パッと赤散る花吹雪。
湯気と桜の舞に、紛れて、染めて。
「よぉ、兄さん。もう一度聞かせてくれや。誰が誰の首を取るって?」
「で、でべえなんざぁ……うげぇ」
ガツンと硬いもの同士がぶつかる音響けば、再びに散るは紅。
「――ああ、悪い。言葉の最中に手が出ちまった。良くない癖だよなぁ。で、なんだって?」
湯気の向こうには影二つ。
一つは小柄な男のもので、一つは大柄な男のもので。
しかし、立つは小柄な影。倒れ伏す大柄な影の頭を鷲掴みとするようにして、湯気の幕にその影を落とす。
「……はぁ、もうダンマリかい? そんなので、よく俺の前に立ったもんだ」
手が離れ、支えを失った影はどさり。ぴくりとも動かぬは心折られたからか、それとも。
「おい、このゴミを片付けといてくれ」
「へ、へい!」
慌ただしき影に、湯気と桜もまた揺れる。
ずるりずるりと音の尾を引いて、消えていく影幾つ。
残されたのは、小柄な影のみ。
「……はは、この力。この力があれば、俺ぁ、何だって出来る。何だって出来るんだ!」
懐から取り出した『ナニカ』。
それを眺めてくつりくつりと嗤う声は、まるで自分に言い聞かせるかのよう。
ゆらり揺れて、湯気の彼方に消えた幾つかの影を追うように、小柄の影もまた同じく。
その影が一瞬、巨影に覆われているように視えたのは、果たして光の悪戯であったのか。
それを疑問と声上げる者は既に居らず、ただ桜と湯水湛える街のみがそれをあるのみ。
「みなさぁ~ん、帝竜戦役お疲れ様でしたぁ」
ぴょんと揺れるはハーバニー・キーテセラ(時渡りの兎・f00548)の兎耳。
ゆるりと笑み浮かべ、彼女は先の戦争で為した猟兵達の活躍を労う。
「そんな皆さんをですねぇ、今回は温泉旅行へご案内ですよぅ」
示されるは湯水湛え、立ち昇る湯気と舞い遊ぶ桜の情緒深き温泉郷。
がやりがやりと人の波。
それを呑み込むのは旅館か、はたまた土産屋か。もしかしたら、射的なんかもある遊戯場やそれ以外の何かなのかもしれない。
だがなんにせよ、その土地が賑わっている様子は窺えた。
煌びやかでノスタルジック。戦いの疲れを癒すにはもってこいだろう。
とは言え、だ。
「まぁ、こちらはついでと思って頂けたらなんですけれどもぉ……」
ほんの少しの困り顔。もしくは、罪悪感か。
猟兵達に疲れを癒して欲しいというのは本当で、でも、彼らがそこに赴けるというのは何かしらの因果もそこにあるもので。
「――幻朧戦線というのをご存知でしょうかぁ?」
いつぞやから暗躍しているのかは分からないが、何時からかその姿を現した者達。
その中身は一般人の集団であるというのに、影朧やそれを利用した兵器を用いて世界に混乱を齎している。
その名前がハーバニーの口から出るという事は、だ。
「その何某というのがですねぇ、この町でも傍迷惑なものを置いていってるらしいのですよぅ」
その名は『幻朧ラムプ』。只人であろうとも影朧の使役を可能とする兵器。
それが、この町の誰かの手に渡っているのだと言う。
つまり――。
「それの回収と持ち主の仕置きをお願いできればなぁ、と」
影朧の存在も、その力も、人の身には余る力。
それをまるで自分の力のようにと振るえれば、それはきっと驕りや暴走を招くことだろう。
そして、その結果に待ち受けるのは破滅。その者にのみそれが降りかかるのであれば自業自得ではあるが、影朧はオブリビオンでもあり潜在的に世界へと危機を齎す可能性もある。
だからこそ、猟兵の出番となるのだ。
「温泉で羽を伸ばしながらぁ、可能であれば一観光客を装ってラムプの持ち主を探ってみてくださぁい」
まだ、その持ち主が誰であるかは特定できてはいないけれど、その過ぎたる力を用いて頭角を現さんとしている者が居る筈。
人々の噂を、その者が残した痕跡を手がかりとすれば、幻朧ラムプの持ち主に辿り着けるだろう。
「羽休めと言いつつ、実際のところはお仕事と変わりありませんが、どうかよろしくお願いします」
ぺこりと下げられたハーバニーの頭に、やや遅れて兎耳もぺこりと身を折った。
そして、銀の鍵が翳され、捩じられれば、世界の扉がカチリと開く。
その先へと踏み出せば、きっとそこは桜と湯気の街。
扉を潜らんとする猟兵達の背後、いってらっしゃいませ。と声が聞こえた。
ゆうそう
オープニングへ目を通して頂き、ありがとうございます。
ゆうそうと申します。
約一か月に及んだ帝竜戦役も一段落。
ですが、他の世界も同様に時間が流れているもので、サクラミラージュでも色々と暗躍が起こっているようですね。
今回の依頼も、その一環。
場所はとある温泉街。その地に齎された『篭絡ラムプ』という影朧兵器の持ち主を発見し、回収することが主題です。
第1章。
温泉街で羽を伸ばしましょう。
ついでに、篭絡ラムプを用いて好き勝手をしている人の情報を集められれば、なお良いかと思います。
その力を背景として頭角を見せているため、情報を集める事自体はそんなに難しくはないでしょう。どんな情報を得ようとするかは、皆さん次第です。
第2章。
持ち主を発見できれば影朧との戦いとなります。
撃破し、本物の力を見せつけてあげてください。
第3章。
篭絡ラムプの持ち主の仕置きを行います。
罰を与えるもよし、与えずもよし。道を説いて改心させるも構いません。勿論、それ以外でも。
どのような結末を与えるかも皆さん次第です。
ただ、持ち主の扱い方は皆さんそれぞれになるかと思われますが、それぞれで差異が大きい場合、望んだ結末通りになる方とそうでない方となる場合もあり得ますので、ご理解頂けると幸いです。
それでは、皆さんの活躍、プレイングを心よりお待ちしております。
第1章 日常
『桜舞う温泉街でのひととき』
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POW : 飲食店や、お土産屋がある通りを散策する。
SPD : 湯畑を見たり、屋形船に乗る。
WIZ : 温泉に入ったり、手湯や足湯を楽しむ。
イラスト:菱伊
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎
温泉か…それはいいな
戦争も終わった事だし、ここらで一息入れるのも悪くはない
とは言え、任務を疎かにしてはならないだろうな
温泉に入りつつ、他の入浴客からの会話を盗み聞きしたり、場合によっては会話にさりげなく混ざりつつ情報を集める
威圧的に思われないように口調は柔らかく話そう
そう言えばこの間も怖い騒ぎがあったと聞きましたねぇ
私はまだよく知らないんですけど、貴女はご存じなの?
情報を集めたら次は温泉街を散策しつつ情報を探ろうか
サアビスチケットを使い暗に猟兵だと言う事を伝えつつ、店主達からここ最近何か騒動が起きてないか聞き込みを行う
ああ…景品はいらない
そのかわりにいくつか聞きたいことがある…
ベルベット・ソルスタイン
●WIZ
ああ……素晴らしい
なんて趣深く風流な場所なのかしら……
美しい光景に感嘆しつつ任務へ向かう
情報収集の前に旅館へ行き、しっかりと温泉に入って体と心をリフレッシュ
美容欲を満たした所で浴衣を着て、半ば観光気分で聞き込みを開始する
対象は宿の主人か土産屋か、とにかく長くこの土地にいる人間がいいわね
こちらはあくまで観光客と言う体で、物騒な事件や人物の噂を耳にした
気を付けるべき場所などはないかと言う話を観光や土産物などの話にさりげなく混ぜて情報を探る
首尾よく情報を得られたら……そうね、もう少し温泉を堪能してから現場に向かおうかしら
カロンと響く下駄の音。
それは温泉の香りと桜舞う光景の中に、よく響いた。
「ああ……素晴らしい。なんて趣深く風流なのかしら……」
「戦争も終わった事だし、ここらで一息入れるには悪くない場所だな」
カロン。カロン。カロン。
鳴り響く下駄の音の主は二人。
ゆるりと浴衣を借り、着込み、温泉街の地を踏みしめるは、キリカ・リクサール(人間の戦場傭兵・f03333)とベルベット・ソルスタイン(美と愛の求道者・f25837)が2人。
相反するような彩でありながらも共通するは人目を惹いて止まぬ大人の色。
通り過ぎ行く道の中、ちらりちらりと視線が集う。
片や洗練された動きの美しさ。片や語るまでもない美と愛の女神。視線が集まるのも宜なるかな。
だが、二人は敢えてとその視線を気にしない。そこに害意も何もないからこそ。いや、あったところで、どうにか出来るようなものではなかっただろうけれど。
「こういうところに来たのだから、是非とも温泉ぐらいは楽しまないとね」
「温泉か……それもいいな」
「なら、あなたもどう? ここでの出会いも何かの縁というものよ」
「そうだな、ご相伴に預かろうか。それに、そういう場所なら、人もより居る事だろう」
「……ああ。情報収集も一緒にしようってこと?」
「まあ、任務を疎かにしてはならないだろうしな」
カロン。カロン。カロ、ン。
真面目ねぇ。なんて、零すベルベットの奏でる音がゆるりと止まる。合わせて、キリカの音もまた。
任務も大事。依頼も大事。仕事も大事。だが、まあ、それはさておき、だ。
「まずは温泉を楽しみましょう? 美の追求も、また大切なことよ」
誘うは女神。下調べしておいた訳ではない。だが、愛と美の化身たるのセンサーが反応した美容の湯へと、さあ、ご案内。
ならばそれに乗るも吝かではなしと、苦笑の一つも浮かべてキリカもそれに続くのであった。
ちゃぽん。
下駄の音に代わって響いたは、湯船の波音。
掌で掬い上げた湯は白濁。
若干のぬめりを帯びたそれはとろとろと掌の隙間から零れ落ち、温かさと共に肌を滑る。
「ふふ、覿面とはいかなくても、悪くはなさそうね」
「芯から温まれば代謝も活性化される。疲労を取るには丁度良いだろう」
「美容にもね」
くつりと楽しみ笑み浮かべ、束の間の心の洗濯。
身を包む暖かさが身体のこわばりを取り除き、内に溜まった悪いものを溶かしてくれるかのよう。
だが。
――聞きました? また、この近くで刃傷沙汰があったのだとか。
――ええ、ええ。折角の湯治場だというのに、物騒な話ですよ。
会話自体はひそりひそりとしたもの。ともすれば、ヒトの気配に混じって消える程の。だけれど、耳敏い猟兵が聞き逃す筈もない。
だからだろう。ベルベットは、隣で弛緩しつつあった筈の空気がカチリと切り替わるのを感じていた。
「私は……もう少しばかり湯を堪能してからにしておくわ」
いってらっしゃい。
その見送る言葉に返答はない。期待もしていない。
ただ、湯の跳ねる音すらも立てず、水面をするりと泳ぐ蛇の如く動いたキリカの後ろ姿を見送るのみ。
「あとで情報交換ね」
あちらに参加してもいいが、ベルベットにはベルベットで考えもある。
それに、情報は様々とあった方がいい。
そのためにも、今はしっかりとこの湯を楽しんでから――。
「そう言えば、この間も怖い騒ぎがあったと聞きましたねぇ」
「あら、こんにちは。貴女も耳にしたんですか?」
するりと近付いたキリカの声。それは普段の口調からすれば、随分と柔らかなものであった。
相手を委縮させないために。
そう意識してのものであり、そして、相手が何の疑問もなくと返答をする姿を見れば、それは功を奏していたと言える。
勿論、ここが温泉という観光で栄える地であり、観光客という地に根付かない誰かという存在に慣れているというのもあったことだろう。
「ええ、こんにちは。そうなんですよ。折角と観光で足を運んだというのに、物騒な話が耳に飛び込んできて」
「まあ! ごめんなさいね。折角の土地外からのお客さんだっていうのに」
「いえいえ、謝らないで下さい。ただ、そういう心配をせずに来たものですから……巻き込まれないか心配で。そういうことって、ここではよくあるんですの?」
「……土地の恥を晒すようですけれど、最近は少し。でも、心配しないで下さいね。そういった柄の悪い人達が集まる場所にさえ近付かなければ、巻き込まれることはないですよ」
「なら、良かった。ちなみに、そういった人達が集まるって言うのはどういう? 不用意に近づいてもいけませんし、もしよければ」
「ええ、ええ。構いませんよ。君子危うきになんとやら。折角なら、此処の良い所を楽しんで欲しいですから」
最初から話題にしていただけあって、彼女らもまた多少は語りたかったのだろう。キリカの言葉に釣られ、話題に花の大輪が咲く。
繁華街の裏側、再開発を行っている場所が治安が悪いだの。土地の利権を巡っての縄張り争いが激化している噂があるだの、と。
そこにはきっと背鰭尾鰭も付いていたことだろうけれど、それでも探すべき場所の目星をキリカは手に入れることに成功したのだ。
ただ――。
「折角この温泉街に来たのなら、温泉卵とか川魚の塩焼きとか、是非とも食べていってくださいね。美味しいですよ。それと、街を貫く湯の川だけでなくて見所も一杯パンフレットに書いてありますので、是非!」
「え、ええ。それはまた観光の楽しみにさせてもらいますね」
お土産情報や土地の観光情報もおまけされて、土地住民のバイタリティにまた苦笑の一つも浮かぶのであった。
浴衣の覆いきらぬ肌は朱を帯び、僅かに湿り気を残す髪の艶やか。
火照った身体を冷ます風の心地よさに零れた吐息は、誰をも魅了する。
「それで、最近はその八谷何某って言うのが、危ないのね?」
「へえ、私共も直接見聞きしてる訳じゃありませんが。ですが、貴女のようなお美しい方に何かあっては一大事」
「あら、社交辞令は嫌いじゃないわ」
「社交辞令だなんて、とんでもない!」
「なら、猶更ね」
くすりと笑んで、麗しの。美の女神であればこそ、その礼賛を受け入れぬ筈がない。
その姿に見惚れ、土産屋の店主もまた顔の色を朱と染める。
美容の湯を堪能したベルベットが向かったのは、同じ湯屋にある土産物店。
そこで冷やかし半分、情報収集半分と彼女は店主へ何かしらの噂がないかと話しかけていたのだ。
そして得るのは最近、脛に傷持つ者達の中で台頭してきたという八谷五郎という人物の名。
なんでも、小柄な男でありながらその膂力はすさまじく、大柄な男ですら叩き伏せ、暴力でもって勢力を拡大しているのだとか。
「まあ、そいつなんでしょうね」
「……え?」
「いいえ、なんでもないわ。ありがとう。噂を教えてくれて。気を付けさせてもらうわ」
名前さえ分かれば、それを辿って本人に到達するなど難しくもあるまい。まして、噂とは言え、こうして簡単に名前が手に入る程、相手はさしてその姿を隠している訳でもない様子なのだから。
ひらり浴衣を翻し、カロンと涼やか下駄の音。
「あ、どちらへ?」
「そうね、観光の続きにでも。川魚とか名物なのよね? 魚釣りでもしてみようかしら。大物が釣れそうな気がするのよ」
呼び止める声に見返り美人。
艶やかに微笑めば、もうベルベットを止める声などありはしない。
そして、彼女が外に足を踏み出せば――。
「ああ、ここに居たのか」
「あら、そちらも上がっていたのね」
そこには湯の余韻など微塵も見せぬキリカの姿。
互いの口ぶりを聞けば、それぞれに得るものがあったことは明白。
ならば――。
「情報のすり合わせをしておこうか」
「そうね。名物でも食べながら、そうしましょう。そうすれば、相手へより辿り着きやすくなりそうだもの」
カロンと涼やかな音色が二つ、湯と桜の街へと響く。
その足取りに澱みはなく、彼女らが虚栄の影を踏むのもそう遠くはない。そう予感させるものがそこにはあった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
オリヴィア・ローゼンタール
桜の花びらが舞う温泉というのも風情があっていいですね
温泉にゆっくり浸かって戦争の疲れを癒す
お湯の中で、ぐぃーっと伸びをしたり、手足や肩を揉み解す
帝竜だの毒だの魂啜りだの、色々あって疲れました……
くつろぎながらも、【聞き耳】をたてて【情報収集】
周囲の温泉客が話している噂話を盗み聞きする
暴力事件や不良のたまり場で、近付かない方がいい場所などが聞ければ重畳
幻朧戦線……一度だけ、何とかいう甲冑と対峙したことがありますが、纏う者は相応の覚悟をしていました
今回のランプは、甲冑のように死ぬまで脱げないような即座のデメリットもないので、覚悟も危機感もないのでしょうね
温泉上がりに冷たい牛乳を飲みながら思索
舞い散る桜が湯気に踊り、ひらりはらりと水面に落ちる。
「桜の花びらが舞う温泉というのも、風情があっていいですね」
掬い上げた湯に咲く桜色。
ゆらりゆらりと揺れて、するりと掌から湯と共にまた水面へ落ちていく。
風情がある。ただ、この浴場は人気なのだろう。少しばかりヒトが多くて、それがちょっと勿体ない気がした。
その花びらを追うように、ちゃぷりと湯の中に手を戻したのはオリヴィア・ローゼンタール(聖槍のクルースニク・f04296)。
「帝竜だの毒だの魂啜りだの、色々あって疲れましたから……」
色々あった。本当に色々あった。武器を振るい、拳を振るい、様々な意味で身体を酷使し、駆け抜けた一か月。
そろそろ身体を労わったいい筈だ。否、労わねば。
両の手を組み、伸び一つ。
暖かな湯が身体を解してくれるからか、ぐいと身体が良く伸びる。
普段は修道服の奥に隠されている引き締まった身体。
数多の戦場を越え、端正に磨き上げたそれはある種の芸術とも言えるものだろう。
オリヴィアをその視界に納めていた誰か――同じく浴槽に身を浸していた他のお客が、羨望と共に吐息を零していた。
「――温泉にゆっくり浸って戦争の疲れを癒す。いいものですね」
身を清めるだけでも気持ちのよいものだが、そこに温もりが伴うというのが良い。
ぐいと伸ばした身体を戻しながら、少しはしたないかと思いつつも、浴槽の壁に頭と身体を預けてオリヴィアはゆるりと力を抜く。
見上げた空はまだ青く、立ち昇る湯煙とそれに遊ぶ桜の花びらが良く見える。
心の洗濯。
まさしく、そのひと時であった。
――聞いた? また乱闘騒ぎですって。
声が聞こえる。
――再開発地区ででしょう?
――そうそう。利権争いだか、縄張り争いだか知らないけど、物騒よね。
くつろぐ姿は崩さずに、意識だけが切り替わる。
耳は敏く、必要な情報以外の音は雑音として取り除く。
身体を休めるのも一つの目的ではあったけれど、これもまた一つの目的。
だから、敢えてとオリヴィアはヒトの多い浴場を選んだのだ。
心解されれば、余分なこともポロリと漏らしやすくもなろう。ヒトが多ければ、その漏らす言の葉に求めるものもあろう、と。
――でも、あっという間に片が付いたのだとか?
――噂だから話半分がいいんじゃないかと思うけど、凄い力でばぁーっとだって。
――本当、話半分ですね。
――仕方ないじゃない。私だって噂で聞いただけなんだから。
――でも、あっちの方が溜まり場みたいになってるのは本当みたいですし、近付かないようにしないと。
――そうよね。あ、そういえば、最近新しい……。
そこから先は化粧品がどうだ。可愛い小物がどうだとか。
暫く聞いてはいたけれど、有用な情報はそれ以上ありそうになかった。
だから、彼女は意識を開く。途端、戻ってくるのは喧騒の声。
「再開発地区、ですね」
少なくとも、そこで何かしらのことが起こっていることは間違いない。そして、目的のものがある可能性も。
最早用もなしと立ち上がれば、ざばりと身体に纏わりつく湯が落ちた。
浴槽を出る動きに伴い、僅かと残っていた滴が瑞々しい身体を伝って地に跡を残す。
さらりと肌を撫でる風が火照った身体の心地よさ。
何食わぬ顔で脱衣所まで戻れば、するりと袖通す浴衣の着心地。時に着込む和装の経験がある故か、その手つきは滑らかにして淀みなし。ただ、少しばかり着崩したようになるのはご愛嬌か。
「牛乳を一つ頂けますか?」
「……あいよ」
瓶を受け取れば、冷気がゆらりと棚引き揺れる。
冷たさに構わずこくりと咽喉に落とせば、火照りが急速に静まっていくようにも。
「……ふぅ」
溜息のような吐息。それとも、牛乳を飲んでのただの一息であったのか。
思い返せば、いつぞやの甲冑には纏うもの自覚はさておき、少なくとも死ぬまで脱げぬというデメリットがあった。故に、それを自覚して着るものには覚悟があっただろう。
だが、翻って此度の者はどうであろうか。
少なくとも、篭絡ラムプの情報を聞く限りではデメリットといったものはなく、借り物の力で好き勝手しているだけにしか思えない。
こくりと飲めば、あっという間に瓶の中身は空っぽ。
「――では、覚悟を問いに参りましょうか」
ガシャリと音立て、牛乳瓶はゴミ箱の腹の底。
オリヴィアの空いた手に、まだ得物の姿はない。
だが、その双眸が何よりも物語っていた。
短き休息の時はもう終わり。戦闘の準備は既にできている、と。
そして、軽やかな足取りが歩を刻む。目指すべき場所へと向けて。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
…篭絡ラムプに囚われた影朧の転生は…難しいと考えた方が良いでしょうね…
温泉宿泊まり放題サアビスチケットを使用
街一番の宿の責任者か顔役と接触(世界観・サクミラ【支援】)
お時間をお取りし申し訳ございません
折り入ってご相談が…
影朧を追う猟兵であることを告げ、街での情報収集の為の紹介状を要請
最近の騒動や心当たりも尋ねます
ご協力に感謝を
事態の収拾をお約束いたします
上から下へ
高所から現場へ
温泉街の【暗部】との接触も考慮に
紹介状を頼りに騒動、持ち主の足取りを追跡
持ち主の親類や親交ある方と接触できれば最上
可能な範囲での穏便な処遇を約束
為人や境遇等の情報を入手
騎士として、流れる血は少ない方が望ましいのですから
ずしりとした白銀の体躯が湯気を割り、風遊ぶ桜の花びらは彼へ道譲るようにひらひらと。
「篭絡ラムプに囚われた影朧の転生は……難しいと考えた方が良いでしょうね」
影朧が如何にオブリビオンと存在を同じとするものであったとしても、滅ぼすばかりが全てではない。
この世界――サクラミラージュであれば、転生というのも一つの視野に入るものなのだ。
だから、その可能性があるならば、とトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)はその思考を巡らせる。
例え如何なであろうとも、流れる血は少しでも少ない方がいいのだから。
とは言え、件の兵器に囚われているともなれば、それも簡単なことではないだろうというのは、彼自身も思うところ。
ならば、今はそればかりに気を取られても仕方なし。
まず行うべきは――。
「もし、お時間をお取りして申し訳ございません。折り入っての相談があり、責任者の方と面会をしたいのですが」
この温泉街を騒がせている元凶。その情報収集こそ。
だからこそ、彼は町の観光を取り仕切る事業者のトップへと面談を申しでたのだ。
突然の来訪、突然の面会依頼に協会の受付も不審気な顔をするが、それも一瞬の事。
トリテレイアの手に握られ、見せられているチケットこそはこの世界における印籠。即ち――。
「……なるほど、承りました。お繋ぎいたしますので、少々お待ちください」
「ありがとうございます」
猟兵たるを示す、なによりもの身分証明なのだ。
「申し訳ございません。お待たせしました」
「いえ。こちらこそ、突然の来訪でありながら対応して頂き、ありがとうございます」
呼びだされた男は恰幅の良い白髪の男性。その年は、さて、老齢に差し掛かると見るべきか。
だが、猟兵が面談を求めているという状況に対しても、さしたる動揺をすら見せてはいない。
そして、それはトリテレイアに搭載された各種のセンサーも示すことであった。
「それで、私などに何用でしょうか。猟兵の方々へお世話となるようなことをしでかした記憶はないのですが……」
「単刀直入に参りましょう。最近、この辺りは何かと騒動が多いようですね?」
故にこそ、余計な腹の探り合いなど無意味と判じ、トリテレイアは話を切り出す。
目的はそれであり、貴方方ではないとより明確に示すために。
「……お恥ずかしい話ですが」
「何か心当たりはございませんか?」
「この町も随分と歴史を重ねてきました」
勿論、この大正の時代程長くはありませんがね? などと冗談混じりの苦笑いを含みながら。
「――古くなれば、新しくせねばならないこともあります」
それは例えば建築物の修繕であったり、街自体の再整理であったり。
「大きなことをする時は、そこに利権やしがらみなどが色々と生まれるものです」
「今回の事もそれが関係している、と?」
「ええ。繁華街の裏側……随分と建物が老朽化し、再開発を行う筈だったのですが、そこに割り込んできた者が居ました。それが、騒動の原因です」
粛々と進められる筈であったそれに割り込んできた者は、そこが自身の縄張りであり、開発するのなら権利を寄越せと主張しているのだと言う。
それがただのヒトであれば、すぐにでも排除されるものであっただろうけれど、超常の力――ユーベルコヲドという暴力を用いて、それは未だに主張を叫び続けているのだそうだ。
「元は八谷五郎というただの使い走り――いえ、チンピラだったのですけれどね。どこであのような力を得たのか……」
「ふむ。力を得たからこその暴走である、と」
「そのようです」
そして、生まれ、育ち、交友、血縁。その全ての情報がトリテレイアに開示される。
それによれば、再開発地区に該当する場所こそが彼の生まれ故郷。
両親は幼い頃に死別。以降、祖父母と暮らしながらも、その地区全体に面倒を見て貰っていたようだ。そして、現在、祖父母も既に老衰で他界。
暫くはどこぞの職場で下積みをしていたようだが、今回、再開発があがる頃に何を思ったかその力を振るい出したそうだ。
現在も維持されている交友は土地と彼に付いていった職場仲間のみ。
「随分と、その八谷五郎という方のことにお詳しいのですね?」
「調べましたからね」
にこりと好々爺の笑み。
動揺は相も変わらずセンサー類に拾い上げられることもない。
「……ご協力に感謝を。事態の収拾をお約束致します」
「ええ、是非とも。他に、私どもで何か協力することがあれば、是非」
「……そうですね。なら、扉の向こうに控えられている『若い方々』にも通じる紹介状などあれば、幸いです」
「ははは、分かりました。私の名でしたためておきましょう」
数多の情報を得たトリテレイアは協会を後にする。その手に紹介状を携えて。
そして、新たなる紋所を手にトリテレイアは町の裏を歩いて回る。
ヒトに聞き、土地に聞き、センサーを奔らせながら。
その結果、彼の人が根城としている場所も分かった。再開発に声を上げ始めた理由――生まれの地をそのままに守りたかった、が始まりであることも。その過程で願いがねじ曲がっていったことも。
ならば、あとは彼と会い、問答と刃の一つも交えるのみ。
「さて、どこまで私ができるでしょうか」
トリテレイアは騎士だ。その身一つとて惜しまず、如何な敵の前にであろうとも立ち塞がる勇敢なる騎士だ。
だからこそ、その志は、如何なであろうとも流れる血の少なきを望む。
ずしりと重い音を立てて、騎士の脚が目的の地への歩みを刻む。騒動に結末を齎すためと。
大成功
🔵🔵🔵
宇宙空間対応型・普通乗用車
あ~生き返る~
ウォーマシン用の温泉まで整ってるとは流石はサラミ
色んな種族へのおもてなしが行き届いてんなぁ
で、なんだっけ?幻朧ラムプの情報収集しなきゃいけねぇんだっけ?
しゃーねぇなぁ
【ガジェットショータイム】で何かそれっぽい情報収集ガジェットでも出すかぁ
指向性マイク付き防水録音装置とか出たら情報収集も捗りそうだなぁ
幻朧ラムプで暴れ回ってるようなら…
「最近になって急に態度がでかくなった」とか
「あいつ最近おかしいよ」とか
そんな声が聞こえてくんだろ多分
ついでに女湯のキャッキャウフフな声とかゴシゴシする音とか…
色々拾っちまうかもしれねぇが、業務上過失録音で許されるよなぁ!
全く温泉は最高だぜぇ!
それはなんとも不思議な光景であった。
温泉街の一角、とある浴場のド真ん中にでんと鎮座するは一台の普通車。そして、それを洗車する三助の姿。
どうやって入れられたのか。何故こんなところで洗車するのか。
疑問の尽きない筈の光景であるが、周囲の入浴客を含め、その不可思議には誰も目を向けない。
「あ~生き返る~」
「はは、旦那に寛いでもらえて、こっちも仕事の甲斐があるってもんですわ」
車が喋った!
だけれど、浴場に普通車があるということへ疑問を思わないのと同じく、そのことに疑問を呈するどころか、普通に三助は返事を返すのみ。
そう。その普通車はただの乗用車に非ず。
どんな悪路もなんのその。地上も宇宙もなんでもござれ、白のボディも美しく磨き上げた宇宙空間対応型・普通乗用車(スペースセダン・f27614)なのだ!
――つまるところ、猟兵なのである。
故にこそ、彼がそこに居ることに、なんら不思議はないのである。QED.
「そこそこ、そこ汚れがたまりやすいんだよ。念入りに頼むぜ」
「へい、お任せを」
ごしごし、ざぱり。ごしごし、ざぱり。
ガラスは勿論のこと、ドアの隙間やワイパーの下、果てはディスクホイールまで。
上から下まで全部を洗い、満足気にと普通乗用車のライトがチカチカり。
三助を労いと共に下がらせて、さて、これからどうするのか。
決まっている。
お風呂に来たのに、お風呂に入らずしてどうするのか。
ころりころりとタイヤを転がし、ざぷりと入る湯船の中。大質量が水を押しのけ、水面にばさり荒波立てて。
沈没? いいえ、入浴です。
ちゃんと浴槽に入れるよう防水処理は完璧であるし、その浴槽に入るための橋渡しもお店が準備してくれている。
「いやぁ、ウォーマシン用の温泉まで整ってるとは、流石はサラミ。色んな種族へのおもてなしが行き届いてんなぁ」
湯に浸かり、あ゛~とおやじ臭く息を吐く、生後6年。
だが、これはウォーマシン用というより、最早普通乗用車のための対応とでも言うべきか。
「で、なんだっけ? 幻朧だか、篭絡ラムプだかの情報収集しなきゃいけねぇんだっけ?」
湯に浸かること暫し、ふと、この世界での依頼が普通乗用車の頭――AIと言うべきなのだろうか――を過る。
面倒ごとと言えば、確かに面倒ごとではあるのだけれど。
「――しゃーねぇなぁ」
これも何かの縁だろう。手伝うのも吝かではないと、彼は結論を出すのである。
そして生み出されるは様々なガジェット――指向性マイクや録音装置といった数々。
これで他の入浴客の噂話でも集めようと言うのだろう。
カチリとマイクのスイッチが入れば最初はノイズ。そして、それは段々とクリアになっていき――。
――ザッ、ザッザー、……ザバリ。
――聞いた? また乱闘騒ぎですって。
水音に続いて聞こえたのは、恐らく、聞きたかった内容そのもの。
若干、録音の声が女性のもののようにも聞こえるけれど、それは、まあ、致し方のない事だろう。
必要な情報。そう、必要な情報なのだから!
「こんなこともしなきゃならねぇとは、猟兵の仕事も辛いもんだぜ!」
と、声には出さずとも、チカチカと光るランプが偶然の――しかし、期待はしていた――結果に、上機嫌を示す。
――再開発地区ででしょう?
――そうそう。利権争いだか、縄張り争いだか知らないけど、物騒よね。
なるほど。件の事件は再開発地区なる場所であったのか。
ならば、そこへと赴けば、必然、この騒動の下手人と出会うことも難しくはないだろう。
欲しい情報も得、役得も得、もう録音の必要性はないだろう。ないだろうけれど。
「いやいや、もっと情報が何かしらあるかもしれねぇからな」
テープは回る、くるりくるり。
満足を得た普通乗用車が風呂を出るまで、壁の向こうの物音を拾い上げて。世間話からじゃれ合う声を拾い上げて。
なお、要らない録音が消されたかどうかは、彼のみぞ知るところ。
「全く、温泉は最高だぜぇ!」
さて、それは湯の楽しみであったか。それとも?
大成功
🔵🔵🔵
メアリー・ベスレム
まぁ、まるで不思議の国みたい
とっても賑やかで華やかで
舞い散る花びらは幻想的で
この間の(ダークセイヴァーの)温泉とは全然違うのね
いつもの格好では流石に悪目立ちしてしまうから
貸し出していた浴衣? とかいう服を着て【目立たない】ように
すぐ着崩れてしまうけど、それぐらいはご愛敬?
さて、何かを探せというならば
【獣の嗅覚】を働かせ
暴力的な血の臭い?
怯える誰かの汗や尿?
華やかなこの場に似合わない
厭な臭いを探して……
……甘い匂い
これはなぁに? と尋ねてみれば
温泉饅頭というらしい
他にもたくさんいい匂い
あちらをくんくん
こちらをすんすん
あぁ、いけないわ
ここは誘惑が多すぎて
気付けば目的忘れて食べ歩き
南谷・カンヤ
えっと… ランプを持って悪い事してる人を探したらいいんだよね?
とりあえず、暴れてるみたいだから、そんな感じの人が居なかったか聞いて回ろうーっと。
…うわーっ!温泉だーっ!入ろーっと!
と温泉を見つけた瞬間、すっかり本来の目的を忘れて温泉を満喫する私でした。
白き湯気に桜の彩り。ざわめく人波のコーラスを添えて。
「まぁ、まるで不思議の国みたい」
人と街とが織り成す賑わい。
それはダークセイヴァーでも、アリスラビリンスでもない、浴衣纏うメアリー・ベスレム(Rabid Rabbit・f24749)にとっての不思議の国。
漂う湯煙をかき分けて、舞い散る花びらを追いかけて、遊び遊びと彼女にとっての幻想の世界を歩いて回る。
ひらりひらり、はらりはらり。
舞い遊ぶ桜に手を伸ばせば、桜の花弁も捕まるまいと宙を泳ぐ。
気付けば、桜の舞にはたりはたりと遊ぶ衣の裾も仲間入り。
ようやくとメアリーが桜の花びらを手中へ収めた時には、着付けてもらった浴衣も崩れた姿。
いや、しいて言うのなら、幼きの中に潜ませる艶めかしさ。ちらりちらりと見える肌色は、いつもの姿に近づいたと言うべきか。
だから、本人はさして着崩れも気にしない。
周囲もメアリーの幼さ――その桜の花弁追いかける姿の微笑ましさに、口元緩まさせるのみ。
獣の本性には、まだ誰も気づかない。
「えっと……ランプを持って、悪い事してる人を探したらいいんだよね?」
「ええ、そうとも聞いているわね」
「そっかー。なら、そんな感じの人が居ないか聞いて回ればいいのかな」
「もしくは、キナ臭いところを探すかかしら」
ひょこりとメアリーの後を追いかけ、姿見せたは南谷・カンヤ(猟兵…?・f27677)。
そんな彼女が目にしたメアリーの姿は着崩れ、あられもなき姿。
だから、あ、浴衣が崩れてるよ。と、メアリーの衣服を整える。
それにメアリーも抵抗することなく、なすが儘。
そして、よし。と満足気にカンヤが言えば、着崩れた姿も元通り。
でも、あともう少しもすれば、また動き回るメアリーに浴衣は再びと着崩れるのだろうけれど、それもきっとご愛嬌。
良い事をしたいと願うカンヤは、必然、その都度と笑顔浮かべてそれを直すのだ。
「でも、キナ臭いってどんな匂い?」
「そうね。暴力的な血の匂い、怯える誰かの汗の匂い。華やかなこの場に似合わない、きっと、そんな匂い」
「へー。でも、そういうのってわかるものなの?」
「鼻を鳴らして嗅ぎ分けて。でなければ、足でもって探すしかないわね」
そっかー。なんて、気の抜けるような相槌一つ。
さて、獣の嗅覚研ぎ澄まし、優美に隠れた血腥きを探し求めて、いざ。
はたりはたり。
浴衣の袖が二つ、蝶のように舞って動いた。
――くんくん。すんすん。
香る、薫る。
硫黄の匂い、ヒトの匂い、甘い……匂い?
「これはなぁに?」
「あ、温泉饅頭だね。おいしそー! 食べてみようよ!」
様々な香りの混じる温泉街。
その一角から漂う香りがメアリーの鼻腔を擽った。
なにと問えば、カンヤがすぐさま応と返し、その正体を指し示す。
「温泉饅頭?」
「そうそう。甘くて美味しいよ」
即断即決。
食べてみようよという間にお饅頭二つをお買い上げ。
それを手渡し、手渡され、二人の手に収まるはホカホカの湯気立つ、出来たてなお饅頭。
――こくり。
誘惑に喉鳴ったのは、はてさて、どちらのであったろうか。
だが、一人は恐る恐ると口付けて、一人はかぷりと遠慮せず。どちらもそれを口に含んだは同じ。
「……甘いわね」
「美味しいね!」
口の中でほろりと解け、広がる甘さの幸福感。
はぐり、はむりと食べ進めれば、あっという間に腹の中。
僅かと膨れた腹の心地よさに思わず目も細くなろうというものだ。
だが、これはいけない。これは危険な誘惑だ。
だって、あちらこちらから似たような香りが、また異なる香りが漂っているのだから。
「……あぁ、いけないわ」
「食べ歩きも温泉街の醍醐味だよ!」
あちらこちらから伸びる誘惑に、当初の目的が霞んでいく。
ユーベルコードによるものであれば、まだ備え、精神力で耐えることもできただろう。だが、不意打ち気味に嗅がされ、味合わされたそれに、さしもの猟兵といえど敵う筈もなかったのである。
「あっちのは分かるわ。きっと、川魚の焼き物ね」
「そうみたいだね! でも、きっとパリパリで美味しいよ!」
「温泉卵? 茹で卵と何か違うのかしら?」
「それこそ、食べて見なくちゃってやつだと思うよ」
「! とろとろね!」
「食べ歩きなら、ソフトクリームも定番だね」
「まぁ! お饅頭とはまた違う甘さなのね……」
「あはは、お鼻にくっついてるよ!」
「――!」
満たし、満たし、満たし。腹も心も満ち足りて。
そして、気付けば。
――かぽーん。
辺りに漂うは食べ物の匂いとは異なる、温泉の香り。
「温泉街に来たんだから、温泉にも入っとかないとね!」
「……この間の温泉とは、全然違うのね」
「え、もうどこかで入ってきたの?」
「今回じゃなくて、少し前によ」
「えー。いーなー」
「あなたも、今回堪能出来ているのではないの?」
「そうだけれどさぁ」
包み込む温もりと満ち足りた腹とのダブルパンチは身体を弛緩させるに十二分。
浴槽の縁に身体を預け、揺らり揺らりと湯船の中で身体を遊ばせるのみ。
最早、当初の目的はすぽーんと抜け落ちていた。
いや、こうやって身体を休め、労わるのも本来の目的の一つであるのだから、それはきっと良いことなのだろう。
そのまま、身も心も温泉の暖かさに溶けていく。
――聞いた? また乱闘騒ぎですって。
――再開発地区ででしょう?
――そうそう。利権争いだか、縄張り争いだか知らないけど、物騒よね。
その言葉が耳に入るまでは。
ざぷりと身を起こし、まさかの幸運に互いが顔を見合わせる。
さて、これは単なる偶然か。それとも、必然か。
密やかに耳澄ませば、流れ来る情報の音。
利権だなんだというのは小難しくとも、そこに何かしらの騒動のタネがあることは明らか。
期せずして――最早忘れていたのだ――入手した、騒動の原因に繋がるであろう情報。
それをどう生かすかは、二人次第。
だが、その前に――。
「ふぅ。お風呂上りのこれは格別!」
「牛乳も、こうして飲むとまた違う味わいがするのね」
折角なのだ。湯上りの牛乳も堪能しなければ。
こくりこくりと飲み干す二人に血の香りはまだ遠く、まだ今だけは平穏の喧騒に包まれて。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
雛瑠璃・優歌
【遠理】
湯治目的だったんだけど…情報収集くらいならいっか
「あれ、此処混浴あるんだ」
んー…老若男女問わず話を聞くチャンス?
「入浴着借りれるか聞いてみるけど香唄も来る?」
施設の人に訊いたら貸出あるって
じゃあ香唄、後でね
入浴マナーを守って一通りの事を済ませてから混浴の露天風呂へ
入浴着よし…あ、髪纏めちゃおう
他の客を確認しつつまずはゆっくり湯船に浸かる
気持ち良い
「っ、…」
びっくりした
ごめん、髪適当にやったから…
「ありがと」
香唄はあたしが拾った子
そしてこの間『永遠にあなたのもの』って意味の花をくれた
ずっと気づかなかった香唄の気持ち
まだどうしていいか分からないから
「…聞き込みしてくるね」
そっと目を逸らした
水無瀬・香唄
【遠理】
アドリブ歓迎
優歌ちゃんの療養が最優先です
混浴、ですか(驚き硬直
(何処ぞの馬の骨に貴女の肌を晒すのは気が進みませんが…)
…分かりました
お言葉に甘えます
入浴着で温泉へ
A&W戦争が原因で神経痛がまだ残る儘の彼女の左肩に手伸ばしかけて触らず
例え僕なんかが止めた所で
戦場へ向かっていたでしょう
貴女は困った者を見捨ててはおけない
助けを呼ぶ声がある限り
だから
僕にも手を差し伸べてくれたのだから
解けそうな彼女の髪を咄嗟に掬う
拍子に左肩に触れ
礼には及びません
早く、癒えれば良いのですが
視線逸らす意味を察し黙って見送る
もっと僕で
満たされればいい
指輪が妖しく煌く
情報収集は温泉内の客に聞き込み(失せ物探し、野生の勘
温泉の効能と言えば美容ばかりではない。
「湯治目的だったんだけど……」
怪我の治療もまたその効能の一つ。
先頃に終結を迎えた帝竜戦役。その中で――いや、その前からと言うべきか。彼女の身体は幾度の死線を越えていた。
一度は血に沈んだ身体。でも、それでもと立ち上がり、痛みを殺してなお歩んだ軌跡。道理を蹴飛ばし、無理を通し、だがその果てに掴んだ輝きはその胸に。
雛瑠璃・優歌(スタァの原石・f24149)はそうして、ここに至っているのだ。
だから、これは少しばかりの休息。温泉でその身を癒す、その筈であったのだけれど。
「――情報収集くらいならいっか」
義に篤きが故、この町へ蔓延る騒動の種を放置は出来ず、やはり完全な休息とは出来そうにもなかった。
「あれ、此処混浴あるんだ」
足を運んだ湯屋の中。ふと見てみれば、混浴可の表示が優歌の眼に映る。
これならば、老若男女と問わず話を聞くに申し分なしか。
「ここにしようかな。香唄もここでいい?」
振り返り、そこには優歌へと付きそう影一つ。
それこそは猫耳の青年――水無瀬・香唄(がらんどう・f24171)。
ゆるりと浮かべる笑みは常のもの。しかし、優歌を前にすれば、そこに籠る意味も変わる。
だけれど、今だけはほんの少し、その笑みに僅かな強張り。
「……混浴、ですか」
「そうだよ?」
「……分かりました」
「じゃあ、施設の人に入浴着の貸し出しがあるか聞いてみるね」
香唄の僅かな間。それに少し小首を傾げつつ、優歌はとてりとてりと店員らしき人へと話しかけに行く。
その背中を見守る香唄の視線は――随分と複雑な彩を宿していた。
――何処ぞの馬の骨に彼女の肌を晒すのは気が進みませんが……優歌ちゃんの療養が最優先です。
己を拾い、名を与えた彼女。
それは即ち、香唄にとっての世界そのものであり、心から愛してやまぬ存在だ。
彼女の意思こそが香唄にとっての全てではあるけれど、それでも心湧き上がる独占欲は止められるものではない。
自然、彼女の意思を尊重したい想いと止めたい想いとがぶつかり合い、それが複雑な感情の綾を生んでいたのだ。
そして、その視線の先で店員から色良い返事を貰ったのだろう。優歌が再び、とてりとてりと返ってくる。
彼女を迎え入れる時には、香唄の瞳からは複雑な色は心の裡へと仕舞われていた。
「お待たせ。施設の人に訊いたら、貸出あるって」
「本当でしたら、僕がいくところであったのに。ありがとうございます」
「いいえ。どういたしまして」
紳士然として振る舞う時とはまた異なる、にこりとした笑み。それがくるりと回転し、香唄の視界から消える。
「――じゃあ香唄、後でね」
一歩、二歩、三歩……遠のきゆく背中を見送るのは、何度目か。
だからだろうか。
――その歩みを止めてしまいたい。
そんな思考が脳裏を過ったのは。
伸ばしかけた腕。されど、それは彼女の傷ついた身体に届くことは無く、ただ宙を掴むのみ。
届かなかったのは、届かせなかったのは、何よりも自分が知っているから。
例え、香唄が優歌を止めたとしても、彼女が決して止まることはない、と。
いつかの過去、立ち止まらない彼女が差し伸べた手に救われた彼であるからこそ。
じわりじわりと胸焦がす想い。
されど、今はそれを己の指彩る蒼の硝子細工を撫でる事で抑えつけるのみ。
ちゃぷりと揺れる水面。
身体は暖かきに包まれて、揉まれて、ゆるりゆるりと弛緩する。
「はぁ、気持ちいい」
他にも幾人かの入浴客がある露天。
それぞれがそれぞれに距離を取り合っており、優歌もそれへ倣って邪魔にならぬようにと。
だが、露天の広さは十二分にあり、優歌が四肢をぐっと伸ばすには不自由ない。
「ああ、こちらでしたか」
「ごめんね。先に入ってるよ」
「いえ、お気になさらず」
優歌の弛緩していた身体に張りが戻る。
見上げれば、彼女と同じくと入浴着に身を包んだ香唄の姿。
失礼します。と言葉も短く、優歌の傍で水面が揺れた。
「気持ちのいいものですね」
「本当だよ。心が洗われるーって感じだね」
お道化て腕を動かせば、ぱしゃりと水面に滴が跳ねる。
そして、同時――。
「っ、……」
「すみません。髪が解けそうだったもので」
「びっくりした。けど、ありがとう」
「いいえ、いいえ……」
優歌の動きに、結い上げられた髪がはらり。
されど、それは湯へと落ちるより早く、香唄の手の中。
普段であれば、優歌の身体――肩が十全であれば、多少の動きで解けるような纏め方はしていなかっただろう。
だが、数多の戦場を超え、その左肩に刻まれた痛みがそれを妨げていたのだ。
「――礼には及びません。早く、癒えれば良いのですが」
「そう、だね……」
奇しくも、髪受け止めるために伸ばした香唄の手は、一度諦めた優歌の左肩に触れて。
届いた。届かせて、しまった。
――沈黙が二人の間を過る。
互いの鼓動すらも聞こそうな程の至近。
しかし、二人の視線が絡み合うことはない。
香唄は静かに優歌を見つめているけれど、その彼女が視線を逸らしているからこそ。
これは、気まずさなのだろうか。
優歌がその視線を直視出来ぬは、彼の気持ち――咲き誇る愛を知るからこそ。
受け取ったのは、示されたのは、まだ忘れる程の時すらも経たぬ前。
ずっと気付かなかった。気付いていなかった香唄の気持ち。
――永遠にあなたのもの。
贈られた花の語る言の葉は、なによりも雄弁に彼の心を優歌へと届けたのだ。
だが、まだそれに答えは返していない。
受け入れるにせよ、拒絶するにせよ、返せる程の答えを優歌はまだ己の中に見つけていないから。
だから――。
「……聞き込み、してくるね?」
優歌はそっと身を捩り、香唄の手から離れていく。
その行動の意味を理解するからこそ、香唄もそれ以上を語らず、手を伸ばさず、ただ見送るのみ。
――水面が揺れ、影は二つに分かれゆく。
「もっと僕で満たされればいい」
遠のく優歌の背中を三度と見送り、ぽつり。
如何な想いであれど、優歌の心が自身で満たされるのであれば、それは最上の喜びに他ならぬ。
香唄の蒼は妖しく輝いていた。
二人が再びと顔を合わせるのは、互いが得た情報――繁華街の裏側、再開発地区に騒動の種があるということを共有しあう時。
それまで、時はただ静かに流れゆくのみ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
狭筵・桜人
手に入れた力を悪いことに使ってしまうなんて悲しいですね。
もっとバレないように上手くやればいいのに。
せっかくなので温泉に浸かりながら情報収集しましょう。
温泉やら銭湯なんて水場にはそれこそ池のヌシみたいな……
地元の常連客がいるはずです。多分こう……ご高齢の。
何かしらのオーラを出してる人を探します。
いいところですねなんて愛想良く声をかけて
温泉街について色々聞いてみますね。
最近この辺りを牛耳っている誰かだとか、
温泉街で変わってしまったことだとか。
その名が悪名であればこの街を良く知る人には有名人じゃないです?
悪事千里を走ると言いますもんね。
ちゃんとのぼせる前に上がりますよ。
熱いのは苦手なので。
桜、花びら、ひとひらり。
自身と同じ名前の、自身が同じ名前のそれが湯気に舞い遊ぶ温泉街の光景。
人の賑わいと共にあるそれは、表面上、とても平穏にしか見えなくて。
「手に入れた力を悪いことに使ってしまうなんて悲しいですね」
狭筵・桜人(不実の標・f15055)は、賑わいに潜む悪意を非難するように眉根を寄せる。
「――もっとバレないように上手くやればいいのに」
ただし、その非難は悪しき行いへのものではなく、その手腕の悪さに対してのもの。
バレないようにしていれば、猟兵が出張ることもなかっただろうに、と。
そう。桜人にとっては正義も悪も、同価値でしかない。
だから、この騒動がなんであれ、どんな事情があるものであれ、ただただ彼にとっては仕事でしかない。
「まあ、折角なので温泉に浸かりながら情報収集しましょう」
意識切り替えるように言えば、眉根の寄りは瞬く間と消え去り、代わりにとゆるり浮かぶは春の笑み。
さて、その笑みの下に何が潜んでいるか。何も潜んでいないのか。それを知るは彼のみぞ。
そして、舞い遊ぶ桜の花びらのような足取りで、ふわりひらりと老舗の暖簾をくぐるのだ。
「――いいところですね」
「……」
「古き良き街並み。ですが、しっかりと整備されていて、人も街も賑わっているのがよく分かります。それになにより、この温泉がいい」
「……そうか。ありがとうよ」
老舗の湯屋にふらりと入り、浸かるは熱き湯の中へ。
桜人が選んだは源泉に近い温度の浴槽。
さっと肌が朱に染まり、汗がじわりと滲みだす。
しかし、そこで熱さを顔に出す桜人ではない。むしろ、それを楽しむかのように、先客――厳めしい顔の老人へと声を掛けるのだ。
「若いの。この熱さ、大丈夫なのか?」
「ええ。これぐらいであれば、まだ」
「へぇ、長い事ここに通っちゃいるが、大体のはすぐにあっちのぬるま湯に行くってのに」
「おや、そうなんですか。ちなみに、長い事と言われましたが、どれくらい?」
「そうさな。かれこれ、50年はか」
「それこそすごい。生き字引というやつですね」
「よせやい」
厳めしきに照れはないが、その言の葉に揺らいだものを見逃す桜人ではない。
――掛かった。
わざわざと老人を狙い撃ちにしていたのは、目的があってこそ。
地元の常連客。それも、古くからこの地に根付いているかのような者であれば、街の事情通でもあろうと目星を付けたからだ。
さて、かれこれ50年は湯屋に通う――言うならば、それだけこの町に根付いていたこのご老人は、如何ほどの情報を持っているのか。
思案も欠片と表に出さず、桜人の顔には変わらずゆるりと咲き続ける春の色。
「なら、この町の歴史や地元の方しか知らないような勧め観光地とか御存知なのでは?」
「ほぅ、聞きたいか?」
「勿論です」
嘘も方便。
人の懐に踏み込むには、多少の遠回りも必要だろう。
そして、始まるは老人語るの温泉街激動物語。
昔から続く温泉街。人が集まれば良くない者も入ってくるもので、度々と治安が悪くなることがあった。時に、それが原因で人足が遠のくこともあった。そういった危機を乗り越えて、街が一丸となって安定させてきたのだ、と。
「――それがよぉ、最近はまた再開発だなんだで、また昔みたいに治安がなぁ」
「……へぇ、平穏そうでしたが、そうなんですか?」
「ああ、これはあんまり大きな声じゃ言えねぇが、裏じゃ相当バチバチやってるらしいぜ。この間も、元々地に根を張ってるところと新興のがぶつかり合いがあったって話だしな」
「それはもう解決してるんですか?」
「いいや。これが手を焼いてるらしい。八谷五郎だか、六郎だったか。最近、名前が知れだしたそいつが、なんだかすげぇってんでな」
「今は再開発予定の地区には行かない方が賢明そうですね」
「そうだな。折角と此処に足を運んでくれたんだ。面倒ごとに巻き込まれて旅の思い出を汚す必要はねぇよ。それに、あっちは今や随分と寂れてみるところもあんまねぇしな」
再開発地区。八谷五郎だか六郎だかの、最近になって頭角を現し始めた存在。
これは、まず間違いなく『そう』であろう。
「貴重なご意見をありがとうございます」
「いいや、なんてことはねぇさ。温泉街を楽しんでくれな」
ざばり。
熱き湯が滑り落ち、朱に染まった肌はじんじんと刺激を伝え来る。
ぺこりと軽い会釈だけをして、桜人はその場を後に。老人は、まだ浸かっていくようだ。
ぺたりぺたりとタイルを踏んで、脱衣所の涼やかな空気に身体を投じる。
「――あの熱い湯に、よく長々と。何かそういう力でもあるのでしょうか」
もしかしたら、あの人こそ篭絡ラムプの持ち主なのかも。
なんて冗談の一つも零しながら、そのまま冷房前の長椅子にぺたり。
長話に付き合って随分と我慢したけれど、桜人は熱いのが苦手であったのだ。
だが、我慢をおしただけの甲斐あって、ある程度の情報は手に入れた。
なら、休息を挟んだ後にでも――。
冷房から吐き出される涼やかな風が桜人の身体を冷ますまで、まだもう暫く。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『合成型影朧兵器・亜紋号』
|
POW : 大正維新破壊光線発射
【角から破壊光線】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD : 腐敗体制粉砕ガス噴射
【口から腐食性のガスを吐き出し】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ : 革命的麻痺毒注入
【相手に突き刺した尾節】から【麻痺性毒】を放ち、【麻痺】により対象の動きを一時的に封じる。
イラスト:オペラ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「ニャント・ナント」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
人の気配が少なき裏通り。
かつてはそこにも沢山の湯屋や旅館があったのであろう。
だか、今はその名残りだけが立ち並ぶ
その一角。そこにだけはガヤリガヤリと人の気配。
されど、それは賑やかさとはやや趣を異とする、剣呑なる。
見れば、そこではチンピラの風体をした者達が酒盛りに興じていた。
「随分と殴ってやったと思ったが、奴ら、まだ此処を諦めねぇのか」
その中央、胡散臭いサングラスをかけた小柄な男が酌を受けている。
「そりゃ八谷のアニキ、奴らからしたらここを諦めるって選択肢はねぇでしょう」
「そりゃそうだろうがなぁ」
アニキと呼ばれた男――八谷五郎と名の付く男は嘆息を一つ。
だが、その懐で揺れたラムプに、気を取り直すように笑みを強める。
「……まあ、何度来ようが、俺の力で叩き潰すだけよ」
「流石、アニキでさぁ。いっそ、こっちから叩き潰しに行くってのはどうですかい? カチ込みに行くんすよ!」
「はは、待つばかりじゃなくてか。それもいいかもしれねぇなぁ」
五郎の言葉にざわりと危険な空気がさざめき揺れて。
そうだ。それがいい。それだけの力が自分にはあるのだ。と、五郎の中で獣が叫ぶ。
そして、それが爆発の時を迎えようと。
「――誰だ!」
その瞬間を迎えるより早く、その場に踏み込む影幾つ。
それは五郎らからすれば突然の闖入者。しかし、影――猟兵からすれば、想定の。
なんだ。と五郎が言葉を口にするより早く、その胸に揺れるラムプが答えを示す。
「……猟兵かぁ!?」
何故。なんて、考えるまでもない。
ラムプ――影朧の力を使って好き勝手としていたのだ。それを隠しもせずに。
ならば、いずれと介入を招くのは自明の理の筈であった。
だが、五郎は気付かなかった。目を逸らしていた。借り物の力に溺れていたから。
そして、今更ながらに気付いたのだ。そのことに。
「鉄砲玉かぁ? アニキ、いつもみたいにやっちまってくださいよ!」
ギャアギャアと騒ぐ手下達。
だが、五郎はラムプを持つからこそ理解する。借り物の力のままで、猟兵に勝てる筈がないと。この後に待つのは破滅だけだと。
だから――。
「ああ、糞! ここまでやってきたってのに!」
最早、破れかぶれ。
ラムプより影朧を解き放てば、その後に何が待つかは分からない。
再びとそれをラムプの中に戻せるのか。それとも、戻せないのかも。
だが、自身を介してユーベルコヲドを放つよりは、まだ勝ちの目もあろうと、彼はラムプよりそれを解き放つのだ。
「ひ、ア、アニキ。これ、なんだってんですか!? なんで、化け物を!?」
「五月蠅ぇよ。これから、これからなんだ。これからって時なんだ。ごちゃごちゃ言うな、黙ってろ!」
ラムプより解き放たれた巨影が、形を成す。
それは人造の影朧。
幻朧戦線が悪魔の知識と科学を融合して生み出した、影朧の怪物。
名を亜紋号。
この時代を破壊せんと生み出された怪物が、猟兵達の前に立ち塞がる。
宇宙空間対応型・普通乗用車
ここでいきなり【瞬速展開カタパルト】だオラァ!
敵が体勢を整えたりするのを、
律義に待ってやるとでも思ってんのかこのすっとこどっこい!
影朧だか鳥そぼろだか知らねぇが、
何かする前に問答無用で轢き飛ばしてやんぜぇ!
と、そんな感じで挑発しつつ、
五郎含めた一般人から離れるような角度で影朧を吹き飛ばすぜ。
なるべく影朧から一般人を庇える位置取りを…
いや待てコイツ無差別範囲攻撃持ちじゃねぇか!?
やっべぇこりゃまず人から引き離すのを優先だ!
体当たりした勢いのまま人のいない場所まで引きず…
ってギャー!?
折角に洗ってもらったってのに、
腐食ガスのせいで車体がボロボロんなってるー!?
あ、ありえねぇ…!こいつマジ許せん…!
巨影が動く。
大きく息を吸い込むような動作。明らかな、何かしらの予備動作。
「やっちま――」
「――問答無用で轢き飛ばしてやんぜぇ!」
「――なんだぁ!?」
だが、五郎の掛け声と共にその行動が成就するより早く、それは新たなる影により吹き飛ばされるのだ。
飛び散るは木片、ガラス片。その中を裂いて飛び込む銀のボディ。
ピカピカに磨き上げられた己が身体を弾丸と変えたは、宇宙空間対応型・普通乗用車(スペースセダン・f27614)。
加速に加速を乗せ、更なる加速でもって撃ち出された車体の顔面が、息吸い込み膨れつつあった無慈悲に亜紋号へと突き刺さる。
胴に直撃したそれへ、亜紋号の口から僅かと漏れる色の付いた吐息。
吹き飛ぶ衝撃に吐息はそのまま空気の中に攪拌され、再びと量産された新たなる木片とガラス片とがキラキラと宙を舞っていた。
――着地。地面に焼き付けるはタイヤの痕。
ギャリギャリと音を立て、ゴムの焼ける臭いを漂わせながら、普通乗用車はドリフトもかくやと身を舞わせ、そして、止まる。
同時、突撃することで無理矢理と車体に引っ掛けていた亜紋号は遠心力と共に、彼方へ。
土煙と共にまた、建物の残骸が舞っていた。
「手前ぇ、なんてことしやがる!」
「何言ってやがんだ。何かしようってのが分かってるのに、律儀に待ってやるとでも思ってんのか、このすっとこどっこい!」
「――ぐっ!」
クラクションのような一喝は、五郎を黙らせるに充分。
――ドロリ。
ガラリと崩れた残骸に意識を向ければ、土煙の色に明らかなる異なる色の混じり。
「……あ?」
なんだと思うまでもない。その煙に触れた端から残骸が腐り落ちる。その崩壊の音であったのだ。
嫌な予感。
――ドロリ。
普通乗用車自身の身体にも僅かな違和感。
見るまでもない――。
「ギャー!? 折角洗ってもらったてのに、車体がボロボロんなってるー!?」
突撃の折、亜紋号の口から僅かと漏れた腐食性の吐息が、普通乗用車のピカピカであった車体の一部をドロリと溶かしていた。
これはもう洗車だなんだというレベルではあるまい。
少なくとも走るに影響自体はないが、それでも帰投した暁には板金塗装の修理は必須。
思わず悲鳴もあげたくなろうというものであった。
それに気をよくするは五郎だ。自身の――というより、亜紋号のだが――力が通じると分かったからこそ。
「ははっ、ざまあねえな! そのまま溶かされちまえ!」
だが、五郎は気付いていない。
もしも、亜紋号がそのままに吐息を吹き出していたのなら、彼自身もただでは済まなかってであろうということに。
――え、こいつ、自分諸共になりそうだったこと気付いてねぇの?
思わず、普通乗用車もその小者ぶりにライトを瞬かせようというもの。
しかし、今はその小物ぶりに構ってなどいられない。
一応とはいえ、五郎を含めたチンピラ達――チンピラ達はその大半が蜘蛛の子を散らすように逃げていたけれど――も一般人。庇わない訳にはいかない。
ただ、傷の具合を試しがてら――。
「うげっ!?」
扉の開閉を確かめるついで、開いた扉のスイングに小者な誰か軽く吹き飛ばされたのは、不可抗力というものだろう。
確かめた扉の開閉具合は問題なし。これなら、仮に再びと突撃しても、すぐさま吐息が中に入りこむことはなさそうだ。
だから。
「滑走路展開車体固定射角調整風力測定磁力充填重力演算その他諸々影響確認射角補正車体解放」
――射出開始。
土煙を割って、ぬるりと顔を見せた亜紋号。その顔面を目掛けて、彼は往く。一秒にも満たぬ決断を乗せて。ヒトビトから引き離す決意を乗せて。
そして、亜紋号の顔面に刻まれるは黒々としたタイヤ痕。
普通乗用車は亜紋号の顔を轢き潰し、一時的ではあるが、それ以上の腐食性ガスがばら撒かれるを防いだのだ。
ただ――。
「あー、もうありえねぇ……! こいつマジ許せん!」
代償にゴムタイヤはパンクして、普通乗用車が動くたびにとその車体はガタリゴトリ。
更なる修理箇所の増加に、思わず愚痴も漏れようというものであった。
成功
🔵🔵🔴
オリヴィア・ローゼンタール
亜紋号……アモン
ゴエティアに記されし悪魔を模しましたか
悪魔召喚士の方が持つダイモンデバイスの模造品、といったところですね
その焦り、怯えよう
この怪物が自身の手に余る代物であり、それをしても状況の打開は困難と理解しているようですね
今それを手離せば、人として沙汰を受けることができます
徹底抗戦を望むなら……影朧の一部に堕ちた者として、覚悟していただきます
【神聖竜王の召喚】
巨大な竜王の【威厳】と【存在感】で【恐怖を与える】
紛い物ではない、己が力による本物の召喚を御覧に入れましょう
毒の尾を切り払い(武器受け)、蹴り飛ばす(吹き飛ばし)
体勢を立て直す暇を与えず、竜王の破壊のブレス(全力魔法)で打ち砕く
狭筵・桜人
四郎さん?五郎さんでしたっけ。
あーあー中身出しちゃってもう。
エレクトロレギオンを展開。
五郎さんを含む取り巻きや民間人を守りながら対処します。
あんなデカブツには近寄りたくないし無勢に多勢で失礼しますよ。
その立派な尻尾でもこの数を一度に薙ぎ払うのは難しいでしょう。
牽制と誘導。隙を見せたらレギオンによる砲撃【一斉発射】。
弾幕を張って居残った民間人を安全圏まで逃してしまいましょう。
一人くらい離脱したって他の強い猟兵がちゃあんと仕留めてくれますって!
それにしても怒られるとわかってたんですね、五郎さん。
お説教までもう少し時間がありますから
今のうちに言い訳を考えておくといいですよ。
許してくれますよ。多分ね。
猟兵と影朧とのぶつかり合い。
その過程でごろりと地に転がったは五郎その人。
痛打した顔がじくりと痛む。散らばる破片がある為か、寝心地は最低だ。
だけれど、その身体は五体満足にして動くにも支障はない。
「糞、糞、糞! 奴ら、やりやがった!」
だから、鼻頭を抑えながらも、悪態も問題なく。
「あーあー、中身出しちゃってもう」
そこに差し込む影一つ。
それこそは狭筵・桜人(不実の標・f15055)であり、さて、彼の言う中身とは曝け出された五郎の本性か。それとも、篭絡ラムプの内側か。
零された言の葉は呆れたような。それとも、余計な仕事を増やされたことへのボヤキのような。
「て、手前、俺を侮るってか……!」
「ははは。四郎さんだか、五郎さんだかでしたか。あなたを侮る? そんなことはしませんよ」
――そもそも、侮るに至る以前の問題なのだから。
猟兵を前にして震えていた声。それが桜人の柔らかな笑みと言葉の前に、きょとんと変わる。
彼は、桜人の言外に込めた意味を理解したのだろうか。
だが、まあ、桜人にとってはどちらでもいいことだ。
それよりも、だ。
「あんなデカブツには近寄りたくないですね」
他の猟兵の一撃を受け、刻まれた傷。それを気にも留めぬと言わんばかりに立ち上がるは亜紋号。
その巨体と共に、ゆるりゆるりと尾が揺れる。
正面から正直にと当たるには、少しばかり面倒そう。というのが、桜人の感想。
「は、ははっ、あれは、お、俺の力なんだ! 止められるもんかよ!」
「はあ、そうですか。――彼はこう言われていますが、貴女からも何かあります?」
ザリとガラス片を踏みつぶす足音。
視線を向ければ、その先には覇気に揺蕩う修道服。それを纏うはオリヴィア・ローゼンタール(聖槍のクルースニク・f04296)。そして、金色の瞳は射抜くように鋭く。
「焦りも、怯えも、滲んで見えますね」
「な、なんだと!?」
一刀両断。
追い詰められたことへの焦り。猟兵への怯え。自分の力が所詮は仮初のものであるという無意識の自覚。五郎は様々な感情を強がりで隠そうとはしていたけれど、そんなものはオリヴィアだけでなく他から見ても一目瞭然であった。
だから、彼女は更に問いかける。
「今、それを手放せば、人として沙汰を受けることができます」
まだ、戻る道はあるのだ、と。
だが、彼はそれを認められない。認められないからこそ――。
「五月蠅ぇ! 今更と手放せるかってんだ!」
安易な道へと逃げるしかないのだ。
その感情の爆発へと従うように、それともただの偶然か。ゆるりと揺らいでいた亜紋号の尾が鞭のようにしなる。
麻痺毒を宿す尾の先端は易々と音の速さを越え、その通り道にある全てを薙ぎ払いながら猟兵へと。
そこには周囲の建物への配慮も、まだ逃げ切れぬチンピラ達への配慮も、五郎自身への配慮すらもない。
「徹底抗戦を望むのなら……影朧の一部に墜ちた者として、覚悟していただきましょう」
だが、それをただ見逃すオリヴィアでもなし。
迎撃の音は硬質。
尾のしなりを打ち払い、主の威容を誇るは聖槍の輝き。高々、悪魔の模造品如きに消せるものではないと知るがいい。
その一合でもってオリヴィアを脅威と認めたのだろう、尾を戻した亜紋号がじりと機を窺うように態勢を整える。
睨み合いの時。
「――無勢に多勢で失礼しますよ」
だから、それは絶好の機会。
亜紋号を取り囲むように押し寄せるは機兵の群れ。
羽虫のように飛び交い、視線を遮り、弾幕でちくりちくりと肌を刺す。
それこそは桜人の手勢。一機一機は微力なれども、その数でもって牽制を、攪乱をするには充分な。
正面からぶつかるには手札として弱くとも、代わりにそこを受け持ってくれる人が居るのなら、問題はない。むしろ、その役割を十全と果たせるというもの。
牽制、誘導、時間稼ぎ。充分も充分だ。
――尾が薙がれ、槍がそれを払い、隙間を縫って機兵が飛ぶ。ちくりちくりと弾幕の煙を張れば、煙を貫いて槍の閃光が貫き奔る。
尾の薙ぎ払いという目に見える脅威が自分自身も巻き込む軌道であったことに、今更ながらと呆ける五郎。
それを尻目に、残されたチンピラ達も猟兵が亜紋号を抑える内に、一人、また一人と逃げていく。
誰も、五郎など気にしてはいなかった。
「――紛い物ではない、己が力による本物の召喚を御覧に入れましょう」
五郎の視線の先で、オリヴィアが聖槍の輝きを掲げるを見る。
それは灯火。彼方より此方へと真なるを導くための、灯火。
桜人の繰る機兵が稼ぎ出す時間を糧に、光が満ち、満ち、満ち。そして――。
「――天来せよ、輝く翼の竜の王。破壊の吐息で邪悪を打ち砕け!」
輝きは門となりて、悪魔の巨躯をも凌ぐ竜の王を此の世へと顕現させるのだ。
それを認めぬとばかりに亜紋号も尾を再びとしならせるが、神聖の輝きを前に虚栄など無意味。
鱗が弾き、爪が切り裂き、ブレスが打ちのめす。
その眩きは力そのもの。悪魔を打ちのめすだけでなく、仮初の力に溺れていた五郎を打ちのめす現実そのものだ。
「ちく、しょう。なんで、こんな、俺の何が間違ってたってんだ」
取り残される五郎の呟きは、戦闘の音の中で掻き消される程に小さい。
されど、応える声は、確かにあった。
「……怒られるってわかってたんでしょう? 五郎さん」
力を得て、どんな理由でそれを振りかざし始めたかは桜人には分からない。だが少なくとも、誰かが止めに来れば破滅しかないということを五郎が理解していたことだけは分かる。
それはつまり、それが決して褒められる行いではないと無意識にでも自覚していたからこその。
「うるせぇ、うるせぇよ」
「そればかり。お説教までもう少し時間がありますから、今の内に言い訳を考えておくといいですよ」
「……赦してなんて、貰える訳がねぇだろ」
「――許してくれますよ。多分ね」
それは気休めか。それとも、何かの確信があるのか。
だが、打ちのめされた五郎の心へと沁み込むには十二分。
「ああ、糞。俺にも本物の力があったなら、こんな風な道を選ばなかったんだろうか」
答えは分からない。
本物の力を持っていたとしても、道を違える者はある。五郎がそうであれたかなど、誰にも分からない。
だから、桜人もその言葉には答えなかった。
――亜紋号をそのブレスの白の中へと融かす竜王。
ただ、それをひどく眩しいモノを見るように眺める五郎を、彼は静かに見守るのみ。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
トリテレイア・ゼロナイン
(周囲には民間人、影朧の転生に関わる情報どころか理性の有無すら把握できず…優先順位を違えることはしませんが)
…儘ならぬものですね!
UCも併用した●スライディング移動で影朧と民間人の間に●かばう為に移動、突撃し光線●盾受け
今の内にお逃げ下さい
巻き込まれれば命の保証は致しかねます!
突撃の勢いそのままに●シールドバッシュを叩きつけ体勢を崩し攻撃を中断
●怪力で振るう剣を角に叩き付け破損による攻撃不能を試行
如何な無念を持ち、篭絡ラムプに囚われたのか
そのお怒り、察するに余り有ります
ですが、どうかお気持ちをお鎮めください!
センサーでの●情報収集で反応●見切り
鎮静不可能と判断すれば全格納銃器発射
剣で追撃
電子頭脳が思考を廻す。
――周囲には、センサーが拾い上げる一般人の気配。
――影朧。転生に関わる情報は不明。理性の有無も同様。
――戦況。猟兵有利。されど、影朧も未だ健在也。
戦況は混沌としており、流れ込む情報は濁流のように。
だが、ただ濁流に呑み込まれるなど許される状況ではないことは明白。
そして、そんなことはトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)であれば、誰よりもよく知っている。
他の猟兵の一撃に呑み込まれていた亜紋号。
再びと姿を見せた時には、その身体に傷は刻まれ、焼け爛れ、姿は始まりの頃より遠い。
しかし、そこに宿す敵意は変わらぬ。
果たして、それが亜紋号のものなのか。それとも、五郎のものが宿ったのかは分からない。
だけれど、そこにある脅威としての存在は確か。
――亜紋号の健在なる角に、怪しき輝きは宿る。
可能であれば、どんな者であろうともその掌の内より取りこぼしたくはない。例え、それが影朧というオブリビオンに相当するものであっても。
だが、かの影朧は人造のものであり、拾い上げた情報の如く、転生が叶うものなのかどうかも不明。
ならばこそ――。
「……儘ならぬものですね!」
まず救うべきは民間人をこそ。例え、その民間人が町を騒がす者であったとしても、彼らはまだ今を生きる者であるが故に。
輝きが放たれるより早く、トリテレイアの背部に生まれた焔が尾と伸び、その身体を押し出す。
そして、彼の身が影朧と民間人――影朧の威容に動けぬチンピラとの間へと滑り込むと同時、輝きは臨界を迎えるのだ。
光がセンサーを灼き、視界は白に埋め尽くされる。
「あ、な、なんで?」
「今の内にお逃げ下さい! 巻き込まれれば、命の保証は致しかねます!」
「――っ!」
輝きを押し留めるは重厚なる盾の勲。
ばちりばちりと表面を焦がし、融かしながらも、それは確かに亜紋号の光線を受け止め、支える鉄壁。
庇われると思わず呆けていたチンピラ達であったが、トリテレイアの一喝で息を吹き返したのだろう。幾度か何かを言わんとして口を開いては閉じを繰り返した後、結局は何も口に出せぬまま、複雑な表情を浮かべたまま離れていく。
センサーが生命反応の離脱を捉え、無事に彼らが離れたことに安堵を零す。お礼が欲しい訳ではないのだ。ただ、その掌から零れる命を少しでも減らすために。それを為せたことへの安堵であった。
心配の種はその数を減らした。ならば、あとは目の前の影朧と向き合うのみ。
「如何な無念を持ち、篭絡ラムプに囚われたのか!」
鉄壁越しの圧力は変わらず、感情の揺らぎも感じることは出来ぬ。
亜紋号は幻朧戦線により兵器としてかくあれかしと生み出された影朧。そうであるからこそ、その行動理念には怒りも無念もない。ただ、命じられた役割に殉じるものがあるだけだ。
それはまるで機械のような――。
「止めるしか……ないのですね」
圧力は増すばかりで、このまま受け止め続けていたならば、如何な鉄壁とていつか綻ぶことだろう。
だから、彼は決断をする。
――轟と鳴り響くは焔の声。
全身のスラスターを前に進むための推力と代えて、己が身は弾丸の如く。
圧力を超える推力をもってして光線を散らし、突き進むはトリテレイアという名の一筋の流星。
盾が二方向からの圧力に悲鳴をあげる。だが、まだ、まだ、まだ!
――光の先へと、抜けた。
視えるのは、突撃の勢いと共に叩きつけられた盾の砕ける様。そして、その衝撃に仰け反る亜紋号の姿。
「その機能、沈めさせてもらいます」
役割を果たした盾の持ち手を投げ捨て、代わりに掲げるは重厚なる刃。
そして、断頭の刃が如き一閃が、狙い違わず亜紋号が角に振り下ろされ――その身に罅を刻むのであった。
成功
🔵🔵🔴
火土金水・明
「『幻朧ラムプ』ですか。只人であろうとも影朧の使役を可能とする兵器とは、はた迷惑な物を作ったものですね。」
【WIZ】で攻撃です。
攻撃は、【高速詠唱】で【破魔】と【継続ダメージ】と【鎧無視攻撃】を付け【フェイント】を絡めた【全力魔法】の【新・ウィザード・ミサイル】で、『合成型影朧兵器・亜紋号』を【2回攻撃】します。相手の攻撃に関しては【見切り】【残像】【オーラ防御】【毒耐性】で、ダメージの軽減を試みます。
「(攻撃を回避したら)残念、それは残像です。」「少しでもダメージを与えて次の方に。」
アドリブや他の方との絡み等はお任せします。
メアリー・ベスレム
それじゃ、お仕事の時間ね
再開発とか、そういうお話はよくわからないけれど
この街は素敵なところだったもの
そこに影を落とすなら殺さなきゃ
【血塗れメアリ】を使って血臭まとい
……あなたは血を流すのかしら? よくわからないけれど
毒針に刺されないよう【野生の勘】【逃げ足】で立ち回る
それで躱し切れない、もしくは攻め切れないと判断したら
わざと受け入れ突き刺され
毒が回って動けなくなる前
【咄嗟の一撃】肉切り包丁で尻尾を切り落とす
そのまま痺れて動けなくなったなら?
【激痛耐性】で耐えるしかないかしら
動けるようならそのまま本体に攻撃を
【傷口をえぐる】で返り血浴びて
戦闘力増強と生命力吸収ができれば、少しは回復するかしら?
くんと鼻腔を擽るは、土埃に混じる血の香り。
鉄臭く、錆臭く、甘い幻想とは程遠く、夢から醒めるに十分な。
「そうね。そうよね。お仕事の時間よね」
メアリー・ベスレム(Rabid Rabbit・f24749)が手に握るは、甘く蕩けるお菓子ではない。分厚く重い、肉切り包丁。
再開発だなんだとか、そういうお話は彼女には関係もない。
よくわからないお話にかかずらうなど、それこそナンセンス。
そんなものは、丸めて屑籠にでも叩き込んでいればいい。
それよりも、だ。
「この街は素敵なところだったもの。そこに影を落とすなら、殺さなきゃ」
素敵な場所だったから、そこを脅かすものを排除する。
そんな分かり易い、シンプルな行動理念こそが彼女を突き動かすのだから。
じゃりとメアリーの踏みこんだ足がガラス片を磨り潰し、力溜め込むを示す。
「甘い甘い血の臭い、メアリにもっと嗅がせて?」
――鉄錆の香りは、より一層と濃く、深く。
そして、兎は地を跳ねた。その手で虚栄の頸を刎ね落とさんと。
火土金水・明(夜闇のウィザード・f01561)の視界の先で黒の兎が尾と踊る。
跳んで、はねて、薙ぎ払って、土煙と残骸の彩る舞台の上を二つの影が縦横無尽。
まだ、どちらが優勢でも劣勢でもなく、拮抗の生み出す舞がそこにはあった。
だから、それを動かす契機になる者があるとすれば、まだ舞台に登ってはいない自分自身なのだろう、と明は思う。
「只人であろうとも影朧の使役を可能とする兵器とは、傍迷惑な物を作ったものですね」
超常の力を一般人が持てばどうなるか。
今回のように、分不相応な力を持ったが故の暴走が少なくない数起こるであろうことは、想像に難くない。
それこそが、その混乱こそが幻朧戦線の狙いなのかもしれないが、その傍迷惑さには嘆息も零れようというもの。
だが、それをいつまでもと嘆く訳にもいくまい。既に、事は起こり始めているのだから。そして、それを止められるのは猟兵に他ならぬのだから。
――掲げるは七色の杖。
宵闇の黒をはためかせ、明は杖に集めたる魔力を廻す。
くるりくるりと魔力が廻り、杖より零れだす輝きの数は七から八へその彩りを変える。
そして、その杖が亜紋号を指し示す。準備はもう、万端だ。
「全ての属性を収束して、今、放つ!」
宿りし属性の数多。輝きは矢となりて、雨となりて、人造の悪魔へと降り注ぐのだ。
天性の勘が囁いて、メアリーの身体は頭が考えるより先に身を捻る。
遅れて、風がメアリーのあった場所を吹き抜ける。
見るまでもない。そこに伸びるは悪魔の尾。
「困るわ。お腹に大きな穴なんて開いたら、もう何を食べても零れてしまうじゃない」
チリチリと身を焦がすような、ひりつく空気。危機を報せる本能の囁きは鳴りやまぬ。
されど、メアリーの顔には笑み。くすりと冗談めかして、ひりつく空気を愉しむように。
返す刃が尾を滑り、浅く浅くと傷を刻む。
「そうね。そちらも大事な尾を失いたくないでしょうしね」
深くと刃を埋め込めなかったのは、亜紋号が尾を薙いだから。
それを最小限と跳んで躱し、曲芸のように身の一回転。
場が場でなければ、その見事着地に拍手喝采もあったことだろう。だが、ここに拍手を送る者はなく、あるのは亜紋号というダンスパートナーだけ。
その着地を狙った追撃の尾がしなり、再びと身を捩れば舞い散る髪の幾つか。
千日手。どちらも決め手に欠ける状況。
それを動かすのは――。
「全ての属性を収束して、今、放つ!」
響いた明の声。解き放たれるは魔法の矢。輝きの雨霰。
そして、それを視た亜紋号の行動は素早かった。
尾のしなりを矢へと向け、それを迎撃せんとして振るうのだ。
ぶつかり合う矢と尾との衝撃が風を生み、戦場の空気を洗い流していく。
「迎撃に移るのは織り込み済み。それに、今のを受けてただで済む筈もありませんよ」
最初からその一撃で決着がつくなどと、明も思ってはいない。
少しでもダメージを稼ぎ、『次』に動く者へと繋げる。
それこそが、彼女の真なる狙い。
だから、敢えてと声を張り上げ、注意を惹き、明らかな脅威としての矢を見せていたのだ。それを迎撃せざるを得ないと思わせるために。
そして、その結果を見れば、それが成ったことは一目瞭然。矢を薙いだ亜紋号の尾の一部は欠け、ぼとりぼとりと血を零し、肉を零す。
「では、あとはお任せしますね」
念のためと防御の手段も用意はしていたが、その必要性はもうなさそうだ。
――洗い流された筈の戦場に残るは、濃い血の香り。
「あなたも、血を流すのね」
囁く声は間近。
ぎょろりと大きな目がメアリーを捉えれば、亜紋号の撒き散らした紅に染まったその姿。
いつの間に距離を埋めた。などとは言わない。言えない。
今迄、亜紋号はその尾でもってメアリーを押し留めていたのだ。その制約がなくなれば、彼女が距離を詰めるなど当然のこと。
だから――。
「まぁ! なんて大きなお口。狼も真っ青だわ! うふふっ、そんなにアリスを食べたいのね!」
せめてもの足掻きと、身体を動かし、他の猟兵により爛れた口で喰らわんとするのみ。
「――でも、残念。料理するのはメアリの方。あなたの方が獲物なのよ」
ぱくりと眉間を割る一刀が、口開け迫る亜紋号の顔面に叩き込まれる。
仰け反り、吹き出す返り血が、再びと兎を紅に染めた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎
フン、何ともまぁ醜悪な怪物だ
暫くぶりに楽しんだ温泉にもう少し浸っていたかったんだがな
破壊光線を警戒しつつデゼス・ポアを操作して斬撃を、自分は銃撃を行う
角を観察しつつ攻撃の予兆があれば見切り、ダッシュで回避、場合によっては付近の廃屋等を怪力で崩して遮蔽物代わりにして攻撃を避ける
お前のせいで余韻がぶち壊しだ
早々に、骸の海に叩き返してやろう
UCを発動
幾多もの刃を束ねて攻撃力を強化
破壊光線を避けつつカウンターで敵の鼻先に蹴りを入れて動きを止めたら、束ねた刃を叩き込む
敵が怯んだら更に銃で追撃する
幻朧戦線ね…
オブリビオンでもない者達がこんな厄介な物をばらまくとは、一体何を考えてる事やら…
ベルベット・ソルスタイン
過ぎた力は身を滅ぼす、特にこのような醜悪な力であれば猶更の事
まあ、いいわ……お説教は後にして、まずはこの醜き怪物を片付けましょう
死にたくなければそこを退きなさい
チンピラたちを威圧、戦場から可能な限り退去させて戦闘へ
氷【属性攻撃】の【全力魔法】で周囲の水蒸気を凍結
無数の氷礫を亜紋号に向けて放つ、これは攻撃の為だけではない
多数の氷により亜紋号の放つ光線を乱反射させ、拡散させる事で威力を削ぐ策でもあるわ
さあ、そろそろ幕引きと行きましょうか
【紅の拒絶】を発動、亜紋号の周囲に散らばる氷に熱を集め、膨張させる事で水蒸気爆発を引き起こす
消えなさい、醜き者よ
「フン、何ともまぁ醜悪な怪物だ」
「過ぎた力は身を滅ぼす。特にこのような醜悪な力であれば、猶更」
戦場に吹き抜ける風の鉄錆臭さ。
これでは温泉街の情緒もへったくれもあったものではない。
その原因たるは二人――キリカ・リクサール(人間の戦場傭兵・f03333)とベルベット・ソルスタイン(美と愛の求道者・f25837)の前にある人造の悪魔。
既に他の猟兵達との交戦を数多と越え、身体は爛れ、罅割れ、己が血にと濡れている。
だが、それでもまだ悪魔は動く。己の意思ではない。人造の、与えられた機能のままに。
それがなによりも歪で、だからこそ、二人はその美麗な眉の形を顰めるのだ。
「全く……暫くぶりに楽しんだ温泉に、もう少し浸かっていたかったんだがな」
「仕方がないわ。温泉をまた楽しむにしても、誰かさんへお説教をするにしても、まずはこの醜き怪物を片付けましょう」
「そうだな。そこの男が折角とお披露目してくれた怪物ではあるが、早々に骸の海に叩き返してやろう」
――風が、吹き抜ける。
キリカの、ベルベットの、静かに昂る戦意を表すかのように。
今更と鉄錆の香りに、戦場の空気に、気後れする訳もない。
猟兵と亜紋号、その二つの間でひゅるりと風が渦巻き、そして、弾けた。
「踊れ、デゼス・ポア。貴様を呪う者達の怨嗟の声で」
「この世界を穢すというのなら、死を授けてあげるわ」
踊り出る人形の軽やかな足音。鞘走りの如くと滑らかに引き抜かれる短剣の音。
それらの音を迎え撃つように、亜紋号の罅割れた角へは怪しき輝きの宿り。
先手を取ったのは――亜紋号。
いや、先手というより、それは暴発と言うべきか。
先んじて交戦していた猟兵の手により罅割れていた亜紋号の角。それは破壊の力を調整し、繰るためのものであった。だが、今やそれは罅割れ、機能不全を起こしていたのだ。
故に、最早、その力は亜紋号にすらコントロールできるものではない。
つまり――。
「自爆覚悟とは恐れ入る!」
「破れかぶれ……というよりは、この世界を蹂躙出来ればそれでいいって訳ね。美しくないわ」
放たれる破壊光線は誰にも予測できない軌道で持って周囲を薙ぎ払う。その主たる亜紋号すらをも時に焼きながら。
だが、亜紋号はそれを止めない。『敵』を前にして攻撃を止める機能など持ち合わせていないが故に。
亜紋号を呼びだした五郎も居るには居るが、力を借りていただけのそれに亜紋号を止める術などない。ましてや、既に他の猟兵に心折られ、抗う気力すらないのだから期待などしようがない。
ただ、既にチンピラ達は戦いの中で戦場を離れ、五郎も他の猟兵の庇護下に入っている。その点において、キリカとベルベットが周囲を気にしないで良いことは幸いであった。
「しかし、こうも乱れ撃ちでは踏みこむ隙間もないな」
ステップ踏んで後ろに一歩。遅れて、虚空を光線が貫き奔る。
光線の網目に隙間を見つけ、潜り込めども次の瞬間には網目が様相を変えて襲い来るのだ。
そこに攻撃の意思もあれば、汲み取り、予測し、回避と共に前進へと繋げられようが、それがないからこそ、余計に厄介なのである。
未だとキリカが無傷を誇るは、その身のこなしでもって回避に専念すればこそ。如何に猟兵、如何に人形のデゼス・ポアと言えど、不規則に編まれる網目を無傷のままに掻い潜るは難しいと言えた。
「見るに堪えない歪な綾ね。ならいっそ、私が代わりに織ってあげるわ」
ベルベットが朱色艶やかに虚空へ線を描けば、温泉の水蒸気を糧として生まれ出づる無数の礫。
透き通るそれらは、加熱する戦場の空気すらをも凍てつかせる氷のそれ。
「何をするつもりだ?」
「まあ、見ていなさいな」
するりと、どこまでも優雅にベルベットが手を掲げれば、それに呼応して氷礫が空間を埋め尽くす。
「――教えてあげるわ。美しいとは、こういうことよ」
氷礫で光線を受け止めるのか? それは一部のみ正しい答え。その真なる答えは、そこには広がっていた。
「なんともまあ、器用なことだな」
「なんてことはないわ。この程度、当然よ」
きらりきらりと光の乱舞。先程までの嵐のような光の雨が嘘のような光景。
ベルベットの生み出した透き通る程に純度の高い氷礫。それはその身で破壊光線の輝きを受け止め、偏光し、その方向をベルベットの思うままにと変えるのだ。
――悪魔を討つ為の道が、生み出されていた。
いっそ、残骸を盾にでも。
破壊光線を掻い潜るためにそう考えていたキリカではあったけれど、最早、その必要はなさそうだ。
考えるより早く、身体が動く。
デゼス・ポアは既に一筋の道を駆け抜け、亜紋号の喉元。
そして、自分自身の手の内にはシガールのずしりとした重さ。
「お前のせいで余韻もぶち壊し。こいつはそのお礼だ」
瞬閃。抜き打ち。
光の乱舞の中へと新たと刻まれるは、錆びた刃から生み出されたとは思えぬ、剣閃の輝き。そして、その合間を縫うは弾丸の雨霰。
血煙が舞い、自身の光線を浴びてなお動じなかった亜紋号が、初めて身を捩る。
じわりと錆がその身を侵し、角を侵し、光を喰らう。
破壊の輝きは弱まりを見せ、最早、光線は光線となり得ない。
亜紋号に残されたのは、もうその身一つの攻撃手段のみ。
ぎょろりと血濡れの瞳が猟兵を――キリカとベルベットを見定め、せめて圧し潰さんと身体が前傾を取る。
刃では止まるものか。銃弾でも止まるものか。氷の冷たさでも止まるものか。
「――いいや、動かなくていい。お前の終わりはそこなんでな」
攻撃の意思あれば、それを読むなど容易きこと。
亜紋号が前傾から動き出すその刹那、キリカのその身は既に眼前。
そして、亜紋号の鼻面を蹴り上げる、鋭き脚。
衝撃に巨躯が浮かぶ。
追撃に備えるかのようにぎょろりと視線だけがキリカを捉え、彼女がデゼス・ポアと共に退く姿を見る。
「真紅の奔流よ、醜悪なる者を打ち砕け!」
何故。その答えを探るまでもなく、紡ぐ言葉の艶やかなる。
氷礫を生み出した時のように、世界へと語り掛けるベルベットの言葉が彼女の望むをこの世に生み出す。
辺り一帯から、急速に熱が消えていく。否、奪われていく。
何にか。
ベルベットに、ベルベットの生み出した氷礫に。
熱は収束し、収斂し、亜紋号の周囲に散らばる氷礫の内へと宿り、そして――。
「さあ、そろそろ幕引きと行きましょうか」
――クリムゾン・リジェクト。
臨界を迎えたそれはベルベットの言葉に従い、その身を弾けさせるのだ。奪い、溜め込んだ熱を周囲にばら撒きながら。
爆発が亜紋号を呑み込み――。
「消えなさい、醜き者よ」
――ベルベットの言葉に従い、全ては跡形もなくと消え去るのみ。
「しかし、幻朧戦線ね……オブリビオンでもない者達がこんな厄介な物をばら撒くとは、一体何を考えてる事やら……」
「少なくとも、美しくないことを考えていることは確かそうね」
爆煙は消え去り、ガラリと残骸の崩れた音だけが響く。
それが一連の、影朧との戦いの終わりを報せる音となるのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
第3章 日常
『籠絡ラムプの後始末』
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POW : 本物のユベルコヲド使いの矜持を見せつけ、目指すべき正しい道を力強く指し示す
SPD : 事件の関係者や目撃者、残された証拠品などを上手く利用して、相応しい罰を与える(与えなくても良い)
WIZ : 偽ユーベルコヲド使いを説得したり、問題を解決するなどして、同じ過ちを繰り返さないように教育する
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
猟兵達の奮闘により戦場の音は絶えた。
後に残るは寂れた――半壊した裏通り。そして、そのただ中で膝を付き、最早抵抗の様子も見せぬ八谷五郎の姿。
彼に宿っていた虚栄は、仮初の力は既になく、そこにあるのは何でもない、ただの一般人だ。
ただ一つ、彼が影朧の力を利用して犯してきた罪というものを除けば、だが。
さて、事前の情報であれば、彼の仕置きも猟兵達へと依頼されたものの一つであったか。
ならば、どうする。
何かしらの罰を与えることも出来るだろう。
何かしらの罰を与えぬも出来るだろう。
心を折られた彼であれば、如何な言葉とて聞くことに間違いはない。
どのような言葉を掛け、どのように彼と接するかは猟兵達次第。
うなだれる五郎への沙汰を待つように、湯気と桜の花びらがゆらりと舞った。
キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎
終わったようだな
さて、残るはあの男だけか…
とは言え、ある意味では彼も被害者ではあるな
大事な物を守るには力が足りず、仮初の力を手にしても得られたのは、同じく仮初の紛い物だけ
本当に大事な物は、手の平から零れ落ちる砂のようにゆっくりと、しかし確実に消えていく
まぁ全て憶測でしかないがな
力がなくとも、全て守れずとも、それでもお前が残せる物はあったはずだ
お前がやった事は到底許される事ではない
が、私はお前を裁くつもりはない
…直に、屯所からも人が来るだろう
大人しく縛に就き、お前の罪に相応しい沙汰を受けるんだな
これ以上彼を追い詰めずともいいだろう
振り向きもせずに現場から離れ、温泉街へと消えていく
メアリー・ベスレム
あとの事は他の猟兵におまかせで
メアリは一足お先にさようなら?
あら、メアリのお仕事はもう済んだもの
メアリにできるのは殺す事だけ、お説教なんてできないわ
オブリビオン……この世界だと違う名前だったかしら? はもう殺したから
それにあなた、ラムプがないと何もできないんでしょう?
空っぽの卵男(ハンプティダンプティ)さん
だったら、わざわざ殺す必要もないじゃない
……なんて言うのは残酷かしら?
こう言われて怒るとしても泣くとしても、もう興味はないけれど
だけれど、そうね
もし、今度こそ自分の力で同じ事を
誰かを食い物にしようというのなら
その時こそメアリが殺しに行ってあげるから
それだけは約束してあげる
「終わったようだな」
「そうね。これでお仕事はお終い」
静けさの舞い戻る裏通り。
されど、そこはもうかつての場所ではない。
猟兵と影朧。その激突を受け、周囲が無事であろう筈もないのだ。
そのただ中で蹲るは五郎の姿。
そして、それを眺め見るはキリカ・リクサール(人間の戦場傭兵・f03333)とメアリー・ベスレム(Rabid Rabbit・f24749)。
だが、それも暫くの事。いち早く、その場を離脱するようにメアリーは踵を返すのだ。
「……お前は、あの男に何か言わなくていいのか?」
あっさりと。一戦を交えてもなお、別段の拘泥もなく去ろうとするメアリーの背中へ、キリカの声が掛かる。
勿論、キリカもメアリーを引き留める為に声を掛けたつもりもなければ、何かの返事を期待した訳でもない。
ただ、そう、ただなんとはなしに、そうしただけであったのだ。
「――何か? 可笑しなことを言うのね」
だから、それに応えるようにメアリーが足を止め、振り返ったのは少しだけ意外であった。
じっとキリカを見つめ来る、赤い瞳。
それが、にこりと魅力的に、蠱惑的に形を変える。
「メアリにできるのは殺す事だけ、お説教なんてできないわ」
メアリーにとっては、オブリビオン――影朧を殺した時点で、既にこの事件は終わったことなのだ。
それを利用したヒトがどうなろうと、それはもう関係のないこと。
まして、だ。
「それに、ラムプがないと何もできないんでしょう?」
――ねぇ、ハンプティダンプティさん?
卵の中身は借り物で、それは最早と零れ落ち、腐り落ち、何かが生まれることもない。
赤の瞳をキリカから五郎に向けて、メアリーは言う。
「だったら、わざわざ殺す必要もないじゃない」
メアリーが五郎を見る瞳にはオブリビオンを前にした時のような熱の欠片すらもなく、ただただ路傍の石を見るが如く。
だからこそ、その熱なき言動に五郎は蹲ったままびくりと身体を震わせるのみ。
暗に言われたのだ。
あなたにそこまでする価値はない、と。
だけれど、その言葉が真実だから、彼は何も言えない。言える筈がない。
「そうだな」
殺す必要もない。
その言葉へと同意するように、キリカも頷きを返す。
蠱惑の赤と同じく、怜悧の紫が五郎へと注がれる。
「――それに、ある意味では彼も被害者ではあるな」
意外な言葉。
詰られるだろうか。それとも、メアリーのように価値なきを突きつけられるか。
そう、考え、震えていた五郎の顔が初めてあがり、二人を見た。
「そう?」
「ああ。仮初の力を手にしても得られたのは、同じ紛い物だけ」
「それは自業自得でなくて?」
「その通りでもあるが、そこへ真に欲するべきものはない。偽物で己を満たせば満たす程に、大切なものは全て零れ落ちていくのだからな」
五郎とてその力を振るう理由があったのではないか。何か譲れないものがあったのではないか。それが仮初の力を振るう中でいつしかねじ曲がり、今回のことになったのではないか、と。
五郎の全ては知る由もないけれど、キリカの勘が、そう囁いていた。
そうなるべくと囁いた悪意こそが真なる悪だ、と。
「――まぁ、全て推測でしかないがな」
「ふふっ、なぁにそれ」
「だが、だ。力がなくとも、全て守れずとも、それでもお前が残せる物はあったはずだ。お前がやった事自体は、到底許される事ではない」
ひたり。
五郎を捉えた怜悧な瞳は、まるで断頭台の刃の如く。
ごくり、と。知らず、彼の喉が鳴っていた。
しかし、その緊張感もすぐに立ち消える。
何故なら――。
「――が、私もお前を裁くつもりはない」
くるりとキリカが踵を返し、背中を見せたから。
視線が外れ、瞳の刃が外れ、呼吸を思い出した五郎の身体が懸命に空気を吸い込む。
大人しく縄に就き、ヒトとして沙汰を受けよ。と、その背中が語っていた。
カツリ、カツリと遠ざかり始める足の音。
「ねぇ、空っぽのあなた」
メアリの囁きは間近。
不意打ちに近い接近へ、ドキリと心臓が跳ねた。
「もし、あなたがその空っぽの中身を埋めて、今度こそ自分の力で同じ事をしようというのなら――」
――その時こそ、メアリが殺しに行ってあげるから。
それは果たして脅しであったのか、それとも物騒な激励であったのか。それはメアリーのみぞ知るところ。
約束よ。と言葉だけを残し、キリカの後を追ってカツリカツリと音が遠のいていく。
「言うべきことなんてなかったんじゃないのか?」
「いいのよ。お説教じゃなくて、ただの約束をしただけだから」
二人とも、もう後ろを振り返ることはない。
ゆらりゆらりと湯気の中、その背中が呑まれて消えた。
ヒトの罪はヒトの沙汰に任せ、それでは一足お先に、さようなら。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
オリヴィア・ローゼンタール
私は司教でも司祭でもなく、一介のシスターに過ぎないので、本来は赦しの秘跡を授けることはできませんが……
オブリビオンが関わっているのなら、主も大目に見てくださるでしょう
天使の姿に変身(存在感・威厳)
あなたの罪を告白しなさい
そして心から悔い改め、償いなさい
償い終えた時、初めて赦しを乞うことができるでしょう
それまでは赦しを乞うことすら赦されない
もしもまた、悪魔の誘惑に心を惹かれたら……
【巨躯変容・炎冠宰相】で巨大化、五郎を掴み上げる
我が怒りの炎は場所を問わず時を問わず、貴様の魂の一片さえ残さず焼き尽くす
輝くは純なる白。
「あなたの罪を告白しなさい」
声は厳かにして、天なるの代行。
それこそはオリヴィア・ローゼンタール(聖槍のクルースニク・f04296)がその身に秘めた真の――天使の姿。
自らと輝きを放つような純白の翼は、即ち、ヒトの身の隠す疚しきを暴く威光。
「――もう一度、お聞きします。あなたの罪を告白しなさい」
その輝きに目を奪われていたのだろう。五郎は、もう一度と問いかけるオリヴィアの声を聞き、ようやくと己を取り戻す。
告解。そう、これはきっと告解の時なのだろう。己が罪を自覚し、ヒトとして裁かれるための。
「お、俺はァ――」
だから、彼はその罪を口にする。
はじまりの想い――生まれの地を残したかった。
力の行使――偶然にも拾い上げた仮初の力。最初の暴力。
驕り――自身の暴力で誰かが従うことへの快感。そして、目的の変化。
口を衝いて出る言葉は止まらず。
それは仮初の力に溺れる一方、心の奥底で淀んでいた罪悪感でもあったのかもしれない。
オリヴィアはただ、その言葉へと静かに耳を傾けるのみ。
彼が言葉を止める、その時まで。
「――心から悔い改め、償いなさい」
そして、言の葉の終わり。長い長い懺悔の時を終えた五郎へと掛けるべき言葉は、それ。
「罪の告白は聞き届けました。あとは、あなた自身の行動が必要です」
五郎の言葉が嘘であったとは思えない。
だが、言葉の上ではなんとでも語れるのがヒトでもある。
だからこそ、オリヴィアはそれを促す言葉を選んだのだ。
「為すべきを為し、己を変える。その償いを終えた時、あなたは初めて赦しを乞うことが出来るでしょう」
それまでは赦しを乞うことは赦されない。
己の中に生じた罪悪感にじりじりと焼かれ続けること。煉獄の焔の中で生まれ変わることもまた、罰の一つである、と。
「ですが、もしもまた、悪魔の誘惑に心を惹かれたら……」
轟と輝炎がオリヴィアの身を包み、その身の丈を見上げる程へと変える。
巨大なる腕が伸びて五郎を掴めば、己が顔の高さまで持ち上げ、金の瞳が心の奥底までもを見透かすように。
「――我が怒りの炎は場所を問わず、時を問わず、貴様の魂の一片さえも残さず焼き付くす」
宣告は静かに。
しかし、その身より放たれる威光は、ただのヒトである五郎の魂を蹂躙するに余りあるもの。
耐えきれず、彼の意識がゆるりと遠のいていく。
――再びと戻った時には、掴み上げられた光景が嘘であったかのように五郎はその二つの足で大地の上に。
オリヴィアの姿は――既にない。
ふるりと振るえる五郎の身体。
それはオリヴィアの言葉が確かに刻み込まれていたことを示すかのようであった。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
(もう責めは十分ですね)
(膝を付き)
お話しましょう、これからのことを
先ずは(情報並べ)これに相違はありませんか?
余所者にこれ程の提供…
これまでの狼藉
相当に恨みを買っている筈
何かしらの『けじめ』無ければ報復も有り得ます
身を護る為にも影朧機関に自首し罪を雪ぐことをお勧めします
少しお付き合い下さい
『再度の幻朧戦線接触の可能性鑑み、機関の監視・保護対象とする』為
町の『裏』含め関係各所への説得材料を集める為に
道すがら教えていただけますか?
何故、古きに拘ったのか
私は親の変化にも望郷の念にも疎いのですが
なるべく早くお戻りになり健やかに過ごした方が良いかと
それが一般的な『親孝行』という物ではないでしょうか
ベルベット・ソルスタイン
●WIZ
アドリブ歓迎
これで分かったでしょう
力とは抜き身の刀と同じ、闇雲に振るえばそれは争いを生み、自身を傷付ける
それで、貴方は何のために力を欲したのかしら?
まずは相手の事情を聞かねば始まらない
ただ利権の為、金の為だと言うのならそれはそれで良い
官憲に突き出して、それで仕舞い
でも、何か事情があるのならまたこの美しい場所が争いに飲まれないよう、知っておく必要がある
それが美を愛する私の務め
そしてその上で言いましょう
力を欲するのなら選び間違えるな、何の為に力を振るうのかを忘れるなとね……
「力とは抜き身の刀と同じ、闇雲に振るえばそれは争いを生み、自身を傷つける」
これで、分かったでしょう。
純然たる力量の差だけではない。虚栄に縋った結果の因果応報が身に染みて。
ゆるりと扇で口元隠しながら、ベルベット・ソルスタイン(美と愛の求道者・f25837)は、五郎へと紅の視線を流す。
これまでの猟兵達による干渉の効果は如何ほどであったか、と観察するように。
そして、その視線の先にあるはふるりふるりと振るえる五郎の身体。
お灸は、もう十分であろう。
ならばこそ、問いかけねばならぬ。
「お話しましょう、これからのことを。貴方のことを」
もう責めは十分であるからこそ、と。
近付く巨躯は今の五郎からすれば、それだけで身を縮こまらせるもの。
だが、見下ろす位置にあった筈の緑の光――トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)の視線は、気付けば同じ高さに。
その輝きは決して柔らかな訳ではない。だけれど、真摯に向き合う光が――五郎が失って久しいものが、そこにはあった。
「あなたが何のために力を欲したのか。それは先程の懺悔で多少は聞いたわ」
「そうですね。そのことは、私が得た情報とそこまでの相違はありませんでした」
五郎が力を欲した理由。
再開発の対象となった此処――生まれ育ったこの地区を、そのままに護りたかった。残したかった。
だけれど、彼だけの力ではそれに抗える筈もなく、ただ腐るだけの毎日。
故に、力を欲した。そして、力を、仮初の力を得てしまった。それが全ての騒動の始まり。
「始まりは利権の為、金の為だけではなかったということね」
五郎の懺悔から、トリテレイアが予めと得ていた情報から、改めてと整理される情報。
もしも金だ利権だの美しくもない動機であったのなら、ベルベットはただ五郎を官憲に突き出して終いとするつもりであった。
だが、そうではなかった。五郎にも五郎なりのはじまりの動機があったのだ。ただ、それがいつしか歪にねじ曲がってしまっていたけれど。
「……ここは美しい場所よね」
「え?」
「流れる湯の音と香り。それを彩る桜の化粧。なんて趣深く、風流な場所」
「あ、ああ。そうだ。此処だって、そうだった」
「――でも、そこを争いで穢してしまったわね」
見て御覧なさい。
そう示す先は、戦いの余波によって崩れた街並み。
本来であれば彼が残したかった筈の光景は、もうそこにはない。
なくしたのだ。彼自身の暴走の結果で。
それを改めてと理解するからこそ、五郎に言葉はなく、俯くのみ。
パチリ、と扇の閉じる音。そして――。
「――力を欲するのなら、選び間違えるな」
凛と響いた言葉は心打ち震わせる女神の言葉。
ハッと 俯いた顔があがる。
五郎の視線の先には、トリテレイアの瞳に見たものと同じ、真摯なる――美しき輝きを持った紅の瞳。
「遮二無二に力を振るうことが良い事ではないわ。何のために力を振るうのか。それを常に心へと据えなさい」
でなければ、例え、幾度と力を得て、やり直したとしても焼き直しにしかならない。
そして、それはきっと美しいことではないから。
だから、ベルベットは言の葉をもって彼へと心を伝えるのだ。
「――いいこと? 美しくお生きなさい」
美しきこの地をこれ以上穢さないために。
怯えばかりを含んでいた五郎の瞳に、初めて異なる色の光が宿った。
「……ああ、今度は間違えねぇよ」
「そう。ならば、励みなさいな」
五郎の瞳に宿った光をベルベットは確認し、またぱらりと扇を開く。その奥に満足気な笑みを隠して。
あれならば、少なくとも醜きになることはないだろう、と。
「見事な説法でした」
「説法というものでもないわ。信念の話よ」
「それでも、きっとあの方の心は多少なりと救われたことでしょう」
「なら、心の話はここで本当にお終い。現実の話は任せるわ。あなたも言う事があるんでしょう?」
「そうですね」
ベルベットと入れ替わるように、トリテレイア。
そう。心入れ替えようとも、為した罪はまだ償いをなされていない。そして、遺恨もまた。
「――私にあなたの情報を提供して下さったのは、この町の顔役です」
それだけで、どういう状況かを理解できる。五郎の全てが、把握されているのだと。
ぐっと詰まったように五郎の顔が苦悶に歪んだ。
「これまでの狼藉を思えば、相当に恨みを買っていることは間違いないでしょう。ともすれば、報復もあるでしょう」
ならば、どうするべきか。
その答えもまた、トリテレイアの内に。
「身を守るためにも、影朧救済機関に自首し、罪を雪ぐことをお勧めします」
今回の案件が幻朧戦線に関わるものであるからこそ、それは大義名分としても成り立つ。
そして、そこで篭絡ラムプに関わる情報を吐き出し、この街を幻朧戦線からも守る利益にも繋げることが出来れば、それはきっと――。
「『けじめ』にもなるって訳か」
「そうです。それが、私から提案できるものであると理解して頂ければ幸いです」
「……ああ、わかったよ」
どの道、五郎に拒否する選択肢はない。
折角と心悔い、新たなる道を示されたのだ。償いを終えるまで、終わる訳に等いかないのだから。
「本当に現実的な話なのね」
「それはそうです。人の機微であれば、皆様の方が余程というもの」
ならばこそ、自身は――トリテレイアは、理想や信念という形なきものではなく、現実という目の前にあるものをこそ提供するのだ。
「それでは、少しお付き合いください」
道すがら護衛を致しましょう。
ただ、それはそれとして。
「道中、教えて頂けませんか? 何故、古きに拘ったのか」
五郎へと差し伸べられる手。掴めば、がしりと力強く彼を立たせてくれる。
もう、彼の心に絡みつく虚栄はない。
そして、五郎はようやく、自分の足で更生への一歩を踏み出すのだ。
――さて、道すがら何からどう応えようか。
トリテレイアの問いにどう想いを形にしたものかと悩みながら。
猟兵を含めた全てが裏路地より立ち去れば、そこにはもう何もない。
ひらりと桜の花びらが一片、舞って地に落ちた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵