7
白狐城戦記

#サムライエンパイア

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#サムライエンパイア


0





 春になれば皆で桜を見にゆこうと父上は笑った。
 あれは冬に入った最初の日のことだったと思う。紗奈が「父上のお目当ては桜ではなく、お酒と御馳走でしょう」とからかうと、父上はますます目を細めて笑ってごまかすのだった。
 その時の笑顔と、いま父上が浮かべている笑顔は、全く同じだった。
 生きたままその身を焼かれようとしているのに、紗奈を心配させまいと気丈に振る舞っているのだ。
 紗奈もそれに応えようとした。けれど、出来なかった。涙は堪えられず、泣き声を止められなかった。愛する家族が、守るべき家臣が、むごたらしく処刑される光景を前にして、どうして笑っていられるだろうか。
 美しかった白狐城は毒蟲に穢し尽くされ、永の歴史を刻む城内は凄惨な死の匂いで塗りつぶされた。
 炭と化すまで焼き尽くされた百の磔台の前で、一人残された紗奈は絶望のあまり、自らの喉を短刀で突いて命を散らした。
 白狐城を攻め滅ぼした大妖狸は、その光景を前にして、盃を片手に耳障りな笑い声を上げ続けていた。

「でも、こんな最悪の結末は回避できる。うまく行けば、誰一人として命を落とさずに済むかも知れないの。だからみんな、急いでサムライエンパイアに向かってくれる?」
 グリモア猟兵の一色・錦は、グリモアベースに集った猟兵たちにそう告げると、予知で得られた情報を再度確認するように、手中に浮かべたグリモアに意識を集中させた。
「ある小国に『白狐城』というお城があるわ。ここは国を治める城主の居城なのだけど、いまはオブリビオンの大妖狸によって占領されてしまっているの。逃げ延びた者は、たった一人だけ。城主の一人娘である紗奈ちゃんというお姫さまだけが、周りの人の助けを得てどうにか安全な場所まで逃げられたみたい」
 それならば、猟兵の仕事は白狐城を襲撃して城を奪還するだけでいい。だが、話はそう単純ではないと錦は言う。
 予知では、この紗奈という姫が大妖狸に囚われている姿が見えた。
 白狐城から逃れた紗奈を捕縛するために、追手が差し向けられているのだ。まずは彼女の身を護らなければ、白狐城の大妖狸を倒したところで身の安全の保証は得られない。
「予知では紗奈ちゃんの他に、町で雇ったらしい用心棒の姿が見えたわ。紗奈ちゃんは武門の娘さんだから、このまま逃げ続けるつもりはないみたい。用心棒を雇ってお城の奪還を考えているのかも」
 いかに武家の娘とはいえ、少数の用心棒を連れただけではオブリビオンの軍勢に立ち向かえるはずもない。錦が最初に伝えた最悪の結末は、紗奈が仇討ちに失敗した際の光景というわけだ。
「でも、この用心棒が猟兵だったとしたら、話は別よね?」
 錦はそこで、初めて笑みを見せた。紗奈が町で雇った用心棒として彼女に同行すれば、囚われている者たちを救出することも、大妖狸を討ち果たすことも夢ではない。
「紗奈ちゃんを捕縛しようとしているのは、大妖狸に与する浪人やゴロツキ連中ね。追手の人数まではわからないわ。大妖狸が倒されるまで、彼女は四六時中狙われると考えていいでしょう。深夜に宿場で休憩を挟んでも、町から白狐城まで大体丸一日ってところかしら。どこかに匿うより、彼女を護衛しながら白狐城まで向かったほうが、安全だと思うわ」
 追手の浪人たちは、強い者にへつらっているだけの連中だ。命を賭けてまで仕事をするとは思えない。少し痛い目にあわせてから役人にでも突き出せばいい、と錦は付け加える。
 猟兵のひとりが、城を攻め落とした大妖狸のオブリビオンについて尋ねた。一帯を支配するつもりならば、すぐにでも城主以下家臣団を処刑すればいいのに、なぜ占領から処刑までに間を置いているのか、と。
 錦は腕を組んで、これはあたしの推測なんだけど、と前置きをしてから答えた。
「この大妖狸はかつて、妖狐との覇権争いに破れた妖狸軍の棟梁だったみたい。だから、妖狐に対して並々ならぬ恨みがあるみたいね。一族が滅亡する様を妖狐の紗奈ちゃんに見せつけて、憂さ晴らしをしようとしているんじゃないかしら」
 なんにせよ、その陰湿な思惑があたしたちにとって最大のチャンスになったワケ、と錦は笑った。
「さあ、みんな準備はいい? 逆襲のはじまりよ!」


扇谷きいち
 こんにちは、扇谷きいちです。

●補足1
 紗奈に雇われたあとからのスタートとなります。
 彼女を探したり、信頼を得るための行動は必要ありません。
 宿場町から白狐城までの旅の間、約二十四時間を護衛して下さい。

●補足2
 冒険章における「POW」「SPD」「WIZ」の行動は一例です。
 思いついたことは何でも試してみて頂いて構いません。

●補足3
 護衛対象は「紗奈(さな)」
 十六歳の妖狐の少女。帯刀していますが、戦力にはなりません。
 彼女が死亡した場合、もしくは拉致された場合は依頼失敗となります。

●補足4
 第一章の開始時刻は昼。
 天候は晴れ。
 時刻と天候による有利・不利は存在しません。

 以上、皆様の健闘をお祈りしております。
 よろしくお願いいたします。
191




第1章 冒険 『護衛依頼』

POW   :    体力の続く限り、寝ずの番でぴったり側で護衛する

SPD   :    鳴子等を作成し、襲撃者を早期に発見する

WIZ   :    襲撃者の行動を予測し、護衛対象に移動してもらうよう説得する

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

一駒・丈一
俺も元はオブリビオンにより故郷を滅ぼされた身だ。
紗奈の境遇には、個人的にも思う所がある。協力しよう。

SPD重視。
俺みたいな中年がお姫さまの側に居ると、かえって気が休まらんだろうし…
俺は斥候として駆け回ろう。

白狐城までの道中を先行し、味方一団が通るであろうルートに待ち伏せ等が無いかを確認。
また、途中の休憩ポイント候補となり得る集落や宿場に前入りし、
情報収集やコミュ力等の技能で、周囲に怪しい浪人やゴロツキ連中が居ないかを聞き込んでおこう。

これらの斥候行為で得た情報を、味方一団に戻って知らせ、
迂回ルートを選出するのに役立てて貰おう。

見つけた敵の対処は慎重を期す為に単独では行わない。

先ずはこんな所か。


久礼・紫草
苦汁を飲んでの逃避行はさぞや御悔しかろう
姫君が仇を打ち大切な方々を取り戻す助力は是非に

紗奈姫が動きにくい恰好なら町娘の着物を用意

コミュ力使用
ならずがいそうな酒場中心に「姫君追手の依頼」を探す
受けた者を懲らしめ可能なら成敗
多勢に無勢なら奴らの相談を余さず耳に入れ仲間へ共有

町中で諍いを起せば巻き込まれる者もでる
それは姫君の本意ではなかろう
遠回りにならぬなら戦いやすい外れの道を提案

寝ずの番は交代を提案
「護衛の者は複数おる。無茶をするといざという時に動けぬぞ」

身代わりを立てる他仲間の策は柔軟に協力

最優先は戦闘時に姫君を「かばう」
姫君連れて逃げるなら「時間稼ぎ」の戦いは任せておくのじゃ

※絡みアドリブ歓迎




 白狐城へと続く街道は、梅花の盛りだった。春の気配はまだ遠いものの、岐路ごとに建つ茶屋はどこも団子片手に小休止と洒落込む旅人たちの姿で賑わっている。
 そんな長閑な風景を横目に、男が二人、神妙な面持ちで馬を走らせていた。
 一駒・丈一と、久礼・紫草である。斥候として道中先番を担った二人は宿場町の駅で馬を借りて、紗奈姫一行に先んじて行動をしていた。
「領主の城が陥落しているっていうのに、皆のんきなものだな。いや、噂が広まるよりも先に俺たちが動けた、と考えるべきか」
「そうと考えるべきじゃろう。だが、人の口に戸は立てられぬもの。明日の今ごろは、この国も上へ下への大騒ぎになっておろうな……遁逃の姫君の無念たるや如何ばかりのものか、想像もつかんのう」
 街道沿いの平穏な光景から目をそらした紫草が嘆息すると、隣を走る丈一は黒髪を無造作に掻きながら表情に愁いの影をかすかに浮かばせた。
「……無念、なんて一言じゃ言い尽くせないだろうよ、きっと」

 程なくして丈一と紫草は次の宿場町へと差し掛かった。まだ日は高く、ここで逗留する予定はないが、道中で捨て置けぬ噂を耳にした二人は馬を駅に預けて調査に取り掛かる。
「なるほど、この宿場で『帯刀した妖狐の娘を見なかったか、ゴロツキどもが聞きまわっていた』という旅人の話は本当だったようだな。紫草、どうやら当たりのようだぞ」
 宿場町を歩くこと四半刻ほど。目抜き通りで道行く妖狐の女性の人相を片端から改めている無頼の連中を見かけた丈一は、物陰に隠れながら男たちの様子を伺う。紫草も小間物屋の店先を覗くフリをして、それに倣った。
「絵に描いたような悪党面じゃな。あれでは亀も一里先で勘付いて逃げ出すであろうに。おう、諦めて引っ込みおった。後を追おう。彼奴らに姫君追手の依頼を出している輩が見つかるやもしれん」
「ああ、ここまで来て引き下がるわけにもいかない。お姫さまの護衛は若いのに任せて、中年と老年はむさ苦しい男連中のお相手に専念するか」
「ぬかせ」
 軽口を挟みながら、親子ほど歳の離れた猟兵たちは無頼漢どものあとを尾けていく。賑やかな大通りから幾らか奥に入れば、そこはドブ板も抜け落ちているような貧民窟だ。
 迷路じみた埃っぽい小路を進み、辿り着いた先は看板も暖簾も掲げていない酒処。丈一と紫草は顔を見合わせたが、退くという選択肢は互いに無い。堂々と戸を潜る。
 店内にたむろしている客と店主の視線が一斉に二人へ向けられたが、丈一も紫草も修羅場慣れした歴戦の兵である。動じることなく、尾行をしていた無頼漢のついた席にどっかりと腰を下ろした。
「儂は紫草、こっちのは丈一。見ての通り浮雲の身の上じゃ。割の良い話があると聞き及んで訪ねたのだが、相違ないか? 不躾ながら一枚噛ませて貰いに来た」
「腕は保証する。報酬は無論、そっちの言い値で構わない。目先の金よりもまず、ここいらで名前と顔を売りたくてね。どうだ、物は試しに俺達を使ってみないか」
 訝しむ無頼漢どもが口をはさむ間もなく、二人は一方的に話を進める。こういう連中には受け身になるよりも、主導権を握ったまま突き進むほうがいいことを二人は知っていた。コミュニケーション能力とは、その場その場に合わせて柔軟に対処することに他ならない。
 最初は警戒していた無頼漢どもだったが、二人の鋭い眼光と只者ならぬ雰囲気、それに気前よく奢られた酒肴にすっかり呑まれて、半刻も経たない内に気を許した様子だった。仕舞いには、「先生方がいれば百人力だ! 俺たちで天下を獲りましょう!」などとヨイショされる始末である。
 二人は無頼漢どもに案内されて、この宿場町の裏の顔役を務めている親分の元へ案内された。どうやら一帯で紗奈姫捕縛の命令をバラ撒いているのは、この親分らしい。そうと判明すれば、あとはすべきことは一つだけだ。
 丈一と紫草はホロ酔い加減の無頼漢どもと親分を、あっと言う間に叩きのめして縄で縛り上げる。
「町中で騒動を起こさずに済んだのは僥倖。一悶着あれば姫君に要らぬ心労を重ねてしまうところじゃった。此奴らは役人にでも突き出して、儂らは報告のために本隊を待つとするかのう」
「そうしよう。……全く、とんだ捕り物に付き合わされた。俺は偵察程度にとどめておくつもりだったんだがな」
「愚痴るな愚痴るな、若人よ」
 元より脛に傷を持つ身の無頼漢と親分一門は、あえなく牢に入れられてお白州に引きずり出されるのを待つ身となった。紗奈姫捕縛の指令はまだ生きているが、新たにその命を受ける者はいなくなるだろう。これは大きな収穫だった。
 しばらくして宿場町に到着した本隊に事のあらましを報告した丈一と紫草は、休息を取ることなく次の宿場を目指して馬を走らせるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

天御鏡・百々
大妖狸……狸の妖怪か
覇権争いで戦った妖狐は紗奈殿とは関係ないであろうに
一族が滅亡する様を見せようというのも陰湿だな
しかし、未だ処刑が行われていないのは僥倖
我ら猟兵の力にて、救うことができるのだからな

オブリビオンに与した浪人やゴロツキには少々灸を据えてやらねばな
いくら強いといえ、妖怪変化の配下になるなど言語道断だ

合わせ鏡の人形部隊のユーベルコードで呼び出した鏡像兵で
周囲を固めて護衛としようか
防御力は無いが、数は多い
オブリビオンでない追手相手ならば十分役に立つだろう

我は姫に随伴する
もしも追手が姫に迫れば
神通力による障壁(オーラ防御15)で姫の身を護ろう

●神鏡のヤドリガミ
●アドリブ、絡み歓迎


鞍馬・景正
孝子の助太刀、それこそ武士の本懐と言えるでしょう。
我が剣を如何様にもお使い頂きたく。

◆行動
いつ刺客が姿を見せるか分からぬ以上、常にその傍らに伺候致しましょう。
紗奈嬢の前面に立ち、不審な輩が近付いて来ないか警戒を。

襲い掛かって来る者は当身か柄打ちで排除。
もし死角から不意打ちされる事があれば我が身を盾に【かばう】事も厭わず。

また道中、紗奈嬢の様子はそれとなく注意し、疲れが見えるようなら適宜休息を促しましょう。
仇討ちに臨まれるなら、体力と気魄の充実も肝要かと。

仮眠など取られるなら、その間も側に控え常に動けるよう。
弓を手挟んでおき、襲撃を目論む者を見つければ射抜く構えで牽制しておきしょう。




 陽が徐々に西の空を下り始めた頃、猟兵たちと紗奈は街道でも難所と呼ばれる場所に差し掛かっていた。山間に通された道は曲がりくねっており、生い茂る木々と相まってひどく見通しが悪い。悪天候によって多発する事故が難所の所以だが、他にも、追い剥ぎや強盗が度々出没することで旅人たちの間では知られていた。
「ご心配なされませぬよう、紗奈様。先程仲間から受けた報告通り、私たちは追手に遅れを取ったりは致しません。御身の仇討ちは必ずや果たされることでしょう」
 鞍馬・景正は優しい口調で声をかけながら、半歩後ろを歩く紗奈に視線を向けた。
 妖狐の姫・紗奈は、景正の丁寧な振る舞いと力強い言葉を受けて、緊張にこわばっていた表情をかすかに緩めると、「ありがとうございます鞍馬様。助太刀痛み入ります」と一礼した。
 互いに武の真髄の何たるかを求める者同士、人間としても剣士としても先輩にあたる景正に、紗奈は惜しみない敬意をもって接していた。
 城が襲撃された際に応戦しようとしたのだろう。具足姿の紗奈は、凛々しい顔立ちと相まって姫というよりも女武者といった様相だ。一見すれば周りの猟兵たちとそう変わらないようにも見える。
「大狸の妖怪か……妖狐に恨みを持つ者だとしても、紗奈殿やご領主に非があるわけでもあるまいに。斯様な所業、断じて見捨てておけぬ。我も囚われの者を助けるために、尽力しよう」
「かたじけのうございます、天御鏡様。私よりもずっとお若いのに、なんと頼もしい。それに、この子たちも」
 傍らを同道する天御鏡・百々の隙のない立ち居振る舞いに、紗奈は感服しきりの様子だった。百々が護衛のために召喚した鏡像の兵士たちを目にした当初は驚きを隠せない様子の紗奈だったが、元より呪術も法力も当たり前の世界、このような術もあるのかと驚嘆し、道中、百々に神仏精霊の御業について熱心に教えを乞うこともしばしばだった。
 紗奈の周囲を直接守る猟兵たちは、いまは景正と百々だけだ。
 大所帯で一人を囲んでいては悪目立ちがするし、その様子を見た民草にあらぬ噂を立てられかねない。猟兵個々人の疲労も考慮して、輪番で護衛につこう、と話がついたのは自然な成り行きだった。
「この森もあと半分ほどでしょうか。いい頃合いです、そこの切り株にでも腰を下ろして、しばし休憩を取りませんか、紗奈姫」
「いえ、鞍馬様。いまは寸暇も惜しゅうございます。足の動く限りは先へと進みましょう」
「その意気や良し……と褒めたいところではあるが、紗奈殿。このような時ほど休息は必要だ。足が動かなくなった時に火急の事態に陥ったとしたら、どうにもなるまい。今は景正殿の言う通り、休息をとるべきだろう」
 景正と百々の勧めに、紗奈は少しばかり逡巡をしたが、すぐに頷きを返した。切り株に手拭を敷いてやりながら、景正は「気が急いてしまうのは承知しております。ですが、仇討ちに臨まれるなら、体力と気魄の充実も肝要かと」と声をかける。
 街道脇の切り株に腰掛けて休息をとる紗奈。彼女の傍らに立ち、道行く人々に景正と百々はさりげなく警戒の視線を向け続ける。
 三人の眼の前を、馬に荷を乗せた旅商人らしき夫婦が通り過ぎた。
 次の瞬間。
 景正は鞘ごと刀を手にすると、振り向きざまに吹き矢を構えた旅商人の男へ一息で距離を詰めた。瞬きする間もない。男が筒に息を吹く間も与えず、景正は刀の柄頭でもって男のみぞおちを強かに突く。
 崩れ落ちる男を一顧だにせず、鯉口を切りながら振り返る景正。その目には、今まさに百々の操る鏡像兵に取り押さえられている旅商人の女の姿があった。
「小兵と見て侮ったのが運の尽きだ。我らを出し抜けると思うたか?」
 短刀を片手に必死に抵抗を試みる女を見下ろしながら、百々は笑うでもなく怒るでもなく、かぶりを振る。いかに風体を善男善女のそれに真似ようと、妖怪変化に与する輩の陰湿な気に勘付かぬ百々ではない。
 それは、目に見えぬ場所からの死角からでも同じことだ。
「小賢しい」
 旅商人を装った襲撃者は、陽動だ。深き森林の陰から、紗奈を狙った矢が撃ち放たれる。
 それすらも、鏡に映した姿を捉えていたとでも言うように、百々は見通していた。すかさず神通力を発して障壁を生み出すと、百々は飛来してきた矢を立ちどころに叩き落としてみせる。
「あとはお任せを」
 姿見えぬ襲撃者の攻撃とほぼ同時に、景正は動いていた。遠くからの襲撃も予想していた若武者は紗奈姫をかばうように前に立ち、備えていた弓に手早く矢をつがえて深緑の海へと射掛けた。
 残心のまま、まばたき二回分の時が流れる。風に揺れる木々のざわめきに混ざって、弓使いの倒れる音が猟兵二人の耳に届いた。
 続く襲撃は訪れない。景正と百々は深く息をついて、構えていた武器を下ろしていく。
「お二人は命の恩人です。なんとお礼を申したらいいのか。本当に……お強いのですね、天下自在符を携えたもののふの方々は」
 座った切り株から立ち上がることもできず、刀の柄に手をかけるだけで精一杯の紗奈が、目を見開きながら景正と百々の早業に驚嘆する。
 そんな紗奈に、景正は旅商人を装った男女を縛り上げながら首を振った。
「国を、父母を思う、紗奈姫の御姿が私にそうさせたのです。孝子の助太刀こそが、武士の本懐なれば」
「そういうことだ。陰険な古狸の企てなど、決して許したりはしない。万事我々に任せるがいい、紗奈殿」
 矢を受けて苦悶する弓使いを木陰から引きずり出してきながら、百々が請け負った。
 そんな二人の勇姿に目を輝かせながら、紗奈は深々と頭下げるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

神埜・常盤
お姫様の気丈さ、大変好もしいなァ
僕も良ければ力に成ろう
みんな頼もしいからねェ、紗奈く…
姫はきっと無事に送り届けるよ

目立たないよう動く方が得意なので
姫から離れぬ距離感で草陰や木々の間を行き
此方をつけている相手が居ないか随時確認し
不意打ち得意とする輩からの襲撃防ごうか
姫を狙う浪人見つけ次第
暗殺の術を活かし敵の背後を取ろう

荒事には七星七縛符と催眠術で対処
命が惜しいなら彼女から手を引き給え
次は自由を封じるだけでは済まないよ
刻印仕込んだ禍の舌を覗かせ恫喝を

夜中は式神に祈り捧げて
寝ずの番をさせておこうか
まァ、術者なしで出来る事など
襲撃を知らせる程度だろうから
僕もすぐ行動する為に深く眠らぬよう気をつけよう


ラティファ・サイード
紗奈様
どうぞわたくしを傍に置いてくださいまし
うふふ、女性のほうが御身の近くに在るのに都合がよろしいでしょう?
衣装も紗奈様に合わせた侍女よろしく
サムライエンパイアのものを用い四六時中お側に侍ります
勿論、動くに支障がないような着こなしで

周囲の様子を窺っている猟兵から情報を随時受け
涼しい顔して十分注意を払いながら
紗奈様の警護にあたりましょう
わたくし、寝ずとも肌に響かぬ体質ですの
少しでもおやすみくださいまし
紗奈様に何かあれば元も子もございませんわと
休む時はきちんと休むよう進言

万一刺客が接近するならかぎろいで斬り伏せ
紗奈様には指一本触れさせません

仇討ち、よろしゅうございますわ
紗奈様の願いを叶えましょう




 陽はとっくに山の向こうへと沈み、星々を従えた月が我が物顔で夜のきざはしを登っていく。
 一歩でも街道から逸れれば月光のほかに頼れる灯りもない宵闇のなか、早足で宿場へと向かう旅人たちに混じり、猟兵たちも逗留予定の宿場へと急いでいく。
「ここより先は、いつ如何なるときも襲撃を受けてもおかしくない夜闇のなか……わたくしどもには、些か分の悪い刻限ですわね」
「そうかもしれないねェ。目立つのは得意じゃないが、かと言って闇のなかで受け身で居続けるのも辛いもんだ。こんな時刻だからこそ、僕らは打って出るべきなのかもしれないな」
 紗奈から幾らか離れたところで言葉を交わし合っているのは、ラティファ・サイードと神埜・常盤のふたりだ。
 紗奈捕縛のために動いていた浪人や野盗崩れどもの間にも、紗奈の周りを腕利きの用心棒が固めているという噂が広まりつつあるようだ。有象無象のゴロツキはとんと見かけなくなり、それなりの修羅場を潜ってきたと思しき連中だけが一行の前に姿を現すようになっていた。
「少々、後ろが気がかりだ。尾けられている気がしてねェ。念のために見てくるよ。そのあいだ、姫のことをよろしく頼む、ラティファ君」
「ええ、どうぞお気をつけて。紗奈様の側に居るのがわたくしのような女であれば、襲撃者も幾らか油断してくれることでしょう」
 二人のやりとりを側で聞いていた紗奈は、「何から何まで頼りっぱなしで申し訳ございません、神埜様、サイード様。私も力になれたらどれだけ良かったことか」と長い狐耳を伏せて詫びる。
 そんな紗奈に励ましの言葉をかけてから、二人はそれぞれの任に分かれた。
 常盤は紗奈の下から離れると、街道脇の雑木林へと身を隠した。紗奈姫一行を見失わない程度に距離を保ちつつ、後ろからくる旅人のなかに不審な動きを見せる連中がいないかどうか、観察していく。
 ――自分が一番つらいだろうに、僕らのことを気遣ってくれるだなんて、気丈な子だねェ。出来うる限り力になってやろうじゃないか。
 相手の顔もまともに見えない闇のなか、胸中で決意を新たにした常盤の目に、一人の浪人の姿が目に留まった。
 旅装束でもなければ、近場で暮らしている風でもない。なにより、尋常ならざる剣呑な目つきは人斬りのそれである。
 徐々に歩速を早めて紗奈一行に近づいていく浪人の背中に、木立から街道に戻った常盤が音もなく付いた。
「動くな」
 その一言だけで良かった。常盤の用いる催眠術に捕らわれて……いや、その凍てついた刃のような言葉に貫かれただけで、浪人は息を呑んで歩を止める。
 それでも抗おうとする気力だけは残っていたらしい。刀の柄に手をかけた浪人は身を捻るなり常盤へ斬りかからんとする。その腕を常盤は素早く手刀で殴りつけて動きを制し、呪縛の符を用いて完全に浪人の行動の自由を奪ってみせた。
「ちょっと声を掛けただけだっていうのに、物騒だなァ。まあ、一応聞いておくが、お前は何者だ? 誰かを拐かそうと企んでいたんじゃないか?」
 人目につかぬよう、素早く街道脇の物陰に浪人を引きずり込んだ常盤は、男の素性を詰問する。案の定、この浪人は紗奈の捕縛に応じたならず者だった。
 それ以上のことは、特に目新しい情報も持っていない様子だった。常盤は浪人を縛り上げると、お灸を据える意味も兼ねて、冬空の下に放り出したまま紗奈の下へと駆けていった。
 常盤が浪人を退治していたそのころ、紗奈の身辺警護をしていたラティファの眼前にも追手の影が現れていた。
 今宵泊まる予定の宿場町にほど近い、川を跨ぐうら寂しい大橋にて、三人の浪人がラティファと紗奈の前に立ち塞がったのだ。
 若き女武者に従う侍女といった和装姿で提灯を提げていたラティファは、口元を袖で覆いながら怯えたような視線を浪人どもにくれてやる。
「道を尋ねたい……というわけではないのでしょうね。見ての通りか弱い女だけの旅でございます。お金なら差し上げますから、どうか命ばかりはお見逃し下さいませ」
「ならぬ。懐の物も頂くが、そこの妖狐の娘も頂く。顔を見られた以上、お前は斬らねばならんな」
「ああ、なんというご無体な」
 ただの物取りであれば適当にあしらうつもりだったラティファだが、問答無用で刀を抜いた浪人どもに、潤んでいた黄金の瞳に鋭い光が差す。怯える紗奈をかばってラティファが前に出ると同時に、浪人の先鋒が吠えながら切りかかってきた。
「次からは、その身が裂かれることと心得なさいませ」
 浪人の刃がラティファに届くことはなかった。見れば彼女の手は龍爪に変じており、腕の一振りだけで浪人の凶刃を打ち砕いてみせたのだ。
 なにを小癪な、と彼我の実力差もわからない残りの浪人どもが一斉にラティファに襲いかかってくる。双方が提げていた提灯が橋板に落ち、辺りは闇に包まれた。
 月が照らす幽かな光のなかで白刃が数度閃き、一拍遅れて男どもの悲鳴が川のせせらぎに混じった。白く澄んだ冬の夜風に血の臭いを残し、耳煩わしく遠ざかる足音が三つ。拾い上げられた提灯に再び火が灯されたころには、橋の上にはラティファと紗奈の姿だけが残されていた。
「間に合わなくて申し訳ない、怪我はなかったかい」
「ええ、ご覧の通り。少々手を汚すこととなりましたが、紗奈様もご無事ですわ」
 橋の上へと常盤が駆け足でやってくる。闇のなかで何が起きたのかわからず目を白黒させている紗奈の肩に、ラティファがそっと手を添えた。無論、"汚れていないほう"の手である。
「お見苦しいものをその目に映さずに済んだのは幸いでしたわ。さあ、先へと急ぎましょう。旅は思う以上に心身を疲弊させるもの。今日はゆるりと身を休め、悲願成就は明日へと託しましょう」
「は、はい……休息を取るべしという進言には従います。ですが、いったい何が起きていたというのです? 神埜様も、サイード様も、私のために危険な務めを果たしてくださったことはわかるのですが、私には何が起きたのかさっぱりで……」
 橋板を濡らす赤黒いシミを踏まぬよう、さりげなく紗奈の歩む先を誘導してやりながら、彼女の質問に対して常盤は微笑を湛えた顔をゆるく振った。
「お気になさらず。ちょっとした野暮用ってヤツが、大人にはあるものなんだ」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

花剣・耀子
終わりを変えられるなら、否やはないわね。
恨み辛みを抱くのは勝手だけれど、それが通ると思わないことよ。

あたしは御身お側の護衛に付きましょう。
さいわい、性別もお歳も近いことだもの。
近くには居やすいのではないかしら。

進めば必ず城に着く。
だからそれまで、紗奈姫が休める時間も大切にしましょう。
張り詰めすぎたら切れてしまうわ。
それでは目的を達成できない。
敵の首を斬るまで、十全に動けるよう努めるのも逆襲の作法よ。

不埒者が来たら斬るから、安心して頂戴。

ねえ、他人の怨念に命を掛ける価値があるほど、報酬を貰っているの?
抵抗しないなら、膝を割るくらいで済ませてあげるわ。
躰のパーツを無くして良いなら、おいでなさい。


ジル・クラレット
襲撃されるとしたら
移動中の拓けた場所か…あとは寝込みね

ねぇ紗奈
私に囮をやらせて頂戴?
狐の耳と尾をつけて似た寝間着を着て、布団を目深に被って
あなたが寝ていると思わせるの
背丈も似ているし、ね?

見張りも何人か置くけど
寝たふりで油断してると思わせるわ
ふふ、こういうの狸寝入りって言うのよね?
奴らにはぴったりね

大丈夫よ、私達は強いわ
それは道中も見てきたでしょう?
私達はすべき事をするだけ
紗奈、あなたのすべき事は何?
ここで死ぬ事じゃないわよね?

耳を澄まして気配探り
襲ってきたお間抜けさんには
布団を払ってシーブズ・ギャンビットでカウンターを食らわすわ

あら、女の寝込みを襲うなら
もっと雰囲気を作ってきてくださらない?




 夜もいよいよ深まるころ、猟兵と紗奈たちは宿場町にある宿へと到着した。
 先番の者や周辺警戒に動く猟兵もおり、宿の周囲一帯には警戒の目が行き届いている。それでも不測の事態が起きないとは言い切れない。猟兵たちは紗奈の身を守るため、彼女の側につきっきりで寝ずの番を置くことにする。
「本当にいいのでしょうか? 私とて武士の端くれ、皆さまの足元にも及ばぬとは言え、いつ如何なる時も戦に臨む心構えは出来ているつもりです。寝ずの番を立ててくださるのであれば、私も皆さまと共に曲者の襲撃に備えるのが道理なのでは――」
 ずっと守られ続けてきたことに、雇い主とはいえ紗奈も心苦しい気持ちがあったのかもしれない。不寝番を名乗り出た花剣・耀子とジル・クラレットの二人に、紗奈も付き合おうと頭に鉢巻を巻いている。
「紗奈姫、心身を休めることも立派な武士の心得よ。紗奈姫の目的は、あくまで大妖狸の首を斬り落としてご両親をお救いすることでしょう? 今から張り詰めすぎていては、明日の朝日が昇るころには心も体も切れてしまうわ」
 種族も生まれも違えど、同い年の同性である耀子の言葉は、紗奈の心にも響くものがあるようだ。言い返そうとして、しかし言い返せない。そんな複雑な表情を浮かべてみせる。
「気遣ってくれてありがとう。でも、安心して。私達はとっても強いんだから。紗奈、あなたのすべきことは寝ずの番に付き合うことじゃない。ましてや、道半ばで命を落とすことでもない。あなたはあなたの本懐を遂げることだけを考えていればいいの。私達の仕事は、それを支えることなんだから」
 続くジルの言葉に、紗奈もとうとう折れたらしい。唇を固く結びながら頷きを返した。
 そうと決まれば、あとは紗奈がしっかりと休息を得られるよう万事滞りなく進めていくだけだ。ジルが「私は寝室と避難経路の確認、それとちょっとした仕込みを行うわ」と役目を負えば、耀子は「それなら、あたしはその間に紗奈姫の身柄をつきっきりで守っている。任せてね」と腰に帯びた刀の柄を指先でなぞった。
 食事の時も、湯浴みのときも、耀子は付きっきりで紗奈の身辺を守り続ける。同い年の女の子と二人きりという状況が、姫という立場の紗奈には珍しく、そして心休まる一時だったのかもしれない。剣の使い手という共通点も相まって、数刻の間のうちに二人は以前からの友人のように打ち解けるまでになっていた。
 そんな二人の少女の様子を微笑ましく見守っていたジルは、頃合いを見て紗奈と耀子にある提案を持ちかけた。どれだけ警戒をしていても、敵襲を完全に防ぐのは不可能だ。二重の防衛策として機能するジルの案に、耀子も紗奈も二つ返事で賛同した。
 そして、草木も眠る丑三つ時。
 紗奈が宿泊する宿のなかを、闇に紛れて歩む者どもがいた。この宿で働く女中と、紗奈たちが入宿する前に忍び込んでいた追手たちである。
 脅されたのか、はたまた金に目がくらんだのか……内通者と化した女中の手引きで、追手たちは紗奈が眠る一室へと侵入を果たす。
 紗奈の寝室には、彼女の他に誰一人としていない。不寝番は隣の部屋に詰めているのだ。
 寝息と共に、掛け布団が緩やかに上下している。冬の寒さを逃れるように頭まで覆った布団から覗くものは、紛れもない白狐の耳。追手どもはほくそ笑み、紗奈を捕縛するために布団を剥ぎ取って荒縄を掛けようとした。
 しかし。
「あら、女の寝込みを襲うなら、もっと雰囲気を作ってきてくださらない?」
 布団のなかに横たわっていたのは、紗奈とは趣を正反対とする妖艶な女だった。
 紗奈の身代わりに化けたその女――ジルは布団から飛び起きるなり、羽織っていた紗奈の寝間着を脱ぎ捨てて、距離を置こうとした追手どもに素早く肉薄していく。
 得物を用いるまでもない。つけ耳とつけ尻尾で妖狐に化けたジルは、狼狽する追手と女中に当身を食らわせて次々と成敗していく。
「其処までよ。あたしはジルちゃんほど寛容じゃない。怪我をする覚悟がなければ、このまま失せなさい」
 慌てふためいた追手の一人が、隣の部屋へとなだれ込む。その先に待ち構えていたのは、注意深く刀に手を掛けた耀子の姿。その後ろには、布団に横たわる本物の紗奈の姿があった。
 言葉にならない言葉を喚きながら、追手は小太刀を矢鱈に振り回しながら耀子へと襲いかかる。その一撃を何なくかわしてみせた耀子は、鞘に収まったままの刀で追手の脚を打ち据えた。
「勝負はここまでね。幾ら貰っているのか知らないけれど、これ以上先は本当に"斬る"から……五体満足でいたければ、大人しくなさい」
 彼女の冷徹な言葉を受けた追手は、得物を床に放り投げて投降の意を示す。ジルが彼らを残さず縛りあげているうちに、耀子が待機していた部屋で寝ていた紗奈が布団から顔をあげた。
「一体……なにごとです……?」
 状況を飲み込めずにいる寝ぼけ眼の紗奈を安心させるように、ジルが声をかける。
「安心して。何も起きなかったわ。旅の疲れのせいで、少し悪い夢を見ていたのでしょう。どうか今はお休みくださいませ」
「ええ、夜明けまではまだ時間がある。今は何も気にせず、このまま眠りのなかへ」
 追手を拘束し終えた耀子も、夢うつつの紗奈に布団をかけ直してやりながら、優しく囁きかける。耀子も、ジルも、姫君からの感謝の言葉が欲しくて務めを果たしているわけではない。ただ人として、並ならぬ心労と悲壮に暮れる少女を守ってやりたい、その一心だった。
 これも夢の一部だと思ったのだろう。落ちるように夢のなかへと戻っていった紗奈の寝顔をしばし見つめていた耀子とジルは、互いの顔を見合わせ、この晩を迎えてから初めて緊張感を和らげた表情を浮かべるのだった。
「部屋を入れ替えて身代わりを立てる案が功を奏して本当に良かったわ。……それにしても、ジル。あなたのソレ、ちょっと似合いすぎじゃない?」
 ジルが頭につけたキツネの耳を指さして耀子が笑みを浮かべると、まさに女狐といった様相のジルは、軽く握った拳を冗談めかして顔の横で前に倒してみせた。
「ああいうの、狸寝入りって言うんでしょう? 狸の手先を化かすのだから、これくらいはしなければね」

 やがて東の空が白んできたころ、まだ薄暗い夜明けのなかを猟兵と紗奈は旅立っていく。ここまでくれば、あとは白狐城まで一息だ。
 旅人たちの姿もほとんど見かけなくなった街道を進み、やがて日が天頂に至るころ。猟兵たちの視界に、その名の通り白く輝く白狐城の姿が見えてきた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『腐怪の蟲』

POW   :    腐敗の瘴気
【腐敗の瘴気 】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    粘着糸
【尻尾から発射する粘着糸 】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    腐敗の溶解液
【口から発射する腐敗の溶解液 】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を腐らせ】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 かつては美しかったであろう白壁の城は、いまは無残に毒蟲の群の放つ粘液と瘴気によって穢されてしまっていた。
 外から見る限り、人影は皆無だ。
 囚われた者たちは火刑に処された、という予知の話を猟兵たちは思い出す。
 猟兵の一人が、城内に広場か庭がないか紗奈に尋ねると、ちょうど城門から城を挟んだ反対側に、広い庭園があるという。
 おそらく紗奈の両親や家臣が集められているのはそこだろう。そして、大妖狸が待ち構える場所も。
 猟兵たちは手に手に得物を携えて、城門の奥へと突入する。
 まだ庭園に身柄を移されていない虜囚や、物陰に隠れている家来衆を救出しながら、猟兵たちは蔓延る毒蟲どもを駆逐していくのだった。
鞍馬・景正
過去の因縁は知らぬ――しかしこれは下衆の極み。

鞍馬景正、真の意味で羅刹と化しましょう。

◆戦闘
迅速にご家中の方も救い出したい所なれど、蟲どもの瘴気、迂闊に近寄っては危うい。

ならば火炙りに遭うのは彼奴らの方とさせて貰おう。

【紅葉賀】にて目に付く端から火矢を射掛けていきましょう。

接近戦を仕掛ける仲間がいれば【援護射撃】も仕る。

炎は城に延焼させず、蟲とその粘液だけ燃やして参る。

姫君の行く手を阻む者は、古歌の通り焼き滅ぼす。

進みながら物影を調べ、声を張り、紗奈姫の帰還を喧伝し一人でも多くの方を助け出していきましょう。

助け出した方々で動ける男衆は女性や子供、老人や怪我人たちを連れて退避を。


天御鏡・百々
これはひどいな
城を占領するに飽きたらず、瘴気と毒で汚し尽くすとは……

此度は救助と治療重視で参ろうか

毒蟲の瘴気については、我の本体である神鏡より放つ「生まれながらの光」に破魔を乗せれば、浄化できぬだろうか?

道中で見つけた虜囚や家来衆を救助しつつ進むとしよう(救助活動2)
怪我の程度によって生まれながらの光か医術5による応急手当かは使い分ける
もちろん猟兵がダメージを受けた場合も治療するぞ

毒蟲は基本仲間に任せるが
なぎなたとオーラ防御15で戦えば、後れはとらぬだろう

●神鏡のヤドリガミ
●アドリブ、絡み歓迎


神埜・常盤
まったく、酷い瘴気だ
余り長居をしたくはないねェ
早く皆を助けて美しい城を取り戻そう

攻撃は主に七星七縛符で
破魔の力を宿した符で蟲どもの動きを封じていこう
腐敗液で身体が軋んでも
激痛耐性で堪えてみせるよ
腐った地形に立つ個体がいれば
暗殺の能力を活かし不意打ち狙いたく

基本的には姫に攻撃が及ばぬよう
彼女の側に陣取って立ち回るとしよう
不意打ちされぬよう蟲達の気配には
確り注意を向けておくよ

但し蟲が纏まって蠢いている所あれば
急いでそちらに駆け付けようか
そこに潜んだ家臣達がいるかも知れないしねェ
1人でも多く助けてあげたいところだ

近くに仲間がいるなら連携も意識
その時は味方が狙った個体から
優先的に攻撃していくよ


一駒・丈一
やれやれ……最高の景色だな。
……皮肉はさておき、斥候役から続け様ではあるが、梅雨払いを手伝うとしよう。
お姫さまには……この光景は、正しく目の毒。早々に掃除を済ませよう。

持ち前のSPDを活かし、
この『介錯刀』(装備)を『早業』を以て振るい、庭園への活路を開く。
集団戦であれば、俺のユーベルコード「罪業罰下」のもっとも活きるところだ。
敵をある程度上手く『おびき寄せ』、その後に業を放つ事を意識すれば、
ある程度纏めて敵の数を減らせるし、お姫さまへ矛先が向くリスクも減るはずだ。

他の仲間との連携も意識しながら立ち回るとしよう。

さて、道を造るぞ。


アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
全く以って、穢らわしい
大妖狸とやらは美的感覚が皆無と見える
蟲共に穢される等御免蒙る――早々に片付けるぞ

描いた魔方陣から【女王の臣僕】たる蝶を召喚
地を這い蠢く様子すら吐き気を催すが故
鱗粉による範囲攻撃で複数の蟲をマヒさせ、行動の制限を試みる
溶解液により腐敗した地形を凍らせる事が可能であれば即座に凍結
彼奴等に戦力向上の機会を与えてなるものか
従者への瘴気を極力軽減する為に蝶を盾とし威力を削げたならば御の字
逃げ遅れた人々の救出も忘れぬ
蝶を壁にして蟲を牽制、安全な場所への避難を促す
姫にも怪我のなきようお守りせねばなるまいて
――どうか、我々の傍から離れぬよう

…はてさて、ジジは息災か?


ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と共に
菜園を荒らす連中に良く似た形だな
何処に沸こうが性質は同じらしい
承知した、疾く参ろう

娘――姫が両親を近くにして前に出すぎぬ様守りながら
……さぞや狂おしい思いであろうな

捕らわれた者がいれば
姫の無事を知らせ
戒めを斬る・壊す等して猟兵達の後方へ
危険な状況であれば急ぎ間に入り、逃がす

害虫どもが、鬱陶しい
纏めて【まつろわぬ黒】にて多くを狙う
師の業と重ねることで早期に数を減らす様
可能な限り、後ろにも通しはせぬ

腐った地が師の氷で無効化できぬなら
剣で、または手足で弾き飛ばしてくれよう
此処は貴様等の城ではない

この先か
急ぐぞ、師父


花剣・耀子
紗奈姫はどうか、ご安全にね。
きみが怪我をしたらあたしは悲しい。
囚われている皆は、あたしたちが必ず助け出す。

だから、まずはその為に。
行く手を阻むものを全て斬り払うとしましょう。

【プログラムド・ジェノサイド】を起動するわ。
数が多いのなら手数で圧殺しましょう。
避けられたら再度繋ぎ直すか、
避けた方向に誰かが居れば任せるわね。

ヒトを見かけたら保護を。
あたしたちが来た方向が、安全な場所よ。
振り返らずに走って。
付き添えないけれど背中は守ってあげる。

盾役なんて柄でもないのだけれど。
首が付いている内は動けるから、安心して頂戴。

――ああ、忌々しい。
湧いて出て蔓延る蟲は嫌いなの。
ひとつ残らず斬り果たすわ。鏖殺よ。


ラティファ・サイード
毒の蟲、故郷の砂漠でもよく駆除したものですわ
懐かしゅうございます
ですから、ええ。あくまで嫣然と微笑んだまま参ります
白く輝く白狐城にはあまりに無粋で不釣り合いですもの
屑籠に捨ててしまいましょう

毒蟲はどの手管も厄介ですけれど
数が多いですものね
虜囚や家来衆を救出する隙を生むためにも
かぎろいで派手に屠りつつも注意を惹きましょう
うふふ、わたくしと踊ってくださる?

他の猟兵と標的を合わせ着実に各個撃破致します
ある程度毒を浴びせられてもやむを得ません
涼しい顔して突き進みましょう

万一にも紗奈様が大妖狸の手に落ちぬよう
害為すものは最優先で叩きます
花に蝶が惹かれるのは自然の摂理
…ですが
醜い毒蛾はご遠慮くださいまし




 見るも無残に様変わりした白狐城のなかを、猟兵たちは突き進む。
 丁寧に敷き詰められた石畳は毒蟲の垂れ流した汚物と毒液にまみれ、新雪よりもなお清らかだった白壁は瘴気によって灰紫色に爛れている。目につく物全てに掛けられた粘糸は耐え難い悪臭を放ち、よく手入れの行き届いた植え込みはことごとく枯れ果てていた。
「やれやれ……最高の景色だな」
 つい口から漏れた皮肉に、一駒・丈一は小さく鼻を鳴らした。辱めの限りを尽くされた城の有様を目にすれば、かつて己がその目に映した忌まわしき光景を否応なく思い出してしまう。それは彼にとって、決して好ましいものではなかった。
「……露払いは任せろ。お姫さまには、この光景をあまり見せたくない。守ってやってくれ」
 丈一は共に駆ける猟兵たちにそう告げると、刀を抜いた。彼が見据える先には、猟兵たちの襲撃に気がついて醜く肥え太った体を蠢かせる毒蟲の姿。
 先駆けて脅威を払うことこそが己が務めというように、丈一は押し迫る毒蟲の巨体も恐れず、真正面から刃を揮った。
 一刀のもとに斬り伏せられた毒蟲は、声なき悲鳴をあげて激しく悶絶する。反撃をさせる間もなく最初の一頭を始末した丈一に立ち並び、ラティファ・サイードが艷やかな微笑をたたえたまま後続の毒蟲に相対する。
「おっしゃる通りですわ。このような無粋な光景、とてもお見せするわけには参りませんもの……ですから、彼らは屑籠にまとめて捨ててしまいましょう」
 ますます笑みを深めてみせれば、ラティファの優美な指先が猛々しい龍の鉤爪へと変容していく。彼女がひとたび龍爪を振るえば、その腕の届く範囲に残されるものは絶対的な死、唯それのみ。
 まるで軽快な舞踏を繰り広げるかのように、ラティファは迫りくる毒蟲たちを一匹、また一匹と、葬り去っていく。龍爪が血肉に濡れるたび、嫌な臭いが鼻をつくたび、彼女の思考に昔見た情景が重なった。遥か故郷の砂漠でも、このような戦をよく繰り広げていたものだった、と。
 文字通り塵屑と化した毒蟲を通路脇に押し退けて、後ろに続く猟兵や紗奈の歩みの邪魔にならないようにしていく先陣たち。
 そのあいだにも、異変を察知したと思しき毒蟲たちが、城壁の上から、茂みの影から、ぞろぞろと這い出してくる。それらの姿を逸早く察知した神埜・常盤が毒蟲どもの抑えに回る。
「一匹たりともここは通さない。止まるがいい」
 一斉に放たれた毒蟲の粘糸は、常盤がかざした破魔の加護を帯びた護符によって次々と軌道がそれていく。紗奈に悲惨な光景がなるべく目に入らぬよう、彼は毒蟲の攻撃を避ける手間も惜しんで、彼女のことを背にかばい続ける。
「神埜様……!」
「少しだけ、我慢してくれるかい、姫」
 常盤の背にすがった紗奈が、激しく咳き込んでいる。毒蟲が残した瘴気の影響だろう。
 ――まったく、酷い話だ。僕らはともかく、姫や囚われの者には息をするだけで酷い苦痛だろう。
 護符の代わりに懐から取り出した霊符を、常盤は視界に捕らえた毒蟲たちに次々と放っていく。それは再度瘴気を放とうと腹を膨らませていた毒蟲どもの動きを封じ込め、攻撃の機会を奪い取っていく。すでに漂っている瘴気こそ晴らすことはできないが、その濃度は冬風に散らされて下がりこそすれ、濃くなることはない。
 毒蟲どもはおぞましい躰をのたうち回らせて呪縛から逃れようとするが、その無防備な背に次々と火を纏った矢が降り注ぐ。
 鞍馬・景正である。彼は常人ならば弦を引くことも叶わない剛弓を軽々と片手で支え、次の標的を狙わんと矢を弦につがえていく。
「もはや、温情など無用。駆け、そして討ちましょう」
 このような下衆の極みの所業を目にして、黙っているつもりは景正にはなかった。紗奈や仲間たちと言葉を交わしているときに見せる、篤実な人柄を湛えた面相はいまやすっかり影を潜めている。
 景正が体現するものは、外道に対する情けを捨てた真の羅刹である。
 紅葉に燃ゆる山林が如く、退魔の炎で赤々と焼かれる骸のかたわらを抜けた景正は、己の行く先に現れる人外の者を尽く天の炎で焼き払っていく。辺りの空気をも焦がす炎は、しかし、毒蟲と毒蟲が生み出した惨禍の他には決して赤い舌を伸ばさない。
 侵入者の進行を妨げるべく迷路状に築かれた二の丸の曲輪を、猟兵たちは紗奈の案内を受けて迷うことなく突き進んでいった。防衛のために備えられた設備も、それを運用する兵がいなくば恐れることもない。
「……あっ、待って、待ってください! 人が……囚われた者たちが、あそこにいます!」
 進撃のさなか、毒蟲の粘糸で滅茶苦茶に固められた一角を目にした紗奈が、悲痛な声をあげた。それまで大人しく猟兵たちの指示に従っていた彼女が、すっかり取り乱した様子でそちらへと駆けようとする。
「よせ。罠かもしれない」
「ですが、あのなかに私の両親がいるかもしれないのです。お願いです、行かせてください!」
 紗奈の独走を押し留めたジャハル・アルムリフは、なるべく力を込めぬよう苦心しながら紗奈の細い手首を引き寄せる。彼の表情は至って冷静で、ともすれば感情の起伏すら感じさせない。だが、その心の裡に秘めた思いは、眼前で涙を浮かべている娘のそれと大きな違いはない。
 ――この娘の狂おしいほどの思い、わからぬではない。なればこそ。
「俺が行く。紗奈……いや、姫は待っていろ」
 紗奈がなにかを答える間も置かない。
 ジャハルは躊躇せず粘糸の海と化した一角に切り込んでいく。下等な蟲どもに罠や待ち伏せという概念があるのかはわからないが、猟兵たちが恐れていた通り、そこは毒蟲どもの巣窟だった。
「こうなるだろうと思ってはいたがな。全く以って、穢らわしい者どもだ。早々に片付けてやれ、ジジよ」
 己が従者である男が、そういう行動に出ることを見通していたアルバ・アルフライラは、さして驚いた様子もなければ出遅れた様子もなく、むしろ先んじて眼前の宙に魔法陣を描き始めていた。
 困惑する紗奈を安心させるように、アルバが穏やかな笑みを浮かべてみせながら放ったものは、彼の青水晶の瞳の色と近しい蝶々の群だ。
 その蝶たちは直接毒蟲たちを襲うことはしない。羽ばたくごとに降り注ぐ青白き鱗粉の光が、毒蟲の体液によって腐食していた地面を立ちどころに氷結させていく。
 腐敗毒素によって力を蓄えていた毒蟲どもも、その力の供給源を断ってやれば猟兵たちにとって恐れる敵ではなくなる。
 切り込んだジャハルが粘糸ごと毒蟲を叩き伏せていき、彼と同時に囚われの者たちの救出に駆け出していた花剣・耀子が、反撃に移らんとする毒蟲どもへと押し迫る。
「囚われている皆は、あたしたちが必ず助け出す」
 猟兵たちの猛攻を目の当たりにして、ようやく落ち着きを取り戻した紗奈の姿を、耀子は一度だけ振り返って確認した。思わず口から溢れた言葉は、空中に霧散する白い息と同じく、紗奈の耳には届かなかっただろう。
 だからといって、耀子はその言葉を軽んじることはしない。それは守るべき相手に向けた約束であり、己自身に課した誓約でもある。
 今はまだ、全てを滅する力を起動するまでもない。所詮は安寧な巣に籠もっているだけの毒蟲どもだ。耀子が手にする封じられた刀が光なき閃きを弧状に残すたび、蔓延る毒蟲たちは瞬時に絶命していく。
 この一角に巣くっていた毒蟲を一掃したのち、耀子は粘糸の巣に囚われていた白狐城家中の者たちを助け出していく。本当は無事な場所まで付き添ってやりたいが、まだ彼女たち猟兵には成すべき務めがある。「背中は守るわ」と励ましの言葉をかけてから、救出した者たちを見送った。
「皆、ゆめゆめ油断せぬよう。ここの瘴気は他所のそれよりもずっと濃い。下手をすれば命も危ういぞ」
 巣食う蟲どもを駆逐したあとも、瘴気がすぐに晴れるわけではない。炎よりもなお紅き目を輝かせ、天御鏡・百々は自身の生命と魂魄の根源である神鏡を掌に浮かべると、数多の生命に祝福を与える光明を鏡に照らし出した。
 ――戦は世の常。華々しく戦に臨み敵方の居城を奪いせしめるは武門の誉れであろう。だが、この様はどうだ? 屈服した相手を穢し、貶し、辱める。斯様な所業を、どうして見過ごせようか。
 人の身を助くことを信条とする神鏡の百々にとって、眼前に広がる無残な光景は、その身に"映す"ことも憚るものだ。
 ゆえに清めていく。光の渦は戦場を包み込み、毒蟲の汚れに身を苛まれていた猟兵と、虜囚の者たちを癒やしていく。
 瘴気と戦によって疲弊していた猟兵たちの心身に再び活力が戻り、光の奇跡をもたらした百々に皆が感謝を伝える。そのさなかにも、彼女は手にした薙刀を強く握りしめて次なる敵の襲来に備え続けていた。
 道は、まだ半ばだ。この一角に巣くっていた毒蟲どもを討伐し、囚われの者たちを城外へ逃したとて、戦は勝利とはならない。一同は歩みを止めることなく本丸の庭園を目指していく。
 見通しの悪い桝形路に差し掛かった時だった。紗奈を最も弱い獲物だと認識したのであろう毒蟲どもが、死角より一斉に腐食溶解液を撃ち放ってきた。
「……っ! まったく、油断も隙もない連中だ」
 ただの人間であれば瞬く間に肉が爛れて絶命するその猛攻を、式を通じて殺気を察知した常盤が逸早く反応した。彼は紗奈を守るべく、身を挺して腐食液を一身に浴びたのである。
 筆舌に尽くしがたい痛みに全身が悲鳴をあげるが、常盤は奥歯を噛み締めて苦痛に耐える。神を式する者なれば、例え炎のなかに身を置いても心を凪とする術を心得ているものだ。
 自分のせいで怪我を負った常盤に駆け寄ろうとする紗奈を、彼は片手で制する。まだ敵は残っている。己の身よりも、まずは守るべき者に害が及ばぬよう動くのが務めだと、常盤は知っていた。
 腐敗の力を得て一回り躰を膨張させた毒蟲どもとの距離を、常盤は一気に詰めていく。その手にするは呪縛の符でもなければ、守護の符でもない。夜闇の奥底よりも暗い色彩に染まった霊符である。
 それが生み出したるものは、破邪の力だ。常盤の手のなかから放たれた霊符はそれ自体が意思を持っているかのように空中を進み、毒蟲どもの腐敗した生命を焼き尽くしていく。
 常盤の献身によって九死に一生を得た紗奈の身の安全を、アルバが引き受けた。
 まだ毒蟲の数は多く、本丸の庭園へと至るまでに乗り越えるべき壁は高い。アルバは背にかばった紗奈に「どうか、我々の傍から離れぬよう」と告げると、赤黒い波濤のように迫る毒蟲の群に目掛けて魔法陣を描いていく。
「これ以上、穢させるのは御免蒙る。人も地も城も、全てに於いて」
 空に刻み込まれた青白い陣をアルバが掌で打てば、砕け散った光はたちどころに蝶へと姿を変じる。それはおぞましい毒蟲の瘴気を物ともせずに宙を舞い、粉雪のように散る鱗粉が荒れ狂う毒蟲どもの体の自由を奪っていく。
 麻痺を受けても迫らんとする醜悪な蟲どもの蠕動を目にして、アルバはかすかに眉をひそめた。斯様なおぞましい者を配下にする大妖狸とやらは、如何なる者なのか。いずれにせよ、討ち滅ぼすことに躊躇を覚えぬ相手であることは、確かだろう。それは、この醜悪な敵たちの唯一の長所と思えた。
「姫、ご覧あれ。戦は力を振るわずともこのように軍勢を止めることも叶いますが、それだけでは撃ち破ることが出来ぬのもまた事実。剛柔合わさって、初めて力というものは意味を持つのです」
 戦の行く末を見守る紗奈に、アルバは肩越しに語りかける。彼らの視線の先には、動きを止めた毒蟲の群に切り込んでいくジャハルの姿があった。
 師父と仰ぐ者が講ずる手立てを、ジャハルはよく知っている。動きを絡め取り、無力化したところを一気に叩き潰す。自分のことをそのための駒だとは思わないし、仮にそのように振る舞えば師父は苦言を呈することだろう。
 だが、すべき事はたった一つのシンプルな結果に絞られる。鬱陶しい害虫どもを、身動き一つ取らせぬままに蹴散らすのみ。
 鞘から抜いた黒剣をジャハルが払えば、黒い残像は空中から消え失せることなく現し世にとどまり続けた。形を持った残像は数多の黒刃と変じ、矢衾となって毒蟲どもに襲いかかる。
 ――ここで足踏みをしているわけにはいかない。この手で掬い上げねばならないものが、今は多すぎる。そうだろう、師父。
 刃の嵐に呑まれて絶命した仲間の骸を乗り越えて、後続の毒蟲どもが這い寄ってくる。それらに攻撃のいとまも与えぬうちに、ジャハルは黒剣を揮って前線を押し上げていく。彼は剣についた汚液を無造作に打ち払うと、現れた新手に切っ先を向けて告げた。
「此処は貴様らの城ではない……失せろ」
「その通りです。ここは化生の者が足を踏み入れていい場所ではない……一匹足りとも、見逃すわけには参りますまい」
 累々と横たわる毒蟲の亡骸の海を、勇猛果敢に駆けていく猟兵たち。
 景正がひとたび弓を構えれば、曲輪を埋め尽くすほどの蟲の群は瞬く間に炎に撒かれて、消炭と化していく。彼の黒髪は燃え盛る炎を照らして紅玉髄の色に輝き、それはあたかも悪鬼を調伏する鬼神の様相を思わせた。
 第二波、第三波と湧き出る異形の者どもを打ち破りながら、景正は粘糸に囚われている家中の者を奮い立たせるべく、声を張り上げた。
「紗奈姫の御帰還である! 虜囚の身を恥じて自刃するには及ばず! 我ら天下自在の兵、紗奈姫の御指揮の下、白狐城奪還に馳せ参じ仕った! いまや勝機は我らにあり! 方々、紗奈姫の御帰還である!」
 紗奈の帰還を喧伝する景正の文句に、当の姫君は顔を赤くしながら目をしばたたかせるばかり。「鞍馬さま、私は指揮もなにもしておりません!」と焦る彼女に、打って変わって柔和な微笑を浮かべた景正がかぶりを振った。
「こういう時は、多少芝居がかった振る舞いが功を奏するものです。御覧ください、ご家中の方々も紗奈様の立派な御姿を目にして、気を奮い立たせたご様子」
 見れば、それまで力尽きた様子だった虜囚の人々は、紗奈の姿を見るなり息を吹き返したように表情に生気を取り戻していた。彼らの目には、領主の姫君が兵を引き連れて敵を打ち破っていく姿に映っているのだろう。
「ですが、此度の武勲の誉れは全て皆さまのもの。私はただ護られているばかりの身の上に過ぎないというのに……」
「手柄云々なぞ気にする必要はない。そのようなこと、我らにとっては瑣末事よ。大将として堂々と振る舞い、家来衆に力を与えることこそが紗奈殿の務めだ。それは我にも、他の誰にも出来ぬことだ」
「……痛み入ります、天御鏡様。貴女のお言葉から学ぶことの、何と多いことか」
 百々の言葉を受けて、紗奈は俯き加減だった顔を上げた。表情を引き締めて、しっかりと前を見据える。その手はまだ、震えていたけれど。
 そんな紗奈の背中を軽く叩いて労ったのち、百々は合せ鏡に映し出した鏡像の兵を引き連れて、虜囚の者たちの救助にあたる。
 手にした薙刀で器用に粘糸を切り払い、助け出した人々を毒素の影響を免れている草地の上に寝かせていく。
「もう苦しむ必要はない。貴殿らの身を苛む瘴気は全て浄化せしめようぞ」
 陽光のように暖かな光を生み出した百々は、それを衰弱しきった虜囚たちに等しく注いでいく。病的に白んでいた女中たちの肌に見る間の内にツヤが戻り、血混じりの咳をしていた衛兵たちの苦悶の表情が和らいでくる。
 百々のもたらした天神の御業に、救い出された者たちは口々に感謝の言葉を連ねた。しかし、今は彼らの謝意を一つ一つ受け止めている余裕はない。
「さあ、はやく城外へ。道中の毒蟲どもは全て打ち倒したが、念のために鏡の衛兵を供につけよう」
 救出した者たちが歩けるようになるまで治療を施したのち、百々は鏡像兵に護衛を命じて家中の者を逃していく。
「無粋な毒蟲ですこと。せめて紗奈様とご家来衆との涙の再開くらいのお時間は、差し上げたいところなのですけど」
 救出と治療が進むさなかも、毒蟲の襲撃は止まることを知らない。四方八方から迫る毒蟲が浴びせかけてくる粘糸や毒液を、ラティファは龍爪で打ち払い、或いはその身で受け止めていく。下手に避ければ、紗奈や虜囚にあたらないとも限らないからだ。
 腐食毒を受けたラティファの白磁のような肌は痛々しく病み爛れども、いまの彼女はそのことを気にかけるつもりは露もない。艶美な面差しに影は差さず、激高するわけでもなければ怯えるわけでもなく、在るがままの姿で周囲を囲む毒蟲どもに相対していく。
 ――花に蝶が惹かれるのは自然の摂理……ですが、醜い毒蛾はご遠慮くださいまし。
 煌めく龍爪が毒蟲の一匹を切り裂いた。踏み込んだ足を軸としてラティファが独楽のように身を翻すと、濡羽色の髪が陽の光を浴びて蒼い輝きを残す。横手から迫った毒蟲の体当たりを地を蹴って避けた彼女は、がら空きになった毒蟲の横腹を貫手で穿ってみせる。
 血と肉片にまみれた細腕を抜き、龍爪が引きずり出した毒蟲の背脈管を無造作に放り捨てたラティファは、次なる獲物を屠るべく軽やかに戦場を駆けていく。
 花を喰らわんとする毒蛾に相応しいもの、それはこの龍爪であると言わんばかりに。
 救出とその防衛が完了した一方、本丸へ通じる道では、毒蟲どもの最後の抵抗が猟兵たちの歩みを止めていた。露払いのために常に先行して毒蟲を切り払っていた丈一も、肉壁の如き群の前にして、さすがに一手講じる必要があるか、と思案する。
「こんな蟲どもに忠誠心なんてものがあるとは思えないが……命を賭けて挑んでくるというならば、こちらとしても御しやすい」
 毒蟲どもの血脂で濡れた介錯刀が、陽の光を照らしてぬらりと鈍く光る。その様は、かつて数多の武士や咎人の首を刎ねてきたと伝えられる刀が、こんな獲物では物足りぬと、丈一に訴えているかのようだった。
「ゆこう。毒蟲をまとめて蹴散らして、庭園への道を切り開かねば」
 共に戦う猟兵に一言告げるなり、丈一は血に飢えた刀を鞘に収めてから毒蟲目掛けて駆けていく。
 一斉に放たれる溶解液や粘糸を最小限の動作でかわした丈一は、毒蟲の壁を直前にして横跳びに身を翻した。彼に食らいつかんと、互いを押し退け合いながら進行方向を曲げる毒蟲ども。群の多くが自身に引きつけられたのを確かめたのち、丈一は深く腰を沈めながら介錯刀の鯉口を切る。
「終いだ」
 いま再び鞘から抜かれた刀が宿すものは、丈一がその背に引き摺る因果に他ならない。過去に積み重ねられてきた死が色濃く匂い立ち、それは剣閃となって彼の周囲にもたらされた。
 避けることも防ぐことも能わない。一度罪業が振るわれれば、あとは両断された数多の毒蟲の死骸が、丈一の周りに残されるのみ。
 さしもの毒蟲どもも、その一手に恐怖を感じたのだろう。稲穂を喰い荒らす蝗害が如く迫っていた蟲どもの足が、確かに鈍った。
「あと一息で、乗り越えられる。誰ひとりとして死なせたりなんかしないわ。だから……」
 ――ひとつ残らず切り果たす!
 耀子の脳神経に殲滅プログラムが走り、それは瞬く間に運動中枢を通じて全骨格筋をプログラムの支配下に置く。
 こうなれば、もはや何人たりとも耀子のことを止めることは叶わない。彼女自身も、敵を皆殺しにするか己の肉体が限界を迎えるまで、制御を取り戻すことは望めないだろう。
 戦場を剣嵐となりて駆け巡る耀子。空を思わす透いた青い瞳は、いまや地獄を流れる氷河の色のそれに近しい。人ならざる機動で毒蟲どもの隙間を縫い、あるいは身ごと断ち割って先へと進む。吹き出す血はあまりの剣戟の鋭さに血煙となって、冬空を薄赤く染め上げるほど。
 まとめて倒すことは叶わないが、それでも十分だった。一匹屠るのに一秒もかからない。海を割って人々を導いた古の聖人の逸話のように、耀子が通ったあとには、ただの肉片と成り果てた毒蟲の残骸が転がるばかり。まさに、鏖殺だった。
「ああ、忌々しい」
 全ての毒蟲を切り払ってプログラムから解放された耀子は、切り捨てた毒蟲の体液で汚れた己の姿を見下ろして辟易とする。蟲の群れも嫌いだが、それを退治したあとの惨状も曰く言い難いものだ。
 毒蟲どもはその全てが猟兵たちの手によって討たれ、道中に囚われていた白狐城家来衆も無事に助け出された。残すは本丸に残る敵の大将・大妖狸のみ。
 二の丸を抜けた先、本丸御殿の前に広がるものは、山紫水明の地を象った庭園である。だが、いまそこには景観の調和を歪める磔台が、幾つも林立していた。
「父上、母上……!」
 そのなかの二柱に磔にされた初老の男女を目にした紗奈が、悲痛な声で叫んだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『狸大将』

POW   :    怨魂菊一文字
【かつての己を岩戸へ封じた霊刀の居合抜き】が命中した対象を切断する。
SPD   :    焔の盃
レベル×1個の【盃から燃え上がる狸火】の炎を放つ。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる。
WIZ   :    八百八狸大行進
レベル×5体の、小型の戦闘用【狸兵団】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は神月・瑞姫です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 庭園の奥、御殿の縁側にて胡座をかいていた大妖狸は、猟兵たちの姿を見るや、周りに侍らせて酌をさせていた妖狐の女中たちを乱雑に払い除けた。
 騒ぎに気がついていないはずもないが、大妖狸に焦りや恐れといった表情は見受けられない。毒蟲ごときはただの手駒、自分一人がいればどんな敵が来ようと返り討ちにできる……不敵な笑みを浮かべたその獣面からは、そんな傲慢さが伺える。
 予知で見られた光景によれば、磔台は百を下らなかったそうだが、猟兵たちが見る限りそこまでの数が立っているようには見えない。磔台に架けられている人数もそう多くはないようだ。処刑の準備が整うまでに、間に合ったのだろう。
 だが、紗奈の両親を始めとして、大妖狸に囚われている者が複数人いることも確かである。劣勢に追い込まれた大妖狸が彼らを、あるいは紗奈を人質に取る可能性は高い。
 誰一人として死なせたりはしない。猟兵たちは胸に抱いた決意を赤々と燃やし、大妖狸との決戦に臨んでいく。
神埜・常盤
狸の妖にも悪い奴はいるものだねェ
さァ、天誅と行こう!

危険に晒された両親を見せられ
姫の身も心も心配だ
突出したり狸大将に人質にされぬよう
引き続き側に引き留めお守りしよう

戦闘には姫を背に庇いつ挑む
召還された狸には霊符投げ動き封じ
連携が可能なら仲間とも協力を
その傍ら式神を囚われた者達の
救助活動に向かわせたい所

彼女に攻撃や火の粉が飛びそうなら
この身で其れを受け止めよう
激痛耐性も有るし僕は平気さ
それに今こそ天鼠の輪舞曲の使い時
狸大将へ捨て身の一撃を

序でに吸血で此の渇きを満たして貰おう
あの蟲どもの相手は聊か消耗したのでねェ

総て終わったら城の片付けでも
紗奈姫、君はとても立派だった
よく頑張ったねと労いたいなァ


都槻・綾
※絡みアドリブ歓迎

妖狸を討つ皆の背と
紗奈さんの身を護る一助となれたら

彼女が駆け出しそうなら
穏やかな笑みで引き留め
必ず助ける旨の信と
心支える安堵を与えたく

貴女の愛しきご家族の言を胸に燈して下さい
言の葉には魂が宿る
誠にする為の誓い
そう
春に桜をご覧になるのでしょう?

敵の挙動や戦況を眺め
繰り出される技を第六感で予測し見切り
皆へ声掛け

四方より迫る兵団は符の範囲攻撃で消滅
人質への攻撃も警戒
流星の如く放つ符で残らず撃ち落とす

妖狸の苦しみも「無かったこと」には出来ない
けれど確執も遺恨も今は無闇な八つ当たり
骸海へと還りなさい

戦闘後
人質を救出し手当

風に舞うは雪片か梅の花弁か
幽かな花の香に
やがて迎える春の兆しを聞く




 神埜・常盤は、磔にされた両親を前にした紗奈が居ても立ってもいられず飛び出すのでは、と幾ばくかの不安を抱いていたのだが、それはどうやら杞憂で済んだらしい。紗奈は唇を噛み締めながら常盤の顔をじっと見上げて、ただ静かに頷いてみせた。
「たった一日でずいぶん成長したものだねェ。怯えも焦りも怒りも、飲み込めるようになったのかい」
「神埜様の背中から教わったのです。武勇とは、闇雲に突き進むばかりではないことを。時が至るまで耐え、時が至れば成す。士とはかくあるべし、と……貴方が見せる戦ぶりは、そう語っているようでした」
「よしてくれ、買いかぶりすぎさ。僕はしがない探偵稼業、サムライなんて柄じゃァないよ」
 常盤は紗奈の真摯な視線を微かに口端を上げることで応えると、両手の指間に挟んだ呪符に霊気を込めていく。視線を改めて大妖狸へと向ければ、手に手に槍や火縄銃を構えた小狸の兵団が、今まさに猟兵に向かって進軍を開始したところだった。
 眉目よい相貌をますます愉快げに和らげて、都槻・綾も薄紗で出来た霊符を懐より取り出す。
「紗奈さんを守りながら戦うには、いささか数が多いようですね。一体ずつ相手をしている余裕はなさそうだ」
「そのようだねェ。ならば、一網打尽にすればいいのさ……綾くん、しばらく後ろは任せるよ」
 二人の陰陽師は、その短いやりとりのなかで互いの役割を明確に理解した。先に兵団に相対した常盤が呪縛の術で並み居る雑兵を絡め取っていくと、間髪入れずに綾がそれに連なった。
 後ろで束ねた綾の緑成す黒髪が冬の風になびき、それは彼の手中で高まる霊気の波を受けて、背につくことなく宙で揺蕩い続ける。
 さして特別な呪文や祝詞を捧げるわけでもない。粉雪を払うかのように綾が静かに腕を振るえば、幽かな薫香を含んだ霊符がたちどころに流星となって雑兵たちを貫いていく。
 かろうじて呪縛も符撃も免れた雑兵が火縄銃で狙いを定めてくるが、そのくらいの抵抗は綾にとっては脅威とは成り得ない。予測を立て、呼吸を見定め、放たれた凶弾を難なくかわしてみせる。
「刀を抜かれる必要はありません。これまでのように、私たちにどうぞお任せください。貴女の身も、ご両親の身も、ご家中の身も、必ず守り通してみせます」
「ありがとうございます、都槻様。無論、皆さまのことを心より信頼しております。……私が刀に手をかけているのは、戦うためではありません。恥ずかしながら、私には……こうでもしなければ、手の震えが抑えられないのです」
 背に守った紗奈が、恥じ入りながら己の弱さを告白する。綾は押し迫る雑兵を打ち払いながら、彼女のことを笑うでもなく、鼓舞するでもなく、至って穏やかな声音のまま背中越しに声をかけた。
「己の弱さを認めることは、恥ではありません。その弱さを胸に刻み、今はただその身を守ることだけに専念して下さい。恐怖に負けそうになったそのときは……貴女の愛しきご家族の言を、どうぞ胸に燈して下さい」
「言葉を……」
 綾の言葉を受けた紗奈は、胸中で様々なことを思い返している様子だった。しばらくすると、白い骨が浮くほど強く握りしめていた手から、次第に力が抜けてくる。両親と交わしたいつかの約束を思い出し、心の平穏を取り戻したのだろう。次に顔を上げた時、紗奈の表情から戦への恐れは消えていた。
 綾はそれ以上、なにも言葉を重ねることはしなかった。これより先は、自身の行動で以って語りかければいい。
 必ず守ると約束したのだ。
 その誓いを遂げるため、綾は今再び敵へと力を揮っていく。
 雑兵どもがあらかた片付いたところで、とうとう大妖狸が重い腰を上げて庭園へと降りてきた。その渋面は、猟兵たちが油断ならぬ敵だとようやく理解したことの表れだろう。
 常盤が残りの雑兵を蹴散らすのと同時に、大妖狸が雄叫びを上げながら猛然と迫ってきた。酒の代わりに杯を満たした炎が、雨あられと常盤に目掛けて降り注ぐ。
それらを護符の力をもってして、あるいは身のこなしによって直撃を避けていく常盤。全てを防ぐことこそ叶わないが、今さら身を焦がす炎に恐れおののく彼でもない。攻撃が当たって笑みを浮かべている大妖狸が更に追い打ちをかけようとするが、常盤は至って冷静に敵との距離を詰めていく。
「さァ、天誅と行こう!」
 常盤の脚が流麗なステップを踏めば、彼の身はまたたく間に無数の蝙蝠へと姿を変える。居合の構えを見せて常盤を迎え撃たんとしていた大妖狸の表情が、こわばった。
 刀を抜くいとまも与えず、姿形定まらない闇の存在と化した常盤は、大妖狸の身を呑み込んでその血を啜っていく。毒蟲の相手をして渇いた喉が幾らか潤うものの、所詮は化物の血。常盤の舌を満足させるほどのものでもない。
 人の姿に戻り、再び紗奈の守りについた常盤は、彼女に尋ねた。
「これでもまだ、僕のことをサムライだなんて呼ぶのかい」
「もちろんです」
 常盤の背中を見つめながら、紗奈ははっきりと答えた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

一駒・丈一
最期の一献は済んだか?
……と、相手への軽口はさておき、

SPD重視で、
俺は敵の注意を引き付けることに注力する。


『早業』にて敵の懐近くに一気に踏み込み、
敵の攻撃を近距離にて『見切り』つつ
浅い斬撃を細かく多く継続して繰り出すことで
敵の気を散らせる。

敵の気が散っていれば、
他の仲間も攻撃が当て易く、囚われ人の救出もやり易かろう。

いよいよ敵の大技が飛んで来た場合は、
UC『決して何事も為し得ぬ呪い』を発動し敵の技を受け止める。
俺も身動き出来んが、それは技を繰り出した瞬間の敵も同じ。
この一瞬の隙が生じている間に、味方に今こそ渾身の一撃を放つよう促そう。

お味方諸氏。
道を繋ぐのは引受けよう。渡りきるのは任せたぞ。


アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
貴様にその場は分不相応極まりない
疾く失せるが良い
――然し、その前に為すべき事がある

ジジ達が狸を相手取っている隙に人質の元へ
【愚者の灯火】を幾つか用い、磔台の戒めを解いていく
人質を傷つけぬよう手早く済ませ、他猟兵と彼等を安全な場へ誘導
万一人質の数が多く、降ろし切れぬ場合はその場で守り抜く
狸も愚かではなかろう
我々の行動を知れば邪魔してくる筈
空いた炎で彼奴の兵団を退けよう
片や救出、片や雑魚の対処――全く忙しくて敵わん
然し斯様な事も出来ぬと嗤われても敵わんからな
腕の一本砕けようと、人質は身を挺してでも守り通そう

為すべき事が終れど狸の事は忘れておらぬ
最大火力で燃やし尽くしてくれよう


ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と組み

蟲の大将は化け狸か
早々にあそこから引き摺り下ろしてやらねばな

師父が人質たちの保護を務めるという
ならば俺は、大将狸を充分に引き付け
可能な限り姫にも師にも
人質達にも危害が及ばぬよう

危険は承知ながら大将狸へ
武具から滲みだした呪いを纏いながら
【怨鎖】で攻撃
姫や人質達の方への接近を掴んだ鎖を引き、阻む

居合いは防御と見切りで軽減を試みるが
損じれば激痛耐性で耐え、カウンターを狙う
傷など、背に在るものたちと比べれば安い

同じく大将狸を相手取る猟兵がいれば連携も
仲間の得意を活かし、不得意を埋める様動く
誰一人くれてやるわけには行かぬ

この国に
来るのだろう、春が




 初手こそ猟兵たちが優位のまま終わったが、大妖狸は戦意を失うどころか怒りも隠さず攻め手を強めてくる。このままでは無差別に人質ごと猟兵たちを攻撃しないとも限らない。
「こいつは、隙を窺って人質を助ける、なんて悠長なことは言っていられそうにないな」
 雑兵を相手取りながら大妖狸の出方を観察していた一駒・丈一がそう言うと、彼と共に防衛ラインを構築していたジャハル・アルムリフが頷き返した。
「少し荒っぽいが、敵の大将を引きつけるべきか……その間に、師父には人質の救出をお願いしたく」
「構わん。先手は打てるときに打つべきだ。雑兵の相手と人質の救出は私が担おう」
 アルバ・アルフライラがそれに賛同すれば、あとは悩む理由もなかった。三人は瞬刻に視線を交わしあうと、各々の務めを果たすべく駆け出す。
 槍衾を構える小狸雑兵のただなかを突っ切って、丈一は大妖狸の意識を自身へと引きつけていく。彼の俊足に雑兵の迎撃は追いつかず、それは狸大将たる大妖狸も例外ではなかった。
「遅い」
 放たれた盃の炎の輝きを黄金の瞳に映した丈一は、放物線を描いて飛来する砲撃のようなそれらを巧みにかわしていく。駆け抜けざまに三匹の雑兵を蹴散らしてゆけば、大妖狸の狸腹は目と鼻の先だ。
 下段に構えていた丈一の刀が、弦月の軌跡に血色の閃光を残す。大妖狸が応戦に転じるまでに四度、彼の揮う切っ先が大妖狸の分厚い毛皮を裂いていた。
 大柄な大妖狸にとっては決して手痛い打撃ではないのだろうが、丈一の打つ手は確実に陰湿な化け狸の意識を引きつけていた。その隙だらけの横っ腹から迫ったジャハルの姿は、普段見せているそれとは大きく異なっている。蝕む呪詛を其の身に宿した様は、もはや人魔の境で揺れる邪竜の如く。
 怨を束ねた鎖を腕に巻き付けたジャハルが拳を揮うのと、大妖狸が大太刀を横薙ぎにしたのはほぼ同時のことだった。
 大妖狸の剣戟がジャハルの胴を捉える。だが、纏った呪いの守護と、刃の鈍いハバキの辺りで受けたおかげか、致命傷には至らない。肋の数本は持っていかれたが、構わずジャハルは爆鎖ごと大妖狸の脇腹を叩いた。
 途端、耳に煩わしい破裂音が庭園を震わせる。醜いタヌキの化物とて血は赤いのか、と新たに得た知識に妙な感心を覚えながら、アルバは指先で魔法陣を空中に描いていく。
 陣印が喚び出したものは数え上げるのも億劫なほどの数多の細炎だ。常ならばそれらは重ねて敵を焼き尽くす火矢と成すところだが、今この場においてはそれだけの火力を要さない。
「さあ、行け、おまえたち。何人たりとも一つの火傷も負わしてくれるなよ」
 願うように、脅すように、珊瑚色の唇から命を下すアルバ。小さな炎たちは主の言葉を重く受け止めて身をふるりと震わすと、周囲の磔台に向かっていく。
 ――ジジが、丈一が、我々を守ってくれているその隙に、私は私の為すべきことをせねばな。お前たちが流した血の分だけ、他の誰かの命を私が救ってみせよう。
 見た目よりも老成したアルバの魔術の火は良き働きをみせ、鉄製の枷を次々と焼き切っては繋ぎ止められていた多くの人質たちを救出することに成功する。衰弱していた者は彼が自らの手で助けてやり、駆けつけた紗奈にも指示を出して、救出した者たちを安全な後方へと導いていく。
 周囲の人質を粗方助けたあたりで、さしもの大妖狸もその救出劇に気がついたらしい。青眼の睨んだ片隅で、雑兵どもと大妖狸がこちら目掛けて殺到する様が見えた。
「片や救出、片や雑魚の対処――まったく、一番安全なようで一番忙しい役を担ってしまったか。ジジめ、わかっていて言ったのなら、あとで小言の一つでも食らわせてやらねば済まんな」
 苦笑しながら、アルバは両手と十指で大きく円陣を描いていく。枷を炭にした術法と同じものだが、用いる魔力の量は天と地ほどの差がある。己が本分を与えられた炎たちは喜び勇み、アルバが命じるまま大火となって、迫る小狸の兵団ごと大妖狸をも巻き込んでいく。
「やるな、青い術師。炎の加勢、助かった」
「ああ。此のくらいのことも出来ぬのであれば、嗤われても仕方あるまい……そちらの剣技に負けてはおれんからな、金眼の」
 刀を振るい続けて息を切らせていた丈一が一旦退きざまにアルバに声をかけ、術師もまたそれに応える。刃についた血脂を拭ううちに、丈一の呼吸は平常に近づくまで収まっていた。それ以上のやりとりは、ない。長く戦に身を置いてきた男同士、戦場で長く語らう言葉は無用だった。
 ――しかし、見た目通りの愚鈍な狸、というわけではないようだな。小手先の剣技だけでは早々気も引けなくなるだろう。ならば……。
  再び敵陣の只中へと切り込み、大妖狸と相対する丈一。大妖狸が居合の素振りを見せると、彼は両手で構えていた刀を肩に担ぐようにして片腕で持ち、獅子が獲物を狙うが如く腰を低く構えた。元より鋭い視線がますます険しいものとなり、夕陽よりもなお鮮烈な黄金の瞳が爛々と輝く。そして、彼の足元から湧き立った禍々しき怨嗟が陽炎めいて彼の体を取り巻いていった。
「最期の一献は済んだか?」
 焼けつくような緊張感のなか、丈一の放った軽口に答えるように、大妖狸が動く。
 凄まじい剣圧で放たれた大妖狸の居合切りが、取り囲む雑兵を巻き込みながら丈一へと迫る。それは刀を担いだまま微動だにしない男の胴を払い抜けた。
 両断――されるはずだった。それだけの一撃を受けたのだ。しかし、次の瞬間に戦場に響いたのは大妖狸の悲鳴だった。居合抜きを喰らった瞬間に放った丈一の袈裟懸けの一刀が、大妖狸の片目ごと頭部に深い刀傷を負わせていたのだ。
 大妖狸の居合抜きは、丈一の纏う断罪人の怨嗟によって搦め捕られ、その身を断つには至らなかったのである。
「次だ」
 手痛い打撃を受けて怯む大妖狸。そこで手を止める道理はなく、丈一に続いてジャハルが大妖狸へと迫った。
 受けた傷の痛みは意識の外へと追いやることができる。だが、背に守った者たちの痛みだけは、いかに屈強な竜の男でも叶わない。守るべきものの重さを思えば、いずれ癒える肉体の痛みなど大したことではない。
 片目を失った大妖狸が激昂に任せて放つ火弾雨のなか、懐へと飛び込んだジャハルはその太鼓腹に強烈な蹴りを見舞う。出鱈目に辺りを焼き尽くされては面倒だ。確りとこちらへと意識を向けてもらわねば意味がないし、なにより退屈だ。
「お前が居るべき場所は其処ではない。二度と立ち入られぬよう引き摺り降ろさせて貰う」
 大妖狸の血走った隻眼を睨み返しながら、ジャハルは腕に巻いた赤黒い縛鎖を撃ち放った。獲物に喰らいつく獰猛な大蛇のように身を伸ばした血の鎖が、身を庇おうと掲げられた大妖狸の腕をくぐり抜け、その体躯に纏わりついた。
 後退るために大妖狸が地を蹴るが、その身は動かない。見上げるほどの巨躯を誇る大妖狸の身体を、ジャハルは膂力のみで抑え込んでみせる。
 その鎖がもたらす暴威を知っている大妖狸の表情が引きつった。ジャハルの唇がほんのわずかに笑みを浮かべたような気がした。
 絡みついた縛鎖は己の呪いを振り撒くように勢いよく爆ぜ、大妖狸が身につけた甲冑ごとその身を破壊せしめる。獣妖の絶叫が再び庭園を震わせて、鮮血が白砂利を赤く染め上げた。直後、零れ落ちた血をも瞬時に蒸発せしめるほどの大火が大妖狸を襲う。
「一気に押し返すぞ。この機に全ての人質を救うのだ」
 魔の炎槍を掲げた掌に浮かべながら、アルバが皆に伝える。見れば、他の猟兵たちもすでに人質救出のために動き始めていた。丈一もジャハルも、彼らと共に大妖狸と兵団の抑えにかかる。
 ――疾く失せるが良い、最大火力で燃やし尽くしてくれよう。
 燦々と輝く炎を撃ち放ち、アルバもまた守るべき命を守るべく、駆け始めた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

天御鏡・百々
ようやく首魁のところまで辿り着くことができたな
人に仇為す妖怪は、猟兵によって討伐されるのだ

味方が十全に大妖狸と戦えるように
我は一般人の護衛に徹するぞ

基本は紗奈殿の護衛を担当しよう
しかし、あまりに紗奈殿を護衛する猟兵が多いようならば
紗奈殿の両親など囚われている人の救出、護衛を行うとしよう

「巫覡載霊の舞」にて光を纏い
真朱神楽(武器)で狸兵団を薙ぎ払い(なぎ払い7、破魔26)
衝撃波で狸火を打ち消してやろう
神通力(武器)による障壁(オーラ防御15)も合わせて護りは盤石だ

囚われの者の傷や、猟兵が怪我を負った場合は
生まれながらの光にて治療する

●神鏡のヤドリガミ
●アドリブ、絡み歓迎


ジル・クラレット
私は磔台の人達の救出を
流石に1人じゃ難しいから
可能なら仲間の協力を募って

先に【影蜥蜴】で狸大将の動きを監視しつつ
大将の気が磔台から逸れたら、【花踊】で磔台まで一足飛び
愛刀の銀の短剣で拘束を解いていくわ

【影蜥蜴】もいるけど、五感を巡らせて
不意打ちには十分注意
攻撃は回避を試み、反撃はせず
まずは皆の救出を最優先

敵の攻撃が邪魔なら…
八百八狸大行進なら柳薄荷の【花嵐】で纏めて屠って
それ以外なら【薔薇籠】で大将を拘束・磔に
あら、その恰好、良く似合っていてよ?

こういう時って、紗奈に本懐を遂げさせるのが良いのかしら…
必要ならその時も【薔薇籠】でフォローを

復興は大変だろうけれど
屹度、また春にはお花見ができるわ


久礼・紫草
※アドリブ絡み歓迎

ほんに腐りきった性根の狸じゃのう

此の老いぼれが果てようが小さき事と捨身とみえる勢いで皆をかばう
実際は
斬られる時には刀を噛ませ浅く、斬らせても急所よりずらし見目より損傷を抑える
その上で持ち込んだ狸の血をかけ深手に見せかけ騙し討ち

狸を調子づかせて人質に意識が向くのを遅らせる為
老いぼれは中盤で脱落じゃ
大技UC使用
うまく嵌まり封じれたなら行幸
大ぶり外れて斬られれば狸の慢心誘えてよかろう
磔の傍らで斃れ息を殺す
死者が目立ってはいかんからのう
断末魔の痙攣と忍び足駆使し磔の近くに這いずり人質のそばへ
静かに合図しこっそり助けていく

人質に取ろうと振り返った所を斬りつけ虚を突く
…こっちは古狸でのう




「さあ、一人残らず助け出しましょう。誰一人傷つけさせたりしないうちに!」
 熱を帯びる戦場は乱戦の様相を見せ始めていた。戦況をつぶさに観察していたジル・クラレットが銀の短刀を構えて声を張り上げると、久礼・紫草が愛刀の柄頭に手をかけて鷹揚と頷いてみせる。
「うむ。若い者に頼ってばかりでは老け込んでしまうからのう。儂も此処らで一肌脱ぐとするか」
「ならば、我は身命を賭して紗奈殿を護ろう。足場を固めてこそ、攻勢に打って出られるものだからな」
 薙刀の石突で玉砂利を力強く突きながら、天御鏡・百々が口の端を勝ち気そうに上げる。
 戦の火蓋が切って落とされてから、すでに数十分の時を経ていた。三人とも大妖狸や小狸兵団と幾度も切り結んで傷だらけだったが、その表情に疲労は見られない。揺るぎない希望が、勝利への渇望が、彼ら猟兵の心身を奮い立たせていた。
 葡萄色の髪をなびかせて、ジルは囚われの人質を救うために軽やかに宙を跳んでいく。眼下で右往左往する小狸の雑兵たちは、こうして見下ろしてみれば愛嬌のあるものだ。どこか楽しげに微笑みを湛えつつ、女はドレスの裾を押さえながら磔台の下へと降り立った。
「待たせたわね。いま解放して差し上げるわ。良いこと、決して慌てず急がす、私たちの言う通りに動くのよ」
 手にした短刀を用いて磔台に拘束された人質たちを解放していけば、人質だった白狐城家臣は涙を流しながら感謝の言葉を伝えてくる。ジルは、そんな彼らを安心させるために、戦場には似つかわしくない華やかな笑顔を向けた。そして、迫る雑兵どもを巧みにかわしてみせながら、救出した人質らを庭園外へと至る道まで誘導していくのだ。
 方や、紫草は今まさに大妖狸と討ち合わんとしていた。眼光鋭き隻眼の剣士と、怒りの炎を瞳に宿す隻眼の怪狸。体格も獲物の質量も段違いの差があり、それは"大人と子供の差"と言っても過言ではないほど。何も知らぬ者が見れば、決死の覚悟で化物に挑む老兵の姿に見えただろう。
 だが、そうではない。火花を散らしながら剣戟の応酬をしあう紫草は少なからぬ怪我を負ってはいるものの、その実、老練な剣捌きで大妖狸の太刀筋を堅実に防いでいるのだ。
「ぐぬっ……! もはや、これまでか……!」
 それは、地に崩れ落ちる芝居を打った時も同じことだった。大げさによろめき、天を仰いで伏せた場所は、大妖狸たちの護りが硬くて猟兵たちが突破口を見いだせなかった場所である。
 倒れざまに放った拘束の秘技は十二分の威力を発揮しなかったものの、紫草は戦場の要に伏兵として忍ぶことと相成る。
「久礼様……!」
「いや、慌てるでない紗奈殿。まったく、食えない老翁だ……これではどちらが狸かわからんな」
 倒れた紫草を見て叫んだ紗奈に、百々は片手をひらひらと振ってみせた。幼い鏡の娘の顔には、呆れたような感心したような複雑な苦笑いが浮かんでいる。訝しがる紗奈を背にかばいながら、百々は薙刀を構えて周囲に警戒の視線を送るばかりだ。
「なに、紫草殿に癒やしの力を? 要らん要らん、むしろ邪魔になるだけだ。それよりも紗奈殿、しっかりと我の後ろについているのだぞ。少々、荒っぽいことになりそうだ」
 見れば、百々と紗奈の周囲を雑兵と大妖狸が取り囲んでいた。百々が薙刀を揮って最前列の雑兵を薙ぎ払えば、敵軍も一斉に彼女らに槍の穂先を向けて殺到してきた。
 神に捧げる神楽舞のように流麗な所作で薙刀を振るえば、百々の体は光を纏いて、ヤドリガミたる彼女の神霊体の姿を映し出していく。
 次々と薙ぎ払われていく雑兵に、さしもの大妖狸も攻めあぐねている様子だ。闇雲に放たれた狸火はしかし、当然ながら猟兵を傷つけるには至らない。
 飛び交う業火に焼かれた冬の風が、ジルの身体に熱を灯す。
 それは物理的に与えられる熱気だけによるものではない。戦が与える高揚、為すべきことを為す使命、悪しき者に対する義憤。特段、戦闘狂というわけではないのだが、一瞬の煌めきを愛するジルという名の女にとって、今その身を包む熱風は決して厭うだけのものではなかった。
 ジルは胸にあてがっていた掌を口唇の前で上向けると、そっと息を吹きかけた。
 生み出されたものは、影色の小さな蜥蜴である。それはジルの命令によく従って、大妖狸を核とする敵勢力の様子を余すところなく彼女に伝えていく。
「私一人では全員を助けることはできないけれど。幸い、私には多くの仲間がいる。力を合わせれば、必ず……!」
 ジルが銀の短刀を宙に放ると、それは放物線の頂点に至るやいなや、無数の花びらへと姿を変えた。透いた冬空を舞う、可憐な柳薄荷の花。だが、それは見た目から受ける印象とは裏腹に、触れた者を尽く死に至らしめる恐るべき死の餞だった。
 雨霰と地へと降り注ぐ花の嵐に穿たれ、裂かれ、有象無象の雑兵たちが虚空へ砕け散っていく。それでもなお、ジルの用いる手立ては終わることを知らない。
 影蜥蜴からもたらされる情報を元に、ジルは敵の攻撃を難なくかわしていく。そして、彼女は混乱をきたす大妖狸とその雑兵を尻目に、ある一点目掛けて跳躍していた。その先にあるものは、本丸御殿のすぐ側に設えられた二つの磔台だ。
「かたじけない、名も知らぬ士たちよ。私たちの命だけではなく、娘の紗奈の身まで助けて貰ったようだ。嗚呼、なんと言って御礼をすべきか、私には言葉が見つからない……」
「いいのよ、そんなことは。それよりも二人とも、早くこちらに付いてきて。いつまで狸たちを抑えていられるかわからないわ」
 ジルが助け出したのは、紗奈の両親たちだった。二人は薄っすらと涙を目元に浮かべていたが、それを零さぬよう必死に務めながら、ジルを始めとする猟兵たちに深々と礼をした。
 最後の切り札だったであろう白狐城の領主を解放された大妖狸は、まさに怒り心頭といった様相だった。霊刀が漂わす負の霊気はますます濃くなり、それは肉眼でも毒々しい呪いの気が見えるほど。
 ――ほんに腐りきった性根の狸じゃのう。
 禍々しき大妖狸の様子を薄目で観察していた紫草は、心中でため息をつきながら地面に突っ伏していた。
 誰も気がついていないが、死んだフリをしていた彼が救い出した人質は数多い。懐に忍ばせていた血袋を割ってみせれば、それまでに受けた傷跡も相まって、瀕死の老人の出来上がりだ。血まみれの死にぞこないなど大妖狸も雑兵も見向きもしない。ゆえに、彼はこの戦場において唯一自由に振る舞える存在となっていた。
 ――だが、その役目もお終いじゃな。この人質を救えば、あとはただ大妖狸を討ち果たすのみ。
 最後に残されていた家臣に架せられていた拘束具を、紫草は眼にも止まらない速さで切り崩してやる。そして、敵の油断を誘うために再び地に伏せてみせた。
 いま紫草が伏せている庭園の玉砂利道の向こうから、地を震わせながら駆けてくる大妖狸。猛々しく吠えるその様が示すものは、人質を全て奪われたことによる怒りか、焦りか、それとも悲嘆なのか。
 紫草はその足音の主がすぐ側まで近寄ってくるのを待ってから、抱いた野太刀を握る手に力を込めた。
「……ここで果てるがいい、妖狸よ」
 猟兵たちの手によって救われ、後方へと逃れていく紗奈の両親たちに、大妖狸は完全に意識を奪われていた。だから、大妖狸以上の古狸を自認する紫草には、不意をついて大妖狸を切るのは造作もないことだった。
「ふん、運のいいヤツめ。落としたものが左腕一本で済んだこと、天に感謝するがいい」
 文字通りの一刀両断だった。通り過ぎようとした大妖狸目掛けて飛び上がった紫草は、篭手ごと大妖狸の左腕を切り飛ばしてみせたのだ。
 それまで瀕死の老人を演じていた姿がウソのように、紫草は軽業師も顔負けの身のこなしでその場から離脱する。直後、彼が伏せていた場所は玉砂利が溶けて煮えたぎるほどの業火の嵐が吹き荒れた。
「さすがの妖怪も腕を落とされれば平静も保てないようだな。恐ろしいほどの火力だ。しかし……紗奈殿、わかるか。戦とは斯様なものだ。いま目にしているもの全てを脳裏に焼き付け、決して忘れないように。勇猛も謀略も表裏一体。全てを心得ていてこそ、数多の人の命を預かる将の器になり得るのだ」
「はい、決して忘れません。天御鏡様のお言葉も、我が目に映るこの戦の光景も……決して」
 首をやや後ろに向けた百々は、真摯な声音で告げた紗奈の顔を見上げて、満足そうに「うむ」と答えた。
 戦況は、猟兵たちの有利に大きく傾いていた。次々と召喚される雑兵も、もはや幾ら数を揃えられたところで猟兵たちにとっては大した脅威にはならない。百々は今が頃合いと見て、不意に紗奈の手を繋いだ。
「ゆこう。御両親が待っておられる。今こそが再会の時だ」
「天御鏡様……!」
 小さな守護者は、襲いかかる兵団たちに恐れることなく立ち向かっていく。熟達した体捌きで槍を、弓矢を、火縄銃の攻撃をかいくぐり、神鏡がもたらす守護の障壁を以って紗奈の身をも護り通してみせる。
 そして短くも長い決死の行軍の果てに、百々は護り通した紗奈を両親の下へと送り届けたのだった。
 ――悪くない光景じゃないか。これでいい、これで。
 無事の再会を抱き合って喜びあう親子の姿に、百々は戦の昂ぶりとはまた違う熱が胸の奥に込み上げるのを感じていた。これからの戦いは、再会を果たした親子が二度と分かたれないようにするための戦いだ。
 決意を新たにした百々は、胸の前で両手を組むと、高き天に守護を願う。それは奇跡の光となって戦場を優しく包み込んだ。傷だらけて息を荒げていた猟兵たちの手に新たな力が宿り、不安のなかで虜囚の身から解放された者たちに生への希望を抱かせる。
「……待っていろよ、人に仇為す妖怪よ。その首、我ら猟兵が貰い受ける」
 百々は薙刀を勇ましく構えると、大妖狸との決戦に馳せ参じるために力強く一歩を踏み出した。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

鞍馬・景正
一つ、紗奈姫達に謝罪せねばなりませぬ。
美しきこの庭園が血で穢れる事を。

◆戦闘
この期に及んで是非は問わん。
ただどちらが泉下の客となるか、勝負。

――とは申せ、人質がいる以上は優位とは言えん。
まずは狸の機先を制し、【燕切】にて小手を刈り、返す太刀で袈裟に抜く。

怯んだら隙を逃さずに組み打ち(【グラップル】)を仕掛け、全霊の【怪力】でその巨体の自由を奪いに掛かろう。

少しでも紗奈姫や人質に妙な動きを見せれば、この図体の中身が目減りする事になると思って貰おう。

その隙に他の猟兵が人質の救助なり狸への追撃を仕掛けるならば、可能な限り動きを封じておく。

――ここで血を流すは狸公、もはや貴様一人だけで良い。


花剣・耀子
いざ尋常に、なんて柄でもないでしょう、お前。
小細工も呪詛も好きなだけ撒き散らしなさい。
全部正面から斬り捨ててあげるわ。

刀を抜くなら、あたしの間合い。
【剣刃一閃】で切り結びましょう。
目を逸らしたら終わりだと思わせるくらい、
何度だって四肢と首を狙ってゆくわ。
人質へと気を散らそうなんて考えないことね。

炎や負傷は致命傷でなければ捨て置きましょう。
正面に立つのなら首と腕が落ちなければ戦えるわ。
ちょっとくらいは我慢強いし、それに、……そうね。
此処に居るのは、あたしだけじゃない。
ひとり斃せば終わりじゃないのよ。お生憎様。

お前は狐に怨恨があるようだけれど、
鬼のおそろしさも心に刻んで地獄の氷河を渡りなさいな。


ラティファ・サイード
毒蟲に劣らずずんぐりむっくりですこと
大妖狸を見遣り薄く微笑
あなたの傲慢、叩き割って差し上げる

虜囚を解放するための隙が必要ですわね
わたくし細かい作業や隠密には向いておりませんの
攻撃は最大の防御と申します
派手な立ち振る舞いで
大妖狸を真正面からかぎろいで攻撃
狸火が襲い来るならかぐろいで対抗
他猟兵へ目配せで人質を取り戻すよう合図を

焦りや恐れがないのなら
植え付ければよろしいの

黒風鎧装を湛え顕現する
真の姿は灰の龍女
緑玉の瞳に屠る愉悦を湛え
ねえ、あなたの喉笛を切ってもよろしくて?
甘えた声で問いながら
否など聞かずに
斬る

紗奈様の大切を取り戻しますわ
ですから心配なさらないで
白狐城にただいまを言う準備をなさってね




 視界いっぱいに映る大妖狸の姿を、ラティファ・サイードは醜い姿だと薄っすらと嗤う。かねて討ち滅ぼした毒蟲も不格好ななりをしていたが、その主である大妖狸も負けず劣らずの醜悪ぶりだ。
 ――出会った形さえ違ったのならば、ずんぐりむっくりの姿も可愛らしく思えたかもしれませんわね。
 猟兵とオブリビオンとの雌雄を決する戦。その最前線にて、ラティファは大将たる大妖狸と相対しながら、頭の片隅でそんなことを考えていた。
 ラティファの顔に浮かぶ笑みが癪に障ったのか、それとも目の前に立つ者は何人たりともそうしなければ気が済まないのか、大妖狸はひび割れた盃から霊気の炎を生み出していく。
「けれど、その傲慢さがある限り……わたくしはあなたとは決して相容れないのでしょう。ならば命ともども、その傲慢を叩き割って差し上げるわ」
 艶やかな紅色に輝くラティファの口唇が、口づけを求めるように差し出された。無論、彼女が求めるものはそんな甘やかなものではない。芳しい彼女の息吹が生み出すものは、夜の風を固めたかのような漆黒の炎だ。それは嵐となって、狸火の豪雨とぶつかり合い、喰らい合う。
「すごい熱風。ラティファちゃんたら、あたしたちまで火傷をしてしまいそうだわ」
 ラティファと大妖狸との炎合戦にわずかに気圧された花剣・耀子だったが、すぐに気を取り直して愛刀を構え直す。彼女は大火が去った直後の陽炎が揺らめく戦場を駆け抜けて、真正面から大妖狸へと立ち向かっていく。
 残熱で眼球は痛み、熱風で肺が焼けていく。呼吸も目視も困難だが、元より耀子には不意打ちや搦手を用いるつもりは更々ない。
 ――小細工も呪詛も好きなだけ撒き散らしなさい。あたしはあたしのやり方で征く。弄した策ごと全部、真正面から斬り捨ててあげるわ。
 封印布に包まれたままの刃が、熱気と共に大妖狸の腹を斬った。狸火を相殺されたことで完全に気を取られていた敵は、まさか真正面から次手が来るとは考えていなかったのだろう。防ぐ素振りも見せられぬまま、耀子が次々と手繰る撃剣に怯むのみ。
「……そんな程度では、あたしは砕けないわよ」
 ようよう繰り出された大妖狸の反撃の一手は浅く、耀子にとっては目をつぶってでも避けられるものだ。彼女は敵の攻撃を誘うように大上段に刀を構えると、裂帛の気合と共に大妖狸へと切り込んでいく。
「ご城主殿、それに紗奈姫、私は一つ……いや、二つ謝罪をせねばなりませぬ」
 猟兵たちが波状攻撃を繰り広げるさなか、輪番で紗奈たちの守役を務めていた鞍馬・景正は、美しくも雄々しき女戦士たちの勇姿を見守りながら、城主一家にこうべを垂れた。きょとんとして両親と顔を見合わせた紗奈へ、景正は目を細めながら続けた。
「美しきこの庭園を血で穢してしまったこと。そして、その一端をこれより私が担うこと。その二つの非礼を先んじて謝らせていただきます」
 そんなことを気にする必要はない、とかぶりを振る紗奈と両親たちに言葉を返すことなく一礼をすると、景正は前線より戻ってきた猟兵と入れ替わって大妖狸との戦いに挑んでいく。
 ――人質はもういないとは言え、腐っても敵はオブリビオン。手負いとあらばなおのこと、気を緩めることは出来ない。
 景正は満身創痍の大妖狸を前にして、表情を引き締めた。愛刀をぬらりと鞘から抜くと、眼前の猟兵に意識を向けている大妖狸の横手より斬りかかる。
 剛剣と呼んで差し支えない一太刀だった。先の先を獲られた大妖狸がとっさに防御を試みるものの、景正の剣はそれを許さない。見事な半月の剣筋を描いた切っ先が、大妖狸の体躯を切り捨てる。
 深い裂傷を負った大妖狸の絶叫が庭園に響き渡った。それは痛みと、恐れと、そして怒りに震える魂の雄叫びだった。
 恐れを抱かぬならば、植え付けてやればいい。大妖狸と相対する前、ラティファはそう考えていたが、今となってはその考えを改めていた。
 ――恐れを抱くのならば、その恐れに圧し潰されて骸の海へと還ればいい。
 蠱惑にして猛々しき龍の女は、見る者の邪念を誘う己の肢体に艶めかしく両手を這わせていく。その端麗な指先が過ぎ去ったあとに残されるものは、禍々しき黒き風。全身を覆い尽くした黒風のなかに顕現したものは、暗夜の其れに成りきれない鈍闇色の龍女である。
 真の姿にその身を変えども、ラティファの美貌には一辺の曇もない。妖しく濡れる緑玉の瞳が求めるものは、戦場でしか味わえない秘密の果実だ。
 はなから小器用な戦い方を用いるつもりもない。燃え盛る烈火に何人足りとも立ち向かうことができぬよう、攻めることこそが全てに勝るとラティファは確信する。
 人の身であった頃とは比べ物にならない疾駆を見せて、ラティファは大妖狸へと肉薄した。彼女の姿を目にした獣面は、確かに恐怖のあまり引きつった。
 咄嗟に繰り出された迎撃の一手を難なく払い除けたラティファは、さらに一歩前へ踏み出した。互いの呼気が混じり合うほど身を寄せ合い、互いの瞳のなかに互いの姿を映し合う。
「嗚呼」
 ラティファは甘く香る嘆息を漏らしながら、五振りの刀を片腕で揮った……ように見えた。しかし、それは刀ではない。彼女が用いたものは、龍のそれと化した腕より産まれた五本の龍爪である。
 天下に名を轟かせる銘刀よりもなお鋭い龍爪を以って、ラティファは大妖狸の首筋を掻き裂いてみせた。
 ――ねえ、あなたの喉笛を切ってもよろしくて?
 そんな睦言のようなセリフを囁やこうと思ったときにはすでに遅い。ラティファのアプローチはあまりに情熱的で、そして、少しばかりせっかちだった。
 冬であることを忘れた灼熱の戦場に血の雨が降る。動脈を断たれた大妖狸の首筋から、絶え間なく血が噴き出ている。
 それでもなお、大妖狸は戦意を失っていないらしい。薄汚い血の雨をその身に浴びながら、耀子の青の瞳は戦の熱で滾る心身と反比例して凍えていく。
 倒れぬなら、倒れるまで切り結ぶのみ。魔を滅するためにその身を捧げてきた羅刹の女戦士は、腹の底に残されていた酸素を静かに吐いて、刀の柄をきつく握りしめた。
「いざ尋常に」
 相手がそんな柄ではないことを知りつつも、耀子は霊刀を掲げて立ち向かってくる大妖狸に声掛ける。
 敵がもはや己が刀一本でしか抗う術がないことを、耀子は察していた。窮鼠猫を噛むという言葉を用いるまでもなく、手負いの相手が最も恐るべき存在であることを、彼女は知っている。
 大妖狸の放つ決死の咆哮に、さしもの耀子も瞼が僅かに震えた。しかし、彼女はそれ以上の反応を示さない。玉砂利に切っ先が擦れてしまいそうなほど刀を低く構えた下段の形のまま、耀子は常と変わらず正面より大妖狸へと迫っていく。
「此処に居るのは、あたしだけじゃない」
 大妖狸の剣戟が、耀子の腹の半分を裂いた。返す刀が襲いかかる前に、耀子の揮った刀が大妖狸の胸を、顎を切り裂いた。
 互いの鮮血が空中でかち合い、混ざり合う。湯気立つ血風のなか、大妖狸の刀が耀子の左肩から右腰にかけて骨ごと身体を斬っていく。
 致死の怪我だ。けれど、耀子の瞳の輝きは厳冬の夜空に輝く極星の如く、冴えきっていた。
「ひとり斃せば終わりじゃないのよ」
 ――お生憎様。
 道連れを作ったことに醜い笑みを浮かべた大妖狸の表情が、歪んだ。
 耀子の斬り上げた一刀が、残された大妖狸の片腕を根本から断っていたのだ。彼女はその場に崩れ落ちながら、幽かな笑みを浮かべてみせる。次に骸の海より這い出たその時は、妖狐への恨みではなく、悪鬼羅刹の恐怖を心に刻んで地獄の氷河を渡るがいい。そう、心中で告げて。
「もはや勝負はあった。しかし……」
 景正は、両腕を断たれて得物を取り落とした大妖狸に、注意深く間合いを詰めていく。仮にも相手は一国を陥落せしめた怪物だ。ただ体格に任せて腕力を物にを言わせる単純な相手ではないことも、手合のなかで知っていた。
 もはや霊刀を手にすることも叶わない大妖狸は、地に転がった盃を噛み砕き、太鼓腹に飲み込むなり、呪詛を紡ぎ始めた。それは己の生命そのものを爆焔に変える、死を覚悟した秘術だった。魔術の素養の薄い景正とて、それがどれだけ危険な損害を周囲に及ぼすかは察することができた。
 させるわけにはいかなかった。義を尊ぶ若武者は考えるよりも先に駆け出して、その身を焔に変じていく大妖狸へと組み付いた。彼が構えた愛刀・武州康重が灼熱に炙られて、タタラから産まれた時のように赤熱する。
「この期に及んで是非は問わん……ただどちらが泉下の客となるか、勝負!」
 大妖狸の胸を刀で貫くと、景正は渾身の力を込めて大妖狸の巨躯を押し出していく。業火が彼の身体を焼き焦がすが、地を踏みしめる足は決して止まらない。猛然と突き進む景正の姿はもはや人であることを捨てたかのよう。羅刹という名の戦人の血が、彼にそのような力を与えているのかもしれない。
 やがて景正と大妖狸の動きが止まった。見れば、大妖狸の背が磔台に押し付けられ、突き立った刀がその身の自由を奪っていた。
 皮肉めいたその光景を一顧だにせず、景正はいま再び刀の柄に手を掛けると、渾身の力を以ってそれを斬り上げる。
「――ここで血を流すは狸公、もはや貴様一人だけで良い」
 パッ、と花火が散るように赤黒い血が辺りを染めていく。
 鳩尾から脳天に至るまで真っ二つに割られた大妖狸は断末魔の叫びも上げることも叶わず絶命し、今まさに炸裂せんとしていた爆焔は見る見るうちに輝きを失っていく。
 景正は注意深く大妖狸の亡骸を見下ろしていたが、眼下の相手が真の死を迎えたことを確かめると、刃に纏わりついた血脂を拭い落としてから、刀を鞘に納めた。
 目を瞑り、溜め込んでいた息を長々と吐き出す。
 再び目を開けたときには、景正の藍色の瞳は常の穏やかな色を取り戻していた。


 猟兵たちは、大妖狸による白狐城の支配を見事取り除いた。
 療術の心得がある者たちが手分けして戦で受けた怪我を癒やしていく。紗奈や、避難先から戻ってきた家中の者たち、そればかりか城主夫婦までもが猟兵たちの怪我の手当に甲斐甲斐しく尽くしてくれた。
 滅茶苦茶になっていた城内の後始末も手伝おうとしていた猟兵たちだったが、「さすがに大恩ある皆様方に、そのようなことまではさせられない」と大慌てで城主に止められてしまった。せめて復興だけは自分たちだけの手で。そんな思いを言外に察した猟兵たちはそれ以上無理は言わず、戦の爪痕の大きさに複雑な思いを抱きながら、本丸の庭園を後にするのだった。
 やがて城門を潜り抜けたところで、城門まで見送りに同行していた紗奈が、そのまま別れを告げて立ち去ろうとする面々に追いすがり、深々と頭を下げた。
 そして、戦いに参じた猟兵一人ひとりの顔を確りと見つめながら、感謝の言葉を紡いでいく。
「一駒様。久礼様。天御鏡様。鞍馬様。神埜様。サイード様。花剣様。クラレット様。アルフライラ様。アルムリフ様。都槻様。本当に、本当に、此度はありがとうございました。この御恩を、私は決して忘れません。皆様がいなかったら、きっと私も、父も母も家中の者も……今ごろ命はなかったことでしょう」
 紗奈はそこで一旦言葉を区切った。目尻からぽろぽろと涙の雫が落ちて、冬風に吹かれて散っていく。だが、その表情は晴れやかな笑顔だった。
「いずれまた……春になったら、此の国を訪ねてください! 今度はゴロツキや毒蟲や大狸ではなく、綺麗な桜をご覧にいれますから。せめてもの御礼を、そのときに果たさせてくださいませ……!」
 そう言って、紗奈はもう一度猟兵たちに頭を下げた。再び顔を上げたときには、涙は綺麗に消え失せていた。
 時が来れば、必ずまた寄らせてもらう。猟兵たちは紗奈にそう約束すると、小春日和の陽射しを受ける白狐城を後にした。

 白狐城で繰り広げられたわずか三日の騒乱。
 勇ましき真の侍たる猟兵の活躍は、やがて彼の国で語り継がれ、演じられる戦記物となり、広く人々に親しまれ続けたという。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年02月01日


挿絵イラスト