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帝都浪漫春疾風~想ひうつろふ、筆の先(作者 夢前アンナ
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●夢の名残

 あの子のことかい? そうだねぇ。
 やってられない、生きてられない、狂気の中にはいられない。
 でもあの子にとって、筆を執るのは呼吸そのもの……。

 ……なんて、云えるような“変人”になりたかったように、あたしは見えたね。

 ――――大衆雑誌にて。元・大女優、U.H.は斯く語る。


 ――――。
 ――。

 書きたくても書けないの、だなんて悩みを漏らしたって、誰だって鼻で嗤うのでしょう?
 そんな人間が、職場が、何もかもが、みんなみんな恨めしかったの。

『そんなに苦しいなら別の職でも探せばいいのに』

 なんて、妥協策。何度もそう呆れられて、莫迦にされたわ。
 たくさん厭な言葉だって棄き捨てられた。

 母は私を凡人と云う。
 友は私を凡庸と云う。
 評論家気取りの老いぼれ共は、私の作品を凡愚だと云う。

 ――――そう、凡愚だと。

 でも決めたの。この手で紡いだ物語で、日銭を稼いで生涯を生きていくと。

 あのラムプを照らしながら原稿用紙を埋めれば、たちまち誰もが私の物語の虜となったわ。
 そうよ、もう私一人で立派な作家となれるの。
 あんな大女優も、猟兵も、もう必要ない。


 ――私が望んだハッピィ・エンドを、帝都中に広めるの!


 ……そう。愛しのあの先生のように、素敵な物語を。



●帝都浪漫春疾風

「……まさか、こんなことになるなんて」
 小夜凪・ナギサ(人間のUDCエージェント・f00842)は不服そうに肩を落とした。
 それでもなお冷静さを欠くことなく、眼鏡の位置を直しながら、ナギサは猟兵達へ向き直る。
「サクラミラージュで、或る若い女性作家が人気を集めているわ。叙情的で、繊細に描かれたリアリティのある物語に定評があるとのことよ。けれど、その女性作家には――『籠絡ラムプ』というアイテムで危険な影朧を手懐けて、本来の己に合わない程のスペックを高めて活躍しているの」
 幻朧戦線が密かに市井にばらまいたという『籠絡ラムプ』は、影朧兵器そのもの。
 いつしか暴走し、帝都中に多大な被害が及ぶことには違いない。
 しかしその強力さゆえに、籠絡ラムプの力に魅入られた作家が既に居るのだという。
「その女性作家の名は、『木偶・架某(もくぐう・かくれ)』というわ。木偶の坊の木偶に、十字架の架、なにがしの某――」

 スクリーンにて表示された文庫本の表紙には――『帝都浪漫春疾風~想ひうつろふ、筆の先』と題されてあった。

 このタイトルに見覚えのある、ないし見覚えの無い猟兵達に対し、ナギサは等しく頷いて言葉を続ける。
「『帝都浪漫春疾風』……これはかつて、猟兵達の手で解決した影朧事件にまつわる舞台のタイトルよ。この本が現在、帝都内で若年層を中心に話題になっているの。このままでは何らかの文学賞にノミネートされるくらいにね」
 いったいどんな内容なのか、という問いに、ナギサは申し訳無さそうに首を横に振った。
「……ごめんなさい。どの書店を巡っても、この文庫本は品切れ。かろうじて手に入れられたのが文庫本の表紙のデータだけなの。けれど、謎を追う手がかりは残っているわ」
 そう告げながら、帝都の全体図をかたどったホログラムを展開。
 ある区域を示し、拡大されたのは――とあるアーケード商店街だ。
「この区域は、古書店が数多く集まった『古書街店』と呼ばれる大通りよ。この古書街店近くの或る文学館で、木偶・架某先生の個展が開かれるそうよ。あなた達にはこの古書街店に向かって、情報を集めて欲しいの」
 人気作家の個展が開かれるということもあり、古書街店では大々的に宣伝が行なわれている。
 古書店ならばもしかしたら、『想ひうつろふ、筆の先』の中古本やその他作品を見つけることができるかもしれない。
 工夫次第では、木偶・架某のファンである学生達や関係者から、有力な情報を聞き出すことも可能だろう。

「調査の結果で木偶先生と接触できたとしても、彼女はおそらく籠絡ラムプを手放すことはないでしょう。かつて自分が携わった舞台のタイトルを敢えて名付けて本を売っているとなると――何か未練や、彼女自身の中で許せないものがあるのではないかと私は思うの」
 彼女は手懐けた影朧を喚び出し、猟兵達の前に立ちはだかることだろう。
 影朧を倒し、籠絡ラムプを回収する。それが、猟兵達に課せられた任務だ。

「どうか、夢を醒ましてきて頂戴。心地よいひとときでも、それはいつしか全てを食らう悪夢になるでしょうから」
 ナギサはそう静かに告げて、手元のグリモアを輝かせた。





第2章 ボス戦 『或る作家の残影』

POW ●蒼桜心中
【心中用に持ち出した桜の意匠が凝らされた刀】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD ●心中遊戯
【甘く蕩ける桜色の毒物】【切腹できる桜模様の短剣】【桜の木で首を吊る為の丈夫なロープ】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ ●乱桜吹雪
自身の装備武器を無数の【原稿用紙と乱れ舞い散る桜】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
👑11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠筧・清史郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●弐

 ――――個展が開催される文学館、その地下一階にある多目的ホールにて。
 本来ならば立ち入り禁止の空き室となっているこの場にて、口論を繰り広げているのは二人の女性。
 華やかな私服を身に纏う女は、元・大女優の春塵・うたかた。
 そしてもう一方の素朴な雰囲気を身に纏う女こそが、女流作家であり偽ユーベルコヲド使いの木偶・架某だ。

「だから、もうこの物語は終わった筈なんだ! ユーベルコヲド使いの手で! なんだってアンタは掘り返そうとするんだい」
「私の手でハッピィ・エンドを紡ぎたかったんです。あの行列、見ました? 私ひとりの力でファンを集客できたんですよ」
「……自分ひとりの力? 驕るのもいい加減にしな。あんたにはもっと――」
「説教なんてこりごりです! あなたの陰で働くのも! 私は一切、日の目を浴びることなんてできなかった!!」

 架某は握った拳を震わせながら、強く激昂する。
 彼女をかつて脚本家として雇っていたうたかたも、こんなに感情を発露させる様子を見たことがなかったようで息を呑んで押し黙った。
 一方で、架某は何かを諦めたような顔で滔々と語りだす。
「花のように、繊細な物語が書きたかった……でも、どれもこれも売れずに絶版行き。舞台脚本家として拾われても、『帝都浪漫春疾風』はあなたの人生に過ぎなくて、結局は事件のおかげで全て書き換わってしまった――」
 でも、と前置きを一つ。
 彼女の懐から取り出されたのは、妖しい光を宿した禍々しい形のラムプ……。
「このラムプを手に入れて、私の才能は開花しました。そう、私はまだ蕾だったんです。咲く頃合を待っていただけの!」
「なに云ってんだい、あんた……」
「これで私も才能ある者の仲間入り! いえ、才能ある者よりもっと輝いて、華々しく注目されるの! 敬愛する櫻居先生のように!!」

 ――その直後、騒ぎを聞きつけた猟兵達が次々に多目的ホールへと突入してくる。
 突然の闖入者に、架某は咄嗟に籠絡ラムプを守るように抱えては。
「なに……あなた達、ユーベルコヲド使い!? 私の夢を、邪魔しに来たのですか」
 その隙に、春塵・うたかたは猟兵達の計らいによって救出される。
 安全な場へと連れられながら、彼女は猟兵達を信頼を込めた目で見つめて
「ユーベルコヲド使いが出張るほどの事件とはね……すまなかったよ。見ての通りだ。あたしが話してもちっとも耳を傾けようとしない……。説得するなら骨は折れるだろうが、どうか頼んだよ」
 そう告げたのち、うたかたは地上階段を駆け上がって避難してゆく。

「助けて……櫻居先生。私を、どうか……」
 木偶・架某が涙声で祈れば、手にする籠絡ラムプがさらに妖しげな光を増してゆく――。

「おや、呼んだー? ……って、架某ってば泣いてるじゃん。泣かせたのはだぁれ?」

 照らし出された人影の正体は、華やかな袴を身に纏う美男子であった。
 櫻居・四狼――否、その作家を名乗りし影朧は、桜色の瞳をゆるりと細めて猟兵達を見渡す。
「せ、せんせ」
「あははっ、架某は泣き虫さんだねぇ。でも此処まで頑張ったのは偉いよー。……さてさて、まだ遊び足りないなぁ」

 ――もう少しこの子には、夢を魅せてあげないとねぇ。

 さも愉快そうに笑っては、影朧は桜の懐刀を抜いてみせた。

【以下、調査結果によるまとめ】

・代表作『帝都浪漫春疾風~想ひうつろふ、筆の先』は、「影朧との対立」をテーマにした少年漫画的な現代伝奇。
・ブレイク前の木偶・架某は、女性を『花』に見立てた繊細な描写を得意としていたが、本はどれもが絶版となっている。
(ブレイク前の彼女の本を愛読しているファンも居る模様)
・本来、『帝都浪漫春疾風』は舞台として存在しており、主演である春塵・うたかたには無許可で出版されている。
・内容そのものも、舞台と本ではまったく違っている。
・木偶・架某は、春塵・うたかたの下で舞台脚本家として参加していたが、扱いに不満を抱いていた。
・『帝都浪漫春疾風』の舞台が影朧事件に巻き込まれたことで、脚本が書き換わり、プライドが折れたとされる。
・木偶・架某はサクラミラージュでの幻の人気作家、櫻居・四狼の熱狂的なファンである。

【概要】
 木偶・架某は影朧を呼び出し、猟兵達と対峙します。
 多目的ホール内は広く、戦闘の支障になるものはありません。
 木偶・架某は非常に錯乱状態となっており、この時点での説得の難易度は非常に高いです。
 が、此処で落ち着かせることや説き伏せることができた場合、第三章でハッピィ・エンドになれる確率がグンと上がると思われます。
(勿論、ハッピィ・エンドなど関係なく、皆様のやりたいことを優先で戦ってみて下さい!)

 プレイング募集:6/24 8:31~
千束・桜花

あの舞台そのままの脚本でなかったことは…くっ、この際良いでしょう!
さあ往きましょう、早紗殿(f22938)
本物のユーベルコヲド使いというものを見せて差し上げます!

本物の花は、自らの力で咲かせるもの
ラムプに、他者に頼る今の架某殿は、蕾ですらない造花です!
気高く咲かせましょう、あなたの、あなた自身の花を!
その妨げとなるのなら、この影朧……櫻居殿は私が斬り捨てます!

きっとあなたも、人であったころは志ある者だったのでしょう
ならばあなたの心を癒やし、帰るべきところへ送って差し上げます!
解放抜刀――――リインカァネヱション!


華都・早紗
◎桜花はんと(f22716)

なんやこいつ?

私こーいう輩嫌いやわ、
右も左もぶちのめして己の身の程わきまえさせたろ。
桜花はん、手加減いらんで。

そうやって自分の好きなもんしか書かんから
ふぁんも増えんし、成長もせーへんのや。
影朧お前もそう思うやろ!
己が才能あるもの言うなら
この白けた場を笑いで埋め尽くして見せ!

行くで『痛快爽快爆笑漫奇譚』

なんかおもろい事言ってみてー。

おもんなかったらしょーもなっ
おもろかったらやるやん
素直に感想言うたる。
影朧はん、木偶はんの変わりに叩かれてな(にっこり)

本物の花は自らの力で咲かせるもの。
そう信じ愚直に前に突き進んでる子が隣におんねん。
あんたもまた蕾に戻って一からがんばり。


●弐:千束・桜花および、華都・早紗の場合

「さあ往きましょう、早紗殿。本物のユーベルコヲド使いというものを見せて差し上げます!」
 威風堂々、前へ出でるは千束・桜花(浪漫櫻の咲く頃に・f22716)。
 街での姿とは打って変わり、學生将校として凛とかんばせを引き締める。
 一方の華都・早紗(幻朧桜を見送る者・f22938)は、偽ユーベルコヲド使いと影朧を訝しそうに見つめて。
「なんやこいつ? 私こーいう輩嫌いやわ、右も左もぶちのめして己の身の程わきまえさせたろ」
「では、私はあの影朧を抑えます。早紗殿は木偶殿を」
「任しとき。桜花はん、手加減いらんで」
 木偶・架某の方へと歩み出る早紗。対する
「こ、来ないで……あなた達、私の邪魔をしないで!」
「邪魔とは何や? そうやって自分の好きなもんしか書かんから、ふぁんも増えんし、成長もせーへんのやろ」
「な、なんですって……!?」
 架某は反論をしようにも、早紗の言葉が図星であったようでそれ以上は押し黙ってしまう。
 そこや、と早紗はさらに指摘みせて、
「弱弱しくいじけて、果てには縋って……情けないわ、影朧、お前もそう思うやろ!」
「えぇ~? 僕? ま、そんな気弱な架某がカワイイんだけどね♪」
「なんや、けったいな影朧。人をダメにするソファみたいな……まぁええわ。さぁて――今をときめく人気作家の実力とやら、ひとつ見せてもらいましょ」
 溜息まじりにくるり、と古びた万年筆を廻したなら、神々しい光がホール中を包む。
 その場にあらわれたのは、紫座布団に正座する着物姿の壮年――その日最も輝いた、噺家たる笑神であった。
「己が才能あるもの言うなら、この白けた場を笑いで埋め尽くして見せ! つまりはそう、なんかおもろい事言ってみてー」
「そんな無茶振り!?」
「無茶振りに応えてこそ“才能”やろ? 痛快に、爽快に、さぁ!」
「じゃ、じゃあ……これは私が、脚本家だったときの噺なのだけれど――」
 もじもじしながら、架某が小噺を始めた。それは自らの体験談の中に冗句を交えた、ちょっとしたいい話。
「ふぅん、やるやん。新人噺家の枕みたいで初々しいなぁ。さぁて影朧はん、木偶はんの代わりに叩かれてな?」
 にっこり、早紗が笑った直後、影朧の頭上に勢いよく金タライが降ってくる――!
「おおっと、危ない! まったく、びっくりさせないでよねぇ」
 影朧が桜の小刀をひと振りすれば、金タライはすっぱりと真っ二つに斬れて床に転がってゆく。
 直後、刀を抜いて肉薄するは千束・桜花。桜の瞳は鮮やかに影朧を見据えながら、架某へと必死に声を投げかける。
「本物の花は、自らの力で咲かせるもの。ラムプに、他者に頼る今の架某殿は、蕾ですらない造花です!」
「――……! でも、それなら私には何が……」
「お噺をこの場で紡げる力があるあなたなら、きっと大丈夫。気高く咲かせましょう。あなたの、あなた自身の花を!」
 桜花は謳う。その勇ましき姿は、嘗ての壇上での活躍と重なって見えて、早紗はゆるりと目を細める。
「聞いた? そう信じて、愚直に前に突き進んでる子が隣におんねん。あんたもまた蕾に戻って一からがんばり」
 な、と架某をおだてるように微笑んでは、影朧へと突き進む少女の背を見送る。

 ――嗚呼、今を真っ直ぐに生きる彼女こそが“本物の花”であると。

 刃同士がかち合う金属音が響き、競り合いが続く中で桜花は告げる。
「櫻居殿、きっとあなたも、人であったころは志ある者だったのでしょう」
「さあて、どうだろうねえ――♪」
「この手で、帰るべきところへ送って差し上げます! 解放抜刀――――リインカァネヱション!」

 鞘に収めた退魔刀を引き抜き――花めく色づいた刃は桜の花吹雪を喚ぶ。
 それはまるで舞台の一幕のように、桜花の周囲を彩って、そうして癒しと忘却をもたらす一閃を影朧へと見舞った。
 本来ならばその浄化の力は、影朧の荒ぶる魂と肉体を鎮めることができたなら転生の可能性が残されていた。
 ――そう、それは影朧自身が転生を望んでいれば、の話だ。

 肉体を傷つけず、精神に触れるその一閃は確かに影朧にダメージを与えることにした。
 が、影朧はくすくすと愉快に笑って振り返る。

「まだまだ、夢が終わるのには早いよね」

 猟兵達の新たな『帝都浪漫春疾風』は、いま始まったばかり――。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵