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黄昏二光る

#UDCアース #【Q】 #UDC-P

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「どーせ転生するなら、勇者か魔王かお姫様がよかったなぁ」
 ぼやく声は闇の中に消えて行った。割と精いっぱいのつぶやきだったから、そんなに声は大きくなかったけれど。それでも何か聞こえただろうかと振り返る異形のものに、それもまた異形の顔でそっぽを向いて素知らぬ顔をするしかなかった。
 異臭がしている。異形のものは死体から作られているのか、その匂いはすさまじかった。きっと、それ、も同じ匂いをしているのだろうかと小さくため息をつく。知られないように、小さく。
 時刻は夕刻だ。丁度窓から夕陽が傾いてビルのてっぺんに差し掛かったところである。場所は古い団地だかマンションだか、とにかく、本来は居住を目的として作られた建物群の一室であることは何となく知れた。
 そこに、異形のものが行き来している。中で部屋と部屋を繋げたのだろうか。それなりの数がいるだろうが、狭い、という感覚はなかった。化け物と、怪しげな人間が行ったり来たりしているさまはある種異様であったが、それを異様と感じるものは今は……いない。
 そう。ただひとり。それ。その異形のもの張本人の、一個体以外は……。
「!」
 異形のものが歌を歌っている。それは死体から作られた異形が歌う、邪神をたたえる歌らしい。
 それを聞いた周囲の人間、すなわち信者から悲鳴が漏れる。その悲鳴は歓喜だが、それは非常に驚いた。
「!」
 ドン、と、何かにぶつかった。異形の身体が揺れる。その手から何かが滑り落ちた。
「あ……」
 異形が異形になる前、死体になった際に握っていたものであろうそれは、手から滑り落ちて別の異形に踏みつぶされて簡単に砕けてしまった。
「……」
 それでもそれは何も言えない。身を潜め、息を殺し、隠れるしか、それに取れる道はないのだ。
 だって、この集団の中ではそれだけが正気で、それだけが異常なのだから……。

「えーっと、UDC-PのPはPeaceの意味……だって」
 何やら自分にとっては程遠い言葉を言って、リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)は肩をすくめた。
「何らかの異常によって、破壊の意志を持ってない個体をそう呼ぶらしいよ。本来ならありえないはずなんだけれども……」
 どうやら、UDC怪物の群れに一体、それが紛れ込んでいるらしい。と、リュカは言った。
「人を殺さず、悪時に染まらず……だって。俺なんかよりも、よっぽど善人だね。……だったら、怪物の群れの中にいるのは大変だろう」
 だから、救助しに行くんだ。って言って、リュカは一枚の紙を差し出した。三つほど、マンションのような建物と、その内部の地図が記載されている。
「いるのはこのマンション群のどこか。そこまでは絞れたんだけれども、そこからは絞れなかった。普通に生活している人も何人もいるマンションでの戦いになるから、立ち回りは気をつけて……って、程でもない」
 曰く、そのマンションには噂がある。
 よくある、友達の友達から聞いた話、というやつだ。
「そのマンションのある部屋を見つけると、数日後に自殺するとかそういうやつ。色々あるんだけれども、兎に角好奇心でそれを見に来た人を標的にしてるみたい。……ってことは、ひとの流れがあるだろうから。明らかにそういうのを見に来た人と一緒に行くとか、住人から話を聞くとかして、あたりをつけて突入してほしい」
 最悪、総当たりしても間に合うと思うけれどもね。と、リュカは自分の見解を述べて。それから、
「無事保護して、周囲にいるほかの怪物を排除したら、UDC組織がそれを引き取りに来るから渡せば終了だよ。……それまでは少し時間があると思うから、助け出された彼が周囲と折り合いをつけて行けるように、少し話をしてあげるといいと思います」
 なお、助け出されたUDC-Pは組織が人道的な範囲内で研究し、これからの戦いに役立ててくれるらしい。
「以上。そう難しい話じゃない。……ああ」
 そうしてふと、リュカは思い出したように一つ、革袋を取り出した。適当な誰かに手渡すと、中には色とりどりのビーズがいっぱい入っていた。
「もしかしたら使うかもしれない」
 どうやら、予知でUDC-Pがビーズの何かをぶちまけたのを思ってのことであるらしい。今度こそそれで終わりと、それでリュカは、話を締めくくった。


ふじもりみきや
いつもお世話になり、ありがとうございます。
ふじもりみきやです。

状況はだいたいリュカが言った通りです。
各章前に追加情報を記しますので、その際に詳細な受付期間等を記載します。
依頼自体はそんなに難しくないので、気軽にどうぞ。
一章:冒険
二章:集団戦
三章:日常
となっております。
三章ではお客様にお声をかけていただいた場合のみ、リュカも同行させていただきますが、あんまりそういう賑やかに遊ぶという雰囲気ではないと思います。

また、このシナリオは、短期間での完結を目指しております。
だいたい6月の3日には三章を完結させる目安です。
採用人数も、ごくごく少人数を予定しております。
ご了承ください。
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第1章 冒険 『友達の友達曰く』

POW   :    被害者周辺の人間に聞き込み。コミュニケーション

SPD   :    噂のマンション付近の現場検証、情報収集

WIZ   :    魔術、呪術的な観点からの情報収集

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 俺の名前は花村コウ。
 ごくごく普通の高校生……だった、はずだ。
 けれども死んだ。残念だけど、勇者にもお姫様にも悪役令嬢にも転生できなかったし、ついでにチートスキルも持てなかった。
 死に際はよく覚えてないけれども、何か事故があった気がしてる。両親と妹がいたけれども、あれだと生きてはいないだろう。
 大事なのは……そう、大事なのは。
 その死体をどこからか持ってきて、怪しげな儀式を使って、怪しげな化け物にしたやつがいるということだ。
 俺は化け物になって、俺を化け物にした人間と、そして、同じように化け物にされた化け物と一緒に今、生活をしている。
 いつか俺が、俺という人格があることに気付かれたら、きっと消されてしまうんだろうなあ。なんて、漠然と震えながら。

 夕陽が傾いてビルのてっぺんに差し掛かっていく。ここは西日がよくあたる。あとは……なんだろう。部屋の内部を破壊して、いくつもの部屋を繋げているらしいということは分かっている。
 逃げることは諦めた。俺は化け物になってしまったし、そもそもこんなに化け物と信者がうろうろしていたらもうどうしようもない。
 それにしても、これだけ死体の匂いがして、時々わけのわからない奇声を発しているのに、住人たちが様子を見に来ることはない。……いや、様子を見に来て殺されたりしているのかもしれないけれども。けど。大騒ぎになったりしたことはない。
 だから、それは何か。何かしら理由があるとは思うんだけれども……思うだけで、俺には何もできなかった。
 ぎゅっと手を握りしめる。ずっとあった感触がなかった。そういえばさっき落として割ってしまった。
『おにいちゃん。おにいちゃん。これね。これ。おんなじのね。かえったらつくってほしいの。おにいちゃんと、おそろいね……』
 腐ってしまったこの指先では、きっとなんにももう、作ることはできないだろう……。




************
マスターより
ただ今より5月30日20時40分まで第一章のプレイングを受け付けます。
4~6名様ぐらいのご参加を想定しております。
それを超える場合は、かけそうなら書きますが、難しそうなら申し訳ございませんが流します(先着順ではありません)。
プレイング自体は、特に難しいことは言いませんので、お好きにどうぞ。
また、今回は、お連れ様をと一緒のご参加は、ご遠慮ください(ソロ参加のみの募集です)。
エンジ・カラカ
三つのうちのドコかだって。
賢い君、賢い君、分かる?分かる?
うんうん、分からない。そうかそうか。

それじゃあ、ハナシを聞きに行こうそうしよう。
誰に聞こう……アァ、この辺に住んでいるヒト
ハロゥ、ハロゥ
面白い噂を聞いたンだ。
その面白い噂を確かめに、トモダチが乗り込んだケド
コレはトモダチに死んでほしくない。

トモダチは最近すごくすごーく思い詰めていたンだ
だから余計に心配。
噂の部屋がドコにあるか知っているカ?
コレは大丈夫。死ぬ理由が無いカラなァ……。

教えてくれなかったらカラスやスズメに聞くサ
最近噂になっている場所を知っているカ?
今日は助けに行くンだ。

教えてもらったらお礼はするする。
さーて、ドコかなァ。



 エンジ・カラカ(六月・f06959)は天を見上げて鼻を鳴らした。
 四角い箱だ。エンジにはそれ以上でもそれ以下でもないような、並ぶだけのその景色。灰色の建物は、いろんな世界を巡る彼の中でひときわつまらない色をしている……ように見えて、実のところ、そうでもないかもしれない。
 実際、あの中に沢山の人間がいるというのは、エンジにとっては不思議で不思議で仕方がない。……なので、
「三つのうちのドコかだって。賢い君、賢い君、分かる? 分かる?」
 楽し気にエンジは相棒の拷問具、賢い君に声をかける。勿論賢い君は応えないのだが、ふるふるとエンジは君を揺らすと、
「うんうん、分からない。そうかそうか」
 なんて満足げに一つ、頷いた。
「それじゃあ、ハナシを聞きに行こうそうしよう。わからないなら探しに行こう。そうだなァ……」
 うーん。って、首を右に傾げて。
「でも、誰に聞こう……」
 うーん。って、今度はもう一度左に首を傾げて。
「アァ、この辺に住んでいるヒト! そうだそうだそうしよう」
 ぴん! と、顔を上げた。それが一番手っ取り早い。なんてご機嫌でエンジは歩き出す。三つのマンションをぐるりと見まわし。どれにしようかなー。なんて指先でその番号をたどって、
「ここ!」
 特に意味はない。指をさした場所と全く違う、手近な近所の住宅にエンジは向かう。インターホンを押すと、いい具合に中の人がひょっこり顔を出したのでエンジはひらりと手を振った。
「ハロゥ、ハロゥ」
「ああ……。ええと、こんにちは……?」
 黄昏時。丁度夕飯の支度でもしていたのだろうおばちゃんが出てきて不思議そうな顔をしていた。すぐにエンジは笑顔を向ける。
「ちょっとお話、いい? いい?」
「そりゃ、ちょっとだけなら……」
「うん、ありがとー。……それで、そうー。面白い噂を聞いたンだ。その面白い噂を確かめに、トモダチが乗り込んだケド……」
「噂?」
「知らナイ? この辺のマンションで、見つかったら自殺するって……」
「ああ……。なに、あんたもそういうのを探しにきたくちかい?」
 もしかしたら同じようなことを聞かれたことがあるのかもしれない。噂が広まっていることを考えれば、ありうることであった。若干嫌そうに眉根を寄せるおばちゃんに、ふるふるとエンジは首を横に振った。
「チガウチガウ。コレはトモダチに死んでほしくない。だから、探しに来たンだ」
「おや」
「トモダチは最近すごくすごーく思い詰めていたンだ。だから余計に心配……。噂の部屋がドコにあるか知っているカ?」
 しょーん。と肩を落としてみせるエンジに、何度かおばちゃんは瞬きした。
「ええと、そうだねえ。ごめんね、はっきり場所は知らないんだよ。でも、2号棟がさ、一番入居者が少なくて浮浪者も住み着いてるって噂だから、この辺の人間は近寄らないよ。幽霊なんかが出るって噂も多いから、若い子はよく、肝試しみたいに行くみたいだけれどねえ……」
「なるほどナルホドォ……」
「それよりあんた、そんなところいって大丈夫なのかい? 住んでる人間から見てもあそこはなんか不気味だよ」
「んん? コレは大丈夫。死ぬ理由が無いカラなァ……」
 コレコレ。と己を指さすエンジに、おばちゃんは幾分か表情を和らげた。
「そうかい。じゃあ、気をつけておいきよ。友達見つかるといいねえ。……飴ちゃん食べる?」
「たべるー!」
 アリガトアリガト。と。お礼を言って飴を口に投げ入れてエンジは歩き出す。
 マンションの近くまで行くと、烏や雀がいるのを見かけてエンジは声をかけた。
「最近人間たちの間で噂になっている場所を知っているカ? 今日は助けに行くンだ。ドコかなァ。知ってたら教えてほしいなァ」
 教えてもらったらお礼はするする。なんて言うと、鳥たちも頷いて喋り出した。……これは案外早く見つかりそうだ。
「ところで……飴ちゃん食べるかァ」
 ついでとばかりにエンジが聞くと、烏も雀も首を横に振るので、なんだー。なんてエンジは残念そうに言って口の中の飴をかみ砕いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

篝・倫太郎
マンション群の何処か、なぁ……

西日が遮蔽物無しに見えるって事は
一番西側のマンション

部屋をぶち抜いて
奇声を発してるのが居ても違和感を覚えられない

階層は上の方が有益だろーなぁ……

そんな事を思いながら
ビーズ入りの革袋をポケットに捻じ込んで
散策を装った探索

行き来する住人を観察しても違和感ないように
この辺に越してくるつもりの人のフリでもしとこう

噂好きそうなオバちゃんとか
暇を持て余してそうなじーさんとか
その辺に聞いたら
噂話は聞けるかなァ……

出来りゃ、マンションの近隣の住人が良いな
マンションそのものは
どこまで邪神信仰の信者が入り込んでるか判んないし

仕上げはマンションの西側で疑わしきを尾行しよっと!



 一方。
「マンション群の何処か、なぁ……」
 篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)は難しい顔をして抱えた紙袋に目を落とした。
「お……っと」
 そして自然と寄っていた眉間の皺をぐりぐりとほぐしてから、紙袋からメロンパンを取り出して齧りつきながら顔を上げた。
 西日がよくあたっている。ここからだと西側のマンション……すなわち二号棟がよく見えていた。
(西日が遮蔽物無しに見えるって事は……。一番西側のマンション。あそこ、だろうなあ……)
 ほかのマンションだと、夕陽はきっと、あの二号棟の上に落ちていくことになるだろうと。ぐるりと回った感じから倫太郎は見当をつける。はむり。と、メロンパンをもう一口、口にすると、
「ん……。うまい」
 どんな状況でもメロンパンは美味しかった。
 やっぱり焼きたてのあつあつメロンパンはいいものだ。冷めてもおいしいけど。
(部屋をぶち抜いて、奇声を発してるのが居ても違和感を覚えられない……。だったら、階層は上の方が有益だろーなぁ……)
 うーん。と、倫太郎は首を傾げながらも視線を上へ、上へと向ける。最上階の部屋は、カーテンがしてなかった。けれどここからだと、さすがに中までは見えない。
(……けど)
 考えながらも、倫太郎はポケットにねじ込んだ、ビーズ入りの皮袋に思いをはせる。
(こう、ばーんって跳んだらのぞけるかもしれないけど、下手なことするのはなー……。マンションそのものはどこまで邪神信仰の信者が入り込んでるか判んないし
……)
 ばーん、と飛んで、通りすがりの体操中の羅刹です。なんて言っても信じて貰える自信は微塵もない。
(そんな時は……えっと、そうだな。うちの猫が屋上に、とか言い訳するか? いや、階段使えって言われればそれまでだしな……。……はっ)
 全く考える必要もないことを考えてしまった。
「やっばいな。知恵熱が出そうだ」
 えー。って顔をしながらも、倫太郎はメロンパンを片手にふらりと歩き出す。
 さて。と思いながらも倫太郎が向かったのは、マンションの近所に必ず一つはある公園だった。
「あ、どーも」
「どうも、こんにちは」
「こんにちはー!」
 孫とおじいちゃんだろうか。
「肝試しかい? まだ時間が早いんじゃないか?」
「あ。いやー。今度この辺に越してこようかと思って。……仕事の関係で」
 学校の関係にするか仕事の関係にするか一瞬悩んだのは秘密だ。躊躇わずに肝試しかい。なんて聞く老人に瞬きをしながらも、倫太郎が尋ねると、ほう、と老人は目を見張った。
「あのマンションのどれかにしようかと思って。どこがいいかなーって」
「マンションか。あのマンションは……おーい、文恵さんー!」
 老人が声をかけると、わらわらと文恵さんらしきおばちゃんとともに近所のおばちゃんが寄ってきた。
「なんだいなんだい?」
「この人が、マンションに越したいって。あんた、ほれ。あのマンションだよ」
「あのマンション? やめた方がいいんじゃないかなぁ……」
「そうそう。よくないうわさも聞くし」
「本当よ。こないだなんか……」
「あ。その噂って、なんの噂?」
 おばちゃん会議にも全く負けずに、倫太郎は口を挟んだ。おばちゃんたちは顔を見合わせて、
「友達の友達がね」
「親戚の友達が」
「いとこが聞いた話なんだけど……」
 曰く、ひとが消えるとか。訪ねた人は自殺するとか。そんなに入居者はいないはずなのに人の出入りが激しいとか。
「それって、どのマンションの話?」
 みんなが一斉に、二号棟のほうを指さした。
「ふーん。二号棟の人って、ここにはいないのか?」
「あたしの友達が三号棟に住んでるけど、二号棟に住んでる人ってあんまりいないのよね。前はいたけど……」
 文恵さんは、ある日突然引っ越ししていなくなった二号棟の友人について、夜逃げだよ。きっと。なんて声を潜めていた。ちなみにその人が住んでいたのは二号棟の真ん中ぐらいだった。
「うーん。そっか。あんまり評判よくないだろうし、やめとこっかなあ」
「そうだよ。そうしておきなよ!」
 おばちゃんたちの言葉にうなずいて、倫太郎はお礼を言ってその場を離れる。
(……お?)
 そして。
 最後に倫太郎は、その二号棟まで向かう。近寄ると何やら明らかに住人ではなさそうな、疲れた顔をしたサラリーマンがふらりと二号棟の中に入っていくので、
(……仕上げ!)
 そっとそのあとを追いかけた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鹿忍・由紀
バケモノになってまで正気な自意識があるってのは幸か不幸か
死にたくないなら、生きるしかないよね
元通りの生活は出来ないだろうから不便そうだなぁ

適当に外にいるマンションの住民に声を掛けて聞き込み
学生とか、こういう噂話好きみたいだけどどうだろ
噂を聞いてきたんだけど、何か知ってる?
そうそう、俺も肝試ししてみようかと思ってね
微塵も思ってなくても適当に話を合わせて聞き出し
一人聞いてダメなら更に続ける

出揃った情報を纏めて大体の場所を特定させる
見た目がUDCならうっかり倒さないようにしなくちゃね
どうやら俺より大分善良なやつみたいだし



「それでさ、すっげえの! あんた見なかったのか? あれが……」
 興奮してまくしたてる男子高校生に、鹿忍・由紀(余計者・f05760)はうん、うん。と、頷いて聞いていた。内心内容は全く興味がないというかほぼ右から左へ素通しであったのだが、見た目だけはちゃんと聞いているふりをして。時々それで? なんて相槌を打っている。
「ばっかじゃない。あいつのそれって、ただの家出でしょう? きっとどこかの女の子の家でも転がり込んでるよ! あいつに自殺なんて。そんな根性ないない」
 隣にいる女子高校生が、パタパタと手を振っている。おっと。聞き流しそうで聞き流してはいけない情報が出てきた。
 由紀は目を細める。普段はけだるげなやる気のない表情をしているが、今日は子供たちに合わせて若干真面目な顔を作っていたのだ。けれども、そろそろ億劫になってきた。落ちてくるテンションとともに変わる表情を隠しつつも、由紀は声を上げる。
「そうなんだ? でもその子、その例の部屋に行ったんだよね?」
「えー」
「うー……ん」
 学生たちは互いに改めて視線を交わした。
「たぶんいった……んじゃない? 二号棟にも行けない弱虫ーって言ったら、じゃあ行ってきてやるよーって」
「でも、証拠もなんにもねーもんな。それに、見たら自殺するって言ってたけど、あいつ自殺じゃなくていなくなっただけだし」
「そうそう。だから、家出だってー。……家出だよね? あたしのせいじゃないよね?」
 ほんの少し、女の子のほうが心配そうな顔をしたので、由紀もちょっとだけ考えこんで、
「……確かに、いなくなったなら自殺じゃないかもしれないってことだよね」
「う、うん!」
 そういった由紀に、なんだか安心したらしい子供たち。
 それから軽く世間話をして別れると、
「……しんど」
 何とも言えない面倒くさそうな顔で、由紀は軽く己の頭を掻くのであった。
 結局、二号棟は怪しいながらも確証は得られなかったので、由紀はさらに周囲を見回す。
 丁度、黄昏時の帰宅時間だ。学生鞄を持ってぶらぶらしている子供に目をつけると、由紀は軽く声をかけた。
「やあ、こんにちは」
 やあって何だよ、やあって。とは内心。精一杯、不審者じゃないよー。と笑顔を向ける由紀に、女子高校生は瞬きをした。
「あのマンションの、うわさのことなんだけど……」
「……ああ」
「噂を聞いてきたんだけど、何か知ってる?」
「うん。自殺する部屋の話だよね?」
 少女も、心当たりがあるようだった。頷いた彼女に、由紀はその笑顔を張り付けたまま、
「そうそう、俺も肝試ししてみようかと思ってね。なんだか楽しそうだろう?」
 微塵も思ってなくても適当にそんなことをいう由紀に、少女はうん、うん、と、頷く。
「でも、やめておいた方がいいよ。あそこは本物だって、みんな言ってるから。二号棟に行くと、呪われるんだよ」
「えー。でも、二号棟に住んでる人も、いるんだよね? 知り合いとか、いないの?」
「うーーーーーーーん」
 彼女は首を傾げて、そういえば最近見ないなあ。なんて言った。
「えっ。なにそれ集団失踪? こわいなー」
 なんとか棒読みは回避された。女の子は真剣に考えている。
「そんなことないよ。夜逃げだったり……。もともと二号棟は人が少ないから……。あ、でも」
「ん?」
 は、と少女が顔を上げた。
「三階より上って、確かどこかの会社が借りてたんだよ。社員さんが泊まったり、オフィスになったりしてるんだって」
 だから、知ってる人が少なくても変じゃないし、もしかしたらその会社自身が倒産したとかで飽きになっているのかもしれない。だから変じゃない。という少女に、
「……なるほど」
 そこで初めて、自分の感情のこもる声で、由紀は頷くのであった。
 そして幾度かその情報の裏付けをとった結果、やはり、問題の部屋は三階であるということが確認される。
 マンションは四階建て。エレベーターはない。そして、四階もその少女の言っていた会社が借りていたということが確定された。
「……だったら、あとは」
 殴りこむだけである。たるいがそれではなしはおわりだ。あとはそのUDC-Pを確保して、敵を倒して、終わり。
(……バケモノになってまで正気な自意識があるってのは幸か不幸か。どっちなんだろうな……)
 あとは簡単な仕事だ。だからこそ、そのあとのことを考えて。由紀やはっぱりだるい、とため息をつく。
「死にたくないなら、生きるしかないよね。……元通りの生活は出来ないだろうから不便そうだなぁ」
 そしてそのケアを自分たちがするのか。考えるときが遠くなる。……遠くなる、けれど。
「……見た目がUDCならうっかり倒さないようにしなくちゃね」
 ため息のような愚痴を吐いて、由紀はゆっくりと歩き出す。
(どうやら俺より大分善良なやつみたいだし……)
 助けたら、何といおう。こんな自分が、善良な化け物にかける言葉なんてあるのだろうかと。由紀はそっと二号棟に視線をやるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リスティ・フェルドール(サポート)
援護・治療・盾役として参加いたします。最優先は自分を含む仲間全員の生存と帰還。成功の立役者ではなく、命の守り人として最悪の結果を回避できれば、それ以上に望むことはありません。

真剣な雰囲気は邪魔をせず、仲間同士の険悪な雰囲気はあえて朗らかに。チームワークが生存率を上げる一番の方法として行動します。

ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
あとはマスター様におまかせいたします。よろしくおねがいします!



 リスティ・フェルドール(想蒼月下の獣遣い・f00002)は顔を上げて目を細めた。
 先ほどすれ違った猟兵たちに、ことのあらましはある程度聞いていた。
 UDC怪物の中でも、いうなれば善なる心を持つUDC-Pがこの場所に現れたこと。
 とはいえその「彼」が現れたのはマンション群の一室であり、それが実際どこなのかを猟兵たちが調査していたこと。
 調査のヒントとして、UDC怪物を崇拝する信者たちは様々なうわさを流し、その場所でひとを集め、そしておびき寄せられた人を殺していたこと……などを。
「何て……恐ろしいことでしょう」
 自然と、リスティの唇からそんな声が漏れる。そうしてぐ、と拳に力を籠めると、
「だったら僕は……僕にできることをするだけです。命の守り人として、最悪の結果を回避できれば、それ以上に望むことはありません……!」
 猟兵たちの後を追って、走り出した。

 目標の部屋は三階であったエレベーターはなく階段でリスティは駆け上る。先行する猟兵たちの後を追って部屋へと飛び込んだ。……その瞬間、
「……!」
 物凄い悪臭が鼻をついて、リスティは顔をしかめた。吐くことも泣きだすこともしなかったのは、リスティにとっては覚悟のようなものがあったからかもしれない。
「大丈夫ですか! ……大丈夫ですか」
 部屋は酸鼻を極めていた。血が飛び散り、あちらこちらに人が転がっている。若者の数が多い。恐らくは、うわさを聞いて集まったものや、異臭に苦情を言いに来た住人などをここで殺していたのであろう、ということがうかがえた。
 どうする、と仲間たちが話していた。彼らの目的はUDC-Pの保護である。そして、それは一刻を争う状況であるのだ。猟兵たちがここに突入したことはもはや信者とUDC怪物にも知られている。ゆえに、どう転ぶかはわからない。
「だったら僕がここに残ります。ここの人の治療は任せてください! 皆さんは、その方……UDC-Pさんの保護をお願いします」
 その言葉を聞いて、リスティは躊躇わずに声を上げた。UDC-Pの詳細がわからない以上、依頼の成功のためにはそれが一番だと思ったのだ。幸い、ここには今のところ危険はない。……生き残っている人も、ごく少数のようだから。
 リスティ一人でも、何とかなる。いざとなったらこの体を張ってこの人たちを守ると。しっかりとした目でリスティは言った。
「こちらは大丈夫です。よろしくお願いします。こんな……」
 こんなひどいところは、早くなくしましょう。と、ほんの少し、苦しそうな声音で言うリスティに、
 わかった。と、仲間もまた、頷いた。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 集団戦 『黄昏の信徒』

POW   :    堕ちる星の一撃
単純で重い【モーニングスター】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    神による救済の歌声
自身に【邪神の寵愛による耳障りな歌声】をまとい、高速移動と【聞いた者の精神を掻き毟る甲高い悲鳴】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    黄昏への導き
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【自身と全く同じ『黄昏の信徒』】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●第二幕
 マンションの階段を駆け上がる。丁度先を行く者たちは、同じように二号棟の三階へとあたりをつけていたようだった。
 ちらりと周囲に視線を向ける。上ってきた階段は四階に続いていた。後、非常階段もあることが見て取れた。
 四階も、危険だろうな。と、誰かが投げやりに言うと、だな、と、誰かも頷いた。けれどもひとまずは、うわさの三階へとたどり着く。既に廊下には異臭が漏れていた。そうして一つの部屋の扉を蹴るようにして破ると、
 もわ、とした、血の匂いが周囲に広がった。
 足元には人が転がっていた。学生が多かった。生きているものがわずかで、残りは死体であった。恐らくは、うわさを見に来て殺されたのであろう。
「な、なんだ、お前たちは!」
 疲れたような顔をしていたサラリーマンが、死体を抱えながらそう声を上げた。
「いや、もうなんでもいい。お前達も仲間になれ……!」
 そう言いながらも、男は死体を担ぎながら走り出す。追いかけようとした猟兵たちの間を遮るように、異形のものが彼らの前へと立ち塞がった。死体から作り出されたUDC怪物であろう。
 素早く誰かが周囲を見回して、ここにはあれがいない、と声をかけた。UDC-Pのことだろう。匂いがしないというので、それならば四階である。
 後から追いついた猟兵が、ここのけが人の面倒は見ると声を上げた。だから心配することなく先に進んでほしいと。
 その間にも、奇妙な死体から作られた怪物たちが、はい出るように部屋のあちこちから姿を現した……。



 足元でなんだか派手な音がして、俺は思わず下を向いた。
「なんだ」
「なにがあった」
 信者たちはうろたえている。怪物のほうは……というと、特にそれを理解するでもなくふらふらとしているので、俺もそれに倣うことにする。
「敵対者か」
「わからない」
「問題ない。殺して素材にしてしまおう」
 人間のほうはやる気満々で、俺は悩んでしまう。もし、正義の味方なんかがいて、ここを潰しに来たのなら。俺も一緒に殺されるかもしれない。でも、もしかしたら……もしかしたら、俺も助かるかもしれない。
 ……助かる。
 …………どうやって。
 死体の俺が、人間に戻れたりするのかなあ。……なんて。
 そんな自分でも甘いってわかってる。甘い夢を見ながら俺は祈るように下を向いた。

 どうか。
 だれか。
 俺は勇者でもお姫様でも何でもない。何にもない。ただの高校生の死体でしかないけれど。
 どうか……どうかせめて。

 頼むよ。せめて俺だって、普通の人みたいに死にたいんだ……。


******
第二章:
集団戦です。
三階からスタート。敵をばっさばっさと薙ぎ払って四階まで進んでUDC-Pを回収してください。
苦戦系じゃなくて薙ぎ払う系です。
好きなように、思いっきり暴れていただければいいですが、
信者(人間)もいます。彼らも猟兵に敵対してきますが、猟兵に傷を追わせるまでの力はありませんので、生かすも殺すもお好きにどうぞ。
また、UDC-Pは猟兵から見たら、一目見てそれとわかるらしいので、間違って撃つという心配はありません。
別にプレイングによってUDC-Pが死ぬとかそういう罠はないのでお好きにどうぞ。

プレイング募集期間は5月31日8:30~11:00まで。
成功度に達しない場合は、サポートを頼らせていただく予定です。
だいたい10名前後の参加者様を想定しております。
なるべく全員描写を心がけますが、6月1日夜までに書ききれない場合は、プレイングをお返しすることがあります(先着順ではありません)。
以上になります。
どうぞ、よろしくお願いいたします。
エンジ・カラカ
臭う
アァ……知ってる。馴染みのある臭いだなァ……。
賢い君、行こう。

薬指の傷を噛み切って、君に食事を与えよう。
真っ赤な糸を一人に巻きつけて
そのまま振り回して他のヤツラをなぎ倒す。

邪魔なンだ
早くどけどけ。賢い君が怒るヨー。
アァ……チガウ臭い。
これはニンゲンの臭い。生身のニンゲンがいる

賢い君は危なくないヤツラは殺さないって言ってたよなァ……。
コレはどっちでもイイケド
賢い君に嫌われるのは嫌だ嫌だ
ニンゲンは適当に殴って気絶させようそうしよう。

蜘蛛の巣にかかったヤツラみたいに
糸でぐるぐる巻いたらニンゲンも抵抗しないカナー
うんうん、やってみようそうしよう!

アァ……たーのしいなァ……。


鹿忍・由紀
わかっちゃいたけどひどい有様だね
後の掃除が随分大変そうだ
まあ、俺の仕事には関係ないことだけど
UDC-Pの保護も他の人にお任せ
俺は邪魔なやつらを片付けよう

踏み込んで、状況確認
UDCの怪物を狙って影雨を撃つ
あの武器には当たりたくないから距離を取って応戦する
自殺しにきたならまだしも、
ただの噂を聞いてきただけでこんな姿にされるなんて災難だね

信者はまあどっちでも良いから巻き込まれたならドンマイ、くらいの気持ち
死にたくないなら退けたらいいよ
でも直接邪魔するならダガーで斬り捨てる
一発での致命傷は一応避けてあげよう
動けなく出来ればそれでオーケー
指が一、二本無くなったくらいでギャーギャー騒がないでよ、うるさいな



「わかっちゃいたけどひどい有様だね」
 由紀が、まるで映画の展開の感想でも述べるように言うと、エンジはついと上のほうを見た。丁度窓から差し込んだ夕陽が落ちていく。
「臭う。アァ……知ってる。馴染みのある臭いだなァ……」
「臭いってのはなかなか落ちないらしいね。後の掃除が随分大変そうだ。……まあ、俺の仕事には関係ないことだけど」
 なんと話の呟きに由紀が応えると、エンジはぱちりと意外そうに瞬きをする。
「掃除。掃除かァ。そっちの掃除はしたくないなァ」
「組織の職員さんがしてくれるだろ。だったら俺は……」
 つい、と由紀が動いた。動くと同時に、たそがれで作られた影も動く。影から現れたのは、どこにでもあるようなダガーだ。ただし、破魔のまじないを施している。
「邪魔なやつらを片付けよう。保護とか手助けとか、そういうのは誰かに任せる」
 言うと同時に、ダガーが全方向に放たれた。
「なるほど任せる、それがイイ。さあ、賢い君、行こう行こう」
 踊るダガーの間を縫うように、エンジが走った。同時に薬指の傷を噛み切って、相棒の賢い君に食事を与える。
「来たぞ!」
「こちらからも……」
 信者たちが黄昏の信徒の陰に隠れて逃げようとする。意思がないのだろうか。オブビリオンはふらふらと。二人の前へと進んできた。
「は……っ。いい的だね。……貫け」
 言いながらも、即座に由紀は後ろへと跳ぶ。ごぉん、という音とともに振り回された鉄球を紙一重でよけて、そしてすかさず複製したダガーをその個体へと叩きつけた。
「――!」
 恐ろしい悲鳴のような歌が走る。それに目を眇めながらもエンジは賢い君から出された真っ赤な糸軽く振った。声を発する個体を巻き付ければ、ぶんと振り回して群がる敵たちを薙ぎ払っていく。
「邪魔なンだ。早くどけどけ。賢い君が怒るヨー」
 声をあげながらも巨大な武器ごと敵を振り回すエンジ。それをくぐりながらも由紀もまた前へと進む。方位を突き崩すように。まず目指すのは階段で……、
「アァ……チガウ臭い。これはニンゲンの臭い。生身のニンゲンの臭い」
 走りながらもエンジがそうつぶやいた。信者と信徒。生きてるのとそうでないの。あああ面倒くさいなァ。なんて、呟くと同時に、
「賢い君は危なくないヤツラは殺さないって言ってたよなァ……っ」
 掻い潜ってエンジに突進しようとしてきた信者を、エンジは糸をあえて振るわずに懐へと呼び込む。そのまま空いた手でしたたか腹を殴りつけて気絶させる。
「おや、優しいんだね」
 ふ、と由紀が冗談めかした口調で言った。丁度殴りかかってくる信者の手を、ナイフで貫いて絶叫を響かせたところであった。
「あ、ちゃんと死にたくないなら退けたらいいよっていったのに。まあ死んでないけど」
 ドンマイ、って、なんとなく親指を立てる由紀。たかだか手を怪我したぐらいで悲鳴を上げて転げているぐらいなのだから、これ以上歯向かってはこないだろう。なんて判断をしてて由紀もまたぬらりと襲い掛かってくる別の鉄球から距離をとる。返すように刃を投げるも、特に信者のほうを避けるような真似はしない。一応一撃で殺さぬ程度に、とは思っているが……。そんな由紀に、ひらりとエンジは手を振った。
「コレはどっちでもイイケド」
 と、自分を指さしてから、
「でも、賢い君がダメっていうんダ。賢い君に嫌われるのは嫌だ嫌だ」
「ふうん? 俺はどっちでもいいけどな。こういう時にひとりは楽だね」
 冗談か本気かわからぬ口調でけだるげに言う由紀に、なるほど? なんてエンジも納得したようなしないようなそんな声。階段を昇ればいよいよ信者よりも信徒のほうが増えてくる。どこからか持ってきた死体や、あるいはここで作った死体たちの、慣れの果てなのだろう。
「……自殺しにきたならまだしも、ただの噂を聞いてきただけでこんな姿にされるなんて災難だね」
「サイナン。なるほどこういうのをサイナンっていうのかァ」
 言いながらも、ふっとエンジは何か違う匂いを嗅いだ。
 ほとんど反射で、敵を巻き付けていた糸を走らせる。薙ぎ払われた敵の向こう、
「!」
 びっくりしているような信徒の姿を見つけた。
 二人は一瞬で距離を詰める。そして通り抜けてその反対側の敵を蹴散らした。怪しげな個体の後ろ側で、何やらわめいている信者をエンジは殴り飛ばし、あるいは由紀がナイフで貫く。
「ま、そういうのはほかの人にお任せしちゃおうって」
「うんうん。今は興味ないない。今はー……」
 ちらと視線を向ける。信徒に交じって表れる信者にエンジは糸を振るう。蜘蛛の糸のようにぐるぐる巻きに糸を巻き付ければ、
「これで抵抗しなイ? ニンゲンも抵抗しないカナー? ねえねえ、どうどう?」
 やってみようそうしよう! なんてやってみてからそういって、どや顔で由紀のほうを見るので、由紀は全く興味がなさそうに、
「うん、それもう抵抗しないっていうか抵抗できないと思うよ」
 すっごいぐるぐる巻きだねえ。なんて呑気に言って、そして駆け込んできた信徒を由紀は切り伏せる。
「……指が一、二本無くなったくらいでギャーギャー騒がないでよ、うるさいな」
 大げさとも思える悲鳴にわずかに耳をふさぐような仕草をしながら、由紀は肩をすくめた。
「動けなく出来ればそれでオーケーだけど……うるさいなら、喋れなくなってもらってもいいんだよ。ね?」
 なんてどうでもよさそうな由紀の言葉に信者たちが震えている間にも、エンジは続々と赤い糸玉を作り上げていくのであった。
「アァ……たーのしいなァ……。ぐるぐるいっぱい」
「いや、来た職員がきっとびっくりするだろうね」
 そんな話をしながらも、勿論信徒たちを屠る手も止めない。
 黄昏の落ちる部屋はそうやって、様々な音を響かせながらも徐々に制圧されていくのであった……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

篝・倫太郎
さっさと終わらせて保護しねぇとな

拘束術使用
射程内の総ての敵に鎖での先制攻撃と拘束
重い一撃なんざ喰らってる暇はねぇからよ
先手取って攻撃させないのが一番ってな

拘束術の使用と同時に華焔刀でなぎ払いの範囲攻撃
鎧無視攻撃も乗せてく
華焔刀の攻撃は拘束から逃れた対象を優先

出来るだけ迅速に三階を片して四階へ

四階の敵も三階同様に対処
信者は恐怖を与えて無効化を狙う
動く奴はバディペットの烈に威嚇させよう

Pを見つけたらビーズ入りの革袋をPに押し付ける

遅くなった!助けに来たぜ?
もうちっと辛抱しててくれ
それ、ちゃんと持っててくれよ?

敵の攻撃は見切りと残像で回避
回避する事でPや仲間に攻撃が向かう場合は
オーラ防御で防いで凌ぐ



「……しょ……っと!」
 倫太郎の見えない鎖が空を舞う。災いを縛るそれは即座に目の前にいる黄昏の信徒のみを縛りあげた。
「させるかよ! 重い一撃なんざ喰らってる暇はねぇからな」
 鉄球を振り回そうとする敵の、その腕向かって倫太郎は鎖を叩きつける。ぐいと引き倒して愛用の薙刀、華焔刀で逃れた敵を切り払い。そうして倫太郎は階段に足をかけた。
「って。うじゃうじゃいやがるな。……ったく。さっさと終わらせて保護しねぇとな」
 じきに陽が沈む。そうなるとまた仕事もやりにくくなるだろう。
 的確に襲い掛かってくる敵をしばきながらも階段を駆け上る。悲鳴が聞こえて倫太郎は声を上げた。黄昏の信徒ではない。彼らを生み出した信者たちが、何事か声をあげながら信徒に命令しているのが見えた。
「……」
 す、と目を細めたのは一瞬だった。倫太郎は一気に階段を駆け上がって華焔刀を旋回させる。何事かわめく信者たちの鼻先を、ものすごい勢いで薙刀が掠って通り過ぎて行った。
「動くなよ。悪ぃけど手加減はしねぇし、死んでも知らないからな」
 別に殺すつもりはないが、冷たい声で倫太郎は言い放つ。恐怖を与えるような物言いに震え上がる信徒たち。気合を入れて怖い顔を作りながらも、倫太郎はちらりと自分の傍らにある白と灰の斑な毛並みと金の瞳が特徴的な狼に視線をやった。
 おぉぉぉぉぉん、と。
 その視線に応えるように狼は……倫太郎のバディペット、烈は遠吠えを上げる。
 びくぅ、とわかりやすいぐらい固まった信者たちを無視して、倫太郎はその傍らを通り抜けた。
「さて……と」
 四階も、三階と似たような状況であった。信徒のほうは数が多いだろうが、信者がいないというわけではない。相変わらずの死体の匂いと、うめくような化け物の声。逃げ惑っていたり、信徒に向かって何やら怒鳴っているものもいる信者たちに一瞥をくれて、倫太郎はぶん、と見えない鎖を問答無用で薙ぎ払った。
「!」
 絡まり、引き倒されるようにして倒れていく信徒たち。同時に薙刀を振るいながら倫太郎は進む。先に行く仲間が穴を穿ってくれていたからか、……それとも、
「いた!」
 何か惹かれるものがあったのか。そこにいた信徒は、ほかの信徒と同じ姿をしていたけれども。倫太郎は一目見て、それがそれと分かった。
「!?」
 声をかけられた信徒は、明らかに動揺しているようであった。自分が本当に呼ばれたのかと、きょろきょろしている姿に倫太郎は即座に接近し革袋を押し付ける。ビーズが入っている、それである。
「遅くなった! 助けに来たぜ? もうちっと辛抱しててくれ」
「え? ええ???」
 流ちょうな声で、それは驚いたような声を上げた。押し付けられた革袋を、その奇妙な形に変わっている手で持とうとして、上手く持てずに手に引っ掛ける。そのさまが人間らしくて、倫太郎は笑いかけた。
「それ、ちゃんと持っててくれよ?」
「お、おう??」
「んじゃ、軽ーく殲滅しますか!」
 まずははなしはそこまで! とでもいうように、明るく倫太郎は声を上げてまた敵へと向き直る。見えない鎖が力強く振られて、勢いよく走った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
好奇心は猫をも殺すとは言え
運が悪かったで片付ける訳にはいかない、いのちの重さ

帛紗を、ふわり
高速で詠う馨遥にて敵を眠誘
駆けながら抜刀し、
刺突いては、返し刃で薙ぎ払う

第六感で補う死角
詠唱が間に合わぬ際は
空を横に裂いて衝撃波

疾く上階へ
素早くUDC-Pの存在確認
彼の安全最優先
対象保護の為に縫の奔る道を拓く

大丈夫
絶望するには未だ早いよ、と
彼を護って差しあげて

背に庇える際は
オーラで少年ごと防御

信者は不殺
馨遥で深い眠りへ
戦が落ち着いたら縄で捕縛

妖達は馨遥と刀で灌ぐのみ

敵一掃後
UDC-Pを優しく抱き締めている縫の頭を撫で、労いを

少年へ穏やかな笑み向けて
手を差し出す

あなたの未知の道を、
どうか諦めずに居てください



 綾は走った。
 途中に転がる物言わぬ死体は儀式に失敗したそのなれの果てだろうか。
(好奇心は猫をも殺すとはいえ……)
 かきわけ進みながら、痛ましげにそっとその目を伏せる。その様子から察するに、怪しげな宗教とは無縁の。ただのなんでもない日常を送っている人々ばかりであるように綾には思えた。
「運が悪かったで、片付ける訳にはいかない……。そうですね?」
 誰にともなくつぶやいて、綾は刀を抜いた。真冬の黎明の如き美しい刀身が、容赦なく翻る。
 漂うような化け物の、信徒たちを一瞥する。突き刺し、薙ぎ払い。そして顔を上げて階段を一気に駆け上がった。
 ふわりふわりと動きの鈍い信徒たちを突き崩し。信者のほうはちらりと一瞥をくれるだけで気にせずに彼は捨て置くことにする。先ほどまで血気盛んだった信者たちは、不思議なぐらい静かにその姿を見送った。……それは、
 四階へとたどり着くと、一斉に信徒と信者がこちらを見た。信徒たちが金切り声を上げ始める。それとほぼ同時に、
 綾は帛紗をふわりとかざした。花開くような美しい香りが周囲に満ちる。
「神の世、現し臣、涯てなる海も、夢路に遥か花薫れ」
 その香りに導かれるように、ふらふらと信者も信徒も動きを鈍らせた。眠りを誘い、または浄化し癒すその『馨』が周囲にばらまかれていく。
 力が抜けたように黙り込む信徒たちを、逃さず綾はその胸に刃を突き刺した。
「……そこですか」
 いた、と不意に。つぶやきながらもはっと振り返る。その香りから逃れた信徒が一人。巨大な鉄球を振り回し綾へと投げつけたところであった。
「!」
 間に合わない。一瞬で綾は判断して血で汚れた地面を蹴った。それと同時に空を裂く衝撃波を放って敵の銅を切り裂き沈黙させる。それと同時に、
「わ……っ!!!」
 そのまま地を蹴った勢いで、目標のUDC-Pの顔を見た。何ら周囲の信徒との違いはないが、それであると綾にも確かにわかった。向こうも、綾がこちらを見たのに気付いたようで。何か素っ頓狂な声を上げていた。
「縫」
 紅唐着物のからくり人形が文の言葉に応えて駆けた。『彼』の前にたどり着くと、
「なに。え……あんたたち、何」
 『彼』は顔を上げる。表情は仮面があるからか全く変わらないが、とにかく混乱しているように見えた。
「え、退治されるの? 俺も?」
「あなたは退治しませんよ」
 思わず、という感じで『彼』から口を突いて出た言葉に、綾はその様子に目をやりながらもやんわりと笑った。
「そうなの? えっと……俺、死体で化け物なんですけど」
 わた、と彼は手を振っている。それで、他の猟兵から渡された皮の袋が落ちそうになったから、
「大丈夫。大丈夫です。……ねえ、あなた」
 綾の縫はからくりの腕でそれを押しとどめる。それから、
「絶望するには未だ早いよ。……大丈夫。縫、彼を護って差しあげて」
 こくり、と縫は頷いたように見えた。それから綾は縫を近くに置いたまま『彼』に背中を向ける。そのままオーラで『彼』を守りながらも正面へと向き直った。
「!?」
「なんだ。なぜあいつ、喋って……!」
「あいつが手引きしたのか……!」
「ほら、静かになさってください」
 怖がりますよ。なんて言いながらも、綾は馨を翳して喚く信者を眠らせていく。
 そうして再び信徒たちへと向き直った。殲滅に、そう時間はかからないだろう……。

 そして。
 すべての敵が殲滅された時。
「お疲れ様でした。縫も、頑張りましたね」
 すべてが終わり、何処か得意げな顔をしている縫の頭を綾は撫でた。縫は『彼』を守るために、ずっと『彼』のことを抱きしめていたのだ。
 それから呆然とした顔をしている『彼』に向き直った。
 穏やかに微笑んで、綾は手を差し出す。
 その手を見つめて、『彼』はほんの少し、沈黙した。
「俺は……」
 何か言いたげに口を開いて。
 そして、『彼』は押し黙る。
「あなたの未知の道を……、どうか諦めずに居てください」
 だから、綾は勝手にその手を握った。
「……」
 『彼』はその手を、握り返すことはできなかったけれども。
 ただじっと、その手を見つめて。それから緩く、その手を振った。
 きっと、泣きたいのだろうと、綾は勝手に思ったから。優しくその背中をたたいた。
 顔のない『彼』はただ、小さく俯いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鵜飼・章
人間やめたんだ
おめでとう、って口に出したら
きっと怒られるんだろうな

速い子はUC【無神論】で止まって貰おうか
耳障りな音楽という点ではいい勝負だろう
音による【精神攻撃】と【催眠術】で敵を足止めし
鴉達や闇くんに攻撃させる
敵の悲鳴には【狂気耐性】で対応
おやすみなさい

信者の人には【コミュ力/恐怖を与える】で花村コウという高校生を知らないか強めに聞いてみるね
彼と話す糸口になるかもしれない
この場合後始末は警察の仕事かな
展翅テープで縛って転がしておこう

花村さんを見つけたら保護
こんにちは
僕、何に見える?
人間だよ
死にたければ殺してあげるけど
死ぬのって怖いし痛いし最悪だよ
だから無責任に『生きてみない』って言ってみる



 鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)は階段を駆け上る。
「エレベーターぐらいついていてもよかったと思うんだけれど。ねえ?」
 ねえ。なんて話を振られた鴉たちは、意味が分かっているのかいないのか、素知らぬ顔だ。四階のフロアに到達すれば、すでに隠れる気もないのだろう。姿を現す異形の使徒と、道理のわからぬことをわめく信者がいる。
 歌のような悲鳴のような金切り声が使徒から発せられると同時に、章も黒いオカリナに口をつけた。
 耳障りな悲鳴のような音楽と、音楽とも言えない虚無の笛の音が同時に周囲に響く。使徒が動く前に、その笛の音とともに動く烏や、謎の形をした闇が一斉に使徒のほうへと襲い掛かった。
「……」
 くい、と悲鳴を遮るように章は片手を耳にやる。そのまま凶器への体制でその音を相殺するも、している間もオカリナを吹き続けているのでますますその音は表現しづらい音となって周囲に満ちる。信者たちがものすごく嫌そうに後ずさるのは、鴉くんたちのせいであってこの笛の音のせいではないと思いたい。
「……音楽の神様は僕が嫌いなんだ」
 ぽつんとつぶやく。まあいつものことなので気にはしないのだけれども。それで周囲の信徒たちを鴉が攻撃している間に、つかつかと章は震える信者たちのほうへと歩み寄った。
「ちょっと」
「……ひい!」
 声をかけただけで怯えられたので、章はそのまま若干の恐怖を与えるように威圧しながら声をかける。
「大丈夫だよ。質問に答えれば(僕は)殺しはしない。それよりも聞きたいことがあるんだけど……」
 まあ後始末は組織の人なり警察の人なりがすると思う。そこで生きて行けるかどうかはもう章にはあずかり知らぬことである。それよりも彼には聞きたいことがあって、
「花村コウって高校生のことについて知りたいんだ」
「は? え? いや、知らな……」
「ん?」
 聞こえなかったなあ。というかのように首を傾げてしょうがオカリナを口持ちに近づけると、ひぃぃぃぃ。と信者が悲鳴を上げるので、
「ここに死体が運ばれてきたよね?」
「し、知らない。死体の名前なんていちいち知らない」
 死体は近くの病院や火葬場から盗んできたり、買い取ったりするらしい。
「そうなの? じゃあ、調べるなり頑張って思い出すなりしてよ。大きな事故の……」
 根気よく章は尋ねる。背後で鴉と死との大決戦が行われているが、まったく気にしない様子で信者たちを促すと、
「そういえば一件、事故に遭った家族の子供の死体が来たことがある。両親が原形をとどめてない肉片になってたから、子供もそういうことにして死体を貰ったんだ」
「ここに来た死体はひとつ?」
「ひとつだ」
 ふぅん、と章は口の中で呟く。
「その後両親のお墓ってわかる?」
 わからないけれども、だいたいの地域は教えて貰ったので、後で調べてみればわかるだろう。
「そう。じゃあもういいよ」
 あとは動かれても邪魔なので、展翅テープでぐるぐる巻きにして章は顔を上げる。
 顔を上げると、鴉君たちの戦いもあらかた片が付いたようであった。

「こんにちは」
 すべてが終わった後で、章は茫然としている『彼』に声をかけた。
 人間やめたんだ。おめでとう、って、
 さすがに口に出すのをやめるくらいは空気が読めるつもりである。しょんぼりしている『彼』に追い打ちをかける趣味はたぶんきっとないとは思う。……代わりに、
「僕、何に見える?」
 なんて、戯れに聞いてみた。物凄く戯れの言葉に、『彼』は不思議そうな間の後で、
「正義の味方かな」
「はずれ。人間だよ」
 何とも似合わない言葉に笑いながら、章はひらりと手を振った。
「死にたければ殺してあげるけど、死ぬのって怖いし痛いし最悪だよ。……だからさ、無責任だけど……」
 『生きてみない』と、章は言った。
 その言葉を聞いて、彼は……、

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『UDC-P対処マニュアル』

POW   :    UDC-Pの危険な難点に体力や気合、ユーベルコードで耐えながら対処法のヒントを探す

SPD   :    超高速演算や鋭い観察眼によって、UDC-Pへの特性を導き出す

WIZ   :    UDC-Pと出来得る限りのコミュニケーションを図り、情報を集積する

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 そうして、周囲は静かになった。
 正義の味方がやってきて、怪しげな奴らを全力で倒してくれた。正直カッコよかった。
 俺は死体で化け物だったけれども、俺のことも助けてくれるみたいで。
 生きてみないかと言われたら。
 あきらめないでと言われたら。
 こんな、体になってしまった今でさえ。
 死にたくない。と。そんな気持ちが体の中にわいてくるのが不思議だった。
 こういうの、浅ましい、っていうのかなー。……なんて。
 思いながらも、何やら俺は化け物なんだけれども特殊な化け物だったみたいで、「組織の人」というのが迎えに来てくれるらしかった。
「え。俺実験とかされちゃうわけ? ネズミにされたりとか?」
 なんて言うと、みんな笑ってた。苦笑してたのかもしれなかったけど。

 いつまでも血なまぐさい部屋でいるのもなんだったから、迎えが来るまで外でいようか、なんて誰かが言い出したから、 
 俺はこの体になって初めて、あのマンションの外に出た。
 黄昏時はもう終わっていて、陽は完全に沈んでいて。
 二号棟は真っ暗で。
 ああ。本当にこのマンションに住んでいた人は、もう、ほとんどいなくなってしまったんだなあ、と、何とはなしに思った。ほんの少し感慨深かった。
 噂の所為か周囲にも人の気配はなく。
 ほっとしながらも向かった場所は、夜の公園だった。
 どうやら俺を助けてくれた正義の味方達は、「組織の人」とやらが来るまでに俺のマニュアルを作ってくれるらしい。
 ……俺のマニュアルって、何だろう。メンタルは豆腐ですとか、書いてくれるんだろうか。って思ったら、やっぱりこの体は化け物なので、それに対する対策とかを考えてくれるらしい。
 どちらかというと、俺は割と理性がある方なので……、

「実は、気を抜くと歌いたくなるんだよな」
 俗にいう、『自身に【邪神の寵愛による耳障りな歌声】をまとい、高速移動と【聞いた者の精神を掻き毟る甲高い悲鳴】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。』ってやつ。
 だからいろいろ考えてても、あんまり喋ることができない。

「このモーニングスターも、あんまり離しちゃいけない気がするし」
 持ってなくてもいいけど、なんとなく近くにないと不安になる。そしてついでにいうと、
「この仮面も、布切れも、離しちゃいけない気がするんだ。……でも」
 できればもうちょっとかっこいいほうがいいな。靴とかも欲しいな。なんて、そんなのはただの要望だけど、言うだけはいってみた。

「あとなんか、この体、死体だからか臭いんだ。体、半分ぐらい腐ってるのかも……」
 不思議と腐ったままの状態で維持されているから、痛いわけでも苦しいわけでもないが兎に角臭う。あと手も奇妙な形になっているから、ほとんど何かを掴むことはできない。腕に引っ掛けるのが、精いっぱいである。

「……何だかこれ、俺のお悩み相談みたいになってるな……」
 結局、残念ながら俺は理性が残っているので、出来ないことはその「組織の人」と相談してやっていくしかないのだけれども。
 「組織の人」はどんな人かわからないし。もし、この中で。こういう風にしたら、とかアドバイスがあれば教えてほしいなあ。というぐらいの気持ちで、いうだけは要望を言ってみる俺なのであった。
 ……正直、不安で、怖いから。助けてくれたこの人たちについていきたいぐらいだけど、それはダメだってわかってる。けれど。なんでもいいから。別れるまでの間、何でもいいから、話がしたいんだ。
 それと……。


 それと。墓参りがしたいなあ。と、『彼』は言った。
「でも、ダメだな。遠いもん。俺、この先どうなるかわからないんだろ?」
 さすがにそう遠くにはいけない。行けないなあ……って、いったその時。
 その、細く変形した手に引っ掛けられてあった革袋が揺れた。
 中には、沢山のビーズが入っていた。
『おにいちゃん。おにいちゃん。これね。これ。おんなじのね。かえったらつくってほしいの。おにいちゃんと、おそろいね……』
 『彼』はそれを、表情の伺えない仮面の顔でじっと見ていた。
「あのさ。もし、良かったら……なんだけど……。これ、作るの手伝ってもらえる?」






**********
マスターより

三章は、UDC-Pのマニュアル作りということで。
ただ、先で述べたように、彼は流ちょうに喋れるし、組織の職員さんも理解がある方々のようなので、たいていの不便は普通にその場でコミュニケーションをとりつつ解決できることでしょう。
ただ、猟兵たちがその話を聞いてアドバイスをくれれば、彼も嬉しいし心強い、という感じです。
話の間に(別に話さなくても構わないので)、彼はビーズづくりを手伝ってほしいそうです。
何とか頑張って紐の端っこを持っておくので、皆さん各自好きな色をその紐に通してくれると彼がとても喜びます。
(なお、彼自身は、その約束の「同じの」がどんなものであったか、もう詳細は思い出せないそうです)
完成したら、いつか墓参りに行く日が来たならば、妹のお墓にかけてあげたい、と思っているそうです。

また、他にしたいことがあれば、雰囲気を壊さない範囲内で何をしてくださっても構いません

●おまけ
妹は事故に遭った際アリスラビリンスに飛ばされて本来ならば行方不明なのですが、なんか病院がなんやかんやして死亡したことにしたんだと思います(あんまり突っ込まないでくれると嬉しいです)。その時兄である『彼』もこのマンションに売られてきたのでしょう。
妹自身は五体満足ですがすべての記憶を失ってアリスとしてアリスラビリンスのどこかで生きているので、もう帰ってくることはありません。
妹が登場するシナリオは、
https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=17019
こちらになりますが、別に読まなくても大丈夫です。前回参加者の方を優遇するとかそういうこともありません。
あくまで今回の物語を今回の物語として向き合っていただけたらと思います。

●プレイング募集期間
6月2日8:30~19:00まで。
なるべく全員描写を心がけますが、6月3日夜までに書ききれない場合は、プレイングをお返しすることがあります(先着順ではありません)。

以上になります。
それでは、よろしくお願いします。
鵜飼・章
…『こーちゃん』。
ううん、こっちの話
良ければリュカさんも一緒に

どうしようすごく人間らしいお悩みだ…
僕は黄昏の信徒さん好きだよ
仮面は愛敬があるし手も尻尾みたいで可愛く…ない?
ないかなあ…僕ゾンビ好きだからなあ…

そういう人もいるさ
あ、でも歌は…一緒に練習…する?
僕の笛の退屈さを学べば丁度いい塩梅になるかも…リュカさん大丈夫?

僕好きな色って特に無いんだ
だから透明なビーズを通す
それから…『紫』
赤と青を足した色だよ
知ってる?だよね

よければ布と仮面に綺麗な花畑の絵を描くね
妹さん、元気にしてると良いな
ん?元気だよ
どうしてって?秘密

透明ってなんでもないけどさ
なんにでもなれるんだ
生きていれば
生きていれば、きっと


鹿忍・由紀
引き渡すまでが仕事だし
時間潰しに付き合ってあげようか
これといったアドバイスは出来ないけど
話したいことを相手のペースに合わせて聞くくらいは出来るよ
肯定も否定もせず、相槌をうちながら耳を傾ける
UDCと世間話なんて、なんか変な感じだな
内心思いつつも嫌ではない

ビーズなんて作ったことないけど
紐に通せば良いだけならまあ出来そう

手先は器用だから次々に通すも色を気にせず
適当に手にとったものを通すもんだからなんかちぐはぐ
あれ、通せば良いってもんでもなさそうだね
他の人が通したビーズと見比べて
不格好な色に無表情のままに首を傾げる

ねえ、何色が好き?
今度は少年が希望する色を繋いでく
自分の好きな色くらいは忘れてないでしょ


月舘・夜彦
【華禱】
倫太郎殿と合流してコウ殿と話す

……嗚呼、彼は
彼はあの子の、……

口に出しそうになって噤む
彼女の自由を選んだ代わりに、私達はこの世界との繋がりを切った
彼女の未来を決めてしまった事を話した所で元には戻せません
悲しみ……きっと私達を恨むでしょう

せめてもとビーズ細工作りを手伝う
振る舞いはいつも通りに

色、あとは好きな絵や柄も聞いてみましょう
迷った時には写真等を見てみて目に留まったものを
簡単なものであれば作れるかもしれません

私達は常に傍に居る訳にはいきませんが
組織の職員の方は貴方のような方々を支援してくださるでしょう
話し難い事があれば私達をお呼びくださいね?

マニュアルには話していて気付いたことを


篝・倫太郎
【華禱】
それ、押し付けて悪かった
でも……あんがとな?

色々と話してくれるP……
じゃねぇや、コウの話を聞いて

こいつが以前オウガに選ばされたアリスの兄貴だと気付く
気付いたからってどうって訳じゃない
だって、あの子はもうこの世界の何処にも居ない
夜彦も同じ事を感じてるんだろうと思いながら
ビーズ細工を手伝う

お前、好きな色って覚えてるか?
お前の好きな色、家族の好きな色
そーゆーのも入れようぜ?
覚えてないなら
直感で選んだ色を入れてこうぜ

後、どうしようもなく不安になったら
組織の人にちゃんと相談しろよ

俺達に逢いたいとかでもいいから

それと、マニュアルの最後に
対策が出来て墓参りに行ける時は俺達も呼んで欲しい旨も添えておく


エンジ・カラカ
アァ……そうかそうか……そうだったのカ。
うんうん、コレは知ってる。
知ってるケド、ダメなンだよなァ……。
賢い君、賢い君、お口にチャックだろう。
うんうん、分かってるサ……。

コレは良かったとは思わないヨ
ケド、仕方がない
アレも賢かったンだ。

アァ……ビーズ?通す?
オーケーオーケー、賢い君、賢い君、やろうやろう。
好きなイロー、キイロ!アカ!アオ!

何でも好き
でも、イロを順番に通して虹を作るのもイイ
虹はキレイキレイ
そうだと思わないカ?

それで?お悩みってなーに?
コレも賢い君もお悩み相談なら任せて任せて
平気平気ー、ちゃーんと答えるサ

アァ……大丈夫……。


都槻・綾
縫が少年を撫でているのを
微笑んで見守り乍ら
ビーズ作りの手伝い
妹さんとPさんの二つ分
懸命に糸持つ手に柔らに笑む

名は覚えているだろか
叶うなら名で呼ぶ

相談は生きることへの希望でもあるから
ひとつひとつ
首肯したり
一緒に考えたい

腐敗はドライアイスで抑え
香りは…、

差し出す匂い袋
乾燥させた草花入り
仄かな薫りは私の纏うものと同じ

墓参りは代行も可能なれど
いつかは自分で…も、きっと生への目標や力になる
望みを聞いておきたいな

リュカさんにも好きな色を尋ねて足しましょ

私は…

手にしたビーズは
淡い紫、薄紅に白の、夜明け色
未来の、彩

これから先
惑い沈んで暗澹に蹲ることもあるだろうけれど
あなたの道行きに
優しいひかりが射しますように



 彼が糸の先を持つ。みょーん、と長いその反対側の先端を、猟兵たちが交互にビーズを通しては回していく。
「~~~~~~で、それが。つまり……」
 夜の公園で不良の集会みたいにたまって語るのがそんな話。そう思うと、なんだか奇妙な感じがして由紀が感慨深げに顔を上げた。切れかけた電柱の蛍光灯が瞬いた。その時、
「ノリ。なあ。ちゃんと聞いてる?」
 なんて。聞かれて由紀は視線を彼のほうに戻した。もしかしてノリとは自分のことだろうか。そういえば名乗った記憶は、あるけれど。
「聞いてるって。聞いてるよ」
 でも、さすがに、「職員に可愛い女の子がいたらどうしよう」なんてしょうもない悩みにかける言葉もない。なんて、由紀が肩をすくめると、
「でも、これといったアドバイスは出来ないね。あんまり頑張って、女の子と仲良くしようとか思ったことないからね」
「えええ。これだからイケメンは……。じゃ、りんたろーはどうよ、りんたろー」
「うぇ!? 俺に聞くなよ俺に。そ~~~だなあ」
 突然聞かれて思わず渡された紐を取り落としそうになる倫太郎。何か神妙な顔をして、別のことでも考えていたのであろう。その様子に、月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)はふっと微笑んだ。
「そうですね。傍にいて……何かの折に、誠実に接していけばよいのでは、と」
「ヤヒコサンは誠実派ってことかー」
「そうそう。賢い君も言ってる言ってる。正しくて優しいのが一番近道だッテ。悪いことをスルのは絶対ダメ」
「うーん。でもちょっと悪っぽいののほうがモテるって思うんだけどなあエンジはそうじゃねーの?」
「コレ? コレはもてるとか考えたこと、ナイナイ」
 そもそも興味がない。なんて言うと、本日二度目のこれだからイケメンは。が、飛び出す。そんなところで、
「いけめんいけめんって。僕は黄昏の信徒さん好きだよ。仮面は愛敬があるし手も尻尾みたいで可愛く……ない?」
 章がひらひらと彼の服の裾を掴みながら言った。なにをしているのかというと、服に何やらマジックで絵をかっていっている。恐らくは花の絵……だろうか?
「……」
「ちょっと、なんか言ってよ。黙られると悲しくなるんだけど」
「アキラのセンスって、ちょっとほら……さ。独特だから……」
「ええ。そう……かなあ……。僕ゾンビ好きだからなあ……」
 居た堪れないようなものを気配を感じる。それに章はうーん。なんて、首を傾げたり、していて。
「でもほら、組織で仕事をしてる女の子だったら、中にはゾンビ好きな子とか、いるかもしれないよ。ねえリュカさん」
「俺にふられても。まああんまり、何事も期待しないぐらいがいいんじゃない?」
 そっけなく言うリュカに、綾は楽しげに笑った。
「そんなことありませんよ。確かに期待や希望は、裏切られることもありますが……。人には必要な色どりだと、私は思います。ねえ、縫」
「え。じゃあアヤサン、縫ちゃんお嫁にもらっちゃっていいわけ?」
「それは、やめておいたほうがよろしいかと」
「えー。でも縫ちゃんは俺のこときっと好きだよな」
 器用にベンチの背もたれの上に立って、そのベンチに座る彼の頭を撫でている縫は素知らぬ顔である。そうですねえ。なんて綾が言った時、
「だよな!? やばい嬉しい。ちょっと今から神に感謝して歌っちゃおうかな!!」
「それは、やめておいたほうがよろしいかと」
 意味もなく正気度が削られる歌が歌われるところであった。


「あー……。それじゃあさ、歌は……、一緒に練習……する? こーちゃん」
 服にも花を描いて、ついでに仮面にも花畑を描いた。満開の花畑に、章はご満悦でうん、うん、と、頷いている。
「妹さん、元気にしてると良いな……」
「ん?」
「ん?」
 章の呟きに、怪訝そうに彼が首を傾げる。
「なんか言ったか?」
「元気だよ、って、話」
「おう、そうか。なんでそんなこと?」
「どうしてって? 秘密」
 微妙に噛み合うようで噛み合ってない会話をしている二人。それよりも、と章はオカリナを取り出した。
「それより、歌だよ。僕の笛の退屈さを学べば丁度いい塩梅になるかも……」
「退屈?」
「ん? 何、リュカさん。大丈夫?」
 ものっそ怪訝そうな声でオカリナを見る章を見るリュカに、章は素知らぬ顔で声をかける。
「頼むよ。こんなじゃカラオケひとりでしか行けないよ」
「よしきた。要は、心を無にするところから始めるんだ……」
「二人とも、近所迷惑にならない範囲にしてね。……それとお兄さん、ほら、お兄さんの番。好きな色入れておいて」
 さっさとしろ、とばかりに章はビーズを押し付けられる。はいはい、と章はそれを受け取った。
「そうは言われても、僕好きな色って特に無いんだ……」
 改めて好きな色、と言われると、少し困ってしまう。
 どうしたものかと首を傾げながら、章はいくつかの透明のビーズと、間に紫のビーズを入れて行った。
「『紫』……。赤と青を足した色だよ」
 改めて。何かを思い出すように目を細めながら。ぽつんと章はつぶやく。
 まるで、遠い昔の決断に、思いをはせるかのように。
「知ってる? だよね」
「いや、なんにも言ってねえから」
 何か、察するものがあったのか。彼は仮面の向こう側でほんの少し笑ったようであった。
 きっとそれは、見当違いのことだろうけれど。それならそれでいいと、思うことにしたのだ。
「それじゃあ、オカリナなんだけど……」
 そんなことを言いながらも、章は小さく、胸の内で息をついた。
(……僕たちは、透明ってなんでもないけどさ……。なんにでもなれるんだ、生きていれば)
 彼が、ひとから化け物に代わってしまったように。
 彼が、死んでいるはずだったものから、生きているものになったように。
 彼が、人を殺す化け物だったはずなのに、ひとを大事に思う化け物に代わってしまったように。
(生きていれば、きっと……)
 変われる。なんだって。そう思うのは胸の内。そして……ふと、
(僕もそのうち、人間以外のものになれるかなあ)
 なんて思ったりするのだが、それはまた、別の話。



 遠くでオカリナと謎の悲鳴のような声がしている。
 なんとなく黙々と、夜彦と倫太郎はビーズを通していた。

「……嗚呼、彼は。彼はあの子の、……」
 最初に彼を見た時。
 夜彦は何とも言えない呟きを漏らした。
 それ以上の言葉は飲みこんで。
 隣の倫太郎に目をやって。
(コウ殿は悲しみ……きっと私達を恨むでしょうか)
 思っていても、聞きたくても、夜彦は言葉にできなかった。そんなことは初めてだった。
 夜彦はあの時選んだ。彼女を自由にする代わりに、彼女とこの世界との繋がりを切ることを。
 間違ったことはしていないだろう。……それでも。
 あの時、倫太郎と同じように。彼女の帰還を選んでいたら……、

(……みたいなこと、夜彦は考えてるんだろうなあ)
 なんとなく、夜彦の顔を見て。倫太郎はそんなことを考えてた。
(コウが誰の兄貴だろうと、どうってないのに。……だって、あの子はもうこの世界の何処にも居ないから。もしかしたら……)
 あの子は死んだことになっている。それが、逆に彼のためにはよかったのかもしれないなんて、漠然と倫太郎は考えるのだ。
 だって……。もう帰らないものを探し続けるのも、待ち続けるのも、辛いことだろうから。
 本当のことは……本人に聞かないとわからないけれども。
 本人には聞くこともできないから、倫太郎はそう思うことにした。
 だから、返ったら、そんなに気にすることがないって、言わなきゃな。なんて、そこまで夜彦のことを見ながら倫太郎は考えて、
「……っと、そうだ。さっきはこれ、押し付けて悪かった」
 そんなことを考えている間に、怪しい合奏会はひと段落ついたのであろう。ころ合いを見計らって倫太郎は声をかける。
「でも……あんがとな?」
 そういうと、彼はびっくりした顔をしていた。
「いやいや。そんな。だってこれ……俺のためだったんだろ?」
「やー。そうだけどさ、あの時は急だったから」
「ふふ。慌てて渡す倫太郎殿が目に浮かぶようです。……それで、歌のほうはどうでしたか?」
「ああ。それそれ、聞いてくれよ、ヤヒコサン、りんたろー。それはなんかうまくいきそうでさー」
 心を無にする方法を覚えた。なんて得意げにしながら言う彼に、倫太郎も笑った。
「そうだ! お前、好きな色って覚えてるか?」
 はっ。と思い出したように倫太郎は声を上げる
「お前の好きな色、家族の好きな色……。そーゆーのも入れようぜ?」
 覚えてないなら、直感で選んだ色だ。なんて、親指立ててこれだ! みたいな感じで明るく言う倫太郎に、夜彦もほんの少し微笑んだ。
「そう。あとは好きな絵や柄もありましたら。間間に付けて行くと、綺麗になりますよ」
「えー。ヤヒコサンそういうのもできるの? 器用なんだなー」
「ちょっと待て。俺だってちっちゃい細工ぐらい作れるぞ。なにがいい。ほら言ってみろって」
 なぜかそんな主張をする倫太郎に、夜彦と彼は顔を見合して、ちょっと笑った。
「じゃあ、花とか、鳥とか……」
「ここに写真がありますから。好きなのを選んでください。簡単なものであれば、倫太郎殿が美しく仕上げてくれることでしょう」
「ちょ、ヤヒコサン何ハードル上げてんの」
 倫太郎が彼の言葉をまねして笑う。それからしょーがねえなー。なんて言って、ビーズの入った袋に手を伸ばした。
「コウはさ、そんな感じで、どんどんしょーもないわがまま言っていけばいいよ。後、どうしようもなく不安になったら、組織の人にちゃんと相談しろよ我慢するんじゃねーぞ」
 ちょっと背中を丸めて、ちまちま仕事をしながら倫太郎は言う。それを静かに隣で手伝いながら、夜彦も小さく頷いた。
「私達は常に傍に居る訳にはいきませんが、組織の職員の方は貴方のような方々を支援してくださるでしょう。悪いうわさも聞きませんから、大丈夫。それに……」
「俺達に逢いたいとかでもいいから」
「話し難い事があれば私達をお呼びくださいね?」
 言葉が被った。
 顔を見合わせて倫太郎と夜彦は笑った。
「あ、あと、職員の人に、対策が出来て墓参りに行ける時は俺達も呼んで欲しいって申し送っとくけど、いいよな?」
 ふっと、何でもないことのように倫太郎が言って。
「……いいのか?」
「ああ。ていうか、そっちこそいいのか?」
「勿論。もちろんに決まってるだろ……!」
 ぶん、と大きく彼が手を振って。
 危ない、と二人が声を上げてまた、笑った。



「キャーッチ」
 くるりと彼の手から放たれたビーズの端っこを、
 エンジがこぼれる前に器用に捕まえた。
「おおー」
 すごいすごい、と感心するような声を上げる彼。
 顔は見えないが、その声の雰囲気が何となく、
(アァ……そうかそうか……そうだったのカ)
 エンジには、
(うんうん、コレは知ってる。知ってるなァ……)
 この目を。明るい仕草を。
(知ってるケド、ダメなンだよなァ……)
 ちらりと賢い君に視線をやる。
(賢い君、賢い君、お口にチャックだろう。うんうん、分かってるサ……)
 あの時のことを。よかったなんてかけらも思ってない。
 けれど、仕方がないことだって。思えるぐらいの分別は、あって。
(……アレも賢かったンだ)
 それが、なんとなく。やり切れなくて。
 一言も発することのできない自分が……、
「……おーい?」
 聞かれて、はっとエンジは我に返った。どうやら空を飛んだビーズの端っこを、捕まえたまま固まっていたらしい。
「アァ……」
「すごいな。なんかテレビで見た狼みたいに早かった。こう、バシッ!!! って」
 ばしっ。細い手を頭上で揺らす彼に、エンジも一つ頷く。
「アァ………………。そう。そう。コレはすごいんダ。あとは、ビーズ? 通す?」
「そうそう。そっちは俺が持つから、エンジも手伝ってよ」
「オーケーオーケー、賢い君、賢い君、やろうやろう」
 ふふーん。って。
 それでもういつも通り。エンジはつかんだ端っこを彼の腕に巻き付けると、もう片方の端っこを手に取る。
「好きなイロー、キイロ! アカ! アオ!」
「あはは。なんでも好きじゃん、それじゃあ」
「そうソウ。そうだヨー。何でも好き」
 茶化す彼に、エンジは通していったビーズを切れかけた蛍光灯の光にかざして目を細める。
「でも、イロを順番に通して虹を作るのもイイ。虹はキレイキレイ」
 ここは虹色にする。なんて。勝手に決めて勝手にビーズを通すのも自由だ。
「そうだと思わないカ?」
「えー。考えたこともなかったなあ。そんなの、真剣に」
 問われて、彼は真剣に考え直す。
「……もっと、いろんなこと。ちゃんと真剣に、考えときゃよかったな……」
 若干、声が沈んでいる。エンジはちょっと、彼の隣に身を寄せて。
「それで? お悩みってなーに?」
 ビーズを通しながら。彼の顔を見ずに。なんでもない世間話のように尋ねた。
「あ、ああ……」
 ほんの少し声が沈んでいる。だから本当に何でもないように、軽い口調でエンジは尋ねる。
「コレも賢い君もお悩み相談なら任せて任せて」
「ほんとか? いろいろあるんだけどさー」
「平気平気ー、ちゃーんと答えるサ」
「女の子のこととかでも大丈夫?」
 そんなことをいう彼に、エンジはほんの少しだけ。詰まるような間があって。
「アァ……大丈夫……」
 きっとその微かな揺らぎを、彼は別の意味に取ったに違いない。
 賢い君がほんの少し。その糸を揺らしたような、気がした。



「……ところで、なんで縫ちゃんは俺のことずっと撫でててくれるんですか、アヤサン」
 ひとつ終わったー。と思ったら、
『では、妹さんの分と、コウさんの分で、もう一つ必要ですね』
 なんて、綾が言い出したので、もうひとつをせっせと作ることになった。
「どうでしょう……応援しているのかもしれませんね」
「そうなの? 俺の嫁になってくれればいいのに。……あー。やっぱおんなじにはならねえな」
「ずいぶん好きなように作りましたからねえ、私たちも。でも、違っていても、いいと思いますよ。込める気持ちが、大切かと」
「おう。……さり気に嫁発言は流しましたね、アヤサン」
 彼の言葉に、綾はやんわりと笑う。そうだ。と、思い出して、
「それで、先ほどのお話ですが……」
「お、おう」
「腐敗は、ある程度冷やして抑えていくしかないでしょうね。ドライアイスを使ったり、冷房を強めにしてもらったり……。それによる痛みなどはありませんか?」
「ああ。そういうのは平気みたい」
「でしたら……」
 深刻なこと、しょうもないこと。
 一つ一つのんびりと綾はこたえて、一緒に考えていく。
 些細なことでも、綾は微笑んで。考えるという姿勢を崩さなかった。
(だって……相談があるということは、生きたいということだから)
 生きることへの希望でもあるから。死にたいと願う人間からは、出てこないものだから。
 だから……。
「それでさ。墓参りも。みんなが言ってくれたら、ちょっと向こうの人も考えてくれるかなあって」
「そうですね。勿論、代行でうかがわせていただいてもいいけれど……。いつか自分で行けたらと、思うことも。きっと力になると思いますから。あなたが望むのならば、私からもお願いしておきましょう」
「まじで!? やった! ……あ、でも、代行もオネガイシマス。ついでに俺の墓の名前の字、間違ってないか見ておいてよ」
 あれ。あれって個人名彫るものだっけ? みたいな今風の質問も、綾は笑って答えたりなんかも、して。
「そういえば、リュカさんも好きな色はありますか?」
「ええ……っと」
 特にあるっけ。みたいな難しい顔をリュカはして、
「じゃあ、橙色にしておいて。こういう時は明るいほうがいいよね」
「適当だなー」
「適当さも、時には必要ですよ。橙色ですね」
 返答に、彼が笑って。綾がそんなことを言ってオレンジ色のビーズをつけ足す。
「それじゃあ、アヤサンの好きな色は?」
「そうですね……」
 言われて。綾はほんの少し悩んだ末に、
「淡い紫、薄紅に白の、夜明け色。……未来の、彩」
 そういいながらも、夜明けが連なるようにビーズを紐に通した。
「これから先、惑い沈んで暗澹に蹲ることもあるだろうけれど……。あなたの道行きに、優しいひかりが射しますように」
「アヤサン……」
 彼は、言葉を詰まらせたようだった。
「もう、やめてくださいよー。俺この体になってから、泣けないんですよ」
 情けなさそうな声を発する彼の頭を、縫が優しく撫でていた。



 ……そんな、
 やり取りを。
 由紀は静かに、耳を傾けていた。
 手先が器用であるから、色を気にせず次々に通していくと速さだけは早い目に出来上がる。
 いつの間にやら二つ作ることになったので、それもまたちょうどいい……。なんて。
 思いながらも由紀は、手を動かしていた。
 いろんな話をしていた。悩み事も、深刻なのも、しょうもないものも。
 由紀は肯定も否定もせず、相槌を打ちながら耳を傾けていた。
 彼のほうも、最初は色々絡んできたが、途中からそれに気付いたのかそういう感じで。
 益体もないことを離して、時々水を向けては相槌を打たれる。そんな会話を楽しんでいるようであった。
「つまり、俺としてはこう言いたいわけよ」
「うん、なんて」
「ノリの靴くれ」
「いや、なんで?」
 たまに変なことも言ってくるときもある。
「だって俺ほら、はだしだから」
「そういうのは、職員の人に買ってもらいなよ」
「スニーカーと革靴だったらどっちがイケてると思う?」
「それは……」
 どうしよう。しょうもないけれども究極の選択に思えてきた。
「……スニーカー……かな」
「了解!」
 どうやらスニーカーに決まったらしい。
 UDCと世間話なんて、なんか変な感じだな。と。由紀はビーズを通しながら何となく考えた。
 不思議と、いやな気分ではなかった。
(まあ、引き渡すまでが仕事だし……。ただの時間潰しに付き合ってるだけだし)
 不思議な感じを覚えながらも、せっせせっせと由紀はビーズを通す。
 持ち前の器用さもあれば、あっという間に……、
 あっという、間に……。
「……あれ」
 はたと気付いた時。
 なんだか由紀の通した場所が、ほかのに比べてどうにもちぐはぐしていることに由紀は気が付いた。
「通せば良いってもんでもなさそうだね」
 ほかの人に比べれば、随分と不格好だ。
 器用で。早くて。でも、なんだか妙に不器用なそのビーズは、
 とても自分らしいような気がして。
 口に出さずに、由紀は黙ってそれを見ていた。
「……何だかそこ、面白いな」
 彼が言って、仮面の下でどこか楽しそうに笑ったようだった。
「ノリの作った場所って、すぐわかる」
「それも……そうかもしれないね。ビーズなんて作ったことないけど、紐に通せば良いだけならまあ出来そう。なんて思ってたら、とんでもないことになったよ」
「ははっ。ノリって何でもできそうなのに、できないこともあるんだなあ」
「そうだね……」
 出来ないことなんて、いっぱいあるけれど。と。
 思ったけれども、それ以上のことは由紀は言わなかった。
 なんだか人生みたいだ。なんて、妙な考えが頭をよぎる。
 かわりに、
「……ねえ、何色が好き?」
 由紀は尋ねた。自分の好きな色と言われると、ちょっと困ってしまうけれども。
 少年が希望する色ならば、きっとおかしなことにならないだろう。
「自分の好きな色くらいは忘れてないでしょ。ほら」
「それが、ここ数時間で好きな色が増えてさ……」
「じゃ、全部言って。大丈夫だよ」
 手先は器用だから。
 お迎えが来るまでに、きちんと終わらせることもできるだろう……。




 そうして。
 やってきた組織の車は、何だか大きくて、後ろの席が見えないものだった。まあ、形状が大きいのから小さいのまでいろいろある彼らを連れて行くのだから、仕方のない代物だろう。
 やってきた職員たちは、気持ちのよさそうな人で、何度も猟兵たちにお礼を言いながら、彼を引き取った。
 その際に、猟兵たちもきちんと要望を伝えて、先ほど会話しながら手早く作っていたお悩み集を一緒に手渡す。もちろん、しょうもなくないことだけ厳選して載せたやつだ。
 彼は長いビーズのネックレスを首からかけていた。洋服にも仮面にも絵が描かれていてなんだかかわいらしい。そうして手に、似たようで違うビーズのネックレスをもう一つ巻き付けていて、
「ああ……。それと、これを」
 綾が、そっと匂い袋を差し出した。乾燥した草花が入っている、彼の纏うものと同じ香りであった。
「どうか、お元気で。そしてまたいつか、お会いしましょう」
「……っ、うん、ありがとう……!」
 また。という声に、言葉を詰まらせる彼。
「おう。何かあったらいつでも頼ってくれよな!」
「そうですよ。呼んでくだされば、駆け付けますから」
 倫太郎が大きく。夜彦が控えめに手を振る。
 エンジはというと、こんなときにどういったものか……。軽く手を振って、
「ご飯ハ、ちゃんと食べないト、ダメダヨー」
 なんて大きな声で言ってみる。
「今度は、もっと大きな音でやってみよう。それまで練習しておくよ」
 章がオカリナを吹くような真似をする。
 そして、由紀が無言で手を振って。
「……ありがとう。ほんとに、ありがとう!!」
 彼は、車の中へと消えて行った。

 車の中に入ってしまえば、もう何も見えはしない。
 これからのことも、もう、すべて。
 猟兵たちの仕事は、これで終わったのだから。
「……ああ」
 それで、なんとなく由紀はつぶやいた。
「夜が、明けるね……」
 夜明けに向かって、車が走っていく。
 車が見えなくなるまで、彼らはそこで見送っていた。

 彼の。花村コウの人生は、きっとこれからも続いていく。
 それが幸せかどうかは、まだわからないけれど……。
 きっと今夜のことは、彼に取って。
 遠い黄昏にともる光となるだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年06月03日


挿絵イラスト