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鏡ノ向コウ誰ソ彼

#UDCアース #呪詛型UDC

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#呪詛型UDC


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●鏡館、コチラ
 日中は楽しく華やかだった遊園地の音楽も、陽が傾くにつれて哀愁を誘うメロディーへと変化していた。
 至る所に設置されたスピーカーから流れるノイズ混じりの園内放送をバックに、楽しい夢を終え出入り口であるゲートへと向かっていく者、まだもう少し夢の世界を楽しもうと次のアトラクションに向かう者、様々な者達が行き交う中で囁かれている噂があった。

 ――夕暮れ時、遊園地の奥にある鏡館では不思議な体験が出来るんだって。
 ――迷路の中で会いたい人に会えるかもしれないらしいよ。

 誰が言い始めたかすらあやふやな噂話だが、興味を持つ者の心を擽るには充分であるのだろう。
 一人、また一人と遊園地の奥に建てられている青い屋根の西洋館へと向かい、そうして誰もその館からは出てこなかった。


「鏡のおやしき……、ミラーハウスって言うのかな」
 小さく折り畳まれた遊園地のリーフレットを広げながら、レーヴ・プリエール(物語る亡霊・f11944)は描かれている地図の一か所を指す。
 青い屋根に白い壁のその屋敷は小さくない造りらしく、地図からは屋敷だけではなく裏庭や青い屋根の小さな塔が繋がっている事も見て取れる。
 レーヴ曰く、屋敷の中は鏡張りの迷路になっているのだという。
「昔から鏡の迷路だったんだよ。本当だったらね、迷っても十分くらいで出て来れるんだ。すぐに終わっちゃうし、昔からある場所だから……今はあまり人が来なくなってたみたい。だけど……」

 ――人が来るようになって、誰も出て来なくなるユメを見たんだ。
 囁くような声で、見えた予知をレーヴは伝え始めるのであった。

 その館――鏡館はUDCの呪いのようなものにより、入ると出られなくなる迷路になっているのだと言う。
「はじめは普通の鏡の迷路だから、楽しんで良いよ。そっちの方が良いかな、うん」
 迷路を進んでいくと地図から見える庭や塔に行く事も出来る様になっている。
 館の庭は小さいながらも、仄かに夕陽色に染まる青紫の紫陽花やブルーサルビア達が迷い込んだ者を歓迎してくれるであろう。
 塔に続く扉を開いたなら、鏡で作られた長い螺旋階段を登る事にはなるであろうが、登りきった先にある小部屋から茜に染まる遊園地を一望する事も出来るという。
「いっぱい楽しんでいるとね、どこからか音が聞こえたり、人影が見えたりするんだ」
 遊園地の園内放送ではない音。
 耳を澄まして聞けば、焦がれるあの人の声かもしれない。
 ふと、目の前の鏡にうつる世界の向こう側。そこにもう会えない人の影を見るかもしれない。
 合わせ鏡の先に映るのは、知る筈の無い未来や過去の自分の姿。

 怪異は突然現れて、そうして迷路の奥へと猟兵達を誘うだろう。

「レーヴが見たのはここまで。ごめんね、あまり知らせてあげられなくて。何が起きるか分からないからね、気を付けて行ってね」
 琥珀色の瞳を伏せながら詫びを口にするも、緩やかに微笑んだ。


鳴森
 はじめまして。鳴森と申します。

●目的
 鏡館で非日常を味わい、UDCを倒す。

●一章
 青い屋根に白い壁、マナーハウス様な佇まいの西洋館。
 中は鏡張りの迷路となっていますが、扉を開けば庭に出たり、塔に続いたりとある模様。
 子供一人でも安全な常設型アトラクションの為、遊園地の職員は常にいません。
 純粋に鏡の迷路を楽しむも吉、鏡に映る今は会えない人と会うも吉、聞けるはずの無い声を聞くも吉。
 会いたいと思った人、いつかの自分の姿等、思うままに何でもどうぞ。

 OP公開後から募集を開始いたします。

●二章:冒険
 非日常を味わって頂いていれば、唐突に怪異が現れます。
 怪異をどのように対処するかはお任せいたします。

●三章:集団戦
 集団戦です。撃破してください。

 それでは、皆様のご参加を心よりお待ちしております。
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第1章 日常 『黄昏時の鏡の館』

POW   :    勘と直感を頼りに出口を目指す

SPD   :    内部構造を元に出口を目指す

WIZ   :    想いを振り切って出口を目指す

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🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

黒柳・朔良
古来より鏡には不思議な力が宿る
特に『あわせ鏡』は異界へ繋がる扉になり得る、と言うらしい(【情報収集】)
ミラーハウスは簡単に『非日常』を体験出来るというものかもしれないが、『非日常』が日常になってしまっている『猟兵』(私達)にとっては、特別なものでは無い
だが、この作られた『非日常』に興じてみるのも悪くは無いな

鏡に映るのは今はまだ会えない大切な人
あの方(主人)は私にとっては命に変えても護るべき存在
そんなことを言ったらあの方は怒るだろうが、私はあの方のためだけの『道具』
こうして猟兵としての任務をこなすのも全てはあの方のためだ
あの方たちが平穏な日常を送れるように影で支えるのが、私なのだから



●非日常遊び
 ここはまるで作られた非日常であった。
 普通に生活をしていれば、これほどまでに鏡に囲まれる事等ないであろう。
 周囲の鏡に映る何人もの自分の姿を見つめていた黒柳・朔良(「影の一族」の末裔・f27206)は、視線を外し真っすぐに続く迷路を歩んでいく。
 非日常を味わうのであれば、遊園地に設けられたこのミラーハウスはまさに打ってつけの場所となるであろう。しかし、猟兵である朔良にとってはそうでは無かった。一年中桜の咲く帝都や帝竜達のいる島の地獄の様な古戦場。猟兵として様々な世界を巡る日々は非日常に溢れている。
 朔良にとっては非日常こそが日常であった。
「とは言え、偶にはこういうものにも興じてみるのも悪くはないな」
 通路を進んだ突き当りで見つけた扉を開くも、まだまだ出口には辿り着きそうには無い。
 合わせ鏡の様になった通路歩めば、万華鏡の様に様々な形の自分自身が映し出されていく。始めこそは多少物珍しい光景であったもののそれにも慣れてき始めた中、ふと感じたのは違和感で。
「誰?」
 声を掛けるも返事は無い。
 前方左右を見つめても異変は無く、ならばと振り向いた朔良の目の前に映るのは自分ではない人の姿。
「どうしてここに……」
 思わず漏れた声。漆黒の瞳に映るのは、今はまだ会えない大切な主人――『あの方』の姿であった。
 例えそれが偽りであったとしても、朔良は思わず鏡に手を伸ばす。
 指先に触れる鏡が朔良と『あの方』を隔てる壁となる。
 ゆるりと『あの方』が朔良に背を向け、無限に続く鏡の通路を歩み始めた。
「待て」
 まるで朔良の声など聞こえていないのか次第に小さくなっていく姿を追って、朔良も迷路の奥へと進んでいく。
 『あの方』は朔良にとっては命に代えても護るべき存在であり、猟兵となり日々の任務をこなす理由。平穏な日常が続くように影となり道具として在り続ける朔良の唯一無二。
 優しすぎる『あの方』にそんな事を伝えれば怒られるかもしれないが、朔良にとってはそれが真実であった。
 追いかけても追いつけない人。
 ――古来より鏡には不思議な力が宿り、鏡を向き合わせる事で作られる合わせ鏡は異界に通じる扉になる。
 鏡館へと向かう前に事前に調べた知識が脳裏に過るも、『あの方』には届かなくて。
 どこまでが現実で、どこからが偽りなのか。
 鏡が作り出す迷路はそれすらも曖昧にするかの様。
 長い通路、曲がった道、扉を何枚もくぐって辿り着いたのは、合わせ鏡で作り出された小さな部屋。
「追いついた」
 見覚えのある後ろ姿が、鏡の向こうで朔良を待つ様に佇んでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ラスタリア・ファルディオン
【アドリブ歓迎】
「今まで助けた人達の声が聞こえる……そうか、これが"聞けるはずの無い声"って事だね」

っとと、長い事聞いていたい気分だけど、これも一応仕事だからね。この館から更なる被害が出る前に対処しないと。

アイテム【戦陣突撃之神槍《ブレイブ・バトルフィールド》】を使用し、槍を羅針盤の様に回して、目的の物(出口)を探します(使用技能:宝探し)。

「こういうのに使うんじゃないからアテになるかはわからないけど、鏡の迷路って案外分かりにくいからね」
「……でも、時間はまだあるだろうから、少しだけ長く聞いていようかな」

こういう機会って滅多にないので、聞こえる筈のない感謝の声に小さな涙を流しつつ歩いてよう。



●報いの声
 ラスタリア・ファルディオン(何かを夢見る反英雄――・f27673)の目の前には分かれ道が現れていた。右を見ても左を見てもそこにあるのは、鏡と鏡に映るラスタリアの姿だけ。
 それ以外の物が無いせいで、鏡の迷路は思いの外分かりにくく迷い易い。
「アテになるかはわからないけど、やってみようかな」
 迷わずに出口に向かう事が出来る様に、愛用する戦陣突撃之神槍《ブレイブ・バトルフィールド》を床に置いた瞬間、聞こえたのは微かな囁き声だった。
「え?」
 周囲を見渡しても、今この場にいるのはラスタリアだけ。
 けれども再び聞こえる声は、先程よりもはっきりしていて。
 動きを止めて、その声に意識を向ければそれはがひとつの声ではない事が分かった。ふわふわ夢見る様な幼子の高い声、長く世界を見て来たであろう低くしゃがれた老いた声、弾む様なソプラノも、きびきびとしたテノールもそれは様々な音色であり、そのどれもがラスタリアへの感謝を紡いでいる。
「これって……」
 とん、と鼓動が激しくなる。
 数多を救う英雄に憧れ、ラスタリアは努力し力を得た。助けても救っても、止まる事も無くなる事もない争いを前にして聞く事の出来なかった言葉。
「今まで助けた人達の声? ……そうか、これが"聞こえる筈の無い声"って事だね」
 声がするのは鏡の向こうからか、それとも通路の先からか。定かではない、けれども確かに聞こえるのだ。
「駄目駄目、仕事で来たんだから」
 姿無き声に手を止め、思わず聞き入ってしまっていた自身を叱咤しながらも、ラスタリアは羅針盤の様に槍を回す。求める物は迷路の出口。
 くるくると回転していたその先端が緩やかに動きを止め、指し示したのは右の道だった。
 スプリンググリーンの瞳で右側に続く折れ曲がった鏡の通路を見つめていれば、何時かの日に助けた少年の声が聞こえてくる。
「……」
 心が揺らぐ。
 皆を助ける英雄が持っていた武器を模した槍。それが指し示す道をラスタリアは選び進むべきであろう。
 けれどもこの機会を逃せば、もうこの声は聞く事が出来ないかもしれない。
 槍を手にしたラスタリアは左に続く道を見る。
 もう少しだけ聞きたい。あと少しだけ。
 一歩。左に踏み出しかけるも、ラスタリアは迷いを断ち切る様に首を振り、――選んだのは右の道。
「……時間はまだあるだろうから、ゆっくり行こうかな」
 その足取りを緩やかにすれば、自ずと声を聞く時間は長くなるであろうから。
 曲がった道を歩むラスタリアの頬は、僅かな雫で濡れていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

春霞・遙
ここにUDCが現れるかもしれないというのなら今のうちにマッピングしましょうか。UDCが現れたらまったく変わってしまう可能性もありますけれど。

全部の行き止まりを踏破することを目標に歩き回ります。むしろ完成させるのが趣味なので戦闘で無駄になってもいいでしょう。
シャドウチェイサーの視界に注意取られてたら鏡やガラスにぶつかるかもしれないですね。

忘れている記憶を思い出すことはないと思うので、万が一触手に殺されそうになっていたりボロボロで治療を受けている自分の姿や世話になっている組織の人が自分に何か術を施している場面が写ったとしても気づかないままに通り過ぎます。



●過ぎ去りし記憶
「あいた……」
 こつんとした軽い衝撃に春霞・遙(子供のお医者さん・f09880)は意識を目の前へと集中させる。
 影の追跡者で五感を共有しながら、鏡の迷路の地図を作っている彼女であったがその作業は簡単なものでは無かった。
 行き止まりに入り込んだ影の追跡者の方に意識を取られていれば、こうやって目の前の鏡やガラスの壁に時折ぶつかってしまう。
「ふむ、子供でも大丈夫と聞いていましたが……。ちゃんと作り込まれていたんですね」
 手にしていた紙に線を書き足し改めて見れば、それなりに大きさがあるせいかこの鏡館は思っていたよりも単純な作りでない事が理解出来る。元はUDCが現れて来た時用の対策として始めたマッピングではあるものの、遙の目標は既に全ての行き止まりを踏破する事となっていた。
「ここに変な空間がありますね……。どこから行けば続いているのでしょう」
 ふと、書き足していた地図に遙は奇妙な空白を見つけた。まるでそこにもう一部屋あるかの様な白。
 けれども、その周囲は遙自身の足と影の追跡者によって既に調査が終わっている筈。
「どこか隠し扉か……何か見逃したか……。戻ってみましょうか」
 影の追跡者だけを向かわせても良かったものの一度は見落としているのだ、遙自身が実際に行った方が良いであろう。
 周囲と紛れて見え難いガラスの壁を避けながら、遙は来た道を戻っていく。

 ――それはいつかの姿。遙の身体に纏わり巻き付く触手は、今にも遙を殺そうとしている。鏡に映る遙は顔を歪ませていた。

「あぁ、ここ。鏡の扉になっていたんですね」
 気になる場所へと戻った遙は壁伝いに歩み進めれば、鏡で作られた壁の一枚が横にスライドする様に作られていた。扉を開けば、書き記していた地図にある空白とほとんど同じ形の部屋が現れる。
 そうして、ここも鏡張りになっている上に予想通り行き止まりであった。
 けれども遙は気にせずに部屋の隅から隅まで歩み調べていく。

 ――残っていない記憶の断片。あらぬ方向に曲がった四肢。傷つき衰弱した遙を、多くの者達が囲い治療を行っていた。

「これでこの辺りは調べ尽くせましたね。さぁ、どんどん行きましょうか」
 埋められた地図の一角を満足げに見つめれば、遙は再び影の追跡者と共に鏡の迷路の探索をはじめていく。聞けばここには庭や塔といったものまであると聞く。
 遙の出て行った部屋の鏡には、遙の姿が映っていた。

 ――忘れた記憶。世話になっている組織の者達が、遥に何らかの術を施している。

 それは過去であり、遙自身が覚えていない数々。鏡が見せる失われた過去に遥自身は気付かず、ただ通り過ぎて行くのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

マイ・クラウディー
鏡館ですか、このような物は初めて見ました。館の設計者様の楽しそうな顔が目に浮かびますね。
(設計者と言えば…私を設計した人に、会えるのかしら?)

まずは楽しみましょう。どちらの道に進むか迷いますね。バーチャルな私でも、ちゃんと鏡には映るみたいです。

おや、ここに扉が。先は階段、上ってみましょう。
展望台のようなスペース。風が心地よいですね。
……あれ?今、遥か昔に聞いた、どこか懐かしい声が。
設計者様の声かしら。声は下から聞こえたような…戻りましょう。

降りたらすぐ出会えました。だって設計者様、扉に映っているんですもの。

そこでは狭くないですか?お久しぶりですマスター、マイです。AIの開発は順調ですか?



「なんと。私でもちゃんと鏡に映るのですね。すごい、私が沢山います」
 鏡に映る自身の姿に弾むような声を、マイ・クラウディー(AIナビゲーター・f26816)はあげていた。
 高機能AIを搭載するバーチャルキャラクター。マイは電子の存在ではあるけれども、迷路の鏡にはマイの姿がはっきりと映っている。
 初めての場所にはしゃぐように、マイは迷路を進んでいた。
「分かれ道ですね。どちらの道に進むか迷います」
 右に左に真っすぐに。小さな部屋を通って、曲がり角。
 軽やかな足取りで通り過ぎたマイの前に現れたのは前に行くか、それとも左右に行くか、三つの道が選ぶ事の出来る分かれ道であった。
 むむ、と少し悩んだマイがひとつを選び、そうしてまた弾む様に進めば現れるのは一枚の鏡扉。
「おや、ここの扉は開くと先が階段になっているのですね。のぼってみましょう」
 扉の向こうには鏡で作られた螺旋階段が上へ上へと続いている。
 リズミカルにステップを踏んで、上も下も左右にもマイの姿が映り変化する光景を楽しんでいれば長い階段もあっという間にのぼりきってしまっていた。
「ここの設計者様の楽しそうな顔が目に浮かびますね」
 この場所が何を思って作られたのかは分からない。けれども訪れた者達を楽しませようとした設計者の姿に想いを馳せながら、マイは頂上にある小部屋に足を踏み入れた。
 展望台の様に窓の無い場所には、初夏の夕暮れに吹く爽やかな風が流れている。
 茜色に染まる遊園地が眼下に広がるのを見つめていればふと、風に乗って何か音が聞こえた様な気がした。
 外から聞こえてくる遊園地内の音とは違う、それはまるで声の様。
「懐かしい声。……遥か昔に聞いた気がします」
 耳に手を当ててよく聞き取ろうとすれば、その声は下から聞こえてきた気がして。
「……設計者様の声かしら?」
 そう思うのは少し前にこの館の設計者に想いを馳せ、そうしてマイを作った設計者に対してほんの少し期待をしたから。
 ――会えるかしら、設計者様に。
 声がした方へ、マイは鏡の階段を下りながらその姿を探していく。
 壁の鏡にその姿は無い。
 階段の鏡にも映っていない。
 一段、また一段と降りていき最後の一段を降りた所でマイはにこりと破顔した。
「お久しぶりですマスター、マイです。ふふ、思っていたよりもすぐに出会えましたね」
 マイの目の前にあるのは迷路と階段に通じる鏡扉。マイの姿を映すそれは、今はマイではない別の姿を映し見せる。
 マイの会いたかった人――設計者様。
「そこは狭くないですか?AIの開発は順調ですか?」
 その人は鏡の向こうで窮屈そうに過ごしていて、マイはもっと近づこうと鏡の扉へと駆け寄るのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『五里霧中』

POW   :    力技で幻影を倒す

SPD   :    いないものと無視して幻影を振り切る

WIZ   :    論理的に否定して幻影を打ち消す

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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●霧の逢瀬
 もう会えないと思っていたあの人の姿。
 聞く事が出来ないと思っていた声。
 知る筈も見る筈もなかった何時かの自分。

 それに気を取られていて、迷路に迷って、どうしてそうなったかは千差万別。
 けれどもその誰もが、気が付いたら霧の中にいた。
 前も後ろも良く見えない霧の中、ある筈の壁も扉もどこまで歩いてもどこにも無い。
 ふと、霧の向こうに人影が、声が聞こえた様な気がして歩み寄る。
 ――ずっと探していたよ。
 聞きたいと思った声が。
 触れたいと思った姿が。
 霧の中から現れた。
 ここに鏡は無く触れようと思えば触れられる。
 手を伸ばせば届くであろう。
 ――ずっとここにいよう。
 その甘い願いでさえこの霧の中なら叶えられる。
 霧はどんどん深くなり、猟兵達を包み込むのであった。

=====
●霧
 会いたい存在、聞きたかった声、過去や何時かの自分。
 鏡の迷路で出会った存在でも、そうでない存在でも、『何か』がこの場に居続ける事を誘ってきます。
 どの様に対処するかはご自由に。

=====
春霞・遙
やはり怪異が起これば別の空間に飛ばされますよね。良いですよ、マッピングは自己満足ですから。
さて、一般の人が迷い込んでいないか見て回ってUDCを倒した後の退路も探したいですが。

一年ほど前にダークセイヴァーで救った赤ん坊がどうなったのか時々想像します。無事に育っていれば今頃歩くようになっているでしょうか。
あの劣悪な世界になど置いていけないと思うこともありました。でも命を賭して産んだ彼女とその子の絆なら、部外者などいなくても生き抜いてくれると信じたんです。
残って見届けたい、守りたいとも思いました。でも、私はUDC組織の人間ですから。

自分を「言いくるめ」留まりたい感情も『幻影』もUCの触手が喰います。



●幸せな白花の幻
 始まりはそうでなかった。
 薄く白く少しずつ。視界は白く染まっていき、周囲にあれほどあった鏡が見えなくなった所で春霞・遙(子供のお医者さん・f09880)は溜息交じりにペンを走らせていた地図をポケットに仕舞ったのであった。
「そろそろ壁にぶつかっても良い筈ですが……。やはり別空間でしょうか」
 元より自己満足で行っていたマッピングもここまで意味がなくなるとは。霧に視界を閉ざされるよりも前にみていた景色では数メートル先に鏡の壁が合ったのだ。だからこそ、その記憶を頼りに歩み進めるも、あるべき壁は見当たらず、ただ何も無い空間が広がっているばかり。
 まるでここは鏡館ではないかの様。
「歩いて調べて行くのが早そうですね」
 遙はぽつりと零しながら霧の中を奥へと進む。
 情報が何も無い空間。ただ、退路については考えておくべきであろう。加えてこの霧の中に一般人が迷い込んでしまっている可能性も考えなくてはならない。猟兵であれば対処が出来ても、何も知らない一般人はこの場所に囚われ続けるかもしれない。
 何故なら、ここは幻を見せる霧で満ちた場所であるから。
「もう一歳になるのですね」
 霧は迷い込んだ者達へ平等に幻を見せていく。
 遙の視線の先にいるのは、まだ若い母と小さな赤子であった。一生懸命に立ち上がろうとしている赤子を若い母――彼女は笑みを浮かべながら応援する。そんな声すら聞こえてくる。
 遙にとっては忘れられないダークセイヴァーで助けた命。
「……幸せに暮らしていれば良いのですが」
 夜闇とオブリビオンに支配された世界は彼女達が生きて行くには厳しく、いつ命が刈り取られても可笑しくない環境は劣悪であると言って差し支えないであろう。
 遙は二人の側に残り見届けようと、彼女達の前に脅威が現れれば守ろうと思ったのだ。
 けれども遙はそうはしなかった。
「部外者の私がいなくても今も生き抜いている事でしょう」
 命懸けで産んだ彼女とその赤子の絆は何よりも強く、遙は二人を信じる事にしたのだ。
 大丈夫。きっと二人は生き抜いて幸せになるであろう。
 ――そう、囚われない様に言い聞かせる。
「それに私はUDC組織の人間です。さぁ、存分に喰らいなさい。あれは幻。腹の足しにもならないかもしれませんね」
 立ちあがった赤子の姿。
 彼女の笑顔。
 遙は守りたかったモノへ向けて、従えている触手を解き放つ。この場所に留まりたいと思う感情が代償となり薄れて行く中、幸せな光景が貪欲に喰らう触手により悪夢の様なものへと変わっていく。
 血に染まったエーデルワイス。赤子の髪を飾っていた一輪すら、触手達の腹の中へと消えて行った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒柳・朔良
追いついた先は合わせ鏡で作られた小さな部屋
たくさんの鏡に写る私と『あの方』の姿に困惑する
これが合わせ鏡の見せた『幻』であると、頭では理解しているのに、身体が、心がまるで理解していないようにその手を鏡の中の『あの方』に伸ばしていた
鏡の中のでも同じように『あの方』に手を伸ばす
触れられると思った瞬間、『あの方』は消えてしまった

ああ、やはり幻想なのか
そう思い踵を返すが、扉がない
どうやら迂闊にも怪異の罠に嵌ったようだ
珍しくも不覚をとったな、などと他人事のように考える
脱する術としては鏡を壊すことくらいしか今は考えられないが、壊したところでこの館からは出られないだろう
さて、ここからどうしたものか



●幻は消え、ひとり
 黒柳・朔良(「影の一族」の末裔・f27206)が辿り着いた合わせ鏡の小部屋。どこを見ても朔良が写り込んでいる筈なのに、ただ一つ、目の前の鏡には朔良が写っていなかった。
 『あの方』――朔良の主が映っている。
「……あ」
 思わず漏れた声。
 目の前にいるのは本物の『あの方』では無く、その存在が怪異が作り出した幻だと頭では理解していた。そういう噂があると事前に知識も得て、この鏡館に来ているのだ。
 平穏を取り戻すため、任務のために。
 けれども、心が、身体がいう事を聞かない。目の前にいる『あの方』の姿に朔良の鼓動が大きくなって、その身が興奮で微かに震えた。
 ――      。
 朔良の唇は勝手に『あの方』の名を囁き、黒い瞳は正面の姿から逸らす事が出来ずにいて。鏡の向こうの『あの方』を求める様に自然と腕が伸びていく。
 届かない存在、会う事の出来ない存在。けれども、もしかすると――ここであれば。
 胸の中が期待に満ち、そうして鏡の向こうにいる『あの方』に朔良の指先が届いた。
「……っ」
 こつん、と硬質で冷たい鏡面が触れた瞬間、霧が晴れる様に『あの方』の姿が消え、目の前の鏡に映るのは朔良自身。目の前の鏡は、まるで今までそれが当たり前であったかのように朔良の姿の身を映し出していく。
「……まぼ、ろし?……。……そうだな、あれは鏡が見せた幻想。くだらない」
 胸の内に広がる感情を押さえながら、朔良は自分を納得させて部屋から出ようと振り返る。
 そうして一歩踏み出すも、その足はすぐに止まった。
 ある筈の扉が無くなり、周囲は霧に包まれている。
 まるで朔良を閉じ込める様に。
「罠か」
 朔良は慌てることなく冷静に、この状況を整理しながらも霧の中を歩んでいく。
 鏡館で迷わせ幻を見せる怪異の手口は、身をもって理解する事が出来た。そして、その矛先が朔良に向かっている事も。
「あるはずの鏡の壁も無くなっている。ふむ……」
 歩んでも、探しても壁として存在していた鏡も扉と同じ様に見当たらない。存在するのは『あの方』を映し出していた一枚のみ。朔良は幻を見せた鏡の前に戻れば、じっと何の変哲もない鏡を見つめた。
「今出来るのはこの鏡を壊す事位か」
 己の心を惑わせた目の前の鏡を軽く叩いても、今は特別な物には見えない。
 けれどもこの霧の中で朔良以外に存在しているものはこれだけしかない。
 そうであるなら――。
「壊した所でどうなるかは分からないが」
 目の前の鏡を壊しても館からは出る事が出来ないであろう。
 けれども状況を変える一手となるかもしれない。
 霧の中、朔良は一つの選択を行うのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

マイ・クラウディー
あれ…気づいたら、霧が出ています。扉も消えて…マスターと直接会える!
今は何を?私を支援するバーチャルナビゲーターですか。ご苦労様です。
完成したら私含め、サポート対象の皆さまがより便利な生活が暮らせるなんて、素晴らしいです!

え、開発を手伝ってほしい?構いませんけど…

…あれ?私を支援する、私と同じ型のナビゲーター?よく考えたらいましたか?今現代に。オフラインで検索してみますね。『そのような存在は、確認できませんでした』

手伝い…しない方が良さそうですね?
あっ、腕は握らないで下さい!マスターは強引な方じゃありません!
失礼します。マスターのようなお方。でも、マスターに会えたみたいで何だか嬉しかったです。



「マスター! ふふ、直接お会い出来ました!」
 それ程大きくない鏡の中に閉ざされたマスターの元へ。近づく程に霧がマイ・クラウディー(AIナビゲーター・f26816)の側を漂いはじめ、マスターが映る鏡の前に来た時には、マイの周囲は霧のせいでほとんど何も見えなくなっていた。
 けれども、何も問題は無い。目の前に映る人影にマイはにこりと笑みを浮かべる。
「急に霧が出て来てどうなるかと思いましたが、良かったです。何時からそこにいたんですか?今は何を?」
 鏡の向こうにいた筈のマスターも、今はマイの目の前にいる。鏡に映る存在ではなく、まるでその中から出てきたような実体を持った姿で。
 マスターが紡ぐ言葉にマイは瞳を丸くさせた。
「今は私を支援するバーチャルナビゲーターを開発されているんですか?」
 完成すればアドバイスナビゲーターであるマイを含め、マイを取り扱うサービス『まいにちコンシェルジュ』を利用している者達の生活がより便利なものになるのだとマスターが語ると、マイは瞳を輝かせた。
「素晴らしいです! もっと詳しく聞かせてください!」
 霧の中を二人で歩みながらマイはマスターの声に耳を傾ける。
 ふと、マスターが足を止めるとマイの方をじっと見つめ、マイは不思議そうに首を傾けた。
「どうされましたか? ――え? 私に開発を手伝って欲しい? 構いませんけど……」
 マスターの願いに、マイの中にぽつりと違和感が生じた。
 それは水面に揺れ広がる波紋の様に大きくなっていく。
「マスター、少し待ってくださいね」
 目の前のマスターに気付かれぬ様に笑みを崩さずに、マイはこっそり検索を開始する。
 マイを支援する、マイと同じ型のナビゲーター。
 その存在は、この世界にあったであろうか。

 ――そのような存在は、確認できませんでした。

 マイの脳裏に浮かぶ文字は、マスターの話はどこにも存在していない事を証明していつ。緑の瞳を戸惑いで揺らしながらマイはそっとマスターから距離を取った。
 このまま側にいれば危険だと、そんな気がして。
「ごめんなさい、そのお手伝い……しない方が良さそうですね?」
 マスターの様でマスターでは無い人物の顔が歪む。マイの方へと伸ばされた腕に気が付けば、マイはさらに一歩距離を取った。
「やめてください! マスターは強引な方じゃありません! 失礼します!」
 踵を返し、マイはマスターによく似た誰かの元から走り去る。
 追いかけてくる気配は無い、けれどももう会わない様に出来るだけ遠くへ。
 嬉しさで弾んだ気持ちは確かにある。
「さよなら。マスターに会えたみたいで嬉しかったです」
 マイの声は霧の中へと小さく消えて行くのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

青原・理仁(サポート)
人間
年齢 17歳 男
黒い瞳 金髪
口調 男性的(俺、呼び捨て、だ、だぜ、だな、だよな?)

性格面:
やさぐれ、ぶっきらぼう
積極的な人助けはしないが、見捨てきれずに手を貸してしまう

戦闘:
武器は使わず、殴る・蹴る・投げるなど、技能「グラップル」「怪力」を生かしつつ徒手空拳で戦う
構え方は古武術風

雷属性への適性があり、魔力やら気やらを雷撃に変換し、放出したり徒手空拳の際に纏わせたりします


羽生・乃々(サポート)
●設定
UDCアース出身の極普通の女子高生
バイト感覚で仕事を安請け合いしては散々な目に遭い
涙目で切り抜けています

●口調補足
狐化の影響で「きゃあ!」「いやぁ!」等の悲鳴の類が
何故か「こゃ!」「こゃぁ!」になってしまいます

●冒険・日常
「えへへ、これ位ならお安い御用ですよっ」
「さあ管狐さん、お願いしますね!」

頭脳、知識、運動能力
どれも一般人レベル&&平均点な普通の子ですが
自分にできる事を精一杯、他人に優しくをモットーに頑張ります

荒事の際は涙目でばたばた逃げ隠れ
可能なら他の猟兵に助けを求めます

人手が要る時は使役UDCの管狐にお願いして人海戦術です
探し物や偵察にも

他は全てお任せです
交流や連携等も歓迎です!



●霧の果てを求め
「な、なんですかこれ!」
 視界を閉ざす程の霧に包まれた中で悲鳴を上げたのは羽生・乃々(管使い・f23961)であった。
 バイト感覚でこの話を受け、鏡の迷路をある程度進んだものの、右も左も分からないこの状況に乃々の瞳にはじわりと涙が浮かんでくる。
 これがただの霧であればまだ良かった。けれどもこの霧は怪異によって生み出されたもの。乃々の耳には、霧の中にずっといようと言った誘い声が常に届き、誰かの気配があると思い振り返れば誰もいない。
 不気味な霧だ。
 そして、その霧の中をどれだけ歩いても壁や扉が見当たらない。
「うぅ……。まだ戦闘になっていないだけマシですが、一体どこまで続くのでしょう?」
 何かが現れて戦闘となった場合、この霧の中でうまく逃げ切れるであろうか。不安が靄の様に乃々の心の中に生まれ始めようとした時、ふと視線の先に影が見えた。
「だ、誰ですっ!」
 どんどん乃々の方に向かってくる影。
 その影が濃くなるばかりであれば乃々は鞄の中からそっとタンブラーを取り出し握る。
「ったく、何だよこれ。……アンタ……幻か?」
 霧の中、乃々の前に現れたのは暗色色の衣服を纏う青年――青原・理仁(青天の雷霆・f03611)だった。理仁は乃々に黒い瞳をじっと向けるとやや考えた後、拳と掌を突き合わせる。
「ッス。とりあえず攻撃してみっか」
「こゃ! すっ、ストーップ! 待ってください! わたしは幻じゃないです!」
 今にも攻撃しそうな理仁の目の前で、乃々は大きく首を左右に振れば涙の浮かぶ瞳を向ける。
「わたしはただのお仕事で来て迷っているだけなので! その拳を下ろしてください!」
 ばちりと小さな雷が爆ぜる拳に視線を向けて訴えれば、怪訝そうに眉を寄せていた理仁の拳が下ろされていく。
 理仁の瞳に乃々の瞳に薄く浮かぶ涙が映っていた。
「……チッ。……なら、アンタはここで迷った奴って事で良いんだな?」
 こくこくと頷く乃々を前に、がしがしと理仁は金色の髪を掻いた。
 敵を前に蹴る殴る、持ち前の怪力を活かす様な事柄であれば理仁の拳は大きな力となったであろう。けれども今の状況は理仁が得意とする荒事ではない。
 はっきりと掴めない、正体も分からない霧の中に唐突に迷い込まされてあてもなく歩かされる。
 霧を発生させている存在はあれば良かったのに、と思わないでもないものの、理仁は大きく息を吐き出しながら歩いてきた方向に向けて指をさす。
「あっちには何も無かった。どこまで行っても霧しか無かったぜ。アンタが向こうから来たなら向こうはどうだったんだ?」
「わたしが歩いてきた方も何も無かったです」
「そっか。なら、俺はこっちに行く。じゃあな」
 乃々の話を聞いた理仁はぶっきらぼうにそう言えば、理仁も乃々の二人が歩んでいなかった方向を指さして再び歩き始めようと一歩踏み出した。
 この状況を変えるには、この霧の中を進むしか無い。
 理仁は鋭い眼光を白い世界に向けて一歩。
「ま、待ってください!」
 踏み出した瞬間に背後から、今にも泣きそうな声が聞こえてきた。
「一緒に行きませんか? 出口を探すのは一緒ですし、何が起きるか分かりませんので!」
「……」
 黒と金の視線が合い、数拍分の沈黙が生まれる。
「それに、ちょっと便利な事が出来ると思います!」
 駄目押しの様に続けらる乃々の声。
 先に折れたのは理仁であった。
「仕方ねぇーな。で、アンタは何が出来るんだ?」
 理仁が歩いた分、出来た距離を乃々は早足で詰めると、ずっと握りしめていたタンブラーを理仁の前で少しばかり揺らし見せた。
「お手伝いが呼べます。 お願いします、お狐さん! 出口か扉を探してください!」
 乃々の声に反応して開かれたタンブラーから飛び出していくのは何匹もの管狐達。白い筋が霧の向こうに消え、そうして暫くすれば一匹、また一匹と乃々の元に帰ってくる。
 放った一匹の管狐が戻ってきた途端、乃々と理仁の注意を引くようにその場でくるくると踊る様に回り始めれば乃々はにこりと笑む。
「どうやら上手く見つけられたみたいです」
「はぁ……。これならアンタ一人でも行けただろ」
「そんなことありません! 変な声が聞こえたり影が見えたり……。戦闘になると逃げるくらいしか……」
 乃々はあまりそういう事が得意では無いのだろう。こゃ! っと、声を上げた乃々に相槌を打ちながら先程の管狐が進んでいった方向を理仁は一瞥する。
「行くぞ。さっさとここから抜け出す」
「はい。道案内は任せてください」
 管狐を先頭に、理仁と乃々は再び霧の奥深くへと進んでいくのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第3章 集団戦 『呪いの額縁』

POW   :    待ち伏せ擬態状態
全身を【霊的にも外見的にも一般的な額縁】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
SPD   :    作品モデルの複製
自身が【破壊される危険】を感じると、レベル×1体の【肖像画に描かれている存在】が召喚される。肖像画に描かれている存在は破壊される危険を与えた対象を追跡し、攻撃する。
WIZ   :    無機物の芸術家
【額縁の中心】から【対象を急速に引き寄せる魔力】を放ち、【キャンバスに取り込み肖像画に変える事】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 霧の中を歩み進める者。
 鏡の見せる幻に足を止める者。
 鏡館に迷い込んだ猟兵達の前にソレは唐突に現れるであろう。
 本来であれば、出口へと通じる最後の長い廊下に飾られている筈の絵画。その一枚一枚がまるで意志を持ったかのように、時には獲物を狙う獣の様に息を潜め、猟兵達を襲い掛かろうとしていた。
春霞・遙
気持ちが悪い。
幻とは言え、大切にしていた、暖かい物語を、自分の意志で血に濡らした。
この館の呪いを絶つためには必要だったんだ。
まるであの惨劇が成ってしまったようで。
いや、あそこにいたオブリビオンは銀の弾丸に倒れた。

吐き気がする。
できるものなら【カガリビノマジナイ】で鏡館ごと燃やし尽くしてしまいたい気分です。
そんな大層なことは出来ないので地面に火を点けたハシバミの枝を落として無理やり体を動かして敵を叩き割ろうとします。
素手でも銃でも杖でも、傷を負っても反撃を許しても、もし小児という守るべき対象が相手になるとしても、動けなくなるまで壊そうとします。

ああ、頭が痛い。
帰ったら、全部忘れて眠りたい。



●凍てつく心
 春霞・遙(子供のお医者さん・f09880)の中を満たすのは不快感のみであった。
 霧の見せた幻は、遙自身が大切にしていたもの。
 多くの猟兵達が力を合わせ起こす事の出来た奇跡。それを嘲笑う様な幻に、遙の眉間には深い皺が刻まれていく。
 あの幻は鏡館の呪いを断つために必要なものであった、そう頭は理解していても、心はあの幻を厭い拒絶する。叶うのであれば今すぐ、この館ごと全て焼き払い浄化してしまいたい。実現が困難な願いだと理解しながらも、遙はそうは思わずにはいられなかった。
「……あのオブリビオンは弾丸に倒れた。だからあれは現実では無い。霧が見せた幻……」
 自身に言い聞かせる様に言葉を重ねながら霧の中を歩む遙の側を、一陣の風が吹き抜けた。
 霧の中を切り裂く様に、確実に遙を狙ったそれは一枚の絵画。
「……ッ!」
 草原で幼子達が遊んでいる。
 呪われた額縁に収められた、その絵画に遙の胸中は揺らいでしまう。
 絵画は不気味な程、ゆっくりと遙の方を向けば再び回転しながら遙へと猛スピードで向かってくる。
 金縛りにあったように避けることの出来ない遙の瞳が捕らえたのは、キャンバスから伸びる不気味な腕のような魔力。まるで靄の様なそれは、子供の腕を模している様に見えて。
 絵画へ投げ放とうと火をつけたハシバミの枝をもつ指先は心なしか震え硬直してしまったように上手く動かす事が出来ず、指先付近まで枝が燃え肌を焼く熱とその反射により、無理矢理に体を動かし横へと跳び避ける。
「どうして……」
 それは無意識の言葉であった。
 止めどなく湧いてくる吐き気を堪えながら、再びハシバミの枝に火を付ければ遙を狙ってくる絵画に投げつける。
 一つ当たっても小さな焦げ跡が出来た程度であった。
 二つ当たって幼子の顔が一つ潰れた。
 僅かな動揺を察された様に、絵画に掴まれた腕が絵の中に引きずり込まれれば呪詛を帯びた魔力に傷つけられ、遙の身体は汚染される。
 胃の中のものがせり上がる不快感、気持ちの悪さと痛む頭。
 早く終わらせて帰りたいとさえ願ってしまう。
 ――ここで起きた事を忘れて眠りたい、と。
 まるで身体内、心の中から凍てついてしまうような感覚を抱えながら、遙はわざと絵画が掴みやすいように腕を伸ばした。
「……これで終わりにしましょう」
 まるで遙を逃さない様に掴んでくる幾つもの腕を見つめながら、遙がポケットから取り出したのは物理的な破壊を攻撃力を持つ拳銃であった。
 痛みすら鈍くなった様な感覚を感じながら、遙はその引き金を可能な限り引き続ける。
 何発撃ったのかもう数も数えてはいない。
 穴だらけになった絵画は力を失ったように地面へ落ち粉々になり、残されたのは遙だけであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

黒柳・朔良
目の前の鏡を割って出てきたのは額縁に入った絵か
誰を描いているかは知らんが、『あの方』の姿を騙ったその罪は償ってもらうぞ

選択UCを使用し、【目立たない】ように『額縁』を破壊していく
変化させる暇を与えず、危険すら感じさせる間もなく
壊して、壊して、壊して……
最後の一枚に描かれていた『あの方』の姿に一瞬その手が止まる
たとえこれが『怪異』によって描かれた紛い物だとしても
『あの方』を、親愛なる主を、この手にかけることは出来るはずもない

だから、これは違うのだ
『あの方』がここにいるはずもないことは私がよく知っている
そう気付いたから、最後のそれも壊して
これでようやく、終わらせることが出来た



●偽りの親愛
 目の前の鏡を割った先。
 新たな道を作り出した黒柳・朔良(「影の一族」の末裔・f27206)前には始めの鏡の迷路がまるで当たり前の様に広がっていた。
 朔良の出た先はやや広めの部屋となっており、その壁には何枚もの絵画が飾られている。
 黒い服を着た人物、青いドレスを着た人物、それぞれ一枚一枚に描かれている人物の特徴はあるものの、そのどれもがはっきりとした顔が描かれてはいない、どこかの誰かの姿をぼんやりと描いたものであった。
 けれどもたった一枚、部屋の一番奥にある一番大きな一枚は違う。
 見覚えのある黒い服、曖昧な笑みを浮かべる顔立ちは他の絵画よりもはっきりと細かく描かれている。まるで朔良の焦がれる『あの方』とよく似た、けれども明らかに違う誰かの姿に朔良は思わず、得物の柄をぎゅっと握り込む。
「何だ、これは……。誰を描ているかは知らんが、『あの方』の姿を騙った罪。償ってもらおう」
 そうして朔良は駆け出した。
 絵画自体に罪は無い。けれどもその絵画を納める額縁は、今回の騒ぎの元凶となっているのだから。
「『影』の獲物は何処にいる?」
 言葉をひとつずつ音にする程に、朔良の存在自体が薄くなり比例する様に烏を思わせる漆黒の小太刀がより暗殺に向いた形へと変化していく。
「『影』に殺されるのは……」
 揺らぎ始めた存在感すら利用して、朔良は目立たぬ様に部屋に飾られた絵画達を破壊していく。
 引き裂かれるキャンバスに、額縁を縦横無尽に切り刻めば、床に落ちそれ以上は動かなくなった。
「――誰?」
 一枚、二枚目は気付かれる事無く始末し、三枚目と四枚目は宙に浮かび朔良を攻撃してくるも避けた際に出来た隙を的確に突く事で破壊する。
 最後に残るのは『あの人』とよく似た一枚。
 容赦なくキャンバス諸共、額縁を破壊する腕が止まる。
「……」
 例えこれが作り出された偽りであっても、朔良の大切な『あの方――親愛なる主』であれば、敵に向けるべき刃を向ける事は許されず出来る筈が無い。
 浮かび上がった絵画は、その標的を朔良に決めたのであろう。ブーメランのように高速で回転をしながら朔良の方へと幾度も突撃を仕掛けてくる、
 攻撃が出来なければ、この限られた空間で避ける事しか出来ず、絵画はじりじりと朔良の体力を追い詰めていく。
「……違う」
 朔良の『あの方』は、朔良が朔良として存在するその全てであった。
 会える筈が無い人。
 だからこそ、会う事を望んでしまった。
「違う、違う、違う。ここに『あの方』はいる筈もない。来ることも無い」
 目の前に立ちふさがる絵画を否定する様に口を開き、吐き出す言葉は朔良自身にも跳ね返っていく。
「そんな事……私が誰より知っていただろう?」
 元より『あの方』の姿がここに並ぶ事こそあり得ないのだから。
 朔良は地面を蹴り上げ、一気に距離を詰めると大きなキャンバスを斜めに切り裂いた。返す刃で額縁を鋭利に切断し、どの絵画よりも破壊し尽くす。
 欠片となったキャンバスは、もう何が描かれていたのかすら判別がつかなくなっていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

サンディ・ノックス
他人の心を踏み躙り欲望を満たしていた、邪悪な力と完全に同化していた頃の自分に出会った
俺の心を今一番満たしているヒトが「僕だけを見てほしい、ずっと二人きりでここに居よう」と言った
…色々やってくれたね

過去の自分は反省する機会になったし許してあげるけど
彼の姿で自分本位の発言という侮辱は許さない
体は粉々に砕き魂は喰らって何も残さないよ

指定UCを発動、無数の両鎌槍で全方位から攻めたてる
へぇ…キャンバスに取り込みきれると思ってるの?
お前達を無に帰す欲は尽きないし、憎きお前達を食べたくてたまらないから俺の肉体は際限なく両鎌槍へと生まれ変わって滅ぼしにいくよ

お前達の魔力と俺の魔力と体力、どちらが勝つか根競べだ



●蹂躙されし親愛
 透明な境界越しに映し出された姿は過去の己自身であった。
 宿していた昏く邪悪なモノと融けあい、ひとつとなったサンディ・ノックス(調和する白と黒・f03274)は正にカタチを得た悪。優しさを見失い、欲望を満たす為に他者の心を踏みにじり荒していた過去。出会って喜ばしくはないものの、迷路の中を歩みながら映し出される景色を振り返り、反省する時間はたっぷりと与えられた。
「俺の過去を見せたのはまだ許すよ。全部事実だし過ぎてしまった事は変えられないからね」
 壊したばかりのキャンパスを見下ろす瞳は冷たく、新たにサンディを取り囲む様に現れた大小様々な絵画達を前にその口元は好戦的に弧を描く。
「僕だけを見て、ずっと二人きりでここに居よう。……ははっ、よくそんな事を彼に言わせてくれたね」
 乾いた笑い声はその瞳と同じく温かな温度は皆無であり、唇から一つずつ言葉を吐く程に、全てを飲み込もうとする強欲で昏く黒い悪意がサンディの肉体を換えていく。
 霧の中で出会った、本当の彼はそんな事を決して言わない。
 自分本位な事を厭い決して口にしない彼を、ここに巣食う怪異は侮辱したのだ。
「本当に色々やってくれたね。……へぇ、キャンパスに取り込みきれると思っているの?お前達ごときに?」
 サンディの側にある大きな額縁が戦慄くと額縁の中心からサンディへと伸ばされるのは魔力で作られた無数の見えぬ腕。不可視であるも空気の動く気配からその動きを見切れば、サンディは暗夜色の剣を斜に振り下ろし腕を断つ。
「やってごらんよ。俺は彼を穢したお前達が憎くてたまらない。粉々にして、魂もキャンパスも何もかも喰らって無に帰してあげるよ」
 先の一撃が合図であったのか、怪異達は一斉に動き始めた。
 背後から回転しながら高速で飛んで来る額縁達を避け続ければ、それを待っていたかの様に怪異はサンディを三方向から挟み、指先から肘に掛けた腕の一部をキャンパスの中へと取り込んだ。
 のっぺりとした絵画となった手を気にする事無く、サンディはそのまま腕を振り回し周囲の額縁を壊しなが嗤う。
「たったこれだけでお腹いっぱいなの?呆れた。お前達がのんびりしている間に俺はちゃんと準備をしていたのに」
 騒ぎに気が付いて集まってきているのか、先程よりも数を増す絵画達の中心でサンディは青い瞳を細めながら天井の見えぬ上空へと視線を向けた。
 漆黒の十文字槍。
 それはサンディの肉体を悪意にし作られる武器のひとつ。
 数え切れぬ槍の穂先は、サンディと怪異のいる地上に向けられていた。
「あれだけじゃない。この身体がある限り、肉は際限なくお前達を滅ぼす両鎌槍に生まれ変わるよ」
 呪われた額縁が現れたとしても、サンディの槍はサンディの魔力と体力が尽きない限り作り出す事が出来る。
 この戦いがどれ程長引いたとしても、サンディには勝利する自信があった。
 否、負ける事等許されないのだ。
 サンディの心を一番満たす彼の為にも。
「逃げ場なんてない。どこまでも追い掛けるよ」
 それはまるで指揮者の様に。
 振り下ろした腕と共に無数の槍が地上へと降り注ぎ、執拗な程に額縁達を破壊する。

大成功 🔵​🔵​🔵​

柊・はとり(サポート)
※アドリブ連携歓迎、御自由に

また事件かよ…
俺は柊はとり
歩けば事件に遭遇する呪われた体質のせいで
殺された後も嫌々高校生探偵をやっている探偵ゾンビだ
謎解きは特技だが好きじゃない
この場に居合わせたのも偶然だろうが
関わっちまった以上は解決に尽力する
性格は察しろ

ちなみにこいつ(剣)はコキュートス
人工知能程度の会話ができる
『事件ですね。解決しますか? 柊 はとり』
うるせえ

●戦闘
コキュートスは莫大な負担と引き換えに
戦う力を与える氷の魔剣だ
基本的に代償のある技しか使えないが
高火力を出せる超攻撃型の前衛だと思っとけ
探偵要素はかなぐり捨てていく

弱点は脳
頭さえ無事なら何してもいい
痛覚はあるがいずれ再生する
人命最優先


アラン・スミシー(サポート)
基本突然現れて仕事を終えたら去っていく人物です。

基本的に【乱戦】か【銃撃戦】での援護がメインとなります。
他の猟兵の手の足りない所に現れては銃で攻撃し、気を引いたり足止めをしたり敵の頭数を減らしたりします。

説得や交渉等が必要ならなんか良い感じの言葉を言います。
例:君の正義は分かった。しかしその正義は君を救ったかい?

ユーベルコードのセリフを参照し、MSの言って欲しい都合の良い言葉をアレンジしてやってください。
大体無意味に格好いいこと言ってます、割と適当に。

状況次第では不意打ちとかもするかもしれません。適当にお使い下さい。



●打ち破られし呪い
「数が多いですね。助けを呼びますか?」
「うるせえ。んな事出来る状況だったらとっくに呼んでる」
 手にする大剣から聞こえて来た声を柊・はとり(死に損ないのニケ・f25213)は一蹴し、シルバーフレームの眼鏡のブリッジを人差し指で押さえる。レンズ越しに見える視界の殆どはタッチもばらばらな数多の絵画に埋め尽くされており、左右どちらに視線を向けても絵画に取り囲まれている状況は変わらない。
「多勢に無勢、なんてな」
 冷めきったアイスブルーの視線の鋭さが増す中で、今の状況をはとりは皮肉る。
 歩けば事件に遭遇するはとりにとっては、呪われた鏡館に迷い込み閉じ込められるという偶然もあり得てしまう日常の範囲。とは言え今回は探偵の出る幕が無い程に謎解きの類は何も無く、渦巻いているのは呪いの類で。
「はぁ。ここに迷い込んだのも偶然だろうが……こいつらをどうにかしねぇと出られないみたいだしな。十三段目は消えていた――」
 言葉を紡ぐ程に現れるのは青く小さな火の粉。魔剣コキュートスが己の生命を喰むのを感じながら、はとりの体は蒼い炎に包まれた。
「つまりこれは事故死だったんだよ」
 一枚の絵画がはとりへと向かえば、それに追随する様に数え切れぬ程の絵画がはとりへと押し寄せる。一つずつであれば、はとりが纏う蒼い炎が額縁ごと凍らせていたであろう。しかし魚群の様なそれは少しずつ、はとりの体をキャンバスの中へと取り込んでいく。
「クソがっ!」
 動きが封じられるのは一時的であるも、それは充分な隙となる。鋭角ではとりの頭を狙ってきた絵画達を魔剣で両断にしたものの、代わりに腹部から胸にかけて猛スピードでめり込んできた絵画の衝撃を受け止めれば体の内側から軋む音。凍った絵画の額縁を踏み潰していきながら、はとりは巨大な暴力で絵画達を破壊していく。
「おや、誰かいるみたいだね」
 それは唐突な男の声であった。
 硬質な音と共に透明な壁が現れて群れとなっていた絵画達を細切れに分断していく。
「あんたは誰だ?」
「何、語るに値しない男だよ」
 飄々とした口調ではとりに返事をし、黄朽葉色のトレンチコートを翻しながらアラン・スミシー(パッセンジャー・f23395)は手にしていたショットガンの引鉄を引き、はとりの側に残る絵画の額縁を弾丸で穿つと軽快な口笛を吹いた。
「この数を一人で相手するなんて無茶をするね少年。ここで会ったのも何かの縁だ。助太刀するよ」
 こつこつと手の甲で透明な壁をノックすれば、アランははとりに柔和な笑みを見せた。
「向こうの絵画の様に突撃したってこの迷路の壁は壊れない。とは言え破壊出来ない訳でもない。少し見ていたけれど少年程の力なら壊す事も出来るだろう。これを作ったのは私だから迷うことは無いけれど、少年は真っ直ぐに敵に向かうと良いんじゃないかな」
「壊せるか?」
「はい、可能です。柊 はとり」
 アランの声にはとりが魔剣へと問いかければ、AIの様な平坦な声は淀みなく答える。
「なら行くか」
 透明な壁に魔剣を振るうと建築物すら粉砕する暴力は壁を砕くと新たな道を作り出していく。
「縁があればまた会おう」
 離れて行くはとりの背中から視線を外すとアランは迷いなく迷路の中を進んでいく。複雑な迷路の出入口は一つだけ。ならば向かうのはその場所で。
「おっと、危ない」
 角を曲がり暫く進んだ所で背後からの気配に気が付くと、攻撃回数を増やしたリボルバー銃を取り出し一度に二枚の額縁を弾丸で貫き砕くと、振り向き様にその銃身を挟み撃とうとしていた絵画をガラスの壁に叩きつけた。
「綺麗な花の絵だったのにね」
 出口へと辿り着いた絵画はアランが、迷路の中に残る絵画をはとりが破壊していく。
「もうそろそろ限界かな」
 時間が経つと共にガラスの壁に走るヒビは大きなものから小さなものへ、そうして数え切れぬ程の無数のヒビが入った迷路を見上げていれば、地面が揺れる程の衝撃と共に迷路が砕け散り始める。
「おや、思ったよりも早かったね少年」
 恐らくは、先程の彼が生み出したものであろう。
 霧が晴れはじめた周囲を見渡したアランは、館の怪異が消え去ったのを感じ取ると霧の中へと足を進め始めた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2020年11月17日


挿絵イラスト