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宙の亡霊

#スペースシップワールド

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#スペースシップワールド


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 ガションガションとジャンクパーツを鳴らしながら、天・リンカがグリモアベースに駆け込んできた。
「めーでー! めーでー!」
 幼い少年の電子音声が騒々しく予知を告げる。
「スペースシップワールドで事件だよッ!!」

●ウォーマシンは見た! 連続要人暗殺事件!
「見えちゃったんだよ……宇宙船のえらい人達が、暗殺者に次々殺されていくところ! 連続殺人事件なんだよ!」
 カメラアイを点滅させながら、リンカが予知した光景を伝える。
 表情のある生命体に当てはめるのならば、『はわわ』と相当慌てた表情をしているようだ。
「えらい人がいなくなって、宇宙船は大混乱! あっという間に銀河帝国に乗っ取られちゃうの!」
 混乱に乗じて内部を制圧し、手中に収める。要人暗殺はその為の一つの手段――工作――か。
 乗っ取られた宇宙船の末路は想像に難くない。銀河帝国によって住民の命は根こそぎ奪われ、コアマシンは兵器生産等に悪用されてしまうだろう。
「みんな、力を貸して! 宇宙船を守るためにも、暗殺事件を起こさせちゃいけないッ!」
 騒々しさに集った猟兵達の前で、リンカは気合を握り締めた拳を高く掲げた。

●ウォーマシンは見た! 謎の漂流船!
「とはいっても、ぼくに見えた範囲じゃあ、暗殺犯を特定できる情報は見当たらなかったんだ。ごめんねえ……」
 先ほどまでの騒がしさはどこへやら。リンカがしょんぼりと肩を落とすと、接続の甘いジャンクパーツがぽろりと足元に落ちた。
「でも、ちょっと不思議な場面も見えたんだよね。宇宙船の漂着物回収業者さんが、小さな漂流船を回収してるところなんだけど」
 落ちたパーツを拾い上げながら、断片的ながらも“いかにも怪しげな予知内容”を語る。
「予知で見えたくらいだから、必ず事件と関係してるはずだよ。オブリビオンの手がかりがあるかもしれないね……みんな、まずは小型船を調べに行ってくれる?」
 今から回収業者の元に転移すれば、漂流船回収の現場に間に合うだろう。
 猟兵に協力的なスペースシップワールドの人々のこと、調査を願い出れば、漂流船を自由に調査させてくれるはずだ。

「準備はいい? ぼくはできてる! みんなのこと、信じてる!」


珠洲
 はじめまして。珠洲(すず)と申します。よろしくおねがいします。

 シナリオの最終目標は『暗殺者オブリビオンを倒し、連続要人暗殺事件を未然に防ぐこと』です。第一章と第二章の調査を経て、第三章でオブリビオン戦が行われます。

 第一章~第二章でオブリビオンに関する手がかりを探し、暗殺が行われる前に倒しましょう。
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第1章 冒険 『謎の宇宙船』

POW   :    宇宙船を停止させる。

SPD   :    船内を捜索する。

WIZ   :    端末などから船の出自を探る。

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🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

デナイル・ヒステリカル
曖昧な情報も多く、難しい依頼になると予想されます。
しかし予知をそのままにしておくリスクは見逃せませんね。

【ハッキング】【情報収集】【世界知識】を駆使して謎の船から得られるデータを集積。味方の猟兵へと伝達します。


レイチェル・ケイトリン
まず、できたら調査がおわるまで漂流船を宇宙船のなかにいれない、
宇宙船のそとで相対的に同じ位置にいさせとくのがいいよね。
漂流するようになった理由が病気とかかもしれないし。

で、わたしは端末とかからこの船のこと、そして漂流するまでの
ことをしらべるね。

サイコリンクデバイスをハッキングと念動力と情報収集の技能で使って
ユーベルコードのサイコアクセスを発動するね。

いっしょに調査してくれるほかの猟兵さんとも協力して
中の捜索にじゃまな機能を止めながらデータを確保していくよ。

もちろんみつけられたことはほかの猟兵さんにもおしらせするね。

最後に漂流船の管理権限のパスワードのデータを確保して
わたしのものにしちゃうね。




 転移先にて。漂着物回収業者の面々は、出発直前にも関わらず猟兵達を快く受け入れてくれた。
 彼らの回収船に同乗した猟兵達は、モニターに映る漂流船に目を凝らしながら、漂流船のスキャン結果と

宇宙空間用偵察ドローンからの報告を待っている。
 間も無く、それは機械音声として船内に響き渡った。
『目標、生体反応なし』
『ウイルス、病原菌、共になし』
『動力エネルギー、僅かにあり』
『内部の大気、重力、安定状態。活動に支障ありません』
『コアマシン非搭載機。データベースとの照合結果、モニターに出力します』
 画像データが新たにモニターへ浮かんだ瞬間、デナイル・ヒステリカルの口から「やっぱり」と小さな呟

きが零れた。デナイルの中で、彼の持つ知識(データ)とモニターに浮かぶ情報(データ)がリンクしたの

だ。
 呟きを拾った業者と猟兵達の視線を受け、デナイルは呟きを言葉に変えて紡ぐ。
「僕、この形状の船に覚えがあります。小さい船ですし、簡単な案内なら出来るかも。でも、期待は程々に

しておいて下さいよ? なにぶん、案内役としては落第をくらった身でして」
 冗談交じりの声色であったが、奥には“案内にもその先の行動にも冗談は挟まない”という真剣さが伺え

た。曖昧な情報しかない難しい状況だとしても、予知をそのままにしておくリスクを見逃すわけにはいかな

いのだから。
「ああ、もうすぐ捕獲用アームが届きますね」
 真実を掴もうとするデナイルの想いを代弁するように、回収船は漂流船へと近づいてアームを伸ばしてい

った。そして……
『アーム、目標を捕捉――固定』
『ゲート、接続――完了。ゲート内調整を開始――完了』
『通行可能。通行可能』
 無機質な機械音声に包まれながら、猟兵達は二つの船を繋ぐゲート――未知への道――へと踏み出した。


『生体反応なし』の報告通りだった。
 漂流船のどこからも命の気配は感じられず、巡る僅かな動力が、かつて人が乗っていた過去を語るだけ。
 動力不足で照明は弱々しくなっているが、移動や調査の妨げにならない事が幸いか。
 そんな、しんと静まり返った船内。デナイルの説明を頼りに、レイチェル・ケイトリンは操縦室に辿り着

く。
「ここなら分かるよね……漂流するまでのこと」
 レイチェルが手に入れたいのは“漂流に至るまでの船の記録”だ。航行記録や通信記録として、操縦室の

機器に残されているかもしれない。
 ユーベルコード【サイコアクセス】で探るべく、念動力操作型装置【サイコリンクデバイス】を接続した

その時、隣に仲間の気配を感じた。
「デナイルさん。みんなの案内、終わったの?」
「ええ、無事に」
 デナイルはレイチェルに合わせた柔らかな態度で微笑みながら、機器に手をかけた。
「僕もハッキングを仕掛けようと考えていまして。二人で協力しませんか?」
「ありがとう。一緒にがんばりましょうね」
 微笑みに微笑みを返し合い、二人同時に機器に向き直る。
 二人の情報収集――ハッキング――が始まった。


『メーデー、メーデー! 救援要請! 猟兵はいるか! 母船が攻撃を受けた!』
『もう沈んだんだ! 諦めろ! こうして脱出ただけで、俺達は……!』
 サイコリンクデバイスを通じて最初にレイチェルに伝わってきたのは、古い通信記録。悲痛な乗組員の声だった。
「……五年前の救難信号のログを見つけたよ。母船が銀河帝国に襲われて、この船で脱出したみたい。ずっと、ずっと、助けを求めてる」
「僕の方は航行記録を。コアマシンを持たない船です、動力不足が原因で三ヶ月後に航行不能に陥りましたが……おや。すぐに猟兵の船に助けられて、船は放棄されたようです。レイチェルさん、もう少し先の通信記録を探れますか?」
「あ、本当だ……! みんな助かってる……病気とかでいなくなっていたらどうしようって、心配だったから」
 ほっと胸を撫で下ろすレイチェルだったが、安堵も束の間、疑問が脳裏を支配していく。
「この船は、五年かけてここまで流れてきたってことでいいの?」
「それにしては、動力が残りすぎでは……三ヶ月で動力不足ですよ」
「おかしいね。わたし、補給記録と動力関連データを探ってみる」
 サイコアクセスで閲覧の妨げとなる機能を次々と止めながら、レイチェルは更に深く情報の海へと心を沈ませていく。
「今のわたしの心は、ひとりぶんのはやさじゃない。だから……!」
 特に動力周りは管理者権限が必須なほど厳重なセキュリティが施してあったが、電脳魔術師であるデナイルの助力がある。レイチェルはハッキング攻撃を強化し、船の管理権限を確保。目的のデータのアクセス権を得る事に成功した。
 成功の喜びを静かに受け止めながら、レイチェルは辿り着いたデータに目を通し……穏やかで愛らしい顔を顰めた。
「動力の配分と循環に変更あり。最新の補給記録と変更記録は…………“昨日”?」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

スカル・ソロモン
SPDで判定

謎の漂流船に謎の暗殺者……。
密航の線が強そうだが、まずは船内調査だねえ。
何かがいたり、罠や危険物があるかもしれないから慎重にいくよ。

まずは何かがいた痕跡がないか確かめてみようか。
痕跡があれば、その“何か”の大まかな種族なども推測出来るかもだね。
敵対的な何かと出くわした場合は攻撃で無力化するとしよう。

罠や危険物があれば反応させないように注意しよう。
1度起動させて無力化出来そうなものなら、わざと起動させるのも手かもだ。
もちろん、安全は確保した上でね。

隠し部屋なんかもあるかもだねえ。
船の構造から考えて空間がありそうなのに入口が無い、という所があれば近くの壁などを叩いて調べてみるとしよう。


ロクガツ・クロッカス
要人暗殺に漂流船、か。
グリモアの予知がなければ関係性は見いだせなかっただろうね。
グリモアすごいなあ。

【SPDを使用】
回収船のクルーには「銀河帝国が絡んでる可能性があって危険だから、先行して猟兵の私たちに調査させて欲しい」って最初に伝えるよ。
漂流船に入ったら最初に空調をチェックして、人が生存できる状態か調べる。酸欠や毒ガスは最悪だからね。
その後は艦橋→動力部と回って漂流船が漂流する原因になったものを探すよ。
調査中は妙な物音がしないかどうか常に警戒するよ。
生体がいない、動力も動いてない漂流船って、すごく静かなはずなんだ。

後、何かわかったら通信か何かで他の猟兵の人と情報を共有するよう努めるよ。




 居住エリアの通路を慎重に進むスカル・ソロモンの頭上で、重く静かな金属音がする。
 天井にある空調ダクトの蓋が外されたのだと彼が認識すると、ダクトの中からロクガツ・クロッカスが顔を覗かせ、スカルの側に軽やかに着地した。
「よいしょっ、と。ダクトには何の痕跡も無かったよ。手がかりが無いのを残念がればいいのか、何も無かったのを安心すればいいのか……」
「君が心配していた毒ガスの工作も無かったんだろう? それは、調査を続ける上で私達の安全が保証されているという事さ。素直に安心しようじゃないか」
「それもそうだね、ありがとう! スカルさんの収穫はどうだった?」
 スカルとロクガツが行うのは、目と耳、手足を使った船内調査だ。
 異なるエリアから始まった二人の調査だったが、小型船故に、各所を巡るうちに調査エリアが被るようになり、今は共同調査の体を成している。
「一番奥の部屋から、スペースシップワールドでは珍しい紙の本を発見したよ。発行日が五年前の、ね。情報としては……生活の痕跡かな? 荒れ方の少なさから、乗船期間の短かさが窺えたよ」
 スカルから雑誌を受け取ったロクガツは、裏表紙に印刷された日付に目を凝らしながら、納得するように頷いた。
「仲間が言ってた情報と繋がるね。『五年前に放棄された船だ』って。この調子でどんどん情報を事件と繋げていかないと……グリモアの予知が見出してくれた関係性を確かなものにしなくちゃ!」


 また一つ、調査済みのエリアが埋まった。
 二人の頭に浮かぶのは、もちろん次の調査先。それは全く同じ場所。目的地の名を口にしたのは、ロクガツの方が早かった。
「ぐるっと回ってきたけれど。やっぱり最後は動力部だよね? 漂流船なのに、“昨日補給を受けたばっかり”っていう、怪しさ全開の」
「エネルギーの流れも変えられているようだから、最も慎重に探るべき場所になりそうだ。残り少ないエネルギー……何にどう使うつもりで変えたのやら」
 調査開始当初から慎重を念頭に動いてきたスカルとロクガツに、油断の気配は無い。これまでの調査と同じく、されど、より冷静に。慎重に慎重を重ねた歩みは、船の心臓部たる動力部を目指す。


 漂流船はコアマシン非搭載機だ。コアマシン搭載の宇宙船と比べれば、動力部のセキュリティ強度には天と地ほどの差がある。とはいえ、仲間達の活躍――電子戦の影響――でセキュリティが弱体化していなければ、二人は進入に手こずっていた事だろう。
 予想以上の早さで入り込めた事に、スカルは張り詰めていた呼吸を和らげた。
「思わぬ所で思わぬ連携が取れる……猟兵の戦いは不思議なものだね」
「でも、そこが心強くもあるんだよね」
「ああ。私達も、他の仲間に良い影響を与えられるように力を尽くそうか」
 スカルは仮面が宿った肉体の口元を引き締め、再び纏う空気を張り詰めさせる。ロクガツも眼差しに鋭さを湛え、複雑な機器を調べ尽くすべく手を伸ばした。

「……ん?」
 調査開始から暫し。規則的に駆動音を鳴らす機器の中、ロクガツは幽かな音の違和を感じ、眉をぴくりと動かした。一定のリズムを乱すように、何かが引っかかっているような違和に。
「ここ? それとも、ここかな?」
 耳を寄せながら機器と部品の間を縫って、不規則な音の出所に近づいていく。ロクガツの行動に気付いたスカルが彼女の後に立った時。スカルの目に飛び込んできたのは、四角形の物体だった。
「君が探しているのは……“あれ”では?」
 スカルが指差した、ある一箇所。
「うそ……ッ」
 エネルギー貯蔵部位に繋がる機器の中に埋もれていた、違和の元凶。スカルの本体と変わらぬ大きさの物体には、赤く数字を映した小さなパネルと、機器に繋がれた数本のコードがある。
「時限爆弾っ!? スキャンじゃ見つからないよ、こんな所にあったら!」
「落ち着いて。よく見るんだ、ほら」
「あ、カウントが止まってる……」
「もしかすると、これも思わぬ連携の賜物かもしれないね」
 二人は改めて爆弾に目を凝らす。カウントダウンは三時間と数十秒の時間を残して止まっていた。
 仕掛けられた位置からは、動力部のエネルギーを利用して爆破させようという魂胆が隠されること無く伝わってくる。爆弾は小さくとも、エネルギーが集中する部位で爆発が起こってしまえば、小さな船は丸ごと宇宙の塵と化すだろう。
「私、少し見えてきたかも。暗殺犯は、漂流船を隠れ蓑にして宇宙船に近づいたんじゃないかな? 銀河帝国から補給を受けて」
「ふむ……すると、爆弾は証拠隠滅目的の可能性が高くなる。補給も、移動と爆破に使う最低限さえあればいいという事か。エネルギーの流れを変えたのも、満遍なく破壊出来るように……かな?」
「『私たちに先行調査させてほしい』って言って正解だったね。回収船まで爆発に巻き込まれてたかも」
 ロクガツは、自分達を受け入れてくれた業者の面々の笑顔を思い出し、彼らが最悪の事態を回避した事に安堵した。
「業者も危険物に慣れているだろうけど、爆弾の取り外しや解体は流石に専門外だろうしね。調査が全部終わったら、漂流船ごと爆破処理してもらった方がいいかもしれない」
「船には申し訳ないけれど、オブリビオンの道具となったからには放っておけないからね……」
 スカルは再びカウントが始まらぬように願いながら、動力部内の通信機へと向かう。
「まずは船内の猟兵に知らせようか。カウントが止まったとはいえ、爆弾の中の火薬や薬品はそのままなのだから」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

高階・茉莉
■心情
暗殺事件ですか、本当に起こるなら大変なことになりますね。
事前に防ぐ、それが私達猟兵の仕事でもありますし、頑張りましょう。

■行動
WIZ判定の行動
端末を調べて、船の出自を探ります。

漂流船でしょうけど、何処か壊れてない箇所があるでしょうし。
まだ動く端末を探します。

まずは船の地図や見取り図を探し、端末の場所を
特定したいと思います。

端末からは、船が作られた場所、作られた目的、
どんな機能を持っている船なのか
等の船の情報を探りたいと思います。
他にも暗殺者に関しての情報が載っていないか、
検索してみますね。
それが出来なくても、暗殺で狙われている方々の情報も
同時に探してみます。




 爆弾の存在と警戒を促す船内通信を聞きながら、高階・茉莉は脱出ポッド格納庫内の通信機の前に立っていた。
 手に入れた船の見取り図を元に、手がかりを求めて船内を巡った彼女が最後に辿り着いた場所で。
「次は、私の番ですね……」
 最後の一音と通信が切れるノイズと入れ替わるように、茉莉はパネルに映る『通信開始』のボタンに指を立てた。普段はおっとりした彼女の声を、猟兵としての心構えが凛とした響きに変えていく。
「高階・茉莉です。脱出ポッド格納庫で不審なチップを拾いました。形状は記録媒体に似ていますが、現状では詳細不明。血液のようなものが付着しています」
 通信を続ける傍ら、茉莉はポケットからハンカチを取り出して広げた。ハンカチの上、薄暗い照明の下。汚れたチップが鈍く光っている。
「チップは漂流船の母船の技術とは異なる技術で作られているようで、船内の機器や端末には反応しませんでした。まだ可能性の段階ですが、暗殺者が持ち込んだものではないかと」
 僅かな希望を込めて通信機器横の端末にチップを当ててみるも、端末はうんともすんとも言わなかった。残念に思う溜息は胸の奥に仕舞い込み、茉莉は再び声に力を込める。
「私はこれから一足先に回収船に帰還し、解析できないかお願いしようと思います。調査を続ける皆さん……どうか、お気をつけて!」


「猟兵さん。あのチップ、“生体インプラント型のメモリーチップ”だ」
「えっ?」
 茉莉の依頼を受けた回収船所属の男性技術者は、苦い顔でタブレットを手渡した。
 彼の発した単語と表情から、茉莉はチップを形作る技術が善くないものなのだろうと瞬時に察する。
「インプラント、ということは」
「ご想像の通り。体に直接くっ付けたり埋め込んだりして、脳内に直接情報を送る記録装置さ。うちの宇宙船じゃ製造禁止になって長い代物でな……何とか解析できたはいいが、ノイズまみれになっちまった」
「いいえ。それでも私達にとって大きな力になります。本当にありがとうございました。さっそく見せてもらいますね」
 普段の優しい声色で技術者を励ましながらタブレットを受け取り、ノイズまみれの情報の断片を読み解いていく。
『政治部門 首相【クロキ・シズル】』
『航行部門 船長【バスタル・ダイク】』
『治安維持部門 治安維持局長【ルーク・マックスウェル】』
『コアマシン管理部門 生産管理局長【エクス・リオーネ】』
 日々文字に触れる図書館司書の茉莉だからこそ、読み解けたのかもしれない。
 画面の上に並んでいたのは、宇宙船の住民を導き支える四人の最高幹部の名前だった。
(狙われている人達の情報! ずっと探していた情報です!)
 探し求めていた情報を目の当たりにし、茉莉の鼓動が早くなる。
(狙われるとしたら、誰から? どこから? 考えなくちゃ……教えなくちゃ、皆に!)
 漂流船に残る者や、帰還した者、新たに召喚された者へ。
 一刻でも早く伝えようと立ち上がった茉莉の体は、次の瞬間、モニターに映る軍服姿を前にして動きを止めた。

「こちら、治安維持局。回収船、応答せよ。猟兵はいるか」

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 冒険 『協力員を救出せよ』

POW   :    正面から監禁場所を襲撃する

SPD   :    監禁場所に忍び込む

WIZ   :    場所の情報を得る、見張りを陽動で追い払う

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 回収船のメインモニターに映る軍服姿の男。
 彼の胸元のエンブレムを指しながら、回収船の船員が『宇宙船の治安維持局の者だ』と説明する。
「回収船、応答せよ。猟兵はいるか。当局は『漂流物調査に猟兵が同行中』との報告を受けている」
 繰り返される呼びかけに、突然の通信で止まっていた船内の時間が動き出した。
 『猟兵はいるか』。たった一言が、猟兵の力が必要とされる緊急事態を物語っていた。
 回収船のリーダーが「弊社の報告の通りです」と応答すると、軍服姿の男――治安維持局員――の目つきが僅かに険しくなる。
「当局の局員一名が人質となった。銀河帝国の関与を考え、猟兵に救助を願いたい。もし動ける猟兵がいるのなら、何名かこちらに送ってはもらえないだろうか」
 暗殺事件を阻止すべく、グリモア猟兵が召喚する猟兵は今も喚び出され続けている。だが、彼や彼の母船はグリモア猟兵の召喚能力を知らないようだ。現れて数年の存在。知らずとも、知られずとも、おかしくはないだろう。
「宇宙船内で何かが起こっているようです。猟兵の皆さん、よろしいでしょうか」
 モニターから向き直り、船内の猟兵を見渡すリーダーへと猟兵達が力強く頷く。その姿は、モニター越しに局員の目にも確かに映っていた。宇宙船式の敬礼が空気を切り、局員の背筋が更にぴんと伸びる。
「協力に感謝する。早速だが、発生からの経緯を説明しよう」


「昨晩、船外警備隊が宇宙船外殻付近で漂流者の男一名を保護」
 局員の姿と入れ替わりに、モニターには救助活動の映像が流れ始めた。宇宙船の壁に力なく引っかる男を救助する一部始終だ。
 これだけを見れば、“衰弱した漂流者の救助”で終わる話だが……
「所属先の調査の為、男は保護観察対象として当局の医療施設に収容され、治療を受けて眠っていたが……つい先刻。目を覚ますと同時に局員――観察担当の衛生部員――を襲撃、人質にして施設を脱走した」
 続く映像は、医療施設の監視カメラの映像。青みがかった黒髪の男が白衣の女性の首元を抱え込んで廊下を引きずっていく光景と、男の向けた銃に撃ち抜かれ、監視カメラが役目を終えた瞬間の暗闇だった。
「男に関する重要な情報を手に入れた為に攫われたのだ、と。我々はそう推測している。彼女が攫われる直前の、本部との通信記録を聞いてほしい」
 局員が部下らしき背後の人物に指示をすると、回収船内に女性の緊張した声が流れていく。
『生体インプラント型端末の埋め込み処置を受けた痕跡があります。うなじの傷は端末を外した際のもので間違いありません。無理に引き剥がした結果でしょう。はい。衰弱もその影響かと。もう一箇所、埋め込まれた端末についてですが』
 音声はそこでぶつりと途絶え、猟兵達の間にさざなみの様に声が駆け抜けていく。
 生体インプラント型の端末――メモリーチップ――が漂流船の中で発見され、今まさに、一部とはいえ中身が解析されたばかりだったのだから。
 チップの存在と照らし合わせれば、男は要人暗殺の為に送り込まれたオブリビオンに違いない。
「男は逃走の末、治安維持局の訓練施設に立て篭もっている。作戦か、他に意図があるのか……男からの要求は無い。局員の安否については、“今はまだ”無事だ。彼女に“利用価値のあるうち”は」
『無事の根拠は?』と猟兵の一人が尋ねる。
「彼女の生体認証IDで、施設内の警備ロボット兵の操作が行われていた。我々の宇宙船では、死体に反応するほどシステムは甘くはない。男が最初から知っていたのか、局員が生き残りをかけて交渉を持ちかけたのかは不明だが、これだけは確かだと断言しよう」
 人質は、まだ生きている。
 もしも無事に救い出せたのなら、暗殺の最初のターゲットなど、男に関する更なる情報を得られるかもしれない。事が上手く運べば、訓練施設内で決戦に持ち込める可能性(きぼう)も見えてくるだろう。
 局員から送られてきた訓練施設の見取り図を元に、猟兵達は救出とその先への道のりを思い描く。
「警備ロボット兵を悪用されている状況に加え、訓練用とはいえ実戦にも耐えうる武装も保管してある。さらに、相手は人質を連れながらも、たった一人で手練の警備隊を掻い潜った男。我々も全力でサポートを行うが、くれぐれも気をつけてほしい。猟兵達よ、仲間を……頼む」
 最後にもう一度敬礼をし、治安維持局員からの通信は終了した。

 全猟兵が引き揚げたのを確認し、回収船が漂流船から離れていく。
漂流船に仕掛けられた爆弾の処理もあるが、思いがけないタイミングでオブリビオンの関与が濃厚な緊急事態が発生。処理は回収業者の他のチームに任せる事とし、回収船は全速力で宇宙船内へと帰還する。
 発着場では、既に治安維持局員達が猟兵を待っていた。
「現場までは我々がお送りします!」
「車両を用意してあります。さあ、こちらへ!」
 先行調査を行っていた猟兵達が駆け出す横で、新たに召喚された猟兵が局員から施設の説明を受ける姿が見られる。
「増援に感謝します! さっそく、皆様に施設の説明をさせていただきますね!」

『エントランスエリア』
 正門入ってすぐの二階建ての建物。施設の特性から、ここで人の出入りを厳重に管理している。治安維持局員の協力もある為、猟兵でも入るだけならば簡単だ。問題は、配備されているであろう警備ロボット兵の妨害くらいか。
 
『座学棟』
 エントランスエリアの左に位置する、新人局員が教育を受ける場所。名のとおり、主に座学を行う場所だ。小~中規模の教室や会議室、食堂や備品倉庫がある三階建ての建物だ。脅威となる物は存在しないが、部屋数の多さから捜索に時間がかかるだろう。

『屋内訓練場』
 座学棟の反対側。エントランスエリア右に建つのは、射撃訓練ルームや体術訓練ルームが存在する、背の高い建造物。例えるのなら体育館に近いだろうか。もっとも、教育施設のものと同じなどと思ってはいけない。各種訓練で使用する武装や道具の倉庫があるのだから。

『屋外訓練場』
 座学棟と屋内訓練場に挟まれた、エントランスエリア正面の開けた場所。身を隠せる場所は少ない。
 
『多目的訓練場』
 屋外訓練場をまっすぐ進んだ奥にあるのが、多目的訓練場だ。階数も規模も座学棟と変わらないが、内部構造が大きく異なっている。災害救助やテロ行為等に対する訓練が行われるここは、一般的な商業ビルや家屋を模しており、座学棟以上に複雑だ。

 五つのエリアのどこかで、人質が助けを待っている。オブリビオンが潜んでいる。
 増援と呼ばれた新たな猟兵達は、局員からの説明を頭に心叩き込み、先行した者達に続いて車両に乗り込んだ。
デナイル・ヒステリカル
これがオブリビオンの手による犯行で、さらには要人暗殺にも繋がるというのなら、僕が全力を尽くさない理由はありません。
人命と情報の両要素から考えても人質の安否は最優先にするべきでしょう。

【ハッキング】を使用して訓練施設のシステムを掌握、監視装置の目を盗みます。こちらから相手を監視させてもらいましょう。
推定オブリビオンと呼称されている男にはダミーの情報で偽の安心感を得て貰うことにします。

また、味方猟兵の突入時には警備ロボット兵の電子回路へとサイバー攻撃を行います。
一部だけでも無力化。もしくは武装にロックを掛けることが出来れば、最高の援護になるはずです。




 施設に向かう第一陣の先頭車両にて、デナイルは隣に座る局員の青年に話しかけた。
「治安維持局の方」
「は、はいっ! 何でしょうか、猟兵さん」
「施設の監視システムが集約されている箇所は分かりますか? 見取り図だけでは、詳細の把握までは至れなかったものですから」
 現在のデナイルの対人モードは、相手の緊張を解す笑顔を浮かべたもの。猟兵に協力的とはいえ、仲間の危機で張り詰めた精神のままでは、自分が欲する情報は得られないと。デナイルのプログラムは自然に導き出していた。
「エントランスエリア二階に、普通の見取り図には載せていない隔離設備が……中央システム管理部があります。そこにメインの監視モニタールームが。施設内の監視システムの基点となる場所です。一部ですが、警備システムの操作も行えます」
 デナイルの物腰と、頼っているはずの猟兵に頼られた喜びか。局員はすらすらと答えてくれた。
「なるほど……僕の向かうべき場所が決まりました。モニタールームと監視システム、僕らがお借りしますね。事が解決しましたら、責任を持って必ずお返ししますので」
「誰も断るものですか。我々は猟兵の皆さんを信じていますからね! 現場までは我々もお付きしますよ。案内と、監視中の見張りはお任せ下さい!」
 ビシッという効果音が聞こえそうなほど力強い敬礼に、デナイルは笑顔を浮かべたまま頷いた。この笑顔は、情報を聞き出す為の対人モードの続きか、それとも。
「ありがとうございます。大切な情報と信用、決して無駄にはしませんから」


(暗殺事件に繋がるのなら、全力を尽くさない理由はありません)
 警備用ロボットを牽制する銃声を背に。
 施設をよく知る局員らの援護を受けながら、デナイルがエントランスエリアの階段を昇る。先導する局員――車中で会話した青年――を追いながら、中央管理システム部を目指して進む。
(人命と情報の両側面から考えても、人質の安否は最優先。その為に僕がすべき事)
 人質の生体認証を利用する為だろうか、生体認証システムは掌握されていなかった。局員らを認めた隔壁が重い音を立てて開き、暗い廊下に一斉に明かりが灯る。
「ありました! 扉、開きます……お願いします、猟兵さんッ!」
「お願いされました、局員さん!」
 誘われた先。監視モニタールームの扉が開き、デナイルは一直線に部屋の中へ身を滑り込ませた。
(それは、突入する味方の援護を行う事です)

 機械仕掛けの扉が閉まり、外部の音が絶たれた部屋。
 天井まで監視モニターで埋め尽くされ、操作パネルが部屋のあらゆる場所に並んでいる。
「まずは、警備ロボット兵の電子回路へ攻撃を」
 機器の種類を見極め、警備システムへのハッキングを試みる。警備ロボット兵にサイバー攻撃を仕掛け、無力化を図るのが目的だ。
「なかなかの難度ですが、漂流船での電子戦に比べれば……楽勝の部類に入りますよ……っ!」
 青年の言葉通り、この場から操作が可能な警備システムは一部のみであった。だとしても、そのたった一部を介しての攻撃を諦めない。全てを無力化できずとも、好機を作り出す為に。
「……っ、警備ロボット兵、武装をロック!」
 扉の外からロボット兵と交戦中の局員達の声が聞こえる。武装による攻撃が止んだ、と。
「ふう……後はダミー情報を生成して……『全警備ロボット兵、サイバー攻撃の異常から回復』、と」
 一先ず作戦は上手くいったようだ。
 短く息をついてモニター前の椅子に体を預けたデナイルは、今度はモニター操作パネルに指を滑らせていく。
「安心してください、暗殺者さん。“警備は順調”ですよ。まあ、嘘ですし、すぐに仲間が蹴散らしてしまうでしょうけれど。おっと、今は誘拐犯さんでしたね。暗殺者にさせるつもりもありませんが」
 デナイルの緑の瞳が、数多の監視用モニターの光を受けて鋭く輝いた。
「さて。正体がどうであれ、オブリビオンを探さなければ。監視しておきたいので」

成功 🔵​🔵​🔴​

レイチェル・ケイトリン
人質さんにも生体チップがつかわれちゃってるかも。
脳に情報を送れる……それ命令できるかもしれないの。
なんとかするために生体チップのハッキングが必要かも。
だから、生体チップをあずかっていそぐよ。

治安維持局とかのほかの人にもつかわれちゃってないか
確認しておくようにもお願いするね。


わたしは念動力技能でユーベルコード「刹那の想い」をつかうね。

わたしがいないとこから遠隔操作で物音をたてて陽動して
見張りをそっちに追い払い、監禁場所に忍び込むよ。

まわりのすべてがとまるわたしの心の時間。

でも、わたしの体が早くなるわけじゃない。

だから、必要なとこは吹き飛ばし技能もつかって
自分の体をふっとばしてでもつきすすむよっ!


高階・茉莉
■心情
人質を取るとは、相手もなかなかやりますね。
かならず、人質を無事に保護しましょう。

■行動
WIZ判定の行動を取る。

とりあえず、モニターに映っていた画像の場所の特徴を
色々と注目してみて、
人質の場所を特定してみますね。

場所が分からなければ、武器などが置いてありそうな
屋内訓練場を優先的に調べますね。

私は、陽動として動いて、見張りを追い払いますね。
警備ロボット兵に対しては、連携や連絡を取られる前に
『ウィザード・ミサイル』で破壊しておきますね。

破壊した警備ロボットの残骸は回収しておき、
戦闘の形跡を出来るだけ残さない様、注意しておきますね。


ロクガツ・クロッカス
ちっ、もう向こうの工作員は行動開始してたんだね。
人質はまだ無事、その要因は「人質に利用価値があったから」?
その利用価値が生体認証IDによる警備ロボの捜査なら、へたにロボを殲滅すれば、彼女の利用価値を損ねるかもしれない。

【SPDを使用】
なるべく接敵を避けて隠密しながら、『多目的訓練場』を調べるよ
ここなら遮蔽も多そうだし、隠れながらでも行動出来そう
【空間凝固装置】を使用して、普通の人間では通れないルートなんかも駆使しつつ、人質を探したいな

せっかく暗殺が確定する前に介入できたんだもん
何一つ、帝国の好きになんてさせないよ!




 先陣を切ったデナイルと治安維持局員達の突入より、少し後。
 正門で身を隠した茉莉とレイチェルは、彼女らを援護する局員達と共にエントランスエリアの様子を窺っている。
「人質を取るとは、相手もなかなかやりますね」
「暗殺って、こっそりするものだと思うけれど。人質も計画に入っていたのかな」
「ミステリー小説的に考えれば……計画に狂いが生じて別のプランへ移行した、もしくは、やけになった末の行動でしょうか。人質の方や私達に情報を掴まれた事や、“これ”の取り外しによって」
「インプラント型の、メモリーチップ……」
 茉莉はハンカチからメモリーチップを取り出し、レイチェルに手渡した。
「どうぞ、レイチェルさん。救出作戦の役に立つかと思って、もらってきちゃいました」
「わたしが持っていっても、いいの?」
「チップの事で心配ごとがある様子でしたから」
「ありがとう、茉莉さん」
 レイチェルの不安は、『人質や施設内に居た局員にチップを使われていないか』というものだった。
 人質の女性が残した通信内容から察するに、オブリビオンは自身に埋め込まれたチップを無理矢理引き剥がせるような相手だ。残りのチップも引き剥がし、他者に埋め込む事に躊躇がないかもしれない。最悪の場合、チップを介して彼らを自らの手駒と変えてしまうだろうと。
「でしたら、まずは人質のいる場所を特定しましょうか。まっすぐ助けに、確かめに行けるように」
「うん」
 ぽつぽつと語るレイチェルの声を、茉莉が真剣に受け止めて答えていた時だった。局員の一人が二人の元へと駆け寄り、耳打ちをしたのは。
「偵察より戻りました。警備ロボット兵、武装が機能していません。先に突入した猟兵の作戦が成功した模様。エントランスエリア、監視モニタールームを奪還しています」
「監視モニタールーム!? レイチェルさん!」
「うん。突入のチャンス、だね。行こう、モニタールーム……!」


 監視モニタールームまでの道は、奪還の報告通りに妨害をほぼ受けずに進む事が出来た。
 扉を守る局員と一言二言言葉を交わして入室すると、レイチェルにとっては見知った仲間の姿が目に入る。モニターから目を離せない彼に支援への感謝を告げ、茉莉とレイチェルも倣うようにモニターに目を凝らした。
「あら、また画面が真っ暗。かなりの数の監視カメラが壊されていますね」
「こっちのカメラは無事。映っている局員さんは……怪我の手当てをし合ってるね。警備ロボットに足止めされて、逃げられない人も見えるよ。カメラは無事だけど、映像は無事じゃない……」
「チップ、悪用されたように見えますか?」
「されてないと思う。怪しい動きをしている人はいないから。見える限りは……だけど。もっとたくさん見えたらな」
「ですよねぇ。少しでも早く人質の位置に繋がる映像が欲しいのですが」
 無数のカメラを切り替えていくうち、茉莉がふと気付く。
「……多目的訓練場のカメラ、無事な物が多いですね」
 茉莉の指摘に、はっとするレイチェル。多目的訓練場を中心に画面切り替えを始めると、確かに、茉莉の言う通り多くの場所のカメラが正常に稼動している。
「施設の中で一番複雑な建物ですから、壊して回ろうにも複雑さが仇となり、壊しきれなかったと推理します」
「複雑なら……人質を隠すのに便利……」
「鋭いですね、レイチェルさん。調べる価値は大いにありますよ」

 モニタールームから機械音と操作音以外が消えて、僅かばかりの時が過ぎた頃。異なる映像を見続けていた茉莉とレイチェルは、同じ映像に釘付けになっていた。
「人の足……?」
 オフィスビルの一室を模した空間の隅に、女性物の靴が映っている。靴だけが転がっているのではない。靴の中身がある。靴を履いた足が、床の上に力なく投げ出されていた。
「間違いありません、人の足ですっ! カメラの設置場所は!?」
 モニターに表示された文字列は、多目的訓練場。更に詳細に位置情報を示す文字列は……
「『火災救助訓練ルーム・A』、ですか」
「どうやって行く?」
「屋外訓練場を突っ切るのは無謀すぎますし」
「屋内訓練場を通るのも、危ないかも。武器がたくさんある場所で、ばったり遭ったら……」
「戦う、逃げる、撒く。どの道、余計な時間を使ってしまう。となると、座学棟経由しかありませんね」
 進むべき道は決まった。頷きあってモニターの前を離れ、二人は再び廊下の照明の下へ。
 駆け出す直前、レイチェルは近くの局員の目の前でチップを取り出し、そっと忠告する。彼女が案じているのは人質だけではない。戦う力を有していようとも、施設内に取り残された局員達もまた、猟兵が守る人々なのだから。
「局員さん達、気をつけて。みんなの仲間を助けたら、こういうチップを体に付けられていないか、よく確認しあってほしいの。よくないものだから」
「我々の事も案じてくださり、ありがとうございます。お気をつけて!」
 敬礼に見送られながら、二人分の足音が固い廊下を駆けていく。


 エントランスエリアを抜け、座学棟へ。奪還されたエントランスエリアとは違い、棟内は警備ロボット兵があちこちで動いていた。武装を失ったとはいえ、捕獲用プログラムはまだ生きているのだと分かる。
 モニタールームで見た映像と同じ光景。前進の困難さを確信する茉莉とレイチェルの耳に、控えめな少女の声が届いた。
「おーい……! おーい……! お困り中のお二人さーん……!」
 聞き間違いか。若い女性局員か。二人が周囲を見渡すと、非常階段に続く扉が僅かに開いており、その向こう側から声が聞こえている。ひらひらと手招きする少女の手も見える。
「ロクガツ・クロッカス。私も漂流船で一緒だった猟兵だよ。安心して入ってきて」
 声の主を信じて扉を開くと、そこには漂流船ですれ違った猟兵が立っていた。
「信じてくれてありがとう! こっちの方が隠れやすいし、見つからないで進めるよ! 自己紹介と調査結果のお話は……移動しながらでいいかな?」
 にっこりとロクガツが指差した、非常階段を昇った先。“こっち”にあったのは、身近で意外な通り道だった。
「二階のベランダを突っ切って通るとは。盲点でした」
 先導するロクガツの後ろで茉莉が感心した声を上げ、レイチェルもこくこくと頷いている。
「狭いからか、警備ロボットはあんまり来なくてね。来たとしても動きを予測しやすいから、対処も楽だったんだ。余計な戦闘を避けられるし、ロボットを壊しすぎて怪しまれる可能性も低くなる。我ながらいい作戦だと思ってるよ!」
 ロクガツの協力と作戦により、人質救出への道は一気に短縮された。
 これまでの道のりで出くわした警備ロボット兵の数といえば、片手で事足りる程度。
 茉莉とレイチェルからの「ありがとう」に緩みそうになる口元を引き締めながら、ロクガツは多目的訓練場に続く最後の扉を開いた。


 多目的訓練場の遮蔽物と障害物は、使い方を間違わなければ心強い味方であった。内部に模された日常の形は警備ロボット兵の足止めとなり、身を隠し守る盾となる。
 しかし、いつまでも順調に事を運ばせてくれるほど、この訓練場は甘くない。
 三人の足元に現れたのは断崖絶壁。ビルを模した鉄の壁と壁の間に深い闇が広がっている。訓練に使われる場所故に安全対策はされているはずだが、猟兵達の歩みを止めるのには十分な強敵であった。
「ええと、建物と建物の間を移動する訓練に使う場所、なのでしょうか」
「あれで移動するのかな。梯子みたいなもの、向こう岸にあるよ。回り道になるけど、取りに行く?」
「んー……せっかく上手いこと進んで来れたのに、回り道はもったいない。見取り図的に、ここを突っ切れば人質の監禁場所まで最短で行けるんでしょ?」
 ロクガツは僅かに考え込む様子を見せた後、二人の一歩前に立った。もう一歩足を動かせば、そこはもう暗闇の中だ。
「ユーベルコードで向こう岸まで行ってくる。梯子を渡すから待っていて」
 口を開いた闇の上に躊躇なく飛び出した彼女の身は、闇に飲み込まれることなく高みに在った。
(一、二、三、っと! タイミングにコツがいるんだよねっ!)
 ユーベルコート【空間凝固装置】で空中を飛翔する。透明な足場を蹴りながら舞い飛ぶ鮮やかさに、茉莉もレイチェルも思わず目を奪われた。
「よし、タイミングも着地もばっちり決まった! 仲間の前で格好悪い所は見せられないもんね」
 無事に着地を決め、梯子状の移動用具を設置すれば、対岸から小さな拍手が聞こえた。

 闇を渡りきった先の通路を抜けると、設備の複雑さは途端に鳴りを潜める。
 オフィスビルのワンフロアを模した単純な光景が、目的地のすぐ側まで辿り着いた事を示していた。フロアを埋め尽くす警備ロボット兵の密度も、また……
「いかにも『一番大事な所です』って言ってるよ」
 もうこれまでの作戦は通用しないだろうと、ロクガツが武器に視線を落とした。
「ロクガツさん。わたし、ユーベルコードで陽動できないかやってみる」
「それで隙が出来るのなら、行ける所まで行きたいね。茉莉さんはどう?」
「構いません。もし隙を埋められても、また新しい陽動作戦に出ましょう。レイチェルさんの次は、私のユーベルコードで引きつけます」
「……ありがとう」
 漂流船と同じく、ひとりではない。仲間との連携を信じ、レイチェルは【刹那の想い】を発動する。
(心のなかで時間よ、とまれ。まわりのすべてがとまる、わたしの心の時間の中で。届いて、わたしの念動力(ちから)……フロアの一番奥、天井のパネルを落とすの)
 体感時間の減速で念動力の精密動作を可能にするユーベルコードは、オフィスビルらしい簡素な建材を引き剥がし、盛大な落下音で警備ロボット兵の注意を奪った。ロボット達は群れを成し、音の出所へと慌しく流れていく。
「今のうちに、走ろう」
 群れの流れを読み走り出した三人であったが、数歩も走らないうちに警備の目に捉えられる。落下音に反応しなかったロボット達が残っていたのだ。
「うまくいったと、思ったんだけどな……っ」
 迫り来る捕縛の手に捕らえられる直前、幾筋もの炎の矢が機械部品を貫くのをレイチェルは見た。
「レイチェルさん、人質の方の元へ! 最初の陽動に引っかかったロボット兵と、連携を取られる前に破壊します!」
「こっそり進ませてくれる数じゃないもんね、切り替えていこう!」
 茉莉の【ウィザード・ミサイル】が命中したのだと気付いた時には、レイチェルの背にはロクガツの手が当てられていた。
「少しでも早く顔を見せて、人質さんを安心させてあげよう。まずは、あなたの番」
 とん、と優しく押し出される感覚に、レイチェルは振り返りたい気持ちを抑えて頷く。
「……うん。わたし、ぜったいに進むよ。吹き飛ばしてでも!」
 茉莉とロクガツの間をすり抜けた警備ロボット兵に果敢に立ち向かいながら、その向こう側に、監禁場所の名『火災救助訓練ルーム・A』が刻まれたプレートが光るのを、レイチェルは確かに見た。


 警備ロボット兵を吹き飛ばした勢いを保ったまま、レイチェルの体が監禁場所に転がり込む。
「人質の、ひとは……っ」
 オフィス用の事務机の集められた一角に隠されるように、人質は横たわっていた。手錠と縄で手足の動きを封じられ、顔に血の気はない。慌てて駆け寄り息を確かめると、弱々しくも規則正しい呼吸がある。
「気絶してるだけ、かな。大きな怪我はなさそうだけど」
 見た目だけでは分からない傷があるかもしれない。気絶させられた際についたものや、レイチェルの危惧していたチップの埋め込みの傷が。
「チップをハッキングして……せめて、信号か何か、固有のパターンが分かれば……」
 装備中のデバイスを通してチップの世界に心を通わせれば、小さな世界を守ろうとするプロテクトが邪魔をする。しかし、無理な取り外しで綻びが出来ていたのだろう。ハッキング攻撃で綻びを広げて穴を空け、目的のデータを取り出す事はそう難しくなかった。
 手に入れたのは、情報を送り込む際に発する信号パターン。入手から間髪いれずに人質の手にデバイスを握らせ、両の手を添えて包み込む。簡易的ではあるが、体の走査(スキャン)が始まった。
「信号……信号は……反応なし。チップは、使われていない……!」
 弾むレイチェルの声に、たった今入室を果たした茉莉の声が続く。
「よかったですね、レイチェルさん」
 茉莉にもレイチェルにも微笑みが浮かんでいる。二人の様子に、まだ事情を知らないロクガツも『何やら良い結果が得られたのだろう』と嬉しそうな様子だ。
「茉莉さん、ロクガツさん……! はい。ほんとうに、ほんとうに、安心しました」
 レイチェルが添えた手を握り締めると、人質の目蓋がぴくりと動き、掠れた声で唇が震える。
「ん……だ、れか……いる、の?」

 瞬きを繰り返す人質の目に映るのは、彼女の目覚めに喜ぶ三人分の笑顔。静かに優しく、穏やかに温かく、眩く強く。
「わたし達は、猟兵。助けに来たの」
「痛いところや苦しいところがあれば、教えて下さいね」
「猟兵、さん? ああ……私、助かったんだ……」
「もちろんです。もうちょっとの辛抱ですよ。拘束、すぐ解きますからね」
 拘束の解除役には、ロクガツが手を上げた。
 傭兵の経験が活きたのだろう、手錠と縄に触れた彼女はすぐに気付く。施設内の訓練用の物が使われていると。予想通りに脆いそれが呆気なく外れ解けていく様を、二人の仲間が見守っている。
「はい、手錠も外れましたよ。晴れて自由に――」
 縄が解かれ、手錠が床に落ちた瞬間。
 部屋に響く警報が四人の鼓膜と心臓を震わせる。猟兵の勘が、向けられた敵意を察知する。
「……っ!」
「まさか!?」
「危ないっ!」
 レイチェルが、茉莉が、ロクガツが。一斉に人質を庇いながらその場から飛び退いた。衝撃から守るべく抱きしめるように。敵意から僅かでも遠くへ離れられるように。
「く、ぅ……っ!」
 直後、熱風が肌を過ぎる。熱風が撒き散らした室内の品々が体に打ち付けられる。誰の声とも分からない絶える声が零れ落ちる。
 荒ぶ風が過ぎ、警戒しながら身を起こしたレイチェルの視線の先には、焼け焦げた床。
「わたし達、攻撃された……?」
 警報が鳴り、回避や防御が間に合わなければ、この場の誰もが掠り傷では済まなかっただろう。
 建物に備えられていた機器が危機に対して作動したのか、監視モニタールームの仲間が知らせてくれたのか、判別はつかなかった。否。“判別している暇など無かった”が正しいか。
 過ぎ去った危機ばかりに思考を使うわけにはいかない。次の行動に迷ってはいられない状況に陥ったのだ。小さな舌打ちと共にロクガツが鋭い視線を周囲に走らせる。
「私達の行動がバレて狙われたのか。人質に利用価値がなくなったか。どっちも合わせて『利用価値のない人質ごと猟兵を消そうとした』のか」
 その横で、茉莉は人質を抱きとめながら一点を見つめていた。
「……屋内訓練場の、方角から?」
 茉莉の呟きに、ロクガツの視線が茉莉と人質に向けられる。茉莉の腕の中で青ざめる人質に、ロクガツの中で取るべき行動が固まっていく。それは、他の二人も同じだった。
「あちらさんの潜伏場所も気になるけど」
「ええ。今は安全確保が最優先でしょう」
「これ以上、怖い思いをしてほしくない。助けた命を、なくしたくない」
 レイチェルが、攻撃の影響でエラーを起こした扉を吹き飛ばす。
「続く猟兵が気付いてくれると、暴き出すと信じて。今すべき事を果たすまでです!」
 人質を支えながら、茉莉が立ち上がる。
「せっかく暗殺が確定する前に介入できたんだもん。何一つ、帝国の好きにはさせないよ! 手がかりの持ち主は、私達の方にいるんだからっ!!」
 茉莉の反対側から支えるロクガツが、近くて遠いオブリビオンに啖呵を切る。

 人質の女性――治安維持局の衛生部員――を加えた四人は、監禁場所から立ち去った。
 焼けた床から立ち上る煙が、どこか悔しげに揺らめきながら消えていく。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

レイチェル・ケイトリン
衛生部員さんを見つけ出せた、
でもまだ助け出せてあげられてないよね。

おちつけるとこまでつれていってあげる、
そしてわかることでいいからしってることをおしえてもらうね。

今度は念動力と吹き飛ばしとかばうの技能でテレキネシスをつかうの。

衛生部員さんへの攻撃があったとしても確実にふっとばして
まもってあげられるように。

わたしたちがいないとおくのところで物音を立てたりして
追跡を惑わせるのもやっとくね。

それは助けてあげるための通過点。

敵をやっつけて、ほんとにこの船が安全になったとき、
助けてあげられた……とわたしはおもうから。

そうできるようにがんばるね。




 レイチェルを先頭に、猟兵達は人質を守りながら多目的訓練場を奥へ奥へと進んでいく。オブリビオンの気配が濃い屋内訓練場から遠ざかるように。
 衛生部員の生体認証IDで警備ロボット兵を止めたい所だが、いつ二撃目を加えられるか分からない現状、立ち止まってはいられない。念動力で物を動かし、時に破壊し、ロボット兵を欺きながら進んでいく。
(衛生部員さんを、おちつけるとこまでつれていってあげないと)
 記憶の中の見取り図を引っ張り出して安全な場所を探していると、衛生部員が口を開いた。人質になった上に攻撃を受けたショックもあったが、非戦闘員といえど治安維持局に属する者。猟兵達に支えられているという安心感も相まって、冷静になるのは早かった。
「この先に避難訓練用の簡易シェルターがあります。簡易といえど、本物の避難シェルターと同じ建材で作られていますから、身を守るには最適な場所でしょう。どの建物からも狙い難い位置にありますし」
「わかった。案内、おねがいするね。シェルターまでかならず守るから」
「はい……! まず、すぐそこの階段を下りてください。降りたら左に真っ直ぐ、です!」
 案内通りに階段を下りると、待ち受けていたのは見慣れた――それを通り越して見飽きそうな――迫る警備ロボット兵達。猟兵を捕獲するのか、人質を奪還しようとしているのか。どちらにせよ、突破しなければシェルターには入れない。
「惑わせている時間がないなら」
 捕まってしまう、その前に。
 レイチェルは念動力をユーベルコード【テレキネシス】に乗せ、遠隔攻撃として警備ロボット兵を吹き飛ばす。
「吹き飛ばす。守る。かばう。確実にね」
 念動力の直撃で。壁や床に叩きつけられて。警備ロボット兵は衝撃で動きを止めた。道を再び塞ぐ物は無く、猟兵達をシェルターへと導くかのように廊下が真っ直ぐ伸びている。

 ガコン、と重量に見合った音を立ててシェルターの扉が閉じた。
 同時にシェルター内に照明が灯る。互いの顔と無事を改めて確認し、猟兵達と衛生部員は長く息を吐き出した。警戒で張り詰めていた空気が解けていく。
「ありがとうございます、猟兵の皆さん」
 シェルター内の簡易椅子に腰を下ろし、衛生部員は深々と頭を下げた。
「私の救助に猟兵が参加しているという事は、やはり、あの男は銀河帝国と関係があるのですね」
 頭を上げた後の彼女の目は、治安維持局員としての使命感を取り戻している。要人暗殺事件の話を切り出してもよいだろうと、レイチェルが口を開いた。
「あのね、誘拐犯は宇宙船のえらい人を暗殺しようとしているの」
「暗殺……!? 何らかの工作を仕掛けに来たのだと予想していましたが、暗殺とは……」
「わたし達は暗殺を止めたくて来たんだ。誘拐犯……ううん、暗殺者のこと。わかることでいいから、しってることをおしえて」
「ええ。私の知る限りの情報をお話します。皆さんのお役に立てばよいのですが」


 姿勢を正し、衛生部員はレイチェルら猟兵達の顔を見回しながら語り始める。
「あの男……暗殺者は、体に埋め込まれた端末に“治安維持局本部に関するデータ”を大量に保持していました。私が誘拐された理由は、彼の計画を狂わせたのが一因かと思われます。彼が眠っている間に端末を調べ、僅かとはいえ本部に知らせたのですから」
「治安維持局のデータをたくさん……まさか、最初のターゲットは治安維持局の局長さん……!?」
「恐らくは。宇宙船の戦力が集中する治安維持組織が、上層部から崩れてしまえば……」
「他のえらいひと達も、住んでいるひと達も守れない。銀河帝国が攻めてきても、なにもできなくなる」
 銀河帝国の狙いがまた一つ暴かれ、ついにグリモア猟兵の予知と繋がった。
 漂流船を隠れ蓑にした暗殺者が宇宙船に接近、侵入。最初に軍事的な力を持つ治安維持組織の要人を暗殺し、機能不全に陥れる。守る者を失った他の要人をも手にかけ、導く者を失った住民を蹂躙し、コアマシンを我が物とする。その後、コアマシンが生み出すのは破壊を齎すものばかりとなるだろう。
 だが、同時に繋がらないものも見えてくる。
「……データ、どこからどうやって手に入れたんだろう」
 レイチェルが素直に口にした疑問に、衛生部員はすぐに答えを出してくれた。
「その事なのですが。一ヶ月ほど前、私達の船と同盟関係にある宇宙船で『猟兵を騙った男が重要機密データを提供させた事件』があったんです。持ち出されたデータの中には、私達の宇宙船に関するものも多数ありました」
「ひどい……みんなの信頼を悪用するなんて。偽物の猟兵はどうなったの?」
「本物の猟兵に倒されましたので、ご安心を。ただ、一つだけ懸念が残っていまして。偽猟兵が倒れた直後、不審な信号が宇宙船外に放たれたそうなのです」
「信号を受け取ったのが、今回の暗殺者かもしれないんだね」
「はい。偽猟兵の仲間ではないかと疑ったからこそ、端末を調べようと思ったのです。何故、重要な端末を一つ外してしまったのかは……流石に分かりませんでしたが」
 猟兵でなくとも、生き残りをかけて銀河帝国と戦い続ける。スペースシップワールドの人々の強さと勇気が、猟兵とオブリビオンとの繋がりをより明確にした瞬間だった。
「おしえてくれてありがとう。聞けてよかった」
「もう行かれるのですか!? 暗殺者のもとに……」
 暗殺者が施設から逃亡していないのなら。まだ逃亡するつもりがないのなら。逃亡を諦めてくれたのなら……ここで決着を付けられる。立ち上がり、シェルターの扉に手を掛ける猟兵達を衛生部員が追った。
「うん。衛生部員さん、もう少しだけここで待っていて。暗殺者をやっつけて、ほんとにこの船が安全になったとき、助けてあげられた……とわたしはおもうから。そうできるようにがんばるね」
 最後にシェルターを出ようとしたレイチェルが、そっと衛生部員を部屋の中へ押し留め、扉を閉める役を担う。
「……信じています。私の知る猟兵という存在は、いつだって勝利を齎してくれるのですから。信じて待っています」
 扉が閉じた瞬間から、もう猟兵達の足音は聞こえない。それでも、足音が聞こえなくなるであろうその時まで、衛生部員の敬礼の手が下がる事は無かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『ファントム・ガンマン』

POW   :    ボムファイア
【ブラスター銃の最大出力放射】が命中した対象を燃やす。放たれた【ブラスター銃の熱線の】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD   :    クイックドロウ
レベル分の1秒で【熱線銃(ブラスター)】を発射できる。
WIZ   :    ブラストキャンセラー
対象のユーベルコードに対し【ブラスター銃の一斉射撃】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は麻生・大地です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 どん、と爆発音が地面を揺らす。猟兵達や、治安維持局員達の鼓膜を震わす。屋内訓練場の壁に大穴が空き、灰煙の塊が宇宙船の人口の空へと昇っていく。
 訓練施設の緊張感は最高潮に達していた。決戦の時は、目前に迫っている。
 
 流れゆく煙の奥、壁の穴から、宙に紛れる青の迷彩が歩を進める。
 猟兵の援護の為に向けられる銃器や盾を意に介さず、ざりざりと屋外訓練場の砂埃を踏みしめるのは、青みがかった黒髪の男。医療施設の監視カメラに映っていた誘拐犯――暗殺者であるオブリビオン――だ。
「まいったな。“別の俺”に悪いことをしてしまった。せっかく、命がけで情報をくれたってのに。“本物の俺”だったら。人質なんて使わないで、もっと巧くやっていたかもしれないな」
 独り言にしては大きな声で。悪い事をしたと言うには、感情の無い声で。オブリビオンは屋外訓練場の中央に身を晒す。
「何故、俺はあんな事をしてしまったのか。何故? 誰かさんの駒として、操られて死にたくなかったからだろう?」
 灰煙は無く、何も隠すものは無い。オブリビオンの手の熱線銃が光る。
 ここで行われるのは訓練ではない。過去との決戦である。
「“本物の俺”が遺した本能が! 強者と戦いたかったからだ! 死ぬなら戦い抜いて死にたかったからだよなあ! こんな風にさ……お前達とッ!!」
 銃から放たれる熱線の一閃が、戦いの始まりの合図だった。
高階・茉莉
🔴🔴で真の姿になる。
真の姿は、瞳が紅く染まる。

■心情
銃を扱う敵ですか、何とも厄介ですけど、
私も負けませんよ。

■行動
WIZ判定の行動をとる。

ウィザード・ミサイルを、属性攻撃も組み合わせて放ち
攻撃することをメインに行う。

ボムファイアや、クイックドロウに対しては
出来るだけ避ける様に注意しておき、
どうしても避けられない場合は、武器などを盾にして防御することにしますね。

ブラストキャンセラーで、ウィザード・ミサイルが相殺されたら
その隙に一気に接近して
フォースセイバーで2回攻撃を駆使して、攻撃しますね。
跳躍してからの、空中戦で戦ったりもしてみます。




 合図となった一撃は、多目的訓練場から飛び出した茉莉へと向けられていた。
「熱線攻撃! 二度も受ける気はありません!」
 しかし、人質救出時に同じ攻撃に狙われた茉莉だ。気配を察知し、瞬時に回避地点を定めてそこへ飛び退いた。
「あの時撃った【ボムファイア】の先に居たのは、あんただったか! いいね、避けてくれて感謝するよ。避けてくれるくらい強くないと、戦いもつまらなくなるからなあ!」
 回避の後に生まれた茉莉の隙を狙うように、目にもとまらぬ速さで繰り出されるのは熱線の雨。
 全てを避け切れないと判断した茉莉は、武器のフォースセイバーを構え、時には小さく振る動作を回避の動きに交える。光の剣を、燃える雨を弾く盾としたのだ。
「銃使い……何とも厄介ですけど」
 回避も防御も成功したが、防戦一方ではオブリビオンを倒せない。相手の攻撃範囲は広く、次撃までの間隔も短い。銃が一丁あれば、宇宙のどんな場所でも渡り行けそうな……それ程の銃技に長けた者が蘇ってしまったようだ。
 だが。それでも。
「私も負けませんよ」
 眼鏡の奥の瞳が紅に染まる。炎が茉莉の周囲に渦巻き、矢の姿へと変じる。
 番える弓は無くてもいい。これは魔法の矢(ウィザード・ミサイル)。空を駆け、敵へと飛びゆくユーベルコード。
「私だって、熱を撃ち出せるんですから」
 炎の矢は熱線の雨にも劣らぬ――越える程の――紅の軌跡を描き、オブリビオンを熱で貫いていく。
「ぐ、っ!? 熱い、熱いねえ……あんたの技! 戦場の熱気を凝縮したようだ!」
「熱いのがお好みですか。では、もう一撃いかがでしょう」
 二撃目のウィザード・ミサイルを放ち、茉莉が問う。
「お喋りで、好戦的で、暗殺者らしくない暗殺者……あなたは一体何者なのですか?」
 炎の連撃で迷彩服を焦がしながらも、オブリビオンはにやりと笑みに歪んだ口を開いた。
「俺かい? 宇宙に名を轟かせた強者の、空っぽの亡霊(コピー)だよッ!!」

成功 🔵​🔵​🔴​

レイチェル・ケイトリン
「念動力」と「クイックドロウ」と「早業」で「刹那の想い」を発動、「武器落とし」と「目潰し」と「吹き飛ばし」を、逃がさない「範囲攻撃」でつかって敵の攻撃をふせぐよ。
ほかの猟兵さんへの攻撃も「かばう」ね。
音を出す「フェイント」で先読みもさせないよ。


すばやい射撃には狙いと姿勢と適度な脱力が必要。
目潰しと吹き飛ばしと武器落としの打撃でそれをうばうよ。

炎は空気を動かして真空で酸欠にして消すね。念動力は不可視の力だから敵は「事前に見ること」はできないの。


この様子、精神支配に必死に逆らってたんだね。
弱者虐殺の道具にされないように。

わたしの力は心の力。

この戦士の誇りにこたえたいよ。

それが今のわたしの心だから。




 茉莉の戦いが“熱の降り注ぐ炎と炎の戦い”ならば、レイチェルの戦いは“炎を止める戦い”として幕を上げた。
(まだ、もえてる。狙われたときは、すぐに消えていたのに)
 初撃の炎が未だ地面に揺れ続ける様を見て、レイチェルは気付いたのだ。炎はオブリビオンの意のままであり、相手が『消す』という意思を持たない限りは燃え続けると。
 戦いの喜びに上書きされて忘れているのか、戦略なのかは分からないが、放っておけば延焼で訓練施設を飲み込みかねない。
(消さなくちゃ。念動力……見えない力なら、防がれないはず)
 彼女の念動力が動かしたのは空気。薄められた酸素に、炎の色もまた薄れて消えていく。
「なんだ、俺の炎を消せる奴もいたのか。手品かい? 魔法かい?」
「心の力、だよ」
「目に見えない力ってやつか……悪くない! 強者の亡霊として、挑むに値する!」
「あなたの戦士の誇りにこたえるよ。それが今の私の心だから」
「ありがとうなあ! 言葉通り、全力で応えてくれよッ!」
 手足の緊張と脱力の均衡。連射へと続く体勢に、レイチェルは空気を震わせ音を鳴らす。
 オブリビオンは仕掛けられたフェイントに微かに動きを乱すも、それすら自身の銃技には関係ないとばかりに構えを変える事は無い。炎の雨を降らせまいと、刹那の想いで精度を上げたレイチェルの高速範囲攻撃に対抗する。
 目潰しに抗い、武器を離すものかと握り締める激しい動きの中。彼の焼け焦げた迷彩服の襟が崩れ、うなじ――医療施設で受けた治療の痕――が露になった。
「精神支配に必死に逆らってたんだね。弱者虐殺の道具にされないように」
 ちくりとした痛みを感じながらも、レイチェルの心は、想いは、目の前のオブリビオンを倒す為に動き続ける。破滅の引鉄を引く暗殺者としてではなく、戦士として倒すために。
「チッ!?」
 レイチェルの心が武器を持ち主の手から弾き出す。しかし――
「訓練用だが、いい銃だろう?」
 弾かれた衝撃で動きを止めた手の反対側。もう片手に握られていたのは、屋内訓練場から奪われた訓練用熱線銃。
「やっぱり……戦いの準備を進めていたんだね……!」
 新たな武器が咆哮せんとした瞬間、キィンと耳障りな高音が駆け抜ける。
『――そ……だな……【ファントム・ガンマン】とでも呼んでくれ』
 慌しく動かされたのであろう放送機器が、激しいノイズ交じりにオブリビオンと同じ声を響かせた。

成功 🔵​🔵​🔴​

デナイル・ヒステリカル
その方の人生がどんな物であれ、既に終わりを迎えた人の姿形で、今を生きる人々の邪魔をする事を僕は認めません。
これ以上被害が広がる前に、ここで骸の海へと帰っていただきます。

モニタールームからガンマンの居る部屋へ、あらかじめ録音していた問答を再生して流します。
これ以上の仲間はいないようですね。大人しく投降を求めます。等です。
その間、僕は自身に光学迷彩を施して戦場へと侵入し、息を潜めています。

ガンマンが問答へ気を割いたのを見計らい、UCを使用。攻撃します。




「ッ!?」
 引鉄にかかるオブリビオン――ファントム・ガンマン――の指がぴたりと止まる。表情にこそ出ていないが、初めて見せる明らかな動揺だった。
『――……仲間――は……いな……ようですね――』 
『見つか――た……か……警備……おかし…………お前……仕業か――』
 流れ続ける音声は、デナイルがファントム・ガンマンを発見した際の音声記録だ。“今は”無人となったモニタールームから発信されたそれは、徐々にノイズを消してクリアになっていく。戦場の空気に溶け込んでいく。光学迷彩を纏い、姿を消して息を潜めるデナイルのように。
『潜伏場所を特定しました。大人しく投降を』
『嫌だね。どう足掻いても戦うしかないんだろう? なら、俺は自ら戦場に出て行く道を選ぶ』
 音声の最後は爆発音。屋内訓練場の壁が破壊され、猟兵とオブリビオンが対峙する直前の記録だった。
「……裏で動いていた誰かさんか。また裏から仕掛けてくるつもりなのかい?」
 ユーベルコードを叩き込む最大の好機を狙うデナイルは、ファントム・ガンマンに答える事はない。ただ静かに、一瞬の好機だけを待っている。
(これ以上被害が広がる前に、ここで骸の海へと帰っていただきます……PSIプログラム、実行)
 動揺が続いている。気配はまだ察知されておらず、引鉄は引かれていない。
(まだです。敵の“揺れ”が最大になる瞬間まで、まだ――)
 敵の視線が、姿なき者の存在を探して揺れ動く。
(この時を待っていた!)
 デナイルの狙う好機が訪れた。もう身を隠す必要は無い。ユーベルコード【遠近両用かみなりパンチ(ライトニングストライク)】を放てば、即座に自身の居場所が分かるだろう。それほどまでに激しく眩い技なのだから。
「チャージ完了」
 ファントム・ガンマンが『視界の隅に光が走った』と認識した瞬間。
「これが雷霆だ……!」
 雷の轟音と熱に爆ぜるデナイルの拳が、真正面からファントム・ガンマンの胴体に叩き込まれた。
「……っは!!」
 ファントム・ガンマンは地面を踏みしめ、吹き飛ばされる事は免れたものの、与えられた衝撃は二本の筋を砂埃の上に残す。
「よう、やく……表に出て来る気になったか……っ」
 音声だけのやり取りだけだった相手の姿を、ファントム・ガンマンは拳で突き放された分だけ遠くに見る。光学迷彩を解き、雷の余韻を残す拳は解く事無く、己に対峙する青年の姿を。
「僕の戦い方はお気に召しませんか?」
「いいや……これが、お前の……一番自分らしい戦い方なんだろう? 自分らしく戦う奴を認めて、戦える事を誇りに思う。“本物の俺”も、そう言うだろうさ」
「本物、ですか……その方の人生がどんな物であれ、既に終わりを迎えた人の姿形で、今を生きる人の邪魔をする事を僕は認めません」
 熱と電流で動きを封じられながらも銃を握り締め続ける手には、戦士としての誇りも握り締められているのだろう。
 しかし、その誇りはデナイルにとって認められないものだ。過去にどれほど輝かしいものだったとしても、“今を破壊し未来を断つもの”として、決して……

成功 🔵​🔵​🔴​

レイチェル・ケイトリン
はやく、もっとはやく……

「訓練用だけど、いい銃」……そんなのぜんぜんおもわないよ。
あなたがもってるならそれ「高い殺傷力の恐ろしい武器」だよ。
あなたの手からとぶなら小石一つでもね。

だからやることはいっしょ。

「念動力」「クイックドロウ」「早業」で「刹那の想い」を発動、「武器落とし」「目潰し」「吹き飛ばし」を、「範囲攻撃」でつかってその攻撃をふせぐよ。
「かばう」と「フェイント」もつかうよ。

でも、あなたという強敵とのたたかいから得た力がある。

真の姿の解放……わたしの真の姿はただの人形。

人ではなくただの器物だから刹那の想いで自由にうごかせる。

強くなるわたしの未来で、強かった過去であるあなたにこたえるよ。




 茉莉の炎とデナイルの雷で、ファントム・ガンマンが負ったダメージは既に膨大なものとなっている。レイチェルと彼の心と技のぶつかり合いで蓄積されたダメージも、少しずつファントム・ガンマンの手足から力を奪っていた。
 だが、彼の手には未だ銃が在る。銃がある限り彼は戦い続けるだろう。銃を――過去の残滓を――離さなければ。
「『訓練用だけど、いい銃』……そんなのぜんぜんおもわないよ。あなたがもってるなら、それ『高い殺傷力の恐ろしい武器』だよ。あなたの手からとぶなら小石一つでもね」
「随分と評価してくれるじゃあないか。“俺”の存在も報われるってもんだ」
 レイチェルの念動力が広がりゆき、再び銃目掛けて放たれる。彼女が成そうとする事は変わらない。ファントム・ガンマンもまた同じだ。
(はやく、もっとはやく……)
 見えない力で武器を打ち落とす。見えない力を己の技で撃ち落とす。拮抗する力、心と技。
(でも、あなたという強敵とのたたかいから得た力がある)
 それは、技を高める力。空っぽを謳いながらも、戦士の矜持という心で彼がそうしたように。
「強くなるわたしの未来で、強かった過去であるあなたにこたえるよ」
 レイチェルが真の姿へと変じる。ただの人形と人形に宿りし心が、刹那を未来に変える為に解き放たれた。
 心は器たる人形を正確無比に操り、目に見えぬ力は目に映る力となった。もっとも、高速の連撃は猟兵やファントム・ガンマン以外には“見えなかった”であろうが。
「はは、っ……熱い炎、滾る雷、心の力……暗殺者になっていたら喰らえなかったものだ。いいもの喰らわせてもらったよ――」
 連撃の最後、打ち据えられた腕の先。ついに熱線銃が宙を舞った。
「繋がって……戦いの終わりに! 未来に!」
 終決が近づく戦場に響く声は、器の人形の唇が紡いだものか。心から心へと伝わった音無き声か。

成功 🔵​🔵​🔴​

境・花世
綾(f01786)と

物語でしか知らなかった宇宙
窓越しの闇は怖いほど深遠で、
けれど隣のきみがいつも通りだから
ふと笑みが零れる

――行こうか、綾

亡霊でも本物でも関係ない
唯、あの海へ帰すだけだよ

互いに背中を預けて、
反撃の間を与えぬよう畳み掛け
綾が作ってくれた隙を活かして
扇から散らす薄紅の花を
敵を切り裂く刃へと変え

もしも綾を狙う攻撃があるなら
高速移動で射線に割り込み庇って
反撃に燔祭を投擲しよう
運良く銃口や服に捲けたなら
一斉に咲かせて手向けの花と成す
虚ろに満ちる水に、咲き誇れ

静謐の戻る宙に響くきみの声は
やっぱりいつも通りだから
微笑んで肩を並べる
この船が羅針盤を失わぬように
星を目指して、漕ぎ出せるように


都槻・綾
f11024/かよさん

星煌く宙の旅路で亡霊に逢う――、
そんな童話も何処かの世界にありますね

穏やかな口調のまま
相対する亡者へとゆるり、歩を進める

急襲、死角に備え掛け合う声
研ぎ澄ます第六感で見切り
オーラで自他防御
残像、フェイントで遊戯を楽しむ如く回避

高速詠唱、二回攻撃を駆使して放つ七縛符
軌跡はきっと宙に似合いの流れ星
捕縛で援護

鳥葬にて骸海を標す
乾いた身に染み渡る、水纏う鳥の群れ
自身を空っぽと表する亡霊の虚ろな器を潤すものであれ、と

貴方にとって
胸弾むひと時となりましたでしょうか
此処は星海
貴方の柩は骸海
迷わず還り、お眠りなさい

私達も帰りましょうか
今日という船に乗り
明日という星を目指して
漕ぎ出しましょう




 レイチェルの想いと声を受け取ったのは、境・花世と都槻・綾の二人だ。
「――行こうか、綾。繋ぎにさ」
 花世と視線で合図をし合い、最初に綾がゆったりと動き出す。目前の終決への余裕でも、武器を失った敵への油断でもない。“花世と共に居る”という信頼が、彼の動きを優雅に彩っていた。
「星煌く宙の旅路で亡霊に逢う……そんな童話も何処かの世界にありますが。貴方の物語は、最後の一頁が開かれたようですね」
「今、まさにな……ッ!」
 ファントム・ガンマンが徒手空拳にて二人に挑みかかる。
 綾がオーラ越しの防御で感じ取るのは、数多の銃技の源であった肉体の頑強さ。研ぎ澄ました第六感が感じ取るのは、攻撃の合間に生まれる異なる動き。ちらりと目配せをすれば、何も言わずとも花世が素早く動き出した。
「拾わせるもんか」
 最初に落とされた熱線銃か、落とされたばかりの訓練用の銃か。ファントム・ガンマンは、武器を拾う隙を探っているようだった。
 右目を寄生型UDCで塞がれながらも、“綾と共に居る”事で広がった花世の視野は、敵の一挙手一投足を見逃す事など無い。
「終わる君に必要なものは、銃なんかじゃない」
 綾の前に躍り出た花世の扇は【花開花落(ハナヒラキハナオチル)】で大輪の八重牡丹と咲き乱れる。
「手向けの花だ」
 それは亡霊の視界を虚ごと満たすほどに咲いて、散って、散って、散って……綾の【鳥葬(ヨミシルベ)】で羽撃く、水纏う鳥の翼を薄紅色に染めた。
「時の歪みに彷徨いし御魂へ、航り逝く路を標さむ――迷わず還り、お眠りなさい」
 群れ成す鳥は花びらから生れ落ちるように次々と飛び立って、自らを空と称する亡霊の内を潤すように、ファントム・ガンマンの胸の中心を貫いていく。染み出した過去を骸の海へ押し返すが如き羽撃は、屈強な男の身を瓦礫の山へと叩き付けた。

 華やかに澄み渡ったユーベルコードの協奏が、ファントム・ガンマンへの最後の一撃だった。
「……どうだった? わたし達の戦いも、気に入ってもらえればいいんだけどさ」
「貴方にとって、胸弾むひと時となりましたでしょうか」
「もちろんだ……最期の、最後まで……強さを味わえた……亡霊には勿体無い、最高の終わりだよ」
 打ち付けられた瓦礫にそのまま背を預け、ファントム・ガンマンの身がゆっくりと地に落ちる。落ちた身に重なるのは、花世と綾の二人分の影。
「最後ついでに……忠告だ。宇宙(そら)を漂うモノには、気をつけな……俺みたいな亡霊が……憑いているかも、しれない、から……な」
 忠告と言うにはどこか感傷的な声に、実直な声と穏やかな声が応える。これより再び過去となる物語への別れと、ここより続く新たな物語への宣誓の為に。
「亡霊でも本物でも関係ない。また“別の君”が今を脅かしたって、唯、あの海へ帰すだけだよ」
「貴方の物語も、これにてお終いです」
「ああ……お前達の勝利で、終わりだ……めでたしめでたし……さ……」
 最後の力を全て注ぎ込み、強者の面影――笑み――を浮かべたファントム・ガンマンの体がすうっと消えていく。消えながら満たされていく。
 骸の海へと消え往く亡霊の物語の最後を、肩を並べた花世と綾が看取っていた。



 かくして、一つの宇宙船が守られた。
 まるで亡霊のように漂う幽かな過去の残滓を繋ぎ合わせながら、猟兵達が掴み取った勝利にて。
 銀河帝国の道具と化した漂流船は爆ぜて消え、人質だった者は仲間達と無事を喜び合う。死の未来から救われた宇宙船の要人達は、これからも母船を導いていく事だろう。

 星煌く宙。猟兵達が守った船は、羅針盤を失う事無く再び明日へと漕ぎ出していく。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年02月12日


挿絵イラスト