3
暗き底、獣に堕ちる(作者 オーガ
15



 滴る汗が、床を叩いて耳朶を打つ。
「……ッ」
 息を呑む。
 ざ、ァ。と周囲が騒めくのを感じるのだ。
 むせかえるような籠る匂いと、脳を痺れさせるような香り。それに煽られた邪心めいた情動が握る剣を手放せと笑う。
 正者の立てた音に、欲に狂った亡者が地を這うように襲い来て、男の体へと手を伸ばす。脳髄までをこの霊廟に満ちる毒の快楽に満たされた彼らは、既に人とは呼べず。人狼の呪いを纏い、己の肉欲の為だけに襲い来る獣だ。
 理性を手放した獣の欲、そのものだ。
 爪を剣で弾く。鎧で逸らし、布を引っ掻け投げては、脚で蹴り離して刃を血に濡らす。
 止めどなく振るわれる欲望の腕を容赦なく叩き潰す。彼らも狂う煽欲に苦し見続ける被害者であると知りつつも、恐怖と嫌悪が容赦を許さない。
 やがて、爪が男の肌をとらえ、無数の腕が我先にと男を地面へと引きずり下ろしては押し潰す。
 息絶えることはない。
 意識を手放すこともない。
 その頑強を買われたのだ。
 理性だけが警鐘を響かせていくままに、異常空間のもたらす体の芯を貫いては脳天へと抜けていく快感の渦に、狂わぬよう抗い続けていた。

 最奥へと辿り着く。
 中央に供えられた誰かの、何かの石棺。その上に腰かけたそう獣が、男を見据えていた。
 ベリル・アルカード。そう名の付く獣が悦に歪む瞳を細める。
 見るに堪えぬ姿だ。血と汚れにまみれたその身を覆うものは何もなく、無数の傷が替わりのように刻まれている。
 男は、ただ一つ握った剣を支えに、震える脚を進ませようとして、立ち止まる。
 立ち止まってしまった。
 何をしにきたのだったか。
 気付いた。脳をかき乱す香りに抗う為に、ここへと辿り着く事だけを考え、それ以外を考えないようにして、残ったのは。
 傷の一つすら麻薬のように甘い痺れに変えるこの狂った情欲と、決して手放さなかった一本の剣だけ。
「……ほう、まだ狂ってはいないか」
 感情と記憶の乖離。人として、すでに脱落しつつある男の首を、いつの間にか歩み寄っていた獣が鷲掴み、その体を宙へと吊るし上げていた。
 毒めいた赤が目に焼き付くようだ。
「……ッ、カ……ぁ」
「良いだろう」
 窒息が体に緊張と弛緩をもたらし、濡れぼそる脚から滴りを溢した爪先が揺れる。
 その瞳が、男の瞳を覗きこんだ。
「壊れるまで、遊んでやろう」
 ――ギン、ガラン、と。
 剣が床に跳ねて、歪な音を立てる。理性が最後に見たのは、嗜虐に歪む獣の笑みだった。


「ヴァンパイアたちの主催する宴がある」
 ルーダスは、ダークセイヴァーの暗く翳る景色を見上げながら、任務を告げる。
「まあ、その宴自体はさほど問題ではない」
 人間向けの宴。
 ヴァンパイアが、協力者となっている人間の監視と報告、管理のために催される。言ってしまえば健全な運営の宴だ。
 当然裏も表も関係なく、虐げられるものの犠牲に成り立つ宴ではあるが、今回の依頼はそこに重点を置かない。
「その主催の一人が寝床としている霊廟へと招かれ、そして、その最奥へと辿り着いた者には、望むならば絶対の富と自由すら与えられる」
 そんな噂がある。
 そして実際にそれを勝ち取り、ヴァンパイアの庇護下で、協力者となっている者もいるのだという。
「でも、そんなものはないだろうね」
 断言する、霊廟から出てきた者はなく、自らがその勝者だと言う協力者は、元から協力者なのだ。
 つまり、その噂というのは肉体や精神の頑強さや精力、胆力、状況打破の為の機転。そう言った『強者』を必要とするヴァンパイアの享楽のための、餌だということ。
「既に犠牲者も多い。手早く、尚且つ油断を引き出す為には向こうから寄ってこさせるのが一番、だと思うんだよ」
 餌に懸かったと罠を回収しに来たヴァンパイアの手先に、霊廟へと案内してもらい、懐へと潜りこむ。
 後は正面突破だ。道中に力を温存して辿り着けば、油断もしてくれるだろう。
 肝心の協力者だが、表だって支配階級を喧伝する人間以外にも、宴の会場である宮殿。その至るところに身を潜めているだろう。
 主な会場である大広間は当然、厨房や庭、休憩室。客、給侍、奴隷、そのどこにでも品定めを行う協力者がいる。
「さて、つまり」
 ルーダスがまとめる。
「協力者を見極め、見極めないは構わない」
 協力者をピンポイントで狙うか、大勢に見せつけ必ずいるだろう協力者に目を付けさせるか。やり方は変わるだろう。
 だが大枠としては変わらない。
「己こそがヴァンパイアを興じさせるに相応しいと」
 宴の中で、ヴァンパイアへの特急チケットを勝ち取ってくれたまえ。
 ルーダスはそう言って、猟兵達を送り出した。





第3章 ボス戦 『ベリル・アルカード』

POW ●ラストクレスト
【魔眼で見つめた相手に淫紋を転写し、そこ】から【超強力な魅了と発情効果】を放ち、【経験したことがない快楽】により対象の動きを一時的に封じる。
SPD ●ダーティーランペイジ
自身の【体液】を代償に、【作成した蝙蝠や蛇などの使い魔】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【超強力な催淫効果のある毒液など】で戦う。
WIZ ●幸災楽禍の狂宴
【他人の不幸に愉悦を感じる性格】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【襲いかかる不運な出来事】で攻撃する。
👑11 🔵🔵🔵🔵🔵🔵

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ルーク・アルカードです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「こいつぁ、随分と活きのいい餌を寄越してきたじゃねえか」
 目を瞑り、霊廟全体に響く遠くの振動にベリル・アルカードは、愉悦に満ちた瞳を開いた。
 石棺に跨るベリルが笑いに腹を揺らせば、ベリルと石棺に挟まれた男が、声なき声を絞り出して、苦悶の歪みを顔に浮かべている。
 右腕は二つに割かれ、左腕はその半ばで歯型の断面を残し、遠くに転がっている。ベリルが乗る腰、その臍から上は、真っ赤な紋が胴を這い、その上に汗か唾液か、血が混ざって赤黒く粘る液体が覆っている。
「は、俺を餌にするつもりか」
 ベリルに沈む男の体は、もはや生きているのかすら分からぬ状態ではあるが、しかし、血は滾り、漲っている。いや、ベリルが己の腕を噛み、流した血がその内に混ざって、餌として生かし続けているのだ。
 魂を壊すような激痛と淫蕩の快楽に、しかし狂う事も出来ず、死ぬ元も出来ず弄ばれるままであるというのは、幸福、等とは言えないだろう。
 事実、その表情は醜く、声も無く苦痛を叫んでいる。
 だが、それは終わる。ベリルが胴に爪を立てた痛みを変換した快楽が、男の体を収縮させる電流が、全てを白く忘却させる。そのまま、首に齧り付いたベリルの牙に、窒息と身体感覚の喪失が訪れた男は、消えた体がベリルへと命の高潮を示している事など知りもせず、その命を終えていく。
「さあ、そろそろか」
 天井を見つめる。まるで、その向こうが見えているかのように、死した男の体の上で笑みを浮かべたベリルは、ずるりと死体を放り除けて、身を整えながら男が残した剣を手にしていた。
「ハ」
 笑う。
「ハ、ハハハハハッ!!」
 誰も聞く者のいない空間に、それは哄笑に濡れた体毛を揺らし、そして、汚れた石棺へ腰を掛けて、待つ。
 猟兵達によって最後の扉を開かれる、その瞬間を。


 第三章、ベリル・アルカードとの戦闘です。
 油断は無く、持てる力で猟兵を殺そうとしてきます。
 書けそうなのを適当に好きに書きます。

 よろしくお願いします。
秋月・充嘉
やあ、ベリル。二重の意味で戦うのもいいんすけど、少しお話ししません?

ここまでの道のり悪くなかったっすよ、しばらくいたいくらい。
で思ったんすよ。なぁんで欲を溢れさせておくのにわざわざ最奥のここでしけこむのか。
喰うだけ喰って、まだ生きてるなら自分の配下にして案内させた奴に送り返す。そんで次の『飯』を待つ。なかなか悪くない考えっすよねぇ。誤算があるとしたら……。

オレをここに案内させた支配者。奴隷ごとオレの手籠めにする。

(翼の片方を龍の顎に変え防御)
っと、怒ることないじゃないっすかぁ。あ、そっか。寂しくなるもんな。
だったら、君もオレの手籠めにする。
今とそんなに変わんねぇよ。ま、支配の逆転はあるけどな。


 秋月・充嘉(キマイラメカニカ・f01160)にとって、その獣はひどく魅力的だった。
 それは、関節の軋みにすら喉の奥から腰の中心までが、痛みもなく別れてズレるような錯覚を起こす程に昂らされた煩悩によるものか。それとも、未だ正常な頭がそれでもそれを魅惑的だと思っているのか。
 霊廟の最奥、玄室。そこに溢れる血と汗といった、幾つかの肉体が混然と混ざり合ったような体液の香りに、ざわざわと全身の毛が波打つような情動が、いつの間にか充嘉の口に笑みを作り出している。
「……やあ、ベリル」
 歓喜のあまり、その声は震えていたかもしれない。
「ここまでの道のり悪くなかったっすよ、しばらくいたいくらい」
 活力剤を呑み込んで、あの狂う人狼たちと戯れ続ける。そんな夢想にすら滾る体が果ててしまいそうな、彼にとって極楽ともいえる地獄だ。
 だが。
「思ったんすよ」
 目の前の獣を目の前にして、あの空間がベリルによって維持されていると悟り、疑問を浮かべていた。
「なぁんで欲を溢れさせておくのにわざわざ最奥のここでしけこむのか」
 喰うだけ喰って、まだ生きてるなら自分の配下にして案内させた奴に送り返す。そんで次の『飯』を待つ。
 それは楽だろう。悪くない考えだ。それに誤算があるとしたら。
「オレをここに案内させた支配者。奴隷ごとオレの手籠めにする」
 その役割を持つ人間を奪われるという事だ。
 自分の物を取られた、となれば、この強欲の塊は怒りを露わにする。
 充嘉は、直後に放たれるだろう攻撃に両翼を広げ、即応できるように身構えていた。
 ――だが、待てどその攻撃の衝撃は訪れなかった。
 声。
「一つ、ここから出ていった奴はいねえよ」
 外にいる餌係に、この霊廟に挑んだものはいない。その全てが、ベリルの腹の中か、この迷宮で尽きぬ欲に狂っている。
 そう告げた後に、ベリルは膝に肘ついてその剣を揺らして嘲笑う。
「お前、随分イイコしてんだな」
「……へえ?」
 言葉に一瞬、冴えた声が充嘉の口から漏れ出ていた。
「誰のモンだろうと構わねえだろ? 楽しそうなら奪って犯して殺して遊ぶ」
 わざわざ、言わずとも、持っていけばいい。
 その言葉は、充嘉の言葉を否定するものでありながらも、しかし、僥倖とも言えるものだった。
 それが言う事はつまり。
 胸を掴んだ手指が、抑えの効かない享楽への欲を体現するようにシャツを破り裂いて、吸う息を和らげる。
「君もオレの手籠めにしよう」
 つまり、それすら、許すというのだろう?
 問うた言葉に、ベリルはその石棺から脚を下ろし、剣で自らの胸を裂いていた。刃がベリルの血に濡れて雫が滴る。床を濡らした血がうねり、膨れ上がれば粘液を纏う大蛇の姿へと変じてベリルの周りにとぐろを巻いていく。
 その中で、刃を充嘉へと向けたベリルは薄く笑っていた。
「満足させてくれよ、イイコちゃん」
「ああ、空っぽになるまで喰ってやるよ」
 その肢体を捻じ伏せるのは、その声が苦痛に歪む声は、さぞや快いのだろう。
 獣が似た笑みを互いに向けあっていた。
大成功 🔵🔵🔵

中條・竜矢
【POW判定】
(内側から起こる欲と快楽に身を任せてしまいそうな衝動を辛うじて抑え込む)
時間は、もう、無い。攻めるしか、倒すことだけ、考えろ!
(ユーベルコードを使用して邪竜に変貌し、力任せにアルカードを攻撃する。攻撃のたび、生命力吸収での回復も行う)
倒す、倒す、倒す、そうすれば終わる!

あっああっ!?(相手の魔眼を喰らってしまい、動きが止まる。そのままユーベルコードを解除してしまう)
あは、あははは……(相手のユーベルコードの効果で最後の抑えが外れてしまい、アルカードが与えるモノを求めてしまう)
【アドリブOK】


 中條・竜矢(変化する竜騎士・f03331)にとって、その獣はただの目標でしかなかった。
 平衡感覚が残っているのか無いのか。斜めに走っているのか、重力が乱れているのか。
 そんな事もどうでもよかった。
「あ」
 倒す。
「ぁ」
 倒す。
「ああ」
 倒す。
「アアアッ!!」
 倒せば終わる。
 倒せば、この理解しがたい幻覚の坩堝から抜け出せる。
 その一念が、只管に竜矢を進ませる。飛び込んだ玄室に見えた獣の姿に竜矢は、何かを考える間もなく、全力を開放して突っ込んでいた。
 ゴ、ドガァ!! 
 突如、吹き荒ぶ衝撃が巻き起こす粉塵の嵐を突き抜けたのは、漆黒の鱗を全身に纏う禍禍しいドラゴン。
 身に宿し、纏う呪いを覚醒させた邪竜がベリルへとその咢と爪を走らせる!
 その眼が、ベリルの赤い瞳を見た。
 パン、とその意識が何もない空間へと弾け飛んだ。
 砂時計の中に落ちた卵黄を、硝子を割り砕いて握り締める。ぐにぐにと弾力のある卵黄が指の間をぬるりと逃げていくのを開いた顎で噛み砕けば、爆弾と化していた卵黄が弾けて視界を赤と青、黒と紫、橙と黄の極彩色に染めて、それを見つめる眼球が脳の内側を泳いでいる。
 気付いてはいない。邪竜の姿はそこに無く、ベリルの前に膝を着いたのはユーベルコードを解いた竜矢だという事に。彼自身は前後の繋がりを断裂させて、突沸を繰り返す体という器を揺らすばかりだ。
 真鍮へと溶けだした歯が舌を縛りつけて喉に蓋をする。息をしようともがいて口内へと両手を突き込めば、喉奥に触れた指先が竜矢の意識を無視して、喉の奥へと、奥へと伸びていった。その先、心臓に穴を開けて脊椎の中に溶岩を伝わせれば、一本の木になった胴体の中心から赤黒い腕が飛び出して、動かない両脚を股から体を真っ二つに引き裂く。
 顎を掴む指を牙が裂く痛みなど、もはや、遠くの砂丘が崩れるような無音の情景でしかない。
「あ、ぁ……?」
 その時、冷えた感触がその頬に触れた。
 刃だ。血に濡れた刃。
 甘く馨しき血に濡れた刃が、竜矢の眼を誘導する。幾重にも万華鏡のようにぶれる視界の中で、それだけがやけにはっきりと竜矢の眼が像を結ぶ。
 ベリル・アルカード。
 敵。敵の与える異常感覚。これは、敵の攻撃。
 いや、違う。
 竜矢は知っている。これが心地の良いものだと。違うのだ。それを理解していない、理解出来ていないからこそ、この感覚は、意味を為さぬ羅列のように感じられるのだ。この全てを受け入れられれば。この全てを理解しえたなら。
 舌で掬った血が、真っ青なありもしない内臓を臍の下辺りから吐き出させた。咽込みながら竜矢は弾け続ける火花に轟々と響く首をベリルへと伸ばす。震えるばかりの両脚と両腕を互い違いに引きずりながら、乱反射する極彩色の中を潜っていく。
 欲しい。
 もっと、この暴虐を理解するまで、正しくこの快感を受容できるまで与え続けなければいけない。もっと。
 ベリルが必要だ。この全てが狂い、線を乱す世界の中で唯一像を確かに結ぶそれだけが、竜矢の願いだ。
「あ、は、ぁ……ァ? は、は」
 自らの口から零れたか、体のどこかから落ちたか、何かに濡れた床に脚を滑らせて一センチ角の肉片となりながら、快楽の幻嵐の只中で竜矢はベリルをただ求めていた。
大成功 🔵🔵🔵