生命は流転しない
#サクラミラージュ
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●生々流転
財、権力。それは欲望の象徴である。
それに果てはないけれど、己の生命には果てがある。もっと、もっと欲しいという際限のない欲望は、限り在る生命の前に崩れ落ちていく。
「わかりますよ。無病息災、天壌無窮……それを願う者の気持ち。金、権力、手に入れたとしても、輪廻転生した後に己の手元に残らなければ、何の意味もない。塵芥の価値もない」
ああ、と何かを嘆くような芝居がかった仕草で、その男は天を仰ぐ。眼鏡のレンズが妖しく輝く。
湯けむり漂う温泉宿。そこに現れたのは、薬師。桐箱を背に負って閉じた番傘で軽く自身の肩を叩く。
周囲には紫色の煙のような靄がまとわりつき、毒々しくも美しい蝶が舞う。
「ですが、何も心配はありませんよ。これなる秘薬こそが若かりし頃……つまりは肉体的に頂点を極めた頃に戻してくれます。ええ、ええ……わかりますよ。不安でしょう、疑う心もあるでしょう。しかし、あなた方はいつだって、他人が疑う、他人が忌避する最初に一歩を踏み出してこられた方々だ!」
薬師は天を仰いでいた顔を周囲にいる老人たちに瞳を向ける。
その瞳はすでに正気と呼べるような者は何一つ残っていなかったが、その言葉は、仕草は、堂に入ったものだった。
人の心を惹きつけるものを持っていた。それは蠱惑的であり、甘い誘惑。番傘の開かれる音が温泉宿に響き渡る。
「そう! すでにあなた方は最初の一歩を踏み出されているのです! だからこそ、成功した! 金も! 権力も! 全て手に入れてきた! ならば、この一歩を踏み出す事に何の……何の躊躇いがありましょう。簡単なことなのです。さあ、何も怖がらずに……」
薬師が桐箱の中から取り出した薬丸が彼の掌の上で転がる。
それまで自主性に任せるようにしていた言葉が、いつのまにかそうしなければならいという響きを持って繰り返される。
さあ。さあ。
紫の蝶が毒々しくも羽撃いている……。
●輪廻は断たれている
グリモアベースに一人の女性が立っている。
集まってきた猟兵達に彼女は頭を下げ、微笑みでもって出迎える。いつもの仕草。いつもの微笑み。
「お集まり頂きありがとうございます。今回の事件は、サクラミラージュ。幻朧桜舞い散る大正の世続く世界です」
ナイアルテ・ブーゾヴァ(フラスコチャイルドのゴッドハンド・f25860)が言葉を紡ぐ。少しだけ彼女の言葉から緊張している様子が伺える。
そう、大正の世が続くサクラミラージュ。一年中咲き誇る幻朧桜が印象的な世界である。
「今回の事件は、その帝都の末端……あるひっそりとした温泉宿で起こります。当然、影朧による事件です」
帝都の端にある温泉宿。そこは老舗の温泉宿であり、長く続く由緒ある旅館でもあるのだ。そこに流れ着いた薬師が影朧だというのだ。
その薬師は、温泉宿に湯治に来ている帝都の政府高官を狙って薬を流しているようなのだ。それも人間を影朧『死に添う華』 の苗床とするために、だ。
「勿論、この群体オブリビオンである影朧『死に添う華』 を倒さねばなりません。肉体に寄生し、花を咲かせた部分が本体ですので、これを打ち払えば寄生された人々を救うことは可能です。ただ……」
そう、数が多い。薬師の口車に乗って薬丸を飲んだ宿主たちは次々と『死に添う華』 に寄生されてしまっている。
「この影朧『死に添う華』 は、より強い肉体へと寄生しようとする習性があります。今回寄生されている人々は、皆ご年配の方々ばかり……皆さんは彼らに取っては滅ぼし合う敵でありますが、同時に寄生したいと思えるほどに精強なる肉体を持った方々です」
それ故にまずは温泉宿に赴き、幻朧桜舞い散る露天風呂を楽しんでもらい、『死に添う華』 を誘き出す必要がある。
「難しく考える必要はないでしょう。みなさんは温泉を各々楽しんで頂き……おびき出された群体オブリビオンを倒して、寄生された人々を救出して頂きたいのです」
ナイアルテは、ちょっぴり温泉羨ましいですね……と私情が入った表情をしたが、慌てて取り繕うように微笑む。
「群体オブリビオンである『死に添う華』 が打ち倒されれば、彼らの主である『殺人者』薬師が現れるでしょう。彼の目的は帝都の政府高官たちです。『死に添う華』によってじっくりと殺害するつもりであったようです……これを阻止し、薬師である影朧を打倒しましょう」
影朧は強い恨みを持っている。
それは帝都高官たちという利益と権力の象徴である彼らの破滅でもってしか晴らせぬものなのだろう。
すぐに殺害するなどという安直な手ではなく、真綿で絞め殺すかの如き手段を取ったのは、一体何故なのだろうか。
「それはわかりませんでした……ただ財を成し、権力に固執したいつかの誰か、それに対する恨みから来るものであるのかもしれません。影朧に死んですぐに成るケースは稀ですから……過去にあった出来事に起因しているのかもしれません」
ですが、と続けるナイアルテ。
「だからと言って今を生きる人々に、その恨みをぶつけるのはお門違いというものです。今を生きる人々の足枷として、過去があるわけではないのですから」
再び頭を下げるナイアルテ。
「どうか、お願いいたします。薬師である影朧がこれ以上凶行を重ねないよう、止めて頂きたいのです」
どんな過去があろうとも、凶行が許されるわけではない。
これ以上凄惨なる過去を積み上げてはならない。それが骸の海へと集積し、新たなるオブリビオンの誕生に連なることになる。
ナイアルテは、その想いを猟兵達に託し、送り出すのだった―――。
海鶴
マスターの海鶴です。どうぞよろしくお願いいたします。
今回はサクラミラージュの事件になります。日常、冒険、ボス戦と転々と場面の変わるシナリオになります。
●第一章
日常です。影朧にターゲットにされている政府高官たちは、すでに第二章で登場する集団敵である『死に添う華』に寄生されています。
ですので、これをおびき寄せるために皆さんは、思うままに露天風呂である花見温泉を満喫していただけたらと思います。
英気を養い、力みなぎる猟兵の体は影朧と言えど、習性によって抗いがたい魅力的な苗床と映るからです。
●第二章
集団戦です。みなさんの楽しげな花見温泉に乱入してくる群体オブリビオンである『死に添う華』を打倒しましょう。
寄生されている人々は政府高官ばかりです。傷つけないように戦って頂けると助かります。彼らは特に何か悪さをした、ということは確認できていません。
なので、善良な一般人と言っても良いでしょう。
●第三章
ボス戦です。『殺人者』薬師との対決になります。
彼は財を成し、権力を持つ者を嫌悪しています。今回の政府高官たちを『死に添う華』によって、じっくりと殺害しようとしていました。
政府高官の独善的な政策によって、病気の治療が行えず目の前で病に伏していく家族を看取らねばならなかった過去故に依るものです。
それすらも影朧となった今では思い出すこともできずに、その身を突き動かす衝動のままに凶行を重ねようとしています。
どのような理由があれ、このような凶行は止めねばなりません。
それでは、幻朧桜舞い散るサクラミラージュでの猟兵の戦いを綴る一片となれますように、いっぱいがんばります!
第1章 日常
『花見温泉』
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POW : 湯の暖かさと桜を堪能する
SPD : 湯の効能と桜を堪能する
WIZ : 飲食物と桜を堪能する
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
温泉宿は影朧が潜んでいるとは思えないほどに和やかで穏やかな時間が流れていた。
幻朧桜の花弁がハラハラと舞い落ち、湯煙が煙る。それは戦いに疲れた猟兵立ちの身も心も癒すかのような雰囲気であった。
しかし、それが偽りであることを猟兵たちは知っている。
すでにこの温泉宿は影朧の領域である。群体オブリビオンである影朧『死に添う華』をおびき寄せるためには、露天風呂である花見温泉を楽しまなくてはならない。
一時の休息であり、偽りの癒やしであったとしても、温泉は本物である。
果たして猟兵たちは、この花見温泉でどのように過ごすのだろうか……。
村崎・ゆかり
恋人でもある式神のエルフのクノイチを召喚。
一緒に露天風呂を楽しみましょ。
お揃いの湯浴み着を着て、かけ湯をしあってから温泉に。
いい湯加減ね。幻朧桜の花びらも相まって、桃源郷みたいだわ。
ほら、もっとこっちへ来て。
ああ、こら、人前じゃダメだったら。そっちがその気なら、反撃しちゃうわよ!
ああ、もう。湯浴み着が乱れちゃった。おまけにのぼせそうだわ。
取りあえず冷たいものを頼みましょ。
あたしは麦茶ね。あなたも好きなものを……あー、真っ昼間からお酒ね。別にいいけど。
って、未成年に勧めない! 麦茶とお冷やで乾杯でいいじゃない。
さて、荒事になる前にあたしたちは引き上げましょうか。
お勤めに回る皆さん、後はよろしく。
幻朧桜の花弁が湯煙にさらわれて、ひらりと舞い落ちる。水面に浮かぶ薄い桜色は、露天ということもあってか、なんともいえない風情を醸し出していた。
サクラミラージュ世界であれば、桜とは春先にだけ咲き誇り、儚なく散っていくからこそ美しく愛される花である。
だが、この大正の世が続くサクラミラージュでは不変の象徴として一年中咲き乱れている。だからこそ、世界を渡り歩く猟兵たちにとっても格別なるものとして瞳に撃つのかも知れない。
それが特別な関係にある者との逢瀬であるのならば尚更であったのかもしれない。
村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)はユーベルコード、愛奴召喚(アイドショウカン)によって召喚された恋人にしたエルフのクノイチの式神と共に温泉宿の露天風呂を楽しんでいた。
お揃いの湯浴み着を着て外気にさらされながらも、温泉の熱で温められた石畳を歩くのは心地よい。
お互いにほほえみ合うだけで、その時間は特別なものになったことだろう。互いが互いを信頼しあっているからこそ、許せるものがある。かけ湯をしあって、体を温める。
「良い湯加減ね。幻朧桜の花びらも相まって、桃源郷みたいだわ……ほら、もっとこっちへ来て」
ゆかりはエルフのクノイチを抱き寄せる。肩と肩が触れ合う距離になれば心の距離も近くなったように感じるのは気の所為ではない。
温泉の湯加減も絶妙であるのだが、景色も最高であった。常に桜が咲き誇る世界というのも悪くはない。世界を渡り歩く猟兵であるからこそ、感じ取れる風情というものがあるのであろう。
エルフのクノイチが甘える様にゆかりに温泉に当てられたのか、くたくたとしなだれかかる。
その甘くも心地よい重みを感じながらゆかりもほほえみ返す。
戦いに追われる猟兵としての生活もあるが、心許した恋人との時間もまた大切なものである。だから、ゆかりは気を緩みすぎないようにと思っていても、ついつい甘やかしてしまうのだ。
「ああ、こら、人前じゃダメだったら。そっちがその気なら、反撃しちゃうわよ!」
なんて語気を強めて言ってしまっても、本心ではそんな気などないのだ。
二人の和気あいあいとした攻防戦は露天風呂の中で続く。姦しいような、仲睦まじいような二人の声がしばらく響き渡っていた。
「ああ、もう、湯浴み着が乱れちゃった。おまけにのぼせそうだわ」
とりあえず冷たいものでも頼もうとすると、恋人はすでに早めの晩酌を始めているではないか。
自分は麦茶を、と思っていたから余計にゆかりは恋人を窘めたくなる。飲むのはいいんだけれど、と。他愛もないやり取りだって、楽しく思える。
素直ではないように見えて、ゆかりもまたこのやり取りを楽しんでいるのだ。
「って、未成年に勧めない! 麦茶とお冷で乾杯でいいじゃない」
如何に猟兵といえど、ゆかりは未だ16歳の少女だ。
たわむれに勧めてきたのだろうが、そういうところはしっかりしなければならない。だから、ね?と互いの器を口づけるように合わせて音を鳴らす。
かんぱい、とお互いに可愛らしくほほえみ合う。
なんでもないことが特別に思える。
それがどれだけ素晴らしいことかを知っているのであれば、これからどんな厳しい戦いが待っていたとしても戦うことができる。
だから、今しばらくはこの安寧に浸っていたい。
「さて、荒事になる前にあたしたちは引き上げましょうか」
ゆかりは恋人と共に湯煙の奥へと消えていくのであった―――。
大成功
🔵🔵🔵
倶利伽羅・葵
【WIZ 飲食物と桜を堪能する】
「初めての世界!全力で今を楽しむぞぉぉぉおおお」
何処となく和風な雰囲気、桜! 温泉! カフェー!! ボク的にとても馴染みやすそうな所だ。
暫くの間はこの辺で楽しんでいいみたいだし、全力で楽しませて貰おう!甘味!甘味!
とはいえ、羽目を外し過ぎて温泉宿から離れすぎない様に周辺のお店を練り歩いてみようかな… 甘味!甘味!(
真っ直ぐで元気なボクっ娘。 青い瞳と青い髪、髪先の一部が青い炎の様になっているのが特徴。
結構な自由人…もとい、自由神で普段は性格もかなりチャランポラン。
桜も楽しんでますよ的なポーズを取ってるけど明らかに食い気が勝ってる様子。
世界を渡り歩く者。
36ある世界のうちの一つ、大正の世続く帝都が舞台の世界サクラミラージュ。幻朧桜が一年中咲き誇る絢爛浪漫たる世界である。
猟兵といえど、初めて目の当たりにする世界に気分は高揚するものである。そうでない者もいるかもしれないが、それでも新しい世界、知らない光景を見るのは心にときめきを齎すものであったのかもしれない。
此処はサクラミラージュの帝都から離れた土地にある温泉宿。隠れた名湯であることは言わずもがな。宿の接客、サービス、どれもが高級というに相応しき宿である。
それ故に、この宿には帝都の政府高官なども足繁く通うのだ。
「はじめての世界! 全力で今を楽しむぞぉぉぉおおお」
倶利伽羅・葵(神のブレイズキャリバー・f18473)もまた、はじめて訪れる世界に気持ちが高ぶる猟兵の一人であった。
青い髪の毛先が青い炎となっているところを見るに常人ならざる身であることは疑いようがない。
けれど、猟兵はどのような姿をしていたとしても、その世界の住人たちには奇異の目で見られることはない。
此処では自由人……もとい、自由神であったとしても一般の客と変わらぬサービスを受けることができるのだ。
「何処となく和風な雰囲気、桜! 温泉! カフェー!! ボク的にとても馴染みやすそうな所だ」
葵は早速、と宿に入ろうとするのだが、どうにも桜よりも食い気。温泉は後でもいいかな、と食い気が勝ってしまう。
そんなところも自由神たる所以か。くる、と宿から回れ右をして周辺の甘味処を探索する。びびっと自由神レーダーに甘味反応あり!と早速駆け出す葵。
青い髪を揺らしながら、甘味を求めて駆け出す様子は、年相応の少女のような軽やかさと華やかさがあった。
温泉宿から離れすぎないように、とあちらこちらのお店に入っては甘味を堪能する葵。もう、その青い瞳には甘味しか映っていない。
「甘味! 甘味!」
自由神とはいえ、ちょっとハメを外しすぎたのかもしれない。離れすぎないように気を使っていても、甘い匂いに誘われればフラフラと立ち寄ってしまう。
は!と気がついた時には、葵の両手には溢れんばかりの紙袋。中には飴やら豆菓子、諸々の甘味ばかりが溢れかえっていた。
「……こ、これは流石に言い訳できないやつかな……?」
う~ん、でもせっかくだし、もっと楽しみたいんだけれど、と欲張りそうになってしまう。だが、それでも彼女は猟兵でもあるのだ。オブリビオンである影朧を打倒して、無辜なる人々を助け出さないとならない。
甘い匂いに後ろ髪を引かれる思いをしながらも、葵は温泉宿へと駆け出す。
大判焼きの甘い匂いも、カフェーから漂ってくるあんみつの美味しそうは気配も、何もかも振り切って葵は温泉宿に直行する。
影朧を倒したら、後で絶対……! 絶対に……! とそんな思いを胸に抱きながら事件が起こるであろう温泉宿へと突入するのであった―――!
大成功
🔵🔵🔵
セレシェイラ・フロレセール
ひと時の休息だね
何かと忙しない日々を過ごしていたから
今この時はゆっくりまったりしよう
温泉に浸かってほぅっと一息
心地よい温度が疲れた身体に優しい
はあ、気持ちいいなあ
久し振りに心から癒されていく感じがする
目の前の桜がとても綺麗だね
やはりサクラミラージュの幻朧桜はわたしにとって特別なんだなって、こんな時に思うよ
本体もわたしも、生まれはサクラミラージュ
幻朧桜のように美しい桜をモチーフに作られた硝子ペンだから
幻朧桜を眺めていると何処か懐かしい気持ちにもなるんだ
くすぐったいような、ね
ただ綺麗なものを見て、心地よい温泉に身を委ねて
すごいね、これだけで身体の芯から新しいエネルギーが湧いてくるなんて
また頑張ろう
戦いの日々に追われるような、そんな忙しない生活もまた猟兵の人生の一部である。
それは宿命付けられたものであったのかもしれない。
過去の化身たるオブリビオンを放置すれば、現在は今に塗り替えられ、未来は食いつぶされてしまう。現在を生きる人々にとってオブリビオンとは過去より出る正体不明の敵なのである。
そして、それを止めることができるのも、討ち果たすことができるのも猟兵しかいない。だからこそ、猟兵たちは今日も戦いに赴く。
しかし、サクラミラージュの温泉宿は、オブリビオンである影朧が潜んでいるとはいえ、そんな猟兵たちにとって一時の憩いとなっていた。
幻朧桜の花弁が湯気と共に舞い上がり、ゆっくりと露天の湯船へと落ちてくる。その様子はなんともいえないほどの情景であり、変えがたい何かに思えてならなかった。
「ひと時の休息だね。何かと忙しない日々を過ごしていたから、今この時はゆっくりまったりしよう……」
ふぅ、と息を吐き出しながら温泉に浸かるのは、セレシェイラ・フロレセール(桜綴・f25838)である。
薄桜のように柔らかな髪はまとめ上げられ、いつもの彼女と違った雰囲気を醸し出していたかもしれない。桜色の瞳は温泉のぬくもりによって細められ、代わりに頬が緩んでいくのを自覚したかもしれない。
ヤドリガミたる彼女の身ではあるが、心地よい温度によって戦いに疲れた体に優しいぬくもりを感じていた。
戦い、戦い、と戦いの連続であったであろう日々を思い返すこともないほどにゆったりと体を休められる。
影朧の影があるとはいえ、今このときだけは癒やしの時間である。
「はあ、気持ちいいなあ。久しぶりに心から癒やされていく感じがする」
また一つ息を吐き出す。
温泉で温められた肺の空気が湯気とともに露天の空へと舞い上がっていく。疲れというものが具現化したのであれば、あんな感じなのかもしれない。
そんなふうに思いながら、露天風呂の間に間に植えられている幻朧桜へと視線を向ける。
彼女の髪と瞳と同じ色をした幻朧桜。美しい、綺麗だという感情は癒やしへとつながることだろう。
「眼の前の桜がとても綺麗だね……」
誰に言うでもなくこぼれたつぶやき。
それはやはりセレシェイラが、サクラミラージュの幻朧桜を特別なものであると思うからだ。
彼女の本体たる桜の硝子ペンもまたサクラミラージュで生まれたものだ。
モチーフである桜は、もちろん幻朧桜である。だから、彼女が幻朧桜を眺める時、どこか懐かしい気持ちにもなるのだ。
それはくすぐったいような、そんな気持ちである。その感情の名を具体的に言葉する術は未だ無い。
モチーフというものだから、娘が親に思う気持ちでもあるのかもしれないし、そうではないのかもしれない。
同族というものでもないかもしれない。けれど、セレシェイラは思うのだ。
「ただ綺麗なものを見て、心地よい温泉に身を委ねて……」
彼女の桜色の瞳が露天に咲く幻朧桜を映し出していた。同じ色を映し出す。けれど、その桜色と瞳の色は、この瞬間だけは正しく同じ色を生み出す。
彼女の瞳は、いつだって様々な世界を見出す。彼女の瞳は、彼女だけの世界。
だから、彼女の瞳は揺蕩うような心地よさの中にあって、新たなる力にみなぎってくる。
「すごいね、これだけで身体の芯から新しいエネルギーが湧いてくるなんて……」
ほう、と息を吐き出す。
本体たる桜の硝子ペンから力が漲る。驚きもある。確信もある。だから、彼女は疲れでもなく、癒やしからくるつぶやきを漏らす。
「また頑張ろう」
そう、まだ見ぬ明日を迎えるために―――。
成功
🔵🔵🔴
佐伯・晶
戦役も終わった事だし
骨休めと行きたいところだから
役得って事で敵が現れるまでは
のんびりさせて貰おうかな
この温泉宿はどんな食事が出るのかな
名物とかあるなら食べてみたいところだね
それと少しぐらいなら飲んでもいいよね
見た目は若く見られるかもしれないけれど
飲酒しても大丈夫な年齢だよ
毒耐性があるから不覚を取る程酔う事は無いと思うよ
食べ物に薬丸が入っていたら
オブビリオンだからわかるんじゃないかな
呪詛耐性もあるしね
その後は露天風呂に浸かって桜を眺めよう
綺麗な景色を眺めながら湯に浸かる
至福の一時だね
依頼じゃなければ最高なんだけどなぁ
完全に無防備になる訳にはいかないし
念のため使い魔に周囲をこっそり見張らせておくよ
猟兵の戦いは連続に次ぐものである。それは大きな戦いであったり、小さな戦いであったりと様々ではあるものの、そのどれもが世界を崩壊させぬための戦いである。
だからこそ、戦役と呼ばれるほどの大きな戦いの後にあっては、猟兵と言えども疲労が溜まってしまうのも致し方のないことである。
戦士にも休息は必要なのである。
幻朧桜が一年中咲き誇る帝都、大正の世が続くサクラミラージュの端に存在する温泉宿。そこは名湯でありながらも秘湯である。故に政府高官など身分在る者たちが足繁く通い、湯治を行う場所でもあった。
「戦役も終わったことだし、骨休めと行きたいところだから……約得って事で敵が現れるまでは、のんびりさせて貰おうかな」
そんな風に息をつきながら、佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)は肩を回す。戦いの連続であった戦役も収束を迎えている。
戦い通りであった体は、あちこち痛みが走る。だからこそ、晶には湯治という名の休息が必要であった。
オブリビオンである影朧の影がある温泉宿とは言え、敵として現れるまでは普通の温泉宿なのである。一息ついたって誰が咎めることがあるだろうか。
晶は早速とばかりに温泉宿の一室に通される。まずは食事から、と気分が高揚しているのが自分でもわかる。
「名物とかあるなら食べてみたいって思っていたところだからね……それと、少しぐらいなら飲んでもいいよね」
彼女は……いや、彼と言っていいのだろうか。元はごく普通の男性であった晶はとある事情から少女の姿をしている。
勿論、晶自身年齢は成人年齢を超えているため、飲酒は問題ないのだ。ただ、今回の事件のことを考えると、この後に控える影朧との戦いに向けてへべれけになるわけにはいかない。
だから、少しだけ、と仲居さんに頼んでみたものの、まずは少女の見た目であるから驚かれる。さらには年齢を告げて二度驚かれるという面倒なやり取りをしなければならなかったが、それはそれ。
「はぁ~……」
お腹いっぱいという体で晶は、出された料理に舌鼓を打つ。少しばかりは飲酒も嗜んだのだが、どれもこれもが晶の体を癒やすには十分な味と質であった。
一瞬、オブリビオンである影朧の手が入り込んでいるかも知れないという懸念もあったが、それは杞憂に終わったようだった。
その後、晶は露天風呂に浸かって今に至る……というわけだ。
「至福の一時だね……依頼じゃなければ最高なんだけどなぁ……」
泉質もいい。素晴らしいの一言である。
戦いに疲れた体を癒やしてくれることは勿論であるが、こんなにも心安らぐのも久方ぶりなのではないだろうか。
思わず気が緩みそうになるも、完全なる無防備ではいられないと、念の為使い魔で周囲を警戒させている。
それでも晶が吐き出す息は止まらない。
肩こりや体の節々の痛みが取れていくようだった。本当に事件関係なく、またここに訪れたい……そんな風に思えるほどに体はリフレッシュされていく。
体のあちらこちらから力が漲ってくるような気配さえあり、今ならどんな敵にだって立ち向かえるような気分になる。
「ほっんと……オブリビオン関係の事件でなければなぁ~……」
露天風呂に浸かりながら、愚痴ではないけれど、こぼれたため息交じりの言葉は、壮麗なる幻朧桜の花弁舞い散る夜天に吸い込まれていくのだった―――。
成功
🔵🔵🔴
レナーテ・フレンベルク
◎アドリブ連携歓迎【SPD】
桜を眺めながらの花見温泉……興味深いわ
それに敵をおびき寄せる為の策とは言え、戦争で疲れた身体を
癒すのには丁度良い機会ね
■行動
和風な部屋に食事に浴衣……初めてのものばかりで少し慣れないけど
風情があって、落ち着ける雰囲気で結構好きよ
あと温泉には色々な効能があると聞いたけど、ここの温泉は
どんな効能を持ってるのかしら。少し楽しみね
日の光はあまり得意ではないから、どこか日陰になっている場所を
見つけたら、そこでゆっくりと綺麗な幻朧桜を眺めながらの
温泉を楽しませてもらうとしましょう
周囲に一般客が居ない様なら、ヒルデも実体化させて温泉に
入らせてあげるわ
……一応、ヒルデは女性よ?
疲れを癒やす行為というものは、人が人らしく営みを続ける上ではなくてはならないものであろう。
食事をする、眠る……人の営みには常に疲労を回復するための行為が付き纏う。疲れを知らぬ者には必要のないものであるが、生命として生まれた以上疲労は蓄積されるし、それを解消しなければままならないのである。
死霊術を扱う者にとってもまた、それは同様であった。レナーテ・フレンベルク(幽玄のフロイライン・f25873)はお気に入りの日傘を差してサクラミラージュの帝都の端にある温泉宿を訪ねていた。
勿論、彼女が湯治に訪れたわけではないことは承知の上ではある。しかし、馬車から降りる佇まい、所作は美しいものであり、一見するだけで彼女が高貴なる身分のものであることを知らしめたのかもしれない。
「桜を眺めながらの花見温泉……興味深いわ」
温泉宿の前に立って日傘を傾ける。
戦役の後である。彼女とて疲労が蓄積していることは間違いない。だからこそ、その疲れを癒やすにはちょうどよい機会であると言えるだろう。
宿へと歩みをすすめる彼女の足取りが心做しか跳ねているように見えたのは、見間違いではなかったようだった。
「和風な部屋に食事に浴衣……初めてのものばかりで少し慣れないけど風情があって、落ち着ける雰囲気で……」
通された客室は、レナーテにとっては心地の良い空間であったようだった。結構好きよ、と彼女は微笑む。
雪見窓からは幻朧桜が舞い散る風景が、必ず見える。それくらサクラミラージュにおいて幻朧桜はどこにでもある不変の象徴なのだ。
さて、とレナーテは一息つくと早速温泉へと向かう。
「温泉には色々な効能があると聞いたけど、ここの温泉はどんな効能を持っているのかしら。少し楽しみね」
肩こり腰痛……は未だ年若い令嬢である彼女には無縁のものであるかもしれない。血行促進、疲労回復に良いとされるのは当然ながら、どうやら美白効果もあるようだった。
ゆっくりと温泉に浸かるレナーテ。息を吐き出す度に、澱のように体の内側に溜まった疲れがほぐされ溶け出すような感覚を覚える。
日光があまり得意ではないからと、彼女自身は露天の幻朧桜の木々によって影になる場所を選んで温泉に浸かっている。
見上げるとすぐそこに幻朧桜が咲き誇っている様子というのは、それだけで彼女の瞳を楽しませるに十分な光景であった。
きょろきょろとレナーテが温泉に浸かりながら、周囲を見回す。他の利用客がいないのを確認してから、彼女のボディーガード兼使用人である巨骸ヒルデを実体化させる。
その姿は巨骸ではあるが、名前の通り彼女もまた女性性がある。使用人でもあるヒルデに温泉を味あわせてあげたいと思うのは、主人としての我儘であり思いやりでもあった。
一人で浸かるというのは、それはそれで味のあるものであったのかもしれない。
けれど、レナーテはヒルデを実体化させた。
見上げる巨骸たるヒルデの表情はうかがい知ることは余人にはできなかっただろう。
けれど、主たるレナーテには十分すぎるほどわかっていた。ふふ、と微かに笑う吐息のような声が露天の湯気に紛れて消えていった―――。
大成功
🔵🔵🔵
フォルク・リア
「影朧退治の前に温泉で花見か。
戦いに備えなくちゃいけないけど
これは役得かもね。」
温泉に浸かり
「思えば此処(サクラミラージュ)に来て
ゆっくりする事もなかったかも知れない。
桜も奇麗なのにと、
思えば今まで勿体無い事をしてきたかな。」
「聞けば温泉には体に良い様々な効能があるものもあるとか。
この温泉はどうなんだろう。」
考え説明書きでもないか周りを見て
(戦いの傷を癒す効果でもあれば良いんだけど)
と体の傷をさすりながら。
(今回の相手。『死に添う華』だったか。
寄生体というだけでも厄介だけど
宿主を乗り換えるというのも始末が悪い。
と。こんなのんびりした温泉でも
敵の事を考えてしまうのは職業病かもね。)
と溜息を一つ。
サクラミラージュ特有の桜、幻朧桜の花弁が舞い散る温泉宿。
そこにオブリビオンである影朧の影があるとは思いもしない湯治に来たであろう人々がフォルク・リア(黄泉への導・f05375)の小脇をゆっくりと歩いていく。
彼は目深に被ったフードから、その双眸を覗かせて独白する。
「影朧退治の前に温泉で花見か。戦いに備えなくちゃいけないけど、これは約得かもね」
そう、今回の事件は温泉宿に潜むオブリビオンである影朧を打倒しなければならない。かの影朧の配下を誘き寄せ、囚われている帝都の政府高官たちを救い出さなければならないのだ。
そんな事件の前哨ではあるのだが、温泉に浸かって英気を養え、というのはどう考えても役得であった。それに見上げる先にある温泉宿。どう見ても老舗であり、名湯でもあることが雰囲気が伝わってくる。
そんな風に考えていても、影朧と接触するためには結局温泉に浸からなければならない。難しく考える必要はないと思いながらも、どうしても敵である影朧のことを考えてしまうフォルク。
いやいや、ともかく今は温泉だ、と気を取り直して歩みを進めるフォルクは、完全にワーカーホリックであった。
露天は幻朧桜の木々がいい具合に影となって日差しを遮ってくれている。舞い散る花弁が湯気に煽られてゆっくりと落ちる様子は、忙しない日常を送る彼にとって、どのように映っただろうか。
温泉も疲れを解して溶かして行くような心地よさがある。最初にすれ違った湯治客たちもまた、このように疲れを癒やしているのだろうか。
「思えば此処に来て、ゆっくりすることもなかったかも知れない」
サクラミラージュを訪れたは良いが、度重なる事件の解決に奔走する猟兵のことだ、あまりゆっくりとする機会もなかったのかもしれない。
フォルクが思い返しても、その記憶の中には今のように心を安らげる時間はなかったように思えた。
見上げる先にある幻朧桜もまた通常の桜とは違った風情があるではないか。
「桜も綺麗なのに……思えば今までもったいないことをしてきたかな」
それに、ここの温泉の効能。肩こり腰痛、美白に疲労回復、血行促進と魔術の研究に没頭する彼にとってはありがたい効能ばかりである。
聞けば、この温泉には体に良い様々な効能以外にも、切り傷や打ち身にも効くらしい。
露天風呂に入る前に効能書きを見てきたフォルクは、そのような文言を目に捉えていた。
お湯の中で体の傷を擦る。塗り込む軟膏とは違うのだが、お湯のミネラルが傷口に馴染んでいくのを感じる。
これが温泉の効能か、と感心している頭の片隅では……。
「(今回の相手。『死に添う華』だったか……寄生体というだけでも厄介だけど、宿主を乗り換えるというのも始末が悪い……)」
こんな風に控える群体オブリビオンである影朧『死に添う華』の性質に思考を巡らせてしまっているのだ。
グリモア猟兵からの情報を顧みて、気をつけなければならない点、どの様に戦うかを頭の中でシュミレートしていく。
「……と。こんなのんびりした温泉でも、敵のことを考えてしまうのは職業病かもね……」
はぁ、と溜息が一つこぼれてしまう。
それだけ敵に対する備えをしているということだ。それを責める者などいようはずもない。けれど、何もこんなときにまで、と自身に溜息の一つ吐くのは、フォルクにとってどうしようもないことなのだった―――。
大成功
🔵🔵🔵
国栖ヶ谷・鈴鹿
◎
【🌸お花見温泉】
こうしてお花見しながらなんて、とっても贅沢!
……お仕事じゃなかったら、もっと良かったけどね。
(そっと傍に白鈴晶燈を置いて、宵闇の中で灯りに映る花弁の影を眺めて)
サクラミラージュに帰ってきて、こんな風に桜の花散る綺麗な景色を見ていると、不思議なんだけど、ぼくもホッとするんだよね。
ちょっと前までは、他の世界を見たくてたまらなかったのに、今はこの世界がこんなにも綺麗で尊いものだって思えるんだ。
ぼく、きっとこの世界を好きだって言ってくれるお友達がいてくれたから、こうして気付けたのかもしれない。
(友人から贈られたランプの灯りと、温泉の温かさに、心解けていって)
幻朧桜の花弁が舞い落ちる。温泉から立ち込める湯気と、そよ風によってハラハラと運ばれ湧き出る温泉の水面に落ちては格別なる光景を生み出していた。
それは一年中幻朧桜が咲き誇るサクラミラージュにて生まれ育った者にとっても、特別な光景であったのかもしれない。
露天から見上げる幻朧桜は、街中の至るところで見られるものと変わりのない木々である。しかし、こうして湯煙の中で見上げる桜というものは、何かこみ上げてくるものがあるのもまた事実であった。
「こうしてお花見しながらなんて、とっても贅沢! ……お仕事じゃなかったら、もっと良かったけどね」
露天風呂に浸かりながら、国栖ヶ谷・鈴鹿(未来派芸術家&天才パテシエイル・f23254)は、そっと傍においた鈴蘭が優しく光るランプである白鈴晶燈が作り出す灯りに映った花弁の影を眺めていた。
ランプから溢れる灯火は、木漏れ日のように優しい光だ。このランプも彼女の友人からの贈り物である。こうしてランプの灯りと共にいると、友人である彼女が隣にいるのではと錯覚するほどに優しい灯火なのだ。
「サクラミラージュに帰ってきて、こんな風に桜の花散る綺麗な景色を見ていると、不思議なんだけど……ホっとするんだよね」
独白は露天の空へと湯気と共に解けるように吸い込まれていく。
思い返せば、他の世界があると知り、その世界を見たくてたまらなくなっていた。いてもたってもいられなくなって様々な世界を見てきた。
天才であるがゆえに、生まれ育った世界を狭いと思っていたのかも知れない。独特しぎる才能は、ときに余人の理解の及ばぬ所があるだろう。
だからこそ、彼女は他の世界に憧れを持ったのかも知れない。
けれど、温泉に浸かりながら鈴鹿は思う。
「今はこの世界がこんなにも綺麗で尊いものだって思える……」
それは偽らざる本心である。郷里の念が湧いたのかもしれない。けれど、それは自然と己の心から溢れ出たものではない。
いや、溢れ出たものであったのかもしれない。けれど、それは彼女にきっかけがなければ、溢れることなく世界を巡っていたかも知れない。
彼女の友人が贈ってくれたランプの灯りが鈴鹿の体の疲労と、心の澱を溶かしていく。
それが心地よいと思える。
もしも、彼女がいなかったのなら、と考える。
きっと鈴鹿は、今のような心境には至らなかった。そう思えば、なんとなく友人の顔を強く思い出した。
「ぼく、きっとこの世界を好きだって言ってくれるお友達がいてくれたから、こうして気づけたのかもしれない……」
それは独白だった。けれど、心より溢れた言葉だった。
心地よい……本当にそう思える。だからこそ、この温泉宿で暗躍する影朧は許せない。けれど、今は、この一時だけは、心解れるままに任せてしまいたい。
誰が咎めることがあろうか。
此処は温泉である。体のみならず、心もまた癒やす憩いの場。鈴鹿は、ゆっくりと体と心が癒やされていくのを感じながら一時の癒やしを得るのだった―――。
大成功
🔵🔵🔵
パーヴォ・シニネン
※イルカ、鯨等の海洋生物を模したマスクが子供の肉体に憑依
温泉だよ相棒!
しっかり肩まで浸かってあったまろうネ
桜の花弁が降ってきてなんと風流な光景…
あ、泳ぐのは駄目ダヨ
貸し切りとはいえこれは温泉でのマナーだ
これから君はそういうことも覚えていかないとネ(小首傾げるも素直に頷く宿主
しかし花見酒はオッケーだろう!
我輩達の場合よく冷えたソーダジュースだが
ぽかぽかの体にしゅわっとした甘さが効くというものダヨー
湯を楽しんだあとは食事といこう
オススメは肉か魚か
なぁに、なんでもいいサ
美味しいものは全てが我輩達の力となるからネ!
ゆっくり味わってたくさん食べよう
温泉ならば温泉卵も頂いておかないとネ
贅沢な時間も大切ダヨ
栄華を誇る綺羅びやかな光に付き纏うは、仄暗い影である。
それは常に存在し、なくなることはない。その影は誰かの瞳に宿る昏き光であり、いつだってそうだけれど、弱者に宿るのだ。
弱者とは何か。
その定義は曖昧だが、虐げられるのは弱いものである。何も知らぬ、何も判断できぬ小さきものから常に捕食されていく。
それが自然の常であると言われれば、それまでである。けれど、それがどうにも違うと思う者がいるのもまた生命のおかしみであったのかもしれない。
幻朧桜の花弁が舞い散るサクラミラージュ。大正の世が続く帝都の端にある温泉宿の前に一人の幼子が立っていた。
奇妙なことに、その子供は今どき流行りのアクションスタアのような、冒険活劇に登場するような、海洋生物を模したマスクを頭からすっぽり被っていた。
「温泉だよ相棒!」
その声は子供の声とは似つかわしい明るい声だった。
猟兵であり、ヒーローマスクであるパーヴォ・シニネン(波偲沫・f14183)の明るい声が、少年の被ったマスクから響く。少年はコクリと小さく頷いて、言葉をはっしなかった。
パーヴォが常に憑依するのは、子供である。孤児であり、その瞳に昏き輝きを持つ子供たちばかりである。
それは何故なのか。ヒトは食べなくては生きていけない。明日を願う力が生まれるためには、一にも二にも腹ごしらえである。
暗い目をした子供たちが希望を見出し、一人で生きていけるようにするためだ。
ヒーローマスクと少年は温泉宿に入り、露天風呂に浸かる。
幻朧桜の花弁が舞い散る中、湯気と共に疲れが昇華されていくような気分さえ感じる。正念の体にこびり付いているであろう様々な不幸やマイナスが溶けて落ちていく。
「しっかり肩まで浸かってあったまろうネ」
パーヴォの声が響く。こうしていれば、親子の会話のようであった。桜の花弁が降ってきてなんと風流な光景……と子供には些か難解だったろうかと思うも、憑依しているからこそわかることもある。
言葉に変えて発することができなくても、子供の心の中には美しいものを感じるものがあるのだ。
「あ、泳ぐのは駄目ダヨ。貸し切りとはいえ、これは温泉でのマナーだ。これから君はそういうことも覚えていかないとネ」
暖かく大きな露天風呂であれば、泳ぎたく成るのもわかる。場所によっては泳いでいい温泉というものは存在しているが、稀なる存在だ。
大まかな常識を伝えておいて間違いはない。わかっているのかわかっていないのか、それでも宿主たる少年は素直に頷く。
「しかし、花見酒はオッケーだろう!我輩達の場合、よく冷えたソーダジュースだが。ぽかぽかの体にしゅわっとした甘さが効くというものダヨー」
露天から上がり脱衣所で、きちんと水滴を拭った後に腰に手を当てて飲み干すソーダジュースの甘露というものは何物にも代えがたい。
体の芯から温まって火照った体が引き締められるような感覚。喉を落ちていく炭酸の喉越しが心地よい。
「さあ、湯を楽しんだあとは食事といこう」
パーヴォは少年を導くように食堂へと案内する。
おすすめは肉か魚か……色々悩んだものであるが、結局の所美味しいものは全て我輩達の力となるからネ!と、ざっくりとした注文をしてしまう。
少年の前に並ぶ食事は、これまで少年が見たことのないような品々ばかりであったことだろう。人間らしい食事。これが、食事。
いいのだろうか、食べても。
そのような意志が心通わせた宿主から伝わってくる。
「ゆっくり味わってたくさんたべよう」
パーヴォの声色が優しいと感じるほどには少年の心も解きほぐされてきているのだろう。その様子に満足気になる。
やはり、子供らというものは元気であるのが一番である。
伝わってくる充足感こそが、ヒーローマスクたるパーヴォの原動力であったのかもしれない―――。
「あ! 温泉ならば温泉卵も頂いておかないとネ。贅沢な時間も大切ダヨ」
二人の楽しげな食事の時間は穏やかに、そして、緩やかに流れていくのだった―――。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『死に添う華』
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POW : こんくらべ
【死を連想する呪い】を籠めた【根】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【生命力】のみを攻撃する。
SPD : はなうた
自身の【寄生対象から奪った生命力】を代償に、【自身の宿主】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【肉体本来の得意とする手段】で戦う。
WIZ : くさむすび
召喚したレベル×1体の【急速に成長する苗】に【花弁】を生やす事で、あらゆる環境での飛翔能力と戦闘能力を与える。
イラスト:麻宮アイラ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
猟兵たちの体は、日々の戦いから開放され疲労を完全に回復しきっていた。
温泉、それに食事、見事な景色も相まって心身ともに充実したものとなったことだろう。彼らの体は今や、温泉宿において最も精強なる肉体であることは疑いようもなかった。
「―――ア、オ、ァ―――……」
そう広くはない温泉宿が不穏な空気に包まれる。この宿に訪れていたであろう政府高官たちが群体オブリビオンである影朧『死に添う華』に寄生された姿で次々と猟兵たちの前に現れる。
一様に体に寄生し、苗床とされた彼らの背から頭上に至るまで綺羅びやかであるが、どこか禍々しい輝きを放つ華。
その華の名は『死に添う華』。精強なる肉体を苗床とし、成長する華である。これらを打倒し、寄生された人々を助けださなければならない。
寄生された政府高官は、すべて元凶である影朧『殺人者』薬師の標的である。かのオブリビオンが現れる前に全て倒し、確保しなければ、彼の目的である政府高官の殺害が成就してしまう。
故に、猟兵は戦って惨劇が引き起こされるのを止めなければならないのだ―――!
倶利伽羅・葵
【POW こんくらべ】
「甘味ぃぃぃ うまぁぁぁああ――― ぁ 仕事の時間が来たみたい」
寄生されてる人を傷つけないようにとなるとこの技かなー!
UC『迦楼羅煌剣・廻心(カルラコウケン・エシン)』を使用。
肉体を傷つけず、他者を傷つけ様とする悪意を持つものをピンポイントで攻撃できる蒼炎の剣で変なお花さんには退場してもらおう!
UCによる炎の【属性攻撃】と身を守る【オーラ防御】のゴリ押しだ!シンプルにさっさと倒して最短で助けてしまおう!
火の塊みたいなボク相手でも寄生は出来るのかなーん?
悪いけど人助けとなれば全力で行かせて貰おうかー!
突入した温泉宿は異様な雰囲気に包まれていた。
あきらかにオブリビオンである影朧の仕業であることは間違いなかった。倶利伽羅・葵(神のブレイズキャリバー・f18473)が突入した時、やっぱりもうちょっとだけ甘味を味わっていたいと紙袋にいっぱい詰め込んだ豆菓子をぽりぽりやってしまう。
緊張感がなくなってしまいそうな程に甘味の虜となってしまっている葵。だが、彼女とて猟兵である。
やる時はやるのだ!
「甘味ぃぃぃ……うまぁぁぁああ―――ぁ、仕事の時間が来たみたい」
豆菓子を口の中いっぱいに詰め込んで、頬が膨らんで栗鼠のような顔をしていた葵の瞳が輝く。ごっくんと飲み込めば、戦闘の準備はすでに整っている。
「ア、ァ、オ―――ぁ、ア」
彼女の瞳に映ったのは、毒々しくも美しく輝く華。『死に添う華』と名付けられた人々に寄生する影朧の華を見て、葵は頷く。確かに寄生されている一般人という人質がいるのは戦い辛いと感じる。
そして、影朧である『死に添う華』の意識は精強なる神である葵の肉体へと向いている。それはこの年を取った政府高官の体よりも、より魅力的な力溢れる肉体へと寄生しようとする性質であった。
―――ずるり。
寄生していた肉体より、一本の根が引き抜かれる。それは、禍々しき姿。まさに死を連装するかのような呪いを籠められたかのような歪な根。
風切り音を立てて、葵へと飛ぶ根の一部。
あわや葵の眉間へと突き刺さらんとした根は、瞬時に燃え尽きるようにして消し炭にされる。
「迦楼羅を模した剣、他者を害する意思を焼却するよ!」
葵のユーベルコード、迦楼羅煌剣・廻心(カルラコウケン・エシン)が発動し、神力の籠められた蒼炎の剣が一瞬にして、飛びかかった根を燃やし尽くすように切り捨てたのだ。
「寄生されてる人を傷つけないように―――」
そう、このユーベルコードによって神力の籠められた蒼炎を纏いし剣は、肉体を傷つけることはない。
それは寄生された政府高官を傷つけること無く、邪心を持つ『死に添う華』のみを両断する剣となるのだ。
「アァ―――!!」
華に寄生された政府高官の体を使って葵に襲いかかる。しかし、今の神力溢れる葵には尽くが無意味である。
その身は蒼き炎の塊である。そして、彼女が振るう蒼炎の剣は、邪心を打ち払う力を持つ神剣。
「変なお花さんには退場してもらおう! それに! 火の塊みたいなボク相手でも寄生はできるのかなーん?」
葵の振るう剣が蒼炎を滾らせ、歪な輝き放つ華と寄生された政府高官の体との繋がりを断ち切る。
それは一瞬の出来事だった。振るった神の剣は、蒼炎の残影を残し、群体オブリビオンである『死に添う華』を霧散させる。
邪心しかない影朧であるというのなら、彼女の剣こそが致命的な一撃なのだ。
「悪いけど人助けとなれば全力で行かせて貰おうかー!」
恐らく葵の前に現れた影朧だけが、この温泉宿に巣食う影朧ではないだろう。それは確信できる。
温泉宿を覆う異様なる空気が晴れる気配はない。けれど、葵は温泉宿の奥へ奥へと歩を進める。
蒼き炎と青い瞳が爛々と輝き、その道先にある邪心在る影朧たちを全て骸の海へと還さんとするのだった―――!
成功
🔵🔵🔴
佐伯・晶
多少暴れても建物に被害が無いように
露天風呂で待ち受けていた訳だけど
ようやく現れたね
危うくのぼせるところだったよ
こちらに寄生しようとしてきたら
邪神の施しで自分を動く石像に変えて迎撃
石像に根付く事は難しいだろうから
強化された力で苗を引きちぎろう
草に締め付けられた程度で
どうになるような硬度ではないよ
息をしないから花粉も影響ないしね
こちらに注意を引き付けている間に
使い魔に宿主をマヒ攻撃させて
動きを止めようか
体の外に出ている花を引きちぎったら
宿主に邪神の施しを使用
これで治ってくれるといいんだけど
事件が終わるまでは
ただの石像になってて貰おうか
簡単には壊せないように強化してあるし
たぶんその方が安全だと思うよ
呻くような声が響く。それは意味をなさない言葉の羅列ばかりであったが、その声の主……『死に添う華』に寄生された人々の苦悶だけは感じ取れるような気がした。
温泉宿の一角、露天にて『死に添う華』は今寄生している肉体よりも更に若く精強なる肉体を欲してさまよいでている。
それは猟兵という存在であったとしても、優れた生命力を求める習性には逆らえず、誘き寄せられたのだ。
「ア―――、ァ、ォアア―――」
それに対峙するのは、佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)である。
「ようやく現れたね。危うくのぼせるところだったよ」
多少暴れても建物……温泉宿に被害が出ないようにと露天風呂で待ち受けていた晶の顔は温泉の熱のほてりで赤くなっていた。
のぼせる手前というべきだろうか。それでも晶はしっかりと着替え、群体オブリビオンである影朧『死に添う華』を待ち受けていた。
わらわらと脱衣所から現れる『死に添う華』に寄生された人々。その瞳に意志はなく、ただただ、優れた肉体を持つものを渡り歩くという習性のみに支配され、晶の体を乗っ取ろうと覚束ない足取りで迫る。
「やっぱり僕に寄生しようとするんだね……でも!」
晶のユーベルコード、邪神の施し(リビング・スタチュー)が発動し、彫像化の魔法陣が晶の体を包み込む。それは彼女の体を石像に変えてしまう、一見すればデメリットばかりのものに見えたかも知れない。
だが、石像と化した晶に寄生しようとしても、石像故に根が張ることはない。
現に召喚された苗床から伸びる根は晶の石像化した肌の上を滑るばかりで根を張ることができない。
こうなれば、彼女に対する有効的な攻撃は存在せず、一方的な打倒が始まる。苗床は強化された晶の膂力によって尽く引きちぎられ、投げ捨てられて霧散する。
「草に締め付けられた程度でどうにかなるような硬度ではないよ。息をしないから花粉も影響ないしね!」
晶へと意識が向いている『死に添う華』へと事前に飛ばしていた妖精型の使い魔たちが寄生した宿主をマヒ攻撃を行い、動きを止める。
群体オブリビオンである影朧『死に添う華』は寄生した肉体を使って移動や攻撃を行う。ならば、本体が麻痺させられてしまえばどうなるかは言うまでもないだろう。
彫像化し、あらゆる攻撃を遮断した晶の手が体の外に出ている『死に添う華』を引きちぎり、根毎引き抜く。
少々乱暴な手段であったが、ユーベルコード、邪神の施しの魔法陣によって寄生された人々を石化していく。
「これで治ってくれるといいんだけれど……事件が終わるまでは、ただの石像になってて貰おうか」
そう、今の晶と同じ様に彫像となっていれば再び寄生される心配もない。それにこのユーベルコードは本来対象を強化回復するユーベルコードだ。
次々と『死に添う華』たちを寄生した宿主たちから引き剥がし石像化していく晶。邪心の力に頼り切りというのも本来であれば考えものであるが、今はこうして人々を救うことができると考えれば易いものだ。
「多分、この方が安全だと思うしね……大丈夫、心配しないで。後でちゃんと治すから」
意識はないかもしれない。
気休めかもしれない。
けれど、晶は石化されて今は動けない宿主たちへと安心させるために声をかける。この事件の元凶である影朧を退治し、全てが解決した時、彼らは石像から元の姿に変えるであろう。
それを一刻も早く為すために晶は戦場となった温泉宿を駆け抜けるのだった。
大成功
🔵🔵🔵
村崎・ゆかり
◎
温泉を堪能した分、やることしなくちゃね。
宿主にされた政府高官の人を傷つけずに戦うのが難しいわね。
とにかく巫覡載霊の舞。
正確に寄生者を狙って「串刺し」にしていくわ。
飛んでくる苗には、遠慮無く「衝撃波」での迎撃を。
宿主から死に添う華を引き剥がせたら、素早く後方へ。エルフのクノイチに引き取らせるわ。介助お願い。
あなたたちにも色々あるんでしょうけど、家族だっているんでしょうに。こんな馬鹿な話に、いい歳して引っかかってどうするの。
相手が逃げ腰になったら、逃げ道を塞ぎ、確実に全ての死に添う華を討滅する。足払いで転ばせる程度はしてもいいわよね。
全員救助成功かしら? それじゃ、そろそろ『薬師』のお出ましね。
温泉を堪能した村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)と主従を結んだ式神の恋人、エルフのクノイチが温泉宿を後にしようとした時、その場は異様なる雰囲気に飲み込まれた。
温泉宿のあちらこちらから聞こえてくるうめき声のような意味をなさない言葉の羅列。ただならぬ雰囲気にエルフのクノイチが主人であり恋人でもあるゆかりを護るように前に立つ。
「―――気をつけて下さい。これは」
エルフのクノイチの言葉に、ゆかりは肩を竦める。そういうことね、と紫色の瞳が細められる。このただならぬ雰囲気はオブリビオンである影朧の仕業ということだ。
よた、よた、と覚束ない足取りで、ゆかりたちの目の前に現れるのは、その体に綺羅びやかではあるが、毒々しい花を咲かせた姿の人間たち。
その誰もが政府高官という立場のある者たちであったが、その瞳には生気が感じられなかった。影朧『死に添う花』によって生命力をゆっくりと吸い上げられ、正に死に向かう状態でありながら、優れた生命力を持つゆかりたちに誘われるようにして迫っているのだ。
「せっかく後はお楽しみでしたのに」
「いいから、そういうのは、本当に後でね! 温泉を堪能した分、やることしなくちゃね」
ゆかりのユーベルコード巫覡載霊の舞によって、神霊体へと変ずる体。それは敵から放たれる攻撃を軽減する姿であり、手にした薙刀は振るうだけで衝撃波を放つ力となるのだ。
寄生されているとはいえ、彼は政府高官でありながら無辜の人々である。傷つけずに戦う、それは人質を取られながら戦うことに等しい。
「だからって、逃げるのは趣味じゃないしね」
振るった薙刀から放たれる衝撃波は過たずに宿主である政府高官の頭上に咲く『死に添う華』のみを切り裂く。
ゆかりに惹かれるようにわらわらと集まってくる寄生された人々の頭上の花を正確無比なる突きで次々と串刺しにしていく。
「数が多いけれど、華だけ狙えれば……あなた達にも色々在るんでしょうけど、家族だっているんでしょうに」
戦場となった温泉宿に、ゆかりの流麗なる薙刀の演舞を思わせるような攻撃が舞う。次々と花をちらしていく『死に添う華』たちの放つ花弁の生えた苗床たちもゆかりに近づくこと無く叩き落される。
それは主を守らんとするエルフのクノイチの援護。後ろは任せて欲しいというように、彼女たちの奮闘は続く。
きっと政府高官たちのは己の健康を願ったのだろう。長く、少しでも長く。それは定命であるからこそ欲する願いであり、ある意味当然のものであったのかもしれない。
けれど、それは願いであって誰かに与えられるものではないのだ。
「こんな馬鹿な話に、いい歳して引っかかってどうするの」
そこに付け込むのが影朧の周到な所なのだろう。湯治に訪れる者たちは皆、心身ともに衰えている者たちだ。
薬師という立場、役柄、告げる言葉。巧みに操って彼らを『死に添う華』の虜にしたのだろう。
だからこそ、ゆかりは許せない。
「フォロー! 頼んだわ!」
ゆかりは神霊体のまま駆け出す。目の前に存在する『死に添う華』に寄生された人々を救うためにありとあらゆる手段を講じる。
エルフのクノイチが背中を護り、寄生された宿主を開放すれば、後処理を彼女に任せて次の華へと攻撃に転ずる。
その戦いぶりを以て益々、二人の絆は強いものになっていくことだろう。
足払いをし、転倒させた『死に添う華』の宿主の頭上に咲く毒々しくも綺羅びやかな華へと薙刀の刃が突き立てれれ、霧散していく。
「全員救助成功かしら?」
「見える範囲では……問題ないようです」
そう、とゆかりは少しだけ躊躇った後に、背中を任せたエルフのクノイチの頭を撫でる。今はこれで我慢してね、と言うように微笑み互いの絆を再確認するのだった。
成功
🔵🔵🔴
レナーテ・フレンベルク
◎アドリブ連携歓迎
知識も経験も積み上げてきた、貴方達ですら
容易に騙されてしまうほどに死は怖かったのかしら
死は終焉ではなく、単なる通過点に過ぎないの
だからそれに怯える必要は……
……いえ、今の彼らに語っても無駄だったわね
■戦闘
彼らを傷つけるわけにはいかないわ
ヒルデ、貴女は今回は下がっていなさい
そうね……ここはまず【UC】で私自身を霊体に変えて
宿主からの物理攻撃を無効化
華も霊体に寄生は難しいでしょうし、呪いは逆に
瘴気へ取り込んであげる
そのまま華の部分に瘴気や私手ずから【生命力吸収】を行い、
なるべく迅速に枯らしていくわ
召喚された飛翔する苗も、瘴気を広範囲に広げて
逃げ場を無くす事で纏めて仕留めましょうか
死とは生の終着点ではないと語る。
到達点でもなければ、終着点でもないというのならば、一体なんであるというのだろうか。
死の先を征く者を手繰るのが死霊術であるというのなら、まさしく死は生命の昇華である。
だからこそ、彼女―――レナーテ・フレンベルク(幽玄のフロイライン・f25873)は開いていた日傘を閉じて、その瞳で持って『死に添う華』を見据える。
その華は毒々しくも綺羅びやかな花弁をもっていた。それだけ見れば、目を楽しませるものであったかもしれない。
けれど、その根を這わせる苗床は、サクラミラージュの帝都、その政府高官たちである。歳を重ねた肉体に残った生命というのは、若々しく猟兵という力に溢れたレナーテとは比べるべくもなく弱々しいものであったかもしれない。
だからこそ、レナーテは告げる。
「知識も経験も積み上げてきた、貴方達ですら容易に騙されてしまうほどに死は怖かったのかしら」
それは彼女にとって死が身近なものであったからかもしれない。術を操る彼女にとって、死した後に来る者こそが身近なものであったから。巨骸であるヒルデが傍に控えている。
主従の形はそれぞれである。
だからこそ尊いものがあるのだ。彼女の瞳は一瞬だけ伏せられる。
「死は終焉ではなく、単なる通過点に過ぎないの。だから、それに怯える必要は……」
そう、死とは通過点である。
人の死を悼むことを咎めることはない。人の生の終わりは、見送られるべきものであるから。
しかし、それを理解するには猟兵ではない一般人たちにはまだ早すぎる事柄出会ったのかも知れない。それをレナーテは理解している。
恐れるべきものではないのだと説いたとしても、耐え難い恐怖に支配された彼らの心までは開放できないだろう。
「……いえ、今の彼らに語っても無駄だったわね」
使用人兼ボディーガードである巨骸ヒルデを下がらせる。常に彼女の傍らにあるヒルデを下げさせたのは、寄生された彼らを傷つけるわけには行かないからだ。
閉じた日傘をヒルデに預け、レナーテの瞳が開かれる。
それは戦いの始まりを告げる輝き。
「あなたたちはもう、私に触れる事すら出来ないわ」
彼女のユーベルコード、水面に映る月(ネーベン・モーント)が発動する。それは彼女自身の体を霊体化し、さらに生命力を奪う瘴気で覆う姿へと変ずるユーベルコードである。
それは美しくも届かぬ月を水面に映すが如く、彼女の体を空へと舞い上げる。
召喚された苗床が花弁を咲かせ、空を舞うも、霊体とかしたレナーテにふれることは敵わない。寄生した肉体で持って触れようとしても触れることはできない。
なぜなら、彼女は今や水面に映る月と同じである。見ることは出来ても、月を掴むことができないのと同じ様に、彼女に触れることができる存在は、今、この世に存在しないのだ。
放たれた呪詛も、死の恐怖に狂うような感情も、彼女の身にまとう瘴気すべてが吸収していく。
「憐れね……とは言わないわ。だって、それは生ある者が持つ、当然の感情なのだから。それを克己する……それこそが生を謳歌する者の力であるのだから……」
だから、今は難しくとも。
彼女は微笑んで宙を舞い、禍々しき呪詛と負の感情を瘴気と共に吸い上げていく。彼女にとって、この程度の感情や呪詛は、自身の体を強化する源に過ぎない。
尋常鳴らざる生命吸収能力を得たレナーテにとって、『死に添う華』は、もはや手折るだけの華に過ぎない。
触れることなくレナーテの生命吸収が『死に添う華』を圧倒する。
彼女を中心にして、群体オブリビオンである影朧『死に添う華』たちは枯れ果ててていく。
逃げ惑うように飛ぶ苗床も、瘴気が覆い囲み、逃げ道などなく。尽くが地に失墜し、霧散して消えていくしかなかった。
「そう、死を恐れるな。されど、死を想え……言葉にすれば、それは簡単なことだけれど……感じろというには、些か難しい命題よね」
けれど、とレナーテは思う。
従者である巨骸、ヒルデから日傘を受け取り満月の如く広げて指す。くるりと、日傘が回転し、傾けた傍からレナーテの瞳が輝く。
「それでもいつか、人は死の先を征く……私はそう思うことにしているわ」
幽玄の令嬢は巨骸ヒルデと共にその場を後にする。
残された元凶、『殺人者』薬師を止めなければならない、その責務が彼女にはまだ残っているのだから―――。
成功
🔵🔵🔴
フォルク・リア
「現れたか。対策を考える時間は十分あったからね。
悪いが、寄生植物の好きにさせるつもりはない。」
しかし精強な肉体っていうなら
俺はあんまり体も強くないから当てはまらない気がするけど。
『死に添う華』 と寄生された政府高官をよく観察し
戦闘中は政府高官を傷つけない事を心掛け。
デモニックロッドを生命を喰らう漆黒の息吹を発動し
自らの周囲に花びらを舞わせて防御に利用するとともに
華のみに向けて花びらを放って生命を吸い取って枯死させ
寄生した華を倒したら助けた人は極力花びらを使って
再び寄生されない様に保護。
敵の召喚能力にも注意し、新たな苗を発見したら
花弁を生やされる前に【早業】で
鳳仙花の花びらを集中させて倒す。
苦悶に呻くような声が異様なる空気に包まれた温泉宿に響き渡る。
それはオブリビオンである影朧『死に添う華』に寄生された政府高官たちの声からこぼれ出た、ただの反応である。意味はない。
寄生された以上、人間の体は『死に添う華』にとって養分でしかない。ならば、その苗床となった養分の質が高ければ、そちらの方へと引き寄せられてしまうのも無理なからぬことであった。
「ア、オ、ア―――ァ、ァ」
それがただの反応だとわかっていたとしても、あまりにも気味が悪い声であった。おおよそ人の発生してよい声ではない。
その発する声は温泉宿に広がり、次々と伝播するように『死に添う華』に寄生された人間たちを引き寄せてくる。
「現れたか。対策を考える時間は十分あったからね。悪いが、寄生植物の好きにさせるつもりはない」
フォルク・リア(黄泉への導・f05375)はフードに隠された顔の奥でどのような表情を浮かべていただろうか。
それをうかがい知ることはできなかったが、露天風呂に浸かっていた間に十分に思考することはできた。ならば、その思考の果に敗北という結果はあり得ないことであろう。
「しかし精強な肉体っていうなら、俺はあんまり体強くないから当てはまらない気がするけど……」
フォルクはそう謙遜するが、一般人からすれば猟兵である者の溢れる生命力は『死に添う華』にとっては魅力的な体であったことだろう。
だからこそ、フォルクに群がるように『死に添う華』に寄生された人々は引き寄せられるのだから。
「対策は考えた、と言ったはずだ―――よく見ておけ。これが、お前の命を刈り取る手向けの花だ」
フォルクの呪われし黒杖、デモニックロッドが鳳仙花の花弁へと姿を変えていく。それは彼のユーベルコード、生命を喰らう漆黒の息吹(イノチヲクラウシッコクノイブキ)の効果である。彼の石に反応し、自在に動き回る。
触れないで。
それが鳳仙花の花言葉。ならば、この冥界に咲く鳳仙花の花言葉もまた同様であったことだろうか。
触れる者の生命を喰らう花弁が、『死に添う華』へと放たれる。
「植物であるのなら、増えようとするのが戦略だ。なら、根こそぎ枯れ果てさせればいい」
寄生していた『死に添う華』は放たれた花弁によって生命力を吸いつくされ、枯れていく。そうすれば、寄生された人々を傷つけずに『死に添う華』だけを攻撃できる。
次々と冥界の鳳仙花の花弁によって枯れ果てていく。
「苗床も、同じ要領でいい。おっと……また寄生しようたって無駄だ」
寄生されていた政府高官たちも鳳仙花の花弁に保護され、召喚された苗床たちもうかつに根を伸ばすことが出来ない。
そうしてもたついている間にフォルクの放った鳳仙花の花弁が、尽く苗床を枯死させる。
圧倒的な早業で持って花弁が全ての『死に添う華』を枯れ果てさせるのに、そう時間はかからなかった。
「―――あっけなかったな。生命力を求めて育つ寄生植物であるというのなら、生命を吸い上げる術を更に上回る生命吸収能力で圧倒すればいい……」
鳳仙花の花弁がフォルクの元へと集まって、再びデモニックロッド、呪われし黒杖の姿へと変ずる。
「……どれだけ綺羅びやかな華であったとしても、冥界の鳳仙花の前では霞むな」
大成功
🔵🔵🔵
パーヴォ・シニネン
まったく、無関係な人間を襲い、挙句影朧に寄生させるとは!
相棒、準備は出来ているネ
戦法はいたってシンプル
あの寄生している根と被害者達を分離してやればいい
死の呪いを呪詛耐性で防ごう
やっと未来がひらけた相棒に
今更そんなことを想像させるなんて
誰が許そうとも我輩が決して許さないヨ
襲いかかる根を避けて素早く飛び込み
被害者と根の部分をカトラリーで一刀両断!
早業で手早く斬り離そうじゃないか
そうそう、これは雑草だから
ガンガン刈り取っちゃおうネー!(えいえいおーする子
腹ごしらえの運動にはちょうどいいだろう!
ぐったりしている被害者には
生まれながらの光で回復を
とんだとばっちりだったネ、もう心配は要らないヨ
声が響き渡る。その声色に少年は覚えがあった。
人が苦しいときに上げる声だ。苦しくて、苦しくて、自分ではどうしようもできないほどの苦しみに人が襲われているときに上げる声。
「ァ、オ、ア―――」
その苦悶の声が温泉宿全体で引き起こされている。それは食事をしていたパーヴォ・シニネン(波偲沫・f14183)たちの元にも当然響き渡ってきていた。
わらわらと集まってくる足音。
パーヴォもまたわかっていた。これがオブリビオンである影朧『死に添う華』に寄生された人々のひたひたと迫る足音であると。
できることならば、パーヴォが憑依した少年、相棒を危険な目に合わせたくはなかった。
けれど、少年と心を通わせているパーヴォにはわかっている。
今この相棒の心の内に広がっているものがなんであるのか。
「まったく、無関係な人間を遅い、挙げ句影朧に寄生させるとは!相棒、ユン部は出来ているネ」
それは絶望ではない。昏き絶望に染まっていた瞳には、輝ける勇気が灯っていた。自分ではない誰かのために力を振るうことができる一人の個人として、少年は立っていた。
こくりと頷く相棒。よし、その意気だ! とパーヴォは微笑むような気配を放つ。手にしたナイフ、フォークといったカトラリーを手に、寄生された人々に駆ける。
そのカトラリーに宿る力はユーベルコード、miekka(ミエッカ)。それはカトラリーが命中した対象を切断する力。
「戦法は至ってシンプル。あの寄生している根と被害者たちを分離してやればいい」
そう、寄生しているというのであれば、寄生している宿主との物理的な繋がりを立てば良いのだ。
それだけで寄生していた『死に添う華』は生命力を吸い上げることができなくなる。
だが、そんな彼らの狙いを見透かすように呪詛のような根が飛びかかる。それは死を連想させる呪いを籠めた一撃。
「やっと未来がひらけた相棒に、今更そんなことを想像させるなんて……誰が許そうとも我輩が決して許さないヨ」
そう、今の彼の瞳には絶望は灯っていない。あるのは明日への希望だけだ。だからこそ、明日の訪れない死を連想させる呪いは全てパーヴォが引き受け、無力化するのだ。
襲いかかる根を避け、素早く間合いに飛び込む。ユーベルコードの力が籠もったカトラリーの一撃が寄生する根を素早く一刀両断する。
「そうそう、これは雑草だから。ガンガン刈り取っちゃおうネー!」
腹ごしらえの運動にはちょうどいいだろう!とパーヴォと相棒は張り切ったように、拳を上げる。それに応えるように次々と寄生する『死に添う華』と宿主とをつなぐ根を切断していく。
その光景は確かに雑草狩りそのものであり、一度は絶望に濡れた瞳には希望の光が灯っている。
その輝きのままにパーヴォたちは『死に添う華』たちを狩り尽くしていくのだ。
ぐったりと寄生から開放された人々たち。
それに生まれながらの光によって救助を重ねながら、パーヴォは言う。
「とんだとばっちりだったネ、もう心配はいらないヨ。え、何故って?」
ふふ、と海洋生物をもしたヒーローマスクが自信満々に応える。
なぜなら―――。
「我輩と相棒がいるからネ!」
大成功
🔵🔵🔵
国栖ヶ谷・鈴鹿
◎【SPD】
【お仕事開始】
さぁ、そろそろ時間かな?
事情はともかく、ぼくのやる事は影朧の討伐、ここで見逃して、なんの罪のない人たちを傷つけない保証なんてどこにもないんだから。
【戦闘】
寄生されてる人の対策、粘着炸薬弾(UCで作成)がいいかな。
まぁ、有体に言えばとりもちなんだけれどね。
動きを止めたら寄生している花を部位破壊で攻撃して破壊していこう。接近する相手には、ぼくの自律防御機構の衝撃波やオーラ防御でいなして、宿主の足止めと数の制圧をしていこう。
せっかくの良い旅館だから、壊したりするのは心が痛むけれど、この気持ちは黒幕までとっておこう。
温泉宿に鈴蘭が優しく光る花のランプが揺れる。
木漏れ日のように優しい光は、聖なる光となって異様なる雰囲気へと包まれた温泉宿の中を照らす。
友人からの贈り物。手にするのは、国栖ヶ谷・鈴鹿(未来派芸術家&天才パテシエイル・f23254)である。
彼女にとってサクラミラージュは特別な世界である。一度は出奔し、そしてまた戻ってきた。だからこそわかる。この世界は美しい。
だからこそ、この世界に住まう人々を守りたいとおもうのだ。
自分のやるべきことを鈴鹿はしっかりと胸に抱いている。影朧の討伐。ここで見逃して、何の罪のない人たちを傷つけない保証なんてどこにもないのだから。
「ア、ォオ、アァ―――ア、ァ」
呻く声が聞こえる。
それはオブリビオンである影朧『死に添う華』に寄生された人々が上げる意味無き言葉。苦悶に満ちた言葉であるものの、それはただの反応である。
ゆっくりと生命力を吸い上げられ、真綿で締めるように生命を終わらそうとする行為から出る苦悶の声だった。
もしも、鈴鹿がここで影朧を取り逃がせば、彼女の親しき人々にも累が及ぶことだろう。それはとうてい許せない。
だからこそ、彼女は手にした双式機関銃、ナアサテイヤ、ダスラの二丁を構える。
ひたひたと迫る足音。呻く声が近づき、増えてくるのが判る。
今此処で、影朧を止められるのは自分だけだ。その想いは、彼女のユーベルコード、超高精度近未来観測機構・甲(コンナコトモアロウカト)を発動させる。
装填された弾丸を即座に『死に添う華』へと寄生された人々に放つ。
それは一撃で彼らの体を拘束する粘着炸裂弾であった。
「まあ、有り体に言えば、とりもちなんだけれどね」
瞬時にユーベルコードによって作成された鈴鹿のテクノロジヰの粋を結集した超機械から生み出された弾丸である。
それは、影朧『死に添う華』が生命力を奪った政府高官たちをけしかけさせようとする行動を先んじて封じる決定打であった。
どれだけ宿主が優れていたとしても、どれだけ自分たち猟兵が寄生している宿主を傷つけまいと行動しようとしても、接近を許さなければ、人質という宿主の利点は何一つ使えないのだ。
双式機関銃に装填される弾丸が変わる。炸裂粘着弾から、通常弾へ。
「せっかくの良い旅館だから、壊したりするのは心が悼むけれど……」
鈴鹿の放った弾丸は狙い過たずに寄生している『死に添う華』の本体を打ち貫く。とりもちで身動きが獲れない彼らは、鈴鹿にとって良い的である。
動けないのであれば攻撃も回避もしようがない。
次々と本体である『死に添う華』を打ち貫いて、霧散させていく。
彼女の心の中に渦巻くのは、一体どんな感情であったことだろうか。怒りであったのかもしれない。
しかし、鈴鹿はこの感情を今爆発させることはしない。
双式機関銃から銃弾が放たれる度に、心の中に蓄積されていく。
「この気持ちは黒幕までとっておこう。そう決めたんだから!」
鈴鹿の他者を傷つける者を許しはしないという気持ちは、彼女の強き力となる。
この気持を忘れない限り、彼女は猟兵として戦い続けることができるのだから―――。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『『殺人者』薬師』
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POW : 無病息災の薬丸
【自身も含めて、服用した対象を強化する薬丸】が命中した対象を治療し、肉体改造によって一時的に戦闘力を増強する。
SPD : 天壌無窮の霊薬
自身が戦闘で瀕死になると【薬効で全回復する。又、自身の分身(式神)】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
WIZ : 輪廻転生の秘薬
自身の【薬を飲んだ人々の肉体が変質し、その瞳】が輝く間、【変質した人々の強力な肉体を利用した攻撃】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
イラスト:ekm
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「アララギ・イチイ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
温泉宿を覆ってた異様なる空気がさらに濃くなっていく。
それは群体オブリビオンである影朧『死に添う華』たちが尽く霧散し、倒されたことで余計に濃くなったように思えたかもしれない。
寄生され苗床とされた宿主たちの苦悶の声は消えたかもしれない。だが、その元凶たる影朧『殺人者』薬師は未だ健在である。
ゆっくりとした足取りで番傘で肩を叩きながら現れた一見すると優男。桐箱を背負い猟兵たちの前に現れたのだ。
「なるほど。これが猟兵。ええ、わかりますよ。私の敵。どんな困難にも、どんな難敵にも怯まない絶対の意志を感じます。圧倒的強者……」
丸眼鏡の奥で瞳が歪む。
それは猟兵に対する恐怖でもなければ、怒りでもない。
そこにあるのは怨みつらみだ。歪み瞳の奥で憎悪の炎が立ち上る。その憎悪の意味も、前世の記憶のない『殺人者』薬師には理解できなかったことだろう。
かつての自分が果たせなかった『人を救う』ということを容易く行い、悪を為した者であっても改心せしめてしまう強さを持つ猟兵達。
あァ―――。
許せない。どうしても許容できない。自分にないものを持っているアレらが許せない。何故自分には、あの強さがないのか。
あァ―――。
憎い。憎い。自分が救うはずだった、救えるはずだった生命を救える力を持っている者たち憎い。
何故あの時―――。
「……あの時……? あの時……いえ、此処までくれば、互いにやるべきことは一つでしょう。私の使命を果たす。金と権力の亡者は全て殺す。それをあなた方は邪魔をしようとする。阻止しようとする」
ならば、と『殺人者』薬師は、瞳の奥に憎悪を滾らせながら、微笑む。凄絶なる表情のまま猟兵と対峙する。
「ならば、私はあなた方の尽くを癒やし殺して進みましょう―――」
倶利伽羅・葵
【POW】
自分に殺意や悪意と言った、邪な感情を向けた対象に自然発火による蒼い炎でダメージを与えるUC 権能『蒼炎ノ天罰』を使用。
自分の【火炎耐性】と燃えない木から作ったアイテム【不尽木の手甲】の特性を活かし相手が火に纏われてもお構いなしに【ダッシュ】で近づき持ち前の【怪力】を利用した超接近戦による打撃で攻撃。
UC 権能『蒼炎ノ天罰』は自然発火の奇襲性を活かし近づく際の目くらましとしても利用、宿内の戦闘となるのでやり過ぎて火事にならない様に注意。
温泉宿の庭など戦闘による損害が少なくなりそうな場所に誘導したり、【怪力】のゴリ押しで移動出来るよう心掛ける。
「癒すのは兎も角、殺されるのは勘弁かなー?」
『殺人者』薬師は貼り付けたような微笑みを浮かべながら、猟兵と対峙する。
その微笑みはすでに人外のものへと成り果てた証拠であり、その瞳の奥に正気は一欠片も残ってはないかった。
影朧となる以前の記憶はすでに無いに等しい。あるのは衝動だけだ。ただ、ただ、己が救えなかった生命に対する懺悔と、それを阻んだ金と権力。怨みつらみだけが、原動力となって歪な存在として現界しているのである。
「癒やす、殺す、癒やす、殺す……私はそうすることで私という存在を成り立たせている。私自身が理不尽であるというのなら、救えなかった生命は一体誰の手によるものか」
手にした無病息災の丸薬を薬師は口に放り込む。
明らかに雰囲気が変わる。戦闘能力が強化されているのだ。それは対峙する倶利伽羅・葵(神のブレイズキャリバー・f18473)にもハッキリとわかった。
あれは細身の優男などではない。姿形にとらわれていては敗北を喫するのはこちらのほうであると直感する。
「癒やすのは兎も角、殺されるのは勘弁かなー?」
葵にとって他者から己へと与えられる殺意や悪意という邪な感情は、それ即ち天に唾することと同じことである。
それは必ず自身の顔へと落ちてくる。それと同じで彼女へと向けられた悪意、殺意は蒼い炎となって薬師の体を焼く。
攻撃の挙動はなかった。
薬丸によって強化された薬師の戦闘能力であれば、猟兵の攻撃を躱すことも可能であった。
「―――なに、っ!?」
それは自身へと向けられ、放たれた攻撃であればの話であった。
そう、葵のユーベルコード、権能『蒼炎ノ天罰』(ケンノウ・ソウエンノテンバツ)は、彼女の権能である。
自由神であり、蒼焔の神である彼女への悪意、殺意は鏡で反射されたように、その悪意の主である薬師の体を自然発火による蒼い炎で焼く。
その一瞬の同様が薬師にとっては命取りであった。
そもそも戦いに慣れていないものが、如何に薬丸で体を強化しようとも、目まぐるしく変わる戦闘行為に即座に対応などできようはずもない。
「悪意は、悪意に。殺意は殺意に惹かれる! 此処じゃ迷惑がかかる、から!」
葵の体が駆ける。薬師が蒼い炎にまかれていても関係がない。元より彼女自身は炎に対する耐性がある。さらに、燃えない木の皮から作り出した手の甲を覆う布―――不尽木の手甲によって彼女が燃える心配はない。
尋常ならざる膂力によって葵は薬師の体ごと温泉宿の外、庭へと押し出す。
「ぐ、こ、の―――! この力……!」
ぎち、と互いの肉体がきしむ音が聞こえる。それは尋常鳴らざる怪力を持つ葵と薬丸によって強化された薬師の力が拮抗している証である。
だが、それでも葵は薬師ごと庭へと押し出す。
「人を救うことがしたいのなら、人を傷つける悪意、害意を捨てることだよ!」
葵の手にした数珠が握りしめられる。
それは力を込めて握ることで、さらなる威力を発揮する。彼女の拳が、蒼炎に包まれた薬師のみぞおちへと叩き込まれ、吹き飛ばされるようにして庭に転がり飛ぶ体。
「人のために役に立ちたい、生命を救いたいと願うのなら、克己しなければならない! 何もかもが成功ばかりじゃない。ならば―――」
葵の体は立ち上がった薬師へと立ち向かう。
どれだけ相手が強化されていようと関係がない。薬師の体は未だ青い炎に巻かれるように燃え続けている。
それは薬師が葵への悪意、殺意に満ちているという証だ。
そんな物を抱えた者が、誰かを救うことなどできるはずもない。葵の決意に満ちた拳が再び数珠を握りしめる。
「―――失敗ばかりの人生もないはずなんだ!」
葵の拳が薬師の顔面を捉え、強かに打ち据える。
そう、人の人生はいつだって苦難に満ちている。人ならざる身である自由神、葵にとって、人の生き方は不器用だけれど愛すべき生き方である。
だからこそ、オブリビオン……影朧となった薬師を捨て置け無い。
放った拳の一撃は、薬師の中に蟠り続ける悪意を打ち払うように蒼き炎と共に打ち倒すのだった―――!
成功
🔵🔵🔴
村崎・ゆかり
張本人のお出ましね。容赦はしない。
オブリビオンの『薬師』なんて、所詮こんなものよね。百害あって一利無し。ここで討滅してあげる。
巫覡載霊の舞で、引き続き戦いを進めるわ。
「破魔」の力を込めた薙刀の一閃で、薬師の体力を削っていく。邪心の塊みたいなものだもの。効くでしょ?
この期に及んでまだ薬に頼るか。大した妄執ね。それなら、薬の効き目ごと打ち破る!
「高速詠唱」「全力魔法」炎の「属性攻撃」「破魔」「衝撃波」の不動明王火界咒を飛ばして、薬ごと焼き払う。
薬以外だと、番傘が怪しいわね。武器として振り回してくるなら、薙刀で打ち合うわ。
終わりよ。何か言い残すことはあるかしら? 恨み言は受け付けないけど。
猟兵の拳を受けた『殺人者』薬師が吐血する。それだけ猟兵の一撃はオブリビオンである影朧の体へと著しい消耗を与えるのだ。
だが、それでも消滅までには至らない。多大なる消耗を与えても薬師の瞳の禍々しい輝きは衰えること無く猟兵を見据える。
煌々と輝くのは、己の勝利を確信しているからではない。ただ、狂乱の如き意志でもって猟兵と対峙しているだけに他ならない。
「私は、生命を救う。癒やして、殺す。死が絶対に避けられないというのであれば、私は、私の道を阻んだ金と権力に連なる全てを殺し尽くして見せよう。そうでなければ、金と権力のために死した生命が報われない」
それは妄執の如き言葉だった。
『殺人者』薬師には前世の記憶はない。けれど、彼を影朧足らしめた強い恨みは、その記憶の根底にあるものを忠実に際限していたのだろう。
「張本人のお出ましね。容赦はしない……オブリビオンの『薬師』なんて、所詮こんなものよね」
村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)は対峙する影朧『殺人者』薬師の言葉を頷きで持って返す。
薬とは病める者たちにこそ必要なものであって、健康以上のものを齎すものではない。それを騙るオブリビオンである薬師の言葉は彼女には何ら響くことはなかった。
「百害あって一利無し。ここで討滅してあげる」
彼女のユーベルコード、巫覡載霊の舞によって、ゆかりの体は神霊体へと変ずる。手にした薙刀は破魔の力が籠められている。
一気に距離を詰め、薬師の体を薙刀の一撃が切り裂く。
「邪心の塊みたいなものだもの。効くでしょ?」
放たれた一撃は、たしかに薬師の体を切り裂く。紫煙の如き靄が、切り裂いた薬師の体から噴出する。
影朧の血液とも言うべき靄が溢れるも、薬師は笑う。
「邪な心を一点でも持たぬものなどいないというのに! 私の薬丸を飲んだ人間がどうなるか!」
輪廻転生の秘薬。それは薬師が、この温泉宿にて多数の人間に飲ませた薬である。盛大な音を響かせ、宿のあちらこちらから秘薬を飲んだ人間たちがおおよそ人の体の限界を超えているであろうほどに強化された身体能力で以て、ゆかりに襲いかかる。
「猟兵であるのなら! このような搦手など慣れっこであろうが!」
薬師の瞳が輝く。強化された一般人たちの瞳また爛々と輝き、ゆかりへと拳を、脚を、その変質した肉体の四肢すべてを使って襲う。
「この期に及んでまだ薬に頼るか。大した妄執ね。それなら、薬の効き目ごと打ち破る!」
ゆかりの体は神霊体になることによって、攻撃を減衰させる。強化された人々の攻撃を躱しながら、彼女は白紙のトランプを投げつける。
不動明王火界咒―――白紙のトランプから噴出する炎は全力を以て放たれ、破魔の力を衝撃波に乗せて人々の体内に入り込んだ秘薬の源を焼き尽くす。
「私の薬だけを―――!?」
薬師の瞳が驚愕に見開かれる。それは絶対の自信を持っていた秘薬の効果を猟兵が苦もなく打ち破ったことに対する驚愕だった。
猟兵である以上、必ず一般人を救出するであろうことは予想できていた。だが、ゆかりは攻撃と同時に秘薬の効果毎、焼き払ったのだ。
一瞬の驚愕は、贖えぬほどの隙を生む。
一気に距離を詰めたゆかりの薙刀による一撃は迎え撃とうとした番傘を弾き飛ばす。
「終わりよ。何か言い残すことはあるかしら?」
上段に振り上げた薙刀の刃がきらめく。それは一瞬の猶予だった。
影朧である以上強い前世への執着がある。ならば、それを―――。
「私は―――!」
「―――恨み言は受け付けないけど」
ゆかりの破魔の力を籠めた薙刀は、一刀の元に切り捨てた。
今を生きる人々にとって、過去の化身であるオブリビオンの言葉はまったくの無関係である。
だからこそ、恨み言は受け付けることなどできはしないのだ―――!
成功
🔵🔵🔴
レナーテ・フレンベルク
◎アドリブ連携歓迎
せっかく人を癒す力を持っているというのに、
それを使って人を殺すだなんて……本当に馬鹿げた話
貴方のその恨みの根源は分からないけれど、
今を生きる無実の人々を狙うのは許される事ではないのよ
■戦闘
秘薬の効果で高官や一般人が敵に回るのは厄介ね
傷つける訳にもいかないし、ここは【UC】で敵全体に
激しい【恐怖を与える】事で動きを止めるわ
死に対する恐怖に囚われているようだし、かなり効果を
見込めるんじゃないかしら
彼らが抱く死への恐れを利用する事になるのは
申し訳ないけれど……
後は薬師がどれだけ恐怖を感じるかは読めないけど
接近して死霊の障壁で攻撃を防いだり逃げ場を封じつつ
ヒルデの【怪力】で仕留めるわ
過去の化身であるオブリビオン―――影朧。
彼らの持つ強い恨みや妬みは長い時を経て現世へと出現する。それ故に、彼らの記憶は摩耗し、消えていく。
恨みだけが残ってしまった存在、それが影朧である。
時間だけが心の傷を癒やすのだとすれば、長い時間を掛けて恨み以外の何もかもが削ぎ落とされた存在は、どれだけ悲哀に満ちた存在であろうか。
「私は癒やす。そして、殺す。私が私であるために、私の存在全てが何のために在るのか―――!」
そう、今や影朧『殺人者』薬師に残されているものは、癒やして殺すという矛盾した行いのみ。
前世に置いて何があったのかは伺い知ることはできない。しかし、長い時間が彼の有り様を歪めたことだけは間違いがない。最も、歪む原因は恨みであろう。
「せっかく人を癒やす力を持っているというのに、それを使って人を殺すだなんて……本当に馬鹿げた話」
レナーテ・フレンベルク(幽玄のフロイライン・f25873)は日傘を開いて傾けた。『殺人者』薬師の矛盾に満ちた行いに彼女自身の嘆息でもって迎えるほかなかった。
生前得たであろう薬学知識は、こんなことに使うためではなかったはずである。それがわかるからこそ、レナーテは遣る瀬無い想いを溜息で持って吐露したのだった。
「貴方のその恨みの根源は解らないけれど、今を生きる無実の人々を狙うのは許されることではないのよ」
そのとおりである。
かつて薬師が抱いたであろう恨みは、遥か昔のことである。今を、現在を生きる人々にはまったくの無関係であり、逆恨みも甚だしい。
だが、そんなことすら薬師はもはや理解できないのだ。
「私の敵は、金と権力に群がる亡者。彼らが居る限り、弱者は養分でしか無い。人を人として見れない者がいる……! 己たちだけが人間で、それ以外のものは人間ではない。そう扱う者がいる。それが! 金と権力を欲した者たちの末路だ!」
薬師の瞳が輝く。
同時に温泉宿のあちらこちらから、群体オブリビオン『死に添う華』に寄生され、猟兵によって助け出された人々が集まってくる。
そう、輪廻転生の秘薬をすでに飲んだ者たちだ。
彼らは欲したのだろう。金と権力の次に来るであろう逃れ得ぬ死からの延命を。だからこそ、今、彼らは『殺人者』薬師の思惑通りに、薬の作用で肉体の限界まで強化された歪な肉体と共にレナーテに迫るのだ。
「……ヒルデ、あなたの声を聞かせてちょうだい?」
その言葉は玲瓏なる声で持って紡がれた令であった。かの幽玄なる令嬢の影に従う巨骸―――ヒルデの姿が、主人を護るように立ち上がる。
強大なるアンデッドは、立ち上がるだけで常人の正気を削るほどの恐怖を引き起こすであろう。
薬師の薬によって敵の手駒であると同時に人質にされた政府高官たちを傷つけるわけにはいかない。巨骸ヒルデの一撃であれば、如何に彼らが強化されていようとも蹴散らすことは容易であるかもしれない。
だが、それは彼女の思うところではない。彼女は猟兵である。このように窮地に陥ったとしても、彼女が一歩を退くことはない。
「さあ、戦慄の絶叫(シュレッケンス・シュライ)……思う存分に」
彼女の言葉は、ユーベルコードとしてヒルデへと伝わる。
主人たるレナーテの言葉を受けて巨骸のヒルデの口蓋が開く。すでに声帯はない。だが、その昏き虚より、空気を引き裂いて響き渡るのは、聞く者があれば身が竦んで動けなくなるほどの恐怖を引き起こさんばかりの恐怖。
「その薬を飲んだ原因……死に対する恐怖は、心を覆わない限りは防げないでしょう? どれだけ体を強固にしても、心までは強く出来ない……」
恐怖にすくみ、薬のよって強化された政府高官たちは一歩も動けない。そんな彼らの間をゆっくりと歩くのはレナーテだった。
一歩、一歩、ゆっくりとだが美しい所作で歩みを進める。
その瞳の先にあるのは『殺人者』薬師。恐怖にひきつる顔は、レナーテにとってどんな感情を引き起こしただろうか。
「く、来るな―――! な、何故だ! 何故お前たち、動かない―――!」
レナーテが一歩を踏み出すたびに、後ずさる薬師。その瞳に映るのは、レナーテと影に従う巨骸ヒルデ。
強化された手駒たる高官達が一歩も動けないことに焦りを見せた瞬間、ヒルデの巨腕が振り上げられる。
容赦なく振り下ろされた一撃が薬師の体を吹き飛ばす。
「恐怖が人を縛るのであれば、それはその人達が生きているという証。生命だけが感じることのできる根源的な感情……―――そうね、だから、貴方……仮初であっても生きているのね?」
レナーテの瞳が薬師の吹き飛ぶ姿を見据える。
―――ヒルデ、と彼女の言葉が小さく従者たるヒルデへと命じる。
「与えなさい。他者を陥れようとする者に、再び奪われる恐怖を―――」
その言葉に巨骸ヒルデの巨腕が鉄槌の如き一撃を再び打ち下ろすのだった―――!
大成功
🔵🔵🔵
フォルク・リア
「漸くお出ましか。
こっちは温泉も堪能したし、
あんまり遅ければ帰ってしまう処だったよ。」
と敵に気取られない様に誘いの魔眼を発動する為の準備として
嫌悪、殺意等の感情を与えようと試みる。
薬を飲んだ人々が現れたら、呪装銃「カオスエンペラー」から
放たれる呪詛で拘束。続けざまの【2回攻撃】で拘鎖塞牢を使用。
「閉ざせ。幽闇なる棺の中へ。」
薬の力を同時に封じる事で人々を無力化。
「お前には何もできない。『あの時』も今もこれからも。」
相手の心を抉る言葉を選び。感情が振れたところを【見切り】
誘いの魔眼で攻撃。
「金も権力も使い方次第。持っているから悪という訳じゃない。
だが、今のお前は過去に囚われた亡者そのものだ。」
過去の化身たるオブリビオン、影朧にとって過去とは己を形作る要因である。過去の集積地たる骸の海より出るのであるから、それは当然の理であろう。
だが、影朧の大半は、前世での記憶を有していない。
長い時間を掛け、影朧へとなる者たちにとって要となるのは強い恨みである。時の流れによる研磨によって削ぎ落ちていった記憶という人間性は、時に影朧自身も理解できない不可解な感情と行動に走らせる。
『殺人者』薬師と呼ばれた影朧もまた同様である。
癒やして殺す。その言葉は矛盾に満ちていたことだろう。猟兵達の攻撃にさらされ続けながら、彼は立ち上がる。
己が何のために立ち上がるのかもわからないまま、何故殺すのか、何故癒やすのか。その意味もわからぬまま。
ただ心の内に渦巻く恨みの感情のままに動く屍と同じであった。
「私は殺す。私は癒やす。私は『あの時』の私ではない……」
幽鬼の如き有様で薬師は覚束ない足取りで一歩を踏み出す。
「漸くお出ましか。こっちは温泉も堪能したし、あんまり遅ければ帰ってしまう処だったよ」
その言葉は軽薄な響きを持って薬師の耳に届いたことだろう。
目深にフードを被った男―――フォルク・リア(黄泉への導・f05375)はゆっくりと腰掛けていた岩から立ち上がる。
薬師の眼光は未だ戦意を喪っていないが、フォルクの言葉に感情が波立つのを彼は見逃さなかった。
「猟兵……何故、今現れる? 何故『あの時』ではない? 私は、違う」
その眼光が輝く。群体オブリビオンである『死に添う華』の寄生から救出した人々がフラフラと正体を無くしたまま集まってくる。
「私は完成させたのだ! 輪廻転生の秘薬! これこそが、人々を死の苦しみから開放する―――!」
集まってきた人々の体がいびつな形に強化されていく。肥大した筋肉、意志のない声。そのどれもが薬師の飲ませた薬の作用であることがわかる。
「閉ざせ。幽闇なる棺の中へ」
間髪入れず、フォルクの手にした呪装銃『カオスエンペラー』から放たれる幾多もの死霊が顕現し、彼らを拘束する。さらに宣告と共に現れた棺桶形の拘束具が、一瞬ではあるが人々を封印する。
再び棺桶から現れた彼らは一様に薬の力を封じ、無効化される。
手駒であり人質であった彼らを無力化したフォルクは言葉を紡ぐ。それは静かであるが、端的であり、事実であった。
「お前には何もできない。『あの時』も今もこれからも」
それはただの宣言であったのかも知れない。だが、薬師は否定できなかった。前世の記憶がなくても、この体が、集積した過去がフォルクの言葉を否定できない。
揺れる。
感情がさざ波のように揺れる。一歩、後ずさる。心と体は密接に繋がっている。心が揺れ、マイナスへと傾いた瞬間に人は膝が崩れる。
フォルクはそれを見逃さない。
「常世を彷徨う数多の怨霊よ。禍々しき力を宿すものよ、その呪詛を解き放ち。混沌の眼に写る魂を混沌の底へと誘い連れ去れ」
フォルクのユーベルコード、誘いの魔眼(イザナイノマガン)が発動する。それは特定の感情をフォルクが与えた相手にのみ作用するユーベルコードである。
召喚された闇に浮かぶ瘴気をまとう不気味な無数の赤眼が開眼する。
「―――ッ!!」
その瞳は、『殺人者』薬師の瞳を介して、肉体と精神を蝕む呪詛を注ぎ込む。五感が狂う。薬師にとって、耐え難い呪詛であった。
「私は、っ、金と権力の亡者に苛まれて死んでいった者たちの無念を―――! 私自身のためではなく、やつらを―――!」
殺さなければならなかった。
見殺しにした生命のために、殺さなければならなかった。それは慟哭の如き感情の波。だが、それは今は薬師にとって悪い方向にしか傾かぬことだ。
感情が波立てば立つほどに、フォルクのユーベルコードより与えられた呪詛は、薬師の体を蝕んでいく。
「金も権力も使い方次第。持っているから悪というわけじゃない。だが―――」
フォルクは魔眼の赴くままに言葉を紡ぐ。
そう、何物も使い方次第である。金と権力は、ただの力だ。
いつだってそうだ。
使い方を見誤るのは、使う人間のほうだ。それを正しく扱えぬからこそ、正しく扱えるものに託すべきなのだ。
そして、それは過去の化身たるオブリビオンに理解できるものではない。
「今のお前は過去に囚われた亡者そのものだ」
その言葉は刃より、銃弾より、何よりも薬師の心を散り散りにしたのだった―――。
大成功
🔵🔵🔵
パーヴォ・シニネン
人を救うことと、人を殺めること
両方に挟まれて
本来の使命を忘れてしまっているネ
キミがかつてどのような痛みを抱えたのかはわからない
けれど、我輩達にもキミを救うことは出来るとも
その薬丸を受けるワケにはいかない
相棒にはちゃんとした処方箋のモノを飲んでもらわないと!
毒耐性と早業で攻撃を見切り
攻撃をカトラリーでしっかり受け止める
力を溜めてカウンターをお見舞いしよう
服の裾が長すぎるんじゃないカナ!(掴んだまま放り投げ
自慢の怪力で一気に地面に叩きつける!
キミの恨みを理解しないとは言わないヨ
我輩だって、誰かを救えなかったこともある
けれど、その恨みは今生きる人々には無関係のものサ
転生は難しくとも、骸の海へお帰り
『殺人者』薬師は影朧である。過去の化身であるオブリビオンであるが故に、過去の集積たる体と、長きにわたる研磨によって削ぎ落とされた記憶。
何故癒やすのか。何故殺すのか。
それは命題のように『殺人者』薬師の心をかき乱す。思い出せぬ思いがあるからこそ、人は懊悩するのか。
それがオブリビオンとなった今でも変わらぬことであるのか。それさえもわからぬままに薬師は立ち上がる。
猟兵たちの攻撃を受けて、傷ついた体。しかし、彼は薬師である。自身の体を治療、強化する術を持っているのだ。
掌に転がした薬丸を一気に煽るように飲み込む。
「―――っ、ふぅー……! 私は、殺す。私は癒やす……! 救いたかったものを救えぬ私ができるのは、救うことをさせてくれなかった者たちへの復讐しかない……!」
それは自覚せぬ言葉。
何故その言葉が溢れ出たのかわらかない。
「人を救うことと、人を殺めること。両方に挟まれて本来の使命を忘れてしまっているネ」
サクラミラージュの幼き子に憑依した海洋生物をもしたヒーローマスクであるパーヴォ・シニネン(波偲沫・f14183)は言葉を紡ぐ。
『殺人者』薬師の矛盾した行動原理と、その生前の記憶の欠片であろう想いが綯い交ぜになった在り方を憂うのだ。
「キミがかつてどのような痛みを抱えたのかはわからないけれど、我輩達にもキミを救うことはできるとも」
強化された身体能力で『殺人者』薬師が迫る。凄まじい踏み込みは、すでに人外の領域である。
薬丸で強化されたとしても、戦いの後に残るのは破滅でしかない。
指弾のように打ち込まれる薬丸。
「その薬丸を受けるワケにはいかない。相棒にはちゃんとした処方箋のモノを飲んでもらわないと!」
パーヴォと相棒と呼ぶ少年は躱し、カトラリーのナイフとフォークで弾き飛ばす。
彼らのユーベルコード、kahvila(カフヴィラ)が発動する。
それは美味しいスイーツを食べた時間に比例して、行動の成功率を上げる。伊達に温泉を楽しんでいただけではないのだ。
きっと相棒たる少年は人生において、これ以上ないほどに幸せな食事を味わったことだろう。それが彼らの力になる。
「服の裾が長すぎるんじゃないカナ!」
飛びかかる薬師の服の裾を掴みながら、見事な体捌きで重心を移動させる。それは怪力でもってなせる投げ技。
食事の力とヒーローマスクの憑依によって得られる怪力は、いかなる膂力となるか。小さな少年が、大の大人を投げ飛ばし、地面へと強かに叩きつけるのだ。
「キミの恨みを理解しないとは言わないヨ」
パーヴォの独白のような言葉は薬師に届いただろうか。それはわからない。理解しない、できないわけではない。
誰にだって生きていれば辛いこと、悲しいことの一つや二つは必ずある。
「我輩だって、誰かを救えなかったこともある。けれど、その恨みは今生きる人々には無関係のものサ」
それを乗り越えられるのが生命の強さだ。
過去から生きるオブリビオンとは違う、今を生きる人々の力である。だからこそ、オブリビオンの魔の手から人々を守らなければならない。
今できること。それがパーヴォの使命である。
そして、相棒たる少年の瞳には、もはや暗い絶望の影は落ちていない。
あるのは明日を生きる希望の光だけだ。
「転生は難しくとも、骸の海へお帰り」
カトラリーの一撃と共に、薬師の体へと彼らの言葉と想いが叩きつけられるのだった―――。
大成功
🔵🔵🔵
佐伯・晶
さて元凶が出てきたね
何があったのかは知らないけど
無関係の人を巻き込むのを見過ごす訳にはいかないね
影朧ならば転生してやり直せる可能性はあるから
一応聞いておこうか
これは君が本当にやりたかった事なのかな
薬師を志した時の気持ちは思い出してみると良いと思うよ
戦闘になるならば
攻撃してきた人達を神気で時間を停めて防御
これは僕なりのオーラ防御だよ
動きを止めた人達を
邪神の施しでただの石像に変えて保護
もちろん防御力を強化しておくよ
操られた人達同士で傷つけあうような
素振りを見せたら使い魔達に麻痺させて防ぐつもりだよ
薬師に対しては使い魔に麻痺攻撃させつつ
ワイヤーガンで捕縛するのか
切断するのかは話した時の雰囲気次第かな
ガラガラと瓦礫や土塊を落としながら、地面へと叩きつけられた『殺人者』薬師が立ち上がる。
これだけの猟兵たちからの攻撃を受けて尚、未だ薬師は健在である。それは彼の持つユーベルコード、薬丸の効果だからこそのしぶとさであったのかもしれない。
だが、それでも彼は立ち上がってくる。妄執じみた執念と、前世の記憶なき衝動だけが突き動かす憐れなる影朧として、猟兵の前へと立ちふさがるのだ。
「私は、殺す……殺して、癒やす……! それだけが私にできること……!」
そうしなければならないという強迫観念にも似た想いが薬師を突き動かすのだ。
瞳が煌々と輝き、温泉宿のあちらこちらから彼の薬丸の餌食となった人々が集まってくる。
その瞳は薬師と同じ様に煌々と輝き、いびつに強化された肉体と共に対峙する猟兵へと襲いかかるのだ。
「さて元凶が出てきたね。何があったかは知らないけれど……無関係の人を巻き込むのを見過ごす訳にはいかないね」
佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)は立ちふさがる。これ以上は見ていられない。影朧である以上、改心し転生してやり直すことのできる可能性は残されている。
だから、これが最後の機会であったのかもしれない。
「これは君が本当にやりたかた事なのかな。薬師を志した時の気持ちを思い出してみると良いと思うよ」
晶の言葉は薬師には届かない。あるのは煌々と輝く瞳と、完全に狂気へと飲み込まれた意志だけがあった。息を吐き出す。一縷の望みを捨てたわけではない。けれど、それでも戦わねばならぬのが猟兵の戦いであるというのなら―――!
飛びかかる強化された人々を身に秘めたる邪神の力によって動きを止める。
それは石化したかのように思わせるほどに強烈なるオーラの力によってなされたこと。人々は薬丸によって強化されていたとしても、晶を前にして一歩も動けなくなる。
「後で元に戻すから、少しだけ我慢してね……」
そっと囁くように晶のユーベルコード、邪神の施し(リビング・スタチュー)によって、彫像化の魔法陣が人々の体を石像へと変えていく。
これならば戦いの余波で砕けることはないだろう。そう思った瞬間、ワイヤーガンを構えた晶へと同じく強化された身体能力でもって襲いかかる薬師。
ワイヤーガンで番傘を受け止め、その煌々と輝く瞳を見据える。もう完全に飲み込まれている。転生は敵わないかもしれない。
「何のために人を救いたいと思ったのか、それすらも忘れてしまったというのなら―――!」
晶の腕が振り払われる。薬師の体が弾き飛ばされるも、再度晶へと突進してくる。それはもう獣のような動きだった。
使い魔に命じ、薬師の体を麻痺させる攻撃を放つ。その隙にワイヤーガンで放たれた切断用のワイヤーが薬師の体を捉える。
「私は―――! 私は殺して、癒やす―――! 金と権力の亡者は殺さねば―――!」
薬師の言葉の最後は途切れる。
絡みついたワイヤーが薬師の腕を両断し、腕が弾け飛ぶように宙に舞い、地面へと重い音を立てて落ちる。
激痛が走ったであろう。
だが、それでも薬師は声一つあげなかった。ただ、己の心の中に渦巻く狂気と衝動のままに……。
「君が救いたかった本当の人たちはもういないっていうのに!」
晶の言葉と共にワイヤーガンから再び放たれるワイヤーが、薬師の体を散々に切り裂き、その狂気に堕ちた衝動を霧散させるのだった―――。
大成功
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国栖ヶ谷・鈴鹿
◎【SPD】
【決戦】
どんなに優れた力を持っていても、絶望して、誰かを傷つける力として振るったらそれは受け入れられるモノじゃない。
だからぼくは、絶望しないし、諦めたりしない。
相手のUC……薬を引き金にするなら!
ぼくのUCは新世界ユウトピア、薬の効果を改変、偽薬(鎮静剤)に変化。
キミはまだ思い出せるのかな?
キミが守ろうとしていたものの顔や声を。キミの心の矜恃を。
キミがもう、復讐と殺人に囚われているのなら、ぼくはキミを撃つ。
ぼくだって、護りたいものがあるんだ。それを壊そうとするなら、容赦しない。
(2挺の軽機関銃で打ち砕くのみ)
切断用ワイヤーによって寸断された影朧『殺人者』薬師の体は、もはや戦えるものではなかった。
けれど、その地に伏した体を這いずり、桐箱の中身をぶちまけながら薬師はある丸薬を飲み込む。それは『天壌無窮の霊薬』。己が瀕死でなければ効果を発しない無二の霊薬である。
それを飲み込み、数多の猟兵達に与えられた傷をたちまちに癒やしてしまう。寸断された腕は復元し、内外問わずダメージを受けた体は、超回復とも言うべき回復力で持って復元される。
「私は、私は、私は私は私は私私―――」
だが、それでも喪った記憶は戻らない。
どれだけ凄まじい霊薬であったとしても、影朧と成り果てた時に削ぎ落とされた記憶は戻らない。
それが薬師にとってどんなに残酷で、幸いなことであったのか伺いしることはできない。薬師の前には猟兵が立っている。
ただそれだけが、薬師のちからを振るう理由だった。誰かを癒やす。誰かを殺す。そんな言葉にはもはや意味はなかった。
「どんなに優れた力を持っていても、絶望して、誰かを傷つける力として振るったら……それは受け入れられるモノじゃない」
国栖ヶ谷・鈴鹿(未来派芸術家&天才パテシエイル・f23254)は、最期の一人だった。立ちふさがる。これ以上、薬師の力を振るわせてはならない。
かつての薬師は絶望したのだろう。諦めたのだろう。
大きすぎる障害に、力に、膝を折ってしまったのだろう。死して尚、後悔と絶望に塗れてしまったが故に、骸の海へと集積した数々の負の概念と融合し、影朧として蘇った。
鈴鹿は、それでも。それでもと前を向く。
「だからぼくは、絶望しないし、諦めたりしない」
どれだけ大きな力が襲ってこようとも、どれだけ大きな障害が自分の行く手を阻もうとも。それでも、と鈴鹿は前を向くのだ。
それこそが彼女のユーベルコード、新世界ユウトピア(シャンバラー・ゲヱト)の力である。
彼女の背中には後光を光背の如く輝かせる。この領域において、彼女の理想は全て叶えられる。構築された世界で、彼女が為し得ぬことは存在しない。
「キミはまだ思い出せるのかな?」
復元された薬師の体が崩れていく。それはユーベルコードによって改変された薬の効果であった。鎮静剤へと変化された霊薬の効果は、薬師の復元した体の再生力を抑えていく。
「キミが守ろうとしていたものの顔や声を。キミの心の矜持を」
もはや思い出すことは叶わない遥か昔の理想。
追い求めた理想は潰えた。他ならぬ自身の手によって。その後悔と絶望の深さは伺い知れるものではなかった。
けれど、もう影朧の心の中は一色だった。
「そう……キミがもう、復讐と殺人に囚われているのなら、ぼくはキミを撃つ」
鈴鹿が構えた二丁の軽機関銃の銃口が薬師を狙う。
ためらいがないのかと言われたら嘘になるかも知れない。けれど、それでも影朧を放置しておけば、鈴鹿の大好きな世界は、故郷の世界は、滅びてしまう。
守りたいと願った想いに偽りはない。
けれど、それは自分だけの想いではない。自分と他者。決して相容れない他者の存在があるからこそ、鈴鹿は世界を大好きになれる。
「ぼくだって、護りたいものがあるんだ」
決意の瞳が銃口より先に薬師を捉える。もう迷いはない。決意と覚悟だけが、鈴鹿の指を引かせる。
「―――それを壊そうとするなら、容赦しない」
銃声が鳴り響き、今度こそ薬師の体を、影朧へと堕したかつての誰かの想いを、骸の海へと還すのだった―――!
大成功
🔵🔵🔵