追憶の幻燈(作者 つじ
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●ラテルナマギカ
「ご覧あそばせ皆々様! 硝子の花が咲いていますわ!」
「すっげーですわ! わたくしてっきりガセだと思ってました!」
「ちょっと、言葉遣いが汚くってよ?」
 わいわいと声を上げながら、愉快な仲間の一団が、新たな不思議の国へとやってきた。旅人か何かから得た情報を元に、彼等は遥々ここまで引っ越してきたらしい。
 それもそのはず、映写機のような、カメラのような……正しく言うなら『幻灯機』が頭になったこの愉快な仲間達は、フィルム代わりのガラスを主食としている。この偏食ゆえに、これまでは多くの仲間と共に暮らすことは難しかったのだが、ここならば。「理想の場所を見つけた」と大喜びした彼等は、すぐにそこに居を構えることにした。
 開拓の滑り出しは順調、のように見えたが……。

「また……これを食べるんですのね……」
「仕方ねーですわ……わたくしたちでは上手に色硝子にできませんもの……」
 丸く咲いた大振りの花弁、レンズのようになったそれを、指先で摘み取る。この森に満ちた魔法によって、この硝子の花は、触れた者の思い出を映し出す力を秘めている。けれど何度も同じ記憶を描いたせいか、それとも食欲と言う雑念のせいか、彼等の手にしたそれは、のっぺりとした斑模様になってしまった。
「こうなると……味がしないんですのよね……」
「畜生ございます……」
 空腹は埋められるが、それだけ。量とは別の食糧問題にぶち当たり、彼等の開拓作業は早速暗礁に乗り上げた。

●メモリアシネマ
「悠長な話に聞こえるかも知れないが、『味』と言うのはそれだけ大事なものなのだよ」
 うんうんと、勝手に共感したように頷きながら、八津崎・くくり(虫食む心音・f13839)は、その入植者達の話を続ける。アリスラビリンスで発見された新たな国、前途多難な彼等の新天地。そこに手を貸してあげて欲しいのだと。
「諸君等ならば、この魔法の森で、綺麗な思い出の描かれたガラスを作る事ができると思う」
 今のところ、まだやり方は確立されていない。『花を摘む際に思い出をはっきりと頭に描く』という手段が一般的だと思われるが、時に予想もつかない、記憶の奥の光景が描かれることもあるとか。
 どんなものにせよ、丁寧で精彩な硝子を仕上げれば、彼等はきっと喜んで、やる気を出してくれるだろうとくくりは言う。
「ちなみに、彼等には『食べたガラスに描かれた光景を、一時的に実体化できる』という不思議な力を持っている。ご飯を奢ってあげれば喜んで披露してくれるだろう。ある種の役得だと思って、楽しんでほしい」
 思い出の光景を追体験、または誰かと共に見ることができる。きっと愉快な仲間達も興味津々だろうから、その光景について語ってあげるのもいいだろう。そうして彼等の悩みを解決して、仲良くなって――。

 ――ここからが本題だ、とグリモア猟兵は声のトーンを落とした。もちろん、ただのお手伝いで終わる話ではないのだから。
「私の見た予知では、この国にオウガが現れる」
 その対象は、便宜上『アリスラビリンス症候群』と名付けられている。実態はあるが実体はない、他の生き物の記憶や認識、深層心理、そういった頭の中を自在に歩き、掻き乱すことの出来る奇妙な手合いだ。その在り方から『悪性概念』などと呼ばれることもあり――。
「通常ならば、相対する事すら難しい相手だよ。けれど、ね……」
 この国には記憶を描き出すガラスと、それを実体化できる愉快な仲間が居る。心に、頭に、潜む彼女を、引きずり出すことが出来るはず。
「この国の魔法と、この国の住人、彼等と協力して、オウガを撃退して欲しい」
 頼んだよ、諸君。そう告げて、くくりは一同をアリスラビリンスへと送り出した。


つじ
 今回の舞台はアリスラビリンス、硝子の花の咲く森です。

●愉快な仲間『ラーテル・ナ・マギカ』
 頭が映写機のようなものになった、燕尾服の男性、といった見た目をしています。フィルム代わりのガラスを食べて、そこに描かれた光景を一時的に実体化するという不思議な力を持っています。
 OP冒頭の事情もあって猟兵達には好意的。
 また、主食が綺麗なガラスなので、言葉遣いがとても綺麗ですわよ。

●第一章
 愉快な仲間の食べ物を兼ねた、幻灯機用のレンズ作りです。
 硝子の花の咲く森で、思い出の描かれた硝子を作成してもらいます。この国に満ちた魔法により、『花弁を摘む際に思い出をはっきりと頭に描く』ことで完成しますが、他の方法でも実際に描いても何でも構いません。
 別に思い出を食べさせたからと言って、頭の中から消えたりはしませんのでご安心を。

●第二章
 美味しい硝子を食べた愉快な仲間は、劇場のような作りの家で、その力を披露してくれます。
 第一章で描いた光景、人物などが一時的に実体化しますので、もう一度それを楽しんだり、誰かとそれを共有したり、愉快な仲間と語らったり、ご自由に過ごしてください。

●第三章
 第二章で実体化した光景の中に、オウガである『アリスラビリンス症候群』が紛れ込みます。
 潜む彼女を見つけ出し、実体化している内に撃破してください。

 以上になります。それでは、ご参加お待ちしています。
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第1章 日常 『硝子の魔法』

POW大きく、鮮やかに!
SPD時間をかけ、丁寧に
WIZ儚く、繊細に
👑5 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


花邨・八千代
ガラスって美味いんか?いや流石の俺でも食わんけど
俺、べっこう飴なら食えるんだけどなぁ

……ちょっと齧っても…いや、ぬーさんに怒られるな…

よくわからんけど花摘みすりゃいいんだろ
なんだっけ、思い出をしっかり頭ン中で描くんだっけ
そうだなァ、じゃあとびきり楽しいのを食わせてやろう!

俺の、楽しい団地仲間との思い出だ!
姉貴分なピンク頭の羅刹に、料理上手な眼鏡のドラゴニアン
キレ散らかすと面倒な紳士とでっかくて大らかな筋肉わんこ!
他にももっと居るし、どいつもこいつも楽しくて良い奴らだぞ
よく一緒に遊ぶんだぜ

あとな、俺の大事な家族
おっかないくらい綺麗な薬屋に、かぁいい宵桜の人魚

……なんか食わせんの惜しくなってきたな


●仲間達
 硝子の国の幻灯機。ここの愉快な仲間達は、お腹を空かせているわけではないけれど、確実に美味しい食事に飢えていた。
「あぁッ、ごきげんようお嬢様!」
「来ましたわ! 救世主サマですわよ!!」
「うお……すげぇ歓迎ぶりだな」
 そういうわけで、外からの助っ人である猟兵……花邨・八千代(可惜夜エレクトロ・f00102)は快く、引くくらい熱烈に迎え入れられた。
「ガラスって、そんなに美味いんか……?」
 流石にそれは食べた事ない、と八千代が首を捻る。想像するに、食感はべっこう飴みたいなものだろうか。
「あらご存じありませんの!?」
「彩られた硝子の味は千差万別、その色合いや組み合わせ、込められた情景が独特の風味を醸し出して――」
「はーん、なるほどな……?」
 分かるような分からんような。視覚と味覚を混ぜたような解説をされても実感は湧かない。こういう場合は実際に食べてみるのが早そうな気がするのだが。
「……いや、ぬーさんに怒られるか……」
 誰かさんの呆れ顔が頭に浮かんだか、思い止まった。

 とにかく、愉快な仲間達の案内に従って、八千代は硝子の花の咲く森に踏み込んでいった。彼女の知る『普通』の森に比べて、硬質な印象を受ける光景。樹皮の色も、葉の緑もどこか煌めいて見える。そして、足元には目的のもの、透き通った花弁の花が無数に咲いていた。
「よくわからんけど、これを摘めば良いんだよな?」
「その通りですわー!」
「頭の中に良い感じの光景を描いていただければ、良い感じのガラスになりましてよ」
「肝心な所が雑じゃね……?」
 まぁいいか、と呟いて、八千代は透明な花の一輪と向き合う。適当に、でもどうせだからと大輪のものを選んで。
「そうだなァ、じゃあとびきり楽しいのを食わせてやろう」
 それに向かって、手を伸ばした。

 頭に描くのは、仲間との思い出。こことは別の世界にある集合住宅。
 姉貴分なピンク頭の羅刹に、料理上手な眼鏡のドラゴニアン。キレ散らかすと面倒な紳士とでっかくて大らかな筋肉わんこ。深く考えずとも、それぞれの姿に、重ねた思い出は鮮やかに浮かび上がる。あいつもこいつも、団地の面々はまだまだ居るし、何よりも、そう。大事な家族が居る。
 おっかないくらい綺麗な薬屋に、かぁいい宵桜の人魚――。
「……へえ」
 そうして摘まみ上げたそれを、八千代は木漏れ日に透かして見る。不思議なもので、そこには頭の中に浮かべた面々の姿が、色鮮やかに描き出されていた。
 何かの記念写真のようにも見えるそれを、しばし眺める。じっと見て、試しに角度を変えて、それぞれの顔を一つ一つ見比べて。
「……なんか食わせんの惜しくなってきたな」
「え!!」
「そんな精彩にできてるのに! 鬼ですの!?」
「持ち帰りたいのでしたらもう一枚作ればよろしくなくなくて!?」
 そういうことじゃないんだよなあ、どうしよっかなあ。鬼っていうか羅刹だしなあ。
 わたわたし始めた愉快な仲間達を置いて、彼女はもう少し思索に耽ることにした。
大成功 🔵🔵🔵

エンジ・カラカ
ハロゥ、ハロゥ
愉快な仲間タチー。
元気元気ー?オナカスイター?

コレと賢い君が美味しいモノをあげようそうしよう。
とってもとーってもオイシイヨー。

思い出を思い浮かべる。
賢い君と牢獄で遊んだ思い出。
毎日、毎日、二人で追いかけっこをして
捕まった方が次の日に鬼をやるンだ。
コレはオオカミ。
オオカミはとーっても速い。

賢い君がいつもいつも鬼をしていたケド、たーのしかったなァ。
色んな邪魔も入ったケド、君はとーっても強かったカラ
そんなの気にしなかった。
コレも気にしなかった。

たーっくさん走ったらマズイご飯を食べて
それからシロツメクサの花冠を作るンだ

どうだ?オイシイご飯になるカ?
ちょっと辛いだろうそうだろう?
うんうん。


●牢獄の中の
「ハロゥ、ハロゥ。愉快な仲間タチー」
「あらあら、ごきげんよう猟兵さん!」
「元気元気ー? オナカスイター?」
「ええ、それはもう、とってもハラペコでしてよー!」
 異様に反応の良い彼等の様子に満足げに頷いて、エンジ・カラカ(六月・f06959)は硝子の花の咲く森に降り立った。
「それなら、コレと賢い君が美味しいモノをあげようそうしよう」
「イエーイ! 待ってましたわお嬢様ー!」
 とってもとーってもオイシイヨー、とそんな風に宣伝しながら、エンジは透明な花弁に指先で触れた。頭に思い浮かべるのは、かつての光景、牢獄の記憶だ。他の誰かからは薄暗い灰色に見えたとしても、彼にとっては色鮮やかな思い出がいくつもある。たとえば、追いかけっこ。『賢い君』と一緒に、毎日、毎日遊んだ記憶。
 捕まった方が次の日に鬼をやる決まりで、いつもいつも賢い君が鬼になっていた。何しろ、オオカミはとーっても速いから。
 二人の『遊び』には色んな邪魔が入ったけれど、君はとても強かったから、気にならなかった――いや、気にしなかった。
「たーのしかったなァ……」
 そう、楽しかったのだと、思い返す。
「たーっくさん走ったらマズイご飯を食べて、それからシロツメクサの花冠を作るンだ」
 目を開ければ、そうして過ごした日々を映し出したように、硝子の花弁が色付く。それがどんな日常であれ、その先に待つのが何であれ、それは大事な記憶を写し取った一枚。
「どうだ? オイシイご飯になるカ?」
 完成したそれを、しばし見つめた後、エンジは後ろで待っていた愉快な仲間達へとそれを手渡した。
 おお、と感嘆の声を上げて受け取った硝子を、彼等は日に透かすようにして確かめる。
「アァ……もしかしたら、ちょっと辛いカモ?」
「……ええ、そうですわね、きっとそう」
 真ん中は優しい色合いで、舌触りは甘く柔らかいけれど、きっと底にあるのは――。
「でもきっと、美味に違いありませんわ。大事に食べさせていただきますわね」
「……何かしんみりしてますけど、アナタもしや独り占めする気ですの?」
「ハー!? 受け取ったのはわたくしでしてよ当然でございましょ!」
 何やら愉快な仲間同士で始まった奪い合いを放って、エンジはうんうんと頷いた。

 もう一度振り返った日々は、やはりどこか、舌に痛い。
大成功 🔵🔵🔵

ユヌ・パ
変な言葉遣いね、と、面と向かっていうのはやめておくわ
一生懸命なのはわかるもの
あたしも普段から仏頂面だし
笑顔は無理でも、礼儀正しくする努力

……これ
つくるのに『思い出』が必要なの?
じゃあダメね
あたしの記憶のほとんどは、もう相棒(オウガ)に喰わせてしまったもの
肉も名前も、なにもかも
ぜんぶ、オウガにくれてやるのよ
そういう契約なの

それでも、他人がつくった硝子の方が味がするっていうなら
やるだけやってみるけれど……


何を想い描けばいいかもわからないから
とりあえず丁寧に花弁を摘んでいくわ

きっと描かれるのは、記憶の奥の光景
果たしてそれが上映されたとして
あたしは、あたしの想い出と認識できるのかしら……

アドリブ連携可


●奥底の
「……これ、つくるのに『思い出』が必要なの?」
 足元に咲く、透明な硝子の花を指差して、ユヌ・パ(残映・f28086)が愉快な仲間達に問いかけた。花弁を摘めば、それは触れた者の記憶に応じて色を付ける。この国に満ちた魔法は、確かそんなものだという話だが。
「その通りですわ、お嬢様!」
「お嬢様の思い出こそが! わたくし達の美味しいごはんになるかもしれませんことよ!!」
 彼等の回答を聞いて、ユヌは一つ頷いて。
「じゃあダメね」
「ダメ!?」
「ご無体ですわ! ももももしかしてわたくし達の何かがお気に召さなかったとかそういう……!?」
 まあ、強いて言うなら言葉遣いが気になるが、とりあえずそれは置いておく。
 ――恐らく上品であろうと努力しているのだろう。そうした思いは、わからないわけではないのだ。例えば、笑顔は無理でも、普段の仏頂面を変えられないとしても、せめて礼儀正しくあろうとするような。
「そうじゃないわ。ただ……あたしの記憶のほとんどは、もう相棒に喰わせてしまったもの」
 生前の彼女に憑りつき、今なお共に在るオウガ。契約によって、ユヌはそれに全てを与え、喰わせてきた。肉も名前も何もかも、思い出だってそのうちの一つだ。
「そんな……わたくし達より先に食べてしまっただなんて……!」
「ちょっとくらい残しておいてくれてもよろしいのではなくって!?」
「あたしに言われても……」
 嘆き悲しむ彼等は、やはりそれでも諦めがつかないようで。食べ切れていないものがあるかもしれない、それか直近の記憶なら、などと食い下がってきていた。
「そこまで言うなら、やるだけやってみるけれど……」
 彼等を納得させる意味合いも含めて、ユヌはとりあえず花弁を摘んで見る事にした。
 とはいえ、何を思い描けば良いのやら。まとまらないままに、いくつかの花弁を千切って、掌に乗せていく。
「……?」
 何枚か重ねたところで、透明だったそれが、いくつもの色に染まっている事に、彼女は気付いた。同時に、はらはらとそれを見守っていた愉快な仲間達もそれを察して。
「ご覧あそばせ! お嬢様がやりましたわ!」
「よっしゃぁザマーミロでしてよ!!」
「ちょっと! 言葉遣い!!」
 歓声だか何だかわからない声を上げ始めた彼等を他所に、ユヌは色付いた硝子の一つを、眼前へと持ってきた。
「これが、あたしの……?」
 確かに、いつかのどこか、一つの光景が描き出されている。『見覚え』はない、けれど、確実にそれは彼女の裡から生まれたもの。その中に身を置いた時、何を思うのか、それとも何も感じないのか、それは試してみるまでわからない事だろう。
 『硝子に描かれた光景を実体化する』、そんな力を持つ彼等に、ユヌは視線を移した。
大成功 🔵🔵🔵

鈍・しとり
味はたいせつよね
かわいそうに
異界の民に深く共感し
ごちそうしてあげるわ、と記憶を探る

いっとうの美味はやれないけれどー

探らずとも常に在る一つの情景は胸に秘め
代わりにと頭に描くのは懐かしい昔話
もう一度口にしたくなる程には甘い思い出

夏の夜に人に化けて潜り込んだ『蛍祭』
真夜中に木漏れ日色に光る奇妙な虫の、
夜見てこその美しさ

甘い川にも光がおちて
天の川が地に流れたような一夜だった
あの色がもう一度見たいわ

言いながら、同時に祭の音楽や踊り、
賑やかな村人の笑い声も思い浮かべて

爪先で壊れそうな硝子の花をそっと摘み
私も味見してみようか知ら、
と愉快な仲間を慌てさせながら

どうぞめしあがれ


●火垂るの
「そう……味はたいせつよね」
 かわいそうに、と。愉快な仲間達の直面した惨状に、深い共感を示して鈍・しとり(とをり鬼・f28273)が頷く。なればこそせめてもの手助けを、ごちそうしてあげようと、彼女は記憶を探りはじめた。
 実のところ、探るまでもなく目を閉じれば浮かぶ情景が、しとりには在る。彼女からすれば、それはいっとうの美味。けれど、分け与える気にはならないもので。胸に秘したそれに代わるものをしばし求めて、彼女はやがて一つ、昔話を探り当てた。
 一番、とは言えないまでも、それはもう一度口にしたくなる程には、味わい深い思い出。

 『蛍祭』と言ったろうか、人々の興ずるそれに、人に化けて潜り込んだ、ある夏の夜の記憶。
 木漏れ日色に光る奇妙な虫も、真夜中に見れば、揺らめき踊る光の珠のよう。彼等の求める甘い水にも光が落ちて、天の川が地に流れたような、美しい光景だった。
「――あの色がもう一度見たいわ」
 ほう、と溜息に混ぜてそう呟いて、しとりは硝子の花弁へと指を伸ばした。
 一度紐解いた記憶は、それを待ち侘びていたように次々と溢れ出す。祭の音楽や踊り、村人たちの笑い声、あの日見聞きしたものを手繰るに任せて思い浮かべ、透明な硝子をそっと摘まんだ。
 爪先で触れたそれ――無垢に透き通り、少し間違えば壊れてしまいそうな繊細な硝子は、彼女の描き出した光景を映し、あっという間に染まり行く。蛍と星々、そして人々の灯す明かり。小さな無数の光を映し込んだそれを、しとりはとくりと眺めて。
「不思議な事。……ひとつ、私も味見してみようかしら」
「え、お待ちになって!」
「つまみ食いはお行儀が悪くってよ!?」
 驚き慌てる愉快な仲間達の様子にその眼を細めてから、彼女は掌に乗せたそれを差し出した。
「どうぞめしあがれ」
 ほっと安堵の息をついたらしき彼等は、お礼を言って大事そうに、思い出の硝子を受け取る。
「有難う存じ候ですわー」
「綺麗ですこと、一体どんな味がするのか、今から楽しみでしてよ」
 ええ、きっと、甘いでしょう。そんな風に答えて、角持つ彼女は微笑んだ。
大成功 🔵🔵🔵

エドガー・ブライトマン
へえ~、ガラスの花が咲いているんだ
ココはなかなか不思議な、変わった森らしい
今回の旅も楽しいことになりそうだ

オスカーも腹が減ったのかい?
この森にキミがスキそうな虫はいるかなあ
ラーテル君を見かけたら聞いてみよう

暫く森を歩いて進むよ
私はウロウロするのが得意なんだ
キレイな花を見つけたなら、それを摘んであげよう
……ああ、思い出を頭に描くんだったね
ウーン、それはニガテだったりして

思い描くのは先日訪れたアイスの国
正直ハッキリとは覚えていないけれど
キレイなオーロラと、愉快な住人のコトならね
甘い匂いとどこかゆるいカンジが印象的だった
かれらは元気にしているかなあ


あ、忘れてた
ねえラーテル君、この森に虫っているかい?


●氷菓の国の
 硝子の森に降り立ったエドガー・ブライトマン(“運命”・f21503)は、そこに広がる光景に感嘆の声を上げた。
「へえ~、ガラスの花が咲いているというだけあるね」
 森の木々に、下草、どこか硬質な感触で、光を反射するそれらは、精巧な細工物のようにも見える。
「ココはなかなか不思議な、変わった森らしい」
 探索し甲斐の在りそうで、きっと楽しい旅になるだろうと彼は頷く。その肩に止まったツバメが忙しなく辺りを見回すのを察して、エドガーは旅の道連れである彼にも声をかけた。
「オスカーも腹が減ったのかい? この森にキミがスキそうな虫はいるかなあ」
 住人に出会ったら聞いてみよう。そんな風に決めて、エドガーは興味を惹かれるままに歩き始めた。
 行く当てはないけれど、きっと問題はないだろう。彼はうろうろするのが得意だと自負しているし、それでも必ず行き当たるのが王子様というものだ。
「――なるほど、これがそうかな?」
 花畑から外れた場所で、一つだけ咲いた大輪の花を見つけて、エドガーは足を止めた。
「……ああ、思い出を頭に描くんだったね」
 事前に説明されたやり方を思い出し、苦笑する。それは、彼にとって苦手分野と言うほかない。左手で摘めばまた違うのかも知れないが、きっと彼女は、それを分け与えてはくれないだろう。
 透き通り、木漏れ日を反射するその花へ、何とか記憶のページを手繰りながら、エドガーはその手を伸ばした。

 思い描くのは、先日訪れたアイスの国。
 薄れてしまった、どこか朧げな記憶の中にも、綺麗なオーロラと、愉快な住人のコトは残っている。それから甘い匂いと、どこかゆるい雰囲気。かれらは元気にしているかなあ、なんて思いながら、彼は花弁を手に取る。
 白く、青く、色付いて、透明だったそれを見れば、瞬く間にあの国の情景が描かれていた。
「いや、すごいな。そうそう、確かこんな風だった……よね……?」
 感嘆の声が疑問符に呑まれる。この雪だるまみたいな住人は、こんな無闇に大きかったっけ?
「あらーー、いらしてたのねお嬢様!」
「あ、ああ、キミがラーテル君かい?」
 結構背が高いんだね、などと言いながら、エドガーは森の中から出てきたこの国の住人へと向き直る。
「まあ! その硝子のお花、めちゃめちゃ綺麗に出来てますわね! いただいてもよろしくて!?」
「もちろんだよ、そのために造ったものだからね――」
 しばしお喋りを楽しんだところで、ツバメに一つ突かれて、「そうだ忘れていた」とエドガーは彼等に問う。
「ねえラーテル君、この森に虫っているかい?」
「そうですわねえ、森の奥の方に、ビーダマムシが居ましてよ」
「なるほど……それ、もしかしてガラスで出来てたりしないかい?」
 オスカーにも食べられるやつだと良いのだけど。そんな風に首を捻りながら、エドガーは愉快な仲間の案内に従って散策を続けた。
大成功 🔵🔵🔵

九之矢・透
食の楽しみってな大重要問題だもんな!ウン
いっちょ力を貸してやろーじゃねーの、……で、ございますわよ
どうせなら楽しい思い出とかの方が美味そうな気がするけど
思い出……思い出でございますか

少し前に誕生日があって
おチビ様たちにお祝いしてもらった事がございますの

貧しいお家ですゆえ、
ケーキ等はなくて、僅かなクッキーと新鮮なお水でお祝いしたんですのよ
その代わりたくさん一緒に遊んで、たくさん話して……

……そしていつか、怪談大会になっていったのでございます……
井戸から這い上がってくる女のヒトの話とか
深夜0時に合わせ鏡を見ると13番目に自分の……とか!!

あっ、今摘んじゃったんだけど
どんな味になんのコレ?


●誕生日の?
 食の楽しみ方とは大重要問題である。この国の住人を襲う事態に理解を示して、九之矢・透(赤鼠・f02203)は気合を入れ直す。
「いっちょ力を貸してやろーじゃねーの、……で、ございますわよ」
「さすがですわお嬢様!」
「お言葉遣いがマジ美麗でございましてよ!」
 声援を送る愉快な仲間達の案内で、彼女は硝子の森の中にある、花畑へと足を踏み入れた。
「やっぱり楽しい思い出の方がウマ……えー、おいしゅうございますの?」
「そうとは限りませんの。でも、楽しい思い出だとハッピーなお味になりやすいでございますわ」
 わかるようなわからんような。とりあえず最近あった楽しい思い出を、頭に描きやすいよう彼女は声に出してみる。
 どの花弁を選ぶか、指先を迷わせながら――。
「少し前に誕生日があって、おチビ様たちにお祝いしてもらった事がございますの」
 それは先月の事、家族と一緒に過ごした日。
「貧しいお家ですゆえ、ケーキ等はなくて、僅かなクッキーと新鮮なお水でお祝いしたんですのよ」
 まあ素敵ですわね、と合いの手が入る中、透は話を続ける。食べ物は質素かもしれないけれど、その代わりたくさん一緒に遊んで、たくさん話して。そんな様子を思い返せば、彼女の口元も綻んでいく。
「……そしていつか、怪談大会になっていったのでございます……」
「……なんですって?」
 雲行きが怪しくなってきた。
「最初に誰が言い出したのか……井戸から這い上がってくる女のヒトの話とか、深夜0時に合わせ鏡を見ると13番目に自分の……とか!!」
 くわっと目を見開いた彼女の手には、摘み上げた硝子の花弁が握られていた。

 そこで、ふと我に返る。
「……ん?」
「お嬢様……」
 微笑ましい思い出話、だったと思う。しかし、花弁を手にしたのは、果たしてどのタイミングだっただろう。いやいや、その時の頭の中を映し出すとはいえ、そんな、まさか。話の序盤で摘んでたかも知れないし。
 あえて思考を逸らしながら、硝子に描かれたものを確認しようとしたところで、愉快な仲間の一人がそれを両手で覆ってしまった。
「えっ……?」
 見ない方がよろしくってよ。そんな調子で、彼は首を横に振る。
「きっと、おどろおどろしくて、びっくりする味になってますわよ」
「いやいや待って、それどういう――」
 顔を引き攣らせる透を促すように、愉快な仲間達はゆっくりと歩き始めた。
「お嬢様……実はわたくし達、この手のものを実体化するときに『本物』を呼び込んでしまうことが……」
「待って! その上に盛ってくるの!?」
大成功 🔵🔵🔵

祓戸・多喜
流石のアタシも硝子の味は分からないし!
でもなんかお嬢様?な愉快な仲間が困ってるならいい味になるようにお手伝いしないと。
…お嬢様?執事?何だか見た目と言葉で違和感あるけど気にしなーい!

そんなわけで想い出頭に浮かべつつ硝子の花を摘んでいくのよ!
思い浮かべるのは愉快な高校生活!あと半年ちょっとだけれども過ごしてきた時間は楽しかったし。
街でショッピング行ったり、スイーツ楽しんだり。浮かれてキャンプ云った思い出も…とか一つ一つ思い浮かべ毟り毟り。
水着も新調したし今年も海で遊びたい…卒業した後も連絡とり合って遊びに行けるようなままでいたいし。
フツーのアタシの想い出、口に合うかな?

※アドリブ絡み等お任せ🐘


●高校生活の
 困っている、という愉快な仲間達の悩みを聞いて、祓戸・多喜(白象の射手・f21878)は快く、硝子の味の改善に手を貸すことにした。
「流石のアタシも硝子の味は分からないけどね!」
 ついでに言うならこの愉快な仲間達の性別もよくわからないけれど、それはそれで、この世界では珍しくもない。そのあたりは気にしないことにして、彼女は硝子の森の中に咲く、透明な花弁を摘み始めた。大振りの花弁も、彼女の手に乗ると小さく見えるもので。
「これが思い出、かあ……」
 摘まれたそれ、色付いた硝子をしげしげと眺める。多喜が思い浮かべ、硝子に映し込んだのは、これまでの高校生活の記憶だった。
 残り半年ちょっとで終わってしまうけれど、ここまで積んできた経験は、思い返すだに愉快なもの。
 ショッピングに、スイーツの食べ歩き、そういった街の思い出に限らず、浮かれてキャンプに行ったことだって。一つ一つ、アルバムのページを捲るようにしていくと、自然とこの先へと意識が向く。水着も新調したし、今年も海で遊びたいし……。
「卒業した後も連絡とり合って、遊びに行けるようなままでいられたら……」
 高校生活が終わっても、これでおしまいになんてならないように、地続きの明日にそう願いを込めて。摘み取り重ねた色とりどりのそれらを、彼女は愛おし気に見つめた。
「フツーのアタシの想い出、口に合うかな?」
 食べさせて、なくなってしまうのは惜しいけれど。そんな風に呟きながら、多喜は森を後にする。
 きっとあの、妙な口調の愉快な仲間が、お腹を空かせて待っているだろうから。
大成功 🔵🔵🔵

リンデ・リューゲ
幼馴染のヨル(f14720)と

きみと重ねた思い出は沢山あるけれど
真っ先に浮かぶのは出会った日

確か村の傍の森で迷子になったんだ
弱虫を治したくて
一人で森の奥の菩提樹に会いに行こうって
でも歩いてる内に陽が落ち始めて
帰り道も分からなくて途方に暮れて

今でも瞼の裏に焼き付いてる
座り込んだ俺の前に現れた光
きれいな翅の彩
その温かさに泣いちゃったんだ

目を開ければ変わらずそこに居る俺のヒーロー
思わずにへら笑って
人差し指でよしよししちゃう

んーどうだろ
ちゃんと思い出が詰まってるといいな
どんな味がするんだろ

え、俺こんな感じだった?
でもその喋り方かわいーじゃんですわよ
ねー?

ほら、めしあがれ
とっておきのきらきらをきみたちに


ティヨル・フォーサイス
リンデ(f14721)と

思い描くだけでできるなんて、なんだか不思議

浮かべるのはもちろん、故郷の景色
菩提樹を祀る森と近くの村
穏やかで、明るくて
私の世界は森の中にあった
友人たちと花の蜜を集めて
幼い迷子のリンデを見つけたのはそんな時

こちらに伸ばされた
今に比べればとても小さな手のひらを思い出したところで花弁を摘む
これでいいのかしら?

リンデ
な、なに?
ちょっと、またおにいちゃんごっこ?

ちゃんとできたの?
食べてみてもらわないとわからないけれど
きっと大丈夫よ

私の真似したリンデみたいな喋り方ね
こんな感じでしたー
呆れたように答えて

……どう?

めちゃくちゃな口調にちょっと笑ってしまいながら
よかった、大事な思い出だもの


●二人の出会いの
 一口に森の中とは言っても、故郷のそれとは、やはり随分と様子が違うもの。木漏れ日を反射する硬質な木々の合間を歩きながら、リンデ・リューゲ(・f14721)とティヨル・フォーサイス(森のオラージュ・f14720)は同じ場所の事を思う。
 リンデにとっては村の傍の、ティヨルにとっては故郷そのもの、菩提樹を祀る森。かつてその場所で、二人は出会った。

 弱虫を治したいと、一人森の中の菩提樹を目指した少年は、道に迷い、途方に暮れていた。陽が落ち始めれば、森の中はあっという間に様子が変わる。目印を見失い、行く道も帰る道も分からなくなり、彼はやがてその場に座り込んでしまった。疲労と不安、それから孤独。迫り来る夜の気配に怯えながら膝を抱えたそこで、少年は温かな光を見つけた。
 妖精は、穏やかで明るい森の中に住んでいた。彼女にしてみれば、広くて安心できる故郷。けれどその日、友人達と花の蜜を集めた帰り道に、幼い迷子を見つけた。こちらに向けられた瞳に、涙が滲んでいるのに気付いて、放っておく事なんて出来なくて。おずおずと伸ばされた小さな手のひらをよく覚えている。

「――これでいいのかしら?」
 あの掌よりは、小さいだろうか。両腕で引き抜いた硝子の花弁を抱えるようにしながら、ティヨルはふわりと浮かび上がって、一緒に花弁を摘んでいたリンデの方を振り返った。丁度こちらに目を向けていた彼と、視線がぶつかる。
「な、なに?」
「いや、何でもないけどさ」
 すると、あの頃よりもずっと大きくなった掌が伸びてきて、その指先が髪に触れた。
「……ちょっと、またおにいちゃんごっこ?」
 されるに任せて、けれど不満気にそう返すが、当のリンデはゆるい笑みを浮かべたまま。
 彼の手にもまた、硝子の花弁が握られている。そこに映し出されているのは、忘れる事の出来ない、あの日見たもの。あたたかな光、きれいな翅の彩。一人きりの暗がりを照らしてくれた、少年にとってのヒーローは、今もこうして傍に居る。
 頭を撫でる指先、放っておくといつまでも終わらなそうなそれから一度逃れて、ティヨルが問う。
「良いけど、そっちはちゃんと出来たの?」
「んーどうだろ、出来てるとは思うけど――」
 ちゃんと思い出が詰まってるといいな、と呟いて、リンデはレンズのようになったそれを、もう一度覗き込んだ。
「でもこれ、どんな味がするんだろ」
「それは食べてみてもらわないとわからないけれど……きっと大丈夫よ」
 大事な思い出だもの。腕の中の硝子が、あの日の光景を映し出すのを見て、ティヨルはそう微笑んだ。

「まあ、花弁を採ってきてくれたんですの?」
「感謝感激喜びの極みですわー! マジ感謝でしてよお二人ともー!」
 摘んできた花弁を手渡したところ、愉快な仲間達は飛び上がらんばかりの大喜びで感謝の意を伝えてきた。どういたしましてと返すリンデのやや後ろで、ティヨルは思わずと言った調子で呟く。
「私の真似したリンデみたいな喋り方ね」
「え、俺こんな感じだった?」
「こんな感じでしたー」
 からかうようなティヨルの言葉に、そうだったろうか、とリンデは思い返す。さすがにここまでおかしな感じにはなっていなかった……と思うが、まあいいかと彼は結論付けて。
「でもこの喋り方かわいーじゃんですわよ」
「あらあらよくお分かりでしてよ、このお嬢様」
「美しさを作るのはまず言葉からってーわけですわよ、そちらのお嬢様も、さあ!」
「ええー?」
 リンデの言葉に乗っかってぐいぐい来る愉快な仲間達に、ティヨルは呆れたような笑みを浮かべた。

 通常、思い出を映すその硝子に本人の姿は映らない。けれどリンデの思い出にはティヨルの光が、ティヨルの思い出にはリンデの姿が映っている。
 対となったそれらは、『とっておきのきらきら』は、きっと素敵な味がすることだろう。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

宝海院・棗
【花弁を摘まむときに浮かぶ思い出】
①夏に海でいっぱい楽しんだときのこと
朝から夕方まで、いっぱい泳いではしゃいだような光景がいいなー。

②冬に素敵な雪の結晶をいっぱい見つけたときのこと
淡くも色とりどりな雪の結晶は冷たいけれど、不思議と心は温まる

あとそれとは別に、こんなのもどうかな?

【オリジナル】
①水色とオレンジのマーブル模様のガラスに切子のような幾何学模様やサンドブラストのような加工を施したもの

②ステンドグラスのようなカラフルな感じで、模様は星をイメージ

やりすぎだったらごめんね


●夏と冬の
 丸い球体から解けるようにして、森の中に宝海院・棗(もち・ぷに・とろり。・f02014)が姿を現す。転がり跳ねて、やってきたのは透明な硝子で出来た花畑だ。
「これがそうかな?」
 事前に受けた説明通り、大振りの花弁へと手を伸ばす。まず頭の中に描くのは、夏の記憶。海で目いっぱい遊んだ時の思い出だ。はしゃいで泳いで、時にはビーチバレーのボールになって、朝から晩まで時間を忘れて楽しんだ。目が眩むほどの青空に、光り輝く波飛沫、それに楽し気な笑い声。思い出せる限りのものを思い浮かべて、ついでに今年の夏への期待を込めて、棗はそれを手に取った。
 青く染まり行くそれを満足気に見遣って、今度はもう一つ、反対に冬の思い出を頭に浮かべた。私服の拘りからして、その時もとても寒い思いをしたのだけれど、それを忘れるほど夢中になったのは、雪の結晶探しだ。淡くも色とりどりの雪の結晶、見つけたそれらはもちろん冷たかったけど、不思議と胸の奥はあたたかだった。
 青と白、完成した二枚のガラスを見比べて、棗は帰途に就こうとして――。
「――あ、こんなのもどうかな」
 触れれば染まる無垢な花ではなく、ある程度色付いた別種の花を見つけて、そちらも摘み取り、手を加えていく。
 水色とオレンジのガラスには、切子のような幾何学模様を描いて、さらにサンドブラストのような加工を。もう一つはガラスの花弁を組み合わせて、星をイメージした模様を、ステンドグラスの要領で形作る。
「これだけあれば……」
 きっと満足してくれるだろう。森を抜けた棗は、お腹を空かせた様子の愉快な仲間を見つけると、早速駆け寄って手にした色硝子を彼等に渡した。
 ちょっとやりすぎたかな? という思いもあったけれど。
「まあ……綺麗に色付いた硝子をこんなにいただけるんですの?」
「はんぱねーですわ、もしかしてお嬢様は救世主の……」
 受け取ったそれに、彼等は感激したようだ。が、そこで。
「おおおお嬢様!!」
「お体はめちゃめちゃお美しいですがさすがにはしたなくなくないでございますわよ!?!?」
 ……えぇー。
大成功 🔵🔵🔵

ニール・ブランシャード
おいしい硝子のお花が作れそうな思い出かぁ…

名前を貰った時のこと、かな
あの頃ぼくは群体の中の一個体でしかなくて
「自分」っていう概念もなく、「この個体が消えても群体は生き続ける」から生死の概念もなかった

「この個体に名前をつけても無意味だよ。僕達は大勢なんだ」
「体も精神も1つしかない生物には分からないか」
なんて言ったっけ
…ひどいこと言ってるな、昔のぼく

その時は貰ったものの大切さを分かってなかった
あの人が名前をくれて、たくさん呼びかけて、一つの命として接してくれたから
ぼくは今こうして「生きている」のに

思い出すと、体の奥がぽかぽかして柔らかくなる感じがする
…でも、ちょっと寂しい気持ちにもなるんだ


●黎明の
 案内された森の中、花畑に咲く透明な花弁を見下ろして、ニール・ブランシャード(うごくよろい・f27668)は思案する。
「おいしい硝子のお花が作れそうな思い出、かぁ……」
 送り出してくれた彼等は、「スペシャルでブリリアントなおいしいやつをお願いしますわ!」などと無茶な振りをしてきたけれど、一体どうすれば良いというのか。期待されている言葉の中に、『楽しい』とか『悲しい』とか、そういう類のものはなかった。ただ特別で、まばゆい……求められているのは、言うなれば『宝物』のような思い出なのかも知れない。
 それならば、と彼が選んだ記憶は。
「――名前を貰った時のこと、かな」
 それはある意味、『ニール・ブランシャード』が生まれた時の思い出だ。群体の中の一個体に過ぎなかった当時の彼は、一つの生き物を成す細胞と同様に、『自己』が存在しなかった。

 ――この個体に名前をつけても無意味だよ。僕達は大勢なんだ。

 ――体も精神も1つしかない生物には分からないか。

 群れの中の一つとして、その時は実際にそう告げた。それでも名前をくれたあの人は、何度も何度も呼び掛けて、『ニール・ブランシャード』を一つの命として接することを止めなかった。
「……ひどいこと言ってるな、昔のぼく」
 懐かしむように、呆れるように、ニールは呟く。当時は、貰ったものの大切さを、理解できていなかった。名前を付ける事の意味は、とても大きい。群れの一部ではなく、『ニール・ブランシャード』として動くようになった彼は、ついに群体から分かれ、個として『生きる』ことになったのだから。
 あの人の呼ぶ声、名前を呼ぶ響きを思い出すと、身体の奥がぽかぽかして柔らかくなる感じがする。けれど同時に、少しだけ寂しい気持ちにもなるのだ。

 そんな、自分にとっての大事な思い出を胸に描きながら、ニールは硝子の花を一片摘み取った。
 この国に満ちた魔法によって、指先に乗ったそれは急速に色を変えていく。
 あの日の光景、それから名前をくれたあの人は、ちゃんと映っているだろうか。それに、『僕達』だった『みんな』は――?
 鎧の隙間からそれを覗いて、ニールはそこに映し出される像が、精細な形を成すのを見守っていた。
大成功 🔵🔵🔵

ネムリア・ティーズ
うん、味は大事だよね
ボクはお腹が空いたりしないけど…
おいしいものを食べると、心があたたかくなるの

それにね、誰かと一緒だと、もっとおいしく感じるのも覚えたんだ
ようやく集まれたみんなと仲良く暮らせるように
お手伝いできたらうれしいな

まずはお花だね
周りの花を壊してしまわないように
透き通った一輪にそっとふれて

もう一度だけ、見ることができるなら
描く思い出は決めてあるんだ

頁をみつめる宵藍の瞳
物語を読み上げるやわらかな声
まあるい金色が、傍らであの子を見上げている
ボクと同じ顔をした黒髪の少女と
つややかな毛並みの黒い猫

なんでもない、特別な、あの日の

宵藍に浮かぶ月
やさしい夜のいろを想えば
上手にガラスの花を彩れるかな


●やさしい夜の
「うん、味は大事だよね……」
 ネムリア・ティーズ(余光・f01004)もまた、愉快な仲間達の言葉に理解を示す。ヤドリガミゆえか空腹に苛まれることのない彼女だけれど、食事の大事さ、美味しいものを食べる事で、心がいかにあたたかくなるかは知っていた。……それに、誰かと一緒ならば、なおさら美味しく感じられることも。
 この愉快な仲間達は、「ようやく同じ一族で集まれた」と言っていたのだから――。
「みんなと仲良く暮らせるように、お手伝いできたらうれしいな」
 そう申し出た彼女に、愉快な仲間達は感激した様子で答えた。
「まあ……お嬢様、なんてお美しい心掛けなのでしょう」
「落ち着いて、涙でレンズが濡れてしまいましてよ?」
 ごしごしと、ハンカチで目元を拭うのを少し困った顔で待って、ネムリアは彼等の案内に従い、硝子の花畑へと踏み込んだ。木漏れ日を時に透かし、反射するその様は、硝子小瓶を器物とする彼女にはどこか馴染みのあるもの。それゆえに、その危うさもよく知る彼女は、一歩一歩大事に歩みを進めた。
「これにしようかな」
 中でもいっとう透き通ったものを選んだネムリアは、周りの花を壊してしまわないように、気を付けて手を伸ばす。指先がそれに触れる時に、頭に描いたものは、宵闇に浮かぶ月。
 そう、この国の魔法と、彼等の力を借りられるなら、もう一度見る思い出の光景は、これにしようと決めていた。

 頁をみつめる宵藍の瞳に、物語を読み上げるやわらかな声。傍らからそれを見上げる、月を写したようなまあるい金色。
 ネムリアによく似た――否、髪の色以外はまったく同じ姿の少女と、つややかな毛並みの黒猫を、ただ見つめているだけの、月の下の一場面。それは何でもない、けれど特別な、かつてのあの日。硝子の小瓶が映す、やさしい夜のいろだった。
 今はもう手の届かない、記憶の中の光景は、彼女の指先を伝い、ガラスの花弁の中で像を結ぶ。

 ――作業は上手くいったようだ、とネムリアは安堵の息を吐く。そして、完成した、色付いた想い出を、彼女はそっと両手で包みこんだ。
大成功 🔵🔵🔵

浮世・綾華
十雉(f23050)と

楽しかった思い出を浮かべた方が美味しくなりそうじゃねえ?
それとも苦い思い出は大人な味になったりするんかしら?

じゃあ先ずは、ハジメテ一緒に出掛けた時の

舞う雪と寒緋桜
きれーだったろ?
んー?俺も忘れた
特別気恥ずかしいわけでもなかったが誤魔化すように続け

よっし、じゃあそれなら次は一緒にうちで酒を飲んだ夜のこと
あん時きゃ楽しかったよなぁとふふり
わざと真っすぐにお前を見て

なぁに?
意地悪くされんの、嫌いじゃないでしょ
あはは
そーゆーとこ、ほんとさぁ
そう?ふふ、じゃあ良かったと微笑み

(過ごす時間が重なるほど
お前のことを知れていく気がする
未だ内に秘めるものに容易く触れるつもりはないけれど)


宵雛花・十雉
綾華(f01194)と

そうだな、大賛成
オレは苦いのより甘い方が好きだし
楽しい思い出なら色々あるぜ

おお、懐かしいなぁ寒緋桜
雪の中で見るってのがまた新鮮でさ
…確かお前から意味深なこと聞かれた気がすんなぁ
なんだったかなぁ?

綾華んちでのこともよぉく覚えてるぜ
めざしも煮っころがしも美味かったなぁ
…って、な、なんだよその目は
お前のその楽しかったはぜってぇ違う意味だろ
ふん、意地の悪いやつ
ま、まぁ…オレも楽しかったけどさ

今日のことも楽しい思い出になんのかなとか
これからも思い出を増やしていきたいとか
こっそり思いながらも黙っとく
綾華にゃきっと笑われちまうだろうからさ


●足跡の
「――というわけで、美味しい硝子を持ってきてほしいんですのよ。お願いしますわお嬢様」
 切々と訴える愉快な仲間の最後の一言に、宵雛花・十雉(奇々傀々・f23050)の片眉が上がる。その後ろで、浮世・綾華(千日紅・f01194)は面白がるように口の端を吊り上げた。
「十雉、お嬢様だってさ」
「何かの間違いだろ、オレが女に見えるわけ――」
「そちらのお嬢様も! 超頼りにしてますわよ気張りやがってくださいませ!!」
「……俺も……?」

 気を取り直して、硝子の花咲く森の中。別段障害があるわけでもなく、二人のお嬢様は順調に歩みを進めていた。
「やっぱりさ、楽しかった思い出を浮かべた方が美味しくなりそうじゃねえ?」
「そうだな、オレもそう思う」
 道すがらの綾華の言葉に、十雉が頷く。思い出の質が味になるというのなら、直感的には、そちらの方が無難に思えるだろう。
「ああ、でも逆に、苦い思い出は大人な味になったりするんかしら?」
 ビターな方が好まれる場合も、と綾華は考えを進めるが。
「でもなぁ、オレは苦いのより甘い方が好きだし、楽しい思い出なら色々あるぜ」
 十雉の言うように、思い出を浮かべやすいのも利点か、と思い直す。この二人なら辛い話をするよりも、その方がやりやすいとも踏んでいた。
 そうして方針が固まった頃に、二人は花畑の前に辿り着く。あとはこれらに触れて、思い出の色を描いていくだけ。
「じゃあ先ずは、ハジメテ一緒に出掛けた時の」
「……おお、懐かしいなぁ寒緋桜」
 降り積もる真白と紅、重なり合うそれらを二人で眺めた、そんな日。
「きれーだったろ?」
「ああ、雪の中で見るってのがまた新鮮でさ……」
 あの光景を頭に描けば、共に語らった言の葉も、自然とそこに浮かび上がる。花弁ではなく花首ごと、ぽとりと落ちる寒緋桜。
「……確かお前から意味深なこと聞かれた気がすんなぁ」
 なんだったか、という問いに、視線を返さぬまま綾華は答える。
「んー? 何だっけかな、俺も忘れた」
 そうしてそのまま、あの日の色に染まった硝子を仕舞って、次へ、と十雉を促した。
「よっし、じゃあそれなら次は一緒にうちで酒を飲んだ夜のこと」
 あん時きゃ楽しかったよなぁ、今度は真っ直ぐに彼の目を見てそう告げる。あえてそうするのは勿論、反応を楽しむためだ。――あれに勝ち負けなんてない、けれど最後に賽の目が示したのがどちらかと言えば。
 ……と、その辺りは十雉も身を以てよく知っている。苦い思いを表に出してやらないように努めて、彼はそれに頷いた。
「よぉく覚えてるぜ、めざしも煮っころがしも美味かったなぁ」
「ん、そんだけ?」
「お前なぁ……」
 思わず滲み出たその表情に、綾華の口がしたりと弧を描いた。
「……ふん、意地の悪いやつ」
「なぁに? 意地悪くされんの、嫌いじゃないでしょ」
 普段の飄々とした態度はどこへやら、ふいとそっぽを向いた十雉に対して、愉快気に、笑みを隠さぬまま綾華が続ける。言うなればこの辺りが、あの日の成果なのかも知れない。
 うん、と少し考えて、十雉が言葉を零す。先程よりも小さな声、けれど少なくとも、これは『言えないコト』ではないので。
「ま、まぁ……オレも楽しかったけどさ」
「そう? ふふ、じゃあ良かった」
 つついていくのはここまでと、綾華はそれに微笑んで返した。
 頭を横に振って溜息を吐く十雉に、気が付けば笑みを浮かべてばかりの綾華、二人の握った花弁には、同じ風景が描き出される。
 滲む月光、そして浮かび上がる藤の花。
「硝子の方は上手く出来てる?」
「多分な。それじゃ、そろそろ戻るか」

 こうして過ごした今日の事も、いずれ『楽しい思い出』になるのだろうか。それならば、これからもそれを増やして行ければ良いと十雉は思う。

 一歩一歩、同じ方向に歩く内に、互いの距離も変わっていくもの。今は未だ『それ』には触れないけれど、その先は……、そんな風に綾華は思う。

 とはいえ――まあこれは、口に出して言う気はないのだけど。
 最後に、二人同じことを考えながら、十雉と綾華は愉快な仲間の待つ森の外へと歩き出した。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵


第2章 日常 『君だけのものがたり』

POW手に汗握るバトルものを語ろう
SPD爽やか青春物語をお披露目しよう
WIZ謎が渦巻くミステリーをお届けしよう
👑5 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●思い出の投影
「まあまあまあ、ありがとうございます! こんなにもたくさんいただけるなんて思いもよりませんでしたわ!」
「これもう今夜はパーリィですわね!!」
 猟兵達から届けられた硝子の花弁を分け合って、愉快な仲間達は大喜びの様子で感謝を述べる。猟兵達の用意してくれたものは、愉快な仲間達が作った『味の無いガラス』に比べて明らかに綺麗な像が描かれている。これならば、美味しいに違いないと確信したようで、猟兵達は彼等のそれぞれの家に招かれることになった。
 一つ一つが小規模な劇場のようになったそこは、愉快な仲間の力を発揮するのに最適な場所らしい。
「それではさっそく、いただきますわー」
 ……はあ、やっぱりものすごく美味しゅうございましてよ。そんな幸せな溜息に合わせて、頭部の幻灯機から光が放たれる。ぐるりとそれが部屋を一周すれば、あっという間にそこは、ガラスに描かれていた光景そのものになっていた。
 彼等には、『食べたガラスに描かれた光景を、一時的に実体化できる』という不思議な能力がある。
 まるで空気ごと塗り替えられたような、不思議な感覚。そこには物も、風も、光も、音も、人物だって再現されているように見えるだろう。
「それでは、お楽しみくださいませ、お嬢様!」


 皆さんがガラスに描いた光景が一時的に実体化しています。もう一度それを楽しんだり、誰かとそれを共有したり、愉快な仲間と語らったり、ご自由に過ごしてください。少なくとも、第二章の終わりまでオウガは出てきません。
 第一章に参加していただいた方は、そちらのプレイングでいただいた情報も踏まえてリプレイを書きますので、重複する分は割愛していただいて結構です。『どう楽しむか』を重視してください。
 映写に使えるレンズは一人一枚。グループで来られた場合は、同じ場面の映像であればそれらを一緒に投影できます。
ニール・ブランシャード
お、お嬢様?ぼくが?
よ、よろしくおねがいでございます…わ?

風景はDSの暗く冷たい沼地
足元を転がる小型犬大の丸いブラックタール1匹と
それに向かって話しかける、今の自分と同じ鎧を纏った人間の黒騎士が投影

お前、名前は無意味とかキリッと言ったくせに姓が無いのは嫌なのか?

僕達は知的生命体だよ。そんな動物みたいな扱い、承服できない。

面倒臭い奴だなぁ。
じゃあ、俺とおそろいにするか?

生意気言っても取り合ってくれるあの人の軽口
ぼくの名前を呼ぶ優しい声
歩調を合わせてくれる足音
板金の擦れる音
暗くて冷たい景色だけど、ぼくにとっては優しくて暖かい思い出だ

ありがとう
久しぶりに大好きな人の声が聞けて嬉しかったよ。…ですわ。


●ファミリーネーム
 秘めた能力を披露してくれるのは良いのだが、愉快な仲間達の最後の言葉に、ニールが思わず聞き返す。
「お、お嬢様? ぼくが?」
「もちろん、万物万象みな総じてお嬢様ですわ。問題ありまして?」
 あまりにも力ずくの理論に途方に暮れながら、ニールはとりあえず先を促すことにした。
「……それじゃ、よろしくおねがいでございます……わ?」
「お上手でしてよお嬢様! それでは、お楽しみくださいませ!」
 愉快な仲間の、幻灯機になった頭部が光り輝き、劇場のようになったその部屋に、硝子を通した像を投影し始めた。浮かび上がったそれは、瞬く間に形を得ていき――。

 出来上がったのは、暗く冷たい沼地の光景。ダークセイヴァーの一角に、ニールの纏っているものと同じ鎧を着た、黒騎士が立っている。
 彼はどうやら、足元に転がったブラックタールに向かって話しかけているようだ。
「お前、名前は無意味とかキリッと言ったくせに姓が無いのは嫌なのか?」
「僕達は知的生命体だよ。そんな動物みたいな扱い、承服できない」
 黒騎士の脛くらいの位置で、ブラックタールが答える。生意気なその個体、『ニール』と無理矢理名付けられた彼を、黒騎士はあしらうことなく続けた。まあ、態度自体は結構ぞんざいに見えるけれど。
「面倒臭い奴だなぁ。じゃあ、俺とおそろいにするか?」
「ううん、他のが良いんだけど、しょうがないなあ」
 もらってあげるよ、とあの日の自分が言うのを、現在のニールは、苦笑交じりに見下ろしていた。やはり改めて聞くと、結構酷い事を言っている。当時のぼくは、同じ姓を持つということを、本当の意味では理解していなかったのだろう。
「それじゃ、今からお前は『ニール・ブランシャード』だな」
 よろしく、と面白がるように彼は言う。

 名前を呼ぶ優しい声に、ニールは懐かしさを覚える。生意気を言っても取り合ってくれて、軽口が返ってくるこのやり取り。歩調を合わせてくれる足音に、板金の擦れる音。それら一つ一つが、暖かい思い出としてこの胸に刻まれている。
「まあまあ、イケメンですわねこのお嬢様!」
「顔は見えてなかったと思うけど……?」
 愉快な仲間の歓声に苦笑しながら、ニールは彼に向き直った。
「ありがとう、久しぶりに大好きな人の声が聞けて嬉しかったよ。……ですわ」
「ええ、ええ! 喜んでいただけて何よりですわ!」
 礼を言って、もう一度かつての自分達へと目を向けて、ふとニールは違和感を覚える。

 ――さて、あの時のぼくは、あんな風に形を変えただろうか?
大成功 🔵🔵🔵

祓戸・多喜
んー想い出が消える訳じゃないのね。
皆に満足して貰ったなら何より!
アタシの想い出の光景はどんな風に映し出されるのかなー…あ、これって写真で撮れるかな?

愉快な仲間と一緒に語りつつ楽しむ!できるなら写真に撮ったりも。
これは半年前に街でショッピングしてた時の画ね!
記憶にあるのと実体化されたのだと結構違う印象…寒さまで再現されちゃってる?
けど、文句なしに楽しかった思い出だわ!
…この想い出、ラーテル・ナ・マギカさんにはどんな風に感じるのかな。
美味しいのは当然として甘いだとか具体的にどう感じるのか。
ほらーアタシにはチョコのように甘いけど、他の人が味で感じるとどうなのかチョー気になるし!

※アドリブ等お任せ🐘


●冬の街
 ご馳走様、とお礼を言う愉快な仲間に、多喜は鷹揚に頷いた。
「皆に満足して貰ったなら何より!」
 明るくそう告げて、彼女は自分の思い出に向き直る。どんな風に映し出されるのか、という興味に応えるように、劇場のようになったその部屋が塗り替えられる。実体化した映像、不思議な力によるそれで、部屋にはまるで壁を取り払ったかのように、あの日の光景が浮かび上がる。
「へえ……あ、これって写真で撮れるかな?」
「大丈夫だと思いますわよ? わたくし達は試したことありませんけど」
 ビルの立ち並ぶ街を背景に自撮りをしてみる。撮影自体は問題ないようで、思い出にある冬の街に、今の自分が立っている不思議な写真が出来上がった。
「これは半年前に街でショッピングしてた時の画ね!」
 服やスイーツを楽しんだ店が、現実と同じ配置で並んでいる。
「記憶にあるのと実体化されたのだと結構違う印象だけど……」
「あら、再現が上手くいかなかったかしら?
 記憶の焦点が合っていないためか、ぼんやりとした姿の雑踏がその一因だろうか。
「けど、文句なしに楽しかった思い出だわ!」
 こうして映像を見れば、どんなコースで歩いたかも思い出せる。それを反芻するようにしながら、彼女は愉快な仲間の方へと話を振った。
「この想い出、ラーテルさんにはどんな風に感じるのかな」
「美味しゅうございましたわよー」
「ほらーそれだけじゃなくって、甘いとか辛いとか具体的に」
「そうですわねえ、弾むような味で、食べやすかったですわ!」
 なるほど、と多喜は頷く。自分にとってはチョコレートのように甘い記憶だけれど、感じ方はきっと人それぞれなのだろう。これもある意味思い出を共有するということなのかと、そんな事を思いながら、彼女はまた再現された街並みに目を向けた。
 すると、ぼんやりとした雑踏の中の誰かと、目が合ったような――。
大成功 🔵🔵🔵

花邨・八千代
なーなー、俺の作った硝子うまい?何味?
甘い?しょっぱい?

んーふふ、まずい訳ねぇよなぁ!
だって俺の思い出だぜ!
そんなに多くねーけど楽しいことはぎゅっと詰まってんだ

そんな話をしながら幻灯機の紡ぐ思い出の光景を眺める
蟹を食ったり、焼肉したり、夏まつりの屋台を制覇したり
食い物ばっかりなのはご愛嬌
やっぱ思い出の種類で味も変わるもんなのかね

それでもひと際鮮やかに再現されるのは恋人の姿
照れくさいような、嬉しいような
こんなにもはっきり存在が刻まれている

良い男だろ、ちっと性格に難があるんだがな
……俺と、家族になってくれるっていうんだぜ
まったく得難い男だよ、ほんと

なぁ、硝子一枚だけ貰って良い?
秘密の宝物にすんの


●思い出の味
「なーなー、俺の作った硝子うまい? 何味?」
「えー。何、と言われると困りますわねぇ」
「甘い? しょっぱい?」
「豪快で明るくてあったかい味でしたわよ。満腹中枢にガツンときますの」
「んふふ、よくわかんねー」
 噛み合っているような、いないような。そんな言葉を交わしながら、八千代は硝子を食べた愉快な仲間に招待されて、その劇場のようになった部屋に到着する。
「ま、でもまずい訳ねぇよなぁ!」
 だって俺の思い出だぜ、と自信たっぷりに言う彼女の周囲に、愉快な仲間はその思い出を映し出し始めた。
「大味ながら、シンプルで美味しゅうございました」
「だろー? そんなに多くねーけど楽しいことはぎゅっと詰まってんだ」
 八千代の記憶は、ある所から向こうは暗闇になっている。けれど、思い出せる範囲のその光景は、どれも色鮮やかなものだった。みんなで焼肉をしたり、何かよくわからないが配布された蟹を食べたり、夏祭の屋台を制覇したり――。
「食べてるシーンばっかりじゃありませんこと?」
「あー? みんなそんなもんじゃねぇの?」
「暴論でしてよ……」
 けらけらと笑いながら、浮かび上がった光景をもう一度見て回る。実体化したせいか、部屋がもう無闇に食欲をそそる匂いで満ちていく。「なあこれ食って大丈夫?」などと問うている内に、八千代はそれに行き当たった。
「おお……」
 あの日の光景そのままに、恋人の姿がそこにある。これは自分に話しかけているシーンだろうか、実際に記憶通りの形で、そのままの台詞をなぞられるのはインパクトがある。照れくさいような、嬉しいような、そんな心地でそれをしげしげと眺めて。
「あらまぁ、お顔のよろしいお嬢様ですこと!」
「そうだろ、ちっと性格に難があるんだがなー」
 愉快な仲間のあげた歓声に、うんうんと頷く。見た目についてだけでもしばらく喋れるけれど、何よりもこの男は、自分と家族になろうとしてくれている。記憶も鮮明にならざるを得ないほどの――。
「――まったく得難い男だよ、ほんと」
 大事なものを愛でるように、八千代はつと目を細めた。

「わたくしお腹いっぱいですので、お惚気はちょっと……」
「……段々態度が雑になってきてねぇ?」
 しょうがねえなぁと笑いながら、八千代は恋人の虚像から愉快な仲間へと向き直る。
「なぁ、硝子一枚だけ貰って良い?」
「勿論よろしくてよ。美味しく食べてくださいませ!」
 いや、仕舞っておくだけだから。きっとこれは、秘密の宝物に丁度良いだろう。

 いくつもの思い出の中に、『彼』は居る。その中の一つが、八千代の背中に目を向けた。
大成功 🔵🔵🔵

エンジ・カラカ
美味しい?美味しい?
賢い君とコレの思い出サ。
えー、ちょっぴり辛い?ワガママだなァ……。

うんうん、アレは一緒に追いかけっこをしている場面。
コレの足はとーっても速いカラ追いつけないンだ。
あの悔しそうな顔。イイネェ。

賢い君は看守だった。
武器はコレ。真っ赤な真っ赤なアカイイト。
糸を張り巡らせてコレを捕まえようとしたコトもあるある。

アァ、この場面サ。
コレは足が速いだけじゃない。身軽なンだ。
君の糸はかんたんにすり抜けるコトができた。
うんうん、賢いだろうそうだろう。

終わったらシロツメクサの花冠を渡して仲直り。
どうだ?どうだ?
イイ思い出だろう、そうだろう。
うんうん、楽しかったなァ。


●君の姿
「美味しい? 美味しい? 賢い君とコレの思い出サ」
「ええ、ええ。ご覧の通り今からいただくところですのよ。でもレディの食事をまじまじ見るもんじゃーなくってよ、お嬢様?」
「アァ……れでぃ?」
 誰が? と首を傾げるエンジを置いて、愉快な仲間は準備してもらった硝子を食す。ごくん、と喉が鳴るような、機械の定位置に何かが収まったような音がして、彼はそれを嚥下したようだ。幸せそうな吐息を、一つ吐いて。
「んん、予想通り。灰色の中の赤がビビッドでとっても美味しいですわ!」
「うんうん、そうだろうそうだろう」
「ただちょっと、後味が辛いような……」
「えー、ワガママだなァ……」
 などと言い合っている内に、愉快な仲間の方はその力を発揮する準備が整ったようだ。『思い出』を準備してくれたエンジに礼を言って、彼はその硝子に描かれた光景を映し出した。

 目まぐるしく駆け回る黒い影と、それを追う者。味気ない背景の中で両者の姿が踊り出す。飛び出したそれらに、映写した愉快な仲間自身が目を丸くした。
「ちょっと、何なの! 目が回りやがりますわよ!?」
「うんうん、アレは一緒に追いかけっこをしている場面」
 コレの足はとーっても速いカラ追いつけないンだ。そう自慢気に言った後、懐かしそうに目を細めて、エンジは追いかける側の姿を見つめる。
「あの悔しそうな顔。イイネェ」
 あと一歩に見えるところで逃げられてばかりの『賢い君』は、ここでは看守の役割を担っていた。得物は、そう、あの真っ赤な真っ赤な赤い糸。
 エンジと愉快な仲間が見守る中で、速やかに展開された赤い糸が折り重なり、網を形成する。
「そうそう、この日は糸を張り巡らせてコレを捕まえようとしたンだ」
 けれど残念ながら、と彼は続ける。この時のエンジが、この粗い網の目などで捕らえられるはずもなく。
「コレは足が速いだけじゃない。身軽なンだ。君の糸はかんたんにすり抜けるコトができた」
 誇らしげで、自慢げな言葉通り、即席の網をすり抜けて。今のエンジも、「この日の追いかけっこもコレの勝ちだ」と笑ってみせた。
 この日の遊びはこれでおしまい。それから美味しくないご飯を食べたら、シロツメクサの花冠を渡して仲直り。
 そんな風に、再現されたかつての一日をなぞって、エンジは自分の薬指に触れた。
「どうだ? どうだ? イイ思い出だろう、そうだろう」
 そして、愉快な仲間に絡んでいく途中で、ふと彼は視線を上げる。花冠を前にした『賢い君』の反応が、見た事のないものだったような、そんな気がして――。
大成功 🔵🔵🔵

エドガー・ブライトマン
残念だったね、オスカー
ビーダマムシは名前の通り、ガラスで出来ていた
この国を出るまでごはんはお預けだ

それではラーテル君
私が摘んだ花を食べてみておくれ
キミの口に合うと良いんだけれどなあ~

劇場のようなそこに映し出される景色
ワクワクしながら眺めていよう
ああ、そうそう!そこら中がアイスで出来た国だったんだ
オーロラの一部が破れてしまって、
差し込む太陽にアイスが溶けてしまいそうになって
ピーノ君はあんなに大きく……?

大きく実体化したピーノ君は見上げるほどに大きい
綱引きをした気がするんだけれど、さすがに気のせいか…

でも不思議だなあ。合体して、大きくなって…
なんだかロマンを感じる……!
ラーテル君もそうおもわない?


●合体したやつ
「残念だったね、オスカー」
 森の奥から戻ってきたエドガーが、小さなガラス玉を指先でつつく。掌の上で転がったブルーのそれは、やがてパカっと二つに割れて、そこから現れた翅を使って飛んで行ってしまった。
「ビーダマムシはやっぱりガラスで出来ていたよ。この国を出るまでごはんはお預けだね」
 肩に乗ったツバメが、それに嘆息したような気がして、エドガーはその頭を指先で撫でてやる。
「何かこう……ガッカリさせてしまったかしら。申し訳ねーですわ」
「いやいや、ラーテル君が謝る事ではないよ」
 それに、キミもお腹が減っただろう。そう言って、彼は摘んできた硝子の花弁を差し出した。
「私が摘んだ花を食べてみておくれ。キミの口に合うと良いんだけれどなあ~」

 そんなこんなで食事も終えて。「何だかよく冷えて爽やかな味がしましてよ」、と好評だった思い出の光景が、劇場のような作りの部屋に映し出された。
 色とりどりのアイスの果樹に、氷で出来た建物。それはこことは別の、不思議の国の景色。
「――ああ、そうそう! そこら中がアイスで出来た国だったんだ」
 残っていた記憶の残滓を見つけて、エドガーが頷く。空に目を向ければ、カーテンのように揺れるオーロラが。そしてそこに生じている破れ目から見えるのは、燃え盛るこの国の太陽だ。
「あんな風に、オーロラの一部が破れてしまってね。気温が上がって、この国のアイスが全て溶けてしまいそうだったんだよ」
 そこで、「あれは一大事だったなあ」と思い返しているエドガーに、愉快な仲間が問いかける。
「こちらのバカでっかい雪だるまみたいなお嬢様はどなたですの?」
「ああ、これはこの国住んでいる人達、ピーノくんと言うんだ。中々愛嬌があって、その……アレこんなに大きかったかな??」
 うっすらと蘇った記憶からすると、違和感を覚えるのだが、その一方でこのジャイアントなピーノくんと綱引きをしたような記憶も残っていて。
「気のせい……? いや、合体したんだったかな……」
「まあ、このお嬢様は合体して大きくなれるんですの?」
「たしか、ね。なんだかロマンを感じると思わないかい?」
「素敵ですわね! わたくし達も、いつかここでの生活が落ち着いて、仲間をたくさん呼べたら試してみたいですわ!」
「え、キミ達も合体できるの……?」

 そんなやり取りをしている内に、思い出から実体化したジャイアントピーノくんは、どこからともなく取り出した巨大な得物を構えてみせた。
「ウオーッ、何もかも破壊してヤリマスヨー!!」
 ……うん? あの時、そんな物騒なこと言っていたっけ。
大成功 🔵🔵🔵

ティヨル・フォーサイス
リンデ(f14721)と

この子たち、だれでも『お嬢様』なのね
憎めない子達に綻んで
お口にあったようでなによりですわね、お嬢様?
リンデに告げる

わたしが最後にあの森を訪れたときよりも
樹や花が若々しくて
なつかしい

せっかくだもの、また歩いてみるのもいいんじゃない?
ね、リンデ
笑って手を差し出す
リンデが大きくなったから今では繋いで歩くことはないけど
たまには悪くないわ
リンデの人差し指をつまんで

(村にはみんながいる
リンデの家族だって)

村まであと少し
引く手が自然と強くなる
のに、動かない
――リンデ?

いいの?
泣いたって別にいいのにと思えど秘めて
そう
微笑む

迷子になったら、また言いなさい
次はリンデの頭に乗って案内するから


リンデ・リューゲ
ティヨル(f14720)と

俺もお嬢様?
じゃあヨルとお揃いだ
美味しく食べてもらえて嬉しいでござるますー

うわ、懐かしいな〜
ぱちぱち瞬き
この景色はいつも胸中にあるけれど
こうして目にすると不思議
音も動物達の気配も本物みたいだ

繋いだ小さな手は
初めて出会ったあの日と変わらず
緩やかに確かに俺を導く
愉快な子たちに(いいでしょう?)と笑ってみせて

あ、もうすぐ村だ
無意識に足が止まる
(そっか)
(きみは会わせようとしてくれてるんだね)
(遠い日に喪った俺の家族に)

だって泣いちゃうかもしれないし
ゆるーく笑ってそれだけ

(この先は、あの頃の俺だけの宝物)
(今はきみが居てくれるから)
もう、いいんだ

うん、頼りにしてるよ
ヨル姉さん


●線引き
「はー、ごちそうさまですわお嬢様」
「美味しゅう御座ったですの!」
 ティヨルとリンデの作った硝子を食して、愉快な仲間達がそれぞれにお礼を告げる。「それはよかった」と二人が顔を見合わせるのと同じ頃に。
「俺もお嬢様?」
「誰でもお嬢様らしいわよ?」
「そっか、じゃあヨルとお揃いだね。美味しく食べてもらえて嬉しいでござるますー」
「ふふふ、なぁにその台詞」
 リンデの軽口に顔を綻ばせながら、ティヨルが言う。ついでにお嬢様風に「ごきげんよう」だのと練習している内に、愉快な仲間達は二人に、お礼として力を振るう準備を整えてくれていた。

 劇場のようになった彼等の家の中、ステージ上の二人の周りに、硝子に描いた『森』が映し出されていく。映写担当の愉快な仲間も、ここでは二人。互いの描く光景が美しく重なり合うように、微調整を重ねていくと――。
「うわ、懐かしいな~」
「本当ね、あの日の景色のまま……」
 ぱちぱちと瞬きを繰り返して、辺りを眺めるリンデと共に、ティヨルはその目を細める。最後に見た時よりも、樹や花が『若い』と、森の妖精は気付いていた。
 思い出、記憶として鮮明に残っている光景だけれど、改めてはっきり描かれるとまた不思議なもので。
「せっかくだもの、また歩いてみるのもいいんじゃない?」
 ね、リンデ。そう言って差し出された小さな手のひらを見る。彼も、いつまでも幼い少年のままではない。こんな風に手を繋ぐことなんて、もうなくなってしまったのだが。
「たまには良いでしょ?」
「うん、そう……そうですわね。よろしくおねがいございますわ」
「その口調続けるの?」
 伸ばされた指、あの頃よりもずっと大きくなったリンデのそれを、ティヨルが摘まんで、先導するように引っ張りはじめる。耳朶を打つ森の音色に、動物たちの気配、五感に訴えかけられるそれらを、二人はゆっくりと堪能しながら歩いていった。
「まあまあ、とっても優雅ですこと!」
「わたくし達も負けてられないのではなくて?」
 何やらダンスでも踊り出しそうな姿勢で手を取り合っている彼等は放っておくとして、ティヨルはリンデの前を進んで森の中を歩いていった。蜜を集めるのに向いた花畑を後にして、普段はあまり近寄らない、人間達が薪を拾う辺りを横目に。やがて見知った小路を見つけて。
「……あ」
 小さく呟いたリンデの足が止まる。極力さりげなく、ティヨルはその手を強く引くけれど。
「――リンデ?」
 動く様子の無い彼の方を、振り返る。「どうして?」と。
 この先の小路を抜ければ、故郷の村があるはず。そこにはきっとあの日のまま――喪われる前の、リンデの家族だって。
 言外に促すティヨルの意図を理解して、けれどリンデはゆっくりと首を横に振った。
「……いいの?」
「だって、泣いちゃうかもしれないし」
 言って、いつものようにゆるく笑む。
「……そう」
 別にそれでも構わないのに。そんな思いを胸に仕舞いながら、ティヨルは微笑んで、それに応えた。
「そうだよ」
 きっと、咎める者などいないだろう。けれど、この先の光景は、あの日の自分だけの宝物。もう、泣きじゃくる迷子の少年ではないのだと、リンデは自ら線を引いた。
 ――だって、今はきみが居てくれるから。
「もう、いいんだ」
 目の端に滲むものを払うように、目を瞑って、開いて。これで元通り。目の前では、ティヨルが「しかたないわね」とでも言うようにこちらを見ていた。
「迷子になったら、また言いなさい。次はリンデの頭に乗って案内するから」
「うん、頼りにしてるよ。ヨル姉さん」

 そうして思い出の光景を、故郷の森を歩く。懐かしい、と感じるがゆえに、そこに異物が混ざりこむのを、二人は敏感に感じ取った。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

九之矢・透
大丈夫?美味しい?
心配なんで着いて行こう
マズかったらペッてしなよ??

おー、こうやって映し出されるのか
目の前に見慣れたチビ達がいる
アタシを除いて8人、外の世界でアイツらを見るのって不思議な感じ
お菓子の詰め合わせ、クッキーを割って分けて
ゲラゲラ笑って
……ホームビデオ見られるのってこんな感じ?
何か物凄い恥ずかしくなって来たんですけど

――画面がプツンと暗くなる

合わせ鏡みたいに自分が映っている
その13番目がぽっかり空いてて、何か影が……

あああ、アタシ!!後ろ後ろ!!!ですわよ!!

ばばばバッッカ
な涙目じゃないしふふ震えてないし
でもラーテルサン手を握っていいデスカ!?

朧な影が輪郭を帯びる

リス
オマエだったのか


●サーティーン
「大丈夫? 美味しい? マズかったらペッてしなよ??」
 完成品は果たしてどうなったのか、気が気じゃない様子で問う透に対して、愉快な仲間はどこかのんびりした様子で硝子の花弁を嚥下した。そして、満足そうに息を吐く。
「安心するが良いのですわお嬢様、とっても美味しゅうございましたわよ?」
「ほ、本当に……?」
 なら、出来には特に問題なかったのかな、と胸を撫で下ろす彼女に、愉快な仲間はうんうんと頷いて。
「ご馳走になった分、お礼をせねばならんですわね……」
 劇場のような自宅に透を迎え入れた愉快な仲間は、早速幻灯機になっている頭部から、硝子を通した光を投影し始めた。
「おー、こんな風に映し出されるのか」
 描き出され、形を成したそれに、透が感心したような声を上げる。目の前に居るのは、彼女が故郷で共に暮らす『家族』の面々だ。寄り添い暮らす、親の居ない子供達。この日は彼女の誕生日で、みんなでおめでとうを言って――だからだろうか、みんないっとう良い顔で、お菓子の詰め合わせを分け合って笑っている。
「ホームビデオ見られるのってこんな感じなのかな……?」
 家族、身内を他の世界で、別の誰かに見せる日が来るなんて思ってもいなかった。何だか急に恥ずかしくなってきて、帽子のつばから愉快な仲間を覗き見る。彼がどんな顔をしているのか、窺い知ることは出来ないが、声に含まれている笑みは読み取れる。
「まあまあ、大切なご家族なのでしょう? 恥を知らなくても良いんですのよ、うふふふふ」
「そりゃあ、大切じゃないなんて言わないケドさ――」
 何か今の言い回しおかしくなかった? などと笑いながら追求しようとしたそこで。
「――あ?」
 プツンと、実体化していた『家』の光景が掻き消えた。
「何だよ、もう終わ……り……?」
 辺りを見回せば、消滅した背景の代わりに、大きな額縁のようなものが無数に生じている。それはまるで、どこまでも続いていく合わせ鏡のような光景。限りなく続く繰り返しの中に、間に立った透の姿も浮かび上がる。

 何だよこれ、と口にしようとしたところで、透は目を見開いた。どこまでも並ぶ『列』の中に生じた綻び。鏡像が、一箇所だけ欠けている。
「あああ、アタシ!! 後ろ後ろ!!! ですわよ!!?」
 そうじて欠けたスペースに、大地の隙間を縫うようにして、影が浮かび上がった。連続した透の姿の中に混ざった、『13番目』が、ゆっくりとこちらを向く。
「あらあら、出てきてしまわれました?」
「何が!?」
「何って……ねえ? そんなに震えないでくださいませ」
「ばばばバッッカ、アタシ別に震えてないし!」
「あらら? あのオバケ……段々こっちに来てませんこと……?」
 合わせ鏡の向こうから順番に、13番目の黒い影は、こちらへと距離を詰めて来ていた。
「え? ヤバ? ヤバですの?」
「ててて、手を握っていいデスカ!?」
「よよよろしくてよ!?」
 半分を超えて、6番目。カウントダウンするように近付いてきた影の、その形が徐々に明らかになっていく。
「そんな、お前は……!」
 そして、こちらを覗き込むその正体を察して、透は息を呑んだ。
「リス――!」
 黒い影の中に鋭い前歯を煌めかせ、頬袋を膨らませたその影が、迫る――!
大成功 🔵🔵🔵

宵雛花・十雉
綾華(f01194)と

思い出を一時的に実体化できるって?
そいつぁすげぇや
ほら、たんと食え食え
しっかし旨そうに食うなぁ、そんなに旨いのかな
オレはやだよ、腹壊しそうじゃん

さっき硝子に描いた、綾華んちでの月見が実体化される
空に浮かぶ月と星
庭には咲き終えた梅と藤が見えて
縁側には酒と肴

まるであの日をそっくりそのまま持って来たみてぇ
懐かしいな、綾華もそう思うだろ?

そうそう、あの肴がまた旨かったんだ
特にめざしと煮っころがしが気に入っててさ
…実体化したのって食えんの?
愉快な仲間に聞いてみよ

!…お、おう
そうだ、友達だからな!
超嬉しいけど平静を装う

そういや綾華の作った飯食わせて貰う約束もしたっけな
うん、絶対行くよ


浮世・綾華
十雉(f23050)と

うん、見てみたいし
いくらでもお食べ
美味いんじゃない?十雉も食べみたら?
なんだよー、ふふ、つまらん

いやあ、懐かしいって数か月前だろ?
ま、出会って間もない頃のことって考えれば
懐かしくもなるってもんか

俺からしちゃあ物珍しい景色でもない
自宅の縁側だ
でもひとつ違うことはそこにお前がいたことで

そーゆー意味じゃ、この思い出の景色は
お前がいねーと完成しねーんだよなぁ

そしてあの日追いかけなかった言葉の奥に
お前の本当があると何処かで気づいていて
――それでもいつかの勇気に想いを預けることにした

食えなくってもまた作ってやるよ
お前は俺の、友達、なんだろ?

みたらし団子の作り方も覚えたし
また来いよな


●未来を思う
 提供した硝子のレンズは、愉快な仲間の頭部――幻灯機の専用スロットに落とし込まれる。彼等にしてみれば『飲み込んだ』ということになるだろうか。
「……そんなんで味わかるのか?」
「ええ、もちろん。しっとりとして、それでいて長閑な味がしますわよ?」
「ああ……それ、美味いってことで良いんだよな?」
 さすがに、硝子を食べる愉快な仲間の感覚を理解するのは難しいようで、十雉が首を捻る。
「十雉も食べみたらわかるんじゃない?」
「やだよ、腹壊しそうじゃん」
「なんだよー、ふふ、つまらん」
 そうして綾華と軽口を叩き合っている間に、愉快な仲間の方はその力を発揮する準備が整ったらしい。劇場に似たその部屋に、幻灯機からの光が溢れ出す。
 レンズを通して描き出され、実体化したのはあの日の光景。梅と藤の見える庭の縁側、そして空に浮かんだ星と月。
「懐かしいな、綾華もそう思うだろ?」
「いやあ、懐かしいって数か月前だろ?」
 同じようにそれを思い返して、綾華が小さく笑う。出会って間もない頃のことだと考えれば、懐かしく感じるのはわからなくもないが。
 とはいえ、彼にしてみればこの光景は『自宅の縁側』だ。季節感以外はこれと言って見るところも――。
「――いや、そうか」
 思い直して、縁側にもう一度足を向ける。置かれているのは、二人分の酒と肴。ここには、いつもと違う『来客』が居た。これを思い出と言うのなら、十雉が居て初めて完成するものなのだろう。
 思い出を為すもの、交わした言葉、知れた事の一つ一つが自然と思い出される。ああ、それから、言葉にされなかった答えのことも。
 きっとそこには、彼の『本当』があったのだろうと綾華は思う。けれど、今更だ。あの日、追い掛けないという選択をした以上、できることは――いつかの『勇気』に、想いを預けることだけだろう。
 そんな綾華の思考を知ってか知らずか、十雉の意識は、完全に縁側に置かれた料理の方へと向けられていた。
「そうそう、あの肴がまた旨かったんだ。特にめざしと煮っころがしが気に入っててさ」
「それ、さっきも言ってなかったか?」
 そんなに気に入ったのか、と感心する綾華を他所に、十雉はそれを手に取って。
「……実体化したのって食えると思うか?」
「さあ、そっちの愉快な仲間に聞いてみれば?」
「そうだな……」
 それが一番早いか、と納得しかけた彼に、綾華は小さく吹き出しながら、言い添えた。
「食えなくってもまた作ってやるよ。お前は俺の、友達、なんだろ?」
「! ……お、おう」
 思わず足を止めた十雉は、自分の表情が緩むのを抑えながら、それに応える。
「そうだ、友達だからな!」
 その言葉を味わうように口に乗せて。
「そういや綾華の作った飯食わせて貰う約束もしたっけな」
「ああ、みたらし団子の作り方も覚えたし、また来いよな」
 過去の歩みから、これから続く未来の道行きへと視線を移して。
「うん、絶対行くよ」
 また、というその二文字だけが残す響きに胸を躍らせながら、十雉は努めて平静に、頷いた。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

ユヌ・パ
この中に自分の記憶があるなんて、実感はない

浮かびあがるのは果てまで続く草原
雪をかぶりそびえる霊峰
地には雪の名残
空は青く明るく
訪れる春の芽吹きを待つような、冷たい風が吹いていく

鮮やかな民族衣装に身を包んだ青年と少女が
馬に乗って、競いあうように地を駆けていく
少女は、自分と同じ顔
青年は、はじめて見る者のように見覚えがない
なのに記憶の中のあたしは、その人物と、親し気に笑い交わしている

どこで、だれといて、なにをしていた時の記憶かも判然としないけれど
この光景は、イヤな感じはしない
だから確かに、あたしは「このように在った」のだと、思う


相棒は知っているはず
…あれは、だれ、なの

しかしいつも通り
一切黙して語らず


●届かない景色
 気が付けば、どこまでも続くような、果てない草原の上に立っていた。雪の名残だろうか、濡れた下草を踏んで、ぐるりと一度周りを見渡す。
 先程まで劇場のような部屋に居たはずだが、とてもそうは思えない、彼方までの光景。遥か遠くには雪を被った峰が聳え、空は青く、明るい。たとえ目を瞑ったとしても、訪れる春の芽吹きを待つような、冷たい風が感じられる。
 すう、とユヌは深く息を吸う。鮮明な、土と風の匂い。「大した能力だ」と彼女は思い、そして同時に、思い出を映し出したはずのこの光景に、何も感じないことを自覚していた。
 はっと目の覚めるような感覚も、胸を焦がすような郷愁も、彼女の元を訪れることはなかった。実感の湧かない、見知らぬ光景の中で、それでも他人事として目を逸らすことが出来なかったのは、『彼女』の姿があったから。
 それぞれに馬に乗って、この広い草原を駆ける青年と少女。競い合うように駆けていく二人の内、片方。その少女は、ユヌと全く同じ顔をしていた。身に纏った鮮やかな民族衣装から、この二人が同じ部族だか一族だか……群れに属しているのは分かる。馬上の彼等の声は上手く聞き取れないけれど、親し気に笑い合っていることも。

 これがかつての自分なのだろう、とユヌは思う。ならば、この青年は何者だ? 見覚えはない。何も感じない。
 けれど、逆に、この光景から違和感や、イヤな感じもしないということは、あたしは実際に『このように在った』のだろう。……少なくとも、そう信じたって良いはずだ。
「ねえ」
 二人の事を目で追いながら、ユヌが口を開く。
 どうすれば良いのかもわからぬまま、失われたそれに手を伸ばす。
「……あれは、だれ、なの」
 彼女と共に在る悪霊、オウガは、何も答えない。

 そうだろうと、思ってはいた。いつものように、黙ったままだろうと。
 けれど、そこで――馬上の彼女、かつての自分と、視線がぶつかるのを感じた。
大成功 🔵🔵🔵

鈍・しとり
どんな味になっているか知ら
本当に再び現となるのなら、
わたしもお相伴を
期待してしまうわね

得も言われぬ夜の木漏れ日
祭囃子に人、人々の笑い声
まあ……ほんとう、凄いわ、あなたたち
甘い甘い水の味がする
本当に久しぶりの味

ほうと掌を落ちそうな頬へ
天も地も、こんな煌の満ちる夜だったなと
そんな夜もあったのだなと、遥か遠い記憶に浸って

この祭は蛍の盛りに合わせて、雨季の合間に行われていたの
確か天候の恵、豊饒を願って
けれど少し後には同じ様にして、次は雨乞いの祭をするの
人は忙しないでしょう
ぽつぽつと独り言の様に零して

まだ人の味すら知らぬ頃のこと
何て懐かしい一時

嗚呼、たのしい――どうもありがとう
暫く夢に見られそうだわ


●夢に見る
「まあ……ほんとうに、凄いわ、あなたたち」
「お褒めに預かり恐悦至極でしてよー」
 思い描いた光景が、もう一度見たいと願った色が、瞬く間に広がって、しとりは微かに目を見張る。
 舞い踊るのは、得も言われぬ夜の木漏れ日。遠くからは祭囃子と人々の笑い声が聴こえて、空気すらも塗り替えられる。あの日に戻ったこの場所に香るのは、本当に久しぶりの、甘い甘い水の味。
 掌を頬に置いて、ほう、と息を吐いたしとりは、改めてその遠い記憶に浸る事にする。
 星に木漏れ日、人々の灯。天も地も、こんな煌の満ちる夜だった。
 川原に降りればせせらぎが聴こえて、水面に映る星の様までよく見える。草の表に止まった木漏れ日――明滅する蛍の光に指先を伸ばして。
「この祭は蛍の盛りに合わせて、雨季の合間に行われていたの」
 確か天候の恵、豊饒を願ってのものだと、しとりの唇から記憶の露が零れ落ちた。ふわりと飛び上がった光の珠が、揺らめく様を目で追う。
「――けれど、少し後には同じ様にして、次は雨乞いの祭をするの」
 雨も恵も同じこと、思い通りにはならぬというのに、畏れ、祈り、乞い願う。いや、それはただの口実で、彼等の願いは祭そのものなのかも知れないが。
 ひとは、かみであった彼女からすれば、とても忙しなく、けれど強かで――。
 まだ人の味も知らない頃の記憶を、もう一度味わうようにして、彼女は愛おしげに目を細めた。

「嗚呼、たのしい――どうもありがとう」
 暫く夢に見られそうだわ、と、傍らに控えていた愉快な仲間に告げる。共に味わうことができたようで何よりだと、彼女は言うが……。
 川原に伸びた草の合間、祭囃子の響く向こうに、何か異質なものを感じとって、しとりはゆっくりとそちらに顔を向けた。
大成功 🔵🔵🔵

ネムリア・ティーズ
本当に、あの子の部屋だ……すごい力だね

窓辺に座るふたり
伸ばしかけた手を胸において、部屋を見まわす

実はね、上手に描けてほっとしたんだ
この場所は…もうどこにも存在しないけれど
色褪せず残っていると分かったから

儚く強い、憧れも
決して帰れないさびしさも
やさしい夜にくるまれて
穏やかに満たされる心地

黒猫さんの名前はティーズ
なんでも引き裂いてしまうけど
あの子とボクにはやさしかった

あの子はボクの…大切な子だよ
びょうきで体が弱くてね
でも、この夜は元気で
こっそり本を読んでくれたの

あの子のお気に入り
月の娘――ネムリアの物語

キミの声に耳を澄ます
ボクと同じはずなのに違う声

もっと、よんで

続きを、その名前を
だいすきなこの声で


●キミの声
 幻灯機が映し出す光の中で、その空間が描かれる。それは思い出の中にあった一室、月の見下ろす窓辺に、ネムリアは足音を抑えながら歩み寄った。
「本当に、あの子の部屋だ……すごい力だね」
 実体を持ったはずなのだから、手を伸ばせば触れられる。けれどそれは何だか憚られて、彼女はそっと自分の胸に手を置いた。
「実はね、上手に描けてほっとしたんだ」
 そう言って、彼女は目を細める。描き出されたこの部屋は、現実には既に存在しないもの。けれどこうして、ちゃんと色褪せず残っていた。
 宵藍の色も、金色も、やさしい夜はあの日のままで。身を置いていると、穏やかに満ち足りた心地がする。儚く強い、憧れも、決して帰れないさびしさも、こうしている間は、やさしく包まれているような。
「お嬢様……」
 気遣わしげな声に微笑んで返して、ネムリアは大事な宝物を扱うように、言葉を続けた。
「黒猫さんの名前はティーズ。なんでも引き裂いてしまうけど、あの子とボクにはやさしかった」
 月のように丸く輝く瞳を見下ろして、彼女は言う。それからその黒猫が見つめる少女へと、視線を移して。
「あの子はボクの……大切な子だよ」
 黒髪の、けれどネムリアと同じ顔の彼女。その姿が、変わらず描き出せたことを、ネムリアは改めて嬉しく思う。
「びょうきで体が弱くてね。でも、この夜は元気で、こっそり本を読んでくれたの」
 宵藍の瞳が文字を追って、やわらかな声が謳う。
 それは彼女のお気に入りの一冊。月の娘――ネムリアの物語だ。

 忘れ得ぬ、大事な思い出に身を浸らせて、瞳を閉じて、耳を澄ます。
 もっと、よんで。そう続きをせがむようにして、彼女はしばし、その時間を楽しんだ。

 ボクと同じはずだけれど、違う声。だいすきな声。物語が月の娘に触れるたび、キミの声がボクを呼ぶ。
 そして、幾度目かのそれに、目を開ければ、そこに――。
大成功 🔵🔵🔵


第3章 ボス戦 『『悪性概念』アリスラビリンス症候群』

POW ●邪歯羽尾ッ駆ノ感染症
【対象の記憶に潜み、干渉する事で対象が怪物】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
SPD ●ミュータント・オウガール
【対象の認識に潜み、干渉する事で対象が少女】に変身し、武器「【ハートボム(投擲爆弾)】」の威力増強と、【アリスに対する強烈な捕食衝動を与え、魔法】によるレベル×5km/hの飛翔能力を得る。
WIZ ●アリス・イン・ワンダーパンデミック
【自身の存在を認識した対象の深層心理に出現】【し、その内面に干渉する事で攻撃を加える。】【また、対象の記憶や認識を喰らう事】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
👑11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はアララギ・イチイです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●追憶に映る
 記憶を写したレンズから、描き出された光の世界。仮初の実体を得た追憶の世界に『それ』は居た。
 既にそれぞれの記憶の中、あるいは心の中に潜り込んでいたのだろう。『悪性概念』は、時に誰かになりすまし、時に何かに身を潜めさせて、それぞれの猟兵と共に同じ世界を見ている。
 『それ』は追憶の世界に干渉し、塗り替えて、何かを手駒にし、もしくは自らの手で、猟兵達に牙を剥くだろう。

 放っておけばこの国に蔓延り続けるであろうこの病、『アリスラビリンス症候群』を根絶できるかどうかは、猟兵達一人一人の手にかかっている。
エドガー・ブライトマン
ずいぶんと物騒だね
あの時のピーノ君はすこしおかしかったけれど
そんなコト言ってたかな…

いいや、このピーノ君には何か違う
私が忘れっぽくとも、ピーノ君が大きすぎても
隠し切れないものがある
姿を現したまえ、キミ

ラーテル君が力を使ってくれている間に勝負を付けよう
かれらに攻撃が及びそうな時は《かばう》
かれらを守ることもまた、私の役目さ

空を飛ばれるのは困るなあ。私にはその術が無いから
捕食衝動とやらを利用してあっちから来てもらおう

ねえ、キミに私を捕まえられるとおもう?
キミが望むなら食べたっていいよ。捕まえられるなら

向かってきたところで“Eの誓約” なかば《捨て身の一撃》だね
すこしくらい噛まれても、まあ痛くないさ


●夢でも幻でもなく
「ふむ、ずいぶんと物騒な事を言うね」
 回転鋸を振り上げる巨大ピーノくんを前に、エドガーはそう首を傾げる。確かに、記憶を手繰ればあの時のピーノくんは物騒な事を言っていた、と思うけれど。
「……いいや、このピーノくんは何か違うな」
 確信を持って、首を横に振る。ここまで見境のない暴言は吐いていなかった、と思う。そして、それと同時に消せない違和感がそこにはあった。いくら自分が忘れっぽくても、このピーノくんがどんなに大きくても、隠し切れないものがあるのだ。
「そこに、誰かいるね?」
「エー、突然何の話デスカー?」
「いや、無理しなくて良いから。姿を現したまえ、キミ」
 首を傾げる巨大なピーノくんに構わず、声をかける。後ろに隠れているんだろう?
 すると、まさに指摘したそこから、観念したように金髪の少女が現れた。今度こそ記憶にない少女だ、多分、とエドガーが頷く。
「……なんでわかったの?」
「えっ、なんでだろう。自然とわかるものじゃないかな?」
 ふふ、と笑う彼に向かって、現れた少女――オウガは、眉を顰めて表情を歪める。
「おかしな男……でもまあ良いわ。王子様を食べてしまうのは悪い怪物じゃなくて、悪戯な女の子だったということでしょう」
 そっと彼女が手を触れると、巨大なピーノくんが彼女によく似た少女に変わる。ふふ、と鈴を転がすような声で笑った巨大な少女は、魔法の力で浮き上がった。
「はあ……大きなお嬢様が大きなお嬢様になって空を飛びあそばされてますわ……?」
「うーん、ラーテル君が言うと余計にややこしいな」
 戸惑った様子の愉快な仲間に、後ろに回るように言って、エドガーは空飛ぶ巨大な少女と向き直る。
「しかしまぁ、随分とでたらめなことになって来たね」
「そうね。でも、夢ってそんなものよ」
 敵の嘲笑うような声に応えて、エドガーは覚悟を決めた。ああして飛び回られては、追う手段がない。ならば降りて来てもらうまでだ。
「ねえ、キミに私を捕まえられるとおもう?」
「当たり前でしょう」
「本当かい? じゃあやってごらんよ。キミが望むなら食べたって良い。……捕まえられるのなら、ね」
「ええ、そんな生意気ぬかして大丈夫ですのお嬢様!?」
「まあまあ、キミはそこで隠れていたまえよ」
 すらりと引き抜いたレイピアを手に、襲い来る敵を迎え撃つ。
 『Eの誓約』。マントの下、背に負った聖痕の輝きを剣閃に変えて、伸ばされた少女の両手を素早く斬り刻む。
「ああ――!」
 両手の指では足りないとばかりに大口を開けた巨大な少女が、噛みつきにかかるが、鋭いその歯に咬み千切られる前に、顎の筋を斬り裂いて緩める。怒涛の斬撃は彼の命すら削るものだが、彼の手は止まらない。
 頬の肉を斬り飛ばしてやりながらそれを突破し、エドガーはついに、後ろに控えていたオウガの元へと迫り、レイピアの刃を叩き込んだ。
「……え?」
 どこか余裕の表情を浮かべていたオウガが、心臓を貫かれたそこでようやく目を見開く。
 実体の曖昧な『悪性概念』たる彼女にしてみれば、それはあり得ぬ自体。実体化の影響をもろに被ったオウガには、もはや成す術もない。
「――残念だけど、これは夢じゃあないのさ」
 エドガーが、血糊を払った剣を鞘に納める後ろで、ガラスの割れるような音を響かせて、オウガの姿が消えていった。
大成功 🔵🔵🔵

花邨・八千代
ぴり、とした違和感がある。
振り向いて、たくさん居る好いた男を見渡して。
なんだかひどく癪に障る気配がする。

大事なものだからこそ、些細な変化がよくわかる。
それは向けられる目の温度だったり、笑う口元の角度の違いだったり、嗅いだことのない匂いだったり。
だから、すぐに見つけられるのだ。

おい、お前誰だ。
なんでぬーさんの顔して笑ってやがる。
――誰の許可得て布静に「成って」んだ、テメェは。

有り余る怪力を拳に込めて一気に近付く。
不愉快な『それ』を掴んで、遠慮なく【破拳】をぶち込むぞ。

布静の顔してようが、テメェは布静じゃねぇ。
むしろめちゃくちゃ腹立つからすげー痛くするぞ。
後悔する間もなくぶっ飛ばしてやる!!!


●抱擁
 嗅ぎ取ったのは微かな、けれど間違いようもない違和感。
 先程までの笑みを引っ込めて、振り向いた八千代は、背後に広がる光景――色んな思い出の束を睨む。
「あら、どうしましたのお嬢様? 突然の腹痛?」
「いや……ちょっとな」
 その中にはたくさんの、好いた男の姿がある。笑みを浮かべてもどこか影の消えない、色気のある顔を順に、見渡して。
「ははーん、さては――」
「いやそういうんじゃねぇから」
 何か見当違いの事を言い出しそうだった愉快な仲間を黙らせて、後ろに下がらせる。
 逆に、彼女自身は映し出された思い出へと踏み出す。そして、剣呑に光る赤い瞳で、『彼』を捉えた。
「おい、お前誰だ」
 何や、突然。困った女やなあ。『彼』はそんな風に笑みを返すが、その様に、さらなる怒気を滲ませながら八千代が進む。
「なんでぬーさんの顔して笑ってやがる」
 恐らく、それはよくできた仮面なのだろう。しかしそれでも完全ではない。向けられる目の温度、笑う口元、嗅いだことのない匂い。身近でずっと見てきたから、大事なものとして目で追ってきたからこそ、それらの些細な違いが、彼女にはどうしても鼻につく。
 いや、癪に障ると言うべきか。
「――誰の許可得て布静に『成って』んだ、テメェは」
 低く敵意の込められた呟きに、ようやく誤魔化しきれぬと悟ったか、『それ』は隣の光景から、布静を八千代の方へと押しやる。盾代わりにされたそれは、オウガの干渉を受けたか急速に形を変え、怪物と化して彼女に襲い掛かった。
「ンだよ、台無しじゃねぇか!」
 思い出も、その綺麗な顔もだ。怒声を響かせながら、八千代は怪物を一撃の元に叩き伏せる。伸ばされた青い指を払って、変わり果てた顔にもう一撃、とどめを刺す。
 立ち止まることなく進む彼女の姿を見て、『偽物』は何かを言おうとするが。
 言葉を発するその前に、八千代の五指が首を掴み取る。喉を圧して、呼吸と言葉を堰き止めて。
「ああ、もう喋んなよ、せっかくきれーな顔になったんだからなァ?」
 そのまま腕を回してやる。愛しい相手を抱くようにして、耳元に唇を寄せ、囁く。
「ま、布静の顔してようが、テメェは布静じゃねぇからな」
 すげー痛くしてやるからな。何しろむちゃくちゃ腹立ってるから。
 宣言通り、抱き締めるその腕は、じりじりと『偽物』の首をきつく、きつく締めあげて。

 ――何が間違いかと言えば、よりにもよって彼女の想い人に化けたのが不味かった。どんなに上手くやったところで、本物には比べるべくもないと言うのに。
 そうして、やがて終わり行く思い出の光景に、首の圧し折れる音が響いた。
大成功 🔵🔵🔵

エンジ・カラカ
賢い君、賢い君
アレは本物の君?それとも変なヤツ?
おかしいなァ……コレの知らない顔をしているンだよなァ……。

アァ……分からないなら分からせればイイ。うんうん、そうそう。
薬指の傷を噛み切ってコレの血をご飯にしたら
炎で燃やしてしまおうそうしよう。

ニセモノ、ニセモノ
アレはニセモノ?アァ、お前はダレだ。
知っているカ
賢い君は笑わないンだよなァ……。

コレは君のあーんな顔を見たコトない。
おかしいねェ、おかしいなァ。
毒性の炎で絡めて燃やしてしまおうそうしよう。

知らないヤツはコレの思い出にはいらない。
ゆかいなヤツラの美味しい食事を邪魔するヤツもいらないいらない

アァ……だーれだ…。


●あかいいとのきみ
 じい、と思い出の光景に視線を注いだまま、エンジはおもむろに口を開いた。
「賢い君、賢い君。アレは本物の君? それとも変なヤツ?」
 おかしいなァ、と首を傾げる。これは思い出の光景で、記憶の中から引っ張り出されたもののはず。それなのに……花輪を前にした君は、知らない顔をしている。
 分からない、解からない。ならばどうするかと言えば、エンジの取るべき行動は一つだ。
 うんうんと頷いて、薬指の傷を噛み切り、零れた血をそれに捧げた。すると、糧を得て活性化した赤い糸は、毒性の炎を纏って蠢き出す。
「ニセモノ、ニセモノ……アレはニセモノ?」
 何かの声を聞くように、降りてきた答えに耳を傾ける。
 そして、それを元に問いかける。お前はダレだ。
「知っているカ、賢い君は笑わないンだよなァ……」
 一度思い出の海に沈みこむように遠くを見て、エンジはその視線を目の前の『微笑み』に向けた。
「コレは君のあーんな顔を見たコトない」
 おかしいねェ、おかしいなァ。歌うような言葉と共に、糸が揺らめき、炎の影がその微笑みの上で踊る。
 君でないならこれは誰だ。知らないヤツ。それならコレの思い出にはいらない。
「いらない、いらない。ゆかいなヤツラの美味しい食事を邪魔するヤツも……」
 エンジが強硬姿勢を取ったのを察したか、『偽物』は即座に赤い糸を展開し、陣を張る。逃げる狼を捕まえるために使った檻を、今度は自分を守るための砦として。しかしエンジの操る側の赤糸は、毒の炎を帯びている。編み上げられた壁を溶かし、焼き落とすようにして、本物の赤い糸は敵の身に絡みついていった。
 縛り、封じ込め、斬り裂き、燃やす。その本領を以てすれば、赤い糸がこの悪性概念を駆逐することなど、いかにも容易い事だろう。

 炎に巻かれながら、悲鳴を上げて、賢い君の姿をしていたそれが形を崩す。
「アァ……だーれだ……」
 今度こそ見覚えの無い少女の姿に、大事な思い出の中に紛れ込んだ異物に、エンジは躊躇わず赤糸を一閃させた。
大成功 🔵🔵🔵

●昔と今と
 実体化された思い出の中、かつての自分が動き出すのを、ニールはほっとしたような気持ちで迎え撃つ。襲ってくるのが『あの人』の方だったらどうなっていたか、考えるだに恐ろしい。だがこちらも気を抜いては居られないと、彼は得物の柄を握り直した。
 小さな不定形の『ニール』が腕を伸ばすように触腕を生み出すと、同時にその身が膨れ上がる。
「キャーッ、お嬢様のお嬢様が巨大に!?」
「う、うん……落ち着いてね」
 騒ぎ出した愉快な仲間を下がらせて、伸び来た腕を、ニールは振るった斧で斬り払う。
「……やっぱり、そうなるか」
 動き出したのが自分ならば、と予測は出来ていた。変貌を遂げ、怪物と化したその姿――蠢く泥と生物の死骸から成る巨大なそれは、『母さん』と同じものだった。醜悪、と言わざるを得ないのだろう、『それ』から分かたれ、様々なものを見てきたニールは、自分の抱いた感想に複雑な思いを抱く。
 太く力強い触腕が、全ての色を呑み込むような黒を広げて、ニールに迫る。母体がそう願うのなら、かつては何の疑問もなく従ったのだろうが。
「――ぼくは、昔とは違う」
 三日月形の戦斧が風を斬り、巨大な腕に喰らい付く。正面から受けるのではなく、側面から削ぎ落すように。『刃』を扱うことに慣れた彼は、そのまま怪物の身体を斬り飛ばし、その体積を減らしていく。自分と同じ存在であるからこそ、有効な戦い方も、ニールにはよくわかっていた。
 もちろん、その急所も。
 斬り飛ばされた泥をまた取り込んで、体積を増やしていくよりも早く、刃は沼の怪物を削っていく。まだまだ、とても追い詰められているようには見えない状況だが――。
「そこだね」
 共鳴するそれを認識して、ニールは相手の『心臓』に目を向けた。
 直接は見えないが、黒い泥の奥にあるそれ――『水の印』を感じる。その結晶こそが、この怪物の核だ。しかし同時に、共鳴するもう一つの『水の印』――ニールの体内に抱かれたそれの存在も、相手に伝わっている。
「……!」
 だから、そこからは一瞬だった。相手の伸ばした腕に戦斧を突き立て、逸らして、両手を空にして敵の懐に飛び込む。伸ばされた左手、その鎧の下から毒液が滲んで、黒く染まる。
 母のそれよりも細くて小さい、その黒い手で、ニールは『水の印』を掴み取った。

「ぼくは昔とは違う。ちゃんと戦えるんだ」
 沼の怪物、それに化けたオウガが、溶けて崩れていく。それを見届けると、戦斧を拾い上げたニールは、『彼』へと視線を戻した。
「――ねぇ」
 思い出の時間は、もう終わりなのだろう。消えていくその姿を、しばし見つめて。名前を呼んで。
「……ぼく、強くなったよね?」
 答えはない。けれど、光に溶けていくその口元には、笑みが浮かんでいるような、そんな気がした。
ニール・ブランシャード
出たね!「あの人」のほうが襲って来たら戦えないかも…って不安だったけど、ぼくの方で良かった。

ぼくが変身するなら、「沼の怪物」の姿になると思う。
蠢く泥と生物の死骸から成る、触腕を生やした巨大で醜悪な沼の怪物…。
ぼくの母さんと同じ。

ぼくの生態まで模倣してるなら、体の中のどこかにある結晶…「水の印」を壊せば溶けて死ぬ。

「ぼく」の体を切り飛ばして体積を減らして、印がある場所を探すよ。
ある程度近付けば、ぼく自身の印と共鳴して場所が分かるはず…それは相手も同じだけど。
相手より早く懐に飛び込んで、「黒い手」で確実に印を溶かす!

ぼくは昔とは違う。ちゃんと戦えるんだ。
ねぇ、ーーさん…ぼく、強くなったよね?


●昔と今と
 実体化された思い出の中、かつての自分が動き出すのを、ニールはほっとしたような気持ちで迎え撃つ。襲ってくるのが『あの人』の方だったらどうなっていたか、考えるだに恐ろしい。だがこちらも気を抜いては居られないと、彼は得物の柄を握り直した。
 小さな不定形の『ニール』が腕を伸ばすように触腕を生み出すと、同時にその身が膨れ上がる。
「キャーッ、お嬢様のお嬢様が巨大に!?」
「う、うん……落ち着いてね」
 騒ぎ出した愉快な仲間を下がらせて、伸び来た腕を、ニールは振るった斧で斬り払う。
「……やっぱり、そうなるか」
 動き出したのが自分ならば、と予測は出来ていた。変貌を遂げ、怪物と化したその姿――蠢く泥と生物の死骸から成る巨大なそれは、『母さん』と同じものだった。醜悪、と言わざるを得ないのだろう、『それ』から分かたれ、様々なものを見てきたニールは、自分の抱いた感想に複雑な思いを抱く。
 太く力強い触腕が、全ての色を呑み込むような黒を広げて、ニールに迫る。母体がそう願うのなら、かつては何の疑問もなく従ったのだろうが。
「――ぼくは、昔とは違う」
 三日月形の戦斧が風を斬り、巨大な腕に喰らい付く。正面から受けるのではなく、側面から削ぎ落すように。『刃』を扱うことに慣れた彼は、そのまま怪物の身体を斬り飛ばし、その体積を減らしていく。自分と同じ存在であるからこそ、有効な戦い方も、ニールにはよくわかっていた。
 もちろん、その急所も。
 斬り飛ばされた泥をまた取り込んで、体積を増やしていくよりも早く、刃は沼の怪物を削っていく。まだまだ、とても追い詰められているようには見えない状況だが――。
「そこだね」
 共鳴するそれを認識して、ニールは相手の『心臓』に目を向けた。
 直接は見えないが、黒い泥の奥にあるそれ――『水の印』を感じる。その結晶こそが、この怪物の核だ。しかし同時に、共鳴するもう一つの『水の印』――ニールの体内に抱かれたそれの存在も、相手に伝わっている。
「……!」
 だから、そこからは一瞬だった。相手の伸ばした腕に戦斧を突き立て、逸らして、両手を空にして敵の懐に飛び込む。伸ばされた左手、その鎧の下から毒液が滲んで、黒く染まる。
 母のそれよりも細くて小さい、その黒い手で、ニールは『水の印』を掴み取った。

「ぼくは昔とは違う。ちゃんと戦えるんだ」
 沼の怪物、それに化けたオウガが、溶けて崩れていく。それを見届けると、戦斧を拾い上げたニールは、『彼』へと視線を戻した。
「――ねぇ」
 思い出の時間は、もう終わりなのだろう。消えていくその姿を、しばし見つめて。名前を呼んで。
「……ぼく、強くなったよね?」
 答えはない。けれど、光に溶けていくその口元には、笑みが浮かんでいるような、そんな気がした。
大成功 🔵🔵🔵

浮世・綾華
十雉(f23050)と

愉快な仲間に混じる、誰か
嗚呼、お前が――と認識する前に、朧に

この家はあの人達がいなくなってから
新しい生きる場所として選んだ住処だ
無知だったから無駄に良い家を買ってしまった
あの人の遺産…金だけはあったし

…あの人って誰
違う
こんなこと考えてる場合じゃ

此処は不思議の国
オウガを倒さなくちゃいけない
オウガは――そいつだ

友に向ける切っ先
けれど…
少しの違和感を消す為

鍵刀で思い切り足を刺した
痛みに、衝撃に塗り替えられていたものが戻る

十雉
大丈夫か?と視線を向け
友達と言って嬉しそうに笑ったお前を傷つけなくて良かったと思う

仇って。死んでねーケド
からからと笑むも目は笑わずに

偽りは鬼火で燃やす


宵雛花・十雉
綾華(f01194)と

気を付けろ、綾華
オウガの奴がどこに潜んでるか分からねぇからさ

おい、どうしたよ綾華…気分でも悪いのか?
どうにも様子がおかしい
心配になって近寄ったところで向けられた切っ先
思いもよらない状況に目を瞠るけど、オレは反撃も防御もしない

!……
おい馬鹿、何やってんだ!
綾華が自分で刺した傷を確認しようと慌てて駆け寄って

ああ、オレは何ともねぇ
……けど分かってたよ
お前はオレのこと友達って言ってくれた
そんな奴がオレを傷付けようとするわけねぇ
んなこと言ったらお前は笑うだろうけどさ

よくもやりやがったな
悪性概念だか何だか知らねぇが
綾華の仇はとらせて貰うぜ
2人合わせて火力2倍だ、喰らいな


●二つの炎
 ふと後ろを振り向いたところで、綾華は気付く。友人と二人の愉快な仲間、その後ろに隠れた■■■■の姿に。何故気付かなかったのだろう、ここに居て当然のはずなのに。身の内に生じた違和感を、自ら上塗りする。だって、あれはそう、――?
「気を付けろ、綾華。オウガの奴がどこに潜んでるか分からねぇからさ」
「ああ……」
 さて、何だったか。十雉の声に、一瞬朧げになった意識を引っ張り戻して頭を振る。オウガが潜んでいる、と頭の中で彼の言葉を反芻し、辺りへと注意を向けた。
 思い出から成るこの場所は、当然ながら彼の知るそのままの形をしている。そう、綾華は心の中で頷く。この家は、あの人達がいなくなってから新しい生きる場所として選んだ住処だ。当時の自分は無知だったから、無駄に広くて良い家を買ってしまった。そんなことができるだけの遺産……金だけはあったし。
「――あの人って誰」
 思考があちこちに飛んで、意識に虫食いが生まれていることをようやく自覚して、綾華は混乱をきたした額に手を遣る。
「違う、こんなこと考えてる場合じゃ……」
「おい、どうしたよ綾華……気分でも悪いのか?」
 さすがに様子がおかしい、と察した十雉が綾華に歩み寄る。揺れる上体を支えるように、彼の肩へと手を伸ばし――。
「あ……」
 それを契機に、綾華は『思い出す』。此処は不思議の国で、自分達は今オウガに襲われている。こちらに手を伸ばしているのがそのオウガだと、そう認識させられて、綾華は刃を振り上げた。
「――!」
 突如向けられた切っ先に、十雉は咄嗟に目を瞑る。反撃も防御もできぬまま、けれど、衝撃も痛みも、一向にやっては来なかった。訝し気に目を開けると、そこには。
「――おい馬鹿、何やってんだ!」
「キャーッ、大丈夫ですのお嬢様!?」
 十雉が綾華へと駆け寄る。刃を振り下ろした彼は、寸前で違和感に気付いたのか、十雉ではなく自らの足にそれを突き立てていた。
「大丈夫か?」
「ああ、オレは何ともねぇ」
 十雉の答えを聞いて、綾華が密かに安堵の息を吐く。そんな様子を知ってか知らずか、「無事を問う側が逆だ」と十雉は表情を強張らせた。
 けれど同時に、わかってもいた。自分のことを友達だと言ってくれた彼が、自分を傷付けようとするわけがない、と。
 一方の綾華は、その様も見ていて。――『友達』だと言って、嬉しそうに笑った十雉の顔を思い出す。そんな彼を、傷付けることが無くて良かった、そう心の中で呟いた。
「んー、面白い顔してるけど、笑ってやるのは後にしよう」
「あ?」
 相手の懸念を吹き消すように軽口を叩いて、綾華がそちらへ目を向ける。そこにあるのは意外そうな顔をした、金髪の少女の姿。それを、敵の存在を、今度こそ正しく認識して。
「お前がそうだな?」
「あら、もう少し踊ってくれると思ったのに」
 じり、と下がる少女へに十雉も気付いて、得物をその手に、踏み出した。
「よくもやりやがったな、悪性概念だか何だか知らねぇが――」
 駆け出した少女を跳び越え、その眼前に降り立つ。瞬時に薙刀が炎を纏って。
「綾華の仇はとらせて貰うぜ」
「仇って。死んでねーケド」
 挟み撃ちの位置で、自らも鍵刀に炎を宿した綾華が、笑っていない目でオウガを見下ろす。
「そぉら、綺麗に咲かせてやるよ」
「――喰らいな」
 紅蓮の炎と緋色の鬼火が合わさるように踊って、実体化させられたままのオウガを焼き尽くした。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

九之矢・透
ようし、オバケじゃないんだな!?オウガだな!?
なら大丈夫
戦えるなら問題ないぜ!
ラーテルサンは危ないから下がっててくれよ

やっぱ怪しいのは13番目の場所とリスかな
影が滲んだ辺りやリスを狙ってまずは柳を放つ
リスに放つのは少しイヤだけどね
本物じゃないって分かってる
盗み食いはするけどイイ奴さ

柳が当たって反応するものが無いか見ておこう
家壊しちゃったら後で直すから!

アンタが「悪性概念」?
何かが見つかれば『山嵐』
時間差で2回攻撃、どちらかでも僅かでも当たればいい
耐久力があるってのなら内から動きを止めるまで
毒が利いてきたなら短剣も使って仕留めに行く

想い出話ってのは大事なモンでさ
フィクションにされちゃあ困るんだ


●不思議の国の怪談
「お嬢様! あのリスオバケどんどんこっちに来てましてよ!?」
「お、オバケじゃなくてオウガだと思う!」
 鏡合わせの向こうから迫り来る巨大な影にそう当たりを付けて、透は愉快な仲間を下がらせる。大丈夫、多分オウガだ、きっとそうに違いない。それなら何とか、戦えるような気もするし。
 敵を迎え撃つべく投刃を手にした彼女は、それでも、と僅かに眉根を寄せる。見知った顔の相手を攻撃しにくいというのは、ごく自然な感覚だ。普段から一緒に居る彼等なら、それもなおのこと。時々盗み食いとか困ったこともするけれど、イイ奴だもの。偽物だと分かっていても――。
「……なんかどんどん極悪なツラになってませんこと?」
「ああ……攻撃しやすくて助かるけどさ」
 怪物化が進んでいるのか、前歯の横から牙が生えて、尻尾が枝分かれし始めたリスに向けて、透は刃を投げ放つ。突き刺さったそれは、ユーベルコードの効果によって形を変えて、返し針と化してその身体に喰らい付く。
 ぐおお、ともはや面影の欠片も無い低い唸り声を上げるリスの突進を躱して、彼女はさらに刃を追加していった。
「よーし、こっちだ!」
 さすがに巨大なだけ耐久力は凄まじいようだが、彼女の放った『山嵐』は相手に神経毒を流し込む効果もある。自ら駆けて、リスの注意を引きながら、彼女は鏡の向こうへと跳びこんだ。動きの鈍ったリス怪獣の傍らを駆け抜けて、さらに合わせ鏡の向こうへと。目指すはもちろん、『13番目』だ。
 毒の回ったリスが転倒するのを横目に、また一つ鏡の境界を超える。
「――アンタが悪性概念ってやつ?」
 リスの現れたその場所に潜む、わだかまる影。先程から目を付けていたそこに、金髪の少女の姿を見つけて、透は短剣を抜き放った。
「想い出話ってのは大事なモンでさ、フィクションにされちゃあ困るんだ」
 人の記憶を勝手にパニックホラーにした代価は、ちゃんと支払ってもらおう。実体化させられた『悪性概念』が、逃れられないと悟る内に、彼女の刃がその胸を貫いた。
「――まあ、土産話としては、こっちの方が喜ばれるかも知れないケド」
 オウガの最期と時を同じくして、幻燈の灯が終わりを告げる。
大成功 🔵🔵🔵

祓戸・多喜
こう外から眺めてると変わった所もあるのね。
あの時は寒かったからしっかり着込んでいて…あれ?
あんな子いなかったはず。あんな可愛い子、居たならもっとしっかり印象に残ってるはず。
というか真冬の記憶なのに微妙に薄着で不自然で一人だけはっきりし過ぎて周りから浮いてるし!
誰なのかは知らないけどきっとヤバイ奴ね!
というか顔が曖昧な雑踏の皆が怪物になってきてるし!
これじゃ甘酸っぱい思い出がパニックホラーに早変わりしちゃう!
UC起動、狙撃モードで怪物達を矢の乱れ撃ちで撃ち抜いていく!
怪物は弓で狩るもの、そして怪物に変えてく元凶も当然逃がす訳もない。
全力で剛弓で最大の矢を引き撃ち抜くわ!

※アドリブ絡み等お任せ🐘


●パニックホラー
「こう外から眺めてると変わった所もあるのね」
 冬の街並みを眺めながら、多喜は呟く。当然ながら、あの時は寒かったからしっかり着込んでいて……。
「……うん?」
 と、そこで違和感に気付く。冬物の服が並ぶ雑踏――あの日直接会って喋った人達とは違い、顔さえも曖昧なそれが、そろってこちらを向いている。
 すると、通りすがっただけで印象にも残っていない彼等が、存在を主張するように歪に形を変えはじめた。
「ええ……?」
 いやいやそんな変形したならもっとはっきり記憶に残ってるでしょ、この思い出はただの日常であって、パニックホラーじゃないんだから。
 完全に記憶を逸脱した異常事態に、多喜は弓を構えてそれを迎え撃つ。『其は障害を除くもの』、その場に足を止めて、代わりに強く弓を引き、次々と矢を放っていく。
 襲い来る異形の怪物は、耐久力に優れるためか多少貫かれた程度では止まらない。それならばと乱れ撃ちでその場に縫い留めて、時間を稼ぎながら頭数を減らしていき――やがて、もう一つの違和感に行き着く。
 怪物と化した雑踏の中に、金髪の少女が紛れている。時折姿を見せる彼女は、周囲の存在から明らかに浮いているように見えた。
「誰なのかは知らないけどきっとヤバイ奴ね!」
 なぜ今まで気付かなかったのか、と言いながら多喜がそれに向けて弓を引く。種を明かすならば、記憶やら認識やらに干渉して、違和感を抱かれないよう細工をしていたとこと、戦闘に際して誤魔化しきれなくなったというところだろうか。
 とにかく、そう、怪物とは弓で狩るもの。ならばその元凶だって逃がすはずもない。
 剛弓の弦を、全霊の力で引いて、その一点に向けて、放つ。風切り音を残して飛んだ矢が、オウガの胸を確かに射抜いた。
大成功 🔵🔵🔵

鈍・しとり
私の夢は美しいでしょう
けれど覗き見は良くないわ
其処にいるのは誰か知ら

口ずさみながら水辺の雑草に刀を滑らせ敵を炙り出す
そのまま連撃に移ろうとして
察した干渉に不快そうに眉を顰め

お前、わたしのものを喰らう気なの
良い度胸だ

『ゐらして』
鋭い爪先で己ら目の下に傷をつくり
一滴の血涙で頬を濡らす
儀式により呼び招くは心に巣食う底なしの沼
美しい川原も何もかも、足を救う沼地に変えて敵の動きを鈍らせて
自身は慣れた泥濘の地を駆けて刀を振るうだけ

私の味はいかがか知ら
人のものを横取りしては罰が当たるわよ
こんな風に、と呪いの様に口にして


●泥濘
「どうされましたの、お嬢様?」
「すこし、そこで待っていらして」
 嗅ぎ取った、異質な気配のした方へ、しとりは一歩ずつ、追い詰めるように歩き出す。
 私の夢は美しいでしょう、けれど覗き見は良くないわ。そう口ずさみながら、手にした刀で川原の叢を斬り払っていく。
「其処にいるのは誰か知ら」
 覆いを剥ぎ取るような最後の一閃。しかし敵を炙り出すはずのその一太刀の直後に、ごっそりと川原の一部が『消えてなくなる』。記憶か、認識か、相手のそれを喰らい取る『悪性概念』の能力だろうが。身に起きたその事象に、しとりは今日初めて、不快そうに眉を顰めた。
「――お前、わたしのものを喰らう気なの」
 良い度胸だ、と。冷たく冴えた目で、『何もない』そこを、そしてそこに潜む者を見据える。
「ゐらして」
 鋭い爪先で撫でて、自らの目の下に傷を作る。赤い筋から零れる一滴が、涙のように頬を濡らした。
 ぽたりと落ちた雨雫は、川原の石の上にひとつ、赤い染みを生み出して。
「――!?」
 しとりの認識から外れた場所、削り取られた叢の中でオウガが届かぬ声を上げる。
 地面に生じた一滴の染みは、瞬く間に広がって、蛍の舞う美しい川原が、星を映す静かなせせらぎが、彼女の心を映す景色――底無し沼へと塗り替えられた。叢だった場所も、泥の海へと姿を変えて、少女の姿の『悪性概念』はたまらずそこから駆け出す。
「何なの? どうして、こんな――!?」
 普段ならば、別の誰かの頭の中へ逃がれれば済む話だった。しかし、実体化させられた現状ではそれも上手くいかないのだろう。沼地に足を取られながら、微かに聞こえる祭囃子を目指す彼女の背に、あおいろの鬼が迫る。
 泥濘の地を、慣れた様子で駆けた彼女は、瞬く間に追い付いて。
「私の味はいかがか知ら」
 今更ながら、『悪性概念』は自分の喰らったものの恐ろしさを知る。
「人のものを横取りしては、罰が当たるわよ」
 こんな風に。ぞぶりと刃がその身に沈む。鋭いだけではないその刃は、相応の悲鳴を奏でさせ、オウガの命を刈り取った。

「わ、わたくしも気を付けますわ……!」
「まあ」
 刀を鞘に納めたところで、しとりは震える愉快な仲間へ目を向ける。
 怖がらせてしまったかしらと口元を押さえて、彼女は小さく微笑んだ。
大成功 🔵🔵🔵

ユヌ・パ
オウガの手を顕現させて、『記憶のあたし』に攻撃を仕掛ける
相手はあたしだから、遠慮なんてしないわ
その首を、刎ねてあげる

――相棒の攻撃のキレが悪い
あんた、ふざけてるの
あれがあたしの顔だからって、手を抜いたら承知しないわよ

攻撃は全部受ける
痛みは「激痛耐性」で耐える
流した血も削がれた肉も、全部代償としてくれてやるわ
相棒、これは命令よ
『あれ』を喰らいなさい

怪物には
オウガになっていたかもしれない、可能性のあたしを重ねる
あんたは悪霊なんかにならずに
ちゃんと死になさい


血に濡れた姿を記憶の中の青年に見られ、胸が痛んだ
わけもわからず涙が流れ落ちていく

あれはしらないひとだから
どうおもわれたって、へいきなはずなのに


●戻れない場所
 かつての自分がこちらを目にして、馬を走らせ、迫り来る。『悪性概念』によるものとわかっていても、覚えの無い過去が自分を消しに来る皮肉を、ユヌは思わずにはいられなかった。
 こちらなんて見なければよかったのに。あの知らない男と、笑い合っていればよかったのに。
 けれどそんな感傷とは切り離された思考で、ユヌはオウガの手を顕現させる。彼女の一部を糧に、青い炎が燃え上がり、生まれた『腕』が敵を迎え撃った。
「その首を、刎ねてあげる」
 オウガの腕に生えた鋭い爪が、過去の自分の喉元を狙う。駆ける馬から飛び降りてきた彼女は、『悪性概念』の影響だろう、肥大化した腕でそれを受け止め、逆に反撃に転じてきた。オウガの腕の上を転がるようにしてやり過ごし、肥大化した拳で顔面を狙う。豪風を伴うそれを、オウガはユヌの身体を操り、首を傾けさせ――。
「……ねえ」
 拳を振るった相手を打ち払い、距離を取ったのを横目にしながらユヌが口を開く。
「あんた、ふざけてるの」
 言葉の先は敵ではなく、自らと共に在るオウガへ。真の意味で間近で見ているのだから、誤魔化しようもないだろう。いつもよりも、オウガの攻撃が生ぬるい。
「あれがあたしの顔だからって、手を抜いたら承知しないわよ」
 言って、自らの意思で前に出る。動く者を狙う化け物と化した『彼女』は、禍々しい爪の巨腕で、新たに生じた鞭のような触腕で、同じ顔の少女へ襲いかかった。
 それらの全てをその身に受けて、ユヌは敵を真っ直ぐに見つめる。そして激痛に耐えながら、流れ落ちる血を、削ぎ落された肉を、全てオウガにくれてやり、代償に見合う成果を要求した。
「相棒、これは命令よ。『あれ』を喰らいなさい」
 オウガは音も無く咆哮し、青白い炎が燃え盛る。爪を、牙を、顕現させて、オウガは『彼女』の腕を押さえ、喉笛に喰らい付いた。

 ひゅる、と最後の息の洩れる音が聞こえる。倒れていく『彼女』を、青白い炎を通して見下ろす。
 死に行くかつての自分を前に、自らの在り方と見比べて。
「あんたは悪霊なんかにならずに、ちゃんと死になさい」
 小さく、そう告げた。
 草原を渡る風に頬を撫でられ、ユヌは辺りの光が薄くなってきているのに気付く。思い出を映し出すこの時間も、そろそろ終わろうとしているのだろう。
「……何?」
 思わずそう口にする。消え行く前の、馬上の青年……かつての自分と笑い合っていた彼が、こちらを見ているような気がする。
 自らの血と返り血に塗れた姿を見て、表情を曇らせたように――。
「……」
 彼の消えたその場所を、しばし見つめる。
 光の加減でそう見えただけかもしれない。――そう、それに、あれはしらないひと。どうおもわれたって、平気なはず。

 なのに、何故か胸は痛んで、頬を、熱い雫が流れて行った。
大成功 🔵🔵🔵

リンデ・リューゲ
ティヨル(f14720)と

短く応じて感覚を研ぎ澄ます
村人達が森を訪れるのは良くあったこと
だけど

かあさん
それは殆ど声にならなかったかもしれない

俺と似た髪色
好んでよく着ていた服
意地が、悪いな
さっき会わないと決めたばかりなのに

恐怖
後悔
喪失感
俺だけ生き延びてごめんなさいと
幼い俺が悲鳴を上げる

頭の中を齧られる音がする
駄目だ
嫌だ
かなしみも全部俺のものなんだ

迷子になりかけた心をヨルの言葉が引き上げる
短く、力強く応じよう
塗料を足元にぶち撒け
足よ動けと叱咤する
昔とは違う
俺はヨルまで喪っちゃいけない

フック付きワイヤーを放ち彼女を捕らえ
花纏う竜の前に引き摺り出すよ

母さんは花が好きだった
だからよく似たきみにも
餞の花を


ティヨル・フォーサイス
リンデ(f14721)と

リンデ
呼びかけ警戒を促す

(この場所を、二度とオブリビオンの好きにさせるわけにはいかないのよ)
わかっている
ここが本物じゃないってことは

そんなことは許す理由にならないわ
出てきなさい

現れた姿に息をのむ
リンデに似た柔らかな面差し
(どうして、おばさまがここにいるはずない)

リンデを盗み見る
動揺なんてしてられない
そっと息を吐く

ずいぶんと化けるのがお上手のようだけれど
残念ね
おばさまはもっとずっと綺麗だったわ
そうでしょう、リンデ

槍を振るって
きて、リュイ!
白い竜が襲い掛かる

(お願い。花を降らせて、見えなくなるくらいに
私の弟分の心が痛まないように)

こんな最悪の病なんて、ここで断ち切ってみせる


●手向け
「リンデ」
 誰か来る。そう察したティヨルは短く彼の名を呼ぶ。警戒を促す響きに、リンデもまた素早く反応した。村人達が森を訪れる事は珍しくなかった。けれど、ここにあるのはかつての故郷の森であり、過去の思い出の光景だ。それで、あの日はどうだった?
 ――この場所を、オブリビオンの好きにさせるわけにはいかない。そう内心で気を張りながら、ティヨルは気配のする方へと声をかけた。
「出てきなさい」
 この森が一時の幻だなんて、そんなことは分かっている。それでも、だからこそ、『二度目』を許す事なんて。
 そうして身構える二人の前に、草むらを掻き分けて、不思議そうな顔をした彼女が進み出る。それは、確かに村の一員で、二人にも当然見覚えのある人物だった。リンデが小さく息を吐く。喉からかろうじて絞り出したのは、そう。
「――かあさん」
 掠れた声でそう呼べば、彼女がこちらへ話しかけてくる。
 さっき会わないと、決めたばかりなのに。ぼんやりと頭に浮かんだのは、そんな嘆きのような言葉だった。懐かしい声で名前を呼ばれて、頭の中がそれに埋め尽くされる。自分とよく似た髪色、好んでよく着ていた服、柔らかな面差し。恐怖が、後悔が、喪失感が、ぐるぐると巡って、心の奥に押し込め、蓋をしていた言葉が浮かび上がる。
 ――俺だけ生き延びてごめんなさい。
 これが『誰か』の仕業であると、リンデも頭のどこかでは理解している。その誰かは、スープみたいに頭の中をかき混ぜて、それを味わっているのだろう。わかってはいても、頭の中で巻き起こる嵐に、一人で抗うのは並大抵のことではない。
「ずいぶんと化けるのがお上手のようだけれど、残念ね。おばさまはもっとずっと綺麗だったわ」
 けれど、ここにはもう一人、ティヨルが居た。
 彼女の内面にだって、等しく渦が巻いている。けれど、隣のリンデの顔を見れば、そんな動揺を振り払うことは容易い。そっと息を吐いて、彼女は呼び掛ける。迷子の少年に、その手を差し伸べるように。
「そうでしょう、リンデ」
「――ああ」
 短く、力強く、リンデがそれに応じる。

 どうやら演技は通用しなくなったようだと、そう悟った『悪性概念』は、方針を攻撃へと切り替える。記憶を、認識を、齧り取るその力で、がぶりと森の一部を喰らった。思い出の森に裂け目を生んで、彼女はそこに姿を消すが――。
「ここを、好きにはさせない……!」
 リンデのぶち撒けた塗料が色を与え、裂け目に逃れた彼女を浮き彫りにする。
 昔とは違う、足よ動けと自らを叱咤して、駆けたリンデは、そこにワイヤーを放った。母の姿をしたものに縄を打つことへの躊躇も、その使命感が上回る。
 ここで戦うのを放棄して、ティヨルまで喪うようなことは、決してあってはならないのだから。
「きて、リュイ!」
 リンデの引きずり出したそこへ、ティヨルがその槍を振るう。ドラゴンランスは主の命に応え、真の姿、花纏う竜と成った。

 ――お願い、花を降らせて。花弁が悲しみまで覆い隠してしまえるように。彼の心が痛まぬように。

 ――餞の花を降らせてほしい。母さんは花が好きだったから。

 二人の願いを乗せて飛翔した竜は、過たず、病魔の根源を断ち切った。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

●思い出の終わり
 硝子に描いたものを映し出す、不思議な光が薄まっていき、それぞれの場所で思い出の光景が消えていく。
 そうして、劇場のような部屋から出た猟兵達に、愉快な仲間のラーテルさん達が口々に礼を言う。
「何か途中で怖いのが出てきやがりましたわよね」
「アレってオウガだったのかしら? マジ危なかったですわー」
 気付かぬまま放っておいたら、来客やアリスが次々と被害に遭っていただろう。そう頷いて。
「美味しい硝子を食べさせてくれた上にオウガも倒してくれるなんて、お嬢様様様ですわね!!」
「ああ、もういつでも遊びに来てくださいませ! 歓迎いたしますわー!」
 わいわいと騒がしい彼等に見送られながら、猟兵達は帰途についた。

 最後に、この国の様子を一度見渡す。硝子の生まれる森と、幻燈機の照らす劇場。

 潜むオウガを討伐し、彼等の開拓も軌道に乗った。この国が栄え、来訪者が増えて行けば、食糧問題も自ずと解決するだろう。
 ……まあ、何もかも順調にいくかは、誰にもわからないけれど。
 猟兵達の救った『追憶の国』の歴史は、ここから始まる。

最終結果:成功

完成日2020年08月07日
👑11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵