。

 だが、誰も十字鉄仮面侍の正体を知らない。稀代のユーベルコヲド使い、その為人は謎に包まれていたのであった。

 ―――その鉄仮面の奥の瞳は晴れやかなる喝采の中で曇っていた。

●先
 グリモアベースに集まってくる猟兵たちを出迎えるのは、ナイアルテ・ブーゾヴァ(フラスコチャイルドのゴッドハンド・f25860)である。
 彼女はいつものように微笑みながら頭を下げる。
「お集まりいただきありがりがとうございます。今回の事件はサクラミラージュ、幻朧桜咲き乱れる大正の世の続く世界です」
 サクラミラージュでは今、『幻朧戦線』と呼ばれる組織が暗躍し、影朧を使った事件を頻繁に起こしているのだ。
 今回の事件も幻朧戦線絡みであるのだろうと猟兵たちは構える。

「はい、たしかに幻朧戦線の企みの一部であることは間違いありません。ですが、今回直接、幻朧戦線の構成員たちと戦うことはありません。偽ユーベルコヲド使いの持つ、『籠絡ラムプ』と呼ばれる不思議なオイルランプを確保してほしいです」
 ナイアルテが予知したのは、今帝都で大人気のユーベルコヲド使い『十字鉄仮面侍』が、その『籠絡ラムプ』によって匿った影朧の力をまるで自分のユーベルコヲドのように扱い人気者として名声を得ているのだという。

 だが、『十字鉄仮面侍』は悪事を働く者、幻朧戦線などのテロ行為を行う者にだけユーベルコヲドを行使しているのだという。
 私利私欲のためではなく、あくまで悪意ある者にだけユーベルコヲドを使っているようだった。
「確かに偽ユーベルコヲド使い『十字鉄仮面侍』の行いは善行であるのかもしれません。ですが、影朧を操る『籠絡ラムプ』は幻朧戦線が市井にばらまいた『影朧兵器』なのです。今は良いかも知れませんが、いずれ限界を迎え、影朧は暴走し帝都の人々に多大な被害を及ぼしてしまう可能性があるのです」
 そうなる前に偽ユーベルコヲド使いから『籠絡ラムプ』を取り上げてほしいのだという。

 そして、今回要になるのはグリモア猟兵による予知であろう。
 此のタイミングであれば、偽ユーベルコヲド使いは、紫陽花寺と呼ばれる紫陽花咲き誇る寺へと立ち寄るのだという。
「名前をタイジさんと言う青年が偽ユーベルコヲド使いです。彼は偶然『籠絡ラムプ』を手に入れましたが、我欲を満たすためにそれを使わず、正義のために使うと決めたようです。彼の日課は紫陽花寺への参拝。そこへ赴き、その後どこへ向かうのかを突き止め、先回りしましょう」
 感づかれてしまうといけないので、本人との接触は先回りした場所で行わないとならない。

「彼が一体どんな思いで、何を目的として慈善活動のような行いをしているのかは、まだわかりません。もしかしたら、先回りするための情報収集の段階でなにかわかるかもしれません。その点を踏まえた上で、『籠絡ラムプ』から呼び出された影朧を倒しましょう」
 どちらにせよ、猟兵がタイジ青年の行く手に先回りした時点で、彼は全てを悟り、猟兵たちと対峙するであろうことはわかっている。
 望まぬ戦いでは在るが、呼び出された影朧は暴走寸前である。
 これを打倒し、タイジ青年から『籠絡ラムプ』を取り上げるしかない。

「タイジさんから、『籠絡ラムプ』を取り上げた後は……公衆の面前で全てを失った彼に対する処遇を決めていただきたいのです。彼がどのような思い、考えを持って行動していたのかはわかりません。ですが、悪意はなかったのだと私は思います……これも憶測でしかありません。みなさんが得た情報、感じたもの、それらを総合的に判断して、決めてください……」
 ナイアルテはわずかに瞳を伏せた。

 いつだってそうだが、猟兵たちに決断を願うしかない。現場で戦い、感じたものが、きっと彼女の予知以上に大切な要因となることは間違いなかった。
 だからこそ、委ねる。
 厳しい道をゆき、前を向く者にこそ、正しい判断が下せるのだから―――。


海鶴
 マスターの海鶴です。どうぞよろしくお願いいたします。
 今回はサクラミラージュの事件になります。幻朧戦線が市井にばらまいた影朧兵器『籠絡ラムプ』を回収し、それによって人生の歯車がずれた青年を救うシナリオになります。

●第一章
 日常です。
 帝都で日常生活を送るターゲット、偽ユーベルコヲド使いである青年タイジの素性を調べあげましょう。
 彼は必ず毎日紫陽花寺と呼ばれるお寺へと参拝します。住職や近隣住民に彼の素性を聞き込みしてもいいですし、参拝して寺を後にする彼をこっそり尾行して、これよりどこに行くのかを突き止めてもいいでしょう。

 この章で得た情報を元に第二章の舞台へと先回りをします。

●第二章
 ボス戦です。
 第一章で得た情報から先回りした舞台での戦いとなります。
 偽ユーベルコヲド使いであるタイジ青年が呼び出した暴走寸前の影朧、巷で噂の『十字鉄仮面侍』と呼ばれる影朧との戦いになります。
 影朧兵器『籠絡ラムプ』によって呼び出された影朧ですが、非常に高い戦闘力を持っています。

●第三章
 偽ユーベルコヲド使いであるタイジ青年から『籠絡ラムプ』を取り上げ、破壊すると共に彼は全てを失いました。
 これまでの章で得た情報を元に、彼の処遇を決めて下さい。

 それでは、幻朧桜舞い散る世界、サクラミラージュにて暗躍する幻朧戦線の企みの一端である『籠絡ラムプ』を取り上げ破壊し、タイジ青年を断罪するのか、それとも慰め、再起を促すのか。
 決断を迫られる物語となりますが、これもまた皆様の物語の一片となれますように、いっぱいがんばります!
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第1章 日常 『紫陽花寺の花みくじ』

POW   :    全力で楽しむ

SPD   :    優雅に楽しむ

WIZ   :    しっとり楽しむ

イラスト:葎

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 偽ユーベルコヲド使い、タイジ青年は紫陽花寺と呼ばれる寺院へと立ち寄る。
 彼の正体が帝都中から賞賛を受ける『十字鉄仮面侍』であるとは、まだ誰も知らない。彼は懐に忍ばせた『籠絡ラムプ』を抱えたまま、ひどく疲労した顔のまま参拝を済ませる。

「―――……このままでいいのだろうか」
 手にしているのは処方箋。
 独白がこぼれ、その曇った眼は虚空を見やる。確かに悪事を働くものを懲らしめるのは、人道に則った行いであった。
 けれど、それは己の力ではない。
 この不思議なオイルランプによって影朧を自分に見立てて戦わせているだけに過ぎない。

 悪党を懲らしめる。報奨金を受け取る。
 最初は心踊った。
 けれど、次第にそれは作業になった。母親の病状はよくなっている気がする。薬代は高いが、それに見合った効果は出ている。

 本来なら誇らしい気持ちになるはずなのに。
 どこか晴れない。しとしとと雨が降りしきる中、ゆっくりとタイジ青年はどこかへと歩いていくのだった―――。
村崎・ゆかり
帝都の夜を騒がせる快男児にも、事情があるわけね。

あたしは住職さんに断って、愛奴召喚で呼び出したアヤメと相合い傘を差しながら、雨の中で紫陽花見物でもさせてもらうわ。目標人物が参詣したら、すかさず黒鴉召喚で式に後を尾けさせる。

思考を自分自身と式の感覚に分けて行動するのもいつものこと。式神が尾行して情報を得るのと、今ここでアヤメとおしゃべりに興じるのと、完全に同時にこなせる。

このお寺、池があれば菖蒲の花も咲いているかしらね? あれも雨の中風情があっていいものだわ。ね? そう思わない、アヤメ?

――さて、そろそろ出向きましょうか。望まれない客人(まろうど)として、彼の元へ。全ての闇を払うために!



 平穏そのものの帝都を脅かす影。それが幻朧戦線である。
 彼等の活動は日に日に過激さを増している。グラッジ弾、影朧甲冑……そして、猟兵たちの耳に最近入ってくるようになったのは『籠絡ラムプ』。
 それは影朧を己の力のように操ることのできる影朧兵器である。それを扱って影朧の力を己のユーベルコヲドのように振る舞う偽ユーベルコヲド使い。
 平和そのものの帝都であったとしても、そこかしこに騒乱の火種はくすぶっているのだ。

 そんな帝都にあって最近注目されるようになったユーベルコヲド使い『十字鉄仮面侍』。彼の活躍は目覚ましく、幻朧戦線が悪事を働く前に現れては、構成員たちに正義の鉄槌を下して去っていく。
 無論、幻朧戦線の構成員を捕らえたとなれば、報奨金が出る。政府は公にしていないが、『十字鉄仮面侍』が捕らえた幻朧戦線の構成員は相当な数に上っているという。
「帝都の夜を騒がせる快男児にも、事情があるわけね」
 村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)は、未だ鉄仮面の素顔を晒さぬユーベルコヲド使い『十字鉄仮面侍』に何か事情があるのだと踏んでいた。
 グリモア猟兵の情報の通りに紫陽花寺へと赴き、自然を装ってユーベルコードによって呼び出した恋人のアヤメと相合い傘を差しながら、紫陽花の名所をゆっくりと歩く。

 そんな彼女の視界に映ったのは、情報にあったタイジ青年。
 思いつめたような表情のまま参拝する彼の瞳はどこか曇っていた。何故、そんなことが遠目でわかるのかというと、彼女のユーベルコード、黒鴉召喚(コクアショウカン)によって召喚された鳥型の式神と五感を共有しているからだ。
「このお寺、池があれば菖蒲の花も咲いているかしらね?あれも雨の中風情があっていいもおんだわ。ね?そう思わない、アヤメ?」
 彼女の恋人であるアヤメの名と同じ花。
 互いに一つの傘に身を寄せ合いながら睦言を交わし合う姿は、どこからどうみても幸せそうな一組のカップルであったことだろう。

「そうですね……紫の紫陽花も瞳の色と同じですよね。綺麗……」
 ゆかりはアヤメとの会話に意識を置きながらも、共有した式神との感覚を分けて行動することなど造作もない。
 彼女にとって、これはいつものことだ。完全に式神での尾行とアヤメとの会話を両立させているのだ。

 式神がタイジ青年の背中を追う。
 彼が市井を賑わせている『十字鉄仮面侍』であるというのならば、彼はもっと誇らしく胸を張ればいい。
 自分がそうであるのだと名乗り出れば良いのだ。だが、彼は本当のユーベルコヲド使いではない。
 あくまで『籠絡ラムプ』の力によって成したことであり、彼自身の力ではない。

 だから、彼は胸が貼れない。
 とぼとぼと歩みゆくのは、街中である。手にした処方箋。それを盗み見た式神から送られてきた情報にゆかりは得心が行く。
 処方された薬、そのどれもがこの世界においては先進的な薬剤ばかりだ。
 これを購入できるほどの資金を持つのは、資産家か政府高官のツテがあるものばかりだろう。そして、タイジ青年は、そのどちらでもない。

 ならば、彼が『籠絡ラムプ』を使ってでも報奨金を得たいという理由は自ずと見えてくることだろう。
「―――さて、そろそろ出向きましょうか。望まれない客人(まろうど)として、彼の元へ。全ての闇を払うために!」

成功 🔵​🔵​🔴​

御園・桜花
「毎日お寺に詣でるほど、心に重石を感じるのでしょうか。神よりも御仏の方が、人の悔いを許して下さりそうな気がしますもの。もしも日々何かの呵責を感じていらっしゃるなら…お可哀想に思います」

UC「蜜蜂の召喚」使用
紫陽花を観賞していない参拝客を探させ、その人物についていくよう指示

自分はゆっくり紫陽花を観賞しつつ、途中茶屋に寄ったり住職に寺の由来を聞いたりしながら、如何にも世間話のようによく参拝する人の話(どんな人が何時頃よく見に来るのか)を聞いたりする
得た情報は全て他の仲間と共有する

「悪漢退治しか行わないのですもの、根は真面目な方だろうと思うのです。心が軽くなるような協力が出来れば良いのですが」



 人の心に重く伸し掛かるのは、一体どのようなものであっただろうか。
 人はそれを自在に拾ったり、捨てたりすることができる生き物ではない。理性と本能が混在する生命であるがゆえに、時に間違い、時に道を踏み外す。
 それを断ずることができるのは、他者だけである。
 人は己の身の丈、歩幅、それをいつだって正しく理解しているわけではないのだから。どれだけ己の心に伸し掛かる想いが大きなものであるのか、理解しないままに人生という道を歩むしかないのだ。

「毎日お寺に詣でるほど、心に重石を感じるのでしょうか。神より御仏の方が、人の悔いを許してくださりそうな気がしますもの」
 ぽつりと呟きを漏らすのは、御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)である。彼女の瞳が捉えるのは、グリモア猟兵の情報にあった偽ユーベルコヲド使いとされている青年、タイジ。
 彼の足取りは覚束ないものである。彼女の言葉がそう評したように、どこか体に重石を負っているような足取りであった。
「もしも、日々何かの呵責を感じていらっしゃるなら……お可哀想に思います」
 桜花の言葉は半分当たっていたとも言える。

 彼女がタイジ青年の姿を捉える前、ゆっくりと紫陽花を鑑賞しつつ、途中立ち寄った茶屋で寺の住職と話すことができたのだ。
 紫陽花寺と称される由来であったりと、何気ない会話を織り交ぜながら、世間話をつづていた時だった。
「これだけ見事な紫陽花であれば、毎日のように参拝する人もいらっしゃるのでしょうね……?」
 桜花の疑問は白々しくなく、自然な流れで切り出される。
 住職もそれまでの世間話の弾みで、そうですなぁ、と話をしてくれる。一人の青年が毎日訪れるのだという。
 朝と夕方。
 必ず参拝し、祈願することがあるのだろう。随分前から日課になっているのだという。

「病床の母君が……そうですか」
 半分当たっていると言ったのは、確かに重石を感じているが、それは己の働きが母親の容態に直結する重圧であるからだ。
 現に『十字鉄仮面侍』が制裁を加え、捉えるのは報奨金の掛かった幻朧戦線の構成員たちのみである。
 それ以外には現れる気配がない。ただ人気者になりたいだけではないのだ。

 確実に彼の行動は慈善活動に見えるが、それは手段でしか無いということだ。目的は報奨金。
 それを思い出しながら、桜花はユーベルコード、蜜蜂の召喚(ミツバチノショウカン)を発動する。召喚された蜜蜂は桜花自身との感覚を共有し、参拝を済ませて去っていくタイジ青年の背中を追う。

「悪漢退治しか行わないのですもの、根は真面目な方だろうと思うのです……」
 住職の話、報奨金、病床の母。
 その情報の断片は次第に形を帯びていく。それはタイジ青年の為人である。自身の人気や名声に執着する様子のないのは、他の偽ユーベルコヲド使いとは違う何かを桜花に感じさせたかもしれない。

 だからこそ、彼女は思うのだ。
「心が軽くなるような協力ができれば良いのですが」
 そう、何もかも一人で抱える必要はないはずだ。
 それに、彼の手にした力『籠絡ラムプ』。それが間違った力であるというのならば、桜花達、猟兵はそれを取り上げ、破壊せねばならないのだ。

 時にそれは残酷なことであるかもしれない。
 だが、もっと悲惨な結末を防ぐためには必要なことなのだ―――。

成功 🔵​🔵​🔴​

鈴木・志乃
毎日お寺に参拝なんて殊勝な心掛けだね
……まぁ、でも、そこまでするってことは
何らかの願いがあるんじゃないかと、裏を読んでしまう訳だけど。

人を助けているからには、悪い願いじゃないんだろうけどね。
住職さんに話を聞いてみようか。参拝のついでに。
猟兵だと素直に話して、彼の身が危ないから彼について教えてくれと言う
実際、ランプが暴走したら真っ先に危ないのは彼だしね

些細なことでも良いのです
私は彼を助ける為に少しでも情報が欲しい
彼は誰で、どんな人で、何の為にいつも参拝しているのか
……知らなきゃ最後にかける言葉も見つからない

山門、手水舎、常香炉、賽銭箱、鈴でUC発動
タイジさん、貴方は何を想ってここに……。



 しとしとと雨が降りしきる。
 梅雨の頃の雨はいつだって、人の心に何かを運んでくるような気がしたかも知れない。
 それは人によっては不安であったりするのかもしれない。だからこそ、自身ではない何かにすがろうと思うのかも知れない。
 幻朧戦線が市井にばらまいた影朧兵器『籠絡ラムプ』。その一つはこの紫陽花寺と呼ばれる寺院に訪れていたタイジ青年の手元にある。
 それを取り上げ破壊するのが、今回の事件の肝要である。

「毎日お寺に参拝なんて殊勝な心がけだね……まぁ、でも、そこまでするってことは、何らかの願いがあるんじゃないかと、裏を読んでしまうわけだけど」
 鈴木・志乃(ブラック・f12101)は、そう思ってしまうのだった。
 人はなにか心に後ろ暗いことがあると、普段とは何か違う行動をとってしまうものだ。タイジ青年も、その例に漏れることはないだろうと思ったのだ。

「人を助けているからには、悪い願いじゃないんだろうけどね」
 彼の行い―――偽ユーベルコヲド使い『十字鉄仮面侍』としての行動は非難されるものではない。猟兵である志乃をしても、褒められたものであるとお思えるほどだ。
 だが、その手にしたものが仮初のものであり、影朧兵器であるという点を除けばの話である。
 そんな彼女が向かったのは紫陽花寺の住職の元だ。
 住職であれば、毎日参拝に来る青年のことを知っていてもおかしくはない。

「彼の身が危ないのです。どうか彼について教えてください」
 志乃は素直に自身が猟兵であることを告げる。
 サクラミラージュにおいて猟兵とは超弩級戦力のユーベルコヲド使いとして認識されている。そんな彼女に対して協力を惜しむことはないだろうと踏んでのことだ。
「些細なことでも良いのです。私は彼を助ける為に少しでも情報が欲しい。彼は誰で、どんな人で、何のためにいつも参拝しているのか」
 そう、知らなければ最後に書ける言葉も見つからない。

 住職の話では、タイジ青年は以前から参拝に来ていた母親と二人暮らしの青年なのだという。
 彼の母親は病床にあって、高価な薬を使わなければ症状が悪化する。それ故に、神頼みのように毎日参拝に来ていたのだという。
 礼儀正しい青年であるという印象だったそうだ。
 タイジ青年が寺に参拝していたのは、母親のため。病床の母親の容態がよくなるようにと祈っていたのだろう。

「……想いよ、伝われ、浮かび上がれ」
 彼女のユーベルコード、朝焼け(サンライズ)が発動する。それは周囲の残留思念を自身へと伝える光。
 山門、手水舎、常香炉、賽銭箱、鈴……そのどれもがタイジ青年を見ていたことだろう。
「タイジさん、貴方は何を想ってここに……」
 見える残留思念。
 それはタイジの苦々しい表情だった。
 全ての事が順調に推移しているはずなのに、もどかしさを振り切れない顔。割り切れない顔。葛藤している顔だった。

 今、彼の心を締めるのは葛藤そのものだったのだ―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

神代・凶津
『十字鉄仮面侍』ねえ。
やってる事は悪かねえんだが、如何せん使ってる力がヤバい代物のようだな。
取り返しのつかなくなる前に止めねえといけねえな。
「・・・タイジさんという人も悪い人には思えません。何か事情があるのでは?」
そうだな相棒。
その辺の事情も調べた方がいいかもな。

どうやらタイジって奴は毎日紫陽花寺とやらに参拝に来ている様だな。
本人が来るまで住職から情報収集でもして待つとするか。

本人が来たら相棒の式神【追い雀】で尾行するか。
こいつは五感が共有できるから離れていてもバッチリだぜ。

さてさて、鬼がでるか蛇がでるか。
「・・・どうにか穏便に解決できるといいのですが。」


【技能・情報収集】
【アドリブ歓迎】



 帝都を賑わすのは『十字鉄仮面侍』。
 その言葉の響きだけで、ならず者たちは震え上がる。次は己の前に『十字鉄仮面侍』が現れるのではないかと戦々恐々なのだ。
 だが、彼等の前に『十字鉄仮面侍』は現れない。いつだってあられるのは、幻朧戦線の構成員たちが凶行を起こした時だけだ。
 彼等の凶行を未然に防ぎ、次々と打倒していく槍斧を持つ緑の外套の鉄仮面。
 その姿は颯爽としており、大衆の瞳には正義の見方のように映ったことだろう。

『『十字鉄仮面侍』ねえ……やってることは悪かねえんだが、如何せん使ってる力がヤバい代物のようだな』
 神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)、そのヒーローマスクたる仮面が唸る。その行い事態に悪意は感じられない。
 むしろ、正義を為すという意味では歓迎すべきことであったのかもしれない。ただ、その力の源である『籠絡ラムプ』が影朧兵器であり、それもまた幻朧戦線が巻いた災いの種であることを知っているからこそ、凶津は全面的に諸手を挙げて、とはいかなかったのだ。
『取り返しのつかなくなる前に止めねえといけねえな』
 その言葉に頷くのは相棒である巫女服の少女、桜である。
「……タイジさんという人も悪い人には思えません。何か事情があるのでは?」

 彼女の言葉は真実を穿っていた。
 他の猟兵たちも掴んでいる情報であったが、タイジ青年は何か悪意を持って事を為す人間には思えなかったのだ。
『そうだな、相棒。その辺の事情も調べた方が良いかもな』
 そう言ってやってきたのは、タイジ青年が足繁く参拝しているという紫陽花寺である。
『どうやらタイジって奴は毎日、紫陽花寺とやらに参拝に来ている様だな。本人が来るまで住職から情報収集でもして待つとするか』

 住職からは、よくタイジのことを聞かれると言われた。
 他にも猟兵たちがやってきているのだろう。彼には病に臥せっている母親がいるのだという。高額な薬を使わないと容態が悪化するようで、その薬代を捻出するために朝から晩まで働いているのだという。
 それでも毎日参拝には必ず来ているので、よく覚えているのだという。

 それがタイジ青年が『籠絡ラムプ』を手放せない理由だろう。
 高額な薬を手に入れるということは、資金がいる。つまりは、偽ユーベルコヲド使いとして幻朧戦線の構成員たちを捕らえているのは、報奨金が目当てということだ。
 ならば、その行いになにか事情があるのではと見た桜の見立ては正しかったのだ。
『おっと……噂をすれば本人だな。頼んだぜ、相棒』
 式神【追い雀】(シキガミ・オイスズメ)、それは桜が雀の式神を召喚し、タイジ青年を追跡するのだ。
 五感を共有するため、離れていたとしても逃がすことはない。

 むしろ、タイジ青年の足取りは重く、取り逃がす心配もなさそうであった。
 そして、彼の足の向き先は―――街中、方角的に見て薬局のようだった。
『さてさて、鬼がでるか、蛇がでるか』
「……どうにか穏便に解決できるといいのですが」
 行く先は分かった。ならば、猟兵である凶津と桜が行わなければならないのは、先回りし、偽ユーベルコヲド使いであるタイジ青年から『籠絡ラムプ』を取り上げること。

 穏便に、と相棒の桜は言った。
 けれど、凶津には確信があった。その穏便に、と祈った願いは、きっと叶わない。
 きっとタイジ青年は『籠絡ラムプ』を手放さない。高価な薬を手に入れなければならないのならば、それが母のためならば、尚更。

 だからこそ、凶津と桜は走るのだ―――!

大成功 🔵​🔵​🔵​

マグダレナ・クールー
清らかで、善い人なのですね。その青年は
少しだけ羨ましいです。わたくしは、私腹を肥やすために暴力を行っていますから

もし、わたくしが青年の立場であれば。力を取り上げられるとしたら。我が身可愛さ故に抵抗します
《ニクバナレニ?ニクバナレカ!?クゥーチー……》
……ああ。オウガブラッドでなくなるのは、ちょっとアリですね?!
《ヒ、ヒドウニ……ゲドウ》
ええ、笑えない冗談ですよ。お互い心外ですね

仲直りに協力しましょう。リィー、タイジさんを追跡してください
どんな顔で、どんな表情をしていたか。教えてください
わたくしは後方で聞き耳を行います
……彼の正義は、きっと尊いもの。……手荒な真似は、本当ならば。避けたいものです



 正義を為すということは、どれだけの正しさがあれば為せるのだろうか。
 万人のための正義は存在しない。
 正義とは真逆の側にいる者にとっては、悪である。否。正義とは誰しも持つものである。たった一つの正義はなく、人々の心にある等身大の正義が数多くある、それだけのことでるあるのだ。

 影朧兵器『籠絡ラムプ』を持つ偽ユーベルコヲド使いであるタイジ青年の抱く正義とは何か。
 人気者になりたい、称賛されたい、そのような感情を『十字鉄仮面侍』として市井を賑わす彼にはないように思えたのだ。
 ただ誰が為に。
 たった一つの正義を胸に抱いて、彼は幻朧戦線の構成員を捕らえ続けるのだ。

「清らかで、善い人なのですね。その青年は」
 マグダレナ・クールー(マジカルメンタルルサンチマン・f21320)は、タイジ青年をそう評した。
 彼が行うのは自身の欲求ではないのだとマグダレナは理解した。手にした力はいびつで善き物であるとはいえないけれど、力の使い方次第でこんなにも違いが出るのだと彼女は思ったのだろう。
「少しだけ羨ましいです。わたくしは、私腹を肥やすために暴力を行っていますから―――」
 彼女が戦う理由。
 己の糧とするためである。オウガとの共存の代償。彼女の視界はネジ曲がっている。常人であれば、狂気に飲まれるであろう視界。
 けれど、彼女の強靭なる精神は、それを許さない。飲み込み、前に進む。

 その視界で見た世界にタイジ青年の姿は羨ましいものに映ったのかもしれない。
「もし、わたくしが青年の立場であれば。力を取り上げられるとしたら。我が身可愛さ故に抵抗します」
 それは盲目のオウガとの共存が終わるということである。
 彼女にとって暴力とは手段であるのだろう。保る為。歪む視界。手にした力は、猟兵となっても彼女を彼女たらしめる要素である。
 それが欠けてしまえば、マグダレナはマグダレナではなくなるのだと、理解していた。
《ニクバナレニ?ニクバナレカ!?クゥーチー……》
 共犯者たるオウガが言葉を発する。
 それはマグダレナにしか理解出来ない言葉であったかもしれない。その言葉にマグダレナは応える。

「……ああ。オウガブラッドでなくなるのは、ちょっとアリですね?!」
《ヒ、ヒドウニ……ゲドウ》
「ええ、笑えない冗談ですよ。お互い心外ですね」
 オウガブラッドではない自身。
 それは支払った代償も、暴虐も、すべて忘却の彼方へと追いやる行為である。それをマグダレナが許容するわけもない。
 だからこそ、笑えない冗談である。

「仲直りに協力しましょう。リィー、タイジさんを追跡してください。どんな顔で、どんな表情をしていたか。教えて下さい」
 ユーベルコード、冥冥デカダンス(シーミンフゥーディエ)によって、自身の視界を支配するオウガ、共犯者、リィー・アルが呼び出される。
 彼女の言葉に応じて、リィーは紫陽花寺を後にするタイジ青年を追跡する。

 五感を共有するマグダレナに飛び込むのは、タイジ青年んの顔。
 その顔は、瞳は曇天の如く曇っていた。己が正しき行いをしているという自負がありながらも、自身の力ではない力で成した事に対する報奨と賞賛に戸惑いを感じているようであった。
 だが、それでも彼は止まれないのだろう。止まるわけにはいかないのだ。

 曇った瞳は輝きを失っているが、そこには覚悟があった。
 この力を失うわけにはいかないという確固たる意志が。だからこそ、彼は正義の行いを続けるだろう。それが借り物であったとしてもだ。

「……彼の正義は、きっと尊いもの。……手荒な真似は、本当ならば。避けたいものです」
 だが、きっとマグダレナはわかっていた。
 彼女の望まない戦いがきっと始まる。タイジ青年にとっても望んだ戦いではない。
 けれど、マグダレナはかわっていた。
 借り物の力は、自身の物にはならない。力は別個である。それが交わることはない。だからこそ、人は―――。

 一度くじけたとしても、立ち上がって進む生き物であると知っているから、マグダレナはタイジ青年の目的地である街中の薬局へと駆け出すのであった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『名も喪われし大隊指揮官』

POW   :    極天へ至り、勝利を掲げよ
【槍先より繰り出される貫通刺突】【斧刃による渾身の重斬断】【石突きの錘を振るう視界外殴打】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
SPD   :    ヴァルハラに背くは英雄軍勢
戦闘用の、自身と同じ強さの【完全武装した精鋭擲弾兵大隊】と【戦車・重砲を備えた混編機甲部隊】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
WIZ   :    アーネンエルベの魔術遺産
対象のユーベルコードを防御すると、それを【魔術兵装で分析し、性能を強化した状態で】、1度だけ借用できる。戦闘終了後解除される。

イラスト:弐壱百

👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ユエイン・リュンコイスです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 街中にある薬局へ処方箋を持って歩く。
 足取りが重いと感じるのは、気のせいだ。高額な薬剤。どんなことをしてでも母親の病気を治したい。
 自分にはそれを成さなければならない。
 親にもらった生命である。
 母は言うだろう。そんなことを思わなくて良いのだと。母が子を思う気持ちは、当然のものであるのだから、己の人生をと。

 何故だ―――。
 なんでそんな事を言うのだろう。自身は、ただ母親の体が良くなってほしいだけなのだ。健やかであってくれたら、何もいらない。何も苦しくない。辛くなどないのだ。
 どれだけ過酷な労働であっても気にもしない。どれだけ理不尽を言われたって構わない。
 どんなことをしてでも―――。

「……あなた方は……」
 タイジ青年が薬局へとたどり着くことはできなかった。
 街中の薬局の手前、そこに立ちふさがるのは猟兵たちである。無意識に懐に忍ばせた『籠絡ラムプ』へと手を伸ばす。
 理解した。
 彼等の瞳が、タイジ青年の曇った瞳を射抜く。
 彼等は己のしでかしたことを見抜いている。知っている。このオイルランプが何であるのか、わかっていて己を待ち伏せていたのだ。

「……僕は、今この力を失うわけにはいかないんだ―――! 絶対に!」
 その瞳に嘗ての輝きはなかった。
 暗く重い雲が空を覆っていたとしても、その先の青空を射抜くような輝きを秘めた瞳はなかった。
 掲げたオイルランプより呼び出されたのは、影朧『十字鉄仮面侍』―――否、『名も喪われし大隊指揮官』。

 その力は絶大であり、強力である。
 緑の外套を翻し、構えた槍斧が煌めく。十字の切れ込みのある鉄仮面が対峙する猟兵たちを見据える。

「―――僕はやらないといけないことがあるんだ!」
村崎・ゆかり
ご機嫌よう、『十字鉄仮面侍』。この場合、どちらをそう呼ぶべきかしら。

アヤメ、あたしたちが影朧を抑えている間に、あの男性の確保または逃走路の封鎖を。
まあ、肝心要の影朧がここにいるんじゃ、逃げ出すなんて出来ないだろうけど。

長物の扱いなら、あたしも多少は心得てるわよ。
円運動を基本に『紫揚羽』を振るい、影朧の槍斧と打ち合う。「なぎ払い」、「串刺し」を狙って、刺突を弾き、斬撃を反らし、打撃を柄の真ん中で受けて!

もういいでしょう。不浄を滅する断罪の劫火をあげる。
「魔力溜め」「全力魔法」「高速詠唱」炎の「属性攻撃」の不動明王火界咒。
倶利伽羅の火に巻かれ、輪廻の輪へ還るといいわ。

タイジって人はまだいるかしら?



 猟兵と影朧兵器『籠絡ラムプ』を持つ青年タイジの間に立ちふさがるのは、『十字鉄仮面侍』―――否、『名も喪われし大隊指揮官』。
 街中の薬局の眼前にて展開される戦いに人々は沸き立つ。
 何故なら、緑の外套翻し槍斧を構える鉄仮面の男こそ、今巷を騒がせているユーベルコヲド使いであるからだ。
 それが何故、別のユーベルコヲド使いと戦うことになっているのか、群衆は知らない。だが、群衆の瞳に映っているのは『十字鉄仮面侍』としての影朧。それに対抗するユーベルコヲド使いである猟兵たちに何事かと遠巻きに、けれど興味をそそられているのだ。

「ご機嫌よう、『十字鉄仮面侍』。このアバイ、どちらをそう呼ぶべきかしら」
 村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)は、先端に紫の煌めく刃をつけた薙刀である『紫揚羽』を手にし、一歩を踏み出す。
 彼女の紫の瞳に映る影朧の姿は、紛うこと無くユーベルコヲド使いではなくオブリビオンである影朧である。
 影朧兵器『籠絡ラムプ』によって使役されているとはいえ、油断は禁物である。

「アヤメ、あたしたちが影朧を抑えている間に、あの男性の確保または逃走路の封鎖を。まあ、肝心要の影朧がここにいるんじゃ、逃げ出すなんて出来ないだろうけど」
 ゆかりの言う通り、タイジ青年は逃げ出そうとしていない。それにアヤメに確保に向かわせよううにも、影朧である 『名も喪われし大隊指揮官』が、それを許すわけではない。
 手にした獲物は互いに長柄。
 ゆかりと影朧の間にピリピリとした緊張が走る。
 それだけの手練であると互いに認識しているのだ。この重圧は影朧であるという以上に、生前の力量も圧倒的であることをゆかりに知らしめていた。

「長物の扱いなら、あたしも多少は心得てるわよ」
 鋭い槍の刺突がゆかりを襲う。その突き込みは神速の如き踏み込み。それを手にした紫揚羽によって円を描くように受け流す。
 弾かれた槍斧が跳ね上がり、さらに返す刃で振り下ろされる斧の一撃。
「―――ッ!!」
 それはどちらの咆哮であったか。影朧か、タイジ青年か。その裂帛の勢いで振り下ろされる斧の一撃は、アヤメの主であり恋人であるゆかりを案じた声をかき消す。

 とっさにゆかりは受けるのではなく、反らすことを決断した。
 もしも長柄で受け止めていたのなら、ゆかりは両断されていたとしてもおかしくない。ギリギリのところで受け流し、斧の刃が地面を砕く。
 更に襲うのは石突きの一撃。それを柄の真ん中で受け止め、ゆかりの体が後退する。

「もういいでしょう。不浄を滅する断罪のの劫火をあげる」
 手にしたのは白紙のトランプ。
 だが、それをさせぬと距離を詰める影朧。互いの獲物を使った技量は互角。最後に勝負を分け隔てるのは、ユーベルコードである。
「ノウマク サラバタタギャテイビャク――」
 それでも追いすがる鉄仮面の十字がゆかりの視界を覆う。跳ね上げた薙刀の一撃は躱されてしまうが、それでも距離を取らせた。
 その距離さえあればいいのだ。彼女の詠唱は一瞬で完遂される。籠められた力は全力。ユーベルコード、不動明王火界咒(フドウミョウオウカカイジュ)が発動し、投げつけられた白紙のトランプから噴出した炎が影朧を灼く。

 炎に巻かれるように『十字鉄仮面侍』が悶え苦しむ。
 その様子に群衆たちは悲鳴と落胆の声を上げる。未だ彼等は理解していないのだ。しかし、不浄を灼く炎は、影朧である『名も喪われし大隊指揮官』を許しはしない。
 その光景に人々は徐々に気がつくだろう。
 自身たちが熱中していた義侠心溢れる正義の味方が偽りの存在であったことを。

「倶利伽羅の火に巻かれ、輪廻の輪へ還るといいわ」
 その言葉は群衆に決定的なことを気づかせる。
 あの『十字鉄仮面侍』は正義の味方ではない。偽ユーベルコヲド使いたる青年が操る影朧なのだと―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

神代・凶津
よう、兄ちゃん。
悪いが、その懐にある『籠絡ラムプ』を渡して貰おうか。
って、言って渡す訳がないか。
悪いが相棒、やっぱ穏便に事を運ぶのは無理そうだぜ。

雷神霊装でいくぜ。
「決めるぜ、相棒ッ!」
「・・・転身ッ!」

破魔の雷撃を纏った斬撃の放射を挨拶代わりに叩き込むぜ。
その後は高速で戦場を縦横無尽に移動しながら敵の攻撃を見切りつつ斬撃の放射を浴びせてやる。

「・・・事情は理解出来ます。ですがその力はいずれ貴方も貴方の大切な人も破滅させます。」
相棒の言う通りだ。
だからそうなる前にその力、ぶっ潰すさせてもらうぜ『十字鉄仮面侍』ッ!

【技能・破魔、先制攻撃、見切り】
【アドリブ歓迎】



『よう、兄ちゃん。悪いが、その懐にある『籠絡ラムプ』をわたして貰おうか。って、言って渡す訳がないか』
 その言葉は落胆ではなく、ただの事実確認であった。タイジ青年の掲げた影朧兵器『籠絡ラムプ』より現れし影朧、『十字鉄仮面侍』―――否、『名も喪われし大隊指揮官』。
 群衆の拍手喝采が聞こえる。
 だが、猟兵との戦いの最中に群衆たちも気がつく。あれは偽ユーベルコヲド使いの使役する影朧なのだと。
『悪いが相棒、やっぱ穏便に事を運ぶのは無理そうだぜ』
 神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)の鬼面が申し訳無さそうな声を出す。最後まで彼の相棒たる少女、桜は穏便に事が運ぶことを望んでいた。
 それが望み薄いことであることは百も承知であったが、そうなることを望んでいたのだ。それは儚くも叶わなかった。

 だが、それでも二人は立ち止まることをしない。
 タイジ青年の心根までもが悪に染まっているとは思えない。だからこそ、彼の凶行を止めなければならない。
 これ以上は彼自身だけでなく、周囲の人間たちをも巻き込んでしまう。
『雷神霊装でいくぜ……決めるぜ、相棒ッ!』
「……転身ッ!」

 街中に雷鳴が轟き、稲妻が走る。
 一瞬の明滅の後、現れたるは雷神霊装(スパークフォーム)へと変じた姿。凶津と桜、二人の力を一つに顕現する霊装を身に纏った姿であった。
 その体に紫電が走る。
 それは破魔の雷撃。

「―――ヴァルハラに背くは!」
 先に猟兵からの炎にまかれた影朧が掌を宙に掲げる。呼び出されたのは、完全武装した精鋭擲弾兵大隊と戦車・重砲を備えた混編機甲部隊。
 まさに街中は戦場そのものへと変わり果てた。
 群衆は散り散りになって逃げ惑う。平穏の世となったサクラミラージュにおいて、このような大部隊が現れることは稀である。
 街中は混乱極みに達していた。

「……事情は理解出来ます。ですが、その力はいずれ貴方も貴方の大切な人も破滅させます」
 桜の言葉が戦場に響き渡る。紫電の雷撃纏った刃が振るわれ、放射状に伸びる一撃が召喚された戦車部隊を薙ぎ払う。
 神速の如き速度で持って戦場を縦横無尽に駆け巡る二人の姿は、一条の稲妻の如し。彼等が通った後には次々と召喚された部隊が倒れ伏す。

 どれだけ数が多くても、雷神の如き力を得た彼等を止める術はない。
『相棒の言う通りだ。だから、そうなる前にその力、ぶっ潰させてもらうぜ『十字鉄仮面侍』ッ!』
 その言葉は、目の前の影朧ではなくタイジ青年へと向けられていた。
 紫電まとう刃が、召喚された大部隊の間隙を縫い、『名も喪われし大隊指揮官』へと叩きつけられる。
 その一撃で持って、召喚された大部隊は散り散りになって消えていく。
 これ以上、タイジ青年にむやみに力を振るわせてはならない。彼の心根を知れば知るほどに、『籠絡ラムプ』という力は、彼の瞳を濁らせていくだけである。

 過ぎた力ではない。
 正しく使える力は悪にはならない。正しき心を持つ者が使う力は、間違えを犯さない。
 ならば、タイジ青年は―――。
「いつかその力は暴走する。それがわかっているからこそ……」
『俺たちが止めるッ!』
 雷鳴を伴って放たれる紫電の一撃は、再び影朧に振るわれる。
 こんな力などに頼らなくても、正しい心を持つ者には、己の大切なものを守る力が宿るのだと知らしめるように―――!

大成功 🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
「タイジさん、とおっしゃいましたか。それでも貴方は、此処で止まるべきだと思います」

UC「アルラウネの悲鳴」使用
術範囲に仲間やタイジは巻き込まないよう注意する
敵の攻撃は第六感や見切りで躱す
「擲弾だろうが砲弾だろうが戦車だろうが…全てこの絶叫で引き裂いて見せましょう」

「某かの想いを持ってまだ不死帝のための戦を志すなら…転生でもそうでなくても、何度でも此方へお戻りを」
慰め乗せた鎮魂歌で影朧を送る

「彼の影朧は暴発寸前でした。近く人も貴方も殺されることとなったでしょう。お母様がそれを知ったら、自責の念で首を括られたかもしれません。何であろうと、今が止まり時であったのは間違いありませんよ」
タイジに話す



 影朧『名も喪われし大隊指揮官』の身は炎に灼かれ、紫電の斬撃を受けて大きく傾ぐ。
 『十字鉄仮面侍』の活躍を期待し、野次馬の如き興味本位で戦いの推移を見守っていた群衆たちは、呼び出された大部隊の前に散り散りになってしまった。
 あれはもはや、いざこざではなく、戦場そのもの光景であった。それに恐怖した群衆達は、幸いにも猟兵の活躍によって逃されていた。
 けれど、その場から離れない人影があった。

 そう、影朧兵器『籠絡ラムプ』を持つ青年、タイジである。
 彼が『籠絡ラムプ』の所有者である以上、この場から離れることはできない。それに、ここで逃げたとしても猟兵は彼を逃がすことはない。
 『籠絡ラムプ』を握りしめた青年の手が真っ白になるほどに、強くその力に執着していることが見て取れるだろう。
「タイジさん、とおっしゃいましたか。それでも貴方は、此処で止まるべきだと 思います」
 静かな声色が響く。
 それは責めるわけでもなく、ただ諭すような言葉であった。
 御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は静かに語りかける。タイジ青年は、彼女を見据える。
 その瞳は未だ曇天のように濁っていた。力に執着するゆえの瞳。

「止まれない。止まれれるわけがない―――! 僕はやらなければならないことがある! この力でなければ、それはできないから!」
 再びオイルランプに力が籠められ、影朧である『名も喪われし大隊指揮官』の力を増幅させる。
 再び呼び出された大部隊。戦車、大砲、様々な部隊が集結し、桜花を排除せんとするのだ。

 放たれた砲弾、榴弾が桜花を狙う。
 飛来するそれが爆散すれば、被害は免れないだろう。
「ドゥダイーム、マンドラゴラ、アルラウネ…全ては同じ物ですの。その絶叫、どうぞ味わってくださいませ」
 それは彼女のユーベルコード、アルラウネの悲鳴(アルラウネノヒメイ)。その絶叫の如き音響攻撃によって、放たれた砲弾や榴弾が空中へと跳ね上げられる。
 あまりの声量に、本当に桜花から放たれた声であるのかどうかすら妖しく思える一撃。
 引き裂くように空中で砲弾や榴弾が次々と爆散し、爆炎を上げる。

「擲弾だろうが砲弾だろうが戦車だろうが…全てこの絶叫で引き裂いて見せましょう」
 その言葉通り、今の彼女に砲撃は無意味である。
 爆炎に煽られるようにして大部隊が炎にまかれていく。その間を悠々と歩き進みながら桜花は言う。
 見据える先にある影朧は、未だ他の猟兵から与えられたダメージから立ち上がれないでいる。

「某かの想いを持ってまだ不死帝のための戦を志すなら……転生でも、そうでなくても……何度でも此方へお戻りを」
 それは慰めを乗せた鎮魂歌。
 影朧にとって桜の精は転生するための送り人である。だからこそ、桜花は鎮魂歌を歌う。
 「まだ―――! 僕はまだ―――!」
 けれど、『籠絡ラムプ』によって増幅されたタイジ青年の力への執着がそれを許さない。

「彼の影朧は暴発寸前でした。近く人も貴方も殺されることとなったでしょう。お母様がそれを知ったら、自責の念で首を括られたかもしれません。何であろうと、今が止まり時であったのは間違いありませんよ」
 そう、影朧は強すぎるタイジ青年の想いを受けて暴走しかけている。
 それを桜花は一番理解していたのかもしれない。だからこそ、今此処が立ち止まるときなのだと優しく諭すのだ。

 けれど、それでも捨てきれぬ執着がある。
 桜花の言葉は届いている。けれど、彼の瞳を濁らせ続ける強大なる力―――ユーベルコヲドへの憧憬は、未だ晴れない。

 桜花はそれでも、と鎮魂歌を歌う。
 その歌が全ての生命を慰めるのだと知っているから―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鈴木・志乃
桜學府に入ってちゃんと戦闘技術
身に着けた方が良いと思うよ、タイジさん
(紙パックの豆乳青汁啜りながら)

……自分も騙せない、母親にも胸を張れない嘘を
そう無理してつき続ける必要なんてない
それしか他に道が無いって思ってないか?
本当は辛い、苦しいと思ってるならさ、超弩級戦力ってやつに頼ってみてくんねえかなあ。
全力でやるからよ。

高速詠唱で巨大化したピコハンを、UCで召喚した天馬精霊に乗ってブンブン振り回しまくる早業でなぎ払い攻撃する。
最悪、破壊工作用の爆弾をばらまいてもいいね
本体は光の鎖を念動力操作して捕縛する

貴方は本物のヒーローだよ
それを今日、本当に真実にしてみせる
その為に私はここに来たんだ



 ヴァルハラに背くは英雄軍勢―――完全武装した精鋭擲弾兵大隊と戦車・重砲を備えた混編機甲部隊。
 それらは影朧『名も喪われし大隊指揮官』 、今や帝都では『十字鉄仮面侍』と呼ばれるユーベルコヲド使いの持つユーベルコードであった。
 猟兵より受けた傷のせいか身動き取れぬ影朧は、未だ戦意を失っていなかった。それは影朧兵器『籠絡ラムプ』によって影朧を操るタイジ青年の力への執着故であろう。
 影朧の体が軋む音がする。
 猟兵の一人が言った言葉の通り、その体は暴走寸前であった。何がきっかけで暴走状態に陥ってしまうかわからぬ状況だった。

「桜學府に入ってちゃんと戦闘技術、身につけたほうが良いと思うよ、タイジさん」
 その言葉は、紙パックの投入青汁を啜りながらやってきた、鈴木・志乃(ブラック・f12101)から放たれた言葉であった。
 影朧兵器『籠絡ラムプ』によって得た力であっても、タイジ青年の想いは認められるものだと思ったのかも知れない。
 だからこそ、『籠絡ラムプ』に頼った偽ユーベルコヲド使いではなく、自身の力で誰かを助けることが出来る人間であると志乃は思ったのだ。

「駆けろ、希望の流れ星」
 ユーベルコード、Ray of Hope(レイオブホープ)が発動する。天馬精霊に騎乗した志乃が振るうピコハンが、影朧の呼び出した混成部隊から放たれた榴弾や砲弾を弾き返す。
「……自分も騙せない、母親にも胸を張れない嘘を。そう無理してつき続ける必要なんて無い。それしか他に道がないって思ってないか?」
 志乃が砲弾の雨を薙ぎ払う度に街中で爆風が吹き荒れる。
 その爆風の中を天馬精霊が駆け抜け、混成部隊を志乃がピコハンでなぎ倒していくのだ。
「本当は辛い、苦しいと思ってるならさ、超弩級戦力ってやつに頼ってみてくんねえかなあ―――」

 その言葉はタイジ青年の救いとなり得るか。
「それでも、僕は……僕自身の力で―――!」
 だが、その言葉は薄い。タイジ青年は気がつくのだ。己の言葉の薄さに。自身の力など、今、この場のどこにあるというのだろうか。
 どこにもない。手にした『籠絡ラムプ』すら自身の手で手に入れたものではないのだ。
 その心のゆらぎは、呼び出した影朧にも直結する。
 あきらかに揺らいだ。

「―――全力でやるからよ」
 混成部隊を切り抜け、志乃の振るうピコハンが影朧の体を吹き飛ばし、光の鎖を念動力で操作し、影朧の体を拘束する。
 ギシギシと暴走しようとする影朧を抑えるのも限度があるだろう。だが、それでも志乃は言葉を紡ぐ。
「貴方は本物のヒーローだよ。それを今日、本当に真実にしてみせる。その為に私はここに来たんだ」

 その言葉は、タイジ青年の心の堰を揺らがせる。
 本物のヒーロー。
 それは己が思い描いたもの。母親も、他の誰をも。救える手。願って止まなかったもの。
 それが叶うのだろうか。その瞳の翳りは、徐々に―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クレア・フォースフェンサー
この世界のオブリビオン……いや、影朧は、かつて傷つき虐げられた者達の過去から生まれた存在と聞く。
ならば、その影朧には、その影朧の過去が、想いが存在するのであろう。

じゃが、タイジ殿。
おぬしはそれらに何ら鑑みることなく、自らの手足としてその者を使役しておるように見える。
それでは、その者があまりにも不憫ではないかのう。
おぬしにはおぬしの事情があるのであろうが、その者はランプから解放させてもらうぞ。

加速機能を稼働。
敵の攻撃を見切りつつ、斧槍を光剣で捌きながら一気に接近。
選択UCの力を光剣に込め、剣術をもって痛みを感じぬよう核を貫こう。

大隊指揮官殿。
おぬしの魂がヴァルハラへと導かれんことを願うぞ。



 光の鎖に拘束された影朧、『名も喪われし大隊指揮官』 の体が大きく膨らむ。
 それは影朧兵器『籠絡ラムプ』を持つタイジ青年の心が大きく傾いだせいでもあった。手にした力を使うということに、どこかためらいのあったタイジ青年は、もはや、『籠絡ラムプ』を使うという意志すら希薄になっていた。

「此の世界のオブリビオン……いや、影朧は、かつて傷つき虐げられた者達の過去から生まれた存在と聞く」
 光の拘束を引きちぎった影朧が暴走する。
 その力の本流は、まさに虐げられた者達の過去より生まれる悲しみの力であったのかもしれない。
 クレア・フォースフェンサー(UDC執行人・f09175)は静かに一歩を踏み出す。その金色の瞳に映るのは、一体の哀れなる影朧。
「ならば、その影朧には、その影朧の過去が、想いが存在するのであろう」
 それが影朧を構成する核だとするのであれば、影朧兵器『籠絡ラムプ』の力は忌避するものであったことだろう。

 クレアは籠絡ラムプを持つタイジ青年へと向き直る。
「じゃあ、タイジ殿。おぬしはそれらに何ら鑑みることなく、自らの手足として、その者を使役しておるように見える。それでは、その者があまりにも不憫ではないかのう」
 影朧の過去がどのようなものであったかはわからない。
 だが、影朧兵器『籠絡ラムプ』によって一方的に使役して良いものであるはずがない。そう説くクレアの言葉は己のすべきことを理解している者の言葉だった。
 光剣が輝く。
 それは、かの影朧を打つという明確な意思表示。

「おぬしにはおぬしの事情があるのだろうが、その者はランプから解放させてもらうぞ」
 クレアの体、衣服に組み込まれたナノマシンが稼働する。それは彼女の速度を上げる加速機能。
 目にも留まらぬ神速の踏み込みは、光の鎖の拘束を引きちぎって暴走しようとしていた影朧の目の前まで一瞬で間合いを詰めていた。
 斧槍が振るわれる。
 その一撃は重たいものであったことだろう。その斧槍は己の矜持を全うしようとするものであったのかもしれない。
 クレアのユーベルコード、対抗能力Ⅱ(カウンターコード)の発動した光剣の前では無意味である。

 振るった斧槍と光剣が交錯する。一瞬の攻防。切り上げられた光剣が跳ね飛ばしたのは斧槍の切っ先。空中で回転し、地面に重たい音を立てた瞬間、振り上げられた光剣が槍斧の柄を両断する。
「大隊指揮官殿。おぬしの魂がヴァルハラへと導かれんことを願うぞ」
 それは手向けの言葉であった。
 暴走状態に入ろうとし、さらに『籠絡ラムプ』によって使役された影朧である彼に彼女の言葉が届いたかどうかはわからない。

 けれど、その光剣が影朧の源となる核を刺し貫いた瞬間、クレアは満足げに頷く。手向けの言葉は届いたのだと。
「……さらば。後顧の憂いは、任せておくがいい」
 霧散する影朧を背に、クレアの金色の瞳がタイジ青年を捉える。その手にした『籠絡ラムプ』、それがある限り、このような事件は幾度も起こることだろう。
 破壊しなければ、と一歩を踏み出す前にタイジ青年が『籠絡ラムプ』を差し出す。

「これは……僕の力ではありません」
 その絞り出す様な言葉は、己の過ちを認めた者の言葉であった。
 うむ、とクレアが頷く。
 光剣が閃いて、影朧兵器『籠絡ラムプ』を砕いたのだった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『籠絡ラムプの後始末』

POW   :    本物のユベルコヲド使いの矜持を見せつけ、目指すべき正しい道を力強く指し示す

SPD   :    事件の関係者や目撃者、残された証拠品などを上手く利用して、相応しい罰を与える(与えなくても良い)

WIZ   :    偽ユーベルコヲド使いを説得したり、問題を解決するなどして、同じ過ちを繰り返さないように教育する

👑5
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 影朧兵器『籠絡ラムプ』は砕かれた。
 後に残ったのは、戦いの余波と偽ユーベルコヲド使いであったタイジ青年のみである。
 影朧『十字鉄仮面侍』―――『名も喪われし大隊指揮官』もまた、霧散し骸の海へと返っていった。
 もはや帝都を賑わした『十字鉄仮面侍』は二度と現れることはないだろう。

 残すは猟兵達が、タイジ青年をどうするかだけであろう。
 言葉を持って諭すか、それとも罰を与えるのか。
 それができるのは、猟兵だけである。しばらくすれば、戦いの終わりを察した人々が街中へと戻ってくるだろう―――。
神代・凶津
おし、『籠絡ラムプ』を破壊したぜ。
本来なら俺達の仕事はこれで完了なんだが・・・。
「・・・あの人をこのままにはできません。」
まあ、相棒ならそう言うと思ってたぜ。

よう、タイジの兄ちゃん。目は覚めたかい?
あんたの母親や他の人を助けたいって想いは間違っちゃいねえ。
けど、ちーっとばかし手段を間違えちまったな。
「・・・でも貴方はまだやり直せます。」
相棒の言う通りだぜ。幸いにも目立った被害もないしな。

このまま膝を着いて俯いたままか、顔を上げてもう一度立ち上がるかは結局の所あんた次第だ。
けれど、立ち上がってまた歩き出すって言うなら俺達『猟兵』は力を貸してやるぜ?


【アドリブ歓迎】



 影朧兵器『籠絡ラムプ』はタイジ青年が差し出すようにして破壊された。
 それは手にした力を手放す行為。
 一度手に入れたものを手放すことが、どれだけ困難であるか。それが甘美なるものをもたらすのであれば、尚更であろう。
 しかし、それでもと己の間違いに気がついたのは、他ならぬ猟兵たちの言葉と行動があったからに違いない。

 言葉だけでは、耳をくすぐる音にしかならない。言葉は感じられる心があるからこそ力となる。
 感じる言葉が力に変わるだけでも足りない。それは力を示す者の行動によって正しさが裏付けられるのだから。
『おし、『籠絡ラムプ』を破壊したぜ。本来なら俺たちのしごとはこれで完了なんだが……』
 神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)の鬼面が、ちらとタイジ青年を見やる。相棒である桜の性格を、性質を考えればどうなるか、彼にはよくわかっていた。

「……あの人をこのままにはできません」
『まあ、相棒ならそういうと思ってたぜ』
 桜の言葉に鬼面である凶津は予測していたことであるが、悪くない気分だった。
 タイジ青年は膝をついていた。
 そこから逃げるでもなく、弁明をするでもなく。ただ、己の得た力ともたらした被害を、その瞳に映していた。

『よう、タイジの兄ちゃん。目は覚めたかい?』
 凶津の声にタイジの顔が上がる。
 その瞳を見て、目が覚めたと表現したのは正解であった。彼の瞳は、『籠絡ラムプ』を手にしていたときとは違う瞳の輝きを持っていた。
 全てを失ってしまったというのに、彼はまだ何も失っていない。最初からあるもの。その瞳を見て凶津は確信する。

『あんたの母親や他の人を助けたいって想いは間違っちゃいねえ。けど、ちーっとばかし手段を間違えちまったな』
 それは幻朧戦線が市井にばらまいた影朧兵器『籠絡ラムプ』を手にしたことが始まりだ。
 もしも、彼が手にした力が違えば、また異なった結末があったかもしれない。彼は思い悩み、そして力を手放す決断をした。
 それは咎められることではない。
 だが、街の破壊は消えない。それに罪悪感を感じる青年だからこそ、凶津と桜は言葉をかける。

「……でも、貴方はまだやり直せます」
「……そう、でしょうか……この街の惨状……人だって」
 そう、これだけ破壊が起きているのならば、けが人だっていてもおかしくない。『籠絡ラムプ』を喪って、すでに彼の心もいっぱいであろうに、それでも他者を思う心がある。
 それを感じたからこそ、桜も凶津も言葉をかけるのだ。

『相棒の言う通りだぜ。幸いにも目立った被害もないしな』
 一般人が傷ついたという話は聞かない。
 それは猟兵たちの行動の結果である。それは不幸中の幸い。街の惨状と言っても、窓が割れた、壁が崩れた、という被害ばかりである。
 物質的な被害であるというのなら、それを贖う術はいくらでもある。

『このまま膝をついて俯いたままか、顔を上げてもう一度立ち上がるかは、結局の所……あんた次第だ』
 凶津の言葉は事実。今のまま罪の意識に苛まれたまま、何もかも放り投げるのか。それとも苦難に満ちた道を選び、贖罪するのか。
 それは自分たちの言葉を尽くさなくても、わかっていたことだったかもしれない。
 けれど、それでも。
『―――けれど、立ち上がってまた歩き出すって言うなら、俺達『猟兵』は力を貸してやるぜ?』

 その言葉は力。
 感じる者がいるのならば、言葉はいつだって人の心を奮い立たせる。
「やります……僕が、自分がしでかしたことの、償いは、僕自身が!」
 タイジ青年の瞳に曇りはない。
 いつか曇天の空を見上げていた瞳。桜が手をのばす。膝をついたタイジ青年の手をとって、引き起こす。

 それが今『猟兵』である彼等が出来る、道を外れ、また戻ってきた青年へと送る一つのエールであった―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

村崎・ゆかり
「コミュ力」で会話。

タイジ、だったわね。過ぎた力は身を滅ぼすわよ。ううん、あれが暴走した時、一番に襲われそうなのはお母さんじゃない?
素人が影朧を使役するなんて、無理もいいところよ。

お母さんのためっていうのは立派だけど、当のお母さんはどう思ってるか、聞いたことある?
きっと、息子の人生を自分に縛り付けて申し訳ないって思ってるんじゃないかな?
子が親を思うように、親だって子の幸せを願ってる。

言いにくいけど、親が先に旅立つのは自然なこと。タイジが先に命を落としたら、残されたお母さんの面倒は誰が見るの?

もう影朧なんかには関わらず、地道にお母さんの面倒を見てあげなさい。一緒の時間を過ごすことが何よりの薬よ。



 いつだってそうだ。
 人の歩みに置いて、成功から学ぶことは多くない。世界が時間を過去に排出することによって進むというのであれば、人生は失敗の連続の積み重ねによって高みに登ることであろう。
 猟兵たちはそれをわかっている。言うまでもないことだ。今までどれだけ自分たちの掌からこぼれたかもしれない生命を見てきたのか。
 それでも、それでもと言いながら戦い続けてきた猟兵だからこそ、躓いた者へ掛ける言葉は真実であったことだろう。
 タイジ青年は立ち上がった。つまずいて転んで、擦りむいた。けれど、猟兵の言葉によって再び立ち上がったのだ。

「タイジ、だったわね。過ぎた力は実を滅ぼすわよ。ううん、あれが暴走した時、一番襲われそうなのはお母さんじゃない?」
 村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)の言葉に肩を震わせるタイジ。
 彼女の言う通りだろう。影朧兵器『籠絡ラムプ』。その暴走が都合よく、誰も居ない平野で起こるとは限らない。
 タイジと過ごす時間の多い母親であれば、その暴走の犠牲に成るのは……。

「素人が影朧を使役するなんて、無理もいいところよ」
 その言葉にタイジは頷くしかできない。
 そう、土台無理な話であったのだ。偽ユーベルコヲド使いとして、虚飾に塗れた喝采を浴びること。それを心地よく思わなかったわけではない。
 だからこそ、タイジは舞い上がり、その高さに畏怖したのだ。

「お母さんのためっていうのは立派だけど、当のお母さんはどう思ってるか、聞いたことある? きっと息子の人生を自分に縛り付けて申し訳ないって思ってるんじゃないかな? 子が親を思うように、親だって子の幸せを願ってる」
 それはゆかりの中にある心がそう告げている。
 誰よりも大切に思うものだからこそ。その言葉は、行動は人を縛り付けるものだ。

「―――はい」
 タイジ青年は今、様々な葛藤を心に抱えているだろう。
 力も、名声も、何もかも喪って尚、その手に残るのはゆかりの言う親が子を思う気持ち。
 だからこそ、悔やんでも悔やみきれない。
「言いにくいけど、親が先に旅立つのは自然なこと。タイジが先に命を落としたら、残されたお母さんの面倒は誰が見るの?」
 それは決定的な言葉であったかも知れない。
 自分のみを粉にして、犠牲とする生き方は、互いのためではない。いつだって、その生き方は自分自身のためだ。

「もう影朧なんかには拘らず、地道にお母さんの面倒を見てあげなさい」
 ゆかりはタイジの肩を軽く叩く。
 がんばれ、と応援してくれているかのように、優しく。厳しい言葉をくれるのが、いつだって己の間違いを正してくれる人だ。
 だから、タイジは前を向く。俯いてなんか居られない。
 ゆかりの紫の瞳に、タイジの青空を思わせる青い瞳が映る。

 そして、微笑んでゆかりは言うのだ。

「一緒の時間を過ごすことが何よりの薬よ―――」

大成功 🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
「タイジさん。病は治せませんが、多少の怪我なら治せますから。一緒に桜學府に行きませんか。もしも怪我人が居たら私が治療します。このまま逃げ去るだけでは、貴方自身の正義感で、貴方が押し潰される未来が容易に想像できますから」

怪我人の報があったらUC「癒しの桜吹雪」し高速治癒

道行きながらタイジと話す
「貴方が何処でどうやって籠絡ラムプを手にいれたか。入手経路を桜學府が潰せたなら、金一封なり今回の破壊との相殺なり出来るでしょう。そして何より、貴方のように悩み苦しむ人を出さずに済みます」

「籠絡ラムプに封じられた影朧は様々で、例え次を入手しても同じ効果は望めません。他の入手経路探しも危ないので避けて下さいね」



 取り返しのつかないこととはなんであろうか。
 この世界において、取り返しのつくことのほうが数少ないのではないだろうか。タイジ青年は己の犯した罪を考える。
 猟兵たちの言葉は、彼を苛むものではなかった。
 奮い立たせる者、説く者……それは彼等が様々な世界を見て、聞いて、体験して来たからこそ放つことのできる言葉であった。

 だからこそ、それは感じる力を持つ者にとっては力を持った言葉なのだ。
 猟兵にとって幸いであったのは、タイジ青年が立ち止まることをしない者であったことだろう。
「タイジさん。病は治せませんが、多少の怪我なら治せますから。一緒に桜學府に行きませんか。もしもけが人が居たら、私が治療します」
 御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)がタイジ青年を誘う。
 それは彼女なりの優しさであった。
 言葉を掛けるよりも、共に行動したほうが善いと彼女は考えたのだろう。タイジ青年は頷き、彼女の隣を歩く。
 街並みは戦いの余波で傷つているが、軽微であった。人のけが人も多少はいるだろうが、そこまで被害を負ったという話は聞かない。

「このまま逃げ去るだけでは、貴方自身の正義感で、貴方が押しつぶされる未来が容易に想像できますから」
 何故、自分を、という問いかけに桜花はそう応えた。
 強く正しい想いは、それだけで歩む力になるだろう。けれど、時として、それは自身を苛む重しとなることもある。
 タイジ青年が一つボタンを掛け間違えた瞬間、それは襲ってくるだろうから。

 彼女のユーベルコード、癒しの桜吹雪(イヤシノサクラフブキ)が桜吹雪となって宙を舞う。
 それは軽傷なりと傷を追った人々の傷を癒やしていく。
「何故、僕を桜學府に……?」
「貴方が何処でどうやって『籠絡ラムプ』を手に入れたか。入手経路を桜學府が潰せたなら、金一封なり、今回の破壊との相殺なり出来るでしょう」
 そう、影朧兵器『籠絡ラムプ』は幻朧戦線が市井にばらまいたものである。
 もしも、そのばらまいた者や、それに繋がる糸口が掴めたのならば、大きく幻朧戦線との戦いに貢献できるだろう。

 そうすれば、タイジ青年の行いもまた減ずることができるかもしれない。
 そういう可能性を桜花は見出したのだ。
「―――そして何より、貴方のように悩み苦しむ人を出さずに済みます」
 それが桜花の本音であったのだろう。
 罪の相殺や、金一封はオマケであった。桜花にとって、タイジ青年のように思い悩む者がでないことが一番であった。

 だからこそ、桜學府へと桜花はタイジ青年を送り届けるのだ。
 彼の道行きが、これからどのようなものになるのかはわからない。
「籠絡ラムプに封じられた影朧は様々で、例え次を入手しても同じ効果は望めません。他の入手経路探しも危ないので避けて下さいね」
「―――ありがとうございます……」
 タイジ青年の瞳は、もう曇っていなかった。
 桜花は微笑む。それでいいのだと。

 取り返しのつかないことなんて、どこにもない。
 いつだって、その瞳が見据える未来は……。

「いえ、これは言わぬが華。違えたのならば、何度でも正せばいいのです」

大成功 🔵​🔵​🔵​

鈴木・志乃
影朧に惑わされた一市民が命の危機に遇った。つまり貴方はただの被害者だ。それでも罰を受けるつもりなら、これまで通り皆を救ったらいい。勇敢な青年さん?

さて、今後のことだけど。
戦闘に物怖じしないなら、桜學府でUC使いを目指せばいい。すぐには無理だろうけど、今度こそ本物の『鉄十字仮面』になれる。

もう一つは医者になること。
人の命を救う仕事だ。お金も名誉も手に入る。何より、お母さんの病気も治せるようになるかもしれない。

資金や推薦が必要なら私が出す。どこまで出来るか分からないけど、これでも他世界では領主なんだ。良かったら受け取ってくれるかい。

君が救ってきた沢山の命への
感謝だと思って、さ。



 桜學府へと送り届けられたタイジ青年が、事情を全て話してから出てきたのは、すっかり日が変わってからだった。
 夜通し話したせいもあるのだろう、疲れが見える。そんな彼を待っていたのは、鈴木・志乃(ブラック・f12101)である。
 きっと彼は桜學府にて、搾られてきているだろうということは志乃にもわかっていた。彼が籠絡ラムプを差し出し、破壊してから、こうなることはわかっていた。

「あなたは……ご迷惑をおかけしました」
 タイジ青年は志乃の姿を認めて、深々と頭を下げた。一時とはいえ、偽ユーベルコヲド使いとして対峙していた者同士である。
 彼にとって志乃は、己の恩人であるが彼女たちに牙を剥いた本人でもあるのだ。決まりが悪い、罪悪感を感じてしまうのも無理なからぬことだった。
 だが、志乃はからりと笑うのだ。

「影朧に惑わされた一般市民が生命の危機に遇った。つまり貴方は、ただの被害者だ。それでもまだ、罰を受けるのが足りないっていうなら、これまで通り皆を救ったら良い。勇敢な青年さん?」
 志乃の言葉は、彼を責めるものではなかった。
 タイジ青年のことを理解していた。彼が何をしたかったのか、何をせずにはいられなかったのかを。

「さて、今後のことだけど」
 全ての事情を桜學府に話したタイジ青年。彼が受ける罰は器物損壊などである。
 彼が偽ユーベルコヲド使いであるということは知られた。力の源である『籠絡ラムプ』もない。
 そんな彼に志乃が提示するのは―――。

「戦闘に物怖じしないなら、桜學府でユーベルコヲド使いを目指せばいい。すぐには無理だろうけど、今度こそ本物の『十字鉄仮面侍』になれる」
 彼女は指を二本立てて、タイジ青年に提案する。
 偽ユーベルコヲド使いとして猟兵の前に立ちふさがった彼は、覚悟があるとはいえ、物怖じしない勇敢さは見事なものであると彼女は判断したのだ。
 もしも、戦う覚悟が備わって、力が正しく宿るのであれば彼はまた同じ様に誰かを救うことができるであろうと。

 指が一本だけになる。
「もう一つは医者になること。人の命を救う仕事だ。お金も名誉も手に入る。何より、お母さんの病気も治せるようになるかもしれない」
 それはタイジ青年が挫折した道であった。
 志だけではどうにもならない問題がある。学費、お金、様々なこと要因が絡んでくる。だからこそ、タイジ青年は『籠絡ラムプ』という力に縋ったのだろう。

「資金や推薦が必要なら私が出す」
 え、とその言葉に顔を上げるタイジ青年。それは、と口ごもる。それを見て志乃は頷く。それが答えか、と。
 なるほど、確かに『十字鉄仮面侍』なんていうものよりは、そっちがしっくり来る。だから、志乃は精一杯の笑顔を浮かべるのだ。
「どこまで出来るかわからないけど……よかったら受け取ってくれるかい」
 それが、一番キミに似合うことだから、と志乃は支援を申し出る。彼女にとってお金や推薦状などと言ったものは、容易いものだ。
 容易くないのは、必要としている人を探すことである。

 だからこそ、彼女はこの縁を大切にしたいと思った。
「キミが救ってきたたくさんの生命への感謝だと思って、さ」
 照れくさくて、そうごまかしてしまったけれど、それでも。

 それでも、彼女の心はいつか大輪の花が咲くように、きっと実を結ぶだろう―――。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年06月15日


挿絵イラスト