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『邂逅』の海

#アリスラビリンス #猟書家

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●似て非なる海
 空にホワイトパールの太陽とブラックオパールの月を戴く海の国――ステラ・マリスに異変があったのは、珊瑚たちの産卵が終わった翌日のことだった。
 漆黒の衣装に身を包んだ紳士と淑女の来訪があったのだ。
 見張り台も兼ねる天文台に詰めていた二足歩行する犬――によく似た、愉快な仲間――は、どこからともなく現れた二人に首を傾げて、黒白反転したシャチ――にそっくりの愉快な仲間――に報せを託し。刀に尾鰭がついたような太刀魚は即座に警戒の陣を敷いた。
 対応にあたったのは、ブリキの玩具じみたロボ――太刀魚もロボットも、犬やシャチ同様に愉快な仲間だ――の女性だった。
『貴方タチハ、何者デスカ?』
『突然お邪魔して申し訳ございません。わたくし共は猟書家(ビブリオマニア)と申します』
 恭しく頭を垂れて、礼を尽くす『猟書家(ビブリオマニア)』にロボは一先ず安堵した。いきなり襲い掛かってくるような輩には見えなかったのだ。
 ――けれど。

「此処は、何処でござろうか?」
 キラキラと小さな光の粒が中空に輝く海に、太刀魚はまっすぐな体をくの字に曲げて考えた。そうしていないと、キラキラが自分に反射して眩しいからだ。そこへへろへろとシャチが泳いでくる。
「あっちはだめみたい。いけばいくほど、つかれちゃうんだ」
 げっそりとやつれた様子のシャチの声には力がない。
「つまり、あの矢印の通りに進め、ということだな」
 かけたモノクルをついっと指で押し上げながら、二足歩行の犬が天を振り仰ぐ。そこには奇妙な矢印と『2』と描かれた、遊色のない真っ白な太陽があった。それは彼らのよく知るホワイトパールの太陽とは明らかに異なるもの。
「イッタイ、何ガ起キタノデショウ? 差シ出サレタ本ヲ開イタトコロマデハ、憶エテイルノデスガ……」
 電球みたいな双眸を赤く明滅させてロボが苦悩する。ここは海。しかし彼ら彼女らが居るべき海とは似て非なる海。

●襲来の海
「猟書家(ビブリオマニア)が何者かは分かっていない。けど、このままだと愉快な仲間たちが危険なことは疑いようがない」
 空に浮かぶ矢印は、物語の進行方向。そして数字はページ数――そう、愉快な仲間たちは『本の中の世界』に閉じ込められてしまったのだ。
「ちなみに本のタイトルは、『ひえひえの海、おいしい秘密』だったかな。いったいどんな物語だろうね? 愉快な仲間たちが美味しく頂かれちゃう、とかでないといいんだけど」
 ことのあらましをざっと語った連・希夜(いつかみたゆめ・f10190)は物騒な事を口にして、だがそれでも「大丈夫、そうだったとしても皆ならなんとかできるよ」と楽天的にからりと笑う。
 本の中の世界は、不思議で理不尽な世界。実体感に乏しく、指定された方向と逆に進むと急速に生命力を失い、あっという間に『本の世界の住人』にされてしまう。
 猟書家の存在といい、謎ばかりだ。それでも今は、愉快な仲間たちを元の世界(ステラ・マリス)に戻す方が大事。
「足がかりが掴めるってわけじゃなさそうだけど。変てこな本の中の世界を体験してくるのも悪くはないと思うよ。あ、当然オブリビオンは出るから。その退治も兼ねてね」
 ミニハットを頭に乗せて、少しばかりめかしこんだ希夜は、グリモアを発動させながら猟兵たちを恭しく招く。
「さあ、お手をどうぞ? 不思議な冒険譚へご案内するよ」


七凪臣
 お世話になります、七凪です。
 随分暑くなってきたので、不思議の国でちょっぴりひんやり(?)大冒険なお話をお届けに参上しました。

●シナリオ傾向
 ライトめの戦闘冒険譚系。

●シナリオの流れ
 【第一章】冒険。
 …本の世界、入門編(?)
 【第二章】集団戦。
 …わちゃわちゃ戦闘。詳細は導入部を追記します。
 【第三章】ボス戦。
 …文字通りのボス戦。詳細は導入部を追記します。

●その他
 第一章は導入部を追記次第、プレイング受付を開始致します。
 マスターページの【シナリオ運営について】をご参考の上、ご参加頂けますと幸いです。
 また、以降のシナリオ進行状況などもマスターページにてお報せしますので、プレイング送信前に是非ご一読下さい。

 『ステラ・マリス』は過去作(『~~』の海)にて登場した不思議の国ですが、特に知識はなくても大丈夫です。
 皆様のご参加、心よりお待ちしております。
 宜しくお願い申し上げます。
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第1章 冒険 『恐怖!アイスの罠!』

POW   :    アイス化を気合ではねのけて進む

SPD   :    どこから罠が出てくるか察知して避ける

WIZ   :    あらかじめアイス化を防ぐような対策をして進む

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●ページをめくろう
 ステラ・マリスに転送された猟兵たちが見たのは、住人たちがいなくなった街だった。
 あったのは、珊瑚の庭に取り残された一冊の不審な本。
 タイトルは『ひえひえの海、おいしい秘密』――なるほど、これが件の本らしい。
 おもむろに手に取り、文字を目で追う。

『そこはさみしい女王様がいる海の国でした。
 女王様は考えました。
 きれいな国にしたら、きっとたくさんの人がおとずれてくれるに違いない、と。』

『女王様は、冷たい息を
 ふぅ
 と吐きました。
 するとどうでしょう?
 海の中があっというまにきらきらしはじめたのです!』

 ――ふわり。
 おかしな浮遊感がしたのは一瞬。
 猟兵は、本の中へと吸い込まれる。

「国がきれいになったら、つぎは美味しいおもてなしをしなければなりません」
「でも、おもてなしを受けただけで帰ってしまわれてはこまります」
「女王様は考えました」
「そうです、みんなを帰れないようにしてしまえばよいのです」
「うわあああ、アイスが襲ってくるよぉう」
「ちょっ、誰だい。こんなところに落とし穴を掘った――」
「大変デス。犬サンガカチンコチンニナッテシマイマシタ」
「一大事じゃ、一大事でござるぞぉお」
 ……会話が混在している。
 いや、実際に耳にすれば違いは一目――否、一耳瞭然。ですます口調の方はひどくふわついた声で、しかも天から聞こえてくるのだ。文字通り、天の声、というやつなのだろう。
 見上げると、星屑のような光が散りばめられた空に、白くぼんやりとした太陽が浮いている。そこに記された数字は『3』だ。どうやらページが進んだらしい。
 地表(?)へ視線を移すと、様々な貝殻が散りばめられた砂浜が広がっている。所々に隆起した箇所があるのは、貝塚だろう。
 踏み出すと、砂浜が子猫のように「きゅう」と鳴いた。かわいらしい。と、気を取られた直後、目の前をアイスキャンディーが超高速で過る。
 直撃をうければ、ただではすむまい。あわてて一歩進めば、足元が爆ぜた。吹き上げてきたのは、バニラが香るアイスクリームだ。
 ……意味が分からない(まがお)。
 アイスの種類もたくさんありそうだ。しかもいずれも実に美味しそう。だのになぜ、こんなに暴力的なのか!? 少し、悲しくなってきた。
 ともあれ何とか対処を考えねばなるまい。そうすれば追いかけまわされているだけの愉快な仲間たちも、猟兵に倣いこの地を遣り過ごすことができるだろうから。
 幸い、浮力の影響は小さい。1メートルの跳躍が、1.5メートルになるくらいだ。抵抗の方は、ほぼ無視で大丈夫。
 お誂え向きに、水温(気温)はやや高めだ。アイスと戯れるのも一興――ただし、捕まったらお終いだけれど!
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【事務連絡】
6/9にマスターページにて第一報をお知らせし、6/10に詳細をお届けしました通り、当シナリオは【再送前提】での運営に切り替えさせて頂きます。
第一章のプレイング受付期間等、マスターページ(https://tw6.jp/scenario/master/show?master_id=msf0038076)に記載してありますので、そちらを確認の上、ご参加下さいますようお願い致します。
なお、大変申し訳ありませんが、受付期間外に頂戴したプレイングは一律お返し致します。何卒、ご了承下さいませ。またのご縁を頂戴できる機会がありますよう、心より願っております。
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オズ・ケストナー

リュカ(f02586)と

あの国のみんながたいへんなら
たすけにいきたい

わあ、本のなかにはいっちゃったよっ
鳴く砂の上で足踏みして
かわいい
ねえリュカ
振り返ればビュンと
……あれ、今

アイスだーっ
むこうでみんながおいかけられてるよ
リュカ、いこうっ
愉快な仲間たちのところへ駆ける

ガジェットショータイム
ガジェットで組まれた水鉄砲
水のなかでもだいじょうぶかな?
えーいっ
飛び出すのはお湯

わ、とけた
もったいないけど、えいえいっ

星鯨を見たらうれしくなって
手を振る

とけたアイスもおいしいかなあ
そっか、うすくなっちゃってるものね

愉快な仲間たちを抱えて跳ねて避ければ
すごい、たかいっ
おーいとリュカにも手を振る

あーん
ふふ、おいしい


リュカ・エンキアンサス

オズお兄さん(f01136)と

……いみがわからない(困った
え、いや、アイスだーって。あの弾丸みたいなのもアイスなんだろうか
ちょっと殺意高すぎないか

……はっ
あ、ああうん、助けに行こう
大事な思い出のある人たちだから、可能な限り助けたい
ええと、じゃあ俺は、お兄さんがアイスの攻撃を防いでくれてる間に星鯨を呼び出して、罠の少なそうな場所を一緒に探してもらって
ルートを確保したら愉快な仲間さんたちと一緒に移動
後は警戒しながら一気に抜けよう

お湯は便利だけど、さすがに溶けたらおいしくないんじゃない?
ほら、お兄さん。あーん
(ぺしっと空中でアイスの実を捕まえたらそれをお兄さんの口に投げ込む
おいしい?
そう。よかった



●星の鯨と水鉄砲とアイスキャンディーと
 ステラ・マリスには縁がある。
 その国に起きた不穏に、オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)はすぐさま表情を曇らせた。
 シャチくんに、犬くん。太刀魚くんに、ロボさん。
 色鮮やかな珊瑚や竜宮城のような街並と同時に脳裏に過った顔に、オズの心は逸った。
(「あの国の、みんなが。たいへんなら……」)
 ――たすけたい。
 ――たすけに、いきたい。
 内側から湧き上がる熱のままに、転送されるや否や、落っこちていた本を迷わず手に取り、オズは頁をめくって文字を目で追った。
 途端、世界がぐるり。
「わあ、本のなかにはいっちゃったよっ」
 むくり。オズの中のワクワクがムクムクと育つ。
 そっと足を踏み出すと、砂が「きゅう」と鳴いた。オズと同じ瞳の色をした子猫の聲のようだ。かわいらしくて、今度は数歩。
 きゅう、きゅう、みゃう。
「かわいい!」
 すごいすごいすごい!
 思わずスキップしたくなるような足音に、オズの笑顔が弾ける。
「ねえリュ――」
 そして同行者を振り返ろうとした瞬間、オズは頬を掠めてビュンと過ったレモン色に目をまんまるにした。

 一瞬、名前を呼ばれた気がした。
 いや。気ではなく、実際に途中までは呼ばれたのだろう。だが呆然と立ち尽くすリュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)の頭の中はブラックホールみたいに混沌が渦巻いていた。
「……うん。いみが、わからない」
 我に返ったオズが「アイスだー!」と歓喜の声を上げている。
 確かに、アイスだ。アイスだった。アイスだったと思う。けれど本当にアイスだろうか? アイスにしては、ちょっと(どころかかなり)殺意が高すぎやしないだろうか。
 数多の戦場を渡り歩いてきたリュカにしてみれば、アレはアイスというより弾丸だ。ズドンと撃ち抜いてくる危険な物だ。
 真っ向勝負は分が悪い。砂嚢を積んで防壁とすべきだろうか――いや、そんな時間の余裕はないっぽい。
「それなら……」)
「リュカ、いこうっ」
 半ば現実逃避で打開策を練っていたリュカの鼓膜を、いつもと変わらぬ朗らかな――けれど明確な警戒を含んだ――オズの声が叩く。
 言うが早いか駆け出したオズの向こうに、妙に草臥れたシャチや犬たちの姿が見えた。
 そうだ、途方に暮れている場合ではない。
 それに今のリュカにはオズがいる。一人では対応が困難な事でも、二人ならばきっと。
「あ、ああうん。助けに、行こう」
 夜を閉じ込めたみたいなマフラーを、星屑みたいな光が散りばめられた海に泳がせて、リュカもイルカのように走り出す。

「ガジェット、ショータァアイム!」
 一拍の溜めを挟んでオズが高らかに歌うと、巨大な水鉄砲が限界した。
「いくよ、えーいっ」
 果たして水の中でも水鉄砲は威力を発揮するだろうか? そんな現実的な迷いを払拭するように、じゅわっと放たれた水弾が乱れ飛ぶアイスキャンディー弾を溶かしてゆく。
 ――そう、『溶かす』のだ。
 だってオズ特製水鉄砲から発射されるのは、熱湯とまではいかないまでも――だって愉快な仲間たちを万が一にも火傷させるわけにはいかないから――そこそこの温度があるお湯なのだ。
 とろりと溶け落ちたレモン色から、爽やかな香りが漂う。イチゴ色からは、甘酸っぱい香りが。チョコレート色からは、芳醇な香りが。
 間違いなく美味しい香り達に、もったいなさがオズの裡で首を擡げる。
「けどっ。いまは……! えいえいえいえいっ」
「お兄さん……」
 おそらく断腸の思いなのだろう。予想に難くないオズの意を汲み、リュカは取り出した探照灯を空で揺らめかせた。
 光の奇跡が、丸っこいフォルムを幾つも描き出す。星鯨だ。
「援護、頼んだ」
 小さな星鯨は戦う力は持たない。だが、優れた情報収集能力を持つ。つまり、アイスの罠が仕掛けられていないルートを探し出すことも御茶の子さいさい。
「シャチ君、こっちだ」
「わぁい、ありがとおお」
「犬くん達も」
「済まない、助かった」
 大事な思い出のある人たちだから、可能な限り助けたい。
 熱を秘したリュカの呼びかけに、導きの光の下を愉快な仲間たちが集う。まるで天の川をシャチや犬たちが泳いでいるようだ。その美しさと心強さに嬉しくなったオズは、堪らず手を振ってしまう。
 もちろん、困ったアイスキャンディーを無害なとろとろに溶かすことは忘れずに。
「ねえ、リュカ。とけたアイスもおいしいかなあ」
 はっと思い付いたことを振り返って口にしたら、ほんのり苦笑いなリュカと目があった。
「お湯は便利だけど、さすがに溶けたらおいしくないんじゃない?」
 味も薄まってしまうし――と現実(リアル)を説くと、オズの元気が僅かにしぼむ。
「そっか……そうだよね」
 何だか耳と尻尾を寝せてしまったワンコのようだ。ちょっぴり可哀想になって、リュカは砂の大地を蹴った。
 いつもより身が軽い。そうして星鯨の群れを抜けたリュカは、タイミングよく飛び来た虹色のアイスキャンディーを器用にキャッチすると、振り被る。
「行くよ、お兄さん。あーん」
「え、え? あーん」
 放られたのは虹色のアイスキャンディー。恐ろしい威力があったとしても、鉛製でないなら、食べてしまえば万事OK!
 そして虹色のアイスキャンディーは、リュカの思惑通りにオズの口の中へとダイヴした。
 はぐり。冷たい塊を食むと、虹色に相応しい色々な甘さが次々に溢れてくる。
「おいしい?」
「うん、おいしい!」
 オズの背後に、ふるっふると揺れるゴールデンレトリーバーの尻尾を幻視したリュカは「そう、よかった」と僅かに無表情を弛めると、再び愉快な仲間たちの先頭へ舞い戻る。

 回避しきれない地雷原は、シャチは泳いで、犬たちはオズとリュカが抱えてひとっ飛び。
 矢印通りの愉快な旅路に、やがて白い太陽はページを進める。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

松苗・知子
心情:
どないなっとんねん。
いやあ、どないなっとんねのんだわよ。最近暑いからアイス食べたいけど、こーゆーのじゃない。こーゆーのじゃないのよ

行動:
「と、とりあえず?溶かせばいいかしら?」
狐火を自分の足元からドーム状に浮べて、そろそろと進むのよ。
あと、10個くらいの狐火を遊撃用にして、いつでも地下に潜らせられる&友軍の援護に充てられるようにしておくわ。
あたしの【破魔】ファイヤーの威力を知るといいのよ!
「まあ、近づけないようにすればそんな怖くはないわよ」
ても、物量で炎を押し切られるのも怖いので特殊警棒も構えておくわ。抜けてきたら叩き落す感じで。

その他:
他の人と連携プレイングや複数人描写大歓迎なのよ!



●狐火道中
 ――どないなっとんねん。
 本の中へ飛び込んだ途端、松苗・知子(硝煙纏うお狐・f07978)は嘘ぼらけた太陽が浮かぶ海とも空ともつかぬ天を仰いだ。
(「いやあ、どないなっとんねのんだわよ」)
 使い慣れぬ西方訛りが転がり出てくるくらい、知子は全力で世界の異様に呆れかえっていた。呆れかえるあまり、頭上にピンと立った狐耳がいつもより尖ったほどだ。
 最近暑い日が増えたから、アイスを食べたいなぁ、と確かに思いはしていた。
 しかし此処のアイスは襲ってくる。ものすごいスピードで襲ってくる。知子がかっ飛ばす戦車(バイク)の最高速に匹敵する勢いで襲ってくる。
(「こーゆーのじゃない。こーゆーのじゃないのよ」)
 はぁ、とため息を吐いたら肩が落ちた。
 正直なところ、がっかり感が否めない。
 ならば、どうする!?
「と、とりあえず? 溶かせばいいのかしら???」
 ――知子の決断と切り替えは早かった。
 笑い含んで「燃やしちゃうわよ?」と唱え七十弱の狐火を灯らせると、それらで自身を囲うドームを形成する。幾つか砂に潜らせたのは、遊撃弾とする為だ。
 こうしてしまえば、ぶんぶん飛び交うアイスキャンディーなぞ、文字通りの『飛んで火にいる夏の虫』だ。
 燃え盛る炎に、レモン色のアイスキャンディーが突撃をかます。当然、じゅうっと溶けて蒸発した。
 次は苺色だ。その次はチョコレート色。さらにその次はミントブルー。
「……」
 都度、香り立つ甘やかで爽やかな匂いは実に美味しそうで、知らず知子の眉間に縦皺が刻まれる。
 片っ端から溶かすのは、少し勿体なかったかもしれない。
 逡巡は一瞬。何事にもメリハリをつけるのを良しとする女は、狐火ドームの一画の守りを敢えて薄くする。
 すり抜けてきたのは、カシスとオレンジのマーブルカラー!
「まずは、こう!」
 構えておいた特殊警棒を振り下ろす知子の動きに迷いはない。一撃必殺。狙い澄ました一閃に、アイスキャンディーは真っ二つ。それが地面に落ちる前に掬い上げれば、結果は上々。
「まぁ、こういうのも無しじゃないかもしれないわね?」
 夏に相応しい涼菓を頬張り、知子は世界への留飲を幾ばくか下げる。

 気付くと、太陽に浮かぶ数字がひとつ進みそうになっていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

泉宮・瑠碧
…先程の本と似た世界、ですね
此処も海で…
本の通りなら、寂しい方が、居る…?

ステラ・マリスの皆、久し振りですね
…「私」なので、雰囲気とか、色々と違いはしますが…

海であるのなら
水の精霊へ、皆を避ける様に、水の流れを変えるよう願います
噴き出す際も、散らして噴き上がる速度が緩まる様に

第六感でも
砂を踏んだり、地が隆起するか、気にしておきます
飛ぶアイスは、風の精霊でも軌道を逸らす様に

移動は
ゆっくりな空中だと、咄嗟に避け難いので
跳ねずに、なるべく地に着く様に

タイミングを見れば、少し食べられそう…?
噴き出したアイスへ近寄り…
大きめな貝を拭いてお皿にし、掬い取ってみます
上手く取れたら、愉快な仲間達へもお裾分けを



●貝のお皿にアイスクリームを
「……先ほどの本と似た世界、ですね」
 淡い青の髪をゆらりと揺らして砂地を踏んだ泉宮・瑠碧(月白・f04280)は、世界の在り様に物思いに耽った。
 直前まで読んでいた本に描かれた情景と、取り込まれた世界の光景は酷似している。
 ならば、此処には『寂しい誰か』が居るのだろうか……?
 しかし見渡す限りの海原には、それらしき人影は見当たらない。
 ページを進めなければ出会えないのかもしれない。
 そう思い至った直後、やや力無い水圧に押されて瑠碧は背後を振り返った。
「きてくれたんだ……」
「久し振り、ですね」
 そこには疲弊しきった白黒反転のシャチがいた。背中には、犬とロボがしがみついている。
 彼ら彼女らとの逢瀬はいつぶりだろうか。あの時と、今では、瑠碧は変化している。眼差し、口振り、仕草。様々が、柔らかくなった――ように感じられるはずだ。
 ともすれば別人と判断されるかもしれない。
 けれども愉快な仲間たちは明らかに再会の喜びを全身で表わしている。きっと瑠碧の本質的な何かを本能で捉えているのだろう。
 だから迷わず瑠碧の元へ至り、疲弊の中に喜びを綻ばす。
 そんな彼らの健気さに、瑠碧は寄せられた鼻先を優しく撫でて応える。
 ――彼らを無事に、ステラ・マリスへ連れ帰らないと……。
 幸い、此処も海だ。
 海ならば、水の精霊がいるはず。
「少し……待っていて、下さいね……」
 甘えたがりなシャチに一言ことわり、瑠碧は両手を結び、瞼を落とした。
 意識を空間全体へ波打つように広げる。そして感じ取った気配に、願う。愉快な仲間たちを避けるよう、水の流れを変えて欲しいと。
 途端、一帯の雰囲気そのものが和らぐ。まるで水の揺り籠に包まれたようだ。同時に、あれだけ執拗に追いかけてきたアイスキャンディーたちも、興味を失ったみたいに鳴りを潜めた。
「すごおい!」
「これなら一息つけるな」
「アアア、助カリマシタ」
 驚きの変化に、愉快な仲間たちが勢いを取り戻す。
 だが油断は禁物。瑠碧は気を弛め過ぎないよう促すと、道案内を買ってでる。
 アイスキャンディーの目(?)は誤魔化せても、既に仕掛けられたアイスクリームの地雷は事前に撤去できない。しかしこれには瑠碧の第六感がよく働いた。不穏な気配が、ちくちくと肌を刺してくるのだ。
「慌てないで……なるべく跳ねずに、低く、低く」
 咄嗟の事態に備える瑠碧の言葉に、愉快な仲間たちは素直に従う。
 世界の一部を味方につけた道行きは、平穏そのもの。この調子ならば、僅かの間くらいなら休憩しても良いだろう。
 数歩の先にお誂え向きの大き目な貝殻をみつけた瑠碧は、それを拾い上げた。
 直後、巻き起こったバニラアイスの爆発は予想通り。すっと貝殻を横へ滑らせると、程よい量のアイスが鎮座する。
「……食べます、か?」
 毒味がてらに一掬い。蕩ける優しい甘さに目を細めた瑠碧は、貝殻のお皿を愉快な仲間たちへ差し出す。
 そこから暫しは憩いの時。
 和やかな水流に守られた瑠碧と愉快な仲間たちは、柔らかく微笑み合いながら先を目指す。

大成功 🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ


えええナニコレ面白い、それにオイシソウ
軽い浮遊感や不思議で綺麗な光景にわくわくしつつも
襲い来るアイスに興味津々

こんなに美味しそうなんだから食べないと損じゃナイ?
動き*見切ったり*第六感で直撃交わしながら
手にしたナイフで掬い取れないか挑戦したいわ
*範囲攻撃応用して*オーラ防御を広く展開すれば
愉快な仲間たちを不意の襲撃から守る事も出来そうかしら
あとはそうねぇ、【彩雨】降らせ(?)て一時的に氷のトンネルでも作りマショ
一先ずは其処に逃げ込めば安心だもの

アイスを捕獲出来たら愉快な仲間たちにもお裾分けネ
疲れたら甘いもので一休みが一番じゃない?
モチロン警戒は怠らないケド、どうせなら楽しく行きたいもの



●美食街道
「えええナニコレ面白い」
 薄氷色の瞳に、中空に散りばめられた光を映しただけではない好奇心が煌めく。
 きゅう、と鳴く砂地を軽く蹴ったら、身体がいつも以上に浮き上がった。心地よい浮遊感だ。悪くない。水中というより星の海の狭間という方がしっくりくる美しい光景も、心を躍らせる。
 それに何より。
「オイシソウ?」
 脇目も振らぬ勢いで飛び回っているアイスキャンディーに、吹き上がるアイスクリームの地雷は、遊び心とグルメ心の両方を擽ってくれることこの上ない。
「こんなに美味しそうなんだから食べないと損じゃナイ?」
 どれにしようか、と携えた得物の数々から、春泪夫藍が刀身に咲くサバイバルナイフをコノハ・ライゼ(空々・f03130)はチョイスする。だってアイスには銀の匙こそ鉄板だ。
 海象牙の柄を軽く握り、全身から余分な力を抜いて自然体で立つ。
 一見、無防備な姿に、コノハの髪色とよく似たアイスキャンディーが急速に迫る。
(「グレープ味かしら?」
 思考までもご機嫌にふわりと弾ませ、コノハはステキな獲物を今か今かと待ち構えた。
 急いては駄目だ。かと言って、引きつけ過ぎてもいけない。最適の温度があるように、美味を堪能するには最適の距離がある。
 呼吸を妨げない水を切る音に耳を澄ます――そして。
 鋭く見切った一瞬。貪欲な補食能力を最大限に活かし、コノハは直撃コースから身を躱しつつ、紫雲色のアイスをナイフで削ぎ――一掬い。はくりと口に運べば、シャーベット状の口当たりがしゃりと溶け、酸味と甘みのバランスがとれた葡萄の味が舌の上で踊った。
「ふふ、やっぱり美味しいわ」
 案の定の美味に、ますますコノハの機嫌は上がる。こんな美味しいものを一人で味わうなんてモッタイナイ。せっかくだから、誰かにお裾分けできないだろうか。
 その『誰か』は探すまでもない。
「煌めくアメを、ドウゾ」
 歌うように唱えれば、水晶の針が虚空に編み出される。日頃は貫くために降らせるそれを、今日は一工夫。
「さぁ、お入りなさいナ?」
「わあああ、氷のトンネルだぁあああ」
「成程。此処ナラ追イカケテ来ラレマセンネ」
 仮初の氷の防空壕に、白黒反転したシャチや、とことこ歩くロボたちが寄り集まってくる。中には半分凍ってしまっているものもいた。そんな彼ら彼女らを快く招き入れ、霜を払い取り、コノハはにっこりと笑む。
「次はチョコレート色を狙うから。上手く捕まえられたら、お裾分けネ」
 だって疲れた時には甘いもので一休みって言うでショ、と愉し気に語り掛けると、愉快な仲間たちの纏う雰囲気が一気に和らいだ。
「アレ、美味しいの??」
「私ハ苺色ニ興味ガ有リマス」
「あら、リクエストね。お応えするわ」
 警戒は怠らない。とは言え、如何なる道行きも楽しく行ってこそ、最後に格別の充実感を得られるものだ。
 悪戯めかしたウインクを一つ飛ばし、コノハは次なる獲物をわざと氷の陣地に誘い込む。
 さぁ、アイスキャンディーパーティーの始まりだ。
 甘さで疲れが癒えたら、彩雨の傘をさして先へと進もう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

蛍火・りょう


キミ達…うん、何も言うまい
とりあえず無事戻れたら、お祓いしておくんだぞ

氷菓子のもてなしとは洒落てるな
だが、椀も匙も無いのは良くない
もてなしは、そういう細かい所も大事なんだぞ

まぁ、このまま食べろというなら、遠慮なくいただくとも
あいすきゃんでぃとやらを、存分に味わわせて貰おうじゃないか
(薙刀構え)

こういう一直線に飛んでくるものを捉えるのは得意だぞ
何せ去年の夏
これでもかという程スイカを相手にしたからな
任せろ
(UC発動、力溜めからの、全力ゴルフスイング)

よしよし、綺麗に飛んで行ったな
この先がどうなってるのか知らないが
まぁ、何処かで飛ばした氷菓子と出会えるはずだ
この調子で、ガンガン飛ばして進むとしよう



●苺大福マジヤバい
「りょう殿、りょう殿!」
「危ないトコロ、ご足労カタジケないで御座る」
「りょう殿ぉおおお!!」
 きゅう、と鳴く砂を踏み締めた途端、文字通りわらわらと集まって来た太刀魚たちに、蛍火・りょう(ゆらぎきえゆく・f18049)は眼差しを遠くした。
「……キミ達」
 数えて、ひと、ふた、みのよ。さらに、いつ、む、なな、や、ここのつ、とお。ぐるりと数えて十体の愉快な仲間たちの綺麗な銀の身体に疵らしきものはない。
 それであるならば、うん。
(「何も言うまい」)
 ――と、心に決めたものの大事なことだけはと、りょうは彼らに命を授けた者として忠言を授けることにする。
「とりあえず、無事に戻れたら、お祓いしておくんだぞ」
 真に迫った少女の言葉に、太刀魚たちは全身を使って是を頷く。それが一体一体、横に倣えのタイミングなものだから、まるでウェーブが起こしているようで、頑張ってしかめっ面を作っていたりょうの貌が緩んだ。
「さっそく、始めるとしようか」
 視線を巡らせると、お誂え向きにアイスキャンディーが数本、飛んできているところだった。
「――氷菓子のもてなしとは洒落てるな」
 余裕を嘯き、力自慢の少女はニヤリと口の端を吊り上げる。
「だが、椀も匙も無いのは良くない」
 もてなしとは、そういう細かい所こそ大事なもの。
「りょう殿?」
「りょう殿??」
「何をナサルおつもりで??」
 やおら薙刀を構えた少女の周りを、太刀応たちがぐるりと囲む。まるでUDCアースでいうところの、バッティングセンターの打席を作っているかのようだ。或いは、ゴルフの打ちっぱなし場か。されどりょうも太刀魚たちも、その何れも知らず。しかし本能で奇跡の最適解を構築する。
 馬鹿の一つ覚えのような一直線の軌道を描くモノを捉える事に、りょうは相応の自信があった。何せ昨年、遥か遠い『宇宙』とやらで散々スイカと戯れたのだ。質量に劣る氷菓子なぞ何のその、だ!
「まぁ、このまま食べろというなら、遠慮なくいただくとも」
 ぶぅん。
 低い唸りを上げさせ、全身を使って薙刀を一回転。
「りょう殿、来るでゴザる」
「りょう殿、危ナイでゴザル」
「りょう殿、りょう殿」
「まあ、任せろ」
 慌てる太刀魚たちをさらりといなし、りょうは絶妙な瞬間を見定める。引き付けるだけ引き付けて、腕に余計な曲がりがなくなる所こそ最大威力が発揮されるポイント。
「あいすきゃんでぃとやらを、存分に味わわせて貰おうじゃないか!」
 ――かっきーん。
 白球が光の粒が舞う中空を切り裂き、「おおおおお」と太刀魚たちから感嘆のどよめきが起きる。
 典型的なドライバーショット。狙い澄ましたインパクトに、ソーダ色をしたアイスキャンディーは華麗に打ち返された。
「そおれ、まだまだゆくぞ」
 次はイチゴ色。その次はレモン色。チョコレート色に、ミルク色。
 典型的な脳筋――もとい、パワー抜群の羅刹少女は、力任せにアイスキャンディーたちをぶっぱなし道を拓く。
 此処から先がどうなっているかは分からないが、何処かでかっ飛ばされて無害化された氷菓子と出会えると信じて(その時こそ、遠慮なく美味しく頂くチャンス!?)。

 余談。
 そんなりょうが唯一打ち返さず、そのままむんずと捕まえ頬張ったアイスキャンディーがあります。それは何でしょうか?
 答。苺大福を模したもの!
「成程、りょう殿は苺大福がお好みト」
「苺大福マジヤバい」

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルバ・アルフライラ

ジジ(f00995)と
ほう、ほうほう
我が友人を襲おうとは良い度胸よな?

然し、彼の機動力は中々の脅威である
幾ら私が美しかろうと、氷像にされるなぞ御免被る
【愚者の灯火】を従者と己の傍らに幾つか展開
押し寄せる氷菓子共は我が炎で融かしてやろう
…ジジ、其処で何をしておる?
拾い食いは止めよと云っておろう
ぺっなさい、ぺっ

我等が身を守る最低限を残し
後は愉快な仲間達を守るべく盾に矛にと動かす
――久方振りです、隣人達
さぞ寒かったでしょう
彼方、炎壁の傍へお逃げなさい
私が炎の操作に専念したとて
有事には直ぐ様従者が動く筈…何だジジ
何か――刃に乗る物に瞠目
恐る恐る口に入れればコク深い苦味と甘味
…一寸美味いと思っただけだ


ジャハル・アルムリフ

師父(f00123)と
師が名付けた彼の海で
勝手行う不届き者は何処だ

不可解な「あいす」から一先ず師を庇い
融け千切れた白い欠片を掬う
…むう、旨い

こっちだ「あいす」共
【影楼】用いた移動で誘き寄せ
噴き出すのを跳び越え
飛来するのを叩き落とし
駆ける内安全な道も見出せようか

――そこだ
気になる橙色を断ち切り
誘惑に負け一掬い
…蜜柑の味がする

師の炎で緩んだ「あいす」から
愉快な連中を引っ張り出し
ついでに此方も掬う
む、これは
高速で師の許へと舞い戻り
師父、これを食してみるといい
短剣に乗せた褐色のそれを勧めるなどして
ほろ苦く、奥深い甘さ

よからぬ者を狩りにゆくのだ
腹拵えは必要であろう
この海は師の子
なれば、俺のきょうだい故



●異世界家族団欒奇行(not誤字)
 『ステラ・マリス』――彼の海の国にその名という福音を齎したのは、他でもないジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)が師と仰ぐアルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)だ。
 ――ほう、ほうほう。
 故に、耳にした凶報にアルバの顔には言い知れぬ凄みが差した。
 ――我が友人を襲おうとは良い度胸よな?
 美しく微笑んだまま、瞳に冷たい星が燃えていた。青から赤へ、遊色移ろう髪がキンと甲高い音色に輝いた気さえした。泰然自若の構えを崩さぬまま、尖った不快感が膨張してゆく。
 その想いは、ジャハルもまた同じ。
(「師が王ともいうべき国で、勝手な狼藉を働く不届き者は何奴か」)
 否、アルバよりもより分かり易い怒りに、従者たる黒き竜の男は身を焦がした。
 許すまじ。
 何を以てしても、報いを受けさせる。

 ――……と、まぁ。そんな感じで両名共に相応に意気込んでいたわけですが。

「わぁわぁ、たすけにきてくれたの」
「ご足労、忝イで御座る」
「久方振りです、隣人達。さぞ寒かったでしょう」
 ステラ・マリスを経て、本の中へ至ったアルバを待っていたのは、愉快な仲間たちの熱烈な歓迎だった。
 慕わしい人影を見つけた途端、アイスキャンディーに追い立てられながらも、必死に寄り集まってきたのだ。
「早速で申し訳ない。向こうでロボ嬢がひとり、氷漬けにされているんだが」
 きっと自身も危ういところだったのだろう。罅の入ったモノクルをかけた犬の訴えに、アルバは「もちろんです」と頷く。
 とはいえ、縦横無尽に中空を翔けるアイスキャンディーの機動力は侮りがたく、脅威と言っても過言ではない。
(「幾ら私が美しかろうと、氷像にされるなぞ御免被る」)
「アルバ殿?」
「どうしたの、かんがえごと? むずかしいこと?」
 せっかくの『余所行き顔』で接していたというのに、駄々洩れかけた『素(の片鱗)』に敏く反応した太刀魚とシャチへ、アルバはこれ以上ないほど鮮やかに、美しい微笑みを返すことで切り返す。
「何でもありませんよ。さあ、私の後ろへ」
(「所詮、相手は氷菓子。ならば――」)
 虎視眈々とほくそ笑むのは胸の裡のみ。然してアルバは「ふふん、」と常より若干控えめに鼻を鳴らした。途端、八十弱の魔法の炎が顕現する。
「さあ、我が炎で融かしてやろう」
 中空に散りばめられた光屑さえ紅蓮に染め変え、アルバは愉快な仲間たちを背にアイスキャンディーたちと差し向う。
 そこで、ふと。アルバに空隙が生まれた(断じて、敵に付け入らせるようなものではないけれど)。
(「……ジジ?」)
 目端に映る従者の様子が、ちょっぴりおかしかったのだ。
 本の中へ至るや否や、即座に飛翔を開始し、風の如き速さでアイスキャンディー迎撃を担っていたジャハル。そのジャハルの羽搏きが停止していた。落下速度がゆっくりなのは、この本の海ならではなのだろう。
 そう、まるで直立したまま漂うように。ジャハルはアルバに背を向け、戦い以外の何かに心を引き摺られている。
 果たしてそれは、何だ――。
「……ジジ、其処で何をしておる?」
 幾分、声を低めたアルバの問いに、弟子の肩がぴくんと跳ねた。そして悪戯がバレた子どもの如く三十歳児がコマ送りの速度で師を振り返る。
 その手には、鋭利なナイフが握られていた。無論、戦いの道具だ。それは良い。が、問題は刃の上。とろり溶け出す白い欠片は――。
「拾い食いは止めよと云っておろう」
「そうは言えど師よ、これは存外に美味で――」
「ぺっしなさい、ぺっ!」
「……むう」
 溶け出していた欠片=ジャハルが口にしていたのは、アルバを庇うついでに削ぎ落したのだろうアイスキャンディーだった。
 だってどこからどう見てもアイスキャンディーなのだ。少しくらい味見したい衝動に駆られるのも仕方ない。が、師に咎められてしまったからには断念するより他にない(妙に子ども扱いなことまでは頭が回らなかったのは、きっと普通に幸い)。
「――」
 無言で刃を指の腹で拭い、ジャハルは再び空とも海とも知れぬ空を駆り出す。
「こっちだ『あいす』ども」
 灼き斬れ、と低く唱えたジャハルの斬撃には高熱が乗り、振るうジャハル自身には影朧を思わす不可視の呪詛がゆらりと揺れる。
 見通しのよい高みに居る獲物に、多くのアイスキャンディーたちが群がった。それらを引き連れジャハルは飛ぶ。高度を落とすと、アイスキャンディーたちの追撃が鈍る個所が幾つかった。そういう時、敢えて地表へ下りると足元からアイスクリームの爆炎があがる。
 思考能力などなさそうなのに、同士討ちを避けているのだろう。
 そうと分かればジャハルは上空で旋回し、愉快な仲間たちを護衛しながら進むアルバへ情報を伝達する。
 攻撃より守備に重きを置いたアルバの炎は、壁のように聳え、距離をとってもよく見えた。不覚にも突破を許したアイスキャンディーを追い彼らの頭上へ差し掛かれば、ちょうど凍ったロボを救出している処だった。
 このまま進めば、全員での突破も難しくはないだろう。薄ぼけた太陽に浮かぶ矢印通りに進まねばならないのは、若干業腹ではあったが。
 と、その時。
「――、」
 目端に映った橙色にジャハルの嗅覚がぴくりと反応した。半ば反射で刃を振り下ろす。見事にアイスキャンディーを叩き落した後、刃を目の高さに翳すと橙色の欠片が残っている。
『拾い食いは止めよと云っておろう』
『ぺっしなさい、ぺっ!』
 師の声が脳裏に蘇った――が、誘惑には勝てなかった。
「……蜜柑の味がする」
 浅黒い肌をしているせいで非常にわかりにくいが、この時のジャハルの頬は仄かに紅潮していた。
「――、駄目だ」
 ふるり首を振って己を律し、ジャハルは哨戒を再開する。すると今度は、ぽつんと凍てた太刀魚をみつけた。はぐれた時にやられたのだろう。救出すべく、いそいそと拾い上げ――彼を封じ込める褐色の氷にジャハルは目と心を奪われた。
「すぐに解放してやる」
 ――という名目で、氷を刃で薄く削ぐ。太刀魚に変化はない。多分、頁が進まぬ限り、目覚めはしないのだろう。だから、人目をはばかることなく……ぱくり。
「む、これは」
 この後のジャハルの行動は早かった。もしかしたら、飛行速度は彼史上最高記録を叩き出したかもしれない。
 然して師の許へ舞い戻った弟子は、やおら刃を水平に差し出した。
「どうした、ジジ。何かあった――」
 ずず、ずいっと寄せられた刃にアルバは瞠目する。後ろでは愉快な仲間たちが『何が始まるのだろう』とざわついているが、そんなの気に留められないくらいジャハルの圧が勝っていた。
「師父、これを食してみるといい」
 七彩宿す眼が、幼子じみた純粋な光を宿しアルバを見ている。期待に満ち満ち、無碍に出来ぬ視線だ。
 故にアルバはおそるおそる弟子の刃に手を伸ばし、今にも滴り落ちそうな褐色を指にまとわせ、口に運ぶ。
「!!」
 思わず見開いたアルバの眸に、ジャハルの両の口の端が上がる。だってほろ苦く、それでいて奥深い甘さで、芳醇な香りをまとった褐色は、まごうことなくチョコレート。しかもちょっとお高い系!
「……一寸美味いと思っただけだ」
 拾い食いを咎めた身としては、どうにも素直に感嘆するわけにはいかないと、アルバは虚勢を張った。が、事の成り行きを固唾を飲んで見守っていた愉快な仲間たちは、そんなのお構いなしに、アルバとジャハルを取り囲む。
「おいしいの!?」
「美味で御座るカ!?」
「成程、興味深い」
「ワタクシモ試食イイカシラ??」
「構わぬ。よからぬ者を狩りにゆくのだ、腹拵えは必要であろう。皆々も師の海の子。ならば、俺のきょうだいも同然」
 ……最早、収拾不能。
 アルバが止めに入る隙もなく、ジャハルが愉快な仲間たちへチョコレートアイスを振る舞えば――ただしくれぐれも中の太刀魚は傷付けないよう――、一行はアイス・パーティーの様相を呈す。
 まぁ、ジャハルの弁を借りれば『兄弟同然』ってことなので、一家団欒とでも思えば良いだろうか。
 斯くしてアルバ一家の愉快なアイス・パーティーはページが捲られるまで続くのであった。アイスの美味さ、恐るべし!?

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エドガー・ブライトマン

この国のアイスは、おいしいだけじゃあないらしい!
本の中っていうのは不思議なものだねえ

アイスに襲われたこと、忘れずに手記に書かなくっちゃ
――と、後のコトを考えている場合じゃあなかったね
凍ってしまった犬君は大丈夫かな
大丈夫そうじゃなかったら拾いに行ってあげよう
マントに包んで抱えてあげれば、そのうち温まるかなあ

ひとまずは“Hの叡智”で状態異常力を重視しよう
これで飛んできたアイスがうっかり掠っても
すぐに氷漬けにはならない……ハズさ!

悪いけど、故郷以外で像になる予定はないんだよねえ
吹き出すアイスは《早業》で避ける

下からのアイスはジャンプすれば避けやすいかもね
愉快な仲間の諸君、跳べるかい?
ホラ、ぴょ~ん



●王子様、アイス界を制す
 陽光を縒って紡いだような髪を悪戯に啄んでいたツバメが、急旋回で空へと舞い上がった。
 ――オスカー?
 と、友人の不意の行動に疑問の声を上げるより早く、エドガー・ブライトマン(“運命”・f21503)の頭すれすれをミントブルーのアイスキャンディーが後方から突き抜ける。
 かと思えば、取って返すみたいに反転して、今度は正面からエドガーの輝かしい顔(かんばせ)目掛けてまっしぐら!
 一度は針の先ほどになったミントブルーが、ぐんぐん大きさを増してゆく。自分の瞳より薄い色のそれを瞬きを忘れて見つめ、エドガーは花咲くように笑った。
「この国のアイスは、おいしいだけじゃあないらしい!」
 躊躇せず飛び込んだ本の中は、何とも不思議な世界。足元が覚束ない気がしないでないが、踏み出す一歩にはきちんと砂が鳴く。しかも夏のおやつに最適なアイスが襲ってくると来た。
「このことは、忘れずに手記に書かなくっちゃ――ん? どうしたんだ、レディ」
 ちくりと痛んだ左腕に視線を遣れば、赤い薔薇がご不満気に棘を突き立てていた。
 まるで恋人の不貞を咎めているようだ。嫉妬深い赤の洗礼に、けれどエドガーは「大丈夫だぜ」と快活に口の端を吊り上げ、目前まで迫るアイスキャンディーと対峙する。
「ははは、そうだね。後のコトを考えている場合じゃあなかったよ」
 くるり、ひらり。
 追ってくるなら、逃げるまで。
 右足を軸にしたターンで身とマントを翻し、エドガーは颯の勢いで砂浜を走り出す。
「オスカー! さっきの犬君はどこだい?」
 上空へ放った声に、ツバメが刃の鋭さで空を翔る。迷いない滑空は、目標を捕捉している動きだ。
「そう、……大切なことさ」
(「■■■■■■、■■■■■■、■■■■■■」)
 ひんやりした温度は、もうすぐそこ。背中に感じる冷気にエドガーは、深呼吸をひとつ。それから瞬きをふたつして、心の中でそっと祖国の名を唱える。
 直後、エドガーは身体を僅かに右へ倒す。
 そしてミントブルーの風が、ついにエドガーへ追いつく。
 衝撃はゼロではなかった。躱しきることは出来なかったのだ。裂けた左わき腹の礼装が、白い霜を纏っている――が、それだけだ。
「悪いけど、故郷以外で像になる予定はないんだよねえ!」
 熱砂の季節も裸足で逃げ出す爽やかさで、獲物を仕留め損ねたアイスキャンディーへエドガーは笑みかける。
 講じた状態異常への策は上々だ。ダメージはなくはないが、氷漬けになることはない。
「――みつけたよ!」
 地面から吹き上げるチョコレートアイスは目にも留まらぬ迂回で避け、オスカーの先導で凍り付いた犬の元へ辿り着いたエドガーは、学者風の愉快な仲間をマントで包んで抱え上げる。
 こうしていればそのうち温もり、自由を取り戻すだろうか。或いは、頁が捲られれば元に戻るかもしれない。その間、レディの嫉妬に苛まれることにはなりそうだが!
「諸君も、行くよ。ホラ、ぴょ~ん!」
 右往左往していたロボと太刀魚を手招き、エドガーはバニラアイスの地雷を飛び越えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『『偽アリス』アリーチェ』

POW   :    ミルクセーキはいかが?
【怪しげな薬瓶】が命中した対象に対し、高威力高命中の【腐った卵と牛乳で作ったミルクセーキ】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    甘いおねだり
レベル×1tまでの対象の【胸ぐら】を掴んで持ち上げる。振り回しや周囲の地面への叩きつけも可能。
WIZ   :    お茶を楽しみましょ?
【頑丈なティーポット】から【強酸性の煮え滾る熱湯】を放ち、【水膨れするような火傷】により対象の動きを一時的に封じる。

イラスト:ちびのしま

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 
【事務連絡】
第二章は導入部追記後に、日時を決めた上、『再送前提』でプレイング受付を開始致します。
詳細はマスターページにてお報せしますので、プレイング送信前に必ずご一読下さいますようお願い申し上げます。
 
 
 
 
 ●くるくるめくる、ページをめくる
「まぁ、わたくしに早くあいたいのかしら?」
「だれかがアイスのわなをぬける気配に、女王様はうっとりと微笑みました」
「するとどうでしょう、海の中に薄い紅のサンゴの林ができました」
 きゅう、と。猟兵たちが砂地を鳴かせたある一歩。不意に世界が変わった。
 無数の貝殻が消え、冷たい薄紅をした珊瑚が林立したのだ。
 高さはおおよそ成人男性ほどだろうか。おかげで随分と見通しが悪くなってしまった。

「女王様は、また考えます」
「もっともっと歓迎しなくては。でも、普通ではだめ」
「世界一うつくしい、わたくしにふさわしい歓迎でないとだめ」
「女王様はいっしょうけんめい、考えました。考えて、かたわらの鏡をのぞきこみ、こういったのです」
「かわいいかわいいわたくしのアリス。あの子たちを歓迎してあげてちょうだいな」

 天からの声は、そこで途絶えた。
 珊瑚の林の真上に浮かんだ太陽には、「5」の文字が浮かんでいる。
 どうやら物語は進んだようだ。猟兵たちに氷漬けのまま保護された愉快な仲間たちも自由を取り戻し、知らぬ間に変わった状況にきょろきょろとしている。
 ――その時。
「わあ、かわいいこだ!」
「確かに。ロボ嬢より可愛いと言えよう」
「何故ソコデ私ヲ引キ合イニダスノデス!?」
「何かしら、何かしら? 騒がしいお客様は、何方かしら?」
 珊瑚の林から、愛らしい少女が顔を出す。
「おもてなし、しましょう」
「美味しいミルクセーキはいかが? キンキンに冷えておいしいのよ」
「こちらのお茶は熱々よ。冷えた体にはもってこい」
 ひとり、ふたり、さんにん、よにん。珊瑚の影から次々と少女が現れる。もちろん、ただの少女ではない。愛らしい外見に反し、零れ出る邪気が彼女らがオウガであることを物語っていた。
「ふむ、歓待されでいるで御座るカ?」
「歓待ナラバ、受けるべきで御座ろう??」
 呑気な愉快な仲間たちは、すっかり騙され――というより、少女の愛らしさに魅了されている――てしまっているのか、ふらふらと珊瑚の林の中へ入って行こうとする始末。
 愉快な仲間たちを正気付かせるためには、少女の歓待や愛らしさをも上回るインパクトが必要だ。かといって、愉快な仲間たちにばかりかまけていては、オウガの歓待の洗礼を浴びせられるのは必至。
 頭を抱えそうになった猟兵は、けれどそこで思い至る。
 ここは本の中。物語の世界。
 それならば、真面目に悩むよりも楽しく進む方がきっと良い。

 ページをめくろう。楽しくめくろう。後で読み返した時、自然と笑顔になるくらい。
エドガー・ブライトマン

犬君は元気になったみたいだね、よかっ……
いやよくない、皆オウガの虜になりつつあるじゃないか!

なんとかかれらを正気に戻してやらなくては
しかし、第二の武器・顔だけじゃインパクトで勝てなさそう
(それに、レディにまた物凄い怒られそう)
……あ、そうだ

待ちたまえキミたち!

珊瑚の林を駆け、オウガと愉快な仲間の間に割り込む
――輝く白馬に乗って!

目を覚ましたまえ。彼女たちはオウガだよ
熱々のお茶を浴びせられるに決まってるさ!
ホラ下がって、この馬に乗ってもいいから
お茶も良いけど、乗馬もなかなか楽しいものだぜ

私は馬から降りて、オウガの少女に立ち向かう
胸ぐらを捕まれそうな距離まで近づいたなら
《早業》で《捨て身の一撃》



●降臨、白馬の王子様!
 抱えていたマントがもぞりと蠢いたかと思うと、隙間からにゅっとモノクルをかけた茶色の顔が覗いた。
「ここは何処だ? いや、私は――」
「犬君!」
 何時の間にやら氷漬けから解放されたらしい。
 払拭された懸念に顔を明るくしたエドガー・ブライトマン(“運命”・f21503)は、小柄な犬をそっと地面へと降ろす。
 他に怪我などはないだろうか。ざっと確認したが、目立った外傷などはなさそうだ。
「元気になったみたいだね、よかっ……」
「ふむ。可愛らしいお嬢さんではないか」
 ――いや、よくない。
 ――全然、よくない。
 安堵に綻んだエドガーの貌が、内心のツッコミと共に僅かに曇る。
 無事に目覚めてくれたのは、喜ばしい。だのに、自身が救われたと認識する間もなく、犬君はオウガの虜になりかけている。
 と、頭上のオスカーが警告のように甲高く鳴いた。羽搏きを追って視線を巡らすと、犬君のみならずシャチや太刀魚、ロボたちが、酩酊じみた足取りで珊瑚の林の中へ踏み入ろうとしているではないか!
「あなたも一緒にいかが?」
 エドガーの動揺を見越したみたいに、可愛らしい少女が甘ったるく微笑んだ。
(「このままではいけない」)
 何とか愉快な仲間たちを正気に戻してやらねば。
 例え出逢ったばかりであろうと、一度縁を結んだならば、それ即ち愛すべき万民。王子様たるエドガーにとって、守るべき者。
 されど、相手はキュートなレディ。エドガーの第二の武器である美貌だけでは、インパクトに欠けてしまうことは否めない。
(「……それに、レディにまた物凄い怒られそう」)
 何をか察したのか、左手の薔薇が不穏に茨を蠢かせる。それを軽く撫でて宥めつつエドガーは思案を巡らせた。
「……あ、そうだ」
 そして天啓は煌めく空より舞い降りる。
 エドガーは王子様だ。王子様といったら何だ? もちろん、白馬だ!
「待ちたまえキミたち!」
「「!?」」
 ぱからんっ。砂地に響かぬはずの足音を高らかに鳴らし、エドガーは喚んだ輝く白馬に跨り駆けた。
 神々しい、文字通りの人馬一体に、一帯の気配が一転する。
「目を覚ましたまえ、彼女たちはオウガだよ」
「王子様……ッ」
 真っ先に反応したのは、流石の女子のロボ嬢だった。
「熱々のお茶を浴びせられるに決まってるさ!」
「あわあわあわ、かっこいいんだよおおお」
「ふむ、美しいデ御座る」
 疾く、疾く、疾く、颯爽と。愛らしい少女たちと自分たちの狭間を駆ける王子様と白馬に、シャチと太刀魚も見惚れ、足を止める。最後は、犬君。
「さぁ、早くこっちにいらっしゃい」
「そうはさせないよ」
 ったーん、と翼があるかの如き跳躍でエドガーたちは前へ躍り出、今にも手と手が触れあいそうな犬君と少女の間に割って入る。
「犬君! お茶も良いけど、乗馬もなかなか楽しいと思うぜ」
「っ!? 乗馬!? 乗ってもいいのかい?」
 ついに引き戻した意識を取り損なうことなく、エドガーはひらりと白馬から舞い降りると、かわって犬を鞍へと掬い上げた。
「ああ、もちろんさ。さぁ、好きなだけ駆けておいで」
「感謝する。一度、シャチ君以外に乗ってみたかったんだ」
 学者然としていても、心には少年を飼っていたのか。己の意思で目を輝かせる犬へエドガーはこの上なく美しく笑むと、愉快な仲間を乗馬の旅へ送り出す。
「ひどいことをするのね? ねぇ、代わりにあなたが一緒にお茶をしてくれる?」
「可愛いお嬢さんの申し出は喜んで受けたいところだけれど。私にはもう愛しのレディがいるんだ」
 花の顔に隠すつもりのない殺気を漲らせる少女へ、エドガーが不意打ちの剣の一撃を喰らわせる。
 半ば捨て身に等しい一閃が、珊瑚の林に煌めく。次いで、また一閃。さらに、一閃。
 結末は、後の平穏にて知れること。

大成功 🔵​🔵​🔵​

蛍火・りょう


(むー…)
そりゃあ、もてなしは受けるべきだ
過度な遠慮は失礼だからな

でも、キミたち
僕が捕獲した(かっ飛ばした)氷菓子を放置していくつもりか?
ぼくのもてなしは、受け取らない…と?

見ろ、この氷菓子の山を
どう見ても、ぼく一人で食べる量じゃないだろう
せっかくみんなの分も捕獲したと言うのに
食べてくれないのか?
(本当は、向かって来た奴は全部かっ飛ばしただけだが)

彼女たちのもてなしは、氷菓子を食べ終わってから受ければいい
そうそう、彼女たちにも、もてなしの礼をしないとな
(拳大の氷菓子を掴み、UC発動でパワーアップ)

余裕で全員分あるからな、遠慮は要らない
さぁ、受け取るがいい
(ストライクゾーン目掛けて、全力投球)



●りょう殿のおもてなし
「そうか……キミたちは、そういう態度を取るんだ」
 ぼそり。まさしく、ぼそり。
 しかも俯き加減での蛍火・りょう(ゆらぎきえゆく・f18049)の呟きに、愛らしい少女の誘惑に負けてふらふらしていた太刀魚たちの背筋がしゃんと伸びた。
 確かに、確かに。もてなしは受けるべきだと、りょうも承知している。過度な遠慮は、失礼にあたることだってあるのだ。
 分かっている。例え脳筋だろうと、りょうはちゃあんと弁えている。
 ――だが、しかし!
「キミたちは、ぼくが捕獲した氷菓子を放置していくつもりなんだね……」
 いっぽん、にほん、さんぼん、よんほん。
 おそらく一緒にページを飛び越えてきたのだろうアイスキャンディーが、りょうの周りには無数に散らばっていた。それらを一本一本、りょうは積み上げ始める。
 やがてりょうの背丈と同じくらいになった頃、りょうは背筋を伸ばしたまま固まっている太刀魚たちへ、胡乱な眼差しを向けた。
「ぼくのもてなしは、受け取らない……と?」
 角度によっては金を帯びる緑の眼が、白銀の太刀たちをじぃと見る。
 見ろ、この氷菓子の山を。
 どう見ても、ひとりで食べきれる量ではないだろう――と。
「……せっかくみんなの分も捕獲したというのに、食べてはくれないのか……?」
 ――嘘だ。
 ぶっちゃけ、ただ単に向かってきたものを所かまわずかっ飛ばしただけだ。後のことなんか全然、これっぽっちも考えちゃいなかった。
 けれどりょうは考え無しではない。脳筋だけど、無能ではない。更に言うと、りょうの周りに集っている太刀魚たちにとって、『可愛い』より優先なのは『りょう』だ。
「っ!!!」
「りょう殿ッ」
「りょう殿ッ」
「りょう殿、そんなっ。そんな滅相モないで御座るううう」
 ――チョロかった。そもそも、齢十三の娘の拗ねに、勝てる武者なぞおらん(断言)。
「ちょっ、アイスキャンディーよりミルクセーキの方が美味しいのに!?」
 愉快な仲間たちの急変に、同じ年頃だろう少女の顔色が変わった。のに対し、りょうは「ふふん」と鼻を鳴らす。
「なぁに、お前たちのもてなしは、氷菓子を十分に食べ終わってから受け取るさ。当然、相応の礼と一緒にな」
 さぁ、食え。もっと、食え。遠慮はいらない、どんどん食え。
 太刀魚たちにアイスキャンディーを振る舞いながら、りょうは可愛らしい少女――オウガを一瞥し、やおら拳大の氷菓子を拾い上げた。
 ぶん、ぶん、ぶん。
 氷菓子を握った手を、振り回す。にっこり笑顔のまま、振り回す。
「なっ、何よ。 あ、あなたもミルクセーキはいか――」
「遅い!!」
 怯みかけたオウガが怪しげな薬瓶を取り出した刹那、りょうは問答無用の勢いでアイスキャンディーと言う名の礫を放った。全力で。
 まっすぐに飛んだ白球――もとい氷礫の球速は、時速は200km/hを超えていただろう。そして華麗にストライクゾーン――と称したみぞおちにクリーンヒット。
「っはあ」
 オウガが仰け反る。仰け反って、蹲って、ゆらゆら影朧のように消失する。
 予想していなかった惨事に、少女たちがざわつき始める。が、諸々遅すぎた。
「遠慮は要らないぞ? 余裕で全員分あるからな」
 何時の間にか拾っていた拳大のアイスキャンディーをお手玉のように弄びながら、りょう、にぃっこり。
「さぁ、受け取るがいい」
「「「「「いいいいやああああああ」」」」」

 余談。
 りょうが全力投球を楽しむ間、太刀魚たちは身の丈にあったアイスキャンディーを頬張っていましたとさ。だって、りょう殿のおもてなしだし!

大成功 🔵​🔵​🔵​

泉宮・瑠碧


…ロボ、可愛いと思うのですが…

…では
水の中で、花を作りましょう
…皆は、花を見た事、あるでしょうか…

植物の精霊へ、花を願い
風や水の精霊の助けでその花を泡で包み、水中をふわふわと
彩も様々な、花の泡を作ります

出来た水泡の花達は
水流を操り、愉快な仲間達の元へ流します
皆の興味を引いたら、珊瑚とは反対方向へ誘導し
花の無い泡だけ、珊瑚の林の中へ

正気に戻れば
皆の周囲を花の泡で守り

私は杖を手に精霊羽翼
林へ入れた花の無い泡を刃へ変え、林の中で踊らせ
熱湯や液体は、水の流れを変えて防ぎます

…歓迎のつもりでも、ごめんなさい…
彼女達へ、安らかにと

終えれば
花の泡は植物の精霊に、回収して貰いましょう
…また、何処かで咲く様に



●花の舞
 何気ない一言が、誰かの心を深く傷つけることもある。例え、発した本人は戯れであろうとも。
「……ロボ、さん」
 細やかな関節などないはずなのに、しゅんと肩を落とした風情のロボ娘に泉宮・瑠碧(月白・f04280)は近付くと、幼子をそうするように抱き上げた。
 少し大き目なブリキの玩具という外見そのままに、ロボ娘はとても軽く。すとんと瑠碧の腕の中に納まる。
「瑠碧サン?」
「私は、可愛いと思います、よ……」
 仲間たちからは出遅れはしたものの、可愛らしい少女――オウガの歓待に心奪われかけていたロボ娘の眸が、ひよこ色にパチパチと明滅した。
「……ソ、ソウデスカ??」
 続いて鋼色の頬が、淡い朱に染まる。
 やはりロボ娘も少女なのだ。ささやかな変化に瑠碧は胸を温め、「……では」と空いた右手を空へと差し出す。
「水の、中で……花を作りましょう」
 ――お花、見た事はありますか?
 問い掛けると、ロボ娘が首を横へ振る。
「ライブラリーニ、情報ダケナラアリマスガ」
「……なら、よく見て、いて?」
 まずは瞼を落とし。右手の指先に意識を集中する。そして心の中で呼びかける。力を貸して、と。
 最初に応えたのは、花の精霊だった。トルコキキョウに似た花が宙に舞い。次いで応じた水の精霊が、透明な泡でそれらを包み込む。
「……ワ、ア!」
 鴇色、黄金、薄桜、天色、萌黄。
 色とりどりの花のフリルがふわふわ漂い、ロボ娘の視線を釘付けにする。さらに彼女の歓声に反応した他の愉快な仲間たちも、海に咲いた花の泡に心を奪われた。
「ちょっ、邪魔をしないでよ」
「ごめんなさい。でも……あなた達に歓迎される、わけには――いかない、の」
 せっかくの獲物を横取りされたオウガが色めき立つ。が、瑠碧は慌てず騒がず、右腕で空に円環を描き上げた。
 そこから湧き立ったのは、花を封じたのと同じ水泡。されど空っぽのそれらは、二手に分かれて水流に乗る。
 ひとつの流れは、愉快な仲間たちを守る壁と化す。
 もう一つは、珊瑚の林をかきわけオウガの少女たちの許へ。
「もう、大丈夫?」
「エエ! アリガトウ」
 ロボ娘を泳ぎ寄って来たシャチの背へ預ければ、いよいよ瑠碧自身が風となる――いや、風ではなく風の精霊の力を翼と成した、優しき守り手だ。
 ひらり。煮えたぎる紅茶の洗礼を躱し、瑠碧は不可思議な海を翔る。生じる、新たな流れ。それが林を漂う泡を刺激し、刃へと転じさせてオウガらを翻弄する。
 淡青の髪が、花びらのように翻り。上空から注ぐぼんやりとした白光を、結んだばかりの露のようにそっと弾く。
「……どうか、安らかに」
 為していることは、滅する行いであろうとも。心には慈しみの祈りを秘めて瑠碧は舞う。
 見れば、愉快な仲間たちが生まれて初めての花たちと戯れている。きっと良い思い出になるだろう――良い思い出にするために、元の世界へ必ず還すのだ。

 オウガの消滅を知らしめるよう珊瑚の林が消失した後、瑠碧は花の泡を手元へ呼び戻す。
「……これも、また。何時か、何処かで、咲くように」
「イイデスネ。キット綺麗デス」
 瑠碧が受け取り損ねた一輪を拾い上げたロボ娘も、瞳に澄んだ青を灯らせる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルバ・アルフライラ

ジジ(f00995)と
呑気に言っておる場合か?

…我が友人達よ
お楽しみのところ失礼
折角の歓待ですが大切な事を忘れてはなりますまい
誘いを受けるからには――少女達が喜ぶ余興を考えねば!

作戦会議で上手く気を逸らしつつも
香しい茶と菓子の匂いに頬を緩め
仲間達の眼前、極彩の糸から魔術で織った魔法の絨毯で
楽しい茶会のはじまりはじまり

さてさて皆さん
素敵な案は出ましたか?
私ならば…そうですね
【宝石商の狂宴】で天翔る天馬、咲き誇る花々
羽搏く鳥の彩も拘り抜いた虹色で演出
ふふん…流石私、完璧だ
幻影に操る間も油断せず
胸倉を掴まれぬよう従者の後ろへ
ジジ、其処でカウンターを決めていけ!(念)

…おや、午睡ですか
それは残念です


ジャハル・アルムリフ

師父(f00123)と
少女らへ招かれゆく愉快な連中
…よく食うのだな、兄弟達も

む?あれこそが不届き者か
皆、あれに惑わされてはならぬぞ

師へと静かに拍手し
意を汲めば
外套や荷から取り出したるは
丁寧に包んだ師好みの焼き菓子
師の荷からは茶器
小さな火吹く仔蜥蜴が湯を沸かせば
そこらが焦土と化す窮地を幾度も凌いだ
~師父の緊急ご機嫌取りおやつ(応用)~の完成

給仕歴とて20余年
小娘ごときに遅れは取らぬ
柔らかな絨毯へと、愉快な連中も手招いて

邪魔は当然、故に師を庇い
されど此れは茶会
素早くも恭しげに、舞踏の誘いに似せ娘の手を取る
からの【想葬】
珊瑚の影から影へ
動いていれば薬瓶も当たるまい

兄弟たちよ
娘らは午睡の時間らしいぞ



●淑女の午睡~師父の緊急ご機嫌取りおやつを添えて~
 アイス・パーティーを催したのは、つい先ほどのこと。
 だのにもうミルクセーキや紅茶につられている愉快な仲間たちの後姿に、ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)は丸い息を零した。
「……よく食うのだな、兄弟達も」
 己を含んだ感嘆ではあるが、愉快な仲間たちとジャハルでは体格差があり過ぎる――シャチとはほぼ同サイズだが。にも関わらず、彼ら彼女らはまだ食べると言うのだ。その食欲に畏れ入る。
 末は鯨か大太刀か、はたまたゴーレムか。
(「……ん? ならば犬諸氏はどうなるのだ」)
 シャチや太刀魚、ロボとは違い、巨大に成長した未来図の描けぬ犬に、ジャハルの眉間に縦皺が寄る。
 そんな弟子の風情に、アルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)は盛大なため息を吐いた。
「ジジよ、犬は犬のままだし、他の皆も種は変わらぬ。そもそも、呑気に考えておる場合か?」
「、っ師父は俺の考えが読めるのか」
「阿呆。それだけ目に星を散りばめておいて何を言う――いや、こんな事をしている場合ではなかった」
 流石は師父。何から何までお見通しとは。と、胸を打ち震わせたジャハルは、続いた師父の慧眼ぶりに意識を現実へと引き戻す。
「……我が友人達よ。お楽しみのところ失礼、折角の歓待ですが大切な事を忘れてはなりますまい」
「!!」
 愛らしい――とはいっても、師父の足元にも及ばぬがとはジャハル談――形をした少女と愉快な仲間たちの間に、アルバは意図をもって割って入っていった。
 つまり、あの少女らは惑わされてはならぬ不届き者だということだ。
「誘いを受けるからには――少女達が喜ぶ余興を考えねば!」
「まこと、師父の言う通り」
 アルバの声をないがしろに出来る愉快な仲間たちは、ステラ・マリスにはいないだろう。然して師の意を汲んだジャハルは、静かな拍手で『場』と『雰囲気』を創り上げるのに加勢する。
「よきょう??」
「成程、手土産のヨウナもので御座るか」
「いえ、そんなものはいらないいのよ?」
「素敵! 何ヲスレバイイノカシラ」
「だからいらないって!」
「手品か? 漫才も捻りがあって良さそうであるな」
「だーかーらああ!」
 ――ふわり。
 合間に甲高い文句を挟むかしましさの間を、甘い香りが漂った。
 何事かと源を探せば、外套の内ポケットからジャハルが焼き菓子をひとつ取り出したところ。さらにジャハルは荷を漁り、次なる菓子をひとつ、ふたつ、みっつよっつと取り出す。
「茶請けは、こんな処か」
 オレンジピールをあしらったフィナンシェに、砕いたナッツを混ぜ込んだクッキー。干した苺と一緒に焼き上げたパウンドケーキに、星型に作ったマドレーヌ。
 一揃い並べて頷いたジャハルは、今度はアルバの荷物の中から、陶磁の肌に玉簾と霞草が描かれた茶器一式を引っ張り出した。
「ナジュム、任せたぞ」
「ピギャ!」
 お湯を沸かすのは、小蜥蜴と称される仔竜の役目。小柄な体躯に見合わぬ高火力に、見る間に水は湧き立ち、注がれたポットで初摘みの茶葉を躍らせる。
 周辺を、アルバさえ目を細める芳醇な香りが満たす。
 無骨な武人を思わすジャハルは、その実、給仕歴20余年。ぽっと出の小娘に後れを取るはずもない。野営においても一分の隙なく整えられたそれらは、名付けて『~師父の緊急ご機嫌取りおやつ(応用編)』。これで幾度、そこらが焦土と化す窮地を凌いだことか!
「さぁ、兄弟。共に論じようぞ」
「堅苦しく考える必要はありません」
 ジャハルの手招きに合わせ、アルバが極彩の糸から魔術で折り上げた絨毯を広げると、楽しい茶会のはじまりはじまり。
 ふわぁ、やら、おおお、やら、目が点やら、口をあんぐり、やら。銘々の反応を示していた愉快な仲間たちは、どっと茶会に参じて頭を突き合わすことを楽しみ始める。
 アルバの立腹さえ収める極上の菓子と極上の茶にご満悦な彼ら彼女らの気は、ミルクセーキや熱いばかりの紅茶に揺らぐ余地皆無。
 更に名家の執事もかくやというジャハルの給仕を受けて、愉快な仲間たちは『此処』がステラ・マリスでないことを忘れて賑わい、そんな同胞へアルバは天の御使いのように微笑んだ。
「さてさて皆さん、素敵な案は出ましたか?」
 宗教画の如き美しさだ。同時に、見た者を圧倒する笑みだ。で、圧倒された者はどうなるかと言うと。
「え、あ……」
「そうで御座るナ」
 上手く二の句が継げなくなって、だいたいのシーンにおいて押し黙る。当然、愉快な仲間たちもそうだった。そして、それもアルバの狙い。
「難しく考えなくても大丈夫ですよ――私ならば……そうですね」
 さあ――宴を始めるとしよう。
 手綱を緩めればいつまでたっても話がまとまらないこと請け合いの愉快な仲間たちのペースを完全に掌握し、アルバは歓待の返礼宴を魔法の力を借りて思い描く。
 中空に、天翔ける天馬が蹄の音を響かせた。
 珊瑚の林に、色とりどりの花が乱れ咲く。
 ピピピと囀り歌うのは、虹色の小鳥だ。その羽搏きは、不思議とラヴェンダーに似て香る。
「流石デス! コレハ見惚レズニイラレマセン!!」
「うむ。歓待でアルバ殿の右に出る者無しだな」
「それほどでも――ありますね」
 ふふん。流石、私。完璧すぎて非の打ち所なぞありはしない。
 師父、と。ジャハルが差し出すティーカップをご満悦に受け取ったアルバは、至福の味わいを口に含みながら自賛に酔う。
 ――が、しかし。
 彼は、策士。
 創り上げた幻影は、愉快な仲間たちの気を引くだけのものではない。
「ちょっ、邪魔よ邪魔!」
「鬱陶しいったらないのよ」
「あなた達、こっちのお茶も味わいなさいな」
 アルバの魔力がほつれ糸の端まで行き届いた絨毯――という名の、絶対テリトリー――の外では、オウガの少女たちが天馬に蹴飛ばされ、花粉にまかれ、鳥に啄まれて右往左往。
 されど彼女らがどれだけ声をあらげても、その訴えが愉快な仲間たちに届くことはない。何せアルバと可愛らしいだけの少女(オウガ)では格が違うのだ、格が。
 とは言え、オウガはオウガ。半ば力技で美麗な幻の壁を突破しようと足掻き、ついに一体の手がアルバへ伸びた。
 けれど、ジャハルが居る。天よ星よ神よと崇める(?)師父への暴挙を、ジャハルが見逃すわけがない!
「――失礼」
 今ばかりは身も心もいつか書物で読んだ家令になりきったジャハルは、優美な仕草でオウガの少女の手を、踊るように掬い上げる。
「心からのもてなしの支度が整うまで暫し――眠れ」
 アン、ドゥ、トロワ。
 ワルツのリズムで広げた竜翼で少女を包み込み、放つかたち無き手向けでジャハルはオウガの命そのものを蝕む。
「……ぁ」
 力なく頽れた少女に、断末魔を上げる余力はない。斯くして彼女たちはまた一人、また一人と眠るように珊瑚の森に沈みゆく。
 そして粗方片付いた頃、ジャハルは相談に夢中な『兄弟』たちへ宴の終わりを告げるのだ。
「生憎だが、娘らは午睡の時間らしいぞ」
 えええ、と上がる不満は織り込み済み。「それは残念です」とアルバが嘆き嘯けば、愉快な仲間たちは『アルバに非礼を働いた』少女たちのことなぞ、きれいさっぱり忘れ去る。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ


はいはいちょぉっと待ったー
仲間たちとの間に割り入って、【焔宴】でフライパン召喚したなら
敵の攻撃*見切り直撃避け敢えてそれをフライパンに受け止めるわネ
ちょっとぉお嬢サン、コレ熱過ぎてヨ?
客人に火傷負わそうだなんて無礼もイイトコね

食事ってのはヒトを笑顔にする為にあンのよ、舐めないで頂戴な
フライパンを振れば舞い上がる焔
熱湯は適温にし直して携帯してるお茶と調理ツールで美味しいお茶を淹れましょう
可愛さだけで生きていける程甘い道じゃなくてよ
ついでに隙見て一撃入れときましょうか

さあさ、皆サン見た目に騙されてちゃ痛い目見るヨ
お茶でも飲んで落ち着いて
此処へ来た経緯でも思い出してみなさいな



●続・美食街道
「はいはいちょぉっと待ったー」
 ――じゅううう。
 コノハ・ライゼ(空々・f03130)のゆらり大音声の直後に響いた、オーバーヒートしたロボットに氷水をかけたみたいな音に、ふらり少女たちに吸い寄せられかけていた愉快な仲間たちの足が止まった。
「え、え? いまのなあに?」
「私、壊レテマセンヨ!?」
 片や瞬き、片や明滅。それぞれ目の仕草で驚きを現すシャチとロボの様子に、どこからともなく――ユーベルコードで召喚しただけだが――取り出したフライパンを構えたコノハは、ふぅ、だか、はぁ、だか気の抜けかけた息を吐く。
『お茶を楽しみましょ?』
 にぃっこりと笑みを蕩けさせた少女がティーポットを振り被った瞬間、コノハは半ば反射で砂を蹴った。
 口で言ったところで間に合わないだろう。
 だから少女と愉快な仲間たちを結ぶ直線の真ん中に滑り込み、とっておきのゴチソウ時間を開宴したのだ。
「ちょっとぉお嬢サン、コレ熱過ぎてヨ?」
 熱々のフライパンで受け止めた紅茶は、着弾したかと思うや否や、雫の一滴も残さず蒸発してしまった。
 無臭の蒸気の名残にクンっと鼻を鳴らし、不作法な少女たちへ嘲笑を含んだ視線を流す。
「客人に火傷負わそうだなんて無礼もイイトコね。知ってる? 食事ってのはヒトを笑顔にする為にあンのよ、舐めないで頂戴な」
 悪食で、酒が好きで。何より肴は笑顔が一番なコノハにとって、少女らの行いは許しがたい暴挙そのもの。
 イタダケナイ。全く以て、イタダケナイ。
「本当のおもてなしを、教えてアゲルわ」
 唇には微笑みを、薄氷の眸には冷えた苛立ちを浮かべ、コノハはフライパンを正しく振り上げた。
 途端、紅蓮の焔が舞い上がる。周囲を満たすのは不可思議な海水だ。それらはコノハが繰る熱で真水の――ふつふつ沸き立つお湯と化す。
 それは紅茶を淹れるに最適な温度。こんなこともあろうかと携帯している調理ツールで汲み取って、ティーポットに少し注いで温めたなら、今度は茶葉をインして人数分のお湯で満たす。
 覗かなくとも、茶葉がティーポットの中で踊っているのが分かる。こうして十分に蒸らし――。
「さぁ、味わってご覧なさいナ」
「「っは??」」
 差し出されたステンレスのマグカップに、少女たちの目が点になった。コノハ的には陶磁のカップでないのは口惜しいが、そこまで頭がまわる少女たちではない。
「「え? ええ?? えええええ??」」
「いいカラ。さっさと、飲む!」
「「はっ、はいっ」」
 勢い負けした少女たちが、恐る恐るカップに口をつける。
「「!!!!」」
 驚きから感動へ。点だった目が見開かれ、やがて頬が紅潮するのをコノハは「それみたことか」と眺めた。
 可愛いだけで生きていけるほど、甘い道ではないのだ!
 同時に、猟兵の前でオウガが逃げ果せる道理もなし。
「さあさ、皆サン見た目に騙されてちゃ痛い目見るヨ」
 愉快な仲間たちへはっぱをかけつつ、コノハは振り返る――問答無用でオウガへ裏拳をぶちこみながら。
「アタシが淹れたお茶でも飲んで、落ち着いて」
 一撃、二撃。
「此処へ来た経緯でも思い出してみなさいな」
 三撃、四撃。
 はぁい、と我に返る愉快な仲間たちとは裏腹に、紅茶を堪能する姿勢のままオウガ達は無言で頽れて逝くのだった。まる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リュカ・エンキアンサス

オズお兄さんf01136と

えっと…
説得とかそういうのは苦手なので少し途方に暮れて、お兄さんに軽く目配せする
ここは任せた
そうしてささっと愉快な仲間たちからは見えないように回りこんで、
目に入りにくい敵から取りあえず撃っていく
勿論、積極的に危害を加えようとするなら容赦なく戦うけど、今回はどちらかというと暗殺寄り
成るべく攻撃範囲外から撃つけれども、範囲内の場合は第六感を信じて逃げる

え、でもあのお兄さんのロボットいいな。乗ってみたい
薙ぎ払えーって。ビームとか出してみたいなあ……
なんて、なんとなく思いながらも的確に倒していくよ
お兄さんが掴まれたら、援護……
……必要なかった
いや、お兄さんは頼もしいなって


オズ・ケストナー

リュカ(f02586)と

みんな、まって
えーとえーと
かわいいといえばやっぱりぬいぐるみかな?
まほうつかいのおじいさんもそういってたものっ

考えながらガジェットショータイム
おおきなうさぎのロボット

わあ、おおきい
みんなみてみてっ

愉快な仲間たちの注目を集めて足を止めてるうちに
リュカがきっとうまくやってくれる

うさぎも首から下げた懐中時計が開けば
少女を狙ってビームがぴーっ
当たれば花がぽん
サンゴの森に花をさかせるよっ

胸倉を掴まれたら
少女の肩に手を置いてくるんと転回にチャレンジ
わわっ
上手くできたら両手を上げてポーズ
どうしたの、リュカ?
褒められたら誇らしげ

みんなへの攻撃は武器受け
あとでちゃんとお茶会、しようねっ



●Lovely&Cool
 かわいい、かわいい。そう連呼しながら離れてゆく背に、リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)は困惑した。
「……え、っと」
 途方に暮れる眼差しが、うろりと宙を迷う。例えば今すぐ、愉快な仲間たちを閉じ込めてしまえと言われたら、リュカは効率のよい方法を見い出し、即座に実行に移すことが出来ただろう。
 けれど、大切な思い出のある彼らに痛い思いはさせたくない。ならば必要なのは言葉による『説得』だが――。
(「……そういうのは、苦手」)
 込み上げた苦みをこくりと飲み干し、リュカは明確な意図をもって傍らを見た。
 事態に呆気に取られているキトンブルーの瞳とかち合う。そこで、軽く目配せた。
 ――ここは、任せた。
 鼓膜を震わせることのないリュカの声は、正しくオズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)へ伝わった。確かに、説得はいつでも笑顔のオズの方が適任だろう。
「っ! み、みんなー。まって、まって。ちょっと、まって!」
 とはいえ、即座に回答を見い出せるほどオズの思考は効率的ではない。
「えーと、えーと」
 大声を出して引き止めたはいいが、続けるべき最適解を探してオズは目を泳がせた。連れる白と桜の少女――シュネーに助けを求めても、人形である彼女は微笑むのみ。けれどそれが悪戯含んだものに思えた瞬間、オズは閃く。
(「そうだ。かわいい!」)
 愉快な仲間たちは『かわいい』に魅了されている。それなら、もっともっと『かわいい』ものをみせれば良いに違いない。
(「かわいい、かわいい……やっぱり、ぬいぐるみかな?」)
 いつか力を借りた魔法使いのおじいさんがそうしたように!
「よおし、ガジェットショータイム!」
 呼びかけよりも高らかな聲に、シャチと犬がぱちりと瞬いた。何が起きるのだろう、と期待している表情だ。
 そしてその期待は裏切られない。
「わあ、おおきい。みんな、みてみてっ」
「うわあああ、ボクよりおっきなロボさんだ!!」
「ただのロボ嬢じゃないぞ。あれは……ウサギさんだ!」
 ずぅん。砂を巻き上げ降臨したのは、巨大なウサギのぬいぐるみロボット。少し垂れ気味のお耳には、虹色のリボンが巻かれている。さらに――。
「ひえっ、なにかひかったよ、ひかったよ!!」
「うむ、ビームだな。ビームであるぞっ」
「うん、ビームだよ。けど、あたってもへっちゃらなんだ」
 うさぎロボが首から下げた懐中時計の蓋がパカっと開いたかと思うと、七色の光が放射状に放たれて、珊瑚に当たると「ぽんっ」とポップコーンが弾けるみたいな破裂音をたてて花を咲かす。
 世にも奇妙な光景だ。でも一秒たりとも目が離せない。わくわくでウキウキで、かわいらしい光景だ。
「さすが、お兄さん」
「!?」
「――」
 任せた以上の効果に、珊瑚の林に溶け込み潜んでいたリュカは感嘆を零し。予期せぬ場所から聞えた人声に顔色を変えた少女姿のオウガの首筋を、約5メートルの距離から無言で射抜く。
 咲き乱れる花々に紛れて、一体のオウガが息絶えた。だが標的はまだ多くいる。
 素早く一帯を見渡し、リュカは次のターゲットを択ぶ。愉快な仲間たちの位置からは、死角になる個体。或いは、今にも襲い掛かろうとしている個体。
 傭兵として戦場を渡り歩くリュカの手に最も馴染む相棒は銃だ。つまり、狙撃はお手の物。
 一体を仕留めた満足に浸ることなく、リュカは即座に場所を移動し、新たな獲物に照準を定める。珊瑚の林に紛れ、静かに、密やかに。オズが齎した「かわいい」に心奪われている愉快な仲間たちの目に、惨状を映さぬよう配慮を尽くして。
 振り返り様の少女の眉間を射抜いた。
 物陰からシャチに組み付こうとしていた少女の心臓を、背後から一撃で貫いた。
 有象無象のオウガになぞ、反撃の隙さえ与えやしない。
 撃つ、仕留める。撃つ、仕留める。撃つ、仕留める。淡々と繰り返しながらも、不思議とリュカの心は荒まない。すっかり慣れてしまったのか、それとも「かわいい」の副次効果か。
 視界に入る粗方を片付け終えて、リュカはゴーグルを押し上げ、改めてうさぎロボを見た。
「……乗ってみたいな」
 年相応の少年心が、疼く。
 アレに乗って、ビーム連射とかしたらカッコいいかもしれない。薙ぎ払え! とか言いながら。
 ――と、そのとき。
「っ!」
 しまった、と言うより早くリュカはアサルトライフルを構えた。
 覗き込んだ照準に、オズ目掛けて走る少女が入った。
(「間に合え――」)
 見落としに焦る心を気力で静め、トリガーに指をかける。あとは幸運を信じて引くだけ――かと、思いきや。
「ねぇ、いっしょに女王陛下の元までいきましょうよ――」
「わわっ」
 胸倉をつかまれたオズが、少女の肩に手を置いた。そしてそこを基軸に、くるりと体を入れ替える。
 少女がバランスを崩す。その頭上から虹色の光が降り注ぎ、オウガであったはずのものは無害な巨大フラワーへ早変わり!
「凄いですぞ、凄いですぞオズ殿」
「かっこいいい」
 愉快な仲間たちの喝采は、リュカの感想と同じもの。不要だった援護に、知らずリュカの肩から力が抜ける。
 今度こそ、オウガは片付けきっただろう。
 油断なく確認を終えてリュカが歩み寄ると、年上の貌のオズが首を傾げていた。
「どうしたの、リュカ?」
「いや、お兄さんは頼もしいなって」
「ええええ、そうかな?」
 衒いなく誇らしげに胸を張る様は、かわいらしく。でもやっぱり、かっこいい。その実、似たようなことをオズもリュカに対して思っているのだろうけど。

 全てが丸く収まったら、改めてお茶会をしよう。
 その時は、猫舌でも楽しめるお茶を用意して。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『雪の女王』

POW   :    【戦場変更(雪原)】ホワイトワールド
【戦場を雪原(敵対者に状態異常付与:攻撃力】【、防御力の大幅低下、持続ダメージ効果)】【変更する。又、対象の生命力を徐々に奪う事】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
SPD   :    【戦場変更(雪原)】クライオニクスブリザード
【戦場を雪原に変更する。又、指先】を向けた対象に、【UCを無力化し、生命力を急速に奪う吹雪】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ   :    【戦場変更(雪原)】春の訪れない世界
【戦場を雪原に変更する、又、目を閉じる事】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【除き、視認外の全対象を完全凍結させる冷気】で攻撃する。

イラスト:熊虎たつみ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はアララギ・イチイです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


【事務連絡(6/17記)】
第三章は導入部追記後に、日時を決めた上、『再送前提』でプレイング受付を開始致します。
詳細は近日中にマスターページにてお報せしますので(予定)、プレイング送信前に必ずご一読下さいますようお願い申し上げます。
 
●めくりめくって、めぐりくる
「こまったわ。アリスの歓迎だけではものたりなかったのかしら」
「かなしげに語る女王様の声は、ふしぎとはずんでいました」
「だって客人は足を止めなかったのです。それほどまでに、自分に会いたいと思ってくれているのです」
「――うれしい」
「女王様は、ふぅ、と白い息をはきました」
「するとどうでしょう? 小さな光は大きな氷となって、世界をもっともっときれいにしたのです」
 気温が下がったのは一瞬だった。
 指がかじかむほどの冷気が一帯に漂い、先ほどまで待機中で煌めいていた光が見る間に育ち、大人が一抱えするくらいの氷塊と化す。
 いや、ただの氷塊ではない。花、鳥、魚、シャンデリアにティーカップ、おにんぎょう。種類も種別も雑多だが、それら全てが美しく可愛らしい形のものばかり。

「よろこんでくれるかしら? いいえ、きっとよろこんでくれるわ」
「女王様はうっとりとほほえみます。だってこの時を、ずっと待ち望んでいたのです」
「わたくしだけを見て? わたくしだけを、愛して?」
「ずっとずっとわたくしのそばにいて? ほかのどこへもゆかないで?」
「楽しかったでしょう? 美味しかったでしょう? これからも、しあわせにしてさしあげるわ」
「女王様は客人をてまねきました。ついにハッピーエンドの時が訪れたのです!」
 太陽が輝く空が、氷の天井に閉ざされ、さらに気温――水温――が下がる。おそらくこのまま氷漬けにしてしまおうという魂胆なのだろう。
 美しい女王様、ひとりぼっちな女王様、可哀想な女王様。
 狂って壊れた女王様。
 彼女は疑うべくもなくオブリビオン。
「わたくし、ほんとうにまっていたのよ?」
 一体の少年の氷像を抱き寄せ、女王様――雪の女王は妖しく目を細めた。
「あなたもわたくしのもの。わたくしと、永遠をすごしましょう」
 邂逅の時は、物語の終着点。
 だが、猟兵の『物語』はここで終わらせてはいけない。
「きれいなこおりは、ぼくたちにまかせて!」
「皆様ニ害ヲ与エナイヨウ、私タチガドウニカシマス」
「しゅぱっと行くデ御座る」
 黒白反転したシャチに跨ったロボが解析と案内を請け負って、太刀魚たちが氷塊を切り伏せる。
「時限爆弾のようなものだよ。しかし心配は要らない」
 モノクルの奥の瞳を理知的に煌めかせた犬が、どんっと胸を叩く。
 猟兵に守られ、猟兵の背を見続けた彼ら彼女らは、強く、逞しく、成長していた。
 ならば猟兵は懸念の一つも抱くことなく、雪の女王と対峙できるだろう。邪魔なのは、身も凍る寒さだけ。
 そして――もし。もし、叶うなら。
 穏やかで温かい終わりを『彼女』へ。だってステラ・マリスがそういう国だから。
コノハ・ライゼ


おやおや随分逞しくなったコト
オブリビオンは喰らってオワリ……と行きたいトコだけど
氷をとかせと言うならそうしマショ
ソレがこの国の人の心なら

氷塊を止めてくれてる隙を無駄にせず女王の元へ
*オーラ防御で身を守り*激痛耐性で痛み凌ぐケド怯みはしない
右人差し指の「Cerulean」に口付け剣を形成
【天齎】纏わせ斬りつけるわ

寂しかったのネ
でも奪い押し付けるだけじゃ、幸せは根付かなくてよ
凍らせてしまえばまたアンタは独りぼっち

*2回攻撃で*傷口をえぐるようまた斬りつけていこうか
生命は喰らわないでおくわ、今のアンタはきっと美味しくないもの
代わりに、寂しくない場所へ送ってアゲル
決して相容れない命達とは違う海へ


泉宮・瑠碧


貴女が、寂しい方…
…逢いに、来ました

皆も、守れる様に
氷の精霊へ寒さを退く様に願い
風の精霊は声を届けてとも

誰かが来る事は、純粋に嬉しい、と
狂って壊れた事を想い
ぽつりと涙
…貴女は、頑張っていたの、ですね

ずっとは、居られなくても
眠るまで、傍に
温かさを知り、穏やかに眠れる様に願う、子守唄を

寒くても、凍えても
傍へ行き、歌います

精霊達、お願い…
今は独りでは無いと、伝えられるまでで、良いから
凍結を防いで

女王の手を取って
私達とも、偽アリス達とも、笑い合う姿を思い描いて
心に抱えていられますよう…永遠揺篭

寂しくない様に、想い、祈り…ずっと、覚えています…
愉快な仲間達の皆も、女王を覚えていてあげて

…おやすみなさい



●東雲の風、硝子の歌
 尖った耳の先が、赤を過ぎて紫に変わっている。凍傷になる直前だ。冷たいというより、痛みとして感じる寒さに、泉宮・瑠碧(月白・f04280)は白く凝る息をそろりと吐く。
「会いに来てくださったのでしょう?」
「ならば、身体の芯まで氷って下さいな」
 震える瑠碧の心に、虚ろな声が突き刺さる。
 光のないグレーの眸は、雪を降らす分厚い雲の色。開けた空から世界を閉ざす彩。
「貴女が、寂しい方……」
 短く言葉を紡ぐだけで、唇がかじかみ強張った。無理に動かせば、切れてしまいそうだ。瞳の表面にも、違和感を覚える。だがそういう理由ではなく、瑠碧はことさらゆっくりと、俯き加減だった視線を上げた。
「……逢いに、来ました」
「でしょう? でしょう? なら……!」
 思いの外、近い距離にいた雪の女王の口元が綻ぶ。心から喜んでいる表情に、瑠碧の胸は引き絞られるように痛んだ。
 彼女は――雪の女王は、間違いなくオブリビオンだ。
 しかし『感情』は自分たちの持つそれと変わらない。
 ――誰かが来る事は、純粋に嬉しい、と。
(「……そうやって、待って、願って、狂って壊れて……」)
 寒さを退けるよう、氷の精霊へは祈っている。だのに一向に温度が緩む気配がないのは、雪の女王の力がそれだけ甚大だということだ。
 この世界の冷たさは、冷え切った彼女の心そのもの。
 知らず溢れた涙が、瑠碧の頬で凍り付く。流れて、浄められることを拒んでいるみたいだ――そう思うと、また膨れ上がった涙が氷になった。先ほどまで中空に漂っていた光粒に酷似している。気付いた瞬間、瑠碧は風の精霊に強く強く願う。
 ――せめて声だけでも。
「……貴女は、頑張っていたの、ですね」
「――! そう、そう、そう! 私は、ずっと、ずっと――!!」
 そこで初めて、雪の女王の貌が輝いた。同時に、彼女が負う虹色の氷柱がぐんっと成長した。
「分かって下さる? 分かって下さるのなら、――」
「だめだよ!!」
「シャチ、そう言うアンタも無理はしない」
 女王の指先が不穏に蠢いたのを見定めたのは、一体のシャチだ。恐ろしい雪の嵐が来ると本能で察したシャチは、それを阻止しようと雪の女王へ突進しようとして――東風のように颯爽と駆けたコノハ・ライゼ(空々・f03130)に体を入れ替えられる。
「まったくもう、随分と逞しくなったコト! ケド、こっちはアタシ達に任せておきなさいナ」
 シャチも、自身も。互いの速度は殺さず、コノハはシャチの目と進行方向を今にも降り来る氷のシャンデリアへ移させ、代わりに雪の女王へ肉薄する。
「オブリビオンは喰らってオワリ……と、行きたいトコだけど」
 ただ立ち尽くすようでありながら隙のなかった女王に、攻める余地が生まれたのは、瑠碧の声に彼女の心が動かされたからだ。
 やけに人間くさいオブリビオンだ。
 いや、彼女も元はただの人であったのか。生まれや謂れはよく分からないが、コノハは常とは異なる遣り方を躊躇なく選ぶ。
 だってソレが、この国の人の心だと思ったから!
「っ、氷をとかせと言うなら。そうしマショ!」
 襲い来た冷気塊を、コノハは正面突破を試みる。小さいくせに礫みたいな雪が、コノハを凍らせようと張り付いてきた――が、何食わぬ顔のコノハは、右一指し指に絡む燻銀の耀きに口付けを落とす。
 途端、指輪であったものが剣の本性を顕わにする。
「寂しかったのネ」
 祝杯を――と短く唱え、邪を纏わせた剣でコノハは女王へ斬りかかった。
 まずは一閃。そして間合いを保ったまま、もう一閃。野生の獣を思わす軽やかなコノハの動きに、優美で冷たい女は翻弄される。
「でも奪い押し付けるだけじゃ、幸せは根付かなくてよ」
 ありがたいご高説を垂れるつもりは、指の先ほどもありはしないコノハだ。故に、論じるのはただの現実。でも、無慈悲に生命を喰らう事を今日は自重する。
(「今のアンタは、きっと美味しくないもの」)
 皮肉めかして上がった口角を隠すことなく、コノハは女王に顔を近づけ、ふっと短く鼻を鳴らすとバックステップで距離を取り直す。
「分かるデショ? 凍らせてしまえばまたアンタは独りぼっち」
「――ッ! それでも、それでも、私はっ」
 感情の昂りに氷柱を赤変させた女王の繰る雪嵐が、コノハを弄る。冷凍庫にぶち込まれたみたいな痛みが、コノハの全身を蝕む。しかしコノハは、展開したオーラの壁で氷像と化すことだけは回避する。
「もら、アンタも言いたいコト。まだまだあるんでショ?」
 これっぽっちも痛みは感じない貌で、コノハは瑠碧を振り返った。
 ――寂しくない場所へ、送ってあげるのだ。
 ――決して相容れない命達とは違う海へ。
「……はい」
 壁の如く聳える冷圧へ、瑠碧も力強い一歩を踏み出す。
「ごめんなさい――ずっとは、居られない、……けど」
 どうしても傍へ行きたいのだという瑠碧の強い祈りに、氷の精霊が薄い膜を祈りの娘の前面へ張ってくれた。
 長くは保たない。許されるのは、ほんの一時。でもそれで十分だ。『今』は独りで無いことを伝えられれば、それで良い。
「……凍て、居てくれないのですか?」
「寂しくない様に、想い、祈り……ずっと、覚えています……」
 ――泣かない。
 寒さにひび割れた唇を噛み締め、激しさを増す冷気嵐の中を瑠碧は進む。時折、風が緩むのはコノハのお陰だろう。頼もしき同胞に今は素直に感謝して、ついに瑠碧は雪の女王に触れる位置に立つと、冷たい手をそっと掬い上げた。
「なっ!?」
「我は願う、痛みも苦しみも無く、ただ深い眠りへ到れる事を……」
 紡ぎ出す歌は、穏やかな眠りを齎す子守唄。自分たちや、偽アリス達とも笑い合う姿を夢に見られるように――。
 すぐに眠らせられはしないだろう。もっと多くの猟兵の手がいるはずだ。けれど瑠碧もその一翼。そして必要な時間のうちに、愉快な仲間たちにも雪の女王のことをしっかりと記憶に刻んでもらえるよう祈りながら、瑠碧は細く長く歌い続ける。

 おやすみなさい、サヨウナラ。
 次はきっと、笑い合える場所で。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

オズ・ケストナー

リュカ(f02586)と

氷の対応をしてくれるみんなにお礼
リュカ、さむそう
わたしはへいきだよっ

ハッ
ねたらしぬぞーってやつだね
わかったっ

呼ばれたら
がんばれがんばれリューカっ
おきて、おきてっ

ガジェットショータイム
熱を持つ光の玉が生まれるバズーカ
力は調節できるみたい
リュカの近くにうかせてたらあったかいかな?

ねえ、じょうおうさま
ありがとう
わたしたちのこと、よろこばせてくれようとしたんでしょう?

でもね、こおりづけにされたらおはなしできないし
にこにこし合うこともできないよ
いっしょにきれいだねとかたのしいねって笑えたら
わたしはそのほうが、ずっとずっとうれしい

手袋と光の玉で
冬の日のひだまりのようなあたたかさを


リュカ・エンキアンサス

オズお兄さんf01136と

…寒い
お兄さんは大丈夫?
…そう
俺も寒くないように、頑張って動こうと思います
お兄さん、俺が寒さで寝そうになったら起こしてね
死ぬから。俺が

と、いうことで、指先を向けられないように気をつけながら銃で撃ってく
向けられたとしてもどのみちこの寒さだから、生命力奪われなくても危ないので短期決戦を心がけて積極的に攻撃していくね。
……お兄さん眠くなってきた
寝ないように声掛けしながら
お兄さんと連携をとりながら攻撃
あったかいの有り難い

倒す直前に手袋を脱いで女王へ手を差し出す
抱きしめてあげることはできないんだ。ごめんね
?何って、ご餞別かな
ついでに握手
だって、死ぬ時まで寒いのは嫌だろ
お疲れ様



●かじかむ手に温もりを
 ステラ・マリスとよく似た『水』の中を、ステラ・マリスの愉快な仲間たちが縦横無尽に翔けている。
 一番機敏で小回りが利くのは太刀魚だ。勢いと威力が抜群なのはシャチ。そのシャチの泳ぎがめくらめっぽうにならないのは、ロボがレーダーの役割をしてくれているからで。地面から犬が全体を統括している。
「みんな、ありがとう!」
 頼もしさに、感嘆と礼を込めてオズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)は手を振り、感動の同意をリュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)にも求めようとして――固まった。
 愛用のジャケットの首元を手繰り寄せる少年の顔色は青褪めているのに、鼻の頭だけが赤い。
「リュカ、さむそう」
 慌てて駆け寄ると、リュカからは素直な「……寒い」という応えが返され、「お兄さんは大丈夫?」と続けられる。
 ――さむいだろうか?
 少しだけ、オズは考えた。腕や肘、膝の動きがいつもより鈍い気がしないでもないが、特に問題になるほどではない。球体関節が顕わになる手首や指も同様だ。動けるようになって、まだ四年。『ひと』とはちょっと違うのかもしれない――などという難しい理論とかは、オズにとってはどうでもいい。
 さむいか、さむくないか。大事なのはそれだけ。
「わたしはへいきだよっ」
 いつも通りの朗らかな声は湯気が上がりそうな溌剌ぶりで、寒さに折れそうなリュカの心を懐炉みたいに心を解きほぐす。
「……そう」
 ――なら、俺も。寒くないように、頑張って動こう。
 息を吸ったり吐いたりするだけでビリビリと痛む鼻頭を、両手で囲い、吹き込む息で温めて。リュカはぐっと丹田に力を込めた。
「お兄さん、俺が寒さで寝そうになったら起こしてね――でないと、死ぬから。俺が」
「えええええ、リュカしんでしまうの!?」
「そう。だから、必ず起こして」
「!! わかった、ねたらしぬぞーってやつだね。りょうかい!」
「――楽しそうね」
 不意に、女の声がリュカとオズの鼓膜に揺らいだ。体格で上回るオズを肩に担ぎ、リュカが瞬間的に駆けたのは、戦場経験の豊富さゆえの無意識の選択と、いつもより重力が小さいおかげ。
「じゃあお兄さん、任せたよ」
 一所に留まってはいけない。肩からオズを下ろしたリュカは、ジグザグに走り出す。
「女王様、こっちだよ」
 姿勢を整えぬまま、リュカは雪の女王へ銃口を向ける。照準を合わせる余裕はない。ただの威嚇だ。けれどオブリビオンの意識をオズから引き剥がすには十分だ。
 不規則に、ひたすらにリュカは走る。
 恐れるべきは、雪の女王の指先。ひとたび狙いを定められたら、生命力と戦う力を奪われる。
(「どのみち、この寒さだから。奪われなくても、長期戦になったら凍えて終わり」)
 故に欲するのは、短期決戦。その為にも、リュカは走って走って、雪の女王の死角を目指す。
「……星よ、力を、祈りを砕け」
 取った背後に、リュカは装甲も幻想もものともしない星の弾丸を放つ。人ならば急所である首筋を、弾丸は貫いた。
「いたいわ、いたいわ。ひどいわ!」
 だがオブリビオンは一撃では堕とせない。どころか、抗いがたい眠気に襲われ、リュカは助けを『呼ぶ』。
「お兄さん、」
 眠くなってきた、と状態を告げられるより早く、オズは「待ってました!」の勢いで跳ねた。
「がんばれがんばれリューカっ。おきて、おきて、おーきーてーっ!」
 発動させた、いつも通りのとっておきのガジェットショータイム。今度は光の玉を生み出すバズーカだ。もちろん、ただの光の玉ではない。
「リュカ、これであったかくなって」
 っぽーん、とぎゅうぎゅう詰めにされた鞠が跳ねるみたいに飛んだ光の玉は、熱の力を有すもの。さながら小さな太陽だ。幸い、焼き尽くすほど熱くなく、ほどよくリュカを温める。
「……あったかいの、有り難い」
 ようやくつけた一息に、だがリュカは足を止めない。
「がんばーれ、リューカ!」
 眠気を吹き飛ばす声と熱に、リュカは走る。走っては、撃つ。今度は右腕、次は左肩。
 他の猟兵たちの攻撃も功を奏す。
 雪の女王の美しさが、ひび割れた薄氷のように損なわれてゆく。
 終わりは、そう遠くない――そう、リュカもオズも確信した時。
「ひどいわ、あんなに歓迎したのに! 楽しかったでしょう? 美味しかったでしょう?」
 泣き出す間際の金切り声が、不可思議な大気をつんざいた。理不尽で身勝手な断罪だ。しかしオズは、即座にその悲嘆に寄り添う。
「うん、じょおうさま。ありがとう。たくさん、たのしかったよ。おいしかったよ――でもね、こおりづけにされたらおはなしできないし。にこにこし合うこともできないよ」
「――っ、けれど、でもっ」
 壊れた女王様は懸命に否定を訴える。同じだけ、オズはにこにこ春風みたいに笑う。
「あのね、わたしは。いっしょに『きれいだね』とか『たのしいね』って笑えるほうが、うれしい。もらうばっかりだけじゃなくて、いっしょがうれしい。ずっとずっと、うれしい」
「……、」
 雪の女王の唇が、息を飲んだのをリュカは見た。そこに根差す感情が、侮蔑なのか、驚嘆なのか、気付きなのか、彼女を深く知らないリュカではわかり得ない。
 でも、リュカは何かを信じて手袋を脱ぐと、呼吸の浅いオブリビオンへ差し出した。
「っ、これ、は」
「? 何って、ご餞別かな」
 抱きしめてあげることは出来ないんだと詫びるリュカからは、既に危機感が消えている。
 ついでだからと、さらにリュカは手を伸ばす。
 握手をするのだ。だって死ぬ時まで寒いのは嫌だろうから。
 握り返されるかは分からない――しかし、リュカは手袋をした手に握り返されると信じていた。

 凍てた空間を、オズの光玉がやわらかく照らす。まるで冬の日の陽だまりだ。そして世界が揺らぎ、見覚えのある光景に変わっていく。
 残滓は、粉雪のように舞う光。
 ――さようならは言わない。
「お疲れ様」
 見送る言葉は、未来への架け橋。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルバ・アルフライラ

ジジ(f00995)と
――やれ、何時の間に
斯様に頼もしくなられたのか
…此方はお任せを
疾く、この狂宴を終らせましょう

随分と浮かない顔だな、ジジ
安心せよ――友等に見苦しい姿は見せられぬ

ジジ、何としても女王の目を閉じさせるな
魔力で糸を編み【我が理想の為に】で従者を強化
彼奴が凍え、斃れぬよう傷を縫合して支援に徹する
常に、女王の挙動に対して目を光らせ
目を閉じんとしたならば、宝石を放り魔術を発動
一寸した不意打ちにはなるだろうよ

待ち人に焦がれ、愛を乞うた女王
誰かの幸せを願い…狂った、哀れな女
一歩間違えていたならば
私も同じ道を歩んだやも知れぬ

さあ閉幕の刻は近い――女王よ
…次は、唯の女として生まれて来ると良い


ジャハル・アルムリフ

師父(f00123)と
おお、そうか成る程
鯨や大太刀をも越え、勇者となったのだな

不届き者も今や目の前
――ただひとつ、引っ掛かる言葉
ちらと師の方を窺って
…承知、感謝する
兄弟らの努力も無駄にはできぬしな
戦場に迷いなど許されぬ
故に、凍えて鈍る前にと真っ直ぐに翔け

「きっとよろこんでくれる」
それを正しく表す言葉は知らねど
…あれは、お前は
認めて貰いたかったのだな

目に見える、繋ぐ糸と
背に注がれる双つ星の光を意識しながら
振り上げた爪は【心喰】
きっと、良く知る痛みだろう
誰が為にも
さりとて己が為にも在れなかったモノの

今の願いは叶えてやれぬが
美味い「あいす」は兄弟達も実に喜んでいた
此処は実に良き国であったぞ、女王



●ほしかげ
「――やれ、何時の間に」
 見上げた天を黒白反転したシャチと太刀魚が泳いでいる。シャチの背には、ロボの姿も垣間見えた。
 あやふやな太陽が降らす光に、太刀魚の白刃が翻ったかと思うと、害意が凝った氷塊が切り刻まれる。ロボの指差す方向へ翔けたシャチは、ブリーチングを思わす体当たりで、複数の氷塊をまとめて粉々にした。
「斯様に頼もしくなられたのか」
 シャチから太刀魚へ、次は犬へ。最後は砂の地面から仲間たちへ的確な指示を飛ばす犬へと視線を移したアルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)は、微かな既視感をまぶした感慨で、凍りかける息を溶かす。
「悪いが、私たちがこれで手一杯だ」
 雑魚はどうにかできるが、流石に大将級は身に余る。犬が発した迂遠な救援要請は、謙遜ではなく、自分たちの実力をしっかりと把握しているゆえのものだ。そこにも彼らの成長をアルバは覚えて、寒さに強張りかける口許でまろやかな弧を描いた。
「ええ、此方はお任せを」
 ――疾く、この狂宴を終らせましょう。
 力強く請け負って、そこでアルバは弟子兼従者の表情が冴えないのに気付いた。つい先ほどまでは「成る程、鯨や大太刀をも越え、勇者となったのだな」と愉快な仲間たちの奮闘に感嘆していたはずなのだが。
「随分と浮かない顔だな、ジジ」
 ちら、と。ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)の窺う様子の視線に、アルバは心当たりがある。それは気遣いだ。弟子の思い上がりと一蹴することも出来なくは、ない。が、今のアルバは嘯かない。
「安心せよ――友等に見苦しい姿は見せられぬ」
 落ち着き払ったアルバの声音に、ジャハルは一つ息を深く吸うと、短く是を返す。
「……承知、感謝する」
 不届き者の本星を目の前にした今、黒き竜の騎士たるジャハルの心は逸り猛った。しかしただひとつの言葉が、彼が走り出すのを引き止め、師を思い遣らせた。
 けれど、その師が安心しろと言う。それに『兄弟』らの努力も無駄には出来ない。
 ――戦場に、迷いなど許されぬ。
 迷いは即ち、敗北に通じるもの。命の終わりを自ら引き寄せるようなもの。
「ジジ、何としても女王の目を閉じさせるな」
「請け負った」
 いつも通りのアルバの的確な指示で胸裡の迷いを塗りつぶし、ジャハルは背の竜翼で宙へ舞い上がる。
 凍えて鈍る前に、という意図を孕んだ飛翔は速度に重きを置いて、直線的だ。つまり雪の女王の目に留まりやすい。
 されどそれは、ジャハルの力だけならば、の話。
「よもやもう立てぬなぞ云うまい?」
 置いて来た地表からであっても、アルバの詠唱だけはジャハルの耳にしっかりと届いた。そして伸びてきた『糸』がジャハルをさらに速くする。
 糸、は、意図。
 アルバの魔力と意図の結晶でもある糸は、氷欠片がジャハルに刻む裂傷なぞ、瞬く間に縫合し、加えて熱をももたらす。
 雪の女王の眼を攪乱するよう飛びつつも、物理的にもアルバとジャハルを繋ぐ糸の存在を、ジャハルは強く意識する。
 同時に、背に注がれる双つ星の燃える光を意識した。
 ――視て、いる。
 ――視られて、いる。
 ――任せられている。
 ――信じられている。
 無論、全てを一任されているわけではない。時折、花火の如く弾ける鮮やかな色彩の煌めきは、雪の女王の一挙手一投足から目を離さぬアルバの宝石魔法による援護射撃だ。
 眩む耀きは、ジャハルが付け入る隙になる。
 ――星の落とす陰に、身と心を休める事は良し。
 ――けれど、星を翳らせる事はあってはならぬ。
 胸で燦然と輝く一番星を心の眸でジャハルは見つめ、アメジストの光気にあてられた雪の女王の懐を目指す。

 『きっとよろこんでくれる』

「……あれは、」
「っ、」
 迫る黒にひきつる美しい顔を、ジャハルは複雑な想いで視た。脳裏に蘇った台詞の真意を、正しく表す言葉をジャハルは持たない。
「……お前は、」
 持ちはしないが、形にする言葉は有る。
「認めて貰いたかったのだな」
「――誰だって、愛する人の一番になりたいでしょう!? ずっと、ずっと、ずっと一緒にいたいでしょう!?」
 ジャハルの生む風圧に髪を叩かれる女王の金切り声を、アルバは耳に痛く聞いた。
 ――待ち人に焦がれ、愛を乞うた女王。
 ――誰かの幸せを願いながらも、やがて狂った、哀れな女。
(「一歩間違えていたならば」)
(「私も同じ道を、歩んだやも知れぬ」)
 送り出す間際の弟子の視線を、アルバは思い出す。あれは、これを察した故に、自分を案じたのだ。
「……」
 青褪めた――寒さに、スターサファイアの地色が顕わになりかけているのだ――唇をアルバは噛み締める。
 刺激した痛覚が、『if』を『現実』から引き剥がす。
 アルバは、『一歩』を間違わなかった。アルバは、雪の女王と同じ道を歩んでなどいない。
「そこだ、ジジ」
「師父よ!」
 繋がる糸を通して届いた声と熱と力に、ジャハルは極限まで意識を引き絞り、視得た雪の女王の心臓――急所めがけて黒銀の鉤爪を振り下ろす。
 肉体を傷つけることなく、対象が抱く苦痛を喰らうことで生命を脅かす一撃だ。
「嗚呼、っ」
 女王が身悶え漏らす苦悶の息を、次の攻撃の機会を反転離脱しながら窺うジャハルは双つ星の光浴びる背で聴く。
(「誰が為にも、さりとて己が為にも在れなかったモノの――」)
 啜り上げたばかりの苦痛は、ジャハルもよく知る痛み。だからジャハルは憐れむのではなく、切り結びながら女王を賛じる。
「美味い『あいす』は兄弟達も実に喜んでいた」
「っ、でしょう? 最高のもてなしだもの。だから――」
 ――そこから先の、願いは叶えてやることはできない。
 譲る事の能わぬ一線を、一閃で以てジャハルは示す。示しつつ、女王を肯定する。
「此処は実に良き国であったぞ、女王」
 何せ、ステラ・マリスに良く似た国なのだから。

 ジャハルが攻勢を強めている。他の猟兵の勢いも増している。
 対して、女王の気配は加速度的に希薄になっている。
 閉幕の刻は、近い。
 氷細工のように美しい雪の女王の『終わり』を間近に予見し、後方にて支援に徹していたアルバは、半歩の距離を前に出た。
(「――女王よ」)
 それは少しでも近くで、祈る為に。
(「……次は、唯の女として生まれて来ると良い」)
 見届ける星を秘した双眸には、冷え切った全身に反した熱が燃えていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エドガー・ブライトマン

そう、待ってくれていたんだ。お待たせ
ごきげんよう、雪の女王君

悪いけれど、キミだけを見れないし、愛することもできない
キミの傍にはいられないし、私の旅はまだまだ続く
ずっとひとりで寂しかったのかもしれないけれど……
私、ココで氷漬けになるワケにはいかないんだよね

シャチ君たちが頑張ってくれているんだもの
私も張り切らなくてはね
マントですこしは寒さを遮れるけれど、長くはもたなそうだ
すぐに決めよう

雪原を駆け、《早業》で女王と間合いを詰める
途中なにか障害物があれば、吹雪から自分を《かばう》ように使おう
好機は逃さず、“Eの誓約”

キミのことは忘れないとは言えない
ただ、骸の海での眠りが安らかであればいいなとはおもう


蛍火・りょう


氷像で満足できるなら、誰も招く必要ないじゃないか
最初から、好きなだけ氷遊びしていれば良かったんだ

でも、そうじゃないんだろう?
(UC発動)
視認されてなきゃ凍るっていうなら真正面から行こう
呪いで『冷たさ』を奪い取って、氷塊をぶっ飛ばしながら真っ直ぐに

こら
そんなんじゃ、もてなしにならないぞ

近づけたなら、女王自身の『冷たさ』を奪ってみようか
何処まで奪えるか分からんが
多少、人の話を聞く様になってくれれば、それでいい

相手が笑顔になって
キミも笑顔になるまでが『もてなし』だ
それに、こういうもの(氷菓子)はな、一緒に食った方が美味いんだぞ?
(氷菓子を強引に口元へ)

ぼくなりの礼だ
あとは仲間の支援に徹するとしよう



●女王に王子はつきものだと悪鬼は笑い
 儚くも、美しい姿の女王だった。
 並の子供なら、絵本から抜け出してきたような彼女に、まずは感嘆のひとつも漏らしただろう。
 けれど、蛍火・りょう(ゆらぎきえゆく・f18049)はそんな安穏とした幼少期を過ごしていない。
 彼女に求められたのは、村外に不幸な予知をばら撒く事で、住まう村を守る巫女の役目。
 禍々しくも陰鬱な遣り口だ。だが生まれ落ちた瞬間から、それを当たり前とされたりょうに疑問はなかった――疑問はなかったが、彼女は気付いた。
 わざわざ呪って他所に不幸を押し付けるより、殴って解決する方が早いのでは――と。
 悪く言えば、短絡思考。丁寧に根回しするとか、権謀術数を巡らせるなど面倒くさい。されど、至極正論。
「氷像で満足できるなら、誰も招く必要ないじゃないか」
 下がりゆく気温をものともせずに、動き易い軽装を好むりょうはまっすぐに走った。
「最初から、好きなだけ氷遊びしていれば良かったんだ」
 頭上できらきら煌めいているのは、太刀魚の腹だ。りょうに似て直線的な動きが多いが、無駄はない。
「でも、そうじゃないんだろう?」
 足を攫わぬ砂を思い切り蹴って、りょうは高く跳躍した。力自慢の娘の全力跳躍だ。高さは大人の男の背丈を優に超え、距離も伸びる。
 滞空中もりょうは水だか何だかの宙を蹴る。もごり、と唇が動く。
 ――この世界に、お前のものなどありはせぬ。
 紡がれたのは、慣れた句だ。途端、表情筋はあまり仕事はしないが、十三の少女らしい面立ちが、全身が、恐るべき鬼の姿へ変わりゆく。
 再び砂地を踏んだ時、りょうは雪の女王とは正反対の悪鬼になっていた。
 幼さを残す少女の、愚直な直進。からの、転変。
 目を引き付けてやまぬあれやこれやに、つい雪の女王は瞬くことを忘れ。ついにはりょうの接近を許す。
 果たして、馬鹿正直なりょうの目論見通り。然して悪鬼は、問答無用で雪の女王へ殴りかかる。
「キミは頭が足らないな。相手が笑顔になって、キミも笑顔になるまでが『もてなし』だ!」
「!」
 貴ばれるべき顔を真横から張られた事実に、さらに女王の眼が丸くなる。
「それに、――なっ」
 しかし追撃の一打を加えるより早く、女王を冷気の膜が取り巻いた。
 流石はオブリビオン。しかも、この本の世界の首魁。他の猟兵たちも方々からあの手この手を尽くしているが、一息に終いというわけにはいかぬようだ。
 とはいえ、悪鬼となっても、りょうはりょう。
 氷の膜を正面から力まかせにぶち破り、間合いを詰める。凍傷裂傷お構いなし。運よく接敵出来たら、殴った。逃げられたら、追った。躱されても、めげなかった。
 あまりの執拗さに、雪の女王の貌にも呆れが浮かぶ。それでも、りょうは征くのを止めない。
「な、ぜ。なぜ、そこまで」
「だから言っただろう。真の『もてなし』をキミに教える為だ」
 疲れからか足を縺れさせながら後退する女王へ、りょうは一気に詰め寄る。渾身の一撃を呉れる、最大の好機だ。見逃さず、りょうはしのばせていた得物を漁り、構えた。
「それに、こういうものはな、一緒に食った方が美味いんだぞ」
「     」
 もごり。むぐり。
 口に突っ込まれたひんやり得物――氷菓子に、雪の女王は文字通り、二の句を封じられる。
 どうだ美味いだろうと言って聞かす代わりに、りょうも氷菓子を頬張り、ふんっと鼻を鳴らす。
 これは、りょうなりの雪の女王のもてなしへの返礼。そしてりょうは、もう為すべき事を十分に為した。
 僅かに、一帯の冷気が緩んでいた。それは小さな鳥の羽搏きでも、凍らない程度ではあったけれど。
 がむしゃらに思えたりょうの攻撃に潜められていたのは、冷気を奪う呪詛。
「こういう時、最後を任せるのは王子様が相応しいのだろう?」
「――任されたよ」
 命を削って設えた舞台を、りょうは直感で導いた最適解へ託す。
「お待たせ。ごきげんよう、雪の女王君」
 ひら、と裏地の青が翻る。きら、と煌めいたのは金糸の刺繍だ。
「そう、待ってくれていたんだね」
 ぴぃーと甲高く鳴くツバメに先導されて、白を青と金で彩る豪奢な装束を身につけた青年が駆ける。
 例えるならば、深窓の姫君を迎えに来た王子様だ。そしてエドガー・ブライトマン(“運命”・f21503)は、正しく『王子様』。
「あなた、は――」
 遠い海に沈めた記憶の端に引っ掛かる何かがあったのか、雪の女王の表情が変わる。まるで恋る男をみつけた小娘のようだ。しかしエドガーの責務は、皆の希望に応えること――そう、『皆』の。
「悪いけれど、私はキミだけを見れないし、愛することもできない」
「――ッ!」
 絶望に美しいかんばせが歪もうと、エドガーの心はぶれない。ぶれようが、ない。
「キミの傍にはいられないし、私の旅はまだまだ続く」
 エドガーは王子様だ。自身にとっての特別など持とうはずもない、万民を等しく愛する王子様。
「嵐、よ。この不届き者を凍らせておしまいなさいっ!」
 雪の女王の指先が、エドガーへ向けられる。そしてそこから、戦う力と命を奪う吹雪が爆ぜる。
「ずっとひとりで寂しかったのかもしれないけれど……私、ココで氷漬けになるワケにはいかないんだよね」
 曲がることを厭う正統派の王子様は、白い嵐と正面から対峙した。無論、無策ではない。エドガーは、りょうらの奮戦を信じていたし、愉快な仲間たちの奮闘ぶりに劣るつもりはなかった。
(「私も張り切らなくては、ね!」)
「レディ、少しの辛抱だ」
 足は止めずに、エドガーは右手でマントを掻き寄せる。猟兵の装具だ、凌ぐことに無力ではない。とはいえ、布は布。包み込んだ左腕で、赤い薔薇が震えている。
 りょうが冷気を奪っていなければ、ひとたまりもなかったろう。だが人生に『if』はない。
 痛いほどの寒さを耐え、エドガーは雪の女王との間合いを詰める。そして鞘に納めたままの剣で女王の指を跳ね上げた。
「っ、そんな」
 標的を見失ったことで、吹雪が消え去る。その刹那を、エドガーは最大限に活かす。
「これがキミと私の運命なんだ」
 エドガーの背が、衣服越しにも分かるほど輝いた。彼が負った、決して消えぬ聖痕が発する光だ。あまりの眩さに、雪の女王の眼も游ぐ。
 エドガーが剣を抜く。繰り出す剣戟は、エドガーの命を喰らって、神速にも勝り閃く。

 剣を鞘に納めた時、エドガーは先ほどまでとは明らかに違う海にいた。
 空にはぼやけた太陽ではなく、ホワイトパールの太陽が浮かんでいる。おかしな数字も見当たらなかった。
 ハーフ・ティンバー様式の家並が近い。
 此処が『カントリーな海』と称されるステラ・マリスの街のひとつであることを、この時のエドガーはまだ知らない。が、歓声をあげているりょうや他の猟兵、愉快な仲間たちの姿に、凡そを察した。
 ――物語は、終わったのだ。
 粉雪のように舞う光は、雪の女王の残滓だろうか。
「キミのことは忘れない、とは言えない」
 指先に一滴、灯し。エドガーは、いつも通り美しく微笑む。
 ――忘れない、とは言えない。
 ――ただ、骸の海での眠りが安らかであればいいな、とは思う。

 懐かしい海との邂逅と、見知らぬ海との邂逅と、哀れな女王との邂逅と。
 邂逅尽くしの物語は、これにて終い。結末はもちろん大団円。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年06月24日


挿絵イラスト