魔女と植物の陰謀
●何処かに潜むコンキスタドール達の何かが足りない会話
『ねえ、ヤマゴボー星人ズ』
『ゴボー! ヤマゴボー星人、此処に!』
『何ですかな?』
『魔女ニュムペーよ』
まだ年若そうな女性の声に、複数の陽気な声が返って来た。
『森のエルフと山のドワーフたちに、ちょっと毒盛って来てくれないかな?』
その声の主達に、魔女と呼ばれた女性は、傍らの大鍋を掻き混ぜながら、まるでお使いでも頼むかのような気軽さで呼びかける。
『毒……ですと』
『そうか、その手が……!』
『戦闘力に欠ける我等にぴったーり!』
『素っ晴らしい! 素ん晴らしいですぞ、魔女よ!』
言われた方も言われた方で、毒を盛れ、などと言う指示に疑問を抱くでもなく、その指示を絶賛している。
なぜなら彼女らはオブリビオン。この世界グリードオーシャンでは、コンキスタドールと呼ばれる世界の敵なのだから。
だが――彼女も彼らも気づいていなかった。
互いの意思疎通に、致命的な抜け落ちが発生していた事に。
●ヤマゴボウは有毒植物なんだ
「先日、フィッシャーマンズの船長から幾つか島の情報を貰ってね。その中に、オブリビオンの陰謀の予知が出た島があった」
グリードオーシャンの大海原に浮かぶ鉄甲船『燧丸』の上で、ルシル・フューラー(ノーザンエルフ・f03676)は猟兵達にそう話を切り出した。
「エルフとドワーフの島――略してエルドワ島」
その島は、今でも住人の大半がエルフとドワーフなのだと言う。猟兵達がアックス&ウィザーズと呼ぶ世界から落ちて来た島であろう。
「エルフは島の東側に広がる常緑樹の森の中に、ドワーフは島の西側の鉱山地帯に、それぞれ集落を構えている」
この住み分けは、先祖代々の事らしい。文化や食生活の違いで自然とそう言う事になったのだとか。
「交流は普通にあるみたいだよ。例えば、ドワーフはエルフが作る果実酒を好むし、エルフも森では採れない岩塩をドワーフから入手している、と言った具合にね」
だがそんな平和な島の裏側でも、コンキスタドールが陰謀を企んでいる。
「『魔女ニュンペー』と『ヤマゴボー星人』が、エルフとドワーフに毒を盛る」
魔女ニュンペー。
嘗てアックス&ウィザーズに存在した、迷える旅人を超下手な手料理でもてなす寂しがり屋の魔女と同じ名を持つ者。誰でも美味しい料理を作れる『魔女の大鍋』と言うメガリスの所持者。戦闘力はないに等しい。
そしてヤマゴボー星人。謎の植物系人種の群れである。
宇宙船と共に落ちて来て、漂流している内に何かのメガリスに触れてコンキスタドールになったとかなんとか。ぶっちゃけ弱いが、逃げ足は凄い。
「事の発端は、ニュンペーのこんな一言」
――森のエルフと山のドワーフたちに、ちょっと毒盛って来てくれないかな?
「端的過ぎて言葉が足りない」
ニュンペーは『エルフとドワーフ達がしばらくお腹を壊すくらいの微量の毒』を頼んだつもりなのだが、ヤマゴボー星人は『少量の毒でエルフとドワーフ達を仕留めて来い』という風に指示を解釈してしまうのだ。
用法用量は正しく使いましょう。
「何のため、どのくらい。そう言った目的や用量が抜け落ちたやり取りの結果、エルフとドワーフが毒でばたばた倒れてしまう未来がね……」
幸い、治療可能な毒ではあるが、処置が遅れれば命に係わる。
「この陰謀(?)を抑えたいところだけど、魔女達の拠点が判らない」
判明しているのは『毒を盛る』と言う手口のみ。
「当てもなく探すより、まずエルフとドワーフと交流して欲しい。島内の情報を得つつ彼らを守る事にも繋がる。集落で、料理を馳走になると良いんじゃないかな」
毒を盛るなら食事だろうから。
「コンキスタドールが、と言う事は言う必要はない。――知らないなら、知らないままだっていいじゃないか」
平和な島のままでいられるなら、それに越したことはないのだから。
泰月
泰月(たいげつ)です。
目を通して頂き、ありがとうございます。
主語とか目的語がふわっとした指示による勘違いって、ありますよね。
オブリビオン同士だって、そう言う事はあると思うんだ。
今回はグリードオーシャン。
舞台はエルドワ島。エルフとドワーフで、エルドワ島。
島民のエルフとドワーフに毒を盛ろうとしているコンキスタドールの陰謀を止めて貰うお仕事です。
1章は日常パート。郷土料理を食べてると何とかなります。
選択肢はあまり気にせず、食べたいものを自由にどうぞ。
2章は集団戦。3章がボス戦となります。
なお、ニュンペーとヤマゴボー星人の間で何故あのような齟齬が生まれてしまったのかという点については、OPで全ては明かしていません。
そこはリプレイで徐々に判明する予定です。予定です。多分。
また、OPにも記載した通り、どちらも戦闘力は低めです。あまり好戦的でもないです。プレイング次第で普段と違うアプローチも出来るかもしれません。
1章のプレイングは6/6(土)8:30~からの受付です。
今回は1章が日常スタートなので、1日置いておきます。締め切りは、ツイッター、マスターページ等で告知の形となります。
ではでは、よろしければご参加下さい。
第1章 日常
『郷土料理は異世界の味』
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POW : 郷土料理は別腹、全部食う。
SPD : 島のあちこちを歩き回って、面白い郷土料理を探してみたい
WIZ : 食べるだけでなく、レシピを教えて貰ったり、実際に料理もしてみよう
👑5
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●入港、エルドワ島
速度を落とした鉄甲船が、ゆっくりと船着き場に入っていく。
エルドワ島の南端にある、島で唯一の船着き場は、桟橋があるだけの文字通りの船着き場であった。
船を降りた猟兵達が船着き場を出ると、外は何もない平原が広がっていた。
右手の方向には背の高い常緑樹の生い茂る深い森が見え、左手の方向には険しい鉱山が連峰となっている。
丁度そこに、森からエルフの集団が、山地からドワーフの集団が向かって来た。
『ほう……見た事ない船ですね。敵でないなら歓迎しますよ』
『ありゃあ、鉄の船か? 良く作ったもんだ』
船に気づいて、外敵か否か、確認に来たのだろう。初対面故の多少の警戒心はありそうだが、それぞれの集落への案内は彼らに頼めそうだ。
『エルフの料理ですか? 使う食材は、野菜や果物と言った森の恵みと、海や池で獲れる魚介類が中心ですね。ドワーフに言わせると、我らの料理は薄味だそうで』
『ドワーフの食材は山に自生してる茸や豆類に、あとは魚だな。山ん中に海と繋がってるらしい地底湖があってな。エビ、カニなんかも獲れるぜ。エルフに言わせると、味が濃いんだとよ』
平地に鳥獣もいなくはないが、数が限られるためにあまり獲らないそうだ。
聞けば、エルフとドワーフの集落間の移動は2,3時間あれば事足りるとの事。どちらか一方に絞っても良いし、両方回ると言う選択も不可能ではないだろう。
さて、どんな料理を食べに行こうか?
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1章の補足です。船がエルドワ島に着いた所からのスタートになります。
どちら様です?くらいの反応はされますが、基本的に友好的です。
郷土料理は食べたいものをプレイングに書いて頂いてOKです。お任せもOK。エルフは野菜多めの薄味ヘルシー系が多く、ドワーフは甲殻類や肉寄りのガツンと濃い味が多いですが、言えば大体出てきます。なお、どちらも魚は食べます。
プレイング字数的にどちらかに絞るのが良いのでは、と思いますが、エルフとドワーフ、ハシゴしてもOKです。
事件への行動はしてもしなくても話は進みます。どちらが良いというのはないので、そこもお好みでどうぞ。
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レナータ・バルダーヌ
ヤマゴボー星人さん……かつての銀河帝国との戦争で母星とともに姿を消したと聞いていましたが、まさかこんなことになっていたとは……。
それはさておき、エルフさんとドワーフさんの郷土料理ってどんなお料理でしょうか?
わたしはお野菜派なのでエルフさんの方にお邪魔しようと思います。
そろそろ夏野菜も実り始める時期ですし、とっても楽しみです!
時間的に大丈夫そうならドワーフさんのところにも行きたいですね。
美味しいお料理のお礼に、わたしも何か作りたくなってきました。
エルフさんの果実酒にドワーフさんの岩塩、それからメインになるお魚かお肉をわけていただいて、こっそり持ち込んだゴボウと合わせた果実酒煮を作りましょう!
鹿村・トーゴ
WIZ
薄味と濃い味
好みで言ったら薄味だねえ
なのでエルフさん方の集落へ
あ、オレね
羅刹のトーゴっての
こっちの鳥は相棒のオウム
『はじめましてユキエよ』と人語で挨拶
果物と野菜がメインて日常的にどんなん食べてんだろ
希望できたら温かい料理が良いなー
食べさして貰ったらありがたく頂いて、ついでにどやって作ったりするか聞いてみたり
ふむふむ
ごちそう様でした
確かに薄味だけど物足りねーなんて思わなかったよ?
エルフたちに断ってユキエを森で少し遊ばせよっか(頬をちょっと掻いてやり放鳥)
ん、羽根伸ばしてくると良いよユキエ
あ、グリードオーシャンてオウム居るんだっけ
知らないオウムに付いてかないでちゃんと戻っておいでよ
アドリブ可
生浦・栴
山羊の(f02320)と郷土料理を楽しみに来た
矢張り両方に行くか?
腹ごなしの運動として良い距離やもしれん
軽めを期待し森から回るか。酒もあるようだぞ?
俺は飲めぬが果実飲料を期待したい
マリネや貝蒸しも美味いが、どうも酒が合いそうだな…あと4年か(ちっ
そうだな、解禁したら杯を合わせに何処かに行くのも良いな
山地側では肉中心に
この蟹のソースもなかなか
冬に喰うたカニも滋味はあった少々勿体無かったような
レシピを聞いておけば次回に生かせ…待て其れはどこで調達した?
薬は調合できるがまあ馳走して呉れるものなれば…
ん、なかなかいけるぞ。中は餅米か?
食べ過ぎると他が入らなくなるからその点は注意やもな
アドリブ交流歓迎
明石・鷲穂
栴(f00276)と来たぞ
言葉って大事だなあ。栴を見習え。俺より下だがずっとしっかりしてるぞ。
全部食べよう。
エルフの飯を堪能してから、歩いて食休み。ドワーフ飯を頂くぞ。
酒があれば遠慮なく。栴はあと4年かあ。きっとあっという間だ。そん時はまた乾杯しようぜ。
そういや、前は珍妙な蟹だかアンコウだか食ったなあ。
同じ食材でも世界ごとに違うよな。
そこで、面白そうな飯取ってきた。変な形の魚?の飯だ。
身の中に何か詰まってるな。美味いかはわからん!
栴は育ち盛りだから遠慮せず食え!な!………美味いか?食べれるか…?
よし、俺も食お。
やばそうな飯にあたったら栴に薬作ってもらおうな。
(アドリブ他おまかせ)
●異種族交流
緑生い茂る樹々が並ぶ森の中に、轍が伸びている。
知らなければ見落としてしまいそうな、最低限に森を拓いた道を、港まで様子を見に来たエルフを先頭に、猟兵達がエルフの集落へと向かっていた。
『島の外からの客人は久方ぶりですが……』
案内役となっているエルフは、舗装もされていない道を歩きながら、後ろに続く猟兵達に視線を向ける。
『人族に同族と見受けする方から花の人、黒角の人や竜翼の人に――もしや伝説のケンタウルスでしょうか? これほど多様な種族の方々が一度に訪れると言うのも、記憶がありませんね』
島のエルフは、猟兵達の種族の多様さに、軽く驚いていた。
(「花の人って……まあ、私の事でしょうね」)
案内役のエルフの視線と言葉から、レナータ・バルダーヌ(護望天・f13031)はそれが自分を指したものだろうと胸中で呟く。
オラトリオの中でも最も判り易い特徴のひとつであろう翼を失っているレナータにとって、この類の誤解を受けるのは珍しくない。
「ケンタウルスって、もしかしなくても俺の事かな」
「他に誰がいる、山羊の」
一方、半人半馬と言われる生き物と見なされたのかと首を傾げる明石・鷲穂(真朱の薄・f02320)の隣で、生浦・栴(calling・f00276)が肩を竦める。
「当たらずとも遠からず、だろう」
「ま、それもそうだな」
背に竜の翼を持つ栴の言葉に、鷲穂はあっさりと頷く。実際、鷲穂はアイベックスと言う山羊の一種にイヌワシ等も混ざったキマイラだ。山羊と馬では種族的には結構異なるものではあるが、島の中の更に森で暮らしているエルフが馬と見間違えるのも、無理もないだろう。
「黒角の人ってオレの事?」
エルフの驚きの中に自分が含まれていると気づいて、鹿村・トーゴ(鄙村の外忍・f14519)がエルフの背中に声をかける。
「オレね、羅刹のトーゴっての。こっちの鳥は相棒のオウム」
『はじめましてユキエよ』
トーゴの肩の上で、白いオウムが流暢な人の言葉で名前を告げる。
『今の声は、オウムですか……かなり賢いようですね』
進む足こそ止めないままだが、エルフはまたしても目を丸くしていた。
トーゴはオウムに、挨拶をするように、と言った類の事は一言も言っていない。つまりオウムの方が会話の流れを判断した――と言う事に、エルフも気づいたのだ。
「まあな。だから、こいつ、離しても良いかな?」
エルフにピタリとついて歩きながら、トーゴはそう問いかける。
「折角の森だから、羽根を伸ばさせてやりたくてな」
『構いません――と言いたいところですが、もう少し待って下さい。集落の中ならば、好きにして構いませんから』
しかしやんわりと断られ、トーゴは少し意外そうに周囲に視線を向けた。特に危険な気配は感じないのだが――。
「あ、もしかして、この辺りは野生のオウムがいたり?」
『たまにいますね。そして、それを狩る我々の仲間も』
さらりと告げてきたエルフの言葉とその背中にある飾り気のない弓に気づいて、今度はトーゴが目を丸くする。
『我々とて、鳥獣の類の肉を全く食わないわけではありませんので』
エルフは弓の名手であることが多いと言うが――。
『着きましたよ。ここが、我々の集落です』
その答えが出る前に、エルフの集落に出た。
森の樹々を木材と使った家が、幾つも並んでいる。一部は普通に地面の上に建っているのだが、多くは樹をそのまま柱と利用して樹々の上に建てられていた。
●森の集落
『島の外からの見知らぬ客がこれ程訪れるとは、珍しい』
『我々の食事に興味があるのですか』
案内役から事情を聞いたエルフ達は、何やら嬉々とした様子で猟兵達を集落の奥――炊事場へと案内してくれた。
「どんなお料理が出てくるか、とっても楽しみです」
そうそうに始まったエルフ達の料理に、レナータが瞳を輝かせる。
ナスやトマトにズッキーニと言った、所謂夏野菜が中心になりそうだ。そろそろ実り始める時期だろうと、レナータが思っていた通りだ。
レタスに似た緑の球状の野菜の葉を毟って並べた上に、カツオに似た魚の身を薄くスライスしたものを盛り、更に輪切りにしたトマトを並べ、フルーツビネガーをさっと回しかければ、1品完成。
「果物と野菜がメインてことは、やっぱサラダか」
どんなん食べてんだろ、と気になっていたトーゴが、早速手を伸ばす。
「あ――これ、美味い」
口に入れた直後、トーゴが目を丸くした。柑橘系を中心としたビネガーの酸味が赤身魚と野菜の旨味を引き立て、噛めば素材の味が絡み合う。
野菜も魚もさっと湯がいた程度で火を通していない為、素材の歯応えが楽しめた。
「でも、これで美味いけど、温かい料理が良いなー」
『もう少しで、出来ますよ』
トーゴの呟きに、別のエルフが応える。
その前にある寸胴鍋の中は、何やら赤いものがぐつぐつと煮立っていた。
『トマトを潰しながら薄めた海水で伸ばしたスープですよ』
数人のエルフ達が、それぞれに切り分けた野菜や魚をその中に入れて煮込んでいく。
「炊事場と食材を使わせて頂いても良いですか?」
それを見ていたレナータが、近くのエルフにそう問いかけた。
「美味しいお料理のお礼に、わたしも何か作りたくなってきました」
『ええ、構いませんよ。何か使いたいものはありますか?』
『そうですね…………果実酒と、ドワーフさんから仕入れていると言う岩塩、あと何かお魚を使いたいです』
快諾したエルフに、レナータは使いたい食材を上げる。
『果実酒と塩ならそこにあります。魚は――ああ、これをどうぞ』
レナータの申し出に、エルフは何やら鮮やかな赤い魚体を掲げた。
「って、おいおい。それ鯛じゃないか?」
『良く釣れるんです』
さらっと出てきた高級魚に軽く驚くトーゴを他所に、レナータは鯛を受け取り調理を始める。と言っても鯛の下処理は済んでいたので、適当に切り分けるくらいだ。
「あとはこれと一緒に……」
ぬっとレナータが取り出したのは、ゴボウ。山が付かない方のゴボウである。皮を剥いたゴボウをザクザク切り分けると、レナータは魚とゴボウが浸るくらいにたっぷりの赤ワインを入れ、岩塩で味を整えながら煮込んでいく。
辺りに、良い匂いが漂い始めた。
●エルフ飯1
『完成しましたよ』
先に完成したエルフの煮込み料理は、トマトと夏野菜のスープの様な感じだった。ラタトゥイユとブイヤベースの中間のよう――と言えば良いだろうか。
『これに絡めてどうぞ』
エルフは、それを何かと一緒に盛り付け猟兵達に差し出してきた。
絡めてどうぞ、というだけあって、パスタの様に見える。だが食べればシャキシャキとした野菜の歯応えがあった。南瓜の一種だ。茹でてから水にさらすことで、まるで麺類の様に身がほぐれるらしい。
「鯛とゴボウの赤葡萄酒煮の完成ですよ」
続いて、レナータの料理も完成した。
葡萄酒のアルコール分は煮込んでいる内に魚の臭みと共に飛んでいて、かつ赤い葡萄酒を使う事でゴボウのアクも目立たなくなっている。
『ほう。赤葡萄の酒をこんな形で』
『これは一体。一見木の根のようだが、独特に渋みのある味わいは……』
完成したレナータの料理を、エルフが興味深そうに見つめ、口に運んでいた。持ち込んだゴボウも珍しそうだ。
(「もしかして……エルフさん達は、ヤマゴボー星人さんを知らないのでしょうか」)
その様子に、レナータは胸中で呟く。
「ごちそう様でした」
そこにコトリと、トーゴが木の器を置いた音が小さく響いた。
「確かに薄味だけど、物足りねーなんて思わなかったよ?」
元々薄味の方が好みなのもあって、トーゴの口に合ったようだ。
だが――。
『何を言っているのです。まだたった2品ですよ』
何故かエルフの口からは、挑戦的な物言いが返って来た。
『森で長年生きている我等の料理のレパートリーが、たった2品な訳がないでしょう。まだ他の野菜も是非味わって頂いて――』
猟兵達の食べっぷりにだろうか。
エルフ達の料理の情熱は、何やら燃えだしていた。
●ドワーフ飯1
――数時間後。
「全部食べよう――と言いたかったけど」
やや残念そうに言いながら、森を抜けた鷲穂は足取り軽く平原に踏み込んだ。
「充分だろう。マリネも貝焼きも美味かった」
後ろに続く栴は、淡々と告げる。
「食べ過ぎると他が入らなくなる1つ1つは軽めでも、続くと腹に溜まるものだ」
2人が目指しているのは、ドワーフの住むと言う島の西側である。ドワーフ飯も気になっていた鷲穂が、栴を連れて森を抜けて来たのだ。
分量的な面もそうだが、時間的にもそろそろ移動しておきたかった。
そして――。
ドワーフの集落。
それは古い坑道の先、山の中にある広い空洞の中に作られていた。
『うぉ。竜人とケンタウルスか!?』
「こっちでもか……ま、いいけど」
ドワーフにも半人半馬の種族と言われ、鷲穂が半ば諦めた顔で目の前の蟹に手を伸ばした。遠火でじっくりと焼かれた蟹は、身が甲羅から簡単にはがれる。
「この蟹と付け合わせているソースも中々……」
『そのソースは地底湖で偶に獲れる変な魚を塩漬けして作ったもんを煮詰めたもんだ』
蟹にかかっているソースの味に感心した栴の呟きに、ドワーフの1人が反応する。その言葉からするに、魚醤の一種の様なものだろうか。
「冬に喰うたカニも滋味はあったが、少々勿体無かったような」
「ああ、そういや、珍妙な蟹だかアンコウだか食ったなあ」
いつかの砂漠で食べた巨蟹を思い出した栴の呟きに、鷲穂がしみじみと返す。
「同じ食材でも世界ごとに、微妙に違うよな」
「そうだな。レシピを聞いておけば、次回に活かせ……待て、山羊の」
鷲穂の言葉に頷きかけて、栴はその手にある見慣れない料理に気づく。
「其れはどこで調達した?」
「そこで」
訝しむ栴に、鷲穂は事もなげに向こうで鍋の前にいるドワーフを示す。
「変な形の魚? 良く判らんが面白そうだから取ってきた。美味いかはわからん!」
鷲穂が手にした皿の上には、何やら茶色い物体が2つ乗っている。魚色は煮込むのに使ったソースの色だろう。だとしても、形が魚っぽくはない。
「せめて味見すれば良いものを」
「身の中に何か詰まってるな。栴は育ち盛りだから遠慮せず食え! な!」
鷲穂は謎の料理を1つ、小さな嘆息を溢す栴に勧める。
「まあ馳走して呉れるものなれば……」
未知の料理を怖れるでも躊躇うでもなく、呉れるならばと、栴は口に入れた。魚とは違うもっちりとした歯応えが続くが、噛むと旨味が染み出してくる。
「………美味いか? 食べれるか……?」
「ん、なかなかいけるぞ。中は餅米か?」
『餅麦だなぁ、そいつは』
勧めておきながら不安そうな鷲穂と、食材を推理しながら返す栴に、別のドワーフの声が重なった。
『そいつだよ。蟹に使ってたソースの元になる変な魚』
確かに漂う香ばしい匂いは、蟹のソースに似ている香りだ。
「よし、俺も食お。どんどん食お」
毒の気配もないと判り、鷲穂は大きく口を開けて、謎のドワーフ料理に食いつく。
「エルフの時も思ったが――それ以上に、酒が合いそうだな」
言いながら、栴はちっと小さく舌を打つ。
実際、ドワーフ達はほぼ全員が大酒飲みで、その食事は酒に合うものが多い。だが栴はまだ、大手を振って酒を飲める年齢ではなかった。エルフの集落でも、発酵を伴わない果実の飲料を酒の代わりに飲んでいた。
「栴はあと4年かあ。きっとあっという間だ」
どんな世界でも大手を振って栴が酒類が呑める年齢になるまでにかかる年月を、あっという間だと笑い飛ばして、鷲穂は続ける。
「そん時はまた乾杯しようぜ」
「そうだな、解禁したら杯を合わせに何処かに行くのも良いな」
笑って続ける鷲穂に、栴はほんの少し口の端に笑みを浮かべて返した。
大成功
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フィーネ・ルーファリア
連携・アドリブ歓迎
郷土料理:エルフ
エルフとして同族が狙われてるのは放っておけないわ
それに交流してるって言うドワーフも同じように狙われてるのよね
本当は両方に話を聞きに行きたいところだけど、同族の方が話しやすいだろうから、私はエルフの方に向かうわ
料理を振舞ってくれるのなら、素直にご相伴にあずかりましょうか
ここのエルフたちは野菜や森の恵みに加えて魚介類も食べてるのよね
ドワーフ達は薄味だって言ってるみたいだけど、私にはすごくちょうどいい味付けだと思うわ
食文化の違いってやつかしら?興味深いわね
時間があればドワーフの料理もご馳走になりたいところだけど、またの機会にとっておきましょう
ガーネット・グレイローズ
誰でも美味しい料理が作れるなんて、変わったメガリスがあるものだな。料理不精にはうってつけのアイテム…いや、なんでもない。
さて、まずは〈コミュ力〉を活かして交流を始めよう。エルフやドワーフとうまく交易を結ぶことができたら、会社の取引品目を増やせそうだし。なので、ここは素直に商人としてやって来たことを明かそう。
「私はガーネット商会の代表、ガーネット・グレイローズです。エルドワ島の皆さん、初めまして」
船のクルーに命じて荷物を運び込み、お茶やコーヒーの行商を始めるよ。金貨や銀貨で〈取引〉し、果実酒や岩塩をわけてもらえないか交渉してみる。もちろん、彼らが振る舞ってくれる料理もありがたく頂戴するよ。
鈴・月華
キサラ(f22432)と
しゃおりん…?
…この人は他者にあだ名をサクッと付ける人なんだろうね。多分
とりあえず、料理を食べるの?
私は料理が辛かったり苦かったりしなければいいよ
あと、果物とか天然の甘いものがあれば
んー、キサラの目当て、諸に料理みたいだね
食事を頂きながら、コンキスタドールの事を聞く…っていう感じでは無さそう
自然に、素直に心から出された料理を楽しんでいる様にしか見えない
大丈夫なのかなって思ったけど、ちゃんと考えてるんだね
私はそういう事は頭に浮かばなかったよ。キサラは飄々気儘に見えても、探偵しているんだ
…?
という事は、キサラはいつもそんな風に料理を楽しんでいるってことなんだね
空目・キサラ
小鈴(f01199)君と
呼び方?ああ、お鈴や鈴々だと他と被るからって理由だから気にしないでくれ
たまには女子同士で食事を頂くとかいいんじゃないかと思ってだね
そうか、ではエルフの料理を頂きに行こう
薄味ということは、味が繊細であるという事だろう。酷く辛いとかは無いんじゃなかろうか
料理はエルフたちのお任せで頼む
僕らが料理を頂くという事は、マイナスには働かない
見慣れぬ存在が訪れていると気が付いたコンキスタ達が、僕らを警戒してくれるかもしれないだろう?
加えて料理の味を憶えていれば、仮に毒が混ぜられた時に味の差に気付くことが出来るやもしれない
それと。料理というのは素直に楽しむのが最適解さ
草野・千秋
UDCアースではヨウシュヤマゴボウが有毒だとされていますね
なんでも北アメリカ出身なのだとか
それとこれとは関係あるのか
今はコンキスタドールだそうですね
毒は『ちょっと』でも発症とか後遺症とか心配ですからね、毒殺を阻止せねば
(話を聞き)
僕は先住ドワーフさんの料理を頂きましょう
ガツン!とした魚、甲殻類、あとキノコも
山の中に海が繋がってるだけあって海のものも山のものも充実してますね!
(魚の骨を取りつつ食べる)
(無言でカニとエビの殻を剥く)
なんでカニとか食べてると終始無言になってしまうんでしょうねぇ
ドワーフさんとは(可能なら)お酒も交えて笑いかける
情報収集、コミュ力で柔らかく話しかけつつ
●港にて
(「魔女の大釜、か……」)
ガラス瓶の中から商船『シルバーホエール』号を出しながら、ガーネット・グレイローズ(灰色の薔薇の血族・f01964)が胸中で呟く。
この島の何処かにいる、魔女のコンキスタドールの持つメガリス。
(「誰でも美味しい料理が作れるなんて、変わったメガリスがあるものだな」)
料理不精にはうってつけのアイテム――なんて浮かんだ考えを振り払い、ガーネットは港に様子を見に来たドワーフとエルフに向き直った。
「私はガーネット商会の代表、ガーネット・グレイローズです。エルドワ島の皆さん、初めまして」
エルフやドワーフとうまく交易を結ぶことができれば、商会の取扱品目を増やす事が出来るだろうと踏んで、ガーネットは商人としての立場を前に出していた。
「ガーネット商会は色々扱っています。お茶やコーヒーなどは如何でしょう。代わりにこちらの島で採れるものを買わせていただきたく――」
金貨や銀貨の詰まった袋を見せて早速交渉を始めるガーネットだが、エルフの方が眉間に皺を寄せて、ドワーフと視線を交わす。
(「――おや?」)
その素振りをガーネットが訝しんでいると、エルフにこくりと頷いたドワーフが、ガーネットの方に進み出てきた。
「商人さんよ。その話は、ドワーフの方が聞こう。立ち話もなんだ。集落で話をしたいんだが、構わねえか?」
「ええ、構いませんよ。――さあ、仕事だ、ガーネット商会!」
ドワーフに頷いてから、ガーネットは後ろの『シルバーホエール』号に呼びかける。現れた【グリードオーシャンの船乗り】の内、数人に積み荷の幾つかを運ばせ、残る70人以上には港の警備を命じた。
エルフか、ドワーフか。
「やはりここは同じエルフからね。ドワーフの料理もご馳走になりたいところだけど、またの機会にとっておきましょう」
「ガツンとした料理ですか。僕はドワーフさんの料理を頂きに行きましょう」
フィーネ・ルーファリア(森の守護者・f27328)はエルフの方を選び、草野・千秋(断罪戦士ダムナーティオー・f01504)はドワーフの方を選ぶ。
他の猟兵達も、まずどちらの集落に向かうかを選んで別れだしていた。
「小鈴君はエルフとドワーフ、どちらに行きたいかね? と言うよりどちらの料理を頂きに行きたい?」
そんな中、空目・キサラ(時雨夜想・f22432)は鈴・月華(月来香・f01199)に、どちらが良いかと希望を訊ねる。
「私は料理が辛かったり苦かったりしなければいいよ。あと、果物とか天然の甘いものがある方がいい」
「なら森のエルフだね」
月華の答えを聞くと、キサラはその手を引いてエルフの集落に向かうグループの方へと進みだした。
「……ところで、その『しゃおりん』とは……?」
手を引かれるままに進みながら、月華はキサラが何度か口にしている聞き慣れない呼び名に、内心首を傾げながら訊ねる。
「ああ、お鈴や鈴々だと他と被るからって理由だから気にしないでくれ」
「……」
他って誰――喉元まで出かかった言葉を飲み込み、月華は沈黙を返した。
別に言われた通り、気にしないようにしたわけではない。
悟ったのだ。
(「……この人は他者にあだ名をサクッと付ける人なんだろうね。多分」)
この部分に関して、キサラに翻意させるのは難しいだろうと。
●エルフの畑
エルフの集落に辿り着いたフィーネは、一度炊事場に案内された後、そこを離れて集落の中を見て回っていた。
(「エルフとして同族が狙われてるのは放っておけないわ」)
見物と言うより見回りという気分になっていたのは、故郷の『風の森』では森の守護者をしていたフィーネの性分だろうか。
そして目を光らせていたからか――道中で、見つけたのだ。
小さな赤い実はトマトだラ王。星型の薄紫の花はナスで、蔓の先に咲いた黄色い花はキュウリだろうか。小さな白い花の奥には、背の高い植物も見える。
色とりどりの野菜や果実、それらの花が一定の範囲に整然と生えている場所を。
「大体理由は察しがつくけど……不用心じゃない?」
畑がある理由に思い至ったフィーネは、そこで踵を返し来た道を戻っていった。
●エルフ飯の幕間
『次はコーンを使って――』
『いやいや。この前、干物にした魚を使った方が――』
何やらスイッチが入ったエルフ達は、炊事場の中で熱く料理を作り続けていた。
「いやあ。これはまだまだ楽しめそうだね」
「んー……」
そんなエルフ達の炊事場に楽しそうに視線を向けるキサラに、月華が物言いたげな視線を向けていた。
「どうしたんだい、小鈴君」
「キサラの目当て、諸に料理みたいだと思ってね」
エルフ達の方に視線を向けたまま小声で訊ねるキサラに、月華も小声で返す。
「島に着く前に言ったじゃないか、小鈴君。たまには女子同士で食事を頂くとか、いいんじゃないかと思ってだよ――と」
鰹節の様なものをエルフ達が削るのを眺めながらキサラが告げる言葉は、確かに月華も鉄甲船の上で聞いてはいた。
「事情が事情だけに、食事を頂きながらコンキスタドールの事を聞く……っていう感じかと思っていたのだけど。キサラは自然に、素直に心から出された料理を楽しんでいる様にしか見えないから」
「ああ、それはその通りだよ。何故なら――ん?」
月華の疑問に返そうとしたキサラが、気配に気づいて言葉を止める。
『あのー……』
小声で話していた2人に、やや歳の行ってそうなエルフが声をかけて来た。長命のエルフでそう見えるのだから、実際の歳は一体幾つなのか。
『今更ですが、もしかして食べられないものがありましたかな? お2人は人族と見受けられる。我等エルフとは、食の好みが合わない――』
どうやら小声で話しているのを、何か苦手なものがあったのかと思ったようだ。
「今の所は大丈夫だよ」
「僕も問題ない。予想通り、繊細な味付けだね。このままお任せで頼むよ」
『判りました。ではその様に』
2人の言葉に安堵した様子で、年配のエルフは炊事場の方へ向かっていった。
●エルフ飯2
シンプルに塩焼きにしただけ白身魚に、トマトをベースに刻んだ野菜を煮込んで混ぜ合わせてたソースがかかっている。
「うん、美味しい」
その味に、フィーネが笑みを浮かべる。
刻んだ野菜の中に僅かに混ぜた唐辛子でややピリッと辛く仕上がったソースが、淡泊な魚と良く合っていた。
それでいて、野菜も魚も、素材の味が活きている。
「ドワーフ達には薄味だって言われてるみたいだけど、私にはすごくちょうどいい味付けだと思うわ」
『同じエルフなら、そう言って貰えると思っていました』
フィーネの評価に、まだ炊事場の中で何か新しい料理を作っているエルフの1人が、ぱっと笑顔を見せた。
フィーネもエルフなのだから、味覚の嗜好が似るのもおかしな話ではない。
(「でも、それだけじゃないわね」)
集落のエルフの料理を幾つか食べて、フィーネはそう確信していた。
先のスープや、今食べたソースにしても、彩りや味が丁度良く合わさっていたし、合わせた麺の様にほぐれる南瓜や白身魚も、スープやソースに合うものを選んでいる。
一見すると有り合わせの野菜や魚介類を使っているように見えるかもしれないが、そんなことは無い。つまりエルフ達は、それだけ豊富な食材を有していると言う事だ。
「ねぇ。やっぱりあの畑の野菜を使ってるの?」
『ああ、畑を見つけたのですね』
『集落の中で幾つか栽培しているのですよ』
畑を見つけられたことに動揺するでもなく、エルフ達はフィーネに返していた。
「元々この森になかった野菜なの?」
『そういう種類もありますが、森に自生している野菜も育てていますよ』
フィーネが重ねる問いに、エルフは野菜を刻む手を止めずに告げる。
『集落の中にある方が、森の奥まで入るより楽――というのもありますが、最大の理由は森の為です』
森から恵みを得るのは、エルフ達にに限った事ではない。
鳥獣類もまた、森の恵みを糧としている。
エルフが森の奥まで入ってそれら得れば、その分、鳥獣類の糧が減る。森の生態系を崩さないために、集落の中で育てられるものは育てているそうだ。
『かつて我々の先祖は広い大地に暮らしていたそうですが、この島を出られない我々にとって、この森はいわば最後の砦ですからね』
ここの森がダメなら他所の森に行けばいい――という選択肢は、彼らにはないのだ。この世界では、島から島への移動は困難極まるのだから。
エルフ達の言葉は、概ねフィーネの思った通りであった。
「だったら、見張りの1人も置いておくべきじゃない? 盗まれたり、もしも悪い虫でもついたりして畑の野菜や果物に毒が入ってしまったりしたら危ないじゃない」
『心配には及びません』
あまり不安がらせないようにと、言葉を濁して畑の食材に毒を盛られる可能性を示唆するフィーネに、しかしエルフは笑顔で返す。
『畑の存在は山のドワーフ達にも明かしていて、取引もしています。盗む者などいないでしょうし、この森のエルフで、腐った野菜や果物を見分けられぬ者などおりません』
(「そうなると――むしろ危ないのはドワーフ達の方かしら?」)
自信に満ちたエルフの言葉に浮かんだ懸念を、しかしフィーネは直ぐに振り払った。あちらはあちらで、他の猟兵が向かったのだから、きっと大丈夫だろうと。
●エルフ飯3
月華とキサラの前には、干した魚で取った出汁で野菜を煮込んで、氷の魔法でさっと冷やした料理が出て来た。
「これはいい。野菜の味が良く判るし、辛くも苦くもない」
「苦みや辛みの類が少ない野菜を選んで使っているようだね」
落ち着いた味わいに目を輝かせる月華の横で、キサラも感心したように頷く。
出汁は鰹節のものに近い。大根やナス、トウモロコシなど、そういう出汁に合う野菜を選んでいる。冷やし野菜おでん、と言ったところだろうか。
煮込む過程でも味はしみ込むが、冷える過程でも味は染み込むのだ。
「さて。話を戻して小鈴君の疑問に答えるとしよう」
味が染み込んだナスを飲み込み、キサラは話を戻した。
「僕らが料理を頂くという事は、マイナスには働かない」
どういうこと――と、トウモロコシを齧りながら、月華は視線で続きを促す。
「見慣れぬ存在が訪れていると気が付いたコンキスタドール達が、僕らを警戒してくれるかもしれないだろう? 加えて料理の味を憶えていれば、仮に毒が混ぜられた時に、味の差に気付くことが出来るやもしれない」
「大丈夫なのかなって思ったけど、ちゃんと考えてるんだね。私はそういう事は頭に浮かばなかったよ」
キサラの説明に、月華は成程と頷いて――。
「でも一度食べただけで、気づけるものかな?」
聞いたがために浮かんだ疑問に、月華が小さく首を傾げる。
「気づけるさ。此れだけ繊細な味ならね」
その疑問に、キサラは自信たっぷりに返した。
毒と言うものは、人工的にそうしたものを消さない限り、大抵は苦いとか甘いとか辛いとか、何か違う刺激がある場合が多い。
「無味無臭の毒もなくはないけど、そうそうあるものでもないのだよ」
「キサラは飄々気儘に見えても、探偵しているんだ」
実に探偵らしいキサラの説明に、探偵なんだと月華が感心したように頷く。
「小鈴君は僕の事をなんだと……いや、まあいい」
頭を振って、キサラは冷製おでんの中の小さなトマトを口に放り込んだ。
「それにね。料理というのは素直に楽しむのが最適解さ」
「……?」
キサラのその言葉に、月華は小さく首を傾げて――。
「という事は、キサラはいつもそんな風に料理を楽しんでいるってことなんだね」
月華が続けた言葉に、キサラは曖昧な笑みを返していた。
●ドワーフ飯2
(「ゴボウのコンキスタドールですか……」)
ドワーフの集落までの山道を歩きながら、千秋は胸中で呟く。
UDCアースのヨウシュヤマゴボウは、有毒であった筈だ。
(「確か北アメリカが原産でしたっけ」)
グリード―オーシャンは、様々な世界から落ちて来た島で成り立つ世界だ。そうした有毒な植物も、島とともに落ちてきているだろう。
尤も、今回の毒を盛る予知が出たヤマゴボー星人とやらは宇宙船と共に落ちて来たと言う事なので、UDCアースに関係があるかは謎だ。
(「まあ、気を引き締めていきましょう。毒は『ちょっと』でも発症とか後遺症とか心配ですからね」)
それからしばらくして――。
山の中にあるドワーフの集落で、座って黙々と何かをしている千秋の姿があった。
すぐ近くの竈では炎が焚かれている。
揺らめく炎の上にある焼き網にはウナギに似た細長い魚を開いたものや、洞窟で取れるシイタケに似た茸に、地底湖で取れたエビやカニが並んで香ばしい匂いを立てていた。
いずれの食材も、魚醤をベースに酒で伸ばした、所謂テリヤキソースに近いものをたっぷり塗って焼いているのだ。いい匂いがしない筈がない。
そして千秋が無言になっている理由は――エビとカニだった。
より正確に言うならば、それらの甲羅だ。
当然だが、甲羅が付いたまま、網で直火焼きである。焼けたら、甲羅を剥がさなければ食べられない。エビの殻ならまだしも、流石にカニの甲羅は剥かないと無理だ。
「……」
『……』
『……』
というわけで、千秋もドワーフ達も、無言で一心不乱に殻や甲羅を剥いているのだ。
海老の方も立派な鋏がついているので、ロブスターに近い種類だろうか。どちらにしろかなり大きいので、剥くのも中々大変だ。
「なんでカニとか食べてると終始無言になってしまうんでしょうねぇ」
『まあ剥くのが忙しいしな』
『剥いたら食う方が忙しいしな』
たまに千秋が話しかけても、あまり会話が続かずにいた。
焼きたての熱さを我慢しながら殻を剥いて、剥いたら食べる。食べたら、麦の酒か果実の酒をぐいっと飲む。
その繰り返しに誰もが集中していた。
人間もドワーフも、手は2つで口は1つしかないのだから。
そして――。
「ふぅ……いやぁ、食べました」
『いい食べっぷりじゃねえか、人族の兄さんよ』
食べ終わる頃には、千秋は同席したドワーフと何だか打ち解けていた。食べていただけだが、同じ釜の飯を食ったようなものだ。
「ドワーフの食事はいつも、こんな風に広場で?」
『ああ。俺らの食事で火を使わない料理はあまりねえからな。こんな洞窟暮らしだと、火を使える場所も限られるし』
千秋の問いに、すっかり酒臭くなったドワーフが、酔いを感じさせない口調で返す。
その言葉通りなら、食事に毒を盛れる場所は限られる。そして、千秋が居合わせたこの広場で、そうした動きは見られなかった。
(「一先ず大丈夫そうですね」)
胸中で少し安堵した千秋の前に、また焼き上がったカニが運ばれてきた。
●商人として、酒飲みとして
『さて、と。ガーネット商会さん、だったかの』
集落の奥の方に案内されたガーネットは、港から此処まで案内したドワーフに紹介されたより年配のドワーフと同じ卓についていた。
『この島と取引をしたいと言う事だが――』
「ええ。果実酒や岩塩をやり取りしていると聞いてます。代金ならここに」
ガーネットは港でも見せた金貨や銀貨の詰まった袋を、テーブルの上に置いてみせる。
『折角だが……ワシらは、あまり貨幣を必要としてないのだ』
「……どういう事でしょう?」
ドワーフの予想外の返答に、ガーネットは内心の驚きを押し殺し、表情には出さないようにしながら問い返す。
金貨や銀貨は、グリードオーシャンの通貨の筈だ。
『この島の中では、物々交換で済んでいるからだ』
エルフとドワーフの間の取引は、互いに必要な物のやり取りだ。それだけならば貨幣を解するより、物と物の交換で済んでしまう。
『ワシらドワーフなら、鉄細工くらいなら売れるが、エルフの連中は森の樹々に資材価値を見出される事を嫌っておる。もうこの島しかないからな』
(「港のあれは、そういう事か」)
目の前のドワーフの言葉を聞いて、ガーネットは自分がドワーフの集落に案内された理由を悟った。おそらく、貨幣を通じた取引をエルフに持ちかけても、あまり良い顔はされなかっただろう。
「成程。そういう事でしたら、そちらの流儀に合わせましょう」
しかしガーネットは笑みを浮かべて貨幣の袋を下げると、船員に運ばせた積み荷から茶葉や珈琲豆を並べてみせた。
物々交換で構わないと言う意思表示。
「お茶や珈琲はどうでしょう。他にも欲しいものがあれば、運んで見せますよ」
『それほどに、ワシらと交易をお望みか』
引き下がらないのが予想外だったのか、ドワーフが目を丸くしてガーネットに視線を向ける。
「ガーネット商会はまだ新しい。取引できる品を増やしたいのです。それに――」
ガーネットは言葉を切って、手元の杯を手に取る。
「この果実酒も、麦の酒もとても美味い。私は美味い酒に目がなくてね」
『成程、違えねえ。美味い酒は良いもんだ』
その言葉に、ドワーフも破顔して頷いた。ガーネットは確信していた。何も言わずに酒が出てきた時点で、此処のドワーフ達は酒飲みに違いないと。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アヤネ・ラグランジェ
【橙翠】
見覚えのある鉄甲船だネ
名前もなんだか聞き覚えがあるような
A&Wにはよく行くけど
ドワーフの集落に行くのは初めてかもネ
社交的な態度で
簡単に自己紹介
僕らは猟兵
目的は食物の調査
例えば毒のある茸の見分け方とか
でもまずは美味しい食べ物で腹ごしらえしたいネ
お願いできるかしら?
目の前に料理が運ばれてきたらすっとソヨゴを手で遮り
ソヨゴ毒味は僕にまかせて
ドワーフの料理なら大丈夫だとは思うけど万が一ということもある
いやないか
でもこれからの予行練習としてやってみよう
むむむ!
この濃い味付けは…
アメリカ料理の大胆さを彷彿とさせる
美味しいデリシャス!
いや独り占めなんてしないよ
ソヨゴもお食べ
はいあーん
城島・冬青
【橙翠】
船?
うーん、どっかで見たような??
にしてもエルドワ島の郷土料理楽しみですね!
A&Wにはよく行くので
ポピュラーな郷土料理は幾つか知ってますけど
ここには独自に進化した料理や食材があるかもですよ
楽しみですね、アヤネさん
ドワーフの集落へ
こんにちはー!
コミュ力で親しげに声をかけ
美味しい料理を出すお店を教えて貰います
お店では店員さんやお客さんにこの島のこと
集落のことを教えて貰いましょう
え?毒味ですか?
私、胃袋丈夫な方なんで心配は…まぁいいか
しかしアヤネさんが美味しそうに食べてるので…
アヤネさん、ずーるーいー
私も食べたいですよぉ〜
えへへ、あーん(ぱくっ)
んー!とっても美味しい!
幾らでも食べられますね
●引き揚げたあの船ですよ
「うーん」
たった今降りた鉄甲船を振り返って見上げ、アヤネ・ラグランジェ(十二の結び目を解き放つ者・f00432)が首を傾げる。
「どうかしたんですか、アヤネさん」
「いや。見覚えのある鉄甲船だと思ってネ。名前もなんだか聞き覚えがあるような」
城島・冬青(六百六十九番目の宿木・f00669)もアヤネの答えを聞いて、その隣でさっきまで乗っていた船を見上げてみ。
「船? うーん、そう言えば、どっかで見たような??」
言われてみればそんな気がしてきて、冬青も船をじっと見つめ――。
「あー! あれじゃないですか。アヤネさんと潜って沈んだ船に入った時の」
「ああ! あの沈んでた船か。道理で見覚えがあったわけだネ」
冬青の言葉に、アヤネも既視感の理由を思い出していた。
●ドワーフ飯3
アックス&ウィザーズ――元々この島があったであろう世界には、アヤネも冬青も何度も足を運んだ事がある。
凍った砂漠なんて変わった場所も行ったが、今上っているような岩山に続く道を、アヤネは見慣れているとは思えなかった。
「そう言えば、ドワーフの集落に行くのは初めてかもネ」
「あー、そうかもしれません。あの世界、良く行ってるけど」
アヤネの言葉に、冬青も頷く。
初めてのドワーフの集落と言う事はつまり、その郷土料理も初めてという事だ。
「あの世界のポピュラーな郷土料理は幾つか知ってますけど、ここには独自に進化した料理や食材があるかもですよ! 何しろ島ですからね!」
(「あ――これは、何が出て来てもソヨゴ食べちゃいそうだネ」)
まだ見ぬドワーフ飯に目を輝かせる冬青の表情が、アヤネに1つの懸念を抱かせる。
「エルドワ島のドワーフの郷土料理、楽しみですね、アヤネさん」
「そうだね、ソヨゴ」
笑顔の冬青に頷き返しながら、アヤネは場合によっては毒味をしようと、密かに決意をしていた。
そして辿り着いたドワーフの集落。
「こんにちはー!」
古い坑道の先にある山中の広い空間――つまりは大きな洞窟の中に、冬青の元気な声が響き渡る。
「お邪魔するよ。僕らは食物の調査に来た者だ」
アヤネも落ち着いた声と社交的な態度で、ドワーフ達に声をかけた。
『食物の調査?』
「そう。例えば毒のある茸の見分け方とか――」
「美味しい料理を出すお店とか!」
調査と言う名目を並べるアヤネの横で、冬青が食欲に目を輝かせて声を上げる。早くドワーフの料理が食べたいと顔に書いてあった。
『ほう! 俺らの飯を食いたいってのか!』
『待ってな。食材を用意してくる』
『あと毒キノコが多いから、その辺に生えてるの食うなよ』
2人の言葉を聞いたドワーフの数人が、ギラッと目を輝かせ、そんな事を言い残して洞窟の奥へと駆けて行く。
――後で聞いたところ、彼らの集落で料理店と呼べるものはなかったそうだ。
食べたくなったら取って食う。そういうライフスタイルであり、つまりは此処のドワーフ達は、誰もがそれなりの料理人になり得ると言う事であった。
そして――数十分後。
「独自に進化した食材なんて言ってたら、出てきちゃいました……」
「これ、食べられるんだよネ?」
ドワーフ達が用意してくれた食材を前に、アヤネと冬青は軽く絶句していた。
茸や甲殻類、何か獣の肉。それらの中に、何ともヤバめに毒々しい感じの緑色の殻を持つエビが混ざっていれば、誰だってこうなろう。
『見た目はすごいが、こいつは毒はないし、焼くと美味えんだこれが』
お勧めなのか、ドワーフはそのエビをいきなり網に乗せて焼き始めた。次第に、普通のエビと同じ様に、焼けて温まった殻が赤く染まっていく。
「おお、美味しそうな色になってきましたよ、アヤネさん!」
「待つんだ、ソヨゴ」
色の変化に目を輝かせる冬青を手で遮って、アヤネは前に出る。
「毒味は僕に任せて」
「え? 毒味ですか?」
真顔のアヤネに予想外の事を言われ、冬青が目を丸くする。
「私、胃袋丈夫な方なんで心配な――」
「ドワーフを疑っているわけじゃないし、熱を加えた料理なら大丈夫だとは思うけど万が一ということもあるよ、ソヨゴ」
いや、ないか――なんて胸中で浮かんだセルフツッコミを顔に出さず、アヤネは真顔のまま冬青をじっと見つめて告げる。
(「アヤネさんまで、お父さんみたいなことを……まぁいいか」)
そうさせている一因は自分の方にもあると気づかず、冬青は胸中で呟く。
「でもこれからの予行練習としてやってみよう」
「予行演習ですね、判りました!」
ついにアヤネに押し切られ、冬青は毒味役を譲るのだった。
ところで毒味が必要な予行演習って、何でしょう?
『焼けたぜ。これをつけてガブッといっとくれ』
「ん? これって……いや、まさか」
ドワーフが焼けたエビと共に差し出して来た茶色いソースの匂いを嗅いで、アヤネは思わず首を傾げる。
馴染みのあるものに、似ている気がしたのだ。確かめるには、食べるのが一番。言われた通りにソースをつけて、アヤネはカニにがぶりついた。
「むむむ! この濃い味付けは……!」
もう一度ソースをつけて、二口目もがぶり。
「間違いない。アメリカ料理の大胆さを彷彿とさせるネ」
似ている気がする――ではなかった。アヤネの故郷と言えるアメリカの料理に、よく似ている味付けだったのだ。
(「このソース、ウシか何かの肉と骨も使って作ってるネ?」)
アヤネの味覚は、このソースがおそらく、ブラウンソースやグレイビーソースと言われるものに近いものだろうと感じていた。
だが――。
「アーヤーネーさーんー」
それを確かめようとする前に、冬青の手が肩に伸びて来た。
「ずーるーいー。私も食べたいですよぉ~」
目の前でアヤネがあまりに美味しそうに食べるものだから、冬青はあっさりと我慢の限界を迎えていた。
「独り占めなんてしないよ。ソヨゴもお食べ」
アヤネはたっぷりソースをつけたカニを、冬青の方に差し出す。
「はい、あーん」
「えへへ、あーん」
ナチュラルに食べさせようとするアヤネに、冬青も素直に口を開けて――ぱくっ。
「んー!」
冬青の足が、パタパタと動く。
「とっても美味しい! 幾らでも食べられますね!」
「というわけで、ジャンジャン焼いて欲しいネ」
『あいよ!』
目を輝かせた冬青とアヤネの様子に、ドワーフ達はまずは火の勢いを強めようと炭を竈に追加するのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『ヤマゴボー星人』
|
POW : 大地の加護(ゴボー・ホリ)
非戦闘行為に没頭している間、自身の【周囲の時間の流れ】が【緩やかになり】、外部からの攻撃を遮断し、生命維持も不要になる。
SPD : 大地の民の祭(ゴンボ・ヌキ)
技能名「【ダッシュ】【逃げ足】」の技能レベルを「自分のレベル×10」に変更して使用する。
WIZ : 大いなる大地の恵み(ヤマゴボー・ヨーシュ)
【紫色の果実】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を紫色に染め】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
イラスト:更科 雫
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●どうしてこうなった
『ん? 帰って来たみたいね』
ドタドタと響く足音でヤマゴボー星人達の帰還を察して、魔女ニュムペーは大鍋を掻き混ぜる手を止めて正面に向き直った。
足音はどんどん近づいてきて――。
『『『何の成果も出せませんでしたぁぁぁっ!!!』』』
お帰りの一言を魔女が言う暇もなく、飛び込んできたヤマゴボー星人達は一様に膝を着いて、ガバッと頭を床につきそうなほどに下げていた。
所謂、土下座、である。
『え、えぇぇぇぇぇっ!?』
予想外の光景に、目を白黒させる魔女ニュムペー。
『ちょ、ちょっと。一体どういう事なの!?』
『おや? DOGEZAをご存じない?』
『確か宇宙船のデータベースに、最上級の謝罪のポーズとあったのですが』
『いや、そっちじゃなくて』
土下座をどういう事かと訊かれたかと首を傾げるヤマゴボー星人達に、魔女ニュムペーは手をパタパタ振って否定する。
『成果がない――って、どういう事なの? エルフは? ドワーフは?』
『どっちもピンピンしてまーす!』
問い詰める魔女に、ヤマゴボー星人が無駄に陽気に失敗を告げた。
『何かヤバい連中が島の外から来てまして』
『しかもエルフとドワーフと何か打ち解けて、飯食ってまして』
『いやー、あれはヤバい敵です。めっちゃ強そう』
『毒盛る隙なんてナッシング!』
どうやら猟兵達の思惑通り、それぞれの集落で猟兵が食事を楽しむ行為自体が、ヤマゴボー星人に対する抑止力となっていたようだ。
『そんなにすごい敵がなんで――まさか、この魔女の大釜を狙って?』
遠くから見てただけなヤマゴボー星人の猟兵評価を鵜呑みにした魔女ニュムペーの表情から、血の気が引いていく。
(『どうしよう。まともに戦って勝てる筈がないし……』)
ニュムペーの中で、思考がぐるぐる回転する。
(『でもそんな凄い人達に、キュケオーンの美味しさを判って貰えたら、エルフとドワーフにも判って貰えるんじゃない? そうよ、それしかないわ!』)
ぐるぐる回転した挙句、魔女の思考は明後日の方向にすっ飛んだ。
『ヤマゴボー星人! その連中を連れてきて! 手段は問わないから!!!』
すっ飛んだ挙句、魔女ニュムペーはまた目的を正しく伝えていない指示を飛ばす。
『連れて来いと言われても……』
『近寄るだけで根絶やしにされそう』
『何と言う無茶ぶり!』
『だが手段は問わないなら!』
『あ、そっか。集団でボコって連れていっても良いのか!』
『卑怯な手を使ってでも連れて来いと言う事か……さすが魔女だな』
ヤマゴボー星人もヤマゴボー星人で、魔女の指示をまた飛んでもない方向に曲解して、夕暮れのエルドワ島の平原へと出ていく。
――こうして。
『『『いくぞ! 猟兵狩りじゃぁぁぁぁぁぁ!』』』
二度目のすれ違いの末、ヤマゴボー星人の矛先が猟兵達に向けられた。
=====================================
2章でっす。ヤマゴボー星人との集団戦勃発です。
自分で書いておいてなんですが、何だこの頭の悪い展開は……。
魔女の指示(が曲解されて)ヤマゴボー星人の矛先が猟兵に向けられました。お陰でエルフとドワーフが毒を盛られる事は、もうありません。
奴らは島の平地を元気に走り回っており、猟兵を見つけると数を活かして集団で襲い掛かってきます。が、弱いです。攻撃手段は御覧の有り様ですし。
まあ逃げ足がやたら早かったり無駄にしぶとかったりしますが。
やたら素早くて1ターンキルしないとすぐ逃げられるくせに中々一撃では倒せない系の敵っぽいイメージですよ。
まあ第六猟兵のシステム上、倒しても特別な旨味ないんですけどね……。
似るなり焼くなりへし折るなり捕まえて吐かせるなりお好きにどうぞ。
なお魔女とヤマゴボー星人のやり取りは、所謂マスターシーン的な『キャラ視点ではまだ知らない筈の情報』になりますが、御覧の通りのネタシナリオっぷりなので、あまり難しく考えなくて大丈夫です。
プレイングは6/12(金)8:30~でお願いします。締切はまた別途告知します。最短でも6/14(日)いっぱいは大丈夫です。
=====================================
ガーネット・グレイローズ
ガーネット商会の若い衆を連れて、島を移動中。
塩を乗せた荷馬車をガラガラ引いていると、何やら前から変なのがやって来たぞ。
んん? なんだ、あの細っこいのは。
この島に自生してる野菜かな?いや、服を着てるし、歩いてるし。
オブリビオンか?
なんかすごい早さで飛びかかってきたし、とりあえず
品物を守らないとな。皆(船員)、下がっていなさい。
ドワーフと飲んできたばかりだし、あまり動きたくないんだが…
【イデア覚醒】で<第六感>を研ぎ澄まし、回避能力を強化して戦う。
相手の打撃を合気道を応用した<グラップル>で捌き、
<念動力>を利用してスポッと投げ飛ばす!
今日はこの辺にしてくれないか? 私は早く船で休みたいんだ。
レナータ・バルダーヌ
ヤマゴボー星人さん、ついに現れましたか。
こうなる前にお会いしたかったですけど、これもゴボウの神様が導いた宿命なのでしょう。
何をするつもりかはさておき、ここで止めなくては!
わたしの中のゴボウ魂が今こそ、この力を使う時だといっている気がします。
謎のゴボウ生物『ゴボウさん』を呼び寄せる力、【ゴボウさんフィーバー!】です!
ゴボウさんは普段は走り回るだけですけど、ゴボウとゴボウが出会ったとき何かが起きる……!かもしれません。
何も起きないかもかもしれません。
まあ、撹乱くらいにはなるでしょう。
それにしても、大きさは違えど姿かたちはそっくりです。
もしやヤマゴボー星人さんとゴボウさんには何か関係が……?(ない)
ヴィクトル・エセリアル
・・・一見敵意は無さそうだね。加えて調子が良いやら頭が弱いのか単純な存在と見た。・・問題はこいつ等の親玉か。
取り敢えず最初は敵意を見せずすきがある様子を演出しよう[挑発](警戒されるのは得策では無い)
話が出来そうなら親玉の話を聞けないか試してみようか。
相手側が攻撃を仕掛けてきたらUCを使用【攻撃力】。一瞬で背後に周り2丁拳銃で奇襲気味に後頭部に2回弾丸を撃ち込もう。逃走されたら追えそうも無いな、追撃はしない。
ただ相手が攻撃して来るなら武器を切り替えて背後に周る、連撃を繰り返そう
●港の攻防
――ゴトゴトゴトゴト。
車輪の音を響かせて、荷馬車が港へ戻って来る。
(「貨幣経済が浸透していなかったのは想定外だったが、良い取引が出来た」)
荷台を見やるガーネットは、ほろ酔い気分なのも手伝って満足していた。荷台にはドワーフの集落に向かう時に積んでいた茶葉と珈琲豆はなく、代わりにぶつぶつ交換で得た岩塩が乗っている。
(「集落で食べたドワーフの料理の味からして、あの岩塩は質が良い。他所で売れないと言う事はないだろうし、何なら船に戻って軽くもう一杯――」)
『――長。会長!』
「ん? ああ、どうした」
商会の若い衆の声が、ガーネットの意識を引き戻す。
『前から何か変なのがやって来るんですがね?』
「変なの?」
船員の言葉にガーネットは荷台から飛び降り、そちらに視線を向ける。
確かに前方に、土埃が上がっていた。
ズドドドドドドドッと、地響きにも似た音も聞こえて来た。
「んん? なんだ、あの細っこいのは」
土煙を立てているのが、何やら土色の様な妙に細いシルエットの集団だと気づいて、ガーネットが首を傾げる。
「木の根――いや、ゴボウ? この島に実勢している野菜か? いやでも服を着てるし、歩いてる……と言うか走ってるし……ん? ゴボウ?」
自分で呟いた言葉に何かを感じて、ガーネットが首を傾げる。
「何の用だろう? まずは話を――」
近付く音に気づいて鉄甲船から降りて来たヴィクトル・エセリアル(天上ノ外殻・f27757)は警戒させないようにと、敢えて無警戒で隙がある様に装って、穏便に話を試みようとしてみる。
『くらえ、ヤマゴボーダッシュからの不意打ちヤマゴボーキーック!』
2人のそんな様子にまんまと釣られて、謎のゴボウの先頭の1匹が飛び掛かっ――。
スパーンッ!
「あ、すまない。なんかすごい早さで飛びかかって来られたもんで、つい」
反射的にガーネットが放った念動力が、謎のゴボウを吹っ飛ばしてた。
『あーッ!?』
「まだあんなに距離があったのに、小細工もなしに飛び蹴りなんて……」
放物線を描いて打ち上げられた謎のゴボウを溜息交じりに見上げて、ヴィクトルが地を蹴って跳び上がる。
「飛び蹴りってのは、こうやるんだ」
スパーンッ!
ヴィクトルが空中で放った回し蹴りが、謎のゴボウを後方へと蹴り飛ばした。
バシャーンッと派手な水音を立てて、謎のゴボウが海に落ちる。
『ゴボッ、ゴボゴボッ……ゴボボッ』
バシャバシャと水音を立てて藻掻くゴボウが、離岸流に乗って流されていく。
「……何なんだ?」
「一見敵意は無さそうだったけど……」
ガーネットとヴィクトルが思わず顔を見合わせている間に、沖に流された謎のゴボウがゴボゴボと沈んで消えていく。
『な、なんてこったー!』
『泳げないと言う弱点が、いきなり露呈してしまったー!?』
『ヤマゴボーボディに水かきがあるわけないだろー!?』
続いて飛び掛かろうと身構えていたゴボウたちが、ガクリと膝を着く。
――本当に何だったんだ。
そんな空気が辺りに満ちかけた時だった。
「ヤマゴボー星人さん……ついに現れましたか!」
丁度エルフの集落から戻ってきたレナータ・バルダーヌの声が、港に響いた。
「ヤマゴボー星人さん……かつての銀河帝国との戦争で母星とともに姿を消したと聞いていましたが、まさかこんなことになっていたとは……」
「ん? ヤマゴボー星人……こいつらが毒を盛ろうとしていたオブリビオンか」
レナータの呟きに、ガーネットも感じていた何かの正体に気づいた。
『毒の事もバレてたー!?』
「そうです。こんな事になる前にお会いしたかったのですが……」
その呟きにまたまた驚く謎のゴボウ改めヤマゴボー星人に、レナータはどこか寂し気な視線を向ける。何か――縁があるのだろうか。
「何をするつもりかはさておき、ここで止めなくては!」
だがレナータも、ヤマゴボー星人達が何をしたいのか、実は良く判っていなかった。
『止められてたまるか!』
『こうなったら、せめて船を毒まみれにしてやるー!』
半ばやけになったヤマゴボー星人達が、今度は一斉に動き出す。
『と言いつつ積み荷を狙ってヤマゴボーダーッシュ』
「やれやれ。ドワーフと飲んできたばかりだし、あまり動きたくないんだが……品物を守らないとな。皆、下がっていなさい」
船員達に下がっているように告げ、ガーネットは荷馬車の前に出た。
●心の目
「――今の私には、この戦場のすべてが視える!」
イデア覚醒。
心の目とも呼ばれる物事の本質と先行きを瞬時に知る力を発動したガーネットには、ヤマゴボー星人がどれだけ束になろうが、どれだけ速く駆け回ろうが、その動きの先が見えていた。
「よっ! ほいっと!」
次々飛び掛かって来るヤマゴボー星人を、ガーネットは合気道の技で衝撃を受け流すことで片手で受け止める。
「船にも荷物にも近づけさせるわけにはいかんな!」
更にガーネットは受け止めたヤマゴボー星人を、念動力で勢いをつけて投げ飛ばす。
その先で飛び掛かろうとしていた別のヤマゴボー星人に、投げ飛ばされたヤマゴボー星人がボーリング宜しくぶつかって、巻き込んで吹っ飛ばされていく。
『く、くそ!』
『荷物さえ奪えれば脅せるのに……』
「今日はこの辺にしてくれないか? 私は早く船で休みたいんだ」
卑怯な考え駄々洩れに飛び掛かって来るヤマゴボー星人に溜息を吐きながら、ガーネットは捕まえては投げ飛ばしていった。
●仮面の技
『くらえ!』
『3体同時!』
『ヤマゴボーキック』
「調子が良いやら頭が弱いのか……単純な存在と見た」
3匹同時に飛び掛かって来るヤマゴボー星人を見やるヴィクトルの仮面の瞳が、キラリと輝きを放つ。
次の瞬間、その姿が消えた。
『『『ゴボッ!?』』』
ヴィクトルが消えた空間で3匹のヤマゴボー星人がぶつかり合って、それぞれバラバラの方向へ弾き飛ばされる。
「とはいえ、攻撃をしてくるなら敵だ――私も本気を出そう」
その内の1匹の背後に、ヴィクトルが現れた。ヤマゴボー星人の後頭部(?)に、二丁の銃口をピタリと突き付けて。
『うぼぁっ!』
ルシフェラーゼとニグレド。
光と闇のルーンを付加した二丁の銃の引き金をヴィクトルが引いた次の瞬間、頭に風穴を2つ空けたヤマゴボー星人が倒れた。
『な、なんだ今の動き。もしかして俺達のダッシュより速いんじゃ』
驚くヤマゴボー星人の目の前でヴィクトルの姿が再び消えて、数秒後、そのヤマゴボー星人の頭にも風穴があいていた。
見えない筈だ。
天上ノ技法――エーテリアル・アーツ。
ヴィクトルは空間魔法で、転移しているのだから。
●ゴボウ&ゴボー
『根絶やされる!?』
『こうなったらアレをするしか――』
ガーネットとヴィクトルに適わないと悟ったヤマゴボー星人達は、一ヶ所に集まる。
そしてヤマゴボー星人達は、一斉に膝を着いて――頭を下げた。
『『『『ま、参りましたぁ!』』』』
ヤマゴボー星人達は、土下座したのだ。
そこに飛来したヴィクトルの弾丸を避けながら。
『ふふふ……これぞ、DOGEZA。最上級の謝罪のポーズ』
『謝罪とはつまり、非戦闘行為!』
『これぞ大地の加護――ゴボー・ホリ!』
ヤマゴボー星人が持つ、大地の加護を得る力。非戦闘行為に没頭している限り、銃弾を避けられる程に周囲の時間の流れを緩やかにし、仮に攻撃が当たっても遮断する。「
「くっ……地に伏せるその体勢では、私も投げにくい……」
相手の力を利用するのが合気道。ガーネットも、手を出しあぐねる。
「これもゴボウの神様が導いた宿命なのでしょう」
土下座のまま固まっているヤマゴボー星人の前に、レナータが進み出る。
「わたしの中のゴボウ魂が今こそ、この力を使う時だといっている気がします」
レナータの背中から、炎の片翼が立ち昇る。
「ゴボウさんフィーバー!」
レナータが高らかに告げた声が、夕暮れの空に響き渡った――直後。
ドドドドドドドドッ!
ヤマゴボー星人の足音よりは軽いが地に響く音が近づいてきた。
土煙を上げて走って来る何かが近づいてきた。
『な、なにぃ!?』
『あれは――』
『ま、まさか――ゴボウ!?』
土下座中のヤマゴボー星人達が気付いたその正体は、ゴボウだった。ヤマゴボー星人と同じく手足が生えているゴボウだ。
その数、なんと350体。
「これこそが謎のゴボウ生物『ゴボウさん』を呼び寄せる力。由緒正しいゴボウ農園領主の血筋が為せる業です!」
ぐっと拳を握って力説するレナータの目の前で、ゴボウさんは、土下座ちゅうのヤマゴボー星人に群がって、その上によじ登っていく。
「……酔いが回った……と言うわけではなさそうだな」
「これは……同じ様な種族なのだろうか?」
一気にひどくなったカオス度にガーネットが思わず自分を疑い、ヴィクトルはレナータに問いかける。
「確かに大きさは違えど姿かたちはそっくりです。もしやヤマゴボー星人さんとゴボウさんには何か関係が……?」
喚んだレナータにも、良く判っていないらしい。
確かに全然小さいとか服を着てないとか違いはあるが、顔はそっくりに見える。
「まあ、ゴボウさんは走り回るしかなさそうなんですけど。ゴボウとゴボウが出会ったとき何かが起きる……! かもしれません」
レナータの見ている前で、ゴボウさんはあてどなく疾走する。走れるところなら、何処でも走る。
――まだ土下座中のヤマゴボー星人の上だって、シュバッ!シュバババッ!と。
ゴボー・ホリ中のヤマゴボー星人の周囲の時間の流れは、緩やかになっている。
つまりヤマゴボー星人達は、自分たちのミニチュア版みたいなゴボウさんが自分たちの上を駆け上がっていって這いまわるのを、スローモーションで感じていたのである。
とても――ストレスフルです。
『何も起きるわけあるかー!』
『大体こいつら、ただのゴボウのマンドラゴラじゃねーか!』
『マンドラゴラなら、エルフの森にも自生しとるわ!』
「ゴボウさんは特に叫んだりしない、無害なマンドラゴラですよ!」
我慢の限界に達して叫びながらガバッと立ち上がるヤマゴボー星人達に、レナータが言い返す。そう。ゴボウさんは、ゴボウ型マンドラゴラだったのだ。
『紫の果実も生えてないゴボウと一緒にすんなー!』
レナータに叫び返したヤマゴボー星人達は、跳ねのけたゴボウさん達目掛けて、紫色の果実をぶん投げ――る前に自分たちがガーネットにぶん投げられたり、ヴィクトルに撃ち抜かれたりしたのは、言うまでもない。
「さて。親玉はどこだ?」
『島の北部の麦畑の先にー!?』
そして僅かな生き残りにヴィクトルが銃口を突き付ければ、あっさりと魔女の居場所が割れるのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
フィーネ・ルーファリア
アドリブ連携可
状況:毒の脅威が去ったことは知らずにまだ心配している
エルフたちは畑の野菜についてら大丈夫だって言ってたけど、やっぱりちょっと心配かも
毒って言っても種類があるし、無味無臭で味に影響のないものも存在するから、安心してられないよ
とはいえその事を伝えたら心配させちゃうだけだろうから、どうしたものかなぁ
なんてことを考えつつ畑に向かう途中でヤマゴボー星人を見つけたら【高速詠唱】、【全力魔法】で作った風の壁で逃げられないようにして、【先制攻撃】で選択UCを【乱れ打ち】するよ
野菜に毒を仕込もうとしてるなんて許せないんだからね!(勘違いしてます)
言い訳なんて聞かずに問答無用でやっちゃいましょう
鹿村・トーゴ
あ。フツーにご飯を頂いてのんびりしてしまった
美味しかったよ
あんがとね(渡せるお土産はないが心底お礼を言って)
(口笛を吹くと相棒の放鳥中のユキエも戻り)
礼代わりに…変なの居るらしいから見まわりするか【情報収集】…ん?アレ何よ
枝が服着てるかと思ったけど…グリモア猟兵はヤマゴボーって
あいつらか?(小石を投げて気を引いてみる)
なんかいっぱいいるじゃん
ユキエ、行くか?
UCの猪にヤマゴボーに群れに突進させ騎乗したまま
【念動力】で狙いを付けた手裏剣を【投擲】+横を通りすがりにクナイで切断【暗殺】
一匹(猪が噛んでる)捕獲してささがきにするって脅して魔女の場所を聞いてみよっか
…あ、ゴボーさんはどの星から来たん?
●森の攻防:忍びと守護者
『航海の足しになるようなものは分けられず、すまないね』
「いやいや。オレも渡せるお土産ないし。料理美味しかったよ。あんがとね」
「畑の食材まで使ってくれて、同族として感謝するわ」
様々な野菜を使った料理の礼を述べて、鹿村・トーゴとフィーネ・ルーファリアは、エルフと別れた。
このまま集落を辞去しても良いのだが――。
「フツーにご飯を頂いてのんびりしてしまったし、変なの居るらしいから礼代わりに見回りでもしようかと思うんだけど」
「奇遇ね。私も畑が気になってたの」
根の真面目さでもてなされっぱなしが気になるトーゴと、守護者の気質で畑が気になるフィーネの利害が一致した。
「畑って森の中だっけ? オレ、後先考えるのとか周りを気にして戦うの、苦手だから森の外側見回っとくよ」
「判ったわ。そっちは任せる」
こうしてトーゴは森の外へ、フィーネは森の中の方へと向かって行った。
●猪突
――ピュゥッと口笛の音が響く。
「ん、お帰りユキエ」
その音で戻ってきた白いオウムが、トーゴの肩に止まる。
『向こうに何か変な集団がいたわよ』
「お? そうか?」
放鳥中に何か見たと言うユキエが示す方向へ、トーゴが平地を駆けて行く。
「……ん? アレ何よ」
すぐに、それは見つかった。
「なんかいっぱいいるじゃん」
何かの集団が、土煙を上げて猛然と走っているのだ。
「枝が服着てるかと思ったけど……」
次第にトーゴの目に見えてきたのは、枝か根の様な何か。
「グリモア猟兵が言ってたヤマゴボーって、あいつらか?」
半信半疑と言った様子で、トーゴは石を群れの方にぶん投げた。
『お? 何か飛んでき――いたー!』
『敵発見!』
『相手は1人だ! このまま突っ込めー!』
気づいたヤマゴボー星人が、声を上げて突っ込んで来る。
「ユキエ、行くか?」
『寄せね』
トーゴの言わんとするところを察したユキエが、軽く羽搏いて肩から地面に降りる。
翼をたたんだユキエの前に、トーゴが地面に片手を着いて、反対の手で印を結んだ。首元に浮かぶ羅刹紋が、僅かに赤い輝きを放ち――。
「寄せの術……依り代はここに、来い白猪」
次の瞬間、オウムのユキエの姿が光に消えて、そこには3m以上の白い猪がいた。
牙寄せ。
ユキエを依り代に、白猪を喚ぶ術である。
「よっと!」
トーゴがその上にひらりと飛び乗ると、白猪は土煙を上げるヤマゴボー星人の群れに向かって駆けだした。
猪突猛進と言う言葉がある。
一度走り出した猪が真っすぐ走り続ける。
そして走り続けているヤマゴボー星人は、すぐには止まれない。
『む? 何か来る――って』
『猪ー!? しかもすごいでかい!』
『止まれー! 退避ー!』
「もう遅え! 突っ込め!」
群れの先頭のヤマゴボー星人が気付いたが、トーゴはそこにノンブレーキで白猪を突っ込ませた。白猪がヤマゴボー星人を巨体で跳ね飛ばし、容赦なく踏み潰していく。
『くっ、あ、あぶな――うぐっ』
寸での所で猪の突進を避けたヤマゴボー星人に、苦無手裏剣が突き刺さる。
トーゴとて、猪任せにするつもりはない。念動力で軌道を微調整しながら、猪の上から投げる苦無てヤマゴボー星人を刺していく。
トーゴの周りに、動くヤマゴボー星人が殆どいなくなるのに時間はかからなかった。
「ゴボーさんはどの星から来たん?」
最後に残ったヤマゴボー星人に、トーゴが苦無片手に問い詰める。
『そそ、それが判ればばば、苦労はしない!』
その声は震えていた。それもその筈。白猪の口に咥えられているのだから。
「そっかー。苦労してるのか。でも魔女の場所は答えて貰う。じゃなかったら、猪に食われるかささがきされるか、どっちがいい?」
『どっちにしても食われる!?』
ガクガクプルプルするヤマゴボー星人の口から、北の麦畑の向こうに魔女の庵があると言う情報が得られた。
●風刃
――この森のエルフで、腐った野菜や果物を見分けられぬものなどおりませんよ。
フィーネの胸中に、集落のエルフの声が木霊する。
彼らの言葉を疑うわけではない。
(「疑うわけじゃないけど――ただ、ああは言ってたけど、やっぱりちょっと心配」)
胸中で呟いて、やや早足にフィーネは森の中を進んでいた。
何かしらの刺激がある毒も多いが、必ずしもそう言う毒ばかりでもない。自然の中にだって、無味無臭の毒と言うものは存在する。
代表的なところでは、フグの毒はほぼそうだと言う。
(「だから――安心してられないのよ」)
かといって、畑の野菜にそう言った類の毒を撒かれるかもしれないと言う事をエルフ達に伝えれば、心配させてしまうだろう。
「どうしたものかなぁ」
そう独り言ちながら森を進むフィーネの耳に、すぐ横の茂みからガサガサと草木を掻き分ける物音が聞こえて来た。
(「エルフ――にしては、煩いわね」)
おそらくエルフではない。
そう感じてフィーネが身構えていた事が、まず差をつけていた。
ガサガサ――ガササッ。
草木を掻き分けぬうぅっと出て来たのは、人型にしては小柄だが野菜や植物としてはやたら巨大な――ヤマゴボー星人の顔。
「っ!?」
『ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!?』
不意の遭遇でも息を呑んだフィーネに対し、ヤマゴボー星人はあっさりと驚いて悲鳴じみた声を上げる。
『おい、なんだ今の声は』
『誰かいるのか!?』
(「やっぱり畑を狙って来たわね――!」)
後ろで騒ぎ出すヤマゴボー星人達の声を聴きながら、フィーネは詠唱を始める。
『あれは――ヤバい敵だ!』
『何でこんなところに………!』
「何で? 野菜に毒を仕込もうとしてるなんて許せないんだからね! 風壁!」
詠唱を終えたフィーネは、まだ動揺が抜けないヤマゴボー星人達に言い返しつつ、風の魔法でヤマゴボー星人の周りに風の壁を作り出す。
実の所、まだヤマゴボー星人が畑に毒を仕込もうとしているのは、勘違いである。
だが――。
『な、何故気づかれて……』
『畑を人質にエルフを人質にとって、あいつらを脅す作戦が……!』
ヤマゴボー星人達は、それ以上にろくでもない事を考えたりしていた。
「させるもんですか――風よ!」
ざぁざぁと、フィーネの魔力に反応して渦巻く風が森を揺らす。
やがて、集まった風が――羽撃いた。
「風よ、我が敵を切り裂け!」
風の刃を持つ羽根が、フィーネの魔力で吹き荒れる風に舞い上げられて、ヤマゴボー星人を切り刻む。
羽刃――フェザーエッジ。
『ちょ、ま――』
『紫の果実をくら――わぷっ!?』
「問答無用よ!」
ヤマゴボー星人が反撃しようにも、フィーネの風が果実を投げる事を許さなかった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鈴・月華
キサラ(f22432)と
その戦法、分からなくないけれど…なんというか、直球すぎるネーミング…
辺りを見渡して、身を隠せそうな場所を探す
いっそ樹があればその上で待機とかでもいいかも。上へはゆきくらげに乗って上がろうか
…ゆきくらげは食べられないよ?中華くらげとかに出来ないよ?
キサラが睡眠薬を給仕した後、逃げる素振りを見せたヤマゴボー星人へと【月暈】
口無しにするのは少し不味いみたいだから、脅しに頭の実の切り落としを狙う
頭の実のほうが本体ってことは無い…よね?
思いっきり逃走するヤマゴボー星人が居たら、容赦なく頭かなって思う部位を狙うけれど
え、キサラ…もしかして食べるつもりなの?
得体の知れない存在なのに?
空目・キサラ
小鈴君(f01199)と
食事中にヤマゴボーが顔をひょっこりとも出さなかったということは、やっぱり警戒しているようだな
小鈴君よ。そんな相手には油断させといてサックリ戦法でいこう
僕が小鈴君の目の届く範囲で歩き回り囮になるから、ゴボーから身を隠せる場所で待機していてくれ
…海月か
ゴボー達が来てくれたならば。そんなに走り回ってたら喉が渇くだろうと声を掛けて【一蓮托生インソムニア】
頭の実…見た感じ分果じゃあないみたいだから、ヨウシュだろうかね
含まれる毒は熱で分解することが出来るタイプだったか
足止めは小鈴君に任せて、ゴボーと話をしよう
さて、直球だけど
食べられたくなかったら、素直に君らの首領の居場所を吐きなよ
●森の攻防:探偵と暗器使い
「ヤマゴボーとやら、食事中に顔をひょっこりとも出さなかったね」
「うん。結局、何事もなく料理を御馳走になってしまった」
エルフの集落を辞去した空目・キサラと鈴・月華は、エルフの森の中を西へ西へと歩いていた。来た時は森の中の道を通ったが、抜けるだけなら西を目指せばいいらしい。
「ということは、やっぱり警戒しているようだな。小鈴君よ。そんな相手には油断させといてサックリ戦法でいこう」
「その戦法、分からなくないけれど……なんというか、直球すぎるネーミング……」
人差し指立てたキサラの告げた作戦名に、月華が目を細めて返す。
「大体予想はつくけど、どうするの?」
「僕が小鈴君の目の届く範囲で歩き回り囮になるから、ヤマゴボーから身を隠せる場所で待機していてくれ」
ガサガサッ。
そう言いながらキサラが踏み出した足が、下草を掻き分け――平原に出た。
「森、抜けちゃったね」
続けて森の外へ出ながら、月華が呟いた。
平地に出たと言ってもまだ出たばかり。すぐ後ろには森の樹がある。だが、その上からでは月華の目の届く範囲は限られる。
「おいで、ゆきくらげ」
だから月華は、雪の様に真っ白なクラゲを呼び寄せた。
空からふよふよと漂ってくる姿は、その白さも相まってまるで雪――と言うにはかなり大きいので、雪だるまだろうか。
「海月か……」
「……ゆきくらげは食べられないよ? 中華くらげとかに出来ないよ?」
ゆきくらげを見上げて呟いたキサラに、その触腕に掴まって上に乗せて貰いながら月華が半眼で告げる。
「いや、僕は別に腹ペコキャラじゃないからね?」
パタパタと顔の前で手を振って、キサラは笑って返す。
「その海月大きいから、目立たないかなって」
「それなら――ゆきくらげ」
キサラの疑問に対し、月華はしばし考えてゆきくらげの名を呼ぶ。すると、ゆきくらげは全ての触腕をするするとしまってきゅっと丸まった。
「こうすれば雲みたいに見えるんじゃない?」
ゆきくらげの上から顔を出した月華の言う通り、触腕さえ見せずに漂っていれば、丸まったゆきくらげはその白さと大きさも相まって、雲のようにも見えていた。
●サックリ戦法炸裂
ズドドドドドドッ!
平地に、足音が響いている。
『猟兵はどこだゴボー!』
『いざ探すといないゴボ!?』
ヤマゴボー星人の群れが、ドタドタと足音鳴らして走っている。
「やあ、誰を探しているんだい?」
(「おい、警戒心何処に捨ててきた!?」)
内心でツッコミながら、軽く手を挙げてフランクな感じでキサラが声をかける。
『誰? 特定の誰かではないのだゴボ』
『名前は判らないが、ヤベー敵だゴボ!』
『根絶やしにされそうな連中なんだ!』
(「……なんでゴボー達の評価、こんな事になってるの?」)
ゆきくらげの上から様子を見守っていた月華は、ヤマゴボー星人の猟兵に対するヤベーとかいう評価に、内心軽く戸惑っていた。
「そんなのが何処にいるんだい?」
一方のキサラは、内心どう思っているのか、表情を変えずにヤマゴボー星人達と話を進めている。
『それが判らんからこうして探してるんだー!』
『でも見ればわか……る……』
『って、お前かー!!!!!』
しかし、バレた。
「何だ、僕の事だったのか。そんなに走り回ってたら喉が渇いただろう?」
だがばれてもキサラはどこ吹く風で、しれっと水を差しだした。
『おお、気が利――』
バターンッ!
高濃度に圧縮された睡眠薬入りの水と知らずにグイッと飲み干したヤマゴボー星人が、その直後にぶっ倒れる。
『zzz』
「あ、効くんだ。睡眠薬」
すやぁっと寝落ちてたヤマゴボー星人を見下ろし、キサラは思わず頬を掻いた。
『一撃!?』
『やっぱヤバい連中だったゴボー!?』
『逃げないと!?』
あばばばば、と慌てふためくヤマゴボー星人達。
だが――。
『あ、あれ?』
『な、何か身体が重いゴボ!?』
ヤマゴボー星人達の身体は、思うように動いていなかった。
一連托生インソムニア。
キサラの出した睡眠薬を楽しんでいない敵は、動きが5分の1に制限される業。睡眠薬自体が効かない身体でない限り、眠るか動きが鈍るかの二択しかない。
『だけど、動けないわけじゃない』
『ならば走って逃げ――』
シュパンッ! ストンッ!
空から飛来した幾つもの刃が、動きが鈍ったまま逃げようとするヤマゴボー星人達の頭から果実を斬り落としていった。
「動かないでくれるかな」
ゆきくらげの上から顔を出して、月華が告げる。その袖口には、ヤマゴボー星人の果実を落としたのと同じ形の刃の切っ先が僅かに覗いてた。
「逃げるなら、次は頭を狙う。袖の中には、色々な秘密が詰まっているんだよ」
――月暈。
袖の中に仕込んだ投擲用ナイフを投げる月華の業。
魔法的な技術でナイフを出しているのではない。純粋に月華の技術のなせる業だ。物理的な限界を超えてそうなくらいのナイフを仕込んでいるのも、それを投げればほぼ必ず狙った部位を捉える精度を誇るのも。
『に、逃げられない……』
『でも水がヤバい……』
『つ、詰んでる?』
睡眠薬入りの水を給仕されれば、ヤマゴボー星人とて寝落ちる。水を嫌だと拒めば、動きが大きく鈍いってしまったところに、狙い撃ちにされる。
キサラの睡眠薬の効果と月華の技量のあわせ技に、ヤマゴボー星人達に対抗する術は最早なかった。
「うん詰んでるね。さて、直球だけど。食べられたくなかったら、素直に君らの首領の居場所を吐きな」
ガクブルするヤマゴボー星人の1匹に、キサラは良い笑顔でさらりと脅しにかかる。
「え、キサラ……もしかして食べるつもりなの? 得体の知れない存在なのに?」
「ああ、大丈夫だよ小鈴君」
聞こえた脅し文句にゆきくらげの上で目を丸くする月華に、キサラは足元の果実を拾い上げながらさらりと告げる。
「見た感じ分果じゃあないみたいだから、ヨウシュだろうかね。とすると、含まれる毒は熱で分解することが出来るタイプだ。茹でてアクを取ればいいのさ」
『言う!』
『言いますからー!?』
『北に麦畑があってー、その向こうに』
食べる気満々にしか聞こえないキサラの言葉にあっさりと折れるヤマゴボー星人達を、月華が『本当に食べるんだろうか』と言いたげな目で見ていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アヤネ・ラグランジェ
【橙翠】
そうだネ
これだけ美味しいならタッパーでも持ってくればよかった
ゴボウ?
でも動いてるし服着てるし
これはカモがネギ背負ってというケースなの?
ゴボウってどうやって料理するのかな?
うーんでも泥が付いているし
あのまま口の中に飛び込まれても不味そうだよネ
二重の意味で
いやソヨゴ
なんか素直に吹っ飛んで逃げて行くゴボウもいるし
無駄に戦意は高いけど
僕らが食われる心配はそんなにないんじゃ…
うわソヨゴ聞いてないし
仕方ない
降りかかるきな粉ははらわねばなるまい
え?そこはツッコミ入るの?
ダメージを負わせれば逃げていきそうなので
片端からライフルで撃ちまくる
ゴボウ諸君
彼女に逆らうと食材にされる運命だけど
そろそろやめない?
城島・冬青
【橙翠】
美味しい食事でしたね
なにかお土産に買ってこうかなぁ
ん?アヤネさん、アレ…なんですかね?(指差し)
細長くてなんかゴボウみたいな……って本当にゴボウだー!
ゴボウが二足歩行でこっちに向かって来る!
アレもドワーフの食材なんでしょうか?
あ、ゴボウは煮物が美味しいでs…わっ攻撃してきた?!
これは未知なる危険生物の予感!
カラスくーん!
UCのカラスくんで向かってきたゴボウを吹っ飛ばす
アヤネさん
このゴボウっぽいの、凄まじい殺気です
油断していたら私達が餌食にされます!
食材に食われるわけにはいきません
負けられない戦いがここにある!(刀を構えダッシュで斬りかかる)
あとアヤネさん…きな粉じゃなくて火の粉です!
●山地の攻防:橙翠――それぞれの矜持
「美味しい食事でしたね、アヤネさん」
「そうだネ。これだけ美味しいなら、タッパーでも持ってくればよかった」
ドワーフの集落のある山地のすぐ外で、お腹が満たされご機嫌そうな城島・冬青に、アヤネ・ラグランジェが何処か名残惜しそうに頷いていた。
「確かに。ドワーフ弁当箱とかあったら、お土産に買いたかったです。中身付きで!」
今からでも戻ってみようかと思ったのか、冬青が背後の岩山の方を振り向こうと――した途中で、それに気づいた。
「ん? アヤネさん、アレ……なんですかね?」
「うん?」
冬青の指が示す方に、アヤネも視線を向ける。
ドドドドドドドッと地響きのような音と共に、土煙がこちらに迫っていた。
否。何かが土煙を上げて、こちらに向かって走ってきていた。
「近づいてきてるネ?」
「細長くてなんかゴボウみたいなのが……見えます」
何事かと首を傾げるアヤネの隣で、冬青は土煙を上げて迫るものを見極めようと、琥珀色の瞳を細めた。
やがて見えてきたのは灰色がかった土色の様な、木の根にも見える独特の色合い。冬青はその色合いを知っている。八百屋さんで見た事がある。台所でも。
「って本当にゴボウだー!?」
「ゴボウ? あれが?」
驚く冬青の様子に、アヤネが首を傾げる。あまりゴボウに馴染みがなかったか。
「でも動いてるし服着てるネ? これはカモがネギ背負ってというケースなの?」
「ええと、ゴボウが二足歩行って言うかダッシュしてるんで、ネギがカモ抜きで自分で走って来てると言うケースでしょうか」
首を傾げたアヤネに合わせて、冬青はカモネギに置き換えて今の状況を伝えた。
「つまりは食材なんだネ。どうやって料理するのかな?」
アヤネの疑問も尤もだろう。UDCアースでは、ゴボウを日常的に食べる文化があるのはほとんど日本人だけだと言われているのだから。
「そうですね。ゴボウは煮物が美味しいです。あとは甘辛く炒めたり……あ、もしかしてアレもドワーフの食材だったり?」
スラスラとゴボウを使った料理を述べる冬青の声は、アヤネ以外にも聞こえていた。
具体的には、迫るゴボウ(?)の集団にも。
『だぁぁぁれが食材だゴボ!』
『大人しく食われてやるようなヤマゴボー星人はいないゴボ!』
先頭の2体のヤマゴボー星人が、同時に地を蹴ってアヤネと冬青それぞれに向かって飛び掛かって来た。
『ゴボウとは違うのだよ、ゴボウとは!』
「おっと」
「わっ攻撃してきた?!」
ヤマゴボーの誇りが籠ってるかもしれないヤマゴボー星人の飛び蹴りを、しかしアヤネと冬青は危なげなく回避する。
『避けたと思わせて更にヤマゴボーキーック!』
だがそこに、飛び蹴りを外したヤマゴボー星人の後ろから、別のヤマゴボー星人がやはり飛びかかって来――。
「カラスくーん!」
クラーニオ・コルヴォ。
冬青が喚んだ目には見えないカラスが、跳躍したヤマゴボー星人を空中で捕まえた。
『え、ちょ、なにこれ? 飛んでる!?』
じたばた藻掻くヤマゴボー星人を、カラスは爪でがっしりと捕まえて――ある程度飛んだところで、爪を離して放り投げる。
『あぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』
空中で支えを失った挙句に吹っ飛ばされたヤマゴボー星人は、重力に従って地表に向かって空から落ちてきた。
ジタバタ藻掻いてみてもどうにもならず――ズドンッと物音が響いて、地面にヤマゴボー型の穴が出来た。穴の底から、『ゴ、ゴボッ』と短い断末魔が響く。
それを見たヤマゴボー星人達は戦意を――。
『な、なんてことを!?』
『良くもやってくれたなゴボー!』
――失うどころか、一部が怒りに燃えていた。
「アヤネさん。このゴボウっぽいの、凄まじい殺気です!」
「いやソヨゴ。なんか素直に逃げて行くゴボウもいるよネ」
釣られてキリッと表情を引き締める冬青に、アヤネは冷静に告げる。よく見れば目の色変えたヤマゴボー星人の後ろで、コソコソ逃げ出そうとしている個体も見えた。
「適当にダメージを負わせれば逃げていきそうじゃない?」
「いいえ、アヤネさん。アレはおそらく、未知なる危険生物です。油断していたら私達が餌食にされます!」
だが冬青は逃げる方よりも戦意を向けるヤマゴボー星人を気にして、花と髑髏の彫られた鍔を持つ愛刀を鞘から抜き放つ。
何故、冬青がそこまでヤマゴボー星人を危険視するのか。
「食材に食われるわけにはいきません!」
それは冬青のこの言葉に、集約されていた。
今まで様々な世界で食べられるオブリビオンを捌いてきた冬青だが、食われまいと抵抗された事はあっても、食材に先に襲い掛かって来られた経験はどれだけあったか。
「成程、そこか」
その理由に、アヤネも思わず頷く。
「けれどソヨゴ。無駄に戦意は高いし、泥が付いているし、あのまま口の中に飛び込まれても二重の意味で不味そうだけどネ。僕らが食われる心配はそんなにないんじゃ……」
それでも冷静に分析して告げるアヤネの耳に、ザッと地を蹴る音が届いた。
「負けられない戦いがここにある!」
「うわソヨゴ聞いてないし」
『花髑髏』に『不死蝶』も抜いて二刀を構えて駆け出した冬青の背中を見て、アヤネは溜息交じりにコートの中からアサルトライフルを構える。
「まあ、仕方ない。降りかかるきな粉は払わねばなるまい」
頭の果実をもぎ取って投げようとしていたヤマゴボー星人を、アヤネの『Phantom Pain』の連射で果実ごと纏めて撃ち抜いた。
蜂の巣になったヤマゴボー星人が、ぐらりと倒れ伏す。
「ふっ! はっ! てい!」
その間に、冬青は3匹のヤマゴボー星人を真っ二つにしたり半分になる様に胴の真ん中で水平に切ったり、首元で斜めに切ったりしていた。
どれもゴボウの標準的な斬り方である。多分。
『ヤ……ヤマゴボーはゴボウと同じじゃねえ……』
そんな言葉を最後に、水平にぶった切られたヤマゴボー星人が事切れた。
『やっぱ滅茶苦茶やばかったー!?』
『このままだと根絶やされるー!?』
それを見たヤマゴボー星人達に、怯えが広がる。
「さて、ゴボウ改めヤマゴボー諸君。彼女に逆らうとゴボウとして食材にされる運命だけど、そろそろやめない?」
「逃がしませんよ食材!」
そんなヤマゴボー星人を見回し脅しを強めるアヤネに、冬青も言葉を合わせた。半分くらいは本気だったかもしれないけれど。
「あとアヤネさん。降りかかるのは、火の粉です」
「え? そこはツッコミ入るの?」
聞いてなかったようで聞いてた冬青からの時間差のツッコミに目を丸くするアヤネ。そんな2人の周囲から、動けるヤマゴボー星人はそろり、そろりと離れていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
生浦・栴
山羊の(f02320)と
飯を全部美味く喰えたは良いが、不審者が見当たらぬな?
食後の運動と称し少し外を見て回るか
山羊のは体が大きい分、量も必要よなあ
そして早速、不審な棒が走り回っておるが
マンドラゴラの親戚か?
いや、マ(略)は薬やらの原料だから勧めぬが
集落から少し離れようか
鬱陶しい気配がひしひしとするが
えい、面倒だ
魔法で連中の一帯を湿地に変え
一気に全力魔法で凍らせてしまおう
土竜の如く叩き放題だぞ
逃げるのはUCで足止めしよう
さて、喰うにしてもお八つ希望か
折れてるなら味が染みそうだし下味を付けて素揚げはどうであろう
っと、本題のために魔女が何処に居るかも聞いてみるか
道案内して呉れるなら解放しても良いぞ?
明石・鷲穂
栴(f00276)と
どっちの飯も美味かったが…餅麦美味しかったなあ!まだまだ食べ足りない。
不審な棒……マンドラ…何だ知ってる生物か?…美味いのか?
集落から距離を取って、栴が魔法を使ったら攻撃の合図だな。
相変わらず器用だなあ!……凍らすより焼いた方が美味そうじゃないか?
食後の運動!食後のおやつ!逃げ足早いな!
武器は錫杖。移動は【早業】【空中浮遊】。
凍った敵を【怪力】を込めて割っていくぞ。
敵からの攻撃は【野生の勘】を駆使。錫杖で受け止めて打ち返そう。
素揚げかあー…さっきの酒のツマミに合いそうだな!
………道案内してもらったら食ってみないか?
●山地の攻防:食後の運動、或いはおやつのための
「いやあ、エルフもドワーフも、どっちも美味い飯だった。なあ、栴」
「そうだな、山羊の」
笑顔で山道を下る明石・鷲穂に、生浦・栴が小さく頷く。
「特に餅麦。あれ美味しかったなあ!」
「――なあ、山羊の」
ドワーフの集落で食べた変な形の魚の中にもちもちした麦を詰めた料理の味を反芻する鷲穂に、栴が真面目な表情で告げる。
「少し食後の運動がてら歩いて回らんか?」
「ん? 良いけど、俺はまだまだ食べ足りないくらいだぜ」
「山羊のは体が大きい分、量も必要よなあ」
自分の倍は食べていた筈だがさらりと返して来る鷲穂に、栴は感心と呆れが混ざった様な溜息と共に返す。
とは言え、栴が食後の運動と言ったのは、ある意味建前だ。
「飯を全部美味く喰えたは良いが、不審者が見当たらんかったからな?」
「ああ、見回りってことか。よし判った」
栴の言わんとすることを察した鷲穂が頷いて、2人は真っすぐ港に戻る道ではなく平地の方へ続く道に逸れていった。
そして――数分後。
『どうだ!?』
『あのやばい2人は……』
『大丈夫だ、追ってきていない!』
2人の前には、何か細長いものが背後を気にして走り回っていた。
どうやら、何処からか――誰かから、逃げて来たのだ。まあ食材扱いして切り刻んでくれた、他の猟兵からなのだけれど。
「不審な棒が走り回っておる……」
だが栴には『不審な棒』と称したそれは、右往左往と走り回っているようにしか見えなかった。実際、木の根か枝が人型になったような感じの細っこい身体で、確かに棒と言えなくもない。
「……マンドラゴラの親戚か?」
「不審な棒……マンドラ……何だ知ってる生物か? それは、美味いのか?」
栴の口を吐いて出ていた言葉に、鷲穂が視線を向ける。
「いや、マンドラゴラは薬やらの原料だから、勧めぬが」
「あ、でも食えないってことは無いんだな」
どうやら鷲穂は本当に、まだ食べ足りないらしい。栴が勧めないと言うのに、この反応である。
そして、その食欲は不審な棒――もといヤマゴボー星人にとって、新たな悲劇のもとでしかなかった。
「食後の運動! 食後のおやつ!」
『おやつじゃねー!』
『食材じゃねー!』
鷲穂が振り下ろした鉛の錫杖を、走り回るヤマゴボー星人がひらりと避ける。
「っと逃げ足早いな!」
鷲穂は空を切った錫杖をすぐに翻し、飛んできた果実を叩き落とす。
「えい、面倒だ」
栴は何度も空を焦がした炎を放つ刃を収めると、代わりに取り出した赤闇い珠を、屈んで足元の地面へと押し当てた。
『Ancient deep sea』――闇い水を紅い縛魔の呪で練ったオーブの表面が、湖面の様に揺らめき波立ち、怨嗟とも水音ともつかない音を響かせる。
『Ancient deep sea』の闇い水の力が、土に浸透していく。その範囲が、じわじわと広がっていく。鬱陶しく走り回るヤマゴボー星人達の足元へと。
「変われ」
ドプンッ!
栴が短く告げた直後、その一帯が湿地帯と化した。
ズボッ!
『ぬあっ!?』
『泥濘だと!?』
走り回っていたヤマゴボー星人達の足が、次々と湿地にハマり出す。
ヤマゴボー星人達の身体は『不審な棒』と称される程に、細いのだ。手足も当然、そんな感じなのだ。細いものは、一点に力がかかりやすい。
ぬかるんだ地面でそんな力がかかれば、当然ハマる。
『ぬ、抜けない!?』
困惑したヤマゴボー星人が藻掻けば藻掻くほどに、その細長い身体は、ズブズブと湿地の中へと沈んでいく。
ゴボウにそっくりなヤマゴボー星人の手足に、水かきなんてある筈がないのだ。細長い棒のような足で、泥濘んだ場所にハマって簡単に抜け出せるものか。
「凍れ」
慌てふためくその姿を眺めながら、栴が再び短く告げる。
するとドロドロの泥濘になっていた地面が、一瞬で凍り付いた。ハマったヤマゴボー星人諸共に。
「おお。相変わらず器用だなあ!」
一気に複数のヤマゴボー星人の動きを封じた栴に、鷲穂は素直に賛辞を贈る。
「でも、凍らすより焼いた方が美味そうじゃないか?」
霜に覆われ真っ白になったヤマゴボー星人を錫杖でつついて、鷲穂は続ける。これがキュウリ辺りであれば冷やしても美味しいのだが――。
(「さっき山羊のは、お八つと言っていたな。だったら――」)
胸中で呟き思考を巡らせた栴の脳裏に、ひとつの案が浮かぶ。
「下味を付けて素揚げはどうであろう」
「素揚げかあー…さっきの酒のツマミに合いそうだな!」
栴の提案に、鷲穂はドワーフの集落で呑んだ酒を思い出しニマリと笑みを浮かべる。
「ならば、砕いてくれ」
そんな鷲穂に、栴は淡々と告げる。
「折れて砕けていた方が、味が染みそうだからな。土竜の如く叩き放題だぞ」
「おお、任された!」
ニッと悪そうな笑みを浮かべた栴に頷いて、鷲穂もニマリと笑って錫杖を掲げる。
「崇め、酔え、踊れ」
鷲穂が構える錫杖を、ぼんやりとした光が覆う。それはこの地に在る、精霊の力。
自然の中にいる精霊の力を武器へと重ねる業。
地精礼賛――パンチャ・マハー・ブータ。
『ま、待て――』
「すまんな、待たない」
鷲穂が威力を増した錫杖を振り下ろすと、乾いた音を立てて氷が砕け散った。
ガシャーンッ! ガシャーンッ!
氷と共に凍ったヤマゴボー星人も砕く音が、断続的に響く。
「さて。魔女の居場所まで道案内する気のあるものはいるか? 道案内して呉れるなら解放しても良いぞ?」
鷲穂が立てる破砕の音を背後に、栴が氷の中のヤマゴボー星人に声をかけた。
『お、俺が!』
『いや、俺が!』
手を動かせるヤマゴボー星人が一斉に手を挙げ、動かせないものは小声で答える。
気づいていたのだろうか。
栴が言ったのは『解放しても良い』――であって『必ずしも解放する』とは言っていないと言う事に。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
草野・千秋
エルフさんもドワーフさんもピンピンしててよかろうなのです!
僕達猟兵は被害を最小限に食い止めるために、ある者は海を、ある者は世界を超えてやってきました
これ以上はやらせないのですよ
……また植えたら繁殖力強そうな星人ですよね
歌唱、楽器演奏、UC【Vivere est militare!】で味方を鼓舞
武器改造、属性攻撃でアサルトウェポンの銃弾に炎の属性を込める
スナイパー、範囲攻撃、2回攻撃、一斉発射で攻撃
ある程度倒せたらヤマゴボーを怪力で捻り上げて
魔女の存在の在処を吐かせます
お前たちを指揮する者の存在はどこに?
●断罪の時
『だ、ダメだ! 船は襲えなかった。海が近すぎて落ちるの怖い』
『森もダメだ……守りが硬かった』
『山もダメだだった……埋まるは斬られるは』
海でも、森でも、山でも――あちらこちらで猟兵達を襲うも返り討ちにあい、這う這うの体で逃げてきたヤマゴボー星人達は、自然と平地の真ん中で集まっていた。
『1、2、3……合流できたのは、20人もいないか』
『数、減ったなぁ……』
『マジで根絶やされるんじゃ』
『やばいやばいと思ってたけど、あいつら一体何なんだ……』
顔を突き合わせるヤマゴボー星人の間に、溜息が重なる。
アレだけ高かった戦意は、何処に行ってしまったのかという消沈っぷりだ。
だが――。
「教えてあげましょうか」
そこにかかった声と足音に、ヤマゴボー星人達の背中がビクッと跳ねる。
「僕達は猟兵です」
いつの間にか、草野・千秋がヤマゴボー星人達に追いついていた。
「お前達コンキスタドールの被害を最小限に抑える為、海を超え、世界を超えてやってきました」
『世界を!』
『あー、だから銃持ってるやつがいたのか』
『エルフもドワーフも、銃を持ってないもんな』
千秋の言葉にあるヤマゴボー星人は(多分)目を丸くして驚き、別のヤマゴボー星人は銃で撃たれた事に納得して頷く。
(「何なんでしょう、この妙な明るさは……」)
そんなヤマゴボー星人達の様子に、千秋は思わず胸中で呟く。
他の猟兵達に、かなりの数が倒されている筈だ。
それなのに、絶望感や悲壮感と言ったものをあまり感じているように見えないのだ。
聞こえて来た会話から察するに、絶望してないわけではないし、ヤバいとか思ってはいるのは確かなのに。
「繁殖力強そうですね。植えたら増えそう」
千秋が思わず呟いた一言に、ヤマゴボー星人達がバッと顔を上げる。
『いやいや、そんな事ないって』
『そうそう。ぶった切られたら死ぬし』
『分裂とかできねーし』
『何なら植えて試してみてもいいぞ』
『抵抗しないから! さあ!』
何故繁殖力の強さの基準がプラナリアレベルなのかはさておいて。
そんな事ないから試してみろと立ち上がったヤマゴボー星人達に向ける千秋の目は、とても冷たかった。
「……本当は、植えたら増えると知っているんだな?」
『『『ギクゥッ!?』』』
千秋の一言に、ヤマゴボー星人達の肩が跳ねる。
『ふふふ、増えない増えない』
『埋まってたら安全なだけ』
『埋められたら大地の加護で生命維持も要らない無敵モードになれるだけ!』
『そのまま埋まり続けてほとぼりを冷まそうとか思ってないから!』
なんか勝手に焦って、ある意味増えるよりも性質が悪い事を、ペラペラと口走るヤマゴボー星人達に、千秋は大きく溜息を吐いて――。
「これ以上はやらせないのですよ」
アサルトライフル『ordinis tabes』――秩序の崩壊の意味を持つ名を冠した銃口を向けて、千秋は炎の属性を持たせた弾丸を、ヤマゴボー星人達に浴びせていく。
『痛っ、イタタタッ熱ぅぃ!』
撃たれれば、焼かれる。じわじわとヤマゴボー星人達の体力が削られていく。
『こ、こうなったら死んだふりで大地の加護を――』
「させません」
大地の加護――ゴボー・ホリの力を得るための非戦闘行為に没頭しようとしたヤマゴボー星人を、千秋の手がガシッと掴んで持ち上げる。
「お前たちを指揮する魔女がいるのは判っています。今はどこに?」
千秋が手に力を込めれば、ヤマゴボー星人の身体からミシミシと音が鳴る。
『北ー! 北の麦畑の向こうに小屋があってー!』
ヤマゴボーのボディが折れる前に、心の方が折れていた。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『『災厄になれなかった魔女』ニュンペー』
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POW : はは、失敗作だから無理に食べなくて良いよ
【周囲に気まずい空気が漂うほど下手な手料理】を給仕している間、戦場にいる周囲に気まずい空気が漂うほど下手な手料理を楽しんでいない対象全ての行動速度を5分の1にする。
SPD : それじゃあ、甘いケーキはどうかな?
【此処から去って欲しくないと言う切ない思い】を籠めた【鍋型メガリス『魔女の大鍋』によるケーキ】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【闘争心や冒険心、何より故郷への郷愁】のみを攻撃する。
WIZ : ささ、遠慮なくキュケオーンをお食べ?
【鍋型メガリス『魔女の大鍋』による麦粥】を披露した指定の全対象に【使用者と一緒に毎日食べ続けたいと言う強い】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
イラスト:キイル
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「黒玻璃・ミコ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●麦畑の向こうの真相
ヤマゴボー星人から得た情報を頼りに、或いは生き残りのヤマゴボー星人に直接案内をさせて。猟兵達がエルドワ島北部に集った頃には、空が暗くなり始めていた。
猟兵達の前では、夜風にサヤサヤと麦が揺れている。
実った麦穂は頭を垂れていて、そろそろ収穫の時期になっているようだ。
とは言え、麦畑と言った様相ではない。幾つかの種類の麦が混在しているし、生えている感覚も一定ではなく、ごちゃごちゃと並んで一帯を埋め尽くしている。
恐らくは、ずっと昔から、この一帯には麦が自生していたのだろう。だから、特にドワーフの集落では、麦の酒や餅の様な麦など麦を食材としていたのだ。
そして――そんな麦が、1人の魔女を呼び寄せていた。
『こっち、こっち』
『我等ヤマゴボー星人のこの細身ボディなら、麦の中だってこの通り!』
そんな麦の中を、生き残りのヤマゴボー星人がするすると抜けていく。
猟兵達は麦を傷めないようそっと掻き分けたり、或いは上を飛んだりして、ヤマゴボー星人達の後を着いていく。
ものの数分で、麦の向こうに煙が見えた。
一帯を埋め尽くす麦で上手く隠されていた木造の小屋の煙突から上がる煙だ。
『魔女よー!』
『魔女ニュムペーよ!』
ヤマゴボー星人達が、小屋に向かって呼びかける。平屋の1階建てだが、奥行きはかなりありそうだ。おんぼろで屋根も木なので、麦で隠せていたのだろう。
『お帰りー。入って良いよ、ヤマゴボー星人』
中から年若い女性の声が、入って来いと促して来る。
一応罠を警戒してヤマゴボー星人を前に立たせ、猟兵達は小屋の中へと踏み込んだ。
ただっ広いが所々穴が空いて隙間風が抜ける小屋のど真ん中に、大きな鍋が置かれている。その傍らに、鷹に似た4枚の翼を持つ女性がいた。
その女性こそが、魔女ニュムペーである。
『やったー! お客……だ……』
入ってきたのがヤマゴボー星人以外だと気づいてぱっと輝いたニュムペーの表情が、猟兵達を見るなり、どんよりと曇っていく。
『え……待って……何で猟兵が来てるの……?』
オブリビオンは、猟兵を見ればそれが猟兵だと気づいてしまう。
そういう風に出来ているのだ。
『だからヤバい敵がいるって言ったじゃないですか、魔女よ』
『ヤバい敵とかすごい敵とかしか言ってなかったじゃない! 他の島のヤバめの海賊が来たくらいだと思って、キュケオーンで懐柔するつもりだったのに!』
しれっと返すヤマゴボー星人に、ニュムペーが目を吊り上げて返した。
ヤマゴボー星人の報告も、足りていなかった。
『エルフにもドワーフにもお腹を壊して貰って、キュケオーンを療養食として広める計画立てただけで、まさか猟兵が来るなんて……』
『え、毒殺大作戦じゃなかったので?』
『待って、何言ってるのヤマゴボー星人?』
ニュムペーとヤマゴボー星人の間に漂う、気まずい空気。
『こうなったら仕方がない。私だって、魔女の端くれ! 超不味い失敗作か! 切なさ盛り盛りケーキか! 病みつきになる魔性のキュケオーンか! どれかを必ず食べさせるんだからね!』
そんな空気を(無理やり)払拭して、魔女は猟兵達をびしっと指さした。
『必ず食べさせるんだから! どれも食べずに帰れると思うなよー! 食べるの嫌だなんて言ったら、大鍋でぶん殴るんだからねー!」
大鍋なんてとても持ち上げられそうにない細腕を振り上げて、ヤケになった魔女は声を張り上げていた。
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3章です。
ついに魔女ニュムペーの拠点に乗り込み、対峙となりました。
なりましたが、御覧の有り様ですよ。
これ、ボス戦なんですよ……。
と言うわけで、『基本的には』魔女ニュムペーを倒せば良いです。
ユーベルコードを見て頂ければ判るかと思いますが、食べ物しかしか出てきません。
で、あんなこと言ってますけど、食べなくても良いです。
まあ誰も食べないと泣くかもしれませんけど。
2章までの展開で、ニュムペーに警戒されるでもなく、エルフにもドワーフにも被害を出さずに警戒させるでもなく、ここまで来ました。
この場にいるのは猟兵と、ニュムペーと、僅かなヤマゴボー星人の生き残りだけです。邪魔が入らない状況は整っています。
ニュムペーは精神面に作用する力こそ持っていますが、攻撃面での戦闘能力は皆無に等しいです。これほど害が少なそうなオブリビオンも珍しいと思います。
力押しで倒そうとすれば、一方的に勝つこともできるくらいです。
つまり、シリアスに攻めようが、ネタで押し切ろうが自由ってことです。
お好きな様にアプローチどうぞ。
プレイングは6/18(木)8:30~でお願いします。
いつもの様に締切は別途告知しますが、6/21(日)いっぱいかな、と思っています。
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草野・千秋
失敗作のキュケオーンを振る舞うんですか!
な……なんて悪い意味でのメシテロな、僕は食べませんよ!?
ニュムペーの名はUDCアースの神話でも聞く名前、彼女たちは山や川、時には海に住むと聞きます
この世界では魔女なのですか
キュケオーン失敗作は食べたくないですね、闘わなければ
勇気で敵に立ち向かう
UC【スーパー駄菓子屋タイム】で自分の店の在庫をぶんまいて敵の目を引き付けて攻撃っていうかキュケオーンに対抗しようと
……今ちょっと撒いた中に梅ジャム(最後の在庫)見かけた気もしますがそれはそれ
あーっ!キュケオーンが他の人が食べさせられそうならいっそ僕が!
怪力、2回攻撃で殴りつけ
攻撃は激痛耐性で耐える
フィーネ・ルーファリア
ニュムペーもヤマゴボー星人も、お互いに言葉が足りなさすぎるから変な方向にお互いすれ違ったんじゃないかなぁ
それにキュケオーンだって、普通に食べてもらえば受け入れられてもらえたと思うのにね
ニュムペーの真意が知りたいから選択UCで、彼女に『エルフとドワーフと仲良くなりたかったの?』って質問をしてみよう
本当の事を言わないと痛い目見るのは向こうだし、答えだけ聞いてどうするかは他の猟兵に任せるよ
私としては実際に野菜に毒を盛ろうとしたヤマゴボー星人の方に怒ってるわけだし
……え?毒なんか盛ろうとしてなかったって?
それでも、野菜に何かしようとしてたことに変わりないからギルティでしょ
レナータ・バルダーヌ
コンキスタドールさんで間違いなさそうですけど、どうも襲ってくる感じではなさそうですね。
こんにちは、何かご馳走してくださるのでしょうか?
キュケオーンというお料理は謎めいていますし、ご飯はエルフさんの村でいただいたのでケーキがいいですね。
うーん、なんだかとっても懐かしい味がします。
まるで実家のゴボウ畑のような、ずっとここに居たくなる安心感が……いえ、さすがにケーキにゴボウが入っているわけありませんし、きっと気のせいですね。
ゴボウといえば先ほど作った赤葡萄酒煮、会心の出来だったので少し包んで持ってきたんでした。
美味しいケーキのお礼です、よろしければどうぞ。
……それで、結局何をしに来たんでしたっけ?
空目・キサラ
小鈴君(f01199)と
確か何処ぞの魔女裁判の原因や何処ぞの聖者を信仰すると病気が治る等は、元々は麦角菌に汚染された麦を食した事が(長くなるので略
…という訳で、個人的に色々想像して心が躍ってしまうのだよ
なぁ魔女よ。やっぱりそういう麦角汚染とかを考えていたりとかするのかな?
(まぁ目利きのエルフ達が居る事だから、汚染された麦なんてすぐ判るだろうけど)
【量子自殺による証明の欠点】で梟達を呼んでつつかせようか
麦粥もついでに食べてきなよ
大丈夫。帰りたくなくなったら強制帰還させるだけだから
ああ、麦粥なんだが
僕も食べてもいいけれど…はは、小鈴君、そんな目で見ないでくれよ
引き摺るのは勘弁してほしいなぁ
鈴・月華
キサラ(f22432)と
…キサラって、自分が興味持ったことについては凄く長く話すんだね
食べる事にすぐ直結するの人なのかなって思ったけれど、毒や事件の知識があるのはちゃんと探偵だからなのだろうね
うーん…さっきのキサラの話で、今は麦にあんまりいい感情が無いかな
【昼は夢、夜ぞ現】でニュムペーを攻撃して、キュケオーンをお断りする
ごめん、食事をとる時は気分って大事だと思ったんだ
あ、梟だ。可愛いな。数が多いから、一羽くらい抱っこしても大丈夫かな
もふもふ羽毛が気持ち良さそう。強制帰還の手伝い名目で抱っこして…いいよね多分
キサラ、キュケオーン食べるの?
食べたら私が怪力で掴んで引き摺って連れ帰ることになるよ?
鹿村・トーゴ
えっ…島の住人毒殺ってゆー計画じゃないん?
(UCで強化して攻撃する気でいたのにずっこけた感。代償の殺戮を唆す呪縛を何とか押さえ込んで、というか)もー気が抜ける連中だなァ…どーしよ
行き違い?てか今もやり取り出来てねーじゃん(ホウレンソウの出来てない敵陣をまじまじ)
え、まず料理食うのか
超不味いとか魔性ナントカとかは食べる前から怖い(せっかくエルフの上手い料理食べたのに…
えっと甘いケーキなら
貰うだけも何だしオレの持ってるはちみつ飴と交換しない?
…
理屈は解んないけど妙に故郷が恋しいかも
あんまいい所じゃないけど
なんでって?
【だまし討ち/暗殺】クナイで魔女を斬り
こーゆー事する郷だからね
さて
そろそろ戦う?
ガーネット・グレイローズ
む…お前か、ゴボー達の親玉は。その大鍋が例のメガリスだな。
食事に毒を盛って、島民を皆殺しにしようなんて、
そうは問屋が…って、違う?
では<取引>だ。キュケオーンとやらを食べてやっても構わない。
ただし、我々が食べ終わったらそのメガリスをこちらに渡しなさい。
メカたまこEXがコケーと威嚇する中、モニュモニュと麦粥を口へ運ぶ
こ、これは!今まで味わったことの無い不思議な風味!
もっとずっと、これを食べていたいような…。
しかしメカたまこの警告を聞いて我に返り。
た、たまこ、違う。これは鶏のえさでは…
コホン、魔女よ、この島から出ていくがいい!
PSY-Extendで氷の竜巻を生み出し、魔女を吹っ飛ばすぞ!
明石・鷲穂
栴(f00276)と
戦意より哀れみが勝るな…。
ゴボウは食えなかったから腹減ってるんだよなあ。
なんか食うもんあるか?
[覚悟]を決めて魔女の手料理を[大食い]だ。
…確かになあ。食欲をそそる見た目ではないな。
素材の味がする。元を尊重した料理なんだな。俺はそもそも手作りをしないから料理作れるってすごいと思うぞ。
栴の言う通りもうちょい味を加えるとより美味くなるかもしれん。
念の為[毒耐性]で食ってるのは内緒だ。
さて、仕事はしなくちゃな。
―大釜で煮てるのは麦粥、美味そうな匂いするなあ 。
麦粥を食う時に[だまし討ち]、[衝撃波]を込めたデコピンを喰らわせるぞ。
メガリスの…この余った麦粥食って平気かな。
生浦・栴
山羊の(f02320)と
コメントは控えよう
しかし運ばれる前からの雰囲気は
見た目から食欲をそそらぬな
せめて彩りは考えるとか
なあ山羊のと適当に相槌を求めながら一口
先ほどの村で岩塩を求めるべきだであった
調味料は無いのかと魔女に要求
因みに精神攻撃をしているのであっていけずではないぞ
本音だだ漏れは否定せぬし
料理1の腕で何処まで調え直しが出来るかは楽しんでもおる
其れとは別に山羊のの食生活も心配なのだが
とはいえ普通に美味いものも喰いたいものだな
魔女の、お主の自信作も少しは貰えるのかな?
残って居るヤバい空気の物体は棒に喰わせておこう
残るメガリスの処遇は如何したものか
麦粥はまあ害が無くば、折角だしな
アヤネ・ラグランジェ
【橙翠】
この匂いは
毒だネ
と断言する
なんでソヨゴそんな顔するの?
警戒は必要でしょ
どんなに弱そうな相手でも
待って待って
ソヨゴそれ食べちゃダメだよ
まずはそちらの蛾くんに味見させてみよう
あら死んだかな?
冬眠にはまだ早いだろう
うーん侮りすぎるのは良くないけど
じゃあ僕もひとくちくらいならいいかしら
おや?
これは珍味というか
案外いけるのでは?
おおらかなアメリカの風を感じる
もう少し食べてもいい?
え、僕が味音痴だって?
毎日ピザとハンバーガーばかり食べてるけどそれほどでも
いやソヨゴの料理は美味しいって!
僕すごい偏食なのにソヨゴが作ってくれれば食べるもの
納豆も食べたでしょ?
ソヨゴの破壊活動は全力で止めようとします
城島・冬青
【橙翠】
お邪魔しまーす
なんか部屋が臭うけど黙っておく
え?特に空腹では…
遠慮するも料理を出されてしまった
って変な臭いの正体はこれかぁ
明らかにやばそうで反応に困る
でもちゃんと料理の形になってるだけ父の手料理よりマシかな
そうですね
まずはスカシバちゃん達(UCの吸血娥)にもお裾分けしましょう
あ!動かなくなって消滅しました
アヤネさんは食べなくても…って
食べた?!
あれ
なんか反応が意外
もしかしてイケる?(ぱく
ぐぇ!(口元を抑え)
前々からそうじゃないかと思ってたけど
アヤネさんってその
味音痴…ですよね
私の料理を美味しいって言ってくれるけど
それはつまり…
よし
残った吸血蛾で全てを破壊しよう
ていうかこれボス戦ですし!
●魔女との遭遇
「お邪魔しまー……す」
その小屋に踏み込んだ瞬間、城島・冬青が眉を顰めた。
(「この部屋……何か臭う」)
冬青はその中に漂う、控えめに言って異臭に分類されそうな臭いに気づいていた。
気づいていたが、敢えて言わないでおこうと――。
「この匂いは――毒だネ!」
「アヤネさーん!?」
敢えて言わないでおいた事をズバッと口にしたアヤネ・ラグランジェに、冬青がぐりんっと首と視線を向ける。
「なんでソヨゴそんな顔するの?」
冬青のその反応に、アヤネの方が目を丸くする。
「警戒は必要でしょ。どんなに弱そうな相手でも」
『え……待って……何で猟兵が来てるの……?』
何やら呆然としているニュムペーを指さしながら、アヤネが真顔で告げた。
●畑にもホウレンソウは生えていなかった
「む……お前か、ゴボー達の親玉は。その大鍋が例のメガリスだな」
ガーネット・グレイローズの視線は、ニュムペーよりもその隣にある大鍋に向けられていた。
誰でも美味しい料理が作れるメガリスと聞く。
商会に使えそうだ――と、ガーネットの心は商人モードである。
――エルフにもドワーフにもお腹を壊して貰って、キュケオーンを療養食として広める計画立てただけで、まさか猟兵が来るなんて……
――え、毒殺大作戦じゃなかったので?
そんな猟兵達の視線に気づいてか気づかずか、ニュムペーとヤマゴボー星人は何やら気まずい空気を漂わせていた。
「食事に毒を盛って、島民を皆殺しにしようなんて、そうは問屋が……って、違う?」
そのやり取りに、ガーネットが目を丸くする。
「えっ……島の住人毒殺ってゆー計画じゃないん?」
鹿村・トーゴも、信じられないものを見たように目を丸くしていた。
『待って、何言ってるのヤマゴボー星人?』
『な、何やら行き違いがあったようで……』
「行き違い?てか今もやり取り出来てねーじゃん」
報告も連絡も相談も――所謂、ホウレンソウ、が全くできていないニュムペーとヤマゴボー星人に、トーゴの口から再び溜息が零れる。
らしくないのは自覚しているが、トーゴはそれでも忍びの生まれだ。
ホウレンソウの重要性くらいは理解している――つもりだ。
まあそれでも今回もちょっと先走って、既に降魔化身法で妖怪と悪鬼と幽鬼をその身に降ろしてしまっていたりするのだが。
「もー気が抜ける連中だなァ……どーしよ」
――殺せ――殺せ――殺せ――殺せ――。
攻撃する気満々だったところに予想外に出鼻をくじかれ、トーゴは溜息交じりに代償の殺戮を唆す呪縛を何とか抑えながら、ぼやく。
「コンキスタドール……なんですよねぇ?」
レナータ・バルダーヌが、目の前の魔女ニュムペーの姿に思わず首を傾げる。
コンキスタドール――もといオブリビオンであるのは、間違いない。だが、襲ってくる気配はおろか、戦意の欠片も全く感じられないのだ。
「何かもう、戦意より哀れみが勝るな……」
「コメントをする気にもなれん」
言葉通りに哀れみの籠った視線を向ける明石・鷲穂の隣で、生浦・栴がもう隠そうともしないで溜息を吐く。
「……ニュムペーもヤマゴボー星人も、お互いに言葉が足りなさすぎたのね」
目の前ですれ違い続けるニュムペーとヤマゴボー星人のやり取りに、フィーネ・ルーファリアも隠し切れない溜息を吐いていた。
●魔女の選択肢と猟兵達の選択
『私だって、魔女の端くれ! 超不味い失敗作か! 切なさ盛り盛りケーキか! 病みつきになる魔性のキュケオーンか! どれかを必ず食べさせるんだからね!』
気を取り直したニュムペーが、大鍋を掻き混ぜていたおたまと3つの選択肢をびしっと突き付ける。
「え? 特に空腹では……」
3つの選択肢を突っ切つけて来たニュムペーに、冬青が首を傾げる。
「あら、何かご馳走してくださるのでしょうか?」
『うん、御馳走するよ。お勧めはキュケオーンだよ!』
聞き返すレナータに、ニュムペーは笑顔で頷いた。
「キュケオーン……」
聞き慣れない料理の名前に、レナータが首を傾げる。
ニュムペーは、ここでキュケオーンとはどんな料理であるのかと、説明しておけばよかったのだ。
『キュケオーンはメガリス効果でとても美味しくなってるからね。メガリス効果はケーキにも出てはいるけれど』
「じゃあ、ケーキにします」
だのにニュムペーはただお勧めだとプッシュするだけだから、レナータは謎めいた料理よりも、無難にケーキの方を選んだ。
「ご飯はエルフさんの村でいただいたので」
『くっ……デザート系キュケオーンか。それは考えてなかった……』
レナータが口にした尤もな理由に悔しさを露わにしながら、ニュムペーはそっとケーキを皿に載せてレナータに差し出す。
「ふむ。君の言うキュケオーンとは、麦を使った料理という事でいいのかな?」
ニュムペーが強く勧めるものの其の詳細が不明なキュケオーンに好奇心を刺激され、空目・キサラがじっと視線を向けて訊ねる。
『あ、そうか。そこを説明していなかったね。この魔女の大鍋で麦を他の野菜や野草と一緒に海水でぐつぐつ煮込んだものだよ!』
キサラの問いに、笑顔で答えるニュムペー。
つまりは麦粥と言う事のようだ。
「麦か……それ、本当にお腹に優しいのかい?」
だがそんなニュムペーに、キサラは疑いの目を向ける。
「麦と言うのは必ずしも安全な食材じゃない。麦角菌と言うものに寄生されることで幻覚症状や精神異常、血流の異常と言った危険な作用を引き起こす毒性を持つんだ。確か何処ぞの魔女裁判の原因や、何処ぞの聖者を信仰すると病気が治る伝承の類は、元々は麦角菌に汚染された麦を食した事が原因とされていて――」
麦角菌から毒に連想し色々な想像ですっかり躍っている心中が口から言葉となって漏れているキサラを、鈴・月華が驚いた様に目を丸くして眺めていた。
「――ん? どうしたんだい、小鈴君?」
「キサラって、自分が興味持ったことについては凄く長く話すんだね。あと、毒や事件の知識があるのも感心してた。ちゃんと探偵だからなのだろうねって」
視線に気づいて首を傾げたキサラに、月華が笑顔で告げる。人差し指立てて毒について述べている様は、とても探偵っぽい。
「食べる事にすぐ直結するの人なのかなって思ってた」
「小鈴君……君、結構遠慮ないね?」
月華が笑顔で告げた言葉は、その袖の中に隠した刃が如く、キサラの心にグサリと突き刺さっていた。
「ん? つまり失敗作のキュケオーンを振舞うんですか!?」
『え? いやいや、違うよ! キュケオーン「は」美味しく出来てる筈だよ!』
草野・千秋の言葉に、ニュムペーが慌てて言い返す。
千秋の勘違いではあるが、ニュムペーもニュムペーで単に『失敗作』としか言っていないのだから、この勘違いもニュムペーのせいと言えよう。多分。
『いやまあ、失敗作の方がお好みと言うのならば食べて貰うけど?』
「そんな悪い意味でのメシテロ、僕は食べませんよ」
ニュムペーの言葉に、千秋が首を横に振る。
「てか、まず料理食うしかないのか」
キュケオーンの正体が判明しても、トーゴは腕を組んで考え込んでいた。
(「って言うか、選択肢が地雷過ぎるだろ。超不味いとか魔性ナントカとかは食べる前から怖いし……」)
折角エルフの集落で美味しい料理を食べたのだ。
その記憶を上塗りされて島を出る――というのは御免被りたい。
「えっと甘いケーキなら」
『どうぞ! キュケオーンには劣るけど、美味しい筈だよ』
しばしの逡巡の末にトーゴがケーキを選ぶと、ニュムペーは直ぐに差し出して来る。
「貰うだけも何だしオレの持ってるはちみつ飴と交換しない?」
ニュムペーからたっぷりシロップのかかったケーキを受け取りながら、トーゴは代わりにと飴を差し出した。
『え、これ蜂蜜……こんな貴重なの、良いの?』
それを受け取ったニュムペーが、目を丸くする。
れんげ畑で集めた蜂蜜で作る飴で、トーゴの故郷では貴重な甘味だが、この島でも――と言うかニュムペーにとっても貴重なものだったようだ。
●駄菓子屋としての
(「キュケオーンだろうとそうでなかろうと、失敗作は食べたくないですね」)
待っていては、失敗作を食べさせられてしまうかもしれない。
その前に自分から動いて――と考えていた千秋が視線を向けると、トーゴが何か飴の様なものをニュムペーに差し出していた。
(「そうか! こっちが食べさせれば良いのでは?」)
それを見た、千秋の中にそんな考えが浮かんだ。
ニュムペーの手が空いているから、(多分)自慢の料理を食べさせてこようとするのではないかと。ならば、その手と口を塞いでしまえばいい。
『さあ、何を食べたいか選んで――』
「どうぞ。大盤振る舞いです!」
選択を迫るニュムペーに向かって、千秋が何かを放り投げる。
『わっ!?』
咄嗟に頭を抱えてしゃがみ込んだニュムペーに、小さな何かが降り注いだ。
『攻撃……じゃない?』
「僕の店の駄菓子です。当たりが出たら教えて下さいね」
恐る恐るその一つを拾い上げるニュムペーに、千秋が告げる。
それは千秋が此処とは違う世界で営む、祖父母から受け継いだ駄菓子屋の製品。
どこからともなく駄菓子を取り出し給仕する――断罪戦士でも歌い手でもなく、駄菓子屋としての千秋の力。
【スーパー駄菓子屋タイム】である。
『お? おおお? なんだ、このお菓子。甘かったりしょっぱかったり……おお! こっちは何か、練ると色が変わるー!面白い!』
駄菓子を楽しまない相手の行動速度を遅くする業なのだが、このニュムペーの様に普通に駄菓子を楽しまれてしまうと、今の千秋は、ただの気前のいい駄菓子屋の兄ちゃんにしか見えない気がしないでもない。
『んっ!? なにこれ、すっぱー!』
(「あ、しまった! もう製造中止になってしまったあの駄菓子の最後のひとつを、うっかり投げてしまっていましたか……!」)
しかもばら撒いた中に貴重な駄菓子をうっかり入れていたことに気づいて、千秋は内心で頭を抱える。
『……』
或いは、顔に出ていたのだろうか。
そんな千秋を、ニュムペーはぢぃっと見つめ、ケーキを差し出してきた。
『お菓子にはお菓子でお返ししないとね』
ニュムペーが、ケーキを差し出してきた。
●商人と魔女
『何故だろう……キュケオーン、何故不人気……』
「では取引だ」
ケーキばかり出ていく現状に悩みだしたニュムペーに、ガーネットが声をかける。
「キュケオーンとやらを食べてやっても構わない。但し、我々が食べ終わったらそのメガリスをこちらに渡しなさい」
『えぇぇぇぇぇぇーっ!?』
ガーネットの持ちかけた取引に、ニュムペーが大きく開けた口から大声が上がる。
大声って言うか、絶叫である。
(「今なんか、背中にガーンッと言う文字が見えた気がした」)
取引を持ちかけたガーネットの方が驚くニュムペーの驚きっぷりである。
『ダメ! 全然っ釣り合ってない! この大鍋がなくなったら、私はまた料理もダメなダメダメ魔女に戻っちゃうから!』
ひしっと鍋に抱き着いて、絶対渡すまいとアピールするニュムペー。
「……まあ、いい。取り敢えず食べてから話をしよう」
その必死さに、ガーネットも取引を一度引き下げざるを得ない。
『これを食べれば気が変わる筈だから……』
大鍋に片手だけは触れたまま、ニュムペーは精一杯腕を伸ばして、ガーネットにキュケオーンを差し出してきた。
●月白の少女が求める彩
『さあ、そっちの女性陣もどうかな? 遠慮なくキュケオーンをお食べ?』
大鍋の中からよそったキュケオーンを、ニュムペーは次に月華に差し出してきた。
キュケオーンが入った器からは湯気が立っている。何も聞いていなければ、月華も手を伸ばしたかもしれない。
「うーん……」
しかし月華は考え込むように首を傾けたまま、ニュムペーに向かって片腕を掲げる。
「花の香りに溺れるのは如何かな?」
――昼は夢、夜ぞ現。
月華の袖から、大量に放たれた月下美人の花びらが嵐の如く吹き荒れ、ニュムペーに襲い掛かった。
『にゃわーっ!?』
花弁の嵐をなす術なく浴びるニュムペー。
『いきなり何するのさ!』
「いや、ごめん。さっきのキサラの話で、今は麦にあんまりいい感情が無くて。食事をとる時は気分って大事だと思ったんだ」
『ヒドいっ!?』
月華の答えに、ニュムペーの非難の視線がキサラに向けられる。
「そんな目で見ないでくれ。まあ僕は食べても良いけれど……」
「キサラ、キュケオーン食べるの? 食べたら私が怪力で掴んで引き摺って連れ帰ることになるよ?」
「……はは、小鈴君、そんな目で見ないでくれよ。引き摺るのは勘弁してほしいなぁ」
ニュムペーからは非難の視線を向けられ、月華からは『食べるな』という視線を向けられて、何故か板挟みになったキサラは自分以外に頼る事にした。
「麦粥を誰かが食べたとして、それは誰が食べたのか。第三者視点では。それが収束した世界なのか、分岐した世界の内のひとつなのかは判らないのだよ」
突然難しい事を言い出したキサラに、月華もニュムペーも首を傾げる。
バサバサバサッ!
そこに響く大量の羽音。
『ホォーゥ』
『ホッホーォゥ』
飛び込んできた梟は、キサラが【量子自殺による証明の欠点】で召喚したものだ。
「あ、梟だ。可愛いな」
「さあ、梟達。色々突いてあげなさい。ついでに麦粥も」
『え、ちょ、待って待ってー!?』
目を輝かせる月華に胸中で微笑み、キサラは梟に指示を出すと、梟達はキュケオーンをよそおうとしていたニュムペーに殺到していった。
●どう転んでも失敗作
『ここで残念なお知らせだ』
花びらと羽毛塗れになったニュムペーが、鷲穂と栴とアヤネと冬青に向き直る。
『キュケオーンとケーキの在庫が一時切れた。今から全速力でキュケオーンを作り直すけど、取り合えず失敗作食べてて?』
まさかの在庫切れである。
「え、早くない?」
「この程度で切れる在庫で、療養食だと? 笑わせる」
それを聞いた鷲穂が残念さを露わにし、栴が厳しい視線を向ける。
『70羽近い梟のお腹を満たすだけのキュケオーンなんて、ぼっちの魔女が作り置きしているわけがないじゃないか……ハハ……』
遠い目をしながら、告げるニュムペー。
というわけで、4人の前に出て来たのは、何とも形容しがたい失敗作であった。
「運ばれる前からの雰囲気が既に――見た目から食欲をそそらぬな」
『うん、わざわざ失敗作を酷評しないで刺さるから』
失敗作に容赦のない、歯に衣を着せない栴の言葉に、ニュムペーが震える声で返す。
「せめて彩りは考えるとか……なあ、山羊の」
「……確かになあ。食欲をそそる見た目ではない」
相槌を求めた栴の言葉に、鷲穂は大きく頷き同意を示す。
「だがな栴。今はあの見た目悪いのしかないのなら仕方がないぞ。ゴボウは食えなかったから腹減ってるんだよなあ」
鷲穂はしかし大きく口を開けて、ニュムペーの失敗作に食らいついた。
「……仕方ない」
釣られて栴も、失敗作を口に入れる。
鷲穂も栴も毒耐性あるので、一撃で倒れる事はないだろうと踏んでの事だ。
しばし、2人とも無言で咀嚼する。
「素材の味がする。元を尊重した料理なんだな」
「先ほどの村で岩塩を求めるべきだであった調味料は無いのか」
一応オブラートに包んだ感想を述べた鷲穂に続いて、やっぱり歯に衣を着せない感想をズバッと告げる栴。
『よ、容赦ないね……』
2人の感想(主に栴の言葉)に、ショックを受けるニュムペー。
「なに。精神攻撃をしているのであっていけずではないぞ」
しれっと告げる栴。
「本音だだ漏れは否定せぬ。そういう性格だしな。あと、俺程度の料理の腕で何処まで調え直しが出来るかは楽しんでもおる」
「俺はそもそも手作りをしないから料理作れるってすごいと思うぞ」
くつくつと、性根わるそーな笑みを浮かべる栴に苦笑して、鷲穂がニュムペーにフォローの言葉を送る。
「栴の言う通りもうちょい味を加えるとより美味くなるかもしれんが」
『……そうだよね……失敗作だもんね……』
見事に上げて落として来た鷲穂に、ニュムペーがガクリと肩を落とす。
「其れとは別に、山羊のの食生活も心配なのだが」
「え、なんで?」
何故か栴の矛先が自分にも向けられて、鷲穂が目を丸くした。
●失敗作が明かしたもの
(「あー……変な臭いの正体はこれかぁ」)
出てきた失敗作から立ち昇る異臭に、冬青が胸中で溜息を吐く。
もう明らかにやばそうな臭いで、どうしたものかと反応に困るレベルだ。
「んー……でもちゃんと料理の形になってるだけ、お父さんの手料理よりマシかな?」
「待って待ってソヨゴ」
何かがおかしい納得の仕方をして箸を伸ばしかけた冬青を、アヤネが制する。
「ソヨゴのお父さんの料理についても気になるけど、それよりもコレだよ。コレ食べちゃダメだよ」
ぢっと冬青の顔を覗き込んで、アヤネが真顔で告げる。
「まずはソヨゴの蛾くんに味見させてみよう」
「あ、そうですね。まずはスカシバちゃん達にもお裾分けしましょう」
アヤネの提案に頷いて、冬青がすらりと『花髑髏』と『不死蝶』を抜く。
刀を見たニュムペーの肩がビクッと跳ねた気がしたが、冬青はそちらを気にせずに二刀を掲げた。刀鍔の花と蝶の模様が輝き、二刀から花の魔力が咲き誇る。
「おいで、スカシバちゃん達!」
冬青が告げると、刀鍔の花と蝶の模様が輝き、二刀から咲き広がった魔力の花弁が透明な翅をもつ蛾――オオスカシバの群れとなった。
「「……」」
固唾を飲んで見守る2人の前で、オオスカシバ達はニュムペーの失敗作にその吸血管を突き立てて、吸い上げていき――。
「「あっ」」
パタッと落ちた。
1匹ではない。次々と。
「これは死んだかな? 冬眠にはまだ早いだろう」
「そうみたいですね。動かなくなったと思ったら、消滅しました」
腕組みするアヤネと頷く冬青の目の前で、オオスカシバが消えていく。
「これはお父さんの料理より凄まじいかも。アヤネさんは食べなくても……」
「うーん侮りすぎるのは良くないけど、僕もひとくちくらいならいいかしら」
その惨状を見て食べるのやめておこうかと思った冬青の隣で、アヤネがひょいぱくっと止める間もなく口に入れていた。
「食べた?!」
「おや?」
驚く冬青と、目を丸くするアヤネ。
「これは珍味というか……案外いけるのでは?」
アヤネは、おおらかなアメリカ料理の風を感じていた。
「もう少し食べてもいい?」
『え、いいけど……』
アヤネにおかわりを求められたニュムペーの方が驚く。
「もしかしてイケる?」
その様子を見た冬青も、失敗作を口に入れてしまった。
「ぐぇ!」
口に入れた瞬間、舌がそれを拒否する。冬青は思わず口を手で抑えた。
(「不味いってレベルじゃない……」)
流石にこういう場でアレな事をする気になれず、冬青は頑張ってそれを飲み込む。
「アヤネさんってその、味音痴……ですよね」
『私もそう思う。失敗作をお代わりした人、ちょっと他に覚えてない』
じっとした視線をアヤネに向ける冬青に、まさかのニュムペーもコクコク頷く。
「僕が味音痴だって?」
言われたアヤネの方は、意外そうである。
「毎日ピザとハンバーガーばかり食べてるし、すごい偏食だけどそれほどでも……」
偏った食生活だと言う自覚くらいは、アヤネにもあるようだ。
「私の料理を美味しいって言ってくれるけど、それはつまり……」
そして浮上したアヤネの味音痴疑惑は、冬青の表情をどんよりと曇らせた。
「いやソヨゴの料理は美味しいって! 僕すごい偏食なのにソヨゴが作ってくれれば食べるもの。納豆も食べたでしょ?」
そんな冬青の反応に、アヤネが慌てて声を上げる。
だが――。
「……よし」
顏を上げた冬青の目が、据わっていた。
「残ったスカシバ君で、此処の全てを破壊しましょう! やっちゃえ、スカシバ君!」
「待ってソヨゴ。それ八つ当たりだよね? やめよう?」
「でもアヤネさん、これボス戦ですし!」
必死でアヤネが冬青を止める横で、オオスカシバの群れが破壊活動を開始していた。
『やーめーてー!?』
それを止めようと立ちはだかろうと――立ちはだかろうとしたニュムペーだが、巨大なオオスカシバの前に立つ度胸は無かった。
●探偵と守護者が明かした魔女の真実
ガシャーンッ、バリーンッと食器が割れる音が響く。
やや冷静さを欠いた冬青の暴走の結果だが、アヤネが抑えていなければ、もっと騒々しい事になっていただろう。
「魔女よ。あの失敗作って、もしかしてキュケオーンと同じ麦を使ってる?」
『使っていたのもあるね』
そんな中、気を取り直してキサラが問いかけると、ニュムペーは青い顔で頷いた。
「やっぱり麦角汚染とかを考えていたりとかするのかな?」
それを聞いたキサラは、更にニュムペーを問い詰める。というのも、キサラの梟も、失敗作の欠片を啄んだ数羽がコテッとやられていたのである。
まだ、ニュムペーの真意は見えたとは言えない部分もある。ニュムペーの使った食材に何か悪意があったのかもしれない。
探偵として、そこは追及しておきたいところだ。
(「まぁ目利きのエルフ達が居る事だし、汚染された麦なんてすぐ判るだろうけど」)
キサラが胸中で呟いた通り、麦角菌が付いた麦は、穂が黒くなると言う特徴がある。
此処の外に生えていた麦に麦角菌感染の特徴は見られなかったが、それだけでニュムペーが何も企んでいないと断言するのは尚早と言えよう。
『バッカクキン……?』
だが問われたニュムペーは丸くした目で虚ろな視線を返してきた。
「……あ、だめそう。判ってなさそう」
ニュムペーの表情を見た月華が、梟をもふもふしながら呟く。
探偵じゃなくても判るくらい、ニュムペーは何もわかってない顔になっていた。
「えーと、麦をどうやって育ててるんだい?」
『失敗作の中でも特にひどいのを土に混ぜといて、そこに麦を撒いとくだけ。悪臭がひどいから鳥も寄ってこないんだ』
キサラの問いに答えたニュムペーの口から、乾いた笑いが漏れる。
「鳥が逃げ出すレベルって、相当ヤバいね……」
失敗作のやばさに、月華は梟もふもふしながら絶句していた。
「ねえ、ニュムペー。あなた、エルフとドワーフと仲良くなりたかったの?」
フィーネが問いかけると同時に、彼女の影がひとりでに動き出す。
まるで蛇の様にするりと伸びた影が、ニュムペーの足に絡みついた。
『うわっ、ななにこれ!?』
「それがどうなるかは、あなた次第よ」
影に驚くニュムペーに、フィーネが淡々と告げる。
「私の質問に正直に答えれば何も起こらない。偽りを持って答えれば、影はあなたを締め上げる――もう一度聞くわ。エルフとドワーフと仲良くなりたかったの?」
『な、仲良くなりたい……と言うか、その……』
しどろもどろになったニュムペーは答えを探す様に、何度か視線を彷徨わせる。
『……べ、別に仲良く、とまでは望んでなかったけどね? ただ、エルフにもドワーフにも美味しいキュケオーンが魔女の大鍋を持ってしても作れなかったから! いっそ、療養食ポジションでも狙えば食べて貰えるかなって』
「普通に食べてもらえば、キュケオーンだって受け入れられてもらえたと思うのに」
ニュムペーの答えに、フィーネが溜息交じりに呟く。
賢者の影が反応しないと言う事は、ニュムペーは偽りを言っていないと言う事だ。
だが、新たな疑問も浮上していた。
「何で美味しいキュケオーン、作れなかったの?」
フィーネが聞いた通りなら、ニュムペーの持つメガリスは『誰でも美味しい料理を作れる』というものではなかったのか。
『エルフに美味しいキュケオーン。或いはドワーフに美味しいキュケオーン。そのどちらかなら作れたよ。でもあの2種族、味覚の嗜好が違い過ぎて、どちらかに『美味しい』にしかならなかったんだ』
「成程。それはメガリスを持ってしても仕方ないかもしれん」
「確かにエルフとドワーフじゃ、味付けも料理の仕方も全然違ったもんなあ」
フィーネはエルフの集落でしか食べていなかったが、両方の集落で食事を食べた栴と鷲穂は、ニュムペーの言い分も一理あると頷いていた。
「でも……だとしても、エルフ用とドワーフ用で、両方作れば済む話じゃない?」
『大鍋一つしかないし……』
フィーネの尤もな言葉に、ニュムペーはバツが悪そうに視線を外して答える。
「…………はぁ」
余りにもなニュムペーの理由に、フィーネの口から盛大な溜息が零れ出ていた。
ニュムペーの言い分に頷ける部分がないわけではない。
だが――それで毒でお腹を壊して貰って療養食になろう、なんて発想になる辺り、ニュムペーが確かにオブリビオンであるのも間違いない。
「魔女をどうするかは、皆に任せるわ」
そう言い捨てて、フィーネは残るヤマゴボー星人に向き直る。
「私は実際に野菜に毒を盛ろうとしたヤマゴボー星人の方に怒ってるわけだし」
外に出なさい――とフィーネがヤマゴボー星人に告げる。
『いやでもそれは――』
『魔女の指示がなかったら――』
『我々も被害者で――』
フィーネの視線に、ヤマゴボー星人が元々丸い目を更に丸くする。
「毒を盛ると言い出したのはニュムペーでも、実際に、野菜に何かしようとしてたことに変わりないから――ギルティでしょ」
言い訳を並べるヤマゴボー星人を、フィーネは風の術で吹っ飛ばして、問答無用で小屋の外へと叩き出すのだった。
●そして、魔女の迎えた結末は――
ガシャーンッ、バリーンッとオオスカシバが暴れる音が落ち着いてきたと思ったら、今度は外から激しい風の音が轟々と聞こえ出していた。
フィーネによる、ヤマゴボー星人粛清タイムが始まったのである。
『よし! もうすぐ出来るからね、追加のキュケオーン!』
風の音に紛れて聞こえるヤマゴボー星人の悲鳴からは耳を背けて、ニュムペーはせっせと大鍋を掻き混ぜていた。
「おお、美味そうな匂いするなあ」
鍋から漂ってきた食欲をそそる匂いに、鷲穂の口元が緩む。
「丁度良かった。まだ食い足りなかったし」
「まあ……そうだな。普通に美味いものも喰いたいものだな」
まだ食べ足りない様子の鷲穂にやはり心配になりながら、栴も視線を大鍋に向ける。
「魔女の、お主の自信作も少しは貰えるか?」
『勿論だとも! 出来たてを食べてくれ』
栴の申し出に、ニュムペーがぱぁっと顔を上げる。
「おう、出来たのか。それは良かった」
うきうきと大鍋からキュケオーンをよそおうとするニュムペーの前に、鷲穂が軽い足取りで近づいて行って――。
「さて、仕事はしなくちゃな」
バチーンッ!
『痛ぁぁぁぁぁぃっ!?』
衝撃波を込めた鷲穂のデコピンに、ニュムペーが額を抑えてひっくり返った。
「あらあら。大丈夫ですか?」
盛大に転げたニュムペーを、レナータが助け起こす。
「ご馳走様でした~」
レナータは、ニュムペーのケーキを食べ終えていた。
『ど、どう? 美味しいかった?』
「うーん、なんだかとっても懐かしい味がしました。美味しかったですよ」
顔色をうかがうニュムペーに、レナータは素直に告げる。
シフォンケーキの様なスポンジケーキに、恐らく花の蜜を煮詰めた類であろうシロップがかかっただけのシンプルなケーキだが、美味しいかどうかで言えば美味しかった。
「……そーだな。普通に美味いし……」
「美味しかったですが……」
トーゴと千秋も、揃って頷くがどこか虚ろである。
「んー……」
トーゴの口から、溜息ともつかない声が漏れる。
「……」
千秋はと言うと、すっかり黙り込んでいた。目を閉じると亡き家族の顔が脳裏に浮かびそうになっていたからだ。
『あ、その顔! さては懐かしくなっちゃってるね! 私のケーキを食べた人は、大体そう言う顔になるんだから』
自分のせいだと、ドヤ顔で告げるニュムペー。
悪気なく、ただ自分の成果を自慢したかっただけなのだろう。
「まるで実家のゴボウ畑のような、ずっとここに居たくなる安心感が……ん?」
言いかけて、レナータは自分の言葉に首を傾げた。
「さすがにケーキにゴボウが入っているわけありませんし、きっと気のせいですね」
ゴボウとケーキの不和が、レナータに正気を取り戻させる。
「あ、そうそう。ゴボウと言えば……これ」
ごそごそと、レナータは荷物の中から何かを包んだものを取り出す。
「赤葡萄酒煮、会心の出来だったので少し包んで持ってきたんでした。美味しいケーキのお礼です、よろしければどうぞ」
『え。え。い、いいの……?』
レナータが差し出した料理に、困惑しつつも喜ぶニュムペー。
『今日は良い日だなぁ。色んなお菓子に、料理まで貰うなんて。誰かに何かを貰えるなんて、何年ぶりだろう? 何十年? 何百年?』
「……それで、結局何をしに来たんでしたっけ?」
余りにも感激するニュムペーに、抜かれた毒気が戻り切っていない様子で、レナータが首を傾げる。
だが――全ての人にとって、故郷への郷愁が、安心感に繋がるとは限らない。
「……」
むすっと黙り込んだまま、千秋の手がニュムペーの左右の頬を立て続けに叩く。
『なんで!?』
「思い出したくないもん、思い出させたんじゃね?」
叩かれ驚くニュムペーに、トーゴが告げる。
全ての人にとって、故郷が良いものとは限らない。
「オレに故郷を思い出させたの、あんまいい事じゃないぜ?」
『なんで?』
苦い顔になったトーゴに、ニュムペーが首を傾げた。
――少し、話は遡る。
「こ、これは!」
首尾よく――失敗作に比べれば――キュケオーンを頂けたガーネットは、それを一口食べるなり、目を見開いていた。
「今まで味わったことの無い不思議な風味!」
ガーネットの口の中に広がる、未体験の風味。
モニュモニュと咀嚼すると、歯応えからは想像もつかない、涼し気な旨味が広がる。
「……この料理の味を表現する言葉を、私は持っていない!」
――コケケケッ!
メカたまこEXが上げる音が耳に入らない程に、ガーネットはキュケオーンに夢中になっていた。
「しかもなんだ、これは。もっとずっと、これを食べていたいような……」
――コケーッ! コケーッ!
メカたまこEXの鳴き声が、更に激しくなっても、キュケオーンを食べるガーネットの手は器が空になるまで止まらなかった。
そして、現在。
――コケッ!コケーッ!
「むう。メカたまこも食いたいと言うのか。魔女よ、お代わりを頼む」
『ほーら見た事か! 謎の鉄の鶏だって食べたくなるのが、私のとっても美味しいキュケオーンだよ!』
器が空になっても止まらないメカたまこの鳴き声を催促だと取ったガーネットのお代わりに、頬を赤くしたニュムペーがドヤ顔でキュケオーンをよそう。
――コケケケーッ! コケッ!
ガーネットがそれを手にした瞬間、メカたまこEXがガーネットに飛び掛かった。
「はっ!? た、たまこ、違う。これは鶏の餌では……!」
避けようとするガーネットと、器を落とそうとするメカたまこEX。バサバサと鉄の翼が羽撃く音に紛れて、トーゴが音もなく動く。
「さっき何でって聞いたよな。こーゆー事する郷だから」
僅かな殺気も溢さずに、トーゴはニュムペーの腹に苦無を突き刺していた。
『え……』
焼けつくような痛みを感じて、ニュムペーがよろける。
後ろの魔女の大鍋に寄りかかる形になって、何とか倒れるのを堪えて――。
「む。そうか。メカたまこのこの鳴き声は、警戒音……!」
ガーネットがメカたまこEXが発していたのが警戒の音だと思い出し、自分がいつの間にか魔女の料理の術中にはまりかけていた事を悟ったのは、丁度その時だった。
「私の体に流れるエーテルよ。千変万化の力を以て、無限の可能性を示せ――魔女よ、この島から出ていくがいい!」
PSY-Extend。
サイキックのエーテルエネルギーで、「属性」と「自然現象」を合成した魔術にも似た現象を起こす業が、氷の竜巻となって小屋の中に吹き荒れる。
『あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』
氷の竜巻は小屋の屋根を破壊し、ニュムペーとその後ろの魔女の大鍋もまとめて凍らせながら巻き上げて、夜空の彼方へ吹っ飛ばした。
「しまった! 強すぎたか」
没収予定のメガリスをも島の外まで吹っ飛ばしてしまい、ガーネットが舌を打つ。
「あらら。メガリスまで飛んでっちまった」
「まあ、これはこれで良かろう。なまじメガリスだけ残ると、処遇が面倒だ」
あっという間に見えなくなったニュムペーが飛んで行った方を見やる鷲穂の横で、栴が軽く肩を竦める。
腹部に深い傷を負った状態であれだけ吹っ飛ばされては、仮にニュムペーが生きて海に落ちたとしても長くは耐えられまい。
このエルドワ島から、コンキスタドールの脅威は取り払われたのだ。
なお――外に生えていた麦だが、後に調べたところ、麦角菌などない質の良い麦が揃っていたそうである。
大成功
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最終結果:成功
完成日:2020年06月22日
宿敵
『『災厄になれなかった魔女』ニュンペー』
を撃破!
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