穢れなき紺鼠色のセメンテリオ(作者 天味
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●グリモアベースでは、ブラックタールの少女、エール・アブス(魂無き泥人形・f07961)に呼ばれた猟兵たちが集まっていた。
 無論、いつも通りの依頼──しかし今回はその気色が違っていた。

「人間が、UDCになっちゃったんだよ!」

 これまであり得もしなかった事態。守るべき人間が、退治されるべき存在へと変わったという。
 前代未聞の予知に、依頼主の少女も焦っていた。

「UDCになっちゃった人間……『UDC-HUMAN』を救って欲しいんだ。その子は被害者で、今ならまだ人間に戻れるの」

 『UDC-HUMAN』。最近話題になりつつある、UDCで新たに確認された事件の一つだ。人間がなんらかの事態により心を痛め、人外へと堕ちる現象。それが今回の依頼で確認されたらしい。
 ちなみに、『UDC-HUMAN』へ至る原因。それはUDCでも、特定の邪教団体といったものでもなく──“人間”である。

「事件の早期解決はもちろん、あと被害者のアフターケアも必要だよ!ここでUDC化の連鎖を止めなきゃ、もう一度起こるかもしれないからね。
 それで、被害者の子なんだけど……」

 彼女は予知した被害者の詳細、そして今回の加害者について話し始めた。
 被害者の名前は日下部・愛衣(くさかべ・まない)。小学五年生の少女で、父親と二人暮らし。家出した後に公園で度々目撃情報があったらしい。
 その目撃情報というのが、『UDC-HUMAN』になってしまった愛衣本人だという。

「んと、はい。この子がこのUDCに変化してるんだ。『無垢な汚穢の仔『ミール』』……わたしにすっごく似てるのは今は気にしないで」

 紺鼠色の肌の少女が、同い年くらいの子供たちと公園で遊んでいる姿が映し出される。無邪気な様子で泥んこ遊びをしており、その様子はとても楽しそうに見えるだろう。
 しかし、その規模はあまりにも大きかった。公園のあちこちが彼女の肌と同じ色の泥で塗られており、それは次第に公園の外まで広がりつつある。

「まずはこの子を止めなきゃ……と言いたいところなんだけど、これに乗じて別のUDCが集まってるみたい。
 だから先にそっちの数を減らしてから、救出してほしいな」

 ぺこりと頭を下げるエールは、最後に彼女を『UDC-HUMAN』へと変貌させてしまった元凶について吐露した。

「事件の犯人は、あの子のお父さんだよ。お母さんが死んでからずっとその人は……ううん。言わない方が、多分あの子のためになる」

 それほど凶悪、そして唾棄すべきものを、父親は彼女に与えてきたらしい。
 拳を握り静かに怒るエールは、ハート型のグリモアを顕現させた。

「お父さんには、殺さない程度にきつーくお仕置きをしてね。──もう二度とあの子に手を出さないと誓うまで、絶対に」

 扉が、開く。

●お父さんとお母さんが好きだった。
 二人とも優しくて、仲が良くて、いつもわたしと一緒に笑ってくれた。遊んでくれた。

 お母さんが死んでから、お父さんが嫌いになった。
 お父さんはいつも泣いてて、わたしを殴って、怒っていた。悲しかった。

 お父さんの元から離れた。
 いつも笑ってるから。いつも殴るから。いつもわたしを抱きしめるから。いつも、いつも……みんな、わたしを見て笑ってる。

 わたしは楽しくなんかないのに。
 わたしはただ、みんなと笑っていたかったのに。

 ──わたしと、遊んで。

「ずっと、わたしと遊んで──*****」


天味
 天味です。
 UDCアースシナリオ、三部構成です。

 今回の依頼で特筆すべきことは、“人間”を相手にすることが多くなる、ということです。いつものようにオブリビオンを倒すだけでは終わりません。
 『UDC-HUMAN』、その元凶、そして混乱に乗じて集まったUDCたち。これら三つを相手にします。

 第一章:『都市伝説『てるてる・ヨーコさん』
 集団バトルとなります。混乱に乗じて集まったUDCで、簡単に蹴散らせます。

 第二章:『無垢な汚穢の仔『ミール』』
 ボスバトルです。心を病んだ人間、日下部・愛衣という少女がUDCに変化した姿です。
 UDC化してはありますが“人間であることには変わりません”。よってユーベルコードを上手く手加減する、もしくは心を入れ替えさせる等の手段が必要になります。
 倒せば元に戻りますが、倒すだけでは心は元に戻りません。

 第三章:『人間の屑に制裁を』
 愛衣の父親をシバき倒します。殺さない程度にユーベルコードをぶつけてください。

 本シナリオは、完全にシリアス傾向で通す予定です。ネタやエロ系のプレイングは、内容次第では弾かせていただきます。
 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。

●補足情報
 日下部・愛衣には両親がいたが、母親が死に、父親は愛人の死を受け入れられず激化。酒に溺れて娘に暴力や性虐待を行うようになる。
 やがて家出をし自由の身になるが、傷は癒えることなく、UDC化してしまい今に至る。
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第1章 集団戦 『都市伝説『てるてる・ヨーコさん』』

POW ●災害警報
自身が操縦する【雨雲 】の【降水確率】と【災害警戒レベル】を増強する。
SPD ●今日のラッキーアイテム
いま戦っている対象に有効な【ラッキーアイテム 】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
WIZ ●今日の天気は晴れのち・・・
【いま自分にとって都合のいい天気 】を降らせる事で、戦場全体が【その天気に応じた環境】と同じ環境に変化する。[その天気に応じた環境]に適応した者の行動成功率が上昇する。
👑11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 いつから曇り空になったのだろうか。
 お昼頃から雨なんて天気予報ではなかったはずだ。通行者たちはしとしと降りだした雨に、怪訝そうにしつつも折り畳み傘を鞄から探す。

「とぅるるるる〜とぅるるるる〜」

 それは電話の着信音、の口真似だった。
 いつからそこに居たのだろうか。奇妙な髪型の女子高校生──否、狐の耳を生やした女子高校生は、子ども用傘を空へと突き出した。

「時報でーす♪今日は、雨のち……“かみなり”!」

 ──そして、災害警報が一斉に鳴りだす。
ロバート・ブレイズ
「人間が『最も強烈』を抱くのは常の所業だが、世の中の泥濘が拭われる事は在らず。真なる秩序が起きる事など在り得ない。たとえ未知だと称えられても総ては既知に陥り、その自由も傷を癒せぬと。クカカッ――」
如何なる天気でも問題ない
天気の『情報』を集め、如何行動すれば好いのか思考する
しかし『それ』は人間たる己だけの話だ

百記邪昂の王群は『地』から涌き出すのだ
地に地獄の炎を注ぎ込み『割って』現れる蛆を嗾ける
それに騎乗した『猟犬』は獲物を喰い殺すまで治まらない
「都市伝説よ、貴様の存在は狗の餌だ」
混迷極まるだろう場に『隙』を見出し、接近
そのまま鉄塊剣を脳天に叩き込む

「貴様が如何に『乗り込んでも』人は覗き難い貌よ」


数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】

人間がUDCに……
また、子供が犠牲になろうとしてるのかよ。
しかし……この事件、根が深そうだね。
……いや、ダメだ。邪念を挟むな。
今は、愛依ちゃんを助ける事を考えろ……!

負の波動を辿ってきただけの雑魚どもは、
お呼びじゃねぇんだよ!
電撃を使おうとするアタシ相手なら、
金属製の避雷針みたいな奴が召喚されるだろ。
けどな、アタシの攻め手は電撃の『属性攻撃』だけじゃない。
呼び出した避雷針を『衝撃波』で弾き飛ばしながら、
ヨーコさんに『マヒ攻撃』の電撃を叩き込むよ。

今日の天気は晴れのち雷雨。
荒れ模様には気を付けな。
アタシの怒りは一味違うよ!
聖句を一つ紡ぎ上げ、【黄泉送る檻】を放つ!


 雨は次第に強まり、民間放送の避難勧告の通り大雨へと変わる。ゴロゴロと雷音が鳴り、空を覆う雲は雷を出したそうに流動し続ける。

「……急いだ方がいいね」
「無論だとも。無垢の赤子が汚穢の分体に成るのは、書物の中の出来事で十分だ」

 人間のスターライダー、数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)と、同じく人間の文豪、ロバート・ブレイズ(冒涜翁・f00135)は、水位が上がりつつある街中を走る。
 大雨の勢いは止まず、視界は霧の如く遮られ、そして僅か1cmだが洪水状態になっている。このまま時間が経てば、やがて2cm、3cmと上がり、次第に街は水没するだろう。

「元より大雨の予兆はあった。しかしこれほどの規模となれば、雨乞をされたか。泥濘に沈む前に、天がここを沈ませるとは。自浄作用だろう」
「んな自浄作用なんてあってたまるか……あれは!」

 しかし街の中に、不自然な球体が浮かんでいた。否、それは結界──または"傘"と言えるだろう。
 その中にいるのは、スマートフォンを持った女子高校生がいた。正確には、狐耳と尻尾を生やした、人間ならざるもの。都市伝説が一つ、天気雨──『てるてる・ヨーコさん』だ。

「──ashes to ashes,dust to dust,past to past…」

 今、多喜の中を占めるのは深い闇だ。追憶する"友"の記憶と、この事件、『UDC-HUMAN』というものがどうにも重なり合う。悪感情から生じるUDC化と、かつて親友がなってしまったオブリビオン化。まるで同じものを見ているようで──虫唾が走る。

「あれー?なんか洪水率ヤバいような……」
「──お前らが、降らせたんだろうがッ!!」

 多喜の行動は早かった。
 聖句を唱えたことで彼女の周囲は帯電し、それは念動力となって彼女の右腕に集中する。増幅したエネルギーから発せられるのはサイキックブラスト。しかしただのサイキックブラストではない。
 檻だ。神に代わり鉄槌を下し、そして捕らえるための『黄泉送る檻(サイキネティック・プリズン)』。
 右腕から放たれた紫電の檻は、ヨーコさんを囲う結界を砕き、そして電撃を浴びせながら拘束した。

「ぎゃっぶゥッ!!?」

 ヨーコさんにとっては、突如トラックに跳ねられたような衝撃だっただろう。しかしそれでは終わらない。衝撃と共に大人一人分しか入れない檻の中に閉じ込められ、彼女はスーパーボールのように中で跳ねた。
 接触すればするほど、全身麻痺を体感する懲罰房に。

「──ふぅ、ッ。次はどこ!?アタシは今最ッ高に荒れ模様でね!」
「右のアーケード街に四つ、左の大通りに五つ。"たった今"視た」
「どうもッ!」

 激情のままに動く多喜をよそに、ロバートは悠々と街中を歩く。
 初老の文豪の行動は、なぜならもうとっくに終わっているからだ。

「ここへ訪れる猟兵(われ)らは、まさしく"てるてる坊主"であろう。しかし貴様もまた"てるてる坊主"。これは偶然か」
「ぁ、か……あ゛、ぁ……!」

 彼が歩いた先には、地べたに這いつくばるヨーコさんの姿があった。
 姿は見えずとも、雨がそのシルエットを見せる。彼女に巻き付く長い舌と、その持ち主である異形の猟犬。まるでジュースでも吸うかのように舌を体へ突き刺し、猟犬はヨーコさんから生気を啜っていた。
 しかし、それは単なる"おまけ"に過ぎない。

 初老の猟兵が街中へ派遣した蛆は、街のあちこちに出没したヨーコさんたちに噛みつき、寄生した。自らの体臭を猟犬が呼び寄せるビーコンとして、『百記邪昂・偏在王群(ワイルドハント・ミゼーア)』は蠢き貪る。
 蟲たちにとって、都市伝説は猟犬へ捧げる餌でしかない。
 ロバートはグリモアから一振りの剣を取り出す。「立ち去れ」、と。鉄塊の剣が呻いたような、喋ったような、命令したような──おぞましきモノを手にし、そして。

「では、三番目を送ろう」

 雨水を油に。剣を薪に。彼女を火種に。
 鉄塊の剣はヨーコさんの頭蓋を破壊し、辺りを血に染めた。だが溢れんばかりの雨水がそれを溶かし、瞬く間にさらってゆく。
 まるで何事もなかったかのように。

「貴様が如何に『乗り込んでも』人は覗き難い貌よ」
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

オクタ・ゴート
――行かねばならない。

ボウフラのように湧いた連中に興味はない。【油の沼より出ずる者ども】に『怪力』で始末させましょう。
雷は槍を持つ人型が避雷針代わりになって、我々を『かばう』。
「天候如きで左右されるほど、我々は脆くはない」
ナノマシンや呪術による保護のお陰もありますが、何よりこちらにはやらなければいけない事がある。こんなところで、立ち止まってはいられないのですよ。

余裕があれば、首無し共に周囲を調べさせ救出対象を探しましょう。


 勢いが少しずつ緩くなりつつある雨だが、足元の水かさは未だ増え続けている。
 その中に黒く、どこか親しみを感じさせる泥が混じっていることに、オクタ・ゴート(八本足の黒山羊・f05708)は焦りを感じつつも走る。
 ブラックタールの紳士たる彼には、グリモアベースで見たあの姿と、被害者の少女の姿には、想うものがあり過ぎた。
 ──行かねばならない。急がねばならない。

「あれー?なんか減って……ヒッ!?」

 道行く敵には目もくれず、彼はただ突き進む。
 当然、街中で雨乞いをするヨーコさんらは、それを許すはずがない。しかし彼女らの足元から這い出た蛸型のブラックタールたちが、拘束を行い、体内へと沈められて処理される。

 邪魔だ。先を急がねばならない。しかし雨を止めなければ──特に、落雷は駄目だ。

「はいはーい!ビビッと受信したよ!今日の天気は……かみなり!」
「──チッ!」

 最悪な想像をした時に限って、それはやってくる。
 ゴロゴロと土砂降りの中で響く雷音。召喚する眷属を蛸型から人型の異形へとチェンジし、ちょうど折り畳み傘を空へ掲げたヨーコさんへと差し向ける。黒い粘液でカタチ創られた人型の異形は、腕の一本を槍状に変えて、同じように空へ掲げた。
 自ら避雷針となってでも、雷だけは"彼女"に当ててはならない。

 しかし雷は無慈悲に、その思いすら貫き爆ぜる。

「おびょおぉっ!!?」
「ぐぅゥッ!!」

 爆音と衝撃。そして着弾点を中心に、水が一気に蒸発した。
 避雷針になった人型の異形は一瞬で爆散し、ヨーコさんとオクタはほんの一秒だけの感電と共に、とてつもない熱波を浴びた。先ほどまで雨に打たれていたというのに、突如溶岩の中へと突き落されたかのような感覚。約五十万アンペアの電流は二人の全身を焼き、追い打ちの如く表面を焼き払われる。当然、ただで済む訳がなかった。
 たった一人を除いては。

「──ッ、ォお……!」

 どれだけ傷を負おうとも、立ち上がって走らなくてはならない。ナノマシンの機能が酷く低下し、呪術の保護を貼り直さなくてはならなくなるほど火傷を浴びても。
 黒焦げになったヨーコさんを脇に、オクタ・ゴートは一人の少女のために一歩踏み出す。

 ──オクタには、この街は見覚えがあった。
 同じブラックタールの少女が、住処として利用している街。それとうり二つなのだ。
 もし想像通りなら。もし、"彼女"が同じようにそこで泥遊びをしているというのなら。

「……やはり、か」

 ヨーコさんらを討伐する眷属、『油の沼より出ずる者ども(コール・タール・オブリビオン)』の一部を、戦闘ではなく探索へ回していたオクタは、確信した。落雷を受けたことで彼らは皆消えてしまったが、寸前で情報は受け取っていた。

 目指すべきは公園。巨大な池があり、街の中心に位置する場所へ。
苦戦 🔵🔴🔴

アウル・トールフォレスト
(※好きにお任せします)
ゆーでぃーしーひゅーまん…人間が怪物になっちゃうなんてね
けれども、助けられもする。不思議な話だね
いいよ。戻れるのだったら、その方が良いもんね。わたしも手伝ってあげる

けれど、その前に
集まってきた子を片付けなきゃね

雨は冷たくて、風は気持ちよくて、雷はピカピカ光って、どれも好きだよ
雨の中でも見失わないように目を凝らして
風の中でも聞き逃さないように聞き耳を立てて
雷が落ちてくるのを予知出来るように野生の勘を研ぎ澄ませて

そして【ブラッド・ガイスト】で両腕を殺戮捕食態に変化させて
属性攻撃…大きなわたしに落ちてくる雷を利用して、更に威力を高めながら
柔らかそうなあの子達を引き裂いていくよ


馬県・義透
【アドリブ連携大歓迎】
※悪霊に見えぬ人。四人で一人。
【千里眼射ち】を使用するときには、常に閉じてる目が開き、目の色が見えます。

第二人格(?)、『静かなる者』を表に。
一人称は『私/我ら』。

余程のことをされたとみえる。しかし、少女は『我ら』と違い、まだ戻れる。希望は終わらせない。
しかし…この目の前のUDCと悪霊である『我ら』。そこの違いは何であろうか。
だが、主目的はそこにあらず。…今は素早く殲滅し、道を作る。
『白雪林』による【千里眼射ち】にて攻撃。
他の方と協力できるのであれば、【援護射撃】。
近づいてくるならば、『四天霊障』での攻撃。

「『我ら』として初の猟兵仕事。…私は手を抜かずにいこう」


 街の中心に、『UDC-HUMAN』がいる。
 その知らせを受けた猟兵たちは足を街の中心へと向けた。目指すは公園。だが、その前にやらねばならないことがある。

「──ふッ!」

 道を作り、かつ雑魚を皆散らす。
 街に集まり、雨乞いをした『ヨーコさん』の一体を狙撃した多重人格者の男、馬県・義透(多重人格者の悪霊・f28057)は、いつもは閉ざしている目を開き長弓を手にしていた。彼はビルの屋上に立ち長弓、"白雪林"を手に次の矢を番えていた。
 一撃必殺。必中のユーベルコード、『千里眼射ち』による狙撃は、街をうろつく『ヨーコさん』集団に悟られることなく、一体一体確実に頭を撃ち抜いていた。

「『我ら』としての初の猟兵仕事……"私"は手を抜かんぞ」

 義透には四つの人格があり、今回は第二の人格、"静かなる者"が主導権を握っていた。
 弦を引き、十秒。息を止めて狙いを定め──ピン、と的と矢先を繋ぐ。

 ──見えた。そのまま弦から指を離せば、繋がれた糸を辿るように、矢は的を貫く。

「──しかし多いな」

 既に七体と倒したが、数は減っているように見えない。
 これでもかなりの『ヨーコさん』が猟兵の手で討伐されているが、まだ道を開けるほどの数が街にあふれかえっていた。

 一体何が、これほどの"悪霊"を呼び寄せたのか。
 『UDC-HUMAN』が、彼女らを喚び寄せたのか。

 その真相に気がかりな猟兵は、彼だけではなかった。

「不思議な話──!」

 ズゥンッ!!と、アスファルトにヒビを入れるほどの質量を持つ"両腕"を振り回す女性──否、バイオモンスターの少女、アウル・トールフォレスト(高き森の怪物・f16860)は思う。

「ゆーでぃーしーひゅーまん」

 人間が怪物になる。こういった逸話はいくつか聞いたことがある。それらの大半は"怪物"として処理されるか、"怪物"のまま終わる。──ただ、悲しい話ばかりだった。
 だが、『UDC-HUMAN』は違う。
 助けることができるし、助けられもする。そう、"怪物"に堕ちながらも"元に戻ることができる"という救いがある。それはまるで、御伽噺の定石を破壊するような、あるいは誰かが望んだ幸せのカタチ。
 当然だ。助かるのなら、助かった方がいいに決まっている。

「わたしも、助けたいって思う!」

 だからこそ、少女は怪物の両腕を振り回す。
 二メートル半の身長を持つ人間体の怪物は、『ブラッド・ガイスト』により異様に太く、緑色に変質した腕で『ヨーコさん』たちを蹂躙する。人を砕き、喰らうための巨腕。だが、それは今人を救うために使われている。

 ──雷の音。それを、戦闘中の猟兵たちは聞き逃さなかった。

「む」
「これは、来るね!」

 まだ生きている『ヨーコさん』の何体かが、呼び寄せたのだろう。どす黒い雨雲が空に密集しているのが見えた。
 義透はすぐさまビルから飛び降り、アウルは両腕を浮かせしっかりと地面を踏みしめた。

「──これは私が、元より持つ力」
「──さあ、来いっ!」

 男は空中で目に見えぬ矢を番え、
 怪物は空高く飛び、右腕で雨水を掬い取るように空へ掲げた。

 ──雷はアウルへと放たれた。

 『ヨーコさん』にとって、雷は最大の武器だった。天然の災害にして、最強の矛。彼女たちはこれを呼び寄せ、強化した。そのため、猟兵にも通用するほどの威力と破壊力を持つ。
 しかし彼女にとって誤算だったことが一つある。

 アウル・トールフォレストは、単なる怪物ではない。

「"喰らえ"」

 そもそも『ブラッド・ガイスト』とは、所持した武器の封印を解き、"殺戮捕食態"にするユーベルコードだ。
 彼女の両腕は今まさに武器であり、殺戮捕食態。──つまるところ、なんでも食べれる。
 それは雷でさえも。
 雷は彼女に落ちたのではない。これから、物体化した雷が『ヨーコさん』に襲い掛かるのだ。

 しかし忘れてはならない。『ヨーコさん』に襲い掛かる脅威はもう一つあることに。
 雷はアウルへ放たれた。つまるところ、最初から最後まで、『ヨーコさん』らは義透の存在を認知できていない。「どこかから狙撃してくるヤツがいる」という情報はあったが、見つけられなかったらしい。
 だが、それはちょうどよかった。
 透明──霊魂が込められた矢を番えつつ、彼は目を閉じる。"四天霊障"。内側にある四人の無念、その塊を解放する。

「「「「『それは林のように』」」」」

 分裂する。義透を中心に、薄らと透明な義透が三人。それぞれ個性ある表情で、矢を放った。
 怨念、呪詛、後悔、殺意──ありとあらゆる全ての悪。これらが込められた四つの霊力の矢は、アウルが振るう雷撃の拳と同時に、まるで泳ぐように四方へと放たれた。

 後は、語るまでもないだろう。
 巨大な地震と共に、街中にいた『ヨーコさん』は悲鳴を上げる間もなく、予報に使っていたスマートフォンを落とした。
 カミナリ警報はやがて注意報に変わり、雨は次第に止むだろう。──しかし、止ませるべき雨は、まだ降り注いでいる。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵


第2章 ボス戦 『無垢な汚穢の仔『ミール』』

POW ●汚れて真っ黒になっちゃえ
【泥の塊】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を深いぬかるみに変化させ】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
SPD ●一緒にドロドロになろうよ
【一度付いたらなかなか取れないヘドロの濁流】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ ●わたしとずっと遊んで
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【泥で覆われた人形】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
👑11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠エール・アブスです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 公園は──酷いあり様だった。
 本来カラフルな色だったはずの遊具も、ベンチも、地面も、草木も全て、泥にまみれ、全て穢れて黒一色になっていた。

 もはや泥沼と化した池の中心に、少女はいた。

「──ねぇ」

 わたしと遊んで。
 無邪気な笑顔を向けて、彼女はたった一つの願いを猟兵たちに言った。
数宮・多喜
……これは。
泥沼、か。
子供みたいに、遊びたいのか?
それとも、ただ汚れたいのか?

……それとも。
「穢れた自分を別の汚れで隠したい」のか?
傷だらけの自分を。何かの理由で穢された自分を。
そして目を背けて、無邪気な子供でいる事を望んで。
その結果が、この姿なのか……?

教えてくれ、愛衣ちゃん。
アンタの何が、その「泥」を呼び寄せた?
それがどれだけ辛い事でも、伝えて貰わないと。
アタシも愛衣ちゃんも、ここで終わっちまう。
ヘドロの濁流をお守りばかりの『環境耐性』で受けつつ進み、
『優しさ』をもって『手をつなぐ』。
大丈夫さ、愛衣ちゃん。
其の心の痛みを、打ち明けてくれ。
そうして過去に抗い、未来へ進もうじゃないのさ。


アウル・トールフォレスト
あちこち泥だらけ…よっぽど退屈だったんだろうね
いいよ!一緒に遊びましょう
わたしのオススメはね…隠れんぼ!

まずは【祝福・怪物領域】で、周囲一帯を『高き森』に変えるよ
隠れんぼの場所を作る為でもあるし、上書きして泥人形を作れなくする為でもある
いっぱい、いっぱい遊びましょう。隠れて、探して、見つけあって
それとね、あなたのことも教えてほしいの
だって遊んだなら、わたし達もう、おともだちでしょ?

仲良くなって、信頼して貰って
そうして、油断した所を狙って

『聖痕』を使って、あの子の痛みを吸い出すよ
怪物になった要素を取り除ければ、戻れる筈だよ

泥だらけは楽しいけれど
女の子ならキレイでなくちゃ、ね?


 数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)が来た時には、既に手遅れと言っても良かっただろう。公園は酷いあり様だった。

「……これは」
「ある意味すごいなぁ」

 その隣いるアウル・トールフォレスト(高き森の怪物・f16860)もまた、多喜とは違う感嘆の声を漏らす。
 ありとあらゆるものが鉛のような鈍い色。足元が数センチ沈むほどの泥濘が広がっており、あちこちから気泡が立っていた。
 元凶は三メートル先。そこで、少女が両腕を広げて待っている。

「わたしと遊んで」

 純粋な笑みを浮かべ、たった一つの願望を述べる。
 見る限り、意思はある。だがそこに"日下部愛衣"という少女はいるのか。多喜が懸念しているのは、どこまで彼女の意識がUDCに侵されているかだった。
 話を聞いた限りでは、彼女は父親の所業によって穢れてしまっている。恐らく目を逸らしたくなるほどに。
 それを別の汚れで覆い隠しているのか。現状から目を背けて無邪気な子供でいることで、自己防衛を行っているのか。
 「遊んで」という言葉は、「助けて」と言っているのと同じではないのか。にしては妙にニュアンスが違うような──。

「……かぁーっ!考えるのは時間の無駄無駄!こうなりゃ直接話して──」
「よし、お姉ちゃんと遊ぼう!」
「──はぁっ!?」

 ダイレクトに話をしてみよう、と考えた多喜だが、突如アウルが大きく背伸びをした。深呼吸の後、泥濘に命を吹き込むように息を吐いた。数秒ほどの吐息。それは口から離れた途端突風となり、重たい泥に波紋を作る。

「ん?うぉ!?」
「かくれんぼして遊ぼう!鬼はこのお姉さんで」
「えっ、ちょ?アタシがかよ!」

 表面に緑色の苔が生え、それは根を張って数多の芽を生み出してゆく。泥に適応するように、それは高く、しっかりとした"脚"で成長する。
 『祝福・怪物領域(テリトリー・ミストブレス)』。公園の遊具だけでは隠れる場所が足りないだろうと考えた彼女が生み出したのは、マングローブ林。──数十メートルの高さはあるだろう、樹木の迷路。
 公園にいた三人は瞬く間に分離され、各々の姿は見えなくなった。

「──遊んでくれるの!?」

 代わりに響く声。それに応えるように、アウルはさらに条件を付け加えた。

「三分間鬼に見つからずにいたら、あなたの勝ち!」
「……やるしかないってかよ!いいよ、今から10秒数えるから隠れな!」

 強引に始まった鬼ごっこ。そして勝手に鬼にされた多喜は10秒数え始める。
 その間、アウルの行動は早かった。愛衣、今は『ミール』というUDCになっている彼女の元へすぐ駆けつける。そもそもここはアウルが作りだしたテリトリーなのだ。移動も、どこに誰がいるのかも、簡単にできてしまう。
 いた。溶けていたはずの下半身を整形して、ミールは隠れる場所を探してウロウロしていた。

「みーつけた!」
「あっ……ん?おっきなおねえさんだから……」
「鬼じゃないよ。一緒に隠れよう♪」

 ミールは少しだけ考え、笑顔で頷いた。
 隠れる場所は池があった場所から少し離れた、自販機があったであろう場所。マングローブの樹木ですっかり覆われているが、そこが小さなほら穴になっており、二人はそこへ隠れた。
 10秒経ったのだろう。多喜が動いたのを察知し、アウルはミールに話しかけた。

「一緒に遊ぶの、楽しいね!」
「うん!」

 彼女が向ける無邪気な笑みに偽りはない。それがミールのものなのか、愛衣のものなのかは知らないが、今はこのままでいい。そうしてもっと遊んで、友情を育めば、きっと隙を見せる。
 が、アウルは一つ誤算をしていた。それは、

「見つけたよ」
「!?」

 僅か数秒で、多喜は二人の元へたどり着いた。
 『過去に抗う腕(カウンターパスト)』を利用し、思念波を飛ばしてエコー代わりにしていた多喜は、すぐに二人を察知したのだ。
 かくれんぼをしているというのに、なんたるチートを使っているのか。

「ちょ、ちょっと!?いくらなんでも早すぎでしょ!」
「そうは言ってもね、アタシらにそんな余裕はないだろ?……教えてくれ、愛衣ちゃん」

 屈んで、ミールと目を合わせる。
 楽しみにしていたかくれんぼが即終了し、どこか呆然としている様子だったが、彼女の話は聞くようだ。そのまま首を傾げる。

「アンタの何が、その"泥"を呼び寄せたのかい?」

 躊躇なく核心を突きつつ、多喜は発動中の『過去に抗う腕』のチャンネルを切り替える。"深層心理もしくは存在の本質を捉える思念波"、"過去の記憶や経験を探査する思念波"、"対象の精神や思考回路に干渉する思念波"の三種の思念波のうち、三つ目を微弱に飛ばしていたのを全てに。最大出力に変えて干渉する。
 そのままミールの手を取り、ヒントを視た──。


 ──クラスメイトにいじめられていた。本が好きだったから、本を池に落とされた。本を探していたらかみなりが落っこちた。

 死んだ。けど死んでない。日下部愛衣は生きていました。わたしは死んだけど、泥からわたしがもう一度生まれました。

 ──お父さんはわたしの元に来た。お母さんはその時に病気で倒れた。同時だった。タイミングが悪かった。わたしの家系は心臓が悪かったんだって。

 お母さんが死にました。日下部**はいのちを引き取りました。

 ──わたしが無事だったことがダメでした。お父さんは怒りました。それからずっと、遊ばなくなりました。

 お父さんは狂いました。「遊んで」とおねだりすると殴るようになりました。

 ──わたしは人じゃないみたいです。あの時死んでるから、生きているのはおかしいです。だから、お父さんはそれをいいことに、愛してくれました。

 わたしは愛されてます。けど疲れるし、体も痛いし、やっぱり普通に「遊んで」欲しいです。

 ──わたしと遊んでください。わたしと遊んでください。わたしと遊んでください。わたしと遊んで。わたしと遊んで。わたしと遊んで。わたしと遊んで。わたしと遊んで。わたしと遊んで。わたしと遊んで。わたしと遊んで。わたしと遊んで。わたしと。

 ねえ、見てるんでしょ。遊んでよ。遊んで。


「──ッッッ!!?」

 強烈なフラッシュバック。
 雷に打たれたように、多喜の意識が覚醒し、ミールの手を反射的に弾いた。
 覗けば何かわかる。その確信は確かなものだった。出自も、経歴も、UDC化の原因も、彼女は理解した。
 だが一つ、理解してはいけないものがあった。

「お姉さん!?」
「……あ、ンタ……まさか、"なるべくして"その姿になったっていうのか!!」

 ──日下部愛衣は父親からの性虐待を受けて、UDC化した。
 元からいじめを受けており、母親が死んだことで激化した父親からも暴力を受け、それが嫌になったのだろう。記憶で見た時の愛衣の姿は、酷く荒れたものだった。小学生にはあまりにも重すぎる絶望でもあっただろう。
 しかし、その前だ。

 この日下部愛衣は本当に"世間一般的な人間"なのだろうか。
 人間は1アンペア以上の電流が流れると即死する。UDCアースのコンセントによる感電事故がいい例だろう。家庭用の電力で、人は簡単に死ぬ。もしそれが落雷であれば?落雷の電流は平均10万アンペアほどだ。つまり、よほど幸運でなければ、どうやっても死ぬ。
 ──そこで、『スワンプマン』という都市伝説がある。
 思考実験の一つとしてよく取り上げられるものであり、ある種の都市伝説のようなシナリオとして有名なものだ。男が沼の近くで落雷で死に、その時もう一つの落雷が沼に落ちたことで、"偶然にも沼の汚泥と化学反応を引き起こし、死んだ男と全く同一、同質形状の生成物を生み出してしまう"というものだ。

 落雷による死。ちょうどその時、この公園の池に彼女は居て、落雷から僅か0.01秒後、彼女は生前と寸分変わらぬ姿で生きていた。
 それではまるで、『スワンプマン』という単なる思考実験が、現実化してしまったかのように。

「──わたし、と」

 マングローブ林が悲鳴を上げる。
 茶と緑の空間だった公園は瞬く間に紺鼠色の泥に覆われ、細胞レベルで分解が始まる。

「っ!?わたしの領域!……こうなったら」

 作り出した空間が壊れる寸前に、アウルは瞳から光を失ったミールへと手を伸ばす。せめて持ちうる"聖痕"を利用し、彼女からUDCの要素を取り除こうと。だがそれよりも早く、汚泥に還ってしまったマングローブ林がアウルへなだれ落ちる。
 触れるか触れないかの寸前で、アウルは多喜に引っ張られて阻まれた。

「──離脱するよ!」
「っ……マナイちゃん!」

 手を伸ばすが、もう届かない。もう二度と遊ぶこともできない。
 ヘドロの濁流が二人を呑み込もうとするが、その前にグリモアが開く。多喜とアウルはそこへ飛び込み──公園はまた少女を一人残して誰もいなくなった。

「……遊んでよ。わたしと、遊んで。わたしと遊んで!!」
成功 🔵🔵🔵🔵🔴🔴

ロバート・ブレイズ
戦闘行為は『なし』だ。他猟兵を『守るように』対象へと語り掛けよう。その台詞が『壁』となり、泥を抑える筈だ。
還すのは任せる
「貴様は遊びたいと言う。具体的には如何に戯れたいのだ。貴様の望みは戯れよりも一体化に近い、一種の温もりと解ける。融け混んだ感覚は確かに『喜ばしい』だろうが、されど全ては【苛み】に陥った結果――たとえ数多を掴んでも、虚しいだけと貴様は理解出来る者だ。故に――遊んでやろう。何が『好き』だ。総ては貴様次第で動くと知れ。私は、貴様が貴様を取り戻すまで。一切、此処を動かぬ――読み聞かせは如何だ。私の脳内には幾等でも冒険譚が『存在』する。ひとつの願いも皆で成せば無限と思え。クカカッ――」


馬県・義透
【アドリブ連携大歓迎】
人格は引き続き『静かなる者』。

いったい、誰と遊びたいのか。
…遊びたいから、あの数になったのか。
遊ぶには問題ない。娘/息子たちを思い出す。

しかし、それだけでは終われない。
この少女を助けるため、『我ら』はここに来た。
『我ら』とは違う。生きて、これから先があるのだから。
…この『白雪林』のみ、はっきりと白いのには理由がある。
【破魔】を宿し、一番に使えるがため。他のように黒く染まらなかった。
【それは水のように】。魔を破り、呪詛をも持っていく。
あの少女には、この黒色は似合わない。

『我ら』のようにはなるな。


 濁流が収まった公園に訪れた猟兵の二人は、その中心にいる少女、ミールを見据えた。
 ロバート・ブレイズ(冒涜翁・f00135)は顎に手を当てて深く考え、馬県・義透(多重人格者の悪霊・f28057)は長弓、"白雪林"を手に狙いを定めた。

「……ん?」
「戦闘行為は"なし"だ。まだその時ではない」

 スッと義透の前に、ロバートの「待った」が伸びる。
 目の前にいる少女は、どこか警戒した様子でこちらを見ており、ボコボコと足元の泥を泡吹かせている。先ほどの報告を聞いていたロバートは、彼女がこのような態度に出るのは仕方のないことだろうと割り切った。
 これから行うのは、彼女を激昂させかねない行為なのだから。

「──私はロバート・ブレイズだ」

 両腕を広げ、演説者のように前へ出る。
 敵意がない。奇怪な行動に出た彼に、ミールはビクッと軽く驚くが、警戒は解かない。

「貴様は「遊びたい」と言う。具体的には如何に戯れたいのだ」

 ミールと義透は聞き入る。『彼の演説(アンノウン・カダス)』に。
 飄々とした態度の彼に。いつの間にか見えない何かが渦巻き、紳士らしい初老の顔に、螺旋のマスクが被さっていることに気づかずに。

「貴様の望みは戯れよりも一体化に近い、一種の温もりと解ける。──むしろ、"適応"と言うべきか。融け混んだ感覚は確かに『喜ばしい』だろうが、されど全ては"苛み"に陥った結果──」

 一歩。一歩。ぬかるみをものともせず、少女の近くへと。
 それは狂言のように。本を読み聞かせるように。この場にいる全ての者たちに言葉をゆっくりと刷り込ませてゆく。

「たとえ数多を掴んでも、虚しいだけだと貴様は理解出来るはずだ。故に──」

 不意に、ロバートへ向けてヘドロの塊がぶつけられた。
 しかしそれは彼を穢すことなく、透明な何かに阻まれて無力化される。──彼女の目には見えない。義透もまた見ることができない。言の葉の壁がロバートを濁流から守っていた。
 言葉の一つ一つがパルプマガジンの一頁に代わり、それはバラバラと空中を舞っていた。やがてそれは空中に張られ、何枚と重ねられて壁となる。それが今、ロバートを守る障壁だ。

「わたし、と」
「遊んでやろう。何が"好き"だ?」
「遊んで!!」

 くるりと、ミールから二メートル手前ほどで翻し、ロバートは顎に手を当ててわざとらしく考えるフリをする。ミールは苛立ちを隠せぬまま、言葉とは裏腹にロバートを呑み込まんとする勢いでヘドロの濁流で殴りつける。しかし壁の先から突破できない。
 不可視の用紙は穢れることがない。

「総ては貴様次第で動くと知れ。私は、貴様が貴様を取り戻すまで。一切。此処を動かぬ」
「遊んで!遊んで!!遊んで!!!!」

 暴走し、何度も殴り続ける。それは嫌な音をかき消すように。聴きたくない演説が耳に入らないように。何度も何度も。
 状況が状況なため、義透はもう一度長弓を構える。破魔を宿した霊力の矢、これを番えてミールへと狙いを定めた。

「──"まだ"だ。下ろせ」
「いいえ、見てられません。それはただ煽っているだけだ!」

 四つある人格、『静かなる者』が表へ浮き上がっている義透だが、ロバートの指示に、首を横に振って拒否した。
 誰と遊びたいのか。遊びたいから、あのようになってしまったのか。──そこは案外、どうでもよかった。問題は、義透にとって彼女の姿が、まるでかつて故郷にいた息子や娘たちと同じように見えたのだ。
 彼女を助けるために来たというのに、なぜ手を差し伸べるどころか、その手を傷だらけにしようとしているのか。
 ロバートの行動は、まるでそのように見えた。

「退いてください。私の矢ならば、ロバート殿のような"悪戯"に付き合うこともない」
「安直、しかし確実な一手だろう。──だがそこの泥人形は明確に人間ではないと、貴様も聞いたはずだ。その破魔矢は浄化を齎すが、それは魂無き泥人形にのみ通ずるものか?」
「ッ!……私は、それも含めて信じたい」

 単なる可能性だと。あり得ない、と。
 『スワンプマン』の本質がどういうものなのか、義透は知らない。ロバートはそういうものにかなり詳しいのだろう。まるで試すように少女の前に立ちはだかっている。
 たとえ彼女が死体だったとしても。なるべくしてなった『UDC-HUMAN』だろうとも。元々は人間。仮に『スワンプマン』であったとしても、彼女は"日下部愛衣"に変わりないのだ。

 ──ここに、四つの魂が一体化して生まれた馬県・義透という男がいるように。
 カタチが違えど、生きているのなら。未来を見る権利がある。

「もう一度言います、退いてください」
「……此度は譲るか。希望ある怪奇譚に、道化は似合わぬな」

 あっさりと、ロバートはその場から離れた。
 途端、それまで防がれていたヘドロの塊が、みっちりと壁を埋め尽くしていた濁流が流れ出した。それは巨大な津波となって、ロバートと義透に流れ込む。
 しかし問題はない。むしろ、それを"祓う"ためのこの弓。

 『白雪林』という長弓は白い。それにははっきりとした理由がある。
 霊力で編まれた破魔矢を番えることができるためだ。怨念や憤怒で黒色に染まった他の武具とは違い、こちらは破魔の力を扱う。そのため、弓もまた破魔の力を持ち、自らを浄化することが可能なのである。
 日の光の如し陽の白。それは白雪のようであり、矢を番えてしなやかに体を反らす姿は雪を落とす枝のようでもある。

「『それは水のように(ミズニジョウケイナシ)』」

 魔を破り、呪詛をも持っていく。汚濁さえも吹き飛ばして。
 ヒュンッと風を切る音と共に、津波が爆ぜた。汚泥は一瞬にして固まって白色に変色し、放たれた破魔矢は津波に大穴を開け、ミールの心臓へと穿たれた。

「遊ん──がぁぇ、ッ!!?」

 着弾した瞬間、何かが崩れるような音がし、ミールは華奢な両手で胸を抑えてうずくまる。
 義透の矢はただ破魔が込められているだけではない。呪詛を矢から吸い、自らに取り込むためだ。これが"白雪林"以外の武器が黒く染まるもう一つの理由であり、義透の原動力にもなっている。

 紺鼠色に染まった肌がパキパキと硬化し、乾いて剥がれてゆく。その裏から見えるものは、ベージュ色の肌。

「……!」
「ほう」

 二人の猟兵がそれに気づき、そして顔を上げた少女の表所は──二つに分かれていた。
 未だ「遊びたい」という気持ちが思い浮かぶ、愛欲に飢えた顔と、
 「助けて」と叫びたそうに涙を浮かべる、少女の顔だった。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

オクタ・ゴート
【改変連携歓迎】
「……遊ぶ、ですか。では、お付き合いしましょう」

来る人形の動きを躱しながら、踊るように泥濘を跳ねます。追いかけっこですね、少々鬼が多い気がいたしますが。それから、声を掛けるのも忘れずに。
「楽しんでいらっしゃいますか?」
「おやつに飴など如何ですか?」
問いかけや質問で、彼女に思考の余白を与えます。思考する事、それは一つ理性的になることです。そう、このままでよいのかとも問います。
――困惑や動揺を見せたらUCを発動。雲を切り裂き晴れる蒼天と虹を御覧に入れましょう。喩えそれが一瞬でも。

「鈍色の世界も輝きはあるのです、どうかそれを信じて下さい」
……これで、少しでも。何かが、変われば。


 遊びたい。遊びたい。遊びたい。
 そうやって心が空っぽになるまで。泥に塗れて全部染まるまで。そうすればきっと、わたしは本当に怪物になれると思っていた。
 涙が出るほど、嫌なことばかりに遭ってきた。味方になるはずの親も、友達も、わたしを傷つけた。だから心を閉ざしたの。

「……遊ぶの。いっぱい遊ぶ。みんなドロドロになって、幸せなままとろけて消えちゃえば、もうつらいことなんてない」

 露出した肌を覆うように、泥を掬い取って塗る。念入りに、日下部愛衣という少女を濁すために。
 そうして何もかも紺鼠色に染まれば、後には何も残らないのだから。

「……なるほど。それが、愛衣様が"遊びたがる理由"ですか」

 気づけば、公園には一人の猟兵がいた。
 オクタ・ゴート(八本足の黒山羊・f05708)は特徴的な山羊頭から光を落とし、屈んで視線を合わせる。

「いいの。わたしは人じゃない。みんなが知ってて、お父さんはそれを憎んでる。消えちゃってもいい。むしろ消えることを望んでる。だからわたし──」
「──本当に、それで良いのですか?」

 山羊頭の紳士の声が、突き刺さる。胸の一番深い場所に。
 「このままでいいのか」。その言葉が、"わたし"を現実に呼び戻そうとする。
 だから泥を塗る。遊んで我を忘れてしまえ。みんなみんなドロドロに溶けて蕩けて一色に染まれ。
 ──けど駄目だった。だって、

「……いいわけ、ない!!」

 消えることが、幸せになるということじゃないのは、お父さんが一番教えてくれたから。
 お母さんはもうこの世にいない。お父さんはずっとそれで泣いて、わたしより悲しんで、苦しんだ。消えるということは、誰かに痛みを残すことなんだって。それをよくわかっていながら、わたしはわたし自身を守ろうとして消えようとしていた。
 猟兵たちが来るまでは、わたしが消えても誰も悲しまないと思っていた。けど、猟兵たちは、悲しんでくれる。
 わたしに消えて欲しくないって言う。

「赤の他人のくせに!この世界の人たちじゃないくせに!ぽっと出の正義の味方のくせに!どうして!どう、して……わたしなんか、消えてもいいわたし、なんか…………」

 気づけば涙が出て、手で拭っても、我慢しようとしても、ぽたぽたとこぼれ落ちてゆく。泥が剥がれて、涙で流されてゆく。消そうと思っていたわたしが。何もかも溶けようとしてしまったわたし自身が、露わになってゆく。
 見ないで欲しい。ドロドロのわたしを見ないで。けど、彼はそれでも手を伸ばしてくる。跳ねのけても、差し出した手を引こうとはしなかった。

「あなただからですよ」
「…………ぇ」

 一歩、彼がわたしに近づいて、もう一度目線を合わせる。
 差し出したのは飴玉だった。

「あなたの言う通り、私は赤の他人です。ましてやここ、UDCアースの住民でもなく、我々猟兵は正確に正義の味方と言える立場かも怪しいかもしれません。……しかしそれは関係ありません。
 私は、日下部愛衣という少女を助けたい。そう思ったから手を伸ばしたまでです」

 赤色の飴玉。それを握ると、彼は立ち上がり、風を払うように指を鳴らした。
 キィン、と耳に響く音。そのすぐ後に、光が差し込む。雨雲に覆われた空から光が差し、鈍色だった空が陽光と混じって美しい色へと変わる。
 雨あがりだからだろうか。光の間に虹ができて、そこに太陽も顔を出す。

「あなたが何者であろうと、鈍色の世界に閉じこもろうとも、私はあなたの光になりましょう」

 ──体を覆う泥が、溶け落ちた。
 黄色のキャミソールがくすんで泥になり、体から"緑色の飴玉"が零れ落ちる。力が抜けて膝をついて、わたしはぺたんと座り込んだ。
 もう何も感じない。何も力を振るうことができない。元通りだ。
 元に、戻りたいと願ってしまった。

「…………わたし、は」

 ──もう少し、生きたい。
 この世界の誰でもない誰かに、消えて欲しくないと願ってくれるのなら。
 怪物でもなく、一人の少女として。彼らがわたしを見てくれるのなら。もう少しだけ、この世界で生きて、またあの人たちと遊びたい。そう思ったんだ。
大成功 🔵🔵🔵


第3章 日常 『人間の屑に制裁を』

POW殺さない範囲で、ボコボコに殴って、心を折る
SPD証拠を集めて警察に逮捕させるなど、社会的な制裁を受けさせる
WIZ事件の被害者と同じ苦痛を味合わせる事で、被害者の痛みを理解させ、再犯を防ぐ
👑5 🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ──日下部愛衣は、UDC組織の元で保護されることになった。
 今回の事件で日下部一家の実態が明るみになり、そしてUDC組織らは『UDC-HUMAN』の実態を調べるべく、保護すべきと判断したようだ。幸い彼らも彼女の意思を尊重しており、これからは今までのような酷い扱いを受けることはないだろう。
 そして、泥で酷いあり様だった公園はすっかり元通りになっていた。ただ、まだ事件の影響があってか、遊ぶ子供一人ここにはいなかった。

「あったあった」

 ただ、泥人形の一人が、公園に訪れていた。
 池の近くに転がっていた、緑色の飴玉。それを拾うと、キョロキョロと辺りを見渡してからパクンと呑み込む。

「ふぅー……さて、と」

 日下部愛衣そっくりな泥人形、エールはグリモアをその場で開くと、猟兵たちを手招きした。

 事件はまだ終わりではない。
 そう、これは事故ではなく事件。日下部愛衣を『UDC-HUMAN』化させた加害者に制裁を与えてようやく終わる。
 公園の近くにある高層マンションの一室。その扉を軽くこじ開ければ、廃れた生活を送る男の部屋が露わになった。

「…………なん、だ?」

 ──日下部愛衣の父親は、突如扉を開かれたことに驚愕していた。
数宮・多喜
【アドリブ改変大歓迎】

よう、日下部さん。
ちょっと邪魔するよ。
なに、ちょっと話がしたいだけさ。

アンタ、娘さんの事を知ってたんだろ?
一度死んで、別の存在になって。
でもな、アタシからするとすっげぇ羨ましいんだわ。
アタシのダチは、気が付いたら行方知れずになっていて。
次に会った時にゃ、アタシの事も全然分かってなかったよ。

日下部さん、アンタとアタシは同類だ。
訳の分からない事に巻き込まれて、
大事な人を亡くしちまった。
けどな、アタシは失ったまま、
アンタには生まれ変わった娘さんが居る。
アンタの方がずっとマシなんだ。
娘さんを二度、失うヘマすんなよ。
狂気に逃げるなんて、許さねぇかんな。

【道説く陽光】、届いてくれよ。


「よう、日下部さん」

 インターホンも鳴らさず、土足で家の中へ踏み入る。UDCアース、彼と同じ国の出身であろう数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)だが、今は礼儀もクソもない。
 ゴミだらけ。壁や天井には傷やシミもある。その中には、かつて誰かと住んでいた証もある。彼女はそれを一通り見渡して、やるせなさそうに溜息を吐いた。

「お、おい。アンタは一体」
「アンタ、娘さんのことを知ってたんだろ?」
「……!」

 困惑する態度から、一気に豹変する。怯えと警戒、ビンゴだ。この父親はどうやってか、日下部愛衣が"一度死んだ"ことを知っている。
 しかし未だ困惑の中にある彼に、多喜は告げる。

「アタシには羨ましいよ」

 独白。──数宮・多喜は、彼と同様に大切なパートナーを失っている。同じように理不尽な出来事に巻き込まれ、不条理の中に囚われた。
 かつての友人は失ったまま。だがこの父親にはまだ娘がいる。それも不条理の中に囚われても、生きていた。……それは、多喜にとって嫉妬しかねない結果だった。どうして、自分の友人ではないのか、と。

 だがそれを押し付けるほど狂人ではない。少なくとも、コイツよりは。

「アンタには生まれ変わった娘さんが居る」

 文字通り、生まれ変わっても変わらぬ姿でいる少女が。今はもうこの場に居ないが、まだ"居る"のだ。
 羨ましくて、愛おしくて、手を取りたくて、悲しみを繰り返しそうで、もどかしい。
 しかし、彼は首を横に振った。

「…………違う」

 数秒ほど時間を経て出た否定の言葉。そこから、引きずり出されるように彼は叫んだ。

「違う、違う、違う!アイツは、いやアイツも愛衣じゃない!知ってるんだ。アイツは"泥人形"だって──」

 考えるよりも先に、彼の頬に拳が放たれた。
 たった一発。しかし重く、憐憫の込められた右ストレートだった。だが同情は先ほどの発言で取り消した。

「──ソイツがどうした!?」

 その道理、数多・多喜も、お天道様さえも許さず。放たれた拳に込められた一撃には罪悪感を増幅させるユーベルコードを乗せており、殴られた父親は頬と、心臓辺りを掴んで呻く。

「アンタのことも、愛衣ちゃんのことも、あたしゃよく知らない。けどね、アタシにはあの子が泥人形になんて見えなかった。少なくとも、今のアンタよりもよっぽど人間らしかったよ」

 追撃は必要ない。背中を向けて、多喜は部屋の出口へと足を進めた。彼女が放った一撃にはさらに効果があり、これまでの悪行の数々に比例し、罪悪感の増幅がより一層強まるからだ。
 狂気に逃れることはできない。娘を魂の無い泥人形だと見ていた罪を、彼はこのまま自覚し、後悔するだろう。──そう、それでいい。そうして罪を自覚し贖罪を求めることが、罰になるのだから。

「……狂気に逃げるなんて、許さねぇかんな」
大成功 🔵🔵🔵

馬県・義透
『静かなる者』のまま。
武器は漆黒風。本来は『疾き者』の武器…ですが、借りました。
今からすることは、破魔とは逆のことなれば。

『我ら』は悪霊なれば、悪霊らしく。
漆黒風で【連鎖する呪い】を使い、鼻の頭に傷を。ずっと残る傷を。
鼻の頭は、ちらちら視界に入るもの。目をそらすことすら禁じる。
その呪いはただの呪いにあらず。彼女から吸いとった【呪詛】も内包する。
これだけの部屋ならば、直後にいろいろ不慮の事故起こりそうですが。狙いは『癒えない傷跡』のなので。

…二度と彼女に近づくな。

※『疾き者』も怒っているので、喜んで対応武器を貸している。
この武器なのは、一番小さく隠し持ちやすい&握って振るだけなら扱いやすいため。


オクタ・ゴート
改変連携歓迎
業は背負って頂こう。――私の私刑が許されるかは別として。
触手で縛り上げ、【黒き偏食の剣】を使いましょう。
斬るのは精神。無自覚の悪意を断ち、腫のような罪悪感に傷を入れ溢れさせるように。

お前が何を間違えたのかは、既にお前自身が気付いただろう。
もうお前は間違えられない。彼女へ振るう悪は罪悪感となってお前を刺す。
さりとて逃げられもない。自死しようとすれば失ったものと傷付けた者がお前の後ろ髪を必ず掴む。
泥を啜り、地を這い、それでもなお正しく生きろ。壊し穢したものへの悔恨と懺悔のこびり付いた贖罪の生を歩め。
もし、それでもなお堕落と悪意に堕ちるのならば。

「この山羊頭が、再びお前の前に現れるぞ」


 通り魔にも等しい一撃を浴びせられた彼は、これまで感じたこともない痛みにもだえ苦しんでいた。それは心臓──心から。そのまま心臓が停止してしまいそうなほど。ペンほどの太さの針で突き刺されたかのような痛みが、じわじわと体中を蝕む。

「……っ、なん、だ。なんだって、言うんだ……!!」

 尋常じゃない痛みに手足も動かせず、そしてなぜあのような状況に陥ったのかもわからず、ただ苦しむ。
 ──だがそれは否だ。文字通り、あの一撃で"痛いほど理解させられた"。自分は血のつながった娘に何をしていたのか。一体父親としての自覚はどこへ消えたのか。
 なぜ大切な妻を失った時、あれだけ泣いたのか。

「畜生!畜生……ッ!?」

 ヒラリと、彼には目の前に葉っぱが舞い落ちたように見えた。だがそれは残像であり、気づいた時には壁に一枚の手裏剣が刺さっていた。
 おもちゃではなく、本物。その証拠に、鼻先から血が垂れた。

「ぁ、ああぁっ!?」

 罪の重みではない、物理的な痛み。三ミリほどの切込みが入った鼻から、また違う痛みと出血でさらに悶える。咄嗟にティッシュを取って抑えるが、逆に抑えれば傷を動かして痛み、抑えなければ血は容赦なく溢れだす。叫ぶ声すらも上げられない。

「ねぇ」
「うあぁあっ!!」

 そんな中、耳元で囁く声が聞こえた。
 聞き覚えがある。聞き間違えることはない。何度も何度も聞き続けた。──娘の声が。

「遊んでよ」
「……は?」
「わたしと遊ぼ?」
「遊ぼうよ、お父さん」
「ねぇねぇ、遊んでくれないの?」

 だがおかしい。娘はたった一人で、これほど複数に、上下左右から呼び掛けてくるなんてあるはずがない。そして、"遊ぶことに無頓着なはずの娘"がこんなにおねだりをするはずがない。渦巻く娘の声。見えないはずなのに見える。どこからか伸びる女児の手が、体中を引っ張る。声が圧迫し、手が引きちぎらんと掴む。

 ──これは呪詛だ。手裏剣、"漆黒風"に乗せた『連鎖する呪い』には、『ミール』から吸い取った呪詛を内包していた。そんな呪詛の使い手、馬県・義透(多重人格者の悪霊・f28057)はマンションの外から父親が苦しむ様を見て、静かに目を瞑った。

「……哀愁を向けることすらできかねる」

 『ミール』から吸い取った、"愛欲"の呪詛。それは『ミール』自身の"個"でもあるのだが、それは父親にとっておぞましいものだったのだろう。愛すべき娘を、愛さなかったことで見える幻覚は、彼にとって無数の群れを伴って貪り食う蝗のようだった。

「追撃しますか?」
「……当然ですとも。"まだ"足りません」

 果たしてこの私刑が許されるのか。義透の隣で同じように様子を見ていた、オクタ・ゴート(八本足の黒山羊・f05708)は、グリモアを開いた少女に誘われるまでそう思っていたが、考えは父親の姿を見て180度変化する。

「どれだけ罪を自覚しようとも、呪われようとも、根本は変わっていないようにお見えします。であれば、それが彼奴の思考そのものなのでしょう。
 ですので」

 先に来た猟兵の女性に代わり、今度はブラックタールの紳士が部屋に足を踏み入れた。
 その手には鍔のない長剣、"『律』"を携えており、一切の殺意を隠すことなく近づく。

「──その思想、その理念、根から断たせて貰う」

 音もなく振り下ろされた『黒き偏食の剣(ダーティー・スラッシュ)』。それはもだえ苦しむ男の体を両断──刃は体を透き通り、そして斬られた男はまるで何事もなかったかのようにピタリと動きを止めた。
 代わりに涙をにじませ、目を見開いたまま硬直する。

「お前が何を間違えたのかは、既に気付いているはずだ」

 呪詛を込めた剣の一撃は、五感のどれか、あるいは精神のみを切り払う。その中で、オクタが選んだのは"根本"にある部分だった。
 人格、あるいは思想、あるいは理念──日下部愛衣の父親という人間の根本に、オクタは傷を入れた。受け入れないのであれば、受け入れるように傷を。目を逸らし続けるのであれば、もはや目など必要なく、自らを正す心が無ければ、その心を断ち入れ替える余地を与える。

「泥を啜り、地を這い、それでもなお正しく生きろ。怖し穢したものへの悔恨と懺悔のこびり付いた贖罪の生を歩め」

 ──それでも堕落と悪意に堕ちるのならば、この山羊頭が再びお前の前へ現れよう。

 剣についた何かを振り払い、紳士は冷たくも、もう動かない男にそう告げる。
 根本を斬った以上、これから男がどう変わるかはわからない。しかしオクタの"警告"は、しっかりと彼の耳に入っていた。
 それも脳内にしっかりと刻まれる程度には。
大成功 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

ロバート・ブレイズ
此れは『神のいと』だ。
此れは『神の糸』で『神の意図』だ。
無機物を『いと』に変え、眼前の『もの』を生かした状態で弄ぶ。
たとえば。粘土をこねる子供のように。
たとえば。好奇心でもいだ、四肢のように。
たとえば。迷い込んだ微生物(にんげん)のように。

殺しはしない。殺して終いではつまらない。
貴様の存在を欠片まで否定し、冒涜し、新たなる『もの』に変えて魅せる。最後には貴様だけが残っており、その感触は拭えない。
――七つの呪いで飾り付け。
終始黙して、ただ遊ぶ。


 ──気づけば、何も見えなかった。
 手を伸ばそうとするも、足元を見ようとするも、それができない。むしろ、手というものがない。足元を見る目すらない。声もない。ないものはない。
 ない。無い。亡い──

 ぐにゃり。

 ──曲がる。
 捻じ曲がる。ない何かが潰され、引っ張られて、面白おかしく"加工"されてゆく。
 いい加減、ここがどこか知りたい。けどわからない。
 見えない。見る事すらない。真っ暗なのか真っ白なのか、どこに何があって何がどうなっていて自分が何で何なのか何故何故何何者何たる何より何せ何も何も何も──

 ぐちゃり。

 ──ようやくわかったことが一つだけある。
 幼子の手だ。幼いにしては少々大きな気がする。だけどわかる。何もない。何も感じない。だけど知っているし、一瞬でわかる。
 わかってしまった──

 ぐちゅ。

 ──遊ばれている。
 遊ばれている。自分が何かになって、何もないこの世界の中で、世界ごと手に取って"彼女"は遊んでいる。
 違う。"彼女"は──

 べちゃっ。

「……あはは!」



「『愛欲』にまみれた獣ほどおぞましき者はいない。それが神の泥を手にした時、一体何を創造するのだろうな。建物か、あるいは動物か、あるいは──」

 友か。
 本を閉じた老人は公園のベンチから立ち上がり、自らグリモアを開いて翻す。

 此度の事件、その加害者への裁定は十分に行われたと言ってもいいだろう。帰る前に指を鳴らすと、どこかで誰かが倒れ伏す音がした。次にあの男が目を覚ました時には、恐らく以前の男と違う誰かになっているだろう。
 ──同じように泥に変わり、生まれ直したのなら。
大成功 🔵🔵🔵

最終結果:成功

完成日2020年07月08日
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