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慟哭のリストランテ

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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●恍惚するヴァンパイア
 オードブルで使うつもりでいた腸詰もハムも、切らしてしまった。
 とはいえアントレの食材でもあるステーキ肉もない。
 男は眷属の魔物に書簡を託し、いつもの『卸商』に注文を出した。
 屋敷から飛び立っていく、黒翼の魔獣の姿を見送って、心を逸らせる。
「ああ、一体どんな『肉』が届くだろう……!」
 ぬめ光る太い牙を剥き出しにして、納品の瞬間を、その肉を捌く瞬間を――飛び散り滴る血の温かさを、皮を剥ぐ快感を、骨を断つ小気味よい感触を、夢想して極上の笑みを浮かべた。
 スープの出汁は骨髄入りの背骨でとろう。じっくりと煮詰めて漉して透明になるまで丁寧に作ろう。
 ソースには肝をすり潰して香草で香りをつけよう。脳漿をアクセントにしてみようか。
 ステーキは、肉塊をただ焼くだけでなく、肉を細挽きにして卵黄と目玉を混ぜて……。
「いや、ハムを作ろう! 塩水を用意しておかないと! それから、ああ、燻製のチップはまだあったな、ハーブは育っているだろうか」
 あれこれとメニューを考えるのは、至高の時間だ。とても心が躍る。一種のエクスタシーすら感じる。
「ああ、早く食べたい……!」
 男は生唾を飲み込んで、眼下に広がる深い森を、その先にある『牧場』を見下ろし、うっとりと吐息した。

●嫌悪するグリモア猟兵
 グリモア猟兵の鳴北・誉人(荒寥の刃・f02030)は、予知した事件に胸焼けを起こしていた。
「ちょっと、手ェ貸してくンねえか」
 ダークセイヴァーにはヴァンパイアが巣食っていて、ソイツらの悪逆非道っぷりは千里を駆けている。噂を耳にした者も、またその身をもって体験した者もいるだろう。
 誉人が予知した今件も胸が悪くなるようなものだ。
 美食家を自負するそのヴァンパイアは、食に強いこだわりを持っている。
 使う肉は『人肉』のみ。野菜も魚も食うが、獣の肉は食わない。
 泣き叫び、痛みを与えられ、命を乞いながら絶命していく中出来上がる『肉』は、最高のスパイスをすでに仕込まれている――そうだ。
 説明しながら、誉人は心底気分が悪そうに舌を打った。
「この人喰いのもとに五人の村人が届けられる――意味は、分かるか……今から行けばこの五人を救い出せる」
 早急に向かって欲しい、と誉人は双眸を炯々と光らせる。
「けど、ヴァンパイアの屋敷がどこにあンのかまでは視えなかった」
 そのかわりといっては語弊があるだろうか――人喰いヴァンパイアの依頼を受けて村人を見繕い攫う、『卸』の一団がいる。
 ヴァンパイアまで繋がっているのは、現段階でその一団しかない。
 彼らがどこまで情報を持っているかは分らない。
「人攫いのヤツらも、失敗すると自分らが食材になるってことが分かってる――だからそう簡単に口を割らねェだろうし、抵抗されっからな。けど、殺しちゃなんねえからな」
 マスケット銃を装備しているとはいえ、ただの人間だ。
 猟兵たちとまともにやり合って勝てるわけはないが、彼らも命がかかっている。
 ヴァンパイアの情報を力づくで聞きだすか、手練手管にかけてしゃべらせるか。
「そこはおめえらに任せるとして……ただ、こっそり後をつけていくッつーのはヤメとけ。運よく屋敷にたどり着けたとしても、五人の命は助からねえ。どころか、卸のヤツらだって殺される……や、もう、因果応報だとかいろんな意見はあるだろうが……それじゃダメだ――俺は助かる命を見殺しにできるほど、非道じゃねえ」
 救えるなら救いたい――金平糖のように甘い考えだろうが、誉人は三白眼を伏せ、猟兵たちに頼み込んだ。
「五人の人質も、できれば卸のバカどもも、無事に村まで帰してやってほしい」
 攫われた五人は馬車の荷台、幌の中にいる。
 ・昼間の農作業中にさらわれた十代半ばの少年。
 ・その姉。
 ・彼女の友人の少女。
 ・買い物に出かけたところを捕らえられた三十代前半の女。
 ・その幼い娘。
 『卸』の一団は壮年から中年の男ばかりが、八人。
 良心の呵責に雁字搦めになっている者、背徳的な悪事に興奮している者、一時は確約された安全に安堵している者――彼らの胸の内に抱えた感情は様々だが、明日は我が身という不安は拭えていない。
 誉人がゲートを繋げる場所は、夜の森の中。一団は川辺に馬車を停めて火を焚き休憩している最中だ。
 様子を見るにしても事欠かないほどに木があって、暗い。
「どうにもキナくせェ森だ。なにが起こるかわかんねえ。月は出てねえから、明かりの準備は忘れんなよ」
 なけりゃ、コレ持ってけ。と誉人がカンテラを差し出す。
「それもこれも……全部、ヴァンパイアが元凶だ。止めてくれ」
 仄青く光るグリモアは精緻な紋様を描き、テレポートの準備が整う。
「頼んだぜ」


藤野キワミ
血生臭い感じがやっぱり好き、藤野です。
オープニングをご覧いただいありがとうございます。

一章は情報収集と、説得……を想定していますが、猟兵のみなさまにお任せします。この章いかんで人々の生き死にが決定します。
二章はどんな感じになるでしょう。みなさまの活躍次第で大きく変わります。
三章はボス戦になります。

それでは、みなさまのステキなプレイングをお待ちしています。
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第1章 冒険 『悪鬼の食事処』

POW   :    人攫いを倒す、体を張って情報収集する。

SPD   :    迅速に人々を保護する、特技で情報収集する。

WIZ   :    人攫いを騙す、賢い方法で情報収集する。

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●絶望の『卸業者』と興奮の仲間たち
 パチパチと闇を強引に切り裂く焚火の光を見ていると、溜息が出た。
 黒い翼のあの異形の魔物が届けにくる書簡――依頼は生きた人間。ときに細かく性別年代が指定されてくるが、たいていは今回のように人数だけだ。
 報酬は己の、そして家族の安全。それが保障されるのは大きいが、あの書簡が届くたびに、人の心がなくなっていくような、寒さを感じる。
 この火に当たっても、その寒さは和らがない。
 あの不気味な鎧も、魔獣も、一度だけ見たことのある『雇い主』も。
 すべてが悪夢のようで、まぎれもない真実だ。
 パチッと枝が小さく爆ぜた。
 この納品を断れば、己も仲間もみな死ぬ。あの『雇い主』に喰われて死ぬ。
 しかし、この幌の中の子どもたちは、確実にあの『雇い主』に喰われて死ぬ。
 ああ、ああ、この世には救いがない。絶望しかない。
 今回の『食材』の捕獲に興奮して安堵して、酒を煽る仲間もいる。
 男と同じように心を痛める者もいる。
「おい、レックス! 辛気くせえぞ! お前も呑め!」
「……ああ、そうだな」
 生返事をした男――レックスは、ただただ揺れる火を見つめていた。
サフィリア・ラズワルド
POWを選択

服を汚してドラゴニアンの特徴を魔法で消して人間に【変装】して近づきます。『良かった!人がいた!』と森で迷子になったフリをして『貴方達が行く所までご一緒してもいいですか?』と彼らから行き先についての話を聞き出します。

『(食材の候補として目をつけられれば性格が悪い奴は話すかもしれない)』

怪しまれたらこっそり抜け出しますが大丈夫そうならそのまま彼らの側で【聞き耳】を立てながら待機します。もし可能なら人質からも情報収集します。



 レックスがすすまない酒を煽った瞬間――ガサガサっと下草が激しく踏み荒らされて、黒い影がとび出してきた。
 仲間たちは心底驚き、持っていた小瓶を取り落としてしまった。
「なんだ!?」
「誰、」
「良かった! 人がいた!」
 現れたのは、薄汚れた一人の女だった。


 サフィリア・ラズワルド(ドラゴン擬き・f08950)はドラゴニアンの特徴をうまく隠して、泥で服を汚し、人間に変装した。
 できるだけ悲壮に、それでも安心したように、サフィリアは丸腰のまま彼らに近づいていく。
「とまれ! なんだ、おまえ!」
「なんでこんなところにいる!」
 酒が入っているとはいえ、男たちは大の大人。一見して小柄な少女に銃を向けるようなことはなかったが、不測の事態に対応できるように全員が立ち上がっていた。
「ああ、あの、実は、迷子になってしまって……」
「……迷子?」
 言外に真意を問われているようだった。否、八対の目は全力でサフィリアを怪しんでいる。
「はい……その、一人では心細いので、しばらくご一緒してもいいですか?」
「ダメだ」
 ひゅっと息を飲んだ。
 まさか即答されるとは思わなかった。一歩ずいっとサフィリアに近づいた男は、頭の先から、怪しむように眺めて、首を小さく振った。
「ここにいちゃいけない、この方角にオレたちの馬車の跡があるから。それを辿って森を出なさい」
「オイオイ、レックス、そりゃいくらなんでも……」
「さすがに、それはマズいぜ」
 男二人がレックスの肩を抱いて、サフィリアから少し距離をとった。
「(ジョン、リード。考えろよ、『ここ』に一人で迷子になるって状況がワケわからん……『あの人』が始めた新しい罠じゃないか? これから鎧に会うんだし、そんなの連れていけない)」
「(だったとしても、森を抜けさせてどうする? オレたちがここにいたことを喋られんじゃねえか? ここらの村はウチんとこだけだぜ?)」
「(オレたち以外に卸をやってるヤツらがいて、そいつらから逃げてきたとか?)」
「(じゃあ、それこそ生きてる方が怪しいだろ。『あの人』が取り逃がすはずがない……)」
「(……あの子も一緒に『納品』しちまうってのは?)」
「バカなことを言うな!!」
 レックスは興奮しながら、二人の手を振り払った。
「おい、落ちつけレックス」
「リード、オレは、ッ!」
「あ、あの……ご迷惑でしたら、一人で馬車の車輪跡を辿っていきます。ありがとうございました」
 ぺこりと頭を下げて『卸』の男たちに背を向けた。
 サフィリアは、おろおろするフリをしながらしっかりと聞き耳をたてていた。

 『馬車の轍を辿れば森を抜けられる』
 『これから鎧たちと会う』

 この情報はなにかの役に立つだろうか。
 しかしこれだけでは足りない。
 肝心のヴァンパイアの屋敷がどこにあるのか分っていないのだ。
 サフィリアは背後に気を配りながら、離れていく。
 足音は自身のものしかない。こちらを尾行しているような気配はない――あれほど怪しんでいたというのに、尾行してまで警戒するということはないのだろうか。
 考えても詮無いことだ。サフィリアは紫瞳をゆっくりと閉じ、闇に紛れ、胸中で十数える。そしてゆっくりと踵を返した。
 怪しまれたからには、これ以上この場にとどまるのは危険――そう判断したサフィリアは、こっそり隠れて情報を収集する方針に切り替えたのだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

フォルター・ユングフラウ
【WIZ】

ほう、件の吸血鬼は中々わかっているな…恐怖し、逃れ得ぬ運命に絶望する表情に勝る美味は無い
だが、我は人肉は食べぬのでな
下手物食いと語る舌は持たぬ故、滅ぼそう

さて…我も外道とは言え、一応は猟兵の身なのでな
本心は隠し、食材共の救出にあたるとしよう
まずは、我が夜の一族である事を明かしつつ、恐怖を与え抵抗する意思を挫こう
その後、我の美貌と誘惑で堕としてやる
誘惑で堕ちれば、更にUC:ヴィーゲンリードで「知り得る情報を全て吐いた後に食材の5人を解放し、汝等も村で大人しくしていろ」と駄目押しを
「件の吸血鬼は我等が討つ、朗報を待つが良い」と、言いくるめや鼓舞も駆使して語り掛けておくか

※アドリブ歓迎


キファ・リドレッタ
そうね、その人攫いにも、もいちど機会はあげるべきだわ

WIZで情報収集といきましょう
ただ私話せないのよ
水を操り綴ることはできるのだけど、はてさてこれは、いっそ、聖人のフリでもしてみるべき?
永劫続く「安全」などなく、今を逃せば全て潰える
君も君の大事な人も
老いて卸せなくなるまで卸し続けて何となるの
君たちに罪を贖う気はあるかしら

口を割らぬというなら多少強く出るするわ
そうね、卸はよいお歳の方が多い様
君たちも食いでがあるのではないかしら
――ところで。この近くに、他の吸血鬼が来ているの。丁度ペットのエサを探しているのですって。……意味はお分かり?
謀るのは好きではないの
君が賢明であることを『祈』っているわ


ザザ・クライスト
【ST・LABO】で参加

【POW】人攫いをのした上で情報を引き出す

暗闇は暗視ゴーグルで対応
殺さないように注意しつつ卸業者の連中を無力化させる
撃つなら死なない程度の部位、手や足とかだなァ

「ヤレヤレ、随分な仕事に精を出してるじゃねェか?」

嫌悪感を隠そうともせずに冷淡な声音
他にやるコトねェのかよ? 吸血鬼に睨まれたら仕方ねェとも思うがな

「だが、ここが分水嶺だぜ? このまま卸し続けンのかよ?」

拳銃を手に「恫喝」して「情報収集」もいとわない
ヘル・越喜来とフラウ・レイヴァスが張り切るなら静観する方向
クソをクソだとののしるのも虚しいってモンだ

「吸血鬼はオレたち猟兵が片付ける。協力してくれたら助かるぜ」


越喜来・湊偲
【ST・LABO】で参加

話を聞くだけでも悍ましいもんです
ヴァンパイアもですが、自分達の為に人を攫って差し出すなんて
どちらも許せる行為じゃありません
絶対突き止めましょうね

【POW】
まずは身を潜めて待機
ザザさんの攻撃を合図に俺も強襲をかけます
攻撃を受けてバランスを崩した相手へドラゴニック・エンド
防具やら守りがあるなら【鎧砕き】で破壊して戦う気を奪います
情報収集ですから殺しはしません
雇い主の事さえ話してくれれば良いんです

あんた達だってこんな事を続けてたても何にもならない事くらい分かるでしょう
利用されてるだけで、いつか自分達が食材になる日が来る
俺達は元凶と戦う為に此処に来てるんです
正直に話してください


フィラメント・レイヴァス
【ST・LABO】で参加

【SPD】

仲間が人攫いの相手をしている間に人質を助ける

後は彼らとわたしで何とかしよう
気を付けて村へ帰るといい
「“卸屋”だなんて名前…趣味が悪いと思うから、やめた方がいい」

「目立たず」忍び寄り
「範囲攻撃」と「だまし討ち」で卸屋を抑える
反撃してくるようであれば【絡新婦】や武器で少し驚かしてあげよう

中には罪悪感のない人もいるみたいだけど
そうでない人から、吸血鬼の話を聞き出そうかな?

「何でもいいよ、知ってることを教えて?
奴の根城まで行ってる君達の情報は貴重だ。
教えてくれないのなら、そいつの変わりに…わたしが“吸血”しちゃおうかな…」


八重歯を見せながら、ちょっと脅してあげよう


マリス・ステラ
【WIZ】卸業者の人たちを説得します

彼らを非難しようとは思いません
この世は弱肉強食、ヴァンパイアが相手では無理もないでしょう

「絶望に震える日は間もなく終わります」

星の転がるような声音は彼らに巣食う闇を祓う「破魔」の力
人は過ちを犯しますが、悔い改めることもできます
私は彼らのために「祈り」ます

「どうか力を貸してください。あなたたちの協力が必要です」

あくまで彼ら自身の意志で知っていることを教えて欲しいと思います
それは償い、懺悔、贖罪になるでしょう
怯える人には「手をつないで」「鼓舞」します

「できることをすればいいのです。よく頑張りましたね」

「失せ物探し」彼らの失くした勇気を見つけられるでしょうか?


オリヴィア・ローゼンタール
POW
被害者でもあり、加害者でもある……
どちらへ転んでも救いがないのは、たしかに憐れに思います
が、その状況を是とし興奮している男は……度し難いですね

【暗視】を持っているので行動に支障はありません
休憩しているところへ突貫(【ダッシュ】)
興奮している男の胸倉を掴み上げ近くの木へ死なない程度に叩き付け、締め上げて詰問する
人攫いども、彼らをどこへ売りつけようとしていたのです?
早く口を割った方が身の為ですよ
【怪力】【殺気】【コミュ力】【言いくるめ】で言わなければ殺されると思わせる
それでも抵抗するなら【血統覚醒】で一瞬だけ吸血鬼の本性を見せて威圧する
吸血鬼の機嫌を損ねる意味、充分承知していると思いますが?


紺屋・霞ノ衣
人の肉を食うなんざ、とんだ悪食が居たもんだね
ヴァンパイアなんだから当然か
これ以上人が食われない為にも、必ず奴の尻尾を捕まえるよ!

人攫いに直接話を聞くのが一番さ
【貪り喰らう狼】で人攫いを囲んで、抵抗するなら【怪力】殴り飛ばす
命まで奪いはしないよ
好きでやってんじゃないんだろう
手前の命可愛さに、他の命を差し出すような奴なんだ
雇い主の場所くらい吐いてくれるよねぇ?
【恫喝】も使って揺さぶるよ

血反吐を吐いてでも生きろ
生きる為に間接的であったとしても、奪った命の分だけ生きろ
死んだ奴は戻らない、アンタ等の罪は決して消えない
死んで詫びるくらいなら生きて背負うなら、あたしは許してやるよ


笹ヶ根・鐐
火を囲む八人それぞれの目の前に呪符を打ち込む。
わざと外したと分かるように。

「騒ぐな。お前達の向かう先を教えよ。
報償はお前達の命。そこの贄共の命。
そしてあの領主からの解放という平穏を与えよう。」
逃がさぬよう、猟兵の身体能力で順々に彼らの背後に回りながら。

「私はダンピールだ。かの領主の命を欲している、と言えば分かるか。
拒否は勧めぬぞ。命を投げ出すほどの忠義を感じているのか?」

場所を聞き出し、『卸業者』に身をやつして向かう。
女性陣には幌の中に入り『食材』に身をやつしてもらいたい。

業者と人質達には村に戻り身を隠すよう伝える。
「我等の結果を見届けよ。最悪『調達に時間がかかった』とでも言い訳するが良い。」


オルハ・オランシュ
言葉に出せなくても苦しんでる人がいる
今救わなければきっと次の機会はないよ
興奮しちゃってる人の目も覚まさせないと!

他の猟兵が卸に接しているうちに人質を助けたいな
暗さを利用して、木陰に隠れて待っていてもらおう
怖がらないで?私は君達を助けに来たの
……こっちについて来て
喋らず静かに、ゆっくりね
ことが済むまで少し待ってて

私は卸の人達の所へ

非力そうな人ばかり攫うんだね
卸の甲斐あって君達と家族は安全みたいだけど
人質の家族は今頃どんな思いでいるんだろう
それに、君達の安全もあくまで一時的なもの
用済みになったらどうなるかな?

ねぇ……もうやめよう
私達ならヴァンパイアを倒せるよ
チャンスは今日だけ
どうしたいか、聞かせて




 サフィリアが投げた一石は『卸』たちを沈黙させた。
「……あの娘も一緒に『あの人』に渡せば、またしばらく『納品』しなくても済んだんじゃないのか」
「ジョン……でも、オレは……」
「その偽善的な考えはもうヤメろ! お前だって自分の命が、家族の命が惜しいんだろ! いくら正論を並べようと俺たちは所詮同じ穴のムジナなんだ!」
 ジョンの悲愴な声がこだまする。
「被害者でもあり加害者でもある……どちらへ転んでも救いがないのは、確かに憐れに思いますが……」
 その重苦しい沈黙を破ったのは、オリヴィア・ローゼンタール(聖槍のクルースニク・f04296)の毅然とした声だった。
 どこから現れたのか、闇から突如として疾駆してきた金瞳の女に、胸倉を掴まれたジョンは目を白黒させていた。
 そのまま背後の木へ背をしたたかに打ちつける。
 オリヴィアの鮮やかな乱入に乗じて、紺屋・霞ノ衣(蒼の戦鬼・f01050)も突撃する。
「あんた達、狩りの時間だよ!」
 青毛の狼の群れがどこからともなく現れ、男たちを取り囲んで低く唸り声を上げて、牙をむいて威嚇する。
 根源的な恐怖を植え付けられた男たちだったが、相手が獣ということで、すぐに気を取り直した彼らは、マスケット銃を抜いた。
 瞬間、彼らの足元に放たれたのは、笹ヶ根・鐐(赫月ノ銀嶺・f08426)の操る《霊符》だった。男たちのつま先に当たるか当たらないかのギリギリに突き刺さるそれを見れば、わざと外されたものだと気づくだろう。
 本気を出せば、この札は自分たちを貫いていた――想像するに難くなかった。
「騒ぐな。お前達の向かう先を教えよ」
「抵抗するなら容赦なく殴り飛ばす」
 鐐の厳然たる澄んだ声が殷々と響いて、霞ノ衣の挑発的な声が、貪り喰らう狼たちの唸り声の奥から聞こえる。
「そのままアタシらの質問に答えりゃ、手荒なマネはしないよ」
 彼女は灰色の双眼を細めて、凄絶に笑む。
「さあ答えなさい、人攫いども。彼らをどこへ売りつけようとしていたのです?」
 ちらりと幌を一瞥したオリヴィアは、その細腕に似合わない怪力でもって、ジョンの首をぎりぎりと締め上げる。 
「だ、れが……しゃべ、る、か!」
「そうですか。早く口を割った方が身のためですよ」
 殺気立つオリヴィアだが、ジョンも簡単には口を割らない。恐怖させ畏怖させ脅迫したところで、話せない彼なりの理由があるのだ。
「あんたらの雇い主の居場所を吐いてくれるだけでいいんだ」
「そんなの、言えるわけねえだろ!」
「『あの人』に、何人喰われてると思ってんだ……!」
「知らん」
 冷たい冷たい叱責にも近い声音が、男を打つ。
 フォルター・ユングフラウ(嗜虐の乙女・f07891)が、悠然と歩み出てくる。血のように赤い双眸に、怯えきった男の顔が写り込む。
「我は人肉は食べぬのでな、どれほど美味なのかは皆目見当もつかぬよ」
 実に冷酷に言い放つフォルターだったが、彼女も猟兵。
(「汝らのように恐怖し、逃れ得ぬ運命に絶望する表情に勝る甘美はない。それは我にも理解できるな――だが、やはり下手物食いは理解に苦しむ……」)
 本心を一分の隙もないほどに隠したフォルターは、大仰に腕を広げ、尊大に声を張り上げた。
「我は夜を統べる一族の女帝……汝らが恐れてやまぬ『人喰い』と同種の血を引く混血児なわけだが――さて、我の言の葉に耳を傾ける気になったか」
 抵抗する意思を根こそぎ刈り取ったフォルターだったが、男は彼女の美貌に屈することはなく、
「アンタが何者でもかまわない! オレたちだけじゃねえ、オレの家族が喰われるかもしれないんだ!」
 名は分らないが、一番若そうな男が血を吐くように叫んだ。
「ならば、あの『人喰い』からの解放という平穏を与えよう」
「は?」
 彼とは対照的に、静かに冷厳と鐐は続ける。
「私は、かの『人喰い』の命を欲している、と言えば分かるか。拒否は勧めぬぞ。外道に命を投げ出すほどの忠義を感じているのか?」
「ンなわけないだろう! けど、オレらがここで投げ出せば、村で待ってる家族が……!」
「だったらなおさら、さっさと吐いちまいな」
 ぞっとするほどの殺気を漲らせた霞ノ衣は、
「アタシらは命まで奪いはしないよ。好きでやってんじゃないんだろう」
「こんなこと、性根から好き好んでやるヤツなんかいない!」
 レックスは蒼惶として叫んだ。
 彼に続くように、口ぐちに「やめれるものならやめたいが……」と呟く声も聞こえてきた。
「そうかしら、この人はすごく楽しそうでしたけれど」
 しかし、オリヴィアが拘束している男を示して、彼らの心を揺り動かす。暴力の魔力に染まっていたのはまぎれもない事実であるから、否定のしようがない。
「実に度し難いですね」
 息を飲んだのが分かった。
 オリヴィアの双眼が金色から真紅に変わっていたのだ。
「吸血鬼の機嫌を損ねる意味、あなたは充分承知していると思いますが――いかがでしょう?」
 垣間見えたのは、恐怖だった。
 一瞬のうちに爆発的に膨れ上がったプレッシャーは、遺伝子の奥に刷り込まれた本能的な恐怖。ジョンの全身をくまなく支配する。
「人の肉を食うなんざ、とんだ悪食――と言いたいところだが、相手はヴァンパイア……当然っちゃー当然だが、アタシらはこれ以上人が喰われないようにするために来たんだ」
 霞ノ衣の鋭い双眸が、男たちを睨みつける。
「それでもアタシらの質問に答えないヤツは前に出ろ、全力で相手してや、――」
 パァン!
 渇いた小さな爆発音が鮮烈に劈く――霞ノ衣に向かって発砲した男がいた。


 一発の銃声が呪縛を解いたように、男たちは銃口を猟兵たちに向けた。
 その様子にレックスはぞっとしたように仲間たちを顧みる。その顔は絶望に歪んでいた。
「ヤレヤレ、随分な仕事に精を出してるじゃねェか?」
 男たちが次弾を放つよりも先に、ザザ・クライスト(人狼騎士第六席・f07677)は《アレスKBN13》の引き金を引いた。
 撃ち出された弾丸は男――リードの腿を掠めて火線を引いた。
「うぎゃッ!?」
 驚きと痛みにバランスを崩して、倒れたリードの喉元に《ドラゴンランス》の切っ先を突き付けて、越喜来・湊偲(綿津見の鱗・f01703)は赤褐色の瞳に昏い影を落とす。
「大人しくしてください。霞ノ衣さんも言ってる通り、殺しはしないです」
「そんな、もん、つきつけといて、よく、言う……!」
 ぬるりと血が滴る傷口を押えてリードは脂汗を流している。
「ここが分水嶺だぜ?」
 嫌悪感を丸出しにしてザザは冷淡に言い放つ。
「吸血鬼に睨まれたら仕方ねェとも思うが、もっと他にやるコトねェのかよ」
「あんた達だってこんなことを続けてても何にもならないことくらいわかるでしょう」
 ザザの言葉をついで湊偲は続ける。
「俺たちは元凶と戦うためにここに来てるんです」
「アンタたちが、『あの人』と戦う? じゃああの、気味悪い鎧の集団とも戦うってのか?」
 一番若そうに見える男がたまらず叫んだ。
 それにザザは力強く頷いた。
「全部だ。あんたらを脅かすヤツら全部をぶっ倒す。だから協力してくれたら助かるぜ」
「騙されるなよ、トニ!」
 恫喝に近い声がこだまする。最初に引き金を引いた男だった。
「オレたちのことをよく知らない、まるで関係のないヤツがいきなり出てきて、大勢で押し掛けて、キレイごとを並べ立てて、それで、協力しろ? 『あの人』を倒す? 鎧たちとも戦う? いったいアンタらはオレたちからナニを奪おうってんだ!」
 目を血走らせて唾を飛ばし詰め寄ってくる男は、湊偲の胸倉を掴み上げ、
「オレたちより大層お強いんだろうな! その力でオレたちみたいな弱者を力で捩じ伏せて優越感に浸ろうって魂胆か! アァ!?」
 しかし湊偲は微動だにしない。人喰いヴァンパイアはもちろん、己の益を優先させる人道を外れた『卸商』の連中も到底許せるものではないが、いかな外道でも元はただの人だったに違いない。
 元凶は人喰いなのだ。
「その手を放して。わたしの仲間に気安く触るんじゃないよ」
 男の震える手がぴたりと止まり、耳を劈くほどの悲鳴を上げた。
「まったく、頭でっかちの分らずやだね……素直に甘えればいいのに」
 女郎蜘蛛を操り、胸倉を掴まれていた湊偲を解放させたのは、フィラメント・レイヴァス(シュピネンゲヴェーベ・f09645)だった。


 ともに行動するザザと湊偲が『卸』の男たちをひきつけてくれている。
 この混乱の中、戦闘に慣れていない男たちの意識から『商品』が薄れるだろう――そう踏んだのは、フィラメントだけではない。
 オルハ・オランシュ(アトリア・f00497)も、幌の中の人たちが心配でこっそりと馬車への侵入を試みるために、闇に身を沈めていた。
 好都合なことに、幌は襤褸のようで、縛りつけるロープは緩く解けかけていて、オルハとフィラメントは難なく荷台に侵入した――果たして、そこには手足を縛られ、猿轡を噛まされ、目隠しをされた五人の姿があった。
 身を寄せ合うように、一塊りになっている。
 彼女らをなるべく驚かせないように慎重に声をかけた。
 ここで大騒ぎされてしまっては元も子もないのだ。
「怖がらないで? 私は君達を助けに来たの」
 びくっと体を強張らせた五人だったが、オルハとフィラメントは次々と拘束を解いていく。
「あなたたちは、一体……?」
 一番の年長者である女性はその腕の中に子どもらを招き入れ、背を撫で安心させようとしっかりと抱き締める。
「助けにきたんです」
 オルハは目をやわらかく細め、フィラメントはニィっと口の端を上げ、八重歯を見せた。
「馬車の轍を辿ればこの森を抜けられるみたい、歩けそうですか?」
 女性は小さな声で敢然と返事をしたが、少年の姉は否定した。
 抵抗した見せしめとして少年は暴行を受け、歩くのが辛い状況にあるという。しかし、彼は、自分が姉たちを巻き込んでしまったと思っているのか、姉と友人の安全を苦慮している。
 フィラメントは苦笑を浮かべる。なんとしても彼女らを助けたいと心から思う――そこへ口を挟んだのが、年長者たる女性だった。
「私が負ぶっていくわ。メリッサ、娘をお願いね」
「そんな……!」
「ケイト、メリッサお姉ちゃんの傍を離れちゃダメよ」
 小さな彼女の娘は、目に涙をためながら唇を噛みしめて、それでもしっかりと頷いた。
「私が案内するね、ゆっくりついてき、――」
 彼女らの納得するかたちではなかっただろうが、この状況を打開する方法があるのなら、享受する。
 五人は、オルハに従ってゆっくりと馬車から下りようとしたその時だった。

 馬車の中にまで響き渡るのは、不吉でしかない一方的な暴力――銃声だった。

 それを聞いて、フィラメントはオルハを制止させて、彼女も承知した。
「少し待った方がいいかも……もし流れ弾にでも当たったら、大変」
 オルハが言えば五人は、納得して今一度腰を下した。
「外の様子を見てこよう」
「私も行きます。ことが済むまで少し待ってて」
 必ず助けます――オルハは五人に約束をして、馬車を下りたのだった。


「唯々諾々と、そうやってるにも限界があるよね。趣味悪い“卸屋”なんてやめた方がいい。でも、奴の根城まで行き来している君たちの情報は貴重だ――だから、教えてくれないんなら、私が“吸血”しちゃおうかな……」
 鋭い八重歯が笑った唇の奥に光る。
「なんでもいいよ、知ってることを洗いざらい話して?」
 捕らわれていた人たちを見て、オルハは心が締め付けられるようだった。
「君達と家族は安全みたいだけど、人質の家族は今頃どんな思いでいるんだろう――考えたことある? それに、君達の安全もあくまで一時的なものだよ。用済みになったらどうなるかな?」
「そんなもの、おまえに言われなくても……!!」
 猟兵たちの自信満々な説得は、男たちの心を揺らす。
 今まで彼らの味方をするものはいなかった。
 それどころか、闇から闇へ葬られるばかりであった――当然だ。『卸業』が白日の下に曝されれば、村は混乱し『人喰い』は狂喜し、すべてが喰い尽くされるだろう。
 水鞠に乗り、静かに見守ってきたキファ・リドレッタ(涯の旅・f12853)だが、その聖人然とした青瞳を物憂げに伏せさせた。
 ――読めるわよね。永劫続く『安全』などなく、今を逃せば全て潰えるの自明の理。
 話すことのできないキファは水を操って、宙に綴る。その神秘的な様子に、男たちは銃口を下げた。
 ――君も、君の大事な人も、老いて卸せなくなるまで卸し続けて何になるというの?
 しかし、その誰もが語らないのは、よほど『人喰い』の恐怖が四肢に沁み込んでいるのだろう。
「でももう大丈夫です。ヴァンパイアが相手だったのです、あなた方が怯え従うのは、仕方のないこと――私はあなた方を非難しようとは思いません」
 マリス・ステラ(星を宿す者・f03202)の優しい声音は鈴の音のように辺りにこだまする。その声に込められる破魔の力は、心に巣食う恐怖を打ち砕くようだった。
 マリスは彼らを従わせて、情報を得ようとは思わない――可能な限り、己の意思で言葉を紡いでほしいと願う。
 それこそが贖罪となり、断罪となり、懺悔することで償う一歩となりうるのだ。
「人は生きている限り過ちを犯します……ですが、そのたびに悔い改めればよいのです」
 優しく清らかに、マリスの祈りが込められた言葉が降り注げども、男たちの心を溶かさない。
 だが、それでも彼女は諦めない。
 それが聖者たる証だから――しかし、聖者ではないフォルターは、マリスとは正反対に残忍で冷酷な笑みを浮かべて、力を顕示した。
「いやはや、なかなかに強情……よほど我の力を見たいか」
 ヴィーゲンリードを発動させようとフォルターは、《黒の爪鞭》をぴしゃりと鳴らした。
「我にその身を、その心を委ねよ」
 背徳の甘美に酔いしれるように男はとろんとフォルターを見上げる。真っ赤な唇が弧を描いて、白磁のごとき頬に魅惑の微笑が刻まれたとき、男は口を開いた。
「鎧が、鎧を着た『あの人』の部下に、馬車ごと渡す手はずなんだ……」
「おい! リード!?」
「俺たちは、ここで鎧たちが来るのを、待ってる……」
「ほお、それでは『人喰い』の屋敷はどこにあるか、知っているか?」
「やめてくれ! オレが、オレが話す! リードを元に戻してくれ!」
 まるで操られたかのように、別人のような様子のリードを心配したレックスは、フォルターに懇願する。
 むろんすべての情報を開示してくれるというのであれば、語る口はどれでもかまわない。真実を語り、これから人喰いヴァンパイアの討伐に有利になり得るのならば、リードが喋らされようが、レックスが話そうが、大差はない。
 男たちは、観念したように話し始めた。

 鎧どもはレックスたちのことを識別しているそうだ。
 連絡役の黒翼の魔物はいつもレックスの元へと書簡を届けに来る。
 そして、この川のほとり――まさに今猟兵たちがいるところで、直接『美食家』の部下である鎧の一団に、馬車ごと引き渡す。
 検品などはしない。謀れば次に喰われるのは己なのだから、命が惜しくばちゃんと準備をしろということだ。
 過去に一度だけ、鎧の一団とともに『美食家』が現れたことがあった。実に不気味で恐ろしく、抵抗するという心を根こそぎさらってしまうほどに、怯えてしまったという。
 鎧たちは、上流から川べりを歩くように現れ、荷馬車を引いて引き返していく。
 『美食家』の屋敷があるのは、少なくともこの場所よりももっと高台の方だろう。
 そして、鎧の一団が去った後に、彼らも帰宅の途に就く。

 よって作戦はこうだ。
 馬車内にいる『納品物』は一足先に森を抜けだし始めておく。
 『卸』の男たちはいつもどおりに、馬車を眷属の鎧どもへと引き渡す。
 そして、八人は徒歩で村へと帰る――道中、少年をおぶってやれとオリヴィアが進言した。
「話してくれてありがとう。絶望に震える日は間もなく終わります」
 項垂れるレックスの手を握り、ふわりと微笑むのはマリスだった。
「……オレたちは、オレたち、……ううぅ……!」
 声を噛み殺して泣きむせぶレックスの背を撫でて、マリスは「あなたのできることをすればいいのです。よく頑張りましたね」と話してくれたことに礼を述べ、後悔と自責の念に潰されそうな彼をそっと支えてやる。
 彼らが失くしてしまった、「抵抗する勇気」は今、猟兵たちに話をすることで取り戻せただろう。
 ――これからも、君たちが賢明であることを祈っているわ。
 キファの華奢な水文字がちゃぷんと跳ねた。挽回の機会はあってしかるべきだ。謀らずに済んだ。キファは胸を撫で下ろす。
「血反吐を吐いてでも、奪った命の倍、生きろ。アンタらの罪は決して消えないが、死んで詫びるなんて簡単な道を選ぶな。生きて背負え」
 霞ノ衣の力強い鼓舞に、トニは滂沱と涙する。
「私達なら『人喰い』を倒せるよ」
「ああ、我らが必ず討つ」
「我等の結果を見届けよ」
 オルハが、フォルターが、鐐が、未来を約束した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『朱殷の隷属戦士』

POW   :    慟哭のフレイル
【闇の力と血が染付いたフレイル】が命中した対象に対し、高威力高命中の【血から滲み出る、心に直接響く犠牲者の慟哭】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    血濡れの盾刃
【表面に棘を備えた盾を前面に構えての突進】による素早い一撃を放つ。また、【盾以外の武器を捨てる】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ   :    裏切りの弾丸
【マスケット銃より放った魔を封じる銀の弾丸】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 猟兵たちの鮮やかな突入、迅速な制圧、そして、力の誇示――男たちを苦しめてきた『美食家』を討ち滅ぼすという言葉を信じさせた。
 それは、彼らにとって、初めて現れた助けを乞える存在だった。
 年甲斐もなく、全力で縋れる存在だった。
 『卸』の男たちは、猟兵たちに幾度となく謝り、己たちが差し出した罪なき命の数々を悔いていた。
 しかし、それは猟兵に謝るべきことでないことも、彼らは個々の奥底から理解していた。
 今回差し出すつもりでいた女たちの背を見送って、彼らは焚き火を取り囲むように、もう一度腰をおろした。
 猟兵たちは空になった馬車の中で息をひそめている。
 なにかあれば、馬車の中の猟兵に助けを求めれば駆けつけてくれるという安心感は、今までに感じたことはなった。
 川のせせらぎは、夜の闇に溶けていく。焚き火の爆ぜる音も一緒に霧散していく。
 それでも近づいてくる無数の足音は、自然の音をかき消し引き裂いて、刷り込まれ沁み込まされ刻み込まれた恐怖をかき立てる。
 暗闇の中、闇が一層深くなったような錯覚を受ける――しかし、レックスは、それはあながち間違いでないと否定する。
 どれほど暗くても面頬を外さない鎧の一団は、ガシャンガシャンと音を大きく鳴らして進軍してくる。
 その様子は、多く恐怖を駆り立てる。
「――ぬかりないな?」
 低い低い、ざらざらした声音。
 レックスは頷き、馬の手綱を渡した。
「ふん。ヴェール卿もお喜びになるだろう。貴様らの働きを、我が主君は評価していらっしゃる……ゆめゆめ忘れるな」
 聞き取りにくい声音だったが、それはいつものことだ。
 レックスらは、猟兵を乗せた馬車と、今に討たれるであろう鎧の軍勢を見送った。

 どうか――どうか、無事で。
マリス・ステラ
笹ヶ根・鐐(f08426)と連携
他の猟兵とも協力します

馬車に乗り込んで『納品物』を演じます
村娘風の服を着て怯えた様子で黙りこくっています

鎧の一団にはヴァンバイアの屋敷まで『案内』して貰います
屋敷が確認でき次第、攻撃開始です

「援護と回復は任せてください」

美貌のダンピール・鐐に声をかける

「あなたは『人食い』の命を欲していると言いました。戦いは得意なのでしょう?」

彼の超然とした雰囲気の中には、それだけではない『何か』があるような……
見定めるように彼を少し見つめます

戦闘では、負傷の大きい人を優先して【生まれながらの光】で回復
手が空くなら弓で「援護射撃」
攻撃には「オーラ防御」と「地形を利用」して対応


ザザ・クライスト
【ST・LABO】で参加

馬車と鎧の一団を「追跡」
バレねェようにある程度距離を取りつつ、必要に応じて「ダッシュ」
屋敷が確認できたら二人や他の猟兵に合図して「先制攻撃」
挨拶は必要ねェ、一気にぶちのめすぞ!

【POW】前衛・盾役として行動
敵の攻撃はバラライカで「武器受け」して防御
適宜銃撃して「挑発」相手を「おびき寄せ」るぜ

「頭数じゃこっちが多い! 囲んで袋にしちまえ!」

必要に応じて「援護射撃」
火力が足りねェなら【ブラッド・ガイスト】

ヘル・越喜来の奮戦に、
「ヒュウ! なんて膂力だ、鎧がひしゃげてるぜ!」
口笛を吹き、フラウ・レイヴァスの攻撃には、
「逃すことのない絡新婦、相変わらずおっかねェ」
と戦々恐々


笹ヶ根・鐐
マリス・ステラ(f003202)と連携。
馬車内で贄を演ずるが飄然とした風は隠せない。

「戦いか。
得意と言えるようになりたいものだな、まだまだ力は足りん。」
力を得た末に目指す場所はまだ分からんがな…
つらつら語る己があるわけでもない。

屋敷の位置を確認出来れば馬車内より鎧達に不意打ちを。
仲間内で声かけし、対象を集中して潰したいところ。

相手の戦闘体制が整わぬうちに「残像」と共に【七縛符】を乱れ撃ち捕縛。
敵陣に飛び込み「破魔」を乗せた符で一閃し薙ぎ払う。
回復はマリスに任せ、
領主に気取られ増援が来ぬうちに一気に攻めきろう。

気づかれずに、というのは不可能だろう。
窓から見えるだろう領主に一礼でもしてやろう。


フィラメント・レイヴァス
【S・T Labo.】で参加

それじゃあ、わたしは『食材』として
馬車に乗り込もうか
美味しそうな女の子に見えるよう振る舞うよ

「残念でした、餌はわたしじゃないよ。わたし達の罠に引っかかった…君たち」

仲間の攻撃を合図に武装を展開
【SPD】を軸に、素早さと搦め手を重視した戦闘が得意

ザザと湊偲に前は任せるよ
わたしは中衛から、叩き込める機会を狙う
騙し討ちやフェイントで敵の隙を付き
【絡新婦】の一撃は「毒」や「傷口を抉る」ことだろうね

攻撃を受けそうな時は鋼糸やワイヤーを駆使しながら「敵を盾にする」を試してみよう
「張り巡らさた、わたしの“巣”
蜘蛛はね、引っかかった獲物は絶対に逃がさない。」


オリヴィア・ローゼンタール
POW
ここからが本番、ですね
逃がした彼らの代わりに潜り込み、機を見計らって奇襲を仕掛ける感じでしょうか

【トリニティ・エンハンス】【属性攻撃】【破魔】で槍に聖なる炎の魔力を纏い攻撃力を増大
槍を【怪力】で縦横無尽に【なぎ払う】
フレイルの一撃は、強化された【視力】で【見切り】、【槍で受け流す】
盾による突進は、真っ向から槍で迎撃し、盾ごと貫く(【カウンター】【鎧砕き】【串刺し】)
さて、この手合いはだいたい自我や記憶を奪われた元被害者なことが多いですが……
『卸』を見分ける知性があるようですね
それとも元々吸血鬼の手先なのでしょうか?


フォルター・ユングフラウ
【WIZ】

さて…約束した手前、違える訳にはいかぬな
邪魔する者は、何であろうと無残に屠ってやるとしよう
さあ、穢れた血で薄汚い血花を咲かせるが良い

遠近両方に対応出来るとは、奴隷たる愚物にしては芸達者と言っておこう
であれば…我も、攻撃と回避両方に対応出来るUC:トーデスシュトラーフェにて遊んでやる
特に、UCを封じる銃撃には気を付けたい
構えが見えれば、すぐに対象の背後へと転移しよう
呪詛や催眠、毒で、たっぷりと可愛がってやる…愚物に効くかはわからぬが、恐怖を与えてみるのも一興か
負った傷は、吸血や生命力吸収で賄うとしよう

※アドリブ歓迎


越喜来・湊偲
【ST・LABO】で参加

【POW】
隠れて待機、馬車の引き渡しを確認したら追跡
俺は追跡系の技能はないのでザザさんの後に付いていくようにします
鎧の敵を目視で確認したら味方の合図にて戦闘開始

配置は前衛
フィラメントさんが攻撃し易いように前でしっかり構えますよ!
鎧の硬い相手なら【鎧砕き】の活かし所
愛用のハンマーでその丈夫な鎧を砕いてやります
鎧を砕き、更に攻撃を与えるチャンスが出来たなら
味方にも声を掛けて連携を取りながら【C・H・S】
今ならこの牙も十分に届くはず、喰らい付いてやれ!

敵のフレイルはかなり厄介なので注意
【野生の勘】を使って全力で回避します


紺屋・霞ノ衣
鎧の奴等は馬車から引き渡してるんだろう?
それなら引き渡す時を見計らって邪魔してみるとしようか
馬車を追っかけてみて、鎧の奴を見かけたら潰しに行くよ

途中で見つかったとしても【先制攻撃】で一気に攻める
随分頑丈そうな鎧だ、でもアタシにゃ大した障害じゃないよ
この斧にアタシの【怪力】で【鎧砕き】と【鎧無視攻撃】を乗せた
【羅刹旋風】で奴の鎧をぶち壊す!
鎧を砕いたんなら【2回攻撃】で駄目押しの連撃
敵の攻撃は斧を使って【武器受け】で防御
【怪力】も使って、しっかり受け止めるよ

こんな奴等じゃ相手にならない
早くあんた等の主人とやらに会わせておくれよ
アタシはそいつを殴りに来たんだからさ


サフィリア・ラズワルド
POWを選択

他の仲間と攻撃するタイミングを合わせます。もし敵が村人を追うようだったらそちらを優先的に攻撃します。

あの人達は悪いことをしてた、自分達と大切な人達のために、でも関係のない私を助けようとしてくれた、助ける理由はそれで十分!

尻尾等を戻しペンダントを竜騎士の槍に変えて【なぎ払い、鎧砕き、串刺し】で攻撃します。

『反抗されるなんて思わなかった?駄目だよ、どんなに優勢でも狩りは最後まで気を張ってなきゃ、じゃないと狩られる側になっちゃうよ?今みたいにね!』

敵からの攻撃は【オーラ防御】で耐え、弱ってきたらドラゴニック・エンドを打ち込みます。

アドリブ歓迎です。


オルハ・オランシュ
上手くいったね!
万が一にも私達が負けるようなことがあったら
今度こそ絶望しか残らないよ
なんとか"する"から、大丈夫
レックスさん達の気持ちに応えなくちゃ!

……っ!?
鎧のせいで攻撃が通りにくいね……
ここは任せて!
【範囲攻撃】で【鎧砕き】
一体でも多くの敵を巻き込んで、攻撃を通りやすくしよう
今はみんなのサポートに徹するの

私も速さには自信があるんだ
放たれたのがどんなに素早い一撃でも【見切り】を狙うよ
間に合わなかったら【武器受け】で被害を最小限に留めるつもり

ヴェール卿って人に言ってくれる?
もう二度と、ご所望のものは届かないってね
――あ、ごめん
その前に君達が死んじゃうんだったね



 馬車が進みだす。酷い揺れの中、マリスらは来る戦闘に備え集中を高める――この馬車を曳く者はオブリビオンなのだ。
 ガシャン、ガシャン……と鎧の重々しい音が聞こえてくるほどに近くにいる。
 ここまでは順調だ。
 隷属戦士たちは、ただ黙々と馬車を曳いて、幌の周りを取り囲んで歩いている――幌の繋ぎ目の隙間から外の篝火の光が差し込んでくる。
 マリスは、目だけを動かして馬車の中を見回して、僅かな光の中で薄ぼんやりと浮かぶ美貌に視線が止まる。
 冷たくも見える双眸がわずかに動いて、マリスと視線がぶつかった。
 鐐だ。
 不躾に見つめていたことを咎められたような、鋭い眼光に射られた――そんな面持ちだ。鐐は目だけで用件を問う。
「あなたは……」
 かすれそうな小さな声で、
「あなたは『人食い』の命を欲していると言いました。戦いは得意なのでしょう?」
「戦いか――……そうだな、」
 マリスは、先刻、鐐が『卸』の男たちに宣言していた言葉を覚えていた。
 ふむ……と言葉を選ぶように、鐐は一呼吸おいてから、低く小さな声でぼそりと呟く。
「得意と言えるようになりたいものだな、まだまだ力は足りん」
 その飄然泰然超然とした彼は、ただ戦いを望んでいるようには思えない――なにか、得体の知れないものを内包しているような雰囲気に、うっそりと眉を寄せた。
 だが、鐐とて明確に己の感情に名をつけることが出来ないのだ。
 この戦いで、あるいはこれからも続く猟兵としての戦いの中で力を得ることは叶うだろう。さりとて次に目指す場は見つかるとはかぎらない。
 おしゃべりを続けるほど今の状況は明るくない。二人はそれ以上話をすることもなく、黙りこくった。
 あまり騒いで、鎧たちに気づかれると面倒だ。
 コイツらには、人喰いヴァンパイア・ヴェール卿――と、鎧が呼んだ――の元まで、『案内』させなければならないのだ。


 【S・TLabo.】からは三人の猟兵が出撃している。
 その紅一点、フィラメントはいま馬車の中で『食材』として運ばれている。
 きっと美味そうな女の子になっているだろう――ザザは場違いだろうが、クツクツと喉の奥で小さく笑ってしまった。
 フィラメントとて十七歳の少女だ。彼女の強さを知っているとはいえ、笑うなんぞ……。
「……ザザさん、なんで笑ってんっすか」
「ん? あ、イヤ、なんでもねェ……女の子ってすげェなって思っただけ」
 ふーん? と気のない返事をした湊偲だった。
 彼らは二人でフィラメントが乗せられている馬車を追っている最中だった。暗い中、音だけを頼りにする追走は、湊偲には荷が重かったため、ザザにすべてを任せてはぐれないようにくっついていく。
 ときおり距離が開きすぎて、早足になったり小走りになったりと、ヒヤリとした場面もあったが、おおむね順調に馬車を追いかけることができた。
 高台を上っていくような傾斜がついて、馬車の中が心配になった。転がり落ちてきたら、仲間たちを支えなければならない――湊偲はそんなことを思うも、それは突然現れた館の姿を見て、振り払った。
 二階建て、その二階中央には大きな窓がある。鎧どもの持つ頼りない篝火が、僅かり窓を照らしたのだ。
 そこに、なにかの影が見えた気がした――遠くて暗いために、ザザの気のせいかもしれない。
 しかし、気のせいだったとしても、それはこの館の主、人喰いヴァンパイアに違いない。
 馬車が停まったことで、中の猟兵たちも気づいたことだろう。
「……さあ出て来い、ヴェール卿がお待ちだ」
 がさがさの声。
 幌が破られるように開けられる。
 瞬間、ザザが鬨の声を上げる。

「一気にぶちのめすぞ!」

 疾風のように木の影から躍り出て、鎧が戦闘態勢を整える前に《バラライカKBN18》が火を噴く!
 短機関銃の弾幕を引き裂くように、《遊泳禁止ハンマー》を手に湊偲も前衛にまで奔り、手近にいる鎧へと重い鉄槌を振り下ろす!
 柄を伝播する電撃にも似た衝撃は、その鎧の堅牢さを物語っている。
「かった……! でも、腕の見せどころですね!」
 赤褐色の双眼がぎらりと光って、ふっと鋭く呼気、ハンマーを横薙ぎに振り回す!
 旋風が巻き上がるほどの一閃に、鎧は大きくバランスを崩して後ろへもんどりうって倒れた。
「貴様らは何者だ!」
「少なくとも、てめえらの敵ではあるな」
 ザザが銃口を向けながら鎧に言い返す。
「――おい、馬車の中は、」
「残念でした」
 鎧が中を改めさせようと幌に手をかけた瞬間、馬車が木端に砕けた。
 鐐の解き放った《霊符》は右翼、マリスは左翼へ《翼宿》を放ち、馬車の周りにいた鎧どもへ強烈な不意打ちを喰らわせた。七縛符によって体の自由が奪われた鎧は二体――それでも、動ける者の方が多かったが、上々だ。
 幌に手をかけた鎧は、禍々しい女郎蜘蛛の傀儡に噛まれ、ガシャガシャとうるさい音を立てて倒れ伏した。
 中から威勢よく現れたのは、フィラメント――彼女は疾駆しながら、仲間と合流して、使い慣れた武装を展開した。
「餌はわたしじゃないよ。わたし達の罠に引っかかった……」
 にやりと嘲笑を浮かべて、鎧どもを挑発。
「君たち」
 凄みを利かせた笑みに、しかし鎧どもは無機質に盾を構えて見せた。
「……言いたいことはそれだけか――我が主への冒瀆――いかな理由があろうとも、死を以て償うべし」
 ガシャン!
 耳障りな金属音を上げて、手負いながら隊列を整えた。
「言いたいことは山ほどありますが――援護と回復は任せてください」
 マリスが、動けないでいる鎧二体の方を向き、鐐に声をかければ、彼はこくりと頷き、
「ああ、任せる。一気に攻めきるぞ」
 紅玉が埋め込まれた彫像のごとき美貌を闇で隠し、鐐は《霊符》を掲げて疾駆し、鎧の懐へと入り込み、魔を祓う力を滾らせ薙ぐ!
 そこへ穿たれたのは、マリスの矢だった。《星屑》に番えられた矢はさらに鎧を砕き突き刺さった。
 その隙は、鐐の符を打ち込む時間を作り出した。
「貴様らの耳障りな声を聞いているだけで気分が悪い、黙して息絶えよ」
 館の主であるヴァンパイアに、出来れば気づかれずに片をつけたいところであったが、そう言ってもいられないだろう。
 倒れ伏した鎧を冷たく一瞥――そのまま館を見たが、ヴァンパイアの姿はなかった。
 厭味ったらしく一礼してやろうと思ったが、それは、叶いそうになかった。
 今、殲滅戦が始まったばかりなのだから。


「頭数じゃ向こうの方が多いが、カンケーねェ! 囲んで袋にしちまえ!」
 発破をかけるザザは、銃弾を撒き散らしながら、仲間の盾として全力で立ち回る。
 弾丸の嵐の中、湊偲から繰り出されるハンマーの重厚な一撃に、ザザはにやりち口の端を釣り上げた。
「ヒュウ! なんて膂力だ、鎧がひしゃげてるぜ!」
 その力を想像するだけでぞっとする。
 そこへすかさずフィラメントの絡新婦が鋭い毒牙を剥いて、湊偲が砕いた鎧の奥の肉へと牙を突き立てた。
 ダダダダダダッ!
 彼の短機関銃が火を噴く中、
「……相変わらずおっかねェな……」
 戦々恐々と、蜘蛛を操るフィラメントを一瞥した。
「そぉら、喰らい付け!」
 振り回されるフレイルを、湊偲は野生の勘を閃かせて迫りくる鉄球を寸でのところで躱した瞬間、突如として鮫が現れた。鎧を紙のように引きちぎり、腕を引き千切らんばかりに牙を突き立てる湊偲の、獰猛な【C・H・S(クレイジー・ヘッド・シャーク)】は鎧の生命力を強奪し、己の――湊偲の糧として取り込んでいった。
「……ううわ……いやいや、オレも呆けてる場合じゃねェな!」
 【ブラッド・ガイスト】を発動させれば、短機関銃は己が血の代償に殺傷能力を飛躍的に向上させた。
「うらァ! いい加減にぶっ倒れろやァ!」
 銃弾を大量に受けた隷属戦士の一人はガシャンと地に倒れ崩れた。
「いったい、きさまらは……!」
「なに、約束を果たしに来ただけだ」
 悠然と歩み出てくるのは、フォルターだ。
 血のように赤い双眸に、己の主の姿を幻視したか、鎧どもはざわりと身じろぎした。それほどの圧倒的存在感と、蠱惑的な所作でもって《黒の鋸鎌》を弄ぶ。
「さあ、穢れた血で薄汚い血花を咲かせるが良い」
 彼女は尊大に歩みゆく――それでも警戒は怠らない。前情報では、コイツらはなかなかに芸達者なのだ。
「奴隷たる愚物にしてはな。しかして、我に刃向う者は何であろうと無残に屠るのみよ」
 笑うフォルターの背後から、疾風が吹き抜けた――ように感じた。
「ここからが本番、ですね」
 己に出来得るすべての力を総動員させて、オリヴィアが炎となって疾駆する――錯覚を植え付けるほどに彼女は鬼気迫る。
 聖なる炎を宿した槍の穂先は堅牢な鎧を、バターを貫くようにいとも簡単に突破し、鎧に新たな血を纏わせた。
「……ううううう!!」
 なにやら恨み言を言っているのはわかったが、何を言っているのか判然としなかった。とにかく、鎧は凶悪な盾を構えたまま突進してくる。
 オリヴィアは逃げも隠れもせず、その場にとどまる――烈声を迸らせ、白銀の聖槍をしっかと握り、丹田に力を込めて、真っ向から睨み据える。
「――っ!!」
 オリヴィアも鎧へと疾駆――その勢いに乗せて、盾を串刺しに穿孔し、鎧を砕いて、強烈な刺突を見舞った。
 しかして、それで気を抜くオリヴィアではない。すぐさま槍を引き抜き構える――懐に入られてしまえば、形勢が逆転しかねないのだ。
 切っ先を鎧どもに向けて、ふと息を吐いた。
「随分頑丈そうな鎧だ、でもアタシにゃ大した障害じゃないよ」
 オリヴィアの攻撃を見ていた霞ノ衣だったが、フフンと自信満々に笑い飛ばして見せた。
「……『卸』の人たちを見分けていましたが、自我や記憶を奪われた元被害者の怨念――というわけではないのでしょうか。それとも、もともと吸血鬼の手先?」
「さあな、そんな細かいことはなんだってかまわないさ」
 ふっと鋭く呼気。
 向かってくる鎧に斧を叩き潰すように振り下ろし、返す刃で振り上げる!
 その膂力から繰り出される力技の応酬に、隷属戦士は成すすべなく倒れ伏していく。
 しかして彼女らにもダメージは蓄積されていく――だが、霞ノ衣ら後ろにはマリスが控えている。
 彼女がダメージを見極め、必要な人へ回復を施してくる。前衛に展開する者にとってこれほどまでに力強い味方はいない。
「支えます! もう一息です!」
 マリスも肩で息をしながら――人を治癒するにはそれなりの代償が必要なのだ――、《星屑》を構え、《星辰》を肌に浮かび上がらせ生まれながらの光を輝かせている。
「マリスも耐えよ、時期に終わる」
 長い髪を靡かせ駆けまわる鐐の声音に、マリスはしっかりと首肯する。
「良い心がけだ――助かる!」
 霞ノ衣は疾風のように走り、武骨なつくりの《戦刃》を閃かせる! 倒れたところへオリヴィアの聖槍が奔って、その身を焼き払った。
「前のめり結構――我がこの場にいたことを感謝するが良い」
 フォルターは、確かに霞ノ衣とオリヴィアの背後にいたが、いつの間にか、オリヴィアめがけてフレイルを振り落とそうとしていた鎧の背後にいて、魔法陣の残滓をも切り裂くように《黒の鋸鎌》で、首を掻っ捌いていた。噴き上がる血飛沫であたりを汚していく。
「もう終いか。たっぷりと可愛がってやるつもりでいたというのに――拍子抜けだな」
「ゆるさん……ゆるさんゆるさん!」
 辛うじて聞き取れた言葉に、フォルターは思わず笑ってしまった。
「貴様に許しを得ねばならんことなんぞ、毛ほどもないわ……さあ、気骨を見せよ。冥府の門を開けてやろう」
 鎧の背後に精緻な紋を描く魔法陣が浮かび上がる――およそ理解できない紋からフォルターが現れて、鋸鎌が振るわれる。
 噴出する血しぶきを浴びてフォルターは、にんまりと嗤う。
「貴様らの飼い主は、こうして人間の首を斬って、血抜きをしているのだろう」
「許せる余地はないよね!」
 フォルターほどに素早くは動けないが、オルハもスピードには自信があった。
 戦場を風のように駆けまわり、《ウェイカトリアイナ》の銘を冠した三叉槍を、高速で突き出し穿孔!
 風の精霊に愛された子のように風を纏い、なお一層加速するオルハは、湊偲に迫ったマスケット銃の弾丸を斬り落とした。
「張り巡らさた、わたしの“巣”――蜘蛛はね、引っかかった獲物は絶対に逃がさない」
 張り巡らされた蜘蛛の糸を模した鋼糸に絡めとられた鎧は、ぎりぎりと締め上げられて、やがて細切れに切断された。
「逃すことのない絡新婦か……やっぱ、おっかねェ」
 ぞっとして、ザザは呟いた。


 鎧の軍勢はずいぶんと数を減らした。
 その頑健で頑丈で堅牢な鎧に守られているせいで、攻撃は通りにくかった――が、それでも彼女らの手にかかれば、雑魚は雑魚であった。
「上手くいってるみたいだね――レックスさん達の気持ちに応えなくちゃ!」
 オルハたちを不安そうに見送った、『卸』の男たちを、『食材』になりかけた人たちを思い返し、自然と拳が固くなる。
「あの人たちは悪いことをしてた……自分達と、大切な人達のために……でも、」
 堅牢に練り上げたオーラがサフィリアを守った。
「それでも、『関係のない私』を助けようとしてくれた……」
 『卸』の男たちは、泥だらけのサフィリアに帰路を教え、献上することもできたはずなのにそれを良しとせず、共にいることすら拒んだ。それは、深く考えずとも分かる。
 必要以上の犠牲を出したくないという、男の――あのレックスの考えだからだ。
 その心意気だけで十分。
 助力するに値する。全力を賭すことに値する。ここでオブリビオンどもを殲滅するために奮闘する理由になり得るのだ。
 サフィリアは隠していたドラゴンの尾を、角を――先刻まで隠していたドラゴニアンたらしめる特徴を現わして、胸元に揺れるラピスラズリのペンダントに触れる。
「そんな、あの人たちを苦しめるオブリビオンは滅するのみ!」
 瑠璃が輝いて、光が収まるころには《竜騎士の槍》が彼女の手に握られていた。
 切っ先を向けて、鋭い刺突を繰り出す!
「反抗されるなんて思わなかった?」
 鎧を砕き、肉を裂き、骨を断って、穿孔する一突きに鎧は、ぐううっと苦渋の唸りを上げてよろけた――が、それに屈することなく戦士は、慟哭のフレイルを振り回す!
 血がこびりついたフレイルは、しかしサフィリアの堅牢なオーラの盾によって防がれた。
「駄目だよ、狩りは最後まで気を張ってなきゃ」
 その隙を逃がすことはない。槍を素早く鎧から抜き、ぐっと腹に力を入れ、地を掴んで、烈気を噴き上げる。
「はあああ!」
 放たれたのは、渾身のドラゴニック・エンド――!
「じゃないと狩られる側になっちゃうよ? 今みたいにね!」
 ガシャッ……と、鎧は力なく鮮血を噴き上げ、地に倒れ伏した。
 霊符を打ち込み、鎧の自由を奪った鐐に続くマリスは、矢を放つ。
 銃弾の驟雨を見舞わせ足止めした瞬間、振り下ろされる巨鎚が鎧を砕き、蜘蛛を操り撃破する――鮮やかな連携で三人は魅せる。
「あんた等じゃ話にも相手にもならない。早くあんた等の『主人』とやらに会わせておくれよ。アタシはそいつを殴りに来たんだから、さ!!」
 霞ノ衣の凄絶な【羅刹旋風】は攻守一体の体をなして、シスター服で戦場を駆る戦乙女は白銀の槍を華麗に操る。
 そして、絶対的に君臨するフォルターは、瞬間移動で隷属戦士を翻弄させた。
 風を纏ったオルハが縦横無尽に駆け、刃を振るう。
「ヴェール卿って人に言ってくれる? もう二度と、ご所望のものは届かないってね――あ、ごめん。その前に君が死んじゃうんだったね」
 動かなくなった鎧を見下ろして、オルハは深い息をついた。


 かくして、静寂は訪れた。
 不気味なまでに沈黙を保っている館には、本当に人喰いヴァンパイアがいるのだろうか。
 一抹の不安がよぎるが、それは杞憂に終わる。
 まるで手招きされ、「入っておいで」といざなわれるように、玄関が開いたのだ。
 闇を強引に引き裂く、明かりが館内から漏れてくる。
 猟兵たちは、互いの目を見遣って意思を確認――その答えは、一様に是だ。
 鎧の破片をまたいで、屋敷へ一歩、また一歩と歩みだす。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『ヴァンパイア』

POW   :    クルーエルオーダー
【血で書いた誓約書】が命中した対象にルールを宣告し、破ったらダメージを与える。簡単に守れるルールほど威力が高い。
SPD   :    マサクゥルブレイド
自身が装備する【豪奢な刀剣】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ   :    サモンシャドウバット
【影の蝙蝠】を召喚する。それは極めて発見され難く、自身と五感を共有し、指定した対象を追跡する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●嘆息するヴァンパイア
 吹き抜けの玄関ホールは広かった。
 臙脂色の円形絨毯が惜しげもなく敷かれている。等間隔につけられた燈火はすべて煌めいている。
 薄ぼんやりとではあるが、不便に感じないほどの明るさが保たれていた。
「……おお、此度の肉は大変活きが良い。これは、メニューを変えた方がよさそうだ!」
 ふふふと薄気味悪く笑い、猟兵たちを睨めつける。
 ぬら光る太い牙の間から真っ赤な舌が蠢いていている。
「いかな私とて、猟兵を食したことはない――いったいどんな味がするのか、すごく興味がある」
 喰いたい。
 今すぐ喰いたい。
 滴る血を啜りながら、喰いたい!
「人間の肉はいくら喰っても飽きることはない。それほどに死ぬ前の感情が、露骨に肉へと反映されるからだ」
 滔々と語る吸血鬼は惚恍と頬を緩ませ、虚空を見上げ、過去の馳走に思いを馳せる。
「私はな、人間の肉を喰いたかったのだ。ハムにするために塩水だって用意した。しかし現れたのは貴様ら、猟兵だ。憎き猟兵だ――これが意味するところが分かるか?」
 ヴァンパイアはゆっくりと階段を下りながら、大仰に手を広げる。
「私は、貴様らをいたぶり殺すという労力を強いられるのだよ」
 それでもヴァンパイアは綽然として、ゆったりとジャケットを脱ぎ、階段の手すりに掛けた。
「しかし、貴様らを喰えるという喜びは、なにものにもかえがたい」
 掌をこすり合わせながら、一歩また一歩と猟兵たちへと近づいてくる。
「誰から捌かれたいのか申告してみろ。私は寛大だ、その通りに肉塊にしてやろう」
 ただし、極上のスパイスを仕込むために、すべての爪を剥ぎ、毛を毟り、歯を抜いて、そのときに思いついた拷問を心行くまで施し、叫び疲れ命を乞い始めたころに息の根を止める――と付け足した。
 人喰いヴァンパイア、自称『美食家』の、ヴェールは、実に陰惨に陰湿に笑った。
フォルター・ユングフラウ
【WIZ】

さて、お待ちかねの調理の時間といこうではないか
今宵の主菜…吸血鬼の挽肉の血のソース和え、とな
赤ワインを添えて、心身共に癒される至福の一時としてやろう

奴の攻撃はどれも厄介ではあるな…今回はUC:アップグルントを使っていくとしよう
当たっても外れても我にとっては有益だが、あえて外して行動阻害と自己強化を狙うのも一興か
奴が霧に包まれれば、黒の血玉より使い魔を解き放ち、奴に纏わせる
使い魔越しの吸血と生命力回復で、負った傷は癒していこう
先の見えぬ霧の中で迷い、苛立ち、怯えるが良い─恐怖の中で死にゆく肉の味、さぞ美味であろうよ

※アドリブ歓迎


サフィリア・ラズワルド
POWを選択

吸血鬼って人間を家畜扱いしてる奴多いよね、家畜を食べて何が悪い!って、私達も他の命を頂いて生きてるから一理あるかもしれないけどだからって人を無駄に怖がらせる必要はないし……あ!そうだ!

『弱肉強食だって言うなら貴方も強者に食べられて死ぬなら文句ないってことだよね?』

【白銀竜の解放】でドラゴンになり【鎧砕き】で吸血鬼に噛みつこうとします。

『ドラゴンの時って人の時より味がはっきりわからないから感想は言えないと思うけど残さず食べるから!』

あれ、引いてる?私おかしなこと言ったかな?

アドリブ歓迎です。




 癪にさわる立ち居振る舞いは、聞いていた通りだ。
「猟兵を粗挽きにするのも良い。血抜きは念入りにしてやろうな、その白い肌がもっともっと青く真っ白になるくらいに」
「まったくいい趣味をしている……やはり我とは相容れぬがな」
「ほう! この私が考えたメニューが気に入らないと?」
「抗えぬ恐怖を受くる絶望は美味だが……我に猟兵を、人肉を喰らう趣味はない。しかし、我の今宵の主菜は決まっている」
 ほお! とヴェールは期待に目を輝かせた。
 ダンピールとはいえ、ヴェールの嗜好に理解を示すとは、なかなかに酒が進みそうだと、薄気味悪く肩を揺らした。
 メインディッシュのメニューを早く聞かせろと赤い目で急かしてくる。だが、その輝きは一瞬のうちに凍りつくことになった。

「吸血鬼の挽肉の血のソース和えだ」

 フォルターのほっそりとした指がヴェールの心臓を指す。
「赤ワインを添えて、心身ともに癒される至福のひと時と洒落込んでやろう」
「そうか、私の血肉を求める、と?」
「無論だ。今まで貴様がやってきたように、な」
 冷徹冷厳に、そして傲慢ささえ滲ませてフォルターは頰に笑みを刻み込む。
「さて、おしゃべりは終いだ。お待ちかねの調理の時間といこうではないか」
 これ以上ゲテモノ食いと話すことはなにもない。フォルターは血のように赤い双眸を光らせて、《黒の爪鞭》で空を裂いた。
「貴様が沈むのは、この霧よりもなお暗き場所――」
 その切っ先でフォルターは己の手首を斬り、血を噴出させた。その血はヴェールに纏わりつき苦しめた上に、黒い霧が吸血鬼の視界を遮る。
「絶望に迷い、逝け」
 黒霧で視界を塞がれ、身動きがとれなくなった――と、思いきや聞こえてきたのは、耳障りな高笑いだった。
 次いで放たれた漆黒の蝙蝠は、遥か高みからキイキイと甲高い喚声を上げて飛びまわっている。
 そのすべての五感が共有されているのだ。それは、闇に視界を遮られたところでヴェールにとっては、痛くもかゆくもないこと――フォルターの解き放った《黒の血玉》より出現した使い魔たちの攻撃を、身軽に躱し続ける。
「ほうほう、こうして私に運動させて、さらに腹を空かせるという算段か!」
 自己の強化は成功したが、頭上の蝙蝠を憎々しげに睨め上げ、チィっと舌を打った。
 しかしフォルターはすぐに冷静さを取り戻す。邪魔であれば撃ち落とすまでだ。
 《黒の血玉》に封じられているフォルターの下僕蝙蝠が、黒い線となって天井を目指して飛翔して、組んず解れつの取っ組み合いの末に、引き分けて落ちてきた。
 その間にも、僅かな視界からヴェールは、抜剣してフォルターに肉薄してくる!
「そこだ!」
「……くう!」
 なんとか剣を受けきるも、蝙蝠の群れの奥からも見える赤瞳に、フォルターは眉根を寄せた。
「よい、よい一手だった!」
「貴様に、なにを言われたところで、露ほども嬉しくなんぞないわ」
 凄烈に吼え、手首から血を噴き上げ、迫りくるヴェールへと血潮の刃を突き立てる!
「されど弱肉強食! この理はいつの世も君臨し続ける!」
 フォルターの血の刃を受け焼けるような痛みがあるはずなのに、けろりと嗤い続けるヴェールの凶刃が、彼女に迫る――瞬間、
「ひいて!!」
 それは耳に鮮烈な声だった。
 フォルターの背後から白銀の影が奔った。己の寿命と引き換えに完全なるドラゴンの姿へと変容したサフィリアが、ヴェールの首元へその残酷なほどに鋭い牙を突き立てたのだ。
 不意打ちの攻撃に、ヴェールはたたらを踏んで、バランスを崩した。そのタイミングを見逃さなかったサフィリアは、ヴェールの胸に爪を立て強引に押し倒す。
「弱肉強食だって言うなら、貴方も強者に食べられて死ぬなら文句ないってことだよね?」
 血を滴らせた牙を剥いて、サフィリアは再度噛みつく!
「ぐッ!」
 息を詰め、根源的な痛みに耐えるヴァンパイアだったが、サフィリアを斬らんと剣を持つ手がぴくりと動く――それを目の端で捉え、凄まじい膂力を発揮して、一度翼を打って宙へ逃れる。そこへヴェールの剣閃が奔っていた。
 距離を取って、ドラゴン・リベレーションを解く。銀色の長髪を揺らして、紫瞳に強い侮蔑を込めたサフィリアが立った。
「吸血鬼って、」
 怒りのボルテージが上がっていくのが見て取れるヴェールは、案外扱いやすい単純なヴァンパイアなのかもしれないと、こっそりと観察していた。
「貴方みたいに、人間を家畜扱いしてる奴多いよね。だから、家畜を食べて何が悪い! ってことでしょ」
「そうだ娘、よぉくわかってるじゃあないか!」
 我が意を得たりと大仰に手を打って、サフィリアに血で汚れた手を差し出してきた。それが握手を求めているというのなら、実に迷惑極まりないことだった。
「私達も他の命を頂いて生きてるから一理あるかもしれないけど、だからって人を無駄に怖がらせる必要はないし」
 冗談は寝ながら言え――サフィリアは言外にそう吐き捨てた。
「そもそも、貴方、気に入らないのよね」
「ふふふ、小娘よ、そこから動くな」
 ヴェールは肩を小さく震わせて、血濡れの誓約書が弾丸のように放ち、それは呪言となってサフィリアに襲いかかる。
 これの言を違えれば致命傷を負うこととなるだろう――しかも、立ち止まればいいだけの簡単なものだ。
 それだけに大ダメージが予想された――が、だからどうした。
「貴方の命令に従ってあげる義理もないわ、却下よ」
 白銀竜の解放!
 ぎしりと体が軋むような激痛に襲われたが、無視――人の要素を全て消して、完全なるドラゴンの姿へと再び変容し、その鋭い牙を剥き出しにヴェールへと襲いかかった。
 普段はリミッターがかかっている膂力だが、枷は跡形もなく消え去って、凶悪な力で持ってヴェールを翻弄する。
 がっと大きな口を開けて、剣を持っている右腕へと牙を突き立てた。周りではフォルターの使い魔たる蝙蝠が、小さな噛み跡を残していく――それは主人への供物を捧げるため。蝙蝠が奪い取った生命力はフォルターの力となる。
「ドラゴンの時って、人の時より味がはっきりわからないから、感想は言えないと思うけど――残さず食べるから!」
 口の端についた血を拭いながら、サフィリアは凄烈に笑んで見せた。
「吸血鬼の踊り食いか――それもまた一興」
「ん? 私、おかしなこと言ったかな?」
 くつくつと喉の奥で笑うフォルターを見て、サフィリアは首を傾げるのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ザザ・クライスト
【S T・LABO】で参加

【POW】前衛・盾役として立ち回る

「絵に描いたようなヤロウだぜ」

人喰いにして美食家の吸血鬼サンよ、銀の弾丸はキライかい?
吸血鬼には銀の弾って相場は決まってンだよ!

銃撃で「挑発」して、攻撃はバラライカで「武器受け」
防御には「第六感」「野生の勘」を働かせる

「クッソ、何がルールだ!? ワケがわからねェ!」

刀剣や眷属を捌くも蓄積するダメージに吹っ飛ぶ
直撃を「覚悟」でオレに「おびき寄せ」て味方を活かす

「チャンスを見逃すなよ!?」

「ガハッ……!!」

思わぬ打撃に意識が飛びそうになる
吸血鬼の大技を受けて狂ったマリオネットのように無様に踊る

最悪は【戦場の亡霊】
切り札を惜しむ余裕はねェ


フィラメント・レイヴァス
【S・T Labo.】で参加

『美食家』だなんて、聞いて呆れると思わない?と仲間に投げかけ
本当に食材に拘るというのなら、自分の手で探して狩らないとね
それをしない君には、そんな肩書きは似合わないよ

【SPD】重視で戦闘
絡新婦とSirene、二つの傀儡を操り
操るための鋼糸やワイヤーも武器とする

ザザと湊偲が作ってくれた隙は無駄にはしない
ちゃんと仕返しはしておくとも、任せて

フェイントを仕掛けてだまし討ちを狙う
敵の背後を取らたら【Sirene】の中に閉籠めてあげるよ
脳髄が溶けるような彼女の唄声をご堪能あれ
彼女の肋骨はね
傷口をえぐって、生命力吸収する仕組みだ
たまには、自分がご馳走になってみたらどうかな?


越喜来・湊偲
【S T・LABO】で参加

【POW】
親玉を見つけたなら、やるべき事は一つだけっす
あいつを倒す!

前衛に配置
こいつも鎧装備、ハンマーで【鎧砕き】が出来そうです
まずは奴の装甲を砕きましょう!
ドラゴニック・エンドは味方の連携に合せ、確実に当てられるタイミングで使用
そこから【串刺し】で追い討ち
敵からの攻撃は【野生の勘】を使って方向を察知して回避

この世にゃ、人の肉なんかより美味いもんが一杯あるんです
駅前のラーメン屋の塩ラーメンとか、街外れのカレー屋の具材デカいカレーとか
高級食材で無くてもすげぇ美味くて人を笑顔にしてくれるんです
どんなに拘っても、苦痛や悲鳴だらけのあんたの飯じゃ絶対勝てねぇよ



「まったく……『美食家』だなんて、聞いて呆れると思わない?」
 フィラメントの言下、湊偲は大きく頷いた。
「駅前のラーメン屋の塩ラーメンとか、街外れのカレー屋の具材デカいカレーとか
高級食材で無くてもすげぇ美味くて人を笑顔にしてくれるんです」
 迸るのは、人肉でないといけないという偏食をみせるヴァンパイアへの怒りだった。
 美味いものを上げればキリがない。それがたとえワンコイングルメであろうと、友達が作ってくれたお菓子であろうと、そこに多くの笑顔がなければ成立しないのだ。
「あ、そっち? 食材を自分の手で探して狩らないとか、真の美食家じゃないでしょ」
「――では私からも問おう。貴様らは、肉を喰わんのか。魚を喰わんのか、菜は、根は、種は、果実は? 貴様らはいったい何の生命を栄養とし生きている? 植物のように水と光で育つのか? されど、その植物とて、脈々とその地で死したものの養分が溶けだした土に根を張るのだぞ? 命を糧としないものなんぞ、存在しない。
 ならば、食物連鎖の頂点に君臨するこの私が、私の下に連なるものを喰うのは自然の理――私自ら狩ろうと狩らまいと、それは覆ることはない」
 猟兵よ、貴様は美食家と狩人をない交ぜにしていないか――ヴェールはくつくつと喉の奥で、愉快そうに笑う。
「どのような手段で手に入れたかは問題ではない。私は、その食材で、最高の至高の絶対的な一品を作り上げ喰うことが、たまらなく好きなのだ」
「絵に描いたようなゲスヤロウだぜ」
 吐き気がするとザザは唾棄して、愛銃を構える。
「人喰いにして美食家の吸血鬼サンよ、銀の弾丸はキライかい?」
 手負いのヴェールは、しかしまだ余裕綽々に、抜き身の剣を構えてみせた。
「嫌いだね、とても」
「嫌いでもなんでも、いっぺん食ってみろよ。吸血鬼には銀の弾って相場は決まってンだ!」
 短機関銃《バラライカKBN18》が爆音を上げ、雨あられと弾丸を吐き出す!
 しかし、それはヴェールに傷を負わせることなく、剣で弾かれ躱され、接近を許した。
「貴様の目玉は、美味そうだ――煮溶かしてスープにして飲んでみたいな」
「きッしょいこと言ってんじゃねェ!」
 振り上げられた剣閃を銃身で受け流し、もう片方の手で自動拳銃《アレスKBN13》の引き金を引く!
 脇腹を撃ち抜き、よろけたところに湊偲の巨大なハンマーが振り下ろされる!

 ズゥ…ン!

 屋敷が揺らぐほどの地響きは、ヴェールに直撃せず床に落ちた衝撃だった。
「青い肌というのは、皿に彩りを添えるだろう――貴様は重宝しそうだ」
「願い下げです!」
 マーマンの膂力をもって大槌を振り上げ、牽制する湊偲の背後から、女郎蜘蛛が走ってヴァンパイアに張り付き、噛みつく!
「蜘蛛の素揚げを食ったことはあるかね?」
 それを一刀のうちに斬り捨て、湊偲にまた一歩近づいた。
「いちいち、腹の立つ……!」
 ザザは、《バラライカKBN18》から火を噴き、湊偲からヴェールを強引に剥がした。
「チャンスを見逃すなよ!?」
 彼の一喝に、フィラメントは気を引き締める。
 前衛で立ち回る湊偲も、ザザの弾幕に怯んだヴェールへ、渾身のドラゴニック・エンドを叩き込む!
 その激痛に、たまらずよろめいたヴァンパイアの体内を衝撃波となって伝播し揺さぶった。
 息をつかせない連撃はまだ続く。
 ヴェールの背後をとったフィラメントの、成功を確信した自信たっぷりの笑みを、ザザは見た。
「髄まで溶かせ」
 拷問傀儡『Sirene』が、素早くヴェールを飲み込んで閉じ込めてしまったのだ。
「君の囀りは狂おしく美しい不協和音……たまには、自分がご馳走になってみたらどうかな?」
 深くなるフィラメントの笑みを、ヴェールは見ることは叶わない。
 今、傀儡の中では、脳髄が融け腐るような唄声が響き渡り、精神が崩落していく恐怖に晒されているとこだろう。
「さすが、フラウ・レイヴァス……」
「いろいろと、正論を広げて自分を正当化してたけど、結局のところ、わたしは君が気に入らないのよ」
 怖気を呼び起こすような声音だったが、その放たれた言葉に湊偲は頷く。
「そっす! 気にいらないんです!」
 なにもかもだ。
 このヴァンパイアによって、『卸』という苦痛が生まれたことも、『食材』という絶望が生まれたことも、なによりも仲間が『食材』として見られたことも、全部気に食わない。
「だいたい、この世にゃ、人の肉なんかより美味いもんが一杯あるんです」
「ほう! 人肉の味を知っているのか? 喰らったこともないのに、よく言える!」
 『Sirene』の内側から無数の刀剣が噴出して猟兵たちを斬りつける!
 それらを隠れ蓑して、次いで放たれたのは、血塗れの紙切れ――クルーエルオーダーの誓約書だった。
 だが、野生の勘が働いたザザは、辛くも避けることに成功した。
 カニバリズムは禁忌だ。それは、脈々と文化として受け継がれてきた。いわば湊偲やフィラメントの「常識」だ。
 しかしヴェールの「常識」には、その禁忌は記されていないのだ。いくら言葉をぶつけようとも、意見が交わることはない。
「どんなに食材に拘っても、苦痛や悲鳴だらけのあんたの飯じゃ、絶対勝てねぇよ!」
 それでも湊偲は、叫ばずにはいられなかった。 
 この男によってどれほどの命が失われてきただろう――最高のスパイスだとかのたまって、残酷な殺し方を繰り返してきたのだ。
 この屋敷には、非業の死を遂げた人々の慟哭が染みついている。
「ああ、よくもやってくれたな……腹が減っているというのに、血まで足りなくなってきた――」
 ぞわりと刀剣が浮かび上がって、不可視の使い手に握られているかのように、剣は猟兵たちに襲いかかってきた。
 蜘蛛を斬り、湊偲のハンマーを弾き飛ばし、ザザの弾幕を突き崩し《バラライカKBN18》では受けきれない斬撃に、一歩二歩と後退させられる。
「さて、そろそろじっとそこに立って、私とおしゃべりをしよう。なァに、話題は私が提供してやろう」
 剣閃の乱舞の隙間を縫うように、再度放たれた契約書に、今度こそザザは捕まった。
「クッソ、何がおしゃべりだ!?  ワケがわからねェ!」
 ルールを破れば大ダメージは免れない――しかし、唯々諾々と従ってやるつもりもない。
 ザザは、来る衝撃を覚悟して、鉛の弾をばら撒いた。
 瞬間、
「ガハッ……!!」
 想像以上の衝撃に意識が飛びそうになった――だが、今の攻撃にヴェールは満足そうに笑い、わざわざ隙を作った。
 それを見逃す湊偲ではない。《遊泳禁止ハンマー》による打撃から、繋がれたドラゴニック・エンド――召喚されたドラゴンの力の奔流がヴェールの体内を駆け巡り、内側から強烈なダメージを与える!
 ザザと湊偲が作りあげた絶好のチャンス! これを逃すということは二人の命を蔑にするということと同義。
「ちゃんと仕返しはしておくとも、任せて!」
 フィラメントが走らせたのは絡新婦――蜘蛛による攻撃にヴェールは剣技を披露する、刹那、大口を開けた『Sirene』が、またもやヴェールを飲み込んだ。

「動かずじっとして――そして、食われるのは、やはり君の方だよ」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

マリス・ステラ
笹ヶ根・鐐(f08426)と連携
他の猟兵とも協力します

弓で「援護射撃」をして、負傷者には【生まれながらの光】
多少のダメージは無視、重傷の人を優先
緊急性が高い時は複数同時も実行
それ以外は他の人に任せます

「回復は有限です。少しくらいは我慢できるでしょう?」

叱咤して味方を「鼓舞」しながら支えます
防御は「オーラ防御」と「カウンター」の投げ「第六感」を働かせて対応

「鐐、彼の手管に惑わされないで」
刀剣や眷属は彼の本命じゃない

「殺そうとするなら、殺される覚悟をしなくてはなりません」

「破魔」の力を宿す声で語りかける
狩られる者の悲鳴を甘美に感じるひともいるようですから

あなたには滅びという名の救済を「祈り」ます


笹ヶ根・鐐
マリス・ステラ(f003202)と連携。

慇懃に一礼。
「貴公におかれてはご機嫌うるわしゅう。
趣向を変え、本日は手ずからの狩りを楽しんで頂こうと。」
狩人?最後に立っていた者に決まっている。

「破魔」を加えた縛符を乱射、
領主のみでなく刀剣・蝙蝠も捕縛し動きを阻害。
「惑乱も本命も無い、全て止めるだけだ。
私自身だけが剱というわけではないからな?」
そう、この場の猟兵は二人だけではない。

動きが鈍ったら符を剣と成し懐に飛び込む。
「過去より来た破滅のはずが、私のような未来への落とし子を産む。
ヴァンパイアとは因果な性だと思わぬか、卿?」
狙いは心臓、常世への道標。

「狩人は獣にとっての獲物でもある。
忘れた不覚を恨め。」


オリヴィア・ローゼンタール
随分と自信家のようですね
懐へ招き入れてくださるというなら、その悪食で膨れ上がったはらわたを食い破ってさしあげましょう

【属性攻撃】【破魔】で槍に聖なる炎の魔力を纏い、
【血統覚醒】で吸血鬼を狩る吸血鬼と化し戦闘力を増大
私流の調理を披露しましょう
よく肥えた吸血鬼のベリーウェルダンなどいかがです?

聖槍を縦横無尽に【なぎ払い】、炎の【衝撃波】を起こして
誓約書を焼き払い、宙を舞う刀剣を【吹き飛ばす】
【怪力】を以って斬り打ち穿ち、ズタズタにする
生きたまま焼かれ斬り裂かれる痛み、身を持って識るがいいっ!

刺突したまま内側から炎を噴き出し焼き殺す
食欲の失せる光景……やはり、悪趣味ですね


キファ・リドレッタ
――そう、お前ね。
美食家気取りのヴァンパイア。
お前が手折ってきたぶん相応に、『金枝の罪』は負ってもらうわ。

金枝の罪は頭に宿る大花の蔓。
距離を取って戦いたいの。『毒』で溶かしたくないから。
勘違いしないで、決してお前の為ではないわ。
私を喰うと、つまり、触れられると言った全員、どろりと溶けて死んだものだから。愚かしい期待はもううんざりなのよ。
だからお前が近寄る前に、蔓の『早業』ですぱりといくわ。

ああでも、誓約書にしても怪我にしても、花に血が飛ばないように気を付けて。
花は花でも食人花。それはとても、『うかつだわ』。
お前は、自分が食べられるとは思わなかったの?


紺屋・霞ノ衣
やっと会いに行けるねぇ
あの鎧?みたいなのは大して歯ごたえなかったからね
期待しているよ、ヴァンパイア様

初手は【先制攻撃】、あとは【2回攻撃・怪力・鎧砕き・鎧無視】
なんだか高そうな鎧だけど、壊れたらただの鉄くずだからね
野蛮なる拳は基本威力重視、鎧が壊れたら回数重視にして叩き込む
敵からの攻撃は【武器受け】と【怪力】で受け止める

ヴァンパイアってのは何で偉そうなのかね
アタシ等に比べたら人はか弱いもんだから上に立てるんだろうけど
そんな所でお山の大将を気取っていながら、その醜態はなんだい?
それとも食べてばかりで肥えちまったのかねぇ
でも家畜みたいに人に肥やして貰って、猟兵のアタシ等に狩られるんだ
ピッタリだ




 死闘を繰り広げる猟兵たちに、マリスは己の疲労を覚悟で、聖痕を輝かせる。マリスの聖性が癒しの光となって、猟兵たちに降り注いだ。
 瞬間、襲われるのは気絶しそうなほどの重苦しい疲労感。
「まだまだ、いけるでしょう? 叩きますよ!」
 マリスは猟兵たちを鼓舞して、鐐へ視線をやる。ゆらりと霊符を手に立つ彼は、ヴェールとの距離を一足飛びのうちに詰めた。
 そして、慇懃に一礼してみせた。これに驚いたのはマリスだけでない、ヴェール本人も瞠目している。
「貴公におかれては、ご機嫌うるわしゅう」
「厭味か、貴様」
 血に塗れたヴェールは肩で息をして、鐐を睨みつけた。
 炯々と尖り、爛々と燃え、煮えたぎる屈辱が発露している。
 しかし鐐はぴくりとも表情を変えずに、
「趣向を変え、本日は手ずからの狩りを楽しんで頂こうと」
「ハハ、貴様……私に狩られて喰われたいというのか、若い男、猟兵……ふむ、」
「なにか、勘違いをされているのでは?」
 鐐の慇懃無礼な態度が本領を発揮する。
「狩る側と、狩られる側を勘違いしていると申し上げておりますゆえ――狩人は、我ら。獲物は、貴公」
 とはいえ、これから多対一の戦闘は激化する――この場合、最後まで戦場に立っていた方が狩人だったということになるだろう。
 鐐は、しかしみなまで言わず、破魔の力を織り込んだ七星七縛符がヴェールを襲う!
 その強烈な捕縛の力に、ヴァンパイアは狼狽える。
「ハハ、ようやく会えたな!」
 霞ノ衣の豪気な笑い声が聞こえた瞬間、身動きが取れなくなっていたヴェールの顔面に、一意専心の力が込められたワイルド・フィストがめり込む!
 殴れば殴るほどに霞ノ衣の力は増していく、鎧砕きの一撃に床に倒れ伏した。
「外の鎧? みたいなヤツらは大して歯ごたえがなかったからね。あんたはどうだよ、ヴァンパイア様?」
 殺意を噴き上げて霞ノ衣――長身の彼女の影からシスター姿のオリヴィアが旋風のごとく疾駆、燃え盛る聖槍をヴェールの腹を刺し貫くように奔る!
「懐へ招き入れてくださるというなら、その悪食で膨れ上がったはらわたを食い破ってさしあげましょう」
 柄を上ってくる衝撃は、決して腹を貫いたわけではなく、堅いなにかに衝突したような感触――ヴェールの持つ剣の腹にガードされていた。
 しかしオリヴィアは、それで終わらせなかった。
 素早く引き、今度は顔面目がけて刺突! それも寸でのところで躱されたが、それは織り込み済みだ。僅かに仰け反った隙に魔力をこれでもかと注ぎ込み、轟然と燃え上がる聖炎を発露、それを心臓目がけ突き込んだ!
「くう……ッ! きっさまァああ!」
 燃え盛る穂先を剣を持たない手で何とか掴み取り、牙をむき出しにして吼えた。
「よく肥えた吸血鬼のベリーウェルダンなどいかがです? 私流の料理ですが、きっととてもおいしいはずよ」
 少なくとも、貴様の料理よりは! とオリヴィアは憎悪を滲ませて唾棄した。
 血統を覚醒させ、メガネの奥の双眸を真紅に染め上げるオリヴィアは、己の命と引き換えに、凄まじい力を発揮させて猛然と聖槍を繰り出し続ける。
 対してヴァンパイアは防戦一方なった。霞ノ衣の怪力から繰り出される殺気に満ちた拳が死角から放たれ、援護射撃を繰り返すのは、後方からその身で治癒を受け持ったマリスだ。
 そして、キファは少し離れたところから《金枝の罪》を巧みに操り、ヴェールを打ち据える。
 半身が美しい魚の尾ヒレのキファは、紺碧の瞳をすうっと細めて、宙に水を遊ばせた。
 ――お前ね。美食家気取りのヴァンパイアというのは。
 水鞠に乗る彼女は、ヴェールに近寄らないように、声の代わりに文字を綴った。
「話せんのか……おもしろい! その肉、喰ってみたい!」
 その肉への執着は、確かに認めよう。しかし、それだけに薄気味悪く、猟兵たちを辟易させた。
 ――どろりと溶けて、お前が腐り落ちるだけよ。
 だから近づかない。今まで淡い期待を抱き、他人に触らせたこともあった。あのような惨状を、心に傷はもう負いたくない。それが、たとえ外道極まりないヴァンパイアであろうとも、だ。
「なんともおもしろい! ならば貴様も殺し、他のものに毒味をさせよう!」
 瀟洒な鎧は砕け、体のあちこちから血を噴き出し、焼き焦がされているというのに、口は減らない。
 ――ああ、なんでもいいけど、花に血が飛ばないようにね。
 キファの銀髪を飾り付けていた薄青い大きな花は、蔓の先に移っている。
 ヴェールが、水文字を読んだ時には、すでにその花はヴェールの血で汚れていた。先刻、蔓に打ち据えられた時に散ったものだ。
 水は揺らいで新たな文字を描きだす。
 ――花は花でも、お前の血を糧とする食人花よ。
 キファは大きく嘆息した。
 それがトリガーとなって、べったりと付着した血液を舐めとるように花は、たくさんの花弁を広げた。
 中から現れたのは、狂暴凶悪残酷な無数の尖牙を生やした食人花――それはヴェールへと残忍に食らいつく!

「ぐああああぁぁぁぁ!!」

 ――お前は、自分が食べられるとは思わなかったの?
 腕を食い千切られ、喉が破れるほどの絶叫を上げ、床をのたうち回り、血で絨毯を汚していく。
「くそ……! 私の、私の腕がぁぁあああ……!」
 召喚されたのは、無数の剣――キファを、霞ノ衣を、オリヴィアを、そして後衛で回復や援護射撃で支え続けるマリスを狙って、解き放たれる。
 されど――
 それとタイミングを合わせたかのように鐐の呪符が撒かれる――鐐の命と引き換えに捕縛するその力は、使うほどに鐐は死に近づいていく。それほどのリスクを伴うがゆえに強力。
「鐐、彼の手管に惑わされないで」
 踊り狂う刀剣は、彼の求める敵ではない――マリスは声を張り上げた。
「惑乱も本命も無い、全て止めるだけだ。私自身だけが剱というわけではないからな?」
 剱――たしかに、ここに戦えるものは彼以外にもいる。仮にこの戦場に立ち、人喰いヴァンパイアと対峙したのが、鐐だけだったなら、答えは違っていただろう。
 隻腕となり果てたヴェールは、いまは鐐の術にかかり動けない。
 霞ノ衣がごきごき関節を鳴らしながら、首を回す。倒れ伏したヴェールの胸倉を掴み上げ、
「ヴァンパイアってのは何で偉そうなのかね。アタシ等に比べたら人はか弱いもんだから上に立てるんだろうけど……お山の大将を気取っていながら、その醜態はなんだい?」
 しゃきっとしなよ! 烈声を上げ、霞ノ衣は顔面に拳を突き刺した。
 その衝撃に吹き飛んでいく。
 ぜいぜいと肩で息をしながらも、焦燥すら滲ませたヴェールはふらつきながらも立ち上がる――それを好機と見ずして、一体いつが好機か。素早く走った燎は、懐へ入り込み、
「過去より来た破滅のはずが、私のような未来への落とし子を産む。ヴァンパイアとは因果な性だと思わぬか、卿?」
 狙いは心臓、常世への道標――鐐は持つ《霊符》を短剣のように鋭い刃と化す。実にしなやかにヴェールの懐へと飛び込んで、鎧の砕けた胸を目がけ、袈裟がけに振り上げる!
 答える力は残っていないようだ。
「殺そうとするなら、殺される覚悟をしなくてはなりません」
 その言葉を鐐は聞いているのか、いないのか。射抜かれたヴェールへ、マリスはなおも言葉を紡ぐ。
 狩られる者の悲鳴を甘美と感じ、求め続けた愚かなるものへ。
「あなたには滅びという名の救済を祈ります」
「狩人は獣にとっての獲物でもある。忘れた不覚を恨め」
 放たれた矢と、霊符はヴェールへ突き刺さる。
「家畜みたいに人に肥やして貰って、猟兵のアタシ等に狩られるんだな。ハっ、ピッタリだ」
 鼻で笑った霞ノ衣の強烈な拳がヴァンパイアのボディに極まる!
 血を吐いて、どさりと倒れ伏したところへ、《金枝の罪》の蔓が鮮やかな早業でもってしなり、うねりを上げてキファの絶望を具現化していく。
(「お前が手折ってきた分の、金枝の罪は背負ってもらうわ」)
 水文字にしなかったのは、ヴェールはもはや何も見ていなかったから。
 そして、オリヴィアは真紅の双眼にヴァンパイアの最期を映す。
「生きたまま焼かれ斬り裂かれる痛み、身を持って識るがいいっ!」
 烈気を漲らせた吶喊を上げ、聖炎を纏った槍で、ヴァンパイアを串刺しにし、燃やし尽くした。
 その炎が失せるころ、ようやく静寂が訪れた。
「こうやって、絶望の中死んでいったら、最高のスパイスが施されている……ね、さっぱり理解できないね」
 霞ノ衣はため息をついて、
「食欲の失せる光景……やはり、悪趣味ですね」
 いつもの金瞳に戻ったオリヴィアもまた、嘆息した。

 人喰いヴァンパイアの脅威は去った。
 この先、あの村で『卸』をしていた男たちが、罪を告白するのか――闇に堕ち続けるのか。それは猟兵たちの知るところではない。
 それでも、人の営みに波風をたてるオブリビオンは、消滅した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年02月04日


挿絵イラスト