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雲は島の子の嘆きを拭って

#グリードオーシャン #彩雲丸 #眞藍島(S02W13)

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#グリードオーシャン
#彩雲丸
#眞藍島(S02W13)


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 紫陽花の花が咲き乱れるその島で、海賊達は追い詰められていた。
 最初は、追いかける側だったのだ。
 メガリスを手にしてコンキスタドールとなった者を、海賊の掟に従って殺すために。
 しかし、コンキスタドールはコンキスタドールを呼び寄せて。
 いつしか海賊達は分断され、それぞれに窮地を迎えていた。
「くそっ、何なんだあの怪物どもは」
「これじゃ、カイリを殺すどころか俺らの方が……」
「頭は無事なのか!?」
「カイリの野郎、勝手な事しやがって……」
「船に帰ることもできねぇんじゃよぉ!」
 屈強な海の猛者達にそんな悲鳴のような声を上げさせているのは。
「おいつめたぞー」
「こいつをたおしたらご飯にしような!」
「おう。もうちょっとだけがんばる!」
 八重歯のように牙を生やした、獣耳を持つあどけない子供達。
 と思いきや、その下半身は鋭い爪を持つ獅子であり、揺れる尾は蠍のように禍々しい。
 幼いながらも充分な実力を持つ、マンティコアキッズ。
「こいつをたおしたら、カイリがよろこぶんだよな」
「カイリのためにがんばる!」
「でもやっぱりご飯ほしいからがんばる!」
 無邪気に笑い、襲い掛かるマンティコアキッズが思うのは、1人の少年。
 羅針盤のメガリス『ブルーワンダー』によってコンキスタドールとなった、彼らの新たな仲間だった。

 グリードオーシャンを旅する鉄甲船『彩雲丸』の行く先に、1つの島が現れたのだと、九瀬・夏梅(白鷺は塵土の穢れを禁ぜず・f06453)は話し始めた。
「島の名前は『眞藍島』。
 サムライエンパイアから落ちて来た島のようでね。島民は羅刹ばっかりだ」
 島民の種族の偏りも特徴的だが。
 いたるところに咲く紫陽花が何よりも目を惹く島だという。
 居住区域にはもちろん、畑の周囲や山の麓などにも、いたるところに紫陽花が生え、そしてこの時期は見事な花を咲かせているのだとか。
「この眞藍島を縄張りにしている海賊団がいてね。
 そいつらは、眞藍島で『メガリスの試練』を行うのを慣例にしていたようだ」
 メガリスの試練とは、海賊が手に入れたメガリスを用いて、ユーベルコードに覚醒するために行うもの。
 もちろん、覚醒できなければ待つのは死であり、コンキスタドールへの変遷。
 ゆえに、メガリスの試練には『それを乗り越えられずにコンキスタドールとなってしまった者は、その海賊団が責任を持ってケリをつける』という掟が存在する。
 そして今回、試練は失敗して。
 掟に従い、海賊団はコンキスタドールを倒すべく向かったのだが。
 返り討ちにあってしまうと予知されたのだという。
「コンキスタドールが強大化していると言われているからね。
 これまで通りにはいかなくなった、ってことなんだが……」
 このままでは海賊団は全滅し、島民達にも被害が及んでしまう。
 そうなる前にコンキスタドールを倒して欲しいと、夏梅は言った。
 頷く猟兵達を見回していた夏梅だが、ふと、その緑色の瞳が陰りを見せる。
「……どうも、今回コンキスタドールになったのは、海賊団の一員ではない、眞藍島に住む人間の少年のようでね。勝手にメガリスを持ち出して、勝手に試練をやったらしい」
 それでも海賊団は、掟に従い、少年を追ったのだ。
 羅刹しかいない島に住む人間の少年と。
 人間を含む様々な種族が集った海賊団。
 その間に何があったのかは分からないけれども。
「海賊団を助けて、掟を果たさせてやって欲しい」
 改めて頼む夏梅に、猟兵達はまたしっかりと頷き返した。

 どうしよう。どうしよう。
 僕は勝手にやってしまった。
 そして失敗してしまった。
 このままじゃ皆に嫌われる。
 どうしよう。どうしよう。
 ただ皆と一緒にいたかっただけなのに。
 もうそれすらも叶わない。
 皆が僕を嫌いになった。
 どうしよう。どうしよう。

 もう誰も信じられない。


佐和
 こんにちは。サワです。
 あじさいの語源は『集眞藍(あづさい)』だと言われるとか。

 眞藍島(まあいとう)は羅刹ばかりが住む島です。
 とある海賊団が寄港地としており、長年親しくしています。
 毎年この時期には、島中に咲く紫陽花を愛でに戻ってきているようです。
 海賊団の頭は人間で、構成員は人間が多いですが様々な種族が集まっています。

 第1章は『マンティコアキッズ』との集団戦。
 居住区域からは離れていますので、島民の心配は不要です。
 海賊団は数人ずつに分断され、それぞれに追い詰められています。
 対応によっては、海賊団から情報を得る事もできます。

 第2章は『『絶海の導』ブルーワンダー』とのボス戦となります。
 海賊団が生き残っていれば、強くはないものの、説得やユーベルコードで貢献してくれることもあるかもしれません。
 助力を得ず、逃げてもらうのももちろん可能です。

 戦闘に勝利したならば、第3章は花見の宴となります。
 メガリスの試練が終わり、そして海賊の掟が果たせたことを、皆で労い祝います。
 宴は居住区域で行われ、島民も海賊団も一緒になって盛り上げます。
 表向きはとても賑やかで陽気な宴です。
 尚、島のいたるところで紫陽花が咲いているので、宴をそっと抜け出して静かに紫陽花を眺めてもいいでしょう。

 それでは、紫陽花島の選択と結末を、どうぞ。
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第1章 集団戦 『マンティコアキッズ』

POW   :    こいつをたおしたらご飯にしような!
【食欲】の感情を爆発させる事により、感情の強さに比例して、自身の身体サイズと戦闘能力が増大する。
SPD   :    もうちょっとだけがんばる!
【お昼寝の時間までがんばる気持ち】を一時的に増強し、全ての能力を6倍にする。ただし、レベル秒後に1分間の昏睡状態に陥る。
WIZ   :    今がチャンスだけどおやつが食べたい…
あらゆる行動に成功する。ただし、自身の【おやつ】を困難さに応じた量だけ代償にできなければ失敗する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

神賛・ヴァキア
海の男の癖に自分のケツも拭けないなんて情けないな。
敵だけではなく海賊も殴ってやりたい気分だな

愛馬マロンウィナー号に騎乗して行動
早さを生かして敵に一気に接近しナタで一撃を加えた後そのまま距離をとる一撃離脱で行く

私の相棒はレースだけの馬じゃないぞ。
お前たちの足は飾りか?馴致の済んでいない幼駒か?

こいつら喰うことしか考えてないのも腹立ってきたな。
こっちは体重考えないといけないというのに・・・



「くそっ。これじゃ、カイリを殺すどころか俺らの方が……」
「船に帰ることもできねぇんじゃよぉ!」
 追いかけていたはずが追いかけられて。
 3人の海賊は、咲き誇る紫陽花の花を楽しむ余裕などなく、走り続けていた。
 集落からは遠ざかったから、親しい島民達を巻き込むことはない。
 けれども、同時に、自分達が生還する目もなくなっていて。
 海の猛者達の顔にも焦燥と困惑と、何より恐怖とが色濃く浮かぶ。
 それをもたらすものは、追いかけて来る3つの足音。
 いや、3体の相手なのは確かだが、足音は3つどころではない。
 何しろそれは、獅子の身体で4本の足を持つ、マンティコアなのだから。
「おいつめたぞー」
「こいつらをたおしたらご飯にしような!」
 未だ幼いマンティコアは、無邪気に海賊を追い、にこやかに声を交わす。
 しかしその獅子の足は太く、そして蠍のような尾が揺れ。
 笑う口に、こちらを指し示す手に、牙や爪が鋭く光っていたから。
「ご飯だー!」
「うわあああああ!?」
 襲い掛かってきたマンティコアキッズに海賊達が絶望の表情を見せた、その時。
 青鹿毛の精悍な馬が飛び込んできた。
「なんだなんだ?」
「ご飯のじゃまをするのか?」
 割り込んできたその鞍上には、神賛・ヴァキア(鞍上大暴走・f27071)が乗っていて。
 帽子の下で不機嫌に輝く赤い瞳が、ちらりとマンティコアキッズの喧騒を見下ろす。
 ふぅ、と息を吐いてから。
 ヴァキアは海賊達の方へ視線を変えると、こちらには声をかけた。
「海の男の癖に自分のケツも拭けないなんて情けないな」
「何を……っ!」
「よせっ」
 いきり立った深海人の海賊を、体格のいい人間の海賊が止め。
 もう1人の長髪の人間が、じっとヴァキアを見上げて問いかけて来る。
「お前なら、カイリを殺せるか?」
「無論だ」
「……それなら、俺達は何を言われてもいい」
 そして長髪の海賊は残る2人に振り向くと頷き合い。
 邪魔にならないようにかそっとヴァキアから距離を取るように離れていった。
 海賊も殴ってやりたい、と思っていたヴァキアだが、その様子に少し目を細めて。
 拳を振り下ろす先を変えるように、改めてマンティコアキッズに向き直る。
「逃げられちゃうよ」
「それじゃご飯食べられない?」
 騒めくマンティコアキッズは、戸惑うように顔を見合わせていたけれども。
 すぐに思い直したように、ヴァキアに向かって来る。
 子供が戯れて来るかのような光景だが、その鋭い爪や牙の威力は本物だから。
 ヴァキアは手綱を操り、愛馬マロンウィナー号で駆け出した。
 一度離れるように距離を取り、追いかけてくるマンティコアキッズにくるりと向きを変えて相対すると、再びその中へと駆け込んで。
「私の相棒はレースだけの馬じゃないぞ」
 すれ違いざまに、手にしたナタを鋭く振るう。
 慌てるマンティコアキッズを横目に、その場を離脱して。
 再び、愛馬の素早い動きに乗せて、ナタの一撃を叩き込んで離れた。
「お前たちの足は飾りか? 馴致の済んでいない幼駒か?」
 スピードを生かした一撃離脱。
 マンティコアキッズを攪乱しつつ、効果的な一撃を次々と喰らわせていく。
「うわー、こいつ強いぞー」
「そしたら、こいつたおしたらご飯だ」
「カイリとご飯たべるんだ!」
 慌てたマンティコアキッズは、食欲を爆発させ、その身体を大きくすると。
 見た目に比例して増大したその力をヴァキアに振るってきた。
 それでもヴァキアは、愛馬のスピードに自信を持って。
 同じ戦法で、マンティコアキッズの負傷を着実に増やしていく。
「こいつをたおしたらご飯!」
「ご飯!」
(「こいつら喰うことしか考えてないのか」)
 ちょっとその素直すぎる、子供らしい言動にイラっとくるのは。
(「こっちは体重考えないといけないというのに!」)
 騎手として、体重調整も重要な仕事だからこそ。
 その、ちょっと私怨的な感情も乗せて。
 ヴァキアはマロンウィナー号と共に戦場を駆け、ナタを振るい続ける。
(「……頼まれたからな」)
 多くの言葉を交わしたわけではないけれども、気持ちは受け取ったと感じたから。
 ちらりと振り返った先に見えるのは、紫陽花の花だけ。
 海賊達の背中はもう見えなくなっていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セプテンバー・トリル
【サーベイヤー】で現場に急行し、そのまま飛び降りて戦闘に乱入しますわ。
さあ、私がお相手しましょう!

【POW】連携・アドリブ歓迎
サーベイヤーはそのまま空から少年の探索をなさい。
私は氷の【属性攻撃】による魔法の【誘導弾】で敵を牽制し、海賊たちを【かばう】事にします。
接近してくる敵は【螺旋剣】で【吹き飛ばし】、なるべく一ヶ所に固まるように追い込みます。
そしてUC【螺旋魔導光】で一気に【蹂躙】してしまいましょう。

さて、海賊の皆さん。私はこれから少年を「殺し」に行きますけど…リクエストはありますか?
ええ、殺し方とか、伝言とか…私に可能な範囲であれば応えますわよ?



 こちらは人間と羅刹が2人ずつの海賊、そして3体のマンティコアキッズ。
 紫陽花の路を追いかけられ、逃げ惑い、追い詰められたそこに。
 セプテンバー・トリル(ゼネコンのお姫様・f16535)が舞い降りた。
 くるくると螺旋状に巻かれて尚長い金色の髪が、まるで回転するドリルが空から地面に突き立ったかのように錯覚させる。
 すたっ、と着地したセプテンバーは、海賊達の驚きを気にもせず。
 自身が降下してきた空を見上げ、声を飛ばした。
「サーベイヤー! そのまま空から少年の探索をなさい」
 そこには何も見えないけれど、測量支援隠密ヘリが音すらなく飛んでいて。
 セプテンバーの輸送という1つの任務を終え、すぐさま次の命令に従って動き出す。
 隠密ゆえに見えないながらも、その気配を察したセプテンバーは満足気に頷き。
「ここは私だけで充分ですわ」
 その視線を地上へと戻した。
 突然の乱入者に、マンティコアキッズはきょとんと目を瞬かせて。
「ふえたぞー」
「どうする?」
 無邪気に首を傾げながら、顔を向き合わせていたけれども。
「ご飯たべたい」
「じゃあ、ふえたのもたおそう!」
 すぐにセプテンバーにも食欲を爆発させた。
 ぐぐっとマンティコアキッズの身体が大きくなり、当然、太い四肢も鋭い爪も、そして蠍のような尾も大きくセプテンバーへと襲いかかる。
 しかし、セプテンバーは余裕の笑みを崩さぬまま、その手に螺旋剣を握り締め。
 マンティコアキッズの攻撃をいなし、吹き飛ばしつつ。
 また、氷の魔法で誘導弾を作り上げ、マンティコアキッズの動きを狭めていった。
「ごめん足ふんだ」
「わっ。よけたらみんないたぞ」
 そして3体は、その動きを誘導されて1ヶ所に集められると。
 セプテンバーは螺旋状に回転する剣の先端に、魔力を集め、圧縮させていく。
 それは貫き進む力となり、螺旋剣だけでなくセプテンバーの身体も覆い。
 ふわりと浮き上がったかと思うと、回転の動きで飛翔した。
「一・旋・貫・通! シュピラーレカイザー!」
 螺旋剣だけでなく、セプテンバーの身体全体までもが螺旋を描き。
 貫く威力を増大させると、マンティコアキッズを次々と抉っていく。
 その様子は、まるで、空中を掘削するドリル。
 だったけれども。
「誰ですの? 私をドリルと呼びましたのは」
「言ってない言ってない」
 振り向いたセプテンバーの目が笑ってない笑顔に、4人の海賊は揃ってぶんぶんと首を左右に振った。
 そうして次々とマンティコアキッズを抉り、貫いて。
 3体の姿が消えたところで、ふぅ、とセプテンバーは螺旋剣を収めた。
 そしてもう一度、何もないように見える空を見上げてから。
「さて、海賊の皆さん」
 セプテンバーは海賊達に向き直り、穏やかな笑みを浮かべて見せる。
「私はこれから少年を『殺し』に行きますけど……リクエストはありますか?」
 唐突な問いかけに、そしてその内容に。
 海賊達はどこか呆然とセプテンバーを見つめて。
「リクエスト……?」
「ええ、殺し方とか、伝言とか……私に可能な範囲であれば応えますわよ?」
 笑顔で頷くセプテンバーの姿を見てから、互いに目を見合わせる。
 戸惑い、困惑する空気の中で。
 セプテンバーを真っ直ぐ見据えたのは、羅刹の1人。
「お前は……海里を殺せるのか?」
「ええ」
 探るような問いに、自信と共に頷き返せば。
「それなら、頼む。海里に伝えてくれ」
 羅刹は、哀しみの中に決意を込めて、セプテンバーへと告げる。
「お前は俺達の仲間だ、と」
 悲痛な覚悟の表情で告げる羅刹の周囲で、他の3人が頷いた。
「カイリは島で生まれた子じゃない。頭が海で拾った子だ」
「頭がこの島に託して、島の子として育てられた」
「島の長が、海里って名をつけてくれた」
「でも、カイリはずっと言ってたんだ。海賊になりたいって」
「俺達と一緒にいたいって」
「だからってこんな勝手なことしやがって……あのバカが……」
「それでも、俺達はカイリが大事だ」
「島の子であり、海賊の子であることに変わりはない」
「だから……」
 口々に訴えられる、少年の実情と海賊達の思い。
 それらを受け止めたセプテンバーは淡く微笑み、しっかりと頷いて見せた。
「確かに。承りましたわ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

セシル・バーナード
おやおや、これはぼくの好みの子たちだけど、つまみ食いは出来そうにないなぁ。残念。
それじゃあ、後腐れなくすっぱりといくよ。

無警戒に突っ込んできた段階で、「全力魔法」「範囲攻撃」の空間裁断。まとめて叩っ切る。
そこから、状況に合わせて、単体高威力の空間断裂と、威力より範囲の空間裁断の使い分けで敵を削っていく。
巨大化したところで、ただの的だよ。真っ向から潰す。

これだけやれば、矛先は海賊から逸れたかな?
ぼくを本格的に狙い始めたら、空間転移で回避しながらの「暗殺」も仕掛けていこう。
回避不能なら次元障壁を瞬間的に張って。

喚ばれたからってほいほい出て来たのが運の尽きだね。君たちを呼ばわった相手は今どこにいる?



「カイリのためにがんばる!」
「でもやっぱりご飯ほしいからがんばる!」
 口々に殺る気を見せるマンティコアキッズ。
 セシル・バーナード(f01207)もその前に立ち塞がって、にっこり微笑んだ。
「おやおや、これはぼくの好みの子たちだ」
 愛を説く妖狐にとっては、オブリビオンもその性愛の対象となり。
 未だ子供の自身よりも尚幼く、無邪気なその様子はセシルの琴線に触れたけれども。
「でも、つまみ食いは出来そうにないなぁ。残念」
 マンティコアキッズは、愛とか恋とかよりも元気に走り回る方が好きそうなお年頃。
 セシルの熱い眼差しにも、妖艶な雰囲気にも気付きすらせず、性欲の欠片もない全開の食欲で襲い掛かってきたから。
「それじゃあ、後腐れなくすっぱりといくよ」
 突っ込んでくるマンティコアキッズを、セシルは艶やかな微笑みで出迎える。
 無防備に立っているだけに見えるセシルだけれども。
 その周囲には、不可視無音で防御を無視する無数の空間断裂が生み出されていて。
 広範囲に広げられたそれが、次々とマンティコアキッズを捉えて傷つけた。
「いたいぞ。切れたぞ」
「あれ? 何もないよな?」
「でも切れた」
 見えない罠のような空間裁断に戸惑いの声が上がるけれども。
「きずはあさいぞー」
「うん。これくらいならまだだいじょうぶ」
「がんばってたおそう」
「カイリのために」
「ご飯のために」
 すぐにその食欲で身体サイズを増大させると、再びセシルへと向かってくる。
「巨大化したところで、ただの的だよ」
 しかしセシルは落ち着いて。
 空間裁断を、今度は1撃の威力を上げて放った。
 見えない刃は先ほどより深く大きくマンティコアキッズを傷つけていく。
(「これだけやれば、矛先は海賊から逸れたかな?」)
 1、2、3体か……と改めてその数を数えて。
 その3体が追いかけていたはずの海賊の姿が辺りにもう見えないことを確認。
 周囲を気遣うことなく、マンティコアキッズだけを相手にしていった。
 空間を操るその力を応用して、空間転移も見せ、マンティコアキッズを翻弄し。
 避けられない爪や牙は、次元障壁で難なく防ぎ。
 そして、高威力の空間裁断で、着実にダメージを重ねていく。
「喚ばれたからってほいほい出て来たのが運の尽きだね」
 穏やかな微笑みを浮かべたまま、1体、また1体とマンティコアキッズを倒して。
 セシルは最後の1体にずいっと近寄った。
「ねえ、教えてよ」
 その動きを押さえつけ、獣耳を艶やかに撫でるように白い繊手を動かして。
 思わずどきりとするような、煽情的な声色で囁くように問いかける。
「君たちを呼ばわった相手は今どこにいる?」
 マンティコアキッズは、熱に浮かされたようなぼうっとした瞳でセシルを見上げると、問われた答えを紡ぎ出し。
「ありがと」
 セシルの熱い囁きの下に消えていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

水心子・静柄
そろそろ水着の季節ね、いい加減引きこもってないで猟兵らしいことでもしようかしら。それにしてもこの世界は海ばかりでイヤになるわね…錆でも付いたらどうしようかしら。

海賊も逃げるしか出来ないのに島民を巻き込まないなんて殊勝ね。身から出た錆だから助ける理由もないけど見捨てる理由もないわね。それにしてもごはんごはんって、そんなにお腹が空いているならこれ(本体の分身)でもたっぷり喰らいなさい!

相手は食欲の塊みたいなもので本能で行動しそうな感じだけど、私は第六感と野生の勘で勝負所を見極めて捨て身の一撃で放つ射合で一気に勝負を決めるわ!…偉そうな事言って助けられなかったらゴメンなさい



 紫陽花の間を走り抜け、逃げていた海賊達は不意に足を止めた。
「おい、この先は……」
「ああ、これ以上はヤバい」
 苦々しい顔をして見据えた先、木の葉の間に小さく見えるのは、幾つかの瓦屋根。
 このまま真っ直ぐ行けば、この島の民が暮らす集落の端に辿り着く。
 そんな位置関係を把握して。
「こっちだ」
 眼鏡をかけた人間が横に反れる道を指し示した。
 けれども。
「その先は行き止まりだぞ!?」
「だからってこのまま進むのか!?」
「そ、そうだけどよ……」
 慌てるスキンヘッドの人間に、だが代替案はなく。
「行くぞ」
 覚悟を決めたように、狼獣人が走り出した。
 行き止まりへと。
 集落から少しでも遠ざかろうと。
「殊勝ね。逃げるしか出来ないのに島民を巻き込まないなんて」
 進み出したその先で、灰色のような緑色のような長い髪が揺れた。
 木陰から足を踏み出した水心子・静柄(剣の舞姫・f05492)は、驚く海賊達を睥睨するように見渡してから、扇子の向こうで唇の端を小さく笑みの形に変える。
「そろそろ水着の季節だもの。
 いい加減引きこもってないで猟兵らしいことでもしようかしらと思ってね」
 どこか怠惰な雰囲気で海賊達の前に出るけれども。
 唐突なその登場に、そして語られたその理由に、海賊達はあっけにとられ。
「それにしてもこの世界は海ばかりでイヤになるわね……
 錆でも付いたらどうしようかしら」
 そんな様子を気にもせず、静柄は右袖から脇差しを取り出した。
 それはヤドリガミである静柄の本体。
 刃を納めた美しい黒塗りの鞘は、刀を抜かなければ錆びないとでも言うかのように、鍔と赤い紐で結び付けられている。
 しかしそれは、刀本来の使い方を封じるものでもあるから。
 戦う気がないようなその武器に、また海賊達は唖然としていた。
 そこに。
「おいついたぞー」
「あとはたおして、そしたらご飯!」
「なんかふえてる?」
「ふえたのもみんなたおしてご飯だー!」
 わちゃわちゃと、3体のマンティコアキッズが追い付いてくる。
 慌てて振り返った海賊達は、手に手に武器を構えたけれども。
 その切っ先は動揺し、恐怖に揺れていたから。
 静柄は海賊達の間をするりと通り抜けて、マンティコアキッズの前へ立つと。
「そんなにお腹が空いているならこれでもたっぷり喰らいなさい」
 ぽいっと手にしていた脇差をマンティコアキッズの前へ放り投げた。
 手前に落ちただけで自身に当たりもしない、そもそも抜かれてもいない刀を、マンティコアキッズは思わず目で追ってしまい。
 足元を見つめたそこに、静柄の周囲から幾本もの脇差が飛んでいった。
 脇差は全て、静柄の本体の複製。
 そして本体同様に、全ての複製の刃は鞘に納められているけれども。
 その強度と、撃ち出したことによる加速で、鈍器のような威力を纏っていたから。
 うわー、ぎゃー、とどこか暢気な悲鳴を上げて、マンティコアキッズが慌てだした。
 次々と複製体を射出し続けながら、ちらりと静柄は背後の海賊達を見やり。
「海賊の儀式の結果なのでしょう?
 身から出た錆だから助ける理由もないけど……」
 ぽかんとしているその顔に、また口元で笑ってから、マンティコアキッズへ向き直る。
「見捨てる理由もないわね」
 そして静柄はまた、自身の複製を錬成カミヤドリで複製する。
 威力を上げるために、脇差に最大限の加速を与えているため、逆に細かな制御ができなくなって何本か外れも出ているが。
 それでも充分な数がマンティコアキッズを襲っていたから。
「こいつたおして、ご飯にするんだ!」
「ご飯ー!」
 たまりかねたマンティコアキッズは、食欲を爆発させるとその身体を大きくした。
 おやまあ、と目を瞬かせてそれを見上げた静柄は。
 ぱちん、と扇子を閉じてから、肩越しに海賊達へ振り返る。
「偉そうな事言って助けられなかったらゴメンなさい」
 言いながらも、浮かべる笑みは先ほどまでと変わらず。
 周囲に浮かぶ複製された脇差の数はどんどん増えていく。
 海賊達は、恐怖や焦燥を忘れてしまったかのようにぽかんとしたまま。
 的が大きくなったことで当たりやすくなった脇差が、次々とマンティコアキッズに飛び当たり、打ちのめしていくのを眺めていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レイン・レーニア
(アドリブ・連携歓迎)
やぁ海賊くん!なにやら試練の後始末に失敗しそうなんだって?
正直言いたいことは山々だけど、島に被害がいく前にって姿勢は悪くない。
これ以上は飲み込んでおこう。

出したガジェットを盾に、僕や海賊くんへの攻撃を防ごう。
やる気とパワーに満ちた攻撃だけど、蒸気の力の<オーラ防御>で押し返して耐えようか。
コイツの本来の用途は誘眠ガスの散布でね、夢中で叩いてるとすぐ眠たくなっちゃうぜ?鈍ってきたらそこをゴツンだ。

それで?君達と件の子、試練の前に何かあった?ケンカでもした?
心当たりが無くても、その子ならこう動くだろうなってのを教えてくれたら、
君達のお望みもぐっと叶えやすくなると思うんだけど?



「やぁ、海賊くんたち! なにやら試練の後始末に失敗しそうなんだって?」
 陽気な声が割り込んだのは、まさに海賊達がマンティコアキッズに追い詰められ、満身創痍となっていたその場面だった。
 驚く海賊達の前に、振り向いたマンティコアキッズの前に、水のように艶めく青い髪を靡かせた、どこか胡散臭い感じの青年が進み出る。
「正直言いたいことは山々だけど、島に被害がいく前にって姿勢は悪くない。
 ゆえに、これ以上は飲み込んで、ただ助けに入ろうじゃないか」
 すたすたと歩みを進める彼は、レイン・レーニア(雨は雲に、雲は雨に・f26412)。
 その堂々とした態度に、マンティコアキッズもきょとんとして間を通してしまい。
 傷だらけの海賊達の前へと辿り着くと、レインは長い青髪をふわりと広げるようにしながらくるりと振り返った。
「さあ、かかってくるといい」
 不敵な笑みに、マンティコアキッズは顔を見合わせて。
「ふえた?」
「こいつもたおせばいいんだよな?」
「よし、たおすぞー」
「もうちょっとだけがんばる!」
 口々に言い合いながら、その能力を増強するユーベルコードを発動させていく。
 そして、やる気とパワーに満ちた攻撃が、レインに襲い掛かるけれども。
 レインの収納魔法により取り出されたガジェットが盾となり、それらを防いで。
 さらにそこから蒸気の力も生み出され、海賊達をも守るように広がっていく。
「むー。ヘンなの、じゃまー」
 不機嫌な子供のように口を尖らせるマンティコアキッズは、攻撃が通らないことにイライラを募らせていき。
 その苛立ちからムキになって、益々レインを倒そうと、その腕が爪が牙が襲い来る。
 何とか攻撃に耐えている、といった風のレインだったけれども。
「そうそう。言い忘れてたけど」
 盾にしたガジェットを改めて示し、にやりと笑って見せた。
「コイツの本来の用途は誘眠ガスの散布でね」
 ただ攻撃を防いでいるだけと思われたガジェットが噴き出す蒸気。
 それは、攻撃を防ぐオーラの盾であると共に。
 敵を眠りに誘うものでもあったから。
「夢中で叩いてるとすぐ眠たくなっちゃうぜ?」
 告げたレインの前で、マンティコアキッズは目をこすったり頭を横に振ったりして、段々とその動きに精彩がなくなっていく。
 動きの鈍ったそこに、レインはガジェットを盾から鈍器へと切り替え振り上げ。
 ゴツンゴツンと、片っ端から殴り倒していった。
 一気に形勢は逆転し、程なくして、その場の最後の1体が姿を消す。
 これで終わり、とレインは周囲を確認してから。
「それで? 君達と件の子、試練の前に何かあった? ケンカでもした?」
 また青い髪を広げるようにくるりと、今度は海賊達へと振り返る。
 その楽観的な笑みに。
 無遠慮なまでに真っ直ぐな問いかけに。
 そして自分達を助けてくれたという事実に。
 ちらりとお互いを見合った海賊達は、ぽつり、ぽつりと語り出した。
「……本当は、俺が試練を受けるはずだったんだ」
「それをカイリの野郎、勝手にメガリスを持ち出しやがって……」
「コンキスタドールになんてなりやがってよ!」
 それはどんな感情と言えばいいのだろうか。
 怒り。悔しさ。哀しみ。嘆き。
 件の少年は海賊達にも好かれていたのだろう。
 だからこそ、彼を失くしたこの現実に、酷く複雑な思いをいだいているようで。
「せめて俺らで終わらせてやろうって思ったんだがな……」
 武器を握り締める手に、強く強く力がこもる。
 ふーん、とその様子を眺めたレインは、それなら、と笑いかけ。 
「その子ならこう動くだろうなってのを教えてくれたら、君達のお望みもぐっと叶えやすくなると思うんだけど?」
 軽い口調だけれども、言外に任せろと伝える言葉。
 海賊達は、辛そうに表情歪めながら。
「きっとアイツは……泣いてる」
 そうぽつり、ぽつりと、話し出す。
 レインに思いを託すように。
「そうだな。怒られると思ってんじゃねぇかな」
「そしたら行く場所はあそこだな。紫陽花の奥にある祠の前」
「ああ、いつもあそこで泣いてた」
「生半可な覚悟と実力じゃ海賊団には入れられねぇ、って頭が突っぱねた時も」
「あそこで泣いてたな」
 どこか楽しそうに笑いながら。
 でもその笑みの端に、苦し気な、そして悲し気な影を添えながら。
 思い出を、レインに伝えて。
「頼む。カイリを……終わらせてやってくれ」
 そして、深々と下げられる頭。
 レインは、肩にかかっていた青い長髪をさらりと払って。
 不敵に笑い、深く頷いて見せた。

 そして。
 島内に散らばっていたマンティコアキッズをそれぞれに倒した猟兵達は。
 残るコンキスタドールの元へと向かう。
 紫陽花の花に囲まれた小さな祠の前へ。
 海賊の試練に失敗した、羅針盤のメガリスを持つ少年……海里の元へと。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『『絶海の導』ブルーワンダー』

POW   :    救いを消し去る大海
【羅針盤から吹き出す光の雨】を降らせる事で、戦場全体が【落雷、暴風、大津波、荒れる海流の死の海】と同じ環境に変化する。[落雷、暴風、大津波、荒れる海流の死の海]に適応した者の行動成功率が上昇する。
SPD   :    救いを齎す大盾
自身からレベルm半径内の無機物を【レベル個の絶対防御の神の盾『アイギス』】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
WIZ   :    救いを告げる大舟
非戦闘行為に没頭している間、自身の【羅針盤】が【救いの船『ノアの箱舟』を創り出し】、外部からの攻撃を遮断し、生命維持も不要になる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠アイン・セラフィナイトです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 どうしよう。どうしよう。
 ただ皆と一緒にいたかっただけなのに。
 ユーベルコードを使えれば海賊団に入れてもらえると思っただけなのに。
 メガリスをこっそり盗んでしまった。
 勝手に試練をやってしまった。
 そして、失敗して、死んで……コンキスタドールになってしまった。
 どうしよう。どうしよう。
 海賊の皆が僕を殺そうとしている。
 勝手なことをした僕を嫌いになったから。
 嫌いな僕を殺そうとしている。
 どうしよう。どうしよう。
 仲間になりたかった皆が敵になった。
 誰も彼もが僕を嫌いになった。
 もう僕に仲間はいない。
 もう僕には敵しかいない。

 もう誰も信じられない。
セシル・バーナード
やあ、泣き虫のコンキスタドール。お仕置きの時間が来たよ。

プラス・プラチナでプラチナちゃんにも支援を要請。『神の盾』アイギスは金属みたいだし、使役出来ないかな?
ぼくは、空間断裂を連打して押し込む。
まあ、絶対防御の盾があれば防げるよね。

カイリが状況が膠着状態に陥ったと思ったところで、本命の空間転移。カイリの死角に移動して、次元断層を纏った手刀で急所を狙う。
これで神盾の制御が甘くなったら、プラチナちゃんに盾の制御権を奪ってもらおう。
そのまま盾を円盤投げの要領でカイリに叩き付けてもらえるかな?

可哀想だけど、これも自業自得の因果応報。自分でやったことの責任は取らなきゃね。

プラチナちゃん、おつかれさまー。



 少年は咲き誇る紫陽花の間を必死に走っていた。
 短い金髪を乱しながら、大きな羅針盤を両手で抱えて。
 海のように青い瞳が、怯えたように辺りを彷徨う。
 どこをどう走ったのかも覚えていない。
 どこかを目指していたわけでもない。
 でも、紫陽花の路を抜けた先は、見慣れた場所。
 隅に小さな祠がある、小さな空き地だった。
 息を弾ませた少年は思わず足を止めて。
 それからゆっくりと祠へと近づいていく。
 1歩1歩。縋るように。
 祠の前に、立って。
「やあ、泣き虫のコンキスタドール。お仕置きの時間が来たよ」
「ひっ……!?」
 不意にかけられた声に慌てて振り返ると、さらりとした金の髪を揺らして、セシル・バーナード(f01207)が笑っていた。
 獲物を容易く籠絡する魅惑的な緑色の瞳が少年を見つめるけれども。
「おっ、お前も僕の敵だろ!?
 みんな……皆、僕を殺そうとしてるんだ!」
 その魅力に揺らぐことなく、少年は悲鳴のような声を上げてセシルを拒絶する。
 怯え切ったその反応に、おや、とセシルは小さく驚いた。
 ほぼ同年代の、貴族的な優雅さを漂わせた華奢なセシルは、少年を追いかけていた大人な海賊達に比べても非常に非力に見えるはず。
 武器も持たず、柔和に少年へ笑いかけてさえいる。
 なのにこちらを見る青瞳には、警戒や恐怖が色濃く揺れ。
 妖狐であるセシルの誘惑すらはねのけて、いや、むしろ誘惑を受け付ける余裕がないかのように、引きつった表情で落ち着きなくセシルやその周囲を見て、悲痛に叫んだ。
「僕がこんなになったから……僕を嫌いになったから!」
 そしてその疑心を表すかのように、少年の周囲で無機物が変換され、絶対防御の神の盾『アイギス』が次々と現れる。
 ふぅん、と呟いたセシルの前で盾は少年を覆い守り。
 そのうちの幾つかが、攻撃へと転じてセシルへと飛来した。
 迫る大盾に、だがセシルは慌てることなく微笑んで。
「おいで、可愛い女の子」
『はいっ! 私めっちゃ頑張ります!』
 呼びかけるようにユーベルコードを発動させると、金属のように煌めく銀の髪を長く揺らした少女が、セシルの前へと姿を現した。
『金属なら私の領分です! 本当はレアメタルがいいんですけど!』
 可愛らしく必死な表情で、白磁の繊手を前に突き出すと、飛び来た大盾はその軌道を変えて、少女とセシルとを避けていく。
 そうして少年の攻撃を相殺しながら眺めていると。
 少年が抱えていた大きな羅針盤から光の雨が吹き出した。
 雨は辺りを覆い、少年を中心に荒れ狂う死の海が広がっていく。
 誰も近づけさせないと言わんばかりの拒絶の荒海。
 だがしかし、そんな少年に巨大ロボが迫り行き、組み合っていったから。
 セシルは笑みを湛えたまま、少女へと呼びかける。
「プラチナちゃん」
『はいっ! 任せてください!』
 具体的な指示を受けるまでもなく、その意図を察した少女は、迷うように辺りをただ漂うだけになっていた大盾へと改めて手を伸ばし。
『もうこの盾は私のものです! 制御権は頂いたのです!』
 少年の周囲を守っていたものも含めて奪い取ると、広がる荒海に大盾を並べて、即席の足場を作り上げた。
 そこを静かにセシルが奔る。
 他の攻撃に気を取られているうちに、少年の背後へとそっと回り込んで。
 死角から手刀を振り抜いた。
「可哀想だけど、これも自業自得の因果応報。
 自分でやったことの責任は取らなきゃね」
 空間を操る力も纏い攻撃力を上げた一撃で深く少年を切り裂くと。
『いっきまーす!』
 響いた少女の声と共に、少年を守っていたはずの盾が少年へと叩き付けられる。
「ぼ、僕は……」
 虚ろな顔を上げた少年は、重なる攻撃の中でその姿を消していった。
 嵐の海から紫陽花の空き地へと戻った大地を踏みしめて、セシルはその最期を変わらぬ笑顔で見届けると。
「プラチナちゃん、おつかれさまー」
『私やりました! めっちゃお役立ちでした!』
 くるりと振り向き労えば、少女がとても嬉しそうにセシルを出迎えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セプテンバー・トリル
さて、あの子を止めなくてはいけませんわね。
海賊さんたちからのメッセージを伝えるためにも。

【POW】連携・アドリブ歓迎
環境が海になるというのであれば…おいでなさい、【ユンボルギーニ】!
そして【重機神ナガツキ】に合体しますわよ!

我が両腕に正義を掲げ、照らせ未来と勇気の心!重機神ナガツキ・Yg(ユンボルギーニ)、ここに参上!

さあ、ユンボルギーニの【水中機動】と【環境耐性】【電撃耐性】を見せてあげましょう。
【グラップル】で少年に組み付きつつ、抱えた羅針盤の【部位破壊】を狙います。

組み合いながらでも、託されたメッセージは全て伝えましょう。
誰も貴方を嫌ってなどいなかったと。
それだけは、必ず!



 紫陽花の間からその小さな空き地へと姿を現したセプテンバー・トリル(f16535)は、びくっとこちらを振り向いた怯えた瞳を見る。
「みんな……皆、僕を殺そうとしてるんだ!」
 涙に揺れる海のような青は、落ち着きなくまた別の方向へ向けられて。
 全てを拒絶するかのように、金髪の少年は……大きな羅針盤を抱えた海里は、悲痛な叫び声を上げた。
「僕を嫌いになったから!」
 海里を守るように大盾が覆い、また、近づくことすら許さないと言わんばかりに、同じ大盾が周囲を飛び交い警戒する。
「これは、近づくのも大変そうですわね」
 そんな拒絶の様子を見ていたセプテンバーは、ならば、と不敵に微笑んで。
「おいでなさい、ユンボルギーニ!」
 両腕型マルチビークルを召喚。
「シンクロ・ユニオン! Code:ナガツキ!」
 さらにユーベルコードを発動させると、両腕を掲げた重機に他の重機が組み合わさり、巨大ロボへと変形合体していった。
「我が両腕に正義を掲げ、照らせ未来と勇気の心!
 重機神ナガツキ・Yg、ここに参上!」
 男の子の多くが憧れの瞳を向けそうなカッコイイ重機ロボが、その巨体を見せつけるように決めポーズを取るけれども。
 海里は逆に怯えを強め、大きな羅針盤にすがるように腕にさらなる力を込めた。
 それに応えるかのように、光の雨が羅針盤から吹き出し、降り注ぐ。
 あっという間に雨は大地を満たし、美しく穏やかな紫陽花の地は、嵐に荒れた大海へと姿を変える。
 海里の恐怖を表すように、落雷があちこちで轟き。
 海里の拒絶を示すように、暴風がセプテンバーを押し返す。
 大津波は、荒れる海流は、混乱する海里の心境のようで。
 だからこそ、セプテンバーは操るロボを真っ直ぐに海里へと向かわせた。
「ユンボルギーニは水陸両用ですの。
 ゆえに、ナガツキ・Ygは水中もいけますのよ!」
 合体した重機の特性を得たロボは、胸を張るセプテンバーの期待に応え、大海をものともせずに海里へと近づいていく。
「カイリ、と言いましたかしら?
 私、海賊の方からメッセージを託されてますのよ?」
「えっ……?」
 荒れる海の中で告げたセプテンバーに、海里がはっとして顔を上げた。
 その瞳に微かな期待の色を見て、セプテンバーは言葉を続けようとしたけれども。
『信じるな』
『誰も信じてはいけない』
 響いた暗く低い声に、びくっと海里がまた身体を震わせた。
『我は絶海の導・ブルーワンダー』
『我だけがお前を導く者』
 重苦しい声は海里が抱える羅針盤から紡がれているようで。
 海里を縛る鎖のように、重く重く、纏わりついていく。
『信じるな』
『我以外は何も信じてはいけない』
「煩いですわね!」
 むっとして叫んだセプテンバーに併せて、ロボがその巨腕を突き出した。
 狙うは海里を惑わし縛る羅針盤。
 けれども、その腕は海里の周囲を漂っていた神の盾に遮られて届かないから。
 さらに海里が救いを告げる大舟に閉じ込められるかのように籠っていくから。
「メッセージを、お伝えしますわ!」
 拳の代わりにと、セプテンバーは声を張り上げた。
「お前は俺達の仲間だ、と!」
 海里を殺してくれ、と頼んで来た時の海賊達を思い出しながら。
 痛いほどにセプテンバーへと伝わったその想いが少しでも伝わるようにと願いながら。
「誰も貴方を嫌ってなどいなかったと!」
 何度も何度も、ロボの巨腕を振るい、組み合いながらセプテンバーは叫ぶ。
「確かに、伝えましたわよ!」
 次第に、ロボの腕から海里を守っていた盾は力を失い。
 そして海里が籠っていた大舟も、ぐにゃりと歪んで消えていく。
「僕は……嫌われて、ない……?」
 気付けば、海里の周囲に大盾が落ち、足場を作り上げていて。
 そこを馬が駆け抜け、そして空を青い翼が舞い踊った。
 海里を守っていたはずの大盾までが、海里へと叩き付けられ。
「ぼ、僕は……」
 虚ろな顔を上げた海里の前に迫った人影が、槍を大きく振り上げる。
 海里は、その槍の切っ先を、むしろ望むかのように見つめて。
「伝えましたわよ……」
 貫かれた身体が消えていくのを、セプテンバーはじっと見届けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

神賛・ヴァキア
グジグジ言ってんじゃないよ。
そんなんで海賊になろうとしてたのか?
奴らが行ってるらしい海賊の儀式の事は知ってたんだろ、
いい加減覚悟決めろよ
失敗したんならばコンキスタドールとして全力で生きようとしてみろよ。
こちらはこちらで海賊の連中の代理として執行するがな

戦闘に参加する意思がある海賊がいるのならば戦わせる
こちらの戦闘方法は騎乗能力を上昇させて
その機動力を生かし突撃かけたり、ナタで攻撃したりしていく

ヒンヒン泣いてるんじゃ海賊としてもコンキスタドールとしても生きては行けないぞ



 気配を察して、神賛・ヴァキア(f27071)は紫陽花の間を迷いなく進む。
 帽子の下で鋭く輝く赤い瞳は、真っ直ぐに前を見て。
 額に星を象る青鹿毛の相棒・マロンウィナー号も、鞍上のヴァキアの心中を察したかのように、淀みなく、だが慎重に、足を進めていた。
「僕がこんなになったから……僕を嫌いになったから!」
 進む先から聞こえてきたのは、悲鳴のような叫び声。
 その言葉に少し苛立ちを覚えながらも、ヴァキアは紫陽花の路を辿り。
 小さな空き地へと出る直前で、マロンウィナーの足を止めた。
 大きな羅針盤を抱えた少年が、周囲に盾を展開したのを見てから。
 ヴァキアは、その視線を横手へと反らす。
 紫陽花の葉が幾重にも覆い茂り、大きな花の塊が幾つも咲いていて。
 これまで通ってきた道と変わらないはずの光景。
 だが、ヴァキアは、その紫陽花の中の一点をじっと見据え。
 ……しばしして、視線の先の葉が、揺れた。
 現れたのは、槍を手に海賊服を纏った偉丈夫。
 鼻と目との間に横一文字の傷を刻んだ男は、何かを言いたげに、だが実際は無言のままヴァキアを見上げていたから。
「アンタも海賊?」
 逆にヴァキアから問いかける。
「ああ」
「戦う気はあるのか?」
 2度目の頷きは、少しの間を置いてから返ってきた。
「海里を拾ったのは俺だ。
 だから俺は……俺だけは、海里をお前達に任せて帰るわけにはいかない」
 槍を握る手には強く強く力が込められ。
 しかしその表情には決意だけでなく、苦悩や迷いが見て取れる。
 見知った者を殺すことに。
 そして。
「だが、俺だけでは海里を殺せない」
 実力差という乗り越えられない事実に。
 恐らく、男は隠れて猟兵達の戦いを見て、好機を狙っていたのだろう。
 だがそれは訪れるかどうかも分からない機会。
 それでも、それしか男には少年を殺す手段はなかったから。
 漁夫の利を狙っていた、としか言えない自身の言葉に、男は自嘲気味に苦笑した。
 ヴァキアは鞍上からそんな男をじっと見下ろして。
「……名は?」
 変わらぬ淡々とした口調で、問う。
「マイル。お前は?」
「ヴァキア」
 そして、短く答えると視線を元に戻し、再び小さな空き地を睨んだ。
 いつの間にか紫陽花の花咲く大地は、雷鳴轟く嵐の海に変わっていて。
 荒れ狂う大波の中心で、少年は……海里は大きな羅針盤を強く抱いていた。
『信じるな』
『我だけがお前を導く者』
 暴風の中でやけによく聞こえる低い声。
 それは海里が抱えるメガリスの暗い誘惑。
『我以外は何も信じてはいけない』
「そうだ。こんなことになって、皆、僕を嫌いになったんだ。
 皆、僕を殺そうとする。誰も彼も、僕の敵」
 それを受けた海里が、怯えた瞳で虚ろに呟く。
 メガリスの力に負けて、その心を揺らがせて。
 救いの船に護られるように、捕らわれるように、閉じこもっていた。
「もう誰も信じられない……」
 段々と俯いていく姿に、ヴァキアの赤瞳が鋭さを増していく。
「もう、誰も……」
「グジグジ言ってんじゃないよ!
 そんなんで海賊になろうとしてたのか?」
 そしてヴァキアは、もう黙ってはいられないといった勢いでマロンウィナーを駆り、大海へと飛び出した。
 水に取られるかと思われた馬脚は、だがそこに大盾を並べた足場が作られたことで、力強くヴァキアの想いを前へと運ぶ。
「海賊の儀式がどんなものか、知ってたんだろ?
 いい加減、覚悟決めろよ!」
 一喝と共に、一気に海里との間を詰め、騎乗したままナタを振るい。
 防御として残っていた数少ない神の盾『アイギス』を一刀のもとに叩き割って。
 そのまま海里の横をすり抜けるようにして、刃を翻した。
「失敗したんならばコンキスタドールとして全力で生きようとしてみろよ!」
「……いき、る……?」
 重ねられる言葉に、海里を囲んでいた大舟がぐにゃりと揺らぎ。
 迷うように揺らめく海色の瞳が、一旦離脱したヴァキアを追いかける。
「ヒンヒン泣いてるんじゃ海賊としてもコンキスタドールとしても生きては行けないぞ」
 再び突撃すべく、愛馬の鼻先をまた海里へと告げると。
 海里は空を見上げ、そして迫り来る巨腕の向こうも見て。
「僕は……嫌われて、ない……?」
 ぽつり、と零れたその言葉に、ヴァキアは今一度、マロンウィナーを駆った。 
 他の猟兵達とタイミングを合わせて突撃し、数多の攻撃にナタの一撃を混ぜて。
「ぼ、僕は……」
 大きく破損した羅針盤を手に、虚ろな顔を上げた海里を確認して。
「……いけ、マイル」
「うおおおお!」
 短い呼びかけと共に、ヴァキアは素早く横へ避けた。
 その空いた空間を、ヴァキアが駆け抜け作り上げた道を逆に辿るように、槍を手にした海賊の男が走る。
 海里はその姿を真っ直ぐに見て。
 防ぐことも避けることもしないまま。
 ぐしゃりと歪んだ泣き顔にも笑顔にも見える表情で、呟く。
「僕は、コンキスタドール……」
 受け入れるように。
 確かめるように。
 だから。
 海里はそのまま、迫り来る槍を招き入れるかのように、静かに貫かれた。

 きっとこれが、コンキスタドールとして生きる、ということ……

大成功 🔵​🔵​🔵​

レイン・レーニア
(アドリブ・連携歓迎)
完全に壁作って閉じ籠っちゃってるねえ。
他に意識が向いてくれれば破れそうだけど…
ま、近づけるとこまで近づこう『レーゲン』!

飛びつつ翼から氷矢を形成し降らせるけど揺らいでくれるかな?
僕は君のこと嫌いって訳じゃないよカイリくん。
嫌いだから殺すとは限らなくてね。愛してたのに殺さざるを得ないとか殺してしまったとか、よくある話さ

海賊くん達言ってたよ、君が辛い時ここで泣いてた。だからここにいるんじゃないかって。
今も変わらず君を思ってなければ分からないことだと思うけどね?

さて、花が咲くなら土の中花の中空気の中にも水はある。
外からダメなら内側のそれの水を凍らせ貫こう。
雨は等しく降るものさ。



 紫陽花が咲き誇っていた地は、大波に荒れる嵐の海に変わり。
 小さな空き地だった場所に、救いの船『ノアの箱舟』が鎮座する。
 海里の名を持つ少年は、抱えた羅針盤のメガリスの暗い言葉に引きずられ。
 その中心で、周囲の全てを否定していた。
「もう誰も信じられない……」
「あーあ。完全に壁作って閉じ籠っちゃってるねえ」
 その様子を見下ろして、レイン・レーニア(f26412)はひょいと肩を竦める。
 ユーベルコードで創り上げられた救いを告げる大舟に護られ、全ての攻撃を遮断した海里には、何をしても届かなそうだけれど。
「ま、近づけるとこまで近づこう。レーゲン!」
 気楽に頷いたレインは、青い翼を操り空を舞う。
 翼を形作るのは、水。水の精霊・セイレーンであるレイン自身と同じもの。
 だが、飛行能力の秘宝を取り込んだ水は、柔らかな布のようにレインの首元に巻かれ、そしてそこから翼のように広がっていた。
 呼びかけたその翼に水を供し、レインは空から海里を観察する。
「他に意識が向いてくれれば破れそうだけど……」
 疑心暗鬼と人間不信の殻に閉じこもっているかのような状態に、さてどうしようかと対応を考えていると。
「メッセージを、お伝えしますわ!」
「グジグジ言ってんじゃないよ!」
 必死な声に、凛とした一喝に、大舟がぐにゃりとその姿を歪めていく。
 綻びの見えた拒絶に、レインはくすりと微笑んで。
「僕は君のこと嫌いって訳じゃないよカイリくん」
 気楽な口調で話しかけた。
「嫌いだから殺すとは限らなくてね。
 愛してたのに殺さざるを得ないとか殺してしまったとか、よくある話さ」
 大した事ないといったように、少し大げさに肩を竦めて見せながら、ふよふよと宙を舞うレインの姿を海里はどこか呆然と見上げていて。
「僕は……嫌われて、ない……?」
 恐る恐る呟かれた言葉に、そうとも、とレインは大きく頷く。
 そして、思い出したようにぽんっと手を打って。
「ああ、そうそう。僕も海賊くん達から聞いたんだった。
 君が辛い時ここで泣いてた。だからここにいるんじゃないかって」
 大きく両腕を広げて見せながら、ちらりと戦場の隅へと視線を流して笑う。
 そこには、荒海に変わった景色の中にぽつんと、本来の小さな祠が残っていて。
「それって、今も変わらず君を思ってなければ分からないことだと思うけどね?」
 指摘に、海里の青い瞳が見開かれた気が、した。
 不信の殻が綻ぶように、大舟が歪み、消えていく。
 周囲を守っていた盾も、ほとんどが足場へその役目を変えていたから。
 今なら届く、とレインはユーベルコードを発動させた。
「凍てつき固まり、形成すは無数の氷矢。矢弾の軌跡に君は何を見る?」
 荒れた大海なら水は豊富にある。
 本来の紫陽花が咲く地でも、土の中に花の中に空気の中に、水はどこにでもある。
 その水を操り集め、さらに翼の水も使い、そして凍らせて。
 生み出され、煌めくのは、無数の氷の矢。
「降り注げ、氷の雨よ」
 重機ロボと組み合った海里へ向けて、雨のように放たれた氷は。
 幾何学模様を描きながら飛翔し、時に大盾と共に、時にナタと共に、海里を捉えた。
 重なる攻撃に、海里に、そして抱えた羅針盤に、大きな傷が刻まれて行って。
「うおおおお!」
 そこに海賊の男が飛び出した。
 構えられた槍はただ真っ直ぐに、小細工抜きで海里へと向かう。
 愚直なまでに単純な一撃は、避けるのも容易いと見えたけれども。
 海里は回避も防御も見せず、むしろそれを望むように受け入れて。
 貫かれたその身体が消えていく。
 気付けば、嵐の海は紫陽花の地へと景色を戻していた。
 小さな空き地の片隅に、小さな祠が佇んで。
 縋るように槍を握り締め、無言で佇む海賊の男の姿を見届ける。
 レインはふわりと空へと舞い上がり、再び周囲の水を集めて。
 今度は凍らせず、矢にしないまま、静かに滴らせた。
 しとしとと。
 紫陽花の葉が花が。猟兵達が海賊の男が。
 降り注ぐ水滴にしっとりと濡れていく。
「……雨は等しく降るものさ」
 水の翼を広げたレインは、雨空でへらりと微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『花は宴のためにある』

POW   :    宴会には飯! 美味しい料理をたらふく食べる。

SPD   :    場所取り命! 絶好のポジションを素早く確保。

WIZ   :    芸事こそ花! 花を見ながら隠し芸を披露する。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 掟を果たした海賊の男……マイルは、猟兵達を羅刹達が住む場所へと案内した。
 その入り口に当たる場所は、ちょっとした広場になっていて。
 紫陽花の花に囲まれたそこに、数多の料理が並べられている。
 その光景は、どこからどう見ても、宴の準備。
「仲間を殺しておいて祝うのか、と思うだろうな」
 誰も指摘はしなかったが、その気配は感じたのだろう。
 マイルは自嘲気味に苦笑して説明する。
「皆で飲んで騒いで、海里の話を語り合う。
 最期の哀しみよりも、それまでの楽しかった日々を思い出して、笑う。
 ……これが俺達の弔い方だ」
 メガリスの試練を行う時は、必ず宴を準備しているのだと。
 試練を乗り越えた者を祝うために。
 そして、乗り越えられなかった者を、笑顔で送るために。
 ここまでが彼らの『海賊のしきたり』だと、マイルは告げた。
「良ければ、混ざっていってくれ。
 料理も酒も存分に振る舞わせてもらおう」
 手伝ってくれた礼には足りんだろうが、とマイルはまた苦笑を見せる。
「ああ、賑やかなのが嫌いなら、島内を好きに回ってくれても構わない。
 どこに行っても紫陽花は見頃だ。
 料理を持ち出してもいいかもしれんな」
 言う間に、向かう先でもこちらに気付いたようで。
 羅刹達が、見覚えのある海賊達が、招くように手を振りだした。

「……ありがとう。猟兵達」
セシル・バーナード
ふう、終わったね。湿っぽい話はこれでお終いにしよう。宴を楽しませてもらうよ。もちろん、プラチナちゃんと一緒にね。

うん、紫陽花が綺麗だ。プラチナちゃんの前では霞んで見えるけども。
プラチナちゃんはお酒大丈夫なのかな? 残念ながら、ぼくはお茶ね。
それじゃ食べようか。肉の串焼きをプラチナちゃんの口元へ向けて、はい、あーん。

今回はプラチナちゃんがいてくれないと面倒だったからね。感謝してるよ。
抱き寄せて、ハグしてキスして。
存分に料理を味わったら、今度はプラチナちゃんを味わいたいな。
人目が逸れた頃を見計らって二人で宴会場から消えて、誰も来ない場所で二人で愛し合う。
永遠の愛を君に誓うよ。プラチナちゃんはどう?



「さあ、湿っぽい話はこれでお終いにしよう。
 遠慮なく宴を楽しませてもらうよ。ね、プラチナちゃん」
『はいっ!』
 楽し気に笑ったセシル・バーナード(f01207)は、傍らに立つ銀髪の少女の手を引いて宴席に混じっていく。
「おう、坊ちゃん。可愛い彼女連れか?」
「こっちに座りなよ」
 紫陽花柄のカラフルな敷物の上へと羅刹達に招かれれば、咲き誇る紫陽花の茂みを背もたれにするかのような席へと案内され。
 ぺたんと座った2人の前に、料理が運ばれてくる。
 小さな花瓶から溢れるように飾られた紫陽花の切り花も合間に置かれた。
「花は食べられないから、食べるならこっちね」
 羅刹の女性が笑いながら銀髪の少女の前に差し出したのは、紫や赤や青色に染め、小さく切って集めた寒天。
 紫陽花の花に見立てたスイーツと切り花とを見比べた少女は顔を輝かせ。
『見て下さい! すごいです。綺麗です』
「うん、デザートも紫陽花も綺麗だね。
 プラチナちゃんの前では霞んで見えるけども」
 さらりとセシルが紡いだ甘い言葉に、少女の白い肌が真っ赤に染まった。
 そんな様子にくすりと微笑んでから、飲み物を、と視線で探すセシルに、気付いた赤ら顔の羅刹がにやりと笑う。
「坊主にゃ酒はやれねぇな。こっちにしとけ」
「そうだね。残念だけど」
 遠ざけられた酒瓶に肩を竦めて見せれば、代わりにと差し出される2つの茶碗。
「これはお茶かな?」
「甘茶と言うんですよ。そちらのお嬢さんもどうぞ」
 セシルの問いには羅刹の老婆が柔和に答え。
 そっと口をつけると、ほのかな甘みが広がった。
「ほら、肉も来たぞー」
『わー! 山盛りです。すごい量です』
 羅刹の男の呼びかけに振り向くと、文字通り山のような肉が運ばれてきて。
 セシルはそこから串焼きにされたものを2本、取り分けてもらう。
「それじゃ食べようか。
 こっちがプラチナちゃんの分ね」
『はいっ!
 ……って、持ってるの私の分ですよ? 反対ですよ?』
「いいんだよ、これで。
 はい、あーん」
『え!?』
 差し出された肉の串焼きに、少女は目を見開いて。
 顔を真っ赤に染めながら、おずおずと、小さく口を開けた。
 味なんて分からない、といった様子でもぐもぐすると。
「次はぼくの番だね。はい、あーん」
『えええ!?』
 今度はセシルが口を開けて待つ。
 少女はおろおろしながら、震える手で串焼きを持って、何とかセシルの口へと届けた。
「坊主、見せつけてくれるじゃねぇか」
「初々しくて可愛いわね」
 微笑ましく見守る羅刹達は、応援するように次々と料理を運んでくれる。
 それらを仲良く分け合いながら。
 紫陽花に見立てた寒天のデザートまで味わって。
 もうお腹いっぱい、と伝えると、羅刹達は給仕から酒宴へとその動きを変えていた。
 大人達が酔っ払い、盛り上がっていくその片隅で、取り残されたかのように、静かに宴の様子を眺めていたセシルは。
「美味しかったね」
『はいっ! ご馳走でした!』
 そっと隣の少女に身体を寄せ、耳元で甘く囁く。
「今度はプラチナちゃんを味わいたいな」
 今日一番の赤い顔で、それでもこくりと頷いた少女の手を引いて、セシルは宴席から離れていった。
 無言のままに2人を迎え入れるのは、咲き誇る紫陽花の茂み。
 緑色の葉が瑞々しく重なり。
 紫色や赤色、青色や白色の花が幾つもの塊をつくる。
 その花言葉には、移り気とか浮気といったものもあるけれども。
 そんな些事にセシルの愛は揺るがないから。
「永遠の愛を君に誓うよ」
 甘く魅惑的に囁かれる声に、2人の時間が紡がれていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セプテンバー・トリル
そうですわね、私は賑やかな所より静かな方が好みですわ。
ある程度宴に付き合ったら、そっと外へ出て紫陽花を見て回りましょうか。

【WIZ】連携・アドリブ歓迎
いつものように記録用の【サーベイヤー】を飛ばして、後は気ままにあちこち行ってみましょう。

…あ、いけませんわね。最近なんだか涙腺が緩くなってしまいましたわ。
あの子も義妹と…アリアと同じような勘違いをしてましたわね。
相談されなかったというのは、海賊の皆さんも保護者のつもりとしては結構ツラいでしょうね。

さて、気を取り直して宴の続きへ戻りましょうか。
生き残った者の義務を果たして生きないと、あの子が浮かばれませんもの。



「賑やかな宴も嫌いではないのですけれど」
 沢山の料理と交わされる杯。
 笑い声と笑顔が溢れていた宴席を思い出し微笑みながら。
 けれどもセプテンバー・トリル(f16535)は1人、紫陽花の間を歩いていた。
「私は静かな方が好みですわね」
 折角の御招待だからと宴には参加させてもらったけれども。
 ある程度料理を頂き、皆がそれぞれで盛り上がってきたところで。
 セプテンバーはそっと宴席を離れて、ここに至る。
「さあ、おいでなさい。サーベイヤー」
 いつものように測量支援隠密ヘリを飛ばし、美しい紫陽花の写真撮影を任せると。
 小路をのんびりと、特に行く当てもなく、セプテンバーは進んでいった。
 大きな葉が幾重にも重なるその上に。
 紫色の。赤色の。青色の。白色の。
 小さな花が集まって、大きな花を形作る。
 まるで寄り添うように。
 まるで仲間同士で集うように。
 同じ色の花でまとまる花塊の中に。
 1つ、紫色の花の群れの中に青色の花が混じったような、そんな塊があった。
 紫陽花は色が移ろう花だというから、青色もそのうち紫色になって、同じ色の花塊になるのかもしれない。
 けれども今は、紫色と青色は、別の色で。
 大勢の紫色の中にぽつんとある青色は、別の群れのように見える。
 まるで、羅刹の村に1人居た人間の少年のように。
 ふと、セプテンバーは、怯えて泣きそうな顔をした海里の姿を思い出して。
 そこに、さらりと広がる長い金色の髪と白いドレスを重ね見る。
「……あ、いけませんわね」
 気付けば、セプテンバーの頬を、雨ではない雫が濡らしていた。
 最近、涙腺が緩くなってしまった自覚はある。
 それは、義妹に再会してから。
 影朧と化していた彼女を、義兄と共に倒してから。
(「あの子もアリアと同じような勘違いをしてましたわね」)
 臆病で、後ろ向きで、泣き虫な義妹と同じ不安を抱えた少年。
 皆に嫌われたと。
 誰も信じられないと。
 全てを1人で抱え込み、散っていった、島の子供。
(「相談されなかったというのは……
 海賊の皆さんも保護者のつもりとしては結構ツラいでしょうね」)
 義妹の心に気付けなかったセプテンバーだからこそ。
 その辛さを、その痛みを感じ取って。
 そっと色の混じった紫陽花へと手を伸ばす。
 優しく撫でるように、セプテンバーの繊手が動いて。
「さて、気を取り直して戻りましょうか」
 ぱっと顔を上げると、涙を拭ってセプテンバーは笑顔を輝かせた。
 くるりと踵を返し、今来た道を迷いなく、しっかりと踏みしめ、戻っていく。
 静かな紫陽花の小路から、賑やかな羅刹達の宴へと。
「生き残った者の義務を果たして生きないと、あの子が浮かばれませんもの」
 まずは海里を笑顔で送ろう。
 海賊に拾われた子だからこそ、海賊の掟に散ったのなら。
 この島の子だからこそ、この島のしきたりで。
 紫陽花の花を見た時に、羅刹達と笑っている海里を思い描けるように。
 その決意を込めた晴れやかな笑顔を、隠密行動をしていたサーベイヤーが、咲き誇る紫陽花と共に1枚、記録した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レイン・レーニア
(アドリブ・連携歓迎)
宴かあ、いいね!僕も湿っぽいのより賑やかな方が大好きだ。遠慮なく混ざらせてもらおう。
集まった人達の話に耳を傾けるだけでも楽しいものだ。
宴の主役との思い出については僕より彼らの方がよく知ってるだろうしね。
飲めや歌えや。話の種が尽きぬことこそ、あの子が愛されてた証というものさ。

まだまだ宴は続きそうだけど、前後不覚になる前に離脱しよう。
宴もお酒も好きだけど下戸は辛いねホント。
哀しみに沈むより楽しかった日々を思う、か…
哀しむより笑う、と笑うしかできないは違う…ははっ、道理で同じ様に酔えない訳だ。
…でも、道端に咲く花を見て感じる心は同じだと思いたいな。
ああ、とても綺麗だ。



「おう、兄ちゃんはセイレーンかい? まあ座れ座れ」
「話は聞いたぜ。猟兵ってのはすげぇんだなぁ」
 羅刹達に誘われるまま、レイン・レーニア(f26412)は宴の席につく。
 これが美味いだのそれが名物だだのと次々に話しかけられながら。
 所狭しと並べられた料理に、レインは遠慮せずに手を伸ばした。
「いいね! 僕も湿っぽいのより賑やかな方が大好きだ」
「ははは。もう皆このまま酔いつぶれるまで騒いでるからな。
 兄ちゃんも好きにやっとくれ」
 既に赤ら顔の羅刹の男が、勧めるようにどんっと日本酒の大瓶をレインの目の前に置いた……と思った傍から、ぐいっと飲み干した自分の木升へと注ぎ始める。
 レインへと運ばれてきたはずの料理も、どんどん横から食べられて。
 その雑然とした様子に、だがレインは楽しそうににやにやと笑っていた。
「おー、やっぱ婆の煮物は最高だー」
「海に出てるとコレが恋しくてなぁ」
「カイリも好きだったよな。ほれ、もっとガキだった頃に……」
「ああ、俺らばっかり食ってずるいって張り合って」
「食い過ぎで寝込んだ!」
 盛り上がる会話に耳を傾ければ、聞こえてくるのは、もうここに居ない宴の主役の名。
 笑い声と共に、そこここで次から次へと話が湧いてくる。
「魚といやぁ、わけわかんねぇくらい釣りが下手だったよなぁ」
「そうそう。同じ場所で同じ餌で同じ竿持っててよ、何でか海里のだけ空振りだよ」
「泳ぐのは上手かったのにな」
「誰も教えた覚えがねぇのに、すいすいと潜ってよ」
「あと、海里が泳いでるとよく魚が来てたよな」
「んで、銛を持たせても何も取れねぇ、と」
「魚と相性がいいのか悪いのか」
「ほんと、わけわかんねぇ」
 島で海里と共に暮らしていただろう羅刹達も。
「カイリの野郎、結局、ロープの結び方は覚えなかったな」
「覚えなかったっつーか、超絶不器用っつーか……」
「どうやったらロープがあそこまで絡むんだよってゆーな」
「いやー、解くの大変だったわ」
「海図の読みは一発で覚えたんだろ?」
「潮目見るセンスもあったんだけどなぁ」
「あのロープはないわー」
 海里を拾ってきたという海賊達も。
 皆が皆、その存在を思い、酒を片手に笑い合う。
 その中には、レインに祠の場所を伝え、頭を下げた海賊達の姿もあった。
 料理に舌鼓を打ちながら。
 甘茶を入れてもらった杯を傾けながら。
 レインは優しい喧噪に包まれ微笑む。
(「話の種が尽きぬことこそ、あの子が愛されてた証というものさ」)
 終わることなく続く宴。
 酒混じりの楽し気な笑顔。
 それらに深い愛情を感じて、レインは穏やかに微笑み。
 そして……そっと宴席を離れた。
 賑やかな笑い声を背に、騒がしさから離れながら。
 咲き誇る紫陽花の花の間を静かに進む。
 少し強く吹いた風に、大きな葉と花の塊がゆるりと揺れた。
 そんな中でレインはふと足を止め。
「哀しみに沈むより楽しかった日々を思う、か……」
 そのまま空を仰ぐと、どこか泣き出しそうな顔で、笑う。
「ははっ、道理で同じ様に酔えない訳だ」
 それはレインが下戸だからではない。
 ……かつて、レインも大切な存在を失った。
 そしてその時のレインも笑っていた。
 けれどもそれは、哀しむより笑うことを選んだわけではなく。
 涙することができない身体では、笑うしかできなかったからで。
 泣かない笑顔と。
 泣けない笑顔。
 宴の最中に、その違いを感じてしまったから。
 途切れることない話題に、深い想いを感じれば感じる程。
 その差を実感してしまったから。
 遠くに聞こえる宴の喧騒に振り返り、羨望のような眼差しを向けると。
 また強く吹いた風に、大きな葉と花の塊がゆるりと揺れた。
「ああ……」
 レインは宴の皆と同じ様には酔えない。
 でも。
 それでも。
 道端に咲く花を見て感じる心は同じだと思いたくて。
 小さな同じ花が集まり大きな花を形作る紫陽花を見つめて。
「……とても綺麗だ」
 レインは青色の花塊を撫でるように手を添え、笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年07月16日


挿絵イラスト