帝都浪漫春疾風~想ひうつろふ、筆の先
●夢の名残
あの子のことかい? そうだねぇ。
やってられない、生きてられない、狂気の中にはいられない。
でもあの子にとって、筆を執るのは呼吸そのもの……。
……なんて、云えるような“変人”になりたかったように、あたしは見えたね。
――――大衆雑誌にて。元・大女優、U.H.は斯く語る。
――――。
――。
書きたくても書けないの、だなんて悩みを漏らしたって、誰だって鼻で嗤うのでしょう?
そんな人間が、職場が、何もかもが、みんなみんな恨めしかったの。
『そんなに苦しいなら別の職でも探せばいいのに』
なんて、妥協策。何度もそう呆れられて、莫迦にされたわ。
たくさん厭な言葉だって棄き捨てられた。
母は私を凡人と云う。
友は私を凡庸と云う。
評論家気取りの老いぼれ共は、私の作品を凡愚だと云う。
――――そう、凡愚だと。
でも決めたの。この手で紡いだ物語で、日銭を稼いで生涯を生きていくと。
あのラムプを照らしながら原稿用紙を埋めれば、たちまち誰もが私の物語の虜となったわ。
そうよ、もう私一人で立派な作家となれるの。
あんな大女優も、猟兵も、もう必要ない。
――私が望んだハッピィ・エンドを、帝都中に広めるの!
……そう。愛しのあの先生のように、素敵な物語を。
●帝都浪漫春疾風
「……まさか、こんなことになるなんて」
小夜凪・ナギサ(人間のUDCエージェント・f00842)は不服そうに肩を落とした。
それでもなお冷静さを欠くことなく、眼鏡の位置を直しながら、ナギサは猟兵達へ向き直る。
「サクラミラージュで、或る若い女性作家が人気を集めているわ。叙情的で、繊細に描かれたリアリティのある物語に定評があるとのことよ。けれど、その女性作家には――『籠絡ラムプ』というアイテムで危険な影朧を手懐けて、本来の己に合わない程のスペックを高めて活躍しているの」
幻朧戦線が密かに市井にばらまいたという『籠絡ラムプ』は、影朧兵器そのもの。
いつしか暴走し、帝都中に多大な被害が及ぶことには違いない。
しかしその強力さゆえに、籠絡ラムプの力に魅入られた作家が既に居るのだという。
「その女性作家の名は、『木偶・架某(もくぐう・かくれ)』というわ。木偶の坊の木偶に、十字架の架、なにがしの某――」
スクリーンにて表示された文庫本の表紙には――『帝都浪漫春疾風~想ひうつろふ、筆の先』と題されてあった。
このタイトルに見覚えのある、ないし見覚えの無い猟兵達に対し、ナギサは等しく頷いて言葉を続ける。
「『帝都浪漫春疾風』……これはかつて、猟兵達の手で解決した影朧事件にまつわる舞台のタイトルよ。この本が現在、帝都内で若年層を中心に話題になっているの。このままでは何らかの文学賞にノミネートされるくらいにね」
いったいどんな内容なのか、という問いに、ナギサは申し訳無さそうに首を横に振った。
「……ごめんなさい。どの書店を巡っても、この文庫本は品切れ。かろうじて手に入れられたのが文庫本の表紙のデータだけなの。けれど、謎を追う手がかりは残っているわ」
そう告げながら、帝都の全体図をかたどったホログラムを展開。
ある区域を示し、拡大されたのは――とあるアーケード商店街だ。
「この区域は、古書店が数多く集まった『古書街店』と呼ばれる大通りよ。この古書街店近くの或る文学館で、木偶・架某先生の個展が開かれるそうよ。あなた達にはこの古書街店に向かって、情報を集めて欲しいの」
人気作家の個展が開かれるということもあり、古書街店では大々的に宣伝が行なわれている。
古書店ならばもしかしたら、『想ひうつろふ、筆の先』の中古本やその他作品を見つけることができるかもしれない。
工夫次第では、木偶・架某のファンである学生達や関係者から、有力な情報を聞き出すことも可能だろう。
「調査の結果で木偶先生と接触できたとしても、彼女はおそらく籠絡ラムプを手放すことはないでしょう。かつて自分が携わった舞台のタイトルを敢えて名付けて本を売っているとなると――何か未練や、彼女自身の中で許せないものがあるのではないかと私は思うの」
彼女は手懐けた影朧を喚び出し、猟兵達の前に立ちはだかることだろう。
影朧を倒し、籠絡ラムプを回収する。それが、猟兵達に課せられた任務だ。
「どうか、夢を醒ましてきて頂戴。心地よいひとときでも、それはいつしか全てを食らう悪夢になるでしょうから」
ナギサはそう静かに告げて、手元のグリモアを輝かせた。
夢前アンナ
この夢がずっとずっと。
ゆめさき、と読みます。夢前アンナです。
拙作『帝都浪漫春疾風~君忘れじと、壇上に歌えば』と少しだけリンクしておりますが、初めてお越し頂ける方も問題なく楽しむことができます。
●募集について
【プレイング受付開始:06/13 AM8:31~】
採用は先着順ではありません。
プレイング数・内容によっては、再送を何度かお願いする場合がございます。
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【タッグ描写・グループ描写の場合】
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特に書かれて居ない場合は『アドリブ歓迎』として処理して書かせて頂くか、判断に迷う場合は流してしまいます。両極端です。
ご了承のほど、お願い申し上げます。
●フラグメントについて
・第一章
賑わう古書店街へ向かい、人気女性作家『木偶・架某』の素性を調べ上げましょう。
『木偶・架某』の個展が開かれる文学館へ訪れるもよし、
古本屋を巡るもよし、カフェーで一服ついでに聞き込むもよし。
彼女のファンである学生や何らかの関係者がいるかもしれません。
・第二章、第三章に関しましては、章が進み次第、ご案内いたします。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております!
どうぞ佳き夢を。
第1章 日常
『古書店街』
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POW : 取り敢えずカフェー
SPD : 街を漫ろ歩き
WIZ : 古書店巡り
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●壱
「見てみて、木偶・架某先生の個展ですって!」
「わあ、素敵! まさかこの街で個展を開いて下さるなんて……」
「ね、折角だし寄って行きましょ!」
日が暮れかけた古書店街は、既に大勢の人が行き交い、営みもまた続いている。
そのある一角にある文学館に続く行列に並ぶのは、下校途中の学生達だ。
『木偶・架某』という名の女性作家は、それだけ若者を中心に人気を集めているようだ。
古書店街のあちこちには、木偶・架某の代表作である『帝都浪漫春疾風~想ひうつろふ、筆の先』のポスターが飾られている。
大きな古書店や、その向かいのカフェー、はす向かいのミルクホールにまで。
まるでこの古書店街全体に、個展の宣伝をせねばならないという圧力がかかっているようにも見て取れる。
現に、個展が開かれる文学館以外の店には活気がなく、早々に店じまいを始めているところまである始末。
いったい、この古書店街になにがあったのか。
『木偶・架某』にまつわる謎とは。
それらを暴くには、猟兵達の調査が鍵となる――。
神薗・枝栞
◎
古書店街、それに個展!なんて魅惑的な響きでしょうか…!
あっちにもこっちにも文学の話題で賑わっていますね…も、勿論、お仕事の事は忘れてませんよ!?
木偶・架某先生の噂は私も耳にしておりましたが…この街一帯がどこか異様な雰囲気すら感じてしまいます
こうした噂話というのは先生の作品を愛してやまないファンの方に伺うのが一番でしょう
実際に文学館へ行って、個展を見に来られているファンの方に何人か声をかけて話を聞いていきましょう
「帝都浪漫春疾風で特にお気に入りの場面などはありますか?」
上手く相手に合わせて、聞いた情報から物語の内容を組み立ててみましょう
全貌までわからないにせよ、物語の大筋などはわかるはずです!
●壱:神薗・枝栞の場合
(「古書店街、それに個展! なんて魅惑的な響きでしょうか……!」)
神薗・枝栞(古きビブリオの栞・f22729)は青い瞳をきらきら輝かせながら、古書店街をぐるりと見渡す。
あちらこちらに聳える古書店の数々。ふわりと漂う古い紙の匂い。嗚呼、稀覯本がある予感!
――なんて、我を忘れかけていたところでぶんぶんと首を振って。
(「……も、勿論、お仕事の事は忘れてませんよ!? それでも、文学の話題となると心惹かれてしまいます」)
と、枝栞はうっとりと目を細めながらも、街の不審な様子が気になってしまう。
「それに、どうしてでしょう。……この街一帯が、どこか異様な雰囲気すら感じてしまいます」
賑わう筈の古書店街の店が、ゆっくり次々と店じまいを始めてゆく。
人々が行き交う夕暮れ時に、だ。
その様子が、枝栞にとって何処か不気味に感じ取れた。
意を決し、枝栞は文学館の前へと訪れた。
其処は既に行列ができており、しかもその多くが下校途中であろう制服姿の学生達だ。
おろおろ。思わず枝栞はその熱気にうろたえそうになるものの、後尾の女学生集団へと声をかけた。
「あの、こんにちは。あなた達も木偶先生の個展を見に?」
「あっ、はい! そうなんです! 折角の放課後だから、つい見に行きたくって」
「ねー! 帝都浪漫春疾風、みんなで読み回したし!」
「すごく感動したよねぇ!」
と、口々に話し出す女学生達にうんうんと頷き、枝栞は新たに訊ねてみせた。
「なるほど……わたしも帝都浪漫春疾風が気になって、個展にやってきたのです。
ちなみに皆さんは、特にお気に入りの場面などはありますか?」
と、さりげなく触れたのは『帝都浪漫春疾風』の内容についてだ。
女学生達は枝栞の問いに、顔を見合わせてキャハハっと笑ってみせた。
「えー、お気に入りの場面かあ。強いて云うなら……『主人公の子が親友を斬っちゃうところ』?」
「そそ! アレは胸がキュってなったよね!!」
「主人公が親友を……あ、ああ、其処は確かに、衝撃的でしたね……!」
と、上手く話を合わせるように枝栞は相槌を打つ。
しかし、まさか主人公が人を殺めるシーンを挙げられるとは思わず、放心してしまったところは否めない。
「そーなの! 主人公も親友も學徒兵じゃん? だからこうして斬り合いになるとか思わなくてゾクゾクしてさあ!」
そこまでの話を聞き終えた上で、枝栞は女学生達に別れを告げながら情報を整理してゆく。
・主人公と親友は學徒兵である。
・主人公が、その親友を斬る衝撃的なシーンがある。
「……これだけではまだ全容が掴めませんね。けれど、重要な場面を知ることはできました」
後は猟兵達と情報を共有することができれば、木偶・架某にまつわる情報をまとめることができることだろう。
成功
🔵🔵🔴
嵯峨野・白秋
帝都浪漫春疾風
此の題目を再び聞くことになるなんて何の因果かねえ
ま、いい
アタシは興味が惹かれる侭往くだけさ
やあ、麗しいお嬢さん方
アタシは一塊の本好きさ
君達もやはり木偶先生の個展を観覧しにきたのかな?
アタシもなんだよ
とはいえ実は著作を読んだことがなくてね…売切れだからさ
個展開催のこの地ならと一縷の望みを託しやってきたんだ
重版も間に合わぬ話題作とは嘸かし素晴らしい物語を描かれるのだろう
嗚呼、早く読んでみたいものさ
よければ君達の感想や先生の情報等教えてくれないかな
一頻り花を咲かせた後にふと訊ねてみよう
えらく静かだけれど
どうしたんだろうね?
愛用の万年筆をくるりと回し想い耽る
さてはて、此度吹き荒れる嵐は―
●壱:嵯峨野・白秋の場合
「帝都浪漫春疾風――此の題目を再び聞くことになるなんて何の因果かねえ」
くるり、くるり。廻る筆は淀みなく。そして戯れの侭に。
嵯峨野・白秋(享楽作家・f23033)は好奇心に満ちていた。
なにせ、此度触れるは、あの舞台――帝都浪漫春疾風にまつわる不可思議な噺なのだから。
「不思議だねぇ。終わった筈の舞台が、こうして再び幕が開く。――ま、いい」
――アタシは興味が惹かれる侭往くだけさ。
かつり、こつり。
上機嫌にブーツを鳴らして。声を掛けたのは、列の中でも一等麗しいと思った少女達へ。
「やあ、麗しいお嬢さん方」
「ま、まあ! あなたはいったい……?」
「待って、よく見て。この人とっても美人さんよ」
「まさかお褒め頂けるなんて光栄だねぇ。アタシは一介の本好きさ。君達もやはり木偶先生の個展を観覧しにきたのかな?」
白秋の美貌や振る舞いもあり、女学生はたちまち一目惚れ。
木偶・架某の繊細な文章を好む夢見がちな学生が、嵯峨野・白秋のような絵に描いたモガを好まぬ筈がない。
――まあ、その本性に関しては保証はできないが。
「……なにか雑音が聞こえた気がするねぇ。まあいい。とはいえ実は著作を読んだことがなくてね……売切れだからさ」
よければ感想や先生の情報等を聞かせてくれないか? と、訊ねかけたところで――、
かつり、かつりと新たに響くヒールの音。
「ねえ。どなたかと思えば、あの日の胡散臭い物書きさんご本人?
「――!! アンタ、まさか……」
白秋が驚くのも無理はない。
この場に現れたのは、『帝都浪漫春疾風』の主演にして首謀者である元女優、春塵・うたかたであるのだから。
――春塵・うたかた。
彼女の名と顔は、良くも悪くもサクラミラージュの帝都中に広まってしまっている。
影朧を匿い、舞台中の自害を試みた最悪の女優であると。
その自害を試みた舞台の名が『帝都浪漫春疾風』であった。
そう、『帝都浪漫春疾風』とは、元は春塵・うたかたの自叙伝を脚色した物語であったのだ。
「へえ、まさかここでご本人の登場とはねぇ。じゃあなにさ、情報でもくれるのかい?」
「生憎と、情報が欲しいのは此方も同じなのさ。何せ、自分の人生を勝手に金儲けの道具に使われて独り占め状態なんだからねえ」
「……成程ねぇ。そいつは大事なことさね」
と、白秋は意地悪く親指と人差し指を丸く結んで金のジェスチャーをしてみせて。
やれやれ、とうたかたは呆れて助言をひとつ。
「少なくとも、あたしが告げるとすれば『この物語は春塵・うたかたは知らない』ことと『そもそも内容を知っても尚認めていない』ってことくらいかねぇ」
そう告げて、うたかたは個展の中へと入っていこうとする。
「なあ、ちょいと待ってよ。なんであんた我が物顔でこの個展に入ろうとしてるのさ」
「分かんないの? 訴訟だよ」
「まさか……相手が何だと知っててやってんのかい?」
「いやあさ、譲れないことってあるよねぇ」
――アンタには、何かないの? 物書きさん。
それを最後に、ひらりと手を振り、うたかたは文学館へと入っていった。
影朧を背負った人間を相手にするなど、ありえない。死が待つ他ない。
「……死ぬんじゃないよ。一度救われたんだからさ」
成功
🔵🔵🔴
ランガナ・ラマムリタ
◎
やぁ、やぁ、困った。
こんなにも、一冊の本を求める読者が集っているというのに――貸し出すことが出来ないなんて。本の妖精の、図書館の名折れだよ、これは。
一度読んだ本を収蔵する妖精の図書館といえど、まだ見ぬ本は開けない
古書店を回って仕入れと行こう、私も読みたいしね
背表紙とはいえ読むのに「力」を使うのは風情がないけれどね、背に腹は変えられない
ああ、もちろん、見つけたら、お金は払って購入しよう。一度捲れば複製できるのだけれど、当然の代価さ
しかし、解せないね。人口に膾炙する話題作がここまでしないと見つからないなんて、いかになんでも不自然だ
木偶・架某――他の彼女の著作を、読み返して比べてみたいところだね
●壱:ランガナ・ラマムリタの場合
ひらり、ひらり、ふわり。
薄青の翅をはためかせ、或る古書店の戸の隙間を抜けてひらりふわりと花弁のように舞い込むフェアリーが一人。
彼女の名を、ランガナ・ラマムリタ(本の妖精・f21981)。
本の妖精たる彼女が興味を持つのも無理は無かったが――此度はどうやら骨が折れるほど苦労しているようで、古書店の本棚の上に腰掛けては小さく溜息を漏らした。
「ふぅ……やぁ、やぁ、困った。こんなにも、一冊の本を求める読者が集っているというのに――貸し出すことが出来ないなんて」
一度読んだ本を収集する妖精の図書館たる自分と云えど、まだ見ぬ本は開けない。
さて、古書店を廻るのは何度目だろうか。
様々な見知らぬ背表紙を見つけるのは愉快ではあれど、そろそろ目当ての本と巡り会いたいものだ――。
(「背表紙とはいえ読むのに『力』を使うのは風情がないけれどね、背に腹は変えられない」)
そう割り切らんとしながら、ランガナは釣り目がちな双眸をすっと細める。
――スキルマスター『速読』。
このユーベルコードを古書店内の本たちへと使用することにより、背表紙を速読し、時間を浪費することなく情報を得ることができるのだ。
視界の端に映った『木偶・架某』の名に目を留めて、両手で掴んで引っ張り、本をそれぞれ抜き取る。
「『帝都浪漫春疾風』と、もう一つの本……これは、代表作と比べると装丁がシンプルだね」
しかも、『帝都浪漫春疾風』はサクラミラージュでも有名な大手出版社から発売されているが、後者に至っては帝都でもあまり聞いたことがない小さな出版社のようだ。
この二冊ともを購入すべく、ランガナは2冊を積んで持ち上げ、カウンターへと運ぶ。
カウンター奥から気だるそうにやってきた店主は、小さな客の存在を気にも留めずに値段を告げ、何事もなく売買を終える。
「なに、折角だ。彼女の著作を読み比べてみよう」
古書店街の近くのベンチにて腰を下ろし、それぞれの表紙を開いて速読を始める。
――まず、『帝都浪漫春疾風~想ひうつろふ、筆の先』について。
装丁は大正時代でも製造難易度の高い箔押しが施されている。出版社が期待を込めたのか、木偶・架某本人が希望したのか。
その全容は、いわゆる『人間と影朧の戦い』に重点を置かれたものだった。
主人公は學徒兵の少女。ヒロインとして、親友である同僚の少女が居る。
テーマは一貫して『影朧との対立』。しかし、影朧の心理描写もよく目立ち、同情的な一面も見受けられる。
主人公は影朧との戦いに疑問を抱くようになるが、親友が影朧を匿っていた事実を知られ、上層からの命に従って親友を粛清する。
そしてそれに激昂した影朧が力を強め、帝都桜學府と激戦を繰り広げるというものだった。
「サクラミラージュ内での現代伝奇とでもいうようなジャンルかな。際どいテーマではあれど、物語としては悪くない」
男子に受け容れられるような熱い戦闘描写と、少女視点での繊細な心理描写が魅力といえよう。
若い世代に人気が出るのも伺える。
対して、他の著作――これは『帝都浪漫春疾風』が出版される以前の本のようだ。
タイトルは『傍の花も一盛り』。
内容は前者と比べ、女性目線の心理描写が主。
凡愚と揶揄される女性が将来を憂いながら作家という夢を目指し、一度は成功するも花が散って枯れるように緩やかに衰退していく。
そんな女性の生涯が描かれており、ヒロイックな代表作と比べても控えめでネガティブなテーマの物語だ。
「人口に膾炙する話題作がここまでしないと見つからないなんて、いかになんでも不自然だと思ったが――箔押しのような特殊な装丁で販売していたとはね」
木偶・架某本人が豪華な想定を希望した結果、想定外に売れてサクラミラージュの技術では刷るのが間に合っていない……と想像するのが現実的であろうか。
「それだけ彼女にとって、この代表作は“特別”ということか――」
大成功
🔵🔵🔵
アリサ・マーキュリー
◎
おおー…凄い名前。
もくぐグッ…先生。
衣装は違和感無いようにサクラミラージュの服を着て行こう
そこまでなのか…、どんな本なのか気になるな…。
中古書店街で情報収集を使い、中古本を探して読んでみる
ふむふむ…なるほど、面白いわコレ。
色んな所で宣伝がされている…ここまで来るとちょっと不気味かも。街全体が虜になっている様な、そんな感じ。
読み終わったら個展へGo
誘惑を使い話しかけ易い雰囲気を纏って、色んな人に先程読んだ内容を踏まえながら、感想とかそう言う相手の好感を得そうな話を交えて興味を惹きつつ、先生の情報やらこの本や他の本の情報やら色々な話を聞いてみる
運良く関係者に出会ったり、良い情報が聞けないかなー。
●壱:アリサ・マーキュリーの場合
古書店街中に貼られたポスターをじぃ、と見つめる、アリサ・マーキュリー(God's in his heaven・f01846)の姿があった。
「おおー……凄い名前。もくぐグッ……先生」
如何せん読みづらい。噛んでしまって少しばかり眉根を寄せる。
サクラミラージュの街並みに合うよう、此度のアリサは紫を基調とした女袴姿だ。
紫陽花めいたうつろいを織り成す袴を翻し、コツリコツリとブーツを鳴らして石畳の街を歩く。
ふと目に付いた古書店へ訪れたなら、気だるそうな店主が「……らっしゃい」と挨拶しながらカウンター奥から現れた。
愛想が無いな、なんてぼんやり思いながらも、アリサは異様な街の様子を思い出す。
お客は誰も彼もが文学館に吸い取られてて、まるで古書店街中に圧力でも掛かっているのかポスター等の宣伝でいっぱい。
「そこまで人気なのか……、どんな本なのか気になるな……」
古書店の本棚をじっくり調べる――までもなかった。
平積みで並ぶ本の中に、『帝都浪漫春疾風』が置かれてあったのだから。
(「見つけた。コレ、かな」)
一冊、手にとって開いてみる。いったいどんな内容なのか――と。
手に取ったアリサが読み終えた感想として、『少年漫画のよう』だと感じた。
人間と影朧の対立をテーマにしていて、繊細な心理描写だけでなく大胆な戦闘描写も魅力的だ。
特に、影朧を匿っていた親友を粛清する描写は特に力が入っており、主人公の葛藤も細かく描かれている。
「……なるほど、話としては面白いわコレ。でも……」
まるで街全体が虜になっているような、そんな圧による不気味さをアリサは感じる。
それが不自然であるからこそ、尚更。
本を購入したアリサは、個展へと足を急がせる。
文学館前はいまだに行列が途絶えず、学生達が口々に噂話をしながら入場を待っていた。
「ねえ、ちょっといい?」
「は、はい! あっ……その本、あなたも木偶先生がお好きなんですか?」
後列に並ぶ女学生へ、アリサは話し易そうな雰囲気を纏いながら声を掛ける。
アリサの美貌にドキリとしながら、大人しそうな女学生は彼女が抱える『帝都浪漫春疾風』を見て嬉しそうに微笑む。
「うん、この本……実際面白かったから、個展もつい気になって。あなたももくぐグッ……も、木偶先生、好きなの?」
「はい! ……ただ『春疾風』も面白いのですが、私はその前の作品のような心理描写が主の物語の方が好きで。このたび個展に訪れたのも、他の作品が読めるかもしれないと思って」
と、女学生は饒舌に話してみせた。どうやら彼女は、木偶・架某が注目されるより以前の貴重なファンであったようだ。
(「つまり……、以前の良さに踏まえて、籠絡ラムプの力で更なる魅力を手に入れた?」)
――なんか、勿体無い。
こうして以前より、良さを見出しているファンもいるのに。
そうぽつり、アリサは小さく心の中で独りごちた。
大成功
🔵🔵🔵
雨宮・いつき
◎
不当に得た力で行う創作など言語道断…と言いたいところですが
その力に溺れてしまうのも分かる気はします
紙の上に走らせた文字が、圧倒的な存在感を以って迫りくる…
そんな物語を思い通りに書ければ、とても楽しいですものね
作家先生の事、御勤めを抜きにしても興味があります
件の代表作に、先生が注目される以前に書かれた古い作品を幾つか
古書店巡りで本を探し、読んでみましょうか
評判の作家さんなので是非読んでみたくて…と御新規らしく触れ回り、
ファンや書店員さんがお節介を焼きたくなる【誘惑】に駆られるよう仕向けましょう
本を手に入れたら人気の無い場所へ
物語に籠った情念を本ごとヤドリガミ化させ、作家先生の事をお伺い致します
●壱:雨宮・いつきの場合
籠絡ラムプに魅入られた作家に対し、雨宮・いつき(歌って踊れる御狐様・f04568)は同情的な面も持ち合わせていた。
(「紙の上に走らせた文字が、圧倒的な存在感を以って迫りくる……そんな物語を思い通りに書ければ、とても楽しいですものね」)
不当に得た力であることに変わりないものの、木偶・架某という作家そのものに純粋な興味がある。
いつきは目に付いた古書店へと訪れる。この店にも、『帝都浪漫春疾風』のポスターが漏れなく大々的に貼られていた。
新たに訪れた客に、無愛想な態度で「……らっしゃい」と一言挨拶する店主。
いつきは彼に対し、礼儀正しく頭を下げて店主へ声を掛けた。
「こんにちは。あの、木偶・架某先生の御本ってありますか?」
「あん? 木偶・架某の本だ?」
「はい、評判の作家さんなので是非読んでみたくて……特に、『春疾風』以前の御本を」
と、純粋な本好きらしく目を輝かせてみれば、店主は深く溜息をついてカウンター奥へと消えた。
(「あ、あれ……? 失敗した……??」)
きょと、と目をまあるくするいつきだったが、しばらくすると店主はカウンターへ戻ってきて、どさりと数冊本を置く。
「こいつらが残ってたが、どうする? 普段なら表にゃ置かねぇが、声を掛けた奴なら特別だ」
ありがたくも本を購入できたいつきは、古書店街近くの人気のないベンチに腰掛けて紙袋から本を取り出す。
『凡愚と花』、『生き花を咲かせて』、『高値の花』。
「どれもこれも、花のタイトルばかり……」
いつきはそう、ぽつりと呟いた。
まるで木偶・架某がそれだけ“花”に固執し、焦がれているように思えた。
内容はどれもこれも、女性の一生を花に喩えて描かれている。
人が居ないのを確認したのち、いつきは護符を取り出し、念じるように目を閉じる。
「万物に宿りし仮初の神々よ。今一時その力、我らが為に振るい給え――!」
彼のユーベルコード、『禁術・偽神創生』は対象の器物を一時的にヤドリガミに変化させることができる能力だ。
しかもそのヤドリガミは総じて、猟兵に対し協力的な行動を取らせることができる――。
そうして木偶・架某の以前の著作物は変化し、花のように美しい女性を模る。
しかし、その女性達は――三人ともに今にも泣きそうな様子で顔を歪ませていた。
「どうしてお話したいの?」「私たち、悲しい」「あの子は私たちを凡作と云うわ」
「お、落ち着いて。いったい何があったのですか?」
おろおろ、いつきは慌てながらも三人の美女をやさしく宥め、問いかける。
「私たちは、絶版になったの」「人気がなかったから」「私たちはあの子に否定されたの」
順々に三人はそう悲痛な声を漏らし、最後には揃って「嫌われたの」と告げた。
それきり三人は涙を流し、元の本の姿に戻っていった。
(「以前に書いていた本を、“否定”した――つまりは彼女の、自己嫌悪の表れでしょうか」)
自らの著作物を否定するのは、なんて哀しいことだろう。
そんな悩みを孕んでいたからこそ、彼女は籠絡ラムプに魅了され、心を掌握されたに違いない。
いつきは三冊の書物を抱きしめ、決意を込めて立ち上がった。
大成功
🔵🔵🔵
頁桜院・花墨
◎
……あのぶたいが、こうしてまた、新たな事件につながるとは……あいえんきえん、でございますね。
カフェーへ、参りましょう。カフェーにて、じっと、皆様のお話に耳をかたむけましょう。
かすみは、仮にもあのだんじょうに昇った身でございます。「あのぶたいと、この物語のそういてん」に注意してじょうほうを集めれば、何か新しい発見があるかもしれません。
……あとは。かすみは、ひとの「負の感情」にふれると、体がペヱジに変じてしまうたいしつでございますので。これをレヱダアの様にして、もくぐう様についてのお話に、とくに強い感情の変化をされる方がいらっしゃいましたら、その方をとくに集中してかんさつすることといたします。
●壱:頁桜院・花墨の場合
古書店街の一角にひっそり立つ隠れ家的なカフェーは、本を好む学生たちの憩いの場だ。
個展の影響か、普段より客足は落ち着いているようだ。
窓際のテーブル席にちょこんと腰掛け、このカフェーのおすすめである餡蜜を少しずつ頬張るのは灰桜色の幼い少女だ。
(「……あのぶたいが、こうしてまた、新たな事件につながるとは……あいえんきえん、でございますね」)
頁桜院・花墨(桜表紙の巾箱本・f22615)もまた、嘗て起きた『帝都浪漫春疾風』の事件に関わった猟兵のひとりだ。
愛する母とともに舞台に立ち、悲劇を終わらせた――筈であった。
蕩ける白餡の甘味とは裏腹に、花墨の心に滲む彩は複雑なもので。
(「こたびもまた、お父様のようなめいすいりを……そのためにも」)
店内に溶け込みながら、花墨はそっと耳を澄ませる。
いま現在、店内に居るのは店主と、個展を目的とした一服している学生が数名。
学生達はいわゆるミーハーなファン層のようで、どの席でも『帝都浪漫春疾風』の話題でもちきりだ。
「えっ、やだなにそれ恐い……都市伝説か何か?」
「ファンの間でちょっと囁かれてるの。『帝都浪漫春疾風』って実は――……」
すると、或る席の女学生達の囁き声に反応し、花墨の指先から掌、掌から手首――と、徐々に身体がペヱジへと変じてゆく。
(「これは……すこし、注意してかんさつしてみることといたしましょう」)
どうやら女学生達の噂話への『恐怖心』という負の感情が、書籍人間たる花墨の身体に反応したようだ。
「木偶・架暮先生って実はね――あの舞台の脚本家だったって噂があるの」
(「――! きゃくほん、か? まさか……」)
舞台『帝都浪漫春疾風』の脚本家――それは、花墨にとっても印象深い存在だ。
自分の名前は名乗らず、憶えなくとも良いと云っていた、卑屈で大人しそうな眼鏡の女性。
だが、最後には超弩級戦力たる猟兵達を信じ、脚本を書き換えてでも春塵・うたかたを救って欲しいと懇願した。
(「……いえ、これだけでは、ただの噂話。まだ、信じるにたるおはなしでは」)
半信半疑のまま、花墨は女学生達の話に耳を傾ける。
「ええっ、本当……!?」
「しーっ、声が大きいって。ただでさえこの街の人たちピリピリしてるんだから」
「ご、ごめん。でも、直接舞台に関わった脚本家なのにどうして本なんて」
「それは私もわかんないけど……“脚本家だからこそ”本を出したかったんじゃない?」
「……プライド、ってこと?」
「そーゆーこと。ま、あくまで噂話と考察に過ぎないけどさ」
「…………“ぷらいど”」
ぽつりと。花墨は言葉を零した。
思い返せば、猟兵に懇願する際に彼女は云っていた。
――“プライドを一度棄ててでも、この舞台を、大切なキャストを護りたい”と。
あの日に云った言葉とは裏腹に、彼女は弱い心の持ち主だったのか。
一度プライドを棄てた彼女が、籠絡ラムプに魅入られて名声を欲しがったのだとしたら――。
大成功
🔵🔵🔵
国栖ヶ谷・鈴鹿
◎アドリブ&絡みOKです!
【近くのカフェーで】
帝都浪漫春疾風、こんな風になってたんだ。
でも、作品の内容は変わっているかも知れないんだよね……。
ファンの学生さんに話を聞いてみたりしようかな〜、売り切れでどこを探しても見つからなくって!という流れで、あらすじを聞いてみよう。
……。
もう一人のぼく(UC)には、古書店の店主さんに例の作者さんと個展の話を。
多分、こっそりとするお話だと思うから、奥でこっそりと聞いてみよう、何か本の内容や個展を開くので、誰か変わった人物とかいなかったかとか、詳しく聞いてみよう。
ん?もちろん、お礼は忘れずに渡しておくよ!(とっておきのお菓子を用意して)
●壱:国栖ヶ谷・鈴鹿の場合
古書店街を疾駆する、赤銅色のフロヲトバイが一台。
操縦者である国栖ヶ谷・鈴鹿(未来派芸術家&天才パテシエイル・f23254)の顔には、何処か不安げな色が滲む。
(「帝都浪漫春疾風、こんな風になってたんだ。でも、作品の内容は変わっているかも知れないんだよね……」)
配られていた『帝都浪漫春疾風』のビラへチラと視線を遣る。忘れもしないあの事件に、まさか見知らぬ副題が足されて目にすることになろうとは。
調査の範囲も広く、情報を仕入れるには一人の力では限界があるだろう。
「ここはぼくの秘密の出番かな――おいで」
鈴鹿がそう静かに念じれば、フロヲトバイに乗る鈴鹿の後ろに“もうひとりの鈴鹿”が出現した。
彼女は記憶と意識を共有し、協力する為に活動する鈴鹿の分身である。傍目から見れば、まるでそっくりの双子のようだ。
「おっとと、あぶなーい!? ぽちっとな!」
流石に二人乗りは危険と悟ったのか、鈴鹿はすぐさま隠しレバーを引く。
蒸気が噴射したかと思えば、百弐拾伍式・紅路夢から一人分の後部座席が展開されたのだ。
超技術機械技師による先進的なテクノロジヰにかかれば、これくらい朝飯前なのである。
フロヲトバイが止まった先は、とある古書店だ。
「さて、もう一人のぼくにはこのお店で店主さんに聞き込みをお願いしたいんだ。ぼくはカフェーでファンの学生さんを探して、本のあらすじを教えてもらうよ」
後部座席の“もうひとりの鈴鹿”は鈴鹿のお願いに頷いて、後部座席からぴょんっと飛び降りて。
「うん、わかったよぼく。それじゃあ行ってくるね!」
「あっ、まってまって忘れ物! じゃあ、宜しくね!」
最後に鈴鹿は小包を差し出して、百弐拾伍式・紅路夢を走らせていった。
――此処から先、古書店にて情報収集する“もうひとりの鈴鹿”を便宜上『鈴鹿』と呼称する。
鈴鹿が古書店へと訪れたなら、無愛想な店主が溜息を吐きながらカウンターにて出迎える。
「こんにちは! ええと、あの……『帝都浪漫春疾風』の作者さんがこの街で個展をしてるって聞いたんだけど――」
と、声を潜めて訊ねてみれば、店主はぽりぽりと頭を掻きながらカウンターの隅へと促した。
「それで、嬢ちゃんは何をお求めなんだい」
「ええっと、店主さんはあの個展で誰か変わった人物とか見かけなかった? 文学館の近くでお店を開いてるなら、何か知ってたりしないかなって」
鈴鹿の問いに、店主はふたたび溜息を吐いて。
「変わった――といやあ、妙な形のラムプを提げた女が個展に入っていくのを見かけたな。しかも夜だとかじゃなく、早朝にだ」
「それって……」
店主の答えに、鈴鹿は大きく目を瞬かせる。
間違いない、その女こそが籠絡ラムプの所持者である木偶・架某だ。
「早く行かなくちゃ! 店主さん、教えてくれてありがとう! そうそうっ、これはお礼だよ! ぜひご賞味あれ!」
カウンターに可愛らしい小包を置いて、鈴鹿は慌ただしく古書店をあとにする。
「嵐のように行っちまったな……今日はどうにも、不思議な客ばかりだ」
やれやれ、と店主は残された小包を開いてみる。
包まれていたのは、可憐な紫陽花をかたどったマフィンだ。
試しにさくり、と一口齧れば控えめな甘さが広がって――無愛想な店主は、機嫌のいい溜息を小さく漏らしたのだった。
大成功
🔵🔵🔵
千束・桜花
◎
早紗殿(f22938)と共に古書店巡りへ参ります!
……と、張り切ったのはいいものの、私は語学の成績は丙だったんですよね
昔から文字を見ていると頭が痛くなってくるのですが……
さてさて、それでは探しましょう、あの舞台の本を!
なんといっても私が出演した舞台ですから、自分の手元に一冊くらいは置いておきたいですよね!
舞台の書籍は……ううん、どこにあるのでしょうか
私には似たような本がたくさん並んでいるようにしか見えません
それでもありそうなところは……文学書ですかね!
片っ端から確認していきましょう!
帝都浪漫春疾風……文字、文字、文字……うう……
さ、早紗殿~~!!
華都・早紗
◎
桜花はん(f22716)と一緒に参加。
あのおばh…げふん、だ…大女優の名前をまた聞くとはね。
あの舞台本になってたん知らんかったわ。
出演者に一冊くらい寄こしたらええのになぁ?
ま、こうやって桜花はんと古書店周れるんやからそれはそれでいっか♪
ええわぁ~古書街ええわぁ~♪素敵や~。
舞台の本探すならまぁ…あっちかな。
最悪おっちゃんに聞こ。
うちら出演者って言ったら信じてもらえるやろか。
なぁなぁ、桜花はんはどんな本がっ…って
何々、目がナルトみたいにぐるぐるなってるやんか。
こらあかんわ、自分らで探すんあきらめて、お店の人とかお客さんに聞こ。
どうせ…なんやっけ?
…木偶・架某か、そっちの情報聞かなあかんしね。
●壱:千束・桜花、および華都・早紗の場合
「あのおばh……げふん、だ……大女優の名前をまた聞くとはね」
「さあ、さあ! 参りましょう、早紗殿! 謎を追うべく、古書店へいざ!」
「はい、はい。相変わらず桜花はんは元気やねぇ。ま、こうやって古書店周れるんやから、それはそれでいっか♪」
威風堂々と古書店街を突き進む千束・桜花(浪漫櫻の咲く頃に・f22716)に対し、華都・早紗(幻朧桜を見送る者・f22938)は上機嫌に足を弾ませる。
「ええわぁ~古書街ええわぁ~♪ 素敵や~」
「おお、流石は文豪の早紗殿! いつになく楽しそうですね」
彼女等もまた、かつての『帝都浪漫春疾風』と縁のある猟兵たち。
それも華々しく舞台に出演し、影朧と対峙して見事舞台を終幕させたのだ。
「あの舞台、本になってたん知らんかったわ。出演者に一冊くらい寄こしたらええのになぁ?」
「ええ! なんといっても私が出演した舞台ですから、自分の手元に一冊くらいは置いておきたいですよね!」
「せやねぇ。あの時の桜花はん、めっちゃ格好よかったなぁ。トップスタアみたいやった」
「えへ、えへへへへ……」
早紗にそう改めて褒められ、桜花はついつい頬を赤らめて嬉しそうに夢見心地。
猟兵としての特別出演だったとしても、壇上にのぼり照明を浴びたあのひとときは忘れられない。
――ただ、桜花にとって懸念する点がひとつ。
(「ど、どうしましょう……こう見栄を切ってはいるものの、私は語学の成績は丙だったんですよね。本当に書籍を見つけることはできるのでしょうか……」)
「あらまぁ、どうされましたん桜花はん。まずはー……舞台の本が売ってそうな、あの古書店に寄らへん?」
「はっ……! そ、そうですね! さっそく向かいましょう!」
背筋を正し、顔を引き締め。桜花は早紗に示された古書店へと先に進む。
何処か様子のおかしい彼女を眺める早紗は、思わずくすりと唇の端を緩ませて。見守るように彼女の背を追う。
二人が訪れた古書店では、何処か愛想の悪そうな店主がカウンターに佇んでおり。
他の客は居らず、ただただしんと静まり返っていた。他にあるのは、本棚にて数多く眠る古書たちばかり。
(「う~ん……私には似たような本がたくさん並んでいるようにしか見えません。それでも、片っ端から探していけば……!」)
ぐるり、古書店を見渡すものの、桜花にとってはどれもこれも区別が付きづらく、頭を悩ませるばかり。
否、頭を悩ませるどころか、様々な文字が桜色の瞳に焼き付いて、ぐるり、ぐるり……。
「帝都浪漫春疾風……てーとろまん、はるはやて……文字、文字、文字……。ううう……」
「なぁなぁ、桜花はんはどんな本がっ……って」
振り返った早紗が見た光景は、ナルトのように目をぐるぐるさせて混乱する桜花の姿であった。
「さ、早紗殿~~!!」
「こらあかんわ……なぁ、店主のおっちゃん。ちょっと休ませてもろていい? 連れがこの通りで……」
ふらふら危うい調子の桜花を支えながら、早紗は店主にそう訊ねれば。
無愛想な店主は深々と溜息をひとつ。椅子を用意して、桜花はぐったりと休憩することとなった。
「ううう……」
「堪忍なぁ、助けてもろて。そうや、ひとつ探しとる本があって――」
早紗はさっそく、店主へ『帝都浪漫春疾風』の本について訊ねる。
自分達がかつての舞台の出演者である旨も伝えたなら、驚きで目を瞬かせて。
「つまり、あんたらはあの舞台の事件を解決したユーベルコヲド使いだって?」
「せやで。その『帝都浪漫春疾風』……もう終わった筈の舞台がまるまる本になった、っていう訳や無さそうやね?」
「ああ。木偶・架某と春塵・うたかた……あの二人が揉めてるってのは、古書店街の連中はみんな知ってる。厄介事を個展って形で街に持ってこられて迷惑してたんだ」
「なぁるほど。街の人らの様子がおかしかったんは、そういうことやったんね」
早紗はぐったりと伸びている桜花を盗み見たのち、店主の方を鋭い右の眸でじぃと見つめて。
「……うちらがまた、解決したるって云うたら。協力してくれる?」
「…………」
店主はカウンター奥へと消えていき、暫くした後に戻ってくる。
差し出されたのは、木偶・架某の著作『帝都浪漫春疾風』だ。
「おっちゃん、おおきにね。さ、桜花はん。個展に行こ」
「ふぇ……? も、もう見つかったのですか?」
瞼をこすり、ゆっくりと立ち上がる桜花。どうやら聞き込みの間に、気を取り戻したようだ。
(「まぁ、全部の謎は猟兵が集えばおのずと分かることやろ――……収穫は充分や」)
箔押しの書物を抱えながら、ふ、と満足げに早紗は微笑んだのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ティオレンシア・シーディア
◎
ふぅん、あの依頼絡みかぁ。縁あるものとしては、ちょっと気になるわねぇ…
あの「舞台」は、きっちり綺麗に幕が下りたんだもの。野暮な続編だの余計な幕間だのは御免よねぇ。
ベストセラァで個展が開かれて、そこに活気があるのはまあある意味当然だからいいとしても…それ以外の店が早々に店じまい、ってのは流石に違和感あるわねぇ。そっちのほうから当たってみましょうか。
特にアテがあるわけじゃないし、〇第六感でテキトーに選んだ店に●絞殺で○情報収集してみましょ。
世間話から始めて、愚痴でも不満でもなんでも引き出せれば。そこから何か取っ掛りが見えてくるかもしれないものねぇ。
●壱:ティオレンシア・シーディアの場合
(「ふぅん、あの依頼絡みかぁ。縁あるものとしては、ちょっと気になるわねぇ……」)
ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)は常の微笑を唇にのせながら、ゆるりと古書店街の様子を見渡す。
個展が開かれている文学館は、既に行列。
活気があるのは当然であれど、それ以外の店が早々に店仕舞いを始めているのにはどうにも不自然だ。
情報を募るべく、第六感が示した先の店へと訪れる。いわゆる隠れ家的な、静かなカフェーだ。
カラン、とドアベル鳴らして入店すれば、無口そうな店主が「……お一人かい?」と何処か張り詰めた様子で訊ねてくる。
対するティオレンシアは飄々とした態度を崩さぬまま、ひらりと手を振って。
「はぁい、こんにちはぁ。お一人だけれど……珈琲ひとつお願いするついでに、お話したいことがあって」
宜しいかしらぁ? と蕩けるような甘い声で笑ってみせた。
彼女の蠱惑的な会話誘導は、一見無口そうな店主から情報を引き出すことに成功する。
カウンター越しでの1対1の世間話は、自然とこの街について触れることとなる。
「……じゃああの個展は大手出版社からの圧力で無理やりにってこと?」
「学生街っていう立地が都合よかったんだろうさ。個展が始まってから宣伝をしろだの、ビラを配れだのうるさくてね」
店主は力なく肩を落としながら、カップを磨き続ける。
「それに、あの木偶・架某とかいう作家……なにやら揉めてるそうじゃないか。いい迷惑だよ」
「あらぁ、それは初耳ねぇ。どこからそんな情報が?」
「相手がついさっき来たんだよ。知らないかい? 春塵・うたかたって元・大女優」
その名が挙がった途端、ティオレンシアはさらに目を細めて。
「知ってるも何も、あの大女優の舞台。もうきっちり綺麗に幕が下りたのでしょう? 野暮な続編だの余計な幕間だの、勝手に荒らされちゃ困りものよねぇ」
ただ、春塵・うたかた本人がこの街に訪れているとなっては見過ごしてはおけない。
「その元・大女優さんはどちらに――なんて、訊ねるのも野暮かしらぁ」
「ああ、個展をやってる文学館の道だけ教えて早々にお帰り頂いたよ」
「そう……わかったわ。ご馳走様」
空になったカップと、お代をカウンターに置き、ティオレンシアは礼をひとつ告げてカフェーを後にする。
「あの個展に木偶・架某も居るとしたら――危険ねぇ、すぐ向かわなくちゃ。まったく、困った大女優さんだこと」
そう小さく独りごち、ティオレンシアが向かう先は個展が開かれる文学館だ。
美しく幕を降ろした物語が、血で穢れてしまう前に――。
大成功
🔵🔵🔵
カイム・クローバー
◎
…正直な所、俺は小説やら個展やらに興味はそれほど無くてね。長い文字ってのは見てるだけで眠くなる。って訳で、個展には足を向けず、古本屋を巡って情報を集めるとするぜ。…個展で欠伸なんかした日には刺されかねねぇだろ?
ナギサの話を聞いた限りじゃ、店仕舞いしてるトコまであるみたいだ。
好都合。ゆっくりと話でも聞かせて貰おうか。
UCを発動し、店主に話を。木偶架某の個展ってのはそんなに凄いのかい?
俺はあんまり興味が無くてね。…そんなにオススメするならその、『筆の先』ってやつ。此処に置いてねぇのか?中古でも何でも良い。
猟兵の手で解決した舞台のタイトル、ね。…少し興味が沸いてきたな。最初だけ読んで見るとするか。
●壱:カイム・クローバーの場合
ガラガラ、とシャッターがゆっくりと閉じられる音が街に響く。
腰の悪そうな老人の店主が、今にも店仕舞いを始めようとしていたところだ。
「ちょいと待ってくれよ」
そう軽く一言、声を掛けたのは、カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)だ。
店主は手を止め、彼の方へと物珍しそうに目を向ける。
「ほう……こうして若者が店に来てくれるなどいつぶりじゃろうか」
「学生街だってのに、そんなに珍しいか? ……まあいい、話があるんだ。じいさん、少し店を開けてくれねぇか?」
こうして客足が遠のいた古書店ならば、ゆっくりと静かに話を聞けるだろうとカイムは考えていた。
小説やら個展やら、長い文字を見るだけで眠くなる。仮に個展へ訪れたとして、欠伸ひとつでもすればファンに刺されかねない――なんて。
そんなカイムの胸中とは裏腹に、店主は頷いて。
「今どき、こんな寂れた店に訪れるとはのう……特別じゃぞ?」
と、親切にシャッターを開いて店内へと促した。
「オッケー、ありがとな。じいさん。中でゆっくり、話を聞くとするぜ」
に、と歯を見せ、カイムは古書店へと足を踏み入れた。
小さなその古書店はどこもかしこも埃っぽく、それでいて古書独特の匂いが漂う空間となっていた。
書物に縁のないカイムにとっては些か慣れない場ではあったが、常の笑みをのせたまま――、
「なあ、じいさん。木偶・架某の個展ってのはそんなに凄いのかい?」
話題の作家に関する話を、単刀直入に訊ねてみせた。
店仕舞い間際に声を掛けてくれた若者に好印象を抱いたままの店主は、もはやユーベルコードを使うまでもなく親切に答えてくれた。
「ああ、あのお嬢さんの個展が気になるのかい。若者には人気のようじゃが……私にとっては、かつて脚光を浴びた人気作家の二番煎じにしか思えんかったよ」
ほれ、とカウンターに置いたのは二冊の本だ。
一方は、『帝都浪漫春疾風~想ひうつろふ、筆の先』。猟兵達が知りたがる書物、そのものだ。
その隣にある書物はカイムにとっては見慣れない表紙だ。
しかし、その表紙に記された名には、覚えがある。
「――櫻居・四狼」
「読み比べてみれば、すぐに分かる。どの章にも似たような表現が模倣されているからのう」
話を聞く限り、木偶・架某は作家『櫻居・四狼』の文体表現を似せているようだ。
(「確か、聞いたな……櫻居って作家には熱狂的なファンが帝都中に少なからずいるって」)
あの作家にまつわる事件に触れたことのあるカイムは、秋の日を思い返しながら考え込む。
「じいさん、この二冊買っていっていいか?」
「ああ、毎度あり。お前さんは消えんようにな。この櫻居・四狼のようにな」
「おいおい、俺がそんな風に見えるってのかい? また来る――とは限らねえが、恩に着るぜ」
と、目を細めてそう言い残し、異世界の便利屋はトレンチコートを翻して店を去る。
「猟兵の手で解決した舞台のタイトル、ね。……少し興味が沸いてきたな」
合間に読んでみるとするか、と頁を開くも、文字を見た途端に大きな欠伸が出たのは数秒先の話――。
大成功
🔵🔵🔵
シビラ・レーヴェンス
まず古書店街を散策して古書店の一、二店入ってみよう。
古書店の店主が暇ならば世間話の形で聞こうと思う。
主に情報収集の一環で店に足を運び主人と話をするのだが…。
興味を惹かれる本を発掘できる可能性を想像すると心が弾む。
そうそう。ついでだから。
代表作のポスターというのにも興味があるな。みておこう。
次にカフェに立ち寄ろう。一人で飲むのは久々な気がする。
お勧めの茶葉を。なければ定番の葉で淹れてもらおう。
ストレートが好みだが。ミルクもいいな…お任せでいこう。
…ん。なかなかよい茶葉を使っているな…この店は…。
この周囲の事情などを知る一番の方法は人が集まる場所だ。
紅茶を飲みながら周囲の声に耳を傾けてみようか。
●壱:シビラ・レーヴェンスの場合
「へえ、お嬢ちゃん。本に興味があるのかい? まだ小さいのにしっかりしてるねぇ」
「うむ、ちょうどこの街で話題になっているという作品が気になってな」
まだ一冊残っているだろうか? と、或る古書店の店主へ訊ねるのは、シビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)だ。
110センチというその小さな体躯のため、精一杯に背伸びしてカウンター越しの店主と会話を交わしている。
店主はその様子が微笑ましいようでにこやかに応対し、一冊だけ残っていたという『帝都浪漫春疾風』をシビラへと差し出した。
「個展が始まった途端、学生たちがこぞって買いに来て品薄だったんだよ。若いのの影響ってのは凄まじいねぇ」
「それだけ読書に興味を抱く若者が増えたというのは悪くない傾向だと思う。個展が始まってから、何か変わったことなどはなかったか?」
「変わったこと……いやあ、特に俺は知らないなあ。役に立たずごめんよ。」
「そうか。いや、こうして貴重な書籍を用意してくれたことには感謝する。では」
冷淡な声ながらも礼を述べ、シビラは代金を支払ったのちに古書店を出た。
ふわり、ふわり。豊かな銀の長髪を揺らして。
店を出てすぐ、シビラは足を止める。
(「――そうそう。ついでだから」)
街の至るところで掲載されているというポスターを、今ここでじっくりと眺めた。
桜を基調としたデザインに、大きな筆字で『帝都浪漫春疾風~想ひうつろふ、筆の先』と書かれている。
『世間を騒がせたあの事件! 悲劇を塗り替え、美しい姿で』
といった煽り文も、よく目立つ。
(「美しい姿で……などとはよく言ったもの。これから新たに世間を騒がせるかもしれぬ者が」)
やれやれ、と呆れたように金の目を細めて小さく溜息を吐く。
踵を返し、シビラが向かったのは隠れ家的なカフェーであった。
からん、と鳴るドアベル。店主の案内でカウンター席へ。
「お勧めの茶葉はあるか? もしあれば、そちらを頼みたい」
「ふむ、では桜をイメヱジしたダージリンなど如何かな。苺とさくらんぼの風味を加えた、独自のブレンドだ」
「サクラミラージュらしいな……では、お願いしよう」
手際よく店主は桜の紅茶を淹れて、シビラの元へと置く。
真っ白なティーカップを満たす薄赤茶に、桜の花が一輪浮かぶ。
大人びた彼女に合わせたのか、ストレートでの提供だ。
一口啜れば、やさしい甘さの中にはらむ清涼感に、シビラは穏やかに目元を緩める。
「ん、なかなかよい茶葉を使っているな……この店は……」
丁度、読書を供にするに持ってこいだ。桜の幻想を追うように、シビラは買ったばかりの書籍を開く。
戦いの前の一服。読書の世界に浸りながらも、現実の街の声へは耳を傾けて――。
――そう、これから起こる戦いの前に、せめてもの憩いを。
成功
🔵🔵🔴
第2章 ボス戦
『或る作家の残影』
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POW : 蒼桜心中
【心中用に持ち出した桜の意匠が凝らされた刀】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD : 心中遊戯
【甘く蕩ける桜色の毒物】【切腹できる桜模様の短剣】【桜の木で首を吊る為の丈夫なロープ】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ : 乱桜吹雪
自身の装備武器を無数の【原稿用紙と乱れ舞い散る桜】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠筧・清史郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●弐
――――個展が開催される文学館、その地下一階にある多目的ホールにて。
本来ならば立ち入り禁止の空き室となっているこの場にて、口論を繰り広げているのは二人の女性。
華やかな私服を身に纏う女は、元・大女優の春塵・うたかた。
そしてもう一方の素朴な雰囲気を身に纏う女こそが、女流作家であり偽ユーベルコヲド使いの木偶・架某だ。
「だから、もうこの物語は終わった筈なんだ! ユーベルコヲド使いの手で! なんだってアンタは掘り返そうとするんだい」
「私の手でハッピィ・エンドを紡ぎたかったんです。あの行列、見ました? 私ひとりの力でファンを集客できたんですよ」
「……自分ひとりの力? 驕るのもいい加減にしな。あんたにはもっと――」
「説教なんてこりごりです! あなたの陰で働くのも! 私は一切、日の目を浴びることなんてできなかった!!」
架某は握った拳を震わせながら、強く激昂する。
彼女をかつて脚本家として雇っていたうたかたも、こんなに感情を発露させる様子を見たことがなかったようで息を呑んで押し黙った。
一方で、架某は何かを諦めたような顔で滔々と語りだす。
「花のように、繊細な物語が書きたかった……でも、どれもこれも売れずに絶版行き。舞台脚本家として拾われても、『帝都浪漫春疾風』はあなたの人生に過ぎなくて、結局は事件のおかげで全て書き換わってしまった――」
でも、と前置きを一つ。
彼女の懐から取り出されたのは、妖しい光を宿した禍々しい形のラムプ……。
「このラムプを手に入れて、私の才能は開花しました。そう、私はまだ蕾だったんです。咲く頃合を待っていただけの!」
「なに云ってんだい、あんた……」
「これで私も才能ある者の仲間入り! いえ、才能ある者よりもっと輝いて、華々しく注目されるの! 敬愛する櫻居先生のように!!」
――その直後、騒ぎを聞きつけた猟兵達が次々に多目的ホールへと突入してくる。
突然の闖入者に、架某は咄嗟に籠絡ラムプを守るように抱えては。
「なに……あなた達、ユーベルコヲド使い!? 私の夢を、邪魔しに来たのですか」
その隙に、春塵・うたかたは猟兵達の計らいによって救出される。
安全な場へと連れられながら、彼女は猟兵達を信頼を込めた目で見つめて
「ユーベルコヲド使いが出張るほどの事件とはね……すまなかったよ。見ての通りだ。あたしが話してもちっとも耳を傾けようとしない……。説得するなら骨は折れるだろうが、どうか頼んだよ」
そう告げたのち、うたかたは地上階段を駆け上がって避難してゆく。
「助けて……櫻居先生。私を、どうか……」
木偶・架某が涙声で祈れば、手にする籠絡ラムプがさらに妖しげな光を増してゆく――。
「おや、呼んだー? ……って、架某ってば泣いてるじゃん。泣かせたのはだぁれ?」
照らし出された人影の正体は、華やかな袴を身に纏う美男子であった。
櫻居・四狼――否、その作家を名乗りし影朧は、桜色の瞳をゆるりと細めて猟兵達を見渡す。
「せ、せんせ」
「あははっ、架某は泣き虫さんだねぇ。でも此処まで頑張ったのは偉いよー。……さてさて、まだ遊び足りないなぁ」
――もう少しこの子には、夢を魅せてあげないとねぇ。
さも愉快そうに笑っては、影朧は桜の懐刀を抜いてみせた。
【以下、調査結果によるまとめ】
・代表作『帝都浪漫春疾風~想ひうつろふ、筆の先』は、「影朧との対立」をテーマにした少年漫画的な現代伝奇。
・ブレイク前の木偶・架某は、女性を『花』に見立てた繊細な描写を得意としていたが、本はどれもが絶版となっている。
(ブレイク前の彼女の本を愛読しているファンも居る模様)
・本来、『帝都浪漫春疾風』は舞台として存在しており、主演である春塵・うたかたには無許可で出版されている。
・内容そのものも、舞台と本ではまったく違っている。
・木偶・架某は、春塵・うたかたの下で舞台脚本家として参加していたが、扱いに不満を抱いていた。
・『帝都浪漫春疾風』の舞台が影朧事件に巻き込まれたことで、脚本が書き換わり、プライドが折れたとされる。
・木偶・架某はサクラミラージュでの幻の人気作家、櫻居・四狼の熱狂的なファンである。
【概要】
木偶・架某は影朧を呼び出し、猟兵達と対峙します。
多目的ホール内は広く、戦闘の支障になるものはありません。
木偶・架某は非常に錯乱状態となっており、この時点での説得の難易度は非常に高いです。
が、此処で落ち着かせることや説き伏せることができた場合、第三章でハッピィ・エンドになれる確率がグンと上がると思われます。
(勿論、ハッピィ・エンドなど関係なく、皆様のやりたいことを優先で戦ってみて下さい!)
プレイング募集:6/24 8:31~
千束・桜花
◎
あの舞台そのままの脚本でなかったことは…くっ、この際良いでしょう!
さあ往きましょう、早紗殿(f22938)
本物のユーベルコヲド使いというものを見せて差し上げます!
本物の花は、自らの力で咲かせるもの
ラムプに、他者に頼る今の架某殿は、蕾ですらない造花です!
気高く咲かせましょう、あなたの、あなた自身の花を!
その妨げとなるのなら、この影朧……櫻居殿は私が斬り捨てます!
きっとあなたも、人であったころは志ある者だったのでしょう
ならばあなたの心を癒やし、帰るべきところへ送って差し上げます!
解放抜刀――――リインカァネヱション!
華都・早紗
◎桜花はんと(f22716)
なんやこいつ?
私こーいう輩嫌いやわ、
右も左もぶちのめして己の身の程わきまえさせたろ。
桜花はん、手加減いらんで。
そうやって自分の好きなもんしか書かんから
ふぁんも増えんし、成長もせーへんのや。
影朧お前もそう思うやろ!
己が才能あるもの言うなら
この白けた場を笑いで埋め尽くして見せ!
行くで『痛快爽快爆笑漫奇譚』
なんかおもろい事言ってみてー。
おもんなかったらしょーもなっ
おもろかったらやるやん
素直に感想言うたる。
影朧はん、木偶はんの変わりに叩かれてな(にっこり)
本物の花は自らの力で咲かせるもの。
そう信じ愚直に前に突き進んでる子が隣におんねん。
あんたもまた蕾に戻って一からがんばり。
●弐:千束・桜花および、華都・早紗の場合
「さあ往きましょう、早紗殿。本物のユーベルコヲド使いというものを見せて差し上げます!」
威風堂々、前へ出でるは千束・桜花(浪漫櫻の咲く頃に・f22716)。
街での姿とは打って変わり、學生将校として凛とかんばせを引き締める。
一方の華都・早紗(幻朧桜を見送る者・f22938)は、偽ユーベルコヲド使いと影朧を訝しそうに見つめて。
「なんやこいつ? 私こーいう輩嫌いやわ、右も左もぶちのめして己の身の程わきまえさせたろ」
「では、私はあの影朧を抑えます。早紗殿は木偶殿を」
「任しとき。桜花はん、手加減いらんで」
木偶・架某の方へと歩み出る早紗。対する
「こ、来ないで……あなた達、私の邪魔をしないで!」
「邪魔とは何や? そうやって自分の好きなもんしか書かんから、ふぁんも増えんし、成長もせーへんのやろ」
「な、なんですって……!?」
架某は反論をしようにも、早紗の言葉が図星であったようでそれ以上は押し黙ってしまう。
そこや、と早紗はさらに指摘みせて、
「弱弱しくいじけて、果てには縋って……情けないわ、影朧、お前もそう思うやろ!」
「えぇ~? 僕? ま、そんな気弱な架某がカワイイんだけどね♪」
「なんや、けったいな影朧。人をダメにするソファみたいな……まぁええわ。さぁて――今をときめく人気作家の実力とやら、ひとつ見せてもらいましょ」
溜息まじりにくるり、と古びた万年筆を廻したなら、神々しい光がホール中を包む。
その場にあらわれたのは、紫座布団に正座する着物姿の壮年――その日最も輝いた、噺家たる笑神であった。
「己が才能あるもの言うなら、この白けた場を笑いで埋め尽くして見せ! つまりはそう、なんかおもろい事言ってみてー」
「そんな無茶振り!?」
「無茶振りに応えてこそ“才能”やろ? 痛快に、爽快に、さぁ!」
「じゃ、じゃあ……これは私が、脚本家だったときの噺なのだけれど――」
もじもじしながら、架某が小噺を始めた。それは自らの体験談の中に冗句を交えた、ちょっとしたいい話。
「ふぅん、やるやん。新人噺家の枕みたいで初々しいなぁ。さぁて影朧はん、木偶はんの代わりに叩かれてな?」
にっこり、早紗が笑った直後、影朧の頭上に勢いよく金タライが降ってくる――!
「おおっと、危ない! まったく、びっくりさせないでよねぇ」
影朧が桜の小刀をひと振りすれば、金タライはすっぱりと真っ二つに斬れて床に転がってゆく。
直後、刀を抜いて肉薄するは千束・桜花。桜の瞳は鮮やかに影朧を見据えながら、架某へと必死に声を投げかける。
「本物の花は、自らの力で咲かせるもの。ラムプに、他者に頼る今の架某殿は、蕾ですらない造花です!」
「――……! でも、それなら私には何が……」
「お噺をこの場で紡げる力があるあなたなら、きっと大丈夫。気高く咲かせましょう。あなたの、あなた自身の花を!」
桜花は謳う。その勇ましき姿は、嘗ての壇上での活躍と重なって見えて、早紗はゆるりと目を細める。
「聞いた? そう信じて、愚直に前に突き進んでる子が隣におんねん。あんたもまた蕾に戻って一からがんばり」
な、と架某をおだてるように微笑んでは、影朧へと突き進む少女の背を見送る。
――嗚呼、今を真っ直ぐに生きる彼女こそが“本物の花”であると。
刃同士がかち合う金属音が響き、競り合いが続く中で桜花は告げる。
「櫻居殿、きっとあなたも、人であったころは志ある者だったのでしょう」
「さあて、どうだろうねえ――♪」
「この手で、帰るべきところへ送って差し上げます! 解放抜刀――――リインカァネヱション!」
鞘に収めた退魔刀を引き抜き――花めく色づいた刃は桜の花吹雪を喚ぶ。
それはまるで舞台の一幕のように、桜花の周囲を彩って、そうして癒しと忘却をもたらす一閃を影朧へと見舞った。
本来ならばその浄化の力は、影朧の荒ぶる魂と肉体を鎮めることができたなら転生の可能性が残されていた。
――そう、それは影朧自身が転生を望んでいれば、の話だ。
肉体を傷つけず、精神に触れるその一閃は確かに影朧にダメージを与えることにした。
が、影朧はくすくすと愉快に笑って振り返る。
「まだまだ、夢が終わるのには早いよね」
猟兵達の新たな『帝都浪漫春疾風』は、いま始まったばかり――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ティオレンシア・シーディア
◎
…脚本を好きにいじって良い、ってあなたの提案。いいのかなーとは思いつつ正直ありがたかったんだけどねぇ…
随分とまあ軽薄そーな作家サマねぇ。物書きならやっとうじゃなく文字なり物語なりの具現化でもしたほうが「らしい」んじゃないかしらぁ?…まあ、あたしとしては対処が楽でありがたいけど。
煙幕に閃光手榴弾の〇投擲にイサ(凍結)・ソーン(阻害)・ニイド(欠乏)の弾丸、妨害の手札なら山ほどあるわぁ。●圧殺で徹底的に邪魔して〇援護射撃しましょ。
…あとは、木偶サンにも一発。
刻むルーンはウル・イサ・マン。「暴走」を「鎮静」させ「正道」へ引き戻す――説得は正直ガラじゃないけれど。他の人の助けくらいにはなるでしょ。
●ティオレンシア・シーディアの場合
「……脚本を好きにいじって良い、ってあなたの提案。いいのかなーとは思いつつ、正直ありがたかったんだけどねぇ……」
ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)の零した声に、木偶・架某は眉根を寄らせて表情を曇らせた。
彼女、ティオレンシアはかつての舞台『帝都浪漫春疾風』に出演した猟兵だ。
嘗て自らが携わった物語が新たに脚色され、世に出回っている。ティオレンシア自身も思うところが無い訳ではない。
閉ざされた瞳をゆるり開き、底知れぬその眼差しで“獲物”を見据える。
「なぁに? そんな穴が空くまで僕を見ても何も出ないよ?」
「そうねぇ、随分とまあ軽薄そーで稚拙な作家サマだと思っただけよ。物書きなら“やっとう”じゃなく文字なり物語なりの具現化でもしたほうが『らしい』んじゃないかしらぁ?」
挑発めいた言葉と共にふ、と笑みを乗せたのち――放たれたのは煙幕。
彼女の姿が消えたのち、櫻居は刀を振るい、花弁を放つも、全く彼女を捕らえることはできない。
バチリ、と閃く目くらましの手榴弾。
相手が怯んだと同時、煙を掻いて飛び掛るは一人の女の影――!!
銃弾は幾度も、ルーンを孕ませ放たれる。
肩口に掠めただけでも尚、男の行動を阻害するには充分だ。馬乗りになり、ティオレンシアは銃を突きつけ、告げる。
「こんなに肉弾戦って形で挑むなんて、ねぇ。……まあ、あたしとしては対処が楽でありがたいけど、――!!」
刹那、ティオレンシアの背後めがけて落とされる刃。
間一髪でその懐刀による一撃を避けながら、ティオレンシアは距離を取る。
「あら、なぁに? まるで心中するみたいに刀を出すなんて……悪趣味ねぇ」
皮肉めいた言葉に、櫻居は満更でもなさそうな様子で笑ってみせる。
「僕としては本望だよ。できることならもっと美しい作品とも共に逝きたいけれど――ねぇ」
と、櫻居が目配せしたのはほかならぬ木偶・架某だ。彼女は目の前の戦いに動揺しながらも、心ばかりは影朧に囚われたまま叫ぶ。
「そ……そうよ! 櫻居先生の云う事は正しいわ! 私は全て、この方を目指して……!!」
「――歯、食いしばりなさい」
刻むルーンはウル・イサ・マン――浮かび上がる紋様を手榴弾に。
投擲された弾は破裂し、煙が辺り一面を包み込む――。
「――!!」
ティオレンシアが放ったルーンは、『暴走』を『鎮静』させ『正道』へ引き戻す効力を持つ。
この力に頼れば、木偶・架某は猟兵達の言葉に大人しく耳を傾けることだろう。
(「説得は正直ガラじゃないけれど。他の人の助けくらいにはなるでしょ」)
ふ、と静かに吐いた息と共に、唇に浮かぶは常の只ならぬ微笑み。
成功
🔵🔵🔴
嵯峨野・白秋
◎
物語は作家の魂そのものだ
認められぬ絶望は堪え難い苦しみだろう
でもだからと云って自分を偽ってはいけない
作家は嘘吐きだけれど自分に嘘を吐いてはいけないんだ
君の描きたかった世界は、物語は、結末は
本当に此の作品だったのかい?
桜居先生も解るだろう?
悪戯に夢を魅せて物語をねじ曲げることは誰の為にもならない
同じ作家ならばその罪深さが解らないわけではないだろう?
彼女の為に、そして彼女の読者の為に何が一番正しいのかを
生み出すのは春疾風ではないよ
優しく美しく繊細な色とりどりの花々だ
作者は嘘を吐いても読者を裏切ってはいけないよ
君の本当の物語が読ませて貰えるかい?
君を偽らずに描いた物語はきっと、うつくしいだろうから
●弐:嵯峨野・白秋の場合
筆を執り、紡ぐ女は云う。
“物語は作家の魂そのものだ”と。
己の想いを、空想を拡げ、ひとつの世界を創り上げる。
「でも、だからと云って自分を偽ってはいけない。
作家は嘘吐きだけれど、自分に嘘を吐いてはいけないんだ」
女、嵯峨野・白秋(享楽作家・f23033)の眼差しは珍しく真っ直ぐで、声音もまるで子へ言い聞かせるような穏やかなものだった。
「私が……私が、嘘吐きだって云うの!?」
信じたくないとでも云うように、架某は白秋を睨みつける。
動揺する彼女に呆れたように肩を竦めた白秋の脳裏に響いたのは、或る女優の一言だった。
――いやあさ、譲れないことってあるよねぇ。アンタには、何かないの? 物書きさん。
(「嗚呼、きっと。此れが答えになるのだろうねぇ」)
あのお澄まし女優に皮肉を込めて笑ってやって――万年筆をひと振り。
桜色の毒煙を掻き消したなら、鮮やかなルージュがゆるり微笑む。
「――櫻居先生も解るだろう? 悪戯に夢を魅せて、物語をねじ曲げることは誰の為にもならない。
その罪深さ……彼女そのものが虚構に穢れることを」
「成程ね、同感だお嬢さん。君と別の形で出逢えていたらどんなに話が弾んだか――」
「ムードの読めない男はいくら顔がよくても願い下げさ」
しっしっと追い払うように手を払いながら、花弁の如くインクを散らす。
容易には近寄れぬ、高嶺の花。彼女をそう魅せるのは、手にする万年筆の力であろう。
くるり、戯れのように手中で廻して、白秋は近寄る。他ならぬ、木偶・架某にだ。
「生み出すのは春疾風ではないよ。
優しく美しく、繊細な色とりどりの花々だ」
その偽りの物騙りは、ひどく美しく、戦場を彩ってゆく。
無機質な壁、大理石の床、全て、全てが、色彩溢れる花を咲かせてゆく。
花、花、花――。
「ひっ……!!」
この光景に真っ先に悲鳴をあげるは木偶・架某。
ゆるり、と享楽作家は振り返り、微笑み告げる。
「さあ、君の本当の物語が読ませて貰えるかい?
君を偽らずに描いた物語はきっと、うつくしいだろうから」
――そう、この花のように。
咲いたばかりの花をひとつ摘み、白秋はうっとりと笑ってみせた。
ねえ、そうだろう?
その眼差しは“あなた”へもきっと向いていることだろう。
――作者は嘘を吐いても、読者を裏切ってはいけないよ。
“君”もそう、想うだろう?
成功
🔵🔵🔴
アリサ・マーキュリー
【桜狐】
うん、急ごう。
武器…この本で殴れば良いかな。角部分で、鋭角にエイって。あ、そういう事じゃないのか。
なるほど…任せて、本を集めて来る。
誘惑でコミュニケーション能力を上げて、色んな人に頼んでありったけの本や情報を集めてもらう
…一つ、質問。
貴女は今、楽しい?
本を書いていて楽しいと、心から書きたかったと思える?
これは、貴女の書きたかった本なの?
…二つだった。
貴女の昔の作品を読んだ。だいぶ描写や筆致が違ってて、同一人物と思えなかった。
もちろん、作風の変化はあると思うけど…昔の作風も、大事にして欲しいなって。昔からのファンも。
評価してくれてた人は、此処にも居たよ。
夢の方向を、間違えないで。
神薗・枝栞
◎【桜狐】
すでに舞台のほうで悲鳴が…!すでにラムプの力が悪化してしまったという事でしょうか
現場へ駆け出したいところですが、その前に彼女を落ち着かせる武器が必要です…アリサさん、ご協力頂けますか?
近くの古本屋などから、木偶先生の出された全作品を片っ端から集めましょう。それと櫻居・四狼先生の本も。
現場に到着したら、集めてきた手持ちの一冊を選んで【書に記されし怪物】を使います!
世間から才を評価されない痛みというのは、役者や作家にとっては冷たく辛いものです、その気持ちはお察しします
ですが昔の貴女の作品を愛してくれた方々が居たことも事実なのですよ
…少なくとも私も、木偶先生の作品にそう感じたのですから
●弐:アリサ・マーキュリー、神薗・枝栞の場合
「! 悲鳴が……! すでにラムプの力が悪化してしまったという事でしょうか」
「うん、急ごう。武器……この本で殴れば良いかな。角部分で、鋭角にエイって」
「そ、それはさすがに……!!」
「あ、そういう事じゃないのか。なるほど……任せて」
遠くから響いた悲鳴に気づき、アリサ・マーキュリー(God's in his heaven・f01846)と神薗・枝栞(古きビブリオの栞・f22729)は早急に書物を収集してゆく。
時間には限りがあったものの、アリサの誘惑や枝栞の手際の良さもあり、あらかたの作品を集めることができた。
――そして、戦場たるホールへと二人は駆けつける。
彼女等を迎えるは馨しき桜吹雪。
不敵に笑む影朧の懐めがけ、アリサは得物を光らせ瞬時に肉薄する。
神速の如き居合いで切り裂き、距離を取りながら、影朧の背後で縮こまる架某へとアリサは訊ねた。
「……一つ、質問。貴女は今、楽しい?」
「……え?」
「本を書いていて楽しいと、心から書きたかったと思える?」
そうして、アリサは一冊の書物を己の懐から取り出した。
それは、ベストセラーとなった『帝都浪漫春疾風』の一冊。
「これは、貴女の書きたかった本なの?」
「…………」
続く、沈黙。
口を噤んだ架某に対し、アリサは今日の晩飯を思いついたかでもような気軽さでぽつりと新たに呟いた。
「あ。……二つだった」
新たに取り出した書物は――『凡愚と花』。
枯れかけた花が描かれたその表紙をそっとなぞり、アリサは言葉を続ける。
「貴女の昔の作品を読んだ。だいぶ描写や筆致が違ってて、同一人物と思えなかった。『春疾風』は……描写がサクラミラージュの流行に則っていて、この『凡愚と花』は独特で。この描写こそ貴女の色があるんじゃないかって」
「そんな、そんなことっ……」
「もちろん、作風の変化はあると思うけど…昔の作風も、大事にして欲しいなって。昔からのファンも。評価してくれてた人は、此処にも居たよ。だから――」
――夢の方向を、間違えないで。
アリサから投げかけられた言葉が、重く、強く、架某の心にのしかかる。
「私の、昔の作品を、評価してくれた人がいた? そんな、そんなまさか……だって、私は……」
「世間から才を評価されない痛みというのは、役者や作家にとっては冷たく辛いものです」
そんな彼女の元へと駆け寄り、屈んで手を差し伸べるは枝栞。
優しい微笑みのなか、彼女が広げた書物は『生き花を咲かせて』。
花のように生きることを願った少女が、暗く苦い人生を過ごした末に花の精霊として転生した幻想的な物語だ。
「ですが、昔の貴女の作品を愛してくれた方々が居たことも事実なのですよ。この本の精霊だって、きっとそう――」
そうして頁から甦るのは、花弁を散らした薄紅色の精霊。
彼女は少女体にまで巨大化し、ふわり、ふわりと数多の花弁を放って影朧を翻弄してゆく。
「――! この子は、まさか……」
「ええ、彼女は貴女が生み出した作品の主人公。貴女の物語が息衝いているから、こうして呼び出せました。……それほどまでに、あなたの物語が魅力的である証拠です」
緩やかに、優しく。枝栞はそう微笑みかけた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ランガナ・ラマムリタ
◎
いやはや、参った……文豪には付き物とはいえね、君、心中というのは良くないよ
生憎、君の作品とならともかく、君と死ぬのは御免だ
それとも彼女と身投げでもする気?
何にせよ、逃げ回って時間を稼がせてもらおうかな
それよりも、君。ああ、君だよ、架某くん
面白かったよ、『傍の花も一盛り』
随分と繊細で真に迫る描写。経験が生きていたんだね
私は好きだな、この主人公
儚くも、最後まで歩みを止めないのがいい
代表作も読んだとも。私は好きだよ? これも
装丁もよく合っている
眠っていた君の才能というのも、成る程、事実かもね
ん? ラムプを手放せ、なんて言わないよ
読者に、作者の行動に口を出す権利などないもの
ただ、伝えたかっただけさ
●弐:ランガナ・ラマムリタの場合
「いやはや、参った……文豪には付き物とはいえね、君、心中というのは良くないよ」
ひらひら、ふわり。
戦場に舞う花弁に紛れるようにして影朧の元へと舞い込んだのはランガナ・ラマムリタ(本の妖精・f21981)。
本の妖精、あるいは様々な書物をその小さな身体にに詰め込んだ“図書館その物”たる彼女は、やれやれと肩を竦めて嘗ての文豪であったらしき影朧へ一瞥をくれてやる。
「――生憎、君の作品とならともかく、君と死ぬのは御免だ。それとも彼女と身投げでもする気?」
「嗚呼、厭だなぁ。声は耳に届いてもその姿が捉えられない。人と語らうときは確り目を合わせないと、ねぇ?」
飄々とした様子ながらも苛立ち隠せぬ声音に、ランガナはくすりと笑って。花弁と共に逃げ回ることを止めない。
それもその筈、彼女へ攻撃が命中しないのはユーベルコード『妖精の蔵書印』に拠る能力だ。
まるで全てが教科書、書物通りであるかのように、的確に、正確に、攻撃を回避する。ランガナは傷一つなく、花弁の嵐を抜け出してゆく。
彼女の行く先は影朧ではなく――その背後に居る、木偶・架某だ。
「それよりも、君。ああ、君だよ、架某くん。面白かったよ、『傍の花も一盛り』」
「――! どうして、その本を」
「或る書店でちょいと見つけたのさ。随分と繊細で真に迫る描写。経験が生きていたんだね」
「そんな、世辞なんて結構。あんな作品……」
「私は好きだな、この主人公。儚くも、最後まで歩みを止めないのがいい」
「……っ、…………」
主人公を褒め、具体性に富んだ感想を述べたなら、架某は悔しげながらもランガナへと視線を合わせる。
「あなたは、私の今の作品も否定するんでしょ? “昔は良かった”だなんて」
「いいや? 代表作も読んだとも。私は好きだよ? これも」
装丁もよく合っている、と。箔押しが施された豪華な書物『春疾風』を取り出してみせる。
「眠っていた君の才能というのも、成る程、事実かもね」
「……それで、私にどうしろって」
「ん? ラムプを手放せ、なんて言わないよ。読者に、作者の行動に口を出す権利などないもの」
「? つまり、どういう……」
「ただ、伝えたかっただけさ」
「っ――! ……」
ランガナはあくまで読者として、作家へと直接感想を伝えたまで。
それ以上でも、以下でもない。ランガナ・ラマムリタは説得とは名ばかりのアポ無し突撃をしでかしたのだ。
――しかし、彼女のその言葉は、声は。自ら目隠しをし続けていた作家の視界に一筋の光明が差したことであろう。
大成功
🔵🔵🔵
シビラ・レーヴェンス
相手の櫻居には極力接近せずに距離を取りつつ戦う。
その場に留まらず常に移動しつつ援護という形だな。
行使する魔術は室内使用にも適している【氷結の矢】。
(早業、高速詠唱、範囲攻撃、全力魔法、多重詠唱使用)
もし櫻居が素早いなら私自身の小躰を利用することも考える。
つまりホール内にある物や人物の影に身を隠し魔術を放つ。
回避が困難になるし注意力も必要以上にいることになるはず。
仲間の邪魔をしないよう彼らの行動を簡単に把握しておく。
そうそう。木偶の挙動にも注意をしておこう。何をするかわからん。
櫻居が盾にする可能性もあるからできればこちらに確保したいが。
現時点では困難か。とりあえず矢が当たらないように注意しよう。
●弐:シビラ・レーヴェンスの場合
影朧から距離を離した位置にて降り立ったのは、シビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)だ。
シビラの目的は、その場に留まらずに攻撃を続ける主力猟兵達の援護。
唱える呪文は静謐に、正確に。
周囲を凍てつかせるほどの魔力を込め、氷結の矢を大量に解き放つ!
シビラが放った氷結の矢は花弁を、夜桜漂わす風を凍てつかせ、次々に影朧へと貫いていった。
しかし――影朧は笑みを浮かべたまま、新たに原稿用紙と桜の花弁の嵐を生み出し、シビラめがけて放ってゆく。
「……成程、やはり反撃をしてきたか。だが――」
シビラは己の小さな体躯を生かし、多目的ホールに備えてあったテーブルへと身を隠し、攻撃を防ぐ。
されど、多量の攻撃に木製のテーブルはすぐに壊れ、隙間から入り込んだ花弁が彼女の身体を切り裂いた。
「くっ……また新たに、矢を生み出す必要がありそうだな」
壊れたテーブルで盾を作り、小柄な身体を生かしてそっと身を窶しながら。
シビラは静かに呪文を唱える。
「Posibilitatea de a îngheța blocanții……」
顕現するは、無数の氷結の矢。
回転し、鋭い切っ先を宿した矢たちは、まっすぐに影朧めがけて貫いてゆく――!!
(「木偶の挙動は――問題ないようだな。既に鎮静化も続いている。投降するのも時間の問題だろう。あとは此方のケア次第……というところだな」)
成功
🔵🔵🔴
カイム・クローバー
◎
櫻居四狼。噂に違わぬ伊達男振りだ。本物はどうか知らねぇが、影朧のアンタは女を泣かせるのが上手そうだ。
魔剣を顕現させ、視界と反応は影朧を捉え、だが、俺の声は架某の方へと。
アンタが架某…だよな?買わせて貰ったぜ。俺は本には詳しくねぇが――買った店の店主はアンタの本を二番煎じと称してた。
おいおい、ふてくされるなよ。まだ続きがあるぜ。それからも少しアンタの評価を色んな奴に聞いてみたんだが…過去の作品のファンだって奴に会った。
好きなんだとよ。アンタの描く世界が。人物が。人気云々は分からねぇが…そういうのって『作家の個性』なんじゃないのか?
UCで影朧を叩き伏せる。架某の返答は要らねぇさ。後は自分で決めな
●弐:カイム・クローバーの場合
(「櫻居四狼。噂に違わぬ伊達男振りだ。本物はどうか知らねぇが……」)
唇に添えるは、不敵な微笑み。
カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)の瞳が見据えるは、いけ好かない伊達男『櫻居・四狼』。
対する男は紫瞳閃かせ、その腕を広げたなら――顕現されるは、禍々しき赤黒き魔剣。
その名を『神殺しの魔剣』、渇望する者が操りし得物。
虚空に浮かびしその剣たちは、ゆるり、と影朧へ目掛け放たれてゆく。
「影朧のアンタは、女を泣かせるのが上手そうだな」
「へぇ、君は『僕でない僕』を知ってるんだねぇ」
「さぁてな。真相はこれから猟兵の手で晒されるだろうぜ」
影朧は桜吹雪で身を守ろうとするも、魔剣のひと振りが片腕に深々と突き刺さって動きが鈍る。
その隙に、カイムは影朧の背後へと回り込み、木偶・架某へと手を差し伸べる。
「アンタが架某…だよな?」
「……! そ、そうよ。だったら、なに」
「買わせて貰ったぜ、『春疾風』。俺は本には詳しくねぇが――買った店の店主はアンタの本を二番煎じと称してた」
そう話したなら、架某はふっと諦念に満ちた笑みを吐き出した。
「そうでしょうね、こんな作品、私じゃなくても誰かがきっと書くものですもの――」
「おいおい、ふてくされるなよ。まだ続きがあるぜ。それからも少しアンタの評価を色んな奴に聞いてみたんだが……過去の作品のファンだって奴に会った」
「…………ファン?」
自己肯定の低い娘は、ファンの話になればすぐさま耳を傾ける。
そうしてカイムは、道中で出会ったファンたる女学生達の話をしてみせた。
主人公の葛藤や、戦いの描写が手に汗握ると。繊細な心情もまた心惹かれたと。
「好きなんだとよ。アンタの描く世界が。人物が。人気云々は分からねぇが…そういうのって『作家の個性』なんじゃないのか?」
「っ――!! わ、私は――……」
彼女の答えを聞く前に、カイムは桜吹雪を魔剣で斬り裂いた。
(「返答は要らねぇさ。後は自分で決めな――」)
そう、彼は便利屋。ただストイックに、スマートに、仕事をこなしてみせるのみ。
大成功
🔵🔵🔵
雨宮・いつき
◎
…きっと彼女は自身の作品のように繊細な方だったのでしょう
見る目が無いと世間を責めるでもなく、己の力不足を嘆き、自身の作品を否定する程に追い詰められ
闇の中で陽の光を求める花のように、ずっと懊悩して
縋った光が偽りであると、本当は気付いていたのではないですか
だから花のような物語を…否定して、けれど本当に書きたかった物語を代表作にしなかったのではないですか
先生、すごく真面目そうですから
それを、夢を魅せると嘯き弄ぶ…度し難い
先の三冊のヤドリガミを再び呼び、影朧の相手を
物語に誘うような幻惑、儚く舞い吹雪く花弁
連続での使用…負担は大きいですが、ありったけ霊力を注いで
夢は嘘では欺けないという事、証明します!
●弐:雨宮・いつきの場合
度重なる猟兵達の攻防に、影朧の放つ花弁も数を失ってゆく。
これは、影朧の力が徐々に失っているという事実に他ならない。
「どうして……! 櫻居先生、いかないで! 私を独りにしないで、お願い……!!」
架某は叫ぶ。ただ悲痛に、懇願するように。
耳を劈くような叫びののち、女のすすり泣く声がホールにこだました。
それでも尚、猟兵達は戦いの手を止めることはない。無論、影朧もだ。
(「……やはり、彼女は繊細な人だ。自分が手掛けた作品のように」)
雨宮・いつき(歌って踊れる御狐様・f04568)は、そう胸中で独りごちた。
彼女は世を憎むでなく、己を呪い続けた。
見る目が無いと世間を責めるでもなく、己の力不足を嘆いた。
そうして、自身の作品を否定する程に追い詰められ、闇の中で陽の光を求める花のように、ずっと懊悩して。
ただ、ただ手を伸ばしただけだったのではないか。
喩えその光が、偽りであったとしても。
故に、花のような物語を否定し、敢えて本当に書きたかった物語を代表作にしなかったのではないのかと。
いつきは、そう考えた。
それは、今も尚ぼろぼろになって涙を流す彼女が真面目そうに見えるからだ。
「嗚呼、やめて、やめて! 先生がいなくなれば、私の作品がなくなれば、私はいったいどう生きたら……」
「恐縮ながら……木偶先生、夢を魅せると嘯き弄ぶ……あの影朧は度し難いです」
そう告げ、いつきは掌から護符を広げ、光を放つ。
「万物に宿りし仮初の神々よ。今一時その力、我らが為に振るい給え――!!」
いつきの力によって顕現したのは、『凡愚と花』、『生き花を咲かせて』、『高値の花』の主人公である三人の少女の姿。
いずれも、木偶・架某にとって思い入れ深い、花のように麗しい少女の姿として表れたことであろう。
「――!! あやめ、蘭、ユリ……あなたたち、なの?」
そう言って架某は呆然となって、三人へと問いかける。
「「「ええ、そうよ。あなたが望んだから、私たちは生まれたの」」」
そうして三人の少女達は、影朧を抱くようにして寄り添ってゆく。
「おや? いきなり綺麗な女の子達に寄り添われるなんて、まったく困ったモンだねッ、エッッッ…………」
「困ったもの? なら、私たちと永遠に遊びましょう」
「あなたの夜桜、とっても素敵だわ。花として生まれた私達にぴったり」
「これ以上、お母さんを困らせないで」
「――と、娘さんはおっしゃっていますよ。架某さん」
にっこり、眼鏡の奥の瞳を細めていつきは笑ってみせる。
「娘……そんな、あの子達は……」
影朧がゆるやかに影へと溶けていく瞬間、架某は“娘”たる三人を見据えた。
「ねえ、お母さん」
「私達をどう認めるかはお母さん次第」
「認められなかったら、さびしいけど……でも、お母さんの決めたことなら止めないわ」
「お母さんは、お母さんの生きたい人生を生きて」
「「「約束よ」」」
そう伝えたきり、娘たちは影朧を道づれにして、それっきり闇へと溶けて消えていった。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 日常
『籠絡ラムプの後始末』
|
POW : 本物のユベルコヲド使いの矜持を見せつけ、目指すべき正しい道を力強く指し示す
SPD : 事件の関係者や目撃者、残された証拠品などを上手く利用して、相応しい罰を与える(与えなくても良い)
WIZ : 偽ユーベルコヲド使いを説得したり、問題を解決するなどして、同じ過ちを繰り返さないように教育する
👑5
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●参
「ああ、ああ……先生、お願いいかないで……」
架某の悲痛な声も虚しく、影朧は影に呑まれ、霧散していく。
その場に崩れ落ち、人気女流作家は涙を流す。後に残るは、彼女のすすり泣く声のみ。
既に時刻は夜を越え、ここでようやくファン達は多目的ホールへと駆けつけてゆく。
「先生! 先生が書いた作品は本物なんですよね!?」
「まさか巷でにぎわせるラムプの力ではありませんよね……!?」
「先生、なんとか応えてください!!」
口々にファン達は声を上げる。
その越えに、架某は耳を塞ぎ、今にも涙を堪えそうな状態だ。
さて、猟兵達は、この作家にどう声を掛け、サポートを施すべきか。
彼女の未来は、猟兵達の選択にかかっている――。
●執筆開始
11月29日~
皆様のお手すきのタイミングでプレイングを送っていただけると幸いです。
アリサ・マーキュリー
◎【桜狐】
慰め×誘惑を使い、打ち解けやすく話しやすい雰囲気を作る
枝栞がファンを静かにさせている間、彼女が落ち着くまでそっと優しく架某に寄り添い、慰める
たしかにラムプの力を使ったかもしれないけど、書いたのは貴女でしょ?
書きたい物があった。そこには想いも。
それは嘘でも、ましてや夢でもない。でしょ?
仮初の力を借りずとも、貴女には十分、力も夢も有るんだよ。他人に夢を見せる、そんな力が。
それを評価してくれてた人も居るんだから。
先程出会った元々のファンの子を連れて来る
作家は周りを観察しなきゃ、ね?
この本で、未練や執着は捨てられた?
なら夢から覚めて、ちゃんとペンを握らなきゃ。
思い出して。先生は、貴女だよ。
神薗・枝栞
◎【桜狐】
きっと先生の心は落ち着かないことでしょう…おそらく今、閉じこもりたい気持ちになりたいほど
だからアリサさん、一緒に先生の目を覚まさせてあげましょう
「どうか皆様お静かに!」ファンの方々に対しまずは一喝した後、そっとまずは今回の状況を説明します
この作品は確かに禁忌の力に頼った末に生み出された作品かもしれません…ですが、物語そのものに罪はありません
そして先生自身が望み、描きたかった「願い」や「夢」があったはずです
…先生。もし叶うなら、これからも物語を書いてくれませんか?
せっかくの夢の時間を手離すのは苦しいかもしれませんが…このまま悪夢に落ちてしまうのはハッピーエンドとは言えませんから
●参:アリサ・マーキュリーおよび神薗・枝栞の場合
「どうか皆様お静かに!」
澄み渡るような声の一喝が、フロア内に響く。
神薗・枝栞(古きビブリオの栞・f22729)は毅然とした佇まいでファンの人々を見渡す。
彼等の顔色は様々だ。心配。困惑。憤怒。幾つもの強い感情が混ざり合い、木偶・架某の心を責め立てる。
(「きっと先生の心は落ち着かないことでしょう……おそらく今、閉じこもりたい気持ちになりたいほど」)
故に、まずは我々が騒ぎを収めなければならない。
「……枝栞」
アリサ・マーキュリー(I’m not a princess!・f01846)が名を呼べば、枝栞は目配せと共に頷いた。
ここまで行動を共にしてきた彼女に対する信頼の証。
枝栞は前へ出でて、ざわつくファン達へと鎮めるべく説明を始める。
「この作品は確かに禁忌の力に頼った末に生み出された作品かもしれません……ですが、物語そのものに罪はありません。
そして先生自身が望み、描きたかった『願い』や『夢』があったはずです」
その言葉に多数のファン達は押し黙るものの、一人のファンが声を荒げて言葉を投げかけた。
「け、けれど、私達を騙していたことに変わりはないですよね! ラムプの力がない今のあなたは、なにが書けるっていうんですか」
「――! ……そうだ。私には、ラムプがなくっちゃここまで有名になれなかった。今の私には……何も……」
ますます顔が青ざめていく架某の肩に、そっと置かれたのはアリサの手。
「たしかにラムプの力を使ったかもしれないけど、書いたのは貴女でしょ?
書きたい物があった。そこには想いも。それは嘘でも、ましてや夢でもない」
――でしょ? と言葉を続けながら、アリサは架某が落ち着きを取り戻すまで傍に居続けた。
ぽつりぽつりと紡がれるアリサの言葉は、架某の心を少しずつ溶かしていく。
「でも私は、書きたいものが書けなかったから仮初の力に頼ってしまったの。私自身には何も持っているものなんて――」
「ううん、仮初の力を借りずとも、貴女には十分、力も夢も有るんだよ。他人に夢を見せる、そんな力が。
それを評価してくれてた人も居るんだから。……そうだよね」
と、アリサが群衆へと視線を遣れば、一人の少女が駆け寄ってきた。
あのときアリサが会話した、列に並んでいた女学生だ。彼女は以前の作品が好きであったと言っていたのを、アリサは覚えていたのだ。
「木偶先生! 私、何があってもあなたの作品が大好きです」
「彼女、貴女の以前の作品も読みたくて個展に来たって私に教えてくれたよ。熱心なファンが、此処に居てくれてる」
アリサがそう言い添えたなら、架某は驚いたように目を大きく瞬かせた。
「……先生。もし叶うなら、これからも物語を書いてくれませんか?」
そんな彼女へ優しく訊ねるのは枝栞だ。
枝栞はかつて架某が綴った作品たちを見せながら、気遣うように穏やかに微笑む。
「せっかくの夢の時間を手離すのは苦しいかもしれませんが……このまま悪夢に落ちてしまうのはハッピーエンドとは言えませんから」
「未練や執着は捨てられた? なら夢から覚めて、ちゃんとペンを握らなきゃ」
――思い出して。先生は、貴女だよ。
夢はいつしか覚めるもの。
原稿へと向き合うその瞳は、その手は、確かでなくちゃいけない。
ゆっくりとほどかれていく、偽りの人気作家の心。されど未だ、物語を紡ぐはずの手は震えたまま。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ランガナ・ラマムリタ
◎
「やぁ、これは参ったねえ、木偶先生」
そう、肩でも竦めて、軽く声をかけようか
「逃げてしまうかい? それならそれで、手伝うよ。道先案内は妖精の得意技だからね」
「応える? や、別にいいんじゃないかな。作家は作品で語るものでしょう」
心から、そう思う
作家の人格と作品は無関係、なんてのは書誌学の初歩も初歩
歴史的な犯罪者の著作だって図書館は収め、貸し出すものだからね
ファンの彼女らだって、ついてくる子はついてくるでしょう
けれど。
「勿論。貴女がそうしたいなら、別だけれど。さぁ、何を手伝おうか?」
といっても、本を取り出すくらいしか出来ない、無力な妖精だけれど
貴女の1ファンとして、出来る協力は惜しまないよ
シビラ・レーヴェンス
解決する方向へは導くが説得するつもりはない。
木偶には木偶の言い分があるのではないだろうか。
だから木偶の話を徹底的に聞こうと考えた。
「話を、聞かせてくれないか?」
言ってから木偶の隣に寄り口を開くまで待つ。
木偶自身が話してくれるまで待つつもりだ。
…茶があれば暇を潰せるがそうもいくまい…。
しかたがない。別の方法で待つことにしよう。
丁度いい。読み途中だった例の『本』を開く。
木偶が話し始めたら本を閉じ静かに耳を傾ける。
彼女の話に相槌はうたずに木偶をじっと見守る。
話し終わるまで黙って聞いていよう。
ティオレンシア・シーディア
◎
さぁて、うっとーしい作家サマは消えたわけだしお仕事終了――ってわけには、さすがにいかないわよねぇ。あたし説得とか慰めとかホント苦手なんだけどなぁ…
とりあえずここじゃ話もなにもできそうにないわねぇ。とにかく落ち着けるとこに場所を移しましょうか。木偶サンは…この様子じゃ自力で、ってのは厳しそうだし。〇怪力で引っ担いじゃったほうが楽かしらぁ?
煙幕とかラグ(幻影)とか摩利支天印(陽炎)とかバラ撒いてとんずらしちゃいましょ。
ねえ、木偶サン。ものすごぉく失礼なこと聞くわよぉ?
――あなた、「書きたかった」の?それとも「売れたかった」の?
動機に貴賤はないけれど。あなたの原点は何だったのかしらぁ?
嵯峨野・白秋
◎
物語という虚構を描き読者を魅せる
作家は則ち嘘吐きでもあるが、嘘を吐くことと人を騙すことは違う
うたかた嬢から奪った物語で築いた名声が虚しいことなどもう疾うに解っているのではないかい?
だから如何するかは君に任せるよ
作家も人だからおまんまを食べなきゃ生きていけない
好きだけで生きていけるなど現実は物語のように都合良く出来ていない
しかし売れる為だけの物語にも意味がない
作者が愛せない物語など、誰の心にも響かないと私は思う
ラムプの力等無くても君の物語を愛してくれた人は居たんじゃないかい?
その上で君が物語に向き合うのなら連絡先を渡そう
今度は君が愛した君自身の物語を読ませてくれないか?
躓いた時には手伝うからさ
●ティオレンシア・シーディアの場合
「さぁて、うっとーしい作家サマは消えたわけだしお仕事終了――ってわけには、さすがにいかないわよねぇ」
ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)がちら、と瞑られたように見える糸目を向ければ、そこには小刻みに震える元人気女流作家の姿。
そして周囲を取り囲むのは複雑な感情渦巻く多数のファン達。
とてもではないが、落ち着いて話をできる場ではない。そう思い至ったティオレンシアは――、
「へ、あ、きゃっ……!」
「ちょっと揺れるけど、辛抱なさいね?」
ひょい、と架暮の身体を肩に担ぎ、フロアを抜け出していった。
「! おい、逃げ出したぞ!」
「先生、なんとか答えてください!!」
その行動に唖然とするファン達。しかし、野次馬と化した彼ら彼女らはわらわらと追いかけてくる。
しかし、それを阻んだのは――突如、大きく爆ぜた煙幕だった。
「わっ……! なんだ、この煙……!?」
「ユーベルコヲド使いの煙幕ね。逃げられるなんて……!」
その隙を見遣り、文学館の裏口へと駆け込んだティオレンシアを追いかけることができたのは、猟兵達のみであったようだ。
喧騒を抜け出し、ようやく落ち着いて話すことができるようになったところでティオレンシアは口を開いた。
「ねえ、木偶サン。ものすごぉく失礼なこと聞くわよぉ?
――あなた、『書きたかった』の? それとも『売れたかった』の?」
「――!!」
図星を突くティオレンシアの問いに、架暮は目を瞬かせて息を呑んだ。
「動機に貴賤はないけれど。あなたの原点は何だったのかしらぁ?」
「私……私の、原点は……」
訊ねられ、暫し口篭るも、架暮は重々しく口を開いた。
「初めは……櫻居先生に憧れて作家を目指したの。でも、自分の書きたいものは売れなくて、自分を否定されているみたいで――そんなとき、ラムプに出逢った。自分の書きたいものが売れないのなら、読者が、世間が求めているものを書きたくて。だから、私は……」
自分を、殺した、と。振り絞るように、小さく、小さく呟いたのだった。
●参:ランガナ・ラマムリタの場合
「やぁ、これは参ったねえ、木偶先生」
小さく震えたままの架暮の背へと声を掛けたのはランガナ・ラマムリタ(本の妖精・f21981)だ。
彼女の身体は架暮よりもずっと小さい筈である――無論、架暮の目からは違和感ない少女の等身として見えている――が、ずっと大きく、凛として見えるのはどうしてだろう。
「参った、なんてものじゃないわ。私の人生の終わり……でもせめて最後に、皆に応えなくちゃ……」
「応える? や、別にいいんじゃないかな。作家は作品で語るものでしょう」
か細い声で呟く架暮に対し、ランガナはそう率直に答えた。
作家の人格と作品はイコールに結びつかない。あらゆる書を蒐集したランガナは、彼女の作品に自分なりの正当な評価を下し、それは過ちを認めてもなお変わらない。
(「歴史的な犯罪者の著作だって図書館は収め、貸し出すものだからね。……まあ、あの様子では、罪への重さに耐えかねて筆を折ってしまいそうなのだけれど」)
そうしたいのならば、止めない。けれど、彼女には残してきたものが多くあるはずだ。
ふわり、妖精の羽をはばたかせ、ランガナは足を組んで彼女の傍へと腰掛ける。
「――――さぁ、何を手伝おうか?」
「手伝うって、あなたには、何が……」
「喩えば、貴女の絶版した本を取り出すことくらいはできるかもしれない。お望みのまま、お気に召すまま――なんてね」
――1ファンであるからこそ、出来る協力は惜しまない、と。
ランガナはゆるりと微笑んだ。
●参:嵯峨野・白秋の場合
くるり、くるり。
愛用の筆を手中で戯れのように弄び、嵯峨野・白秋(享楽作家・f23033)はゆるりと歩み出る。
「物語という虚構を描き、読者を魅せる――作家は則ち嘘吐きでもあるが、嘘を吐くことと人を騙すことは違う」
ぴたり、筆を止めて。白秋はぐったりとした架暮を見つめて。
「そう……私は、人を騙し続けて、手柄を横取りしたの。あの人の終わったはずの作品までも引っ張り出して……」
「うたかた嬢のことかい? 彼女から奪った物語で築いた名声が虚しいと――その様子ではもう識っているようだね。だから如何するかは君に任せるよ」
この重苦しい空気の中でも、白秋は微笑を唇に添えていた。それが彼女にとっての自然体であるからだ。
「――そうそう、先程のファンの彼女。君も居たじゃないか、ラムプの力等無くとも物語を愛してくれた人が」
猟兵との交流を経たらしきファンの少女との邂逅を挙げ、とても健気で、愛らしいと思ったよ、と笑ってみせた。
「愛してくれる人は勿論いた……けれど、私はその子に応えられるほど作品に愛情はあるのか……」
「ふむ……愛情は情熱とも通ずるね。作家も人だからおまんまを食べなきゃ生きていけない。好きだけで生きていけるなど、現実は物語のように都合良く出来ていない」
くるりとひとつ筆を廻し、女流作家は語り続ける。
「しかし、売れる為だけの物語にも意味がない。作者が愛せない物語など、誰の心にも響かないと私は思う。小説より奇なりなどと簡単にいかないのが現実ではあれど、粋なりに綴ってみるのも悪くはないものさ」
肩の力を抜いて遊び心を加えて、ね。と笑みを深めてみせた。
「今の私……うまく書けるかしら。楽しんで書くなんて、思い出せるかしら」
「楽しむことを忘れたのなら、少しくらいなら力になるさ。
――今度は君が愛した君自身の物語を読ませてくれないか?」
白秋はそう告げて、連絡先が綴られた名刺を一枚手渡した。
躓いたのなら力になろう、相談でも、助力でも――嗚呼、カフェーでのお喋りも吝かではないけれど、ね。
●参:シビラ・レーヴェンスの場合
説得を続ける猟兵達に対し、シビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)の姿勢は静観に近しいものだった。
解決に導く――が、熱心な説得をするつもりはない。シビラは彼女の言い分、想いを重んじていた。
猟兵達の言葉を、想いを受け取り、心が揺らぎ始める架暮に対し、シビラは一言訊ねた。
「話を、聞かせてくれないか?」
「話……?」
「何でも、構わない。過去に思っていたこと、いま思っていること、そしてこれからのこと、話せる範囲で、かまわない」
この場で、気持ちを整理する機会にもなるだろうとシビラは提案した。
シビラの言葉に、架暮は固く口を閉ざしたまま。
シビラはその顔を一瞥したのち、一冊の本を開いた。
それは途中まで読んでいた『帝都浪漫春疾風~想ひうつろふ、筆の先』だ。
ヒロイックな展開も何もかも、成程、最近の流行に合わせた「それらしい」作品だ。
大衆にはウケるであろうが、結末も何もかも作者からの拘りが感じられずまるで精巧に作られた判子絵のような作品であった。
そこで、一つ息を吸う音が聞こえた。シビラは本を閉じて架暮へと目を向ける。
「わたし……私は、いま残っているのは後悔ばかりよ。一時の欲望に負けた結果、後先は真っ暗」
深く、深く肩を落とす。けれど、と一つ前置きした上で話を続ける。
「……そんな私に、手を差し伸べてくれているのが、他でもないあなた達」
そう告げて、架暮は猟兵達を見渡した。
その顔は若干ながらも憂いが和らいでいるように見えた。
ここまで相槌を打たずに話を聞き続けるシビラは、その姿勢を崩さずにただ彼女が話し終わるのを見守っていた。
「正直、今は何を書けばいいか分からないままなの。時間がかかると思う。たくさんの励ましを貰っても、私は、まだ……」
――立派な『先生』でいられるかしら。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
カイム・クローバー
◎
――本物だぜ。
詰め掛けたファンにそう言ってやるよ。架某はとても声を上げられる状態には見えねぇし、誰かが言ってやらなきゃ、だろ?
UCを交えて事情を説明するぜ。勿論、ラムプの事は隠した上で、だ。
俺が架某に掛けられる言葉はもう既に終わってる、こっからの事は猟兵の説得を聞きながら架某自身が決めることだ。
思い出せ。アンタが本当に書きたかった作品を。『認められたかった』?…けどよ、それ以前に――例えば、最初に書いた作品は『書きたかったから書いた』んじゃねぇのか?
凡愚?凡庸?言いたいヤツには言わせておきな。
アンタの物語は…誰かを幸せにしてる。胸を張れ――それは誰にでも出来る事じゃねぇさ。違うかい?
ドンドン! と、裏口の戸を叩くけたたましい音が響く。
「木偶先生! そちらにいるんですよね、ユーベルコヲド使いの人達と一緒に!!」
「どうなのか答えてください。私、遠方から先生の為にこの街まで来たんですよ!!」
口々に響くファン達は、逃げようとする女流作家の心など露知らずただ追い詰めるばかり。
●参:カイム・クローバーの場合
「……まだ、ファンの人達から言われた言葉が苦しい。私はやっぱり、ラムプの力に頼っただけの凡人なのかもって」
耳を塞ぎながら、猟兵達へと感情を吐露する架某。
今にも消えてしまいそうなほど小さく背を丸めた彼女に、新たな声が投げかけられる。
「――本物だぜ」
そう一つ、告げたのはカイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)だ。
多くは、語らない。カイムが彼女に語りかける言葉はあの戦いで全て伝えきった。
此処から先は、架某自身が多くの猟兵達の言葉を汲み取り、考える番なのだと。
カイムはラムプの事実を伏せながら、ファン達に扉越しで説明を始めた。
その話術に言いくるめられ、けたたましいノック音は静まってゆく。
(「思い出せ。アンタが本当に書きたかった作品を。
『認められたかった』? ……けどよ、それ以前に――例えば、最初に書いた作品は『書きたかったから書いた』んじゃねぇのか?」)
そのさなか、カイムは想う。本来抱いていた筈の『好き』を、楽しんで文字に触れていたその『瞬間』を。
「怖い……私、こわい。この扉の、先が」
投げかけられる言葉たち。自分が招いた過ちとはいえ、彼女にはまだそれを受け止める勇気がなかった。
「だが……開かなきゃその先には進めねぇ」
ファン達に聞かれぬよう、ぽつり呟いたのはカイムだ。
「言いたいヤツには言わせておきな。アンタの物語は……誰かを幸せにしてる。胸を張れ――それは誰にでも出来る事じゃねぇさ。違うかい?」
そう、便利屋はニヒルに笑う。
カイムからの言葉に、架某は力なくも精一杯に微笑み返してみせた。
大成功
🔵🔵🔵
雨宮・いつき
全く、もう
こうも寄ってたかって声を荒げられては困ってしまいます
彼岸の花弁で幻惑をして、ファンの方達をホールの外へ
先生が落ち着く暇を少しだけ下さい
…木偶先生、貴女が才を花開かせた切欠は偽りの力によるものだったかもしれません
けど、その才自体が偽りかどうかは…これからの貴女次第なんです
…花が美しく咲き誇るのは、次代へ命を紡ぐためです
作品という『花』も作家という『花』も…多分一緒です
作家が心と思いを込めて作品を咲かせて
作品もまた才の糧となり作家を花開かせる
貴女がこれまで咲かせてきた花達は、未来の貴女という花を咲かせる力に、きっとなってくれます
だから、貴女の花達を…貴女自身を、否定しないで下さい
●参:雨宮・いつきの場合
(「全く、もう。こうも寄ってたかって声を荒げられては困ってしまいます」)
毀れる嘆息。
雨宮・いつき(歌って踊れる御狐様・f04568)は新たな吐息とともに、彼岸の花弁を漂わす。
ふわり、舞い散る花々は魔力は、戸の向こうで騒ぎ続けるファン達を魅了し、静まらせてゆく。
「先生が落ち着く暇を、少しだけ下さい」
いつきはそう呟いたのち、架某へと向き直る。
「……木偶先生」
「あなたは……さっき、私の作品を喚び出してくれた子ね」
あの時に召喚した“娘達”を思い返し、いつきは一つ頷いて、話を続けた。
「貴女が才を花開かせた切欠は偽りの力によるものだったかもしれません。けど、その才自体が偽りかどうかは……これからの貴女次第なんです」
「私、次第……そうね、あの子達も、言っていたわ。『私達をどう認めるかはお母さん次第』って」
「過去も、その先も、あなた自身の心にかかっているんです」
いつきの言葉に対し、架某は茫と虚空を見遣る。未だ、心此処に在らずといった状態だ。
そんな彼女に対し、いつきは肩に手を添え、此方を目を向けられるようにじっと見つめる。
「――あなたは、かつての作品を『花』と喩えていました。だからこそ、彼女達は花のように美しい姿で顕現したのです」
いつきの話に、架某の瞳はすこしばかり光を取り戻した。
「……花が美しく咲き誇るのは、次代へ命を紡ぐためです。作品という『花』も作家という『花』も……多分一緒です。作家が心と思いを込めて作品を咲かせて、作品もまた才の糧となり作家を花開かせる」
――――花。
それは、木偶・架某が人気を得る前からも、常に意識し続けてきたテーマだ。
影と共に消えたあの娘達を、想い返す。
「「「あなたが望んだから、私たちは生まれたの」」」
もしラムプの力で有名になったとしたら、黒歴史として葬っていたかもしれない作品が。
決して多くの人の目には触れないであろう、絶版した作品が。
人の形を成して、最期に自分へ語りかけてくれた。
「私……私は、自分の作品に、なんてひどいことを……!!」
崩れ落ちて嗚咽を漏らす架某へと、いつきは目線を合わせるように屈んで言葉を紡ぐ。
「どうか、泣かないでください。貴女がこれまで咲かせてきた花達は、未来の貴女という花を咲かせる力に、きっとなってくれます」
――だから、貴女の花達を……貴女自身を、否定しないで下さい。
ふわり、ひらり。
彼岸花の香りが薄れてゆく。その束の間、どよめくファン達の声が戸越しに響いてゆく。
まだ力が足りないらしい、と或る猟兵が人払いのユーベルコードを放とうとする直前、
「待って」
制したのは、他でもない木偶・架某であった。
「此処から先は、私自身が向き合うべき問題です。猟兵の皆さんは、直接的な攻撃が飛ばないよう護衛をお願いします。私が要請する立場ではないのは、分かっているけれど……けれど……受けるべき罪は償って、私はまた作品を紡ぎたいと想うから」
そう、架某は野に咲く傷だらけの花のように笑って、裏口の戸を開けた――。
――――此処から先は、後日談としよう。
大事となった個展は中止となり、木偶・架某の身柄は警察へと引き渡された。
身寄りの無い彼女に対し、作品を無断盗用された当人、春塵・うたかたが保釈金を用意したようである。
世間として「あの暴君は何を考えているのか分からない」「寧ろこの裁判沙汰を楽しんでいる節さえ見受けられる」とし、賛否両論――というか、否の方が圧倒的に多い状況である。
そしてその後、『帝都浪漫春疾風~想ひうつろふ、筆の先』は原作者監修のもと、改めて出版されることとなった。
紡がれた書物は、書店から人の手へ渡り歩き、様々な人々へ物語を広げていくことだろう。
――帝都浪漫春疾風。
泡沫の世へと隠れ、此れにて終幕。
大成功
🔵🔵🔵
最終結果:成功
完成日:2021年01月06日
宿敵
『或る作家の残影』
を撃破!
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