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雨垂拍子と四葩籤

#サクラミラージュ

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#サクラミラージュ


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●雨垂拍子
 ぽつぽつと、破竹の勢いこそないものの、途切れることなく書き続けて早十数年。気が付けば恋愛小説の大家などと称されるようになっていた。
「……僕はただ、書くことしかできなかっただけなのに」
 そう、書くことしかできなくて、お陰で今も独り身で。恋だって、今まで一度しかしたことがない、情けない男なのだ。
 それなのに新作を出すたびにもて囃され、やれインタビューだの、やれスタァや別の作家と対談だの、気乗りしない仕事が増えてゆく。
 想像するだけで辟易するような話を持ち込む編集者から逃げるように、しとしとと雨が降る中傘を持って散歩に出た。
「紫陽花でも見に行こう」
 丁度近所に紫陽花の名所として有名な寺院がある。人もそれなりにいるかもしれないが、いくら名が売れたと言って見てくれは只のくたびれた中年だ。自分に構う者なんて、そうそういまい。
 実際、声をかけてきたヒトはいなかった。
「ねぇ、先生」
 肩に白魚のような傷一つどころか染み一つもない美しい手を乗せ、梔子の如き甘ったるい声で耳元に囁いてきたのは……ヒトではない、美しくも禍々しいナニカだった。

●四葩の誘い
 帝都の女学生やご婦人に人気の恋愛小説を書く小説家・雨水晩月(うすい・ばんげつ)が、ある寺院の敷地内で影朧に殺される。
「それが今回皆様に阻止して頂きたい事件ですの。残念ながら影朧の姿ははっきりとは見えませんでしたが、時刻は日中、場所は通称“紫陽花寺”と呼ばれる紫陽花の名所で御座います」
 梅小路・尚姫はゆったりとした所作で飲み物を配りながら、丁寧かつ明瞭な話し方で集まった猟兵達に仕事の説明を行った。
「まずは紫陽花寺に赴き、各々散歩など楽しみながらそれとなく雨水先生の姿をお探しになったり、怪しい者がいないかさりげなく警戒して頂くのがよろしいかと」
 なんでも紫陽花は敷地一杯に咲いており、一部迷路のような小道も出来ているらしく、この時期の散歩やデートにもってこいだという。また、紫陽花の萼を象った花御籤というものもあるらしい。
「水に浸すと白の紙が青やピンクなどの紫陽花色に変わって、運勢の文字が浮き出るんだとか。想像するだけでも綺麗な御神籤で御座いますね」
 にこりと微笑みかけたところで尚姫は伝え忘れていた予知を思い出し、「あっ」と洩らした口元を抑える。
「そういえば雨水先生が襲われる直前、白くて沢山の何かが見えて……鴉の鳴き声が聞こえた気がします。首魁の影朧以外にも皆様に仇為す存在がいるやもしれません。どうかお気をつけて」
 帝都ではしとしとと静かに雨が降り続いている。多少歩きにくくはあるが、紫陽花を愛でるには良い塩梅の雨だ。
 カップの中身が空になったのに合わせて席をたつ猟兵達を、尚姫は恭しく頭を下げて見送るのだった。


依藤ピリカ
 お久しぶりです、もしくははじめまして。依藤ピリカです。
 此度はサクラミラージュでのお話をご用意致しました。
 紫陽花を楽しみつつ、恋愛小説家を影朧から守る……そんなシンプルなお話になります。

●NPC:雨水・晩月(うすい・ばんげつ)
 43歳、男性、独身。
 一年に長編を一冊、四季に合わせた短編小説を三か月ごとに一冊出す執筆ペースをデビューから十数年保っている。
 恋愛小説の他、たまにミステリも書いているが、読者は女性が多い。
 痩せぎすで、整ってはいるが神経質そうな面立ち。黒縁の眼鏡をかけている。
 性格は口下手、不器用、真面目。
 紺色の単衣に白鼠の夏羽織姿で黒い傘をさしています。

●第一章
 紫陽花寺で紫陽花を愛でたり、散歩したり、花御籤を引いたりしてお楽しみ下さい。
 花御籤がどんな色に変わるかはご希望が御座いましたらプレに明記下さい。
 占いについては特に占いたい事柄(恋愛や仕事運など)がありましたら、その内容について言及します。しかし結果はダイスのみぞ知るということでご了承下さいませ。
 小説家・雨水に話しかけることもできますが、雨水はあまりお喋りが得意ではないのでごく短いやり取りになるかもしれません。

●第二章
 集団戦。白いもふもふと戦って頂きます。ゆるふわ戦闘。

●第三章
 ボス戦。雨水を守りながら、影朧と戦って頂きます。

 以上のような構成となっております。
 一部分でも通しでも参加形態はご自由に。
 OP公開と同時にプレ募集開始、プレイングが送信できる限りは再送歓迎です。
 それではどうぞよろしくお願いします。
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第1章 日常 『紫陽花寺の花みくじ』

POW   :    全力で楽しむ

SPD   :    優雅に楽しむ

WIZ   :    しっとり楽しむ

👑11
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

朱酉・逢真
引いた花みくじは大凶だとさ。いやあ縁起がいいやね。皮肉じゃねえよ?(色おまかせ)
雨水センセイも大変さね。眷属《獣》からネコ出して寄らせとくか。俺の眷属ァ見た目が野良だ、怪しまれやしめぇよ。触ったくらいじゃ感染らねぇし問題ない、ない。
文豪ってなァだいたいネコ好きだし、トリに飛びかかっても違和感ねえだろ。
俺はのんびりうろつくさぁ。あじさいも雨も、かたつむりも見ていて楽しい。あじさいを見ているヒトらもおんなじさ。
ただ俺はまともな傘持ってねぇんで、のんびり雨の中降られていくさ。土の中のミミズも喜んでるさ。



●煩う四葩
 カランコロンと下駄を鳴らしながら、傘もささずに紫陽花寺の境内を歩く男がいた。朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)は生憎と人様に迷惑をかけないようなマトモな傘を持っていない。故に、雨に降られながらの散歩をのんびり楽しんでいた。
 重い雲がかかった鼠色の空に、体に纏わりつく雨。色とりどりの美しい紫陽花と、その葉の上をぬらりと這う蝸牛。ぬかるんだ土の中で喜び蠢いているであろう蚯蚓すらも。紫陽花を愛で、楽しむ人らとなんら変わらない。ただ、逢真の愛でる対象は『人』よりほんの少し多いだけだ。
 肩にかけた羽織りがしっとり重みを増した頃、噂の花御籤が逢真の目に入る。足を止めて、いそいそと一つ紫陽花の萼を模った花御籤をひく。指に挟んだ白い一片を傍に置かれた水を張った桶に浸せば、それは葉のような緑色に変わった。
「大凶。いやあ、縁起がいいやね」
 浮かび上がった文字に、にんまり嗤う。皮肉ではない。さもありなん、というわけだ。続く内容も散々で。待ち人来ずだとか、失せもの見つからず、流行り病に気をつけよ等々。
「そういや紫陽花の花が緑になる病もあったなァ」
 葉化病。植物の細胞内に寄生する細菌の一種である『ファイトプラズマ』が原因でおこる病害だ。緑がかった白い花を咲かせる品種もあるが、この病害にかかった紫陽花は元の色問わずに花が緑色になってしまい、茎も弱くなり、株自体が衰弱する。
 色と良い、運勢と良い、自分という存在をよく解っているじゃあないかとどこか満足感を覚えて花御籤を懐に仕舞えば、丁度視界の端、少しばかり離れた小道の紫陽花の影に黒い傘が見えた。
「センセイも大変さね。ちっとばかし慰めてあげようか」
 その声に応えるように逢真の足元からするりと黒い猫が姿を現した。精悍な顔立ちに、爛々と輝く金の眼、艶のない毛並はまさに野良猫といった出で立ちだ。しかし文豪と言えば猫好きが多い。こいつなら自然と近づけて、烏か何かが襲ってきた場合でも違和感なく撃退に一役買うことが出来るだろう。
 逢真の思考を汲み取り、かろやかな足取りで黒猫は雨水の元へと駆けてゆく。
「……おや、どうしたんだい。人懐こい奴だな、君は」
 紫陽花の向こう側から野良猫に纏わりつかれ、少し困りつつも満更では無さそうな男の声が聞こえる。
 うまく事が運び、逢真は誰に向けるでもない緩い笑みを浮かべて空を仰ぐ。雨が止む気配はない。まだもう少し、のんびりとした時間は続きそうだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
「まあ!それでは是非雨水先生にサインをいただきませんと」
手製のカバーをかけた最新の長編小説を胸に抱いて紫陽花寺へ

UC「蜜蜂の召喚」使用
蜜蜂に紺・白鼠・黒の色を見せ
「こういう色の服を着て傘を差した男性を探して下さい」

此処を選んだのは小説の題材探しかもと思い、御籤(総合運)とアーチは外さず堪能

「長編の新刊、雨水先生にサインをいただけますように!」
寺に御籤があるなら神仏習合でお賽銭箱もあると思われ
お賽銭いれて大きな声で願掛けしすぐ周囲観察
聞こえる範囲にいて慌ててその場を去ろうとしたら雨水先生だろうと追いかける

「雨水先生!あの、サインを!先生の軽妙洒脱な恋愛のファンです」
キラキラした目で小説差し出す



●蜜蜂とサイン
 桜色の傘をさし、白鼠地に紺の千鳥格子模様の入った布地で拵えたカバーをかけた本を胸に御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は紫陽花寺を訪れた。
「雨水先生にサインをいただけますように!」
 賽銭を入れた後、音を立てずに手を合わせて大きな声で願掛けをする。そして周囲にそれとなく視線を巡らすが、雨水らしき姿は見えない。
「やはりここはお手伝いを頼んだ方が良さそうですね」
 おいで、と桜花が傘の外に手を差し伸べれば雨を厭わぬ蜜蜂がどこからともなく現れて指先に止まった。
「こういう色の服を着て、傘をさした男性を探してください」
 ブックカバーで色を、自分の手にする傘というものを蜜蜂に示して指示を出せば蜜蜂は羽音を立てて桜花の指先から雨の中へと飛び立った。
 通常の蜂と違い、ユーベルコードで召喚したこの蜜蜂は雨をものともせず、桜花と五感を共有しているので色彩の区別や意思疎通がある程度可能だ。きっと雨水のことも早々に見つけてくれるに違いない。
 蜜蜂が目当ての人物を探すまで、桜花は噂の花御籤をひくことにした。通常の紫陽花より小ぶりで野趣あふれる花をつける山紫陽花を這わせたアーチを潜り、白い紫陽花で飾られた台の上に乗せられた箱から花御籤を一枚引いて桶の中の水へと浸す。
 白から赤みを含んだピンクに色を変えた花御籤に浮かび上がった運勢は『吉』。
「ふむ、望む未来を切り拓く為には行動あるのみ。臆さず動けば何事も上手くいくでしょう……ですか」
 桜花が御籤に書かれた内容を読み上げていると、先ほど呼び出した蜜蜂が戻ってきた。どうやら無事雨水の居場所を探ってきたようだ。ピンク色に変わった花御籤を栞替わりに本に挟み込み、桜花は蜜蜂に導かれながら紫陽花の迷路を往く。
 少しばかり足をはやめて、角を曲がれば黒い猫と戯れる中年男……雨水・晩月がそこにいた。
「!?」
 突然現れた桜花に、人付き合いが苦手な雨水は眼鏡がずれる程動揺した素振りをみせる。
「あ、あの! 雨水先生、ですよね?」
 しかし、桜花は引かずに一歩踏み出した。 
「……そ、そうだが?」
 掠れ、僅かに震える声で答えながら雨水は中腰から体を起こし、眼鏡を直す。
「先生の軽妙洒脱な恋愛のファンです! サインを、お願いします!!」
 一息にそう言い切ると桜花はカバーをかけた厚い本……先日発売されたばかりの雨水の長編小説を差し出す。優雅でそれでいて行動的な美しい未亡人が探偵として活躍する内容のものだ。ミステリ小説ではあるのだが、助手役を務める平凡だが心優しく度胸のある青年との恋愛にあと一歩届かないようなやりとりにやきもきさせられるというか、年の差・身分の差があるカップルの嫌味のない恋愛模様が楽しめる作品となっている。
「……」
 桜花のキラキラした眼差しと押しの強さに雨水は視線を逸らして閉口するも、はぁと大きな溜息を吐くと観念したように懐から万年筆を取り出した。
「僕のような男のサインを欲しがるなんて、お嬢さんも変わっているね」
 それは皮肉でもなんでもなく、本音そのもので。雨水は驚きと戸惑いの入り混じった不格好な笑顔を浮かべ、開いた本の内表紙にサインを走らせた。
「ありがとうございます」
 とても嬉しそうにサイン入りの本を抱く桜花の足元で、黒猫が何かを知らせるようにナァンと鳴いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鈴木・志乃
最近どこ行っても占いしてる気がするなァ
まぁ、いっか、ここの御籤はなんて書いてあるんだろ
出来れば仕事(この一件)が上手く行くって内容だといいけど

書くことが出来るって、素晴らしい才だと思うけれどね
小説は夢を見せる存在だ
そして夢が無ければ、人は生きていけない
……本人は、どう思ってるか分からないけれど
手に入るなら、彼の小説も少し読んでから行こうか

挨拶程度に話をしよう
偶然会った体を装って。手土産にこっそり団子を持って。
……やァ、雨水先生じゃありませんか?
嬉しいなあ、先生の作品凄く面白かった
お陰様で元気を頂きましたよ、どうもありがとう

良かったら、これ
自分用に買ったのですけど、団子
美味しいから、食べて下さい



●夢追う人
 小説とは、夢を見せる存在だ。
 ジャンルや題材、読者によって見る夢は様々であろうが。
(夢が無ければ人は生きていけない。だからそういう文章を書けるということは、素晴らしい才だと思うけどね)
 寺の一角にある紫陽花に囲まれた四阿で、鈴木・志乃(ブラック・f12101)は雨水・晩月の著書『花一華』を読みながらそんなことをぼんやりと考えていた。
 春先に発売されたその短編小説は、先日出たばかりの長編小説『双子宮の殺人~梔子夫人の事件簿~』と違ってミステリ要素のない恋愛小説だ。といっても、普通の恋愛小説とは少々毛色が異なる作品となっている。
 主人公が恋をするのはヒトではなく舞台なのだ。舞台に恋した一人の少女が観衆を魅了するスタァとなり、スタァとして生涯を終える。そんな或る女の一生を描いた物語。舞台という概念を擬人化させた存在が出てくるので、恋愛小説という括りで世間と読者は受け止めているらしい。
 読みやすい文章と、読者を惹きこむ魅力的な登場人物達の軽妙洒脱なやり取り、先が気になるストーリーと構成。雨水の才が惜しみなく注がれた短編小説を読み終えるのに時間はそうかからなかった。
「面白かったけど……作者本人はどうだろうね」
 確かに小説家としての雨水の才は疑うべくもない。人に夢を見せるギフトを天から授かった存在であろう。しかし、作家本人の言葉が綴られる後書きを読んで解るのは、雨水の自信の無さが筋金入りということだ。小説を書き続けていることに罪悪感を感じている節さえ窺える。
 四阿の中央にある卓上に置かれた先ほど志乃が引いた花御籤……鮮やかだが憂いを帯びた紫色に変わった四葩の一片には『小吉』の二文字。
 そして。
「……痛みを伴う成功。或いは夢、か」
 今回の事件、解決する為には痛みを伴うのか、それとも解決したことによって生まれる痛みがあるのか。現時点では解らないし、占いは占いだ。
 思考を切り替えようと志乃は本を閉じて立ち上がり、紫陽花小路の方を見遣る。すると、丁度ファンらしき女性に迫られ、些か困惑しつつも対応している雨水の姿が目に入った。女性が嬉しそうにサインの入った本を抱えて立ち去ると、大きくため息をついたのだろう。こめかみをおさえてから腰を屈め、黒猫を抱き上げた。
「雨水先生」
 志乃が背後から近づいて声をかければ、実に解りやすく雨水は細い肩を震わせた。恐る恐る振り返るその姿に、志乃は笑いながら後頭部を掻く。
「驚かせてしまってすみません。先ほどサインを貰っている女性を見かけたもので、もしかしたらと思って。いやぁ、こんなところでお会いできるなんて嬉しいなぁ」
「……君もサインを?」
「いえ、ただ凄く良い作品だったので感想を伝えたくて。最新作の長編ではなく、春の短編の方なんですけど」
 ファンの言葉を信じられないのか、雨水は怪訝な表情を浮かべている。
「凄く面白かったです。それに、夢を追う元気が湧いてきました。ありがとうございます」
 被っていたパーカーのフードを脱ぎ、感謝の言葉と共に一礼すれば雨水の怪訝な表情は鳩が豆鉄砲喰らったような表情に変わっていた。
 そして志乃はそれ以上のやり取りは求めず、「次の新作も楽しみにしています」とだけ言い残してその場を去っていく。擦れ違いざまに雨水の抱いた黒猫と視線が合い、自分以外の猟兵達も事件に介入していることを察する。
 今のところ雨水の周囲に怪しい気配はない。ならばもう少し雨水には泳いでいて貰い、離れたところから様子を窺うのが得策だろう。
(誰も傷つくことなく、上手くいくと良いんだけどなぁ)
 フードを被り直し、未だ泣き続ける空を見上げて、志乃は誰もが笑顔で終わる倖せな結末を願わずにはいられなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シエル・マリアージュ
桜も美しいですが、紫陽花も良いものですね。
黒の和装ドレスに黒い和傘をさした姿で、紫陽花寺を散策して紫陽花を楽しみながら雨水先生を探しましょう。
雨水先生を見つけたら彼の近くでわざと花御籤を落として先生に拾ってもらえるように仕向けます。雨に濡れた花御籤は青空のような青色に染まって、大吉の運勢を浮かび上がらせる。
「ありがとうございます。優しい紳士様に幸運のお裾分けがありますように」
たおやかな仕草でお礼をして先生と別れます。
先生は死なせませんよ、これからも素敵な作品を楽しみにしていますから。



●雨中の蝶
 袖や裾を鮮やかな青のフリルで飾りつけてボリュームを出し、黒色竪絽に波紋と水溜まりの如き白い鹿の子模様と水色の楕円が散った生地を夏着物ではなくドレスに仕立てたもの。それに水色竪絽地に様々な色の紫陽花刺繍を施した半襟と、帯代わりのコルセットを合わせ、足元は青い蝶が舞う黒のタイツとぽっくりのような丸みと厚い底を持った青いストラップシューズでそつなく纏め。手には繊細なレースの手袋を嵌め、青い紫陽花が描かれた黒い和傘を持つ。
 歩く度にドレスの袖と裾が揺れて蝶のように見える、そんな出で立ちでシエル・マリアージュ(天に見初められし乙女・f01707)は紫陽花を愛でながらゆったりと散策していた。
(青空が見えないのは残念だけれども、雨空と紫陽花も悪くないものね)
 紫陽花の中には蒼穹を連想させるような青いものや、ふわふわの雲を思わせる白いものもあってシエルの目を楽しませた。
 しかし、美しいのは紫陽花だけではない。
 黒の和装ドレスと傘は、シエルの白い髪と白い肌を殊更美しく映えさせている。そして、煙ったような雨が降り続く中、濡れた紫陽花をシエルがじっと青い瞳で見つめる様は幽玄の美という言葉を連想させる。
 そんな現実離れした美しい光景に『偶然』出くわした雨水・晩月も呆けて見惚れていたのだが、美しい乙女からはらりと白い紙片が落ちたことに気付いて我に返った。
「あ、あの、お嬢さん!」
 反射的にそれを拾って声をかけるあたり、雨水は人付き合いも口も下手だが根は善人であることが窺える。
「あら、まぁ。ありがとうございます」
 落ちた時は白かったはずの紙片は水たまりに落ち、雨水の手の中で青空のような澄んだ青に染まっていた。
 花御籤を落とした乙女……シエルはお嬢さんという年齢ではないのだが、年若く見られがちなので特に否定することなく柔和な笑みを浮かべて色の変わったそれを受け取る。
 視線を落とせば、青い四葩に浮かび上がっていたのは『大吉』の二文字。
「『万難を排する協力者はすぐ傍に』ですか。優しい紳士様に幸運のお裾分けがありますように」
 シエルはたおやかな仕草で礼をすると、そのまま雨水から離れていく。
 ごく普通に、周囲に潜んでいるかもしれない何者かを警戒させないように。
(多分先生が抱いていた黒猫は他の方が遣った護衛兼警報のようなものよね)
 気配が普通の野良猫にしては濃厚過ぎた。しかし敵意や害意のようなものは持っていなかったので、シエルはその猫は安全と判断する。
(先生は死なせませんよ)
 黒猫を抱いたまま、いずこかへ往く雨水を視線でさりげなく追いながらシエルは一人ごちる。
「これからも素敵な作品を楽しみにしていますから」
 今はまだシエルの言葉が雨水に届くことはなかった。そう、今はまだ……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

寧宮・澪
【香と茵】
お誘い、ありがとうですよー…やー、見事な紫陽花ですねー…

ぽてり、紫陽花の道を歩きましょね……ミキヲさんや、トリルさんも、ご一緒にー…
ぐるりと迷路を辿りましょー…傘をさして歩くのも、たまには楽しいですねー…
ぽたり、雨の音もいいですねー…
はい、泥には注意しますねー…おっとっと

私は、ミキヲさんと一緒で、紫陽花の青が好きですねー…
雨に紫陽花、映えますよね…ああ、空の色
お二人とも素敵な感性ー…

迷子にならないようにしませんとねー…
けど振り向くと…あれ、ミキヲさんが紫陽花の向こう…?
内緒のお話には、こくり頷いて、少し笑って
ふふ、いいですねー…迷子、なりましょね
さてさて、見つけてくれますかねー…?


檀・三喜エ門
【香と茵】
旅団の皆と、ゆるりと紫陽花小道を散歩
澪ちゃんもとりるちゃんも、泥濘で転ばない様に気を付けるんだよ
小雨に紫陽花…風情があっていいねぇ
目を閉じて、少しの間音を楽しむ
傘に葉に落ちる雨粒の音が耳に心地いい

花を眺めつつそう言えば、と思い出した話題
紫陽花は土の成分で色が変わるって聞いたよ
不思議な花だね。俺は青いのが好きだな
2人はどの色が好みだい?
雨曇りだからこそ、花達の鮮やかさが映えるのだね

澪ちゃんの注意に、
そうだね、迷子に気を付けないと。と同意して2人の方を見れば…おかしい…
何故か2人が紫陽花の向こう側に…
どうにも進む程離れて行く始末

おーい、待っておくれよ
嗚呼、楽しげな笑顔に追い付けるだろうか


トリルビィ・ヴィニオ
【香と茵】

雨のお散歩も素敵ね
足音雨音、かさねたリズムで
お気に入りの傘をくるりと回して迷路のぼうけん
大丈夫よ、迷子になんてなるわけ、……
逆方向に踏み出しかけた爪先を、傘と一緒にくるり回して
な、なんでもないわ
かたつむりとにらめっこしてただけよ

花の色、みんな青が好きなのね。私もよ
雫にけむる空のかわりに
そらいろ映しているようでなんだかふしぎ

雨に誘われるまま歩いていたら
いつの間にかミキヲさんが遠い
迷子第一号ね
でもこんな場所なら、それも楽しいかもしれないわ
澪さん、私たちも迷子になってみない?
悪戯に誘う笑み浮かべ、雨音に隠れた内緒話



●迷いて愉しや紫陽花小路
 男が一人、女が一人、少女が一人。
 傍から見てどんな関係の三人組かは知る由もないが、剣呑さなど欠片もなく。家族にも似た和やかな雰囲気で並び歩いていた。
「やー……見事な紫陽花ですねー……」
 ぽてりぽてりと寝起きのような足取りで、眠たげな瞳をした寧宮・澪(澪標・f04690)がのんびりとした口調で感心したように呟く。澪の人形めいた整った顔立ちは、なかなか感情を表現することがない。しかし今は僅かに口許が緩み、微かではあるが楽しそうな笑みを形作っている。
「小雨に紫陽花、風情があって良いねぇ。でも澪ちゃんもとりるちゃんも、転んだり、迷子にならないように気を付けるんだよ」
 下品にならない程度に緩く着付けた着流しの懐に片手を入れた檀・三喜エ門(落日・f13003)(此処にいる二人からはミキヲの愛称で呼ばれているので、以下それに倣う)は年長者らしく二人に注意を促しつつ、自分はそっと目を閉じて雨の音に耳を澄ませる。傘に、葉に、石畳に。小粒の雨雫が当たって織りなす音は様々だが、どれも静かで趣深い。
「大丈夫よ、迷子になんてなるわけ……」
 トリルビィ・ヴィニオ(綴る・f01214)は澄ました表情と話し方こそ淑女然としているが、紫陽花で出来た迷路の冒険のような散歩に心は踊っていて。雨音と足音が重なり生まれた旋律や、紫陽花の葉の上を這う蝸牛に興味津々といった様子。迷子にならないように言われた傍から彼女の爪先は二人は違う方向を向いている。はたとそれに気が付くと、誤魔化すようにフリルがあしらわれた可愛らしい傘をくるりと回し、ダンスをするように優雅に一回転してみせてから「ないわ」と自分の言葉に付け足した。
 一番小さなトリルの歩幅に合わせ、三人はのんびりぐるりと紫陽花で出来た迷路を歩く。迷路なんて大袈裟なと思ったのは最初の内だけだ。それなりに入り組んだ構成をしている上、雨と傘のせいで距離感が取り辛い。つまり、ゴールは見えているが、そこに辿り着くまで想像以上の時間をとられるのだ。
 迷路を構成する紫陽花は入り口付近は赤い紫陽花が多かったが、徐々に赤より紫が多くなり、今三人がいる場所は青、特に明るい青の紫陽花が多いように見えた。
「紫陽花は土の成分で花の色が変わるって聞いたな。不思議な花だよね。僕は青いのが好きだけど」
 そういえば、と持ち出されたのは紫陽花の色は土壌の成分で変わるという豆知識。一株だけ色の異なる紫陽花の下から死体が出てきた、なんていう少々背筋が寒くなるような話もあったりするが、ミキヲはそういう話は伏せて二人に好きな色など問うてみた。
「私は、ミキヲさんと一緒で、青が好きですねー……」
「みんな青が好きなのね。私もよ」
 トリルが金の眼で雨に煙る空を見上げ、それから青い紫陽花へと視線を落としてぽつりと零す。
「雫にけむる空のかわりに、そらいろうつしているようで。ふしぎ」
 重い雲の向こう側に広がっているのだろう、初夏の青空。トリルはそれを青い紫陽花の中に見ているようだ。
「ああ、確かに空の色だ」
 ミキヲはトリルの隣で同じように鼠色の雨空を見上げた。
「雨曇りだからこそ見えない青空が恋しくなるし、無彩色の空と相俟って余計に花達が色鮮やかに映えるのだね」
「成程成程……お二人とも素敵な感性ー……」
 澪が二人の言葉にうんうんと頷いていると、雨と青い紫陽花に誘われるようにトリルが迷路の先へとどんどん進んでゆく。澪が「トリルさーん……」と後姿を追いながら呼ぶ声は少々足を強めた雨音にかき消され、雨空と紫陽花のコントラストが作り出す世界に入り込んでいたミキヲの耳には届かなかった。
「あら?」
 迷路を構成する紫陽花の色が明るい青から群青のような青と青紫へと変わっていたことに気が付き、トリルは足を止めた。
 スカートの裾を翻して後ろを振り返れば、澪の姿は確認できるもののミキヲの姿がない。きょろきょろと周囲を見渡すと、辛うじて遠くの方にミキヲらしき人影が見えた。
「ミキヲさんったら迷子第一号ね」
 くすりと小さく笑って、トリルは楽し気に傘をくるくると回しながら紫陽花の向こう側に佇むミキヲを眺める。そうして立ち止まっている内にゆっくりと歩いてきた澪がトリルに追い付いた。
「ありゃー……ミキヲさんが紫陽花の向こう側に。随分と離れちゃいましたねー……」
 特に焦る風でもなく、間延びした調子で澪が呟けばトリルが澪の服の裾をくいっと軽く引っ張った。それにつられて澪が腰を屈めれば、少しだけ背伸びをして、手で口許を隠しながらトリルが耳元に囁く。大切な作戦をこっそりと、内緒話をするかのように。
「ねぇ、澪さん。私達も迷子になってみない?」
 それは大変可愛らしく、魅力的なお誘い。黒の双眸を星のようにぱちくりと瞬かせてから、澪は口許に笑みを作ってこくりと頷く。
「ふふ、いいですよー……」
 迷子、なりましょね、と。
 顔を見合わせ、笑い合って、二人は再び歩き出す。先ほどは無意識だったが、今度は確信犯的に。
「おやおや、参ったね。こりゃ」
 気が付けば一人取り残されたミキヲは、ばつが悪そうな顔で頭を掻く。遠くの方に澪とトリルの姿が見えたので、早く追い付かねばと後を追っているのだが全く距離が縮まっていない気がする。むしろ進めば進むほど離れていくような感覚すらしてきた。
「おーい、待っておくれよ」
 ミキヲが二人を呼ぶ声に焦りや非難の色はない。ただ、遠目からでもどこか楽し気な二人の顔が見えたから、声をかけずにはいられなかったのだ。
(嗚呼、追い付けるだろうか)
 雨に濡れる紫陽花にも負けない程、とても鮮やかな笑顔達。
 それをもっと間近で見たくて、少々雨に濡れるのも構わずにミキヲは足を速める。濡れたせいか、幾ばくか体温が上昇したせいか定かではないが……彼の通った後の紫陽花小路には、しっとりとした白檀の香りが漂っていた。
 そうして、紫陽花小路の中で三人は三人とも『偶には迷子になるのも悪くない』などと思うのだった。
 たとえ迷子になったとて、今日は誰が悪いわけでもない。
 雨と紫陽花たちが仕掛けた、趣深くも愛らしい悪戯なのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【梓(f25851)と】アドリブ◎
以前サムライエンパイアで購入した
赤地に白い蝶の柄の和傘を差して散歩
グラデーションのように咲く満開の紫陽花に見惚れる
お寺の人が大事に育てたんだろうね

へぇ、お洒落なおみくじだね
記念に一回引いてみようよ
俺は恋愛運について占ってもらおうかな
いやぁ今回狙われているのは恋愛小説作家だから
それ繋がりで何となくね
※結果お任せ

雨水らしき人を見つけたら
あまり視線を感じさせないように遠目でさり気なく観察
まぁ、恋愛ものを書く人気の作者本人が
あんまり恋愛経験が無いというのは案外あるあるじゃないかな
創作の世界はきらきらと華やかなものだから
現実を知りすぎてしまうと逆に書けなくなるのかも


乱獅子・梓
【綾(f02235)と】アドリブ◎
ふむ、見事な紫陽花だな
雨の日はあまり外に出たくないが
こんな景色を楽しめるなら悪くないな
興味を惹かれたのかドラゴンの焔と零も出てきた
この紫陽花とか、零の色とよく似ているな

花御籤の内容は健康運について
猟兵なんて身体張った仕事続けるには
健康に越したことは無いからな
お前より先に早死にする訳にはいかないしな
…お前、自分の恋愛に興味あったのか?
※結果お任せ

散歩を続けつつ
グリモア猟兵から聞いた情報を元に
雨水の姿もそれとなく探す
本にサイン求められていたあの男がそうだろうか
こう言っちゃなんだが、テンプレ感漂う文豪というか…
人気の恋愛小説作家、って感じは正直あんまりしないな



●紅白雨景
 紫陽花寺の敷地内には小さな川が流れており、そこそこ立派な眼鏡橋がかかっている。散策ルートにも入っているその上からは、紫陽花小路の全容を程よい距離から眺めることが出来た。
 臙脂色に近い濃い赤から赤紫へ、紫から明るい青になって群青のような深い青へと変わってゆく紫陽花たち。雨の下で咲き誇る無数の紫陽花を眺め、飾り気のない灰白色の傘をさした乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)は感嘆の声を洩らす。
「ふむ、見事な紫陽花だな」
 大きさも形も色も素晴らしく、雨露に濡れているせいか艶やかにも見える。それらを眺めていると、雨の日に出歩く億劫さも薄れるというもの。
 梓の少し後ろを歩く、緋色に白い蝶が舞う和傘をさした灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)もまた色とりどりの紫陽花が魅せる美しいグラデーションに上機嫌そうな表情を浮かべている。
「きっとお寺の人が大事に育てたんだろうね」
「案外手をかけずに自由にさせた結果かもしれないぞ」
「それは体験談かい?」
 にこやかに綾が問えば、梓はべっと舌を出して悪態をつく。
「抜かせ。手のかかる花だけが綺麗とは限らないって話だ」
 戦闘以外はからきしの、やたら手のかかる男を遠回しに揶揄していると「キューキュー」「ガウガウ」と梓の両肩に乗っていた仔ドラゴン、焔と零が羽根をぱたつかせながら可愛らしい鳴き声をあげた。
「この子達も紫陽花に興味あるのかな?」
「そうかもな。この紫陽花なんて、零の色とよく似ている」
 眼鏡橋を渡り切った所に咲いていた青い紫陽花を指させば、同意するように焔が「キュウ!」と鳴き、零も満更ではないといった顔で短く「ガウ」と応える。
 仔ドラゴン達は興味津々といった様子で紫陽花に近づき、鼻を近づけたり、花を喰んだり、葉の上を這う蝸牛をつついたりして遊び始めた。
 そんな微笑ましい光景を横目に眼鏡橋から噂の花御籤の設置された場所までのんびりと向かっていると、途中紫陽花小路で女性に声をかけられている男の姿が目に入った。
「あれが件の先生か」
「それっぽいね」
 二人は歩みを止めることなく、遠目からさり気なく男の様子を観察する。
「こういっちゃなんだが、いかにも文豪って感じの先生だな。流行りの恋愛小説家には正直見えない」
 女子供に好まれる恋愛小説より小難しい純文学作品など書いていそうだと評した梓の言葉に綾は頷いて、相手に気付かれないよう傘を少しだけ傾ける。
「まぁ、恋愛ものを書く人気の作者本人があんまり恋愛経験が無いというのは……案外あるあるじゃないかな」
 世界や常識を知らぬ子どもが自由で芸術的な絵画を描くことがあるように、現実の恋愛をあまり知らないからこそきらきらとした綺麗な世界や物語を描けるのかもしれない。
「それはそうと、今のところは特に問題はなさそうだな」
「うん。でも、俺達以外にもいるようだよ。先生を『視』ている誰かが」
 赤いサングラスのブリッジを指で押し上げ、綾は雨水から視線を外す。
「同業者か、それとも」
 梓と二体の仔ドラゴンは周囲の気配を探るも、はっきりとは捉えられない。うまく潜んでいるのか、複数いるせいなのか……。
「まぁ、今はまだ手を出すつもりはなさそうだし。見張ってくれているヒトがいるなら、俺達は少し離れておこうか」
「……ああ、そうだな」
 雨水が抱いている黒猫が恐らく他の猟兵が放ったものであろうと察し、梓も紫陽花小路から視線を外して綾の背中を追った。
 そうして二人がやってきたのは噂の花御籤がひける場所。
「お洒落なおみくじだね。記念に一回引いてみようよ」
 いそいそと綾が一枚引き、つられて梓も一枚引いて傍に用意された水に浸す。
 綾の方はやや黒味を帯びた赤……臙脂色へ。
 梓の方は零と似た青……青藍色へと色が変わる。
「俺のは小吉だってさ。えーと、恋愛運はっと」
「……お前、自分の恋愛に興味あったのか?」
 怪訝そうな梓に、綾は事も無げにいつもの笑顔で首を傾げてみせる。
「いやぁ、今回狙われているのは恋愛小説作家だから、それ繋がりで何となくね。そういう梓は何を占いたかったんだい?」
「健康運」
「お爺ちゃんかな?」
「うっせ。猟兵なんて仕事続けるには健康に越したことはないし……お前より先に早死にする訳にはいかないんだよ」
 『吉』と浮かび上がった青藍の四葩を指で挟んでひらひらと揺らし、梓は嘆息する。何しろ面倒をみている目の前にいるこの男は兎角危なっかしいのだ。ことに戦闘において。御籤にも『身近な人間共々怪我に注意すべし』なんて出ている。あとは『頭痛むこと多し』とも。
「あはは、大丈夫だよ。絶対俺の方が早く死ぬし」
「朗らかに断言するな! 全くお前ときたら……」
 説教じみた梓の言葉をにこにこと笑顔を浮かべたまま右から左へと聞き流し、綾は手元の四葩に視線を落とした。『小吉』の二文字の下には『危うげな場面で芽生えるものもあるでしょう』『刺激は程々に。火傷に注意』などと並んでいる。
(そうだね、火傷しそうな程熱く死合える相手に出逢えた時のあの気持ち……あれは『恋』というのだろうか)
 ギリギリの一線で命のやり取りをする時に感じる胸の高鳴り、頭の奥が痺れるような熱くて甘いあの感覚。
「……そういう出逢いがあると良いな」
 うっそりとした笑みを浮かべて臙脂の四葩を撫でる綾の様子に、梓は更に溜息を深め、早速痛み始めた頭を抑えるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『しろがらすさま』

POW   :    雑霊召喚・陽
レベル×5体の、小型の戦闘用【雑霊】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。
SPD   :    おみくじをひきなさい
レベル分の1秒で【おみくじ棒】を発射できる。
WIZ   :    ゆめをみましょう
【ふわふわの羽毛】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全対象を眠らせる。また、睡眠中の対象は負傷が回復する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 全く今日はおかしな日だ。
 こんな雨の日に、ファンだという女性達から声をかけられたり、サインを求められたり。
 分不相応にもほどがある。
「……僕は、これからも書き続けて良いんだろうか」
 新作を出す度に思うのだ。
 こんな独り善がりの拙い文章を、恥ずかしげもなく世に出し続けるのは罪ではないかと。
 こんな僕が生み出す文章でも面白いと、好きだと言ってくれる優しい読者と社会に甘え続けて、いつか罰が下るのではないかと。
 小説を書くのが好きだ。自分とは縁のない煌びやかな世界や甘やかな物語を紡ぐのが好きだ。
 しかし、ただひたすら書き続けるしか能のない、つまらない中年男が書く小説に価値などあるのだろうか。
 悶々と考えこみながら紫陽花小路を抜けると、散歩の途中で懐いた黒猫が腕の中で鋭く一鳴きしてから飛び出した。
「!?」
 地上に足をつけるや否や毛を逆立て、フシャーッと何かを威嚇する黒猫の視線の先を追って驚愕した。鼠色の空に浮かんでいるのは無数の白、白、白、白。何かと思って目を凝らせば、雨に混じって純白の羽毛が舞い落ちてきた。
「白い鴉……?」
 雨にも負けないふんわりとした柔らかそうな白い羽毛に、つぶらな紅玉の瞳を持った白い鴉達が群れをなして空を旋回していた。
 鴉達はどこか愛嬌のある可愛らしい見た目だが、嘲笑にも似た鳴き声を響かせて己を見下ろす様子に得体のしれない恐怖を感じる。頭の中でけたたましい警報が鳴り、冷たい汗がどっと流れた。
 気が付けば僕は傘を捨て、泥濘に足を取られながらも必死に駆け出していた。振り返らずとも気配で解る。
 ――鴉達は僕を追い立て、嬲ろうとしているのだ。
シエル・マリアージュ
「また、お会いしましたね」
雨水先生に優しく微笑みかけ、先生の横を通り過ぎた瞬間に抜刀。
敵をマヒさせる氷属性を付与した衝撃波で敵を薙ぎ、周囲の白鴉や召喚された雑霊を対象に「天上の乙女〈再臨〉」を発動。
「お姉様方、私たちをお守りください」
一撃で仕留められる雑霊は乙女達にお任せして、自分は先生に近い白鴉を優先して倒していきます。
先生を守ることは最優先ですが、優雅に立ち回ることを意識して、先生の創作活動の刺激にでもなればと思います。
「私に出来るのはこんな荒っぽいことだけですが、それで誰かを救えるなら、それは幸せなことだと思うのです」
それなら、血に塗れた過去も無駄ではなかったと思えるから。




 普段運動とは縁のない生活をしているせいで、とても酷い走りをしていることは雨水自身も自覚をしていた。しかし命には代えられぬのだ。
(自分がここまで生にしがみつくなんて、思いもよらなかった……!)
 危機的状況なのに、変な笑いがこみあげてくる。しかし、雨に濡れた眼鏡で朧げになった視界に見覚えのある美しい乙女の姿が入ったことで雨水の顔からその笑みも引っ込んだ。
「ッ、駄目だ……!!」
 こちらに来てはいけない、危ないから。そう伝えたいのに早鐘をうつ心臓と乾いた喉がそれを許さなかった。
「また、お会いしましたね」
 綺麗な笑みと共にシエル・マリアージュ(天に見初められし乙女・f01707)が必死の形相の雨水と擦れ違い様に囁く。
 そして。
『!?』
 雨水の真後ろに迫っていた雑霊を引き連れた白鴉達が驚愕と共にその羽搏きを止めた。否、シエルが『凍らせた』。
 擦れ違いざまに音もなく抜かれた純白の刀『白花雪』が、雨すらも断つ太刀筋で白鴉達と彼らが呼び出した雑霊を薙いだのだ。氷属性が付与されたその一撃で、シエルは雨水を追い立てていた群れの動きを止めることに成功する。
「き、君! 早く、逃げ給え……っ!」
 振り返った雨水はシエルが脅威を抑えているとは知らず、青い顔のまま慌てて避難を促す。
(きっとわたしとは違って、これまで誰かを殺めたこともなければ、酷いことも出来ない人なのね)
 ゆるゆると首を左右に振り、シエルは雨水に落ち着いた声音ではっきりと告げる。
「私は大丈夫です。ですから、先生はそのまま此処から離れて下さい」
 穏やかな笑みを浮かべつつも、淡々と冷静に語りかけると返答を待たずにシエルは白鴉達と再度向き合う。先ほどの一撃は雑霊を消し去ることは出来たが、白鴉達に関しては一時的にその動きを止めただけだ。
「お姉様方、私たちをお守り下さい」
 シエルが空へと掲げた掌の上で光り輝く聖櫃から、美しい乙女の英霊達が呼び出される。戦乙女たちはシエルの願いに応え、各々の武器を構えてまだ残っていた雑霊を優先的に屠っていく。シエル自身は戦乙女達の間を縫うようにして白鴉達の元へ駆けつけ、迷いなくその翼を斬り落とし、首を刎ねた。
 シエルが白鴉に対して容赦のない攻撃を繰り返すのは一重に背後にいる雨水を守る為だが、一般人である雨水の眼ではシエルの太刀筋を捉えることは出来ず、その苛烈さには気付いていないようだった。戦闘中とは思えぬシエルの典雅な所作も相俟って、まるで戦乙女達と共に舞い踊っているように見えた所為もあるだろう。
 雨水はつい先ほどまで命の危機に晒されていたことや、離れろと言われたことも忘れ、その美しい戦いぶりを食い入る様に見つめていた。しかし、シエルに斬り伏せられた白鴉の羽毛が眼前に舞い上がり、漸く我に返る。
「君は、ユーベルコヲド使いだったのか……す、すまない!」
 速やかに指示に従わずにすまない。
 知らずに侮ったような言葉をかけてしまって、すまない。
 年下の女性に任せて逃げるしかできなくて、すまない。
 きっとそんな風にいくつもの意味を込めて紡がれた雨水のすまないという言葉をシエルは背中で受け止め、『白花雪』を正眼の構えに直した。
「良いのです……私に出来るのはこんな荒っぽいことだけですが、それで誰かを救えるなら」
 この雨でさえ、自身がこれまで浴びてきた血の汚れを落とすことはかなわない。それでも、その血に濡れた過去があったからこそ、今こうして誰かを守ることが出来る。
「それは、幸せなことですから」
 幸せを噛み締めながら、天に見初められし乙女は堕ちた神使を狩り続けたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
「…雨水先生!此方へ!」

雨水先生に駆け寄り敵の少ない方向へ誘導
UC「シルフの召喚」使用
敵もおみくじ棒もまとめて風刃で切り裂く
敵の攻撃は第六感や見切りで躱す
雨水先生への攻撃は盾受け

「UC使いにも先生のファンぐらいおりますもの。今日は先生の芸の肥やしが一ネタ増えるとでも考えて、落ち着いて行動下さいな」
雨水先生を安心させるようコロコロ笑う
「深刻ぶっても悲観しても、笑顔で喜んで対応しても。事態って言うのは始まったら終わるまでは変えようがないものです。行き逢ったご縁がありますもの、先生は必ずお守りしますから…大船に乗ったつもりで居て下さいな」
先生が恐慌状態に陥って独りで遁走しないよう笑顔で元気づける




 Q.不摂生な生活をしている小説家という生き物はどれ程走れるものなのか?
 A.大した速さでもないのに、そんなに距離も走れません。

 雑霊を引き連れた白鴉の群れに襲われるという理不尽な非日常に襲われているのに、追い打ちをかけるのは己の日常が作った当然としか言いようのない現実的な壁だった。
 そんなわけで足がもつれ始めてろくに走れない状態になった雨水だったが、救いの手は再び差し伸べられた。
「雨水先生! こちらへ!」
 先ほど雨水のファンを名乗り、サインを求めてきたパーラーメイドらしい装いの女、御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)だ。
 桜花は波打つ豊かな髪が濡れるのも構わず駆け寄り、雨水の手を引いて障害物や白鴉達の気配が薄い方へと誘う。
「あ、あ、あり……がとう……」
 息も切れ切れになりながら律義に礼を言う雨水に、桜花はころころと鈴を転がしたように笑う。
「ユーベルコヲド使いにも先生のファンはおりますもの。今日は先生の芸のこやしが一ネタ増えるとでも思って下さいな」
 春の空気のような朗らかさで話しかけ、雨水が冷静さを失わないように取り計らう桜花の頬をヒュンと何かが高速で掠めてゆく。
「おみくじ棒ですか……随分と斬新な使い方ですね」
 更におみくじ棒をマシンガンのように撃ち出してくる白鴉達。桜花は雨水の前に庇う様に立つと、袖を抑えながら片手を白鴉達に向かって突き出した。
「風の精霊。私の願いを叶えておくれ」
 巫女のように凛とした桜花の声に応え、不可視の風の精霊たちが彼女の元に集う。そして、迫りくるおみくじ棒と射手である白鴉達を纏めて容赦なく風の刃で切り裂いていく。精霊達が繰り出す風刃の勢いと鋭さは雨さえも霧散させ、辺りに白い靄が立ち込める。
 靄の中では白鴉達も狙いを定められないのか、シンと静寂が訪れた。しかし雨水はいつどこからまたあのマシンガンのようなおみくじ棒が飛んでくるか、気が気ではない。青い顔をする雨水の手をとり、桜花は視線を合わせてにこりと微笑む。
「大丈夫。行き逢ったご縁がありもすもの、先生は必ず守りますから。どーんと大船に乗ったつもりでいて下さいな」
 その励ましにこくこくと無言で頷き、深呼吸を繰り返せば雨水の震えも収まり、靄も晴れてきた。
「先生、私が合図をだしたらあちらの方へ駆けて下さい」
 囁かれた指示に雨水が頷いたのと同時に、再びおみくじ棒が二人を襲う。
「今です!」
 桜花は再び風の刃で応戦する。先ほど動揺また靄が発生するが、桜花は攻撃の手を緩めない。こうすれば、靄の中にまだ『二人』いると白鴉達に少しの間でも思わせることができる。
(先生、あともう少しだけ頑張ってくださいね)
 背中で雨水の走る音を聞きながら、桜花は心の中でエールを送る。
 そのお陰だろうか、雨水の走りぶりはこれまでより少しだけマシになっていたのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

灰神楽・綾
【梓(f25851)と】アドリブ◎
ずいぶんと愛らしい敵さんだねぇ
見た目だけは、ね
この子達が何故敵意剥き出しで
雨水を襲おうとしているのかは分からないけど…
おいたをするならお仕置きしてあげなきゃね

とは言え、こんな見た目だと
斬り刻むのも気が引けてしまう
だから、ぐっすり眠っていてもらうよ
UC発動し、紅い蝶を鴉達に向け放つ
少しずつこくりこくりとしていく様子は
やっぱり可愛らしいね

いずれ骸の海に帰るまでの少しの間、
ちょっと戯れてもいいかな
眠たげにしている子を一匹すくい上げて
ぬくもりやふわふわ感を堪能してみる
あー、この羽毛は確かによく眠れそう
梓もどう?と誘ってみたり
こうして見ればただの可愛い生き物なのにね


乱獅子・梓
【綾(f02235)と】アドリブ◎
俺達猟兵から見れば
「何か可愛い敵だなー」と思ってしまうが
一般人にとってはこんな可愛いのでも
群れをなして襲いかかってきたら恐怖なんだろうな

綾がそのつもりなら、俺もそうするか
こいつらを焼き鳥にするのはどうも躊躇われるなと
ちょうど俺も思っていたところだ

焔と零を成竜に変身させ
敵の召喚した雑霊と、綾に向けられた羽毛を
まとめて焔のブレスで燃やし飛ばす(属性攻撃・範囲攻撃
鴉達本体には、UC発動し
零の咆哮を響かせ眠らせてやろう
ドラゴンの鳴き声は荒々しいだけじゃない

…って相変わらずフリーダムだなお前は
マイペースな綾に苦笑しつつ
鴉の頭をそっと撫でてみる
次はいい子に生まれてこいよ




 ふわふわとした羽毛に包まれた丸みを帯びた体はぬいぐるみのようで。赤スグリのようなつぶらな赤い瞳はくりくりとしていて敵意など全く無さそうに見える。
 恐らく、一羽だけなら逃げ出すほどの脅威は感じなかっただろう。
「い、一体、どこから……こんなに……ッ!!」
 先ほど助けられたと思ったのも束の間、どこからともなく白鴉達の群れが再び現れて雨水に迫っていた。
 いくらファンのエールをうけたとて、長年不摂生な生活を送っている作家が長時間走り続けることは到底無理な話で。息を切らせた雨水は、周りを取り囲む白鴉達を睨みつけるのが精一杯。
 可愛らしい見た目に似合わぬ圧は喚び出された雑霊の影響もあるだろうか。何にせよ、戦う力を持たぬ雨水にとってはどんな姿形だとしてもこの数は脅威には違いなく。
「……鳥葬なんて冗談じゃあない」
 乾いた笑みを浮かべて、いっそのこと懐にある万年筆で喉を突き刺し自害した方がマシかと考えた頃に『彼ら』はやってきた。
「随分と愛らしい敵さんだねぇ」
「見た目だけはな。いくら可愛くてもこううじゃうじゃいたら普通の奴は怖ぇだろ」
 赤いサングラスが印象的な長身の男、灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)。そしてその隣に立つ黒いサングラスをかけた更に高身長の男、乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)だ。
 二人は切羽詰まった雨水とは対照的に余裕のある様子で、白鴉達と雨水の間に割って入るように歩いてきた。
「そこの先生、悪ィがもうちょい気張ってくれよ。多少ゆっくり歩く程度の時間は俺達が稼いでやるから」
「え? あ、ああ、君達もユーベルコヲド使いなのか……」
「そういうこと。もふもふで轢死っていうのは俺も趣味じゃないし、先生も真っ平ごめんでしょ?」
 そう、そんな穏やかな死に様は退屈だ。
 もっと真っ当な死に方をしたい雨水と違い、綾が望むのはもっと緊迫感のある激しい戦いの果てにあるものだ。
 しかし、生憎とこの鴉達にそれは期待できなさそうで。綾は少し困ったような笑みを浮かべて赤いサングラスを指で押し上げ、持っていた傘を放る。
「そういうわけだからさ。いくら可愛くてもおいたをするようなら……やっぱりお仕置きは必要かな」
 綾が放った傘は地につく前に無数の発光する紅い蝶に似た花弁に転じ、白鴉の群れへと纏わりつく。抗議の鳴き声をあげて必死に翼をばたつかせて抵抗するも、白い体はどんどん紅で鮮やかに彩られていった。しかし白鴉達の体から血が一滴たりとも流れることはない。ただ紅い蝶に埋もれて一羽また一羽と濡れた地に落ちて、こくりこくりと船を漕いでいる。
「おやすみ」
 白鴉達が寝こける愛らしい様子を満足げに愛でていた綾だったが、まだ健在の白鴉達はそんな綾の元に喚び出した雑霊の群れをけしかけた。
「俺もそうするか」
 そう言って梓が指を鳴らすと、可愛らしい姿をしていた二体の仔竜、焔と零が成竜姿へと代わった。成竜と化した二体は、そこに存在するだけでも威圧感で白鴉達や雑霊を牽制する。
 勿論姿かたちをただ大きくしただけではない。
 焔の燃える息吹は綾に向かっていく雑霊の群れを熱風で燃やし飛ばし、零の神秘的な程美しい咆哮は白鴉達に強烈な眠気を与え、生命を奪いさってゆく。結果として、白鴉達は次々に深い眠りへと落ちてぼとぼとと空から落ちてきた。
 流石に梓もふわふわ丸く愛らしい見た目の白鴉達を焼き鳥にするには気がひけたらしい。
 そうして白鴉達を無力化させたところで、綾は船を漕いでいる白鴉を一羽救い上げ、手の中でふわふわを十二分に堪能する。雨に濡れているとは思えない程ふわふわで、ほんのり温かく。何気なく頬擦りしてみると、何とも言えぬ心地よさで思わず目を細めて頬を緩める。
「あー、この羽毛はよく眠れそう。梓もどう?」
 自分達が時間稼ぎをしている間に走り去っていった雨水が見たら唖然としそうなマイペースな様子の綾に苦笑し、梓も同じように白鴉を持ちあげてみた。
 手の中の白鴉は焔の息吹の余波を受けたらしく、所々焦げて心なしか食欲を誘う香りがする。
「……」
「ねぇ、なんだか美味しそうな匂いがするね?」
「気のせいだ、気のせい」
「この仕事が終わったら食べに行こうか、焼き鳥」
「お前なぁ!!」
「冗談だよ」
 綾にいつもの如く振り回され、梓は溜息をつきつつも白鴉の頭を撫でる。
「次は良い子に生まれてこいよ」
 仔竜の姿へと戻った焔と零が梓の言葉に同意するかのように鳴く。
 その声に応えたのかどうかは解らぬが、手の中の白鴉は夢見心地のまま『カァ』と一鳴きし、純白の羽根を一枚だけ掌の中に残して骸の海へと還っていったのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

朱酉・逢真
よくやった、ちび。てめぇの警告で不意打ちは避けられたな。
作家先生はどうだった? ふゥん。ひひ、マジメなおヒトだ。がぜん興味が湧いてきたねえ。今度ひとつ買ってみるか?
ひひ、そのためにゃアこんなとこで死んでもらっちゃ困らァな。

いい雨だな、ちびども。こんな雨の日にゃ、洪水にご注意だぜ。
権能【水】で雨を操り、しろがらすさまどもを巻き込んで空中洗濯機してやろう。さんざんぶん回したら、最後は水ごとぐっしゃり圧搾。あじさいのメシにしてやるさ。
俺に幸いして今日はずぅっと雨だかんな。辺り一面が武器だらけさ。盾だって作れるぜ。




 黒猫が一匹、雨の中紫陽花寺の境内を駆ける。
 野良猫らしい精悍で強かそうな顔つきと、しなやかな肢体。泥濘に足を取られることもなく、器用に紫陽花の間をすり抜け、目印もなくたどり着いたのは四阿の下で座っていた男の元だった。
「よくやった、ちび」
朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)はしゃがみこんで足下に擦り寄ってきた黒猫の喉を撫でてやる。
 逢真の眷属であるこの黒猫は雨水に懐いたふりをして傍で警戒にあたっていたわけだが、見込み通り白鴉の襲来に対して警告を発して不意打ちの回避に成功した。
 黒猫のなぁんなぁんという鳴き声は普通の人間からしてみればただの甘え声にしか聞こえないが、実際は雨水の独り言や他の猟兵たちとの会話など含めて収集した情報を逢真に伝えている。
「ふゥん。ひひ、マジメなおヒトだ。がぜん興味が湧いてきたねえ」
 口元に弧を描き、立ち上がれば黒猫は逢真の足に溶け込むかのように姿を消した。
 丁度無数の羽音と、泥水の跳ねる音、忙しない息遣いと下駄の音が近づいてきているのが聞こえる。
 どうやら少し離れたところを雨水は白鴉に追い立てられて逃走中の模様。
 折角著作の一つでも読んでみるかと思ったのに、このままではたとえ面白い作品だったとしても雨水の新作が拝めなくなってしまう。
「こんなとこで死んでもらっちゃ困らァな」
 ひひ、と嗤って片手で宙を緩やかに凪げば、周囲の雨、今現在降っているものだけでなく紫陽花や地面に降り注いだもの全てが逢真の指先に集まった。
『!!』
 雨水を追い立てることに夢中になっていた白鴉の群れの一部が逢真の気配を察し、空高く飛び上がって回避しようとしたが時既に遅し。
「いい雨だな、ちびども。こんな雨の日にゃ、洪水にご注意だぜ」
 逢真が権能《水》で操った雨を集めた水塊が白鴉質の頭上から滝のように襲いかかる。幸運にも滝の直撃という難を逃れた白鴉もいたが、それを見逃す逢真ではない。放たれる反撃は水塊を盾代わりに使って防ぎ、一度白鴉を飲み込んだ水流をそのまま地面に落ちると見せかけ、その直前で軌道を変える。水流は再び空へと舞い戻り、まるで蛇がとぐろを巻くようにぐるんぐるんと残りの白鴉達を捕えて掻き回す。さながら白鴉たちは洗濯機に回される洗濯物。水流から開放されても、ここまでぐしょぐしょな濡れ烏となれば飛ぶこともかなわず、目を回してへたりこんでいる。
「おや、ちょいと絞り足りなかったか。悪い悪い」
 目を回した白鴉をご丁寧にももう一度水流に取り込むと、先程より激しくごうんごうんと回す。そして宙に向けた手をぐっと握りしめれば、水はぎゅうっと中に取り込んだ白鴉ごと圧縮されて。
「ひひ、紫陽花の良いメシになるだろうさ」
 ぼたぼたと、白と赤が入り混じった雫が雨とともに紫陽花に降り注ぐ。
 紫陽花の花色は地中の成分によって変わるものだが、大量の白鴉の成れの果てを養分にした一帯の紫陽花がどのような色になるか……それは神だって知る由はなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

檀・三喜エ門
【香と茵】
澪ちゃんと連携

雨水先生は、自分を酷く下げて見ておられる様だ
文字を書くのが好き。書く事を苦痛とせずに作品を生み出せる
それは最早、才能と呼んでいい事だと俺は思う
そんな同じ中年男からの戯れ言を伝えたいから、先生を必ず守らなきゃね

もっふりしてはいるけど…もふ…れるのかなぁ
見目愛くるしいが、何か色々飛ばしてくるし侮ってはいけない…しかし、気持ちはわかるよとっても

澪ちゃんの歌声が心強い
お陰でおじさんも頑張れそうだ
敵が風によって集められたのを見計らって放つのは【鬼雨】
此方に向かう羽毛も鬼雨で打ち落とそう
範囲攻撃から討ち漏らしがいれば、通常の矢で射抜いて対応する

同じ雨でも、紫陽花には似合わない雨だね


寧宮・澪
【香と茵】
ミキヲさんと、連携していきましょねー…

雨水先生も、守りますよー…うんうん、書けるって、それだけですごいんですよー……ぜひ、伝えませんとね
えいえいおー…

カラスさん、もっふもふそうですが…もふるの無理ですかねー…残念…
じゃ、いきましょねー…
お声がけしてから、【謳函】ー……お互いを強化しましてー…そのままくるりくるり、歌声で風を操ってー…しろからすさんを一箇所に、集めましょー…
みっちり集まったら、ミキヲさん、お願いしまーす…

羽毛はこっちにこないよう、風でしろからすさんへお返ししましょね…

矢、すごいですねー…一気に倒してく、まさに雨のようー…
似合わない、かもですが……頼もしい、雨ですよー




 何人もの人に助けられ、命からがらあともう少しで紫陽花寺の外へ出られる……はずだった。
「あっ……!」
 もつれた足が泥濘にとられて派手に転ぶ。
 泥水に塗れて酷い姿になっているが、それを恥じている暇はない。何故ならまだあの鴉達が追ってきている気配がするのだから。
「僕は……僕は……」
 なんでいつもこうなんだろう、と拳を握りしめて雨水は煩悶する。
 非力で、不器用で、臆病で。
 今だって誰かに守られながら逃げることしかできないというのに、それすらもかなわなくて。
 細い両腕に力を入れ、なんとか上体を起こせば目の前に白い羽根が一枚、二枚と降ってきた。汚れた眼鏡で見上げれば、白鴉達が愛らしい見た目に似つかわしくない酷く耳障りな声で嗤いながら見下ろしていた。
「これは、報いなのだろうか……」
 多くの人達の好意に甘えて、ただひたすら書いて、分不相応な評価を貰い……自分のようなつまらない男でも生きていて良いのだと、これからも書き続けて良いのだと一瞬でも調子に乗ってしまったのが悪いのだ。
 最早罰を粛々と受けるしかない、そう思って雨水は目を固く閉じる。白鴉達が群がろうとする羽音に体を強張らせたが、痛みはいつまで経ってもやってこなくて。
「……?」
 恐る恐る目を開けば、泥濘んだ土の上に矢が刺さった白鴉が落ちていた。
「まだ諦めるのは早いですよ、雨水先生」
 ひどく穏やかな声がした方に首を回せば、雨水とそう変わらないであろう年頃に見える男、檀・三喜エ門(落日・f13003)が弓を構えて立っていた。
「その才能、こんなところで潰しちゃあいけない」
「才能……」
「ええ、文字を書くのが好きで、書くことが苦痛でも何でもない……そして人に愛される作品を生み出せる。自分じゃあなかなか認められないかもしれないけれど、それは立派な才能ですよ」
 見惚れる程良い姿勢でキリリと弦を引き、放たれるのは『鬼雨』。今しとしとと降っている雨とは違い、夕立ちのような激しさを以って大量の矢が白鴉達に注がれる。
「はいー……書けるってそれだけでもすごいんですよー……」
 寧宮・澪(澪標・f04690)は夜色の長い髪をたなびかせ、ミキヲの言葉に同意する。そして彼女の手の中にある金色の箱から、美しい歌声が響き渡った。
 ――綿津見も現世常世も遍く、謳響きませ。
 静かに、しかししっかりとその謳は聴いた者の鼓膜を、魂を震わせて包み込む。
「ありがとう、澪ちゃん」
「ふふー……まだまだー……がんばりますよー……」
 箱に閉じこめられた謳でミキヲを強化しつつ、澪は更に謳を紡ぐ。
 夜のように静かで、星のように煌めき、ぱちぱちと弾けるようなソォダ水の気泡のような儚さのある、そんな謳に誘われた風が矢から逃げるように散っていた白鴉達と雑霊の群れを一か所に纏めてゆく。
「みっちりー……ふわふわですねー……」
「見目は愛くるしいんだけどね」
 白鴉達は諦めずに羽毛を飛ばし反撃を試みるも「お返ししましょ」と澪が操る風に遮られ、逆に自分達がこくりこくりと眠り始めた。
「頃合いかな」
 ミキヲが再び『鬼雨』を放つ。澪の援護もあり、今度は討ち漏らしはない。辺りに白い羽毛がふわふわと舞ってはいるものの、周囲に静寂が戻った。
「ミキヲさんの矢、凄いですねー……まさに雨のようー……」
「紫陽花には似合わない雨だけどね」
「ですがー……頼もしい、雨ですよー……」
 ふにゃりと澪が微かに緩く笑ってみせれば、ミキヲもつられて緩い笑みを浮かべる。そして膝をついていた雨水に歩み寄ると、手を差し伸べた。
「す、すまない……面倒をかけた。……その、ありがとう」
 ミキヲの手を借りて立ち上がり、気まずそうに視線を逸らしながらも雨水は礼を述べる。「構いやしませんよ。俺は只同じ中年男からの戯言を伝えたかっただけなんで」 
「……僕は、このままで良いということだろうか」
 独り言のような問いに、ミキヲが目を細めた。
「才能のままに書き続け、作品を世に送り続けるという意味ならそうだと思いますよ」
「でもー……自信はもう少し持って良いと思うんですよー……」
 澪がひょっこりミキオの背中から顔をだし、言葉を続ける。
「好きで歌う謳もー……誰かに聴いて貰えればやっぱり嬉しいですしー……好きに書いた小説だってー……読まれて嬉しいと思うことは悪いことでもなんでもないじゃないでしょうかー……」
 澪の言葉にミキヲも頷く。
「だから、これからも生きて、書き続けて下さい」
 ミキヲは百年人に愛されて、人の形をとれるようになった存在である。だからこそ思うのだ。作り手にはもっと胸を張って欲しいと。
「先生に生み出された物語も、その方が嬉しいですから」
 気が付けば雨はやんでいて。
 分厚い鼠色の雲の切れ間から、一筋の光が見える。それは、まるで雨水の心の内を現わしているかのような光景だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『文筆夫人・黒住霧子』

POW   :    この子?私のかわいい「悪魔(ダイモン)」よ
自身の身長の2倍の【黒霧の魔獣】を召喚し騎乗する。互いの戦闘力を強化し、生命力を共有する。
SPD   :    ねぇ、あなたの物語を教えて?創作の種になるわ
【レベル×5の白紙の原稿用紙を飛ばす事】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【用紙に書き留められ戻る事で記憶や過去】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。
WIZ   :    私の創作活動を邪魔しないでくださる?
非戦闘行為に没頭している間、自身の【召喚した黒霧の魔獣】が【近づくもの全てを攻撃し】、外部からの攻撃を遮断し、生命維持も不要になる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は推葉・リアです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 雨の匂い、土の匂い、そこに濃厚な花の香りと……死臭が混じって紫陽花寺の境内に立ち込めた。
「あらあら、元は神使とはいえ文字通り烏合の衆だったのね。不甲斐ないこと」
 品のある落ち着いた声が、辛辣な言葉をうたうように紡ぐ。
 猟兵達に守られたお陰で怪我らしい怪我はないものの、走り疲れて石畳に座り込んだ小説家の雨水・晩月。そして、堕ちた神使である白鴉達を退けつつも、警戒を緩めなかった猟兵達の視線が声の方へと向けられる。
 声の主は純白の紫陽花の茂みから姿を現した。
 それは呉服に詳しくない者でも一目で解る、値が張りそうな仕立ての良い鴇色の色留袖を纏った、典雅なご婦人だった。
 日焼けとは縁遠い肌に、力仕事など任せられぬような華奢な手、そして先ほどの言葉とは似つかわしくない程優し気な微笑を浮かべた美しい顔。
 どこからどう見ても裕福な家、由緒正しい名家の若奥様といった風体だ。
 ただ一つ、普通の若奥様らしからぬ点があるとすれば……。
「御機嫌よう、私(わたくし)は黒住霧子……そしてこの子は私の可愛い悪魔(ダイモン)よ」
 彼女が腰かけているナニカ、黒い霧を固めたような『獣』だ。
 霧子の言葉を信じるなら、その『獣』のようなナニカは悪魔であり、霧子は悪魔を使役する能力を持っていることになる。
「悪魔使い? 嫌ですわ。私は小説家ですの。そちらの先生と同じように」
 雨水に視線を遣る霧子の黒目がちな瞳が細められ、華奢な手の中にある万年筆がくるくると踊った。
「ねぇ、所謂神絵師と呼ばれる方々の腕を食すと、画力が向上するという話を知っていて?」
 与太話だ。
 しかし霧子は微笑を絶やさず、至極真面目な調子で話を続ける。
「私も人気作家である先生を美味しく戴けば……もっと素晴らしい作品が書ける。そんな気がしているの」
 霧子の唇が弧を描き、はしたなくも舌が紅を艶やかに濡らす。
 雨水を害する者として予知された存在は間違いなくこの女、黒住霧子だ。
 ……或る作家の受難の日は、紫陽花達に見守られながら大詰めを迎えようとしていた。
朱酉・逢真
俺ぁ作家先生に姿見せねえで来たからなぁ。ここで声かけても怪しいだけさ。最後まで隠れていかせてもらうぜ。
さっきのネコをもっかい向かわせる。裾噛んでひっぱらせて安全な場所に誘導させときな。なんなら全部終わったあとに飼われたっていいんだぜ。そんときゃ腹ん中の寄生虫は取ってもらえよ。

俺は俺で敵さんの相手さ。へぇ、あんたさんも戦闘は仲間(*ダイモン)だよりかい。親近感わくねぇ。ンじゃ、遠慮なく。
来な坊主。猛毒の9ツ頭よ。あン? 相手が霧じゃ腹の足しにならねぇだとォ? ばかったれ、ちゃァんと肉の付いてるのがいるだろう。
生命力共有されてんだ。そっち狙いな。俺は盾になる《獣》たちがいるが、あっちにゃいねえ。


御園・桜花
「声のかけ方からして知り合いとも思えぬ貴女が、何故雨水先生を害そうとしたのか伺いたく…まさか小説のネタが被ったなどとは仰らないでしょう?」

UC「桜吹雪」使用
隙間を狙い敵も悪魔もまとめて切り刻む
敵の攻撃は第六感や見切りで躱す

「軽妙洒脱な文章は、疲れた人間が頭を空っぽにして一息入れたい、休みたいと思った時の重要な活力ですもの。先生が何と思おうと、先生の文章を心待にしている読者はおります。書き続けられること書き続けること、それだけに我儘になっても、今の雨水先生ならはね退けても文句は出ないと思います」

「羨ましさだけで人は取って変われませんもの。物を書く生者としてのお戻りを願っております」
鎮魂歌歌い送る




 
 御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は悪魔に乗る貴婦人を前にしても、とても落ち着いていた。その顔にはパーラーで立つ時と変わらぬ柔らかい笑みも浮かべている。
「声のかけ方からして知り合いとも思えぬ貴女が、何故雨水先生を害そうとしたのか伺いたく……。まさか小説のネタが被ったなどとは仰らないでしょう?」
「そうね、ネタが被ったことはないかしら。でも、だからこそ、よ」
 霧子は品の良い微笑をたたえながら桜花の方を見て答える。そして、視線は桜花の後ろでへたり込んでいる雨水へと向けられる。
「私には書けない物語を書く、その才。とっても欲しいわ」
 朗らかに、まるで新しい着物をねだる様に霧子は言う。そして、彼女が従える悪魔は主の望みを叶えるべく、その身を躍らせ、桜花を飛び越え雨水に襲い掛かろうとする。
「させません」
 桜花の声が凛としたものへと変わる。
 着物の袖から素早く取り出した桜鋼扇を広げて石畳を蹴り、跳躍した悪魔の体を鋼扇で生み出した衝撃波で押し返す。悪魔はその黒い霧で構成された体が霧散する前に、衝撃波の勢いから逃げるように身を捩りながら着地した。
「先生の文章は、先生にしか書けません。そして先生自身が何と思おうと、先生の文章を心待ちにしている読者はおります」
 桜花の言葉に、呆然自失としていた雨水が我に返る。
「僕は……」
「まだ、書き続けたいのでしょう?」
 悪魔の攻撃を躱しながら、桜花は雨水に、そして悪魔にだけ戦わせて優雅に佇んでいる霧子へと語りかけ続ける。
「たとえ先生の腕を食したとて、先生の紡ぐ物語と文章は貴女には生み出せませんよ。羨ましさだけで人はとって変われませんもの」
「あら、そんなの試してみないと解らないでしょう?」
 霧子は細い顎に細い指を添え、少女のように可愛らしく小首を傾げてみせる。
 酷く落ち着いているように見えるが、彼女は至高の作家という妄執に憑りつかれ、狂ってしまった影朧なのだ。
 桜花の瞳に、僅かだが憐みの色が宿る。
「……物を書く、生者としての御戻りを願っております」
 魂を鎮める歌と共に桜花は手に持つ鋼扇を、手袋を、バレッタを、身に纏う装備品を桜の花弁へと変えて桜吹雪を生み出す。
 美しくも全てを切り裂く無数の花弁が霧子と悪魔を包み込んだ。



 雨水や桜花、霧子らから死角となる場所に立つ老木に凭れ掛かりながら朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)は状況を『見』守っていた。
「戦闘は仲間頼りかい。親近感湧くねぇ」
 先ほど遣いにやった黒猫の目と耳を借りて解った黒住霧子の戦い方に、くっくと肩を揺らして喉奥で嗤う。
「ンじゃ、こっちも遠慮なくいかせて貰うとするかね。来な、坊主」
 逢真が持つ神威の一部が物質化した欠片。それはごくごく小さな存在だが、恐るべき禍の種。
 それを祝福の言葉と共に泥濘に落とせば、彼の眷属は厄災として現界する。
 人を減らす厄災ではなく、人を減らす厄災を殺す厄災として芽吹くのだ。



(自分を食えば良い小説が書ける? 馬鹿々々しい!)
 雨水は心の中で毒気づく。
 目の前に現れた美しい貴婦人の形をとった醜悪な何かの戯言は、疲労と恐怖で言うことを聞かなかった足をしゃんとさせるに充分な怒りを呼び起こした。
 先ほどの桜花の言葉で奮い立った創作意欲もある。
(早く、立たないと……)
 このまま此処にへたりこんでいては、自分を守ってくれている者達の足手纏いになってしまう。それに、自分は生き延びて何としても小説をこれからも書き続かなければいけないのだ。
 なんとか立ち上がる姿勢になった雨水の耳に『ナァン』と猫の鳴き声が届く。
「お前は……!」
 白鴉に追い立てられている内にはぐれた黒猫が少し離れた紫陽花の影から顔を出していた。
「よかった、怪我はないか?」
 雨水は逢真の眷属とも知らず、慌てて駆け寄って心配そうに黒猫を抱き上げる。
「嫌だわ、そんな薄汚い猫を触らないで下さいまし」
 桜花の生み出した桜吹雪から抜け出した霧子は、まるでこれから食べるものに蠅でもたかったかのように眉を顰める。体中に傷を負ったことで大分ご機嫌を損ねてしまったようだ。
 そんな主の意を汲んだ黒い霧で構成された悪魔は桜の花弁に切り裂かれながらも雨水へと迫り、その細腕に噛り付こうと大口を開けた。しかし、悪魔の牙が立てられたのは人間の肉ではなく、血の一滴すら零れない。
「蛇……?」
「いえ、あれはヒュドラーですね」
 霧子は目を見開き驚愕を示していたが、桜花の方は冷静に状況を分析する。
 どこからともなく現れ、雨水の肉盾になったのは九つの頭を持った大蛇。
 使役者の姿は見えないが、桜花は同業者の支援と判断し、霧子はこれもまた猟兵による妨害なのだと察して苛立たし気に手に持っていた原稿用紙を勢いよく破る。
「関係ないわ。猫だろうが蛇だろうが……さっさと片付けて、先生の腕を早く持ってきて頂戴」
 ややヒステリックな霧子の声を合図に獣じみた悪魔と巨大な九ツ頭の毒蛇がもつれあい、周囲に泥水を撒きあげながら喰らい合うような激しい戦いが繰り広げられる。
「先生! あちらへ!」
 桜花は巻き込まれないように雨水と猫を連れて距離を取り、逢真はというと……。
「あン?」
 場所を変えることもなく、眷属……ヒュドラーから伝わる抗議の意を耳をほじりながら聞いていた。
「相手が霧じゃ腹の足しにならねぇだとォ? ばかったれ、ちゃァんと肉ついてるのがいるだろう」
 ヒュドラーの意識が桜花や雨水達に向かうと、苦笑しながら手をひらひらと振る。
「違う違う、そっちじゃなくて、あっち。あの女サ」
 霧の悪魔なら攻撃を余裕の体で受けるかと思いきや、桜花やヒュドラーの攻撃を律義に避けようとする戦いぶり。そこから察するに、恐らく悪魔使いである霧子とあの悪魔は生命力を共有しているのだろう。
「俺みたいに他の≪盾≫がねぇンだもんなぁ、ご愁傷様」
 霧子の喉からあがったのだろう、耳をつんざくような悲鳴が逢真の元にも届いた。
 そんな悲鳴をあげる暇があれば、避けるなり反撃するなりすれば良いものを……とは思うが、まぁ、仕方のないことかもしれない。
 ヒュドラーの首は九つ。
 三つは悪魔を抑えこみ、残りの六つが次々と霧子に襲い掛かったのだから。
「たんと喰らいな。お互いに」
 ヒュドラーは女の肉を。
 霧子は肉を齧られ、体を灼く猛毒の痛みと苦しみを。
 存分に味わう両者の様子に、逢真はにんまりと笑みを深くした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【梓(f25851)と】アドリブ◎
あー、「神絵師の腕を食べると絵が上手くなる」
ってなんか聞いたことあるね
それなら直接脳を食べた方が
効果あるんじゃない?と思ったなぁ

影朧はとても戦いとは縁が無さそうな出で立ちで
殺り合うには正直あまり気が乗らないのが本音
それよりも、そっちのペットの方が俺は興味あるね
影朧と魔獣はどうやら一蓮托生の関係のようだから
ひたすら魔獣のみを相手しても問題ないと見た

UC発動、「影朧本体を透過する」Emperorで
力溜めた一撃を横っ腹に叩きつける
この方が何の遠慮も無く戦えるからね
いかにも弱点っぽそうな赤い瞳を
命中率重視の部位破壊攻撃で狙う等
自由に戦っているようで効率的なルートも探る


乱獅子・梓
【綾(f02235)と】アドリブ◎
ったく、雨水とどんな縁がある奴かと思っていたら
とんだおっかない影朧だったな…
いやいや、なにさらっと
恐ろしいことを言ってんだお前は
綾を小突きつつ

予め後方に零を配置して雨水への守りを固めておく
早急に倒すことが一番の近道なわけだが…
やる気を出すために敢えて影朧本体は
眼中に入れないようにするとか
相変わらずあいつの戦い方は自由過ぎるな…

綾が魔獣の相手をしている隙に
俺は影朧本体に目掛けて
焔のブレスを浴びせる(属性攻撃
素直に喰らわせればそれで良し
魔獣が庇いに入れば、それも俺の狙いだ
先程喰らわせた一撃をトリガーにUC発動
更に威力を増した焔のブレスをお見舞い
全てを灰にしてやれ!




 神絵師の腕を食べれば絵が上手くなるだとか、そういう類の『人の体の一部を食してその人の才にあやかろう』という話を聞いた時……こんなことを考えたことはないだろうか。
「腕よりもさ、脳を食べた方が効果あるんじゃない?」
「いやいや、何さらっと怖いこと言ってんだ、お前。思わず想像しちまったじゃねぇか」
 笑顔で物騒な事をのたまう灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)を乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)が反射的に肘で小突く。そしてサングラス越しにジト目で釘を刺した。
「……好みじゃないからって投げ遣りなことすんなよ?」
「あー、確かにそっちはタイプではないんだけど……」
 苦笑しながら綾は霧子を見遣った後、すぐに視線を黒霧の悪魔へと向ける。
 猟兵や猟兵が使役する大蛇の攻撃によって崩れた悪魔の体は、霧子が万年筆を走らせた原稿から浮かび上がった黒い霧によって補強され、より禍々しい獣の姿となっていた。
 霧で構成された体は血も肉も骨もないはずなのに、その黒さを増した体はずっしりとした重量を感じさせる。黒い体の中で唯一色彩の異なる深紅の瞳を爛々と輝かせ、大きく開かれた口から音のない咆哮をあげ、鋭い爪を境内の石畳に立てて傷跡を刻み……悪魔は静かに怒り狂っているように見えた。
「こっちのペットは興味あるから、大丈夫」
 愛用のハルバードであるEmperorを手にした綾は戦いとは縁遠そうな霧子には目もくれず、荒ぶる悪魔に恐れるどころか遊び相手を見つけたかのような愉し気な表情で肉迫する。
 間合いに入るまで加速して疾走し、正面衝突する前に火花を散らすような急ブレーキをかけた片足を軸に、力を溜めた大振りの一撃。
 真っ当な感覚の持ち主なら相手の間合いで溜め技を使うことを躊躇するだろう。だが、綾に躊躇はない。力を溜める隙を狙って敵の攻撃が飛んでくるという予測をしていないわけでもない。ただ、戦闘で生じる傷や痛みを『受け入れている』だけだ。それらは綾にとって戦闘に必要な要素であり、忌避するものではない。
 だから綾は笑っていた。霧で出来ているとは思えぬ程鋭く堅い黒爪が、鞭のようにしなる長い尾が僅かにだが足を止めた己に襲い掛かってきても。風切り音と共に頬の皮膚が、腕や太腿の肉が、鮮血と熱を伴って裂けたとしても。そして一切怯むことなく、容赦のない渾身の一撃を悪魔の横っ腹に叩き込んだ。悪魔は血を吐くかのように黒い霧を吐き出し、巨体を勢いよくふっ飛ばされて地に伏せる。
「な、なんて乱暴なの……!」
 霧子は真っ青な顔で脇腹を押さえながら膝をつき、苦痛交じりの非難めいた声を洩らしていた。彼女は悪魔使いとして悪魔と感覚全てを共有しているわけではなさそうだが、生命力を共有していると大きなダメージを伴う攻撃の痛みはある程度自身にもフィードバックされてしまうのだろう。
「一蓮托生ってね。でも安心して? アンタには何もしないから」
 その宣言通り綾は霧子に一切手出しをしなかった。視線一つくれてやることもなく、再び自分に牙を剥いてきた悪魔の大口をEmperorで受け止め、長い脚でその顎下を蹴り上げる。
 悪魔と戦り合っている内に、綾の間合いの中に霧子が入ることもあったが、『ディメンション・ブレイカー』を発動させている綾のEmperorは霧子を透過し、悪魔のみを切り裂き、叩き、突き上げる。
(やる気を出すために敢えて影朧本体は眼中に入れないようにするとか……。相変わらずあいつの戦い方は自由過ぎるな)
 肩を竦め、心の中で嘆息しつつも梓は綾の戦いを否定することはない。
 ツッコミを入れることはあれど、基本止めることもない。
 死なない程度に面倒を見る。
 それだけだ。
「零、そっちは任せた」
『ガウ!』
 連れの氷竜である零に氷で作った障壁を作らせ、少し離れた場所から猫を抱いて様子を窺っている雨水を敵の攻撃や飛び火から守らせる。そして梓自身の目は霧子の方へと向かった。
(早急に倒したいなら、やっぱり両方削った方が良いだろ)
 こういう時に楽しさよりも効率や被害を少なく済ませる為の発想や行動を取ってしまうのが梓である。そして、思い立ったら即行動。
 綾が一瞥もくれない霧子を指差し、傍の炎竜に合図を出す。幸い、霧子は苦痛で注意力散漫になっているのか梓達への警戒が疎かになっている。
「焔! 景気よく燃やして、全てを灰にしてやれ!」
 悪魔と戯れていた綾がこちらの射程から外れたのと同時に、焔の燃え盛る息吹……『星火燎原』が霧子を襲う。
「いやぁぁぁぁ! なんてことするの! 原稿が、私の素晴らしい作品が燃えてっ……ヒィィィ!!」
 品のない悲鳴をあげ、炎に巻かれた霧子が錯乱した様子で髪を振り乱しながら悪魔の元へと駆け寄る。梓にとっては願ってもない動きだ。
「折角だ、纏めて焼却してやる。感謝しろよ、この炎に焼いて貰えることを」
 霧子と悪魔を同時に射程におさめ、焔の息吹が一人と一体を包み込んで焼き焦がす。悪魔は霧子を庇うように覆い被さったが、炎の中から飛び出してきた綾が悪魔の紅い目を勢いよく突いたことで体勢を崩し、その巨体で霧子を圧し潰してしまった。
 結果、悪魔の体の下からあの品の良さそうな霧子とは結びつき難い、潰れた蛙のような声がして。
 あまりの滑稽さに、綾と梓は顔を見合わせて破顔するのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

檀・三喜エ門
【香と茵】
引続き、澪ちゃんと頑張ろう

創作活動には、手元や原稿用紙等を通常の矢で妨害
万年筆を狙って妨害したら気を散らすだろうか…やっぱり怒るかな?
隙が出来れば【影縫い】で動きを止め、澪ちゃんの追撃

黒霧の魔獣には矢は通用しなさそうだ…
見切りとオーラ防御で対応する
先生に攻撃が向かう事があれば、かばってでも守る
激痛耐性で何とか耐えてみせるよ
結界術で黒霧を囲えるかも試してみよう

先生を食べれば書けるなんて与太話、信じるほうがどうかしている
それとも、そうでもしなけりゃ書けないのかな?
先生の書く力は先生の身体から、魂から染み付いている才能なのだから
万にひとつ、先生を食べたとしても君にその力は備わらないだろうね


寧宮・澪
【香と茵】
ミキヲさんとご一緒にー…

創作活動…非戦闘行為に集中されないように、謳って世界に干渉しつつ…【霞草の舞風】で、邪魔しましょー…
風で紙やらの道具を、吹き飛ばしたり…紫陽花の萼で、視界を覆ってみたり…
とにかく集中できないよう、ミキヲさんが狙いやすいように妨害ー…
ミキヲさんが動きを止めてくださったら、一気に攻撃をー…

黒い魔獣は、かすみ草で攻撃してちらしたり、オーラ防御で耐えて…ミキヲさんにも行かないように、妨害
雨水先生も、かばいましょね

小説家を食べなきゃ、上手に書けないとか…それくらいの情念でしかないんですねー…
雨水先生のは、雨水先生のものですよー…
下手くそですが、挑発してみましょー…





 嗚呼、嗚呼、痛い、熱い、苦しい、悔しい、妬ましい。
「どうして、どうして、どうして……!!」
 可愛い悪魔(こ)を滅多打ちにされた痛みを背負い、己が身は灼熱の焔に焼かれ、手を伸ばした高みには届かない。
 なんて惨め、惨め、惨め。
 こんな惨めな姿は私に相応しくない。
 何故このような辱めを受けねばならぬ。
「どうして、『また』こうなるの!?」
 あの時もそうだった。
 所詮は女の書いたもの。所詮は金持ちの道楽。所詮は物珍しさから少し売れただけ。
 我が子同然の小説も、好きなことに励む自身も貶められ、辱められ、惨めな思いで原稿用紙に黒い染みを落とした。
 私はただ小説を書くことが好きだったのに。書いた小説を読んだ人に喜んでもらえるのが嬉しかっただけなのに。もっと沢山の人に読んで欲しかっただけなのに。
 あの時の悔しさ、怒りが再びこみ上げ、万年筆を握る手に力が籠る。
「こんなの、絶対認めませんわ!!」


 
 檀・三喜エ門(落日・f13003)ことミキヲが射る矢がパシンパシンとこぎみよい音をたてて霧子が書き散らかした原稿を落としていく。しかし、鬼女の形相で創作に撃ち込む霧子の執筆速度はすさまじく、一枚落としたところで三枚は新しい原稿が生み出される。
「参ったね、こりゃ。これじゃあキリが無い」
 弓をひく動きは止めずに、ミキヲは声色に思案の色を滲ませた。
 今のままでは遅かれ早かれ霧子の原稿に圧し負けてしまうだろうし、悪魔の方を狙おうにも通常の矢では効果が薄いようで決め手に欠ける。
「創作熱心なのは良いことですがー……結局他人の腕だとか力を貰わなきゃいけない位の情念でしかないんですよねー……。もうちょっとー……お邪魔してみましょー……」
 静かに煽ってみせる寧宮・澪(澪標・f04690)の手の中で金色の謳匣がさらさらとその形を崩す。そして澪の唇から澄んだ謳声が紡がれると匣だった金色の粒子は白いカスミソウへと姿を変えてゆき、霧子や黒い悪魔の周囲で舞う様に悪戯な風も吹いてきた。
 匣が姿を変えたカスミソウ、そして周囲の赤、青、紫、白など色とりどりの紫陽花の萼が風に乗り、霧子の視界や手の動きを妨げる。みるみる内に霧子の執筆速度は落ち、悪魔の方も鬱陶しいのか意識は己に纏わりつく花風に向いている。
「ありがとう、澪ちゃん。これなら……」
 数は減ったものの次々に飛んでくる原稿用紙をミキヲは最小限の動きで躱し、呼吸を整え、目を細めて弓を構え直す。弓に番えられた矢は通常の矢とは違う、漆黒の矢。それはミキヲの魔力によって形成された『影の矢』だった。雨に濡れた弦がパァンと邪気を払うように鳴り響き、呪が込められた矢が放たれる。
 己の怒りや鬱憤を原稿に叩きつけることに夢中になっていた霧子は全く気付いてないようだったが、悪魔の方は長い尾を鞭のようにしならせて『影の矢』を叩き落とそうとする。しかし、その一撃は矢の軌道を僅かにずらすに留まった。それでも矢は霧子の体を貫くことなく、足元に刺さることになる。
 悪魔の赤い目がしてやったりといった風に歪むが、ミキヲの顔に焦りの色はない。
「これでー……アタリ、ですよねー……?」
「ああ、大当たりだよ」
 謳で風を操り射撃をサポートしていた澪がこてんと首を傾げれば、ミキヲは満足げに微笑んで通常の矢を番え直す。
「手、が……なんで……?」
『!?』
 影を射ることで、その影の持ち主の動きを封じる。それが『影の矢』に込められた呪。ミキヲは最初から霧子の体を射るつもりはなかったのだ。
 そして当のミキヲも予測していなかったことだが、霧子の動きを封じたことで悪魔の動きもかなり鈍くなっていた。
「これはー……チャンスですよー、ミキヲさん」
「ああ、そろそろ幕を……いや、筆を置いて貰おうか」
 放たれた矢が霧子の胸に深々と突き刺さり、白魚のような手から万年筆が落ちる。カラカラと石畳の上を転がってゆく万年筆を虚ろな目で見つめ、糸が切れた人形のように霧子は膝をつく。
 獣じみた黒い悪魔は形を成さぬただの霧と化し、跡形もなく消え去った。
 先程までの雨が嘘のような、明るい青の紫陽花を思わせる青空の下で、霧子は譫言のように呟いた。
「……どうして」
 それまで離れて戦いを見守っていた雨水が黒猫を抱いて近づいてくると、虚ろだった霧子の瞳に再び静かな怒りの炎が点る。ガッと食らいつかんばかりの勢いで雨水の腕を掴もうとするが、ミキオが柏手と共に発動させた結界がそれを阻む。
「先生の書く力は先生の身体から、魂から染み付いている才能だ。万にひとつ、先生を食べたとしても君にその力は備わらないだろうね」
 珍しく険しい顔をしたミキヲが突き放したように言えば、その後ろで雨水を庇う様に両手を広げて立つ澪もこくこくと頷く。
「雨水先生のは、雨水先生のものですよー……」
 結界によって生じた薄い透明な壁に拳を叩きつけ、唇を噛む霧子の瞳から洋墨の如き黒い涙が溢れる。
「解っていますわよ、勿論! でも、でも、私はっ、なんとしても私の書いた小説を認めて欲しくてっ……書き続けたくてっ……!!」
「……貴女も書くことが、小説が好きだったのか」
 まるで子どものように泣きじゃくり嗚咽を洩らす霧子に、澪に守られながら雨水は語り掛ける。
「でもそれなら猶更僕の腕なんかに頼らず、自分の小説を書くべきだ。僕の小説が僕のものであるように、貴女の小説は貴女のものだ」
 霧子の涙が、透明なものへと変わっていく。
 まるで体の中に溜まった澱みが徐々に外へと流れ出て、消えてゆくかのように。
「誰に何と言われようと、自分の作品は最高だって誇って貰えると作品冥利に尽きると思うな」
「哀しいこと面白くないことがあってもー……自分のスキを穢す様なことしたら、もっともっと辛くなっちゃいますよー……」
 次いで語られるミキヲと澪の言葉を聞き届ける頃には、霧子の体は悪魔同様足の先から徐々に霧と化し、この世から姿を消そうとしていた。
「……次があるなら、もっと沢山私の小説を書きたいわ」
 頬に涙の痕を残しつつも、憑き物が落ちたかのようにすっきりとした顔で微笑む。
 それが、黑い文筆夫人の最期だった。



 恋愛小説家、雨水晩月は変わった。
 といっても、見た目や性格、雨垂拍子の活動などは大して変わっていない。
 ただ、ある日を境に作品中に黒猫が良くでるようになった。なんでも、雨の日に黒猫を拾って飼い始めたのだという。
 そして今まではもっぱら自宅に籠って執筆にあたっていたのが、カフェーで書き物をする姿が良く見られるようになった。
 一番の変化と言えば、自虐のような後書きが一切見られなくなったということだろうか。
 そんな雨水の次回作は恋愛小説ではなく、強く美しい學徒兵や、謎多き男二人組のユーベルコヲド使い達が活躍する冒険活劇浪漫譚だとか。
 インタビュウで次回作の話を雨水本人から聞いたという記者は、雨水から初めて冗談じみた話を聞いたとしきりに驚いていた。
 帝都で流行りの恋愛小説家が、新しい作風で世間を賑わせるのは……梅雨明けより先の話である。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年07月09日


挿絵イラスト