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浪の下の都より

#グリードオーシャン #深海人 #深海島

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#深海島


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●凪の水底
 波が来る。
 全ての『実』へと降り注ぎ、『虚』へと誘う停滞の波。
 遙かなる星の果てよりの落とし子が、己も『虚』へと堕ちてしまった事も気付かずに。
「苦しみも悲しみも、忘却と過去の水底に沈めて。永遠の『今』を始めよう――」
 あるいは、己の在る停滞の『虚』こそ、終わる事なき正しい『今』なのか。

 メーデー。メーデー。
 救難信号が意味を成さなくなったのはとうの昔。
 何もかもが亡霊のような、虚数の海。
 見上げた空の星だけは、あの頃と変わらないのに。

●浪の下の都へ
 グリードオーシャンの先住民である深海人達は、海の生物と融合した姿を持つとは言え多くは海上の島に住み、問題なく生活できている。
 陸に住まなかった深海人は、その名の通り――『深海島』と呼ばれる、海中の島に住んでいるようだ。この『深海島』には貝や珊瑚でできた都市があり、島全体が空気の泡に包まれている。その為『深海島』はこれ以上沈まず、深海人でなくとも息ができる仕組みになっているというのだ。
「その『深海島』へ行く道中も、『深海島』から空気の泡が大量に湧き上がっているそうな。これを吸いながら潜れば、深海人でなくとも問題なく『深海島』へ辿り着けるらしい。……あ、水圧とかは別問題だが。各々で何とかする必要があるようだ」
 コンキスタドールどもは問題ないらしいのになぁ、と、少々困った様子の出水宮・カガリ。
「それで、今回。コンキスタドールどもに狙われていた島は……ええと。何という島だったかな。名前を覚えるのは苦手で……場所は覚えているから、送る事はできるぞ。すまないが、現地で聞いてくれるか」
 なんて野郎だ。確かに島の名前がわからなくとも猟兵の仕事はできるが、グリモア猟兵としてどうなのか。そんな声が聞こえたかどうか、門のグリモアを浮かべながらカガリは笑う。
「まあ、まあ。島の近くの海を潜ると、甲冑の黒騎士の亡霊達が現れるようだ。騎士ならば陸上戦が得意なはず、と思っていると。ちょっと痛い目を見そうだ。何があっても対応できるよう、気を付けてくれ。島に到着できれば、星と海の祭りがあるようだから。参加させて貰うのも、いいかもだ」
 『深海島』なのに星の光が届くのかという疑問があがると、その辺りはよくわからない、と曖昧なグリモア猟兵。大丈夫だろうかこの予知。
「ただ……黒騎士どもは、尖兵に過ぎない。もっと、厄介な……星の果てより来たる、何か。それが、来る。祭りに参加しても、どうか、油断はせぬように。カガリが直接、行けたらよかったのだがなぁ」
 手にあった門のグリモアが黄金の光を放ち、人が通れるほどの大きさになって扉を開く。潜った先は波の少し上。道中の呼吸は問題ないが、不安なら少し息を吸い込んでから潜っていくのがいいだろう。

「浪の下にも都はある……とは。誰ぞの言葉だったか。気を付けてな」


旭吉
 旭吉です。
 「こんきすたどーる」は覚えられるのに島の名前を覚えられないグリモア猟兵です。

●状況
 転移すると夕陽の波の上に一瞬ふわっと浮かんで、すぐにざっぱーんと海へ落ちます。
 ワンアクション程度なら転移直前~同時に行えても構いませんが、あれを持ってこれを準備して、と複雑な手順を経るものは海中の道中に行うマスタリングになります。
 呼吸だけなら問題ありませんしね。
 『深海島』の名の通り、島はそれなりに深い場所にあります。

 第1章は黒騎士の亡霊との戦い。
 第2章は深海島での『星』と海の祭り(グリモア猟兵は登場できません)
 第3章は亡霊達を従える『虚』と『凪』の亡霊との戦いです。

●プレイング受付
 第1章はオープニング公開直後から、第2章以降は導入公開後から受付を開始します。
 (第2章の受付開始は少し間が開くかも知れません)
 いずれの章もシステム的に可能な限りは受け付けます。どこかの章だけの単独参加も可能です。
 ご一緒される方がいる場合、【】で括った合い言葉的なワードか、お相手様の呼び名+IDをプレイングに必ずご記載ください。
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第1章 集団戦 『黒騎士ワイルドハント』

POW   :    堕ちてなお団結す
【仲間との一糸乱れぬ連携攻撃】と共に、同じ世界にいる任意の味方の元に出現(テレポート)する。
SPD   :    黒剣変状
いま戦っている対象に有効な【鉤フックや銛、銃器などに変形する黒剣】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
WIZ   :    怪鳥の大群
召喚したレベル×1体の【自身の仲間たちと共】に【潜水も可能の大翼と生命力吸収を持つ爪や顎】を生やす事で、あらゆる環境での飛翔能力と戦闘能力を与える。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

御形・菘
〇☆
はっはっは、深き海の底に美しき都市を見た! どーん!
是非とも出向いて、直接カメラに収めねばならんの~

此度の妾は潜水仕様! 当然、天地もな?
まあ外見の変化は、エラとか指の間にヒレが付くぐらいではあるがな
誰か分からん程度にまで変身しては本末転倒!
当然、水圧など耐えてみせる! さあ楽しいダイビングだ!

さて、妾にとってはこの騎士どもとのバトルも本題でな
お主ら程度がワイルドハントを名乗るのは看過できんぞ?
連携など容易く崩してくれよう!
攻めてきた瞬間に一気に泳ぎを加速、前衛を無視してすり抜けて中後衛から全力でボコり、尾で締め上げる!
仕掛ける時は一糸乱れずとも、防御へ瞬間的に切り替えるのは無理であろう!


メリー・アールイー
深海で星を見る祭なんて、そりゃ気になっちゃうだろっ
カガリも見られたら良かったんだけどねぇ
よし、代わりにばっちり楽しんでくるよっ

転送直後に【桜花泳夢】発動
恋鯉に跨って、いざ海の底へ
ドレスアップ済なら水圧もへっちゃらさ
Re、あんたは恋鯉の腹の中にでもいるといい

あんたらが自由に暴れられる時間はもうおしまい
ここからはあたしの願いが叶う番だ
翼もだめ、爪も顎もだめ、と桜の花弁が跳ね返す
残った黒騎士に接近しながら、巨大化させたしつけ針を構える
その丈夫そうな鎧も、鎧無視攻撃で串刺しだ

数体縫えるようなら縫ってやれ
針に込めた雷の属性攻撃魔法が連鎖して
バチバチバチッと鎧の内側で弾けるだろうさ

アドリブ歓迎



●桜舞い散る海の中
「はっはっは、深き海の底に美しき都市を見た!」
「深海で星を見る祭なんて、そりゃ気になっちゃうだろっ」
 様々な爬虫類の特徴が寄せ集められた姿の御形・菘(邪神様のお通りだ・f12350)と、何度も打ち直された布団のように継ぎ接ぎだらけのメリー・アールイー(リメイクドール・f00481)は、ある意味最も遠く見えて、ある意味ではとても近い二人であったかも知れない。
「カガリの代わりに、ばっちり楽しんでくるよっ」
「直接カメラに収めねばならんの~」
 転移の直前に、メリーはグリモア猟兵に手を振って。菘は撮影用ドローンの『天地通眼』が付いてきているのを確認する。まだ見ぬ深海都市への憧れでも気が合った二人は、早速海の上へと跳び出す。
「「せーの……どーん!」」
 小さな少女と、大きなキマイラの体が一瞬夕空を踊った後、盛大に水飛沫をあげて一緒に海へ落ちていく。なおカメラ映えを常に意識している菘は、落ちる瞬間もイイ感じに見えるよう長い下半身の流れ方に細心の注意を払っている。全ては映えの為。キマイラフューチャー国民的配信者の鑑である。
「さあ楽しいダイビングの時間だ! 此度の妾は潜水仕様! とうっ!」
 掛け声ひとつで首筋に呼吸用のエラが現れ、指にはヒレが張る。ユーベルコード・水圏進攻(チェンジ・アクアモード)によるウミヘビへの変化だが、目に見える効果が若干地味だ。だが、地味でいいのだ。何故なら。
「せっかくの配信、無辜の民に妾が誰か分からん程度にまで変身しては本末転倒だからな!」
「おお、かっこよくていいねぇ。じゃあ、あたしも」
 どこかやんちゃな孫を見守る祖母を感じさせる感嘆の声をあげた後、メリーの衣装が桜の花びらに包まれ、何ともお洒落な桜色の着物ドレスへと変化した。
「さあ、行こうか恋鯉。Re、あんたは恋鯉の腹の中にでも隠れてな」
 折り畳まれていた桜色の布魚『恋鯉』が開き、布製とは思えない本物の鯉のような活きの良さを得てメリーを乗せる。それまで腕に抱かれていたからくり人形の『Re』は、主に言われるままに『恋鯉』の腹へと収まっていった。
 桜色の鯉に乗る、桜ドレスの少女が、海の中で桜の花びらに包まれている。そのような姿が、(ちょっとだけ)ウミヘビ姿な菘と並んで、潜水仕様にチェンジした『天地通眼』に映っているものだから。
「お主……」
 一般人なら、ここで思うだろう。やばい。邪神にとても凄まれている。
「どうしたんだい? 早く深海の島へ行こうじゃないか」
 だが、メリーはそんな事では怯えない。ちょっとびっくりはしたが。
「フフフ……邪神の戦いに、可憐な花が添えられようとは。良い! 此度は実に良いぞッ!」
 そして菘も全然怒ってなどいなかった。むしろ上機嫌である。映え的に。

 菘の高笑いを響かせながら、二人は泡の中を底へ底へと潜っていく。やがて自律制御で動いていた『天地通眼』が海底へアングルを固定させたのを見て、二人は海底へ意識を集中させる。
 泡ではない何かが、海底から上がってくる。黒い鎧の騎士が、一人、二人……大勢いた。否、近付くにつれて明らかに数を増してきている。
「さて……妾にとってはこの騎士どもとのバトルも本題でな。お主ら程度がワイルドハントを名乗るのは看過できんぞ?」
 菘の『妾がいろんな世界で怪人どもをボコってみた』シリーズ、ここからがいよいよ見せ場である。敵の黒騎士は隊列を乱さず進軍を続けながら更に黒き大翼や爪を生じさせると、左右へ大きく展開しながら前衛が後退していく。
「いきなり前衛が下がったよ。おかしくないかい」
「何の作戦かは知らんが、連携など容易く崩してくれようぞ」
 後退していく前衛は追わない方がいいだろう。どう見ても囮だ。
 左右に開いていく騎士達は、二人を囲むように展開していく。あの囮を深追いしていたら、背後から攻撃するつもりだったのだろうか。
「はっはっは。翼だの爪だの生やして、強く見せているつもりだろうが……」
 二人が囮を追わないと見たのか、囲い込んでいた騎士達が一斉に攻めてくる。
「その兜の内の目に、しかと焼き付けてゆけ! 敵を攻めるとはこういう事よ!」
 攻めてくる騎士と正面からぶつかる――と見せかけ、ゆらりと宙を泳いで騎士の背後へ。そこから繰り出される頑丈で長い尾は騎士に防御の暇を与えず、数人が纏めて締め上げられていた。
 捕らえられた騎士は連携攻撃で抜け出そうとするが、まず身動きが取れない。ならばと、兜がめきめきと形を変えて邪悪な大顎の形を取り、尾へ喰らいつこうとした。
「あんたらが自由に暴れられる時間はもうおしまい」
 その時、メリーの桜吹雪が黒騎士達に舞い散る。
「ここからはあたしの願いが叶う番だ。翼もだめ、爪も顎もだめだよ」
 メリーに禁止されたものが桜吹雪に触れると、メリーから離れていく。メリーが菘に近付けば、尾に捉えられていた騎士達も今度こそ動けなくなった。
「騎士達が面白いように動けなくなりおる。些か歯ごたえが無くなるか?」
「配信とかは、わからないけどねぇ。かっこよくやればいいんじゃないかい?」
「……桜吹雪の中、圧倒的力で騎士共を千切っては投げる妾……いけるな!」
 攻めへ転じる為に『しつけ針』を槍のように巨大化させていたメリーの後ろで、閃いた菘。これは今回も再生数は頂きだ。
「さぁて。その丈夫そうな鎧も、お仲間も。纏めて縫ってやろう」
 糸を通した『しつけ針』は雷を纏う。水中だが感電しないのは、メリーの夢を叶える桜ドレスのお陰だ。黒騎士達が爪を諦めて剣で迫ってくると、それを『針』でいなして鎧に突き立てる。更に騎乗している『恋鯉』が一瞬で泳ぎ去れば、三人程の騎士が纏めて縫い合わされ鎧の内側から雷に撃たれる。
「その程度か!!」
 とどめのように菘の尾が巻き取れば、騎士達は黒い霧のようになって消えていった。
「まだいるからね。どんどんいこう」
「当然よ。天地! 妾の姿、しかと映せよ!」
 桜が舞い、海蛇の尾がしなり、針が縫う。いつもと一風変わった今回の『妾がいろんな世界で怪人どもをボコってみた』は、後にチャンネル登録数を爆上げする要因のひとつとなる。
 ――かもしれない。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

神崎・柊一
深海に島…そんなのあるの。
敵もそこまでしんどくは無いと思ってた時期が僕にもありました
ボッチ様相手に寄ってたかってくるのはやめろ!

そこまで強くはないので水中戦では極力引き撃ちでどうにかしたい
特に最初、見つかっていない場合は狙撃っぽいことして先に数を減らすか
地形で狭い所に逃げ込み一度に相手にする数を減らす
ただ乱戦に入った際は向こうの団結心を利用し懐に潜り込み敵の身体を盾にすることである程度裁きたい
固まってくれればフルバーストで纏めて蹴散らす

又戦闘中は相手の鎧や武装の形状も覚えておく
騎士が複数で亡霊となったには訳があるかもしれない
その訳、理由を探れれば何かその背後にある裏に迫れる可能性がある


照宮・美果
やだ、カガリくんが言ってとおりね!
水の中に入ったら黒い騎士さんがいっぱい!

さあ、わたくしの金の亡者たち!(空飛ぶコイン)
真っ黒な騎士さんたちに纏わり付いて邪魔して頂戴!
あの騎士さんたちの武器は変形するようだけど、知性を持って攻撃する金貨を敵と認識したら、金貨に合わせて形を変えるんじゃないかしら?

その隙に髪の毛を代償に【マネー・イズ・ジャスティス】を唱えましょう
そうしたら金貨を囮にしているうちにこっそり深海島を目指します!

騎士さんを倒すのはわたくしのしもべ、金の亡者たちにお任せしますわ!
相打ちを狙わせて潰せばいいのではないかしら?
でも一銭だってくれてやる気はないですからね! 撒いた金は回収!



●行き先は深海
 得た力で、何をどうしようか。何処へ向かおうか。
 行く当てはどこにも無いが、深海の島と聞けば些かばかりの興味が湧いた。
 ざぶん。

 敵もそこまでしんどくはないだろう。何とかなるなる。
 多分。
 そう思っていた時期がありました。
「くっそう、こちとらボッチ様だぞ! 寄ってたかってくるのはやめろ!」
 初陣にこの海を選んだのは良かったのか悪かったのか。神崎・柊一(自分探し中・f27721)は浮かんでくる泡や暗がりに隠れるようにしながら移動することを心掛けていたが、一糸乱れず隊列を組んで迫ってきては列ごと背後へ転移されたりと、かなりえげつない攻められ方をしている。接敵前は先制でビームキャノンを撃ち込んでやったのに、その後は自分がやられない為の応戦で精一杯だ。これでは潜るどころではない。
「こうなったら……これでも、食らえ!」
 囲まれて一斉に攻撃される。その為に黒騎士達が武器を振りかぶった瞬間に、逆に相手の懐へと飛び込んで全装備の一斉掃射を放つ。
 柊一の全力、フルバースト・マキシマム。まるでクラスター爆弾のように爆ぜた全弾は騎士達の囲みを一時的に解きはしたが、すぐに隊列を組み直されてしまう。
「冗談じゃない、キリが無いぞ! そもそもあの黒騎士、何でこんな海で集団で亡霊になってるんだよ?」
 騎士の船でも沈んだか、深海の島とやらに騎士の拠点があったのか、あるいは『亡霊』というだけで何かに呼ばれたのか。今はわからない。
 確かなのは――敵がほとんど考える時間をくれない、という事だけだ。追い付くなりテレポートしてきた1体の更に背後へ回り込んで、一撃を代わりに受けてもらう。早くどこか、隠れられる場所が欲しい。どこか、どこか。
 引き撃ちを繰り返しても数が減らない相手にその時、どこからかきらきらと、雨のように大量の金貨が降り注いだ。
「さあ、わたくしの金の亡者たち! 纏わり付いて邪魔して頂戴!」
 海中の黒い鎧に金貨が煌めく様は少し綺麗かもしれない、などと感じて、すぐに現実に引き戻される。金貨を降らせたのは照宮・美果(楽園の金庫番・f26379)――年端もいかない幼女だったのだ。
「これが、金で殴るって事……じゃなくて。そっちは大丈夫? 何か騎士達の武器変形してきてるけど」
 柊一が言う通り、降り注ぐ金貨が体に付かないよう、黒騎士達は黒剣を網へ変化させて金貨を『捕縛』していた。美果の金貨『金の亡者』は知性持つ金貨であるため、それぞれの意志で捕縛から逃れようとしている。
「問題ありませんわ! それよりも、深海島を目指しますわよ!」
 言うなり、美果の長い金髪が末端から消えて金色の光となり、彼女を覆う。黒騎士は未だ金貨の捕縛に集中している。囮にして深海を目指すなら今だろう。
「じゃあ、一緒に行かせて貰っていいかな。僕はそこまで強くないけど、少しくらいはキミを守れると思う」
「心強いですわ。ではご一緒に、そーっと」
 こちらへ黒騎士達の注意が向かないように、そっと、そっと、二人で深海へ潜る。ちらりと振り返れば、黒騎士達は金貨の捕縛も連携して追い込み漁のような事をしていたが、きっと金貨が自然に消える方が先だろう。
 というより。
「金の亡者たち、そろそろ引き揚げますわよ」
 美果が小さく一声掛ければ、金貨達はたちどころに進路を下へ取って戦闘から離脱し、彼女の小さな手に収まっていく。
「撒いた金は回収! 一銭だってくれてやる気はないですからね!」
 見た目の幼さからは想像できないほど、美果は『金』への執着が強い娘だったのだ。
「……ちょっと、世界の広さを感じた。ちょっとだけ」
「そうですか? そうですわよね! 何と言っても深海の島ですもの」
「それもだけどね」
 金貨が一通り回収された後、柊一は自分達が潜ってきた後方へビームキャノンを構えた。
「いろんな人がいるんだなー、って」
 一発放って、命中の感触を得る。追ってきていた黒騎士だ。
 追手の気配が無くなったことを確認して、二人は更に深く潜っていった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

灰神楽・綾
【不死蝶】○
深海にある島だなんて
なんだかおとぎ話の世界みたいでワクワクするねぇ
深海での星のお祭りもどんなのか気になるし

海中で鎧着てたら錆びないのかな
亡霊だから平気?そっかー

水の抵抗受けるとどうしても動きが鈍くなる
ならそれ以上に速く動ければ良いよね
ってことで、海に潜る前に掌を斬りつけUC発動しておく
戦闘終了まで血が全て流れ落ちないように
Emperorを握りしめた手を離さないよう意識

お言葉に甘えて梓の召喚したドラゴンに騎乗
海中での足となってもらう
ドラゴンに指示して敵に向かって高速で接近
その勢いに乗せてEmperorの槍部分で突き刺し攻撃
力溜めた一撃で鎧ごと破壊するつもりでいく
銛みたいな使い方だね


乱獅子・梓
【不死蝶】○
あれだろ、助けた亀とかに
連れて行ってもらう場所みたいなイメージあるよな

新しい舞台への道中のエンカウントというのも
まぁお約束だよな、と臨戦態勢

海中と来ればこいつらの出番だろう
UC発動し、シーサーペントのような形状の
水属性のドラゴンを最大数召喚
そのうち1体は綾に貸してやる
自分で泳ぐよりこっちの方が速いだろう!
自身は成竜に変身させた零に乗って移動

こいつらにとって此処での戦闘は文字通り水を得た魚だ
縦横無尽に泳ぎ回り敵を翻弄しながら
頭突きや噛みつきで攻撃していく
その形状を活かして敵の身体を締め付け
動きを封じたりそのまま鎧ごと砕いたり

綾の方にも気を配り
いさどなったらドラゴン達に庇いに行かせる



●海底御伽噺
「深海にある島だなんて、なんだかおとぎ話の世界みたいでワクワクするねぇ」
「あれだろ、助けた亀とかに連れて行ってもらう場所みたいなイメージあるよな」
 深海での星の祭りも気になるという灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)と、彼と同じように期待の表情を浮かべる乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)。ちなみに今回は義理堅い亀による送迎は無いので自力で向かわねばならないが、それもまたよくある新しい舞台への道程だろう。

 深海島への道中において呼吸は問題ないが、水圧は別問題だとグリモア猟兵は言っていた。きっと重いものほど抵抗を受けて動かしにくくなるだろう。綾愛用の『Emperor』などはハルバードの形であるからして、その最たるもののひとつかもしれない。
 転移の瞬間に『Emperor』の刃を強く握れば、洋上へ放り出される頃にはハルバードの刃が主の血を吸い片手でも投げられるような軽さになる。綾のユーベルコード、ヴァーミリオン・トリガーの完成だ。
「なるべく傷は塞いどけよ、海水は傷に良くない。島についたら洗ってやるから」
「血を流したり、流されたりする戦いは好きなんだけどねぇ。あ、でも今回のは亡霊だから血が無かったりして」
 梓の忠告を聞いたのかどうか、海中へ潜った綾は傷のある手で『Emperor』の柄を強く握り込む事で、出血多量を防ぐ事にした。そうすることで、『Emperor』は更に主の血を吸収していく。
「さて、海中と来ればこいつらの出番だろう」
 梓が集え、と呼びかければ、70体を越えるドラゴン達が現れた。いずれも水中環境に対応した、シーサーペントのような水竜だ。
「1体貸してやるよ。自分で泳ぐよりは速いだろう!」
「そういう事ならお言葉に甘えて。梓は乗らないのかい?」
「俺にはこいつがいるからな。島につくまでなら大丈夫だろ」
 水竜の首に跨がる綾の前で、梓についてきていた氷竜の子供『零』が一声鳴く。
『ガウっ』
 『零』は見る間に成長し、時間制限つきではあるが成竜の姿を得た。クールな性格の『零』は殊更主に擦り寄ったりはしないが、主がちゃんと騎乗するのをちらりと視線だけで確認していたりする。ちょっと可愛い。

 準備が整ったところで、水竜の群れと氷竜はぐんぐんと潜っていく。ドラゴンは魚類ではないがまさに水を得た魚といった様で、水上の陽光はすぐに遠ざかっていった。
 泡と水音だけが響く静かな深海。その静寂を破って底から出迎えたのは、黒騎士の部隊だった。
「おうおう、待ってたぞ。新しい舞台への道中のエンカウントというのも、まぁお約束だよな」
「やっぱり亡霊だと、海でも鎧は錆びないのかな? 手入れしなくていいって楽だよねー」
 梓が紋章の刻まれた刻印を部隊に掲げれば、それに従うように水竜の群れが集まる。
「さあ……思うが侭に舞え!」
 その声を合図に、水竜の群れが縦横無尽に黒騎士を襲う。鎧ごと首を食いちぎり、長い胴で締め上げて鎧を砕き、あるいは体当たりで隊列を乱してゆく。
 黒騎士部隊は黒剣を強固な鎖分銅へと変化させ、水竜達を捕獲しようとする。まだ襲われていない騎士が中心になって反撃に出ているものの、水中に適した形をしている生物の攻撃はほとんど抑えられなかった。
(綾は大丈夫か?)
 ちらりと、戦場の中にその姿を探す。彼は水竜の1体を駆り、どこかへ向かったはずなのだが。
「どうせやるなら、強い奴がいいからねぇ……お前が隊長かい?」
 綾は、ある騎士に目を付けて一目散に向かっていた。サングラスの赤レンズの中、普段は細められている目は開き、抑えきれない興奮と愉悦に口角が上がっていく。
 水竜は更に速度を上げ、綾は『Emperor』を投げるように上半身を反らせる。隊長格と思しき個体は、そんな構えに対して黒剣を壁のようなタワーシールドに変形させて応じる。
「それぐらいの防御で、耐えられると思った? 全部貫いてやるよ!」
 水竜と共に、隊長へ突っ込む。『Emperor』は上半身のバネと水竜の速度を得て膨大な破壊のエネルギーを得て、盾と鎧ごと隊長格を貫いて粉砕した。
「……なんだ、これで終わりかい? 大したこと無いねぇ」
 駆け抜けた水竜に乗る綾は余裕の表情。まだまだ暴れたりなさすら感じられた。
「綾、増援が来るかもしれない。ある程度倒したら、先へ進もう」
「そうだね。それまで……もう少し、骨のある奴を探してみようかな」
 蹂躙する水竜達。その内の一体に乗る、ハルバードの死神のごとき男。
 この海が静寂を取り戻すまで、しばし時間がかかりそうだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

シキ・ジルモント
○☆
水中か…
特別得意とは言えないがこれも仕事だ、やれるだけやってみよう

宇宙バイクに乗り、転移直前か同時にユーベルコードを発動
自身とバイクをビームシールドで防護する事で水の浸入と水圧への対策を行って、バイクごと潜水を試みる

相手は水中を動けるようだが、こちらも同じ事
宇宙バイクは接する道の無い宇宙を飛び回る為の乗り物だ、水中だろうと機動力に影響は無い
増強した戦闘力と速度を乗せて敵へ突進、攻撃と共に陣形を突き崩し連携を乱したい

突進で敵の体勢を崩したついでに、敵の持つ銛等の長物を奪い取ってみる
それをバイクに騎乗した状態で構えて、再度突進する
ランスチャージは騎士の十八番だろうが、今はこちらが使わせてもらう



●深海宇宙
 深海は宇宙と似ている、と言っていたのは誰だったか。
 空気もなく、光もほとんど無く。未だその全てが明るみに出ていない可能性のフロンティアだと。
 仕事屋であるシキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)にとっては、そこがフロンティアであろうが無かろうが、仕事として赴いたならこなすのみだが。
「特別得意とは言えないが、これも仕事だからな。少し無理をさせるが、頼むぞ」
 軽く叩いたのは、相棒の宇宙バイク『レラ』。実用性重視でカスタマイズされた愛機に見た目の派手さは無いが、それを補って余りある性能を持つ。
 『レラ』に跨がり、システムを起動させる。速度を十分に上げて――転移。
 洋上で展開されたビームシールドは機体ごとシキを覆い、そのまま海へ沈む。ビームシールドは深海島からの空気も阻んだが、シールド内に空気が満ちているので問題ない。
 あとは宇宙を奔るように、足場のない深海を底へ向かって奔るだけだ。
 ――たとえ、その道中に招かれざる黒騎士が待ち構えていようと。
「来たな……突っ切る!」
 敵が連携を取って隊列を組んでくるのなら。
 こちらは超速でそれを無視して、崩してしまえば良い。
 『レラ』のアクセルを更に踏み込み、全速で黒騎士の列を突っ切れば、対応しきれなかった何人かが弾き飛ばされ、黒い靄となって消えていった。
「まだ終わらないぜ」
 突っ切った後に引き返し、列が戻る前にまた全速で突っ込む。しかし今度はテレポートで回避する個体も多かったのか、初撃ほどは巻き込めなかった。
(向こうから反撃に来られても厄介だな……あの武器、獲れるか?)
 目に付いたのは、銛や槍などの、長物を装備した騎士。その得物をうまく奪うことができれば、強力なランスチャージが可能だろう。しかし、今までのように直進で突っ込んでいては進路を予測され、テレポートで回避されてしまう事も有り得る。
(なら……これで、どうだ)
 敵は隊列を組み替え、自分への包囲を固めようとしているらしい。そうはさせない。
 今度は直進ではなくジグザグに、騎士達の間を縫うように蛇行し、バイクの進路を予測しにくくする。その上で、目的の銛を――獲る!
「! ――!!」
 武器を奪われた騎士が、言葉にはしないが憤慨しているのが動作で伝わる。
「ランスチャージは騎士の十八番だろうが、ここに馬はいないからな。今は……こっちが使わせてもらう」
 銛を構え、今度は全速の直進で再び隊列へ突っ込み、突き立てる。確かな手応えの後に、溶けるように消えていく黒騎士達。銛の持ち主は最後に仕留める必要があるだろうか。
「いい拾いものをさせて貰った。……まだいくぞ」
 直進と蛇行を巧みに使い分けながら、銛によるランスチャージという手段を得たシキ。縦横無尽に海を奔り抜け、最後に銛を持ち主へ『返す』と、更なる深海へと進んでいったのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

アリエ・イヴ


星と…海の祭りか
そりゃ楽しそうだ
にかりと笑って飛び込んで
深く深く潜っていく
とは言え戦わなきゃならねえのに無駄な体力を使ってられるかよ
【君の僕】海を受け入れて海へと成る
元の流れを損なわない程度に水を操り推進力に

ようやっと奴さんのお出ましか
獰猛に笑って覇気で威圧して
怯むようならその隙に切り込み蹂躙する
楽しい宴の始まりだ!

相手が銃を使おうが剣や銛を使おうが
その矛先を水流で押しやれば当たりはしない
流せなかった分も見切ってかわし

海《ここ》は俺の…海賊の縄張りなんでな
舐めちゃぁいねぇが
陸の騎士に負けるかよ
距離を詰めたら鎧の継ぎ目に差し込むように
剣をまっすぐ突き立てる

赤も嫌いじゃねぇが
青一色の方が綺麗だな



●星と海と波の歌
 物心ついた時には、船の墓場が己の家だった。
 子守歌は打ち寄せる波の音。退屈を紛らわせてくれるのは夜空の星。
 親の顔は覚えていない。それを悲しいとも、寂しいとも思わない。
 ――目の前に広がる海と空の前では、そんな事は砂粒よりも些末な事なのだから!
「星と……海の祭りなんて。楽しそうじゃねぇか」
 宝物を目指す期待に満ちた笑みを浮かべて、アリエ・イヴ(Le miel est sucré・f26383)は最後の陽光が鮮烈に残る洋上を後にする。

 海へ潜ると、アリエは慣れ親しんだその存在を受け容れるように限りなく同化していく。
 荒れ狂う海も、凪の海も、全て受け容れる。
 海《きみ》の愛する、海《きみ》を愛する、『君の僕』として。
 『同じ』ものを苦しく思う必要は無い。空気も水圧も気にする事無く、潮の流れを借りながら水底を目指していく。
 そうして、どれほど潜った頃だろうか。右から、左から。奥から、手前から。黒騎士達が徐々に集まってくる。これまで猟兵達が突破してきた黒騎士達の残党だろうか。
「ようやっと奴さんのお出ましか。尻尾を巻いて逃げたのかと思ったぜ」
 兜の奥の表情は見えずとも、海賊団の在り方は変わらない。欲しい物は必ず手にする。その為に退ける必要があるのなら――誰であろうと、遠慮は要らない。
「来いよハニー。俺の……海賊の縄張りで好き勝手したツケ、払って貰うぜ?」
 指で誘って挑発しながら、その眼差しは蹂躙するものの覇気に満ちていた。集まってきた黒騎士達は多くが半歩退いたものの、その武器を盾と長物に変化させ対応しようとする。
「退くこたねぇだろ、なあ……楽しんでいけよ!」
 その、武器を変化させる僅かな瞬間に『レーシュ』で斬り込み、その場へ水流を巻き起こす。これは船を沈める荒波の海。ワイルドハントであろうが関係なく海の底へと引き摺り込む。
「舐めちゃぁいねぇがよ、陸の騎士に海賊が負けるかよ!」
 こちらへの壁となるはずだった盾を水流で弾き飛ばし、別の角度から狙おうとしていた銃は同じく水流で壁を作った。海そのものに近しい今のアリエに、海中で戦闘を挑むのは至難の業だろう。
(ま、長くは使えねぇがな……そろそろ決めるか)
 代償に、然るべきものは持っていかれている。長時間の使用は危険だ。
 頃合いを見定めると、アリエは部隊を巻き込むように大きな渦を生み出してまとめて黒騎士達を放逐、奇跡的に渦から逃れた一人には間近へ寄って、その首に『レーシュ』を突き立てて。
「じゃあな、ハニー」

 そこは静かの海。
 赤も嫌いではないが、青一色の方がやはり海は綺麗だと。
 呟いたアリエの視界の端に、泡に包まれた不思議な『島』があった。

成功 🔵​🔵​🔴​

イスラ・ピノス
○☆
海の底の街…!
聞いただけでわくわくするね。
水中ならお任せ!深海適応はもちろん、泳ぎも得意。
道中は大丈夫なはず!

といっても辿り着いてからが肝心のところだね。
できたら他の猟兵さんとも協力しよ。
戦い方は、ソーダジャイアントを召喚!
正直、僕にとって理想の戦闘場所。
敵さんも数が多いみたいだけどそーちゃんと合わせてガンガン叩くね!
クリーピングコインや投げ舵輪も巨大版の方と重ねれば弾幕みたいに出来るかな。
でも流石に間近の斬り合いで騎士に勝てる気はしないから、近寄られたらテレポートで増えちゃう前に迷わず逃げて仕切りなおすよ。
そーちゃんを壁にしながら、そーちゃんの中に飛び込んで泳いで通り抜けたり!


鳴宮・匡
○☆
海の底から見上げる世界、か
――昔の自分を少しだけ思い出した

あの頃は、世界なんてものがすべて
黒い海の底から見上げる、色のないものに見えていた
今は――

海の上じゃ影がないな
握り込んだ手の中の影から弾丸を精製
足下にしがみついてる黒竜の元へ落とす

――頼むぜ、ノーチェ
水の中じゃ、お前が頼りだ

黒霧の衣で水圧から身を守ってもらいながら潜行
相手の動きだけでなく、水圧や水流を計算に入れて狙撃
連携攻撃の起点になる動きを妨害しつつ進むよ
味方の猟兵がいるならその援護もしよう

攻撃はノーチェに任せるよ
噛み砕いてやってもいいし、尾で薙ぎ払ってもいい
倒し切れない分はこっちで片付けるから
お前の好きなように戦ってみていい


アトラム・ヴァントルス
〇☆

深海の星…それに少し興味がありましたので行きましょう。
何か使えそうな良い素材であることを期待していますよ、ええ。
カガリとやら、そこへ送っていただけますか?

潜ることにはさほど苦労はしないでしょう。
何せ私はセイレーンですから水圧になじむ体形を取ればいい。
あとは深海適応が何とかしてくれます。

面倒なのは亡霊たちですね。
あまり集団戦は得意ではありませんから…最初から全力で行きましょう。

他の方の攻撃に合わせて獲物から少し距離を置いてUC【メガリス・アクティブ】を使用。

さぁリュミエールよ、その力を解き放ちなさい。
目の前の獲物を、喰らうのです。
狙うのは関節や鎧の隙間。
確実にダメージを負わせるよう狙います。




 海の底から見上げる世界、というものを思い描いた時。
 少しだけ、昔の自分を思い出す。
 あの頃は、世界なんてものがすべて。
 黒い海の底から見上げる、色のないものに見えていた。

 今は――。

「……」
 鳴宮・匡(凪の海・f01612)は、瞬きの間に思考する。転移された先は無慈悲な波の上。海に落ちてしまえば『足元』に影は出来ず、ユーベルコードを使えない。ならば今、この瞬間にやるしかない。
「頼むぜ、ノーチェ」 
 握り込んだ掌の影の中で生成された弾丸を、足元にしがみついて半ば毛玉のようになっている黒竜『ノーチェ』へと落とす。弾丸を落とすのとほぼ同時に自分も海へ落ちたが、間もなく再び海上へ体が戻る事になる。弾丸を得た『ノーチェ』が、黒い影翼を生やした、黒霧の衣を纏った蛇竜へと変身して匡を乗せていたのだ。
「わぁー! この子、ついさっきまで小っちゃかったよね!?」
「非常に興味深いそざ、……いえ何でも」
 その様子を見ていたイスラ・ピノス(セイレーンの冒険商人・f26522)とアトラム・ヴァントルス(セイレーンの闇医者・f26377)の二人が(色々な意味で)『ノーチェ』へと興味を示し、泳ぎ寄って眺める。セイレーンの二人は特に何も準備せずとも水に適応できており、肌も若干透けているように感じられた。
「……ノーチェは、人見知りなところあるからな。優しくしてやってくれ」
「はーい! よろしくねノーチェさん!」
 匡が弁解すると、イスラとアトラムは互いにノーチェから少し距離を取った。
「それにしても、海の底の街……! 聞いただけでわくわくするね」
「深海の星というものにも、少し興味があります。船長も先に向かったようですし、何か使えそうな良い素材であることを期待していますよ、ええ」
 闇医者がいう『素材』という単語に不穏な空気しかないが、ともあれ三人は共に『深海島』を目指す事となった。

 潜る前に、匡はもう一度空を見上げて。
「……」
 すっかり日が落ちたそこは、深海から見上げるのと変わらない黒い空。
 まばらに輝く星なんて、目を凝らさないとわからないじゃないか。

 三人で潜っていく暗い海。
 視界がきかない程ではないため、匡は『ノーチェ』が纏う黒霧の衣に潜りながら、セイレーンの二人は『ノーチェ』に遅れないよう衣に捕まりながら、更に体を透けさせていく。
 この暗い海では黒騎士の甲冑は発見しにくいのでは、とも思われたが、歴戦の匡の視力を以てすればいくらかの違和感は感じ取れるようだった。
「……いやに静かだな」
 しかし、いくら潜っても何も出てこない。先行した猟兵達によって完全に駆逐されてしまったのだろうか。それならばそれで、手間も省けるというものだが。
「私はあまり集団戦は得意ではありませんから……戦わずに済むなら、それが一番ですね」
「でも、何も無いって事は無いと思うな……」
 アトラムとイスラが悩む傍ら、匡が何かを見つけたようだ。動く敵では無いらしい。
「かなりでかい泡だ。浮かんでこないあたり、あれが例の『深海島』か? 確か泡で包まれてるんだろ?」
「本当に戦わずに到着したのですか」
「どこどこ!?」
 匡が見つけたものを見ようと、アトラムやイスラも同じ方向を見るがなかなか見つからない。それどころか、今度は匡の耳が別のものを捉えた。
「これは……来るぞ、結構多い!」
 水流が乱れる音がする。続いて金属音。現れた黒騎士達は、『深海島』への立ち入りを禁じるように猟兵達の行く手へ隊列を展開し立ちはだかった。
「ノーチェ、お前の好きにやっていいぞ。こっちでいくらでもフォローはするから」
 己の気の向くままに、と撫でながら匡が伝えると、『ノーチェ』は海が震える程の咆哮をあげた。
「やっぱりノーチェさんはドラゴンなんだね! 僕もそーちゃん呼んじゃうよ~! おいで!」
 イスラが呼ぶと、セイレーンの髪と同じソーダ水の巨人が巨大建築のような存在感と共に現れた。彼(?)が強くなるための水は周囲にいくらでもある。その場に立っているだけで、『そーちゃん』はいくらでも強くなれるのだ。
「頼もしい方々とご一緒で助かりました。では……最初から全力でいきましょうか」
 アトラムが言い終わるのとほぼ同時、まず『ノーチェ』が黒騎士の隊列へと突っ込んだ。逃した個体は尾を鞭のようにしならせ打ち据え、翼を羽ばたかせて吹き飛ばそうとした。
 しかし、それらからテレポートで逃れ、別の部隊と合流した者もいる。こちらへは『そーちゃん』とイスラが対応した。
「降り注げ、クリーピングコイン! 投げ舵輪もあるよー!」
 イスラの武器と動きをトレースする『そーちゃん』は、イスラと共に巨大コインの雪崩を降らせ、巨大投げ舵輪を一周させれば平たい施設が空中を舞うようであった。
「どんなに数が多くたって、そーちゃんと一緒ならまとめて片付けちゃうんだから」
 少し自慢げなイスラ。しかし、コインも舵輪も擦り抜けた黒騎士がいよいよ至近距離間際まで彼女を追い詰めると、イスラは全力で逃げた。近距離戦は不得手なのである。
「う~、しつこいー!」
 追う黒騎士もなかなか諦めない。それどころか、テレポートしてきた仲間も増えてくる。こんな時に銃で狙われでもしたら――。
「――!」
 黒騎士は突然二人ともいなくなってしまった。自由に暴れている『ノーチェ』の餌食になってしまったようだ。
(他の皆さんに攻撃が集中している間に……)
 そしてこのタイミングを好機と見て、アトラムが己のメガリスを目覚めさせようとフリントロック銃の『リュミエール』を出す。
「さぁリュミエールよ、その力を解き放ちなさい」
 メガリス・アクティブ――アトラムのとっておきを展開しようとした時、その銃が熱線と共に弾き飛ばされた。
 幸い『リュミエール』自体に傷は無いが、アトラムの妨害をしたのはまた別部隊の黒騎士によるビーム銃の狙撃のようだった。
 『リュミエール』を拾いに行っている間に、今度は自分が狙撃されるかも知れない。それでも、あのメガリスだけは――!
「!!」
 銃声がして、アトラムを狙撃した黒騎士が倒れる。今度は『ノーチェ』の背の膨らみから――匡による援護射撃だ。
「助かりますよ。それに……メガリスとしてでなくとも、『リュミエール』は使えるのですよ」
 黒騎士が倒れた隙に『リュミエール』を回収し、普通の銃として射撃する。狙いは鎧の繋ぎ目、防御の薄い所を確実に。
「私のユーベルコードを邪魔したのです……覚悟はおありですね、ハニー?」
 狙いを定めた銃口が、再び火を噴いた。

 黒騎士の襲撃を退け、一行はついに泡で覆われた不思議な島――『深海島』へと到達した。
 泡の内側への入口らしきものが見当たらずに周囲を探索していると、島からやけに色鮮やかでひらひらとした深海人が出てきた。
 ウミウシの深海人だという彼は、猟兵達を歓迎して言った。

「ようこそ、深海島『イ・ラプセル』へ!」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​




第2章 日常 『星海祭』

POW   :    海を祝おう。恵みを歓び、海と共に祝おう。

SPD   :    星を祝おう。光を歓び、星屑と共に遊ぼう。

WIZ   :    人を祝おう。生を歓び、共に在るものに感謝して。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●深海島『イ・ラプセル』
 泡に包まれた不思議な深海島。
 ここでは濡れる心配はない上に、なぜか空中を泳ぐ事もできるらしい。当然、呼吸の心配も無い。
 そこへ猟兵達を迎え入れてくれたのは、ウミウシ頭の深海人だった。
 猟兵達の戦いを島から見ていたという彼は、一通り島を案内しながらこの島の祭りについて話してくれた。
「今夜はもうじき星と海の祭りなんですよ。この島はむかーしむかし、そのまたもぉっとずーっとむかしに、星空の果てから降ってきたー、なんて言い伝えがありまして。今夜は、この島がかつて空にあった時のように星に囲まれて、空と海が同じになる……そんなお祭りなんです」
 しかし、伝承はどうあれここは深海である。星など、物理的に隕石として落ちてこない限りは見えないのでは。
 疑問に思う猟兵がいたなら、ウミウシの彼は答えるだろう。
「浪の下にも、星が光る夜はあるんですよ。……ほら、出てきた」
 彼が指さすのは、島の上方――泡の外の『空』をゆうらりと横切っていく、蛍火のような光の集まり。波の上ではすっかり日が沈んでいるため、その小さな光だけが『空』に浮かぶ輝きだ。
「コンキスタドール達を恐れて、最近は出てこなかったんですが。皆さんのお働きで、あいつらも出てこれるようになったみたいです」
 この島の住人にとって『星』と言えば、この光を指すらしい。『星』とは生物であり、常に定まった『空』にはないもの、と。よく見てみれば、それは光の集まりを纏った巨大クラゲだとわかるだろう。
 『星』のクラゲを、ゆらゆらと見送りながら。海底の音楽と踊りを楽しむのもいい。
 かつては星空にあったらしいという、この珊瑚や貝殻でできた街や島に想いを馳せてみてもいい。太古の片鱗を探し当てることは厳しいだろうが、真偽はさておき話を聞く程度はできるだろう。

 ――だが、用心はしておいて欲しい。
 遅かれ早かれ、きっと波が来てしまうから。
 全ての『実』を『虚』へと誘う、『虚』と『凪』の亡霊が。
 凪の水底に全て、沈めてしまうから。

============
☆この導入が表示された時点から、プレイング受付開始です。
 システム的に可能な限り受け付けます。
 この章のみのご参加でも問題ありません。1章で何をしていたとかは触れなくても大丈夫です(継続参加の方はもちろん触れて頂いても可)
 基本的に全力でお祭りや探索をして頂いてOKですが、プレイングに『何か』への用心(心構え程度でも可)が書かれていた場合、次章の開始状況に若干影響します。
============
灰神楽・綾
【不死蝶】○
こうして見ると、特別な力を使わずに
身体一つで光を放てるクラゲって不思議な生き物だよね

ねぇ梓、もっと近くで『星』を見てみない?
もちろん、泳いで見に行くんだよ
梓の手を引いて、ぴょんっとジャンプ
ふわっと、まるで水の中に居るような感覚
そのまますいすいと、上へ、上へ

出来る限り泡の境界線へ近づき
外に居る巨大クラゲ達を眺める
UDCアースの水族館みたいな
まるで大きな水槽の中を見ている感覚
うわぁ、近くで見ると思った以上に大きいねぇ
クラゲって、真ん中の四つ葉のクローバーみたいな
模様が可愛いよね

うん、本当はずっと眺めていたいけど…
空へ振り返り、クラゲや魚ではない何かの
気配が無いか注視しながら下へ戻る


乱獅子・梓
【不死蝶】○
深海での星の祭り…なるほど、これは見事だ
島の地から空を見上げて感心していたら
綾の突然の提案に、はぁ?と
あのクラゲ達に近づくとなると
焔の背に乗って…と考えたが
ああ、そうか、ここでは泳げるんだったな
泳いで星を見に行くだなんて
何だか本当におとぎ話みたいだな

上方でクラゲを眺めていると
焔と零も興味津々そうに顔を覗かせるから
放ってやると気持ち良さそうに空中を泳ぎだした
クラゲの動きに合わせてくねくね泳ぐ様は見ていて和む
知っているか、そのクローバーみたいな部分は
クラゲの胃らしいぞ

さて、ああ綺麗だったな、で帰れれば良かったんだが…
もうひと仕事残っているんだったな
早めに戻って、少しでも休んでおくか



●星空へ泳ぐ
 星の見えないはずの深海で見る『星』は、地上との文化の違いを知る良い機会だった。争うことなく異なる文化に触れられるのは、やはり良いことだと灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)は思う。ゆっくりと泳ぐクラゲを、ただ眺めているだけでいい――平和としか言いようのない、そんな一時を。
「こうして見ると、特別な力を使わずに身体一つで光を放てるクラゲって不思議な生き物だよね」
「自分で光る生き物っていうのは、確かにあんまり聞かないな」
 綾の先の戦いでの傷に処置をして、乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)も共に『空』を見上げる。地上で見る星とは異なるものだとしても、暗い海に瞬く光はあの星々と同じように美しく、見事だと思った。
「ねぇ梓、もっと近くで『星』を見てみない?」
「はぁ? 『星』って、あのクラゲ達に近づくとなると焔の背に乗って……」
「何を言ってるんだい。泳いで見に行くんだよ、ほら」
 サングラス越しに目を見開く梓の手を取って、綾が軽く跳ぶ。すると、まるで水中のようにゆっくりと宙へ浮かんでいくではないか。
(ああ、そうか、ここでは泳げるんだったか)
 地に足をつけて立っているというのに、『空』まで泳いでいけるというのだから不思議だ。深海の島で星を見ると聞いた時もそうだったが、いよいよ本当にお伽噺じみてくる。
 手を引かれるに任せて体の力を抜くと、梓の体もゆらりと宙に浮く。陸に焦がれた人魚の如く、二人で上へ上へと泳いでいけば、やがて泡の境界近くに辿り着いた。そこは息苦しくなるようなことは無かったがそれ以上は上へと進めない場所で、透明な泡の膜越しに巨大なクラゲが纏う『星』を見る事ができた。
「UDCアースの水族館みたいな、まるで大きな水槽の中を見ている感覚だよ」
「水槽か。向こうは海で、こっちは泡の中。どっちかというと、こっちが金魚鉢の中じゃないか?」
「金魚鉢は小さすぎじゃない?」
 そんな軽口を言い合いながら、また静かに『星』とクラゲを見上げていると。梓のの服の隙間から主と共に不思議な光景に釘付けになっていた2匹の仔ドラゴン『焔』『零』が、今度は2匹揃って『キュー』『ガウ』と鳴き合いながら遊び出す。何を話しているかは竜でない自分達にはわからないが、炎竜の『焔』が氷竜の『零』へ話しかけるように鳴いては、『焔』が追いかけて2匹で追いかけっこをするようになったり、クラゲの光に集まったり、クラゲと共に泳いだりと、こちらの光景もかなり和んだ。
「クラゲって、あの真ん中のクローバーみたいな模様のところ。可愛いよね」
 そんな2匹の微笑ましい様子を眺めつつ、クラゲにも視線を戻して呟く綾。『空』いっぱいに広がる四つ葉の模様は、可愛くもあり、幸先もよさそうだ。
「実は胃袋だって知ってたか? クラゲの」
「梓は少しは夢とか感じないの?」
 少し困ったように眉尻を下げる綾に、梓はくすりと笑って返す。
「感じてるとも。胃袋にしたって、綺麗で見事で、見入ってしまう景色ではある」
 このまま、戯れる仔ドラゴン達と共にのどかに『星』を眺め続けていられたらいいのだが――事態はそうもいかないようだ。

「……来るんだよね」
 今のところ、まだ気配はないが。
「このまま、綺麗な思い出で帰れればよかったんだがな……もうひと仕事、備えるとするか」
 そろそろ切り上げて、早めに戻って体力を温存しようという梓の提案に。綾も軽く頷いて、また地上へと『潜って』いくのだった。
 『虚』へ、飲み込まれない為に。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

マリアドール・シュシュ
リュカ◆f02586


久しぶりね、リュカ!
マリア、この世界へ訪れるのは初めてなのよ
あそこ、とっても綺麗なのだわ
早くこの島の「星」を沢山見ましょう!

深海島の空中を一回転したり一緒にゆるり游ぐ
綺麗な音楽聴いて光る海月見る
美しい景色に笑顔
記念撮影

最近、リュカは心に残る出来事や楽しい事はあったかしら
以前、映画撮影の時にすれ違った記憶はあるけれど
まぁ!巨大ロボット?
どういうのを作ったのか詳しく聞きたいわ

リュカの冒険譚に夢中

ふふ、男の子のロマンを感じるのだわ
色々な物語を紡いでるのね
マリアの詩(うた)を?
ええ、勿論よ!

海底の音楽に合わせ創造の言ノ葉を美しく謳う
島へ想い馳せて
波には目細め竪琴に触れ
”実”を結う


リュカ・エンキアンサス
マリアドールお姉さんf03102と

うん、お姉さんと出掛けるのは久しぶりだ
海の世界っていうのも、面白いね
うん、せっかくだからこう、いっぱいみられるところへ行ってみようか

で、のんびりとクラゲ観賞
あの奇妙な動き、嫌いじゃないんだよね
なんていうか、生き物として不思議だなあ。なんて観察したりもして
…俺の?
ああ。うん。そうだね。怪獣映画を作ったりとか、
巨大ロボットを作ったりとか
そんなことをのんびりと話していくよ
ひとしきり話したら、次はお姉さんの番だね
話じゃなくても。歌でも、いいよ
お姉さんの歌、嫌いじゃないから

とはいえ、のんびりしながらも警戒は怠らないようにしよう
異様なもの、音がないかは気にしておくね



●星空のうた
 マリアドール・シュシュ(蜜華の晶・f03102)とリュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)。二人の再会がなされたのは、深海の『星空』の下だった。
「久しぶりね、リュカ!」
「うん、お姉さんと出掛けるのは久しぶりだ」
 いまひとつ口数の少ないリュカは、久し振りだと言われれば久し振りだと返すのみ。しかし、それでもマリアドールはこの再会が純粋に嬉しかった。それが不思議な『星空』という舞台となれば、尚更。
「海の世界っていうのも、面白いね」
「マリア、この世界へ訪れるのは初めてなのよ。ほらあそこ、とっても綺麗なのだわ。早くこの島の『星』を沢山見ましょう!」
「うん、せっかくだからこう、いっぱいみられるところへ行ってみようか」
 リュカが前向きに応じると、マリアドールは嬉しさを体現するように彼の手を取り空を踊る。聞こえ始めた祭りの音楽に合わせれば、『空』は二人のダンスホールとなる。
 初めての世界。初めての深海。初めての『星空』の下。二人の時間はクラゲの動きのようにゆうるりと優しく流れていく。
「あの奇妙な動き、嫌いじゃないんだよね。なんていうか、生き物として不思議だなあ、なんて」
 『空』のクラゲを見上げて、リュカがぽつりと呟く。
「ふわふわと浮かんで、流されて漂って。確かに、海月みたいな生き物はあまり見ないかも知れないわ」
「植物なら、わかるんだけど。一応動物なのに、何だかふわっとしててさ」
 よくわからなくて不思議だが、嫌いではないし憎めない。そんなクラゲをいつまでも見つめているリュカの横顔に、マリアドールはもっとたくさんの事を知りたくなった。
「最近、リュカは心に残る出来事や楽しい事はあったかしら」
「……俺の?」
「そうよ。以前、映画撮影の時にすれ違った記憶はあるけれど」
「ああ。うん。そうだね。怪獣映画を作ったりとか、他にも巨大ロボットを作ったりとか」
「まぁ! 巨大ロボット? どういうのを作ったのか詳しく聞きたいわ!」
 マリアドールが、期待に満ちたその瞳を『星空』のように煌めかせて訊ねてくるものだから。しかし、自分の言葉でうまく説明できるかもわからず、僅かばかりの躊躇いがリュカにはあった。
「どういうの、って……すごく、大きくて。がっしり、ずっしりしてて。色々なパーツが付いてて。あと、変形合体とか……」
 話し始めてみれば、ぽろぽろと。片鱗を聞いているだけでも彼が楽しそうな事は感じられて、マリアドールもまた楽しくなってくるのだった。
「ふふ、男の子のロマンを感じるのだわ。色々な物語を紡いでるのね」
「次はお姉さんの番だね。話じゃなくても。歌でも、いいよ。お姉さんの歌、嫌いじゃないから」
 それを聞くと、マリアドールの瞳に今度は感動が満ちてゆく。
「マリアの詩(うた)を? ええ、勿論よ!」
 今この場所で、うたをうたっていい、と。聞かせて欲しい、と。
 彼の楽しい話を聞いた後の、初めての深海の『星空』を泳いでいる今なら、それはきっといいうたを送る事ができるだろうから。
「――♪」
 そして、この楽しい時間が『虚』の波に呑み込まれないように。
 『実』として残り続けるように。
 響く祭りの音楽に合わせて、黄昏色のハープを爪弾く。歌声を旋律に乗せる。
「……」
 『星空』にドレスのレースを揺蕩わせながら奏で、歌う彼女。
 その姿も声も、嫌いではない。人が、星座というものを考えつくのはこういう時なんだろうか、などと思いを馳せてみたりはすれど。
 リュカの耳と目は、彼女以外の音や形に対しても向けられていた。
 その瞬間を――聞き漏らす事の無いように。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御形・菘
なるほど、実に美しい催しではないか!
闇雲に騒がす気はないよ、此度は静かに堪能しようではないか

なるほど、本物の見たことがない者たちは、これを星と呼ぶのか
…はっはっは、妾もまだまだであるな
素敵コメントも咄嗟に出せんほど感動してしまうとは!
まったく、エモいBGMを入れつつ映像を流すだけで、きっと完成してしまうであろう
もはやこの光景に妾の出番など無い! いやBGMすら余計か!

とゆーことで、皆の踊り音楽を眺めながら、ゆったりと心の保養をするとしよう
…しかし惜しいものよ
バトルの合間となるであろうから仕方あるまいが、オフモードで来て楽しみたかったな、私は
無粋な来襲者を決して許しはせんぞ?



●作業(妨害)用配信
 深海の美しい都市と聞いて、これはカメラに収めねば――と、息巻いては来たが。
「……はっはっは、妾もまだまだであるな。素敵コメントも咄嗟に出せんほど感動してしまうとは!」
 御形・菘(邪神様のお通りだ・f12350)は、その光景に感服していた。地上の星を知らない深海人は、あのクラゲの光を星だと信じているという。そして、この島の在りし日の姿を想って、星と海の祭りを行っているのだという。
 その心意気とこの景色が、実にエモいと感じた。これでは特にコメントなど入れずとも、エモいBGMを入れつつ映像を流すだけできっと動画が完成してしまう。それは例えるなら、食レポのないグルメ配信に等しい。視聴者はただただ飯テロを浴びせられるだけの配信になるが、食レポの無い分見たままをそれぞれが感じる事ができるアレだ。むしろBGMすら蛇足かも知れない。蛇神だけに。
 素材の味が全て――配信者の存在が不要と思える景色があるとは、まだまだ邪神の神格も足りないようだった。
「今回は静かに、妾もゆったりと心の保養をするとしようかの」
 撮影は完全にドローンの『天地通眼』に任せて、菘自身は島と海と星へ捧げられる祭りの音楽と踊りに見入る。
 巨大なクラゲが光を纏ってゆらりと泳ぐ『星空』。人々は空中を泳いで踊ったり、歌ったり。その衣装がまたきらきらと星を思わせるようで。
(……しかし惜しいものよ。バトルの合間となるであろうから仕方あるまいが、オフモードで来て楽しみたかったな、私は)
 これほどのものを見ながら、まだ見ぬ敵の事も考えねばならないなど。無粋極まりない。この島を呑み込もうとしている事もそうだが、満足に祭りを楽しめなかった腹いせも敵にはしっかり受けてもらわねば。
 『星空』を見上げながら、菘は敵を打つ決意も新たにした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

照宮・美果
海の下に黄金都市が眠っている……ということはさすがにありませんでした
でも光るクラゲさんは時々金色に光っていて、綺麗だと思いますの

むむ、みとれるのはいいけれど、皆さん少し油断しすぎではありません?
油断しているふりをして攻め込ませるのは手ですけど、それはこちらがしっかり迎撃準備を整えている場合なのです!
でしたらこのわたくしが対策を立てて差し上げますわ!

人の集まる場所に行き、黄金の輝きがいかに素晴らしいか、演説いたします!
そして【マネー・イズ・パワー】を発動するのです!
演説を聴いた皆様からいただいた賽銭を運用
利益は仲間の猟兵さんや聴衆の皆さんに再分配して戦闘力強化しておくのです!



●黄金の輝き
 浪の下には伝承の光り輝く黄金都市が――ということはなかった。グリモア猟兵の言っていた通り、この島の建物を主に構成しているのは様々な貝や珊瑚のようだ。
 金ぴか好きの照宮・美果(楽園の金庫番・f26379)にとっては少しだけ残念ではあったものの、頭上に広がる『星空』の光は砂金の煌めきにも似て、幼い大きな瞳に映る『空』の黄金もまた綺麗だと感じるのだった。

 ――が、しかし。
 美果はどうしてもこの光景に完全に見取れる事はできなかった。
 他の猟兵達も油断しているわけでは無いのだろうが、この後に戦いが控えているとわかっていながら警戒が足りない気がしたのだ。
 グリモア猟兵は、先程の黒騎士は尖兵に過ぎないと言っていた。ならば、この後対峙するであろう敵はよほどの強敵なのだろう。足りない。圧倒的に準備が足りない!
「油断しているふりをして攻め込ませるのは手ですけど、それはこちらがしっかり迎撃準備を整えている場合なのです!
 でしたらこのわたくしが対策を立てて差し上げますわ!」
 一念発起。
 小さな彼女はその胸に覚悟を決めると、祭りの人だかりへ向かった。

「皆さん! 黄金は何故かがやくかご存知ですか!」
 幼女と言って差し支えない外見の美果が突然そのような事を言い出すものだから、辺りにいた者は一様に驚いた。
「あの『空』の『星』も、買いものに使う金貨も! 黄金がかがやくのは、意味があるからです!」
 彼女の演説を聞いた者達はみな不思議そうにしていたが、その話が具体的になっていくと興味を持った聴衆が更に増えていく。
「黄金が美しくかがやく理由……それは、とうといからです! 守るべき大事なものだからです! 私達は、この島の黄金をこれから先もずっと、守り抜くべきだと思います!」
 言葉に乗せるのは『マネー・イズ・パワー』。小さな彼女から黄金の大切さや尊さを説かれた者達は彼女にこぞって金貨を払い、美果はその富から住人達に利益(ちから)を分け与えたのだった

大成功 🔵​🔵​🔵​

メリー・アールイー
〇☆
星空の果てから降って来た島か
随分と『ろまんちっく』だねぇ
空と海の境が無いこの島を、恋鯉とReと一緒に巡ろうか

深海人にご挨拶
この島の名前は…ほう、『イ・ラプセル』っちゅうんかい
それってどんな意味なんだい?
島の人々が知る伝承が他にもあれば、もっと教えてもらいたいねぇ
亡霊の話ってあったりするかい?

星のクラゲと寄り添うように泳ぐ恋鯉
お星さまが気に入ったんかい?
邪魔にならないように、遊んでもらいな
Reと手をとって、あたしも踊りに交ざろうかね
綺麗で、優しくて…いい島だねぇ
亡霊にさらわれないように、守ろうね


アリエ・イヴ
◯☆

星まで海仕様ったぁ、こりゃいいな
手が届くとなると欲しくなっちまう
ご機嫌そうに喉の奥で笑って手を伸ばす
けどまあ、自由なのがいいとこだ
精々この後の危機も退けて
来年以降も歓迎されるように励むとするか
心の底から祭りを楽しみつつも
野生の勘で警戒する

とはいえ今は祭りだ
宴を楽しまねえのは主義に反するからな
賑やかな方によって行く
島独特の歌があるなら聞いて覚えて参加しよう
知らなかったのか?海賊は歌うんだぜ
カラカラと笑って楽し気に

星空から落ちてきたとは言うが
同時に海も味わえる今の方が
俺にはよっぽど上等だ!
けどまあ海賊だから
それに纏わる宝の話でもあるなら興味はあるね
うまく手に入れられるものなら船の土産に丁度いい



●島の名は
 『星空』に向けて手を翳す。
(星まで海仕様ったぁ、こりゃいいな。手が届くとなると欲しくなっちまう)
 この手を閉じれば、手に入るような気がした。そうでなくともあの『星』は、地上の星に比べれば確実に手に入る距離にある。手に入れてしまうのもいいが――アリエ・イヴ(Le miel est sucré・f26383)は喉の奥でくつと笑うと、一度目を閉じた。
(まあ、自由なのがいいとこだ。精々この後の危機も退けて、来年以降も歓迎されるように励むとするか)
 一度捕らえた人質を放すように、翳した手を『空』から退ける。
 見上げた空には、光る『星』と。『星空』を泳ぐ桜色の鯉がいた。

「あれま。あんたはお星さまが気に入ったんかい?」
 桜色の鯉、『恋鯉』の主であるメリー・アールイー(リメイクドール・f00481)が地上から見上げる。主に返事でもするように尾びれを激しく振った後、『恋鯉』は更に星を追いかけて泳いでいった。
「そうかい。邪魔にならないように、遊んでもらいな」
 泳ぎ去る『恋鯉』を見送ると、メリーは絡繰り人形の『Re』と共に祭りの踊りへ混ざりに行くのだった。

 相棒の人形と一緒に、メリーが他の参加者の見様見真似で踊りを楽しんでいると、踊りの歌を歌っていた赤毛の海賊に呼び止められた。
「よう。楽しんでるかい?」
「おんや、あんたは確か……すっかり溶け込んでてわかんなかったよ」
「俺クラスの海の僕になると、深海でもやってけちまうってか? 色男も辛いぜ」
 呼び止めた海賊はアリエ。宴なら楽しまねば損と、住人から歌を教わって歌い手として参加していたのだ。
「海賊は歌うんだぜ。知らなかったか?」
「海にあんま縁が無かったからねぇ。これからは覚えとくとするよ」
 メリーの認識を改めたところで、アリエは「ところで」と話を切り出す。
「この島の昔の事、詳しそうな深海人はいるかい。財宝の話でもあれば、海賊としては是非とも土産に聞いていきたいんだが」
「あたしも聞きたい事はあるんだけど、昔の事となるとなかなかねぇ」
 この踊りへ来る途中も、深海島となる前の痕跡が何か無いか自分で探してはいたが、二人ともこれといったものは見つけられなかったのだ。おまけに住人の深海人ははその外見のために、若者と年配の区別が付きにくい。
「ま、宝の地図はそう簡単に手に入らないと相場は決まってはいるが。星空から落ちてきて、今は同時に海も味わえる深海島のお宝だからな」
「『ろまんちっく』だねぇ……と。おーい、そこのヒラメ頭さんやーい」
「カレイだよ!!」
 ヒラメと呼ばれて訂正を入れてくる反応速度は完全に慣れていた。何か申し訳ない。
 この島で生まれ、この島で育ったというカレイ頭の中年女性(?)は、二人の猟兵達の質問に首を傾げながらも(元々傾いているが)答えてくれた。
「この島の名前、『イ・ラプセル』ちゅうたかね。どんな意味なんだい?」
「むかーし、ひいばあさんがご先祖様から伝え聞いてたっていう話によれば、『至福の島』って意味らしいよ。住人が幸せになれそうな、いい名前だろう?」
「なるほど、確かにいい名前だ。じゃあ、亡霊の話なんかはあるかい?」
 メリーが二つ目の問いを訊ねると、アリエも「亡霊の宝物の話でもいいぜ」などと補足する。
「亡霊ねぇ……いてもおかしくはないけど。私はよくわかんないな。力になれなくてすまないねぇ」
 カレイ頭の女性が謝るのを、二人で制する。
 ひとまず、島の名前の意味がわかっただけでも今はよしとしよう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント
○☆
この島は“星空の果てから降ってきた”、だったか
今はすっかり浪の下の世界に馴染んでいるが、元はどんな所だったのだろう

住人の話を聞いたり祭りの様子を眺めながら、コンキスタドールの襲撃に備えて周囲を警戒する
祭りの邪魔をしないように、散策の中でさりげなく泡の外に敵影が無いか確認
そうしながら、泡の縁ぎりぎりまで泳いで、光るクラゲに近付いてみる
仕事中だと分かっているが、海に浮かぶ生きている『星』に興味が湧いて

普段見慣れた星とは違うが、美しいと素直に思う
コンキスタドールに奪われるのは忍びない
この『星空』を守る為に戦ってみるというのも悪くはないかもしれない
…つい、そんな似合わない事を考えつつ、警戒を続ける


アトラム・ヴァントルス
〇☆
イ・ラプセル…それがこの島の名前ですか。
良い名ですね、狙われていなければ穏やかに過ごせる島であったでしょうに。

海底の星については鉱石か何かと思ってきたのですが、巨大なクラゲですか。
持ち帰りは難しいでしょう、早々にあきらめて島を散策するとしましょうか。

物珍しい薬の素材になりそうなものがあればそれを求めるのもよし、
祭りの席で何か宝の話やコンキスタドールの話を探しましょう。
予知の話では道中のものとは別にいるそうですから、何かわかることがあればいいのですが。

目的の場所で目的のものが手に入れば去ろうと思いましたが、何も手に入らない可能性もありますし…
せめて何か打ち取れれば、船の土産話になるでしょう。



●守るものの形
 父なる大地、太古の星よ。今宵は彼方、星の彼方。
 母なる海よ、太古の空よ。今宵は彼方、空の果て。
 幾千幾万、空の果て。星の彼方へ、還らせたまえ。

 星空への回帰を歌う祭りの歌を聞きながら、シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は想いを馳せる。
「この島は『星空の果てから降ってきた』、だったか。今はすっかり浪の下の世界に馴染んでいるが、元はどんな所だったのだろう」
「何か見付かれば良かったのですけどね。一通り島を散策してみた限り、本当にどこもかしこも貝と珊瑚ばかりで」
 道中で落ち合い、ついでだからと祭りの席までの道を同道する事にしたアトラム・ヴァントルス(セイレーンの闇医者・f26377)。敵への警戒ついでに島を散策してみても、本当にそれらしい『何か』は見当たらなかったのだ。
「……これは何だ?」
「柱、のようにも見えますが」
 ふと、シキが立ち止まり、アトラムもその形を確認する。柱のような何かは、よく見るとかなりの長距離に渡って複数が整列している。長さはまちまちで間隔も同じではないが、一列にはなっている。この海に沈んでから自然にできた産物では無いだろう。
「かつての世界の痕跡でしょうか。何かの素材になるかもしれませんし、少し調べてみますか」
 すっかり珊瑚に覆われてしまっている表面を、触れて確かめてみる。船医であるアトラムとしては、『深海の星』に薬の新素材を期待して来たのだが、持ち帰りが難しい巨大クラゲではそれも叶わないため、かつての世界の片鱗に可能性を探しているところなのだ。
「グリードオーシャンの島は、どれも別の世界から落ちてきた島だという話だからな。星空の彼方から落ちた、という話だけでは、元の世界の手掛かりにはならない」
「そうなんですよ。先程の黒騎士がこの島に関係があるなら、少なくともサムライエンパイアの可能性は低そうですが……」
 そこまで言って、アトラムは溜息をつく。やはり触れただけではよくわからない。この柱を切り倒してみればわかりそうだが、それでは余所者による島の破壊になってしまいそうだ。
 やはりここは、一旦住人の話を聞いてみよう、と意見が纏まった。

「柱の列? ああ、あれはねぇ……今は祭壇として使ってるよ」
 祭りの席で年老いた住人の話を実際に聞いて、切り倒さなくてよかった、と心底思った。
「元が何だったかは、誰も知らないんだけど。綺麗に並んでるだろ? でも、すごくでかいからねぇ……あんなでかいのは、神様が作ったに違いないんだ。星空の彼方の神様がね」
 星空の彼方の神――それはやはり、元の世界の住人、ということになるのだろうが。
「あの巨大クラゲは、コンキスタドールを恐れてしばらく出てこなかったという事ですが。黒騎士以外にも何か出るのでしょうか? あるいは、この島に狙われるような宝があるとか」
 アトラムの問いに、老人は首をかしげる。
「ここは深海だからねぇ。沈没船の亡霊なんかは、外ではよく出るらしいよ。島の宝は、この島自体が宝とも言えるがねぇ」
 そう語る老人は誇らしげでもあり。この島自体が宝だというのも、実際に宝物であるか否かというよりは、老人自身がこの島を誇りに思っている、というように受け取れた。
「そうか。聞かせてくれてありがとう」
 この島が元あった世界に繋がる確かな情報は得られなかったが、老人の態度でシキは既に満足していた。
「俺は散策に戻る。見たいものもあるからな」
 アトラムにそう言い残すと。シキは一人で祭りの席を後にした。

 向かった先は、『空』。島を包む泡の境界。
 すぐ外には、巨大クラゲが纏っている光の集まり――『星』がある。
(普段、地上で見慣れた星とは違うが……)
 己でもらしくないとは思いつつ、興味を惹かれたのだ。生きている星というものに。
 生命を持つ光は、小さくとも確かに美しい、と思えた。
 これがコンキスタドールによって失われるのは、あまりに忍びない、とも。
(この『星空』を守る為に戦ってみる、というのも……悪くはないかもしれない)
 揺れる『星』を受け止めるように広げた掌に、暖かな光が零れ墜ちた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鳴宮・匡
自分を救い、育てて、最後には自分を庇って死んだあのひとを
その記憶ごと、思い出ごと
あのひとがくれた幸福とともにこころの裡の黒い水底に封じた日から
自分には“こころ”なんてないと嘯いて、胸の裡に浮いたすべてを葬ってきた

あのひとから奪ってしまったものを、自分が持つべきではなくて
あのひとがくれたものは、すべてあのひとに返すべきだから

今だって、そう思ってる
生きることも想うことも、許されないと

それでも、『空』に浮かぶ彩を見上げて胸の裡に浮いたものも
それを、見せたいひとがいるんだというそのことも
なかったことにはしたくないと思うから

もう、二度と“自分”を沈めたりしない

――痛くても、許されなくても
ここで生きるんだ



●凪の水底より、浪の星空へ

 ――停めていたつもりだった。

 深海島よりなお深い、昏き水底を見つめて鳴宮・匡(凪の海・f01612)は思っていた。
 自分を救い、育て、最後には自分を庇って死んだひとのことを。
 その記憶ごと、思い出ごと。
 あのひとがくれた幸福とともに、こころの裡の黒い水底に封じた日のこと。
 以来、自分は『ひとでなし』なのだと。『こころ』などないと嘯いて、胸の裡に泡のように浮かび上がるすべてを葬ってきた。

 生きていれば、あのひとが得ていたはずのものを。
 あのひとから奪ってしまったものを、自分が持つべきではなくて。
 あのひとがくれたものは、すべてあのひとに返すべきだから。
 今でもその思いは変わっていないし、生きることも想うことも許されないと思っている。
 これからもきっと、変わらないのだと思う。

 ――止めてしまうつもりだった。

 それでも、見上げれば。
 光差さぬはずの水底に、『星』がある。
 凪の静寂に、人々の賑わいがある。
 生命がある。
 小さな光の集まりがなす彩に、胸の裡に浮かび上がる泡は葬り切れずに。
 水面まで届いてしまった泡は、隠すわけにはいられない。
 この彩を見せたいと、強く想う人がいる。
 無かった事には、したくないと。想ってしまったからには。

 ――今、ここで生きるんだ。ここから、生きるんだ。

 それはきっと、痛いことだ。間違いなく許されないことだ。
 それでももう、二度と『自分』を沈めたりしない。
 約束の灯りに似た星明りを、揺らがぬように真っ直ぐ見つめて決めた。

 その『空』に、招かれざる影が映る。
『明るいことはいけないことだ。苦しくて辛いものが映し出されてしまうから。
 先へ進むことはいけないことだ。痛くて悲しいものを置き去りにしてしまうから』
 『空』に波紋が広がる。
 ――波が、来る。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『未完の『イサム・セイル』』

POW   :    一切を無へ還せ! 消失の神槍(デミ・ルーン)!
自身の【構成情報】を代償に、【召喚した神槍から、対象を無へと還す光】を籠めた一撃を放つ。自分にとって構成情報を失う代償が大きい程、威力は上昇する。
SPD   :    イ・ラプセル、現実空間へマテリアライズ!
【艦載機『ウェイブ・スウィーパー』】で武装した【ウォーマシン】の幽霊をレベル×5体乗せた【高速戦闘空母イ・ラプセル】を召喚する。
WIZ   :    沈めて眠れ。……凪の水底(ワールド・ステイシス)
【諦念を抱かせる虚数の波】を降らせる事で、戦場全体が【時空間と断絶した停滞空間】と同じ環境に変化する。[時空間と断絶した停滞空間]に適応した者の行動成功率が上昇する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はリア・ファルです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●遙かなる星の果てより墜つる――
 『星空』より来たるは、遙か遠き星の果てよりの落とし子。
 あるいは、『実』を結べずに墜ちた『虚』の残像。
『明るいことはいけないことだ。苦しくて辛いものが映し出されてしまうから。
 先へ進むことはいけないことだ。痛くて悲しいものを置き去りにしてしまうから』
 響く声は、この世界には不似合いな電子音声でありながら。兄が妹に接するような、遺される者が先へ往く者を送るような穏やかさで、広く呼びかけるのだ。
 声は穏やかでも、『星』を纏っていた巨大クラゲは瞬く間に『空』から泳ぎ去ってしまう。『星』が逃げた『空』には、一等星のように光るターコイズブルーの瞳が一対残った。
 やがて輪郭を現し、青く発光を始めた人影は、ノイズを纏いながら両腕を広げて告げた。

『苦しみも悲しみも、忘却と過去の水底に沈めて。永遠の『今』を始めよう。
 沈めて眠れ。……凪の水底(ワールド・ステイシス)』

 『空』に波紋が広がる。
 ――波が、来る。

============
☆今回はプレイング受付期間を設けます。
 【7/22 8:31~7/25 24:00】の期間で送信されたものをリプレイに反映、期間外のものは基本的に不採用とさせて頂きます。
 この章のみのご参加でも問題ありません。他の章での行動は触れなくても大丈夫です(触れて頂いても可)

 2章で周囲の警戒をしていた猟兵が多かったため、『未完の『イサム・セイル』』が島内に侵入する前に状況を開始できました。泡の外で戦う場合は、戦闘に一般人が巻き込まれる可能性を考えなくていいです。
 しかし戦場全体に放たれた『凪の水底』の影響により、スタート時点で皆様は『未来の事を考えたくない』心理状態へと落とされています。
 今のままでいい、あの頃が良かった、出会わなければ良かった、関係を進めたくない、この敵を倒す必要性を感じられない……といった類いの状態です。
 まずはその心理状態からどうやって復帰するか、そして復帰した後どのように戦うかをプレイングで書いて頂きたいと思います。
 (どちらかを重視したプレイングになっていれば、そのように描写致します)
 なお、使用できるユーベルコードは1種類です。

 皆様のプレイングをお待ちしております。
============
マリアドール・シュシュ
リュカ◆f02586


マリアは今、とっても幸せなの
楽しいの
大事な人や友達やリュカ…あなたと居られるかけがえのないこの時間が

前へ進む事で壊される幸福
知りたくもない真実を知り、
全てを無くすかもしれない恐怖(両手で震える自分の身を包み
いやよ
いやよ
永遠の『今』ならば…

リュカを見て気付く

ええ、マリアは言ったわ
あなたと物語を紡いでいきたいと
これまでも
どこまでも

踏み出すのが怖い
けれど
この先に待ち受ける出来事は
きっと輝く未来

竪琴を鳴らし空間を切り払う
リュカの支援
綺麗な音色の誘導弾でおびき寄せて範囲攻撃
マヒの糸絡めた強い意思感じさせる旋律で縫い留め
【透白色の奏】使用
必ず当てる

リュカ、あなたの一撃を轟かせて頂戴!


リュカ・エンキアンサス
マリアドールお姉さんf03102と

その手の執着はしないように育てられてる
だからその感情を抱くこと自体が危険だとわかる
俺は自分の危険には敏感だから
早々に正気に返るよ

で、だ
お姉さん、起きて。……起きて
自分は無事だ
だからと言って、お姉さんを放っておけないし

が、
こういう時にどう声をかけていいのかもわからない
ので、敵を牽制しながら、お姉さんに声をかける
ええと…未来もろくでもないことも多いけれども多分きっと楽しいよ
だめだまともなかける言葉が出てこない

だからお姉さんが元に戻ったら正直ほっとしたような顔をして
ああ。……よかった
うん、お姉さんが元に戻ってくれたら、それだけで心強い
それじゃ、終わらせようか



●『今』を揺蕩う

 ――この手の執着は危険だ。

 1秒か、30分か。どれほどの時間が経ったのかは曖昧だったが。
 リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)は、骨身に沁みるほど理解していた。戦場で『未来を放棄する』ことがどれほど危険かは、本能に叩き込まれていた。
 ゆえに、感情が理解する前に肉体が拒絶した。

 ――それは、『死』だ。

「お姉さん、起きて。……起きて」
 だから、正直不安になった。『凪』に捕らわれてしまったマリアドール・シュシュ(蜜華の晶・f03102)が、竪琴を手に揺蕩ったままだったから。
 このままでは、彼女が『死んでしまう』。それを伝えたいのに、彼女が起きない。
(なんて声をかければ……、お姉さんが起きる言葉……何がある……?)
 そういうものは、むしろ彼女自身の得意分野だ。その彼女がこの様子なのだから、自分が起こさなければいけないのに。
『――……――……』
 『空』の青い人影が何かのメッセージを告げているが、内容は明確には理解できない。システムがどうの、スキャンがどうの、と聞こえた気がする。何かを探している事くらいは理解できた。
『――対象のスリープ復帰を確認。再スリープを要求。
 起きないなら、起こす必要はないだろう』
「……」
 語り掛けるその声がどれほど穏やかでも、リュカは愛用の『灯り木』から手を離さなかった。
 あれは、『死』だ。彼女が起きるまで、自分が彼女を守らなければ。
「リュカ……」
「お姉さん、起き、」
「マリアは今、とっても幸せなの。楽しいの。大事な人や友達やリュカ……あなたと居られるかけがえのないこの時間が」
 その夢見るような瞳に、『現実』(いま)は映っていない。綺麗な海に、きらきらと『星』が輝いているのを二人で見た、あの時で止まっているのだろう。
「前へ進む事で壊されるのが、いやなの。知りたくもない真実を知って、この幸福も、何もかも、全てを無くすかもしれない……」
「……」
 あの『星空』は、確かに綺麗だった。揺蕩うクラゲを見るのも、それに感動するマリアドールの詩(うた)を聞くのも、嫌ではなかった。あの穏やかな時間は、確かに苦しいものではなかったけれど。
「いやよ、いやよ……この『今』が永遠になるなら――」
「未来もきっと楽しいよ」
 細く白い両手で己の身を抱き締めて震える彼女に、何故だかそう言い切っていた。
「ええと……多分、ろくでもないことも多いけれども。でも、きっとそうだ」
 らしくない。根拠のない夢や幻想などというものは戦場では命取りだとわかっている。ましてや今は敵前。
 けれど今は、何でもよかった。この人を連れ戻せる何かが欲しかった。
 そして、それ以上にきっと。この人がいる途(みち)は、この人がいるだけで、いつか辿った星屑の路のようにきらきらとしているだろうから。
「だから。起きて、お姉さん」
 思う事はあれど、悲しいほどに言葉が出てこない。起きて欲しいから起きてと言うだけ。そうしている間にも、敵は何かを召喚しているように見えて――。
「――ええ、そうね。マリアは言ったわ。これまでも、どこまでも。あなたと物語を紡いでいきたいと」
 先程までとは違う、確かな声色に。思わず背に庇っていたマリアドールの姿を見た。その瞳は、停滞の今ではなく未来を見て輝いている。

 本当は、マリアドールはまだ未来へ踏み出す恐怖を完全に克服したわけではなかった。今の幸福を失う恐怖も、何かを知ってしまう恐怖もあった。
 けれど、その中でもきっと輝きを失わない標の星が、目の前にあるから。

「だから、行きましょう。リュカ。あなたの一撃を轟かせて頂戴!」
「うん。それじゃ、終わらせようか」
 マリアドールの意識が戻って安堵したのも一瞬。『灯り木』に星の弾丸を装填すると銃口を『空』へ向けた。マリアドールも『黄金律の竪琴』を奏で、虚数の海に音の波を広げていく。
「――さぁ、マリアに見せて頂戴? 玲瓏たる世界を」
 凪の海が揺れていく。青い人影のノイズも波のように揺れ始めた。
『同、期が……不……定……スタンバイ、完了。イ・ラプセル、現実空間へマテリアライズ!』
 アナウンスのような音声と共に『空』へ出現したのは、巨大な黒影。そこから戦闘機が次々と放たれ、猟兵達へと狙いを絞って攻撃してくる。
 しかし、その半数近くはマリアドールの音色に絡め取られてコントロールを失ってしまった。
「……星よ、力を、祈りを砕け」
 そして、残る半数もリュカが放った星の弾丸により、その『幻想』ごと撃ち砕かれる。
『『ウェイブ・スウィーパー』、第一部隊被害大。戦闘続行不能。第二部隊カタパルト――』
「させるか――!」
 人影の周囲に展開されたパネルを操作する、その肩を正確に撃ち抜く。
『――!』
 出血は無い。しかし、人影は――『イサム・セイル』は、ひどく驚いた様子で『地上』を見下ろしていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

照宮・美果
何かパパが好きそうなロボットっぽいのが出てきましたわ!
大きな戦艦まで!

でも怯むことはありません
だってあのロボットさん達、よく見ると透けていますもの
美果は知っています! あれはロボットさんではなくユーレイさんです!
ユーレイさんの身体は本当はなくなっているので、叩かれたりしても痛くないのです!

マネー・イズ・ジャステイス!
ママ譲り金髪を切って捧げたら高らかに金の勝利を掲げます
そして『金の亡者』をバラ撒いてロボユーレイさん達の目を誤魔化したら、『ころぽっくるの傘』に隠れてイサムくんの元までこっそり移動
こちらに気が付いて攻撃してきたときがチャンスです。
どびんぼー!!(真の姿『どひん棒』カウンター攻撃)


シキ・ジルモント
○☆
未来に絶対は無い
戦えば敗北する可能性もある
それなら戦う事をやめて、ずっと今のままで…

…しかし、それは仕事の放棄を意味する
約束の反故は裏切りだ、それを良しとするわけにはいかない
それに島の住人にとって未来へ進む事は過去の置き去りではない
過去の形跡ごと島を宝だと、そう言ったのだから

自らの矜持を保つ為、島と住人を守る為
真の姿を解放する(月光に似た淡い光を纏い、犬歯が牙のように変化し瞳が輝く)
呼吸は島からの泡を、水圧は真の姿による身体強化で耐える

ユーベルコードを発動
増大したスピードと反応速度で空母とウォーマシンを強引に回避、突破し接近を試みる
水中で射撃の威力を殺がれないよう、零距離射撃での反撃を狙う



●水底から駆ける
 凪の夢からは早くに覚めた照宮・美果(楽園の金庫番・f26379)は、『空』に黒い巨影と戦闘機らしきものが現れてから少し興奮気味だった。
「何かパパが好きそうなロボットっぽいのが出てきましたわ! 大きな戦艦まで!」
 戦闘機が出てきたなら、それらが放たれたあの大きな影は戦艦だろう、と思ったようだ。美果はとても賢いのだ。
 しかも、『ロボットっぽいの』は地上の図鑑や映像ではほとんど見ないシルエットだ。恐らくはヒーローズアースか、スペースシップワールド辺りのものだろうか。
「あのロボットさん達、よく見ると透けてますわ? 美果は知っています! あれはロボットさんでなくユーレイさんです!」
 実物のロボットでなく、ロボットのユーレイなら、実体が無いのだから当たっても痛くないはず。そう確信した美果が、自分の金髪を切り取って捧げようとした時。
「グルルルル……」
 見上げるほどの狼男が、威嚇の唸り声をあげていた。

 ――少し時を遡る。

(未来に絶対はない。戦えば敗北する可能性もある。あんな巨大な相手、勝ち目は薄い……)
 シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は、凪の水底にいた。
 その眼に『空』に召喚された巨影は映っていたが、不思議なほどに戦意というものが湧いてこない。如何ともし難い諦観が、頭上の影と共に常に脳内に横たわる。
(それなら戦う事を止めて、今のままで……)
 思考を止めて、目を閉じる。それまで警戒のために立てていた耳も寝かせて、『シロガネ』へとかけていた手も降ろして。
 全ての力を抜くと、首のペンダントがやけに冷たく感じた。
 思い出せ、忘れるなと、主張でもするかのように。
(……『裏切り』)
 ふと、その言葉が胸に落ちてきた。停滞の中でも、それはいけない事だと思った。
(ここで戦う事を止めれば、仕事の放棄になる。仕事の放棄は、約束の反故。約束の反故は、裏切りだ。それを良しとするわけにはいかない)
 次に思い出したのは、この島について教えてくれた老人の事。彼は、どこの世界から落ちてきたかもわからないこの島の事を、島自体が宝だと誇っていた。
(島の住人にとって、未来へ進む事は過去の置き去りではない。約束と、信用を、俺は守る――!)
 矜持と命を守ろうとする心が、月光となって溢れてシキを包み意識の水底から引き上げる。我を取り戻した彼の姿は、常であれば人には晒す事の無い人狼の真の姿を得ていた。

 ――そして、今に至る。

「まあっ、狼男さんですわ!」
「……人狼だ。それより、あれに近付くつもりならついでに連れて行くぞ」
 相手は亡霊とは言え戦闘機。実際に触れれば何があるかわからない。
 何より、シキが共にいてくれる事は美果にとっても大きな助力となるだろう。
「では、まいりましょう!」
 美果が長い金髪をざくりと切って波へ流すと、ついで『金の亡者』達を周囲へ放つ。
「マネー・イズ・ジャスティス! これで勝てますわ!」
「金きらで落ち着かないが……まあいい。捕まってろ」
 言うなり、シキは美果を抱えたまま『地』を蹴り、人狼の強靭な身体能力で真っ直ぐ『空』へ泳いでいく。戦闘機の亡霊達が寄り集まってきても、美果の『金の亡者』――意志持つ金貨達が周囲で煌めいて狙いを定めさせない。
『『ウェイブ・スウィーパー』、標的の目標座標『イサム・セイル』への先行を指示する。迎撃せよ』
「強行突破する。いけるか」
「問題ありませんわ! でも――」
 一瞬のやり取りの後、二人は先回りした戦闘機群の一斉砲火に晒される。
「遅い――!!」
 しかし、人狼の獣性を解放したシキには躱せぬ速度ではない。射撃の雨すら掻い潜ってみせ、ついに彼は『イサム・セイル』へ肉薄する。
「戦闘機は間に合わない。ここからなら、外しようがない」
『――……』
 間近でハンドガン・シロガネを向けられ微動だにしない『イサム・セイル』と、奥の手を警戒してそれ以上はまだ攻め込まないシキ。二人の硬直状態はしかし、長くは続かなかった。
『敵座標を捕捉。『ウェイブ・スウィーパー』、迎撃せよ!』
 その指示に対してシキが標的にされることはなかった。
『先の迎撃時に、二手に分かれた事は把握済みだ。AIのレーダーは誤魔化せないぜ』
 標的となったのは、シキと逆方向から来ていた――
「どびん棒――!」
 ――金狐の真の姿を解放した、美果のはずだった。彼女は『ころぽっくるの傘』に隠れてここまで近付き、『ウェイブ・スウィーパー』の射撃を『どびん棒』の一閃で文字通り水泡に帰したのだ。
「喰らえ!!」
 その隙を、違わず捉える。シキが引き金を引くと、『イサム・セイル』の胸部を確かに貫いた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

灰神楽・綾
【不死蝶】○
ああ、楽しい時間だった
それでいいじゃないかと思うのに
それじゃ駄目だとも頭の中の何かが告げていて

ふと右手の包帯に気付く
これは梓が俺の怪我を手当てしてくれたもの
そもそも何で怪我をしたのか?
何で怪我をしてまでここに来たのか?

もう一度ナイフで手を斬りつける
折角処置したのにって梓に怒られそうだなぁ
痛みで頭がどんどん覚醒してくる

そしてまだ考え込む梓の手首を引き寄せ
がぶりと噛み付いて血を啜る
血を吸ったのはついでだけど
今の痛みで君も目が醒めてきたでしょ?

梓の言葉を合図に俺もUC発動
飛翔能力で近づきながら
先に蝶の群れを敵の眼前に放ち目眩まし
紅い視界が晴れた時には
俺がEmperorを振り下ろすところさ


乱獅子・梓
【不死蝶】○
綾と一緒に見た星は見事だったな
綾と、焔と零と、永久にあそこで
眺めていても良いと思えるほどだった
……で、祭りを終え、何故まだここに居るんだったか?
ああクソ、思い出そうとすると頭が痛い

すると綾が唐突に、且つやたら自然な動きで
俺の手を取り、そして噛み――
……いってぇ!!
突然の事に間抜けな声をあげてしまった
だが頭痛も忘れるほどの一瞬の痛みに
綾の言う通り目が醒めてきた

あぁそうだ、あいつを倒して
また星の祭りが見られるように
今俺達はここにいるんだったな

まず使い魔の颯を高速でけしかけ攻撃
敵が颯に手間取っている隙に
こちらも成竜の零に乗り接近、UC発動
おかげで更に頭が冴えてきたな
あとは任せたぞ綾!



●痛みが繋ぐ
「一緒に見た星、見事だったな」
「ああ、楽しい時間だった」
 乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)と灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)は、まだ『今』を揺蕩っていた。
 あの『空』の『星』のように、クラゲのようにゆらゆらと。二人と、『焔』と『零』がいれば。あの時間が永遠でも十分に満たされると思う。

 ――でも、何でまだここにいるんだ?

 ただここにいたいから、以外の理由だったと思う。それがどうにも思い出せなくて、思い出そうとすると頭が痛くなるから、どうでもよくなる。
 ――ただ。
(包帯……?)
 綾の右手には、思い出せない包帯が巻かれていた。否、梓が巻いてくれた事は覚えている。
 どうして巻いてくれたのだったか。包帯を巻くような怪我をどこで。
(もう一度、同じ痛みを味わえば思い出すかな?)
 この程度の怪我なら、深手ではないだろう。後で「せっかく処置したのに」と怒られそうだが、痛みと血を味わえば思い出せそうな気がするのだ。
 根拠もなくそう思って、綾は包帯を解き、まだ治っていない傷をなぞるようにナイフで切りつける。やはり深くはない。何かの刃を手で握り込んだような傷だ。
(あ……でも、地味にじわじわ、痛い。どこでこんな怪我――、……あ)
 思い出した。
 『Emperor』だ。
 黒騎士だ。
 星祭りを、守ろうとしていたのだ。
(梓は……まだ覚めてないか。仕方ないねぇ)
 一足先に痛みで覚醒した綾は、まだぼんやりとしている梓の手を取るとその手首に牙を立て、彼の血を啜った。
「……いってぇ!!」
「ふふ。血を吸ったのはついでだけど、少しは目覚めてきたでしょ?」
「ついでで人の血を吸う奴が……ってお前! 俺が手当てした所! 傷が開いたのか!?」
 思っていたより早く怒られてしまったが、彼も目が覚めてくれたようで何よりだ。「ったく、吸血の痛みで頭痛が吹っ飛んじまった」
「よかったね。で、あれどうやって殺そうか」
 二人で見上げるのは、『空』にあって頭上に影を落とす巨大な戦艦と、その傍にいる青い人影。先程までの奇妙な空間を齎したのも、恐らくはあの巨大戦艦を召喚したのもあの人影だろう。
「あぁそうだ。あいつを倒して、また星の祭りが見られるように、今俺達はここにいるんだったな」
 その前に、と、未だ血が伝い落ちる綾の右手をきつく包帯で縛り直してから。梓は闇烏の『颯』を先に飛ばすと、颯は真っ直ぐ人影の元へ飛んでいく。
『烏……いや、風のマテリアルで構成された烏か。『イサム・セイル』退避!』
 颯を避けて退避する敵を追い込むべく、梓は氷竜『零』を成竜へと成長させその背に乗る。
「追うぞ零!」
 主の声に振り向かないまま、来る時は潜ってきた海を昇っていく。人間の間合いまで近付く必要はない。『ドラゴンの間合い』まで近付ければいいのだ。
「氷の鎖に――囚われろ!」
 射程に収めた瞬間に、『零』が氷のブレスを放つ。海を凍らせながら人影に迫った氷のブレスは、ついにその片脚を捕えた。
『――! 構成情報を解けばまだ!』
「逃がすな! あとは任せたぞ綾!」
「あんまり好きじゃないけどね、この姿」
 梓の要請を受けた綾はしぶしぶといった様子ながらも、紅い蝶の群れを纏いながら海を飛び追いつく。蝶の群れは更に人影の周囲を覆い、外界と完全に隔絶した。
『解析結果……これは、強化系ユーベルコード……強化後の攻撃による被害区域は……』
「計算は済んだ?」
 紅い蝶の群れが晴れる。そこには、大きく黒い蝙蝠のような翼を生じさせたヴァンパイアとなった綾が、ハルバードの『Emperor』を振りかぶっていた。
「じゃ、殺すよ」
 それは、断頭台の刃の如く振り下ろされる。
 赤が、碧を両断した。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

御形・菘
○☆
確かに、気が乗らんのにわざわざバトる必要は無いかのう
そういう気分の時用のマニュアルを作ってあるから、それに従うとしよう
えーと? …右手を上げ、指を鳴らし、スクリーンを呼ぶのであったか

……ああそうだ、いつだってそうであったな
妾は常に進み続けなければならん
キマフュの皆に歓喜と感動を与え、妾を支える応援を浴び続けるために!

空間が断絶し、放送が途切れようがもはや関係ないよ
今この瞬間も、信者たる妾のファンが妾に全力のエールを送ってくれている!
一切疑問を差し挟む余地のない、絶対的な確信だ!
そしてそんな皆に、歓喜を! 感動を! これからも与えてゆくのだ!
ド派手にブッ飛べ、妾の左腕にボコられてな!


メリー・アールイー
○☆
昔々ある所に、少しばかり高価で丈夫な布団があった
打ち直しをし続けて長らく愛用されて
布団でいられなくなったら、その布を使った人形に
人形でいられなくなったら、くるみボタンに
姿を変えて時を過ごした

ヤドリガミになる前の、大事にされるだけ愛されるだけのもの
流れに身を任せるだけで良かったあの頃……嫌いじゃなかったよ

でも……チクリ、Reが針で刺してくる
そうだね、あたしたちはもう、みんなを守れる
愛せるようにもなったんだから
あたしたちは生まれ変わっちまったからさ、先にいくよ

【桜花泳夢】
諦念の波に逆らって泳ぎ、イサムの元へ
休むのは構わないさ
でも人が変化する可能性までも奪っちゃいけないよ
しつけ針で貫こう



●皆がいる未来へ

 ――それは、凪の水底で浸った束の間の思い出。

 昔々ある所に、少しばかり高価で丈夫な布団があった。
 打ち直しを続けて長く愛用されたが、ついに布団としては使えなくなった。
 布団でいられなくなったら、その布を使った人形に。
 人形でいられなくなったら、くるみボタンに。
 布団だったものは、姿を変えて長い時を過ごした。

(ヤドリガミになる前の、大事にされるだけ、愛されるだけのもの。流れに身を任せるだけで良かったあの頃……嫌いじゃなかったよ)
 メリー・アールイー(リメイクドール・f00481)は、愛されるだけで幸せだった頃を思い出して微睡んでいた。そこは晴れた日に干した布団のように懐かしくて、心地が良くて、醒めるのが惜しくて。目を閉じるだけで何度でも、何時間でも何日でも眠ってしまえそうだった。
 だというのに。ちく、と刺さる。
 無視して眠るには、少しだけ痛い。これはしつけ針だ。
「……あんたかい、Re」
 顔面にReと書かれた、自分と瓜二つのからくり人形。
 まだぼんやりとしていると更に針を刺そうとしてきたので、ゆるりと起きた。
「おや、お主起きたのか」
 自分以外の声に振り返ると、この島へ来た時に同道していた御形・菘(邪神様のお通りだ・f12350)がすっかり脱力して祭り会場に座り込んでいた。
「気持ちよさそうに寝ておったぞ? 妾もひと寝入りしたいくらいである。どうにも気が乗らんからのう……」
「ははっ、昔なら布団もあったんだけどねぇ。でも、今は寝ちゃいけないみたいだしさ」
 寝てはいけないが、配信をするにはどうにも気持ちが乗らない。
 しかしそこはキマフュ配信者の鑑、そういう気分の時用のマニュアルというものを常日頃から準備してあるらしい。
 ぱらりぺらりとページを捲るのを、メリーもこっそり覗き見る。
「えーと? ……右手を上げ、指を鳴らし、スクリーンを呼ぶ、と」
「右手を上げ、指を鳴らし、すくりーんを呼ぶ」
 物は試しと、2人+1体でマニュアルに従ってみる。メリーとReが指を鳴らしても当然何も起きないが、菘の指ぱっちんに応えて周囲に無数のスクリーンが呼び出される。スクリーンのひとつひとつに映っているのは今回の生配信をの視聴者だが、ここが時空間と断絶されている影響なのかどれもが不安そうだ。
『邪神さん大丈夫?』
『頑張れ邪神!』
『邪神の天地頑張れ!』
『俺が……俺達が……邪神さんの信者だ!!』
 不安ばかりだった視聴者達は、やがて菘を応援する意志の元にひとつになっていく。『邪神頑張れ』の声が満ちていくのだ。
 これはもはや、やる気が出ないなどと言っている場合ではない。
「……ああそうだ、いつだってそうであったな。妾は常に進み続けなければならん。キマフュの皆に歓喜と感動を与え、妾を支える応援を浴び続けるために!」
 菘の決意の声も、視聴者には届かない。だが、視聴者は変わらず声援を送ってくれている。それだけで力が漲ってくるのだ。
 音も映像も届かずとも、邪神と信者は堅く繋がっているのだ。それは一切疑問を差し挟む余地のない、絶対的な確信だ。
「そしてそんな皆に、歓喜を! 感動を! 妾はこれからも与えてゆくのだ!」
「ふふっ、何だかあたしも元気貰っちゃったねぇ」
 会えなくても、愛を感じて、愛する事ができて。それはまるで、人とヤドリガミの関係のようでもあった。
「あたしたちはもう、みんなを守れる。愛せるようにもなったんだから」
 『先』へ行こう、と。夢を叶える桜の着物ドレス姿に変身したメリーに誘われると、菘も共に祭りの会場を後にした。

 肩、胸、首。特に首から腹への斬り傷が深い。
 実体を持たない――否、『得られなかった』人型AIである『イサム・セイル』にとって、物理的な損傷は本来そこまで大きな意味を持たない。
 それらの傷がまるで生身の人間のように深手となっているのは、全て猟兵のユーベルコードによって与えられたものだからだ。
『波を観測……凪の水底と同系統……反射のユーベルコードか』
 揺蕩っていた諦観の波を、桜の花嵐に変えて跳ね返すメリーのユーベルコード。更に、恋鯉に乗ったメリーは『イサム・セイル』の眼前まで迫ると、しつけ針を真っ直ぐに構えた。
 現れたのはメリーだけではない。水中でも猛烈な飛沫を散らして菘も追いついてくる。
「さあド派手にブッ飛べ、妾の左腕にボコられてな!」
 これまでに数多の悪を成敗してきた、異形の左腕。儀礼祭壇『五行玻璃殿』で強化された左腕を振り上げると、風音を立てて『イサム・セイル』を殴りつけた。
 実体のない『イサム・セイル』は殴っても妙に手応えが薄いが、彼は海中を数メートルは飛ばされただろう。
「変化し続けるのは疲れるからね。ちょっと休むのは構わないさ。でも、人が変化する可能性までも奪っちゃいけないよ」
 飛ばされた距離を恋鯉で泳ぎ寄り、メリーが告げる。
『俺は……『未完』だったから。未来が、無い物は……未来を観測できない。観測できない未来へ、ナビゲートは……できないんだ』
 未来へ連れていけないから、永遠の今へ停滞させる。彼はそう言ったのだ。
 そのような思考へ至ってしまうのは、彼が骸の海から還ったコンキスタドールであるゆえか。彼が本来持つ優しさゆえか。
 猟兵として、彼を討ちに来たメリーには――その判別はできなかった。
「……あたし達は、『先へ行かせてもらう』よ」
 しつけ針を両手で構えて。男の電脳体を貫いた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アリエ・イヴ
【🍯】

どうして敵を倒すのか
どうして先へ進むのか
目を閉じて、このまま止まりたくなる

――ああ、でも
青が、海がそこにある
それに……見覚えのある黒髪と眼鏡が視界に映る
彼は――アイツらは俺の家族で、俺の宝で……俺の未来だ
アイツらとこの海をすべて征すまでは
止まってられねぇだろう

襲う虚ろを剣のひとふりで追い払い
不適に笑う
アトラム、いけるな?
ハッ!どうやら同じ土産話をするはめになりそうだ
視線をあわせて【王者の牙】
攻撃は防いでやるからしっかり決めろ

でかい攻撃は錨で弾いて軌道を反らす
小さい攻撃は武器で受け
多少の怪我は激痛耐性で耐える
俺のもんに傷がつかなきゃそれでいい
ああけれど、一撃くらいは俺もくれてやろう


アトラム・ヴァントルス
【🍯】


なぜ、目の前の敵に対して戦意を失うのか。
どうして今、こんな時に妹の事を思い出すのか…。
どうしろというのか、ここで止まれというのだろうか。

左手を見て過去を、罪を思い出す。
そうだ、今ここで止まる訳にはいかない。
ハーシェス、今はコンキスタドールとなった君をこの手で殺すまでは。

ふと、覚えのある赤銅の髪を見つけ。
あなたもここに来ていたんですか、アリエ。
無事な様子ならあの者に一発食わらせてやりましょうか。
珍しくも私を立ててくれるようですので、アリエが獲物をひきつけている間に武器リュミエールの【メガリス・アクティブ】を発動。

狙うは人体的に急所の場所。
さぁリュミエール、未来の糧にあの獲物を、喰らえ。



●喪われた『左』

 ――どうして、戦わないといけないのだろうか。

 海に生きる彼らは、未だ停滞の水底にいた。

 アトラム・ヴァントルス(セイレーンの闇医者・f26377)が停滞の中で思い出した過去は、妹のことだった。
 忘れていたわけでは無い。ただ、何故急にその顔が浮かんだのか。
 この島で見た『星空』でもなく、住人から聞いた昔話でもなく。
 今更立ち止まって、彼女を想って、何になるというのだろう。

 ――戻ってくるはずが無いのに。

 虚ろな左手を見つめる。
 これはメガリスだ。
 もはや『人』の手では無くなったもの。『今』の自分の始まりとなったもの。
 己の罪を証明するもので、未来へ生きなければならない理由となるものだ。
(ここでは、止まれない……ハーシェス、今はコンキスタドールとなった君をこの手で殺すまでは)
「アトラム!」
 聞き覚えのある声が、赤銅の色と共に緩やかな波を斬り払った。
「おや。あなたもここに来ていたんですか、アリエ」
 今は自らも船医として身を置く海賊団の船長、アリエ・イヴ(Le miel est sucré・f26383)がこちらを見つけて駆け寄ってきた。
「ハッ! どうやら同じ土産話をするはめになりそうだ。その様子だと、そっちはもういけそうか?」
「いつでもどうぞ。こちらも、あの者に一発喰らわせなければならない事情ができましたので」
 そう答えると、アリエは少し驚いたように目を開き、すぐに不敵に笑んだ。
「そいつは結構。なら存分にぶつけてこい。邪魔する奴は俺がぶっ飛ばしてやる!」
 二人で島を出て、『空』にある人影を目指す。
 その道中、彼の手の内で黄金に輝く花が生み出され、彼がそれを渡そうと手を差し出した瞬間。彼と自分の間に閃光が走った。
「「!?」」
 驚いて『空』を見る。そこにあったのは黒い巨影を落とす戦艦と、青い人影。先程まで見ていた光景と何も変わらないはず――人影が、槍のように長い武装を手にしている以外は。
「……アリエ。アリエ、手が!!」
 『消失していた』。『切り落とされた』のでも、『吹き飛んだ』のでもなく、アリエが自分に差し出した左手が『存在しなくなっていた』。
『消失の神槍(デミ・ルーン)、対象への被弾を確認。俺の左手区域の構成情報程度では、これが限――度か……』
 その声にはノイズが多く混じり、聞き取りづらくなっている。これまでの猟兵達の攻撃による損害がそれほど大きいのだろうが、アトラムはそれどころでは無かった。

 左手。左手だ。彼は左手を喪ったのだ。
 自分の罪と同じ左手を。自分のために喪ったのだ。
 切り落とされた腕なら縫い合わせられる。吹き飛んだ腕もかき集めれば良い。
 消え去った腕を、元に戻せるだろうか。彼に罪を、己と同じ罪を――。

「……なんか、変だな。痛くねぇんだ。血も出ねぇ。やっぱ、ここが海だからかな」
 だというのに、当の本人は無くなった腕を見ても不思議そうにするばかりで、落ち着き払っているのだ。
「俺も、さっきまで変な夢見てたんだけど。目が覚めたのは、青い海が見えたからなんだ。俺は海と相思相愛だからな。それと――」
 そこまで言うと、彼は残った右手で碇を背負って自分を背に庇い、戦艦から展開される艦載機の部隊に立ち向かおうとしていた。
「お前が見えた! お前らは俺の家族で、俺の宝で……俺の未来だ。お前らとこの海をすべて征すまでは、止まってられねぇ!」
 気合一閃。鎖に繋がれた碇を振り回すと、迫り来る艦載機が粉砕されてゆく。

 腕があるとか、無いとか。治せるかとか。それ以前の問題だ。
 彼≪バカ≫に付ける薬は初めから品切れ中で、今後取り寄せ予定も無い。
 ただ――彼≪バカ≫を生かす術ならば。

「慣れない事はするものではありませんよ。……リュミエール、力を」
 アトラムは今、ユーベルコードで使用できるメガリスは所持していない。左手の義手のメガリスは『義手』であり、『リュミエール』は銃のメガリスである。彼のユーベルコードは未だ、それらのメガリスを扱えるようには成長していない。
 ただ、治療するには手遅れなほどの彼≪バカ≫を未来へ生かすために、そして彼から腕を奪ったあの敵に思い知らせるために。
「――喰らえ!」
 込められるだけの全力を『リュミエール』に込め、狙い澄まして放つ。
 水底から光の尾を引いて跳んだ弾丸は、人影の左胸の辺りを撃ち抜いた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

鳴宮・匡
変わっていくのは怖いよ
目指したものには届かない、憧れたものにはなれない
この想いが、届くことはないかもしれない

それを思い知るくらいなら
立ち止まっていた方が幸せなんじゃないかって
たまに、思う

――でも
前を向いて生きると、自分から逃げないと
他の誰でもない、自分が決めたから――

放たれる光がどんなに速くとも
“視える”ものなら避けられる
目線、動作、あらゆる相手の挙動から軌道を【見切り】躱し
反撃につなげるよ

構成情報を失えば
僅かなりとバランスは崩れ、隙が生まれるはず
そこを逃さず【死神の咢】で中枢を射抜く

――痛みも苦しみも抱えて、前へ征くと決めたんだ
だから、この先に何が待っているとしても
足を止めることはしないよ



●夜明けの水底

 ――そうは言っても、変わることは怖い。

 この水底で。何か、未来に関する大事な決意をした気がする。
 しかし、やはり未来とは不確定で、わからないものは怖いのだ。
 目指したものには届かない、憧れたものにはなれない。
 この想いが、届くことはないかもしれない。

 それを思い知るくらいなら、立ち止まっていた方が幸せなのではないかと思う。

 ――でも、『ずっと』は無理だ。

 鳴宮・匡(凪の海・f01612)は、決めたのだ。
 前を向いて生きると、自分からは逃げないと。
 他の誰でもない、自分が決めたから。
 それを思い出したなら、この停滞を揺蕩うことはもうできない。

『残――念……だ、な……い……taみ……苦しみ、悲しmi……水底にいれば、何も――無い、noに……』
 既に電脳体も、その周囲に浮かぶコンソールも損傷が激しく、多くのモニターがエラーメッセージを表示しているか沈黙してしまっている人型AI『イサム・セイル』。最後の一人が自分へ向かってくると、哀しそうに目蓋を伏せて再び槍を握った。
『オーダー。消費リソー、スは……『イサム・セイル』左半身領域全域、右脚領域……神槍の維持、発射必要領域のみ保護……』
 青い操作画面が処理の限界を超えて次々と赤く点滅する。その中で『イサム・セイル』の青い電脳体は、オーダー通りに形を失って槍の強化へとあてられてゆく。
『……一切を無へ還せ! 消失の神槍(デミ・ルーン)!』
 そして放たれる消失の光。
 AIの正確な計算の元、過たず匡へと届いたはずだった。
 大量の構成情報を代償に得た、存在そのものが喪われるほどのエネルギーが。

「“視える”ものなら避けられる。どれほど速くても、遠くてもだ」

 それがあの人から教わったもの。受け取った大切なものだから。
 匡は膨大なエネルギーが放たれる前に進路を変更し、消失の光を躱したのだ。
「そこ、貰ってくぜ!」
 真っ直ぐ狙いを定めた反撃の一撃は、生への渇望。
 託された祈りのひとつのかたち。
 師からの忘れ形見である愛銃から放たれた、一発の弾丸だった。

 既にリソースの大半を失っていた『イサム・セイル』は、匡の一撃が致命傷となりその稼働を停止させた。辛うじて維持されていた電脳体もほぼ消えかかっている。
『……『イサム・セイル』は……maも■く、■■――会え、なかっ……心……』
 残っているのは顔の右半分と、右半身の腰上程度。それも徐々に消え始める中で、『イサム・セイル』は語りかける。
『人間、は……いつでも、止まっ■いい……凪の水底は、いつも――』
「もう、足を止めることはしない。自分を沈めたりはしない。そう、決めた」
 黒い両目が揺らぎ無く見つめ返して答えると、片目だけ残っていたターコイズブルーの瞳は静かに目蓋を下ろして――至福の島<イ・ラプセル>の海に消えた。

 ――痛みも苦しみも抱えて、前へ征くと決めたんだ。
 だから、この先に何が待っているとしても。足を止めることはしないよ。

 一人の男が誓いを新たにした海に、夜明けの日差しが彼方から差し込んでいた。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2020年07月29日
宿敵 『未完の『イサム・セイル』』 を撃破!


挿絵イラスト