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デスパレヱド・ナイト

#サクラミラージュ #獄卒将校

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#サクラミラージュ
#獄卒将校


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●紐解く者
 東にこの人在りと謳われれば、西に、北に、南にも“この人在り”と謳う声。
 知識。思考能力。閃き。度胸。腕っぷし。話術。着眼点。類稀なる幸運。他、色々。
 様々な才を持った“彼ら”は、特定の単語で呼ばれる事があれば、誰が言い出したか判らない二つ名で呼ばれる事もあった。そういったものを持たない者もいたが、その場合は本人の氏名そのものが特別な意味を持ち、広く、または限定された場で知られているという話もある。

 共通項は一つ。
 “彼らは皆、何かしらの事件を解決へと導いた存在”だという事。

 そんな彼らは今、さる人物の窮地を救うべく郊外の館に集まっていた。
 森に囲まれた館の中に入ると、チョコレートのような色で艶めく柱や階段、ベージュ色の壁紙が、鈴蘭の意匠と共に明るく出迎える。とある紳士は被っていた帽子を外し、一人気儘に館内の散歩と洒落込んでいた。
「ふむ、此れが鈴蘭館か。洋燈も鈴蘭。はは、愛らしい」
「失礼。もしや……」
 おや、どなたかな。かけられた声に足を止めると、少々痩せ気味の同年代らしき紳士が一人いて。
「右頬にある十字の火傷痕……藤桜女学園の連続失踪事件を解決された来栖殿では?」
「ええ来栖は私ですが……貴方は?」
「ああ、矢張り。私は作家をしております、早見・一清と申します。宜しければ取材も兼ね、あちらのサロンでお話を聞かせて頂けませんか?」
「は、早見・一清というとあの『毒は囁く』を書かれた!? 嗚呼、お会い出来て光栄です! 貴方とは薬学について一度語り明かしてみたかったのですよ……!」
「なんと、それは光栄な……」
 鈴蘭形のランプが橙色に輝くその下で、紳士二人はガッチリと握手を交わしサロンへ向かう。彼らは心ゆくままに語り合い、笑い合い――そして、同日居合わせた人々と共に殺された。

●デスパレヱド・ナイト
「君たち、名探偵ってやつになる気はないかい? ああ、既に名探偵であるなら是非頼みたい案件があるんだがね、名探偵じゃなくても問題ないよ。実は、ちょいとばかり力を貸して欲しい案件がある」
 影朧だよ。
 そう言って櫻小路・砥紋(浪漫界導・f22674)はマシンウォーカーに乗ったままニヤリと笑い、長い鍵しっぽをゆら~んと揺らしながら白い封筒を取り出した。
「探偵、教授、刑事、作家、新聞記者、学生、ご婦人……身分や肩書は様々だが、所謂“事件を解決した”事で名を知られている人々にこんな招待状が届いてね」
 既に封は開いている。砥紋は表面を撫で「へェなかなか良い紙だ、どこの会社のものだ?」なんて言いながら中身を取り出し、猟兵たちに開いて見せた。
 便箋に綴られていた文字はお手本のように美しい。季節の挨拶から始まり、本題を告げ、己の窮状を綴り報酬と頼み事を提示し、最後は“皆様の知恵で救って頂きたいのです”という切なる願いで締めくくられていた。
 しかしこの招待状は標的を誘き出す為の罠だった。
 影朧は何らかの目的で名探偵又はそれに等しい存在を一箇所に集め、全員をその日のうちに殺害したのである。
「まァ、僕が予知で視た以上、名探偵大量殺人は中止のお知らせってやつさ」
 ざまァみろだ。
 ひとの悪い笑みを浮かべた砥紋の目が猟兵らに向く。
「招待状を貰った彼らには“超弩級戦力である猟兵が対処する故、この件については彼らに任せるよう”って手紙と興が乗りそうなネタも送っておいたから、安心してくれ」
 しかし、それだけでは影朧を放置する事になり、いつの日か別の形で事件が起きかねない。故に、冒頭の言葉である。
「何でもいい。君たちは“難事件を紐解いて皆を真相へと導き、犯人を暴き出す者”として、招待状に記されている所へ向かい――殺されてくれ」
 自分たちが招待客であると影朧に信じ込ませた上で殺されたふりをすれば、影朧は姿を現すだろう。そこで推理小説よろしく、真相という名の犯人の涙ぐましい努力を暴いたり、猟兵らしく倒したり、転生への道標となる言葉をかけるなどすれば全て解決、万々歳――というわけだ。
「まあ色々言ったがね、君らなら上手くやれるさ。自由に、楽しく……そうだな、推理小説の登場人物を満喫してくるつもりで行くといい。それに、用意されている料理や夜食はどれも美味そうだったぜ?」


東間
 閲覧ありがとうございます、東間(あずま)です。
 名探偵的存在となって殺されましょう。猟兵なら大丈夫、チョトイタイダケヨ。

●受付期間
 個人ページ冒頭及びツイッター(https://twitter.com/azu_ma_tw)で期間をお知らせしておりますので、お手数ですが送信前に一度ご確認をお願い致します。

●一章 日常『人里離れた館にて、幽世の如き夜を』
 招待客として敷地内でお過ごしください。
 キャラクターを演じる場合は今回限りの作り物でOKです。探偵や刑事、名探偵学生など二つ名の有無や名称含めお好きに。推理モノによくある相棒または弟子と来た! もいいでしょう。

 施設は各人に充てがわれた部屋以外に、来客用の食堂、サロン、大量の本がある書斎、東屋もある洋風庭園、厨房など。各部屋(洋室)には手洗い、浴室付。バルコニーもあります。
 過ごし方は自由。ご一緒した方と自己紹介したり、解決した事件(その場ででっちあげOK)の話をして親睦を深めたり、自分好みの夜食を作ったり。
 推理モノあるある的行動(館内をやたら探検する、自分以外全て敵といわんばかりに部屋に閉じこもる、シャワーを浴びる)も良し。

●二章 冒険『待ち人、まだ来ず』
 現れない依頼主を待つ人々に危険が迫る――!
 という事で殺されて死体になる章です。毒を盛られた、謎のトリックで飛んできたナイフに刺された、死のピタゴラがスイッチなあれでよくわからんうちに死んだ等々、お好きな形でダイして下さい。
 全部影朧のせいなんだ……。

●三章 ボス戦『獄卒将校』
 満を持して登場するけどすぐに天国から地獄になる影朧氏。
 誰か一人でもいい感じの説得をしていると自動的に転生ルートに入ります。
 いい感じの崖は残念ながらありません。

●お願い
 同行者がいる方はプレイングに【お相手の名前とID、もしくはグループ名】の明記をお願い致します。複数人参加はキャパシティの関係で【二人】まで。

 プレイング送信のタイミング=失効日がバラバラだと、納品に間に合わず一度流さざるをえない可能性がある為、プレイング送信日の統一をお願い致します。
 日付を跨ぎそうな場合は、翌8:31以降の送信だと〆切が少し延びてお得。

 以上です。
 皆様のご参加、お待ちしております。
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第1章 日常 『人里離れた館にて、幽世の如き夜を』

POW   :    語り明かそう。キミと、朝まで。

SPD   :    舌へ、喉へ、その心へ。香茶と酒精を心行くまで。

WIZ   :    散るがゆえに。藍夜に舞う桜を瞳に映して。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●鈴蘭館
 門の手前には、招待を受けた客人であるか否かの確認を担う初老の男が一人。
 確認が終わると鈴蘭意匠が煌めく銀の門が開かれ、石畳の道を進む事になる。

 その奥に、『鈴蘭館』は在った。

 赤煉瓦作りの外観持つ鈴蘭館の敷地内で招待客以外に居るのは、様々な年代の使用人のみ。彼らは皆雇い主――つまり招待状の差出人の命により、今夜22時まで居る事を許されているらしい。
 風呂や食事を用意して欲しい場合は、刻限を考慮して彼らに用向きを伝えればいいだろう。食事や酒のつまみを自分で作りたい場合は、彼らに言えば厨房の一部が借りられるようだ。
 そして、彼らの主人は未だ到着していない。

 ――という事になっている。

 人でなく影朧である招待主は館内のいずこかに身を潜めているのだろう。
 どこかから客人を眺めているのか、それとも死の絡繰りを仕込んでいるのか。
 何であれ、時が来るまで影朧の姿は拝めまい。
 それまでは“健康そのものであったが、床に臥せり、痩せ細っていくばかりの婚約者”がおり、“差出人不明の手紙を受け取ったらしい婚約者父に、婚約者と面会させてもらえなくなってしまった“が、噂好きのメイドからそれを聞かされ、婚約者と未来の義父を救うべく行動を起こした人物が“皆様が何不自由なく過ごせるよう”整えてくれた鈴蘭館で、気儘に過ごすとしよう。
 
カイリ・タチバナ
…あからさまに何かあった館だな。が、まあ悪くはねぇ(ヤンキーヤドリガミ)
俺様は『取材をもとに事件を解く新聞記者・橘海鈴』で。

(以降、口調は『演技時は』)
招待主不在とは…いいえ、後で来るようですし、今はここでのんびり過ごしましょう。
しかし、本当に困っている様子。一度お話を…と思っていた方々が集められて。
少しでも知ろうと書斎へ。たくさんの本…!読んでもよろしいか?
(使用人から許可が出たら読む。普通に本が好きなヤドリガミ)
ここの書斎にも、罠バッチリだな…(ぼそっ)
(たぶん、読めるのなら時間ギリギリまで本読んでる。許可が出ずに読めなかったら、書斎探索してる)



 招待状のチェックを通過した後、馬車に揺られた時間はそう長くなかった。石畳の上を行く振動が終わり、開かれたドアから降りればそこには赤煉瓦の洋館――鈴蘭館が静かに佇んでいる。
「成る程、ここが」
 カイリ・タチバナ(銛に宿りし守神・f27462)の細めた瞳が一瞬だけ鋭さを帯びた。
 とある人物の窮状を救うという理由でセッティングされた洋館は、その外観と雰囲気、時が来るまで不自由なく過ごせるという点を見れば非常に良いものだろう。
(「……あからさまに何かあった館だな。まあ悪くはねぇ」)
 素の部分は微笑みの下に閉じ込めたまま、開かれた扉の中へ。まだ若い使用人から本日泊まる事になる部屋まで案内されるついでに、カイリは今日限定の自分をさり気なく仕込んでいく。
「へえ、新聞記者さんなんですか! では色んな場所へ行かれるんでしょう?」
「ええ。近場であれば楽なんですがそうも行かないもので……」
 そして取材先で事件と出くわせば新聞記者としてあちこち取材し、それをもとに事件を紐解いていく――それが『新聞記者・橘海鈴』。
 部屋に荷物を置いた後、窓から外を見れば人が続々とやって来るのが見えた。未だ不在の招待主の現状に同情する風を装いながら、一度お話をと思っていた方々ばかりと感嘆してみせる。
 その演技に疑問を持たない使用人は、22時に退出しなければならない身を悔いながら、“少しでも知ろうと”と熱心な『橘海鈴』の為、書斎まで案内してくれたのだが。
「なんてたくさんの本……! すみません、こちらの本は読んでもよろしいでしょうか?」
「どうぞ! 旦那様からお客様からの希望には可能な限り答えるよう言われてますので」
(「そこに書斎も含んでるだ? イイな、最高だぜ」)
 本好きの素顔を演技の中に滲ませたカイリは、使用人が去ってすぐ、気になった本を複数冊手にし――。
(「っと。ここの書斎にも、罠バッチリだな……」)
 見付けたそれに触れかけた指先を離し、テーブルに本を積んで椅子に座れば上等な座り心地。これは読書が捗りそうだ。
 ああ。殺人事件なんて起きなければ、いつまでも読んでいられるのに。

大成功 🔵​🔵​🔵​

日下部・舞
【月舞】

「私が探偵……」

ミステリ本を読んでいた時期はあるけど、まさか自分がなるなんて思わなかった

「ユエさんは美人だから。何を着ても映えるわね」

神秘的な雰囲気はそのままに、美しいシルエットが目を惹いた
今日の彼女は助手らしい
手始めに用意したというサンドイッチをいただく

「おいしい」

味わいながらそっとサンドイッチを観察する

「ユエさん。ただ見ているのと、観察するのでは大きな違いがあるの」

名探偵の台詞を引用する
サンドしたカット野菜の切り口は綺麗で、彼女が料理に手慣れていることを窺わせた
出されたお茶も味わい深く、まさに助手の仕事として完璧だ

「今度お料理を教えて貰おうかな?」

サンドイッチと侮ることなかれ


月守・ユエ
【月舞】
怖い事件が起こるなら、これは止めないわけにはいかないねっ!
今日は舞さんの助手として頑張らせていただきます!

今日の僕は探偵・舞さんの助手
彼女と同じようなフォーマルな服装にしてみたりして雰囲気を出すの

それにしても、今日はやっぱり色んな探偵さん達が集まっているね?
助手として、皆の役に立てること……あ!
お仕事の前にお夜食でもどうかな?
今日のために、軽食を作ってきたの

野菜サンドやカツたまごサンド!
何があっても良いように、元気はいっぱいつけていこう♪

もちろんお茶を淹れる事も忘れずに!



 怖ろしい事件が起きるのであれば、止めないわけにはいかぬ――それが、探偵。
 やる気十分に瞳輝かせる月守・ユエ(皓月・f05601)の笑顔に、日下部・舞(BansheeII・f25907)も頷いて、ぽつり。
「私が探偵……」
 ミステリ本を読んでいたあの頃の自分は、まさか自分がその探偵になるなんて想像もしていなかった。猟兵だからこその体験に少しだけ驚きを浮かべながら隣を見る。
「ユエさんは美人だから。何を着ても映えるわね」
「えへへ、そう? 嬉しいな! 舞さんの助手として頑張らせていただきます!」
 明るく真っ直ぐな笑顔を浮かべたユエの装いは『探偵・舞』と似た系統――フォーマルな服装にしており、二人並べば統一感が表れる。それでもユエの持つ神秘的な雰囲気はそのままだ。『助手・ユエ』の美しいシルエットはきっと、自分だけでなく周囲の目も惹くだろうと舞は感じた。
「それにしても、今日はやっぱり色んな探偵さん達が集まっているね?」
「そうね。……それだけ依頼主は本気だとわかるわ」
 本気で――標的を殺す為に招待状を送り、場を用意した。
 犯人である影朧の狙いを伏せた舞の言葉にユエは頷き返し、充てがわれた部屋の窓から客人の姿を熱心に見る。助手とは探偵の役に立つ存在だ。探偵とはパートナーである舞であり、今見えている“彼ら”でもある。
(「助手として、皆の役に立てること……あ!」)
 ぱっと目を輝かせたユエを舞の瞳が静かに追う。鞄の中からそっと取り出したのは布に包まれた箱形の何か。きょと、とした舞にユエは布を外しながら実はね、と中の物を見せる。
「お仕事の前にお夜食でもどうかな? 今日のために、軽食を作ってきたの」
 探偵業とは知力と体力の両方が求められるもの。その行使に必要不可欠なのはカロリーだ。腹が減っては戦は出来ぬともいう。
「何があっても良いように、元気はいっぱいつけていこう♪」
「そうね。いただくわ」
 今日の仕事の手始めにと舞はまず野菜サンドに手を伸ばし、はむ、と一口。
「おいしい」
「良かった……! お茶もあるよ♪」
 出来る助手は抜かり無し。ユエがお茶を淹れる間、舞はそっと野菜サンドを観察していた。それに気付いたユエからお茶を受け取りながら、ユエさん、と舞はとある名探偵の言葉を引用する。
 見る。観察する。傍から見れば同じに思える二つの行動の間には、表す言葉が異なるように、大きな違いがある。
 ぱちり瞬いた瞳へと、舞はまだ口をつけていない部分を見せた。
「ほら、切り口が綺麗だわ。これはユエさんが……“これを作った人は料理に手慣れている”事を窺わせる部分よ。それから、もう一つ」
「もう一つ?」
「ええ。この、お茶」
 淹れたてのお茶に口をつけると、鼻孔と口内にふんわりと深みのある味わいが広がった。料理に慣れていない人物ならこうはいくまい。助手の仕事として完璧というしかない様に、舞は静かに笑った。
「サンドイッチもお茶もおいしいわ。今度お料理を教えて貰おうかな?」
「え、僕が料理を? 上手く教えられるかな……」
 照れくさそうに笑うユエへ、舞は「できるわ」と囁くように言った。
 野菜サンド。カツたまごサンド。生地と具材のバランス。見事な切り口。
 サンドイッチと侮るなかれ。
 そこには完璧な助手の能力が隠れている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

榛・琴莉
こういった案件は和装の方が良いでしょうか
袴にブーツ、大正浪漫と言うやつです
Haroldと鳥の巣をケープの中に隠して
Mikhailはヴァイオリンケースに入れて誤魔化します
“探偵”の持ち物としては微妙ですが…銃火器よりはマシでしょう
ええ、今練習中でして。ホホホ

私は何者でもありません
強いて言うなら、多少、探し物が得意と言うだけ
…なんて
どうでしょう、それらしくなってます?

私が殺されるまで、まだ時間はありますし…暖かい紅茶でも淹れてもらって、部屋でのんびり待ちましょうか
其の間、Ernestは館の調査を
構造など、分かっていた方が殺されたフリもしやすいでしょう
あちらに見つからぬよう『迷彩』機能をお忘れなく



 髪と似た色合いのトンビコートがやわらかに揺れる。星屑彩る裏地の下は、落ち着いた瑠璃色に淡藤色で雪輪や花が描かれた着物に白の袴。静かな足音を響かせるのは磨かれた黒のブーツだ。
 大正浪漫の装いで館内を歩く少女探偵――榛・琴莉(ブライニクル・f01205)は、少し前を歩くメイドの案内で、一人用にしては豪華な部類では? と思う内装の部屋へとやって来ていた。
「何か必要なものがございましたら、そちらの壁にあるスイッチを押して下さいませ」
「わかりました」
 こくりと頷いて床に置いた“手荷物”にメイドの視線が向く。細めの花びらを一枚、輪郭をまろやかにしたようなそれは世間一般で言うヴァイオリンケースだった。
「榛様は楽器を嗜まれてらっしゃるんですか?」
「ええ、今練習中でして」
 ホホホ。
(「……上手く笑えましたよね。今の」)
 当然中身は違う。
 開けたそこに収まっているのは音色を奏でる楽器ではない。銃声響かせるアサルトライフル『Mikhail』だ。“探偵”の持ち物としては微妙かもしれないと琴莉は思うものの、まさか「実は中身は銃火器なんです」なんて言うのと比べればマシな方だ。きっと。
 そして『Harold』と『鳥の巣』は揃ってトンビコートのケープの中――と、今の琴莉は大正浪漫の風を吹かせる少女探偵そのもの。しかし琴莉の事をよく知らぬというメイドは、主人の窮地を救うべく現れた一人に対し心から申し訳無い様子。しかし、琴莉はふるふると首を振り、少しだけ笑った。
「私は何者でもありません。強いて言うなら、多少、探し物が得意と言うだけ」

 ……なんて。
 どうでしょう、それらしくなってます?

 心の中でガスマスクに住まう『Ernest』に問うてみたり。
 時計を見れば刻限までは余裕がある。メイドへ温かい紅茶を頼み、それが届くまでの間、琴莉は部屋でのんびり待つ事にした。ベッドに腰を下ろせば、ふか、と体がやわらかく沈む。
(「ではErnest、館の調査を」)
 欲しい情報は鈴蘭館の構図。庭園を含めた敷地内の地図もあればいいだろう。
 ただし、調査は“あちら”に見つからぬよう迷彩を施した上で。
 招待した客人が殺されたフリをする為に準備してくれている、なんて、今はまだ知らなくていいのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

柊・はとり
他の探偵がどんな奴か知りたかった
依頼を受けた理由はそんな所だ

俺は本物の高校生探偵
『白雪坂のホームズ』柊はとりだが
故郷のアポヘルはあんなだしこっちじゃ無名だ
他の探偵を遠巻きに観察し聞き耳を立て情報収集
普段ろくな物食えてないから飯は食う
うまい…
本物偽者は直感で分かるが話は合わせる

ああ、曾じいさん…
伝説の名探偵柊藤梧郎はこの世界にも存在するんだっけか
『柊藤梧郎の曾孫』の方が通りがいいだろうから
訝しがられたらそう名乗っとく、事実だ
あの偉そうな写真見たことないか?
俺は無能だが目つきだけは似てるって言われるぜ

過去の話はしたくないので早々に部屋へ引き上げる
探偵だなんて名乗る必要ない
今夜は誰も死なせないからな


コノハ・ライゼ
以前もやった事あるケド、ミステリーごっこ結構楽しいよねぇ

表の顔は料理人、裏では秘密裏に事件解決に動く探偵……ってトコかしら
得意分野は服毒系ネ
料理は人の心を読むのも大事だから、心理戦も得意ヨ
表に立つことはそうないケド、毒殺事件の多くは解決に手を貸してるわね、ナンて

さて、好きに過ごして良いなら厨房をお借りして、美酒によく合う肴を用意しましょ
ご要望があればお好みのモノを作るし
夜空の下高名な方々のお話を聞きながらの晩酌もイイわネ
毒や猟奇的なモノには特に興味を示すし
話から心理を推察したり……って演技じゃなく素で楽しんじゃいそうダケド

そうそ、理想の死に様……ナンて話で
誰かの興味をそそるのも一興ね?


ヴィクトル・サリヴァン
はーい海洋系名探偵参上!(形から入ってみる系)
海賊帽は鹿撃ち帽に変えてそれとなく。
インバネスは…キマイラ用がね…サイズ以前に。
解決法は主に力技オブ力技、犯人が頑張って力技でこなしたのを再現したりでね。
二つ名はまだないから何とでも呼んでねーと気さくに振る舞おうかな。

さて、折角だしまずは食堂かな。
美味しいご飯はやる気にとっても大切。さあどんな料理があるかなー。
苦手は特にないからねーとかにこにこしつつ状況を観察。
本来なら影朧は一気に仕留めにかかろうとしたんだろうけどどうやって、かな。
出入口封鎖してじっくりと、かそれとも…と調理場の方を見たり。
攻めてくるまではどっしり構えるかな。

※アドリブ絡み等お任せ



『お好みは?』
『苦手は特にないよー』
『……多分ない。普段ろくな物食えてないから』
『じゃあ腕によりをかけなくっちゃネ』

 というやり取りを厨房でした数分後。鈴蘭形の灯りが天井に咲く下、長い長いテーブルの上にコノハ・ライゼ(空々・f03130)作の料理が並んでいく。
 サラダ、豚肉の生姜焼き、ほかほかのご飯に豆腐と刻んだ葱だけというシンプルさが光る味噌汁。それから、美酒によく合うだろうガーリックをきかせた厚めのフライドポテト。
 “今日の晩御飯”の文字が見えそうなそれに、柊・はとり(死に損ないのニケ・f25213)の冷えた瞳が少しだけ驚きを浮かべた。
「あの短時間で、これ全部を一人で作ったのか」
「凄いね、美味しそうだねー」
 食べていい? とわくわくを浮かべるヴィクトル・サリヴァン(星見の術士・f06661)にコノハはドーゾと笑い、両手を合わせて「頂きます」。美酒は丁度いい頃合いに厨房から出してくれるそうだから今はこっちに舌鼓、というやつだ。
「ついでに自己紹介といきましょ。オレは表の顔は料理人、裏では秘密裏に事件解決に動く探偵……ってヤツ。得意分野は服毒系ネ」
 勿論、目の前に並ぶ料理に一服盛ったりなんてしていないと悪戯っぽく笑う。
「料理は人の心を読むのも大事だから、心理戦も得意ヨ。表に立つことはそうないケド、毒殺事件の多くは解決に手を貸してるわね」
「そうなのか。結構やるんだな」
「料理はどれも美味しいし、毒殺事件はたくさん解決だなんて凄いね。あ、俺は海洋系探偵!」
「……海洋系?」
 まあ見た目通りの探偵だな、と言って生姜焼きに口をつけたはとりは、豚肉とタレが放つ抜群の相性に思わず目をぱちり。
「うまい……」
 ある日突然崩壊を迎えた故郷・アポカリプスヘルでこんなもの味わう機会は、二度あるかどうか。そもそも一度目は。しっかり食べるはとりに、アラ光栄だわとコノハが笑う。
「ウン。ほんと、ザ・海洋系って感じ」
「あはは、でしょう?」
 ヴィクトルは頬を掻く。普段被っている海賊帽は“名探偵っぽさ”を醸し出すべく鹿撃ち帽に変えた。インバネスコートはサイズ以前にキマイラ用の丁度いいものが無かったが、探偵らしさは他にもちゃんとある。
 ムキッと見せた力こぶと、シャチ型故に持つ恵まれた体躯。つまり。
「突っ込んできた犯人をその場に立ったまま受け止めたら気絶された事があって」
 こんな風に、と力技オブ力技で解決したエピソードを身振り手振りで再現する。
 そんな海洋系名探偵はまだ二つ名がない。何とでも呼んでねーと気さくに笑って味噌汁をずずず。ほっとする味わいにヴィクトルが満足げな笑顔を浮かべれば、お次は。
「俺は柊はとり。高校生だ」
「高校生?」
「他の探偵がどんな奴か知りたかった」
 はとりはコノハの疑問“どうして高校生がここに”を明確に察し、その答えを簡潔に伝え、生姜焼きを白米に乗せて食べた。うまい。
 高校生探偵であるというのは事実だが、ここは故郷ではなくサクラミラージュ。有名か無名かといわれれば後者だと、はとりは当然理解している。しかし、伝説と謳われた血縁者は確か、この世界にも存在するのではなかったか。
「曾じいさん……『柊藤梧郎の曾孫』だ」

 エッ!

 食堂に響いた甲高い声は――遠くから。三人の視線に、ししし失礼致しましたと様子を見に来た使用人が頭を下げる。特に仕事はなさそうだとすぐに判断し、あれこれ聞きたがる姿勢を隠して引っ込んだ。
「曾おじいさん、有名人なんだね」
「偉そうな写真が残ってる。俺は無能だが目つきだけは似てるって言われるぜ。書斎で探せば肖像画が載った本があるかもな」
「その中に毒殺事件や猟奇事件について書かれた本もある?」
「立派な書斎だって聞いたしあるかもね。服毒系が得意な探偵としては興味が?」
 まぁネ、と目を細めて笑ったコノハの手がワインボトルに伸び、グラスにとぷとぷと赤い波を立たせた。
「理想の死に様……ナンて載ってるかもしれないじゃない?」
「理想……うーん」
 自分だったらと考えてみたヴィクトルだが浮かばない。
 ああでも、綺麗な夜の海というシチュエーションは心惹かれなくも――。
「うまかった。それじゃあ」
 広がりそうな会話が自分の過去に及ぶ前に食べ終えたはとりは席を立ち、食堂を後にする背へ年上二人はひらひらと手を振って“また”と言った。
 また。また後で。また明日。
 どちらも猟兵だ。今夜、自分の身に何が起こるかはよく知っているだろう。そして猟兵だからこそ、本当に殺されるという事は無い筈だが。
(「今夜は誰も死なせないからな」)
 故にはとりは探偵だと名乗らなかった。
 誰も死ななければ、そこに探偵の出番など必要ないのだから――。

 高校生の姿が消えた後、大人二人はワインとフライドポテトを共に語り合う。
「それにしてもどんな犯人だろうね」
「そうネェ……ま、その時までのお楽しみとしましょ。どう仕掛けてきても、やる事は変わらないもの」
「そうだねー」
 本来なら、影朧は一気に仕留めにかかろうとしたのだろうけれど。
(「どうやって、かな。出入口封鎖してじっくりと、かそれとも……」)
 ちらりと鯱の瞳が厨房の方を見る。
 何であれ、攻めてくるまではどっしり構え――。
「あっ、このフライドポテト美味しい」
「でしょ? ワインに合うのよこれが」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フリル・インレアン
ふええ、また『正座のフリル』(https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=15138 2章)をやるんですか?
『名探偵アヒルさん』でいいじゃないですか。
ふぇ、アヒルさんの声は誰にも分らないから翻訳する人物が必要って、別に正座をする必要はないじゃないですか。

それにしても、ようやく門に着きましたね。
アヒルさん、使用人さんに招待状を渡してください。
ふえ?私もグリモア猟兵さんから招待状を渡されていませんよ。
てっきり、アヒルさんが受け取っているものと・・・。
ふええ、アヒルさんが取ってくるまで私はここで正座して待ってろってひどいですよ。



 鈴蘭館正門に通じる道を、ふたつのシルエットが並んで歩いている。
 ひとつは小さなアヒルのように見える、ガジェットの『アヒルさん』。もうひとつは大きな帽子を被った少女――フリル・インレアン(大きな帽子の物語はまだ終わらない・f19557)だった。
 アヒルさんがクワクァ、と鳴いた。周りにはアヒルの可愛らしい声にしか聞こえないが、隣を歩いていたフリルは「ふええ」と目を丸くし、いつも以上に困った顔をした。
「また『正座のフリル』をやるんですか?」
 こくっ! と頷かれ、フリルは再び「ふえぇ……」と肩を落とす。
 『正座のフリル』とは自分の事なのだが、そもそもの始まりは去年のとある依頼だ。名探偵――と、その場でそういう事になったアヒルさんが推理している間、フリルはじっと正座をしていなければいけないらしい。
 『正座のフリル』初出しとなったその後、フリルの足は見事に痺れていた。
「あの、『名探偵アヒルさん』でいいじゃないですか。ふぇ、アヒルさんの声は誰にも分らないから翻訳する人物が必要って……」
 それはまあ――いやいや、とフリルは首を振って「別に正座をする必要はないじゃないですか」と抗議するものの、アヒルさんはご機嫌にお尻を揺らして先へ行ってしまう。
 慌てて追いかけ、そしてようやく門に到着したフリルは待機していた使用人に招待客である事を伝えた。こんなに幼い少女が? と一瞬間を空けられてしまったので、その証をとアヒルさんを見る。
「アヒルさん、使用人さんに招待状を渡してください」
『クワ?』
「ふえ?」
『?』
「どうかなさいましたか?」
「あ、あの、ちょっと待ってて下さい……!」
 少し離れてヒソヒソこそこそ。アヒルさんが首を傾げ、何も持ってないと翼を広げる。
「ふえ? 私もグリモア猟兵さんから招待状を渡されていませんよ。てっきり、アヒルさんが受け取っているものと……」
『クワァ』
「ふええ、アヒルさんが取ってくるまで私はここで正座して待ってろってひどいですよ」
 しかしアヒルさんは待ってくれない。事件の為、助手の為。止める声を背に、来た道を軽やかに戻っていくのであった――!

大成功 🔵​🔵​🔵​

ミルル・チックリオン
おはようございます……眠り探偵です……眠りのほにゃららです……
眠って……起きた時には……全て解決してしまう……
そんな売り文句で……活動をしています……

……この前も化け物とカーチェイスするような大事件に遭遇して……寝て起きたら既に解決してました

……よく考えたら……それは私が解決したわけじゃないのでは……?
まぁいいか……もう疲れたから……寝てもいい?

ではおやすみなさい……部屋に行くので……誰も我が眠りを妨げることあたはず……

……今思い出したらあの大事件夢だった



「あの、大丈夫ですか? 手をお貸ししましょうか……?」
 おろおろ着いてくる使用人に、ミルル・チックリオン(ヤドリガミのシンフォニア・f04747)はふわりふらりと歩きながら「おはようございます……」と見事なウィスパーボイスで挨拶して、
「あ……ミルル・チックリオン……眠り探偵です……」
「まあ、これはご丁寧に……」
 でも本当に大丈夫かしら。行き場のない両手は、空中をかき回すようにおろおろあわあわ。そんな想いを知ってか知らずか、ミルルはぺたり、ぺたりとゆっくり歩きながら自己紹介を続けた。
 『眠り探偵』と呼ばれる所以。
 それは、ミルルが眠り、起きた時には全て解決してしまうからだ。
「ね、眠っている間に……?」
 まさかと笑い飛ばせないのは、ミルルが堂々と語っている上に、鈴蘭館へ到着してからずうっと眠そうにしているからだろう。その姿が『眠り探偵』という存在への疑問を消してしまうのだ。
「……この前も化け物とカーチェイスするような大事件に遭遇して……寝て起きたら既に解決してました」
「まあ!」
「ですので……眠って……起きた時には……全て解決してしまう……そんな売り文句で……活動をしています……」
 おお、と感嘆の声へミルルは少しだけ振り返って頷き――再び前を見ると同時に、あれ、と。ちょっとだけ目を細めた。
 それってよく考えたら自分が解決したわけではないような。
(「まぁいいか……もう疲れたし……」)
 ぺたりぺたり。体は左右にゆらゆらり。向かう先は自分にと用意された部屋。ふかふかベッドと枕、布団が待つ素敵な空間だ。
「ではおやすみなさい……部屋に行くので……誰も我が眠りを妨げることあたはず……」
「か、畏まりました。ごゆっくりお休み下さいませ」
 眠り探偵ならば眠ってる間に部屋に着いてベッドで横になっているに違いない。
 そんな表情で自分を見送る使用人にミルルは小さく会釈し、辿り着いた部屋のドアノブを掴み――あれ。ちょっと待った。
(「……今思い出した。あの大事件夢だった」)

 ……まぁ、いいか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヒュー・アズライト
アドリブその他◎

一度はやってみたいですよね、名探偵ごっこ!
残念ながら助手がいないのですが…こだわりはないので助手でもいいですが、そうですね、必要なら適当に誘拐事件でも解決した学生探偵さんくらいの役でもしておきましょう!

庭園があるんでしたか…この世界の桜も見えますかね?
事件の時間まで館の中を見回りながら庭園を目指しましょう
噂話を耳にしたり、探偵らしく首を突っ込んでみたりしながら、館の構造を記憶しておきますね
ああ、メイドさん見かけたらお夜食の準備だけお願いしておこうか、な。後でいただきますね、と。

残りの時間は庭園を散策しておきます
楽しんだら頃合いを見計らって帰りますね
ふふ、楽しみですね



 探偵――それも名探偵になれる。
 普通に生活していたら叶わないそれ、一度はやってみたかったこの名探偵ごっこには“殺される”というオマケが付いているが、鈴蘭館の中を歩くヒュー・アズライト(果てなき青を知る・f28848)の足取りは軽い。
(「残念ながら助手がいないのですが……」)
 チョコレート色の手すりに触れ、館内の内装等を楽しみながら階段を降りていくと、階下からやって来た使用人――ここを訪れた際に部屋まで案内してくれた老人が、ヒューを見てその場に足を止めた。
「アズライト様、どこかへ行かれるのですか?」
「こんばんは。こちらの庭園にお邪魔しようと思って」
 礼をした老人へとヒューもぺこりと礼をする。季節は冬へと移りつつある秋。見える桜は幻朧桜のみだが、秋の庭園に舞う幻朧桜の花びらはきっと綺麗だろう。
「学校にも桜は植わってますけど、庭園はないんですよね」
「誘拐事件を解決された学生探偵にも、解決が難しいものは存在するのですね」
「そういうことです! ところで、依頼主の方はなかなか見目麗しい殿方だとか」
「おやおや。アズライト様、その情報はどちらで?」
 口の横に手を添え少しばかり芝居がかった仕草で訊くと、老いた使用人の目がキラリ。なかなかノリが良い。ヒューは情報源は秘密ですよと楽しげに笑う。
「で、どうなんですか?」
「情報通り、目鼻立ちの整った御方です。メイドたちが年代問わず浮足立つほどに」
 そして彼女たちは、あんなに素敵な方が幸せになれないなんて、と悲しみ、今夜集う客人たちに一刻も早い解決を祈っているようだ。
 その旦那様が影朧だとメイドたちが知ったら、そのショックは如何程か。
 真実を伏せたまま成る程と頷いたそこへ、一人のメイドがタイミング良く階下の廊下を行くのが見えた。ヒューは老人と別れ、メイドに夜食の準備だけを頼むと窓の外を指す。
「自分はしばらく庭園にいるので、部屋に運んでおいてもらえますか?」
「畏まりました」
「ありがとうございます。後でいただきますね」
 外に出ると冷えた風に顔を撫でられた。思考がすっきりと晴れそうなそれにヒューは笑って庭園に向かう。館内構造は覚えた。次は庭園の造りを楽しみながら覚えようか。自分の部屋に灯りがつけば“夜食が届いた”とわかるから、それまでが残り時間だ。
「ふふ、楽しみですね」
 今夜、自分はどのような最期を迎えるのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ハイノ・シュラーフェン
アシュ(f26308)と

あ、お茶うめえな(ずずー)
さて、頭脳明晰な探偵であるオレにとっては簡単な事件だな
……正直普段船で起きた悪戯の犯人探すより楽。超楽
ところでな助手よ。そういう物理的なアプローチはもっと真相に近づいた時にすべきだと思うぜ?
あともしそうだとしたらおとうさんとやら弱すぎだろ

けど、現場をくまなく調べるっていうのはいいアイデアだ(持参したランチボックスを出す)
じっとしてるだけじゃあ事件は解決しないからな(ひょいひょい入れる)
ドアはちゃんとノックしてから開けるんだぞ?(しめる)

よっし、簡易弁当完成。行くぞアシュ、腹減ったらこれの中身食わせてやるから
…なんせ一日長いんだ、栄養つけておけよ


アシュアヴラ・ロウ
ハイノ(f26210)と
探偵というものには助手がつきもの
らしいので、ぼくが敏腕助手になるのさ!

何をするかは、よく知らない
ハイノー…せんせ?
ぼくらのお船で悪戯なんて一体だれだろねえ(ぴゅー)(吹けない口笛)
(捕まらないのは逃げ足のせい)
なにする?窓割ったり扉蹴破ったり、する?
ええと、確かおとうさんがよわくって、メイドに閉じ込められてるっておはなし(ごはんもぐもぐ)
ちがったっけ?(もぐ)
でも部屋ぜんぶどーんしてばーんしたら見つからない?(おかわり)
はぁい、ノックする(むしゃー!)

わあいおべんとだ
任せろいっぱいはらぺこにする
おててつないでれっつごー
事件がよく起こるのは…おふろ?(サスペンスの定番)



 探偵という存在にはパートナーがつきものだ。それは気心の知れた『友人』や、事件を切欠に腐れ縁が続く『刑事』、身の回りの世話やちょっとした調べ物をする『助手』、または師事を仰ぐ『弟子』であったり――優れた身体能力で探偵を支える『犬』という事もある。
 アシュアヴラ・ロウ(混濁骸・f26308)は『助手』にした。
 それも普通の助手ではない、アシュアヴラは敏腕助手にしたのだ!
「それで敏腕助手のぼくは何をするの。ハイノー……せんせ?」
「あ、お茶うめえな」
 敏腕助手になりたてのアシュアヴラの問いに、ずずーと啜る音が被る。
 探偵の先生ことハイノ・シュラーフェン(灰水・f26210)は、灰に染まる長髪をゆらりふわりと空中に躍らせた。海の碧と同じ目を持つ助手は何をするのか判らないようだ(そして用意してもらった食事をめいっぱい頬張っている)が自分は違う。
「さて、頭脳明晰な探偵であるオレにとっては簡単な事件だな」
「そうなんだ?」
「……正直普段船で起きた悪戯の犯人探すより楽。超楽」
 一瞬喉をつまらせたアシュアヴラはグーにした手で胸をとんとん。お茶を飲んでぷはーっと一息つくと、へー悪戯ねーと椅子の背もたれに体重をかけ、明後日の方向に視線を向けた。
「ぼくらのお船で悪戯なんて一体だれだろねえ」
 ぴゅー、ぴゅひゅー。食堂で吹けていない口笛を流すアシュアヴラは敏腕助手なので解っている。悪戯の犯人は逃げ足が凄いのだ。だから捕まらない。電光石火の解決である。やった。
「じゃあなにする? 窓割ったり扉蹴破ったり、する? ええと、確かおとうさんがよわくって、メイドに閉じ込められてるっておはなしだよね」
 今日ここへ来た理由を確認するその手は、食事に伸びご飯を元気にもぐもぐもぐ。名探偵ハイノはしっかり咀嚼する敏腕助手の姿を眺めながら、お茶の残りをずずーっと飲んだ。
 父親。メイド。弱い。閉じ込められている。
 各単語は合っているが、どうしてだか微妙にズレている。
「ちがったっけ?」
 アシュアヴラは最後の一口分をもぐっと食べて噛んで飲み込んでから、首を傾げた。
「でも部屋ぜんぶどーんしてばーんしたら見つからない?」
 それと器の中が空になってしまったので当然おかわりした。
 おひつの蓋が開けられ、ほかほかご飯が盛られていく様をハイノは頬杖をついて眺めていた。もりもりの白米山が出来ていく。
「ところでな助手よ。そういう物理的なアプローチはもっと真相に近づいた時にすべきだと思うぜ? あともしそうだとしたらおとうさんとやら弱すぎだろ。けど、」
 どんっ。
「現場をくまなく調べるっていうのはいいアイデアだ」
 ハイノはテーブルの上にランチボックスを置いた。ぱかっと蓋を開ける。
「じっとしてるだけじゃあ事件は解決しないからな」
 開けたそこに用意してもらったものをひょいひょい入れていく。頭脳明晰な探偵なので途中で「あ、これだと入らねえ」は起きない。唐揚げも野菜も卵焼きもスムーズにひょいひょいひょいだ。
「ドアはちゃんとノックしてから開けるんだぞ?」
「はぁい、ノックする」
 むしゃー! と食べ終えたアシュアヴラへハイノは頷き、ぱたんと蓋を閉めた。
「よっし、簡易弁当完成」
「わあいおべんとだ」
「行くぞアシュ、腹減ったらこれの中身食わせてやるから。……なんせ一日長いんだ、栄養つけておけよ」
「任せろいっぱいはらぺこにする。おててつないでれっつごー」
 犯人との邂逅という一仕事の前に、殺されるという大事な場面も待っているのだから。
「ええと……事件がよく起こるのは……おふろ?」
「定番ではある。風呂場となると……」
 足を滑らせ頭部を強打。浸かっていた湯船に電源の入った電化製品投入による感電死。湯船に沈められての溺死。他にも――と、定番故に風呂場で起きそうな候補が列を成すのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

尾宮・リオ
明日川さん(f29614)と



探偵帽を被りモノクルを着け
まるで小説から出てきたような
そんな格好の探偵役で挑むは難事件

さあ、殺人を止めましょうか。



明日川くん、行きますよ。
助手の彼女を呼んで、いざ館の中へ

とりあえず
屋敷の中を廻りましょうか
事前に間取りを知っておくのは
必ず後で役に立つことですよ

書斎の前で足を止めた助手に気付いて
中に入ってみましょうか?
何か良い情報があれば良いですね

扉を開き大量の本を前に瞬いた
これは、すごい数ですね
思わず役を忘れて感嘆の声を上げる

ひとつひとつ見るわけにはいきませんが
明日川くん、何か気になるものはありますか?
少しくらいの寄り道なら許されますよね
その本、読んでみましょうか


明日川・駒知
尾宮くん(f29616)と
アドリブ、マスタリング歓迎

_

殺人、ですか。
そしてそれを止めるのが今回の仕事。
……承知致しました。

_

立派な館の外観を見上げていれば私を呼ぶ声。
主は尾宮「先生」
私は探偵たる彼の「助手」。
袴揺らし袖をふわりとはためかせ、彼の後ろへついていく。

これから戦場となるこの館の構造を大まかに知っておきたいところだけれど、
それを前提に動くというのは物語の「登場人物」としては失格かしら。
…けれど個人的な興味として書斎が気になっていて
けれど先生には全部バレていて。

彼の後ろに続いて書斎へ入り
「…わ…」
思わず役も忘れ瞳輝き

気になるもの…
不意にあるタイトルに目が留まり
『鈴蘭館の歴史』



『さあ、殺人を止めましょうか』
『……承知致しました』


 グリモアベースでそんな風に言葉を交わしてから少し経った、今。
 明日川・駒知(Colorless・f29614)は目の前に建つ鈴蘭館を見上げていた。
「明日川くん、行きますよ」
「はい、尾宮先生」
 呼ばれ、袴を揺らし袖をふわりとはためかせて尾宮・リオ(凍て蝶・f29616)の後ろを付いていく。さらさらとした黒髪揺れる頭には探偵帽。赤色フレームの眼鏡はモノクルに。まるで、小説から出てきたかのようだ。
(「今の私は、尾宮くん……尾宮『先生』の『助手』)
 二人が年若い探偵とその助手として訪れた鈴蘭館は、今宵の舞台であり戦場でもある。
 助手である駒知としては、館の構造を大まかに知っておきたいところなのだが。
(「それを前提に動くというのは物語の『登場人物』としては失格かしら」)
 食堂、サロン、洋風庭園、厨房。
(「そういえば……」)
 扉を開けてくれた使用人に「部屋までは自分たちだけで大丈夫です」と丁寧な物腰で伝えたリオは、行きましょうかと笑顔で先を促し歩き出した。玄関ホールから階段を上がり、廊下に入って。そして周囲に誰もいないと確認してから口を開く。壁に備え付けられている鈴蘭形洋燈の灯りが、二人の影をやわらかに落としていた。
「とりあえず屋敷の中を廻りましょうか。事前に間取りを知っておくのは、必ず後で役に立つことですよ」
「はい」
 それぞれの部屋に荷物を置き、鈴蘭館の中を行く。事前に聞いていた施設と目の前の場所を、二人は頭の中に地図として描いていって――。
(「……ん?」)
 自分の後に続く筈の足音がしない事に気付き、リオは確認した“そこ”の前を通過してすぐ足を止めた。鈴蘭が掘られた扉は大きく、威厳がある。その向こうは書斎の筈だ。
 駒知の足はその扉の前で止まっていた。
 黒い瞳は、閉じられている扉の向こうを見るように、静かに注がれている。
「中に入ってみましょうか? 何か良い情報があれば良いですね」
 は、と一瞬だけ丸くなった瞳がすぐに普段の様に戻る。
「……先生はお見通しですね」
「探偵ですから」
 扉を開くと、本の香りが溢れた。
 壁を埋める棚。その中を満たす本。圧倒的な量を前にリオの目は丸くなり、ぱしぱしと瞬いた。続いて書斎に入った駒知も飛び込んできた光景で静かに目を丸くし、瞳を輝かせる。
「……わ……」
「これは、すごい数ですね」
 リオがこぼした呟きからは『探偵』が剥がれ落ちていた。
 思わず役の事を忘れてしまうほどの光景が、そこにあった。
 足元は美しい模様描く絨毯で覆われており、広々とした室内のあちこちに座り心地の良さそうな椅子とサイドテーブルがある。作業も出来るようにという心遣いか、長テーブルも。
 二人は目が合った先客に会釈し、静かに歩みを進めた。
 一つ一つ見ていきたいが、この量だ。何泊かする予定であったなら存分に読めるのだが、今夜は外せない予定が入っている。
「明日川くん、何か気になるものはありますか?」
 この後に控えている“殺人事件の被害者になる”という大仕事。
 しかし、少しくらいの寄り道なら――許されますよね。
 モノクルの下でそっと笑った『先生』に、『助手』は気になるもの、とかすかな声で繰り返し、目の前に並ぶ本の壁を見る。その中で不意に目を留めた一冊があった。
「尾宮先生。これは、どうですか」
「いいですね。その本、読んでみましょうか」
 深い緑色の表紙を彩る刺繍は、若草色と白色の糸で咲く鈴蘭のレリーフ。
 タイトルは、『鈴蘭館の歴史』。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒蛇・宵蔭
エルザさん(f17139)と

如何にもな黒いスーツとインバネスコート姿で
姿麗しきメイドをつれた好事家風な探偵を。

仕事前にお屋敷を見物して回りましょうか。
鈴蘭の意匠が愛らしいですね。庭園も見事です。

まったく、先だっての事件もまた腥い事件で……
自家製ワイナリーは怪奇小説の有様でしたけどね。
毎回そんな展開になるのはどうしてでしょうね、エルザさん?
偶には平和な頭脳労働がしたいものです。

此度はお嬢さんの憂いを晴らすことになるのか……。
そういえば以前、かくいうお嬢さんが犯人で巻き添えになりそうになりましたね。
はて、私はいつでも誠実な積もりですけど。

また優秀なメイドの出番となりそうですね、と笑いつつ。


エルザ・ヴェンジェンス
宵蔭(f02394)様と

トランクに荷物を詰め。
探偵たる主に仕えるとメイドとして、完璧に仕事をこなします。

宵蔭様のお望みの侭に。
えぇ、美しい所ですわ。何処も手入れが行き届いていて……
美しい庭園はそれだけで心が癒やされます

えぇ、傷ましい事件でございました。
男爵様の遺体から血を抜き、ワインに入れておくとは。
…あれは、宵蔭様が形ばかりワイナリーの心配などなさったからでございましょう。
推理ショーも、少々考えていただきませんと。
お人柄を顔で補うにも程度がございましょう。

——あのお嬢様に関しては、宵蔭様が一言多かったからかと
このメイド、護衛も恙なく行うつもりではございますが
少々、口にはお気を付けくださいませ



 “仕事”の時間までまだ余裕がある現在、集った探偵たちは鈴蘭館にて思い思いの時間を過ごしている。休息、食事、読書、散策、調査、思案。『探偵』黒蛇・宵蔭(聖釘・f02394)が選んだのは――。
「仕事前にお屋敷を見物して回りましょうか」
「宵蔭様のお望みの侭に」
 一目見て上等とわかる黒のスーツに、優美に翻るインバネスコート。いつものように黒尽くめの中で浮かび上がる整った白いかんばせに、探偵たる宵蔭に仕える『メイド』エルザ・ヴェンジェンス(ライカンスロープ・f17139)は静かに頷いた。
 完璧な荷物配置が光るトランクは部屋に残し、宵蔭と共に鈴蘭洋燈が照らす通路を行き、庭園に通じる広間から外へ出る。
 頬を撫でた風に宵蔭はほのかに目を細めて振り返った。今利用した扉にも正面扉と同じ鈴蘭の彫刻が施されたドアノッカーがついている。砂利が敷き詰められた足元を見れば、互い違いに市松模様を作る石のタイルにも、一輪ずつ鈴蘭が咲いていた。
「随所に見られる鈴蘭の意匠が愛らしいですね。庭園も見事です」
「えぇ、美しい所ですわ。何処も手入れが行き届いていて……」
 秋桜揺れる静かな道。アーチを彩る絢爛の薔薇。色も形も鮮やかなケイトウ。花は控えめに、その分、様々な緑持つ草が佇む小路。ブーケのようにふんわりとしたボリュームを持つ寄植え。そして、儚く舞う幻朧桜の花びら。
 ――ここには、秋と春の彩が在る。
「美しい庭園はそれだけで心が癒やされます」
 静かな、けれど満たされている声に宵蔭は微笑みながら頷いた。先だっての腥い事件で負ったあれそれもこの庭園が癒やしてくれる。本当に。あれは、本当に腥い事件だった。
「自家製ワイナリーは怪奇小説の有様でしたけどね」
「えぇ、傷ましい事件でございました。男爵様の遺体から血を抜き、ワインに入れておくとは」
 グラスを満たす赤。栓を抜いてグラスへ注げば、ワインと比べ若干のぬめりと鉄の匂いを放つ赤が躍った時の衝撃といったら!
 しかし名探偵でもわからない事がある。
「毎回そんな展開になるのはどうしてでしょうね、エルザさん? 偶には平和な頭脳労働がしたいものです」
「……あれは、宵蔭様が形ばかりワイナリーの心配などなさったからでございましょう。推理ショーも、少々考えていただきませんと。お人柄を顔で補うにも程度がございましょう」
 顔、といわれた宵蔭がにっこりと笑う。
 恋も知らぬ乙女であれば、頬を薔薇色に染めて何かが始まってしまうかもしれない微笑だが、宵蔭をじ、と見るエルザの頬は陶器のように白いまま。宵蔭はそんなエルザを見つめ返し、ふむ、と真顔で一考して。
「此度はお嬢さんの憂いを晴らすことになるのか……。そういえば以前、かくいうお嬢さんが犯人で巻き添えになりそうになりましたね」
「――あのお嬢様に関しては、宵蔭様が一言多かったからかと」
「はて、私はいつでも誠実な積もりですけど」
「“積もりだから”、ではございませんか?」
「手厳しい。だから貴女は誰よりも優秀で、完璧なのでしょう」
「お褒め頂き光栄にございます」
 カーテシーと共に豊かな髪がふわりと揺れ、エルザの傍を舞っていた花びらもメイド服の上をやわらかに躍って、滑るように落ちていく。
 幻朧桜の花弁は、人々が寝静まる間も舞うのだろう。
 その時は鈴蘭館もまた夜の静けさに包まれるわけだが――。
「また優秀なメイドの出番となりそうですね」
「このメイド、護衛も恙なく行うつもりではございますが……少々、口にはお気を付けくださいませ」


 “――と言われ、カッとなった”


 世に被害者というものが生まれる時。
 その要因となるもののひとつが、口、だから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

冬薔薇・彬泰
名探偵、名探偵…ふふ
こそばゆい響きだと思いませんか、レディ?
『怪奇小説に浮かされた童ですか』?
これは失礼
然し何卒御容赦願いたい
この様な機会、中々恵まれるものではありませんから

『探偵』方との軽い交流を重ねる中
退屈気な黒猫婦人に相好を崩す
レディ、共にデヱトなぞ如何です?
…『お前が館を捜索したいだけでしょう』?
おや、バレバレですね
僕は好奇心旺盛でして
婚約者、その父
彼等を救わんとする招待主
鈴蘭館には様々な謎が眠っているに違いない
コミュ力を使い、取るに足らぬ噂話も掬い取る
違和感は逃さぬよう…ほら、彼処
彼の場所なんて、恰も何か隠されている様に見えませんか?
レディ、早速確認に参りましょう

*苗字+君、さん呼び


アンリ・ボードリエ
鈴蘭館、調度品の一つ一つの調和が取れていて素晴らしいお屋敷ですね…!
…今夜ボクはここで殺される…はは…まあ、なんとかなるでしょう。…あまり痛くないと良いけれど…

さて、良い機会なので皆さんのお話を聞かせてもらいましょうか。もちろん〈礼儀作法〉は欠かさずに…
ふふ、皆さん名探偵らしく事件解決の手腕もさる事ながら、見事な話術ですね。つい聞き込んでしまいました…え?あ、はい、ボクも探偵ですが…ボクの話ですか?…はは…えっと…おや、もうこんな時間ですか。そろそろボクは自室に戻らせていただきます、ははは…。

【アドリブ連携歓迎】



 冬薔薇・彬泰(鬼の残滓・f30360)は探偵である。
 帝都の片隅に構えた事務所へ持ち込まれた“あたくしの梅子をどうか”や“福助が見当たらんのです”と嘆きながら犬や猫の写真を出してきた依頼人に梅子やら福助やらを見つけ出し再会させるという、お人好しで優しい探偵だ。
 付け加えると、人探しを頼まれる事もある。偶に。
 だが。だがしかし。今夜の己は“名探偵”だ。
「……ふふ。こそばゆい響きだと思いませんか、レディ?」
 腕に抱く麗しの猫へ語りかければ、すい、と見上げてきた目が細められる。
「『怪奇小説に浮かされた童ですか』? これは失礼。然し何卒御容赦願いたい。この様な機会、中々恵まれるものではありませんから」
 ん? あちらからどなたか来られますね。
 彬泰は椿姫との談笑をそうっと止めて――。

「凄い、なんて見事な彫り物なんでしょう……!」
 アンリ・ボードリエ(幸福な王子・f29255)は感動していた。
 鈴蘭館という名の通り、この洋館は随所に鈴蘭が存在している。正面扉のドアノッカー。通路を照らす洋燈の形。宿泊場所として提供されている個室のドア。
 そして今見つめているものは、壁の一部をくり抜いたそこに飾られている美術品――子兎が傘をさすようにして大きな鈴蘭を抱えている根付だ。
「鈴蘭館、調度品の一つ一つの調和が取れていて素晴らしいお屋敷ですね……!」
 わくわくしながら歩みを進め――そして今夜、自分はこの鈴蘭館で殺されるのだと思い出した瞬間、肩がしゅん、となった。
「はは……まあ、なんとかなるでしょう。……あまり痛くないと良いけれど……」
 あれ、向こうから歩いて来る人が。
 出で立ちから使用人ではなく“同じ客人”とアンリは判断して――。


 そしてばったり出会った二人は暫しサロンで過ごす事にした。
 温かな紅茶。ミルクの甘味が香るビスケット。用意してもらったそれを共に味わいながら交流を重ねていく。
 始めは今味わっているものへの感想。次に鈴蘭館の事。これは主にアンリが語り、彬泰は笑顔で聞き手に回っていた。その次は彬泰が解決してきた人探し――に、犬・猫探しも実際の数より控えめに織り交ぜながら。
 いつの間にか、紅茶は熱さを気にせず飲めるくらいになっていて。
「彬泰さんは名探偵らしく事件解決の手腕もさる事ながら、見事な話術ですね。つい聞き込んでしまいました」
「こちらこそ。ボードリエ君は大変聞き上手ですね。私が悪人だったら、うっかり口を滑らせてしまうでしょう」
 そう言って笑った彬泰に次はボードリエ君の番ですよと言われ、アンリはハッとする。
「ボクの話ですか?」
「ええ。探偵としてのお話など聞かせて頂ければ」
 そうだ、今日は探偵として来たのだった。しかし――ネタが! 無い!
 だが失礼があってはいけない。どうしよう。どうすれば。考える視界に飛び込んだ時計はまさに救いの主。
「おや、もうこんな時間ですか。そろそろボクは自室に戻らせていただきます、ははは……」
「ああ、夜が更けるのは早いですね。おやすみなさい」
 自分はどうしようか。考えた彬泰は、探偵同士の交流が終わる前から退屈気だった椿姫に相好を崩し、デヱトに誘う。しかし彼女には“館を捜索したいだけ”と見抜かれていた。
「何せ僕は好奇心旺盛でして」
 婚約者。その父。彼らを救わんとする招待主。綴られていた登場人物に加え、この鈴蘭館にも様々な謎が眠っているに違いない。今宵の事件を仕掛ける犯人殿は、何をどこまで仕込んだのだろう。
 その好奇心は館内を行く中で様々な違和感を拾い上げていく。
 あたかも何か隠されていそうなそこに、一人と一匹の手が伸びた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

高塔・梟示
千隼(f23049)君と

変装など探偵には朝飯前さ
上等な背広と帽子に黒髪合せ
これが死装束になるとは感慨深い
君こそ流石、別人のよう

騙る身分は、肺を患った退役軍人
療養の傍ら探偵の真似事をしている
元陸軍の諜報部隊員…とかね

少し館内を散策しようか
敵襲に備え造りを把握したい
本職の諜報としては如何かな
成程、気の抜けない夜になりそうだ

鈴蘭より可憐な婚約者殿もいるんだ
他人に紹介しても罰は当たらないだろう?
そう悪戯な笑み向けて

温かい飲物片手に庭の東屋へ
何も無ければ佳い夜だろうに
まあ婚約者殿がいれば悪くない
しかし残念だな
今宵が社交会なら一曲お相手願いたいもの
嬉しいが主役は花だよ、千隼
勿論と頷き、撓垂れる肩を抱いて


宵雛花・千隼
梟示(f24788)と

流石の探偵さんね、驚いた
変わった見目に感心して
素敵よ、旦那さま

変装と偽りは忍の身なら慣れたもの
目立たぬ栗色の髪に桜色の着物ドレスと前掛け
使用人上がりの探偵助手代わり
旦那さまの婚約者と為りましょう

散策がてら館の造りを簡易な地図に
死角が多くて壁が嫌に分厚い
何処に隠し部屋があっても可笑しくないわ

紹介の折は気弱そうに偽って
彼の傍らを離れずに
…ちはの旦那さまは仕様のない方ね
戯れる声で柔く笑んで

共に死ぬのね、旦那さまと
偽りの身分でも鳴る心音はばれぬよう
東屋で隣に座り、肩に頭を預けて
ふふ、ならまた連れて行って頂戴な
アナタを飾る花にならいくらでも
だから旦那さま、どうぞ今宵は甘やかしてね



 明るい色の髪はどこにでもある黒髪へ。被る帽子の下、目元の隈はそのままに。上等な背広を身に纏う痩身の男が肺を患った退役軍人だと自己紹介すれば、誰もが皆それを信じ、今も戦い続ける様を称賛するだろう。
「流石の探偵さんね、驚いた。素敵よ、旦那さま」
「君こそ流石、別人のよう」
 モガが憧れを抱くだろう桜色の着物ドレスに前掛け。綺麗に纏めた髪は艷やかな栗色。どこか儚げな雰囲気を漂わす女は、さる退役軍人と恋に落ち婚約者となった。そんな“使用人に訪れた恋物語”も乙女たちの心を震わすに違いない。
 それが、今の高塔・梟示(カラカの街へ・f24788)であり、宵雛花・千隼(エニグマ・f23049)だ。
 片や探偵。片や忍者。
 己ではない何者かに化けるのはお手の物。
 招待状も加わり、二人を怪しむ者は誰ひとりとしていなかった。
 動きやすくていいねとかすかな笑みをこぼした梟示に、千隼もそっと笑む。
 腕を組んで寄り添い歩く。その様は傍から見れば鈴蘭館を仲睦まじく巡る二人だが、探偵の目は鈴蘭館の間取りを正確に捉え、忍の目は一般人には見えないものを視付けていた。
「本職の諜報としては如何かな」
「死角が多くて壁が嫌に分厚い。何処に隠し部屋があっても可笑しくないわ」
「成程、気の抜けない夜になりそうだ」
 『婚約者、兼、助手代わり』が紙に綴る地図。顔を寄せ合い、そうっと交わす囁き。二人が織りなすそれが“敵襲への備え”だと、誰が気付けるだろう。
 巡るさなかに会った使用人――人の良さそうな、そしてお喋りを好む老メイドにご夫婦ですかと訊かれれば、今はまだ婚約者なのだと梟示は挨拶ついでに自己紹介。
 肺を患い軍を辞めた今、療養の傍ら、婚約者を助手として探偵の真似事をしている元陸軍の諜報部隊員。そんな男を寄り添い支える、気弱そうだが決して傍らを離れない美しい娘。
「まあまあ、ではこれからですね。おめでとうございます……!」
「ありがとう。わたしの婚約者殿は鈴蘭より可憐でね。つい紹介したくなってしまう。けど、他人に紹介しても罰は当たらないだろう?」
「……ちはの旦那さまは仕様のない方ね」
 探偵が悪戯な笑みを向ければ、婚約者の表情が声と同じくらいやわらかに咲む。戯れるような声から滲む幸せに老メイドはうっとりと溜息をつき――つい、“旦那様の心配事が解決すれば、お二人のような”とこぼし、幸せな空気に水を差してしまったと慌てて頭を下げた。

 招待主の境遇は使用人たちの間にしっかりと浸透しているらしい。
 その境遇は、本来招待される筈だった探偵たちを釣る為の嘘なのだろうけれど。
 鈴蘭館の造りにその事も加えながら最後に訪れたのは、庭園の一角、豊かな緑に囲まれて佇む東屋だった。この時期の外は冷えるが、持ってきた温かい飲み物がじわりと熱をくれる。何よりもやわらかに伝わるのは、隣に座るひとの温もりだが。
 風が吹くと草木が揺れる。
 さらら、と響いた心地よい音色に幻朧桜の花びらが添う。
「何も無ければ佳い夜だろうに。まあ婚約者殿がいれば悪くない」
「……共に死ぬのね、旦那さまと」
 今の自分は偽りの身分。しかしそれでも心音は高鳴って、嗚呼、ばれてしまいませんようにと、千隼は梟示の肩に頭を預けた。
「しかし残念だな」
「……?」
「今宵が社交会なら一曲お相手願いたいもの」
「ふふ、ならまた連れて行って頂戴な」
「快諾は嬉しいが主役は花だよ、千隼」
 今宵だけの姿が可憐な鈴蘭以上に心を惹くのだ。偽り無い姿でドレスを纏えばきっと、自分のみならず周囲の心を捉える花となるだろう。それはそれで困るな、とこぼした梟示に千隼の唇が笑む。
「アナタを飾る花にならいくらでも」
 他の誰かじゃない。
 アナタだけを。
「だから旦那さま、どうぞ今宵は甘やかしてね」
 可愛らしい願いに勿論、と囁く声。
 撓垂れる肩に大きな手が触れ、そっと籠められた力が温もりを更に抱き寄せる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティア・レインフィール
最近、サクラミラージュの本を読んでいるのですが
その中に推理小説もあったのもあって、とても興味深いと思いまして

あまり不慣れな事をすると不自然になるだろうという事で
私は普段通りの修道女兼名探偵という事に致しましょう

鈴蘭に思い入れがある為か、鈴蘭館自体にも興味がありましたので
内装や調度品、書斎や庭園を眺めて回ります
何かを見ながら意味深に、これは……とか呟いてみたり

他の探偵の方か使用人の方のお話を聞いてみるのも良いですね
解決した事件は……咄嗟に書斎で見掛けた本のタイトルを繋げて
彼岸花の巫女殺人事件、とか
二つ名に関しては私はただの修道女
探偵の真似事は、時折乞われてしているだけですから、と返しましょう



「……あ、ここにも鈴蘭が」
 玄関ホール。二階へと続く階段の踊り場。そこの壁に飾られている絵画の額縁をよく見れば、花冠を作る途中の白詰草のように連なって咲く鈴蘭の姿。
「ふふ。色んなところにあるんですね」
 ティア・レインフィール(誓銀の乙女・f01661)は微笑み、再び歩き出す。
 内装といった各所にその意匠を宿す鈴蘭館を訪れた――探偵という存在としてやって来た理由は、思い入れのある花の名に惹かれて、というだけではない。最近サクラミラージュの本を読み始め、それが推理小説で、そして鈴蘭館そのものにも興味が湧いたのだ。
 そんな中グリモアベースで耳にした“名探偵にならないかい”は、とても興味深かった。
 しかし鈴蘭館で鈴蘭探しに興じるティアの振る舞いは普段と変わらない。装いも、いつもと同じ修道服だ。
(「あまり不慣れな事をすると不自然になるでしょうし、それで依頼主……影朧に不審に思われてしまってはいけませんからね」)
 内装、調度品、庭園とあちこち眺めて回る中、使用人とすれ違う時は足を止めて礼をしてと、普段の自分に『名探偵』を添えたティアの姿はティアが自分に付けた設定そのもの。
 書斎への道を訊ねたメイドも修道女であり名探偵というティアの肩書を信じ切っており、書斎までの案内を是非にと願うほどだ。
「レインフィール様、こちらが書斎でございます」
「ありがとうございます。……わ、凄い数の本ですね」
 先客に礼をし、声量を落とすと、メイドがそれに倣って書斎の歴史を簡単に教えてくれた。ここの本は歴代の鈴蘭館の主が選んだ本に加え、客人お勧めの本も含まれているという。
「皆で最高の書斎を作ろうというお考えだったようです。ですので、それはもう多種多様な品揃えで」
「成る程。早速見てみましょう」
 今回の依頼に役立つ本があるかもしれません。それっぽく言ってみれば、メイドの瞳が憧れ一色で輝いた。本を物色しながら「これは……」と呟けば、邪魔をしないよう黙りながらも熱い視線が注がれて。
「あ、あのう……」
 遠慮がちに声をかけられたのは本を選び終えた後。
 どのような事件を解決したのか気になってしょうがないらしい。
「それは――彼岸花の巫女殺人事件です」
「彼岸花の巫女殺人事件……! ふ、二つ名もお持ちで?」
「いえ。私はただの修道女。探偵の真似事は、時折乞われてしているだけですから」
 ティアは微笑み、こっそりと謝罪する。

 ごめんなさい。
 その名前、ここで見かけた本の題名を繋げただけなんです。

大成功 🔵​🔵​🔵​

天瀬・紅紀
僕は探偵小説の研究家、と
特に好きな作家は乱歩とドイル
…まぁここまでは事実だしね
そのお陰で幾つかの事件を解決に導いたってのは流石に設定にしとくけど

舞台は整ったみたいだね
サロンにてソファに腰掛け、ワインなど頂きながら
招待客の出入りを観察、手元のノートに綴るは招待客についてのメモ
さてさて、名だたる探偵達が勢揃いだ

作家としてはこの状況がネタの宝庫
一癖も二癖もある登場人物
いかにも事件の起こりそうな館
大体の探偵小説ならこの中に犯人がいるんだけど
よし、事件が始まる前のフレーズはこう書こうか

「誰一人として、あんな凄惨な事件が起こるとは欠片とて考え及ばなかったのである――」と
(色々第四の壁をぶち破るスタイル)



 幻朧桜の花びら舞う夜空に、月が輝いている。
 あちこち動き回っていた使用人たちの気配は少しずつ静かになり、天瀬・紅紀(蠍火・f24482)は空になった皿を下げに来た使用人へありがとうと微笑んだ。
「ワインは自分で片付けるよ。まだ残っているしね」
 こんなに美味しいワインを残したまま捨ててしまうなんて、誰かの怒りを買ってしまいかねない。冗談めかして言うと、同僚にワイン好きがいるという使用人がそれはもう深く頷いて――ニヤリ。
「少々お待ち頂けますか」
「?」
「……その銘柄に合うチーズがございます」
「へえ」
 雇い主の命により自分たちの仕事は間もなく終りを迎えるが、いない間も、乱歩やドイルを敬愛する『探偵小説の研究家』たる紅紀が楽しく過ごせるよう。粋な計らいに紅紀はおっとりと笑み、頷いた。
(「探偵小説の研究家、か……まぁ事実だけど、そのお陰で幾つかの事件を解決に導いたってのは流石に設定なんだよね」)
 サロンの外へと向かう背中を見送って、ソファの背もたれに体重を預ける。クッション性抜群のソファは柔らか過ぎず固過ぎずと、実に心地いい。これは情報整理が捗りそうだ。
(「……舞台は整ったみたいだね」)
 手にしているメモに綴った文字列を見て、ふ、と笑む。
 招待客の名前。身分。彼らの出入り及び、彼らについてのメモが綴られているそれに目を通せば、名だたる探偵たちが鈴蘭館に勢揃いしている。
 年齢、身分、肩書、経歴――探偵としても登場人物としても、実に濃い。招待客の誰もが一癖も二癖もある登場人物だ。しかも場所はいかにも事件の起こりそうな洋館ときている。
(「……ネタに、困らない……」)
 紅紀はこの状況をジーン、と噛み締めた。
 作家である紅紀にとってネタは大事だ。締切と戦う時に欠かせないものだ。遅筆だが。いやそれはこの際いい。大切なのは、この状況がネタの宝庫だという事だ。
 出来るなら依頼主には相当遅く登場してほしい。
 それまで彼らの観察を続けさせてほしい。
 しかしほんの執筆に締め切りがあるように、この状況にも刻限がある。作家であるが故に、紅紀は誰よりもその事を理解していた。
(「大体の探偵小説ならこの中に犯人がいるんだけど……よし、事件が始まる前のフレーズはこう書こうか」)


“誰一人として、あんな凄惨な事件が起こるとは欠片とて考え及ばなかったのである――”

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『待ち人、まだ来ず』

POW   :    辛抱強く待つ

SPD   :    時計に視線が行ったりと時間が気になる

WIZ   :    本を読んだり、時間を潰して待つ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●深き夜の中で
『旦那様は婚約者に会わせてもらえないか掛け合った後、皆様のお役に立つだろう物を……資料となるだろう物を持って鈴蘭館へ向かわれるとの事で……』
 婚約者と会う為とはいえ、こんなに時間がかかるものだろうか?
 もしかしたら、未来の義父を説得しているのかもしれない。
 だから到着が遅れてしまっているのではないか。
 そうこぼした老執事は、鈴蘭館に客人を残していく事を最後まで気にしていた。しかし“22時まで”という命令に従わないわけにはいかず、深々と頭を下げ、他の使用人と共に鈴蘭館を後にする。


 ボーン、ボーン、ボーン――……


 柱時計から響いた22時を告げる音色はやがて聞こえなくなり、客人だけとなった鈴蘭館に静寂が満ちていく。変わらず動き回っているのは幻朧桜の花びらだけ。くるり、くるり。音もなく舞う花びらが、月光を浴びて白く輝いている。

 『旦那様』も、鈴蘭館のどこかから同じ光景を見たに違いない。
 そして自らが招いた客人を殺すべく息を潜めている。
 食堂、サロン、書斎、個室、浴室、廊下、庭園――。
 斬殺、刺殺、撲殺、毒殺、絞殺、銃殺――。
 “どこで”“どのような手法で”殺しに来るかはわからない。もしかしたら矢が飛んできたり、思いもよらぬ死のトリックを仕掛けられるかもしれない。
 だが、連続殺人を現実としない為。
 犯人逮捕ならぬ影朧撃破の為。
 殺されるその時までは、何も知らない客人のふりをするとしよう。
 
ハイノ・シュラーフェン
アシュ(f26308)と


待ち人来たらず。…さりとてまだ探索してない部屋も多いな
しかし、いくらなんでも放置が長い
とりあえずここの浴室も見ておくか
気をつけろよ、アシュ、なんか怪しい――

(浴室開けたら2秒で矢が刺さったSE)

ガハッ!?な、なんでこんな所にトラップが…!
アシュッ、くそ…ッ…こんな所でくたばるようなやつじゃないだろ!?
返事しろよ!アシュ!アシュ――――!!
うっ、ぐ…ここまで…なのか……


(普通に刺さったんで普通に痛いな。死にやしないが。つか「や」ってなんだよ。矢か?刺さってんだから見ればわかるぞそのダイイングメッセージ)
(あ、寝るなよ?さすがにそれは我慢しろよ?)
(……いやまあ、ねむいが)


アシュアヴラ・ロウ
ハイノ(f26210)と
んー静かだねぇ
どっかんばっこんするかと思ったけど(腕ぐるぐる)
そういうのはもちょっとあとで?そっかー

えっなぁんで
狙ったようにおふろに罠が
うーん痛い
水に戻っちゃだめかな痛い
(ハイノの名演技な叫びを聞いてぴこーん!と閃く敏腕助手)
あっそーゆー
ぼくわかっちゃったおっけーおっけー
ここは!しぬところ!

ごめんねハイノ…にげて…(ぱたり)

(それはいーけどひまーひまだなー痛い)(思い出したように、床に血文字でダイイングメッセージを書く。「や」……なんだこれ)
(あっ床つめたい。きもちい)
(えー寝そう)(口パク)
(うーんそうでしょーねむい…おやすみ…)(すや)



 使用人たちは鈴蘭館を後にした。
 22時を告げる柱時計の音も止んだ。
 それだけで、部屋へ戻る時に聞いた自分たちの足音はやたら響いていた気がする。部屋に戻った今も雑音は少なく、壁掛け時計の針の音がコツ、コツ、とよく聞こえていて。
「んー静かだねぇ」
 アシュアヴラは椅子の背もたれと向き合うように座ったまま、ぼんやりと外を眺める。
「どっかんばっこんするかと思ったけど」
 こんなふうにと腕をぐるぐるさせる姿が、夜一色の窓硝子にはっきりと映る。
 暗い夜に満たされた屋外と洋燈の光が降る明るい屋内。外から自分たちはよく見えるだろう。ハイノは口の端を上げて笑うと、空っぽのランチボックスを片付けた。
「待ち人来たらず、ってやつだ」
「じゃ、そういうのはもちょっとあとで?」
「あとで」
「そっかー」
(「……さりとてまだ探索してない部屋も多いな」)
 時計を見れば長針は既に12を通過している。いくらなんでも放置が長いと思うが、ただぼうっと過ごすのも勿体ない。ハイノは室内をぐるりと見て、ぴた、と一点に目を留めた。
「とりあえずここの浴室も見ておくか」
 浴室イコールおふろ。あの時話した定番スポットだとアシュアヴラは目を輝かせ、ハイノの隣にぱっと飛びつくように立った。おい危ないだろ。ごめんごめん。気楽なやり取りと一緒にドアノブがガチャリと音を立て――

 きしっ

 ドアが軋んだ音? それにしては何かが違う。
 ハイノは浴室に入りかけた足を咄嗟に引っ込めた。
「気をつけろよ、アシュ、なんか怪しい――」


 ドッ


「ガハッ!? な、なんでこんな所にトラップが……!」
「えっなぁんで」
 体の一点に走った熱が一瞬で痛みに変わり、二人は倒れた。
 まさか浴室開けて二秒で矢が刺さるとは。しかも矢は人数分。きっかり二本。
 高さも加え、何もかもがまるで狙ったかのような――いや狙ったんだろうけどとアシュアヴラは顔をきゅむ、と顰めた。
(「うーん痛い。水に戻っちゃだめかな痛い」)
 水に戻ればこんな痛みぱしゃんとほどけて消せる。うーん戻っちゃおうかな、と迷うセイレーン心に悲痛な声が飛び込んできた。右肩をがしっと掴まれる。
「アシュッ、くそ……ッ……こんな所でくたばるようなやつじゃないだろ!? 返事しろよ! アシュ! アシュ――――!!」
 痛み。怒り。悲しみ。浴室にハイノの叫びが響き、アシュアヴラの名を繰り返し呼ぶ声がどんどん弱くなって――アシュアヴラの双眸がぴこーん! と閃きを宿し輝いた。
(「あっそーゆー。ぼくわかっちゃったおっけーおっけー」)


 なぜならぼくは敏腕助手。
 ここは! しぬところ!


「ごめんねハイノ……にげて……」
 ぼくはもうだめ、せめてハイノはと手を伸ばすが、途中でぱたりと床に落ちた。
 ハイノの深い深い青色の目が見開かれ、止まない痛みで歪む。
「うっ、ぐ……ここまで……なのか……」
 アシュ。最後に名を口にし、名探偵たるハイノもまた――。


 ……。
 …………。
 ………………。


(「(普通に刺さったんで普通に痛いな。死にやしないが」)
(「死んだふりはいーけどひまーひまだなー痛い。……あ、そーだ」)
 早速暇を持て余した死体役になっていた二人だが、被害者といえばこれも定番とアシュアヴラはずるりずるりと指を動かした。手を血で濡らし、床にダイイングメッセージをずりずり、ずり。

 “や”

(「……なんだこれ」)
(「矢か? 刺さってんだから見ればわかるぞそのダイイングメッセージ」)
(「あっ床つめたい。きもちい」)
(「あ、寝るなよ? さすがにそれは我慢しろよ?」)
(「えー寝そう」)
(「……いやまあ、ねむいが」)
(「うーんそうでしょーねむい……」)
 痛みを抱えつつも、交わすやり取りは緩やかかつ声には出さず口パクで。
 段々と痛みに慣れてきたのか、それとも生命の埒外に在る猟兵だからか。おやすみ、と残して目を閉じたアシュアヴラにハイノは溜息をついて――まあ後で犯人が来るからその時に起きればいいかと、自分も目を閉じる事にした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

榛・琴莉
使用人の方達は帰ったみたいですし、そろそろでしょうかね。
テラスに出ます。
恰好の的、と言うやつです。どんと来い射殺。

不意を打って殺すなら一撃での致命傷が望ましいですし…
狙われるのは頭か心臓でしょう。
服と帽子の内側にHaroldを配置します。死を偽装する為の血糊も持たせて。
銃声でも聞こえれば、射手の居場所も探りやすいんですが…
その辺は対策してくるでしょうねぇ。

Haroldが【武器受け】したとはいえ、衝撃が…いやこれクッソ痛いですね?
あー動いてはいけない…死んだフリ、即死したフリ。
…ちょっとHarold、顔出さないでください。
反撃とかいいですから。ステイ。ハウス。



 全ての使用人が帰ったという事はそろそろ始まるのだろう。
 いや――もうどこかで最初の殺人が起きた後かもしれない。
 琴莉はバルコニーへと出る。どこからかふわふわと舞い踊る幻朧桜の花びらが空を、バルコニーを彩っていた。ほんの少し強めに吹いた風で髪も舞い、そっと帽子を押さえる。
(「今の私は恰好の的、と言うやつですね。どんと来い射殺」)
 ちゃんと撃たれてあげますよ、なんて思いは微塵も出さない。夜空を眺め、バルコニーからの風景を眺め――推理に耽る雰囲気だけを纏う。脳内では、普段自分が“撃つ側”であるからこその思考を巡らせる。
(「不意を打って殺すなら一撃での致命傷が望ましいですし……」)
 自分だったら。
 影朧だったら。
 狙うのは。
 狙われるのは。
(「Harold、配置についたままでお願いします」)
 確認の意志を抱けばそれに答える感覚が返った。
 琴莉はバルコニーの手すりに触れ、視線をバルコニーの下に向けるとゆっくり上げ、更に向こう――広がる森に注いだ。月光は森の表面を浮かび上がらせてはいるが、その内部は枝葉に遮られて真っ暗だ。あの中に影朧が潜んでいるのだろうか。
(「銃声でも聞こえれば、射手の居場所も探りやすいんですが……探偵を殺す為に場所と人員を用意するほどですし、その辺は対策してくるでしょうねぇ」)
 影朧が並々ならぬ労力を割いてまで連続殺人を起こす理由は何なのか。
 琴莉はふわりふわりと舞い落ちていく花びらを眺め――風が止んだ瞬間、自然と湧き上がった狙撃手としての感覚を抑え込んだ。
 幻朧桜の花びらは狙撃手としては正直無い方がいいが、この世界ではそうも言ってられない。だが、風は別だ。風が止めば――撃ちやすさは格段に上がる。
 来る、という直感は頭部への衝撃で真っ赤に染まった。
 琴莉は糸が切れた人形のようにその場に倒れた。被っていた帽子が再び吹き始めた夜風でころころと音を立て、バルコニーを転げていく。白い額は溢れた真っ赤な液体が顔を濡らし、唇はぱくぱくと無意味な動きを――いやそれよりも。
(「これクッソ痛いですね?」)
 偽装用の血糊と共に配置しておいたHaroldが弾を受け止めてくれたが、痛いものは痛い。正直言って、額を押さえて揉んだりさすったり冷やしたいが。
(「死んだフリ、即死したフリ。……ちょっとHarold、顔出さないでください。反撃とかいいですから。ステイ。ハウス」)
 今の自分は被害者であり死体、撃たれてすぐ反撃なんてあってはいけない。
 推理モノがゾンビモノになんてそんな。
(「小説や映画ならいいんでしょうけど」)
 ああ、暫くは死んでおかないと。

大成功 🔵​🔵​🔵​

柊・はとり
飯うまかったな…

探偵や刑事の勘ってのは別に適当じゃない
踏んだ場数から学んだ経験則みたいなもんだ
その俺の第六感がゾクゾクいっている
あのシャンデリアは…落ちる

あれ落ちる時は大体天井裏やワイヤーに細工されてんだよな
解除しようと思えばできそうだが…


俺こんな派手な死に方する必要あるか?
被害者の中でも一番の悪党の死に方だろあれ
絶対痛ぇし
一度死んでても痛いものは痛い

行っとくか…
他の奴巻き込んだらやだし…

『探偵なら事件現場で死ねよ』
いつぞや曾じいさんの幻覚にそう言ったな
首洗って待ってろ犯人
それで事件が解決するなら
俺は何度でも死んで蘇ってやる

覚悟と勇気を持ちシャンデリアの下へ
眼鏡だけは割らないように気をつける



(「飯うまかったな……」)
 食堂で食べたあの味を思い出すのは、鈴蘭館が静かになっただけではないだろう。
 はとりは腹の中に収めたものを思い返しながら、館内を静かに歩く。恐らく影朧はありとあらゆる手で殺しに来るのだろう。例えば――。
「……」
 優美な曲線描くパーツは複数の段を成し、パーツの先端にはふっくらとした細長い蕾めいた灯りを。曲線からは雨粒を連ねたような煌めきを。天井から吊り下げられている豪華絢爛なそれは、洋館には欠かせないアイテム――シャンデリア。
(「あのシャンデリアは……落ちる」)
 探偵や刑事が見せる勘とは適当なものではなく、踏んだ場数から学んだ経験則のようなもの。それは知識や感覚となって見に宿り、時には第六感となってゾクゾクと訴えてくるのだ。
 その第六感にはとりは一切の疑問を持っていない。
 持っていないが。
 言いたい事くらいは、ある。
(「俺こんな派手な死に方する必要あるか?」)
 刺殺、撲殺、毒殺。
 “落ちてきたシャンデリアの下敷き”以外にも死因はある筈だ。
(「被害者の中でも一番の悪党の死に方だろあれ。絶対痛ぇし」)
 重量のあるシャンデリアに潰される上、細かいパーツが大量に刺さる可能性だってある。自分はデッドマンだが死んでいても痛いものは痛い。選べるなら別の死に方がいい。
 おおかた、天井裏やワイヤーに細工されているのだろう。
 解除しようと思えば出来る――出来るが。
(「行っとくか……他の奴巻き込んだらやだし……」)
 ここで誰かが被害に遭うとわかっていて何もしないという選択肢も、無い。


『探偵なら事件現場で死ねよ』


 胸に浮かんだのは、いつぞや曾祖父の幻覚に言ったもの。
 現場はここ、鈴蘭館だ。そしてあのシャンデリアの下でもある。
(「なら行ってやるさ、お望み通り死んでやる。首洗って待ってろ犯人」)
 歩む足取りはいつもと変わらない。ただ前へ。後ろへ戻ったりなど、しない。
 こうする事で事件が解決するのなら、探偵である自分はそうするだけだ。
 そして。
(「俺は何度でも死んで蘇ってやる」)
 殺されるくらいで、この衝動が消えたりするものか。
 覚悟と勇気が周囲の空気を冷やしていく。
 歩くはとりの姿はシャンデリアの真下に差し掛かり――頭上からカシャンッと繊細な音がした瞬間、煌めきの塊は凶器となって落下した。
 咄嗟に頭を庇えど落下は止められない。
 ガシャアアン! と響いた音が、新たな犠牲者の誕生を高らかに告げる――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ミルル・チックリオン
……zzz

……この部屋……そしてこのベッドに……恐らく仕掛けがされてる
ベッドで誰かが眠ると……毒ガスか何かが部屋に充満する仕組み……遅効性で無味無臭……それ故対象が深い眠りに入るまで体調に異常は出ない……もし誰か間違えて入ってきたり……様子を見に来てもすぐに出たら気づかない……
ふふ……普通の人が相手なら……よく出来たトラップね……


でも私が眠ってしまったら全てわかってしまう……私を眠らせたのが運の尽きね……

……ん?……眠っているということは私は今?


……という夢を見ていたミルルがその後目覚めることはなかった。



 灯りを消し、暗くなった室内を照らすのは月の光だけ。カチコチ歌う時計の針は、カーテンの隙間からうっすらと射し込む月光と同じくらい静かだ。
 その歌声に、すぅ、すぅ、と寝息が混じる。寝息に合わせてゆっくりと上下する布団から覗く寝顔はとても安らかだ。

 眠る事で真価を発揮する探偵――ミルルの頭脳は今、快適度抜群のベッドに隠された秘密を敏感に感じ取っていた。眠り探偵だからこそ、ミルルの頭脳は自分が眠る場所に潜む何かを察知したといってもいい。
(「……この部屋……そしてこのベッドに……恐らく仕掛けがされてる」)
 例えば――ベッド全体に体重がかかり、その分ベッドが沈む事で何かが作動する仕掛けが施されていたとしたら? ベッドで誰かが眠ると毒ガスまたは死に至らせる何かが部屋に充満して、更にそれが遅効性かつ無味無臭だったら?
(「それなら……対象が深い眠りに入るまで体調に異常は出ない……もし誰か間違えて入ってきたり……様子を見に来てもすぐに出たら気づかない……」)
 特殊な訓練を受けた者なら別だが、眠る、という行為及びその状態の者は基本無防備だ。その状態でゆっくり、じわり、じわりと殺されていったなら、場合によっては“殺されている”と気付かないまま死ぬ可能性もあるだろう。
 ただし。
(「ふふ……」)
 ミルルの唇がかすかな笑みを浮かべる。
 それは“普通の人が相手なら”の話だ。
 眠り探偵であるミルル・チックリオンには当てはまらない。
(「よく出来たトラップね……でも私が眠ってしまったら全てわかってしまう……」)
 眠り探偵であるミルルは、部屋に入って即ベッドに潜り込んだ。そして心地よい睡魔にいざなわれ、存分に睡眠を貪るさなか、ふかふかぬくぬくと受け止めてくれる楽園に仕掛けられた異常に気付いていた。
(「……私を眠らせたのが運の尽きね……」)
 そう、ミルルを眠らせ――……ん? んん??
(「……眠っているということは私は今?」)
 足は。――動かない。
 手は。――動かない。
 呼吸は。――あ、ちょっと息がし辛い。


 カチ、コチ。カチ、コチ。時計の音に混じる寝息は、近くへ寄って耳をすませばようやく聞こえる、というほどに小さい。その音はやがて聞こえなくなり――暗い室内に、時計の歌声だけがこぼれ落ちていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

太宰・寿
もう、お父様が許してくださらないから到着が遅れてしまいました
いつも事件に首を突っ込むからお嫁に行き遅れるなんて、余計なお世話です(ぷんすこしながら招待状を手に遅参)
(事件と聞くと首を突っ込みなんやかんや解決するお転婆の令嬢の設定で演技しますよ!)

まぁ、なんて可愛らしい装飾
鈴蘭は好きだから、演技関係なく瞳を輝かせ

好奇心に負けきょろきょろと屋敷を散策していると窓の外には庭園が
何か動いた気がして、窓の向こうに視線をやると
後ろから忍び寄る影
動いたのは窓の向こうにではなく、内側だったのです

首に感じる圧迫感は酸素を奪って
窓硝子越し、犯人の姿を捉える前に
視界は霞んでいくのでした
(早めに意識を手放す素振り)



「もう、お父様が許してくださらないから到着が遅れてしまいました」
 ぷんすこ怒る声は幻朧桜舞う月夜の下から鈴蘭館の中へ。
 唇を少しばかり尖らせた娘が一人、荷物と招待状を手に鈴蘭館を行く。
「いつも事件に首を突っ込むからお嫁に行き遅れるなんて、余計なお世話です。事件を解決しているんですからいいじゃありませんか。なのにお父様ったら……」
 本当、困ったお父様です。溜息をこぼした娘――太宰・寿(パステルペインター・f18704)は改めて招待状を見る。
 綴られている依頼主のあれやそれやを目で追う表情は、時に真剣、時に悲しげ。
 感情を表すその様子から見える姿は、相手に寄り添う優しさを持つ令嬢そのものだ。
 そして落ち着きつつある“ぷんすこ”の原因たるお父様関連の独り言から見えてくる人物像は、事件と聞けば首を突っ込まずにいられない――それでいて首を突っ込んできた事件を何やかんや解決してきたお転婆令嬢探偵でもある。
 今回もその行動力で父の反対にどうにか勝利を収めやって来た、という体でいた寿は、あちこちに見える鈴蘭の意匠に「まぁ」と目を輝かせた。
「なんて可愛らしい装飾。……あら、あちらにも?」
 ふふ、と笑って眺めに行っては、その造形をじっくりと愛でて楽しむ。鈴蘭は好きな花のひとつ。その瞬間だけ、寿は演技する・しない関係なく心を躍らせていた。
(「探したら他にもあるんでしょうか?」)
 何をしに来たかちゃんとわかっているけれど、一つ二つと見つけてしまうと宝探しの気分にもなってきて。
 寿は少し迷った後、好奇心に負けてきょろきょろり。時間も時間なので物音を立てないよう、鈴蘭館で鈴蘭探しという名の散策に赴いた。
 洋燈。ドアの装飾。美術品。壁紙の模様にとけこんでひっそりと咲く鈴蘭は、まるで四つ葉のクローバーだ。食堂や書斎、サロンにはそこだけの鈴蘭があるかもしれない。寿は楽しそうに笑み――窓の外に見えた庭園、その一角で何か動いた気がして足を止めた。
「どなたかお庭にいるんでしょうか?」
 お転婆令嬢探偵モードを維持して見つめるが、見えたのは月光でその姿を僅かに見せる庭園だけ。気のせいだったんでしょうかと呟いた瞬間、首に何かが触れ――ぎりぃっと圧迫してきた。
「っ……!?」
 見えた何かは“窓の外”ではなく“こちら側”。
 遠慮なく食い込んでくる何か――襲撃者の手で、指で、酸素が奪われる。
 酸素を求め抵抗しようとしても力が入らない。抗う指は殺意に満ちた手を僅か数回だけ引っ掻いただけに終わり、声は、悲鳴は、引き攣るような音にしかならない。
 そして寿は犯人の姿を捉えられぬまま。
(「怪しまれないよう、早めに……」)
 被害者らしく、霞んでいく世界に別れを告げるのであった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ティア・レインフィール
書斎でお話をしていたメイドの方を見送った後
個室を始めとした、防音された場所で窓から外を眺めつつ
修道女らしく讃美歌を口ずさみながら、その時を待ちます

「主よ、どうか罪深き私をお赦しください……」
手を合わせ、祈るのは振り半分、本音が半分
ええ、作戦とはいえ人を騙しましたし
更に影朧も騙そうというのですから
……いえ、後者は問題無いのでしょうか?

溜息をつき、部屋に用意されていた水をグラスに注ぎ
口にした瞬間に違和感を感じたものの、既に遅く
眩暈を感じて倒れ込みます

ああ、私は毒殺か……と考えながら
鈴蘭館なら、毒も鈴蘭なんでしょうかと
何処か他人事のように思いながら目を閉じます



 夜空に月が輝き、静かな空を幻朧桜の花びらが舞う。
 そこに――外に、室内を清く満たす賛美歌は届かない。
 今夜の宿泊場所として提供されている個室は防音されているらしく、雨風が強い日でもぐっすりと眠れそうだ。今日のように静かな日は、その静けさを一層深くするのだけれど。
(「書斎でお話をしていたメイドの方は、今頃どの辺りに……」)
 黒や青が織りなす外の風景は月光によってその姿形をティアに見せている。正面扉から門までの道は徐々に木々で覆われ隠れていくが、道筋を思い出しながら辿れば大体の位置はわかった。
 時計を見て、再び外を見る。時間経過と正面扉から門までの道を考えると、あのメイドは他の使用人と共に門の外、鈴蘭館の敷地外にいるのだろう。ティアはその事への安堵と罪悪感を抱えながらそっと手を合わせ、目を閉じた。
「主よ、どうか罪深き私をお赦しください……」
 こぼした祈りはフリが半分、本音が半分。
 自分は修道女であり探偵である、事件を解決した事もあると――作戦とはいえ人を騙したのだ。故にティアは心からの祈りを捧げ、やがて顔を合わす事になるだろう影朧の事も憂う。
(「私はあのメイドの方に続いて更に影朧も……いえ、こちらは問題無いのでしょうか? そうするよう言われましたし……」)
 しかし修道女として、そしてティア・レインフィールとして、メイドたちを騙してしまった事はやはり心苦しい。
 はあ、と溜息をつき、用意されていた水をグラスに注いでいく。一瞬香った爽やかな気配は檸檬かハーブか。そこに使用人の心遣いが見えて、ティアは微笑みを浮かべながら水を口にして――、
「この、水」
 口に含んだ瞬間覚えたのは清涼感ではなく違和感だった。水を飲んだ筈。なのに舌の上を転がって喉を通っていった透明な筈の液体は、脳が警報を鳴らすに値する何かを秘めていた。
 誰か、と呼ぶ事も出来ない。手はグラスを持っていられず、ふかふかとした絨毯の上にトッ、と音を立てて転がった。それを目で追っただけでティアはぐらりと目眩に襲われ、落としたグラスのすぐ横に倒れ込む。
(「ああ、私は毒殺か……」)
 水そのものに何か?
 それともグラスに?
 考えながらふと、もうひとつ疑問が浮かんだ。
(「鈴蘭館なら、毒も鈴蘭なんでしょうか……?」)
 死んだ後に犯人との邂逅が待っている。特大のネタバレをここへ来る前から心得ていたせいか、ティアはどこか他人事のように思いながら目を閉じた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

日下部・舞
【月舞】

サロンに場所を移して改めてのお茶会
彼女の淹れてくれたお茶を楽しみながら、ちょっとしたレクチャーを受ける

「紅茶と緑茶では適温が違うのね」

カップをあらかじめ温めるなどの準備も大切になる
感心して頷く私に油断があったのか、異変は唐突に訪れた

「え……?」

目眩、悪寒、聴覚や視覚にも明らかな異常
手が震えて、持ったカップの中のお茶が揺らぐ
体調不良という次元じゃない

まさか毒が?

気づいた時には手遅れだった
死力を尽くしてカップをお皿に戻す
落として割ったりしたら、そんな心配が私にそうさせた

ユエさんは?

声を出そうにも出てこない
意識が混濁する
ふと口元に触れると血が手を濡らす

「毒で血を吐くって、本当にあるのね」


月守・ユエ
【月舞】
アドリブ可

お茶の淹れ方のレクチャーをして時間を過ごすのは楽しい
彼女は話の呑み込みが早いからついつい沢山お話をするの

「茶葉は温度によっては全然違う味になってしまうの」

温度は一番気をつけないといけないんだと頷いて
そんな話に花を咲かせて、すっかり気を抜いていたせいか…

僕の身にも彼女と同様の症状が現れる
胸が苦しい
呼吸がまともにできなくなってくる

そんな、まさか…
毒なんてどこから…!

舞さんを見ると
その美しい唇から血が

――ダメ、…ダメよ…!
死なないでっ

遠のく意識の中で
舞さんに手を伸ばす
浅い呼吸の中で「舞さ…っ」とかろうじて声を絞り出すことしかできなかった

――僕のせいで…こんな苦しい思い…



 ミステリアスな探偵と助手コンビ――舞とユエは、自分たちの部屋からサロンへと場所を移していた。二人きりの真夜中のお茶会は楽しむだけでなく、ユエという先生をお迎えしてのちょっとした教室のようにもなっている。
「紅茶と緑茶では適温が違うのね」
「うん。茶葉は温度によっては全然違う味になってしまうの」
 必要なもの。手順。お茶の淹れ方。
 温度は一番気をつけないといけないんだと頷いたユエは、やわらかな笑みを浮かべていた。舞は話の呑み込みが早いから過ごす時間の楽しさが増え、つい沢山話してしまう。
 自分ばかり話し過ぎてはいないかと窺う視線に、舞は楽しそうに微笑んだ。
 注がれるお湯の音は心地良く、茶葉には香りと味という二つの個性。それらに加え、カップをあらかじめ温めるなどの準備も大切といった“知らなかった事”が、ただ、楽しい。
「お茶の世界は奥が深いのね。ユエさんのおかげで、色々と知れたわ」
「ふふっ。お役に立てて嬉しいな!」
 ふわりと香りが揺れ、二人の間に咲くのは笑顔とお喋りばかり。

 そんな穏やかなひとときに、異変が入り込む。

「え……?」
 舞は静かに目を瞬かせた。座ってお茶の世界を、お茶そのものを楽しんでいるだけなのに目眩がする。窓やドアは閉じられているのに悪寒が止まらず――聴覚、視覚にも異常が起き始めていた。
 香り豊かな水面がふわりゆらりとうねり出す。カップを持つ手の震えを止められない。サイボーグである自分ならば、それくらい造作のない事なのに。
 これは体調不良と片付けられるレベルじゃない。だとしたら。
(「まさか毒が?」)
 症状を自覚してからの進行が速い。舞は手の震えを必死に押さえながらカップをソーサに戻した。ユエが色々と教えてくれながら淹れてくれたお茶も、用意してくれたカップも台無しになんて出来ない。毒に侵されてしまった事はどうにもならないが、“もし、落として割ってしまったら”という光景は死力を尽くす事で回避出来る。
(「ユエさんは?」)
 耳に届いたカップの音が何だか強めに聞こえて、ユエは舞の方を見た。
 どうしたの、舞さん。
 そう言おうとして――驚愕に目を瞠る。
 体の感覚がおかしい。胸が苦しい。当たり前にしていた筈の呼吸がまともに出来ない。
(「そんな、まさか……毒なんてどこから……!」)
 ハッと舞を見れば、カップとソーサをテーブルに戻した舞の呼吸もおかしいのに気付く。自分を見る瞳は震えていて、うっすらと開かれている美しい唇からは――血が。
「……!」
 舞さんと名を呼んで体を支えたいのに、介抱したいのに、体に力が入らない。
 口の中に鉄の味がじわりと広がって、ユエは「ああ、僕にも同じ症状が」と理解する。
 舞もまた、混濁していく意識の中、ふと口元に触れて。指先を濡らし、掌へと伝っていく赤色の鮮やかさに苦笑した。
「毒で血を吐くって、本当にあるのね」
 油断していたつもりはなかったのだけど――。
 そう呟いた声はたった数秒喋っただけでも苦しそうだ。
 ユエは傍へ行こうとするが、足に力が入らない。
(「――ダメ、……ダメよ……! 死なないでっ」)
 すぐそこにいるのに。苦しんでいるのに。
 ユエは遠のく意識をかきわけるように、必死に舞へと手を伸ばす。
「舞さ……っ」
 浅い呼吸の中、かろうじて絞り出せた声は、たったそれだけ。視界が歪んでいくのはきっと、毒のせいだけじゃない。
(「ごめんなさい、ごめんなさい」)
(「どうして、ユエさんが謝るの?」)
 椅子にぐったりと座ったままの舞が、浅い呼吸を繰り返しながら微笑む。
(「だって、だって――僕のせいで……こんな苦しい思い……」)
 助手なのに。傍にいたのに、毒に気付けなかった。
 ぽろりと落ちた涙に舞は困ったように笑う。
 いつもならすぐに拭って、大丈夫と声をかけられるのに――大人しく死ななければいけなんて。実に、もどかしい。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フリル・インレアン
ふええ、アヒルさん、戻ってくるのが遅すぎですよ。
ギリギリだったじゃないですか。
おかげで体が冷えてしまったから、先にお風呂に入っているんですよ。
そんなにここの探索がしたかったのなら、もっと早く戻ってくるべきだったんですよ。
って、アヒルさん聞いてますか?

ふえ?あ、あなたは・・・。

こうして、私は犯人さんによって溺死させられたのですが
館に到着した時にアヒルさんの名推理によって、私が狙われるのは入浴中ということが分かっていた私は水着でお風呂に入っていました。
危うく、服を脱いで入ってしまうところでした。



 ちゃぷん、と生まれた音が思ったよりも大きく聞こえて、フリルは「ふえ」と天井を見上げた。もくもく躍る湯気で浴室の壁を埋めるタイルはしっとりと濡れ、浴室内の空気はとても温かい。その発生源である湯船に全身を包まれている今は、
「生き返る気分です……」
 そんな感想が飛び出すのも、全てはお風呂の蓋の上に落ち着いて『クワァ』と鳴くアヒルさんのせい。フリルはおどおどしながらも頑張ってアヒルさんを睨んだ。
「アヒルさん、戻ってくるのが遅すぎですよ。ギリギリだったじゃないですか」
 まさか使用人の皆さんが帰る直前になるなんて。
 フリルの抗議にアヒルさんはどこ吹く風。クワ、と鳴いて首を傾げる姿は可愛いアヒルちゃんだが、フリルはほんのちょっぴり頬を膨らませ口を尖らせてと、慣れないながらも“怒ってるんですよ”とアピールする。
「おかげで体が冷えてしまったから、先にお風呂に入っているんですよ。……ふえっ」
 温かな湯船に浸かっているのになぜだかぶるっと震えたので、フリルはしっかり肩まで浸かり、抗議を続ける。他にも言いたい事があるのだ。
「そんなにここの探索がしたかったのなら、もっと早く戻ってくるべきだったんですよ」
 体が冷えてしまったからまずはお風呂に入りましょう。
 フリルがそう言った時、アヒルさんはクワクワガァガァ抗議してきたが、だったらもっと――いやもう少し――ちょっとくらい――と、気が弱い為にどんどん規模を落としつつ、言いたかった事を言ったフリルは、ほっと息を吐いた。
「って、アヒルさん聞いてますか? アヒルさん?」
 蓋の上に鎮座しているアヒルさんが一点を見つめている。それは自分――を通り過ぎていた。一体何を、とフリルはアヒルさんの視線を追って、ふえ? と目を丸くする。
「あ、あなたは……」


 開いたままの浴室のドアからバシャバシャと聞こえていた水の音が止んだ後、残っているのは蓋の上にいるアヒル型ガジェットと、虚ろな目で湯船に沈む少女が一人だけ。
 じっとしていたアヒル型ガジェットは湯船を覗き込み、クワ、と頷く。
 溺死させられた少女・フリルであれば今のを一瞬で通訳し、語ってくれただろう。

『ふえぇ、アヒルさんの推理通り入浴中を狙われました……水着でお風呂に入っていてよかったです……』

大成功 🔵​🔵​🔵​

天瀬・紅紀
そして誰もいなくなった――
ミステリーの女王、クリスティの代表作のタイトルの様に
そもそも招待主がunknownって段階でね

あれだけ感じた人の気配は気が付けば少しづつ消えていく
邸内を歩けば、僕自身幾つかの惨劇の後を目にするかも知れない
嗚呼…と嘆き、そして自分自身を案ずる様に身を抱きしめて
次は自分だろうか、と恐れる様なフリをしておくよ
――そう、殺人劇とは目撃者や発見者という恐れ戦く観客がいなければ、タダの犯人の自己満足だからね

部屋に戻り、陶器の水差しからグラスに水を入れて口に
さて、と思った瞬間視界が揺らめいて倒れ込む
床に落ち砕けた水差しの中からは大量の鈴蘭の花茎
――綺麗な花には毒がある、だったね――



「そして誰もいなくなった――なんてね」
 ふふ、と笑って紅紀はのんびりと廊下を行く。
 鈴蘭洋燈はまだ点いているが、訪れた時から22時までの間、あれだけ感じていた人の気配が気付けば少しずつ消えている。ミステリーの女王と呼ばれるクリスティが世に送り出し、世界中で大ヒットしたタイトルのよう。
(「そもそも招待主が“unknown”って段階でね」)
 違いは、今回の舞台が洋館である事と――。
「……ん?」
 大きな、きらきらとした物が開けた空間に落ちていた。あんなものあったかな、と笑っていられたのは、そこから広がる真っ赤な液体と煌めく物体の下敷きになっている若者を見るまでの事。
 広がっている血液の量から煌めき――シャンデリアの下敷きになっている若者が死んでいるのは明らかだ。
「……し、知らせないと」
 紅紀は乱れた呼吸を整えると来た道を戻り――また、犠牲者を見つけてしまった。
 なぜか、少しばかり開いたままのサロンの扉。隙間から室内の光が見えているというのに、どうしてだか冷えた気配がこぼれ落ちているように見えたそこ。
 異様な静けさに唾を飲み、中へ入った紅紀が見たのは、まあるいテーブルを挟んで椅子に座る二人の女性。確か彼女たちはと紅紀は記憶を辿り、テーブルに残っている物を見て、真夜中のお茶会を楽しんで“いた”と理解した。――そう、過去形だ。
「……そ、そんな……」
 閉じられた瞳。青褪めた肌。口から顎を伝い、服の胸元に残る赤い染み。二人はまるで眠っているかのようだが、手首に触れた紅紀は感じ取れる筈のものが無い事に目を伏せ、ふらりと立ち上がる。
「嗚呼……どうして、彼女たちまで……」
 声を震わせ、自身を抱き締めて後ずさる。次は自分だろうか。そんな心の声を、紅紀は仕草に、表情に滲ませていた。
(「殺人劇とは目撃者や発見者という恐れ戦く観客がいなければ、タダの犯人の自己満足だからね」)
 そして彼女たちと同様に、自分も“unknown”に招待された身。
 紅紀は真っ直ぐ部屋に戻り、陶器の水差しからグラスに水を注いで口に入れた。こくりと飲み、一息ついた様子で「さて、」と椅子に座ろうとして――。
「う、っ……!?」
 その場に崩れ落ちた紅紀は、咄嗟に伸ばした手で水差しを払い床に落としてしまった。陶器の割れる音が静寂を破り中の水が広がっていく。そこに浮かぶ大量の植物、この館のシンボルである鈴蘭の花茎を見て、紅紀はうっすらと笑った。
(「嗚呼――綺麗な花には毒がある、だったね――」)

 そして標的である自分は、息絶えるのだ。
 一先ずは。

大成功 🔵​🔵​🔵​

高塔・梟示
千隼(f23049)君と

ああ、いい夜だね
部屋のソファから窓外に降る桜を眺め
忍びの君は暗殺なんて慣れっ子かな
こっちは滅多にない機会で光栄だとも
…尤も敵の腹の中にいるようで余り落着かないがね

有難う、いただくよ
微笑んでワインを注ぎ交わし
口に含めば、味は判らずとも
舌に触る感覚は僅かにざらりとして
悪酔いしそうな甘さだ、と目を細め

ふふ、なら今度は仕事抜きで
ほら機嫌を直して、乾杯しよう婚約者殿
地の底へ引き込まれるような
強い眠気に欠伸を噛殺しながら
そうだったね…おいで、千隼
偽りならとびきり甘やかしてしまおうか
なんて、笑って手を伸ばし

瞼が重い…不養生も祟って抗い難いな…
先に眠ってしまっても許してくれるかい?


宵雛花・千隼
梟示(f24788)と

静かな夜ね
部屋のソファで月と桜を窓越しに眺めながら
ほんの少し胸がざわつくのは
穏やかな時間の何処かで彼の命を狙う誰かがいると知っているせい
探偵さんは慣れているものかしら
好いた方といるのは初めてよ?

柔く微笑むのは旦那さまへ
お飲みになる?
自分の手にしたグラスにワインを注ぎ首を傾げ
睡眠薬を致死量溶かした甘さ
アナタと飲むなら、もっと美味しいお酒が良かったのに
拗ねた口振りでむくれて見せるも乾杯を

旦那さま、眠いの
ちは、一人で眠るのは嫌よ。…知っているでしょう?
偽る甘えは半ば本当
おいでの声に嬉しげに腕に収まり

いいわ、おやすみなさい
頬を撫で、その眠りに悪夢が来ないよう
寝顔を見てから眠り逝く



 部屋のソファに二人。並んで座って、寄り添って眺めるのは窓の向こうに広がる夜の風景だ。月と夜空と、幻朧桜――窓硝子の先に在るただただ静かな風景を、二人きりで眺める。
「静かな夜ね」
「ああ、いい夜だね」
 頭に添えられていた梟示の手にそうっと撫でられ、千隼はすり、と肩に顔を寄せた。
 静かで、穏やかで――けれど、自分たちの命を狙う誰かが、この館には居る。
 忍びの君は暗殺なんて慣れっ子かな。梟示は千隼にだけ聞こえる声量で囁いた。
「こっちは滅多にない機会で光栄だとも。……尤も敵の腹の中にいるようで余り落着かないがね」
 旧き神の一柱、死神である梟示は暗殺を目論まれる事など皆無に等しかった。死神の務めを果たしていた頃は、休憩時間ゼロの激務に殺されそうだったかもしれないが。探偵として在る今も――暗殺という単語との縁は、そうそう生まれない。
「ちは、好いた方といるのは初めてよ?」
 囁き告げた答えと同じくらい、千隼は柔く微笑んだ。
 探偵さんは慣れているものかしら、と思ったわ。『旦那さま』の告白を楽しむように笑って、彼の命を狙う何者かがいると知る故に消えない胸の内の――ほんの少しのざわつきを隠し、手にするグラスにワインを注ぐ。
「お飲みになる?」
「有難う、いただくよ」
 首を傾げた『婚約者殿』に微笑み、ワインを注ぎ交わす。
 赤い宝石をとかしたような深い色はグラスの中で躍った後、口の中へ。含んだその味は梟示には判らないが、舌に触れた感覚は僅かにざらりとしたものを残し、喉を通っていった。
「悪酔いしそうな甘さだ」
 目を細め感想を口にすれば、千隼もこくりとワインを含む。辛いか甘いかで言えば――甘い。それも、深く沈むような心地へと誘う致死量の甘さだ。
「アナタと飲むなら、もっと美味しいお酒が良かったのに」
「ふふ、なら今度は仕事抜きで」
 共に過ごすひとときを、味わう酒を心から楽しめる時に。
 拗ねた口振りでむくれた千隼の頭を、梟示は再び優しく撫でて笑む。
「ほら機嫌を直して、乾杯しよう婚約者殿」
「……ええ」
 グラスを軽く触れ合わせ、夜空に瞬く星のようにかすかな音をひとつ。
 窓硝子向こう、くるりひらりと舞う花びらを見つめているうちに、先程覚えた甘さは随分と体内を巡ったらしい。旦那さま、とこぼした千隼の瞼は今にも閉じてしまいそうだった。
「ねえ、旦那さま。眠いの。ちは、一人で眠るのは嫌よ。……知っているでしょう?」
 グラスを置いた千隼の頭が幼子のように揺れる。
 地の底へ引き込まれるような強い眠気に、梟示はほんの少しばかり抗った。欠伸を噛殺し、とろりとした表情でいる千隼の頬を指の背で撫でる。
「そうだったね……おいで、千隼」
 今宵の自分たちは偽りの身。だったらそれに乗じて、とびきり甘やかしてしまおうか。
 笑って手を伸ばしたその腕へ、細く柔い体が嬉しげに収まった。梟示は千隼をそっと腕に抱いたまま、ゆっくりと息を吸って、吐く。それだけで、するん、と意識が奈落に落ちていきそうだ。
「瞼が重い……不養生も祟って抗い難いな……」
 ――千隼。
 眠気に伸し掛かられているその声に、ん、と腕の中から小さな声が返る。
「先に眠ってしまっても許してくれるかい?」
 限界が近い声に千隼は吐息だけで笑い、いいわ、と手を伸ばした。
「おやすみなさい」
 指先で痩せた頬を撫で、温もりを灯す。愛しいひとの眠りに悪夢を近付けさせない“まじない”をかければ、かろうじて上がっていた瞼は緩やかに下りていった。目の前に在る安らかな寝顔を見ていた瞼もまた、静かに下り――二人は深く暗い眠りへと、共に逝く。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴィクトル・サリヴァン
さて、まずはそれっぽく見えたかな?
次は死んだふりかー。大丈夫なライン見極めないとね。

おやもう22時。
あまりゆっくりしてても差し支えるし今日はこの辺にしておこうかな。
そして食堂から自室へと戻る廊下できらりと光る落としもの…水か何かを点々と零した痕を見つけちゃったり。
その痕跡を辿ってみると地下室…かなこれ。
ノブが濡れてるのを見るとここに入っていったっぽい。
明らかに怪しいけど…行ってみようと部屋に入ってみたら何か扉が勝手にしまって出られなくなった!?
更に吸ったらヤバそうな怪しいガスが噴き出してきて…それにやられたふりして倒れ込んどこう(毒耐性アリ)
早く黒幕さん出てこないかなー…

※アドリブ絡み等お任せ



 気付いた時には22時をすっかり過ぎていた。
 美味しくて楽しい時間はあっという間だ。
「あまりゆっくりしてても差し支えるし今日はこの辺にしておこうかな。それじゃ、また明日ね。ごちそうさまでした」
 ヴィクトルはもう一人の名探偵に笑いかけ、食堂で別れると自室へと向かう。
 食べて飲んでと楽しく過ごしつつも、海洋系名探偵として振る舞う事も忘れなかったが、そんな自分はどこかに潜む犯人――影朧の目にそれっぽく見えただろうか?
「さて、と」
 次の任務は死んだふり。観察し、分析し、推理してという当たり前の事以外にもやる事がある。探偵というのもなかなか大変だ。
(「大丈夫なライン見極めないとね。やり過ぎたら不審に思われるかも……あれ?」)
 向かう先、廊下で見付けたのは、きらりと光る落しもの。鈴蘭洋燈の光できらりとしたそれを確かめるべく足を進めると、それは水か何か――液体を点々と零した痕。
 ヴィクトルは痕跡の匂いを嗅いで見る。
(「……無臭だ。うーん、水かな?」)
 だとして、なぜそんなものが残っているのか。使用人の誰かが濡れた物を運んでいて、ぽたぽた垂らしてしまったのだろうか? だが、そうだとしても本人または他の使用人がそのままにして帰りはしないだろう。
 ヴィクトルは周囲を気にしながら痕跡を辿り、奇妙な扉を見付けた。
「地下室……かなこれ」
 ノブが濡れている。どうやら謎の人物は手を濡らしたまま移動し、ここに入っていったようだ。――正直言って明らかに怪しいのだが、ヴィクトルはうーん、と唸った末にノブを掴んで開ける。
「あ、やっぱり地下室への入り口だ」
 取り敢えず行ってみよう、いざとなれば自慢のパワーで海洋的に解決だ。ヴィクトルは地下へと続く暗い階段を慎重に下り――、


 キィ、イ――ガチャッ


「えっ」
 開けたままだった扉がなぜか閉まり、視界が一気に暗くなる。階段の先も後ろも真っ暗だ。暫くすれば慣れるだろう。しかし。
「何で鍵がかかって……! 誰かいる!? 出られなくなっちゃったんだ!!」
 ドアノブを回そうとしても扉を叩いても、うんともすんとも言わない。体当たりし続ければ壊せるかな、と思い付くが、今度はシュウウーッと嫌な音がし始めた。まさか、とヴィクトルは腕で鼻と口を覆うが、当然、それでは“いかにも”なガスを防げはしない。呻きながらずるずる座り込んでしまう。
(「まあ、耐性持ちだから大丈夫なんだけど……殺された後ってどれくらい待つ事になるんだろ? 早く黒幕さん出てこないかなー……」)
 まだ殺されていない人って、あと何人いるんだろ。
 そんな事を考えながら、ヴィクトルは大きな体を階段に横たえるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アンリ・ボードリエ
さて、なんとか個室まで戻ってきましたが…盛られましたか、毒物。
紅茶か、ビスケットか、あるいは……はあ、一体どこで…。

なんとかここまで〈激痛耐性〉で耐えてきましたが…限界ですね。あらゆる臓器が痛すぎる、冷や汗も止まらない。死ぬのってこんなにも辛いのですね。
ひどく苦しいけれど苦痛を逃すために暴れたりはしません。絨毯などを吐血で汚さないようにハンカチで口で押さえながら、なるべくじっとその時を待ちます。

ああ、そうだ…死ぬ前に…自身のUDC『La décadence 』を目の前に掲げます。胸に手を当て、祈りを一つ。今回の案件…どうか皆さんご無事でいてください…。



 足が重い。筋肉が石になっていくかのようだ。
 体中の骨も呼吸のたびに鋭い痛みを発しているし、血液中にあるあらゆる物質が棘を生やし、血管を傷付けながら体中を巡っているような気分だった。
「……盛られましたか、毒物……」
 廊下で足を引きずり、時には呼吸そのものを我慢して階段を上がってと、なんとか部屋まで戻ったアンリだが、心身は安堵を覚えるどころか限界を訴えていた。
「紅茶か、ビスケットか、あるいは……はあ、一体どこで……」
 サロンで暫し共に過ごしたあの人は無事だろうか、毒を盛られたのは自分だけだろうか、毒は飲食物と食器のどちらに存在したのだろうか――アンリの中で様々な考えが浮かぶ間も、顔には汗がじっとりと湧き出し、止まる気配がない。
(「死ぬのってこんなにも辛いのですね……」)
 だからといって、この苦しみと痛みを逃す為に暴れたりはしない。体中を巡った毒を消す事は出来ないが、少しでも痛苦を和らげるべくアンリはその場にしゃがみ込んだ。出来る限り呼吸を整え、動きを最小限にして、じっと耐え続ける。
(「……“その時”が来るまで、どれくらいかかるんでしょう……」)
 数秒後?
 数分後?
 ハッキリとわからない事に、改めて“誰かに殺される”という事を実感した時、喉の奥から嫌な感覚がこみ上げて来た。ぐ、とせり上がるそれに、アンリは慌ててハンカチを取り出し口を押さえる。
 じわ、と口の中に広がりかけたのは鉄の味。
 足元の絨毯やベッド、テーブル等、周りにある物に罪はない。汚してしまわないようアンリは口を押さえる手に力を籠めて――このまま殺されて死んでしまう前にと、自身のUDC『La décadence 』を目の前に掲げる。
「う、っ……」
 ぐらりと倒れそうになったのを堪え、胸に手を当てる。
 意志の力のみで吐き出しそうな赤を押さえつけ、行うのは――祈り。
 こうなると解っていた。
 こういう目に遭うと、承知していた。
 それでも祈らずにはいられない。
(「どうか皆さん、ご無事でいてください……」)

 そして、どうか、どうか。
 本当に殺されてしまう人が、生まれませんよう――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カイリ・タチバナ
書斎にいたまま。
(さてと、どうやって殺されるか、か…。さっき見つけた罠って、なんだったんだ?)

本を片付けるために立ち上がって、もとの場所に戻しつつ。
ついうっかり、さっきの罠(出っ張ってる)に触れた私…。
その私に襲いかかったのは、背後から飛来するナイフ。ちょうど心臓の位置で、避けられずに絶命。
ナイフが傷を塞いでいるため、出血は微量だが、それでも死んだとわかるように、ずるずると倒れる。
最後の一言は、何故…と。

(…あー、こういう時、ヤドリガミっていいよな。本体の銛、守神勾玉の異空間に放り込んであるからわからねぇだろうし。マジ刺さりだから、いてぇけど!)



 物語が終わった。著者が様々な思いを綴った後書きも、終わった。
 カイリは最後の頁を捲り、目に入った大正×××年発行の文字を見て小さく笑う。
 これで、本棚から選び出して作った本の山は全て読み終えた。棚を見ればまだ触れていない物語や自叙伝、図鑑までもあるが、壁掛け時計を見れば22時はとっくのとうに過ぎている。
(「さてと、どうやって殺されるか、か……」)
 本を重ね、整え、持ち上げる。一冊ずつ丁寧に戻しながら殺され方について思いを馳せるが、実際のところ、どう殺されるかは犯人次第だ。――と、そんな時に思い出したのは、本選び中に見付けたものの事で。
(「そういや、あの時に見つけた罠って、なんだったんだ?」)
 22時を過ぎ、鈴蘭館にいるのが客人だけとなった今なら、触れて確かめても問題ないだろう。カイリは全ての本を戻してから、次の本を選ぶような雰囲気で罠のある棚へと向かった。
「確か……」
 本の背表紙を指先でカウントするようになぞり――ぴた。
 そうそう、ここに仕込まれてたんだよな。
 カイリは心の中でニヤリと笑って、“ついうっかり、触ってしまった”。
 ほんの数ミリ出っ張っていたそれが引っ込む。さあ何が来る。毒か。矢か。それとも。
「っ……!!」
 背中に走ったのは鋭い痛みと熱。一体何がとカイリは狼狽え、被害者らしく振る舞いながら窓硝子に映った自分の姿を見て、驚愕を浮かべる。背中から柄が生えて――いや、ナイフが刺さっているではないか。
「あ、あぁ……」
 背後から飛来したナイフの高さはカイリの心臓の位置と丁度合う。そして絡繰り仕掛けで飛来したナイフは、威力を増した事で肉だけでなく骨も容易く砕き、心臓にまでその刃を届かせていた。
 ナイフが傷を塞いでいる為、傷口からの出血は微量。しかし、被害者としては傍から見て死んでいるとわかるようにしてやった方がいいだろう、とカイリは考え、ナイフが飛んできた方向――ぱたん、と絡繰りの蓋が閉じた壁を見つめながらずるずると倒れていった。
「何故……」
 その言葉を最後に新聞記者の口からは、ごぷ、と赤い血が溢れ、絨毯に染みを作る。
 そして『橘・海鈴』は死体となり――。
(「……あー、こういう時、ヤドリガミっていいよな」)
 本体の銛は他人には手の届かない空間に放り込んである為、人間型が傷付いても、本体さえ無事であればどうとてもなる。ただ。
(「マジ刺さりだから、いてぇけど!」)

大成功 🔵​🔵​🔵​

明日川・駒知
尾宮くん(f29616)と
アドリブ、マスタリング歓迎

_

……書斎、は汚したくないので。
尾宮先生にあてがわれたお部屋にて。
いつでも先生を庇えるよう入口に一番近い席に座り、先生と一緒にお話を。
尾宮先生の考察はどれも興味深くて、時間を忘れてしまいます。

不意に鳴る部屋のチャイムにも私が対応しましょう。
何も知らぬ無垢な女のフリをして。
そして眼前には鈍く光る銀、
……成程。

銃、ですか。

「──先生!」
尾宮先生へ咄嗟に声を掛けながら一発目は避け、抵抗の意思を。
嗚呼、けれどそれも虚しく。
せめて先生の盾にならんと、この身を銃口の前に差し出しましょう。


尾宮・リオ
明日川さん(f29614)と



一先ず僕の部屋に行きましょうか
室内で女の子と二人きりになるのは
何時もなら避けるのですが
今回ばかりは仕方ありませんね

書斎を後にして
部屋ではミステリーの話に花が咲く
先程読んだ鈴蘭館の歴史を元に
誰が狙われそうか、
何処が危ないか、等々

夜も深まり鳴るチャイム
助手が対応してくれたのを見て
腰の得物に一寸、手が伸びた

名前を呼ばれ事態を把握して
向けられた銃口の先は、僕
立ち上がって抗う素振りを見せ

目の前で、助手が撃たれた

──嗚呼、僕は先生失格ですね?
助手の君を守れなかった、と
悔やんでいるのですから

擬似的な亡骸を前に
両膝を着いて彼女の頬へ手を伸ばす

そうして、三度目の銃声が、



「先程読んだ『鈴蘭館の歴史』は実に興味深いものでしたね、明日川さん」
「はい、先生。鈴蘭館の建築を依頼した初代の主、建築家の方、鈴蘭の意匠……」
 書斎を後にしたリオと駒知は、リオの部屋で静かに過ごしていた。
 室内で女子と二人きりというのはいつものリオであれば避けるのだが、今回――被害者として殺されなければいけない以上、仕方がない。駒知もあの書斎を出来る限り汚したくなかった為、リオに充てがわれた部屋へとやって来ていた。
「あの書斎の物語も載っているなんて、驚きました」
「ええ、本当に」
 『鈴蘭館の歴史』にはこの館に関するあらゆる事が記されており、そこには二人を驚かせた書斎の成り立ち――鈴蘭館の歴代の主と彼らの客人の思いつきである“最高の書斎を作ろう”も、初めに思い付いた人たちの写真付きでしっかりと載っていたのだ。
 そこから二人の話はミステリーへと移り、花開くのは鈴蘭館の歴史を元にそれぞれの考えや推測、意見だ。今宵訪れた者の中で誰が狙われそうか。どこが危ないか。仕掛けられるとすれば、どのように――?
 リオの考察は駒知にとってどれも興味深く、勉強になる。時が経つのを忘れ聞き入っていると、部屋のチャイムが鳴った。
「私が行きます」
「お願いします、明日川さん」
 交わす言葉は穏やかに。しかしリオの手は腰の得物に一寸、伸びている。その姿はドアの向こうにいる者からは、壁が邪魔になって見えないだろう。ただし、リオにも訪問者が何を持っているかは見えない。見たのは、何も知らぬ無垢な少女のふりをした駒知だけ。

 眼前で鈍く光る銀。
 あ、と見開かれた目が現状を把握し始める。

 そんな風に見えるよう振る舞った駒知の心はひどく冷静だった。
(「……成る程」)


 自分たちは、“銃撃されて”“殺される”のか。


「――先生!」
 咄嗟にかけた声に、パシュッと不思議な音が被る。
 一発目を避けた駒知は抵抗の意志を見せ、一発目を躱された襲撃者はすぐさま次で仕留めにかかる。名を呼ばれたリオも立ち上がり、助手と共に抗う素振りを見せ――ぴたりと向けられた銃口と目が合った。
 引き金にかかっている指が動く。
 リオの手が得物を揮わんと動く。

 その間に、少女が飛び込んだ。

 我が身を盾として差し出した駒知の体が、がくんと崩れ落ちる。
 リオが耳にしたのは気の抜けるような音、一回だけ。その一回だけの音が、目の前で助手の命を奪った。倒れた駒知の表情は撃たれた瞬間で固められたようにぴくりとも動かない。
「──嗚呼、僕は先生失格ですね?」
 助手の君を守れなかった、と悔やんでいる。そんな風に思わないで下さい、助手であれば先生をお守りするのは当然です――と、言われてしまうだろうか。
 両膝をついて、“死体”となった少女の頬へ手を伸ばす。
 その視界に、誰かの足元が入ってくる。


 そうして三度目の空虚な銃声がした後。
 その部屋には、『助手』と『先生』が倒れていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
ふふふ、いよいよお楽しみのってヤツねぇ

お酒のグラスを片手に、探偵らしく館を散歩でもしてから
眺めの良いテラスにでも出ましょうか
鈴蘭で溢れた館に舞う幻朧桜
春告げるモノに囲まれているというのに、その温かさは遠くに思えるわ――ナンて
やはりそれっぽく月でも眺めたらフラグっぽいかしら?
実際は美しい館も桜も月も、肴にぴったりだと楽しんで……
というか最初から楽しんでしかいないケドね

ところでココには意匠だけでなく本物の鈴蘭もあるのかしら
鈴蘭といえばその毒は、専門分野としてとても興味深い所ダケド
フラグにフラグを重ねグラスを傾けて
『なぜかいつの間にか盛られていた毒』で死ぬなんて
皮肉でイイんじゃなくて?



 鈴蘭館はだいぶ――いや、かなり静かになってきている。
 コノハは酒を注いだグラスを片手に館内を歩きながら、ゆるりと目を細めた。
(「ふふふ、いよいよお楽しみのってヤツねぇ」)
 どうしようかしら。
 どうなるのかしら。
 まだ見ぬ結末にくすりと笑い、グラスに顔を寄せて香りを楽しむ。
 今ここで味わってもいいのだが、味わうのなら似合いの場所がいい。
(「料理人であり探偵だもの、ね」)
 酒はそのままでも美味いが、味わい方に拘ればもっと美味くなる。
 コノハは探偵らしく館内を散歩し、やがて見付けたテラスへと足を踏み入れた。途中窓から見えたそこは館の正面を向いており、テラスからは広い空と森、そして彼方に灯る街明かりが揺れて見える。
 思った通り、眺めがいい。
 名の通り、鈴蘭の意匠で溢れた館。舞う幻朧桜。煌々と浮かぶ月。見えるものをゆっくりと愛でながら、コノハはグラスに口をつける。
「春告げるモノに囲まれているというのに、その温かさは遠くに思えるわ」
 ――ナンて。少しばかり気怠げに微笑んでみたりして、月を眺める。ああ、今の自分ってなかなかフラグっぽいンじゃないかしら? 殺人に及んでいる誰かがいる館で、呑気に月見酒。ミステリーなら序盤の方で退場となるに違いない。
「美しい館も桜も月も、肴にぴったりね」
 そう言って楽しんでいる様を更に追加して――と、やってみせるコノハだが、最初から楽しんでしかいなかった。料理を作って、振る舞って、共に食べて美酒も味わった。殺されるという結末付きだが悪くない。ああ、猟兵でヨカッタなんてまた笑って――。
「ところでココには意匠だけでなく本物の鈴蘭もあるのかしら。どう思う?」
 話相手がいないから、グラスの中で揺れる酒に話しかけてみる。時が経てば経つほど姿が減っていく話相手だが。酒とはそういうものなので、コノハは気にせず話を続けた。
「鈴蘭といえばその毒は、専門分野としてとても興味深い所ダケド」
 可憐な姿の全て――特に花と根に多くの毒を持つその花を摂取してしまうと、それはもう大変な事になる。最悪の場合は重症化して死ぬその花を意匠として随所に取り込んだこの館。庭園に行けば本物に会えるかしら、とグラスを傾けたコノハは、吐息混じりに眉間を押さえた。
「ああ……ちょっと、酔いが回ってきたかし、ら」
 視界がくらくらする。頭も痛い。――吐き気も加わる筈だ。
 増えていくだろう症状を思うと笑ってはいられないのだろうけれど。
(「服毒系を得意とする探偵が『なぜかいつの間にか盛られていた毒』で死ぬなんて、皮肉でイイんじゃなくて?」)
 コノハはグラスの中で揺れる澄んだ美酒に微笑みかけ――テラスの手すりへもたれるようにして、座り込んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エルザ・ヴェンジェンス
宵蔭(f02394)様と

宵蔭様の場合は、夜の散歩がご趣味なだけにございましょう
何度、第一発見者と第一容疑者になりかけるのか……
それでは世の探偵が全て事件の黒幕となりましょう。
宵蔭様も探偵の仕事もなさいませ

またそのような……、いえ、まさか逢瀬にございましょうか
宵蔭様を何方かが追いかけてきても不思議はございませんが

不意に訪れた暗闇に息をつき、周囲を見渡して
灯りでも落ちたのでしょうか。
宵蔭様、其処を動かずに——(ふいに背に感じた痛みに息を飲み)

お客様は私にも、でしたか……、これはメイドの不始末にございます
掃除が、足りなかったようですわ。申し訳ございませ……
きつく握った拳と共に、謝罪さえ言い切れぬまま


黒蛇・宵蔭
エルザさん(f17139)と

夜、部屋を抜け出して、勝手に調査するのは探偵あるあるですよね。

こっそり庭で逢い引きしている方々に見咎められ、死にそうな目に何度あってきたでしょう。
事件が勝手に向かってくるから仕方ありません。
しかし万能メイド・エルザさんがいれば安心です。

物音を感じて振り返る。
――おや、今人影が見えませんでしたか?

ふむ、この館でお近づきになった人はいませんよ。
亡霊が憑いてきてしまったのでしょうか?

不意に周囲を暗闇が包み――訝しむ間に、腹部に熱を感じ。

ふふ、いつの間に……(刺傷を押さえながら)
たまには被害者の気持ちを知るのも良い経験かもしれません。
冗談すら言葉にできず、微笑みながら。



 静か過ぎる廊下に、二人分の足音がそうっと生まれていく。
 廊下を行くのは鈴蘭洋燈の色とは対象的な色を持つ二人。探偵である宵蔭と、彼に従うメイドのエルザだった。
 普通であれば人々が眠りにつく時間。しかし、部屋を抜け出して勝手に調査するというのは、古今東西ありとあらゆる探偵が嗜む事――つまり、“探偵あるある”だ。
「真夜中だからこその発見があるかもしれませんね。……そういえば、こっそり庭で逢い引きしている方々に見咎められ、死にそうな目に何度あってきたでしょう」
「宵蔭様の場合は、夜の散歩がご趣味なだけにございましょう。何度、第一発見者と第一容疑者になりかけるのか……それでは世の探偵が全て事件の黒幕となりましょう」
 いつの日か宵蔭が事件の黒幕になってしまったら。
 思い浮かんだそれに迷宮入りの予感がして、エルザは脳内に浮かんだ“黒幕・宵蔭”を華麗な箒捌きで片付けた。そんなメイド心を知らぬ主は、ふふ、と楽しそうに微笑む。
「不可抗力ですよ、エルザさん。事件が勝手に向かってくるから仕方ありません。しかし万能メイド・エルザさんがいれば安心です」
「宵蔭様も探偵の仕事もなさいませ」
「今しているじゃありませんか」
 ね? と、にこりとしてくれないメイドに笑いかけた時、どこからか物音が聞こえ振り返る。その一瞬に見えたのは、鈴蘭館の廊下――の筈なのだが。
「今人影が見えませんでしたか?」
「またそのような……」
 しかし人影と聞いたエルザは、とある可能性に思い至った。
「いえ、まさか逢瀬にございましょうか。宵蔭様を何方かが追いかけてきても不思議はございませんが」
 何せ自分が仕える人物は、第一発見者と第一容疑者になりかける事に関しては他の追随を許さない。ああ、そういえばあの時も。その前も。淡々と過去の出来事を告げるメイドに宵蔭は首を傾げてみせる。
「ふむ、この館でお近づきになった人はいませんよ。亡霊が憑いてきてしまったのでしょうか? 私は探偵であって霊能者ではないのですが……」
 確かめてみましょうか。秘密の提案をするように人差し指を口元に立てた時だった。目の前がぱっと暗闇に染まり、何も見えなくなる。明るいものは、窓の外、夜空に浮かぶ月ひとつ。
 周囲を見渡したエルザは、暗闇の中でほんの僅かにだけ灯りの名残りを残し、そして消えていったオレンジ色に気付いた。どうやら灯りが落ちたらしい。
「宵蔭様、其処を動かずに――」
 ふいに途切れた言葉。
 エルザさん? そう言いかけた宵蔭は腹部に感じた熱に手を添え――そこからじわりと広がる感触に、は、と笑う。
「ふふ、いつの間に……」
 暗闇の中、気配と音を消して刻まれた刺傷。自覚してしまうと、腹部に生まれた熱は広がりゆく濡れた感触と共に感覚を苛むばかり。それでも微笑は絶やさず、エルザさん、と呼びかければ苦しげな声が暗闇から返ってきた。
「お客様は私にも、でしたか……、これはメイドの不始末にございます」
 背に感じた熱は誤魔化しきれぬ痛みへと。片手で押さえるが、押さえている掌はどんどん濡れていく。灯りがつけば真っ赤に染まった掌を見るのだろう。
「掃除が、足りなかったようですわ。申し訳ございませ……」
 きつく握った拳は主には見えまい。
 浮かべた表情も、きっと。
 謝罪を言い切れぬまま無言となったメイドの気配に、宵蔭は緩やかに首を振る。
 たまには被害者の気持ちを知るのも良い経験かもしれません。
 そんな冗談すら言葉に出来ない状況に微笑んで、暗闇の中、静かに膝をつき――視界だけでなく、その意識も暗闇へと落とされていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

冬薔薇・彬泰
ほう、死体を殺すとは
中々に粋な真似をされるものだ
…ああ、けれど
レディは何が在ろうと決して僕に近寄らぬよう
貴女が傷付く等、耐えられませんので
『要らぬ心配』?
…それは安心しました

殺される為には殺される状況を作らねばならない
では御望み通り――独りになってさしあげましょう
僕は眠るレディから離れ手帖片手に屋敷内を探る
訪れた個室
屋敷の謎に迫っていた探偵が、犯人に撲殺され命を落とす
…やや定番過ぎる嫌いがするけれども
定番故にこそ燃えると思うのです
痛みは激痛耐性で凌ぐとして
――僕が最も気を付けるべきは
敵の殺気に反応してうっかり反撃しない様にする事、ですね
ううん、難しい問題です…

*名前+君呼び
使い魔をレディと呼ぶ



 今宵、自分は殺される。おそらく、もう間もなく。
 しかし彬泰は一度死を経ている身だ。つまり、犯人は死体を殺す事になる。
 彬泰は「ほう」と笑み、指先で顎を数度撫でた。
(「中々に粋な真似をされるものだ」)
 ああ、けれど。
 ふかふかとしたベッドの上。丁度真ん中で気持ち良さそうに寝そべっている猫の使い魔へと、彬泰は柔和な微笑を向けながらしゃがみ込む。
「レディ。何が在ろうと決して僕に近寄らぬよう。貴女が傷付く等、耐えられませんので」
 ぴくりと三角耳が揺れ、艷やかな瞳が彬泰を映す。その瞳は細められた後に閉じられて、レディと呼ばれた椿姫は体勢を変えて寝転んだ。ぱた、と一度、尻尾が布団を叩く。
「『要らぬ心配』? ……それは安心しました」
 愛しい愛しい黒猫婦人には、傷だけでなく自分の血も付かぬ方がいい。
 彬泰は嬉しそうに微笑みながら立ち上がり、椿姫の眠りを妨げないようそうっとドアを開けて廊下に出た。得物らしい得物は持っていない。あるのは手帖ひとつだけだ。
(「殺される為には殺される状況を作らねばならない。では御望み通り――独りになってさしあげましょう」)
 どうせなら、もっと被害者らしくなってみせようか。
 彬泰は手帖片手に鈴蘭館の中を探り始めた。同じ客人がいる筈の部屋を訪れ、試しにノックしてみる。反応はない。すると別の部屋へ向かい、また同じ事をした。
 そうして自分以外の全員からの応答がない事を確認した彬泰は、誰も使っていない筈の部屋の前で足を止める。
 招待客の人数からして、この部屋には誰も泊まっていない筈だ。
 しかし――鍵が、開いている。
 音を立てぬようドアを開ければ、中は真っ暗だった。廊下から入り込む鈴蘭洋燈の光が、室内に彬泰の形をした影を生むばかり。
「……失礼しますよ」
 無人のそこに声をかけ、一歩、また一歩と慎重に歩を進める。
 全身が闇へと包まれていく中、別の何かが後ろから迫っているような心地がした。
(「――ああ、いけませんね。耐えなくては」)
 屋敷の謎に迫っていた探偵が犯人に撲殺され命を落とす。それは、やや定番過ぎる嫌いがするのだが、定番故にこそ燃えるもの。お決まりの展開、お約束。そういったものは古来から好まれ続けているのだから。
 ――だからこそ、耐えなければいけない。
 彬泰は“背後から迫る殺気に反応してうっかり反撃しない”という難問をクリアすべく、善良な探偵の内に秘めた血塗れの顔を隠し続け――そして、後頭部目掛け振り下ろされる凶器を甘んじて受け入れた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『獄卒将校』

POW   :    獄卒刀斬り
【愛用の軍刀】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    影朧軍刀術
自身に【影朧の妖気】をまとい、高速移動と【影朧エンジンを装着した軍刀からの衝撃波】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    同志諸君!
【かつて志を同じくした帝都軍人】の霊を召喚する。これは【軍刀】や【軍用拳銃】で攻撃する能力を持つ。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●パレヱドの終わり
 死の絡繰りを用いた射殺または圧殺。
 遠距離、または至近からの銃殺。
 気道を圧迫しての扼殺。
 薬物や毒による薬殺・毒殺。
 暗闇に乗じての斬殺、撲殺。
 頭を押さえつけ溺死させたのは――“溺殺”というのだろうか。
『答えを急ぐようなものでもないな』
 青白い肌の青年は階段の途中で腰を下ろし、ふう、と息を吐いた。年若い青年の姿だが、吐き出したそれには疲労感も共にどばっと吐き出そうとするような、そんな空気が漂っていた。
『この計画を立てたのは僕自身だが……嗚呼、全く。犯人というのもなかなか骨が折れる。革命を成そうと、皆と語り合ったあの時は疲れなど覚えなかったというのに』

 “どうか貴方様の知恵を、助けを”と切に願う者と思われるよう、招待状を書いた。
 歴史ある館を借りた。あれやこれやと館内を弄くり回しもした。
 勤め先が連続殺人の現場となる使用人たちには、22時で無理矢理帰す事も含め、破格の給与が支払われるよう手配した。
 そして。
 のこのことやって来た者たちを、用意しておいた手段で殺しに殺した。

 整った顔立ちには若干の疲れが浮かんでいたが、それはすぐに晴れやかな微笑へと変わった。腰に佩く刀に触れ、いずこかを見つめて微笑む顔は、22人を殺したばかりとは思えないやわらかさ。
『だがこれで、あの日果たせなかった我らの夢へ、一歩近付いた』
 ――同志諸君。
 虚空へと呼びかけた声には、押さえきれない熱。
『……22人。我々の道を阻む者を、22人、始末した。あの日我々の計画は探偵という者によって阻まれたが……今度こそ上層部にしがみつく腐敗を排除し、そして、正義の刀を取り戻そう』
 す、と立ち上がった青年の、冷えた銀月のような右目に光が宿る。
 微笑む唇からはかすかな笑い声がこぼれ――。
『…………去るのは死体周辺や館内の確認をしてからにしよう。一つの失敗が何を招くかわかったものではないし、練りに練った計画だというのに無実の者が逮捕されるなどという事が起きては、同志諸君に顔向け出来ないからな』
 
カイリ・タチバナ
あー、痛かった(ナイフ抜き済み、書斎の床に座ってる)
守神勾玉の異空間から、本体の銛出してっと(立ち上がった)
さて、次は影朧探し…いや、律儀だなあんた!?
(出ようとしたらばったり)

ま、加減する必要はねぇわな!
ばったりしたついでに継続ダメージつきの【海神殺し】!
え?口調が違う?俺様の素はこっちなの。いつまでも演技してると疲れんの。
ちなみに、今、てめぇに刺さってんのが俺様の本体だぜ?
これ以上書斎荒らしたくねぇし、刺したまま廊下に出て、それから振り回してっと。
ったく。てめぇが生きてた時と今とは違うと思うんだけどな?



 背中に突き刺さっていたナイフを抜く。
 それはヤドリガミであり猟兵であるからこその体験だろう。
 心臓にまで達していたナイフを抜き終えていたカイリは、書斎の床に座って「あー、痛かった」とたっぷり息を吐いた。
「ま、終わっちまえばこっちのもんだ」
 ニヤリと笑ったカイリの前で空間が歪み、渦を巻く。異空間を開いたカイリはそこに手を突っ込み、本体である銛を取り出した。
「さて、次はと」
 ぱっと足を動かして立ち上がる。
 鈴蘭館を訪れて客人のふりをした。
 客人として過ごしながら、殺された。
 残る仕事はあとひとつ。
 カイリはスタスタ歩いて扉に向かい――、

「あ」
『あ』

 どう見ても使用人ではない人物とばったり出くわした。
 軍服。血の気のない青白い肌。纏う空気。
 初めて見る顔だがこいつどう考えてもあれだろ影朧(って書いて犯人)だろ! とカイリの思考が一瞬で答えを導き出した時、書斎に入ってまず見たもの――普通に立っている『新聞記者・橘海鈴』にぽかんとしていた向こうも、焦りを浮かべ腰の軍刀に手をかけた。
『確認に来てみれば……! くっ、殺し損ねていたとは!』
「いや、律儀だなあんた!? つーかやっぱ犯人か!!」
『ああそうだとも! 悪いがもう一度死んでもらおう!!』
 殺人宣言と共に踏み込んできたその手が軍刀を抜く。カイリの目の前で白銀の輝きがずばぁっと閃いて――ガァンッ! と派手な音を響かせた。
 な、と見開かれた右目に映るカイリが不敵に笑み、ニィッと引いた口から歯が覗いた。
 姿を見せた犯人がもう一度死ねと言う。
 ならば取る道はひとつであり、そして――、
「ま、加減する必要はねぇわな!」
 斬撃受け止めた銛を勢いよく回転させ、軍刀を弾くついでに迷いなく銛を突き刺した。無数の刃を束ねたような先端は、影朧の肩に刺さった瞬間更に戦意を増した形状に変化し肉を裂いて喰らいつく。
『ッぐうぅ……! それが君の本性か!』
「俺様の素はこっちなの。いつまでも演技してると疲れんの。ちなみに、今、てめぇに刺さってんのが俺様の本体だぜ?」
『は?』

 本体 とは

 ヤドリガミを知らぬらしい反応にカイリはマジかと笑い、銛で影朧を確保したまま廊下へと一気に押し出した。痛みに呻く声に形ばかりの「悪ぃな」を向け、そらよと遠慮なく振り回す。
 突き刺さったままの先端が更なるダメージを与え――た瞬間、影朧が銛を掴んで痛みに呻きながらも凄まじい力で引き抜いた。
『僕は立ち止まる訳にはいかない! 同志諸君の為にも!』
 ばっとマントを翻し何処へと駆けて行った背を追おうとしたカイリは足を止め、同情した。殺し損ね件数はこの後も増えると教えるべきだったか。
 ――それと。
「ったく。てめぇが生きてた時と今とは違うと思うんだけどな?」
 革命だなんだと謳っても、今という時代を見ずに描いた夢は、桜のように散るばかりだろうに。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フリル・インレアン
ぶくぶく、あのアヒルさん、もう出ても大丈夫でしょうか?
ぷはぁ、グリードオーシャンで無酸素詠唱を習得していてよかったです。

えっと、この後犯人さんが戻ってくるから、それまでに着替えておかないといけませんね。
ふええ、いつ戻ってくるかわからないから、服を着るのもダメで、正座で待たないといけないんですか。

犯人さんが戻ってきたら、アヒルさんの推理の時間です。
犯人さんが逆上して襲い掛かってきても、この狭い浴室なら大丈夫なんですね。
それに推理の時間は邪魔されないって本当ですか?



 だいぶ温くなった湯船で、フリルは両手両足だけを水面に浮かせ沈んでいた。
 その口から、ぶくぶくと泡がこぼれて上っていく。
(「あのアヒルさん、もう出ても大丈夫でしょうか?」)
『クァッ』
 蓋の上に乗ったアヒルさんの翼を広げたOKサインは、死んだフリと目を閉じていたフリルには見えなかったが鳴き声はバッチリ届いていた。体を起こしたフリルは、ぷはぁ、と久々の空気を味わいながら顔を拭う。
「グリードオーシャンで無酸素詠唱を習得していてよかったです。えっと、この後犯人さんが戻ってくるから、それまでに着替えておかないといけませんね」
『クワァ?』
「ふええ、いつ戻ってくるかわからないから、服を着るのもダメで、正座で待たないといけないんですか」
『グアッ』
「そんなぁ、ひどいですアヒルさん。湯船から出るのは……ふえぇ、タイルの床に正座するよりも、このままの方がいいですね……」
 でもお湯が水になったらお腹を壊しちゃいます、とフリルおろおろおどおど。
 すると。

 カタ、ン

「ふぇ?」
『――……』
 物音がした方を見る。自分の頭を押さえつけ湯船に沈めた張本人、つまり犯人である影朧が左手で顔を押さえ、今にも崩れ落ちそうになっていた。
『……君も、死んでいなかったのか』
「ふえっ。あっ、はい、すみません」
『……ではもう一度殺そう。悪く思わないでくれ。君が探偵なのが悪い』
「ふえぇ!? 理不尽ですよ……!」
『クワワーッ!』
 ぎらりと向けられる冷たい目。そこへ「ちょっと待った!」と言わんばかりにアヒルさんがバサササッと飛んだ。
 しかし影朧は目の前にペタッと着地したアヒルさんを無視し、妖しく揺らめくものを纏いながら風呂場に踏み込んで来る。
 だがアヒルさんも負けていなかった。キラリと目の端に光を躍らせ、クワクワガァガァ語り出すそれはアヒル語で紡がれるアヒルさんの推理。人語ではない為、影朧にアヒル語が通じないが――。
『なっ!? ど、どういう事だ!? 今、確かに斬った筈だ!』
 軍刀を手に目を見開く影朧の前には、びくびくおどおどしながらもその場に留まるフリルが無傷のままでいる。そんなフリルの大きな目は影朧をしっかり見ているが、心の中は爆発寸前だった。
(「ふえぇ、推理の時間は邪魔されないって本当でした……!」)
 ユーベルコード『たった一人の生存者<スタンドアローン>』を使っていたフリルは湯船の中で必死に正座を維持し続ける。こうしていれば影朧が更に逆上し斬りかかってきても大丈夫だ。
 ただ。
 “この狭い浴室から自分はいつ逃げられるのか”という不安が凄くあるだけで。
「……」
『……君は後回しだ』
「ふえっ」
『クワッ』
 影朧が回れ右をして即、いずこへと走っていった。翻ったマントの名残りを見るようにフリルは暫し呆然として、ハッ! と我に返る。
「い、今のうちに服を」
『クワァ』
「ふえぇ、まだダメなんですか?」

大成功 🔵​🔵​🔵​

榛・琴莉
ミステリーはもう終わり、ここからはなんちゃってゾンビものです。

犯人にバレないよう、静かに部屋へ。
バルコニーにはヴァイオリンケースを置き、コートをかけて死体の偽装を。
Haroldは頭の位置に…はいキャスケット。
私はMikhailを持って部屋の中、入り口付近に隠れます。
犯人が部屋に入りバルコニーに向かったら背後から撃ち奇襲。
こちらに注意が向いたらHarold、飛びかかって『吹き飛ばし』て。
あとはUCで駄目押しです。

やり方が不味かったのかと。
暴力で解決する事なんて、こうした猟兵沙汰くらいなものですって。
次の機会には探偵と組んでみては?
それに、もし影朧が関わっているなら、私達の仕事でもありますので。



 静寂と冷たさだけが満ちるバルコニーの床で、コートの端がはたはたと揺れた。
 夜風が止めば、揺れは始めから無かったかのように消え、人を思わす膨らみを持ったコートとそこから覗くキャスケット帽子だけが残る。
『――……』
 それを真っ暗な室内から窺うは、探偵殺しに奔走した後に連続して驚愕を味わっている影朧だ。軍刀に手をかけ、可能な限り物音を立てぬようバルコニーに通じるドアノブに触れ――、

 カチャリ

 ノブを回した時に生じた僅かな音。
 それが暗闇に落ちて即、凄まじい音と痛み、そして熱が影朧を襲った。
『くっ、此処もか……!!』
 バッと振り返った動きに合わせマントが翻り、抜かれた軍刀が月光を弾いて暗闇に白銀の色が閃めかす。銛と銃、二つによって受けた傷は決して軽傷ではないが庇う事はせず――殺し損ねた標的を見つけ出そうと見開かれる目に、刃とよく似た白銀が鮮やかに飛び込んだ。
 現れるその様は、真っ暗闇の向こうから飛び出した針のような鋭さ。
 その白銀色が鳥じみた形をした“何か”だと影朧が理解出来たのは、飛びかかってきたそれと共にバルコニーへと転げるように吹き飛ばされてから。
『おのれ、何者だッ!!』
「名乗るほどの者じゃありません」
 漆黒の中から一瞬で駆けてきた青き黒が影朧の懐に突っ込んだ。
 は、と見開かれる目に躍る黒髪が映る。
「なんちゃってゾンビです」
 がっ、と腹部に押し付けられた冷たく硬い塊。やわらかさの欠片もないそれ自身が至近で轟音を響かせ、同時に裂くような熱と痛みを伝えながら“銃だ”と告げる。
『ッッ……!!』
 ぎりっと結ばれた口が悲鳴を封じる様に銃撃の主である少女――琴莉は少しだけ感心して。しかし一発見舞ったばかりのMikhailで影朧を捉えたまま、バルコニーで睨み合う。
『……成る程。殺した筈の存在が動き回るのは、確かに“なんちゃってゾンビ”と言える』
「でしょう。ああ、それと。見事なヘッドショットでしたよ」
 さらりと言った顔には、拭っておいた血糊の痕がうっすら残っている。
 思い出したせいかすっかり消えた筈の痛みが戻ってきそうだ。琴莉は意識からそれを追い出し、後退った影朧を捉えたまま靴底でバルコニーの床をじり、と撫でる。
「やり方が不味かったのかと」
『――何?』
「革命と今夜の事です。暴力で解決する事なんて、こうした猟兵沙汰くらいなものですって。次の機会には探偵と組んでみては?」
 銃弾の代わりに向けられた言葉で影朧の右目は僅かに開かれ、きつく閉じられていた唇も小さく開いていた。
 ――言葉は、届いている。
「それに、もし影朧が関わっているなら、私達の仕事でもありますので」
 猟兵とサクラミラージュ。ふたつが繋がっている現在に影朧として甦り、計画し、実行した時点で、思い描いた通りになど進みはしない。暗にそう告げた琴莉と向けられたままの銃口に、影朧の唇は再度きつく閉じられて。
『それでも……それでも僕は!』
 手すりの向こうへと身を躍らせ、落ちていく姿。
 撃とうと思えば撃てた琴莉だが、構えていたMikhailの銃口を下に向けて息を吐く。
 探偵は他にもいる。
 この続きは彼らに任せ――そして、皆で今宵のミステリーに幕を引けばいい。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ミルル・チックリオン
死体を見に来て死亡確認をし去ろうとした時不思議なことが起こった
死体が突如跳ね起きフラフラと動き出す

「むにゃむにゃ悪党め……大人しくお縄につけぇ……」

よく考えたらヤドリガミなので本体さえ無事なら何の問題もなかった
そしてえらく寝相が悪かった

眠ったまま戦うので動きに緩急がありフラフラとして通常考えられないような動きをする。そのため真面目に相手をしようとする者ほど振り回される。

「……志は正しくても……手段を間違えらぁ……駄目……」


ふわぁ……よく寝た……毒殺された夢と……犯人さんの夢を見た気がする……
……キョロキョロ
まだ来ない……じゃあもうひと眠りしよう……



 これまで三件の殺し損ねを体験した影朧の眉間にあった皺が、とある室内の様子を見た途端にすう、と消えた。
 月光だけが照らす室内に立っている者はおらず、ベッドにある膨らみはそのままでぴくりとも動かない。
 だが、まさかの四件目がもしかしたらひょっとしたらあるかもしれない。影朧は念の為と軍刀を抜き、布団をそうっとめくった。
 そこにいた少女は眠っているように見える。だが胸は上下せず、鼻の前に手を添えても首筋や手首に指を当てても、心臓の鼓動を伝えるものは一切感じられない。つまり。

 こくっ!

 無言だったが、影朧の頷きには“よし!”の言葉と感情が溢れていた。
 影朧は眠るように死んでいるミルルに布団を掛け直し合掌すると、うんうん頷きながら踵を返す。
『漸く一人目だ』
 喜びを噛みしめた、その時だった。
「むにゃむにゃ悪党め……」
 弾かれるように振り向いた影朧はギョッとした。確かに呼吸も脈も感じられなかったというのに、あの少女――ミルルがベッドの上でキョンシーのようにぬうっと跳ね起きたのだ。
 目は閉じたまま。しかし細い足はぺたりと床を踏み、ふらつきながらこちらを向く。
「大人しくお縄につけぇ……」
『悪夢の四件目だと!? くっ、どうなって……!』
 いや待て。よくわからないが斬ってしまえば結果として死ぬのだから良いのでは? そもそも、死んでいるか確認に来て死んでいなかったのだ。つまり殺して死なせれば良い。
『我々の革命の為、散ってもらうぞ幼き探偵!』
 心臓目がけ突き出した軍刀が月光を浴びて真っ白に煌めいた。
 これで死ななければゾンビものよろしく頭部を狙うだけだ、と若干殺し損ねている状況に慣れつつある影朧だったが、その思考とやる気に満ちた瞳は再び驚愕一色で彩られてしまう。
「眠りを妨げる愚か者めぇ……」
『!?』
 ミルルの体がドゥンッとくねって突きを躱した。時代を先取りし過ぎた踊りのような奇っ怪な動きに、影朧は軍刀を構えたまま目を白黒させる――が、悲しい事にそれは一度で終わらなかった。
「んむにゃ」
 両腕を広げ花畑でくるくる回るように。ただし右へドゥンッ左にドゥンッと緩急があり過ぎる。通常なら有り得ない動きは、ミルルを殺そうと真面目に挑む影朧に疲労を与え続け――そして。
「……志は正しくても……手段を間違えたらぁ……駄目……」
『うわああっ!?』
 すぱあんっ! 少女とは思えぬ蹴りが見事に決まり、影朧はドアと共に仲良く廊下にふっ飛ばされた。
 呻きながら起き上がった影朧は、ふらふらと歩いてくるミルルを数秒睨み――走り去る。
 この少女も後回しだ!
 その声と走り去る音にミルルの目がぱち、と少しだけ開く。
「ふわぁ……よく寝た……ん? いつ、ベッドから出たっけ……」
 毒殺された夢と犯人の夢を見た気がする。
 とてもリアルだったが、どうやらまだ来ていないらしい。
 ミルルはいそいそとベッドに潜り込み――すやぁ、と寝息を立て始めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴィクトル・サリヴァン
…そろそろよさそうかなー。
階段で倒れたままってのもきついしよいしょっと。
まだちょーっと痺れてる気もするけどまあ、この位の不調はあって当たり前と考えるのが吉。
さあ影朧をちょいっと海の藻屑にでも変えてやらないとね(銛をじゃきっと)

とりあえず扉を確認。開くなら外に出て扉を閉め近くの部屋に潜伏、のこのこ現場に戻ってきた影朧を後ろから襲撃。
開かないなら扉開くの待って開けた瞬間奇襲。
攻撃は銛をぶん投げUC発動、水シャチにがぶがぶ喰らいついて貰おう。
水を軍刀で斬れるといいねーとか言いつつ俺も水の魔法高速詠唱で行使し足とか腕を水の鞭で縛ったりして妨害。
往生際悪いのはいい犯人じゃないよね?

※アドリブ絡み等お任せ



 日常生活では起き得ない音が、どこかから伝わってきた。
 階段に倒れていたヴィクトルは建材を伝って届いた音に暫し耳を傾けた後、ぱちりと目を開ける。死んでからそれなりに経過している、そろそろいい頃合いだ――というか、階段で倒れた状態を維持するのもきつい。
「よいしょっと」
 起き上がって階段の痕が残っていそうな顔や腕を揉み解し、肩を軽く回してみる。
(「まだちょーっと痺れてる気もするけどまあ、この位の不調はあって当たり前かな」)
 普通の人間なら確実に死ぬだろうガスに包まれていたが、耐性があったお陰で“ちょーっと痺れてる気もする”で済んでいる状態を吉ととらえたヴィクトルは、口をぱかっと開けて笑むと銛を手にした。
 暗闇の中で銛がじゃきっと気持ちの良い音を立てる。
「さあ影朧をちょいっと海の藻屑にでも変えてやらないとね」
 今度はこちらが仕掛ける番。
 ヴィクトルは出来るだけ足音を立てないよう階段を上がり、扉を確認する。鍵は――開いていた。おそらく一定時間が経った頃、つまり標的が死んだ頃に開く仕掛けになっているのだろう。
(「壊さずに済んでよかった)
 でも、影朧が来たタイミングで扉をぶち破って登場! なんて面白いかも。
 ヴィクトルは素早く廊下に出て扉を閉めると、目をつけた部屋にお邪魔してほんの少しだけ扉を開け、外を伺えるようにした。
 目の前で扉が壊されるだけでなく、殺した筈の標的がぴんぴんしている。そんなものを見た影朧はきっと――、
(「あ、来た」)
『……』
 扉の隙間から見た不機嫌顔から、目をまん丸にしたびっくり顔を見せてくれる気がした。
 何も知らない影朧は、地下室扉の鍵が掛かっている事に頷くと何度もノブを回す。落ち着いた様子から、ヴィクトルは影朧が鍵を忘れたのではなく、決まった数だけ左右に回す事で開くノブなのだろうと当たりを付け――、

 ばんっ!!!

 力いっぱい放った銛が少しだけ開いていた扉を破り、静寂を破り、影朧の肩をどうっと突く。破壊された扉の向こうから現れたヴィクトルと水鯱を見た影朧の目は、予想通りまん丸になっていて。
『巫山戯るな!』
 冷えた色の目が燃えるような感情を宿した。
 銛を目印に己を狩ろうとする水鯱に迷わず軍刀を揮い、一頭を斬り伏せる。しかしそのすぐ後に別の水鯱がヴィクトルを導くように大口を開けた。
「次も軍刀で斬れるといいねー。でもほら、シャチだけじゃないよ」
 言い終わらぬうちに影朧の足や腕に水の鞭が纏わりつこうとする。多勢に無勢となった影朧は、しかし軍刀を揮う手を、目に宿した感情を薄れさせなかった。
『僕は、どこで何をしくじった! 時間をかけ綿密に計画を立てた筈なのに!』
 どうして誰も彼もが生き返る。それも、只者ではない者ばかり。
 こんな筈ではと憤る影朧に、ヴィクトルは「始めからじゃないかなー」と、のほほんと告げながら水を躍らせ追い詰めていく。
「往生際が悪いよ。そういうのって、いい犯人じゃないよね?」

 全て暴かれたら、罪を受け入れなきゃ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アシュアヴラ・ロウ
ハイノ(f26210)と
よくねた
でもまだねむい(だっこされつつ)
やだ降りない

んん、犯人さんもう来たの
おはよう
たのしかった?
復讐は何も生まないとか言うけど
あなたが満足したならいいのかなって、ぼくは思う
楽しくなかったのなら、もうやめておいたら
ふぁ
だってねむたい

かっこいいことはハイノに任せておいて
ぼくは羽と角を水に戻して網状に巡らせる
だいたいなんでも、食べちゃうよ
でもあんまり
おいしくないかも
あなたの何もかもを、全部あなたに返してあげる
おいしい?
きっと、骸の海にもおいしいものはないし
また戻ってこれたら、ぼくらの船に遊びにおいでよ
ごはんと綺麗なお部屋と
楽しい夢なら、あげられる


ハイノ・シュラーフェン
アシュ(f26308)と

犯人ってのは独り言が大きくなるお約束でもあるんかね
ともあれお前の企みもこれでご破産だぜ
…アシュ、そろそろ自分で床に立て。自立してくれ戦闘だぞ
甘やかしてる自覚はあるんだけどな…まあ今日は仕方ない
さっさと片付けて、船に帰るぞ

恨みつらみも分かった。仕事が丁寧なのも気遣いができるのも分かった
だが生憎、オレ達ができるのは同情と祈りだけだ
その同志諸君共々、次は笑える未来に産まれられるといいな
手伝いしかできないが、まあ大船に乗った気持ちでやられてくれ
ああ、悪いがオレに近づけるとは思わないほうがいい
来たれ断罪。ただの一人も逃がすことがないように
これがお前達を終幕に送り届ける片道切符だ!



 必ず革命を成すのだと皆で語り合った。
 入念に準備し、段取りを決め――しかし、全て暴かれ、泡となって消えた。
 それでも諦められず、故に二度目の邪魔と失敗が起きないよう計画を立てたのだ。
『……なのに、なぜ』
「犯人ってのは独り言が大きくなるお約束でもあるんかね。ともあれお前の企みもこれでご破産だぜ」
『!!』
 抜刀し、灯りがついたままの部屋に入ってすぐかけられた声が少し違って聞こえたのは、声の主が浴室にいたせいだ。
 身構えた影朧の前に姿を見せたのは、浴室のドアを開けた瞬間作動した罠によって射られ死んだ事にしていたハイノと、ハイノに抱っこされているアシュアヴラの二人。ぐ、と影朧の表情が歪む。
『六件目、だと……』
 口惜しそうに吐かれた数字が“殺し損ねが確認された件数”だとすぐ理解したハイノは、そりゃ残念だったなとアシュアヴラを抱っこしたまま口の端を上げ――それに、ふぁあ、と大きな欠伸が被った。
「よくねた。でもまだねむい」
「……アシュ、そろそろ自分で床に立て」
「やだ降りない」
「自立してくれ戦闘だぞ」
 いつまで抱っこさせる気だと軽く揺さぶって“降りろ”と訴えるハイノに対し、アシュアヴラは「んー」と抗議の呻き声をこぼしながらハイノにしがみついた。それを見る影朧の目から、ほんのちょっとだけ緊張感やら殺意やらが薄れる。
『僕が言うのも何だが、もう少し厳しくしてもいいんじゃないか』
「あー……甘やかしてる自覚はあるんだけどな……まあ今日は仕方ない」
 ほら立て戦うんだからと揺さぶられたアシュアヴラは、そこでようやくハイノ以外の声がすると気が付いた。
「犯人さんもう来たの。おはよう」
『ああ、おは――いやいや違う! 僕は君たちを改めて殺しに来たんだ!』
 こいつ根はいいやつじゃないのか。そう思ったハイノだがそこは黙っておき、自分で立つ気になったアシュアヴラを下ろす。くぁ、と欠伸をひとつしたアシュアヴラは、んん、と伸びをし、ぱっちり開いた目で影朧を見る。
「ねぇ犯人さん。たのしかった?」
『……説教するのか。あの探偵のように』
 警戒を露わにした影朧に、碧い瞳がぱちりと瞬いた。
「ぼくはその探偵さん知らないし。復讐は何も生まないとか言うけど、あなたが満足したならいいのかなって、ぼくは思う。でも、楽しくなかったのなら、もうやめておいたら」
 影朧の目に困惑が浮かんだ。
 それもそうだ。アシュアヴラの言葉に強い哀れみや同情、救おうという強い意志はない。そう思ったからそう言った。ただの提案。向けた言葉にあったのは、重過ぎず明る過ぎる事もない音だけだった。
「ふぁ。だってねむたい」
 欠伸と共に飛び出した言葉で影朧の目つきがキッと鋭くなる。ほどけそうだったものを無理矢理固めるようなそれに、ハイノは変わらず飄々と笑って言葉を繋いだ。
「恨みつらみも分かった。仕事が丁寧なのも気遣いができるのも分かった。だが生憎、オレ達ができるのは同情と祈りだけだ」
『――そんなもの、我々には不要だ』
 風のない室内で影朧のマントがふわりと揺れた。軍刀を手に立つ周囲が歪み、何かが朧に浮かび上がる。陽炎や煙のように揺らいだそれはたちまち同じ軍服纏った若者らへと変化し、陽炎が口にした拒絶を共にするように、一斉に得物を抜き、構えてきた。
「……その同志諸君共々、次は笑える未来に産まれられるといいな。こちとら手伝いしかできないが、まあ大船に乗った気持ちでやられてくれ」
『次? 次だって? 我々の革命は今生で果たさなければ――!』
「ああ、悪いが」
 遮った事も謝るかのようにハイノは片手を軽く挙げて、
「オレに近づけるとは思わないほうがいい」

 来たれ断罪。

「これがお前達を終幕に送り届ける片道切符だ!」
 どこまでも不敵に笑って告げた言葉に、ぷつりと芽吹くように現れた水が応える。
 ざあっと激しく躍りながら形を変え、鋭さを増して室内を埋め尽くすほどの大鎌の群れとなった水という水全て。それらはハイノの“ただの一人も逃がさないよう”という声と意志に従い、影朧とその同志たちに躍りかかった。
『あの時のように何も出来ず終わる僕らだと思うな、探偵!』
 響く銃声。あちこちで弾ける火花と水飛沫。どうやって描いているのか目で追うのも困難な幾何学模様が生まれるたび、影朧の同志が一人また一人と減っていって。それを眺めていたアシュアヴラの口が、おぉー、と小さく開く。
(「かっこいい。ぼくは……食べちゃおう。だいたいなんでも、食べちゃうけど――あのひとたちは、どうだろう」)
 あんまりおいしくなさそうだけど。ま、いいや。
 室内から廊下へ。移動しながら繰り広げられる戦いのさなか、アシュアヴラの羽と角が、とぷん、と水に戻って編まれながら広がっていく。鈴蘭洋燈のオレンジ色を浴びて煌めくそれに影朧が、は、と気付いたけれど。
「あなたの何もかもを、全部あなたに返してあげる」
 オレンジの光を弾いた水網が同志の霊や影朧の軍刀に接触した瞬間、そっくり同じものがざばあっと現れ水の大鎌と共に殺到した。圧倒的質量となった二人の攻撃に影朧は見る間に圧されていき、青白い顔に焦りが浮かぶ。
『くっ……!』
「おいしい? きっと、骸の海にもおいしいものはないし。また戻ってこれたら、ぼくらの船に遊びにおいでよ」
『何を……何を、言っているんだ。君は』
「難しく考えんな。そのままの意味だ」
『は……?』
 かろうじて残る数名の同志に守られていた影朧は、再び困惑を浮かべていた。
 ハイノはアシュアヴラの頭にぽんと手を乗せ、くしゃりと撫で。アシュアヴラはふたつの碧色を、ただ、向ける。
 あなたのやりたいことはここにあるみたいだけど。
「ごはんと綺麗なお部屋と、楽しい夢なら、あげられる」

 そういうものは、ここにはなさそうだったから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

天瀬・紅紀
うぇ…気持ち悪ぃ…
先に気がついたから花を造花にして葉はホウレン草に変えといたけど、アク強っ…

倒れ乱れた格好のまま刀だけ差し影籠の前に
猫被りからのリミッター解除ってね

探偵ってそう殺されるものじゃないよ、かのホームズの様にな
生憎、俺はバリツ使いじゃなくて剣士だけど

あんた、将校より脚本家のが向いてんじゃね?
さぁ悪足掻きは犯人の嗜みだ、やってみろよ
向こうの刀は受け止め流し、弾丸は出来るだけ見極め致命傷を避け

それで、終わりか?
じゃあこっちの番だな
UCで色々三倍増し。炎纏わせた斬撃喰らわせ、霊も本体もまとめて撫で斬りに

懐入り込んで蹴り入れて、窓ぶち破ってぶっ飛ばす
ここは二階…崖の代わりに突き落としてやんよ



(「うぇ……気持ち悪ぃ……」)
 倒れ乱れた状態のまま刀だけを差した紅紀は、自分の行いを後悔していた。
 水差しに仕込まれていた鈴蘭。飲んだ者を死にいざなう毒。飲む前に気が付いた為、水は捨てて入れ替えて、花を造花に葉はホウレン草に変えた事で毒殺されず生きている――生きてはいるのだが。
(「アク強っ……」)
 ホウレン草を別の、個性控えめの葉にすれば良かったのか。
 ああ。影朧がやって来る前にどこかから水を貰って、口の中も喉もすっきりさせたい。
 しかし物語が丁度いい所で何かが起きるように、紅紀もまた、近付いてくる足音に気付いてこのままで行く覚悟を決めた。
 部屋の鍵が開けられ、廊下を照らす鈴蘭洋燈の橙色が室内に注ぎ込み、橙色の中を黒い人影が進んでいく。
 “ここで死んだ探偵も”という予感があったのだろう。
 死体という猫を被っていた紅紀が抑えていたものを解放し斬りかかった瞬間、驚きを浮かべた影朧は目の前の現状を即座に理解し、そして、憤った。
『君で七件目だ……!』
「だろうな。探偵ってそう殺されるものじゃないよ、かのホームズの様にな。見ての通り、生憎、俺はバリツ使いじゃなくて剣士だけど」
 そして甦った探偵ほど恐ろしいものはない。影朧の身に刻まれている戦いの痕、六件目までの諸々が“それが猟兵であれば尚の事”と告げている。
『そうだな。痛感しているところだ』
「これだけやったんだ。あんた、将校より脚本家のが向いてんじゃね? さぁ悪足掻きは犯人の嗜みだ、やってみろよ」
『ではお言葉に甘えさせてもらおう――同志諸君!』
 影朧が軍刀を掲げた瞬間、室内の空気がぐっと下がった。音もなく現れた同志の霊たちが抜いた軍刀が、拳銃が、紅紀の視界にきらきらと銀の輝きを灯す。
 一斉に向けられるそれに対する紅紀の顔に、普段のような穏やかさはとうに無い。
 お手並み拝見だと不敵に笑って影朧と視線を交差させ――繰り出された軍刀を透き通る刀身で受け止めた。そのまま相手の力に抗う事なく流し、次の軍刀も常の穏やかさを思わすようなやわらかさで受け止め、流して、流し続けて。
 ふいにちりっと感じた気配を払うように飛び退くと、銃弾が腕を掠めていった。
(「あっちは出来るだけ見極めて、と……!」)
 繰り出される攻撃全てに対し律儀に反撃していく必要はない。
 必要なのは、死なない事。倒れない事。
 生きていれば――。
「それで、終わりか? じゃあこっちの番だな」
 笑った紅紀の顔が、室内が、溢れた紅蓮の炎で照らされる。
 炎という特大の熨斗をつけてのキッチリ三倍返し。炎纏う斬撃が空気を大きく撫でるように揮われ、同志の霊と本体を纏めて撫で斬った。
 間近で聞いた悲鳴に“まだまだ”と紅紀は小さく笑い、懐に入り込む。
『!?』
「ここは二階だ。……崖の代わりに突き落としてやんよ」
 腹に一発蹴りを入れ、遠慮のないそれで影朧を窓硝子の向こうへとぶっ飛ばした。
『なッ――』
「じゃあな。高所から落ちるなんて、犯人冥利に尽きるだろ?」

大成功 🔵​🔵​🔵​

太宰・寿
はぁ、苦しかったぁ
普通に死んじゃうかと思った……うう、首が痛い……あ、おかえりなさい。犯人さん?

のんびりしてたら、現場で遭遇してしまいましたね
それではお相手願います
令嬢らしくスカートの裾を掴んで……はもう必要ないかな?

虹霓を手に、小人さんたちの力を借ります

これだけの同志の方々に慕われる貴方は、きっと正義感も強い方なのでしょうね
目的の為に手段を選ばないように見えて、思慮深い
でなければ、使用人の方たちを帰さないでしょう?
だから人望も篤いのですね

貴方の行ったことの善悪は私には分かりませんが、無念だったのだろうなというのは伝わってきます

次が巡りますようにと祈りながら、虹霓を振るいます



「はぁ、苦しかったぁ。普通に死んじゃうかと思った……うう、首が痛い……」
 起き上がった寿はゆっくりと息を吸いながら首をさする。
「首を絞められるってあんな感じなんだ……」
 他人事のように振り返る様をどこかの誰かさんが見たら、何でそんなのんびりしてるんだと呆れられてしまうだろうか。
 深呼吸を繰り返し心身をリラックスさせた寿は、はた、と目を丸くする。
 痛いといえばさっき物凄い音がした気がする。何かが派手に壊れて、それなりに重さのある何かが落っこちたような。例えば、

『あ、』
「あ、」

 軍服やマントに硝子の破片をくっつけてやって来た影朧とか。

 起き上がっている自分を見た途端表情が消えた影朧へ、寿はふわりと笑いかけ令嬢らしくスカートの裾を摘む。今日だけの自分は首を絞められた時に役目を終えたけれど、今日という日はまだ終わっていないから、もう少しだけ。
「おかえりなさい。犯人さん? それではお相手願います」
『……ああ、いいとも。こちらこそお相手願おう』
 殺されてくれ、探偵くん。
 はっきりと告げられた願いに寿は笑顔を返した。影朧に喚ばれた同志たちが得物を構えた瞬間もやわらかな空気は薄れず、みんな、と虹霓を手に喚びかける。
 同志たちの軍刀が一斉に寿へと向かった瞬間、ぽぽぽ、ぽんっとゲストが飛び込んだ。
 背には小さな翼、手には銀のサーベル。
 寿の声に応えた小人たちが陽気な笑顔を浮かべ、燕のようにひらりと飛びながら同志たちの霊とぶつかり合う。影朧と寿の間でそれぞれが召喚した存在が、軍刀とサーベルが紡ぐ戦いの音が一気に広がった。
 その光景を見つめ、音に耳を傾けた寿は、戦いの向こうで佇む影朧を見る。
「これだけの同志の方々に慕われる貴方は、きっと正義感も強い方なのでしょうね。目的の為に手段を選ばないように見えて、思慮深い。でなければ、使用人の方たちを帰さないでしょう?」
 革命の為にと邪魔になる探偵<他人>を殺す。
 その為なら時間も金も惜しまない。
 しかし無関係の、無実の者は遠ざけ、彼らの犯行時間のアリバイを作っておく。
「だから人望も篤いのですね」
 影朧の喚ぶ声に応えた同志の数。
 そうっと目を細めれば、冷えた色の目がかすかに揺れていた。
『……なぜ、君は、そこまで……』
「貴方の行ったことの善悪は私には分かりませんが、無念だったのだろうなというのは伝わってきましたから」
 革命が失敗に終わり、死を迎えた魂は影朧となって現世に戻った。
 生前からずっと抱え続けた無念が今夜の出来事を引き起こしたのだから、その無念は計り知れないだろう。
「だから、貴方に次が巡りますように」
 寿は祈りを言葉にし、虹霓持つ手に力を籠める。
 くるりと円を描くように揮った虹霓の紡ぐものが、影朧の視界にひとつふたつと彩を足していった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

冬薔薇・彬泰
いやぁ、中々の御手並みだったよ
然し今度からはもう少し用心すると良い
――我々の様に、簡単には死なぬ者もいるのだから

油断している背に音なく近付き【散華】の不意打ちを試みる
ふふ、これで恨みっこなしだ
さて、折角殺人鬼と探偵が相対したのだから
此処は互いに自己紹介でも如何かな?
…等と云っても応じてはくれぬのも百も承知
ならば僕も容赦は無しだ
力を重視された際は見切りに努め
命中や回数重視の場合は武器で受け流すか、物を盾に凌ぐ
調度品を血に濡らすのは躊躇われるけれど
どうにも、器用に戦うのは苦手でね
落ち着き払い、瞬間的に思考を巡らせ
確実に、君へ傷を与えよう

――さて、斯様な暴力で
君は、君の思う正しい行いを出来たろうか?



 真っ暗な室内に鈴蘭洋燈の灯りと自分の影が音もなく射していく。
 影朧は光と影の境界がはっきりしている室内を見つめた後、かすかな足音だけを立てて室内に入った。
 そのマントから、はらりと落ちた花弁のようなもの。ここへ来る直前マントにでも付いたのだろう。花弁に見紛うような色彩の名残は落ちながら空気にとけて消え、影朧はそれに気付かないまま一歩ずつ進んでいく。
 廊下を照らす洋燈の色が差し込んでいるとはいえごく一部だ。窓のカーテンは閉じられ、室内のほとんどは黒一色かそれに近い。その為にここで撲殺した探偵の骸の輪郭はよく見えず、影朧は殺害当時の記憶を頼りに探す事となる。

 それを真っ暗闇の中から窺う男こそが、その探偵<被害者>だった。

 殺し損ねた事を突きつけられ続けていた影朧だが、念頭にあったのは“死体の確認”であり“殺し損ねた者による奇襲”ではなかった。故に、背後から音もなく忍び寄られる――自分がやった事と同じ手段で暗闇から奇襲されるとは思っていなかったらしい。
 暗闇からぬうっと滑るように現れた刃がその背をとる。呻くような悲鳴がした後、『九件目』という短い言葉を拾った彬泰は奇襲したての相手へ朗らかに笑いかけた。
「いやぁ、中々の御手並みだったよ。然し今度からはもう少し用心すると良い。――我々の様に、簡単には死なぬ者もいるのだから。ふふ、これで恨みっこなしだ」
 ああ、けれど。それについては言うまでもなかっただろうか。
 なにせ痛みを堪え振り返った影朧の表情は、彬泰の予想を肯定するようなものだったから。先程の言葉からして、自分の前に八件の殺し損ねを確認しているのだろう。
「さて、折角殺人鬼と探偵が相対したのだから、此処は互いに自己紹介でも如何かな?」
『改めて殺そうとする者を前に、随分と呑気な事を言う探偵だな君は』
「駄目? 残念だ」
 肩を竦める彬泰だが、応じてくれぬだろうと思っていたから特に傷付いてはいない。殺気と共に構えられた軍刀に目を細め、影朧の背に一太刀浴びせた打刀を構え直す。
 二人の間で、目に見えない空気がぴんと張り詰めるようだった。
『一人目の犠牲者になってくれ』
「さて、どうしようか」
 言葉を交わし、間が一拍。影朧の軍刀、その刃先が誘うように揺れた瞬間、ぐんっとうねって彬泰を断ちに来た。キンッ、とそれを打刀で払うように弾けば、影朧はすぐさま体勢を変え軍刀を閃かす。
 僅か数秒の間に見たそれは、殺せる機会が増す回数重視の動き。彬泰は心の内で納得し、視界の中でうすらと輪郭を浮かび上がらせる調度品を一つ掴んで盾とした。
 丁度いい位置にあった為に選ばれた盾――椅子が真っ二つに分かたれる。
「すまないけど」
 無言で斬り合うさなか、突然謝られ驚きを浮かべる影朧。
 それを、彬泰の目は落ち着いて捉えていた。
「器用に戦うのは苦手なんだ」
 きっと他の調度品も傷付け、血で汚してしまうだろう。
 心の内で謝りながら、一瞬のさなかに見付けた機を結ぶように刃を揮って。
「一つ、訊かせてほしい」

 斯様な暴力で君は、君の思う正しい行いを出来たろうか?

大成功 🔵​🔵​🔵​

柊・はとり
よぉ犯人元気か?
今あんたの考えている事を当ててやろうか
『馬鹿な、こいつだけは絶対に殺した筈だ、生きているわけがない』…

まったくその通りだ全身が痛い
流石にそろそろ気絶しそうだよ
『被害者は最初から死体だったので死んでいない』
なかなか斬新なトリックだったろ
俺が探偵なら事件を放り投げて帰る程にな

4人位までならギリで同情の余地もあるが
22人殺しといて正義も何もあったもんじゃない
腐敗してんのはお前らだろってツッコミ待ちかよ
生憎俺はそこまで優しくない

今の世の中が不満か?
ならあんたは転生して
もういっぺんこの生き地獄に落ちな
楽園とは探偵の不在なりとはよく言ったもんだ

ああもう限界だ…
UC【零の殺人】を放ち退場する



 探偵という生き物は、人であれ物であれ、目にしたものから様々な情報を見出し次に繋げていく。
 はとりもまた、抜いたままの軍刀を手にやって来た影朧を見て、“ここへ来るまでに何があったか”把握した。
 軍服に残る痕の形状は、穿たれ、斬られ、撃たれた証。軍服の一部が他より色濃くなっている箇所は影朧の流した血と――ああ、水か。
「よぉ犯人元気か?」
 階段に座って皮肉めいた物言いと笑みを向ければ、影朧がハッと息を呑み凝視する。
 すぐに軍刀を構えるという軍人らしさ感じられる反応も含め、予想通りだった。
「今あんたの考えている事を当ててやろうか。“馬鹿な、こいつだけは絶対に殺した筈だ、生きているわけがない”……ああまったくその通りだ全身が痛い」
『……全身が痛い、で済んでいる事に僕は驚きを隠せないよ。君は、確かにあそこのシャンデリアの下敷きになった筈だ』
「じゃあ解説してやるよ。“被害者は最初から死体だったので死んでいない”」
 言葉を失くした影朧の目が、更にまあるく見開かれた。
「ああ、なかなか斬新なトリックだったろ。俺が探偵なら事件を放り投げて帰る程にな」
 被害者は発見される前に殺されていた、つまりあの時に見た被害者は犯人の変装だったんだ! ――と、“普通なら”そのようにして導き出される解を『柊・はとり』というデッドマンは月の彼方に蹴り飛ばしてしまう。
 デッドマンという特性を利用したのは自分だが、こんなトリックが目の前に現れたら、はとりは今言った通り放り投げる予感しかしない。
 では。此度の犯人である影朧はどうなのか。
『最初から死体である探偵がいたらどうしたって計画は破綻する。我々の正義は、また、遠ざかる。ああ、なんて事だ……他の誰よりも、君という探偵を招待すべきじゃなかった!!』
 激しくなっていく声と共に歩みが速さを増し――階段に座ったまま全てを明かしたはとりの体を軍刀で深々と刺し貫いた。
 シャンデリアに潰された時よりマシか。そんな事を考えながら、はとりは目の前にある犯人の顔をしっかりと見て――は、と笑う。
(「4人位までならギリで同情の余地もあるが、22人殺しといて正義も何もあったもんじゃないな」)
 革命。正義。どれだけ崇高な意志や言葉を並べようと、それを理由に暴力や殺人を振るう時点で――それは。もう。
(「腐敗してんのはお前らだろってツッコミ待ちかよ」)
 生憎、自分という人間はそこまで優しくない。
「今の世の中が不満か?」
『ああそうだとも! 力を持ちながら、それを弱者の為でなく利己の為に振るう馬鹿が居るんだからな! それも一人二人じゃない!』
「ならあんたは転生して、もういっぺんこの生き地獄に落ちな」
 人の代わりに裁く天使になってやれないが、それだけの意志と行動力が一応あるのなら、探偵として転生に必要な鍵の一つくらいは提示してやろう。――かなり乱暴な提示方法だが。
「ああもう限界だ……」
『? 待て、死んでいるのに限界なんて存在す、』
 はとりが影朧を指した瞬間、途中だった言葉が爆ぜるように現れた痛みで悲鳴に変わった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アンリ・ボードリエ
げほげほ…はあ、痛かった…ああ、影朧さん戻ってきましたか。
殺されたからといってボクはやり返しませんよ、落ち着いて…。

…無念を抱え、仲間のために1人で頑張ってきたのですね。あなたもきっとこんな事をするのは本意ではなかったのでしょう。

今回は方法を間違えてしまいましたね。『La décadence』を使用し、光と透明なツバメさんで彼を包みます。

探偵さんたちを…ボクの仲間を殺そうとした事は許せません。…罪を認め、彼らに許されるように…あなたの仲間にも胸を張れるように、やり直しましょう。

大丈夫、あなたにだったらきっとできますよ。
だってこんなにも頑張ったのですから。

【アドリブ歓迎】



 殺される時も辛かったが、死に終えた後もなかなか辛い。
 アンリはげほげほと咳き込み、未だ体と記憶に残る痛みに苦笑いする。
「毒殺はもうこりごりですね……」
 掠れた声でこぼした時。
 部屋の扉が、キィッ、と音を立てて開けられた。
「……ああ、影朧さん戻ってきましたか」
『ああ。……そういう君も、“戻ってきた”のか』
 咳き込む音が廊下まで聞こえていたのだろう。ノブをそっと回すでもなく普通に開けられた事からアンリはそれを察し、それから、疲れたような目とある意味見事な様相に少しばかり同情した。
 既に自分の被害者仲間と会った後のようだ。状態からして、一人二人ではないだろう。立派な軍服のあちこちが傷だらけで血だらけだ。
「殺されたからといってボクはやり返しませんよ、ひとまず落ち着いて……」
 怪訝そうな顔をする影朧にアンリは笑いかけ、呼吸を整えてからゆっくり立ち上がる。
 出口を塞いで立つ影朧は未だ“探偵殺しを成し遂げる”という意志を残しているのだろう。アンリは少しばかり淋しげに笑って言葉を続けた。
「……無念を抱え、仲間のために1人で頑張ってきたのですね。あなたもきっとこんな事をするのは本意ではなかったのでしょう」
 生前他のやり方が在れば。見つかっていれば。腐敗を憎んだ影朧と彼の同志たちはそちらを選んだに違いない。しかし今は今。影朧は一人、あの日の夢の続きをと犯行に及んだ。
「今回は方法を間違えてしまいましたね」
『!』
 ――ひらり。
 鮮やかに舞ったシルエットに対する影朧の反応は早かった。しかし軍刀を構える影朧の周囲はもう、アンリが『La décadence』より齎した光と透き通った体持つツバメに包まれている。
『これは……!』
 それはアンリが自らの記憶を代償として神の加護と共に現した聖なる力。影朧の体をやわらかに包む力が、影朧の肉体を、力を追い詰めていく。
「探偵さんたちを……ボクの仲間を殺そうとした事は許せません」
『では、僕をどうするつもりだ!』
「……罪を認め、彼らに許されるように……あなたの仲間にも胸を張れるように、やり直しましょう。大丈夫、きっとできますよ。だってこんなにも頑張ったのですから」
 その頑張り方が正しいものであったとは言えない。
 それでも、影朧となるほどに傷付いた魂が明るい未来へ導かれる事くらい、あってもいいのではないかと。そう、思うから。
 光の内へと注がれる微笑みに、何かを言いかけた影朧の口が、ぐ、と閉じられた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

日下部・舞
【月舞】

「ずいぶん忙しい犯人ね」

二十二人もだなんて『やることが多すぎる』でしょ
いつか見た探偵モノのスピンオフ作品を思い出した

「ユエさん生きてる?」

黄泉返った私たちは『犯人』の前に立ち塞がる
革命は成就しない

影を滑るように前に出て【先制攻撃】
手に持った夜帷を横薙ぎに振るう

ユエさんを傷つけさせないよう盾となって【かばう】
ダメージは【肌】の機能で痛覚遮断
【継戦能力】を発揮する

「今があなたたちの理想と違うとしても」

召喚される同志たちを【抹消】する
手の中の目覚めた『彼女』の力を発動させる

「ユエさん、今」

彼女の歌声は美しかった
一緒にこの歌をただ聴いていられたならよかったのに

私は前髪に触れてそう思った


月守・ユエ
【月舞】
アドリブ可

器用…ともいうのかな?
22人も相手に殺害とは忙しくあり器用…

「このとおりっ!生きてるよ」

此処からが本番
「貴方達は貴方達の正義のために革命を成し遂げようとしたと思う
でも、ダメよ
これ以上誰かを護る為の剣で、人を殺さないで」

奏創で漆黒の竪琴を顕現
弦を弾くと音の波紋が生まれる
【歌唱】で展開する【オーラ防御/結界術】で
2人の身を護るよ
力強い旋律は時に【呪詛】となり敵の動きを鈍らせる【マヒ攻撃】となる

”今”と舞さんから紡がれる
曲の転調
高速詠唱UC:死刻曲
成し遂げたい夢があるなら
此処に留まらないで

愛すべき生命よ
貴方達は何のために剣を取ったの?

どうか願わくば
この貴方達の死の先に
幸いあれと祈る



 鈴蘭館へやって来た『探偵』たちは自分たちを含め22人。
 事前の準備。殺人の実行。そこに人数を加えて諸々を想像した舞は、ぱちりと目を開けてサロンの入り口である扉――開いたままのそこに視線を向ける。
「ずいぶん忙しい犯人ね」
 殺害対象の多さはすなわち、殺害にかかる労力の多さであり忙しさでもある。
(「いつか見た探偵モノのスピンオフ作品みたい」)
 多忙な犯人は、鈴蘭館のどこかで自分同様“生き返った”探偵と物理的な会話を繰り返しているようだ。数回響いてきたそれらしい音から推測すると、そろそろここにやって来るだろう。
(「器用……ともいうのかな?」)
 目を閉じたまま舞の声を耳にしたユエは、まだ見ぬ影朧の事を考えた。
(「22人も相手に殺害とは忙しくあり器用……」)
 その人数を様々な手段で殺害――正確には殺し損ねている、という部分は置いておいて――というのは、やろうと思っても出来るものではない。
 頑張り屋さんなのかなとふんわり思った時、サロンへと近付いてくる足音一人分を拾い上げる。舞もまた、同じ音を拾っていた。
「ユエさん生きてる?」
「このとおりっ! 生きてるよ」
 毒殺された時に感じた痛みを払い飛ばすように、言葉を、笑む視線を交わし合う。
 そんな二人の姿に、鈴蘭洋燈の光を背負うように立つ影朧がほんの僅かに表情を歪め、目をそらすようにして溜息をついた。
『探偵とは存外しぶといものだと、計画を練っていた頃の僕に教えてやりたい』
「悪いけど、教えても無駄だと思うよ」
「そうね。あなたの革命は成就しない」
『それはどうかな』
 ぽつりと落とされた声には熱も冷たさもなかった。ただ構えられていく軍刀が橙の光をぬらりと映して――、
『僕は、まだ諦めきれていない』
 かすかな音だけを残し一気に距離を詰めてきた。そこへ舞が影を滑るようにして飛び込む。手にした得物を揮う速度は舞の方が速い。
 暗がりの中で揮われた刃の軌跡、光となって一瞬だけ見えたそれに影朧の揮う刃が迫る。鋭く躍るような軌跡の向こう、ユエの手の中でも光が生まれ――漆黒の竪琴となって顕れる。
「貴方達は貴方達の正義のために革命を成し遂げようとしたと思う。でも、ダメよ。これ以上誰かを護る為の剣で、人を殺さないで」
 弦に指先をかけ、音をひとつ。音の波紋に静かな月夜にも似た歌声が重なれば、広がる音色がユエと舞の二人を包む守護となった。それを斬り裂こうとしても、凛とした歌声の輝きを止めるには、サイボーグという特性を活かしユエを守る舞が大きな壁となって立ちはだかる。
 揮う刃と同じくらい鋭い動きで攻め立てる舞は、響く旋律が力強くなったのに気付いた。同時、影朧が苦痛に顔を歪め大きく飛び退く。着地の瞬間足がふらついたのは、疲労だけが理由ではないだろう。
『君は、これ以上は駄目だと言ったな。……ならば。僕らの剣が届かぬ場所に居る弱者はどうなる――!!』
 ぶわあ、と膨れ上がった力が形を変える。人になる。影朧と志を同じくした者たちの霊が軍刀を、拳銃を構えた瞬間。舞は手にしていた『夜帷』の封印を解いた。
「今があなたたちの理想と違うとしても」
 舞の手の中。目覚めた“彼女”が世界にその力を溢れさす。
 闇をより暗くするような波動が迸った瞬間、サロンのカーテンが、影朧のマントが音を立てて揺れた。途切れず紡がれ続ける歌声に、ばさばさと布の音が重なって――勇ましく戦わんとしていた同志たちが、霞のように消失する。
『なっ』
「ユエさん、今」
 月色の瞳に光が躍った。舞から紡がれた声に合わせ曲が転調し、感情震わす歌声が死を創造する唄を紡いでいく。けれど歌声に籠めるのは影朧を想う心だ。
(「成し遂げたい夢があるなら、此処に留まらないで」)

 あなたも、愛すべき生命のひとつ
 ――ねえ
 貴方達は何のために剣を取ったの?

 響く歌声と共に揺らめく黒纏う音刃が閃く。影朧を斬る。
(「どうか願わくば、この貴方達の死の先に幸いあれ」)
 血が舞い、悲鳴が上がり――歌声に籠められているものに、触れたのだろう。影朧の目が揺れた。しかし近くにあった椅子を軍刀で掬い上げるようにして斬り、その隙に廊下へ飛び出していってしまう。
「あっ……! ……行っちゃったね」
「ええ。でも、大丈夫よ」
 ユエの歌声は美しかった。
 共に、ゆえの歌をただ聴いていられたなら――。
 舞は去っていった姿を惜しみながら、ユエを労るように指先を伸ばして。
 そして、次の『探偵』へと後を託した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒蛇・宵蔭
エルザさん(f17139)と

――楽しませていただきました。
やはり驚いてくれる人がいると張り合いがあります。

帰るまでが舞台。なので最後まで探偵と興じてみましょうか。
貴方の悪事はそうですねぇ……死んだことに、終わったことに気づいていないという事実。
え、種明かしになっていないですか?

お褒めいただき光栄、と。
ふふ、エルザさんが働き者な事もよく知ることが出来た一夜です。
私は荒事より知的労働がしたいので。

真実というのは、いつでも厳しいものです。
では、昔の傷を剔らせていただきましょう。
貴方が忌々しく思うものを、此所へ。
探偵、お好きでしたよね?

きっとあの日の屈辱を、再び。

ほら、驚いてくれると張り合いが、ね。


エルザ・ヴェンジェンス
宵蔭様(f02394)と

お出で頂き光栄にございます。ご招待主様
一礼を以て出迎えましょう

事実、というものかと。
もう少し冴えのある推理を期待したいものです。
宵蔭様はよく今まで路地裏で発見されずに日々を生きていたと私、感心しておりますわ

それでは、今宵の舞台最後まで務めさせて頂きます

練銀にて銀のナイフを扱いましょう、貴方様の刃の相手は私ですわ
封印を解き、投擲を交えて攻撃へ。サイキックの電撃も使い、盾となりましょう
メイドたる者、主を立てるものです
荒事は引き受けますので、どうぞ知的労働に勤しんでくださいませ、宵蔭様

ここぞとばかりの名推理、期待しておりますわ
——流石は宵蔭様。このメイド感服致しました



 影朧は、抜いたままの軍刀を手に鈴蘭館の中を歩いていた。
 背筋はぴんと伸ばしたまま。歩幅は――疲労のせいか、姿を現し始めた時と比べ少々短くなっている。露わになっている右目も、前を向いてはいるが、そこには覇気といったものが欠けつつあった。
『……!』
 だが廊下の先に立つ二人を見た瞬間、その目は薄れていたものを浮かべ、手が軍刀を構える。いつでも仕掛けられる体勢を取った影朧に、こんばんは、とやわらかな挨拶が向けられて。
「――楽しませていただきました」
 黒衣の『探偵』宵蔭が微笑むと、その隣に立つ『メイド』のエルサも静かな一礼で影朧を出迎えた。
「お出で頂き光栄にございます。ご招待主様」
『……手応えは確かにあった筈なんだが。矢張り、君たちもか』
「ええ」
 宵蔭はにこりと頷き、ああ、と嬉しそうに微笑んだ。やはり驚いてくれる人がいると張り合いがあります。喜ぶ声で、影朧の眉間にきゅっと皺が出来た。それを細めた瞳で見つめ、す、と人差し指を立てる。
「貴方の悪事はそうですねぇ……死んだことに、終わったことに気づいていないという事実」
『違う! 終わってなど――!』
「よろしいですか」
 影朧が上げた声をエルザの静かな声がスッと遮った。宵蔭と影朧、二人の視線がエルザに向く。前者は何ですか、と。後者は、警戒を露わにして。
「宵蔭様にはもう少し冴えのある推理を期待したいものです」
「え、種明かしになっていないですか?」
「宵蔭様はよく今まで路地裏で発見されずに日々を生きていたと私、感心しておりますわ。足はちゃんと生えておいでですか?」
「勿論、二本とも。お褒めいただき光栄ですよ」
 ――ああ。本当に楽しませていただきました。
 鮮やかな赤が細められていく様は、やわらかなのになぜか背筋や指先をちりっと刺激されるようで。そして刺激されたのだろう。影朧の眼差しが鋭くなるが、宵蔭は微笑むばかり。
「本当ですよ。エルザさんが働き者な事もよく知ることが出来た一夜ですから。……そして私は荒事より知的労働がしたいので」
 お願いしても?
 微笑む視線に、エルザはロングスカートをふわりと揺らし前に出た。
「それでは、今宵の舞台最後まで務めさせて頂きます」
 メイドの仕事はおはようからおやすみまで。
 きちんと最後まで片付けてこそ、メイドと名乗れるもの。
 廊下の端と端を繋ぐように犯人とメイドの視線が交わり――影朧の輪郭が揺らいだ瞬間、床を蹴った音が砲弾のように響いた。
 一瞬で迫る影朧にしかしエルザは表情を変えず、指先でくるくると銀のナイフを回転させて。一揃いのそれにかけていた封印を解くと同時、疾風の如く放った。
「貴方様の刃の相手は私ですわ」
『では死んでくれるのか』
「仕事中ですので、そちらは丁重に辞退させて頂きます」
 振り下ろされた軍刀からの衝撃波でナイフがぶわりと浮き上がり、勢いを殺されたナイフが音を立てて転がった。そして繰り出される次の斬撃――強く踏み込んだ影朧の目に、エルザの両手でバヂッと爆ぜた光が映る。
『電撃――!』
「ええ。メイドたる者、主の盾となり……そして、主を立てるものです」
 ナイフの次はサイキックの電撃拳と揮うものを冷静に切り替えながら、メイドは言う。
「荒事は引き受けますので、どうぞ知的労働に勤しんでくださいませ、宵蔭様」
 ここぞとばかりの名推理、期待しておりますわ。
 ――なんて期待の言葉をかけられたら、主として探偵として応えぬわけにはいかない。いざ、真実を語ろうか。ただ、真実というのはいつでも厳しいものだけれど。
「では、昔の傷を剔らせていただきましょう」
 刃と拳がぶつかり合う音を背景に、探偵が導き出すのは犯人が忌々しく思うもの――影朧となるほどの痛みを与えた真実のひとつであり、忌々しく思うもの。
「探偵、お好きでしたよね?」
 すらりと抜いた妖刀の刃に映るものが揺らぎ、溢れていく。
 形を得て宵蔭の前に立った存在に、影朧の右目がギッと見開かれた。
『貴様は……貴様は、あの時のッ!!!』
 現れたのは洋装の、年の頃なら40代か50代の男だった。
 整えた髭。ステッキ。紳士と形容するに相応しい男の顔が、影朧に向く。
 口が動くが何と言っているかはわからない。――だが、取り憑かれたように男を見る影朧にはハッキリと聞こえているのだろう。唇を震わせ、呼吸を荒くして。男が指を指した瞬間悲鳴に変わった。
 暴かれた計画。
 叶わなかった革命。
 あの日の屈辱、その再現に宵蔭は当時の経緯を垣間見た後、どうです? と振り返る。
「――流石は宵蔭様。このメイド感服致しました。……普段からこうして下されば」
「ほら、驚いてくれると張り合いが、ね」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

高塔・梟示
千隼(f23049)君と

館の構造は把握した
だが敵の居場所までは分らない
待伏せか打って出るか…どう思う、婚約者殿?

どうぞ、コートを彼女へ
扉の死角に身を隠し、目立たぬよう敵を待つ
死体の確認を合図に此方から仕掛けよう

素早くドロップテーブルで吊上げ
彼女の攻撃に合わせ
鎧砕く怪力載せた標識の一撃を叩き込む

攻撃は残像でいなし
包囲が縮まれば吹き飛ばす

探偵は何故差向けられたか
裏切りや、反乱分子の炙り出しという解釈もあった筈
そも護国の兵が市民に危害を加えては本末転倒だ
次はもう少し、よく考えるといい

見事解決かな、ちは――じゃない、千隼君
事件の為の役割でも、少しは名残惜しいもの
いっそ真実なら…なんて想いは胸に仕舞って


宵雛花・千隼
梟示(f24788)と

二人だもの、どちらもできるわ
コートを貸してね、旦那さま

隠されるようにワタシ一人が死んでいるだけでは
本命の探偵がいないと犯人も驚くでしょう
囮代わりに待ち伏せて
コートを剥がされるのが合図
触れないで

彼が吊り上げた敵へワルイユメを叩き込み
見切り躱して彼の傍へ、囲む亡霊を大手裏剣で散らし
動き合わせて攻撃を

アナタを暴いた探偵は真に敵だったのかしら
これだけの策を講じる御方
正しく手を組めば革命の近道となったでしょうに

覚えた音が馴染んでしまって
呼び名が戻れば名残惜しむように
ちはでも、良いわ
旦那さま――梟示、本当にされてみる?
なんて困らせてしまうのは悪い癖
一人で眠るのが好きでないのは、本当よ



 館の構造は把握すれど、影朧の居場所まではわからない。
 時が来るまで身を隠していなければ、発信機でも付けてどうにか出来たのだが。
 文字通り死ぬほど眠り、そして目覚めた梟示の頭に浮かぶ選択肢は二つだ。待ち伏せか、打って出るか。さて。
「……どう思う、婚約者殿?」
 向けた問いと視線に返ったのは、ふわりとしたやわらかな微笑。
「二人だもの、どちらもできるわ。コートを貸してね、旦那さま」
 二人一緒に死ぬよう殺した筈なのに、確認に来てみれば死んでいるのは婚約者の娘だけ。本命である探偵の死体がなくては、殺した側である犯人も驚いてしまうだろう。
 頷きと共にどうぞとコートを渡した梟示は、扉の死角、暗闇の内へと身を隠した。姿も気配も極限まで薄れさせた様は、ワーカーホリックだった頃の呼び名――死神そのもの。
 コートを利用し囮代わりに待ち伏せる千隼も、未来の伴侶を支える献身的な婚約者から忍の顔へと変わっていた。
 そして、探偵とその婚約者がいた部屋も。
 犯行現場だったそこは今、静寂と暗闇を湛えた罠へ。
 犯人として姿を現し、そして殺し損ねた探偵たちと幾度もの邂逅を経てきた影朧がやって来たのは、それから少し経ってからの事だ。
『…………』
 扉を開いたまま数秒。迷うような、立ち尽くすような気配を僅かにこぼした影朧の足が膨らみを持つコートに近寄り、空いている手で、そうっとコートに触れた。
「触れないで」
 死んだ筈の娘の声。
 頸部にかかった絞縄。
 ぐんっと上昇する感覚、一気に高さを増した視界。
 首の骨が折れそうな衝撃に耐えようとも、自重の加わった絞縄が容赦なく気道を塞ぎにかかる。かろうじて手放さなかった軍刀で絞縄を斬れば窒息死は免れるか。しかし。
『!?』
 歪みかける視界に舞う刃物。鋭い煌めきが描く幾何学模様は吊り上げられた体を斬り刻み、影朧の口から唸り声のような悲鳴が飛び出した。体が大きく揺れ、血が舞って――未だ手放していなかった軍刀の刃先が、ぐんっと床から天井へと向き直る。
(「切られたか」)
 ぶつんと途切れた手応えに梟示の心は冷静だった。何度切られようとあの世へ導く絞縄はいくらでも現せる。ひゅうひゅうと荒い息を繰り返す影朧が周囲に多くの同胞を出現させようとも、ここには婚約者殿もいる。
 一斉に放たれた銃弾は肉体ではなく壁に無数の穴を作り、たんっと隣に降り立った千隼に梟示は一瞬だけやわからな視線を向け、頷いた。千隼の手に大手裏剣が収まり、梟示の手が標識を掴む。
 向きを変えて押し寄せる波のように同志の霊たちが二人を捉えたのは、その直後。
 拳銃。軍刀。向けられるそれは殺意に満ちた壁だが、大手裏剣が横薙ぎで多くを散らし、細長い腕からは想像もつかぬ怪力で叩き込まれた標識が彼らを丁寧に葬っていく。
 室内に響く言葉はない。
 力を乗せた攻撃ひとつひとつが音を立て、場を支配する。
 がぁんと響いたのは残像という梟示を捉えた同志霊の数名が、梟示本人によって思いきり吹き飛ばされたそれ。壁に叩きつけられた彼らがふわりと消えれば、あれだけいた同志霊はすっかりいなくなっていて。
『探偵……探偵さえ、居なければ……』
 軍刀で床を突いて立ち上がる影朧の背に、鈴蘭洋燈の光が橙色の輪郭を生んでいた。その光は口惜しそうな影朧の顔もうっすらと照らし、心の内を二人に見せている。
「……アナタを暴いた探偵は真に敵だったのかしら」
『何を――!』
「これだけの策を講じる御方。正しく手を組めば革命の近道となったでしょうに」
 すると影朧の目が不思議なくらい丸くなったものだから、千隼はぱちりと目を瞬かせた。これを言われたのは今のが初めてではないらしい。
 影朧の反応から同じ事を梟示も推理し、そして告げる。
「考えたことはあるのか。“探偵は何故差向けられた”?」
『それは……』
「裏切りや、反乱分子の炙り出しという解釈もあった筈」
『同胞の中に裏切り者など……!』
 荒げた声が咳き込むそれに変わった。梟示は軽く手を挙げ、聞くくらいできるだろうと目で語る。
「仲間を信じるのは結構。だが、信じ過ぎるのは迂闊としか言えない。そも護国の兵が市民に危害を加えては本末転倒だ」
 そう、市民だ。腐っていると嫌悪し、正義の名のもとに排除しようとした上官も軍人たる彼らが護るべきひとつに違いなかったのに。
「次はもう少し、よく考えるといい」

 ――探偵は皆、同じ様な事を言う生き物なのか。
 激情の薄れた声をこぼし、軍刀から衝撃波を放って廊下へと逃走した影朧を、梟示は敢えて見送った。探偵は他にもいる。自分たちの役目を終え、後に繋いでおけば、全てはいずれひとつの糸になる。
「見事解決かな、ちは――じゃない、千隼君」
 終わりに近づきつつある今日限りの役割が、少し名残惜しい。
 いっそ、
「ちはでも、良いわ。旦那さま――梟示、本当にされてみる?」
 戻された呼び名を馴染んだそれへ引き戻すように。
 ほのかに笑んで困らせてしまうのは悪い癖。
 でもね、“旦那さま”。
「一人で眠るのが好きでないのは、本当よ」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
律儀なのは良いわね、嫌いじゃナイ

テラスの床を染めるワイン、割れたグラス
それらを足元に手摺りに腰掛け悠々と待ちマショ

死に損ないもそろそろ見飽きた頃かしら
アレだけの数、その刀で斬り伏せた方が早かったでしょうに
しかも残念なコトにね、殆どは『探偵』じゃあナイのよ
22人……だったかしら
殺して、ソレで本当に前へ進んだのかしら?

静かに、と指立てる仕草で右目を瞑る
その律義さと舞台の美しさに免じて喰らわないでおいてアゲル
そっと目を開き奔らせる「氷泪」の雷に
【天齎】の月夜の空色纏わせ相手を撃つわ

何があったかは知らないケド
力でしか語れなくなったモノを、誰が正義と胸張れるかしらネ
ま、アタシには関係がナイ話ダケド



「律儀なのは良いわね、嫌いじゃナイ」
 お疲れサマ。
 自分が毒殺された場所へやって来た影朧を見るなり、コノハは手を振って笑いかけた。足元には割れたグラスと床を染めるワイン。現場保全ってヤツ? なんて言って手摺に腰掛け、にっこり。
「死に損ないもそろそろ見飽きた頃かしら」
『……いや。そうでもない』
「へェ?」
『始めは驚いた。憤った。そのうちに“またか”となって……今は……探偵という生き物がよくわからなくなっている。何なんだ君たちは』
 職業ではなく生き物扱いされている事に、コノハはきょとりと目を丸くした。
(「まァ、アタシ含めて個性的な探偵ばかりだったデショーし」)
 きついお灸を据えた探偵。じわり染みる言葉を向けた探偵。きっと、色々なものと出会ったのだろう。影朧の負傷具合から見るに――自分より前に、相当数の探偵とやり合った事は明白。
「アレだけの数、その刀で斬り伏せた方が早かったでしょうに。しかも残念なコトにね、察してるでしょうケド、殆どは『探偵』じゃあナイのよ」
『そもそも死んでいた探偵がその筆頭か。……いや、そうじゃないか』
 探偵だとしても、一般人である以上は殺されたら死ぬ。だというのに、影朧が招いた探偵はそうではなかった。誰も彼もが黄泉から戻り、尋常ならざる力――ユーベルコヲドを駆使する者だった。
 そういうコト、とコノハは優しく目を細めて。それで、と影朧をじっと見る。
「22人……だったかしら。殺して、ソレで本当に前へ進んだのかしら?」
『なら、確認してみるか』
 構えられた軍刀から溢れ出す圧に、コノハは“静かに”と言うように指を立てる仕草をひとつ。右目も楽しげに瞑ってみせる。
「その律義さと舞台の美しさに免じて喰らわないでおいてアゲル」
 瞑った右目が開かれる。ほんのいっとき隠されていたそこに、音もなく生まれて弾ける軌跡を見せた雷――そこに深く刻んだ氷泪が創る輝きが、月夜の空色をふわり纏って輝きを増す。
 再び右目からぱちりと光が弾けた瞬間、影朧が軍刀を振り上げた。一秒にも満たない動作だったが、雷の疾さには叶わない。一瞬で貫かれた体が傾き、片膝をつく。
「何があったかは知らないケド」
 こつり。テラスに刻まれた足音から、上へ。心臓部分をぎゅっと押さえ見上げる影朧に、薄氷色の笑みが降る。
「力でしか語れなくなったモノを、誰が正義と胸張れるかしらネ」
 正義を語る上で必要なものは力だけではない筈だ。
 それを――影朧は、見つけているようにも思える。もしくは、導かれたか。
「ま、アタシには関係がナイ話ダケド」

 だって、ソコまで面倒見る探偵じゃナイもの。

大成功 🔵​🔵​🔵​

尾宮・リオ
明日川さん(f29614)と



行かれたみたいですね

軽く揺さぶられて起き上がる
パンパンと衣服に着く埃を払い
明日川さんの言葉に瞬きをひとつ
目を細めて、穏やかに笑って
考察くらいならいつでもお話しますよ

影朧は二人で迎え撃ち
カーテシーに倣って
探偵帽を挙げて挨拶を
物語の中に入るのは楽しかったですよ
殺される体験もね、と付け加え
腰の得物を抜いて構えた

──嗚呼、でも、
助手を、いえ、明日川さんを
殺されるのは正直、嫌でしたね

にっこりと
妖刀を持つ手に力を込めて
見据える影朧、狙うは首

だけど、

明日川さんが優しい人で良かったですね
彼女が救いたいと願うのなら、
僕もお手伝い致しますよ

さあ、物語はフィナーレです
パレヱドに幕引きを


明日川・駒知
尾宮くん(f29616)と
アドリブ、マスタリング歓迎

_
…行きましたでしょうか

むくりと起き上がり尾宮くんを軽く揺さぶりながら
「…さっきの考察、あとで続きを教えてくださいね」

犯人に関しては当然迎え撃ちます。
影朧がいらっしゃったなら、カーテシーにてご挨拶を。
睫毛が深く影を落とす眼がゆるりと貴方を捉え
同時に犬の咆哮が部屋を震わせる

──さあ、ヴァレンタイン。
共に参りましょう。

_

吹き荒ぶ攻撃の中
隙をついて影朧へ接近
非力ながら拳を相手の鳩尾へ
「…これは『尾宮先生』を殺した分です」

けれど思うの
貴方の正義は今尚曇っていないと
だから影朧ではなく『ひと』として
色々な方法を模索しませんか
私も…微力ながらお手伝いします



 ……行きましたでしょうか。
 行かれたみたいですね。
 視線でリオと言葉を交わした駒知は、むくりと起き上がると早速リオを揺さぶった。一応は死にたての身だ。銃殺されたという点も顧みて、力はあまり籠めず、軽くゆさゆさする程度に抑える。
『……さっきの考察、あとで続きを教えてくださいね』
 起き上がったリオは衣服に着く埃をパンパンと払い落とすと、駒知の言葉にぱちり、と瞬きをひとつ返した。目の前の少女は、真面目に返事を待っている。
 その様にリオは目を細め、穏やかに笑った。
『考察くらいならいつでもお話しますよ』

 そんな会話をしたのは、今から何分前だったろう。
 銃撃された部屋で影朧を出迎えたリオは、駒知がしたカーテシーでの挨拶に倣って探偵帽を挙げて挨拶した。
「物語の中に入るのは楽しかったですよ」
 殺される体験もね。付け加えた言葉と浮かべる笑顔には穏やかな色を、抜いて構えた妖刀には捉えきれぬ得体の知れなさを浮かべたリオに、妙に静かな表情をした影朧が『そうか』と呟いた。
「──嗚呼、でも、」
 カーテシーで睫毛が深く影を落としていた目が、ゆるりと上がっていく。
「助手を、いえ、」
 黒い瞳が、影朧を映して。
(「──さあ、ヴァレンタイン。共に参りましょう」)
 駒知の目に戦う意志が輝いた瞬間だった。


 オオオォォォオオオン――!


「明日川さんを殺されるのは正直、嫌でしたね」


 部屋中を震わす咆哮に犬の姿が揺らぐように重なって現れた。
 びゅ、と飛び出した死霊ヴァレンタインの牙が軍刀と火花を散らした瞬間、にっこり笑ったリオの手が妖刀を鋭く揮う。
 溢れる怨念を纏って笑む眼差しは影朧へ。
 刃が狙うは――その、青白い首。
 死霊の爪と牙。妖刀。軍刀。常人のスピードを遥かに超越したそれぞれが、嵐のように吹き荒び、それぞれの閃く様と共に、ッガ! ギィン! と甲高く響いた。
 そこへ、ヴァレンタインの咆哮がより大きな音となって部屋中をびりびりと震わせる。咆哮と共に軍刀に叩きつけられた獣の爪が刃を握り込むように押し、唸り声にかき消されそうなくらいか弱い音――ぱきっ、という小さな音をひとつ、影朧の耳に届けさせた。
『くっ……!』
 軍刀ごと捉えられては影朧の妖気による高速移動は叶わない。
 軍刀を捨てるか。それとも、このまま耐えて一瞬の機に賭けるか。
 表に現れた心身の揺らぎ。僅か数秒のそれを微笑浮かべたままのリオが、妖刀で以って斬り裂いた。すぱっと襟に刻まれた一本線の傷。その下から放射状に吹き出した血が壁紙を染めながら滴り落ちる。
『っぐ……!!』
 首を押さえ、バランスを崩した体に死霊の全体重が伸し掛かる――そうなってもおかしくなかった筈なのに、ヴァレンタインが僅かに身を引き、思わぬ出来事で影朧が転げるような体勢になる。
 そこへ。
「……これは『尾宮先生』を殺した分です」
『!!』
 荒れ狂うような攻防の隙をついて接近していた駒知の拳が、影朧の鳩尾に触れた。
 その威力はリオの斬撃やヴァレンタインの攻撃と比べれば非力だと、そんな事は駒知が一番よくわかっている。だが直に触れ、「けれど」と伝えずにはいられなかった。
「貴方の正義は今尚曇っていないと、そう、思うんです」
『――……、』
 影朧の口が開かれ、しかし何も言葉に出来ぬまま閉じていく。
 始まりは腐敗を憎み、正義を求める心だった。
 その過程と結果は――現在の通りなのだけれど。
「だから影朧ではなく『ひと』として色々な方法を模索しませんか。私も……微力ながらお手伝いします」
 いつの間にかヴァレンタインは駒知の傍でじっとしており、リオもまた、妖刀を揮う手を止めていた。駒知から自分へと、ゆっくり移ってきた視線に頷きながら笑いかける。
「明日川さんが優しい人で良かったですね。彼女が救いたいと願うのなら、僕もお手伝い致しますよ」
『……なぜだ。僕は、革命の邪魔になるからと、君たちを殺そうとしたんだぞ』
「なぜ? 僕たちが人間だから、でしょうか」
 人間だから過ちを犯すし、誰かが救われるよう手をのばす事もある。
 革命を暴いた探偵も、ただ企みを暴くだけでなく、そこに若き将校たちを救おうという意志があったのかもしれない。
 全ては変えようのない過去であり、全てを知る事は出来ないけれど。
 今ここに。目の前に、革命を願っていた影朧がいるならば。
「さあ、物語はフィナーレです」

 探偵たちの手で、パレヱドに幕引きを。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティア・レインフィール
念の為、最初に口に含む物は全て少量にしておいて正解でした
回復に長けた、お母様譲りの聖者の力に感謝すべきなのでしょうね

解毒を終えた後、庭園で待ち伏せし
背後からご挨拶をさせて頂きましょう

「こんばんは、良い月夜ですね」

驚かせた後、何故このような事をしたのか訊ねます

上層部の腐敗を正すのではなく、排除する
それもまた、方法の一つなのでしょう
私の故郷である世界も、支配する者を殺さない限り
救われはしないのですから

ですが、あなたは今夜、何の罪も無い人々を殺そうとした
そこに正義はありません
革命は、何の為に行おうと思ったのですか
守るべき人々の為ではなかったのですか?

彷徨える霊……魂の為に
悲愴の葬送曲を、歌いましょう



 ふぅ、とティアは穏やかに息を吐いた。
 鈴蘭館に来てからずっと「念の為」と最初に口に含む物は全て少量にしておいたが正解だった。それから。
「……お母様」
 ティアが持つ聖者の力は、回復に長けた亡き母譲りのもの。
 胸にそっと手を当て、目を閉じて口にするのは母への感謝だ。今はもう記憶の中でしか会えない母と同じ聖者の力が、自分を守り、未来へと導く光のひとつとなっている。
 そうして解毒を終えたティアは一人、庭園で影朧を待った。
 鈴蘭館の扉が見える位置にいれば、やって来た影朧に背後に回れる。目的は当然、
「こんばんは、良い月夜ですね」
 挨拶ひとつと微笑みひとつ。
 バッと振り返った影朧の手に――軍刀は、ある。しかし自分の背後を取ったティアにそれが向けられる様子はない。見開かれた目が静かに戻り、そっと佇む『シスターであり探偵』だったティアを映す。
『……最後に会う探偵が、君になるとは』
「驚かせてしまってすいません。……何故、このような事をされたのですか?」
『…………革命の為だ』

 ある日、上層部にしがみつく腐敗を知った。
 それに一人二人と憤る者が現れ、そして志を同じとする将校同士で集まり、どうすれば腐敗を正せるかを考え、話し合った。
 そして辿り着いた“革命”という解を現実とすべく行動を起こしたが、それは一人の探偵によって全てを暴かれ、失敗した――。

『だからこそ二度目の計画を立て、実行した。……結果は、君も知っての通りだが』
「ええ。上層部の腐敗を正すのではなく、排除する。それもまた、方法の一つなのでしょう」
『……同意を示されるとは思わなかった』
「私の故郷である世界も、支配する者を殺さない限り救われはしない世界ですから」
 微笑みと共に告げた言葉だが、はっきりと口にした“殺さない限り”というそれに影朧が僅かに目を瞠った。そこに同情や憐憫の言葉が続かなかったのは、影朧が変えようとした世界とティアの世界が違うと察したからだろう。
 ティアは少しだけ間を置いてから、微笑みを深めた。
「ですが、あなたは今夜、何の罪も無い人々を殺そうとした。そこに正義はありません。革命は、何の為に行おうと思ったのですか。守るべき人々の為ではなかったのですか?」
 弱者を想い成し遂げようとした革命が、無実の人々を殺す事で成り立つだろうか。
 革命が成された時、それを誇れるだろうか。
 手にした刀に恥じぬ魂を、持っていられるだろうか。
 問いかけるティアの眼差しはただただ静かで――それを受け止める影朧の目が、ふ、と和らいだ。
『……我々は、随分と前から道に迷っていたんだな』
 これが正しいと疑いもせず、愚直なまでに突き進んだ。
 そして何も成せずに全員死んで。
 一人現世に迷い込み、再びこれでいいのだと突き進もうとした。
「彷徨うのは、今日でお終いですよ」
 ゆくべき道は、探偵たちによって既に示されている。
 目の前にいる影朧の為、彼が志を同じとした名も知らぬ将校らの為。ティアが響かせた聖歌は舞い散る幻朧桜の花弁を撫で、軍刀を収めた影朧の魂にも優しく触れていった。穏やかに目を閉じた影朧の肉体が、はらはらと白く輝く花弁になってほどけていく。
『……迷惑を、かけた』
「そうですね。……いってらっしゃい」
『ああ。逝ってくる』

 生まれ変われたなら。
 今度こそは、弱き誰かの為に在る刀として――命尽きる、その最期まで。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年11月19日


挿絵イラスト