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暗き底、獣に堕ちる

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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 滴る汗が、床を叩いて耳朶を打つ。
「……ッ」
 息を呑む。
 ざ、ァ。と周囲が騒めくのを感じるのだ。
 むせかえるような籠る匂いと、脳を痺れさせるような香り。それに煽られた邪心めいた情動が握る剣を手放せと笑う。
 正者の立てた音に、欲に狂った亡者が地を這うように襲い来て、男の体へと手を伸ばす。脳髄までをこの霊廟に満ちる毒の快楽に満たされた彼らは、既に人とは呼べず。人狼の呪いを纏い、己の肉欲の為だけに襲い来る獣だ。
 理性を手放した獣の欲、そのものだ。
 爪を剣で弾く。鎧で逸らし、布を引っ掻け投げては、脚で蹴り離して刃を血に濡らす。
 止めどなく振るわれる欲望の腕を容赦なく叩き潰す。彼らも狂う煽欲に苦し見続ける被害者であると知りつつも、恐怖と嫌悪が容赦を許さない。
 やがて、爪が男の肌をとらえ、無数の腕が我先にと男を地面へと引きずり下ろしては押し潰す。
 息絶えることはない。
 意識を手放すこともない。
 その頑強を買われたのだ。
 理性だけが警鐘を響かせていくままに、異常空間のもたらす体の芯を貫いては脳天へと抜けていく快感の渦に、狂わぬよう抗い続けていた。

 最奥へと辿り着く。
 中央に供えられた誰かの、何かの石棺。その上に腰かけたそう獣が、男を見据えていた。
 ベリル・アルカード。そう名の付く獣が悦に歪む瞳を細める。
 見るに堪えぬ姿だ。血と汚れにまみれたその身を覆うものは何もなく、無数の傷が替わりのように刻まれている。
 男は、ただ一つ握った剣を支えに、震える脚を進ませようとして、立ち止まる。
 立ち止まってしまった。
 何をしにきたのだったか。
 気付いた。脳をかき乱す香りに抗う為に、ここへと辿り着く事だけを考え、それ以外を考えないようにして、残ったのは。
 傷の一つすら麻薬のように甘い痺れに変えるこの狂った情欲と、決して手放さなかった一本の剣だけ。
「……ほう、まだ狂ってはいないか」
 感情と記憶の乖離。人として、すでに脱落しつつある男の首を、いつの間にか歩み寄っていた獣が鷲掴み、その体を宙へと吊るし上げていた。
 毒めいた赤が目に焼き付くようだ。
「……ッ、カ……ぁ」
「良いだろう」
 窒息が体に緊張と弛緩をもたらし、濡れぼそる脚から滴りを溢した爪先が揺れる。
 その瞳が、男の瞳を覗きこんだ。
「壊れるまで、遊んでやろう」
 ――ギン、ガラン、と。
 剣が床に跳ねて、歪な音を立てる。理性が最後に見たのは、嗜虐に歪む獣の笑みだった。


「ヴァンパイアたちの主催する宴がある」
 ルーダスは、ダークセイヴァーの暗く翳る景色を見上げながら、任務を告げる。
「まあ、その宴自体はさほど問題ではない」
 人間向けの宴。
 ヴァンパイアが、協力者となっている人間の監視と報告、管理のために催される。言ってしまえば健全な運営の宴だ。
 当然裏も表も関係なく、虐げられるものの犠牲に成り立つ宴ではあるが、今回の依頼はそこに重点を置かない。
「その主催の一人が寝床としている霊廟へと招かれ、そして、その最奥へと辿り着いた者には、望むならば絶対の富と自由すら与えられる」
 そんな噂がある。
 そして実際にそれを勝ち取り、ヴァンパイアの庇護下で、協力者となっている者もいるのだという。
「でも、そんなものはないだろうね」
 断言する、霊廟から出てきた者はなく、自らがその勝者だと言う協力者は、元から協力者なのだ。
 つまり、その噂というのは肉体や精神の頑強さや精力、胆力、状況打破の為の機転。そう言った『強者』を必要とするヴァンパイアの享楽のための、餌だということ。
「既に犠牲者も多い。手早く、尚且つ油断を引き出す為には向こうから寄ってこさせるのが一番、だと思うんだよ」
 餌に懸かったと罠を回収しに来たヴァンパイアの手先に、霊廟へと案内してもらい、懐へと潜りこむ。
 後は正面突破だ。道中に力を温存して辿り着けば、油断もしてくれるだろう。
 肝心の協力者だが、表だって支配階級を喧伝する人間以外にも、宴の会場である宮殿。その至るところに身を潜めているだろう。
 主な会場である大広間は当然、厨房や庭、休憩室。客、給侍、奴隷、そのどこにでも品定めを行う協力者がいる。
「さて、つまり」
 ルーダスがまとめる。
「協力者を見極め、見極めないは構わない」
 協力者をピンポイントで狙うか、大勢に見せつけ必ずいるだろう協力者に目を付けさせるか。やり方は変わるだろう。
 だが大枠としては変わらない。
「己こそがヴァンパイアを興じさせるに相応しいと」
 宴の中で、ヴァンパイアへの特急チケットを勝ち取ってくれたまえ。
 ルーダスはそう言って、猟兵達を送り出した。


オーガ
 ダークセイヴァーです。二章以降暗い話になります。比喩ではなく光量的な意味合いで。
 一章は逆に明るいです。

 好きにプレイングください。適当に好きにリプレイをかきます。

 また、章毎に断章を挟みます。

 それでは宜しくお願いします。
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第1章 冒険 『献上の宴』

POW   :    面白いものが見れると聞いたのです(堂々と客として潜入する)

SPD   :    ……(賑わいに紛れて潜入する)

WIZ   :    この珍しい品をご覧ください(売り手として潜入する)

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 光が溢れている。
 豪奢なシャンデリアが乱反射する灯の明かりが大広間の隅にすら陰りを許してはいない。
 整然と並ぶ料理は、おおよそこの世界の虐げられる人間であれば、見ることも知ることも出来ない豊かなものであった。
 だが、この場にいるのは人間ばかり。ヴァンパイアへの面会を許されるのはごく一部。
 支配を任される協力者たちはグラスを片手に断章と情報の探りあいを企て、腕の立つ奴隷はそれに従わされ、道化師が芸を見せれば、賑わう声が更に密度を増していく。
 あり得ない光景。欲が見せる幻想のような空間に、吟味の視線が紛れていた。

●第一章。
 罠にかかってやる場面です。
 場所や状況などは、OPや断章を参考ください。
 ヴァンパイア主催の宴に潜入し、ヴァンパイアを楽しませるに値すると協力者が思う『肉体や精神の頑強さや精力、胆力、状況打破の為の機転』をアピールしてください。

 好きにプレイングください。書けそうなものを、適当に好きにリプレイをかきます。

 宜しくお願いします。
ロク・ザイオン
(各々が力を誇示し合う空間は、雄同士の闘争に似る
ならば己がすべきことは、力を示すことなのだろう)

(獲物のひとつも担いで持ち込めば、己の風体はこの世界の猟師に馴染む
せめて大きめの獣を見繕っていこうか
それでも、決して優れたところのない体躯だ
猟師がこの宴にそぐわないのも、解っている)
……。
(揶揄いに伸ばされる手には【早業】「燹咬」で応じよう
ひと相手ならば、いのちは断たない。【恐怖を与える】に留める
吸血鬼に与するものに、あまり同情はしないけれど)

(獲物を探す眼差しを、【野生の勘】は逃さない
切り落としたものは、そいつにでも投げつけてやろうか)

(負けたあとだから。
おれは今、機嫌が悪いんだ)



 煌びやかな灯りが、明るく融けぬはずの夜闇を遠ざけている。
 それに彩られる笑いと言葉が場には満ちている。その中で。
「ぅ、ぎ、ああッ!」
 床を転がる叫喚に、喜色ばんだ空気は何も変わらない。それが当然であるのだから、それに一切の齟齬は無い。
 襤褸布を僅かに腰に巻いただけの人間が、もう一人を床に組み敷いて捻り上げた腕をぎりぎり、と捻じり折っている。もう二度とその腕は使えないだろう。その内に気を失った男を手放した勝者の奴隷に、華美な盛り付けも芳醇な香りも欠片も残っていない、比喩など無く汚泥を踏んだ靴に踏みにじられた床の褒美が与えられる。
 勝者である故か、糞尿を供されないだけまだ人間と扱われている方だろう。敗者である男は床に捨て置かれる事も無く、虫を殺す幼子のように見下す支配者の玩弄に晒されている。
 そして、やはりその酸鼻に異常を覚える者はいない。それに優雅に笑みを浮かべさえしている。
 そんな中にあって、しかし、妙に視線を集める存在があった。
「……」
 力を示す場であると、女は感じ取っていた。弱肉強食。転がる男が拳一つ握れば、群がる支配者である協力者達を容易く縊り殺せるだろうが、それは既に弱者であり、敗者なのだろう。
 いっその事、一言で簡潔に済まされる空間の中にロク・ザイオン(蒼天、一条・f01377)は立っていた。
 どう歩いているのか、その肩に強い蔓で編んだ縄で、彼女の体躯の二倍ほどはある巨大な猪を担いでいる。言葉や服装、力を示すとはいえ、まさか獣をそのままこの場に持ち込むものが多いはずはない。いや、そもそも力を示したいのであれば、奴隷を殺せばいいのだから必要も無い。
 故に、まだ生きた匂いすら残るような獲物を担いだロクは衆目を集めていた。
 纏う視線が、湿気た夜風のようにロクの神経を逆撫でる。闘争の場、その場に立っている事すら、喫して記憶に新しい敗北が頭に過るというのに。と彼女が発する敵意に似た不機嫌が歓迎されないはずもなく。
 床の飯を食んでいた奴隷が、主らしき男の指示にロクへと差し向けられていた。奴隷の男と比べればロクなど矮躯としか言えない。
「――ぁ?」
 腕がその細首を掴めばそれで終わるような立ち合いに、ボ、ッ! と短い破裂音のような音と共に、男の伸ばした腕の肩から先が消えていた。
 伸ばされた腕を掴んだロクが、腰から抜いた刃で男の肩を薙いだのだ。
「ゥ……ぁ」蹲る男が、虚ろな目をロクへと向けていた。
 いや、虚ろではない。
 一度空になった器に、他の人間の感情を詰め込んだような、彼の物ではないのだろう怒りを瞳に浮かばせている。
 奇妙なバランスでロクの肩に乗っていた、獣の骸が滑り落ちる。既に血を抜いたそれは、しかし、ド、ゴチャ、と毛についた血に床を汚していた。
 それを咎める声は無い。ここに法は無く、ヴァンパイアの利となるか、害となるか。それだけだ。
 自らの痛みを放棄し、爛れ、僅かに炭化すらする腕の断面を掴んでロクを睨む男から、彼女は視線を外す。左手に握っていた、男の腕を無造作に放り投げる。
 先ほどから感じ取っていた、探るような視線。
 一人の男。恐らくは、この男をロクへと差し向けた、この男の持つ怒りの感情の主。
 それは、ロクに投げつけられた腕が顔のすぐ傍を過ぎていくのに、眉一つ動かさず、苛立ったロクの視線を、面白げに正面から受け止めて笑っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

秋月・充嘉
【WIZ】
さて、と。どう魅せるかな。
……うん、奴隷風にいこう。

服装は腰布と少々の道具を入れた革袋だけ。俺の戦闘武器は影だからね、荷物は限りなく軽くできるっす。

なるべく会場の端にいつつ、獣欲にまみれた視線をそこかしこに向けるっす。
適当にガタイのいい奴を見つけてはそいつを誘って欲に溺れるっす。で、事が済んだらまた会場に戻る。その繰り返し。
要は精力アピールっすね。どんだけしても疲れ知らず、体力お化けなところを何処かにいるだろう協力者に見せつけるっすよ。
革袋の中身?精力増強とか理性解放とか体力回復のクスリっすよ?ま、若干非合法だけどね?
…でも、ここもある意味非合法でしょ?ならおあいこっすよ、おあいこ。



 差し出された指に零れたアイシングを舌に乗せれば、砂糖の甘みが残る苦みと混ざって喉から水分を奪っていく。手土産にと差し出されたケーキ菓子を男の手から食み、指の糖を舐めとった獣の姿をした奴隷は、男にまだ足りぬとばかりに、呑み込んだばかりの口を開いて見せていた。
 奴隷、いや、腰布と小さな革袋だけを身に着け奴隷に扮した秋月・充嘉(キマイラメカニカ・f01160)は、膝と手を地面につけ従順に主に媚びへつらう犬のようですらあった。
「まだ足りんのか」
 柔いスポンジ生地を使っているとはいえ、持ち込んだ菓子を全て平らげた充嘉が、まだ腹が膨れない、と強請る瞳に男は充嘉の鬣を梳くように撫でる。
「全然、っ、すよ」
 掌に頭を押し付けるように返しながら、充嘉は男の差し出した肉へと食らいついていた。味わえ、と下ろされた命に、充嘉は牙を立てることなく舌を絡める。悪戯に突き込まれた皮の張った肉が、揺れる体の喉に触れて、咳き込みそうになるのを抑えながら充嘉は、零れる肉汁の塩と香を呑み込んでいく。
 分泌される唾液と共に口の端から流れ出るそれを啜り上げるその最中、背に何かが圧し掛かった衝撃に、充嘉は玩味を止めた。
「もう限界か」と男が失望の色を滲ませる。
 充嘉が背負う形になっているのは奴隷、正真正銘の男の所有物であった。
 充嘉が愛玩動物さながらに主から餌付けされている最中、奴隷は命令に従って充嘉を打ち倒さんと充嘉の胴に腕を回していたが、遂に尽き果てその背に倒れ伏したのだ。
 どれ程、力を籠めようと充嘉の体を揺らすばかりが限界だったそれに、もはや男は価値を感じなくなったのか、充嘉に饗していた肉を引き抜いて困憊する奴隷を指した。
「次の餌は、それにしようか」
「へえ」
 背に乗せる奴隷を、床に転がした充嘉は革袋から、丸薬を一つ取り出して己の舌に乗せ、そして、顎を開かせた男の口へと舌で丸薬を押し流す。
「ただの薬っすよ」
 それは? と問う男に充嘉はへへ、と笑い何でもないように答えていた。
 体力回復の、と充嘉は言うが、実際は違う。主観的には同じかもしれないが体力が回復しているように感じて、体が抑制を外す。そういった類でしかない。
 のだが、効果は絶大だ。
「ぉ、ぐ……この……ッ!」
 力なく転がされていただけの奴隷が、瞬く間に四肢を跳ね上げて充嘉に襲いくる。だが、滾る全身に充嘉は危機など覚えず、ただ、悦楽的に口元を緩めるのみだった。
「じゃあ、遠慮なく、いただくとするっすね」
 ダ、ガンッ! と奴隷の拳を掴んで俯せに引き倒した充嘉は、先程まで充嘉がされていたように覆い被さり、餌の首筋に歯を立てる。
「あ、がぁ……あっ!」
 薬に精根絞り出した男が、締った肉を裂かれる痛みに叫びを上げた。当然、充嘉は人肉を食らおうとしているわけではない。
 それはパフォーマンスだ。
 奴隷を組み敷く充嘉の背後。腰の背後へと歩み寄る支配者の男が愉しめるように。そして、男の手が充嘉の背を流れる鬣を撫ぜた。脊髄に走る触感が清爽を幽かに感じさせる。
 充嘉はそれに抗わない。
 丁度、前の餌も欲しいと思っていた所だったのだ。
 そうして、それから十数分後。充嘉は、広間の壁に立っていた。ヴァンパイアへの近道を得るまで、疲れている暇もない。
 彼は、僅かに頬に残っていたケーキのアイシングを拭っては、その甘みを舌に乗せてまた餌を探すのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

中條・竜矢
【POW判定】
獲物を探す宴か。あまり好ましい集まりではないが……接近するには確かに選ばれるのが一番だな。

堂々と潜入して自分の体を見せつけるように動くのが私には合っているか。
情報からすると己や連れてきた人間の力を見せつけるための場があるだろう。
そこに参加して私の力を見せつける。ユーベルコードは念のため使わず自分の力だけで勝負だ。
その途中で協力者らしき人物が見つかれば動きの中で【誘惑】をそいつに行い印象を強めさせよう。

見せつけた後は食事でも取りながら接触を待つ。
【アドリブ、絡みOK】



 明るいが、しかし陰惨とした大広間から中庭に出れば、拳が肉を打つ音が激しく響いてきた。
 ど、ごあ――! と中條・竜矢(変化する竜騎士・f03331)は、眼前を飛んでいった奴隷の姿に、驚く間もなくせり上がる溜息を抑えつける。
 闘技を競っている、という景色ではあるが、その実は互いに争わせてヴァンパイアの要望に応えられるような存在であるアピールなのだろう。
 大広間の支配者たちが、己の連れ込んだ奴隷や武芸者がそれに相応しい、と影で争う宴は好ましいとは到底思えないが、こちらはこちらで好ましいとも思えない。
 そう感じるのは、彼らの望む先に希望など無く、ただただヴァンパイアに弄ばれるだけの未来でしかない、と知っているからか。
「……だが、ここが私には合っているか」
 もはや、無法地帯と様相だが、共通の目的があるからか足並みは揃っている。闘いにルールは無いが、観客の輪の中で自らの力を鼓舞するのだろう。
 勝者は、とめどなく挑まれ続け、その輪の中心に居座り続ける。単純明快に勝者だけが残る。
 また一人、挑んだ人間が足を押さえて竜矢の足元へと転がり込んできた。命に別状はないようだ。少し休めば、働ける程度には回復する。
 そのまま立ち上がり挑み直せばトドメとなるだろう、彼を跨いで竜矢は輪の中へと躍り出た。
「次は、私が相手になろう」
 鉄鞭を握る男に、竜矢は声を上げてみせた。挑戦者に、目が集まる。
「大層な鎧じゃねえか」と男が、新しい挑戦者を揶揄す。その言葉の裏は、そんなに痛いのが怖いのか、辺りか。
 へらへらと笑う男は、軽い態度とは裏腹に随分と腕が立つようだ。転がる生きているのかすら分からない人間の体を見れば、その時間の立ってない殆どに殴打の痕がある。
 脚を砕かれた男が転がってから数秒、竜矢が立つまで挑むものが少なかったのも、それだけ戦意を削いでいるからだろう。
「ああ、痛覚は判断を鈍らせる。当然だろう?」
 竜矢は、その言葉に返す。物怖じなどする意味はない。動きは見ている。対する相手にとって竜矢は未知の相手。力量を探る声に付き合うつもりはなかった。
 代わりに、竜矢は集まる視線に意識を払っていた。
 いるな。と感じる。
 竜矢を観察する視線は多けれど、そこに交じる別の意図を思わせるものがいくつか。
 だが、どれが本命かは読み切れない。その時。
「――っラァ!!」
 ダ、! と大地蹴り、男が鉄鞭を振るい迫る!
 突き出された鉄鞭を避け、直後に来た一文字の横薙ぎを潜り抜け。
「……ッ!」
 男が息を呑むが、遅い。男の胴体へ拳を打てば、瞬時に衝撃が男の意識を刈り取って、鉄鞭が地面へと転がっていた。
 崩れた男に竜矢の勝ちが決まる。瞬く間の決着に数秒の間を開けて、ォオ、と静かに周囲に騒めきが走っていた。
 連勝者を崩した新たな勝者に、我こそはと挑戦者が束となり竜矢に挑み続け、そして。
「……もう挑むものはいないのか?」
 その全てを鎧袖一触に跳ねのけた竜矢に、挑むものがいなくなった後、そうか、と頷いた彼は輪を抜ける。
 まさに輪を作る観客の傍を過ぎる、その瞬間。
「――外ればかりかと思ったが」
 そんな声が竜矢の耳に滑り込んできた。だが、振り向けど、その主は見つからず。
「ああ、当たりだったろう?」
 背を向けて返しながら、竜矢は体を動かして空いた腹を満たしに、あの宴の中へと戻っていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルーク・アルカード
ブリッツ(f01017)と参加。

【心情】
ん、力見せなきゃ会えないって中々面倒。
……武器つかえないと力ないからお仕事の為に頑張らないと。

【模擬戦】
道具ありの模擬戦を開始。
暗くて柱の多い場所へ誘い込んで『地形を利用』しながらロープや手軽な『罠を使い』、攪乱や奇襲攻撃。
『闇に紛れ』ながら、『忍び足』で移動。
『第六感』で危ない感じがしたら緊急回避。

『殺気』を別な方向から飛ばして相手の意識がそれたら、『ダッシュ』で一気に近づいて『ロープワーク』で『捕縛』して相手をぐるぐる巻きにしよう。


ブリッツ・エレクトロダンス
臨時パーティメンバー兼模擬戦相手:ルーク(f06946)

要はここらへんに紛れ込んでる協力者相手に力を証明しろって事だろ?分かりやすいな。
で、どうやって力を証明するか…まあ、実際に模擬戦をおっぱじめて双方の力を証明すりゃいい。
そんじゃ、始めようぜ?ああ、模擬戦のレギュレーションとして…武器は禁止だったよな?

暗がりに誘い込んだつもりか?だが俺は《夜目》が効く方でな。
《視力》も問題ねえ。こまめな《聞き耳》で足音を聞き洩らすつもりもねぇさ。

武器禁止レギュレーションだと簡易的な罠を…使ってくると考えた方がいいな。
なら、目と耳を凝らして、周囲の罠を確認したら…ここを動かず迎撃用意だ。



「まあ、要は」
 中庭の秩序ある暴動のような風景に、クロヒョウの獣人が指をくるくると回しながら状況に理解を示した。
「ここらへんに紛れ込んでる協力者相手に力を証明しろって事だろ?」
「……ん、そうだね」
 話としては明快な結論だ。ブリッツ・エレクトロダンス(★3:クロヒョウDJ・f01017)の見解に頷いた隣に立つ白狼は、嗅ぎ慣れた香りに首に巻いたマフラーに鼻先を突っ込んでは、僅かに溜息を吐いた。
 慣れない光に満ちた場所。人目を憚らぬ、何かから解放されたかのように振舞う人間たちが、時折に白と黒の獣二人へと、熱を帯びてすらいる目を向けてくる。
 立ち居振る舞いに、カモになると見られているか、霊廟への供物を探す協力者と思われているのか、それとも他の思惑か。その真意は図れないが、彼らにすぐさま仕掛けてくる気はなさそうだった。
「中々面倒」
 白狼、ルーク・アルカード(小さな狩人・f06946)。
 ベリル・アルカードと名を名乗るヴァンパイアと同じ姓を名乗る彼は、その存在と無関係ではない。
 故に、直接会うための近道が、わざわざ他人の案内を必要とする迂遠にほんの少し疎みすら覚えている。
「そんじゃ」そんなルークの心情を知ってか知らずか、ブリッツは足を屈伸しストレッチを施しながら言う。「おっぱじめっか」
 その声に、ルークは頷く。
 ただ待っていても案内が来てくれるわけではないのだから。
「道具あり」
「武器なし」
 事前に決めていた口約束を互いに口に出した。
 如何なる道具であっても武器になる、小石一つとっても武器だ。故にこの縛りは、ただ殺傷を目的としない、を前面に押し出す為のもの。
「巻き込んでも悪いしな、っと」
 ブリッツはその両手を広げ。
 ――パンッ!! と高らかに音を弾く。その瞬間に、先手必勝とばかりにルークへとその腕を伸ばした。体躯には身長だけでも40㎝程の差がある。組み技勝負へと引き込めば、圧倒的な優位に持ち込める。
 だが、当然としてルークもそれを重々承知している。見上げるばかりのブリッツに抑え込まれれば脱出は困難であるがゆえに、退くのではなく詰める。
「――っとぁ!」
 ズ、と沈むように地面へと張り付いたルークは、即座にブリッツの懐へと跳ねる。地面に転がったルークを攻撃するには脚で潰すのが早く効果的だ。踏み込むように落とされる足の傍を抜けてブリッツの胸に爪立てて、ギュ、パン!! と顎の直下から槍の如く突き上げられたルークの蹴りをブリッツは体を逸らして避けていた。
 鼻先を抜けた挨拶代わりの蹴りに、胸に置かれた腕を掴んで地面に叩きつけるように投げ放つが、瞬時に空中で姿勢を整えたルークは、勢いを回転に変え衝撃を和らげて、軟着地を遂げる。
「ひゃあ、危ねえ危ねえ」
 蹴られかけた鼻先を指で擦りながら、余裕めいた声を上げるブリッツにルークは静かに考える。
 暗殺を手段としていた彼に、正面からの戦闘は不得手な部類だ。
 やっぱり、そうしよう。
 ルークは踏み込み、ブリッツへと駆けていく。
 幾らからの攻防を経た数秒後。
「そうかよ、誘い込んだつもりか」とブリッツは、照明に照らされてはいるが木々で視界が遮られる庭の一角でルークの姿を見失っていた。ぎりぎり届かない回避の仕方に誘われているとは気付いてはいたが、追わぬわけにもいかない。
 屋内であれば、灯りは更に多い。陰影のできる中庭の利点か。
 ――罠。
 ブリッツは、ルークの手を考える。ただ姿を晦ませただけではないだろう。何かを仕掛けている。
「つっても、準備時間も無えわけだし」
 複雑な罠は無い。簡易的なものだけと踏んだブリッツは、動かず、静かに周囲の喧騒の中でルークを探す。ざわざわと少し遠巻きに、中庭の奴隷やら武芸者やらが彼らの闘いを見守っていた。駆ける足音に声、それらがルークの存在を覆い隠している。
 川の流れから小石を掬い上げるような感覚で、その中から求めている音を拾う。
 ……カサ。
 木擦れが、ブリッツの耳を擽る。と同時に放たれた殺気がブリッツの背筋に電気を走らせて、フォーカスを合わせるようにその意識をその一点へと絞り込ませ、そしてブリッツが見たのは。
「……っ」
 先が丸められたロープの先。ルークの姿はそこには無く、ほぼ同時にブリッツの聴覚が土を僅かに跳ねさせる静かな足音を背後に捉えていた。
 間に合う。距離は近いが、ワンアクション差し込む隙間はある。ブリッツは瞬時に振り返り、上着の下、ズボンの後ろ腰へと手を伸ばし、グリップを握った所で。
「ああ、ミスった」
 事前のレギュレーションを思い出していた。『道具あり、武器なし』
 つまり、これを抜けばブリッツの負けで、手を離し他の手を取る時間ももうない。蛇のようにうねるロープがブリッツの胴に腕ごと巻き付いて、脚を払われたままに地面に転がったブリッツが見上げる先に。
「……、ブリッツの負け」
 どうにか勝ちを拾った、と見下ろすルークの眼がそこにあった。
「おう、俺の負けだな」
 やられた、とブリッツは地面に頭を着けて、そう降参したのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セゲル・スヴェアボルグ
まぁ、一応客として入り込むわけだが……
言葉で相手を騙して取り入ろうなんざ、まどろっこしいことは無しだ。
要は体力と胆力があればいいんだろう?
だったら、適当にそれっぽい難癖をつけて暴れれば、嫌でも守衛なりなんなりが取り押さえに来るだろう。
それなりの人数を引きつけたら、お縄にかかればいい。
真面な宴ならぶち壊すのはあれだが、上っ面だけ取り繕った催しなら、企みも妨害できて一石二鳥だ。
まぁ、逃げ出した人数分のツケぐらいは払ってやろう。
俺をまともに扱える自信があるなら、奴隷にでも何でもすればいい。
その方が、ヴァンパイアにも近づきやすくなるだろう、余計な手間も省ける。
強く当たって後は流れで……ってやつだな。



 セゲル・スヴェアボルグ(豪放磊落・f00533)は、首を掴み上げた鎧の男が、苦し気に持ち上げる腕に指を喰い込ませるのを横目に流しながら、どこか不機嫌に尾の先で床を叩いていた。
「誰が悪いか、っていやあ、俺が悪いんだがなあ」
 周囲に散らばる皿の破片や料理の残骸。酒瓶が割れてその中身を地面にぶちまけて、酒精が僅かに辺りに広がっている。
 見慣れぬ顔に向けられた視線に噛みついたセゲルへと、支配層の一人が奴隷を差し向けて始まった騒動だ。
 周りを巻き込んでいると奴隷だけでなく衛兵も駆り出され、大取物の様相を呈している。
「風紀ってのが、乱れてやがんなあ」
 のではあるが、どうにもボタンを掛け違えたような騒ぎ様に、セゲルは眉を顰める結果になっている。
 セゲルが殴り倒した衛兵が、支配者に囲まれ嬲られている。身を護る鎧が枷となって、それに抗う事も出来ず、セゲルとは関係のない所で愉悦の笑みの中で苦悶の声を上げているのだ。
 宴を壊すように動いたセゲルの行動にも、始めこそ恐れを感じていたようだが、ほんの僅かで野次を飛ばす観客となっていた。
 魅せる闘いをしたつもりはない。優雅な立ち振る舞い、きらびやかな会場、豪奢な食事や装飾、汚濁に弄ばれる弱者。それらが反発することなく混然一体となっているのだ。
「上っ面だけ取り繕った催し、でも無いみてえか」
 裏も表も、混ぜ返したような宴は、セゲルが殺戮を始めない限りは変わらないだろう。そこまでいけばヴァンパイアは雲隠れするか、徒党を組んで出てくるか。
 少なくとも霊廟への道は閉ざされる。
「まあ、そろそろいいだろう」
「……ぁ、グ……ッ」
 セゲルは、持ち上げていた衛兵ごと体を回して遠心力を乗せたうえで、豪快に投げ放った。
 低い放物線を描いたその人間砲弾の先には、衛兵の鎧を剥いで弄んでいた支配者層の人間たち。
「きゃ……ッ!」
「ゴ、あッ!?」
 叫びが重なる。軒並み薙ぎ倒した衛兵は無事だろう。体が痺れる程度か。相手をしたセゲルにはそれが確信出来ていた。
 その衛兵に衝突した支配者たちは知らないが。
 ともかく、セゲルはそこで暴れるのをやめていた。どしり、と無事な床に尻を落として胡坐すら掻いたその暴漢に、衛兵たちは警戒しながら囲みを狭めていく。
「……殺すな」
 一足で切りかかれる間合に、包囲が縮まった時に声が響く。セゲルの背後からの声に振り向けば、服装からして支配階級の人間だろう一人が、命じていた。
「ほう、……お前さん、俺を殺せると思ったのか?」
「御託は良い」
 セゲルの挑発に興味すら持たず、衛兵の包囲を抜けて、セゲルにナイフの切っ先を突きつける。
「まあ、俺をまともに扱える自信があるなら、奴隷にでも何でもすればいい」
「いいや、喜べ」
 心根が表層に浮かんだような優し気な笑みを浮かべた人間が、嬉し気に言った。
「主の元に案内しようじゃないか」
 それが望みなのだろう? と。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『霊廟』

POW   :    大胆に進む

SPD   :    慎重に進む

WIZ   :    冷静に対処する

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 煌めく光に満ちていた宴の会場から一転し、導かれた霊廟はじめじめと湿った暗がりに沈んでいた。
 それでいて、冷えるわけではなく、むしろ、熱を持つ空気がまとわりついてくる。
 踏み入れれば、それが暗いばかりではない事に気付く。等間隔に灯された炎が暈けて霞んでいる。僅かに赤色を滲ませる霧が続く広い迷宮回廊に満ちている。
 吸い込めば、それが異常なものであると気付くだろう。いや、空気に解けたそれが肌に触れるだけで効果を発するのか。僅かに鈍麻するように動きが鈍り、反対に感覚が鋭敏化している。
 耳に感じる何かの息遣いが、不協和音めいて、しかし心地よく響く。五感が混濁している。
 じりじりと、香りが脳を溶かすように、その酔いにも似た嫌気に快感が寄り添っていくようだ。
 この先に、ヴァンパイアがいる。
 だが、その前に、この回廊を突破せねばならない。闇に蠢くは、この霧に理性を砕かれ、人狼となって尽きぬ欲に突き動かされるだけの獣。
 長居していては、いかに耐性をつけようと正者を求めるその獣たちの仲間入りを果たすだけ。
 猟兵達は、それぞれに案内された入り口から、一人その最奥を目指すのだった。

●第二章

 霊廟の迷宮回廊を進みます。
 無数にいるヴァンパイアの犠牲者である餓欲の人狼をどうにかして、最奥を目指してください。
 OPの犠牲者シーンの前半の部分(滴る汗が~続けていた。)に該当します。

 入口は、それぞれ別の案内人に導かれたため、別の場所になっています。

 三章はボス戦です。UCを使って猟兵を殺そうとします。
 力を温存する、多少苦戦する演技などでボス戦で油断を誘えます。

 書けそうなプレイングを好きに、適当な感じで書いていきます。
 よろしくお願いします。
ロク・ザイオン
(先程の男がここに放り込まれたら、どうなっていたろうと、少し考えた)
……。
(まだあれにも欲望は残っていたんだろうか)

(春の森と獣たちの匂いを思い出す
ひりつく肌には衣類の擦れすら煩わしい
苛々する、のは
己の心も体も思い通りにならなくなりつつあるからか)

(炙られ焦がされる感覚は、飢えや渇きに程近い
番無き獣の己にも、欲はあるのだから)

(長居するだけ不利だ
濁る五感を【野生の勘】で補い
【ダッシュ】で最奥を目指す)
――――あああァァアアア!!!
(「惨喝」
この咆哮で竦む程度のものは捨て置く
それでも挑んで来るのなら、
ああ、そんな身の程知らずは、おれが喰い千切ってやろう)

(雄を選ぶのは、雌だ
弱いものはいらない)



 息を吸えば、ピリピリと肌を粟立てる痺れが足の指先へと広がっていく。
 頭蓋骨の中で、僅かに何かを押しやって空いた空白に響く欲の音に、軽く頭を振って、首に掌を押し付けるようにして擦る。
「……、春か」
 記憶に過る光景を声に出して、朦ぐ脳に認識させた。そうして漸くに、思考が線を繋ぎ始める。
 花が風に種を撒く香り。木が熟れた息をする。獣がその匂いに釣られて交わう声が地を伝う。
 春の感覚だ。
 ああ、そうか。とロク・ザイオン(蒼天、一条・f01377)は、衣服が擦れる感覚にさえ苛立ちを覚えながらに理解する。
 春の彼らが荒立たしいのは、この心も体も思い通りにならないからか、と。
「……」
 宴で腕を奪った男がこの場にいたならどうなったろうか。じくりと腹の底で熱がもたげる。
 あれにもこの熱が、欲が残っているのか。他人の怒りを映すだけの器に欠片でも残っているのであれば。
 ――あれは、ロクと番うに能いするだろうか。
「は、ぁ」
 喉を拡げる熱が渇いた感覚を思わせる。
 それを彼女は否定しない。ただ陽炎じみた熱に浮いた幻像を否定する。
 そぐわない。
「……弱いものはいらない」
 敗者であるあの男も、勝者である支配者も、そして。
「ア……、ァ」
 今もロクを狙い、情欲の滾りを向ける人狼も。
 能わない。
「あアアァああァぁアぁ――、ッ!!!!」
 咆哮が爆ぜた。
 乾く喉を引き裂くように、澱む欲をかき混ぜ吐き出すように。ロクの体に響き、霊廟に轟き渡る声が、叫びが駆け抜ける。
 それと同時に、ロクの脚が床を蹴る。耳を貫いて魂に爪立てるような不快に身を竦ませる人狼をその場に置き去って行く。
 恐れろ、欲をもつならば。
 畏れろ、弱者であるならば。
 立ち向かうな、とロク自身を叫びと化して、回廊を駛走する。
 吐き出すほどに息を吸い。熱が自由を奪っていく。
 だが、それでも脚を止めはしない。この叫びに爪を奮わせるのであれば。
 その欲にこの声を阻もうとするならば。その欲に己を欲するならば。
「ガ、――ッ、アア!!」
 その裸の胸中へと剥いた牙を突き立て、その山刀の刀身から人狼の内側を焼く焦熱が回廊を一瞬眩く照らした。
 飢えている。舌の根に泡を作る熱が、内側を炙っている。
 だが、そうだとしても、選ぶのは雄ではなく雌だ。
 熱に狂ったのだろう獣を一刀に斬り捨てたロクは、溢れる情動のままに地を駆け、声を張り上げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

秋月・充嘉
(すんすんと匂いを嗅ぐ)
……なるほどなぁ、これはヤバい、ずっと嗅いでたら理性トブっすねぇ。
さすがにここで欲にまみれるのもなぁ。
俺が理性飛ばしたいのは獣欲のためであって戦闘欲じゃないんだよなぁ……。
んじゃま、ささっと抜けますかね。

『己の影は良き相棒』で襲ってくる人狼を向かいうつっす。
撃退しながら奥へ向かうっす。
でもまぁ?戦闘欲じゃなくて、別の欲で向かってくる人狼がいたら?そのときはヤバくない程度に相手するっすよ?

それにしても、ベリルを倒したらここどうなるんすかねぇ……。ヤバいダンジョンとして残っちゃうのか、それともそういう穴場になっちゃうのか。

……あ、終わったらさっきの支配者と奴隷に会おうっと。



「ははあ……なるほどっすね」
 秋月・充嘉(キマイラメカニカ・f01160)は、自らをこの場所へと導いた支配者層の人間の言葉に納得を浮かべていた。
『気を保ったままに出てきたなら歓迎してやる』などと、数度果てながらも硬く自らを誇示する雄性強かな男が言う意味が、この場に至って漸くに理解しえたのだ。
 親指を自らの舌に絡め軽く歯を立てるのは、満ちる霧に昂らされたままに捨て置かれる衝動に酔わされたせに他ならない。
 ギ、ン――ッ!
 自らに責め立てられる爪の一撃を、呼び出し実体化させた彼の影が真っ向から受け止めては充嘉を狙う一撃を、へし折り、そして跳ね返してその四肢を砕いて吹き飛ばす。
「……これはヤバい」
 胸の底から、蟠る空気を総入れ替えするように呼吸をする。
 そうして笑いを零すのは、内側から湧く出だす欲を襲い掛かるそれらにぶつけたいと願うからか。
 襲い来る人狼は、鍛錬と素質に彩られた屈強な肉体を備えている。人狼になったから、ではなく、生前からして既にそれだけの体を手に入れて、この霊廟に挑んだのだろう。呼び出した己の影が、腹の中へと爪を立てた貫き手を突き立てる衝撃にすら、歓喜にも似た嬌声を劈かせる人狼に、情欲をかき抱かせる声に耳を塞いだ。
 耳に響く声に、充嘉は自らの喉元を掴んでは、無意識に掴んでいた己の劣情を、下布の奥へと匿うように押し込めた。先から漏れ出た唾液が布を濡らす不快感に、唇を噛みながら、しかし、蟠りを発散しようとも思えない。
「なんにも、分かんなくなってるんすもんねえ……」
 敵の肉を食らう事と、己の肉からその欲を発する事との区別などついていない。貪るように喰らい、貪るように犯し、そして、それを自らに行われる事すら快楽として受け入れている。
 腕と足を捥いだ人狼へと群がったその影に、充嘉は混ざる事を良しとせず、意識を保ちながら、意識が逸れた回廊の先へと、目を向ける。
「親玉倒したら、ここどうなっちまうんすかねえ」
 これだけの、狂う人狼だ。この霧が消え失せたとして、彼らが正常になる望みは薄いだろう。
 ともすれば、あの支配層の人間の倦怠を晴らす為の遊び場と化してすらしまいそうだ、という予感を、思考の端に置きながら充嘉は、笑みを絶やしてはいなかった。
 そうなるならば、それはそれで彼にとっては恭悦を思わせるものでしかないのだ。
 体を蝕んでいく、霧の感覚に舐めた指に唾液を糸引きながら、彼は着実に霊廟の最奥へと向かっていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ブリッツ・エレクトロダンス
(電脳ゴーグルが警告ウィンドウを表示する。
 『Caution: Unknown chemicals detected』)

長居は、無用…だな。
ここに早急に突破するしかねえ…!
(移動経路上に邪魔する奴がいるならSMGを発砲し、弾が切れたら拳銃を撃つ。)

(拳銃も弾切れ、さらに移動経路を塞ぐように、複数体の飢えた獣がいるなら。
 止まって、"溜める"しかない。)
軸は…『表現者』
(群がる獣たちに押し倒されようと)
埒外は…『双子』
(獣たちの"爪"でお気に入りのジャケットやジーンズを引き裂かれようと)
俺の名にて銘ず、吠えろ『疾風神雷』!
(回廊の奥を見据え、風雷の高速突撃で引き剥がして、突破を仕掛けるッ!)



『Caution: Unknown chemicals detected』
 未解明状態の未確認成分を検出。などという、要するに何も分からない、という結果だけが眼前に写し出されていた。
 どうしろというのか、と言えば。
「つっても、どうしようもないじゃんね」
 両腕の中指で下ろしたゴーグルにどでかく表示されていた警告に、ブリッツ・エレクトロ
ダンス(★3:クロヒョウDJ・f01017)は分かっていたとばかりに、肺から笑いを押し出す。
 舌を出して、唇に吐いた僅かな水滴を掬えば、体中に甘い痺れが蓄積するのが体感できた。
「まあ、つまり」
 長居は無用、という事だ。
 闇の向こうに見える肉欲に塗れた眼光を一身に受けて、チッチと舌を鳴らした彼は、肩に乗せていた機関銃を、ずいとそれらに向け放っていた。
 彼の眼前の道を塞いだ人狼へと、弾丸が弾け飛ぶ。
 機械的に、連続して放たれた弾丸は、その照準の狙いを過たず、ブリッツへと駆けようとしたその矢先に頭蓋を微塵に砕かれて、その場に崩れ落ちる結果を晒している。その真横を、ブリッツの脚が跳ねた。
「悪いな、とっとと抜けてえんだ……ッ!」
 弾丸と共に駆け行くブリッツの背後には、無数の弾痕とそれに穿たれた人狼が残される。
 疾風怒涛の猛進。しかし、その片手でも無理やり扱える程度機関銃にふんだんな弾数が確保されているはずもなく。
「ああ、もうか!?」
 かちり、と空回った引き金の音を響かせた機関銃を、眼前に牙に唾液を光らせる人狼に投げつけ、怯ませたその一瞬で、腰の後ろに差していた拳銃を取り出し。
「アンコールだ、喰らっときな……!」
 ド、パパパ!! と連続してその弾倉を消費する。
 先の戦闘披露でルーク相手に引き抜きかけたそれを、今度は問答無用に発砲させていた。暗く薄曇る回廊に、乾いた発砲音が響いて弾丸分を軽くした機関銃を鼻先に受けて怯んだ人狼の脳漿を噴き散らかしてブリッツは、投げ放った機関銃を回収しながら、まるで効かない鼻を引くつかせた。
 溢れた血の香りにすら、腰の骨を溶かすようにジンジンと熱を与えるこの空間に、この欲と同じものを、恐らくは何年も浴び続ける獣がブリッツに立ちはだかっている。
「っとぉ……」
 自動拳銃に装填した弾丸で足りるかと言えば、それは否だ。さらに言えば、それだけの連射速度すらないそれは。
「ゴ、ぁ……ッ!」
 ダガン、!! と跳ねる一瞬に、群がる爪に押し流される。受ける傷すら甘美とばかりに押し寄せる腕に捕まれ、床にに押し倒されては、服と諸共に肌を裂かれる痛みにうめきながらも、己の中に眠る力を忘却する程にこの霧に酔いしれてはいない。
「――ッ、」
 軸は『表現者』
 ルーティン。自ずと決めたそれが活性を促して、爆ぜる。
「埒外は…『双子』」
 溢れ出た風雷に、その欲に満ちた腕を全て焼き払ったその空白に、四つ足の獣じみてバチリと力場を纏ったブリッツが、地を蹴り、壁を天上を蹴り進み、獣を置き去りにしていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルーク・アルカード
WIZ判定

【心情】
むかし、いたところでずっと嗅いでたような匂い……。
この匂い嫌いだったな……痛くて寒くてお腹が空いて……ずっとずっと続いて、それが普通だったんだもの。
でも、奥にいかなきゃお仕事できないから……だから、がまんして進むんだ。

【行動】
マフラーでマズルを覆って少し呼吸を楽に。
そして嗅ぎ慣れた匂いで冷静に。
大事なマフラーから『勇気』を貰って進むんだ。

あのヒトに色々されたおかげで耐性がいっぱいあるからゆっくり行っても大丈夫だと思う。
『闇に紛れ』『目立たない』ように奥に進もう。
危ない気配は『野生の勘』や『第六感』で分かると思う。
襲ってくるヒトはおもちゃの銃の『マヒ』弾で大人しくしてもらおう。



 暗闇に紛れるのは得意だ。
 尻尾の付け根が無意識に跳ねるような、この胸の奥が黒ずんでいくような甘く苦い痺れは苦手だ。
 マフラーで口を覆ってルーク・アルカード(小さな狩人・f06946)は、回廊の隅に蹲るように身を潜め、その額にちゃちな造形の銃の背を押し当てていた。
 随分と掠れてしまった匂い。霧に紛れた黒紅を思わせる香りではなく、白銀を思わせるそれに、すうと瞳を閉じて、早鐘を打つ心臓に向き合っていく。
「……」
 この匂いが嫌いだった。
 嫌な思い出ばかりが脳裏に過る。
 全身の毛の根元が、攣るような奇妙な感覚。いや、肌に風が触れるその微細な感覚さえも際立って感じているのか。
 嚥下した喉を鳴らす唾に、マフラーの境に濡れた汗を見つけ、いつまでもじっとしているわけにもいかないとルーク悟る。耐性がある、と考えていたこの霧に徐々に侵されつつある思考が、記憶を呼び覚ましているように思えたのだ。
 立ち上がる。
 まだ気付かれてはいないが、気付かれたなら、あのベリル・アルカードという存在が戯れに犯し作り上げた人狼が、とめどなく襲い来る。
 確信があった。
 そして、それを傍観し、悦楽に浸るような相手だとも、ルークは知っている。
「……っ!」
 駆け出したルークの眼前に躍り出た人狼に、ルークは咄嗟に胸の下へと滑り込んで、それが騒ぎ出す前に下腹、胸、首へと、玩具めいた銃から軽い音を発した弾丸に麻痺の効力を込めて打ち出せば、声を出すまでもなく人狼は回廊の冷たい床へと崩れ落ちていた。
「ふ、」
 う、と吐き出そうとした息を、思わずに詰めて、彼は再び影に身を潜めながら回廊を進んでいく。
 身を隠しながら。
 進みは遅くとも、徐々に、記憶を掘り起こすように強まる匂いに導かれるように、彼は回廊を突破していくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セゲル・スヴェアボルグ
案内すると言った割には、最奥まで連れて行くつもりはないのか。
まぁ、単なる保身だろうな。
飛んでしまえば特に問題なく辿り着ける気はしたが……
流石にそうは問屋が卸さないってわけだな。
動ける余地は残しても、無傷で済ませるつもりはないと。
だが、そんなことは関係ない。
いつもより力は入らんが、出来る範囲のことをするまでだ。
酒に酔った時と大差はないだろう。逃げも隠れもするつもりはないしな。
襲われたとしても適当にぶっ飛ばしていけばいい。
そもそも、元はそれなりの人間だったかもしれんが、お前ら程度では俺の相手としては役者不足だ。
俺相手に雄になりたいんだったら、もっと強くなってからにするんだな。



「グ、ァアッ!!」
「……、っと」
 床に叩きつけた人狼の肩へと脚を踏み落とした瞬間に、野生じみた慟哭が弾けてた後、セゲル・スヴェアボルグ(豪放磊落・f00533)は派手に跳ねあがった腕の先が力なく蠢いた光景に、力加減を誤ったことを悟っていた。
「ああ、こいつは絶妙に厄介だな」
 グ、パと拳を握っては開いて、失笑を零す。
 それは今の状況にか、それとも、この状況でもどこか恭悦を覚える自らにか。
 喉から吐く息に熱が籠る。全身に蟠る常よりも調子のいいように感じる錯覚が、脳に浮かぶ感知と感覚にずれを生じさせている。
 僅かに、脈拍の強い胸に手を当てれば、それだけで甘い痺れが肺の中で響いて、冷えた氷のような迸りが、脚の先に走り、喉を僅かに焼く。
 その時。
「――グ、ぉァ……ゥ!」
 脚の下に敷いた人狼が、僅かな力の緩みに体を跳ね上げて、右の腕を力なく垂らしながら立ち上がりセゲルに向き合っていた。拉げたその肩は、通常の痛覚であれば意識を飛ばしているだろう傷のはずだが、涎を垂らした舌から滴らせる人狼は爛々とその眼光を光らせて、セゲルに熱を上げている。
 生前の物なのだろう、簡素ながらも拵えは鍛冶の腕の良さを感じさせる鎧を胸当てと脚甲以外を喪失している人狼は、ただ、露わにするその熱を持ってセゲルを組み敷く事だけを見つめている。この酒の酔うような感覚を齎すこの霧に、それ以外を忘れさせられているのだろう。
「――ッ!!」
 人狼が駆けた。
 右腕を封じても、左の爪は健在だ。その牙は鋭利で、蹴りの一つ見逃せばセゲルをしても、その箍が外され、人狼化に強化された膂力は甘く見ることは出来ない。
 だが。セゲルは突き出された肉を裂く爪の一撃に、武器すら扱わずにその手首を掴んだままにハンマーを投げ飛ばすように、壁へと人狼を振り回し叩きつけていた。
 ゴ、ゴバッ!! と鈍い振動が回廊に響いて、僅かに埃が霧に混ざる。
「……元はそれなりの人間だったかもしれんが」
 肉体、技術、恐らくは育ちも。生涯をこの世界に生きる者としては最上にすら近い生まれと育ち、研鑽を積んだのだろうが、その殆どを失い、体を振りかざすだけの人狼に脅威を覚える事はない。
 バラバラと瓦礫を零しながら、壁から床へと崩れた人狼を捨て置いて歩き出そうとしたセゲルは、しかし脚を止めた。
 案内すると言った割には、最奥まで連れて行くつもりはないのか。
 天井の大穴からこの霊廟へと叩き落とされた時に、案内が入り口までという事に呆れたものだが、それも仕方ない事だろう。
「保身か」
 主への貢ぎ物はしておきたいが、この霊廟を進む自信は一切ない。あるならば、真っ先に食われているだろう。
「どいつもこいつも」
 とセゲルは、呆れた声に余裕の笑いを滲ませながら吐き捨てるように、闇へと告げた。
 ゴ、ガ、! と跳ねたのは爪音。壁を跳躍した人狼がセゲルへと肉薄し、その爪がセゲルへと届く前に彼の拳がその人狼の胸を捉えていた。
 打ち上げた拳のままに頭上を過ぎていく人狼に目もくれない。影の中に、眼が、牙が、爪がある。音に誘われたか、眼光に色を満たし、粘る雫を床に滴らせるそれらに告げる。
「俺相手に雄になりたいってか?」
 なら、俺を床に這いつくばらせる程度には、強いんだろうな。と。そうでないならば。
「お前ら程度じゃ、役者不足だ」
「――ッ!!」
 一斉にそれが闇に蠢いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

中條・竜矢
【WIZ判定】
これは……明らかに長時間いていい場所じゃないな……

敵もいるようだし、ユーベルコードで発生させたワイバーンたちに偵察させて出口に繋がってそうな道を進むか。頼むぞお前たち。

(報告が来るまで最初の分岐地点で待つ)
道を見つけたワイバーンがいたらそれについていく。

(ワイバーンを追ってきた人狼たちに襲われる)くっ、時間はかけられないというのに!
(被害者ならまだ助かるのでは?と止めは刺さずに行動不能だけでとどめる)

一体どれだけいるんだ!(戦闘に反応して次々くる人狼相手に戦う。撃退したときには霧に相当侵されてしまう)

まだ、止まるわけには……いかない(理性が削られる感覚をなんとか抑えて進む)



「……」
 蒼い鱗を持つドラゴニアンが、回廊の始まりで自らの口に手を当てて、思考を回し続けていた。
 その思考の中心には、この空間への警戒が時間を追う毎に割合を占めていく。
 中條・竜矢(変化する竜騎士・f03331)は、呼吸する体の僅かな擦れにも敏感に反応し始めた異常に、奔る感覚を覚悟して溜息を吐く。
「明らかに長時間いていい場所じゃないな……」
 顔に当てた手が熱を持っているように感じる。いや、血管を開かれて実際に常より熱を発しているのかもしれない。ともかく、早くこの回廊を突破せねばいけないのだが、しかし、こうして此処に彼が留まっているのは、ただ、脚を踏み出しあぐねているというわけではない。
 それは、焦れた竜矢が思わずに頭を振った時、視界の端に生まれた点だった。
「頼むぞお前たち」と送り出した、オーラによって作り出した小型のワイバーン。
 道を見つけた、という合図に竜矢は、そのワイバーンを追って、回廊の闇へと足を踏み出した。
 手足を折り、その息が途切れていない事を確認する。ワイバーンの刃に割かれた人狼もまだ息はある。
 竜矢自身、爪に裂かれた痛みはあるが、しかし、傷自体は浅い。
「――、?」
 竜矢は、僅かに違和感を覚えた。
 認知しているオーラのワイバーンの数が合わない。人狼に狩られたのだろう、それは分かる。
 だが、それがいつだったのかを竜矢は知らない。いや、ほんの数秒前、この回廊をどう歩いたのかすら忘れているのだ。この傷は何時つけられた?
 先へ進め、ワイバーンに導かれながら進め。それだけ忘れずに、竜矢の思考は停止したままに、人狼を跳ねのけていた。だが、それは記憶ではなく、結果だ。
「くそ……ま、ずいな」
 判断能力が著しく減衰している。今襲ってきたのも数体の人狼だけ。その全てを、助かるかもしれないと、丁寧に四肢を折り砕く時間をかけるくらいであれば、その脇を抜けて追撃を撒けばいいはずだ。
「……」
 どうする、一歩ごとに走るスパークじみた欲に堪えて進まなければ。残るのはどれ程、いや気にするのは残りではなく、進んで、いや目的地の捜査も行わなければ行動は全て無駄に。時間は、敵は、無事に済ませる為に、人狼、任務、これまでの経路、行動の洗練化、無駄の削除。
 いや、この思想すら無駄だ。
 廻る考えが脳の中で躍って吐き気すら齎す狭窄が、動きをからめとっていく。
 いっそのこと、足底から脊椎に満ちている快楽に身を任せてみれば。背後に回廊が捻じれていくような幻想に囚われそうになった竜矢は、自分の頭を掌で叩いていた。
 ゴ、ッ! と響く音に幸い寄せられる人狼はいなかったようで。
「まだ、止まるわけには……いかない」
 ワイバーンの翼を追って、理性が削られていく感覚に正答への不安を抱えたままに竜矢は再び走り出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『ベリル・アルカード』

POW   :    ラストクレスト
【魔眼で見つめた相手に淫紋を転写し、そこ】から【超強力な魅了と発情効果】を放ち、【経験したことがない快楽】により対象の動きを一時的に封じる。
SPD   :    ダーティーランペイジ
自身の【体液】を代償に、【作成した蝙蝠や蛇などの使い魔】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【超強力な催淫効果のある毒液など】で戦う。
WIZ   :    幸災楽禍の狂宴
【他人の不幸に愉悦を感じる性格】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【襲いかかる不運な出来事】で攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ルーク・アルカードです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「こいつぁ、随分と活きのいい餌を寄越してきたじゃねえか」
 目を瞑り、霊廟全体に響く遠くの振動にベリル・アルカードは、愉悦に満ちた瞳を開いた。
 石棺に跨るベリルが笑いに腹を揺らせば、ベリルと石棺に挟まれた男が、声なき声を絞り出して、苦悶の歪みを顔に浮かべている。
 右腕は二つに割かれ、左腕はその半ばで歯型の断面を残し、遠くに転がっている。ベリルが乗る腰、その臍から上は、真っ赤な紋が胴を這い、その上に汗か唾液か、血が混ざって赤黒く粘る液体が覆っている。
「は、俺を餌にするつもりか」
 ベリルに沈む男の体は、もはや生きているのかすら分からぬ状態ではあるが、しかし、血は滾り、漲っている。いや、ベリルが己の腕を噛み、流した血がその内に混ざって、餌として生かし続けているのだ。
 魂を壊すような激痛と淫蕩の快楽に、しかし狂う事も出来ず、死ぬ元も出来ず弄ばれるままであるというのは、幸福、等とは言えないだろう。
 事実、その表情は醜く、声も無く苦痛を叫んでいる。
 だが、それは終わる。ベリルが胴に爪を立てた痛みを変換した快楽が、男の体を収縮させる電流が、全てを白く忘却させる。そのまま、首に齧り付いたベリルの牙に、窒息と身体感覚の喪失が訪れた男は、消えた体がベリルへと命の高潮を示している事など知りもせず、その命を終えていく。
「さあ、そろそろか」
 天井を見つめる。まるで、その向こうが見えているかのように、死した男の体の上で笑みを浮かべたベリルは、ずるりと死体を放り除けて、身を整えながら男が残した剣を手にしていた。
「ハ」
 笑う。
「ハ、ハハハハハッ!!」
 誰も聞く者のいない空間に、それは哄笑に濡れた体毛を揺らし、そして、汚れた石棺へ腰を掛けて、待つ。
 猟兵達によって最後の扉を開かれる、その瞬間を。


 第三章、ベリル・アルカードとの戦闘です。
 油断は無く、持てる力で猟兵を殺そうとしてきます。
 書けそうなのを適当に好きに書きます。

 よろしくお願いします。
秋月・充嘉
やあ、ベリル。二重の意味で戦うのもいいんすけど、少しお話ししません?

ここまでの道のり悪くなかったっすよ、しばらくいたいくらい。
で思ったんすよ。なぁんで欲を溢れさせておくのにわざわざ最奥のここでしけこむのか。
喰うだけ喰って、まだ生きてるなら自分の配下にして案内させた奴に送り返す。そんで次の『飯』を待つ。なかなか悪くない考えっすよねぇ。誤算があるとしたら……。

オレをここに案内させた支配者。奴隷ごとオレの手籠めにする。

(翼の片方を龍の顎に変え防御)
っと、怒ることないじゃないっすかぁ。あ、そっか。寂しくなるもんな。
だったら、君もオレの手籠めにする。
今とそんなに変わんねぇよ。ま、支配の逆転はあるけどな。



 秋月・充嘉(キマイラメカニカ・f01160)にとって、その獣はひどく魅力的だった。
 それは、関節の軋みにすら喉の奥から腰の中心までが、痛みもなく別れてズレるような錯覚を起こす程に昂らされた煩悩によるものか。それとも、未だ正常な頭がそれでもそれを魅惑的だと思っているのか。
 霊廟の最奥、玄室。そこに溢れる血と汗といった、幾つかの肉体が混然と混ざり合ったような体液の香りに、ざわざわと全身の毛が波打つような情動が、いつの間にか充嘉の口に笑みを作り出している。
「……やあ、ベリル」
 歓喜のあまり、その声は震えていたかもしれない。
「ここまでの道のり悪くなかったっすよ、しばらくいたいくらい」
 活力剤を呑み込んで、あの狂う人狼たちと戯れ続ける。そんな夢想にすら滾る体が果ててしまいそうな、彼にとって極楽ともいえる地獄だ。
 だが。
「思ったんすよ」
 目の前の獣を目の前にして、あの空間がベリルによって維持されていると悟り、疑問を浮かべていた。
「なぁんで欲を溢れさせておくのにわざわざ最奥のここでしけこむのか」
 喰うだけ喰って、まだ生きてるなら自分の配下にして案内させた奴に送り返す。そんで次の『飯』を待つ。
 それは楽だろう。悪くない考えだ。それに誤算があるとしたら。
「オレをここに案内させた支配者。奴隷ごとオレの手籠めにする」
 その役割を持つ人間を奪われるという事だ。
 自分の物を取られた、となれば、この強欲の塊は怒りを露わにする。
 充嘉は、直後に放たれるだろう攻撃に両翼を広げ、即応できるように身構えていた。
 ――だが、待てどその攻撃の衝撃は訪れなかった。
 声。
「一つ、ここから出ていった奴はいねえよ」
 外にいる餌係に、この霊廟に挑んだものはいない。その全てが、ベリルの腹の中か、この迷宮で尽きぬ欲に狂っている。
 そう告げた後に、ベリルは膝に肘ついてその剣を揺らして嘲笑う。
「お前、随分イイコしてんだな」
「……へえ?」
 言葉に一瞬、冴えた声が充嘉の口から漏れ出ていた。
「誰のモンだろうと構わねえだろ? 楽しそうなら奪って犯して殺して遊ぶ」
 わざわざ、言わずとも、持っていけばいい。
 その言葉は、充嘉の言葉を否定するものでありながらも、しかし、僥倖とも言えるものだった。
 それが言う事はつまり。
 胸を掴んだ手指が、抑えの効かない享楽への欲を体現するようにシャツを破り裂いて、吸う息を和らげる。
「君もオレの手籠めにしよう」
 つまり、それすら、許すというのだろう?
 問うた言葉に、ベリルはその石棺から脚を下ろし、剣で自らの胸を裂いていた。刃がベリルの血に濡れて雫が滴る。床を濡らした血がうねり、膨れ上がれば粘液を纏う大蛇の姿へと変じてベリルの周りにとぐろを巻いていく。
 その中で、刃を充嘉へと向けたベリルは薄く笑っていた。
「満足させてくれよ、イイコちゃん」
「ああ、空っぽになるまで喰ってやるよ」
 その肢体を捻じ伏せるのは、その声が苦痛に歪む声は、さぞや快いのだろう。
 獣が似た笑みを互いに向けあっていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

中條・竜矢
【POW判定】
(内側から起こる欲と快楽に身を任せてしまいそうな衝動を辛うじて抑え込む)
時間は、もう、無い。攻めるしか、倒すことだけ、考えろ!
(ユーベルコードを使用して邪竜に変貌し、力任せにアルカードを攻撃する。攻撃のたび、生命力吸収での回復も行う)
倒す、倒す、倒す、そうすれば終わる!

あっああっ!?(相手の魔眼を喰らってしまい、動きが止まる。そのままユーベルコードを解除してしまう)
あは、あははは……(相手のユーベルコードの効果で最後の抑えが外れてしまい、アルカードが与えるモノを求めてしまう)
【アドリブOK】



 中條・竜矢(変化する竜騎士・f03331)にとって、その獣はただの目標でしかなかった。
 平衡感覚が残っているのか無いのか。斜めに走っているのか、重力が乱れているのか。
 そんな事もどうでもよかった。
「あ」
 倒す。
「ぁ」
 倒す。
「ああ」
 倒す。
「アアアッ!!」
 倒せば終わる。
 倒せば、この理解しがたい幻覚の坩堝から抜け出せる。
 その一念が、只管に竜矢を進ませる。飛び込んだ玄室に見えた獣の姿に竜矢は、何かを考える間もなく、全力を開放して突っ込んでいた。
 ゴ、ドガァ!! 
 突如、吹き荒ぶ衝撃が巻き起こす粉塵の嵐を突き抜けたのは、漆黒の鱗を全身に纏う禍禍しいドラゴン。
 身に宿し、纏う呪いを覚醒させた邪竜がベリルへとその咢と爪を走らせる!
 その眼が、ベリルの赤い瞳を見た。
 パン、とその意識が何もない空間へと弾け飛んだ。
 砂時計の中に落ちた卵黄を、硝子を割り砕いて握り締める。ぐにぐにと弾力のある卵黄が指の間をぬるりと逃げていくのを開いた顎で噛み砕けば、爆弾と化していた卵黄が弾けて視界を赤と青、黒と紫、橙と黄の極彩色に染めて、それを見つめる眼球が脳の内側を泳いでいる。
 気付いてはいない。邪竜の姿はそこに無く、ベリルの前に膝を着いたのはユーベルコードを解いた竜矢だという事に。彼自身は前後の繋がりを断裂させて、突沸を繰り返す体という器を揺らすばかりだ。
 真鍮へと溶けだした歯が舌を縛りつけて喉に蓋をする。息をしようともがいて口内へと両手を突き込めば、喉奥に触れた指先が竜矢の意識を無視して、喉の奥へと、奥へと伸びていった。その先、心臓に穴を開けて脊椎の中に溶岩を伝わせれば、一本の木になった胴体の中心から赤黒い腕が飛び出して、動かない両脚を股から体を真っ二つに引き裂く。
 顎を掴む指を牙が裂く痛みなど、もはや、遠くの砂丘が崩れるような無音の情景でしかない。
「あ、ぁ……?」
 その時、冷えた感触がその頬に触れた。
 刃だ。血に濡れた刃。
 甘く馨しき血に濡れた刃が、竜矢の眼を誘導する。幾重にも万華鏡のようにぶれる視界の中で、それだけがやけにはっきりと竜矢の眼が像を結ぶ。
 ベリル・アルカード。
 敵。敵の与える異常感覚。これは、敵の攻撃。
 いや、違う。
 竜矢は知っている。これが心地の良いものだと。違うのだ。それを理解していない、理解出来ていないからこそ、この感覚は、意味を為さぬ羅列のように感じられるのだ。この全てを受け入れられれば。この全てを理解しえたなら。
 舌で掬った血が、真っ青なありもしない内臓を臍の下辺りから吐き出させた。咽込みながら竜矢は弾け続ける火花に轟々と響く首をベリルへと伸ばす。震えるばかりの両脚と両腕を互い違いに引きずりながら、乱反射する極彩色の中を潜っていく。
 欲しい。
 もっと、この暴虐を理解するまで、正しくこの快感を受容できるまで与え続けなければいけない。もっと。
 ベリルが必要だ。この全てが狂い、線を乱す世界の中で唯一像を確かに結ぶそれだけが、竜矢の願いだ。
「あ、は、ぁ……ァ? は、は」
 自らの口から零れたか、体のどこかから落ちたか、何かに濡れた床に脚を滑らせて一センチ角の肉片となりながら、快楽の幻嵐の只中で竜矢はベリルをただ求めていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ブリッツ・エレクトロダンス
悪趣味な野郎だ。
(状況再確認。機関銃、残弾無し。自動拳銃、残弾僅か。服は風雷で焼失。
 電脳ゴーグルシステム状況、埒外の操作能力―――問題無し!)

攻性プログラム、展開(デプロイ)!さあ、暗黒違法パーティタイムをそろそろお開きにする時間だぜ!
(スタンバイモードの攻性プログラム375機を物理世界上に展開する。
 攻性プログラム自体は個々の戦力が低くても、とにかく数だけは多い)

パーティゲストへの手出しはそろそろ控えな!
(やる事は単純明快、ベリルの攻撃に妨害を入れて味方を守る。
 具体的には、視認をトリガーとする攻撃に攻性プログラムを割り込ませ、視認を防ぐ壁とする事だ。)



 ブリッツ・エレクトロダンス(★3:クロヒョウDJ・f01017)にとって、その獣は嫌悪を表すに足る存在だった。
 一言でいえば、「気に食わねえ」だ。
 充満する匂いも、立ちふさがる姿も、裸の腹の底から欲が湧き出でるブリッツであってもそれは変わらなかった。
「って、いきなりピンチかよ!?」
 ダダン! と勢いよく踏み込んだブリッツは、竜矢に刃が振り下ろされるその瞬間に叫び、電光石火が如く、即座に準備していた攻性プログラムを起動していた。
 処理速度を優先して、先ず一機だけ瞬時に構成されて跳び出したそれが弾丸めいて、一直線にベリルの刃を弾く。
「こいつはまた、元気な奴だな」
「……っ、!」
 己の振り下ろした刃を弾いてから砕けて消えたそれを放ったブリッツに、ベリルは然程悔しがりもせず振り向いた。
 餌を品定めするように、そのマズルに赤い舌が覗く。
 全身を舌が這いまわるような視線に、思わずに全身の毛を逆立てながらも、ブリッツは手持ちを再確認していた。
 機関銃は早々に使い切り、外装だけ。自動拳銃もほぼ打ち切っている。残りの残弾は心強いとはとても言えない。
 全身を覆うものは無く、身に着けていた衣服は、人狼の爪と牙に裂かれ、更にそれらを撥ね飛ばす為に発したブリッツの風雷に焼け跳んでいた。故に、ブリッツは全身の艶やかな被毛を惜しげもなく晒している状態だ。
「問題……、うん、問題なしだな!」
 気になるか、ならないか、であれば気になる部分ではあるが。そのせいで好色な目を向けられている気もするが。
 しかし、気にしない事にしてブリッツは、頭に装着したままのゴーグルのシステムを覗き込む。描き出されるのは、異常の無いシステムと現実の混合世界。
 パチ、と指先に跳ねた火花がブリッツの意思に従ってシステムと物理世界に道を作り上げる。
 テンションを上げろ。
 ノイズを叫べ。
 全裸の恥ずかしさやら、異様な血と精の匂いやら、蟠るこの肉体の熱情やら、そんなもんは、全部、クールに、吹き飛ばせ。
 ブリッツは、痺れを切らす指に力を入れて、持ち上げる。
「くそったれの最高な悪趣味野郎」
 バツン、ッ!!
 鳴らした指に、埒外の電気が喚び出すプログラムが世界に駆け抜ける。空間を埋め尽くすように現れるのは、先ほどの一撃で砕けるような脆い攻性プログラム。
 その数、最大三百七十五機。
「さあ、暗黒違法パーティタイムをそろそろお開きにする時間だぜ!!」
 純粋な数の暴力に、剣を構えたままに微笑むベリルに、ブリッツは宣戦布告を放っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロク・ザイオン
(新しい血の匂いに甘さを覚え
牙と爪を燻ぶらす
真の姿は晒さねど、獣も同然)

(春の匂いは未だこの身に残っている
なのに巣穴の奥に籠もり、弱り狂った獣を喰らうだけのお前は
此処のなによりも、雄に、獣に、値しない)

おまえも、いらない。

(「燼呀」
炎の鬣を纏い、毒は【野生の勘】で致命傷を避けながら、躱しきれないものは触れる前に【焼却】
【ダッシュ、ジャンプ】で馳せ回り使い魔を潰す
お前はおれを喰う為に何を差し出せる
その尽くをおれが喰ってやろう)
……もう、おわりか?
(かわりに吐き出す命ごと
九撃全てを吸血鬼に叩き込む)



 ロク・ザイオン(蒼天、一条・f01377)にとって、その獣は落第者であった。
 傾いて、自らの耳の中に爆ぜる鼓動の音を聞くロクの眼に映るそれは、巣穴の底に籠って、弱った獣を食らうだけ。
 牙を立て、腰を振るう相手すら、誰かに放り込まれるえさを食らうばかりだ。
 果たしてそれを雄と、いや、獣とすら呼べるのか。
 自らの中で疼く雌を満たし尽くす程の獣足り得るか。
「……、っは」
 幻像も結ばぬ、その夢想に笑う。
 ビバヂッ、弾ける灼電が、三つ編みの先に結んだ紐を弾き飛ばす。赤熱する髪が、別種の生き物のように己の熱に空中を弾けて泳いでいる。
 値しない。
 組み敷かれてやるならば、迷宮の中の人狼の方がふさわしいまである。
 ジ、ジジ、と燻るのは燃える髪ではなく、掴んだ床の爪痕。炎熱を内包し、熱が光すら弾いた黒色と、自ら発する赤が蠢く髪に押されるように、ロクの体は四つ足を付きその爪先に光を煌々と滾らせている。
 胎の底。ぐるぐると廻るその僅かな空間に滑り込んだ黒球が暴れている。腰骨を震わせ、内腑を悉くに打ち響かせては、脳天に酷い頭痛を齎す本能が、全て否定する。
 足りない。
 満たない。
 この迷宮の人狼に明け渡すはずもないロクの体に、その獣が、吸血鬼が足りるはずもない。
 故に、断ずる。
 ヒトが大罪だなんだとする傲慢を以て、獣が発する。
「――おまえも、いらない」
 さて、それは果たして、獣が駆けた、と形容すべきか。
 ベリルの血から生み出された蝙蝠が弾けた。火花が散る。その翼と体毛に濡れた毒液などそれが駆けた後に意味など成さない。
 触れる傍から蒸発し、焼却されて消えるそれが彼女の脚を留める事は無い。
 一瞬だった。
 幾何学模様を描くように稲妻となった火炎が宙を駆ける。
 広がる灼熱の髪をなびかせて、飛び上がり、蝙蝠を足場に空を渡ったロクは、その身をベリルの頭上へと奔らせていた。
 ああ、春の匂いがする。
 緩慢に映る世界の中でロクは想う。足が蝙蝠を焼き潰して加速する。この感覚は鈍った頭が現在を認知できず過去の情景を引き延ばしているのだ。
 甘い香りがする。玄室を広く見る。
 血の匂いがする。燦燦たる叫びの残響が僅かに壁面を震わせている。
 仰ぎ見る吸血鬼の眼がロクを捉える。
 赤く光るそれに、ロクは想う。

 ――ああ、おれはお前を喰らってやりたいのか。

 床に膝を曲げ、その表面に両腕の先を突き、真下へと爪を走らせた後なのだとその刹那に理解する。
 腕を裂き炎を齎す傷痕に、彼女は跳ねた。
 蛇を蝙蝠を蜘蛛を、その腕で、脚で消費し縦横無尽に駆けるロクにベリルの声はぶれて擦れて遠く掻き消える。
 喉が渇く。
 ああ、早く潤さないと。ロクはただそう、思っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルーク・アルカード
【心情】
嫌な匂い。そして怖くて嫌なヒト。
いっぱいお仕事やらされたけど、いけないことだったのかな。
まだよくわからないや……。いつか分かるかな?
でも、今日もお仕事で来たから……前見たいに頑張るね。
※マフラーに顔を埋めて深呼吸して、マフラーをくれたヒトから『勇気』をもらいます。

【戦闘】
教えて貰った技術と戦闘方法だけど……僕、これしかできないから。

武器に『吸血』させて『武器改造』を施し、戦闘形態へ。
攻撃は『野生の勘』や『第六感』を全力で働かせ、避けきれないのは『武器受け』でガード。
見られると体が変になるけど、おかしくなっちゃう前に『捨て身の一撃』で攻撃。



 ルーク・アルカード(小さな狩人・f06946)にとって、その獣は。
 ベリル・アルカードという存在は、一体なんなのだろうか。
 口の中に捩じ込まれた粘液の苦みを覚えている。ベリルの所有を否定したルークにとって。
 その成長に沈む中の声を覚えている。親の慈悲に目覚めたような声に別れを告げたルークにとって。
 その手で既に数度殺した相手は、ルークにとって。
「……あ? お前、――」
 火炎の爪牙に裂傷を浮かばせ、そこから鮮血を流す獣が、ルークを一瞥する。
 己の傷にそれは余裕を崩さない。虫を払うように振るった刃にロクが距離を取れば、ルークに今度こそ視線を投げていた。
「……」
 思わずに目を逸らす。その眼の力を知っているから。脚を、腕を、その動きを漏らさず観察しながらも決して視線を結ばない。
 声がした。
「ああ、お前……そうだ」
 何かに気付いたような声色。そして、友好的にすら思える笑みが、その声に滲んでいた。
「久しぶりじゃねえか、元気そうだな」
 僅かな違和感と共に、心臓が掴まれる。
 かちりと、鍔鳴る音にルークはその刀を肩に担いだのだと知れた。
 知っている、その仕草も、声も。
「……ああ、駄目だな」
 だが、ルークの蘇る記憶に反し、唐突に、錆にも似た冷えた温度がその声を染めていた。ベリルは、唐突に天井を仰ぐように、ハア、とため息を吐く。
 覚えのある匂い。……だが、覚えてねえな。と零される疑惑が、ベリルに口を開かせる。
「お前、何だ?」
 告げられた問いに、ルークはほんの少しだけ、安堵していた。
「……さあ」
 嫌な匂いがする。
 血と生と死と痛みの匂い。そして、くうになる悦の匂い。ベリルを中心に起こる。
 だから、ベリルが嫌だった。それが齎す全てが嫌だった。
 それでも、彼の元にいた時は、何も考えず、ああ、楽でいて、気持ちが良かった。
 全部仕事だからと、その匂いを自ら溢れさせていた。
 それは『いけない事』だったのだろうか。
 ベリルというものはルークにとって。ルークというものはベリルにとって。
「僕も分からない」
 ここにルークは仕事で立っている。だから、同じだ。
 口をマフラーに埋めて息をする。それだけで何かが違う気がした。
 何が違うかは、分からない。いつか分かるのかも、分からない。
 短い刃が残る柄を握る。鮮赤の刃でルークは己の腕を裂き斬れば、刃に血を吸わせていた。
 比喩ではなく、文字通り。
 ルークの血を喰らうそれは、喰らったそれを己の身とする。腕の動脈、そこに突き刺した刃は瞬く間に成長し、身の丈程もある長太刀へと姿を変える。
 分からなくとも、やれることはこれ以外にない。
 これが、今ルークを形作る力の全てが、その敵から教わったものだとしても。
「――ッ」
 視線を上げる。
 赤い瞳が重なる。
 まるで、手を懸けようとした扉が、刹那に遠のいていき、背後に体を呑み込む影の腕が蠢くような感覚。纏う服の内側、手も届かぬそこが熱く燃える。
 奥底で、何かが体を内側からノックして、ここを出せと叫んでいるような酩酊が脳裏を埋め尽くす。
 その前に。
「……っ!」
 ルークの脚が、床を蹴りつけた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



 火炎の鬣を振り乱し、ロクは爪を奮わせる。
 零した血液から溢れ出た蝙蝠を叩き落とし、蛇を焼き尽くし、宙を旋回しながら駆け抜けて灼光は駆ける。
 大気を熱し風を纏いながら、耳脇から流れる烈火の隙間からロクは、ルークの駆け出す姿を見た。
 己の血に形作る刃が、かの吸血鬼に届くか。
 届くはずもないのだと、悟る。覚悟も力もきっと足りない。弱者が強者へと噛みついて、己の領分を護ろうとしている、弱きものの闘いだ。
 食われる者の抗いだ。
 故に、強者に負けるのならば仕方がない、と思う。
 故に、それならば弱者が勝てばいいと思った。
 それは、きっと、ヒトをヒトたらしめる傲慢さなのだろう。
 駆ける!
 グ、ァと床に吸い付かせるように踏み込んだ脚が、ルークの体を弾き飛ばす。自分の体を掻きむしり、腹の中を喰う虫を引きずり出してやりたい疼きが体を奪う前に。
 捻り、跳ねる。
 咢を開き突っ込んできた蛇の頭を、跳び躱して、その粘液に塗れる胴体を滑って、先へ。
 止まる暇はない。
 加速する。加速させる。
 裂いた蝙蝠が背後で弾ける。振り抜いた血刀の反動に僅かに旋回する体をそのままに疾駆する軌道を捻じ曲げ、更に加速。
 蝙蝠が翼を、蜘蛛の毒液が、散って跳ねて蛇がルークを捕えんととぐろを巻く光景に、脳の処理は間に合わない。
 全てがコマ送りのように脳裏を掠めては、次の情報に追い立てられていく。思考が薄れていく。経験と匂いだけがルークの動きを決定づけていた。
 赴くままに、駆けるその前方に、眷属が沸き起こっていた。先読みされた。そう考えた瞬間にはもうその脚を止められない。どれを対処しようとも二撃目に狩られる。そのビジョンが浮かび、蛇が咢を開いた瞬間。
 その横っ面を、灼炎が貫いていた。
 ゴ、ボカッ! と爆ぜる光に背を押されるように、崩れる蛇の頭を足場にロクが駆ける。瞬く間に、数十が火炎に包まれる様を見る。
 そして、幾何学を描くその炎の残影が掻き消えるよりも早く、その軌跡を全て薙ぎ払うように。
 炎の獣は急旋回、折り返し、一際激しい光条を伴う十の爪が、一閃となった。
 ゴ、グァ、と唸る火炎を纏い、玄室の床を焦がしながら四つ足を突く彼女は、ちらりと揺らぐ炎の髪の隙間からルークを一瞥する。直後、彼女の頭上から食らいついた蛇を後方へと宙返りながら蹴り飛ばすその傍らを、ルークは駆け抜けていた。
 ベリルへの道が開く。その道を一直線に進み、敵に向けて剣を一閃した。
 鋭い音がギュ、パ、と弾け、応戦したベリルの持つ剣と血の刃が交わる。一瞬の均衡。そして。
「――っ!」
 バギン、と砕けたのはルークの刃の方だった。
「なんだ、脆いじゃねえか、なあッ!!」
 それに驚愕する暇はない。既に再度振り下ろされた剣がルークへと迫り。
 頭上を蹴る震動が、遅れて降る。
「忘れるな、っすよ!」
 その剣の上から降った両拳を握った鎚の如き一撃が、ベリルの腕を叩き落とす。
 弾かれた剣が石の床に突き刺さるのをベリルが引き抜く隙を与えず、充嘉はその翼を竜の顎へと変じ、喰らいつかせる。
 立ち並ぶ牙がその胴体へと食らいついた。肉を抉り、潰す咢を強引にこじ開けたベリルに、充嘉は影を束ねた鈍い斧を振り下ろしていた。手傷を負いながらベリルが腕で弾いたその重い刃が床を盛大に砕き、破片が弾け飛ぶ。その中をルークは駆けて、刃を奔らせる。
 充嘉の鈍重な攻撃と咢の変則な攻め、その隙間を縫うルークの攻撃に、ベリルに傷を増やしていく。
「そそる感じになってきたじゃないっすか!」
 肉と共に布を千切り、露わになる肌に快哉を叫びながら、その攻撃は容赦なく放たれる。充嘉に返される言葉もない。
 追い詰める。連携、連撃がベリルを防戦に導いている。
 このまま、攻め続ければ突き崩せる。そう考えたその時、充嘉は、その口の端に笑みを見た。
 直後、肩に落ちる重圧に振り返れば、8つ足の影。
「ま、ず……っ!」
 その肩に、蜘蛛が憑りついていた。いつの間に、と疑問が走ると同時に閃きがあった。竜の顎が食らいついた時の血。それが眷属となったのだ。
 放たれた毒液を全身に浴び、息を忘れるほどの淫欲の酩酊が、充嘉の刹那を奪う。首へと放たれる脚撃を避けることも出来ず、二撃、三撃を受けたままに、首を掴まれ剛力のままに充嘉は壁へと投げつけられる。
 そして、その激突の衝撃に粉塵が巻き上がるよりも早く、腕が宙の何かを掴んだ。その背へと刃を立てんとしていたルークの頭蓋を、その五指が締め付ける。激痛に、しかしルークに危機をもたらすのはその力ではなく、逸らす事も出来ない赤い瞳。
 もがけどその指はルークの力では解けず、脚は宙に浮いて暴れるばかり。暗い、いつかの闇が迫る寸前。
 銃声が弾け、ベリルの顔の横へと跳び出した蝙蝠が撃ち抜かれて弾け飛ぶ。
「hey! put your hands up?」
 視線が逸れる。その先にいたのは裸の黒豹。場にそぐわぬ軽快さで、彼はこう言う。
「盛り上がってこうぜ、ってな」
 今度こそ、外さぬようベリルへと狙いを定め、引き金を引いた! そして。
 ――かちり。
 空しい、音が一つ転がった。
「あー、……」
 響いたのは、空の銃身が作動する音だった。ブリッツは片眉を上げ、自慢げに笑って両手を上げてみせる。
「……うん、こいつはお手上げ」
 紛れもなく弾切れだった。
「くだ――」
 らん、と告げようとしたベリルは、己の腕に突き立つ刃にその言葉を止めた。筋肉を破られた腕の力が緩む。
 僅かに、ルークは笑うように全身の筋肉を緩めていた。腕に吊るされ、体中を侵す熱が僅かに一瞬冷えていた。
 見えたのは、充嘉が叩き落とした剣。床に突き立っていたそれを、柄にひっかけた足先で跳ね上げたのだ。偏った力に反転し真上へと跳んだそれは、ベリルの腕へと突き立ち。
 緩んだ腕に僅かな自由を得たルークは、腕に滴る血に刃を作る。短い刃だ、ルークの胴ほども無く、しかし、依然頭を掴むその腕を切り裂くには足りる、血の刃。
「そんじゃ、惜しみなく!」
 パチン、とブリッツの指が弾かれる。残っていた攻性プログラムが一斉にベリルへと殺到するその瞬間に、刃がベリルの腕を切り飛ばしていた。
 グ、ザンッ! と音すら捨て去り、ルークは腕を脱し、駆けた。
 眷属たちとのせめぎ合いに数を減らしたとはいえ、百余りの殺到にベリルは眷属を呼び出し、爆ぜるように攻性プログラムを迎撃する。
「ッチ」
 だが、気付いている。それがただベリルを攻撃する為のものでは無いと。ブリッツが狙ったのは、攻性プログラムと眷属が相殺しあう物理的な壁。
 ベリルの幻惑の瞳の視線を断ち切る事。
 そうして、動く影一つ。
 しかし、その影は矮小ではなく、竜の姿をしている。
「ゴ、ォァアアアアッッ!!!!」
 敵と味方のその上から、邪竜へと変じた竜矢が突き進む!
 倒せと叫ぶままに、この快と不快の境目を無くす昏迷を拭うために倒さねばならない。
 倒せと。
 潰し、切り裂き、壊し、殺し尽くせと。
 吠える。
「ギャ、グアアァアッ!!」
 全てを巻き込まんと竜矢がその爪を届かせる。攻性プログラムと眷属の帳を諸共に、暴虐たる爪がベリルへと振り下ろされた。
「ッ! グ……ッ」
 裂く、というよりは、もはや叩きつけるような爪の一撃に、片腕が敵うはずもなく、軽々吹き飛んだベリルは舌打ちを放つ。地面に脚を突き、床を割り砕きながら勢いを殺し、竜の姿を隠す帳がそこにある。
「ゴ、アアッァアアッッ!!」
 その隙間から、僅かにでもその竜の眼を捉えられれば、即座に堕とし、周りを潰させることも容易だというのに。その一瞬を逃さぬように鬩ぎ合いを睨み。
 ドズン、と鈍い衝撃がその胸に響いていた。
「……、あぁ?」
 見下ろせば、そこには白い毛皮の人狼の赤い瞳と目が合う。その手には柄。だが、不意を突いたその刃は、ベリルの心臓へは届かず。
「――ッ」
 瞬間、ルークの全身を襲う脳を喰らう虫の振動と、狂暴な快感。
 息をする。マフラーに残る香りにルークは、その快感を噛み砕くが如く歯を食いしばる。
 届かぬなら、届かせる。
 その刃は彼の血で出来ている。
「……グ、ブ」
 意識を、命を失う寸前にまで血を吸わせた刃が、即座に姿を現した。
 制御が乱れたか、伸びた刃は歪に枝分かれをする剣樹となってベリルの体内を蹂躙しているのだ。
 背から幾本もの細い剣先を生やしたベリルは、柄から手を離したルークの前に、その咢から血泡を零して膝を突いた。その眼は、ルークを見ていなかった。視線はルークへと向いているが、そこに意思はなく。
 ただ、笑んでいた。死ぬ等と思っていなかったのか、それとも痛みと死の感覚にか。
 鼻腔を、一際濃い匂いが埋める。
 血の匂い。溢れる体液がベリルの体を伝い、床を汚している。
 血と、生と、死と、痛みと、悦の匂い。
 それが、ゆっくりと玄室の床へと倒れ込んでいき。
 消えた。
 霊廟の主。
 人間の社会、支配階級を作ることで、社会そのものを飼っていたその一人が、獣がその姿を消したのだった。
「……」
 ルークは、床に転がった血晶刀に手を伸ばす。
 血を失ってよろめく体は、それでもまだ生の匂いを放っていた。


 霊廟にあった霧は晴れ、道中の人狼も姿を消していた。
 主を失った彼らも、眷属同様に掻き消えたのか、それとも息のあるものだけは朽ちぬ獣欲から解放され、外へと至ったのか。
 それは分からない。
 ただ、霊廟は本来の静けさを取り戻していた。
 宮殿の宴は続く。だが、その一角は確かに今、沈んだのだった。
 悼むものもいない涸れた霊廟だけが、音もなく静かに、それを歓迎していた。
 

最終結果:成功

完成日:2020年07月14日
宿敵 『ベリル・アルカード』 を撃破!


挿絵イラスト