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宵宮華燭(作者 秋月諒
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●絢爛に捧ぐ
 ——そこは、死地であった。
 水の都はとうに滅び、人の住めぬ澄んだ水だけが地下の墓所まで続いていた。引き入れた水は嘗ての栄華か、将又慰めであったか。ただひとつ、男に分かるのは此処が墓所であり己の死地であるという事実であった。
「——あぁ、貴方は美しい心の持ち主のようだ」
 頬に白い手が触れる。紫の髪は美しく——あぁ、街から逃がした彼女の髪はどうだっただろう。
「……」
 声は出なかった。この地に流れ着いた時から既に。首を滑ったナイフの冷たさが分かるのに痛みが無い。燭台で飾られた地で、領主に出会ってから——あぁ、出会ってから何があったのだろう。
(「何があって、何を口走って——……」)
 ひゅ、と喉が鳴る。何を話した。話せてしまったのか。見開いた瞳に白い手が唇を撫でた。紅を引く。死化粧を施す吸血鬼が美しい顔で微笑む。
「あぁ、問題は無い。君のその想いで街は生き延びる。私にとっては瞬きほどの一瞬でも、貴方達にとっては——……おや」
 饒舌に語る吸血鬼の声が止まる。柩に横たえた青年の瞳が、虚空を見据えたまま色彩を失っていた。
「死んでしまったか。あと少し語り合いたかったんだが……」
 憐憫を滲ませ吸血鬼は息を落とす。美しく施した死化粧に似合いの花をひとつ、添える。思いついたように薬指に花を沿わす。
「哀れで、愛しい、私の素材」
 愛する者の為にこの地に来て。
 愛する者の為に死する君達の。
「——その姿の、なんと美しいことか。やはり、素材は手をかけるに尽きる」
 その為の苦労は厭いはしない。
 憐憫を以て人の死を見送り、哀れみを以て頬を撫で、ひどく美しい笑みを浮かべ吸血鬼は旅立つ青年を木の柩へと横たえた。
「哀れで儚い人の子。死んでいる時にしか安らげないのであれば、私が美しい柩で埋葬してあげよう。その時こそ、君達は輝く」
 私の作品の中で、その生に意味を持つ。
「……あぁ、此度の贄は良い。私の柩によく似合う。安心すると良い。きっと君の花嫁も辿りつくだろう」
 今宵の贄に満足したように吸血鬼は花を添える。美しい花婿。死後の婚礼が根付く地は、この柩に相応しい。木の柩には花を詰め、その頬の色彩を保つために鉱石を寄せ。ひらり揺らす指先で新たな柩を招き微笑んだ。
「君にはきっと美しい花が咲くだろう。華の君にも満足頂けるかな」
 吐息を零すように吸血鬼は笑った。未だ、遠くにある者へと囁くように。
 次こそは、驚かせてみせよう。

●星夜の花嫁
 婚礼が決まったのだという。
 月の無い夜、御者のいない馬車が領主の使いとして告げた。
『美しき花嫁を』
『美しき花婿を』
 婚礼のためでは無い。贄を求める言葉であった。ある者は純白の花嫁衣装に身を包み、ある者は純白の花婿の衣装に身を包み、領主の元へと向かうのだ。
「……」
 ひとり、ふたり。
 向かわせれば街は平穏を得る。次の訪いまで、鐘の音が響く時まで息を潜めて生きるのだ。
「……ようやく」
 その日、哀れな娘がひとり、先に湖を渡ったという。花嫁衣装に身を包み、身寄りのいない娘が消えても——誰も何も言うことは無かった。


「かくれんぼが終わったようなの。仕事は如何かしら?」
 口元、微笑を浮かべたままシノア・プサルトゥイーリ(ミルワの詩篇・f10214)は集まった猟兵達を見た。
「姿を隠していた吸血鬼の、今の居場所が分かったの」
 名は『葬燎卿』——自らを納棺士と告げる吸血鬼だ。人々への哀れみを口にしながら、己の柩に収める素材として蒐集する。
「精神的に追い詰めていくことでね。素材に手間をかける、と言うのが吸血鬼の言い分だそうだけれど」
 人々は自らその身を、誰かを生贄として差し出すことを選ばされるのだ。
「人の身も、心も葬燎卿にとっては素材にすぎない。己の柩——作品の為の、ね」
 そうして、柩に収める素材を集め、居場所を転々としてきたが——漸く、場所を掴めたのだ。
「これが、目を付けられている街よ。丁度、領主から生贄を求めらているそうなの」
 その生贄と成り代わり、領主の館へと潜入するのだ。
「柩に入る者は婚礼の衣装を身に纏う。この地の風習だそうよ」
 死出の婚礼。この世界に魂が残るうちに、と紡がれる想いは街が滅びた都の縁を持つ地であるからだろう。
「衣装は街の人が貸してくれるわ。婚礼には花の砂糖漬けを口に含むそうよ」
 花の砂糖漬けは街からの餞別だ。意識を失わせる毒は恐怖を薄れさせるだろう、と。
「後は領主の館へ。吸血鬼の従僕達が小舟を用意するわ」
 船頭のいない小舟で湖を渡り、領主の館へと運ばれていくのだ。小舟に乗せられてしまえば、本格的に気を失い声を失うだろう。
「勿論、一時の事よ。猟兵であれば、吸血鬼と相対する時には声を取り戻しているでしょう」
 柩は湖に落とされる事は無いから、ただ身を委ねれば良い。
「逆に無理に意識を保ったり暴れるような事があれば、吸血鬼に気取られるでしょう」
 まずは素直に従い、その喉元へと迫れば良い。微笑んでシノアは話を続けた。
「辿りつく先は古い礼拝堂のようね。霊廟へと続く道すがら何か仕掛けがあるようだからどうぞ、気をつけて」
 それが何であれ、同じ地に踏み込めば後は追い詰めるだけだ。
「——それと、先に一人向かってしまっているお嬢さんがいるようなの」
 娘は一人船を漕ぎ、望んで先に向かったという。
「彼女の願いがどうであれ、それを吸血鬼に言いように利用される理由はなくてよ」
 グリモアの淡い光が灯る。ひらり開く花と共に武運を、とシノアは告げた。





第3章 ボス戦 『葬燎卿』

POW ●どうぞ、葬送の獣よ
【紫炎の花びらが葬送の獣 】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
SPD ●安らぎを。貴方には私の棺に入る価値がある
【埋葬したいという感情】を向けた対象に、【次々と放たれる銀のナイフ】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ ●葬燎
【棺から舞い踊る紫炎の蝶の群れ】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
👑11

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠シノア・プサルトゥイーリです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●世界が終わるように願った娘の話
『——ねぇ、イレーネ。聞いて。終わりの先まで共に。僕は貴方と空に落ちるよう』
『落ちるよう……?』
 舌を噛んだように言葉は止まっていた。首を傾げればベッドが軋む。真っ白いだけの部屋に色を教えてくれたのが彼だった。花の刺繍。綺麗なレースのハンカチ。
『おちるように。——うん、詩人には、似合わないな』
 小さく笑ったその人が渡したくれた花の指輪。綺麗な硝子の煌めきが、もう見えなかった。

●葬燎卿
 礼拝堂の扉が開いていた。高い天井に吊されたシャンデリアが柔らかな明かりを落とす。黒曜石の大広間は床に置かれた無数の燭台によって彩られ、深紅の美しい布に包まれるように木の柩がひとつ、置かれていた。
「……あぁ、ハイネス。そこにいたの? 迎えに来てくれたのね」
 娘が呟く。深紅の衣がひらり、と解ければ柩のすぐ傍に長身の吸血鬼が立った。
「——あぁ、貴女の望む花婿はそこに。これより先は永遠に離れることは無いだろう」
 娘は霧がかった瞳で、ぼう、と吸血鬼を見上げていた。
「ほんとうに?」
「あぁ。私の柩で、君達は永遠に結ばれる」
 幼子のようにやわく落ちた言葉のどれだけに理性が残っているのだろう。ぱたぱたと頬から落ちる涙と共にゆらり、と娘は歩き出す。その行く道筋を、まるで邪魔せぬようにと吸血鬼は道を譲った。その姿をひどく愛おしげに眺めながら唇に笑みを敷く。
「やはり君達は私が埋葬するのに相応しい。哀しき花嫁。君の心に応えよう」
 似合いの柩を。
 彼と共に眠れる地を。
「その高潔と愛に賛辞を。——素材は手をかけるに尽きる。そう思うだろう? 来訪者諸君」
 或いは、私の新しい素材たち。
 礼拝堂の扉が開いていた。己を呼ぶ亡き人々の声を、嘗ての街の惨状をくぐり抜けてきた猟兵たちを前に吸血鬼——葬燎卿は微笑んだ。
「あぁ、この街の出来事は私には預かり知れぬことだ。異教の民と駆け落ちする娘が初まりだったとか。さて、君達の目にはどう映ったか」
 街を染め上げる程の狂気と狂乱。人は人と争い何処まで街を滅ぼしたのか。
「この地を借りた身の上だ。私に出来るのはああして、嘆く者達を再び舞台に喚ぶだけのこと」
 嘆き足りぬと叫ぶ彼らの声は、生贄たちの心に響くのだから。
「あぁ、怒りか嘆きか。その全てであっても構わない。どのような者であれ、凡庸な人間には、大した人間性は宿ることはないのだから」
 礼拝堂に置かれた無数の燭台がその灯りを強めていく。
「次の逢瀬にこそ、私の作品で華の君を驚かせたくてね。さあ、君達の柩も用意しよう」
 死後の婚礼を。戻らぬ道筋を。
 微笑んで告げる吸血鬼の身勝手な言葉は、だが嘘ではあるまい。空の柩が幻のようにひとつ、ふたつと姿を見せる。
「さぁ、その心を見せてくれ。善であれ、悪であれ——君達の人間性を、私は愛しているよ」
 哀れで愛しい、私の素材たち。


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プレイング受付期間:7月7日(火)〜10日(金)いっぱい

*娘<イレーネ>
 体が弱く、街に戻っても長くはありません。
 葬燎卿が彼女を攻撃することはありません。特に絡みが無くてもシナリオ的には問題無く進みます。

★娘に絡んだりする場合
 プレイングの送信を9日、10日にお願い致します。
 前半の場合、組み立ての関係で絡み部分の採用が出来ない場合がございます。
 後半にプレイングが集中した場合、再送をお願いする場合がございます。


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