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鬼隠しと湯の毒花

#サクラミラージュ

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#サクラミラージュ


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 栂櫛温泉。
 とある街の名前だ。
「街一つの結界。長年に渡り、鬼と呼ばれた影朧を封印せしめた迷宮」
 礼服を纏う、カイゼル髭を生やした男が、湯の薫る街並みを旅館の窓から仰ぎ見て、肩を揺らす。
「ふふふ、聞くにその檻は今、空席だというではないか」
 超弩級戦力が、ここにいた影朧を討伐してくれたのだという。浴衣に身を通す男が喜ばしげに言う。
「ありがたい話ですな」
「ああ、期せずして絶好の隠し場所を用意してくれたということだ」
 藤見望。影朧を用いて不死を求める集団。彼らはその分派であった。
 その研究の最中作られた、一つの影朧。その保管場所を彼らはこの地に定めたのだ。
「何もかも壊そうとする怪物だが、結界の中に容れてしまえばいくら暴れようと構いますまい」
「我らは素晴らしい景勝地で、じっくりと研究を続けられるというわけだ」
「さて、封印の口は予定通りに?」
「はい、恙無く」
 問いかけた声に、控えていた女性が頭を垂らして返す。
「すでに影朧も、戸隠の檻に収容しております」
 今は安定している。女性の報告に満足げに腹を揺らす男は、ならば、と集まる面々を見渡し、告げた。
「今日は、自由にするといい。そのうち暴れだすだろう。檻の強度も見極めねばなるまいさ」
 それまで、各々のままに過ごすといい。
 その声に彼らは、ばらばらと部屋を辞していった。


 まあ、そういうわけだ。
 とルーダスが言う。
 ある温泉街に、危険な影朧が呼び込まれた。街に危険が及ぶ前にその討伐を行いたい。
「ただ一つ問題があってね」
 街のどこに、封印の檻、その扉があるかが分からないのだ。
 地道に探しては時間を食い過ぎるし、そもそも、がむしゃらに探して見つかるものではないだろう。
 故に、確実な方法を取る。とルーダスは言う。
 つまりは、答えを知っている者に聞く。これが一番だと。
「酒に酔わすも、色で惑わすも、陰にかっさらうも自由にすればいい」
 詰問の邪魔が入らぬよう、二人きりの状況を作れさえすれば問題なはい、と彼は言う。
「さて、街の為、人の為、利己の為に危機を呼び込む不貞の輩をとっちめようじゃないか」
 ルーダスどこか楽しげに、そう締めくくった。


オーガ
第一章、藤見望のメンバーに接触して二人きりの状況にする場面です。

メンバーの例を断章に追記しますが、別に必ずそれが出てくる訳ではないです。プレイング次第でNPCが生えます。

第二章が詰問になります。第三章ボス戦です。

各章ごとに断章を挟みます。

宜しくお願いします。
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第1章 日常 『桜舞う温泉街でのひととき』

POW   :    飲食店や、お土産屋がある通りを散策する。

SPD   :    湯畑を見たり、屋形船に乗る。

WIZ   :    温泉に入ったり、手湯や足湯を楽しむ。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「道楽、というのは良いものさな」
 一人街ゆく初老の男は、漂う食の香りにその頬を緩ませていた。
「三大欲求を満たす、満たして続ける。これ以上の幸福などあるものかな」
 そんな男にとって世界は輝いている。
 酒蒸しの匂いの先に混浴の露天の湯。足を宿へと返せば柔らかい布団が惰眠へと誘う。
「これだから、生きていたいのだ」
 男は、目移りさせながら街を歩いていく。

 赤い着物を揺らして歩く。
 遠目でもよく目立つだろう女性は、ふと目端に走る音に、目を細めた。
「随分と元気な男子やわ」
 気分を害した、と言うような切れ長の目に嗜虐がわずかに浮かぶ。
「……喰ろうてしまいたいなあ」
 過ぎていく幼い背に、身体中に紅を差す女が、蛇を思わせる笑みを浮かべていた。

 力に溺れる、と言えば悪どいが、しかし鍛え、積み上げた力が押し負け、屈服させられる事への憧れ、といえば果たして何を思うのか。
「より上の世界を見ることができる」
 男はそう思っている。剣を、身を、心を鍛え、その先で我が身を折らんとする者を望んでいる。
 湯煙の中に、拳から血を一つ溢して、喧嘩を仕掛けてきた裸の男を見下ろし退屈そうに笑う。

 びくり、と、声を掛けられて肩を震わせる。
「は、はい……?」
 恐る恐る振り返ってみれば街の人間が心配そうに彼女を見つめていた。
「具合でも悪いんですか?」
 声に、彼女はぶんぶんと首を振って、大丈夫です。と繰り返しながら駆けていく。
「……ふう、あ、怪しまれたかと、思いました」
 本当にこんな事をしていいのか、そう思いながらも、この街に期待を寄せずにはいられないのだ。


 第一章。
 藤見望のメンバーに接触して、二人だけの状況を作る場面です。

 プレイングによってNPCが生えたり生えなかったりしますので、ぼんやりとリクエストがあれば考えます。

 宜しくお願いします。
鈍川家・玉五郎
不採用含めて全て歓迎にゃ。
POWでいくにゃ。

怪しい奴はすぐにわかったのにゃ、蛇みたいに笑う女だにゃ。
大根役者とお婆ちゃんに誉められたおいらの演技を見せてやるにゃ!

そこ行くサンマの塩焼きよりもかぐわしいご婦人、初めまして、私はニルヴァーナ・ファイブボール。
ニルと呼んで欲しいのにゃ。

スキットルの中のホットミルクを飲んで口許を腕で拭う。ふっふっふ、女は男のこういう豪快な色気に弱いのにゃ。
このまま人気のない所に……あれ、なんかこの人、目付きが怖いのにゃ……。

たたた、助けてにゃーっ!(人気のない所に逃げ込む)



 赤い着物を揺らす女は、ふと立ち止まった。
 その目がすうと、薄く細められる。
 彼女の前に立っていたのは。
「――そこ行くサンマの塩焼きよりもかぐわしいご婦人」
 鈍川家・玉五郎(かっこよくなりたい鈍川さん家の玉五郎・f19024)、 身長34.6cm、13歳のケットシーである。
「初めまして、私はニルヴァーナ・ファイブボール」
 渋く、男らしく、擦れた色気。
 そんなイメージで、玉五郎は女性へと向き合った。
 なんと、このケットシー。お婆ちゃんに大根役者だと誉められた程の役者である。
 味染み染み大根は食卓の主役に足るし、大根おろしはあるなしでは全く味わいの違う名脇役。
(大根役者は千変万化の大役者の事をいうに違いないにゃ!)
 壮絶な自信を持って、女の前へと歩み出た玉五郎は、逆立てた髪を大仰に鋤いて見せて、キラキラと輝かせた目で睨め上げた。
 ちなみに、語源は諸説あり定かではないが、大根役者とは、芝居が下手でまずい役者の事を指す。
 多分お婆ちゃんは、遠回しに演技はしない方がいい、と言っていたのだと予想されるが。

(決まったにゃ……ッ)

 本人の心は、ちょっと低めに作った声で余裕たっぷりに勝利を確信していた。
 赤い女性は、見惚れるように玉五郎を見つめている。
 もう、籠絡してしまうとはにゃ……。玉五郎は我がことながら戦慄を覚えてしまう。
(ニルヴァーナ・ファイブボール……罪な男……にゃ)
 目元に憂愁を浮かばせて、玉五郎はスキットルを取り出した。
 渋格好いい刑事とかガンマンとか、歴戦の戦士とかが、ウイスキーを容れてる少し丸みを帯びた薄いフォルムの水筒だ。
 きゅる、と玉五郎はスキットルの蓋を外して、中身を喉へと流し込む。
 まろやかな甘味と香りが、喉を潤していく。
「……っ、ふ」
 口許に残る水滴を腕で拭う。
 玉五郎の脳裏には、背景にキラキラした光が花を開いて、一連の動作がスローモーションで再生されている。
 女は男のこういう豪快な色気に弱いのだ。愁いと情熱、そうした相反する感情が瞳に怪しく光る。
 まあ、中身はホットミルクなのだが。
 あと、拭ききれてないミルクが毛に浮いているのだが。
「……いかがだろうか、ご婦人。是非このおいr、私、と……、にゃ?」
 さてはて、果たして。
 ニルヴァーナと名乗ったケットシーは、赤い女を籠絡せしめたのか。
(……なんか、この人めっちゃこわいにゃ……すごい見てくるにゃ)
 それは一目瞭然だった。朱を差した頬に、浮かんだ笑み。切れ長の瞳が弧を描き、口がその逆向きに三日月を模している。
 クリティカルであった。口の隙間から舌が唇を潤す。
 ぞわり、と背筋が凍った。艶然とした色気が毒を纏うように瞳に渦を巻く。なんだかいけないスイッチをいれてしまったような静けさがある。
「ああ、いただこうかのう……?」
 ひゅ、と息をのむ。何をいただくのかは聞かない。
 溢れ落ちた言葉に、半ば本能的に玉五郎は背を向けて駆け出した。
「たたた、助けてにゃーっ!」
 演技などどこへやら、諸手を上げて駆け出した玉五郎を、蛇睨みの赤い女の目が追う。そうして、人気のない路地裏へと逃げ場を選択してしまった可愛らしい、色気めいた男を追い始めたのであった。
 玉五郎の運命や如何に……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レイ・オブライト
死んでる身だ。人の欲絡みは芝居打つにもボロが出かねない
喧嘩騒ぎを起こしてる奴を狙おう
街でも湯でもいい、やるこた変わらん。事が広まってるなら憲兵や番台に身分を明かし場を任せてもらう
尤も、勝負を求む程邪魔を厭うもの。その気にさせりゃ裏手へ移る提案に乗ると読む

なあ
少し血抜きした方がいいんじゃあねえか。煩くてかなわねえ
偶然居合わせた風に覇気+怪力で腕を掴む等喧嘩へ割り込む。力を示し
なんなら手伝うがどうする
刀使いなら抜くよう言う。もし湯でも携行だろう
オレか?
ご覧の通りだ。物欲しげなツラしてるからな、見せてやるよ。不死ってやつを
来な

眠らぬ肉体を得たとして何を叶えるのか
奴らの思想には興味がある。ただ、興味が



 耳を澄ませてみれば、喧騒の中から憲兵の笛の音が微かに聞こえてきていた。
 レイ・オブライト(steel・f25854)が野次馬へと真っ直ぐに歩けば、群衆は自ら割れて道を作っていく。
 見えるのは人混みの中でも文字通り頭一つ抜けた体躯の男。
「てめ、はな……っ!」
 上背が2mを越えるだろう男が掴んでいるのは、一人の若者だった。
 胸ぐらを掴み、浮いた足で頼りなく男を蹴りつけている。
「……ぉ、わ」
 男は、若者をぱ、と手放して解放する。
 数秒の間を置いて。
 ゾ、ゴ――ァ! と放たれた拳と、最中に割り込んだレイの掌が、激しい衝撃と共に風船が割れるような快音を発していた。
 唐突な自由に、転びそうにたたらを踏みながら、どうにか着地した若者は、ニヤリと笑みを浮かべたのを見た瞬間に、レイは駆け出していたのだ。
 若者を手放したのは、反撃の機会を与えるためでも、況してや赦しを与えるためでもない。
 単に、浮かぶ対象ではなく地面に踏ん張る対象を、片腕と腰の運動だけでなく両手両足全身を使って、殴った方がより強烈に力が加わるからだ。
 恐らく、致命傷を得る。
「……ほぅ」
 その一撃をレイは、割り込んできた男は事も無げに止めた。
 男が歪にその顔をしかめたのは不快だけではないのだろう。
「全く、……往来で殺しか」
 レイは、熱を帯びるその表情に反比例するように、眼差しを冷やしていく。
「少し血抜きした方がいいんじゃあねえか?」
 煩くてかなわねえ。と溢した言葉に、拳に掛かる力が増す。
「なら、冷まさせてくれよ」
「……はあ」
 振り撒く覇気と殺気に、野次馬が距離を取り始める。いや、事前に正体を明かした憲兵の誘導もあるのか。
 力を拮抗させ支えていた腕から、一転し脱力させて、男の空振りを狙うが。
「甘えよ、なあ!」
 ビュジッ、と鼻先を重い風が掠める。
 体勢を崩すこともなく、振り抜く勢いを利用して、肘による殴打を目論んだのだ。
 それすらかわされた男は腰の短刀を引き抜いて、しかし、追撃はしなかった。
 場慣れした判断と動作。随分と経験は深いらしい。
「避けたな、避けたなあ」
 にやにやと嬉しげにいう男に、今度こそレイは諦めのため息をついた。
 力の差を見せても、退くことはないらしい。
 ふい、とレイは背を向ける。
「おい! どこ行きやがんだよ!」
「……騒がしいな、どうせなら邪魔の入らない場所の方がいいだろ」
「……」
 訝しげに怪しむ男に、レイは最大級の餌を吊り下げてやった。胸を裂く縫合痕に親指を沿わせて、振り返る。
「興味はないか? 不死って奴だよ」
 返事は、深まった歪な笑みで返された。

大成功 🔵​🔵​🔵​

秋月・充嘉
WIZでいくっす。
力に溺れたがっている男にアプローチっすよ。

喧嘩の一部始終を見終えてから頃合いを見て、軽く拍手しながら近づくっす。
いやーあんたすごいっすねぇ。裸でここまでできるなんて、そうできないっすよ。
でも、なんでかな?実は負けたい、負かされて屈服させられたいって感じがするんすよねぇ?
よかったら俺と勝負するっすか?俺が勝ったらあんたを好きなようにする。あんたが勝ったら俺を好きなようにする。どうっすか?損はないと思うんすけど?

……決まりっすね。
じゃ、その前にこの寝っ転がってる男を脱衣所に放り込みましょうか。
邪魔者は片さないと。なによりサシでヤりあいたいしね。



「ご、……んぉあ!!」
 荒くれの叫び声と共に、重い拳が湯気の中を抜けた。
 迷いなく降り抜かれたそれは、しかし、その先にいた男の顔面を掠める事すらなく、逸らしたその顔の傍を通り抜けるばかりで。そして、その空ぶった腕を掴まれ、瞬く間に荒くれの体は宙を舞う。
 ド、ガッ!! と放物線を描くように硬い石畳へと叩きつけられた荒くれは、受け身こそ取ったものの、裸の体に受けた衝撃にただ肺の空気を吐き出すばかりで、胴体の上に圧し掛かった男にもはやもう何の抵抗も出来ないままに、容赦なく落とされた拳にその意識を手放していた。
「……」
 押し黙る、その男にどこからともなくパチパチと手を叩く音が意識を逆なでするように響いた。
 もぞり、と。
 気を失った荒くれの腹の上から立ち上がった男は、徐に振り返って、脱衣所の扉を見つめる。そこにいるのは、奇妙なキマイラであった。狼か獅子か、それとも竜か。
「いやーあんたすごいっすねぇ」
 秋月・充嘉(キマイラメカニカ・f01160)は、感嘆する。
 彼は、この浴場の喧嘩を一部始終見つめていたのだ。この場は超ド級戦力としての肩書を利用して騒ぎが起きないよう、騒ぎが起きても離れるように動いてもらっている。
 それゆえ、彼らの一方的な喧嘩には誰も止めに入らず、そして、妙な鎮まりがあるのだ。
 男の体を充嘉は品定めするように足先から観察する。
 バランスの取れた四肢、男一人軽々投げ飛ばす剛力と体幹。爪も牙もないというのに、センスと力を以て、ただのかすり傷一つ負わずに、男を嬲り倒す容赦のなさ。
「裸でここまでできるなんて、そうできないっすよ」
 パン、ともう一度、拍手を一つ送った充嘉に、男は静かに、しかし熱の籠る目を向けた。体格は大きいが、図太い程まではいかず、むしろ充嘉よりは小柄に見える。だというのに、その威圧感が、湯気の中に立つそれを膨らませて見せるようだった。
「それで? 次はお前か?」
「良いっすよ、一勝負といこうじゃないっすか」
 そうして充嘉は、恐れもなく男へと近づいていき、そして、仰向けに手足を投げ出す哀れな荒くれを俵の如く抱えあげた。
 それを脱衣所へと運びながら、どこか狂犬じみた滾りで、存分に殴り合う瞬間を待っている男へと、充嘉は人差指を立てた。
 実は負けたい、負かされて屈服させられたい。そんな倒錯した欲求がその滾る闘争心の裏に見え隠れする男に。
「俺が勝ったらあんたを好きなようにする。あんたが勝ったら俺を好きなようにする」
 どうっすかね? と脱衣所へと男を転がして戸を閉めた充嘉は男へと問いかける。
「ああ、それでいい、何でも構わねえさ」
 一も二もなく返答した男に充嘉は獰猛に笑みを反した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント
◆POW
藤見望メンバーへ接触を図る
…そうだな、少し目立ってみるか
こういう場所であればもめ事の一つや二つ転がっている筈だ
喧嘩に割って入り、拳で叩き伏せて止めてみせる

不死を求める者の中には、強い力や戦いへの欲求を持つ者もいるだろうと予想
派手な喧嘩の仲裁も、そういう者を誘い出す餌だ

藤見望のメンバーが釣れたら喧嘩を吹っかけてみる
「この程度では物足りない」とでも、駄目押しで告げて
わざわざ荒事に首を突っ込むくらいだ、求めるのは更なる闘争といったところだろう
無関係の者は巻き込みたくないと理由をつけ、人気の無い場所へと移動したい

戦闘が楽しいとは、あまり思わないが…
…これも仕事だ、相手に合わせて演技をしてやろう



 藤見望。
 聞いた名だ。とシキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は、小さく閉じた口の中で呟く。
「……と、喧嘩か」
 酔客の諍いだろう、滑舌があまり明瞭とは言えない言葉が飛び交っている。
 予知の中から得られた情報に、どうにも以前の『鍋の会』を名乗っていた手合いとはまた違った様相を窺えた事を思い返して、ふむと一考した。
 印象の違い。その体つきだろうか。以前は脂の乗った男が多かったのに対して、この藤見望は何かしらの武道に通じている者が多い、という印象だ。
 そんな情報から、シキは諍いを避けるのではなく、その今にも発火しそうな喧騒へと身を躍らせることに決めた。
 強い力や戦いへの欲求を持つが故に、不死への渇望があるというのならば、力を示せば。
 例えば。
「この、ぉ野郎、がッ!!」
「んなに、がッ、ォラァ!!」
 例えば、殴り合いに発展してしまった喧嘩に割り込んで、仲裁する等だ。
「……邪魔するぞ」
 酔客が互いに振り抜いた拳を、シキはその間へと無防備に滑り込むことによって、躊躇の一瞬を作り出す。その一瞬、互いの動きに生まれた僅かな差にシキは、都合、挟撃となった拳を捌ききっていた。
 僅かに早く動いた方の腕を流して、むしろ進行方向へと綱を引くように送り出せば、付きすぎた勢いにたたらを踏む。
 その間に、もう一方の拳、勢いのより緩んだその腕を取って捻り上げ、足を掛けて地面へと転がしたところに、体勢を整えた最初の男が乱入者であるシキに狙いを定めて殴りかかってくる。
 とはいえ、酔って平衡感覚を乱した殴打など、避けるには容易い。突き出された拳に潜り込んだシキは、そのまま、開いた脇の下へと拳を打ち上げれば、体を強張らせたままに地面へと蹲っていた。
「あまり、こんな場所で騒ぎを起こすな」
 数十秒もすれば、二人とも問題なく起き上がれるだろう。痛みこそ強いが残らないように制圧した。一度冷めたならば、そこからまた喧嘩をしようなどとは考えないだろう。少なくとも、すぐにまた、という考えはないはずだ。
 はあ、とシキは溜息を吐く。周りの野次馬から発せられる囃し立てから逃げるように人気のない方へと早足で抜けた彼は、慣れぬ芝居に既に疲労し始めていた。
 喧嘩を止めるにしても、あそこまで派手に相手を転がす事はしない。それもあの程度の素人に対してなど。
「よう、見てたぜ兄ちゃん」
 ならばなぜ、そうしたか。野次馬の中から、こうしてシキに狙いをつける輩を誘い出す為だ。
「物足りねえんだろ? あんな雑魚相手じゃあよ」
「……ああ、丁度」
 荒事に自ら首を突っ込む。その行動にやはり隠密思考だった以前の藤見望とは違うなと確信しながら、シキは振り返っては相手の笑みを真似して見せた。
 戦闘が楽しいとは、とても思えはしないが。
「俺もそう思ってたんだ」
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

千桜・エリシャ
鬼と呼ばれる影朧ですって
ふふ、なんだか親近感が湧いてしまいますわ
それにきっと強いのでしょうね…
影朧の御首を楽しみに、まずは一仕事こなしましょうか

浴衣姿で温泉街をからころ歩いて
女性に弱そうな方に狙いを定めたなら
わざとぶつかって派手に転びましょう

きゃっ!ご、ごめんなさい
私ったら不注意で…いた…っ…
一人では立てない風を装って手を借りて
立ち上がればお礼を
ありがとうございます
紳士な方で助かりましたわ
褒めて相手を立てて

その…お願いなのですけれども
私この先の宿に部屋を取っておりますの
そこまで手を貸してくださる?
よければお礼もしたいですし…
ね?と腕に抱きついて
さり気なく胸を押し当てて
二人きりになりましょう



 からん。
 湯の煙に、着流すように纏った浴衣をくゆらせて鬼の角を持つ女は、温泉街に下駄の歯を鳴らす。
 鬼を隠す街。
 それを聞いて彼女は、薄紅を引いたような唇で弧を描く。
「鬼、鬼……、ふふ、なんだか親近感が湧いてしまいますね」誰ともなく呟きながら、緩やかに歩きゆく。「鬼の方にお会いする為に、一仕事こなしましょう」
 隠された鬼へと向けた想いに、焦がれるような温度の吐息を吐いた千桜・エリシャ(春宵・f02565)は、湯に中てられたように上気した頬に僅かに指先を触れさせる。
 彼女とて、当てもなくただ街をさまよっている、というわけではない。いくらか伝えられた藤見望のメンバー、その一人に接触を図ろうとしているのだ。
 と、その時。
 すれ違おうとした男の方にエリシャの方が当たって、その衝撃にエリシャが転んでしまう。
 ズ、シャッ! と派手な音を立てたエリシャに、その男はすぐさまに駆け寄ってきた。彼に助け起こされて、エリシャは頭を下げた。
「も、申し訳ありません、私の不注意で……」
「いえ、こちらこそ失礼をいたしました」
 と、エリシャは僅かに乱れた浴衣の袂を直して、男の視線を探っては、襟へと向かっていた視線に、胸中に笑みを作る。
 掛かってくれました。と。
 転んだのは不注意ではなく、彼が藤見望のメンバーとしっての接触だ。
 タイミングを図りバランスを崩すように距離を詰める。
「ぁ……っ」
 と小さく喘声を吐き出して、エリシャは男の体へとしなだれかかりながらその腕を掴む。
「ああ、っ、申し訳ありません、重ね重ねとんだご無礼を……」
「い、いや……それより、脚に怪我でも為されたのかな?」
「足を少し捻ってしまったようで……」
 腕に捕まったまま腰を捻り、足首を見下ろしながらエリシャはそう説明して、ふと今気づいたように腕をパッと離して、ふらついて見せる。
「危ない、っ」と再び差し伸べられた腕にしがみついては、ほう、と安堵と共に恥じ入るように顔を俯けながらも、体を男の腕へと預けていた。
「このように容易く支えていただけるなぞ、紳士な方である上、力持ちでいらっしゃいますのね……」
「あ、ああ。それなりに鍛えてはいるものでな」
 そう聞いて、エリシャはその瞳を蕩と揺らがせて男を見上げ、そして、抱く腕を胸元へと寄せる。
 帯を締めているとはいえ、薄い浴衣。そうまですれば、厭が応にも、育った胸に腕が埋まるようになる。温度すら明瞭に伝わる接触にびくりと震えた腕は、しかし、エリシャの手を拒むことはなく、男はただ喉仏を上下させて、色を帯びた目でエリシャを品定めする。
 上気する頬に、潤んだ瞳。そして、警戒も見せず男に体を預ける彼女の意図をその男が取り違えることはなく。
「私この先の宿に部屋を取っておりますの、そこまで手を貸してくださる?」
「ええ、勿論ですとも」
 成程、確かに鍛えられてはいるのだろう太さの腕へと指をつい、と伝わせて、よければ、お礼もしたいですし……、と告げれば、男は獣欲を隠しもしない目でそう、答えていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

宇迦野・兵十
その辺の連中は他の皆に任せようかね
さて、きつねさんは隠れて姿を見せない悪党でも探そうか。

―UCで折った紙を街に飛ばし、怪しい人物を【失せ物探し】
 狙いは街を見下ろせる高台、或いは高級宿
 そんな場所で動かず逃げず、自信満々にただその時を待っている人物
 そんな相手を見つけたら【暗殺】で近くまで潜り込み
 【コミュ力/誘惑】で声をかける

お偉いさんと悪党ってのはさ、
大体動かず特等席で眺めてってのが相場だね。
お前さんも、そうは思わないかい?

―逃げ道を【見切り】、立ちふさがって

急な訪問で申し訳ないんだけどね。
何々、ちょっと聞きたいことがあるだけさ。

―へらへらと笑いかけ

お前さんの鬼はどこだい?

[アドリブ歓迎]



 自然を切り取ったような、丹念に整えられた小庭に面する旅館の一室。
 三階、という地上から離れた階であるのに、庭や露天の風呂が客室という括りに含まれている、高級宿。
「お偉いさんと悪党ってのはさ」
 柵の向こうに街を俯瞰する庭に面した縁側で、椅子に深く腰掛けた中年の男に、線の細い男が語り掛けていた。
 宇迦野・兵十(きつねさん・f13898)は、指先に折り紙の蜂を止まらせて、気配に気付いているだろうその男へと歩み寄る。
「大体動かず特等席で眺めてってのが相場だね」
 その語り掛けられる男は、兵十を招いた覚えはない。着流しに女物の着物を羽織る狐の耳を持つ男。
 ただものでは無い。
「お前さんも、そうは思わないかい?」
 そう気付きながらも、しかし、逃げようとも迎え撃とうともしない。
 兵十は、腹の下に組んだ手を組み替える余裕めいた男の仕草に、いつでも刃を抜けるように備えながら、椅子の背凭れに腰を寄せて男の全身をくまなく見透かす。
 その浴衣の下に武器を隠し持っているわけでも、逃げる手段を講じているようにも見て取れない。
 周囲に飛ばした紙蜂も異常を伝えてはこない。よもや嘗められている、という考えも頭を過るが、そうであるなら叩きのめせば良いだけ。一考に値しない。
「ああ」
 数秒の間をおいて発せられたのは、兵十の言葉を肯定する低い声だった。
「全くだ」
 はあ、と憂慮な息を深く吐いた男は、そこで初めて兵十の顔を見上げた。細めた目に、さして興味もなさそうに目を離した男は、肘置きに肘ついて街を見下ろした。
「……急な訪問で申し訳ないんだけどね」
 兵十は、念のために男の取りえる逃走ルートを考えながら、問いかけた。
 もし逃げるなら、庭から飛び降りるか、旅館の廊下へと駆けるか。隠し通路があるような構造ではない。
 椅子に座った状態ならば、動き出しの瞬間に脚の腱を潰して、そのどれもを遮る事は出来る。
「いや、いいさ。私も退屈をしていてね」
 なにせ、やる事が無い。と言う男に兵十は肩を揺らして見せる。
「そうか、そりゃ都合が良い」
 言葉通りの意味ではない。
 その笑いが示すのは、どんな手を講じていようと逃すことはしないという、威嚇だ。牙を剥くように笑いかけ。
「お前さんの鬼はどこだい?」
「鬼の場所か、教えるとも」唯々諾々と男は頷きながらも、ただ、と告げた。「その前に話をしよう」
 兵十が、どうやら面倒くさい相手に引っかかったらしいと、男を見下ろしながらも続く言葉を聞いていた。
「君は、さっき悪党、と言ったが、君にとっての悪党とは一体どういった人物を指すのかな?」

大成功 🔵​🔵​🔵​

多々羅・赤銅
(想定:力に溺れる)
(かげろうで身体を熱気に変えて
温泉街の湯気に紛れて全体捜索
良い感じの見つけたらーーぬるっと実体へ、だ)

へえーー強いじゃんおにーさん
あ、いやいや別に荒事を非難とかするつもりねえよお
カッコいいねえって話
でも退屈そうだ
尚も物欲しげとでも言おうか

上の世界。
ちょっとわかるよ。強い奴はゾクゾクする。
それが欲しくて仕方ないと見える
私、お前の物欲しいもの、あげようか
私強いよ
気配無かったろ
どんな風に酷くされたい?

といい具合にノせて
私もノって
邪魔な入らない人気のないところ行こうね♡
心ゆくまで荒事するのに最適なとこ行こうね♡



 観光温泉都市。
 地下から天然温泉を引いている土地ではあるが、しかし、ただ沸いた温泉を湯舟に張るだけでは立ち行かない。
 温度を調整する事も重要ではあるが、温泉以外。言ってしまえば衣食住の為に機械の力に頼る部分は多く、そしてその排熱口などは基本的に表に露出してはいない。
 大通りから離れた区域。いわゆる内側の場所。ボイラーから熱気を吐き出す宿の裏通りの小路。そのどん詰まりで、一人の男がいた。
 いや、一人の男と、その男が殴り倒して地面に転がる誰か。
「……ふん」
 どん詰まり、とはいえ通用口の扉がそこにある。容量の多いゴミ箱が表から隠されて置かれているが、汚くはなく、小奇麗にされている所から、人の出入りは頻繁に行われている事が知れる。ならば、それも誰かが気付いて片してくれるだろう。
 鞘から刃を抜くことも無く一方的に殴り潰した男は、退屈そうに転がる男に背を向けた。
 その背に。
「へえー、強いじゃん、おにーさん」
 一人の女が背中を合わせるように、転がる男を屈み見ながら屈託のない声を上げる。
「――っ」
 通用口が開いた気配はない。上から降ってきたような音も、当然、男の横をすり抜ける姿があったわけではない。誰かの声の正体を見定めることなく、男が動く。
 ボ、ッ、ガギン!! と音が走る。忽然とボイラーの熱気に紛れるかのように現れた女は、男が振り返りざまに振るった鞘の殴打を、体を回しながらしゃがみ躱して、更に抜き放った刃の腹を縦一文字に構えた刀の柄頭で抜刀ついでに打ち弾いてみせたのだ。
 果たして、男は見ただろうか。
 その女の桃色の髪の先が、煙草の煙を逆再生するように、蒸気から形を得るのを。
 多々羅・赤銅(ヒヒイロカネ・f01007)は刀を取り回しながら、手足をぶらつかせて嬉し気に笑みを浮かべていた。
「荒事の非難とかするつもりねえよお」背後に転がる男に一瞥すらくれず、その目は熱を持って、対面の男に注がれていた。
 カッコいいねえ、って。伸びた唇から香り立つ音が跳ねる。
「分かるよ、強い奴と逢うとゾクゾクする」
 そこで初めて、彼女は背後に転がった男を見つめた。辛うじて息はしているようだ。加減が出来る、いや、加減が出来るほどに飽きたのか。
 かわいそうに、と倒れた男に冷めた視線を一瞬向けて、興味を失ったように振り返る。
「スッキリした? してないよね」
 だって退屈そうだものさ。肩に刃を担いで、赤銅はねえ、と首を傾げて、誘う。
「お前の欲しいもの、あげようか。私、強いよ」ぎらと睨む目に笑みは絶えず「どんな風に酷くされたい?」
「……ああ、そうだな。随分と楽しめそうだ」
 その光に中てられたように、男はその顔に同じ色の笑みを湛えて応えた。
「それじゃ、邪魔な入らない人気のないところ」
 行こっか。
 閨に誘うような台詞で、赤銅は刀を鞘に仕舞う。
 がちゃり。通用口の扉が開く。
 そこに残っていたのは、無残に転がる男の体一つだけだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『平和的なばかりでは得られない』

POW   :    死なない程度に力技。

SPD   :    ハッタリやカマ掛けで情報を引き出す。

WIZ   :    良心に訴えかける。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●二章

邪魔の入らない二人きりで、藤見望のメンバーに鬼の場所を問う場面です。

一章からの流れで自然であれば、好きなシチュエーションとか書いてくだされば、書けるだけかきます。

なくても適当に書きます。

例えば、路地だったり、空き店舗だったり、宿の一室だったり。
戦って負けることはないので、プレイングで演出や開始場面は応変させます。

よろしくお願いします。
秋月・充嘉
基本はPOW
温泉でいなした後、適当に浴衣を着なおしてから部屋に連れ込むっす。
さてと……。

約束だ、オレの好きにさせてもらうぜ?
鬼は何処にいる? 浴衣を乱暴に脱がしながら、自分の浴衣も乱暴に脱ぐ。
知らないはずないよな? 耳元に息を当て相手をまさぐる。
影朧が何処にいるか知っているよな? 肩に軽く噛みつく。
オレは君を屈服させられるし、その先の快楽を教えられる。 体を密着させる。
それか複数相手が好みか? 男の体を半身起こし背中に回り込み男の前に己の影を出現させる。
オレは気持ちいいぜ?『前』も『後ろ』もな。淫欲に溺れようぜ?ここには誰も来ないようにしている。どれだけ喘ごうと、な。

男をその気にさせ、楽しむ。



「さて」
 ドガ、ッ!
 蹴り飛ばすように、男の背を押し込んだのは、温泉の休憩室。畳の敷かれた空間。日頃、利用客の誰かしら寛いでいるはずの場所には猟兵である秋月・充嘉(キマイラメカニカ・f01160)の要請に誰もおらず、やや広く感じる。
「オレの好きにさせてもらうぜ?」
「……っ」
 浴衣に身を包んだ男は、たたらを踏むようにその部屋へと突き入れられながらも、好転を狙ったのか、それとも他の思惑があるのか。
 ズダン、と畳を蹴り飛ばし振り返った男は充嘉へと拳を突き出す。
 風を切るその拳に、しかし、充嘉は驚きもせず、むしろ、口に笑みを湛える。瞬く間に突き出された腕を掴み、捻り上げるとその腕を背に回し。
「――ァ、がっ」
 顔を押し付けるように、男の体を壁へと叩きつけていた。背中へと捻り上げた腕の痛みに苦悶の声を上げるも、その声を聴く者は充嘉しかいない。
「随分威勢がいいな」
 そんなに痛めつけられたいか。と男の首筋へと狼のマズルを添わせる。もがくその力も充嘉にとっては跳ねる鮮魚のようなものに過ぎない。まな板を躍る魚にくれてやるのは自由でなく包丁だ。
 その魚もそれを望んでいるとあれば、躊躇う事はない。前面を壁へと押し付けながら、爪で男の浴衣の帯を裂く。ぶちり、と布の裂ける音と共に肌を引っ掻いたか、くぐもった声が男から漏れ響く。
「それで、鬼はどこだ?」
「……ッ」
 はだけた胸の間に指の爪先を伝わせながら問うた声に、男は応えない。
「ああ、そうか――」
 無言の抵抗。それに充嘉は、男の体を強引に引きずり倒すように、膝を裏から蹴り畳の上に跪かせていた。
 肩から圧を掛けるように体重を落としながら、鍛えた胸の間を抜けた指が、腹の皮膚を僅かに裂きながら滑り降りていく。豊かな凹凸と硬さにその下の肉質を窺い知れる。
「知らないはず、ないよな――満足すれば教える気になるか?」
「ァ――グッ」
 男が声を上げる、充嘉の爪、一本ではなく、その五指全てのそれが腹の下、下帯を裂きながら爪を立てるのだ。絞められた白に血が滲む。
「それとも」
 声を上げた男の顎を、手が掴む。充嘉の腕は一つは男の腕を捻り、もう一つは臍の下へと爪立てている。
 ならば、そこにいるのは、しかし、充嘉であった。
「複数が好みか?」そう告げたのは、充嘉から分離した彼の影。刹那、絶叫が上がる。
「――ァが、ァッ、ィギアアッ!!」
 背後を取った充嘉本体が、男の肩首にその牙を立てて食らいついたのだ。
 叫ぶ声に、しかし、騒ぎは無い。ただ、男の声が響く。震えに膝が滑り、浮いていた尻が畳に落ちれば、血の滲む布を押し上げる獣欲が真下にあった充嘉の脚を、その足首に粘る唾を叩きつけていた。
「どれだけ叫んでもいいぜ」男の首から血の滴る牙を引き抜いた充嘉は告げる。その為に拵えた空間だ。どれだけ声を上げようと、男の醜態も、媚態も、誰も見ることはない。充嘉以外は。
 十数人は優に寝転んで過ごせるだろう部屋に、二人。
「前も」背後の充嘉本体は、捻り上げていた腕を鷲掴んで門渡へとその指先を触れさせ、「後ろも」前の充嘉の影は唾を吐いた漲りを踏みつけながら、男の後頭に回した手を引き付け。
「その硬い口が緩くなるまで」
 愉しもうか。
 男の両耳に、そんな声が二重に響いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

宇迦野・兵十
へっへっへ、こんな時に禅問答とは喰えないもんだ
いいよ、じゃあ少し付き合おうかねぇ

―対面の椅子に座り、鈍刀を立掛ける

其悪道に染まるもの、其強いもの
でもお前さんはそんな答えが聞きたい訳じゃないって事だね

―煙管を咥え、ゆるゆると煙を吐く

僕はさ、足掻いて笑って頑張って、そうやって生きてく人の話が好きでね
でもね、その中にたまにいるのさ
自分自身の為だけに、そんな人を利用して踏み付ける奴がさ
悪党ってのはそんな連中の事だと思ってるよ
まぁ単純に僕がそういう連中が嫌いってだけかもしれないがね

さてさて、狐の語りなんてどこまでが本当で嘘だかわかりゃしないが
これはお前さんが望んでた答えになったかい?

[アドリブ歓迎]



 禅問答と来たか。宇迦野・兵十(きつねさん・f13898)は、逃げも隠れもせず悠然と腰掛ける男の対面の椅子を引いた。
「喰えないねぇ」語る口調に笑みを含ませながら、兵十は腰から抜いた二振りの刀をひじ掛けに立て掛けていた。
 小庭に揺れる若竹の葉が、乾いた木擦れを風にそよがせている。
 その音に少し耳を澄ませ、男の問いを反芻しながら煙管に詰めた丸煙草に火を点けた。悪党とは何か。
「……其悪道に染まるもの、其強いもの」
 なんて、と。
 そう口にした直後に失笑するように煙を吐いて、対面に座る男の鎮まる顔を見つめる。笑みを浮かべてはいるが、張り付いたそれの下にあるものが見えない。
 あるいは。
 彼も兵十に対して、そう思っているのかもしれないが。
「お前さんはそんな答えが聞きたい訳じゃないって事だね」
 熱を持つ街に吹く夜風はどこか湿りを帯びて冷えている。吐いた煙がそれに攫われていくのを眺めて言えば、男は、一つ鷹揚に頷いて返した。
「ああ、相対としての善悪の話ではなく、絶対としての悪の話だ」
「……僕はさ」
 話し出しに煙を吸って言葉を切り、机の上の観光案内の地図と、重しに置かれた綺麗なままの灰皿を見る。
「足掻いて笑って頑張って、そうやって生きてく人の話が好きでね」
 それが人の営みなのだと、生を感じるのだ。
「でもね、その中にたまにいるのさ。自分自身の為だけに、そんな人を利用して踏み付ける奴がさ」
 他人の生を奪っていきるような、人々の毒。
「悪党ってのはそんな連中の事だと思ってるよ」
 まあ、単純に僕が嫌いってだけかもしれないがね。そう告げ、兵十は嘯く。
「狐の語りなんてどこまでが本当で嘘だかわかりゃしないが」
 これはお前さんが望んでた答えになったかい? 吐いた言葉の代わりに煙を吸い込んだ。
 男は、ただ静かに兵十の言葉に耳を傾けていた。そうして、兵十の言葉が切れたその時。
「そうだな」と今度は男が語り出した。
 この街は、かつて鬼と呼ばれる影朧を結界に閉じ篭ってもらう為に、腕の立つ旅行客を捧げていた。自分自身の為に、他人を利用した。
「知るものも一部。だが、それで生き永らえたならば、この街は悪だ」
 ともすればこの街に被害が出る、影朧の保管。むしろ被害を呼ぶことこそが。
「……それが、お前さんの目的かい?」
 その言葉は、しかし、否定された。
「いいや、それは違うな。――さて」男は、机の上の観光施設だけが載る案内地図を広げて見せた。とん、と指を置くのは、この旅館に併設された、塀に囲まれた露天浴場。「異変が起こればすぐ分かるだろう?」
 破壊衝動に囚われた鬼、それは然程時間を置かずに、仮の住まいを壊すだろう、という。
「我欲に眩んだ同胞が弄んだ失敗作だ」
 実験の成果、手札、それを切り捨てる事に一切の躊躇いの無い表情。いや、と兵十は思う。
 我欲に眩んだ同胞、という棘のある言葉を向ける相手を自由行動させていた事を鑑みれば。
「不法投棄、というわけかい」
 ゴミ捨て場にしても心が痛まない、という事なのだろう。呆れた息を吐いて、兵十は腰を上げて刀を差した。
 罪を知らない無辜の民を見捨てては置けないだろう? とせせら笑うでもなく、そうだろうという事実認識以外の感情が読めぬ声で言う男に、兵十は悪党の匂いを感じながらも最後に灰皿へと灰を落とし、背を向けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント
路地裏に連れ込み、二人になった所で戦って打ち負かす
相手に全力を出させた上で倒して情報を引き出す
…しかし、屈服させられて悦ぶというのは理解に苦しむ

げんなりする内心は隠し、自分も強者を求めていると告げてみる
演じるのは同類の戦闘狂、目の前の男を手本として
この辺りに『怪物』が隠されていると小耳に挟んで探している、と
「心当たりの一つや二つ、あるんじゃないのか?」「強者を求める気持ちはあんたなら分かるだろう?」

悩むようなら更に取引を持ち掛ける
俺の目的が果たせたなら、あんたがもっと鍛錬を積んだ時また相手をしてやる

藤見望の活動以外で目指すものを示せば、離脱できるのではないかと
…そんな事を考えるのは甘いだろうか



「……ここらで良いだろう?」
 通りから外れ、仄暗い街灯すらもまばらな路地裏。
 人二人が並べば幅が埋まってしまうような狭所ではあるが、シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)には、そしてシキについてきた男には問題が無いらしい。
 待ちに待ったと笑顔に込められた期待と興奮は、理解に苦しむ。
「ああ、俺も我慢できないな」
 しかし、シキは相手の表情、その顔面の筋肉の動きを真似ながら臨戦態勢を取り、先手をかけた。
 ッ、ダン! と跳ねる音が狭い路地に響く。
 演技も長々と続けていては襤褸が出る。即応して構えてシキを迎え撃たんとする男へと、地を蹴り、壁を蹴り。
「――ッ」
 シキよりも更に高い背に、屈強な肉体。その顔面目掛けて大振りの拳を放っていた。まともに当たれば昏倒はさせられるだろうが、しかしそれに無抵抗のままであるはずがないとはシキも考えていた。
 こちらの力量の示唆と反撃の誘い出し。
 ゴガッ、とシキの拳と男の腕が交差して鈍い音が弾ける。防ぐのではなく、弾き流すように振るわれた腕の向こうから、もう片方の拳が最短距離を攻めシキの鼻頭へと吸い込まれて。
 拳を掌で押すように空中姿勢で半身になった、そのそばを過ぎていった拳から、男の笑みへとシキは目線を動かす。
 シキの頭頂の耳がピクリと跳ねるように動く。
 浮いていた足先が地面を掴む。男の脇に備えた拳が引き絞られている。それを弾いたとして、既に膝が、いや、タックスか。他にも次点の対処が感じ取れる。
 喧嘩慣れ、というよりも、武道の型に似た動きだ。好きこそものの上手なれ。そんな言葉を聞いたことがあるが、その類か、とシキは妙な得心を得ながら、一歩下がって口を開いた。
「このあたりに『怪物』が隠されているんだろう?」
「へえ、そりゃあ面白い話だ」
 それと闘ってみたい、と声に乗せながら踏み込んだままに拳を振るい、脚を突き上げる。対する男の攻撃に絡め手は無い。ただ、継ぎ間の無い連撃と巧みなフェイント。
 まともな使い道もあるだろうに。シキは捌いた腕を極め、地面へと引きずり倒して首を絞めつけていた。
「心当たりの一つや二つ、あるんじゃないのか?」
「さあ、なっ!!」
 ド、ダンッ!
 男は、シキに組み付かれたままに体を無理に起こして壁へとシキの体を叩きつけ、僅かに緩んだ力に指を差し込んで、シキの腕から逃れ出ていた。
 構える男の笑みは深まるばかり。だが、シキの力量に敵わないと理解は出来ているのだろう。男がむやみに踏み込む事は無い。
「俺の目的が果たせたなら、あんたがもっと鍛錬を積んだ時また相手をしてやる」
「……」
 男にとってメリットになるだろう言葉を吐いたシキに、それを聞いた男は、ふと何かを考えるように踏み込みの溜めを霧散させていた。
 そして拳を解く。
「……は、そうかよ」
「なんだ……?」
 そうシキの問い掛けにも応えず、背を向けて路地を出ていく男は、その背を刺されようとも構わないという程に無防備だ。
 いや、シキがそうしないと確信しているのか。数度路地裏を曲がり通りへと出た男は、す、と坂の最中にある旅館へと指を伸ばして。
「そこ宿の湯殿に入れてるよ」そう告げてから、男はシキへと振り返る。退屈そうな目をしている。「悪いな」
 あんたと殴り合っても楽しくはねえ。そうシキに残し、男は雑踏へと姿を消していった。
 シキはその旅館を見つめ、はあ、と置いていかれた感覚のままに溜息を吐く。目的は果たせはしたが、しかし。
「……分からん」
 あの男は最初から最後まで、やはりシキには理解のできない種類の人間であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

多々羅・赤銅
強かろうが残念、猟兵に勝てる程じゃない

いい気持ち?
良かった!
ところでさあ
鬼、探してんだよね
知ってる?

教えてくんないか
困るよ
勢い良く踏みつけ男を地に縫い付ける
痛みに苦しまれても胸は痛まない
私もあんま手荒い事はしたくねえんだよなあ

どーする?
黙ってたって勿体ねえよお、死んだら終わりじゃん?
私も死んだお前には興味ないしさ
お互いハッピーに終わろ?
躊躇なく肉を斬る
どこなら死なないかなんてよく知ってるよ
祈酒で命を繋いでやることも出来る
何度だって鮮烈な痛い思いができるぞお 良かったなあ
折角だし私の血でどこまで治るか試すか
欠損は治るのかな
歯とかも生やせんのかなあ
あとは



今もしかして言った?
ありがと〜〜〜!



「なあなあ、……気持ちいい?」
 さっきまで剣を握っていた右腕の掌は、擦過に厚く硬くなった皮膚の覆われて、硬い木材を思わせる。伸びた節くれた指はしなやかながらに力強く骨に肉を纏わせている。
 多々羅・赤銅(ヒヒイロカネ・f01007)は、強者らしいその手の甲に自らの掌を添えて、太い指に指を差し込んで握る。
「ァ、ぎッ……ッ」
 歯の根が軋むような声に、赤銅は逞しい男の背にしなだれかかるように、男の左肩を壁に縫い付ける刃を逆手に握っていた。
 男の刃に血濡れた赤銅の指、それを入れた男の五指が拳を作り、赤銅の指を潰し折らんと締め付けられる。
 その肩に激痛が走っているはずだというのに、敵である指をへし折らんとするその熱を、赤銅は愛おしむ。
 刃を上に向けて貫いた赤銅の刀は、男の体重であれば足の力が抜ければ、じんわりとその肩を裂いていくだろう。折れぬ闘心が、男を支え、赤銅に熱を満たしてくれる。
「ところでさぁ」
 痛みは走るが、しかし赤銅の指を砕くには至らない手を繋いだままに、赤銅は壁に頬を押し付ける男にその口を近づけた。
「鬼、探してんだよね。知ってる?」
 返されるのは笑いだ。小馬鹿にしたような、吐き出す笑い。
「知ら、んな……」
「ええー、困るなあ……」
 と、徐に赤銅が柄を握る手に力を込めれば、男は何が起こるのかを悟ったのか、息を詰め歯を食い縛る。
 あら、お利口さン。そう耳元へ囁いた赤銅の声は肩の中を走り抜ける刃の激痛が遮断して、男の脳には届かない。
 肉を巻き込み強引に刀を引き抜いて、赤銅が男の手を引いた、その瞬間。
 ドダッ、ン! と、ぬめる血に繋いでいた手がすっぽ抜けて、男の体が地面へと転がるように崩れ落ちていた。
「……ッ、カハ」
 仰向けに手足を投げ出し噎せた男の口から、血と歯が跳ね出る。
 息が久々に思えた。
 鬼は去っていない。
「――ッ、あ、ぎぁォああ!!」
 ゴギリ、と肩の傷を踏み抜いた赤銅の脚に骨すら砕け、今度こそ男の絶叫が赤銅の耳を雨音のごとく叩く。
「叫んでても黙ってても、どーしようもねえじゃんさー」
「……っ!?」
 肩を踏んだままに赤銅は、己の血に濡れた指を男の口の中へと突っ込んでいた。
「私も死んだお前には興味ないしさ、お互いハッピーに終わろ?」
 唾液と血の糸を引き指が抜けた男の口には、砕けた筈の間隙はない。 
「大丈夫、死なさないから」
 どうしよか、と赤銅は首をかしげる。死なない斬り方は知っている。死ぬ傷も血を流せば癒せる。
「耳を削いで、指ははねて、腹を裂いて」
 ああ、と赤銅は思う。
「そういや、歯はちゃんと生えるんだなぁ。腸と腸繋いだら短くなったりすんのかな、ねえどう思う?」
 男は治癒された事への驚愕がもたらすその問い掛けの真実味に、眼前の存在への恐怖を新たにしていた。
「――、ッ」
 懇願するように男が絞り出す声は、しかし、赤銅に届かず。
 その腕が揺れて、男の頬が唇と化して、口内に残った血がそれを繋ぐ。
「ほら口は大きく開けて、喋んないとさ」
「……っ、」
 過呼吸寸前の息に言葉は上手く乗らず。
 終わらぬ痛みの恐怖は続く。
 諭す赤銅が、男の言おうとしたことが聞き出そうとしていることだと気付くのは、もう少し先の事だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

千桜・エリシャ
宿の一室に連れ込んで
男の劣情のまま組み敷かれて
けれどそうされるのを期待していて
口では嫌なんていうけれど嬉しくて――なんて
か弱い乙女のふり
男の好きにさせて私に溺れた頃合いを見て
桜吹雪で魅了しましょうか

さあ、今度は私の番
散々好きにしたのですから
涯なき鬼の慾に付き合っていただきますわ

馬乗りになって服を脱がせて
胸板を爪で斬り裂き傷口に舌を這わせて
ふふ、大丈夫
痛みも直に快楽に変わりますから
首筋に牙を立てて
血を吸って肉を噛み切って捕食して
やっぱり人間って美味しい…
このままじゃあなた、私の肚の中よ?
もっと、されたい?
それともやめて欲しい?
質問に答えてくださったら、あなたの望みを叶えてあげる

鬼はどこにいるの?



 千桜・エリシャ(春宵・f02565)は手首の中の血管に走る、微細な痺れのような感覚に咳にも似た淡い息を吐いた。
 背に感じるのは、柔らかな綿布団の温度。胸に感じるのは、硬い男の健剛な温度。
 皮を剥ぐように帯を剥かれた浴衣の下を這う指の乱雑さに、エリシャは脈打つ血管を抑えるように手首を軽く噛んで、漏れる笑みを誤魔化した。
「ゃ……お、止め、ください……」
「――は」
 白い洋装のシャツごしに男の胴に当てたエリシャの手は、男の体を突き放すものか、それともつなぎ止めるものか。
 男は、小さな蝋燭一つが照らす仄暗さの中で、幼子の如く食んでいた肉を離しては、にたりとエリシャを見下ろすようにその上体を起こした。
 エリシャの華奢な白い足首を掴んだ男の腕が、彼女の脚の間に膝立てたその脚の上にそれを擦り上げると、獣が獲物に食らいかかるように起こしていた体を倒して、しな垂れる。
「ん、ぁ……」
 かぷり。そんな可愛らしい音すら立てて、男の歯列がエリシャの首に型を刻み付ける。擦れる髪が纏う汗の香りが鼻をくすぐっている。生きた匂いだ。
 甘く声を吐き零しながら、男の体に組み敷かれたエリシャに、は、と男は首を開放した後にもう一度笑う。
「まだ礼が足りてないだろう?」
 男が身動げば大腿の上に乗せられた足が揺れて、触れ合った肌が慣れ始めた痺れを脊椎へと押し流していく。
 エリシャの肢体だけを反射する、口を半開きに舌を丸めた男の瞳に、エリシャは口元と男の腹に添えていた両腕を伸ばして、男の体を引き寄せていた。
「あ、ぁ……」
 ――その通りですわね。
「……、なん」
 抱擁の艶然とした温もりに浸る間もなく、男の耳に滑り込んだ言葉の意味を彼が問うよりも早く、そのエリシャしか映さない瞳に桜の花弁が舞った。
「――、は……?」
 暗い天井が見えた。いや、天井とエリシャの体が見える。
 組み敷いていたはずの彼女が、今は男の腰の上に座り男を見下ろしている。
「お礼を、いけないのよね」
 男の胸に突いた両腕の先、鋭い爪が男のシャツを容易く切り開き、健康な肌を露わにしていた。凍るような感覚にしかし体は動かず、爪が肌を裂く痛みに熱を滾らせるばかりだった。
 記憶の最後、桜の花弁。それが原因だと分かりながらも理解はできない。
「……っ」
 裂いた傷から滲み出た血液の雫を舐めとる舌の感覚に、体を震わせた男の首筋へとエリシャの口が開く。鋭い犬歯が蝋燭の光に照り返る。
 それは先ほどの男と同じような所作で、しかし、肌を破る痛みはエリシャには無かったものだ。牙が首の皮を貫いて、浅く裂いた傷から赤き血潮が岩清水のように湧き出でるのに吸い付く。麻痺したように固まりながらも伸ばされた太い手首をエリシャは柔らかく掴むと、――その上腕へと躊躇いも無く、食らいついた。
 ぶつり、と果実を皮ごと食らうような瑞々しい音が鳴る。
「……ッ!」
「やっぱり人間って美味しい」
 肉を食われる痛みに、しかし叫びすらも吐くことを許されない。吐き出される息と喉の動きが噛み合わないのだ。男の肉を咀嚼し、溢れる血で喉を潤し、愛おし気に男の指に甘噛みを残したエリシャは、その口の中の肉を呑み込んで口元を拭った指先を、男の肉が通ったであろう喉から胸へと沿わせて笑む。
「このままじゃあなた、私の肚の中よ?」
 胸を過ぎ、腹、臍の周囲に掌を広げて見せる。離さぬ男の腕の傷に舌を這わせながら怯えた表情にくすりと甘い笑いを零した。
「もっとされたい? それとも、やめて欲しい?」
 質問に答えてくださったら、あなたの望みを叶えてあげる。胴を触れさせるように男の体に倒れた息を吸う音が耳元で響き。
「鬼は、どこにいるの?」
 艶然と、落ちる声が男の脳を揺さぶっていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鈍川家・玉五郎
不採用含め全て歓迎にゃ。
WIZ対応。

し、しまった、逃げ場がないのにゃ…!(ちらっ
路地裏で追い詰められたふりをして相手の同情を誘うのにゃ。
きっと命乞いをしながらどうしてこんなことをするのか聞いて、その流れで鬼のことも聞いてみるのにゃ~。

ふっふっふっ。おいらに同情した(もしくは冥土の土産のつもりか)のが運の尽き、目にも止まらぬ速さの櫃まぶしでクイックドロウ。
女の人の足下を撃ち抜いて驚かせてやるのにゃ。
騙し討ちで悪いがお嬢さん。相手が悪かったのにゃ。
このニルヴァーナ・ファイブボール、雌を泣かすことはあっても泣かされることはないのにゃ。

…決まった!
え?泣きながら逃げてた?し、知らないにゃ~ん。



 鈍川家・玉五郎(かっこよくなりたい鈍川さん家の玉五郎・f19024)は今、大きな壁に直面していた。
 いや、比喩的な意味ではなく物理的に。
「にゃにゃっ!」
 路地の行き止まり。無表情な機械を纏った木の壁が、玉五郎を見下ろしていた。
「しまった、逃げ場が無いのにゃー!」
 叫びながら、玉五郎はちらち、と背後を見る。
 悠然と、赤い服の女が玉五郎の後を追ってきていた。
「鬼事はもう終いかいな?」
「にゃ、ぅ」
 逃げ場が無い、と女も気付いているのだろう。脇を抜かれぬよう距離を少し離して、その足を止めていた。
 後にも引けぬ、そんな追い詰められた玉五郎が取った行動は――。
「た、助けてにゃぁ……ど、どうしてこんな事をするのにゃ……?」
 命乞いであった。
(ふっふっふ、我ながらすごい作戦にゃ、油断も誘えて、情報も聞き出せるのにゃ……)
 などと玉五郎が、自分の機転に心中でほくそ笑んでいると知ってか知らずか。
 女は悠長に、そんな玉五郎の姿に耽美めいた視線を向けながら、くすりと笑う口許を隠した。
「そんなに怯えずとも、取って食ったりは……、命までは取ろうはせぬ」
 なんで言い直したにゃ!? と突っ込みたくなるのを抑えて、怯えたように体を縮める玉五郎の問いに女は、そうさな。と答えを返してくれた。
 曰く。
「逃げるものがあれば追いたくもなろう?」
 それが美味そうな姿をしていれば、尚更。と舌が赤い唇を舐める。
 ゾワ、と全身の毛が逆立つ。なんというか、キケンな感じがしてならない。
「さて――」
 と女が何かを言いかけたその時。
 ズガ、ァン! と赤い女の足元の地面が弾けた。
「――ッ、!!」
 跳ねるように後退る女に、玉五郎は抜き放った銃口から煙を揺らして口角を上げてみせる。
 油断の虚をついた牽制の一撃に、赤い女は言葉を続けることを忘れて玉五郎を見る。
「……一体」
「名乗った筈にゃ、私はニルヴァーナ・ファイブボール」
「タマ……」
「ニルヴァーナ・ファイブボールにゃ!」
 局所的に日本語へと訳すのをやめるにゃ、と叫びながら、しかしニヒルに笑う。
「雌を泣かすことはあっても、この私は泣かされることはないのにゃ……さて、鬼の居場所を教えてもらうにゃ」
 女はしかし、首を傾げ。
「……逃げる時の涙は演技だったのかの?」
「あ、……当たり前にゃ」
 少し目を逸らし白を切った玉五郎に、ますます笑みを深める女は、ふと笑みを抑えると何かを考え込んだ後に、一つ頷く。
「謀られたか……いや、成る程」
「うん? なんの話にゃ」
 路地裏へと誘きだした事かと玉五郎は思いかけたが、しかし、どうにも女の様子は違うように見えた。
「鬼の居場所、か……教えるのもやぶさかではないがのぅ」
 ただ、と女は玉五郎に条件を提示していた。
「どうであろうか。私と一晩共に過ごすというのは?」
「お、お断りにゃ……」
「そうか、残念」
 話していると口車に乗せられてしまいそうで、早くして、と銃口を差し向けてみれば、女は玉五郎にふい、と背を向けた。
「では案内するとしようかの、何、私は宿に帰るだけ」
 その宿の離れ。温泉に鬼を隠す結界があると、女はそう言った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レイ・オブライト
橋の下の暗がり、水辺

暫く奴には不死殺しチャレンジに励んでもらった。どうやらオレよか先に奴がバテちまったようだが
殺してくれねえわけか?
日が暮れる
此方からはカウンター一発。時間切れだ。好い夢見れたろ
じゃ、覚めなけりゃあな?
有無を言わさず水責め+必要に応じ属性攻撃(電気)を流し淡々と詰問。殺す気は無いんで殴らない。が、加減は得意じゃない。どの程度で死ぬかは自己申告で頼むぞ
現実の話としてよ、鬼の居場所が知りてえだけさ
この「手段」に何も感じやしない。あんたのおめでたい脳とは一緒にされたかないな

礼として忠告だが。その程度の腕で不死なんぞなってみろ、頑丈なサンドバッグに生まれ変わって終い…聞こえちゃいないか



 頭部は硬い頭蓋に覆われている。
 出血量は見込めるが、やはり刃を走らせるのは骨より肉の上が良い。
 レイ・オブライト(steel・f25854)は、自分の首に横から刺さって逆側へと先端が飛び出た短刀を引き抜いて、納得する。
 レイのように徒手空拳であれば、首、などという狭い標的よりも頭蓋を狙って、衝撃を骨の内側へと通した方が理に敵っているのだ。
 獲物が違えば、狙いもまた千差万別か、と今更な事を改めて思う。引き抜いた刃と肌に糸を繋ぐ鼓動代わりの雷電が、死を伐ち伏せる衝撃を体内で感じながら、レイはその短刀を無造作に対面する男の足元へと放ってやる。
「バテちまったか?」
 橋の下。上流の方は川に直接涌く温泉やらで人も多いらしいが、下流に来てしまえば多少の怒号も川のせせらぎに消えて流される。
 空は赤いが、街には夜の影が落ち始めている。欄干に電灯が点るのもじきだろう。橋の下ともなれば灯りがある筈もなく。
「は、なわけねえだろ、バケモノ」
 返る声の威勢は良いが、暗がりでも見えるその表情は、ただ楽しいばかりの歪みでは無かった。
 ここまで、レイは一つも男に反撃ひとつしていない。張り合いがある程度に避け、受けている。
「どうした、俺を殺すんじゃなかったのか」
 短刀を拾い上げる男が、暗闇に殺意の念を瞳に輝かせる。
「それとも、――殺しちゃくれねえのか?」
「ご、の――ッ!!」
 ザ、ッガ!! 川原の石を蹴り飛ばし、レイへと迫る。握る短刀が肩から腕、そのバネだけで打ち出され切っ先がレイの眼球めがけ突き放たれる!
 が、その柄に男の手はなく、空中に放された刃だけ。男は更に踏み込みレイの懐へと潜り込んでいた。膝か、いや投げか極めか。
 レイは視界の殆どを遮る銀の切っ先を避ける本能すら忘れて、その動きを眺め。
 橋の上。欄干に灯が点り、刀身にそれが反射した、その瞬間。
 放たれた膝の更にその下、刀も蹴りも全て潜り抜けたレイの足裏が、男の軸足を打ち抜いていた。
 ゴギ、と骨の軋む音を振り払うように、地面を腹に這う体を、両手両足、四肢の力をもって跳ね上げ、コマのように回転させて振り回した足を、男の側頭部へと蹴り出していた。
 ド、パンッ、! 弾ける。
 流石と言うべきか、咄嗟に防いだ両腕に自ら体を浮かせて衝撃を和らげた男の体が、水切りの石のごとく、浅い水面を跳ねとんでいく。
「――ッが、はぶ……!?」
 川の流れに転がった男が顔を上げるも、レイは既に男の頭を掴んで、冷えた水へと突っ込ませていた。
 もがけど、その両腕はもう使えない。防御を砕く程度に制御した力にひしゃげている。
「良い夢見れたか? 時間切れだ、現実の話をするか」
 耳は水面から出ている。鬼はどこだ? と問いかけるレイに、男は水面下で何かを叫んでいる。そのまま、沈めて数秒後に引き上げてやれば、数度咳き込むと共に意識を失いかけていた。
「……起きろ」と雷撃でその意識を叩き起こして「答えろ」言う。
 朦朧としたままに、一つの宿の名前を告げた男を、レイは引きずり川原に転がしてやった。
「礼代わりに忠告しておいてやる」
 想定より早く吐いたからか、レイは立ち上がりすら出来ない男へと告げていた。
「その程度の腕で不死なんぞなってみろ」
 頑丈なサンドバッグに生まれ変わって終いだ、と。
 その声が聞こえているのかいないのか、虚ろな顔に、恐れを滲ませた男は、そのままレイへと視線を差し向けたままに意識を手放したのだった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『『夜香影』雪布』

POW   :    白氷・撃砕
【氷魔の冷気を凝縮し、瞬時に暴発させた蹴り】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD   :    白氷・拡散
【両脚や氷結させた箇所から、氷魔の冷気】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ   :    白氷・支配
【氷魔を宿す両脚による、多彩な蹴撃】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を氷魔の支配下に置いて氷結させ】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はルーダス・アルゲナです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 深夜、二十四時間入浴可能な湯殿は、その日だけ完全に封鎖されていた。猟兵達が、影朧被害を防ぐために厳戒体制を敷いたのだ。
 いや、もしかすれば、猟兵達がそれを突き止めなくとも閉鎖自体は行われていたかもしれない。被害が発生してから、かもしれないが。
 隠された鬼。影朧。
 その影響か。踏み入れた露天の温泉は、冷ややかな空気に満ちていた。
 凍り付いてはいないが、岩には霜が立ち、蓄えられた湯は、雪の溶けだしたように鋭く冷えている。
 建造物を利用し、地熱、霊脈そう呼ばれるもので異界を成し、結界とする。それがこの街の結界だという。
 だが外界と完全に遮断されているわけではないようで、こうして影朧の力が染み出てきている。
 早く影朧を除かねば、影響は広がっていくだろう。
 戸の無い長屋の迷宮。急ぎ、その檻の中へと踏み入れた猟兵達が見たのは、迷宮などではなく。
 霜と氷柱に彩られた、瓦礫が重なる開けた世界だった。
「――」
 その中心で、一つに人影が揺れる。
 蝕むように、足の触れた先から凍らせるそれは、ただ破壊衝動のままに、全てを壊そうとしている。

●第三章。
 
 結界の外へ影響を与える、雪布によって精製される氷柱を破壊しつつ、戦う場面です。

 氷柱を巻き込んだり、利用したりする感じだと、良い感じになるかもしれません。

 お好きにプレイングください。好きに書きます。

 よろしくお願いします。
シキ・ジルモント
◆SPD
その破壊衝動ごと、影朧を正面から迎え撃つ
凍った足場ではスリップを警戒
脚ごと地面が凍り付いたらエンチャントアタッチメントを装着した銃で、足元すれすれに炎の属性攻撃弾を撃ち込む
手荒だが、氷結を解除できるかもしれない

交戦しつつ、氷柱へありったけの弾を撃ち込む
脆くなった氷柱を蹴りつけ、その衝撃でへし折って敵の方へと倒す
直撃しなくても、少しの間視界を塞いだり攻撃を一時的に止められれば良い

ユーベルコード発動の為に、隙が欲しい
自身の身の安全も、影朧を道具のように扱う藤見望への憤りも、全て頭から追いやって
意識の全てを、この一射を命中させる事へと集中する
影朧をここから解放する術は、これしか無いのだからな



 人狼の男は、踏み締めた氷の割れる音に僅かに眉を顰めていた。
 溶けた水に靴のグリップが滑る。凍り付いて乾いた氷の表面なら問題は無いが、警戒は必要か、と両脚に均等に力を籠めるように立つ。
 シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は、そうして氷柱の乱立する中で薄らげに笑う影朧へと銃口を向け。
「――!」
 一足飛びに飛び込んできた雪布と視線を交差させていた。
 ゴ、バンッ!! 爆ぜる音は、冷気が空気を砕く音か。放たれた蹴りを反射的に放った弾丸で逸らし転がって回避したシキは、直後頭上へと落ちる影に、体を跳ね上げていた。
 踵の猛襲からの連撃。腕を拘束されながらも、しかしその動きは武技を操る獣さながらであり。
「厄介だな」
 何よりも、それが放つ冷気がシキの体を蝕み、体力と動きを奪っているのが確信出来ていた。
 蹴り上げ、振り下ろし、そのまま上下に旋回した体から鎚の如き脚撃に薙ぎ払う円蹴。
「……、やるしかないか」
 絶え間ない連撃と放たれる冷気の刃を、攻撃を放棄してどうにか躱しながら、握るハンドガンにアタッチメントを装着する。
 隙を作らなければ、有効な手が打てない。
 その時、ズゴァ! と冷気が渦を巻いた。
 突撃槍の如く撃ち出された蹴りに、シキは体を半身に反らし交差させるように銃口を突き出していた。
 引き金を引く。
 撃ち放たれるのは、炎の魔力に螺旋を描く、氷を溶かし消す弾丸だ。
 だが、それが雪布を貫くことは無かった。直下から突き上がる脚がそれを弾き、凍てついた周囲から放たれる冷気が、続けて打ち出した弾丸を逸らしていく。
 蹴りの応酬。それを躱し、躍るように至近距離での射撃で応戦するシキの弾丸が舞う攻防は、シキの耳に響いた微かな音に均衡を乱した。一瞬で距離を詰めた雪布の蹴りが、シキの腕の上から胸へと衝撃を伝わせ、吹き飛ばした、その先。
 足を凍った台地に滑らせ、体勢を整えたシキの傍。
 ビギリ、と重い亀裂の音。それは誘導していたシキの傍にある氷の柱から発されるものだった。放っていた炎の弾丸は、全てを雪布に放っていたわけではない。
 躱される延長戦に、時には蹴りの軌道に弾道を変えて、撃ち抜いていたその弾丸が、巨木の幹にも思える氷の柱を砕いている。
 シキが、軋むような胸の痛みに息を深く吸いながら、氷柱の亀裂を蹴り抜いた。
 徐に傾きゆく氷柱に、雪布はしかし、その場を離れず地面をその脚で叩く。瞬間。地面からせり上がった新たな氷柱が、倒れるそれと衝突し、互いを支えるかのように轟音を放ちながらも静止する光景に、シキはおもわず舌を打つ。
「一押し、足りないか」
 破片が宝玉を砕いたように舞う中で、シキは破壊衝動に満ち、狙いを定め続ける瞳を正面に見据え。
「なら、俺がもう一押しするっすね!」
 過ぎた二つの影が放った声に、雪布の頭上でアーチを作るような状態の氷柱が砕ける音を重ねて聞いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

秋月・充嘉
寒っ!
もー、さっきまで暖まってたのになんで寒くするんすか!
ま、いいや。んじゃ、仕事やるっすかね。
影を出して2対1で戦うっすよ!
出てくる氷柱はシャドウウェポンで逐次破壊っす。
うまく接近できたら、がら空きのボディに攻撃っす!
…それにしても、こいつもなかなかいい身体つき。んー、うまそうー。あわよくばこいつをちょっとでも手駒に出来たら…。うん、楽しそう。
あぁ、大丈夫、ちゃんと倒すっすよ。

倒したあとの楽しみが残っているっすからねぇ。
あのお兄さん、けっこう可愛かったし、逃げないよう縛っておいたし、お持ち帰りして、第二ラウンドを…えへへ。



 倒れる氷柱に、混沌とした獣が駆け出した。秋月・充嘉(キマイラメカニカ・f01160)は、風に乗って聞こえた言葉に、快活な声を発していた。
 あと一押しが必要なら。
「なら、俺がもう一押しするっすね!」
 気炎を上げる。意気は充分、温泉での一幕に体を暖めていた充嘉は、冷気など吹き飛ばす勢いに猛進する。
 踏み込んだ勢いのままに、充嘉の体が弾丸のように跳躍する。アーチを作る二本の柱。それに振り上げるのは、影を練り固めた、身長程もある鈍器。
 その質量のみを己の意義とする六角棍棒を両の手に握りしめた充嘉が跳躍の落下の勢いにのせ振り下ろして。
 ゴ、ガッ――ァ!!
 支える氷柱の半ば程を盛大に砕き折っていた!
「ぅう、寒っ!」
 途端、周囲を埋める氷の破片と冷気に、充嘉は思わずに、砕けて落ちる最中の瓦礫の上で身を震わせる。
 暖まっていた体も急激に冷えていく。
「さっさと終わらせて、――暖まりなおさなくちゃ、すね」
 マズルの先を軽く舌で濡らして充嘉は、瓦礫を蹴り飛ばして、墜落さながらに地面へと加速させる。
 先には雪布。
 冷えた光を滾らせるそれへと迫る最中に、握る鈍器が影へとほどけ、充嘉の両下腕へと纏わりつく。
「ゼ――ァッ、!!」
 雪布が脚を振り上げる、と同時に振り下ろした拳は、影の籠手が覆っている。
 直後、衝突。瓦礫が地面に砕ける轟音の最中に蹴りと突拳がぶつかり、冷えた霧が周囲に飛散し弾ける。
 白霧を影の腕で裂くように、充嘉は着地と同時に霧へと突っ込んだ。
 ゴ、ッ、と視界を遮る霧を抜けて突き出された脚撃を、腕で弾いた充嘉へと追撃せんとした雪布の背後に、影が揺れた。
「――!」
 気配にか、それを察した雪布は、しかし、影が動く方が早かった。
 それは充嘉の姿をしていた。違いは腕に纏う武装を脚にしている事くらいか。そこから豪然と放たれた蹴りが、雪布を襲う。
 その一瞬。
「っ、のぁ!?」
 冷気が作り出す槍が地面から、充嘉とその影へと真下から突き出され、影の蹴りが槍を砕く一瞬の間に、雪布は屈み避け、充嘉へと跳ね上がるように充嘉の側頭を狙う回し蹴りが放たれていた。
 ズ、ゴガ、ッ!!
 充嘉に届く寸前に差し込んだ腕で豪脚を受け止めた音が、彼の耳を殴打する衝撃と痺れに地面を踏み締めながら、しかし、充嘉は口許に笑みを作る。
「いやあ、いい体っすねえ」
 拘束状態での肉弾戦を可能にする体幹、それを生み出す肉体。それが大きく脚を上げた姿は、思わず、手籠めにしたいとすら考えてしまう光景だが。
「でもまあ、待たせてるっすからね」
 防御が作った隙を、影が突く。
 ボ、ゴァ! と今度こそ、確実に打ち込まれた影脚が雪布の無防備な胴体を蹴り飛ばしていた。
 縛って転がした逢瀬の相手を待たせている、目移りする暇は無いのだ。と、充嘉は吹き飛んだ先で跳ね起きる雪布へと拳を握った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

宇迦野・兵十
失敗作、不法投棄
まったくひどい話もあったもんだ
お前さんだってそんな風に呼ばれたかった訳でもないだろうに

―【コミュ力】で語りかけ、雪と氷を踏みしめて

お前さんも僕もさ
どこかの悪党に踊らされているようで気に入らないもんだねぇ

―氷柱や攻撃を【見切り】回避し、当たりそうものは【早業/武器受け】で捌く
 捌ききれないものは【覚悟/激痛耐性】で受け

お前さんも、昔ここにいた鬼も好き好んでそんな風になった訳じゃないだろうさ
でもねお前さんがいるとまた誰か死んじまうのさ
だからさ

―【暗殺/早業】で踏み込みつつ、【早業】で笑狐を引き抜く

僕だけ怨んで、地獄に帰りな

―【三狐新陰流・常世還】

[アドリブ歓迎お任せいたします]



懐に片手を突き入れ、片腕で刀の鞘を握る妖狐が、弾ける氷の霧というべき冷気に白む世界で、脚に打たれ、吹き飛んだ雪布に歩みを向ける。
 アレが失敗作の廃棄物だ、というなら。
 猟兵は掃除屋だろうか。
「お前さんも僕もさ」
 結局、利用されるだけ利用されて「ああ、よかったな」などと一言で済ませて消えるのだろう。
「どこかの悪党に踊らされているようで気に入らないもんだねぇ」
 そう語り掛けた声に、雪布は一も二もなく、兵十へと攻撃を仕掛けていた。
「――ッ!!」
 ゴ、バッ!! と爆ぜる冷気に押し出された蹴りを握る刀に受け止めた兵十から、その威力に握力をもぎ取られたように握っていた鞘ごと刀が弾き飛ばされる。
 手首から肩へと痺れを走らせる痛みに、気を逸らす暇など与えず放たれた追脚に、着物を棚引かせながら、兵十は全身を駆使し、攻撃を避けていく。
 背を向けるように旋回し、柄を押し下げ、跳ねた鞘先に打たれた脚を弾いて兵十は、振り向きながら「ああ、」と小さく声を漏らす。
 弾いた蹴りに、しかし、心臓すら凍らせんとする冷気が瞬く間に指先を軋ませる痛みを薄い笑みの向こうに隠して、彼は地面を埋める霜の柱を踏み砕く。
「失敗作だの何だの、挙句の不法投棄なんて」
 下げた頭上のすぐ傍を過ぎていく足甲の鋭さに息を呑みながらも、しかし言葉を止めはしない。
「まったくひどい話もあったもんだ、と思ったが」
 その全て破壊するという一念のみで動くその薄らいだ笑み。言葉に反応すら返さず、その衝動に身を任せ続けるそれに、兵十は笑う。
「そうかい」
 掌の上だろうと、どこだろうと、躍るのはそれの意思一つか、と。
 あの男が選んだのは場所だけで、さて、それが暴れようとした事とは無関係なのだろう。
 でなければ、暴走の危険がある等と始末をさせるなどせず、それこそ手元に置いておけばいいのだ。
 凍る鞘の先を掌の肉が灼けるのも厭わず掴み取って、柄を逆手に握りこんで兵十は、体重を支える事を放棄し、体を重力に預けるように前へと体を倒す。
 手綱を握れぬ程に暴れた故に、この場に至ったのならば、それはある意味での勝ち取った自由なのだろうか。
 それは、称賛すべきなのかもしれない。
 だが「でもね」と兵十は、その自由を否定する。
「お前さんがいるとまた誰か死んじまうのさ」
 一足に落ちるように、兵十の体は、雪布の懐に沈んで。
 バンッ!! と何かが弾け飛ぶような音と共に、黒紐の結び目が己から解けていた。
 黒の戒めが解ける。
 封印の解かれた鍔口に朱が瞳を開くように、奔る。
 だから、斬る。
「そうら」
 その意思ごと、残った衝動ごと。
「起きな。――なまくら」
 笑むように、漏れた赤が細まって刃の形に収まった、その瞬間。
 順手に、両の掌を備えた一刀が振り抜かれていた。
 ボ、――ッ!!
 と、肉を裂く音が一瞬遅れて、弾ける。一閃に赤の軌跡が揺れて、雪布の腹を兵十の振るった刃が食い破る。
 傷に、氷が張り付く。
 その一瞬、中身から溢れるいびつな冷気が、彼の視界を奪い去っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

千桜・エリシャ
ようやく逢えた
随分と寄り道をしてしまいましたわ
そう、あなたが鬼ですのね
お仲間かと期待していましたが
少し違ったかしら?
けれど…なるほど、対峙するに申し分ない圧を感じますわ
嗚呼、佳きこと…
では氷鬼と参りましょうか
さあ、捕まえてごらんなさい
やれるものなら、ね

冷気は見切り死霊たちで相殺しつつ
雪布を巻き込むように破壊
鬼さん、こちら
ふふ、大人しく捕まる気はなくってよ
桜の花弁を目眩ましに逃げつつ接近
その脚、厄介ですわね?
脚を狙い斬撃をお見舞いし魂を捕食
悪くない味ですこと
じわじわと体力を奪うように切合
UCを封じることが出来たら頃合いと見て
御首をいただきましょうか

――捕まえた
あら、私だって鬼ですもの
愉しかったわ



 白む息を吐いて大太刀の柄を撫でた。
 男の血潮に熱を倦みつけられた体に、この刺々しく肝を冷やすような冷気が心地いい。
 千桜・エリシャ(春宵・f02565)は、抜き身に晒した黒い刀身の先で床を這う白霜を削りながら、胴を裂かれながらも依然と動く鬼の姿に、僅かに頬を朱に染めていた。
「お仲間かと期待していましたが、少し違ったかしら?」
 その頭蓋に角は無く、エリシャが想像していた相手ではない。だが、その表情に落胆の色は一切見えず、むしろ、歓喜すら覚えているように見えている。
 見えている、ではなく、その通りなのだろう。
 ――時が凍るような、一瞬。
 目が合う。
 ド、ガパッッ!!
 白と赤が交差する。
 淑やかに弧を描いた唇を浮かべた端正な形相に、他者の眼を張り付けたのかと譫言を漏らしてしまいそうな狂暴な光を滾らせた瞳孔に映る景色。
 地面が爆ぜたかと紛うばかりに凍気の剣山がエリシャへと迫り、空間を喰らい尽くさんばかりに巻き起こる花弁の嵐が雪布へと迫り、それが両者の狭間で津波の氾濫にも似た衝突を起こしていた。
「ふふ、ええ」
 鬼がどこかで地を踏む。
 耳を劈く轟音の中で、薄紅と透白の鬩ぎあう帳の向こうへと問いなき問いに答えていた。
「捕まえて――ッ」眼前に足先、さながら斬撃が如く帳を裂いた冷気纏う蹴りがエリシャを襲う。それを後方へと跳び着地、重い大太刀に掛かる慣性で後方へと引っ張られるその力を捻じ曲げて刃を地面に突き立てれば、刀に投げられるように側転して、別の方向から放たれた追撃の突脚を避けたエリシャは、刃の背を蹴って、石畳を抉った刀を重々しく回る柄を掌に収める。
 遊女が唐傘を指すように黒い刃を肩に担いだ彼女は、背を向け振り返り。そして雪布へと笑んで見せた。
「――、ごらんなさい?」
 その笑みを砕かんと突き出された蹴りがエリシャへと届く寸前に、桜の花弁が割り入っては彼女の姿をかき消した。
 ズ、キュア――!! と強大なガラスをスポンジで震わせるような鋭い轟音と共に凍り付いた地面から氷刃が、そのまま雪布を喰らわんとした花弁を吹き散らし雪布が駆ける。
 幕の向こうから、それが飛び込んでくる。視界を隠す互いの技に、互いが選んだのは同じ選択肢だったのだ。眼前に跳び出した互いの敵。肉薄――互いの間合を越え、正面衝突する間際。
 奇しくも点対称に、旋回によって進行方向を曲げた雪布が背からの回し蹴りに、両腕に握る大太刀を振り回した斬撃がぶつかる。刃は氷を割らず、足は花を散らさず。弾けた衝撃に互いの体がすれ違う。
 間を置くことも無く、ギュ、ゴァ! と轟音。
 瞬間、先に動いたのは雪布だった。背を向けたエリシャへと豪然と蹴りを放つ、その先。無防備にも背いたエリシャのうなじ、襟首から、何かが零れた。
「嗚呼」
 いや、翅が翻った。
「嗚呼、佳きこと……」
 袖の中から溢れ出たのは花弁ではなく、妖しき蝶。その羽搏きが蹴りに散る一瞬にエリシャは、反転、即、刃を薙ぐ。
 黒刃が滾り、明快に首を狙ったその一撃に体を倒した雪布の首の半ばを切り裂いた。ゾ、ザ、と鈍い衝撃に、しかし、その首を落としてはいない事を刃から伝う薄い味にエリシャは悟る。悟り、そしてその味に唇を湿らせながら、血の代わりに氷を傷口に詰めた氷鬼に。
「……悪くない味ですこと」
 桜鬼は、やはり、笑みを反すのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レイ・オブライト
置き土産ってところか。なんにせよ
いいぜ、棄てられたならオレが拾おう。これでも墓作りは日課だ
基本的には覇気纏った格闘で応戦、雷撃が生じさせる熱で氷柱を削ったり足場確保するが
真っ向から突っ込む奴を指くわえて眺めているだけの手合いでもねえだろう
あわや全身串刺しってな段になれば
【Haze】
覇気により、殴るに足る片腕と心臓部への貫通だけを逸らす。あとは幾ら受けようと限界突破。構わない
肉や骨が欠落ちても、殴る。その衝撃波で貫く氷柱を一斉にへし折り、深く踏み込みながらもっぱつ殴る(追撃分)
……は。頭は冷えたか悪ガキ

この様子じゃ
生きた黒幕にゃ会えやしねえらしいな。今日んとこは、だが



 迅雷が氷理を溶かす。
 全身の傷を氷につなぎ止める雪布に、開いた両の指を広げて握り締めたその一瞬、緊張した体が弾ける一瞬。撃ち放たれた拳が轟雷を纏い駆けた軌道に、散る氷片が瞬く間に白く蒸気へと消えていく。
 霧氷が烈雷を拒む。
 体を貫く氷槍を滾る衝撃と筋肉の収縮に砕き折るレイ・オブライト(steel・f25854)に、脚撃を放ちながら、纏う冷気を吹き荒ばせて苛烈な打撃を打ち弾く。と同時に膜のように張った氷に雷撃をぶち当ててはそれを逸らす。
 ぶつかりあった一瞬に、声も無い。
 地を蹴る音がレイの耳に飛び込むその前に、開いて掌を側面へと打てば掌底が振るわれた豪脚と衝撃を散らして攻撃を弾ききる。と思えば弾いた力をそのまま転用した旋回から鎚が落ちた。拳、攻撃に踏み込んだレイが懐へと沈み、雷電が白を照らす。見えたのは、雪布の胴にめり込む拳と、己の腹に繰り出された膝打ち。
 グ、ゴッパア!! と音が弾ける。音と痛みすら追い越して、鬼が迫る!
 腕の拘束に、攻撃を脚のみに集中させているというのに、その動きはまるで十の武器を操る武者の如く。雷撃を覇気に纏わせて凍る床を溶かし、割り砕きながらレイは逃れるのでなく踏み込んだ。
 突き。凍てつく脚を掴み、引き寄せるように雪布へと放った拳が真下から降り抜いた脚が弾く。体を捻じり宙に浮いたままの鎚撃を放った瞬間に、鬼を手放し凍った拳が砕けるのも厭わずその胴体を地面へと叩きつけた。いや、僅かに力を逃がされている。クリーンヒットの感覚を逆に読み取ったその気付きが体を動かすその前に、足が狩られる。地面から伸びた雪布の両足が鋏の如くバランスを欠いたレイの肩を脇下から骨を凍らせ砕きながら、極めたままにレイの後頭部を地面へと叩きつけ――爆雷。
 纏う覇気に雷撃。迸るそれに動きの乱れた雪布の脚を抜けたレイの先手を雪布が取る。脚撃ではない。床を這う冷気にせり上がる氷の槍衾。
僅かに雷熱の揺らぐ一瞬に、凍てつく大地が牙を剥いたのだ。ドパッ! と同時に雪布が蹴りを放っている。
 避けられない。
 故に避けない。ゾガガッ、と脚を、腹を、首を、腕を冷えた刃が貫く激痛が脳を焼き尽くす。突き上げられた凍る左肩に肉片と骨頭が罅のままに弾け飛ぶ。
 そして、放たれた雪布の脚撃に拳が衝突していた。振り絞ったままに攻撃を止めたレイは全身を貫く刃に絶命する。その寸前に。
 その体内で爆ぜたような衝撃がその瞳を開かせる。
 心臓が鼓動する。構造を無視して迸るそれに全身が悲鳴をあげて、鈍く軋み叫ぶ。
 再度、爆ぜたそれに、全身を貫いていた氷が一斉に砕け散った。
「――置き土産か」
 レイの口が動く。
 開いた眼が傍迷惑なもてなしだ、とそれを見た。氷の破片の躍る視界に、感情無く薄く笑みを光らせる雪布を睨み下ろし。
 ゴ、パ、ガッ!! と重なる雷轟の鼓動が全身を駆け巡り、体に収まらぬそれが覇気に流れて瞬いた。
 眩い乱反射を砕き。
 もう一度、鼓動が跳ねると同時に、拳が唸り上げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

多々羅・赤銅
温泉来たのにこんな寒ぃとおもわねえじゃんーー!
お前は寒いの平気?そんなセクシーな薄着でさあ
平気そう〜〜
お熱いのは嫌いかい、兄さん

あの嫌な感じの氷柱ぶっ壊してやろう
熱化し、物理的にも温度的にもあの氷の蹴り技をしのぎ、上へと昇る。熱の方が冷えた空気より軽いもんだ、回避と上昇一石二鳥!
氷柱の上まで来たら実体化、鎧無視斬撃にて、氷の柱ぶった斬る!
斬られ倒れる柱に乗ったまま一気に下降、そのまま勢いを乗せた斬撃なり、この柱の倒壊なりに上手いことあの鬼さん巻き込めりゃ上々!

なあお前
内側まで冷たいみたいだけど
じゃあ熱気を注がれたらどうなんの
傷口に手を突き込み熱化
熱にやわくなった肉を、再度実体化、内から斬る!



 拳を振るう衝撃が世界を揺らす。
 依然と立ち上る氷柱を見上げて、ふう、と吐いた息をそこに置き去りに。
 女は氷を駆ける。鞘先が地面に触れて跳ねるその刀を、しかし事も無げに引き抜いた時には、蛇の如く雪布の懐、その真下へと滑り込んでいた。
 見上げるは、黒い拘束具と僅かな服に、冷え切ったような白の肌を晒す雪布という鬼。
「お兄さん、寒いの平気? セクシーな薄着でさあ」
 抜いた刃をそのままに振り上げた多々羅・赤銅(ヒヒイロカネ・f01007)は、それを躱した雪布へと語り掛ける。
 駆けられた声に返されたのは、言葉でなく、容赦のない蹴撃だった。
 ゴ、ッ! と迫る健脚に、うねるように身を転がした赤銅は、振り回すままに斬撃を送りながら、距離を取って
「あらー、平気そうね」
 ゆらりと立っていた。吐き出す息が白く染まる。
 冷えた霧に白む世界は、以前訪れたこの結界とは違っている。場所が違っても全く同じという事は無いだろうが、以前の温かな結界があるかと思えば、この底冷えのする寒さだ。
 霜と薄氷の張る石畳を撫で削ぎ、切っ先に砕いたそれを掬いながら彼女は問いかける。
「それじゃあ、お熱いのは嫌いかい?」
 瞬く間に、雪布は赤銅へと迫り、その脚を赤銅へと突き出していた。バ、パンと弾ける音を立てながら赤銅の胸の中へと突き込まれた脚は、その背にまで突き抜ける。
 胸を脚に貫かれ、その凍える冷気に肺を侵されながらも、赤銅はしかし笑んでいる。
 無言のしかし、雄弁なその否定に。
「そっか、私は今、アッツいからさ」
 ごめんね、と告げた。
 赤銅は、刀を握らぬ手でこめかみを、こつん、と叩くように触れる。
 その体が、溶けた。
 ゴ、ォ!! と風が吹き荒れる。白く霞む冷気を押しのける、膨張する熱風。高熱が結露を導いて蒸気じみた白が、赤銅の胸を貫いた脚を弾き、溶かしながら氷柱に沿うように駆け上っていく。
 目に見えぬ旋風。熱っした風が重く冷えた空気を掻きわけて氷柱の上にまで浮上したその瞬間に、風が声を作った。
「プレゼントだ。受け取ってくれ、よ、なァッ!!」
 風が赤銅へと転じる。さながら蜃気楼が風に吹かれたように、何もない場所に赤銅がその姿を現し、そして、握った刀を既に振り上げていた。
 ならば後は、振り下ろすのみ。
 鋭く、しかし荒々しく放たれた斬撃が氷柱の頭へと吸い込まれ、衝撃が駆け抜ける。無数の罅が弾け、巨大な刃が通ったが如く断裂した氷錘が落ちる。
 浮遊感に包まれる。
 雪布の頭上へと降る瓦礫に乗ったままに、四肢から力を抜きながらその手に刀一振り握り。
「――」
 その赤銅の瞳が、迫る白を見た。
 瓦礫を砕く雪布へと、瓦礫を盾に迫り、そしてその刀を、振り下ろ――さない。彼女は、その体を熱風へと再変換し、雪布の傷口へと吹き込んでいたのだ。
 雪布の体は芯まで冷気に満たされている。であれば。
「じゃあ、お前、熱気を注がれたらどうなんの?」
 刹那、氷の悲鳴が答えとして返る。熱された傷口を覆っていた氷が罅割れ、脆く融け。
「そ、こッ!」
 実体化。同時に鋭い剣閃が走る。
 ゾ、――ァ、と刃がその肩から腰までを斜めに傷を繋いだ、その瞬間。
「の、ぁッ!?」
 赤銅の体が、噴き上がる冷気が吹き飛ばされる。瞬く間に白に染まるその視界に、赤銅は鬼の角を見た。


 胸を両断するような肩の傷から、血が噴出した瞬間に凍り付いたような、真白い氷の角が顔を半分を覆い隠しながら現出していた。
 赤銅は、肩に刀を担ぎながら、口笛を吹く。「ぃ、げっほ」いや、吹こうと息をして、口内に氷が張り付く感覚に思わずに咽ていた。
「出力上がってんなあ、燃えてんなあ……!」
 滾る冷気は、熱だ。
 這う氷は、炎だ。
 破壊への衝動をその眼に滾らせて、鬼がその両足を踏ん張り、駆け出すその瞬間。
 雷の尾を引いた影が雪布へと弾丸の如く駆け抜けた。
 硬質な轟音が、ゴ、ッガァッ!!!! と雷撃の軌跡の先、砲弾と化したレイの拳が雪布の頬へと突き刺さる! 
「……っ」インパクトの瞬間、交わる眼光が刹那に吹き飛んだ雪布に、僅かに危険信号が脳を走り、直後にその意味を知る。
 吹き飛んだ雪布が、まるでボールを跳ね返すが如く、レイへと肉薄していた。足先に触れた氷に体を繋ぎ止め、それを足場に切り返したのだ。繰り出される攻撃は、今までより更に重い。
 ゴ、ガッ!! と突き刺さった蹴りに、明確な脅威に覇気を集約し防御した腕が、一撃のもとに弾き飛ばされる。片腕は動かず、衝撃に防御した腕が頭上に挙げられているその無防備。
 対し、冷気の風圧に己の制御を行う雪布に差し込まれたのは、同じく風であった。
「おいおい、無視しないでよ」
 灼熱の吐息から転じる桃の髪を揺らす女。剣鬼が寂し気に笑う。
「私も、ちゃんと見てくれないと、さ!」
 赤銅、それが握る刃が打ち出された豪脚を圧し曲げて弾けば、黒の大太刀が死角からその牙を剥く。
「あら、残念」
 どこか風雅な立ち振る舞いでエリシャが、大太刀を緩やかに構えなおす。空ぶった斬撃に、しかし、後を無くした様子の雪布へと艶然と言葉を零していた。
「……その御首、頂けたと思ったのですが」
「威勢がいいねえ」
 蠱惑を思わせる桃の瞳が妖しく笑みを浮かべるエリシャに告げたのは、雪布ではなく赤銅だ。
 雪布へと充嘉とその影が襲い掛かり、更にレイが駆け抜けて拳脚の嵐が巻き起こる。
「私も欲しくなったなあ、それ」
「あら、人の物を欲しがるなんて野卑ですわよ」
「お前の物は私の物、っていうだろ? シェアしあってこうぜ?」
「成程。そのお考え、嫌いではありませんわね。……では」
 早い者勝ち、という事で。エリシャの声に両者が駆け出し、乱闘の様相を呈する。
 砕け落ちる氷柱に乱舞する氷花。
 双影の獣と不死者が拳を握り、桜鬼と剣鬼が刃を振るい、氷の魔物が脚を舞わせる。弾き、受け、打ち、返し、留まる事の無い猟兵の即席の連携は、徐々にその首を狙い競う二人の鬼を補助する形へと収束していく。
 死角を生み出し、誘導し、活路を見出す。だが、それに雪布も対応していた。常に周囲へと意識を飛ばし、死角に冷気の罠を張り、誘き出すように攻撃を重ねる。
 故に、狐は正面切って立っていた。
 ぞぐり。
 雪布の胸を貫いた一つの刃は、笑うかのように鮮やかに染まっている。
 兵十は、静かに貫いた刃を引き抜きながら、すまないね、と謝意を告げた。
「僕だけ怨んで、ってのは難しいだろうけどさ」
 地獄に帰りな、お前さん。刃の抜けた傷口が氷に埋まる。まだ死してはいない。だが、兵十は、背を向け、刃に張った霜を血払うようにしてから、鞘へと刃を滑らせていた。
 彼にその鬼が襲い掛かる事は、しかし、無かった。
 螺旋状に旋回する鉛玉。
 それが雪布のこめかみに触れる。
 タン、ッ。
 短い音。
 それを追い抜く速度で吐き出された弾丸が、空を駆ける。
 その銃口は、絶えずその瞬間を、この刹那を、狙い定めていた。
 握る銃の性能を極限まで引き出すシキの集中が、その頭蓋へと弾丸を届ける事を可能としていた。
 雪布の眼が、己に駆ける弾丸の瞬間を見つめていた。
 触れた弾丸が、己の肌を捻じる刹那。彼が見たのは、無数の続く弾丸だった。
 ハンドガンの中に残る全ての弾丸を瞬きの間に放っている。
 凍る時が、溶ける。
 着弾の音は、一つの鐘の音のように響き。
 その衝撃は、雪布の首から上を吹き飛ばしていた。
「……、なんだ?」
 確かな手応え、しかし、冷え込む空気にシキは首を失った雪布をみたその時。ザ、ガン、とエリシャの大太刀がその脚を両断した。
「ああ、……ここにいたのですね」
 彼女が呟いた瞬間に。
 満ちていた冷気が、一斉に霧散し、温泉の熱気が結界の中に雪崩れ込んできたのだった。


 隠されていた鬼は消えた。
 だが、それを持ちこんだという藤見望の構成員は、姿を晦ませていた。
 旅館の部屋はもぬけの殻。學徒兵が足取りを追うも、足取りは途中で途絶えたという。
 例外を除いては。
「さて、それじゃあ、帰るっすかね」と充嘉は、温、冷、温という温度変化に湿った毛に辟易としながら湯屋へと向かう。
 逃げられないよう捕縛し、隠していたメンバーがいたとすれば、それは例外足りえるのかもしれない。
 だが、それが學徒兵に突き出されるのは、明日以降になるかもしれない。
 猟兵は、温泉街の夜を各々に過ごすのだろう。
 灯の落ちぬ街の夜は、そうして平穏に過ぎていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年07月09日


挿絵イラスト