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残響スターマイン

#UDCアース #呪詛型UDC

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●夜に咲く華
 夏の盛り、全国各地で開かれる花火大会。
 港で行われる大規模なそれには屋台がずらりと立ち並び、大勢の人々が詰め掛けていた。
 浴衣姿で楽しそうにしている男女のカップル、友達同士で、家族で、屋台を冷やかしに一人で――。
 それぞれが、それぞれの思いを持って花火が打ち上がるのを見上げ、屋台を練り歩く。
「綺麗ね」
「今の花火が一番大きかった!」
「あれ、ハートの形をしていたわ!」
 夜空を彩るように、次々と打ち上げられる花火を大勢の人々が楽しんでいた。
 そして花火が締め括り、いわゆるスターマインと呼ばれる幾つもの花火が短時間のうちに連続して打ち上がる、花火の花形とも言えるその瞬間。
 会場にいる全てと言ってもいい人々が夜空を見上げ、歓声を上げていたその時に――何人かの人間が消えていることに誰も気が付かなかったのは、無理もないことだったのかもしれない。

●グリモアベースにて
「お前さん方、花火は好きか?」
 花火にも色々あるが、今回は打ち上げ花火だと深山・鴇(黒花鳥・f22925)が集まった猟兵達にそう言って笑みを浮かべる。
 UDCアースの某港にて行われる、それなりに大規模な花火大会。それが今回行ってきて欲しい場所だ。
 港にはもちろん屋台がずらりと並び、椅子が並んでいるタイプやコンクリートの上に敷かれたビニールシートなどの有料席もある。港周辺にも、花火を楽しめるスポットが幾つかあって、そこから花火を楽しむ者もいるのだという。
「最後に打ち上がるスターマインがかなり有名らしいからな、期待していいと思うぜ。もちろん、ただ花火を楽しんできて欲しい訳じゃない。花火大会に現れる怪異……呪詛型のUDCが確認されてな」
 日常を謳歌する人々が時折巻き込まれるUDCの怪異、それは運悪く巻き込まれる事故のようなものだが、未然に防げるとあっては知らぬ振りはできない。
「この怪異なんだが、花火大会を楽しんだ人々を異空間に連れ去る怪異だ」
 特に、花火を楽しんだ者を引き摺り込む性質があるらしく、猟兵であればほぼ連れ去られるのは間違いないらしいと、予知で得た情報を鴇が告げる。
「連れ去られる先は狂気に満ちた空間でな」
 身の内にある狂気を増幅し、それを発露させるような空間。また、この空間の厄介なところは、身の内に狂気を抱えぬ者であっても、過去にこの場に囚われた者の狂気を強制的に追体験させるのだという。
「そうやって発狂寸前にまで追いやって弱ったところを――」
 喰うのだ。
「UDCアースにおける行方不明者は年間で数万人と言われている。この花火大会の日に、人が数人消えたところですぐには気付かれないからな」
 ただし、喰われた人は戻ってこない。だからこそ猟兵達が呼ばれたという訳だ。
「狂気に飲まれそうになるとは思うが、それに抵抗して怪異を倒してきてほしい」
 体験する狂気は様々あるだろが、狂気に飲み込まれぬよう気を付けて。
「ちっとばかし、しんどいかもしれんが……花火を楽しむついでだと思って、ひとつよろしく頼む」
 花火を楽しむついでにしては、随分としんどそうな案件だけれど。
 鴇が話を締め括ると、転送ゲートを開く為にグリモアに触れた。


波多蜜花
 閲覧ありがとうございます、波多蜜花です。
 今回の舞台はUDCアース、夏の終わりに花火はいかがでしょうか? ついでに狂気もいかが? というお誘いです。
 もちろん一章だけのご参加も歓迎しておりますので、イベシナ気分で参加して頂いても大丈夫です。

●第一章:日常パート
 某所の港で行われる大規模な花火大会です。
 港には沢山の屋台が出ていますので、食べたいものは大抵揃うでしょう。有料席は椅子が並んだタイプと、コンクリートに二畳分のブルーシートが敷かれたタイプとございます。もちろん、どこか空いている場所に腰掛けて、歩きながらも花火を楽しめます。
 人混みが苦手な方や、もう少し落ち着いて花火を鑑賞したい方は港周辺の穴場スポット的な場所がお勧めです。ビルの屋上やホテルの一室を借り切ってなんてシチュエーションも良いと思います。一般的に考えて大丈夫そうな場所でしたら採用致しますので、色々考えてみてください。
 最後のスターマインまで、どうぞお楽しみください。
 プレイング受付前に断章を挟みます。
 恐れ入りますが、受付期間前のプレイング送信は流してしまう可能性が非常に高くなっております。断章が入り次第受付期間をお知らせいたしますので、MSページをご覧ください。

●第二章:冒険パート
 スターマインが終るか終わらないかの頃合いに、異空間に連れ去られます。この異空間は狂気に満ち溢れており、自身の狂気を引き摺りだして増幅させたり、今までに取り込んだ人間の狂気を追体験させたりします(こちらは狂気に落ちるようなタイプじゃない人や、設定的に狂気と縁遠い方向けかもです)
 狂気の種類はお好きに設定してくださって構いません、殺人衝動や恋愛の狂気など、お好きなものを選んでください。
 どのような狂気に囚われるのか、どのように狂気に落ちるのか、どうやって狂気に抵抗するのかをプレイングにお書きください。
 狂気に抵抗できなかったよ! というプレイングも可ですが、成功どまりかと思います。
 プレイング受付前に断章を挟みます、受付期間などはMSページをご覧ください。

●第三章:戦闘パートです。
 怪異との戦闘となりますが、敵となる怪異は二章で狂気に落ちた自分(ドッペルゲンガー)となります。
 プレイング受付前に断章を挟みます、受付期間などはMSページをご覧ください。

●同行者がいる場合について
 同行者がいらっしゃる場合は複数の場合【共通のグループ名か旅団名+人数】でお願いします。例:【夜3】同行者の人数制限は特にありません。
 プレイングの送信日を統一してください、送信日が同じであれば送信時刻は問いません。

●その他
 成人していれば、飲酒喫煙は可能です。喫煙に関しましては、喫煙可能な場所で……という形になります(人混みではNGと考えていただけると良いと思います)
 未成年者の飲酒喫煙、公序良俗に反するプレイングなどは一律不採用となりますのでご理解よろしくお願いいたします。
 それでは皆様の素敵な物語をお待ちしております!
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第1章 日常 『エンジョイ・スターマイン』

POW   :    皆でわいわい楽しむ

SPD   :    少人数でしっとり楽しむ

WIZ   :    花火イベントの露店なども楽しむ

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●夏の終わりに
 どおん! 身体に響くような大きな音を立て、大玉の花火が上がる。
 その度に上がる歓声は、大勢の観客の声か自分の声か。
 煌びやかな電飾に、立ち並ぶ様々な屋台。浴衣姿の着飾った若者達が楽し気に、どれにしようかと笑っている。父親に肩車をされた女の子が、上がった花火を見上げて袋に入った綿あめを落としそうになって、慌てて強く握りしめていた。
 幾つもの小さな花火や、花や星、くらげの形をした型物と呼ばれる花火が人々の目を楽しませている。
 港の近くにはビルやホテルが立ち並び、ビアガーデンから花火を眺める人々やホテルの部屋を貸し切って優雅に花火を楽しんでいる人々も、打ち上がる花火に顔を綻ばせていた。
 花火を楽しむ為に訪れた君たちは、どんな風にこの夜を楽しむのだろうか――。
黒鵺・瑞樹
アドリブOK
SPD

何もなければ酒飲みながら花火眺めるんだがなぁ、そうもいかないのがなんとも。一人なのも余計にな。
誰かを誘えたらよかったが…怖さと不安の方がでかい。

伽羅と陸奥とみるためにホテルに部屋を借りたはいいが…陸奥が布団に潜り込んだまま出てこないな。
割とほんと猫っぽい気質だが、今回は好奇心よりびっくりが上回ったんだな。
ぽすぽす陸奥を布団越しに撫でるというか叩いて花火鑑賞。
伽羅は割と平気なんだな。まぁ成長すれば嵐も起こせるようになるらしいしそんなものかな。

UDCに限らず、この人混みを利用しての人さらいとかはあってもおかしくないと思う。
誰もが同じ方向を見てるんだ。ある意味死角だらけといえる。



●贅沢なひと時
 港まで花火見物に出ることも考えたけれど、伽羅と陸奥と観るのならホテルの一室を取った方がいい。そう判断した自分は正しかったな、と黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)は花火の音に驚いてか、敷かれた布団から出てこない陸奥を見て思う。
「音が怖いのか? 俺がいるから大丈夫だぞ? だから出ておいで」
 そう声を掛けても、精霊の仔である白い小虎は頑なに顔を出そうとはしなかった。
「花火大会の会場だったら隠れる場所もないからな……」
 騒ぎになるかもしれないことを思えば、ホテルの一室を取ることなど大したことでもない。花火大会の当日とあって、それなりの値段ではあったが、料理は伽羅と陸奥に分けてもそれなりの量があるし、味もいい。何よりも、花火を含む夜景の眺めが素晴らしかった。
「何もなければ酒を飲みながら花火を眺めるんだがなぁ、そうもいかないな」
 テーブルにところ狭しと並んだ懐石料理に舌鼓を打ちつつ、仕方がないので烏龍茶を飲む。でもまぁ、これも悪くはないなと打ち上がる花火を眺めた。
「誰かを誘えたらよかったが……この後を思うとな」
 狂気に落ちた自分など、見せたいとは思わない。もしもそんな自分を見られてしまったら……そう考えると、どうしても怖さと不安の方が大きくなってしまう。小さく溜息を吐くと、水神の竜である伽羅がそっと尻尾を瑞樹の左腕に絡める。
「大丈夫、俺には伽羅と陸奥がいるからな」
 ひょこ、と顔だけ出した陸奥を布団の上からぽすぽす、と撫でて笑った。
 ちゃんと撫でてもらおうと陸奥が布団から出てくるが、すぐに大きな音を立てて上がった花火に吃驚したのか布団の中へと逆戻りしてしまう。
「音は確かにでかいけど、花火は綺麗だぞ?」
 耳の良い陸奥には聞こえすぎるのかもしれないと、そっと抱き上げて耳の辺りを押さえてやる。どぉん! と上がった花火に全身の毛を膨らませたが、瑞樹の手があったからか布団に逃げ戻ることはしなかった。
「こうしていれば平気か?」
 伽羅も身体を小さくして、陸奥に寄り添うように瑞樹の膝の上に座る。
 時計を見れば、もう少しで花火大会のフィナーレでもあるスターマインが打ち上がる時間だった。
「UDCに限らずだけど、あの人混みを利用しての人攫いはあってもおかしくない……誰もが同じ方向を見てるんだ。ある意味死角だらけだな」
 そこを巧みに利用する怪異、許せるものではない。
 でも、その前に。心を許せるこの二匹と、思う存分美味しい料理を食べて、打ち上がる花火を楽しむ――。
 瑞樹は穏やかで優しい、確かなひと時の安らぎを得ていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鬼桐・相馬
会場近くの屋外ビアガーデン会場を探してみる
[軍用鞄]の隙間から頭だけ出した[ヘキサドラゴン]のモモと出来るなら飲み食いしたい

ペット……うん、ペットだな。同伴可能か確認し、大丈夫なら海沿いの端にある席を確保しよう
適当に自分とモモそれぞれの料理と飲み物をとってきたら乾杯
先日分かったことだが、モモは花火や水飛沫など子供が好きそうなものを気に入るらしい

モモ、これからもよろしくな
そう声をかけてモモの頭や背中を軽く撫でよう
俺が森から連れ出し、契約したことで不便な思いもさせているだろうが
それ以上に共にいて良かったと思えるような関係でいたい

スターマインの途中でモモを鞄の中に戻す
さあ、そろそろ仕事の時間だ



●ハッピービアガーデン!
 ビアガーデン、それは屋外やビルの屋上に多数のテーブル席を設けてビールをメインとした酒類や料理を提供する場。夏のお楽しみの一つでもある。
「この辺にあると聞いたが……」
 花火のメイン会場である港より少し離れた場所に、幾つかあるビアガーデンの中でもペット同伴が可能な一つを探して鬼桐・相馬(一角鬼・f23529)が心なしか軽い足取りで歩く。酒、と聞いてしまえば向かうしかないだろうと、シンプルな作りのマセットバッグをぽんと叩けば、きゅっと鞄に隠したヘキサドラゴンのモモが鳴いた。
「ここか?」
 やや大きめの商業施設のようなビルの入り口には、屋上ビアガーデンの案内が書かれた立て看板が置かれている。ここが聞いた場所で間違いないだろうとビルの中へ入り、道案内に従って屋上へと向かう。受付に人数を聞かれ、素直に一人と一匹だと言えばすぐに端っこにあるペア用なのだろう小さめのテーブルへと通された。
「丁度いいな」
 端っこであればあるほど、モモの姿は目立ちにくい。恐らく、その姿を見られても脳内でUDCアースの何かしらの生き物に変換されるのだろうけれど、目立たないに越したことは無い。
 料理はビュッフェ形式であること、飲み放題の時間制限は一時間半であることなどを説明され、それに相馬が頷くと店員が下がる。モモを鞄から出し、ちょっと待っていろとだけ声を掛けて料理とドリンクを取って戻ると、既に始まっていた花火大会の花火を見てモモが楽しそうに尻尾を揺らしていた。
 テーブルにこんもりと料理が盛られた皿を置き、ビールの大ジョッキ、それからモモの為の料理と飲み物を置く。
「モモ、気に入ったか?」
 花火の音も、夜空で咲く大輪の花も気に入ったようで、モモは嬉しそうにきゅっ! きゅっ! と鳴いている。相馬も先日気が付いたのだが、モモは花火や水飛沫などの子どもが好きそうなものを気に入るようなのだ。
「気に入ったなら何よりだ。さあ、これも食べるといい」
 モモの前に飲み物と料理の皿を勧め、自分はビールの大ジョッキを持つ。
「乾杯だ」
 モモのドリンクグラスに軽く音を鳴らしてぶつけると、モモが嬉しそうに鳴いた。
 半分くらいを一気に飲むと、思っていたよりも喉が渇いていたことを自覚する。そこからは料理とビール、ビールと料理といった風に皿を空けていく。健啖家、という言葉がぴったりなその食べっぷりは爽快な程だ。
 勿論、食べてばかりではなく港の方から上がって見える花火もしっかりと楽しんでいる。
「綺麗だな」
「きゅっ!」
 次々と上がる花火は趣向が凝らされていて、見ていて飽きることはない。合間合間にある打ち上げ準備の時間に料理とビールを取りに立ち、腹八分目といったところで止めた。
「モモ、お前もそのくらいにしておくといい」
「きゅ?」
 この後があるからな、と相馬がモモの頭を軽く撫でると理解したかのように羽を小さく羽ばたかせる。そんなモモの背や首元、再び頭を撫でながら相馬がモモにだけ聞こえるような声で囁く。
「モモ、これからもよろしくな?」
 森から連れ出し、契約を結んだことで不便な思いもさせているかもしれないけれど、それ以上に共に過ごせて良かったと思えるような関係でいたいのだ。
 その気持ちをモモも感じ取ったのだろう、短く鳴いて甘えるように相馬の掌に擦り寄った。
「モモ、そろそろ花火が終るぞ」
 ビアガーデンの店員が、そろそろスターマインが始まりますよ! と叫んでいる。程なくして港の方から立て続けに花火が上がり、周囲の客たちも花火に釘付けだ。
「モモ」
 スターマインも終わりに向かおうとした頃に、相馬がモモを呼ぶ。きゅっと鳴いた賢い黒竜は来た時と同様に相馬の持つ鞄の中へと入った。
「そろそろ仕事の時間だ」
 最初から酒など飲んでいないかのように、酔った気配を微塵も感じさせずに相馬が美しい花火の終わりを待った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【不死蝶/2人】◎
グリードオーシャンやカクリヨファンタズムで
何度か夏祭り的な催しに参加したことあるけど
UDCアースでは実は初めてかも?

梓、打ち上げ花火が始まるまで
屋台でなんか買って行こうよ
りんご飴とか、イカ焼きとか、チョコバナナとか
お祭りの屋台ならではの食べ物って
見ているだけでなんだかワクワクしてくる
ついつい色々買いたくなっちゃう

え?お金?持ってきてないよ
てへ、って顔をしつつ
チェッ、じゃあアレがいい
目に止まったのは淡いカラフルなわたあめ
すごいねコレ、「映え」って感じだね

人の少ない穴場スポットに移動
皆でわたあめを食べつつ楽しい時間を過ごす
…連れ去られてもはぐれないように
こっそり梓の服の裾を掴んで


乱獅子・梓
【不死蝶】◎
ああ、何かつまみながら
花火を眺めるのも悪くないな
色々な屋台を見て歩き
子供みたいにはしゃぐ綾の姿に
何となく微笑ましい気持ちになる…が
あちこち目移りしているようだが
所持金は足りるんだろうな?

お前…!!まーた俺にたかるつもりだったな!
ったく、ひとつだけなら奢ってやる
何でもかんでも買い与えて甘やかすのは良くない
ってまるで子供に躾ける親みたいだ…
わたあめ…随分と可愛らしいチョイスだな

わたあめってデカいし甘いし
一人で食べきるの地味にキツいだろう
というわけで焔と零も呼んで
皆でひとつのわたあめを分け合って食べる
あ、コラ!わたあめに顔突っ込むな!
ああもう、顔がベタベタだろう!(焔と零の顔を拭き



●花火と屋台は切っても切れぬ
 ぶらぶらと、特に当てがあるわけでもなく屋台を物色しながら花火が始まる前の屋台通りを歩く。
「どっから集まったんだろうってくらい人がいるよねぇ……」
 グリードオーシャンやカクリヨファンタズムでも何度か夏祭りっぽいものには参加したけれど、UDCアースでは初めてかも? と、どこまでも続いているのではないかと思うような屋台の並びを眺め、灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)が呟く。
「人口的に考えればUDCアースがその二つの世界よりは人が集まりやすいんじゃないか?」
 グリードオーシャンは島だし、カクリヨファンタズムは隠れ里のようなものだ。まあ、カクリヨファンタズムは地形がすぐに変動する為、正確な人数はわからないのだが。
 そう、乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)が答えると、納得したように綾が頷く。
「ああ、なるほど……梓、打ち上げ花火が始まるまで屋台でなんか買って行こうよ」
 既に沢山の人で溢れてはいるが、屋台もそれに負けないほど並んでいる。列はあれど捌けるのもそれなりに早い。
「ああ、何かつまみながら花火を眺めるのも悪くないな」
 酒も欲しいところだが、この後を考えるとそうもいかないかと梓がビールを販売している屋台に後ろ髪を引かれつつ言う。
「うーん、どれにしようかな。りんご飴とか、イカ焼きとか……チョコバナナも捨てがたいよね」
 普段では中々食べることができない物がいいだろうか、でも屋台の焼きそばやお好み焼きは何故か魅力的に見える。いい匂いがしてくるのも購買意欲をそそる原因の一つなのだが、なんとも悩ましい。
「やっぱりお祭りの屋台ならではの食べ物にしようかな」
 見ているだけでワクワクしてしまうのが、声にも出ていたのだろう。横を歩く梓が、サングラスの奥の瞳をなんとも微笑まし気に細めて綾を見ていた。
 子どもみたいだな、と思ったけれど言うのは止める。綾はもう二十三で、子どもではないことを梓は知っているからだ。
「俺はどれでもいいが、所持金は足りるんだろうな?」
 あれやこれやと目移りしている綾に、なんとなく嫌な予感がして梓が問い掛ける。
「え? お金? 持ってきてないよ」
「お前……! まーた俺にたかるつもりだったな!?」
 てへっと緩い表情を浮かべた綾に、梓が呆れたように溜息を吐いた。
「ったく、仕方ないな……。ひとつだけなら奢ってやる」
 財布の中身は二人でお腹いっぱい食べてもお釣りがくるくらいには入っているけれど、何でもかんでも買い与えて甘やかすのは良くないと、梓が条件を付ける。綾が子どもじゃないことはわかっているのだが、まるで子どもに躾ける親みたいだな、と梓が小さく笑う。
「チェッ、じゃあ……」
 ひとつだけ、と言われて悩みつつも梓が目に留まった屋台を指でさす。
「俺、アレがいい」
「わたあめか?」
 綾の指さす先に見えたのは、随分とカラフルな暖簾を下げたわたあめの屋台だった。
「うん、なんか気になって」
 淡いカラフルなわたあめが幾つも袋に入って下げられている。それに何よりも目を惹いたのが魔女の帽子のように大きくてカラフルなわたあめだ。
「……デカくないか?」
「うん、すごいよね」
 暗にもう少し小さい物をと言ったつもりだったのだが、綾がサングラスの奥の瞳をキラキラとさせているように思えてそれ以上は言及しなかった。
 男二人で並ぶにはちょっと場違いではないかとも思ったけれど、そこは花火大会という場もあって同性の友人と並んでいる者も少なくはない。
「わ、梓見てよ」
 綾が屋台の店先に飾られているわたあめを楽しそうに指でさす。人波で遠くからは見えなかったけれど、わたあめが光っているのだ。
「光る棒に刺してあるのか」
 内側から光るわたあめは、子ども達の受けがいいのだろう。サイズも子どもが一人で食べ切れるような大きさだ。
「アレにしとくか?」
「いや、あの大きいのがいい。ひとつならどれでもいいんだよね?」
 まあ、ひとつなら。食べ切れるのか? という言葉は飲み込んで、梓は順番を待った。
「いや、本当にデカいな」
 お金と引き換えにわたあめを受け取って、しみじみと梓が言うと綾が笑う。
「すごいねコレ、『映え』って感じだね」
「どこで覚えたんだ、そんな言葉」
「UDCアースで」
 軽口を叩きつつ、人の少ない穴場スポットと呼ばれる場所に移動すると、さすがにこのサイズを二人で食べ切るのは無理だろうと梓が仔ドラゴンである焔と零を喚び出した。
「ほんと、帽子みたいに被れそうなくらいのサイズだよね」
 わたあめの端を千切って口に放り込みながら、綾がしみじみと言う。
「被るなよ、頭がベタベタになる……ってコラ! 焔、零! わたあめに顔を突っ込むな!」
 梓も千切りながら二匹に食べさせていたのだが、口の中でしゅわっと消える甘いそれに物足りなくなったのだろう。焔と零が巨大わたあめに顔を突っ込んで楽しそうに尻尾を揺らしている。
「あはは、これもひとつの映えかな?」
「言ってる場合か!」
 わたあめを綾に持たせ、梓が焔と零をわたあめから引っ張り出してベタベタになった部分を拭いている。……まるでお父さんみたいだと思ったけれど、綾は言うのは止めておいた。わたあめが美味しかったので。
 わたあめを食べている間に、最初の花火が打ち上がる。どぉん! という大きな音に最初は吃驚していた焔と零だったが、すぐに慣れて夜空に咲く大輪の花に楽しそうに鳴声を上げた。
「綺麗だねぇ」
「そうだな」
 言葉が少なくなるのも、花火の美しさに見入ってしまっているからなのだろう。本当に美しいものや、すごいと思うものを前にしてしまうと言葉少なになるものだ。
 二人と二匹でわたあめを無くし、花火を楽しんでいるといつの間にか終りの時間が近くなっていた。
 次の花火は最後のスターマインです、というアナウンスが聞こえ、梓と綾が視線を交わして頷き合う。それから、次々と打ち上がる花火を見上げる。
 連れ去られてもはぐれないようにと、綾がこっそり梓の服の裾を掴んだ。それに気が付かない振りをして、梓はそのままにさせておく。
 もうすぐ、スターマインが終る――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

バンリ・ガリャンテ

俺も綿あめ取り落としそうになっちまったの。
女の子を斜に眺めて笑う。
あなたとおんなじ。驚いて、魅入られた。
夏の終わりの夜空に心が縫い止められる。
ひとつ、花。ひとつ、星。
右手の綿あめをもしゃもしゃ平らげ、左手のりんご飴に唇を近づけて。瞳は大輪を映し続ける。
甘い甘い。おお甘い。
音も彩りも、昇っては咲くこの昂ぶりは
恋のようだな。
身のうちの地獄が負けじと燃え盛っては教える。
「お前は恋をするよ」
分からん。分からない。どうしたら良いの?
どうしてやろうか。
咲き乱れる光の誘いに嫣然と笑った。

来るならきなよ狂気。
さぁ俺を堕としとくれ。



●夏の夜の
 父親に肩車をされた女の子が綿あめの入ったピンク色の袋を取り落としそうになって、慌てて握り締めるのをバンリ・ガリャンテ(Remember Me・f10655)が目の端に捉えて笑う。だって、バンリも夜空に咲いた大輪の花に驚いて、魅入られて、思わず取り落としそうになってしまったから。
 小さい女の子と変わらぬ自分に、もう一度手にした綿あめの串を持ち直した。
 手にした綿あめはパステルブルーとピンクの可愛らしいもので、一目でバンリが気に入った綿あめだ。綿あめを見て、嬉しくなって笑っていたら、また大きな花火が打ち上がる。
「りんごの形」
 真っ赤なりんごを模ったような花火が消えて、屋台を見れば真っ赤なりんご飴が見えた。
「買うしかないよな」
 うん、これは間違いないとバンリがりんご飴を買う。右手に綿あめ、左手にりんご飴、正当な花火鑑賞スタイルだと、小さく笑って空を見上げた。
 花、それから星。ずっと見ていたいのに、次々散っては新しい花火が上がる。バンリの心は、すっかり夏の盛りも終わろうとしている夜空に縫い留められていた。
 視線は空にやったまま、大きく口を開いて右手の綿あめを齧って千切る。それを何度か繰り返せば、あっという間に綿あめは姿を消して串が一本だけ残った。
「甘い甘い」
 今度は左手に持った真っ赤なりんご飴に、口付けるように唇を寄せる。どぉん! と、鳴った大きな音に思わず動きを止めれば、唇から甘い毒が回るみたいに口の中に飴の味が広がった。
「おお、甘い」
 楽しげに笑って、人の流れるままにバンリが歩く。存分にりんご飴との口付けを楽しんで、薄い飴を林檎ごと齧る。甘い飴と仄かな酸味のある林檎が口の中で混じり合う。
 ひゅるるる、と花火が空へ昇り、咲き誇って散っていく。その昂りはまるで恋のようだと、じゃくじゃくとりんご飴を齧るバンリは思った。
『お前は恋をするよ』
 身の内で燃え盛る地獄が、花火に負けじとばかりにバンリを焦がし、そっと囁く。
「お前は恋をするよ」
 それはまるで予言のような言葉で、バンリは思わず口の中で言葉を転がす。頭上で咲く華を見上げ、恋、恋ってなんだと思う。
「分からん」
 だってそんなもの、バンリは知らない。
『お前は恋をするよ』
「分からない」
 響く声はバンリにしか聞こえない、答えるように呟けば、より一層強く地獄が囁く。
「どうしたら良いの?」
 どうしたら。
「どうしてやろうか」
 いつの間にか左手に持っていたりんご飴も串だけになっていて、会場に設置されていたゴミ箱に二本まとめて放り込んだ。
 そうして、再び人混みの中を歩く。次は最後のスターマインだとアナウンスの声が響いて、バンリは紅くなった唇を舐めた。
 甘い毒が、地獄の炎へ溶けていく。
「来るならきなよ」
 そんな狂気があるのなら、教えておくれとバンリが歌うように呟く。
 立て続けに上がる鮮やかな光の誘いに、嫣然と笑って自由になった両腕を差し出した。
 さぁ、俺を堕としとくれ――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

志島・小鉄
※人の姿で楽しみます。

いやぁ、いやぁ。コチラノお祭りも賑やかデスネ。
カクリヨのお祭りも賑やかデスガ、人間様が一杯いらっしゃる。
人間様ト一緒に花火ヲ楽しむコトが出来るなど……。
あゝ、まるで夢ノようデスネ。

ほほぅ、ほほぅ、コチラの世界の花火ハ不思議な形ヲしておられる。
丸い花火ダケでは無いノデスネ。
星の形、アレはハァトと呼ばれていた物デスネ。
桃色の可愛らしい花火デス。近くニ居ル子供たちも喜ンデおられる。
わしの文具屋にも人間様ノ子供が喜ぶ物を仕入れた方が良いデスカネ。

いかんいかん。今日ハ花火ヲ楽しみニ来たのデス。
お隣ニ座ルご家族と一緒に『たーまやー!』と叫びマショウ。



●あちらとコチラ
 カクリヨファンタズムと他の世界の路が繋がったのは、つい最近の事。現代地球、UDCアースへはもう二度と足を踏み入れることなどないだろうと思っていたけれど――。
「長生きハしてみる物デスネ」
 人の世ならば人の姿で、祭りであるならば浴衣でも大丈夫だろうと思ったのは正解だった。薄茶色の寄せ小紋に、献上柄の角帯を締め、手に馴染むうちわを差し込めば小粋な浴衣姿の若者の出来上がりだ。
 実年齢はとうの昔に忘れてしまう程に食っているが、志島・小鉄(文具屋シジマ・f29016)の人の姿は優しい眼差しを浮かべた涼やかな青年だった。
 ぶらぶらと屋台を冷やかすように歩き、上がる花火に空を見上げる。
「いやぁ、いやぁ。コチラノお祭りも賑やかデスネ」
 幽世のお祭りも賑やかだと思うけれど、何よりここには人間が沢山いる。それは、それだけで小鉄の頬が緩んでしまう程の出来事だ。
「人間様ト一緒に花火ヲ楽しむコトが出来るなど……」
 どぉん! と鳴った花火が散っていくのを眺め、感慨深げに呟く。
「あゝ、まるで夢ノようデスネ」
 どこから集まって来たのだろうかと思う程の人を前に、小鉄の心が上向いた。
「どうせならば、コチラノ……今ノ食べ物も堪能してみマショウ」
 折角やってきたのだ、土産話にもなるだろうと、小鉄がどの屋台にしようか悩みながら人波に任せて歩く。結果的に言えば、どれもこれも珍しいと思えるものばかりだった。
「カキ氷は馴染みもあるノデスガ」
 それでも、甘い匂いに釣られて見様見真似で買ってみたのはクレープだ。
「薄焼きノ生地に、果実とくりぃむ、デシタカ」
 手にしたそれは少し温かく、並んでいた人は受け取るとすぐに食べ歩いていたから、自分もと齧り付く。
「……美味しいデスネ」
 これは行列にもなると思いながら、座れる場所を探して歩いた。
 運よくカップルが退いた場所に腰を落ち着け、夜空を眺める。そうして、上がった花火の不思議な形に目を丸くした。
「ほほぅ、ほほぅ、コチラの世界の花火ハ不思議な形ヲしておられる」
 花火と言えば丸いものだとばかり思っていたが、星の形をしたものや、花の形をしたもの、それから。
「アレはハァトと呼ばれていた物デスネ」
 桃色の、可愛らしい形をした花火に、小鉄の近くにいた子ども達もきゃあきゃあとはしゃいだ声を上げていた。
 可愛らしい声に思わず笑みが浮かんでしまって、小鉄は花火を見ながら考える。
「わしの文具屋にも、人間様ノ子供が喜ぶ物を仕入れた方が良いデスカネ」
 路が繋がった今、幽世にも色々な種族が訪れる。その中にはもちろん、人間の猟兵もいるのだ。
「何が良いデスカネ……」
 今どきの、流行りの。うーん、と考えてはみたが、現代地球の流行りものなど分かるわけもない。いっそ古い方が珍しいかもしれない、いやしかし。現代地球の流行りものを調べに、また訪れてみようか。
「っと、いかんいかん」
 人々の歓声に意識を引き戻されて、再び空を見上げる。
 今日は花火を楽しむ為にここまでやってきたのだ、しっかりと花火を楽しまなくてはと小鉄が思った時だった。
 隣の家族連れの男の子が父親に教えてもらったのだろう、たーまやー! と叫んだのだ。
「いいデスネ」
 花火を楽しむ気持ちは、人も妖も変わらない。
 一際大きく上がった花火に、小鉄も声を張り上げる。
「たーまやー!」
 周囲からも同じように、玉屋と鍵屋の名を呼ぶ声が上がっている。
 終わりゆく夏を告げるように、鮮やかに咲き乱れる花火。
 最後の一つが上がる瞬間まで、小鉄は人と見る花火を愛おしむように楽しんだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

壱織・彩灯
凪(f28056)と

宵空に華咲かすとは
風情が在ること

喧騒離れた、港付近の小高い神社から
打ち上がる音に合わせ口笛鳴らし
火薬の香りに混じり
燻らせる薔薇の馨は誰のものやら

おや、済まない
先客だったか?
其処な麗しき御人

今宵はこんなに美しい花を咲かしながら
傍らにも花とは、また
俺の運も今宵散らんでおくれと願うばかり
美酒ならば俺の専門だなぁ

巫山戯た調子でころころ咲い

貴女は花火を見たことが在るか、
…俺は初めてでな
噫、もう少し霄へ関心を持つべきだったと勿体ない限り

スターマインの花が沢山咲き混ざりあって
極彩色の灯りに照らされるまま
なぎ、凪か
俺は彩灯だ
何れまた逢うならば
其の名をもう一度呼ぼう

語る言葉は花火の音に溶けて


无霧・凪
彩灯(f28003)と

夜空を照らす花の美しさは変わりませんね
眺める人々の楽しそうな顔も

人混みは得意でないから社で芳しい薔薇の馨を燻らせる

あら、お褒めに預かり光栄です
謝る必要はありません
この場は私のものではありませんから

随分と褒め上手な事
私にとってもあなたは花ですよ
こんなにも麗しい方と夏の風物詩を楽しめるなんて
散ったならば再度咲かせねばなりませんね
運のご機嫌取りには美酒がおすすめです
悪戯めいて笑む

私は幾度か
これから沢山見ていけば良いんです
ふふ、何ならお供しましょう

満天光の華開いたなら
香纏わせ微笑む
私は凪
縁は引き寄せるものですから
彩灯様
この名を頼りに会いにいらしてください
あえかな笑声が弾けた



●華夜の縁
 どぉん、どぉん、と花火が打ち上がる音を聞きながら、壱織・彩灯(無燭メランコリィ・f28003)はからりと下駄を鳴らして港から少し離れた場所を歩いていた。
 人が沢山いるのは面白いと思うけれど、その中を歩きながら花火を見るのは些か――。
「面倒だ」
 人にぶつかるような下手は打たないが、どうせなら静かな場所で見たいと思ったのだ。
「しかし、宵空に華を咲かすとは」
 風情が在ること。
 華は嫌いではない、寧ろ愛でて楽しむものだ。だが、夜空に咲く華とは……そう思いながら当てどなく歩いていると、鳥居が見えた。
「神社か」
 鳥居の先にはやや高さのある階段が覗き、ふむ、と一考すると彩灯は鳥居を潜り石階段を上る。響くのは下駄の音と花火の音、それから彩灯が打ち上がる花火の音に合わせて吹いた口笛の音。
「うん?」
 花火の火薬の匂いが風に乗って漂う中、それに混じって彩灯の鼻孔を擽ったのは燻る薔薇の馨。カラン、コロン、と下駄を鳴らして階段を上るほど、その匂いが強くなる。
「雅なことだな」
 果たして、上った先にいるのは男か女か、人か妖か、将又――。
「おや、済まない。先客だったか? 其処な麗しき御人」
 下駄の音はずっと聞こえていたのだろう、階段の先にいた人物は真っ直ぐに彩灯を見ていた。
「あら、お褒めに預かり光栄です」
 麗しい、という言葉がぴったりと当てはまるような容姿の女、无霧・凪(馨夢・f28056)は煙管をしなやかな手で弄びながら、言葉を続ける。
「けれど、謝る必要はありません。この場は私のものではありませんから」
 人混みが少し得意ではないので、ここで花火を見ていたのだという凪に彩灯が頷く。
「では、ご一緒しても?」
「ええ、構いません」
 笑った凪がそっと風上を譲って境内の石段に座ると、彩灯がその隣に座った。
 幾重にも上がる花火に、傍らには薔薇の香り。ふっと笑えば、凪が小首を傾げる。
「いや、今宵はこんなにも美しい花を咲かしているというのに、傍らにも花とは贅沢だなと思ってな」
 俺の運も今宵ばかりと散らんでおくれと願うばかりよ、と彩灯が言えば、凪が花咲くように笑った。
「随分と褒め上手な事、私にとってもあなたは花ですよ」
 煙管に口を付け、優雅に笑う女が上がった花火を見て続ける。
「こんなにも麗しい方と夏の風物詩を楽しめるなんて……あら、散ったならば再度咲かせねばなりませんね?」
 考えるそぶりを見せた凪がついと視線を合わせると、悪戯めいた笑みを浮かべて言った。
「運のご機嫌取りには美酒がおすすめです」
「ふ、はは。美酒ならば俺の専門だなぁ」
 巫山戯た調子で、しかし心底面白いというように彩灯に笑顔が咲いた。
 一頻り二人で笑うと、向日葵のような花火が上がる。
「貴女はこれ迄にも花火を見たことが在るか」
「私は幾度かございますね」
 ぱらぱらと散っていく花火を前に、秘密を打ち明けるかのように彩灯が囁く
「……俺は初めてでな」
「あら、そうでしたか」
「噫乎、もう少し霄へ関心を持つべきだった」
 空など、見上げればいつでもあるものだったから。こんなにも特別に輝くことがあるのだとは思いもしなかった。
 勿体ない限りだと言えば、凪がふうわりと笑う。
「これから沢山見ていけば良いんです。ふふ、何ならお供しましょう」
 この夜限りの花火ではないのだからと凪が言うと、彩灯の瞳がぱちりと瞬く。その瞬きの間に、港の方から無数の花火が打ち上がる。満天光の華が開く中、凪が薔薇の香りを纏わせて微笑み、名乗る。
「私は凪、凪と申します」
 極彩色の灯りに照らされた女の横顔を眺めながら、彩灯も己が名を告げた。
「なぎ、凪か。俺は彩灯だ」
「あやひ……彩灯様、ですね」
 名を知ったなら、それは強固な縁となる。そして縁はその手で手繰り寄せ、引き寄せるもの。
「彩灯様、この名を頼りに会いにいらしてください」
 縁を切るも結ぶもあなた次第だと、凪が笑む。
「何れまた逢うならば、俺は其の名をもう一度呼ぼう」
 そう約束をした男の横で、女はあえかな笑い声を弾けさせる。
 語る言葉も笑う声も、花火の音に溶けて消えゆくけれど、約束だけは確かに二人の胸に咲いたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

呉羽・伊織
【花守2】
シゴトに備え一人ふらりと防波堤の片隅へ

天上の花を愛でる序で、折角だし地上の花(浴衣美人)も楽しみに

…なんて考えてた矢先、最悪なのが視界に

煩せーよ邪魔者!
無垢な子達を妙なモンに巻き込む訳にも行かないから、遠巻きに見守るに留めてただけだっての
(へらりと緩めていた表情を露骨に歪め狐を一瞥し――すぐに空へ向き直り)

…おいどっか行け
無粋な狐がいたら楽しめるモンも楽しめないだろ
は?アンタの奢りとか、碌でもない魂胆が見え透いてんだよ!(自前のラムネを煽り)

あーもう、折角の風物詩達で目も心も潤そうって時に!
ホント余計な世話――

(兎に角、今は楽しむのもシゴトの内――天地一面に咲く花や笑顔を焼き付けて)


佳月・清宵
【花守2】
盛大に輝く花に一際華やぐ民衆の声――其等とは対照的に、物影で一人静かに愉しむも一興

…と思ったが、予定変更だな

(独りぽつんと佇む見慣れた姿に、喜色浮かべ)
おう、また振られに振られて独りこんな所でいじけてんのか?
(顔色一つ変えず適当に横へ陣取り)

折角憐れな弟分に付き合ってやろうってのに、まぁそう遠慮すんなよ
ああ、序でに自棄用の酒ぐらいは奢ってやろうか
無論、返礼は三倍で良いぜ(さらりと笑いつつ手酌進め)

好きに吠えてろ
――少なくとも今は渦巻く嫌味も暗澹も花火が掻き消してくれよう

(さて、一寸先の闇も花火が晴らしてくれりゃあ世話ねぇが――鬼が出るか蛇が出るか――ともあれ今暫くは花と酒に耽るのみ)



●夏夜に巡る
 これもシゴト、と呟きながら烏の面を身に付けた呉羽・伊織(翳・f03578)が機嫌良く港を歩く。目に映るのは鮮やかに咲いては散る天上の花々と、浴衣に身を包んで笑顔を浮かべて通り過ぎる地上の花々。
「……これぞ役得」
 折角の花火だ、誰かを誘うことも考えたけれど『シゴト』を考えると安易に誘うのも憚られる。そう思ってひとりでふらりとやってきたのだが、ある意味正解だったかと伊織の頬はゆるゆるに緩んでいた。
 人の目が花火に釘付けであっても、消える瞬間に無垢な子達を巻き込んでしまうかもしれないことを考え、防波堤に向かって鼻歌交じりに歩く。丁度良い穴場スポットのようになっている場所を見つけ、腰を落ち着けた。
 遠目に見えるは屋台の灯り、そして下駄の音を鳴らして歩く浴衣美人。それから花火と――。
「ゲェ」
 思わず出た品の無い伊織の声に、こちらに向かって真っ直ぐ歩いてくる狐面を身に付けた男の喉が震えた。
「随分だな」
 幻であれ、と思っていたが声まで聞こえてしまっては幻とも片付けられない。
「いや、幻聴って線もあるな」
「ねぇよ。また振られに振られて独りこんな所でいじけてんのか? ん?」
 嫌がられていることなど微塵も気にせず、慰めてやろうか? と含み笑いを浮かべて佳月・清宵(霞・f14015)が伊織の隣を陣取った。
「煩せーよ邪魔者! そもそも振られてないし、ここに居るのだって」
 伊織が反論するのを楽しそうに眺めている清宵を見て、屋台だ浴衣美人だと緩んでいた表情を露骨に顰めて伊織が言う。
「アンタ、分かってて言ってるだろ」
「いや? 独りでぽつんとしていたからな」
「そのまま放っておくって選択肢はないのかよ」
 伊織の反応に、くつくつと清宵が笑う。さりとて、自分も盛大に輝く花に一際華やぐ民衆の声とは対照的に、物陰で一人静かに愉しむのも良しと人波から外れた身。伊織と変わりはないのだが、どうしたって良い反応を返す伊織を放っておくのは勿体ない。
「折角憐れな弟分に付き合ってやろうってのに、まぁそう遠慮すんなよ」
「遠慮じゃねえよ、どっか行け。無粋な狐がいたら楽しめるモンも楽しめないだろ」
 これでもかとばかりに機嫌を損ねましたという顔をして、伊織が清宵から視線を逸らして空を見た。
「ああ、序でに自棄用の酒ぐらいは奢ってやろうか」
 そんな伊織の牽制なぞ何のその、清宵からすれば蚊に刺されたほどの痛みもない。一言で言ってしまえば、慣れているのだ。
「は? アンタの奢りとか、碌でもない魂胆が見え透いてんだよ!」
 普通これだけ拒絶されれば、一歩引くとかあるだろうにと苛立ちを隠しもせず、言っても全く懲りない男を相手に伊織が吠える。
「無論、返礼は三倍で良いぜ」
 楽しそうに笑って、さあ、と手酌で持っていた酒を清宵が勧めるのを横目で見ながら、伊織は屋台で買った自前のラムネを呷るように飲んだ。
「誰が飲むか」
「意地っ張りめ」
「誰が! 大体なぁ、オレは一人で楽しもうと思って来てんだよ!」
 お前はお呼びじゃないのだと、きっぱりと伊織が言うと清宵が笑いを含んで言い放つ。
「好きに吠えてろ」
 手酌でお猪口に注いだ酒をぐいっと飲み干し、空を見た。
「あーもう、折角の風物詩達で目も心も潤そうって時に! ホント余計な世話――」
 こんな奴が隣に居たんじゃ、楽しめるものも楽しめやしないと更に悪態をつこうとした時だった。
 一際大きな音を立てて、花火が弾ける。人々の歓声と、花が咲いて少し遅れて聞こえてくる轟音に伊織の声が掻き消された。
 それ以上は伊織も何か言う気になれず、今は楽しむのもシゴトの内だと打ち上がる花火を目に焼き付けるように眺めるばかり。
 清宵もそれ以上は何も言わず、渦巻く嫌味も暗澹も、今宵美しく打ち上がる花火が全て掻き消してくれるだろうと笑うだけ。
 天と地、一面に咲いた花や笑顔は束の間ではあっても、伊織の心を穏やかにしてくれていた。
 清宵はといえば、酒を口に含みながら花火を見上げ、この眩いばかりの光が闇を晴らしてくれれば世話はないが、そういう訳にもいくまいよと目を細める。
 鬼が出るか、蛇が出るか――。
 胸の内でそう呟けど、今暫らくは花と酒に耽ろうかと口元に笑みを浮かべ、幾重にも咲く花とその光に照らされる男の横顔を肴に酒を飲むのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

杜鬼・クロウ
【蜜約2】◎
名呼ばず

浴衣お任せ
鳥籠の簪を帯に

お前が誘ってくれるとは驚きだわ
…あァ
気にしてねェよ
俺がそう”仕向けちまった”と思ってるし
辛気臭ェ不細工な顔してンなや(頬むに
花火始まっちまうぞ
行こうぜ

(お前とこうして二人で出掛けるのは恐らく…
次に会う時は…俺は既に覚悟は出来てる)

屋台で羅刹女の分も串焼き購入
花火見る

花火好きなンだなァ
…鼻緒切れちまったのか?
ン(おんぶしようと

花火を背に人気少ない処へ

羅刹女にとっての俺は何だったンだろうな
ハ?俺の征く路に?
…はァ、そういう

例えお前が悪鬼でも
俺は堕ちねェ
千桜エリシャは俺に必要な存在だ

(お前が欲しい
─欲しかった)

鼓動の音と熱
今どんな顔を?
生涯この刻を忘れない


千桜・エリシャ
【蜜約2】◎
夜桜の浴衣に蝶の帯をひらり

…この間のお食事のとき
突然お暇してしまいましたから
その、お詫びがしたくて
…!そう…それならいいのですが…
不細工って、ひゃっ!…もう

あら、美味しそう
ありがとう
ええ、花火は好きよ
異世界でも見れるとは思いませんでしたわ
っ、てあら?鼻緒が…ご、ごめんなさい
大人しくおぶされば、やけに胸の鼓動が近くて…

あなたは私に構う必要なんてないの
あなたの往く路(正道)に私(外道)は邪魔でしかないもの
だからこれ以上、路を交わらせては…
彼の言葉には何も返せず
(私とあなたが抱く気持ちは同じではないから
けれど大切な存在であることには変わりなくて
本当は手放したくはなくて)

――私って慾深ね



●夏の夜に静心なく
 熱気と興奮に満ちた喧騒の中を蝶が舞っているようだ、と杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)は思った。
 艶やかに咲く花の夜をなにものにも捕らわれない自由な烏が飛んでいるようだ、と千桜・エリシャ(春宵・f02565)思った。

「お前が誘ってくれるとは驚きだわ」
 黒の三筋縞の浴衣に房のある角帯を締め、鳥籠をモチーフとした一本簪を帯に刺したクロウがそう言うと、エリシャが視線を彷徨わせる。それから何度か口籠るようにしてから、漸くその桜色の唇を開いた。
「……この間のお食事のとき、突然お暇してしまいましたから」
「……あァ」
 クロウが前からの約束である、エリシャに手料理をご馳走した時の話だ。
 つい最近の出来事に加え、クロウからすればお前とのことは遊びではないと宣言し、エリシャからすれば返事をしないまま逃げるように帰ってしまった日の。
「その、招待していただいたのに私……余りに不躾でしたから、そう、お詫び、お詫びがしたくて」
 そう、そのお誘いですとエリシャが顔をクロウに向けた。
「気にしてねェよ。それに、俺がそう『仕向けちまった』と思ってるし」
 隣を歩くエリシャの歩調に合わせて歩く男は、だから気にするなと唇の端を持ち上げた。
「……! そう……それならいいのですが……」
 本当に、気にしていないのであれば。言外にそんな気持ちを滲ませてエリシャが言えば、クロウがその柔く白い頬をむにっと摘まむ。
「ひゃんっ!」
「辛気臭ェ不細工な顔してンなや。折角の浴衣に花火だろうが」
「ぶ、不細工って……! もう!」
 摘まんだ指先を離して、クロウが不細工だったぞ? と念を押すように言うと、さして痛くもない甘い痺れの残る頬を指先で摩ってエリシャが二回も言わないでと笑った。
「やっと笑った。そら、花火始まっちまうぞ、行こうぜ」
「クロウさんったら……はい」
 カランコロンと鳴る下駄の音を聞きながら、真っ直ぐに前を向いて隣を歩く彼女に気付かれぬように、ちらりと視線をエリシャに向ける。あの日、ずっと付けたままでいればいいと願い贈った角飾りはなく、思わずその浴衣にも合うだろうにと口にしてしまいそうになって、開き掛けた唇を噤む。
 どうせ、こうして二人で出掛けるのは恐らく。次に会う時の覚悟など既に出来ていると、クロウは立ち止まりそうになる足を動かした。
 少し歩けばすぐに屋台の並ぶ通りに出て、何か食べるかと屋台をクロウが眺める。
「どれが……」
 食べてェ? と、聞こうとして、エリシャの視線がステーキ肉の串焼きに向いているのを見てクロウが小さく吹き出した。
「ちょっと待ってろ、こっから動くなよ」
「クロウさん?」
 熱心に屋台を見ていたエリシャは、気が付かれているとは微塵も疑わず、待てと言われたままにその場で待つ。すぐに串を二本手にしたクロウが戻ってくると、ぱぁっと顔を明るくした。
「ほらよ」
「ありがとう」
 美味しそう、と笑うエリシャを再び連れて、二人で串焼きを食べながら歩き、打ち上がり始めた花火を眺めた。
 食べ終わった串をゴミ箱に捨て、ゆるゆると歩いて他愛ない話をする。時折、返事を忘れて花火に見入るエリシャにクロウが笑う。
「花火好きなンだなァ」
「ええ、花火は好きよ。異世界でも見れるとは思いませんでしたわ」
 そう言って、エリシャがクロウを見上げた時だった。
「きゃ……っ」
 急に足元のバランスを崩したエリシャをクロウが咄嗟に片手で抱き留める。
「大丈夫か?」
「はい……って……あら、あら? 嫌だ、鼻緒が……」
 浴衣の裾を軽く持ち上げると、鼻緒が切れた下駄がひとつ。
「……鼻緒切れちまったのか?」
「ええ、どうしましょう……この辺りに履物屋さんなんて……」
 あったとしても、土地勘のない自分が辿り着けるとも思わない。困ったように眉根を寄せたエリシャの足元に、クロウがしゃがんで背を見せた。
「ン」
「え?」
「さっさと乗れや、邪魔になるだろ?」
「あ、ご、ごめんなさい」
 躊躇いはあったけれど、人様の迷惑になると言われてしまえば素直に背に身を預けるしかない。鼻緒の切れた下駄を手に大人しくおぶさると、いつも以上に近い距離にエリシャの心臓が跳ねた。
 ああ、でも。
 この鼓動は私だけのものではなくて。重なる鼓動に、エリシャが目を伏せる。エリシャを背負ったクロウは、花火を背にして人気の少ない場所へと向かう。少し歩けば、港の喧騒から空気の幕を一つ下ろしたような暗がりがあった。
 適当に、エリシャが座れるような場所に下ろしてやると、下駄を受け取って懐に入れていたハンカチを割くと、鼻緒を直そうと手を動かす。
「ごめんなさい……」
「気にすんな、すぐに直る」
 そうしたら、またゆっくり歩けばいいとクロウが言う。そして、直った下駄をエリシャの足に履かせてやった。
 ひゅるる、と花火が上がる音がする。
「なァ、羅刹女にとっての俺は何だったンだろうな」
 上がった花火にエリシャが目を遣って、どぉん! という音と共に目を閉じる。それから、桜色に輝く瞳をクロウに向けた。
「……あなたは私に構う必要なんてないの。あなたの往く路に私は邪魔でしかないもの」
「ハ? 俺の征く路に? 答えになってねェだろ」
 正道に、外道は邪魔でしかないと、エリシャがただクロウを見つめる。
「だからこれ以上、路を交わらせては……」
「……はァ、そういう」
 エリシャの言いたいことを理解したのか、クロウが己の前髪を掻き上げて、真っ直ぐにエリシャを見つめて告げる。
「いいか、よく聞けよ? 例えお前が悪鬼でも、俺は堕ちねェ。羅刹女……いいや、千桜エリシャは俺に必要な存在だ」
 だから欲しい。目の前の女を手に入れたい。色付いた感情は、例え誰であっても止めることなどできない――。
「……」
 クロウの言葉に、何も返せないまま花火が幾重にも上がる。
 私とあなたが抱く気持ちは同じではない、同じではないけれど大切な存在であることには変わりなく。本当は手放したくはなくて。
 でも、でも、嗚呼――。
 エリシャが己の慾深さにどうしようもなくなって、目を伏せる。花火に照らされたその顔は美しく、クロウは欲しいと思う気持ちのままに鼓動と熱を重ねた。
 お前が欲しい――欲しかった。
 その熱に触れたまま、クロウが薄目を開ける。今、この女がどんな顔をしているのか見たかったから。
 今この刻を彼は生涯忘れることはないと、空を彩る光の中で思った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『狂気空間へようこそ』

POW   :    自我を見失いながらも、強靭な精神力を全力で発揮することで狂気を振り払う

SPD   :    正気を損ないながらも、現実を感知し冷静さを取り戻すことで狂気から抜け出す

WIZ   :    理性を削られながらも、自らの術や智慧を駆使することで狂気を拭い去る

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●昏く、深く
 気が付けば、見たこともない白が広がる場所に佇んでいた。
 警戒するよりも先に、ここが怪異が作り出した空間なのだと理解する。上も下もわからぬ、ただどこまでも広がっているように見える真っ白な空間――異空間だ。
 その白は心の隙間にじわりと染み入るような、白。
 白、白、白、白、白、白、白、白、白、白、白、白。
 目を閉じても目の前が真っ白で、息を飲む。思考にできた抗えぬ白に、浸される。

 白に 浸食 され  る    ――!


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 ユーベルコードは使用する、しないに関係なく設定してください。また、よろしければマスターコメントの【●第二章:冒険パート】を参照ください。
 心情路線でも、コメディ路線でも、紡ぐのは物語の主役である猟兵の皆様方です、お好きなようにプレイングをかけてくださいね。
 受付期間はMSページを参照ください、受付期間前に送られたプレイングはタイミングが悪いとお返しすることになってしまいますので、恐れ入りますがプレイング送信前に一度ご確認くださいませ。
バンリ・ガリャンテ

だって欲しいって言うの。
この身体もこの心も騒ぐの。
いっときも黙らんで、うるさいから。
奔流の様に流れこむ狂乱のかおり。
お誂え向きだねぇ。
今度こそ大事に大切に抱いて
結んで育んで……開く。
人の想いをもらうんだ。俺からの想いをあげるんだ。
分かってる。
いっとういっとう強く紅いのは、あの炎。
お前は恋をするよ。
お前は恋を。

俺の肚を焼く地獄が、
誘いなのか警めなのかごうと音を立てて。
分からないから、身を任せるふりで
俺が全ておさめる。
失った「本当の俺」が望むものなど
知るか。
この狂気はいま、此処に在る俺のもの。
病める時健やかなる時
狂えるとき
この念いは常に、私のものだ。



●恋獄
 眩いまでの光はいつの間にか消え失せ、バンリ・ガリャンテ(Remember Me・f10655)の目の前に広がったのは只々真っ白な世界だった。
「白」
 そう、白だ。
 白と認識すれば、警戒はすれど意識のどこかに空白が生まれる。それは孕んだ狂気を増幅させた。
 どこかうっとりと、どこか冷静な声がバンリの唇から響く。
「だって欲しいって言うの」
 何が欲しいかも解らぬくせに、この身体も心も幼子が月を欲しがるかのように騒ぐのだ。
「いっときも黙らんで、うるさいから」
 内側から燃えているのだと、バンリは思う。耳を塞ごうと塞ぐまいと、お構いなしに轟轟と音を立てて、奔流のように流れ込んでくるのは狂乱のかおり。
 どこかで嗅いだことのあるような、ないような。でも、きっと知っている。バンリがそう思うのだから、そうなのだ。
「お誂え向きだねぇ」
 今度こそ、真綿で包むように、幼子を抱くように、大事に、大切に抱いて。
 結んで、育んで……花が咲くように開く。
「人の想いをもらうんだ。俺からの想いをあげるんだ」
 真っ白な舞台の上で、バンリの呼気に炎が混じる。忘れるなというように、バンリの唇から紡がれる言葉。
「お前は恋をするよ」
 そう、恋を。
「分かってる」
 どこもかしこも白いのに、身の内は赤く朱く紅く。でも、いっとういっとう強く紅いのは、あの炎だ。
『お前は恋をするよ』
「そう、俺は恋を」
 一層強く、バンリの肚を焼く地獄が燃え盛る。
「誘ってるのか?」
 ごう、と音がする。
「警めなのか?」
 ごう、と音がした。
「どっちでもいいぜ、なぁ?」
 分からない、分からないから身を任せるのだ。否、任せたフリをするのだ。
「俺が全ておさめてやる」
 失った『本当の俺』が望むものなど、今のバンリの知ったことではない。
「だってそうだろう? この狂気はいま、此処に在る俺のものだ!」
 身を焦がす甘い毒のような狂おしい感情は、誰のものでもなく、自分のものだとバンリが吼える。
「病める時も」
 この身を滅ぼそうとも。
「健やかなる時も」
 この身を灼き尽くそうとも。
「狂えるときも」
 この念いは常に、私のものだ――!
 白い世界に、大きな黒い亀裂が一筋。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒鵺・瑞樹
アドリブOK
SPD

完全な闇に閉じ込められると人は狂うっていうけど、真白の空間でもそうなるのかな。

…そもそも狂気ってなんだろ。
常軌を逸した思考や行動がそうだというのなら、たぶん俺は普段からそうなんじゃないかと思う。
だって普段から「普通とは?」って考えて、周りの皆を見ているから。
少なくとも自分以外の周囲の平均(普通)を探してるとこはあるな。

それに。
人を想う感情に振り回されそうになって、そんな自分が許せないと思って。
そんな時躊躇いなく自分自身にナイフを突き立てられる奴がおかしくないはずが無いだろう。
本物ではないけど感じる痛みが、流れる血が生きてる事を実感させる。
大丈夫、あの時に比べればまだぬるい。



●くるくると狂え
「完全な闇に閉じ込められると人は狂うっていうけど……」
 真っ白の空間でもそうなるのかな? と黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)が首を傾げる。目を開けていても何も見えないから狂うのか、光がないから狂うのか、さて。
「どこを向いても白というのは、闇と変わらない気もするな」
 何もない、という点では同じだ。ああ、でも。
「白いな」
 そうだ、白、白い。
「……ッ?」
 一瞬の眩暈のようなものを感じて、瑞樹が瞬きを繰り返す。それから、自分の動きがおかしくないかを確認して一息ついた。
「……そもそも、狂気ってなんだろ」
 白い虚の中で、ふと浮かんだ疑問が脳裏を占める。狂気、狂気とは?
「一般的には、精神が異常をきたし常軌を逸脱したことを示す言葉だけど」
 常軌を逸した思考や行動がそうだというのなら、自分は常にそうではないのかとぼんやりと思う。
「だってそうだろう?」
 誰に問い掛けるでもなく、瑞樹の声が真白の世界に響く。答えを返すものはなく、ただ白に声が吸い込まれて消えた。
 けれど、それに構うことなく瑞樹は言葉を続ける。
「だって俺は普段から『普通とは?』って考えて、周りの皆を見ているから」
 普通の人が取る行動として、何が正しいのか見ているから。
「もちろん、人の反応はそれぞれ違う場合があるから、どれが正解だとかは解らないけど」
 それでも、自分以外の周囲の普通の反応としての平均は測れるはずだ。
 淡々とした声を発するごとに、瑞樹の表情が抜け落ちていく。普段見せている笑顔も、穏やかな表情も、どこか困ったような笑みも、その全てが緩やかに、白に吸い込まれていくよう。
「それに――」
 無表情に思えた瑞樹の唇の端が、ゆっくりと持ち上がる。
「人を想う感情に振り回されそうになって、そんな自分が許せないと思ったときに」
 躊躇いもなく自分自身にナイフを突き立てられる奴が、おかしくないはずが無いだろう? こてん、と首を傾げた彼の表情が、白に掻き消されてしまう。白い世界に、黒い大振りのナイフが一本突き立てられているかのようだ。
「ほら、こうやって」
 いつの間にか手にしていた黒鵺を、瑞樹が己へと突き刺す。
 それはヤドリガミの瑞樹にとっては本物ではない痛みだけれど、感じる痛みは正しく瑞樹のもの。流れる紅い血が、自分は生きているのだと瑞樹に実感させる。そっと引き抜いたナイフの血を払い、納める。
「まったく、知らぬうちに浸食する狂気とはな」
 不覚、と瑞樹が溜息を零して前を向く。
 けれど大丈夫だ。あの時に比べれば、まだぬるい――。
 浮かべた笑みにはもう、虚はなかった。
 白い世界に、小さな黒い亀裂が一筋。

成功 🔵​🔵​🔴​

シャト・フランチェスカ
ああ、困ったな
敢えて声に出すけれど
自我が喰われて

白い白い

桜の花弁
滅びを待ち紅に焦がれる無垢の色
枝に結ばれたロープは
首を掛けよとでも言うようだ

希死念慮
破壊衝動
目を見開く
困ったな
ああ、困った
いきていたくないほどだ

彼女は、その人生は誰のものかと糾弾した
わたしが生きるはずだったのに、と指をさした
わたしの偽物のくせに、と泣き叫んだ

僕はそれを黙って聴いていた

《白》にひとつ線を引いたなら
《自》に転じる

万年筆の切先が左手首に「一」を描き
甘い疼痛とともに茨が這う
白を染め抜いて、燃えろ、燃えろ

この生は少なくとも自らのもの
怨みたくば怨んでおくれ
僕はとっくに、この狂気を友としてきた
何年も何年も
懺悔を綴っているのだから



●桜の木の下にて狂はじ
 ほう、とシャト・フランチェスカ(侘桜のハイパーグラフィア・f24181)は愁いを帯びた溜息を漏らす。
「ああ、困ったな」
 ブーツの紐が切れた、そう続いてもおかしくないような声で言うけれど、彼女を取り巻くこれはそんな可愛いものではない。広がる真白の世界に、自我が喰われていくのを自覚しているからこその言葉であった。
 敢えて声に出すことで、空白の浸食を少しでも食い止められたらと思ったけれど、真っ白だと認識してしまったならそれの浸食は止まらないのだ。
「ああ、困ったな」
 もう一度だけ口に出して、それからどこか諦めたような困った笑みを浮かべて、白いと口にする。瞬きの間、意識が暗転したかと思えば、目の前には桜の樹があった。
 舞い散るは桜色の花弁、それはまるで滅びを待ち紅に焦がれる無垢の色のよう。
「おや、ご丁寧なことだね」
 まるで最初からそこに在ったかのように、見上げた桜の枝にはしっかりと結ばれたロープがひとつ。
「ひと一人の体重では折れそうもない枝に、ね」
 今すぐに首を掛けよとでも言うように、ロープがゆらゆらと揺れている。
「風も吹いていないのに揺れるとは」
 まるで催眠術師が使う振り子のように、シャトを誘う為だけにロープが揺れる。それは正しく、催眠状態に落とそうとしていたのかもしれない。
 今、シャトの身体の中を駆け巡るのは死にたいと願う己の思考。
「希死念慮」
 それと共に、手当たり次第に何かを壊してしまいたいと願う思い。
「破壊衝動」
 ほう、と愁いに満ちた溜息をついて逃れるように目を閉じ、見開く。
「ああ、困ったな」
 本当に、困った。
 いきていたくないほどだ、とシャトの唇が緩やかに弧を描いた。
 二つの想いに狂気は加速していく。
「その人生は誰のものかと彼女は糾弾した」
 本の一節を読むように、朗々とした声が響く。
「わたしが生きるはずだったのに、と指をさした」
 桜の枝に吊るされたロープを自身に見立て、シャトが人差し指を向ける。
「わたしの偽物のくせに、と泣き叫んだ」
 桜の花びらが、まるで涙を落とすかのように乱れ散る。
「そして僕はそれを黙って聴いていた」
 狂おしいまでの感情が、シャトの全身を駆け巡る。この感情は、果たして彼女のものか自分のものか。
 わからない、わからないけれどきっとこれは、シャトを離してはくれないもの。
「手放すつもりもないけれどね」
 ロープに首を掛けてしまおうかと伸ばした手に、万年筆を握る。
「知っているかな? 『白』にひとつ線を引いたなら『自』に転じる」
 万年筆の切っ先を、横一文字に己の左手首に走らせる。手首に引かれた一という黒い文字に、じんわりと紅が混じった。
 甘い疼痛と共に、その傷口を抉るかのように鮮血の荊が桜に向かって這う。それは白い世界に炎を灯し、ロープごと桜の樹を燃やしていく。
「この生は少なくとも自らのもの、怨みたくば怨んでおくれ」
 燃える桜の中に、彼女を幻視してシャトが呟く。
「僕はとっくに、この狂気を友としてきたんだよ」
 万年筆のキャップを閉めて、懐へと仕舞う。
「何年も何年も、懺悔を綴っているのだから」
 僕がどれだけの年月をそれに費やしていると思っているの、とシャトが桜色の瞳を鋭くする。
 白い世界に、小さな黒い亀裂が一筋。

成功 🔵​🔵​🔴​

杜鬼・クロウ


あァ、またあんな顔させちまった
…ままならねェわ

異空間で羅刹女と離れ
前にカクリヨで買った金の鳥籠の簪が壊れ

どこもかしこも真っ白…
な、ッ

体中…否、こころが軋む
悲鳴を上げ
白に圧し潰され

俺は手に入れる迄諦めたコトが無かった
お嬢(初恋の人)も一度は結ばれた
永遠ではない倖せとも解ってた
俺の意思で自ら棄てた

何故故郷に残らなかったのか
何故最後を見届けなかったのか

此度もそう
邪魔だと思わせた俺が悪い
在りもしねェ未来を見せた俺が悪い
全部
何を間違えた?
最初から

戀や愛は俺に後悔の念ばかり植え付ける
惑い狂わせて

いっそ壊れたい(壊したい)
こころなんざ知りたくない(消したい)

人の器なんて─

俺の路って
何?

狂気(こころ)の儘に



●烏羽の
 目の前に広がる白を前にしても、杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)の脳裏に浮かぶのは共にいた羅刹女の顔ばかりだった。
 目映く光る花火の光に照らされ、光と影の中に浮かんだ女の顔は――。
「あァ、またあんな顔させちまった」
 儘ならぬ、と息を吐く。けれど、あんな顔をさせられるのは俺だけであればいい、とも。
「……マジでままならねェわ」
 深い溜息を吐きながら、己の頭を搔き乱して手を止めた。
 常日頃であれば、セットが乱れるのを嫌ってやらない行為だが、それだけに自分が参っているのだと視線を落とす。落とした先に見つけたのは、帯に差した金の鳥籠の簪。
「……壊れちまったのか」
 固く閉じていたはずの鳥籠の扉が壊れ開いているし、鳥籠自体が軽く歪んでしまっている。気に入って幽世で買ったものだったのに、ツイてないと自嘲するように笑った。
「ハァ、しっかしどこもかしこも真っ白……な、ッ」
 白、そう、白だ。
 意識し、認識した瞬間にそれはクロウの身体に、否、心に浸食していく。
「ぐァ、あ、ア!」
 額に汗を浮かべ、苦し気な声でクロウが呻く。
 白、白、白。
 意識の全てが、白に圧し潰される――!
 ぷつり、と途切れた意識がまるで映像媒体の再生スイッチを押したかのように浮上して、勝手にクロウの記憶を綴る。
「俺は手に入れる迄諦めたコトが無かった」
 そうだ、俺は欲しいと思ったものを諦めるような男じゃねェ。
 つらつらと流れる言葉はノイズ混じりで自分が発しているとは思えず、どこかテレビの画面を見ているような気持ちで聴いていた。
「お嬢とも、一度は結ばれた」
 初恋の女だ、初恋は実らないなんて言葉は一笑に付した。
「永遠ではない倖せとも解ってた」
 そうだ、そして俺の意思で自ら棄てたんだ。
「何故故郷に残らなかったのか、何故最後を見届けなかったのか」
 そんなこと、今でも時折どうしてと考えるが答えなんか出やしねェよ。
 淡々とした己の声に、クロウが答える。
「此度もそうだろう?」
 そうだ、邪魔だと思わせた俺が悪い、在りもしねェ未来を見せた俺が悪い、あんな顔をするのは解っていたのに。
 全部、全部、全部!
「俺は何を間違えた?」
 ぽろりと零れ出た言葉は、テレビから聞こえるノイズではなく、確かにクロウのもの。
 何をだなんて。そんなの、最初からに決まってる。
 答えた声は、ノイズ混じりの己の声。
「ハ、ハハハ」
 乾いた笑い声が響く。
「戀や愛は俺に後悔の念ばかり植え付ける」
 惑い狂わせるばかりだ、なのに俺は諦めようとは思えない。
「いっそ壊れてェ」
 壊してしまいたい――。
「こころなんざ、知りたくもない」
 消し去ってしまいたい――。
 人の器なんて、最初から持つべきじゃなかったのかもしれない。ああ、だけど。
 愛しいと想うものが、なんとこの身には多いことか。
「なァ、俺の路って」
 何? この胸を占める女への問い掛けか、独白か。自分でも解らなかったけれど、白い世界の中でクロウが笑う。
「全ては俺のこころの儘に」
 こころは狂気に触れているけれど、与えられる狂気ではなく、これは己の狂気だと。
 白い世界に、小さな黒い亀裂が一筋。

成功 🔵​🔵​🔴​

志島・小鉄
コノ空間は一体?
あゝ、あゝ、腹の底に隠したモノが溢れ出ル。
白、白、どこも白

白い空間は汚してしまいたい。
真っ赤に染めてしまいたい。
随分と昔に閉じ込めた思いが溢れてくる。
探偵として生きていたわしが探偵として生きる為に隠していた思いが。
犯人を追い詰める為に成した数多の、

あゝ、イカンイカン、わしは文具屋。探偵はとうの昔に辞めたのデス。
狂気に飲み込まれる訳ニハいかんノデス。

難解な事件に挑む時の緊張感が堪らない。
人間様の血はとても美味しい。
迷宮入り、猟奇的な事件、堪らない堪らない。もう一度味わいたい。

あゝ、イカンイカン、わしは文具屋デス。
事件トハ無縁の文具屋ナノデス



●白に赤に
 はて、と志島・小鉄(文具屋シジマ・f29016)は首を傾げる。先程までは確かに夜空に上がる花火を楽しんでいたはずだというのに、今自分がいるのは。
「コノ空間は一体?」
 辺り一面真っ白な世界、どこもかしこも、白、白、白。自分までもが白く染まってしまいそうな錯覚に陥りそうな程に、見渡す限り白であった。
「此れハ、駄目デス」
 腹の底がずくりと騒めいたのを感じて、小鉄が拙いと緩く首を振る。振っても、この身と心を染めようとする白は振り落とせず、小鉄が思わず目を閉じた。
 閉じた先も白く、それはじわりじわりと小鉄を侵す。
「あゝ、あゝ、腹の底に隠したモノが溢れ出ル」
 いけない、と心を閉じようとしても、白がそれを許さない。白、白、どこも――。
「白」
 口にした瞬間、幾重にも閉じ込めていたはずの思いが溢れ出る。
『白い空間は汚してしまいたい』
 好きだろう? 真っ赤に染まったそれが。
 ぽろりと零れ落ちた声は、小鉄のものか異形のものか。
「あゝ、イカンイカン」
 そうは言えど、増幅していく此れは止まらない。
 探偵として生きていた小鉄が、探偵として生きる為に隠していた思いが、厳重に仕舞っておいた心が。犯人を追い詰める為に成した、数多の、行為が。
「あゝ、イカンイカン、わしは文具屋。探偵はとうの昔に辞めたのデス」
 そう、今は探偵などではなく。温厚な文具屋の店主なのだ。暇潰しを求めて来た客に、閑古鳥と迷宮入りした事件の話を提供する、温厚な――。
「本当に、それは迷宮入りをしたノデス。えゝ、えゝ、デスから、狂気に飲み込まれる訳ニハいかんノデス」
 この腹の底に隠したモノを、暴かれるわけには。
『暴くのは、探偵の仕事だ』
 難解な事件に挑む時の緊張感が堪らない。
 そこには必ず秘密と死の匂いがあるから。
 人間様の血はとても美味しい。
 赤くて、赤くて、とても綺麗。
 迷宮入り、猟奇的な事件、堪らない堪らない。もう一度味わいたい。
 そう、あの血の味をもう一度――。
「あゝ、イカンイカン、わしは文具屋デス」
 掻き抱いた我が身を抑え付けるように、小鉄が言う。己に言い聞かせるように、そうであると思わせるように。
「事件トハ無縁の文具屋ナノデス」
 腹の底から転び出そうになったそれを上手に抑え込み、小鉄が穏やかに笑った。
 白い世界に、小さな黒い亀裂が一筋。

成功 🔵​🔵​🔴​

灰神楽・綾
【不死蝶】◎
真っ白な空間で、突如頭に流れ込んでくるのは
真っ赤な血、倒れる人々、血、血、血…
これは殺人衝動に堕ちてしまった誰かの狂気の世界?
俺が求めているのは「殺し合い」であって「殺人」ではない
(――それ自体もなかなか狂っていると思うけど)
でも「ただただ人を殺めてみたい」というのは
こんな気持ち?ああ、やだ、やだ、こわい

いま梓の顔を見ると何するか分からなくて
俺の手をぎゅっと握っててもらう
それでも抑えきれない衝動に
梓の首筋に思いっきり牙を突き立てた

梓の悲鳴と、流れる血を見て
ふと頭がクリアになる
そうだ、今まで見せられていたのは所詮ただの幻
本物の血を見て落ち着くだなんて
真性のろくでなしだね俺は


乱獅子・梓
【不死蝶】◎
多分俺も綾も同じものを見せられているのだろう
殺人衝動か、ベタ且つ悪趣味な狂気だな
誰かが殺し殺されていくところなんて
故郷に居る間も、猟兵になってからも、何度も見てきた
だが普通の人にとってはこんなの耐えられないだろうな
…だなんて、第三者目線で分析することで
何とか己を保っている
こんな空間と真正面から向き合ったら終わりだ

震える綾の手を握り
大丈夫だ、と子どもをあやすように背中をさすり続ける
自分自身にも言い聞かせるように

――いってぇ!!?
不意打ちで首筋を噛まれて変な声が出る
だが瞬間的な強烈な痛みに
嫌でも頭が冴えてきたというか…
見れば綾も落ち着きを取り戻した様子
本当に仕方ない奴だなお前は、と笑い



●紛い物の殺人衝動
 どこまでも続く白に、灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)は掴んだままの乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)の服の裾を強く握り込んだ。
 裾を引っ張られている感触は勿論分かってはいるが、梓は気付かぬ振りを続けたまま、サングラス越しにも解る程の白い世界を見て口にする。
「ここまで白いと目がチカチカしそうだな」
 お互いサングラスを掛けてて良かったな? なんて軽口を続けるはずだったのに、それまで何となく意識の外側にあった白が急に目の前にやってきたかのような感覚に梓が息を飲んだ。
 それは綾も同じだったようで、梓の服の裾を握り締めていた手を外し、こめかみに手を置いている。まるで片頭痛を堪えるようなその仕草に、梓が声を掛けようとした時だった。
「ぐ……っ」
「あ……ッ」
 二人同時に呻いて、目を閉じる。真っ白になった頭の中に流れ込んでくるのは、赤、赤、赤。
 赤。倒れる人。赤。倒れる人。その赤が、真っ赤な血だと気が付いて、二人が顔を見合わせる。
「違うとは思うけど、これって梓の?」
「違うって分かってるなら聞くな」
「だよねぇ、じゃあこれって」
 俺の? と綾が首を傾げたけれど、綾が求めるのは殺し合いであって殺人ではない。こんな、一方的な虐殺をしたいと思ったことは無い。まあ、己の求める殺し合いも中々に狂っているとは思うけれど、と綾が胸の内で呟く。
「綾のでもないだろう」
「……うん、違うね」
 きっぱりと否定した梓に、綾が笑う。恐らくは過去にこの狂気の空間に攫われたであろう人のモノ、殺人衝動に堕ちてしまった見知らぬ誰かの狂気だ。
「ベタ且つ悪趣味な狂気だな」
 見知らぬ誰かが殺し殺されていく場面なんて、故郷にいる間も猟兵になってからも、梓は何度だって見てきた。
「普通の人間がこんなもの見せられたら、到底耐えられないだろうな」
 同じように狂って殺人衝動に堕ちるか、殺される側の狂気に飲まれて自我を壊すか……慣れているという程に冷酷にはなれないが、普通の人間よりは耐性があると第三者の目線に立って分析してはいるが、梓だってキツイ。隣に綾がいると思うからこそ無様な姿を見せたくないと、なんとか己を保っているけれど――。
「しっかりしろよ、綾。こんな空間と真正面から向き合ったら終わりだ」
 自分にも言い聞かせるように、梓が綾に言う。
「うん」
 だけど、と綾は思う。こんな、こんな『ただただ人を殺めてみたい』という感情は。
「ああ、やだ、やだ、こわい」
 こんな気持ちで殺し合いなんてしたことはない、こんな、尽きることの無い殺人衝動なんて。
「しっかりしろ、綾!」
 震える綾の手を握り、梓が綾を引き寄せる。
「あ、ずさ」
「大丈夫だ」
 そのまま、子どもをあやすように綾の背をさすり続ける。何度も耳元で繰り返される大丈夫の言葉に、綾も己の中で大丈夫と繰り返すけれど、その間も絶え間なく広がる赤に、紅に、耐え切れなくなって――見開いた視線の先にある梓の首筋に、縋るように牙を立てた。
 ひゅ、と梓が息を吸う音と共に響く声。
「いってぇ!?」
 声と言うよりは、悲鳴に近いかもしれない叫びに、びくんと身体を震わせて綾が突き立てた牙を離す。
「あ……ごめん、つい」
「つい、で噛む奴があるか!」
 不意打ちで噛まれたこともあるが、何よりもその強烈な痛みに思わず涙目になる。けれど、その痛みと共に頭が冴えた。
「ごめんって」
 梓の悲鳴からの怒った声と、首筋から流れる血に、思わず綾の頭も霧が晴れた様にクリアになる。
「でも、お陰で落ち着いたかも」
「俺の血でか?」
「うん、梓の悲鳴と血で、かな」
 今まで見せられていたのはただの幻だと、本物の血と幻では比べようもないと気が付いて落ち着くなんて。真正のろくでなしだね、と梓にも見えぬよう綾が俯いて自嘲混じりに小さく笑えば、大きな手が頭を撫でた。
「本当に仕方ない奴だな、お前は」
 そう言って笑った梓の声はただ優しくて、綾も俯いたまま笑みを浮かべた。
 白い世界に、大きな黒い亀裂が二筋。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鬼桐・相馬
狂気を[冥府の槍][黒耀の軍制コート]等の装備品へ流して行く
オーバーフロー発生からの強制的な精神拘束を発動させよう
冷たい水底に放り込まれるような感覚は未だに慣れないが仕方ない

白を通じ記憶に蘇るのは研究施設にいた頃の拘束服
中でも苦手だったのは身の内から湧く悪意の数値化に関するデータ収集
研究員達もあの時だけは非情に結果を求めた
広い空間でひたすら失敗作という名の命を屠るんだ

だが、今はそれをしたくて仕方がない
狂おしい程の殺戮衝動に身を委ねたくてたまらない
今ならもっと良い結果が出せる

精神拘束が発動したら[狂気耐性]でも抵抗し[落ち着き]を取り戻す
[軍用鞄]の中で満腹のモモが爆睡中な事だけ確認しておきたい



●白に通ずる
 幾重にも重なる美しい花火を見ていた、筈だった。
「俺は……」
 一瞬霞んだ思考を手繰り寄せるように、鬼桐・相馬(一角鬼・f23529)は閉じた目を開ける。そこに広がるのは、何処までも広がる果ての無い白。
「把握した」
 花火の終幕になれば怪異が己の空間に引き摺り込むだろう、と言っていたのを思い出す。ならばここは――。
「狂気の空間というわけか」
 そっと鞄の膨らみを確かめ、そこにある鼓動を確認すると相馬が一歩前に踏み出す。
「……ッ」
 踏み出したその爪先から、白が浸食するかのように相馬の意識へ食い込んだ。
 その白は狂気だ、即座に判断した相馬はそれらを紺青の冥府の炎に焼かれ続ける黒槍、冥府の槍へと流す。
「こいつで受けきれないとはな」
 御しきれない狂気を黒耀の軍制コート、それから軍靴へと落とし込む。わざとオーバーフローを発生させ、コートに仕組まれた多重の精神拘束の呪いで自身を縛るのだ。
 まだ余力があるのだろう、呪いは発動していない。発動すれば相馬にはすぐ解る、冷たい水底に放り込まれるような、あの感覚。
「何度受けても慣れるものではないが、仕方ない」
 慣れていいものでもないのだろう、だから慣れないのだとも思う。
「白、白か」
 意識しようとしまいと、これだけの白が目の前にあれば嫌でも思い出すのは、研究施設にいた頃の記憶、それから拘束服。拘束服といっても、雁字搦めにされていたわけではない、手足の自由はきちんとあった……と思う。
「あれはどちらかと言えば……」
 何かしらの数値を計ったり、万が一に備えて意識を落とすような効果、それから精神拘束の意味合いが高かった、と思う。相馬にとって研究施設は悪い場所ではなかった、施設の人々は一様に優しかったし、両親もいた。
「ああ、だけどあれだけは苦手だったな」
 身の内から湧く悪意の数値化に関するデータ収集、だったか。あの時ばかりは研究員たちも結果だけを求め、非常であった。
 広い空間で、ひたすらに彼らが失敗作と呼ぶ命を屠るのだ。
 失敗作であっても、命だった。血は紅く、言葉は喋らねど断末魔の悲鳴はあった。
「だが――」
 今は、それをしたくて仕方がない。
 相馬の金色の瞳が、昏く光る。この身を駆け巡る狂おしい迄の殺戮衝動に身を委ねてしまえば、きっと愉しいだろう。正しく蹂躙し、屠って、屠って、屠って。
「今ならきっと、あの時よりも良い結果が出せる」
 底冷えするような声音でそう言った時、相馬の左手の甲が淡く光った。それと同時に、薄く立ち上がる青い炎のような文様がコートの裏地や靴底に現れる。
 精神拘束の発動、そう認識してしまえば目の前の白はもう拘束服の色ではなく、舞い散る羽根の――。
「なるほど、これが狂気に堕とされるというやつか」
 把握してしまえば元よりそういったものの制御に長けた相馬のこと、すぐに落ち着きを取り戻す。それから、軍用鞄の中を覗きヘキサドラゴンのモモが無事かどうかを確かめた。
「……お前は大物だな」
 くぴ、と寝息を立てて羽根飾りを枕に爆睡しているモモに小さく笑って、相馬が前を見据える。
 白い世界に、大きな黒い亀裂が一筋。

大成功 🔵​🔵​🔵​

呉羽・伊織
【花守】
真白の中、ぽつりと穢れを落とした様な己の影――内に渦巻く忌まわしい黒

咄嗟に仮面で顔も心も隠し込み
抑え込まんと足掻けども

お前は在ってはならぬもの、と――責め立てられ、掻き消されそうな心地が膨らむ
そうして己が薄まる程、白に誘われ呪詛や幽鬼が――黒い狂気が滲む
人を憎み、怨み、呪いと殃いを望む刀と鬼の念――今まで必死に御してきたものが、一気に心を呑まんとする

――噫、黙れ、やめて、責めないで

無我夢中のさなか
懐に秘した符や刀――心身を護る武器にして、人との縁の品を思い出せば、急に心強さが戻る様で――

先程の花火の色
皆との想い出の彩
其で以て、塗り潰さんと染み込む白に抗おう

…余計な世話も心配も、無用だ


佳月・清宵
【花守】
――随分と気分も居心地も悪い場所なこった

(顔を隠した連れに肩竦めるも、今構うべきものは互いでなく――どうやら其々、内に潜む連中らしいと悟り)

我が身の内には荒ぶ鬼
連れ歩く刃には狂える呪詛
飼い慣らしていた連中が、渇きを満たさんと騒ぎ立てる

血を寄越せ、さもなくば貴様の心身を明け渡せ――何もかもを呪い滅ぼし尽くしてくれようと、ここぞとばかりに狂気に誘う
嘗て或る女を狂い堕とした妖刀が嗤い、逸る

然れども、俺は元より酔狂も酔狂――元から狂ってんだよ
呑むのは好きだが、呑まれやしねぇ

余りに煩けりゃ、己の腕に刀を突き立て血を啜らせ黙らせよう
――他のもんは一切呉れてやらぬがな

さて――情けねぇ面してんなよ?



●身の内に潜むは
 見上げていた目映い夜空はいつの間にか消え失せ、目の前に広がったのは白、白、白。
 隣に居た男が同じ空間にいるかどうか確認する為に、佳月・清宵(霞・f14015)が視線を横にやれば呆然としたような顔をした呉羽・伊織(翳・f03578)が見え、まずは互いに無事であることは確認できたが、さて? と清宵が目を細めた。
 真っ白な世界に、まるで取れない染みのような己の影。それは穢れであるとでもいうように、伊織は身の内に渦巻く忌まわしい黒に苛まれる。咄嗟に烏の面で心をも隠しこむように顔を隠すけれど、忌むべき黒は身の内を酷く掻き回していた。
 隣に自分がいることにも気が及ばぬほど、伊織は何かに捕らわれたのだろうと仮面で顔を隠した男に清宵が肩を竦める。けれど、今構うべきものは互いではなく、どうやら其々の身の内に潜む何某かであると瞬時に判断したのだろう。
「呑まれるなよ」
 その言葉も届いたかどうかはわからない。けれど、それ以上は無用であろうと清宵も己を浸食しようとする何かに相対する為、そっと目を閉じた。

 鬼。
 獣が唸るような声が身の内で渦巻く。
『伊織、おまえは在ってはならぬもの』
 幾つもの声が頭の中で響く。それらは全て伊織を責め、今すぐにでも消えてしまえと誘う声だ。
「……ッ」
 声が響く度、自分がひとつずつ掻き消されていくような感覚に落とされる。足元が覚束ないような心地が膨らみ、そうして己という人格が薄まるほどに白は伊織を浸食していく。それは白であって、黒。
 呪詛、幽鬼といった黒い泥濘にも似たものが、黒い狂気が伊織の内から滲む。今すぐにでも抑え込む檻を壊し、外へ出ようとするかのよう。
 人を憎み。
 ――噫。
 怨み。
 ――黙れ。
 呪いと殃いを望む刀と鬼の念。
 ――やめて、責めないで。
 今まで伊織が必死に御してきたものが、一気に心を呑まんと膨れ上がる――!

 鬼。
 己が身の内に荒ぶ鬼がいることを、正しく清宵は理解している。
 連れ歩く刃はその刀身に狂える呪詛を秘めており、常日頃なら清宵がしっかりと飼い慣らし抑え付けているのだが、この場に満ちるものは狂気。その手の輩が活発になるのも道理というもの。
「騒ぐな」
 渇きを満たせと騒ぎ立てるそれを諫めるが今まで抑え付けていた分、反発するかのように清宵に楯突いた。
 血を寄越せ。
 ――断る。
 さもなくば貴様の心身を明け渡せ。
 ――これは俺のものだ。
 ならば、何もかもを呪い滅ぼし尽くしてくれようぞ!
 ――できるもんならやってみな。
 清宵の身の内で、嘗て或る女を狂い堕とした妖刀が清宵を嗤い、その身を喰い尽くそうと逸る――!

 荒れ狂うそれに無我夢中で伊織が浴衣の懐に秘した符や刀を掴む。それは心身を護る武器であり、人との縁を繋ぐ品。
 どこぞの狐直伝の、見様見真似で作った護身符。彼の桜との誓いを宿す匕首。あの時誓った桜の彩りを宿す組紐。
 それから、それから。
 伊織の意識が急激に引き上げられ、揺れ惑う心に浮かぶのは先程夜空で輝いた華の色、そして皆との思い出の彩。
「ああ……」
 それらは確かに己の武器となり、塗り潰し呑み込まんとする白に抗う。独りではないと、伊織に教えてくれているようだった。

 喰らい尽くそうとするならば、それ相応の覚悟をしろと清宵が妖刀を嘲笑う。
 寄越せ寄越せと、狂気がどんなにこの身を浸そうとも、然れどこの身は――。
「俺は元より酔狂も酔狂、元から狂ってんだよ」
 呑むのは好きだが、呑まれやしねぇ。く、と清宵が喉奥で笑えば、一層喧しく妖刀が喚き立てる。
「煩せぇな」
 溜息をひとつ零し、駄々をこねる子どもを黙らせるように妖刀を己の腕に突き立てた。
 喚く声はぴたりと止まり、夢中になって血を啜る。もういいだろうと腕から抜けば、もっとと強請る声が聞こえたが無視して鞘に納める。懐の手拭いで傷口をきつく縛り、血の一つで黙るなら安いもんだと唇の端を持ち上げた。
 ――他のもんは一切呉れてやらぬがな。
 さて、と瞬きをひとつして、隣の男を見遣る。
「情けねぇ面してんなよ?」
 もしもそんな顔をしていたら、どうしてやろうかと思いながら清宵が伊織に声を掛けた。
「……余計な世話も心配も、無用だ」
 杞憂だったかと清宵が目を細めてくつりと笑うと、伊織が仮面を付けたまま真っ直ぐに真白な世界を見据えた。
 白い世界に、大きな黒い亀裂が二筋。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

壱織・彩灯
凪(f28056)と

真白き世界、穢れ知らず
一一否、違う。是こそ狂っているのだ
猫は生か死か、或いは

所詮、自分など畏怖にて媚び諂う者のみ
生は何処までも果て無き地獄よ
縁在る俺が、何とも滑稽な愚痴

少年の瞞しは
俺を一瞥してすり抜けて

一一渇いた笑いだけが響いて

もうよい、
孤独と成るなら
凡て壊せばよいのだ

この掌が凪の首元を慈しむように
するりと這わせて
軈て力を込めて侵食してゆく

縁は引き寄せるものと
名を、其方がくれたから
微睡む狂った世界の片隅で

……なぎ、なぎ。

頬に温もり、真っ直ぐな彼女の眸
狂気は揺らぐも鬼は未だ
引き寄せられ重なる烟る馨にあまやかな唇
柔く心は融け沈む

此れは極上の気付け薬
凪への御礼は酒如きでは足らんよ


无霧・凪
彩灯(f28003)と

白い箱の中のようですね
シュレディンガーかしら
この場合の猫は?

嗚呼、孤独を嗤う方の多い事
鈴鳴りの笑声が被さっていく

好き好んでひとりを選んではいます
何故それを愚かだと?
煩わしい事だらけ
そう、こういう時はいつも煙管を吹かして

手に取った愛方
狂気に魅入られていたと気付くには十分

寄せられた指先は甘やかなのに寂しい
狂気に囚われている様子
縋るようなあなたを振り解くには忍びない

咳き込みながら頬へ触れよう
彩灯様
私は変わらず共に居ます
しっかりなさい
途切れ途切れでも

あまりにもな分からずやでしたら
首を引き寄せて口を吸って差し上げましょう
この代金はお高いですから
店に通って高いお酒を飲んでください



●狂気も孤独も柔らに触れる
 気が付けば花火の音は消え、夜闇は白へと変わっていた。
 変わらなかったのは、隣に立つ互いの距離だけ。
「白い箱の中のようですね」
 何処を見渡しても、何処までも続く白に无霧・凪(馨夢・f28056)が壱織・彩灯(無燭メランコリィ・f28003)を軽く見上げ、首を傾げた。
 さらりと零れた凪の白い髪に指先で触れ、彩灯が手を離す。
「穢れを知らぬ白か」
 夜の下で見るよりも白い女に笑んで、彩灯も引き摺り込まれた空間を見遣る。ここは白く、白く、白い。けれど、この世界は穢れを知らぬのではなく、穢れも全て飲み込んだ先にある狂気を孕んだ世界だ。
「白い世界ではあるが、是は狂っているな」
「ふふ、狂っているか狂っていないか。箱を開けて確認するまではわからない……シュレーディンガーかしら」
「猫か」
「ご存じでしたか。この場合の猫は?」
「俺と凪か?」
 大人しく箱の中で生か死を待つような二人ではないのに? と、彩灯が笑うと凪も片目を閉じて静かに笑った。
「それにしても、何処までも白いのですね」
「ああ、果てが見えな――」
 白。そう、白だ。隣に在る柔らかく美しい白ではなく。
 白。そう、白です。隣に在る確かな黒ではなく。
 それは、白である。意識が白に飲み込まれる。

 孤独。
 所詮、自分などは畏怖にて媚び諂う者のみと彩灯が嗤う。
「生は何処までも果て無き地獄よ」
 生きて地獄、死んでも地獄。地獄に縁の在る俺が吐くには、なんとも滑稽な愚痴よともう一つ嗤った彩灯の前に、少年の姿をした瞞しが浮かぶ。それは彩灯にちらりと視線をやると、こちらが声を発するよりも早く彩灯をすり抜けて消えていった。
「ハ、ハハハ!」
 残ったのは、乾いた笑い。
「もう」
 よい。孤独と成るのならば、全て壊せばよいのだと、彩灯の声が頼りなげに白い箱であると彼女が言った空間に響いた。

 孤独。
 白い箱の中、なんと孤独を嗤う方の多いこと。
「どなた様も、孤独をお嫌いになりますね」
 凪の声に、鈴鳴りのように笑い声が被さっていく。お前は孤独だと、独りなのだと笑っている。
「好き好んでひとりを選んではいますけれど」
 何故それを愚かだと、私ではない見知らぬ誰かが言うのだと凪の赤い瞳が細くなる。
「嗚呼、本当に煩わしい事だらけ」
 こういう時はいつも心を落ち着ける為に煙管を吹かす。薔薇の馨を漂わせれば、それだけで気分が落ち着くというもの。そう考えて凪が愛方と呼ぶ煙管を手に取った。
「……あら」
 なるほど、この鈴鳴りの笑い声は狂気に魅入られた幻聴だったかと、冷たく指に馴染む煙管の感触に不意に正気を取り戻す。
「彩灯様は大丈夫で――」
 ひゅ、と凪の息が詰まる。名を呼んだ男は、どこか愛おしいものを見るような目で凪に掌を伸ばしたのだ。
 冷えた指先が凪の頬に触れ、そのまま掌が首元へと這う。
「……彩灯様?」
 今一度名を呼んでも、男は答えない。そのまま慈しむかのように何度か頬と首筋を撫で、それが当たり前だとでも言うようにゆっくりと掌で白い首を掴み徐々に力を入れていく。
 振り払うことも出来た冷たい指先を振り払わなかったのは、それが甘やかであるのに寂しさを含んでいたから。凪はぎり、と絞まる首に苦し気に目を細め、彩灯を見る。
 狂気に囚われた、虚ろな瞳。けれどその奥には、縋るような光があった。
 振り解くには忍びなく、繋がった縁を切るには惜しく。仕方ないですね、と独り言ちて、凪が締まる喉に咳き込みながらも彩灯の頬へと桜色の指先を伸ばし、触れる。
「彩灯、様」
 縁は引き寄せるものと言った女が、俺の名を呼んでいる。
「私は……ごほっ、変わらず、共に居ます……しっかり、なさい……っ」
 微睡む狂った世界の片隅で、目を開こうと足掻く。虚ろな瞳に、光が宿る。
「……なぎ、なぎ」
 頬に感じる温もり、真っ直ぐな凪の眸。狂気は揺らげど、鬼は未だ凪の首を掴む掌の力を緩めない。
「私の名をお呼びに、なるのに」
 分からず屋ですこと。
 彩灯に触れていた指が、彼の首を引き寄せる。首を絞められたまま、凪が男へ唇を重ねた。
 引き寄せれられるままに重ねた甘やかな唇、烟る馨。それは柔らかく彩灯の心に融けて沈んで、凪の首を絞めていた掌は彼女の頭を掻き抱く。
 重ねて吸って、離れようとした唇をもう一度吸って。
「此れは極上の気付け薬だな」
「もう正気にお戻りでしょう?」
 離してくださいと凪が言外にそういうと、彩灯の指先が名残惜し気に離れていく。
「この代金はお高いですから」
「幾らでも、凪の望むままに」
「では、私の店に通って高いお酒を飲んでください」
「この御礼は酒如きでは足らんよ」
 望むなら、宝石でも着物でも何でも貢いでやろうと、彩灯が笑った。
 白い世界に、大きな黒い亀裂が二筋。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 集団戦 『『都市伝説』ドッペルゲンガー』

POW   :    自己像幻視
【自身の外見】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【全身を、対象と同じ装備、能力、UC、外見】に変化させ、殺傷力を増す。
SPD   :    シェイプシフター
対象の攻撃を軽減する【対象と同じ外見】に変身しつつ、【対象と同じ装備、能力、UC】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    影患い
全身を【対象と同じ外見(装備、能力、UCも同じ)】で覆い、自身が敵から受けた【ダメージ】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●罅
 真っ白な世界に、大小様々な黒い亀裂が奔る。
 それはパキパキと音を立て、白い世界が崩れていく。白い世界は薄闇の世界に転じ、猟兵達を包み込んだ。
 そして目の前に現れたのは、自分と同じ姿をした自分ではない自分、それは狂気に飲みこまれたままの自身であった。
 狂気に満ちた己を模した怪異を倒す為に、猟兵達はそれぞれ己へと立ち向かう――。


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 心情路線でも、コメディ路線でも紡ぐのは物語の主役である猟兵の皆様方です、お好きなようにプレイングをかけてくださいね。
 受付期間はMSページを参照ください、受付期間前に送られたプレイングはタイミングが悪いとお返しすることになってしまいますので、恐れ入りますがプレイング送信前に一度ご確認くださいませ。
シャト・フランチェスカ
ねえ、きみ
僕の真似をするのなら
前提をひとつ間違えているよ


碇を下ろせ/怒りを堕ろせ
死の味は甘かろう
未だ鐘は鳴らない

お前
僕の顔して勝手に生き損なうなよ
それで物書きのつもりか
それで「シャト」のつもりか
嗤わせるな

そんなに人を喰らいたければ
彼らの背景も総て背負う覚悟でやるんだね
僕だけじゃない
下手くそな物真似に呑まれるような簡単な人生
たぶん誰も生きていないさ

きみが人々に与えた狂気のぶんだけ
きみもそれと向き合うといい
あっさり消えてお終い、なんて
許すわけないだろ

🔴ああ、そう
私の助けは要らないの
つまらない!

僕に成り代わろうとする
白い髪の女の声
つまり僕が向き合うべきものの声が
自分の内側から聞こえた気がした



●祈りの鐘は鳴らない
 白が罅割れた先の世界で、シャト・フランチェスカ(侘桜のハイパーグラフィア・f24181)は自分と同じ顔をした偽物の前で、嘆息した。
「ねえ、きみ」
 瞬きをする間に一歩前に出て、可哀想なものを見るかのように頭を振る。
「僕の真似をするのなら、前提をひとつ間違えているよ」
 碇を下ろせ。
 怒りを堕ろせ。
 シャトの耳に、未だ鐘の音は聞こえない。
 瞬きをひとつ、桜色の瞳が柔らかく相手を蔑む。
「お前、僕の顔して勝手に生き損なうなよ」
 紫陽花色の髪を揺らして、詩情をのせた声が響く。それは偽物の耳を、脳を、心を揺さぶる彼女の力。
「それで物書きのつもりか」
 つまらない、実につまらないとシャトが偽物を詰った。
「それで『シャト』のつもりか、嗤わせるな」
 ひとつも面白くもない、喜劇でも悲劇でもない物語を僕に見せるな。
 ドッペルゲンガーが頭を抱えて後退る。それを追い詰めるようにシャトが一歩足を踏み出す。
「そんなに人を喰らいたければ――」
 彼らの背景も、全て背負う覚悟でやれとシャトが深く響くような声で告げる。
 そう、告げる、告げる、告げる。
「僕だけじゃない、下手くそな物真似に呑まれるような簡単な人生なんて」
 たぶん誰も生きていないさ。
 お前以外はね。
 苦しむように、偽物の顔が歪む。
「さあ、きみが人々に与えた狂気のぶんだけ、きみもそれと向き合うといい」
 既に向き合っているからこそ、顔を歪ませているのだろうけれど。
「あっさり消えてお終い、なんて……許すわけないだろう?」
 消えてしまうその時まで、同じだけの苦悩を味わえ。シャトが死刑宣告のようにそう告げようとした時だった。
『ああ、そう。私の助けは要らないの、つまらない!』
「……っ!」
 シャトに、『僕』に成り代わろうとする白い髪の女の声が響く。恐らく、それが聞こえたのはシャトだけなのだろう。何故なら、それはシャトの内側から聞こえたのだから。
「僕はいつかキミと向き合うべきなのだろうね」
 シャトの独白は薄闇に消えていく。
「……偽物も消えたね」
 しまった、とは思うが仕方ない。
「逃げられはしないよ」
 それまではせいぜい苦しみ足掻くがいいよ、とシャトが歌うように呟いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

黒鵺・瑞樹

右手に胡、左手に黒鵺の二刀流

「誰がために」が根底であるならばあれはさらにその根っこ。
打ち直す前の複数のナイフみたいなもの、かなぁ。
統合される前のバラバラで誰でもなく何もないから、自分を使い捨てにできる。

隠密しても意味がないかな、根っこが同じだから戦い方はお互い変わらないし。
可能な限りマヒ攻撃を乗せた暗殺のUC菊花で真っ向勝負。
違いがあるとすれば捨て身にならない事だけ。少なくとも俺は生きる事をまだ諦めてない。
敵の攻撃は第六感で感知、見切りで回避。攻撃の手で流す事も念頭に置く。
回避しきれないものは本体で武器受けで受け流し、カウンターを叩き込む。
それでも喰らうものはオーラ防御、激痛耐性で耐える。



●それは誰が為の
 薄闇の中、黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)は自身と同じ姿形をしたものと向き合う。
「利き手は同じか」
 鏡ではないものな、と納得しつつ、瑞樹が右手に胡を左手に黒鵺を構えた。
「それにしても……」
 無表情な自分と向き合うのは、些か居心地のいいものではないなと思う。それから、短く息を吸って相手……偽物の自分を改めて観察する。
「打ち直す前の複数のナイフみたいなもの、かなぁ」
 『誰がために』、それが根底であるなら、あれは更にその根っこのようなものだ。
 だから、統合される前のバラバラで誰でもなく、何もない――。
「自分を使い捨てにできる……そういう俺だな」
 冷静に分析してしまえば、どうという相手ではない。
 だってお前は、生きることを諦めているだろう? 瑞樹が小さく目を細め、二刀を構えたまま偽物に向かって走りだす。
「隠密しても意味がないなら、こうするしかないな」
 自分を写した存在なのであれば、戦い方も変わらないだろうと瑞樹は判断する。
 それならば――青い瞳が薄闇の中で輝く。
「はっ!」
 胡と黒鵺に麻痺の力を乗せ、偽物へと容赦なく振るわれる。舞うように振り下ろされる刃に映った青い輝きが、何度も反射して煌めく。九度、その光が煌くと瑞樹が偽物と距離を取る。真っ向勝負とはいえ、彼は命を捨てるような戦い方をするつもりはないのだ。
 反対に、偽物はそうではないようで瑞樹と同じように青い硝子玉のような目を光らせると、機械的な動きで瑞樹に迫る。それを己の勘と今までの戦闘における経験に基づいた動きで、避け、躱し、時に黒鵺でその武器の受け止めて流す。
「見切った!」
 同じ九度の攻撃は確かに瑞樹の動きを写し取ったような動き、ならばこそ瑞樹にだけわかる隙もあるというもの。偽物の攻撃を全て防ぎ、最後の力を流しきったその瞬間こそが好機。
 防御しようとする偽物の動きを胡で牽制し、がら空きになったそこに向けて黒鵺を突き刺した。
 突き刺した黒い刃を致命傷となるように手首の返しだけで捻り、素早く掻き切る。瑞樹の宣言通り、偽物が膝を突いて瑞樹を見上げる。
 何かを言おうとしているのか、偽物が唇を開く。
『――――』
 消え去るそれが、何を言ったのかはわからない。
 わからないままでいいと、瑞樹は思う。聞いたところで、自分はまだ何もかもを諦める気はないのだから。
 胡と黒鵺を鞘に納め、瑞樹は静かにこの薄闇が晴れるのを待った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

バンリ・ガリャンテ

俺の知らない俺に辿り着いたなら、
真実の俺に辿り着いたなら。
地獄を向け合うんだ。
俺の想いがそこにあるなら、あなたが何であろうと、あなたは俺だ。
だから寄こしてその狂気。
あなたの想いなぞ知らんから、見せて。
俺が見っけた炎はこれよ?
どうだ。強いよ。

【REMEMBER ME】
お前が覚醒する記憶とは何だろう。
俺の「これ」と張り合えるなら楽しみだ。
その念いも、この念いも、かの念いも
私のものなんだ。
ルーンソードを構えあって良く知る、知らぬ力と差し向かえば分かる。
私の目的は私にしか果たせない。
私であるお前にも、
他の誰にもやれない。
さあ焚こう。灼こう。
焼け残って、私が生きよう。



●忘れじの炎
 薄く帳の下りた闇の中、バンリ・ガリャンテ(Remember Me・f10655)はよく知っているはずなのに、全然知らない自分……正確には偽物ではあるが――と対峙していた。
「よう、俺の知らない俺」
 恐れるでもなく、憎むでもなく、そこにいる自分よりも自分であろう、真実に近い自分にバンリが声を掛ける。まるで、恋をしている乙女のように。
 けれどバンリがしようとしているのは、そんな甘やかなものではない。互いの地獄を向け合うのだと、蕩けるような笑みを浮かべてバンリが笑った。
「俺の想いがそこにあるなら、あなたが何であろうと、あなたは俺だ」
 オブリビオンでも、怪異でも、偽物でも。バンリが強くそう思えば、それは狂気を伴ってそうなるだろう。そういう、怪異なのだから。
「だから寄こして、その狂気」
 真実の自分がどう思おうとも、どんな想いがあろうとも、バンリには知らぬこと。
「見せて」
 うっとりと、バンリはその狂気をねだる。
「ああ、先に俺のを見せようか?」
 LOST: my piecesと名付けたルーンソードを構え、自分が見つけた炎はこれだと言えば地獄の炎が吹き荒れた。
「どうだ、強いよ」
 だから、ほら、早く。お前の地獄を見せてくれ。
 だってそれは、俺のものだから。
 バンリに応えるように、偽物も同じルーンソードを構えた。
 瞬きもしないまま、二人の剣がぶつかり合う。
「嗚呼そうだったな。そのようにする。束の間きっと、そうできる」
 自分の中の地獄と化した箇所を知り、束の間ではあるが目的を知る自分を取り戻す。目の前の偽物も、同じように、何かを思い出しているのだろう。それはより一層二人の中の業火を立ち昇らせた。
「おまえが覚醒する記憶とは何だろう? 俺の『これ』と張り合えるなら」
 それは何て楽しい事だろうか。
 打ち合い、切り結び、躱し、躱され、灼いて、灼かれて。
「ああ、そうだ。その念いも、この念いも、かの念いも、私のものなんだ」
 知っているのに知らぬ力と差し向い、理解する。私の目的は、私にしか果たすことができないのだと。
 バンリが笑う、咲う。
「私であるお前にも、他の誰にもやれない」
 だから、偽物のお前は地獄の炎にくべて焚いてしまおう。灼いてしまおう。
「そうして、焼け残って、私が生きよう」
 バンリが笑う、咲う。
 地獄の炎に灼かれてもなお美しい女が目の前で灼かれて消えていく偽物に向けて、ピンクベリルのように輝く瞳を向けて艶やかに笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【不死蝶】◎
へぇ、よく出来たニセモノだねぇ
眼前の俺と梓みたいな何かを交互に見つめ
いいこと思いついた

自分じゃなくて、相手のドッペルゲンガーを
ぶちのめすっていうのはどう?
いやぁ、殺意満々の梓と戦える機会なんて
二度と無さそうだからね
ちょっとした興味本位さ

焔や零もちゃんと再現されているんだね
でも俺に向けるその殺気は
俺の知っている君達じゃないね
そんな目で見られたらさ
ちょっと興奮するじゃないか

暫くは好きにさせてあげる
焔の牙や爪やブレスは激痛耐性で耐え
零の歌声は自身の手を斬りつけ無理やり意識を保つ

ああ、この痛み、たまらないね
傷が増えたらUC発動、飛翔能力で梓に一気に接近
Emperorで渾身の一撃をプレゼント


乱獅子・梓
【不死蝶】◎
うわぁ、ご丁寧に狂気に堕ちた自分が
用意されているとはな…ったく、大きなお世話だ

この空間に負けないレベルの悪趣味な提案だなお前…!?
綾の提案に困惑しつつも、仕方ない奴だなと承諾
さっきまでのしおらしさは何処へやら
まぁこの方がよっぽど綾らしいが

綾はきっと焔や零には目もくれず
真っ直ぐ俺を狙ってくるだろう
殺すだけならそれが一番効率が良いからな
俺の戦い方の弱点は俺自身
それは自分がよく分かっている

なら俺も真っ直ぐ受け止めてやるさ
綾の攻撃を敢えて躱さず激痛耐性で耐えながら
得物を掴み引き寄せ、羽交い締めに
…零、今だ!UC発動し、眠りにつかせる

ちょ、俺は優しく倒してやったというのに
お前は容赦ないな!?



●取り替えっこ
 白が罅割れ、薄闇に染まる。
 灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)の頭を撫でていた乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)がその動きを止め、綾の背を軽く叩いた。
「撫でるのはもう終わり?」
「甘えんな、見てみろ」
 もう少し撫でてくれててもよかったんだけど、と思いながら綾が梓から離れて同じ方向を向く。
「へぇ、よく出来たニセモノだねぇ」
「全く、ご丁寧なこった」
 目の前にいる互いの偽物は、恐らく狂気に飲み込まれそうになった時の自分。例えるなら狂気に落ちてしまった自分だろう。
 うわぁ、と思いつつ、梓がまじまじと偽物を見る。それと同じように、綾も姿形を自分達と同じくする何かを交互に見つめていた。
「これを倒せばいいってことだよね?」
「そうだろうな」
 狂気に堕ちた自分と戦えとは、全くもって大きなお世話だしお引き取り願いたい。梓が眉を顰めていると、綾がにんまりと笑う。
「……何考えてる」
「え? いいこと」
 絶対に何一ついいことではないだろうな、と思いながら梓が先を促す。
「自分じゃなくて、相手のドッペルゲンガーをぶちのめすっていうのはどう?」
 夕飯のおかずをちょっと交換しよう、くらいの気軽さで綾が言った。
「うわぁ……この空間に負けないレベルの悪趣味な提案だなお前…!?」
 自分を倒すというのだけでも既に悪趣味だなと思っていたのに、その上をいく悪趣味な提案に梓が引いたように綾を見た。
「いやぁ、殺意満々の梓と戦える機会なんて二度と無さそうだからね」
 ちょっとした興味本位だという綾の表情はいつも通りで、梓は仕方ないなと頷いた。
 しおらしい綾も新鮮で悪くはないが、やはりいつもの綾の方がいい。
「それじゃ、さっさと片付けるとするか」
 思考を目の前の敵に切り替えて、梓が焔と零を喚ぶ。主の呼び掛けに応え、姿を現した二匹の竜は目の前の偽物を迷わず敵と認識したのか、低く唸っている。
「焔と零もやる気で嬉しいよ」
 唇の端を持ち上げ、綾も偽物に対峙した。
「偽物でも俺なんだから、同じように考えるよね」
 どうやら偽物の二人も取り替えっこをする気になっているようで、偽物の梓と二匹の竜は綾に向かって敵意をむけている。
「焔や零もちゃんと再現されているんだね」
 細かいな、と思いつつも、偽物の二匹から向けられる殺気は、隣に居る梓が従える本物からは向けられた事の無いものだ。
 俺の知っている君達ではないのだと、綾は思う。思うけれど、それでも。
「そんな目で見られたらさ、ちょっと興奮するじゃないか」
 ぺろりと自分の唇を舐め、向けられる殺気に真向から同レベルの殺気をぶつける。それはまるで戦闘開始の合図のように、偽物の二匹が綾へと襲い掛かった。
「あは、結構痛い」
 梓達に攻撃が向かぬよう、距離を取りつつ偽物の攻撃を受け、時に軽くいなす。
「焔の牙や爪ってこんなに痛かったんだね」
 本物は絶対にこんなことしないから、ちょっと新鮮……なんて笑みを浮かべ、綾が暫くの間偽物の二匹と戯れるかのようにその攻撃を甘受する。
「あ、歌声はまずいかも」
 零の歌声が響くと、重要な神経等を避けた覚醒するに足る痛みを感じる為に、小型ナイフで自身の手を斬り付けた。
 流れる紅い血、そして痛み。
「ああ、この痛み、たまらないね」
 傷が増える度、知らず知らずのうちに、綾の唇が妖しく笑みを作った。
 綾が偽物の自分を引き付け離れると、梓は偽物の綾と真っ直ぐ向き合うように立ち位置を変えていた。
「偽物とはいえ綾だからな……」
 きっと焔や零には目もくれず、真っ直ぐに自分を狙ってくるだろうと梓は当たりを付ける。殺すだけならば、それが一番効率がいい。それに何よりも自分の戦い方の弱点は自分自身なのだ。
 基本的に焔と零を前線に出し、自分は戦局を見据えて立ち回る……つまりは司令塔、倒されたらお終い。
「そう簡単に倒されたりしないがな!」
 真っ直ぐに自分に向かってくる綾の偽物にそう笑って、梓が避けることなく受け止める。これくらいの痛みなど、なんてことないと唇の端を持ち上げ、再び振り上げられた偽物の持つ武器を掴み、己へと引き寄せた。
「これで、どうだ!」
 偽物の体勢を崩し、背後に回ると羽交い絞めにして動きを止め、零に視線を遣る。
「零、今だ! 歌え!」
 主人の意図を正しく汲み取り、零が抗い難い眠気を誘う――歌声と言っても差支えのないような神秘的な咆哮を上げた。
 それと同じくして、綾も紅い蝶の群れを召喚する。
「……おいで」
 それは綾の全身を覆い、負った傷を包み込む。紅い蝶を従え、綾が飛ぶ。その速度に偽物の二匹も、偽物の梓も反応をすることができない。
「これで終わり」
 楽しそうに笑った綾が偽物をEmperorで地に伏せるのと、梓が偽物を永遠の眠りに就かせたのはほぼ同時。お互い顔を見合わせると、梓が嫌そうに顔を顰めた。
「ちょ、俺は優しく倒してやったというのに、お前は容赦ないな!?」
「こんな機会、滅多にないからね」
 普段俺に怨みでもあるのかとぶつぶつ言う梓に、綾が聞き取れないような声で呟く。
「偽物でも、梓を倒すなら俺じゃないと」
「何か言ったか?」
「何にもー? 暴れたらお腹空いたなぁって」
 この薄闇が晴れたら、どうやって奢ってもらおうかと綾が小さく笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鬼桐・相馬
【POW】◎
『いつまでその枷を掛けたままでいる。今より愉しい世界を知りたいと思わないのか』

身体の至る部位から冥府の炎を滲ませ、黒白目の「俺」が言う
俺の内側で生まれ続ける悪意の奔流、それを抑える[冥府の槍]を始めとした精神拘束の装備品を「枷」と呼んでいるのだろう
あとは――猟兵になって出来た大事な存在達

人の数倍殺戮や嗜虐を好む性分なのは己が一番理解している
先程の白い世界で思った事、あれは紛れもない本心だ

だが、俺には俺のやり方がある
同じ動きで距離を詰め攻撃してきた奴の胸を[カウンターで串刺し]に
この一連の動きさえ「俺」の狙い通りなんだろう

そうだな、その「枷」を失う時がきたら――己の欲望に従ってみるよ



●真白の枷
 羽根が舞い散るように、世界が罅割れた。
 現れた薄闇の中に、鬼桐・相馬(一角鬼・f23529)は冥府の炎をありとあらゆる部分から滲ませ続ける、黒白目の己を見た。
「なるほど、狂気に堕ちた自分か」
 こちらの自分が真実の自分に近いのだろうな、と冷静に考えつつ、冥府の槍を偽物に向けて構える。さっさと倒して、鞄の中で呑気に眠るモモを連れて帰らなくては、と偽物の些細な動きも見逃すまいと睨み付けた。
『いつまでその枷を掛けたままでいる。今より愉しい世界を知りたいと思わないのか』
 枷、という言葉ですぐに思い当たるのは、相馬の内側で生まれ続ける悪意の奔流を抑える役目を持った、相馬が今手にしている武器。それから、それを始めとした精神拘束の役割を持つ装備品の数々だ。
「これは今の俺に必要なものだからな」
 挑発的な偽物の言葉にも、冷静に返す。そうだ、これらが無ければとっくに自滅していたか、知らぬ誰かに害ある者として倒されていたかだ。
『本当に? お前の枷は煩わしいことばかりだろう。お前の枷になるものなど殺してしまえばいい、好きだろう?』
 殺してしまえばいい? 何を? そこで思い当たるのは、相馬が猟兵になって出来た大事な存在達。
 白い翼を持つ、朗らかに笑う女。
 戦友と言っても差し支えない、男女の壁無く笑って、怒って、相馬を気に掛けてくれる者達。
 時に相馬を困らせ、時に癒し、時に頼もしく思える者達。
 今の相馬を形作る、それら。簡単に手放せるようなものではない。
「お前に言われなくともわかっているさ」
 自分が人の数倍、いやそれ以上に殺戮や嗜虐を好む性分なのは、誰よりも己が一番理解していると相馬が目を細めた。
「先ほどの白い世界で思ったこと、あれも紛れもない俺の本心だ」
『わかっているなら、何故その枷を壊さない』
 焦れたように一歩踏み出し、偽物が相馬に問い詰める。それを槍で牽制しつつ、きっぱりとした口調で相馬が答えた。
「俺には俺のやり方がある」
 冥府の槍が轟、と唸る。それを交渉決裂とみなしたのか、偽物も槍を構えて相馬を一突きにせんと走り出す。それを真っ向から受けるべく、相馬も駆けた。
 同じ動きで距離を詰めると偽物の攻撃を紙一重で避け、その胸倉を掴んで冥府の槍を突き刺す。この一連の動きですら、『俺』の狙い通りなのだろうと相馬は突き刺した槍から偽物を包み込み、焼き切ろうとする冥府の炎を眺めながら思う。
『お前はいつか――』
 ニタリと笑った偽物の声が、業火に包まれて消えていく。
「そうだな」
 いつかその『枷』を失う時が、白い翼が目の前から消える日がきたのなら。
「――己の欲望に従ってみるよ」
 そう言った相馬の顔は、そんな日が来ないことを知っているかのように微かな笑みを浮かべていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

壱織・彩灯
凪(f28056)と

壊れた白から現るは
闇に映る鏡合わせの様な己
…おや、出迎え御苦労、
対峙すると、…俺、中々男前よな?
そう思わんか、凪
其方は何方も別嬪だが
素直な賛辞には気分良く
…いや、今は巫山戯ているときでは無いな

『孤独を愛し、孤独に蝕まれるとは何とも滑稽
――寂しいならば心中か、連れを喰ってしまえばよい』

歪み嗤うは残酷な赫鬼
血肉とすれば凡てお前のモノと成る
囁く甘言は、噫、確かに憶えが在るよ
お前は確かに俺なのだ

…違うとすれば
俺は縁結ぶもの喰ろうたりはしない
…今も凪を手に掛けた手など
燃したいくらいよ
ああ、いや、そうだ
凪を愛でるための手だな

孤独と嘆くならば己がそれより
縁を紡げばよい

そうして生きて逝くよ


无霧・凪
彩灯(f28003)と

ご機嫌よう、そっくりさん
ええ、とても
彩灯様はいつだって男前でいらっしゃいますよ
お褒めに預かり光栄です
否定はしません

『1人が嫌なら全て捕え掴んで離さずにいればいい。孤独を選べば孤独にならずに済むというのは幼い考えです』

愛方を唇に寄せる動作すら瓜二つ
愉快ですね

戯言に耳を貸す程、暇ではありません
彩灯様に酒を作らないといけませんしね
あなたにはそういう相手が居ないんでしょう?

どうあったって同一にはなれない
その隔たりを孤独と取るかどうか
諦めたあなたになど遅れを取りません

彩灯様の手が燃えてしまったら困りますね
手がなければ杯を交わせないですし、可愛がっても頂けないでしょう
なんてね



●断ち切り、結ぶもの
 ぴきり、ぱきりと音を立てて白い世界が崩れていくさまを、唇に残る甘やかな馨を撫でながら壱織・彩灯(無燭メランコリィ・f28003)が眺める。
「白が黒に変わるか」
「目に優しくないことですね」
 淡々と无霧・凪(馨夢・f28056)が答え、手にした煙管をつい、と前へ向けた。
「お出迎えでしょうか」
「御苦労なことだな」
 壊れた白から現れた、闇に映る鏡合わせのような互いの姿を見て、ふむ……と彩灯が戯れを凪に仕掛ける。
「対峙すると、……俺、中々男前よな? そう思わんか、凪」
「ええ、とても。彩灯様はいつだって男前でいらっしゃいますよ」
 花火の下でも、狂気に堕ちようとしたときも、今も。凪が含むように笑むと、彩灯も素直な賛辞に気分を良くし唇の端を持ち上げる。
「其方は何方も別嬪だが」
「お褒めに与り光栄です」
 否定をしない女はそれだけの価値ある美しさを兼ね備えていて、彩灯が今度こそ満足気に笑った。
「……いや、今は巫山戯ているときでは無いな」
「ふふ、お戯れの続きはそっくりさんを倒してからにいたしましょう」
 そう言うと、凪が躊躇いもなく偽物に向かって歩き出す。それからひとつ遅れて、彩灯も偽物に向かって踏み出した。
 対峙するは己と己。
『孤独を愛し、孤独に蝕まれるとは何とも滑稽』
 あげつらうように歪んだ嗤いを浮かべる残酷な赫鬼が、彩灯にそう告げる。
『――寂しいならば心中か、連れを喰ってしまえばよい』
 そうしてこそ、鬼であろう? と偽物が彩灯を誘う。堕ちよ、と手を引いている。
「血肉とすれば凡てお前のモノと成る」
 それを彩灯は確かに知っている。囁かれる甘言は、確かに憶えの在ることばかり。
「お前は確かに俺なのだ」
 偽物とはいえ、俺を、俺の狂気を正しく写し取ったモノ。
『ならば、俺の言うことを聞くのだ。柔らかく甘い肉を喰らってしまえ』
「だが、そうだな。……違うとすれば、俺は縁結ぶもの喰ろうたりはしない」
 凛とした、彩灯の声が響く。そうして、射貫くように偽物を見遣る。
「……今も凪を手に掛けた手など燃したいくらいよ」
 くすり、と凪の笑う声が彩灯の耳を掠める。
「彩灯様の手が燃えてしまったら困りますね。手がなければ杯を交わせないですし、可愛がっても頂けないでしょう?」
「ああ、いや、そうだ。凪を愛でるための手だな」
 ならば燃やすのは止めておくかと彩灯が笑えば、偽物が彩灯に向かって襲い掛かった。
 彩灯と偽物が攻防を繰り広げるのを横目でちらりと見遣ると、凪が己の偽物へと視線を戻す。
『一人が嫌なら全て捕え掴んで離さずにいればいい。孤独を選べば孤独にならずに済むというのは幼い考えです』
 凪とそっくり同じように、愛方を唇に寄せる動きすらも、鏡合わせのように瓜二つだと凪が静かに笑う。ここまでいけば、もう愉快ともいえるだろう。けれど、けれどだ。
「戯言に耳を貸す程、暇ではありません。彩灯様にお酒を作らないといけませんしね」
 そうして、くつりと笑う。
「あなたにはそういう相手が居ないんでしょう?」
 偽物は答えない。
 凪の手が愛方を唇へと運び、一口吸って優美な仕草で吐き出す。芳しく甘い馨の煙が、ゆらゆらと偽物へと流れていく。
「どうあったって同一にはなれない、その隔たりを孤独と取るかどうか……諦めたあなたになど後れを取りません」
 凪の艶の在る声が響く。燻る煙が、偽物を捉えた。
 それは瞬時に赤と黒の薔薇、そして凪の髪色のような内側から輝くような月下美人となって偽物を花嵐に巻き込んだ。
 吹き荒れる花嵐に絶景哉、と呟いて、彩灯が笑う。
「そろそろ終いだ」
 手にした鬼棍棒が、偽物の身体を捉えて叩きのめす。
『己……!』
 憎々し気に彩灯を見上げた偽物へ、止めとばかりに無慈悲な一撃を落とせば、偽物がさらりと砕け消えていく。
「孤独と嘆くならば、己がそれより縁を紡げばよい」
 俺はそうして生きて逝くよ、と呟く彩灯の声も、薄闇の中へ消えていった。
「終わりましたか?」
「嗚呼、終わったな」
 手は燃えておりませんか? と、冗談めかして笑う凪の手を彩灯が恭しく取る。
「此れこのように無事だ」
 俺と杯を交わしてくれるか? と、甘やかな視線で問えば、凪がお店に来てくださればいつでも、と微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

呉羽・伊織
【花2】◎
…おい狐
其方こそ、その腕で下手踏んだって世話してやらねーからな

(静かに一呼吸――逡巡断つ様に面を上げ、対照的に面を下ろした儘の姿見据え)

『何もかも手放し、狂い落ちればいっそ楽になるものを――全て消し去り、己も何も無かった事にしてしまえば良いものを』
…そーだな
そしたら苦しみも消える
『愚かな自己嫌悪や葛藤に嘆く事も無い』
解ってる
『さぁ心等捨て去れ――我等を受け入れよ――お前には狂える道こそが相応しい、虚ろな姿こそが似合い』
断る

…お前等には渡せない
元は虚ろなこの身も心も、今は大事なもので溢れてる
其だけは――

躊躇無くUC使い、御して――打ち勝ってみせよう

…アンタと飲み直すとか逆効果だっての!


佳月・清宵
【花2】◎
悪態つく元気だけはあるようだな
ハッ、幾ら酔狂でもてめぇの手を借りる程に血迷っちゃいねぇよ

(漸く見せた面を一瞬だけ見遣り、愉快げに一つ笑い――然れど其以上は何も言わず
狂気に溺れ酩酊した己の影――滑稽な敵へと向き直り)

――そうさ、血迷った獣はこの手で始末をつけるまでだ

『添うた女すら無情に切り捨てた鬼め、獣め』
『貴様の血を以て禊としてやろう、穢れた身には其が良い』

(――鬼と刀が吠え立てど、何処吹く風で聞き流し)
何と言われようが、俺は淡々と仕事をこなすのみ――あの時も、今もな

UCで一息に意趣返し――妖刀で妖刀を弾き、鬼が巣食う身に呪詛を叩き込み黙らせる

さて――後は気分良く飲み直すだけだな?



●狂気も鬼も、全てを呑み込め
 罅割れた白い世界が、薄闇の世界に変わる。白から黒へ変わる世界の中で、隣り合う男をちらりと横目でを見ると、舌打ちをしそうな勢いで呉羽・伊織(翳・f03578)が唇を開いた。
「……おい狐。其方こそ、その腕で下手踏んだって世話してやらねーからな」
 佳月・清宵(霞・f14015)の腕に巻かれた手拭いと滲む血に、伊織が顔を顰めて言うと清宵が鼻で笑うように答える。
「悪態つく元気だけはあるようだな? ハッ、幾ら酔狂でもてめぇの手を借りる程に血迷っちゃいねぇよ」
「そうかよ」
 それだけ言えるのなら大丈夫なのだろう、万が一にも負けるような事があれば上から笑ってやると思いながら、伊織は一つ息を吐いて己の逡巡を断つように烏の面を上げる。そして、対照的に面を下ろしたまま己の前に立つ偽物の姿を見据えた。
 覚悟を決めた、そんな面構えをした伊織を一瞬だけ見遣ると清宵が愉快と言わんばかりにくつりと喉を鳴らし、けれどそれ以上は何も言わずに狂気に溺れ、酩酊したような己の影――滑稽な偽物へと向き直る為に伊織に背を向ける。
 己の敵は己で。言わずとも、二人には分かっている。どちらからともなく、敵へと向かって足を踏み出した。

『何もかも手放し、狂い落ちればいっそ楽になるものを――』
 烏面で顔を隠した偽物が、伊織に告げる。
「……そーだな」
 ふっと息を吐き、伊織が答える。
『全て消し去り、己も何も無かった事にしてしまえば良いものを――』
 そうすることが正しいのだと、偽物が告げる。
「そうしたら、苦しみも消えるだろうな」
 歩みを止めず、真っ直ぐに前を向いたまま、伊織が答える。
『愚かな自己嫌悪や葛藤に嘆く事も無い』
 己の言葉のみが正しいのだと、偽物が告げる。
「解ってる」
 そんなことは百も承知と、唇の端に笑みを浮かべて伊織が答える。
『さぁ心等捨て去れ――我等を受け入れよ――お前には狂える道こそが相応しい、虚ろな姿こそが似合いだ』
 ならば、ここまで堕ちてこいと偽物が告げる。
「断る」
 その一切合切を抱えたまま、迷いなき眼で伊織が偽物を見据えると冷ややかなる黒刀を構えた。
「……お前等には渡せない」
 元は虚ろであったこの身も心も、今は伊織自身が驚くほどに大事なもので満ち溢れているのだ。
 何を言われようと、何をされようと、何があったとしても、其れだけは――手放すことなど、できない。今の伊織を形作る全てを守ってみせるのだと、一切の躊躇いなく己の力を解放する。
「――御してみせる」
 伊織の手にした武器や、身に宿す幽鬼や呪詛の力が増す。暴走など決してさせはしないと強い意志の宿った瞳を煌かせ、同じ刀を抜いた偽物に向かって斬り付けた。

 伊織に背を向けたあと、清宵は一度も振り返ることなく血迷った獣へと歩を進める。
『添うた女すら無情に切り捨てた鬼め、獣め』
 獣が吠える。
 清宵は答えない。
『貴様の血を以て禊としてやろう、穢れた身には其が良い』
 獣が吠える。
 清宵は答えない。
 鬼と獣がどれだけ吠えようとも、清宵にとっては些末なこと。相手をするに足らぬと嗤って、ただ歩を進める。
『血を寄越せ、お前の鬼の血を!』
「何と言われようが、俺は仕事をこなすのみ」
 淡々と、獣に聞かせるでもなく呟いて、名もなき妖刀を鞘から抜いた。
「――あの時も、今もな」
 それが必要であるならば、何であっても斬ってみせようと清宵が笑い、手にした妖刀の力を解放する――!
 妖刀が発する怨念をその身に纏い、一気に加速し偽物の前に立つ。
『貴様!』
 咄嗟に偽物が振りかざした妖刀を、己が手にした妖刀で弾き返し、鬼が巣食う身に斬撃と共に呪詛を叩き込む。
『ガハッ』
「煩い口は黙らせるに限るな」
 駄目押しとばかりに、もう一度同じ場所に刃を突き立てた。
 ほどなくして、怨嗟の声が聞こえなくなると清宵が後ろに向かって視線を遣る。
 その視線の先には、烏面を被った偽物に打ち勝った伊織の姿が見えて、清宵がくっと笑った。
「さて――後は気分良く飲み直すだけだな?」
 その声に、伊織が振り向いた。
 そして、苦虫を噛み潰したような顔をして清宵に悪態をつく。
「……アンタと飲み直すとか逆効果だっての!」
 その顔だけで美味い酒が呑めそうだと、清宵が笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

杜鬼・クロウ


己が路を見失うたァ、笑えねェだろ
ましてや自ら…

(一度アルダワ戦争の時に願いを託しちまった
もう二度は無いと思っていたのに)

『”本当は”どうなりたいか知ってるぜ
壊してヤろうか
お前が抱えてるモン
もしくは…奪うか
俺は既に堕ちた身だしなァ
最後の靄を晴らすのは至極簡単』

互いのUCの桜が吹き荒れ
鮮血で染め

…”俺”なら解るだろ
アイツへの想いも
過去も
総て受け入れたからこそ今の俺が在る

悪ィ
俺自身でケジメつけねェとな

『…やっぱり「俺」は最高だわ』

例え終わろうとも
彼女への愛慾は誰にも侵させない
いつか
昇華する日まで

(”俺”のように生きれたら
最近思った
けど己が掲げた信念を曲げたくねェンだ
俺の為すべきコトは変わらねェ)



●散るらむ
 真白の世界が罅割れて散っていく姿が杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)には、まるで桜の花びらが散っていくかのように見えた。
 それは路を見失い掛けたクロウの意識を引き戻すには充分で、クロウは思わず額に手を当てて溜息をつく。
「笑えねェ……」
 一度願いを託してしまったあの時に、もう二度はないと思っていたのに。ギリ、と奥歯を噛み締めながら、クロウが自身と同じ姿をした偽物へと向かい合う。
「よォ、待たせたな」
 堕ちた己は、そんなクロウを唇の端で、知っているぞと嗤う。
『”本当は”どうなりたいか知ってるぜ』
「そうだろうなァ、お前は俺自身みたいなもんだからな」
 偽物であっても、狂気に堕ちたクロウを写し取ったというのであれば、それはもう、クロウ自身であると言ってもいい。
『壊してヤろうか、お前が抱えてるモン』
 その言葉に、クロウは自分がじっとりと汗を掻いていることに気付く。
『もしくは……奪うか』
 愉しそうに嗤う偽物は、クロウそのものに思えた。
『俺は既に堕ちた身だしなァ? お前が望むなら、最後の靄を晴らすのは至極簡単だ』
 黙ったままのクロウに、そうだろう? と偽物が誘う。
「……それを受け入れちまったら、俺は俺じゃなくなるだろ」
 ハハッ! と笑った偽物が桜の花弁を舞い散らせると、クロウも即座に常夜桜の残香を頼りに桜の花弁を自身の血肉を代償に舞い散らせた。
 一面の桜吹雪の中、二人の男が鮮血に塗れながら攻防を繰り広げる。血を吸って紅に染まる花弁はまるで密約を交わした彼女のよう。間違うな、と強くクロウの芯が訴える。
「……『俺』なら解るだろ」
『……』
 偽物は答えない。
「アイツへの想いも、過去も、総て受け入れたからこそ今の俺が在る」
 後悔なんてしない、今までも、これからも。凛と強く響く声は、桜吹雪の威力を増して。
「悪ィ、俺自身でケジメつけねェとな」
 散る花であっても、それは俺のものだから。
 より一層、クロウを取り巻く桜の花弁が吹き荒れる。それは偽物と、偽物が纏う桜の花弁ごと包み込み――。
『……やっぱり「俺」は最高だわ』
 くく、と笑った声に、クロウも笑う。やがて桜吹雪の晴れたあと、そこにはもう偽物の姿はなかった。
「例え終わろうとも、彼女への愛慾は誰にも侵させない」
 いつか、昇華するその日まで。
 あの『俺』のように生きることができたなら、そう思ったことがないわけではない。
 けれど、己が掲げた信念は自分だけのもの、決して曲たくはないのだと、クロウが薄闇の中でひらりと舞った一枚の花弁を手に取った。
 俺の為すべきコトは最初から何一つ変わらないのだと、掌の花弁へ愛おしむように口付けた。

●残響
 世界が、元へと戻る。
 スターマインの最後の花火が上がり、夜空に轟音が響く。
 それは猟兵達の胸に、いつまでも残響を残して――。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2020年09月24日


挿絵イラスト