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蒼穹のスカイスクレイパー

#アックス&ウィザーズ

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#アックス&ウィザーズ


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●scene
 晴天であった。
 こんな日は雲海をゆく鳥も愉しかろうと、ひとははるかな大空を見上げ、夢想する。
 ちいさな蒼い竜たちが、遠くにみえる雲をつかもうと飛んでいく。無垢な瞳にうつる雲は、綿菓子のようにみえたのかもしれない。
 どうしても捕まらないごちそうを諦めた童らは、一段下を飛ぶ鳥を捕らえ、頭からばりばりと丸かじりにした。

 竜はおそるべき生き物だ。
 青と白で構成されるべき空にうかぶ、血のように紅い体はあきらかな異物だった。
 けれど、そいつは蝙蝠に似た翼を力強くはばたかせ、我が物顔で空を翔けていた。
 ワイバーン――かつて滅びたはずの竜の一種だ。空の王者は金のまなこをひからせ、雲間から下界を睥睨する。豆粒のごとき生き物が、荷馬車をひいて草原を移動していた。
 獲物を見定めた竜が急降下をはじめてから、猛禽のような両脚の鉤爪が、キャラバンで一番若い娘の肩に食いこむまではほんの一瞬。
 荷物を放棄して逃げる間すらなかった。ただ、護衛の冒険者が反射的に空へ手をのばすも、娘はすでにはるか雲の上。
 しばらくして、空から娘の腕だけが降ってきた。
 悲しむことすら能わず、力なきひとは次の街へ馬車を走らせる。命からがら街の酒場へ辿り着いた彼らは、そこで自らの恐ろしい体験を語るのだった。

●warning
「ドラゴンは好き? かっこよくて可愛いよね。本物に出会えた時は感動したな」
 ついでにきみが高い所も好きだと嬉しいんだけどな、と、鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)はうっすら微笑んでみせる。
「アックス&ウィザーズで、ドラゴンのオブリビオンが旅人を空の上にさらう事件が起きていてね。並の冒険者じゃとても歯が立たないから、勇敢な一般人が討伐依頼を受けてしまう前に始末したいんだ」
「拐ってどうするんだ?」
「食べる。彼らドラゴンからしたら、ヒトはただのタンパク質だ。低カロリーでヘルシーなお肉だよ」
 ちなみに成人男性より女性や子供のほうが柔らかくて美味しいという説もあるね、と鵜飼はおまけのように言う。
「僕はあまり美味しく食べてもらえなさそうで残念。……それはそれとして、過去から来たお客さんに黙ってご飯をあげ続けていい道理はないと思う。きみもそう思ったら手を貸してほしいな」

 誘拐犯のドラゴンたちは、雲の上を根城にしている。
 普通ならば到達するのは難しいが、現地には天空への架け橋にもってこいのものがある。
 それをなんらかの手段で駆け上がり、頂上でドラゴン達と戦う事になるだろう。
「敵は元気な子供のドラゴンがたくさんと、大きなワイバーンが一体。みんな空中戦が得意なんだ、彼らとうまく遊べる手段を考えていくとベターかな。さらわれた人たちは既に食べられてしまったようだから、気の毒としか言いようがないけど……やんちゃが過ぎる子たちにはおしおきだ」
 ――それじゃあ、空の旅に行ってらっしゃい。
 異世界への扉がひらく。
 転移した猟兵たちの瞳にうつる空への梯子は、塔でもなければ山でもない。
 豊かな緑を実らせた腕を遙か蒼穹へとのばす、雲を抱いた巨人のごとき大樹であった。


蜩ひかり
 蜩です。
 よろしくお願いいたします。

●概要
 雲の上でドラゴンと空中戦しようぜ!というシナリオです。
 初心者の方でも参加しやすいシンプルな内容になっております。
 空中戦してみたい方、ドラゴンがお好きな方、その他どなたでもお気軽にご参加ください。

●大まかなシナリオの進行
 【一章】大樹を登って雲の上まで行きます。
 【二章】戯れる仔竜との集団戦です。
 【三章】騒ぎを嗅ぎつけ飛んでくるワイバーンに勝利すれば成功です。

 戦闘では樹を足場にして立ち回っても、装備や種族特徴を使って飛んでもOKです。
 あえてのご希望がなければ地上まで落下することはありません。
 難しく考えず、かっこいい技能やユーベルコードをどんどん使用して下さい。

●プレイングの送信
 各章の開始時に、導入として誰も出てこないシーンを追加します。
 送信はそれまでお待ちいただけますと幸いです。

●同行者/描写について
 今回は基本的にソロ描写の予定です。(三章は連携させるかもしれません)
 確実なソロ描写をご希望の方は【ソロ】とご記入願います。
 ご一緒に冒険されたい方がいる場合、冒頭に【同行者のIDと名前】か【グループ名】を必ずお書きください。
 その際は送信タイミングを同日にしていただけると助かります。
 予想を上回る数のプレイングをお寄せいただいた場合、力及ばず一部不採用となる可能性がございます。
 恐れ入りますが、あらかじめご了承お願いいたします。

 以上です。
 部分的な参加、途中参加も歓迎です。
 プレイングをお待ちしております!
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第1章 冒険 『雲海を越えて』

POW   :    木登りの要領で駆け登っていく

SPD   :    空を飛んだり太い枝を足場にして飛び登っていく

WIZ   :    自然や動物の力を借りたりして登っていく

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●1
 現地へ転送されてきたきみたちは、眼前に鎮座する巨大な樹木を見あげた。
 まさに規格外の大きさだ。その幹は力強く大地に根ざし、がっしりと太く伸びた枝は、猟兵が数人同時に乗っても簡単に折れることはないだろう。
 童心にかえって地道な木登りを試みてもいいし、枝から枝へ飛び移るように身軽に登っていけるかもしれない。
 樹そのものを操作して新たな道を作ったり、野生の鳥や動物、相棒の力を借りるのもいい。
 できるならば、樹を無視して普通に飛んでいってしまうのもありだ。その場合は空中散歩を楽しむ余裕すらあるだろう。

 取れる行動は無限大。きみたちは鳥よりも自由だ。
 さあ、空を翔け、竜のもとへ向かおう!
 
ハーバニー・キーテセラ
雲を突き抜けてとはぁ、随分と御立派な大樹さんですねぇ
これならぁ、多少、跳んだり跳ねたりしても大丈夫そうですぅ
安心して登れますねぇ

兎は地を駆けるものですがぁ、今日ばかりは枝を駆けますよぉ
太い枝々の間をジャンプでぴょんぴょんぴょんといきましょ~
これだけ大きな樹であるならぁ、そこには色々な動物さんもいそうですよねぇ
外の景色を楽しむのも勿論ですがぁ、折角ですしぃ、お住まいの動物さん達の様子を見ながらとかも面白そぉ~

棲みかを騒がしてぇ、ごめんなさいねぇ?
少しの間だけぇ、お邪魔させてくださぁい

住み心地はどうですかぁ。とか、通る際に断りを入れたりぃ。とか
動物さん達との交流を楽しみながら登っていきましょ~



●2
 旅の始まりを告げるのはいつだって兎なのだ、と彼女は言う。
 空想と信条が息づく、案内人の戦闘服――バニースーツに今日も身を包み、ハーバニー・キーテセラ(時渡りの兎・f00548)は伸びをしながらはるかな空を見あげた。
「雲を突き抜けてとはぁ、随分と御立派な大樹さんですねぇ」
 有名な童話の主人公は兎を追いかけ穴に落ちたけれど、今回ハーバニーが案内するのは真逆の冒険、空への旅路だ。
 ぴょんぴょんと数回、その場で軽くジャンプした彼女は、こくりと頷いた。
「大丈夫そうですぅ。はぁい、それではぁ、空の旅に出発しますよぉ~。添乗員を務めますのはぁ、ハーバニー・キーテセラですぅ。兎は地を駆けるものですがぁ、今日ばかりは……」
 ――枝を駆けますよぉ。
 ゆったり間延びした声とは裏腹、ぴょーんと地を蹴ったハーバニーは高い枝の上までひとっ跳び。
 ぴょんぴょんと太い枝々を次々に飛びうつれば、兎の耳と尻尾がぴこぴこ揺れる。
 木登り上手な兎を追って、後続の猟兵達も木を登り始めた。大樹の上は動物たちの不思議の国だ。時には手間取っている仲間を待ちながら、ハーバニーのツアーガイドは続く。
「あ、皆さぁん、右手をご覧ください~。大樹にお住まいのリスさんがぁ、巣からこっちを覗いていますぅ。可愛いですねぇ。住み心地はどうですかぁ」
 リスが木の洞から顔だけ出し、ちょっぴりむくれ顔で通過する猟兵たちを見つめている。
 愛らしくきゅーきゅー鳴く声は、どうやらハーバニーになにかを訴えたい様子。動物の言葉がわかるハーバニーは、ちいさな抗議にこくんと頷いた。
『むにゃ……ウサギのおねえさん……もう春なんですかあ……?』
「あらぁ、冬眠中でしたか~。棲みかを騒がしてぇ、ごめんなさいねぇ? 少しの間だけぇ、お邪魔させてくださぁい」
 ハーバニーが手を合わせてお願いすると、ご機嫌ななめなリスにも誠意が伝わったのだろうか。首をひっこめてくれて、一安心……した所で、上からもなにかの視線を感じた。
 兎の耳を好奇心旺盛にみつめるくりんとした瞳。木の上で暮らすヤマネコの一種だろう、思わず営業外のスマイルが浮かぶ。ぴょんと隣に飛びうつって、一期一会のご挨拶を。
「すみませぇん、ちょっと通りますねぇ~。さぁ皆さん~、そろそろ目的地に到着しますよぉ」
 手になじむ、冷たいデリンジャーの感触を確かめて。
 楽しいサファリツアーはここまで、兎は雲の上へと旅だった。
 ここから先、彼女が案内するのは――敵への死出の旅、だ。

成功 🔵​🔵​🔴​

アメリア・イアハッター
わぁ、おっきい木!
どれくらいの時間が経てば、こんなにおっきくなるんだろう
それはさておき、これを登れば空まで行けちゃうかも!
とっても楽しみ!

・行動
UC【スカイステッパー使用】
安全そうな太い枝を飛び移り、ちょっと枝まで遠い場合は空中を蹴って跳んでいく
色んな風景が見れるように、木の周りを回るように螺旋状に登っていく

雲が目の前にきた時、雲に入る前にそこから地上を眺めてみよう
自然に溢れ、生命に溢れる世界が広がっているのが見えるかな
やっぱりこの世界、好きだなぁ

雲は…触れないや
残念、ふわふわしてるわけじゃないんだ

さて、雲を抜ければいよいよドラゴン
空中戦で負けるわけには行かないわね!
気合を入れて、最後の跳躍!



●3
「わぁ、おっきい木! どれくらいの時間が経てば、こんなにおっきくなるんだろう」
 まるで空に手をのばしているような大樹にみずからの想いを重ねて、アメリア・イアハッター(想空流・f01896)はすうと深呼吸をした。
 まだ春の気配は遠いが、風は穏やかだ。枝葉の隙間からのぞく青空と、あたたかな木漏れ日が気持ちいい。
 この木を登っていけばあの空に辿りつけるかもしれない、なんて、わくわくするに決まっている。
 地上とはしばしのお別れだ。黒いブーツのつま先で、とんとん、土と打ち、靴をしっかりフィットさせる。
「はじめの一歩って大事よね。どの枝がいいかしら……よーし、あれに決めた!」
 アメリアは地面を蹴った。最初の跳躍はより高く飛ぶためのステップ。大きく、強く――ホップ、ステップ、【スカイステッパー】!
 重力から切り離され、空を舞う感覚はどこか懐かしい。三段ジャンプで着地した枝はがっしりと太く、飛び乗っても少しも揺れない。
「やった!」
 次はもうちょっと遠い枝まで跳んでみようか。くるり、宙返りをしながら、踊るように。少々目のやり場に困るスカートも、今は小鳥ぐらいしか見ていないだろう。
 あえてまっすぐ上には行かない。螺旋階段を登るように木をぐるりと回っていけば、方角ごとに違う景色が見られる。
 彼方に連なる山、まだ名前も知らない村。きらめく川や豊かな森。岩肌に口をあけた洞窟の中や地平線の向こうには、いったい何があるのだろう。
 空のとなりから見渡す大地は自然に溢れ、生命に溢れている。世界はどこまでも広がっている。
(やっぱりこの世界、好きだなぁ)
 もっと知りたい――空のこと、世界のこと。
 そよぐ風が、赤い帽子からこぼれた髪をふわりとなびかせた。またどこか懐かしい感情が胸にあふれて、アメリアはどきどきしながら眼前にせまる雲に手をのばす。
 指先が少しひんやりした。
 けれど、触れようとしてもなにも掴めない。
「残念、ふわふわしてるわけじゃないんだ」
 ひとつ明らかになった世界の真実にちょっぴり肩を落とすアメリアだったが、はずむ気持ちは止まらない。だって、雲の上にはきっと、もっと壮大なロマンが広がっているのだから!
「さて、いよいよドラゴンとご対面ね。空中戦で負けるわけにはいかないわ!」
『楽しんでいこーう』
 呼応するように音声を発したぬいぐるみを撫でて、アメリアはぐっと両脚に力をこめる。頂点まで一気にひとっ飛びだ。
「うん、風を追って一緒に行こう。あの雲の向こうへ!」

成功 🔵​🔵​🔴​

オリオ・イェラキ
テオ【f00426】と供に

高い樹ね
雲の上、好きな所よ
夜に登る方がもっと好きですけれど

夫が雄々しく飛び跳ね登るのを微笑ましげに見守りながら
わたくしはこの翼で枝から枝へと飛んで行きましょう
飛ぶ時も優雅に。淑女の嗜みですわ
良い風。絶好の狩り日和ですわね

テオ。その枝は些か細い……あら
足場を失くした夫へ素早くかけつけそっと支える
大丈夫ですわ
この夜空が居る限り、紅き鷹は墜ちませんの
照れる顔を微笑ましげに見返して
まぁ、動物達が?
ふふ……仲が良いでしょう、わたくし達
上機嫌でペースを上げる夫の後を付いていく

雲の中は少し寄り添って
あなたを見失いたくないものだから

もう少しですわ
竜達へ、最後の夜を届けに行きましょう


テオ・イェラキ
オリオ(f00428)と参加

こりゃぁまた…先が長いな……
見上げるのに首が疲れそうなほど巨大な樹木を見上げると、溜息がこぼれる

これはさすがにチマチマとは登ってられないな。
『スカイステッパー』で飛び上がっていこう。
所々着地をしなければならないが、足で登っていくよりかはマシだろう。

いけると思ったが、ついつい細めの枝に着地してしまったら、枝が折れてしまう。
おっと…すまない、助かったよオリオ。
想定外のうっかりを妻に助けられると、少し恥ずかしいな。

煩いお前ら!散れ!
『動物と話す』で鳥たちが茶化しているのが分かってしまう。
こっぱずかしさを紛らわすように、ペースを上げて先へ進もう。



●4
 逞しい褐色の身体を受けとめた枝が、ぎしり、と軽く軋む。
 先に行った猟兵ならば問題なく乗れていた枝だが、自分の体重だと少し頼りない足場であったかもしれない。そう思い、ふと足下を見れば、もう地上がずいぶんと遠くにあった。
 だが、これしきの事では動じないのが誇り高き蛮族、テオ・イェラキ(雄々しき蛮族・f00426)である。ちまちまと登っていては日が沈む、と思い――愛する妻はそれはそれで喜びそうではあったが――それなりに急いで来たつもりだ。もうきっと、頂上もずいぶん近づいたろう。
 悠々と上を見あげたテオは、変わらず空を埋め隠している青葉を目にして、思わず溜息をこぼした。
「こりゃぁまた……先が長いな……」
 まだ半分もきていないのかもしれない。弓なりにそらした首が痛くなってきたので、一度ぐるりと回す。
 夫の鍛え抜かれた自慢の身体も、この大樹に比べればさすがに小さいのだが、それでもオリオ・イェラキ(緋鷹の星夜・f00428)の瞳にはなにより大きく輝く星として映るのだった。黒いまなこがきょろきょろとよく動くのは、ずっと夫の姿を追っているから。
「高い樹ね」
 雲の上、好きな所よ。
 あぁ、よく知ってるぜ。
 返ってきた言葉がうれしくて、オリオは蕩けるような微笑みを頬ににじませた。夜に登る方がもっと好き、だなんて、きっと言わなくても誰よりわかってくれている。
「ねえ、テオ。いつかここからの星空もわたくしに見せてくださるかしら」
「まずは竜を狩ってからだな。邪魔が入ってはせっかくの星もゆっくり楽しめまい」
 そう言うと、テオはまた【スカイステッパー】を使い、空を跳んでいった。
 細い枝をかわしながら左右に飛び跳ね、大樹を登っていく夫の姿は、なんだか遊んでいるようで微笑ましい。オリオは自らの背からはえた翼をゆったりとはためかせ、夫のあとをついて飛ぶ。
 猛々しく跳ねる雄牛と、優雅に空を泳ぐ黒の淑女は対照的だ。
 けれど何故だかぴたりと添って、片時も距離がひらきすぎることはない。

 ――良い風。
 遙か空をゆく鷹のような鳥が、オリオの視界の端を過ぎ去った。
 絶好の狩り日和ですわね。そう夫に囁きかけた彼女は、あら、と瞳をまるくする。
「テオ。その枝は些か細い……」
「おっと」
 注意が間に合わなかったようだ。いけると踏んでいたらしい枝は彼の筋肉の重みに耐えかね、ぼきりと折れてしまった。
 重力でひゅっと腹が冷える感覚。落下する、と思ったその瞬間、テオは誰かにふわりと背を支えられた。振り向かなくたって、誰かは掌の大きさでわかっている。
「すまない、助かったよオリオ」
「大丈夫ですわ。この夜空が居る限り、紅き鷹は墜ちませんの」
 時には大剣にて敵を屠る非常な淑女の腕が、いまは夫を支える賢妻の腕となり、テオを掬った。
 ぱたぱたと羽ばたき、次の枝へと夫を送り届ける、その所作はあくまで慎ましやかに。
 オリオの髪とヴェールがなびけば、晴天の一部が夜の色で彩られた。美しい、と改めて思う。
 想定外のうっかりを助けられた恥ずかしさも相まって、テオは返す言葉もなく黙ってしまう。
 心なしか赤みを増した顔を見返して、オリオはまた微笑んだ。
 わたくしの夫はほんとうに素敵ですわ。
 雄々しく逞しいだけでなく、なんて可愛らしいひとなのかしら。

 ぴぃぴぃじゅくじゅく、枝にとまったシジュウカラたちが鳴いている。
 オリオはそれを素敵な歌として聴いたけれど、テオには言葉として聞こえていた。それはもうばっちりと。
『みてみて、アツアツだよ、アツアツ!』
『ビジョとヤジューってああいうのかなあ?』
「煩いお前ら! 散れ! それに俺は野獣でも山賊でもねぇ、蛮族だ!」
『わー! 聞こえてたー!?』
『みんな逃げろーっ、バンゾクに食べられちゃうよ!』
 テオに一喝されたシジュウカラ達はわーっと飛び去っていった。動物の言葉がわかってしまうのも良い事ばかりじゃない、そう思う。
「テオ、何のお話ですの?」
「うむ……ちょっと茶化す奴がいてな」
「まぁ、あの小鳥が?」
 照れ隠しに速足で枝を飛んでいくテオの耳に、季節外れのウグイスの声が届いた。
『春だねえ……』
「ぬぉぉおおぉおおおッ! なにが春だ、寝ぼけるな、まだ冬だろうが!」
「ふふ……仲が良いでしょう、わたくし達」
 今度はどんなお話かしら。言葉はわからなくても、身悶えしつつなんだか少し嬉しそうな夫を眺めているのは楽しくて。
 隠れるように雲の中に入ろうとしたテオの強くあたたかな腕に、オリオはそっと寄り添う。
 視界が白くぼやけていく。例えほんのひとときでも、あなたを見失いたくないものだから
「もう少しですわ。竜達へ、最後の夜を届けに行きましょう」
 そう声をかければ、すぐ傍からああ、と頼もしい声が返ってきた。
 急に軽くなった身体。ふたりの体温が、近くなる。テオは妻を抱き上げると、そのまま一気に雲の上へと踊り出た。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

エメラ・アーヴェスピア
あら、今回は優雅な空の旅?…というには無粋な奴がいるわね
空は貴方のような者が好き勝手していい物ではないわ
オブリビオンらしく骸の海にでも沈んでいれば良いのよ

さて、とりあえずはアイツ等の下に行かないと話が始まらない訳だけど…
とりあえず最初はこの樹も使える…と
うーん…色々方法はあるけれど、とりあえず一番安全な物を使わせてもらおうかしら
『我が砲火は未来の為に』、呼び出すのは大型の…何でもいいわ
これ、浮遊型である程度は操作できるの、これに乗って浮いていこうと言う事ね
空飛ぶ箒ならぬ空飛ぶ大砲よ…まぁ想定外の使い方だからある程度スピードは抑え気味になるけれどね
ゆっくり眺めていきましょう

※アドリブ・絡み歓迎



●5
 大きな樹を見あげ、これから優雅の空の旅に飛びたとうとする人形のような少女がひとり。
 いや、実は少女ではないのだが――それはさておき、穏やかな風にあたっていたエメラ・アーヴェスピア(歩く魔導蒸気兵器庫・f03904)の視界のはしに、空の蒼には不似合いな紅の影がちらついた。
「……無粋な奴がいるわね」
 はあ、と口をへの字に曲げるエメラ。きっと、あれが例のワイバーンなのだろう。
 すでに雲の影に隠れてしまった邪魔者をキッとにらんで、魔導蒸気の申し子たる彼女は宣戦布告を口に乗せた。
「空は貴方のような者が好き勝手していい物ではないわ。オブリビオンらしく骸の海にでも沈んでいれば良いのよ」
 愛らしい容姿にはそぐわぬその勇ましさ、誰が呼んだか『号砲ロリ』。『職業:猟兵』としても、空を愛する者のひとりとしても、あの横暴は許せない。早く撃墜してやらなければ。
「さて、とりあえずはアイツ等の下に行かないと話が始まらない訳だけど……」
 樹を眺めつつ、エメラはうーんと考えこむ。
 この樹は使えそうではあるが、ほかの猟兵のように多段ジャンプができるユーベルコードを持っているわけではないし、翼も生えていない。だが、エメラにはエメラだけの秘密兵器があった。
「とりあえず一番安全な物を使わせてもらおうかしら。さて、どんな砲で撃ち抜こう……ではないのよね、今回は」
 さて、どんな砲で飛んでいこうかしら――【我が砲火は未来の為に】。
「とはいえ、前例がない事なのよね。……大型なら何でもいいわ」
 思わず何でもいい、と言ってしまったせいなのだろうか。
 ユーベルコードで呼び出されたのは、さまざまな銃器がごちゃまぜにくっついた、エメラも見た事がない馬鹿でかい大砲だ。ちゃんと騎乗用の座席までくっついていた。
「……まさかとは思うけれど、失敗したかしらね」
 『問題ない、さあ乗れ』とばかりに、武骨な浮遊型大砲はふわふわ浮いている。
「まぁいいわ、元々想定外の使い方だし。多少の誤算も楽しんでいきましょう」
 エメラがぴょんと跨ると、大砲は彼女の意志に従ってすいすい上昇し始めた。
「これは……嬉しい誤算ね。思ったよりスピードも出せるかもしれないわ。どうカスタムしようかしら」
 新発明。空飛ぶ箒、ならぬ、空飛ぶ大砲の誕生だ。
 けれど、あえて今はのんびりと景色を楽しんでゆこう。
 空と兵器のロマンを乗せて、蒸気機関の魔法使いは高い空めざして飛んでいく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

境・花世
べ、別に雲の上なんて全然興味ないよ
仕事だから仕方なく行くだけだから!

……なんかツンデレみたいになったけど
“偽葬”――発動

元々身軽で早業の得意な身
ぴょいぴょい枝を蹴って、
幹に飛びつき次の枝へ
次の枝が遠いなら迷月を使おう
狙い定めて鉤を引っ掛け、
せーのっ、アーアアー!
もう正直すごいたのしい

調子に乗って上へ上へと
わたしは飛べないいきものだけど
今は空へ、近付いていける

見上げる青が眩くて
きれい、と目を細めた瞬間
足踏み外して真っ逆さま
咄嗟に真下の太い枝へ衝撃波を放って
反動使って幹にしがみつき

心臓よりももっと激しく
右目の花がざわざわ揺れるから
ごめんごめんと舌を出して

雲の上までもう少し
今度は一歩ずつ、着実にね



●6
 牡丹が咲くにはまだ早い。けれど、おんなの嘘は四季を問わずに花咲くもの。
 きみが信じる限りはほんとうで。もしもきみが訝るならば、その時は。
 無垢な牡丹はみずからを【偽葬】する。今よりもっと爛漫に花ひらく――そのために。

「べ、別に雲の上なんて全然興味ないよ。仕事だから仕方なく行くだけだから!」
 ……その結果が、この見事なツンデレであった。
「違うから! わたしが『嘘を吐けない性格』だから、あえて嘘をつくと強くなっちゃうとか……全然そんな事ないからね!」
 どうやら境・花世(*葬・f11024)はそういう力を使うらしい。とりあえず、皆承知はできただろう。
 けれど、素直に嘘はつけないらしく。弾むように枝を蹴ってぴょいぴょい飛んでいく姿を見れば、誰もが花世の全身から溢れる『ほんとう』を理解する。
 白くしなやかな四肢をめいっぱい伸ばし、がしっと幹に抱きつく姿はまるで木登りを覚えたてのこどものよう。次に飛びたい枝を見定めた花世は、迷える月の名を冠したドライバーを起動する。
 奈落に落ちて、転げた月と友達にならないように。
 しっかり狙って、枝に鉤を引っかけて――せーの、
「アーーアアーーーーーー!!! もう無理、言っちゃう、すごいたのしいー!」
 四肢から力が抜けていく。けれど、昂る気持ちは止まらない。踏み外したら地獄へまっさかさま、けれども恐れを知らぬ女は、枷が外れたらもう止まれない。
 上へ。上へ。
 雲の上までもう少し。このまま天まで駆け抜けて。
 わたしは飛べないいきものだけど、今は空へ、近付いていける。
 遺された左目に空の青がまばゆくて、きれい、と呟き、まぶたを少しばかり落とした時――すべての偽りは花と散りおえて、かくんと膝が落ちた。

 ぐるり、世界が反転する。
 空の青。風にゆれる梢。翻る己の着物の裾。

 落下している、と理解した瞬間、無意識に扇をふるっていた。生じた激しい風が真下の太い枝にぶつかり、ふわりと花世の身体を浮かせて、幹まで押し戻す。
 ――辛うじて、しがみつくことができた。
 少しどきっとしたけれど、それは恐怖よりむしろ、どこか興奮にも近い気持ちで。
 風の余韻か、そこに息衝く意志なのか、心臓よりも右目の牡丹がざわざわ揺れてかしましい。
 悪びれずにごめんごめん、と舌を出し、けれども少女のような女は、素直にすこしだけ反省したようだ。
 一番近くの枝へぴょんと身軽に飛びうつる。残りの道のりは一歩ずつ着実に――花に誓ったこの約束も、嘘じゃない。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

エンジ・カラカ
雲の上まで、アァ……面白い。最高に面白い。
どーやって登るか、コレには自慢の足がある。

太い枝を足場にアチラ、コチラ、器用に登って登って
サーテ、お次はどの足場に行こうか
これだけあると寄り道もしたくなるもンだなァ……。

空を飛べるって憧れるよなァ……。
コレには翼が生えていない。
ばた足をしたら海は泳げるが、空は飛べないンだ。
どーやったら飛べるンですかネェ。

くつくつと笑いながらぴょんぴょん飛び乗る。
遊びながら登っても怒られないとイイ。



●7
 三日月のかたちに細められた眸は、みえない空の頂きを眺めるようにしばし茫洋とさまよった。
 唇に乗せるかすかな笑み。先に通った女が素直な花のつぼみなら、ここで静かに喉を鳴らす男は、悪戯な獣の仔らしい。
 形ばかりはひとだけれど、だからこそ、『コレ』には自慢の足がある。エンジ・カラカ(六月・f06959)はそんな他愛もないことすら心底愉快がるように、ゆっくり、ゆっくりと手を叩いた。
「雲の上まで、アァ……面白い。最高に面白い。どーやって登ろうかなァ」
 装う君と共にゆこうか。
 賢い君に尋ねてみようか。
 しばらくふらふらと首を傾げていたエンジは、結局まずは一人で行くことにしたらしい。
 太い枝にぶら下がり、長い手足を器用に動かして、あちらへ、こちらへ、気の向くままに樹を登る。
 その小慣れた動作はやはり、人というより野生の猿に似ていたが、それゆえ動物たちは歓迎をもって彼を迎える。あちこちで囁く小鳥の声に導かれ、寄り道しながら徒然と。
「サーテ、お次はどの足場に行こうか。賢い君、どこが好いかなァ……」
 薬指を噛んで問えばするすると、対岸の枝へ伸びていく赤い糸。
「そうだなァ、綱渡りであそぼうか」
 イイねェ、賢い君。
 幾重にもめぐる糸で編まれた架け橋を渡れば、その先にはフクロウのねぐらがあった。夜を待ち、うとうとと眠るちいさな仲間に声をかける。
「あーそーぼーー」
 驚いたフクロウは巣から飛びだし、ばたばたと近くの枝へ飛んでいった。大きな瞳をじっと見つめ返したエンジは、にやりと笑んだままで、喉からほうと息をもらす。
「空を飛べるって憧れるよなァ……」
 両腕をひろげ、ばたばたと動かしてみても、『コレ』には空は飛べないなんてわかっている。
「ばた足をしたら海は泳げるんだがなァ」
 アタマの上にひろがるあの青いのが、ぜーんぶ水だったらなァ。
 枝に腰かけ、ゆらゆら足を動かして。まるでヒトのように、空をみあげて夢想する。

 ここに狼をとじこめる檻はない。こんな風に遊んでいても、誰も怒る者はいないようだ。
「なァダンナ、どーやったら飛べるンですかネェ」
 ひょいと隣に飛び乗れば、フクロウはまたどこかへと飛んでいった。エンジはそれを見て、くつくつと笑う。どうやら答えは、森の賢者も存じぬようだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

岡森・椛
大きな樹!
まるで童話に出てきそう
どれだけ長い間、この広い空と大地を見守ってきたのかな
この樹に纏わる新しい物語を悲劇にしたくないよ
アウラ、行こう

大樹さん、大空への道を作ってくれて有難うと感謝して、
地形の利用を活用し樹を登る

身軽に枝から枝へ飛び移り、次の枝が遠ければ、
【科戸の風】で自分の体を適度に吹き飛ばし目的の枝に着地
アウラ、吹き飛び過ぎない様に角度や距離の調節をお願いね

空を飛べる方達は素敵だなと憧れつつ、
自分自身で空に近付ける事が楽しくて胸が躍る
途中で出会う鳥や動物には、あなた達のお家は素敵ねと話し掛けるね

ふと下を見ればもうあんなに大地が遠い
空から眺める世界はとても雄大で…
だから高い所って好き



●8
「見て、アウラ! すっごく大きな樹……あっ、待って!」
 岡森・椛(秋望・f08841)が空を指させば、可愛い相棒は風と遊びながら大樹のまわりを一周してみせた。
 アウラを追いかけて走り、もとの場所に戻ってきた椛は、改めてその大きさを実感する。
「どれだけ長い間、この広い空と大地を見守ってきたのかな……」
 この樹にまつわる数々の素敵な物語がどこかに眠っているのだろう。そして、いま生まれようとしている新しい物語――それが血塗られた人喰い竜の話だなんて、とても悲しいことだ。
「悲劇にはしたくないよね。アウラ、行こう」
 だからこれから皆で空に描くのは、壮大な冒険絵巻でありたい。
 準備運動はばっちりだ。足をかけられそうな窪みを探し、椛は樹によじのぼる。
「大樹さん、大空への道を作ってくれて有難う」
 礼儀正しく手をあわせれば、返事だろうか。心地よい葉擦れの音が返ってきた。

 勇気をだして、枝から枝へ飛びうつる。もう地面があんなに遠いけれど、アウラや仲間もいるし、怖くない。
 すれ違う猟兵達が翼や道具を使って、自在に空を飛ぶ姿を眺めるのも楽しい。
「私もあんな風に空を飛べたら素敵だなあ」
 特別な力がない椛の旅路は、それに比べれば一歩一歩地道なものだ。だけど空に近づいていくたび、自分の足だけでここまで来たという達成感が胸を満たす。
 なんて心が躍るのだろう。次の枝が少し遠いのを見て、椛はふと思いついた。
「ねえアウラ、私達も少し飛んでみようよ。でも吹き飛びすぎないようにお願いね」
 ひとりなら届きそうにない枝。だけど、アウラがいるから――思いきって大ジャンプした椛の身体が、アウラの起こす【科戸の風】でふわりと浮きあがる。
 秋色のワンピースが、青葉とともにそよぐ。
 風に乗って、なにかが一緒に飛んできた。ムササビだ。
『ようお嬢ちゃん、いい風吹かせるね! ちょっと借りるぜ!』
「ムササビさん有難う! あなた達のお家もすごく素敵ね」
『だろう。最近おっかねえ新入りがいるんだけどなあ……』
 恐らく、あの竜のことを言っているのだろう。
「そうなんだね……大丈夫、私達が倒してくるよ」
 鳥や獣と共に風になってみれば、目にうつるのは雄大な大自然。高い所ってやっぱり良いなあ、そう思う。
 この世界を守るんだ――脅威へ立ち向かう決意を新たにし、椛は目的の枝へ見事に着地する。
「飛べたよアウラ! もう一息頑張ろうね」
 そう声をかければ、アウラも元気よく飛びはねた。さあ、雲の上まであと一歩。

成功 🔵​🔵​🔴​

アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
見渡す限りの青と流れ往く雲
引籠もりがちな身に陽光はちと眩い
ジジめ、変な気を回しおって

私には大樹を登る体力も、況してや空を飛ぶ術も有していない
それ故にジジの腕に乗る事で共に天を目指す
風で暴れる髪を押さえ、何処迄も続く景色を眺めていると
従者の口より放たれた言葉に我が第六感が嫌な予感を告げる
お前まさか――有無を言わさぬ旋回に落ちぬよう慌て縋り付く
ええい、いきなり何をする!
燥ぎ過ぎにも程があろうが!

風が要るというジジに暫し逡巡の後
召喚するは【愚者の灯火】
炎により齎された気流は我等を更なる高みへ届けてくれよう
――ふん、空の王者だか何だか知らぬが
直ぐにその場から引きずり落としてくれる


ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と

眩しい程の蒼穹を仰ぎ
…嗚呼、飛ぶには好い日だ
それに偶には陽に当てねばな

普段は仕舞っている、黒い鉤爪竜鱗と白亜の羽翼を広げ
腕に師を抱え、幹に添って空へと

随分と暇そうだな、師父よ
退屈凌ぎが要るか

答えを待たずに速度を上げ急旋回
なんだ、目が醒めたろうに
別に燥いでなど居らん
それより――師父、このあたりで風を頼む

師の生み出した上昇気流に乗り
弧を描きながら更に高くへ

視界の端に師の、空を透かす貴石の髪を
正面に近付く雲を見据えて
…俺は口には合うまいが
空で我が物顔をされるのは気に食わん



●9
 見渡す限りの青、流れ往く雲、仰ぐもまぶしき澄んだ蒼穹は――引籠もりがちなこの身にはちと眩すぎたか。
 蒼い流星を宿した両の眼は、白昼の太陽を前にしてしきりに瞬いた。眠い。
「……嗚呼、飛ぶには好い日だ」
 あざやかな空の彩から逃げるように、流し向けた物言いたげな視線にも、この愛想に乏しい従者はまったく構う気が無いらしい。
 ばさり、蒼穹に雲ではない白がひろがる。普段はごく人に近いジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)の容貌が、徐々に竜へと傾いている、気がする。
 白亜の羽翼と黒い鉤爪、竜の鱗。眩くてよく見えない。物理的に、だが。
(ジジめ、変な気を回しおって)
 日々甲斐甲斐しく世話を焼いてくるこの男は、どうせ『偶には陽に当てねば』等と考えたのだろう――そうは思いながらも、智者ゆえに熟知していた。
 認めよう、このアルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)に大樹を登る体力などない。
 宝石の身体は空と親しくはなく、ゆえにこのジャハルの腕に乗る事で共に天を目指すべきである……と。
「師父よ、出立するが。心構えは如何か」
「何時でも出来ておるわ。声を弾ませおって」
 それはきっとほんの僅かな違いだったけれど。眼が光に慣れるよりも先に、夜色の腕がアルバを抱え、空へと発った。

 あえかな光を散らしながら、アルバの髪が風になびく。
 唯々この地の果てを眺めている、それだけでも特に退屈などしていないのだが、ジャハルの眼にはそうと映らなかったらしい。
「随分と暇そうだな、師父よ。退屈凌ぎが要るか」
 その言葉を耳にした瞬間、アルバの第六感にびきりと稲妻が走った。所謂、嫌な予感――勘とは経験の蓄積から成るものなれば、この場合、尚更当たる自信がある。
「待て、お前まさか――うお、」
 白亜が大きく羽ばたくと共に、身体が腕の外に放り出されそうになるのを感じた。
 強く頬を打つ冷えた空気。めまぐるしく変わる景色。髪を気に掛けるのをやめ、アルバは慌ててジャハルの身体にひしと縋りつく。
 どうやら、速度を上げて樹の周りを旋回しているらしい――抗議の声は何度目かでようやく聞き入れられた。旋回していた当人より息を切らしながら、アルバは大きな童を叱りつけた。
「ええい、いきなり何をする! 燥ぎ過ぎにも程があろうが!」
「なんだ、目が醒めたろうに。別に燥いでなど居らん」
 絶句する。
 幼子ではない等と言われた事もあるが、この期に及んで自覚が無いのかと。
 その表情は常にわずかしか動かねど、好奇心に眼が輝いている時は、見る者が見ればわかるというのに。
「それより――師父、このあたりで風を頼む」
「う、ううむ。風か……ちと待て、検討する」
 このやんちゃ盛りに更なる遊び道具を与えてよいものかと、アルバは暫し逡巡したものの、相分かったと承諾する。
 このまま確り掴まっていればおそらくは大丈夫だろうし――何より、守り人たる我が竜はけして星を墜としはせぬだろうと。
「ふふん、見ておれ」
 擬した杖が燃える彗星を描く。ぽつり、ぽつり、蒼穹に点るは【愚者の灯火】。
 召喚された炎により上昇気流がうまれて、ジャハルの翼が空をゆく助けとなる。
 大きく弧を描いて、ジャハルは天高くへ舞い上がった。凛と冷えた空気を何処かへ押しやる、あたたかな風に包まれ、どこまでも高くまで飛んでゆけそうだ。
 視界のはしにうつくしい青と紅が映った。押さえるのを諦めたらしい師の髪は、風に殴られるままに暴れている。
 空を透かす貴石の一糸。その煌きを追いかけるように、なないろが惑う瞳がうつろう。

 気づけば、雲がすぐ正面まで近づいてきていた。
 雲を。そしてその向こうに待つものを見据え直して、ジャハルは静かに師へ告げる。
「……俺は口には合うまいが、空で我が物顔をされるのは気に食わん」
 眉間に皺がよる。武骨な黒で塗り固めたかの顔ににじむ情はわずかでも、口から発せられる言葉はひどく素直なものだ。
「まあ、聞く話に由ればだが、確かにジジは率先して喰われはせぬだろうな」
 見たところ、竜の好みそうな若く柔らかい女子は、ほかにいくらでもいるようだ。このさまざまな意味で硬い大男を、わざわざ喰らう理由などないだろう――同族を好んで口にする、悪食の竜でもない限りは。
 ふと、自分は竜の眼にはどう映るのだろう、とアルバは考えた。
「何か悩み事か、師父」
「――ふん、空の王者だか何だか知らぬが、直ぐにその場から引きずり落としてくれる」
 師らしい不敵な言葉を聞いたジャハルは、頷く事もなく気流に乗って羽ばたいた。
 持ちつ持たれつ、欠けたものを補いあって、双つ星と星守は輝く。そこには確かな信頼がある。
 己が腕のなかにある、煌く宝をけして離さぬよう、ジャハルは今一度強く抱きかかえる。

 空の王者はどちらなのか、思い知らせてやる時だ。
 届けよう。我等共に往こうではないか、更なる高みへと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロー・オーヴェル
「ここまで成長するのに、いったいどれだけの年月がかかったんだろうな」

だが俺たちはその年月の百分の一……いや千分の一?
いやいやもしかしたらこの樹は生まれた時からこの大きさだったのかも
それはそれでどんな種類の樹なのか興味はある

おっと……つい余計なことを考えちまった
まァそんなことはどうでもいい
早いところ昇らなきゃな

こちとら身軽さがウリのシーフだ
枝から枝へ伝うように上へ上へ
枝と枝との距離があるようならフック付きロープも活用

疲れが溜まってきたらこれだけのデカさの樹だ
横になって休めるサイズの枝もあるだろう
適宜休憩しつつあまり遅れを取らないように移動していく

「別に禁煙の看板は出てないよな」
休憩時は煙草で一服



●10
 つい最近、巨大な穴を下へ下へ降りる依頼をこなしたばかりのロー・オーヴェル(スモーキークォーツ・f04638)だが、今度は巨大な樹木を上へ上へ登る依頼が舞い込むとは――奇妙な縁もあったものだ。
 この世界を股にかけて冒険をこなしてきたが、これほど大きな樹はさすがに見た事がない。ローは樹によりかかって空を眺め、物思いにふける。
「ここまで成長するのに、いったいどれだけの年月がかかったんだろうな」
 樹の表面には古い傷跡が幾つも刻まれていた。年輪でも調べれば樹齢もわかるのだろうが、切り倒すには巨人でも連れてこないといけない。
「凄いもんだなぁ。俺たちが生きた時間なんて、その年月の百分の一……いや千分の一? いやいや、もしかしたらこの樹は生まれた時からこの大きさだったのかも」
 ぼさぼさの頭をひねり、地面から突然この樹がずももと生えてくる光景を想像してみる。
 大事件だ。
「……それはそれでどんな種類の樹なのか興味が……おっと、つい余計なことを考えちまった」
 気づけば、他の猟兵はもう随分高くまで登っていた。
 少しばかりロマンチストらしい青年はそれでも慌てることなく、愛用のシーブズ・ツールの中からフック付きロープを取りだし、軽く振り回してから上方の枝へと投げた。
「ま、少しぐらい出遅れても何とかなるさ」
 フックは狙い通りの枝へひっかかる。軽い男と侮るなかれ、身軽さが売りのシーフだ。
 ロープを伝って樹の幹を軽快に駆けあがったかと思えば、枝から枝へ次々に飛びうつる。時には引っかけたロープを振り子のように使って、反動で遠くの枝まで一気にジャンプ。
 そうしてあっという間に他の仲間を追い抜いたローだが、何となく手が震えてきた。
 『アレ』か。
 身体が『アレ』を欲しているのか――体力的にも無理はできない32歳男性である。
 ふと周りを見れば、どうぞ横になって休憩して下さいとばかりの大きく平らな枝があった。そそくさと移動したローは、さっそく小袋からシガーセットを取りだした。
 煙草に火を点け、ここらですこし一服。
 美味い。やはり煙草は食べ物だ、そう思う。
「別に禁煙の看板は出てないもんな。いい景色を見ながら吸うタバコはうまいぜ……」
 頭上に生い茂る葉の間から、程よくさしこむ太陽の光が気持ちいい。この最高の休憩場所を生み出した大地の恵みと歴史に、ローは改めて感嘆をおぼえる。
 そろそろ行くかと立ち上がり、吸殻はきちんと携帯灰皿に押しこむ。最後の煙をふうと吐き出せば、青空にちいさな雲が生まれて、消えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レイブル・クライツァ
材質的に、私は美味しくない分類ではあるのだけれども……
食べられる危機を抱えながらなんて、怖いわよね。
ちょっと大変な場所に居るけれども、きっちり退治しに行くわよ。

(上眺めて)それにしても、凄く大きな樹だわ…登るのも一苦労ね。
地道に足場を見つけながら登ろうと思うわ。腕っぷしでとか考えていたけれども、流石に道のりが長過ぎるわね。
ヴェールが引っ掛かりそうなら、一旦外しておくし
髪も纏めてスッキリとさせておこうかしら?
一応高所は大丈夫だから、鳥とかが楽しそうにしている姿とか
景色の良さそうな所で、時折休憩を挟みつつ
鳴き方が変わったりしたら、何か間違ってるかもしれないから、周囲確認&警戒。

アドリブ&絡み歓迎



●11
「三十路って無理はできないものなのかしら」
 レイブル・クライツァ(白と黒の螺旋・f04529)――あと41日ばかりで31歳になる、人形とはいえ立派な三十路。こちらもやはり休憩中である。
「若い娘はあの竜に食べられる危機を抱えているのよね……怖いことだわ。私はどうでしょうね。少なくとも材質的には、確実に美味しくない分類ではあるのだけれども……」
 煙草をふかしている男を遠くから見つめるこの幸薄げな淑女、まさか腕っぷしだけで樹を登っていこう、などと一瞬でも考えていたとは誰も思わないだろう。
 いざとなれば口の中に例の薬をぶちまけて脱出しようかと斜め上な思考に走りつつ、そろそろ地道な登頂を再開しようとしたレイブルは、上を眺めてちいさくため息をつく。
「それにしても、凄く大きな樹だわ……登るのも一苦労ね」
 まだ道のりは長く、骨が折れそうだ。けれど、きっちり敵を退治しなければ。

 お気に入りの品を枝に引っ掛けてはいけない。黒で紡いだヴェールは一旦しまい、長い髪もすっきりとシニヨンを作って纏めた。
 普段よりすっきりした顔周りを撫でるゆるやかな風は、つくりものの身体にも気持ちいい。
 遠くにみえる雲を頂いた山々を眺め、また反対の方角では豊かな湖を眺め、そうしているうちに胸に芽生えた感情も、たしかに身体になじんでいく気がした。
 そんな彼女は、不幸にも道中に大変なものを発見してしまう。
「あれは……まっしろピヨすけ! いえ違うわよね……ということは……」
 ――本物の、ふわもこかわいいシマエナガさんが枝の上でおしくらまんじゅうしている!
「くっ、何て事なの……先を急がないといけないのに。でも良かったわ、こんな事もあろうかとカメラを持ってきて」
 可愛いシマエナガさんと絶景のコラボレーション、ふわもこハンターとしてはこんなチャンスを放っておくわけにはいかない。
 しばらく撮影に夢中になっていたレイブルは、なんだか心配そうにちーちーと鳴くシマエナガの声を聞いて、はっと正気に返る。
「……ここは何処かしら」
 上を見て。
 下を見る。
 どうやら、シマエナガを追っているうちに下へ逆戻りしてしまったらしい。
 けれど、ふわもことの想い出はプライスレスなのだ――レイブルはどこか満足した様子で、シマエナガ達に別れを告げる。遅れた分は少し急げは良いだけだ。
「あら、道案内してくれるの? 助かるわ」
 一羽のシマエナガがレイブルの前を飛ぶ。この小鳥たちも竜が怖いのだろうか。それなら尚更負けられないと、レイブルは思うのだった。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

パウル・ブラフマン
【SPD】

愛用宇宙バイクGlanzといざ空の旅へ!
『ゴッドスピードライド』を発動したら
持ち前の【騎乗】と【操縦】テクニックを活かしながら
軽快に枝から枝へ、モトクロスの要領で駆け上がっていきたいな。

足場が狭くて怖くないかって?
ははっ、そのスリルがイイんだって☆
見てよGlanz…地面がもうあんなに遠い。

キマイラフューチャーに居た頃の記憶はなく
物心が付いた時にはもう、宇宙船の檻の中だった。
宇宙空間では気付かなかった。
空はこんなに高く、風も高く不思議な声で鳴くんだね。

初めて訪れたアックス&ウィザーズ。
けれど感慨に浸ってばかりもいられないな。
旋毛風に混じって
未だ見ぬドラゴンの翼音が聴こえた気がしたもの。



●12
 剣と魔法と竜が支配する世界にとどろく、パワフルなバイクのエンジン音。もしも地元の人間が聴いたなら、どんな魔物の咆哮かと腰を抜かしたかもしれない。
「よっし、準備おっけー!✨✨ いざ相棒と空の旅へしゅっぱーつ!」
 武骨なフォルムに戦闘機の馬力を乗せて、宇宙バイク『Glanz』が走りだす。
 本日の運転手はパウル・ブラフマン(Devilfish・f04694)。猟兵向け旅行会社『エイリアンツアーズ』で働く陽気なキマイラ、またの名をMC.jailbreak。
 呻る【ゴッドスピードライド】。いま最高潮にノッてるタコ坊主は、アクセル全開フルスロットルで大樹に向かって突っこんでいく!
 ――危ない!
 ぶつかる、見た目はタコだがアタマはイカれてるのかと、誰もがそう思った。
 しかしパウルは近くの地面から突き出た岩をジャンプ台代わりにし、重力から解き放たれたように大きく弧を描いて――『飛んだ』。バイクごと。
「へへっ、キマったぁ! 見た今の、超クールだったでしょ! 怖くないかって? ははっ、このスリルがイイんだって☆」
 唖然とする他の猟兵たちへ、彼はニカッとスマイルを向ける。
 太い枝に着地したGlanzはさらに加速し、今度は枝の先端をバネのように使って、さらに上の枝へ飛び乗った。
 持ち前の操縦テクニックを駆使したギリギリの空中走行、それはさながらモトクロスのようで、見る者を興奮させる。パウル自身も上機嫌でバイクを飛ばし、順調に空へと近づいていく。
 エンジンが奏でる旋律に、風の歌声が添えられる。
 ふと音楽を一時停止させてみれば、アックス&ウィザーズの誇る壮大な景観が眼下に広がっていた。
「見てよGlanz……地面がもうあんなに遠い」
 初めて訪れた世界だが、空は、大地は、こんなにも美しいのか。
 故郷と言われてもぴんと来ない未来都市とも、物心ついた時から閉じこめられてきたまっくらな宇宙とも、まったく違う。手つかずの自然が生んだうつくしい音と、いろが、そこに在る。
「空はこんなに高く、風も高く不思議な声で鳴くんだね」
 渦を巻く風に吹かれて、Glanzのボディも心なしかいつもより艶やかだ。けれど感慨に浸ってばかりもいられない。
「行くよ、Glanz」
 パウルは真剣なまなざしで再度サドルに跨ると、走りだす。枝の先から今日一番の特大ジャンプをブチアゲて、そのまま雲の中へと突入していく。
 いつかここへ誰かを案内するとしても、旅は安心安全ではないと。旋毛風に混じって、未だ見ぬ竜の翼音が聴こえた気がした。

成功 🔵​🔵​🔴​

ユーゴ・アッシュフィールド
【リリヤ(f10892)】と

ああ、そうだな。
こんな巨大な樹木は俺も初めて見た。
これに、登るのか……

すごいな、本当にスイスイ登っていくもんだ。
まるでサル……ンンッ(咳払い)
ひとまずはリリヤについていこう。
体の大きさは違うが、どうやら俺が通れそうなところを選んでいっているようだ。助かるな。
ああ、おかげで大丈夫だ。

気合入れている所、悪いが……少し休憩しよう。
疲れたのもあるが、見てみろ。
空が飛べる奴は、いつもこういう景色を見ているのか。
いい景色だな。


リリヤ・ベル
【ユーゴさま(f10891)】と

ユーゴさま、ユーゴさま。
すごいです。おおきいです。
こんなにおおきな樹が、あるのですね。
……は。だいじょうぶです。
おしごとは、わすれてはおりませんもの。

わたくし、これでも木登りはとくいなのですよ。
軽いぶんうごきやすいのです。
……聞こえておりますよ、ユーゴさま。
レディに失敬なことを言わないでくださいまし。

蔦などがあれば、強度を確認してから引っ張るように。
足元に注意してゆきましょう。
ユーゴさまはだいじょうぶですか。
がんばってまいりましょう。えいえい、おー。

けしき。
わ。わ。もう、こんなに高く。
すごい。すごいですね、ユーゴさま。
きれいです。
お空を飛べるのが、うらやましい。



●13
 ――ユーゴさま、ユーゴさま。
 やわらかなミルクティ色の髪にくるまれたちいさな頭が、男の腰の高さでぴこぴこ揺れている。
 ユーゴ、と呼ばれたその男は、どこか人生にくたびれたような、例えるならなにかの燃えさしのような顔をしていた。けれど、いつものように自らの服のすそをひく幼い狼へ、注がれる彼のまなざしはあたたかかった。

「すごいです。おおきいです。こんなにおおきな樹が、あるのですね」
「ああ、そうだな。こんな巨大な樹木は俺も初めて見た」
「ユーゴさまでも、ですか」
「そりゃ俺にも見た事ないものはある」
 そうなのですか、と翠の眸をぱちくりさせるのもそこそこに、リリヤ・ベル(祝福の鐘・f10892)は樹に生えた蔦を嬉しそうに引っぱったり、ぺたぺた触ったりしている。
 一方、あまりの規模にすでに若干気が重くなっているユーゴ・アッシュフィールド(灰の腕・f10891)ではあったが。
「ほら、遊んでないで行くぞ」
「……は。だいじょうぶです。おしごとは、わすれてはおりませんもの」
 これでも木登りはとくいなのです。
 そうえへんと威張るなら、お手並み拝見といこうか――と思っていたら、リリヤは先程から弄んでいた蔦をするすると伝って、器用に樹をのぼりはじめた。
「すごいな、本当にスイスイ登っていくもんだ」
 ユーゴは思わず感心する。さっきはただ遊んでいるのかと思ったが、蔦の強度を確認していたのか。しかし小ささも相まって、その後ろ姿ときたら、まるで――。
「まるでサル……ンンンッ」
「……聞こえておりますよ、ユーゴさま」
 咳払いで誤魔化そうとしたが、無駄だったらしい。白いほっぺがみるみるうちに、ぷーっと膨らんでいく。
「レディに失敬なことを言わないでくださいまし!」
 レディの扱いはつくづく難しい。この前も余計な一言を口に出して怒られたばかりなのだが、またやってしまった。すこし反省したユーゴは、黙ってしおらしくリリヤについていく。
 けれども、今日のレディは幸いにもご機嫌がよろしいようだ。身体の大きいユーゴが通っても折れない枝や、切れない丈夫な蔦を、きちんと探しながら登っていってくれている。
 まだまだ元気なリリヤの楽しげな鼻歌が、風に乗ってきこえてくる。
 俺はもうだいぶ息が上がってきてるんだが、と、ユーゴは人知れず苦笑した。
「ユーゴさまは、だいじょうぶですか」
 じっと見つめあう碧と翠。
 一段上の枝に立ったリリヤの頭が、いまだけはユーゴの目線と同じ高さにある。
 足元、お気をつけてくださいまし――あの時はリリヤに言ったその台詞を、今度は自分が言われて、気づく。
 ああ、いまは、俺が守護される立場なのかと。
「ああ、おかげで大丈夫だ。助かる」
 ふふんとちょっとだけ得意げに、さしのべられたまだちいさく柔らかい手を、ユーゴは素直に取ることができた。
 もっとも、手を借りずとも普通に登れる高さの枝ではあるのだが――それは、今度こそはレディには内緒にしておこう。

「ユーゴさま。ちょっぴり、お顔にげんきがなくなってきたのでは」
 ユーゴの足取りが少しずつ重くなっているのを見たリリヤは、なにか自分にできることはないかと考える。
 ちいさな拳をぐっと握り。
 空にむかって突き上げて。
「がんばってまいりましょう」
 えい、えい、おー。
「気合入れている所、悪いが……少し休憩しよう。正直疲れた」
 応援の甲斐もなく、さっさと樹の幹によりかかってしまったユーゴに、リリヤはまた一瞬不満そうな表情を見せた。だが、その顔はすぐにぱあっと明るくなる。
「……けしき」
「見てみろ。遠くにどこかの国の城が見える」
「おしろ……わ。わ。もう、こんなに高く」
 どうやらあまり下を見ていなかったらしい。草原を駆ける豆粒のような動物の群れを、リリヤはしばらくじっと眺めていた。
「ユーゴさま。あれは、なんていうおなまえの生きものでしょう」
「たぶん……馬の仲間じゃないか? ここからじゃ小さすぎてよくわからないな」
「すごい。すごいですね、ユーゴさま。あのお城には、お姫さまはすんでいますか」
「ああ、そうだな。いるかもな――」
 いつか何かの機会に訪れるかもしれないあの国が、争いもなく、平穏であればいい。そう願って空をみあげたユーゴの瞳に、一羽の白い鳥がうつった。
 何だろう。太陽がまぶしくてよく見えないけれど、リリヤにも同じものが見えているらしい。まぶしそうに眸をほそめて、彼女も空を見ている。
「空が飛べる奴は、いつもこういう景色を見ているのか」
「きれいです。お空を飛べるのが、うらやましい」
 いい景色だな。
 ユーゴの言葉にはい、とうなずき返したリリヤの顔からは、もうすっかり不機嫌の色が消えさっていた。もう一度拳をにぎったリリヤは、ユーゴを見あげてふんすと気合いを入れ直す。
「あとちょっとです。ユーゴさまもやるのです」
「……俺もか? はいはい、分かった分かった」
 えい、えい、おー。元気な声とすこし気の抜けた声が、雲にむかって響いた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『戯れる仔竜』

POW   :    じゃれつく
【爪 】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    未熟なブレス
自身に【環境に適応した「属性」 】をまとい、高速移動と【その属性を纏わせた速いブレス】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    可能性の竜
「属性」と「自然現象」を合成した現象を発動する。氷の津波、炎の竜巻など。制御が難しく暴走しやすい。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●14
 思い思いの方法で雲の中へ突入したきみたちは、白い霧をかきわけ、ついに樹の頂上へと到達した。
 見渡すかぎりの蒼と白がそこにあった。太陽は、きみたちの頭上でまぶしく輝いている。
 空と雲との境界線は白く、天を仰ぐほどに、空の蒼は深さを増してうつくしい。
 足元を埋めつくす雲の海は、思わず上に飛び乗りたくなってしまうほどに、ふかふかと柔らかそうに見えた。
 けれど注意したまえ、本当に飛び降りたら地上までまっさかさまだ。
 まるで雲の海に浮かぶ小島のような、たくましく枝葉を茂らせた大樹の頂。そこが、きみたちの立つべき戦場だ。

 そして、空より一段深い蒼色の生き物が、ぴゅんぴゅんと元気に樹のまわりを飛び回っている。
 何匹いるのか数えようとした猟兵もいたが、元気がよすぎて数えるのをやめた。
 環境に適応した属性をまとう、未熟な竜の仔たち――恐らく『風』を操ってくるだろう。
 まだ可愛らしい顔をした彼らは、なんだか遊んでほしそうに、無邪気な瞳できみたちを見つめている。
 だが、けして侮ってはいけない。彼らにとっての『遊び』は『命をうばう』ことと同義だ。
 それさえ理解できたなら、存分に『遊んで』あげるといいだろう!
エメラ・アーヴェスピア
さて、次はコイツ等が襲ってくる…と言う訳かしら?
放っておくのは論外ね、ひとつ残らず撃ち抜いてあげるとしましょう

…と、言ったものの…どうやって戦おうかしら
…今回は自動製作機能で出来たであろうこの『砲火』の大砲を試すとしましょうか
たまにこう、自分で作っておいた物と違って私の発想では出てこない物が作られるのよね
それも新たな発想になるから面白い点ではあるのだけど…
とりあえず戦うとして…操縦…でいいのかしら?(※なお砲撃反動)
…攻撃は別の方が良いようね
『我が砲音は嵐の如く』こちらに寄ってくるなら問答無用で砲弾の嵐をプレゼントよ
…と言うか寄って来ないでちょうだい、私は飛べないのよ…!?

※アドリブ・絡み歓迎


ハーバニー・キーテセラ
絶景かなぁ、絶景かなぁ
ですがぁ、のんびりと楽しんでいる余裕はぁ、なさそうなのが残念ですねぇ

幼さ故の無邪気さでしょうけれどぉ、それは言い換えるとぉ、幼さ故の残虐性でもありますよねぇ
ですがぁ、いいでしょ~
少しばかり遊んでさしあげますねぇ?
大樹の上だけで戦うにはぁ、空中を立体的に動ける相手には不利ぃ
ならばぁ、私も宙を駆けましょうかぁ
兎跳で宙を蹴ってぇ、跳んでぇ、仔竜さん達と同じ舞台にぃ
なんならぁ、逆に頭上を取って差し上げましょ~
最近の兎さんはぁ、芸達者でもあるんですよぉ?

そしてぇ、すちゃり引き抜きたるはぁ、愛銃ヴォーパル~
風を操り、纏うというのならぁ、その纏う風ごと、撃ち貫いて差し上げますぅ


アメリア・イアハッター
うわー真っ白!
雪じゃなくて、雲!
すごいすごい、すごい!
今日はここで過ごしたいな…
と、まだそんなわけにはいかないよね
悪い子たちにはおしおきしなくちゃね!

・方針
空中戦が得意なのはこちらも一緒
空を跳んで遊んであげよう
敵が「風」を操るというのならUCによって攻撃の予測は更に容易になるはず
敵の攻撃を回避して一匹ずつ確実に倒す

・行動
UC【風の友】使用
敵の攻撃を回避する時は足を大樹につけて余裕を持って回避
ブレスは長続きしないはず
まずはしっかり回避しよう

攻撃が来なければちゃんと足場を確認して高くジャンプして空中戦を挑む
「Vanguard」で殴ったり投げたり、回転してその勢いで蹴ったり

雲のステージで空に舞おう!



●15
「うわー真っ白! 雪じゃなくて、雲! すごいすごい、すごい!」
 大樹の枝から器用に身を乗りだしたアメリアは、腕をめいっぱい伸ばし、雲をその手で掬いとろうとしている。
 頂点まで登ったハーバニーは、太陽のまぶしさに眸を細めながら、枝先をポールのように使ってくるりと一回転した。周囲360度、どこまで見ても空は蒼い。
「絶景かなぁ、絶景かなぁ。……ですがぁ、のんびりと楽しんでいる余裕はぁ、なさそうなのが残念ですねぇ」
 さっそく直線的につっこんできた仔竜を、ハーバニーはひょいと左にかわす。
 その時、浮遊型魔導蒸気砲に乗ったエメラが、雲の下からふわふわと浮いてきた。ハーバニーに軽くあしらわれている仔竜を見たエメラは、くすりと不敵に微笑む。
「さて、次はコイツ等が襲ってくる……と言う訳かしら? 放っておくのは論外ね、ひとつ残らず撃ち抜いてあげるとしましょう」
 と、言ってはみたものの。
「……どうやって戦おうかしら」
 エメラはまた考えこむ。
 先程、ユーベルコード【我が砲火は未来の為に】が自動製作機能で作ったこの大砲、普段のエメラの創作物とはまったく作風が異なるものだ。
 自分の発想では出てこない物を使えば、そこからまた新たな発想を得られるには違いない。そこもガジェット開発の面白さではあるのだが……逆に言えば、作った本人も最初はぜんぜん使い方がわからないのである。
「……って、そこ、齧るのはよしなさい。私の蒸気砲は食べ物じゃないわ」
 その間に、好奇心旺盛な仔竜たちは容赦なくエメラの大砲を齧ったり、爪でじゃれついたりしてくる。子供たちに大人気の空飛ぶ大砲は、まとわりつかれて重心が定まらず、左右にがくがく揺れている。
「あらぁ、大変ですねぇ~。幼さ故の無邪気さでしょうけれどぉ、それは言い換えるとぉ、幼さ故の残虐性でもありますよねぇ」
「はあ、今日はここで過ごしたいな……」
「ちょ、ちょっとそこの二人……のほほんとしていないで助けてくれないかしら」
「いけない! いつの間にかエメラちゃんが大変な事になってるわ。悪い子たちにはおしおきしなくちゃね!」
 すぐに反応し、高くジャンプしたアメリアは、エメラが乗っている蒸気砲の上へ飛びうつる。
 灯台を模した祭壇『Vanguard』を装着した腕をふりまわし、アメリアは寄ってくる仔竜たちを追い払った。
「こら、何でも口に入れたらダメだってば!」
 懲りずに部品を齧ろうとしている仔竜はつかんで無理矢理引きはがし、ハーバニーの方へぶん投げる。
「いいでしょ~、少しばかり遊んでさしあげますねぇ? ではぁ、お空の向こうまでぇ、行ってらっしゃいませ~」
 自慢の脚をふりあげたハーバニーは、丸まって飛んできた仔竜をサッカーボールよろしく蹴っ飛ばす。
 きゅぅぅと鳴き声をあげて吹き飛んだ仔竜は、別の個体に見事命中し、そのまま数匹を巻きこみながら雲の彼方へ飛んでいった。
『オレモオレモー!』
『アソンデー!』
「あららぁ~。大盛況ですぅ。うちのお店にもこれ位行列が出来るといいんですけどぉ」
 危機感のない仔竜たちが、今度はハーバニーの方へ殺到してくる。さて、どうしたものか――このまま大樹の上にいては、さすがにこの小さなお客様達をもてなしきれないだろう。
 ならば、と。
 困り顔で首を傾げていた兎の瞳に、一瞬だけ冷静な仕事人の光がちらついた。
「私も宙を駆けましょうかぁ」
 ――【兎跳】。
 宙を蹴って仔竜の行列に飛びこんでいったハーバニーは、敵の頭を踏み台にぴょんぴょん身軽に飛んでいく。自在に空を渡るその姿はさながら、鰐鮫の背を渡っていく白兎のようだ。

 神話とは違い、慎重派の兎は無事にエメラの大砲の上へ着地した。また一瞬バランスを崩しかけたエメラだったが、騎乗と操縦の技術を駆使して、なんとか立て直しをはかる。
「わあ、すっごい! ハーバニーちゃんも身軽なんだねぇ。ねえ、一緒に雲のステージで空に舞おう!」
「はぁい、喜んで~。最近の兎さんはぁ、芸達者でもあるんですよぉ?」
 アメリアの帽子についた再生機から、軽快なショーミュージックが流れ始めた。
 タイミングを合わせて跳びたったアメリアとハーバニーは、空という舞台の上で自在に踊ってみせた。
 リズムに乗って、群がってくる仔竜たちを踏み台にし、大樹の頂点よりも高くへ翔けあがる。
 空の頂に達した二人は、前方に回転しながらの踵落としを食らわせ、敵を雲の下まで一気に叩き落とした。
 残る仔竜たちが身体に風を纏いはじめる。風のブレスが空中の二人を襲うその寸前、ずどんと大きな砲撃音が轟いた。
「この弾丸は風では墜とせないでしょう?」
 空に白い蒸気が吹きあがっている。巨大な砲弾は、エメラの蒸気砲から放たれた弾だ。
 砲弾は一匹の仔竜を直撃し、派手に爆発した。
 丸焦げになった仔竜がぼろぼろと崩れ、風に消えてゆく一方で、エメラの方もただでは済んでいない。強力な砲撃の反動で、砲身が後ろ側にぐんと傾き、危うく空中転覆しそうになる。
「とと……攻撃は別の方が良いようね。後で反動を相殺する機能でもつけてみようかしら……」
 どうにか持ちこたえたエメラは、落下してくるアメリアとハーバニーを受け止めに走る。
「危機一髪でしたねぇ~」
「ほんと、助かったよ!」
 すとんと着地した二人を回収したエメラは、思考が停止したような、なんともいえない表情を浮かべた。
「と言うかあなたたちまで足場にしないでちょうだい、私は飛べないのよ……!?」
「協力しよう! この竜たちが『風』を操ってくるなら、私がいることによって攻撃の予測は容易になるはず!」
 アメリアは風の声に耳を傾ける。
 敵の動作から生まれる僅かな風の流れ。それを感じれば、風が教えてくれる――!
「今よ。エメラちゃん、高度を上げて! そのまま右回りに旋回だよ」
 エメラはアメリアの予測にしたがって蒸気砲を操作した。
 仔竜が放ってきた風のブレスは外れ、発生した気流に乗った蒸気砲は高速で別の仔竜につっこんでいく。
「うん、いい風!」
 アメリアの縛霊手が炎を纏った。振りぬいた拳は仔竜の額を直撃し、まばゆい閃光が空を走った。
 【風の友】。風を味方につければ、空中戦では負ける気がしない!
「なるほどね。悪くないわ」
「ブレスは長続きしないはず……! 余裕を持ってしっかり回避しよう。次は北北西から風が来るよ!」
 そうして巧みに攻撃をかわし続けるうち、ブレスを吐き疲れて息切れした仔竜たちの動きが鈍ってきた。
 その時を見極めて、ハーバニーがすちゃりと構えるは、愛銃ヴォーパル。
「さて、そろそろ後片付けの時間かしら」
「纏う風ごと、撃ち貫いて差し上げますぅ。いきますよぉ~」
 蒸気砲に乗った三人のまわりを、多数の浮遊型魔導蒸気ガトリング砲が取りかこんだ。
 いっせいに響きだした掃射音は雨の音に似ていた。
 仔竜に向かって降りそそぐ弾丸の雨、雨、雨――雨よ霰よと吹き荒れる【我が砲音は嵐の如く】。
 穴だらけになった仔龍の喉元を、ヴォーパルの弾が次々に貫通し、死出の旅へと送り出す。
 無垢な暴竜が兎を追って行き着いた国は、天国か地獄か、はたまた骸の海か。

 風が鎮まり、最後の一匹が雲間にきえる。
 そうして嵐が去った空には、あきれるほどの晴天が広がっていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

オリオ・イェラキ
テオ【f00426】と供に

まぁ、楽しそう
宜しいですわ
わたくし達と遊びましょう

さぁいらして
極夜に更けるわたくしをご覧になって
真昼に観る星夜も素敵でしょう?
遊戯は夜を振るう剣舞を見せて差し上げますわ

超高速の爪には超高速の流星、瞬く星にて受け止める
わたくしにその爪一本、触れられると思ったのかしら
残念ね、わたくし子供に興味はありませんの

そう、わたくしの夜を飛ぶのはあの紅き鷹
空中で舞う夫はより一層雄々しく見えますわ
メテオリオで更なる彩りを
花弁と舞踏の竜巻、耐えられるかしら

夫が飛び終われば次はわたくしの番
翼を広げ逃した獲物を狩り尽くす

ゆっくりと降り立てば、夫と目が
あら…ふふ。見ていて下さいましたの?
嬉しい


テオ・イェラキ
オリオ(f00428)と参加

随分と腕白な敵が現れたな
貴様らにとっては『遊び』であろうと、命を奪う行為
同時に奪われる覚悟を持って挑んで貰おう

『スカイステッパー』で飛び出した後、『空中戦』をしながら『風纏う激情の舞』を使用するぞ
本来であれば、地面で行なう舞だが、空中で飛び交う竜の仔たちと入り乱れながら蹴りを放つ
はたから見れば本当に“じゃれついて”いるようかもな

舞を終え、大樹に着地をしながらふと妻を見上げれば、その漆黒を見にまとった姿に見とれてしまうな
美しい……
いや、見慣れてはいるが、宙を舞うその姿を改めて見ると、その美しさに目を引かれてしまう。



●16
 逞しい剛腕にオリオを抱いて、空にやってきたテオは、不思議な兵器の上で既に交戦中の面々を見やった。どうやらあちらは大盛況のようだ。腕の中で、妻がころころと愉しげに笑う。
「まぁ、楽しそう」
 揶揄でもなんでもなく、オリオは純粋にそう思っているのだろう。腕を振るいたくてうずうずしている様子だ。
「随分と腕白な敵が現れたな」
 新たな『遊び相手』の登場を察知した仔竜たちが、夫妻のもとにもかっ飛んでくる。
「ふふ、本当にお元気なこと。宜しいですわ。わたくし達と遊びましょう」
「貴様らにとっては『遊び』であろうと、命を奪う行為。同時に奪われる覚悟を持って挑んで貰おう」
 テオはオリオを枝の上に降ろすと、両の脚で強く踏みきって空へ飛びたった。力強く空を跳ぶ夫の雄姿を眺めながら、オリオはしゃなりと燦たる魔法の剣を抜いた。
「さぁいらして。極夜に更けるわたくしをご覧になって」
 無邪気な子供の竜たちに、慈母のような微笑みが手向けられる。オリオが軽やかに剣舞を踊るたび、剣の軌道が星雲となって、空にきらめきの尾をひいた。
 蒼い空の片隅に、ちいさな夜が生まれては消える。描かれた星をつかまえようと、仔竜がオリオの剣先を追いかけるように飛ぶ。
 その様子を見たオリオは、唇に手をあてて笑った。
 真昼に観る星夜も、素敵でしょう?
 知性のとぼしい仔竜たちが、その興を理解したかはわからないけれど。

 星をつかめずに焦れた仔竜が、いまいち迫力のない、子犬のような吼え声をあげた。
 目と鼻の先まで飛びこまれ、不意にふるわれた爪の一撃を読んでいたかのように、オリオは剣を振り抜く。
 流星の軌跡を描いた剣は仔竜の爪とぶつかって、蒼空に星が瞬いた。力は拮抗している。けれどその爪の一本でさえ、触れることは許さない。
「触れられると思ったのかしら。残念ね、わたくし子供に興味はありませんの」
 そう――触れられるのはたったひとりだけ。
「させんぞ! 何人たりとも俺の女には触れさせん!」
 すかさず横から跳んできたテオが、オリオを襲う仔竜をドロップキックで蹴り飛ばした。蛮族の靴は大気の精霊の力を宿し、空中での身軽な動きをサポートする。
 いったん枝の上に着地したテオは、またすぐに空へと舞い上がった。寄ってきた仔竜の背中に飛び箱の要領で手をつき、勢いを殺さぬままに逆立ちをする。
 本来であれば地面で行なう舞だ。だが、蛮族の鍛え上げた肉体と精神は、敵の背を借りての舞すらも可能とする。
 テオは大きく息を吸った。
 そして――。
「我が部族に伝わる舞を見よ! くらぇぇええええい!! ブレイクぅ!!!」
 腹の底から吼えた。
 【風纏う激情の舞】――それは、現代地球人が言うところの『ブレイクダンス』に似ていたかもしれない。だが、これはあくまでも蛮族の伝統の舞である。
 仔竜の背をステージにして踊る、竜巻のごとき連続回転蹴り。止められない独楽のように高速回転し続けるテオへ、風を纏った仔竜たちが果敢にも挑んでいく。しかし、とても敵わず、瞬く間にはじき飛ばされていく。
「さあ、次はどいつだ!」
 回転が止まった。
 もう一度空高く跳んだテオは、空中で浴びせ蹴りを繰り出し、仔竜をねじふせる。次々と寄ってくる竜の仔と入り乱れて戦うその姿は、本当にただ“じゃれついて”いるようだ。
「まぁ。テオったら、とても楽しそう」
「む……遊んでいる訳ではないぞ。俺は今、こいつらと命のやり取りをしているのだ」
「ええ、解っておりますわ」
 そう、わたくしの夜を飛ぶのは、あの紅き鷹。
 空の上で一層雄々しく舞う夫をうっとりと眺めていたオリオは、剣を空へ掲げた。
「散りゆく命へ、わたくしが更なる彩を添えましょう。お往きなさい、わたくしの星達――」
 この【夜彩と流星花】で。
 剣にこめられた魔力が解き放たれ、刀身が星の煌きを纏う黒薔薇の花びらへ変化していく。
 ふたたび舞い始めたテオを黒薔薇が囲み、花の流星群が仔竜を切り裂いた。巻き起こった風に乗った花びらが、きらきら煌きながら、流星のように燃え尽きて消えてゆく。
 ああ、なんて綺麗。

 舞い終えたテオが大樹に着地するまで、オリオは陶然とその姿を見つめていた。
 入れ替わるように翼を広げ、大剣を手に空へと飛びたったオリオを、今度はテオがぼんやりと眺める番だ。
「美しい……」
 思わずつぶやく。
 見慣れているはずなのだが、何度でも見とれ直してしまう。
 夜の女神のような神秘的な黒に。その美しさにそぐわぬ獰猛さで、逃した獲物をすべて狩り尽くそうと、容赦なく大剣を振るう気高い戦ぶりに。
「あら……ふふ。見ていて下さいましたの?」
 ――嬉しい。
 狩りを終え、戻ってきたオリオは、夫の視線に気づいて少女のようにほほ笑んだ。
 お互い、心底惚れこんでいるらしい。
 宇宙を秘めた瞳に見据えられたテオは、やはりお前は最高の女だと、照れたように笑うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロー・オーヴェル
仔犬と戯れるなら微笑ましいが
仔竜との戯れは命懸けだな
一文字違うだけで天地の差だ

にしても……あァ、実にいい空だ
この空の彼方へ飛んでいけたらそれは楽しいだろう
「でも『彼方』に行くのは……お前らの方だぜ、チビども」

敵数が多いのなら下手に囲まれる訳にもいかない
自分一人で突出及び孤立しない様
戦況は常に注視

同時に戦う位置の移動も
戦況を見つつ柔軟に行う

なお移動の際のロープワークは
ロープが敵攻撃で切られる可能性もある為慎重に

攻撃対象は傷深い個体を優先
【二回攻撃】も活用し一体ずつ確実に仕留めていく
自傷は【生命力回復】で適宜癒す

ったく煙草をふかすヒマもない
でもだからこそ……終わった後の一服の為に全力で『遊ぶ』かね


パウル・ブラフマン
【WIZ】
よっしゃー!皆で遊ぼう☆

Herzを握って発動させるぜ、『サウンド・オブ・パワー』!
ちょいハスキーなオレの声で歌うのは
以前勉強したアックス&ウィザーズ伝承詩集にあった『竜狩りの唄』。
勇者を称えるリリックで
猟兵仲間に【鼓舞】を、仔竜へは【おびき寄せ】になるかな?

射程内に入った標的に向け
Krakeで【先制攻撃】を仕掛けるよ。
【一斉発射】だ、ばっちこーい!
接近戦になったら【零距離射撃】で対抗。

戦闘中は常に【地形の利用】を意識。
仔竜からの属性攻撃は極力【見切り】たいけど
自分や仲間が避けられない場合は
Glanzに盾になってもらって急場を凌ごう。
大丈夫、オレの相棒は強いから!

※絡み&アドリブ歓迎!


境・花世
この世界の空を初めて見た時、
悠久に広がる空が眩しくて
飛んでみたいと思ったんだ

“紅葬”

地を這ういきものでしかない躰は
けれど撓る枝を蹴って、
衝撃波でいっそう高く舞おう
翻す扇が散らした花弁は
竜の仔らの風で広範囲に届かせ、
やがて一斉に血を啜る刃と成して――

あっ着地のこと考えてなかっ、
墜落の危機ふたたび!

でも、もし救いの手があるなら、
今度こそちゃんと枝を踏みしめて
吹き荒れる風にも揺るがないように

見霽かす雲の海が白く波寄せる
世界はこんなにもうつくしい

晴れやかに笑って扇を構え直し、
仲間に群がる敵を範囲攻撃で散らす援護を
この両腕は翼になれないけど
だから出来ることがきっとあると、信じてる

※アドリブ・絡み大歓迎



●17
「わたしね。この世界の空を初めて見た時、悠久に広がる空が眩しくて、飛んでみたいと思ったんだ」
「そいつは奇遇だな。今同じ事を考えてた」
 普通に返してしまったが、誰だ。
 ああ、下でツンデレのような事を言っていた女か、とローは思いだした。
 どうやら、もう下手な嘘はやめたらしい。気が合うね、と笑った花世は、心から嬉しそうだった。

 大地を歩くひとである彼らは夢想する。
 このまま空想の翼をひろげ、この空の彼方へ飛んでゆけたなら、それは楽しいだろう。
「でも『彼方』に行くのは……お前らの方だぜ、チビども」
 見果てぬ空想も、冴えない現実も、疾走する意思を束縛することはできない。
 ――【テイクオーバー・ターゲット】。
 ローがなにげなく敵に視線を泳がせたその瞬間、攻撃は終わった。
 狙われた仔竜は、何が起きたのかもわからなかっただろう。群青色の身体に突き刺さっている銀灰のナイフはのべ21本、すべてたった1秒の間に投擲されたものだ。かわせる訳がない。
 あわれな竜の仔は、もがき苦しむ事すらなく、雲をつきぬけ彼方へと墜落していった。
「……そういや、あのナイフどうするかね。まあ、なんとかなっといてくれ」
 今更ながらに思う。後で回収しやすい場所に落ちていてくれればいいが。
「なに今の、めっちゃクールじゃん! よっしゃー! 皆で遊ぼう☆」
 Glanzに乗ったパウルが、上方の枝からどすんと降ってきた。
 戦力が増えるのは有難い。一人で突出して、空の上で孤立するのはごめんだと思っていたところだ。
「いいよ、遊ぼう。わたしの名前は花世。きみは? 何して遊びたい?」
「パウル・ブラフマン、MC jailbreakって呼んでくれてもいいぜ。今日は出張ライブで皆のバイブスアゲてくんで、パイセン方ヨロシャース!✨🐙 じゃー行ってみよう、【サウンド・オブ・パワー】☆」
 パウルがハンドマイクを手に唄いだす。
 すこし掠れたハスキーボイスで紡がれるのは、ロックでもヒップホップでもない。
 その昔、群竜大陸がまだ存在していた頃から歌い継がれてきたという、千の竜と戦う勇者を称える古い唄だ。
「何となく、どこかで聞いたような気がするな」
「へへ、レパートリー増やそうと想って勉強したヤツなんだ。アックス&ウィザーズ伝承詩集にあった『竜狩りの唄』だよ✨」
 右手に剣を。左手に盾を。
 千の竜には万の祈りを捧げよう。
 我ら共にこの手を重ね、勇者よいざ往かん、あの地の果てへ――。
「うん、いい唄。きみの魂がこもってるのを感じる……すこし借りるよ」
 そのいのちを糧に変え、わたしは咲こう。
 ――“紅葬”。
 うつくしい八重の牡丹が、花世の首に、掌に、脚に、ぽんぽんと花ひらいていく。
 花世の生がひとから花へと傾いているその間にも、パウルの歌を聞いた仔竜たちがわらわらと集ってくる。
 歌詞の意味はわかっていないだろう。威嚇だと思ったのか、仔犬のような吼え声を発して対抗してくる彼らを見たパウルはにんまりと笑って、蛸の触手を蜘蛛の巣のようにひろげた。
「ばっちこーい!」
 触手の表面に装着された固定砲台から、いっせいに発射される弾丸。撃墜をまぬがれて突撃してくる個体は別の触手で取り押さえ、零距離からの砲撃をくらわせる。
 つかまった仲間の半身が消し飛んだのを見て、怒った別の仔竜が激しい風を纏いはじめた。それを目ざとく見定めたローが二人に警告を送る。
「来るぞ、しっかり大樹にしがみつけ。振り落とされたらライブ終了だ」
 言うなり、ローはロープで自身の身体を樹に固定した。パウルも触手を使って枝を抱きかかえ、吸盤をしっかり吸いつかせる。
 押し寄せる風の大津波が、大樹を激しく揺らしはじめた。
「うわっ! やべっ、すっごい風きた!🐙💦 って花世ちゃーん!?」
 風圧に耐えながら見た光景に、二人は目を疑った。むしろこの風が欲しかったとばかりに、花世が大樹を上へ上へ駆けのぼっているではないか。

 さあ、舞おう。
 地を這ういきものでしかない躰は捨てた。

 枝を蹴り、反動で天高く跳びあがった花世は、扇から巻き起こる強風と風の津波に乗って――その瞬間、確かに『飛んで』いた。
 くるくると宙を舞いながら扇を翻せば、無垢な花びらが冬の空を春に染めかえる。
 風の津波に吹き飛ばされ、広く戦場に散っていった花びらは、至るところで竜の仔らを傷つけ、その血をすすってあかく咲く。
 あちら、こちらで、仔竜が墜落していくのが見える。
 奈落の紅に侵されて、はかなく散りゆく花々は、翼をもがれたきみへの餞に。
 すべて上手くいった。そう思い――花世は微笑んだ。

「あっ 着地のこと考えてなかっ、」
 ……そして気づいた。
 自分も仔竜と一緒に落下しているから、彼らの散り際がよく見えるのだと。
「何やってんだ。掴まれ!」
 間一髪。すかさず投げられたロープを、花世はぎりぎりで掴んだ。
 宙ぶらりんになったまま、ローに引き上げられるのを待っている花世へ、怒った仔竜が風のブレスを浴びせようとする。
「やべェ、仲間の危機だ。オレ達も行こう、Glanz!」
 パウルは思い切って、バイクに乗って空へ飛びだした。
 白銀のボディが太陽の光を浴びて輝く。操縦テクニックとエンジンの馬力を駆使して、花世を狙う仔竜たちの頭を踏みながら一周し、また大樹の枝へ戻ってくる。
 大成功。単純な仔竜たちの興味はGlanzに向いたようだ。バイクにじゃれついてくる仔竜たちから逃げ回り、縦横無尽に枝を走りながら、パウルはローと花世にサムズアップを送る。
「大丈夫、オレの相棒は強いから!」
 その間になんとか花世を枝の上まで引き上げたローは、安堵の息を吐いた。
「ったく、煙草をふかすヒマもないぜ。お前さんの事情は分からんが、あまり死に急ぐな」
「ごめんなさいっ。今度こそ気をつけるから!」
 手を合わせる花世にローは閉口した。
 今度こそ、という事は、来る時にも落ちかけたのだろうか。
「まぁ、暴れるのもほどほどに頼む。なんとかするにも限界があるんでな」
「でもでも、オレはさっきのちょーシビれたよ!✨✨」
 花世はまたひとつ反省する。頼もしい仲間たちがある程度はなんとかしてくれるようだが、今度はしっかりと、枝を踏みしめていこう。
 大樹の先から見晴らす雲の海は白く、静かに波寄せている。
 刹那を舞う花は、まだ散りはしない。きょうも世界は、こんなにもうつくしい。

「いい空だね」
「……あァ、実にいい空だ」
 そろそろ、借りていたいのちを返さねば。
 ローの答えに晴れやかに笑って返した花世は、扇を構え直し、パウルのバイクに群がる仔竜へ花びらを放射する。じゃれればじゃれるほどに、その花はあかく染まって、傷ついたバイクの上にはらりと落ちた。
 短い髪にからんだ花びらを、パウルが一枚つまみ上げる。キレイだね、と、彼は屈託なく笑った。
「……風は止んだか。仔犬と戯れるなら微笑ましいが、仔竜との戯れは命懸けだな」
 一文字違うだけで天地の差だ。
 でも、だからこそ――全力で『遊ぶ』。遊び疲れた後の一服が、とびきり美味いのだから。
 傷ついた個体に次々とナイフを投げ、ローは一体一体着実にとどめを刺していった。
 額に、喉に、胸に。的確に刺さった一本のナイフは、一撃で竜を墜としていく。
 じきに、空を泳ぐものはすべていなくなるだろう。
 花世はその見事な手際を眺めていた。あの子たちのように飛べたなら、とは思わない。
 この両腕は翼になれないけど――だから出来ることがきっとあると、信じてる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
やれやれ、無邪気とは斯くも残酷なものよ
――致し方ない
直々に遊んでやるのだ、私を退屈させるでないぞ?

空飛ぶ手立ての無い私は枝上から魔術を行使
心配せずとも容易く落ち等せんわ
叶う限り広範囲に【雷神の瞋恚】を落とす
特に仔竜の集中する所を重点的に狙い竜を減らしていく
ジジや他猟兵の死角へ竜が寄ろうものならば
高速詠唱の魔術で撃ち落す等の対処を

然し如何せん数が多い
一気に片付けたい所だが――ふむ
暫しの逡巡の末
とん、と枝から足を離し
――来い、ジジ!
空に展開する魔方陣
魔術の反動で飛ばされぬよう従者に支えられ
繰り出すは全力魔法の【雷神の瞋恚】
多少この身に罅が入ろうと構うものか
従者の小言も聞き流し


ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と

良い景色だ
戯れたくなるのも解るが

師父を出来るだけ太い枝へ
…くれぐれも落ちてくれるなよ

そら、悪童ども
相手になるぞ

飛び移り、仔竜達に追わせ
何匹か寄ってきた所で【まつろわぬ黒】での掃射
驚いたり傷付き動きが鈍った所を剣で撃墜
足場が危うくなれば翼を使っての空中戦も交え
枝々を縫う様に移動し、接近されるのを避ける

師の声がすれば殆ど反射で空駆け
文句も忘れて急ぎ受け止め、支える

…見事だが、人を砲台にするな
そして落ちるな、罅を入れるな

血すら繋がらんが斯様な所ばかり継いでしまった
毒を喰らわば、と師を抱えたままで
その雷に合わせて残る仔竜を狙う
折角だ、『遊び疲れる』まで御相手しよう



●18
 気流に乗った勢いで雲を突き抜けてきたジャハルとアルバは、一面にひろがる蒼を眺めてほう、と感嘆の吐息をもらした。
「良い景色だ」
 質量はないと解ってはいるが、ジャハルは綿のような雲にすこし指先を浸してみる。戯れたくなるのも解る気はする。近くで遊んでいた仔竜たちは、ジャハルの姿を見て仲間だと判断したのか、無警戒に近づいてきた。
 師を抱えたままの手は塞がっている。風にひるがえる黒衣を容赦なく爪で引き裂こうとする仔竜たちを、ジャハルは尻尾を振り回して追い払おうと試みた。
「やれやれ、無邪気とは斯くも残酷なものよ」
 アルバも杖で小突いて加勢するが、それしきで離れてくれるはずもなく。ジャハルはできる限り太い枝を探し、急ぎアルバをその上に降ろした。
「……師父、くれぐれも落ちてくれるなよ」
 小言も忘れずに置いておく。
「案ずるな、それ位心得ておる。心配せずとも容易く落ち等せんわ」
 一体この師を幾つの子だと思っているのだろうか。杖に擬した魔法剣に魔力を注ぎながら、アルバは軽く唇をとがらせた。
「致し方ない。直々に遊んでやるのだ、私を退屈させるでないぞ?」
 アルバの頭上に大きな雷雲が生まれ始めた。師が魔法を放つまでの間、敵の意識を引きつけようと、ジャハルは追ってくる仔竜たちに剣を振るい、挑発した。
「そら、悪童ども。相手になるぞ」
「ジジめ……よもや本気で遊んでいるのではあるまいな」
 弾むように枝を飛び移り、仔竜から逃げまわる弟子の姿は、アルバには追いかけっこをしている風に見えてしまった。まあ、恐らく心配は要らないだろう。
 仔竜の爪がじゃれてくるたび、ジャハルは剣を振るってその切っ先を受け止める。
 武骨な影の剣は、仔竜たちには得難いおもちゃに見えたのだろうか。剣を取り上げようとして飛びついてくる腕白な子供たちを、ジャハルは珍しいものを見るように眺める。
「そうか、これが欲しいか。なら、くれてやる」
 言葉通りに受け止めてはならぬ。なぜならこれは【まつろわぬ黒】。
 ジャハルが黒剣を横に薙ぐと、刀身から放出された無数の黒刃が、彼に群がっていた仔竜たちをいっぺんに切り裂いた。驚いてひるんだ仔竜の胸を、剣で一突きし、撃墜する。
「人の物を無闇やたらに欲しがるでないぞ。天罰と心得よ」
 アルバの仕込み杖が光る。詠唱時間は充分だ。悪戯な仔竜たちに向け、さらに下される【雷神の瞋恚】。
 断続的な雷鳴。明滅する稲光。ひろがる暗雲から広範囲に撒き散らされた雷が、黒刃で手負いとなった仔竜のうえに落ちる。怒れる神の一喝にふれた彼らは、みるみるうちに数を減らしていった。
 やがて黒雲が霧散したとき、ジャハルの後方から新たな仔竜が飛んできた。
 高速で詠唱を行ったアルバは杖の先から直接雷撃を飛ばし、敵を撃つ。少し威力は抑えめだが、牽制には十分だろう。
「助けられたな。すまん。やはりこれを使うか」
 ジャハルはふたたび翼をひろげ、空に飛びたった。高度を変え、ジクザクに移動しながら、大樹の枝々を縫うように飛んでいく。
 その複雑な動きについていけない仔竜たちは大樹にぶつかって、ジャハルに追いつこうとよけい必死になっている。
 もはや戦いの様相を成さない児戯ではあるが、いかんせん数が多い。一気に片付けたい所だが……アルバは思案の末になにかを思いつき、急にとん、と枝を蹴って――落ちた。

 遠い空を飛んでいたジャハルの眼が見開かれる。
「来い、ジジ!」
 無謀ではない。無策でもない。
 そこにあるのは、この策は必ず成るだろうという言外の信頼でしかない。

 ジジ。その愛称を呼ばれると、身体が勝手に動く。
 今日一番の速さで空を翔けてきたジャハルは、落下してきた師を両の腕で受け止めた。
 落ちるなと言ったのに。常なら勝手な行動を諫める口も今は閉ざし、ジャハルは空の上に描かれゆく巨大な魔方陣を見あげる。滅多なことでは拝めぬ師の全力だ。
 太陽を覆い隠すほどの濃い雷雲が局地的に空を覆った。真っ青な空の中で、その一角だけが漆黒に染まっている。
 繊細な宝石の身体は膨大な魔力の奔流に耐えかね、杖を握るアルバの指がぱきりとひび割れた。
 白い指の欠片は太陽を浴びずとも輝いて、きらきら光りながら落ちていった。
 ジャハルは反射的にその欠片をつかみ取る。砕けてしまいそうな師の身体を、離さぬようにがっちりと抱く。
「ジジよ、お前も守備を固めておくと良い。其れ以上黒くなられては堪らぬ」
 雷鳴が轟き、アルバの仕込み杖に凄まじい威力の雷が落ちた。
 言いつけ通りオーラで身体を保護したが、ジャハルまで少し痺れる程の力だ。
「ふふん、見ておれ。これが真なる雷神の力よ」
 アルバが杖に隠された剣を抜く。太陽よりも強烈な稲光が、そこから溢れだした。
 振るった切っ先から照射された極太の光線が、右から左へゆっくりと空を薙ぐ。
 はるか向こうの雲まで届くほどの神の雷は、いくつもの仔竜の群れを跡形もなく焼き尽くしてしまった。
 練磨と研鑽を重ねた師の魔法の威力に素直に感心しつつ、は、とジャハルはわずかに眉を寄せた。
「……見事だが、人を砲台にするな。そして落ちるな、罅を入れるな」
「あーあー煩い、小言は後で聞こう。それ、小童どもがまた来るぞ」
 掌のなかに、なにか硬いものがある。
 宝石の欠片だ――それを見て、はたと気づいた。
 己を顧みぬ戦い方は、この師の背を見て育つうち、知らぬ間に受け継いでしまったものらしい。
「――後でな。折角だ、『遊び疲れる』まで御相手しよう」
 ほんとうは、人の事は言えないのかもしれない。
 大砲となったアルバを抱えたまま、ジャハルは疾く飛ぶ。
 毒を喰らわば。我が身を染めてしまった忠というこの絆は、血のつながりより、濃いものなのかもしれない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

岡森・椛
すごい!
まるで雲の海に浮かんでるみたい
大樹さん、その大きな両手で私達を支えてね
必ず平穏を取り戻してみせるから

風を纏う可愛い仔竜達
アウラ、あなたのお友達かしら
赦す事は出来ないけれど、だからこそ一緒に遊んであげようね

【常初花】で出来るだけ多くの仔竜達を巻き込んで攻撃
私の好きな花達が天の原に咲いたみたいで胸が躍る
風に舞う花弁とも戯れてる様な仔竜達に思わず笑みが溢れるけど、気は引き締める

数が減ってきたら【科戸の風】で確実に撃破していく
風のブレス等の攻撃も可能なら科戸の風をぶつけて相殺
味方の猟兵達と連携して、敵の攻撃は避ける様に注意

アウラも可愛い仔達と本当はもっと遊びたい?
私もだよ
でも、しっかり倒そうね


エンジ・カラカ
遊ぶ?遊ぶ?
アァ……いいネェ…。遊ぼう。
賢い君賢い君、出番だ。

先制攻撃と行きたいトコロだが、遊ぶんだ。
先に小さな子のお手並み拝見。
見切りで回避できるよう動きはしっかりと見ておくカ。

賢い君、コイツは?あっちのヤツは?
いーっぱいいるなァ……。孤立はしないよう味方の近くに居よう。

あくまで遊ぶだけ。足止めはコレが、トドメは味方任せ。
属性攻撃と自慢の足を駆使して小さな子たちを翻弄、誘導。
おーにさんこーちら。コッチコッチ、いやいやコッチ。
アァ……愉しいなァ。


レイブル・クライツァ
こんな絶景の中で飛んでるとか楽しそうね…
それじゃあ、私も混ぜてもらおうかしら?
…楽しくなるかは別として

彷徨の螺旋で護人を呼び出して、他猟兵の方へのサポート若しくはフリーで飛んでる竜へと向かわせるわ。
自身は攻撃を受けない事及び、指示をし易いよう見晴らしが良さそうな所をキープ。
数を減らす事を優先し、戦況を見守るわ。
此方に向かって来そうなら片方を…剣聖の方を呼び戻して防衛。
戯れるのは程々に。私の護人はそんなに気が長い方じゃなかったから
手荒な真似をすると痛い目に合うのよ?
攻撃を受けた際は見切り等駆使し、態勢を立て直してから再召喚。
指示側だけは新鮮ね。自身で動く方が性に合っているかも

アドリブ及び連携歓迎



●19
 アウラの風に乗って、雲の下から飛びだしてきた椛は、うまく気流をコントロールして大樹の枝に着地した。枝の上から地上を見おろした椛は、わぁっと感動の声をあげる。
「すごい! まるで雲の海に浮かんでるみたい……あっ、あれってもしかして」
 別方向の枝の上に、記憶にある顔の猟兵がちらほら見えた。
 椛はうれしくなって両腕をあげ、二人に向かって力いっぱい手を振る。
「エンジさーん、レイブルさーん! 良かった、お二人も来ていたんですね」
「あら、この間の。奇遇ね、元気そうで何よりよ」
「ンン? ンー…………誰だっけカ。アァ、思い出した。モミジだ、モミジ。ハローゥ」
 レイブルは控えめに、エンジは大きくひらひらと手を振り返す。しかし戦友との再会を喜ぶ間もなく、やんちゃな仔竜たちの大群が三人の間に割って入った。
「来たよ……大樹さん、その大きな両手で私達を支えてね。必ず平穏を取り戻してみせるから」
 大樹の幹に手を添え、椛は言葉をかける。
 木の葉がさわさわと鳴った。招かれざる客に好き勝手にふるまわれ、きっとこの樹も悲しんでいるのだろう。

 猫がじゃれつくように爪を振るい、仔竜は三人を追いかけてくる。合流しようにも挟み撃ちにされて、四方からの攻撃を凌ぐだけでも難しい。自在に飛べる敵はなかなか厄介だ。
 しかし、見る者が見れば愛くるしいその容姿。風を纏って飛ぶ姿は、まるで精霊のようだ。
「アウラ、あなたのお友達かしら。赦す事は出来ないけれど、だからこそ一緒に遊んであげようね」
 椛の言葉に、杖から出てきたアウラはふんわり頷く。
 その時、なんとか仔竜を振り切ってきたエンジが上の枝から降ってきた。端正な顔で、幼い子どものようににんまり笑う彼を、椛は驚いた表情で見あげる。
「遊ぶ? 遊ぶ? アァ……いいネェ……。遊ぼう」
 賢い君賢い君、出番だ――爪がかすって切れた頬の血をぬぐい、一滴垂らせば、呼ばれた『賢い君』こと、辰砂が妖しく輝きだす。
 その手元を狙って放たれた風のブレスを、今度は見切ってひょいとかわす。ここまで追いかけっこで遊んできたあとだ、だんだんと仔竜たちの動きが掴めてきた。
 そして、さらにもう一段上の空から落ち着いた声が響く。
「本当。こんな絶景の中で飛んでるとか、楽しそうでいいわよね……それじゃあ、私もその遊びに混ぜてもらおうかしら?」
 楽しくなるかは別として――爽やかな青空には似つかわしくない、白と黒の喪服めいた正装が、大樹の頂点で風を受け、はためいていた。レイブルだ。
「さあ、来て頂戴?」
 その声に応えて来たるは、今はなき幻想の護人たち。
 【彷徨の螺旋】に呼ばれた夕焼色の死神と、片眼鏡の剣聖が、椛たちのとなりへ飛んでくる。
 どちらもレイブルと同じ実力を備えた頼もしい護衛だ。二体に斬りかかられた仔竜たちは、それが幻とは知らずに翼をはためかせ、一生懸命風の津波で対抗している。
「好きに動いていいわ。サポートは此方に任せて」
「アァ……任された。ケド、トドメはモミジに任した。遊ぶ方が楽しい」
「え!? あ……有難うございます! 実は新しいユーベルコードを試してみたくて……秋の訪れを告げる可憐な花達よ、思う存分咲き誇って!」
 椛が朱く紅葉した薙刀を掲げれば、季節がすこしだけ巻き戻る。

 朱鷺色のリボンが解け、そこからこぼれる【常初花】。
 撫子、桔梗、秋桜――風の波に乗って空を舞う秋の花々は、どれも椛の大好きな花だ。
 天の原に咲く季節はずれの花畑。その不思議な光景を見れば、誰もが胸躍るだろう。

「アァ……色がある。どれも、これも、牢獄には無かった色だ。ナァ、賢い君……」
 賢い君が、あかい鱗片となり、花々のなかに紛れて舞い上がる。
 そのあざやかな紅は、名も知れぬ花のように、冬の空に咲いた。
「綺麗ね。こんな光景が見られただけでも、今日ここまで来た甲斐があったかもしれないわ」
 秋の花々に囲まれながら、仔竜と切り結ぶ護人たちを眺めるレイブルの表情は、いつもよりすこしだけ柔らかだ。
 触れれば自らを傷つけるとも知らず、花びらにまでじゃれつく仔竜たちはなんだか微笑ましくて、椛は思わず笑顔がこぼれてしまう。だが、気を引き締めねば。
「アウラ、お願い!」
 椛の言葉に応え、アウラが杖の先でくるくると舞った。知らぬうちに力を失い、吹き荒れる【科戸の風】に対抗するすべを無くした仔竜が一匹、また一匹と、遠くへ吹き飛んで墜落していく。
 どうにか生き残った仔竜がふわふわと浮いてきて、高所から戦況に目をくばっていたレイブルの隣へ飛んできた。
 操作に集中することで戦力を倍化させる【彷徨の螺旋】は強力ではあるが、本体であるレイブルが傷を受ければ護人は消滅してしまう。
「さて……間に合うかしら」
 レイブルは意識を集中し、高速で詠唱して護人を呼び戻そうとする。

 仔竜と目があった。
 攻撃を見切れるよう、心の準備はしておく。
 仔竜が大きく息を吸い、羽ばたいた。
 正面から巨大な風の塊が押し寄せ、まとめた髪を煽った。
 風の大津波がレイブルを直撃し、大樹から振り落とす、その寸前――間にすべりこんだ剣聖が剣を振るった。

 巻き起こった衝撃波が風の津波とぶつかりあって相殺し、辺りには心地のよいそよ風だけが残った。
 なんとか受けずにすんだようだ。レイブルはいまの感情を表に出さず、ただ淡々と告げる。
「私の護人はそんなに気が長い方じゃないの。手荒な真似をすると痛い目に合うのよ?」
 その言葉通り、すぐに女主人へ狼藉をはたらいた悪餓鬼のもとへ飛んでいった剣聖は、手負いの仔竜を斬って捨てた。レイブルはふう、とちいさな溜息をつく。
「……この戦い方は新鮮だけれど、やっぱり自分自身で動く方が性に合うわね」
「レイブルさん、大丈夫ですか!?」
「ええ、平気よ」
 椛の心配する声に呼ばれ、下を眺めてみれば、木々のあいだではしゃぐ大きな子どもが見えた。
「賢い君、コイツは? あっちのヤツは?」
 エンジが無遠慮に小さな竜たちを指させば、たちまち赤い糸が巻きついて、尻尾に火をつける。
 ピィ、と悲鳴をあげた仔竜たちはお尻に火をつけたまま、怒ってエンジを追いかけていた。
 当のエンジはけらけらと笑いながら、狼の瞬発力を駆使して、枝から枝へと逃げ回っている。
「いーっぱいいるなァ……おーにさんこーちら。コッチコッチ、いやいやコッチ」
「ふふ、エンジさんも楽しそうだね、アウラ」
「アァ……愉しい。とても」
「元気ね。それなら、遊びがもっと盛り上がるようにしてあげようかしら」
 レイブルがぽつりと不吉なことを囁く。
 後ろからひそかに忍びよった夕焼色の死神が大鎌を振るって、エンジを追う仔竜の首を、生命を刈り取った。
 タッチされたら地獄行き。この鬼ごっこは、命がけなのだ。

 そうとは見えない楽しげな遊びの輪に加わりたそうに、そわそわとしているアウラの頭を撫でて、椛は雲の彼方を見すえる。
 そこに、まだ見ぬ空の暴君の赤い翼が見えたような気がしたのだ。
「アウラも可愛い仔達と本当はもっと遊びたい? 私もだよ。でも、しっかり倒そうね」
 アウラはふよふよと踊って応えると、杖の姿に戻って椛の手におさまった。
 見ててね。私達が護ってみせるから――大樹を揺らす風のブレスに対抗するため、ふたたび科戸の風が巻き起こる。
 狼男と、死神と、ちいさな竜の、奇妙な鬼ごっこが終わりを告げるまで。
 その強く優しい風は、あたたかく大樹と仲間たちを包んでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユーゴ・アッシュフィールド
【リリヤ(f10892)】と

……やっと着いたか。
休みたいところだが、目が合ってしまったな。
ふぅ、遊び相手なら他にもたくさんいるだろう。
そっちをあたってくれないか。

リリヤ、なるべく距離を取れ。
特に爪に気を付けろ、あれで引っ掻かれると不味い。

俺は【トリニティ・エンハンス】で戦おう。
今回は竜の仔の魔力を利用する。
奴等が飛ぶ為に利用している風の魔力を奪ってやる。
上手く飛べなくなった所に斬撃を叩きこむ。
『将を射んと欲すれば先ず馬を射よ』というやつだな。
サムライエンパイアの言葉だが、意味は分かるか?

グリモア猟兵の言葉を思い出す限り、大物が控えているようだな。
幼い竜から奪った魔力はそのまま纏っておこうか。


リリヤ・ベル
【ユーゴさま(f10891)】と

ピクニックではないのが、ざんねんです。
ただのあそびではないのも。
かわいらしい見た目ではあります、けれど。
わたくしはかしこいので、やるべきことはわかっているのです。

はい、ユーゴさま。
言い付けを守って、そっと後ろにひっこみましょう。
離れた分、【ジャッジメント・クルセイド】で攻撃を。

ユーゴさまは、たまにむずかしいことを仰います。
でも、えと、――ええと。これは、わかります。わかるのです。
動きを止めたら、あてやすい。
……ということです、よね?
よく見て、ユーゴさまが魔力を奪った竜へ、攻撃を重ねるように。

おおきな竜も、来るのでしょうか。
もうひとふんばり、がんばりましょう。



●20
「ユーゴさま、ユーゴさま。あとちょっとです。ふぁいと、です。ここから見えるけしきも、とてもきれいなのですよ。……ピクニックではないのが、ざんねんですが」
 翠の眸がきらきらひかる。ひとあし先に雲の上へたどり着いたリリヤが、枝の上からエールを送っている。ユーゴはそこまでよっこらせと這いあがるなり、
「……やっと着いたか」
 樹の幹によりかかって、しゃがみこもうとした。
 そんな彼をもの言いたげにじっと見つめる、四つのおおきな瞳。

「……四つ?」
 じっ。
 その内ふたつは当然、いつも傍らにいる小さなレディのものなのだが。
「遊び相手なら他にもたくさんいるだろう。そっちをあたってくれないか」
 じっ。
 ユーゴはふぅ、と疲れた溜息をつく。
 目の前で彼とにらめっこをしていた仔竜は、がぁと呻って大口をあけ、喉の奥から暴風を吐きだした。
「――! ユーゴさま!」
 ユーゴの長身が枝の上を離れ、後方へ吹き飛んだ。
 リリヤはユーゴを襲った仔竜へ、反射的に指をつきつける。
 【ジャッジメント・クルセイド】――天から降りそそいだ裁きの光が仔竜を打ちすえ、風が止まった。
「大丈夫だ。少し驚いたけどな」
 間一髪で近くの枝をつかみ、落下の危機をのがれたユーゴのもとへ、リリヤは急いで走り寄る。きりと睨んだその先には、さらなる仔竜の大軍がいた。
「……かわいらしい見た目ではあります、けれど」
 わかっている。この『遊び』は、ただの遊びではないのだ。世界への好奇心に満ちたレディの眸は、たいせつなことをきちんと汲み取っている。
「リリヤ、なるべく距離を取れ。お前はもっと遠くまで飛ぶぞ。爪にも気を付けろ、あれで引っ掻かれると不味い」
「はい、ユーゴさま」
 ユーゴが剣を抜いたのを認めたリリヤは、おとなしく樹の裏側へ引っこんだ。
「わたくしは、かしこくてよい子ですから。きちんと言い付けを守れるのです」
 リリヤがひょっこり顔をだす。
 そしてユーゴにたかる仔竜をつぎつぎ指さす。するとそこへ光の雨が降り、仔竜の翼を焼こうとした。
 だが、風を纏ってすばやく飛ぶ仔竜にうまく当てられず、なかなか苦労しているようだ。
「おっと、そこは通せないな。仕方ない、遊ぶか。こう見えて子どもの相手には慣れてる」
「ユーゴさま、どういう意味ですか!」
 また怒られてしまった。だが、これ以上前には行かせない。
 その背に幼きレディを護りながら、ユーゴは振るわれる爪を剣でいなした。わずかに飛んだ血飛沫は、色褪せたその身にはあざやかすぎた。
 掌ににぎられた剣だって、遠く輝かしい日々の残りかすのようなものだ。
 けれど、この手を求めるものが、まだそこにあるなら。
「……ユーゴさまのばか。あんぽんたん、おたんこなす」
 隣で、この名を呼ぶ声がするなら――戦おう。【トリニティ・エンハンス】。
「ああ。すまん、リリヤ」
 ユーゴの魔法剣があわい翠色の光を帯び、風を纏って飛んでくる仔竜たちの魔力を吸いとっていく。
 ユーゴに向かって突進しようとしていた仔竜たちは、急にスピードが落ちたことを不思議に思い、空中で手足をばたつかせる。
 ふらふらと酔ったように飛んでいる仔竜たちへ、ユーゴは大きく横薙ぎを放つ。刀身から巻きおこった風が見えない刃となり、敵を一列まとめて薙ぎ払って、撃沈させた。
 敵が飛行する魔力を逆に利用した作戦だ。騎士の雄姿を樹の影からほほうと見ていたリリヤは、ぱちぱちと拍手を送る。
「なるほど、そのような戦いかたが」
「『将を射んと欲すれば先ず馬を射よ』というやつだな。サムライエンパイアの言葉だが、意味は分かるか?」
「えと、――ええと。それは、」
 数秒の沈黙。
 どうやら、まだすこし難しかったらしい。
「……わかります。わかるのです。動きを止めたら、あてやすい。……ということです、よね?」
 と、思いきや。
 リリヤはユーゴの周りにいる仔竜をしっかり観察した。魔力を吸われ、動きが鈍っている個体を見つけ、指さしていくと、なるほど攻撃がよく当たる。
「すごい。すごいです」
「ああ、偉いぞリリヤ。またひとつ賢くなったな」
「もう、ですから、レディを子どもあつかいしないでくださいませ!」
 ぷんすかするレディをなだめながら、周りの敵をあらかた片付けたユーゴは剣を下ろす。
 轟く雷や、風に舞う花から逃れ、ふたりの前に流れ着いた最後の最後の一体。それを裁きの光が打ちすえると、そこにはざわざわと鳴る葉擦れの音と、気持ちのいい大空だけが残された。

 ……しかし、むしろこれからが本番だ。
「おおきな竜も、来るのでしょうか」
「ああ。大物が控えているようだな」
 まだ、どこにもその不吉な紅は見当たらない。けれど、グリモア猟兵は来ると言っていた。
 まだ魔力が残るユーゴの剣のまわりで、つむじ風が渦を巻いている。そう、将を射んと欲すれば――仔竜から奪ったこの力は、きっと更なる竜狩りにも役立つことだろう。
「もうひとふんばり、がんばりましょう。えい、えい、おー」
 リリヤが空に向かって手を突きあげる。
 今度はユーゴのみならず、戦場のあちこちから、それに呼応する仲間の頼もしい声が返ってきた。
 決戦のときは近い。つかの間の平穏がもどった青空は、いまだ晴れてはいないのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『ワイバーン』

POW   :    ワイバーンダイブ
【急降下からの爪の一撃】が命中した対象に対し、高威力高命中の【毒を帯びた尾による突き刺し】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    飛竜の知恵
【自分の眼下にいる】対象の攻撃を予想し、回避する。
WIZ   :    ワイバーンブラスト
【急降下】から【咆哮と共に衝撃波】を放ち、【爆風】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●21
 『それ』は突然にやってきた。
 はじめに感じたのは、ただすこしの風だ。
 蒼い空のずっとむこうに、場違いな紅い点がうかんでいると思った次の瞬間、それは巨大な紅の翼竜となっていて、きみたちの視界の大部分を満たした。
 速すぎる接近に迎撃体制を整える暇もない。ワイバーンは、狩るべき獲物を見定めるかのように、大樹のまわりをぐるぐると飛び回った。身長だけで人間の2、3倍はあろうかという巨体の持ち主だ。いったいどれほどの獣を、ひとを、その毒牙で喰らってきたのだろう。
 ワイバーンの移動によって発じるその風だけで、大樹の枝がはげしく揺れる。
 翼ある者は押し流され、なき者は枝から振り落とされないよう耐える。
 そして、獰猛なる空の暴君は、止まることなくきみたちに襲いかかってきた!


 ひとりでは流石にどうしようもない。
 ここからは、この場に集ったきみたちと、この竜との総力戦だ。
 ひとの役には立たぬことばかりを知る男は言っていた。
 人喰いに好まれるのは男より女。おとなより子ども。ひとでなきものより、ひとである。
 どうやらそうらしいことも、今一度思い出すといいだろう。
 挑む心構えができたなら、秩序なき暴風に立ち向かうため、武器を手にしたまえ!
境・花世
雄大な空に威風堂々たる姿
冒険譚みたい、なんて
少年めいたわくわくの眼差しで

だけどわたしは勇者でなく
伝説の武器だって持たないから
策を弄するしかないわけで
まずはあの動きを、止めてくるね

仲間にからりと笑いかけ
だいじょうぶ、でも、もし、
落ちたら掴んでくれる?

揺れの僅かに止んだ合間に
早業で枝を踏んで肉薄し
先制で侵葬を食らわせよう

動きを止めた鱗を蹴って、
再び枝へと戻る間に叫ぶ

――皆、今だ!

落ちる刹那に投擲した種は
爪か鱗に蒔けただろうか
届かない空にだって傷跡ひとつ
そこから逞しく咲くのが花ってもの

さあ、フィナーレの時間がきたよ

紺碧にきらきらと舞う花弁で
この世界への祝福を、勝利を、告げにゆこう

※アドリブ・絡み歓迎


ハーバニー・キーテセラ
子供の方程ではありませんがぁ、狙われやすいことは自覚しておきましょ~
兎さんですけれどぉ、自分から火中へ飛び込んで食糧になる程ぉ、徳は高くありませんからぁ~
素直に食べられる兎さんなんてぇ、ここには居ないのですよぉ

なんて言いつつですがぁ、相手に隙あらば眼下から一気に相手の頭上へ駆け上がりますよぉ
地上の獲物を狙う知恵はあれどぉ、同じ土俵へ登った相手への知恵はどうでしょ~
この地における食物連鎖の頂点。暴君であるが故に天敵はなくぅ、ご自身が空から狙われる経験は案外に少ないのではぁ?
ふふふ~、教訓代わりの弾丸を叩き込んで差し上げますよぉ
ただぁ、相手の土俵でもあることは間違いないのでぇ、油断は禁物ですねぇ


エメラ・アーヴェスピア
さて、最後の大物を墜とす時間よ
私の想いは変わらない…この蒼穹の為に、骸の海に沈みなさい…!

ここまで大砲に乗ってきた訳だけど
ここで壊されると後で困るから工房に転送しておくわ

ならどう戦うかだけど…先程一緒に戦った兎さんの方法をとるしかないわね
改めて『我が砲火は未来の為に』
今回は小型の狙撃砲(命中力重視)を多く遠間隔に召喚
小型とはいえ大砲、足場にするには十分の筈
そこを私…が乗った猟犬が飛び移り回避(私だけでは移動は無理ね)、浮遊砲台で竜を狙い撃ちよ


もし狙われて落下しても追ってくるのなら…
落ちながらマスケットで目を撃とうかしら
浮遊盾があるから死にはしない筈…戦線復帰は難しいけれどね

※アドリブ・絡み歓迎


岡森・椛
どれだけの命を、想いを、未来を、その毒牙で砕いたのかな…
兇暴な姿に圧倒されながらも哀しくなる
多分私は狙われ易い
仲間と連携しその旨も伝え、無鉄砲に前に出るのは控える

敵から距離を取って仲間の後方に位置取り【紅葉賀】を使う
決まれば有利に戦えるはず
私は早寝早起きだし好き嫌いもないし健康だから少しくらい寿命が削られてもきっと大丈夫
敵の動きに傾注
特に急降下には注意し続く攻撃を回避

吹き飛ばされて慌てない
アウラはいつも私に風の翼をくれるもの
ふわり飛ぶ様に戻り【科戸の風】で荒れ狂う暴君を逆に吹き飛ばしてみせる
この風は希望に満ちた未来へ向かって吹いてるの

大樹さんに必ずと誓った
ムササビさんとも約束したから負けないよ


テオ・イェラキ
オリオと参加

なかなかのサイズに一瞬気圧されるも、『男より女を狙う』という言葉を思い出す
愛する妻を食べさせるわけにもいくまい、気張らねばな

『スカイステッパー』で『空中戦』を繰り広げる
飛べる者達で周囲を囲い、皆で協力しながら一人が集中攻撃され辛いように立ち回ろう
固まっていては、纏めて薙ぎ払われてしまいそうだしな

斧を振り回して牽制するが、隙が見えたならば一度幹に飛び降り、『祖霊鎮魂す奉納の舞』を使用する
我が部族の祖霊の力を借り、あの飛竜を突き落とす

中々に激しい戦いだった
戦いが終われば、丈夫な幹へと座り込もう
ふと空を見上げれば、下りてくる妻が見えるな
お疲れ様と、お互いの労を労うように抱きしめる


オリオ・イェラキ
テオ【f00426】と

不躾な風ね。髪と花が乱れてしまいますわ
横目で夫の決意なる表情を見て機嫌を直し
さぁ始めましょう
もう一度、更なる極夜へ

此度はわたくしも夫と一緒に翼を広げ昼空へ
テオの考えは解りますわ、固まらぬよう挟撃を
わたくしを見下ろせるとでも?
高度を保ち、上から攻撃致しますわ
紅き鷹と夜空の共演、どうぞ堪能して

その翼ね、不快な風を作るのは
メテオリオの花嵐で視界を埋め
もがく間に翼へと
瞬く星の二回攻撃、双流星をお見せしますわ
黒薔薇で広がる夜空に映えるでしょう?
さぁテオ、この隙に獲物を猟りとって

終わりかしら
空中で髪を軽く整えてから、夫の元へ
ゆっくりその腕に入り込んで労いますわ
ええ、あなたもお疲れさま


ロー・オーヴェル
竜と戦う時の恐怖感を未だに消す事は出来ない
臆病なのだろうと思う

だからこそ自分は
無謀という言葉とは無縁だった

それに周りには頼もしい面々がいる
やはり自分は……無謀とは縁遠い

にしてもあの女
また妙な目に遭ってないだろうな……


攻撃機会は
敵の隙を突く様敵行動を常に注視
好機到来時は【ダッシュ】も活用し一気に

注視中に仲間の攻撃を受けぬ様にしてる等
弱点と思われる箇所がないか要観察

弱点存在時はそこを攻撃
弱点が判別しない際は頭部や心臓部分を攻撃

オブリビオン
骸の海から生まれた幻の様な存在
「お前を海に還す。この技……『幻霊を消す者』で」


戦闘後は煙草で一服

『遊び』を終えたご褒美を
この空の下で存分に満喫してから降りよう


レイブル・クライツァ
見た目的にも標的要素が薄いから、遠慮なく利用させて貰うわ。
毎回煽られてばかりは困るから、風を凌げそうな場所が有るなら利用。
可能なら巫覡載霊の舞で爆風の相殺を狙いつつ、大振りで確実に当てにいくわよ?
大振りが見切られない程度に、小振りで素早く攻撃も織り込んで見切られ対策。
集中砲火されている猟兵の方が居たら、敵の注意を惹くべく薙刀と大鎌を突き刺して怒ってもらおうかしら?
レデイには優しくしないと、乱暴なのは痛い目を見るのが相場なのよ?
それでも逸れないなら、狙われてる人とワイバーンの間に割り込んで、見切りを駆使して直撃しないよう、防御に徹して態勢を整える余力を作るわね。
一人じゃないから、頑張りましょう?


エンジ・カラカ
空を飛ぶってどんなきーもち?
コレは飛べないンだ。ソノ身で教えてほしいなァ……。

属性攻撃は賢い君の毒。真っ赤な宝石の毒。
2回攻撃も使い着実に削って行くが、トドメは任せる。
支援に徹するべく敵サンの動きを封じることに専念。

アカイイトを結んだらコレも空を跳べるのカ?飛びたいネェ。
おとなしく結ばせてくれ真っ赤な真っ赤なアカイイトを。
あまりにも情熱的すぎて熱いケドなァ……。

自慢の足は空では無力。どーやって戦おう。
飛び乗る?ぶら下がる?面白そうなのから試してみるしかないなァ……。
賢い君、行こうか。


アメリア・イアハッター
皆が空に怯えた生活をしなくていいように
貴方は過去に還りなさい!

・方針
人喰いに好まれるモノに自分は概ね合致している筈
目立つ装飾品を振り翳し敵の気を引き囮に
逃げ回る際は仲間に頼りまくり決して無理はしない

・行動
UC【風の友】使用
子竜よりも巨体のため少しでも動けば風が発生し行動の先読みは先程より容易な筈
しかし行動・攻撃範囲は広いため余裕を持った回避を忘れずに

可能ならスカイステッパーも駆使して空中戦を挑み、囮となり仲間が攻撃できる隙を作る
例えば大技を狙う仲間がいればそちらに敵の気が向かぬ様に逆側で陽動
同じく囮志望の仲間がいれば交代で敵を挑発

敵がこちらを見ていない場合は敵の上を取り攻撃
一撃与えたら離脱


パウル・ブラフマン
【SPD】
おーっ!いたいたでっかいの!!
UCを発動したら
【地形の利用】を意識しながら
大樹を上下左右に駆け回って
皆の援護射撃をするね。
足場が必要なら手伝うよ!相乗りもモチおっけー👌🐙✨✨

女の子とちっちゃい子が集中狙いされそうだったら要注意!
そっこー【かばう】つもりだけど
間に合わなさそーな時は
Krakeから【誘導弾】を発射して【おびき寄せ】を。

行くよ、Glanz!【迷彩】モード☆彡
空色に変化したGlanzと跳躍して
ワイバーンの頭上を取ったら
死角からGlanzごと落下して顔面の【踏みつけ】を試みるね。
そのまま最高速ギアにして【目潰し】だ!
ははっ…オレとお揃いじゃん?

※アドリブ&絡み&連携大歓迎!


ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と

あれは図に乗っている顔だな

我等は馳走ではないが
…おい師父、今度こそ頼むぞ
丈夫そうな梢に預けて

貴様の好物ではないが
案外良薬やもしれんぞ

翼を用いての空中戦を挑むが
枝々を緊急の足場として
加速、角度を変える等に利用する
【怨鎖】でドラゴンを狙い撃ち
繋いだ鎖で飛ばされ引き離されるのを防ぎ
翼に加え、怪力で手繰る事で爪の回避も行う

鎖を樹の枝か幹に引っ掛け引くなどして
羽ばたきや動きを妨害
その鎖が他猟兵の一時の足場となるもよし
師たちへの攻撃を阻害し反撃の機を作る
そら、足りんならもう一つ
翼に風穴でもくれてやろう

驕れる暴君よ
空は貴様だけの遊び場にあらず

墜とすぞ、師父


アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
ああ、実に腹立たしい顔だ
今直ぐにでもその驕り高ぶる翼を手折り、地に墜としたい所だが
…ええい嗾けるな馬鹿者!
我が玉体を疵付けたならば唯では済まぬぞ

肉の器を持たぬ者なれば
巻き起こされる暴風で飛ばされては堪らん
【ドラゴンゾンビ】を召喚する事で風避けとする
ジジに代わり守護の任を与えられた事、光栄に思うが良い

少しでもその敏捷性を抑える為にも
出来得る限りの広範囲へ魔術を放ち、その翼を穴だらけにしてやろう
爪の一撃を察知したならば、下方にいる猟兵へ注意を促しつつ
同時に魔術を行使する事で行動の中断を狙う
隙を見せたが最後、高速で拵えた業で一網打尽だ

ふん、言われずとも分っておる
――墜ちよ、暴君


ユーゴ・アッシュフィールド
【リリヤ(f10892)】と

少し侮っていたな、こいつはとんでもない相手だ。
仔竜から奪った風など、そよ風のように感じる。

羽ばたくだけでこれか。
前に立ち、奴の暴風からリリヤを庇おう。
大丈夫だ、安心しろ。俺がいる。

この人喰い竜の好みは把握している。
こいつは目障りで美味そうなリリヤを急降下攻撃で狙ってくるだろう。
ならば俺は、その瞬間にのみ備え【絶風】にてその攻撃を防ぐ。
爪であれば斬り払い、尾も通さない。
爆風であれば先ほどの風の魔力を叩きつけ相殺を狙う。
ダメージは覚悟の上だ、俺より後ろには絶対に行かせん。

この秩序なき暴風に負けず歌い、皆を癒すリリヤの行動を必ず守りきると誓おう。


リリヤ・ベル
【ユーゴさま(f10891)】と

おおきい。
風がつよい。
さきほどみなさまと上げた気炎が、吹き飛ばされてしまいそうなほど。

ほんとうに飛ばされてしまわないよう、しっかりと枝を掴んで堪えましょう。
おそろしくおもうのは、きっと本能に根ざしたもの。
……でも。ここにいるのは、ひとりではありませんから。

はい。ユーゴさま。
わたくしは、わたくしの、できることを。
みなさまの背中を、おまもりいたします。

【シンフォニック・キュア】、風に抗って、うたいましょう。
だいじょうぶです。
おそろしくても、こわくはない。まけません。
震えないよう声を張って、届く限りに、傷を癒やすよう。

いかに竜でも、毒を食べてはおなかをこわしますよ。



●22
「おおきい」
 ミルクティ色の髪が暴風にあおられ、西へ、東へ、首ごとあちこちへ流されている。
 翠の眸をまんまるに見開いたリリヤ・ベル(祝福の鐘・f10892)は、ユーゴ・アッシュフィールド(灰の腕・f10891)の脚にしがみきながら、みずからの何倍もあるワイバーンの巨体を見あげ、茫然とつぶやいた。
 ワイバーンが羽ばたくたび、強い風で足場がきしむ。
 他の仲間達も今はただ耐えているのか、戦場には空気が渦を巻く音と、大樹の軋む音だけが響いている。ついさっき皆と上げた気炎が、このままどこかへ吹き飛ばされていってしまいそうな気がした。
「少し侮っていたな、こいつはとんでもない相手だ……」
 先の戦いで仔竜から奪った風など、この暴風に比べたらまるでそよ風だ。
 ユーゴは足元にいるリリヤを見た。ぎゅっと眸をとじて、ちいさな身体が本当に飛ばされてしまわないよう、必死で頑張っている。
(俺を大樹の枝と間違えているのか? それとも……)
 行かせまいと引き留めているのだろうか。
 つかまれた脚から、リリヤの震えと恐怖が伝わってくる。きっと、その感情も行動も、本能に根ざしたものなのだろう。ユーゴはリリヤの頭に手を添えると、できる限り穏やかに声をかけた。
「大丈夫だ、安心しろ。俺がいる。どこにも行かない」
「……はい。ユーゴさま」
 リリヤは頷き、ゆっくりと目をひらいた。
 怖い。けれど、きっと大丈夫――ここにいるのは、ひとりではありませんから。

 どれだけの命を、想いを、未来を、その毒牙で砕いたのだろうか。
 大きな口からするどい牙をのぞかせ、鳥のような、獣のような、甲高い咆哮をあげるワイバーン。
 兇暴なその姿に圧倒されながらも、岡森・椛(秋望・f08841)は犠牲者のことを想い、哀しくなっていた。
 その時、【風の友】がささやく声に耳を傾けていたアメリア・イアハッター(想空流・f01896)が異変に気づいた。ほんの一秒にも満たない間だったが、わずかに風の流れが止まったのだ。
「風が騒いでる……椛ちゃん、危ない!」
 アメリアだけが感じ取れた、方向転換の気配。その矛先にいたのは――この場にいる者の中で、もっとも標的の条件に合致している椛だった。
 椛の視界から空が消え、紅と黄色でいっぱいになった。
 こちらへ向かって、ワイバーンが一直線に急降下してくる……!
「ちょ、あれ当たったらかなりやばめじゃない!? 助けに行くよ、待てーっ、でっかいの!!」
 愛機Glanzに乗り、【ゴッドスピードライド】で爆発的な速さを得たパウル・ブラフマン(Devilfish・f04694)が、椛をかばいに向かう。
 竜の速度にも負けない速さで枝の上を駆け抜け、そこから大ジャンプ。何本もの枝を一気に飛び越えながら、蛸の触手をひろげる。
 触手に装着された固定砲台が空中で火をふいて、黒煙とともに数発の誘導弾が発射された。
 食事の邪魔をされたワイバーンは高く跳びあがると、眼下に向かって怒りの咆哮をあげた。すさまじいうなり声は衝撃波を生み、パウルの放った誘導弾を一気に爆破する。
「くっそぉーめちゃめちゃ強いじゃん🐙💦💦 でも、オレらだって敗けないよ!」
 衝撃の余波が椛を襲い、乗っていた枝が折れてしまった。アウラを呼ぼうとするも、爆風が身体を打ったらしく、焼けるような痛みで身体が動かない。
 しかし、落下しかかった椛の腕を涼しげに受けとめる、もうひとつの風があった。
 暴風の中でも一定のリズムを保ち、淑やかに響く、静かな夜のような羽音。オリオ・イェラキ(緋鷹の星夜・f00428)は椛を片腕で支えながら、あいている腕で艶やかな髪をととのえた。
「不躾な風ね。髪と花が乱れてしまいますわ」
 眉をよせるオリオ。ワイバーンにとっては鴨が葱を背負っているように見えるのだろう、二人まとめて狩ってやろうとばかりにすぐさま急降下してきた。
「あら。素敵」
 しかし、オリオはあくまで優雅に、唇に微笑みをのせて敵を見る。
 ワイバーンの頭上、その背後に、敵の後頭部に向かって縛霊手を打ちおろすアメリアの姿が見えたからだ。
「この空を、豊かな自然を、そこに暮らす人達の幸せを壊す悪い子の大将は君だね。おしおきだよ!」

 『空』。それが自分にとっていったいなんであるのか、まだわからない。
 けれどきっと、とてもたいせつなものだから、風の泣く声がわかるのだ。
 その力を脚にこめ、風とともに空を翔ける。
 完全に不意を打ったアメリアの攻撃は――みごとワイバーンに直撃した。

「やった!!」
 仲間たちから歓声があがる。
 圧倒的に見える相手に対する、初めての有効打。道を照らす先駆けとなる、希望の灯火だ。
「ほら、こっちよ。皆が空に怯えた生活をしなくていいように、貴方は過去に還りなさい!」
 真っ赤な夕焼け色のスカーフが、真昼の蒼空にひるがえる。
「女子供のほうが柔らかくて美味しい、だったか。それを利用するとはな」
 あざやかなスカーフは格好の目印になるが……あの少女は恐らく、はなから囮になって隙を作るつもりだ。わざと見せつけるように動いている。
 アメリアの勇気ある行動を目にしたテオ・イェラキ(雄々しき蛮族・f00426)は、これは負けてはおれんと闘志を奮い立たせた。
 ふたたび急降下しようと空高く舞いあがるワイバーン。
 恵まれた骨格に分厚い筋肉を備えたテオでさえ、小さく見えてしまうほどの巨体。
 太陽を隠され、影になった枝の上からそれを見あげている今、いっさいの恐怖を感じていないといえば嘘になる。
 だが、テオは覚悟とともに跳んだ。
 蛮族の誇りにかけ、愛する妻や仲間をみすみす餌に与える位ならば、あの爪を喰らって死んだほうがましというものだ。
「気張らねばな。俺も加勢するぞアメリア、今行く!」
 力強く空を蹴ったテオは、アメリアを追うワイバーンの首めがけ、身の丈ほどもある大斧を振り下ろした。さらに飛行高度をあげたワイバーンは面倒そうにその攻撃をかわすが、テオは力任せに斧を振り回し、跳躍回数の限界まで敵を追いかけていく。
 オリオはそんな夫の雄姿を見守りながら、椛を安全な枝の上に降ろした。有難うございましたと椛に頭を下げられた彼女は、お気になさらずと微笑む。
「やっぱり私って美味しそうに見えるのかな……あまり前に出るのは控えておきます。オリオさんは……」
 すでに空の上を見すえているオリオの横顔を見て、椛ははっとする。
 この人は――自分が襲われるかもしれない危険を顧みず、愛する人の隣で戦うつもりなのだと。
「……そうか。頼もしい伴侶がいる女性を心配するのも何だが、気をつけて行ってくれ」
「ふふ、紳士ですのね。お気遣い感謝致しますわ。ええ、わたくしの事はお構いなく。ユーゴさまは小さなお姫様達をどうぞ、不躾な風から護ってさしあげて」
「そうさせて貰おう。モミジ……だったか、お前も俺の後ろに隠れているといい。遠慮するな、護るレディが一人でも二人でもそう大差はない」
 ここは申し出に甘えてもいいだろう。ユーゴの背後にまわった椛へ、リリヤがぺこりとお辞儀をする。
 それを見届けたオリオは、翼をひろげ、昼空へと舞いあがった。
 夫の考えは手に取るように解る――ここは、空を飛べる者たちでワイバーンを囲いこみ、固まらぬよう挟撃を。
 アメリアを追うワイバーンを更に追っているテオの横へ、オリオがすっと並ぶ。
 今は、その勇猛な瞳がこちらを向かなくてもかまわない。討つべき敵だけをまっすぐに見すえ、決意なる表情で斧をふるう夫の横顔もまた、たまらなくいとおしい。
 強い向かい風が吹き抜けてくる。けれど、暴風で乱れる髪や花のことなど、もうどこかへ吹き飛んでしまった。オリオは朗らかな気分で羽ばたき、テオをかわす事に集中しているワイバーンの上をとる。
「お生憎さま。わたくしを見下ろせるとでも?」
 二振りの剣の先を眼下のワイバーンに向け、オリオが急降下してくる。思った通り上からの攻撃にはやや弱いのか、剣先が腕をかすめた。そこへテオが斧で追撃を放つ。
「……硬いな」
 鱗に阻まれ、刃が深くまで到達しない。
 けれどこれからだ。この妻が共にあれば、どんな相手だって狩れるはずだ。
 ふたりの身につけた鷹の羽が風に揺れる。
「紅き鷹と夜空の共演、どうぞ堪能して。さぁ、始めましょう――もう一度、更なる極夜へ」

「あれは図に乗っている顔だな、師父よ」
「ああ、実に腹立たしい顔だ。今直ぐにでもその驕り高ぶる翼を手折り、地に墜としたい所だが……」
 夫妻を相手にふてぶてしく飛び回るワイバーンを眺め、アルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)は腹を立てていた。
 己よりも高飛車に振る舞う輩は、この師にとって目障りな存在であるらしい。仲間には聞こえない程度に声をひそめつつ、腕のなかで悪態をつくその様子を眺めていると、やはり実は見た目通りの童子なのではないか、とジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)はすこし思う。
 だが、その明晰な頭脳はじきに取るべき対策を導きだすだろう。ジャハルは表情を変えず、作戦を考え始めた師を丈夫そうな梢の上に預けおく。
「……おい師父、今度こそ頼むぞ」
「分かっておる」
 先程のような余裕はもうないかもしれない。アルバに釘をさしつつ、ジャハルはアメリアとイェラキ夫妻へ加勢すべく、白亜の翼をひろげてワイバーンへ挑みかかっていく。
「待たせた。代われ」
「有難う。すぐに攻撃が来るよ、注意して!」
 四方から包囲されたワイバーンは上に逃れ、アメリアと位置を入れ替わったジャハルを竜のするどい爪が襲う。
 ジャハルは黒剣でその一撃を受けた。
 びりびりと腕を痺れさせる手応え。バランスを崩したワイバーンの尾が、ジャハルのすぐ右を通過していく。危なかった。
 怒りの表情でジャハルをねめつけたワイバーンの眼が、その先で詠唱をしているアルバをとらえた。
 心なしか不思議そうな表情を浮かべている。美味いものかそうでないか、この悪食の竜も判断に迷っているのだろうか。気持ちはわからないでもない。
「あれか。あれは貴様の好物ではないが、案外良薬やもしれんぞ」
 アルバは樹からずり落ちそうになった。
 なにを吹きこんでいるのだと。言葉が通じるとは思えないが、まかり間違ってこちらに来られても困るし、案外良薬呼ばわりも純粋に聞き捨てならない。
「大概にせんかジジめ……帰ったらたっぷり灸を据えねば」
 弟子の戯れにくわと目を見開いて、一喝する。
「嗾けるな馬鹿者! 言っておくが、我が玉体を疵付けたならば唯では済まぬぞ」
 その迫力に周りの猟兵たちが一瞬ぎょっとなった。愛想笑いを浮かべ、アルバは詠唱を再開する。
 空に描かれた魔法陣から、新たな魔物がここへ放たれようとしていた。
 ――竜だ。
 死の国への門から這い出てきたのは、腐り落ちた肉の隙間から白い骨をのぞかせた不死の竜。
 いつか訪れる【死への憧憬】を胸に抱いたその使い魔に、主たるアルバは命じる。
「ジジに代わり守護の任を与えられた事、光栄に思うが良い」
 命じられた通りアルバを後背に隠し、不死の竜は吼えた。
 どこか哀しげな咆哮とともに放たれた雷のブレスが、空を飛び回る仲間たちの隙間を縫ってワイバーンを襲う。
「よし、奴が痺れてる間にいったん散れ! 固まっていては纏めて薙ぎ払わるぞ。皆で協力し、一人が集中攻撃されんよう立ち回るのだ」
「うん、承知だよ! 私だって食べられたくはないもの、皆に頼りまくって上手く逃げ回るから、よろしくね!」
 テオの号令にアメリアが呼応し、ワイバーンの頭上をジャンプで飛び越えて反対へ向かう。
 振り回されたワイバーンの尾が、包囲に加わろうと浮上してきたエメラ・アーヴェスピア(歩く魔導蒸気兵器庫・f03904)の騎乗する魔導蒸気砲をかすめた。
 その衝撃で弾き飛ばされそうになったエメラだが、操縦でどうにか体制を立て直し、大樹のそばへと退避する。
「なんて力なの……これはまだ調整の余地がありそうね。せっかくの新作、ここで壊されると困るわ」
「大事ないですか? どうぞ此方に。私のこの屍竜は風除けに丁度良いでしょう」
「助かるわ。そうさせてもらえる?」
 アルバの隣に着陸したエメラは、浮遊型魔導蒸気砲をいったん片付け、ユーベルコード制の工房に転送する。
 ここならアルバのドラゴンゾンビの陰になって目立たずにすむだろう。レイブル・クライツァ(白と黒の螺旋・f04529)も同じく隣で風を避けながら、薙刀を構えて精神を集中している。
「私は見た目的にも標的要素が薄いけれど、あの風は厄介だもの。利用させて貰うわね。……あら、貴方たち……いえ、気のせいかしら。一瞬私より年上かもしれないと思ったのだけれど」
 エメラとアルバは一瞬なにか言いたげな顔をしたが、レイブルの真剣なまなざしを見て口をとざす。
 【巫覡載霊の舞】を舞うレイブルの姿が、神秘的なベールに包まれはじめた。薙刀を媒介として彼女の生命エネルギーが体外に溢れだし、身体全体を覆っているのだ。
(神霊体……命を削る気か)
 レイブルの表情に変化はない。
 だが、どこか寂しくも映る人形淑女の舞姿を横目で眺め、アルバは先程の全力魔法で欠けてしまった指先を眺めた。
 上空では空を飛べる仲間がワイバーンを囲いこみ、他の仲間が隙を見て飛び道具で攻撃する、という構図が出来上がりはじめている。
 アルバ達とは別の枝の上から戦況を窺いつつ、やはりナイフ投げで攻撃していたロー・オーヴェル(スモーキークォーツ・f04638)は、横で同じようにナイフを投げて敵を牽制しているハーバニー・キーテセラ(時渡りの兎・f00548)を見やった。
「お前さんは包囲に加わらなくていいのか」
 確か、先程はこのバニーガールも身軽に跳び回っていたはずだが。
 ハーバニーはいつもの間延びした声でその疑問に答える。
「はぁい、囮は勇気ある皆さんにお任せしようかとぉ。兎さんですけれどぉ、自分から火中へ飛び込んで食糧になる程ぉ、徳は高くありませんからぁ~」
「随分正直なんだな。だが、それが賢明だと思う」
「褒められても兎ぐらいしか出せませんよぉ~。時々猫も出ますけどぉ」
 成程、見た目は兎ではあるが、あの竜にとっても『食えない』女性であるらしい。
 口ではとぼけた事を言いつつも、ハーバニーの眼からは敵の一瞬の隙を見逃さず、そこを突いて相手の命を狩りとろうとする意志が感じられた。
 こうしている間にも敵の動きを観察し、弱点を探っているローと似たようなものだ。おそらく彼女の本質も、盗賊からそう遠からぬものなのだろう。
「俺もとてもじゃないが、あそこには加われないな。もし飛べたとしてもだ」
 ローは眩しそうに大空を仰いだ。
 その先には、自在に空を翔ける仲間たちと、大きなワイバーンがいる。

 自分はどうだろう。竜よ、こちらを向いてくれるなと、そう願いながら攻撃をしている。
 臆病なのだ。何度戦っても、あの生き物を畏怖する感情は未だに消す事ができない。
 臆病だからこそ――無謀という言葉とは、無縁だった。

「止めてくるね」
 あたりまえのように降りそそいだその一声にローはぎょっとした。
 ハーバニーと共に上を向いてみれば、ああやっぱりか、と思う。
 境・花世(*葬・f11024)だ。また妙な事を考えていやしないかと心配してはいたが、これは止めても無駄だろうと悟る。
 まるで少年のようにきらきらと瞳を輝かせ、純粋になにかを企んでいる顔だ。
 花世の瞳を満たしている感情は、無鉄砲な冒険心そのものだった。
「大丈夫ですかぁ~?」
「だいじょうぶ、でも、もし、落ちたら掴んでくれる?」
 からりと笑った花世の顔には悪意のかけらもない。
 雄大な空を舞う威風堂々たる竜の姿を、子供の頃に読んだ冒険譚に重ね、夢見る少女の顔だった。
 どこまでも自分の真逆の道を突き進もうとするその女へ、ローは溜息をつく。
 だが、何故だか笑えた。
「善処はする。だが、手が滑っても恨むなよ」
 返ってきた軽口に微笑み返して、花世は上の枝に飛び移っていく。
 その途中、花世は自分と同じような純粋無垢な目をして、飛ぶ者たちをぼんやり眺めている男を見た。
 いつかどこかですれ違ったかもしれない。月を見あげる狼のように口を開けているその男の名は、エンジ・カラカ(六月・f06959)といった。
 花世と目があったエンジはにんまりと笑う。花世もちいさく手を振って応え、さらに上へ向かう。
 さて、自慢の足は空では無力。
 一体どうやって戦おうかと、エンジは空を見ながら悩んでいた。
「やっぱ飛んでるやつらはイイなァ……」
 エンジは考える。
 もし、あの竜の背に飛び乗れたらさぞや楽しいだろう
 脚にぶら下がってみるのもいい。できるかもしれない。コレには翼がなくとも、いいものがある。
 エンジの掌に乗ったそれが妖しく輝いた。
「ま、面白そうなのから試してみるしかないなァ……賢い君、行こうか」

●23
 大樹の上に集った15名の猟兵たち。見た目も能力も個性豊かな面々の総力により、包囲は完成しつつあるが、驕れるワイバーンの風はまだ猛威を振るっている。
 あと一歩なにかが欲しい。そう考えていたエメラは、ふと名案を思いつく。
「貴方のアイデアを使わせてもらうわ、兎さん」
「はぁい? 私ですかぁ?」
 何が出てもおかしくないが、何が始まるのだろう。ハーバニーが興味深そうに見つめるなか、ふたたび行使される、エメラの【我が砲火は未来の為に】。
 今度はしっかりイメージを持ち、高い命中精度をそなえた小型の浮遊狙撃砲を空中に組み立てていく。
 がしゃん、がしゃんと、次々に組み上がっていくガジェット。
「なるほどぉ。そういう事でしたかぁ~」
 ハーバニーはふむふむと感心する。
 包囲されたワイバーンを中心にぐるりと円を描き、等間隔に配置された狙撃砲は、空中での足場として活用するのにもってこいだ。
「ええ。小型とはいえ大砲、私や皆が足場にするには十分の筈よ。……とは言え、私だけでは移動は無理ね」
 武器庫から猟犬型魔導蒸気兵器を取りだしたエメラは、その上にちょこんと飛び乗った。
 蒸気を吹きあげて動き出した猟犬は、大砲の小島を飛びうつりながら、上空のワイバーンへ魔力の刃を叩きこんでいく。
 ワイバーンが怒りの唸り声をあげ、エメラのほうを見た。その一瞬の隙をつき、浮遊砲台をいっせいに発射して敵を撃ちまくる。
 紅の鱗がいくらか剥がれ落ちた。だが、ワイバーンは構わず急降下してくる。
 鋭い爪がエメラの猟犬を襲い、弾き飛ばす。毒の尻尾が猟犬ごとエメラを貫こうとした寸前、バイクに乗って大砲を飛び移ってきたパウルが滑りこみ、エメラをつかんで荷台の上に乗せた。
 必殺の一撃を空振りしたワイバーンは、面白くなさそうにふたたび空へ戻っていく。
「助かったわ」
「コッチこそ、イカした足場ありがとーっ☆ せっかくだし、オレのバイク乗ってかない? ちょー速いよ!」
 すでに大砲の上を飛び移るコツは掴んでいるようだ。指を立てて『いいね』のサインを送るパウルを見て、意図を察したエメラも頷く。
「私達自身が動く砲台になってやろうというわけね」
「お役に立てたなら何よりですぅ。それではぁ、私も相乗り失礼ぃ~」
 落ちる前にしっかり回収しておいた猟犬をエメラに手渡し、ハーバニーもパウルのバイクに飛び乗った。
 その手に構えるのは愛銃ヴォーパル。これは凄い事になりそうだ。パウルはにやりと笑う。
「モチおっけー👌🐙✨✨ こっからはノーブレーキで行くぜ、振り落とされないように気ィつけなオラァ!!」
 パウルは触手をひろげ、バイクを急発進させた。
 超高速で大砲の上を移動するバイクから降り注ぐ多数の弾丸。さらに大砲そのものからも弾が発射され、さすがの空の王者も逃げ場をなくした。かわすことが――できない。

 空の上にいる猟兵たちを、怒りの咆哮が襲った。
 飛んで、あるいは跳んでいた者たちがコントロールを失い、大砲の上に不時着する。
 自由になったワイバーンは、大樹の上からちまちまと攻撃してくる目障りな者たちへも怒りの咆哮を放ってきた。
「お願い、やめて!」
「おおきな樹が、きずついてしまいます」
 ワイバーンの横暴へ悲痛な声をあげるリリヤと椛を護るべく、ユーゴが前に出る。
 爆風に巻きこまれたらまた樹が破壊されてしまう。レイブルが樹の上から大きく薙刀を振るった。
「させないわ」
「ああ、俺も手伝おう。風を止めるぞ」
 白と、黒と、灰色が並び立つ。
 命を削って繰り出される神秘の斬撃と、剣から解き放たれた風の魔力が合体し、ワイバーンの衝撃波とぶつかりあった。爆風の威力は完全に打ち消され、一瞬、空の上が無風になる。
 レイブルは攻撃の手を緩めず、今度は素早く、細かく薙刀を振るった。
 地道な攻撃でかたい竜鱗を削られ、防御力を失いつつあるワイバーンの身体に、レイブルの斬撃が細かい傷を刻んでいく。
「ふむ、漸く効いてきたか。次はその翼を穴だらけにしてやろう」
 少しでも敏捷性を抑えられれば、攻撃も当たりやすくなるだろう。
 そろそろ頃合いだ。アルバは溜めてきた魔力を解き放ち、己の代わりに戦う使い魔へ注ぎこむ。
 ドラゴンゾンビが大口をあけ、口から広範囲へ渡る雷撃のブレスを放った。
 空中で稲妻をえがき、血管のように枝分かれしたそれは、ワイバーンの翼に無数の穴をあける。

 風通しがよくなった翼を強く羽ばたかせ、なんとか高度を保とうとするワイバーン。
「賢い君、賢い君。アカイイトを結んだらコレも空を跳べるのカ? 飛びたいネェ……」
 支援に徹しながら様子を見ていたが、どうやらチャンスが回ってきたようだ。身軽に枝を飛び移ってきたエンジは、賢い君に問いかける。
 応えるように伸びる赤い糸。エンジはにまりと笑んだ。
「サァ、おとなしく結ばせてくれ。真っ赤な真っ赤なアカイイトを」
 ワイバーンの脚にするりと赤い糸が巻きついた。――大成功だ。
 翼を得たがごとく、エンジは枝の上から空中へ身を投げだした。脚に絡みついた糸の先にぶら下がっているエンジに気づかず、ワイバーンは必死に羽ばたいている。
「あは、すごい! ほんとに飛んじゃった」
 上からその様子を見ていた花世が素直な歓声をあげる。
 空の上へ復帰してきた猟兵たちをワイバーンがかわすたび、ぶら下がったエンジが振り子のようにぶらんぶらん揺れる。
「何て奴だ……」
 例えロープがあっても絶対にやらない。今にも振り落とされそうなその様子はローの肝を冷やし、花世をわくわくさせる。
「空への情熱があれば、わたしたちにも翼は作れるのかもしれないね」
「アァ……そうだ。コレはあまりにも情熱的すぎて、熱いケドなァ……」
 空の旅を堪能したエンジは、赤い糸に火をつけた。
 延焼した【双子の炎】がワイバーンの脚に燃えうつり、甲高い咆哮があがった。糸を離したエンジは浮遊砲台の上へ着地する。
 この炎が燃えている間、エンジの命は刻々と削られていくが、ワイバーンはユーベルコードを放つことができない。
 完全に動きを止めたワイバーンへ、レイブルがさらに追撃を加えた。
 大振りの斬撃は、今度はワイバーンへ直接当たる。それを皮切りにナイフや銃弾が降りそそぎ、ワイバーンの命を削っていく。充分だろうと判断したエンジは、ひとまず燃える糸を解除する。
 炎の残滓がぱらぱらと舞い落ちて、消えた。

 今の一撃は痛打を与えたとはいえ、致命傷には至らない。
 空中で振るわれる斧や剣の攻撃をすり抜けて、ぼろぼろになったワイバーンが急降下してきた。
 最期の晩餐にでもするつもりなのか。その矛先は、大樹の上にいるリリヤと椛だ。
 だが、この瞬間にのみ備えてきたユーゴが二人の前に立ち塞がっている。
「来たな。俺より後ろには絶対に行かせん」
 身体を張り、その爪の一撃を受け止める。またたく間に旅装が血で染まった。
 だが構うものか。構えた剣から【絶風】が巻き起こる。鍛え抜かれた剣技に風の魔力を乗せた一撃は、ワイバーンの爪の一部を切断した。
「見事だ。加勢する」
 激怒し、ユーゴを尾で貫こうとするワイバーンを、枝を蹴って加速したジャハルが背後から斬りつける。
 ワイバーンは急旋回とともに急浮上した。
「来るぞ。備えよ、ジジ!」
 アルバの声とともに援護の雷撃が飛ぶ。一瞬行動を中断させられたワイバーンは、ジャハルを掴みそこねた。
 ……かと思いきや、がむしゃらに爪を振り回し、ジャハルの胴を切り裂くとともに大きく跳ね飛ばす。
 痛みには慣れがあるジャハルは、伝う血のぬくもりで自分が深手を負ったことに気づいた。
 どうやら、敵は爪を折られた怒りで我を忘れているようだ。竜人の皮膚でも防御しきれない。
 ワイバーンは、そのままユーゴにも襲いかかってきた。
 血を流しながら応戦する彼を、後ろで支える少女たちが心配そうだ。少しでも怒りの矛先をそらすべく、レイブルは柔らかそうな場所を狙って薙刀と大鎌を突き刺した。
「レディには優しくしないと、乱暴なのは痛い目を見るのが相場なのよ?」
 ユーゴとワイバーンの間に割りこみ、どうにか爪を見切る。かすめた爪先が人形の身体に傷をつけるが、ひとでない自分はすこし壊れるだけだ。あとで修復すればいい。
 この間に皆が態勢を整えてくれれば。そう思い、後ろで立ちすくんでいるリリヤへ、せいいっぱいの笑みを向けようとする。
「一人じゃないから、頑張りましょう?」
 レイブルの無表情からなにかを感じ取ったリリヤは、こくりとうなずき、想いをたぐりよせる。
 わたくしは、わたくしの、できることを。
「まけません。みなさまの背中を、おまもりいたします」
 強い風が髪をゆさぶるなか、リリヤの【シンフォニック・キュア】が風に抗って響いた。

 大丈夫だ。もう、手足がふるえることはない。
 すぐ目の前で涎をたらし、暴れているワイバーンの形相はあまりにも恐ろしい。
 けれど、ここにはユーゴさまや、あたたかい人たちがいる。
 恐ろしくとも、もう怖くはなかった。
 息を吸って、お腹に力をこめて、震えないよう声を張る。
「あ! これって、さっきオレが歌った……」
 パウルはバイクを飛ばしながら、その歌声に耳をかたむけた。
 不思議なもので、自分のものとはまったく別の歌のようだ。
 シンフォニックデバイスを通し、戦場いっぱいに広がっていく、リリヤの――『竜狩りの唄』は。

 ユーゴが、ジャハルが、空で戦っていた者たちが。
 その歌声に傷を癒され、ふたたび竜に立ち向かう。
 この秩序なき暴風に負けず、歌うリリヤを必ず守りきる――その瞬間、ユーゴの振るう色褪せた剣には、かつての輝きが宿っていた。
「『竜狩りの唄』に乗せて竜を狩る、かあ。あは、ほんとうに夢みたいな冒険だ!」
 その光景を高い枝の上から見下ろし、花世は少女のように爛漫に笑った。
 笑って、笑って、笑ったあと――その笑顔は、どこか空虚に刹那を駆ける女のものに変わった。
 ほんとうは知っている。
 わたしは竜狩りの勇者じゃない。
 伝説の武器だって持たない、ただのひとだから、こうして策を弄するしかないわけで。
 わずかに揺れが止んだ。目にも止まらぬ早業で枝を踏みきり、ワイバーンの背中へ飛びうつった花世は、どこにあるのかわからない竜の耳に向かってささやいた。
「きみの心臓は誰のものだか、いってごらん」
 牡丹の下に隠された空洞の中から、はかなげな薄紅の花弁が、涙のようにはらはらと滴る。
 【侵葬】。身体のすみずみまで染みわたる甘い馨は、またたく間に思考回路を侵し、暴竜のわずかな理性を葬りさった。
 とろんとした目で翼を羽ばたかせるのみとなったワイバーン。徐々に墜落しつつあるその背の上から、花世は天高くへ叫んだ。

 ――皆、今だ!

 大樹さんに必ずと誓った。ムササビさんとも約束した。
 普通の少女として、ごく普通に暮らしていた身だ。まだ命がけで戦う皆ほどの覚悟はできていないから、少しどきどきはするけれど、花世が作ってくれたチャンスを無駄にはしたくない。
「私は早寝早起きだし、好き嫌いもないし、健康だから……少しくらい寿命が削られても、きっと大丈夫!」
 椛は自分に言い聞かせるようにそう言うと、杖に魔力をこめていく。杖から浮かびあがったアウラも応援してくれているのだろう、大きく腕を振っている。
「全てが美しく色付いた世界の中で、その赤に包まれていてね。お願い、アウラ!」
 【紅葉賀】。アウラが巻き起こした嵐に乗って、紅葉の葉が空を舞った。
 視界いっぱいを染めるうつくしい赤。季節を塗り替えるその風は、花世の放った花弁を散らし、過去からきた暴竜を、終わらぬ秋の渦中へと封じこめる。
 ああ、綺麗だ。
 花世も一瞬そのなかに埋もれていきそうになったが、鱗を蹴って竜の背を離れた。
 いっさいの知的行動を封じられ、暗愚となった空の王者を、さらに地へ縛りつけようとする鋭い竜の眼が見えたからだ。懐から取り出したなにかを竜へ投げつけ、花世は大樹の枝へと帰る。
 まだ掌に残る己の血を掬いとり、ジャハルはワイバーンめがけて叩きつけた。
 そこから黒い爆風が巻き起こった。
 ワイバーンの身体から流れだした鮮血はどす黒く染まり、鎖となって、ジャハルの手とワイバーンの首を繋ぐ。
「犬のようだな」
 目をさましたワイバーンは、何がどうなっているのかわからないという風に暴れ回った。
 だが、ジャハルは凄まじい力で鎖を手繰って首を絞め、羽ばたきと爪による攻撃を制御する。
 紅葉はまだ舞っている。花世から椛へ、そして己に渡されたこの勝機を繋がねば。
 ジャハルは翼を羽ばたかせ、速度を限界まで上げる。
 枝を避けながら素早く大樹の周りを旋回し、鎖を樹の幹に巻きつけて、ワイバーンを犬のようにつないでしまった。それを見ていたアルバは道中での出来事を思いだす。
「此処に来て戯れが役に立つとは……」
 ユーベルコードを奪われ、さらに鎖でつながれたワイバーンは狭い範囲でもがく事しかできない。
「よし、よくやった!」
 テオとオリオがその両肩に重い斬撃を打ち下ろした。
 ごきりと、刃が骨にぶつかる手応え。
 射撃とナイフの雨を浴びながら、ワイバーンはなおも執念深く涎をたらし、リリヤと椛のほうをにらんでいる。
「おなかがすいているのですか。いかに竜でも、毒を食べてはおなかをこわしますよ」
 もう、その声が震えることはない。リリヤは悪い子どもを諭すように告げた。
 その直後、鎖の上を走って竜の頭部へ飛びうつったエンジが、くっくっと笑いながら囁いた。
「空を飛ぶってどんなきーもち?」
 コレは飛べないンだ。ソノ身で教えてほしいなァ。
 もうすぐこの竜も飛べなくなってしまうのだ。辛うじてまだ羽ばたいているその背に乗ったエンジは、あさっての方角を眺めながら、掌の上に血のように真っ赤な宝石を生成する。
 宝石の毒をひとつ、ふたつ。
 腹をへらした竜の口の中へ、餞別のように放りこんでやる。
「美味しい?」
 とたんにもがき苦しみ、暴れだした竜の背からエンジが振り落とされそうになる。
 そろそろ解除してもいい頃合いだろう。紅葉の嵐を止めた椛は、慌てずに杖の中のアウラへ呼びかけた。
「いつも私に風の翼をくれるアウラ。あの人にもその翼を分けてあげてね」
 浮かんできたアウラはこくりと頷き、ふたたび【科戸の風】を巻き起こす。
 エンジの身体がふわりと宙に浮いて、大樹の枝の上まで運ばれた。すると優しい風はとたんに強く吹きつけ、仲間を避けて、荒れ狂う暴君だけを遠くに押し流していく。
 樹の上に立っている猟兵たちの足元が数秒、地震のように揺れる。
 だが、揺れは少しするとおさまった。
 ワイバーンがもがけばもがくほど大樹に繋がれたままの首が絞まり、もはやどうしようもないようだ。
 今度は無事に帰ってきた花世がにへっと舌を出したのを見やり、ローは溜息をつく。
 まったく、皆どういう心臓をしているのか。周りは頼もしい面々ばかりだ。
 おかげで道は出来たし、弱点も大体見当がついた。
 上着を脱ぎ捨て、右手にナイフを握り、樹の枝から鎖の上をダッシュで一気に駆け抜ける。
 ジャンプで頭上を飛び越え、猛スピードで自分を追い抜いていった武骨なバイクの背と、相変わらずその荷台に積まれているエメラをローは見送った。
 やはり自分は――ああいう無謀とは縁遠いようだ。

「本当にやるの?」
「オレとエメラちゃんの力を合わせればイケるって! 行くよ、Glanz! 【迷彩】モード☆彡」
 パウルがそう言うなり、ふだんは白銀に輝いているバイクのボディが空色に変化した。
 そのまま高く跳んで、ワイバーンの頭上を取る。太陽を背に受け、蒼穹と一体化したGlanzの姿を、ワイバーンはうまくとらえることができない。
「そこだっ!」
 右眼の上にバイクごと落下したパウルは、タイヤを眼に押し当てて――そのままギアを最高速まで上げた。
 ――グオォォォオオォォォオオォオオオォォォッッッ!!!
 エメラは思わず耳をふさぐ。その苦痛は想像を絶するものだろう。
 血やら、鱗やら、皮膚片やらが辺りに飛び散って、ここまでで一番の凄まじい咆哮があがる。
 潰された右眼から血を流してもがくワイバーンを見て、パウルはにやりと笑ってみせた。
「ははっ……オレとお揃いじゃん?」
 衝撃波を喰らったパウルはバイクごと吹き飛ばされ、回転しながらなんとか大樹の上へ着地した。
 エメラも空中に投げ出されたが、もちろん無策でここまでやってきたわけではない。
「私の想いは変わらない……この蒼穹の為に、骸の海に沈みなさい……!」
 例え落ちながらだろうが、撃ち抜いてみせる。
 マスケット銃をワイバーンの左眼に向けたエメラは、見事にそこへ弾を命中させてみせた。
 ワイバーンはさらにもがき苦しんでいる。だが、両目の視力を失った今、その攻撃はむなしく空を切るばかりだ。
 事前に放っておいた浮遊型魔導蒸気盾がエメラを受け止める。これで移動することはさすがに難しいだろうが、もはや勝利は決まったも同然だ。
「私の事は後で助けてくれればいいわ。引導を渡してやるのよ!」

 樹の上に並び立つジャハルとアルバが、エメラの言葉に頷く。
「驕れる暴君よ。空は貴様だけの遊び場にあらず」
 ジャハルの血が飛び、爆発して、右の翼に大きな風穴をあけ。
「墜とすぞ、師父」
「ふん、言われずとも分っておる」
 ――墜ちよ、暴君。
 アルバの魔力が高速で練られていく。放たれた雷は左の翼に風穴をあけた。
 最初から知れたことだった。その阿吽の呼吸に、ただ独りで暴れるのみの竜が敵うはずがない。
「さあ、フィナーレの時間がきたよ」
 いよいよ王座陥落の時だ。花世がそう唇に乗せたとき、竜の鱗から花の芽が顔を出した。
 みるみるうちに成長した若葉の芽は紺碧の花を咲かせ、紅の身体のすみずみを、空のいろで埋めつくした。
 先ほど、花世が植えこんでおいた種だ。
 その血と狂気を糧として、爛漫に咲き誇る、魔性の花。
 届かない空に残してきた傷跡ひとつ。そこから逞しく咲くのが、花だ。
「わあ、綺麗な花! やっぱり空が青いと気持ちいいね。ほら、私はこっちだよ!」
 アメリアの声だけを頼りにワイバーンは爪を振るおうとするが、その毒牙が彼女をとらえることはない。
 いざ竜狩りだと、反対側から迫るテオとオリオの姿に気づくことも、ない。
「不快な風も漸く鎮まりましたわね。わたくしの星を、もうお見せできないのは残念ですけれど」
 ――代わりに、ここに居る皆様にご覧いただきましょう。
 オリオの魔法剣が星の煌きを纏う黒薔薇となり、空いっぱいに飛んでいく。
 それは花世の撒いた紺碧の花と交わって、あたりは昼空と夜空が同時にひろがる、時のはざまの空へと姿を変えた。
 みな、思い思いにそれを眺めた。
 過去からきた魔物にはふさわしく、しかしあまりに美しくもある、時の棺桶だ。
 きらきらと舞うふたつの花弁を手に取り、花世はそのゆく先を見る。
 やがて地上へと降るこの花の雨は、この世界への祝福を、勝利を告げるだろう。

 残る大剣を両の手で握ったオリオは、あがくワイバーンの眼前へと億すことなく迫り、その翼に向かって絢爛の一振りをふるった。
 星空を切り取ったかのような刃が【瞬く星】となって、まだら模様の空に流星の軌跡を描く。
 返す刃でさらにもう一撃。流れ星がふたつ、空に走った。
 双流星が穴のあいた暴君の翼に降りそそいで、いよいよその猛威を喰らいつくしてゆく。
「さぁテオ、この隙に獲物を猟りとって」
「うむ。飛竜よ、眼が塞がっても音ならばまだ届くだろう。聴け、我が【祖霊鎮魂す奉納の舞】を!」
 浮遊する砲台のうえに飛び乗ったテオは、部族の祖霊へと訴えかける蛮族の舞を踊った。
「タップタァップタァァァァッップッ!!!」
 魂の叫びとともに爪先と踵を枝に打ちつけ、大樹と己の肉体を楽器と変えて軽快に鳴らす。
 その野生のリズムに応えた祖霊がテオの身体に降臨し、鍛え上げた筋肉へさらなる俊敏性を与えた。
 テオの舞う速度がどんどん上昇していく。
「これにて貴様を突き落とす!」
 やがてそれは突き出した爪先から竜巻が生じるほどの速さとなり、ワイバーンを巻きこんだ。
 【兎跳】で高くはねたハーバニーが、巻き起こる風に乗って、一気に敵の頭上まで駆けあがる。
「この地における食物連鎖の頂点。暴君であるが故に天敵はなくぅ、ご自身が空から狙われる経験は案外に少ないのではぁ?」
 兎が跳ねる。死出の旅へといざなうその声を、空の暴君はどう聞いただろう。
 地上の獲物を狙う知恵はあれど、同じ土俵へ登った相手に対して抗う知恵は足りなかったようだ。
 オブリビオン。
 それは所詮、骸の海から生まれた幻だ。
 これから先もずっと、そうだ。
 ローは鎖の上を駆け、首を登ってワイバーンの頭へたどり着いた。
「ふふふ~、教訓代わりの弾丸を叩き込んで差し上げますよぉ」
 ハーバニーも同じく、その頭の上へ舞い降りる。
 そこから共闘した面々を今一度眺め、二人は頷いた。

 あらゆる困難に立ち向かい、生きて未来へと進むものたち。
 そのまなざしは、空を、その先にひろがる明日を見すえている。
 この頼もしい仲間たちに、過去が敵うはずがない。
 狙うはひとつ。戦いのさなか、この竜がずっと庇っていた場所。

「お前を海に還す。この技……『幻霊を消す者』で」
「素直に食べられる兎さんなんてぇ、ここには居ないのですよぉ」
 ハーバニーのヴォーパルが火を噴き、ワイバーンの喉元を貫いた。
 これでもう、食事も喉を通るまい。
 血煙を吹きだす傷口へさらに突き立てられる、ローの≪Ghost Zapper≫。
 目にもとまらぬ速さでふるわれる刃は、過去の幻影を束縛する魂を断ち切り、その首を落とした。
 二人が枝の上へ戻ったのを見計らい、ジャハルが鎖を解除する。
 ひとの何倍もある巨体が力を失って、雲の下へと墜落していく。
 みなそれを覗きこむ。
 暴君の身体は地上へとたどり着く前にうっすらと消えはじめ、夜と昼の花弁に送られるようにして、やがて風と散っていった。
 その場にへたりこむ者がいた。
 共に戦った者と手をとりあい、喜ぶ者がいた。
 勝った。勇者でもないひとが、力をあわせて竜に打ち勝ったのだ。

 すっかり平穏を取り戻した空のあちこちから、歓声があがっている。
 とたんに舞の疲労が襲ってきた。はげしい戦いを終え、幹の上へと座り込むテオがふと空を見上げれば、そこにはうつくしい星があった。
「終わりかしら」
 あなたには、いつでも一番綺麗な姿を見せたいから。この手のなかへ舞い戻るその前に、髪を軽く整えているオリオの姿がいじらしい。テオはにかっと笑んで、腕を大きくひろげた。
「ああ、終わった。お疲れ様」
「ええ、あなたもお疲れさま」
 ゆっくりその腕のなかに舞い降りたオリオは、まだ戦いの熱が残る身体を優しく抱きしめた。
 テオも同じように抱き返す。お互いの労をねぎらうように、ふたりは大樹の上で抱きしめあう。
「ったく、妬けるぜ」
 さっそく煙草をふかしていたローは、なぜか雲の上まで飛んできたシジュウカラたちに、お前さんもそう思うかと話しかけた。
 紺碧の花と、夜色の薔薇と、すこしの紅葉の余韻が、凛と冷えた冬の風に乗って舞う、今日のふしぎな空模様。
 その下に、仲間たちのはしゃぐ声と、平和な小鳥の鳴き声がひびいている。
 心なしか、煙草もいつもより美味く感じられた。
「本当にいい空だ。『遊び』を終えたご褒美としちゃ充分すぎるな」

 今はこの空でのひとときを存分に満喫して、降りたらまた、どこまでも駆けてゆこう。
 この世界にいる限り、この蒼穹と大樹は、いつでも戦うきみたちを見守っている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年02月15日


挿絵イラスト