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帝竜戦役㉒〜きぐるめ! 猟兵さん

#アックス&ウィザーズ #戦争 #帝竜戦役 #群竜大陸

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 拠点へ猟兵を招集したグリモア猟兵、ネルウェザ・イェルドット(彼の娘・f21838)がのそりと一礼する。やけに彼女の動作が鈍い理由は、その姿を見ればすぐに察せた。
 ――着ぐるみだ。
 彼女は何やら、この場では暑そうな程にもっふりとしたクマの着ぐるみを纏っていた。
「皆、任務お疲れ様。ええと……これは別に私が今着る必要は無いのだけれど……まあ、説明の為にね。今回はアックス&ウィザーズ『絶対零度地帯』に向かってもらいたいんだ」
 そう言ってネルウェザはモニターを取り出し、ぽんと大きく映像を映してみせる。
 画面いっぱいに広がるのは先程彼女が告げた戦場。其処は絶対零度の名を冠すに相応しく、見える限りの地面が大きな氷や雪に覆われ、激しい吹雪がこれでもかと吹き荒れていた。
「ここに何の対策も無く突っ込めば、当然身体の芯まで凍り付いて大変なことになってしまう。とはいえ、それは敵も同じでね」
 続いて画面に映るのは人影――いや、人ではない。

 全体的にはサメのような姿。しかしそのヒレがある筈の位置には赤黒く染まった蟹の鋏が生えており、魚類と言うには人らしい――それこそ目の前に立つグリモア猟兵のように『着ぐるみを着た人』のような動きで氷の上をもぞもぞと歩いていた。
「これはオブリビオン『ハッピー工房』。着ぐるみ職人達が着ぐるみ道の高みを目指すあまり、魔法に手を出して変異した末路だ。彼等はこの地で絶滅した獣『不凍熊』の毛皮で着ぐるみを作り、今も着ぐるみの技術を高めようとしている。……それだけなら是非どうぞお好きなようにやってくれ、とは思うのだけれど……オブリビオンだからねぇ。皆には彼等の討伐、そしてこの地の突破をお願いしたいんだ」

 ネルウェザはぽふ、と自身が纏う着ぐるみの胸を軽く叩いて続ける。
「先程言ったように、ここに何の対策もなく突っ込むのは危険だ。そこで、皆にはこのオブリビオン達が作り上げた着ぐるみを借りて動いてもらおうと思う」
 その言葉の後、モニターの画面が切り替わる。大地を覆う巨大な氷、その中にだんだんとズームしていけば――そこには、大小も種類も様々な着ぐるみが封じられていた。
「オブリビオンとはいえ彼等も職人。皆の身体や趣味に合うものはきっとあるだろうし、氷や雪を弾く機能も備え付けられている筈だ。あちらに着いたら氷の中から一つ着ぐるみを拝借して、オブリビオン退治に向かってくれ」

 そこまでを説明し終え、ネルウェザはふわとグリモアを浮かべる。
「ああ、そうそう。氷の中の着ぐるみにも不凍熊の毛皮が使われているんだ。これは寒さに強い反面、温かい場所では使い物にならないどころか溶けてしまう。だから着ぐるみをそのまま持ち帰ることは出来ない……けれど、溶け残る毛皮の切れ端だけでもおよそ金貨百十六枚分の価値になる。是非持ち帰ってくると良いよ」

 それでは、とネルウェザがグリモアの光を強めれば、猟兵達はアックス&ウィザーズの世界へと送られて行くのであった。



 氷、氷、氷。どこを見ても凍り付いた大地や岩ばかり。
 猟兵達が『絶対零度地帯』を少し歩けば、すぐに何者かの声が聞こえてきた。
「ちがぁぁぁーーーーーう!!!」
「これもちがぁぁぁーーーーーう!!!!」
「あっこれはちょっといいかもしれな……ちがぁぁぁーーーーーう!!!!」

 気難しい職人のように、着ぐるみを作っては捨て、作っては捨てを繰り返すオブリビオン『ハッピー工房』。彼等は未だ猟兵の姿に気づいてはおらず、着ぐるみ作りに集中しているようであった。

 ふと周囲の氷を見れば、先程説明された通り沢山の着ぐるみが埋まっている。
 クマにウサギといった動物のもの、何の生物か予想もつかないもの、彼等と同じようなサメのものまで。
 今の内にこの中から着ぐるみを拝借し、『絶対零度地帯』の寒さを凌がなければ。


みかろっと
 こんにちは、みかろっとと申します。
 今回はアックス&ウィザーズ『絶対零度地帯』での戦いです。
 こちらは集団戦一章のみの戦争シナリオとなります。

 この戦場では滅茶苦茶寒い中で動く為『着ぐるみ』を使用して頂きます。
 着ぐるみそのもののお持ち帰りは出来ません。ただし戦闘後捨てて帰るなどの特殊な行動が無い限り、着ぐるみを使った皆様は原材料である『不凍熊の毛皮』の切れ端を手に入れることが出来ます。金貨百十六枚相当のお宝ですので是非捨てずにお持ち帰りください。

 プレイングお待ちしております!
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第1章 集団戦 『ハッピー工房』

POW   :    最後の大仕事
自身の【手取りと心臓】を代償に、【召喚した愛する部下達と流れの職人】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【敵をも魅了する着ぐるみ】で戦う。
SPD   :    最低の仕事
全身を【部下を代償に作った最高傑作のサメ着ぐるみ】で覆い、自身の【工房への愛と研鑽に費やした年月】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
WIZ   :    閉鎖する工房、ワンマン・オペレーション
非戦闘行為に没頭している間、自身の【雇用者および周囲】が【ストライキを起こし】、外部からの攻撃を遮断し、生命維持も不要になる。

イラスト:まめのきなこ

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

早乙女・龍破
・着ぐるみについて
着ぐるみは確かにこの極寒ならば暖かそう
しかしオブリビオンの作った物を利用しなければならないとは因果なものですね
死しても取りつかれている彼らの職人魂を解放しなければ
さて私はこのクマを…そのままでは角が出てしまいますので子熊を繋げてさせて頂きますか

・戦闘について
確かに部下たちとその着ぐるみは魅力的ですが…此方も同じものを着込んでいるのだから負けてはいません
着ぐるみの手足や背中を裂く様に切りつけ冷気で動きを鈍らせられないか狙いましょう
空飛ぶサメ着ぐるみは巻き込まれてこちらの着ぐるみを裂かれる事の無いように立ち回り、纏まった所では無数の気魂の刃を放ち仕掛けます

●その他
アレンジ歓迎



 全てが凍てつく極寒の地にて、するりと流れるように黒髪が靡く。
 着ぐるみの埋まった氷の前、早乙女・龍破(流れること川の如き・f00182)は少々それを取り出すのを躊躇うような様子で頤に触れていた。
「確かに暖かそうですが……しかし。オブリビオンの作った着ぐるみ、ですか」
 そう考えれば、気はあまり進まない。それでもこの極寒を耐えるため、そして――死して尚『ハッピー工房』達に取り付いている職人魂を解放するための手段と思えば致し方ないだろう。
「さて、私はこれを……」
 龍破は目の前の氷をひとつ斬り付け、もふりと落ちてきた着ぐるみを手で抱える。彼が選んだのは素材となった獣と同じ、クマの着ぐるみであった。
 身体をふわふわのクマボディに収め、長い髪を軽く纏めて。
 龍破は最後にクマの頭を深く被――るも、その瞬間ばつっ!! と着ぐるみの頭が彼の角に貫かれてしまった。
 角のあるクマ、と思えば神獣や幻獣の類として少年心を擽りそうなものだが、しかし着ぐるみとしては少し危険だ。自らの角が突き出していることに気づいた龍破はくるりと周囲を見渡すと、近くに落ちていた小さな子熊の着ぐるみを拾い上げる。
 子供用というより、フェアリーやケットシー用にも思える大きさ。長身の羅刹が着るには小さすぎるが――頭に乗せるには自然で丁度良い小ささだった。

 そして、愛らしい子連れクマと化した龍破はオブリビオンの元へ向かう。
 違う、これも違うと叫ぶサメぐるみ達の後ろへ近づき、彼はもっふりとした腕で刀を握った。

「――っ」
 無防備な背へ放たれる、柔らかな生地を裂くには十分過ぎる一撃。
 直後、サメがぱっくりと大きくその身を開かれれば――中に見えたのは、これでもかと詰められた綿と『人の背中』。
 その衝撃で龍破に気づいたサメはぐるりと振り向き、そして目を見開いて叫んだ。
「み、見たなぁぁッ!!! 着ぐるみの見てはいけない部分を……見たなぁぁぁ!!!!!」
 サメは突如、ずぼっ!! と自らの胸に蟹鋏を突き刺す。
「見られてしまったら……こうするしかぁぁぁ!!!」
 そして勢いよく取り出されたのは――十数枚の札束と、高く飛び散る赤い液体。それらが吹雪に当たって凍ると同時、サメの周囲には三体の子サメが姿を現した。
「私の分まで……頼んだぞ、お前たち……」
 ばたり、何やら感動の別れを演出するようにサメが倒れる。すると現れたサメ達はぶわわぁっと涙を流し、龍破の方へ駆け出した。
「うぉぉぉぉぉーーーーッ!!!!」

「……」
 訝しげに彼等の寸劇を眺め、龍破は刀を構え直す。もふもふとその柔らかさを示して揺れるサメのヒレ、少しデフォルメされた顔は魅力的ではあったが――龍破が纏うクマぐるみだって負けてはいない。寧ろ、彼の仲睦まじい親子のようなクマぐるみのほうが愛らしい位だろう。
 惑わされること無く、龍破が踏み込んで一閃。
 正面から向かってきたサメの腹やヒレ、そして後ろへ回り込んで背を裂けば。
「ひゅぉっ!!?」
 ぶるりとサメ達――着ぐるみの中にいたハッピー工房の『部下』達が身を震わせる。着ぐるみの傷から入り込んで来る冷気に彼等が悲鳴を上げ、どうにか暖をとろうと身を寄せる中。

 龍破は暖かな着ぐるみの中で、ユーベルコード『冽破裂空烈斬』を発動していた。
「空を裂き、竜巻の如く、暴飈の如く荒れ狂う冽い気魂の刃……受けてみなさい!」
 サメ達に一歩近づき、大きく身体を回して。力を纏った刃を勢いよく振るえば、その瞬間凄まじい数の『気魂の刃』が放たれる。
 吹き荒れる吹雪すらも巻き込んだそれは一斉にサメ達を襲い――着ぐるみの中身ごと、微塵に斬り裂き消し去ってしまった。

「ぐ……ぅぅっ」
 部下のサメ達が消えると同時、彼等を呼んだサメもがくりと意識を失う。
 崩れるように骸の海へと還っていく『ハッピー工房』の姿を見届け、龍破はゆっくりと刀を収めるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セルマ・エンフィールド
まだこちらに気付いてはいないようで。このままこっそりと……と思いましたが、私も寒さには強い(氷結耐性)とはいえ、ゆっくりしていると凍りそうですね。

手近な自分のサイズに合ったきぐるみが入った氷をフィンブルヴェトの銃撃で破壊、召喚された敵がこちらに来る前に着替えます。
デザインは……何かに影響するわけでもなし、なんでもいいでしょう。(MSにお任せ)

着ぐるみに着替え終わったらフィンブルヴェトを核に【氷晶の巨人】を作成、片手で私を抱えさせた状態でその巨体で暴れさせ、私は巨人の援護射撃を。
ふむ。元が氷ですし、やはりこの気候だと調子がいいですね……これなら私が着ぐるみで動きづらいくらいは問題なさそうです。



 未だ、作業に夢中のハッピー工房は猟兵の姿に気づいていない。ならばこのままこっそりと――そうセルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)が武器を手に取ろうとするが、しかし。
 幾ら寒さに強い彼女でも『絶対零度』の名を冠するこの地の冷気に長く当てられていれば、何れは凍り付いてしまうことだろう。それを察したセルマは近くの氷をふと見遣ると、そちらに狙いを定めてフィンブルヴェトの引き金に触れた。
 彼女が狙うはこの地の寒さを凌ぎ、動くための『着ぐるみ』。
 情報通りなら、あれは持ち帰ればごく僅かな切れ端を残して溶けてしまうものだ。それにサイズさえ間違えなければ、オブリビオンとはいえ『職人』の手によって作られているものの性能に大きな差があるとは考えにくい。
 故に彼女はこだわらない。この一発の銃弾で落ちたひとつを着るだけだ。

 タンッ、と吹雪に紛れた銃声の後、氷が砕けて着ぐるみが解き放たれる。己の背丈と着ぐるみの大きさにそう差が無いことを確認し、セルマは素早くその着ぐるみの中へと入った。
「……こんなものでしょうか」
 のそり、と立ち上がるのは――ややデフォルメの施された、白い狼の着ぐるみ。
 そのまま、ぐ、ぱ、と毛と肉球に包まれた手を握って開いてみる。素手のとき程の精密な動作は難しいが、辛うじて銃を扱うことはできそうだ。

 これで良し、と着ぐるみの可動部や性能を確認し終えたセルマはフィンブルヴェトをそっと手に取る。彼女が着ぐるみ越しに力を伝わせ、ユーベルコードを発動すれば――銃は『氷晶の巨人』へと姿を変えた。
 その体躯はセルマのおよそ三倍。それが地に立った衝撃もあってかサメ達はこちらに気づき、ぎょろりと目玉を動かして騒ぎ始めていた。
 そんな中巨人は重い膝をつき、狼姿の主人を片手でゆっくりと抱える。
「……行きましょう。存分に戦って下さい」
 セルマがわやわやと声を上げて近づいてくるサメを指し、そう巨人に命じれば。

「――」
 巨人は鈍く、しかし大きな動きで一歩踏み出す。
 そして足元のサメ達を見下ろし――ガゴン!! と一撃、重い拳を振り下ろした。
「ぎゃーーーーっ!!!」
「な、仲間だ! 仲間を呼んで戦え!!!」
 慌てたサメ達がそう口々に叫ぶ中、巨人は更に一撃、もう一撃と重く巨大な打撃を繰り出していく。辛うじてそれを躱したサメが胸を撫で下ろした瞬間、次は彼等を無数の銃弾が襲った。
「ひぃぃぃっ!?」
 増えながら逃げるサメ達を襲うのは――巨人の主、短銃を手にした狼姿のセルマ。着ぐるみを纏っても尚その銃撃の精度は衰えず、寧ろサメを逃さないどころか彼等の急所のみを撃ち抜き続けていた。
「やはりこの気候だと調子がいいですね……」
 セルマはぽつりとそう零しながら、次々にサメの眉間や首元を確実に捉えていく。

 騒ぎ声がすっかり悲鳴に変わり、増えたサメもその姿を消した頃。セルマは暴れる巨人の上で、静かに手元の銃に弾丸を込めた。
 ――ダンッ!!
「ぐは……っ!!」
 最後のサメが胸の中央を撃ち抜かれ、ばたりと倒れて消えていく。
 サメ達の居なくなった戦場で、セルマは巨人を銃に戻しふっと息をつくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セゲル・スヴェアボルグ
着ぐるみのようななりで着ぐるみを着るというのも変な話だが……
そもそも俺が着られるようなものがあるのか?
まぁ、俺自身と似たような形状の物があればいけなくもないか。
脱げるかどうかは知らん。
群竜大陸なら、ドラゴンっぽいものは一つぐらいはあるだろう。

さて、とりあえず斧で一発適当にぶち込むか。
ブリザードで吹き飛ばすとまではいかないだろうが、視界を遮ることはできるだろう。
魅了も何も、見えなければどうということはないな。
その隙に上空へ……と行きたいところではあるが、着ぐるみだとそうもいかんか。
……走るか。
後ろに回り込んだら、ハンマー投げの要領で斧をぶん投げる。
今度は直接叩き込んでやるとしよう。



 巨大な氷の前にて、その中に埋まる着ぐるみを眺めるセゲル・スヴェアボルグ(豪放磊落・f00533)。竜寄りの姿を取る彼の外見は既に着ぐるみらしいと言えばらしく、その上から着ぐるみを着るとなればかなりの大きさが必要になるだろう。
 しかし――オブリビオンとはいえ、彼等も職人ということだろうか。
 氷に沿って歩いていたセゲルの足がぴたと止まる。分厚い氷の奥深く、寒いこの地でいっそう冷たく感じるような暗さの中に『それ』はあった。

 鮮やかな青の鱗をもつ、ドラゴンの着ぐるみ。丁度セゲルをデフォルメしたようなデザインのそれは、体格の良い竜派ドラゴニアンが着ても十分動ける大きさだ。
「あれならいけなくもないか……脱げるかどうかは知らんが」
 呟き、セゲルは目の前の氷へ斧を思い切り叩きつける。
 ――ゴンッ!! と重い衝撃音のあとに氷が見事割れれば、中にあったドラゴンぐるみがどさりと彼の足元に落ちた。
 どの道、持ち帰れば原型を留められずに溶けてしまうのだ。最悪引きちぎって脱ぐというのも手だろう。セゲルは身体が冷え切らぬ内に何とか着ぐるみに身体を収め、ふわふわの頭部をすっぽりと被る。
 つぶらな瞳のふわふわドラゴン、そんな子供が喜びそうな見た目で錨斧を担ぎ、彼はそのままオブリビオンの元へ向かっていった。

 ――とりあえず一発、適当にぶち込むか。
 ずんっ、と重い足音が響く。
「!!!」
 オブリビオン『ハッピー工房』のサメ達が気づき、一斉に振り向いた――瞬間、彼等の足元が突如大きく抉られた。
「なんッ……!!?」
 彼等は状況を理解する前に、轟く吹雪の中へと閉じ込められる。自慢の着ぐるみも見えない程濃く強く吹き荒れる暴風と暴雪の中、サメ達はぎゃあぎゃあと喚いて仲間と声を掛け合っていた。
 最早セゲルの姿に気づく者などいない。
 この隙に、とセゲルは上空を見上げ、背の翼を広げ――ようとするが、しかし。
 普段の彼の立派な竜翼なら、荒天だろうと飛行は容易かっただろう。だが今のもふもふの着ぐるみに包まれた翼となれば話は別だ。
 セゲルは着ぐるみの中で、仕方ないと言わんばかりに小さく息をついて。
「……走るか」
 何やら騒ぎ声が増えて煩くなった吹雪の中心を目で捉えたまま、セゲルはぐるりと大きく旋回する。そして――携えた斧を確りと握り、強く踏み込んで振りかぶった。

 セゲルの手を離れた斧はユーベルコードの力を纏い、騒ぐサメ達の無防備な腹部へと一直線に向かう。
 それは暴風の如き――『狂飆の王』の一撃。
 いつの間にか数を増やして群れていたサメ達は、勢いよくその斧の衝撃に巻き込まれ、柔らかい着ぐるみを派手に散らしてしまう。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
 そのまま刃が着ぐるみの『中身』までを裂けば、彼等は断末魔を上げて骸の海へと還っていった。

 静寂を取り戻した戦場にて、セゲルは帰路につきながら着ぐるみを脱ごうと手を動かす。
 だが――きつい。結構きつい。
 拠点に戻れば溶けて脱げるだろう。彼はそう信じつつ、斧を収めて戦場を後にするのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ティエル・ティエリエル
WIZで判定

現地に着いたらさっそく着ぐるみをがさごそ漁って気に入るのがないか物色!
むむむ、このペンギンさんのが気に入ったよ!
皇帝ペンギンじゃなくお姫様ペンギン爆誕だよ♪

着ぐるみ作り、非戦闘行為に没頭してるのを見つけたら
小さな体を利用してストライキしてる周囲をすり抜けて接近
周りで叫んだり生地を「怪力lで引っ張ったりして着ぐるみ作りを邪魔しちゃえ♪

相手が怒って攻撃してきたらこっちの攻撃も通じるよね!
【お姫様ペネトレイト】のお姫様オーラでダメージを軽減、ペンギンさんが地面を滑る動きを真似してレイピアを構えて体当たりだよ☆



 砕けた氷の中、山積みになった着ぐるみがわさわさと吹雪に揺れる。
 否――吹雪のせいだけではない。ふわふわの山を漁り揺らしていたのは、猟兵ティエル・ティエリエル(おてんば妖精姫・f01244)であった。
 猫や犬、ドラゴンやサメといった数多のデザインの中、彼女はむむむ! と目を輝かせて小さめの着ぐるみを掴む。小さな妖精姫にぴったりな大きさのそれは――可愛らしいペンギンの形をしていた。
 それが気に入ったようで、彼女はぱぱっとペンギンぐるみに潜り込む。サイズ同様フェアリー用ということだろうか、ペンギンの背はぴょこりと羽を出せる造りになっていた。
「皇帝ペンギンじゃなくお姫様ペンギン、爆誕だよ♪」
 ふわっ、とペンギン姿で宙に浮き、ティエルは明るく台詞を決めてみる。着ぐるみの中はかなり暖かく、彼女が元気に動くには十分過ぎる程だった。

 そして――早速、オブリビオンの方へと向かえば。
「賃金あげろ!! 休日よこせ!!」
「人事は何してんだー!!!」
 見えるのは、そんな世知辛い掛け声を上げるサメの着ぐるみ達の姿。中心で黙々と作業をしているサメがこの集団のボスのようだが、周囲のサメが邪魔で近づくのは難しそうだ。
 ――あのサメ達と同じ体躯であれば、の話だが。

「よーし、突撃っ☆」
 ふわり、とティエルが小さく羽撃けば、彼女の体は吹雪の風に乗って勢いよくサメ達の間へと滑り込んでいく。難なく中心に辿り着いた彼女はふわふわサメの視界で舞い、集中力を途切れさせようとペンギンの羽をぱたぱたと動かしてみた。
「…………」
 サメは苛立つ様子を見せながらも、どうにか手元に視線を集中させる。しかしティエルは諦めず、着ぐるみを縫うサメの周りをくるくると飛び回りながら大きく息を吸い込んだ。
「わーわー! 皆のお願い聞かないとこうだよー!!」
 そう言って、ぐいっと。
 ティエルはその小さな体からは想像もつかないような力で、サメが針を通そうとしていた布を思い切り引っ張る。彼女は布を掴んだまま、そのままぐるりとサメの後ろへと飛んだ。
「……な、何すんだこらぁぁぁぁ!!!!」
 作業を邪魔され、思わずサメが立ち上がる。彼が持っていた針を投げ捨て、真っ赤な蟹の鋏を振り上げた瞬間――ティエルはぱっと布を手放し、レイピアを構えてサメに向き直った。

「喰らえこらぁぁぁぁ!!!」
 蟹の鋏がティエルの胴に叩き込まれる。
 しかしその衝撃は不思議な力――彼女のユーベルコード『お姫様ペネトレイト』が纏わせるオーラに遮られ、ティエルに届かぬままぽんと弾かれてしまった。
「そんな攻撃なんて効かないもんね♪」
 お返しに、とティエルはレイピアの切っ先を確りとサメの腹に向ける。
 まるでペンギンが氷の上を滑るように、うつ伏せで勢いよく直進すれば――レイピアは澄んだ高い音を立て、サメの腹を貫いた。
「ぐぇっ……!!!」

 その瞬間、周囲のサメ達もぶるりと身を震わせる。ティエルが貫いたサメが崩れるように骸の海へと還っていけば、騒いでいたサメ達も同じように姿を消していくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ガルディエ・ワールレイド
視界不良、関節部の制限、重量etcの問題点は普段の全身鎧で慣れている
着ぐるみでも大きな問題は無いだろう

……くらいの気持ちで着てみたが……
なんか想像より快適だな
流石の職人技だ……やるなお前達
まぁ倒すんだが
(ずんぐりとしたデフォルメドラゴンの着ぐるみ装備)

◆戦闘
先ずは最優先で着ぐるみ入手
賑やかにやっている横で忍び寄って、こっそり頂くか

【黒竜の騎士】使用
気ぐるみでは上手く武器が持てねぇ……シンプルに行くか
《ダッシュ/怪力》を活かした身体能力で敵を粉砕するぜ。
戦っている内に習熟してきて《限界突破》し、着ぐるみ戦闘術のレベルアップだ。
(見た目は可愛らしいが、本当にシャレにならないパワーで敵を殴り飛ばす)



 ハッピー工房が次々に着ぐるみを縫う中、その横をガルディエ・ワールレイド(黒竜の騎士・f11085)が通り抜ける。かなり集中しているのかガルディエに気づいて騒ぐものはおらず、彼は容易く着ぐるみの埋まった氷の元まで辿り着くことが出来た。

 音を立てぬよう氷を割り、彼が取り出すのはドラゴンをモチーフにした着ぐるみ。
 鱗や角はふわっとデフォルメされ、その見た目通りかなり柔らかい。全体的にずんぐりとしたそのボディに潜り込み、もぞりとガルディエが腕や足を通していけば――何ともゆるいドラゴンが姿を現した。

 頭部を布地に覆われることで生じる視界不良、膨らんだ腕や足の動き難さ。綿や毛皮とはいえ普段よりもずっしりと体にのしかかる重力――その他諸々。そういった不便さは全身鎧で慣れている。着ぐるみを纏ったところで、まともに動けない程の制限にはならないだろう。
「(……くらいの気持ちで着てみたが……)」
 ――想像していたより快適だ。
 この極寒の所為もあるだろうが、着ぐるみの中で感じる暖かさ、そして綿の柔らかさは格別だった。縫い目や布の端が肌を引っ掻くことも、継ぎ目から冷気が入って来ることもなく、ただただふんわりとしていて着心地が良い。
「流石の職人技だ……やるなお前達」
 向こうでわやわやと着ぐるみ製作に取り組むサメ達を見遣り、ガルディエは感嘆のため息を混ぜて呟く。今この地で凍り付くこと無く立てているのも、ある意味では彼等のお陰かもしれない。それでいて着心地まで良いのだから、少し褒めるくらいは良いだろう。
「……まぁ倒すんだが」

 そう。良い腕を持った職人とはいえ、あれはオブリビオンなのだ。
 ガルディエは魔剣を構え、サメ達の方へ踏み出そうとする。――が、しかし。
「っと……」
 膨らんだ丸っこい腕で剣を握るのは、かなり至難の技であった。慣れているとはいえ、着ぐるみの柔らかさは鎧よりも不規則に関節の動きを阻害してくる。この状態で技を活かす戦闘は少し危険かもしれない。
「……シンプルに行くか」
 ガルディエは綿を握り潰すように、単純な力で剣を確りと掴む。
 ――その身に纏うは、ユーベルコード『黒竜の騎士』の力。
 ドラゴンのつぶらな瞳の下、ガルディエはその目でサメぐるみ集団の中心を捉え、駆け出した。

 ――バゴッ!!! と強く地を蹴った瞬間、ガルディエは一直線にサメ達のど真ん中へ突進していく。凄まじい勢いで接近したゆるいドラゴンの姿に、サメ達はぎょっと目を見開き作業を止めた。
「!? ……おい、全員仲間を――」
 彼等が何か合図を送り合う最中、その中心にてガルディエはブレーキをかけるように強く足を踏み込む。そのまま魔剣を思い切り真横に振り抜けば、すぐ傍にいたサメが胴を裂かれて高く吹っ飛んでいった。
「ぐぁッ……!!?」
 更に一歩踏み込んで、もう一撃。嵐の如き斬撃と衝撃の数々が襲う中、サメ達はわあぎゃあと大きく騒いで手元を動かしていた。
「部下を……部下を呼べぇぇっ!!」
 しかし――もう遅い。
 着ぐるみの動き難さを克服し、ガルディエの速度はみるみる内に増していく。サメの腹を裂く魔剣の軌道、間隔、勢いの全てがレベルを上げ、残るサメを逃すまいと追っていき――そして。

 可愛らしいゆるドラゴンの腕は、最後のサメを捉えた。
「これが俺の全力……いや、全力を超えた、その先だ!!!」
 その拳がサメの頬にめり込んだ瞬間。
 洒落にならない程の凄まじい力で、ガルディエはサメを高く殴り飛ばす。

 そのまま思い切り拳を振り抜けば――サメは宙でがくりと意識を失って、骸の海へと還って行くのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オスカー・ローレスト
……こ、コート着ても、やっぱり、寒い、な……

……あの、赤黒い、鋏……あの、赤って……まさか、血、とかじゃ……ぴぇ(寒さ以外の原因で震える小雀

……と、とりあえず、寒さ、なんとかしないと、だよね……
着ぐるみ……俺、チビだから……小さめのサイズの、ある、かな……できれば、小鳥、モチーフ、の……(色々迷いながら
……ネクタイみたいな模様が胸にある……この子に、しよう……名前にも雀が入ってるから……ちょっと親近感が(四十雀の着ぐるみを選ぶ

着ぐるみを無事手に入れたら……敵が着ぐるみ作りに夢中になってる隙に、【目立たない】ように気配を殺して……背後から【切実なる願いの矢】で、強化される前に、【暗殺】する、よ。



 凍てつく暴風に煽られる黒い影がひとつ。
 オスカー・ローレスト(小さくとも奮う者・f19434)はふくら雀の如くしっかりとコートを着込み、それでも尚ぶるりと震えながら氷の上を歩いていた。
「や、やっぱり、寒い、な……」
 そう呟く唇すらも凍り付いてしまいそうな、絶対零度の冷気がオスカーを襲う。あまりの寒さにコートの襟をぎゅうと押さえて進む中、彼は――ふと、向こうにもぞもぞと動く影に気づいた。
「……?」
 吹雪で霞む視界を絞り、何やら聞こえてくる声に耳を澄ませれば。
「これが最高傑作!! やはり材料は毛皮だけじゃあいかんな!!」
 誇らしげにそう宣うのはオブリビオン『ハッピー工房』。
 最高傑作と聞こえた通り、そのサメが掲げている着ぐるみはかなり精巧なホホジロザメの姿をしており、周囲のサメ達もそれを称賛するようにわいわいと騒いでいた。

 ――が、何よりもオスカーの目を引いたのは。
 ある者は拍手のように打ち鳴らし、またある者は自作らしき着ぐるみを広げて自慢するその『手』。本来サメのヒレがあるであろうそこに生えた、赤黒い蟹の鋏だった。
「……あの、赤って……まさか」
 怯える小雀がそう呟いた声が聞こえたのか否か。
 サメ達はぎらりとそれを光らせながら、へっへっと笑って口を開く。
「この鋏も最初は只の鋏だったのになぁ」
「すっかり真っ赤に染まっちまって……――着ぐるみになった奴らの血でな!!!!!」
「ぴぇっ……」
 オスカーは思わず声を漏らす。幸い彼等は着ぐるみ作りとその出来映えを眺めるのに夢中のようであったが――オスカーはこの地の寒さとはまた別の原因にぴるぴると震え、そしてやや急ぎ足で着ぐるみの埋まった氷の方へと向かった。

「……と、とりあえず、着ぐるみ、探さないと……」
 ショーケースのように様々な着ぐるみの封じられた氷をあちこち眺めつつ、オスカーはまず自分の背丈に合ったものを探す。
 自身が小柄だと自覚する彼が目星を付けた着ぐるみは、成人男性サイズというより――タグこそ無いものの、成長期の男子向けに見えるサイズだ。
 そのサイズ故か、並ぶのはファンシーな動物モチーフが多い。寒さに震えながら色々迷っている内に、オスカーはふとひとつの着ぐるみの前で立ち止まった。

 黒の嘴に白の頬、胸を彩るネクタイのような黒線といった特徴を残しつつ、ふんわりとデフォルメされたデザイン。
 かの侍の国ではその名に同じ字が入る通り、体躯や暮らしも『雀』に近い小鳥――四十雀。
「よ、よし……この子に、しよう……」
 少し親近感を覚えつつ、オスカーはその着ぐるみを取り出してもぞもぞと潜り込んでみる。
 柔らかな布地が身体にぴったりとフィットすれば、途端にコートとは比べ物にならない暖かさが彼を包んだ。

 震えの止まった身体を一度軽く伸ばし、オスカーは先程見かけたオブリビオン達の元へ歩いていく。もきゅもきゅと動くその姿は生まれたての雛のようであったが、着ぐるみを着ているのだから仕方のないことだ。
 それに――敵も、今まさに『最高傑作』の着ぐるみをサメ着ぐるみの上から纏おうと、稚魚より鈍い動きで苦戦しているところであった。
 オスカーは蟹鋏の一件を思い出してぴゅっと小さく震えるも、どうにか冷静に弓銃を構えて狙いを定める。
「い、今の内、に……!」
 無防備な背を確かに視界の中心に捉え、やや動きの鈍る指先に力を込めて。
 この吹雪の中でも他の生き物や猟兵に当たることのないよう、強く祈りを込めて――放つは、『切実なる願いの矢』。
 ――ひゅっ、と微かな音が空気を割る。
「……!!? ……な、何……がっ」
 ばたり。サメは半ば着ぐるみに身体を埋めたまま力なく倒れる。周囲の仲間が気づく前にオスカーは再び矢を番え、氷の影から一発、ニ発と放ち続けた。

 そして――サメ達が完全に沈黙した頃。
 オスカーは着ぐるみの中でもぞもぞと弓銃を収めて踵を返す。ふと氷に映る自分の姿を見遣りながら、彼はふっと白い息を吐いて帰路につくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

緋月・透乃
寒さにはそれなりに強いつもりだったけれどここは本当に寒いね……ささっときぐるみ着てささっと倒してしまおう!
それにしてもオブリビオンはなんでこんなところできぐるみ作ろうと思ったのかなぁ?毛皮見つけるまでは寒さで手がかじかんでやりにくそうなのに……ハサミだからいいのかなぁ?

きぐるみはうさぎ、できれば垂れ耳のやつがいいね。
そして武器はシンカーキャロットを使うとこでにんじん振り回すうさぎになっていい感じじゃないかな!

戦闘方法は火迅滅墜焼で炎を纏ったシンカーキャロットを振り回して近付かずに攻撃していくよ!毛皮を熱で溶かしつつの打撃だね。
近づかなければ魅了もされにくいんじゃないかな。



 絶対零度地帯。その名は決して大袈裟ではなく、凄まじい暴風と豪雪で訪れる者を襲う。
 寒さにはそれなりの耐性があると自負していた緋月・透乃(もぐもぐ好戦娘・f02760)も、この猛吹雪には耐え続けられそうになかった。
「……着ぐるみは……あっちだね!」
 ひとつの氷塊に目星を付け、透乃はささっとそちらへ向かう。
 様々な着ぐるみが埋まった氷の前で目線を動かしつつ、彼女はふと遠くで騒ぐオブリビオン『ハッピー工房』の姿を見遣って首を傾げた。
 何故、態々こんな寒い土地で着ぐるみを作っているのか。不凍熊の毛皮という最高の防寒素材があるとはいえ、それを手に入れ纏うまでは手が悴んでしまう筈だ。この極寒の地は、裁縫という細かい作業をやるには危険かつやり難い環境と言えるだろう。

 不思議そうに透乃が視線を送り続けていると――突如。
「うぉぁぁっ!?」
 サメはびくっと体を震わせ、右の鋏を左の鋏で押さえて声を上げる。どうやら針で刺したか引っ掻いたらしく、サメはそのまま暫く痛そうにぷるぷる震えていた。
「うう、これも修行……着ぐるみの高みを目指すための、修行!!!」
 ――要は職人として腕を上げるために、態々やり難い場所で作っているということだろう。

 謎がひとつ解けた透乃は氷に視線を戻し、着ぐるみを選んでいく。戦闘用にと持ってきたシンカーキャロット――重く巨大かつ頑丈なにんじんを見れば、直後彼女の視線はひとつの着ぐるみに向いた。
 手早く氷の中からそれを取り出し、もぞりと体を埋めて手足を入れていく。
 透乃はふわふわの布地の暖かさを感じつつ、武器を携えてむくりと立ち上がった。
「うん、いい感じじゃないかな!」
 完成したのはファンシーにデフォルメされた、垂れ耳の可愛らしいうさぎ。武器のにんじんがよく似合うその姿で、彼女は早速オブリビオンの方へと向かっていった。



 もふもふもふ、と氷の上を駆けるうさぎ。ハッピー工房はそれに気づいて身構えると、自身の胸からばらりと札束のようなものを取り出して大きく口を開く。
「さぁ行け、私の部下ぁーーーー!!!!」
 その瞬間現れるのは、ハッピー工房より一回り小さな五体のサメ。けたたましい雄叫びを上げて駆け出した彼等は、ハッピー工房と同じ蟹鋏を振り回して暴れ始めた。

 対するうさぎ――着ぐるみを着た透乃はユーベルコードを発動して応戦する。ふわふわの手で握ったにんじんに力を込めれば、巨大な桃色の炎がごうと唸った。
「燃え上がれ私の魂! あいつの全てを焼き尽くせー!」
 一歩踏み込み――勢いよく振り回す。
 『火迅滅墜焼』の炎はその源であるにんじんから素早く伸び、サメ達を囲んで轟いた。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!!!?????」
 サメ達が素っ頓狂な声を上げる中、彼等の姿は吹雪と炎で完全に透乃の視界から消える。
 ハッピー工房ご自慢の着ぐるみも、見えなければ只の燃えやすい布と綿。それどころか熱に弱い毛皮でできた着ぐるみでは――この攻撃を防ぐことなどできない。

 そのまま透乃が炎を強め、にんじんを大きく振りかぶれば。
「――桃火の一撃、火迅滅墜焼!!」
 ゴォォッ!!! と激しく炎が膨らみ、煌々と輝き出す。
 凍てつく冷気の中で熱く熱く燃え上がった炎はハッピー工房ごとサメ達を呑み込み――塵一つ残さず、彼等を骸の海へと還すのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フェドーシヤ・ロゼストベンスカヤ
(6801人のさめぐるみ軍団)
はい、ぜんたーい、とまれ。
さくせんがいよー。あいつはワンマンやってる間外部からの攻撃がきかないのだわ。
よってコサック達はアイツの着ぐるみづくりを一時的に手伝う事。
仕事が終わり次第確保。いじょう。

かかれー。



「はい、ぜんたーい、とまれ」
 その掛け声と同時、ざっ、と氷の上で六千八百と一体のサメが足を止める。
 彼等はハッピー工房――ではない。先頭に立つ猟兵フェドーシヤ・ロゼストベンスカヤ(光の娘・f19067)が喚び出した、さめぐるみを纏ったコサック騎兵達であった。
 一方ハッピー工房は、そのさめぐるみ軍団が近づいていることに未だ気づいていない。彼等は着ぐるみ作りに没頭し、他人など視界にすら入っていない様子だ。
 彼等はフェドーシヤ達の姿は勿論――彼等を囲んでわあぎゃあとストライキを起こしているハッピー工房の部下達にすら、目もくれずに作業を続けていた。

 ハッピー工房はその真剣な目つき故か、その気迫故か――何者も寄せ付けない異様なオーラを放って作業を続ける。フェドーシヤはそれを察しつつ、くるりとさめぐるみ軍団の方を振り向いて静かにヒレを片方上げた。
「さくせんがいよー。コサック達、全員アイツの着ぐるみ作りを一時的に手伝う事。仕事が終わり次第確保。いじょう」
 淡々とそう告げ、フェドーシヤは上げたヒレをハッピー工房の方へ向けて。
「かかれー」

 その瞬間、さめぐるみ軍団は一斉にわっと駆け出す。
 彼等はその数故どどどど、と凄まじい足音を立て、ハッピー工房達の意識を引きつけた。
「!?」
 思わず身構えるハッピー工房。
 しかし――突如作業を手伝い始めた彼等に、戸惑いつつも警戒心を無くしていく。
「……ま、まぁいいか……」
 流石は工房を名乗る者。サメはフェドーシヤのコサック兵にてきぱきと指示を送り、そして素早く着ぐるみを作り上げていく。
 布を切る者、針を用意する者、手早く縫い合わせていく者。サメの完璧な分担とコサック兵達の連携がベストマッチしたらしく、着ぐるみはみるみるうちにその輪郭をはっきりとさせていた。

 一人で製作するより何十倍もスムーズに完成した着ぐるみににっこりと笑みを浮かべるハッピー工房に――コサック兵達は突如さめぐるみの牙を光らせ、一斉にハッピー工房に飛びかかる。
「うわぁぁぁぁぁ!!?」
 六千八百の拳が押し寄せれば、ハッピー工房はなす術もなく骸の海へと還されていく。しかしコサック兵たちの手を借りて着ぐるみを完成させた故だろうか。その表情は『やりきった』と言わんばかりの笑顔であった。

「さくせんしゅーりょー。帰るのだわ」
 フェドーシヤはぱぱっとコサック兵達を纏め、一度整列させる。
 そしてくるりと踵を返すと、彼女はさめぐるみ軍団と共に拠点へ戻っていくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

宮落・ライア
きぐるみ:青い毛並みの角の生えた犬っぽい何か

ぽんぽん使い捨てるなー。貴重な毛皮だろうに。
使い切る前にぱっぱとやらせてもらおう。

個人的にはその凝り性は嫌いじゃないぞ?
ぜひとも頑張って欲しいところではあるのだけどな、
オブリビオンでこの場の邪魔をするのなら
問答無用で蹴散らさせてもらうぞ!

ところで何で鮫に鋏みつけたの?
そんな生物見たの?

とりあえず最後の大仕事は使ったら本体は倒れる…のだよね?
敵をも魅了するキグルミ?
えー?うっわーすっごい!
着たいから出てきて!はーやーく!出てこないとぼこすぞ!
キグルミのままワンで殴ってツーで殴って
スリーで腕でグラウンドクラッシャー!
武器もてないからね!



 これも違う、あれも違うと作った着ぐるみを投げ捨てるハッピー工房。彼等にとっては失敗作かもしれないが、しかしその素材は稀少にして貴重な不凍熊の毛皮だ。
 それをぽんぽんと使い捨てるのを訝しげに見て、宮落・ライア(ノゾム者・f05053)は氷の中から着ぐるみをひとつ取り出す。
 着ぐるみ職人として汎ゆるニーズに応えている、ということだろうか。ライアがもぞりと体を収めたそれは――彼女が引き出せる姿のひとつ、青い毛並みと角を持つ犬らしき何かであった。

 ふわりと身を包む布地に温みを感じつつ、彼女はオブリビオン達の方へと向かっていく。
 ハッピー工房達は再び着ぐるみを縫っては、ちがぁーーーーう!!! と叫んでまたひとつ着ぐるみを投げ捨てていた。
 ライア自身、彼等の凝り性は嫌いではない。職人として高みを目指すのは個人の自由であるし、何なら是非頑張って欲しいところだ。だが――オブリビオンとしてこの世界に現れ、帝竜戦役を進む猟兵の邪魔をすると言うのなら。
「――問答無用で蹴散らさせてもらうぞ!」
 意気込み、ライアは一気にサメぐるみ達のすぐそばへ。

 ダン!! と着ぐるみの綿を挟んでも尚強い足音が響けば、ハッピー工房はぎょっと目を見開いてライアを凝視した。
「てっ、敵襲ーー!! 全員構えろーー!!!」
 慌ただしくそう叫び、彼等は真っ赤な蟹鋏をぶんぶんと振り回す。
 サメの姿に似合わぬそれに、思わずライアはサメの顔を覗き込んで首を傾げた。
「……なんで鮫に鋏つけたの? そんな生物見たの?」
「んなっ……」
 問われたサメは言葉に詰まる。だが直後、その声は涙ぐむように震えてぐんとボリュームを上げた。
「着ぐるみの……着ぐるみの高みを目指してたらこうなっちまったんだよ!!!」
 どういうことだ、と言いたくなるのは抑えて。
 ライアが着ぐるみの下で目を細めていると、サメは突如その鋏を自身の胸に深く突き刺す。
 直後サメの胸から飛び出したのは――バラバラの紙幣と、中にいた人のものであろう真っ赤な鮮血であった。

 サメはがくりと気を失い倒れるも、それと同時に周囲へ五体のサメぐるみを喚び出す。ハッピー工房より一回り小さな彼等はわっと両手の鋏を掲げると、ライアに向かって勢いよく駆け出した。
「我らの渾身の作品、魔性の着ぐるみをとくと見よー!!」
 そう着ぐるみを見せびらかすように、全身を広げて。
「えー? うっわーすっごい!」
 ライアの言葉にサメ達がにたりと笑みを浮かべた――瞬間。ライアはサメ達に接近し、ふわふわの拳を強く握って再び口を開いた。
「着たいから出てきて! はーやーく!」
「!?」
 ぎょっと目を見開くサメ達に、ライアは容赦なく拳を振り上げながら。
「出てこないとぼこすぞ!」
 勿論この寒さの中、彼等は着ぐるみから出て来ない。するとライアはその言葉通り、至近距離にいたサメに一撃、柔らかな着ぐるみアームからは想像もつかないような打撃を繰り出した。
「へぶっ!!?」
 そのままワンで殴って、更にツーで殴って。次々意識を飛ばすサメ達を纏めて捉え、彼女はユーベルコードを込めた一撃を思い切り叩き込んだ。

 ドゴッ!!!!! と轟音が響き、吹雪もその場から吹き飛ばされていく。
 白目を剥いたサメ達は氷の上に転がり、そして骸の海へと還っていくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱酉・逢真
きぐるみを着て戦うんか。戦士のヒトとか大変そうだなぁ。じゃあ俺はこのネコのやつで。すごい顔怖ぇなこいつな。ネコという字面から連想するだろうかわいさのすべてを捨て去った顔をしていやがる。しかし敵の作ったものを着て敵を倒すってなァ一種の下剋上かね。

そら、お前さんが捨てたきぐるみが襲ってきたぞォ。つっても工房閉鎖中ね。まあ建物が立ってるわけじゃなし。眷属《虫》から蚊を出して、視界内に入るように飛び回らせっか。虫が飛んでるだけだから攻撃じゃねえだろ? でも集中してっときに手元を蚊が飛び回ってんの、マジうっとうしいからそのうちキレると思う。そしたらそこに猛毒の風を叩きつけて倒そうと思う。うまくいくかね?



 寒さを凌ぐ代わりに動きを制限される着ぐるみを纏い、オブリビオンの討伐に向かう猟兵達。特に大型の武器や拳といった物理的な力で戦う者は、普段とは違う感覚の中で戦うことになるだろう。
 大変そうだなぁ、とぽつり零し、朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)は自身もこの寒さを耐えるべく着ぐるみの埋まった氷の前に立つ。その視線がぴたりと止まったのはネコ――キャラクターとして可愛らしくデフォルメされたようなそれではなく、妙にリアルな顔つきと瞳が目立つ獣の着ぐるみであった。
「……すごい顔怖ぇなこいつ」
 病毒の神ですら、思わずそう呟いてしまう程に。
 獲物を狙う獣の如き鋭い目、今にもぬるりと動きそうな身体の質感。作り物であるはずの牙や舌も、何十と鼠や鳥の屍肉を食い散らかしていそうな迫力が感じられる。
 ――それはネコという字面から連想される可愛さなど全て捨て去った顔であった。
 逢真はそのネコの背に潜り込み、毛皮の中にぐっと手足を通していく。
 そこそこ伸縮性のある生地が身体をすっぽりと呑み込めば、彼は吹雪や風の冷たさなど微塵も感じなくなっていた。

 ゆらり、と二足歩行のネコと化した逢真が立ち上がる。
 見つめる先はオブリビオン『ハッピー工房』――こんなにも写実的に拘って製作した着ぐるみを、要らぬと氷の中に捨てたその主。
 ネコは彼等に向かって、まるで復讐か下剋上でも狙うかのような眼光で駆け出した。

 着ぐるみらしからぬ爪で氷を掻き、逢真は勢いよく前進していく。何やらがやがやと騒がしいサメの集団に近づきながら、彼はずらりと牙が並ぶネコの口を開けて。
「そら、お前さんが捨てた着ぐるみが襲ってきたぞォ」
 加えてわぁっと爪を広げてみるも――ハッピー工房は逢真に気づかない。それどころか彼をハッピー工房に辿り着かせまいとするように、一回り小さなサメ達が騒ぎながらぐるぐると回っていた。
「止めだ止め! おらおら給料上げろぉぉ!!」
「俺たちは働かないぞぉぉぉ!!」
 ――ストライキ、といったところだろうか。中心で作業を続けるサメが何も言わない故か、小サメ達はぎゅうぎゅうと身を寄せて抗議を続ける。

 逢真は少し考えて、この輪を乱し崩すべく一旦後ろへ退がる。ネコの腕をくると動かし、喚び出すのは彼の眷属『虫』。ぷん、と甲高い羽音を響かせたそれは――蚊であった。
「さて、うまくいくかね」

 吹雪の中を飛び回り、逢真の蚊達は小サメの間を縫って作業中のサメの元へと辿り着く。彼等は直接刺したり飛びかかったりすることはなく、ただただサメの手元をぷぃぷぃと飛んだ。
「…………」
 サメはぶんぶん蟹鋏でそれを払いつつ、どうにか作業を続ける。
 その羽音が遠ざかり、何処かへ行ったかと思えば――直後、耳元で再びぷぃん、と小さな音。しつこいぞとまた鋏を振り回すも、蚊はふわりゆらりと不規則な動きでそれを躱してはサメの耳元に近づいた。
 着ぐるみ作りに集中したい、けれどこんな極寒の地に来てまで蚊に刺されたくはない。
 始めは裁断や縫い物の合間に鋏を振り回すのみだったサメは――ついに、ぷちんと何かが切れたように立ち上がった。
「うあぁああああああああああうっとうしい!!!!!!!!」
 そう叫んだ瞬間、びくっと周囲の小サメが固まる。ストライキに対しての怒りだと思ったのか、小サメ達はぷるぷる震えながら解散を始めた。

 盾が無くなった今なら――オブリビオン本体に攻撃を仕掛けるのは容易い。
 逢真はその一瞬を狙い、ユーベルコード『エレメンタル・ファンタジア』を発動させる。猛毒を含んだ暴風が吹雪を呑んで轟けば、ハッピー工房は小サメ達ごと呑み込まれて呻き声を上げた。
 まともに息も吸えず、酷い痛みと吐き気、得体の知れない悪寒がオブリビオン達を襲う。彼等はそのままなす術もなく息絶え、そして骸の海へと還っていくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ファルシェ・ユヴェール
確りと厚手で魔力も籠もった外套を以ってしても
この極寒に居続ければ凍死の未来が待っているのでしょうね

いえ、着ぐるみに抵抗がある訳ではありません
着て気に入ってしまうと、愛着が湧いてしまいそうで、その
……持って帰れぬのが判っているのが残念で

一番目を惹くのは、ふわふわのひつじぐるみ
ええ、ひつじは好きです
ひつじぐるみは、あたたかい思い出が最近、出来たもので

さてもこもこ
動き難いですし、サメぐるみにも動き回られては面倒です
相手の足元より、戦いの守護石ヘマタイトの結晶を創り出しましょう
こう、檻に閉じ込めるイメージで

オブリビオンとはいえ、他者の作品を破壊するのも忍びなくはありますが
このまま貫いてしまいましょうか



 風に靡く外套を小さく押さえ、ファルシェ・ユヴェール(宝石商・f21045)が着ぐるみの前で立ち止まる。彼が纏う其れは雨風や寒さを凌ぐには十分な、確りと厚手で魔力の籠もったものだった。
 しかし――この地は『絶対零度地帯』の名が付く通り、単なる雪国や冬の気候とは段違いの冷気と風に満たされている。このまま自身の衣装と外套のみに頼ってこの寒さを耐えようとすれば、何れは凍死してしまうことだろう。
 それを察しながらも未だ、ファルシェは着ぐるみを見つめて動かない。

 ――だが、それは着ぐるみに抵抗があるという訳では無いようであった。
「……この着ぐるみは持ち帰れないのですよね……」
 そう、ここにある着ぐるみは全て『不凍熊』の毛皮で作られたもの。此の地に於いての防寒性能こそ優秀ではあるが、防寒を必要としない気候では忽ちどろりと溶けてしまう。
 もし着て気に入って愛着が湧いたとしても、僅かな切れ端しか持ち帰ることが出来ない。其れが判っているというのが残念だったのだ。

 だが、いつまでもこうしている訳にはいかない。ファルシェは少し眉を下げつつ、ひとつの着ぐるみに手を伸ばす。
 もふ、と彼の手が沈み込むのは――ふわふわのひつじぐるみ。
 それは熊の毛皮とは思えないほど柔らかく、触れただけでもかなりの暖かさが感じられた。
 これならば極寒を耐えるには十分、寧ろ他の着ぐるみよりも暖かそうにも見える。しかし彼がひつじを選んだのは、単なる防寒具としての機能だけが理由ではない。

 ――ふんわりと手を包む感覚からも蘇る、あたたかい思い出。
 はじまりはこのアックス&ウィザーズにて、遭遇したオブリビオンから得たぬいぐるみ。それを大切に持ち帰って愛でているのは勿論、同じものを求めて想い人と共に出掛けた場所で、ぬいぐるみと一緒に大きなひつじを買い求めたこと。
 それを置いた部屋で寛ぎながら、己のこれまでと互いのこれからを語ったこと。

 思い浮かべれば、極寒の中でもふと胸の奥に温みを感じた気がして。
 残念そうに下げていた眉を緩め、ファルシェはひつじぐるみを着ようと帽子や外套を一旦仕舞う。早速手足を通せばふわふわの布はよく伸びて彼の身体を包み、周囲の雪や風を完全に遮断した。

「さて」
 もこもこと着ぐるみを纏い、ファルシェはオブリビオン達の元へ向かう。
 綿で膨らむ足でぽふぽふ氷の上を歩いて行けば、すぐに物騒な鋏付きのサメが姿を現した。
「ついに……ついに完成したぞ!! これが俺たちの最高傑作だ!!!」
 そう目を輝かせ、オブリビオン『ハッピー工房』は自分よりも一回り大きなサメの着ぐるみを真っ赤な蟹鋏で掲げる。ファルシェがふとそれに視線を移せば、それが毛皮ではなく何か『生き物そのもの』を使った作品であること、そして途轍もない魔力を込めたものであることが察せた。
 ハッピー工房はそれを着ようと、もぞもそ着ぐるみの背を広げ始める。
 あれを纏って暴れ回られればかなり面倒なことになるだろう。ファルシェは彼等が着ぐるみに潜り込む前にと素早く魔力を練り、ユーベルコードを組み上げた。
 サメの足元へ狙いを定め、『Die Hand des Zauberers』が発動すれば――突如、地を覆っていた氷が大きくひび割れる。
「――!?」
 びくりと身を震わせ、ハッピー工房がその音に気づくと同時。着ぐるみごとサメをぐるりと囲むように、地面から幾本もの深い銀が高く突き出す。
 全方位にサメの姿を細く映し、沈黙したのは――戦いの守護石『ヘマタイト』の檻だった。

 ファルシェはふわふわの手で杖を握り、その先端を刃に変えて駆け出す。
 オブリビオンとはいえ他者の、それも嬉々として最高傑作とまで言っていた作品を破壊するのは忍びない。しかしこの帝竜戦役にて勝利を収め、無事帰還する為には――斃さねばならない敵だ。
 もふり、と柔らかな足を檻の前で踏み込み、刺突。
 身動きの取れぬまま刃に貫かれたハッピー工房は短い断末魔を上げ、がくりと気を失って崩れ落ちてしまった。



 息絶え消えていくサメを見届け、ファルシェはふっと結晶の檻を解く。
 そして自身を包むもこもこを惜しむように数度撫でた後、彼はゆっくりと拠点へ戻っていくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

栗花落・澪
ピンク色なねこぐるみを着て突撃します
…あ、肉球もある

ぽてぽて地道に走ったり
★Venti Alaに宿した風魔法による跳躍強化、【空中浮遊】
心臓に負担かけれないしね

こんな着ぐるみ作れるなんてすごいねぇ
僕もお裁縫は好きだから、見学してもいい?

敵のWIZ技の特性を利用
没頭中は無邪気に観察させてもらいます
遮断するのは攻撃、でしょ?
たまにコツ聞いたり色々話しかけながら
どこまで集中続くかなー?

集中切れそうなタイミングを見計らい
サメさんに後ろからふわりと抱き着き
サメの側面の耳に直接【催眠】を乗せた【歌唱】を優しく届け
思考を麻痺させてあげる
良いもの見せてくれたお礼に、なんてね
そのまま【指定UC】に攻撃を繋げる



 ぽてぽてと氷上を駆ける、柔らかなピンク色のねこぐるみ。ふわふわの手足の先にはもちもちの肉球が付いており、可愛さだけでなく氷の上でも自由の効く機能性まで兼ね備えていた。
 その中で動くのは猟兵、栗花落・澪(泡沫の花・f03165)。彼は心臓に負担を掛けないようにと風の魔法を足元に宿して浮かび上がり、時折氷の穴や大きな岩をふわりと飛び越えていく。
 そうして体力の消耗を抑えながら進めば、澪はがやがやと騒ぐサメぐるみ集団――オブリビオン『ハッピー工房』の元へ辿り着いた。

「はたらかないぞ! もうはたらかないぞ!!」
「俺たちはここを動かないぞー!!」
 そんな声を上げる小さなサメ達は、中心で黙々と作業を続ける大きなサメの周囲をぐるぐると回る。小サメは抗議を続けながらも自分達の外側に目を光らせており、その目は誰も近づけさせないという強い意思が宿っているように感じられた。
 故に――ネコぐるみ姿の澪がぽふぽふ近寄れば、サメはじいっと彼を睨んで警戒する。
 しかし澪は敵意のない様子で微笑み、着ぐるみの腕を広げて口を開いた。
「こんな着ぐるみ作れるなんてすごいね。僕もお裁縫は好きだから、見学してもいい?」
 そうこてりと首を傾げれば、サメ達の鋭かった目つきがふにゃと緩んで。
「おーおー、君も着ぐるみ興味あるかあ!」
「いいよいいよ、見ていきな! ただし邪魔だけしちゃいかんよ!」
 澪が小さく礼を述べれば、彼等はさあさあと道を開ける。導かれた輪の中に進むとそこには先程見えた大きなサメ――手元の着ぐるみを真剣な目つきで見つめ、針と糸を巧みに扱う職人の姿があった。

 おそらく小サメ達が言ったとおり、ここで作業の邪魔をしようものならつまみ出されてしまうのだろう。澪はぽててとサメに近づくと、手は出さぬままじーっと職人の技を見つめた。
 少し考え込んだかと思えば、目にも止まらぬ速度で布を縫い合わせていく。それも細かい作業が難しそうな蟹の鋏で、手縫いとは思えない刺繍まで。
 澪は無邪気にそれを観察しつつ、サメの顔を覗き込んで声を掛ける。
「すごい、コツとかあるのかな? 僕にも少し教えてくれないかな」
「……」
 サメは黙り込んだまま、しかし澪の声に少し意識が向いたか少し口元を緩めて作業を続ける。
「寒くない? 僕は着ぐるみ着てるから大丈夫だけど……そのサメも着ぐるみなの?」
「……」
「鋏大きいのに器用だねー」
「………………」
 ――しばらく、澪が声を掛け続けていれば。
 サメは一度針を近くの小さなクッションに突き刺すと、大きくため息を吐いて目を数度開閉する。どうやら、集中が切れて『作業を中断した』らしい。
 その瞬間周囲のサメ達も気が抜けたように監視を止め、少しずつ何処かへ消えていく。
 仕掛けるなら――今だ。

 澪はさり気なくサメの後ろに回り込み、ふわりと背に抱きつく。
「……ん、どうした――」
 サメが振り向く前に、側面の耳へと顔を近づけて。
「良いもの見せてくれたお礼に、なんてね――」
 囁いた後、その声は短く流れるように旋律を紡ぐ。
 澪の歌はサメの緩んだ頭にするりと入り込み、即座に反抗や反撃の意思を封じ込めた。
「……幸せのままに眠れ」
 彼の歌が『誘幻の楽園』を奏で始めれば、吹雪や氷の間から沢山の花が美しく咲き乱れる。黙り込んで動かないサメからふと離れ、澪は歌いながら花を操り始めた。

 サメは無数の花弁に包まれ、布や綿を散らして消えていく。
 澪はそっと歌を止め、作りかけの着ぐるみを拾い上げて帰路につくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年05月23日


挿絵イラスト