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トモダチ

#UDCアース #UDC-HUMAN

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●トモダチ
 ――キッカケは、本当に些細なことだったと思う。
 トモダチのカナエが絶対イイからと渡してきた本……その感想を聞かれて、ゴメンねヨクワカラナイと答えた。
 カナエは少しだけオドロイタ顔をしていたけれど、ソッカと笑った。それだけの話。

「なっちゃんはシンユウ。だもんね」
 カナエは色々なものを勧めてきた。
 音楽、お菓子、ゲーム、新しいトモダチ。
 中にはイイと思うものもあったけれど、ヨクワカラナイものも多くて……私は素直にワカラナイってカナエに伝えた。
 私たちはシンユウだから、ウソをつくのはイケナイんだと思ったから。

 カナエは私の他にも色々な人に色々なものを勧めていた。
 カナエはニンキモノだった。
 カナエがシンユウで、私は鼻が高かった。
 いつの間にかカナエの周りには、カナエがイイと思うものをイイと言う人だけが集まるようになった。

 ――気が付いた時には、カナエがオオサマになっていた。
 自分をイイと言うコエだけを聞くオオサマ。
 それでも私はカナエが勧めてくるものにヨクワカラナイと返すことが多かった。
 私ダケがカナエのシンユウだから、ヨクナイと言うことをユルサレテイルと思っていた。

「なっちゃんさぁ、ちょっとはクウキよみなよ」
 あるときカナエがそう言うと、周りのトモダチもミンナがクウキよみなよと私に言った。
 トモダチがミンナで私をヒナンする。
 小波のように始まったその声は、あっという間に大号令のように広まって……怖くなった私は助けてとカナエを見た。
 けれども、ミンナが私をヒナンする様子を見ていたカナエは、とてもウレシソウな顔をしていて……私はただ怯えることしかできなかった。

 ――それからは地獄のような日々だった。
「なっちゃんさぁ、何で生きてるの?」
 カナエが私を嗤えば、トモダチもミンナで私を嗤った。
 カナエが私の頬をはたけば、トモダチもミンナで私を殴った。
 カナエが私を汚いと言えば、トモダチもミンナで私に汚水を浴びせかけた。
 カナエが私を捕まえろと言えば、トモダチはミンナで私を閉じ込めた。
 カナエが私の家に火をつけようと笑えば、トモダチはミンナで私の家に火をつけにいった。

 ――頭がおかしい。
 あのオンナは頭がおかしい。周りのトモダチとやらも頭がおかしい。この世界はおかしい。おかしい。おかしイ。オカシイ。おカシい。オカしイ。
「私のセイで……ごめんなサい」
 あの女はきっと本当に火をつけるだろう。
 そして、燃える家と私の家族を見ながら、トモダチと笑うのだ。
 こんなことが許されるはずがない、許されてたまるものか……けれども私には何もできない、
「お願イ、無事で、どうカ……」
 私は暗闇の中で膝を抱えて、家族に懺悔することしかできない。
 これから家族の身に降りかかるであろう恐怖を思い、ガチガチと震えて上手く動かない口で、無事で居て欲しいと、祈りの言葉を綴ることしかできない。

 ――不意に。
 この先もずっとあの頭のおかしい女に弄ばれ続けるのだと、気づいてしまった。
 あの女は私を生かさず殺さず弄び続けるだろう。
 この先もずっと……こんな、ことが……。
 気づいてしまった事実に、自分の未来に、血の気が引いていく、頭の中が暗闇で覆われていく。
「もウ。カンガえたく……ナイ」
 このまま生きていても苦しみしかない……なら、もういっそこのまま消えてしまいたいと、私はその暗闇に身をゆだねた。

●救いと制裁を
「UDC-HUMANを知っているかしら?」
 グリモアベースでたむろしていた猟兵に、八幡・茜は話しかける。
 UDC-HUMANと言うと、辛いできごとにより心が壊された人間が、UDC怪物に変貌してしまったもののことだ。
 ただ、UDC-HUMANになったばかりならば、まだ人に戻せる可能性もあると言う。
「そう、UDC-HUMANになってしまう少女を助けて欲しいの」
 話を持ってきたからにはそういうことなのだろう……事態を理解した様子の猟兵に茜は頷く。

 自分の話に興味を持った猟兵たちに、茜は説明を始める。
「少女の名前はナツキ。年のころは十と四つくらいかしら。素直な……そうね、とても不器用で、真直ぐな娘よ。優しく家族想いで、男の子からも人気があるみたい」
 見た目の可愛さもあってねと、茜はUDC-HUMANとなってしまう少女、ナツキについて説明し、
「ナツキを追い詰めた娘は、カナエ。ナツキと同い年だと思うわ。この娘は恐ろしいくらいに要領が良く、数の暴力と、集団の心理を正しく理解しているわ。だからこそ、男女問わず人気もあるようね」
 併せてナツキを追い詰めた少女、カナエについて語る。
 二人についての話を聞くだけならば、どこにでもいるような少女たちに思えるが……、
「ナツキはカナエを親友だと思っていたようだけれど……カナエは最初から違ったようね。ナツキは取り巻きの一人程度にしか思っていなかったみたい。と言うよりも、カナエは人を装飾品程度にしか思っていないわ」
 茜は小さく息を吐いた。
 その装飾品の一つ程度に思っていたものに、自分を否定されれば腹も立つのだろう。
 そして、腹が立ったついでに、攻撃の対象としたのだ。人心をまとめるのに判り易い敵を作るのは、よくある手法だ。
 ……とは言え、度が過ぎている行動に移ったからには、他にも理由があるかもしれないが……いずれにしても、人が人で無くなるほどに追い込む理由に足るものなど存在しない。

 ナツキとカナエについて説明した茜は、続けて状況を伝える。
「ナツキは使われなくなったホテルの一室に監禁されているのだけれど、ナツキが居る部屋を中心に災いの王が現れ始めたみたい」
 残念ながらどの部屋かまでは分からなかったけれど……と茜は頬に指をあてるが、ナツキの部屋を中心に敵が出現しているのならば、その事実が手掛かりとなるだろう。
「ナツキは司書と呼ばれる邪神に姿を変えようとしているわ。けれども、早くに発見してあげれば、その分だけもとに戻せる可能性も高くなる。だから、なるべく早くに見つけ出して助けてあげて」
 心が暗闇に呑まれてしまいそうならば、その暗闇を払ってやればいい。光を見つけてやればいい。
 だが、それができるのはナツキの心が残っていればこそ……故に、急がなければならないと茜は言う。

 一通りの説明を終えた茜は、ゆっくりと目を閉じて、
「最後にカナエについてだけれど。改心させるのは難しいわ。けれども、二度と同じことを起こさないように、楔を打つ必要がある……だから、もし同じことをするようならどうなるか、分からせてあげて」
 あとのことを猟兵たちに託すのだった。


八幡
舞台はUDCアースにあるどこかの村。
時間は夜。天候は曇りです。

●登場人物と状態について
 ・ナツキ 朴訥な愛らしい娘です。ホテルの一室に閉じ込められており、今まさにUDCになろうとしています。
 ・カナエ 容姿端麗で垢抜けた娘です。トモダチと一緒に、ナツキの家に火を付けに向かっています。
 ・トモダチ 五人の男女です。特徴はありません。

●話の流れ
 ・第一章 集団戦『災いの王』
  ホテルの内外に現れた無数の、災いの王を殲滅しつつ突破します。
  猟兵がボスまで辿り着ければ、災いの王は姿を消します。
  上手く突破する方法や、ナツキが居る部屋を探すことができれば時間を短縮できます。

 ・第二章 ボス戦『司書』
  一章の結果次第で、ナツキと司書の意識が、混じり合った状態、意思がわずかに残った状態、完全に司書になった状態のいずれかになります。
  ナツキの意識が残っているほど、ナツキとの会話が成立しますので、元に戻せる可能性が上がります。戻せない可能性も勿論あります。
  ナツキに希望を与えたり、不安を取り除くことができれば成功率は上がるでしょう。
  また、ナツキの意識が残っていればカナエについても聞き出すことが可能です。

 ・第三章 日常『人間の屑に制裁を』
  一章、二章でかかった時間に応じて、移動中、火を付けようとしているところ、火を付けた後のいずれかの場面から始まります。
  また、ナツキが生きていた場合に、連れてくることも可能ですので、展開は色々変わると思います。
  制裁についてはお任せしますが、簡単なところだと『いつでも見ているぞ』やトモダチから崩していく方法でしょうか。ただ、エロと殺害は採用しません。
  また、残念ながらカナエは性根が腐っているので、改心させるのは至難です。

 各章、個別あるいはいい感じにまとまりそうな単位で返そうかと思っております。


●傾向
 皆様のプレイング次第ですが、ダーク系の予定です。
 フラグメントの行動はあくまで参考ですので、やりたいことをご自由に指定されるのが良いかと思います。

●受付について
 第一章は6月25日の8時31分以降から、それ以降はマスターページにて受付日時をお知らせいたします。

●その他
 アドリブは基本入ります。
 あまりに活躍させられないなと判断した場合など、採用を見送らせていただくことがあります。

 それでは皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 集団戦 『災いの王』

POW   :    力強い問いかけ
対象への質問と共に、【対象の知人やファンである一般人の中】から【対象が抵抗しきれない数の男性陣】を召喚する。満足な答えを得るまで、対象が抵抗しきれない数の男性陣は対象を【力強くあんな手段やこんな手段】で攻撃する。
SPD   :    巧みな問いかけ
対象への質問と共に、【対象の知人やファンである一般人の中】から【対象が抵抗しきれない数の男性陣】を召喚する。満足な答えを得るまで、対象が抵抗しきれない数の男性陣は対象を【巧みにあんな手段やこんな手段】で攻撃する。
WIZ   :    卑劣な問いかけ
対象への質問と共に、【対象の知人やファンである一般人の中】から【対象が抵抗しきれない数の男性陣】を召喚する。満足な答えを得るまで、対象が抵抗しきれない数の男性陣は対象を【魔術や催眠を使ってあんな手段やこんな手段】で攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●暗闇の中
 誰も居ないホテルの中。
 電気が通っていないのだろうか、そのホテルは部屋の中も、廊下も、エントランスも全てが暗闇に包まれている。
 そして、廃業して年がたっているせいか、あちこちの床が抜け、壁が崩れかけているが……千を超える部屋の中にはまだまだ人の住めそうな場所も多い。
 その中の一つ、鎖で厳重に施錠された部屋の前に……唐突に大きな口のようなものが現れる。
「生まれる。生まれるぞ」
 大きな口。そう、現れた口だけの異形は、愉快そうに、踊る心を抑えきれぬように、声を発し、
「新たな神の出現に祝福を」
 発した声に共鳴するかの如く次々と、同じような口がその部屋を取り囲むように出現していく。
「数の暴力に屈した人間の心に祝福を」
 始めはさざ波のように広がった祝福の声は、口の数が増えるにしたがって大号令のようにホテル全体を震わせる。
「さぁ、哀れで、愚かで、甘美なる神を歓迎しよう」
 今まさに生まれ出でようとしている、神を歓迎するように災いの王たちは一斉に嗤いだした。
サンディ・ノックス
とてもわかりやすく俺の敵だね
何一つ敵の思い通りにさせたくないから
早くナツキさんを助けて敵を倒しに行こう
(一応頭ではカナエの命を取ってはいけないとわかっている)

敵と交戦しながら【落ち着】いて【情報収集】
UC解放・夜陰の水晶を飛ばしたり
敵の行動を【見切り】、【フェイント】をかけて躱し進むからどの方向に敵が多いかわかるはず
敵が多い方向へ進む
ホテル内では必要に応じて【暗視】、明かりを用意する時間も惜しい
敵を倒すのと躱して進むのとどちらが効率いいか、その都度判断し行動する

敵が召喚する一般人(故郷の人達や依頼で関わった人々)は無視
敵を撃破するのが一番手っ取り早い、一般人を避けるよう水晶を操作し敵に撃ちこむ


カシム・ディーン
……友達…友情…親友
それって根本的にどういう者でしょうね
まぁ
カナエって奴らは凄いですね
悪辣さは盗賊並なのに…その結果を想像しない


【情報収集】
カナエ
ナツキ
捕まったホテルについて
特に見取り図を把握
その上で閉じ込めるに足る場所はどこかの把握

UC発動
半分のダイウルゴスにはホテルの探索
特に古いホテルなら足跡が残ってる可能性も考慮
複数の人の足跡を捕捉し部屋を見つけ出す

半分はそのまま三体ずつ合体して強化
僕と共に災いの王の殲滅にかかる

対災い
【属性攻撃】
光属性を全身とダイウルゴスに
全員光学迷彩で隠れ
【迷彩】で存在を隠蔽して
後は…
【溜め攻撃・二回攻撃】で殲滅
ダイウルゴスは【捕食】も更に追加で喰らい付いて襲い


テラ・ウィンディア
…なんだろうな…おれ…基本的に虫以外は怖い物知らずなんだけど…なんだか…怖いや

おれは災いの王の殲滅に集中するぞ
探索とかナツキって奴の捜索は任せた!

【戦闘知識】で周辺の状況と災いの王の陣形や動きの把握
【見切り・第六感・残像・空中戦】で一般人の密集陣形から逃れつつ
【盾受け】で堪えながら一般人は殺さずに王へと突撃
槍による【串刺し】で王を突き刺し
【早業】で剣へと持ち替えつつ
ユベコ発動
一般人は狙わず王をピンポイントで狙って焼き尽くす
一般人は確実に当てないように召喚元の撃破に集中
可能な限り召喚させる前に始末することを優先する
流石に一般人を怪我させちゃだめだよな…?でも…本当にカナエとか一般人なのか…?



 星一つ見えない曇天の空。
 わずかに届いた道路照明光によって映し出された、ホテルのシルエットは得も言われぬ威圧感を放っている。
 そのホテルに向かって、三つの影がゆっくりと歩みを進めている。
 そしてホテルの中と、周囲に闇に蠢く異形の影を目視したところで、彼らは一度足を止める。

「……なんだろうな……おれ……基本的に虫以外は怖い物知らずなんだけど……なんだか……怖いや」
 うぞうぞと蠢く異形の姿から虫を連想してしまったのか、テラ・ウィンディアは両肩を抱いて身を震わせる。
 否、闇だろうが異形だろうが恐ろしくはない、だが……何ともおぞましいと、カナエと言う少女と、オトモダチの在り方が恐ろしいとテラは思うのだ。
「それは……相手が虫同然と言うことでしょうか」
 テラの華奢な背中を眺めつつ、カシム・ディーンはその言葉が意味するところを要約する。
 虫以外は怖いもの知らずなのに怖い。ならば、虫と同じような者と認識しているのではないかと、つまり相手は虫であると。
「なかなか辛辣なことを言うね」
 黒一色で統一された服装……注意深く見ていなければ闇に紛れてしまいそうなカシムの姿を横目で捕えつつ、サンディ・ノックスは温和な笑顔を見せる。
 確かに辛辣な言葉であるが、それがテラに対してか、カシムに対してか、虫に対してか、誰に対して辛辣なのかをあえて言及しない。
「あれ? そういう意味じゃないぞ」
 勝手に歪曲された解釈にテラがあれ? と小首を傾げながら振り返れば、サンディと目が合う。
 その優し気な青い瞳の奥に、どこかほの暗いものを感じて……テラはまじまじとその目を覗き込もうとするも、
「冗談はさておき。何一つ敵の思い通りにさせたくないから、早くナツキさんを助けて敵を倒しに行こう」
 サンディは肩をすくめて、遊んでる場合じゃなかったねと、テラからカシムへと視線を移した。
「外壁と敵の位置から……侵入するならあの辺りですね。あとは、逃げ難さと閉じ込めやすさを考えると、五階付近が怪しいですね」
 サンディの視線を受けて、じっとホテルを観察していたカシムが、あたりを付けた侵入口と、ナツキが閉じ込められているであろう場所について情報を共有する。
「そうだね。敵の数もそこらへんに多いようだし、俺も同意見だよ」
 盗賊を生業としていたカシムの目は確かだろう。
 外から得られる情報はこのくらい、あとは突っ込んでから随時判断かなとサンディが再びテラに目を向ければ……、
「……」
 二人の様子から、良いように使われたのだと察したテラは何か言いたげにむーっと頬を膨らませていた。
 言いたげなだけで、実際に何も言わないのは、軽口をたたきながらも二人がしっかりと仕事をしていたからだろうか。
「虫は叩き潰さないといけませんからね。敵の殲滅、期待していますよ」
 そんなテラを一瞬放っておく選択肢が脳裏を横切ったカシムだが、乗せて置いた方が利用しやすいだろうと、期待を口にしてみると、
「うっ、虫……は嫌だけど。おう! おれは災いの王の殲滅に集中するぞ。探索とかナツキって奴の捜索は任せた!」
 テラは胸を張って、おう! と答えて見せたのだった。

 闇の中を蠢く、災いの王たち……その頭上より、小柄な少女が飛来する。
 飛来した少女、テラは災いの王の脳天を紅龍槍『廣利王』で貫き、崩れ落ちる一体を足場に次の王へと切りかかる。
「汝の敵は本当に我か?」
 しかし、テラの刃が届くよりも早く、災いの王が問いかけを口にすれば、テラの周囲に大量の男たちが出現する。
 大量の男たちとは言え所詮一般人、猟兵の相手になるわけもないが……一般人を傷つけることに抵抗があるのか、テラは一瞬足踏みしてしまう。
 そして足踏みしたところを狙って、さらに別の災いの王たちが問いかけを口にして、テラの周りに男たちを出現させる。
「万物の根源よ……帝竜眼よ……」
 テラは器用に槍の柄と、剣の腹を盾に男たちの手を避けてはいるが、その数があまりに多く、召喚主たる王のもとまで斬りこめないでいるようだが……、
「文明を構成せしめし竜の力を示せ……!」
 王たちがテラにかかずらっている間に、光学迷彩で身を隠していたカシムが、七十以上の小型ダイウルゴスを呼び出す。
 そして、その半数の三十ほどを三体ずつ合体させて男たちを呼び出していた、災いの王たちを喰らわせる。
 テラに気をとられていた災いの王たちは不意に現れた、カシムのダイウルゴスたちに対処できず、そのまま貪り食われるばかりだ。
「助かったぞ!」
 召喚主である王が消滅したことにより、男たちが消え動きやすくなったテラは姿勢を低くして、近くに居た王へと飛び掛かり、小剣の形状をした宝剣を突き刺す。
 豹のごとく獲物に飛び掛かっては仕留めていくテラと、そのテラに注意を向けた王の背をソードブレイカーで貫き、縦に割いていくカシム。
「先行するよ」
 ここは二人に任せて先行した方がよいだろうと判断したサンディは、カシムが戦闘に使用していない半数のダイウルゴスとともに、ホテルの中へと踏み込んだ。

「意外にやり過ごせるものだね」
 廊下の角に隠れる自分に気づかず通り過ぎて行った災いの王たちの背中を眺めながらサンディは独り言ちる。
 テラが侵入口付近で派手に暴れてくれているおかげで、敵の注意がそちらに向かっているようだ……それに、他の場所からも猟兵たちが侵入したのだろう、あちこちで戦いの音が聞こえる。
「あっちかな」
 他の猟兵たちが派手に暴れてくれれば暴れてくれるほど、サンディ自身は動きやすくなる。
 もっとも、サンディの目の良さと見切りの速さが無ければ、そう簡単に避けられるものでもなかっただろう。
 それに、敵が向かってくる方向こそが災いの中央。当然そこを目指すからには全ての敵をやる過ごすことはできない。
 再び動き出そうとしたサンディは、暗闇の中から近づいてくる一体の王に気づき……王が何か言葉を発するよりも先に、その懐まで踏み込むと全体的に黒い剣を、開きかけた口の中に突き立てた。
「何か見つけたのかい?」
 力なく崩れ落ちた王から剣を引き抜いていると、カシムのダイウルゴスたちが階段の周りに集まっているのを見つける。
 何を見つけたのかと、サンディもまた階段に近づいてみれば、そこには複数人の足跡が見えた。
 よほど注意深く観察して居なければ気づかなかったであろうそれを見つけたのは、流石はカシムが呼び出したものと言ったところだろうか。
「これを追っていけば確実そうだね」
 何にしても手掛かりは得たのだ……階段の上へと続く足跡を見つめ、サンディは小さく息を吐いた。

 テラは廣利王で突き刺した災いの王に、そのまま体当たりをかまして別の王へとぶつける。
 そして、王同士がぶつかった瞬間に、突き刺していた王の体を踏み台に大きく飛び上がると、別の王の真上から星刃剣『グランディア』で斬りつける。
「どんどん行くぞ!」
 さらには真っ二つに分かたれた王の間に飛び降りて次の獲物へと駆ける。
 直感と経験に裏付けされる戦闘力にものを言わせ、有無を言わさぬ破壊力を持って、テラは災いの王たちを葬っていく。
 眩しいまでに正面から戦うテラとは真逆に、カシムと、合体したダイウルゴスは王の注意を惹かないように姿を隠し、背中から王を襲っていく。
 とは言え、ホテルの中から現れ続ける災いの王の全てから逃れることはできず、
「汝に友と呼べるものはいるか?」
 一体の王が問いかけを口にするのと同時に、男たちが出現すれば、追い打ちとばかりに他の王たちもカシムに向かって問いかける。
「どうでしょうね」
 鬱陶しいほどに、自分の周りに沸いた男たちの手を器用にかいくぐりながらカシムは肩をすくめ、
「母なる大地よ、闇夜を照らす炎よ……」
 自分よりもカシムに注意が向いたのを見逃さず、テラが両手を災いの王たちに向けてかざせば、王たちの足元がぐらりと揺れる。
「赤き龍神の怒りに応え、我が前の敵を焼き尽くせっ」
 そして次の瞬間には、大地を割って龍の形の溶岩が噴出され……現れた無数の溶岩は災いの王たちだけを焼き尽くしていくのだった。

「友ですか……友達……友情……親友。それって根本的にどういうものでしょうね」
 炎に包まれる王たちを前に、カシムは首を傾げる。
 改めて友と言われると、それがどんなものであるのかと、カシムは考えてしまう。
 しかし考えていても取り止めがないと、カシムは頭を振って、
「まぁ、それは良いのですが、カナエって奴らは凄いですね。悪辣さは盗賊並なのに……その結果を想像しない」
 今度はカナエについて考えてみる。
 盗賊だって首をくくられる覚悟をもって仕事をしている。
 だがカナエにそれがあるとは思えない……それは無知か慢心か、あるいは別の何かがあるのか。

 ――否、そもそも、盗賊並の悪辣さを使ってまで最終的にカナエは何をなしたいのだろうか。

「カナエか……流石に一般人を怪我させちゃだめだよな……? でも……本当にカナエとか一般人なのか……?」
 改めて口にすると感じる小さな違和感にカシムが考え込んでいると、カナエと聞いたテラは、わずかに目を伏せる。
 ナツキを追い詰めた手腕と、その心の在り方はもう一般人とは言えないのではないか……あるいは、いっそ最初から人ですらなければと。
「進んでみれば分かりますよ」
 どちらも答えはナツキを助けた先にあるだろう、周囲に災いの王の姿が無くなったことを確認したカシムが、先に行ったサンディを追うようにホテルの中に入れば、
「そうだな!」
 その背中を追ってテラもまた駆けだすのだった。

「あたりかな」
 足跡を追っていたサンディが辿り着いたのは、始めに目星をつけた通りホテルの五階。
 階段の裏に張り付いて、階下へ降りていく災いの王をやり過ごしていたサンディだが、流石にここからは正面突破するしかなさそうだ。
「汝の敵は誰ぞ?」
「そうだね。とてもわかりやすい俺の敵とはもうすぐ会えるかな」
 早速自分を見つけたらしい王の問いかけに、サンディは思わず口元を緩め、自分の周りに三百を超える漆黒の水晶を出現させる。
 それから現れた故郷の人たちや依頼で関わった人々の頭の上を飛ぶように水晶を操作して……王の体に水晶をぶつける。
「あぁ、見えちゃったんだ? 気付かず“俺”に染まっていれば幸せだったのにねぇ」
 水晶がぶつかる瞬間何かに気づいた様子の王だが、気づいた時にはもう遅い。
 同化を渇望する悪意の塊である水晶は触れた相手を、闇へ同化させる……すなわち、あとに残るものは黒い何かだけだ。
 もっとも、その黒い何かですらサンディが次の獲物を定める前には消えてしまう。
「退いてくれないかな」
 次の獲物……つまりは暗闇の中に蠢く無数の災いの王に向けて、サンディは漆黒の水晶を一斉に放つのだった。

 周りに居た一般人たちが消えると、あちこちで起こっている戦いの音が聞こえる。
 他の場所から侵入してきた猟兵たちか、あるいはテラやカシムが近づいてきたのか……いずれにしても目的地はこの場所だ。
 あの厳重に施錠された扉さえ開ければ、この鬱陶しい敵たちは消え去るのだ。
 サンディは大きく息を吸い込むと、粗方片付いた敵の間を抜けるように駆け出すのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

バーン・マーディ
悪へと至る存在がいるならば手を差し伸べるのが悪たる我が在り方よ
だが…その意識もまた消えるのであればその前に救うのも道理だな

ユベコ発動
戦艦自体は上空からホテルの屋上に接舷
そのままデュランダル騎士達と共に突撃
半数は我と共に災いの王の迎撃
半数は物量で丁寧に部屋を一つ一つ探索を開始
その上で徹底的に守られている場所の把握を行う

千を超える部屋か…このホテルの歴史も少し哀れに感じるな

【戦闘知識】で敵の位置の把握
デュランダル騎士達は三人で一体を相手取り確実な殲滅を行う
我は【オーラ防御・武器受け】で一般人の攻撃は防ぎ召喚者である王のみに猛攻
【怪力・二回攻撃・吸血・生命力吸収】で確実に一体ずつ潰していく



 寂れた村の外れに、そのホテルは孤独にたたずむ。
 もともと人が通わぬこの場所は、独特の静寂感があったのだが……廃業したホテルが存在することによって、より一層静けさが増したかに思えた。
「千を超える部屋か……このホテルの歴史も少し哀れに感じるな」
 そのホテルを遠目に眺めながら、漆黒の甲冑に身を包んだ男は呟く。
 今でこそ静けさに包まれるホテルだが、その存在は多くの人に使って欲しいと願われて作られたのだ……だが、その願いの果てがこの姿ならば、憐憫の情も湧こうと言うものだ。
「願いを叶えるには、相応の力がいる」
 しかし、これはただの感傷に過ぎない。
 結局このホテルがこのような在り方になってしまったのは、作った者たちの力量が足りなかったのだから。
「あるいは、我のような存在と出会えるかだ」
 だが、もしも男……バーン・マーディのような存在と出会っていたのなら、その結末は変わっていたのだろう。
 ――否、変えてみせただろう。
 そして、これから結末を変えるべき相手が、あのホテルの中に居る。
 バーンは丸太のように太い腕を組み、ホテルをじっと見つめ、
「来たれ我が不滅の騎士団」
 腹の底から響くような声を出せば、暗闇の中にあって尚暗い穴のようなものが周囲に出現する。
「死して尚我と共に歩む不条理に対する叛逆を望みし騎士達よ」
 続けてバーンが言葉を紡げば、穴の中からゆるりと装甲に身を包んだものたちが現れ、バーンの横に、あるいはその後ろに付き従うように並ぶ。
「我が城と共に叛逆の狼煙をあげよ!」
 それから最後にバーンが騎士たちに号令をだすように右手をホテルへとかざせば、それを合図として遥か頭上に巨大な戦艦が出現したのだった。

 戦艦を屋上に接舷させたバーンは、騎士たちを引き連れてホテルの中へと乗り込む。
「汝の在り方は何ぞ?」
 屋上から侵入したバーンたちに気づいた数体の災いの王たちが問いかけを口にすれば、バーンの周りにわらわらと男たちが出現する。
「分かりきったことを」
 出現した男たちが振るう拳を、避けるまでもないとバーンは平然と受け止め、ゆっくりと問いかけを口にした王へと歩み寄る。
「悪へと至る存在がいるならば手を差し伸べるのが悪たる我が在り方よ」
 バーンと言う男の在り方はただ一つ、その言葉に集約される。
 バーンが歩みを進めるたびに、その体からは禍々しい気が発せられ、その気に当てられた男たちは自ら足を引いてしまう。
 道を開けた男たちの間を悠然と進んだバーンは、王の目の前で足を止めると、黄金の柄の魔剣を頭上に振りかぶり……渾身の力をこめて振り下ろせば、王の体はあっさりとひしゃげた。
「だが……その意識もまた消えるのであればその前に救うのも道理だな」
 バーンが無残な肉塊と化した王に魔剣を突き立て周りに目を向ければ、他の災いの王たちも、三人一組となったデュランダル騎士たちが葬っていた。
「半数は我と共に敵の殲滅。残りは部屋の捜索だ」
 付近に災いの王たちの姿が見えなくなったところで、バーンは騎士たちに指示を出し、下の階へと進んでいくのだった。

 魔剣を振り下ろし一体の王の脳天を砕き、そのまま王の骸ごと真横に薙ぎ払う。
 あまりに無理な動きに体中の筋肉が抗議の声を上げるが……構いはしない、この程度のものは王たちの命で補充できるのだから。
 それに補充する相手にも困らない。
 何故なら目の前には溢れるくらいに王たちがひしめいているからだ。
 だが、王たちの数が多いということは、この辺りが目的の場所なのだろう。
 周囲に目を向ければ、別口から入った他の猟兵たちの姿もちらほらと見える。
「さぁ、我は来たぞ」
 ならば、この敵を殲滅して進むのみだ。
 魔剣を肩に担ぎ、バーンは騎士たちを引き連れて王の群れへと歩みを進める……結末を変えるべき、手を差し伸べる相手の元へと近づくために。

成功 🔵​🔵​🔴​

数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】

……囀ってんじゃねぇよ、三下共が。
誰が屈し「た」?
何、過去形にしてるんだ。
今も懸命に、抗っているじゃねぇか。
真に屈したなら、あの顔も分からねぇトモダチみたいに
へらへら笑って迎合して、自分ってモノを無くしてただろ。
その心の強さを讃えるならともかく、
それが折れるのを祝えだ?
笑えない冗談だね。
さあ、道を開けろ。ナツキちゃんの元へ案内しな。
彼女を、ダチの二の舞にする訳にゃいかねぇんだよ……!

ホテル全体に【超感覚網】でテレパスのネットワークを張り巡らし、
ナツキちゃんの抗っている意志を探り『鼓舞』しつつ。
全身から『マヒ攻撃』を込めた『衝撃波』で『範囲攻撃』し、
最短路を切り拓く!



 空は分厚い雲に覆われ、星一つ見えない夜の中。
 闇の中にこそ居場所があるとでも言うかのように、蠢く無数の異形たち。
 異形の者たちは祝福する。
 新たな邪神の誕生を、解放される弱きものの心を、絶望に抗いきれずに手放した未来を。
「……囀ってんじゃねぇよ、三下共が。誰が屈し『た』? 何、勝手に過去形にしてるんだ」
 異形たちの様子を遠巻きに見つめていた数宮・多喜は憤りを露にした。
 邪神になろうとしている少女ナツキは、トモダチに迎合することなく抗い続け、その果てに絶望に呑まれようとしている。
「今も懸命に、抗っているじゃねぇか」
 だがまだ呑まれてはいない。それなのに異形たちが、そのナツキの心が屈したと断じたことに多喜は怒るのだ。
「まだ屈してねぇ、屈してねぇから苦しんでるんだ」
 屈しまいと耐えているからこそ、苦しいことを多喜は知っている。
「真に屈したなら、あの顔も分からねぇトモダチみたいに、へらへら笑って迎合して、自分ってモノを無くしてただろ」
 いっそ周りに迎合して、流されて、自分を消してしまえばどれだけ楽だっただろうか。
 しかしナツキは屈しなかった、抗い続け、辛い道を歩み続けたのだ。
 トモダチで居るために、どれだけ苦しくても手放してはいけないものがあると、きっと分かっていたから。
 多喜にも分かっている。
 手放してはいけないものがあったのだと。
「その心の強さを讃えるならともかく、それが折れるのを祝えだ? 笑えない冗談だね」
 だからこそ、その心を笑うものなど許せるはずもない。
 多喜は異形の者ども……災いの王の前にゆっくりと歩み寄ると、
「さあ、道を開けろ」
 ナックルを握る拳に力をこめた。

 あまりにも自然に近づいてきた多喜に、災いの王の反応が遅れる。
 文字通りに大口を開けて自分へ向き直った、王に多喜は思いっきり右手を振りかぶって……渾身の力をこめてぶん殴った。
「少しは心を知りやがれ! この唇お化け!」
 強烈な一撃を受けた王は吹っ飛び、ごろごろと転がって行くが、
「汝の願いはなんぞ?」
 その間に敵の存在に気づいた王たちが問いかけを口にすれば、多喜の周りにわらわらと男たちが出現する。
 現れた男たちの数はあまりにも多く、多喜はあっという間に男たちに取り囲まれてしまい、逃げ場を失う。
「あたしの願い……? 聞くまでも無いだろう」
 だが、逃げ場がないからなんだと言うのだ。
 問いかけてきた王を、獣じみた眼光で睨みつけると同時に多喜は、全身を媒介にして、ホテル全体をテレパスのネットワークで覆う。
 そしてネットワークの中に居た猟兵の数だけ……彼らに向けられた害意の数だけ、体に力が溢れてくる。
「繋ぎに行くんだよ!」
 まず前足を大きく振り上げ、地を打ち抜くがごとき勢いで大きく踏み込み、大地を揺らす。
 烈震による衝撃に、周囲の男たちは立っていることもままならず尻もちをつき、踏み込んだ足のつま先に力をこめた多喜は、そのまま大地を掴むように蹴って災いの王の懐へ飛び込む。
 それから飛び込んだ勢いのままに拳を突き出せば、ナックルに包まれた拳はやすやすと王の体を貫いた。
 貫いた手を引き抜き、手にまとわりつく生ぬるい液体を振り払えば、振り払った手の軌道を追うように、赤い線が地面に描かれる。
 そして赤い線の先に居た別の王を横目で捉えた多喜は、ゆらりと王に向き直り、
「ナツキちゃんの元へ案内しな。彼女を、ダチの二の舞にする訳にゃいかねぇんだよ……!」
 一歩一歩王へと近づきながら、喉の奥から絞り出すような声を発するのだった。

 天井を蹴った勢いを利用して、足元に居た災いの王を踏みつける。
 余った勢いは床を揺らし、周囲に居た王や男たちの体勢を崩させ……その隙をついて、さらに多喜は一体、二体と王たちを貫き、蹴り抜く。
 そして一息つくたびにテレパスでナツキの意識を探り、消え去りそうなその意識に語り掛ける。
「今行く! 今行くから、意識を手放さないで!」
 と。
 本当に今にも消え去りそうなナツキの意識、だが消え去りそうであってもまだ確実にあるのだ。
 ならばきっとまだ希望はある。
 繋げることができる。
「いいや、繋げて見せる!」
 やれるかもではない、やるのだと多喜は災いの王たちがひしめくこの廊下の先をじっと見つめる。
 感じ取れるナツキの意識はあそこにある。
 ならばあとは突破するのみだと、多喜は王の群れに向かって駆け出すのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

御形・菘
はっはっは、一般人が邪神となるとは凄いではないか!
しかしやり方が実に面白くないのう
笑顔とかエモさとか感動とか、そーいうもので成るべきなのだ! 妾のように!

予め分析で監禁場所を絞り込むとしよう
犯人心理を考えると…入り口に近い所や、逆に最上階などは避けるのではないかのう?
なので妾が当たるのは中間のフロアだ!
同時に、天地を飛ばし上からローラーさせて、仲間にも情報を飛ばし共有しておこう

妾のファンを大量に召喚?
嬉しい話だが、本来ならビル満杯でも全然足りんぞ?
まあ攻撃して制圧、なんてことは絶対にありえん!
妾にとっての「足場」は床だけではない!
天井や壁を伝い、妨害を避けていこう、小さい穴も楽に潜り抜けてな!



 分厚い雲に覆われた空。
 星一つ見えないその空から視線を落とせば、巨大なホテルのシルエットが見える。
 そしてそのシルエットによくよく目を凝らせば、その内外に蠢く異形の姿を見ることができただろう。
 しゅるしゅると地面を這い進みながら、異形たちの様子を観察していた御形・菘は一休みをするようにとぐろを巻いて腰を落ち着けると、
「はっはっは、一般人が邪神となるとは凄いではないか!」
 感心した様に両腕を組む。
 ただの人間が邪神になるなど、大層なものだ。邪神と言えど、神には違いないのだから。
「う~ん、しかしのう」
 大層感心した様子の菘であったが、何かが引っ掛かるとばかりに目を閉じて、天を仰げば、灰色の長い髪の毛が褐色の肌の上をはらはらと流れる。
 そして髪の毛の動きが止まったのを見計らったかのように、菘は金色の目を見開くと、
「うむ、やり方が実に面白くないのう」
 眼光鋭くホテルを睨みつける。
 毒虫の群れの中で生き残りのものを、神と呼ぶようなやり方は彼女が求めるものとは違うのだ。
 誰かの悲しみの成れの果てなど、認めてやるわけにはいかないのだ。
「神とは、笑顔とかエモさとか感動とか、そーいうもので成るべきなのだ! 妾のように!」
 菘の言うところの神とは、崇め奉られる神を言う。
 人々を笑顔にし、自らも笑顔となる、そーいううぃんうぃんな存在を神と言うのだ。
 となればやはり、このような誰も幸せにならぬ神など在ってはならない。
 菘は一つ大きく頷いて、
「今回の邪神への昇格は、無かったことにしようかのう!」
 昇格はやっぱやめ、決定! と、宣言したのだった。

 再びしゅるしゅると地面を這いながら、菘はホテルの外周を見て回る。
「さて、犯人心理を考えると……入り口に近い所や、逆に最上階などは避けるのではないかのう?」
 下の階は窓から飛び降りて逃げ出す可能性がある。
 逆に屋上に近い階は、電気も通らぬホテルでは移動が大変だ……となれば、
「妾が当たるのは中間のフロアだ!」
 飛び降り難く、移動が苦痛でない範囲、せいぜい四階から六階……つまりはホテルの中間あたり言ったところだろうと、菘はあたりをつける。
「うむ、妾の慧眼に間違いは無かろうて。じゃが念のため屋上にも偵察を出しておくとしよう」
 それから念のためにと、高性能AI内蔵の映像撮影用ドローンである天地通眼を屋上に飛ばし……菘本人は地上からホテルに侵入するのだった。

 正面から乗り込んできた菘に対し、災いの王は当然の対処を行う。
「汝の喜びはなんぞ?」
 すなわち、問いかけを口にしてわらわらと男たちを呼び出すことをだ。
「これはなかなかの、熱烈歓迎じゃのう」
 次々と自分の周りに出現する男たちに囲まれ、菘はどことなく上機嫌だ。
 ファンを大量に召喚される……動画配信者としてこれほど嬉しいことは無い。
 もっとも本来であれば、菘のファンを呼び出したらビルいっぱいに詰め込んでも全然足りないはずである、多分そのはずであるから、本当は若干ものたりないのだが。
 あとついでに、本来であればファンが菘の腹に執拗にボディブローを捻じ込んでくる、などと言うこともないのでやはりこれは作り出された何かなのだろう。
「はっはっは、お触りは禁止であるぞ」
 もっとも、執拗にボディブローを繰り出されている菘はじゃれついてくる仔猫をあしらうがごとく意に介していない……と言うよりもお触りの方を気にする程度にノーダメージだ。
 しかし、ファンをなぎ倒して進むわけにもいかないし、この場所で足止めを喰らっている訳にもいかない。
 どうしたものかと菘は一つ首を傾げ、傾げた瞬間に思い至る――避けて進めば良いのだと。
 思いついたら即実行、菘は全身をウミヘビに変異させて、そばにあった通気口に身を躍らせ、
「はっはっは、色々と凄いじゃろ~!」
 隙間までは追ってこれないファンと災いの王を無視して、そのまま目的地へと向けて移動するのだった。

(「屋上は派手にやっているようじゃのう」)
 屋上から送られてくる映像を確認してみれば、屋上から侵入した猟兵が派手に暴れている姿が天地通眼から送られてきていた。
 それどころか、ホテルのあちこちで戦闘が起こり猟兵たちは着実に目的地に近づいているようだ。
 彼らはもうすぐこの場所に辿り着くだろう。
 菘は大きく頷いた後、通気口から部屋の中に入る。
 入った部屋は薄暗い部屋の中。
 その場所に居るのは膝を抱えた一人の少女。
 邪神たる司書の姿と重なり合い、狭間を彷徨う少女の姿。
 ウミヘビから元の姿に戻った菘は強気な笑顔を浮かべたまま、右手を差し出し、
「はーっはっは! さぁ、神たる妾が命じよう! これからお主は、笑わねばならぬぞ!」
 少女、ナツキへと声をかけたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ピオニー・アルムガルト
建物内に入る前に部屋に光源かある所がないか一応確認。【ダッシュ】で建物内を走り【野生の勘】で監禁場所を探すわよ。相手としては時間を稼ぎたいと思うから部屋に近くなれば抵抗も強くなるでしょう。そういう所も気付けると良いわね!

力強く問われたのなら力強く答えましょう!
不安や恐怖で塞ぎ込んでいる女の子に顔を上げて貰えるように手を差し伸べに行くのよ!その前に放っておくとロな事をしなそうな名前の口だけの王達を倒すの!ね、単純明解でしょ?
抵抗できない数というのは面倒ね、UCで床をぶち抜いて階下に落としてやろうかしら!後は【地形の利用】で王に接近して叩くだけ!
時間が無いの!私の行く道を邪魔しないでちょうだい!


コシチェイ・ヴォルノーイ
先ずはUCで監禁場所を捜索させます
「征けっ!黒狗共!一刻も早く彼女の居場所を探し出すのだ!」

監禁部屋を特定できれば、他の猟兵と合流し、戦闘は避けつつ最短ルートを目指します
「敵の数が多すぎますな…!…正面突破は時間がかかるでしょうし、搦め手で行かせて戴きましょう!」
戦闘を避けられない場合、先制して●暗殺し、倒し損ねた場合は攻撃を●見切り●騙し討ちして手早く処理します

「急がなくては…少女が怪物と化してしまう前に、……彼女が、絶望してしまう前に…!何としてでも辿り着きましょう…!」
最大の目的は、ナツキがUDCと完全に同化する前に監禁場所に辿り着くことです
その為なら多少の負傷は厭いません

※アドリブ歓迎



 月の見えぬ夜空。
 分厚い雲に覆われ、全てが黒色に染められた、その空は何もかもを呑み込む沼のようだ。
 そしてその空から視線を下に落とせば、道路から届くわずかな明かりに照らされたホテルの巨大なシルエットが見えた。
「急がなくては……少女が怪物と化してしまう前に……彼女が、絶望してしまう前に……!」
 正面にそびえたつホテルに向かって駆けながら、コシチェイ・ヴォルノーイは絞り出すように言葉を紡ぐ。
 今こうしている間にも、一人の少女が怪物と化そうとしている。
 何の罪もない少女が、絶望の果てに……それを思うとコシチェイは胸を締め付けられるような思いに駆られるのだ。
「そうね! まだ間に合うわ!」
 闇に紛れるような黒色の衣装に身を包んだコシチェイ。
 そのコシチェイが、ぎゅっと自らの胸元を握りしめるさまを横目に見つつ、ピオニー・アルムガルトは大きく頷く。
 怪物になりかけている少女を救うためにいまピオニーたちは駆けている。

 ――だが、なりかけているということは、完全にはなっていないということだ。

「何としてでも辿り着きましょう……!」
 ならば辿り着ければ必ずや救い出せるはずだ。
 少女に希望を与える機会はあるはずだ。
 未来に光を見出すことを、その道を示すことができるはずだ。
「ええ! 絶望の沼から救い出して見せるわ!」
 二人はお互いに頷き合うと、災いの王がひしめくホテルへ突入するのだった。

 外から見たホテルの中には明かり一つ見えなかった。
 つまり、外からは捕らわれた少女の居場所にあたりをつけるのは難しい……となれば、野生の感に頼って見るのも悪くはない。
「うん、そうしよう!」
 かつてはガラスが張られていたであろう窓からホテルの内部に飛び込んだピオニーは、もふもふとした尻尾を思いっきり振って身を反転させつつ、内部に居た災いの王たちへ向き合う。
 それから唐突に現れた侵入者に王たちが反応するより早く、その内の一体に対して飛び掛かり……ウィザードロッドで叩き潰した。
 さらにもう一体とピオニーがロッドを構えようとするも、
「……お見事」
 ピオニーが王へと目を向けたときには、すでにもう一体の王はびくびくと体を痙攣させていた。
 王の痙攣が止まりそのまま地面に崩れ落ちると、その後ろから血の染み付いた短剣を手にしたコシチェイが現れる。
「後ろから襲わせていただきました……年の功、と言うものです」
 あれ? いつの間に? と小首を傾げるピオニーにコシチェイは目を細める。
 派手に突っ込んだピオニーに王たちの意識が向かっている間に、コシチェイはその死角に回り込んだのだ。
 コシチェイはさも簡単なことのように言ってのけるが……影から獲物を狩るその手腕は流石と言えるだろう。
 もっとも、影に紛れるためには、影を作り出す必要がある。
「そっか、それじゃ私は正面から突っ込むわね!」
 すなわち敵の目をくらませるほどの光だ。
 もともと正面突破する気満々だったピオニーは丁度良いわねと、頷いて、
「ええ……お任せいたします」
 その言葉の意味を理解したコシチェイもまた頷いて見せるのだった。

 ぴくぴくと、ふさふさした狼の耳が動く。
「こっちかしら!」
 他の猟兵たちの戦いの音、災いの王たちの囁き声、それらとなんとなくの感を組み合わせて、少女が捕らわれている場所にあたりをつけるとピオニーは走り出す。
「彼等は主の敵を何処までも追い回す……喩えるならば漆黒の猟犬が如く」
 走り出したピオニーの背中を見つめつつ、コシチェイは数体の漆黒覆面の人型使い魔を呼び出し、
「征けっ! 黒狗共! 一刻も早く彼女の居場所を探し出すのだ!」
 その後を追うように、指示を出す。
 極めて発見され難いそれらは、ピオニーが接触した王の影に潜み、次の王の影へ、そのまた次の王の影へと渡り様々な場所を捜索する。
 見つからなければ、再びあちこちを走り回っては王を駆逐していくピオニーの影から追跡を始め……ついには、もっとも災いの王たちがひしめく場所に辿り着く。
 意外と早くに見つかったのは、ピオニー自身も徐々にその場所に近づいていたためだろう。
「見つけました……!」
「それじゃ、行きましょう!」
 王をロッドで撲殺したピオニーの横から、コシチェイが話しかければ、いよいよね! とロッドを握る手に力をこめるのだった。

 階段を上ってしばらく進むと王たちがひしめき合う廊下にでる。
 周囲からは他の猟兵たちが戦う音も聞こえるが、それでも殲滅しきれないほどに王の数は多い。
「敵の数が多すぎますな……!」
 だが、だからと言って諦める訳にはいかないのだ。
 最大の目的は捕らわれた少女ナツキがUDCと完全に同化する前に、この先にある部屋に辿り着くことなのだから。
「予想通りね!」
 相手としては時間を稼ぎたいと思うから部屋に近くなれば抵抗も強くなる。
 そう考えていたピオニーは、むしろこの先こそがあたりだと確信を持てていいわ! と王たちの群れに突っ込み、
「ええ……全くです」
 コシチェイもまた、ピオニーを追う。

「汝の目的は何ぞ?」
 突っ込んできたピオニーたちに対し、災いの王たちが問いかけを口にする。
「目的?」
 自分の周りにわらわらと現れた男たち。
 その男の一人の頭に手を置いて、跳び箱を超えるように男たちの頭上を越えたピオニーは、王の前に降り立つと、
「不安や恐怖で塞ぎ込んでいる女の子に、顔を上げて貰えるように手を差し伸べに行くのよ!」
 まず一つとロッドを振り下ろして、王を叩き潰す。
 それから、殴りかかってきた男の拳を半歩横に動いて避け、そのまま壁に向かって飛ぶ。
「その前に」
 さらに、壁を蹴って三角形を描くように、別の王の頭上に迫り……その頭上に着地する。
「放っておくとロクな事をしなそうな名前の、口だけの王達を倒すの!」
 足の下の王をロッドで殴り、息の根を止めたピオニーは、そのロッドを肩に担いで、
「ね、単純明解でしょ?」
 分かりやすいでしょう? と、金色の目を細めるのだった。

「……正面突破だけでは時間がかかるでしょうし、我輩は搦め手で行かせて戴きましょう!」
 ピオニーが暴れまわっている影で、コシチェイもまた王たちの背中から短剣で、あるいは真下から黒い細剣で、息の根を止めていく。
 しかし、如何に影に隠れようとも、如何に光が強かろうとも、如何に熟練の技術を持っていようとも、多くのものの視界から姿を消し続けるのは難しい。
「汝の覚悟は如何ほどのものか?」
 ついにはコシチェイの姿を捉えた一体の王が問いかけを口にする。
「……これは異なことを」
 問われると同時に周囲にわらわらと現れた男たちの拳を避けつつ、コシチェイは小さく息を吐く。
 誰かを助けたいと、こんな場所にまでくるものに覚悟を問うなど無粋だろうと。
 だが、覚悟はまだしも、影に隠れられない状況はあまり面白くない、避け切れなかった男の拳が肩に当たり、コシチェイの体がよろめいて……、
「いち、にの……」
 よろめいた拍子に、頭上に見えたふわりとしたもの。
「さん!」
 それが何かを考えるよりも早く、コシチェイは男たちもろとも大きく後ろに飛んで……コシチェイが直前までいた場所に青いものが飛来する。
「ドーン!!」
 天井付近まで飛んだピオニーが、器用に反転して天井を蹴り、勢いをつけて床をロッドで叩きつけたのだ。
 もともと崩れかけていたのか、床にはあっさりと穴が開き、数体の王と呼び出された男たちが落ちて行く。

「時間が無いの! 私の行く道を邪魔しないでちょうだい!」
 落ちて行った王と男たちには目もくれず、ピオニーは残った敵に目を向ければ、
「……部屋はすぐそこです!」
 コシチェイの言う通り、ナツキの捕らわれた部屋は目視できるほどに近づいている。
 そうだ、一刻も早くに絶望の沼に沈もうとしている少女に手を差し伸べに行かねばならぬのだ……その手を掴み、救い出してやらねばならぬのだ。
 ピオニーとコシチェイは大きく息を吸い込むと――ナツキが捕らわれている部屋に向かって駆け出すのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アンナ・フランツウェイ
私にも大切な友達はいるけど、そもそも友達や友情ってこんなに恐ろしいものなのかな…。ともあれやる事は変わらない、私の…バケモノなりのやり方でやらせてもらう。

災いの王が部屋を中心に現れているらしいけど、なら目的地周辺は災いの王の数は多いと考えられる。それなら災いの王を殲滅しつつ、奴らの数が多い場所に向け進んでいこう。

一般人と戦ってたらキリがないから【空中戦】で回避しつつ【拒絶式・呪詛黒百合】を散布。殺しても良いけど、気絶するだけに留めておこう、一応。
災いの王には全力の【呪詛】付きのユーべルコードを味合わせてあげるよ。

それにしても廃ホテル一つを使えるとは…カナエの親はヤの付く自営業か何かかな?



 星一つ見えない空は、深い森の中を思わせる。
 歩いても歩いても出口の見えない、森の中……踏み込んだら最後、決して戻ることの叶わぬ森の中。
 どれだけ望んでも、一度踏み込んでしまえば決して戻れない場所。
「……着いたかな」
 曇天の空を暫しの間見つめながら歩いていた、アンナ・フランツウェイはその視界の中に、入ってきた大きなホテルのシルエットへ視線を移し、小さく息を吐く。
 暗闇の中に浮き上がるように、現れたそのホテルは、どこか虚ろな世界に存在しているように見え……今そこに向かっている自分もまた、現実から離れていくような気持ちになってくる。
 はたして虚ろと現の狭間はどこにあるのか、境界の先には何があるのか。
「それを超えたら、バケモノになっちゃうんだよ」
 ホテルの中にひしめく異形の姿が見え始め、アンナは緑色の目を細める。
 境界の先にあるものは、あの異形たちと同じバケモノの世界だ。
 体か、心か、どちらが先かは問題ではない。
 超えた事実が、越えねばならなかった理由が、超えさせられた原因が、バケモノをバケモノたらしめるのだ。
 アンナはそのことをよく知っている……故に、
「待っててね」
 誰へともなく呟くと、異形ひしめく闇の中へと足を踏み入れるのだった。

 ホテルの前をうろついていた災いの王の真上から何かが落ちてきた。
 何ごとかと、王たちがそちらを見やれば、そこには礼服を思わせる黒い服装で身を包んだ一人の少女の姿があり……その下には無残に切り刻まれた王の姿があった。
 それが襲撃者なのだと、残りの王たちが理解するよりも前に、少女が翼で空を打てば、
「しゃべってる暇はないよ」
 次の瞬間には、何かを言おうとした王の真正面に出現し、左手に持った処刑用の剣でその口を貫く。
 そして仰向けに倒れる、その王の頭を踏んで大きく飛び上がり、残った王の真上で再び翼を打つと……今度は鋸刃状の剣を手に急降下し、その王の体を真っ二つに割った。
「廃ホテル一つを使えるとは……カナエの親はヤの付く自営業か何かかな?」
 周囲に他の敵が居ないかを見回した少女、アンナは首を傾げる。
 見れば見るほど大きなホテル、そのホテルをまるっと使っている……使っていなくとも、他に人が寄り付かないように圧力をかけられるとなれば、カナエはこの辺りでは力のある家の娘なのかもしれない。
「進めばわかるかな」
 だが、それは考えても推測の域を出ない話だとアンナはホテルの中へ侵入していくのだった。

 ホテルの中を進むと、徐々に敵の数が増えてくる。
 多くの敵は、相手が口を開く前に、黙らせることができたが、
「汝に友は居るのか?」
 階を五つ登ったあたりで、いよいよそれも難しくなってきたようだ。
 王が問いかけを口にした途端、アンナの周りにわらわらと男たちが現れ、アンナを捕えようと手を伸ばしてくる。
「もちろん私にも大切な友達はいるけど」
 アンナはその手から逃れるように天井付近まで飛び上がってから、翼を広げる。
 それから地獄の亡者のように足元に群がってくる男たちの頭を踏んで、器用にその手を避けつつ両手に持った武器を手放せば……アンナの手から零れ落ちた武器は、剣先から崩れるように黒百合となって、花びらが宙に舞う。
「我が怨念は全てを包む」
 そして周囲が黒百合の花びらで満たされると同時にアンナが力ある言葉を口にすれば、呪詛を纏う黒百合は竜巻のように渦を巻いて、周囲に居た敵を切り裂いていく。
 黒百合の竜巻が消えた後に残されたのは、無残に刻まれた王たちの姿。
 まだ微妙に動いている王も居るが、傷口を抉るように侵食していく呪詛が、いずれ息の根を止めるだろう。
 王に呼び出されていた男たちも大分刻まれていたが……一応手加減はしたから大丈夫だろう。多分。

 アンナは翼を閉じて、王たちの残骸の上に降り立ち、
「そもそも友達や友情ってこんなに恐ろしいものなのかな……」
 王の問いかけにあった友について考える。
 このホテルに捕らわれた少女ナツキと、それをしたカナエ。
 二人の関係が友達なのだとしたら、友達とはなんと恐ろしいものなのだろうか。
 否、そんな友達関係を持ってしまったナツキの運が悪かったのか、アンナの運が良かったのか、あるいはアンナの運が悪いのか。
「ともあれやる事は変わらない、私の……バケモノなりのやり方でやらせてもらう」
 それは分からない……が、結局やることは変わらないのだと、アンナはさらに境界の奥へと進むのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 ボス戦 『司書』

POW   :    私達は誰かの思考から生まれた存在なのでしょうか?
対象への質問と共に、【この世界を構成する神以上の存在】から【御手】を召喚する。満足な答えを得るまで、御手は対象を【含む、世界を追記、編集、削除する事】で攻撃する。
SPD   :    私達の行動は物語に綴られた文字にすぎないのでは?
対象への質問と共に、【この世界を構成する神以上の存在】から【御手】を召喚する。満足な答えを得るまで、御手は対象を【含む、世界を追記、編集、削除する事】で攻撃する。
WIZ   :    この世界は、私達は、本当に存在しているのですか?
対象への質問と共に、【この世界を構成する神以上の存在】から【御手】を召喚する。満足な答えを得るまで、御手は対象を【含む、世界を追記、編集、削除する事】で攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はアララギ・イチイです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●絶望の中で
 おなかが減ったな……あったかいご飯が食べたいな。
 お家に帰りたい……。
 みんな、ミンナ……いなくなっちゃうのカナ……もう、会えないのかな。
 お母さん……お父さん……ごめんなさい。
 ゴメんなさい……ワタシのせいで……ユルシテ。
 カナエ……シンユウだと思ってたノニ……。
 ――目を閉じて。
 もう、ナニも……カンガえタクナイ。
 ――私に身を委ねて。
 アア、でも……誰かが……ヨンデ。
 ――全ての結末を見守る傍観者となりましょう。

 私は、誰かに呼ばれた、気がして……。
 私は、世界の全てを見送るために――。

 厳重に施錠された扉を猟兵たちは打ち破る。
 部屋の中は真っ暗で……けれども何故か、その膝を抱えた少女、ナツキの姿を、はっきりと見ることができた。
 否、それはナツキではないのかもしれない。
 何故なら、ナツキの姿と司書の姿が重なり合い、瞬きの間に入れ替わりを繰り返していたからだ。
 彼女は、猟兵たちの到着を待っていたかのようにゆらりと立ち上がる。
 そしてゆっくりと顔を上げれば……その姿が司書のものに固定され、
「さぁ、あなたがたの物語を、私に見せてください」
 手にした本がはらはらと開いた。
 猟兵たちと、少女たちの物語を、待ち受ける結末を、綴るために。
御形・菘
はっはっは、救いの神、推参!
安心せい、お主は必ず家に帰してやろう!
家も無事で、両親にも会わせてやるぞ! でもって一家団欒飯であるな!

邪神の存在や言うことなど、まずは無視だ
きっちり攻撃に対してガードはしておくがな
今はナツキと話し合うターン!
言葉のキャッチボールができん意識高い系の、小難しい言葉遊びに付き合う気はない!

妾の言葉をある程度伝えたら、さて邪神をボコり始めるとしようかのう
ナツキに励ましの声を掛けながらであるがな
妾の物語なんてどーでも良かろう!
すべてのバトルの記録は映像に残しておる!
何から生まれようと関係ない、何を為すかが大切なのよ
つまりお主の物語を、此処で最終章にするのが目下の目的でな!


ピオニー・アルムガルト
こんばんは、私はピオニー・アルムガルトよ!まず初対面なんだし挨拶は基本よね!
こんな廃ホテルの暗い一室で寂しくなかったかしら。
正直世界は『辛い』事も多いわ、多感な時期の子には尚更な事もあるでしょう。だけどほんの少し、一つだけでも行動や見方を変えれば世界は『幸い』にも満ちてるわ!そうね家族で囲む温かい食卓とか幸せよね!
悩みがあるならお節介やきな人達がこれだけ来ちゃったんだからお姉さん達に任せなさい!
攻撃手段は持たない。
攻撃の質問に対しては肯定もするけど真っ直ぐ答えるわ、どんな世界だとしても私は私なのだから!


コシチェイ・ヴォルノーイ
(戦いながらナツキを●鼓舞するように語りかけます)
お嬢さん…最初から決められた運命などありませんし、我々の存在も誰かの空想などではないと、吾輩…否、私は思います

諦観して、考えるのをやめるのは大いに結構
…しかし、それではあまりにも悲しい

(UCを使用、蒼い炎を剣に灯し司書へ●投擲します)

貴女は家族の為、自身の未来の為、絶望に抗いました
ならば、私は心を鬼にして貴女を人の道に引き戻します
どんなに今が苦しかろうと、また抗ってもらいますよ
…今度は絶望に耐えるためではなく、乗り越えるために

いつだって、夜明け前が一番暗くて辛いのです
前を向いて往きなさい、貴女の未来は輝きに満ちているのだから

※アドリブ歓迎



 真っ暗な部屋の中に、女は佇む。
 暗闇の中にただ独りきり、まるでこの暗闇の中だけがカノジョの世界であるかのように。
 あるいは……カノジョこそが、暗闇を支配する神であるかのように。
「はっはっは、救いの神、推参!」
 相手は神、だからなんだと言うのだ。
 妾も神であるぞと、長い灰色の髪をもつ女は高らかに笑う。
 不遜にして超然。傍若無人にして愛情深く。醜悪にして美麗。それこそが神たるものの在り方。
 ならば、しゅるしゅると蛇のような舌を見せて、さも当然のように笑って見せるこの女こそが、神を名乗るに相応しいのかもしれない。
「まずは……興味を引けたようですね」
 神を名乗った女を、カノジョは黙って見つめ……女の後ろから眼光鋭く、そのカノジョを観察していた銀髪の老紳士は小さく頷く。
 話をするにしても、まずは相手の興味をひかなければ、聞く耳をもってはもらえない。
 倒すだけならそもそも話をする必要などない……けれども自分たちの目的は、カノジョの中で今も苦しみ続ける少女を救うことなのだ。
 だからこそ、会話を成立させる必要があり、そういう意味で、神を名乗ったのは良い判断だっただろう。
 同時に動き始めた他の猟兵たちも、まずは話し合いのきっかけを作ろうとしている。
 問題はこの次だが……と、考える男の前に青い髪の女が立つ。
「こんばんは、私はピオニー・アルムガルトよ!」
 その女は、ふさふさとした狼の尻尾を揺らしながら、ピオニー・アルムガルトと名乗る。
「あなたを助けに来たわ!」
 まず初対面なんだし挨拶は基本よね! と、己の名を名乗り、それから目的を告げる。
「そうであるな! 妾の名は御形・菘。お主を救う神の名である、よくよく覚えておくのだぞ!」
 そんなピオニーの言葉に頷いた御形・菘も名乗り……忘れたくても忘れないだろうがの! などと胸をはる。
 名前とは存在を世界に刻むものだ。
 名を名乗るとは、己の存在を己自身で意識し、他者にも知らしめるためのものだ。
 そして、ピオニーにしろ、菘にしろ、自分の名を告げ、救うと口にした。
 それはつまり、その存在に懸けて必ず成す覚悟の表れである。
「それじゃ、あなたの、お名前を教えて頂戴?」
 だから当然、ピオニーは相手にも問う。
 あなたの存在は、まだそこにあるのかと。
 あるのならば、今ここで、その名を示してと。
「……ワタシ……ハ」
「あなた方の、今の行動も、言葉も、予め世界に綴られた文字に過ぎない。そうは思いませんか?」
 か細く紡がれた言葉は司書によって掻き消される……けれども、カノジョの中に存在を見た。
 ナツキの存在を確かに見たのだ。
 それで十分だった。

 司書が問いかけを口にするのと同時に、部屋の中に青白い光を放つ氷柱が、無数に出現する。
 出現した氷柱は爆発的な速度で成長し、前後左右全てから氷の槍のように迫って……ピオニーたちに届かんとしたその刹那、円を描くように走った銀色の輝きによって砕かれた。
「申し遅れましたが……我輩はコシチェイ・ヴォルノーイ」
 砕けた氷の欠片が降り注ぐ中、十字架を模した形の剣を手に、老紳士は名乗る。コシチェイ・ヴォルノーイと。
「さて、お嬢さん……最初から決められた運命などありません」
 それからコシチェイは、続けて迫りくる氷柱に剣を振り下ろしては砕き、砕いた氷に紛れるように足元から生えてきた氷柱を蹴ってはその軌道を上に逸らす。
「そうよ! これは私の意思。私の言葉。決められていたかどうかなんて関係ないわ!」
 コシチェイと同じく、ピオニーもまた天井から迫りくる氷柱をウィザードロッドを盾に防ぎながら、司書の問いに答える。
「そして、我々の存在も誰かの空想などではないと、吾輩……否、私は思います」
「どんな世界だとしても私は私なのよ!」
 粗方の氷柱をさばいてから、コシチェイとピオニーは肩を並べて司書と向き合う。
 自分たちは今ここに居る。
 それは誰かに決められたからでもなく、誰かの空想でもないのだと、はっきりと言い放つ。
「お主たちは、真面目であるな」
 蛇の尾を渦巻く鞭のように自分の周りに展開して、氷柱を弾きながら菘は目を細める。
 何を選ぼうと、どのように行動しようと、それが運命だったと、後から決めつければ運命に仕立て上げることができる。
 司書の使う技は、そういう類のものだ。
 神の御手による後付けの運命作成、後付けの世界改変……菘に言わせれば、『言葉のキャッチボールができん意識高い系の、小難しい言葉遊び』にすぎない。
 故に、そのような遊びに正直に付き合ってやる必要はない。
 ないのだが……、
「しかし良いぞ! 今はナツキと話し合うターン!」
 付き合ってやった効果はあったようだ。
 猟兵たちの答えを聞いた司書が思案をするように俯くと……その姿が薄くなっていく。

 司書の姿が薄くなり、代わりにナツキの姿がおぼろげに見え始める。
 しかしその姿は、小さく儚く……少しでも目を離したら、その間に消えてしまいそうなもの。
「ドウ……して……」
 ぼうっと、虚ろな目でナツキは問う。
 どうしてと。
 どうして消えさせてくれないのか、どうしてこんなにつらいのか、どうしてこんなことになってしまったのかと。
「諦観して、考えるのをやめるのは大いに結構」
 ナツキの中にある諦め。それを見抜いたコシチェイは小さく頭を振る。
 どうしようもないことを、自分の手に余ることを考えても仕方がない。
 ならば考えても仕方がないと諦めて、やめてしまうもの良いだろう。
 そして、それは後ろ向きなことではない。考えないことで、その分だけ楽しいことを考えられるからだ。
「……しかし、それではあまりにも悲しい」
 しかし、ナツキと言う少女は、あまりにもひたむきに、愚直に考えすぎたあまりに、暗闇で膝を抱えて消えようとしている。
 それではあまりにも悲しいと、コシチェイは息を吐く。
「こんな廃ホテルの暗い一室で寂しくなかったかしら」
 コシチェイが息を吐く横で、ピオニーが優しく語り掛ける。
 こんなところに一人では、寂しかっただろうと……ずっと一人で戦い続けて寂しかっただろう、辛かっただろうと。
「正直、世界には『辛い』事も多いわ、多感な時期の子には尚更な事もあるでしょう」
 その辛さもまた、世界には溢れているものの一つ。
「だけどほんの少し、一つだけでも行動や見方を変えれば世界は『幸い』にも満ちてるわ!」
 けれども、辛いなどと言うものは、世界に溢れているものの一つでしかない。
 ひたむきに真直ぐに前だけを見ていては、なかなか気づけないかもしれないが、ほんの少し、立ち止まって周りを見回してみれば……横道にそれてみれば、世界には幸いも溢れていることに気づくだろう。
「そう! お主は今、妾の手を取れるのだぞ!」
 現に今、ナツキの前には菘が、ピオニーが、コシチェイが……多くの猟兵が居る。
 一歩だけ足を踏み出して、その手を取れば、ナツキは救われるのだ。
 その言葉を聞いたナツキの目に、僅かに光が戻った気がした。

「イイの……?」
 誰にも言えなかった。
 相談できなかった。
 これは私の問題だと思っていたから……私だけが我慢すれば良いと思ってたから。
 それがみんなのためだと思っていたから。
 でも、それで、我慢した結果で、家族が傷つくことになって。
 もう、一人じゃどうにもならなくて。
 カナエからは逃げられないんだと気づいて。
 何も考えたくなくなって……。
「助けてもらっても、いいの?」
 でも、本当は、誰かに助けて欲しかった。
 ずっと一人で寂しかった。怖かった。
 誰でも良いから助けて欲しいと、叫びたかった。

「安心せい、お主は必ず家に帰してやろう!」
 ナツキの言葉を聞いた菘は、任せておけと、どんと胸を叩き、
「ええ、お約束いたしましょう」
 コシチェイもまた深く頷く。
 希望を取り戻し始めた、少女の背中をさらに押してやるために。
「家も無事で、両親にも会わせてやるぞ! でもって一家団欒飯であるな!」
「そうね家族で囲む温かい食卓とか幸せよね!」
 そして、少女の不安の種である、家族についても助けると宣言し、家族で温かい食卓を囲む様子を思い出させてやる。
 普段は気づかないかもしれないが、それは確かに幸せの一つ……今、この状況だからこそ気づける、幸せなのだ。
 菘たちの言葉を聞いた、ナツキの目には確かな光が戻り……、
「お願……イ」
「この思考も、所詮は誰かの創造の産物。そうは思いませんか?」
 再び悪意によって、遮られたのだった。

「ああ、もう! あなたは出てこないで!」
 再び現れた司書にピオニーは尻尾を逆立てつつも、賛歌を歌い始める。
 仲間たちを鼓舞するために……何よりもナツキにこの歌が届けと、願うように。ナツキの心が、司書に打ち勝つと信じて。
「伝えるべきことは伝えた。あとはお主をボコルだけだのう!」
 司書の問いかけとともに現れたのは、あらゆるものを絡めとり、切り裂く蔦。
 菘は、その蔦を右手に宿したオーラ的な何かで弾き、強化された異形の左腕で刻みながら司書へと近づいていく。
 しかし部屋全体に呼び出された蔦の全てを避けることは難しく、蔦は菘の体に食い込み、その肌を棘によって傷つける。
「逆境とはすなわち、視聴者をドキドキワクワクさせる動画の山場! 自ら飛び込むべき素敵なシチュエーションよ!」
 だが、菘は傷ついても、痛みにしり込みをするどころか、笑いながらしゅるしゅると司書に向かって進む。
 素晴らしい動画を作り上げるためには、山場が必要なのだ。
 故に、菘は傷つくことを恐れない。
 ここは傷つきながらも真正面から、敵を屠るシチュエーションであると、全身に力をこめて司書に向かう。
「……貴女は家族の為、自身の未来の為、絶望に抗いました」
 コシチェイは横なぎに払われた丸太のように大きな蔦の一撃を、跳んで避け……器用にその上に乗って見せる。
「ならば、私は心を鬼にして貴女を人の道に引き戻します」
 それから蔦の上で左右に振られながらも、司書の胸元へ狙いを定め、
「主よ、憐み賜え」
 洗礼を与え、魂魄の浄化と安寧を齎す力を籠めた、十字架を模した剣を投擲する。
 放たれた剣は、司書の胸元を貫き、そのまま壁に突き刺さるが……その体に傷をつけることは無い。
 コシチェイが放った剣は、邪心や、対象を縛る呪詛や呪縛を払うためのもの。
 だから、司書の体に傷はつかず、だからこそ司書の体が歪んで薄くなる。
「何から生まれようと関係ない、何を為すかが大切なのよ」
 司書の存在が薄くなるのと同時に、蔦の力が弱まり、菘はぐぐっと司書へ近づく。
「つまりお主の物語を、此処で最終章にするのが、成すべきことである!」
 それから、菘が司書の目の前で体に絡みつく蔦全てを引きちぎって見せれば、
「それが、あなたの物語ですか」
 手負いの獣よろしく自分を睨みつける菘に、司書は冷たく問いかける。
 問われた菘は、小さく笑い、
「妾の物語なんてどーでも良かろう! すべてのバトルの記録は映像に残しておる!」
 知りたければいつでも勝手に見るがよいと……薄くなった司書の体を真ん中から裂くように、引きちぎったのだった。

 司書の体が、黒い塵となって消えて行く。
 そして、その塵の中から、膝をつき、俯いて泣きじゃくるナツキの姿が見えてくる。
 もう我慢しなくていいのだ。
 背負いきれない重荷を抱えて、絶望することもないのだ。
 ようやく……助けを求めても良いと言ってもらえた。
 だから、張りつめていたものが、涙となって零れる。
「どんなに今が苦しかろうと、また抗ってもらいますよ……今度は絶望に耐えるためではなく、乗り越えるために」
 だが、まだ根本的な部分は解決していない。まだ乗り越えなければならないものがある。
 子供のように、年相応に泣きじゃくるナツキと、顔の高さを合わせるように膝をついて、コシチェイは話しかける。
「いつだって、夜明け前が一番暗くて辛いのです。前を向いて往きなさい、貴女の未来は輝きに満ちているのだから」
 この先、消えてしまっていれば楽だったかもしれないと、考えてしまうこともあるだろう。
 無理やり引き戻したのは自分たちの傲慢かもしれない……しかし、それでも前を向いて欲しいと、輝きに満ちた未来を掴んで欲しいとコシチェイは思うのだ。
「お節介やきな人達がこれだけ来ちゃったんだから、悩み事はお姉さん達に任せなさい!」
「はっはっは! 安心せい。神たる妾は、頼られるのに慣れておるぞ!」
 落ち着き始めた小さな背中を見ながらピオニーと菘が胸を張れば――ようやく少女は顔を上げて、花開くように微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

サンディ・ノックス
すぐナツキに語りかける

ご家族は無事だよ!
これから向かえば間に合う、ナツキさんも一緒にね
だって凶行は阻止するから
俺達は大切な娘が姿を消して心配しているご家族と会うんだもの
さ、起きてナツキさん
行こう、ご家族を安心させてあげよう?

ナツキと会話できる状況になったら
思っていることを聞かせてと言い
想いを形にさせることと
穏やかな表情でそれらを聞き肯定することで彼女の安定を図る
自分のカナエへの憎悪は絶対漏らさない

今後の不安については
俺達が来たのは繰り返させないためでもあるよと言う

司書には
悪いけどその子を返してほしいと伝える
戦闘はできれば避けたい

問いへの回答:こんなにも想い、悩む
俺達も彼女も君も存在するものだよ


テラ・ウィンディア
【料理】で炊き込みご飯のおにぎりを用意

…何だろう…違う…そうじゃない
そうじゃないんだ
確かにお前はこうなってる…でもやっぱりなんか違う

ああどういえばいいんだっ!
…よし

助けに来たぞ!!

お前だけじゃない!お前の家族も皆おれ達が助ける!
だけど…お前が助からなかったら家族だって悲しいぞ!

【戦闘知識】で動きを見据え
【見切り・第六感・残像・空中戦】で飛び回りつつ
おれ達がどんな存在だろうと!今ここにおれがいるのが事実!
それで十分だっ!

【属性攻撃】で全身と武器に炎付与
剣と太刀による【早業・二回攻撃・串刺し】による猛攻!

そうだ…やっと判った!

ナツキ!お前はもっと怒れ!自分が傷付いている事を!もっと叫べ!!!



 カノジョは暗闇の中に佇む。
 トモダチに抗い続け、愚直に意思を通し続け、絶望の果てに邪神となってしまったものが目の前にいる。
「……何だろう……違う……そうじゃない」
 カノジョを見て、テラ・ウィンディアは自分の胸元を掴む。
 胸の中に何かぽっかりと穴が開いたような、階段を踏み外した瞬間のような、そんな違和感を、テラはナツキに覚える。
「ご家族は無事だよ! だって凶行は阻止するから」
 そんなテラの横で、サンディ・ノックスはナツキへと呼びかける。
 家族の無事を、凶行を阻止することを伝え、ナツキに希望を与える……サンディの言葉は正しいし、理解もできる。
(「そうじゃないんだ。確かにお前はこうなってる……でもやっぱりなんか違う」)
 しかしながら、テラは胸の中がもやもやしているせいか、その言葉だけでは何かが足りない気がしてしまう。
 良く分からないが、何かが違う……その何かを解決しなければならないと、野生の感のようなものが告げている。
「このままでいいのかな……?」
 だからテラは、素直にそれを口にする。
 何をどうすれば良いのか分からないが、不安であると言葉にする。
 不安そうな声を聞いたサンディが、テラへと視線を移せば、テラの真っ黒な目が自分を見ていた。
「まずは話を聞いてもらえるように、呼びかけよう」
 テラの不安はおそらくトモダチとの関係の根元にある部分。
 けれども、まずはナツキに希望を与えてやらねば、そこまで踏み込めないだろう。
 分かっているよと、自分を見返してくるサンディの青い目が語っている気がして、
「うん……でも……ああもう! どういえばいいんだっ! ……よし、助けに来たぞ!!」
 テラは腹の底から思っていることを叫ぶ。お前を助けに来たぞと。
「お前だけじゃない! お前の家族も皆おれ達が助ける! だけど……お前が助からなかったら家族だって悲しいぞ!」
 助けに来たとテラが叫んだ瞬間、カノジョの手がぴくりと震えた気がした。
 本当に思っていることを言葉にする。結局はそれが一番相手に響くのだろう。そして家族に対するテラの言葉に裏表はない。
「うん、助ける。これから向かえば間に合う、ナツキさんも一緒にね」
 愚直ともいえるテラの言葉に、サンディも言葉を重ねる。
「俺達は大切な娘が姿を消して心配しているご家族と会うんだもの」
 一緒に家族の元に帰ろうと。
「さ、起きてナツキさん。行こう、ご家族を安心させてあげよう?」
 きっと、ナツキの家族はナツキを優しく迎え入れるだろう。
 よかったと抱きしめてくれるだろう。
 もしかすると、心配させたことを怒るかもしれない。
 けれど、それすらきっと愛おしい。
 誰かのためを思っての言葉は、何よりも暖かいものなのだから。
「……ワタシ……ハ」
「あなた方の、今の行動も、言葉も、予め世界に綴られた文字に過ぎない。そうは思いませんか?」
 ナツキの言葉は悪意によって遮られる。
 けれども、家に帰る……ありきたりで幸せな結末を求める声ははっきりと届いた。

 司書の問いかけと共に現れた御手によって世界は改変される。
 辺り一面氷と氷柱に閉ざされた世界へと。
 そして爆発的に成長する氷柱が、上下左右から巨大な槍となって迫りくる。
「なんでもありだね」
 サンディは正面から迫る氷柱の直撃を逆手に持った黒剣で防ぎつつ、氷柱の勢いに乗って後ろへ跳ぶ。
 後ろに飛んだ直後、一瞬前までサンディが居た場所に、左右から氷柱が飛び出してくるも、お互いにぶつかって空しく砕け散るばかりだ。
「悪いけどその子を返してくれないかな」
 それから半歩横にずれ、さらに地面から突き上げてくる氷柱を黒剣でたたき割りつつ、サンディは司書に声をかける。
「その子は家に帰る。そう決まっているんだから」
 もしすべてが予め決められているとしても、ナツキが家に帰る結末に変わりはないのだからと。
「そうだぞ!」
 頭上から聞こえた声にサンディが目を向ければ、そこには向かってくる氷柱を器用に蹴っては飛び上がるテラの姿があった。
 正面から迫る氷柱の先端に飛び乗って、体を浮かせ、上下から伸びてくる氷柱は体を捩じって避ける。
 避けたついでとばかりに、氷柱の横を蹴って移動し、背中から突き出された氷柱を振り向きもせずに紅龍槍『廣利王』の柄で防ぐ。
「ナツキは、おれたちと家に帰るんだ!」
 そして、避け切れぬとあれば炎を纏わせた廣利王を薙ぎ払って、迫りくる氷柱の悉くを蒸発させた。

 二人の言葉が届いたのか、司書は思案するような顔をすると、攻撃が止まりその姿が薄くなる。
 薄くなった司書の代わりに、おぼろげながらも見え始めたナツキ。
 しかしその姿は、小さく儚く……少しでも目を離したら、その間に消えてしまいそうなもの。
「ドウ……して……」
 ぼうっと、虚ろな目でナツキは問う。
 どうしてと。
 どうして消えさせてくれないのか、どうしてこんなにつらいのか、どうしてこんなことになってしまったのかと。
「ナツキさん。あなたの思っていることを聞かせて」
 ナツキの様子を見たサンディが優しく声をかける。
 どうしてと、少しでも今を疑問に思うのならば、思いを口にして欲しいと。
 それが分かればきっと打てる手もあるのだからと。
「そうだ……やっと判った!」
 サンディの言葉を聞いてテラは思い至る。ずっと感じていた違和感の正体に。
「ナツキ! お前はもっと怒れ! 自分が傷付いている事を! もっと叫べ!!!」
 ナツキはあまりにも自分の感情を出していなかった。
 テラのように、もっと叫べばよかったのだ。もっと自分を出してよかったのだ。もっと怒ってよかったのだ。
 でもそれはできなかった……これがトモダチとの関係の根本。
 しかしまだ遅くはない。
 今この場で全て吐き出せば、それを聞き届ける人がいる。この場には多くの猟兵がいる。
 二人の言葉を聞いたナツキの目に、僅かに光が戻った気がした。

「イイの……?」
 誰にも言えなかった。
 相談できなかった。
 これは私の問題だと思っていたから……私だけが我慢すれば良いと思ってたから。
 それがみんなのためだと思っていたから。
 でも、それで、我慢した結果で、家族が傷つくことになって。
 もう、一人じゃどうにもならなくて。
 カナエからは逃げられないんだと気づいて。
 何も考えたくなくなって……。
「助けてもらっても、いいの?」
 でも、本当は、誰かに助けて欲しかった。
 ずっと一人で寂しかった。怖かった。
 誰でも良いから助けて欲しいと、叫びたかった。

「ずっと、我慢していたんだね。頑張っていたんだね」
 ようやく紡がれた言葉に、サンディは穏やかな表情を見せ、ナツキのすべてを肯定するように大きく頷く。
「お前の想い……確かに聞いたぞっ!」
 頷くサンディの横で、テラは手にした槍に力をこめる。
 助けて欲しいと本人が口にした。
 誰にも助けを求められなかったのは辛かったと、心を明かした。
 ならばあとはそれに応えるだけでいい。
 心に引っかかっていたもやもやが晴れて、獲物を持つ手に力が入る。
「今すぐ助けるぞ!」
 サンディたちの言葉に、ナツキの目には確かな光が戻り……、
「お願……イ」
「この思考も、所詮は誰かの創造の産物。そうは思いませんか?」
 再び悪意によって、遮られたのだった。

 司書の問いかけとともに現れたのは、あらゆるものを絡めとり、切り裂く蔦。
「やっぱり、避けられないか」
 なるべく戦いは避けたかったが、司書を倒さない限りナツキは解放できないようだ。
「仕方がないね」
 ならば仕方がないと、迫りくる蔦の中でサンディは右手を掲げて……その先に、漆黒の大剣を作り出す。
 司書の使う御手は、想像が及ぶ範囲であれば何でもありだろうが、ユーベルコードとは元々そういうものだ。
 故に、その力と力をぶつけ合えば相殺することも可能。
「おれ達がどんな存在だろうと! 今ここにおれがいるのが事実! それで十分だっ!」
 サンディが漆黒の大剣で蔦を薙ぎ払い、切り落とす中をテラは駆ける。
 全身に炎を纏い、漆黒の大剣をかいくぐって迫りくる蔦を、星刃剣『グランディア』と無銘の太刀で薙ぎ払い、
「星よ……世界よ……流星の力を我が身に宿せ……!」
 その残骸を飛び越えて司書の頭上へと飛び上がり、身を捩って体を回転させると、まとわりつく蔦たちを二振りの剣で切り刻み燃やし尽くす。
「今こそ我が身、一筋の流星とならん……メテオ・ブラスト……受けろぉ!!!」
 そして回転の勢いをつけたまま司書の頭に、超重力を纏った踵落としを決めると……司書の体がぐらりと揺れた。

「こんなにも想い、悩む。俺達も彼女も君も存在するものだよ」
 塵となって消えゆく司書にサンディは答える。
 そこに想いがある。それこそが存在の証明なのだと。
 その言葉が司書に届いたかどうかは分からないが……消えゆく司書の代わりに塵の中から、膝をつき、俯いて泣きじゃくるナツキの姿が見えてくる。
 もう我慢しなくていいのだ。
 背負いきれない重荷を抱えて、絶望することもないのだ。
 ようやく……助けを求めても良いと言ってもらえた。
 だから、張りつめていたものが、涙となって零れる。
「さぁ、帰ろう」
 泣きじゃくるナツキにサンディは優しく声をかける。
「あとのことも心配しなくていいよ。俺達が来たのは同じことを繰り返させないためでもあるんだから」
 それからあとのことも全て任せてくれと伝えれば、ナツキは小さく頷く。
 自分の感情を素直に出すナツキをにこにこと見守っていたテラはふと何かを思いだしたように、鞄に手を入れて、
「あ、おにぎりを持ってきてたんだ! 食べるか?」
 取り出したお弁当箱を差し出せば――ようやく少女は顔を上げて、花開くように微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

カシム・ディーン
…ああ
縁って厄介ですね
嫌な奴とずっと関わり合いになる
そいつは確かに悪夢でしょう
消えたくもなりますね

僕もトモダチって奴は判りません
だが一つだけはっきりしています
あいつらはお前の友達じゃありません
お前を害なす敵です
そんな腐れた敵なんぞの為にお前が消える必要はないんですよ

【医術・情報収集】で司書の立ち回りを把握

【属性攻撃】光属性を全身に付与
光学迷彩で存在を隠す
先ずは認識をさせない

【迷彩】で更に存在を薄め

問いかけに
よくある問答ですね

どうあろうと僕らは僕らです
今ここに生きてるんですよ

たまぬき発動
【力溜め・盗み攻撃・盗み】で精度強化を行い司書の魂魄のみを盗み取りナツキへの負担を更に減らしにかかる!!


アンナ・フランツウェイ
(呪詛天使が肉体の主導権を奪った状態です)
さっきからウジウジとイライラさせるわね!アンナを絶望させて力を得ようと思ったけど気が変わったわ。アンナに代わり、私が人生の先達としてアンタを説教してやる!

確かにアンタにも責任がある。それは自分が嫌だと思った事に嫌だと言わなかった事。嫌だと言っちゃいけない決まりはないし、そんな友情なんか願い下げよ!

そしてカナエ達ごとアンタの周囲の人間を私が消すと脅そう。アンタはそんなの嫌じゃないの!?だったら自分の想いで私を否定して見せなさい!そんなの嫌だって!

司書から妨害を受けたら【呪詛】を流しこみ動きを止める。神だかなんか知らないけど、今私はこの子に説教してんのよ!



 暗闇の中でゆらりと女が立ち上がり、その闇に呑まれる様に少女の姿は消えてしまった。
 否、実際には消えていない。
 まだ少女の……ナツキの意思はそこにあるはずだ。
「……ああ」
 消えてしまった少女の姿を、思い出しカシム・ディーンは小さく息を吐く。
「縁って厄介ですね。嫌な奴とずっと関わり合いになる」
 この世界には素晴らしい出会いや縁がある。縁を結べただけで幸せになれる……そんな縁がある。
 だが一方で、関わったばかりに不幸のどん底に落とされる縁もある。
 そしてこの縁と言うものは、生まれながらの縁や、人を介した縁、またはふとしたきっかけで繋がれる縁など、自分の行動だけではどうにもならない部分がある。
「そいつは確かに悪夢でしょう。消えたくもなりますね」
 だからこそ、何かの拍子に禄でもない縁を結んでしまったら悪夢を見ることになる。
「ああ、もうっ!」
 それは消えたくもなると溜息を漏らすカシムの横で、アンナ・フランツウェイ……否、アンナの肉体を乗っ取った呪詛天使は頬を膨らませていた。
「さっきからウジウジとイライラさせるわね!」
 消えたくなるナツキにその気持ちはわかると共感するカシムとは違い、呪詛天使は怒っていた。
 自分の中に引きこもってうじうじとしている、はっきりと物事を言わない人間を見るとどうにも腹立たしい。
「アンナを絶望させて力を得ようと思ったけど気が変わったわ。アンナに代わり、私が人生の先達としてアンタを説教してやる!」
 そんな人間は説教してやるんだ! と、呪詛天使は片足で床を踏みつけながら剥き出しの感情をナツキに向ける。
 本当はアンナを絶望させて力を得たいところだが……それよりもうじうじしている人間の方を先に何とかしないと頭がどうにかなりそうだと、呪詛天使は床を踏む。
「ちょっと! 何か言いなさいよ!」
 そしてこれだけ感情をむき出しにしている人を前に無反応なナツキにどういうことなの?! と更なる怒りを見せ、
「まだそこに居るなら、声を聞かせてください」
 カシムもまた静かに語り掛ければ……ナツキの口がゆっくりと動き始め、
「……ワタシ……ハ」
「あなた方の、今の行動も、言葉も、予め世界に綴られた文字に過ぎない。そうは思いませんか?」
 しかし、紡がれようとした言葉は司書によって妨害された。

 司書が問いかけを口にすると、出現した御手が部屋の中を一変させる。
 辺り一面を、氷と氷柱で閉ざされた世界へと。
「嫌なタイミングで出てきましたね」
 あと一声かければナツキの声を引き出せたかもしれないのにと、カシムは呟きつつ大きく後ろへ跳ぶ。
 直後、カシムが居た床から氷柱が出現し、爆発的な速度で成長する……その様は床から突き上げる巨大な突撃槍のようだ。
 さらに後ろに飛んだカシムを追うように、次々と床から氷柱が生えてくる。
 カシムは床から生えてくる氷柱を軽快な足さばきで避け、左右から伸びてくる氷柱をルーン魔術を込めたソードブレイカーで、それを打ち砕く。
 一通りの氷柱を避けた、カシムが司書へ視線を向ければ、
「邪魔しないでよ!」
 自分の話を遮った司書に苛立ちの声を上げながら、呪詛天使は鋸状の刃を持つ大鎌を振り回していた。
 横なぎに、あるいは袈裟懸けに、絶え間なく円を描くように振り回される大鎌は、呪詛天使に近づく氷柱のことごとくを粉砕する。
「って言うかあの女、何言ってるのよ!」
 そして氷柱の勢いが収まってきたところで、呪詛天使が小首を傾げれば、
「よくある問答ですね……どうあろうと僕らは僕らです。今ここに生きてるんですよ」
 カシムは小さく首を振って答えるのだった。

 二人の様子に司書は思案するような顔をすると、完全に攻撃が止まりその姿が薄くなる。
 薄くなった司書の代わりに、おぼろげながらも見え始めたナツキ。
 しかしその姿は、小さく儚く……少しでも目を離したら、その間に消えてしまいそうなもの。
「ドウ……して……」
 ぼうっと、虚ろな目でナツキは問う。
 どうしてと。
 どうして消えさせてくれないのか、どうしてこんなにつらいのか、どうしてこんなことになってしまったのかと。
「アンタのせいよ」
 真っ黒な翼をゆらゆらと揺らしながら、呪詛天使は答える。
 緑色の瞳で真直ぐにナツキを見つめ、決してごまかさずに答える。
「そう、確かにアンタにも責任がある。それは自分が嫌だと思った事に、嫌だと言わなかった事」
 自分の言葉にぴくりと耳を動かしたナツキの様子を見逃さず、呪詛天使は続ける。
 嫌なものは嫌と、もっとはっきり否定していればこんなことにはならなかったのではないかと。
「嫌だと言っちゃいけない決まりはないし、そんな友情なんか願い下げよ!」
 そして嫌なものも嫌と言えない関係などトモダチなどではないと。
 そんな関係こっちから願い下げよと、呪詛天使は言い放つ。
「僕もトモダチって奴は判りません。だが一つだけはっきりしています」
 呪詛天使に続いてカシムが口を開く。
 カシムにとってトモダチとは未知な存在であるが、それでもはっきりとわかっていることがあると。
「あいつらはお前の友達じゃありません。お前を害なす敵です」
 徒党を組んで、暴力を振るってくる……それは敵だと。
 トモダチなどと言う得体のしれない存在ではない。
 正しく、分かりやすく、お前の敵だと。
「そんな腐れた敵なんぞの為にお前が消える必要はないんですよ」
 だから、ナツキが消えることは無いし、何一つ苦しむこともないのだとカシムは言う。

 カシムたちの言葉を聞いたナツキの目に僅かに光が戻った気がした。
「そうよ! アンタのトモダチは敵よ!」
 けれどもまだ足りない、まだもっと強く心を震わせる何かが必要だ。
「喜びなさい。カナエたちごと、トモダチ全員消してやるわ! そうね、ついでだからアンタの家族も消してやろうかしら!」
 そう判断した呪詛天使はナツキに冷たい目を向ける。
 つまらぬ人間たちなど、消してやろうと。アンタの周りの人間全部消し去ってやるぞと。
 呪詛天使から溢れる増悪は本気のものだ。このまま放っておけば本当にやりかねない。
「良いんですか? あの人、本当に全員消しそうですよ」
 カシムとしては止めるべきなのだろうが……それは、ナツキにその気があればの話だ。
「お願……イ」
「この思考も、所詮は誰かの創造の産物。そうは思いませんか?」
 カシムと呪詛天使に何かを願うナツキだが……その言葉は、再び現れた悪意によって遮られたのだった。

 司書の問いかけとともに現れたのは、あらゆるものを絡めとり、切り裂く蔦。
「アンタはそんなの嫌なんでしょ! さっさと否定しないから、またこんなことになっちゃうのよ!」
 体に巻き付こうとする蔦を、大鎌を回して切り裂きながら、呪詛天使は歯噛みする。
 またうじうじと悩んでいるから、大切な機会を失ったのだと。
 だが、このまま引き下がるわけにはいかない。
 何としてでも、ナツキを立ち直らせないことには、気になって世界を滅ぼすことに集中もできない。
「……アイツはどこ行ったのよ!」
 そして先ほどまで横に居たカシムの姿が消えていることに気づいて、呪詛天使は蔦を刈り取る大鎌の回転速度を上げていく。
(「ここに居ますが」)
 消えたと思われていたカシムだが、実はそばにいた。
 光属性を全身に付与し、光学迷彩の要領で見えにくくしているに過ぎないが……呪詛天使の目をごまかせたのは、上手く隠れられている証拠だろう。
 カシムは八つ当たりのように大鎌を振り回す呪詛天使に巻き込まれないように、ゆっくりと司書に近づき、徐々に右手に力をこめる。
 そして司書の真後ろまで回ったところで、
「万物の根源よ。我が手にその心をも奪い去る力を宿せっ……!」
 背中から心臓をめがけて右手を差し込んだ。
 たまぬきと名付けられたこの魔技は、司書の体を傷つけることなく、その核たる魂のみを抜き去る。
 カシムが右手を引き抜けば、その手に青白い玉のような物が掴まれて……司書の体が歪み、おぼろげになる。
 唐突に後ろから襲われた司書が慌てて振り返るも、カシムの姿はすでにそこになく、
「神だかなんか知らないけど、今私はこの子に説教してんのよ!」
 今度は、蔦の力が弱まったところを一気に駆け抜けた呪詛天使が正面から突っ込んでくる。
「人を……、世界を……、全て滅ぼせ……」
 呪詛天使は、大鎌を振り上げ力ある言葉を口にする。
 力ある言葉によって集められた、人間と世界を憎んで死んでいった者達の呪詛は大鎌にまとわりつき……そのまま振り下ろせば、呪詛の刃によって司書の体は裂かれたのだった。

 司書は黒い塵となって消えて行く。
 そして、消えゆく司書の代わりに塵の中から、膝をつき、俯いて泣きじゃくるナツキの姿が見えてくる
 その涙は、ようやく何もかもから解放された喜びに……あるいは、気付かされた自分の愚かさにだろうか。
 いずれにしてもナツキはナツキとして、戻ってきたのだ。
「お疲れ様です」
 その姿を見たカシムは小さく息を吐いてから、横で羽を揺らす呪詛天使に声をかけ、
「ふん、まだまだ言い足りないくらいよ!」
 呪詛天使は怒ったように横を向いたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】
さっきから繋がっているのなら、
ナツキちゃんとのテレパスはずっと切らさない。
その上で……

……よう、また会ったね。
っても司書さん、「今回の」アンタが知ってるたぁ限らないか。
何言ってるのかって?言わせんな野暮だねぇ。
第一、そこも分かってるだろうにさ。

そしてよぉ、引き寄せられたのなら同情しかないね。
アタシの物語を見たいなら、ナツキちゃんに憑くのは悪手だ。
今回アタシは、ナツキちゃんを救おうと動いてる。
傍観者を気取ろうとする奴が当事者になっててどうするのさ?

だから、司書さん。
ここは引っ込んどいてくれ。
この物語は、ナツキちゃんが主役なんだ。

全部、「ふたり」に対して語り掛けるよ。



 暗闇の中に佇む女。
「……よう、また会ったね」
 数宮・多喜は、その女に渋面を向ける。何故、多喜が渋面なのかと言えば、
「司書さん、だっけ」
 過去にこの女、司書と出会ったことがあるからだ。
 その時のできごと……観測者同士での掛け合い、支配者の介入、その果てに多喜は何かの確信を得た。
 しかし、それは湧いては消える泡沫。得たと思ったものは、いつの間にかその手から消える。
 記憶も、司書も、描かれた世界も、今自分が認識している多喜自身も、現れては消える泡の一つ。
 ぐるぐるぐるぐると世界は巡る。
 もっと早くに、気付いて居れば、行動できていればと言う後悔。
 数の暴力を前に強制的に屈せられ……声すら上げられない恐怖。
 どうにかしようともがけばもがくほど、誰かの犠牲無しではどうにもならない事実に気づいてしまう絶望。
 ぐるぐるぐるぐると思考は繰り返す。
 暗闇にあって尚深い闇へと思考は沈んでゆく。
「……っ!」
 自分の記憶と混じり合うナツキの想い。
 ぐるぐるぐるぐると回り続ける己の存在と観測者、後悔や恐怖、絶望が混じり合い、自分が別の何かに変じてしまったかのような錯覚すら覚える。
 このまま繋がり続けると我が誰だか解らなくなってしまいそう……だが、
「っても司書さん、『今回の』アンタが知ってるたぁ限らないか」
 多喜は司書へと語りかけながら、その繋がりを手放さない。
 手放したら二度と繋がりは生まれないと、決して手放してはいけないと知っているから。
「アタシは、知っているけどね」
 人ならざる者に変わってしまう、それを見送らねばならぬ。その想いを知っているから。
 心で繋いだ手を離さない。
「何言ってるのかって? 言わせんな野暮だねぇ。第一、そこも分かってるだろうにさ」
 しかしそれは心のやり取り、表面上は司書に対して一方的に戯言を言っているようにしか聞こえないだろう。
 そんな自分を、冷たく見つめる司書に肩をすくめ、
「そうだろう?」
 その瞳に、そしてさらにその奥に、多喜は語り掛けた。

「……ワタシ……ハ」
 繋いだ手から流れてくる多喜の想いが伝わる……それに応えるべくナツキが小さく口を開こうとするも、
「あなた方の、今の行動も、言葉も、予め世界に綴られた文字に過ぎない。そうは思いませんか?」
 ナツキの言葉を遮るように司書が問いかけを口にする。
 それから部屋の中は氷と氷柱で覆われた世界へと改変され……氷柱が爆発的な勢いで四方から伸びてくる。
 氷柱と言うと可愛げもあるが、そんな生易しいものじゃない、戦車すら貫きそうな大きさの氷柱が弾丸よろしく突っ込んでくるのだ。
 だが、多喜は伸びてくる氷柱の一つに飛び乗り、他の氷柱を避け、続けざまに真横から迫ったきた氷柱の先端だけを蹴り飛ばして丸くすると、さらにそれに乗って移動する。
 そうやって騎乗を繰り返し、何度か氷柱を避けている間に、勢いは収まり、
「その問答は、もう終わっただろう?」
 もう無駄なことはやめようぜと多喜は、司書の前に降り立った。

 司書は、多喜の回答に何かを考えこみ、その姿が薄くなる。
 そして、薄くなった司書と入れ替わるようにナツキの姿が現れる。
 ナツキの心から溢れるものは変わらず、後悔と、恐れと絶望……それから早く消えてしまいたいと言う願望。
「そしてよぉ、引き寄せられたのなら同情しかないね」
 絶望に引き寄せられるナツキの手を引き、多喜は続ける。
「アタシの物語を見たいなら、ナツキちゃんに憑くのは悪手だ」
 それから自分の物語に興味があるであろう司書に、あるいはその観測者に対して小さく息を吐く。
「今回アタシは、ナツキちゃんを救おうと動いてる」
 多喜はナツキを救うために動いている。
 それが意味するところは、この物語は多喜のための物語ではないということ。
「この意味、分かるだろう?」
 もし彼らが、自分の物語を見たいのならば、この物語を見続けるのは意味は無い。
 そして、この物語が誰のためのものかなどと、語るまでもない。
 しかし、この物語を始めるためには、その誰かが自らの足で立ち上がる必要があり……、
「お願……イ」
「この思考も、所詮は誰かの創造の産物。そうは思いませんか?」
 じっと自分を見つめる多喜の想いに、ナツキが応えようとするも、その言葉は再び司書によって遮られた。

 司書の問いかけによって、今度は部屋中に蔦が出現する。
 それはあらゆるものを絡めとり、切り裂く蔦。
「そうじゃないだろう」
 しかし、敵を絡めとるはずの蔦は、多喜には襲い掛かららず、多喜はその蔦の中を悠然と歩く。
「傍観者を気取ろうとする奴が当事者になっててどうするのさ?」
 直接手を下そうとする。
 それはもはや傍観者ではなく、当事者だ。ただの加害者だ。
 そもそも誰かに対して問いかけを投げる……その行為が既に、干渉であり、傍観者たりえないのだ。
「だから、司書さん。ここは引っ込んどいてくれ」
 だから傍観者になりたいのなら、どこかに引っ込んで居なよと多喜はサイキックナックルを握りしめ、
「なんで攻撃できないのかって? さっきからアンタとも繋がっているからだよ」
 司書の顔を思いっきり殴るのだった。

 司書は黒い塵となって消えて行く。
 そして、消えゆく司書の代わりに塵の中から、膝をつき、俯いて泣きじゃくるナツキの姿が見えてくる
 ずっと繋がり続けた多喜には、ナツキの心は分かっている……そしてナツキにも多喜の心が伝わっているだろう。
 悲しみも、苦しみも、残して逝かねばならぬものの気持ちも、残されたものの気持ちも、何もかも。
 そしてきっとこの思いもまた、伝わっていることだろう……けれども、これだけは言葉にしなくてはならないと、多喜はナツキに目を細め、
「この物語は、ナツキちゃんが主役なんだ」
 今度は本当の手を差し出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『人間の屑に制裁を』

POW   :    殺さない範囲で、ボコボコに殴って、心を折る

SPD   :    証拠を集めて警察に逮捕させるなど、社会的な制裁を受けさせる

WIZ   :    事件の被害者と同じ苦痛を味合わせる事で、被害者の痛みを理解させ、再犯を防ぐ

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●トクベツなトモダチ
 車も通らないような狭い道のわきに、ぽつんと一軒の家が立っている。
 家の中からは明かりが漏れ……中で人が生活していることがわかる。
 その家の前に、六人の若者が集まっていた。
 よくよくその姿を見れば、手に火を付ける機械や、良く燃える液体やら、固形のものやらを抱えているのが分かっただろうか。
 その家に火を付けようとしていると、分かっただろうか。
「え~? いまさらびびったの?」
「ちょっと火つけるだけだろ?」
「もうすぐ雨がふりそうだし、どうせすぐ消えるっしょ」
 流石にいざ火を付けようとすれば尻ごみもするのか、火種を持った一人の男に、周りの男女がけらけらと笑いかける。
 ちょっとした悪戯なのだと。
 ちょっとしたイベントなのだと。
 どうせ大したことになりはしないと。
「そうだよね? カナエちゃん」
 聞いてきたトモダチに、カナエはにこりと笑う。
 カナエの笑顔を見て、肯定されたと思ったのか、そのトモダチは早速準備に取り掛かる。
(「そんなわけがないじゃない。あなたたちは人殺になるのよ、ヒトゴロシに」)
 カナエは心の中で嗤う。
 ヒトは馬鹿だ。
 考えれば判ることも、集団になるとまともに判断できなくなる。
 特に道徳観や倫理観などと言うものは、集団の一体感と、イベントの興奮で簡単に打ち消せる。
 あとはワルモノを作り、自分が正しいと思わせてやれば、大抵何でもする。
 その結果が今の状況。
 自分の思い通りに動くトモダチを見ていると、楽しくなってくる。
 それに、この後もトモダチを使って色々楽しいことを考えているけれど、
「可哀そうな、なっちゃん……でも、なっちゃんはずっと可哀そうなままでいてね」
 なっちゃんはトクベツな私のトモダチ。シンユウなのだから。
 ずっと私の遊び道具でいてねと、カナエは満面の笑顔を浮かべた。
数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】

ナツキちゃん、安心しな。
アンタの家族には、絶対危害を加えない。
その前に「罪の意識」を覚えてもらうからさ。
こういう時、この夜の闇は便利だねぇ。
『闇に紛れる』ままにトモダチとカナエの近くを、
スマホでやかましく通話しながら通りすがるよ。
大声で「で、次は誰んトコに火をつけるのー?」とスマホに話し、
『コミュ力』でその意味に気付く時間を与えてから
「大丈夫!ほら、アイツも「裸の王様」だし?」
と嘲笑いながら遠ざかっていく。
ああ、もちろん狙った流れ矢さ。
前者はトモダチを、後者はカナエをね。
言ったろう、アタシは脇役。
後に続く皆とナツキちゃんなら、上手くやれるさ。
きっちり話、付けてきな。



 火種を持った男。
 仲間であるトモダチに煽られ、覚悟を決めたのか、その男が火を放とうとした時――。
「なになに? 良く聞こえなかったって?」
 不意になじみのない女の声が、人気の無いはずの道路から聞こえて来た。
 車の音も、足音も聞こえてなかったのに急に聞こえた女の声に、カナエとトモダチたちは声のした方へと顔を向ける。
 声の主……数宮・多喜はカナエたちの真後ろを、スマートフォンを片手に悠然と歩いて行く。
 もっとも、闇に紛れるように歩く多喜の顔はカナエたちからは見えなかっただろうが、
「で、次は誰んトコに火をつけるのー?」
 多喜はカナエたちに目もくれずに大声で話し続ける。
 火を付ける。
 その言葉を聞いた、トモダチはびくりと肩を震わせる……まさか、自分たちがこれからやろうとしていることがばれているのかと。
 そして、別の意味にも思い至る……自分たちの家に火を付けようとしているのではないかと。
 他人事だと、ただのイベントだと思っていた行為の矛先が自分に向く可能性を考えた瞬間、自分たちが行おうとしていた行為が恐ろしくなってきたのか、トモダチたちはどうする? と、お互いに顔を見合わせる。
 だが、やめようとは言えない。
 何故なら、トモダチの王様たるカナエより先にやめようと言い出す方が怖いからだ。
「大丈夫! ほら、アイツも『裸の王様』だし?」
 そんなトモダチの心を見透かしたように、見計らったように多喜は続ける。
 お前たちの王様は、裸の王様だと鼻で笑う。
 在りもしないものを、在ると信じ込んだ裸の王様。
 真実を見失い、都合の良いことだけを信じ込んだ裸の王様。
 そして、その王様が怖くて、馬鹿だと思われることが怖くて、在りもしないものを在ると言い続けた家臣たちがトモダチなのだろう。

 裸を指摘した子供よろしく、多喜の言葉はトモダチの頭を冷やすには十分だった。
 そして十分に時間は作った……ならば、あとのことは他の猟兵に任せておけば十分だろう。そう、
「……え? 私の家を燃やした? ちょっと何言って――」
 すでに彼らは行動を始めているのだから……多喜はカナエの素っ頓狂な声を聞きながら、そのまま暗闇に紛れるように夜道を歩いて行くのだった。

「ナツキちゃん、安心しな」
 ナツキの家から少し離れた街灯の下で、多喜はナツキと共に成り行きを見守っていた。
 成り行きと言うのは、他の猟兵たちによるカナエたちへの制裁のことだが……家が炎に包まれ、火柱が立つ。
「派手な演出ってやつさ」
 ナツキにとっては中々心臓に悪い光景が広がるが、多喜にはそれが猟兵たちの演出であることが分かる。
 そこまで無茶をする人は居ないはずなのだ……きっと。
 多喜がナツキを見守りつつ、待つこと暫し……転がるようにナツキの家から飛び出したカナエとトモダチたちが、そのまま走って逃げてくる。
 しかし、走るカナエたちの後ろからは、金色の目を持つ狼のような女が迫ってきて、
「なっちゃん!? ねぇ、助けて、私たちシンユウでしょう!」
 よほどその女が恐ろしいのか、恐ろしいことがあったのか、カナエの顔はぐずぐずに崩れて……ナツキの姿を見つけたカナエは、ナツキの前に跪き、縋るように抱き着いて懇願する。
「カナちゃん」
 抱き着かれたナツキが、カナエの肩に手を置いて声をかければ……助けてもらえると思ったのか、カナエはぱっと嬉しそうに顔を上げて――その頬をナツキはひっぱたく。
「……あなたは、私の敵だよ」
 何が起きたのか理解できないのかカナエは、はたかれた頬を押さえて茫然とナツキを見上げる……だが、それも数舜のこと。
 地面から現れた土人形たちがカナエと、トモダチたちを掴んで何処かへと連れていく。
「ナツキィ!」
 悲鳴と、罵倒と、懇願の声を上げながら連れ去らていくカナエたちを、ナツキは無言で見送り、
「頑張ったな」
 多喜が、その頭に手を置けば、ナツキは多喜にぎゅっとつかまり無言のままに肩を震わせるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御形・菘
まず取り出すは、じゃーん! AED! SSW製の最高級品!
さて、視聴者の皆には謝らねばならん
この先の映像はサウンドオンリー! 事情は察してくれよ?

エグい制裁は妾のキャラではない!
…逆に似合いすぎて、イメージダウン甚だしくてな
身体に傷つけるような真似もせんよ
だが一撃、確実に「止める」!

背後から静かに接近、一気にカナエへと身を巻き付け拘束しよう
訳も分からぬうちに落としはせんよ
顔を寄せて目を合わせ、にっこり笑いかけよう
はっはっは、夜闇には気をつけるがよいぞ
どんな不運な出来事が起こるか分からんからのう? きしゃー!

一般人相手には禁忌の技、全力の殺気を以て恫喝、恐怖を与える!
他の者たちは余波で十分よ



 女の話し声が聞こえ、カナエたちが固まっている中。
 御形・菘は物陰に隠れてカメラを回す。
 何のカメラかと言えば、それは動画配信用の映像を撮るためのカメラだ。大抵は天地通眼が勝手に録画しているけれど。
 神動画配信者たる菘は、何時如何なる時でも、自分の行動の録画は忘れないのだ。そして演出も忘れない。
 そんな菘がカメラの前で、パックのような何かを取り出すと、
「まず取り出すは、じゃーん! AED! SSW製の最高級品!」
 スペースシップワールド製のAEDを、深夜の通販番組よろしく紹介する。
 流石のスペースシップワールド製、とても小型でAEDには見えない、それだが……、
「SSWとは何かとな? ふふふ、それは秘密よ!」
 そんな事よりスペースシップワールドとは何ぞやと気になっているであろう視聴者に対して、菘は意味深長な笑みを浮かべる。
 乙女の秘密的な何かだから突っ込むなよと。
 そして、その笑みから一転、深々と溜息をついてから、菘は少し真面目な顔をカメラに向ける。
「さて、視聴者の皆には謝らねばならん。この先の映像はサウンドオンリー!」
 何時如何なる時でも、録画と演出は忘れない……その菘がこう言っているのだ。
「事情は察してくれよ?」
 妾を敬愛する視聴者諸君であれば、その事情は重々察せられるであろうと。

「……え? 私の家を燃やした?」
 ぷるぷるとなったスマートフォンを手にしたカナエが、動揺の声を上げるが、
「ちょっと何言って――」
「今から分かるから安心するがよいぞ」
 最後まで言い終わるのを待たず、カナエの体がびくりと跳ねる。
 それからびくびくと痙攣するカナエの体に、菘は蛇の下半身をまきつけ、何?! 誰?! どこから?! と驚愕の表情で自分を見つめるカナエに顔を寄せて、
「はっはっは! 妾は常に、闇の中におる」
 にっこりと笑いながらちろちろと蛇の舌を出して見せる。
 本当のところは、カナエたちがスマートフォンを片手に大声で話す女に気をとられていた間に、普通に近づいてAEDでショックを与えたのだ。
 そして何となく獲物を前に舌なめずりする自分を演出して見せるが……嵌りすぎてるじゃろうなぁと客観的に思ってみたりもする。
(「エグい制裁は妾のキャラではない! ……逆に似合いすぎて、イメージダウン甚だしくてな」)
 嵌りすぎているが故に、エグイ制裁とかは菘のキャラではないのだ。
(「ああ、やっぱりって言われてしまうからな……やっぱりってどういうことよ!」)
 いずれにしても誤解を与えるような映像は配信すべきではないし、配信されなくともやるべきではない。
 これも神たるものの配慮と言うやつであり、神たるものの配慮がある故に、
(「身体に傷つけるような真似もせんよ」)
 カナエの体を傷つけるようなことを菘はしない。
 ただ確実に止める手段を講じたまでだ。

 巻き付かれて訳が分からないと言う顔をしているカナエに、菘はさらに顔を近づけ、
「はっはっは、夜闇には気をつけるがよいぞ」
 夜闇には常に妾がいるのだぞと、脅しをかける。
「どんな不運な出来事が起こるか分からんからのう?」
 どんな出来事かは分からぬが、何が起こるか分からないぞと、いつでもその首へし折れるのだぞ? と蛇の尻尾でカナエの首を撫でながら菘は笑う。
「ひぃあ、はひぃ」
 首を撫でられたカナエは蛇に睨まれた蛙のように、脂汗を流しながら悲鳴のような返事をする。
 その様子に、菘は尻尾での拘束を解いて、
「きしゃー!」
 尻もちをついて地面にへたり込むカナエと、それを見ていたトモダチに殺気をこめた恫喝をするのだった。

「努々忘れるでないぞ」
 がくがくと震えるカナエとトモダチを、菘は金色の瞳でみおろしながら言い放つ。
 夜になるたびに、その闇の中に得体のしれない何かが居ることを思い出せと。
 いつでもその首を締め上げられる何かが居ることを忘れるなと。
 自分たちをみおろす菘を前に、カナエたちはがくがくと震えるように頷くばかりだ。
 その様子を見た菘は、暗闇の中に消えていく。
(「これで今後は大人しくなるだろうよ」)
 夜闇の恐怖の中に、自分と言う存在を確実に刻み込むことに成功したのだと――確かな確信をもって。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シル・ウィンディア
【罪を見せる】

わたし、あなたみたいに、人を物扱いする人は大嫌い
きっと、自分の思い通りにならなかったことはなかったんだね
…それじゃ、奪われる苦しみ、知ってもらおっか?

【オーラ防御】をカナエやオトモダチに付与して
【属性攻撃】で幻属性を付与

見せる幻は…
真に恐れている物を見せてあげるよ

特に、カナエ…
あなた、後悔しても遅いからね
見せる幻は、誰にも相手にされず、見向きされず
朽ち果てていく自分の姿
どれだけ呼ぼうが叫ぼうが、振り向く人のいない、そんな未来


…わたし、あなたみたいな人、大っ嫌いだから
だから…
醒めない悪夢にうなされ続けてね

テラ…
そっと抱き寄せて、涙を流させてあげるよ

…きっと、人じゃないんだ、あれは


テラ・ウィンディア
【罪を魅せる】

【属性攻撃】
幻炎属性を全身と…ナツキの家に付与

彼らが火をつけると共に幻の炎で家が壮絶に燃え上がる様子を見せる
実際にやれば本当にこうなる形の炎

実際の炎は阻止

おれ自身もナツキの家族の振りとして
全身炎塗れで焼け爛れながら藻掻く様子で彼女らの前に飛び出しのたうち

助けてっ…消防車呼んでっ…!(そう叫びながらも

え…なんで…スマホを向けて…?
なんで写真撮って笑ってる…?

え…こいつらオブビリオンじゃないよな…

なんでこんな楽しそうに…

シル
…おれ…虫以外でこんなに怖いって思ったの初めてかもしれない

あいつら…同じ人相手に…なんであんな事できるんだろぅなぁ…

(逃げていくカナエ達を見ながら…目をくしくし



 蛇の下半身を持つ女に脅され、尻もちをついたカナエとトモダチ。
 しかし、火を付けようとしていた方のトモダチたちはカナエたちの様子に気づいた様子もない。
「早く済ませようぜ!」
 先ほどから起こっている奇怪なことに、怯えつつも精一杯の虚勢を張って当初の目的を果たそうとしているようだ。
 だから彼らは気づかなかった。
 種火を持つ男の腕が、優し気な風貌の男に掴まれ、その火は放たれなかったことも、目の前で広がった炎があきらかに常軌を逸した勢いで広がったことも。

 猛烈な勢いで燃え広がる炎を前に、トモダチは呆然と立ち尽くす。
 それは、炎の勢いが想像をはるかに超えていたからか……あるいはあまりにも色鮮やかだったからか。
「いやあぁあ!」
 そして、茫然と見ていると家の中から悲鳴が聞こえ、数舜の間をおいて一人の少女が飛び出してくる。
 飛び出し、目の前で倒れた少女を見やれば、少女の体はいまだ炎に包まれ、かつては黒く美しかったであろう長髪が見る影も無く炭化し、体中が赤くただれていた。
 見るも無残な状態……普通であれば思わず目をそむけてしまっていただろう。
「た……助けてっ……消防車呼んでっ……! 家族が……まだっ……」
 だが、それでもまだ息があるのか、少女は懇願する。
 助けて、助けてと……家族がまだ家の中にいるのと。
 苦しみ藻掻き、息も絶え絶えに、手を伸ばして懇願する。
 少女の姿はとても哀れで、健気で……普通の人ならば手を差し出さずにはいられなかっただろう。
 しかし、
「え……なんで……?」
 少女、テラ・ウィンディアは目を丸くする。
 傷ついた人が居たら手を差し出す。そんな当たり前だと思っていたことを彼らがしなかったから。
「なんで……スマホを向けて……?」
 ましてや笑いながらスマートフォンを向けて来たから。
「証拠写真を撮っておこうぜ!」
 彼らの行動があまりにも想定外で、テラの思考が止まる。
 なぜ彼らがそんな行動をとるのか……彼らは疑わない、自分たちの行動が正当なものだと。だから、そんな行動をとる。
 異常なことが起こっていると心のどこかで思いながらも、その異常性に興奮して我を忘れている。
「なんで写真撮って笑ってる……?」
 しかしテラはそのことを知らない。だから、唖然と彼らを見上げるしかなかった。

 彼らがシャッターを押すよりも先に、その全身が青白い膜につつまれる。
「テラを、そんな目で見ないで」
「シル……」
 声のした方へ視線を向ければ、そこには氷のように青く冷たい目でトモダチとカナエを見つめるシル・ウィンディアの姿があった。
 大切な妹を、これ以上その下種な目で見るなと。
 ましてや、写真に収めるなどもってのほかだと。
 その目が雄弁に語っているようだった。
「あとは、わたしに任せて」
 纏っていた炎の幻をといて、普段の姿に戻った妹に……人の悪意と狂気に触れてどうしていいか分からないと目を丸くしている妹に、シルは優しく微笑んでから、
「わたし、あなたみたいに、人を物扱いする人は大嫌い」
 彼らの思考をそのように歪めた元凶……いまだに尻もちをついたままだったカナエに目を向ける。
「きっと、自分の思い通りにならなかったことはなかったんだね……それじゃ、奪われる苦しみ、知ってもらおっか?」
 それから、知れと告げる。
 奪われる苦しみを。
 何もかもを無くす恐怖を。
 もの扱いされる……未来に何もない絶望を、知れと告げるのだった。

「もう、後悔しても遅いんだからね」
 シルが右手を軽く振ると、カナエの前にも青白い膜が現れ……その中に幻が浮かび上がる。
 幻の始まりは今の自分。
 多くの人に囲まれ、みんなが自分の思い通りに動く、ちやほやされる自分。
 けれど……ある日、顔に傷がついたのをきっかけに、周りからは距離をとられ、孤独になっていく。
 孤独のままに月日は流れ、髪は荒れ、爪はぼろぼろで、肌はしわだらけになり、かつての姿は見る影も無くなる。
 親も年老い。身内も一人もいなくなり、家も失い。
 ある日気付いた、気付いてしまった。
 このまま死ぬのだと。
 誰からも見向きもされず、何も残せず、誰の記憶に残ることもなく、ただ朽ちていくのだと。
 そう気づいた時、カナエは叫ぶ。
 嫌だ、助けてくれと、助けてくださいと、けれども周りは誰も自分を見ない、まるで道端の石のように、誰も自分を気にしない。
 そして誰も見向きもされぬまま、さらに月日は流れていく……ただただ、延々と流れていく。
 誰にも記憶されることもなく、誰の思い出に残ることもなく……。

「……わたし、あなたみたいな人、大っ嫌いだから」
 きっかけは幾通りもあるが結末の同じ幻をカナエに見せ続ける。
 誰かも相手にされず、何をすることもできない日々、ただ延々と年を重ねるだけの日々を見続ける。
「だから……醒めない悪夢にうなされ続けてね」
 カナエのように何もかもを自由にし、未来も当然希望にあふれていると思い込んでいたような人には、無限に続く地獄のような幻だろう。
 シルは青白い膜の中から聞こえる叫び声を背に、地に伏したままのテラへと近づく。
 ――テラは、いまだに立ち上がれずにいた。
 炎に巻かれる女の子が居れば当然助ける。
 自分たちの罪を自覚して反省してくれる。
 テラは確かにそう考えていたのだが……その考えは脆くも砕かれてしまった。
「……こいつらオブビリオンじゃないよな……なんであんな楽しそうに……」
 ましてや笑うなど、その姿を写真に収めようなど、オブリビオンでもない、ただの人がそんなことをするのかと信じられない様子で俯いている。
「テラ……」
 人の所業に、打ちひしがれた妹にシルは手を差し出す。
 差し出されたシルの手に、テラは一瞬びくりと肩を震わせる。
 先ほど、差し出されなかった手を思い出し……彼らの歪んだ顔を思い出して、得も言われぬ恐怖を覚えてしまったのだろう。
「テラ、大丈夫だよ」
 そんなテラに、シルは優しい笑みを浮かべて、この手を取って欲しいと、再び手を差し出し、
「シル……おれ……虫以外でこんなに怖いって思ったの初めてかもしれない」
 テラは恐る恐るその手を取って、ようやく立ち上がった。
 あの得も言われぬ恐怖……それは虫を見たときと同じ恐怖だったと、身を震わせながら。
「あいつら……同じ人相手に……なんであんな事できるんだろぅなぁ……」
「……きっと、人じゃないんだ、あれは」
 そしてシルは、まつ毛を濡らす妹の頭に手を回して――そっと、抱き寄せるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

カシム・ディーン
ユベコ発動
ゴーレム群で全員を攫い拘束

あのホテルの広間を利用


お前らの好きなゲームです

友情があれば被害は最小にできますよ

トモダチ
まずお前らの利き手を焼きますね(属性攻撃で鉄棒に炎を付与して赤熱させ
うん?嫌?
宜しい…ではそこのカナエちゃんの顔に先を押し付ければ免除します(一人に鉄棒持たせ
逆らったらお前の顔面を焼きます(己の手に炎を宿し
彼女の顔と利き手何方を護るか選ぶのは自由

友達なら自分を…おやおや

カナエ
次はお前の利き手の指を焼きます
ああ
彼らの顔面を焼けば免除しま…おや積極的にトモダチの顔に焼けた鉄棒を…

何度もこのゲームを繰返
最後に【医術】で治療
但し火傷跡を全員顔に残す

彼らの後の関係が楽しみですね



 誰も居ない、何もいないホテルの広間。
 先の戦闘であちこち壁や床に穴が開いてしまっているが、それでもまだ崩壊するほどではなかった。
 そのホテルのホールにどたどたと、カナエたちを担いだゴーレムが入って来れば、暗闇の中から人影が現れる。
「やぁ、お帰りなさい」
 暗闇の中に人影を見た瞬間、カナエたちは恐怖におびえるような顔をするが……その姿がカシム・ディーンであることに気が付き、ほんの少しだけ安堵した様に息を吐く。
「お願い……もう、許して……」
 それから、カシムに対して許しを請うが、
「お前らには、何か許されたいことでもあるのですか?」
 カシムは何のことだか分からないと肩をすくめる。
 カシムの様子にカナエたちは先ほどから自分たちの身に襲い掛かる異常なできごとと、この男は別のものなのかと考える。
「そんなことより。お前らの好きなゲームをしましょう」
 カナエたちの様子を見ていたカシムは面白いことを思いついたとばかりに、手を叩いてゲームを提案する。
「ゲーム……?」
 ゲームと言われてカナエたちは顔を見合わせて、
「そうです。お前らの好きなゲームです。何、友情があれば被害は最小にできますよ」
 カシムは表情一つ変えずに、言い放つのだった。

 被害と言う単語に嫌なものを感じたカナエたちはふらふらと立ち上がろうとするも、その体はカシムのゴーレムによって押さえつけられる。
「まずお前らの利き手を焼きますね」
 カシムはゴーレムで押さえつけたトモダチたちに近づき、炎で真っ赤に焼けた鉄の棒をその手に当てようとするが……、
「うん? 嫌? 宜しい」
 当然トモダチは嫌だ、止めてくれと懇願してくる。
「……ではそこのカナエちゃんの顔に先を押し付ければ免除します。逆らったらお前の腕を焼きます」
 それを見たカシムは大きく頷き、その懇願を受け入れてやろうと、代わりの条件を出す。
 つまりトモダチの一人に、その焼けた鉄棒を渡し、尚且つ断れば利き手を焼くと自分の手に炎を宿して見せて。
「い、嫌だ――アアァアアァ」
 しかしそのお友達は、ふるふると首を横に振ったので、間髪を容れずにカシムはそのトモダチの腕に己の手を当てた。
「お前はどうしますか? 彼女の顔と自分の利き手、何方を護るか選ぶのは自由。友達なら自分を……おやおや」
 それから絶叫を上げるトモダチを、そのままに別のトモダチに尋ねてみれば、
「ごめんねカナエちゃん!」
 そのトモダチは迷うことなく、カナエの顔に焼けた鉄棒を当てるのだった。

 ホテルの中に響き渡る二つの絶叫。
「次はお前の利き手の指を焼きます」
 その声の主の一人であるカナエが、ある程度落ち着いたところでカシムはカナエに語り掛ける。
「ああ、彼らの顔面を焼けば免除しま……」
 トモダチに出したのと同じ条件で、焼けた鉄棒を渡してみると、
「……のやろう!」
 激昂したカナエは迷わずに、先ほど自分の顔を焼いたトモダチの顔に焼けた鉄棒を叩きつけた。
「おや積極的にトモダチの顔に焼けた鉄棒を……」
 迷わずに鉄棒をとったカナエに、カシムは肩をすくめるが……その表情は最初に挨拶したときから何一つ変わっていないのだった。

「もうやだぁ……許して……助けて……」
 お互いに焼けた鉄棒を押し付け合わせるゲームを何度かやらせたところで、息も絶え絶えにカナエが懇願してくる。
 カナエもトモダチもどちらの顔も酷いやけどを負い、下手すれば死んでしまいそうだが……気を失うことも、死ぬことも決して叶わない。
「大丈夫ですよ。お前らは何も許しを請う必要がありませんので、ずっとこのままです」
 何故ならカシムが重症化しない程度のところで治してしまうからだ。
 そしてここに至ってカナエたちは気づく……許しを請う必要が無いと言うのは、何をしても許されないという意味だ。何故ならその必要が無いと言われているのだから。
 このゲームはカシムの気が済むまで続けられる。
「うーん、あまりすっきりしませんね」
 だが、カシムの気が済むことは無い。
 これをやれば少しは気が晴れるかと思ったのだが、思ったよりも気が晴れなかったのだ。
「あ、でもお前らの今後の関係を考えるのは楽しみですね」
 ただ、これからのことを考えると少しだけ楽しみで……カシムがほんの少しだけ笑ったように見えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ピオニー・アルムガルト
あらあら、貴方達こんな所でなにをしているのかしら?お姉さん興味津々!
子供達だけの火遊びは超危険よ、お姉さんが手伝ってあげちゃうんだから!と、炎の竜巻で逃げ道を塞いじゃうわ。
行き過ぎた子達にはダークセイヴァー仕込みの【殺気】を放ちながら真面目にお説教よ!
カナエは人心掌握や標的を弱らせる手際などその歳でなかなかな才能の持ち主ね!
しかし強者でもいつでも狩られる側にもなり得ると覚悟が無い者がどうなるか教えてあげるわ!そもそも同族同士なんだから仲良く助け合わなくちゃいけないわ!
改心しないと何処までも【追跡】して心折れるまで同じ事をしちゃうわよ?



 炎のような髪の色の男を前にカナエはぶくぶくと泡を吹いて気絶する。
 その様子を見たトモダチは我先に逃げ出そうとするも……恐怖のあまりに足がもつれてうまく走れない。
「あらあら、貴方達こんな所でなにをしているのかしら?」
 前のめりに転んだその先で、ピオニー・アルムガルトはあらあらと口元に手を当てて、大丈夫? と手を差し出す。
「た、助けて!」
 突然現れた、人の好さそうなお姉さんにトモダチたちは藁をも掴む思いで助けを求める。
 道端で見ず知らずの人が必死に助けを求めていたら助けるだろう。当然だろうと、彼らは助けを求める。
「何があったのかしら? お姉さん興味津々!」
 そう、彼らのように助けを求める人をスマートフォンで撮影などしないのだ……ナツキの家の方からの突き刺さるような視線を感じて、ピオニーはふさふさのお耳をぴくりと動かしつつも、素知らぬ顔でどうしたのかと聞く。
「ば、化け物が俺たちを殺そうと……」
 するとトモダチたちは、口々に化け物がでたと、自分たちを殺そうとしたのだと、被害を訴え、
「まぁ! それは大変だったわね……それより、その子も起こしてあげなくちゃ可哀そうだわ」
 それを聞いたピオニーは同情した様に頷きつつも、彼らの後ろで倒れたままのカナエを起こしてあげないとと、促す。
 促されたトモダチたちは、渋々と言った様子でカナエの肩をゆすれば……ようやくカナエは意識を取り戻す。
「カナエちゃんも起きたわね。うん。で、そのバケモノって、こんなだったかしら?」
 そしてそれを見たピオニーは、良かった良かったと手を叩きつつ、カナエたちの退路を塞ぐように炎の渦を作り出したのだった。

「子供達だけの火遊びは超危険よ、お姉さんが手伝ってあげちゃうんだから!」
 ひぃ!? と炎の渦にたじろぐカナエたちに、ピオニーは金色の目を向ける。
 ピオニーの金色の目に宿る冷たいもの、それは先ほどから何度か経験してきたカナエたちには分かるもの……つまりは人を殺せるものの目だ。
「で、何を燃やせば良いのかしら? 人に頼ってばっかりの悪い子たちかしら?」
 その目を向けつつピオニーは淡々と問いかけ、トモダチたちに向けて炎の渦をじりじりと近づける。
 人の言葉を借りて、人の言いなりになり、人が作った居場所で漫然と過ごす。
 そして、人に言われるがままに誰かを攻撃し、悦に浸る。そんな悪い子たちは燃やしちゃった方が良いのかしら? と。
「それとも、人の心を弄んだり、いじめを誘導しちゃう悪い子かしら?」
 口々に助けを求めながらカナエの方へ移動したトモダチたちから、カナエへと視線を移し……今度はそちらへ炎の渦を近づける。
 人心掌握や、目標を弱らせる。カナエの歳でそれが出来るのは中々の才能の持ち主だとピオニーは思う。
 しかし強者でもいつでも狩られる側になりえるのだ。
「あなたは強者で狩る側。それは間違いないわ。でも、狩る側でも狩られる覚悟が必要なの。何故だと思う?」
 炎の渦で板挟みになり、団子状態となったカナエとトモダチにピオニーは問いかける。
 何故、狩る側が狩られる覚悟をしなければならないのかと。
 ピオニーの問いに、カナエは首を横に振るばかりだが、
「この世界に絶対の強者なんていないからよ」
 ピオニーは小さく息を吐いて回答を口にする。
 強者は次の世代の強者によって狩られる。それがこの世の常だからだ。
「だから、あなたは今から狩られるの。あなたがやった仕打ちを上乗せされてね!」
 そして、そこには狩る側だったときの業が上乗せされるのも世の常だ。

 炎の渦がカナエたちの目の前を通り過ぎ……間一髪炎に巻きこまれなかったカナエたちは慌てて走り出し、
「そもそも同族同士なんだから仲良く助け合わなくちゃいけないわ! ……あれ?」
 だから悪いことはやっちゃだめだし、同族同士仲良くしなさいなんて目を閉じて頷くピオニーの横を駆け抜けた。
「次は追いかけっこかしら! 負けないわよ!」
 逃げるならそれはそれでよいのだ、どうせ改心するまで同じことを繰り返すつもりでいたから……ただし逃す気はないけれど。
 何時まで持つかしらねと、そんな彼らの後を追ってピオニーも駆け出すのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アンナ・フランツウェイ
これでナツキは助けられたけど、まだ本当の意味では救えていない。だからこそこの子を元の日常へ戻す為にも、お姉さんとしてこの呪詛天使が力を貸してあげるわ。

まずはカナエとその家の電話番号を【情報収集】、最初に家に電話しカナエが警察に補導された旨を伝え、家族を外におびき出し家から離れたら用意したガソリンを上空から家に撒き、火をつけるわよ。

次にカナエに電話し家が燃えている事を伝え、カナエとその取り巻きに自分たちが何をしようとしていたか、今後ナツキを虐めたらどうなるかを悟らせてあげるわ。

何故ナツキの為にここまでするかって?そりゃ彼女が亡くした妹分に似ていて、元お姉さんとして放っておけなかった。それだけよ。



 厚い雲に覆われた空を飛ぶ影が一つ。
 その影によくよく目を凝らせば、真っ黒な翼と、黒い服装に身を包む少女であることが分かっただろう。
 少女の名前はアンナ・フランツウェイ……否、今はその体を乗っ取った呪詛天使だ。
「この家ね」
 呪詛天使は、村の中にある大きな一軒家の上空で静止する。
 その家は、あらかじめナツキから聞き出したカナエの家だ。

 ――話は少し遡る。
 邪神となる前にナツキを助け出した猟兵たちは、次の行動の準備を始めていた。
「アンタまさかこれで助かったと思ってないでしょうね?」
 その中で茫然とするナツキに呪詛天使は話しかける。
 邪神化を免れただけで助かったと思ってないだろうかと、家族を助けてもらえるだけで十分だと思ってはいないだろうかと。
 呪詛天使の言葉を聞いたナツキは不思議そうな顔で見つめて来て、
「はぁ……やっぱり分かって無いのね。元の日常に戻らないと助かったとは言えないわ」
 そんなナツキに呪詛天使は深々と息を吐いた。
 ナツキが日常を、平穏な暮らしを送れるようにならなければ、助かったとは言えないのだと。
 そこまでして初めて助かったと言えるのだと。
「仕方がないから、お姉さんが力を貸してあげる」
 どうしてそんなことも分からないのだろう。本当にダメな子ね、仕方がないわねと呪詛天使は首を横に振り、
「カナエの家を教えなさい。ちょっと話をつけてきてあげるわ」
 ナツキからカナエの家の場所を聞き出すのだった。

 そして時は今に戻る。
「それじゃ始めようかしら」
 呪詛天使はスマートフォンを取り出すと、ナツキから聞き出したカナエの家に電話をかける。
「アンタの家の娘が、万引きで補導されたわ。すぐに迎えに来なさい」
 コールすること数回。誰かが出ると、その相手が話し始めるよりも早く、呪詛天使は端的に要件を告げる。
「え? 私が誰かって? 考えればすぐにわかるでしょ! ごちゃごちゃ言ってないでさっさと迎えに来なさい!」
 それから何やら細かい説明を求めてきた相手に対して、考えれば分かると一蹴し、そのまま電話を切る。
 何とも横暴な態度であるが、直接話さないと話にならない感が良かったのか、電話を切ってからすぐ家の中から人が出てくる。
 その人たちが車に乗って移動し、家の中に人気が無くなる様子を、呪殺天使は上空から見つめ……ガソリンをばら撒き、火を付けた。

 景気良く燃える家を眺めながら呪詛天使は再びスマートフォンを手に取る。
「アンタの家に火を付けたわ」
 通話先は、もちろんカナエである。
 そのカナエに自分の家が燃えている事実を伝える。
 アンタたちのやろうとしていたことを先にやってやったと、これがアンタたちのやろうとしていたことだと。
 そして、いとも容易くそれをやれるものが居ると言う事実を伝えてやる。
「ちょっと何言って――」
 カナエとの通話はそこで途切れたが、伝えたいことは伝えた。
 それにこの事実は、今すぐにではなく、あとから効いてくる類のものだ。
 また悪さをしようとした瞬間。
 誰かを陥れようとした瞬間。
 ふと思い出すのだ。
 自分の家が焼かれたことを、容易くそれを成すものが居ることを。

 だからこれで十分。
 呪詛天使はスマートフォンをしまうと大きく伸びをして……ふと、ナツキに聞かれたことを思い出す。
 何故、そこまでしてくれるんですか? と。
(「そりゃアンタが亡くした妹分に似ていて、元お姉さんとして放っておけなかった。それだけよ」)
 本人には絶対に言わないけれど、たったそれだけのことよと、呪詛天使は呟いて……曇天の夜空に翼を広げるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

サンディ・ノックス
※ダーク要素の加減含めアドリブ歓迎

他者を踏み躙るのは当然、それをおかしいと思わない
特に力のあるヒトが持つ傾向で、そういうヒトこそ俺の一番の敵
さ、敵を片付けよう

ナツキは家族の元へ向かわせて
まず火種を持つトモダチの手首を掴んで阻止しつつ
やあ、人殺しさん
等と人殺しという言葉を強調し話しかけ、自分達がしようとしていたことを気付かせる
気付かせたらそれで充分
後は彼らの良心が彼らに罰を下すだろう

続いて敵に
諸悪の根源を処分しないとね?
と微笑む
殺してはいけないのはわかっているけどそれは特技の【演技】で隠して
敵への溢れ出る殺意だけを向けて剣を振る
一発で終わると思ったの?
再起不能になるくらいに【恐怖を与え】てあげる



 蛇の下半身を持つ女に脅され、尻もちをついたカナエとトモダチ。
 しかし、火を付けようとしていた方のトモダチたちはカナエたちの様子に気づいた様子もない。
「ちょ、ちょっとま――」
 種火を投げようとしていた男の手首を、サンディ・ノックスは掴む。
 唐突に現れ、優し気ともいえる相貌で自分を見つめるサンディに、男はびくりと体を震わせ……続いて家から火の手が上がると、男はあんぐりと口を開いたまま固まる。
「やあ、人殺しさん。火なんて放ったら人は簡単に死んでしまうよ?」
 確かに種火は投げられなかった。
 なのになぜ火が付いたのか、その理由を理解できずにいる男に、サンディはにこやかに口を開く。
 男には理解できるはずもないだろう、目の前で燃え盛る炎が猟兵の手による幻だなどいう事実は。
 だが、もしも家に火を放てば、中に居る人は簡単に死ぬ。
 つまり火を放つということは、人を殺すのと同義なのだと、お前はそれをしたのだとサンディは男に語り掛ける。
「ほら、見てよ」
 そして、火を放った結果を示すように、彼らの前に、火にまみれた女の子が姿を現す。
 その女の子は、酷いやけどを負い……助けて、助けてと、苦しそうに手を伸ばし……、
「あの子はもう助からないよ。どう? 人を殺した気分は」
 女の子の姿に言葉を失う男の耳元で、サンディは囁く。
 これがお前たちがやった結果なのだと、誰かの人生を奪った気分はどうかと、問いかける。
 サンディの言葉に、男は口をさえ……自責の念に堪えかね膝を折った男を置いて、サンディは次の目標へと向かう。

 幻の炎が消え、カナエを包んでいた繭のようなものも消える。
 繭の中から出てきたカナエは、地面に座り込んで荒い息を吐いている。
「ぐえっ!」
 そんなカナエの背中をサンディが蹴れば、カナエは蛙のような声を出して、地面に這いつくばる。
「こんばんは、カナエさん」
 這いつくばったカナエが振り返るよりも早くに、その背中を踏みつけ動けないようにしてからサンディは微笑みを浮かべて挨拶をし、
「人に踏みつけられるなんて初めてかな?」
 徐々に体重をこめながら、聞いてみれば、
「あ、当たり前でしょ!」
 カナエからは案の定な答えが返ってきた。
 予想通りともいえるカナエの答えに、サンディは小さく息を吐く。
(「他者を踏み躙るのは当然、それをおかしいと思わない」)
 世の中には他者を平然と踏みつける人が居る。
 目の前を横切った虫を潰すのと同じように、何のためらいもなく、当然のように、他者を踏みにじる人が居る。
(「特に力のあるヒトが持つ傾向で、そういうヒトこそ俺の一番の敵」)
 そしてそれは力のある人の傾向だとサンディは知っているし、それが自分の敵なのだとサンディは認識している。
 だから、そんな敵はさっさと片付けなければならない。
「それじゃ、諸悪の根源を処分しないとね?」
「なん……ぐぇ!」
 なんでそうなるのよと抗議の声を上げようとしたカナエだが、その言葉を最後まで言うことはできない。
 サンディがカナエの髪の毛を掴んで持ち上げたからだ。
 それからサンディは髪の毛を掴んでいない方の手で、黒剣を持ち上げ、これ見よがしにカナエに見せつける。
「……や……やめ……」
 黒剣を見たカナエは恐怖にひきつった顔で、剣を凝視し……サンディはカナエの首めがけて黒剣を振るった。

 黒剣が振るわれ、カナエはきつく目を閉じる。
 すぐに来ると思われた痛みなどは来ず……カナエが恐る恐る目を開けば、黒剣はカナエと地面に間に突き刺さっていた。
「一発で終わると思ったの?」
 外れたのだと、ほっと息を吐くカナエをサンディは氷のような青い目でみおろし、掴んでいた髪の毛を離す。
 すると持ち上げられていた頭が、地面に向かって落ちて……その先には黒剣の刃が待ち受ける。
 すんでのところで、カナエは首を持ち上げ、首から上が胴体から離れるのを免れたが、
「頑張らないと、首が切れちゃうよ」
 サンディがカナエの背中に体重を乗せれば、カナエの体が沈んで、黒剣が近くなる。
 そもそも長時間持つような姿勢でもないのだ、徐々に……徐々に沈んでいく首は、やがて黒剣の刃に触れて、
「いやあぁああ……アアアァア!」
 カナエは最後に絶叫を上げると、ぶくぶくと泡を吹いて気を失ったのだった。

「ここまでかな」
 カナエが気を失う寸前に、黒剣を引き抜いたサンディは息を吐く。
 これでカナエはこの先、誰かを踏みつけようなどとは思わないだろう……もしも同じようなことをすれば、きっと今日のことを思い出すのだから。
 カナエのこれからのことを考え――サンディは少しだけ口元を緩めると、闇に紛れるように姿を消すのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

バーン・マーディ
【罪を魅せる】

事前
ナツキの家族構成と部屋割りを確認

また火事の場合の避難経路も確認

…正義とは恐ろしい物だ
躊躇いをなくす
より残酷に悪逆を成す

直接の対処はあの双子に任せ

騎士団招来(皆私服

5人はカナエ達に気づかれないように放火行動をきっちりとカメラで全員の顔が分かるように動画を撮影

火が燃え移り燃え上がった処で突入



家に損害が出た処で救出開始

火事だ!こちらから出るんだ!
【オーラ防御】でナツキの家族を守

確実に守り切る



騎士団と共に消火救出行動開始と共に119通報
家自体が完全に燃えぬように

消防が来れば即離脱

警察に匿名で撮った動画を送付

この国の警察は優秀だったな

年に一度…ナツキ達にその動画を送り続け

咎は消えぬと示



 家が炎に包まれる。
 例えそれが幻だったとしても、何も知らないものからすれば恐怖しかない。
 否、幻だと知らなければ、それは本物の炎と同じように人を焼き殺すこともあるだろう。
「火事だ! こちらから出るんだ!」
 唐突に火の手があがり、訳も分からず呆然としていた、ナツキの家族たちの前に、屈強な男が現れる。
「え? あなたは?」
 唐突に現れた屈強な男……バーン・マーディにナツキの家族が戸惑いの声を上げる。
 当然だろう。
 火の手が上がり、見知らぬ男が入ってきたのだ。
 どうして良いか分からないし、何が正しいのかも分からない。まっとうな判断などできようはずもない。
「ナツキが外で待っている。急いで行くぞ!」
 しかし、その男が、帰りを待ちわびていた娘の名前を出したとなれば、話は別だ。
 仮にこの男が嘘をついていたのだとしても、真偽を確かめるためについていくほかないのだ。
 ナツキの家族たちは頷き合うと、早く来いと手招きをするバーンの背を追って走り出すのだった。

 幻とは言え、炎に触れるのは危険だ。
 人は思い込みで怪我や火傷を負うのだから……バーンは燃え盛る炎にオーラを被せて道を作り、家族たちを誘導していく。
 事前にナツキから間取りを聞き出し、脱出経路を確定させていたこともあり、バーンたちは無事に炎に包まれる家を脱出することができた。
 そして裏口から外に出ると、バーンたちを待っていたかのようにナツキと野性味のある目をした女が立っていた。
「お母さん!」
 家族の姿を見たナツキは、子供のように抱き着き、家族もそれを温かく迎えている。
 何があったのかは聞かないが、ナツキや猟兵たちの様子から何かがあったのだろうと察し、無言で抱きしめ返しているようだ。
「来たな」
 その様子を見守っていたバーンだが、入り口の方からこちらに向かってくる騎士団の姿に気づき、そちらへ目を向ける。
 予め呼び出しておいたデュランダル騎士団の内の数名に、カナエたちの所業をカメラに収めるように指示しておいたのだ。
「さて……」
 騎士たちからカメラを受け取ったバーンはその中身を確認する。
 そこに映っていたのは……嬉々として火を放つトモダチたち。
 炎の中からできた女の子にスマートフォンを向けて、写真を撮ろうとする者たち。
(「……正義とは恐ろしい物だ。躊躇いをなくす。より残酷に悪逆を成す」)
 自分が正しいと思い込んでいるものほど性質の悪いものは無い。
 正義の名のもとに、悪以上の悪を成す……あまり気分の良いものとも言えない映像を、ナツキたちに気づかれない内に見終わるとバーンは次の行動を開始した。

 幻の炎ではなく、本当に燃やされているカナエの家を眺めながらバーンは、消防に電話をかける。
 それから、ホテルから騎士たちに運び出させたカナエとトモダチを少し離れたところに転がし、おまけとばかりにカナエたちが火を付けるために用意していた道具も置いておく。
「程よく火傷も負っているようだ。言い逃れはできまい」
 火事場の近くに、火を付ける道具を持ったものがおり、さらには火傷も負っているとなればどうなるか、考えるまでも無いだろう。
 しかし、それだけでは疑惑として終わる可能性もある。
「この映像もあとで警察に送るとしよう。この国の警察は優秀らしいからな」
 他の場所だとしても火を付けようとした過去を持てば、疑惑は確信に変わる……それで全ては終わるのだ。
 消防が鳴らすサイレンの音を聞きながら、バーンはその場を後にするのだった。

 後日。
 ようやくあの日の恐怖を忘れ始めたカナエたちの元に、映像データが送られてくる。
 咎は消えぬのだと。
 一度犯した罪は、命ある限り付きまとうのだと、あの恐怖はいつでもまた現れるのだと……その映像を見たカナエたちは思い知るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

コシチェイ・ヴォルノーイ
まずは、廃ホテルで召喚した使い魔にカナエ達を拘束させ無力化します。

『 貴女方には文字通り、地獄を観てもらいましょう』
UCを使い、門の隙間から〝地獄の炎によって絶え間無く身体を焼かれ続ける責め苦を受ける亡者達″の様子を強制的に覗かせます。そうする事でカナエ達の心を折り、罪を犯した者の末路を理解させます。
 
最大の目的は、罪を戒める事です。そのため、カナエ達をどうするかの判断は他の猟兵やナツキの意思に委ね、具体的なお仕置きはこれだけに留めます。

また、使い魔を一体監視につけておき、また誤ちを繰り返すならば容赦しないと念押ししておきます。

その他の行動・台詞等についてはお任せします。
※改変・アドリブ大歓迎



 黒衣の男が去った後。
 廃ホテルの中にはカナエとそのトモダチたちだけが残っていた。
 彼女たちの様子を見れば、あるものは虚空を見つめ、あるものはぶつぶつと何かを呟き続けて……心身ともに大分やられているようだ。
「さて、既に大分お仕置きを受けたようですが……」
 そんなカナエたちの前に立ち、コシチェイ・ヴォルノーイは顎の髭に手を当てる。
 カナエたちが受けたのは、これまでの行いに対する制裁と、今の在り方への矯正。それからこれからの行動への縛り。
「まだ、付き合ってもらいますぞ」
 しかし、それだけでは足りないのだと、知らなければならないことがあるのだと、コシチェイは考える。
 いきなり現れて何かをしようとしているコシチェイを見ても、カナエたちは驚きもせず、茫然と自分を見つめてくるばかりだ。
 すでに何かを理解する気力すら残っていないのかもしれないが……、
「では、貴女方には文字通り、地獄を観てもらいましょう」
 だが、理解などできなくともすぐに知ることになる。
 見ればわかる。
 コシチェイがやろうとしていることは、そういう類のものだ。
 地獄を観てもらいましょう。そう、コシチェイが言葉にすると同時に、コシチェイの後ろに鎖で縛られた門が現れる。
 そして、その門からは、蒼い炎と亡者たちの悲鳴が漏れ聞こえ……その門が地獄の門であることが分かった。

 時折門の中からあふれ出す青い炎と、誰かの絶叫……門の中は文字通りの地獄なのだろう。
「ひぃ……」
 それを見たカナエたちは顔を引きつらせて後ずさるが、
「貴女方はまだお若い。ですから、死と、真面目に向き合ったことが無いのでしょう」
 後ずさるカナエたちを、漆黒覆面の人型使い魔たちが捕まえて、無理やり門の前まで連れ戻す。
 目を逸らしてはいけないと、逸らさせはしないと。
「死ねば終わり。そう、お思いでしょうか?」
 コシチェイはカナエたちに語り続ける。
 死について真面目に考えたことがあるのだろうかと、死ねば終わり、ただ無になるだけだと思ってはいないかと。
 コシチェイはそこで大きく息を吐く……深く、とても深く。
「……終わらない可能性を考えたことが、おありでしょうか?」
 そして、今目の前にあるもの。
 それが在るという事実を見て、まだ本当に終わると……終われると思っていますかと、語り掛けた。

 終わらなければどうなるのか、その先は無限に続く苦痛が待っているだろう。
「後悔したときにはもう遅いのです」
 苦痛の中で延々と後悔してもそれはもう遅いのだ。
 地獄に落ちてから後悔しても、もう遅い……それに、もし地獄などと言うものが無くても、人はあるときにふと気付く。
 死を意識したとき、己の生き様を振り返ったとき、あるいはやり残したことを考えたときに、気づいてしまうのだ。
 自分の犯した罪の重さを、奪ってきた命の重さを、取り返しのつかない時の重さを。
 気付いてしまった後は、その重さを、十字架を背負い続けて生きていくしかない。
 何とかしようと苦しみもがく、それこそ地獄のような日々を生きていくしかないのだ。
「己を戒めなさい」
 地獄の存在を知るとは、死と向き合うとはそれを知ることだ。
 故に、コシチェイはカナエたちに、その恐ろしさと、己を戒める大切さを伝える。
「我輩が言いたいのはそれだけですぞ」
 コシチェイ自身の経験も含まれているであろうその言葉は重い。
 それ故に、痛いほどに想いは伝わっただろう。
 分かってくれましたか? と紫色の目を向けるコシチェイに、カナエたちはこくこくと頷いている。
「それならよかった……しかし、万が一にもですぞ」
 こくこくと頷くカナエたちに、コシチェイは少しだけ語気を強めて、
「万が一にも、これから先に、同じ過ちを繰り返すのであれば、死を待たずして地獄の門が開くこともありましょう」
 同じようなことをすれば、容赦はしないと釘をさすのだった。

 コシチェイの言葉にさらに勢いよく首を縦に振るカナエたち。
「努々お忘れなきよう、願いますぞ」
 その様子からもう愚かな真似はしないだろうと判断したコシチェイは、黒い草臥れた外套を翻し――闇に溶けるように姿を消すのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年07月16日


挿絵イラスト